世界は三つの要素で決まってる。
≪スペック≫――”性能“
≪スタイル≫――“規格”
≪スキル≫――“技能”
存在の限界はスペックによって決定され、スペックに収まる範囲でステータスを上昇させ、スタイルで形を整え、スキルを高める。
上げるための鍛錬はレベルによって決定される。
強くなれ。
殺して殺して殺し尽くして、スペックの極限までレベルを上昇させろ。
強くなれ。
武器と防具を揃えて、スタイルを築き上げろ。
強くなれ。
闘って闘って、スキルを極めろ。
この世はデータで決まっている。
限界地点は決定済みで、そこに到るまで足掻き続けるのみ。
数で、装備で、性能で、策略で、作戦で、環境で、舞台で。
足掻いて、足掻いて、足掻いて。
踊って、踊って、踊って。
この世は性能で、規格で、技能で、その本質を暴き出す≪ロールプレイングワールド≫――“演劇舞台”
始めよう。
始めよう。
開始開始、開始。
SSS/RPW
【???炭鉱】
音が鳴り響く。
暗く、薄暗く、外光の届かない炭鉱の奥だった。
発生源は炭鉱の奥で小さなランプに照らされたツルハシであり、それが振り下ろし、炭鉱の壁を削る音だった。
「よっこらー、よっこらー」
ツルハシを振るう男が一人いる。
上にシャツを一枚、下にズボンを一枚、首周りにタオルを巻いた男だった。
ツルハシを振るうたびに筋肉質な腕が盛り上がり、鋭い音を響かせて、壁を貫く。
砕く、貫く、求めるものを探して。
そんな作業を五時間以上続けていただろうか、不意に男はツルハシの向こうに固い感触を得た。
「あ?」
カツン、カツンと手ごたえを感じて、ツルハシを数度他の土を削るように振るうと、その先に現れたのは壁に埋もれた緑色の鉱石だった。
数は三個ほど。大きさは拳大の石である。
それを見つけて、男はツルハシを置くと。
「よいしょっと」
無造作に“手を打ち込んだ”。
生身の手でありながら、硬い頑強な土に折れる事無く指が突き刺さり、一気に鉱石に指をかけて引きずり出す。
まるで削岩機のような勢いで鉱石を掘り出し、男の足元に転がった。
そして、男は転がったそれを掴んで、首のタオルで汚れを取ると。
ガリィ。
おもむろに“齧った”。
硬い宝石クラスの硬さを持つそれを歯で噛み砕き、まるで煎餅のような音を立てて噛み砕かれていく。
喰らう、喰らう、喰らう。
岩の味は如何なる味か。
甘いのか、すっぱいのか、しょっぱいのか、渋いのか、辛いのか、苦いのか、それすらも分からぬように噛み砕き、胃に収めた。
瞬く間に三個喰らい、男はしばし口の中をもごもごさせると。
「ぺっ」
口の中に含まれた土だけを吐き捨てた。
「あー、どうだ?」
首を揺り動かし、軽く慣らしながら、男は不意に虚空を見る。
パチンと指を鳴らした。
その瞬間、虚空が揺れた。震えた。
男の網膜にある種の幻影が飛び込んでくる。
『摂取:グリーンライト(小)×3
効果:タフネス上昇(微)
判定:1.57P上昇』
見えた幻影はそう書かれていた。
識別完了・効果判定成功――≪ステータス≫上昇。
イベントウィンドウと呼ばれるこの世界に存在するものならば誰もが会得し、保持している自覚的情報端末からの結果だった。
「ちっ、この程度か」
しかし、男は二日以上かけて手に入れた結果を吐き捨てると、ツルハシを抱えて出て行った。
効率が悪すぎる。
そう判断した。
【シハネック城砦 廃墟】
残骸、廃墟、朽ちた場所。
そこに命の気配は無い。
ただ転がるのは数百を超える屍の山だった。
天上には暗く不吉に蠢く黒い雲があり、大地には千切れ果てた屍共の山である。
何名死んだ。
何名殺された。
元は屈強誇る対“魔王軍”への城砦、数千の軍勢に襲われようとも一月は持たせると豪語された強固なる要塞。
しかし。
しかし、それが陥落し、全滅するまでは“三日”も掛からなかった。
たった一人の侵入者にして、殺戮者の手にかかっては。
「ぁーぁーぁー♪」
歌声があった。
屍共が命の跡。
悲しいほどに原型を留めている砦の頂上。
そこに唯一命を持つ存在が歌を歌っていた。
それは美しい【少女】だった。
年頃は十代半ばだろうか。大いなる大海のように青く揺らめく髪をなびかせた少女。
宝石のように輝く碧い瞳が黒ずんだ空を映し、美の女神に愛されたかのような美貌を誇る化身。
薄手の衣に覆われたふっくらとした乳房を張り出し、なだらかな体のラインを隠そうともせずに広げて、臀部に纏う薄い装甲を除けば何一つ隠しもしない淫らな格好。
まるで色気を醸し出し、男を蠱惑する浅ましい踊り子のような格好。
だがしかし、その両手から肘にかけて着けられた“兇器”がそれを裏切る。
爪の如く、刃の如く、鉈の如く、斧の如く、それは正しく兇器としか言いようがない。
少女の手には不釣合いなほどに巨大であり、凶悪でありながら、彼女の手のために拵えたかのように違和感が無い。
そのような兵装だった。
「らーらーらー♪」
歌声が鳴り響く。誰も聞いていないというのに。
楽しげに歌うそれに伴奏のように、湿った音が鳴り響いていた。
ぴちょん、ぴちょんと規則的に音が鳴る。
それは少女の両腕に取り付けられた真紅の兇器の先端から零れ落ちる水滴――否、血液の鳴らす音である。
まるで涙のように、少女の兇器の爪部分から流れ落ちる血液は奪い取った血肉から搾り出されたもの。
鉄臭く、生臭い、命の流れる血臭の不快な香りが立ち込めているというのに少女は何一つ気にした様子もなく歌っていた。
「ららーらー♪」
殺戮の歌を。
彼女は見ていた。知っていた。
おびただしい気配が砦に近づいているということに。
数は大体500ほど。
偵察に来たのか、様子を見に来たのか、逃げ出すもの一つなく殺し尽くした少女には分からない。
ただ。
「アハッ♪」
少女は楽しげに微笑んで、その美しい女体を曝け出すように立ち上がる。
滑らかなライン、艶やかな肌、その全てが狂ったように意味のない装甲に隠されて、締め付けられている。
まるで拘束具のように。
まるでそれ自体が甘美だと告げるように。
鉄で編まれた鎖を持って身体を縛り、狂おしいほどに壊れた兇器を持って、少女は虚空に足を踏み出した。
落下。
少女には空中歩行のスキルなどない。
故の必然。
墜ちる、墜ちる、墜ちる。
クルクルクルと回転しながら、高さにして百数メインの距離を落下する。
「なんだ、あれは!?」
その姿を捉えたのだろう。
砦を囲もうとしていた軍勢の誰かが叫んだ。
自殺志願者だとでも勘違いしたのか、引きつった声。
けれど、少女は落下しながら城砦の壁を蹴る、蹴る、滑らせる。
紅く血塗られたブーツを持って壁を削りながら、旋回し、数秒と立たずに大地へと着地した。
屍を踏み砕いて。
ぐしゃりと背骨から砕かれた死体が半ばから千切れて、吹き飛んで、臓物を撒き散らして。
「ラララー♪」
ただ楽しげに少女は歌う、謡う、謳う。
皆殺しの歌を。
己のスタイル【魔装殺戮者/カオスバーサーカー】としての規格を駆使し、さらなるスペックの向上と我欲を満たすために。
『ネーム:ララナル
スタイル:カオスバーサーカー
レベル:540/750』
彼女は微笑む。
その両手に着けた兇器が迫り来る軍勢のステータスを診断する。
プリーストやウィザードの使う索引魔法よりも精度は落ちるが、レベルぐらいならば即座に判明する。
『50,65,32,18,34――合計平均レベル60以下』
残酷な結果だった。
レベル100にも達しない雑魚ばかり。
それでは、それでは。
「ラッラー♪」
彼女に指一本でも傷つけられるわけがなかた。
圧倒的なスペックを誇る殺戮者が走り出し、皆殺しの歌を携えて、城砦の扉から飛び出した。
悲鳴と絶叫と怨嗟の声が鳴り響くまで十秒とかからなかった。
殺戮幻想。
惨劇無双。
振るい抜く魔装の兇器は空気を引き裂き、肉を切り裂き、命を断裂する。
「あーははは!!」
数十人もの兵士が、傭兵が、魔導師が、騎士が、ただの一振りで両断されていく。
ララナルは踊るように踏み込んで、剣を振り抜いてくる騎士たちの刃をすり抜ける。
旋回、肌を撫で切るような殺意の嵐の中を楽しげに回りながら、刃を振るう。裂く、咲く、血の飛沫と紅花弁。
咲き誇れ、振り翳された兇器に脳髄を砕かれて、臓物を撒き散らしながら倒れるその胴体に蹴りを打ち込み、背部から肉片を吐き散らす。
「殺せぇえええ!」
「殺せぇえええ!」
罵詈雑言の悲鳴。
その中で血を浴びながら、肉を纏いながら、ララナルは乱れ踊る。
火球が飛んでくる。
ファイアバレット。SL3の攻撃魔法、味方諸共焼き殺さんと撃ち放たれた黒魔術使いの魔法。
真っ赤に燃え滾る紅蓮の火球に、彼女は微笑みながら。
「歌を聞かせてあげる!」
迫る、迫る、火球。
それに手短な死体の首を蹴り折って、千切れた頭を爪にかけて、ボールのように投げ飛ばした。
流れるような作業。
誰にも目に止まらない残酷球技。
火球と頭部がぶつかって、炸裂する。
ぼうっっと炎が広がって、酸素を喰らい尽して、爆音が轟く。
燃え盛る炎が周囲数十メインを飲み尽くそうとした。
「やったか!?」
メラメラメラ。
燃え盛れ、燃え盛れ。
死体が燃える、生きてる人間も燃える。
絶叫に踊りながら、人間が死体になって、血が乾いて、蒸発して、肉が焦がれて、金属が赤く染まる。
祭りのような光景に、興奮と恐慌の坩堝の兵士たちが喝采を上げて。
「ランランラン♪」
悲鳴を上げた。
「わたしの、歌が、聞きたい、かー♪」
声が鳴り響く。
歌声が叫ばれて、炎が、燃え盛る焔が十字に引き裂かれた。
真紅に燃え滾る劫火が裂かれた中にいるのは、笑った笑顔の少女。その両腕の魔装は紅く染まり、熱を奪い尽くしたように陽炎を纏う。
「魔法は効かない、奇跡は届かない、歌だけが届きます~♪」
マジックウェポンアビリティ。
――【マジックブレイク:LV5】
少女の身に付けた、或いは寄生した魔装が宿しているアビリティ。
白、黒、混沌、マジックスキルLV5までをも破壊する凶悪無比な能力。
いつか魔王を、神を、殺す為に生み出され続けた習作の魔装。
「歌いましょう、熱弦の歌を♪」
少女が足を踏み出す。
狂乱に燃え滾る炎の中を、肌を炙られながら、痛みすらも忘れて恍惚に酔いしれながら。
少女が足を踏み出す。
淫らに一歩、淫猥に蹴り足を踏み出し、蠱惑的に身体を旋回。
欲情させるかのごとく、娼婦でも行なわない退廃的な肉体を曝け出しながら、両手の兇器を頭上に掲げる。
キリキリキリと燃え盛り、金属音を響かせる刃が真紅に輝いて、対峙するもの全ては死神に命を握られた。
「に、にげ――」
「終わらない灼熱の地獄を――祈りなよー」
紅の斬撃が迸った。
それも二閃。
右に、左に、袈裟切りに、逆袈裟に、空間を切り裂く熱波の刃と化して人間を焼き切った。
――≪ブレイズ・ウェイブ≫
レベル100以上の刀剣者スタイルが取得する空間干渉斬撃能力。
しかし、初期習得であるレベル100では精々10メインが限界距離。
ならば500を超える彼女が生み出す斬撃範囲は?
――100メインを凌駕する斬殺領域となる。
さらに魔装に宿し、吸収した熱量全てを取り込み、混ぜ合わせたその刃は切り裂いた存在全ての血液を沸騰させ、肉を焦がし、骨をも焼き切る煉獄の刃。
殺戮焦熱の宴だった。
降り注ぐ斬撃と熱量の切断乱舞は瞬く間に軍勢を引き裂き、悲鳴と絶叫の合唱となって戦場を彩り終えた。
そして、五分後。
「しーずかーに~、おわりまーしたー♪」
切り刻まれた血肉の舞踏場の上で、少女は薄暗い空を見上げて恍惚の歌を鳴らしていた。
ぐっしょりと全身に染まった鮮血を、指先から、髪の先端から、顎から、股間から滴り落として、壮絶な美しさを淫らに発していた。
上気した頬は朱色の色に染まり、血に濡れた唇から洩れ出るのはてらてらと涎にも達する唾液に濡れた妖しい舌。
ガクガクと僅かに膝を震わせ、臓物と骨肉に汚れた地面にめり込んだ爪先から背筋にまで痙攣し、熱い息を洩らす。
絶頂したかのような蕩け具合。
殺戮こそが史上最高の快感だと魂にまで刻み込まれた呪われた魔装使いの性癖だった。
――カチンッとどこかで音が鳴った。
「? アハッ♪」
ララナルが顔を悦びに変えた。
己のステータスを表示する。
『ネーム:ララナル
スタイル:バーサーカー
レベル:541/750』
1レベルアップ。
今再び強くなったという実感。
手に嵌った魔装が喜びに震え立った。
ララナルが踊り出す。
喜びの舞だった。
誰もいない、静寂の、噎せ返るほどの鮮血の舞踏台にて少女が踊る。
びちゃびちゃと死体が踏み砕かれて、彼女は無造作に死を踏み躙り、生を冒涜する。
その妖しげな踊りはまた再び訪れる犠牲者が来るまで止まらない。
そう思えた時だった。
「?」
視線感知のスキルが起動した。
優雅な動きで踏み台にしていた生首を踏み砕き、ララナルが振り向いた。
要塞のある丘。
魔王軍を塞き止める谷の中に立てられた偉大なる要塞。
それを仰ぎ見る一つの視線があった。
否、見つめるのは一人の少女に対して。
「あは?」
身体強化の保有スキルは起動している。
神経伝達速度、身体能力、骨格強度、五感の強化まで補うそれによる視力は見つめる視線の持ち主を捉えた。
それは一人の“ヒューマン”である。
頭部に被った黒い兜。
穴一つ無い無貌のフルフェイスは表情を映さない。
上半身に身に付けた紺色の手甲、胸部鎧、大仰なほどに無骨な鉄板の塊、まるで巨人族が着けるかのような大きさ。
下半身に身に付けた脚甲。鋭利な刃物に似たメタルブーツ、脚横のホルダーに嵌められているのはナイフだろうか。
そして、そして、その背には“巨大なる両手剣”が背負われていた。
龍でも殺さんとばかりに背負われた二メイン近いツヴァイハンダー。
腰に納められたロングソードといい、中々の迫力。
何らかの魔法武具か、少女の診断スキルではステータスが見えない。
だがしかし。
「あはは、美味しそう」
唯一映し出された隠せないスペック。
それは――レベル【230】
ララナルには到底及ばず、されど一流戦士だという証であり。
「愉しませて♪」
少女が殺意を向けるに値する。
魔装殺戮者は両手を上げて、湧き上がる快感に任せて己の乳房を掴み取り、鋭い刃物でじわりと痛みを発しながら揉み解す。
噴き上がる熱量にそり立つ乳首、それを千切れぬほどの力でほぐしながら、もう片方の手指を唇に這わせて、舐めた。
「殺してあげるから♪」
狂乱者が嗤う。
己の魂すらも魔装に染め上げられた悲劇の少女は、淫乱に嗤っていた。
それ以上に狂った一人の“人間”に叩き潰されるまでは。
******************
他の板ではちょくちょく投下しているものです。
完全自己趣味だけのお話で、多少のエログロが入りまくりのお話になると思います。
ジャンルはRPG系”主人公ある意味最弱もの”です。