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[17211] 魔法少女リリカルなのはWarMaster(なのは×洋ミニチュアゲーム、オリキャラ介入)
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/09/27 00:57
この作品では日本でマイナーな洋ミニチュアゲームとなのはクロスをしてみるべくオリキャラを介入させています。
また、主にクロスさせる「Warhammer40k」と言う作品ではスペシャルキャラクター以外のキャラクターに名前は存在せずプレイヤーへの想像で補わせています。よって、司令官クラスのキャラには固有名詞が付く場合が在りますがご了承ください。
尚、オリキャラは出現しますが主人公と言う訳ではありませんし、強いかどうかと言う話はノーコメントで。

以下はスキップしてもかまいませんが、知っておくといいかもしれません。

Q.ミニチュアゲームって何よ?

A.ミニチュアゲームとはメイジナイトや遊戯王のカプセルモンスターズなどに代表されるような、ミニチュアを用いて卓上で遊ぶゲームであり、西洋では世界規模で販売されている「ウォーハンマー」シリーズが有名。
特にウォーハンマー系統のヘックス(枠)が無いゲームなどはサイコロとメジャーを使う事が多く、ミニチュア以外にも廃墟や森などの地形模型も制作されることが多い。

Q.どこでそのミニチュアゲームは遊べるの?
首都圏であればホビーセンター。
九州・広島・大阪・愛知・長野・北海道付近であればクラブチームとコンタクトを取った方が良い。
主に遊ばれているゲームはウォーハンマーシリーズである。

Q.武器設定については?

A.作中に語られる事もあると思います。また、ウォーハンマーシリーズ限定ですがゲームズワークショップ社のホームページで設定資料集とルールブック兼用のファイルをダウンロードできます。
また、ご要望が有りましたら武装・兵器設定集を執筆する事も考えています。

Q.なのはキャラの性能が原作と違うのは何故?

オリキャラ介入云々によるパラメーター補正と、作者の解釈による補正が成されています。




[17211] 第一話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/03/14 05:00
[Lock On Alert!]

人通りが少ない深夜の森林公園の中、緑色の光を纏わせて異国の装束を着た少年は何者かから逃げている。
既に冷えきった夜だからか少年の吐く息は白くかつ荒く、顔が赤く染まりつつある。
同年代の少年達であれば既に息切れを起こしているのだろうが、彼はそれでも逃げ続けていた。
彼の名はユーノ、ユーノ・スクライア。
軍靴の足音や怒号が響き渡り、この公園内を包囲しているようだった。
それも、尋常な数ではない。

彼を追う集団もまた緑色の防弾ジャケットとヘルメットによって身を守り、乳白色に似た色のインナーを着込んでいる。
彼らの保持する小銃はこの地球で見られる形状のものではなく、その銃と兜に彫られた双頭鷲の紋章も、どこの軍で採用されているものではない。
一見傍から見れば何かの映画の撮影のようにも見えるだろうが、背景が日本の山中であることを考えれば違和感しか残らない。
それに、ユーノも彼を追う集団もとてもモンゴロイドのそれとはかけ離れた顔つきや皮膚の色を見せていた。

撮影スタッフも監督も居ない撮影などあり得ない上、彼らの表情は緊迫しすぎたものであることは明白だ。
ともなれば彼らは何らかの作戦行動を行っているのは確かだ。
通常であれば異国の少年一人を追い詰める為に軍隊が出動する事などあり得ない。
しかし彼らの作戦行動は真実であり、追い詰めた少年に対して攻撃が仕掛けられた。

「許されざる者が、何故あなた達がこんなところに………!」
「第一、第二分隊は目標の左右に展開。ラスガンを速射しつつそのまま釘付けにしろ。」

ユーノの問いには一言も耳を貸さず、隊長と思われる人物が部下に命令を下した。
小隊長と思われる人物の命令に従い、20人あまりの兵士達は茂みに身を隠しつつ少年に対してラスガンと呼ばれた小銃による攻撃を敢行。
対する少年はそれを緑色に輝く障壁を左右に展開して防護し始めた。
少年に対して射撃し、確かに狙いが反れて着弾した茂みが音を立てているのだが銃声が全く響かない。
それどころか障壁に対して兆弾すらする気配も無い。ただ、赤い光点が障壁に浮かび、何かを削る音が響くのみだった。

「うるさいなぁ………!」

しかしユーノはそれを脂汗を浮かべ防いでいる。
ともなればそれに何らかの効果があるのだろうが、それを防いでいるユーノの体力はもう限界のように見える。
その様子を見るとすぐに小隊長は更なる無慈悲な命令を下した。

「全特殊武装砲門開け、これで留めだ。」

年端も行かない少年を相手に軍人達はグレネードランチャーや3脚に立てられた機関砲の狙いを定め、各々の判断で発砲し始める。
その機関砲は今その場にあるどの銃よりも巨大で、獰猛な音を立ててユーノに襲い掛からんとしていた。
これには今まで小銃の攻撃を防ぎ続けていたユーノもたまらず更なる障壁を構築する。
先ほどまでの障壁が円盤状であったなら、次の障壁は球に光の帯が巻かれた幻想的なものだった。
名をスフィア・プロテクション。全方向に対応できるがゆえに魔力消費が高いが、ユーノはその密度を高めて小柄な障壁を作ることでカバーしようとした。

確かに魔法のような代物であれば完璧に防護できる形状なのだろうが、相手は機関砲やグレネードランチャーなどの近代兵器だ。
それも一発防げたとしてもその機関砲は複数もの弾薬を一気に消費し、少年に嵐のような弾幕を浴びせる。
そのような幻想の産物は瞬く間に暴力的な嵐によって掻き消され、元々少年の居た場所は跡形も無く吹き飛んでしまった。

「目標ロスト、おそらくオートカノンの爆発に巻き込まれたのでしょう。」
「………HQ。目標をロストした、状況終了につき帰還する。」

少年が居た痕跡すら消え去り、爆発跡の中に居るのは一匹のフェレットに似た生物だけ。
それを確認できなかったのか、目標を消滅させた兵士達は彼らの司令部へ連絡した後に撤収し始める。
とは言え使用した重火器を分解して輸送するだけのようにも見られる光景だ。
彼らにとってこの戦いは損害が無い状態で終わったのだろう。
しかしその表情は硬く、このような戦いが続く事を物語っているようだった。

そうしてひどく衰弱したフェレットがそこに残され、幾許かの力を振り絞って爆発地から抜け出した。
そこでフェレットの意識は途絶えかけ、SOSシグナルに似た念話を送りながら地面に伏した。
この物語は、この戦闘から始まることとなる。

「僕の声を聞いて、力を貸して、力を………。」



[17211] 第二話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/03/11 14:25
少女の夢は、誰かの書いた小説のような光景から始まっていた。
二脚で直立して歩行する機械、見たこともない形状の飛行機なのかヘリなのか分からないものから飛び出る無数の兵士達。
見たことのない兵士達が降り立つは彼女が見知った海鳴市。
その海鳴市を舞台に緑色の光を放つ異人の少年と不思議な軍隊の激しい戦闘が勃発。
特に森林公園へ通じる道路での戦闘は凄まじく、二脚歩行機械の追撃を飛行して避け、空から光る鎖をその機械へ巻きつけて破壊する。
それはファンタジーとSFの真っ向からのぶつかり合いにも見え、映画かなにかを見すぎたのではないかと思い始めていた。

そう思い始めた、その時だ。

「許されざる者が、何故あなた達がこんなところに………!」

ヒロイックに円形の障壁と緑色に輝く鎖だけで戦っていた少年が、屈強な男達に足止めされている。
夢の中ながら少女はその後のショッキングな光景を避けようと、目を瞑れないかと試みているが、そう効果は無い。
このままでは少年が死んでしまう。
そう精神的に未熟ななのはでさえ分かりえるほどの状態だった。
せめて、そうでないように少女は祈る。
しかしそれは適わず、少年は数多の銃と大砲によって少女の目の前から跡形も無く消滅してしまった。
幼年期に後ろめたい過去がある少女はその少年がどうなったか、ありありと想像する事は困難ではない。
おそらく、少年は―――。

「きゃああああああ?!」

少女はぱっと目を見開き、厭な汗にまみれながら身を起こした。
動悸がおかしく、息も荒い少女は自分がさっきまで夢の中に居た事を改めて認識した。
あれは夢だ、少年は死んでもいないし空を飛ぶはずもない。そう自分に言い聞かせている。

「へ、変な夢を見たぁ。」

汗まみれの少女の目覚めは最悪に等しく、一つ救いが在るとするならば起きた時間はケータイにセットしておいた時間と同じぐらいだった事。
それだけの対価に変な悪夢を見させられるなどと言う話はたまったものではなかった。
幸いにして少女は小学三年生という低年齢の割には耐えることは得意だったので、その不快感を飲み込んで背伸びをする。
そうすればまだ悪夢の後の不快感が和らぐような気がしたのだろう。
大好きな両親や兄弟にひどく疲れた顔を見せられないと考えている少女は制服へ着替えて洗面台へ向かい、身嗜みを整える事にした。

彼女、高町なのはは私立聖祥大学付属小学校に通う、ごく普通の小学3年生。
私立大学の付属小学校に通う時点でごく普通と言えば少し怪しい部分もあるが、ごく普通のお嬢様と言った所だろう。
そんな彼女は家族の中で少し孤独を感じる所があった。
何故なら、少女は自分と言う存在をどこまで本当の自分なのかすら分からなくなってきたのだ。
良い子にしていればみんなに迷惑をかけない。だけど自分を抑えきれる事はできるのか。
そんな彼女を理解してくれる人など存在するのだろうかと、まだ自覚は無いのだが、うすうす感じている節がある。

彼女は身嗜みを終えると、いつものように「いい子」を演じ、いつもの生活へ身を投じていくのだった。



なのはがいつもの生活を送っている時、ある少年は屈強な古強者と推測できる中年とごく一般的な朝食を摂っていた。
食卓に並ぶはベーコンエッグに市販のトースト。朝の飲み物としてコーヒーがカップに並々と注がれている。
たんぱく質と炭水化物が殆どを占める朝食を、時間を気にせず少年と中年は摂っていた。
少年は外見から推測すると中学生か小学生高学年ほどの年齢だろうか。
少年の髪は短く、蒼眼のその鋭いまなざしはその同年齢では見られないような輝きを帯びている。
彼の名はルーカス。

通常、少年ほどの外見であればいそいそと朝食を腹に詰め、学校へ真っ先に行くはず。
だが少年はそのようなそぶりも見せず、朝食を摂りながら目の前の中年の男と物騒な会話を始めていた。
それほど学校へ行く事を考えないのか、それとも行かない理由があるのか、それは未だ推測できない。

「ハンスさん、あんたが休んでる間に奴らの介入が行われてた。
今回出現したのは9歳ぐらいの子供が鎖を操っていたと部下からの報告です。
このまま奴らの腕がこの海鳴市に伸びているとしたら、どうすればいい?」

ハンスと呼ばれた男は白髪だらけでありながら、40代前半の風貌に2mへと届かんとばかりの屈強な肉体を持っていた。
彼は白いシャツと黒いスラックスに身を包み、まるで企業の重役や、一軍の官僚と言うべき貫禄を持っている。
この男もまた日本人ではないことは確かであり、彼らが親子ではないと言う事実は名前の言語からそう確信できる。
しかし彼らには共通項が一つあった。
彼らが纏う服の胸元には、どちらにも双頭鷲の小さなバッチが取り付けられ同じ組織の所属であることを強烈にアピールしている。

「簡単な事だ。奴らを利用するか、我々が奴らを倒すまでの事。主ルーカスよ、お前の決断に私は従おう。」

主と呼ばれた少年は頷き、コーヒーを啜る。
彼に流れる黒色の液体は彼の喉を軽く焼き、濃厚な苦味が彼の脳みそを完全に覚醒させた。
そして、そのギラつきを抑えられない眼差しは更に鋭くなり、少年が本調子であることを簡単に表していた。

「聞くまでも無いでしょう。我々は我々の領域を侵した者を排除する、それが何であっても、我々の軍勢によって。」
「さて、主の今日のご予定は。」
「俺は朝食後にコデックスを用いて鍛錬を行いますよ、無論ハンスさんにも協力していただきます。」
「了解致す。」

ハンスの返事を聞くや否や、ルーカスは自分の朝食を摂り終えて食器を洗い始める。
ルーカスは自分の配下であるはずのハンスに敬意を持って接していた。
とは言え変な敬語使いであることは否定できない。
何故ならルーカスは若く、対人関係と言う物がまだ未熟であるからだ。

ルーカスもハンスもこの世界の住人ではない、だからこそ彼らは通勤や通学と言った常識に追われる事もなかった。
無論ルーカスは教育課程を修了しており収入源も確保しているからこそ、このように朝から時間を忘れて鍛錬へいそしむ事もできるのだが。

食器を洗い終えると、ルーカスは緑色のハードカバーに包まれた分厚い書物を取り出した。これがコデックスと呼ばれるものらしい。
ルーカスはコデックスと呼ばれた分厚い書物を開き、魔力的な集中を以て"本の内部"へ没頭する。

「我は力を求む者、卿は力を統べし者。契約に基き我の元にその力の一片を教えたまえ。」
[Build Up Our Army.]

そうルーカスは自らが設定したパスワードを詠唱し、コデックスがそれに応える。コデックスとは一種のストレージデバイスと呼べるものだろう。
その書物の表紙には双頭の鷲のマークと、「帝国の守護者達」と言うタイトルが光り、魔力が通っている事が容易に確認できた。



[17211] 第三話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/03/11 22:10
茜色の空に浮かぶ雲やかもめを見ながら、なのはは小学三年生でありながら深いテーマに考え深けていた。
自分ができる事、自分にしかやれない事。
そのようなテーマを深く考え込んでしまうのは彼女のクセとも言えるものだ。
とは言え、友人と下校している時もそのように考えてしまうのはある意味悪癖とは言えない事もない。

「今日のすずか、かっこよかったよね。」

数時間前の体育の授業についてなのはの友人、月村すずかとアリサ・バニングスはとりとめのない雑談をしている。
1年生からの付き合いで、少女達は習い事などがあまり無い場合はこうやって森林公園を通って下校している。
しかし今日の森林公園はいつもとかなり違った風景を彼女達に見せ付けていた。

「え、何よこれ!」

アリサがそう叫ぶのも無理はない。
かつて綺麗な川の辺にあった柵はボロボロに崩れ、木で出来ていた支柱が灰になったものすら有る。
生い茂っている木の一部は穴だらけになり、地面には何かが爆発したかのような焦げ跡やクレーターのようなものも見られた。
本来戦争とは無縁であるはずのこの海鳴市に何かおかしげな事件が起こっているのかもしれないが、なのはだけにはその戦闘跡が何なのかはっきりと分かる。
それは夢に出てきた風景と同じ光景で、恐ろしい音を立てて砲が砲弾を吐き出し、容赦なく森ごと

「これは………ひどい。」

今朝見た夢は本当で、少年はここで命を落とした。
だとすれば様々な疑問が起こる。
夢の中に出現した軍隊は大々的に重火器や戦闘車両を使っていたはずなのに、その騒音はこの森林公園から近い自宅にも届くのではないか。
それだけの派手な行動に出ているのなら、警察も出動しているはずだしなのはの父が見ていた新聞にもそのようなそぶりはない。
つまり、夢が本当ならそれらの騒動は無音かつ短時間で行われたものである事は確かなのかもしれない。

が、それらは可能なのだろうか。
テレビで見た番組でも重機関銃対日本刀と言う企画で機関銃が轟音を起こしながら弾丸を発射する所はまじまじと見ていた。
それから考えるとあの三脚に乗せられた巨大な砲の音を消すことなど不可能だった。
ふと通学路を見ると、警察官のような男性が黄色いテープを張っていて、とてもそこを突っ切る事は不可能に見える。

「いやあ、ごめんね。ここから先は昼から立ち入り禁止になってるんだ。」
「なにかあったんですか?」
「それが、分からないんだ。そういう僕も殆どお手上げ状態。これだけひどい状態になってるのに朝まで通報も何も無かったのも不自然だろ?」

不安げにすずかが警察官に聞くと、警察官も困った顔をしていた。
曰くこの惨状は誰も気づかれずに行われた。
死傷者やケガ人は見られていない。
爆発物が一斉に爆発したかのような犯行なため、過激派集団の仕業ではないかと考えられている。
などの情報がなのは達に伝えられたがなのはたちは不安そうに顔を見合わせ、他の道を探すことにした。

「ほら、こっちこっち。ここを通ると、普段は近道なんだ。」

アリサが指を指した道は典型的な横道で、木が生い茂って道も整備されていない。
少女3人組が通るには用心の悪い道だが、人目に付き難いが故に子供達の遊び場になりやすい側面もある。
とは言え今はなのは達三人しか居らず、爆発物騒ぎのおかげか不気味なほどに静かだった。

「ここ、夕べ夢で見たような………。」

うっかりなのははつぶやいてしまい、何か言ってるのかと感じたアリサたちが振り向く。

「どうしたのよ?」
「ううん、なんでもない。」

本当は何かあるのだが、反射的に返事を返す。
夢でここを見た。なんて言ってしまえば怪しげな顔をされるだろう。
しかし、少女にとってこの場は夢のラストシーンで使われた場所であることは爆発跡から容易に感じることができた。
となれば少年の痕跡がどこかにあるはずなのだが。

「じゃあ、行くわよ。」

アリサが通行を促し、すずか達がそれに続く。
一部痛々しい傷跡が見える森を進んでいると、突然森のどこかからある声が聞こえた。
助けて、と少年の声が響いてくる。
おそらく同年代ぐらいの声で、何か聞き覚えが有る声だ。
その声ははっきりしていて、聞き間違いではないはずだ。
声にはっとしてなのはは立ち止まり、あたりを見回す。
さすがにその様子が気になったのかすずかやアリサは後ろを振り向いた。

「なのは?」
「今、何か聞こえなかった?」
「何か?」

アリサ達は不思議そうな顔をしている。
そのような声は聞こえもしなかったし、なのはの表情が変わったからだ。
そのなのは達の様子など知らず、声はもう一度響く
助けて、と。

「たぶん、こっち!」

声の響いた方向へなのはは駆け出した。
運動神経が切れているのではないかとされていた彼女には珍しくその足取りは確かなもので、驚いたアリサやすずかが追いつけないほどのスピードで走る。
ある程度走っていくと爆発跡の近くの木に、衰弱しきったフェレットのような動物が寝転がっているのを見つけ、足を止める。
そのフェレットは誰かに飼われているのか首に赤い宝石のようなものを下げていた。



[17211] 第四話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/03/12 04:07
怪しげなフェレットを見つけ、動物病院へ頼んで手当てをしてもったなのはは塾へ急いだ。
友人と授業中に相談した結果なのはは、7時の夕食時に家族へフェレットを預かれないか訊く事にする。
すると、ものの1分も経たずにありきたりな台詞とともに承諾された。

確かに両親が営業している翠屋は飲食店だが、高町家ではなく商店街の中で営業されている店だからこそあまり関係ない。
また、兄や姉は動物嫌いと言う訳でもなく、特に依存は無いとの事だった。

夕食後、すずかやアリサに高町家で引き取れる事をメールで報告すると、
なのははケータイを充電器に挿して風呂の時間まで何をしようかと考えていた。
すると、フェレットを拾った時と同じような少年の声が響き、なのはは声に集中する。

『僕の声が聞こえますか。僕の声が聞こえるあなた、どうか力を貸してください。』

その声を聞いたなのはは忘れ物をしたと家族に告げ、夜の街を走った。
向かう先は声がする方角でもあり、フェレットを預けた場所。
そう、動物病院だ。
なのはは少し家族に申し訳ないと思いながら助けを呼ぶ声に応え、走る。
それがなのはの人生を変える一大事件となるとは、なのはは思いもしなかった………。



小動物用のケージの中で目覚めたユーノは自分の体の調子を調査し、念話通信によって限りなく少ない確率ではあるが協力者が駆けつける事を願った。
と言え現実は苦しく、自らが探していたモノが化け物となって動き回っている様をケージの格子越しに目の当たりにする事となった。

ジュエルシード。それは次元干渉型エネルギー結晶体で、思念や魔力などに反応して簡単に暴走する特性を持っている。
この地球と呼ばれる世界のこの地域に拡散してしまったそれを回収するべくこの世界へやって来た………はずだった。
ジュエルシードの一つに遭遇し、目の前で暴走したそれを追跡していた。
森林公園へ向かうそれを追跡中に謎の武装組織に遭遇。
武装組織は結界の中を自由に動き回り、こちらを攻撃してきた。
本来このような結界の中へ干渉する場合、魔法を使用するそぶりも見せずに彼らはこちらを攻撃してくる。
結果、暴走したジュエルシードの存在を見失い、彼らに追撃される羽目となった。
彼らはこの世界の文明クラスでは見られない装備を持ち、時空管理局で禁じられている質量兵器をさも当然のように使用する。
一体何者なのか、ユーノには見当が付かなかった。
ただ、彼らはユーノ・スクワイアにとって協力を要請する事は難しい脅威でしかない事は確かだった。

それの追っていた物とは別のジュエルシードの暴走体が目の前に浮いており、手当てを受けたとは言え回復しきっていない彼を始末するべくこちらを威嚇している。
姿は黒いもやのような姿で、それに赤く光る眼が特徴的だ。窓ガラスをぶち破って進入して来た所を見ると、物理的な破壊はお手の物のようだった。
モンスターは体の一部を振りかぶり、ケージごとユーノを潰しにかかった。

瞬間ユーノは小さいフェレットの体を包み込むように球体のような魔道障壁を生み出す。
スフィア・プロテクション。これは砲弾の攻撃にも耐え切れる防御魔法の一つであり、ユーノの得意魔法の一つだ。
金属製のケージはひしゃげ、ユーノが通ることができる穴が生じた。

ユーノは今がチャンスと言わんばかりに穴を潜り抜け、ケージを飛び越えて窓の外へと飛び出る。
挙動を見て分析した結果、単純なパワーだけはあるようだったので有利な広い場所に移動する必要があった。
力勝負では負けてしまうし、何より結界魔道士は結界魔道士なりの戦い方がある。
今協力者の支援が期待できないのなら、今ここで事態を収縮させる他無い。

そう意気込んで窓の外へ飛び出し、そのままいつもより遅い走行スピードで木へ駆出す。
狙いは足止めと撹乱。木の元まで走ると、その勢いを使って木へと跳ねた。
それを馬鹿正直に追って来たモンスター。予想通りに木にぶつかると同時にユーノは逆方向へと跳ねる。
しかし予想外にもそこにはビックリした顔の同年齢だと考えられる少女が立っていた。
着地した後にユーノは少女へ狙いを定め、大きく跳ねる。
するとユーノは少女に受け止められ、少女は尻餅をついた。

「一体何?」
「来て………くれたの?」
「しゃべった?!」

なのはには理解しがたい光景が広がっている。
黒いもやのような生物が木や塀を破壊して蠢き、自分の腕の中に居るのは人の言葉を話すフェレット。
夢であればよかったのだろうが、自らへ倒れこんだ木を押しのけるとモンスターはなのはへ向かって吼えた。
恐怖にすくんだなのははユーノを腕に抱えたまま一目散に逃げ出した。

逃走するなのはへユーノは自分の境遇やなのはに素質があることを簡単に話す。
ある物を追ってこの世界へやって来た事、なのはには力の素質があってその力を貸して欲しい事。
しかしこの時ユーノは謎の武装組織の事は自分も事情がわからないので伏せることにした。
不正確な情報を渡して断られても問題はあったし、今はそこにある脅威に対応する必要があった。

そこへ先ほどのモンスターが空から強襲して来る。
まるで道を遮る様に着地したそれを回避するべく、なのはは電柱の影へ隠れた。

「どうすればいいの?」
「これを!」

少女のどうしようもない叫びに応えるべく、ユーノは首に下げた赤い宝石をなのはに渡す。
ユーノは手短にそれの使い方を伝える。
心を澄まし、パスワードを詠唱する。それだけだ。
その間ユーノは周囲に障壁を展開してモンスターを威嚇する。
そしてユーノの詠唱を復唱する形でなのははパスワードを詠唱し始めた。

「この手に魔法を。レイジングハートセットアップ!」
[Stand by ready, setup. Wellcome my master. Auto building start.]

魔力の本流が立ち上り、障壁を警戒して退いていたモンスターが何らかの行動に対して警戒する。
それと同時にその内部から白銀の杖を持って武装し、バリアジャケットを纏った一人の魔道士が姿を現す。
杖の名は不屈の心。銀の柄に金の頭、そして赤に輝く宝玉。
それはインテリジェントデバイスと呼ばれた高級な兵器の戦闘形態とも言えた。


「戦闘が始まったようですな。」

魔力の本流が立ち上る様をルーカスとハンスは双眼鏡で見ていた。
先日の少年の念話の声が響き大まかな方向は判明したものの、不可解な事がいくつか発生していたため様子を見る事にしたのだ。
管理局の手先と思われる少年が、ロストロギアのような物体を使用してモンスターを生成していた事。
そのモンスターについては犯人である少年を追撃していた部隊が始末し、材料だと思われる宝石状の物体を回収したが、これの正体が不明かつ危険であった。
本来は少年を適度に疲弊させ捕獲する作戦だったのだが、オートカノンの爆発に巻き込まれて逃げられてしまった事は大きな痛手だった。

もう一つはこの海鳴市に対して強力な魔力がつい最近放出されていたと言う事。
カメラ付き観測ビーコンに保存された映像およびデータを解析すると、その魔力特性は雷だったと言う。
この地球と言う世界は魔法とは無縁な世界である。
つまり、この一連の騒動は青く輝く宝石状の物体もしくはとり逃した少年が何か重大な鍵を握っているのではないかとハンス達は考えている。
その為この少年を捕獲もしくは交渉して事態の収拾を図るのが現在の目的となっていた。

「昨日の目標は腕の立つ魔道士だったはずだが。」
「確かにあの少女は素人としかいいようがありませんね。」

防御は防御範囲の外側へと魔力が限りなく漏れ出し、移動速度を強化する訳でも飛行する訳でもなく少女は普通の速度で走っている。
防御に魔力を大量に放出すると言う行為は通常の魔道士では有り得ない光景だ。
何故なら一般的な魔道士にとって魔力は弾丸であり、動力源でもある。
その魔力を無駄に使うなど、資源の無駄遣いに他ならない上、それは死に至るリスクが急上昇してしうまうと言っても過言ではない。
特に魔法には銃のようにリロードと言う概念は無いため、魔力切れは機動力、防御力、火力の低下を招く事態なのだから。
陸戦でも空戦でも魔道士としては初歩的な移動法すら行っていない事でもあり、一歩間違えれば死に至るような戦闘の中では有り得ない光景だった。

「次はなんともはや冷や汗のするような戦い方をするものだ」

ハンスはそう言うと、防御をデバイスに任せて展開しつつ同時にデバイスのバレルを展開し始める少女の姿をまじまじと見ていた。
この時点でハンス達は確信する。少女はただの素人ではない。力技によって道理を無理で貫く素人なのだ。
少女はデバイスのバレルを展開させ、彼女自身の主砲を放つ。
桃色の閃光が一撃でモンスターの防御を貫き、四散どころか消滅させるに十分すぎる威力を発揮した。
それが、人間に突き刺されば想像を絶するダメージを与える事だろう。

「ヴァンクイッシャーキャノン相当の砲撃に堅牢な装甲。中身は素人だとしても戦うには骨が折れる相手ですね。」
「では主よ、次の行動は決定したのかね。」

砲撃を見届けると、装甲車にも似た車両の中へハンスたちは乗り込み、走り出しながら今後の事を話し合っていた。
戦闘が終結し、なのはとユーノ、ハンスとルーカス二組は本拠である住居まで帰還中。
尤もなのはは徒歩で、ハンスは車で移動しているのだが。
ルーカス達から見れば、予想外の戦闘能力を持つ相手を目の当たりにした事もあり様々な対策を練る事にした。
確かに先程の戦闘終結直後を狙って襲撃すればある一定の成果は手に入るだろうが、魔力と言うリソースは敵の方が上であることは確かではあるし、
まだ素人は手の内を見せていない。ともなれば予想外の反撃を食らう可能性のほうが高いと言えた。

「緑色の少年と先程の少女を少し泳がせ、然るべき時に行動を起こす、それでよろしいでしょう。」

昨日は緊急事態だったとは言え、ルーカスはむやみに交戦する事をよしとはしていなかった。
しかしルーカスはこの状態を良しとはしていない。
何故ならこのままでは時空管理局による本格的な行動が始まることは確かではあるし、結果この世界が管理下に置かれる事すらも十分有り得る。
それはルーカスにとって避けたい事態だった。

「では彼女らとはいずれ一戦交える事にもなるでしょう。」

とハンスは答え、ルーカスは彼女らを効果的に捕捉する算段を考え始めた。



[17211] 第五話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/03/13 03:57
朝が訪れ、なのはがいつもの時間に眼を覚ますといつもの風景と少しだけ変わった部屋の様子が眼に映った。
お勉強をするために使う机の上にはバスケットが置かれ、バスケットの中には丸まって寝ているユーノがそこに居た。
ユーノと言えば昨日の騒動はユーノを疲れさせたようだったので、なのはは申し訳なく思っている。
母親にはかわいがられ、父親には芸の一つはできるかななどとお手をさせられていた上、姉もそれに混ざっていたのだから。

「おはよう、ユーノ君。」

そう挨拶すると、ユーノは身を起こし、返事を返す。
一晩ぐっすり寝ていた為か、その挙動は元気そうに見える。
レイジングハートはユーノに返したままだ。
元々彼の持ち物ではあるし、当然の行動である。

「あ、おはよう。」

ユーノが起きた事を確認すると、なのははいつものようにパジャマを脱ぎ始めた。
彼女はまだ9歳の子供であるからか、いやユーノをまだ正体が少年だと知らないからであろう。
彼女は何の抵抗もなく着替えを始めている。
しかし、同じ9歳でありながら精神年齢がそれとは大きく違うユーノにとってすれば、同年齢な少女の着替えとは見てはならないものの一つでもあった。
正確には彼の理性が見てはならないと叫んでいる、そのような状態とも言える。

「な、なのは?」
「とりあえず、夕べはお疲れ様。ん、どうしたの?」

なのはは上半身を晒した状態でユーノが居る机の上へ振り向き、不思議そうに覗き込む。
冷静に見れば未発達な体のラインはある程度少年とも変わりはしないだろうが、ユーノにとってはそれを見る事は背徳的なものであると考える。
結果、ユーノはバスケットに突っ伏して顔を赤くするばかりだった。

「な、なんでもないよ!」

ユーノはなのはの着替えの最中、身を紛らわす為になのはに教える事をリストアップしていた。
有耶無耶になって伝えられなかったレイジングハートの使用法、ジュエルシードの危険性、念話通信の方法。
そしてユーノ自身が人間の男の子である事、これは既に夢の中で見せたはずなので改めて説明する必要は無いはずなのだがこの様子では怪しい。
と生真面目に考えている最中もユーノは煩悩と理性の間で激しい戦いを行っていた。

鞄の留め金を弄るような音が聞こえた時、ユーノは着替え終わったと確信し、顔を上げた。
ユーノの理性は既にボロボロであり、表には見せないがそれだけで多大な体力を使ったと言っても過言ではなかった。

「名前で呼ぶの、慣れてくれた?」
「う、うん。なのは。」

その苦労も知らずなのははユーノの事を気にしていない様子で振舞っている。
今回は理性が勝利する結果に終わったが、いつか近い内に理性が煩悩に敗北するのではないかと大人びた少年は危惧する他無かった。
とは言えなのはにとっては意識すらしていない問題ではある事は確かだろう。



午前10時頃、なのはが学校へ行っている間ユーノは暇をもてあましていた。
暇ならば寝るという選択肢もあるだろうが、なのはと念話で話すという約束もしている。
だからこそユーノは今頃なのはから与えられたクッキーを食べている。
なのはの通う学校のシステムなど知らず、授業中かどうかすら分からない状態だったので念話を躊躇っていたが、
このままでは本当に寝てしまうのでなのはに念話を送る事にした。

『なのは、今大丈夫かい?』

授業中で忙しかったら申し訳ないと思いつつユーノは連絡を送る。
かつてスクワイア一族で子供達が物を教わる時は念話は禁止されていたし、授業中に念話で会話などと言う行為は学者を夢見るユーノにとっては考える事も無かった行為だ。
そのような行為をするからなのか、それとも別の理由なのかユーノの動悸は普段より激しかった。

『うん、いいよ。丁度ユーノ君に聞きたい事があったんだ。』
『………授業中じゃないよね?』

ユーノにとってはなのはの授業を妨害するかしないかはとても大事な事だ。
協力させておいてなのはに多大な負担をさせるのは彼としても不本意ではあったし、なのはにとって不快な思いをさせるとも考えたからだ。
しかしユーノにとってなのはの答えは予想外の物だった。

『塾でやった所だし、会話しても大丈夫だよね………ダメ?』
『う、いいよ。』

ユーノは困惑しつつなのはとこれまでの事とこれからの事を話していた。
ジュエルシードがここへ来た理由や見つけられたジュエルシードの数。
昨日なのはに怖い思いをさせて、その後戦わせた事の謝罪。
そして自分は4日ほど滞在し、体調を完璧に回復させたら一人でジュエルシードを探しに行く事。
武装組織の存在を知ったのなら一人で立ち回れるはずだ。
相手は確かに集団ではあるが、ユーノにはフェレットになってやり過ごす真似もできる。
しかしなのははそれを望んでいなかった。

『私、学校と塾の時間は無理だけど、それ以外の時間なら手伝えるよ。』
『だけど、昨日みたいに危ない事になるんだよ?』

そう、昨日のようなモンスターだからこそ生きて帰る事ができたがいつもそれが相手とは限らない。
それこそユーノが戦い傷ついた組織。ミッドチルダの法を知りながら、質量兵器を使う許されざる者が相手ならば少女が無事に帰れる確証は少ない。
ユーノは遺跡調査などで実戦経験はある程度持っていたが、なのはにはそれが無い上に訓練などもされていないただの素人だ。
魔力量などの単純な性能ではなのはの方が上手であることはユーノにも分かる。
だが性能だけが人間と人間の戦闘を決する要素ではない。
それを使う人間の戦術、思想、精神力。
それらがなのはには足りない物ではあるが、それを教え込んでしまう事はなのはが元の道へは戻ってこれない事は火を見るより明らかだった。

『大丈夫。私、耐える事だけは得意だから。それに、昨日はユーノ君は助かったけどここままじゃユーノ君をほっとけないよ。』
『そ、それは………。』

確かにまだ回収したジュエルシードはなのはに手伝って貰ったものを合わせても2個。
対して残るジュエルシードは19個。
とてもではないがユーノ一人ではすべて回収しつつ違法武装集団から逃げるなどと言う行為は不可能だ。
しかしユーノは時空管理局による事態の収拾を望んではいなかった。
時空管理局が介入してくれば、この都市は下手を打たずとも壊滅状態になってしまうかもしれない。
ともなれば今実行できるユーノが取る事ができる選択肢は限られてくる。

『ね、ユーノ君。私にも協力させて。夕べみたいなことがご近所で度々有ったら迷惑をかける事になるし、ね?
一人ぼっちで助けてくれる人、居ないんでしょ?
一人ぼっちはさびしいもん。だったら、私にもお手伝いさせて。』

地球に来てからと言うもの、ユーノは自分を限界まで追い込んでいた。
ほぼ自分ひとりで飛び出したようなものだったので協力者など居らず、それでいてユーノには拠点と呼べるものもない。
しかも地球と言う環境はユーノにはやや合わないらしく、いつもより体力の低下が著しいものだったのだ。
現地の住民に気づかれないように探索しているからか2個目のジュエルシードを見つけた時には体力が限界に近づいている有様だった。

なのはの優しい言葉にユーノは目の前がぼやけかけた。
少女の好意は無下にはできない。しかし生涯付きまとう傷が生まれるかもしれない。
可憐なままで幼年期を過ごせたであろう少女に対してそのようなものを負わせるのはどうなのだろうか。
しかしこのままではなのはの町はとんでもない事態に襲われる事は確かだ。
ユーノは苦悩し尽くした結果、決断を告げた。

『うん。ありがとう。』

ユーノはあくまで自分は前に出て傷も何もかも一切合切請け負う覚悟でなのはの申し出を承諾し、同時に生き残る術を教える事を決めた。
生き残る術。それは魔法の知識と戦術であり、魔法のリリカルではなくロジカルな方面でもあった。




[17211] 第六話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/03/14 00:27

平日の真昼間。ルーカスはコデックスの機能を生かして訓練を繰り返していた。
訓練と言っても実際に体を動かすわけではなく仮想空間で戦闘を行う事であって、訓練中のダメージはフィードバックされないので聊かゲームに近いものである事は否めない。
しかし日々の鍛錬が物を言う魔道士の世界ではいくらゲーム感覚とは言え、訓練をしない選択肢などありえないのだ。
この機能はある程度高級なデバイスには搭載されている機能であり、レイジングハートもその例外ではなかった。

『高密度魔力体の発現を確認。』

その訓練も今回ばかりは中断せざるを得なかったようだ。
念話を通じてビーコンががなり立てると同時にルーカスは訓練システムをシャットダウンさせる。
共に訓練を共有していたハンスも中断し、二人は本拠地よりガレージへと急ぐ。
その間も解析データと座標もルーカスの脳内へと共有され始め、並列思考によって解析を急いだ。
解析に使われるデータは主に、最近遭遇した不審な魔道士のデータ、回収した結晶体のデータ、そして昨日の少女のデータだ。
簡単な照合作業の結果、魔力を帯びた結晶体が発していた魔力と周波数が同じであると推測される。

「早くも泳がせる間もなく事態が動きそうではありますね。」

ルーカスは腰の留め金に収まっているコデックスと拳銃のようなものを確認するとガレージに乱暴に止めてある車に乗り込む。
深緑色に塗装されたそれは装甲車のような重厚な雰囲気を醸し出し、軍事用途に使われる多目的車両を想像させる外見を有している。
日本製の大型車であるそれはランドクルーザーと呼ばれ、2m級の身長を持つハンスにとっては快適かつ頼れる相棒だ。
とは言え車両を手に入れるべく外国人登録原票などの重要書類の入手が困難を極めていた事は確かで、ランドクルーザー自身も正規ルートで手に入れた物であるために身勝手に乗り回すなどという行為は許されるものではなかった。

「先程の訓練の成果、見せる機会になってもおかしくはないだろう。なあ主?」

重厚な車両はエンジン音をがなりたて、魔力が発現したとされる地点へと急ぐ。
無論結晶体を入手する訳ではなく、それを目当てに接近して来る魔道士達の偵察若しくは確保が目的としている。
被害が都市に及ぶようであれば戦力を展開して状況の鎮圧に当たる事も考量してはいるのだが。

双頭鷲のエンブレムを持つ男達は、目標地点へ潜伏している。なのは達はそれを知らず彼らに身を晒す事になるだろう。




ジュエルシード暴走した時に発された波動を辿り、なのは達は山の上の神社へ急ぐ。
とは言えそれは子供の脚力。高町家付近から出発したのでものの10分ほど経過してしまっていた。
事態は迅速に収拾しなければならない。
その為ユーノはレイジングハートを石段の途中で起動させることをなのはに指示した。

「なのは、レイジングハートを!」
「うん!」

[Stand by ready, Setup.]

なのはの呪文を待たずにレイジングハートは起動し、なのはの手には白銀の杖が握られる。
本来ならばパスワードを詠唱しなければレイジングハートはデバイス状態にならない。
しかしレイジングハートは自らの意思で起動し、更に持ち主の魔力を使って次の呪文を唱えようとしている。

[Barrier jacket, Setup, And Flier fin.]

なのははバリアジャケットを展開しながら飛んだ。
いや、レイジングハートに飛ばされたと言っても過言ではない。
事実空戦制御はレイジングハートが行っているし、なのはは初めての飛行に困惑するばかり。
どちらがデバイスでどちらが操縦者なのか分からなくなってくる光景でもある。
ユーノはこれからの事について頭を痛くしながら小さい体でなのはに飛び乗る。
ユーノ自身は既に一回の戦闘に耐え得るほどの魔力は回復しているが、不確定要素が多すぎたので温存することにした。

「えええ。どうなってるのユーノ君?!」
[No problem. My master.]

心配ないと言いながら上昇を続けるレイジングハート。
しかしそれが理解できずにややパニック気味になった少女が叫ぶ。
ふと階段沿いに上昇しているなのはが見たものは、ダークファンタジーな物語に出現しがちなモンスターだった。
狼を大きくしたような体に、眼は4つ。グロテスクな羽根が特徴的で普通の子供が見てしまったらよほど感性が狂ってない限りはトラウマとして残り続けるような外見をしている。
なのはは少し恐怖に顔を引き攣ったが、自分をごまかして戦闘に挑む。
ユーノはレイジングハートの意図が分かったのか、なのはに穏やかな声で告げる。

「大丈夫。落ち着いてレイジングハートの話を聞いてあげて。」
[I will teach you how to fight. Master.]
(マスター、今から私が貴方に戦い方を教えます。)

レイジングハートはなのはに戦い方を教えると言いながら、空戦機動を行った。
こちらに気が付いたモンスターは吼えながらなのは達に飛び掛ろうとしている。
しかしなのはの靴に生えたピンク色の光の羽は動きを急激に変えてなのはに円弧状の機動を描かせた。
初めての空戦機動で興奮状態になりながら、なのははレイジングハートを強く握り締める。
傍から見ているとユーノは涼しげな様子で肩に乗っているが、どのような方法で肩に乗ったままでいられるか不可解だ。
なのはの目の前をモンスターが勢い良く通り過ぎると、レイジングハートはなのはに指示を出す。

[Now,You can shoot it. Say "Divine Shooter".]
(今、貴方は撃つ事ができます。ディバインシューターと言ってください。)
「ええっと、"ディバインシューター"!」
[Yes. Divine Shooter.]
「なのは、弾が目の前に見える敵に向かって飛ぶイメージをしてみて!」

なのはは言われた通りにディバインシューターと唱え、目の前を通り過ぎたモンスターに真っ直ぐ飛ぶイメージを思い浮かべた。
すると自分の後ろの空間から桃色の光る弾が発射され、イメージ道理に真っ直ぐ飛んだ。
しかし馬鹿正直に直線弾道で発射された魔力弾は回避されてしまう。

「いい、なのは? 次はそれを曲げて飛ばすイメージをするんだ。」

ユーノのアドバイス通りに曲がるイメージに変えると魔力弾の軌道も同じように曲がる。
その曲がった魔力弾が見えなかったのか、そのまま飛んでいたモンスターは被弾する。
魔力弾の効果があったのか、挙動が少しずつ遅くなり、速度も失速直前になっていた。

「"チェーンバインド"、なのは。今だ!」

そのチャンスを見逃さなかったユーノは自分の周囲から緑色に光る鎖を展開する。
3本の鎖はモンスターへ縦横無尽に動き回り、逃げ場を無くす。
2本の鎖はモンスターの左右へ、1本の鎖は下へと迫る。
3方向同時攻撃に対応できなかった哀れな獲物は鎖の拘束から逃れられず、その場に留まった。

[Cannon mode, setup. You can shoot "Divine buster".]
(キャノンモードに移行。ディバインシューター発射できます。)
「うん、ディバイン、バスター!」
[Good job. Divine buster!]

チェーンバインドの着弾を確認すると素早くレイジングハートはキャノンモードに移行し、なのはは昨日の記憶を頼りにレイジングハートの先を敵へ向ける。
そして少しの間が発生し、高町なのはが持ち得る最強の攻撃魔法が放たれた。
ディバインバスター、それは得られる膨大な出力の魔力をそのまま敵に浴びせる単純明快な砲撃魔法。
ある種の才能によってでしか再現不能なそれは魔道砲としてジュエルシードへ迫る。
桃色の閃光が着弾した瞬間、敵は何もすることなく消滅した。




「副目標、消滅を確認。主よ、これ以上見てもあまり意味はないだろう。」

森の中に隠れていたハンスとルーカスはなのは達の一部始終を見ていた。
昨日とは変わって白色の少女の機動は戦術的なものになり、戦闘能力も向上したかのように見えた。
しかしその軌道は無機的なものであり、傍目から見ても彼女自身がコントロールしている訳ではない。
緑色の鎖を使う所を見ると、緑色の少年の仲間に違いない。

「ええ、例の相手の一味でもありますからね、今度こそは確保してみますよ。」

とルーカスは自身に飛行魔法を行使し、空へと上がった。ハンスもそれに続く。
ハンスの手には紫電を纏わせている一振りの剣と、バナナマガジンをグリップとトリガーの前に配置した、異形の拳銃の姿がある。
落下しているジュエルシードを封印していたなのは達に対して大男と少年が迫ろうとしていた。



[17211] 第七話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/03/15 05:55
ジュエルシードを封印したなのは達に緑色の影が飛来してきた。
それは男と呼ぶにはまだ成熟されてはいなかったが、ユーノやなのは達よりは聊か大人びた風貌を持っていた。
その少年はオリーブドグラブを基調にした軍服のようなコートに身を包み、その手には深緑色の古びた本と、拳銃のようなものを手にしている。
彼の表情はなのは達からは遠く読み取れなかったが、それでもその身から放出される殺気とも取れる魔力の奔流は隠せなかったようだ。

[Warning. Enemy in sight.]
(警告。敵を確認しました。)

レイジングハートは敵だと警告し、なのは達はその緑色の影を警戒し始める。
彼は片手で深緑の魔道書を開き、拳銃でなのは達をその狙いに治める。
そして彼は厳かにキーワードを紡ぎ始めた。

「我は力を求む者、卿は力を統べし者。契約に基き我の元にその力の一片を預け給え。」
[Set Up Our Army. Two Vendetta and Grenadiers, Sentinel Squadron. Ready.]

瞬間、空間が歪み航空機が目の前に飛び出してきた。
それはこの管理外世界「地球」では見受けられない形状の機種。
攻撃ヘリのような複座コクピットの左右に備えるは2つの砲。
両翼に吊り下げられているのもまた同じ砲。
左右中央合わせて6本の砲がなのは達を睨む。
そう、この機体は管理局ですら実用化していない類の異形の機体だった。
名はヴァルキリー。その武装パターンはヴェンデッタと呼ばれる。
復讐者としての姿を与えられた複合合金の戦乙女がなのはたちを睨み付けていた。

「なのは、来るよ!」
「う、うん!」
[Flash Move!]

突然襲来して来た異形の機体になのは達は警戒し、レイジングハートは呪文を用いて空高く位置を確保しようとする。
足に生えていた羽根に無理やり魔力を送り込み、推進力を上げる。無論その魔力の供給源はなのはだ。
すると、彼女らが元居た場所をいくつもの細い光線が貫き、不吉な破裂音が響く。
その音は爆発によるものではなく、機体のサイドハッチに搭載されている機関銃のようなものによって発生している。
銃は機関銃と呼ぶには聊か大きく、砲と呼ぶにふさわしいものだった。
威力はさほど高くないにせよ、その斉射はなのはを恐怖させるのに十分なものだった。

「今のは………なに?!」
[Threat is not so much. Just a magic bullet.]
(さほど脅威ではありません。それは魔力弾です。)

人間とは、非現実的なものではなく、現実的な脅威に恐怖するものだ。
悪魔よりも町のマフィア、隕石よりも迫り来る居眠りトラック。
凶悪犯より、いじめっ子。
例えジュエルシードの暴走体の攻撃力がその重機関銃より高かろうが、少女にとってすればコンクリートを粉砕し、
名匠に鍛えられた刀すら粉砕するものと同等のそれの方が恐怖を覚えるだろう。
レイジングハートの回避が遅れていたらなのはの体は無残な肉塊になっていたのかもしれない。
そう考え始めたなのはの足は震えだし、思考はパニック状態に陥りつつある。
姿もそぶりも見えない攻撃をどう防御すればいいのかも分からず、そもそも自分の防御で防ぎきれるのか。
そもそも空中を移動する方法も知らないし、コントロールすることもできない。
そのように暴走した思考はレイジングハートの発言すら耳に入らず、なのはは空中に立ち尽くすだけだった。

[Certainly care, Master.]
(マスター、気を確かに。)

レイジングハートの言葉は通じず、なのはは恐慌が収まる気配がない。
眼と瞳孔は完全に広がり、足に至ってはうまく動かない様子だ。
しかし敵はそんなこともお構いなしに急旋回し、再びこちらを狙いに付けてきた。
狙いはなのは。しかし今回はジュエルシードの攻撃ではなく砲だ。
レイジングハートのプロテクションだけで防ぎきれるとは限らないし、自動操縦の空戦機動も限りがある。
そう考えていた時にはユーノの体は自然に動き出し、温存しているモノを開放した。

「ちょっときついけど、やらなきゃいけないよね!」

6つの砲から発射されたオレンジ色の光線がなのはへ殺到する。
ラスキャノン、それはインペリアルガードと言う組織の中で対戦車用途に使われる一般的な砲であり、中戦車ですら容易に貫通する程の貫通力を持っている。
それを6つも搭載できるヴェンデッタはタンクキラーとも言うべき存在であることは確かだろう。
普通に考えれば9歳の少女に使うような装備でないことは確かだが、ルーカスは念には念を入れてこのヴェンデッタを投入した。
戦車をも破壊する破壊の光がなのはへ突き刺さると思われた、その時。

「なのは、怖い思いさせちゃったみたいだね。僕が君を守るから、落ち着くまで掴まっていて。」
「ユーノ………くん?」

ユーノは自身をフェレットから本来の姿へ戻し、なのはを両手で抱えたまま6本のラスキャノンをラウンドシールドで受けきった。
受けた衝撃の余波から、威力はディバインバスターより低いものの、用途としてはそれに準じた威力であることを推測した。
いかに結界魔道士であるユーノとしても立ち止まって受けるほど弱い攻撃ではない。
ともなれば選択肢は一つである。
この航空機と緑色の魔道士の追撃を振り切るのみ。
と考えているうちに空が不自然な赤に染まり、自分達は結界の中へ閉じ込められた事を感じた。
こちらの動きには問題ないが、おそらく外部通信や音の遮断などがされているのだろう。

「なるほど、小動物に化けていたとは盲点だったよ。だが、そこの少女まで化けられる訳ではないだろう?」

と言いながら表情が確認できる距離までルーカスはユーノへと接近して来る。
片手で取り回しの利く武器を持っていると言う事は、ルーカスの最適な戦闘距離は近接若しくは中距離であるはずだ。

「つまり、逃げられない。とでも言いたいんだね?」
「そうだ。正直、こちらの思う壺だったよ。」

すると、ユーノの背後右よりにヴェンデッタが回り込んだ事をレイジングハートが伝える。
ユーノは1機と一人に包囲されていて、まともに戦える戦力はユーノ自身とレイジングハートによる自動詠唱のみ。
状況としてはあまりよろしくなかったが、逃げることや生き延びることはスクライア一族の得意技でもある。
それだけはユーノにも自信があった。

「今の所貴方方に降伏する意思は僕にはないよ。」

ユーノはそう言いつつ行動を決定すると実行に移す。
恐怖で動けないなのはが精一杯の力でしがみついているのを確認すると、ユーノは急激に高度を落としにかかる。
いや、高度を落とすと言うよりは落下すると言った方が正しかった。

「レイジングハート、お願い!」
[Yes.]

レイジングハートもユーノの意図を理解したのか、下ベクトルへと力を上げていく。
ユーノはサークルプロテクションを詠唱し、もしもの事態に備える。
ヴェンデッタは設計上空戦には向かないのかユーノへ攻撃を仕掛ける素振りはまだ無かった。

「無駄な足掻きを。"スティンガーレイ"!」
[Stinger Ray!]

拳銃に似たデバイスが機械音声を発しながら呪文を行使する。
瞬間ルーカスも急降下し始め、更にユーノの後ろから魔道弾で撃ち始める。
ルーカスのデバイスは形状だけ拳銃の形をしているが、それは片手で扱う為に最適化した結果であってミッドチルダで禁止されている質量兵器などではなかった。

「"サークルプロテクション"。」

スティンガーレイは本来貫通力を生かした対魔道士魔法であるが、ルーカスのそれは速度を極限まで上げたもので、発射確認してからの防御は困難を極まるものだった。
この状況で一瞬の隙を生み出す事は地表に激突すると言う事と同義であり、もしそうなってしまえばユーノ達はただでは済まないだろう。
しかし、ユーノは打ち出される高速の魔道弾をサークルプロテクションで難なく弾きながら、森へ突入した瞬間に移動方向を水平方向へ戻した。
急降下によって溜まった運動エネルギーはユーノに速度をもたらし、ルーカスもそれに続く。

「なのは、しっかり掴まってよ!」
「う、うん!」

ユーノは高速で左右に林をすり抜けながら結界を解析していた。
結界さえ無ければ転移で逃げ切られるのは確かだし、圧倒的不利な状況を覆すにはそれしかない。
反撃を行うにしてもまだ戦闘訓練をしていないなのはを連れて行う事は自殺行為に等しい。
相手は訓練された魔道士で、それに軍隊のような組織が付いているのだ。
ともなればユーノに与えられた選択肢は限りなく少なく、最善の策は結界を破ることだけとなった。

そうして二人の魔道士と一人の少女による壮絶な高速戦闘が始まった。
方や結界魔道士、対するは2つのデバイスを使う特殊な魔道士。

その戦場にいるはずである大男はユーノからは見えないような位置取りで着実に忍び寄っていた。



[17211] 第八話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/03/15 06:01
ルーカスはユーノの一連の行動を追跡しながら自らの魔力残量を冷静に計算していた。
何故なら彼は魔力と言う資源を無駄使いできない魔法をいくつか有しており、自分なりに尖らせたスティンガーレイも少ない手数で相手を制圧するための手札だ。
彼の切り札でもあり主な戦闘手段であるコデックスは、一見驚異的な能力を有しているかと思えばその能力はさほどたいした物ではない。
コデックス、それに登録された軍勢を魔力と言う資源が許すならばそれのコピーを召還できるストレージデバイスだ。

しかし、所詮コピーはコピー。オリジナルと同じ戦闘能力を有する訳でもなく、存在するだけにも僅かとは言え魔力が必要。
更にコデックスから召還できる軍勢はコデックスに予め記載されているものでなければならず、それを召還するにしても厳格なルールがそれを縛る。
つまりスティンガーレイの行使ですらルーカスにとっては大盤振る舞いであると言っても過言ではなかった。
コデックスで呼び出せる軍勢は得てしてコピーである影響もあるが一人一人の戦闘能力は魔道士には遠く届かない。
模倣は原本には勝てないものだ。
そう、ルーカスが知る限り一人を除いて。

『ハンスさん、そちらからのアサルトは可能ですか?』

念話のチャンネルを弄り、大きく先回りしているハンスへと連絡を取る。
本来なら何らかの方法で急加速して目の前の二人を無理やり排除すればいいのだろうが、今ルーカスが求めているのは目標の排除ではなく捕獲だった。
折角魔力を大量に費やすのであれば何らかの収穫が欲しい。
でなければ軍勢を呼び出さずにハンスと二人で強襲して排除すればいいだけの話だ。
そうすればヴェンデッタを呼び出すまでもなく、素人というハンデを抱えた魔道士を気付かれない位置から攻撃すればいい。
ルーカスとハンスには、彼らを確保するなんでもない策があった。

『問題ない。今から実行する。』

ハンスは超低空で空戦機動を取ってはいるが厳密には魔道士ではない。
彼はコデックスが生み出した自己防衛プログラムの一つの姿。
コピーし得る個体の中からコデックスに選定されたルーカスの分身と言っても過言ではない。
ハンス・ブルクドルフはロードコミッサーのクラスに適合する屈強かつ伝説的な特務将校であり、
かつて彼の祖国であるどこか遠い次元世界で名を馳せた英雄でもあった。
ルーカスの『帝国の守護者達』と言うコデックスはその名の通り「インペリアルガード」と言う軍団を呼び出すコデックスで、
彼らの次元世界は今も尚戦乱に満ち溢れた世界である事は確かだろう。

何故なら彼らの世界には平和はない。
休息もない。慰めすらない。
赦しなど、あろうはずもない。
彼らの世界に残った物は、人類と言う種が生き残るための闘争だけなのだ。
彼らの世界は禁忌であるものも容赦なく闘争に投入する。
そうしなければ生き延びる事すらままならないのだから。

「"アウト・フランク"」
『Out Flank,Sentinel Squadron.』

ハンスへの指示が終わったルーカスが呪文を唱えると、ユーノ達に3機の2脚歩行戦車が左方向から空間をゆがめて展開される。
そのカゴのような丸出しなコクピットの下には機械の大きな足。
コックピット横にはかつてユーノを追い詰めたオートカノン。
そしてルーカスは追加で魔力を費やしてこの機体全てに使い捨てミサイルを増設している。
名はセンチネルと言い、軽快な動きで動く"門番"はユーノの動きを遅らせた。
アウトフランクとは奇襲攻撃の事だ。クラスによって部隊は区別され、クラスの能力に則って部隊は均一化される。
今回の戦いではルーカスは部隊の全てがアウトフランクできるクラスを使用しており、奇襲攻撃の名の下に出現した直後に攻撃を始める。
無論コデックスが持ち得る能力の中でも有数の使い勝手ではあるが、それだけ不安定な能力だった。

「まずいッ。"チェーンバインド"!」

この奇襲にはユーノはたまらず温存していたチェーンバインドを放つ。
鎖の数は4つ。鎖は別々の場所へ飛び、ユーノから見えている脅威の全てに対して放たれた。
こちらへ砲撃を加えようとしているセンチネルへ各々のチェーンが絡みつき、砲身が描いていた射線上からユーノは退避する。
恐らく今回戦力にならないであろうなのはを抱えているが、それでもなのはが目を回しそうな戦闘機動を描き続ける他無かった。
そう、センチネルの増設ミサイル、ハンターキラーミサイルが発射されるまでは。

[Lock On Alert!]
(ロックオン警告!)

レイジングハートが警報をがなりたてる。
前に展開されたセンチネルからまだ脅威が残っているのだろうか、ユーノに緊張が走った。
よくユーノが目を凝らすと、センチネルのコクピット外壁にオートカノン以外に武装が装備されている。
その筒はユーノにも瞬時に判明できる形状だった。
対誘導弾機動、それも質量兵器によるものはユーノでも未体験だ。
ともなれば腕に抱えている少女の為にもユーノは素直に防御する事にした。
前方向へ、持ち得る防御の中でも堅牢な物を。そして後ろへ展開するものは相手の行動を見て途中まで詠唱する。

「"ラウンドシールド!"」

ハンターキラーミサイルが発射され、それを受けるべく最速のタイミングでユーノは円形の魔法障壁を展開する。
簡易的な対戦車火器として用いられるそのミサイルは、ユーノが居た位置に着弾。
そのまま弾頭は炸裂する。

「弾着確認。今度こそ降伏してもらおう。」

弾着の煙が晴れた時、ユーノは確かにラウンドシールドでミサイルを防御できたものの、弾着と同時に接近して来たハンスにはどう対応しようもない。
右手の紫電を放つサーベルをユーノに、左手のボルトピストルをなのはに、ラウンドシールドを張る間もなく突きつけた。
ハンスの目は抵抗するなら容赦なく手を動かすとユーノへ語っている。
その一部始終をチェーンバインドをブレイク・インパルスで叩き落としながら確認したルーカスは、自身の拳銃をユーノに狙いを定めて最後の降伏勧告を行う。
残り魔力も半分を切っていたユーノは、その降伏勧告は飲まざるを得ない事は誰の目からも明らかだった。



「つまり、我々は実戦経験以外は無益な戦闘を行っていた。と言う事だな。」
「そうなります。」
[This battle was unproductive.]
(この戦いは非生産的でした。)


降伏勧告の後、なのはとユーノ達はこれから起こる事を不安に思いながらランドクルーザーへと連れて行かれた。
はずだったのだが、ユーノとなのはが正直に事情を話すうちにハンスとルーカスの顔が申し訳ないように表情を変えていた。
極め付けにはなのはが今回の戦闘の事で泣きそうになっていたこと。
このような時、9歳の女の子の涙は凶悪な武器となる。
理由も無い罪悪感に襲われる中年と少年。
特に中年には故郷の子供の幼年期を思い出したのか、思いの他高威力を叩き出していた。
泣きそうになっていたなのはは一つの疑問をユーノ達に尋ねる。

「ユーノ君はフェレットじゃなかったの……?」

なのはからすれば不可解すぎた事だ。
フェレットだと思っていたそれが突然ハンサムな少年になるとは誰が想像するだろうか。
しかも追跡戦の時はしっかりとなのはを所謂お姫様だっこで保持しつつ飛んでいたので、その事実を思い出すたびになのはは赤面してしまう。
なのはは9歳だ。しかしそのような体験は聞いたことがあっても同年代の少年からそれをされることは無い。
つまり少女にとってのある意味始めてをユーノが貰った事になるのだ。
男女の交渉と言う物を知らない少女にとってそれは一大事件とも言える。

「あれ? なのはにはこの姿を見せてなかったかな。」
[Please think for yourself.]
(自分で考えてください。)

なのはは赤い顔で顔を横に振る。
それを聞いていたハンスとルーカスは呆れ、ユーノに疑わしい目を向けた。
その間ユーノは思考し、一つの可能性にたどり着いた。
夢の中へと戦闘の様子を中継した事は忘れてしまわれているのだ、と。
ユーノはこの事をうまく説明できず、ルーカスに頭を冷やされた事は言うまでもなく、ハンスはユーノ達へ敵と誤認した事を詫びた。

この出会いを切欠に、この都市へと忍び寄っている脅威であるジュエルシードへ対応する魔道士が一人増える事になった。
同時にルーカスとユーノ、そしてレイジングハート。この二人と一個の講師がなのはを著しく成長させる事になろうとは、彼らには予想もしなかった事だった。




[17211] 第九話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/04/01 19:01
ハンスとルーカス達との無益な戦闘が終わった後、なのは達は念話のチャンネルだけルーカス達と調節し、自宅へと帰っていた。
これでユーノにとって心強い仲間が増え、ジュエルシード捜索と言う目的に関してなのはを巻き込まずに済むと考えていた………のだが。

『使える戦力は全て利用する。それに一度巻き込んでしまったのなら最後まで面倒を見るべきだ。
いつこの町のどこかが戦場になるか分からない中へ放り込んで無視するのが趣味なら止めはしないが。』

と言うもっともらしいハンスの意見に逆らえなく承諾してしまった。
確かに彼の言う事も一理あり、何よりなのはのような心優しい女の子を戦場にも成りかねない場所へ放置する事になる事は避けたい。
だが、結局の所なのはを危険に晒すだけじゃないのかともハンスに返す。
なのはは魔法に関しても素人ではあるし、才能があったとしても短時間で叩き込んでも戦力にはなり難いだろう。
魔法と言えども、そこまで甘くはないはずだ。

それに対して彼はこうも言っていた。

『危険に晒す事を危惧するよりも、その危険から護る事を考えた方が有益ではないかな。
少なくとも私がお前の立場ならそうやって彼女を護るがね。
それに、戦闘に参加したとて後方に居る者に被害が出る時など我らが斃れた時よ。
そうなればこの都市のどこに居たとしても危険には違いあるまい。』

ユーノやルーカスは傍から見ても将来有望な魔導師だ。
その総合ランクはA。
ルーカスの場合は3年前に更新したものであると言っていたので実際のランクは不明だが、コデックスと言う武器を得た事や年齢と共に魔力資質も成長する事を考えれば、AAぐらいではないかとユーノは推測した。
これはエリート集団である武装隊の隊長相手でも対等に戦える事を意味している。
つまり、将来の成長によっては個人でありながら戦略兵器さながらの戦闘能力を有することになる事も同様に表していた。
しかし魔導師とはいえ人間は人間だ。訓練された特殊部隊が複数による連携を必要とするように、より訓練された魔導師にも複数による連携が必要。
特にロストロギアを封印する場合、不測の事態に備えて大量の人材を投入しなければ作戦自体がなりたたない。とルーカスから忠告された。
つまり何がいつ出てくるか分からないが故にどう戦力が損耗するか分からない。だからこそこの事件に参加するルーカスはより多くの戦力を必要とした。
それが魔法に触れて2日しか経過していないなのはであっても。

とユーノがなのはを本格的に鍛える必要がある………と方針を決定していた時、なのははユーノを抱えようとしていた。
時は既に夜中。そろそろなのはにとっては入浴の時間には違いなかったが、ユーノを抱える必要がどこにあるのだろうか。

「なのは、どうしたんだい?」
「ふぇ? 何って、ユーノ君はお風呂に入らないの?」

なのはは首をかしげ、さも当たり前の事のように話す。
しかし魔導師としてある程度の地位を確立しているが故に少年は精神的に成熟されすぎていた。
同年齢の少女と入浴する。そのような事態は本来起こりえぬ物だと思っていたし、ユーノにとってすれば混浴なんて恥ずかしくてできやしないのだ。
だが、なのはにしっかりとホールドされている状態では物理的に逃れることはできないだろう。
ともなればユーノに残された選択肢は一つ。

「ねえ、なのは。この国ではペットはお風呂に入るものなのかい?」

なのはの行動を巧みに口先だけで制止する他無かった。



お風呂についての件では「ペット?ユーノ君って人だよね?」の一言で追い詰められそのまま風呂に入れられたユーノは、
朝の着替えともども精神力を費やされた。
ユーノにとって正直な話異性と風呂に入る歳でもないし、色気などは全く無いなのはの体でも十分欲情してしまう自分の浅ましさを後悔するばかりだった。
救いが有るとすれば、フェレットの姿でいる為になのはには悟られてはいない点だろうか。
ルーカスの拠点へ避難する事も考えたが、彼らの拠点の場所などユーノが知るはずもなかった。
そこへ当のルーカスからなのは達へ念話通信が届く。

『そろそろ作戦会議を始めてもいいか?』
『あ、うん。なのはの教育方針についてかな?』
「ふぇ。わ、私の?」
[Please let me participate in the meeting.]
(私も会議に参加させてください。)

作戦会議と言っても彼らに出来ることは少なかった。
と言うよりは元より各々の戦闘における立ち位置がルーカスを除いて動かしようが無いので、その点何も言う事はなかったのだ。
ルーカスはと言うと、結界技術においては苦手ではあるものの他の魔法技術においては極めて水準以上の物を有している。
つまりルーカスは決定打は少ないものの、全ての役割をそつなくこなせる数少ない人間であった。
これは3年前に11歳にしてミッドチルダで最年少執務官試験合格記録を塗り替えたクロノ・ハラオウンのそれに類似するタイプの魔導師であり、
ユーノはこれだけの魔導師がこの町で何をしていたのか不審に思った。

『先ず訓練環境だけど、これはレイジングハートの仮想訓練を使う事にしよう。いつ発動するか分からない以上、身体能力まではどうしようもないからね。』
『そうだな。では仮想訓練プログラムはこちらに任せてくれ。スフィア相手に戦闘したとて今回必要な能力は付くはずもあるまい。何よりゲーム感覚で行えるほうが望ましい。』
[Ask for training the magic in the previous master.]
(では魔法の訓練は前のマスターにしてもらいしょう。)

こうしてなのはの訓練について本人の意思とは関係なく緻密に打ち合わせが続くのだが、
なのはは話の途中から聞いたことも無い単語が噴出しすぎたせいで頭はとうにオーバーヒートし、隣に座るユーノに助けを求めようとしていた。
だが、それも叶わずレイジングハートによって仮想訓練へと精神を飛ばされた。

[Will do better than actually listening.]
(聞くよりも実際に行うほうが良いでしょう。)
「ユーノ君、これ何?」

そこに広がるは限りなく果てしない青い空と無機質なコンクリートビルの群。
正確には巨大なコンクリートブロックと言うべきだろうか。
地面は格子状にラインが引かれた青い床、そこに聳えるは複数の遮蔽物。
レイジングハートの機能を用いてなのはの精神内に一種の訓練場が建設された。
しかもなのははパジャマ姿であったはずがバリアジャケットを身に纏い、レイジングハートを手に持っている。

「なのは、よく聞いて。この空間はレイジングハートが作り出した幻なんだ。」

瞬時に景色が変わってパニックに陥っているなのはにユーノは穏やかに説明する。
仮想訓練システムはレイジングハートに搭載されている能力である。
なのはの精神の1スペースに仮想空間を設けていて、なのはは今そこにチャンネルを合わせているということ。
しかしその動作はレイジングハートが演算しているため、実際と同じ動きに近いものになるという事実。

なのはにはある程度しか理解できなかったが、なのはにとっては「日常と平行して行える訓練」であることだという事だけははっきりと分かった。

「だいたい分かったの、でも今から何をすればいいの?」

そうなのはが言うと同時に、目の前にユーノが現れた。
その姿は愛らしいフェレットではなく、異国の装束を身に纏った少年の姿だ。
昼間の戦闘で気まずい何かがあったのか、なのはは少しばかり緊張してしまう。
フェレットの時は意識していなかったとは言え、ユーノはちゃんとした男の子であることを認識してしまった事もあるのだろう。

「まずは体を慣らす事と、簡単に実力を判定するよ。」
[Now, start simple test.]
(今、簡単なテストを開始します。)

なのはの問いにユーノとレイジングハートが応えた後、なのはの周辺に円を基調とした魔方陣が複数浮かび上がる。
それは一般的な訓練ターゲットであり、なのはの実力を測るべく展開された。
ユーノはなのはの後ろに周り、テストには参加せずに見届けようとしている。
あくまでユーノは監督役を勤める積もりなのだろう。

「先ずはこのターゲットを全て打ち抜いて。魔法は夕方復習したものを使うよ。」
[Master,Ready?]
「うんっ、高町なのは。いきます!」

少女はようやく自らの意思で飛行魔法を行使し、テストを開始した。



[17211] 第十話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/04/19 03:02
「さて、まだなのか?」

テストの光景を念話通信越しにルーカスは覗き見ていた。
3人がかりでなのはを教育するとは言えルーカスのやることと言えば、
誘導弾の制御や仮想訓練の内容を考えるぐらいしか無いのが実情だ。
寧ろルーカスは友軍としてどこまでなのはが戦力足りえるのか確認したいのが本音だった。
しかしそうは言ってもスフィアと打ち合うだけの射的には興味は無い。
だからこそルーカスはレイジングハートにあるデータを送信しながら覗き見ていた。

「"ディバインシューター"!」

3つの光点が独特な曲線を描いて各々の目標へ突き刺さる。
誘導弾の精度はそこそこ、しかし人間を追従できるほどの誘導はまだ見られない。
それらは全て単純なルーチンで移動する目標だったからこそ成し得た誘導とも言える。
彼が見たいものはそこではない。

「"ディバイン・バスター"!」

遠距離からCランク相当の砲撃魔法を連射して来るオートキャノンスフィアに目掛けて桜色の光の帯が奔る。
弾速、威力共に良好で、当たれば確かに何でも吹き飛ぶだろう。
しかしながら発射速度と狙いはそれほど良くはなく、スフィアでなければ返しの射撃で撃ち落とされていてもおかしくはない。
それも彼の見たいものではない。

[The last test for a battle against Mage.](最後のテストは対魔導師戦闘をします。)

固定目標を辛くも墜落させたなのはにレイジングハートのアナウンスが響き、なのはの目の前に今までのスフィアと違ったものが出現する。
それはユーノでも驚愕させるに足る人物で、魔導師として誰でも知っている少年であり、ルーカスがよく知る人物だった。
その名はクロノ・ハラオウン。執務官中最年少とされるが、その戦力はある時空艦の戦闘部隊の中で最大の戦力と聞く。

「レイジングハート、テストの相手を間違ってないかい?」

そのユーノの指摘は尤もだった。
魔法を触れて1週間にも満たない少女の対戦相手としては破格すぎるものであり、ユーノでも勝利できるかも分からない。
確かに体の資質だけならなのはは勝るかもしれない。しかし、個人間の戦闘とはパワーやリソースではない。

[This is normal. No problem.]
(これで正常です。問題はありません。)
「そうだ、それでいいんだ。邪魔をするなよユーノ。」

ルーカスとしては、この男を相手にどこまで立ち回れるのか。
それが最大の見所だった。
少女の武器は豊富なリソースとそれを直接変換して発生させる大火力。
対するはオールラウンドに立ち回り、いやらしく敵の弱みを突く狡猾な少年。
戦いの火蓋はレイジングハートの無機質なカウントによって切って落とされた。



次の日の朝、なのはの目覚めはまたもや余り良くなかった。
クロノと呼ばれるルーカスに似た少年に完膚無きまでに負かされ、小学校では得意だったテストなのに得点は50点前後。
90点以上が普通であるテストに慣れすぎたせいか、結果を言われた当初は少女は自らがあまり魔法に向いてないのかと錯覚しかけていたぐらいだ。
それに夢の中でも魔法を使いすぎたせいかなのはは疲労感が抜けずにそのままでいた。

「おはよう、なのは。」

太陽はすっかり昇り、ユーノはなのはが起きるのを待っていたようだ。
日曜日だからかなのはは遅くまで寝てしまい、ユーノはその健康情報を観察している。
魔法の使い始めは極端な疲労が起こる可能性は十分にある。
それはユーノの部族でも言われている事でもあり、ユーノ自身もその覚えは一応あった。

「ふぁあ、おはよう、ユーノ君。」

なのはは体を起こし、携帯電話を手にした。
眠そうに眉を擦るなのははあることに気が付く。
時刻は既に10時、つまりは真昼間であるということだ。
今日はユーノと魔法の練習をすると約束していたのであまり眠れなかったのもあるが、それにしても小学生が起きる時間としては遅すぎた。

「ゆ、ユーノ君。もしかして待ってた?」
「そうでもないかな、レイジングハートと今後の事を考えていたしね。」

その言葉を聞いてなのはは安堵したと同時に、一つの可能性を考えていた。
なのはは周りからしっかりした子であると言う評価はあるが、一人のときは何かとズボラな人間である。
そのズボラな部分が良く出る睡眠時の様子を見られたかと思うと、顔が真っ赤になり始めている。

「………? どうしたの、なのは。顔が赤いよ?」
「な、なんでもない。」

真っ赤な顔が戻る事はなく、その様子が何を指すのか分からないユーノはただ疑問符を浮かべるだけだった。
ただ、ユーノはなのはが赤面するその原因を疲労による風邪と誤認し、授業のペースを少し抑える事を決める。

「そうかなあ。でも、無茶はいけないよ?」

そうユーノは勘違いしながらなのはに釘を刺し、授業のメニューを再構築し始める。
勘違いしているしてないにせよ、なのはにとってすれば疲労は残っていることは確かなので、結果的にはユーノの言葉は間違ってはいなかった。




日曜日の昼、ルーカスはこの海鳴市の図書館、風芽丘図書館へと足を運んでいた。
彼の職業は厳密には戦闘員ではなく、調査員だ。
管理外世界に出向いてはトラブルを起こす事なく、その現地の文化、法律、環境を調査し、それを各団体へと報告する事が主な業務だ。
今回のような直接戦闘はやむを得ないものであることは否めないが、管理局の介入が発生すると調査結果が狂ってしまったり、調査事態が無駄になる場合がある為調査者はそのような自体を自発的に収拾させる可能性や、事態の収拾を依頼されることもある。
ここで言う各団体とは時空管理局も含まれるが、通信社や出版社など多岐に渡る。
何故なら地球で山脈や集落の画像が欲されるのと同じく、ミッドチルダ人からすれば困難な環境である管理外世界のものと言うものは付加価値が付くものだ。
その為にルーカスのような腕扱きの魔導師が市営の図書館へ通い、様々なレポートを書く為に本を借りる事は度々有る事だった。

とは言え、それだけの為に図書館へ行く訳ではなかった。

適当に様々な本を見繕い、あまり人の居ない休憩スペースに足を運ぶとそこにはルーカスが良く知る少女が座っている。
少女はイスではなく車椅子に腰掛け、その隣のベンチには彼女と明るそうに話をする妙齢の女性。
外見から推測できる年齢や髪の色は姉妹とは考えられぬほどの違いを有していた。

「こんにちは桐生さん、はやて。」
「あら、ルーカス君。今日も勉強熱心ね。」
「あ、ルーカス君。今日もおはようさんやな。」

ルーカスは彼女らに歩みより挨拶を交わす。
挨拶を交わしたついでに自動販売機から炭酸水を買い、少女の向かいに座る。
車椅子の少女の名ははやて。家庭や身体上の都合から学校を休学しており、足は原因不明の麻痺によって動かないそうだ。
生来の茶髪や比較的バランスの取れた顔つきは、比較的異性に興味が行かないルーカスにとっても将来を期待させるほどである。
しかし、そんな顔とは対照的に車椅子や細い体はこの後の人生においてどんな影響が起こるかと考えると不安なものは隠せない。

「いえいえ、ただ本を借りに来ただけですから。 おはようとは言うが、もう昼じゃないか。」

桐生と呼ばれた女性は外見上は20歳前半ではあるが、大学生でも院生でもない。
彼女ははやての叔父に雇われた住み込みのホームヘルパーであり、兄弟も親も周りに居ないはやてにとっては、姉以上で母には満たないぐらいの存在だ。
おっとりしている外見とは裏腹に、介護支援専門員や居宅介護従業者などのはやてを介護するに当たって必要な複数の資格を全て有するやり手の女性でもある。

「き、きにせんといてえな。せやけど、つっこまんでもええやんか。」
「すまないな。そういうものはつい言いたくはなってこないかい?」
「そうね。はやてちゃんったら時々変な所で抜けてるものね。」

とは桐生さんは言うものの、ルーカスははやてとの知り合った経緯を考えると人の事は言えなかった。

そう、かつてはこの図書館を探すべくルーカスははやての家の近くの公園付近を地図をにらめっこしながら歩いてたのだ。
ルーカスは日本という国の中では確実に異人に見える外見をしている。
だからだろうか、道を尋ねられれば避けられる事が多く、一度引き返そうとしていた。
その時、はやてがルーカスを呼び止め、たどたどしい英語で話しかけてきた事や、その後の自分の反応はルーカスには強烈な印象に残っていた。

『め、めいあいへるぷゆー?』
『ムリしなくても日本語はちゃんと話せるから大丈夫だよ。』

やり取りと思い出して噴出したルーカスにはやてはジト目を返す。
その目は大きめでかわいらしいのだが、その表情は拗ねそうな一歩手前と言えるものだ。

「おいおい、そんな拗ねなくてもいいだろう?」
「些細な事で噴出されたんよー?何か気になるやんか。」
「気のせいだと思うがなぁ。ほら、はやても時々そうしてるじゃないか」

と言う具合にルーカスはなんとかはやてを早くなだめようとするが、桐生はその二人のやりとりを見ながら笑っているだけだ。
ルーカスが精神力を無駄遣いしてなだめたときには、ぬるくなった炭酸と、それを口にして微妙な表情をしているルーカスを笑うはやての姿があった。



[17211] 第十一話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/05/26 00:24
中規模都市である海鳴市の中央部は昼夜で全く別の姿を持っている。
昼は学校帰りの学生や若い青年が街を歩くような繁華街、夜は立ち並ぶビルから人間の存在を教える蛍光灯の光で埋め尽くされた眠らないオフィス街。
その眠らない街を一際大きいビルの屋上から眺める少女が一人。
姿は日本であるはずの海鳴市では珍しく、金髪蒼目と誰が何と言おうとモンゴロイドのそれではなかった。

「状況確認。領域内に2体の魔道師。内1名はウォッチャー。」

少女は淡々と状況を自分に言い聞かせるが如く唱え、確認する。
それはまるで命令を復唱する機械のようで、高所故の強風に眉一つ動かさない彼女は差し詰めアンドロイドと言った所か。

「いくよ、バルディッシュ。」
[Yes,Sir! Barrier jacket, set up.]

確認し終えると、少女は自身の武装に声をかけ、黒を基調にした服を黒いマントとまた黒いスーツに変換して夜の街へと飛び立った。
少女が狙うは翠の少年が探すジュエルシード。
機械人形のような少女が振るうはバルディッシュと呼ばれたポールアーム。
今、新たな敵がなのは達へと迫ろうとしていた。




無誘導魔力弾を撒き散らしながら高速移動するスフィアに対し、複数の桃色の光球が曲がりながら追尾する。
スフィアは光球を打ち消さんと魔力を散らすが、一つの光球がそれを掻い潜る。
そして、スフィアに突き刺さる桃色の光。
崩れ落ちるスフィア。それを見届けるユーノ。

[Check the kill target. Training is completed.](目標の撃墜を確認。訓練終了です。)
「よしっ!」

訓練開始より一週間。なのはの成長は著しく、一時的ではあるがユーノ相手に十分立ち回れる程度まで砲撃魔道師として進歩していた。
その成長と共にジュエルシード収集も順調を極めたものの、なのはにとって急がなければならない理由が浮上した。
そう、それはこの海鳴町への被害だ。
二日前の翠屋FCの練習後に発生した事件、街中でジュエルシードが暴走したことにより道路は引き裂かれ、
ビルは倒壊した………かのように思われたがユーノやルーカスの結界で幸いにも無かったことにされていた。
確かに被害は結界によって修復されたのだが、その結界とていつも使える訳ではない。

ともなれば事態を早期終結させなければ誰かが不幸に遭う。
そのことは誰も目からも明らかだった。

『ご近所様には迷惑かけちゃ駄目だもんね。』

とはなのはの言だ。何か理由があるルーカスもそれに賛同し、彼は自身が製作した調査ビーコンを増量して警戒に当たっている。
仕組みは不明ではあるが、ルーカス曰くかつて管理局で使われていたものと同じようなものらしい。
ユーノはますますルーカスの経歴に対して不信感が募るばかりである。
彼は調査員で観測者だとは言ったが、そこまでの装備をどうして彼がポンと出せるのだろうか。
彼にはなのは達には言えない目的がある。そうユーノは直感的に感じていた。

早朝の訓練も終わり、なのはは着替えながら日曜日である今日の予定を思い出していた。
なのはは兄と共に月村家へと招待されている。なのははいつもの友人とお茶会を、兄はすずかの姉である忍さんの元へ。
本来ならなのはは一刻も早く事態を収束させたいのだが、ユーノの「たまには休まないと体を壊す」と言う発言から友人の下へ行く事となった。

『なのは、準備はできてるかい?』

机の上のバスケットからユーノが身を起こし、なのはの状態を確認する。
今回はすずかからユーノも同伴するように言われているのでユーノも毛づくろいなどを行っていた。
尤も、そう言った行動は必要ないのだが。

『うん!いつでもいけるよ。』

いつもの普段着に着替えたなのはは、肩にユーノを乗せ、朝食へと急いだ。
少女はある種長い長い一日を過ごすこととなる。
そして少女はルーカスが追うものの片鱗を目撃する事になるのだった………。



月村家でユーノが猫達に熱烈な歓迎を受けている間、ルーカスは自宅でビーコンの感度を調節し、複数の要素を探査していた。
一つはジュエルシードの反応。
一つはなのは達以外の魔道師の反応。
そして度々見られる歪みの波動の発信源だ。

歪み、それはハンスが住まう世界での概念で、ハンス達で言う所の魔法使いであるサイキッカー達の魔法の源である。
それは魔力とは違い有害極まりない要素であり、既にこの海鳴市を侵食しつつある。
ハンスは確信している。この都市のどこかに同じコデックス使いが存在し、それが使用しているのは禁じられた混沌の書。
混沌と因縁がある守護者であるハンスを従えるルーカスにとって、混沌使いとはそれだけで宿敵なのだ。

コーヒーを飲みながら作業を繰り返していたルーカスだが、山間部に怪しげな反応を感知し、ビーコン越しに周囲の映像を確認する。
そこには高速で駆ける黒衣の少女の姿が映っており、その付近にはなのは達の反応も映し出されていた。
それを確認したルーカスはホルスターに備えていた彼の杖を持ち、瞬時にバリアジャケットを展開すると現場へと文字道理飛び出していった。
座標は山奥の洋館付近の森林。人目につかないだけあって大規模な戦闘になるだろう。

大規模戦闘を予想した少年はとっておきの手札を切る事にする。
それはかつてハンスから「鋼鉄の雨」と呼ばれたものだった。

『ロスターチェンジ。パワー1750、ネームイズ"スティールレイン"。』
[OK,Roster change to Steel Rain.]

少年は鋼鉄の雨を携えて戦場へ向かう。
その姿は正に戦闘に向かう熟練された兵卒のようで、空高くを下から見られぬように、されどこちらからは見渡せるように滑空していた。



[17211] 第十二話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/08/17 02:19
その反応は一瞬で、されど多大なモノだった。
純粋な物質の結晶に、不純物がひとかけらでも介入すればどうなるか、それはさながら化学反応のようであった。

なのはやユーノ、ルーカスが知らぬ間に事は緊急事態まで進んでいる。
歪みと言うエネルギーがジュエルシードへ入り込み、ジュエルシードに篭められた魔力で血肉を象っていく。
その血肉を集めて生み出されるは混沌の悪夢。
ハンス達の言葉で"魂を刈り取るモノ"と呼ばれし、金属と得体の知れない生物が融合した、化物だった。
それを空間越しに見つめる黒髪の女。
黒い服を纏った女はその悪趣味なホールで、大型な何かとともに笑みを浮かべていた。

「さあ、みせて頂戴。その結果を。」

『WARNING!WARNING!』

ビーコンより緊急信号が送られ、ルーカスは飛翔しながら確認する。
同地点より多大な魔力と歪みが検出されており、その地点はなのはと黒衣の少女が居る地点である。
彼女たちが存在し、かつ歪みの波動が駄々漏れであると言う事をビーコンは教えていた。
つまりそれは、大規模な魔力と混沌の波動の融合、すなわちルーカスが想定し得る最悪の状態が起こっていた。

目標地点は大規模な封時結界が施されており、発生した何かを逃さないタメの配慮はなされているようだった。
だが、相手は混沌だ。
何も知らない彼らだけではとうてい5分も持たないだろう。
それほど混沌とは独特な相手だ。

「俺たちは結局後手にしか回れないか………!」

悪態をつきつつ、ルーカスは結界内へ転移する準備を進める。
先ほどまでは滑空することで貯蔵魔力をセーブしていたが、時間はもう一刻の猶予を許さない。
短杖の高速詠唱によってルーカスは姿を消した。



『WARNING!WARNING!Far different from the enemy.』(警告!警告!今までの敵とは違います!)

すずかの屋敷の近くの森へ飛び込んだユーノとなのはは、その敵の異様さに圧倒される。
その姿は従来のジュエルモンスターとは違い、グロテスクかつ機械的な肉体を持つもので漠然とした目的ではないものを考慮されて象られている。
それはまさしく破壊のための身体であり、腕には砲と巨大な剣。まともに当たればひとたまりもないものであることは誰の目にも明らかだった。

「なのは、相手は何をするか分からない。だから絶対に前に出ちゃダメだよ。」
「うん、わかったユーノ君。でもあれって………。」
「………! 間に合え、"ラウンドシールド"!」

グロテスクなクリーチャーはなのはたちへ向かって長い肉のような何かを伸ばしてくる。
それをユーノは咄嗟になのはの手を引っ張り、ラウンドシールドを張って防御を試みた。

しかし、その翠の盾も突き破られ、なのはが居た位置へ伸びきって次の瞬間には消えていた。
ユーノがなのはを自身の後ろに庇っていなければ、穴が開いていただろう。
それほどの威力はユーノには察する事ができた。
しかしそうなるとユーノに解せないことが一つ浮上してくる。
グロテスクなモンスターが纏う負のオーラとは何なのか?

「これほどまで……!」
「次はこっちの番だよっ!"ディバインシューター!"」

[Divine Shooter.]

桜色の魔力球がほとばしりながら、クリーチャーに殺到する。
相手は動きが遅く、バインドなしでも炸裂するはず。
そう考えてなのはは反撃を発射した。


激戦を見ながらたたずむ黒衣の少女の後ろに、深緑色のバリアジャケットを纏った少年が降り立った。
軍服風の意匠や拳銃にも似た短杖のせいか、それは軍人にも見えた。
短杖を突きつけつつ、少年は少女に尋ねる。

「アレを呼んだのはお前か?」
「私じゃない。けれど。」

[Photon Lancer.]

「あなたをあそこへ行かせるわけにはいけないもの。」

瞬間、少女の周囲より黄色の魔力光でできた槍が少年へ飛ぶ。
しかし、少年はそれを短杖で叩き落し、もう片方の手に持つ本を開いた。

「そうかい、じゃあ遠慮は要らないな。聞く事もあるまい。」

[Army Setup. Neme is Steel Rain. Auto Put.]

少年の周囲数十メートルの空間が歪み、中より守護者たる軍勢が出でる。
そして、赤色のレーザー光が茂みや林の中より突き抜ける。
戦争はこうして始まった。

ユーノとなのははジュエルシード・モンスターと対峙する。
黒衣の少女はルーカスと。
しかし、早くもその戦いに闖入者が介入しようとしていた。



[17211] 第十三話
Name: カラス◆3e236f0a ID:966563b6
Date: 2010/09/27 00:56
『ユーノ!聞こえるか。こちらルーカス。』
『うん、聞こえるよ。あの得体の知れないモノはなんなのかい?』

念話を通してユーノへと連絡を取る。
ユーノ達は混沌の落とし子との交戦経験などあるはずもなく、だとすれば最悪なのはの命の危険に繋がる。
それほどの相手であることはハンスからの話でルーカスは感じ取っていた。

『アレは、ソウル・グラインダーだそうだ。詳しい話は後にする!そいつの口と剣に注意しろ!』
『分かった!』

ハンスからの話を限りなく短く伝え、目の前の状況へ対応する。
目標の黒衣の少女は後ろへ大きく離れ、ラスガン斉射をやりすごした。
だが、そこへルーカスは自身の魔法を射出する。
無詠唱かつ高速度で生成される魔力弾。カレにとって十八番である魔法だった。

[Stinger Ray.]
[Defensor.]

その圧倒的な速さで射出された魔力弾は、これもまた高速自動詠唱の魔力シールドに弾かれる。
が、ルーカスすぐさま次の行動に出ていた。

「第一分隊から第3分隊まで。全武装開け。
弾頭はフラグ弾。第4、5分隊はあのデカブツに一発かましてやれ。」

[Photon Lancer.]

反撃と言わんばかりに少女が紫電の槍を放とうとするが、
その前に林の間を縫って3方向より対人弾頭ミサイルとグレネードが少女に迫り、その場に破片と爆発によって縫い付ける。
次にソウル・グラインダーへと対物ミサイルが2本、背面に炸裂する。

「いいぞ、次はこちらの方向にヒドラ小隊は準備しておけ。」

そういいつつルーカスは上空へと飛翔する。
それを追うように少女は突進し、紫電の槍を高速連射。
ルーカスはそれを魔力盾で防御する一方、ほくそ笑んでいた。

「ヒドラ小隊、撃ち方始め。」

瞬間、森の一地点よりカモフラージュされていた対空機関砲小隊が12門もの機関砲をうならせ始める。
ヒドラ。それは帝国防衛軍の中でもローテク極まりない装備であるが、その用途は航空戦力や反重力ビークルの排除。
禍々しい竜の顎を思わせる4門の機関砲から圧倒的な弾幕を撒き散らす事を得意としている。

その、多頭竜を思わせる弾幕が少女に向けられた。
魔力シールドを用いてかつ高速機動を用いて弾幕を回避しようとしているようだが、それこそがルーカスの狙いだ。
ここまでの流れでルーカス自身が使った魔法は2発。
それに対して少女はシールドを展開し、高速詠唱の自動連射呪文を何発も投入していた。
つまり、コデックス展開によってのハンデはあれど、少女の魔力消費量は段違いだった。

そこへ、ルーカスは少女へとヒドラの援護をうけつつ真上へと迂回しながら接近する。
少女は認識はしているが弾幕の中からでは反撃も対策も取れない。
そもそも少女は未知の戦力たちに対して、優先目標を設定できずにいた。
おびただしい火線と本来強力な魔導師なはずのウォッチャーは強力な魔法を一度も使ってこない。
使ったものと言えば、小手調べ程度のスティンガー・レイ。
すべてがミッドチルダでの常識を超えていた。

[Arcane Power "Push".]

弾幕が突如止まり、ルーカスは飛び込む。
ルーカスは自らの短杖を突き刺すように少女へと突き出す。
その杖の先には至極簡単な呪文をつけて。
それを防御する少女、ほくそ笑むルーカス。

[Incomprehensible.](理解不能)

少女のデバイスがそう呟き、少女もまた得体の知れない力に表情を曇らせざるをえなかった。
そう、防御したはずの攻撃によって、少女達は地表へと叩き落されていたのだから。
少女は咄嗟に持てる力をすべて使って重力と、得体の知れない圧力に耐える。
それを見届けながら、ルーカスは死刑宣告とも言える言葉を分隊へと発した。

「1,2,3分隊。目標が降りるぞ、よく狙え。砲兵小隊、予定ポイントへ砲撃開始。」

待機させた砲兵がついにうなりをあげ、またミサイルとグレネードが着地したばかりの少女へと殺到し、爆風を巻き上げた。



『アレは、ソウル・グラインダーだそうだ。詳しい話は後にする!そいつの口と剣に注意しろ!』
『分かった!』

念話を受け取ったユーノは瞬時に先ほどの状況と頼りない情報を元に敵戦力を計算する。
分かったといったのは、あちらが”取り込み中”だったからだ。
先ほど打ち込んだディバインシューターは通用しなかった。
咄嗟に張ったラウンドシールド1枚は役に立たなかった。
しかしながら防げないわけじゃない。
そして、ユーノはそのアタマの中でひとまずのタクティクスを練り、レイジングハートに送る。

[OK. Indeed, so sure?](了解。本当に、よろしいので?)
『問題ないよ。失敗しても……。』

ソウル・グラインダーの周囲を飛び回る二人。なのははユーノを追従し、ユーノは敵の"口"の出方を伺っていた。
そこへ、すかさずその得体の知れない生物から禍々しい機銃が聞きたくもない肉がちぎれる音をたてて生え、ユーノを向く。

「サークル・プロテクション!」
『傷つくのは僕だ。なのはには一瞬たりとも触れさせないよ。』

半球型の障壁がユーノの周囲に展開され、機銃より尋常ではない速度で放たれる禍々しい物質を弾き返す。
一つでも逃したらどうなるか、そのようなことを気にするときではない。
守るべきものを背負うなら、敗北は許されない。
ミッドチルダでは体験できるはずもない極限とも言える状況を乗り越えるべく、ユーノは自分自身を奮い立たせた。
奮い立たせたユーノは覚悟を決め、なのはに戦術を伝える。単純明快かつ危険が伴うモノを。

「なのはっ!簡単に言うよ。なのはの全力全開をあの化物に!」
「でも、そんな事をしたらユーノ君が!」

戦士ではないなのはでも、「全力全開」を行う前に何が起こるかは容易に分かるはずだ。
それはディバインバスターを放つまでのチャージ時間を、彼が微動だにせずに防ぎきるということだ。
強固な盾であるはずのラウンドシールドを貫通したその舌を、圧倒的な連射速度で叩き込まれる銃を、今だその力が判明していない剣を。
すべて防ぎきるとユーノはいう。

「僕は大丈夫。」

彼に恐怖や不安はないわけではない。
だが、闇雲に戦っても勝機は見えない。
ディバインシューターがそれほど効果をなさない相手であるのなら、一点集中で打ち抜くほかない。
捕縛などという悠長なことも言ってられない。そもそも通用しないだろう。

ともなれば、己を捨て少女の盾になる他無いのだ。

「なのはっ、いくよ!」
[Now,Cannon mode, setup.](現在キャノンモードに移行しています。)

なのはがディバイン・バスターを発射可能になるまで守り通す。
それがユーノ・スクワイアにとって今できることだ。
たとえどうなっても…だ。

[Warning!](警告!)

いとも簡単にラウンドシールドを貫通させた口の一撃を繰り出そうとするが、ルーカスのものだろうか、ソウル・グラインダーの後ろから何かが飛翔し、後部を吹き飛ばす。
これによって一瞬の動きが止まり、ユーノにおびただしい数のラウンド・シールドを構築させることに成功させることになる。
とは言え、ソウル・グラインダーは肉を飛び散らせ、よろめきながらも舌を発射した。

「"ラウンド・シールド"!」

"口"とユーノ、そしてなのはが繋がる一直線へとユーノは十数枚ものラウンドシールドを重ねて張り出す。
そのサイズも通常より少なくユーノがギリギリ収まる程度。
盾と盾の間には等間隔に隙間が開けられ、何段重ねにもなった重装備だ。

そして放たれた舌。次々と盾を破らんとする。
最後の3枚に差し掛かったとき、盾と舌は拮抗し、ユーノは腕を少々震わせながらも耐える。
ここからなのはがディバイン・バスターを発射可能にするまでの時間が彼にとっての正念場だ。

「ユーノ君っ、逃げて!」

なのはがユーノの身を案じて叫ぶ。
だが、ユーノはそれを聞くことをよしとせず残された魔力を次々とつぎ込む。
いや、そもそも追撃に機関銃で攻撃されていたのだから、聞くことすら許されない。
それはただ盾を強化するのではなく、ユーノが知りうる切り札を一つ切るためだった。
3枚目で拮抗するようにしたのもそのため、そして残り2枚の障壁の本当の意味は、舌から守る為ではない。
通常の魔道師ならしないであろう奇行を、何のためらいもなく行った。

「"バリア・バースト"!」

ユーノは自らのシールドを爆破し、その反動によって"舌"が押し戻される。
だが、この一連の動きでもう既にユーノにはあまり魔力がない。
次の攻撃が着たらユーノはその身を犠牲にするつもりでいた。
だが、そこまではしなくてもいいようだ。

[Cannon mode, setup. You can shoot "Divine buster".]
(キャノンモードに移行。ディバインバスター発射できます。)
「いくよっ、全力全開!"ディバインバスター!"」

なのはは自身の全力を振り絞った攻撃を、ユーノ越しに行う。
その桃色の光の奔流は禍々しいソウル・グラインダーへと真っ直ぐ向かったのだった。

両者ともに既に勝利の影はちらついているが、それがまだそうであるか両者ともに確実であるか確認はこの時点ではできなかった。


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