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[21061] 東方交差点 ※更新無し(お知らせ)
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/10/26 23:03


まず最初に。

引っ越し作業も終わりネットも繋がりましてこうしてまた戻らさせていただきましたが、誠に勝手ながらこの作品をいったん削除しようと思います。
その理由ですが、この空白期間の間にも話の続きを考え、ネットが繋がったら投稿しようと思っていたのですが、話を進めて行くうちに繋がりが薄くなってしまいました。
中途半端に続きを書いた後に手直しするよりも、いっそ区切りのいい所で直そうと考えましたので、いったん削除し、最初から作り直しもう一度投稿しようと思います。

続きを楽しみにしていただけていたのなら大変申し訳ありませんが、12月を目安に投稿できるよう、最初からを作り直しておりますので、楽しみにしていただけたら幸いです。
今度は全体的な話を考えてから投稿しようと思っております。

自分勝手ですが、よろしくお願いします。


削除は11月初めにやります。

では。





題名:ひがしかたこうさてん。 ではありません。東方projectの二次創作。オリ主、おおよそ最強物要素を含んでます。


この作品はイカのような成分が含まれています。  コラーゲンはありませんけど。

☆かわいいゆかりんが書きたかっただけだったんだよ!


よろしければどうぞ不明な点や、矛盾、間違いの指摘などをしてください。
作者の脳内補完している部分、思いこみで気がつかない部分があると思うので、指摘してくれると嬉しいです。
ふつうに楽しんでもらえるとそれも嬉しいです。



・更新の時間はおおむね夕方日が暮れてから。日付変わったあたりとか。

以上の異常に溢れ出る地雷臭を気にしない人、気にする人も、ぜひ読んでください。


―――――――――――――――――――――――――
修正記録

8/12
・一話と二話をくっつけることにしました。+若干の加筆、名称の変更など。

8/13
・二話を投稿。(↑の二話とは別の三話目ですよ)
・三話を投稿。

8/14
・一話、二話、三話、ところどころ読み直して若干修正。加筆とかは特にありません。微調整です。

8/15
・四話投稿。

8/16
・四話、細かいところを修正。なんかおかしいかな?と思ったところを直しました。

8/17
・五話投稿。+誤字修正。

8/18
・六話投稿。+誤字修正。+タイトル&まえがきを変更しました。

8/19
・閑話3.5話投稿。 +一話から二話へ次を表示するを押すと、表示しないエラーを修正。しかし別のところで発生。まいった。

8/20
・七話投稿。

8/21
・一部修正。 主人公の見た目に関する部分がさらにショタ化しました。13歳意外とデカい。

8/22
・八話投稿。
・七話、指摘があったであろう部分を修正。+タイトル変更

8/23
・九話投稿。

8/25
・違和感を感じた部分を修正。加筆あり。

8/26
・十話投稿。やっと二桁行きましたな。

8/27
・十一話投稿。チラ裏から出たらぼっこにされますわぁ……それもいいけど。
・ネタ資料集投稿。
・十話、十一話の会話文修正。削減。

8/29
・十二話投稿。

8/30
・十三話投稿。
・チラ裏からその他板へ移動。

8/31
・十四話
・ネタ設定集に人物追加。これからも新キャラ出たらそれなりに追加しまう。

9/2
・十五話投稿。

9/4
・十六話投稿。

9/6
・十七話投稿。

9/8
・十八話投稿。

9/13
・十九話投稿。 理想郷復活いやっほう!

9/18
・二十話(原始編最終話)投稿。

9/23
・閑話16.5話投稿。



[21061] 原始編 一話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/17 18:02
―――新しい関係を作りなさい。

 人間と、妖怪という新しい種の関係を―――





 深い森の中、とある開けた場所に一人の少年が立っている。
 その少年は黒い髪に黒い目。体にはお世辞にも綺麗とは言えないような、言ってしまえば薄汚い布をサラシやスカートのように巻きつけているだけであった。
 腕や肩などは素肌のままであり、靴も履いておらず、いったいどうやってこの森を歩いてきたのか非常に気になるところではある。
 加えて言えば腋も露出しており、おおよそこの場所には似合わない服装であることは間違いない。
 そんな少年がなぜこのような森にいるのか。この森は何の装備も持たずに入れば大の大人でも怪我、下手をすれば死に至ることだってある。
 しかし少年は分かっているのか、いないのか。ただ空を見上げているだけで、身動きの一つなくじっとしているだけだった。


 数分か、数時間か。変わらぬ静寂を保っていた空間に草や葉が擦れあう音が響く。その音に反応したのか、きょろきょろ
 と辺りを見まわし、音のした方向へ顔を向ける少年。その顔には焦りや恐怖などといった感情は一切映っておらず、
 代わりに、少年の瞳にはおおよそ現代社会ではお目にかかれないような獣―――巨大な狼の『ようなもの』が映っていた。





 「獣……か?」

 今まで考えていたことをいったん端に追いやり、目の前のモノへの対処を考える。
 現在目の前のモノは此方を見据え、涎をダラダラと行儀悪く垂らしている。
 目の前のモノの正式な名称など私には分からないが、灰色の毛並み、黒い目を持ち、明らかに私を狙っているであろうことが分かる。
 もしかして、奴は腹を空かせており食糧として私を見ているのか。
 そうだとしたら、あの私などよりも遥かに大きく、他の人間と比べてもなお小さいであろう我が身など一飲みにしてしまうであろう。
 そこまで考えて、あれは獣ではなく化獣、あるいは怪異と呼ばれている存在であることに気がつく。
 あの種族的特徴を持つ普通の獣ならば、あそこまで大きくはない。


 この地には人間、獣、そして神々や化獣(バケモノ)と呼ばれる存在がある。他にも草や木など自然と称されるものなどもあるが、
 それぞれの言葉や意味などは、主に神々から一部の人間へと伝わり、その人間から他の人間へと広まっていくことで人は言葉を覚えた。
 そして人間達は新たな言葉を作り、神々では考えるに値しないほどの存在にも名を与え、様々な概念を作り出してきた。
 そのうちの一つが怪異の存在である。

 神々から見れば、化獣など獣の一部にすぎない。あるいは逆か。どちらにせよ、その程度の存在でしかない。
 しかし人間にとってはそうではない。人間には感じるのだ。明確な『差』というものを。それは姿であったり、体の大きさであったり、
 知能であったり、そして霊的なものであったり。

 霊的なものとは、誰しもが持ちえるものであり、大小や感じ方の個人差などはあるが生物ならば誰もが持っている力の一つである。
 大抵の人間はその力を使うことはできないが、感じ取ることは出来る。
 化獣と称される存在は大抵が使うことができ、また、その程度も大きい。
 ある化獣は火を操り、ある化獣は風を操る。それは人間にとって大きな脅威でしかない。
 ただし、力があるからといって、絶対的な存在というわけではないのだが。
 斯く言う私は自身に力があり、またその力も大きいことを自覚できたりするのだが、この小さな身で何を成せるだろうか。
 あの大きい体が羨ましい。

 そこまで考え目の前のモノを見返す。いまだ奴は此方の出方を窺っているようで、後先考えずに襲う化獣では珍しい慎重さだ。
 しかしその眼には、私をいかにして食べるかということしか考えていないように思える。
 そんな眼で見られるというのはあまりいい気分ではない。もっとも、本当にそんなことを考えているかは分からないのだが。
 なんとも気の抜けることばかりを考えている私である。
 いけないいけない。
 とは言っても、この程度の存在に食べられるという気はないのだが。

 しびれを切らしたのか、それとも私の油断を見抜いたのか、襲いかかってくる目の前のモノ。
 大きな体と相まってなかなかの迫力だが、いかんせん感じられる力も、想いも、何もかもが私には届かない。
 先ほどから結構な時間考えていたが、もしかしたら私は人間ではないのかもしれない。
 迫ってくるモノを片手であしらいつつ、考えていたことを再び考え直す。

 化獣を空高く飛ばしたのを見届け、下を見る。そこには案の定私の体があり、神様や人間と思われる造形をした肉体がある。
 このような薄汚い身なりで神様とは思えないので、人間だとは思っていたのだが。
 化獣を脅威と感じられないので、もしかしたら神様なのかもしれない。少なくとも、ただの人間ではないだろう。
 思えばただの人間であったら、このような森に一人では来ないだろうし、
 そもそも何故ここに居るのか、自分の名や存在が分からない時点で普通ではなかったように思える。

 ようやく落ちてきたモノを受け止め、大木が倒れこんだかのような音を周囲に出しつつ、じっと奴の瞳を覗き込む。
 そこには困惑、未知のモノへの恐怖、この私を狙ってしまったことへの後悔などが読み取れる、ように思える。

「お前、何を恐れているんだ?
お前には、私が何に見えるんだ?」

 返事は弱々しくも低く、太い唸り声。もしかしたら威嚇しているのかもしれないし、ただ恐れているだけかもしれない。
 そもそも、化獣が恐れるモノなど一つだ。それは神々。
 ならば私は神だ、と思おうにも私は自身を神だとは思えないし、目の前のモノも神々だとは思っていないように見える。
 そう思わなかったからこそ、私を襲ったのだろうから。
 未知への恐怖……そのような言葉を思い浮かべた時、何かがはじけた様に私の頭の中を様々な情報が駆け巡った。そしてその中に

「妖……怪……」

 妖怪。それが私。なるほど、これ以上にないというくらい、しっくり来る。
 妖怪。よくわからないモノ。己の眼で見ることのできる獣や、化獣の『姿』ではない、霊的な、感じ取ることしかできないモノ。
 未知への恐怖とはよく言ったものだ。私は人間でも、神々でもない。ましてや獣でも化獣でもない。
 化獣よりもさらに怪異な存在。この地で初めての妖怪なのだから。
 人々の想いから、この大地が作り出した、よくわからないモノ。

 その原初たる私に与えられた役目は、人々を襲い、仲間を増やすこと。そして、強い人間を増やすこと。
 これが大地から与えられた私の役目であり、そしてこれから生まれ増えるであろう妖怪の役目でもある。
 何故人間を強くするのかは分からないが、子は親の言うことは聞くべきだと思う。
 かすかに感じる情報には、人間が世を広げる、らしい。世を広げるとはどのようなことなのか分からないが、
 人間が強くなれば大地をも動かすということなのかもしれない。もしかしたら、海と呼ばれる大量のしょっぱい水を消す役割が人間にはあるのかも……
 いや、人間の役目を考える必要はない。
 私はただ、仲間を増やせばいいのだから。そうだ、ならば手始めに。


「お前の命はここで『終わる』
そして『始まる』のだ、妖怪として、私の仲間として」

 化獣を変化させることから始めよう。始まりの妖怪として与えられた力、『始まりと終わり』を司る能力を持つこの私が
 化獣を妖怪として生まれ変わらせるのだ。そうやって仲間を増やそう。
 ふふ……始めようじゃないか。妖怪の時代を! まずは集落一つを攻め落としてみようか。
 ……その前にはまず、身なりを整えなければならない。せっかく攻め入るのだ。妖怪は不潔、だなんて噂を立てられでもしたらたまったものではない。
 妖怪は強く、妖しく、恐ろしく、そして美しい存在なのだ。人間や獣とは、訳が違う。
 妖怪、見た目が大事。誰もこんなことを言ったことは無いだろうから、私が言う。身なりは綺麗にしたい。
 体を綺麗にする情報も我が母上だか、父上だかである大地からきちんと頂いている。私は事前に準備をする妖怪なのだ。

 大量の『水』に体を入れ、きちんと体を擦る。そうすることによって『水』に汚れが流れるという、まったく新しい、素晴らしいものである。
 これを水浴びと言い、今度仲間になる妖怪に、きまぐれに人々にも教えてみてもいいだろう。たぶん、喜ぶであろうから。
 さて、水はどこにあるのだろうか? とりあえず私は水を探すことにする。

「おっと、その前に目の前のことから処理しなければ。
まずはお前を妖怪にする。それが私の役目だし、お前は私に負けたのだから、従え」

 力を使い、願う。目の前のモノを化獣としての生を終わらせ、妖怪として始まれ、と。力の使い方は感覚で分かる。
 多分ではあるが、合っているはずであり、失敗してもそれを糧に、次を成功させればいいだけのこと。う、む。これで……?

「成功……なのだろうか。」

 変化した化獣は、人間のような姿をしたモノとなった。
 今は目を閉じていて瞳の色は分からないが、髪は灰色、人間とは決定的に違う尻尾と耳を持っている。
 化獣の名残があるが、もしかして妖怪には皆ついているのだろうか。だとしたら私も確認しなければ。
 あと私よりも大きな体を持っている。妖怪は私のように小さい身だと思ったのだが、そうでもなかったらしい。
 体には私と同じように薄汚い布を胸や腰に巻いており、なぜか胸が不自然に膨らんでいる。

 でもそれより尻尾。……うむ。ないな。化獣の名残が出るのか。これならば特徴があり、何となくだが元が分かりやすい。こいつの場合は狼か犬か。
 この調子で化獣共を妖怪に変え、数を増やし、人間を襲うことが出来れば、私の役目も終わりといったところか。
 あとは勝手に生まれ、増えるだろうから。数はどの程度必要なのだろう。四つか、九つか、それともいっぱいか、たくさんか。
 大地の声は聞こえないが自分で考えろということなのだろう。元々与えられた情報以外は聞こえないのだが、気分の問題である。
 とりあえずだが、人間はいっぱい居るから、いっぱいを目指してみることにする。さて、そうと決まればどこに向かって進もうか。
 どこに何が住んでいるかなど分からないのだが……いや、先に水浴びをするから水を探すのか。

「おい、起きろ、お前。起きなければ叩くぞ」

 元化獣現妖怪の頭を叩く。そういえばこいつの名称も考えなければ。妖怪、では私と被る。

「あ……ぐ」

「起きたか」

 どうやら起きたらしい。手や足を芋虫のようにうねらせ、動こうとしているが、肝心の目が開いていない。まだ寝ているのか。

「ぐげっ」

 もっと叩いてみることにする。妖怪になっても行儀悪く涎を垂らしているからいけないのだ。

「な、なにをす……?……」
「起きたか」

 私の声に反応したのか、きょろきょろと周りを見回したあとに私の方向を見る。
 その顔には困惑といった感情が映っており、その黒い瞳には私の顔と思われるものが映りこんでいる。
 この光景に何故か既視感を覚えるが、それは無視する。

「分かるか」

 何が、とは言わない。

「わかるか、とは? いや。わから、ない。なに、が、どうなって、いる。」

 言葉や知識は私が妖怪化させたことによって、若干ではあるが受け継いでいるはずだが、言葉づかいが拙いのは慣れていないからか。
 それらに関してはこの妖怪が覚えればいいだけの話であり、元々化獣として生き延びてきたのだ。それなりの知恵はあるだろう。

「お前は私に負け、妖怪となった。そして、私の仲間となったのだ」
「ようか、い?……それは、いや、それ、よりもなか、ま、とは」

 そこか。

「仲間とは、そのままの意味だ。私とお前は、妖怪という、同じ種族の仲間だ」

 こいつにしてみれば突然のことすぎて対処しきれていない、か。

「そうか。そう、だな。よろしくたのむ」

 意外にもあっさりと受け入れたので、私たち妖怪の役目、仲間を増やさなければならないことを簡単に話し、まずは体を綺麗にすることから始めることを伝える。
 始めよう、綺麗な私。終わりましょう、汚い私。あぁ、ついでにお前もな。
 私たちは水があるところを求めて進むのだ。体を綺麗にするという、今まで成したことのないことへの挑戦なのだ。

「では、行くか。
それで、お前の名称は? 名前を付けなければ面倒だ。
どうせお前に、名前などないだろうが」

「からだをきれい、に、とはよくわからん、が。
名前、か。たしかに、名前、などないが、なにかもんだい、でも、あるの、か」

 ……もしかしたら妖怪化とは、すごく面倒なことなのかもしれない。
 しかし、それが私の役目なのだ。これは誇るべき、私の役目。
 それでも、生まれたばかりの私に仲間意識はあれど、他の妖怪との付き合い方はよく分かりはしない。
 どのように付き合えばいいのかなど分からないが、とりあえずどちらが上かをはっきりさせておけば問題ないのだと思われる。

「面倒だと言ったはずだ。この世の様々なモノには名前がある。
以前のお前も、人間達に何かしらの名で呼ばれていたはずだ。」

 さて、名前を考えねば。元を考えると、灰色妖怪とかいいかもしれない。
 私が名前を付けることによって、私との上下関係を理解させてやるのだ。ならばカッコイイ名前をつけてやらねば。
 灰色妖怪、犬妖怪、さてどれにするか。

「なるほ、ど。では奥理、と。これが、いい」

 どうやら先を越されてしまったらしい。しかし焦ることはない。争いでは私が勝っているのだから、それでも十分なはずだ。
 なるほど。オクリ、か。できれば灰色妖怪と名付けたかったが、まぁいい。
 付けたかったな、名前。

「分かった。では奥理、とっとと行こう」
「そのまえ、に、おまえの、名前は」

 そういえば私は名乗っていなかった。ならばその大きな耳を立ててよく聞くがよい。この小さな身を大きく張って言ってやる。

「私の名か。いいだろう、教えてやる。
私は――――――始まりの妖怪だ」
「……」
「……」
「え?それだけ?」
「え?」
「なにそれ名前じゃない」

 今度は私の名前を付けることになったようである。駄目だったのだろうか。始まりの妖怪。『の』がいけないのだろうか?
 ならば始まり妖怪でも……







―――――――――――――――――――――
あとがき
感想を見て一話と二話をくっつけることに。
いろいろとためになる感想ありがとうございます。

破錠しないように祈るばかり。



[21061] 原始編 二話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/17 18:02

 険しい森の道を少年と女性が歩いている。
 二人の身なりは碌に整備されていない森を歩くには到底向いていないであろう、布。
 それはお世辞にも服と呼べないようなものである。
 もっとも、人々は獣から皮を剥ぎ、それを加工して体に巻きつけている程度なので、布を使用していること自体が希少なのだが。
 それに気がつく者はこの場に誰ひとりとして居なかった。

 少年たちが素足のままで獣道を歩くこと数時間、何かを思いついたかのように少年が顔を上げる。
 どうやら自分の思いつきを女性に聞いてもらっているようで、その光景自体は微笑ましいものだ。
 ただし、この光景は少年たちが歩きだしてから八回目のことであり、少年は不機嫌ですと顔に書いたように頬を膨らませ、
 それを見た女性は恐ろしいものを見たかのように怯えている。見た目ではなく、身に纏う空気が恐ろしいのである。

「いい加減、私の名前も認めてもいいと思うのだが。
私は奥理の名前をすぐに認めたぞ? 何故認めてくれんのだ」

「私は思ったことを、言ってい、ます。
あなたの、それは、名前ではない、かと」

 少年は偉そうに、女性はたどたどしくもしっかりとした意志を持って発言し、このやり取りも数回目である。
 仲が良いのか悪いのか判断に困るところであるが、出会った当初は捕食する者とされる者という関係だったことを考えると、ずいぶんと仲は良くなっている。
 もとい、上下関係が出来上がっている。
 片方は適当にあしらい、片方は捕食するはずだった存在にこっぴどくやられ、争いにすらなっていない状態だったのだ。二人の間にこれといった疑問は無かった。
 子供は自分が正しいと思うものだし、犬は、強い者に従うのだ。


 先ほどと同じようなやり取りをさらに数回繰り返し、女性も怯えるのに疲れたといったある種境地に達しかけたその時、少年達の前に小さな湖が見えてきた。
 池、というにはさすがに大きい程度はある。森の木に囲まれ、開けた場所にある小さな湖。
 背の高い木からはちらちらと光が零れ、風が吹くたびに表情を変えながらも、太陽の暖かさをやさしく受け止めている水面。
 その水面には緑の葉が浮かんでおり、他にも少し大きめの岩があり、その下には小さな魚が静かに暮らしているようだ。

 幻想的

 そんな、ここに絵師が居たのなら思わず「うっ」と写生してしまいたくなるような光景。


「なら、次は……む。大きな水たまりが見えたぞ。
とりあえず、私の名前は後で決めるとしよう」
「そうだ、な。それと、私たちを見ている人間が、居るようで、す」
「―――なるほど。今度は人間を襲ってみるのもいいかもしれない。場所と数は分かるか?」
「あの水たまりの、奥の方から、匂いが、し、ます。
数は、わからない。すまない」

 そこに現れたのは先ほどから不機嫌オーラを漂わせた少年と、何かをあきらめた顔をした女性である。
 大きな水たまりと称されてしまった湖は、しかし腹を立てることもなく彼らを静かに受け入れた。だがが、その周りに居た者達はそうではなかったようだ。

 少年の要望に答えきれなかった女性は、己の非力さに耳と尻尾を垂れ下げて、それを見た少年は構わないと少年は呟き慰める。
 170cmはあろうかという女性を、その胸元にも届かないだろう少年が慰めるというのも奇妙な光景に思えるが、実はこの二人、妖怪なのである。
 彼らは人間ではなく、見た目と年齢は必ずしも一致するものではないのだ。
 女性は年齢も、見た目も二十歳ほどなのだが、少年に関しては十歳前後程度の見た目であり、実際に生きた年数は一日に満たない。
 つまり、彼は生まれたばかりの存在なのだ。
 ……余計におかしくなったと思うのは気のせいなので、気にしないでほしい。

「そこのお前ら、出てこい。さもなければ……何かするぞ」
「―――!」

 少年は一瞬悩んだかのように見えたが、何のことはない。何者かが出てこなかったときのことを考えていなかったのだ。
 言動などが偉そうな少年も、所詮生まれたばかりの存在。彼は、彼を生み出した存在から与えられた知識によって割と博識なのだが、
 知っているだけでは何かを成すというのは難しいのである。


 少年の言葉を受け、これ以上隠れていても仕方がないと理解したのか水場から四人の人間が出てくる。
 そのうち二人は棒の先に尖った石を括りつけた武器、所謂『槍』を持っており、もう二人は葉で作った籠や先ほどの『槍』よりも小さな小槍を持ち、
 警戒した様子で少年たちを見ている。

 その視線は、人とは明らかに違う異型の象徴。つまり犬耳と尻尾を持つ人型の女性へ視線を向けているが、
 当然その奇妙な存在と一緒にいる少年を無視するという愚は起こさず、槍を女性と少年それぞれに突きつける。
 籠を持った人間は、いつでも走りだせるようにしている。

「ごきげんよう、人間ども。私たちの存在が気になるだろう?
今まで見たことのない、未知な存在が怖いだろう?

教えてやるよ人間。私たちは『妖怪』だ。

人間が恐れる化獣よりも、さらに妖しい存在。
お前たち人間では理解できない存在。――――――それが、私たち『妖怪』だ」

 少年は嬉しそうに、まさしく演説するかのように人間達へ言う。恐怖こそが私だと。私たちこそが妖怪だと。
 人間達の反応は困惑。それはそうだろう。突然理解できない存在に、理解できない言葉を投げつけられたのだから。
 ただ、これだけは分かっていた。目の前のモノ達は化獣よりも遥かに怖い化け物だ、と。それが、今この場に居る人間達の共通意識であった。
 今、この瞬間を持って。妖怪が人間に『恐れられることによって』真に、妖怪はこの世界に産声をあげた。







 名乗りとは、なんと心地の良いものか。しかし残念なことに、私には名乗るべき名前がまだない。
 それもこれも、奥理が私の名前を認めないのが悪いのだ。それにしても、どうやって人間達を襲おうか。
 殺すにしても、見逃すにしても、どちらにしろ恐怖を味あわせつつ、数人生き延びさせなければならない。
 なぜなら人々の恐怖こそが私たち妖怪を生み出すのだから。
 恐怖を持ち続けて貰わなければ困るのである。死人に口なしとはよく言ったものだ。死人は、何も言わない。何も想わない。
 まずは私たちを知ってもらい、それを広めてもらわなければ話にもならない。恐ろしい存在がいる、と。その名は『妖怪』だ、と。

「奥理。私たちは奴らを襲うが、最低でも二人は生き延びさせろ。それ以上殺すなよ」

「な、ぜ?」

「私たちは、妖怪という存在を知ってもらわなければならない。
未知なるモノが居ると、化獣でも人間でもない、さらに恐ろしい存在がいると。
だからこそ、必要だ。私たちを広める存在が」
「なるほ、ど」

 なんだろうか。奥理が此方をじっと見てくる。ここは私にまかせろ、とでも言うつもりなのだろうか。
 確かに、見た目は人間に近い、というよりもほとんど人間である私よりも、異型な存在である奥理の方が適任なのかもしれない。
 よし、とりあえずまかせたぞ。

 そんな返事をしてみたら私の予想は当たっていたのか、尻尾をぶんぶんと振りつつも、獣の咆哮を張り上げて人間たちに突っ込んでいった。
 前も思ったが、正面から突っ込み過ぎなのではないだろうか。そんなことではこれからの時代を生きて行けない気がする。
 そんな私の思いを吹き飛ばすようにして飛んでいく『槍』と『人間』。どうやら正面からでも人間ごときにはやられないようだ。

「ぐはっ……」
「っ……」
「い、命だけは、た、助けてくれ!」
「ひっ」

 奥理によって倒された人間に私が近づいただけでこれである。
 どうやら奥理の突撃は無駄ではなかったようで、槍ごとへし折りながらの体当たりは人間の心もへし折っていたようだ。
 確かに、武器に頼る人間ならば、武器を正面から破壊するのは効果的かもしれない。こんど私もやってみよう。
 人間の強さは知恵と、武器を巧みに扱う技術だ。それを奪えば人間など、獣にすら劣る存在なのである。
 まぁ、何事にも例外というべきものは存在するので、油断することは出来ないのだが。

「奥理、二人までなら食べてもいいぞ」
「いい、のです、か?」

 頷いて返事をする。どうせ私は直接食べなくても、この人間達が恐怖を抱いている間は、腹が膨れ続けるのだから。
 奥理の捕食が始まると同時に人間達の恐怖が高まった。あぁ、実に充実感がある。奥理もこれを食べればいいのに。
 元が化獣だから、難しいかもしれないが。これからはその所を良く知っていかなければならないだろう。

 いまだに一人目を食べ終わらないので、ぎゃーぎゃーという人間の悲鳴を聞きつつ残った人間に話しかけることにする。
 どうも錯乱していてまともに話せそうにないが、私には関係のないことである。要するに、黙らせればいいのだ。

「黙れ」

 重く、包み込むように霊的なもの(これを私は霊力と名付けようと思う)を人間どもにぶつける。案の定、黙った。
 残った人間は三人。どうやら、奥理は一人しか食べなかったようである。

「どうした、奥理。あと一人食べてもよかったのだが」
「いえ、腹が膨れました。なぜか、それほど食べずとも腹が膨れます。これが、恐怖を食べるということでしょうか」

 なんだろう、奥理は随分と饒舌になっている。恐怖を味わうことによって妖怪として能力でも上がったのか。
 詳しくは分からないが、そういうものなのだろう。結果が分かればそれでいい。私は結果を求める妖怪なのだ。

「お前たち、見逃してやる。あいつは満腹になったらしいから」

 そう言うと、此方の様子を覗いながらも、一人二人と逃げ出して行った。そうか、『あちらの方向に人が住んでいるのか』。
 逃げて行った人間を見て一つ気がつく。どうやら逃げ出した人間は二人で、一人残っているらしい。
 何故、逃げないのか。殺されるとは考えていないのだろうか、よく分からないが逃げ出していないことは確かである。

「何故逃げない。お前、逃げないのならば……たーべちゃーうぞー!」

 両腕を掲げ、爪を強調する。少々動きにも凄みも加え、カッコつけて言ってみた。自分でもカッコよく言えたと思う。なんとも威厳溢れる私である。
 しかし私も運がいい。今は相手が座っているので威圧しつつ見下せるが、この人間は、私とあまり体格差はないようである。
 立っていたら見下せないところであった。他の人間も、奥理ほど大きいということはなかったが。それでも私よりも頭一つ
 分は大きかった。それよりも、何故こいつは逃げないのだろう。霊力をさらに込めてみる。

「ひが……う、うわあああああああぁぁぁぁアアアアアアア!!!」
「ぐえ」

 ―――――何が、起きた? いつの間にか空を見上げていた。どうやら寝転がっているらしい。
 歩き始めた頃には藍色だった空は、橙色に変化していた。そのうち紫色も見ることができそうだ。
 立ち上がろうにも、足の力が抜けていてすぐには立ち上がれない。これが、腰が抜けた、とでもいう状態なのだろうか。
 首を傾け原因であろう人間を見る。すると奥理に首を千切られていた。一体何があったのだろう。奥理は腹が膨れたと言っていたが。

「どうした? 何があった?」
「分かりません。ですが、人間から大きな力が出ました。ですから、殺しました。すみません」

 またしてもしょんぼりした奥理を慰めつつ、先ほどの現象について考える。
 うーむ。奥理は、力が出たと言った。つまり霊力のことなのだろうが、こいつは先ほどまでただの人間だったはずだ。
 いや、私から逃げなかったから力を隠していた可能性もある。
 体に傷は無いが私の体を押したのだ。それなりに強い力を持っていた。
 もしかしたら、自身の力に自信を持っていたので逃げなかったのかもしれない。それならば私から逃げずに居座っていたのにも理由が付く。

 それとは別に、これが大地の言っていた人間を強くするということなのだろうか? だとしたら、妖怪の数は四つや九つでは足りない。
 人間全員があの力を出せるようになるとしたら、私たち妖怪がたくさん居ないと逆に狩られてしまい、危ないかもしれない。
 人間を強くする役割を持った私たちが、逆に人間にやられてしまっては笑い話にもならない。人間は、ただの食事でしかないのだから。

 しかし、そんな危険以上に、強い人間がこうも出てくるとは。なんとも魅力的な話である。
 これからもたびたび人間にちょっかいを出すことにしよう。
 戦いは、妖怪の花道だ。
 そんなことは野生の獣達では出来ないだろう。なんせ、ほんの少しの怪我が即命にかかわるのだから。
 妖怪はそんなことを考えなくともいい。
 私たちは強いのだ。私たちが、頂点に立つのだから。私が、いつか導いてやる。


 さて。死んだ人間は放っておいて、さっそく水に入るとしよう。おおよそ人間が住んでいる方向は分かったし、やはり体は綺麗にせねばなるまい。
 その後に、人間達を襲ってみるか。
 最初に襲う人間の群れは、一体どのような感じだろうか。美味しいのだろうか。愉しめるだろうか。
 せいぜい、全滅はさせないように気をつけておくか。
.
.
.
.


.
.
.


「水に入るぞ。体を綺麗にするのだ」
「わかりました。どうすればいいのですか?」
「とりあえず、水に入ればいいだろう。私の真似をしろ」
「わかりました」


少年水浴中……


「そういえば、その胸の膨らみは何だ。私にはないぞ? 私はぺったんこだ」
「これですか。これは、雌の特徴です。雄と雌では体つきに違いがあります。
あなたは雄なので、ありませんよ。一応他にも、雄と雌の違いはありますが。言わなくてもいいでしょう」
「ほう、妖怪にはそんな特徴があるのか。新たな発見だな」
「いえ、人間にも獣にも、神々にもありますが。だれでも知っていますよ?」
「なん……だと……?」



【大地に性別はありません】








―――――――――――――――――――――

あとがき

まだまだ世界観作りといっても過言ではない段階ですが、今主人公がいる時代は大分昔です。
どれくらい昔かというと、ギガゾンビとかがいるくらい昔です。作者もよくわからないです。
私からしたら、そんな昔に言語があったのかすら分かりませんので、ここでは神様が人間に言葉を授けたとしています。
ですから、本来この時代にはこんなものはないぞ。という物があっても、神様の仕業です。頭ひねりながら違和感がないようにしたいです。

ゆかりんのパパを作ろうとしただけでなぜこんな昔からの話を書いているのか。
あぁ、ゆかりんがばb



[21061] 原始編 三話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/01 05:27
ここはとある人間達の集落。その中心。
そこでは最近現れた新しい種族、『妖怪』について話し合う、所謂会議が行われていた。


「皆のものも知っていると思うが、最近『妖怪』と名乗る者たちが現れたようじゃ。
奴らは化獣のような力を持ち、さらに我々人間の姿を模しているといわれておる。
何より恐ろしいのは妖怪を従えている黒髪の妖怪じゃ。
今より妖怪への対策をとるための話し合いをしたいと思う。
妖怪の目撃を、誰かしたものはおらんか?」

 長老と思わしき人物が辺りを見回す。彼自身、直接妖怪と出会ったことがあるからこそ分かる。こうして対策を立てなければ
 簡単に人間は殺されてしまう。だからこそ、長老は集落の人間達から情報を集め、これ以上の犠牲者を出さないために
 も、近づいてはならないモノを特定したいと考えているのだ。


 近づいてはならないモノ。つまり、倒すわけでもなく、ただ放置し、自分たちは安全な場所に逃げようということである。
 彼自身は、戦う術を持たなかった訳ではない。人類全体で見ても希少な霊力を扱える人間であり、且つ神々から直接知恵
 を授かったこともあるほどだ。そんな彼だからこそ、妖怪と対峙して尚生きていられた。


「私は、大きな角を持ったヒトを見たわ。遠目で見たけど、きっと妖怪だわ。」
「俺が見た奴は羽を持ってた!そして、奴!弟を空へ持ってって突き落としやがった!」
「うちの旦那もやられたよ……変な色の髪をした、狼みたいな耳と尻尾を持ったでかい女さ……」
「私の息子が黒い髪のやつにやられたわ!手で頭をつかんで……そうしたら、息子がどんどん骨になっていったのよ……う、うぅ……」

「うちのは!―――」
「こっちも!―――」
「――!――!」


 被害は、多い。


 長老は目撃情報を纏めつつ、周りを鎮めながらも、始めて妖怪に出会った五日前の日を思い出していた……





 その日、彼は隣にある集落へ向かうことになっていた。昨夜隣の集落から遣いの者が来たことが原因だ。遣いの者が言うには、
 六日前、つまり今から七日前に妖怪と名乗る者たちによって殺しが行われ、次の日、その次の日も妖怪による被害が増えていた。
 これ以上の被害の拡大を恐れた隣の集落の民たちは、賢人である彼の力を借りようと遣いを出すことに決めたらしい。

 他にも、妖怪とは人の形をした人ならざる者、人間の姿をした化獣という、長年生きた彼にもよくわからない情報であったが、
 遣いの者がよほど切羽詰まっていたので、新たな化獣が出てきたのかとあたりを付けていた。
 彼は遣いの者に隣の集落へは彼と彼の弟子の一人が行くことを伝え、遣いの者を休ませ旅の準備をするのだった。

 隣といっても彼の集落から二日かかる距離だ。それなりの準備は必要である。当然、夜間は危険なので移動することは
 できないが、丁度間にある洞窟で寝泊まりできるおかげで、大がかりな準備を必要とせず、少人数での行動が可能と
 なっていた。水と食料、武器と少々の薬草を人数分用意したあと、彼も休み、夜が明けるのを待っていた。


 旅は順調であった。予定通りの時間に洞窟へつき、荷をおろし一休みをして食事をとっていた。いつもなら、一緒にいる者と
 少々の雑談をして眠りに付くはずであったが、洞窟の奥に奇妙な気配を感じ取ってしまった。感じ取ったのは勘、としか言いようがない。
 長老は昔、名をはせた戦士であった。強く、賢く。たった一人で化獣にすら勝つほど力を持っていたが、歳には勝つことが出来なかった。
 しかし、まだまだ若い者には負けることはなく、時間に制限を付ければ彼に勝てる人間など居はしなかった。
 そんな彼が、洞窟の奥に不穏な気配を感じとったのだ。遣いの者と弟子に声をかけた後、自ら先頭に立ち洞窟の奥へと進む彼。


 そこで見た景色は、一生忘れることはできないだろう。なぜならば、ヒトがヒトをタベテイルノダカラ……



 彼はがむしゃらであった。ヒトに襲われたと思ったら、気が付いた時には遣いの者も、弟子も、軽くではあるが怪我を負っていた。命に別状がなさそうなのが幸いである。
 彼自身にも大きな傷は無かったが、足元には血だまりがあった。覚えのない傷でも負ってしまったのかと、目を凝らして体を見ようとすると、
 視界の端に引っ掛かる違和感。目を、向ける。そこには、なぜ気が付かなかったのかと思えるほどにすぐそばにあった、ヒトの死体。

 何故?

 彼自身、人間を殺したことがない訳ではない。いついかなる時代にも悪人は居るし、弱いものを襲う者もいる。
 逆に守る者も存在し、それが彼だっただけの話。

 しかし彼が動揺しているのは、ただ殺したからではない。自身に、覚えがないからだ。今まで殺した悪人は、自らが責任を持って、命を絶った。
 守るべき存在を胸に、同じ人間同士で争う悲しさを胸に、いつだって意味を持たせてきたのだ。死んでいった者達のことを忘れないために。
 しかし、どうだ。この有様は。


 彼は、この日初めて、自分が殺した者の顔も声も想いも何も知らないまま、相手を殺したのだった。




 殺した存在が妖怪だと知ったのは次の日の朝だった。あの後は遣いも、弟子も、彼でさえ、傷の手当てをした後、疲労ですぐに眠ってしまった。
 本来ならば、相手を弔おうとする善人な三人である。すぐに食べられていた人間を土に埋め、次に殺した相手を弔おうとしたとき、
 彼らは見慣れぬ羽を見つけた。すなわち、殺した相手の背中にある、翼を。
 幸か不幸か、遣いには心当たりがあり、最近襲ってきた妖怪と特徴が一致していることから、彼らは殺した相手が妖怪だと判断したのだった。


 彼は恐怖した。人間の姿を持った妖怪に。あそこまで似ているとは思わなかったのだ。暗かった、というのもあるだろう。
 しかし、それだけではない。化獣独特の、あの雰囲気。それがない。むしろ、人間が持つ雰囲気の方が近い。
 そして、その強さ。

 記憶がなくとも、いや、記憶する余裕すらなかったからこそ、恐ろしい相手だということが分かる。妖怪とは、皆このような存在なのか。
 それとも、今出会ったモノが特別なのか?そんな疑念を胸に旅を再開させた彼の心には、小さく、されど深い闇を残していったのだった。

 彼は、自らの集落へ戻ったとき、妖怪への警戒を呼び掛けなければと考えていた。









 初めて妖怪として名乗りを上げ、水浴びをしてから早九日と三日。はて、九の次の数字はなんだっただろうか。
 百?十?どっちかなのは覚えているが。百二日、十二日、どちらだろうか。千と万は無いだろう。こいつらは大きい数字だったから。
 あの日から各地をめぐり、途中出会った化獣を妖怪に変え、人間を襲わせるということを繰り返し過ごしていった。
 そんなことをしている内に、ようやく私の能力の使い方も様になってきたようで、人間程度ならば
 強制的に寿命を『終わらせる』ことが出来るようになったのだ。掴まなければ、できないのだが。

 他に変わったことと言えば、いつも横に着いて来て、私に指示を仰いでいた奥理が一人狩りをするようになったのだ。
 遠くに居る人間を見つけ、襲い、食べるか見逃すかをしているようだ。わざわざ私が指示を出さなくとも、
 きちんと妖怪としての役割を果たせているのはうれしい限りである。人間を捕まえてきて、私のところに持ってくるのは
 反応に困るのでそろそろやめて欲しいのだが。ついでに今は、奥理の狩りを眺めている最中である。


 そんな奥理であるが、最近感じられる力が大きくなったように思える。どうも私のように異能を有するようになったらしいのだ。
 異能。それは化獣がたびたび持っている力である。ある化獣は火を操り、またある化獣は風を操る。すべてがすべて、異能を
 持っている訳ではないが、変わった現象を起こせるモノは総じて力が強かった。異能を持たない化獣でも霊力の塊を相手
 にぶつけ、動きを止めてから狩りをすることができる。これが獣と化獣の大きな差であり、故に、化獣は他を恐れず、人間・獣・植物
 あらゆるモノを食糧とし、化獣を糧とするものは化獣しか居なかった。このままではいずれ化獣が増えすぎて、他の存在が
 減ってしまうので、やはり人間のみを食べる妖怪を作り出す必要がある。

 話を戻すとしよう。奥理は異能を手に入れた。その異能は『離れた相手でも襲うことができる』という異能。霊力が塊となって、奥理の
 動きを先行するようだ。例えば、奥理が離れた相手を踏みつけようとする。この場合、霊力が先行して、奥理の形を模倣した
 霊力が相手を踏みつける。その間に、奥理自身が近づき、実際に踏みつける。この一連の流れに取り込まれた人間は、逃げること
 は叶わないであろう。私でも、突然やられれば気が付くことはできないだろうから、吃驚すると思う。

 狩りを終え、戻ってきた奥理に前々から気にしていること話しかけるとする。私は正直な妖怪なのだ。

「なあ奥理。お前、いつまで私に付いてくるのだ」
「それは……」

「……まあ、別に構わないのだが」

 真剣に悩みだしそうな気がしたので、先手を打っておく。奥理は考えてから口に出すまでの時間が長いので、そんなこと
 に時間を割くくらいならば私の名前の一つでも考えたいところだ。

「そうだ、次の名前の提案なのだが、『ハジ』なんてどうだろうか。
お前が却下してきた名前を考えるに、妖怪、と付いておらずに、短ければいいのだろう?
始まりの妖怪のハジ、どうだ。文句の出しようもあるまい」
「ハジ、ですか。ようやく名前っぽくなりましたね。あなたの名付け感覚には涙が出そうでした」
「なんだと」

 奥理もなんだかなまいきになってきたようだが、別に気にしないことにする。私は度量の大きい妖怪なのだ。

「ふむ。では私の名前が決まった記念に、異能にも名前を付けてみるか。私たちは妖怪なのだから、化獣のようなただ使うだけ
の存在ではない。もっと知的に、扱っている感じを出していかなければ」
「異能に、名前……ですか。例えばどんな?」
「しばし待て」

 とは言ってみたが、大地からの情報にある私の異能の内容は、『始まりと終わりの地点を操作する』といった具合である。
 始まりと終わりを操作する。実は詳細が良く分からないのだが、この異能は始まりの妖怪である私にこそふさわしいのであろう。
 この異能では、始まりと終わりの境界など分からないが、物の端(始まり)と端(終わり)を見ることはできるし、
 両端まで距離を変え、重ねたりする程度のことはできる。過程には干渉できないが、結果を持ってくることはできるのだ。

 出発点と終着点と操り、森羅万象を我がものとするには、私の理解力がまだ足りない。現状、祈っているだけであり、抽象的、
 概念的なことは操れないのだ。目に見える、それこそ人間の死(終着点)のような物でなければ、私はまだ操れない。
 とりあえず、そのまま始まれ、終われ、と祈り使っているのだが、この異能は考え方次第で大きく変わりそうだというのが正直なところだ。
 まずは分かりやすい、離れた相手でも襲える異能を持っている奥理の能力の名前を考えるか。そのままでもいい気がしてきたが。

「奥理、お前の異能を言ってみろ」
「はい。私は離れている相手を襲うことができます。私の思った通りに襲えますが、襲うこと以外はできませんし、
 自分の体でやろうとすることと変わりがないので、私が出来る以上のことはできません」
「そうなのか?もっと便利な異能かと思っていたが、その程度だったか」
「その程度……はい、その、程度です」

 ふむ。襲う以外はできない。自分が出来る以上のことはできない、と。つまり、人間を襲う程度しか出来ないのか。
 奥理は、そこまで強くはないし。

「そう耳を垂れ下げるな。どうせ奥理は人間を襲う事しか出来ないのだから。
そうだ。お前の異能は『人間を襲う程度の異能』、いや、この際『能力』、と名付けてみようではないか」
「人間を襲う程度の、能力、ですか。たしかに、それくらいしか出来ませんが……」
「なんだ、不満か」
「いえ。その通りなのですが、程度、と付くのが」

 なんだ。そんなところが不満なのか。確かに程度と付けられれば、軽んじられているように感じられるのだろう。
 今まで異能を持たなかった奥理が初めて手にした異能だ。誇りたい気持ちもあったのだろう。
 だが実際に、私から見ればその程度でしかないし……

 ここは程度と付けることによって、謙虚さを出すことが出来るとでも言っておけばいいだろうか。我が物顔で偉ぶるだけの
 化獣とは違い、広い心を持っているように見えるかもしれないので、悪いことばかりではないだろう。ただ怠慢なだけではない。
 私は謙虚さも持っている妖怪なのだ。

「ふむ。では私の能力にも『程度』と付けてみるか。妖怪は皆偉ぶっていると思われるのもどうかと思うからな」
「そういえば、ハジの能力は一体どんなものなのですか」
「私か。私の能力は……」

 なんと言うべきか。始まりと終わりの地点を操作する程度の能力?まだそうだと言えるほど、私は能力を使いこなしていない。
 なにより、長い。もっと短いのがいい。
 ならば……

「そうだな。私の能力は端を操る程度の能力。物事の端を操るだけの能力だ。
将来的には目に見えないモノも操りたいとは思っているが」
「端を操る程度の能力、ですか。あなたにしては、まともな名前ですね。
どんな能力かは分かりませんが」
「うるさいな。それと能力は見せてやる」

 うまく能力を使うには、感覚ではなく、理屈で使えるようにならなければなるまい。その為には能力を使うたくさんの経験が必要だ。
 たくさん使う。それが一番の近道だろう。とりあえず、千年くらい専念すれば、分かるかもしれない。
 さて今日は、どこへ行こうか。人間の集落はまだ一つしか見つけてないし、それ以外を探すのもいいかもしれないな。
 前の集落は水場の近くにあったから、他のも案外そうなのかもしれない。










「奥理、見ていろ。能力練習の手始めに今から湖に行くぞ」

「? はぁ。」

「いいか。ここは草原だが、ここはあの湖だ。そうだ、そう思い込め。

移動は既に、「始まり』そして『終わっている』。そう、思い込め」

 ハジ は のうりょくの つかいかたを すこし りかい した!

 もくてきち を あやつれるように なった!











――――――――――――――――――

あとがき

早くも書き溜めが終了するため更新が遅くなるかもしれません。
いろいろと試してみるので、ご勘弁を。
手始めに私はプロットの意味を調べてきました。やばいです。

能力についてはこじ付けです。
一応作中で語った気にはなっているんですけど、結構穴がありますよね。思い込みって怖いです。

なぜ始まりの妖怪と言っているのに、終わりもつけたし。と謎に思われた方も多いかもしれません。
一応、作者は始まりと終わりは一緒に無くてはならない物。という考えを持っているので、纏めて付けました。
あくまでも作者の考えなので、作中で明確に表現するのは避けました。考え方の一つとして受け取っていただければ幸いです。

本音は強そうだから。

次、時間進めます。結構跳ぶよ?



[21061] 原始編 閑話 3.5話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/23 07:49
 とある森のとある湖。
 そんなとある場所でとある少年がとある行為をしていた。

「うっ……ふあぁっ……!」

 少年は目を細め、ピンと、つま先から背筋までを仰け反らした。
 少し顔を歪めているが、不快そうではない。むしろ、満足そうな顔をしている。
 春先に、土から新たな命が芽生え、蕾からにっこりと花を咲かせるような。そんな、充実した表情。
 そうして、聞こえてくる音。

 ピチャリ……ピチャリ……

 液体が落ちる音。
 どうやら、彼から滴り押しているようだ。当の少年はすっきりしたような顔をしており、かすかに頬を赤くさせている。
 そんな彼に話しかける女性が居た。
 女性の名はツキ。少年、ハジの手によって、角を持った化獣から変化した妖怪である。
 彼女は力という部分に大きな関心を抱いており、自分よりも強い、若い雄が好みだった。

「ふぅ……やっぱり、気持ちいい……かな」

「なんだ、やっと終わったのかい? 待ちくたびれちゃったじゃないか」
「ん?……戻ってきたのか。というか、見ていたのか」

 ツキは見ていた。ニヤニヤと。目の前の少年がしていたことを。
 出来れば、自分も一緒に混ざりたいなんて考えていた。だが、そうするとずれた方向にプライドの高い彼のことだ。
 自分に気がつき次第、カッコよくない行為など見せられないと言って、やめてしまうだろう。だから、彼女は今回、『それ』が終わるまで見ていることにしたのだ。

 ただし、ハジは見せられないと思うだけで、見せないようにする努力はしない。せいぜい、見た奴が真似しなければいいな、程度だ。
 加えて、その無防備な姿を晒す時、彼は辺りを警戒しない。単に、『今』見られてないと『思えば』今回の『それ』のような行為をしたりする。
 少しくらいいいだろ、と

 実際に、彼は『それ』を行う前、彼女と会話をしていた。そのあと、彼女は彼の頼みで水を汲むことができる
 大きな葉を探しに、一旦席を離れた。彼の元を離れていた時間はそれほど多くはない。だが、彼女が戻ってきたときには、
 彼は『それ』をしており、彼女を驚かせていた。そして、その頬を緩ませていた。

「それで、気持ちよかったかい? 『それ』」
「ああ。なかなか有意義なものであった。
あと、あんまり見せる物ではない、な」

 言外に、お前ずっと見ていたな?と言うハジ。しかし、ツキはそんな彼の扱いには慣れているのか、あたしもそう思うよ、とずっと見ていたことを含ませた肯定の意思を返す。
 ハジは、そんな返事を予想していたのか、特に気にする様子もなかった。彼らは、それなりに長い付き合いなのだ。

「それにしても、この葉っぱはどうするんだい? もう、『それ』で終らせちまったみたいだし」
「そうだな。確かに必要なくなったが、ちゃんとこれも使うとしよう。
なに。何度やっても気持ちいいのだ。ツキ、お前もするか?」
「んー、そうだね。でも、その前に、だ。先にあたしと、しておくれよ。その後になら、いいかな」

「そうだな。先に、そちらをやるか」

 そもそも、彼女は最初からそのつもりで彼の元へ来ていたのだ。だが、予想外に時間がとられてしまった。
 その分、激しくしてもらわないとね、などとちょっぴりアブナイことを考えるツキ。

「それじゃ、最初からとばしていくよ!」
「ああ、いつでも来い」

 そう言い、彼女は彼に襲いかかる。走るたびに揺れる女の象徴を惜しげもなく見せつけながら、彼の肩に手をかける。
 まず、彼女の狙いは彼を地面に押し倒すこと。押し倒した後は馬乗りになり、そうして、激しく攻撃するのだ。
 彼はどう反撃するかと悩んだが、別にこいつの思惑にも乗ってもいいかな、なんて思ったりしていた。だが下半身の一部が勝手に反応してしまった。

 彼の動きを瞬時に察知する彼女。
 彼女は身を屈め、彼の腰辺りに顔を持っていく。彼の足を縦に大きく広げており、一瞬前まで彼女の顔があった位置を
 蹴りぬいていた。正確には、こめかみがあった部分に、つま先が当たるようにしていた。
 身長差があったこともあり、彼の足は地面から直線だ。

 ツキにとって、今の攻撃を避けられたのは大きい。足を開いている間は金的を狙え、頭突きをすればすぐにでも当てられる。
 しかし、自身の額には角があり、流石にそれは刺さってしまうと憚られたため、そのまま、唯一彼の体を支えている片足を掴み、引く。
 彼を転ばせることが出来れば、彼女の最初の作戦を実行する確率は格段に跳ね上がる。期待を込めて足を引っ張ったのだが、彼も負けてはいなかった。
 足を取られたとみるや否や、自ら体の重心をずらし、転ぶ方向を操作する。冷静に、転んだ先の地面に片手を『突き刺し』、
 片腕で体を支えながらもう一方の腕で彼女の膝へ手刀を繰り出す。
 流石にこの反撃は予想していなかったのか、彼女は体制を崩し、彼の足を手放してしまう。

 そうしてしまえばあとは一方的だった。元々、彼と彼女の力量差は計り知れないほど離れている。
 片やぽっと出の妖怪、片や全ての妖怪の頂点に立つ妖怪である。いくら、彼女に才能、素養があったとしても、絶対強者として
 君臨する彼には敵わなかった。彼女は一介の化獣として生まれ、彼は大地から一つの種族の頂点となるべく
 生み出された存在なのだ。土台が違った。

 体制を崩した彼女に待っていたのは、激しい連撃。膝をやられ、体を下げてしまったのが悪かったのか、彼は片手立ちの
 姿勢のまま彼女の胸を蹴り上げ、浮かせる。次は、上から。
 彼は目視で能力を使い、一瞬にして彼女の背後へ移動。持ちあがった体の背中を掴み、地面へ叩きつけ、押さえる。
 二度にわたる胸への衝撃は、彼女の肺から空気を吐き出させていった。
 流石のツキも苦しくなってきたのだが、そこで諦めはしなかった。

 なんとか体を捻り、背中を押さえる彼の手を掴む。ハジは感心した様に息を吐くが、それを見る余裕は彼女にはない。
 いつもの陽気な顔を、鬼気迫る表情へと変え、自身の自慢である豪力を振い、彼を振り回そうとする。
 いくら強いと言っても、彼の体は小さく、軽い。そのか細い腕は、彼女にしてみれば片手で折れてしまいそうなほどに弱々しく
 見えるのだが、全力で掴んでも何ら問題は無い。彼は持ちあげられてしまえば踏ん張ることが出来ないので、
 持ちあがってしまえば、彼女の良いように振り回れるだけだ。そして彼女は地面に倒れている状態。自然、彼は地面に叩きつけられる。

 普通ならば、彼女の力で叩きつけられでもしたら原形も留めないのだが、彼は一味も二味も違った。
 彼は地面に叩きつけられる直前、彼女の腕を掴み返した。そして、叩きつけられた衝撃を利用し、逆に、彼女の体を持ちあげ、宙に浮かせたのだ。
 しかし宙に浮かせたまでは良かったのだが、うっかりその手を離してしまい、先ほど叩きつけられた衝撃で舞った砂埃
 のせいで彼女を見失ってしまった。彼は音をたてずにすばやく起き上がり、自然体のまま立っていた。

 行動を起こさず、砂埃が収まるのを待つことにしたが、次の瞬間真上から影が迫る。ハジは飛来した物から身を守るため、
 腕を十字にさせて身を守ろうとした。だが、飛来してきた物がツキであると気が付き、反撃のために防御を緩めた。
 しかし、彼がいざ反撃をしようと意気込んだはいいが、次に彼女に意識がないことに気が付く。

 そうして彼女を受け止めようとし、すでに三動作を刹那の時間に行うという無駄に高い能力を出していた。
 だが、直前に彼女の意識が戻る。彼女の意識が飛んでいたのは、宙に浮いてからのほんの数秒。
 瞬時に状況を理解し、目の前の彼に攻撃を加えよう手を突き出そうとしたが、距離が近すぎた。
 彼女が意識を取り戻し、攻撃に移ることをまたしても瞬時に見抜き、反撃に移ろうと彼女の手を掴もうとしたのだが、

 今度こそ、流石に間に合わなかった。

 結果。

 彼と彼女はお互いの手を取り合い、頭同士をぶつけ合ったのだった。

 さらに、彼の額は彼女の立派な角で勢いよく突かれ、たたらを踏んだ彼はそのまま後ろに倒れ込む。
 後頭部を強打し、その衝撃に吃驚していた彼を待っていたのは、上から落ちてくる彼女。彼女自身も唖然としており、そのまま彼へと跳び込む。
 お互い中途半端に受け身を取ろうとしたため、彼を潰すようなことは無かったのだが、
 少年を押し倒し、抱きついている美女の図の出来上がってしまったのであった。





 彼らは、先ほどの戦闘の評価もそこそこに、湖の畔へ行きおもむろに服を脱ぎだした。彼ら妖怪は、その時代には珍しい、布を体に巻きつけていた。
 少年は、肩ほどまであるサラリとした髪をなびかせながら、サラシのように胸に巻いた布をくるくると巻き取る。
 まだ幼い、つやのある肌をさらに見せつけ、腰に巻いて結んだ布をほどき、一糸纏わぬ姿となった。

 女性の方も、腰まで届くかという長い黒髪を風に揺らし、胸の谷間付近にある布の結び目をほどいた。
 拘束から抜けだし、重力に逆らいながら上を向こうとする二つのそれを、ぷるるんと揺らさせながら腰へと手を伸ばす。
 彼女の動きに反応し揺れる二つのそれを、彼女は煩わしく思ったか、二の腕で両側から挟み、押さえながらも、腰の横で結った部分をするりとほどき、パサリと布を地面に落とす。
 ひらりと舞う、白い布。こうして、少年も、女性も。恥ずかしがることもなく、スルスルと、自らの体を露わにした。
 最近、ハジは、服を着ないでした方が、都合が良いのでは? と気がついた結果であった。

 次に、彼らは採ってきた大きな葉を使い、水を掬い、お互いの体へかけあった。
 ハジの華奢で、白い肌を持った体に水がかけられ、さらに潤いを持った肌は光を反射させている。
 ツキの体にも水がかけられたが、その自己主張の激しい部位は水をせき止め、水の動きを阻害していた。
 その分多くの水を彼女にかけたハジは、自分もいっぱい水をかけてもらいたい。不公平だ、とツキに要求し、彼女を苦笑させていた。

 水のかけ合いを終え、湖へと入る二人。ハジは、湖に入るとさっそく、深い所まで行き、足が地面に付かないところで浮かび始める。
 それをみたツキも、そこへと近づくのだが、ハジとツキ、どちらを悲しめばいいか。彼女の肩と胸上は水面に出ている。
 そういえば、と。目の前の光景を見て、彼女は思い出したように質問をする。

「そういえば、あたしが戻ってきたときにやっていたアレ、やらないのか?」
「あとでやる。

……お前がいなければ」

 彼女の言う『アレ』とは、彼が気持ちよさそうにやっていた行為のことである。
 彼の気持ちよさそうな顔をみて、自分もやってみたいと興味を抱いたのだ。出来れば、彼を抱きながらやってみたい、とも。

「まあ、そう言わないでさ。今度は一緒にやってみようよ。アレ」
「……、……まあ、別に構わないが」

 彼は数瞬悩んだ様子を見せて、肯定する返事を出す。
 それなりの付き合いを持っている相手ならば、見られても特に問題はないようだ。

「いよし。そうと決まれば早速やろうか。まだ、出来る?」
「出来る。暇だしな」
「そうかいそうかい。なら、しようか」

 そう言いながらハジの手を引く彼女。彼女は今よりも浅い所、彼の足の届くところまで引いて行った。

「それにしても、大きな欠伸だったねえ。アレ」
「そうだな。実に、気持ちのいい伸びだった」

 彼女自身も体の力を抜き、浮力に身を任せる。
 ハジは既に浮きながら、瞼を閉じている。

「水に浮かびながら昼寝をするなんて、ハジも変わったことをするね。
というか、途中沈んでいたけど。それでよく起きなかったね」
「強いからな」

 会話をしつつ、さりげなくハジの手を引き、手元へ引きつける彼女。肩が、触れ合う。
 彼は既にまどろんでいるのか、それとも素なのか、微妙に会話が成り立っていない。

「そりゃあ、確かにハジは強いけどね。
それにしても、どうしてあたしが葉っぱを持ってくるのを待たずに入ったんだい。しかも、寝てたし。
それに、服を着たまま入っちゃってさ」
「暇だったし、待てなかったし、面倒だった」
「あ、そう」

 最初は、彼の下へ戦いの相手をして欲しいと、彼女が来たことが始まりだった。しかし、ハジは最近嵌った『水の中で昼寝』を
 したく、妥協案として彼女と流しっこしようという、なんともかわいげのある提案をしていたのだった。結局、勝手に昼寝をし始めていたのだが。

 現在はお互いが水に浮かんでいる状態。流れは無く、あったとしても小さなものなので、どこかに流されることはない。
 水に漂いながら、彼女はじわじわと、ハジとの距離を、さらに詰める。

「たまには、こういうのもいいね。今度、奥理とも一緒にやりたいな」
「……」
「ハジ?」
「……」
「寝た、か」

 攻撃を受けても、ちょっと吃驚したなどと的外れな感想を抱くハジである。基本的に鈍いので、少々触れたところで起きはしないのだ。
 彼女の企みに成功の兆しが見える。

「ハジ? ハージー?

……よしっ」

 とうとう、彼女は引きよせていた手を離し、彼の体へと腕を回す。
 水中ハジ枕の誕生である。特に意味は無い。

「やっぱり、強くて若い雄はいいねえ。妖怪としては、私の親、なんだけどね。
年下の親……なんだか変な感じだ」

 ハジとツキ。お互い、黒い髪を水に広げ、白い肌をその太陽の下惜しげもなく晒していた。その姿は親子のようにも見える。
 ハジを抱き枕とした彼女は、いつか越え、自分のものにしてやると大きな野望を胸に秘め、眠るのであった。









「……」
「うーん……ハジぃ……もう一戦……」
「……」
「あぶ、あぶぶぶぶぶぶっぶ」
「鬱陶しい」
「ぷはっ!ちょ、なにするあだっ!」
「叩くぞ?」
「いたたたた、叩いてから言わないで!というか今あたしを沈めたかい!?」
「死にはせんだろ」
「ちょっ」


 妖怪の、ほのぼのとした日常の一コマ。









――――――――――――――――

あとがき

閑話です。3.5話です。三話と四話の間ですね。だいたい、3話から5000年と±5000年の範囲の話です。

今回の話。
戦闘シーンを初めて書いてみました。想像した物を言葉にするのは難しいと言いますが、これほどとは。
今回は、とりあえず文章を先行させてシーンを考えてみましたが。戦いの流れなんて素人の私にはわかりません。いずれ流れるような弾幕戦を書きたいなぁ。
動きを現すのならば、カメラワークに気を使えば、見やすく、読みやすいシーンになるでしょうか。

今までは状況の説明の文章。この話では、場面の、映像を映す文章。
人の動きとか、表情とか、何気ないしぐさとか。そういうのを現すのって死ぬほどむずい。
絵ならどうかって話だけど、逆に漫画とかは、絵だけで全てを出そうとすると、それも難しいと思う。
アニメとかだと、台詞と効果音とかがありますね。無音で何を表現できるでしょうか。音だけだったら?
考えてみると、いろんな物に頼っているんですね。

こういう発見はいいですね。実際にSSを書いてみなければ分からない難しさでした。

おばあちゃんは言っていた。
どれから投稿するか悩んだら、先に出来たほうを上げていけ、と。



[21061] 原始編 四話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/01 05:27
 妖怪が生まれてからちょうど万の時が経った。


 時が経てば時代も変わる物で、化獣の天下はなりを潜め、代わりに妖怪が我が物顔で過ごしていた。
 妖怪は着々と数を増やし、その勢力を広げていった。

 全てを餌としてしか見なかった化獣は、より少ない食糧で生きることの出来る妖怪へと変化していき、始まりの妖怪『ハジ』の力を
 受けずとも人々の恐怖から新たに生まれ変わっていった。あるモノは自ら望み、またあるモノは自然に。
 他にも、妖怪と妖怪の間に生まれた子供妖怪も居れば、純粋に人々の想いや恐怖から生まれた妖怪も居る。
 例えば、闇を恐れる心から生まれた妖怪のような。



 妖怪は、強い。少なくとも化獣と同等以上の力を有していたものが、ここ最近では加速度的に増え続けている。
 加えて、種族とも言えるような、群れの纏まりが出来ていた。狼から生まれた者、鳥から生まれた者、角を持ち、特に力が強い者など。
 これらは妖怪全体として見れば少数であるが、群れをなし多数で人間を襲うこともあるため、群れの存在は人間に大きく知れ渡っていた。


 時が経ち一番大きな変化があったのは人間だろう。
 彼らは妖怪に襲われることで、最初の頃こそ絶望に包まれていたが、しだいに戦う術を身につけていった。
 それは武器であったり、知恵であったり、霊力であったり。稀に、神々から助言を貰うこともあった。

 妖怪から隠れる術は、獣から身を隠し、狩りをすることにも使えた。飢餓が減った。
 妖怪に立ち向かう強さは、化獣や大型の獣に襲われても追い返すことが以前に比べ容易となった。怪我が減った。
 人間が妖怪に対して感謝をすることは決して無かったが、彼らは身近に居てくれた神に感謝した。




 妖怪の登場が、この地のあらゆる生物に影響を与えた。それは神々とて例外ではない。


 妖怪の登場前、神々は天上に住み、人間を見下すだけであった。めったに地上に降りることは無ければ、人間に対しても友好的でもない。
 人間は弱く、学がない。獣達と違い、なまじ同じ姿をしていただけに、なぜこんな弱い奴らが我々と同じ姿なのかと、多少の嫌悪も混ざっていただろう。

 しかし、まれに強い人間もいた。
 弱い人間と語ることなど何もなかったが、強さを持った人間には知識を授けた。最低限の賢さを持って貰おうと。
 いずれは自らの仲間へと迎え入れようとして。

 それが、神々にとって予想外の出来事を引き起こした。
 知識を授けた人間が、他の人間にもその知識を教え始めたのだ。そこは別に構わなかった。与えた知識で何をしようが
 神々にとってはさしたる問題はなかったのだから。

 そしてしばらくすると、賢くないと思っていた人間たちが、与えられた知識をもとに新たな知恵を生み出した。
 知恵を元に知識を広げ、広げた知識を元にまた新たな知恵を生み出す。神々は目を疑った。人間とは、こんなにも賢い存在
 だったのか、と。大勢の人間がその英知を吸収していき、別の人間へ教え、教わった人間もまた別の人間へと広める。
 最後に人間は神々の予想を遥かに上回り、ついにはその頭脳を認めさせた。
 それ以来神々は、時たま地上に降りては、力ある人間に知恵を授けるといったことを繰り返していた。

 相変わらず、力のない人間には何もしなかったのだが。
 力こそが全て。それが、この地における意志ある者の共通の意識であった。


 そして妖怪が登場してから数千年。さして興味を抱かなかった神々も、人間の成長ぶりには驚いていた。
 人間は、弱い。しかし、その弱さは過去の弱さと同一の物か?
 違う。確実に、種全体が強く、いや、強かになっている。
 持ちうる力自体は対して変わらないだろう。それでも、外敵から身を守る確実性は格段に上がっていた

 人間が出来ることは遥かに増えていた。

 そんな人間を見た神々は、これは面白い、と、人間に若干の好意を覚えていた。
 同時に、この現象を引き起こした妖怪への興味も。



 そして時間は戻る。



 ある日、一人の神が地上へと降りた。助言のためではない。地上に、住むためだ。彼は神々の中でも特に若く、
 妖怪の登場とほぼ同時期に生まれた存在だ。好奇心旺盛な彼は、だんだん強くなってく人間と、それを狙う妖怪
 のことが気になって仕方がなかった。どうしても近くで見たい。
 天上や、神という枠にさしたる想い入れもない。
 ならば地上へ移り住もう。そう思っての行動であった。


 彼は人間が暮らしている場所を転々とし、困っている者が居れば助けたりもしていた。人間に感謝されるのも悪くない
 と思った彼は、いくつかの集落を治めてみることにした。そうして暮らしていくうちに、彼は、自身の力が大きくなっていることに気が付いたのだ。
 神は本来、生まれた時から力の大きさが変わることは無い。彼は天上に居た頃、周りと比べ力が弱かった。
 だからこそ、半ば逃げ出すようにして地上へ降りてきたのだというのに。

 その力が上がっている。

 しばらくの間、原因について悩んでいたが、ある日気が付いた。人間から力を貰っていると。
 しかし、全ての人間からではない。自分が治めている集落の人間からだ。

 後に信仰と呼ばれるそれは、彼の気をも大きくさせた。

 もし、この力をさらに得ることが出来れば、自分は全ての神を超えることが出来るのではないか、と。そう思わせてしまったのだ。
 今の自分ならば、中の上程度の力はある。この短期間でそれだけの力が手に入るとは。ならば、他の人間からもっと集めたら?
 幸い、このことに気が付いている者は彼ただ一人。一人ではあまり多くの集落を治められないと思った彼は、
 自らの力を分け、分身を作り、各地の集落へ散らばらせ命令を与えた。
 与えた命令はこうだ。

 人間を守る代わりに、祈りをささげさせろ、と。

 分身たちは集落へ行き、人間に祈りを捧げるように言った。代わりに、神である自分が守ることを約束すると。人間達は
 戦う術を持ったと言っても、女子供は戦えず、絶対ではない。故に、祈りを捧げるだけで身の安全が保証されるというのならば、断る理由は、有りはしなかった。





 彼にとっての不幸はただ一つ。

 たしかに、彼は信仰を得ることで、彼と彼の分身たちは力を増した。それこそ、最上の力と言ってもいいほどに。

 しかし、信仰とは、人間の願いの塊。彼らが信じ、仰ぐもの。彼らの、求めたものなのである。

 あらゆる願いを力とした存在が、願いに影響されないと言えるだろうか?

 答えは、否。

 人々の求めるものは千差万別。いかに神であろうと、信仰を力とした神だからこそ、その願いに影響される。

 彼と彼の分身は、彼ら以外の、別の存在に変化した。

 人間が思い描いた、神様という存在に。


 そしてしばらく時は経ち。
 人間は時が進むと共に、あらゆるものに祈りを捧げることを習慣とするようになったようだ。
 その頃から、地上には神様と呼ばれる存在が少しずつ増えていった。人々の想いを受け、信仰の対象として。
 それはまるで、人間の恐怖から生まれ増えていく妖怪のように。









 最近、神が人間を直接守っている。このような事態は長年生きた私でさえ、ましてや、私を生み出した存在でさえ
 も始めてみることなのではないだろうか。
 過去、何度か神を見たことがあるが、そんなことをする者など一人としていなかった。一番最近に出会ったのは二千年ほど前だろうか。




 そのとき、神は人間と話をしていた。
 目の前で人間を喰われたらどう反応するのだろうと興味を抱いた私は、人間を襲ってみることにし、草陰から一気に
 距離を詰める。霊力を当て、倒れ伏した人間に覆いかぶさるようにし、突進の勢いを利用した蹴りを神へと繰り出す。

 思った通り、神は防ぎきれるはずもなく、飛んで行ったが、それだけだった。どうやら自ら後ろに跳び、衝撃を和らげたらしい。
 器用な真似をすると思いつつ足元の人間を見る。どうやら、この人間は大きめの霊力を持っているようである。
 この人間を食べたら私はさらに強くなれるだろうか? 神はただ此方を見ているだけで何も行動を起こさないようだ。
 反応が薄いと思いつつも、何もしないのならば、と食べることにした。もぐもぐ。おっと、口のはじから血が零れた。
 いけないいけない。上品に食べないと示しがつかない。

「お前は、妖怪か」
「ん?」

 食べ終えると同時に話しかけられる。

「お前は、妖怪なのかと聞いている」

 この神は何を聞きたいのだろうか。そんなもの、見れば分かるだろう。
 人間が、目の前で喰われたから怒っているということはないだろう。神は人間にそこまで友好的ではなかったはずだから。

「そうだが。何を聞きたいのだ」
「ふむ。お前は、なかなか強いようだな。妖怪は皆お前のように強いのか?」

 私の強さに興味を持っただけ?いや、恐らく違う。妖怪という種自体に興味を持っているのかもしれない。
 しかし、この聞き方。先ほどの攻撃を脅威とは感じなかったらしい。ならば、こいつの実力はそれなりに高い。
 ……嘘を言っても仕方がないか。思ったことを言う。それが私

「いいや、私は特別強いぞ。なんせこれでも長を務めているからな。群れの中で、特別強い者が務める役目だ。
一番長生きしているし、な」

 それを聞いた神は、目を細めてこちらを見る。なんだろうか、あの目は。私を見下し、私の力を勝手に測るとでも
 言うのか? 冗談ではない。私は誇り高き妖怪だ。

「なんだ、その目は。言いたいことがあったら口に出して言え」
「いやなに、特別強いというお前が、その程度の存在でよかった。そう思っていたところだよ」
「なんだと?」

 何を言い出すかと思えば。この私に対して、『その程度』だと?
 いいだろう、その『程度』がどれほど恐ろしいかその身に味あわせてやろうじゃあないか。

「ところで、随分私のことを見下しているようだが、お前は強いのか?
強くもない存在に見下されるほど、私は低い存在ではない」

 言って、今度は私が神を見下す。この高い身長と相まって、私の威圧感はなかなかあるらしい。
 仲間の妖怪も正面から睨まれるのはごめんだと言っていた。

「気分を悪くしたのなら、すまないね。なにぶん、『事実』を言っているだけなのだから。

――――― 先日、一人の妖怪によって神が殺された。その神は、我々の中でも上位の力を持った存在だ。
妖怪も、無事では済まなかったようだが、それでも上位の神を殺したのだ。その妖怪を始末しなくてはならない。
少なくとも、お前など、『その程度』の枠に収まる存在だ。もっとも、先ほどの力がお前の一割にも満たないというのなら、話は別だが」

「私よりも強い妖怪?――――なるほどな」

 なるほど。こいつがその程度というのも納得というものだ。

「おや、知っているのか。ならば、そいつのことを教えてくれないかね。
そうすれば、お前は見逃してやろう」

「私を見逃すと言えるほど、お前は強いのかな? 私の勘では、少なくとも殺された神よりも弱いと思うが?
それに、どうせお前如きにあの方は倒せない」

「確かに、私はあの方よりも弱い。しかし、奴は今手負いのはず。私でも十分に殺せるさ」

「なら私がそれを止めるとしよう。私の大切な方を狙うと言うのだ。私の敵になるには十分すぎる」

 そう、十分すぎる。お前はすでに、私の能力『人間と敵を襲う程度の能力』に捕らわれているのだから。

「勝てると思っているのか?」

「倒せると思っているのか? それに、おそらくお前が狙っているであろうあの方は、確かに大きな怪我をしていたが、
今は完治している。ふふっ、私が舐めて差し上げたおかげだな」

舐めようとしたら、頭を叩かれたけど。いたかった。いやなに、あの方は照れ屋なだけだ。多分。

「完治だと? そんな馬鹿な話があるか。まあいい。お前を殺して別の者に聞くとしよう」

「できるものならな。

――――――妖怪:送り犬が長、奥理が相手をしてやる。光栄に思え。妖怪の中でも2番目に強いぞ。多分な」

「ふん、妖怪風情がよく吠える。弱い犬ほどとはよくいったものだ」

「ほざけ」

 これ以上の言葉は不要。ここは、より強い者が生き残る世界。強い者こそが正しいのだ。




 あの時は大変であった。戦う前に食事をせず、腹が減っていた状態ならば負けていた。予想通りに強かった。あの神。
 しかし、予想通りでしかなかった。私は勝てない戦いに挑むほど愚かではない。ハジのような存在と戦うのなら全力で逃げる。
 野生の時代ならば、傷つく危険性があるだけで逃げ出していたのだが。妖怪となってからは、随分と図太くなったようだ。
 まあ、あの程度でハジを殺すなどできようもないから、放っておいても問題は無かっただろう。
 私ですら傷を付けるだけで精一杯だというのに。あの神では、例えハジが傷ついた状態だとしても勝てないだろう。もちろん私だって勝てないが。

 それにしても、真の戦いはその後だったな。治療をしようと住処へ戻ったら、ハジに会えただなんて。むふふ。
 傷を舐めてくれとせがんだが、ハジは私のために能力を使い、傷を治してくれたのだ。加えて私の頭を荒々しくもべしべしと撫でてくれた。
 叩いているようにも思えたが、あれは撫でてくれていたのだ。多分。そう思えばうれしい物である。
 ハジが能力を使ったせいで、傷を舐めてはくれなかったけど。ちくせう。


 とまあ、神への印象としては、人間に対して特別な行動を起こすとは到底思えない、ということだ。
 人間を直接守るようなら、あのとき目の前で喰おうとした時点で止めるだろうし、それ以前に出会った神も同じようなものである。
 ならば、現れた神は例外として考えるのが自然。しかし、例外な存在が同時期に複数も現れるものだろうか?

 しかし、人間を守る神か。時代は変わったのかもしれない。
 妖怪が生まれ、人間は強くなった。人間が強くなり、妖怪も数と種類を増やしていった。そこに、今までにない行動を起こす神。
 変わる。いつから存在するかもわからない神ですら変わるのだ。これからは人間も、妖怪も大きく変わるのかもしれない。
 きっと、これからも変わり続けるのだろう。その変わるものの中に、私と……ハジも入っているだろうか。
 ハジは、変わらない。あの小さな躯体も、あのちょっと抜けている性格も。その強さも、変わらないように思える。
 それでも、時間と共に強くなっていく私たちが追いつけないのは純粋にすごいと思う。

 私は、変わった。
 ただ正面から襲うことしかできなくて、臆病で、仲間外れにされ続けていた化獣時代。
 おいしそうな人間を見つけたと思ったら、やられ、妖怪にされてしまった。そのあと、妖怪として、私を仲間として迎えてくれたハジ。
 うれしかった。ハジにとっては私など自分の配下に過ぎなかっただろうが、私にとっては違った。私は初めて仲間と言われたのだ。
 その後、人間を襲い、恐怖を食べた。複数の人間をきちんと狩れたのは、実はあの時が初めてだった。
 他にも、たくさんのことをした。たくさんのことを学んだ。

 でもたくさんのことを経験している間に、妖怪自体が変わってしまったように思える。
 変わることが悪いとは思わない。むしろ、同じ存在で居続けるのは停滞でしかない。進歩がない、とも言える。
 それが、良い方向でも悪い方向でも変わるべきだと私は思う。昔、それをハジに言ってみると

「始まりの妖怪たるこの私は、始まりであり続けなければならないのだ。

皆が原点を思い出せるように、私は私の役目が終わるまで、始まりの妖怪であり続けるのだ。

どうだ。かっこいだろ、奥理」

「小さくてかわいらしいですよ」
「なんだと」

 今いる妖怪は、ハジが変化させた妖怪だけではない。人々の想い、恐怖から生まれた、恐れられるべき存在としての妖怪。
 つまり、人が生み出した妖怪なのだ。彼らは。人の想像を元としているので、人間のみならず、時として妖怪すら襲い、食べる。

 妖怪は人間『のみ』を襲い、食べる者。それがハジの言っていた妖怪であり、ハジが変化させた者は基本的に守っている。
 しかし、今彼に生み出され、生き残っている者は圧倒的に少ない。
 その中にも、本音を言えば、人間以外を食べてみたいと思っている者も居るだろう。だが、皆ハジのことを実の親のように想っているのだ、
 わざわざ親を悲しませようとする奴は、この中には居ない。
 私ですら、群れの縄張りを守るために、他の獣や妖怪を襲うことがある。人間を襲う際に近くに居たものに攻撃を仕掛けたこともある。

 最後の意地として、人間以外食べはしないのだが、やはり最初の妖怪の定義から外れてしまっているだろう。
 たまに見る、ハジの寂しそうなあの瞳。遠くを見るような、過去を思い出しているような、瞳。
 そんなハジを見るたびに、私の胸は締め付けられるように、鼓動が速くなってしまうのだ。ハジと共に悲しんでいるのではない……



 抱きしめたいなハジ!


















「おい、奥理」
「だきs!?……なんでしょうか、ハジ」
「? 人間を守る神について分かった。奴ら、私たちと同じように、人間の想いから生まれたようだ」
「私たちのように、ですか。 恐怖ですか?」
「いや、むしろ逆、信頼、安心のような感じがした。もしかしたら神は、人間の想いを受けて強くなるのかもしれない。
人間を守っていた神と会ったが、変わった奴だったな。妖怪から人間を守ることを存在意義としているらしい。
以前あった神とは大違いだ。」
「それにしても、想いから生まれた神ですか。天上の神とは違うのですか?」
「恐らく、違うだろう。奴らは人間の数は増えれば増えるほど強くなるようだ。妖怪と同じように考えて良いと思う。
そう大地が私に囁くのだ。良くも悪くも、人間に影響される、とな。」
「なるほど。では、これからそのような神が増えるかもしれませんね。
それにしてもこんな短時間で調べてくるなんてハジすごいですね」
「それほどでもない」








―――――――――――――――――――

あとがき

これを書いていて思うこと→これオリジナルでよくね?あとタイトル考えないと駄目なんじゃね?。
タイトルね。現代編一話で東方○○○、開始。みたいなサブタイにしたかったけど、全然進まないです。挫けません、書くまでは。
でもタイトルは思いつきません。候補はあるけど、今そのタイトルにするとイミフ過ぎてなんたらかんたら。

初めてのハジ以外の視点。皆さんいつ頃から気がついたでしょうか。
今回の話は、今でいうところの、神様が生まれましたよというお話。
はやくゆかりん出てこい。チルノかわいいよチルノ。


万単位時間飛ばすとか暴挙に出てみました。そうしないと時間が進まないんですもん。

一応時間設定はあります。
必要ないと思いますけど。フィーリングで感じとってください。



[21061] 原始編 五話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/01 05:28
 ある日、一人の神様は思う。
 多くの信仰を得るためにはどうすればいいか。各地を転々としていては人間の守りが疎かになる。
 だからと言って、一つ二つの集落を治めているだけでは人数にも限りがあり、これでは力が上がらない。
 天然の洞窟や、大岩で周りを囲み安全の確保をしている人間。彼らはその住居故に決して大人数で暮らしているとは言えない。

 まだ生まれて間もない『彼女』は思った。
 自身の持つ、大地を操る力をうまく使えば、大人数の人間を一つの場所に纏められるのではないか、と。
 一か所に多くの人間が暮らせないのは、その集落の『大きさ』が足りないからだ。洞窟にしろ、岩で囲むにしろ、
 人間の持つ技術では大きく形を変えることは出来ない。
 こぶし大の石ですら、砕いて尖らせる程度で精一杯なのだ。洞窟を広げるなんて無理な話であった。
 ならば、だ。もし、『洞窟を広げることが出来たら』どうなるだろうか。

 全ての人間が神の加護を受けている訳ではない。小さな集落の人間は、神の加護を受けられない。
 わざわざ人間の少ない場所に居ついて守ろうとする神は少数だろう。得られる力が小さいために。
 何も力のためだけに人間を守る訳でもないのだが、多くの人間を守れるのなら、そちらを優先してしまう。
 妖怪が人間を襲い、恐怖を食べるのと同じように、神は人間を守り、感謝を貰い生きるのだ。

 そんな、神の加護の受けられない人間達は、住む場所を転々とする。より多くの人間が住める場所へ、より安全な場所へ、と。
 そんな人間たちにとって、神が守る住居は魅力的だろう。なんとか、自分たちも住まわせてもらいたいと思うだろう。
 元々住んでいる人間も、人手が増えるのは喜ばしいことだし、単純になんとかしてやりたいと思うだろう。そこに余裕があるのなら。
 少人数と言っても、一人や二人ではないのだ。場所の問題もあるし、食糧の問題もある。

 仮に、だ。自らが治めるに移住者が来たとき、人間が住む場所も、食糧の保管も、何も問題なく出来るほどに『広かったなら』。

 彼女の治めている集落は、それなりに大きな洞窟だ。ここ一つ守るだけで、ほかの神と同じ程度は信仰が得られた。
 ただし、それが限界だ。ここには『百人ほど』が住み、一か所に暮らしている人数で言えば、最大級と言ってもいい。
 今は、すでに人間が住む場所、食糧を保管しておく場所がいっぱいで空きがない。
 だが、『広がったなら』

 そこに、さらに大勢の人間が住むようになったなら。もしかしたら、自分は神々の中でも頂点を取れるかもしれない。
 幼いながらに賢く、力を持っていた彼女は、考えを行動に移すために能力の訓練を始めるのであった。
 そんな彼女元へ、一人の少年が訪れるのであった。










 人間を守る神……か。
 万の月日を生きた私の記憶は、こんなことは初めてであると告げている。今は古き大地からの情報も、そんな過去は無いと告げていた。

(これは、調べる必要があるな……)

 彼らのような神は、人間の味方なのか、私たちの敵なのか、それとも両方か。
 場合によっては、神を倒さなければならない。人間以外の存在を襲うというのは気が引けるが、
 彼らが、人間を襲うことの障害となっているのは事実だ。もっとも、大地から与えられた役目の中に、彼ら『人間を守る神』
 を襲うかどうかなんて無いので、如何に対応すればいいのか分からないのが本音なのだが。

 妖怪が、人間『のみ』を襲うことを役目とするのならば、神を無視し、人間だけを狙うべきなのだ。だが、それだと神から攻撃を食らう。
 現に、人間を襲い、神に殺されてしまった妖怪も居るようだ。妖怪を倒すため、人間からの信頼も高い。
 以前、二千年ほど前に殺した神は、突然私を殺しに来たので返り討ちにしたのだが、今回は私が襲う側。神が立ち塞がらないとも限らない。
 それに、あの神を基準と考えるのならば、妖怪では神に勝てないだろう。私だって、今度戦えば殺されるかもしれない。それほどの強さを持っていた。

 覚悟が、必要かもしれない。人間を襲い、恐れさせ、仲間を増やし、人間を強くする。
 既に、私の役割は十分に果たしたはずだ。ならば、神が妖怪の敵となり得るのならば、私は始まりの妖怪としてではなく、
 一人の、ただの妖怪とて神を襲うとしよう。他の妖怪では、恐らく勝てないから。私は種を想いやる妖怪なのだ。



 まずは、たまたま近くにあった大きな洞窟を探ることにする。
 単に近かったことも理由だが、私が知っている中では最大級の集落だ。それに、私に距離は関係ない。
 知っている場所ならば、能力を使うことで一瞬のうちに移動が可能なのである。たまに、失敗することもあるが。

 洞窟には、思った通り神がいた。ただ、力自体は小さいようで、以前戦った神と比べるといくらか小さい程度だ。
 奥理よりは弱く、だが妖怪の強さで見れば、上位になんとか入る程度はある。これならば、もし戦いになってしまっても問題なく勝てる。
 ただ、今回は人間を襲うことが目的ではないため、出来るなら神と争いは避けたい。他の、さらに強い神を呼び寄せてしまったら面倒だ。

 とりあえず、力を抑えて洞窟の入口まで近づく。見た目は人間そのものの私だ。力さえ押さえれば、そうそう見破られることもあるまい。
 どうやら見張りと思われる人間に見つかったようなので、此方から話しかけるとする。
 私は礼儀正しい妖怪なのだ。

「やあ、ごきげんよう。ここの洞窟には神がいるか? いるのなら、会わせてもらいたい。
とりあえず、中に入らせてもらう。 答えは聞いてない」

「な、どうしたんだい、ぼうや?」

 戸惑うような声を出す人間を無視し、洞窟の中に入ろうとすると、大きな力を持った存在に止められる。こいつが神か。

「ちょっと待ちな、ぼうや。怪我とかは無いみたいだけど、親とはぐれちまったのかい?
怖かったのかもしれないけど、人の言うことを無視しちゃあいけないね。」
「あ、神様。おはようございます」
「ああ、おはよう。きみは元の場所に戻っていいよ。この子の相手は私がするからね」
「はいっ」

 見張りに神と呼ばれた存在は、私と同じ程度の背丈を持つ雌、いや、女。最近では、雄や雌よりも、男や女といった言葉を好む妖怪が増えてきた。
 私としてはどっちでもいいのだが、人間や神に見た目が近いため、男や女の方が自然なのかもしれない。

「お前がここを守る神だな? 私はお前に会いに来たのだ。争う気はないと言っておく。


あと私を子供扱いするんじゃない」

「そう言ってるうちは子供なのさ。
それと、私に会いに来たって? きみはそれなりに力を持っているみたいだけど、やっぱり、親とはぐれた?
それとも、集落を妖怪に襲われたのかい?」

 こいつ。私は子供じゃないと言っているのに、全然認めない。なんてやつだ。

「親は居ないようなものだ。そして私には集落なんてない。たとえ襲われようと負けはしない。
ただ、ここを治める神に会ってみたかっただけだ。他意はない。


あと私を子供扱いするな。私は大人だ」
「はいはい。じゃあおねーさんにどうして会いたかったのか、教えてくれるかな?


―――もし、困ったことがあるのなら、私を、大人を頼りな? なんなら、ここに住んだっていい。
強がらなくても、いいんだよ」

 ええい、どうせ目の前の妖怪にも気が付けない間抜けが、この私をこうも子供扱いするとは。なんてやつだ。
 そしてなんだか、急にまじめな表情になったが、何がしたいのだ。こいつは。

「別に強がっている訳ではないし、ここに住むために来た訳ではない。お前に会いに来たのは、神について知りたいからだ。
お前たちの存在意義。お前のような神は、人間の味方か、妖怪の敵か、両方か。それに付いて知りたいと思ったから、ここに来た。
それだけだ」

「――――――そう、そうなの……
安心して。神様はね、人間の味方なの。人間を守って、祈ってもらうの。祈ってくれる人が多ければ多いほど、神様は強くなれるのよ。
人間を守るために、悪い妖怪なんて懲らしめちゃうんだから!
他の神様もそう。だから、困ったことがあったら、ちゃんと頼るのよ? 頼ることは決して、恥ずかしいことじゃないんだから」

「そうか。それが神の役割なのだな。妖怪と似た物を感じる。恐怖が多ければ多いほど、妖怪は生まれ、強くなるからな。


あと別に困っていない。だが、無事に話を聞けてよかった。一応、争う覚悟もしてきたんだがな」

 本当に良かった。こいつが言っていることに嘘はないだろう。何故か、途中から同情的な視線を感じたが、そんな眼をしながら嘘を吐くとは思えない。
 しかし、今はまだ良いが、人間の数が多くなればもっと強くなると言うのか?
 そうなると、まずいかもしれない。できるなら、争うことはしたくなかったが、いつか戦う日が来るだろう。

「ふふっ、争うなんて。強いんだね、きみは。それに、物知りだ。
その歳で妖怪についてちゃんと知っているなんて、すごいじゃないか。えらいえらい」

 何故か頭を撫でてきた。別に不快ではないので好きなようにさせることにする。
 あと、強いのは当たり前だ。私なのだから。

「実はね、私たち神も、人間の想いから生まれてきたんだ。そう考えると、妖怪と似ているかもね。妖怪は、人を襲うけど……」

「なに、想いから、生まれる……だと? お前は、天上の神ではないのか?」

 人間の想いから、神が生まれる? そんなこと、聞いたことがない。
 天上の神々は私たちが生まれる前からずっといた存在ではないのか。人間が生まれる前から、存在したのではないのか。

「!……きみは、本当に物知りなんだね。一体誰に教わったんだい?

私も、詳しくは知らないけどね、私が生まれるよりも昔に、天上の神様達は、この地から遠い所へ行ったようだよ。
高い高い天上よりも、さらに高く。あの太陽や、月を目指して飛んで行ったのさ。だから、彼らはもう居ないよ。

もしかしたら、その代わりに私たちが居るのかもね。人間を守るためにって」

 それに私は100歳なんだぞ、すごいだろーなんて言う女を眺めつつ、今聞いた話を考えることにする。
 なんということか。こいつらは、『人間を守る変わった神』ではなく、『人間を守るために生まれた、新たな神』だったのか。
 たしかに、そう考えれば辻褄は合う。

「貴重な話を聞くことが出来てうれしく思う。では、私は行くことにしよう。話を聞いたら、ここに用は無い」

「やっぱり、ここには住まないんだね」

「当たり前だ。この私が神と住むだなんて、ありえんよ」

「そう……気を付けるんだよ。怪我、しないようにね。
きみみたいな子供が、傷つく姿は見たくないからね。……頑張るんだよ」

「私は強いから、お前の気にするところではない。


あと、私を子供扱いするな。じゃあな」

 そうして洞窟を出て行ったが、どうやら最後まで妖怪とはばれなかったようだ。
 追われている気配も、遠くから見られている気配もない。
 何故かはわからないが、私のことを心配していた。いったいなんだったのだろうか。神は心配するのが趣味なのか。
 とりあえず、今知ったことをあの子たちやほかの妖怪にも教えるとしよう。順番に、奥理からにするか。
 奥理はどこに居るだろうか。とりあえず、あいつの住居に行ってみるか。
 ……あぁ、ちゃんと居た。


「おい、奥理」
「だきs!?……なんでしょうか、ハジ」
「? 人間を守る神について分かった。奴ら――――――――――――」

 とりあえず、奥理が何を言おうとしたか知らないが、叩いておく必要があると思うのは、私の思い込みだろうか?
 まあ、今はさっき知ったことを伝えるのが先だ。
 

 

 少年説明中......



「――――――――――――――――――――――増えるかもしれませんね。
それにしてもこんな短時間で調べてくるなんてハジすごいですね」
「それほどでもない」

 それほどでもないな。さっきの、お前の変わり様よりは。









「おい、奥理」
「なんでしょうか、ハジ。

――――――はっ!知らない女の匂いがしまs「黙れ」はい」
「先ほど、なんと言おうとした? なぜか、放っておいては行けない気がしたのだが。

……今の発言も加えて、な」

「……はい。
あの……やさしく、してください、ね?」
「なんだか気味が悪いが、いいだろう。三割程度の力のげんこつで許してやる」
「……はい、ありが、とう、ございま、す」








もうちょっとだけ続くんじゃ








 先ほど出て行った少年のことを考える。
 不思議な少年だった。強い力を持ち、話し方も落ち着いていて、大人と話しているかのようだった。性格は、子供っぽい感じもしたが。
 彼は結局、私の所に住む気は無かったようだ。せっかく、この洞窟の人口を増やそうと思い立ったところなのに。
 思い立って一人目がこれでは、少し落ち込んでしまう。彼が特別過ぎたのかもしれないが。

 彼は恐らく、親を失ってしまったのだろう。集落もないと言っていた。集落を妖怪に襲われ、滅ぼされた?
 彼は力が強かったから、唯一生き残ったのかもしれない。しかし、あの歳で親しい者たちが死んでしまうのは、あまりにも刺激が強すぎる。
 それに彼は、一言も帰るとは言わなかった。帰る場所が……ないのか。
 助けてあげたかった。だが、彼は助けを求めていなかった。彼からは、神を信じる心が感じられなかったのだ。

 集落が滅ぼされ、家族が殺され、そして誰も助けてくれることのなかった神様。
 なまじ、知識があったが故に。神を、守ってくれるもの知っていたがために、彼は神を信じられなくなってしまったのだろう。

 怒りが、怒りが生まれてくる。妖怪に対してではない。今まで何もしなかった、自分に対してだ。
 妖怪には妖怪の、生き方というものがある。妖怪は人間を襲わなければ生きられない。
 それを知っていたのに。理解していたのに、一つの洞窟を治めるだけで周りを見渡さなかったは誰だろうか?
 人が襲われて、神の加護を受けていない者が居ると分かっていて、探しもしなかったのは誰だろうか?

 私だ。

 全てが私の責任だと、思いあがるほど愚かではない。私はまだまだ未熟。全てを守れる存在では、決してないのだ。
 だが、それに近づくことは出来る。私は神なのだから。人の数だけ強くなれる。
 ならば。いつか、そのような存在になってみせよう。

 人間が、住みやすい居場所を創ってみせよう。安心出来る場所を作ってやろう。
 夜に怯え、凍える者を探し出そう。見つけて、私の加護下に入れてあげよう。
 私には、その力があるのだから。いや、無くとも、やらねばならないのだ。私は、神様なのだから。

 あのような、悲しい少年を生み出さないためにも、私は強くなってやる。
 雨にも風にも、負けるものか。
 いつか、いつか絶対に。私が、この洞窟だけでない、この土地を。
 治めてみせよう。守ってみせよう。それが、神である私の役目なのだから。





「それにしても、どうすればいいんだろう。あーうー」
「どうしたんですか?神様」
「いやね。遠くのことを知りたいんだけど、私がここから離れると、みんなが危なくなっちゃうでしょ?
だから、私がここから離れずに遠くを知りたいんだけど……なにか良い方法ないかなあ?」
「はあ……あっしは、頭が良くありませんので、昔見たことしか思いつきませんが、
昔ですね。鳥みたいな妖怪が、小さな鳥を使って木の実を集めていたのを見たことがあります。
怖くて、すぐに逃げ出したんですがね」
「へえ、それってもしかして、使役ってやつなのかな?」
「しえき、ですか」
「そう、使役。なるほど、その手があったね。あとは何を使役するかが問題だけど……
あーうー。力の弱い、私に従ってくれる野良神とかいないかなあ……」







――――――――――――――――――

あとがき

今回会話文を多めにしてみました。
どうも会話文が苦手で、会話を書いていると単調になる気がして、怖いんですよね。
一応、いろんなものを書いてみようと思っていますが、今回は会話。

実は、ゆかりんパパが原初の妖怪というネタ(このお話です)の他にも、ある少年(オリジナル)が紅魔館の悪魔を殺しに来たらいつの間にか幻想入りしていた、って話を考えていました。
能力は時間を吹き飛ばす程度の能力。ザ・ワールドがいいならキングクリムゾンもいいだろって考え。クリムゾンってのがいいね。紅いね。
どっちを書こうか悩んだ結果がこれ。でもこれ、もうひとつ話を書いたらクロス出来そうじゃね、なんて。つまんね?あ、そうですかすみません。


あと今回初登場なのに一人称まで務めてしまった謎の神様。彼女は一体誰なのでしょう。
でも彼女の登場で、話の予定が結構進んだ気がしないでもないです。謎の神様、ありがとう。
そして出番が減っている主人公。頑張れ。超頑張れ。



[21061] 原始編 六話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/01 05:28
妖怪・ハジは悩んでいた。
 人間の発展速度に妖怪がついていけないのだ。特に、神が人間を守るようになって早二万年。
 たったこれだけの間に人間は石や木を加工する技術を身に付けた。
 加えて神の守り。これは妖怪全体にとって死活問題と言ってもいいほど厄介なものだ。
 ただでさえ厄介な守りであったが、人間の技術の発展により、より強固なものとなったのだ。
 木を加工し、住居を作る。それは洞窟や大岩などを必要としない、立派な、個別の住居。岩よりも遥かに軽く、どこにでも作れる砦。
 これらの存在は人間の生活範囲を広げさせ、村を作り出し、その村を神が纏め、国を作らせたのだ。
 人間が集まるということは、信仰が集めやすくなるということだ。

 永い年月が経つ間に、各地では小さな国が出来ていた。現在最大の勢力を誇るのは洩矢の国。他の国と比べ珍しく、
 神自身が国王をするという国であった。といっても、各国の神はその国の者から信頼されている。
 その国の王にすら信頼されているので、もはや、その神の国と言ってもいいほどなのではあるが。

 洩矢の国王は広い範囲に渡りミシャクジさまと呼ばれる神をも使役し、その強さと、使役した神を操り、
 神を蔑にした者には恐ろしい罰を与えることで有名であった。
 そしてその力を使い、自分たちを守ってくれる国王を国民は信頼しており、国王への信仰心はすさまじいものなのであった。
 他の神へと信仰をしたときの祟りを恐れていることも、大いにあったのだが。
 他にも、国王自身の能力を使い、鉄と呼ばれる、岩よりも硬い物質を採掘、加工し使っていた。
 鉄を使った王国は、その他の小国とは比べ物にならないほど豊かになっており、それを含めての信仰であった。


 今の人間の、神への信頼はとても大きい。それこそ、妖怪へ抱いていた恐怖感を和らげるほどに。
 神への信頼は信仰へ繋がり、神の力、影響力を高めた。逆に、恐怖の低下は妖怪の発生を遅らせ、力を弱らせ、恐怖を糧としていた妖怪は空腹に悩むこととなった。
 妖怪の危機に、彼は黙ってはいられなくなった。

 かつて、彼は神々に戦いを挑もうとした。だが、しただけだ。その時は、自発的に神を襲うことを体が拒絶してしまったのだ。
 一万年以上の時を生き、人間『のみ』を襲うことを信条としてきた彼である。たった数日数年やそこらの覚悟で、超えられるものではなかったのだ。
 しかし、今はそのような心配は無用となった。そして彼は、拒絶反応を克服する間、妖怪たちの独り立ちに力を注いでいたのだ。

 自分が居なくなってもいいように。


 まず声をかけたのは、自らが化獣から変化させた妖怪たち。彼を親のように慕う妖怪たちとの関係を、一人の妖怪と、一人の妖怪として、
 対等な立場となるようにした。すでに、彼を始まりの妖怪として見ている者は、元化獣組のみだ。全体の3%にも満たない。
 その他の者は、ただ絶大な力を持っている妖怪だとしか認識していない。本人も、それでいいと思っている。

 最初に会ったのは、角獣妖怪のツキ。一角の化獣から変化した妖怪だ。
 ツキは力が強く、戦いが好きな妖怪であった。長身で、凹凸の激しいボディラインを持ち、たまにハジが彼女の相手をしてやると
 その豊満な胸を揺らして子供のように喜ぶ。よく奥理と一緒にハジを子供扱いし、怒ったハジに投げ飛ばされていた。それでも喜ぶあたり、
 豪快な性格であった。ちなみに相手とは、戦いのことである。ハジはお子様である。

 ツキは人間たちの間では、嵐のような、禍のような存在として語り継がれてきた。曰く、角を持つ妖怪は不幸をもたらす、と。
 ハジはツキに種族を名乗らせるようにし、人間の恐怖と相性の良い、角持ちの力強き者を仲間にしていくといいと告げた。

 次は妖鳥妖怪のアマツ。天と書くらしい。彼は人前に姿を現すことはめったになく、目撃情報も少ない。
 基本的に恥ずかしがり屋で、本人もとても素早く、風を操り、姿を眩ますことから天を駆ける妖怪と恐れられていた。
 目にもとまらぬ速さで人をさらい、空から突き落とし、忽然と姿を消す。……はずなのだが、それでもうっかりと、
 しっかり姿を見られているあたり、ハジの因子を組み込まれているといえる。
 ハジは、自分よりも少しだけ背の高い彼の頭を撫でながら、恥ずかしがらず、きちんと群れを作ることを約束させた。

 他にも、血吸い妖怪、巨人妖怪といった、自らが変化させた者、自然に変化した者、そして化獣生まれ以外の者にも、多くの力ある妖怪に会い、約束させた。
 水中に住む妖怪、人間を誘惑し食べる妖怪、闇を操り人を閉じ込める妖怪、雪を降らせ凍えさせる妖怪や、人間を騙す狐や狸の妖怪。
 たくさんの妖怪達に出会い、告げた。
 これからも、自らの種を残すため、生きるために人間を襲うように、と。
 神は、しかるべき時に自分が何とかするから、それまで元気に生きていてほしいと。

 そして最後に奥理。彼女はハジによく懐いていた。傍から見れば少年を襲う痴女その1だったりするのだが、
 実力的に襲えるはずもなく、また、彼女にはそんな気はなかった。彼女にとってハジは男としての魅力は薄い。
 その代わり、母性本能は大変くすぐられていたようだが。(ちなみにその2はツキである。彼女は単純に、強い男が好きなだけであった。アブナイ女である)
 彼女の名誉のために言っておくと、大変健全なスキンシップをとる理由はちゃんとあり、元々臆病で寂しがり屋だったことと、
 自身の体が大きく、小さな者への憧れがあったのだ。つまり、ハジには親のように甘えたいし、子のように甘えて貰いたいのだ。
 本来、この彼ら二人の間で親に当たるのはハジなのだが、彼女もまた、どこかズレているのかもしれない。案外、妖怪なんてそんなものである。

 そんな彼女であるが、ハジと長年共に過ごし、群れを纏め上げていた経験からか、妖怪の危機やハジの機敏を素早く感じとっていた。
 それでも騒がず、ただハジの行動の邪魔にならぬよう群れを制し、大きな行動を起こさなかったのは、野生の勘と言うべきか、女の勘と言うべきか。
 ハジへの信頼というものもあったのだろう。彼女は、ハジの種族を大切にしてくれという約束を、きちんと受け止めた。
 そしてしばらくして、奥理には旦那さんが出来た。彼女よりも七千歳ほど年下の人狼、クレナイくんである。
 彼女たちの間には、強力な力を持った子供達が生まれたそうな。




 時は、確実に進んでいる。そして、常に変わり続けている。
 人間が恐怖を忘れるという、過去には誰も考えもしなかった出来事が、今起き始めている。
 人間の発展、神々の守り、妖怪の衰退。これが、日本列島と呼ばれる大地の頂点に立つ妖怪・ハジの悩みであった。

(なんとか……なんとかしなければなるまい。ようやく、妖怪が大地の循環の一部として認められてきたのだ。
私が、なんとかしなくては。要は神々。これさえ崩すことが出来れば、人間は恐怖を思い出す。

今度こそ、やってやろう。やるべきことは全てやった。
たとえこの身が滅びようも、必ず)


 ある妖怪は、神々に戦いを挑むことを決心する。
 それは、神々同士が戦いを起こし、土地の奪い合いをする戦争の幕開けと同時のことであった。

 そして、土地を持っているのは神や人間だけではない。そう、彼らも……







 一体どうするべきか。実に悩む。
 神達の動きがどうもおかしい。そう感じたのは、闇に紛れ戦いを挑もうとした晩のことだ。

 すでに始まりの妖怪としての名を捨て、ただのハジとして生き、戦うことを決心したというのに、一体神は何をしているのだろうか。
 そう思い、一晩中見続けていたのだが、どうやら国の拡大を図るための戦争を起こすらしい。戦争。つまり巨大な戦いだ。
 どうもこっそりと見る限り、数ヶ月前から準備をしていたらしい。誰も神の動向を気にすることは無かったから、気がつかなかった。
 他の国でもそうなのかと、寝る間も惜しんで各地を回り、他の国も準備をしていたことを確認したのが先ほど。そして今に至る。
 つまり、不意打ち気味にただの戦いを挑もうと思っていたら、相手は戦争の準備をしていたというのだ。なんと間の悪い。

 向こうは食糧、武器、力の貯蓄、全てが良好。対して此方は、食糧無し、武器無し、力万全という、戦う前から負けている状態。
 相手は神だ。いくら私でも、戦いのための準備を万全にされては、手の出しようがない。戦いが長引いてしまえば、その分不利となる。
 仮に討ち滅ぼしたとしても、次に同等の戦力が襲ってくるのだ。一つずつ潰して回る計画だったのだが、それでは相手を手助けするようなもの。
 ならば……一つずつ潰して回らなければ良いのか?

 初期案のままでは、一つを滅ぼしても、すぐに他の国の神達がやってくる。逃げても、そこの人間から信仰を得られてしまえば、さらに辛くなる。
 ならば、逆転の発想だ。神同士で潰しあいをしてもらい、どんどん多くの国を治めて貰う。出来るのならば、最後の一つとなった
 国を治める神を私が倒し、人間を恐怖のどん底に突き落とすのだ。

 もちろん、そんなことが出来るとは思っていない。この大地全土の人間から信仰を得た神は、まさしく、『神』。
 全ての生物の頂点に立つ者。私ですら、恐らく勝てはしないだろう。
 ならば、それなりに国を大きくし、また、その土地の人間から信仰を得られていない時期の神を殺せば、少ない労力で大きな戦果を得られるだろう。
 ツキあたりに嫌われそうな、卑怯な作戦だと思うが。もはやこれしかあるまい。私は非情に徹する妖怪なのだ。

 ならば、今は期を待つのみ。力を温存し、蓄えるために、状況は奥理達狼に探ってもらうとしよう。狼の探査能力は高い。







 とうとう神々の戦いが始まり、より強い国が他の国を取り込み、数を少なくしていった。
 妖怪達も手薄になった国へこれ幸い乗り込み、人間を襲うことにしたようだ。大抵の場合は控えていた神に蹴散らされて逃げかえっていたが、
 たまに狩りを成功させ、ほんの少しだが妖怪への恐怖感を増やすことに成功した奴もいた。
 そして私は頃合いを見計らい、『これ以上力を付けさせてはいけない』神から襲うことにした。

 その名は洩矢神。現時点では最大の力を持つと思われる神である。思ったよりも力の伸びが低かったため、結局
 ほぼすべての国を傘下に収めていた。だがおそらく、時間との勝負。洩矢神は人間の間で、その名と強さを知らぬ者はいないほど有名になっている。
 今はまだ十分な信仰を得られていないが、時間が経つにつれ人々は諏訪神を信仰するだろう。
 厄介な能力と武器を持ち、単純な信仰の数、力だけでは測りきれない神だ。
 だが、今なら倒せる。この多大な知名度を持つ洩矢神を私が倒すことが出来れば、人間は恐怖に陥るだろう。この期は逃せない。



 だというのに。




「は、ハジ様!大変です、神が!神が攻めてきました!」
「奴ら俺たちの土地を求めている!俺たちじゃ敵わない!なんとかしてくれ!」

 そうか。それは大変だ。ナラバタスケニイカナイト。
 ん? あぁ、奥理か。構わん、言ってくれ。

「ハジ、まずいです。神々が、新たな人間の移住や戦いの拠点として、私達狼の山や、その他大勢の妖怪の住処を奪おうとしています。
私たちだけでは持ちません。ツキやアマツを呼びに行かせましたが、間に合わない距離です。助力を。

……本当に、申し訳ありません」

 そう、だな。なぜ、神々が私たちを襲うことを想定していなかったのか。
 今にして思えば不思議なものだ。それほど、私は切羽詰まっていたのだろうか?
 あぁ、そう泣きそうな顔をするな、奥理。大丈夫。ちゃんと皆助けるから。

「ですが、このまま洩矢の神がより強大に……
いえ、申し訳ありません。私たちが頼んだと言うのに。

私は、私たちは、ハジに助けてもらいたい。
ここを襲ってきた神は、私たちだけでは敵わないほどの力を持っています。ですが、ハジなら勝てる。どうか」

「ああ、まかせろ。今現在存在している神に、私は負けない。
それに、お前には子がいるのだろう。ならば、その子のためにも守らなくてはな」

「……ありがとう、ございます。
神はこちらの方向です。ついてきてください」

 さあ、国襲いを『後回しにし』皆を助けなくては。
 少々『時間がかかる』だろうが、命には代えられまい。早く、神の元へ。
 私はハジ。今は何の妖怪でもない、ハジ。だが、私は仲間を大切にする妖怪なのだ。

「やあ、ごきげんよう。大国の神々よ。
今、私は少々機嫌が悪い。仲間たちを襲ったのは勿論のこと、お前達の間の悪さ、私の頭の悪さ、その他諸々の怒りをぶつけさせてもらう。
構わないな? 答えは聞いていない」

 さあ始めようか、戦いを。敵はこの神を含め五人。全て同じ国から来たようだ。決してこいつ等は弱くない。一人ずつでも奥理の力を超える。
 だが、負けられない。今後のためにも、すばやく、無傷に、使用する力は最小限。
 やってやる。やってやるさ。やってやるとも。



 私には、やらねばならぬことがあるのだ。
 こいつらに構ってばかりは居られない……!













「諏訪子様、全土掌握はほぼ終了しました。ですが、大和の神が侵略に向かって来ているようで、どうやら一人のようです。如何なさいますか?
……諏訪子様?」
「え?ああ、そうだね。私が出るよ。相手が正々堂々と一人で来るなら、私も一人で迎え撃たないとね。実質、これが最後の戦いになる。
他のほとんどの国は私たちと、大和の国が取り込んでいったから。

でもそれよりも、気になることがあるんだ。」
「気になること、ですか。一体どんな?」
「詳しいことが分かっている訳じゃない。思いすごしかもしれない。でも、妖怪の土地を奪おうとした、大和の神達が返り討ちに遭っていた。
たった一人の妖怪に、だ。嫌な予感がする。
侵略に来た大和の神の相手は私がするから、だらか、お前たちはその妖怪の警戒をしていてくれ」
「わかりました。我々も神の端くれ。諏訪子様の名に恥じぬ働きをしてまいります。人間には指一本触れさせはしません」
「うん、任せたよ。気を付けてね」
「はっ」
「……勝つにしろ、負けるにしろ、無事にこの戦いが終われば良いけど。
勝てたら、いいな。私に力があれば、人間を守れるんだから。

……あの子、『ハジくん』は、どうなったんだろう。幸せに、なれたかな。幸せのまま、終れたのかな。そうだと、いいなあ……」



 ついに、洩矢の神は、名実共に土着神の頂点として君臨した。そして、大和の神が侵略に来るのも既に秒読み段階。
 妖怪・ハジが洩矢へ攻撃を加えようとしてから、しばらくのことであった。

 洩矢の国に、ハジはまだ来ていない。






―――――――――――――――――

あとがき

なんだか今回は短いです。ここが切りがよかったので。
今回は戦いらしい戦いが一番多く起こっています。でも戦争(笑)と戦闘(笑)なんで、戦いの描写なんて書いていません。やばいです。
次回はそのまま続きから。繋げても良いかもしれない。
何気に出てきた名前付きキャラは、一応ほのめかす程度には出ています。まんまですね。
主人公、不意打ちの予定が相手にものっそい警戒されているでござるの巻。
え?死亡フラグ?いやいや、まさか、そんな……ねえ?

主人公たちを喋らせると、カタカナの言葉が使えない。
オサレなセリフが言えません。13キロや、とか。


改めて読むと、所々話が脱線してテンポが悪い気がする。でも、他に入れるタイミングが見当たらないし、どうすればいいんだろう。
あと自分が作った話を読み返したりするのは恥ずかしすぎる。話の保存がしてある、開いてはいけない黒歴史フォルダの存在感と言ったら、もう。

では。



[21061] 原始編 七話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/01 05:28
五人の神を相手にする。
 言うだけならば簡単だが、なんせ相手は神だ。その五人が限りなく多い。各個撃破を狙ってもいいが、
 その場合、周りの安全が保障出来ない。私は、皆を守るためにここに来たのに、被害が広がっては元も子もない。
 こうしている間にも、人間は洩矢の神への信仰を強めているはず。領土を広げてからすぐに襲おうとしたから、
 まだ大丈夫かもしれないが。それでも、長い時間をかけられないのは変わりない。
 一刻も早く、この者たちを倒さねば。

「奥理!お前は周りの者達に、守りを固めるように指示を出せ。お前も、守りに徹しろ」
「一人で、大丈夫ですか?」
「私を誰だと思っている。それよりも、命を落とすなよ」
「分かりました」

 さて、すでに相手は陣形をとっている。だが、私を相手取るために全員で来てくれることはうれしい限り。
 その分だけ、仲間への被害は減る。
 ここだと少し狭い。空へ移動しようか。


 私を取り囲むようにした陣形。私を逃がさないようにか、空を飛んでも位置関係を変えることなく付いてきた。
 そうして空には空での陣形があるのか、徐々に、隙なく形を変えている。
 正面には青い髪と赤い髪を持った二人の神。左右に一人ずつ。左に金色、右に茶。上には緑が一人。
 武器に槍や棍棒を持っており、人間が使う物とは段違いに形が整っている。
 赤金緑が槍、青茶が棍棒である。

 槍の穂先についている石も鋭く、棍棒は叩きつける以外にも、突くためか、先端に大きな刺が付けている。
 神は武器を使う際、その武具に神力を纏わせる。神力は神のみが持っており、言ってしまえば信仰の力である。
 霊力とは根本は同じだが、直接相手への攻撃に使える以外に、物の性能を上げることに向いている。
 日ごろ人間が物や事に感謝を送っているためか、肉体以外にも相性がいいのだ。ずるい。
 神力を纏った武器は、硬く、鋭い。武器を持った神の相手は面倒だ。

 膠着状態では意味がないので、私から動く。まずは右から。
 私が茶髪に向けて殴りかかると、手に持った棍棒で防がれた。そのまま反撃に棍棒を薙いでいたが、その程度にあたる私ではない。
 そのまま後ろへ下がり、辺りを警戒すると上から攻撃の気配。

 緑から突きだされた槍を、身を捻り回避。そのまま掴み、引く。
 持っていた武器を引かれると、大抵はつんのめり顔を前に出す。緑もそうだったようで、前のめりになって出てきた顔を蹴り、武器を奪った。
 武器を奪うと今度は三人が飛びかかってきた。一人が正面、二人が後ろだ。
 正面に来た赤に槍を投げつけ、すぐさま下へと移動する。上を見れば、金が元居た場所に槍を突き出し、青が此方に向かっていた。

 此方に来る青を左に飛んで避けようとするが、進行方向に茶が居た。あわてて方向転換をしたが、今度は赤が居た。手には槍を二本持っている。
 赤が槍を一本此方に投擲し、それを私が避けると同時に茶が殴りかかってくる。
 避けきれず、腕で棍棒を防ぐが、やはり神力で強化された武器の威力は高かった。腕が痺れる。

(これだから……)

 内心神力の力に毒づきながらも、茶に蹴りかかる。
 茶は後ろに下がるが、入れ替わるようにして来る緑。手には先ほど奪った槍を持っており、赤が投げたのは
 攻撃のためだけではなく、緑に武器を渡すためでもあったらしい。若干痺れる腕をかばいつつ、緑の槍を避ける。
 今度は金が槍で攻撃してきた。緑と同時に金の攻撃を避けるのはつらいので、一旦距離を取ろうとする。
 しかし、それを許すほど相手は甘くなく、緑と金の激しい攻撃続く、が、いきなり緩んだと思ったら、今度は青が棍棒で殴りかかってきた。

 あわてて避けるも先端がかすり、頬から赤い液体がにじみ出る。
 息をつかせる気もないのか、連打連打と棍棒で殴りかかってくる青。徐々に押されている私だが、後ろには緑と金が回っていた。
 なんとか抜けだそうと、青の攻撃を捌いていると上からの攻撃。赤だ。
 赤の攻撃は私の頭を狙っており、前にも後ろにも避けきれず、咄嗟に私は左腕で防御する。

 当然、神力を纏った武器を弾くなんて真似も出来ず、腕には槍が刺さり、鮮血が吹き出す。
 この隙を逃さない気か、後ろにいた緑と金も動き始めた。
 金が突きを繰り出し、慌てて身を屈めて避け、逆さまの体制で金の顎を蹴りあげる。
 緑はそれ構わず、槍を横に薙いで攻撃してくる。私はそれを柄の部分に左腕をぶつけることで止め、右腕で掴み取る。また血が出た。

 単体での力関係では私が上だ。単純な力比べなら負けるはずがない。
 ただ、今は力の消費を抑えている状態で、能力は使わない。使いたくない。
 それを煩わしく思うも、掴んだ槍を乱暴に振るう。緑はたまらず槍を離したようだ。今度は槍を投げつけることはせず、冷静に、奪った槍で緑の胸を突き刺した。

 まず、一人。

 緑が地に落ちていくのを見届けていると、正面から赤と金がやってきた。
 それぞれ、突き、縦薙ぎと、お互いの行動を阻害しないようにした連携を取り、私は手に持った槍でその攻撃を逸らし、受け止めた。
 隙を見つけ反撃に出るも、お互いが互いの隙を埋め合わせなかなか決定打が出ない。
 突然二人が離れ、他の者が来るかと警戒した私を待っていたのは大きな炎。

 青と茶から繰り広げられる巨大な炎は私の身を軽く焼き、視界を遮った。
 そうして私が神達を見失うと、背後から金の突き。槍で逸らし、反撃を加えようとすると頭上から茶の棍棒。
 顔だけをずらし、何とか直撃を避けるも肩に攻撃を食らってしまった。
 怯んだ私に、青が大きく振りかぶった棍棒攻撃。『両腕』を掲げ槍で受け止め、腹を『がら空きにした』

 そうして私の腹を狙った赤は、そのまま、青の脇から突きを繰り出す。未だに、青の攻撃は受け止めている。
 『分かりきった位置への攻撃』を青の棍棒を防ぎつつも『右手』で掴み取る。そのまま腕を振り、掴んだ槍で青ごと赤を蹴散らす。
 勢いのない、ただの力押しならば、怪我をした腕でも十分に拮抗出来る。
 武器を手放した青と赤から、それらを回収し、油断なく辺りを見回す。

 油断なく見ていたのは私だけではないらしく、今の怪力を見た金と茶は迂闊に近づくことをしないようだ。
 それならば、と回収され使われないように、槍を一本へし折っておく。
 既に、私は武器を持たない神を戦力とは数えていない。

 あと、二人。

 その後は簡単であった。
 向かってきた金と茶の攻撃をそれぞれの手に持った武器で受け止め、反撃する。
 先ほどよりも積極性を失った攻撃は、私に勢いをつかせ、逆に金と茶の連携を抑え込む。
 棍棒を振い、防御した茶を吹き飛ばし、金を槍で突き刺す。
 流石に直撃はしなかったが、片腕を持っていくことが出来た。そのまま怯んだ金を、棍棒で叩きつけ、槍で心臓を貫く。

 戻ってきた茶は、やられた金を見て驚いた様子を見せ、どうやら逃げることにしたようだ。
 このまま逃がしてもよかったが、仲間たちに何をするか分かったものではない。
 槍を全力で投げる。音速の域に達した槍は、茶の背中を貫き、胸から穂先を出す結果となった。

 辺りを見回し赤と青を探す。既に奴らは周囲には居ないようで、どうやら逃がしてしまったらしい。
 どこに行ったのか悩んでいると、一人の送り犬妖怪が私の下へと訪ねてきた。

「ハジ様!奥理様が赤い髪と青い髪の神と交戦中です!群れのみんなと協力して戦っています!何とか持っている状態です!助けてくだしゃい!」

 それを聞いた私は、方向を訪ねてすぐに向かう。


 結果。


 神五人は始末完了。

 被害としては私の左腕の軽傷、奥理の怪我。そして……


 群れの犬、狼妖怪達の半数以上の死だった。









 まずは死んだ者たちを埋葬するため、生き残った狼たちに死体を山に埋めさせる。主な被害は私が来る前、
 五人を止めようとした初期の群れと遊撃に出向いた群れのようだった。彼らは群れの主力部隊で、若く、体力に満ちていたらしい。
 この死体を集め、埋める作業には三日かかり、その間は怪我をした妖怪達の治療をし、自身の回復に努めた。
 奥理の傷は深かったが、命に別条はなかったので能力で直した。


 死んだ妖怪を埋め、残りの妖怪達を集めたあと、私は皆に、神へ戦いを挑むことを伝える。
 奥理は既に予想していたようで、やはりそうですか、と言っていた。
 ほかの妖怪は先の戦いで神の恐ろしさを直に体験したためか、私を止めようとする声がちらほらと上がっている。
 しかし、もはや残った主力の神々と戦えるのは私のみであり、皆の未来のために私がしなければならないのだ。
 単に人間を襲っただけでは一時的に恐怖感が高まるだけで、時が経てばまた同じことが繰り返される。
 ならば、刻み込む必要があるのだ。その細胞に、魂に、記憶の根底に、恐怖を、伝承を。妖怪は、神をも殺す存在だと。

 心配してくれる気持ちは嬉しく思うが、神に勝てないなど、それは弱者の思い込みだ。私は強者だ。強者は、負けない。負けは許されない。

 どうやらアマツやツキが合流したようで、奥理達と一緒に山を守るように頼んでみる。
 再びここを攻められ、危機に陥った時、私はそれを無視できないだろう。ならば、少しでも戦える者を此方に残しておきたい。
 ツキたちは一緒に行きたいと言っていたが、それは却下する。
 足手まといは不要だと言ったら、黙ってしまった。私は嘘をつく妖怪のようだ。


 そうしている間に洩矢の国の信仰は高まっていた。こうも短時間で信仰を得られるとは、広範囲に影響を及ぼせる洩矢神のなせる業である。
 とにかく、私は回復したし、心配事も減った。
 早速国へ攻め込むことにする。目指すは洩矢神が住み、祭られている、神の社。奴を倒せれば、他の者は殺さなくてもいい。人間も襲う必要はない。
 それは、生き残った妖怪達がするべきことだ。

 もはや悠長にしている暇はないので、空を飛んで人里の上を突っ切ることにする。
 すると入口付近で洩矢神の配下にあたる神達が、私の行く手を阻む。予想では、社近くで出会うと思っていた。いくらなんでも、対応が早すぎる。
 しかし今は、原因を考えていても仕方がない。
 相手の数は三人。先の戦いよりも数は低いが、個の力量は上。加えて、見たことのない素材の武器を持っている。あれが鉄製の武器か。

 以前は相手を甘く見て、能力を使わずに倒そうとして時間が掛ってしまった。
 今回は、能力の使用をすることにする。もう、洩矢神に会ったら余力を残す必要はないのだから。
 恐らく、今日で私は終わるのだろう。

 とにかく、こいつらに長い時間構う必要はない。
 目視で能力を発動し、『すでに移動を終わらせ』人里中心の真上へと移動する。後は、ここから洩矢神の社へ行けばいい。
 追いついてきた神たちの攻撃を避け、武器の寿命を『終わらせ』、霊力を使い威力を高めた手刀で相手の胸を貫く。
 他の者も同じようにして首を切り捨てる。最初の三人以外にも神が現れ始め、警戒して社への道のりを塞ぐ者すらいた。
 新たに向かってきた神に蹴り、手刀、能力を駆使し、攻撃。社への道をふさいだ神にも攻撃を加えるため能力を使う。
 既に攻撃は『始まっており』、それはすでに『終わっている』。私が彼の下へと到達したとき、既に彼は胸を貫かれていた。


 そうして何とか洩矢神の社へたどり着く。人里には神の死体が転がっているだろうが、私にはどうでもいいことである。
 しかし、噂によると洩矢神はミシャクジさまと呼ばれる祟り神を使役する、恐ろしくも頼もしい神だと聞いたが。
 この場合……でかい女と小さい女、どちらが洩矢神なのだろうか。







 妖怪、ハジは神を切り捨て、殺し、決して小さくは無い消耗をするも、なんとか洩矢諏訪子の社の手元までたどり着く。
 しかし、このとき既に大和の神、八坂神奈子は洩矢諏訪子の元へ到着し、戦いを始めていたのであった。



 諏訪子は人里の守りを気にしつつも、大和の神の相手を全力でするため、全てのミシャクジさまを手元に集め、社の周りを囲んでいた。
 一目見たときから理解していた。単騎で来るだけはある、全力を尽くさねばやられるのは此方だ、と。
 結果、それがハジの接近に気がつくことが出来なかった要因となった。洩矢の情勢に詳しい情報を持たない八坂神奈子も
 それに気がつくことは無く、一対一の大戦争、諏訪大戦が開幕した。

 諏訪子は鉄輪を手に、加奈子は御柱を武器に、神々の頂点に立つ者同士の戦いは熾烈を極めていた。
 だが、諏訪子は『何者かが』社の敷地内に入ったことを察知。諏訪子がそれにほんの少し気を取られていると、神奈子も諏訪子に違和感を覚える。
 諏訪子はハジが神々の戦いを隠れ見ていることに気が付き、神奈子は『何者かに』気を取られていることに気がついたのだ。

 ハジは、どちらが洩矢神かは鉄製の武器を使っていたのでなんとか分かったが、なぜ神同士がここで戦っているのかは
 分からなかった。だが、両者の実力は拮抗し、もう片方も徳の高い神だということは理解できていた。
 このまま、互いを潰しあった後に自分が倒せば、人間どもは恐怖に慄くかもしれないと考え、近くに隠れることにする。
 それが行けなかった。いくら諏訪子と神奈子が戦っているとはいえ、ここは諏訪子の領域内。
 自分の領域内に入り込んだ異物に気がつかぬ彼女ではないし、先ほどまで一切の雑念を持たなかった諏訪子に、違和感を覚えない神奈子ではない。
 諏訪子と神奈子は、ハジの存在に気がつく。

 ハジは、両者の攻撃が弱まり、そしてだんだんと終わり、二人が自分の方を見ていることに気がつく。
 気が付かれたか?と焦った彼は、即刻両者に攻撃を加えることを決意。
 ハジ自身、二人相手に『確実に』勝てる自信はなかった。だが、彼には『奥の手』があった。これがあれば、私は負けない、と。
 そう、絶対の決意を持って挑む。私は負けないと。負けは許されないと。

 妖怪による、神々の戦争行為への武力介入が始まった。

 神奈子は洩矢の増援か?と疑ったが、お互いに攻撃を仕掛けられていたのでそれを否定する。
 諏訪子はいち早く可能性に気が付き、人里にミシャクジさまを放つ。人里に被害はなく安堵したが、たびたび見かける神々の死体に顔をしかめるのであった。

「洩矢の。あの者に心当たりでもあるのか?」
「諏訪子でいいさ。

……そうだね。この前大和の神達が妖怪から土地を奪おうとしていたでしょ?
そこの、神達を返り討ちにした妖怪だよ。一人で、ね」

「なるほどな……。誰かが妖怪の山へ行ったのは知っていたが、なるほど、やられていたのか。

しかし、神をも殺すような奴だ。それを知りつつ、何の対策もしなかったのか? お前は」

 神奈子も、国の神達が妖怪の住む土地を奪いに行く予定があったのは知っていた。だが、
その結果が出る前に洩矢へと国を出て来たのである。
 諏訪子のように、遠くの状況を知る術は持っていなかった。

「そんなわけないじゃない。
少なくとも、うちの神は山へ行った神達よりは強かったよ」
「しかし、奴が此処にいるということは、その神達を倒して来たのだろう?
見たところ、人里に目立った損傷はなさそうだが、お前なら知れるだろう。どうなのだ」
「人は襲っては無いみたい。一直線にここまで来たみたいよ。
……神達の死体が、人里から此処へまっすぐ来ているから」
「それは……」

 それは、逆に不味いのではないかと、と言おうとしたところだった。

「洩矢神。私はお前を倒しに来た。もう一人神が居るとは思わなかったが、用があるのは洩矢神だけだ。

お前に用は無い」

 そう、ハジは宣言する。元は洩矢諏訪子一人を相手にする予定だったのだ。
 他の神も、向かって来るにはもっと時間がかかり、追いつかれる前に諏訪子に挑めると思っていた。
 そうして、想定外に想定外が重なり、またしても想定外が起こるという、彼にとっては不運な出来事でしかなかった。
 もし大和の神が山へと攻め込んで居なかったならば、そのまま彼は洩矢の国へ挑み、諏訪子を殺し、人間は妖怪に畏れ慄いただろう。
 たら、れば、の話は関係ないと、彼は心の中で一人ため息をつく。戦闘によってくしゃくしゃになった髪は垂れ下がり、彼の顔を隠していた。

「この私に向かってその口の聞き方とは、なんとも豪胆な奴よ。貴様、この私が誰だか分かっているのか?」
「そんなものは知らない。関係ない。私は一番の神を倒すのだ」
「ふん、ならば教えてやる。私は八坂神奈子!この洩矢の地を手に入れる、大和の神よ!」
「大和の神……お前が……」

 正直、諏訪子は本人の前でそんなことを言わないで欲しいと思っていた。
 ただ、気になるのは自分を狙いに来たという点。神々を殺すほどの力を持つならば、人里を襲うことなど容易かったはず。
 今までそれをせずに居たのは何故か。それよりも、手薄になった人里を無視し、自分の下まで来たのは何故なのか。
 それほどの力を持ちながらも、自分のミシャクジさまたちの網に掛からなかったのも気になる。


「私を倒しに来たっていうのは、どういうことかな?
少なくとも、恨みを買った覚えは無いね。妖怪は嫌いじゃないし」

 そう。彼女は自分から妖怪を襲うということは一切しなかった。
 妖怪と戦うのは人間を守るとき。それが『人間の味方』であることを決意した、彼女の想いなのである。
 昔、神を信じられなくなってしまった少年の、その心の味方になりたかった。『妖怪の敵』などという物騒なものよりも、という想いがあったのだ。

「別に、恨みがあるわけではない。ただ、お前は強く、多くの人間に知られ、信仰されている。
そのような存在の方が、都合が良かった。ただそれだけのこと」
「ふーん。じゃあ、何に対して都合がいいの?
人間を襲うって訳じゃないんでしょ?」

 そう。目の前の少年の妖怪は、人間を襲うことよりも神である自分を狙った。
 少なくとも、自分の愉しみのために人間を狩るという、そんな捻くれたことはしないだろうと思っている。
 ここまでの力を持ち、理知的な存在。諏訪子は目の前の妖怪に興味を抱いていた。

「絶対の神が居ると、人間が妖怪を恐れない。故に人間に恐怖を思い出させる。その為に、強い神を殺すのだ。」
「へーえ。じゃあ、妖怪……仲間のために一人でここまで来たんだ? すごいね?」

 けろけr……ケラケラ少女は笑う。
 確かに、目の前の妖怪は仲間の神を殺したかもしれない。それは許されることではないし、許すつもりもない。
 だが、人間を一人も傷つけずにここまで来たことと、仲間を想いやる気持に関しては評価している。
 そして、最初から自分が対応していれば、他の誰も殺すことはなかったということも
 しかし、それは結果論だ。この妖怪が凶悪ではないとも限らなかった。
 諏訪子は、あまりの間の悪さに悪態をつきたい気分になってしまった。

「なんでもいいだろう、諏訪子よ。妖怪は人間、そして神の敵。こいつの目的がなんであろうと、敵であることには変わりない。
だが、こいつの力が強いことは事実。一時休戦とし、こいつを倒すまで手を組むとしよう」
「私の相手って感じがするけどね。まぁ、そっちがそう言ってくれるなら」

 神奈子は言う。
 領土や信仰も大事だが、何よりも人の命を守るため、目の前の妖怪を先に始末しようと。
 諏訪子もいずれにしろ戦いは避けられないと了承し、神二人vs妖怪一人の戦いが始まる

 その後は、空を飛ぶことが苦手なハジであったが、そんな悠長なことを言う暇もない。
 諏訪子一人ですら、厳しい戦いとなるはずだったのだ。同等の力を持つ神奈子と組まれたことにより、さらに辛くなる。
 ここまでの戦いに少なからず消耗をしていたハジであったが、それでも神々を打倒するため死力を尽くす。
 諏訪子も、まさかここまで強いとは思っておらず、軽くは無い驚きと、この後に控えているであろう神奈子との戦いを冷静に分析する。
 それは神奈子も同じであった。ハジと戦いつつも、少しでも諏訪子の戦い方、癖、力量、業などを見極めようとしつつ、
 逆に見られても問題ない程度で全力を出さなかった

 そして、その油断を突かれ、一気に力を増したハジに神奈子は殴り飛ばされる。
 突然力の増したハジに驚きつつも、諏訪子はミシャクジさまの力を使い、ハジを祟る。
 それによりもがき苦しむハジであったが、それでも怯むことは無く、諏訪子に攻撃を食らわせるため、接近。そして蹴りを加える。
 祟りを使っても予想以上に動けるハジに蹴りを貰うも、評価の修正をしつつダメージの回復を図る。
 手を抜くわけではないが、今だけは協力関係となった神奈子がいる。今はそちらに任せ、後に響かないようにしなければならない。

 殴られ飛ばされ、ダメージを受けた神奈子であるが、致命傷ではなく、すぐに戦線に復帰。
 ハジは、そんな無事な様子の神奈子を苦々しく思いながらも、戦闘を再開。すぐに攻撃を開始する。
 ハジは神奈子へ攻撃を加えるため、慣性の法則を無視した不規則な軌道で空中を移動する。彼は自身の空中での速度は
 特別速いとは思っていなかったが、それは自身の物差しで測った場合でのこと。
 神奈子は不規則な動きとその速さに翻弄されていた。だが、そこは強力な神である。すぐにこれに対応する。
 要は、近づいた時に相手に攻撃を当てればいい、ということだ。無茶苦茶である。

 諏訪子も多少のダメージを受けたものの、すぐに回復させ、復帰。
 接近戦は神奈子に任せ、祟りで援護に努めようとするも、力をためている最中に突如目の前に現れたハジに驚く。
 その一瞬の隙を突かれ、強烈なかかと落としを肩に食らう。彼女は上空から叩き落とされた。

 目の前で戦っていたはずの神奈子は、目にも映らぬ速さを持つハジを警戒する。
 先ほどまでは、確かに速かったが知覚出来ていた。どこに居るかも、分かっていた。
 だが今!突然!『姿を消したと思ったら』、既に『離れた位置にいた諏訪子の目の前に』居たのだ!
 神奈子は驚いた。超速度や催眠術の類ではない。そんな物、神である自身に効くはずもない。ならば、何をした?
 そして、またハジの姿が『消えたと思った瞬間に』背部への衝撃。諏訪子同様に叩き落とされる。

 あまりに強い妖怪の存在に、二人は本能的に、ここで負けては人間『全て』が危険にさらされると理解していた。
 二柱は全力で戦うことを決心する。









「諏訪子よ、大丈夫か」
「そっちこそ。もちろんこの程度でへばったりしないよね?
それと、意外だな。心配してくれてるの?」
「ば、馬鹿を言うでない。私はただ戦力の確認をしたまででな……
ふんっ、この程度で負ける存在ならば、私が侵略するまでもないからな」
「言ってくれるね、あんた。
いいよ、土着神の頂点がどれほどの物か見せてあげようじゃないか。

……でも、それよりも、だ。あの妖怪の相手が先だね」
「あぁ。流石の私も、一対一だと骨が折れそうだ」
「あらそうなの? 私は余裕だけどなー」
「茶化すな。冗談抜きであれは強い。ここで、倒すぞ」
「うん。分かってる」


 第二ラウンド、開始。














―――――――――――――――

あとがき

七話を二つに分けた結果の前半部分。
でも八話は1万字超えしてて何が何だかって感じです。
八話はいいセリフ回しや立ち回りが思い浮かばないせいで時間かかりました。
一応上げていきたいと思いますけど、その内修正するかもしれません。というか、更新遅れるかも。
一応七話と八話が一まとめな感じです。修正するとしたら両方。

この戦いが終わればひと段落ついた感じで、このまま終わってもいい気がしてきた。

ゆかりん早く出したいです。あと……3、4話くらい?




※主人公と諏訪子たちのエンカウント状況を変更しました。



[21061] 原始編 八話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/01 05:28
 一人の妖怪と二人の神の戦い始まってからしばらくの時が経った。
 最初は神たちの方が優勢であった。それも、全力を出さずにで、だ。二人はお互いある理由から戦っていたが、
 今は妖怪を倒すまで協力関係を結んでいる。あくまで妖怪を倒すまでなので、倒した後はまたお互い戦うのだ。
 その為、彼女たち神は全力を出すことはしなかった。逆に、少ない情報からお互いの力量を見極めようとしていた。
 それがいけなかったのか。妖怪は消耗していた力を取り戻し、逆に今までの力を上回る力で神々を圧倒。
 ついには、神の本気を出させることとなったのであった。



 まずは神奈子が御柱を投擲する。全力を出すと決めた神奈子は、御柱を出し惜しみしない。その威力は壮絶と言っていい物で、
 ハジにとっては掠ることすら危険であった。彼は避けようと、地面を蹴り大きく横へと跳び退いた。だが、その進行方向を諏訪子が大岩で押しつぶすそうとする。
 ハジは御柱を避け、頭上に現れた大岩を砕くも、岩に気を取られている間に神奈子の接近を許してしまう。
 もちろん彼は神奈子に対し反撃を試みるが、先ほどとは比較にならないほどの痛みが全身を支配し、硬直。
 そして、諏訪子の祟りによって動きを止めたハジへ、神奈子の御柱の一撃が炸裂する。

 一瞬気を失いかけたハジだが、ここで負けるわけにはいかない、とすぐに意識を覚醒させ、
全身を包み込む痛みを気合いでねじ伏せた。
 奥理、アマツ、ツキたちレベルの妖怪ならば三分としないうちに命を落とすほどの祟りであったが、それを無視。
 実際には痛みだけでなく、呪的な戒めもあり、行動の制限や能力の使用も出来なくしてしまうほどなのだが、
 それを感じさせない動きで、追撃を食らわそうと近づいていた神奈子に反撃を食らわす。
 神奈子はそれを受け止め、ハジに御柱の攻撃。しばらくその一進一退の攻防が続き、一見戦いは拮抗しているかのように見えた。

 だがしかし、全力を出した最強の神々と力の弱った最強の妖怪では、どちらに分があるかは一目瞭然で。
 なかなか決定打が出ない現状に焦れ、先ほどのように高速移動で避けられては敵わないと、神奈子はダメージ覚悟で反撃することを決意。
 渾身の蹴りを浴びせようと神奈子の頭を狙ったハジであったが、神奈子は元々攻撃を食らうことを覚悟していた。
 山に来た神や、諏訪子の部下の神達ならば同時に三人は貫き殺すであろうそれを、神奈子は防御することなく頭で受けきり、肉を切らせて骨を絶つ作戦に出ていた。
 ハジは無事頭に攻撃を当てられたことにより、気を抜いてしまった。それは、戦闘中に最もやってはいけないこと。
 あと一人!と弱った者特有の希望的観測をしつつ、瞬間、足を掴まれた感触がし、御柱で視界が塞がれる。


 そして、ハジは完全に沈黙した。


 御柱が顔面に直撃し、そのままハジを地面に突き刺す。地面にはハジの身長の5倍ほどはある大きな窪みが出来ていた。
 ハジの顔が無くならなかったのは奇跡に等しい。神奈子が御柱を消すと、ハジの額からは血がただれ、顔は紅く染まっていた。
 神奈子は今までの神との戦闘を思い出す。その全ては、御柱による、たったの一撃で沈んでいった。その者たちを思うと、同じ神として情けなく思ってしまう。

 神奈子は力を抜き、息をつく。諏訪子も祟るのを止め、少しでも回復に努める。
 諏訪子よりも大きなダメージを受けた神奈子。長時間の祟りにより、神奈子よりも多くの力を使っていた諏訪子。
 両者とも狙っていたわけではないが、条件は総合的に見てほぼ互角。
 妖怪を倒したことにより協力関係は敵対関係へ。
 お互いは、いつでも攻撃、反撃が出来るように距離を測りならが空に飛びたった。

 諏訪子は威力が桁外れな御柱を警戒する。自分の祟りを受け切った妖怪にすら大ダージを与える威力は目を見張る物がある。
 神奈子はミシャクジさまによる祟りを警戒。あれを食らえば自分でも動きは遅くなり、戦闘が不利になると理解していた。
 次点で、鉄輪。鉄と言う、自身の御柱よりも硬い素材で作られた武器を見やるが、こちらは既に対策を立てていた。

 神奈子は自身の背負った道具の中からか細い植物を取り出す。これらの道具は、備えあれば憂いなしという考えから、
 しめ縄と一緒に担いできたものだ。そのくらいしなければ、単体で侵略をしようなどと思えない。
 それに、洩矢の神はミシャクジさま以外にも大地を武器とするとの噂を聞いていた。
 結果は大成功と言っていいだろう。鉄とは言っても、所詮は鉱物。土に根を張る植物に勝てる道理は無い。

 神奈子は植物を天にかざし、己の神力を使用。植物の性質が神奈子の力によって増幅させられ、鉄を錆びさせる。
 武器が錆び、使えなくなった諏訪子は、接近戦では分が悪いとし、ミシャクジさまの祟りで応戦。
 そして大地の創造を利用し攻撃。岩雪崩や岩石落とし、大技の岩石砲といった多彩な攻撃を神奈子に加えた。
 神奈子は御柱によりそれらを砕くが、砕き、細かくなった石は防げない。一つ一つの威力は弱くとも、
 量が量だ。祟りのダメージと相まって、少しずつ体力を削っていく。

 諏訪子は神奈子との地力の差を悟る。そもそも、相手の、神力を纏わせた武器を一瞬にして錆びさせる、
 などという離れ業をやってのけたのである。祟りと岩による攻撃では止めにはならないと気が付いていた。
 諏訪子は己の霊力を固めて撃ち出す、通称『霊弾』の使用を決める。
 霊弾は、諏訪子がミシャクジさまによる探知と、祟りで動きを止めた後、広範囲に攻撃をするために編み出された技術である。
 目視が可能になるほどの霊力を固め、光の玉として相手を襲う飛び道具で、消耗は大きいが、もはや空中の勝負では諏訪子にとって最後の手段であった。
 彼女は当たるとは思っていなかったが、それでもやらない訳にはいかない。やらなければ、可能性は永遠にゼロなのである。

 神奈子は武器を失ってすらまだ戦う諏訪子の姿に感心し、それでも我は負けないと、祟りの痛みを耐えながら御柱を投擲。
 御柱は岩や霊弾をはじき、消し飛ばす。素直に当たる諏訪子ではなかったが、次から次へと向かって来る御柱には、もはや避ける術がなかった。
 神奈子は今までの戦いから諏訪子が避けるルートを計算。そして、諏訪子の逃げ道を少しずつ狭めていったのだ。そして、これが最後。
 神奈子は御柱の投擲を開始。この戦いはこの一投で終わる。

(これで、詰みだ)

 神奈子がそう、確信した時だった。そこに問題が発生した。
 跳んできた岩の破片が神奈子の額をかする。眉間付近に当たったそれは、本来は何のダメージもなく、神奈子に少しあたって鬱陶しい、
 程度の影響しか与えないはずであった。『本来ならば』。
 ここに、ハジと言う介入者が現れなければ、起こることは無かったであろう、それ。

 眉間が切れた。傷口は小さいが、出血するには十分な深さ。そして、その血は『神奈子の目』へと入り込んでしまったのだ。
 自然、ブレる彼女の視界。一瞬。ほんの一瞬ではあったが、彼女は目を閉じてしまったのだ。
 諏訪子の移動する位置を、今までの経験と勘から割り出してきた彼女。今回も、それはしっかりと働き、勝利寸前まで持って行っていた。
 だが、彼女は眼を離してしまったのだ。諏訪子から、『諏訪子の攻撃から』。
 既に投擲体制を整えていた彼女は『投げない』という選択肢は選ぶことが出来なかった。
 その御柱は、本来狙っていたコースから僅かにずれ、諏訪子の横を通り過ぎて行った。そして、諏訪子の霊弾も。


 諏訪子の最後の攻撃、霊弾。それは、岩同様に神奈子は御柱で吹き飛ばそうとしていた。だが、狙いはずれてしまい、届いてしまったのだ。神奈子へ。
 相手の攻撃のタイミングを図ることが出来ず、碌な防御もするこが出来なかった彼女。神奈子は、地へと落ちていく。

 諏訪子は、ただ黙ってそれをみていた。
 自身が勝てるとは思っていなかった。素直に、負けを認めても良かった。だが、結果は自分が勝ってしまった。
 偶然勝ってしまったようなものだが、勝ちは勝ちである。
 諏訪子は落ちていく神奈子を追いかけるため、下へと降りようとする。しかし、そんな彼女の身に大きな影が映る。
 諏訪子がその陰に気がついた時、彼女は、一瞬だけ神奈子が口元を歪め、笑っているように見えたのだった。そして、そこで彼女の意識は途絶えた。
 そのあと彼女は、地へと落ちる。

 決着。
 ここに、諏訪大戦は幕を閉じた。




 女性が地に伏せている少女へ歩みよる。少女は意識を失っており、彼女は少女の背へ手を回し、己の腕の中で眠らせるようにしていた。
 しばらくすると少女は目を覚ます。目を覚ました少女は状況を飲み込めないのか、自身を抱き上げている女性の
 顔をまじまじと見つめていた。だが、すぐにある可能性へと思い当たる。

「こーさん」
「はいよ」

 少女は自身の体をゆったりと女性に預け、女性も、それを受け止めた。これが、男と女ならば絵になるのだが。
 ここには女性と幼い少女しか居なかった。離れた場所には幼い少年が倒れているが。

 大和の神、八坂神奈子の勝利であった。



 そのあと、諏訪子はこの国を、皆の先頭に立ち守ってくれと言い、神奈子ももちろんだ、と了承。
 両者共に納得し、神奈子が諏訪子の隣に腰を下ろして、少し話そうか、と持ちかける。そうした時だ。


 シン……と辺りの音が消え去った。


 一瞬か、数秒か、もしかしたら分単位だったかもしれない。
 一切の音を感じぬ完全な静寂。しかし、自身の鼓動はやけにうるさく感じられる、そんな静寂。
 一体、何事か。

 この異常は人里にすら到達していた。人々は、先ほどの神を殺した妖怪への恐怖と相まって、
 もしかして自身が殺される前触れなのでは、などと考えているほどだった。
 人里の全ての人間が、同じことを考え、それぞれ今まで生きてきた光景を思い出す。俗に言う走馬灯である。
 だが、永く続いていたと感じられる、この身を切り裂くほどの静寂は、時間にして一秒にも満たなかった。

 直後、風の様な速さで、本来『見ることが出来ない』はずの霊力が目視できるレベルで広がっていく。
 霧のように広がっていくそれは、人里からも確認が出来、人々はこの世の終わりのような光景に恐怖を感じる事しかできなかった。
 諏訪子様……!!!諏訪子様!!!と祈りを捧げる人間を無視するように、社を中心とし広がる霊力。
 巨大なそれは、ハジの帰還を待つ妖怪達にも見ることが出来た。よかった、まだハジは元気に生きている、と喜ぶ妖怪達。

 しかし、それを黙って見ている神々ではない。発生源が倒したはずの妖怪とみるや否や、
 二人は戦いの最初よりも随分と小さくなってしまった力を振り絞り、諏訪子は祟り、神奈子は御柱で攻撃をする。
 諏訪子は、人間が死の恐怖により、土壇場になってさらに高まった信仰心を得、少量ながらも力を高めていた。
 結果、量は少なくとも質の高まった祟りの攻撃は、ハジをさらに苦しめる。そして、御柱による一撃。
 ハジの小さな体は簡単に吹き飛ばされたが、それでも霊力の霧は晴れなかった。
 青白い色をした、霊力。一見綺麗な色をしているが、しかしそれは冷たく、人間に原初より刻み込まれた恐怖を引き出すには充分であった。

 ハジは壊れた人形のようにゆらゆらと立ち上がり、手をかざす。すると妖力の霧が一か所に集まってく。
 社の上に現れた、巨大な霊力の塊。そして、破裂。
 轟音が物理的な衝撃となり、二柱の神を襲う。あまりに広域な攻撃に、二人は耳をふさぎじっと耐えるほかなかった。
 幸い、人里には被害が出なかったが、社は半壊。人々は異常な現象の数々に畏れ、慄いた。
 人里にいた、生き残っている弱き神々が人々を宥めようとするが、それでも、身に刻み込まれた死の恐怖はぬぐえるものではない。

 ゆらり、ゆらりと幽鬼の如く歩きだすハジ。
 衝撃を耐えきった二柱は、次は何をしでかすのかと注意深くハジを見やるが、ハジの姿は消えていた。
 すでに彼女たちの後ろへと移動を終えていたハジは、そのまま神奈子へと殴りかかる。
 神奈子は何とか反応しそれを防ぐも、隣に居た諏訪子が『既に』殴られており、何が起きたのかは理解できなかったが、
 御柱を顕在させ、ハジに叩きつける。

 そしてハジはそのまま動く様子はなく、またしても地に伏せた。
 二柱は短いため息をつく。そして本当に大丈夫なのかと疑念を持ち、今度は確実に息の根を止めることにした。
 既に抵抗もしない、寝ているだけの妖怪。しかも、まだまだ幼い少年の姿をした妖怪を殺すことは憚られたが、
 それでも恐ろしい存在だったことには変わりない。

 諏訪子は、もし、この妖怪が神である自身を狙うことなく人里で暴れていたら、と思うと背筋の凍る想いであった。
 彼女は狙われた自分が、責任を持ってとどめを刺すと神奈子に言い、ふらふらと妖怪へ近づく。妖怪は仰向けに倒れており、前髪で顔が隠れている。
 この少年は、神と妖怪の関係を変える可能性を持っていた。だが、このままだと人間が滅ぼされるかもしれない。
 そう考え、手元に土の杭を作り出し、少年へと付きつける。風が、彼女の頬を撫で、神奈子はそれを見守っていた。


 そして、彼女は杭を振り上げ


 ……そのまま足元に落としてしまった。



 彼女は信じられないといった表情で、彼から一歩、また一歩と離れていく。
 どうしたのかと神奈子が諏訪子に尋ねるも、帰ってくる言葉はそんな、まさか、ありえない、と、彼女には訳の分からない返事。
 仕方なく、自身がとどめを刺そうと諏訪子が落とした土の杭を拾い上げ、手に持ったその時だ。

 少年が動いた。

 一瞬にして警戒を最大レベルにまで引き上げ、未だ茫然自失としている諏訪子を脇に抱え、一足飛びで彼から離れる。
 立ちあがろうとするハジを、注意深く見、いつでも攻撃が出来るようにする。顕在できる御柱は残り少ない。
 なんとか立ちあがったといった状態の彼は、きょろきょろと周りを見渡し、彼女たちの方を見る。
 二柱を目に収めたハジは臨戦態勢を取るが、その動きに当初のキレはなく、神奈子から見ればノロノロと、
 既に脅威を抱けないレベルにまで弱っていた。

 戦闘態勢を取ろうとした彼であったが、その脚は自重を支えきれずに倒れ込む。
 それでも立ちあがろうとする彼の執念は、神である神奈子をも唸らせるほどであった。
 ここまで強く、そして神々に戦いを挑む妖怪は、少なくとも彼女にとって彼が初めてであった。
 彼女は妖怪へ名を問う。意識を朦朧とさせながらも、名を問われたと理解した少年はハジ、と短く答える。
 そしてハジ、しかと覚えたぞ、と言った言葉に反応したのは、意外にも先ほどまで茫然としていた少女、諏訪子であった。



 彼女は古い記憶を思い出す。悲しい少年のことを。あの日、より多くの人間を守り、人間の味方として生きると決意した日のことを。

「あ、そうだ。せめて、出て行く前に君の名前をおねーさんに教えて?
君が困ってるって聞いたら、助けに行ってあげるから!」
「だから、私は強いから困らない。お前の気にするところではないと言っただろう。

あと私を子供扱いするんじゃない。私の名前はハジだ。覚えておくのだな」


 彼女は古い古い記憶を思い出す。その時の少年はハジと言っていた。これは偶然なのだろうか?
 聞かなければならない。あの時、私と出会った少年なのか、と。

 諏訪子は目の前の妖怪の少年をじっと見据え聞く。

「ねえ……ハジ……くん?」

 見れば見るほど、似ている。いや、記憶している顔、背丈、すべて同じのように思える。
 自分と同じ程度の背丈、曇りのない黒い髪。吸い込まれそうな瞳。まさか、そんな。いや、彼は人間のはず。まさか、本当に?
 彼女は悩む。自分が心配していた子供が、妖怪だったなんて、そうそう信じられるはずもない。
 ましてや彼女は、その悲しき少年を戒めに、忘れることなく万の月日を生きてきたというのに。

「そう、だ。わた、しは……ハジ。
妖怪、を。みん、なを。まも、る、ようか、いだ。負け、る、わけ、には……
負ける、訳には……負ける訳には」

 息も絶え絶えの少年は、自身に言い聞かせるように。負けるわけにはいかないと、そう、繰り返す。

「ハジくん。聞かせておくれ。
きみは、私に会ったことがあるかい?」

「……?」

 ハジは困惑する。目の前の、自分と同じ程度の背丈しか持っていない、金色の髪をした女。
 覚えなどなかった。

「知ら、ん。そもそも、敵、であるわた、しに。何故、そんなこと、を……聞く」
「似ているんだ。私が、守りたかった子供に。
その子も、君みたいな同じ黒い髪で、黒い目をした子供だったんだ」
「似ている、だけで、そんなことを……聞くの、か。神は。暇なんだ、な。

あと、私を、子供あつ、かい……するな」

「……」

 そう言って、ハジは能力を使おうとする。失敗する。すでに能力を使えるほど力が残っていなかった。
 諏訪子はそんな彼の返事を聞き、確信していく。あの子は、ハジくんは、この妖怪だったのだ、と。

「君は、どうしてここに来たのか、おねーさんに教えてくれるかな?」
「お前を、倒す……ためだと、言った、はず、だ」

 諏訪子は思い出す。あの時の少年との会話を。
 あの時は、進んで争いを望んではいなかった。

「そう、そうなの。
私はね、神様なの。神様は、人間の味方なの。人間を守って、祈ってもらって、そうして神は強くなるの。
人間を守るために、悪い妖怪は懲らしめなければならないわ」

「知って、いる」

「きみは、強いね。それに、物知りだ。
その歳で……そう言えば、ハジくんはいくつなんだろうね。あの時は人間だと思ってたけど、
もしかしたら、私よりも年上だったのかな」

「……?」

 そう言い、ハジの下へと諏訪子は近づく。
 ハジは距離を取ろうと、後ろへ下がろうとするが失敗。足を縺れさせ、尻もちをつく。
 座り込んでしまったハジは、自然と諏訪子を見上げる形となる。
 諏訪子はハジの頭と手を伸ばし、ハジはせめて一矢報いなければ、と全身の細胞から、力をかき集める。

 頭を撫でられた。

「……?」

「思い、出せるかな、これで。
私はね、きみが私の洞窟に来て、出て行った後、すごく後悔したんだ。
でも、きみは妖怪だったんだね。ちっとも思ってもみなかったよ」

 ハジの目に映るものは苦笑。そうして思いだす、一人の神。
 それは、ハジが初めて出会った、人間を守るために生まれた新たな神であった。
 妙に心配してくる奴で、変わった奴だと、彼は記憶していた。嫌な奴ではなかった。

「どうでも、いい。

それに私は、神について聞きに、来たのでは、ない」

「思い出してくれたんだ。
なら、神は……きみを、懲らしめなければならない」

「もとより、理解している。
だが、妖怪には、安心して暮らせる場所が、世が、必要なのだ。
妖怪が滅ぶ、くらいなら、例えこの身が、滅びようとも!

やれるものなら……やってみろ!」

「……!」

 ハジは会話の中で回復させたなけなしの力を振り絞り、諏訪子を押し倒す。
 諏訪子は硬直し、そのまま抵抗せず、後ろへと倒れ込む。
 そして、ハジは、そのまま諏訪子の首元へと手を伸ばし

「がげぁっ!」

 突如として腕に突き刺さる土の杭。
 神奈子はハジと諏訪子の会話を見守りながら、ハジが妙な気を起してもすぐに対応できるようにしていたのだ。

「妖怪、ハジよ。我ら二人を相手によくやったと褒めてやろう。お前のその名、忘れはしない。
だが、我らは神。妖怪は敵だ。お前はここで、始末する。」

 宣言し、御柱を顕在させる。お互い疲弊しているが、それでもハジを殺すのには十分な威力を持っていた。

 その間、大地に倒れながらも諏訪子は考えていた。
 安心して暮らせる場所と彼は言った。
 妖怪を……彼を守る存在はいるのだろうか。人間は神が守る。だが、守ってくれる者が存在しない妖怪は、自分で守るしかない。
 結局自身の勘違いだった、あの子のように。

 それは実際には存在せず、しかし彼女の心にずっと残り続ける戒め。
 自身を守ってくれた存在はなく、周りに頼ることをなくしてしまった少年。
 それは諏訪子の中でしか存在しない、実在しない少年であった。だが、自分が知らぬところで、『確かに有り得ただろう出来事』。
 妖怪に襲われた集落は、一つや二つではない。その中に、滅んでしまったものも多く存在する。

「さらばだ、妖怪、ハジよ。
その強さと、仲間を守るという想い。気に入った。
もし、妖怪以外に生まれ変わったのなら、酒でも飲み交わそうぞ」

 諏訪子は考える。
 人間が恐怖を忘れたら、妖怪は生きて行けない。
 それを何とかしようとした彼は、たった一人でここに来た。誰にも頼らず、手を借りず。仲間を守る妖怪を、彼を守る存在はどこにいるのか。
 あぁ、結局自分は諦めきれていないのだ。あの子のことを。ハジのことを。
 どうしても諏訪子は、目の前の少年と、『あの子』のことを重ねてしまう。

「ねえ、待って。神奈子」
「なに?」

 諏訪子は神奈子を止める。ここで彼を殺してしまったら、きっと自分は後悔する。そう、思った。

 ハジが、力尽き目を瞑り、意識を失ったその瞬間。

「来た」

 彼は、神奈子達が知覚できないほどの速さで飛来した陰に掴まれ、その場から離れる。
 舌ったらずで、ハジとそう変わらない身長。しかし、大きな翼を持つ妖怪、アマツであった。

「はじ!はじ!しっかりして!」
「アマツ!ハジは無事かあっ!?」
「わかんないよ!ねえ!はじったら!」
「ハジ!しっかりしてください!」

 続いてツキ、奥理とやってくる。彼女たちは霊力の霧が人里を覆い、それが萃まり爆発した後も、しばらく山から見届けていた。
 だが、その後は一向に動きが見られなかった。もしかして、と嫌な予感がした彼女たちは急遽ハジの下へ参戦することにした。
 山を守るという約束を破るのは心苦しかったが、それ以上にハジが死ぬ可能性が恐ろしかった。
 そうして、『人を襲う妖怪が』人間を『無視』し、神の居る社へ来るという異常な光景が繰り広げられていたのだ。

「さあさあ!あたしのハジをやってくれたのはどっちだい!?
今すぐその身をぶち砕いてやる!」
「落ち着くのだ、ツキ。
アマツ。山へハジを連れて行ってくれ。この二人は私たちが押さえるから」
「うん、わかった。きをつけて」
「くっ、待ちな!」

 神奈子は制止の声を上げるが、そんなものを聞くはずがない。
 アマツは超高速で天を駆け、即急に離脱した。ここに残る者は四人。

「ちっ……逃がしてしまったか」
「来たんだね。 神奈子、こいつ等は、ちょっと強いよ」
「分かっておる」

 臨戦態勢を取る二人。神奈子自身、力をかなり使っていたが、まだ戦えないと言うほどではない。
 諏訪子も、極度の疲労に悩まされているが、ダメージ自体は神奈子程ではない。
 少し休めば相手を祟り、動きを止める程度は出来る。神奈子に前衛を任せ、体力を回復させつつ祟れば戦えないこともない。
 襲われることを警戒しつつ、諏訪子は妖怪二人に話しかける。

「お前たちの目的は、ハジくんの奪還かい?
それとも、また私たちを倒しに来たのかな?」
「無論、両方だ。ハジを殺させる訳にはいかないし、ハジが倒れた今、その意思を継ぎ『妖怪たちを倒す神を倒さなければ』ならないのだ」

 奥理は考えていた。ハジの目的は、自分たちを神の猛威から守るためだと。
 その為に、無理をし、命を賭けた。
 その彼が倒れた今。仲間である自分たちは、彼の意思を継がなければならない、と。
 そう、思っていた。

「もう、私には殺す気なんて、起きないんだけどね……」
「何を言っていのだ、諏訪子?」

 元々、彼女は妖怪が悪だとは思っていない。この世に生まれ、生きている。
 それは、この世界がそれを必要としたから、彼らは生まれたのだ。自分たちが、人間を助けるために生まれてきたように。
 心優しき神、諏訪子は、妖怪をそう認識していた。だから、必要以上に争うことはない、と。

 そして、あの少年は、彼女にとってはあの時の少年なのだ。たとえそれが勘違いであっても、深い情を抱いてしまっている。
 それに、彼は救いを求めていた。彼自身ではない、仲間の妖怪の救いを。

 それは、ただ立場が逆転しただけのこと。既に妖怪は滅ぼす側から滅ぶ側へと変わっていたのだ。
 滅んだ集落(妖怪)に、ただ一人生き残り、彼を救う者はいない。それが、あの妖怪、ハジの未来のような気がしてしまって。


 先ほどのハジの叫びは、一人になりたくないと叫んでいる気がしてしまって。


「ねえ神奈子。私たちにとって妖怪は敵なのかな」
「なにを言う、諏訪子。そんなもの、当り前であろう」
「私は、そうは思わないんだ。私たち神様は『人間の味方』だ。
必ずしも、『妖怪の敵』である必要はないと思ってる。この妖怪達を見ていると、ますますそう思うよ。
ね。人間を無視してここまで来た妖怪さんたち」

 奥理たちは諏訪子の考えが読めない。
 自分たちの発言を無視したと思ったら、今度は突然話しかけてくる。
 そこまでは、まだよかった。しかし、殺すつもりも、下手をすれば戦うつもりもないというのは、どういうことなのか。

「なにが言いたいのだ」
「人間を襲わない時は、争う気は無いってことだよ。私に襲ってきたら、抵抗はするけどね」
「つまり?」
「ちょっとまちな。何が言いたいか、いまいち分からないけど。狼の山を襲ったのはお前たち神だろう?
たとえこっちが襲わなくても、そっちが襲って来るってんなら話にならないね」

 そう。神が全員そう思っているわけではない。
 たとえ諏訪子のみが言ったところで、それを信用できるのかは別の問題だ。

「それは信じてくれとしか言えない。
でも、既にここらの土地は、全て私の国だ。そんなこと、私がさせない。
いや、本当は神奈子の国になったんだけど、それは、私がさせないと約束する」
「おい諏訪子、何を勝手に」
「神奈子、頼むよ。妖怪とは、無駄に争いたくないんだ」
「確かに、好んで争いを起こすのは得策ではないが……」

 もちろんここで、神奈子は拒否することも可能だ。既にここは神奈子の国。
 だが、真剣な表情の彼女を、拒否する気にはなれなかった。

「とにかく。妖怪は人間を襲う。これに文句はない。だって、それが生きるためなんだもの。
そして、襲ってきた妖怪を私たち神が倒す。それが私たちの役目だし、人間を生かすためだ。
でも、私は妖怪を滅ぼしたい訳じゃないんだ。人間を襲わない時なら、一緒に酒を飲み交わしたっていいと思っている」

 正直な、本音。
 恐らく、神と言う立場では許されないのかもしれないが、彼女自身はそう思っている。
 妖怪を守る者が居なくても、一緒に、酒を飲むくらいの存在が居てあげてもいいのではないだろうか。
 そして、もし妖怪が神に救いを求めるのならば、と。

「だから、もうおしまいにしよう、この争いを。
お前たちが襲って来ない限り、私が戦う理由はない。ハジくんを、助けたかったんだろ?
いくら私たちが弱っていると言っても、それでも、お前たちに負けるほどではないよ」

 少々威嚇を込めて言う。
 弱ってしまった自分では、既に手加減が出来ない。神奈子は、手加減をする気もないかもしれない。
 仲間を失うことを恐れたあの少年のためにも、やらなくてもいい戦いは避けるべきだ。
 しかし、それは諏訪子の考え。奥理たちにしてみれば、都合のいいことを言っているだけにしか見えない。

「人間を襲ってはいなかったから、ハジに止めを刺さなかったと?人間を襲ってはいなかったから、私たちを見逃すと?
無礼るなよ、神。私たちは妖怪だ。妖怪は人間を襲うことが役目なのだ。今まで多くの人間を襲って来たのだ。
ハジが倒れた今、ハジの意思を継ぎ『妖怪を倒す神を倒さなければ』ならないのだ!仲間を、守るためにも」

 見下すな、と彼女は言う。目の前の神は、自分たちを下に見ていると感じたから。
 そして、彼女は思っていたのだ。
 『強い神が居るから、人間が襲えない』と。このままでは『妖怪が神に倒されてしまう』と。
 だから、ハジは自分から、この土着神の頂点に立つ洩矢諏訪子を狙ったのだ、とも。


「抑止力」


 諏訪子は、たった一言を呟く。
 その一言は、妖怪二人の顔を、ポカンとさせていた。
 神奈子も、何やら神妙な顔をしている。

「なに?」
「抑止力ぅ?」

 当然、上がる疑問の声。
 それはそうだ。突然の一言。そして、彼女は続ける。

「抑止力。それは、神と妖怪の間を牽制しあう存在。
妖怪にとって、神そのものの存在が抑止力となる。それでも、人間が襲えないというほどじゃない。今、神の数は減ってしまったからね」

 彼女は少し、顔を伏せて言う。
 この土地の奪い合いの間に、死んでいった神は当然ゼロではない。
 それは強き者であったり、弱き者であったり、強さは様々であったが、大勢の者が死んでしまった。
 それでも、妖怪の抑止力足り得るのは、神の数が減った分だけ、神の質が上がるからだ。一人ひとりに割り振られる力は当然多くなってく。
 それでも、元々多かった土地を少ない神で守るのだ。隙は必ず出来てしまう。
 その『隙』があったからこそ、彼女はミシャクジさまを使い、悲劇を繰り返さないようにしていたのだ。悲劇の真実は、勘違いであったが。

「神にとっての抑止力は、ハジくんだ。
あの子の力は私たちとほぼ同等。土着神の頂点たるこの私と同等なんだ。
彼は既に、私の配下の神も殺していったし、大和の神も殺していた。
神を殺す妖怪は、人々に恐れられ、神々にすらその名を知らしめるだろう」

 そう言って、彼女は心の中で呟く。本当は、私があの子の味方になってあげたい、と。
 知ってしまったら、彼女は無視することは出来ない。
 何万年もの昔から、彼女は彼の味方になってあげたかったと思い続けてきたのだから。
 一人になってしまった存在を、彼女は今まで守りたかったというのに。

「あの子は、仲間を守りたいと言っていた。他の妖怪も、あの子を守りたいと言うのなら、私の、今から言うことを聞いてくれ」
「……」
「ハジくんの意識が戻ったら、また此処に来るように伝えてくれ。話したいことがある。そして、その際人間を襲わないように、とも。
そうしなければ、私たちはなにもしない。
現に、彼の目的は達成されているはずだ。だから、これ以上は戦う必要なんて、ないんだ」
「目的が達成されている……だと?
お前たち、何を知っている。貴様ら神を倒さねばならぬと言うのに」

 ハジとは、若干異なる主張をする彼女に、諏訪子は納得といった表情で説明をする。

「彼の目的は、人間の恐怖を取り戻すこと。人間は、絶対的な神の存在に安心し、恐怖を忘れていっているんだ。
でも、彼は既に目的を果たしていたよ。神の死と、強大な力を人々に見せつけ、その身に恐怖を刻んでいった」

 人里上空での戦い、神々の死体、そして、社からやってきた霊力の霧と爆発。
 絶対の信頼を置いていた神の死と、原初より築き上げられてきた最上級の『恐怖』は、互いが互いを高め合い、
 人々の忘れかけていた恐怖を再び思い出させた。
 どちらかが欠けていれば、諏訪子様がいる、神が守ってくれる、という気持ちがあり、そこまでの効果はみ込めなかっただろう。

「少し……守りすぎてしまったのかもしれないね。人間は、自分たちでも身を守れるようにしないと。
そういえば昔は……こんなこと無かった。人間も、妖怪と戦っていた。だから、妖怪の怖さをちゃんと知っていた。必要以上に怖がる必要も無かった」
「恐怖を……取り戻す? 馬鹿な、ハジは、私たちが人間を襲えるように、神を倒そうとしていたのでは……ないのか?」

 そもそも、奥理は勘違いをしていたのだ。
 ハジの目的は、『人間の恐怖を取り戻すこと』。
 諏訪子たちの打倒は、彼にとっては手段の一つに過ぎず、人間に恐怖を刻み込むのに一番効果的だっただけに過ぎない。
 神の死も、霧も、彼が狙ってやったことではないが、結果的に、彼は人間に恐怖を刻み込んだ。
 人間は、なまじ妖怪との戦いとは無縁の生活を長年続けていたが故に、妖怪への恐ろしさの耐性が落ちていたのだ。
 自分たちで何もしなくとも、神が守ってくれていたから。

「多分、違うと思うよ。彼にとって、私たちを倒すことは手段の一つに過ぎなかった。
あの子が意識してやったのかは分からないけど、人間は神をも殺す妖怪の存在を知った。恐ろしい存在を知った。
大方、お前たちを巻き込みたくなかったんだろうね。あの子は、仲間の死を恐れていると思うから」
「そんな。なら……」
「奥理。一旦此処は退こう。こいつの目は、嘘を言っていない。
とにかく、今あたしたちのするべきことは、ハジにこのことを伝えて、ちゃんと聞きだすことだと思う。」
「ツキ……そう、だな。そうかもしれない」
「分かってくれた、かな?」
「だが、忘れるなよ。お前たちが妖怪を滅ぼすと言うのなら、全力を持って抵抗してやる」
「あたしだって、ハジを傷つけたあんたらを許す訳じゃないからね。拳の一つや二つは覚悟しておきな」
「分かってるよ」

 奥理たちは社を離れる。人里を通り、人間を無視し、一直線にハジの居る場所へと。
 神々の戦いと、妖怪の挑戦は此処に終わりを告げる。
 これは、永きに渡る、妖怪と人間を守る神々との関係を少し、少しだけだが変える結果となった。

 この変化は、人間をまた一つ強くする。
 守られるだけの存在であった人間は、恐怖を取り戻し、再び戦うことを決意する。

 時代は、妖怪が人を襲い、人が妖怪を倒し、神がそれを手助けする。そんな関係へと動き出す。








「……勝手に決めて、済まないね。神奈子」
「諏訪子とあの妖怪達の間に、何があったかは知らぬが。それでも、お前は国民たちを蔑にする奴ではないであろう?
ならば、この国の新しい神として、聞きいれてやらねばな。
我の器の大きさに、感謝するといい」
「うん。ありがと、神奈子」
「ふ、ふん。どうせお主は私の配下となるのだ。そうした口を利けるのも今のうちぞ」
「ふっ。それはどうかな?」
「なに?」
「私は事前に手をうっていた。多分、神奈子じゃ私から信仰は奪えないと思うよ。
すくなくとも、ミシャクジさまくらいの影響力は持たないとねえ」
「なん……だと……?」








―――――――――――――――――

あとがき

なにやら超展開なイメージが否めない作者です。でも消して直してを繰り返して行くうちにこんな結果に。
やっぱり、皆さんが強引すぎだと感じたら直そうかと思います。
話の展開としては、結果がこんな感じに終わればいいんですけど。どうやったら自然になるだろう。

次回のお話は戦いのあと、諏訪子たちの話し合いから。
それでは。



[21061] 原始編 九話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/01 05:28
 八坂神奈子は疲れていた。

 洩矢の国へ侵略をし、その内出会ってきた神々をバッタバッタと薙ぎ払い、洩矢諏訪子へ戦いを挑んだのだ。
 結果は勝利。途中妖怪の介入やヒヤッとした部分もあったが、自身の確かな実力によって勝利をもぎ取っていた。
 侵略は成功。八坂神奈子は国を奪い、大和の国が洩矢の国を治めることとなり、当初の目的は果たしていた。
 目的自体には、特に問題は無かった。そう、問題はなかったのだ。

 その戦いの後、諏訪子は神奈子へ信仰は流れないと言っていた。それが事実となり神奈子の頭を悩ませたが、
 大和の国の者としては、大和の神が治めるという、その事実が必要であり、国民や国外の者たちへ示せればいいだけなのだ。信仰の有無はそこに関係はない。
 信仰が流れないのは、国民たちが諏訪子の祟りを恐れたため。ならば、その信仰を認める代わりに、
 神奈子は諏訪子に洩矢という名の字を変え、読みは同じ守矢と名乗らせ、人々に『守矢の神』を信仰させることにした。

 これは、どうせ信仰が流れないのならば、と、体制的に名前を変えようとした結果であった。
 流れる信仰は変えず、しかし、洩矢諏訪子は負け、八坂神奈子が国を奪った事実を国民へと知らしめる。
 他にも、諏訪子には国外へ名乗る名も変えさせ、それを国民にも徹底させる。
 いろいろと面倒な手順を踏んだが、問題は無いと言ったら無いのだ。

 諏訪子自身は国が奪われようがなんだろうが、力が持てていれば文句はなかった。力があれば、人間の味方であり続けることができるから。
 国内では信仰を保てているものの、ここはあくまでも神奈子の国であり、この国の神は神奈子なのである。
 表立って大きく動くことはあまり出来なくなったが、それは影から手を貸せばいいだけの話。
 むしろ、神奈子の手も借りられると考えれば、彼女にとって悪い話では無かったのだ。
 利害の一致により諏訪子は神奈子の提案へと協力。何の問題もなく、それらはすぐに、無事に終わった。


 では、何が神奈子を疲れさせているのか。


 それは、彼女の目の前で繰り広げられている、子供の喧嘩を止めなければいけないからなのだろう。
 少年と少女の『見た目』ポカポカといった叩きあいを眺めつつ、彼女はため息をつく。

(まさか。あの後国譲りはすぐに終わったのに、約束通りやってきた妖怪によってこうも乱されるとは……思いもよらなかった)

 彼女はまたしてもため息をつき、『大地が割れ、天が切り裂かれるほどの轟音』を耳にしながら、少年少女の喧嘩を止めに入るのであった。
 八坂神奈子、本日三度目の介入である。彼女は精神的に疲れていた。












 私は目の前の女を殴る。女も、私を鉄製の武器で殴ってくる。そもそも、なぜ殴り合いをしているのだろうか。理由など忘れてしまった。
 この女は神で、私は妖怪。戦うのに理由はいらないと思うが、それは違うのではないかという考えが頭をよぎる。
 誰かから、目の前の女からそんなことを聞かされた気がする。
 目の前の女は、最初は私と戦う理由は無いと言っていた。だが、現在は戦いの最中である。
 意味があるのならば思い出せそうだが、こうも強い者と戦っていると、だんだんと楽しくなってきてしまうのだ。そんなもの忘れてしまう。
 殺す気はまったく起きないが、それでも心が躍る戦いである。是非、ツキも誘ってやりたいものだ。あいつは、何秒持つだろうか。

 そうこうしている間に、またしてももう一人の女、八坂神奈子と名乗る神により戦いは止められる。これで三度目だと思う。

「おい、八坂神奈子、何故止める。今私は戦っているのだ。邪魔をするならばお前から倒す」
「そうだよ神奈子!私はハジくんをちょっと懲らしめてやらなきゃいけないのさ!邪魔をしないでもらいたいな」

「はあ……お前たち、それでも上に立つ者であろうが。自身の行動に自覚と責任を持つがよい。それではただの子供であるぞ」
「子供だって!? 子供なのはハジくんだけさ。私はちゃんとやってるよ」
「なんだと。 私を子供扱いするな」

 失礼な女たちである。この私を子供扱いするとは。
 そう思い諏訪子と八坂神奈子を、それはそれは恐ろしい目で睨みつけてやった。笑われた。なんてやつらだ。
 これはもう一戦交えるしかなさそうだ。
 それにしても私は何故ここに居るのだったか。ううむ。そう言えば、こいつらに呼ばれたから来たのだったか。

「ふん。まあいい。子供扱いしたのは許してやる。
それよりも、私を呼んだ理由を教えろ。

あと、その後にまた私と戦え。もう一回だ」

「ふん、いいよ。相手をしてあげる。神様の恐ろしさってやつをその身に叩きこんであげるよ。

あと、理由なら最初に話したよ?もしかして、忘れちゃったの?」
「なに? ……そんなもの、覚えていないな。大した理由ではなかったのか?」

「はあ……」
「諏訪子。お前も大変だと思うが、お前たちを止める我の身にもなってみろ。なかなかに骨が折れるものぞ」

 理由など覚えていない。しかし、諏訪子は私に対して無礼なことを言った気がする。
 それで、言い返したら戦いが始まったのは思い出した。だが、それだけだ。私を呼んだのに理由などあったのか。
 あとこいつ等の私を見る目は同情的でどうも気にくわない。今から戦いを始めるのも良いかもしれない。今度は八坂神奈子を交えて。

「じゃあ、また言うからね。今度は最初から言うから、ちゃんと聞いててよ?」
「ふん、言うがいいさ」

「はあ……じゃあ、言うよ。
妖怪ハジ。此処に呼んだ理由は、あなたには、人間を襲わないようにしてもらうため。
貴方ほどの妖怪が人間を襲えば、人間にも、神にも、とてつもない被害がでる。そうなれば、私たちは全力で、それに対応せざるを得なくなり、双方にとって被害は増えるだろう。
協定だ。私たちから妖怪を襲うことは、絶対にしない。襲われた場合に限り、戦うことにする。ただし、貴方にだけは、人間を襲う事をしないでもらいたい。

ね?頼むよ、良い子だからさ」

 そう言えば、そんな話だった気がする。別に、私が襲わないだけで仲間の安全が上がると言うのなら、それを受けよう。
 どうも、人間の恐怖は膨れ上がっている。これならば、私が戦わなくとも皆はうまくやるだろう。
 ただ、最後の一言が気に入らない。私を子供扱いするとは、なんてやつだ。

「別にそれは構わない。だが、私を子供扱いするな。
お前だって、私より年下のくせに。ちょっと背が高いからって、図に乗るなよ小娘が」
「な、また言った!別に図になんて乗ってないし、ハジくんは見た目も中身も子供だろう!?
なら歳なんて関係ないね。私の方がおねーさんなんだから、何度だって子供扱いしてあげるさ」
「なんだと」
「なにさ」

 霊力を身に纏う。戦いの準備はできた。まずはどこから狙う?目、鼻、首、胸、腹。
 肩を外すのも良い。背中からの攻撃でもいいだろう。一筋縄ではいかない奴だが、それでも私は負けない。
 最初から負けるなど考えれば、既に戦いは負けているのだ。ならば、勝つのみ。

「ええい、やめろと言っている!お前たち!何度繰り返せば気が済むのだ!」
「え?あ、ごめんよ神奈子。また熱くなっちゃったね」
「……?」

 何度だって、いいだろう。こいつと戦うのは楽しいのだから。八坂神奈子、お前と戦うのも面白いかもしれない。
 そういえば、さっきから何度も同じことを繰り返している気がしてきた。たしかに、諏訪子は理由を言っていたかもしれない。
 だが、以前の私も最後の一言が気に入らずに戦いを始めたのかもしれないが。

「それで、協定などと言う者はどうでもいい。それで仲間の安全が高まるのなら。私は人間を襲わずとも生きて行けるのだし。
それよりも、八坂神奈子。お前も私と戦え。前に戦った気がするが、よく覚えていないのでな。お前の力には興味がある」

 そう、興味がある。実のところ、この神達との戦いの記憶はあやふやで、少しの会話と、少しの戦いしか覚えていない。
 目を覚ました後に聞いた話では、私は敗れ、死の淵を彷徨っていたらしい。
 だが、人間の恐怖を取り戻すという目的は果たせていたようで、諏訪子たちを倒す必要は無くなった。これからは、他の妖怪が人間を襲えばそれでいい。

 僅かに覚えているのは、『二度』の能力の発動。それは、私の寿命を対価とした強制的な力の底上げ。未来にある地点を操作し、結果を持ってきた。
 力とは、ただ大きいだけでは強さとは言えない。その力を扱い、制御することが出来て初めて強さを持てるのだ。
 一度目は、奴らの隙をついて意識的に使用した。奴らの意表を突くのにも成功し、有利になったと思われる。この時点で限界に引き上げていた。
 二度目は、ほぼ無意識であった。そのあとはほとんど記憶にないが、さらに力を底上げしようとしていたはずである。
 私の力量では、残りの寿命半分ほどの分までなら制御は出来た。だが、それを超えた分まで能力を酷使している。
 それをしなければならなかったほどに、この神達は強かったのだろう。私を追い詰めたのだろう。

 実力に伴わない力は身を滅ぼす。その言葉通りに、私の力は弱まっていた。と言っても、神と戦う前程度なのだが。
 本来長年の月日をかけて手に入れる物である。力だけを手に入れ、それを扱う技術が身につかぬ内に使用した代償だ。
 寿命は七、八割以上削られており、力は変わらない。時の経過は私たち妖怪を強くする。
 つまり私は、強くなる可能性をほとんど失ったのだ。私は元々強いし、上昇幅も少ないので特に、問題はないのだが。
 私は後、どの程度生きられるのだろうか。

「なに……覚えておらぬのか。お前は、現状をきちんと理解しているか?」
「それは問題ない。会話の部分は、少しだが覚えている。それに、奥理たちにも目を覚ました後に話を聞いた」
「神奈子が頭に御柱をぶつけたのが効いたのかな?
とにかく、きみは大きな行動を起こさないでくれよ。存在してくれれば、お互い牽制になるんだから。
むしろ、きみが扇動なんかしたら、神と妖怪の全面戦争が起こるからね。それは、ごめんだよ」
「うむ。分かっている」

 確かにそんな気がする。基本的に妖怪よりも、神の方が強い。妖怪は数で勝っている程度なのだ。
 奥理たちならば、それなりな神程度になら相手を出来るだろうが、目の前の女たちには数秒と持つまい。
 数と行動範囲で、守りの薄い人間を襲う。それが、今の私たち妖怪の生き方だ。私は、襲わないのだが。

「よし、ならそれじゃ、少し世間話でも」
「はじー!はじー!だいじょうぶー?」

「ん?……アマツか。私は大丈夫だ。強いからな」

 何か言いかけていた諏訪子を遮り、アマツが来た。恥ずかしがり屋のアマツが、一人でここまで来るとは。
 ちゃんと成長してくれているようで、なんとなくうれしい。生まれたての化獣時代を懐かしく思える。この子は、親が死んでいたから。

「それよりも、どうした? 私に会いに来てくれたのか?」
「ううん。ツキが、呼んでた。おそいから呼んでこいって」
「そうか。ならば戻るとしよう。話は終わったようだしな。

じゃあな。諏訪子、八坂神奈子。今度はちゃんと戦おう」

「え、ああ。またね。 戦うのは、考えておくよ」
「うむ。またな。我は戦うのは構わん。周りに被害がでなければ、な」
「わかった。 よし、行くかアマツ。

私の能力で行くか、それともお前に連れて行ってもらうか。どちらにする?」
「はじをつれてく!つかまってて!」
「うむ」

 アマツに捕まり社を出ていく。

 アマツは、大きくなっている。身も、存在も。奥理も、親として子を育てているようだし、クレナイもその手伝いで奔走している。
 ツキは、私が目を覚ました後に喧嘩仲間を連れて私の見舞いに来ていた。戻ったら、そいつらを叩きのめしてみるのもいいかもしれない。
 私のしたことは、無駄ではなかっただろうか。皆の未来を守れただろうか。今はまだ、わからない。だが、生きているのなら、また守れるだろう。
 私を取り巻く環境も、少しずつだが変わっている。私自身は変わったとは思わないが、既に私は始まりの妖怪とは名乗っていない。ただの妖怪、ハジだ。

 ちゃんと、変わっている。そう言えば、のんびりと水浴びをしたのはいつだったか。
 今度一人でゆっくり泳ぐのも悪くは無い。その後は、いろいろやってみようか。
 既に私の役目は終わった。私が始まり、仲間を増やし、人間を襲い、人間は強くなった。
 その後は神も登場し、妖怪は危機に陥ったが、それも落ち着いた。
 そして、今度私は人間を襲わないようにするのだ。ならば、私のすることなど既にない。

 少しくらい眠ってもいい気がする。千年程度なら誰も文句は言わないだろう。他にも、恐怖以外にも何か食べてみるのもいいかもしれない。
 五千年ほど前に水を飲んだことがあったが、それだけだ。
 どうせ始まりの妖怪の名は捨てたのだから、ほかの妖怪のように、何か……木の実でも食べてみるか。

「なあ、アマツ」
「どうしたの?」
「私は、変わってみる。 手始めに、木の実でも食べてみようと思うのだ。
お前の仲間に、木の実を食べている妖怪が居なかったか?どんな物が食えるのか、教えて欲しい」
「え?……えーと、うん。今度、きいてみるね」
「ああ、頼む」
「うん」

 奥理たち狼の住む山へと飛んでいく。まだ、ツキたちもそこにいる。
 神達との話も終わったから、私が戻ったら自分たちの住処へ帰るだろう。アマツも、仲間たちの下へと帰るだろうし、
 しばらく私は暇になりそうだ。

 昼寝も、木の実も少し楽しみだが、やっぱり水浴びからやろう。
 それに、暇ならいっそのこと、私も子を成してもいいかもしれない。
 そうすれば、妖怪を見守る存在も増えるだろうし。私よりは永い間見届けてくれるだろう。
 他にも、行ったことの無い場所へと旅に出るのはどうだろうか。此処へはすぐに戻れるのだから、定期的に戻れば、諏訪子たちも文句は言うまい。
 ああ、楽しみだ。やはり、生きるのは楽しくなくては。私は陽気な妖怪なのだ。




 山へ着くとツキから質問攻めにされた。やれどんな話をしたやら怪我はないかやら叩きのめしたかやら。
 鬱陶しかったので地面に叩きつけたが、ツキは強い。死にはしないだろう。この程度で死んでいたら、今は生きていまい。
 ツキの喧嘩仲間だと思われる奴らがツキを引っこ抜いている。ツキも落ち着いたようで、今度は一つ一つ聞いてきた。
 それに私も丁寧に答えてやることにする。面倒だったが。

 アマツは仲間たちの下へ帰るらしい。アマツに別れを告げ、ツキたちはどうするかを聞くことにする。
 どうやら、戦いを所望するらしい。いいだろう。全員でかかってくると良いさ。
 そんなこんなでツキたちを叩きのめした後、奥理がやってきた。隣にはクレナイ、傍らには小さい女が付いてきている。こいつが子供か?

「奥理か。それとクレナイ、久しぶりだな。そいつは、お前たちの言っていた子供か?」
「そうですよ、ハジ。この子は長女です。他の子は今、向こうで遊び回っています」
「お久しぶりです、ハジさん。ほら、ベニ。挨拶をしな」

 クレナイに背を押されて、ベニと呼ばれた女が前に出てくる。
 しかし、このおずおずといった様子は一体何なのか。しっかりとせねばなるまい。こう、私のように威厳溢れる感じで。

「こ、こんにちはです。あの、その、母と父から、お話は伺っております。えっと、その、すごく強いんですよね。あの、すごいと思いますっ」

 話し方も変な奴である。やはり、ここは一つ忠告しておくか。

「ああ、ごきげんよう。確かに私は強い。だが、何だその話し方。もっとしっかりとしろ。長女……と言うことは、なんだったか。
まあ、他にも子供がいるのだろう? それならば、一番になれるようにしっかりと自信を持て。お前の親の、奥理もクレナイも、強いのだからな」
「え!?いえ、あたしはそんな……」
「ハジ、そんなにいじめてあげないでください。この子は、あなたに憧れていて緊張しているのですよ。
と言っても、ほとんどの妖怪はあなたの強さに憧れていますけどね」
「そうですよハジさん。家の子は皆貴方に憧れていますし、俺も、貴方に憧れています」

 ふふん。そうであろう。私は威厳にあふれ、強く、妖しく、恐ろしく。そして美しいのだから。妖怪の頂点に立つ存在なのだ。
 そのくらいはあって当然のこと。まあ、ほんの少しばかり背は小さいかもしれないが。奥理、ついでにクレナイ。お前たちの背をよこせ。
 私は寿命を縮め、歳を取ったと言うのに。一向に背は高くならない。
 最初は私よりも小さかったアマツは、今では私よりも大きい。
 まさか、この小さいベニも私の身長を超える……のか?親の特徴に子は似ると誰かが言っていた。ならば、このでかい二人の子である、ベニは……。
 いや、考えるのはよしておこう。そこまで考えても意味は無い。

「まあ、私は強いのだから、皆が憧れるのも当然のことだな。
ベニよ。お前も強くなるがいい。手本は、お前の親たちが居るからな」

 そう言って、いつか私よりもでかくなるであろうベニを眺める。
 クレナイ似の赤毛の女だ。なんとも俊敏そうな体をしている。きっと、力よりも速さを武器にする妖怪となるのだろう。
 他にも、奥理たちの子を見てみたい気もするが、遊んでいるのなら仕方がない。好きなことをする。それが、妖怪だ。

「では奥理、私は少し旅にでるから、ツキたちが目を覚ましたら、伝えておいてくれ」
「分かりました。どちらへ?」

 何処へ、か。まだ決めていなかったな。行ったことの無い場所が良いが……。
 そういえば、海の向こうはどうなっているのだろうか。海の向こうには、何かいるのか?

「決めていない。私のするべきことは、もはや無いからな。適当に、歩き回る。
あの海の向こう側も気になる。面白いことを見つけたら、お前たちにも教えてやろう」
「そうですか、では、そのようにと。戻ってくるのですよね?」
「ああ。定期的には戻る。諏訪子たちにも顔を合わせなければならないしな」
「ええ。ではお気をつけて」
「今度は、他の子たちにも会ってやってください。喜びますから」
「うむ。楽しみにしている。じゃあな」
「え、えっと。ハジさんも、気を付けてください!」
「うん?ああ。お前も大きく……なれ、よ?」
「は、はい!」

 とりあえず、各地の湖巡りから始めるか。
 水浴びから始めるのだ。水浴びから。








「ふぅ、はぁー……緊張したー」
「ふふっ、よく頑張ったな。えらいぞ」
「うん!お母さんからから聞いていたけど、本当にちっちゃかったんだね!
強そうだったけど、なんか弟達と同じくらいに見えたから、何とか話せた!」
「お、おいベニ。それ以上言ってはいけない」
「そ、そうだぞ?ベニ。クレナイ、早く此処から逃げないと……」


「何処へ行こうと言うのかね」


「ハジ!?」
「ハジさん!?」
「良い忘れていたことがあってな。私は今度、子を成そうと思うから、親とはどんな物か聞きたくてな。それを聞きに、戻ってきたわけだ」
「そ、そうですか、ハジ。親についてですか?それはですね……」
「なあ、ベニ。お前は少し、住処へ戻っていろ。
戻れないのなら、目を閉じ、耳を塞ぎ、何も考えるな。感じるな。少し、こいつらと話をするからな」
「え!?は、はいぃっ!」
「終ったな、俺達。頑張れ、奥理」
「ああ。でもハジは優しから、なんとか大丈夫さ。なんとか、な」


 その後、ヨレヨレになった奥理とクレナイ夫婦が発見されたそうな。
 ベニは、ハジの恐ろしさを胸に秘め、一生子供扱いしないことを決める。マジぱねぇ、と。









――――――――――――

あとがき

ここら辺から原作キャラが登場し始めます。でもこれ、まだ数万年以上前の話なんだぜ……
これでも大分削りました。後は時代を飛ばして、随所に話を入れつつ、原作へのフラグ立てですね。分かります。



[21061] 原始編 十話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/01 05:28
 少年が水の中で眠っている。心臓の弱い人が見たら、思わず気絶してしまうような光景である。
 しかし、その光景を見ることが出来るのはほんの一握りの者だけだ。なぜなら、少年は強大な力を、眠りを妨げられないように
 普段よりもふんだんに、辺りに漂わせながら眠っているのだ。まともな生物ならば、恐ろしいモノに自分から近づこうとはしない。
 彼に近づく者は、偶然近づいてしまった者か、少年のことを知っている者だけである。
 そうして、本日で千年目の少年の昼寝は終わりを告げる。


 少年が目を覚ます。彼は妖怪であり、妖怪の中では最強の部類に入るであろう存在、ハジだ。
 目を覚ましたハジは背筋をピンと伸ばし、ポキリ、ポキリと景気のいい音を出している。そして大きな欠伸を一つ。
 その後は陸地に上がり、空を見上げ眠る前のことを思い出す。何をしようとしていたか、何か約束事はなかったか、など。
 約束事があった場合、千年間も放置された側はたまったものではないだろうが。

 しかし、そこは暇だったからという理由で千年間寝ていた彼である。もはや、時間にルーズというレベルではない。
 むしろ、彼にしてみれば『ほんの』千年である。実際の年齢にして数万、肉体年齢ならば数十万歳であるハジにとっては、
 無意識のうちに千年という時は大した時間ではない、ということになっているのである。
 といっても、この時代の妖怪は皆のんびりした性格。それなりの時を生きたのであれば、千年程度ならば別にいいか、という考えの者が大半であった。

 そんな彼が眠る前のことを思い出した。そういえば、暇だったから各地を巡りに旅に出ようとしていた、と。
 他にも、アマツにも頼みごとをしていたり、一応諏訪子達にも顔を出さなければならないか、などなど。
 とりあえず、ハジはアマツへの頼みごとから済ませることにし、湖から飛びたった。
 そこに残ったモノは、千年間ハジの霊力を吸い、力を持ち始めた湖の住人たちだけであった。
 この世はきっかけさえあれば、新たな命は種族として増えてゆく。


 ハジはアマツの住む山へと向かう。アマツ達鳥妖怪の住む山は奥理たち狼の住む山とは違い、非常に高く、また、広い。
 狼の山も決して小さくはないのだが、空を飛びまわる鳥妖怪達にとってはその程度なければ狭いのだ。
 ついでに言えば、ハジに決まった住処はない。そのため、彼を見つけるのには少し苦労するが、
 水場や木の上で眠っている姿を見かけることは多い。案外、よく目撃はされているのである。

 そうしてハジはアマツの住処へとたどり着き、アマツと出会う。彼は突然の来訪に驚いていたが、快く歓迎をする。
 最近見なかったね、何処行ってたの、なに気にするな、等々。世間話もそこそこに以前頼んでいたことを話すハジ。
 アマツは忘れてはいなかったようで、実際に見せて説明するから、と言い、ハジを連れて山へと繰り出すのであった。
 アマツ。千年前から木の実の知識や、その他食料になる物の知識をふんだんに身に着けていた。

 実は、アマツも人間以外の物を食べたことがある。
 それはツキも奥理たちも同じであり、人間から得られるモノが少なくなっていた時代、飢えを凌ぐために木の実や獣を狩り、食べていたのだ。
 ハジもそれについては知っていたが、飢えて死んでいくよりは、と思い、神を襲う覚悟を決める要因の一つとして利用していたのだが。
 結局、時の流れと共に時代も存在も変わっていく。変わらない存在など、有り得なかったのだ。

 いろんな木を見て回り、ハジはアマツから木の実の知識を教わる。
 派手な色をした木の実には気を付ける。これは美味い。これは不味い。これは硬くて食べられない、など。
 一通りを教わり日も暮れてきた頃、ハジ達の下へ複数の鳥妖怪達がやってきた。彼らはアマツを呼びに来たらしい。
 どうやらこれから人を襲いに行くようで、ハジはそのままアマツ達と別れ、山を後にした。

 その後ハジは一人で木の実を見て回っていた。興味津津といった様子で何が楽しいのか、一つの木にいくつ実が付いているか、などと数えたりもしていた。
 狼の山へ行き、木の実を見つける。そのまま数を数えて別の木へ。もはや当初の目的を忘れたハジは数日間それを続けていた。
 それを見た奥理やツキ、そしてアマツも首を傾げざるを得なかったのは言うまでもない。
 それほどまでに、何故かハジは木の実の数を数え続けていたのであった。特に意味はなかった。

 やがて飽きたのか、ピタリと数えるのを止めて諏訪子たちの居る社へ移動を開始。
 諏訪子たちにも旅に出ることを伝えるためだ。これからの連絡は五千年ごとでいいだろうか?などと考えつつ社へと到着したのであった。










 諏訪子たちの住む社へと到着。人里から歩いてきたが、力を抑えていたので私が妖怪であることに気がつく者はいないだろう。
 それでも、此方を見て眉をひそめる者が居たので不快だったが、無視を決め込み此処までやってきた。
 気が付かれている訳ではないだろう。妖怪だと思われたら、そこで神が呼ばれ戦いになっているはずだから。
 そんなことを考えつつ社へ入ろうとすると、人間に止められてしまった。何故だ。

「おや、君。ここは関係者以外入っちゃいけないんだ。君みたいな子供が、入ってはいけない所なんだ。わかったね?」
「なんだと」

 この私を止めるとは、身の程知らずな奴め。だが、私は人間を襲わない約束中なのだ。
 ここで、この人間を殺す訳にはいかない。さてどうするか。

「どうしても、入ってはいけないのか」
「そう。どうしてもだよ。
八坂様へ願い事を伝えたかったら、あっちの方で参拝をするんだ。参拝はわかるよね?」
「子供扱いをするな。その程度ならば分かる。ようするに、向こうで祈れ、と。そういうことなのであろう」
「そう。その通りさ。じゃ、分かったらあっちへお行き」

 言われてしまったので仕方なく参拝をすることにする。思えば無駄に力を使うのも馬鹿らしい。
 とりあえず参拝をして、それでも諏訪子や八坂神奈子に会えなかったなら、また数千年後に来ればいい。
 そう思い、他の人間の行動を真似て社の正面へと来た。何やらいろいろ置いてある。
 人間達の食料と思わしき物、何やら匂いの強い水。アマツに教えてもらった木の実もいくつかある。
 そういえば、たまに人間は社の正面で何やらしゃがんでいたが、これを置いていたのか。

 全ての人間が置いているわけではなかったが、持っているのなら置いて行った方がいいかもしれない。
 その方が諏訪子たちに会える確率が上がる気がする。とりあえず、先ほど採れたものすごく硬い黄色い木の実を置くことにする。
 そして、祈る。

(諏訪子、お前に会いたい。私はその為だけに此処に来た)

 とりあえずこんな物だろう。会えないのならばそれまでである。
 後ろにも人間がおり、あまり長居は出来ないようである。ならば、即刻立ち去ることにしよう。
 会おうと思えばいつかは会えるのだ。『今』会わなければならない必要はない。ならば、行くとするか。

(おーい。ハジかい?
いやあ、なつかしいねー。長いこと来ないからどうしたのかと思ったよ)
「ん?……どこだ、諏訪子か?」
(ああ、その場でなら考えてくれるだけでいいよ。
それと、私はそこには居ないからね。こっそり裏まで回っておくれよ。入れてあげるから)
「そうか」

 なにやら諏訪子が話しかけてきた。どうやら会えるらしい。しかし、この頭に響く感じは何なのだろうか。
 あとで聞いてみるか。とりあえず今は裏へと回りこむことにする。
 なにやら草木が生えていて通りにくいが、私の行く手を阻むほどではない。問題なく裏へついたが、どうすればいいのだろうか。

「おい、諏訪子。裏へ着いたぞ。どうするのだ。会えぬのなら帰るが」

 無音。先ほどのような返事はない。もしかしたら、私はからかわれたのかもしれない。ならば、とっとと旅に出るか。

「おまたせ。

……ってちょっと待った。何帰ろうとしてるのさ。此処まで来たのにいきなり帰るとかビックリだよ!」
「お前に会えないのなら、意味はない。私は、お前に会いに来たのだからな」
「うーん。さっきの台詞も別の場面ならカッコイイんだけどねえ。女としてはちょっと嬉しいけど、きみに言われても、ね。」
「何を言っている?」
「まあ、とにかく上がりなよ。神奈子には会えないと思うけど。一応神奈子は表の神だから忙しいのさ。私は暇だけど」
「そうか。ならば勝手に上がらせてもらう」

 とりあえず諏訪子に会えたのならそれでいい。正直、どちらに会おうが関係はない。私が旅に出ることを伝えればそれでいいのだ。
 一応、敵対の行動ではないことを伝えておかねばならないだろう。
 他にも、私の存在は神々への牽制だ。自由に動かれても諏訪子たちも混乱するかもしれない。どうなろうと知ったことではないが。
 仲間へ被害が出なければ、それでいい。私は単純な妖怪なのだ。

 諏訪子に着いて行き、何やら居心地の悪そうな場所へと通される。
 木と藁の壁に囲まれた空間。壁には物を置く道具が置いてあり、この空間の中心には窪みがある。
 そこには、小さな木が置かれており、どうやら焚火となっているようだ。
 なんとも人間くさい住処である。神はこんなところに住んでいるのか。
 森や山、湖や洞窟の方が住みやすいと思うが、違うのだろうか。こうも囲まれては眠るときに空を見ることもできなさそうだ。

「ようこそ、我が住居へ。一応、ここが私の部屋さ。どうだい、広いだろう?」
「なんとも居心地の悪い所だな。囲まれている」

 えーなどと叫んでる諏訪子を無視し、改めて諏訪子の住処を見やる。
 うむ。暮らしづらそうだ。よく人間はこのような場所に暮らせるな。神も、だが。
 やはり、種族が違えば暮らしも違うのだろう。さすがの私だって魚のように水の中で暮らそうとは思わない。
 魚も、水の外では暮らせないのだから、それと同じようなものなのだろう。なまじ、同じような姿をしているだけに違和感が大きい。

「なんとも住みづらそうな所だ。よく住めるな?」
「なんか納得いかない。私は、洞窟とかよりも住みやすいと思うんだけどね。
ハジくんはどんな所に住んでいるんだい?妖怪なら、山や洞窟かな」
「そうだな。私は特に住処は決まっていないが、主に湖や森で眠っている。
先日までは、湖で眠ってたな。千年ほど」
「千年!?まさか、今まで来なかったのって寝ていただけなのかい!?」
「そうだが」

 なにやら諏訪子が驚いている。確かに普段よりは多く寝たが、それほど驚くほどの物だろうか。
 今までだって、十年や百年程度寝ていることはあったのだ。今更驚くものでもないだろう。
 まあ、神と妖怪ではいろいろと違うのだろう。人間なんて、百年も生きていられないような存在だ。
 時間のとらえ方は種族それぞれなのだろう。ならば、一応顔を出す間隔は聞いておいた方がいいのか?

「千年かあ。千年間もよく邪魔されずに眠れたね。」
「まあ、そんなことはどうでもいいだろう。お前たちにとって、千年は長いのか?」
「なんだい突然。千年は……そこまで長くは、ないかな。決して短いとも言えないけど」
「そうか。なら、これからは千年ごとに来るとしよう。お前たちに顔を合わせるのはその程度でいいだろう?」
「悪くはないけどね。欲を言えば、もっと来て欲しいさ。どうも、最近は暇でね。
何か面白いことがあればいいんだけど。なかなかねえ」
「ほう、お前も暇なのか」

 どうやら諏訪子も暇らしい。神は暇なのか。
 代わりに八坂神奈子は忙しいと言っていたが、こいつは何をしているのだろうか。いや、別に知る必要はないから、いいか。
 こいつは暇だと言っていた。ならば、面白い話の一つでもしてやろうか。戦うのもいいかもしれない。

「暇ならば、少し話でもするか。私としては、お前に旅に出ることを伝えることが出来ればそれでよかったのだが」
「旅に出る?なんでまた」
「お前と同じく、暇になってしまったからな。おかげで楽しみが増えた。
いろいろなことへ興味が沸いてな」
「へえ。なんか面白そうな話だね。少し聞かせておくれよ」
「ああ」

 こいつの暇つぶしに付き合う程度には、話をしてやってもいいだろう。
 この暇そうな神に私の充実した生活を語ってやることにする。
 まずは各地を巡ること、海の向こうが気になる、などを言ってやった。諏訪子も海の向こうは気になっていたらしい。
 他には、木の実のことについて言ってやるか。

「諏訪子は木の実を食べたことはあるか?」
「ん?そりゃあるよ。人間も御供えしてくれるからね」
「む、そうか。私は食べたことがなくてな。昨日まで木の実を眺めていたのだ。
食べようと思って持ってきたが、その木の実は社の前に置いてきてしまった」
「あー、御供えしてくれたんだ。本当は妖怪がやることじゃないけど、ありがたく貰っておくさ。
んー、何か困ってることはないかな。お供え物貰ったからには、返さないとね」

 別に困っていることはない。私は強いから。
 それにしても、そうか。お供えと言う物は見返りを求めてするものだったのか。
 それで祈りを捧げるわけか。なるほど、うまく出来ている。

「困ったことは別にない。見返りを求めた訳でもないからな」
「見返りのためにお供えをする訳じゃないんだけど。ハジくんは妖怪だし、祈りとも言えないような祈りだったしね。
貰ったら返したくなるのさ。あっ、服……って言うのかな。まあ、それが破れてるね。ちょっと汚れもあるし、綺麗にしようか?」
「なに?」

 なんだと。私が綺麗ではないだと?
 服を見てみる。いつも通りに見えるが、確かにほつれ、汚れているかもしれない。
 千年間水の中に居たら服は駄目になってしまうのだろうか。三万の時は私と過ごしていたが、汚れたとは思わなかった。
 だが、私が汚れているのならば人間どもが私を見て眉を顰めていたのは道理。私だってそうする。

「汚い……のか? それならば、綺麗にはなりたいが」
「汚いってよりも、破れている、かね」
「ともかく、直せるのなら直した方がいいだろう」
「はいよ。そんな服ならすぐに直せて綺麗に出来るさ。
ハジくんなら体格も同じくらいだし、私の服も着れるでしょ。これを着て待ってて。すぐに直すからね」

 そう言って諏訪子に服を手渡され、諏訪子は私の服を剥いで出ていった。
 まあ服といっても、布を巻きつけているだけなのだが。
 最近の人間の服は肩、胸、腹、腰、足までもが覆ってある。今思えば胸と腰元しか隠していない私の服装は目立っていたのかもしれない。
 当然、人間と同じような服を諏訪子も着ている。巻きつけるような服ではない。
 しかし……これはどうやって身につけるのだ。



 四苦八苦しながらも服を身につけることに成功した。いつもよりも拘束感を感じる。どうも落ち着かないのでうろうろすることにする。
 そんな感じで過ごしていると諏訪子が戻ってきた。やっと来たか。やはり、いつもの方がいい。

「戻ったか。しかし、これは着づらいな。拘束感が多い。この住処にしろ、服にしろ、人間にはついていけん」
「おおう。戻った一言目がそれとは、ちょっと驚いたよ。
まあ、妖怪と人間は違うからね。人間寄りの私達には分からないけど、ハジくんには慣れてもらうしかないね。これから長い付き合いになるだろうし」
「そういうものか」
「そういうものさ。
はい、これ。ちょっと継ぎ接ぎして形を整えたよ。下の方は腰巻にしてみたよ」
「よくわからんが。まあ、使い易ければいい」

 諏訪子から私の服を受け取る。心なしかいつもよりも輝いて見える。錯覚だろうが。
 今着ている服を脱ぎ、いつものように服を着る。脱ぐときは手間取ってしまったが、諏訪子に手伝ってもらった。
 腰巻の紐は結び方が分からなかったので、諏訪子に頼むことにする。
 腰巻の方は、今までよりも着心地が良いかもしれない。これは素直に礼をするべきだろう。

「なかなかいい感じだ。礼を言う」
「いいっていいって。これくらいお安いご用さ。
それにしても、その布は何の素材なんだい?」
「さあ。私も生まれたときから着ていたからな。それは分からん」
「そっか。ハジくんが生まれた頃っていうと……二、三万年以上は前か。
不思議なものだね。その時代に布があるなんて」

 布があることが不思議なのだろうか。確かに人間は身につけていなかったが、天上の神々は身に着けていた気がする。
 あまり興味は沸かなかったので、覚えていないが。
 諏訪子はまだ生まれていなかったから、そう感じるのだろう。

「正確には三万と二千百十二年だな。天上の神々はお前と似たような物を着ていた気がする。あまり覚えていないが」
「そっか。もしかしたら、布は天上の神々から伝わった技術なのかもね」
「そうなのか?」
「それは分からないよ」

 その後も諏訪子と雑談をし、話すことも無くなったので旅に出ることにする。
 諏訪子はもっと話をしたかったようだが、私には話すべきことはもうない。
 次会う時には面白い話でも持って来てやることにしよう。
 結局、八坂神奈子には会えなかったようだ。次を期待するか。

「じゃあな。千年後にまた来る」
「うん、またね。千年後じゃなくても、すぐにまた着てもいいんだよ?」
「それは面倒だ」
「そっか。じゃあ、神奈子にもそう伝えておくさ」
「頼んだ。では次は戦えることを期待している」
「それは期待しないでね」

 社の裏の方から諏訪子に見送られ、私は社から飛びたった。
 次此処に来た時は裏から入ればいいだろうか。覚えていたら、そうすることにしよう。
 次の目的地は、広い所が良い。
 子を成すための練習でもしておこう。それがいい。














「え?子供がいるかって?そりゃいないけど。
へえ、ハジくんが子供を、ねぇ。意外だなあ。相手は?好きな子は誰だい?」

「え゙っ全員!……って私も!?」

「あ゙ー……そういうオチか」

「うん。皆が好きなんて素敵なことだ。
でも子供ってのは、男と女が愛し合って出来るものさ。ハジくんには、やっぱり早いんじゃないかな?」

「まあ、子を育てるときは、親はしっかりとしないと駄目だよ」

「(心配だなぁ……。
まともな子が生まれますように、と。神様が祈ってどうするんだろ……神奈子にでも祈るか)」








「えー、帰るの?もっと話そうよー。お互い暇なんだしさ」
「そうか。それもいいかもしれないな。お互い暇だし」
「そうそう。まだまだ時間はあるさ。どうせなら、神奈子が戻るまで」
「だが断る」
「!?」












――――――――――――

あとがき

なんというか日常編みたいなのって難しいですね。 会話がー、辛い。無駄に長くなってしまう。
ストーリー的に行けば目指す場所への通り道ってなら何となく分かるんですけど。
そんなこんなでゆかりんフラグ立てておきます。原作と変化つけないといかんのかな。
いまいち殺す、存在消滅以外に思い浮かばないです。したくはないんですけど。



まえがきもそろそろ変えようかと。
夏の名残は残しておきたいですけど。



[21061] 原始編 十一話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/01 05:29
 雲ひとつない青い空。
 少年は一人海辺へ座り、水平線を見続けていた。少年が旅を始めてから数千の時が流れている。
 そこには、見渡す限りの澄んだ青が広がっていた。海、空。太陽の光を反射させ、キラキラと輝く透き通った色をした海は、少年の心を落ち着かせる。
 少年は一人海を見続ける。

 近くに存在する影に、少年は気がつかない。






 彼女、兎の妖怪の少女は傷ついていた。

 彼女は、兎の妖怪は、力の弱い種である。おくびょうな性格をしており、すばやさは高いがこうげき力は低い。
 植物、木の実などを好んで食べ、故に、進んで人間を狙うことは少ない。妖怪というよりも妖獣と言った方がいいだろう。

 先祖返りとでも言うべきか、数千年ほど前から獣の特徴を多く引きついだ者が生まれ始めた。
 化獣のようなそれは、されど化獣では決してない。獣の姿をして生まれたが、成長すれば人、つまり妖怪の姿もとれるようになっている。
 必ずしも人の恐怖を食べる必要はない。彼らは、獣や木の実などを食べることにより、生きることができる。
 飢えを凌ぐのではなく、生き延びることができる。故に、妖怪ではなく妖獣。
 命名は妖怪のハジである。理由は妖怪が化獣みたいだから、といういたってシンプルな答えであった。

 本来、彼女は兎同士で作られた群れの中で行動していたのだが、人一倍高い好奇心と己の頭脳に自信を持っており、一人で群れを出ていった。
 自分ならうまくやれると飛び出してきたのだ。生まれてから十年。群れを出てから二年。
 まだ若く、世間を知らない彼女に、まだ見ぬ世界は広かった。大きかった。とても、魅力的に見えた。まるで夢見る少女であった。
 群れの中の少女たちの間で噂になっていた絶世の美男子、とある土地の神にも興味があった。一目見てみたかった。お年頃であった。

 最初のうちはうまくいっていたのだ。慣れぬ場所での野宿には、ちょっぴり怖かったがすぐに慣れた。隠れる術も身につけることができた。
 獣に襲われても、逃げ切ることが出来た。人間が襲ってきても、騙し、陥れ、逆に野良妖怪に襲わせることもできたのだ。
 若い彼女は、全てが自分の思い通りになると思っていた。その考えが悲劇を呼ぶとも知らずに。
 そう、それは彼女が次の人里へ行くために、大きな河を渡ろうとした時。

 彼女は泳げない。元々、水に浸かる習慣などはない。耳に水が入り込み、自慢の聴力が弱まるから。
 彼女は考えた。どうすれば河を渡ることが出来るだろうか、と。答えはすぐに思いつく。
 河に住む妖怪達を騙し、利用してしまえばいいのだ。自分以外の妖怪は皆頭が弱い。そう考えての策であった。

 そして彼女は、お前たちの数を数えてやろう、と言い、妖怪達の背に乗り河を渡ったのであった。
 彼女は河を渡ることには成功する。河を渡ることに『は』。
 彼女は自分の思い通りになると思っていた。彼女の計画通り、河を渡ったのだ。それを見るならば、思い通りだったのだろう。
 彼女が相手を虚仮にしなければ。

 無事に、とは言うことができない。なぜならば、彼女は妖怪達に襲われたから。
 妖怪達は気性が荒いという訳ではない。小さな兎の気まぐれに付き合う程度には、温厚であった。
 だが、力の弱い妖怪に虚仮にされ、無能扱いされて黙っているほど温厚ではない。
 妖怪達は彼女の服を切り裂き、丸裸にし、背中の皮を剥いだ。そのまま、体を切り刻んで食べようとした。中には彼女を犯そうとした者もいる。
 彼女にとって、人生初の命の危機である。あと純潔も。

 彼女は心底恐怖した。
 今まで、失敗がなかったのだ。なまじ優秀だったがために、失敗をしたことがなかった彼女。
 そして初の失敗が命の危機。彼女はわき目も振らずに逃げ出した。無我夢中に、全力で。
 現在位置を確認する間すら惜しい。周りの物に目を向ける時間すら惜しい。逃げなければ、死ぬ。殺される。犯される。思考が恐怖で埋め尽くされる。

 丸一日、彼女は逃げていた。既に、河に住む妖怪達は追いかけていない。元々、そこまで本気で追いかけようとはしていなかった。
 だが、それに気がつく余裕は彼女にはなかった。そして、彼女の体力は底を尽き、地へと倒れる。
 そこに近づく影が一つ。

 彼女は影に気がつく。ビクリと身を震わせ、両腕で体を抱きしめ、痛む体を無理やり動かし後ずさりをする。
 近づいた影は一人の男。どこにでも居そうな顔であるが、身にまとう力はその男を神だと物語っている。
 神は兎の妖怪の少女へ問う。どうしたのか、と。
 少女は答える。妖怪を騙したら襲われて、傷ついてしまい、やっとの思いで逃げたのだ、と。
 神は『背中の』怪我をみやり、優しげな笑みを浮かべ、傷を治すには海水に身を入れ、その後風に当たると良い、と助言する。
 少女はそれを信じた。まだ若い少女は、傷の治療は舐める程度しか知らない。

 この優しそうな神は、自分の敵ではない。きっと、自分を助けるために言ってくれたのだろう、と。
 自分が騙されるとも考えずに。ただ、優しそうな神を信じた。体中の痛みから解放されるために。
 神の言った方向へ、痛む体を引きずるように歩みを進める少女。そして見えてくる海。
 波の音、太陽の光、やわらかな土。それらが傷ついた少女を迎え、彼女を包みこむ。

 彼女、兎の妖怪の少女は傷つき、倒れていた。

 そして、波の音をかき消すほどの甲高い悲鳴。
 少女は、海へ身を入れていた。体中に傷があったから。







 海を眺めていた少年は、突然聞こえた悲鳴に驚く。そして、不機嫌な表情。
 彼は海を気に入っていた。見るたびに、いろんな表情を見せる波。不規則でありながらも心地のいい音。
 そして自身がちっぽけに思えるほどに広大な存在。
 そんな存在を、のんびりと見ている所に邪魔が入ったのだ。少年にとって不機嫌にならないはずがなかった。

 少年は悲鳴の聞こえた方向へと歩みを進める。一つ文句を言ってやろうと。
 どんな文句を言ってやろうかといろいろ考えていたが、次の瞬間にそれを全て破棄。傷ついた妖怪の少女を目に収めた為だ。
 少年は急いで少女へと近づく。そして、自身の腕に抱き、能力を使い自然治癒を早めようとするも、彼女の体が濡れていることに気がつく。
 一瞬不思議に思うも、次の瞬間に海水と看破。そして少女に問う。何があったのか、と。

「おい、しっかりしろ。何があった」
「うぐっ……え、えっと。かい、ずいに入、ると、いいって……あぎっ……。
ぞ、ぞれで、風、によく、当だれ、って……いづっ……聞い、だ、がら。

いだい……いだいよぅ……」

 痛い痛いと繰り返す少女を傍らに、少年は納得をする。海水には、切り傷など、傷の治りを良くする効果がある。
 それを知っていた者がこの少女に教えたのだろう、と思うも、やはり、少し納得がいかない。
 よくよく見れば、彼女の傷は、出血は少ないが深い傷もいくつかあり、全身に渡る切り傷、擦り傷。
 そして何より目立つ、背中の傷。皮が剥がれ、痛々しいという表現も生ぬるいほどの大怪我。

 この場合、治療に海水を使うというのは、むしろ逆効果なのではないだろうか。これでは、あまりに痛みが大きすぎる。
 なにより、背中の皮膚の治りが遅くなる。風に当たれと指示を出した者は、知らなかったのだろうか?
 この場合、海水ではなく河や湖の水で汚れを洗い流し、傷口を薬草や布、葉などで覆うが適切ではないだろうか。
 教えた者に悪意があったのかは知らないが、少年はすぐに洗い流すべきだと判断した。

 大きな切り傷から治療し、湖で海水を洗い流す。そのあと、ちゃんとした治療をしよう。そう思い、少年は少女の傷口に手をかざす。
 そうした時だ。

「そこの者!何をしている!」
「っ!」

 そこに一人の男が現れた。
 絶世の美男子と言っていいほどの美貌を持つ、神。
 本来ならば、少女が人里へ行き、一目見ようとした存在であった。

 少年は不機嫌な顔を隠しはしない。治療を止められたのだから。
 男は怒りの顔を隠しはしない。

 なぜなら。

 傍から見れば、少年が少女を襲っているようにしか見えないからであった。









 兎を治療しようとしたら止められた。
 私に話しかけてきた者は神。力は見た感じまずまずといったところ。戦えば問題なく勝てるだろうが、複数の意味で戦いたくはない。
 私が無暗に神と殺し合いをするのは不味い。こいつに時間を取られて兎の治療が遅れるのも不味い。兎が戦いに巻き込まれても不味い。
 戦えば勝てるだろうが、片手が塞がっている。この傷つき、倒れた兎は弱っている。戦いが始まれば、余波で無事では済まないだろう。
 完全な敵対をしていないとは言え、神と妖怪。争いのある種族間である。
 治療の妨害は十分に有り得る。はやく、なんとかしなければ。

「おい、何の用だ」
「この僕の目が黒いうちは、目の前の女性をむざむざ死なせたりはしない」
「ふん。神が戯言を。立ち去れ」
「戯言ではない。人間だろうと、妖怪だろうと、神であろうと。
男ならば女性を守るものだ。そこに種族なんて関係はない。それに、その子は傷ついている。ならば、やらせはしない」

 こいつは何を言っている?女性、つまりは女。
 それを死なせないということは、つまりこの兎を死なせないということ。
 こいつの目的はなんだ。治療の妨害か?いや、ならば死なせないとは言わないはず。
 そもそも、神が妖怪を助けようとするものか。いや、もしかしたら諏訪子みたいな、変わったやつなのかもしれない。
 ならば、これ以上の問答は無意味。
 治療を再開することにする。

「っ!待て!その子を解放しろ!その子は弱っているのだぞ!」
「黙れ小憎。お前にこの兎の傷を癒せるのか?この兎は愚かで哀れな存在なのだ。剥がれた皮膚に海水を注ぎ、そして風に晒す大馬鹿者だ。それをお前に救えるのか?」
「なに?」
「私はこの兎の治療をしなければならない。邪魔をするな」

 既に治療は開始している。
 神は動揺をしているようで、隙だらけである。これならば、いくらでも治療を出来る。
 既に深く、危険だった傷は塞いだ。あとは背を何とかすればいいが、これ以上能力で治療をすると、兎の体力が持たない。
 元々力の弱い兎の妖怪だ。私の能力が切断面を繋げる以外に、『自然治癒をした結果』を持ってくるというモノである以上、
 本人の体力、生命力を消費してしまう。既に、この兎の体力は限界に近い。
 早く能力以外の治療を開始しなければならないのだ。

「ま、待ってくれ。君は、その子を殺そうとしていた訳ではないんだな?」
「当たり前だ。この私が、妖怪を殺すなど有り得ない」
「……そうか、済まなかった。君に、その子の治療が出来るのか?
先ほども言った通り、僕はその子を救いたい。傷薬なら少し持っている。ぜひ使ってくれ」

「む、そうか。済まないな。だが、傷自体は既に命の危険性はない。それよりも、この兎自身に体力を付けさせなければ」

 そう。最後にモノを言うのは本人の力だ。奥理やツキならば、適当に直していたのだが、この兎は弱い。
 私の腕の中の兎の動きは鈍い。既に、意識はない。急がねば。

「お前は皮膚に効く薬は持っているか?」
「ああ。今は持っていないが、村へ戻ればあるだろう」
「ならば、頼む。礼は後でしよう。私は海水を洗い落としてくる。向こうの里だな?すぐに戻る。お前はすぐに里へと向かってくれ」

 若干早口でまくし立て、急いで湖へと転移する。
 あの神は既に村へと向かっているだろう。ならば、この兎を洗った後にすぐに向こうへ転移だ。
 背中に水をかけると、兎の表情が歪む。意識がなくとも、痛みは感じているようだ。だが、構わずに水をかけ海水を落とす。
 落とした後は、周りにある木の実を回収しつつ先ほどの海まで転移する。距離があったのでそれなりに力を使用したが、気にするほどではない。

 海から人里を目指して飛んでいく。既に神は里へと着き、薬を持って入口から出ようとしている所であった。
 神と合流をし、早速兎に薬を付けることにする。これは……花粉か?
 後は私の服……というか胸に巻いている布を巻き取り、それを兎の体へと巻きつける。
 これで、風に当たることもないだろう。治療は終わった。あとは、兎に体力を付けさせなければ。
 花粉、花粉。そうか、『アレ』だ。

「すまない。助かった。この礼は必ず」
「いや、構わない。女性を助けるのは男の義務だ。他に、僕に出来ることはないか?」
「ない。あとはこいつに体力を付けさせるだけだ。気を失っているが、何か食わせる。
当てはある。急いでいるから、じゃあな」
「ああ、救ってあげてくれ」

 そのまま兎を抱えて山へ転移する。
 このまま気を失ったままでは、まともに物を食べられないだろう。恐怖を食わせるにしても、兎妖怪はそちらの食欲は薄い。
 食べさせればマシにはなるだろうが、大した栄養にはならないだろう。それよりも、こいつ自身が気を失っているので恐怖を取り込めないのだが。

 山へ着いた私は体力の付く『アレ』を探す。
 どろどろとしている、粘性の強い液体。蜜。ツキは甘くておいしいと言っていた。
 だらしなく、ドロドロとした物が顔にかかりながらも食べていたのは気に入らなかったが。
 私は食べたことはないが、アレならばこいつでも食えるだろう。


 見つけた。


 巣に居る蜂の妖怪達に、蜜を分けてもらうことにする。
 対価が必要かと思ったら、無償で分けてくれるようだ。ありがたい。
 礼を言い、兎の頬を軽く叩く。うーんうーんなどと魘されているが、目を覚ます様子はない。
 仕方がなく霊力で兎を包みこむ。少し、強い刺激を与えなければならないようだ。
 瞬間、兎が目を覚ました。

「いや、いやああ、い、いやあああああああ!!!」
「落ち着け。いいから、落ち着け」
「いや!離して!いやあああああぁぁぁあああああ!!!」

 暴れる兎を抑え込む。少し刺激が強すぎたか。錯乱してしまった。
 いつもなら殴って止める所であるが、こいつは弱いのでその案は除外。殴ったら動きではなく命が止まる。

「いいか、大丈夫だ。落ち着け。お前を傷つける奴は居ない」
「離して!離してよう!はなっ……い、ぎぅいああ」

 傷が響いたか。当然である。体中傷だらけだったのだから。暴れればそうなることは道理。だが、好都合。
 今のうちにこいつを落ち着かせる。落ち着いてもらわねば困る。

「落ち着け。お前を傷つける者は居ない。いいか?落ち着け」
「え、え?何が、どう、なって、いるの、さ……?」

 やっと落ち着いた。
 力弱き者を相手にするのは疲れる。どうせなら、殴っても死なない程度の力があればいいのだが。

「落ち着いたか?」
「へ?あ、う……ん」
「よし、ならばいい。では、現状は理解できるか?」
「えーと……それ、は……」

 その後、こいつから今までの経緯を聞かされる。
 騙した相手に報復され、そして傷ついた、と。その後、逃げた先で優しそうな神に治療法を教わり、実行に移した、と。
 そしてあまりの痛さに、気を失ってしまい、私のことは少しだけ覚えている程度らしい。
 これは、自業自得と言わざるを得ないのではないだろうか。
 とにかく、だいたいは理解したので蜜を食べさせることにする。

「だいたい分かった。とにかく、これを食え。甘くておいしいらしい。力も付く。食えるか?」
「あ、ありが、とう……食べ、られる」

 大きな葉で掬われた蜂蜜を、兎の口元へと運ぶ。トロリとしたそれは、兎の小さな口へと入っていく。
 少し入ったら飲み込むのを待ち、そしてまた傾ける。それをしばらく繰り返し、全ての蜜を食べ終えた。
 これだけ食べれば、大丈夫だろう。あとは、木の実も食べることが出来ればいいが。

「まだ、食えるか?」
「ううん。もうおなかいっぱい」
「そうか。ならば寝ておけ。外敵はいないから、安心しろ」
「うん……ありがとう。そうするね」

 兎は腕に抱かれたままの姿勢でまた眠ってしまった。
 腕に抱いた兎を背に担ぎ、もう一度蜂の妖怪達に礼を言ってから湖へと転移する。
 後は、木の根元に落ち葉を集め、その上に寝かせる。
 背中の傷以外は、目を覚ます頃には治っているだろう。そうなれば、後は時間だけだ。
 時間さえかければ、問題なく回復する。それさえ分かれば、私も眠ることにしよう。
 落ち葉を集め、さらに増やし、兎の横に寝っ転がる。私は面倒見のいい妖怪なのだ。














 目を覚ます。開けた視界に映るのは背の高い木々。背中には柔らかい感触がし、ここは森の中だと認識させられる。
 綺麗な森だ。そして、近くに湖もある。
 ……待て、森?何故?
 私は洞窟の中で眠っていたはず。いや、洞窟からは移動した。そう。噂の神様を見るために人里へ行こうとしたのだ。
 そして、次は……っ……!!!

 体の震えが止まらない。奥歯が、ガチガチと音を鳴らしている。
 騙した妖怪に襲われた。襲われて、引き裂かれて、肌を剥がされ、殺されそうになった。犯されそうになった。怖い。怖い。怖い。怖い。

(そうだ、服も剥ぎ取られたんだ)

 慌てて下を見る。
 そこにはいつもの服は見えず、代わりに清潔そうな布が胸に巻かれていた。下は、丸裸だ。
 まさか、助かったと思ったのは夢?私は、犯されてしまったのか?いやだ、いやだ、まさか、そんな……。
 いや、私はまだ生きている。きっと、いや、絶対逃げ切れたはず。そうだ、そうに違いない。
 その証拠に、ここは森だ。湖だ。河ではない。だが、記憶の隅には海が見える。海?

(そういえば、ここはどこなの?なんで私は森にいるの?)

 記憶を辿る。
 襲われた後は、逃げたはずだ。あまり覚えていないが、体中が痛かったのは覚えている。
 そのあと、神様に会った気がする。そして……そう。傷を治すには海に入ると良いと聞いた。そして、風に晒すといいとも。
 海に入って……そうだ。あまりの痛みに悲鳴を上げた。喉が張り裂けんばかりに叫んだはずだ。
 そのあと、誰かが私を助けてくれた。そうだ。私は助かったのだ。助かった。助かった!

「やった!助かった!助かっ……いててっ」

 痛みを感じる。だが、この痛みでさえ私に生の実感を与えてくれるのだ。
 それに、あの体中が痛かった時と比べれば、なんと心地のいいことか。
 よくよく見れば大きな傷は既に無い。細かい傷は残っているが、じきに治るだろう。
 今痛いのは背中のみ。もしかして、この布は治療のために巻いてあるのだろうか。
 助けてくれた人はどこに……


 居た。


 きょろきょろと周りを見渡そうとしたら、隣に寝ていた。むしろ、近すぎて吃驚してしまった。
 記憶に残っているのは黒い髪、黒い瞳、そして強い力。
 眠っているので瞳は確認できないが、黒い髪と、何よりも感じられる力はあの時のそれと同じ物だ。
 意外だったのは、小さいことだろうか。意識が朦朧としていた時は、力強さにより大きく思えたが、実際には私と同じか、少し大きい程度。
 あどけない顔をし、腰巻しかしていない姿は、群れの中の少年たちを思い出す。

 これほどの力を持っているのだから、私よりは年上なのだろうが。なんとも奇妙なものである。
 見つめていても起きる気配はなさそうだ。なら、ちょっと起こしてみようかな。
 ……起こしても襲ってはこない……よね?
 一瞬思ってしまったことに不安になってしまう。

「あ、あの……」

 揺する。好奇心は人一倍強いと自覚があるが、流石の私も警戒をしてしまう。
 もし、この妖怪があの河の妖怪のように襲ってきたら、私は抵抗する間もなく殺されてしまうだろう。
 一瞬で殺されるのならまだましな方だ。むしろ、嬲られ、辱められるようなことがあったら、どうしよう。

 私には自分で舌を噛み切る勇気などはない。どんどん自分の考えが後ろ向きになっていくのを自覚する。
 だが、ここで、この妖怪を起こさないで行った場合、私は生き残れるだろうか?
 背中の痛みのせいで満足に走れそうにはない。体力はいまだ万全でもないし、そもそも此処が何処だか分からない。
 道に迷い、襲われて食べられるのが落ちだろう。ならば、この妖怪に助けを求めるのが一番なのではないだろうか。
 幸い、うっすらと、ぼんやりとだが、優しくしてもらったような気がするのだ。これが、夢で無いことを祈るしかない。

「あの……ちょっと、あの、起きてください」

 早く起きてくれ。でも、起きないでくれ。
 相反する二つの想い。どちらも私の胸を締め付ける。どちらも、怖い。

「起きて……」
「う……ん……?」
「ひっ」

 起きた。
 いつでも逃げられる体制を取る。満足に走れない、長くは走れない。
 だが、それでも襲われたら逃げなければならない。
 ああ、もういやだ。たすけて。

「ふわぁ……んっ……ああ、起きたか」
「……」

 相手に殺す気は?
 恐らくない。
 私を犯す気は?
 恐らくない。
 本当に何もしないか?
 恐らく何もしない。
 信じても、いいのか?
 信じよう。この妖怪を。

「あの、あなた」
「よし。起きたのならとっとと食え。その後はお前の服を探す。
私も服を返して欲しいし、裸では不便だろう?」
「っ!?」

 そうだ。どうして今まで気がつかなかった。
 目の前の妖怪は、裸であった私を助けたのだ。ならば、当然私の裸は見られた。
 顔が赤くなるのを自覚する。顔が熱い。
 見られた、見られた。知らない人に、男の子に、私の全てが。
 すぐさま座り込み、腕で体を隠す。
 相手は悪くはない。寧ろ、裸の私に自身の服を与え、私を気遣ってくれるいい妖怪だ。
 だが、それでも。理解は出来ても納得は出来ない。乙女の体を見られたのだ。納得など、出来るものか。

「見た……ん、ですか?」
「ん?」
「あの、私の……その、裸……」
「ああ。見たがそれがどうした?」
「っ!」

 やはり、見られた。
 この妖怪の横っ面を叩いてやりたい。だが、それはあまりにも失礼だ。私の命を助けてくれた存在に、それは出来ない。
 しかし、この反応はなんだ?それがどうしたか、だと?
 私の体を見て、その程度の反応だと?私の裸を見ておいて、よくもぬけぬけと……!!!

「変な奴だな。まあいい。食べたら、知り合いの所へ行く。そこで服を調達しよう」

 そう言って差し出される木の実。
 とても美味しそうだが、それとこれとは話が別だ。ただ、相手が何も気にしていない以上、それをわざわざ言うのも気が引ける。
 私一人で舞いあがり、私一人で怒り、恩人に対し理不尽に怒りをぶつける。それでは、ただの馬鹿ではないか。
 相手が私を気遣って、わざと気にしないフリをしているかもしれない。
 木の実を食べながら頭を冷やす。傷の治療、それに、破かれた服まで調達しようとしてくれるのだ。こんな、親切な妖怪に理不尽なことはできない。

「あの、此処は何処でしょうか。それと、知り合い、とは?」
「ここは守矢の国にある森だ。知り合いとは、ここの国の神だ。あいつは、服を作れたような気がする」
「そう、守矢……?え?あの、守矢!?えっ?えっ!?」
「どうした」

 守矢。聞いたことはある。だが、決して行けないと思っていた国だ。
 私の住んでいたところとは遠く離れていて、距離としても、片道数ヶ月間かかるだろう。そこまで遠くには行こうとは思っていなかった。
 まて、どうして守矢にいる?どうやって此処まで来た?
 私は、多くても二日、三日程度しか眠っていないはず。それ以上眠っていたら、こうして動けはしないだろう。
 ならば、この妖怪は高速移動を得意とする妖怪なのだろうか。それならば、説明はつく。
 帰れるのかな……。

「あの、私が居たところってすごく遠い所……です、よね? 私、帰れるの?」

 頼む。返すと言ってくれ。こんな、見知らぬ土地に一人で生きていくなんていやだ。耐えられない。
 群れを一人で飛びだしたけど、それは噂の神様を見るためだったのだ。河を渡ったら、数日で里に着いた。
 そうしたら、ひと月もしないうちに戻れたはずなのに……。

「ああ、すぐに帰してやる。お前が居た海でいいな?」
「はい……あ、いえ。その、近くに里などは無かったでしょうか。
あの海の場所は、よく分からないので……」

 そう。ほとんど記憶に無い海に置いていかれても、戻れるかが分からない。ならば、目印になるような里があれば、確率は上がる。
 そうだ。こんな親切な妖怪なら、護衛をしてくれるかもしれない。群れに戻るまで、一緒に居てくれたら。

「ああ、あったな。ならばそこにしよう。私も、そこの神に用があるしな」
「ありがとうございます。あの、一つお願いがあるのですが」
「ん?」
「……」
「どうした」

 ここまでしてもらって、その上何を頼もうというのだろうか、私は。
 今まで一人で何とかなったのだ。ならば、これからも一人で大丈夫だ。私は優秀だし、きっと。きっと大丈夫なはず。

 でも……怖い。怖いよ。

「お願いがあります。あの、私を、住処まで連れて行って欲しくて……ちょっと、怖くて」
「ああ、別に構わん。暇だしな」
「っ! ありがとうございます!」

 よかった。本当に良かった。
 これで、私は死なずに済む。あまりの嬉しさに耳が跳ねるのを止めることが出来ない。
 この妖怪はいい妖怪だ。この妖怪は……そういえば、名前はなんなのだろうか。

「では、行くか。掴まれ」
「あ、はい。あの、名前は?」
「私か? 私の名はハジだ。ハジでいい」

 ハジ。ハジか。どこかで聞いたことがあるような気がする。

「じゃあ、ハジさん、で。よろしくお願いします」
「ああ」

 ハジの差し出してきた手を掴む。飛ぶのかな?と思ったら、次の瞬間には人間の大きな家の前に着いていた。一体、何が起きたのさ?
 全然何が起こったか理解できなかったが、手を引かれずんずんと家へと入っていく。
 勝手に入っていいのかは分からないが、あまり危険なことにはなって欲しくない。
 ここが、知り合いの家、なのか? ということは、此処は……神様の家……?
 なんだか、すごいことになってきた。

 旅って、すごい。








「諏訪子!諏訪子は居るか!」

「お、今回は早いねー。どうし……って本当にどうしたのその子!服着てないじゃん!どこから攫って来たのさ!」

「どうした、諏訪子や。って、ハジではないか。久し……お前は何をしているかっ!?」

「うるさいな。攫ってない。拾っただけだ。
あと五十年ぶりだな。ごきげんよう」

「あの、着ていない訳じゃなくて、脱がされたというか」

「脱がされたっ!?ハジに!?おねーさんはハジをそんな子に育てた覚えはありませんよっ!?」

「ハジはこんな子供の妖怪にまで手を出すのか!?お前には失望したぞ!
さあ、君は此方に来るのだ。こんな野蛮な男のそばにいてはならない」

「え?なにこれ?」

「お前ら……?まあいい。こいつに服を作ってやってはくれんか。私の布を使えばそれなりの物は出来るだろう?」

「あー……うん。からかってごめんね。まあ、作れるけどさ。ちょっと時間かかるよ?」

「構わん。」

「それにしても、長年最高質の霊力を吸った布で服を作るか。我も欲しいくらいだが、足りるのか?」

「足りない場合は能力で引き延ばす」

「あいよ。じゃあ、さっそく作るね。
じゃあきみ、着いておいで。新しい服作ってあげるよ。特別にかわいいのを作ってあげよう!」

「あ、ありがとうございます……(なんか訳分かんなくなってきた)」

「そういえば、この子の名前は?」

「知らん」

「えっ?」

「あっ、言ってなかった。私の名前は――――――」

少女は布の服+99を手に入れた!










――――――――――――

あとがき

あれ、なんか長い。一万字超えですかそうですか。八話以来の長さでございます。
数千年単位で飛ばすので、その間には当然いろいろ起きています。でも、それを作中で言っていると無駄に長くなってしまいますね。
微妙に人物の性格にも変化があるというか……分かりづらくてすみません。というか登場もしてないですね。

今回新たに出た妖獣。
橙とかは妖怪じゃなくて、妖獣って聞いたので、妖獣種も出しました。化獣と似ていますが、違います。

しかし、ロリ兎の名前を考えるのが大変で大変で。いやーなまえつけることができませんでしたなー。
いつのまにかなまえがついているかもしれませんねー。いったいなまえはなんだろー。


Q.ところでゆかりんまだー?
A.ゆかりんまだー?


会話文を少し削りました。
でも長い。いっそのこと登場人物は主人公だけにしたい。



[21061] 原始編 十二話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/01 05:29
 諏訪子達と別れを告げた後、ハジは少女を連れて、二人が出会った場所へと転移をした。村に寄り、神への礼を済ませた後、歩いて少女の住処へと向かう。
 神へ礼を済ませている途中、少女の目が、その輝きが、饒舌しがたいことになっていたのには、触れない方がいいだろう。
 現代で言う、90年代、アイドルの追っかけをしている少女のような顔をしていたとは、絶対に言えない。
 途中、ハジは不穏な気配を感じていたが、その正体を掴むことは出来なかった。少女はお年頃であった。

 少女の住処へ向かう途中、ハジは河へと歩いて行く。少女はそれ拒絶し、されども耳を掴まれ引きずられていた。
 なぜハジがそんなことをするかと言えば、簡単に言えば反省させるためだ。心を込めて謝らせるためである。
 長年の経験から、子供をあまり甘やかすのは良くないと学習していた彼は、無理やりにでも反省させることにしていた。
 河へたどり着くと、ハジは大声で河の住民達を呼ぶ。呼ばれた妖怪達は、最初は子供の姿に舐めてかかっていたが、すぐにそれを直す。
 ハジの顔は守矢の国だけではなく、さらに広範囲に知られていた。ただ、強いと。日頃の行いの成果である。あまりいい意味ではない。

 そんな河の妖怪達も、少女の姿を見るや否や声を荒げる。よくも俺たちを騙してくれたな、と。
 実際のところ、妖怪達は既に殺す犯すといったことをしようとは思っていない。少し苛立っているが、その程度である。
 だが、そんな妖怪達の様子に少女は顔を真っ青にし、震え、怯える。ハジの後ろへ隠れようとしても、そのハジ自身に前に出される。
 首を振り、後ずさりをする。だが、ハジに耳を掴まれ妖怪の前へと連れられる。
 少女にとって、それは地獄だ。拷問だ。
 目の前に、自身の明確な『死の象徴』が居るのである。少女が受けた精神的ダメージは、既にトラウマレベルなのだ。

 そんな少女へハジは一言、謝れ、と言う。心を込めて謝れ、と。そうすれば、彼らは許してくれる、と。
 それだけを言って、ハジは少女から離れていく。少女はハジに縋るように手を伸ばすも、腰が抜けていて立つことが出来ない。
 妖怪達と少女の間は、既に二歩、三歩で埋まる距離。その十歩後ろ程度にハジがいる。
 既に彼女たちを遮る物は何もない。どちらかが一歩前に出れば、手が届く距離。
 少女は自身のトラウマを目の前にして、動くことも、話すことも出来ないでいた。

 妖怪は少女を睨む。既に手を出す気などない。
 虚仮にされた時は、気に入らなかったから殺そうとした。それだけだ。
 彼らにしてみれば、兎妖怪など取るに足らない存在である。いくら死のうが、殺そうが、彼らの何かが変わる訳ではない。
 殺すも殺さないも、同じなのだ。

 彼らは少女の言葉を待つことにしていた。少女を見ても少し苛立つ程度。
 それは、当初、少女が全てを舐め切っていた態度を取っていたから。
 だが、今は違う。自分たちに怯え、震え、動くこともままならない。それに、これから自分たちに謝罪をするという話である。
 少女がその謝罪を『することができれば』綺麗さっぱりと水に流そうと、そう思っていた。

 少女は妖怪達から目を逸らすことが出来ない。目を逸らせば、自分が死ぬような気がするから。
 妖怪達も、少女を見つめる。『本当に』、謝罪をすることができるのか、と。そして、動きの無い少女に行動を起こさせるため、
 少しの仕返しを込めた『悪戯』をすることにする。少女を『脅す』という方法で。
 先頭にいた妖怪が、自身の長い爪を少女へと突きつける。他にも、霊力を噴出させたり、少女を睨みつけたり、各々が様々な方法を取る。

 少女の反応は劇的だ。さらに怯え、震え、今にも気を失いそうなほどに青い顔をしている。だが、逃げることも、気を失うことも許されなかった。
 逃げ出したいほどに恐ろしいのだが、それ以上に、後ろから感じる視線が重い。
 思い込みかもしれない。だが、全身に重りを付けられたかのような重圧を背中から感じてしまうのだ。
 そのせいで、気も失うことが出来ない。ギリギリの所で保ててしまうのだ。正気が。

 体を丸め、目を閉じ、耳をふさぎ、全てを自身の世界から消し去りたい。だが、許されない。することが出来ない。
 やっとの思いで少女は決心をする。声を出そうと。
 少女は既に反省をしていた。むしろ、此処までされて反省をしない方が稀だろう。
 ごめんなさい、ごめんなさいと、少女は心の中で謝り続けている。それを、声に出す。ただ、それだけ。だが、できない。

 震える口を、かすれる喉を必死に動かす。少女の口から零れる音は、声とは言えないような声。
 何度繰り返しただろうか。少女は音とも言えないような音を出し続けた。そして、やっと、やっと一言。

「ごめんなさい」

 謝罪。
 ごめんなさい。貴方達を騙してごめんなさい。
 その言葉を聞いた妖怪達は、矛を収める。少女は恐怖に包みこまれながらも、必死に謝った。きちんと反省し、心を込めて。
 ならば、許そう。水に流そう。彼らは河の妖怪。水に流れるのも、流すことも、得意なのだ。

 謝罪が出来た少女は仰向けに倒れ込む。
 緊張の糸が切れたのだ。少女としては、丸一日走り続けてもこれほどの疲労感は味わえないだろうという感じであった。
 ハジは倒れている少女へと近づく。そして、河の妖怪たちへ礼を言い、少女を掴んで河を渡った。
 ハジは河の妖怪達へ手を振り、少女を担ぐ。ここから先は、全て歩きで行ける。少女が一人で河まで着いたのだから、当然なのだろうが。

 途中ハジは少女を休ませつつも、少女が歩けなくなったら担いで歩き続ける。少女が眠る時以外、全ての時間を歩き続けていた。
 普段の移動ならば、飛んでいっても能力を使って移動をしてもいいのだが、ハジの能力の発動に必要なものはイメージだ。
 イメージが明確でないと発動ができない。故に、知らない所への転移は出来ない。知らない場所へは、地道に歩くか飛んでいくしかないのだ。
 ハジは知らない場所へは、全て歩いて進むと決めていた。全てを、自分の目に収めるために。
 その為、少女としては飛べるのなら飛んで、早く住処へと連れて行って欲しかったのだが、立場上、それを言うことが出来なかった。
 それ以上に、旅が終わってしまうのが惜しいという気持ちもあったのだが。少女自身、その想いはよく分かってはいない。

 そしてハジ達は、半月ほど歩き続け群れの住処へとたどり着く。距離自体はさほど長くはない。
 少女がその道のりを一年以上もかけていたのは、大量の寄り道と一日の移動距離が短かったためだ。
 少女はすぐに、自分の家族が居る所へと駆け出す。それを眺めつつ、ハジは自分の役目は終わったと群れを一瞥し、旅を再開することにする。
 近くにいた兎妖怪へ、服は中位の妖怪程度の攻撃ならば無傷、と少女への伝言を頼み、群れを後にする。
 少女は、礼を言う暇もなく別れを迎えたのであった。
 少女がそれに気がついたのは、伝言を頼まれた兎が彼女の下へとたどり着いた時である。










 ハジは現在不機嫌であった。
 簡単に出来ると思っていたことが、なかなか成功しないからだ。
 彼が兎の少女と別れてから、またしても数千年の時が流れた。

 ハジはあの後、海から旅を再開させ、地道に歩みを進めていた。旅を始めてから万に近い月日は経っただろう。
 初めは思いつく限りの、知らない場所へと移動を繰り返していた彼であったが、次第に飽きと場所がなくなってきた。
 そうして彼は、自身の住む大地の形を把握しようと、海片手に方向を変えず、進み続けていた。

 海を片手に歩き始めて、最初は右から昇っていた太陽も、今では左から昇っている。
 彼に逆走をした覚えはない。つまり、それは大地が何処までもまっすぐに続いている訳ではないということ。
 空を飛び、大地の形を頭の中に収めつつ、折り返し地点も突破した。太陽の位置から考えるに、南へと進んでいた旅も、今では北へと進んで歩いている。
 そして、彼の前に細い道が現れていた。そして彼はいつもの行為を済ませ、その日の旅を済ませることにしたのだ。
 彼の一日の移動距離はそれほど多くはない。地を歩いた後、歩いた場所の地形を空から把握するという作業を繰り返すので、時間がかかるのだ。
 ハジ自身がそれほど急がないというのも大きく関係している。


 彼は不機嫌である。
 なぜなら、彼の『いつもの行為』がうまくいかないからだ。
 その行為とは、百年に一度だけする、子作り。人気のない場所へ行き、誰も居ないことを確認してからソレをする。
 最初は軽い気持ちでやっていたのだが、思わぬ惨事が起きたため、以後誰も居ない所でやるのが主流となっていた。
 そして、わざわざ人気のない所へ行き、ソレを行い、失敗。爆発。

 彼は百近いの失敗を繰り返している。何が悪いのか、彼には分からない。
 彼の周りには大きなクレーターが出来ている。子供が十人以上でも充分に遊べるほどの広さだ。
 しかし、それは出来ない。なぜなら、クレーターには土が見えず、そこから木々が覆っているからだ。
 大地は抉れ、木々は傷ついた。だが、自然は再生する。彼の力の余波により、新たな命が始まったのだ。

 本来ならば、彼の子が出来るはずなのだが、うまくいかない。
 彼も毎回やり方を変えているのだが、どれもうまくいかなかった。周りに及ぼす結果が、変わるだけだ。
 ひどい時には山が一つ生成された。現在、そこには様々な生物が住みついている。山自体に霊力が溢れているので人気のスポットなのである。
 いずれ、此処も生物が住み始めるのだろう。

 ハジは爆発により引きちぎれた腕をくっつけつつ、百年後の計画を立て、眠る。百年後は子作りをしてから、諏訪子達に会うのだ。
 前回諏訪子達に会ってから九百年目の日であった。


 潮の満ち引きが激しい道を通り、海に足を取られつつも、やがて開けた場所へとたどり着く。
 見たところ、生物の気配は無かった。ハジはしばらく歩き続けていたが、生物どころか植物もあまり見かけることが無かった。
 なぜなら、そこは雪で覆われた土地だったからだ。
 ハジに特別想うところはない。雪自体、そこまで珍しい物ではなかった。折り返し地点前後ではほとんど見かけることが無かったが、
 海を回り始めた時と、先ほどまでの場所では、雪が多かったからだ。つまり、北へ向かうほど雪が多い、ということである。もちろん、気温も低い。

 ハジはのんびりと歩き続ける。たまに、雪を丸めて巨大な雪玉を作って暇をつぶしたりもしていた。
 雪玉は、ハジの身長のおおよそ十倍はあるだろうか。それが、ハジの通った道にポツリポツリと置かれている。
 何気に、雪国を満喫しているハジであった。
 ただし、傍から見れば、サラシとスカートのような腰巻をつけた、非常に寒そうな格好の少年である。決して楽しそうには見えず、とても寒そうだった。

 ハジとしては、雪国は初めてである。
 彼は海を片手に歩いていたが、好奇心を抑えきれず、海を離れ突貫。途中、村とも言えぬ集落を見つけたり、
 マンモスと呼ばれる大きな獣と遊んだりと、充実した毎日を過ごしていた。そして、時が経ち丁度百年目。

 それは彼が子作りをする日でもあり、諏訪子達に会いに行く日でもあった。
 まずは、計画通りに人気のない場所へ行き、子作り。
 彼は思いのほか、雪でテンションが上がっていた。それと、本人は数えていなかったが、今回が百回目。
 彼に転機が訪れた。

 彼はいつものように、力を溜める。
 氷の張った湖の上へと立ち、瞑想。
 そして、自らの霊力を媒体とし、新たな命を作りだそうとし、失敗。
 いつものように爆発が起こり、湖に貼っていた氷は全て砕けた。
 今回で、百回目。

 そう、百回目だ。彼は各地で、百回、巨大な霊力をまき散らしていた。
 あらゆる場所で、あらゆる土地で。彼は始まりの力をまき散らし、力を持った自然を作りだしていた。
 そして、その力が、とうとう、溢れた。大地は、きっかけを欲していた。


 湖の上には一人の少年が浮かんでいた。


 湖に浮かぶ氷の上で、一人の少女が座っていた。


 この日、各地から新たな存在が生まれた。
 それは自然から生まれ、自然が具現した形。
 大地から生まれたと言ってもいいだろう。ある意味、妖怪と似たような存在である。
 自然がある限り、彼女たちは生まれてくる。自然がある限り、彼女たちは存在する。

 ハジは、思いもよらぬ結果にただ呆然とし、彼女を見ているだけであった。
 そして妙な電波を受信し、彼女たちを『妖精』と名付けたのはその数秒後。
 ちなみに、ハジも大地から生まれた存在である。何故か、彼には『妖精』だと分かった。














 どう反応すればいいのだろうか。
 またしても失敗したかと思いきや、新たな存在は生まれていた。
 だが、私から生まれた訳ではない。この感覚を当てはめれば、私の力を『利用された』と見るべきだ。
 そして、この感覚は、もう無いと思っていた大地との接触。生まれ、妖怪を自覚した時に感じた感覚と似ている。
 目の前の存在の名は『妖精』。自然の具現した者。

 私は妖精ではないから、妖精の役割は分からない。
 何のために生まれたのか。何をしようとしているのか。知らないが、私には関係のないことだろう。
 だが、このままこの場に置き去りにするのも気が引ける。そもそも、私がきっかけで生まれた存在だ。
 私は、生まれたばかりは自身の自覚が出来ていなかった。ならば、こいつも、こいつ等も恐らくそうなのだろう。
 自身の役割に気がつくまで、しばらく付き合うか。

 そう思い高度を下げて氷の上へと立つ。この氷の欠片では、こいつと私だけであまり空きは無い。
 とりあえず、この妖精が何かを話すのを待つ。待つ。待つ。

 待っていても、何も話さない。いや、話せないのか?
 妖精と私の視線が重なり合ってからそれなりの時間が経っている。妖精は私を見つめ、私は妖精が話すのを待つ。
 このやり取りも飽きてきたので、私から話しかけることにする。
 だが、何を話せというのか。
 そもそも、言葉を理解出来るかすら危ういのだが。

「おい、お前は言葉が理解できるか?」
「……」

 反応がない。依然、此方を見ているだけである。その瞳はから感じられるのは、興味。
 喜びも、恐れも、悲しみも。何一つ感じられない、ただ、興味を示しているだけ。
 観察するように、私の一挙手一投足を見る。

 右手を上げる。妖精の視線が動く。下げる。妖精の視線も下がる。
 座っている妖精の横へと移動する。首を捻り此方を見る。
 後ろへと移動する。首を捻るが限界が来た。後ろへと倒れ、此方を見る。
 元居た場所へと戻り、正面に立つ。顎を引き、必死に視線だけを此方に向ける。
 起こしてやることにする。妖精は私の顔を覗き込む。

 少し面白いが、少し鬱陶しい。
 とりあえず、妖精を掴んで陸地へと飛ぶ。妖精は氷から足が離れた途端に暴れ出す。
 陸地へつく。妖精はへたり込み私を見る。心なしか、怒っているように見える。
 感情が、無いわけではない。恐れもあれば、怒りもある。ただ、知識がない。だからこそ、興味を持つ。
 つまり、妖精たちは『まさしく』生まれたばかりの存在という訳か。

「立てるか?」
「……」

 反応は無い。妖精の腋の下に手を入れ、立たせる。最初は抵抗されたが、構わずに立たせた途端に動きを止めた。
 私が手を離すと妖精はよろける。転びそうだったので受け止めてやったが、立ち方すら分からないのか。
 何度か姿勢を正してやり、立たせる。すると、妖精が私を掴んできた。
 好きにやらせていると、私が手を出さずとも一人で立とうとしている。そして、何とか立つ。私を支えにしているのだが。

 そのまま私が後ろに下がると、妖精は前のめりになり転びそうになる。
 とりあえず妖精を座らせ、目の前で歩き回ることにする。しばらく歩いた後、妖精に手を差し伸べる。
 すると、私の手を引き、立ちあがろうとする。うまく立ち上がれなかったが、手を引いてやると立ちあがった。
 その後、私の手を支えにして立っているが、その手を引き後ろに下がる。
 先ほどのように前のめりになってきたが、妖精は片足を前に出した。思惑通りだ。

 ゆっくりと、転びそうになったら支え、手を引く。歩き方も様になってきた。
 手を離しても大丈夫かと思い、手を離す。すると、妖精は歩みを止め、棒立ち状態。
 私が数歩後ろへ下がると、前へと進もうとするも、転ぶ。
 起こしてやり同じことを繰り返す。妖精の顔は、何度も雪に叩きつけられ赤くなっており、少々涙目になっている。
 泣きそうな目で此方を見る妖精は、幼き頃のアマツのようだ。アマツにも、同じようなことをしてやった。アマツの場合、飛べるようになる方が早かったのだが。

 何度か繰り返している内に、一人で立ち上がれるようになっていた。そして、やっと私の下にたどり着く。
 口元は動かないが、目だけは嬉しそうな感じだ。

「えらい。えらい、えらい」

 そう言いながら、頭を撫でる。目を細め、成すがままにされている。
 そして妖精をひきはがし、距離を取る。引き剥がされた妖精は驚いたように目を大きくさせ、此方を見ているが、やがて泣きそうになっている。
 構わず距離を取り、立ち止まる。

「来い。来い、来い」
「……」

 理解は出来ないだろうが、声をかける。会話が出来ないというのは不便だ。早く言葉を覚えて欲しいものだ。
 此方へ向かってきた妖精に、来い、来いと声をかけ続ける。そして、たどり着いたら、えらいと褒め、頭を撫でる。
 何度か繰り返していると妖精も慣れてきたのか、引き剥がしても涙目にはならなくなってきた。すぐに私に着いてこようとする。

 今度は私に追いついた妖精を座らせる。そして、『待て』。
 立ちあがろうとする妖精を、待て、と言い、押さえ、座らせる。
 成すがままに座らされている妖精も、何度も立ちあがろうとし、そして座らされる。
 押さえるたびに待てと言い、座らせる。そして、距離を取り立ちあがろうとする妖精に、『待て』。
 立ちあがり此方へとたどり着いた妖精をの頭を撫で、座らせる。そして、待て。

 繰り返す。繰り返す。様々な事を繰り返す。
 妖精は、待て、と言ったら動かない。来いと言ったら着いてくる。えらいと言われれば褒められているということを覚えた。
 他にも、走り方、飛び方、力の使い方などを教えようと思ったが、辺りは暗くなってきた。
 経験上、寒くなるほど日が沈むのが早い。

 とりあえず妖精を背中に担ぎ、諏訪子達の社へと転移を開始。
 一瞬にして辺りの景色が変わったことに驚いたのか、私にしがみ付き辺りを見回している妖精。
 アマツも、初めて転移を体感した時はこんな感じであった。そういえば、アマツはいつから一人で過ごせるようになったのだったか。

 諏訪子と神奈子に会い、旅での話を聞かせてやる。そして、妖精について説明。
 諏訪子たちも私の横にいる妖精の事が気になっていたのか、すぐに聞き入る。
 自然が具現した形だと。大地から生まれた存在だと。おおよそ私が知っていることを話してやる。

「私が知っているのは、この程度だ。あと、こいつ等には知識がない。見かけたら何か教えてやってくれ」
「まあいいけど……妖精はどうやって見分けるのさ?
それに、今頃獣にでも襲われて怖い思いでもしてるんじゃないのかね」
「む、それはいかんな。我が人間にも呼び掛けておくか?」
「やめておけ。妖怪と間違われて争いでも起こったら面倒だ」
「むう……」

 人間にしてみれば、妖怪と妖精など大差はないだろう。
 力を見れば、人間以下だろうが、それでも霊力を吸って現れた存在だ。本能的に感じとるだろう。
 この妖精の物覚えは、それほど悪くはない。ならば、他の妖精も同じ程度なのだろう。
 しばらくは旅を中断して妖精を見て回るか。
 こいつも、仲間が出来れば独り立ちをするだろう。あまり懐かれても困る。

「とにかく、見かけたら言葉でも教えてやってくれ。妖精は全員羽があると思う。
見かける程度にそいつが歩けるのならば、それで十分だ。私は各地を巡って妖精を見て回るさ」
「そう?ならそうするよ」
「うむ、分かった。我もそうすることにしよう」
「私も他の妖怪にも声をかけてみるか」

 とりあえず、私の旅は一時中断と言ったところだろう。
 それに、今回妖精を『作らされた』ことにより、何かが掴めたような気がする。
 新たな存在を作る、その感覚。一瞬だが、何かが分かった気がする。
 光明が見えた。ならば、後は実践するのみ。
 うふふ……百年後が楽しみだ。










「そういえば、その子の名前は」
「知らん」
「え、また?んー……じゃあ、名前を付ける?」
「む、我も付けてみたいものぞ。空色の髪に青い瞳、氷の羽か……むむむ」
「神奈子はやめときな。名付けは下手なんだから。意外とかわいい物好きなのは知ってるけどさ」
「だ、誰がそんなことを言った!?べ、別に我はそんな」
「アホどもが。おい、お前はどんな名前がいい?」
「……?」
「あ、抜け駆けはずるいよー!」
「む、我だって名付け程度!」
「……?」

雪国生まれの妖精さんの名前は、なかなか決まらないようです。







――――――――――――

あとがき

またしても新キャラ。最近新キャラが増えましたが、皆さん登場人物の把握が出来ますでしょうか。
登場人物の特徴をとくに挙げておらず、しかも名前が出ていないので分かりづらさ大幅アップ。
前回は兎のみだし、今回は妖精妖精と言っていて、見た目に関してはかるーくしか触れていない。皆さんの想像力に託すしかない……!!!

今回は会話を少なく出来た予感。やっぱり、喋らないキャラって大事だと思う。むしろ、誰も居なくてもいいや。

それにしても、こいつ等かわいいのかな?
自分で書いてるとかわいいかとか良く分からなくなってくるけど、かわいいなーとか思ってもらえれば。
神奈子様マジ乙女。







分かる。私には分かる。金髪のあの人がそろそろ出てくる。そんな気がする。



[21061] 原始編 十三話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/01 05:29
 コツを掴み、新たな可能性を確信した少年、妖怪のハジは現在。
 絶賛奔走中であった。


 妖精が生まれてから百年後。彼は自信満々に力を解放、能力を発動させる。
 感覚を研ぎ澄ませ、今度こそ成功するという確信を胸に、百年に一度の勝負を始めたのだった。
 だが、結果は失敗。
 完全に失敗というには誤りがあるかもしれない。それは確かに、新たな命を誕生させることには成功していたのだから。
 ただし、妖精だが。

 その後、おおよそ三十回。彼は妖精作りに利用されていた。
 彼はその間、妖精が他の妖精を助けあえるまで教育を施していた。
 案外、暇はつぶせていたので満更でもなかったようだ。


 ハジが諏訪子達の下へと連れて行った妖精は、三日ほどの時間をかけても名前が付けられなかった。一重に、神奈子が駄々をこねたからだ。
 彼女的には雪国生まれということで、氷子ちゃんや雪ん子ちゃん、妖精ということで妖子ちゃんやセイコちゃんと様々な案を挙げていたが、
 全て諏訪子に却下されていた。特に、最後の名付けはひどかった。漢字的に。それ以後神奈子は名付けを禁止されてしまったのであった。
 彼女の悔しそうな顔はおおよそ国民には見せられない物であった。それほど情けないものなのである。
 その後もあーだこーだ言っていたが、すべて諏訪子に無視をされていた。

 一方ハジは妖精ならば、と妖精一号、氷の妖精、妖怪氷妖精などという、名前なのかも分からないような不思議な名前をまじめに提案していた。
 当然ながらも名前じゃないと諏訪子に却下されていたが、ハジ自身は名前に拘りは無かったため、神奈子のように何かを言うことは無かった。
 ただ、名前が付かなければ妖精と呼ぶだけなのだ。
 ちなみに、ハジは出会った妖怪の名前を『全て』記憶している。そこから被らないようにするとなると、なかなか大変なのだ。

 結局、諏訪子のみが妖精の名付けをすることになってしまったため、妖精本人が言葉を覚えた後に、好きな名前を名乗らせることにした。
 諏訪子はそのように提案したが、実際のところ神奈子が哀れになったから、と思っていたのは秘密である。
 その後社を出たハジは、妖精に様々な事を教えつつも他の妖精たちを探し回っていた。
 ほとんどの場合、妖精達は座り込んでおり、移動をしている者は稀であった。
 最初のうちは妖精を拾っていき、連れて歩いていたハジも、五人を超え始めた頃にこれ以上は連れて歩けないと悟る。

 ハジはすぐに対策を立て、彼はお気に入りの場所である、湖の畔に囲いを作った。
 湖は日の当たりも良く、暖かい。加えて広いスペースもあり、周りには森があるので住みやすいスポットなのだ。獰猛な獣や妖怪も多いが。
 彼は木で作った囲い、正方形をした柵のような物の中に妖精たちを入れる。
 柵の大きさは妖精たちの背程度しかないが、彼女たちに柵から出る手段はない。加えて言えば、『彼以外に柵の中へ入ることはできない』。
 一種の結界のようなその柵は、とても広い物であった。下手をすれば人間の村ほどはあるだろう。

 ハジは妖精を柵の中へ入れていくが、いざ出て行こうとすると妖精たちはハジから離れようとしない。
 最初は、仲間を得た妖精たちはお互い仲良くしていたのだが、いくら楽しそうにしていても、ハジの姿が見えなくなるとすぐに泣く。
 だがそれも最初だけだ。だんだんと仲間が増えていく内に、その回数を減らしていった。
 柵の中では、歩ける妖精が歩けない妖精を立たせようとしていたり、追いかけっこをしていたりと、平和な光景が広がっていた。一つの例外を除いて。

 柵の中の妖精は日に日に増えていき、二百人ほどの妖精が暮らしていた。その中に、氷の妖精の姿も見えた。
 片っぱしから妖精を攫い、妖精を柵に入れて仲間と遊ばせ、言葉を教えていたハジであったが、二百年もするとその必要性もなくなってきた。
 すでに、一般的な会話程度ならばほとんどの者がすることが出来る。後は、妖精が妖精に教えれば済むだろう。
 結局、彼女達は自身の役割を自覚することはなかった。どうやら、ただ『生まれただけ』の存在だったらしい。

 そろそろ柵を壊して妖精たちを放そうかと考えていたハジだったが、ある違和感に気がつく。
 妖精たちは元気で、仲がいい。お互い笑いあって追いかけっこをしたりもしている。
 だが、最近氷の妖精が一人、ハジのそばを離れようとしなかった。いち早く言葉を覚えた彼女は、ハジに教わらずとも他の者に教えることもできる。
 そのため、ハジは彼女に向こうで遊んで来いと言っていたのだが、すぐに戻ってくるのだ。
 元々、よく後ろを着いてくる妖精だったので、ハジも特に気にしはしていなかったのだが、彼は違和感の正体を知る。

 何人かの妖精の力が大きくなっている。

 彼女達妖精は、自然そのものだ。自然が大きく変化をしなければ、彼女達も変わることはない。
 故に、力が強くなることもあまりないはずであったが、ハジの目の前では、その無いと思っていた事柄が映し出されている。
 氷の妖精もまた、力が強くなっている者の一人であった。

 それは、個性と呼ばれる物。好きなこと、嫌いなこと、得意なこと、不得意なこと。
 彼女達は意思を持ち、それぞれが『個』を持っている。
 ただ、その『個』が大きくなっただけだ。はっきりとした自我を持っただけのこと。
 それにより、彼女達は自然から力を引き出す。
 彼女達は自然が具現した形だ。つまり、自然が意思を持った物と同義である。広大な自然が意思を強く持てば、強い存在となるのは当然のことであった。

 だが、力を持っただけで、氷の妖精がハジの下を離れない理由にはならない。
 現に他の力ある妖精たちは、他の妖精たちのリーダー的存在として扱われ、仲良く遊んでいた。
 しかし、この妖精だけは一人でハジの下を離れないのだ。ハジは考える。どうしたのだろうか、と。
 しばらくの内は氷の妖精の好きなようにさせていた。妖精達の相手をしてやりながらも、氷の妖精と他の妖精達を観察していた。
 そして、ハジは知る。
 氷の妖精は、周りから嫌われていたのだった。


 それに気がついてからのハジは、原因を探ることを始める。
 性格的には、他の妖精達のように陽気で、遊びたい盛りの子供そのものだ。大差はない。
 つまり、性格的な問題ではない。ならば、身体的、能力的な問題か。
 それを悟った彼は氷の妖精と他の妖精の違いを探す。それは思いのほかすぐに見つかる。
 彼女は、冷たいのだ。性格ではない。その体が、周囲が。彼女が生まれた雪国のように、温度が低い。

 他の力ある妖精達は、このように周りへ影響を出すことはなかった。
 手のひらから小さな火を灯したり、他の妖精を持ち上げられるくらいに力持ちであったり、中にはハジを真似、空を飛ぶことに成功した者も居た。
 だが、その全ては、彼女のように周囲へ影響を及ぼすほどでもなかった。
 火を灯したところで、すぐに消える。周りが暑くなりはしない。
 妖精を持ち上げたところで、それだけだ。他を傷つけるようなことはしなかった。
 空を飛べた者も、他の者は地で遊ぶので、一緒になって地を駆けまわっている。
 だが、この妖精だけは、周りの気温を下げ、寒さを作り出し、嫌われていた。

 ハジが彼女の手を触れると、百や二百年前には決して感じなかった冷たさを感じる。それは氷のようで、以前は羽のみが冷たいだけだった。
 彼女も、今まで一緒に遊んでいた存在が、だんだんと自分から離れていくのは辛かっただろう。
 ほかの妖精達も、いつも一緒にいた妖精に、だんだんと近づけなくなるのは困惑しただろう。
 ハジは妖精達へ問う。彼女自身は好きか、と。
 妖精達は答える。好きだけど、寒いのは嫌だ、と。


 ハジは柵の一部を切り取り、一か所だけ出入り口を作り出す。
 そして、妖精達に指示を出す。これからは、外に出てくらせ、と。
 妖精達はその指示に困惑するも、一応の承諾をする。妖精達はハジから外敵の存在を教えられていたが、それ以上に外への興味が増していた。
 多くの者は湖の周りに暮らし始め、だんだんとその範囲を広げていった。
 柵自体は残してあり、たまに戻ってくる妖精も居た。ハジがたまに顔を出すと、何人かの妖精と出会い、構ってやったりもしていた。
 ごく稀に、生まれたばかりの妖精をほかの妖精が連れてきて、自身の知識を教えるといった姿も見られた。

 一方氷の妖精はと言えば、彼女だけはその場で放されず、ハジに雪国へと連れて行かれていた。
 彼女自身も、ハジと一緒に居るのは何よりも安心する。
 一人連れて行かれても文句を言わなかったし、自分を仲間外れにする仲間達と一緒にいるくらいならば、一人になることを選ぶほどだった。
 ハジはしばらくの間、彼女に自分の力の自覚をさせることにした。そして、その力が、お前が仲間と一緒に居られない原因だ、とも。

 しかし、彼女はそんなことはどうでも良かった。仲間たちと一緒に居られずとも、ハジが一緒に居てくれればそれで良かったのだ。
 だが、そんな彼女の想いは脆くも崩れ去る。
 ハジが、期限を設けたからだ。一緒に居る時間は、あと百年のみ。それまでに力を自覚できなければ、もう会うことはないだろう、と。

 当然彼女は焦る。彼女にしてみれば、ハジは文字通り『生まれたときから』そばに居る存在だ。
 彼女が持っている物は、全てハジから教わった物だ。彼女にとって、仲間が仲間とも言えなくなった今、ハジは全てなのだ。
 百年後に別れなくてはならない。その言葉のみが彼女を支配する。それだけは、嫌だった。絶対に、ずっと、一緒にいたかった。
 それをハジに伝えるも、ハジは言葉を覆すことは無く、ただ、自分の力が自覚出来なければ分かれるだけ。そう言った。

 彼女は絶望する。ここでハジにも嫌われたら、全てから一人になってしまう。
 彼女は、一人は嫌だった。ハジと一緒にいたかったし、本当は、仲間達ともまた一緒に遊びたかった。
 既に百年後を想像して泣いている彼女を、ハジは慰める。
 力を自覚することができれば、また一緒に仲間と遊ぶことが出来る。自分もたまには会ってやる、と。
 それを聞いた彼女は顔を上げ、本当かと聞く。その顔は、鼻水を垂らし、目を真っ赤に染めていた。涙が頬で凍っていた

 ハジが頷いてやると彼女はハジへと抱きつく。
 しばらく好きにさせていると、次第に泣きやみ、いつの間にか彼女は寝ていた。
 とりあえずハジは背に彼女を担ぎ、落ち着ける場所へと移動する。と言っても、周りは全て雪景色である。氷点下であった。

 次の日から、彼女の訓練が始まった。
 ハジは自覚さえ出来ればなんとかなるだろう、という甘い考えの下、少女に『冷たさ』と『熱さ』を教える。
 最初のうちは自分が冷たいとは分からなかった彼女も、だんだんと周りの物と、自分の温度の違いを理解していく。
 ハジはそれを完全に理解させた後、冷たさを抑える訓練を施す。
 訓練と言っても、厳しいものや難しいものではない。ただ、自覚させるだけ。自分は冷たいから、それを抑えなければならない、と。

 ただ、力を抑えるだけの作業。
 ハジにしてみれば日常的にしているものだ。ハジの見た目は人間と大差がないため、人里へ入り込む時は、よく力を抑えている。
 彼女は最初から冷たかった訳ではない。力が上がり始めてから、冷たくなっていったのだ。
 つまり、力さえ抑えてしまえば、彼女はもう一度妖精達と遊べるのだ。

 そうして九十九年の年月が経った。
 未だに力を抑えることに成功していない彼女は、全てが終わったように煤けていた。
 後一年、たった一年のみの時間で、力を抑えられるようにならなければならないと、そう思っているのだ。
 もし、出来なかったら。約束の百年が経ち、仲間たちとも遊ぶことができず、ハジにも捨てられる。

 半ベソをかき、ぐずらせている彼女をハジは慰めなる。実際の所、制御の善し悪しは関係がない。
 出来ないと捨てられるというのは彼女の思い込みで、本来は自覚さえ出来ていればいいのだ。
 ハジは彼女の勘違いをただし、しっかりと目的を定めて、期間の延長を伝える。
 それを伝えられた少女は本格的に大泣きをし、辺りの物を凍てつかせていた。強めることには成功している彼女であった。

 それから百年。百年に一度の子作りも、『利用されている』感じを拭えぬまま済ませる。
 そして氷の妖精の訓練を開始させ、とうとう力を抑えることに成功した。
 その結果に彼女は大喜びをし、ハジも少しだけ嬉しく思う。
 早速ハジ達は他の妖精達の下へ行き、氷の妖精は昔から遊んでいた妖精達と仲良く遊ぶ。
 それを見たハジは彼女に別れを告げたが、当然嫌がる彼女。ぐずり、駄々をこね、何度も泣いたりしていたが、最後にはたまに会うことを約束し、納得した。

 その後は、普通の妖精では越えられないであろう所を歩きまわり、森や山、崖の上などから出られずに、
 一人で過ごしていた妖精を助けたりと、それなりの時を過ごしていた。
 そして、およそ三千年。彼は妖精に構いながら過ごしていた。
 まだ、彼は自分の子供を作れないでいた。




 彼は妖精の確立に手を貸していた。
 それが終わった時、彼は『利用されている』感覚が消えてきたことに気がつく。
 それは、つまり……。












「ねえねえ!ハジハジ!あたい、また一緒に遊べた!新しい友達もできたよ!」
「ああ、良かったな」
「うんっ!ハジも一緒に遊ぼうよ!ね?ねっ!」
「たまに、な。お前は、もう一人でも大丈夫だろう。 じゃあな。仲良くするんだぞ」
「…………え?」

 とある森の中、嫌だ嫌だと暴れる少女を慰めている少年の姿が見られたそうな。
 結局、たまに会いに来るという約束をして事なきを得たようだ。
 でめたしでめたし。













――――――――――――

あとがき

何というロリ回。
ゆかりんゆかりんと言っておいて此処まで幼女を出し続けるSSは詐欺ですか?
でも、ゆかりんが出てきても幼女な気がします。どう見ても真性ですね。
しかしおねーせんキャラも捨てがたい。
でも次で金髪のあのお方が出ます。綺麗なねーちゃんは良いね。素晴らしい。

しかし一瞬にして出番の消えた兎。名前も出ないし大した台詞も無い。ワロス。絶賛万単位放置中
それでも装備はいい物使っています。布の服+99とか。布の服に防御力+99くらいの強度。割と安全になってます。
運がいいですね、彼女。幸運な兎ってところかな。名前はまだわかりませんが。



ロリの動きを妄想するとヤバイな。俺ヤバイ。



[21061] 原始編 十四話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/02 07:29
 妖怪は『何か』を抱える。
 それは、どんな形なのか。どんな色をしているのか。どんなモノなのか。見ようとすればするほど、曖昧になっていく。
 常人には認識することすら出来ない、その全てが曖昧な『何か』かは、確かに、少年の腕の中にある。
 大事そうに抱え込み、愛しそうに『何か』を撫でつける。




 それは偶然か、必然か。
 妖精作りに『利用される』ことが無くなった妖怪は、自身の目的を果たそうとする。
 一回目、『小さな何か』ができた。作った本人でさえ見えないほどの小さな『何か』。
 二回目、その小さな『何か』が、ほんの少しだけ大きくなる。
 三回目、四回目と続けていくうちに、その『何か』大きくなっていく。期待に胸を膨らませる妖怪であったが、ここで一つの問題が生じた。

 妖怪の体力が持たなかった。
 今まで百年に一度の周期でやっていた『それ』は、確かに大きな力を使うが、決して疲れが後に残るような物ではなかった。
 せいぜい、十年間ほどの気だるさがある程度である。だが、今回の『それ』は桁が違った。
 百年に一度では、時間が足りなかったのだ。

 それに気がついた妖怪は、早く完成させたいという、焦る気持ちを抑えつつ、ゆっくりと、ゆっくりと『何か』の完成を目指す。
 彼は妖怪。人間にはない大きな武器、『寿命』を持っているのだから。
 そうして五千年。『何か』は胸に抱くほどに大きくなった。
 いつ完成するのか、どうすれば完成するのか。それは誰にも、彼でさえも分からない。
 『何か』が完成するのが先か、妖怪の『寿命』が尽きるのが先か。誰にも、分からなかった。






 妖怪、ハジは歩く。
 海を片手に歩いていた旅も、圧倒的な大きさを持った大地の気配に、することを止めた。
 ハジは大地から生まれた存在。何となくだが、立っている大地の力の大きさ程度は分かるのだ。
 今まで住んでいた、歩いてきた大地とは絶対的に違う、その巨大さ。
 ハジは最初気がつくことが無かったが、そこは今まで暮らしていた大地とは『別の』大陸だということに気がつく。

 ハジは長年の旅の経験から、いくつか気になっていることがあった。
 最近、何処へ行っても気温が上がっている。加えて、久しぶりに歩いた海の道は、少しだが、海に沈んでいた。つまり、海面の上昇。
 この海面の上昇は、いつまで続くのだろうか。このままでは、いつか自分が生まれた大地と、この巨大な大地の通り道が埋もれてしまうだろう、と。
 そして、海の向こう側の事だ。

 海面の上昇。それに気がついたのはほんの数千年前であったが、それはハジに一つの希望を与えた。
 つまり、海の向こうにも大地が存在するのではないか。この海も、遥か昔に大地を沈めてできたのではないか、と。
 それは合っているとも言えないが、あながち間違いでもない。結論から言ってしまえば、ハジは向こう側の存在に気がついたのだ。
 ハジの中で、この疑問は確信であった。

 飛んでいってもいいのだが、海の上は誰ひとりとして存在しない、無の世界である。
 いくら自身の強さに自信を持っているハジでも、何の準備も無しに行くほど、彼は愚かではない。
 しっかりと裏付けされた確信の下、彼は行動を起こすのである。戦いには勝てるという確信を、物事には出来るという確信を。
 彼の性格上、『まったく分からないまま』、何かを始めるということはまずない。
 始まりから終わりという、一連の流れを見通し、行動する。それが、妖怪・ハジなのである。

 彼は一旦海のことは端に置いておき、大陸を練り歩いている。
 船という概念がまだ存在しないこの時代。ハジの中では、海は飛んで渡るか、泳いで渡るという方法しか存在しない。
 海は広大な存在だ。彼は常日頃からそれを感じている。海を見ても、その果てに大陸が見えないほどに巨大なのだ。
 本当は、星の形故に見えないのだが、それを知る物は居なかった。

 大陸を歩くハジは考える。何か、海を渡る方法はないか、と。
 考えながらも各地を巡り、旅を続けていた。途中、彼は人間の村や里に寄ってみると、全く理解できない言語が使われている事に驚いていた。
 人間の見た目は皆似たような物だったが、言語がまるっきり違うというのは彼にとって未知な、新鮮な存在だ。

 こっそりと観察し、あらゆる状況に適応した言葉を覚えていく。およそ二十年かけ、日常会話程度ならば全く問題ない程度にした彼は、
 各地を練り歩き、その土地の妖怪にも会い、交流を深めていった。
 元いた土地には存在しない物なども、物々交換で手に入れていたり、すっかり異国を堪能しているハジであった。
 そして、彼が妖怪達と交流を深めていると、ふと、懐かしい名前を耳にする。

 話によるとその妖怪は、一万年ほど前からこの地に住み着き、その強さと恐ろしさにより妖怪達を従えていたらしい。
 かなり攻撃的な性格をしており、妖怪達からも恐れられているようだ。だが、『彼女』に着いていけば何も怖くない。
 何も恐れる必要は無く、神ですら打ち倒す彼女。自分達妖怪は、彼女に着いていけば人間達を蹂躪出来るのだと。
 そんな話を聞き、ハジはただ、懐かしいと感じていた。

 輝くような金色の髪、まるで血のような深紅の瞳。透き通るような白い肌を持つ、強く、美しい妖怪。
 これだけを聞けばとても明るい色を持つ存在のように思えるが、実際は、真逆。

 彼女の存在は、『闇』。『闇』その物である。

 黄昏よりも昏く、血の流れよりも紅き瞳を闇の中から輝かせ、等しく全てに滅びを与える存在。それが、彼女。
 黒衣を身に纏い、その上さらに闇の衣を纏う。
 闇。それは彼女の腹の中と同じだ。彼女の闇に捕らわれた者は、彼女に、喰われる。
 彼女の闇に捕らわれたら最期。闇から出ることは敵わず、その存在が消え去りゆくのだ。『死』とともに。
 彼女は闇の妖怪。太陽の光ですら、亡きものにした。闇で空を覆う、夜の王。

 人々はこう呼んだ、空を亡きモノとする妖怪、『ソラナキ』と。

 そんな恐ろしい彼女を、ハジはただ、『食いしん坊だったな』と考えていた。
 なんとも食い意地が張っていたな、と。
 実際、彼女は捕食をするために闇を操り、広げていたに過ぎない。いっぺんに、いっぱい食べたいという発想の下生まれた捕食方法であった。
 ただそれが、空を覆うほどの闇を作りだすという結果を生み出していただけで。

 ハジが最後に彼女と会ったのは、二万年近くは昔になるだろう。
 彼女はその捕食方法から、非常に目立つ。最近はめっきり見なくなったと思っていたら、彼女も大陸を渡っていたらしい。
 ハジは妙な偶然を感じながらも久々に彼女に会ってみようとする。
 だが、彼女はここら一帯の妖怪達の統率者だ。ぽっと出の妖怪が会えるほど、気安い存在ではなかった。
 ハジは会わせてもらえなかったが、しかし特に気にすることもなく旅を続ける。歩きまわればその内見つかるだろう、と。
 会わせなかった妖怪も、彼女の気難しさから、ハジが攻撃されないようにと想ってのことだ。つまり親切心である。

 そんなハジは旅を続け、時々、元の大地へと戻る暮らしを続けていた。海の渡り方は、木が水に浮かぶ事を利用しようと考えている。
 ハジの子になるであろう『何か』は、現在ハジの顔程の大きさがある。正確な大きさは、認識できないのだが。ハジはその程度だと感じている。
 『何か』を体の中に取り込み、しまっておく。別に、常日頃から外に出しておく必要はない。元は彼の力なのだから、取り込めるのだ。
 ハジは人里に入り込み、人間を観察する。ごく稀につまみ食いしてしまいたくなるような人間も見かけるが、それは他の妖怪の獲物だ。
 そんな感じで村を回っていると、ある日、彼は妖怪の襲撃を目撃する。

 その日は満月であった。
 ハジは山の一番大きな木に登り、枝に寝っ転がりながら月を眺めていた。
 月。真ん丸なお月さま。ハジは円や球が嫌いであったが、月だけは好きだった。
 ハジは月を見ていると力が溢れてくる。ような気がしている。奥理も、アマツも、ツキも、皆感じ方は違っていたが、
 全ての妖怪にとって、月とは特別な存在だ。月には、魔性の力がある。ハジはそう思っている。いつか手に入れてみたい、とも。

 ハジがそうやって月を眺めていると、一人の女性が月を背にして、里の上に浮かぶ。
 黒い大きな翼を広げ、紅い紅い笑顔を顔に張り付けている。彼女の下には妖怪達がひしめいており、さながら夜の行進だ。
 彼女は翼を翻し、下に居る妖怪達へと指示を出す。つまり、突撃。
 襲われた人里からは武器を持った人間と神が現れたが、その姿を見届けると彼女は辺り一面を闇で包み込む。

 視界を塞がれた人間達は、妖怪達の成すがままだ。唯一、神だけは反撃をして妖怪達を薙ぎ払っているが、そこに彼女が降り立つ。
 神と彼女の激しい戦闘が始まった。神は彼女を次々と切り裂いていった。首、腕、腹、胸。至る所を切っていたが、彼女の顔は笑顔のままだ。
 紅い瞳を輝かせ、紅い口をにっこりとさせている。彼女の切り裂かれた部分から、闇が零れだしていた。
 切り裂けど切り裂けど、攻撃の通じない彼女に痺れを切らした神は、神力での直接的な攻撃へと出る。
 だが、その攻撃を切り替える一瞬の隙を突き、神に闇が襲いかかった。

 普段の闇ならば襲われたところで視界が塞がれる程度だっただろう。だが、今襲いかかった闇は、彼女の身から零れだした闇。
 彼女の血肉と言っていいもいい闇は、質量を持ち、神の体を次々と貫く。やがて、穴だらけとなった神を彼女は闇で包み込み、食す。
 神が居なくなった人間達は、後は逃げ惑うのみだった。
 いくらかの人間達は逃げたが、残った人間達は妖怪達に支配された。
 この日、ある人里は、滅びた。

 それを見ていたハジは、一つ思っていた。
 彼女がなかなか闇を消さないので月が見えないのだ。
 元々会おうと思っていたハジである。文句も兼ねて、彼女の下へと言ってみることにした。
 闇の妖怪の下へ。










 視線がぶつかる。
 完全に、私は後ろから行ったはずなのに、あいつは此方に振り向き、私を見た。
 前に会った時よりも強くなっている。これならば、奥理はおろか、ツキですら打倒出来るのではないだろうか。
 生まれたばかりの時から将来有望な小娘だと思っていたから、私の目に狂いは無かったらしい。
 他の妖怪を従えるほどに強くなっている。立派に育ったようで何よりである。

「ふふふっ……。どう?私、強くなったでしょう? ……おチビさん」

 前言撤回だ。こいつはまだまだ生意気な小娘だった。立派でも何でもない。

「それよりも、どうして貴方が此処に居るのかしら?貴方は向こうから出ないと思っていたのに」
「向こうの土地は殆ど行きつくしたからな。歩いていたら、こんな所まで来てしまった」
「ふーん……」

 そうなのか、と、目の前の小娘は笑いながら言う。
 どれほど強くなったか楽しみだったが、こんな生意気な奴、小娘で充分だ。
 強くなっているのは認めるが、いくらなんでもこの私を子供呼ばわりするのはいただけない。

「そう言うお前は随分と老けたな。あんなに小さかったのに、今ではいっぱしの婆か」

 以前神奈子に人間の歳よりみたいだと言ったら、本気で切れられた事がある。その後は戦いに発展して、なかなかに面白かったのだが。
 そんな神奈子の姿を見て、奥理やツキにも言ってみたのだが、何も言われなかった。ただ、女にそういうことを言わない方がいいと言われただけだ。
 少し前から体の大きくなってきたベニにも言ってしまったのは失態だった。泣かれてしまい、クレナイには苦笑されてしまった。
 どうやら、女とは体が大きいのを気にするらしい。歳をとると大きくなる奴らが少し羨ましい。あっちの方が殴りやすいのに。
 ともかく、こいつが女である以上、婆という言葉は嫌がるはずだ。先ほどの仕返しである。


「あら?あらあら? 今、なんて言ったのかしらね。私よりもずっと年上の爺には言われたくないわよ?」
「ふん。先ほどの仕返しだ、小娘が」
「ふん」

 会って早々、なかなかに険悪な感じだ。
 まあ、こいつが嫌いという訳ではないので、私はあまり気にしないのだが。寧ろ、襲って来い。戦ってやろうじゃないか。
 こうして睨みあいと愉しんでいると一人の妖怪がやってきた。

「ソラナキ様、そちらの妖怪は一体……?」
「ああ、この子ね。ふふふっ……ただの、老いぼれよ。私よりもね」
「私はハジという。よろしく。それにしても、ソラナキ? たしかお前の名前は」
「あらあら、今はソラナキと呼ばれているのよ。貴方もこっちで呼んで頂戴。カッコイイでしょう? ソラナキ」

 ふふふ、と笑う小娘、いや、ソラナキ。
 元の名前も私は良い名前だと思ったが、そこは本人の自由だろう。
 ソラナキと呼ばれたいのなら、ソラナキと呼んでやるまでだ。だが、やはりこいつは小娘でも十分だと思う。

「だが、安心したよ。元気でやっているようだな」
「ふふっ、心配されるような私ではないわ。だって私、強いもの」
「ああ。その強さ、認めてやろう」
「ふふふ……」
「…………お前、よく笑う奴だったが、笑い方が変になったな」
「あらあら?そうかしら?」

 クククと笑いながら返事を返すソラナキ。小さい頃は、能天気に笑顔を振りまいていただけだったのだが。
 私から見ればかわいいものだが、人間から見たら恐ろしいものに映るだろう。なんせ、喰うことを楽しみにしている笑顔だったのだから。
 懐かしい顔も見たことだ。早めに向こうに帰ってみるのも悪くは無いだろう。
 しばらく雑談をし、話すことも無くなったので別れることにする。

「じゃあな。次会う時にはもっと強くなるがいい」
「ええ、そうするわ。いつか貴方を超えてあげる。たとえ、何万何百万年かかってもね。ふふふっ……」
「そうだな。…………その機会は、訪れないだろうがな」
「ふふ、そうなのか」

 にっこりと口元を緩めているが、目だけは笑っておらず、私を睨みつけている。
 絶対に、いつか私を超えようとしている目だ。諦めるつもりはないのだろう。
 出来ることなら、その機会が来るまで待っててやりたいが、それまでは難しいだろう。
 私としても簡単に越えられるつもりはない。今私を越えられる者は私だけだ。
 せいぜい、早めに私を越えることを祈るばかりだ。出来るのならば、だが。まあ、時間さえあれば出来るだろう。

「ああ、お前なら、いつの日か『今の』私を越えることは出来るだろうな。精々頑張るがいいさ。食いしん坊め」
「それは言わないで頂戴。今の私は自制出来るのよ。
ふふふっ……それと、貴方からそんな言葉が聞けるなんてね。思ってもみなかったわ」
「私も、同等の力を持った妖怪が欲しいのさ。力を競い合える相手が、神しかいないからな」
「贅沢な悩みね。ふふふっ……いいわ。いつか必ず越えてあげる。そうしたら、私の闇の取りこんであげる」
「期待しているさ」

 いつか、な。いつの日か、『私の子』を越えてみろ。
 この私、最強の妖怪ハジの子だ。ならば、一筋縄ではいかないはず。
 越えられる物なら、越えてみろ。小娘が。
 精々ツキと、二番目三番目に強い妖怪を競い合うと良いさ。















「お前、いつも美味そうに人間を食べるな」
「んー?だって美味しいじゃない。美味しい物を食べれば、美味しそうに見えるのは当然でしょ?」
「まあ、そうだが」
「ふふっ。そうだ、ハジも食べる?」
「私は良いさ。お前が狩った人間だ。お前が全て食べると良い」
「あ、そう。じゃあ、全部食べるわ。もっといっぺんに食べたいわー」
「お前は闇その物だろう?闇から取り込むことは出来ないのか?」
「えー、そんなこと出来るわけ……あ、できちゃった」
「案外、他にもいろいろ出来るんじゃないか?」
「そーなのかー?」
「そうなんじゃないか?」











――――――――――――

あとがき

またしても新キャラ。金髪だと聞いてゆかりんだと思ったの?期待したの?罪袋なの?残念でした。ソラナキさんです。本名不明。ちくしょう!ゆかりんだせよ!
でもこの新キャラ、話に出てきたのは初じゃありません。以前ちょろっと出てきていました。

でも、あれですね。また最後にロリと会話ですか。もうこの作者駄目かもしれない。
あと妖怪をかわいいだなんて思ってはいけませんよ。めちゃくちゃ怖い奴らですから。きちんと抱きしめて相手の動きを止めましょう。

でもこの新キャラの本名ってなんでしょうネ。なんで本名じゃないなんて設定にしたんだろうネ。
ソラナキ……ソラナキ……うーむ。ホンミョウワカリマセンナ。

個人的に、舌舐めずりしながら相手を見下して、『あっそう。で?』って感じに「そーなのかー」って言ってると考えるのがツボ。

次回も金髪キャラ出現。なんか境界が似合う奴なんだけど……まさか、ね?



[21061] 原始編 十五話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/02 07:29
 とある湖に一人、少年は球体状の『何か』を掲げ、覗き込んでいた。
 『何か』の形状はだんだんとハッキリしてきている。力の弱い物では直視することすら出来なくもなっているが、少年はハッキリと認識していた。
 球状。丸い丸い『何か』。
 少年本人としては円形の物は嫌いである。だが、自身の子供になるであろうモノが円形をしているのならば、好きにならなくてはならない。かもしれない。

「球……円、か。円は、何処どこから始まり、何処で終わるのか。
始まりと終わりの境界は何処にあるんだろうな……。お前には分かるか?私には分からん」

 少年は『何か』語りかける。返事は無いと分かっていても、話しかけてしまう。
 しかし、その『何か』に話しかけた少年は、一度。かすかに、自分の言葉に反応したような気がした。
 少年は悟る。『何か』はもうすぐ、もうすぐ生まれそうだ。






 ハジは大陸での旅を一時中断していた。彼の感覚では、既に半分以上は歩きまわっていただろう。
 その間に人間達は石器、ごく一部鉄から土器の使用に移り変わっていた。時の流れと共に、人間の技術は進歩していく。
 そんなことにハジは感心しつつも、『何か』を生み出す作業に集中しようと、腰を据えて旅は中断したのだ。
 そんな中、彼は暇つぶしに散歩をしているとある妖怪と出くわす。
 ここら一帯の森を支配する実力者、植物を操る能力を持つ妖怪に絡まれたのだ。ハジの不注意のせいなのだが。

 ハジは何の警戒もしていなかった。彼は警戒などする必要がない。周りとの実力差故に。
 ツキの本気の一撃くらいでないと、満足にダメージすら与えられないだろう。妖怪の中でも屈指の攻撃力を持つ彼女の一撃ですら、それなのだ。
 並の妖怪では彼を傷つけるどころか、彼に攻撃と認識させることすら難しい。

 そんなハジは森を歩いていると、開けた一郭に花が咲いていることに気がつく。
 彼の知識ではこの森には生息していないはずの植物であり、それが気になり花へと近づく。
 彼の土地勘は並ではない。万単位の年月をかけて各地を練り歩いたのだ。しかも、暇つぶしと称し訳のわからない行動もしている。
 具体的には、実のなる木なら木の実の数を一つ一つ数えていたり、花ならば生えている本数を数えてみたり。理解できない行動である。

 ハジが花へと近づき、そっと手を伸ばす。別にむしり取る気はなかったが、気になってしまったので手を伸ばしたのだ。
 それがいけなかったのか。
 彼が手を伸ばした途端、周囲から彼へ、植物の『ツタ』が絡みつく。
 幾重にも絡みつき、もはや少年の姿は見えなくなるほどに巻きつき、絞める。

 大の大人どころか、獰猛な獣、妖怪ですら絞め殺すレベルのツタは、巻きついている内側でもハジの首を絞めようとしている。
 さらにツタはハジの目を抉り取ろうと、瞼をこじ開け目へと侵入しようとする。他にも、耳や口といった穴という穴へ入り込もうとする。
 下の方は察してください。

 流石のハジも、『ちょっと巻きつかれる』程度ならばともかく、体内に入り込んでくるのは許容できなかった。
 『軽く』巻きついてくるツタたちは、このまま眠ってもいいやと考えさせるほどであったが、流石に、入り込んでくるのは鬱陶しい。
 ハジは仕方なく腕を動かし、ハジのか細い腕よりもさらに太いツタを無理やり動かす。
 ハジの体を固定しようと巻きついていたツタは、ハジの怪力に耐えることが出来ず千切れる。
 そのままハジは腕を動かし、やがて自由になった腕で顔に巻きついたツタを毟り、引きちぎる。

 しかし、ツタも負けてはおらず、すぐに再生して数を増やす。
 そろそろ本気で鬱陶しくなってきたハジは、強行手段に出ることにする。すなわち、自爆。
 彼は長年の経験から自爆が上手になっていた。あまり自慢できることではないが、体の内で力を一気に膨らませることで自爆が可能なのだ。
 周りへの被害も考え、小規模な自爆を選択。ツタを吹き飛ばしギリギリ周りへの被害を出さなかったハジはすぐさま移動を開始。
 また巻きつかれたら面倒なのである。

 そんなハジの様子を見て、木の陰から一人の女性が出てきた。緑色の髪、赤い目をした温厚そうな女性である。
 身長は高くもなく、低くもなく、だがハジよりは頭一つ二つ分は大きいだろう。その顔には優しそうな笑顔を張り付けている。
 女性はゆったりと歩き、ハジが手を伸ばした花の下へと歩く。ハジも、女性の姿が見えると近づいてきた。

「何をするユレイ」
「別に私は何もしてないわよ?」

 にっこりと、まるで子供に物を教えるようにして話す、ユレイと呼ばれた女性。
 見た目としては似合っているのだが、その発言は、先ほどの出来事を考えるとあまりにも白々しい。

「この花はユレイが此処に持ってきたのか? この花はここら辺には生えていないはずだったが」
「ええ、そうよ。最近お花さんを育てるのが趣味でね。私が此処まで移動させたの」
「そうか」
「だから、さっき貴方が触れようとした時は焦ったわ。思わず攻撃しちゃった。本当よ?だからゆるしてね?」

 片目だけを瞑り、舌をチロっと出して謝るユレイ。大抵の男ならば、その姿にやられ無条件で許してしまうだろう。
 その見た目はとても美しい女性なのだ。やられない方がおかしい。少数の女だって落ちる。
 だがそこはハジである。全然効きもしないし、何の反応も示さない。流石である。

「お前はさっき何もしていないと言ったではないか」
「ツタが勝手に動いちゃったのよ。私だって、本当は貴方にそんなことしたくないわよ?」
「しても意味は無いがな」
「あ、あら? 試してみる?」

 うふふ、と。ユレイは笑う。若奥様のような笑い方にハジは若干の既視感を覚えるが、特に気にしないことにする。
 相変わらずニコニコとユレイは笑っているが、その目は観察するようにハジを見ている。
 じっくりと、何かを確かめるかのように見つめてくるユレイに、ハジはいつもと違う様子の彼女を気にし出す。
 ハジは思う。四千年ほど前に会った時はこんな感じではなかった。一体何があったのだろう、と。

「ユレイ、どうした?お前は何を気にしている。何かあったか?」
「……あら。よくわかったわね」
「分かるさ。いつもと違う感じがしたからな。好きな奴らを気にかけるくらいはする」
「嬉しい事言ってくれるじゃないの。それじゃ、とことん語ってあげましょうか」
「ん?」

 次の瞬間、ユレイはハジの首目指して腕を突き出す。
 当たるハジではなかったが、突然の行動に理解が追いつかず、体が反応して反撃をしてしまう。
 反撃の蹴りを腕に受けたユレイは顔を歪めつつもさらに攻める。ツタを使いハジの足を固め、もう片方の腕を伸ばし、ハジを捕まえる。
 ハジは反撃をしてしまったことに対して硬直をし、あっさりとユレイに掴まってしまった。
 やろうと思えばツタも、ユレイからも振り切れるが、それはしない。ハジは理由を聞いてみようと、ユレイに成すがままにされることにしたのだ。

「それで、どうした。何がしたいのだ?」
「っつぅ……い、いたい……。ふ、ふんっ。それで、何がしたいかって? 貴方、子供作るみたいじゃない」
「……。なぜ、知っている」
「そりゃ知ってるわよ。貴方、各地で子供作ろうとしていたんでしょう?その後に生えた植物さん達に聞いたの」
「……そうか」
「それでね。もうすぐ生まれそうって事も知ってるわ。もちろん、植物さん達に聞いてね。
それで、私も思った訳よ。そろそろ私も子供が欲しいなって」

 ハジはユレイの目を見る。嘘を言っている目ではないことは確かだ。だが、ハジにはユレイの真意を測ることは出来なかった。
 ハジとしては子供が欲しいなら勝手に作ればいいじゃないか、という感じなのだが、わざわざハジに語っている点を考えると無関係ではないのだろう。
 彼はその点を考慮し、ユレイの真意を探ることにする。

「そこまで知られていたのか。それで、お前の目的は? 子供が欲しいのならば勝手に作ればいいだろう」
「もう、いやね。女にそんなこと言わせる気なの? 子供を作るには相手が必要なのよ。あいて。分かる?」
「相手?愛し合うというやつか?」
「まあ、遠くは無いわね。別に……愛し合わなきゃならないってことは、ないけどね」

 ニコニコと、いや、ニヤニヤとユレイはハジを見下す。
 ユレイに押し倒されているハジは、彼女を見上げる形で見返す。その顔は、見下されているからか不機嫌そうな顔だ。
 回りくどい彼女に苛立ちを隠しもせず、ハジは言葉を返す。

「それで?それが私に何の関係があると言うのだ」
「簡単に言うわ。――――――貴方から子供を貰う」

 次の瞬間、今度はハジが動いた。上に乗っていたユレイを吹き飛ばし、遥か上空へと投げつける。
 投げられた彼女は、突然の攻撃に目を見開きながらも着地態勢を取る。森からツタを伸ばし、上空での着地。すぐさまその場から逃げる。
 刹那の差でユレイが居た場所をハジが駆け抜ける。足場にしていたツタは跡形もなく消え去り、ハジの攻撃の威力を物語っている。
 彼女は冷や汗を背に流すも、あくまで笑顔を忘れない。特に、彼女は彼を怒らせるような事を言った覚えは無いのだ。
 平常心を崩し、焦ったらハジにやられてしまう。それだけは避けたかった。

 しばらくの間、ユレイとハジの追いかけっこが繰り広げられていた。ただし、凶悪な、である。
 ユレイは逃げ、ハジは追いかける。あくまでハジに殺す気はないが、動けるほどに生かすつもりもない。
 それはユレイも理解しており、最悪命だけは助かると思っている。だが、それ以外ついては諦めたほうがいいだろう。
 何より彼女は、子供が欲しいと思ったのは事実なのだ。だからこそ、ハジのあとを着けていたし、ハジにそのことを語ったのだ。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!何を怒っているのか知らないけど、少しは話しあおうじゃない?」
「安心しろ、殺す気は無い」
「ちょっと!話を、聞いてって!」

 ツタを駆使しハジの動きを妨害する。
 ツタの他にも、大木を移動させハジを囲むように配置するも、すぐさま砕かれ、投げつけられる。
 彼女は目に見える実力差に泣きそうになるも、それでこそハジだと評価を改める。だからこそ、彼の子が欲しかった。
 全ては強い子を作るために。その子と一緒に暮らすために。

「く、このっ!とま、止まりなさいって、ば!」
「その程度で止まると思うな。言っただろう、意味は無いと」
「もうっ!何を怒っているのか知らないけどね。貴方は勘違いをしているわ!」
「……?勘違い……だと」

 やっと、ハジは止まる。ユレイは内心ではホッとしているが、それを表に出してはいけない。
 それに、彼女は勘違いと口から出まかせを言ってみたが、それが違った場合また襲われる。
 慎重に、言葉を選んでいかなければならないのだ。
 何を勘違いしているのか、させてしまったのか。でっち上げなければならない。

「お前は、私の子を奪おうとしたのではないのか?」
「(きた!幸運きた!)」

 彼女は内心舞い上がる。実のところ、彼女はあまり気の強い方ではない。寧ろ、臆病な方なのだ。植物達を愛し、植物と語り合う。
 そのせいで他の妖怪は少し苦手なのだが、自分の実力と、厄介な『癖』のせいで恐れられている彼女である。
 舐められないようにと、見栄を張って強い自分を演じていたりもするが、予想外な事があるとボロが出てしまう。

 それが悪い方向に働けばいいのだが、生憎、彼女は怖かったり、恥ずかしかったりすると、咄嗟に相手を攻撃してしまう『癖』を持っていた。
 なまじ実力があったが故に、その『癖』がどんどん彼女のマイナスイメージとなり、恐れられているのだ。本当は攻撃したくはないのだが。
 実のところ、最初、ハジに攻撃をしたのは本当に焦っていたからだ。自分に余裕を持たせようとしていたが、内心で反撃を怖がっていた。
 怖いけど、見栄を張りたい。なんとも難儀な性格である。

「(私は運がいい。本当に勘違いしていたどころか、ハジが内容を言ってくれた。
あとは私が下手なことを言わなければ……)」
「ユレイ?」
「え、ああ。そうよ。私は貴方から子を奪おうだなんてしていない。ちょっと、協力して欲しいだけよ」

 ハジは、子がもうすぐ生まれると悟っていた。故に、少し過敏になっていたのだ。
 子供を貰うとはつまり、お前から子供を奪って自分の物にすると、そう聞こえたのだ。ハジには。
 ユレイはもちろんそんなつもりは無かった。すこし妙な言い回しをしてしまったが、奪うというのは彼女の趣味に合わない。
 出来れば彼女は、争いはない方がいい。夢は皆で仲良く森林浴だ。実現は出来ていないが。
 本人は割と攻撃的だということを自覚出来ていない。

「協力だと?……私は、自分の子を作るだけで精一杯だ。お前の子まで生み出すことは出来ん」
「その、貴方の子は貴方の力で生み出しているのよね?」
「そうだが」
「そう。……ちょっと、ちょっと協力してくれればいいのよ。ほんのちょっと、能力も使ってもらうかもしれないけど」
「そうか?……まあ、少しだけなら構わんが。……いいぞ。なら、とっとと始めよう」
「……え?」

 ユレイは考える。どうしよう、と。
 彼女は、協力を得た後のことを考えていなかった。










 ハジを見ながら考える。本当に、どうしよう。
 まさか、今日で協力が得られるとは思ってもみなかった。本当はもっと話しあってからと思っていたのに。
 予想以上にハジは即決派だ。
 何を、すればいいのだろうか。ナニをすればいいのだろうか?まさか、ハジに服を脱げとでも?それとも私が服を脱いで迫るのか?
 いやいやいや、それは流石にないだろう。なにより、カッコよくない。私の目指す淑女像とは程遠い光景だ。それはダメだ。

「……どうした?」
「何でもないわ。少しお黙りなさい」

 だめだ。いい方法が思いつかない。そもそも、私とまともに話をしてくれる男なんて片手で数えるほどもない。
 ほかの妖怪は、皆私を恐れてしまうし、唯一仲の良い種族の妖精達は全て女の子だ。
 男性経験なんてあるはずもなく、知識では知っていても行動に移すことは出来ない。
 ああ、ハジ、そんな眼で私を見つめないでくれ。恥ずかしいじゃないかっ!

「む、おい、ユレイ。このツタをどけろ。鬱陶しい」
「……あら、必要なのよ、それが。黙ってなさい」
「なんだと?」

 ああ。またやってしまった。加えてハジも不機嫌になってきている気がする。これはマズイ。
 せっかく協力を得られそうなのに、その機会を棒に振ってしまうなんて、それだけは阻止しなければならない。
 どうするか。自分で言ってしまったが、ツタが必要だと?何に?ナニに?
 ダメだ。束縛されているハジなんて想像してはいけない。何か開けてはイケない扉が開きかかっいる。
 はしたない女になんてなってはいけない。私は淑女だ。清く、礼儀正しい、植物使いの妖怪。
 最近ではかわいくて綺麗なお花さんも扱えるいい女なのだ。落ち着け、落ち着け私。

「貴方、子供の作り方を知っているかしら?」
「知っている。現に、作っているではないか」
「そうじゃなくて、ほら、アレよ。相手が居る方の」
「愛し合えば出来るのだろう?愛というのが分からんが」
「そう。そんなものよね」

 思った通り、アレについては具体的には知らないようだ。一応、こいつは私よりも年上のはずなのだが……。
 このままでは何も知らない子供相手を襲うことになってしまう。それは避けたい。
 だが、特別な力がない限り、アレを行って子供を作るのは事実。でもハジ相手に教えるというのも気が引ける。
 なにより、あの角持ちの女に殺されそうだ。狼の女には冷たい目で見られそうだし、それは嫌だ。出来ればあの妖怪たちとも仲良くしたいのに。
 本当に、どうしよう。顔は笑顔を張り付けて余裕を持っている感じに見せているが、そろそろ限界だ。間が、持たない。

 そもそも、なぜハジはこんなにも偏っているのだ。アレの知識くらい身につけていたらどうだ。ええい、まったく。
 私だってアレから生まれた訳ではないが……ん?……そうだ。私はアレで生まれた訳ではない。
 植物さん達から、生まれたのだ。
 なら、私の子も、その方法を真似れば出来る……?

「それで、貴方の力はどの程度まで効果があるのかしら?」
「やっと話し始めたな。いきなり言われても、どんな意味で問われているかが分からんが」
「貴方みたいに、私の力を元に子供が出来るのかって話よ」
「霊力の塊ではなく、媒体さえあれば出来るがな。お前自身とか」
「ちょ、それは止めて頂戴。ええと、お花さんから出来るかしら?」
「花から……?ううむ……できなくは、ないな」
「あら、そう? ならお願いするわ。ふふっ」

 来た。来た来た来た。最初はどうなるかと思ったが、うまくいっている。
 これで私の夢が叶う。ハジから、お花さん的に言えば受粉は出来なかったが、それもいいだろう。
 彼の力が使われているのならば、強い子が生まれるはずである。多分。
 あとはその子と一緒に暮らすのだ。娘か息子か、それは分からないが一緒に森林浴をするのが楽しみだ。

「それじゃあ、私はお花さんを集めてくるわね。力の籠ったお花の方が強い子が生まれるかしら?」
「そうだな。お前の力がたくさん籠っていれば、『花から生まれた妖怪』ではなく、『お前の子』にはなるだろう」
「あらそう。その言葉、違えないようにね」
「ああ。
……行ったか。このツタに、一体何の意味があったというのだ。やはりあいつ、実は……」

 実に楽しみだ。あまりに楽しみでハジは遥か後ろとなっている。
 最後にハジが何かを言っていた気もするが、大したことではないだろう。私の体面も取り繕えたし、子供も出来る。
 失敗など何一つなかった。襲われたのは……怖かったが。
 さて、どんなお花さんにしようか。かわいい子が欲しいから、娘が良い。
 可愛いお花を見つけてきて、力を与えよう。祈りは大切だと思う。









「ハジ、採ってきたわ。このお花さんにお願いね」
「ああ」
「……」
「……」
「…………ね、ねえ。できたの?なんか、お花さんが大きくなってるけど」
「……ああ。結構力を込めたんだな。少し、時間がかかりそうだが、その内狩勝手に妖怪化する」
「あら、そう。ならいいわ。ありがとう。後はちゃんと私が様子を見るわ」
「生まれたら顔を見せろよ」
「はいはい、気が向いたらね。」
「そうだな。その強気をちゃんと保てよ?臆病者」
「……!? 」













 ユレイと別れたハジは、一人山奥へと消えていく。日は既に暮れ始めていた。
 ハジは『何か』を取りだし、力を込める。
 何もかもが曖昧な『何か』は小さく震えたかと思えば、その形を崩していった。
 形を崩した『何か』は、やがて、時間をかけて人型を取り始める。

 現れたのは金髪の少女。

 昼と夜の境界、逢魔が時に生まれた少女は紫の空の下、産声を上げる。

「やっと生まれたか」

 ハジは少女へと語りかけ、少女もハジへと言い返す。
 ごきげんよう。あなたが私の生みの親ね、と。






















――――――――――――

あとがき

東方キャラそーと
1位 チルノ 2位 ルーミア 3位 紅美鈴 4位 上海 5位 八雲紫
そのあと永琳、てゐ、幽々子と続いており、このことからお姉さんキャラが大勢ランクインしていることが分かる。。
これで作者がロリコンではないことが証明された。

今更ですけど、ゆかりんとの日常話とストーリー関係ないや。あとは閑話扱いで次進んでもいい気がする。万年以上飛ぶけど。




[21061] 原始編 十六話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/04 00:21
 青い空に灰色の地面。周りにはコンクリートで固められ、大きなガラスが張ってある建物が並ぶ。
 道行く人は皆脇目も振らずに歩いていく。まるで、自分以外に興味がないかのように。
 道の真ん中では車が通っており、そこには、現代の日本の光景が広がっていた。



 ハジは悩んでいた。気が付いたら、見知らぬ場所に立っていた。
 満足に力も出せず、ただ弱っていく日々。周りの人間は自分に気がつくこともない。
 それ以上に、妖怪も、神ですらも人っ子一人見つからない。森の中に集まっているのかと思えど、その森が見つからない。
 見えるのは、見たことのない建物と道具の数々。何に使うかも分からぬ物ばかり。
 寝て過ごそうと思えば、地面は硬い何かだ。土ではない。
 彼は悩んでいた。ここは、いったい何処なのだろう。

 ハジは歩く。歩き続けた。森を見つけても、中に妖怪の気配は無い。それでも、探し続けた。
 懐かしい気配はないかと。恐ろしい者はいないかと。
 歩きに歩き続け、ついには何も見つけることが出来なかった。
 空も飛べず、満足に力もふるえない。加えて人間の恐怖を食べることも出来ず、人間達に認識されることも出来ない。

 ハジが疲れ果てながらも歩き続けていると、諏訪子達が暮らしているような建物を見つけた。神社だ。
 階段を登り、鳥居をくぐり、神社の中へと入っていく。
 周りには人間の気配は無く、中からも気配は感じない。たった一つ、妖怪の気配があった。
 神社に居座る妖怪。妙な妖怪であったが、ここにきてから初めて会う妖怪だ。ぜひとも会って話がしたかった。ハジは、一人には耐えられない。


「おい、お前。ここが何処なのか知っているか?」
「なんだぁお前さん? 此処はただの神社だよ。神は既に、消えているがね」
「神が、消えている? どういうことだ」
「なんでい、そんなことも知らんのか。見たところ若けぇが、良く生き残れたなぁ」
「さっさと答えろ。ここはどこなんだ、見たこともない物ばかり並んでいる。
人間からは畏れを感じない!妖怪も!全然見当たらない!何が、どうなっているんだ!」

 ハジは声を荒げる。
 彼が此処に来てから、一年の月日が経っていた。その間、彼は歩き続け、妖怪をずっと探していたのだ。
 結果は、目の前にいる妖怪だけである。そのほかには、一人も出会わなかった。
 不安なのだ。なぜ、自分しか妖怪が居ないのか。なぜ、他の妖怪がおらず、自分が生きているのか。

「落ち着けよ、お前さん。なんだか訳ありっぽいなぁ。
まぁ、答えてやるよ。俺が、最後の生き残りだと思ってたからなぁ」

「……?さい、ご?」

「そうそう、最後。
簡単に言やぁ、忘れちまったのさ、人間達は。妖怪も、妖精も、自分たちを守った神さえも。自分達と一緒に生きてきた存在ってやつをさ」

「忘れた?恐怖を? 私が、私がしたことは無駄だったのか?」

「お前さんが何をしたのかは知らないが、仕方のねぇことよ。
人間は恐怖だけじゃない。存在ごと忘れちまったのさ。科学が発展して、それに気を取られ本当に俺たちが『存在した』ってことをよ。神だって、同じさ」

「そんな……ばかな……」

 ハジは絶望する。妖怪は、恐怖だけでなく存在すらも忘れられた。
 あれ程、妖怪達を恐れていた人間は、その存在すらも忘れてしまった。
 あれ程、生きていた妖怪達は、目の前の存在しか……生きていない。
 あれ程、強かった神達は、もう、居ないのか。

「妖怪は、俺が最後だ。……と、思っていたが、お前さんがいた。
もしかしたら、他にも居るかもしれねぇなぁ。俺もよ。最初は仲間たちと一緒に探していたんだ。
でも、みつからなくてなぁ……。皆、みんな消えちまったよ。俺も、もうすぐ消える」

「え?」

「じゃあな、若けぇの。最後に妖怪と話せて楽しかったよ。『最期』に、お前さんの名前を聞いてもいいか?」

「ハジ、だが」

 ハジは彼の言っている意味が理解できない。消える?どこに?何処へ行く?
 何処にも行かないで、此処に居ればいいではないか。見つからないのなら、一緒に探そう。
 だというのに……なぜ、そんな永遠に会えないような、事を言う?
 ハジには、彼の言っている事がわからなかった。

「へぇ、良い名だ。遥か昔、妖怪の頂点にいた奴と同じ名前じゃないか。ひぃ婆ちゃんに聞いたことがある。
坊主、頑張れよ。お前は、俺みたいに消えるなよ。……じゃあな」

「お、おい。何を言っているのだ」

「……」

「おい、おい?……返事を、しろ。
おい、なあ、ねえ、ねえったら!お願いだから、返事をしてくれよ!
何故だ!何故、何故!!!……なぜ、私をおいて逝ってしまうのだ……。私が、先に逝かなくてはならないのに……何故……」

 ハジは泣いた。恐らく、初めてだろう。
 そして絶望する。妖怪達が消えていくという状況に。どうすればいい、どうすれば、妖怪達を助けられる。
 もう、自分にも力は残っていない。人間すら狩れない。

「もう……嫌だ。誰か私を……殺してくれ」

 そして、やがてハジも消える。
 そこで、妖怪達の歴史は終わった。

 やがて周りの景色は崩れ去り、全て……終わった。







「……!……たら!」

「……!……ジったら!」

「もう!起きてよ!ハジったら!

……。今日も、起きないのかしら……。本当に、大丈夫なの……?」

 ハジの意識が覚醒する。彼は、夢を見ていた。だが、その内容はあまり覚えていない。
 おぼろげな夢の記憶。何か、とても嫌なことを見ていた気がしていた。とても嫌な予感。
 彼はそれを振り払うようにして、起こしてくれた少女に返事をする。

「ああ、大丈夫だ」
「え……? や、やっと起きたのね!大丈夫なの!?一年もあなた寝てたのよ!?」
「大丈夫だ。千年寝てた事もある」
「そ、そう……なら、いいけど。
それと、あなた寝過ぎよ。私は絶対にあなたみたいにならないわ!」

 そう言って彼女はプンスカとハジから離れていく。食事を採ってくるためだ。
 ハジは彼女の言っていた通り、一年間寝ていた。彼にとっては珍しい事でもないのだが、生まれたばかりの彼女にとって、一年はとても長い。
 生みの親に一年間も放置されていたら、怒るのは当然だろう。
 だが、それ以上に、彼女は心配をしていた。
 今まで自分に合わせていてくれたのだ。それが、何の前触れもなく一年間眠り続ける。
 何も話さず、動かず。それのなんと恐ろしいことか。


 ハジは嫌な気分を取り払うため、湖に入ることにする。
 彼が服を脱ぎ、湖に入ろうとしていると彼女が戻ってきた。顔は嬉しそうに微笑んでおり、その手には、木の実をいくつか抱えている。
 そしてハジを見た瞬間、少女の動きは止まった。ハジも、動きを止めた彼女を不思議そうに見ているので、お互い何の行動もしない。
 笑顔はそのままに、持っていた木の実を落とす。だが、そのことにも気がつかないのか、視線はハジに釘づけだ。
 口元をヒクヒクと引き攣らせ、若干体は震えている。
 挙動不審な彼女を心配したのか、ハジは彼女に声をかける。

「おい、どうした。大丈夫か? 木の実も落としているぞ」
「き」
「あ?」
「きゃあああああああああ!!!」
「ん?」
「もう!ばか!なんですぐ服脱ぐの!すけべ!へんたい!」
「(……鬱陶しい)」

 少女はハジをののしり続ける。
 しばらく好きにさせていたハジであったが、なかなか言い終わらないのでとっとと湖に入ることにした。
 少女は中途半端にハジから知識を受け継いだがために、中途半端でお年頃な精神なのだ。
 ハジはハジで全く気にしないので、いつも少女が気苦労を重ねていた。ご愁傷さまである。

 少女が落ち着き、ハジも湖から出てきた。その際、彼女はちゃんと見ないように気を付けている。
 ハジが服を着て少女に話しかける。これからどうするか、と。
 ハジは少女を連れて旅をしている。いずれ、妖怪達を引っ張る存在となってもらうため、多くの知識を身につけさせたいためだ。

 それに、彼女の能力は不安定だ。
 『境界操作』。『境界を操る程度の能力』の名付けられたそれは、彼女自身、捕らえきることが出来ない。
 ハジの『端を操る程度の能力』とは両極端な物だろう。だが、非常に近いモノ。
 境界とは、端と端の間。始まりから終わりの間。終わりと、次の始まりの間。

 境界とは何処にでもあるモノ。だが、何処にでもあるが故に、捕らえきれない。
 ハジの能力が始まりと終わり、その二つを操作するのに比べ、境界はその間の全てだ。数が多すぎる。
 そのことも踏まえ、ハジは彼女を連れまわす。人間を襲わせてみたり、時には妖怪に協力してもらい、彼女をボコボコにしたり。
 一日でも早く、彼女が能力を扱えるように。それがハジの願いでもあるし、少女自身の為でもある。身を守る術は、あったほうがいい。
 自分の能力名に肖り、『間を操る程度の能力』にしようとし、却下された腹いせでは、断じてない。

 彼女は、これからどうするかと聞かれても、行きたい所など何処にもない。やりたい事もない。
 できれば、強い妖怪達と戦わせられるのは勘弁して欲しいのだが、短い付き合いでも分かる。絶対にさせられる。
 知っている場所も、数えるほど。知っていることも、大してない。
 そう思いハジに返事をすると、ハジは何かを悩み、一言。

「神に会おう」
「……は?」

 ハジは言う。することがないのなら、神に会うと。
 神とは、人間を襲う妖怪からしてみれば敵のような物だ。
 人間を襲おうとしなければ何もしては来ないが、ほとんどの妖怪は人間を襲う。それが、彼らの存在意義なのだから。
 彼女もそれを分かっている。だからこそ、理解出来ない。なぜ、わざわざ敵のような者に会いに行くのかと。
 彼女は思う。まさか、次は神と戦うのか。私おわた、と。









 ハジに連れられて神の下へと転移する。相変わらず、便利な能力だ。いつか自分もやってみたいが、自分には能力の制御ができていない。
 ハジはいつか出来るようになるだろうと言っているが、あまり信じられない。
 以前、試しに能力を発動させた結果、体がバラバラになった。文字通りの、バラバラ。
 何が起こったかも理解が出来ず、気が付いたら地面に倒れていた。横には自分の物と思われる手足が転がっており、すごく怖かった。
 下半身と上半身も別れてしまっており、あと一歩で死ぬところだった、らしい。
 ハジが居なかったら、早くも私の人生……妖生?も終わっていたのだろう。ハジは私の体をくっつけてくれた。
 その後自分の血肉を私に分け、強制的に体力を回復させたようだが、あまり覚えていない。覚えているのは、すごく怖かったことだけだ。

 ハジが言うには、私たちは肉体的にはほぼ同じ構成らしい。今のところは、だが。
 だから、今の内ならいくら無茶をしても治せるし、いつかは、私もハジのように強くなれるらしいのだが、あまり信じられない。
 だって、ハジは神ですら倒すような奴なのだ。あんな化け物と一緒にしないで貰いたい。

 本当に、私はハジの娘を名乗ってもいいのだろうか。傍から見ていても分かる。今まで出会った妖怪達は皆、ハジを尊敬している。
 そして、そんなハジの娘である私を、皆期待の目で見ている。自分の能力すら満足に操れない、私を。
 ハジも、私に期待しているのが分かる。そんなに、私に期待しないでくれ。その想いが、重い。別にうまいこと言ったなんて思ってない。

 私だって他の妖怪達の子供のように親に甘えてみたい。
 なまじ知識を持って生まれたが為に、羞恥心があるのが悔しい所だ。甘えるの恥ずかしい。
 私ももっと単純に生まれていたらなあ……。なかなか素直になれない。そんな自分の気持ちにも慣れない。別にうまいこと言ったなんて思ってない。

 いろいろ考えていたら神の住居へと着いたようだ。まあ、転移の時点で近くには着いていたのだが。
 中から神が出てきて、なにやら此方を見ている。変な帽子をかぶった小さな神だ。私と同じくらいだろうか。でも、感じる力はとても強い。
 こんなのと私は戦うというの……?
 嫌よ、そんなの。だって……こいつ、下手したらハジと同じくらい強いんじゃ……?

「ねえねえハジ。この子は?また拾ってきた?」
「違う。私にも子が出来たということだ。ふふん、どうだ、すごかろう」
「お、おおー?…………ええぇぇぇえええ!!!」

 変な帽子を被った神が驚く。
 目の錯覚ではなければ、あの帽子も驚いているように見える。ハジは何の反応を示していないが、気がつかないのか?それとも、やはり私の目の錯覚か?
 彼女の叫び声に反応したのか、中からもう一人の神が現れる。
 ああ、私死んだ。
 こいつ、この小さい神よりも強そう。
 頼みのハジは守ってくれない以上、もう諦めるしかない。
 泣いても、いいですか?

「――――――って事らしいよ神奈子」
「ほう、ハジが子供を、ねえ。
よろしくな、ハジの娘よ。……って、なんか泣いてる!?ど、どうしよう諏訪子!私、泣かせちゃった!?」
「落ち着きなよ神奈子。ボロ出てるよ。
はいはい、泣きやんでねー。このおねーちゃんは怖そうだけど、実はすっごい優しいんだよ。ほら、泣きやみなって。

………泣き止まないと祟んぞ」
「っ!?」
「娘に何をする気だ諏訪子」
「はははっ!冗談だっ痛いっ!うぅ……あーうー」

 最後の発言に涙も引っ込んだ。
 祟るとはどんな物なのかは分からないが、碌な物ではないだろう。
 放任的なハジが前に出てくるほどだ。凄いのだろう。きっと。
 もういやだ、湖に帰ろうよハジ。私、帰ったら妖精達と遊ぶんだ……。

 その後は予想と外れ、自己紹介をして、少し話をしたら終わった。
 流石に神と戦うなんてことは無いか……。戦ったら、いくら相手が手加減しても私は死んでしまうだろう。この実力差だと。
 流石にハジより強いって事は無いだろうが……もし私が殺されたら、ハジは悲しんでくれるだろうか?
 帰り道、私の好きな黄昏時に聞いてみる。

「ねえ、ハジ。もし、私が殺されたら、どうする?」
「なんだ突然」
「いや、実は私、さっきの神と戦う為に連れてかれたと思ったのよ。だから、死ぬかと思ってたわ」
「ほう。それも良いかもな」
「え゙っ……」

 何やら踏んではいけない物を踏んでしまった気がする。
 ああ、こんなことならば言うんじゃなかった。私のバカバカバカ。

「まあ、そんなことはさせないさ。お前は、私のたった一人の娘。
神がお前を殺そうとするならば、その全てを討ち滅ぼしてやる。私も、死ぬだろうがな」
「え?ハジの方が強いんじゃないの?」
「私が一番なのは、妖怪の中だけだ。あの諏訪子ですら、私と同等。神奈子に至っては、私が力負けする。
他にも、この世界にはもっと強い神も居るだろう。まあ、負けることはしない。私は強いからな」

 意外だ。常日頃から自分は強い、負けないと言っているから、無敵なんだと思っていたけど。
 ハジにも……勝てない存在が居るのか。
 ハジの強さを見ると俄かには信じがたいが、ハジは嘘をつかない。きっと、本当のことなんだろう。
 だが、あまり死ぬ死ぬ言わないで欲しい。私はまだ、満足に親に甘えることも出来ていない。

「……そう。でも、あなたが死ぬのは嫌よ、私」
「私もお前が死ぬのは嫌だな。お前だけじゃなく、仲間達が死ぬのも嫌なんだ。


……お前は、私をおいて逝かないでくれ」
「ハジ?」
「……?いや、何でもない」

 変なハジだ。
 なんだか、今日はいつもよりも気弱な気がする。
 自分が死ぬとか、仲間が死ぬとか。いつもみたいに誰にも負けないとか言っていればいいのに。
 それが、皆の憧れている、私の憧れているお父さんなんだから。
 ……お父さんは流石にないかなあ。見た目のせいでお兄さんみたいだし。うん。やっぱりハジはハジだ。
 私も、ハジの心配事を減らすために、少しは能力の制御を出来るようにしなければ。

「お前も、強くなれよ」
「分かってるわ」
「それまでは、私が守ってやる」
「……分かったわ」
「期待している。……ゆっくり、な。紫」

 うん、頑張ろう。
 でも、訓練は、優しくして欲しいんだけど。
 ……ゆっくり強くなればずっと守ってもらえるのだろうか?










「だいぶ歩いたな。疲れたか?」
「い、いえ……だ、だいじょう、ぶ」
「そうか?まあいい。私がお前を担ぎたくなったから、乗れ」
「え?で、でも」
「私の頼みだ」
「そ、それじゃあ聞いてあげようかしら。あなたの頼み」
「ああ、ありがとう」
「……ええ」
















――――――――――――

あとがき

なんぞこれ。
ゆかりん何処?あの、胡散臭いバbゲフンゲフン。美少女は何処に行ったの?
こんなのゆかりんじゃない!って思う方も居るでしょうが、こんな感じになりました。

この世には『反面教師』という言葉があります。単純でおバカな主人公を見習って、いつの日かあんな風になるんですよ、きっと。
あと、やさぐれたゆかりんなんてのもいいよね。wktkしてきた。


寝ているときにサ。天井から語りかけてくる奴が居るんだ。謎の存在なんだけど。
「ゆかりんとゆうかりんは幼馴染設定」とか言って来るんだ。
やばいだろ、この破壊力。



[21061] 原始編 十七話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/06 00:00

 妖怪ハジの娘、紫が生まれて時は流れ……。
 彼女は自身の力、『境界操作』を制御できるようになっていた。
 それは、彼女にとって、幸せと不幸が共にやってきた。



 満月の夜、二人の影が木の上に映る。
 片方はハジ、もう片方は紫だ。その下には各地域を代表する妖怪達の面々が集まっており、これだけ居れば国を落とすことも夢ではないだろう。
 長年、ハジが各地を巡り、出会ってきた妖怪達だ。大陸を越え、海を渡り、数々の出会いと共に拳で語り合ったりもした。
 そんなハジは世界中と言っても過言ではないほどに妖怪達と知り合い、そして、今日。
 ハジの娘である紫の記念日としてかき集めたのだ。
 娘が一人前になった、と。

 妖怪大集合。

 ハジの故郷の妖怪である奥理、ツキ、アマツ達は勿論のこと、強力な妖怪達が押し寄せた。此方には紫の知り合いも多数いる。
 他にも、別の大陸にいた妖怪達、獏や屍魔、ヴァンパイアやユニコーンと言った者達もやってきた。というよりも、ハジが連れてきた。

 どれも強力な妖怪達だ。それぞれの大陸では呼ばれ方が違った物の、根本的には一緒だ。
 彼らは独自の進化を遂げ、それぞれの国で違う特徴を持っていた。だが、ただそれだけのこと。
 彼らは人を襲う者達。恐ろしいモノたち。それが、彼らの共通事項。

 彼らは、妖怪なのだ。



 大量の妖怪達を見つつ、紫は緊張する。
 今まで、たくさんの訓練を積んできた。あまりの辛さに泣きたくなった事もあったし、期待が重くて逃げ出したくなることもあった。
 しかし、それが許される環境ではない。それを許すハジではない。それをする自分でもない。
 何より、辛い以上に嬉しかった。ハジが褒めてくれることが。皆が『自分自身』を見てくれることが。
 そして、雲よりも遥かに上の存在だと思っていたハジが、自分を認めてくれたのだ。そして、自分の為にこんな手回しまでしてくれた。

 この、大勢の目の前で。紫は名乗りを上げるのだ。これから、妖怪達を支える存在だと。
 ハジの娘として、否、一人の妖怪、紫として。
 嬉しくないはずがない。これからは、もしかしたら肩を並べられるかもしれない。
 あの背だけを見ていた存在の、横に並ぶ。
 それを考えるだけで、彼女は興奮した。緊張した。震えた。怯えた。待望していた。切望していた。ただ、何も分からぬほどに嬉しかった。

 下に居る妖怪達の反応は様々だ。
 期待の眼差しを向ける者、見定めるように見つめる者、純粋に強さに興味がある者。見守ってきた者、友人を祝う者。
 紫は全ての視線を一身に受け止め、丘の上に降り立つ。
 全てを見据え、透き通るような声で宣言する。

「私の名は紫。『境界を操る程度の能力』を持つ、ハジの娘。
これからは、ハジと共にあなた方の上に立たせて頂きますわ。今後とも、よろしくお願いいたします」

 一瞬の静寂の後、沸き上がる声援。
 反論は無い。なぜなら、それに見合うだけの力を持っているから。
 ハジと比べれば、確かにまだ弱い。だが、これからもまだまだ強くなる。それはハジも認めていることだ。
 ならば、反論の余地などあろうはずもない。

 その後は飲めや騒げの大宴会だ。
 こうして、紫の名乗りは終わった。
 ハジは最初から最後まで、薄い笑いを顔に張り付けていた。



 紫はその後、世話になった者達へお礼を言いに回ったり、初めて会う者などと挨拶をしたりと大忙しであった。
 全て、ハジの知り合いの一部といっても、かなりの数がある。中には紫が居ない間にハジが知り合っていた者もおり、
 大抵の場合は顔だけ見たことがある程度であったが、それすらなかった者もいた。
 そんな相手には己の力を見せつけたり、平和的に会話をしたりと、大勢の者たちと話し、夜が明けるまで宴会は続いていた。
 その間もハジは、一切紫とは行動をしなかった。
 ハジのやっていることと言えば、特に力の強い者達と短い会話をしているだけであった。
 うすら寒い笑顔を張りつけながら。



 夜が明けた。
 大陸生まれの妖怪達は、自分の足で帰る者やハジに送られる者、残って観光をしていく者など様々だ。
 地元の妖怪達は各々が紫とハジに声をかけつつ帰って行った。
 紫も、特に世話になった奥理一家、ツキとその仲間たち、アマツの一族達にもう一度礼をいい、宴会を終えた。
 紫は多少の疲れを感じつつも、ある種の達成感を胸に秘め、これからの方針を決める。

 既に紫はハジよりも拳一つ分背が大きい。
 それでも通常の妖怪と比べ、身体的な成長の遅い紫は、身体能力よりも、その分能力の扱いに長けていた。といっても、最初は全然制御が出来ないどころか、
 自身の能力に恐れているほどだったのだが。今では立派に妖力の扱いに長けている。
 妖力とは、妖怪が扱う霊力の事だ。大陸との交流により、呼び名がいつの間にか変わっていた。これも、異文化交流の醍醐味である。
 そんな感じに肉体派という訳ではないので、肉弾戦でも鍛えようかと思い、今後の訓練の方針を立てていくのだ。

 肉弾戦が得意な者は割と多い。というよりも、肉体よりも能力、妖力を駆使して戦う者の方が珍しい。
 技術を盗む相手に不自由はしない。技術とは、教えてもらう物ではない。盗む物だ。
 彼女は一人前の称号を貰った身。ならば、教えを請うことは出来ない。出来なければ、盗むのみ。そういうことなのだ。

 格闘を得意とする者はハジを筆頭とし、奥理たち山の狼全般に、ツキとその仲間たち、そして彼女の親友。
 どれも実力は十分だ。ならば、実際に会い、盗むのみ。
 といっても、長年の訓練で動きは覚えている。今回盗むのは『妖力での身体強化』の効率のいい運用。
 ツキのように素で豪力をもつ者の動きは、紫には参考になり辛い。
 逆に、素の身体能力を底上げした者の動きならば、真似しやすいのだ。
 それを行っているのは、狼たちと、彼女の親友。ついでに言えば、親のハジ。ハジは元々も高いのであまり参考にはならない。

 することを決めた紫は親友の下へと足を運ぶ。その胸に下心を抱きながら。だが、せっかく今日は久々に会えるのだ。
 八割の友情と、二割の下心である。


 ユレイの娘、ユウカは紫の名乗りを眺めていた。彼女は生まれて間もないころから紫と知り合いである。
 昔はいろいろと衝突を繰り返していたな、と懐かしい記憶に浸りながらも、紫が名乗り終えたのを見て森へと帰る。
 彼女は、このように妖怪が集まる場所が好きではない。親友が一人前として認められ、その記念として招かれたので来たが、
 それが終わったらこの場に居る必要はない。彼女は森へ帰るのみだ。それに、彼女は確信している。
 勝手に帰っても、親友の紫ならば分かっているだろうし、向こうから会いに来るだろうと。

 ユレイに先に帰ることを告げ、彼女は一人森へと帰っていく。
 ユレイもそんな彼女の行動に寂しさを覚えつつも了承。彼女の行動の原因は自分にあると、自覚しているから。
 彼女、ユウカはプライドが高い。他人と慣れ合うことを嫌い、強者を好き、弱者には興味を持たぬ性格だ。
 彼女の親であるユレイとは、逆といってもいいだろう。ユレイは他者を好き、弱者にも優しい。馴れ合いだって構わない。
 ただ、勘違いされるような性格なだけで。

 ユウカはユレイの背を見て育ってきた。彼女の眼には、ユレイは孤高の存在と映っていた。今ではそんなことは無いが。
 強く、誰とも慣れ合わず、それでいて植物を愛し、害する者には容赦をしない。若いころユウカが見ていた物は、そういうユレイだ。
 ユレイの本心ではそんなことはないのだが、娘に見られていると少しばかり張りきってしまった結果がこれ。
 少しでも娘にいい所を見せようとし、いつもよりも恐れられる存在となってしまったのだった。

 ユレイとユウカは、お互いのことを良く知っている。
 ユレイはユウカが強い自分に憧れていた事も知っているし、他者と慣れ合うことを嫌っている事も知っている。それに、本当は優しい子だとも。
 ユウカはユレイが本当は気弱なことを知っているし、力の弱い妖精とだって遊ぶようなことも知っている。
 そして気弱ではあるが、大切な物を守るときは、その自分よりも巨大な力を使い、守り通すことができるとも。
 ユウカの憧れた姿とは違っていたが、それでも尊敬の出来る母だった。強く、優しい、彼女の大好きな母だ。

 ユウカは森で待つ。待っていれば、その内親友が来るだろう。
 待っている間は花の様子を見たり、母の森や自分の花達を傷つけるような輩が居ないかを調べる。
 もしも居たら、見つけ次第即刻排除だ。
 そうして時間を潰していると、森に親友が入ってきた気配を感じる。
 ユウカは彼女を花で迎え、自分が居る場所へと誘導する。紫も慣れた物で迷うことなく花に着いて行った。

 ユウカと紫は出会う。最後に会ったのは千年以上も前だ。
 お互い話したいことは山ほどあった。どんな小さなことでもいい、相手と、話をしたいのだ。なんせ彼女達は『親友』なのだから。
 花を眺めたり、川辺で座ったりしながら彼女達は話をしていた。昼ごろに出会い、話し始めたが今では日が暮れている。
 楽しい時間はすぐに過ぎる。それは、何年生きていても変わらぬ物だ。
 紫はしばらくの間は落ち着けるとユウカに告げ、ユウカもまた会うことを約束する。

 その後しばらくの間は、毎日とは言わないまでも彼女達は会っていた。
 妖力を体外に放出し、運用する方法。妖力を内に秘め、体内で運用する方法。それぞれが得意とする物を教え合ったり、単純に会話をするだけで終わる日もあった。
 平和な時間。お互い、笑い合っている。

 紫は浮かれていた。あの大妖怪、ハジに認められたのだ。仕方がないとも言える。
 ユウカも、浮かれていた。彼女に似合わないことであったが、自分の母と違い、ハジは厳しい。というよりも、ハジの基準は高く、ハードルが高い。
 割と早く一人前とユレイに認められたユウカであったが、その昔の時点でも本気の殺し合いをすれば勝つのは紫だった。
 だからこそ、ユウカは紫が認められたことに喜んだ。小さいころから一緒だったのだ。それを喜ばずして何が親友か。
 そんなわけで、彼女達は浮かれていた。本来ならば、そんな醜態はあまり褒められたことではないだろう。一層気を引き締めなければならなかった。
 だが、彼女達は浮かれてしまっていた。そして、彼女はハジの行動に気が付けないでいた。
 ハジは、大妖怪達と話しをつけていた。彼女達がそれに気がつくのは、当日になってから。









 ユウカと会い、話し、のんびりと過ごす。時には戦闘に関する会話もしたりする。
 お互い万を超える年月を生きたといっても、それでも千年はちょっと長い。これを『たった』と言い切るハジの精神はどうなっているのだろうか。
 今まではハジに連れまわされ、いろんな場所へ行き、いろんな者達と出会った。
 そのせいでユウカとはなかなか会えなかったが、後悔はしていない。そのおかげで、私の存在はさらに高まったのだから。

 ユウカとの会話の中、思い返す。
 一人前と認められた日。あの名乗りを上げた前日、ハジから言われた。
 これからは自分の考えに沿って行動を決めろ、と。決して、今まで言うことを聞くだけの存在だったという訳ではない。
 ちゃんと自分で思考し、物事を考える力も付けさせられてきたが、あのハジの言葉の本当の意味は、独り立ち。
 今までは私の歩む道を示してくれた。それを、自分で探しだし、進め。そう言っているのだ、ハジは。
 道を示すだけでなく、その道を整えたりもしてくれたハジには、本当に、頭が上がらない。

 そんな親から生まれたことを誇りに思う。昔みたいな、ハジの娘で良かったのだろうかなどという事は考えない。
 私はハジの娘で、ハジは私の親だ。これは揺るぎない事実で、誇るべきことだ。そのことを自分自身で疑うなど、愚の骨頂。
 そんなことを考えていたら、ユウカが私の顔を覗き込んでいた。

「紫?どうしたのよ」
「あ、いえ。なんでもないわ」
「そう?……まあどうせ、これからの事でも考えていたんでしょ」
「そんなとこね」

 いけない。せっかく友人と話をしていたのに、いつの間にか考え込んでしまった。
 あと、馬鹿正直にハジの事を考えていましたーなんて言うのも、なんだ、照れる。
 馬鹿正直なのはハジだけでいい。私は頭脳派なのだ。見習うべきところは見習って、悪いところは真似しない。
 それが昔私の出した結論だ。良い所しかない存在なんてないのだ。私だって、少し考え込む癖がある。直さないと。

「それで、紫はこれからどうするのよ。今までみたいにハジと一緒ってわけじゃないんでしょ?」
「そうねえ……。確かに、ハジと一緒に旅をすることはあまり無くなるけど。今まで通り各地を巡るわ。たまに、ハジと一緒に巡るくらいかしら」
「あらそう。お父さん大好きっ子の紫が親離れなんて出来るのかしらね?」
「なっ」

 こ、こいつは何を言い出すのだ。
 確かに、今までずっと一緒に居た。どこにだって着いて行ったし、どこにだって連れて行かれた。
 それを悪いと感じない自分が居たことは確かだ。むしろ、一緒にいなければ不安だったのも確かだった。
 だが、私は大好きっ子と言われるほどじゃない。そんなもの……過去の話、か?
 いやいや。それを言うならば、こいつだってそうじゃないか。

「あら、随分な事を言ってくれますわね。貴女だって、ユレイさんの後ろをちょこちょこ着いて回っていたじゃありませんの。
今だって、ユレイさんに甘えるのが好きなんでしょう? 知っているわよ。頭撫でてもらっていたこと」
「なあっ!?」

 ふん、良い気味だ。
 ユウカの顔が真っ赤になっている。やはりこの子は、からかうと面白い。
 普段は冷静で付け入る隙は無いほどなのだが、ひょんな事でその態度を崩す。ここら辺は、母親譲りと言ったところだろう。
 どんなにからかっても何の反応もしない癖に、ユレイさんの事を出すとすぐに崩れる。
 そんな反応が面白くて、いつもの冷静な姿との落差がすごくて、それがとても可愛く見えて、ついついやってしまう。
 普段からそういう風に照れていれば、男の一人や二人、いや、ほとんどの男は引っ掛かっているでしょうに。

「ゆ、紫!あなた、何処でそれを……!!!」
「あら、本当だったの?知らなかったわ」
「!?」

 うん。やっぱり女の私から見ても可愛い。ユレイさんからちゃんと引き継いでいるようだ。普段可愛げがない分、余計それが引き立っている。
 私は、あまりそういうことは無い。女としては奥理さんみたいに素敵な旦那さんを見つけたいと思うが、私は『あの』ハジの子だ。
 異性への興味というか、性欲自体があまりない。可愛げがないとも自覚しているし、いつか、私もハジのように、
 私が生まれた様に、子を作るのだろう。今の実力では無理だが。

「――――っ!!! いいわ、その話は此処で終わりよ! これ以上はいけない」
「そう、そうね。それにしても、あなたの照れている顔は可愛かったわよ」
「あらそう。そういう冗談は好きじゃないわね。私に可愛げがないことくらい、分かってるんだから」
「はいはい」

 自分のことになるとコレである。なんの反応も示さない。ちなみに、ユレイさんに同じことを言うと『絞められる』。ツタで。
 言ったことは無いが、分かる。あの人、結構照れ屋だ。すぐにツタが襲って来て怖かったりする。本当は優しいのに、恐れられている理由がよくわかる。

「それで、結局各地を巡るって何をするのよ。私、此処から出た事ないのよね」
「そうねえ。他の大陸の妖怪達の架け橋みたいな物かしら。具体的な事は特に無いわ。ただ、見守るだけよ」
「あらそう。いつか、私も見て回ってみたいわね。今度一緒に旅でもする?」
「あら、いいかもしれないわね、それ」
「まあ……。困ったことがあったら、手を貸してあげるわ。どうせ貴女なら、上手くやるんでしょうけど」
「それもそうでしょうね。…………ありがと」

 お互い、素直じゃない。
 そうして、私たちの平和な日々は過ぎていった。


 ある日、ユウカと二人で散歩をしていた時だ。
 ハジが妖怪達を相手に演説のような事をしていた。
 その場に居る妖怪達は、皆、大妖怪。
 各地域のとっぷれべるな存在だ。奥理さんや、ツキさん、アマツさんの姿も見える。
 ハジのよく通る声が聞こえた。

「―――――――――月を手に入れるぞ」

 ……え?
















「集まったな……。聞いてくれ、大事な話だ。

私たちは、強くなった。数もさることながら、その質も。

先日、私の娘、紫の力も見たと思う。お前らにも引けを取らぬ力を持っている。しかも、伸び代も大きい。

そこで私は思った。新しい時代が来たのだ、と。お前らも子や後継者を持っているだろう?

そして、そのほとんどが認めることが出来る力の持ち主だ。妖怪の将来は安泰だな。

……本題だ。結論から言おう。神々を滅ぼす。その為に、まずは月を手に入れる。

……落ち着いてくれ。勝つ算段も付いている。

私が神と結んだ協定は『私が』人間を襲わないこと。娘については何も言って来ていない。くははっ……あいつらも、平和ボケしたのさ。

紫が居れば、私が居なくとも戦況を見渡せ、各地に指示を出せる者が居ることになる。

私たちの質は高まった。そして、数は圧倒している。ならば、各地で一斉攻撃を仕掛ければ、落ちる。

八坂神奈子と、その他強力な神々。一番厄介な洩矢諏訪子は私が相手をする。

今まで戦い方を見続けてきた。そして私は全てを見せていない。負けることは、まず無い。確実に殺せる。

だが、それだけでは足りない。全体の底上げが必要だ。戦いの決め手となる力、最後の一つが。

月だ。これは、神々との戦いに必要な物だ。お前らも判るだろう?……月には力がある。

それを、手に入れるのだ。我々古い妖怪から、これからの妖怪達に土産を贈るのさ。新しい時代へ、とな。

さあ、私に着いてきてくれ。月への道なら完成した。紫が生まれた日、その日から創り続け。

月には、古き天上の神々が居ると言われている。だが、私たちなら勝てる。

月を我が物とし、神々を制圧するのだ!

さあ、始めようか。妖怪達の宴を。妖怪達の時代を。終わらせよう、神の歴史を。

まずは……――――――――――――月を手に入れるぞ」



 彼らは妖怪。

 人よ、人の味方をする者よ。

 彼らを信じてはならない。

 何よりも妖しく、何よりも怪異な存在なのだから。

 彼らに近づいてはならない。

 人を食料とし、襲い、邪魔する者は排するのだから。

 彼らを理解しようとしてはならない。

 もとより彼らは、理解など出来ない存在なのだから。

 彼らを信じてはならない。

 それが、妖怪なのだから。

 少年は一人クスクスと嗤う。
 この世界は、妖怪の物だ、と。





 第一章 原始編 『終わり の 始まり』






[21061] 原始編 十八話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/08 00:01

 ここは月の都、ある屋敷の一室。
 月の頭脳と呼ばれている齢の女性、美しい銀髪を持つ者が居た。
 現在彼女は暇を持て余している。日々変化の無い月では、時たまする事がなくなる時がある。
 そんな時は、次に何をするか考えながら過ごすのが常だ。何も焦る必要は無い。なぜなら、彼女達には穢れがないのだから。
 穢れがなければ、生死とは無縁。ずっと変わらず、変化無く存在することが出来る。

 やることが無くて焦るのは、現代日本人の悪い所である。

 彼女が寛いでいると、部屋に訪ねてくる者がいた。身なりを整え、部屋に招き入れる。
 訪ねてきた者は彼女の部下の男。実は彼女、かなり偉いのである。
 どうやら大急ぎで来たようで、部下は若干息切れをしているようだ。彼女は彼を落ち着けた後、何を急いでいるのかと理由を聞く。
 そして、驚愕。一瞬の間を置いて落ち着いた彼女は、冷静に思考する。
 彼が言った内容は『月に侵入者/侵略者が現れた』。こういうことである。

 彼女達にとって、月に侵入して来る者など始めてだ。妖怪も、人間すらも存在していないほど大昔に月へと移り住み、暮らしてきた。
 かつて一度だけ月に来た者たちも居たが、それはかつて地上に残った仲間達である。
 彼らは地上に興味を持ったのか、ごく少数だけ残り、結界を張り擬似的に一つの世界を作った。
 そんな彼らも地上に見切りをつけ、この月へとやってきたのだった。
 そう、それ以来、月に来た者はいない。地上には、月まで来る手段など無いはずだった。
 『はず』だった。

 彼女は聞き返す。その情報に、誤りはないかと。
 男は返す。一切の誤りなし。この月の都を目指して、『妖怪』が攻めてきていると、そう、言った。






 彼ら妖怪は都へと進む。所謂『表の月』と呼ばれる位置に転移した彼らは、気配を頼りに移動を開始した。
 彼らが月に着いた手段は、簡単だ。ハジが、その道のりを創ったからである。万を優に超える年月をかけて。
 彼の能力は始まりと終わりの地点を操作する能力。彼命名で『端を操る程度の能力』である。
 彼の能力は、『起点』となりえる場所さえあれば、能力を行使することが出来る。
 概念的、物理的、何でも構わない。ただできる、と。『そう』彼が信じ、思えば、できる。
 逆に言えば、疑ってしまえば出来ないのだが……。

 異能とは、古来からそういうものだ。あらゆる法則を無視し、自分だけの法則で世界を塗り替える。
 他人には理解のできない、侵すことのできない『自分だけの世界』があるのだ。異能持ちには。
 異能を持っているから出来るのではない。その者にとってただ『出来るから』、異能を持っているのだ。

 彼は出来ると思った。月まで届くことが出来れば、後は簡単に繋げることが出来ると。
 彼は伸ばし続けた。手を、力を、己の意思を、いつも見上げる月まで。とどけ、とどけと。そして、繋がった。
 糸のように伸ばした妖力を起点に、転移をする。それだけで、彼は仲間を引き連れ月へと来ることができた。
 月に居る者を排除し、月を手に入れるために。

 彼らが最初に感じたのは、高揚感だ。妖怪としての本能が、月の力に歓喜している。
 次は、浮遊感。地上では味わえぬ、謎の感覚。飛べるものは飛び、飛べぬ者は妖力を纏い、地に縫い付けた。
 ハジは気配を探り、『何者か』が集まっている場所へと進む。数多の妖怪達を引き連れて。
 そして、やっと見えてきた。彼らが今まで見たことのない、訳のわからぬ建物達が。
 彼らは直感する。ここが、月の民の住処だ、と。
 ハジは挨拶代わりに巨大妖力弾をぶちこみ、多くの建物を崩す。そうして、妖怪と月の民は出会う。
 ここに、月の民と妖怪達の短い戦争が始まった。

 返しの挨拶は、月の民の悲鳴だった。







 月の頭脳は思考する。
 彼女は強大な力の持ち主であるが、その真価は頭脳にこそある。

 天才。そんな言葉すら、生ぬるい。

 人知を超えた頭脳を持つ彼女は、思考する。現在の問題を、妖怪の襲撃を。その無力化の方法を。
 部下からの報告を聞き、現状の確認をしようと部屋を出ようとした時、轟音が聞こえた。
 何事かと思い外へと出てみれば、都の外れで建物が倒壊している。
 それを見た彼女はすぐさま部下に指示を出し、対策を取るために移動を開始。
 他の部下達にも声をかけ、戦える者の現場派遣、戦えぬ者の非難をさせるよう指示を出す。
 ついでに弟子達に勝手な行動を取られても困るので、声をかけに向かう。

 彼女は『妖怪』について知っていた。



 都の外れ部分ではあるが、そこには惨事が広がっていた。建物は崩れ、下敷きになって死んだ者達も居る。
 足の速かった月の兵士は既に『妖怪』と交戦を開始。右を見れば破壊行動に勤しむ妖怪、左を見れば月の兵士と戦う妖怪。
 そして、この惨事の中心に、幼いという表現が似合う容姿を持った妖怪がいた。
 その顔は、笑顔だった。とてもとても、嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。




 二人の少女は、都の襲撃を見ていた。
 彼女達の名は綿月 豊姫、綿月 依姫。
 名前から分かる通り、彼女達は姉妹である。二人は月の頭脳の弟子であり、まだ若くとも非常に優秀で、将来的にもかなりの期待をされていた。
 彼女達の下にも報告は届いており、襲撃者が『妖怪』、つまり『下賤な地上の民』であることも知っていた。
 彼女達は思う。許せない。下賤な地上の民が、我ら月の民に手をかけるなど、と。
 そして、彼女達は出撃を決意し、彼女達の師匠、八意の下へと許可を求めに向かった。
 しばらくして彼女達は接触し、八意に『協力』を求められ、出撃はお流れとなるのであった。


 ツキは率先して月の兵士達と戦っている。
 彼女の他にも、兵士達と戦う者は増えてきていた。
 最初は都の破壊から始めていた妖怪達だが、徐々に抵抗する者が増えると戦闘に移行していった。
 月の頭脳の指示で出向いた者、他者を守ろうと出向いた者、地上に住む者を早く排除しようと出向いた者、理由は様々だが、
 戦える者が集まってきた。

 ツキは歓喜する。向かって来る敵は、強い者ばかりだ。
 直接的な戦闘では、妖怪トップクラスの彼女である。並の神ですら、打倒するほどだ。
 戦いを愉しみとする彼女にとって、今の状況は愉悦以外の何物でもない。
 次々と襲いかかってくる敵。倒しても倒しても、集まってくる。この数では、彼女一人では倒しきれない。だが、彼女は愉しむ。
 なぜなら、彼女にも仲間が居るから。心強い、仲間が。

「ツキ!前へ出過ぎだぞ!」
「悪い悪い。つい、楽しくなっちゃってさあ」

 奥理がやってきた。アマツも近づいていたが、もはや風よりも速い速度で辺りの敵を切り裂いていたので、姿は見えなかった。

「いやぁ、愉しいねえ。いつこの身が果てるかとゾクゾクしちまうよ」
「だが、勝つ。そうだろう?」
「勿論さ。……おーい! アマツだってそうだろう?」
「そうだね。こいつら、僕達よりは弱い」

 アマツに声をかけると彼は急停止し、返事をする。
 超速度から急停止をしたら体が持たなそうな物だが、アマツはそれを気にした風でも無く会話に参加していた。

「それにしても、向こうじゃハジも派手にやってるねえ。久しぶりに戦ってる姿を見たけど、いつ見てもあの強さには惚れ惚れするよ」
「そうだね。でもハジ、なんで急に月を攻めようだなんて言ったんだろう。いつもなら一人でやってそうだけど」
「それを気にしても仕方がないのではないか? この程度の奴らになら、私たちが死ぬ事もないだろうしな」
「死ななきゃいいって感じだからねえ。まあ、強い奴と戦えるのは大歓迎さ。案外、ハジもお祭り騒ぎしたかったのかもね」
「そうかもな」

 妖怪の攻撃はまだまだ続く。各地で、あらゆる妖怪達が都を攻めている。
 ある者は焼き払い、またある者は全てを凍らせ、またある者は大地を割っていた。
 ハジは事前に指示を出していた。全て、自分たちの物にしようと。
 訳の分からない物など要らない。全て、壊してしまえと。






 少年は戦況を眺める。
 戦場のド真ん中、最も目立つ場所で空中に腕を組み浮いていた。
 彼の予想で、この侵攻スピードならば四日、敵の抵抗を考えれば八日で都を完全に制圧できると思っている。
 ただ、疑問に思っていることがいくつかある。
 一つは『敵が天上の神々』ではないこと。彼ら、また彼女らからは感じた気配は昔の気配と比べれば大分薄い。
 しかし、だからと言って人間ではない。妖怪でも無ければ、地上の神でもない。
 やはり、一番近い気配で言えば天上の神々なのだが……。正確な正体までは彼には分からなかった。

 もう一つは、敵は強いといっても、圧倒的な強さを持っている者が居ない。
 かつて戦った神は、ハジに致命傷を与えるほどに強かった。
 現在戦えば勝つのはハジだ。それも、無傷での勝利も可能である。だが、それを考慮しても、相手が弱い。
 彼は予感している。強い者は、まだ出てきていない。これからが、本番だ、と。


 ハジは向かって来る敵を次々と殺して行く。
 頭を掴み、地面に叩きつけ、潰す。次の敵は首を爪で切り裂き、その次敵には心臓を抉り取り、目の前で潰すといったことをしていた。
 彼はイラついていた。
 相手が人間だったならば、恐怖を食べ、満足していただろう。相手が妖怪だったならば、彼は無条件で好く。
 相手がただの神であったならば、イラつく事も無く、作業的に殺していた。

 彼がイラついている、その理由。
 それは、相手に『終わり』が見えないからだ。
 彼は始まりも、終わりも何となくわかる。自分自身の事になれば、秒単位で生きた時間すらわかるし、残りの寿命の時間ですら分かる。
 だが、月の民達にはそれが見えなかった。分からなかった。故に、彼はイラつく。強制的に終わらせたくなるほどに。

 様々な理由から、彼はこの戦いを素早く終わらせたかった。
 嫌いな物は近くに置いておきたくないし、諏訪子たちにも感づかれるのは不味い。
 なにより……。




 妖怪達が都を襲っている中、彼女、八意は弟子たちを連れて彼女の研究室へと向かっていた。
 既に兵士たちへの指示は出した。第二陣からは、新兵器『銃』の使用が成されるだろう。
 この前開発された兵器であるが、兵士たちは訓練は十分に積んであるので問題は無い。
 月の科学に妖怪は敗れる。それが、彼女の出した結論だった。

「八意様。私たちは一体何をお手伝いすれば?」
「貴女達にはちょっと調べ物を手伝って欲しいのよ」
「調べ物……ですか。一体どのような」

 豊姫達は八意から協力の内容を聞かされていない。
 本音を言えば、彼女達は妖怪を退治したいのだ。自らの手で、奴らを排除したかった。
 だが、それは彼女達の師匠である八意に止められている。
 『貴女達が参加するほどでもない』、そう言われてしまっては言い返すことは出来ない。
 八意にとっても、貴重な弟子を、こんな戦いで傷つけたくは無いのだ。
 それよりも、彼女の記憶が正しければ戦うまでもない状態まで持ちこめ、戦況は簡単に覆すことができる。
 『対妖怪用結界術』。それが、彼女の中で一番有効な策であった。

 かつて、彼女は地上からやってきた仲間から聞いたことがあった。
 その昔同胞を妖怪に殺されてしまったらしい。殺された者は、仲間内でも上位の力の持ち主であり、それはそれは衝撃的だったようだ。
 それを受け、何人かの仲間に抹殺の命を出したらしいが、その者たちも、妖怪に殺されてしまった。
 もしもの事があったらと、対妖怪用の結界を作っておいた、と。そう聞いていた。
 そして、その結界は今、術式として残っている。既に不要な物と思っていたが、彼女はそれを保管しており、それを探し出す協力をして欲しいのだ。弟子たちにも。
 その事を彼女が伝えると、彼女達も快く承知。そして、見つかる。

 結界の内容は、妖怪の力を低下させる物。それも、小、中位の妖怪ならば瞬時に消滅してしまうような。
 肉体そのものよりも精神に重きを置く妖怪は、たとえ手足が千切れたとしても、粉々にでもならなければ、くっ付く。
 とは言っても、個体差もあり、妖力の大きさも関わってくるので絶対とは言えないのだが、
 大妖怪と呼ばれる存在のほとんどは、腕がもげたところで問題は無い。傷の回復も早い。
 この結界は、地力を下げる効果のほかに、その回復の阻害も行う。
 つまり……。妖怪達の大きな武器である頑丈性が失われるのだ。無茶が、効かなくなる。

 戦いの終わりは近づいてきた。




 戦場では新たな展開が生まれていた。
 広域破壊が得意な者が建物を破壊し、白兵戦が得意な者が、それを守り、敵を撃破していく。
 それを繰り返し、拡大を行っていると敵に援軍が訪れた。
 妖怪達は今までと変わらずに対処をしようとするが、敵は今までとは違う武器を持っていた。
 彼らには見たこともない武器であったが、見たことも無い物など今さらである。神力も何も纏っていない武器など恐れるまでもない。
 一人の妖怪が攻撃を加えようと大きく手を掲げた。
 彼女は氷塊から生まれた妖怪、スノウ。彼女は海に氷の陸地を創りだしたほどの実力者だ。
 そんな彼女が氷のつぶてをまき散らそうと、そして敵を纏めて凍らせようとした時だった。
 その彼女の腕が、地に落ちた。

 戦場に響く銃声。
 音速に迫るほどの高速攻撃。
 小さく、見切ることが出来ぬほどに速く、そして威力のある攻撃に形勢は逆転した。
 妖怪が押される側へと、変わっていってしまったのだ。
 だが、その程度でやられる妖怪たちではない。伊達に彼らは大妖怪とは呼ばれていないのだ。
 彼らは何発もその身に銃弾を受けていたが、まだまだ問題なく動ける。

 だが、問題は威力よりも速度。いくら動けるからといって、そう何十発も食らっていい物ではない。
 しばらく回避に躍起になっていると、相手の攻撃の軌道が直線的な事に気がついたハジとアマツは指示を出す。
 直線でしか攻撃は飛んで来ない。それさえ分かれば攻撃は見えなくとも、読める。
 妖怪達は徐々に慣れ始め、避けられるようになっていた。

 妖怪の力と、月の科学。『一進一退』の攻防であった。そう、この時点で『五分と五分』であった。
 それを意味することは、つまり。


 少しずつ、少しずつ銃弾にも慣れ、妖怪達が優勢を取り戻していた時。
 戦場を巨大な結界が覆った。
 妖怪達の動きは、確実に鈍った。






 月の頭脳は戦場を進む。その中心へと。弟子達は置いてきた。今彼女が気にしているのは戦いの勝敗『ではない』。
 どこまで被害が広がっているかである。なにより、『姫様』にもしもの事があったら目も当てられない。
 万が一のことを考え、弟子達に彼女の守りを固めてもらったのだ。
 周りを見れば、妖怪達は鈍い動きで必死に銃弾を避けようとしている。様子を見ると、結界の効果はきちんと起動しているようだ。
 しかし、一人。結界の中でも妖力を漲らせている者が居る。ハジだ。
 彼と彼女はお互い睨み合っていた。

 お互いは直感していた。目の前の存在が、リーダー格だと。
 周りは、戦火が広がっていた。彼はすぐにでも仲間の治療を行いたいが、しかし、眼を逸らすことは出来ない。
 少年は忌々しく、女性は無表情で見つめあっていた。
 先に口を開いたのは……女性。

「何が、目的なのかしら?」
「聞きたいか?」

 少年は答える。その顔に、確かな嫌悪感を浮かべて。
 だが、少年が答える前に彼女が答えを言っていた。

「どうせ、月を手に入れるとかでしょう?」
「……ふん、その通りさ」

 さらに不機嫌になる少年。彼にとって、月侵略とは地上制服の前座に過ぎなかったのだ。勝てて当然の戦いだった。
 天上の神は『強くならない』。それを彼は知っていた。だからこそ、勝てると踏んで此処に来たのだ。
 かつて戦った天上の神程度ならば、彼にとって片腕だけでも倒せるレベル。仲間たちも、多少の苦戦で済む。
 昔とは、技の練度が違う。年季が違う。
 力の使い方は、さらに巧くなり、戦略の幅が広くなっている。
 だが、結果はこの有様。彼の行動が、仲間を危険に晒している。
 ただ、彼は最後くらいは皆と一緒に戦いたかった。それだけだったはずなのに。

「これ以上の抵抗は諦めなさい。すぐに帰るというのならば、見逃してあげる」
「ぐぅ……」

 彼にとって、それはかなりの侮辱。
 弱いと思っていた奴らに良いようにされ、加えて見逃すといわれる。
 力に自信を持っている彼だからこそ、その屈辱はさらに大きな物だった。
 彼は怒りを力に変え、腕に妖力を込める。そして、巨大な光弾が彼の手から放たれる。
 破壊の塊が、彼女と兵士たちを襲った。










 大きな攻撃だ。確かに威力は高い。だが、遅い。
 目の前の妖怪の力は膨大だ。だが、傲慢で感情的で、怒りやすい性格。ならば御しやすい相手だ。こんな者がリーダーか。大した物ではない。
 何の問題も無く避けきり、光弾を打ち出したままの姿勢でいる奴に攻撃を仕掛ける。弓を構え、すぐさま放つ。
 周りの兵士たちも分散し、問題なく光弾を避け、私と同じように奴へと銃撃を加え始めた。だが、ゾクリとするほどの笑みを向けられた。
 ……まずい、奴の狙いは、後ろかっ!

 次の瞬間、轟音が聞こえてくる。建物が崩れる音。一瞬、都への被害の懸念により、意識がそちらに向いてしまった。
 建物の破片が大量に飛び散る。爆風と破片により動きが止まる。仲間たちも怯んでいるようだ。
 その隙を突かれ、私の背に強い衝撃が襲いかかった。何かにぶつかり、それが地面だと認識した頃には奴の姿は見えなくなっていた。
 脳震盪を起こしている。思考がぼやけなかったのは奇跡的だが、体が動かない。頭を強く打ってしまった。
 光弾によって壊された建物は見るも無残な姿になっている。それをいえば、妖怪達が通った場所もそうなのだが。

 すぐさま駆けつけて来た仲間の手を借り立ちあがる。そのまま彼らに指示を出し、逃げた奴を捕捉する。
 どうやら奴は戦況が思わしくない者の援護へと向かったようだ。部下たちには編成を組ませ、一人で妖怪達の相手をしないよう指示を出す。
 奴ら一人一人の力は本物だ。素の能力が高い。だが、攻撃が効かないわけでもなく、今は結界の中だ。何も問題ない。
 もうすぐ第三陣の援軍も来るらしい。数人に伝令を頼み、未だ実験段階の兵器、仮名『電撃波』の使用に許可を求める。
 実験段階であるが、発射と威力には問題ない。チャージ時間を如何に短くするか、射程をどの程度伸ばせるかが問題であるため、今はあまり関係がない。
 一発撃てさえすればそれで良い。射程もこの場ならば十分だ。それだけで、あの妖怪は無力化出来る。

 電撃波は回避不能、絶対命中の攻撃。音速を遥かに凌ぐ、雷を撃ち出す兵器。
 援軍の下へと遣いを出し、帽子をかぶり直し、体に着いた汚れを叩き落とす。
 さて。被害は大きいが、元より負けるような戦いではない。現に此方の攻撃を、相手は防ぐすべは無いのだから。
 だが、地上の者もなかなかに侮れないようだ。今度からは、ちゃんと観察をしてみよう。

 しかし、妖怪達は月の科学に敗北する。それが、この戦いの結末だ。
 待っていてください、姫様。このような戦いは直ぐに終わらせて差し上げましょう。
 ですから、何のご心配も無く。

 決意を新たに、私はそのままあのリーダー格の妖怪を追うことにする。奴さえ止めれば、他の妖怪など大した脅威にはならないだろう。
 これ以上被害を出すわけにはいかない。これ以上、都の中心部へと進ませるわけにはいかない。
 なぜなら、そこには『彼女』が居るのだから。彼女には、指一本触れさせはしない。

「皆の者!これ以上の妖怪の侵略を許すな!全力を持って排除なさい!」
『ハッ!!!』

 声を張り上げる。
 仲間たちの大きな返事を聞き、奴の下へ。彼は、私が相手をする。他の者には荷が重いだろう。
 奴の後ろ姿が見えてきたので、矢に力を込め攻撃を加える。
 矢は私の下を離れ奴の背中へ。当たる寸前で弾かれたが、奴は私の存在に気がついた。
 苦々しい顔で舌うちをしながら、後ろに居た妖怪を下がらせる。どうやら、負傷した者たちを下がらせているようだ。妖怪の数が多少減っている。
 このペースならば、終わりも近いだろう。


 さあ、戦いを始めましょうか。これ以上好き勝手はさせない。









 月のどこか。空間に亀裂が走り、『スキマ』ができた。
 その『スキマ』はだんだんと開いていき、大人一人が通れるほどの大きさとなる。
 『スキマ』の中は、黒く、それでいて紫のような色合いをしており、その中は何一つ見えなかった。
 だが、中から何者かが現れる。その者の名を、紫。
 彼女は出会う。傷ついた妖怪達と。
 彼女は聞く。月の都で、ハジが残った妖怪達で戦っていると。
 彼女は急ぐ。ハジの力となるために。

 彼女は、胸騒ぎを感じつつも大急ぎで移動を開始した。






「ハジ……突然、なんだってのよ」

「急に月を手に入れるだなんて……相談くらいしてくれてもいいじゃない」

「私じゃ頼りないって言うのかしら? 一人前って認めたくせに」

「……嫌な感じね。早く、急がないと」

「無事……よね? ハジは、強いし。奥理さんたちも、ハジ達と一緒に居るみたいだし」

「見え……? アレって……結界……? うそ、なによ、アレ。いくらなんでも、強大すぎるわよ……」

「は、早くしないと……」














あとがき

最近自分で感想数増やすのもどうかと思ったので後書きにて感想返し。
いろいろ試してみる。それが処女作の醍醐味ってやつですね。わかりませんが。
いつかこの作品潰してリメイク出来たらいいなあ。伏線とか、華麗に張って華麗に回収してみたい。ま、夢ですね。
場面転換ってどうやるんだ。



[83]やま助さまへ
まだです。あと2,3話でこの話終わるので、その後閑話として書きます。
ほかの今まで出てきたキャラとも絡むのでゆうかりんだけではありませんが。

[84]青天さまへ
はっはーん。
分かりましたぞ。つまり、胸を張ってロリコンと宣言するんですね。わかります。

[85]Iesuさまへ
書いたキャラが可愛いと言われるのは感謝の極み。
Pixivの作品でしょうか。ググったらっぽいのがあったので。4コマ面白かったです。
しかし……ネタ被ってしまったのか。

[86],[88]マッカさまへ
許しが出た!これでかつる!

依姫さん全然知らないっす。すっごく強いとしか……。シューティング派なんで。
でもげっしょー読んでみたいです。
結局穢れってなんなんだ……。

[87]マイマイY@さまへ
月への行進ってなんか楽しそう。

月へ侵略します。ちゃんと話しが進みそうです。
というか無事終わりそうです。これで閑話書ける。

[89]kamoさまへ
どこらへんが変だったのか(もしかして全部?)とっても気になっています。よろしかったら教えてください。
作者的には一か所いつもと違うように、としたんですが。『自分と一緒に戦え』あたりの部分。
それ以外は、ハジはこんなもんだろって書いたんで。もし変だったら教えて欲しいです。
ブレない主人公って難しい。



[21061] 原始編 十九話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/13 00:00

 ハジは戦う。自分のせいで傷ついていった仲間たちの為にも、月を手に入れるために。
 八意は食い止める。逃げ帰る妖怪などに興味はない。ただ、侵略する者を排除し、追い返すのみである。
 この大結界の中、妖怪達は己の力を大幅に低下させながらも月の民達と戦っていた。
 だが、動きが鈍くなり、次々と撃たれる妖怪。普段なら響かぬ傷も、結界の影響で大きなダメージとなっている。
 結界の外へと退避しようにも結界には妖怪を閉じ込める効果があり、外に出るにはハジが直接転移させねばならなかった。
 ハジは隙を見てダメージが多い者から転移したが、まだまだ妖怪達は残り、戦っている。
 妖怪と月の兵士達。彼らの戦いは徐々に月の兵士達が押して行った。

 頭数が減る妖怪、どんどんと減る体力。
 普段ならば十日でも二十日でも、その程度は戦い続けられる彼らも、なかなか治らぬ傷と、結界の影響により限界に近付いている。
 被弾のないアマツも、最初ほどの速さはなかった。せいぜい、すごく速い程度だ。目にも映らぬほどの速さは出せなかった。
 奥理は傷自体少ないものの、だんだんと相手を仕留め損なっている。ツキは怪我を物ともしなかったが、嘗ての豪腕はどこかへ行ってしまった。
 他にも、溶岩の妖怪も、雷雲の妖怪も、水魔の妖怪も、今まで程の広域攻撃は出来なくなり、高い防御力を活かし、他の者の盾となっていた岩石の妖怪も、今では地に伏せている。

 敗色濃厚なこの戦い。
 彼ら妖怪は、尻尾を巻いて逃げるのが賢いやり方なのだろう。だが、此処にはそこまで賢い妖怪はいなかった。
 そこに居た者は皆、『初めて』一緒に戦ってくれと頼んだハジに着いてきた者ばかりだ。最後まで一緒に居るつもりの、命を惜しまぬ馬鹿どもだった。
 ハジはそんな妖怪達の想いを嬉しく思いながらも、命に関わりそうな怪我をした者を片っぱしから結界の外へと転移させた。
 まだ戦える、最後まで一緒に、そんな言葉を聞きながらもハジは相手の隙を突いて強引に転移させた。
 最初に月へとやってきた、あの場所へ。
 本当の戦いは此処ではないのだ。命を落としては、元も子もない。
 残った妖怪はほんの数人。最初に、ハジを含め百の大妖怪達が攻めていたことを考えれば、今や見る影もない。
 加えて言えば、敵の兵士は百、二百を優に超える軍隊だ。戦力差は歴然だった。

 結界さえなければ、逆転は可能だっただろう。何より、体力が違う。
 彼ら妖怪は戦っている最中にも傷と体力を回復させるような存在なのだ。
 穢れがなく、基本的に生と死の概念がない月の民でも怪我はするし、治すのにも時間がかかる。
 長期戦に持ち込むことが出来れば、勝つのは妖怪。いくら月の兵士でも、休みもなく、睡眠も無く戦い続けるのは無理なのだ。
 考えても見て欲しい。常に戦闘が起きている中で、満足な休息が取れるだろうか?
 もしできたとしても、いつ命を消す者が来るかも分からぬ状況でソレを実行出来る者は稀だ。考えるまでもない。

 だが、『もし』『たら』『れば』の話しを考えていても仕方がない。
 現状は妖怪達の圧倒的不利、満足に戦える者はハジのみ。他の者は十分な力を出すことができず、
 『たった』数人の兵士を相手取る程度しかすることが出来ない。
 しかも、彼らは銃を使うことにより不用意に近づかない。奥理やアマツなどは何とか戦えているが、ツキには満足な攻撃の手段がなかった。
 今は岩石を投擲し、攻撃を加えているがじきに出来なくなる。
 こんな、『更地』としか言いようのない見晴らしのいい場所で、そのような攻撃は通用しない。
 そして、ツキは涙をのみながらハジに転移された。また一人、妖怪は戦場から去ってしまった。


 残った妖怪達は一か所に纏まりながら戦う。ハジは現在結界を張った術者、八意を倒すために一人で敵の中心部へ突撃をしている。
 ハジには作戦とも呼べぬような作戦があり、その為に仲間には一か所に纏まっておいて欲しかったのだ。
 彼らはそんなハジを信じ、一か所に集まりながらも全力で立ち向かう。
 一歩間違えれば、即全滅の危険性を孕んだ作戦だ。だが、彼らはその身に兵士たちの攻撃を浴びながらも信じ、耐えた。
 ハジは、間に合うのだろうか。




 ハジは八意との戦いの最中、戦いの終わらせ方について考える。
 傷ついた彼らを元来た場所へと送り返したのは、単純に一人一人地上まで送っていると力を大きく消費してしまうためだ。
 送るのなら、いっぺんに転移した方がいい。この戦いが終わったら、まとめて地上に送ろうとハジは考える。
 それに加えもう一点。それは結界が何とか出来た場合、もう一度皆で攻めるためだ。
 もう、今、月を手に入れなければ、次のチャンスは無いかもしれない。そう考えてのことだった。
 だが、既に月が手に入るかどうかは危ういラインだ。なにより、この大結界の効果は絶大で、ハジ自身にも消しさることができる確信は無かった。

 それも、そうだろう。
 なによりこの結界は、その昔『ハジを含めた妖怪』への対策として作られた結界であり、それに月の頭脳がアレンジを加え、さらに強力になっている。
 並の妖怪では中で存在出来るはずもなく、大妖怪ですら力を奪われ、破ることは叶わない。
 ハジですら、力だけでは破ることは出来ないほどの結界だ。中からは勿論のこと、外からはさらに強固。
 ここに来て、彼の過去の行動が裏目に出ていたのだ。つくづく彼は運がない。

 ついでに、彼に知るよしもないがこの結界を張った者は八意だけではない。
 起点は彼女だが、それに力を供給している者は他にもいる。故に、これほど強固な大結界を創ることができ、
 逆に、それほどの力の持ち主は戦場に出ることは叶わなかった。
 彼らには結界に『ある効果』を付加する役目もあるため、効率で言えば、此方に力を使ったほうが良いのだが。



 ハジは月の軍と月の頭脳を相手に一人で戦っている。
 ハジの転移による移動速度はとても速い。瞬間移動とも言って良いソレは、彼の目視範囲ならば移動が可能だ。
 八意を翻弄し、月の兵士たちの銃撃をすぐさま避ける。それを繰り返しながら、光弾をまき散らし兵士たちを各個撃破している。
 だが、いつまでもそれは通用しない。
 なんせ、月の頭脳が居るのだから。いつまでも同じ攻撃は、効かないのだ。

 八意は、彼に追いつけないながらもハジの能力を分析し、要点を纏め兵士達へと伝達する。
 まず、転移。常に使い続けることはなく、一回の使用ごとに間があることから、何らかの制限があるか、力の消費が多いのだろう。
 範囲は結界内の範囲ならば問題がないようで、回避と反撃を同時に行い、無駄を可能な限り消しており、癖なのか、転移後は背後によく回り込んでいる。

 次に治癒。傷の大きな妖怪を抱きかかえ、傷口に触れたと思えばみるみる内に塞がっていった。
 他の小さな傷はそのままの事から、全体的な治療ではないらしい。彼女が見えた限りでは、局部的に自然治癒を促す力のようだ。
 昔彼女が見た妖怪の資料には、妖怪にあそこまの自然治癒は備わっていない。そのことから、これは異能の類だと言うことが分かる。

 そして最後。これは彼女の単なる推測だ。だが、月の頭脳と呼ばれる彼女の推測ならば、真実に近いモノである。
 それは、彼には近未来予知が可能なのではないか、という事。
 明確な未来が読めるという訳ではないだろう。それが分かるのならば、月に攻めることも無かったはず。
 読めるのは極近未来。ほんの数秒にも満たない程度だろう。それこそ、次に攻撃を放たれる程度までである。だが、この乱戦時、その効果は大きい。
 なぜなら彼は、『攻撃される前から』、銃の攻撃軌道上から外れているのだから。いつ攻撃が来るのか分かっているとしか思えない。

 一つの能力の派生か、複数の能力を持っているのか、それはこの際あまり関係は無い。とにかく、どれも警戒すべきなのだ。
 背後に転移され、攻撃されたら堪ったものではない。タイムラグも少ないことから、反応は難しいく、いまの所彼は自身の治療はしていないが、
 決定打を与えても治療されたら元も子もない。そして、まずは此方の攻撃が当たらなければ意味がない。

 八意は兵士たちへの伝達を終え、考えを纏める。ハジに白兵戦を挑む、と
 彼女が足止めをし、蹴りをつける。ハジさえ無力化してしまえば、それで終わりだ。それが、一番効率の良い戦い方なのだ。

 傷を治すのならば、ダメージが『残る』攻撃を。避けるのならば、『動けなくなるよう』に攻撃を。
 幸い、彼女はそのような方法をよく知っている。
 妖怪の頂点は、月の兵士達とその頭脳に積極的に狙われることになった。
 その時のハジの顔は、嫌悪の笑顔で染まっていた。











 弓を背負い、奴の懐まで滑るようにして潜り込み、胸に掌ていを打ち込む。
 傷が治せるのなら、それ以外に、内部にダメージを与えるまでだ。
 だが、その攻撃も、奴はその銃弾で傷ついた腕で受け止める。驚くことに、傷を物ともしない防御をしてくる。
 治さないのか、自分の傷は治せないのか。どちらにしろ、腕の使用に問題は無いようで、これは、面倒なことだ。
 しばらくは、お互い舞のように流れるような攻防が続いた。この妖怪の攻撃は、どれも恐ろしく正確で、速く、重い。
 私もそれなりに自信はあったのだが、此処まで正確な動きをすることは難しいだろう。全ての急所や関節に『一寸のズレ』もなく攻撃が飛んでくる。
 今のところ全て捌いているが、此方の攻撃も全て捌かれている。時折仲間たちからの援護射撃が入るが、奴は全て避けきる。
 相変わらず不気味な回避だ。だが、全てを避けられるわけではない。少なからず被弾をしており、その隙をついて私も追い打ちをかけている。

「……」

 なにやらブツブツとつぶやいている。詳しくは聞き取れないが、奴の目線から察するに結界のことだろうか。
 大半の妖怪は銃弾を受け、ダメージが多くなった者から何処かへ飛ばされていた。最初は各自で逃がそうとしていたようだが、
 この結界には妖怪のみに反応する遮断効果がある。妖怪に、あの壁を直接越えることは実質不可能だ。
 奴はテレポートが出来るようなので、他人も転移できるのなら結界外へと飛ばしたはずだが。
 残った妖怪達を一か所に纏め、一人で挑んできた。そして今、結界に注意を向けるとは……。何を企んでいる?

「貴方によそ見している暇があるのかしら?」
「たくさんあるぞ? どうせなら、全員で掛かってきたらどうだ?」
「遠慮しておくわ。こうして距離を保っていれば、貴方達を簡単に倒せるもの」
「ふん……」

 奴は無言のまま、先ほどと同じように光弾を飛ばしてきた。
 違うのは、大きさと速度。そして、その量。
 前後左右、三百六十度無差別にばら撒く様にして光弾は放たれる。さながら、光で出来た幕だ。
 だが、数が多いと言っても所詮は向かって来る光弾を避けるだけ。
 問題なく避けきり、此方も反撃を加える。建物が壊れる心配は無い。なんせ、既にここら一帯は全て崩壊しているのだから。悲しいことだが。

「諦めなさい。妖怪は、月の科学に敗北するのよ」
「……科学?」
「そう、科学。まあ、貴方達は知らないでしょうけど」
「知っているさ。未来から聞いたからな。その存在を否定し、全て消し去りたいほどに大嫌いだ」
「何事も否定から始めるのは、愚か者のすることよ」
「愚か者さ。戦う事しか出来なかった存在なんて」
「あらそう」

 短いやり取りを加え、戦いを再開する。
 何をするかは気になる所だが、奴が行動を起こす前に第三陣が来たようだ。
 ならば、『電撃波』も運び込まれているはずで、『あの作戦』の準備もそろそろ整っただろう。
 さて、そろそろ本腰を上げるか。邪魔をさせないために他の妖怪達への牽制を徹底させ、私が奴の動きを止める。
 術でも、肉体的にでも何でもいい。一瞬止められさえすればそれでいい。
 既に、奴の格闘攻撃は『見切った』。
 実力だけならば相手が上手だが、私から見ればあそこまで『正確無比』な攻撃は逆に読みやすい。
 後は、動きを合わせるだけ。
 『電撃波』を当てれば、死なずとも丸一日は行動が不能になる。



 …………。ほら、こうして脳を揺らせば動きは止まる。
 私たちの、勝ちだ。

 奴の体に電撃が奔った。
 一瞬、その口元が笑っていたのは気のせいだろうか。









――――――ぐぎああ゙あ゙ぁぁアア゙ァあああッ――――――

 紫が結界内に入り、最初に効いた音はそれだった。
 一番聞きたくない音だった。初めて聞いた悲鳴だった。それでいてよく知っている声だった。

 ハジの悲鳴だ。

 彼女は結界の重圧に顔を歪めていたことも忘れ、一心不乱に声の聞こえた場所へと向かう。
 すると、奥理達が一か所に集まり、見たことのない物を持った奴らと戦っている事に気がつく。
 彼女達は囲まれていたが、今はそれどころではない。彼女達もハジの下へと行こうとしているが、足止めを食らっているようだ。
 だが、それ以上に紫には向かわねばならない所がある。

 そこから離れた場所でハジが倒れている。

 奥理達は紫に気がつき、皆驚いた顔をしていたが彼女に気にしている暇は無い。
 一刻も早くハジの下へと行かねばならない。あのハジに向けている『見たことも無い物』。
 月へ来たばかりの紫には詳しい事は分からないが、武器なのだということは分かった。それを、倒れているハジへ向けている。
 一瞬の間を置き、乾いた音が響く。一度や二度ではなく、何度も。その音が響くたびに、ハジは傷つき、血が流れていく。

『アレは奥理達にも向けられていた物と同じ物』
『早く奥理達も助けなければ』
『今度は彼女達が、ハジみたいに血まみれになってしまう』

 紫は、現実逃避を行う。己の心の平穏のため。なにより、初めて見る光景に、脳の処理が追いつかなかった。
 目を、背けていた。意識的か、無意識的か。彼女はハジの事を頭から消し去り、動いている奥理たちの事を気にし始めたのだ。
 そんな思考とは裏腹に、彼女の体は勝手に動く。空間の境界を操り、スキマを開き、紫の体をハジの下へと運ぶ。
 そしてハジの前方にスキマを開き、敵の攻撃からの盾とする。
 頭が現実を受け入れていない。だが、体は勝手に動いている。今は、彼女はそれがありがたかった。

 だが、結界のせいで長くは開いていられない。この結界は、彼女ほどの妖怪ですら力を大きく削ぐ。
 スキマが閉じると同時に奥理達の下へと渡り、囲まれてはいたが、孤立しているよりは安全だ。
 未だにハッキリとしない思考の中で、彼女は戦線に加わり敵の排除に努める。

 血まみれのハジ。こんな姿は、かつて諏訪子と神奈子を二人相手にした時以来だろう。
 その時より傷は少ないが、生命力自体が結界により削られている。
 いつもなら怪我なんてしてもすぐに治してしまうのだが、今は気を失っているのか微動だもせず、血を流し続けている。
 このままでは危険。
 紫は皆を、早く結界の外へと連れ出すことに決めた。

「スキマで、ソトにデましょう? ハヤくしないと、ハジがネてしまうワ」
「紫! 落ち着くのだ。ハジは死なないから。この程度なら、大丈夫だから。
貴女がしっかりしないでどうする? しっかりなさい、紫。ハジの、娘なのだろう?」
「オクリ……さン」

 流石に精神が危ういと感じた奥理は、そう言って紫を抱く。戦いの最中だが、それでも、このまま錯乱させているよりはましだ。
 抱かれて落ち着いたのか、彼女の体の主導権が戻ってきた。徐々に、意識もはっきりとして来る。
 自分がしっかりしないでどうする。これではハジに会わせる顔がない。
 そう、強く意識を保ち、彼女は周りにスキマを張り巡らせ、意識を集中させる。
 まずやらなければやらないこと。それは応急処置。一刻も早く、ハジの止血をしなければならない。
 普段の彼女ならばすぐに思い至るはずだった。だが、どれだけ動揺していたのだろうか。
 彼女のしたことといえば、何の処置もせず、ただハジを無造作に動かしただけ。

「ハジ、今外に出すから、応急処置だけでもしましょう」
「……だ……、だ」
「ハジ……気がついたのね。 今、外へ」

 ハジの意識が戻り、紫達はひとまずの安心を得る。
 意識があるならば、傷は治せるだろう。そうすれば、ハジは死なない。あとは紫が外に出せば大丈夫なのだから。
 そう彼女が考えると、ハジは予想外の言葉を紡ぐ。

「外……には、出、る……な。後、す、こし……なんだ」
「ハジ?」

 彼女の心配を余所に、ハジは立ちあがる。
 周りを見れば敵に囲まれ、妖怪達も此処は通さんとし、攻撃を受けている。そんな中で、彼は外に出てはいけないというのだ。
 だが、それに文句を持つ者は紫以外に居なかった。なぜなら、皆ハジを信じているから。
 そして、大妖怪としてのプライドが、絶対に負けはしないと、退く事を許していないから。

「い、よ……っと。大分、しび、れも抜けてき、た」
「だ、大丈夫なの?」
「あ、あ。どうや、ら、電を、食らったよう、だ。油断、した」

 彼は若干意識を飛ばしていたが、まだ作戦実行中だ。彼の『策』は、まだ終わっていない。
 最後の仕上げをするため、ハジはまたしても戦いを開始する。




 紫にはハジの行動が理解できなかった。あそこまで傷つき、仲間の死を嫌う彼が何故ここまで危険を冒すのか。
 彼女は、彼らが月を攻めた理由はソラナキから聞いていた。
 あの演説の後、転移したハジ達をユウカと共に見ていたのだ。そして、どうすればいいか相談しているところ、ソラナキがやって来た。
 彼女はハジから事前に詳しい説明を受けており、ソラナキは紫を月へと向かうように焚きつけたのだ。
 ソラナキはこう言った。

『ハジは神を滅ぼす為に、月を手に入れると言っていたわ。
大方、貴女への土産なのでしょうけど……。正直、虫唾が走るわね。今すぐにでも殺してあげたいくらい。
まあ、殺すのは無理なんだけどね。

……ふふふっ、まあいいわ。紫。貴女はハジを追いなさい。
その為の手助けもしてあげましょう。……くくっ……せいぜい、後悔のしないようにね』

 妖怪の未来を手に入れるため、私たちの世代の妖怪のため。神を滅ぼすため。
 そのために、月を手に入れる。
 紫は悔しかった。どうして、私には相談をくれなかったのか。私だって、力になれるはずなのに。
 どうして、こんな死にかけるまでやるのか。
 紫はそんな思考の中、戦いながらもハジに尋ねる。

「どうして、こんな無茶するのよ」
「もう、退くに退けないのだ」
「なによそれ」
「何でもない。……それより、此処までの道のりは覚えたか?」
「え?」

 道のりとは、地上から月への行き方の事だ。
 一度座標を覚えてしまえば、紫の能力ならば簡単に移動ができる。距離により、妖力の消費は変わるのだが。
 ここまで紫は、ソラナキとユウカの妖力を借りて来た。帰りの分でも相当な物になるだろう。
 とにかく、彼女一人でも行き来自体は出来るので、そのことをハジへと伝える。
 そして、それを聞いたハジは一言呟く。『安心した』、と。彼の心は、一瞬だが緩んでしまった。

 ハジは紫が来たことにより作戦の変更を決めると、その次の瞬間、結界に流れている力が大きく動いた。
 目視出来るほどに動きがあるソレは、きっと彼ら妖怪にとって不利益しか生まぬ物なのだろう。
 ハジは仲間たちに時間稼ぎを頼む。敵が動き出した以上、急がねばならないのだ。
 敵は奥理たちに任せ、一歩も動かずに力をフルに使う。
 彼の作戦は、結界に干渉し、『あること』をし、大打撃を与えることに変わった。

 元の作戦は、結界の大きさを『無理やり広げ』、術者の力量では維持出来ないほど巨大にすることだった。
 結界の大きさ、質。どちらも大きく、高まれば維持に必要な力が多くなるのは当然である。
 そうやって供給不足により崩壊を狙っていたが、紫が此処に来れるのならば、無理やり結界を崩す必要は無いのだ。
 彼女が居れば、もう一度月へ向かうことは可能なのだから。例えハジが居なくとも。

 そんなハジに、紫が作戦について聞こうとすると、彼女達に声をかけてくる女性がいた。
 月の頭脳、八意である。

「御苦労さま。こっちは準備が終わったから、後は好きにしていいわよ?」
「なんですって?」
「穢れ……と言っても分からないわね。とにかく、結界内の穢れを全て浄化する。
これはその為の術よ」

 かつて神と呼ばれた者たちによる、穢れの浄化作業。
 妖怪達によって持ち込まれた穢れは、結界内に止め、全て浄化する。
 彼女らにとって、穢れとは忌むべきものだ。地上に住んでいた月の民は、浄化の仕方に詳しいのだ。
 だからこそ、彼らは結界の維持に力を貸し、最後の仕上げとして浄化の効果を結界に付加するのだった。

「穢れを持つ者ごと浄化するから、尻尾を巻いて逃げないと貴方達も消えてしまうかもね。どうするのかしら?」
「なん……ですって?」

 それは実質抹殺宣言。
 月の頭脳は分かっていた。彼ら妖怪は、プライドが高い。
 結界により、外に出ることは出来ないが、テレポートでなら外に出ることが可能。
 だが、それをするということはつまり、『敗北を認めた』と同義なのだ。だからこそ、彼女は逃げるという言葉を使う。
 逃げ帰るのならば、逃げかえればいい。逃げた妖怪など、興味にも値しないのだから。
 八意の言動は、ハジが『その考え』を分かっていると考えての行動だ。
 ハジの内心は如何ほどのものか。完全に舐められている事が、彼に分かっているのだから。

「なるほど……だが、奇遇だな。今、私も準備が出来た所だ」
「馬鹿な……アレを食らってこんなにも早く動けるようになるなんて……。これは……驚いたわね」
「今の私の体は特別だからな。心臓を貫いたって死なないさ」
「戯言を……不老不死じゃあるまいし。……貴方、結界に干渉したわね」
「ああ。お前たちが光弾を避けるおかげで、結界に当たったよ。
一応教えてやる。この結界の端と端は繋がった。繰り返しの空間に、お前たちは閉じ込められた」
「……? どういう……」

 彼の言っていることはつまり、結界の端と端が繋がり、内から外へ出ようとしても、反対側からまた結界内に入ってしまうということだ。
 外から入ろうとすれば、そのまま反対側の外へと突き抜ける、ハジ特製の無限の牢獄。

『入ることも出来ず、出ることも出来ない』

 ハジは結界が張られてから、結界に干渉しようと決めていた。相手の切り札を破れば、勝つのは妖怪なのだから。
 起点さえあれば、操る事ができるのが彼の本領。能力の一部を常に使い続け、自らの力を制限させながらも、彼は結界に干渉し続けた。
 月の頭脳にも気取られることなく、彼女と戦い、操作し続けた。もちろん、格闘の最中に彼女にだって『触れている』。
 それが、実を結んだのだ。

「八意様! 外へ! 外へ出られません!」
「っ!」
「それじゃあ、私たちは帰るとしよう。紫が一人で来られるのなら、無理する必要もない」

 そう。彼が結界に干渉した所で、結界の効果を変えることは出来ないのだ。
 だからこそ、結界から出る必要がある。そうしなければ、穢れと共に浄化され、消えてなくなってしまうから。
 だが、ただで帰るほど彼は素直ではない。
 何より、彼は月の住人たちが大嫌いなのだから。殺戮、嫌がらせ、それらの類はいくらしてもし足りない。
 妙に素直なハジの言動に妖怪達は訝るが、次の発言により彼が何をしようとしているのかを悟る。
 そして、焦る。
 なぜなら、それは一人帰らないとも取れるから。

「少し自慢をしてやるよ、月の民ども。私の特技は自爆なんだ。妖力を爆発させるのは、得意でな」

 ハジの指示により、牽制のため散らばっていた妖怪達が集まってくる。
 だが、ハジは少し離れた上空に佇んでおり、その行動が妖怪達の心をざわめかせる。
 八意も、月の兵士たちも、皆怪訝な顔をしている。真意を掴みかねているのだ。

「此処まで苦戦させた記念だ。私の特製の爆弾をやるよ。たっぷりと妖力を込めた、な。
腕はもう、必要ないから、存在ごとくれてやる」

 そう言ってハジは自分の片方の腕を切り落とす。一切の躊躇も無く、最初からそのつもりだったように。
 顔を痛みで歪める訳でもなく、左腕で右腕を放り投げる。
 存在ごと、つまりそれは、これから一生片腕でいるということだ。
 彼ほどの妖怪ともなれば、たとえ腕が吹き飛んでも一応再生は可能である。だが、存在ごと消えてしまえば、『腕があった』ということすら、消える。
 『元々』腕がないのなら、再生も何もあったものではない。
 彼は、威力を高める為だけに、腕を犠牲としたのだ。

 その後、彼は胸元から、素早い動きで『真っ赤な何か』を取りだし、それを投げ落とした。
 背後から見ていた紫達には、何を取りだしたのかは見えなかった。
 だが、正面に居た八意と、月の兵士達はしっかりと見えていた。その、真っ赤な何かが何なのかを。
 故に、月の民は茫然とした。故に、反撃の機会を逃してしまった。

「じゃあな月の民ども……消えてなくなれ。それじゃあ行こうか、皆。地上へ戻るぞ」

 嬉しそうに、とてもわくわくした面持ちでそう言って、ハジは仲間の下へと近づき、最初に月へついた場所へと転移をする。
 残された月の民は、急いで浄化を強めるが、妖怪を巻き込むには間に合わず、彼らを消しさることは叶わなかった。

 残った物は、月の民達と、ハジの残した右腕、『真っ赤な何か』。

 轟音が、月の都に響き渡った。





 そのまま、ハジは皆を連れて地上へと戻る。百と一人の妖怪の帰還である。
 ハジが自爆の事を言い始めた時はまさかと思ったが、どうやら腕だけで済んだようである。
 妖怪達はハジの再生力も知っている。だからこそ、腕だけなら何とかなると思っており、腕を切り落とした時は安心が先に来た。

 帰還した場所にはユウカとソラナキが待っており、紫達が戻ってきたことに気がつくと近づいてきた。
 紫はもうクタクタだ。彼女はユウカとソラナキにお礼をいい、無事に戻れたことをユウカと一緒に喜んでいた。
 誰も死ななかったのは奇跡のようで、本当に良かったと感じている。
 だが、ソラナキのみ、険しい顔だ。
 それが、紫の心をざわめかせる。なぜなら彼女も、地上に戻っても尚、嫌な予感が消えていなかったから。

「なあ紫」
「……なにかしら」
「月は手に入らなかったが、誰も死ななかった。だから、今度はお前が…………いや、なんでもない。
お前はお前の思う通りに生きて、そして自然の中で終われ。殺されるなよ? 死ぬのなら、自然に、寿命で大地に還るのだ。

……とにかく、『科学』という物には気をつけろ。あれは、危険だ」
「……どうしたのよ?」

 その後、ハジは紫へと月の情報を与えていく。奥理やアマツ、その他月へ行った妖怪達全員も交えて、ユウカにも、ソラナキにも、月の情報を教えていく。
 見たことも無い建物。見たことも無い武器。月の兵士達の力。
 一人一人の兵士は中位妖怪よりも少し上といった程度だが、何より恐ろしいのは武器なのだ、と。
 大妖怪達の体にいともたやすく傷をつけ、並大抵では見切ることすらできない攻撃速度を持つ。
 月の科学。紫はその脅威を肌で感じた訳ではなく、実際に立ち会ったのは、最後の、少しの間だけ。
 だが、ハジにすら傷をつけるほどの物だということは確かだ。
 もし、彼女がいつか月へと攻めるとしたら……どう対処するのだろうか。

「紫。お前は頭が良い……。きっと、紫なら私よりも優れた存在になれるから」
「ねえ、さっきからどうしたのよ。何か、貴方変よ?」
「そうかも、知らないな。じゃあ、これで最後にしよう。聞いて欲しいことがある」
「……なに?」
「終わりとは、新たな始まりだ。だから、私が終わっても、まあ、あまり気にするな。

じゃあな、紫、皆。……ル……。ソラナキ、約束通り、後は頼んだ」

「わかったわ」

「ちょ、ちょっと待って、行き成り何を……ハジ!?」

 ソラナキはハジを睨みつけている。今ここで、彼を殺さんとするような目だ。
 一体何がどうしたのかと聞こうとするも、紫が問い詰める前にハジは何処かへ転移してしまった。
 あの傷で、一体何をどうするというのか。
 妖怪達も、ハジの言葉にまさかと思う



 紫は、やっと嫌な予感の正体が分かった。
 『らしくない』のだ。ハジが。
 悟ったように、諦めたように、達観した目で周りを見ている。
 そうやって、彼女がそのことに気がついた時、ソラナキが皆に話しかけた。

「紫……話しがあるわ。 他の皆も、聞きなさい。
くくっ……。せいぜい、気を強く持つことね」



 その話は全ての妖怪達にとって衝撃的な物であったが、彼と古い付き合いの妖怪は、どこかで納得していた様子であった。
 長い年月を生きていれば、必ず遭遇する、ソレ。
 奥理も、アマツも、ツキも、とうとう来たか。それだけを、想った。



 紫は想う。


 なんだ。ハジは、もう……。


 『終わって/死んで』いたのか。


 少女の心にスキマが空いた。











「くっ……やって、くれたわね……危うく、やられるところだったわ」

 月の都、結界内部、『だった場所』
 結界は、既に崩れた。廃墟だった戦場は、今はもう、何もない。
 そこに見える物は、大地と、ほんの少しの人影だけ。他はすべて消しとんだ。
 咄嗟に瓦礫の影に隠れ、地面の亀裂に潜り込み、強力な防御障壁で何とか爆風を凌いだ月の頭脳は毒づく。

 こうして月の都の約三割は、妖怪達の攻撃によって廃墟にされ、ハジの爆発によって文字通り『塵』となって『消えた』。
 それほどまでに、彼の腕を使った爆弾と、『心臓を使った爆弾』は、強大であった。
 結界の外へ爆風が逃げず、閉じ込められ、繰り返された爆発の威力は壮絶な物であった。

 この戦い以来、月では地上に対し警戒心を抱く。
 地上への印象は、下賤な者から野蛮で危険な者と変わっていた。
 長い月日をかけ、復興作業が終わった後、地上に対しての対策も少しずつだが練られていくのであった。

 月の民は記す。かつて最悪な災害があった、と。
 このようなことが無いように、一層優れた存在になれと。
 月から見える地球は、相変わらず青かった。










――――――――――――

あとがき

昼間のぞいたら復活してたんで、張りきって投稿しようと思いました。
せっかく理想郷が復活したんですから、せめて明るい話にと思いまして。
完全勝利とは行かずとも、戦いによる死者も無く(妖怪側)最終的には勝ち逃げのような感じに。


 やま助さまへ
一瞬、どう負けて行くのか楽しみです。に見えてしまいました。どSと思って申し訳ない。

>残して死ぬ
彼は優しいです。妖怪には。ですからそんな、仲間たちを泣かせるようなことは…………あれ?


 マッカさまへ
孔明の罠も見えていたら対処のしようもありますよね。
隠蔽効果も付属して19,800円で売り出せばよかった。


感想ありがとうございます。
次回でラスト。
その次からは短編みたいな感じでぽつぽつと投稿を考えています。ちゃんと完結はさせる気です。
オチとネタでストーリー考えたんで、せめて落としたい。
よかったらこれからも見ていてください。



[21061] 原始編 最終話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/18 01:04
 時は妖怪達が月へと攻める大分前、とある山の奥で一組の男女が対談していた。
 男の名はハジ。男というよりは少年といったほうがいいだろう。
 女の名はソラナキ。本名は別にあるが、現在はそう名乗っている。
 少年は淡々と話しており、女性は若干では済まない怒気をまき散らし、負のオーラが黒く蠢いているようにも見える。
 実際に、彼女の持つ『闇』が蠢き、威嚇しているのだが。

「だからな、お前には紫を見守ってやって欲しいと」
「だ、か、ら! どうして私なのよ! ツキとかアマツとか、何よりそういうのが得意そうな奥理が居るでしょう? それに、そんな話は認められない!

クッ……ハハハハッ! なら、いっそ一思いに! 此処で! この場所で! 貴方を殺してあげようかしらっ!?」
「むう」

 ハジとソラナキの会話は、ずっとこんな調子なのだ。
 ハジはただ淡々と事実と、自分の要望のみを語り、それを聞くソラナキは反発し、否定する。

 彼らの話の内容はこうだ。
 まず、ハジは限界が来ていた。寿命の、限界が。
 永い時を生き、寿命を力へと捧げ、多大な力を消費し続けていた。今まで生きて来られたのは、単純に彼の寿命が長かったに過ぎない。
 力の大きい存在は、その分寿命が長い傾向にある。もちろん例外もあるが、そんな彼だからこそ寿命の半分以上を犠牲にしても尚此処まで生きて来られたのだ。
 だが、それも此処まで。彼の感覚では、残りの寿命は一年も無かった。

 そして、彼は死ぬこと自体は怖くなかったが、娘……紫を置いて死ぬことには不安を感じた。
 彼女は親しい者の死に慣れていないどころか、親しい者の死を見たことが無い。
 なまじ、彼女の周りが力の強い者、死ぬ心配が無い者ばかりだったがために、彼女は耐性が付いていなかったのだ。親しい者の、死に。
 だからこそ、ハジはソラナキに頼んだのだ。紫を、どうか見守ってやってくれと。

 そこで話は戻る。なぜ私なのかと。
 ソラナキにとって、それは当然の疑問とも言える。
 一応、彼女は顔が広い方だ。ソラナキと言えば、とある大陸では実はハジを越える実力者なのではないかと囁かれるほど。
 彼女自身放浪癖があり、あらゆる土地に行っては人間を襲い、現地の妖怪達をその力を持って纏め上げていた。
 そんなこんなで彼女は顔が広く、そして自分よりも適任の存在を知っている。
 かつて化獣が存在していた時代から、彼と一緒に居た妖怪達。奥理にツキにアマツ。

 彼女の下にも紫が来た事があったとはいえ、奥理たちの方が親しかったのは目に見えている。
 何より、奥理は立派に母親をやっており、物事を教えるのもうまい。見守る存在としても期待できるだろう。
 アマツは、彼の仲間を纏める長の役目に着いているし、彼もハジには懐いているので頼めば聞いてくれるだろう。
 ツキは……。そこまで考えて、ソラナキは、論点はそこではないと頭を振る。

 そう、ハジは『自分はもうすぐ死ぬから』、後を頼むと言っているのだ。
 彼女の最終目標は、ハジ。彼を越え、自分が頂点となり、彼を自らの闇に閉じ込めること。
 そして、永遠に彼を取り込み続けるのだ。
 それが、意味を成さなくなる。

「認めない、認めないわ! 貴方は私に取り込まれる。それが、貴方の『終わり』。
なのに、なのに! 寿命だなんて何を勝手な!」
「まあ、どんな存在にもいつかは終わりが来る。それが、私に来ただけではないか」
「だからってっ……!」
「落ち着け、『ルーミア』。もうちょっと、笑え。お前には笑顔が良く似合う。
それに、今すぐ終わる訳ではない。私は死んでも、『終わらせない』。終わりを、引き延ばしてでも」
「それって……」
「ああ。それは終わりを先送りにしただけ。決定された終わりは、覆せない。
私はそのまま一年以内に死ぬだろう。だが、私の魂は、私という存在は、私の心がある限り、消えはしない。

まあ限界もあるのだが」
「……」
「異能とは、信じる心、魂、存在の持つ力だ。私の心が揺るがなければ、それなりに持つさ。まあ、十年すら持たんのだが」

 そう言って、彼は笑いながら空を見上げる。月は雲に隠れ、一切の光は無かった。
 周りの闇は自然の物か彼女による物か、彼には分からなかったが、彼女の心の中は確かにドス黒い感情に埋め尽くされていた。
 彼は言っていた。強くなって見せろと。彼女はその通り、強くなっていったのだ。
 人を飲み込み、神を喰らい、力をつけ続けた。越えてみろと言った彼を、越えるために。

 彼も、そんな彼女の考えは知っていた。そして、自分よりも強くなるのを楽しみにしていた。
 『だからこそ』、彼は彼女に自分を越える事はできないと言った。その機会は、訪れないと。
 分かっていたのだ。こうして、寿命が来ることは。
 彼は約束を破らない。だからこそ、彼は約束をしなかった。待っていてやるなどと、口が裂けても言えなかった。

「私が……強くなるのを待っているんじゃ無かったの?」
「そんなことは、口に出してはいなかったな」
「でも、思っていたのでしょう? 望んでいたのでしょう?」
「ああ。そうだな。思っていた」
「なら」
「思っていたからこそ、言わなかった。私は、約束を守る妖怪だからな」

 くつくつと彼は笑う。出来ない約束はしないと言う。
 その言葉に、彼女は彼の言葉の裏に気が付いた。
 確かに、彼は一言も自分を倒すまで待ってやるなどとは言わなかったのだ。
 彼を越える機会なんて、彼が存在しなければ一生来ない。死んだ者を越える事は出来やしない。

「……ははっ……。そう、なのか。
つまり、こうなることは予想していたのか」
「だいたい、な」
「くっ……ふふふっ……あははははっ!!!
なんだ、そうなのか! 貴方が私を待っているだなんて、勝手な勘違いだったわけだ! これは傑作ね!
ふふふっ……いいわよ。貴方の頼み、受けてあげる。こんな、笑い者にはちょうどいい話だわ」

 ひとしきり笑った後、彼女はハジの頼みを承諾する。
 彼女の目標はいつの間にか音も無く崩れ去った。今この場で彼を殺してもいいのだが、そんな気にはなれなかった。
 こんな場所で、こんな状態のハジを相手にしても、彼女の心は満たされないだろうから。
 ならば、いっそ。心の闇はハジを取り込むことで払うのではなく、一層闇を広げてしまえばいい。
 そうして、自分の心を覆い隠せばいい。闇には何も存在しないのだから。
 こんな、泣きそうな心など、隠してしまえばいい。
 彼女は想う。なぜ、今更、突然そんな話を自分にしたと。何も知らなければ、いつまでも笑っていられたのに、と。

「……? ……。む……う……。まあ、なんだ。
お前が笑い者なら、私は愚か者だから。戦う事しかできずに、碌な物を皆に残してやれなかった妖怪さ」

 それは、ハジが彼女にかけた言葉なのか、自分へと向けた言葉なのか。
 彼は静かに、ゆっくりと、瞳を閉じて語る。

「だから……。お前が、泣きそうな顔をしていても、私はどうすればいいか分からない。
ただ、私に出来る事は、戦う事だから。
私は何かを残してやりたい。愛する妖怪達の為に。紫の為に。
せめて、あいつ等が笑っていられるようにしたい。だから、協力してくれないだろうか」

 彼はまっすぐ彼女を見据え、言う。残してやりたいと。
 愛する妖怪達の為、立派に育った娘の為。
 こんな、戦う事しか出来ない自分にでも、憧れてくれた妖怪達に。
 彼は残したい。自分が生きた証を。
 不器用な彼だから。強さという事に大きな価値観を持つ彼だから。
 そんな彼だから、結局。最後の最後まで、戦って得る道を選ぶ。

「……ええ、いいわよ。今度は、まじめに、ね。
ふふふっ……最初からそう言えば良かったのに。やっぱり貴方、好きなのね、妖怪達が」
「当たり前だ」
「ならせめて、貴方が大好きな妖怪として協力してあげる。
私個人としては気にくわないけど。最期の頼みなんでしょう? なら、聞いてあげないとね」

 くくくと、彼女は含み笑いをしながら言い、そんな彼女に、『ありがとう』と、そう、彼は呟いた。
 そんな、握りこぶしを作りながらも、頼みを聞いてくれてありがとう。
 お礼の言葉は、心の中で繰り返した。

「ふんっ……それで、私は何をすればいいのかしら?」
「特に、何も。 紫が困っていたら、手を貸してやって欲しい。それだけだ」
「あら……そんなの、それこそ私じゃなくても出来るじゃない。何度も聞いたけど、どうして私だったのよ」
「お前があの子とちょうどいい距離に居たからな。奥理たちでは少し、近すぎる。
万が一もあるし、何より、お前は強い。何があっても大丈夫だろう?」
「そうね。そう、かもね」

 その後は、彼は自分がしようとしている事を彼女に話す。
 消える前に、紫を一人前にしてやろうと思っていること。
 そうなったら、月を手に入れ、神々達を倒し、人間を自分たちの物にしてやろうと思っていること。
 間に合うのなら、そのまま全ての土地を妖怪の物にしようと思っていること。
 そんな、夢物語のような事を彼は話す。たった一人で、そんなことが出来る筈がない。
 それを聞いていて彼女はそう思ったし、話した本人もそう思っている。

 だから、彼は最期の思い出として仲間の妖怪達も巻き込もうと思っていること。
 彼が生きてきた中で、仲間たちと共に戦うという事は無かった。だから、とてもワクワクしていること。
 他にもたくさんの事を話した。そして、最後に付け足した。

「ああ、月に行っている間は、お前は地上に居てくれ。万が一神に感づかれたら困るからな」
「はあ……もう何も言わないわ。好きにすればいいじゃない」
「ああ、ありがとう」

 それを最後に、彼らは別れる。
 ハジは来た道を歩いて戻る。彼の目に迷いは無かった。不安も、気負いも無かった。あるのは、この先短い時間への楽しみだけ。
 彼女の目には諦めがあった。それと同時に、心には妙な充実感があった。目指す存在が消えることと、目指す存在に初めて頼られた事。
 決して釣り合いが取れているとは言えないが、それでも、いつの間にか死んでしまっているよりはマシなのだろう。
 そう思い込むようにして、彼女は住処へと帰る。そんな彼女の背に、声が掛けられる。

「今度は約束しよう。面白い話を聞いたんだ」

 彼女が振り返れば、そこには誰の姿も存在しなかった。
 あるのは、月の光に照らされた木々だけ。彼女が空を見上げれば、月は顔を出していた。














 ハジは逃げるようにして紫達と別れる。
 あのまま残っていれば問い詰められそうであったし、彼に残された時間は少ない。
 月での戦闘は、彼の予想以上に力を使っていた。
 元々そこまで長く存在し続ける気も無く、諏訪子達を倒せるまでの時間があればいいとも考えていたので、大した誤差ではないのだが。
 転移した先は守矢神社。神奈子と諏訪子が治める神社である。

 ハジは慣れた様子で裏口から入り、諏訪子を呼ぶ。
 諏訪子も突然の訪問に驚いていたが、突然ハジが何かをしでかすのは何時もの事か、と特に気にする様子も無く招き入れる。
 そして彼女がハジを招き入れた時、今度は本気で驚いた。ハジは、片腕が無いのだ。
 腕はどうしたのか、他にも怪我はないか、誰がやった、大丈夫か、と良い感じに混乱している諏訪子の質問をハジは問題ないと一蹴する。

 しばらくそんなやり取りが繰り替えされ、流石に頭が冷えて来たのか今度は冷静に尋ねる。一体、どうしたのかと。
 そうしてようやく冷静になった彼女に、ハジは真実のみの言葉を返す。

『相手が予想以上に強かった』
『腕を失っても支障が無かった』
『本命を欺くため、腕を切り落とした』
『相手は人間では無いから安心しろ』

 要約すればこんな感じである。月に行ったという事実は伏せ、ただ戦いがあったという事だけを彼は話した。
 そうして取りあえずの納得をした諏訪子は、彼を何時ものように招き入れる。
 そして、いつものように話をし、いつものように落ち着いていた。

 ハジは諏訪子に寿命が残り少ない事を告げ、彼女は突然の告白にまたしても驚いていたが、次第に納得していく。そういえば寿命を縮めていたな、と。
 そして次に彼は昔話を始め、あの時は記憶が飛んでいただの、神奈子はなかなか戦ってくれ無かっただのと、他愛もない会話を楽しんだ。
 諏訪子も懐かしいと相槌を打ち、彼女からも話題を提示する。
 そうして、しばらく話をしていると、だんだんと現在の話題へと変わっていった。

「それにしても、案外、思い返せば早いもんだね」
「そうだな。生きている間は、あっという間だ」
「何か、やり残している事はある? 友の最期だ。笑って逝けるように協力してあげるさ」
「友、か。そうだな。少しある。まずは……お前を殺すことかな」
「……え?」

 次の瞬間には、スッと、彼女の腹に彼の腕が突き刺さっていた。
 ハジの表情は、諏訪子と談笑している間と全く変わりがない。相変わらず、微笑んでいた。
 諏訪子は何が起きたか分からなくて、ハジの顔を見ても、さっきとは何一つ変わりがなくて。
 自分の身に起きている事が、すぐには理解が出来なかった。

 ハジは手を引き抜き、そのまま部屋を出ようとする。目的地は、神奈子の部屋だ。
 彼が歩きだすと同時に諏訪子は倒れ、床は血で彩られていた。
 そして、運がいいのか、悪いのか。
 諏訪子の部屋、つまり、彼の下へと『目的の人物』がやってきたのだ。
 彼は扉の前に佇み、神奈子が入ってくるのを待つことにした。

「おーい、諏訪子ー。ハジが来ているのかい? 我も話に混ぜてお……く、れ?」
「ごきげんよう。神奈子」
「っ!?」

 先ほどと同じようにハジの手が神奈子の腹へと突き刺さるも、彼女は直前に異常に気が付き、身を捻ることで直撃だけは避けた。
 彼女は情報を一瞬にして整理する。
 諏訪子が床に伏せ、血を流しており、ハジの手には血が付いている。自分の分だけではなく血が服にも血が付着していることから……諏訪子をやったのはハジだ。

 彼女は姿勢を整えた瞬間に駆けだす。その手をハジの首元へと伸ばし、掴み、床へと叩きつける。
 彼は引き剥がそうとしているのか彼女の腕を掴んでいるが、片手で神奈子に敵うはずも無かった。
 そのまま神奈子はハジを床に抑えつけ、怒鳴る。

「ハジィッ! お前、何をした! 事と次第によっては今ここで滅してやるっ!」
「くくっ……今更、私は死なないがな。肉体を潰しても私は動けるんだ。
ほら……首を潰されていてもこんな事ができる」
「いぎぁっ!……ぐっ、な、何を、した……」

 彼が神奈子に触れた瞬間、彼女は苦しみ出し、体のあちこちから傷が現れ血が流れ始めた。
 その傷は、決して大きい物ではなかったが、如何せん数が多かった。

「ほら、昔から戦っていて気にならなかったか? 私の攻撃に、たまに威力の無い攻撃があっただろう。
実はな、アレ、まだ『終わっていない』攻撃なのだ。いつか役に立つと思って、少しずつ蓄積してみた。昔は、悪戯のつもりだったのだがな」

 初めはただの興味だった。
 自分には何が出来るのか。どんな事が出来るのか。アレは、これは、こんな事は出来ないか? これなら出来るだろう、と。
 それは、彼がいろいろな事をためしていた中での成功の一つだ。
 攻撃を加え、相手にダメージを与える直前にそれを止める。『終わらせない』ことによって。
 止まらせた攻撃は、ダメージのみが始まっていない。故に、彼がソレを解除すれば、対象はその瞬間傷つき、倒れる。
 元々は好奇心で始め、次第に悪戯の為に蓄積していたのだ。バレないように威力の小さい攻撃ばかりをしていたので、ダメージ自体は小さかった。
 だが、相手の動きを止めるには十分な『量』だ。
 そして、神奈子が地に膝をつけている間に、彼は神奈子に近づく。

 彼は腕を振り上げた。
 諏訪子同様、命を奪うため。



 神奈子の顔は、血に染まった。





 ハジの、血によって。











「なに……?」

 一体、ハジは何をしているのだろう。
 ハジにお腹を貫かれた後、私は倒れ、気を失っていた。
 だが、神奈子の叫び声で目を覚まし、声のした方向を向けば神奈子は傷つき、膝を着いていた。
 ハジは神奈子を傷つけ、今にも止めを刺そうとしている。
 咄嗟に霊弾を放と、まるで枯れ葉でも貫く様に、簡単に彼の体を貫通してしまった。

「……。生きていた、のか?」

 ハジがゆっくりと此方へ振り向き、私の目を見据える。
 私もゆっくりと立ち上がり、彼の目を見据える。相変わらず吸いこまれそうな黒い瞳で此方を見ていたが、その目には、珍しく困惑の色が広がっていた。

「そう、だね。ちょっと痛いけど。そっちこそ、お腹に穴が空いてるよ」
「……ちょっと、か。殺す気でやったんだが。まあ、私の体に、もはや意味はないさ」

 非常に残念そうな声でそんなことを言ってきた。
 本気だったのか。
 笑いながら私の腹を貫いたのも、殺し損ねたと残念そうに言うのも、全部、本心なのか。
 神奈子も、傷自体は酷くないようで立ちあがり此方を見ていた。
 心配そうな目で此方を見ていたが、軽く微笑んで大丈夫だと伝える。まったく、相変わらず優しい奴。

「ねえ、ハジ。それ、本気で言ってる?」
「当たり前だ。私は妖怪だから妖怪の味方なんだ。
お前達みたいに強い神を残すと後が怖いからな。私が殺す」
「……本当に、本気、なんだ……」

 彼に嘘を吐いている様子は無い。もう、何万年も生きているんだ。嘘を吐いているかどうかくらい、分かる。といっても、ハジが嘘を吐いたところを見た事が無いが。
 だとしたら、なおさらおかしい。
 先ほどよりはしっかりとした足取りで、彼に近づく。
 神奈子は私の名を呼び、駆け寄ってこようとしていたが手で制す。
 一応止まったものの、無理をするんじゃないと言って来る辺り心配性な奴だ。
 本当に、大丈夫なのに。
 まったくもって、『問題が無い』。

「本当に本気だっていうのなら、私の首を撥ねてみてよ」
「諏訪子っ!? 何を」
「神奈子、大丈夫だよ。ほら、見てよ、これ」

 そう言って、私は神奈子とハジに服を捲り、傷を見せる。
 確かに私の腹は突き刺され、血が流れていた。そう、『いた』だ。既に、血は止まってきている。
 私の、神特有の回復力もあるだろうが、本当に致命傷ならばこんな簡単に回復はしない。
 綺麗な攻撃だった。一切の無駄も無く、きっと、治った後は痕も残らないだろう。そんな、攻撃だった。
 決して、殺そうと思う相手にする攻撃ではない。

「ほら、これ。綺麗な攻撃だね。本当に、本気だったのかい」
「確かに浅い、な」
「諏訪子、これは」
「そうだね、神奈子。多分、無意識に避けちゃったんじゃないかな。致命傷」
「そんなつもりは、無かったんだが」
「じゃあなんでお腹を狙ったの? ハジなら、頭を潰すくらいはしそうな気もするけどね」
「……ああ、それも、そうか」

 本気だったようだ。本気で、私たちを殺そうとしていた。だが、失敗に終わっている。
 他の何者でもない、ハジ自身のせいで。

「そうか、頭を……。盲点だった。まさか、私が失敗するとは。いや、失敗なんて今さらか。
ああ……今からやろうにも、間に合わん」
「分かっていたら、食らわないけどね……。ねえ、どうしてこんなことを?」
「!……ハジ、お前の体……」
「限界が来たから、あとは消えるだけさ。
理由を聞かれれば……私がやらなければと思ったし、お前たちは好きな方だったから、私が消える前に殺しておこうと思った。悪いな。
……まさか、殺せないとは思わなかった。歳がいも無く焦って、甘くなってしまったのかもしれない」

 ハジの、体が透けてきている。これが、彼の言っていた寿命だろうか。相変わらず、変わった妖怪だ。
 好きだからから殺すって、いったいどんな考えなんだか。妖怪は大好きで、妖怪の死はことごとく嫌う癖に。
 やっぱり、変わっていると思う。普通なら、嫌いだから殺すとかじゃないのかね。
 神奈子は戸惑いながらも、ハジがもうすぐ消えそうな事は感じとったようだ。

「神奈子、ハジは、寿命が来たみたいだよ。最後にこんな事をしでかしたけど……何か贈る言葉はあるかい?」

 私はもう決まっている。

「そうか……寿命、か。最後に我達を殺そうとした奴だからな。少し、厳しく行くか」
「うんうん、私もそう思っていた所だよ」

 どうやら神奈子も同じ思いだったらしい。
 こんな、悪さをするような妖怪にはお仕置きが必要だ。
 もうすぐ消えちゃうから、大したことは出来ないけれど、それでも、出来る限りの事はしようと思う。
 こんな、最後まで良く分からない妖怪だったけど、それでも、私は友だと思っているから。
 多分、神奈子もそう思っているのではないだろうか。
 友の最期なんだ。悪戯好きな子供の悪戯くらい、笑って流してやろう。

「じゃあ、我からは……化けて出てきたら、御柱で追い払ってやる。 その後は説教をしてやるからな。精々、安らかに眠るがいい」
「私からも、同じかな。今まで人間を襲わなかったのも事実だから、説教まではしないけどね。
でも、今度悪さしたら私が祟ってやるからね。 ゆっくり、眠りな」
「神奈子、諏訪子。やっぱりお前らは、変な神だ。殺そうとした相手を見逃すなんて」
「友の最期だからな。我は子供の悪戯程度、訳ないさ」
「そうだよ。何万年も付き合ってきた最後が睨み合いだなんて、悲しいじゃないか」

 そう。もう数え切れないほどの年月を過ごしてきたし、それの最後なら、お互い笑って終わりにしたい。
 私は、ハジは友達は殺さないって信じているし、結果の話だが、私も神奈子も、後に残るような怪我も無かった。
 この程度の怪我なら、ハジとの暇つぶしの戦いよりも軽いほどだ。私だって、ハジの全身の骨を砕いたことくらいは何度かある。

「ああ。結局、何一つ成功しなかったか。まったく、情けない話だ」
「私たちを殺す事かい?」
「それもあるが……他にも私がやっていたことがあって、それも失敗した。

まあ、時間も無い。じゃあな。 今まで、割と楽しかった」
「おや、行くのか。仲間には、別れの言葉は済ませたのかい?」
「ああ。軽くだが、伝えたさ。
私は私の好きな場所で消える。きっと、幸せなことだろうよ」
「そうだね。 じゃあ、死んでも迷惑かけるんじゃないよ」
「分かった。 じゃあ、死んだらいつかお前たちを殺しに来るから」

 そう言って、彼は歩いて出て行った。
 しばらく見送り、姿が見えなくなった後、空間に切れ目が入り中から妖怪が二人出て来た。
 ハジの娘と、確か……誰だ?

「ハジの娘か。まさか、お前も我達を殺しに来たのか?」
「え? いや……って、ハジは!? ハジは此処にいる!?」
「紫、落ち着きなさいよ……。……ねえ貴女達。まさか、ハジを殺したんじゃないでしょうね?
だとしたら……ただでは死なせないわ。生きたまま体中に種を植え付け、お花の養分にしてあげる。
肉という肉に根を張り巡らせ、永遠の苦痛を味あわせてあげるわ」

 思い出した。昔、一度だけ見た事がある。
 確か、ハジの娘の友達だったはず。そうか、彼女達はハジを探して此処まで来たのか。
 だが、入れ違いになってしまったようだ。たった今、彼は出て行った。好きな場所へ行くと。
 その事を伝えると、彼女達はすぐさま切れ目を作り、飛びこんでいった。
 まったく、なんと血気盛んな連中だろうか。あんなに妖力をまき散らして。
 あれで私たちの半分も生きていないのだから、末恐ろしい子供と感心するしかない。

 それと……。ハジ、嘘吐いたな。今まで気が付かなかっただけかもしれないが、今回は初めて嘘を吐いたと言う事が分かる。
 全然、別れを済ませてないじゃないか。自分の娘ともちゃんと話し合わないだなんて……駄目な親である。全く。
 まあ、親の死に納得する子なんていないだろうが。
 泣いてたよ、ハジ。君の娘は、目に涙をためながらも、君を探していた。
 ちゃんと、会って話をしてあげなきゃいけないだろう?
 そんなでは親としては失格だ。

「あの子達、泣いてたね」
「ああ、そうだな。まったく……笑って、とまでは言わないが、せめて涙は流させないようにしないと。
いつまでたっても、鈍感な奴だ」
「本当に」

 不器用な奴。
 そんな事を思いながら、私たちはその場に座り、外を見上げた。
 外には、立派な月が昇っていた。












「着いた、と。次はどうする」

 少年は湖の畔に仰向けになって倒れ、空へと一人呟く
 彼の体の半分以上は透けている。一度でも終わりが始まれば、それを止める術は、彼にはない。
 大人しく、全てが終わるのを待つのみだ。

「そうだなあ」

 そうして彼が空を見上げていると、彼の下へ足音が近づいてきた。紫と、ユウカである。

 彼女達は聞いた。ハジは既に、寿命が来ていると。彼の能力によりまだ動いているが、いつ消えてもおかしくは無いと。
 それをソラナキから聞いた後、彼女達はすぐさまハジを探しに向かった。彼が行きそうな場所を探し回り、傷の癒せそうな場所を探した。
 だが、結局見つからず、まさかと思う。彼の目的は神の抹殺であり、諏訪子と神奈子は自分が倒すと明言していた。
 あの怪我のまま行ったのではと、もはや確信とも言うべき勘が二人に働き、一直線に神社へと向かった。

 あとは、先ほどの通りだ。
 二人はハジを見つけ、ホッとした様子で胸を撫で下ろしていたのであった。
 だが、彼の様子に気が付くと今度は焦りだす。ハジの体は半分以上透けているのだから。
 ハジはそんな二人に気が付き、上半身を起して声をかける。自分の体の事など全く気にした様子の無い、いつものハジであった。

「紫に、ユウカじゃないか。どうした? 何か、あったのか?
私には何もないからな。ただ、此処で眠るだけだから、早く何処かへ行くがいい」
「ええ……。すぐに、終わってしまうわね。聞いたわよ。ソラナキから」
「まったく。残された側にもなって欲しいわ。アンタ、どういうつもりよ」
「……。聞いたのか」
「そうね。全部聞いた」
「……全部、か」

 それを聞き彼は立ちあがり、紫とユウカ、彼女達の顔を覗き込むようにして見る。
 紫も、ユウカも、ハジより少し大きかった。

「お前たちに言うべき言葉は、見つからない。残念だが」
「なによ、それ。私は、いっぱい言いたい事があるっていうのに」
「すまんな。もうすぐ消えるから、それは聞けそうにない」

 くつくつと、ハジは笑いながらそんなことを言う。
 彼女達の心情がどんな物かも知らずに。もしかしたら、知りながらの行動なのかもしれないが。
 彼は続ける。

「私は消えてなくなるけど、ただ、大地に還るだけだからな。
私の代わりに、新しい命がどこかで生まれるのさ。きっと、受け継がれる物もある」
「……? ハジは、生まれ変わるの? それなら」

 それなら、まだ一緒に居られるのか?
 存在を生まれ変わらせるのは、彼の十八番である。
 だからこそ希望を見つけ、紫はそう聞こうと思い口を開いたが、それよりも早くハジは返した。

「ふふっ……そんな訳、ないじゃないか。自然に逆らい、無理やり延命したんだ。
大地はそれを認めないだろうから、そんな事が起こるはずがない。
あったとしても……私ではない別の私だからな。仕方がない」
「……」
「ああでも、お前たちが来てくれて、少し嬉しかった。なんだか、急に少し怖くなったからな。消えるのが」
「なら……なんで一人になんかなろうとしたのよ。ちゃんと、皆の所で……」
「私は一人じゃないから、寂しくないと思ったのさ。まあ、結局怖くなってしまったんだが」
「一人じゃ、ない?」
「……ああ、現に、お前たちが此処に居るだろ? 私は何時も、仲間と共にいるからな」

 もう、彼の体は殆どが透け、消えかかっている。
 残された時間はほんのわずか。
 それでも彼女は会話を続ける。少しでも、引き留めたくて。
 ユウカは、親子の会話をひっそりと見守っていた。
 これが、紫にとって親子最後の会話なのだから、親友である自分は見守っていないければならない、そう思っていた。

「もう、消えてしまうのね」
「そうだな。私が消えても、あまり気にするなよ。
お前は強い子だから、私が居なくても大丈夫だ。それに、仲間だって、友達だっているだろう? 大切にしろよ」
「うん」

 彼の体が、輪郭を失っていく。

「最後に、皆に伝えておいてくれ。『大好きだ』って。死んでも、それは変わらないって」
「わかったわ」

 消えた部分は光となり、彼の腕も、足も、体も消え、光の粒子へと変換される。

「じゃあ、限界だから」
「……うん」

 とうとう、彼の全てはうっすらとしか見えなくなってしまった。

「ああ、ユウカも、じゃあな。元気でいろよ」
「ええ、そうね」

 そして、彼は完全に見えなくなる。

「……っ! ハジ!」

 最後に、紫は叫んだ。彼の名を、強く叫んだ。
 しかし、その声に反応する者は居なかった。もう、彼は消えたのだから。
 彼の体は光となって空に浮かび広がって行き、彼女は地面に膝を突いて、彼の消えた場所に手を伸ばしていた。
 彼女達の遥か上空で、月は雲に隠れていた。
 光は、何処か遠くへと消えて行き、ハジは完全に消えてしまった。
 紫が一人前と認められた、丁度一ヶ月後の事であった。
 少女の心は……どうなったのだろうか。








「ねえ、ユウカ」
「なに?」
「初めて知ったわ。
涙って、本当に悲しい時は出てこないのね」
「……。違うと、思うけどね」
「そうかしら。だって、こんなにも悲しいのに、涙がでないのよ」
「私だって、悲しいけど」
「そうなの? なら、一緒ね」
「……ねえ、紫」
「何よユウ」
「今は、私しか見ていない。胸を貸してあげるから、泣きなさい。
あまり、溜めこんじゃダメよ。友達を、あまり心配させないで頂戴」
「ユウ、カ……う、うあぅ……」



 湖の畔で、誰かの泣き声が響き渡った。
 月の光が差し、キラキラと湖に反射していた。
 それはまるで、光が少女を包んでいるかのようであった。











ここに原始の時代の終わりを告げる。

第一章 原始編【完】















――――――――――――

あとがき

取りあえず詰め込み過ぎた感が。
でも一部完です。やっと主人公を消滅させる事ができました。
復活するのか、しないのか。それは皆さまのご想像にお任せします。案外ばれてると思いますが。

次に進めるか閑話作って時跳んだ場所を補完するか。どっちにしようかな。ポケモンも新作でるし。
ポケモンでSSネタも出来てきた。これ終わって時間があったら書いてみたい。


感想返し

マッカさまへ
おお、可愛いだって? やったz……え?あの部分がですか?
流石に吃驚ですよ。でも感謝。


やま助さまへ
文句言われちゃいますね。

ハジはお爺ちゃんよりもお子様的存在がお似合いです。偉そうにしていますし。
つまり自分勝手。結局こんな感じに。


アッガイさまへ
それもいいかも知れませんね。
でも今までの勢いでそれやるといつの間にか22世紀とか行っちゃいそうな気がします。


感想ありがとうございました。



[21061] 原始編 閑話 16.5話
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/23 12:55
「……、……かり」
「う、ん……」
「はぁ……。ほら、何寝ぼけてるの。あんたも、お寝坊さんねぇ」
「あれ、私……寝てた?」
「ええ。それはもう、ね。いい夢は見れたかしら?」
「良い夢かどうかは分からないけど、懐かしい夢は見たわね」
「懐かしい夢?」
「そう、懐かしい夢。私の大切な思い出。ほら、あの時――――――」







 辺りを見渡せば広大な青い空が広がり、そこでは雲一つなく、日の光を一身に浴びる事が出来る。
 そんな場所に、彼はいた。

 彼は少年と言ってもいい見た目ではあるが、種族は妖怪であり見た目と実年齢が釣り合わない。実際はかなりの年月を生きている。
 ついでに言えば子持ちであり、本人は歳相応な落ち着きを心がけているようだ。あまり、変化は無いのだが。
 彼は空をふよふよと漂いながら、これからの事を考える。自分の子である紫の、これからの事を。


 彼女、紫は大きな力を持っていた。生まれた当初から、その身から力が溢れ出ており、辺りの妖怪や獣達へ要らぬ警戒心を与えた物だ。
 そんな彼女に、彼は大きな期待をしていた。これなら、自分を越えるのも早いのではないか、と。
 だが、そんな思いに反して彼女は弱かった。
 単純に持っている力の強さ弱さではない。彼女は自らの力をまったく扱えなかったのだ。
 力を扱う術を持たぬ者は、弱い。いくら力が強かろうと、使い方を知らなければ無いも同然。
 ただ自分の力に呑まれ、自滅するだけだ。

 彼はその事を知り落胆はしたが、それでも直ぐに立ち直り彼女を鍛えることにした。
 強くさせるため。なにより、自分の身は自分で守らせるため。
 力を求める者共にとって、力『のみ』が大きな者は恰好の餌食なのである。
 彼はまだ見ぬ未来を夢想する。
 未来はどうなるか分からないから、何があっても大丈夫なようにしておこうと。
 たとえ、自分が居なくなっても。


 現在彼は空を飛び、紫に飛行訓練をさせていた。
 本来、飛行とは翼を持たぬ者達にとって必要のない物だ。彼らは地を駆け移動し行動する。
 それでも空を飛ぼうとした者は居たし、現に羽を持たぬ妖怪であるハジも空を飛んでいる。
 決して特別な能力が必要というわけではないので、飛ぶ事自体は誰にでも出来るのだが。
 その分、ある程度の技術が必要なので、そこまでの技術を身につけるよりは地上を駆けていた方が楽なのだ。
 それに、力の消費も決して小さい物でも無かった。

 では何故、彼は紫に飛行の術を身につけさせるのか。
 その答えは、飛行をするための『技術』にある。飛行とは、純粋に技術の塊だ。決して異能や能力ではない。
 鳥が飛べるのは、翼があるからではない。飛び方を知っているから、翼を使い、空を飛べるのだ。
 鳥も、翼を持つ妖怪も、飛び方がその遺伝子に組み込まれているから飛ぶ事ができる。

 では、翼を持たぬ者達はどうするのか。
 それは、ただ知ればいい。翼を使わぬ、その飛び方を。
 力を操作し、方向性を生み出し浮かび、飛ぶ。
 そう。これは、自らの持つ力を緻密に操作することによって実現する事が出来るひとつの幻想。
 ハジは紫に『力の操作』を身につけさせたかったのだ。
 その為に、飛行を覚えさせるのは手っ取り早く、かつ目に見えて成果が出るので分かりやすかった。
 そんな訳で、彼は紫に飛行訓練をさせていた。


 彼は先ほどからずっと空を飛んでいる。というよりも浮いている。
 移動もしなければ、身じろぎもしない。水の中に漂うように、全身の力を抜きながら浮かんでいた。
 しかし、そこに紫の姿は無く、だが確かに彼は紫に飛行訓練をさせていた。
 いったいどうやって訓練させていると言うのか。それは、彼の下方を見れば分かるだろう。
 そこでは、一人の少女が空を飛んでいた。否、落下していた。


 紫は空を飛びながら、正確には落ちながらこれからの事を思う。
 はたして自分は無事でいられるのか。本当に、こんなんでハジの誇れる存在になれるのか、と。自分が輝ける場所はきっと別にある! 等など。
 そうして彼女は本日何度目かの現実逃避を行いながらも、地面へと真っ逆さまに落ちる。
 そして地面に直撃する寸前、彼女の身はまたしてもハジの真下へと転移され、すぐさま重力に引かれ落ちてゆく。
 訓練を始めて、数十回目の光景であった。
 彼女は数時間落下し続けていた。








 日も暮れ始め、その日の訓練が終わり彼女はよろよろと地上を歩く。
 訓練を終えた後は、彼女の自由だ。ゆっくり休むもよし、遊ぶもよし、力を試すもよし。
 ……と言っても、疲れきっている彼女に休む以外の選択肢を選べた試しが無く、今日も彼女は草原の上に寝っ転がり、大地の感触を噛みしめながら休む。

 ハジは、そんな紫を置いて何処かへ行ってしまった。彼はたまに、彼女を置いてふらりと消える。
 何をしているのか紫は知らなかったが、次の日には戻るので特に気にしない事にしていた。
 なんせ、彼の行動範囲はとてつもなく広く、いちいち気にしているとキリが無いのだから。

 今日も今日とて紫は休む。
 ここ最近は訓練、休息の二つしかしておらず、知り合いとは戦闘訓練の日以外には合う事がない。
 会話相手と言えばハジのみ。同年代の知り合いなんて者はなく、友人と言える者もおらず、唯一遊ぶとしたら、近寄ってくる妖精のみだ。
 精神年齢の低い妖精達と遊ぶのは紫にしてみればなんとも言えぬ感覚であったが、訓練疲れの心は妖精達の明るさによって癒されていた。
 なぜか、妖精によく好かれる彼女であった。


 ハジは何処かへ行き、紫は一人で休む。今日は妖精が寄ってくる気配も無く、彼女がゆっくりとしていた時のことだ。
 そこに、近づいてくる者がいた。

 森の恐怖の象徴、ユレイである。

 紫は何者かの接近に気が付くと慌てて起き上がり、警戒を始める。
 なんせ、彼女は大きな力を辺りに漂わせ、その鋭い眼光を妖しく光らせながら近づいているのだから。
 ユレイは辺りを見渡し、何かを探すような様子を見せながら、起き上ったばかりの紫に目を合わせる。
 ゆったりと、それでいて強者特有の威圧感を放ちながら、つかつかと近づき、そして。
 とうとう、手の届く範囲まで寄って来た。
 ユレイはにっこりと笑いながら、眼だけは外さずにこう言った。

「貴女、ハジの子よね?」

 紫とユウカの、出会いのきっかけであった。










「貴女、ハジの子よね?」

 一応尋ねてはみたが、ほぼ確定だろう。
 何やら昼間から木が騒がしいと思えばハジが近くに居たらしく、空から降りて来たようで私にそっと教えてくれた。
 その時に、金髪の子も一緒に居て、その子が娘らしいとも聞いていた。
 どうも、ずっと空中に居たらしく、やっと降りて来たので教えてくれたらしい。
 なぜすぐに教えてくれなかったのだろうか。一応、私も空を飛べるのだが。

 それは兎も角、目の前の子供を見やる。
 この辺りでは珍しい金髪に、金色の瞳。ハジとは似ても似つかぬ風貌である。
 加えて言えば気弱そうでもあり、そのか細い首は私が締めればすぐにでも折れてしまいそうなほど。
 とてもではないが、ハジの直接の娘とは思えない。これなら、あのアマツの方がよっぽど息子らしい。
 それでも力は強く、ハジによく似た力の波動が此方にヒシヒシと伝わってきている。逆にいえば、抑えられていないとも言えるのだが。
 飛行ができず、数時間も空から落とされ続けるという虐待まがいな行為を受けていたらしく、力の制御が上手くは無いようだ。

「そうですが、何か用かしら?」
「ええ、ちょっとね」

 綺麗な声だ。よく澄んでいる。
 此方を警戒しているようだが、まっすぐと此方を見据え、見た目素直な性格のようだ。
 いつでもその場から跳び出す準備もしているあたり、強かな面も持ち合わせているらしい。
 だが私は争いに来たのではないのだから、警戒は解いて欲しいと思う。
 娘と同い年くらいの子供にこうも警戒されると、少し傷つく。
 ならばこちらは目線を合わせ、しっかりと相手の目を見据えて警戒心を薄めよう。
 まっすぐな気持ちは相手へ届くはずだ。きっと、私が危害を加えないことをきちんと理解してくれる事だろう。

 少し屈み目線の高さを合わせ、にっこりと笑みを浮かべる。

「ハジに会いに来たのよ。だけど、居ないでしょう? だから貴女と話しでもと思ってね。
 ふふっ……なかなか戻りそうにもないし……ゆっくり、話しをしましょう?」
「っ……」

 あら?
 何故か、後ずさりをされた。
 とは言っても一目では分からないような、小さな後ずさりではあるが。
 しかし、気のせいか先ほどより、警戒心も高まっている気がする。なぜだろうか?
 理由は分からないが、そういう性格なのだろうか。だが、心を込めればちゃんと伝わる。
 間合いを一歩詰め、もう一度語りかける。

「あら、どうしたのかしら。怖がらなくたって良いのよ?」
「くぅ……そう簡単に、やられないわよ!」
「あら」

 驚いた。
 怖がらせるつもりは無かったが、どうやら怖い思いをさせてしまったらしい。
 ユウカちゃんには綺麗な笑顔と褒められたけど、どうやらこの子には逆効果だったようだ。
 飛んできた光弾を往なし、弾く。突然の攻撃に驚きはしたが、反応出来ない物ではない。
 だが、この歳にして光弾を打ち出せるとは。流石、ハジの娘と言った所だろうか。
 感心していると、目の前の子は悔しそうな眼で此方を睨んでいた。そして、完全に撤退の体制に入っている。
 私が隙を見せれば、すぐにでも駆けだすだろう。
 逃げられるのは悲しいし、もっとおしゃべりをしたいのだが。
 ちょっと、捕まえてしまうか。少しくらいなら、大丈夫だと思う。

「そんなに怖がらなくていいの。ちょっと、失礼するわね。逃げられるのも悲しいし」
「え? っきゃ! な、何をするのよっ!」

 草を操り、足へと巻きつけ動きを封じる。
 これで、ゆっくりとお話が出来る。
 ユウカちゃんはもう寝ちゃったし、ハジも居ない今、話し相手が居ないのだ。
 もうちょっと会話を楽しみたい。会話は、出来ていないが。

「何もしないわ。 貴女が何もしない限りは、ね。
安心なさい。とって食べたりはしないから」
「誰がそんなことを信」
「あっ! そうそう、自己紹介を忘れていたわ。私はユレイって言うのよ」
「……ユレイ?」
「そう。よろしくね?」

 私とした事が、すっかり自己紹介を忘れていた。
 知らない者が近寄ってきたら警戒をするのも当たり前だろう。やはり、自己紹介は大事である。
 その証拠に、彼女は私の名前を聞くと警戒を緩めた。
 やはり、きちんと目を見て話せばちゃんと伝わるものだ。

「ユレイって、あの植物使いのユレイでいいのかしら? 草も操っていたみたいだし……」
「ハジから聞いたの? それで合っていると思うわ。
 そうそう、貴女の名前は何かしら?」
「……紫よ。……よろしく、お願いしますわ」

 ユカリ。紫ちゃん、か。何処となくユウカちゃんと似ている響き。
 今度、会わせてみよう。お友達になってくれば私としても幸いである。

「ええ。こちらこそ、よろしくね」

 そうして私たちはほどほどに会話をし、紫ちゃんの緊張も解けて来たようである。
 そろそろ戻ろうかとした時、どうやらハジが戻ってきたようだ。
 空を飛んで戻ってきたハジは此方に気が付くと、軽く手を振って挨拶をしてきたので私も返す。
 そして紫ちゃんの隣へと着地し、話しかけて来た。

「ユレイか。この辺りに居ると思って探していたんだが……此処に居たか」
「あら、私も貴方に会いに来たのよ? すれ違いになったようね」
「そうか。まあ、細かい事は別に良いが。紫とは話をしたんだろう?
 なら、私の用件は終わったな。一応会わせておこうと思ったのだ」
「あら、そうだったの」

 どうやら、お互い同じ用件だったようだ。
 私も、久々に会えそうだったのでユウカちゃんの事を伝えておこうと思ったのだが。
 紫ちゃんにも話したし、明日にもまた会えるだろう。
 もしかしたら紫ちゃんも一緒かもしれない。是非家の子と友達になって欲しいが、ちゃんとできるだろうか?
 ユウカちゃんは気難しい所があるから、少し心配ではある。だが、根はとても優しい子だ。
 私が言うのだから間違いない。とっても可愛くて、とっても優しくて、将来はかなりの美人になる。
 私の自慢の娘なのだから間違いない。

「どうやら同じ用件だったようね。私も、娘の事を伝えておこうと思ったのよ。
 近くに貴方が来ていたのを知ったから、先に連絡だけでも済ませようと思って」
「そうだったのか。なら、明日にでもまた会いに行く」
「そうね。それだったら、その子も連れてきなさい。いい? 絶対よ?」
「ああ、わかった。 いいよな、紫?」
「ええ。構わないわよ」

 話しも纏まり、キリもいいので別れる事にする。
 内心では紫ちゃんの頭を撫でてやりたいのを我慢しつつ、軽く手を振り別れを告げる。
 明日はユウカちゃんのハレ舞台である。気合いを入れて、ビシッとしなければ。
 といっても、私が出る幕はなさそうだが。
 友達とは、親が出張る物ではないだろう。私は祈るだけ。そういえば、私に友達と言える存在はどれだけいたか。
 まあ、どうか皆仲好くなりますように、と。










 ユレイさんと出会った翌日、私はハジに連れられ空を移動する。
 結局、昨日も空を飛ぶには至らなかった。ここしばらくは飛行訓練を重ねているが、成果らしい成果といえば落下速度を緩めたくらいか。
 浮遊にも至らぬ代物で、横で不思議そうな顔をしながら見てきた妖精に嫉妬してしまうところだった。
 最近の妖精はほとんどの者が飛べるのだ。

 今日は空を連れられているが、訓練は無い。代わりと言っては何だが、今日はユレイさんとその娘、ユウカと会う約束である。
 今までは出会う者全てが年上だったが、話しによるとユウカよりも私の方が若干年上らしい。
 その事に嬉しくなって詳しく聞いてみたのだが、十歳年上だと言われた。はたして、これは大きいのか小さいのか。
 ハジは万単位で生きているというし、それを基準に考えると存在しないも同然ではある……私からしたら、結構大きな数字なのだが。

 そんなこんなでユレイさんが暮らす森へとやってきた。
 ハジは迷うそぶりも見せずに、空から一直線に森の中心と思われる場所へと突き進む。
 場所は知っているのかと問えば、そこに居る気がするという、なんとも頼りになる返事が来てしまった。勘か。
 そのまま森の中心部へ着いたが、ユレイさん達は居なかったのでその場から捜索を開始。しばらく探していると向こうからやってきた。
 どうやら、来た事に気が付いて来てくれたようである。

 初めて会った時はとんでもなくヤバイ妖怪かと思っていたが、話してみれば案外優しい妖怪であった。
 最初は威圧から始まり、逃げようと思っても細かい動きまで感知され、絶体絶命かと思い攻撃までしてしまったが、申し訳ない事をしてしまった。
 まあ、簡単に弾かれて凹んだのだが。
 ユレイさんは目つきが怖いが、優しいのだ。
 ただし、天然で他人を脅す疑いがあるので油断は出来ず、本人に自覚なし。
 ハジからは油断をするとツタなどで絞められると聞いた。危ないのには変わりが無かったらしい。

 そんなユレイさんであるが、今回は一人ではない。
 その傍らにはユレイさんに良く似た少女……私と同じくらいの子が佇んでいる。
 ハジとユレイさんの会話が始まり、向こうは私を観察するような目で見てくるので、私も見極めるようにして見つめ返す。
 しばらくすると二人の会話が私たちの話題となり、視線が此方へと向いた。
 すると彼女は私から視線を外したのだが、私に声をかけるでもなくハジの下へと向かい、とんでもない事を言い放った。

「あなたが私のお父さん? お母さんから聞いたわ」
「ん?」
「あら」

 なん……だと?











 今日も日が暮れ、ハジに飛行訓練を手伝ってもらう時間も終わった。あとは、自分だけでの訓練だ。
 あの女と出会ってから一週間が経った。未だに、飛行は出来ない。
 高い所から落ちても減速がやっと。だが、地面からなら浮遊程度ならば出来るようにはなった。
 飛べる。もう少しで飛べるはずだ。
 感覚は大分掴んできており、あとは細かい制御さえ出来れば飛行は完璧なはずなのだ。
 これさえ出来れば能力の使用は兎も角とし、普段の妖力の制御は安定するとハジのお墨付きである。

 妖力さえ制御出来れば、あんな女に負けはしない。総量でも、質でも勝っている。
 絶対に負けてなる物か。期限はあと三日。それまでに、私は飛行を習得し妖力の操作を身に付けなければならない。
 悔しかった。相手は既に飛行が出来るのだ。私よりも年下のはずなのに、私よりも上手く妖力を操作している。
 しかし、それは確かに悔しかったが、それ以上に『あんなこと』を言われて平然としてはいられない。

『娘はこの私、ユウカよね? お母さんも居るし、私が娘よ』
『それに、あんたはお空も飛べないんでしょ? あんたはハジの子にふさわしくないわ』
『私の方が強いし、娘にふさわしいのよ!』

 今でも思い出すだけで腹が立ってくる。
 あの時はユレイさんがその場を収め、ハジは特に大きな反応は見せなかったが、あいつとは絶対に仲良くなれない。
 ハジもハジだ。なぜ、あそこで否定の言葉を出さなかったのか。
 なぜ、私がハジの娘に相応しくないと言われた時、何も言ってくれなかったのか。

 全てが悔しい。

 そんなことを言われた自分にも、言ったユウカにも、何も言わなかったハジにも、悔しさが先に出てくる。
 だから、私は見返してやるのだ。三日後、力の制御を完全に身に付け、あの女をコテンパンにする。
 そうして見せつけるのだ。私が、ハジの娘に相応しいと。

 今日も今日とて飛行訓練に明け暮れる。時間も忘れ、夜は明け日は暮れ太陽は沈み、また昇る。
 そうして約束の日の前日。
 とうとう身に付けた。空を飛ぶ技術を。

 約束の日には、一騎打ちの真剣勝負。
 命までは取らないが、私の力を見せつけてやる。
 もう私は迷わない。他の誰でもない、私がハジの娘なのだから。
 これだけは、他の誰にも譲る事は無い。絶対に。











「あの時は、必死だったわ。あんな事言われたの、初めてだもの」
「そうねぇ……そんなこと、言ってたっけ、私」
「言ってたわ。まあ、そのお蔭で私も強くなれたんだけど」
「思いだした。確かあの後、ハジに『お前は娘ではない。子はたった一人だけだ』なんて言われちゃったっけ」
「そうそう。でも、ハジは妖怪全員が好きだから、子供みたいには思ってたんでしょうね」
「懐かしいわねえ……」
「そうねぇ。まさか、こうして思い出を語り合う仲になるだなんて、思ってもみなかったわ」
「私も。あんたが此処まで強くなるとは思ってもみなかったわ。 あんたは立派に、誇られる存在になったわね」
「何よ、もう。照れくさい。 貴女には似合わないわよ、そんな台詞」
「分かってるわよ……。でも、やっと一人前に認められたんじゃない。
 その、私だって……嬉しいわ」
「……ありがと」
「……別に」














――――――――――――

あとがき
引っ越し準備が始まり、なかなか忙しくなってまいりました。
ネット環境が整うまでしばらく時間がかかりそうです。
準備だけで連休潰れてしまいました。ダメだこりゃ。

あとポケモンが熱いです。すれ違い人数が電車乗るだけで跳ね上がります。




感想返し

>次の展開、主人公は?
そんなすぐには原作の時間軸には飛びません。
主人公も新規のオリキャラを出します。
ネタバレにならない程度に言うとこんな感じ。
他のキャラがどうなっているのかも、書いていこうと思ってます。




[21061] 誰得用語集&人物紹介【ネタ】 それなりに更新
Name: or2◆d6e79b3b ID:45d7fd94
Date: 2010/09/23 12:57
ここには作中で出てきた登場人物、設定などをだらだら綴る、なんかネタばれとかがありそうな予感がしないでもないページです。
でも基本的には作中で語られたことを書きます。そんな予定です。

でも此処にある設定は何の得にもならないし、これを見て理解出来ることなんてほんの2%もない。
ですから、本編を見てくれると私は嬉しいです。












用語解説

妖怪
なんか人の怖いよー怖いよーアレよく分からないけど怖いよーって気持ちから生まれました。
んで、そこからどんどん繁殖して増えていきます。
だんだん勢力も強まりますが、その内打ち止めが来ます。
とどのつまりは何事にも限界があるということ。


化獣
一瞬にして出番が消えていく存在。
発動しても誰にも気がつかれない罠カードくらいの存在。
屋根裏で暮らしていてもいいくらい。ただのでっかい獣。


霊力
よく使われる『力』とはこのこと。これが多いと
うかつには手が出せなくなる。しっぺがえしはかな
り怖い。実は霊力と言ってもいろいろ種類があります
よ。と言うわけで、そこら辺の詳しいことは作中で書
くことにします。もう左に書いてある?なんのことやら。


神力
ゴリ押し可能な厨性能を持つ力。マジパネェ
ッスと言っても構いません。その場合、ヘ
ドロばくだんを作者に当てよう。そうすると
パネェ感じで神力を押し押しで、英雄殺しの
ワールドなんちゃらレベルの力を発揮してつえ
ー状態します。神つえー。


妖獣
特に言うことはありますん。
別に言うことはありますん。
なにも言うことありますん。
獣だからって舐めてはいけない。それだけ。
だからどうしたって感じですけど。
よくて九尾レベル。強い?そうですか。






人物紹介

主人公
種族:妖怪

備考
名前はここでは明かせません。なぜなら、この話は原作の
前から開始され、名前は大きな意味合いを持っているからです。嘘です。
はじめて生まれた妖怪。ただそれだけ。
ハジメテの妖怪だからって何か特別なの?と思ったあなた。別に?って感じです。あとハジメテって書くとえっちぃ気がする。
ジマンじゃありませんがただ強いだけの妖怪です。基本スペックが高いよ。能力は日々成長中。


狼娘
種族:化獣→妖怪

備考
森の奥深くに生息する狼。もしくは犬。最初はいじめられっこだった。
その理知的な性格は、弱い相手にすら慎重になるほど。
でもって、自分が強くなると高圧的な態度を取り始める。
なんて女だって思うかもしれませんが、許してあげてください。
今は名を知らぬ者は居ないというほどの妖怪となったのです。
少し前は弱虫だったけど、今では強気でクールなお姉さん。


姉御肌な方
種族:化獣→妖怪

備考
ツノを持ったナイスバディのねーちゃん。
キンパツになればとある四天王に似ている気がしないでもない妖怪。
だけど、直接的なつながりはありますん。
よっぽど他人の空似なのでしょう。多分。いや、鬼っぽいけどね。


恥ずかしがり屋
種族:化獣→妖怪

備考
あの日あの時あの場所で、彼は赤ん坊のころに運命と出会う。
まあ、主人公のことなんですけど。
つまり、彼は主人公と出会い大きくなりましたとさ、というお話。
でも作中では語られてはいない。
すこしだけ、扱いのかわいそうな子。でも作者は気に入ってるよ。扱いづらいけど。


ロリとかカエル様とか言われてる
種族:神

備考
すぐさま一人称を勝ち取ったすごい人。
わかる人にはわかる感じで名前を隠しながら出しました。
これからもちょくちょく出るでしょう。
さなえー!って叫びそうな気もしないけど、まだ早い。
まったりと待ちましょう。早苗さんをディスってる訳じゃありません。


キャノ子とか言われてるけど凄い御方
種族:神

備考
神様ですから。とても強いです。
なんでも、たった一人で国を落としたとか。
子供好きな面があるので、いつも一緒のカエルさんと仲良し。
さなえー!って此方も叫びそうですが、まだ早い
まったりと待ちましょう。まったりと。


兎さん
種族:妖怪

備考
てめぇ!!!!!よくも俺たちを騙しやがったな!!!!!!!
ゐやあああ!!!!!助けてええええ!!!!!
って感じで襲われていました!!!!!!!!多分。
!とか使い過ぎな気もしますが、気にしない方向で。


雪国生れの妖精さん
種族:妖精

備考
ちょっぴり気弱だけど、がんばり屋さんな女の子。
来る日も来る日も、おっかなびっくり主人公の後ろをついて行きました。
それのせいか、主人公のバカっぽいオーラに当てられて彼女もなんだか雲行きが怪しく。
初登場は十二話中盤。
けっして⑨とは言ってはいけませんよ?


厨二的夜王
種族:純正妖怪

備考
その厨二的設定はとどまることを知らない。小さいときはそうでもなかったが、
のら妖怪だった彼女はいつの間にか妖怪を引き連れていました。
名前などはただの飾り。だから人々に呼ばれた名前がカッコよかったから昔の名前
はもうきにしない。そんなカッコイイ名前が好きなお方。闇のお姉さんと言えば
ルンルンだよね?皆さんもそう思いますよね?え?知らない?そんなばかな。まほ
ーじんですよ!?ぐるんぐるんですよ!?ご存じない。そうですか。
ミケは真の勇者。
ア、ミケじゃない。○ケだ。え?聞こえない。ニ○です。


痴女
種族:妖怪

備考
ゆかりんと名前が似ている妖怪?違う、それは人違いだ。
レイプはいけないよ。絶対にダメ。少年を襲いそうになったりと
いい感じに壊れていた人。別案が思いつかなかったら襲っていたけ
ど、美女に襲われてる少年とか……羨まs……。ええーい、歪んでい
るぞ!妄想の中にそれは収めておくのだ!


主人公の娘
種族:妖怪

備考
何かから生まれた。
すっごく強いよ。
縦読み?ありません。
斜め読み?そんなのもありません。
毎回考えるのは大変なんだ。


痴女の娘
種族:妖怪

ゆかりんみたいな名前の人。いや、妖怪ですけど。
うれし恥ずかしな過去を持つドSな少女。一節によるとド親切の略とも言われている。
かの有名なUSCとは似て非なる別人なのだろうか。



謎のスキマ
種族:?

備考
ゆっくりと、だが確実に、ソレは近づく。(出番)
かなしくも、美しいその出会いと別れ。
りりしくも儚い印象を与えてくれるでしょう。いや、嘘なんですけどね。まだ出てないし。
んんっ!? 本編に登場しているっぽいぞ! ※一体誰だ!?要チェックだ!








年表

むかーしむかしにいろいろありました。 かーなーり前

人類が生まれました。 すっごく前

人類が恐怖を形としました。 20万年前

妖怪が生まれました。 19万年前

妖怪が増えたら神様生まれたよ。 18万年前

神様増えたら妖怪と戦ったよ。 16万年前

なんか主人公が大人の階段を昇りそう。 十数~数万年前

妖怪が大分纏まってきた。ゆかりんの時代ktkr  数万年前 

主人公のハジさん\(^o^)/ 数万年前、↑よりは後 ← いまここ


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