隔離都市物語
05
過去の過ち
≪勇者シーザー≫
私がこの街にやって来て早一週間。
だが、初日に地下一階をパスしたっきり、
私の探索行は暗礁に乗り上げていた。
「ガルガン殿。そう言う訳で地下4階に行く階段が見当たらないのだ」
「……ふうむ。しかしお前さんの潜っておる迷宮は特別製のようじゃしのう」
地下二階はいわゆる迷路と言うものだった。
時折地下三階に落とされる落とし穴があるがそれだけだ。即死の罠は見当たらず、
落ちたとしてもすぐに二階に戻れるようになっていた。
地下一階に比べたら随分良心的に思われる。
そのあちらこちらに動く人形や軟体生物が配されていて、戦闘訓練も積むことが出来た。
ところが、幾ら探してもそれより下に降りる階段が見つからない。
そんな訳で私はこの一週間を地下二階と三階をうろうろするだけで過ごしてきたのだ。
「本来ならば、そろそろ先人の知恵をお借りしたい所だが……」
「そうじゃのう。お前さんの他にはモグラはおらんのじゃろう?」
モグラとは、地下迷宮に潜る探索者の総称だ。
私が潜っている迷宮は特別製のようで他のモグラたちは見当たらない、
その代わりに私は普通の探索者の潜る迷宮には出入り出来ないようになっていた。
具体的には地下一階に"旅行者向け"や"キノコ狩り専用"など、個別の地下迷宮入り口があり、
私が近づくと、鉄格子が降りる仕掛けになっているようだった。
私が初日から潜っているエリアには"しーざーしよう"と大きく看板が立てかけられていた。
どんな意味かは良く判らないが、
シーザー使用。即ち私が使っている迷宮とも読める。
まあまさか私のために迷宮を掘ったなどと言う事もあるまいが。
……兎も角、誰もあのエリアの事は知らないのだ。
「流石に一人きりで潜り続けていると、時折気が狂いそうになるな」
「まあ、一人きりで他に会うのは敵ばかりじゃしのう……」
当初は修行だからかえって都合が良いと考えていたが、流石に限界だ。
変わり映えのしない通路、代わり映えのしない敵。
そして幾ら地図を埋めても一向に見つからない次への階段。
地下二階が地下三階より少し広いのが気になるが、
そこにはあからさまな落とし穴以外何もないのだ。
「まさか、あれで迷宮自体が終わりとか……?」
「それは無いですよ、シーザーさん」
「だお!」
流石に疲れ果て、今日は休暇にしようと宿のカウンターに昼間から座っている訳だ。
だが、そうは行かないらしい。
一週間ぶりの声に私が振り向くと、予想通りの顔がそこにはあった。
「クレアさん。アルカナ君も……」
「おお、良く来たのう」
「ガルガンおじさんもお元気そうで何よりです」
「シーザー、そろそろ地下8階ぐらいまでは行ったかお?」
クレアさんとアルカナ君、そして護衛と思われる騎士達がゾロゾロと連れ立って店内に入ってくる。
騎士の方々はそのまま壁際に移動し、静かに椅子に腰を下ろした。
要するに「我々は居ないものとして扱え」と言う意思表示だ。
その意思を無碍にしては却って失礼だろうと思い、彼等には軽く会釈するだけに止めておく。
そしてクレアさんたちと挨拶を交わした。
「元気そうだな二人とも。迷宮の方は地下三階で立ち往生だな。正直困っている」
「そうだったんですか……えーと、それについてですが」
「おねーやん?その前に言う事があると思うのら」
「あ、そうでした。この間は危ない所を本当に有難う御座います!」
「いや。私の稼げた時間はほんの数秒に過ぎない。己の未熟さを痛感したよ」
「……元守護隊相手に秒単位で時間稼げるのは大したもんだと思うお」
「「「「うむ」」」」
どうやらあの無様な戦いが、かなりの高評価を頂いたらしい。
以前より警戒が薄れ、騎士達の視線が温かいような気がする。
「そうだ。それで先ほどのお話とは?」
「はい。色々ありまして、ようやく件の村と和解が成立したんですよ。それを伝えたくて」
「和解!?」
「若者二人は自業自得なので保険の対象外にされたらしくて、随分長い間揉めていたんです」
「だから全員の蘇生に加え、国からの見舞金を増額する事で決着したんだお!」
「ほお。ではもう人権団体からの突き上げを気にする必要はないというわけじゃの?」
はて。私の起こした事件の話のはずだが私自身はどうも蚊帳の外だな。
どうも理解できない部分が多すぎる。
それに……いや、そう言う問題ではないな。
「ともかく、私の剣に倒れた方たちは全員助かった、という事ですか?」
「だお!おとーやん達、今回は何故か保険が降りたのとは別に蘇生までしてやったんだお!」
「正直、極普通の一般家庭に蘇生術を施してくれるとは思いませんでしたよ」
「記憶操作によるトラウマの除去までやるとは尋常じゃないのら!なんか元から用意してたっぽいお」
「普通は保険が降りてお金で解決ですからね。何にせよほっとしました」
「いや、今回は実質お前さん達の不祥事だからの……ちと気になる事はあるがな」
ガルガン殿の気になること、と言う台詞は引っかかるが、
兎も角コボルト村の住民達は助かったと言う事か。
……私のしでかした事は消えないが、それでも犠牲者が全員助かったのは喜ばしい。
思い起こせばこの世界には死者を生き返らせる事すら可能な術者が居るのだ。
そう。死すら不可逆変化ではない。
何はともあれ彼等は助かったのである。
本当に、安心、した……。
「それでですね、ついては……あ、あの、何処に行くんですか?」
「シーザー?」
「う、ぐすっ……す、すみばせん。ちょっと表で風に当たってきます」
涙でぐしゃぐしゃの顔を彼女達に晒す訳にも行かない。
思わず立ち上がり、店から駆け出していた。
……。
気持ちが落ち着くまで暫く物陰で身を潜めていた私だが、
落ち着いてみると、最初に思ったのが少し出歩いてみたい。と言う物だった。
と言うのも、この一週間義務感と後悔などでがんじがらめのままただひたすらに迷宮に潜り続け、
気が付いてみたら迷宮のある塔と宿以外の場所を何一つ知らない事に気付いたのだ。
「……たまには、出歩いてみるかな……」
多少気が緩んでいたのかも知れなかった。
結論から言うと、それは大失敗だったのだから。
……。
「なあ、シーザーよう?幾ら生き返ったからって責任が消えるとは思っちゃ居ないよな?」
「……牢人殿……それに君は……」
「「「ばう!わう!」」」
ふと路地裏に迷い込んだ時私は件の牢人殿に手を引っ張られ、
あれよあれよと言ううちに、
あの時畑を荒らしていた三匹組みを加えた四名に、取り囲まれていたのである。
「助かったとは聞いていたが」
「ああ?助かっただ!?コイツ等はな?死ぬ思いをしたんだぜ?文字通り!」
「「「ばう!」」」
……甘かった。
盗みをした者が例え改心し盗品を返却したとてその咎が消える訳ではない。
当然、それは私もなのだ。
「……私にどうしろと?彼等に殺されろと言うのか?」
「いや。流石にそうは言わないぜ?だけどな。まあ、誠意って奴だ」
「「「わんわん!」」」
直接詫びろと言う事か。まあ、当然だな。
「確かに。知らぬ事とは言えご家族まで命を奪ってしまった事、申し訳なく思う」
「おいおい!誠意って奴が足りないぜ?具体的に言えば、これ、だな」
「「「わふっ!」」」
くいっと指を円形に曲げるジェスチャー。
これは、金か。
金で解決しようと言う訳か。
だが……。
「すまんが私は収入の当ての無い一文無しでな。牢人殿も知っているのではなかったか?」
「おお、それは知ってる。何せ同じ宿に世話になってるしな」
「だったら何故だ」
「へへ。けどよ。金目の物は持ってるそうじゃないか」
「金目の物?」
「なんでも伝説の武具一式、転がってるそうじゃないか。どうせ使わないんだ、有効活用しようぜ?」
馬鹿な!
あれはアラヘン王からの預かり物だぞ?
そもそも私の物ではない!
「おい。まさか勇者ともあろうもんが下らない理由で出し惜しむんじゃないよな?」
「下らないだと!?あれは王からの預かり物なのだ!」
私の一喝に対し、
牢人……コテツからの罵声が飛ぶ。
「それが甘いってんだよ!いいか!ここにお前のせいで苦痛を受けた被害者が居るんだぜ!?」
「……!」
「使っても居ない武具は骨董品だ!いいから俺に預けな!こいつらをきっと救って見せるからよ!」
「し、しかし……」
「黙りやがれ!犯罪者め!黙って賠償をし続けてればいいんだよお前は!良いな!」
「なっ!?」
まるで反論を許さない怒涛の攻撃が続く。
私の思考を麻痺させるかのようなその攻撃的な口調。
……だが、思えば元々悪いのは私だ。
ならば……いや!あれは駄目だ!
「先ほども言ったが、あれは預かっているだけの物で私のものでは」
「いいから黙れって言ってるだろ!?いいから渡せ!うだうだ言うな!」
「……だうと、です」
この声は!?
「…………あ」
「「「……わうっ!?」」」
「確か、アリシアさん?でしたか」
「そう、です」
「コテツ?詐欺と恐喝の現行犯で逮捕であります!」
は?
「ち、違うんだ!違うんだぜ!?いいか?俺はコイツ等の苦境を聞きつけてだな」
「やかましい。です……はあ、やっぱりこうなった、です」
「そもそもこの子達は家畜小屋を焼いた……放火は重罪、普通は牢屋の中でありますよ」
あ、そう言えばそうだ。
畑を荒らすだけでも考えてみれば酷いが、
火事が起きれば死傷者が出かねないし、
そもそも農家にとって家畜とは財産そのものではないか。
「因みにシーザー。コイツ等、隣村から民事で損害賠償請求されてるでありますよ」
「そうがく、きんか……せんまい、です」
「そ、そうだ!だけどコイツ等に支払える訳がないから仕方なくだな、ぐはっ!?」
容赦の無い蹴りが飛ぶ。
蹴り飛ばした子供達は頬を膨らせながらお説教を始めた。
……屈強な大の大人が、子供に折檻を受けている。
余り理解したく無い図柄だなこれは……。
「やかましい、です。いつもびみょうに、しょうこのこさず、わるいことばかりして、です!」
「国からの見舞金で損害賠償の支払いは可能でありますよね?」
「いや、しかしだな……そう!これは精神的苦痛に対する賠償としてだな?」
「むらのほうで、わかいはしたはず、です。これいじょうは、ぎゃくに、ばっせられる、です!」
「まあ、コテツは二割を分け前として貰う予定だって話だし、こうなるのは当然でありますが」
……周囲が静まり返る。
「……えーと、あー…………おい!お前ら話が違うじゃねえか!」
「「「わ、わふ!?」」」
「ち、畜生!お前らが金が足りないって言うから助けてやろうと思ったのによ!」
「「「わん!?わんわんわん!」」」
「足りない金は、遊ぶ金だったんだな!?新しい首輪か?玉入れ遊びか?」
「わ、わう?」
「わうううううん!」
「き、きゅううううん!?」
そして、これは……。
「なんて酷いガキどもだ!なあお姫さんよ!コイツ等を許してやってく、ぐぼおあああああっ!?」
「……げす」
なんて、ひどい。
そして……許せん!
「……腐っているのか貴様はああああああっ!」
「「「ばううううううっ!」」」
「ひっ!?お、俺は知らない!しらねえんだ!」
そうして私は目の前の外道を、三頭のコボルトと一緒に殴り飛ばしたのである。
……かなり人間不信になりそうな、ある晴れた日の話であった。
「むかしは、もすこし、まともだったきがする、です……あれ?そうでもない、です?」
「首吊り亭最後のB級冒険者が聞いて呆れるでありますね」
「まあ、腕が立つのに結局どこの軍からもスカウトが来なかったからのう……」
「……シーザーさん、沈んでる。罪状が消えて首輪を外せるようになったのに。何処で言えば……」
「おねーやん。そんなの宿に戻ったらに決まってるお」
そんな訳で私はその日迷宮に潜る事はなかった。
だから、私はそれを知るのが遅れたのだ。
……地下迷宮を覆う、巨大な悪の影の事を。
……。
≪旧アラヘン王宮・現第三魔王殿(仮)にて≫
気だるい午後。いや、何の気力も湧かないような午後。
空は夜のように暗い。
分厚い雲に覆われた空と枯れ草しか見えない大地。
……かつて世界統一王朝と呼ばれたアラヘン王国の首都である。
いや、首都であった、と言うべきか。
「これで我は……8つの世界を破壊した魔王、ラスボス、か」
「はっ。最後の抵抗勢力の駆逐に成功いたしました」
「……では予定通り9つ目の異世界侵攻を開始する。例の勇者の居る世界に尖兵を送れ!」
「既に四天王ヒルジャイアント様と直属の兵が転移準備中で御座います」
その王宮の中央に位置するかつて吹き抜けのホールだった場所。
今はそこに巨体の魔王が鎮座している。
……魔王ラスボス。
遂に八つ目の世界を滅ぼした偉大なる魔王である。
シーザーの故郷であるこの世界は既にこの魔王の支配下にあった。
「ふむ。時に、物資の搬出はどうなっておる?」
「はっ!世界中から全ての物資をかき集めております」
「兵は?」
「この世界の人間どもには通達を出しております。食いたければ従え、と」
彼等は何かを生産したりはしない。
ただ、奪うのみだ。
後先考えず目先の全てを奪いつくすそのやり方はまるでイナゴの群れに似ている。
もしくは焦土戦術のつもりなのかも知れないが。
ともかく、普通に考えれば破綻必至。
それなのに軍を維持し続けているその手腕だけは評価できるかもしれない。
「物資の2割は我が故郷に送れ。それ以外は軍に回すのだ」
「はっ、御意のままに」
「御意?それぐらいいつもの事ではないか。それぐらい指示を待たずに手配しておかぬか!」
「は、ははっ!申し訳御座いません!」
魔王は苛立っているようだった。
額に青筋を浮かべ怒りを見せる。
……が、少し考えて思い直した。
「……一応詫びておこう。ちと心労がな」
「い、いいえ。故郷の異常気象は酷くなる一方……僅かながらお察しします」
魔王の故郷は貧しい土地。
彼はそれを打開すべく軍を作り上げ、異界にその突破口を求めたのだ。
そして確かに10年前まではそれなりに上手く行っていたのだ。
だが、ある日を境に状況は一変した。
生まれて初めて出会った自分以外の魔王。
激戦の結果軍は半壊し、己の力が異界の魔王に劣る事を痛感し、
そして……何故か時を同じくして故郷に異常気象が起き始めたのだ。
「報告!本国にて熱湯の如き雪が!」
「報告……コボス大陸が、海面に……沈みました!」
「大都市マケィベントにて大地震……もう、駄目です!」
次々と届く凶報。
……遂に征服した異界への遷都を余儀なくされる始末。
「もうじき、我が故郷に住める者はいなくなる」
「踏んだり蹴ったりですな、はぁ」
「それもこれも、あ奴のせいだ……あの女魔王の!」
「げに恐るべし、魔王ハインフォーティン、ですな……」
そして、ラスボスの意識は10年前の屈辱の日へと飛ぶ。
……それは彼にとって余りにも忌まわしい、呪われた記憶……。
……。
≪回想・戦争モード ピラミディオン山麓・魔王戦役≫
防御側大将、魔王ハインフォーティン
初期戦力(総軍11万)
・直属リザードマン部隊 2,000
・聖樹と女神の信徒達 50,000と1,000
・コケトリス空挺爆撃隊 10,000
・シバレリア歩兵 30,000
・モーコ弓騎兵 6,000
・サンドール軽歩兵 8,000
・混成魔物部隊 3,000
特記事項
・広域防衛の為不利は覚悟で鶴翼の陣を敷いた。この為各部隊の層が薄くなり指揮官危険度上昇。
・員数外の"圧倒的実力"な伏兵あり
・蟻達は故あって諜報活動のみで支援
・初期配置で銃火器は女神の信徒のみ装備(この時代ではまだ機密の為)
・魔王ハインフォーティンは女性型に改装された外装骨格搭乗済み
攻撃側大将、魔王ラスボス
初期戦力(総軍100万強)
・魔王直属軍 200,000
・最精鋭竜人部隊 1,000
・死霊の軍勢 100,000
・混成魔獣軍団 500,000
・隷属人間部隊 200,000
特記事項
・壊滅的に士気の低い部隊あり
・日中の戦闘の為アンデットの戦闘能力激減
・後方に予備兵多数
・情報が敵に筒抜け
……。
ターン1
防御側全軍、敵兵数を視認。兵数的に圧倒的劣勢の為士気低下。
「魔王ラスボスの名の下に!進め人間ども!」
攻撃側は隷属人間部隊を前進させた。
望まぬ戦いの為士気は低い。
部隊はゆっくりと前進し……爆ぜた!
「……地が割れた?いや、爆発しただと!?」
「魔王様、敵の攻撃です!」
地雷原が敵の前進を拒む。
隷属人間部隊は多数の死傷者を出し進軍を停止、
その場で右往左往を始めた。
「馬鹿者が!足を止めるな!」
「よし!わらわ達の実力を見せ付けてやれ!」
防御側はサンドール軽歩兵による迎撃を試みる。
「こちらは高地、敵は低地におる。投石器、バリスタ……一方的に叩き潰してたもれ!」
「御意……攻撃準備、完了。自軍遠投兵器……全機、発射!」
ピラミディオン山中腹に設けられた防御陣地内より、サンドール軽歩兵が攻撃開始。
高低さ、射程の隔絶により一方的な遠隔攻撃!
敵陣中央に命中!隷属人間部隊に大きな打撃を与えた!
「ええい!奴等を前進させよ!」
「駄目です!奴等右往左往するばかりです!」
魔王ラスボスは前進指示を送った!
だが、部隊は混乱している。
攻撃指示は部隊に届かなかった……。
……。
ターン2
サンドール軽騎兵の迎撃は続いている!
敵の被害は拡大した。
防御側の士気が上昇している!
「魔獣どもを向かわせよ!後ろから発破をかけてやれぃ!」
「はっ!」
攻撃側、混成魔獣軍団の一部が前進。
隷属人間部隊の後方より圧迫を開始!
「「「「ウガアアアアアッ!」」」」
「「「「ひっ、ひ、ひいいいいいいいぃぃっ!」」」」
恐怖が足を突き動かす。
隷属人間部隊が前進を開始した!
だが、士気は更に低下した。
地雷原により被害が広がっていく……。
「魔王様。敵は被害を無視して突き進んでくるのですよー」
「ええい!奴等は兵を何だと思っておるのだ!?」
「捨て駒でありますね、間違いなく」
「しょせん、せんりょうちの、いっぱんぴーぽー、です」
「まあ、ここは魔王軍の軍師にして四天王筆頭たるこのハニークインちゃんにお任せなのですよー」
「……お前は第四位なのだが……まあいい。やって見せてたもれ」
魔王は一部部隊の指揮を参謀に一任した。
ハニークインは3000の兵を率いて戦列を一時離脱!
「ふっふっふ。任せるのですよー」
「よろ、です」
「頑張れであります」
……。
ターン3
地雷原が三割まで侵食されている。
隷属人間部隊の被害が全滅レベルに達した。
魔王ラスボスは更なる前進を命じる。
「「「もう嫌だーーっ!」」」
隷属人間部隊からの脱走者続出!
だが、後方の混成魔獣軍団からの督戦により戦場に引き戻される。
混成魔獣軍団は督戦を強化!
背後から矢を撃ち込み始めた。
だが、隷属人間部隊の士気は最低レベルまで落ち込んでいる。
「もう嫌だ、もう駄目だ!もうおしまいだーーーーッ!」
「どうせ死ぬのか?どうせ死ぬなら!」
「おううううううううっ!?」
隊列崩壊!
部隊は軍の体を成さなくなった!
全てを見境無く攻撃!
「何をやっておるのだ!?魔王様!督戦の強化をお命じ下さい!」
「待て!奴等限界を超えておるな?督戦はよい。一度下がらせ再編成!」
魔王ラスボスは隷属人間部隊の一時後退と再編成を命じた!
「バウワウ!了解だワン!……と言う訳で督戦を更に強化せよとのお達しだバウ!」
「ワカッダ!」
「うがああああっ!こうなったらもう、破れかぶれだーッ」
しかし何故か督戦が更に強化される。
隷属人間部隊の一部が離反した!
魔王ラスボス配下内で同士討ちが起こる!
「ニヤニヤなのですよー。さあ、次の目的地に行くのですよー」
「バウ!」
「ええい!奴等は何をやっておるのだ?我が命を理解出来ないとでも言うのか!?」
ハニークイン指揮の混成魔物部隊がラスボス軍内部で命令伝達を阻害!
誤った命令が敵陣内を駆け巡っている。
攻撃側の軍内に不信感が漂った。
魔王ラスボスは怒り狂っている。
……。
ターン4
攻撃側前衛は混乱している。
隷属人間部隊と混成魔獣軍団の同士討ち!
隷属人間部隊はほぼ一方的に殲滅されている。
「何をやっておる!?我が命を伝えよ!」
「バウ!」
「お馬鹿なのですよー。ふっふっふ!」
ハニークインの妨害により、魔王ラスボスの命令は伝わらない!
混乱に拍車がかかった!
「よし、ハニークインが頑張っている間に敵陣に攻撃を加える!」
「混成魔獣軍団には味方の兵が混じっているからそれには当てないようにするであります!」
「「「「コケーッ!」」」」
防御側陣地よりコケトリス空挺爆撃隊、出撃!
……。
ターン5
攻防双方に被害状況の報告が入った。
防御側
・混成魔物部隊 200(残存2800)
・サンドール軽歩兵 弾薬消費30%
「ちっ、予想以上に混戦に巻き込まれておるな」
「しかたない、です」
「将の損耗無しと仮定すると勝利には最低全軍の半数が犠牲になるであります。覚悟するであります」
攻撃側
・混成魔獣軍団 5,000(残存49,5000)
・隷属人間部隊 壊滅状態
「所詮は人間か!ええい!奴らなどもう知らん。混成魔獣軍団前進せよ!」
「魔王軍四天王第三席、呪われた大羊デモンズゴート出陣致す」
魔王ラスボスは主力の前進を決定。
混成魔獣軍団長デモンズゴートに指揮を委ねる。
「魔王様。敵を舐めてはいけませんぞ」
「ほう?ではどうするのだプロフェッサーリッチー?」
「四天王第二席、死霊教授プロフェッサーリッチー、私のアンデッド達も共に参ります」
「ふっ、力押しか。だが我の軍勢には最も相応しい……よし、許可する」
「良いのか教授?汝の軍勢は太陽の下では真価を発揮せぬが」
「ほっほっほ。例えそうでもあの爆発する地面の対策には不死身のアンデッド達が必要でしょう」
「ふん!それぐらい我が軍勢だけで……だが魔王様のご命だ。着いて来られよ」
混成魔獣軍団500,000弱、
死霊の軍勢 100,000
総勢60万弱の大軍が力押しで防御側本陣に迫る!
「地雷原を力押しで押し通るか。単純だがわらわが最もやって欲しくなかった手だな」
「こっちの本陣に部隊を集結させるであります」
「……サンドールに敵をやるわけには行かんぞ?」
「だから出来る限り、であります」
魔王ハインフォーティンは主力を集結させた。
中央に直属部隊2,000とガサガサ達50,000。
さらに神聖教団からの志願兵1,000。
右翼にモーコ弓騎兵6,000とサンドール軽歩兵8,000、
左翼にシバレリア歩兵30,000を配置。
その内中央に当たる53,000の兵が敵60万を正面に迎える!
正面で受けきれない分は両翼に殺到。
高所で防御陣地の中に篭る右翼は善戦している!
……。
ターン6
攻撃側は被害に構わずなりふり構わない前進を続行!
「恐るべき敵の軍勢が……」
「女神よ、レントの聖樹よ。私達に力を!」
「「「「ガッサガサガサガッサガサ」」」」
「……クイーンの分身よ。リーシュとギーが……」
「何も言うなであります。こう言う人達はカッコいい名前を付けたがる物であります」
「ゲゲゲ、ゲッゲゲゲ!」
聖樹と女神の信徒達は防衛側正面で敵主力に相対!
……敵は多数の被害と引き換えに地雷原を突破してきた!
「来るぞっ!わらわも前線に立つ!迎え撃て!」
「「聖戦はここにあり!命を惜しまないでください。むしろ名を惜しむのです!」」
『まったく、この老骨にまだ出番があるとはな……スケイル、出陣する!』
5万と60万が正面からぶつかり合う……。
「ゴブゴブゴブッ!」
「わおーーーん!」
「コケエエエエエエッ!」
その瞬間、天空を行く白い死神たちが牙を剥いた!
コケトリス空挺爆撃隊が爆弾を敵陣内に雨あられと振り撒く!
攻撃側、混乱!
「よし、いまだ……魔王ハインフォーティンの名の下に……かかれぃっ!」
「「「「「ガサガサガサガサッ!」」」」」
混乱の隙に乗じ、防衛側が戦闘のイニシアチブを握った!
……。
ターン7
……何者かが戦場を観察している。
防御側本陣正面での戦闘、空挺爆撃の嵐の中混成魔獣軍団は辛うじて統率を取り戻した!
一進一退の攻防が続く!
「ふん!あの数でよく頑張る……」
「魔王様、駄目押しです。私が出ましょう」
「四天王主席たるお前までもか?」
「はっ、竜人ドラグニール、配下のドラゴニュート千騎を率い・・・…敵側面を突きたく思います」
攻撃側陣地より最精鋭竜人部隊1,000が出撃。
防衛側左翼に向かって進軍開始、
シバレシア歩兵30,000に接触した!
「敵の遊軍が動いた!テムに連絡を取れ!」
「あい、まむ。であります」
敵本隊以外の全部隊の行動が判明!
右翼の守備をサンドール軽歩兵に任せ、モーコ弓騎兵が突撃開始!
「馬鹿者め!本陣を動かさないとでも思ったのか!?」
魔王ラスボスは本陣20万を手薄になった右翼目掛けて前進させた!
サンドール歩兵8,000と敵本隊20万が激突する!
「さて、この誘いに乗らないほどの馬鹿者だったらどうしようかと思いましたよ」
「にゃおおおおおおおん!」
「ほう?大型の魔獣を山の陰に伏せていたか!」
側面よりイムセティ騎乗の守護獣スピンクス強襲!
敵本陣の側面を突いた!
「ふん。そちらは任せるぞ……若き新緑グリーンドラゴンよ」
「「「四天王第四席グリーンドラゴン様だ!」」」
「ゴアアアアアアッ!」
しかし、大型魔獣の群れに混じっていた緑色のドラゴンがスピンクスに襲い掛かる!
「くっ!警戒するほどの将は居ないという話でしたが!?」
「あれだけ罠に嵌めておいて我が何時までも警戒しないとでも思ったのか!?愚かしい!」
「わ、わふっ!?」
「そこの犬は敵の間者だ!斬り捨てよ!」
魔王ラスボスはニセ情報を流す者達を特定し、逆用した!
急襲を受けたスピンクスはグリーンドラゴンに押されている……。
「さあ、反撃開始だ。後方より予備兵を投入!見よ、300万を優に越える大軍勢を!」
魔王ラスボスは後方より全予備兵一斉投入!
……しかし、援軍は来ない。
「何をしておる!駄目押しだ!急がせよ!」
「そ、それが!」
魔王ラスボスの開いた異世界を繋ぐゲートより、赤い竜が首を出す!
そして、
「グオオオオオオオッ!」
炎を一吐きして戻っていった。
「……は?」
「ふははははは!父がやってくれたぞ!敵の増援はもう来ない!全軍反撃に移れ!」
攻撃側の援軍は封殺された。
防御側の反転攻勢!
「さて、行くとするっすか?」
「イエス!さあ、震えるが良いです」
守護隊500が"敵の開いた"ゲートより姿を現す!
聖印魔道竜騎士団200がそれに続く!
「ふう、若い者達のようには行きませんな」
更にルーンハイム魔道騎兵300がそれに続く。
だが、被害が大きく後方に撤退。
「な、何故我が開いた門より敵の部隊が!?」
「そんなの予め潜り込んで占領したからに決まってるっす」
「ユー・ルーズ。ユー・ルーズ。お待ちかねの援軍はもう来ませんよ。いえ、もう居ませんよ」
守護隊隊長、リンカーネイト王国近衛騎士団長レオ=リオンズフレア、
及び聖印魔道竜騎士団団長オド=ロキ=ピーチツリー、戦場に到着!
最後に火竜ファイブレス及び別働隊大将、戦竜カルマが門から出現し、そのまま門を破壊した。
魔王ラスボス旗下の全部隊、大幅な士気低下!
「ば、馬鹿な!?」
「……何を戦場で余所見をしておるのだ?」
クリティカルヒット!
混成魔獣軍団、士気崩壊!
「ぐっ!?デモンズゴートの部隊が!あ奴何をやっておるのだ!」
「そ、それが!」
攻撃側、魔王軍四天王デモンズゴート。
強襲する魔王ハインフォーティンの斧の一撃により絶命!
「しかし、何故羊なのにゴート(山羊)なのだろうな?」
「五月蝿い……ゴートなる名前の羊が居ては、悪い、の、か……めぇぇぇぇぇ……」
指揮官の敗北に混乱した混成魔獣軍団は統率を失い四散!
「こ、これはいけませんね……撤退するにも再編成するにも新たなゲートが必要ですな」
「教授!?いずこに!」
四天王第二席、プロフェッサーリッチー。
拠点再構築の為戦場を一時離脱!
最上位統率者を失った死霊の軍勢は太陽光に負けて次々と消滅していく。
攻撃側、中央戦線崩壊!
……。
ターン8
戦況確認
防御側大将、魔王ハインフォーティン
現有戦力(総軍76,000)
・直属リザードマン部隊 1,300
・聖樹と女神の信徒達 25,000と200
・コケトリス空挺爆撃隊 10,000
・シバレリア歩兵 27,000
・モーコ弓騎兵 5,700
・サンドール軽歩兵 4,300
・混成魔物部隊 1,800
・守護隊 500
・聖印魔道竜騎士団 200
攻撃側大将、魔王ラスボス
現有戦力(総軍21万強)
・魔王直属軍 198,000
・最精鋭竜人部隊 980
・死霊の軍勢 4,000
・混成魔獣軍団 12,000
・隷属人間部隊 壊滅
・300万の予備兵 壊滅
戦況推移
当初の兵数比は10対1。
用意されていた兵数からすると最悪40対1になる可能性もあった。
策によりその戦力差はかなり軽減されたがそれでも未だ攻撃側本隊はほぼ無傷。
数値には表れないが、長時間戦い続けてきた防御側主力と、
敵予備兵300万を無力化していた増援の疲労も心配。
……と、言いたい所だが……。
「さて、行くとするか」
「アニキ。大丈夫っすか?まあ、聞くまでも無いっすね」
「……俺の領域を土足で踏み荒らさせてたまるかよ」
「イエッサー!こちらもまだいけますよ!」
全く疲労を感じさせない動きで700と一騎が後方から魔王ラスボス本隊に襲い掛かる!
「守護隊全軍、硬化・強力・加速の順でブースト!マナバッテリー起動、行くっすよーッ!」
「アーユーレディ?ワイバーン達はまだ飛べますね?魔力と残弾は?ええ。では行きましょう!」
「……突き崩せ。この一年の特訓が無駄でなかった証を立てるために!」
炎の竜とその黒い冠を先頭に、
凶悪極まりない精鋭部隊が猛烈な勢いで敵陣に食らい付く!
「止められません!」
「ビヒモスクラスの大物が次々に討ち取られていきます!」
「こちらと接触してからも進軍速度、落ちません!化け物だああっ!」
「……敵魔王を、我自らが討ち取る!奴さえ殺せば終わりだ。正直舐めていたぞ……もう容赦はせん」
後方に押さえを残し、魔王ラスボスは右翼方面より我武者羅に敵本陣を目指す!
そして視界の先に紫色の巨体を発見した!
「ハインフォーティンとは貴様か!?よくもやってくれたな!」
「それはこっちの台詞だ!わらわの世界を破壊?ふざけるのもいい加減にせよ!」
魔王と魔王の直接対決!
「そうそう。そろそろ貴様の軍は終わるぞラスボス」
「ふざけた事を!幾ら被害を受けようがすぐに立て直してくれるわ!くたばれぃ!」
突き出されたラスボスの拳を外装骨格が受け止める!
……遥か後方で火の手が上がった!
「兵糧!焼き払ったのですよー?」
「「「わふっ!」」」
「「「ゴブッ!」」」
ハニークイン率いる別働隊が後方に回り込んだ!
蓄積されていた兵糧が焼かれ天に大きな炎が上がる!
「はっ!この状況下で今更兵糧?何の意味がある!」
「それが判らんのでは貴様はわらわに決して勝てぬわ」
魔王本人の意思とは裏腹に、ラスボスの軍勢に衝撃が走る!
食料が無いという事実により、末端から順に混乱が広がっていく……!
「魔王様!やったのですよ、敵は不安にかられているのですよ!」
「よくやった!わらわはこ奴との戦闘に集中する。兵の指揮は貴様等に一任する!」
ハインフォーティンの通常打撃!
ラスボスはその双腕に魔力を込めて迎え撃つ!
外装骨格に10%のダメージ!
ラスボスに15%のダメージ!
「ふん!流石は魔王を名乗るだけあるな」
「……わらわを相手取るのに、貴様の実力はその程度か?」
「ならば、食らうがいい!我が名はラスボス。最後の敵対者の名を持つ最強の魔王なり!」
「貴様程度で最強?井戸の蛙か……大海を知れい!」
魔王ラスボスは力を溜めた!
そして……全身の魔力を込めた一撃を見舞う!
「誠は死に刹那の快楽が世を覆う。言葉は意味を持たぬ死に止(いた)る病!終わる世界を、ここに!」
「……来い……!」
「これを受けられるか?……"終わる世界"!(エンド・オブ・ワールド)」
「その程度で世界が終わってたまるか!」
膨れ上がる魔力が無数の刃となり外装骨格に突き刺さり……爆発する!
魔王ハインフォーティンは耐えた!
外装骨格に80パーセントのダメージ!
ダメージ、レッドゾーン!(ただし中身は平然と無傷)
「はっはっは!流石の貴様もこれには耐え切れまい!」
「……ふん。確かにボロボロだ……が、まだ動くぞ?」
魔王ハインフォーティンの膝狙い!
低い体勢で繰り出される前蹴りが、魔王ラスボスの膝を破壊する!
「ぐおおおおぁっ!?な、何故その傷で動ける!?」
「……まだ終わらん。祖父の代より続く赤き一撃を食らってたもれ?」
ハインフォーティンの更なる追撃!
ラスボスの鼻の穴に巨大な練り唐辛子をねじり込む!
「ぎゃあああああああああああっ!?」
「効くだろう?効くよな?うむ。効くのだこれがまた、ハハハ……」
未知の感覚!
魔王ラスボスは悶絶し戦意を喪失した!
「トドメだ……」
「そうはいかんぞ!」
竜人ドラグニールが左翼を突破!中央戦線に突入した。
側面からの強烈な斬撃!
外装骨格に3%のダメージ!
「ぬうっ!外装骨格の戦力は鍛錬では上がらん!もう暫くは動かんな。まあ止むなしか……」
外装骨格は緊急自己修復モードに移行!
魔王ハインフォーティンは一時戦線を離脱した。
その隙を突いてドラグニールは魔王ラスボスの元に駆け寄る。
「魔王様。教授が近場に撤収用のゲートを設置いたしました」
「ごほっ、ごほっ……ドラグニール?我に引けと言うのか!」
「その通りです。残念ですが現状では撤退すら危うい。ここは引いて再起を!」
「……ぬっ。ぐうっ…………全軍撤退準備!急げぃ!」
魔王ラスボスは撤退を決意した。
攻撃側全軍が一斉に反転!
「魔王様。門の守護はこの四天王第二席プロフェッサーリッチーにお任せを」
「うむ。我は先に行く……生きて戻れぃ!」
死霊の軍勢が最上位指揮官の戦線復帰を受けて復活。
……魔王ラスボスは一足先に元の世界へ撤退!
……。
ターン9
攻撃側はほぼ継戦能力を喪失。
防御側の掃討モード!
魔王ラスボス旗下、死霊の軍勢が撤収用のゲートを死守している。
太陽がさんさんと大地を照らした。
死霊の軍勢は弱体化している……。
「ほっほっほ。既に死んでおる身に生きて帰れとはご無体な」
「教授、私は追撃を受けている味方を助けに行く。ここはお任せします」
「いや、それは第4席殿に任せよう」
「……そのグリーンドラゴン殿は?彼はまだ若い。最前線に出すのは少し心配なのですが」
スピンクスはグリーンドラゴンと戦闘中!
サンドール軽歩兵部隊の援護攻撃!
二頭の巨獣の戦闘は一進一退を続けている……!
「押されている?それではこちらも加わるか!」
モーコ弓騎兵が駆けつけた!
火矢の雨がグリーンドラゴンに降り注ぐ!
「……い、今だ!」
「に、にや、オオオオン!」
相手が怯んだ隙を突き、スピンクスが特攻!
グリーンドラゴンに致命的ダメージ!
「勝った、ぞ……!」
しかしスピンクスも力尽きた。
双方共に戦場に倒れこむ……!
【どうやら勝負あったようですな】
【……どうやらラスボスと言う男の勢力が異次元移動の技術を保持しておるようで】
【ハインフォーティンなる女の勢力にその技術は?】
【無いようですね。まだ警戒には値しないかと】
謎の勢力の観察はまだ続いている。
……。
ターン10
攻撃側全軍の再集結完了。
撤退開始!
「さて、このまま無事に帰してくれますかな?」
「……無理だな。出来る限りこちらで敵の追撃を……」
『ならばこちらの相手をしてもらおうか?魔王軍四天王が第二位、竜殺爪のスケイル見参!』
「ゲゲゲと五月蝿い奴め!この四天王主席・竜人ドラグニールが相手だ!」
防御側の追撃!
撤退中の攻撃側は大打撃を受けた!
竜殺爪と竜人の戦いは一進一退を続けている!
「もう少しですな……最後は我がアンデッド達に任せて頂きたい」
「ぐうっ……お願いする。ドラゴニュート全隊撤収!」
最精鋭竜人部隊、撤収開始!
「そう容易く帰れると思うな!行け、真の魔王軍四天王筆頭よ!」
「ぴいいいいいいいいいいいいっ!」
敵の撤収に合わせ防御側の伏兵が発動!
魔王ハインフォーティン側の四天王筆頭にして魔王の幼馴染。
大きく育った氷竜アイブレス!
戦場の地下より大地を割って、駄目押しに登場!
その氷結のブレスにより広範囲の敵が凍りつく!
「ぐっ!私の最精鋭竜人部隊が!?」
氷結のブレスにより最精鋭竜人部隊は大きな損害を受けた!
……攻撃側の撤収は続いている。
「アイブレスは負けた時の保険だったのだがな?まあ勝てたのだからよしとしようか」
「……甘かった。と言う訳か?あの人間の女将軍といいこの世界の者どもは皆手強い……!」
「ドラグニール殿!戻りなさい!ここは私が出来る限り支える事にします!」
「…………全軍撤退!死霊の軍勢は殿をお願いする!」
攻撃側撤退成功部隊一覧(暫定)
魔王直属軍 20,000
最精鋭竜人部隊 300
混成魔獣軍団 4,500
隷属人間部隊 200
【……このままではこの世界に異次元移動の技術が渡るな】
【少なくとも初歩的な蒸気機関があるだけの世界には不要でしょう】
空中に不可視の戦闘艦が浮かんでいる。
謎の勢力からの攻撃。
不可視の戦闘艦より高出力レーザーが発射された!
「……こ、これは!?」
「奴等、でありますね」
「他所様に気を使いながらの戦争とは。なんとも面倒な時代になったのですよー」
高出力のレーザー砲によって門とその周囲が焼き払われる。
魔王ラスボス側四天王プロフェッサーリッチー、消滅!
最上位指揮官の消滅により全アンデッドが土に還った!
魔王ラスボス側の全勢力撤退、または消滅!
【これでよし。彼のラスボスと言う男の行動は今後も監視を続ける】
【了解。では、こちらも撤退します】
不可視の戦闘艦が撤退して行く。
これにより、全敵対勢力が戦場より離脱。
魔王ハインフォーティンの勝利が確定した!
……。
最終戦績
防御側大将、魔王ハインフォーティン
最終残存戦力(総軍67,000)
・直属リザードマン部隊 1,100
・聖樹と女神の信徒達 18,000と200
・コケトリス空挺爆撃隊 10,000
・シバレリア歩兵 26,000
・モーコ弓騎兵 5,100
・サンドール軽歩兵 4,200
・混成魔物部隊 1,700
・守護隊 500
・聖印魔道竜騎士団 200
攻撃側大将、魔王ラスボス
最終残存戦力(総軍38,900)
・魔王直属軍 19,400
・最精鋭竜人部隊 290
・死霊の軍勢 消滅
・混成魔獣軍団 4,100
・隷属人間部隊 110
・予備兵 15,000
戦死主要指揮官一覧
防御側
シバレリア大公 ジェネラル・スノー
サンドール総督 イムセティ=ハラオ=サンドール
攻撃側
四天王第二席 プロフェッサーリッチー
四天王第三席 デモンズゴート
四天王第四席 グリーンドラゴン
その他、リンカーネイトには関係ないが彼等にとっては重要だった人々多数
配置されていた場所が悪く戦う事が無かった人達(防御側のみ)
防御側撤退支援役、魔王軍四天王第三位 オーガ
念のための切り札、雷竜ライブレス・地竜グランシェイク
いつもの通常業務、グスタフ=カール=グランデューク=ニーチャ・風竜ウィンブレス
ルンのご機嫌取り、"まだ"手乗り竜のファイツー
……。
≪北の地・魔王城にて≫
昼なお暗い魔王城玉座の間。シバレリア皇帝の居城にもなったこの城で、
玉座に深く腰かけ深く瞑目していた長い青髪の少女が静かに目を開けた。
かつての短い手足は既に白魚のような爽やかな色気すら発する女のものに変化し、
胸元以外のスタイルも人が見れば羨むような美しい造形を見せている。
……魔王ハインフォーティン。巨大な外装骨格を駆る伝説級の魔王。
かつて異世界の魔王と戦った時、
彼女がまだ幼女と名乗っても問題の無い年齢であった事を知るものはそれ程多くない。
「魔王様。母を殺したあのラスボス配下の兵がこの大陸に侵入したと連絡があったゾ」
「……そうか。スー達の仇をようやく討ってやれるな。本当なら生き返してやりたかったが」
「当時はまだ蘇生の魔法の復活が間に合わなかったのですよー……間が悪かったのですよー」
傍らに控えるのは二人の少女。
空を舞う妖精と大型銃器を携えた民族衣装の戦乙女。
「10年前とは違う。今ならわらわだけで奴等を殲滅できよう……だが」
「魔王様。母の仇はこのフリージアにとらせて欲しいのだナ!」
「それに妹君の事もあるのですよー。即座に殲滅とは行かないのですよー」
妖精の名はハニークイン。
現、魔王軍四天王第三位・ミツバチの女王ハニークイン。
そして、
「よかろう。四天王第四位フリージア=ズィン=ルーンハイムに魔王ラスボス討伐の許可を与える」
「ありがたき幸せなのだナ、魔王様」
「従姉妹殿?余り無理をするでないぞ?」
「一切合切承知なのだゾ!」
彼女の名はフリージア。フリージア=ズィン=ルーンハイム。
10年前の戦乱で名誉の戦死を遂げたジェネラル・スノーの娘にして魔王の従姉妹。
シバレリア大公とモーコ大公の政略結婚の結果生まれた二代目シバレリア冬将軍である。
彼女は先代四天王である竜殺爪スケイルの引退に伴い、新たなる四天王として抜擢されていた。
……余談ではあるが、
父親のテム=ズィンが何処ぞのモンゴル帝国皇帝クラスの後宮持ちのためか、
親子関係は余り宜しくないらしい。
お陰でカルマの隠し子疑惑の消えない可哀想な娘でもある。
「……奴はもう少し落ち着いてくれればいいのだがな」
「母親から考えてそれは無理難題というものなのですよー」
兵を多数生き残らせた代償に、敵将と戦い死んだ先代ジェネラルスノー。
自分の伯母でもある彼女の死は、今もまおーの胸に小さなトゲとして残っているのであった。
……スノーの戦い方が下手だったのではないか?とは言ってはいけない事である。
「では、行ってくるゾ魔王様!」
「うむ。ガルガンの元へ向かうのだ。共に戦う勇者がおる筈だ!」
こうして新たなるトラブルメイカー、もとい戦士が隔離都市へと向かう。
大いなる敵と多分頼りになる味方。
勇者シーザーの、本当の戦いが始まろうとしていたのである……。
「あ、魔王様電話なのですよー?」
「もしもし、わらわだ。魔王ハインフォーティンだが?」
【これは姫様ご機嫌麗しゅう。早速用件に入らせていただきますが……】
なお余談ではあるが、10年前の戦いに介入してきた謎の組織は、
この10年の間に頭を挿げ替えられ既にカルマ一家の傘下に収まっていたりする。
続く