もはや言葉はいらないだろう。まず読め、すべてはそれからだ、と言わねばならない。
これほどにテーゼとアンチテーゼを濃縮し、表現しきった作者に対し、敬意と感嘆の念を贈りたい。
まさしくジンテーゼとして描かれている主人公、エミヤシロウ。このＳＳにおいて彼は銀の長髪に女性と見まごうほどの童顔、黒ずくめの衣装である。
原作のようにヤンキーめいた赤髪ではなく、ダサい長袖シャツでもない、まさに読者が望む理想の容姿を一歩離れた第三者視点から俯瞰したときに感じるカタルシス。
そして彼のライバル、我らがギルさまの一人称が「われ」となっている。原作における「我＝オレ」への違和感をこの作家自身の手で手直しされているのだ。
なんというこぼれるまでの作品への、愛。英語で言うとLOVE。
英語といえばこのＳＳに登場する「FETA」。ギリシアで親しまれている、おつまみに向いている作者おすすめのチーズであるが、なんと違和感なくさりげなく宣伝されているのだろう。
ここに作者の計り知れない描写力がかいま見える。
作者の驚嘆すべき描写力が表れている一端はもうひとつある。第一話と第二話を読み比べてほしい。まるで別人が書いたかのように文体がガラリと変わっているではないか。
これほど多彩に文体を操る作者にはただ圧倒されるのみである。
さらに言えば、「ふー」「あー」「ほー」等の斬新な表現を生み出し、そして擬音を極力少なくすることによって、読者の想像力を駆りたてることに成功している。
これほどのものを読めたことに感謝しよう。一種の悪魔的とも思える遊び心すら伺わせる作者の力量にこれからのＳＳ界を背負う者としての気概を感じた。
大衆の評価など気にする必要はない。世界に羽ばたかなければならない逸材である。
もう一度言おう。この傑作をまず読め、すべてはそれからなのだ。

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