戦争・・・戦争は変わらない
人類誕生以来、そう原始の時代に岩と骨の武器を手にした時から
ありとあらゆる名目のもと、人類は莫大な血を流してきた。
ある時は単なる宗教的正義感から、またある時は暴力的衝動にかられ戦った。
2077年、何千年にも渡って武力衝突を止めなかった人類は
とうとう全滅の淵に追い込まれた。世界中が核の炎と放射能に包まれたのだ。
だが予期されていた通りこれで世界で終わったわけでない。
世界が破壊された事によって、
血塗られた人類の歴史が新たにスタートしたのである。
だが戦争・・・戦争は変わらない
核戦争勃発初期に、死の恐怖から逃れるため
大勢の人間が"Vault"と呼ばれるシェルターに避難した。
だが避難民がシェルターから出た時、
出迎えてくれたのは地獄のような荒野だった。
ただこの光景と無縁の人々もいた。Vault 101の住民だ。
上空から火の雨が降り注いだ破滅的な状況のさなか、
Vault 101の巨大なドアは厳重に閉じられた。
ここがあなたが生まれ死んでいく場所だ。
なぜならVault 101に来る人もいなければ、
ここを出て行く人もいないからである。
~fallout3 ムービーより~
そういう建前はさておき、実際はValutの扉は何度か開かれているらしい。
地上へは何度か秘密裏に偵察班が送られている。これは監督官の端末をハックして知ったことだ。
ついでに言うのなら、私の父も地上へと出奔したらしい。
らしいと言うのは、父が出奔したときには私はおねむだったからだ。
気がついたときはラッドローチ(大型ゴキブリ)が大量発生したことによりVaultの中が大混乱に陥った時だった。
そんで私はあっという間にセキュリティにとっつかまった。
いや、抵抗の余地もなかったんですよ?
だって、目が覚めたら私の周りをセキュリティのいかついおじ様が取り囲んでいるんだもの。
というか、むしろ私は彼らに『保護』されたらしい。
なにからと言われると、これは私の幼馴染で面倒を見てくれた姉役のアマタの父親、つまりはValutの最高権力者『監督官』からだ。
いや、この時はすでに監督官は軟禁状態にあったりする。
父が出奔した以上このValutの唯一の医療従事者のジョナスを殺してしまったことで、一種のヒステリー状態になったと判断されたためだ。
しかし、それでもValutのような閉鎖空間において、騒動の種は可能な限りごめんこうむりたいと言うのは当然の判断だった。
監督官を継いだアマタは最後まで渋っていたが、それでも『異物』、即ち私をValutの外へと放逐するしかなかった。
こうして、私はValutの外へと出た。
何一つ言わずに消えた父親をぶん殴るために……。
さて、そろそろ自己紹介しよう。
私の名前はアンヘル。Valutを出奔した学者馬鹿ジェームスの娘であり、10歳の幼女だ。
……どーやってけちゅーねん……。
1.まずは街に行ってみよう
さて、監督官のターミナルをハックしたときにValutの近隣には『メガトン』なる町があると書いてあった。
まずは、そこを目指すとしよう。父も土地勘はないだろうから、近隣の町で情報を集めているはずだ。父が出て行ってまだ2日もたっていない。きっと追いつけるはず!
「ファイトだ!くじけるな!!」
必死で自分を鼓舞して空を見つめる。
期待していた青空はなく、くすんだ黄色がかった空しかなかった。ちょっと泣いた。
しかしだ。私はこの外の世界をあまりに甘く見ていたのだった。
私がそのことに気づくのにさして時間は必要ではなかった。
「……や、やっとついた」
なんとか到着した。メガトンの入り口で私は力尽きかけていた。敗因は何かといえば、たぶんメガトンの位置を知らなかったことだろう。
岩山を恐る恐ると一時間近くかけて降りた後は廃墟の合間を縫って進むこと2時間近く。
なんか音楽を垂れ流す球型のロボットがいたけど、何もしてこないから無視してさらに進む。
目の前には比較的しっかりした元学校と思しき建物があったから近づいてみたら、「新鮮な肉だー!!」の叫びと共にボロ服を着たおっさん方に襲われました。
まじでちびるかと思った。
必死で逃げつつアマタの選別の10ミリ拳銃を撃って川原へと逃げていったら、今度は川の中からでてきたナマっぽいズゴック(仮)に襲われた。猛烈なタックルを食らってごろごろ転がっているうちにズゴック(仮)とおっさん達の死闘が始まりズゴック(仮)がわらわら川の中からでてくるのに青ざめつつ、すたこらと逃げ出し、気がついたら目の前にはボロボロの金属を寄せ集めて作ったような塀があった。
門のそばに立つプロテクトロンの『メガトンにようこそ!』の声を聞きながら、私は安堵の余り地面に突っ伏した。
一体いつから、このアメリカ合衆国は世紀末じみた世界になったんだろう……って、核を落とされてからでした。本当に世紀末な世界でした。マジで笑えない。
「頼むから、火炎放射器を背負ったモヒカンはでてくれるな……」
でてきたら、笑おう。絶対にそいつはあのマンガの崇拝者に違いない。
私はふらつく足に活を入れるとメガトンの門をくぐった。
門をくぐって、目に入ってきた町並みは塀と同様にさびの混じった鉄くずを主体として構成された雑多な町並みだった。すり鉢上の大地に所狭しと林立している。どう、贔屓目に見てもスラムにしか見えない。
なんか、町の中心部には猛烈な違和感を撒き散らすものが歩けど、あえて無視しましょう。
それでも、それなりに活気はあるようで、かなりの数の人が行きかっている。しかし、服は少し古ぼけたものばかりで、薄汚れている。お世辞にも清潔には見えない。
Valutのジャンプスーツを着た私はこの集団の中で完全に浮いていた。行きかう人もじろじろと私に遠慮なく視線をぶつけてくる。
完全に目立っているが、これならば父のことも相当目立っただろう。誰かが父のことを覚えているに違いない。
さて、そうなったら誰に声をかければいいんだろうか?
「ほう、また珍しい客が来たもんだ」
考えあぐねている私に声をかけてきたものがいた。見てみると、コートにテロガンハット、更に胸には星のマークと言った西部劇に出てくる保安官のような姿をした男がいた。言うまでもなく、初対面だ。
「初めまして。えっと、あなたは?」
「俺の名はルーカス・シムズ。このメガトンの街の保安官であり、市長もかねている。この町で問題だけは起こしてくれるなよ」
「問題を起こすつもりはないです。父を探しに来たんですが、知りませんか?私と同じ服を着ているはずなんですが」
ルーカスはちょいと首をひねった。
「……すまんが、記憶にないな。だが、人が立ち寄ったならばモリアティの酒場に行ってみろ。あそこが一番人が集まる。店主のモリアティは曲者だ。気をつけるんだな。あと、何か聞きたいことはあるか?」
「……あえて言うならば、目の前に鎮座しているアレについてなんですけど」
私はあえて思考の外に追いやっていた物体についてルーカスに聞いてみることにした。
正直、一番先に見たときは引いた。まさかとは思うのだが……。
「あれか、不発弾だ。……核爆弾のな」
「……まだ、爆発します?」
「たぶんな。専門家がいないからわからんが、多分生きているんだろうな……。解除できるような専門家に心当たりはあるか?」
専門家……。真っ先に思い浮かんだのはValutの技術者だが、あいにくこちらは追放された身だ。
誰かの協力を仰げるとは思えない。一応、幼い頃から医学書や、技術書を絵本代わりに育ったから自分にもそれなりの技術はあると思う。
「一応、見てみる程度ならできます。解体できるかどうかは、わかりませんが……」
「何?お前さんにできるのか?もし、できるようだったら100キャップ、いや500キャップだそう。メガトンの永住権もつけるぞ?」
おお、至れり尽くせりの対応だ!これも幼女の魅力と言うものか!!
キャップの貨幣価値はわかんないけど、それなりに大金らしいし。
「まあ、爆弾はアトム教会の連中がご神体としてあがめているからな。必要以上に損壊するなよ?」
……核爆弾を拝むなんて奇特な人たちだなあ。
まあ、いいや。まずはValutからかっぱらった、ゲフンゲフン。餞別としていただいたジャンプスーツとかを売り払ってまとまったお金を作ろう。正直荷物がかさばって、移動しにくいんだ。
「物を売りたいんですけど、そういう場所はありますか?」
「ならば、クレータサイド雑貨店だな。……あー、店主のモイラは悪い奴じゃないんだが、いささかあれなんだ。……気をつけろよ」
ルーカスはやたら優しい笑みを浮かべると、その場を早足で後にした。
ちょ、ちょっと保安官!私は今からそこに行くんですけど!!?
最初から不安になるような話だった。
クレーターサイド雑貨店はその名の通り、すり鉢部分の上に立っていた。屋根からは飛行機の機種部分が突き出している。さっきあんなことを言われたからだろうか?心なしかまがまがしい瘴気が見える気がする。
しかし、このメガトンにはここくらいしかまとまったものを売れる場所はないらしい。
「ええい!女は度胸!!」
私は意を決して、ドアを押し開けた。
店の中ではジャンプスーツを着た女性が掃き掃除をしていた。それを壁にもたれかかった男がぼんやりと見ている。
「あら?珍しいお客さんね?それってValutの服でしょう?あなたもValutから来たの?懐かしいわねー。十数年前にもValutの人が来たのよ。ほら、あの壁にかかっている服がそう。もっとも、私が改造しちゃったんだけどね。それより、あなた一人でValutから出てきたの?親の人はどうしているの?よく無事でメガトンまでつけたわね。最近小学校の跡地がレイダーたちのキャンプになっちゃったのよ。ああ、レイダーってのはいわゆるごろつきね。言葉よりも暴力を信条としている人間の風上にも置けない人たちよ。あっ、私の名前はモイラ、モイラ・ブラウン。あなたの名前は?」
帰りたいと痛切に思った。あって早々マシンガントークを繰り広げてきたこの人が店主らしい。
なんか目が超新星のごとくきらめいている。好奇心という名の光でだ。
多分、この人は父と同類だ。自分の興味、関心を優先して周りの事を考えずに突っ走る。アクセルを踏みっぱなしの自動車よりも危険な人だ。
(助けて)
(無理だ)
助けを求めて、壁際の男の人に視線を送ってみたけど、無理だと目が語っていた。
その目には諦観が大いに含まれていた。
きっと、こんなことは日常茶飯事なのだろう。
助けは期待できそうにない、覚悟をきめてモイラの相手をすることになる。
「ちょうど良かったわ。実は私は今本を書いているんだけど、その序文にVaultの住人の言葉があったらもう最高だと思うのよね。Vaultの生活ってどんなのだったの?やっぱり快適で、このウェイストランドに比べたら天国のような場所だったんでしょうね。そうそう、その本に関してなんだけど、内容の検証をやってくれる助手を探していたのよ。もちろん報酬は払うわ。さらに、あなたの手助けがあれば誰でもウェイストランドを安全に旅できるガイドブックも完成するわ!もちろん協力してくれるわよね?」
マシンガントーク再び。
余りの速度に口を挟む余地もなかった。もうモイラの中では私は彼女のサバイバルガイドブックの検証者として内定しているらしい。
断らねば、私にはあの父をぶんなぐるという崇高な使命が!!
「モイラさん!私は「そうねえ、最初は軽く放射能でも浴びてきてもらおうかと思ったんだけど、それよりはウルトラスーパーマーケットの調査の方が安全かしら?最初から地雷原はハードルが高すぎよね。うん、じゃあウルトラスーパーマーケットで食料品とあとは医薬品があるかどうかを調べてもらえないかしら?報酬は後で支払うつもりだったけど、その格好じゃあ防御力なんて全然ないし、ちょうどいいサイズのレザーアーマーが在庫にあるから、それが前払い分の報酬ね。あとは10ミリ拳銃の弾丸もセットでつけるわ。それじゃ調査よろしく!!」
断るつもりだったのに押し切られた。モイラに押しつけられたレザーアーマーを両手で抱えながら、私はしばし呆然としていたのだった。
ルーカス保安官。あなたの忠告はとても正しかった。願わくば、もっとはっきり言っていただきたかった……。
傭兵のおっさんもとめてください。
とりあえずレザーアーマーは着た。ついでにジャンプスーツも売り払ってお金に買えた。
でもキャップって本当にキャップ(王冠)だ。しかも、ヌカ・コーラの奴。
これが地上でのお金なのか。
てれっててーん!防御力が上がった!!……空しい。
微妙にたそがれたまま、モリアティの酒場を目指す。
モリアティの酒場は酒場という大量の人数を収容する施設のためか、メガトンで一番大きい建物だった。
表にはでかでかと『モリアティの酒場』と書かれた看板が掲げられている。
父の手がかりがあるのはココぐらいらしい。私は意を決して重いドアに手をかけた。
「くそっ、なんで鳴らねえんだ?このポンコツラジオめ!」
「むだよ。ゴブ。エンクレイブの放送はちゃんと聞こえるもの、きっとGNR側の問題なのよ」
「お願いだ。な・お・って・く・れ・よ!!」
バンバンとバーカウンターの内側の男が声に合わせてラジオを叩いているのを見て女は呆れたように肩をすくめて、その場を離れた。
男は、なおもラジオに未練があるようでしきりにあちこちをバンバンと叩いている。
私の視線に気がついたのか、男はふと顔をこちらに向けた。
「おお?嬢ちゃん。ここは子供の来るところじゃないぞ?どうかしたか?」
「えーっと、その顔が……」
「ん?ってとおまえさんグールを見るのは初めてかい?」
「(こくこく)」
ケロイドで爛れ、表情筋まで見えているあまりの迫力の顔にいっぱいいっぱいだった。
人の悪口を言うのは好きじゃないけど、心構え無しに暗がりであったら絶対に泣き叫ぶと思う。
「核が降り注いだあの日、誰もが居心地のいいVaultに逃げ込めたわけじゃない。外にいた奴らが放射能にさらされて、こうなっちまったのさ。ゆっくりと歳をとるから、あの核戦争の前から生きているグールもいる。おびえるなとは言わないが気にしない振りでもしてくれると嬉しいね」
それでも怖いものは怖いです。けれど頑張ってみます。
でも放射能で不老効果なんて。本当に外の世界は不思議ワンダーランドになってしまったらしいです。
「……わかりました。すいませんが、父を捜しているんです。ジェームスという人が来ませんでしたか?」
「名前は聞いたことがないな。見たことがない男がモリアティを訪ねてきた2日前だ。かなり昔の知り合いだったらしいが、それがそうじゃないか?モリアティは裏手にいるから聞いてみな」
?父はVaultから出たことがないはずなのですが?人違いなのでしょうか?いえ、これはあってみなければわかりませんね。
指し示された、ドアから裏手に入るとそこには悪人顔のおじさまがコンソールをポチポチやっていました。
うん、悪人顔です。悪人なオーラが噴き出ています。
この人と父は知り合いだったのでしょうか?
なんか人違いの気がするのですがとりあえず話は聞いてみます。
「あの、すいません」
恐る恐るの呼びかけはきちんと届いたようです。
ターミナルを操る手をいったん止めるとおじ様はくるっと私に向き直りました。
「ん?モリアティの酒場にようこそ。何の用事だい?」
「父を捜しているんです。ジェームスという名前なんですが知りませんか?」
「ジェームスの娘?ああ!あのときの娘か、大きくなったもんだな」
え?面識がある?
これってどういうことなんですか?
ルーカス保安官の言葉を借りるなら、曲者らしいのですが、こういうことで嘘をつくメリットがわかりません。そうなると、本当にあったことがあるのでしょうか?
「どういうことですか?父も私もVault101の出身のはずですが?」
「ああ、そうか。ジェームスから何も聞いていないのか。まあ、その方が安全だったんだろうな。だが、お前もジェームスもこのウエィストランドの生まれだ。Vaultに入る前にこのメガトンに立ち寄ったのさ。あれはお前が2歳にもなっていないころのはずだから覚えてはいないだろうがな」
……どうやら、本当のようです。そうなるとVaultの扉は私が思っていたよりも頻繁に開かれていたことになります。
監督官め、一度も開かれたことがないなんて嘘をずっとついていたのですか?
ではなんでジョナスが死ななくてはいけなかったのでしょうか?
余りのことに目が潤むのを止められません。これではまるでジョナスが死んだことに何の意味もなかったということじゃないですか!?
「……わかりました。そんな昔なら覚えているわけないですよね。じゃあ父は今どこに?数日前に訪ねてきたとは聞きましたが?」
「その情報はタダじゃ教えられないな100キャップ支払ってもらおう」
「100キャップってそんな持ち合わせありませんよ!!高すぎます!!」
「じゃあ、この話はなしだな」
ひどいです。私はうーっと膨れ顔でモリアティを見つめることしかできません。
ジョナスのことや、私の生まれのこととかが頭の中でぐるぐるして眼にこんもりと涙が盛り上がっていきます。
びくっと身を引くモリアティ。
「うっ、わかった。わかった。お前の父親は首都の近くのギャラクシー・ニュース・ラジオに向かうと言っていたよ」
おお!人間誠心誠意お願いすれば通ずるものなのですね。幼女バンザイです!
ぱっと一瞬で表情がほころぶ私でしたが、モリアティは「だが……」と容赦なく爆弾を投下してくれました。
「首都周辺はスーパーミュータントが大量に出るうえに激戦区だ。今のお前さんが近づいたら、すぐに死んじまうぞ」
父よ。どうしてそんなに危ないところにほいほいと行くのですか?!