それから4日程が経過し、シンと戦士組はレベルが5に到達していた。
特に戦士組はHPがまたもや大幅に増加し、全員がHP30を超え、特にドワなどは40に近いほどであった。
また以前から戦士組は、レベルが5を超えたら2回攻撃ができるからと言われており、午前中を訓練所で確認を行っていた。
他のメンバーも時間を無駄にせずに、訓練所で技術を磨いていた。
ヒューマがカカシを相手に練習していた。
上段から振り下ろした剣がカカシを切り裂く。
普段ならここで、剣の重さに体が持っていかれないようにするのが精一杯だったが、下で止まった剣が軽く感じる。
手首を返し下からすくい上げるように、剣を上方に向かって振り抜く。
剣先が跳ね返り、カカシの胴体を切り上げる。
戦士が初めに習得する技、2回攻撃の完成である。
その能力は単純で、剣で与える攻撃を2回与えることが可能になる。
3人の戦士の総合的な剣でのダメージが2倍になるという事は、パーティーにとって圧倒的な戦力のアップになるのだ。
とはいっても一回しか攻撃できない時もあり、あまり過信はできないのだが。
戦士にとってこのレベル5こそが、最初に超える壁であり、一つのターニングポイントにもなる。
パーティーにとっても今後の行動方針を改めることができる。
(あの時あれから味わった攻撃は、この2回攻撃だったんだな)
ヒューマは初めて死んだ戦闘で、ブッシュワッカ-という名のモンスターが行った攻撃を思い出す。
上から下に振り下ろされた剣が、跳ね上がってきてヒューマの腕ごと盾を吹き飛ばした。
(この技があれば、あいつらにも勝てるかもしれない)
新たな決意を胸に秘め、ヒューマは何度も剣の練習を繰り返した。
ドワとユマもこの新しい技術を練習していた。
STRの強さなどに関係なく、レベル5になるとシステムが補助するのか、途端に剣が軽く感じるのだ。
上から下、下から上に
右から左、左から右に
色々なパターンを試し、有効な斬り方を必死に覚える2人。
その心境はヒューマと同じであった。
戦士組や他のメンバーも訓練を終え、ギルガメッシュの酒場で昼食をとっていた。
午後からは迷宮に潜り、いよいよ今日こそは迷宮の端にある扉を越えようと話していた。
この4日の間にシン達は、南東のブロック以外は攻略を終えていた。
マップを見る限り壁の端にあるはずの扉
この先がどうなっているか分からない為、後回しにしていたのだ。
看板の先に広がる暗闇にも入ってなかったが、こちらはもっと不気味であり、入る事を躊躇していた。
目安として戦士組が大幅にパワーアップすると教わったレベル5になったら、壁端の扉を抜けようと考えていたのだ。
一同が色々と予定を話し合っていると、突然全員の目の前にウィンドウが開いた。
驚く一同の前に、メッセージが流れる。
「冒険者の諸君! たった今1Fの特典対象であった【マーフィー先生】が討伐された! Congratulation! なお討伐したパーティーには特典が与えられた」
それだけ流れるとウィンドウは自動的に消え、しばらくは酒場の中は静寂に包まれていた。
だが急に堰を切ったように喧騒があふれ、各パーティは口々に今の話題について話しあった。
「おい、特典ってなんだよ?」
「訓練所で聞かなかったのか。 何でも詳細は不明だが、条件を満たすとスキルとかアイテムとか貰えるらしいぞ」
「すげえじゃん。 俺達も取りに行こうぜ。 マーフィー先生だっけ? そいつを倒せば良いんだろ」
「どうかな 特典を発表したあたり、もう駄目なんじゃないか?」
横で騒いでいるパーティのそんな声を聞きながら、シン達も今のメッセージについて話しあった
「シン、どう思う?」
「隣が言っていた通りだろうな。 1Fに特典があって、どこかのパーティーが達成、それで1F分は終わりって感じかな?」
「ふむ、その考えだと2F以降にもありそうだね。 もしかして1フロアに1つ揃えてあるとか?」
「ああ、いい線かもな。 しかしマーフィー先生ってのはなんだろうな。 講師の誰かが待ち構えでもしてたのかね?」
「講師相手じゃ誰も勝てないよね。 どのあたりに居たのかな…… やっぱり南東ブロックかな」
ヒューマとシンの会話にエルが口を挟む。
「それよりも、どこのパーティーが達成したのかしら? 私達もかなり順調だと思ったんだけど、上がいるようね」
その言葉にユマも話しだす。
「そうよね、ソッチの方が大事かも。 ただでさえ順調なところがさらに特典で強くなるだろうし」
「うん、今後の事を考えると、接触しておきたいね。 助け合えるなら心強いしね」
シンはヒューマが口に出さなかった事について考えていた。
(敵対するようなパーティーだったら――どう対応すべきかな)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
迷宮に入った一行は、今回は階段そばの部屋には入らずに、真っ直ぐ目的の迷宮端の扉に向かった。
ドワがゆっくりと扉を開けると、そこには一直線の通路がさらに東に伸びていた。
「バカな!」
マップを作っていたシンは慌ててマップを見直す。
(確かにここが迷宮の端のはずだ。 訓練所の管理者も確か20×20の迷宮だと言っていたはずだし、他の所はちゃんと20×20に収まっている)
なおもマップを見つめている内に、シンはある事に気づく。
(この扉の反対側って通路が無かった所だよな。 もしかしたらここに繋がっているのか? しかしそれだと空間歪曲になるぞ。)
そこまで考えて、シンは己の考えの間違いに気づいた。
(バカなのは俺か、これはゲームだったな。 理屈に合わないが繋がっていても不思議はないのか。 ひとまず少し進んだ所でエルのデュマピックで座標を調べるか)
考えがまとまったシンは、待っていてくれた皆に自分の考えを話した。
「Ok じゃあ進んでから座標を確認しようか。 シン、確か1つの座標って10メートルで良かったよね?」
「ああ、ここだと10メートルぐらいで1マスが形成されているようだから、その分だけ進んでみたい」
そして戦闘態勢を保ったまま、一行はドアを先に進んでみた。
だいたい10メートルを越えた辺りで、デュマピックを唱える為にエルが準備をする。
デュマピックはカティノと同じレベルの呪文であり、現在の命綱でもあるカティノの回数を残す為に、これまで1回も使ってこなかった。
エルがいつもの様に空中で複雑な身振りをする。
すると手から光が溢れ出し、周りの壁や天井に大きな光の点や小さな無数の光の点を映し出した。
「おおー プラネタリウムみたいですねー」
「ホント! きれいねー」
ノムとエルが可愛らしく感想を述べる。
シン達が見ても確かにプラネタリウムの様に見えた。
暗い迷宮では光の点が良く判り、幻想的な風景にも見えた。
しばらくすると星のような光が消え、文字が浮かび上がってきた。
『パーティーは東を向いています。 城から東に0 北に11 地下1階にいます』
出てきた文字を見てシンはマップを見ながら答える。
「間違いないな 後ろの扉をくぐるとマップの端から反対側の端へ通じるらしい。 この迷宮は無限回廊があるっぽいぞ」
「つまり場所によっては、ずっと同じ所をぐるぐる回ることも有りうるのか」
「そうだな。 ゲームではよくあるやり方だが、ここもそうらしい」
そこまで話した後、シンが不思議そうに言う。
「しかし・・・ここを真っ直ぐ行っても行き止まりなんだがな。 ほら」
そう言ってシンはマップをみんなに見せる。
確かにマップ上ではこの先は壁で行き止りになっている。
「奥に何か有るのかもしれないね。 とにかく進んでみよう」
ヒューマの声に一同はまた進みだす。
それが起きたのは歩き出してすぐだった。
体に一瞬浮遊感が起きたと思ったら、目の前の風景が全く変わっていた。
「ここは……どこだ? さっき変な感覚があったがあれが原因か?」
シンはエルに向かって話す。
「エル、もう1回デュマピックを唱えてみてくれ」
言われたとおりにエルは唱え、出てきた座標はマップ上での南東の真ん中だった。
さっきの浮遊感はどうやらワープらしき物だったらしい。
皆に説明しながらシンは考える。
(こりゃ本当に何でもありだな。 どこまでもリアリティを再現しながら、いきなりこんな有り得ない現象を起こすとは。
様々なシステムでも感じたけど、何かリアリティを追求する物とそうでない物には法則みたいなものがあるのか?)
「ふう、ヒューマ どうやら南東へはこうやって来るみたいだな。 さてどの扉から開ける?」
シン達のいる場所は広めの長方形の部屋で、目の前には右に2個、左に2個、正面には3個の扉があった。
全員で話しあった結果、正面の真ん中の扉から開ける事にした。
扉を開けてみると、狭い部屋だが何もいなかった。
一応中に入ると、一行はまた浮遊感を感じ、さっき現れた部屋の同じ場所に飛ばされていた。
「意味が分からないけど、ハズレのようだね」
次はまた正面の左の扉を開けてみる。
中には頭が猫で、身体が鶏の、不気味な獣の彫像があった。
彫像は金属で、台座は黒い宝石の様な物でできているようだった。
「なにこれ」
ユマがつぶやくが、誰も意味は分からない。
普通の部屋にはこういう物は無かった為、シンがこの前の鍵と同じ様に彫像の裏側を探してみたところ、これまた同じ様に鍵が見つかった。
「これで鍵が2個目か。 どこで使うものかも分からないね」
ヒューマの声に一同もうなずく。
それ以上何も無いようだったので、部屋を出て今度は正面右側の扉を開けてみた。
部屋の中にはフードを被った、人間型の大きな彫像があった。
フードの穴から金色の光が漏れていて、彫像には、様々な形の宝石が散りばめられていた。
彫像の前には、祭壇があり、新しいお香が焚かれている。
「これまた意味が分からないが、お香が焚かれているってことは、誰かがいた可能性があるね」
「その可能性はあるな。 でもこの魔法の世界じゃ何でもありっぽいし、消えないお香かもしれないぜ」
ヒューマの声にドワが答える。
「確かにね、ここも何かありそうだから調べてみようか」
先程と同じ様にシンが彫像の裏を探そうと、裏手に回る。
その時、シンは彫像の裏に人影が座り込んでいることに気づく。
「気をつけろ! 誰かいるぞ!」
パッと飛び跳ね、メンバーの方にシンは戻る。
彫像の裏からゆっくりと出てきたその何かは、足を引きずりながらパーティーの前に近づこうとしていた。
見た目は背中を曲げ前のめりになった中年の人間で、初めて見る敵だった
未確定の為か細部はハッキリと分からず、頭上には【正体不明の存在】と出ていた。
明らかにこちらを攻撃しようとする意志が感じられた。
「やる気だぞ! 全員攻撃!」
その声に一同は攻撃の準備に入った。
まずシンが動けたので弓を引き、それに向かって矢を放った。
放たれた矢はそれに向かって真っ直ぐ飛ぶが、直前で不可視の壁のようなものに当たって弾けとんだ。
「なに!」
次にユマ、ヒューマが動き出し攻撃するが、シンの時と同じ様に硬い何かに剣が当たる感触がある。
それでもユマの攻撃は少し貫通し、それの体に僅かに食い込む。
攻撃を受けたそれは、悲しそうな顔をしてユマを睨む。
「うう、何か気持ち悪い!」
次にエルが準備したカティノを唱えた。
それに向かって眠りの雲が広がっていくが、直前で雲がかき消された。
今までカティノが効かない事はあったが、今の様にかき消された現象を見たのは、一同にとっても初めてだった。
エルはこれが教わった呪文無効化の能力かと思い当たる。
これを見たヒューマが全員に警告する。
「こいつは今までの敵と違うようだ! みんな全力で当たってくれ!」
その隙を狙ったのか、それは両手を大きく振りかぶり、ヒューマに腕を振り下ろした。
警告の為後ろを向いてしまっていたヒューマは避けれない。
両手とも当たるが、それに反してほとんどダメージがこなかった。
最後にドワが力任せに剣を打ち込み、これは2回とも障壁を抜け攻撃が当たり、それなりのダメージを与えたようだ。
ここでようやく敵の頭上の名前が変化し、【マ-フィ-ズゴ-スト】と書いてあるのが読めた。
(こいつがあのメッセージのマーフィー先生か? なんで先生なんだ?)
シンは内心思うが、倒したパーティーがいることも確か。 シン達でもやれるに違いないと思う。
それからは長い戦闘となった。
こちらの攻撃はその不可視の壁に邪魔をされ、思うようにダメージを与えられず、またいくらダメージを与えても倒れる様子が無い。
呪文攻撃も無効化され、ダメージが与えられなかった。
これを見たエルとノムは、訓練所で教わった呪文の効果について思い出し、それを試した。
エルは無効化されないと聞いていたディルトで敵のACを上げることに専念し、ノムは長期戦に有利なマツ、味方のACを上げる呪文でサポートに専念した。
これらの呪文の効果もあって、攻撃が当たり始めた。
マ-フィ-の攻撃は毎回両手で殴ってくるだけで、ジワジワと削られるが今のシン達には脅威では無かった。
そしてユマが切り込んだ攻撃がマ-フィ-の体に食い込むと、それが止めになってマ-フィ-は消えていった。
一行は間違いなく倒した事を確認すると床に座り込んだ。
「あー疲れた! もうやだ!」
「弱いんだか強いんだかホント分からない敵だったな!」
ユマとドワがそんな感想を漏らす。
宝箱は出なかったが、1人当りの得た経験値はかなりの物があった。
「これってすごく美味しくないか? 確かに長期戦になるが死ぬ心配はしなくて済みそうだし」
シンがそう言うとエルが答える。
「これって教わったイベントモンスターじゃないの? 1回倒すともう倒せないってやつ」
「あー そういやそんな説明あったな。 そこまで甘くはないか」
そう言いながらシンは内心思う。
(実際に勝てたんだから特典の件は惜しかったな。 こういう事を言ってもきりが無いけど)
その後もう一度部屋を探してみたが何も見つからなかった。
部屋を出た一行は、まだ入ってない扉を開けて進んでいった。
小部屋ばっかりの扉ばかりで、それから何回か戦闘になったが、危なげなくこれを倒した。
扉を抜けるとその扉が消えてしまう物も多く、戻れない仕掛けも多かった。
マップがあったおかげでようやく仕組みが把握でき、出口と思われる長い通路に出た一行は、ホッとした。
北に真っ直ぐ行って、道なりに南へ70メートルほど歩くと、行き止まりに扉を見つけた。
扉を開けるとそこは闇の世界だった。
「なんだこりゃ」
「この前見た看板の先の暗闇みたいだね」
「ちょっと待った、マップで確認するから」
皆でマップを見ると中央に縦で走る部分がまったく探索できておらず、特に上のほうは看板があってそこが暗闇の所だった。
目の前に広がる暗闇はあそこまで続いているのだろうか?
先程のマーフィーがいた部屋の周りは全て探索したが、出口はどこにも無かった。
どのみちここを通るしか無い。
一行は意を決して暗闇の中におそるおそる入り込んだ。
暗闇は自分達の手も見えないぐらいの真の暗闇になっており、方向意識さえ狂われそうだった。
扉の正面を進むと壁らしきものがあり、先には進めない。
左手も同じく壁だが、右手の方は空間が広がっているようだったので、壁伝いにゆっくリ進む事にした。
シンはマップが書けない代わりに、歩数を手探りで紙に記録していた。
他のみんなにも歩数を数えながら歩くように言っており、定期的に全員の歩数を確認し修正していた。
進んでも進んでも変化は無い。
どれくらい歩いたのだろうか。
実際はそこまで進んでないのかもしれないが、心細さが全員の感覚さえも狂わせそうになっていた。
それは唐突に終わりを告げた。
戦闘を歩いていたドワが壁に当たり、手探りだが扉らしきものもある。
一行は一縷の期待を込めてその扉を開けた。
扉を開けた先も暗闇だった。
「もう! どこまで続くのよこの暗闇は!」
そう叫ぶユマの声には、余裕が感じられない。
頬に当たる微妙な空気の流れから、そこは広い空間のようにも思えた。
シンはこの暗闇に入る前に必死で覚えた地図を頭で再現する。
歩数から大体の距離を考えると、もうそろそろ階段そばの壁辺りに着いても良い頃とは思う。
しかし――もし途中で先程あった様にワープしていたら?
浮遊感は感じなかったが、感じないからといって無かったとは言いきれない。
そんなルールがあると説明を受けた訳でもなく、そうだと信じこむのは危険かもしれない。
「なんでみんな黙ってるのー 怖いから何か話そうよー」
弱々しいノムの声が聞こえ、それに答えるようにエルとユマが声を掛ける。
(まずいな。みんな、特に女の子達がかなり不安になっているか)
そう感じたシンはヒューマに声をかける。
「ヒューマ、確証はないけど、この辺りは階段から見て西の通路を行った突き当たりに近いはずなんだ。
あまり呪文回数が残ってないのは知ってるが、1回デュマピックを使ってもらえないか?」
「うん、僕も地図を頭の中で書いてみたけど、確かに近いかもね。 途中で道が変わってなければの話だけど……」
そういってヒューマはエルにデュマピックを使ってくれるように頼んだ。
これを使えば残りのデュマピックは1回だけ。
何とか今回で当たりを付けないとまずい状況になる。
デュマピックは暗闇でも成功し、手元の光は見えないが、壁や天井に当たる光の点は見える。
久しぶりに見た光に、一同は少し落ち着きを取り戻す。
出てきた座標は、間違いなく階段があった所から真っ直ぐ東にいった所だった。
「よし! みんな場所は確認できた。 後は壁沿いに歩きながら、扉を見つければ帰れるぞ!
俺達のいる場所は間違いなく地下1階で、そんなに広い空間じゃない。 すぐに扉も見つかるさ!」
シンは普段出さないような明るい声で、皆を元気づけるように言った。
シンの思いに気がついたのか、全員が明るく声を返す。
「そうね! これだけ暗いのって初めてだからちょっと気分がナーバスになってたかも!」
「お前にナーバスなんて物があったとは驚きだなー」
「何ですって!」
ユマとドワが努めて明るく冗談を言い合い、暗闇に皆の笑い声が響く。
(少しは持ち直したかな)
シンがそう思っていると、すぐ隣に人が来た気配がある。
声を掛ける前にシンのそばで小さい声がした。
「シン、やっぱり君がいてくれて助かったよ。 これからもよろしく頼むよ」
声の正体はヒューマだった。
何気ない言葉だったが、それがシンにはとても嬉しく感じられた。
まず右手の壁に手をつけながら北に向かって歩く。
座標的には西が階段だが、そこには壁があり、隠し扉のようなものも無かったからだ。
マップでは北の方も行き止まりだが、今回嫌って程味わった一方通行の扉がある可能性は大きかったからだ。
かなりの距離を歩いた頃、いきなり一行は金属でできた箱のような物の中に入っていた。
後ろを振り返ると暗闇が広がっているが、箱との境目で光が遮断されているのは奇妙な光景だった。
久しぶりに見た強い光に、一同は目がよく見えず、光に慣れるまでしばらくかかった。
その箱はボタンが4つ付いており、上からA,B,C,Dと書かれていた。
「これ、エレベーターだよな?」
信じられなかったシンがみんなに確認してみる。
「そう……だよね。 これで一気に下におりれるのかな」
「でもヒューマ、階段もあったわよね。 ルートが2つあるのかしら」
「問題はどっちが正解のルートかってことか。 まあ普通に考えたらこんな暗闇の奥にあるエレベーターなんて怪しいけどな」
ドワがエルの考えに対して話す。
一同は口々に推測を出すが、今知りうる情報では判断がつかない。
ボタンを押して動き出して戻れなくなったら、それこそ終わりである。
一同はここの場所を忘れないようにして、再び暗闇に入っていった。
少しずつ分かってくる迷宮の仕組み。
だがまだまだ謎は深まるばかりであった。
今度はさっきと逆側の壁に手をつけて、隠し扉等を見逃さないように慎重に歩いた。
シンは先程のエレベーターでマップに歩数を書きこみ、大体であるが全体図が見えてきた。
(ここを真っ直ぐ南に行くと、本来迷宮の端で終わりだが、おそらく無限回廊になっていて北の所に出るのだろう。 さらに下にいけばあの看板の所に出るはずだ)
一行はまたかなりの距離を南に歩き、行き止まりに壁があった。
左前方に空間がある為、そのまま前方を進む。
進んですぐに先頭を歩いていたドワが声を上げる。
「おい! ここの壁に扉らしきものがあるぞ!」
全員で触ると確かに扉があった。
「中が部屋で戦闘の可能性はあると思う。 みんな、戦闘態勢で突入しよう」
ヒューマの声に皆が準備をし、扉を押し破って突入した。
部屋の中は場違いなくらいの本の山と、実験道具らしい物が溢れていた。
その中央にある机には同様に本が積み重なっていて、その奥に座っている人影があった。
その人物はかなりの高齢らしく、小柄で白い髭を長く伸ばし、白いローブを着ていた。
いかにも魔法使いのような雰囲気を見せていた。
「何じゃおまえたちは」
老人が尋ねるが、なんといって説明すべきかヒューマが悩んでいると、いきなり立ち上がり厳かに宣言した。
『異邦人たちよ、去れ 』
彼は、手を振り始め、念じた。
『マピロ マハマ ディロマト 』
空間が歪んだと思うと、一行はその歪みに飲み込まれ部屋から消え失せていた。
部屋の中では、老人が面白くなさそうな顔をしてそれを見ていた。
「ふん!」
鼻を鳴らすと老人は机に戻り、先程まで読んでいた本を読み始めた。
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ウィザードリィ序盤で印象深いマーフィー先生とダークゾーン。
一番初めに味わった時のダークゾーンでの心細さを思い出しながら書いてみました。
ちなみになぜマーフィーが先生と呼ばれているかと言うと、原作では弱いわりに固定で何回でも湧いて、大量の経験値を与えてくれるからです。
レベルが低い時にパーティーを鍛えてくれる彼は、いつの間にか先生としてウィザードリィプレイヤーに呼ばれ、慕われていました。
攻撃回数について
NES版#1やPS版リルガミンサーガで使われていた設定です。
攻撃回数はLVか装備武器のAT値(AT=攻撃回数)の多い方が使われる。
MAGE, PRIEST, THIEF, BISHOP の場合、1回か武器AT値
FIGHTER, SAMURAI, LORD の場合、LV/5 + 1か武器AT値
NINJA の場合、LV/5 + 2か武器AT値
SFC版リルガミンサーガではレベルでの攻撃回数と武器AT値での合計になっていて、戦士系がとても強くなっていました。