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[2281] 鬼畜召喚師ランス第四部
Name: Shinji
Date: 2006/05/22 05:19
●はじめに●
このSSは続き物で、4部作目になります。
初めて読もうとしてくださる方は、
本家の何処かにある1部~3部を是非先に読んでください。


=鬼畜召喚師ランス第四部=


プロローグ:セラフ


――――カテドラル、最上階。

神を迎えるという"屋上"の手前の大広間に、4体の天使が集まっていた。

ただの天使では無く、カテドラルの"メシア側全ての戦力"を纏める悪魔達だ。

そんな彼らを"セラフ"と言い、エリート中のエリートの天使である。


『皆さん、お久しぶりです。』


……まず、赤い鎧を纏っているセラフは"ウリエル"。

若い好青年のような顔つきから、普段はとても温厚ではあるが、
いざ戦いとなると、闘志を燃やして相手を叩き潰さんとする前衛型セラフだ。

天使階級上級第一位、大地の大天使とも言われ、
元はアークエンジェルだったが、出世により成り上がった逸材である。


『皆に会うのも、久しぶりだな。』


次に、青い鎧を纏っているセラフの"ラファエル"。

反り立つ逆毛が印象深く、ウリエルとは違って威圧感を感じる顔つきだが、
なかなか冷静であり、冷酷な一面を持つセラフだ。

直接攻撃と回復魔法に優れるので、中衛型のタイプと言える。

同じく天使階級上級第一位、人間の霊を統括する者と言われ、
ウリエルと同じように(下級ではなく中級階級から)出世した。


『……そうね。』


そして、黄色い鎧に纏っているセラフの"ガブリエル"。

ウリエルとラファエルと同じ階級であり、出世で成り上がったのも同じだが、
美しい長髪の女性の容姿をしており、天使と言う名に相応しい姿だ。

神話では財宝や富を支配する者と言われていることから、
メシアの実質ナンバー2であり、軍師のような存在である。

タイプとしては、攻撃魔法に優れる後衛型セラフと言って良いだろう。


『どうやら、揃ったようだな。』


最後に、三体のセラフよりも一回り大きな体格の"ミカエル"。

コヴェントリ聖堂の壁に配置されているミカエル像のように、
オールバックが印象的で、他のセラフとは違って剣で無く槍を手にしている。

太陽の化身とも言われ、この中のリーダーであり、
全てのスキルに優れている万能型セラフだ。

"カテドラル"のメシア軍を束ねる最高責任者が、彼と言っても過言ではない。

そんな最上階に集まったセラフ達は、何やら会議を始めるようであり、
椅子に座る4体の中……ウリエルが口を開いた。


『それでは、始めるとしませんか?』

『うむ……ではガブリエル、状況はどうだ?』

『はい、まずはカテドラルについてですが、状況はどうかと言いますと……
 ハニエルが倒れた事により、地上の部隊はほぼ壊滅し、
 カテドラルに進入したガイア教徒は、下層をほぼ制圧してしまいました。
 しかし、"我々"の部隊を使う事無く上層はほぼ"こちら側"が抑えており、
 エキドナが何者かによって倒された事は、不幸中の幸いと言って良いでしょう。』

『…………』

『まぁ、地上の部隊にしては頑張った方では無いでしょうか?』

『よって、現在は沈着状態に陥り、一階で小競り合いが続いている状況です。』


ラファエルは腕を組み、目を閉じ、無言で話を聞いている。

状況は良く無い様なのに、何故かリラックスしている様子の4体だが、
彼らは自分達が負けるとなどと微塵にも思ってはいない。

確かに一体一体のセラフが"一騎当千"の実力を持っているのだが、
その強すぎる力が各々を自惚れさせるのだろう。


『そうか、それでは地上に関しては、暫く大丈夫そうではあるな。
 では……ウリエル、"都庁"の状況はどうなっている?』

『……今はカテドラルよりも、都庁の方で激しい争いが続いていますね。
 少々押され気味のようですし、戦力を回した方が良いかもしれません。』

『猪口才ものね……ミカエル様、如何なされます?』

『ふむ、"ヴィシュヌ神"が倒される事は無いだろうとは思うが、
 都庁を落とされてしまっては、厄介な事になるだろう。
 カテドラルの下層を制圧されても、上層が無傷であれば、
 "神"をお迎えするのに何も問題は無いのだが、
 東京の空を護る者が居なくなってしまえば、神をお迎えする事が出来なくなる。』

『都庁を纏める"天魔ラヴァーナ"は厄介ですからね。
 ですが、所詮烏合の衆……ヴィシュヌ神には決して勝てませんよ。』

『ではウリエル、都庁への増援についてはお前に任せるが、
 お前は此処での待機は維持をしていろ。』

『了解です。』

『最後は……ラファエルね? "使徒"についてはどうなっているのかしら?』


カテドラルの状況報告、都庁での激戦……どちらも一進一退らしい。

それらの話が終了すると、未だに黙っていたラファエルに、カブリエルが話を振った。

するとラファエルは組んでいた腕を解き、目を開いた。


『……随一の使徒、"救世主殿"は順調だ、ぬかりなく任務をこなしている。』

『あぁ、そう言えば、"六本木で拾った魂"の方でしたよね?
 それで思い出したんですが……彼の"お友達"が、
 "ハニエル"と"エキドナ"を倒してしまった人物とか……』

『例のサマナーね? 私も思い出しました。
 幾数もの仲魔を従えており、とても強い人間であるとか。』

『ふ~む、泳がせて置くには厄介な者かもしれぬな。
 ラファエル……"救世主殿"に始末させてしまってはどうか?』

『私もそう考えましたが……"救世主殿"はまだそやつを説得するつもりのようです。
 ですが、叶わなければ始末するように、念を押しておきました。』

『そうか、では引き続き様子を見て、説得は続けさせるのだ。』

『はッ。』

『"こちら側"に付くのであればそれに越した事は無いからな。
 例え逆らっても所詮人間、超人である"救世主殿"には決して勝つことは出来まい。』

『人間に殺られるなんて、あってはならないわ。』

『はははッ、ハニエルは油断したんでしょうね。』


これは、ランス達のことを言っているのではなく、例の"少年"の事である。

彼はこの後、カテドラルに大きな波乱を巻き起こす人物なのだが、
自分達の力に自信があるセラフ達は、何の危険性も感じていなかった。

大天使である自分は、いち天使とは格が違うというプライドがあるのだ。


『脱線したわね……ラファエル、他の"使徒"はどうなっているのかしら?』

『……探してはいるのだが、なかなか"救世主殿"程の魂は無いな。
 それなりに使えそうな"魂"は洗礼を受けさせ使ったが、殆どが出来損ないだった。』

『彼ほど"使徒"として役に立つ魂なんて何万人にひとつですからね、
 出来損ないなら、どんどん戦いに投入したらどうですか?
 神の為に召されるのであれば"彷徨える魂"も本望でしょうしね。』

『それはもう、やっている。』


ラファエルは前途のように、人間の霊を統括する存在から、
"神の下僕となりそうな魂"を探しては、転生させて配下としていた。

志し半ばでメシアを想って死んだ人間は、世の中幾らでもいるのだ。

戦力差で劣るメシア側は、強力なガイア側に対して、
"この方法"を使って相手を凌いでいたのだと言えた。


『そういえばラファエル……以前ひとつだけ、
 物凄い魂があったって聞いたけど、どうなったのかしら?』

『あッ! それは私も聞きましたよ、たまたま流れてきた魂が、
 超越した魔力を秘めていて、期待して良い"使徒"と言っていましたよね。』

『おぉ、ラファエル、それは私も気になるぞ。』

『そうですな……一応役には立ちました、が……』

『どうしたんですか?』

『ミカエル様……その件については、忘れて頂けませんか?』

『ラファエル?(何かあったのかしら……)』

『…………』

『ら、ラファエルさん?』

『ふむ……まぁいい、では各自引き続き任務に移るのだ。
 神をお迎えし、"千年王国"が地上に現れるまで、あと一息。
 破壊と殺戮が繰り返される世紀末の世に、終止符を打とうではないか!』

『……ハハッ!!』


……


…………


『(そう言えば、他にもデビルサマナーは残っているらしいな。
 "あちら側"に偏っている者は早いうちに始末させておくか。)』


会議が終了し、ミカエル以外のセラフは最上階の広間を出ていった。

数分後、広間に残されたミカエルは、一人思考していた。

彼も指示するだけでなく、やる事はないかと考えているのだ。

結果ミカエルは、サマナーの処理を考え付いたようで、口を大きく開いた。


『(私が出るほどでは無いが出る釘は、打っておくに限るからな……)
 ……サリエル、クシエル、それに"メタトロン"は居るかッ!?』


……


…………


……一方、最後に出て行ったラファエル。

彼は額を押さえながら通路を歩いており、
滅多に無い自分のしてしまったミスの件を考えていた。

命の重みを感じる事は無いラファエルだが、
少しでも戦力が欲しい状況での、自分の負い目による戦力の低下は痛かった。

彼は最近"この世界"には無く、違う場所から流れてきた死人の魂も転生させたのだ。


『(言えるものか……確かに役には立ったが、
 敵だけでなく、味方の小隊をも全滅させた"使徒"を作ってしまったなどと……)』


注1:救世主殿とは、原作でのロウヒーローの事です。
注2:ガブリエルは真1と真2では男性ですが、本作では女性悪魔です。



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス1
Name: Shinji
Date: 2006/05/24 07:40
第1話:ノア


カテドラルに到着したランス達は"カテドラルカオス"を目指していた。

まずは長い廊下を歩く中、左手……つまり、
スティーブンに言われた通り、北にあったドアを抜けた。

そして"この場所"がカテドラルの地下一階と言う事から、
上り階段を探しながら戦闘を行っている最中だった。


『ウオォォ……ッ!!』

≪ギャリィーンッ!!≫

「ふんっ、調子に乗るんじゃねぇぞっ?」

「いけませんッ、その悪魔に剣で攻撃しては……!」

「!? チッ……そういやそうだったな。」


3体の"邪鬼ギリメカラ"……一つ目の像の頭と、
180センチほどの人間の肉体を持った、全身黒檀の戦士型悪魔。

そのうちの、一体を軽く捌いていたランス。

攻撃を受けると、自然と反撃に移ろうとしてしまった彼だったが、
それは"やってはいけない"ので、二体目を相手にしているマリスが口で止めた。

何故剣攻撃を"やってはいけない"かと言うと、
このギリメカラは"物理攻撃を反射する"という異例の相性を持っているからだ。

ランスの世界には"無効"にする敵はいても、
"反射"してしまうモンスターは居なかったので、はじめは驚いたものだ。

物理反射をもし、マリスが剣で攻撃した"一太刀目"で気付かず、
ランスが"雷神剣"で斬りかかってしまったら、大変な事になっていただろう。

マリスの初っ端の一撃が反射された時は、キクリヒメの回復魔法で、
直ぐに癒えたが、雷神剣のダメージが反射されてしまうと、
ランスは死なないにしてもかなりの重傷を負っていた筈だ。


『死ネエェッ!!』

『…………』

≪――――バシッ、バシィッ!!≫


一方、残り一体の"ギリメカラ"の攻撃を翼で弾くカミーラ。

彼女も"デスバウンド"を仕掛けてしまったら冗談では無かっただろう。

邪鬼最高クラスである"ギリメカラ"は確かに強い悪魔だが、
現在の力を付けたランス達にはさほど脅威では無いのが幸いだ。

たった今はカミーラが"ラクカジャ"を掛けているので、
より楽に"時間稼ぎ"をすることが可能だった。

そんな中、やはりいち早く反撃に移ったのは、マリスだった。


「死んで貰います! ……ムドッ!!」

≪ボシュシュウッ!!≫

『グォ……ッ!?』

≪――――ドドォッ!!≫

「ふぅ……("あちら"では神魔法をマスターしたつもりだったけど……
 まさか相手を"呪い殺す"魔法を使う事になるなんて。)」


ギリメカラの攻撃を回避中心に抑えていたマリスが、
右手で詠唱していた"ムド"を相手に放つと、
食らった"ギリメカラ"はバッタリと後ろに倒れ、そのまま動かなくなった。

なんと、一瞬で相手を"即死"させてしまったのだ。

"魔法効果"が高いマリスは、現在この魔法によって、
かなり楽に敵悪魔を倒せるようになっていた。

だが、物理だけでなく"この魔法"も反射する悪魔が存在するので、
"即死魔法"を反射されると間違いなく死ぬ事からリスクがあり、
確実かつ安全に使ってゆきたいのであれば、
一度倒してランスの"デビルアナライズ"で効くかどうかを調べなければならない。

かといって、逆に"呪殺魔法"を反射してしまえばその悪魔は大抵即死するので、
マリスは"マカラカーン"も使えることから、より高いスキルが求められている。

道場主に訓練を受けていたのも、マリスはこのように、
多々ある魔法を更に使いこなしたかったからなのだ。


『二回目行きます! マカ・カジャ!!』

≪ギュイイィィンッ!!≫

「行くよぉ!? ダーリン、下がってっ!」

『(……良し。)』

「やっとか、早くやっちまえ!」

『ゆくぞよ? マハ・ブフーラ!!』

『……マハラギオン。』

「マハ・ジオンガぁぁ!!」

≪ずがああぁぁぁぁんっ!!!!≫


香姫が魔法威力が上がる"マカカジャ"を唱える。

今唱えたのは二回目のマカカジャで、いわゆる"重ね掛け"。

これは雷太鼓がよく行っていた手段でもあり、もはや常用手段だ。

直後、キクリヒメ・カミーラ・リアが一斉に攻撃魔法を放ち、
魔法には大して強くないギリメカラは、一瞬で蒸発してしまった。


……


…………


……そんな調子で、カテドラルの敵悪魔を捌いていたランス達。

時間は一時間半弱経ち、行った戦闘は10回程。

その(数えていないらしく恐らく)10回目の戦いが終ると、ランスは愚痴をもらす。


「くっそ~、上り階段は何処なんだぁ?
 カテドラル……広いにも程があり過ぎるったら無ぇぜ。」

「"オートマッピング"があるので迷う事は無いですが、
 こうも広いとなると、いずれ消耗して……」

「だ、大丈夫だよねぇ?」


ランスの言うよう、カテドラルは広すぎる。

今までの千人規模で攻略していたダンジョンは別として、
数人単位で攻略してきたダンジョンの中では、群を抜いて広い。

東京ドーム2個や3個では済まない広さの上、全域が入り組んでるダンジョン。

例えば、もし分かれ道の片方に階段があったとしても、
気付かず反対に進んでしまえば、致命的時間のロスとなる。

しかも強力な悪魔達が徘徊しており、時間が経つに連れて不安になってくる。

本来ダンジョンを攻略する場合、消耗すれば戻って出直すのが基本だが、
間も無く東京が沈没する事から後には引けない攻略なのだ。

つまり、なんとしてでも、這ってでも"カテドラルカオス"に行く必要がある。


「仲魔になりそうな悪魔も出てこねぇし、どうなってやがんだ全く……」

「私達も、スティーブンさんに転送をして貰った方が、
 良かったかもしれませんね……」

「ぐ、ぐぐっ……それは言うな。」

『まぁ……まだ始まったばかりじゃ、そのうち見つかるじゃろう。』

『そうですね、後ろ向きな考えは良くありません。』

『…………』


また、仲魔になりそうな悪魔にも一切遭遇していない。

先程から知識が無いダーク悪魔ばかりと戦っているのだ。

メシア教徒とガイア教徒が小競り合いをしているのはよく見かけ、
何度か勘違いされて戦いを挑まれているのだが、
重要なのは"仲魔"を増やす事なので、不回避な戦闘以外相手にしない事にしている。
(ガイア教徒は、スガモプリズンで無罪になった事を言って大抵回避可能だった)

さておき、ランス達は判らないが、洪水後戦力は"都庁"に集まる。

"知能"があるニュートラル悪魔達は、皆都庁の戦いに出払う予定なので、
こんな場所をウロウロしている場合ではないのだ。

全く居ないと言う訳では無いが、絶対数の低下により運が絡み、
ランス達は残念ながら遭遇できていないのだろう。

三体の仲魔はランスとのエッチでまだまだ疲労には程遠いようだが、
それらの事から、少しよからぬ事を考えてしまうランスだったが――――


≪ゴゴッ……ズゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!≫


「うぉッ……何だ?」

「じ、地震~?」

「どうやら……起こってしまったようですね。」


突然、激しい揺れがランス達を襲った。

立つ事すら難しいそれは予定されていた"大洪水"の揺れであり、
今現在、東京が洗い流され、沈没してしまったのだろう。

……揺れは直ぐに治まったが、ランス達の表情は優れない。


「これで、後戻り出来なくなっちまったな。」

「だ、ダ~リン~……本当に大丈夫なのぉ?」

「何だ、俺様が信用できねぇのかッ?」

「そんなワケじゃないけどぉ……」

「…………」

「ん? マリス、どうした?」

「お静かに……何か、聞こえてきませんか?」

「えっ、何がぁ?」

「リア……ちょっと黙ってろ。」


≪ざわっ、ざわざわ……≫


『微かに……』

『聞こえるのぉ。』


黙っていたマリスに問うと、何かが聞こえるらしい。

ランスに言われ、リアが律儀にも口を両手で塞ぐ中、
6名が沈黙してみると、確かに多数の声が聞こえる。

実はこの声……洪水に驚く大衆のザワつき声なのだ!

お察しの通り、これは"カテドラルカオス"から聞こえてくるものだった。

それをキクリヒメとカミーラも察し、香姫は声がする方向を指差す。


『ランス様、ひょっとすると、あちらのほうに階段がある気が……』

「うむ、俺様もそう思ったぜ!」

「ではランスさん。」

「当然だ! 俺様に続けぇ~!!」

≪だだだだっ!!≫


大洪水の直後なので、聞こえる声だけが頼り。

それの声が近くなるほど、階段に近づくという訳だ。

逆に聞こえなくなってしまうと遠くなり、
もしくは手掛かりが無くなってしまう事になるので、ランス一行は足を速めた。


……


…………


こうして……間も無く、彼らは"カテドラルカオス"に到達する事になる。

またこの2時間後、セラフ達の"話し合い"が行われる事になるのである。

……四大天使達にとって、大洪水は"当たり前"の事であり、
千年王国を築く計画のホンの通過点に過ぎない。

大洪水が彼らの話題にすらならなかったのは……その為なのだ。



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス2
Name: Shinji
Date: 2006/05/24 22:38
第2話:カテドラルカオス


「此処はカテドラルへ乗り込んだ者が集まって、できた街だ。
 誰も拒みはしないが、ゆっくりできる場所では無いぞ?」


そう街とダンジョンの間の門に居たガイア教徒に言われ、
ようやく"カテドラルカオス"に辿り着いたランス達。

この時点で、時刻は16時になろうとしていた。

例え遅くなって外が暗くなってしまおうと、
全体的にカテドラルは魔力が働いているのか常に明るいのだが。


「……着いたみてぇだな。」

『これでひとまず、安心のようですね。』

「ねぇ、どうするのぉ?」

「私は洪水が気になりますね、外を見てみる事にしませんか?」

「そうだな、そうしてみるか。」


……ガイア側の街、カテドラルカオス。

街広しと言えど、ガイア側の生き残りが殆ど此処に居る為か、
なかなかの賑わいを見せている様子だ。

場所はダンジョン内でも、街である事には変わりないので、
ランスは雷神剣を鞘に納め、辺りを見回しながら歩き出す。

まず外の様子を見る事にしたようで、一行は出口へと向かっていった。


……


…………


……東京に下された天罰。

それは"大洪水"となって東京全域を飲み込み、
新宿・渋谷・六本木・銀座・品川・池袋・上野・秋葉原等の栄えた街は、
全てが水の底深くに、沈んでしまった。

(崩壊後推定)何十万もの生命を一瞬で洗い流す力が、神にはあるのだ。

これで残っている場所といえば、皇居・西ノ島・スガモプリズン上層・都庁上層。

そして……"カテドラル"のみとなってしまっている。

その光景を外に出た直後に目のあたりにした一行は、思わず言葉を失ってしまった。

カテドラルカオスには、地震後30分以上経過して到着したので、
既に野次馬は殆ど居ないようであり、聞こえるのは波の音だけだった。


≪ザザ~ン……ザ、ザザザ~ン……≫
 

「……凄ぇな。」

「信じられませんね……」

「きっと……死んじゃったんだね、一杯……」


一瞬で洗い流された数十万の命。

ランスは昨日、他人がいくら死のうと"ど~でも良い"と思っていたが、
やはりこう現実に直面してみると、良い気はしない。

自分が気に入らない奴を殺す事は良いが、
勝手に殺されると(只の我侭だが)何となく腹が立つのだ。

正直なところ、女性が星の数ほど殺されたのも腹が立つ大きな理由。


『夢でも見ているようじゃのう~。』

『……(これが、神の……)』

『……私達の世界も、こうなってしまうのでしょうか?』

「馬鹿か、そんな事は断じて許さんッ。」

「では……戻りましょうか?」

「そうするか、時間が勿体無ぇ。」

「(やっぱり……早く"あっち"に戻りたいかもぉ。)」


……


…………


東京沈没を確認してから"カテドラルカオス"に戻ったランス達は、
幾つもの露店や、ガイア教徒の人混みを抜け、街を散策する。

そんな中、ターミナルの場所の特定から始まり、
ガイア神殿や武器防具の露店の場所も見つけることが出来た。

しかし"ターミナル"についてだが、東京が水没した事から、
他の場所への転送データが全て消えてしまい、
カテドラルから離れる事が出来なくなってしまったようだ。

かといって今の所、他の場所に行く予定は無いので、良しといったところか。


「……おぉ、お主ら! 無事来れたようだなッ!」

「良かった……心配していました。」

「へっ、アンタ達も運が良かったみてぇだな。」


ある程度"カテドラルカオス"の街で行きそうな場所を調べた後。

一行はスティーブンにより"転送"して貰った、
回復道場・邪教の館・六本木の酒場の場所を探し当てた。

最初は半信半疑であったが、スティーブンはしっかりと役目を果たしてくれたようだ。

各転送場所とも、カテドラルカオスの外れにあったのだが、
目立つ場所では人が多く、ガイア教徒で無い者が居ては肩身が狭いので、
彼らは転送場所には文句が無いようだった。


「よし……お主は終ったぞ。」

「おじさん、ありがと~。」

「今度はマリス殿だな。」

「すいません、お願いします。」


……今現在は、邪教の館の主と、酒場の店長と美女5名との挨拶を済ませ、
回復道場に戻って一息入れている最中だった。

巫女に癒しの魔法を掛けて貰っているランスに、
リアの治癒を済ませた道場主が、マリスの回復をしながら話し掛けて来る。

余談だが、回復には体に触れる必要があるが、
散々ランスに"変な気は持つな"と脅されているので、今は自然と行えている。


「ところで"カテドラル"の悪魔はどうだったのだ?」

「あぁ、なかなか歯応えがあるぜ?
 俺様は余裕だったが、おっさんなら一瞬で殺されちまうだろうな。」

「うぅむ……確かに、此処の悪魔は、私では骨が折れそうだ。」

「そうですか? 師範であれば、ある程度戦えそうな気もしますが……」

「ランス殿のように、頼りになる前衛が居れば良いかも知れんが、
 彼程の前衛はそう居るものではないしな……
 "デビルバスターだけ"で悪魔と戦うには、
 目的地で出現する悪魔をある程度捌ける"信用できる仲間"が、
 6人も必要だ……それだけの人数を揃える自体、とても難しいのだが、
 "デビルサマナー"は仲魔を使役するので、戦い勝手が歴然としている。」

「そう言われると、デビルバスターってのは、面倒なんだな。」

「うむ。 忠誠心を持った仲魔は、即席の仲間を遥かに凌ぐ働きを見せる。
 "デビルサマナー"がどのデビルバスターよりも優れるのは、その為なのだ。」

「ま、死にたく無ぇなら大人しくしてるこったな。」

「はい……これで治療は終りましたよ?」

「おっ、軽くなったぜ!!」

「リアも元気になったみたいっ。」

「……私もいけそうです。」

「良し、それならもうひと稼ぎするぜッ、まだ休むにゃ早ぇからな。」

「これが若さか……全く元気なものだ。」


会話の中、全員の回復が終ったようで、立ち上がるランス。

どうやら、これからまだ戦う気のようである。

ちなみに、仲魔達も道場内にしっかりとおり、
キクリヒメと香姫は前回と同じように、ちゃぶ台を挟んでお茶を飲んでいる。

また、カミーラは距離を置いて壁に背を預けて静かに立っていた。

メンバーの中で一番総合能力に優れるカミーラは、
回復を特に必要とせず、僅かにあった程度の疲労は、
静かにリラックスしているだけで癒えてしまっている様子だった。


『なんじゃ、もう少しゆっくりしたいのじゃがのう。』

『わかりました……お供致します。』

『……済んだのか?』

「今度からは、戻る場所が判っているので安全そうですね。」

「うむ、ちゃっちゃと仲魔ァ増やしに行くぜ~ッ。」

「はぁ~い。」

「こんな事しか言えぬが、気をつけてな。」

「また、お会いしましょう。」


……


…………


『ゴガァアアァァッ!!』

『……クッテヤルゾ!!』

「ランスさん! この悪魔は!?」

「(ピピピッ)"邪龍 サーペント"か、畜生また外れかよ!!」

「一杯居るよぉ~?」

『どうするのじゃッ?』

「カミーラ、"タルカジャ"を使え!
 香は"マカカジャ"で、お前らは攻撃魔法だッ!」

『わかったぞよっ。』

「うんッ!!」

『……タルカジャ。』

『マカ・カジャ!!』

≪ギュイイィィンッ!!≫


各々の力が大した事が無く、複数出現した悪魔への主な戦法。

それは主にリアの"マハジオンガ"と、キクリヒメの"マハブフーラ"で、
感電もしくは氷結状態にしてしまうのが定石となっている。

他にもパターンはあるが、相手が力だけで捻伏せるタイプ故だ。

全体攻撃魔法は確かに精神力を消耗するが、
街が近い場所での戦いであれば、そんな事を気にせずに戦う事が可能だ。


「(これで何度目かなぁ……)マハ・ジオンガぁ!!」

『手加減せぬぞッ? マハ・ブフーラ!!』

「よっしゃ行くぜ~、続けよッ!?」

「はいッ。」

『くくっ……』


……


…………


……戦いを再開して、約1時間弱が経過する。

殆どの悪魔を問題なく撃退でき、そこそこレベルアップも遂げたランス達。

しかし、ランスは戦いを重ねるに連れて、機嫌が悪くなっていた。

彼の目的は、悪魔を狩ってレベルを上げる事だけではないからだ。


「……出ねぇな。」

「出ませんね……」

「うが~ッ、これだけ戦って仲魔になりそうな悪魔が出ねぇなんて詐欺だぜ!」

「どうしてだろうねぇ……」


ランスの愚痴のように、運が悪いのかニュートラル悪魔は未だ出現していない。

先程の"サーペント"のように、出現した悪魔はダーク悪魔ばかり。

属性が違うLAW系統の悪魔さえ、出現していないのだ。

カテドラルに"強い悪魔"が多いにしても、
これでは"あっち"の強い仲魔を作る目的を成し遂げられない。


『すまんが、流石に疲れてきてしまったのじゃが……』

「リアも疲れちゃったぁ~。」

『私はまだいけますが、ランス様……』

「わかったわかった、面倒臭ぇ! 今日は引き上げるぞ~ッ。」

『…………』


強力な全体攻撃魔法を連発していたリアとキクリヒメは疲労したようで、
仕方なく街に戻る事にしたランス達。

そんな中、歩きながら会話をはじめるランスとマリス。

リアとキクリヒメはあまり喋る気力が無いらしく、
カミーラと香姫はそれぞれの性分から黙って歩いている。


「……ったく、カテドラルに着いたら直ぐに戻れると思ったんだがなぁ。」

「カテドラルは高い上層、深い下層に分かれていると聞きます。
 仲魔を見つけるには、街を離れる必要があるのでしょうか……?」

「頭が痛くなるような事を言うな~ッ!
 レベルが上がったら行けるだろうが、そんな方法じゃ何日も掛かっちまいそうだ。」

「しかし、これほど出現しないとなると……」

「言うなっ! ウロウロしてりゃあ、そのうち出るだろ。」

「だと良いのですが……」


ランスの考えるよう、"そのうち"ニュートラル悪魔は出てくる。

しかし確実に出るのは、"都庁"での戦いの決着がついてからだろう。

勿論、一行はそんな事は知らないので、これからの展開に不安を隠せないが――――


「……マリス、戻ったら情報を仕入れるぞ。」

「情報収集ですか?」

「うむ、カテドラルについては判らん事が多すぎるからな。
 なんだかこのままじゃ、何時まで経っても戻れねぇ気がするぜ。」

「その方が良さそうですね。」

「(着いたか)……良し、リアは先に戻って休んでろ、良いなァ?」

「うん、今日はそうするね~……」

「キクリヒメと香も中に戻れ、明日があるしな。」

『気遣い感謝するぞよ。』

『はい、わかりました。』

≪バシュウウゥゥッ……≫

「それと、カミーラは……そのまま着いて来い。」

『……良いだろう。』

「それではランスさん、リア様を……」

「ケッ、仕方無ぇな。」


……


…………


……30分後、時刻は19時頃。

リアを回復道場に送ってやったランスは、
マリスと護衛役のカミーラの三人で、街中を歩いていた。

強力な仲魔であるカミーラで少し威圧してやったり、
多少の賄賂を渡す事で、マリスが情報を効率良く仕入れてゆき、
彼女は段々と"カテドラル"の状況が理解できるに至っているようだ。

そんな中、数回目の情報収集が終ると、マリスがランスの所に戻ってくる。


「……ランスさん。」

「おう、どうだったんだ?」

「どうやら、カテドラルでの戦いは見当違いだったようですね。」

「何だとォ~?」

「新宿の西に"都庁"という、上層が二つに分かれている非常に高い建物があり、
 現在はカテドラルでなく、"都庁"で戦いが繰り広げられているそうです。」

「それじゃ、どう言う事だ?」

「"都庁"での戦いが一体何を意味するのかは、
 千年王国が絡んでいると言う程度しか判りませんが……
 知識のある悪魔は、皆"都庁"に行ってしまっているようですね。
 仲魔を探すのであれば、"都庁"に行くのが懸命かもしれません。」

「おう、それなら其処に行くっきゃねぇじゃねぇか。」

「ですが……私達には"行く手段"がありません。
 都庁があるのは新宿の西……非常に遠い上、陸地は水没しているので……」

「むっ、流石に泳いで行く訳にゃあいかねぇよな……」

「そうですね……飛べる悪魔は飛んで行け、泳げる悪魔は泳いで行け、
 ガイア教徒とメシア教徒はターミナル経由で戦力を送っているようですが、
 関係無い私達が行くには、"海というモノ"を渡ってゆくしか……」

「う~む、他に方法は無ぇのか?」

「……小耳に挟んだ程度なのですが、
 人を乗せ海を渡れる"魔物を売っていた者"がこの街の外れに居たようです。
 売れないので、もう商売を変えた様だと聞きましたが……」

「だが、そいつを締め上げりゃあ"都庁に行く手掛かり"が判るかもしれねぇな。
(一体どうやってそんな事まで聞けたんだか……これがこいつの凄ぇトコだな。)」

「そうですね。 ですが、できるだけ穏便に……」

「わかったわかった、案内しろ。」

「はい、確かこちらの方だと聞きました……」


ガイア教徒を締め上げ、ターミナルの場所データを聞いて転送しても、
転送先には多くのガイア教徒が駐屯しているので飛んで火に入る夏の虫。

かといって、ガイア教徒に入ってしまっては行動の自由が無くなるので、
目立たないように"都庁"に進入しなくてはいけない。

"都庁"行きを諦めるのであれば、戦いが終るまで待って、
レベルを上げるのも良いが、理想はレベル上げと仲魔探しを同時にする事なので、
時間をロスしてしまう結果になってしまう。

また、カテドラルの上層もしくは下層に行く事で、仲魔を探す方法もあるが、
各サイドとも、屈指の部隊が誰も通さんが如く各階を守っているので、
現在の戦力ではリスクが高すぎるのだ。

よって、僅かな可能性を期待し、三人は街の外れに歩いてゆくのだった。


……


…………


十分ほど経過して、三人は手掛かりの場所に辿り着いた。

その暗い雰囲気の路地は、怪しい感じの露店・店頭が並んでいる。

男を捕まえる売春婦、怪しいアイテムを販売するブローカーetc……

いわゆる、"ブラックマーケット"のように、いかにもカオスらしい雰囲気だ。

常人であれば、そそくさと立ち去るのが懸命だが、
ランスは全く動じる事無く、スタスタと路地にへと入っていった。


「……で、"例の奴"は何処にいんだ?」

「それはこれから、探さなくてはなりませんね。」

「よしマリス、今度も任せた。」

「はい。(骨が折れるものね……)」


……


…………


「…………」(すっ)

「あのお店ですね? 有難う御座います。」

「カネ。」

「……(ランスさん?)」

「……(しょうがねぇな、くれてやれ。)」

「(わかりました。)……どうぞ。」

≪ちゃりんっ≫


十数分に及んだ聞きこみ調査。

基本的にマリスが話し掛けるのだが、
後方でランスとカミーラが睨んでいるので案外答えてもらうのは楽だった。

だが無意味な情報で金を貰おうとするが更に睨まれ、手を引っ込める者ばかり。

……しかし、甲斐あって"例の店"を知っていた男には、
しっかりと500マッカ(約5万円)を握らせてマリスは彼の露店を後にした。


「いや~、なかなか良かったな、あの女。」

「マグロだったけど、二人同時であの値段は安かったよなぁ~。」

「ストレス発散にもなったしな。」

「へへへっ、全くだ。」


「……(ケッ、つまんねぇ事耳に入れさせやがって。)」

「ランスさん、どうしました?」

「いや、なんでもねぇ……で、何処だ?」

「はい、あちらです。」


……


…………


……男が指差した店に、一直線に向かう三人。

店と言っても、看板も何も無く、こんな場所に無ければ店と判らないだろう。

そんな謎の店は、背の低い若い男が開いており、
接客等を全て一人で行っているようで、ランスを"客"と認識してか、
こちらに近寄ってくると、愛想よくランスに話しかけた。

しかし、ランスは彼の呼び掛けマニュアルよりも先に本題に入ってしまう。


「(デビルサマナーかぁ、金持ってそうだなぁ……)
 ちょっと其処のお兄さん、良いスかぁ~?」

「……おいお前、俺様の質問に答えろ。」

「なっ、何ですかあ?」

「お前は以前、海を渡れそうな"魔物"を売ってると聞いたんだが?」

「えっ? あぁ、"亀"の事ッスか?」

「カメ?」

「あの商売はもう終りましたよ、今は別の商売をしてるんでさぁ。」


腰の低そうなこの男は、"カメ"を売っていた男で間違いないらしい。

そんな彼は、ランスを見てくれから"上客"と判断してか、
腰低く手を合わせ、商売人よろしくモミモミしながら言った。

アリストレスの部下にこんな奴が居たな……そう思いながらランスは応える。


「別の商売だと?」

「えぇ……最近"良い女"が入りましてねぇ、安くしておきますよぉ?」

「良い女? "カメ"ってぇのはもう無ぇのか?」

「カメは売れないんで、もう仲間と食っちまいましたよ、
 それよりサマナーさん、女が――――」

≪……ぐいっ!!≫

「てめぇ! 俺様が女に不自由してるような男に見えるってのかぁ、おォッ!?」

「(もしかして、そう見られていたのかしら? 私……)」

「ぎぇッ! そ、そんな意味で言ったんじゃないんですよぉ~っ!!」

「じゃあ"どんな意味"で言ったってんだァ!?」

「は、入った"女"はメシア教徒の幹部だった女なんですよ!!
 そいつを抱けばストレス発散にもなりますし、そういう意味で――――」

「ほほぉ~、メシア教徒の幹部……ねぇ。 」

≪……ぱっ≫

「ランスさん? まさか……」

「いや、そういう意味じゃ~ねえぞ? 拝んでみるのも良いだろ。」

『…………』

「(確かに、興味はありますが……)」

「そっ、それじゃあ早速準備をしますから……って、お客さんッ!?」


胸倉をランスに掴まれて苦しそうだった男だったが、
ランスが"女"に興味を持ったようなので、気を改めて彼を案内しようとする。

しかし、ランスは男の制止を無視して店の中に入った。

鍵は掛かっていなかったようで、こじんまりとした部屋に一つだけあるベット。

ここでの行為が終った後はそれなりに後片付けをしてから接客をしているのか、
それなりに整理されてはいるが、辛気臭さは除けないようだ。

そんな部屋の奥にもう一つドアがあったので、ランスは開け様と進む。


「汚ねぇ部屋だな、こんな所でセックスすんのかよ。」

「ち、ちょっと! 困りますよォ~ッ!」

≪……がちゃっ≫

「……ッ!?」


男はビビっているのか、中途半端な制止しかできない。

勿論それをランスは無視し、ズカズカと踏み込んでドアを開けた時。

彼の前に飛び込んできたのは、拘束されている全裸の女性だった。

……両手を鎖で繋がれ、両膝は地面に付き、Yの字になって拘束されている。

大きな傷は無いものの、決して丈夫そうな類に入るとは言えない体に、
幾数もの斬り傷痕や、ミミズ腫れのような痕がある。

メシア教徒と言う事から、激しいプレイをされた後は傷薬等で、
ズサンな治療しか行っていないのか、痛々しいものだった。

また"買われた"後は体をシャワーでザッと流されたのか、
まだ頭髪はやや水で滴っているようである。

このメシア教徒と思われる女性は、ランスが入って来たのに気付いていないのか、
判断力が低下しているのか、呼吸が聞こえるだけで何も反応を示さなかった。


「(酷いものね……二教徒の対立について聞いた話によれば、
 命があるだけでも"マシ"かもしれないけど……)」

「……この娘が例の女なのか?」

「え、えぇ……そうなんですよ。」

「(あら? でもこの人、何処かで……)」


メシア教徒は、ガイア教徒最大の敵。

その場で殺そうが、拘束して犯そうが、こちらではお咎め無し。

しかし、こう酷な拘束具合を発見されてしまうと、
ちょっとオドオドとしながら、ランスに応える小柄な男。

その会話も聞こえていないような"メシア教徒の女性"は、
虚ろな……焦点が合わない瞳でうわ言の様につぶやいた。

その"うわ言"がランス達の耳に入っていれば直ぐ、
何かこの状況に変化が起こったのかもしれない……が、
この時点では何も、まだ新しい展開は起きなかった。


「……千鶴子……さま……ラファエルッ、さ……ま……」



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス3
Name: Shinji
Date: 2006/05/26 05:06
第三話:魔法Lv3


……どうして……ですか……


……千鶴子ッ……さ……ま……


……わたし……頑張った、のに……


……どうし……て……


……私が……


……


…………


「……はっ!?」

『目覚めたか。』

「あ、あれっ? 此処は……私、死んじゃった筈じゃ……」

『驚くのも仕方ない、貴女は私が生き返らせたのだからな。』

「えぇっ!? ど、どうして私を生き返らせ……
 あなたは天使みたいだし、ここは天国なんですかぁ~ッ?」

『……私は大天使ラファエル、此処は天国などではない。』

「それじゃあ、何処なんですかッ? もしかして地獄なんじゃ……」

『だから貴女は復活したのだと、言っているだろう。
 貴女の魂は泳がせておくには惜しいモノだったからな……
 神の指名を果たすべく、"救世主"として貴女を生まれ変わらせたのだ。』

「き、救世主……?」

『いきなりこんな事を言われて驚くのも判るが、貴女にはその"素質"がある。』

「…………」

『とりあえず話を聞いてみる気はないかな?』

「あの~、難しいことは判りませんけど、それでも良ければ……」

『……懸命だ。』


……


…………


ランスは拘束されて動かない女性に近付き、彼女を見下ろしていた。

だが俯いているので肝心な顔が見えず、膝を落として、
虚ろな表情を覗いてみるのだが、正直記憶に無かった女性だった。

続いて"失礼"と言いながらマリスも彼女の顔を覗きこんでみると、
マリスは立ち上がり、何かを思い出そうとしている様子だった。


「(なかなか可愛いけど、"こんなん"だしなぁ。
 助けてやっても良いが、メシア教徒は気に入ら無ぇし……)」

「…………」

「んっ?」

「…………」

「マリス~、どうした?」

「……思い出しました。」

「何をだ?」

「見た事があるのは一度限りですが、
 この女性……"あちら"の世界の方です、間違いありません。」

「な、何だとォ~?」

「一度だけリーザス領に攻め入ってきた、ゼスの魔法使いですね。
 あれからもう戦場には現れないままゼスを落とせてしまい、
 そのうち忘れてしまいましたが、まさかこんな所に居るとは……」

「名前は何て言うんだ?」

「名は判りませんね、ゼス4将軍でも四天王でも無いようです。
 噂ではゼスに一人だけ"魔法Lv3"の魔法使いが居ると聞きましたが。」

「それが、この娘なのかッ?」

「恐らくそうかと……何故か奴隷兵を引き連れず、
 一軍だけで攻めて来たので、4軍で楽に追い返せましたが……」

「ふ~む、じゃあ何で"メシア教徒"に入ってたんだ? しかも幹部だしな。」

「お客さん、どうしたんスかぁ~?
 気に入ったんなら、丸ごと買ってくれても良いですよぉ?」


彼女が"あっち"の存在と気付いたマリスは、ランスに報告。

その会話の内容が小さな男に判る筈も無く、適当なタイミングで口を挟んで来た。

勝手にランスが彼女に興味を持っているのだと思ったのだろう。

確かにそうなのだが、ランスは男を睨んで言った。


「おい……この娘は何処で拾ってきたんだ?」

「い、言ったら買ってくれますか~ッ?」

「良いからさっさと言わねぇかッ!!
 とりあえず、吐けば殺しはしないでおいてやる。」

「ひぃ! か、勘弁してくださいよぉ……
 この女は街の門の外に出て、命懸けで拾ってきたんですよ。
 メシア教徒とガイア教徒が戦ってたけど共倒れしたみたいなんで、
 良いモンが落ちてないかと見に行ったら、この女が倒れてたんスよ……」

「ほぉ。」

「お、俺も生きる為に金が要るんですよ、わかってくださいよぉ~。
 そんな訳で、5000マッカでどうっすかッ?
 ホントは20000ってトコなんですけど、
 客が色々と無茶するモンだから結構"痛んじゃって"るんで……
 あぁ、ちなみに俺は何もしてませんよ~?
 商品には手を出さないのが、自分のポリシーなんでね。」

「……(おい、マリス。)」

「……?(何でしょうか?)」

「(魔法Lv3って、"テレポート"使えたりしなかったか?)」

「(Lv3いずれかのスキルを持つ人間自体、
 国に一人居るか居ないかなので良く判りませんが……
 "都庁"に行くのであれば、その方法を期待するしかありませんね。)」

「(なら、決まりだな。)……おい、買ってやる。」

「えッ!? ほ、本当ですかぁ!?」

「本来ならさっさと帰るところなんだが、
 "良い女"だしなぁ……運が良かったな、お前。」

「どうぞ、これが代金です。」

「ま、毎度ありぃ~~っ! これが鍵です、使ってくださいッ。」


"ランスの世界の人間"であれば、その時点で彼女を買っただろう。

しかしその上、魔法Lv3を誇る者であれば、もはや決定的だった。

魔法レベル3を考えれば5000(約50万円)では安いので、
あくまで"良い女"というのを重視し、女性を買う事にしたランスだった。

マリスから現金を受け取り、魔法Lv3を知らない男は嬉しそうだった。

そのまま男は現金を受け取ると、カミーラの横をそそくさと横切り、
女性が拘束されていた部屋を出て行ってしまい、
ランスは膝を再び折ると、息をするだけで動かない女性に声を掛けた。


「おい、大丈夫か~ッ?」

「…………」

「死んでんじゃねぇだろうな? 返事しろ~。」

≪ぺしぺしっ≫

「……ッ。」

「んっ、死んでなかったか。」


声を掛けても、直ぐには反応が無い。

そこで冷たい頬を軽く叩いてみると、ピクリと体が揺れ、
焦点が合っていない瞳にようやく生命が宿ったようだ。

彼女は、ゆっくりと顔を上げると、自分を見下ろすランスを見るが、
その表情は、彼に怯えている様子だった。


「? ……あ、あぁッ……
 もう……嫌、です……もぉ、許して……くださいッ……」

「あん? 許すも何も無ぇんだが。」

「余程、酷い事をされて来たのでしょうね。」

「い、痛いのッ……嫌……ひっく、うぅ~……」

「マリス、そっちを外せ。」

「はい。」

≪ガチンッ≫

「あっ……!?」

≪がくんっ≫


何度も"買われて"酷い、乱暴な抱き方をされたのだろう。

どちらかと言うと悪人面であるランスは"客"に見えたのか、
彼女は泣きそうになりながら拒むも、やはり体は動いていなかった。

……だが、只の客ではないランスは、両手の鎖を外してやり、
突然の事で前に倒れそうになる女性を抱きかかえて言った。


「俺様が助けてやるぞ、感謝するんだな。」

「えっ? い、痛い事……しないんですか?」

「やらんやらん、君にはやって貰いたい事があるからな。」

「やって貰いたい事……ってッ?
 い、嫌です! もう……オチンチンは舐めれませんッ。」

「誰もそんな事言って無ぇだろッ、とにかく話は戻ってからだ。」

≪ひょいっ≫

「わわ! や、やっぱり酷い事するんですねッ?」

「だからやらんと言ってるだろうがッ! マリス、カミーラ、戻るぞ。」

「わかりました。」

『…………』

「その方の衣服は、どうしましょうか?」

「一応、聞いてみるか……こら、大人しくしてろッ。」

≪ぎろっ≫

「う……(今度は、怖い人に連れて行かれてちゃうんだ……でも、
 仕方ないのかな……私、こんな事にしか、役に……立たないし……)」


彼女を抱きかかえ(お姫様抱っこし)て前の部屋を出ると、
初めの部屋で小さい男が机に向かってソロバンを弾いていた。

買った女性は最初は少し抵抗するように体を動かしていたが、
少し鬱陶しく感じたランスが睨むと大人しくなっていた。

その男はランスが戻ってくると振り返ったので、彼は男に聞いた。


「……おい、この娘が着てた服は無ぇのか?」

「あぁ、全部売っちゃいましたよ……すいません。」

「何ィ~?」

「カテドラルには高い金払って来たんで、少しでも金が必要だったんですよ~ッ。」

≪ばささぁっ!!≫

「ふぇっ……?」

「おぉ、カミーラ……気が利くじゃねえか。」

『フン……帰るぞ。』

「……お邪魔しました。」

「ま、毎度どうも~ッ!」


彼のように弱い人間は、ある程度お金が無いとカテドラルに来れなかったらしい。

よって衣服が無いようであり、そうなると、
全裸の女性を抱えてカテドラルカオスを歩く事になってしまう。

それはダメだ……が、カミーラが無言で自分のマントで彼女の体を包んだ。

そしてカミーラは歩き出し、ランスとマリスも、小汚い部屋を出て行った。


……


…………


回復道場に戻ってきたランスは、まずはカミーラをコンピュータに戻す。

そして、マリスもリアが寝ている部屋に行かせると、
道場主を追い払い、巫女の方に"買った女性"の回復を頼んでいた。

マリスは彼女の境遇が気になっていたようだが、
明日リアが居る時に話させると言う事で納得したようだ。


≪きゅいいぃぃん……≫

「どうです? 効いていますか?」

「は、はいっ……凄いです……どんどん痛みが、取れて来ますッ。」

「ですが、相当酷い扱いを受けていたようですね……
 良く"気持ち"をしっかりと保てていました。」

「なんだとッ、なんなら殺してりゃ良かったぜ。
(何だかんだで"買った"のは、シィルとこの娘で二人目なんだが。)」


回復道場にあったパンティーを履かせて貰い、
体がシップや包帯まみれの中、回復魔法を掛けて貰っている女性。
(リアとマリスも道場夫婦の死んだ娘の下着を借りている。)

本当なら精神を壊されても仕方が無いくらいの扱いを受けたらしいが、
彼女は(実際違う意味で)なかなか強い精神力を持っていたようだ。

表情はまだまだ優れないが、今までとは比べ物にならない程の状況に、
最初はランスに対しビクビクしていたものの、今は安心している様子。

一方、全ての装備を外して普段着姿のランスは、
ソファーに腕を組んで腰掛けながら、"自分の世界の人間"である彼女に聞いた。


「そういやあ~、名前は何て言うんだ?」

「あッ、私とした事が申し送れましたッ!」

≪がばっ!!≫

「ちょっと、いけませんよ? いきなり体を起こしては……」

「あ痛たたたッ、すいません……わ、私は……アニス・沢渡と言います。」

「ほぉ、"アニス"……ね。 元はゼスに居たそうじゃねぇか。
(中々可愛くて魔法Lv3か……こりゃいい買い物が出来たぜ。)」


名前を聞かれ、ハッと思い出したように体を起こす"アニス"。

実は彼女、非常に魔力が高いが"お馬鹿"であるというのが特徴で、
激しい陵辱で精神が壊れてしまわなかったのも、ややその為なのだ。

さておき、いきなり起き上がって胸の痛みを感じ、
涙目になりながらアニスは自分の名を告げ、ランスは頷いて"ゼス"と漏らした。

その単語に、アニスが反応しない筈が無い。


「え、えぇ!? どうして貴方がその事をッ!?」

≪がばばっ!!≫

「もう、"起き上がらないでください"と言っていますのに……」

「あ痛たッ、痛い……ご、ごめんなさい……」

「……気持ちも判るが、詳しい話は明日にするぜ。
 このまま話してたら、何時まで経っても傷が治らなそうだしな。」

「わ、わかりましたッ。」

「それでは、そのままで居て下さいねッ?」

「はいッ、アニスはもう動きません!」

「(大丈夫なのかァ?)まぁ俺様はもうこのまま寝るからな、後は任せたぞ~。」

「どうぞごゆっくり、お休み下さい。」


何だかんだでかなり疲労したのか、そのまま寝てしまうランス。

ソファーの上で毛布に包まり、入浴する気力も無いようだ。

そんな彼の鼾(いびき)が響く中、アニスは巫女に恐る恐る聞いた。


「……えっと、あの人の名前は?」

「ランスさんですね、凄腕の"デビルサマナー"らしいです。」

「ランス、ランス~……(どこかで聞いた名前のような~……)」

「お知り合いですか?」

「う~ん、何だか知ってる気がするんですよね~。」


元の世界で知らない者は殆ど居ない、リーザス王のランス。

あの"ランス"であれば、何故カテドラルなどに居るのか疑問に思うはず。

……だが、お馬鹿であるアニスは、ランスがリーザス王のランスだと言う事は、
思い出そうとしても結局、明日まで気付かないのであった。

こうして、長かった19日目が終了した。


○ステータス(初期値ALL5+ボーナス18+Lv=合計)
ランスLv58 力30 知12 魔12 体20 速22 運10
リ アLv52 力10 知20 魔30 体10 速16 運12
マリスLv56 力14 知28 魔16 体14 速26 運06
アニスLv70 力20 知08 魔40 体20 速25 運05
残金:60000マッカ



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス4
Name: Shinji
Date: 2006/05/26 22:59
第4話:アニス・沢渡


二十日目、朝10時頃。

起きてからシャワーで体を洗い流したランスは、
そのまま武装せずにスタスタ歩いて道場広間に顔を出した。

……すると、彼を迎えたのはいつもの二人だけではなく、
リアとマリスの他にもう一人追加されていた。

大体予想していた事なのだが、その姿にランスは少し目を見開いた。


「あ、ランスさん! お早う御座いますッ!」

「おう、もう大丈夫なのか?」

「夜遅くまで、巫女の人が回復魔法を掛けてくれたんです。
 まだちょっとダルいんですけど、こ~して動けるようになりましたッ。」

「そりゃ良かったな、しかしなんだ? その格好は……」

「あのですねッ、私すっぽんぽんだったんで、
 これも巫女の人に着せてもらったんです、似合いますかっ?」

「今迄何着てたのかは判らんが、良いんじゃねぇのか?」


察しの通り、もう一人の者とはアニス。

昨日あれほどボロボロであったのに、ポニーテールを揺らし、
こうして元気良く挨拶している事から、思った以上に丈夫な体のようだ。

だがリアとマリスよりも早くランスに近寄る事から、少々無神経かもしれない。

そんな彼女は、上が白で下が赤の巫女装束を着ており、
道場夫婦の亡き娘の物をそのまま貸して貰えたらしい。

露出した腕や胸元には包帯がチラホラ見え、頬にはシップが貼ってあったりと、
やや痛々しさが目立つが、包帯だけの姿と比べれば雲泥の差だろう。

ちなみに、道場夫婦は訪れた客の治療をしているのか、別の部屋に居るようだ。


「えへ、やっぱりそうですかぁ? 自分でも気に入ってたんですよ~。」

「(悪いコじゃないと思うんだけど、なんだかなぁ~……)」

「(話していて判りましたが、ああいう性格のようですね。)」

「それはそうとアニス、色々と聞きたい事がある。」

「あッ、はい……マリスさんに聞きたんですけど、
 ランスさんがリーザス王だったなんて驚きましたよ~。」

「うむ、いかにも俺様はリーザスの……いや、世界の王様だ。」

「ゼスも負けちゃったみたいですし、
 私が死んじゃってから色々とあったみたいですねえ。」

「何、死んだッ?」

「ところでランスさんはどうして"カテドラル"なんかに?
 休暇を取られて旅行でもしに来たんですかあッ?」

「アホかッ、誰が好き好んでこんな所に来るか!
 それより"死んだ"って言ったよな? どう言う事なんだ!?」

「ダーリン、立ち話もなんだし座ろうよぉ。」

「むっ……そうするか。」


ランスは魂を肉体から離されて"こちら"にやってきた。

しかし、アニスは"死んだ"と言ったので、こちらに来た経由が違う。

よって指摘するのは勿論、4人はちゃぶ台を囲んで話す事にし、
アニスは正座し、ランスは胡坐で、リアとマリスは足を楽に崩している。


≪コトン≫

「どうぞ、お茶です。」

「良い心掛けだ、マリス。」

「あッ、私にもください!」

「ズズズ~……で、死んだってどう言う事なんだッ?」

「ずずずー……(うぅ、口の傷に沁る……)
 ……そ……そのままですよ、私は一回死んじゃったんですよ。」

「何故亡くなられたのですか? 戦死したようでは、無い様ですが。」

「……そ、それは~……」

「言いたくないのぉ?」


自分が死んだ理由を躊躇うアニス。

お馬鹿なアニスだが、流石に死んだ時の事を思い出すのは嫌なモノだった。

よって俯く彼女が死んだワケを漏らしたのは、一分ほどを要した。


「わ……私、"ピカ"の材料にされて、死んじゃったんです。」

「"ピカ"の材料だとォ!?」

「そ、それって、あのリーザスの4軍を消滅させちゃったって言う……?」

「そんな……まさか、貴女が使われていたなんて……」

「……千鶴子様とパパイヤ様に言われて、
 ピカを作る為の材料を頑張って探したんですけど……
 "魔法Lv2の魔法使いの血"だけが、どうしても見つからなくって……
 結局……私が血を抜かれてッ、その……まま……ぐすっ……」

「……なんてこったい。」

「酷い事するねぇ……(リアも人の事、言えないけど……)」

「アニスさん、これを。」

「あ、どうも……うぅッ、鼻咬んでも怒りませんか?」

「ふふ、どうぞ。」

≪ずび~ッ≫


長い人生ではないが、本気で彼女が"怖い"と思ったのは、死に直面した時。

大量の血を抜かれはじめ、意識を失う直前、彼女は半乱狂になっていた。

それを思い出して思わず涙が毀れるアニスだったが、
マリスが優しい表情でハンカチを差し出し、受け取ると鼻を咬む。

そして一段落置くと、ランスは頭を掻きながら言う。


「まぁ……ケバくなくなったり、研究員やってたりと、
 俺様のお陰で千鶴子とパパイヤは、今は多少丸くなってるけどな。
 "あっち"に戻れたら、その分はキツいお仕置きでもしておいてやる。」

「は、はぁ……」

「で……次だが、なんで"こっち"でメシア教徒なんてやってたんだ?」

「それはですね、ラファエル様に生き返らせて貰ったんです。」

「"ラファエル"様だぁ?」

「なんか、私が"救世主"だとか、"千年王国"を作るだとか、
 難しい事ばかりで良く判らなかったのですけど……
 私の"力"を必要としてくれたみたいだったので、洗礼と言うものを受けました。」

「何で"救世主"なんかにされたんだ?」

「洗礼って何なのぉ?」

「千年王国について、詳しく判りますか?」

「う、うぅっ……」

≪ぷしゅ、ぷしゅう~っ≫

「あ!? ちょっと、大丈夫ぅ~ッ!?」


一度に多くの質問をされてか、アニスは目を回す。

頭の上から湯気が出ており、見るからに説明下手なようだ。

そのまま後ろにブッ倒れそうなアニスだったが、
横に居たリアが体を支え、最悪の事態は免れたらしい。

ランスはそんな反応に"こういう奴なのか"と思いながら口を開く。


「(しかたねぇな)それじゃあ、次で最後の質問にしてやる。」

「ど、どうぞ~。」

「何で、"あんな所"で捕まってたんだ?
 あの野郎からは、メシアとガイアが共倒れしたって聞いたが?」

「そ……それはぁ、その……私、まだまだ未熟ですから……
 "敵を倒さなきゃ"って思ったとき、魔力が暴走してしまって……
 どっかーんとなって……気が付いたら、鎖で繋がれていて――――」

「わかった、もういい! それ以上は言わなくて良いぜ。」


千鶴子に見限られたアニスは、ラファエルの恩に応える為。

メシア教徒の一団を連れ、カテドラル上層を狙うガイア教徒と接触した。

色々と期待され、やる気を出していたアニスだったが、
只でさえ魔法のコントロールが出来ないのに、
"新しい肉体"(見た目は同じ)でまともな魔法が放てるはずが無く、
"メギドラオン"で敵味方巻き込み、自分は気絶してしまったのだ。

そんな彼女は"あの男"に拾われて"商売の道具"にされ、
結局ラファエルにも見限られ、再び帰る場所を失ってしまった。

今までは自分のした事を全く気にしない彼女だったが、
流石に死んだ上、陵辱されるに至った事は応えたのか、暗い表情になっていた。

そのまま再び先日までの悪夢を口に出そうとしてしまったが、ランスが制止した。


「ご、ごめんなさい……私は頭が悪いんでしょうか?
 上手に……説明できないです……」

「いや……そんな事、気にすんじゃね~ぜ。
 ……で、本題に入るが、"テレポート"する魔法は使えんのか?」

「ッ? 瞬間移動……ですか? 確か洗礼の時に、
 教えてもらった魔法の中であった気がしますけど~……」

「そうか! 俺様は"その魔法"が必要だ、今度は必ず旨くやれッ。」

「~~……」

「自信が無ぇのか? 三度目の正直を見せてみるのだ。」

「ランスさん、アニスさんは病み上がりです、いきなりは……」

「そうだよお、下手したら死んじゃうかもしれないよぉ?」

「うっ……」


多くのガイア教徒を倒せたとは言え、味方の命を巻き込んだというのは事実。

無神経なアニスでも、その事は負い目を感じずにいられず、
"良い人"と認識したランス達に同じような失敗はしたくない。

よって正座したまま眉を落とすアニスだが、ランスは期待しているようで続ける。


「だがな、"あっち"に帰るのが遅くなっちまえば、
 それだけ俺様の体が危なくなってるって事じゃねぇか。
 アニス……お前も生きて"あっち"に戻りてぇんだろッ?」

「!? も、戻れるんですかッ? 私も……」

「あぁ、"こっち"に居る必要なんて無ぇだろうしな。」

「メシア教徒には騙されただけなんだし、一緒に頑張ろっ?」

「はい。 失敗すれば、またやり直せば良いのです。」

「わ……わかりました! 頑張って皆さんのお役に立ちますッ!!」


ランス・リア・マリスに、彼らなりの励ましの言葉を貰ったアニス。

それにより(良い意味で)単純な彼女は、
再びやり直そうと表情を改め、三人に向かって協力を宣言した。

対して、ランスは頷くと立ち上がり、破顔してアニスを見下ろす。


「がはははは、それなら行くぜ? "都庁"にな。」

「あっ! それなら準備してくるねぇっ?」

「私も装備を整えて来ます。」

「うむ。 さ~て、俺様も……」

「あ、あのお~。」

「あん? 大丈夫だ、"テレポート"だけしてくれりゃあ――――」

≪どたんっ!!≫

「ちッ、違うんです……足がッ、痺れて、しまいましたあ……」

「……(やっぱり、不安かもしれね~な……)」


仰向けに倒れたまま、情けない顔をしてランスを見上げるアニス。

その表情を見ると、本当に自分の命を彼女に預けて良いのか、
ちょっぴり不安になってしまうランス。

こうして新たな仲間を加え、一行は都庁へと出発しようとするのだった。



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス5
Name: Shinji
Date: 2006/05/29 06:12
第5話:トラポート


……都庁行きを決定してから30分後。

ランス・リア・マリスはそれぞれ武装を済ませ、道場の広間に集まる。

アニスは準備の時間でようやく足の痺れが治ったようだ。

よって4人立った状態の中、腕を組みながらランスは口を開く。


「都庁ってのは、二本に分かれてるらしいが?」

「"二本"って、どう言う事なのぉ?」

「聞いた話によれば、都庁はメシア側とカオス側で分かれているようです。
 南の塔はメシア側、北の塔はカオス側……
 31階から48階まであるようですが、
 29以下の階はご存知の通り、水没してしまっているようですね。」

「なら、30階はどうなってんだ?」

「30階からエレベーターで両方の塔へ登れることから、
 "その階"で地上の部隊が争いを続けているらしいですね。
 また、都庁の空では飛行可能な悪魔達が戦いを続けているとか。」

「ほう。」

「本来であれば、30階にターミナルがあるそうですが、
 都庁とカテドラルをターミナルを使って往復するには、
 まずは"そちら"に行かねばなりませんし、
 少なくとも"都庁での戦い"が終るまでは近づけないと考えて良いでしょう。」

「う~ん……二教徒が戦っている最中にこっそりと、
 ターミナルを使う訳にもいかないしねぇ~。」

「うむ。 ……そこで、アニスの出番だと言う訳だが――――」

「あああぁぁぁ~~っ!!!?」


まず話していたのは、都庁について知っている情報についてである。

大体の状況は理解できてはいるが、結局現実的に都庁に向かう手段は無い。

そこで、アニスの手を借りようとランスが彼女に話を振ろうとするが……

今迄黙っていたアニスが、突然大声を張り上げた!

……どうやら流れを読まず、別のことを考えていたようだ。


「な……なんだぁ? どうした~ッ?」

「おっきい声、出さないでよぉッ。」

「このアニスとしたことが、大変な事を忘れていましたッ!!」

「何ィ、何を忘れてたんだ?」

「こうしてランスさん達の"ナカマ"になったのですから、
 ちゃんと"お決まり"のご挨拶をしなくてはなりませんッ。」

「え、何ですか? その"お決まり"の挨拶とは……?」

「それでは、ゆきますね!」

≪すうぅ~っ≫


はてなマークを浮かべる三人に対し、アニスは"すぅ~っ"と息を吐く。

直後、珍しく真剣な表情でランスを見ながら口を開こうとした。

何を考えているのか全く理解できないが、
一つだけ言えるのは、アニスには"仲間"と"仲魔"の区別がついていないと言う事だ。


≪キリッ≫

「……人の子よ、主らがいくら抗(あらが)おうと、
 神が一度(ひとたび)立てば、この世を破壊するせんなきとは思わぬか?」

「はぁ? 何言ってんだ、いきなり?」

「…………」

「("いいえ"とでも答えれば良いのではないですか?)」

「(わからん奴だ……)……いや、思わんぞ。」

「……そうか、詮(せん)無きとは思いつつ、抗うのが命……
 我らは死しても魔界に戻るのみ……偶(たま)さかなれど、
 人の子に力を貸さんと思う……」

≪し~ん……≫

「…………」←ランス

「…………」←リア

「…………」←マリス

「――――はいっ! そんな訳でアニスです、
 皆さん宜しくお願いしますね~ッ。」

「宜しくと言うのは判ったが、一体何が言いたかったんだ?」

「えっ? サマナーの"ナカマ"になる時は、
 "こう言う事"を言わなくちゃいけないのではッ?
 以前悪魔が"違うサマナー"にこんな事を言っていたので、
 "格好良いな~"って思ったんですけど、どうでしたか!?」

「いや……どうしたかって言われてもなぁ……」

「う~ん……(やっぱ変なコ……)」

「(成る程……何となく判ってしまったわ。)
 アニスさん、悪魔は別として、人間はそんな事を言う必要は無いですよ?」

「あれ、そうなんですかッ? し、知りませんでした……
 折角頑張ってセリフを覚えたのに……」

「セリフの中に"魔界"って単語があった時点で気付け~!」


まるで他のキャラになりきっているように喋っていたアニス。

最後は胸に手を当てて言っており、
考えた末に"仲魔"になった悪魔の決意がしっかりと再現されていた。

しかし、それは大きな勘違いによるもので、仲間が言う意味は無い。

"美形の悪魔"が言えば、確かに格好良い筈の台詞は、
アニスが言っても妙な違和感を感じるだけでしかなかった。

彼女の性格をこれで大体理解してしまったマリスは、
不安を感じ額に手を当てて、数秒頭を捻っていた。

その後、気を取り直すと、いつものように、
腕を胸下で組むポーズを取るとランスに向き直って言う。


「それより、ランスさん……」

「あぁ、そうだったな……それよりアニス、テレポートだ。」

「はい、都庁に"トラポート"をすれば良いのですねッ?」

「(トラポートかぁ……テレポートする魔法の名前なのね。)」

「その前に確認しておくが、本当に大丈夫なんだろうなぁ?」

「任せてください! 都庁には案内されたことがありますし、
 実際何度か"トラポート"を唱えた事がありますからッ!」

「それなら任せて頂いて良いかもしれませんが……
 どの場所へ行くか決めなければなりませんね。
 とりあえず48階と30階に近い階層は危険ですから……」

「そうだなぁ、戦力が集中してなさそ~な40階辺りにしとくか?」

「うん、それが良さそうだねぇ。」

「わかりました! 40階ですねッ?
 それと塔は二本ありますけど~、どちらの40階にしましょうか?」

「狙う悪魔の種族にもよりますね。」

「それなら……メシア側にしてくれ、狙いてぇ悪魔がいるからな。」

「了解です、メシア側の40階ですねッ?」

「えッ? ランスさん、"メシア側"であれば、属性の関係で――――」


都庁の戦力が集中していない40階辺りにテレポート、それは定石。

だが、ランスの"メシア側"の言葉をマリスは指摘した。

ランスの属性はNEUTRAL-CHAOSの筈なので、
LAW属性の悪魔が多いメシア側での仲魔探しは非効率的だと感じたからだ。

そんなマリスの言葉の途中で、ランスは自分のスカウターを取り外して言う。


「なんのッ、これを見てみろ。」

「えっ? っ!? これは……」

「がははは、"Alignment=Neutral"とあるだろうっ?
 これがどう言う意味か判るかあ~ッ?」

「……ランスさんの属性が、ニュートラルとなったと言う事でしょうか?」

「(最初の英語はやっぱ"属性"って意味らしいな。)
 その通りだ、これでダーク以外の悪魔は仲魔になると言う事だッ!」

「成る程、一本取られてしまいましたね。」

「へぇ~、すっご~い!」

「????」


マリスがスカウターを見ると、はっきりと属性=ニュートラルと表示されていた。
(見せたのはランス自身のステータスのようだ)

アニスや六本木の女性達を助けた事により、何時の間にか属性が変化したのだ。

……それに、メシア教徒とガイア教徒の、どちらの手も借りず、
カテドラルに来た事も、属性変化の理由として挙げられる。

一方、アニスは何の意味か判らないようだったが、直ぐにランス達は話を戻した。


「そんな訳でだ、"都庁の南の塔"の40階だぞ? 良いなッ?」

「はい! それでは、始めますね~っ。」

「おう、任せたぞ~。」

「覚悟を決めます。」

≪すっ……≫

「ふぅぅ~~……」

「(ッ? 魔力の流れが……)」


こうして、LAWサイドの都庁行きを決めた一行。

テレポートはこの場所(道場広間)で行うようで、
アニスは体を木の字に構えると、瞳を閉じて魔力を集中させる。

実は彼女、相当な魔力の潜在能力を秘めているので、
息を吹いただけで部屋の空気の流れが変わった事にマリスは気付いた。

それは数秒後、リアも察せ、唾を飲む3人だったが……


「……うい~……」

「んなッ?」

「(き、聞き間違えかしら?)」

≪ごごごごごごっ……≫

「うい~、うい~……うい~っ……」


空気を全く読まない、アニスの間抜けな声が響いた。

中年のおじさんが、長旅の中温泉に浸かったような声である。

それによりランスとマリスはガクッとなるが、本人は至って真剣である。

この"うい~"と言う声が、彼女にとって"トラポート"を唱える為には、
必要不可欠な唸り声だったりするのだ。

リアだけはそんなにダメージは無いようだが、彼女の性格故だろう。


「(むぅぅ、本当に大丈夫なのかこりゃ……)」

「(でも、流れてる"魔力"だけは本物みたいだよ~?)」

「(そうですね……私とは比べ物になりません。)」

≪ぶうううぅぅぅんっ……≫

「うい~っ……うい~、うい~……」


関西人であれば"何やねんその詠唱!!"と思わずツッコミを入れたくなる筈。

だがそれで誤差や暴走が生じてしまい、
海に落とされてはたまらないので、邪魔はしてはいけない。

しかし声間抜けと言えど、しっかりと魔法は機能しているのか――――


「おぉ!? そろそろ来るかぁ!?」

「本当にっ転送前のようなっ、感覚ですねッ……」

「ゆゆゆゆ揺れてるううううっ!!」

「……せ~のっ!! トラポォ~~トッ!!」

≪ばしゅうううぅぅぅっ!!!!≫


ターミナルの転送直前と同じ感覚がランス達を襲う。

ほぼ同一であり、この感覚には既に慣れているのか、
ここで初めてアニスの"トラポート"が機能しているのだと確信した。

そんな中、アニスが瞳を見開いて両手を前に突き出し、
しっかりと"トラポート"と叫ぶと、一瞬で4名の姿が消えた。

……そして、無人となった道場広場に、元の静けさが戻るのだった。



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス6
Name: Shinji
Date: 2006/05/29 23:56
第6話:新必殺


≪――――シュンッ!!≫


「う、うおぉっ!?」

≪ずだんっ!!≫

「きゃあっ!?」

≪がしゃんっ!!≫

「え、高っ……」

≪ざしゃっ!!≫


"トラポート"が掛かってから数秒で、木造の道場では無く、
コンクリート造りの視界が一行に飛び込んでくる。

結構心配であったが、アニスの転送魔法が"一応"成功したようだ。

……あくまでも、"一応"である。


「いったぁ~い、でも此処が~……」

「都庁……ですか。」

「そうみてぇだ……

≪――――ぐしゃっ!!≫
 
 ……ぎえぇ~~ッ!?」

「はい! 到着しましたッ!」


しかし、ランス達が現れた地点は2メートルほど空中だった。

よって空間に現れてから落下し、装備の重量があるので、
身を縮めて着地した三人だったが、ランスが立ち上がろうとした時、
遅れて現れたアニスが落下してきて潰される。

このように高さに誤差があったが、成功といえば成功だろう。

むしろ、アニスの魔法にしては相当な上出来と言っても良い。

よってこれでテレポートによる命の危険は無かった事となったが、
階層が違う可能性があるので、アニスの尻に潰されてうつ伏せになった格好のまま、
オートマッピングを操作して現在位置を確認するランス。


「(ピピッ)……良し、"都庁南の塔40階"で間違い無ぇみて~だな。」

「そうですか! 階層は勘だったんですけど、旨くいって良かったです!」

「か、勘だったのぉ~!?」

「こらっ、サラりと恐ろしい事を言うなッ!」

「(気にしたら負けね……)……ではランスさん、召喚をお願いします。」

「毎度の事なんだが、面倒なんだよな~これ。」

「へぇ、それで"ナカマ"を召喚するんですか、私初めて見ます!」

「それはいいから……いい加減どけ、仕舞いにゃ怒るぞ。」

「あッ、これは失礼! 心地良いので、すっかり忘れていました!」


……


…………


……メシアサイド・都庁40階。

戦いは上層と下層で繰り広げられているのか、
問題なく3体の仲魔を召喚出来たランス。

現在は4人+ご存知の3体の7名編成となっている。

その7名の中心で、ランスは雷神剣を片手に偉そうに言う。


「良しッ……都庁は今回が初めてだ、初見の悪魔にゃ、
 最初にやる事は判ってるだろうなぁ?」

「リアは、"テトラジャ"でしょっ?」

「私は"マカラカーン"ですね。」

『わらわは、様子を見て回復魔法じゃな。』

『私は"マカカジャ"でしたね。』

『……"ラクカジャ"か。』


この時期、初登場敵悪魔には、いかなる相手でも、
これらの手で最初は様子を見る必要がある。

いきなり状態異常や呪殺の魔法を使われては大きな被害を受けるからだ。

勿論、一回でも倒してしまえばアナライズで"手"が判るので、
様子を見る必要は無くなり、弱点を突いてさっさと倒してしまうのだ。

そんな中、今では定石である手段を知らないアニスは、
自分もこの流れに合わせようと、意気込みながら続いた。


「それではッ、このアニスも自慢の魔法で敵を――――」

「いや……お前は戦わなくても良いから、戦い方を見てろ。」

「え、えぇ~!? どうしてですかッ!?
 私が皆さんの足を引っ張ってしまうとでもっ!?」

「(それが殆どの理由でもあるけどな……)
 さっきテレポートだけしてくれれば良いって言っただろッ?
 "そんな体"で無理する必要なんてねぇしな。」

「この程度大した事はありませんッ、私はどんな相性の敵にも効く、
 "万能系魔法"が使えますッ、それで悪魔など一発でずが~んと倒せますからッ!」

「(聞いてねぇなぁ……)……マリス。」

「はい、"マカジャマ"。」

≪ぶいぃ~~んっ≫

「え……ッ!? はが……ッ、……!? ~~……っ!!」

「無駄だから、喋らないほうが良いと思うよぉ?」

「これも貴女の為ですから。」

『しかし元気な娘じゃのう。』

『私も少し、あやかりたいものですね。』

『……いらんな。』

「これは命令だぞ? 大人しくしてろッ、それじゃ行くぞ~っ!」

「~~……っ……!!」


アニスはいわゆるNPC扱いであり、戦いには参加させないようだ。

確かにどんな悪魔にも通用する"万能魔法"で初見の悪魔をさっさと倒してしまえば、
様子見の戦いで消耗せずにアナライズのデータを追加できるが、そうもいかない。

アニスの敵味方を全滅させる魔力の暴走が一番恐ろしいのだが、
それを差し引いても、今の彼女は巫女の回復魔法により、
何とか動けている状態の筈故、本人は戦うと言っても許可は出来ないのだ。

やる気があったので納得のゆかないアニスだったが、
マリスが今や一瞬で詠唱可能となった沈黙魔法を掛け、
知力が低いアニスにはアッサリと"知力の高いマリスの魔法"が効いてしまった。

それによって一定時間喋れなくなってしまったアニスは、
必死にぶんぶんと手を振って何かをアピールしているが、
ランスは軽く流すと、仲魔を探す為に都庁の散策を開始するのだった。


……


…………


≪モコモコモコッ……!!≫

『オオオぉぉぉっ!!』

『血だッ、血を捧げよッ!!』

「来たぜ、"地霊アトラス"だ!!」

『LAW属性のようですね、如何しますッ?』

「狙ってる種族じゃねえな、やっちまうぜ!?」

「念には念をですから……マカラカーンッ!!」

『……ラクカジャ。』


やはり戦力は出払っているようだったが、十数分後悪魔が出現する。

数は3体……今は交渉可能な巨人型悪魔"アトラス"だったが、
ランスが狙っていた種族ではなかった様で、戦闘が開始される。

初見の悪魔なので、マリスの"マカラカーン"、
そしてカミーラの"ラクカジャ"から始まり、他のメンバーも行動に入った。

だが、その様子見の戦法が意味の無い悪魔だったようで、
一体のアトラスが突進し、ショルダータックルを繰り出してくる。

体長3メートル近くありそうな巨体での突撃は、かなりの迫力だ。


『くらええぇぇい!!』

≪ドドドドドド……ッ!!≫

「ど~やら判り易い奴みてぇだな……散れッ!!」

「ひゃあ~っ!」

「ふ……っ!!」

≪ざしゅしゅっ!!≫


アトラスの突撃を散開して回避するランス達。

そんな中、マリスが開始しながらクチナワの剣で連斬を放つが、
硬い悪魔の為か、たいして効果が無いようだった。

一方、もう一体のアトラスと向かい合っていたランスが振りかぶり……


「どりゃああぁぁーーっ!!」

≪ザシュウゥ……ッ!!≫

『ぐぬぅぅッ!?』

≪――――ドサッ!≫


雷神剣の一太刀で、アトラスの片腕を叩き切った。

ランスの腕力と、雷神剣の威力が合わさり、
地霊最高クラスであるアトラスの腕を落とす事など、もはや安易。

そして、一番後ろに居た最後のアトラスには……


『はぁ! ブフダインッ!!』

「ジオンガぁ~~ッ!!」

≪ズガオオォォン……ッ!!≫

『うおおぉぉ……ッ!?』


香姫とリアが的確に攻撃魔法を命中させていた。

これにより、数に上回るランス達は楽に勝利が可能だと思われたが、
ランスに片腕を落とされたアトラスは転がる自分の腕を掴む。

そして傷口に腕をくっ付けると、一瞬で腕が繋がってしまった。


「な、何い~っ?」

『ふんぬ……っ!!』

≪ビキビキッ、バキイィン!!≫

『そんな、氷が……』


香姫によって凍らされたアトラスも、怪力で氷を早くも破ってしまう。

マリスに斬られたアトラスも既に傷が癒えており、驚異的な回復力を持つようだ。

実はこのアトラス……口では言っていないので皆気付いていないが、
最高回復魔法である"ディアラハン"を使うのだ。

その魔法を使わせてしまえば、中途半端な攻撃ではアトラスを倒せない。

ランス達の攻撃によって断末魔を挙げなかったのも、
この戦い方で今迄相手を捻じ伏せて来たので、感覚が鈍くなっている為だ。


『ははははッ、この程度では我々は倒せぬぞ!!』

『何処から入ったかは判らぬが、覚悟する事だな!!』

「だ、ダーリン、どうするのぉ?」

「ふんっ……一発で倒せねぇなら、倒せるようにすりゃ良いだけだ。」

「あやっ? 絶体絶命ですねッ、ここはやはり、わたしアニスが――――」

「(敵に掛けた方が良い気もしますが……)マカジャマ。」

「えぇ!? ま、また……~~ッ!? ……っ、……ッ!!」

『ほれほれ、大人しくしておるのじゃ。』

「カミーラ、済んでるだろうなッ?」

『……二回掛けた。』

「がはははは、それならイケるな! やるぜぇ~ッ。」

『…………』

≪ババ……ッ!!≫


沈黙が治った10秒後に、再びアニスが沈黙させられているのはさておき。

沈着状態の中、突然ランスとカミーラが3体並んでいるアトラスに飛び掛る。

対して、アトラス達は迎え撃とうと構えるが、彼らは気付いていない。

マリスと共に最初のアトラスを相手にしていたカミーラが、
気付かれぬうちに"タルカジャ"を二回掛けていたのだ。

最大4回まで掛けれるが、アトラスを二名が一撃で倒せるのは十分な回数。


「新・必・殺!! 達磨返しィィーーッ!!」

≪ずぶしゅぅ……っ!!≫

『(デスバウンドッ。)』

『な、何ッ!? この力――――』

『ごッ、ごああああぁぁぁぁ……ッ!!』

≪――――ズドドォッ!!≫

「くくくっ、流石俺様……(他にもまた、何か閃きそうな気がするぜ。)」


パワーアップされたランスとカミーラに気付いても、今既に遅し。

ランスは閃いた"達磨返し"という、ランスアタックと違い、
下から上へと突き上げる斬撃で、アトラスの体を二分する。

そして、カミーラは更に磨きの掛かった翼での、
"デスバウンド"の薙ぎ払いで二体のアトラスを一瞬で葬った。

これで倒したとは言え、久々にニュートラル悪魔と遭遇出来たランスは、
ようやく閃いた"必殺技"の手ごたえを感じながら機嫌を良く口元を歪ませた。

最後の合体の為の仲魔を探す為……都庁の探索は続く。



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス7
Name: Shinji
Date: 2006/05/31 09:37
第7話:妖魔


……都庁南の塔、41階。

あれから何度か戦闘を行ったが、40階を満遍なく回っても、
もう悪魔が出現しなくなったので、一行は41階に上がったのだ。

すると、ランス達を待ち構えるように3体の悪魔が出現した。

その悪魔は"妖魔"であり、ランスが狙っていた悪魔の種族だった。


『こ、こいつら! 一体何処から……』


一体目は"妖魔 キンナラ"で、メズキのように馬の頭。

そして黄色い長身の人間の肉体と、大剣を持っている。

魔法にも優れ、マハラギオン・スクカジャ・ラクカジャを使うのだが、
ランス達の登場に一番慌てている様子だ。


『むぅ……下の部隊はどうなったと言うのだッ?』


二体目は"妖魔 ガネーシャ"で、青いゾウの頭の悪魔だ。

即死魔法の"ムド"と、アトラスも使った"ディアラハン"をも使う。

キンナラと違って若干冷静な悪魔のようだが、
やはり来るはずの無い敵が来て驚いている様子。


『やられたと言うのか? どちらにしろ、通す訳にはいかんな……』


最後の三体目は"妖魔 ハヌマーン"、通称"猿の神"。

速さと手数に優れ、"タルカジャ"を使う最高クラスの妖魔だ。

三体の中では一番強いのか、キンナラとガネーシャよりも一歩前に出ている。

……こんな三体は、メシア側の都庁の悪魔達の中では、
頭数は少ないが非常にバランスの取れた編成であり、
戦うのであればランス達は"五体満足"で済むか際どい所だろう。

キンナラとガネーシャは抜刀しているのだが、
ランスの目的は彼らと戦う事では無いので、雷神剣を抜かずに近付いた。


「(ピピッ)妖魔……"ハヌマーン"だな?」

『いかにも……ガイアの者よ、死にたくなければ引き返すが良い。』

「いや、俺様はガイア教徒なんかじゃねぇぜ? お前に用があったんだ。」

『ケッ! 何デタラメ言ってやがる!?』

『ハヌマーン殿、耳を貸してはいけませんぞッ。』

『……悪いが彼らは聴く耳を持っていないようだが?』

「(う~む、確かにガイア教と思われるのは仕方ねぇよなぁ~……)」

≪くるっ≫


一番強いと思われる"ハヌマーン"と交渉を始めようとするランス。

しかし、キンナラとガネーシャが口を挟み、本題に移れない。

よってどうしたものか……と考えるランスだったが、
リア達が自分を見守る背後を振り返って、ハッと閃いた。


『一瞬であれど我々に背を向けるとは、大した根性だな。』

「へっ、お前らもそんなに余裕で良いのかァ?
 後ろの、間抜け面で"欠伸(あくび)"をしている奴を見てみろッ!」

『何ィッ?』

『それがどうしたッ?』

『むっ!? (あやつは――――)』

「ふわ~~あぁあァ……」


前を向きながら、ランスは親指で後ろを指し、
ハヌマーン達は後方にいる"アニス"を注目した。

この時のアニスは、もう10回程マリスに"マカジャマ"を掛けられ、
ややイジけているのか、緊迫した状況でだらしなく欠伸をしていたのだ。

戦わせられない只の部外者の呑気な欠伸でしかないのだが、
その欠伸を、"ハヌマーンだけ"は違う捉え方をしたようだった。

ランスはそれを察して、"しめた!"と思いながら口を開く。


「くくくっ……お前には感じたか? あいつの"魔力"がよ。」

『確かに、あの余裕……只者ではないようだな……』

「だろぉ? 例え俺様たちと戦おうとしてもな、
 お前らはあいつの"メギドラオン"で一瞬であの世逝きだぜ。」

『な、なんだとぉ!?』

『ぶざけおって!!』

≪がばっ!!≫

『――――待て、命を無駄にしたいか!!』

『えぇ!? そ、そんなに強いのかよ、あいつらッ……』

『は、ハヌマーン殿……』


確かにアニスが"メギドラオン"を使えばハヌマーンたちは消し飛ぶだろう。

だが、只では済まないのはランス達も一緒なので、使わせれる筈が無い。

つまり……"ハッタリ"であり、アニスは余裕ぶっているのではなく、
ただ不貞腐れて欠伸をしているだけなのである。

よってリーダーたる者、部下の命は大事にせねばならず、
その志を持っていた"ハヌマーン"だからこそ、
アニスの存在は驚異的なものである事から、罠に引っ掛かってしまったのだ。

キンナラとガネーシャは戦う気のようだったが、
ハヌマーンに止められると、彼は聞く態勢に入ったようで言った。


『くっ……できるな、用を言ってみろ。』

「がははは、懸命だぜ! じゃあ、これを見てみろッ!」

『ふむ、デビルサマナーの証……か。』

「知ってたか? なら話は早ぇな! 俺様の"仲魔"になれッ!」


……


…………


『リーダーの事、頼んだぜッ?』

『不本意だが、仕方あるまい……』

「おう、お前らは帰って寝とけ~!」


交渉の末、"妖魔 ハヌマーン"はランスの仲魔になった。

Lv63……ランスを若干上回るのだが、
アニスのレベル(70以上)が適用されたようなので、
ハンドヘルドコンピューターへの受け入れが完了した。

しかし、彼が仲魔になる条件は色々とあった。


ひとつ、部下であったキンナラとガネーシャには手を出さない事。

ふたつ、キンナラとガネーシャに多少のマッカを支払う事。

みっつ、この後の"都庁・北の塔"での戦いにハヌマーンを参加させる事。


「ランスさん、これで仲魔探しは終ったのですか?」

「いや、まだだぜ? もう一体仲魔が必要だ。」

「合体には、二体居ればいいんじゃなかったのぉ?」

「何を言うか、次で最後なんだから、"三身合体"に決まってるだろうッ。」

『ランス様、一体何を作られるのですか?』

「ふっふっふっ、それは見てのお楽しみだな。」

『それは楽しみじゃのぅ~。』

『……(私を凌ぐ……"あちら"の悪魔……か。)』

「それじゃ、今度は"北の塔"に行かねぇとな。
 CHAOS属性の悪魔を仲魔にせにゃあならん。」

「それでは、もう"こちら(南の塔)"に用は無いと言う事ですか?」


ハヌマーンの三つ目の願いは、ガイア側の悪魔と戦いたいと言う事。

ランスがどちらにも属さないデビルサマナーと言う事は言われて理解した。

しかし、この後同じように"トラポート"でカオス側の塔に行くようなので、
"三身合体"に使われて戦線を完全に離脱してしまう分、
それなりにガイア教徒を叩いておきたいと言うのだ。

対してランスは、ハヌマーンは普通に強い悪魔なので、それを許可した。


「そうなるなぁ、此処にゃあもう用無しだ。
 時間もあるようだし、さっさと二体目を仲魔しねぇとな。」

「……では、"戻らないといけません"ね。」

「何、戻るだとぉ? まだ時間があると――――」

「アニスさん。」

「えっ? わわっ!」

≪ぐいっ!≫

「どうして、ずっと我慢していたのです?
 先程の欠伸までも、演技だったと言うのですかっ?」

「そ、そんなッ……この程度ッ大した事はッ!」

「えぇっ? ち、ちょっとぉ、凄い血が滲んで……」

『なんと、痩せ我慢じゃったのか?』

『いけませんね、道場でゆっくりと傷を塞がなければ……』

「これは違う、違うのです! え~っと……
 ち、ちょっとリキんだら赤い汗が出てしまっただけですッ!」

「……もうちょいマシな言い訳できねぇのか?」

「良いですか? "トラポート"が使えるのはアニスさんだけです。
 そのアニスさんが倒れれば、私達全員、生きて帰れなくなります。」


ランスはまだまだやる気だったが、マリスが急に帰還案を持ち出した。

アニスは隠していたが、彼女の病み上がりの体は、
一時間足らずだが、戦わずにせよ動いただけで、
傷口が少しづつ……少しづつ、開いてしまっていたのだ。

道場夫婦には許可を受けておらず、内緒で同行していたらしい。

滲み出た血はまだ少なく、包帯の途中で止まっているのか、
巫女服を汚してしまってはいないが、マリスに引っ張られた弾みで、
露出した包帯は赤く染まっているのが見えており、
アニスは痩せ我慢での脂汗を滲ませているほどだった。
(ちなみに、不貞腐れて欠伸していたのは演技ではない)

しかしアニスは"まだいける"ような事言うのだが、
(実際拘束されていた時の陵辱により、感覚が麻痺しつつあり間違いではない)
マリスに真っ向から定説を言われて、少し項垂(うなだ)れながら言った。


「わ……わかりました~、貸して貰った服が汚れるのは嫌ですし、
 戻る事にしましょうか……ぶつぶつ。」

「(そっちかよ……)だったらそれで決まりだ、前の場所に送れるかッ?」

「あぁっ! それどころじゃ無いみたいですよぉ~?」

「何ぃーッ?」

≪ドォンッ、ドンドンッ!!≫

「居たぞーーッ、侵入者だーーッ!!」

「ゲッ!? メシア教徒かよッ!!」

「あれは……"ターミネイター"。」

≪フォンッ!! フオオォォーーンッ!!≫


"メシア教徒 ターミネイター"、すなわち殺戮部隊。

両手にライフルとショットガンを持ち、ジェット装置で飛行が可能。

メシア側の空中戦の主力とも言える中堅的な部隊である。

天井に右手でハンドガンを発砲した一人の"ターミネイター"は、
直ぐさまライフルに持ち替えると、ランス達に近付いてくる。

すると数秒後、弾音を聞きつけた数人の"ターミネイター"も出現し、
低空飛行によりランス達をあっという間に包囲した。


「簡単にゃあ、帰してくれねぇか。」

「どうしますか?」

「決まってんだろ! 香とキクリヒメはアニスを見ておけッ!」

『はいッ。』

「そんな、大丈夫です! わたしはッ手を借りずとも……」

『そうもいかん、気をつける事は逆にあるのじゃ。』

「(……ま、ハヌマーンに戦わせるのは明日でも良いな。)」


……


…………


「…………」


……十数分後、回復道場の広間。

その中心で、道場主が座禅を組んで瞑想をしていた。

主に客を待っているときは、基本的にこのような形で待っている道場主。

ランスが始めて彼と対面したときも、このような感じだった。

しかし、この神聖で静かな部屋の雰囲気は長く続かず――――


≪……どすどすどすぅっ!!≫

「ぐ、ぐおおぉぉ~~っ!!」

「ただいま~。」

「うむ、ナイスクッション。」


道場主の頭上から、突然現れたランス・リア・マリスが降ってきた。

ターミネイター達を倒し、仲魔を回収し、トラポートを受けたのだ。
(仲魔が一緒だと、何となく不安だったのであえて回収した)

それにより潰された道場主は、ランス達が退くと何とか起き上がる。


「あ、相変わらず……驚かせてくれる連中だ。」

「ふん、避けれないのが悪いぜッ。」

「!? それよりもだ、アニス殿を見かけなかったかッ?」

「アニスさんを、ですか?」

「えっと、あの娘ならぁ~。」

「今妻が探しているのだが、店を開けることも出来ぬしな……
 むぅ……何だッ? 上に何かあるの――――

≪――――どすんっ!!≫

 ……ぐほおおぉぉ~~っ!!」

「だから、上を挿してやったと言うのに。」


アニスの場所を聞かれ、人差し指で天井を指差すランスら三人。

すると今度は道場主の頭上からアニスが落ちてきて、彼を再び潰した。

波状落下によりダメージが高く、少しピクピクしていた道場主は、
アニスがどいてくれるまで待っていたようだったが……


「おい、アニス~?」

「アニスさんッ?」

「……ッ……」

≪ごそごそっ≫

「むっ!? いかんッ、傷口が開き過ぎて気絶しているようだぞ!!」

「何だとぉ~ッ?」

「!? あなた、これは一体……」

「おぉ、丁度良かった! 早速治療をし直さねばならんなッ。」

「"内の傷"は昨日癒しましたが、外の傷はこれからだったので、
 昨日あれ程、"無理してはいけない"と言いましたのに……」

「そうだったのですか? 私はてっきり……」

「う~む……テレポートだけしてりゃ良いって言ったのによ。
 随分と余計に動いて、負担かけちまってたしなぁ~。」

「大丈夫なのかなぁ?」

「な~に、丈夫そうだし、あのオヤジが診るなら平気だろ。」


"トラポート"を唱えるまでは大きな衝撃が無かったので平気だったが、
落下の衝撃の痛みで脳が驚き、アニスは気絶してしまったらしい。

たかが2メートルの誤差と言えど、デリケートな傷口には激痛。

アニスの下からゴソゴソと這い出した道場主は、
タイミングよく戻ってきた巫女とアニスを抱えると、
ランスとリア達とは別の部屋に治療の為に入って行ってしまった。

……アニスの借りた巫女装束も、外出用で着せてもらったのではなく、
只単にそれ以外の衣服が無かったからなのだ。


「ダーリン、どうするの~?」

「アニスがあれじゃあ仕方無ぇしな、カテドラルでレベル上げだ。」

「それしかありませんね。」

「その前に、適当に買い物もしておくぜ?
 そろそろ"戻れる"訳だし、金は使い切っておくに限るからなッ。」

「……むうぅ~……」

「(リア様……)」


……


…………


……それから、3時間後。

相手を"緊縛"させる効果のある弾丸、"閃光弾"を3セット購入し、
マリスには"シュツルムアーマー"を購入させてそのまま装着。

よりカテドラルでの悪魔との戦いを楽にさせる為、マッカは惜しまなかった。

一方ランスは未だに銀座で購入した"ドラゴンメイル"なのだが、
どうやらこの鎧が気に入っているらしい。


「ふぃ~、今日はこれくらいにしておくか。」

「結構、疲れたねぇ……」

「ランスさん、"どの程度"になりましたか?」

「"62"ってとこだな、アニスが高ぇから良いかもしれねぇが、
 上げて置くに越した事はないだろうしなァ。」

「えへへ~、リアは"56"なんだぁ。」

「才能限界に縛られる事が無いのは、良いものですね。」

『羨ましいものじゃのお。』

『私も人間の体として、"こちら"に来たかったものです。』

『…………』

「でも……リアが"あっち"に戻っちゃったら、
 "こっち"のレベル、無くなっちゃうのかなぁ……?」

「そればかりは、なんとも……」

「がははは、俺様はどっちでも良いけどな。」

「リアはやだよぉ~……」


そんな会話をしながら、カテドラルカオスを歩くランス達。

夜が近付き、ある程度消耗したので、今日はこれで切り上げるようだ。

そして回復道場が近づくと、ランスは仲魔達を回収し、
いつものように此処で夜を明かすべく、中にへと入った。


……


…………


……1時間後。

ランスは部屋に戻って武装解除し、一息つくと広間に出た。

すると……マリスとリア、そして道場主の姿があり、
ランスは三人の近くまで行って腰を降ろすと胡坐を組んで言った。

勝手にちゃぶ台の上にあるツマミに手を出すのも忘れない。


「おっさん、アニスはどうなんだ?」

「うむ……大半の外傷の治療も済み、今は眠っている。
 このまま夜中まで交代で魔法を掛け、一晩すれば動けるだろう。」

「明日も連れ出すつもりだが、良いんだよな?」

「無理に戦わすので無ければ構わぬが……心の傷はまだ開いたままだ。
 性分からか普通では察せ無いかもしれぬが、私には判る。」

「……(一度死んだ上に、レイプとかされてるみてぇだしな~。)」

「貴方~、そろそろ交替をお願いします。」

「わかった! ……では私は引き続き治療に移る、お主らも休むが良い。」

「おう、お前らもしっかり休んでおけよ~?」

「はい。」

「うん……リアもう……寝るぅ……」

≪ふらあ~っ≫

「んんっ? なんだぁ、あいつ。」

「……それでは、私も失礼します。」

「????」


道場主と話している最中、リアは何故かずっと暗そうだった。

彼女にしてはとても珍しくどよ~ん……としており、
ゆっくりと部屋に戻るリアにランスは思わず首を傾げた。

そんなリアを追うようにしてマリスも去り、
ランスが取り残されたが、彼も腰を上げると欠伸をしながら自室に戻っていった。


……


…………


……更に一時間後。

自室でシャワーを浴び、トランクス一枚のランスは、
ベットの上で後頭部で組んだ腕を枕にしながら、一人考えていた。

残り一体を仲魔にして合体で完成する、"新しい仲魔"の事をだ。

"その悪魔"を作ればランスは"あっち"に戻れるので、彼はニヤついていた。


「(最後は"あの種族"でラスト……か。
 色々と梃子摺ったが、ようやく帰れるって訳だぜ。)」


最初は"こんな世界"に飛ばされて冗談ではなかったが、色々な悪魔とエッチできた。

"エルフ"で始まり、今となってはあの"カミーラ"。

それらの悪魔を抱けただけで、こちらでの手間は清算できたと言っても良い。

しかも、まだ"アニス"と"最後の仲魔"が残っているし、ニヤつきを隠せない。


「(アニスは駄目だが、今夜は香でも召喚すっかな~。
 それかカミーラ……いや、いっその事3Pでもいいぜ。)」


こっちに来た当初は皆無だった、エッチでの耐久力は若干戻って来ている。

ようやく3Pであれば、無難にこなせるまでの体になったのだ。

そんな訳で、ランスは鼻の下を伸ばしてアームターミナルに手を掛けようとしたが……


≪――――コンコンッ≫

「ん、誰だ?」

「私です。」

「おぉ、お前か。 入って良いぞ~。」

≪ガチャ……≫

「……失礼します。」


部屋の入り口のドアをノックする音が響く。

その後、聞こえた声で誰だか判ったランスが答えると、ゆっくりドアが開き……

神妙そうな表情の、マリス・アマリリスが入室した。


○ステータス(初期値ALL5+ボーナス18+Lv=合計)
ランスLv62 力32 知12 魔12 体22 速22 運10
リ アLv56 力10 知20 魔30 体10 速16 運16
マリスLv60 力14 知28 魔16 体14 速28 運08
アニスLv72 力20 知10 魔40 体20 速25 運05
残金:5000マッカ



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス8
Name: Shinji
Date: 2006/06/01 19:07
第8話:謎の提案


ランスの部屋に入ってきたマリスは、浅く頭を下げる。

そんな彼女の服装は裸足でラフなものであり、
新宿の露店で買った、安物の黒いシャツと薄茶色のショートズボン。

マリスの立場から、リーザス城での生活では常に多くの目があり、
自室で休んでいてもランスや部下に呼び出される場面が多々あった事から、
寝るときでさえも今のようなラフな服装は出来なかった。

ある意味、"こちら"に来た事で初めて服装の自由を手に入れたのだ。

その為、"あちら"の者でマリスのこのような姿を見ているのは、
"こちら"に飛ばされたランスとリア……そして香姫とカミーラだけなのだ。


「夜分に、申し訳ありません。」

「な~に……今俺様は機嫌が良いからな、許してやる。」

「ありがとうございます。」

「……で、何の用なんだ?」


ランスが不愉快に思っていないのを確認すると、
マリスはソファーに近付き、そのままゆっくりと腰を下ろした。

対してランスは、腕枕を解いてごろりと右に寝返りをうち、
右肘をついて右手で右顎を支えると、マリスに視線を送る。

すると、彼女は若干躊躇っているようだったが、表情を改めると口を開いた。


「そろそろ、ですね。」

「……ん? 何がだッ?」

「"あちら"に戻れるという事が……です。」

「おぉ、お前もそう思ってたか? 俺様もさっき似たような事を考えてたぞ。」

「そうでしたか……」

「で~、それだけか?」

「……いえ。」

「????」


マリスは再び神妙そうな面持ちになってしまうと俯き、前髪で表情が隠れる。

あまりこういう彼女は見ないので、ランスは彼女の言葉を待っているしかなかった。

そのまま10秒ほど経過すると、マリスは体をゆっくりと起こし、
ランスに顔を向けると、若干眉を落とした視線を彼に投げかける。

……が、目と目が合うと、視線を直ぐ逸らしてしまい、そのまま言う。


「恐れながら申し上げますが……正直なところ、
 私はランスさんとリア様には、"あちら"に戻って欲しくはありません。」

「何だと?」

「だからと言って、"こちら"に留まるように工作する気は一切ありませんが、
 私は今迄……あれほどまで楽しそうにしていたリア様を見たことがありません。
 それが何故だか、ランスさんはお解りになりますか?」

「……さぁな。」

「それは、ランスさんの傍にリア様がおられるからです。
 しかしそれだけではリーザス城と同じなので条件があり……ランスさんと"冒険"し、
 戦いで"勝利"し、目的を"達成"する事が、リア様にとって最高の幸せなのです。」

「…………」

「"こちら"に来た直後は、こんな危険な旅は直ぐ様終らせるべきと思いましたが、
 日が経つに連れ、それは間違いである事に気付きました。
 そして述べた通りの、リア様の幸せが何かと言う事が判れて感謝しています。」

「……って事は、何だ? お前は国(リーザス)や"あっち"の人間達よりも、
 "こっち"に俺様とリアが居続ける方が良いってぇのか?」

「極端な話ですが、その通りです。」

「うへ……お前のリア好きにも呆れるぜ。」

「……かといって、ランスさんが"あちら"に戻る事を望んでいるのであれば、
 それは叶わぬ事……リア様も、ランスさんの意見に従うでしょうし、
 リア様が選ぶ道は私の道……即(すなわ)ち、私も同じです。」

「当たり前だ! "あっち"にゃ俺様の帰りを待ってる美女がわんさかいる。
 それに俺様はお前と違って、器の狭い人間じゃねぇからなッ。」

「最もです……ところで。」

「なんだ?」

「ランスさんは"あちら"に戻れ、ケイブリスを倒したら……
 それからは、どうなされるつもりですか?」

「んん~? そんな先のトコまでなんて、考えて無ぇよ。
 鯨野郎の事とか、美樹ちゃんの事とか、挙げちゃキリがねぇだろ?」

「それでは、全てが終ったと仮定すると……
 そのままリーザスの王を、続けられるのですか?」

「どうだろうなぁ~、続けるかもしれんし、辞めるかもしれん。」

「後者の可能性も……あると言う訳ですね?」

「ふんッ……どっちにしろ決めるのは俺様だ、お前の指図は受けねぇぞ。」

「判っています、そこで提案なのですが――――」


先程までリアは何かと暗くなっていた。

それは"あっち"に戻る時間が近付いているからであり、
ランスとの冒険が終ってしまうからだったのだ。

リーザスに戻ってもランスの傍には一応居れるが、
王女と言う立場や才能限界から、冒険は出来ないと言って良い。

それをマリスは当然気付いており、何とかせねば……と真剣に考えていた。

そして、考えた"答え"が出たので、今夜彼女はランスの部屋を訪れたのだ。

……結果、マリスはリアの為を考えるのなら、
"あっち"に戻りたくは無いという本音を告げてしまったが、
ふと表情を改め立ち上がると、マリスはゆっくりとランスに近付いた。

それにより、ランスは自然と上半身を起こしてしまっていた。


「提案だと?」

「はい……お耳を。」

「うむ。」


≪……………………

 ……………………

 ……………………≫


「……以上です。」

「っ!? お前……本気なのか?」

「冗談で、こんな事は言いません。」

「リアは知ってんのかッ?」

「近いうちに言うつもりですが……リア様もそれを望んでいるでしょう。
 後は、ランスさんの判断とリア様の"力"次第と言う訳になりますね。」

「う~む……そう言うのもアリと言っちゃ、アリだが~……」

「……お伝えしたかったのはそれだけです、では。」


あまり大きな声で言う事は躊躇われるのか、
"提案"をランスにボソボソと耳打ちしたマリス。

それを聞き終わると、ランスは流石に驚いた様子で彼女を見つめ返した。

幾つかの条件が揃わなければ実現されない事の上に、内容がブッ飛んでいるからだ。

……だが、マリスにとっては、愛するリアの喜ぶ方法を言っただけなので、
左程大きなことだとは思っていない様子だった。

その"提案"を言う為にマリスはランスの部屋を訪れたので、
マリスは一歩下がると、再び頭を下げて部屋を出てゆこうとしたが――――


「まて待てぇいッ。」

≪がしっ!!≫

「!? ……何ですか?」

「こんな時間に此処に来やがったんだ、判ってんだろ~?」

「私を抱かれるの……ですか?」

「当たり前だろう~? むしろ、今迄何で犯らなかったのか不思議なくらいだぞ。」

≪もにもにもに≫

「ッ……私は、構いませんが……私の体の事は……ご存知ッでしょう?
 巧くご奉仕は……っ……出来ないかと、思われますが……良いの、ですかっ?」

「がはははは、全然オッケーだ。」


後ろを振り返ろうとしたマリスに、ランスが立ち上がり抱きつく。

彼の両手はマリスの上半身を包み込み、彼女は一瞬だがビクりと震えた。

そのまま服の上から乳房に手を伸ばし、モミモミしながら誘いを掛ける。

……対して、"こっち"では一回もセックスやオナニーをしていない、
マリスの体は感じてしまっているのか、快感に耐えながら彼女は答える。


「そうなの、ですか? 他に魅力的な方はっ沢山、居ましたから、
 私などっランスさんの相手には、役不足ッかと思いました……が。」

「ンな訳ねぇだろ~? お前は後、10年は大丈夫だッ。」

≪ばばっ!≫

「あっ……」

「おぉ~? "あっち"の下着じゃねぇか、やっぱ意識して来たんだろッ?」

「か……可能性も、ありますから……」


そろそろ28歳が近いマリスだが、そんな事は些細な事……というかどうでもいい。

"こちら"では相当な回数のナンパをされている事から、
彼女は東京の誰もが認める美女であり、ランスの守備範囲外である筈も無い。

よってランスがシャツを捲って素肌を露にすると、
カミーラとまではいかないが、豊満な乳房を黒いブラジャーが包んでいた。

その後のランスの言葉に少し恥ずかしそうにするマリスに、
ランスは引き続いてショートズボンを下ろして下着からはみ出るお尻に手を伸ばす。


≪むにむにむに≫

「う~む、久々に触る感触だな。」

「ふっ……う、くぅっ……」

「おぉ? なんだぁ? これだけで気持ち良いのかッ?」

「そ、そのようですね……ご存知の通りッ、体がっ敏感のようで……」

「がはははは、それなら今夜は20回はイカせてやろうッ。」

「そんなッ……んんっ!?」

≪ぶちゅっ!!≫


後ろからランスは、左手はマリスの左の乳房に伸ばし、ブラの下から手を入れて揉む。

右手は、最初はショーツの上からだが、やがて手を入れて秘部の周りを愛撫する。

そしてマリスの首を左に向けさせてディープキスを御見舞いし、
三箇所の場所を同時にマリスを攻める形となっている。

刺激で突起する乳首、愛液を垂らし始める割れ目、絡められる舌と舌……

ランスの攻撃は長い事続き、マリスはやがて立っていることもままならず――――


≪……ぺたんッ!≫

「おぉッ?」

「はぁっ……はぁっ、ふぅっ……」

「何だマリス、もうイッたのかーッ?」

「情けない、話ですが……そ、そのよう……です……」

「(マジか!? くくくっ、こりゃ良いぜッ。)」

≪がしっ……ぐいっ!!≫

「えっ!? ランスさッ……」


その場で崩れ落ち、ペタンとお尻を地面につけてしまうマリス。

ランスの右手の指が割れ目に入った辺りで、マリスは気をやってしまったのだ。

あまりも呆気なかったので拍子抜けしたランスだったが、
これで自分の立場がかなり上なのだと認識した彼は調子に乗り、
熱のこもった瞳で自分を、上目遣いで見上げる、
マリスの後頭部を、右手で掴んで自分の股間に引き寄せる。

同時にもう片方の左手で山を作っていたトランクスを下ろし、
ハイパー兵器をマリスの口に、無理矢理押し込んだ。


「やる事ァ~判ってんだろっ?」

≪――――がぽっ!!≫

「……んん"っ!?」

「これじゃ感じたりはしねぇだろ? 今迄みたいにやってみろって。」

「ンんッ……(そうよ、乱れ過ぎては駄目……
 ランスさんを……気持ちよ良く、させないとっ……)」

≪ぐぽっ、ぐぽっぐぽっぐぽっ≫

「くぉ~っ、やっぱ巧いもんだなッ……」

「(ぷはっ)……そうですか?」

「そうだ! 久々に"あれ"やってくれ、"あれ"。」

「んっ、ふっ……ぷちゅっ……」(プチッ)


フェラチオをするにあたり、マリスは両手もしっかりと使う。

二つの袋やハイパー兵器そのものを扱(しご)いて、奉仕にあたっているのだ。

そんな中、一言喋る為に一度ハイパー兵器から口を離したが、
再び口に含むと、口を動かしながらブラを外して乳房を晒す。

直後、マリスは自分の胸の谷間でランスのハイパー兵器を挟む。

……いわゆるパイズリと言うヤツで、柔らかい感触がランスを襲う。


≪――――ぱふっ≫

「あへあへ~ッ、極楽極楽~。」

「んちゅっ……(これでも、私の胸は感じているのね……)」

「お前の胸もやらしいな、硬ぇ乳首が当たってるぜッ。」

「……っ……」

≪むにゅむにゅむにゅむにゅっ≫

「く……うぉぉ~っ、マリスーッ、出るぞぉ~……」

「……どうぞっ、そのまま……ちゅっ……出してッくださいッ。」

「おぉ~~ッ!?」

≪びゅっ!! びゅびゅびゅっ、びゅくっ!!≫

「!? う、くっ……」


胸に包み込まれ、少しだけ出たハイパー兵器の先端をマリスが口に含み、
自慢の舌技で舐めまくると、流石にそれにランスは耐えれず、
口を離した直後のマリスの胸と顔面に皇帝液を発射し、彼女を汚してしまった。

片目を瞑り、少し顔を引き、顎で皇帝液を受ける形となったマリス。

出来れば飲むところだったが、パイズリしただけでも自分の胸が感じており、
今の彼女にはそこまでの余裕が無かったようだ。

そんな以前の自分との違いを感じているマリスの胸に手を伸ばし、
付着している皇帝液を撫で広げながら、ランスは彼女を見下ろして言った。


≪ぬる~っ……≫

「なかなか良かったぜ? 今度は俺様が気持ち良くさせてやんね~となァ。」

「はい……お手柔らかに、お願いします。」


……


…………


お手柔らかにと言われたが、そんな簡単に済む筈が無い。

指の愛撫で潮を吹かされ、69(シックスナイン)での削り合い。

そして突き入れられるハイパー兵器に、皇帝液で汚される体。


≪ギシッギシッギシッギシッ!!≫

「くっ、ふぅッ! あ、あ、あぁっ! ランス、さっ……!!」

「出る~、出る出るッ……また出るぞぉ~ッ!?」

「わ、私も……またッ……ぁあッ!? くふううぅぅッ……!!」

「ちィっ……(このまま出してぇけど、出す訳にもいかんしなぁ~。)」


……30分後、地面から移り、セックスはベット上で繰り広げられていた。

体位はマリスが四つん這いになっている事から"背後位"であるが、
ランスは彼女の背中に覆い被さる様に密着し、器用にも右手は右乳房を鷲掴み、
左手はマリスの陰核(クリトリス)を刺激してピストン運動を行っていた。

その激しい攻めに、耐性が全く無い体になってしまっているマリスが、
何時(いつ)までも耐えれる筈も無く、幾度目かの絶頂を迎えた。

一方ランスが達するのは、マリスが3回達したあたりで1回程度だが、
今回もかなりの締め付けに、限界が来たか、ハイパー兵器を引き抜くと、
気丈にもランスに言われた通り、四つん這いの姿勢を崩さない、
マリスのお尻に皇帝液を振り撒き、快感の余興に浸るのだった。

対して、マリスは崩れ落ちない事に精一杯のようで、
がくがくと体を揺らしながら呼吸荒げに絶頂の興奮を抑えている。


「ふぅッ、ふぅッ……ふぅ~っ、ふぅ~っ。」

「マリス~、犯ってるときゃ"そのままでいろ"とは言ったが、
 キツいんなら楽にしちまっても良いだぞぉ~?」

「そ、そうッですか……? では、お言葉にッ……」

≪……がくんっ≫

「そんな中途半端に我慢しなくても良いんだがなぁ~。」

「ハッ、ハッ……はぁっ、はぁっ……」

「なんつ~か、もっとアヘアヘ感じる方が、俺様も燃えるんだが。」

「はぁはぁ……そうも、いきませんッ……私はあくまでも……
 奉仕させて頂く側ッ、です……からっ……」


お尻が浮いた背後位の格好で、背後のランスに横顔を向けて言うマリス。

我慢していなければこの2倍か3倍は達してしまっていただろうが、
それではリアに悪く、自分の立場からイキ過ぎないように努めていた。

努めるだけで達してしまうのは不回避なのだが、気持ちの問題なのだ。

……そんな"気持ち"を全く察してい無いランスは、地味に納得がいかない。

確かに何度も達するマリスを好き放題イカせれるのは、
"あっち"では自分が何度もイカされる側だったので楽しい事この上ないが、
中途半端に我慢されると、もっと意地悪したくなってしまうのだ。

よって"もっと色んな事してやる"と口の端を上に吊り上げると、
ランスはマリスのお尻に両手を伸ばし、谷間を開きながら言うのだった。


「そういや"こっちの穴"じゃあ、まだ犯った事無かったよな~?」

≪くに~っ≫

「……っ!? そ、そうですが……まさか……」

「後ろは、経験あるのか?」

「多少は、あります……ですが、何年も前なので……」

「そうか? まぁ、一応聞いただけだ! どっちにしろ犯るけどなッ。」

「仕方ありませんね……もう、ランスさんの好きなように……してください。」

「がははははッ、"こっち"の扱いはベテランだからな、任せておけ~ッ。」

「(保てるのかしら? 私……)」


身勝手なランスに、半ば諦め気味な表情と声色で答えるマリス。

だが、決して嫌がっているような答え方では無く、笑みも見られた。

自分の事は二の次で、何時でも他者を喜ばせる為に行っていたセックスが、
今回は殆ど耐えているだけなモノにせよ、新鮮に感じたからだ。

かといって最後まで快楽に身を委ねる事はしなかったが、
自分も感じる"新鮮なセックス(それが普通なのだが)"も良いものだと実感した。


……


…………


……約2時間後、裸でベットに並ぶ二人。

ようやく最後の一発が済んだ直後の状況は、
かなりの運動をした為か二人ともそのまま動くに動けなかった。

そして二人の呼吸だけが聞こえる状況が10分ほど経つのだが、
興奮が完全に治まったランスは、天井を見ながら言う。


「そういやあ、戻んね~んだな。」

「はい?」

「"あっち"じゃいくら激しくヤった後でもよ……
 終ったらさっさと出て行っちまったじゃねえか。」

「そう言えばそうでしたね……ですが、今回はその必要もありませんから。」

「あぁ……面倒な仕事が無ぇんだったよな。」

「その通りです……リア様には悪い気がしますが……」

「ふん、あいつを甘やかす必要は無ぇんだよ。」

「この件にしては、そういう問題でもないと思いますが。」

「良いのだッ、こういう時くらいリアの事は忘れろ~ッ。」


リアだけでなくマリスも"こっち"に来た事でプラスになっていると言っても良い。

リアが喜んでいるのを差し引いても、こちらでは、
日々の忙しい事務を一切する必要が無いので、このようにランスと一夜を明かせる。

実を言うと、エッチが終った後でもマリスが此処に残っているのは今回が初めてだ。

しかし……現在マリスが此処に残っている理由は、
仕事が"こちら"ではする必要が無い事からの"時間の余裕"だけではない。


「さておき、此処に居る理由としては……それだけではありません。」

「おぉ、なんだ? もしかして、俺様に惚れたのか~?」

「いえ、ぜんぜん違います。」

「ガクッ。」

「実は……腰が抜けてしまったようで、暫く立てそうも無いのです。」

「はぁ~?」

「ですから、一晩の間よろしくお願いしますね。」

「お、おう……(まぁ、途中で失神したリアよりはマシか……)」


悪戯して叱られた子供のような表情で"腰が抜けた"と言ったマリス。

"こちら"での初めてのセックスで、リアは快楽に身を委ねた結果、
気を失ってしまったが、我慢したマリスは腰が抜けてしまったのである。

本来なら腰を抜かすのは男の方なのだが、マリスが腰を抜かしたとなると、
ランスが余程無茶なセックスを彼女にしたのが原因だろう。

それでも"こちら"でのセックスが初めてなマリスが、
快楽で自我を失わなかったのは、流石は彼女であると言え、
今回は完全に攻め側だったランスだが、この点では一本取られてしまった。

ランスは違う答えを期待したのだが、"腰が抜けた"という言葉を聞いて、
"やっぱマリスはマリスだな"と、相変わらずの気丈な精神に納得及び関心してしまう。


「それではランスさん、お休みなさい。」

「お疲れ~だ……だがマリス、もっとくっ付け。」

「こうですか?」

≪……ぴとっ≫

「うむッ、それでこそ俺様の女だッ。」

「……意味がわかりません。」

「何を言うか、"俺様の女"の条件として、
 一緒に寝ていくのは当然の事だろう? こうやってくっ付いてなッ。」

「難しい、条件ですね。」

「それはお前だけだ~ッ。」


そんなこんなで、マリスと共に一夜を過ごす事になったランス。

あれ程(完全ではないが)乱れた彼女を抱く事はもう無いかもしれないが、
かなり楽しめ、ランスの気分は非常に充実していた。

マリスの"提案"によってこの先どうするか、ちょっぴり難しそうだが、
やはり考えるのは面倒なので、そのまま眠りに入ったランス。

一方、彼の腕を枕にするマリスは、しっかりと朝まで彼の横に居た。


……20日目が終了し、そろそろ"こちら"の戦いも3週間となる。



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス9
Name: Shinji
Date: 2006/06/02 15:47
第9話:大魔法


……翌日、ランスは一旦朝6時に目を覚ました。

リアが起きる前に部屋に戻りたい……と言ったマリスに声を掛けられたからだ。

よって二度寝し、10時頃に武装したランスが部屋から出てきた。


「ダーリン、おはよ~。」

「おはようございます。」

「(バレてねぇみて~だな)……おう、それじゃ早速行くぞぉ?」

「はいはいは~い! 私の魔法の出番ですねー!?」

「念のために言っておくが~、体の方は平気なのか?」

「……それについては心配ない。」

「おっさん。」

「とりあえずツケにしておいてやろう、今回も生きて帰ってくるのだぞ?」

「ふん、当たり前だッ。」


昨日と同じくリアとマリスだけでなく、治療を終えたアニスも出迎える。

露出した肌から見える包帯は殆ど無くなっているが、
頬にシップが残っている事から、まだ病み上がりを思わせた。

しかしアニス本人は絶好調のようであるのだが、
道場主はかなり治療に魔力を使ったのか、げんなりとしていた。

余談だが、道場主の妻は疲れた為か自室で休んでいるようだ。


「それじゃ、早速都庁に"トラポート"しますよ~?
 え~~……駆け込み乗車は~~ご遠慮くださ~~い。」

「おい、"都庁北の塔40階"だぞ? 大丈夫なんだろうなッ?」

「それではッ! うぃ~……うぃっ、うぃ~……」

≪ぶいいいぃぃぃんっ……≫

「こらッ、まだ返事を聞いてないぞッ!?」

「そ、それでは私は避難……いや、休んでいる。」

「"あっち"に飛んだ直後は、警戒したほうが良いですね……」

「り、リア……今回だけお留守番しようかなぁ~。」

「それでは発車しますッ、トラポ~~ト!!」

「てかおい! 今度は早いな……うぉッ!?」

≪ばしゅうううぅぅぅっ!!!!≫


……


…………


「…………」

「…………」

「…………」


アニスの体調がよかったのか、トラポートは直ぐに放たれた。

上級魔法なので誰もが唱えれるワケでは無いが、
トラポートそのものは、そんなに難しい魔法では無いらしい。

ハンティ・カラーが何の事も無く瞬間移動を使うようなものだ。

よって転送したランス達だったが、彼らは地面にうつ伏せになって張り付いていた。

マリスとリアもであり、頬をムギュりと圧迫させている。

その張り付いた格好のまま動かず、ランスは顔を顰(しか)めて言い放つ。


「……これは、どう言う事だ?」

「むぎゅっ……」

「さぁ……何故でしょう?」

「いやあ~、前は転送地点を少々高くしてしまったので、
 低い場所にしようとしてみたら、こうなってしまったみたいです。」

「これは低すぎるだろッ、なんで這いつくばらにゃ~ならんのだ。」

≪むくり≫

「いやまあ、地面にめり込まなかっただけマシじゃないですか~?」

「そんな事されてたまるか! それじゃ戦う前に全滅だろうがッ!」


三人より少し離れた場所で這い蹲(つくば)っているアニスが答える。

前回は高かったが、今回は低くしようとしてこうなったらしい。

……だが、結果として転送できた事には変わりないので、
ランスは起き上がるとハンドへルドコンピュータに手を掛けた。

戦いもハイレベルになり、仲魔の力無くしては戦えないから。


……


…………


「ハヌマーン、ここが約束の場所だったよなァ?」

『ふむ……確かに間違いないようですな。』

「よしお前ら! 狙うのは"鬼女"だ、それ以外は叩くぞッ!
 初見の悪魔は"テトラジャ"と"マカラカーン"は必ず掛けろッ。」

「うんっ。」

「はい……定石ですしね。」

「そんで、先手はカミーラが叩け! 反射されても痛く無ぇ程度にな。」

『……わかった。』

『わらわは、無理せずにゆくとするかのう。』


数分後、召喚されるカミーラ・キクリヒメ、そして妖魔ハヌマーン。

これでおおまかな配置として前衛は左からカミーラ・ランス・ハヌマーン。

後衛は左からリア・マリス・アニス・キクリヒメ……となる。

仲魔にする条件であったハヌマーンを出すのは当然として、
今回は香姫を下げてキクリヒメを出す事によって、
編成的には物理攻撃と回復魔法に偏ったものとなっている。

魔法の火力は、それが一番得意な香姫が下がっているので乏しいと思われるが……


「最後に……アニスなんだが。」

「はい! もう体調はバッチリですから、ガンガン行きますよーっ。」

「ガンガン行くのは構わんが……お前、"万能魔法"以外にも攻撃魔法は使えるよな?」

「……え? あぁ~、勿論色々と使えますがッ?」

「なら"万能魔法"は絶対に使うな、使おうとしたら即"マカジャマ"だ。」

「そんなあ、私は"万能魔法"が一番得意ですのに……
 ――――さては! これは新手の苛めですかッ!?」

「いや苛めとかそう言うのじゃなくてだな……
 他の魔法もだが、特に"万能魔法"だけは"こっち"に当てられると困るんでな。」

「困る? ランスさん達は丈夫そうですし、死にはしないと思いますが。」

「アホか! 死ななくても瀕死の重症にはなるだろうが!!
 とにかく万能魔法は一切禁止だ、使おうとしたら折檻だッ。
 他の"攻撃魔法"なら好きなように唱えても良いから、頼んだぜ?」

「(折檻は嫌だけど……た、頼まれたッ!?)
 ――――はっ、このアニス、頑張って万能魔法以外を使います!!」

「だ、大丈夫なのぉ~っ?」


忘れてはいけないのが、アニス・沢渡。

彼女一人で、今居るメンバーの魔力に匹敵する威力の攻撃魔法を使える。

……だが、使い方にとても問題があり、
このまま好きなように戦い方を任せてしまう訳にはいかない。

それをランスは理解しており、同じく理解しているマリスを見て言う。

マリスの配置を、アニスの横にしていた理由が明かされる。


「おい、マリス。」

「はい。」

「面倒だとは思うが、アニスの"お守り"は任せたぜ?
 あいつが魔法を使ったら、"マカラカーン"を忘れるな。」

「わかりました、それしかありませんからね。」

「万が一"メギド"を使いそうになったら、わかってるな?」

「ふふ……勿論です。」


……


…………


『クケケケケケッ!!』
 
『グッグッグッグッ……』

「(ピピッ)"幽鬼 ヴェータラ"か、こいつは確か……リアッ。」

「数を減らせれば、楽になりますね。」

「うんっ! マハンマぁ~!!」

≪バヒュウウゥゥッ!!≫


都庁40階、カオス側の散策を開始して数分。

7人の前に、複数の"幽鬼 ヴェータラ"が出現する。

初見の悪魔なのだが、種族名を聞いて今までの経験から考えると弱点がある筈。

よってリアが最初に"破魔"の魔法を唱え、
実体化した複数の護符が、一直線にヴェータラ達を襲うが……


≪――――バヅンッ!!≫

「ありゃっ?」

「あれぇっ? き、効かない……」

「確かに当たっていましたが……」

『ならば、正攻法しか無いようですなッ!』

『……ッ。』

≪ババッ!!≫

「面倒臭ぇなッ、援護しろよお前ら~ッ!?」


"マハンマ"はヴェータラに命中したにも関わらず、弾かれてしまった。

そう、ヴェータラは幽鬼の種族に位置付けられているのだが、
"破魔系の魔法を弱点としない相性"を持っているのだ。

よって、ヴェータラ達は牙を剥いて飛び掛かり、
それにハヌマーンとカミーラが迎え出る事によって対抗する。

そして、同じ前衛であるランスも愚痴を漏らすと、雷神剣片手に突貫する。


「ダ~リン、すっごーい。」

『強くなったものじゃのう。』

「もはや"あちら"のランスさんと同じ程、強くなっているかもしれませんね。」


……それからの戦いはなかなか押しているようであり、優勢だ。

都庁の戦いの前線に出ておらず、中層に居る悪魔が、
突然進入したランス達7名に勝てるのか? いや、勝てる筈が無い。

確かにメシア側に居たハヌマーンは、戦っている様子からとても強いが、
現れたのは彼を入れてたったの3体だったので、
被害は少なからず出たかもしれないが、多勢に無勢だったろう。

そんな中、ヴェータラの数が減っていくと、魔法の詠唱が完了した者が居た。


≪キュオオオォォォーーッ……≫

「それでは皆さん、いきますよぉ~ッ?」

「(来たわねッ?)……マカラカーンッ!!」

「来るぜ!? カミーラ・ハヌマーン、下がれッ!!」

『…………』

『承知したッ。』

≪ばばっ……≫

「マハラギダイ~ンッ!!」

≪ずがああああぁぁぁぁ~~んっ!!!!≫


アニスの放った"最強火炎全体攻撃魔法"、マハラギダイン。

それらはヴェータラの頭上に降り注ぎ、肉体を蒸発させる。

しかし放ったのがアニスなのでコントロールが定まっておらず、
一部味方に降り注いではいたが、反射され壁に命中するなどしてやり過していた。

"メギド"などの"万能魔法"をアニスに使用の許可をしなかったのは、
マリスの"マカラカーン"で反射する事ができないから。

もし"こちら"に魔人のような特性の悪魔が居たとしても、
"万能魔法"だけは効いてしまうので、まさに万能……と言う訳だ。


「う、うわあ~……これも魔法なのッ?」

「物凄ぇ威力だな。」

「……使い方さえ、間違えなければですが。」

「う~んッ、決まりました! この調子でアニスにお任せをッ!」

『しかし、派手にやったのぉ。』

「そうだな……さっさと仲魔を見つけて帰らねぇとヤベぇぜ。」

『(本当に、挑まなくて良かったものだ……)』


……


…………


30分ほど経過する中、悪魔との遭遇率が徐々に上がってきている。

何度か放たれたアニスの"大魔法"の爆音を聞き付けた悪魔が出現しているのだ。

都庁内の建物の強度はやはり魔力で高いのだが、
流石にアニスの魔法には耐えれないか、所々焦げたり崩れたりしている。

そんなアニスの使う魔法から、戦いは大分楽になっているのだが、
派手にやり過ぎているので、さっさと"鬼女"を仲魔して引き上げなければならない。

よって初めて遭遇した"鬼女"相手に、ランスは直ぐ様交渉を開始した。

"何があったか"を調べに単身でやってきた"鬼女 ランダ"に対してである。


『!? な、なんじゃッ、お主らはッ!!』

「あん? 俺様は"ガイア教徒"のサマナーだがッ?」

『ほぅ、ガイアの者か……ところで、この有様はなんなのじゃ?』

「なんだか、とんでもねぇ"メシア"の悪魔が入り込んできやがってなァ。
 なんとか倒したんだが、この有様ってワケだ。」

『倒したというのか? 人間にしてはよくやるのぉ。』

「……ところでな、俺様は仲魔を探してるんだが――――」


自分達がこんなに荒らしてしまった犯人では、仲魔に引き入れるのは難しい。

そこでランスはガイア教徒に成り済まして交渉を行った。

まずは架空の"メシアの悪魔"の話を挙げ、
次にデビルサマナーとして"ランダ"を仲魔にしたいと言う話に移る。

"鬼女 ランダ"は物理を反射する特殊な相性を持っているが、
見てくれが獣のような、美しくない姿なのが、
アルケニーのような鬼女を期待していたランスには悔やまれるが、仕方無い。

そのランダは、いきなりの引き込みを受け入れはしなかったが、
ランスが近付き、"合体"で生まれ変わる"種族"を言われた時、
若干考えはしたが、ランスの仲魔になる事を決意するのだった。


……


…………


『……これより御身(おんみ)は我が主人、宜しくお頼み申す。』

「うむ、それじゃ"この中"に入っていろ。」

『御意。』

≪バシュウウゥゥッ≫

「これで、三身合体が可能になりましたね。」

「ダーリン……良かったねッ。」

「うむ、そんなワケで戻るぞ~っ!!」

「は~い、"トラポート"……いきますよぉーッ?」

「気が早ぇ奴だな、仲魔を戻すから待ってろ。」

「……うぃ~っ……うぃ~、うぃ~……」

≪ぶいいいぃぃぃんっ……≫

「ぐぁッ? 聞いてねぇ~、お前らさっさと戻るんだッ。」

『急かすでないわッ。』

『……また呼べ。』

『戦いの場を頂いて、感謝する。』


……こうして、最後の悪魔を仲魔にしたランスは都庁を引き上げる。

各"都庁の塔"に現れた、突然の侵入者である"ランス"を知る者は、
結局メシアとガイア互いに一人も居なかったが、
どちらも相手側が刺客を送ってきたと言う事で納得し、元の戦いに戻るに至った。

そして、この数日後……何者かに都庁の兵を纏める"魔神 ヴィシュヌ"と、
"天魔 ラヴァーナ"とその息子"天魔 インドラジット"が倒れるのだった。


……


…………


ついでだが、アニスの"トラポート"で無事帰還したランス一行。

対して前日の事から"回復道場の広間の隅"で客を待っていた道場主だったが……

今回も、何故かしっかりと彼は4人に踏み潰されていたりした。


「ぐふっ……あ、アニス殿……私に何か、怨みでもあるのか……?」

「いえ、怨みなどッとんでもないです!
 此処(回復道場)を転送場所に思い描く時、師範の顔が出て来てしまっただけですッ。」

「だそうだ、良かったなオッサン。」

「そ、そういう問題でも無いぞ……ぐふっ。」



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス10
Name: Shinji
Date: 2006/06/02 21:28
第10話:最後の合体


『……醜いものだな。』


海に沈んだ……東京の遥か上空。

神々しい翼を持った一体の"天使"が、神の罰を受けて滅んだ地上を、
静かに見下ろしながら腕を組んで浮遊していた。

その"神々しい者"の名は、大天使……メタトロン。

真実を支配する最高位の天使で、隠された叡智の光を開ける鍵の管理者である。

神話でそう言われている彼がこんな場所に居るのかはおかしなモノだが、
その理由はおいて置くとして、メタトロンはある任務を任されていた。


≪バサァッ……≫

『メタトロン様。』

『……"サリエル"か。』


腕を組んで地上を見下ろすメタトロンの後方から、一体の天使が現れる。

メタトロンが言ったように名は"サリエル"と言い、
種族は天使の部類なのだが、翼と大鎌を持った"死神"のような姿をしている。

サリエルの役割は人間の霊魂を見守り……さらには、
神の法に背いた天使の運命を決定する役目も持つと言われている。


『恐れながら……若干"最後"の相手に手間取りまして、
 こうして遅れてしまった軽率を、ご容赦ください。』

『気にするな……では、目標を消すのは済んだと言う訳だな?』

『ハッ! ぬかりはありませぬ。』

『そうか、ご苦労だったな。』


彼らに与えられた任務……それは暗殺。

リーダーである"セラフ・ミカエル"に呼ばれたメタトロンら三体は、
カオス側に傾いているデビルサマナー達の駆除を行っていた。

三体と言っても、実質サマナーを狩っていたのは"サリエル"が殆どなのだが、
彼一体で召喚された仲魔を含めて、全て蹴散らすのは難しい。

しかし、中途半端なサマナー1人だけを処理するのは難しくは無く、
悪魔が居ない時を狙って、持ち前の鎌で首を撥ねていたのだ。

……かといって、やや強いサマナーも存在するので、
その時は"メタトロン"と"もう一体の大天使"が力を貸して処理していた。

そこそこ多くのサマナーがカテドラルに乗り込んていたのだが、
"僅か二日"でほぼ大半のカオス寄りサマナーが彼ら三体に殺されたのだ。


≪バササッ……≫

『メタトロン様、サリエル殿ッ!』

『……来たか。』

『クシエル殿、遅かったではないか。』


そして、次に現れたのは"もう一体の大天使"である"クシエル"。

体型は人間と同じようだが……翼までもが白と水色であり、
顔の部分は"のっぺらぼう"のように鼻も口も無い。

だが強い力を持ち、"厳しい神"を意味する、処罰の7天使のうちの一人だ。


『申し訳ありません、最後の者の調査に手間取りまして。』

『ほう、これで最後か? 相変わらず手際が良いな。』

『クシエル殿、最後のサマナーは"どの程度"なので?』

『……そうですね、なかなかの"やり手"のようで、
 またメタトロン様の手をお借りし、私も出た方が良いかもしれません。
 一応他にも何人かサマナーらしき者は残っていますが、
 我々が相手にする程の強さでも無いかと思われます。』

『うぬぅ……本来の力を出せるのであれば、
 人間などワシだけで始末できるものを……それに……』

『どうした、サリエル?』

『メタトロン様……ワシは納得がゆきませぬ。
 ワシはともかく、ミカエルの若造如きにメタトロン様の手を煩わせるなど。』

『それは私も同感ですね……いくらミカエルが、
 "唯一神"直々に"カテドラル"の任務を任されたとは言え……
 何故、我々が奴に命令などされなければならないのでしょうかッ?』


本当であれば、ミカエルは彼ら大天使と対等な立場にある。

サリエルとクシエルはまだ良いかもしれないが、
いくらセラフと言えど"メタトロン"に命令できる程までは偉くは無い。

"メタトロン"本人は大した事だとは思っていないようだが、
魔人筆頭であるホーネットを敬う、魔人"シルキィ・リトルレーズン"のように、
サリエルとクシエルは腑に落ちない様子である。


『仕方あるまい……我らの存在は"強大過ぎて"おり、
 "完全体"で地上に降りるのは、まだ叶わぬのだしな……』

『し、しかしメタトロン様……』

『サリエル……今のうちにミカエル達に恩を売っておくのも悪くはあるまい。
 失敗すればすればで、我々が手柄を持ってゆけば良いのだからな。』

『……最もです。』


メタトロンの言うように、今の彼らの姿は"仮"のモノなのだ。

力が強大すぎる故、神のように"本体"が地上に降りる事は叶わず、
例で言えば"偽エンジェルナイト"や"カイトクローン"のような、
"仮の肉体"でしか、このように地上に出現して活動する事ができないのだ。

それでも強力な力を持っていることには変わらないが、
"セラフ達"のように、100%の力を出す事は到底叶わない。

ウリエル・ラファエル・ガブリエル・ミカエルのセラフ達は、
何度も地上に降りた経験のある立場から成り上がった事から、
そのまま地上に降りて自分の力を発揮できるのだ。

よって完全体ではない"この仮の体"で、メタトロン達は、
今はミカエルの指揮下に入っており、それは唯一神の命でもある。

……だが、今の彼らの肉体が滅びたとしても、
本体が無事であれば死なないので、多少無理がきくのが利点だ。


『何にせよ、"次のサマナー"で"使い"は終るのだろう?
 退屈していた所ではあるし、精々楽しませて貰う事にしようではないか。』

『そうですね、明日にでも仕掛けるのが良いかと思われますが?』

『うむ……ところでクシエル、サマナーの名はなんと言う?』

『――――はッ、"ランス"と。』

『ふむ、ランス……か。』

≪ヒュオオオォォォーーッ……≫

『それではメタトロン様……風が強くなって来たようですが、
 そろそろカテドラルに戻られますか?』

『なに、サリエルよ……まだ戻る事もあるまい?
 "風"というものは、なかなか心地良いものではないか。
 地上はこうも醜いと言うのに、空は我々の"楽園(エデン)"に相応しい。』

『……全くです。』


……


…………


……一方、カテドラルカオスの酒場。

ランスは都庁から戻ると、気絶した道場主を放置し、
回復道場を勝手に閉店させると、そのまま道場を出て酒場に向かった。

3人(アニスは昼寝)が向かったのは元・六本木の酒場であり、
店内は何人かのガイア教徒や一般人がのんびりと酒を飲んでいた。


「いつものヤツ、頼むぜ。」

「うィっす。」

≪……コトンッ≫

「ごくごくっ……んん? そこそこ客、入ってんじゃねぇか。」

「どうも、お陰様で。」


ランスが救出した5人の女性は店を手伝っているようで、
人手はなんとか足りている上、美女ばかりな為か客寄せにもなっている様だ。

そんな現在は、ランスはカウンターを挟んで、マスターを前にドリンクを飲んでいる。

そして、違う席ではリアとマリスが(5人のうち)二人の"救出した女性"と談笑していた。

その光景を遠目に、ランスは掌で顎を支えながら、コップを洗う店長と話す。


「店はどうなんだ、旨くやってけそうなのか?」

「う~ん……酒とかはカテドラルに来る前に掻き集めたんで、
 在庫はまだまだ沢山あるんですけどねぇ~……
 もう仕入れる場所や相手が居なくなっちまいましたし、
 それ以外でも何だか、まぁ……色々と大変そうですよ。」

「んぐんぐっ……ぷはぁ~。」

「(き、聞いてんのかな?) ま、まぁ……命があっただけで、
 何百倍もマシですしね、何とか遣り繰りしますよ。」

「その辺は何も言うつもりは無ぇがなぁ……
 俺様の選んだ美人の姉ちゃん達を、不幸にゃあするんじゃねぇぞ?」

「!? も、勿論ですよ~……」


ランスがいちいち助けた程の美女達(Aクラス以上)なので、
"あっち"にお持ち帰りが出来ないのが非常に残念だが、それも仕方無い。

今彼に出来る事は、若い店長に美女達の面倒を見るように釘を刺す事だけだ。

そんな中、店に入って1時間ほど経過したので、ランスは席を立った。


「さて、そろそろ出るぜ?」

「あっ! ランスさんにゃ金は取れないんで、大丈夫ッスよぉ?」

「ふん……良い心掛けだ。 それじゃ~邪魔したな。」

「ま、毎度どうもーッ。」

「おい! リア、マリスッ……行くぞぉ!」

「あっ、うんっ!」

「では……邪教の館ですね?」

「うむ。(……辛気臭ぇのは嫌ぇだからな、上手くやれよ?)」

「ランスさァ~ん、また来てねぇ~ッ!?」


……この時、ランスを店での作業をしながら見送った店長と美女達は、
これが彼の最後の後ろ姿になろうとは、夢にも思ってはいなかった。

やがて"カテドラル"での戦いが終わりを遂げても、
ランス達の来店を、6名はいつかやってくると信じて待ち続けた。

この店を大洪水から救い、洪水前日の乱交パーティーで、
運良く1人の娼婦にちゃっかり子供を儲けた、謎のデビルサマナーを。

そんな親知らずのランスの子供は逞しく成長してゆき、
凄腕のデビルサマナーとして歴史に名を残していったのだった。


……


…………


「……そうか、これで最後の合体となるのか。」

「理由は聞かねぇのか?」

「"エンジェルナイト"が作られたその時から、
 お主は何となく"此方(こちら)の世界の人間"では無いような気がしたからな。」

「がははは……まぁ、その通りって訳だ。 とにかく今回も頼むぜぇ?」

「(ピピピッ)ふむ、"三身合体"か……最後に相応しい合体方法だな。」

「種族も、文句無しってトコだろォ?」

「うむ! 期待して良さそうだ。」

「すごいすごいっ! 合体するんですね、合体っ!?」

「アニス……お前は大人しくしてろよッ?」

「あっ!? これは何ですかッ? わわ、これも気にな――――」

「(やれやれ……)マリス、マカジャマを掛けて押さえておけ。」

「じっくり見たかったのですが、しょうがありませんね。」

「マリスとアニス……名前は何となく似てるのにねぇ?」

「名前で性格が変わるんだったら、苦労せんわッ。」


酒場で一息入れると、ランスはアニスを引っ張り出して邪教の館に連れて来る。

三身合体をするにあたって、アニスの"高レベル"が必要だったからだ。

気持ちよく寝ているのを起こされたアニスは、
最初はランスをチカンと何かと勘違いして魔法を御見舞いしかけたが、
"邪教の館"には初めて入ったようで、
興味深そうにあっちを見たりこっちを見たりして騒いでいた。

そんな放置していれば、何処か機材を壊してしまいそうなアニスを、
マリスが黙らせて抱き止めると、ようやく合体が始まろうとするのだった。


……


…………


『長い間使って貰えた事を、感謝するぞぇ?』

「おう、昨晩は抱いてやれねぇで悪かったな。」

『!? な、なに……"新しいカラダ"に期待するぞよ。』

「うむ、期待しておけよ~?」


……


…………


『お主とは、一度手合わせをしたかったものだがな。』

「なんなら今、タルカジャ掛け捲ってからやるか? 直ぐ終るぜ。」

『くくくっ……それも良いかも知れんな。』

「……冗談だ、本気にするな。」


……


…………


『まさか騙されておったとはのぉ……』

「だがランダぁ、忠誠を誓ったんだよな?」

『ふん、だが悪い気はせぬ……可笑しなものじゃ。』

「がははは、俺様が相手だからな、当たり前だッ。」


……


…………


軽く言葉を交し合うと、三体の仲魔がカプセルに入る。

ランスは当然なのだが、館の主にとっても、
仲魔三体を使っての合体は初めてのようで、念入りにチェックをしている。

そして数分後、チェックが完了し……館の主はスイッチを押した。


≪ゴボゴボゴボゴボッ……≫


腕を組み、吸収されてゆく仲魔を眺めるランス。

3つあるカプセルへの視線を、一体一体吸収されるたびに移してゆく。


≪ゴボゴボッ、ゴボゴボゴボッ……≫


作成される"種族"は、ランスと館の主しか知らない。

よって、両手を胸にドキドキして目の前の光景を見守っているリア。


≪ゴボゴボゴボゴボッ……≫


マリスに押さえられて、ジタバタしているアニス。

対して冷静に、まるでアニスを"大きなヌイグルミ"を抱くように抑え、
魔法陣から視線を移そうとしないマリスの瞳。


≪ギュイッ、ギュイッ、ギュイイィィンッ……!!≫


そして三体の仲魔が完全に吸収され……光り輝く魔法陣。

すると、なにやら赤い光が魔法陣を貫こうとしているように見え――――


≪ボシュウウウウゥゥゥゥーーーーッ!!!!≫


「うおぁッ!?」

「きゃんっ。」

「くっ……」

「ッ!? ~~……!!」


≪ビュフウウゥゥ~~ッ……!!≫


激しく魔法陣を貫いた赤い閃光が、部屋全体を真紅に照らす。

霧や煙の類(たぐい)は出なかったが、強風と赤い閃光はなかなか止まず、
数秒の間魔法陣が直視できず、ランス達は身を硬くして目を瞑った。
(アニスが"マカジャマ"で喋れないのは未だに継続中)

そして、ようやく強風と閃光が止むと、リアとマリスは目を疑った!!

魔法陣の上に居るのは、カミーラ以上に"ありえない"者の姿だったからだ。

その作られた"ありえない悪魔"は、瞳を閉じたまま、まずこう漏らす。


≪ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……≫


『私はジル…………魔王なり…………』


種族は魔王、"あちら"では絶対的な存在。

そこまで滅茶苦茶な強さを今の"彼女"は当然持っていないだろうが、
元の(推定)100分の1しかない力にせよ、強力な悪魔には変わりない。

ランスが三身合体で作りたかった悪魔は、そう……"魔王"だったのである。


『(ニッ)――――今後ともよろしく。』


合体によって出現した"ジル"は、亜空間に飲み込まれたときと同じ全裸な姿。

しかし若干浮遊し、長髪はまるで生き物のように動いており、
言った言葉自体はシンプルであったが、何故か重く一同の耳に響いた。

そんな口元を吊り上げる"魔王・ジル"だったが、
ランスも彼女と同じように、作られた仲魔を見る表情にはニヤつきがあった。


注1:ヴィシュヌやラヴァーナと倒すのはランスではなく、ヒーローです。
注2:メタトロン達は本体ではありません、とっても偉いので(汗)



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス11
Name: Shinji
Date: 2006/06/05 02:54
第11話:別れ


「(くくくっ、大当たりだったぜ。)」

「う、嘘ぉ~っ!? ……まッ、ままま"魔王"がぁ~っ……」

「もう、何を見ても驚きません……」

「……(う~ん、マリスさんってなんだか千鶴子様みたい……)」


まったく別の事を考えているアニスはさておき。

作成された"ジル"は、水平に浮遊して近付いてくると、
ランスの3メートル手前で垂直に落ち、ふわりと両足で床に着地した。

――――第五代目の"あちら"の魔王、ジル。

歴代の魔王の中で最も残忍と言われていた存在で、
1004年の長きに渡って人間を家畜として支配し続けていた。

しかも彼女は魔王に義務付けられた"世代交代"で、
"力"を著しく失っても、"プランナー"に延命の方法を教わった。

結果元の5%の"力"と魔人への命令権、魔血魂の生成能力を残す事に成功し、
永遠に魔王であり続けようとしたが、当時の魔人筆頭であった"ガイ"に、
カオスと禁呪を用いられて封印されてしまった。

その約1000年後、ジルの信奉者であった"魔人ノス"の策略で復活するが、
長きの封印で1%の力しか残っておらず、"魔剣カオス"を持つランスに倒され、
亜空間により脱出不可能な状況に陥る末路となっていた。

……そんな"悪"であるジルが作られてしまったのだが、
慌てふためくリアと違って、ランスは全く動揺していない。

彼は腕を組みながら、自分を見つめるジルに気安く挨拶を投げ掛けた。


「ジル、久しぶりってところかァ?」

『ふっ……4年か、5年振りと言ったところだな。』

「"亜空間の旅"は、さぞかし退屈だったんじゃねぇのか?」

『なに、たった4年かそこらだったしな。
 1000年も封印されていた時と比べれば、容易い時だ。』

「まぁ~、"合体"で出てきちまったんだ、しっかり"守護"しろよ?」

『いずれこの手で抜け出すつもりだったのだがな、仕方あるまい。』


皮肉ってくるランスの言葉を軽く流すジル。

もし自力で脱出して彼の前に現れたジルであれば、
早くも激しい戦いが始がはじまり、この場を大惨事にしていただろう。

しかしこの"魔王ジル"という存在は、亜空間の歪みにより、
"こちら"に引き寄せられ、ランスの"仲魔"として生まれ変わった"ジル"なのだ。

よって"エンジェルナイト"と"キクリヒメ"の記憶を受け継いでおり、
このように何も変哲の無い挨拶で話を始める事ができている。

ランスはカミーラが作られた時は流石に驚いたが、合体で作れれば、
例え"魔王"であっても自分と戦ってくれると言う事を確信していたのだ。

……結果予想通りの反応をする"ジル"に、ランスはニヤつきをそのまま言う。


「それじゃ~、忠誠を誓うんだな? 散々コキつかってくれるわ。」

≪ファサッ!≫

『ふん……貴様こそ、"この私"を呼び出した程なのだ。
 無様な戦いで、私をガッカリさせるなよ?』

「がはははは、愚問だッ。」

『(何故だ……人間界の支配の事など、どうでも良くなっている……)』


彼女を試す気もあったのか、生意気な態度を変えないランス。

対して、ジルは右手で長髪をバサりと払うと、彼に余裕の表情を見せる。

その言葉で"やはりジルらしいな"と判断したランスであったが、
この時ジルは人間への"憎悪"の大半が、無くなっているのを感じていた。

……聡明な賢者で美しかった人間であったジルを、
彼女を妬んだ人間達が捕らえ、甚振(いたぶり)り四肢を切断し、
決して消える事の無かった強大な"憎悪"がプログラムの影響で変化したのだ。

こんなアッサリいくのもオカしな話だが、"悪魔召還プログラム"は、
仲魔を"データ"としてコンピュータに記録し、
その"データ"を"マグネタイト"を使って実体化させる事によって召喚する。

つまり、仲魔になるにあたって"忠誠"などで悪影響を与えそうな、
"魔王 ジル"の"憎悪のデータ"が予(あらかじ)め消されたと言う事が考えられる。

合体した仲魔の記憶など色々と影響しているのだが、現実的に言えばそうなるのだ。


「ランスよ……これが最後の報酬だ、持ってゆくが良い。」

「あぁ、そういや忘れてたぜ……うォッ? 3万もあるじゃねぇか。」

「今迄の礼だ、命を救って貰ったのも兼ねている。」

「へっ、ついでだぜ? じいさんに死なれちゃ~、
 "合体"が出来なくなっちまうから助けたダケなんだがなぁ。」

「ふふふ、とにかく感謝する……達者でな?」

「おうッ、ポックリ逝くんじゃね~ぞッ?」

「今迄お世話になりました。」

「ばいば~いっ!!」

「~~……ッ!!」←未だに喋れないアニス。」


……


…………


……数分後、一旦ジルをコンピュータに戻して回復道場へと歩く一行。

新宿と違って真横にある訳では無いので、少々距離があった。

だが些細な事であり、回復道場の入り口までやってきたランスは戸を開く。

すると、3名の前に……信じられない様子が飛び込んできた!!


「おっさんッ!?」

「……師範ッ!!」


道場広間の中心に、道場主が血を流してうつ伏せになって倒れていた。

血池を見て危機感を感じたランスとマリスは直ぐ様、
彼に近寄ってカラダを動かし、仰向けにして状態を確認した。

すると、目を閉じて動かない師範の首の血管が切られており、
どうやら……出血により死んでしまっているようだった。

しかし、部屋が暗くまだ死亡が確認出来ておらず、ランスはリアに言う。


「そ、そんなっ……おじさんが――――」

「おいリア、電気を点けろ! アニスは奥を見て来いッ。」

「うんッ!」

「は、はいっ!」

≪たたたたっ≫

≪――――パチッ≫

「…………」

「マリス、どうなんだッ?」

「……っ……駄目です、亡くなられています。」

「おじ、さん……」

「くそったれが、勝手な事しやがって! 一体何処のどいつが……」

「この様子だと、殆ど抵抗する間も無く殺されてしまったようですね。」

「そういや、気絶したまま放置しちまってたが~~……」


部屋の明かりが点くと、マリスは道場主の死亡を確認した。

彼女の言うように、アニスの"トラポート"の下敷きになって気絶した為か、
それを襲われてあっけなく殺されてしまったのだろう。

まさか"こんな事"になるとは思わなかったので、
唐突の"今迄世話になった道場主の死"に、三人は呆然とするしかなかった。

心痛そうに顔を左右に振ったマリスに対し、リアはペタンと膝から崩れ、
ランスも顔には出さないが理不尽な感情を抑制していた。

また、沈黙効果が解けたアニスが、部屋の奥に走っていったが――――


「嫌ああぁぁ……っ!!」

「うるせぇな、アニスかッ?」

「行きましょうッ。」

≪だだだだっ!!≫


巫女が休んでいた部屋からアニスの悲鳴が聞こえた!!

その声に反応した三人は立ち上がり、奥へと走った。

……すると、部屋の端でうつ伏せに倒れ、動かない巫女の姿。

抵抗した結果、彼女は何か強い力で弾き飛ばされ、
壁に激しく叩き付けられたのか、壁には"叩き付けられた相応の損傷"がなされていた。

そんな巫女の"死体"を見下ろしながら、アニスは震えながらボソりと嘆いた。

表情は蒼ざめており、普段のお馬鹿な雰囲気は無かった。


「わ、わたしの……私の所為です……」

「なッ……どうしてだ?」

「……わたしが無茶して……回復の魔力を、貰い過ぎてしまって……
 それに、トラポートを失敗しちゃって、
 師範をダウンさせてなければ、こんな事にはきっと……」

「(確かに、師範程の人がこうも簡単に殺されはしない筈だけど……)」

「何言ってんのよぉ、それダケが原因な訳~……」

≪がくんっ……≫


……


…………


「"これ"でいいだろう。」


「何を言っているの、ナギ?」


「ピカの材料で必要な、"レベル30以上の魔法使い"がだ。」


「あぁ~、そうね……こんな馬鹿な娘、この位の事でしか役に立ちそうも無いし。」


……


…………


「ラファエル様。」


『アデプト(メシア教徒の高僧)か、どうした?』


「アニス殿の件に関しては、如何致しましょう?」


『放っておけ、"役立たず"に千年王国に踏ませる価値は無い。』


……


…………


「うっ、うぅッ……うああぁぁぁ~~ッ!!」

≪ズゴゴゴゴゴッ!!≫

「あ、アニスさんッ?」

「こら、落ち着きやがれ!」

「生き返るんじゃなかったんですッ、私は居ない方が……
 あのまま死んじゃってた方が良かったんですよぉ~~ッ!!」

≪ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!≫

「きゃっ! なに、なにッ!?」

「(アニスさんの魔力が揺れをッ?)」

「(こりゃいかんっ、仕方無ぇなぁ……)」


その場に崩れ落ち、悲痛な表情で今までの境遇を思い出すアニス。

殺され、見限られ、陵辱され、やっとそれらの事から立ち直ったのに……

自分の"馬鹿"の所為で今度は道場夫婦を死に追いやってしまったと思い込んでいる。

アニスは自分が頭が悪い事を自覚しているのだが、直し方が判らない。

それが性分だからこそ、自分の考えたが正しいと信じ、
頑張って行動した結果が"こんなもの"では生きる価値を見失ってしまう。

タネを明かしてしまうと、道場夫婦を殺したのは"クシエル"であり、
ランスのことを調べるにあたって"ついで"に殺したので、彼らは巻き込まれただけ。

しかし、アニスは性格から、自分の所為と"思い込んで"しまっているのだ。

そんな彼女の悲痛な思いは、魔力の暴走の兆しとなり、部屋を揺るがせた!!

その"揺るぎ"はなかなかで、リアとマリスは焦りの色を浮かべるが――――


≪……がばっ!!≫

「……ッ!?」

「落ち着け! 大丈夫だッ!」

「うぅぅッ、ちっとも大丈夫なんかじゃないです!!」

「大丈夫だと、言ってるだろうっ!?」

「からかわないでくださいッ! 大丈夫じゃない事くらい判ってます!!」


「だから俺様が"大丈夫と言ったら大丈夫なんだ"と言っとるだろうがーーッ!!!!」


「ひっ……」

≪――――ぴたっ≫

「!? 揺らぎが……」

「止まっちゃった……」


ランスが後ろからアニスを両腕で包み込み、"大丈夫"と叫んだ。

大丈夫と言っても二人は既に死んでおり、ちっとも大丈夫では無い。

しかしランスはあえて連呼し、アニスの暴走を大声だけで止めた。

判り難いが……ランスが何度も"大丈夫だ"と言ったのは、
"アニス自身の事"に対しての"大丈夫"だったのだ。

彼はこうやってアニスの存在を認めてやらなければ、
彼女の暴走した魔力は爆発に至り、全てを巻き込んで自分の命をも絶つと思った。

結果ランスはアニスの暴走を抑えるに至り、彼女の耳元で言った。


「大丈夫……お前はまだまだ大丈夫だ。
 そもそもアニスの所為じゃねぇし、一人や二人死んだくらいで驚くんじゃねえ。」

「で、でも――――」

「良いかッ? お前はトラポートをしただろう?
 それで俺様は凄い助かった、即ち役に立ってるって事だ。」

「や、役に立ってるんですかッ?」

「そうだ! それに"あっち"に戻りてぇんだろッ?
 だったら後一歩なんだ、あとちょっとくらい気張らねぇでどうする!」


涙目のアニスを、思いついた言葉で励ますランス。

その役に立っていると言う言葉に、単純であるアニスは妙に納得してしまう。

……すると、揺らぎを聞きつけてきた者が何人か回復道場に現れた。

どうやら、近くで店を開いている、道場夫婦と多少馴染みのあった連中のようだ。


≪どたどたどたっ≫

「おいッ! 随分と揺れがあったが、何があったんだッ!?」

「いえ、なんでもありません。 それよりもガイア神殿にこの方達を……」

「ッ!? 気の毒に……俺達でよければ手伝おう。」

「それでは、ランスさん。」

「おう、行って来い! リアもだ、手伝ってこい。」

「えっ? あ、うん……」


男達とマリスは二人の死体を抱えると、彼女達は道場を出てゆく。

そして、多少ランスの事が名残惜しかったようだが、
リアも彼女を追うように外にへと出て行った。

こうして部屋にはランスとアニスだけが残る事になり、
二人だけだとなんだか空気が重いので、一旦彼女から離れるランス。

すると香姫を召喚し(彼女も道場夫婦の死にショックを受けていた)、
道場広間の床拭きをさせるよう命令してみる。

その後、ランスはどうしたものかと腕を組んで立っていたのだが、
アニスは子犬のように、上目遣いで彼を見ながら言った。


「あの、ランスさん。」

「なんだ?」

「ランスさんは、その~、わたしの事……見捨てないでくださいね?」

「おう、見捨てないでおいてやる。 それなら、最後まで気ぃ抜くなよ?」

「は、はい! このアニス、見捨てられない程度に頑張りますッ。」

「(う~む、ホントわかんねぇヤツだなぁ……)」


上目遣いの表情にちょっとムラっときたランスだったが、
彼は何故か彼女に手を出す気にはなれないでいた。

勿論……"まだ出さない"だけなのであるが、
彼女とエッチをするにはタイミングが難しそうだな……と彼は頭を掻いた。

この後、掃除を終えた香姫が部屋に戻ってくると、
アニスは道場夫婦のベットの上で、静かに寝息を立てていた。

うつらうつらしていたランスは直ぐに目を覚まし、彼は彼女を残して部屋を出た。


……


…………


「ダーリン、ただいまぁ~。」

「おう、やっと戻ったか。」

「アニスさんの様子はどうですか?」

『……先程確認いたしましたが、今は眠られているようです。』

「そうですか……」

「全く、思い込みの激しいヤツだったぜ。」


……ランスが香姫と部屋を出てから2時間後。

ガイア神殿に死体を運んできたマリスとリアが戻って来る。

マリスはアニスがどうなったか気になっていたようだが、
特に問題が起きなかった事を確認すると、表情を改めて口を開く。

この時、リアはまだ口数少ないが、意外と落ち着いている様子だった。


「話は変わりますが、ランスさん。」

「なんだ?」

「ガイア神殿の方に話しを聞いたところ、重要な事がわかりました。」

「重要な事だァ?」

「はい……あの御二人と同じようにここ数日、
 "何者かに殺された"人間がカテドラルカオス内に何人も居たようです。」

「何人もだとッ?」

「主に"デビルサマナー"が狙われていたようであり、
 その"暗殺者"に殺されてしまったと見て良いと思います。」

「でもよ、おっさんはデビルサマナーじゃ無ぇぞ?」

「そこで私の予想ですが……狙うのは"私達"であり、
 "私達"と関わりがあったお二人を"ついで"に殺したのでは無いでしょうか?」

「ふん、ついで……か。」

「そうだったら、許せないよ~……」

『はい……同感です。 私もお世話になりましたし……』

「しかし、いくらコンディションが悪かったとは言え、
 あの御二人の命をあっさりと奪うとは、相手は相当な手馴れだと考えられますね。」

「まぁ、そうだろうな。」

「手際の良さから"暗殺者"は近いうちに、今度は私達を狙ってくる確率が高いです。
 かといって、"あちら"に戻る事を優先させるのであれば、
 スティーブンさんの連絡を受け、すぐさま目的地にへと向かい、
 無駄な戦いを回避するのが懸命かと思いますね……」

「…………」

「ダーリン……」

『ランス様……』


"あっち"に戻る事を優先させるのであれば、
無理に"メタトロン"達を叩く必要は無く、戦いを回避するのであれば、
ターミナルやテレポートを駆使して逃げる事も不可能ではない。

メタトロン達にとっても、ランスは"こっち"の者では無いので、
本当であれば手を出す必要は無かったのだ。

しかし彼らはそんな事は知らず、現に道場夫婦を殺してしまった。

こうなれば叩くのか、やり過ごすのかを決める必要があり、
黙って考えているランスの決断ををリア・マリス・香姫は待った。


「ケッ……決まってんだろうが、俺様のパシリを殺りやがったんだ。
 暗殺者だか悩殺者だか知らんが、ぶち殺してくれるわッ。」

「では、決まりですね。」

「"それ"で……最後なんだね。」

『……頑張りましょう。』


ランスは戦うか戦うまいか迷っているようだったが、答えは決まっている。

自分に喧嘩を売ったのだから当然買い、返り討ちにするのだ。

実を言うと、ランスは"敵討ち"などする性分ではないので、
どう喋って三人に戦いを促すかを考えていたのである。

そんなランスの答えにマリスは微笑むと、彼女は話をまた切り出す。


「師範と巫女さんには、最後の"挨拶"ができなくなりますが、
 私達に残された時間は少ないですし……仕方ありませんね。」

「そうだねぇ、それがちょっと残念かもぉ~。」

「んんっ? どう言う事なんだ?」

「お二人ですが……どうやら命は助かるそうです。」

「何ィ!? 確かに死んでたじゃねぇかッ。」

「そうなので、私も初めは驚きましたが……
 "こちら"には死者を生き返らせる術(すべ)があるようです。
 "サマリカーム"と言い、復活には数日掛かってしまうようですが。」

「"サマリカーム"だと? キクリヒメの"リカーム"なら知ってるんだが。」

『そのような魔法があったのですか……』


……なんと! 殺された道場夫婦はガイア神殿で蘇るらしい。

"あっち"で死者を完全復活させる事が出来るのは、
ランスを慕う"聖女モンスター"の"ウェンリーナ"くらいなのだが、
此方の世界には"サマリカーム"という魔法が存在する。

リアが冥界波で"瀕死"になった時に"キクリヒメ"が"リカーム"を唱えた事があるが、
その上位魔法であるのが"サマリカーム"という名である。

そう簡単に出来る魔法ではないが、メシア教会やガイア神殿には使える者がおり、
アリスとリアは"サマリカーム"を頼んでいたのだ。

戻ってきたリアが案外落ち着いていたのも、二人の命が助かる事実があったから。

しかし、別れの挨拶が出来ないのは流石に残念そうだった。


「ですが……お二人の蘇生の代金として、3万マッカ掛かってしまいました。」

「なんだとォ? それじゃあ俺様の金が……」

「はい。 私が勝手な判断をしてしまって、
 預かっていた報酬を全て失う結果になってしまい、申し訳ありません。」

「ダーリン、マリスを怒らないで! リアがお願いしたのッ。」

「ふん、まぁいいが……お前ら"あっち"に戻ったら折檻決定だな。」

「はぁ~い♪」

「ありがとうございます。」

「相変わらずな反応しやがって……
 よ~し、それじゃグッスリ寝るぞぉ、多分明日で"最後"だしな。」

『(気を引き締めないと)……それでは、私は戻りますね。』

「おう。」

≪――――バシュンッ!!≫

「ねぇねぇダーリン、今夜は一緒に寝ても良~い?」

「一人で寝るは危険そうですね……
 私は今夜、アニスさんと同室で休む事にします。」

「……勝手にしな。」


"あっち"戻るランス達にとって、マッカは持っていても意味は無い。

よって3万マッカの出費を軽く流すと、ランスは部屋に戻り、
リアはパタパタと彼の後を追っていった。

残されたマリスも一息漏らすと、ゆっくりとアニスが寝ている部屋に入って行った。

結局ランスはこの日エッチはせず、最後の夜……21日目が終了した。


○ステータス(初期値ALL5+ボーナス18+Lv=合計)
ランスLv64 力32 知12 魔12 体22 速22 運12
リ アLv60 力10 知20 魔30 体10 速18 運18
マリスLv62 力14 知28 魔18 体14 速28 運08
アニスLv74 力20 知10 魔40 体20 速26 運06
(香 姫Lv40) (カミーラLv60) (ジ ルLv70)
残金:5000マッカ


=参考で~た=
○超人:アニス・沢渡
 攻撃回数:1
 魔法:マハラギダイン・マハブフダイン・マハジオダイン・マハザンダイン
    メギド・メギドラ・メギドラオン・トラポート
 特技:じばく
 相性:ノーマル耐性

○魔王:ジル
 攻撃回数:2
 魔法:リムドーラ・テンタラフー・ムドオン(・リカーム)
 特技:アカシャアーツ・ランダマイザ
 相性:全体的に強い

 カッコ付きの魔法は"継承"した魔法です。
 あくまで参考なので深く考える必要はありません^^;



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス12
Name: Shinji
Date: 2006/06/07 04:06
第12話:ラストバトル


……22日目、朝10時。

起きた直後に一緒に寝ていたリアが"朝エッチ"を要求してくるが、
へそ曲がりな彼はOKせずに武装して部屋を出た。
(こんな時にHする気にはなれなかったのが大きいだけだが)

すると既に自分の準備を済ませていたマリスと、
彼女に起こされたのか寝ボケ顔で床に座っているアニスが居た。

若干ランスが現れるまで時間があったのか、
この時のアニスは道場夫婦の命が助かったと言う事を聞かされていた。

しかし、詳しく説明してもアニスには理解し難いと思った事から、
(寝ボケている事よりも、彼女の性分の方が問題だろう)
マリスは"命は助かるそうですがお別れの挨拶は残念ながら出来ません"と、
手短に説明する事でアニスを無理矢理納得させた。

そして更に1時間ほど経過すると、道場広間には7名の姿がみえた。

言わずとながら、香姫・カミーラ・ジルが召喚されたのだ。


……


…………


『何故……私が"このような姿"をする必要がある?』

「ならお前~、そのまま外に出ても良いってぇのか?」

『当然だ、もう2000年以上衣服など着た事は無い。』

「それが"魔王ジル"の特徴でもありましたからね。」

「だがなぁ~……お前は良いとしても、
 "俺様の女"の裸を他の奴に見せまくるのはどうも気に食わん。」

『ふんッ、いつから貴様の女などになった?』

『……(魔王様が、あのような……)』


ダンジョン内と言う訳では無いが、もはやマグネタイトの出番も無くなるので、
此処で召喚しようと大して痛手にはならないだろう。

そんな三体の中……ランスはジルの全裸の姿が少々気になった。

アルケニーのように亜人系の姿ならまだしも、
ジルは雰囲気違えど、見た目は人間そのものなので着衣を強制した。

リアの時のように、彼女を苛める目的で全裸を晒させたのは良いのだが、
そんな気も無いのに他人の晒し者にさせるのは納得がいかない。

よって現在のジルにはマリスが一昨日の夜にランスの部屋を訪れた時の、
黒い半袖のシャツと薄茶色のショートズボンを着用していた。
(裸足だが、元々全裸なので魔力によって岩場を歩いても痛くない)

ちゃっかりと上下の下着も着させられ、ジルは機嫌が悪そうだった。


『何だカミーラ、お前まで私を侮辱する気か?』

『……ッ? いえ……そのような事は。』

『と、とっても似合っていますよッ?』

『ふ……ふん、不愉快だ。』


召喚されて香姫は当然、流石のカミーラもジルの存在にはかなり驚いた。

香姫はランスに寝物語で聞かされたダケなので、
"魔王"と聞かされて、初めて"ジル"の正体に気付いてびっくりしたのだが、
カミーラは1000年以上ジルの下で魔人として生きていた経験がある。

既にジルはランスの世界で言えば、美樹が魔王なので、
彼女はもはや魔王では無くなっており、立場はカミーラと同じ"仲魔"なのだが、
カミーラはジルに対して昔の記憶を尊重させた。

ジルは少し態度がデカいが、ランスを"貴様"と言うのに、
カミーラを"お前"と言っている事から、多少彼女に気を遣っているようだ。

さておき、香姫はドキドキしながら衣服を褒めてみるが、
あまり悪い気はしないのか、ジルは腕を組みながら瞳を閉じた。

……もう、この話題については"終わり"にして欲しいようだ。


「うし! それなら出るぜ、準備は良いなァ?」

「大丈夫だよぉ~。」

「はい、済んでいます。」

「それでは行きましょう! 師範の無念を晴らす為、敵討ちに出発です!」

「あの、今は亡くなっていますが、お二人はちゃんと生き返られますから……」


こうして準備をすべて終了させ、回復道場を出てゆくランス一行。

3週間程世話になったが、彼らが再び回復道場に足を踏み入れる事は無いだろう。

そんな回復道場の、道場夫婦の部屋の机の上には、残った全てのマッカと、
いらなくなった宝石や使いそうに無いアイテムを置いておいた。

そして一枚の紙切れに、アニスの汚い字で一言だけ記されていた。

命が助かった嬉しさを込めて、"ありがとうございました"……と。


……


…………


……カテドラルのカオス側、外周。

"カテドラル"は円形の非常に広く高い建物となっており、
一階の上半分の180°がカオス側の陣営で、
その中の一部が街となっており、"カテドラルカオス"と呼ばれるのはご存知の通り。

そんな内部は勿論だが、一階の外部も半分に分かれている。

外部に出て横は数キロ、前は数百メートルにも平らな地面が広がっており、
まっすぐ進めば海にぶつかり、時計回り・反時計回りに進めば、
"カテドラルロウ"との境界線である高い壁にぶつかる。

生憎重要なのは"カテドラル"そのものなので外で戦いは殆ど行われていないが、
ランス達にとってはそれが好都合であり、彼らは其処に居た。


「ここで良いか?」

「そうですね。」


≪ヒュオオオォォォーーッ……≫


一行は外に出ると、何百メートルか前方に歩き、
前後左右は平らなカテドラルの地面がただまっすぐに広がっている。

風当たりは抜群で、ランス以外全員の頭髪が風に泳がされる。
(リア・マリス・アニス・香姫・カミーラ・ジルと全員長髪)

そんな風の強い音だけが響く中、ランスはマリスと一言だけ交わすと――――


≪ズダアアァァンッ!!≫


ランスは二丁のデザートイーグルを抜き、まずは右手の銃で一発空に発砲。

発射された"閃光弾"は、風の音を掻き消して空を突き進む。

だが、それだけで発砲は終らず、ランスは両手を上げ――――


≪ズダンッ、ズダンッ、ズダンッ、ズダアアァァンッ!!≫

「何処に居やがるッ!? 俺様を狙ってんだろ、出て来やがれーーッ!!」

≪ズダンッ、ズダンッ、ズダンッ!! カチッ! カチ、カチッ!!≫

「ちっ……終わりか。」

「本当にこんな方法で来るのぉ?」

「良い方法かと思います……何せ、恐らく相手は……」


≪人間ではないと思いますから……≫


空に"閃光弾"をありったけ発砲しまくる……弾切れになるまで。

勿体無いものだが、最後に戦う相手には、もはや銃なと不要だと感じたからだ。

それに"このような行動"をしたのは、大きな理由がある。

自分を殺そうとする者と、いちはやく接触する為のアピールなのだ。

相手が極力"暗殺"を狙う相手であれば無駄な事だと思われるが、
どうやらそうでは無かったようで、直ぐに状況に変化が起きた。


『ふぅむ、まさか"そのような行動"をして来るとは……』

『只の馬鹿か? それとも……』

「!? しました、声が……」

「なんだとッ、何処にいやがる!?」

『馬鹿め、後ろだッ。』


突然、一行の耳に"何者かの"声が聞こえた。

少々強い風の音で察し難かったのだが、ジルの声で全員が後ろを向く。

すると、空中がなにやら光っていたかと思うと、
左右二箇所に光が集まり、すぐさま形を成してしまい――――


≪ブイイィィンッ……≫

『……私は大天使クシエル、神に遣える"処罰の天使"なり。』

≪キュイイィィンッ……≫

『ワシは同じく"サリエル"……全ての生き物の運命を定める者。』

「出やがったな!?」

「て、天使ぃ~?」

「この天使が、御二人を……」

「てめぇらだな、勝手に人の塒(ねぐら)荒らしやがって!」

≪――――ガシャンッ!!≫


現れたのは、大天使・サリエルとクシエル。

前にも述べたが、サリエルは死神でクシエルがのっぺらぼうのような天使の姿。

彼ら二体は、ランス達が人気の無い場所まで行ってから、
叩いを挑むつもりだったのだが、ランス自身から挑戦をするような行動に、
少し意外だったと同時に馬鹿にしたような感じで姿を現す。

"暗殺者"というイメージとは大きくかけ離れてはいるが、
サリエルは死神の姿であるし、悪魔の犯行の可能性も十分に考えていた事から、
今更そのような事で驚く程でも無いので、状況を受け入れる。

それによりランスはデザートイーグルを二丁とも地面に捨て、
背中の雷神剣に手を掛けながら二体に向かって叫んだ。

すると、サリエルは首を動かすと、クシエルに向かって言った。


『クシエル殿、どう言う事だ?』

『アジトで彼らに加担していた者が居たのでしてね……
 あまりにも隙だらけだったので、偵察"ついで"に始末しておきました。』

『成る程な。』

「ですが、それは意味の無い事です!」

「そうだよッ、ガイア神殿の人に治して貰うんだもんね!」

『そうですか? しかし、もう一度死んで貰えば良い事でしょう?』

『その通り! 貴様らを葬った後でなッ!』

「と言う事は、あなたが師範を!? ゆ、許しませんよーーッ!!」

≪キュイイィィンッ……≫

「アニスさんッ?(マカラカーンが必要かしら?)」


彼らにとって、少しでもカオスに傾いている者は死んで当たり前。

"千年王国"に行く事のできる権利を持つ者以外は、
生きている価値が無いというのが二体にとっての常識なのだ。

よって道場夫婦を殺した事を、蚊を叩く程度にしかクシエルは思っていない。

対してそこまでは判らないが、暗殺者が彼らと言う事は理解したアニスは、
早くも魔法の詠唱を開始しようとしたのだが――――


『ッ!? 避けろッ!!』

『危ないっ!!』

「えっ? わわッ!」

≪ドコオオォォンッ!!≫

「畜生、なんだぁ~ッ?」

「(気配がしなかった、もしジルさんに言われてなかったら……)」

『ふっ……気の早い人間だ。』

『メタトロン様!』

『参られましたかッ。』

『すまぬな、遅くなった。』


何の前触れも無く、放たれた攻撃魔法。

それを再びジルの声で、詠唱が止まったアニス含め、散開して回避したランス達。

魔法を放った者にとっては"軽く"らしく、殆ど無詠唱で放たれたようだ。

かといって"メギド"クラスの威力に地面は焦げており、
(カテドラルの壁等は非常に頑丈なので、余程の事が無い限り傷付かない)
サリエルとクシエル含め、全員が魔法が放たれた軌道を見ると……

"大天使メタトロン"が腕を組みながら一行を見下ろしていた。

何時の間にか放たれていたサリエルとクシエルの信号を察し、遅れての登場だ。


「こいつ……(強ぇな……)」

「一筋縄ではいきそうもないですね……」

「うん……(か、勝てるのかなぁ~。)」

『ふむ、貴殿がランスか。』

「そうだッ、だからどうした?」


神々しい翼と逞しい姿を持った、偉大なる大天使。

"あっち"の"フリーク"のようにやや機械染みた印象があるが、
感じる"力"はこれまで戦ってきた悪魔の強さとは比べ物にならない。

戦いはしなかったが、今迄一番強いと感じた"天魔 ヤマ"以上である。

これで仮の姿であるのだから、本体は更に強い事になる。

そんな"大天使メタトロン"はランスを見下ろしながら声を響かせる。


『悪魔の誘惑に負け、その身を堕落させた罪深き者よ……
 邪悪な闇にと共に、地上より失せるが良いッ。』

「ふざけやがって、失せるのはテメェだ!!」

『そんな勝手な事はさせませんッ!』

『不愉快だ、殺す……』

『ふっ、鈍(なま)った体には丁度良い連中だな。』


言葉が終ると共に、メタトロンは腕を解いて戦闘態勢に入る。

一行を挟んでいるサリエルとクシエルも、互いに浮遊しながら構えていた。

互いに最初から戦う目的でやって来たので、もはや言葉はいらない。

要るとすれば、ランスや仲魔が言ったような、罵倒するような言葉だけ。

よってランス達も雷神剣を抜くなどして構える中、アニスが叫ぶ。


「ランスさん、"クシエル"という敵はこのアニスにやらせてくださいッ!」

「おう、やってみろ! マリスはアニスの援護をしてやれ!」

「わかりました!」

≪ガチャンッ……≫

『面白いですね、お相手しましょうか。』


アニスは道場夫婦の仇討ち(後に生き返るが)をする気のようで、
クシエルと対峙し、ランスの指示でマリスも援護に回る。

魔法を巧く使いこなせないアニスの力を活かせるのは、
メンバーの中でマリスしかおらず、ペアとなれば彼女以外の選択肢は無いだろう。

この時点でマリスはライフルを地面に捨てて、クチナワの剣を抜いた。

すると自然にランスと、彼の傍に居るリアと香姫が、
メタトロンと対峙する形となり、ランスはカミーラに指示を出す。


「カミーラは死神野郎をやれッ、親玉は俺様が殺る!!」

『良いだろう。』

『ほぅ、ワシとやると言うのか?』

『くくっ……カミーラ、久しぶりにお前の力を見せて貰おうか?』


結果自然とジルがカミーラの援護に回る事となる。

二体ともお互い古い関係があるが、こうして組んで戦うのは初めてだろう。

……よって、アニス&マリス VS 大天使クシエル。

次に、龍神カミーラ&魔王ジル VS 大天使サリエル。

最後にランス&リア&天魔 香姫 VS 大天使メタトロンという形となった。

この時点での、ランス達はモチベーション十分である。


「皆、手加減するなよ!? これで最後だからな!!」

「ダーリン、無茶しないでねッ?」

『どのみち本気でやらねば勝てそうもありませんが……』

『大した度胸だな……ゆくぞぉッ!!』

≪――――バササァッ!!≫


……この戦いに勝利しなければ、あちらには戻れない。

それは当たり前の事ではあるが、負けるとも誰も思ってはいない。

さておき、まずは小手調べとメタトロンが翼を羽ばたかせ突進してくると同時に、
こちら(東京)で最後の戦いが開始されようとしていた!!



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス13
Name: Shinji
Date: 2006/06/08 22:19
第13話:大天使


「(来やがった、速ぇッ!)」

『これはどうだっ!?』

≪ガキイイィィン……ッ!!≫

「ぐぉッ!」

『……ほぅ。』

≪ぐっ、ぐぐぐぐっ……≫


素早く突進してくるメタトロンの(機械染みた)拳を、ランスは雷神剣で迎え撃つ。

すると激しい音と共に互いの攻撃が交差し、そのまま力比べを開始した。

かなりパワーを持つランスの雷神剣での太刀に対し、
素手でやり合うなど非常識にも程があるが、メタトロンにはそれだけの力があるのだ。

しかし、ランスも迎え撃っただけの太刀だったので、
拳を受け止める両手に力を込めると、反撃に出るべく拳を弾く!


「うおりゃぁっ!!」

≪ガッ……!!≫

『うぉっ!?』

「香ッ、やれッ!!」

『はい! アギダインッ!!』

≪ボヒュウゥ~ッ!!≫

『おっと!』

≪ずがああぁぁんっ!!≫


いきなりの力で少し上に押し戻されたメタトロン。

その直後、香姫の"アギダイン"がランスの頭上を通過し、
メタトロンを襲うが、既に態勢は戻っており、難無く回避されてしまう。

そのまま流れ弾となった香姫の魔法は、遠方で地面に落ちて地面に弾けた。

よって次に、リアがメタトロンに黄金銃の銃口を合わせていたのだが――――


「死んじゃえ!!」

≪ガァンッ! ガァンッ! ガァンッ!!≫

『(避けられんな)……喝ッ!!』

≪――――キィンッ! キィィンッ!!≫

「あ、あれぇっ?」

「卑怯臭ぇッ、バリアーか……よォッ!!」

『おぉッ!?』

≪……ぶぅぅんっ!!≫

「(くそっ、避けやがった!)」

『やはり、簡単には……』

『(これは驚いた、思った以上にやるようだ。)』


発射された何発もの閃光弾が、メタトロンの目が光ったと思うと、
目の前の"見えない壁"に弾かれてしまい、ダメージを与える事ができなかった。

しかも、その硬直を狙ったつもりで斬りかかったランスの攻撃も避けられる。

それにより、やはりメタトロンは今までの悪魔とは相場が違う事を実感する三人。

だが……メタトロン本人もランス達の力にはかなり驚いていた。

攻撃は凌いだが、こうも連携が出来ているとは思ってはおらず、
軽い気持ちで捻(ひね)って来た相手とは段違いのデビルサマナーだ。

"こんな連中がいたのか"……と、メタトロンは気を改めて戦う事にした。


……


…………


「はぁあッ!!」

≪キィンッ、キィンッ、キィンッ!!≫

『ははは、どうしました? 貴女の力はそんなものですかッ?』

「うぃ~、うぃ~ッ……(マリスさんが戦っているうちに~……)」


一方、マリスの剣撃を軽く捌いている"クシエル"も油断している。

いくらランス達を偵察で"手馴れ"と感じたとは言えど、
たかが"人間"であり、サマナーの部下(と彼は思った)風情が強いとは思っていない。

今現在では、クチナワの剣で素早く攻撃をしてくるマリスの太刀を、
魔力によって実体化させた右手のエネルギーソードで受け流している最中だ。

そんな中、クシエルはアニスが自分に向けての魔法を詠唱しているの確認した。


「(やっぱり、剣じゃ無理ね……)」

『貴方の攻撃はなかなか"速い"ですが、いささか力が足りません……』

≪……ガシッ!!≫

「え……ッ!?」

『このようにねっ!!』

≪ドカァ……ッ!!≫

「うくっ!!」


エネルギーソードの魔力を掌(てのひら)に全て集めると、
クシエルはマリスのクチナワの剣を、なんと右手で掴んでしまう!

それにより、マリスの動きが止まってしまうが、
慌てる事無く彼女は剣を引っ張ろうと力を入れようとした。

しかし、それよりも早くクシエルは"蹴り"をマリスの腹部に叩き込み、
クチナワの剣を手放させただけでなく、後方に一直線に吹き飛ばした!

しかもそれだけでなく、軌道にしっかりとアニスがおり――――


『ふふふッ、それに――――』

「えっ? わわっ!」

「……っ!?」

≪どどぉっ!!≫

『"撃たせ(詠唱させ)る"ワケにはいきませんしね。』

「アニスさん……平気ですかッ?」

「だ、大丈夫ですけどぉ、今ので詠唱が~……」

『さて、私は楽しむ気は無いので、終らせて貰いますよ……?』


アニスは吹っ飛んで来たマリスに激突され、詠唱が中断される。

結構な速度で飛ばされたので、普通ならかなり痛いのだろうが、
打たれ強くもあるアニスは、詠唱が止まっただけでダメージは少ないようだ。

一方、マリスはアニスがクッションになったので大して痛くは無かったが、
その前にクシエルに食らった蹴りのダメージの方が問題だ。

だが……もしもマリスが装備無しでクシエルの蹴りを食らっていれば、
内臓が破裂していただろうが、彼女は寄って来るクシエルに対して、
直ぐ様"予定していた"行動に出る為に立ち上がれていた。


≪すくっ≫

「(流石は最高級の鎧ね、大して堪えては無いわ。)」

「ま、マリスさんっ?」

「私は大丈夫ですから、"衝撃"の魔法をお願いします。」

「!? 了解ですッ。」

『さ~て、行きますよッ!?』

≪バササッ!!≫

「(来た) はああぁぁッ、シバブーーッ!!」

≪ギュイイィィン……ッ!!≫

『うぁッ!? こッ、これは……!?』


クシエルに向かって緊縛魔法"シバブー"を放つマリス。

彼程の悪魔が相手であれば、そうそう当たるモノではないが、
マリスの"知力"と、クシエルの"油断"で完全に魔法は命中していた。

これまでの行動も、"実力の差"を錯覚させてクシエルを油断させる為だったのだ。

実はクシエル蹴りも避けれない事は無かったが、
あえて"シュツルムアーマー"の強度に頼り、ワザと攻撃を受けたのである。

よって暫く動けないクシエルに対して、冷たく言い放つマリス。


「緊縛魔法です、わかりませんか?」

『くっ……わ、私がこのような手にッ……!!』

「マリスさん、いきますよぉ~っ?」

「どうぞ。」

≪キュイイィィ~~ンッ!!≫

『なっ!? こ、この魔力はッ……』

「マハザンッ……ダイイィィンッ!!」

≪ズドオオォォンッ!!≫

「(この角度ね)――――マカラカーンッ!!」

≪ズドッ…(反射)…ズドオオォォンッ!!≫


アニスが詠唱した、"最強衝撃全体攻撃魔法"が放たれる。

相手は一体しかいないのだが、一応これには意味があった。

マリスが唱えた"マカラカーン"で絶妙な角度で、
"お決まりに自分に飛んでくる魔法"を反射する事により、クシエルに飛ばし、
更なる"マハザンダイン"のダメージの上昇を計ったのだ。

知力に優れるマリスにとって、咄嗟の角度の計算など些細な事。

よって、二発分の大砲のようにクシエルに向かって飛んでくる衝撃魔法。

それを緊縛状態のクシエルに、避ける術(すべ)は無い。


『ぐッ、ぐああああぁぁぁぁ……ッ!!』

≪ガオオオオォォォォンッ!!!!≫

「(良かった、旨くいったわ。)」

『くッ……まさか……こ、これ程とは……恐れ入りましたね……』

「はぁっ、はぁっ……」

『人間も……なかなか……』

≪シュウウウゥゥゥ~~ッ……≫


"マハザンダイン"によって切り刻まれたクシエルは、
この時点でやっと、相手を甘く見すぎていたと言う事が判った。

特に決定打のアニスの魔法……完全体である自分に匹敵する程の魔力。

それを食らったクシエルは、もはや原型は留めておらず、力尽きようとしていた。

最初から手加減無しでやっていれば、少しは状況が変わったかもしれないが、後の祭。

かといって死ぬワケでは無く、天の"本体"に戻るだけなので、
冷静に状況を受け入れ、自分の敗北を認めたような様子で消えていった。

マリスはクシエルの消滅を確認すると、クチナワの剣を拾って一声漏らす。


「ひとまずこれで、一体ですね。」

「師範ッ、敵は討ちましたよ~!」

「何度も言うようですが、生き返られますから……」


……


…………


≪ガシィッ、ガシィィンッ!!≫

『ほぉ! 使い魔風情にしては、なかなかやるようだなッ。』

『…………』

『それなら、これではどうだ!?』

『……!!』

≪ガシッ、ガシガシッ、ガシッ!! ガシイイィィンッ!!≫


そして、カミーラ&ジルと交戦していたサリエル。

今はカミーラとサリエルが互いに攻撃を捌き合いながら様子を見ている。

カミーラは自身の翼で、サリエルは持ち前の鎌で。

常人であれば、速すぎて何をどう捌いているのかさえ見えないだろう。

……と、次第に捌き合いが激しくなってきており、
互いの大きな一撃を受け止めあったところで、ジルが間に入る。


『……どけっ!!』

『…………』

≪ばばっ!!≫

『ぬぅっ!?』

『はぁあっ! リムドーラッ!!』

≪ヒュゴォォ……ッ!!≫


空中での小競り合いをしていたので、垂直に跳躍したジルは、
サリエルに向かって一直線に"リムドーラ"を放った。

同時にカミーラは相手から離れ、そこで初めてサリエルはジルの魔法に気付く。

……"リムドーラ"とは、全ての呪文で最も大きな威力を持つ魔法。

アニスの場合は、彼女自身の魔力が桁違いなので、
そこまでの威力は無さそうだが、ジルの場合はコントロールが完璧なので、
発射された衝撃属性の魔力の塊は、一直線にサリエルを捉えていた。


『ふんッ、なめるなよおぉ!?』

≪――――ゴキィィィンッ!!≫

『ちぃッ!!』

≪(サッ)……ドコォォンッ!!≫

『(う~む、想像以上だな……)』


それをクシエルは鎌で打ち返し、ジルはそれを難無く避ける。

あっけないものだが、実はこの"リムドーラ"は大して魔力を使ってはおらず、
サリエルの注意を少しだけでも払うのが目的だったのだ。

その硬直を狙い、サリエルから一旦離れたカミーラは、再び攻撃に入る!!


『……何処を見ているッ。』

『!?』

『デスバウンド……ッ!!』

『面白い、それが貴様の必殺技かッ!?』

≪バキイイイイィィィィーーンッ!!!!≫

『……(止められたかッ。)』

『(なんと、このような技まで持っているとはな……)』


必殺技の"デスバウンド"とサリエルの力が交差する。

相手が一体なので、ハサミのようにサリエルを挟むが如く、
鋭い翼を振り下ろし、サリエルは両翼を鎌の二箇所で受け止めた。

必殺技を持たないのに、カミーラのデスバウンドを受け止めるのは、
流石に大天使と言ったところだが、彼は少々焦っていた。

無名サマナーの仲魔如きがここまで戦えるとは思わなかったからだ。

しかし、ややサリエルは力で押しているようなのでここを凌ぎ、
反撃で目の前のカミーラを仕留めれば、後はジルのみと思った矢先だった。


≪ギリッ、ギリギリッ……≫

『……っ……』

『なかなかの腕だったが、楽にしてやろうッ!』

『……そうかな?』

『なにっ!? ぐぁッ……!!』

≪ミシッ、ミシミシッ……≫

『終わりだ。』

『な、何故だ!? 何故ワシが押される……ッ!?』

『おおおぉぉぉッ!!』

≪ズシュウウゥゥ……ッ!!≫

『馬鹿なッ!? ぐッ、グワアアあぁァぁーーッ!!』

『……(やったか……)』


突然カミーラの力に押され始めたと思うと、対抗するも叶わない。

直後、カミーラが気合を入れると、鎌ごと真っ二つに両断されるサリエル。

力を隠しているようには見えなかったので、何故自分がやられたのかが判らない。

だがしっかりと"理由"と言うものがあり、後方でジルがこう呟(つぶや)いた。


『"ランダマイザ"か……良い術だな。』

『!? そ、そうか……まさか"ランダマイザ"……とは……』

『……甘く見過ぎだ。』

≪シュウウウゥゥ~~……≫

『く、口惜しや……(お許しくだされ……め、メタトロン様ッ……)』


サリエルの気付かぬ間に、ジルが"ランダマイザ"を唱えていたのだ。

"ランダマイザ"とは、敵の"攻撃・命中・防御"の全てを下げる、
非常に使い勝手の良い、上級特技だと言える。

サリエルはランダマイザより能力値を下げられ、カミーラに力負けしたのだ。

使える者は滅多に居ないので、サリエルが予想しなかったのは仕方ない事かもしれない。

よって"こちら"から消滅する彼を見下ろしているジルの側に、カミーラが降りて来る。


≪――――トッ≫

『魔王様。』

『くくくっ……カミーラ、なかなかのものだったぞ?』

『…………』(黙って頭を下げる)

『さて、残るは一体のようだな。』


……


…………


『……はっ!?』

「んんっ? 何だまだ終ってねぇぞ!」

『クシエル、サリエル! やられたと言うのかッ!?』

「えっ? やったんだぁ~。」

『流石ですね……』

「おぉ~、そうか! なら残るはお前ダケって事だな。」


クシエルとサリエルが倒されたのは、ほぼ同時だった。

若干サリエルが遅れて倒されたのは些細な事として、
ランスら三人と交戦を続けていたメタトロンは、彼らが倒された事に気付く。

よって一旦ランス達とメタトロンは動きを止めると、
マリス・アニス・カミーラ・ジルが三人の左右に近付いてきた。

これで7対1となり、普通であればランス達の勝利が確定した事になる。

……だが、メタトロンは逃げようとする様子は無く、それはプライドが許さない。

負ける気はまだ無いが、もし今の自分が"本体"で負ける戦いだったとしても、
メタトロンは最後の一体となっても戦って散る事を選ぶだろう。

そんな彼は7名の相手が見上げる中、浮遊し続けながら静かに言った。


『ふむ……まさかクシエルとサリエルを倒すとは……
 どうやら、貴殿らを甘く見過ぎていたようだな。』

「確かに、油断されていたようですね。」

「でも、もう謝っても許しませんよ~!」

『そろそろ、帰らせてもらう。』

『腐っても魔王、甘く見られる筋合いは無い。』

『それは失礼……では、"本気"でゆくとしようかッ!?』

「(何ィ~、まだ本気じゃなかったのかアイツ。)」


もしメタトロンが、二体の大天使とあまり実力が変わらなかったのであれば、
既にランス・リア・香姫によって倒されていただろう。

しかしまだ殺られていないのは、それだけメタトロンが強いからである。

そんな彼の言葉を聞いて、結構必死で戦っていたランスはちょっぴり驚く。

対してメタトロンは浮遊しながら、右手を握り締め、天に突き上げたと思うと――――


『ぬううぅぅんっ!!』

≪ぐぐぐっ……≫

「おっ? なにしてんだありゃ?」

『!? ランス様いけません、あれは……!!』

『神に逆らう愚か者に剣をッ! 受けよ……天・罰!!』

≪ズドオオオオォォォォン……ッ!!≫

「天罰だとぉッ!? ぐわ……ッ!!」

「きゃああぁぁ~~ッ!!」

「あぐ……っ!!」

「あ痛ぁ~ッ!!」


右手をそのまま振り下ろし、ランス達全員に激しい雷を落とした!!

"神の右腕"と呼ばれるメタトロンに相応しいスキル……"天罰"。

これは香姫も使える特技の"天罰"であり、違う属性の者に大ダメージを与える。

ランス達(アニス含む)は全員メタトロンとは違う属性だったようであり、
皆揃って雷を受け、体からはプスプスと煙が出ていた。

決して致命傷にはならず、体力を奪うだけの特技なのだが、
ダメージを受けた事には変わらないので、若干怯んでしまうランス達。


≪シュウウゥゥ~~ッ……≫

『さ、流石に……堪えますね……』

『ぐっ……(天罰……? そうだ、"四天王の館"で……)』

『な、なんなんだ……これはッ……』

「(効いたぜ畜生~ッ) 香ッ! お前もアレやれ、アレ!」

『わ、私が今"天罰"を使うわけにはいきません、
 私の"天罰"ではNEUTRALである、ランス様達も巻き込んでしまいますッ。』

「そうですね、私達は……もうCHAOSではッ、ありませんから……」

「ち、ちょっと大丈夫ぅ?(リアも痛いけど……)」

「くぅっ……ちょっと、古傷に沁みました~……」


もしランスの属性がCHAOSのままだったら、香姫も天罰が使えたかもしれない。
(リア・マリス・アニスは強制的にランスの属性と同じになる)

しかし今ではメタトロンだけでなく、NEUTRAL属性の、
ランス・リア・マリス・アニスも巻き込むので、うかつに使用できなかった。

よって正攻法で倒すしかないのだが、ダメージですぐさま反撃に移れないランス達に対し、
メタトロンは一気に決めようと"神々しい翼"をバサりと動かす。


『悪魔共々、これで止めだッ! 羽ばたき!!』

≪バサッバサッバサッ、バササッ……≫

『アははははッ! 私を殺るだとッ!?』

≪がばぁっ!!≫

『何ッ!?』

『死ね! アカシャアーツッ!!』

≪ギュィン……ッ!!≫

『ちっ……』


今まさにランス達を海のモズクとするべく、
メタトロンの高威力の"羽ばたき"が放たれようとした時。

見た目に反して打たれ強い仲魔である"ジル"がメタトロンに向かって飛び掛かる。

そして放った特技である"アカシャアーツ"……素早く相手を殴りつける技であり、
一気に距離を詰める事でメタトロンの行動を止めに入ったのだ。

見かけは普段着姿の女性なので、まるでサイキッカーのような戦い方だ。

対してメタトロンは目を光らせ、リアの銃弾を弾いたようにシールドを張る。


≪ガキイイィィンッ!!≫

『まだまだぁッ!!』

『う、うぉッ!?(なんだ、この悪魔はッ!)』

『ジルさん!?』


"アカシャアーツ"は防がれるが、ジルの攻撃は止まらず、
魔力に集めた拳をメタトロンに次々と打ち込む。
(ジルの場合、パワーでなく魔力による打撃での白兵をしている)

それによりメタトロンは防戦になってしまい、その様を遠目で見ていたランス。

彼も男性であり体力が高い事から、ダメージがそんなには堪えてなかった一人だ。


「おぉ~、良いぜ! そのままのしちまえッ!」

『ランス。』

「ん? カミーラか。」

『……終らせろ、お前の一撃で。』

「!? ……そうだな、やっぱ閉めるのは俺様だろ!!」

『ケイブリスを倒すのは、私だがな。』

「わかったわかった、それより"いつもの"をしやがれッ。」

『判っている……タル・カジャッ。』


何だか他人行儀のランスの横に、やや後方に居たカミーラが飛んで来た。

彼女もダメージがあまり体に堪えておらず、たった今の状況からすると、
ランス・ジル・カミーラにメタトロンを倒せる事が出来ると言える。

しかし、この中でメタトロンに止めを刺せる程の役者はランスしかいない。

よってカミーラの言葉で気を改めたランスは、雷神剣を両手に構えると補助魔法を貰い、
小競り合いをしているメタトロンとジルの戦いに走って行った!!


≪バシッ! ガシッ、バシィンッ!!≫

『くっ! (やはり楽には倒せんか……)』

『私とここまでやれる仲魔だとは驚いた! しかしッ。』

≪――――ドォンッ!!≫

『ぐぅっ!?』

≪ズザザザザ……ッ!!≫

『その程度で私は倒せぬ!!』


手数に優れるカミーラ程まで、ジルは白兵特化な能力ではない。

オールラウンドの、万能型の"魔王"であると言える。

よって本気になったメタトロンに正拳を打ち込まれると、
ジルは腕をクロスして防御したままの格好で10メートル以上吹き飛んだ。

だが、その直後メタトロンの視界に、自分に向かって突っ込んでくるランスが入る!

ジルが時間稼ぎのような戦いをしていたのも、これが狙いでもあったのだ。


≪だだだだっ!!≫

「くたばりやがれッ! 天使野郎が!!」

≪ダンッ!!≫

『……ッ!?(こ、この気迫は一体……)』

「いくぜぇ、タケミカヅチ~ッ!!
 ランスアッ…(じゃなかった)…メガストライイィィクッ!!」

≪キュドォ……ッ!!≫


浮遊している最中のメタトロンより高くジャンプしたランスは、
上段に"雷神剣"を構え、大きく太刀を振り下ろす!!

同時に言った名前を間違って言いそうになっていたが、
"メガストライク"といって、"ランスアタック"と見た目はあまり変わらないが、
"こちら"では命中すると、特大なダメージを与える必殺技である。

その必殺技効果により、"雷神剣"は倒れる大木のようにメタトロンを襲った!!


『ぐっ!? ぐおおおおぉぉぉぉ~~ッ!!!!』

≪ドゴオオオオォォォォン……ッ!!!!≫

「凄ぉい……」

「な、なんて威力……」

「流石ランスさんですね~ッ。」

「がはははッ、決まったぜ。」

≪ぱら、ぱらっ……≫


"メガストライク"はメタトロンを直撃し、したたか地面に打ち付けられる。

あまりにも激しい激突だった為か、アニスの"大魔法"でも焦げたりする程度だった、
カテドラルの地面に浅いクレーターのような穴が空いてしまうほどだった。

そんな穴の中心に、仮の肉体の大破させられたメタトロンが、
バチバチとショート音と響かせながら、体をめり込ませていた。

流石の大天使と言えど、多勢に無勢であり、今回限りは相手が悪かった。


『ぐぅぅッ……こ、こんな筈ではっ……』

≪ジッ、ジジッ……ジッ……≫

『(私の"タルカジャ"があったとは言え……)』

『ふん、良いザマだ。』

≪ジジッ、ジッ……ジジジッ……≫

『み、見事だ……まさか、我々が……引き返す、羽目になるとは……』

「引き返すだァ?」

「(どう言う事なのかしら?)」

『無念……ほ、法の神とッ……千年王国に……栄光、あれッ……』

≪ボシュウウゥゥ~~ッ……≫


致命傷であったメタトロンは、意味深な言葉を残すと、消えていった。

これでクシエル・サリエル・メタトロンと、揃って天界に戻らされる事となった。

ランス達は、"こちら"での最後の戦いに勝利する事に至ったのだ。


≪ヒュウウウゥゥゥ~~ッ……≫

「ダーリン、終ったねぇ~。」

「ああ。」

「ですが、"あちら"に戻ってからは、また戦いがありますね。」

「ケッ、望むところだぜ……だが、最後の一言が気になったな~。」

「そうですね……クシエルと言う天使の去り際の様子で考えましたが、
 あの天使達は"幻影"のようなものだったかもしれません。」

『だ、だとすれば……本当の力は一体どれ程なのでしょう?』

『だが、もう気配は消えている……』

『ふっ……例えまたやってきても、叩き潰せば良いだけの事だ。』

「そうですそうです! またやっちゃいましょう!」

≪ピピッ、ピピッ……≫


メタトロンを見下ろすランスにリアとマリスが近付いてくる。

"天罰"のダメージはあったものの、皆動けなくなる程ではなかったようだ。

同時に仲魔たちとアニスも会話に入り、
短いようで長かった、東京での戦いの終わりを感じていた。

すると……そんな中、何処かで聴いた事のあるような音が辺りに響いた。


「あれッ? なんなのこの音ぉ?」

「恐らく、"あれ"でしょうね。」

「……うむ、相変わらずタイミングの良いオッサンだぜ。」

『では、戻れるのですねッ!?』

「良し! とりあえず中に戻るぞ、ターミナル経由だ!」

「でもダーリィン、あちこち痛いよぉ?」

「だったら回復魔法でも使っておけッ……そうだ、
 回復アイテムも、もう使わんだろうし、今のうちに使い切っちまえ!」

「くすっ、そうですね。」

『(良かったです、本当に……)』


それは"スティーブン"からのメッセージであり、ランスは内容を確認した。

何を伝えられたのかはスカウターを見ている彼にしか判らないが、
スティーブンの新しい隠れ家が記されでもしていたのだろう。

よって歩き出すランスに他のメンバーは続き、特に香姫は喜びを露にしていた。

……こうして、一行が戻ってゆくと、その場にはクレーターだけが残された。

激しい戦いで舞い上がった煙や埃などは、全て風で吹き流され、
まるで何事も無かったように観客の居ない強風の演奏が再開されるのだった。



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス最終話
Name: Shinji
Date: 2006/06/11 08:49
最終話:帰還


「ふ~む……」

「どうなんだ?」

「……うむ! この"データ"なら文句は無いな。」

「おぉ! それ(ジル)なら戻れるって事なんだな!?」

『ふっ……当然だ。』

「これなら君の世界への転送が出来そうだよ。」

「万が一と言うも考えていましたが、安心しました。」

「しかし、良くこの短期間で"これ程"の仲魔を連れて来たものだ。
 少なくとも一ヶ月以上は掛かると思ったが、驚かされたよ。」

「がはははは、何せ俺様は"あっち"じゃ世界の王様だからな!!」

「リアは王女様なんだよぉ~?」

「ほぉ、それは意外だな。」

「で……こいつが姫様で、このムチムチな背の高いのが女王様だったりする。」

『いえ、私は……』

『……勝手に決めるな。』

「何と……只者では無いと思っていたが、王家の方々だったとは。
 それでは、ランス王・リア王女と呼ぶべきだったかな?」

「なに、今更変える必要なんか無ぇよ。」

「うわわっ……それにしても高い所ですよねぇ~、ちびってしまいそうです。」

「(冗談に聞えんからな、こいつの場合は……)
 確か高ぇよなぁ、何でこんなトコで研究してんだ?」

「ははは、何とかと煙は高い所が好き……言うだろう?」

「スティーブさんが仰っても説得力が無いような気がしますが。」

「全くだな、おい。」


スティーブンのメッセージを受け、ターミナルへ向かったランスは、
彼の居る場所に出向くべく、送付されていたパスワードを元に転送する。

そして対面すると、直ぐ様アームターミナルを手渡し、
"魔王 ジル"のデータを解析してもらっていた。

その解析結果は"合格"だったようで、"あちら"に戻る条件が整ったのだ!

……そんなデータを見ていたスティーブンの居た場所と言うのは"東京タワー"であり、
東京が海に沈んでしまっていると言えど、まだ200メートル前後の高さがある。

天辺ではなく、東京タワーの中層あたりなのだが、それでも高い事には変わりない。

アニスは怖さを露にしているが、ランスも最初下を見下ろして唾を飲んだものだ。


「まぁ……簡単に言えば、此処が"研究"するのに適しているからね。」

「なんでだ?」

「以前、此処では"メシア教徒"が都市各地に放送を行っていてね。
 その機材がそのまま残っているので、利用させてもらっているのだよ。」

「放送って何ぃ~?」

「良く判りませんが、"魔法ビジョン"のようなものかと思います。」

「あ~……なんかそんなのを銀座とかで見た気がするな。」

「前置きはこれくらいにして……それでは、始めるかね?」

「直ぐ出来るのか?」

「あぁ、必要なのは"彼女(魔王)"のデータだけだったからね。
 だが……まず転送するのは一人ずつで頼むとしよう。
 各々の戻るべき場所や"あちら"での状態と言うのも違うだろうしな。」

「そうか、それなら転送する訳だが~……

≪くるっ≫

 ……お前ら良いか? "こっち"の事は誰にも言わなくて良い。
 俺達の秘密にしておくんだ。 説明するのは面倒臭ぇのもあるしな。」

「は~い、リア達だけの秘密にしようねっ!」

「信じて貰い難そうですし、その方が良さそうですね。」

「秘密ですねッ? けど、拷問されたら言っちゃうかもしれないです。」

『そ、その可能性は少なそうですけど……』

「じゃあ香ッ。 ……お前が一番最初に戻れ。」

『えっ? 宜しいのですか……?』


"こちら"での出来事を秘密にする事にしたランス達はさておき……

下準備を済ませていたのか、用意周到なスティーブンが車椅子を操作し、
転送を行うと思われるコンピュータに向き直り、キーボードに手を掛け、
首をランスに向けると、彼は最初の転送者に香姫を指名した。

すると遠慮深い故か、一番後方に居た彼女はおずおずと前に出て来た。

そのままランスの側までやってくると、ランスは香姫を見下ろして言う。


「誰でも良いんだがな、なんとなくだ。」

「わかった、まずは天魔の彼女か……ちょっと待っていてくれ。」

『あっ、はい。』

≪カタッ、カタカタカタッ……カタカタカタッ……≫

「(早ぇ手付きだな。)」

「……ふむ、彼女には"あちら"に体のデータがあるようだ。
 "ペースト"して"上書き"するだけで良いので無難に転送が可能だろう。」

「(最後の方が良く判らんが……)香、次に目を覚ますときはリーザスみてぇだな。」

『そのようですが、ランス様は戦場ですから、どうかお気をつけて……』

「おうッ! ちゃっちゃと倒して帰るから、茶菓子でも用意しておけ。」

『はい……でも、できれば私も同じ……』

「あん?」

『!? あっ、いえ……何でもありませんッ。
(折角戻れるのに……"こういう時"くらい、仲魔らしい事を言わないと……)』

「こちらは準備OKだ、香姫殿とやら?」

「らしいぜ、行ってこい! だがその前にだなぁ――――」

≪ぐいっ……ぶちゅっ!≫

『ん、んん~っ!?』

「あぁ~ーッ、ずる~~ーーい!!」

「がはははは! 今までの褒美だ、有り難かったろ?」

『ふふっ……はい、ありがとうございました。』

「むッ? そ、そうか。」

『それでは、宜しくお願い致します。』

「わかった、始めよう。」

≪カチッ……ブイイイィィィンッ……≫


香姫の場合、肉体がリーザス城にあるのでたいして手間がかからなかったらしい。

よって早速"転送"するのだが、ランスと冒険をするのはコレで終わりなので、
彼女は何か気の利いた言葉を探すのだが、みつからない。

すると何やら察したランスは、皆の前で唇を強引に奪い、
リアの大声が響き渡るが、口付けを受けた香姫は、意外に落ち着いていた。

そんな中、スティーブンがスイッチを押して香姫が、
ターミナルでの転送のようにモニターの画面から発せられる光に包まれる。

その光に包まれながら香姫はニコリと微笑むと、消える前にランスに言う。


『ランス様。』

「あん?」

≪ブイッ、ブイィッ……ブイイイィィィンッ……≫

『不謹慎ですが……今迄、楽しかったです。』

≪――――バシュンッ!!≫

「(そうですか、やはり香姫殿も……)」

「……結構、あっさり行っちまったな~。」

「何処に飛ばそうと、ゲートを開いてしまえば送るだけだからね、
 君も体験済みだろうが、距離は全く関係無いのだよ。」

「まぁ、送ってさえくれりゃあ良いけどな。」

「それでは、次に移るとしようか?」

「おう。 次はカミーラだ、行け。」

『…………』

≪ザッ……≫

「ふむ……先日の"龍神"だな、データの解析は既に済んでいるが……」

「どうかしたのか?」

「大した事ではないが、彼女の"戻るべき場所"は見つかったが、
 少し"情報量"が他の肉体データよりも少ないようだね。
 お嬢さん……些細であれ、何か心当たりはあるかね?」

『…………』(←全くの無反応だが考えているらしい)

「おっと失礼、龍神殿。」

『いや、多分……其処に私の"魔血魂"があるからだろう。』

「魔血魂?」

「詳しい説明は省きますが、カミーラさんの肉体は無く、
 "あちら"にある魔血魂というものが、彼女の本体と言う事になります。」

「ふむ……それでは、その場所に上書きすれば良い……と。」

≪カタッ、カタカタッ≫

「カミーラ。」

『…………?』

「おいおい、やっと戻れるってぇのに"それ(無口)"かよ。
 お前は"あっち"に行ったら生き返ったも同然なんだぞ?」

『そうだな……けど。』

「んんッ?」

『感謝を示すのは、まだ早いわ……』


元々"あちら"に体がある香姫と比べ、カミーラは魔血魂あれど死んだ身。

それなのに全く喜ぶような様子が無い彼女を、ランスは腕を組みながら指摘する。

しかし、"それ(無口)"がカミーラの性格なので、仕方ないといえば仕方無い。

一応嬉しさはあり、ランスと二人だけの時は一回限りとは言え礼を告げた事もあるが、
他のメンバーの目もある事から、あまり喋ろうとはしていなかった。

それに、カミーラが本当の自由を手に入れるのは、醜い魔人を倒してからなのだ。

彼女の"まだ早い"と言う言葉を聞いて、ランスは思い出したような素振りをしながら言う。


「そういや~そうだったな、まぁ楽勝だろ。」

「良し、こちらは何時でもいいぞ?」

『……頼む。』

「わかった。」

≪カチッ……ブイイイィィィンッ……≫

『……直ぐに合流する。(私の体は魔王城だからな)』

「おう、リスと鉢合わせしても妙な気は起こすなよ?」

≪ブイッ、ブイィッ……ブイイイィィィンッ……≫

『大丈夫だ。(この"感覚"も最後か……)』

「がははっ、礼は5発くらいで良いからなぁ~ッ?」

『阿呆。』

≪――――バシュンッ!!≫

「うぬぬ……あいつめ、アホときやがったか……」

「ランスさん、"死ね"とか"殺すぞ"とかの罵倒をされるよりはマシですよ!」

「お前(アニス)に言われたくないわッ!」

「(微笑ましいものだな)……さて、お次は何方かね?」


香姫と全く同じような現象で姿を消したカミーラ。

これから間も無くして、彼女は魔王城のどこかで復活を遂げるのだろう。

さておき、これで二体目の仲魔の転送が終了し、最後の仲魔は一体。

お気付き通りジルであり、彼女は自分からモニターの前に歩み出る。

回復道場を出たときのように、裸足でラフ(ヘソ出し)の私服姿をしている。


『私になるのか?』

「そうなるなぁ。」

「"魔王"殿だな?

≪カタカタカタッ、カタカタカタッ……カタッ、カタッ≫
 
 ……ふ~む……類似するデータが見当たらないな。」

「どう言う事なのですか?」

「今度は説明し易い、只単に彼女が入るべき肉体が無いだけだ。」

『むっ……』

「なら、どうなっちまうんだ?」

「心配する必要は無い、上書きせずに転送してしまえば良いだけだ。」

「なんだか判らんが、できるならやってくれ。」

「その前に……彼女を何処に転送させるか決める必要があるな。
 生憎送る事ができるのは、"三箇所"しかない。」

「何で三箇所なのぉ~?」

「私は"君達の世界"の事については殆ど判らないからね。
 下手に違う場所に転送しようとするよりは、
 "あちら"での肉体がある者の近くに転送させるほうが安全なのだ。」

「う~む、確かにアニスみたいに地面や壁の中にめり込まされても困るからな。」

「そんな~ッ、ちょっと空中だったか、
 ちょっと地面に張り付いたかダケじゃないですかー!」

「まぁ、そう言う訳だが……どうするかね?」


香姫ともカミーラとも違い、今ジルの姿は完全に"あちら"には無くなっている。

よって"悪魔のジル"の肉体をそのまま"あちら"に移動させる必要がある。

移動と言っても何処にでも転送可能なワケでは無く、
リーザス軍の駐屯地、カミーラの魔血魂がある魔王城の中……そして、
香姫が眠っているリーザス城の、三箇所に座標は限定される。

よって戻れない訳では無く、場所が限られているだけであり、
むしろ位置が固定されているランス達と違って、
場所を選べる事ができるので、考え直してみると条件が良いとも言える。

それらの事で少しジルは安心したような素振りを見せながら顎に手を当てた。

その時間は僅かであり、ジルはスティーブンに向い、後ろ親指でランスを指す。


『では、"こいつ"ではなく"カミーラの場所"で頼む。』

「こら! ご主人様に向かって"こいつ"とは何事だッ。」

『"これ"の方が良いのか?』

「変わって無ぇッ、むしろ悪くなってるだろうが!」

『くくくッ、だが……』

≪くいっ……≫

「むぉ……っ?」


ある意味カミーラ以上に愛想が無い、魔王ジル。

作られてたった一日しか経っていないのだが、
彼女のあんまりな扱いに、少々ピクっときたか声を荒げたランス。

対して、ジルは不適に微笑みながら、彼に瞬時に近寄る。

直後ランスの顎を右手の人差し指で押し上げ、そのままの表情で言う。


『本当に戻れたのなら……"私の体"で礼をしてやらん事もないが?』

「何ィ!? 本当だな~ッ?」

『以前の貴様との行為……悪くは無かったからな。』

「が、がははははは! それなら話は別だ、許してやるッ!」

「ダーリンそんな事で許しちゃわないでよぉ~!」

『ふんっ……(正直なところ、自慰(じい)行為は飽きたしな……)』

「やれやれ、では転送するぞ?」

≪カチッ……ブイイイィィィンッ……≫

『たった一戦限りか。 もう少し、"こっち"で楽しみたかったのだがな。』

「俺様はもう腹一杯だけどな。」

≪ブイッ、ブイィッ……ブイイイィィィンッ……≫

『ランス、先に行かせて貰おう。』

「おう、行ってこい……って今。」

『…………』

≪――――バシュンッ!!≫

「あ~~……行っちまいやがったか。」

「……これで"仲魔"は終了だな。」

「それじゃあ残ってるのは人間か。」

「そうなりますね。」

「良し、今度はアニスが行け。」

「あっ、はい! 順番ですね~!」


愛想が無くとも、ジルが感謝している事には変わりない。

ランス達と同じ場所(駐屯地)に転送されるのを選ばなかったのは、
決して嫌だったのではなく、何となく照れくさかったのかもしれない。

それを、彼女が消える瞬間に名を呼ばれ、微小だとはいえ察せたランスだが、
言葉を返そうとした時、ジルの姿は既に転送済みで影も形も無かった。

よってランスは気を取り直し、そわそわしているアニスを指名した。

彼女も何となく、次は自分が呼ばれるのだろうと待っていたのだろう。


「オイおっさん、アニスの体はどうなってる?」

「調べよう……

≪カタカタッ、カタタッ……≫

 先程の"悪魔召喚プログラム"の、君達"ステータス"を参照して……

≪カタカタカタッ、カタッ……カタッ!≫

 ふ~む……類似する肉体のデータは無いようだな。」

「死んじまって何ヶ月も経ちゃあ~、当たり前か。」

「あうあう、やっぱりそうですよね~……」

「それならまた"三箇所"から選ぶ事になるんだよな?
 ならアニスは香の場所に送ってやってくれ。」

「わかった、天魔殿の場所だな。」

「えぇ~!? わたしはランスさん達の場所の方が~。」

「マリスが"マカラカーン"を使えりゃ良いんだけどなぁ。
 "あっち"じゃどうなるか判らんし、城で俺様を待ってろ。」

「で、ですけどぉ……私がいきなりお城になんか現れたら、
 驚かれちゃいませんかぁ? 一回も入った事、無いですしー。」

「それは香に説明して貰え、あいつなら上手に"こっちの事"隠しながら言えるだろ。」

「ややッ? その手がありましたね、気付きませんでした!」

「誰でも気付くわッ。」

「とにかく、お前も晴れて生き返るんだ、嬉しいだろう?」

「はい、とっても嬉しいです!」

「俺様には感謝してるんだよな?」

「してます、してますっ。」

「だったら"あっち"に戻ったらやらせろよ?」

「はぁ、良いですけど~、何を"やる"んですか?」

「……(こいつに言っても無駄か……)おっさん、やってくれ。」

「うむ。」


"こちら"と"あちら"での相違点は、多々ある。

挙げればキリがないが、重要なのは"あっち"に戻ってからの、
スキル(特技と魔法)とレベルがどうなっているかと言う事だ。

魔法をそのまま引き継いであるのであればアニスはマリスの力で戦力になるが、
引き継いでいなければ味方を壊滅しかねない。

何もさせなければ問題ないかもだが、それはそれで色々と面倒そうなので、
ランスは香姫にアニスの事全般を任せる事にしてしまった。

"アニス巫女服で、どっちも和風っぽいし良いか"……と勝手な判断である。

さておきスティーブンは、ランスに言われて、
再び"やれやれ"といった表情をしながらも、ボタンに手を掛ける。


≪カチッ……ブイイイィィィンッ……≫

「ランスさん! お先に失礼しま~す。」

「おう、リーザスの城のナカじゃ香に任せて大人しくしてろよ?」

「はい! このアニス、頑張って"おとな~しく"しています!」

≪ブイッ、ブイィッ……ブイイイィィィンッ……≫

「……(何を頑張るんだかな。)」

「じゃあ……え、エッチの時は優しくしてくださいね~。」

≪――――バシュンッ!!≫

「ありゃ……判ってやがったのか。」

「むぅ~、わかんないままで良かったのに~。」

「何を"やる"のかとトボけていたのですね……私にでも判りませんでした。」

「どこまで本気で、どこまで冗談で出来てるンだか判んねぇ奴だぜ……」


転送が始まるというのに、三体の仲魔と違って動かずにはいられず、
アニスはランス達に手を振りながら転送されていった。

彼女は一度死んで、"こちら"でも廃人になり掛けたが、
何人もの助けにより、こうして生きて再び、自分の世界に戻る事ができたのである。

……思い返せば、転送直前に"あっち"に肉体が無かったのは、
アニスとジルだけだったが、ジルは"あっち"の亜空間に元々生命自体はあった。

しかし、アニスは完全に死んで魂だけになって彷徨っており、
それを偶然"ラファエル"に復活させてもらったのだから、
一度死んで陵辱もされたとは言え、運が良かったと断言できる。


「最後は、予想していた三方が残ったようだね。」

「見ての通りだぜ。」

「……では、"三人同時"に転送するとしようかな?」

「えぇっ?」

「何だ、一人ずつじゃなかったのか?」

「すまない。 言い忘れてしまったが……
 "こっち"よりも"そちら"の時間の流れの方が遅いようとは言え、
 私が持つ"常識"も、世界と世界との間の転送になると通用しないようだ……
 よって、一人ひとり転送をするのであれば、数時間の誤差が現れてしまう。
 つまり……"三人同時"の方が都合が良いと言う訳だ。」

「それもそうだが……何で最初からそうしなかったんだッ?」

「繰り返すが、言い忘れてしまったのがあるだけでなく、、
 君達三人は"あちら"に肉体があり、しかも揃って場所が同じなので確実性があるのだ。」

「成る程、納得です。」

「だったら三人で一緒に行かないっ? その方が安心できるし~。」

「オッサン二人っきりになるのも嫌だしなぁ、そうするか。」

「手痛いな、まぁいい……手配しよう。」

「あ~、その前になんだが。」

「ッ? どうしたのだね?」

「もう、俺様は"こっち"にゃ戻って来れねぇのか?」

「寂しくなってしまうが、そうなるだろうな……
 "これ(転送装置)"と同じようなモノがあれば別だが、そうもいかないだろう。」

「そうかぁ~、とにかく……色々と世話になったな。」

「容易い事さ、私も"君達のデータ"で色々と楽しませてもらったよ。」

「へっ、ギブ・アンド・テイクって奴か。」

「ちなみに、仲魔含む"普段着以外の装備品や武器"は全てなくなってしまうが……
 その"雷神剣"だけは"仲魔相応"のデータとしての記録してあるようだ。
 "そちら"に持っていけるようにプログラミングしておいた。」

「お~! がははは、そりゃ良いぜッ。」


4名の転送が終了し、ランス・リア・マリスが残った。

"こちら"にやってきた初期メンバーであり、帰還の転送も三人同時。

他の4名は非常識に非常識が重なり、逆に帰還に時間差が出てしまうが、
香姫とアニスは良いとして、カミーラとジルが若干心配だが、
彼女達の事なので、なんとか上手くやってくれるだろう。

……とにかく、これで"最後の最後"になるので、スティーブンと言葉を交わすランス。

一方、溜息をつくリアなのだが、マリスが優しく声を掛けようとしていた。


「はぁぁぁ~~っ……」

「リア様、落ち込むのはまだ"早いかもしれません"よ?」

「えっ、どう言う事なのぉ?」

「全てが終れば……必ず話します、ですから気を落とさないでください。
 そのような表情をされているリア様を見ると、私も悲しくなってしまいます。」

「マリス……うんっ! マリスに心配掛けたくないから、もう溜息吐かないよっ。」

「素晴らしいです、リア様。」

「準備完了だ……では、君たちの健闘を祈るよ。」

「おう! オッサンも悪魔に食われちまうなよ!?」

「ありがとうね、おじさんっ。」

「お世話になりました、本当に……」

「では。」

≪カチッ……ブイイイィィィンッ……≫

「おぉ、きたきたぁ~。」

「……(ダーリンともっと、一緒に冒険したかったなぁ~……)」

「……(どうか、リア様が"このまま"でありますように……)」

≪ブイッ、ブイィッ……ブイイイィィィンッ……≫

「さらばだ。」

「あばよーーッ!!」

≪――――バシュシュシュンッ!!≫


三人は淡い光に包まれると、モニターの中に吸い込まれる。

ランスは人差し指を立てて、リアは満面の笑みで、マリスは浅く礼をして。

今……こうしてランス達の、"東京での冒険"の終わりを遂げたのだ。

たった三週間と言う短い期間だったが、多くの出会いと別れが一行にはあった。

リアとマリスも、お互いの運命を大きく変えるきっかけになった冒険となった。


≪ギシッ……≫

「ふぅ~……いずれは、君たちの力を借りる時が来るかもしれんな。」


そして、東京タワーの研究室に残されたスティーブン。

彼は、同じくその場に残された、ランスに使う意思が無ければ動かない、
特別なタイプである"ハンドヘルドコンピュータ"を手に取ると、
車椅子に背を預けて溜息をつき、意味深な言葉を漏らした。

……彼の行うべき"重要な計画"は、まだ半分も終っていないのだ。

スティーブンは十数秒後……車椅子を動かし、
部屋の端の方まで行くと、海に沈んだ東京を見下ろしながら、再び漏らした。


「"東京ミレニアム"……か。」


=鬼畜召喚師ランス=


=第四部= =完=



[2281] Re:あとがき(第四部)
Name: Shinji
Date: 2006/06/11 08:31
本当は4部で全て終らせるつもりだったのですが、
ランスが元の大陸に戻るところで切る事にしました。
次は最終話の第五部に移りますが、スレは立てずにこのスレに載せます。

まぁ、第五部と言ってもエピローグのようなもので、
ランス・リア・マリス・アニス・香姫・カミーラ・ジルのメンバーが、
元の世界に戻ってどのような後日談を迎えるのかを書くので、
前編・後編か中編を挟む程度で終ってしまう予定です。
たいした終り方にはならないと思いますが、もう少しお付き合いください。



[2281] Re:ランス一行の旅路
Name: Shinji
Date: 2006/06/12 20:51
=鬼畜召喚師ランス=


●ランス一行の旅路●


1日目:ランス東京に飛ばされる。悪魔召還プログラム入手。新宿に到着。(一日目夜)

2日目:仲魔を探すが成果出ず。夜リアとHする。

3日目:堕天使ベリスを仲魔にする。妖精エルフとH後仲魔にする。

4日目:リア&マリス魔法習得。エンジェルナイトを作成&Hする。

5日目:龍王ノズチを仲魔にする。鬼女アルケニーを仲魔にしてHする。

6日目:女神アリアンロッド作成&訓練後Hする。

7日目:六本木にへと出発。ランス謎の夢を見る。(二日目夜)

8日目:獣人ワーキャットが仲魔に。新宿~六本木到着。夜ワーキャットとH。

9日目:六本木の酒場でリアと公衆H。闘鬼ヤクシニーを仲魔にして夜Hする。

10日目:鬼神雷太鼓を作成。六本木~銀座到着。雷太鼓が倒れた後Hする。

11日目:銀座地下でスティーブンと対面。堕天使レオナルド&妖精ボブゴブリン仲魔に。

12日目:女神キクリヒメ&天魔香姫を作成。夜キクリヒメとH。(三日目夜)

13日目:スガモプリズン到着後裁判。鬼神タケミカヅチ仲魔に。夜香姫とH。

14日目:池袋近辺を探索。闘鬼ナタクを仲魔にする。四天王の館近辺でリア瀕死に。

15日目:龍神カミーラ作成。スガモプリズンで情報収集中カミーラの膝枕。

16日目:四天王の館突破。明け方にキクリヒメと青姦。

17日目:池袋~上野到着。銀座でスティーブンと対面。カミーラと浴室でH。

18日目:六本木の酒場でリアと再びH。美人女性5名をナンパ。

19日目:雷神剣入手。東京沈む。銀座~カテドラルカオス到着。アニス保護。

20日目:都庁ロウ側探索。妖魔ハヌマーン仲魔に。夜マリスとHする。

21日目:都庁カオス側探索。鬼女ランダ仲魔に。魔王ジル作成。

22日目:大天使メタトロンと最終決戦。東京タワーにて大陸に帰還。(五日目夜)


*:かなり省略しており、カッコは元の大陸で経過した日数です。


●最終ステータス(初期値ALL5+ボーナス18+Lv=合計)
ランスLv68 力32 知12 魔12 体24 速24 運12
リ アLv64 力10 知20 魔30 体10 速20 運20
マリスLv66 力14 知30 魔18 体14 速30 運08
アニスLv78 力20 知10 魔40 体20 速26 運10
(香 姫Lv40) (カミーラLv60) (ジ ルLv70)



[2281] Re:エピローグPart1
Name: Shinji
Date: 2006/06/16 16:45
エピローグ:リーザス編


Part1


……ランス達が"あちら"に戻る為の転送を受けていた時。

元の大陸では、ランスが東京に飛ばされてから、
計5日が経過してしまっており、現在は5日目の20時頃と言ったところだ。

そんなようやく空が真っ暗になった、夜のリーザス城の一室。


「姫様……」

「すぅ、すぅ……」


ベットの上で静かに眠る、一人の若い女性……香姫。

そして椅子に腰掛け、"香姫"を見守っている彼女の乳母の"永常"。

"こちら"の香姫は、彼女の魂が天魔として"東京"に来た時から、
2日間丸々眠り続けており、心配を隠せない"永常"。
(香姫が東京に来たのは、ランスが意識を失った丸3日後)

前々から香姫が恐ろしい夢を見るのを彼女は知っていたので、
今回は"それ"が影響して香姫が目を覚まさないのではないかと考えていた。

それは大体は当たっており(夢ではなく別の場所で戦っていたのだが)、
"永常"は彼女が起きなくなってからずっと傍に居る。

……と、永常が香姫から目を離し、溜息をついて嘆くのだが――――


「恐ろしい夢を見たとは何度も仰られていたけど、
 "こんな事(目を覚まさない事)"は今まで無かったのに……」

「…………」(ぱちっ)


まったく声を出さずに、香姫の目がゆっくりと開いた。

この瞬間こそ、彼女の魂が無事にリーザス城に戻ってきた時なのだ。

よって、香姫は上半身をゆっくりと起こし、体が動く事を感じるが、
少し視線を移すと永常が俯いているのを見て、優しく問うた。


≪むくっ≫

「……永常。」

「!? ひ、姫様ッ!!」

「何を、驚いているの?」

「何をこうもありません! 目を覚まさなかったので、私は心配で……!」

「ずっと見ていてくれたのね……ありがとう。」

「いえいえ姫様、それより体の方は大丈夫なのですかッ?」

「体のことなら何も心配は要らないわ、少し夢が長かっただけ。
 それよりも……私は"どれ程"眠っていたの?」

「それは――――」


驚きと同時に、嬉しさを隠せない永常。

それに気遣いを香姫は感じ、微笑みながら返す。

戦いの末無事に戻れ、自分を待っていてくれた者への感謝の気持ちをこめて。


「そう……二日丸々寝ていたの……」

「あちらに五十六さんも来ておりますッ、すぐお呼びしますね!」

「あっ、永常……」

≪どたどたどた……≫


「五十六様! 姫様が目を覚まされましたッ!」

「な、なんですって~!?」

≪がたんっ、どたどたどた……≫


永常がベットを離れると、部屋の入り口で転寝(うたたね)をしていた、
"山本五十六"を呼びに行き、同時に椅子が転がる音が響く。

五十六も香姫の身を案じ、彼女を見守り続けていた者である。

一方、少しの間だけ一人残された香姫は、上半身を起こした姿のまま思う。

同じように"こちら"の世界に戻れた筈のランス達の事を。


「(皆さん、どうやら私は、無事に戻れたようです……)」


自分がこうして"こちら"で目を覚ましたのだから、間違い無い筈。

よって香姫は、ランスと仲間の身を案じ、心の中で想う。

彼女だけの想いだけでなく、受け継いだ"記憶の想い"も一緒にだ。

龍王ノズチ、女神アリアンロッド、堕天使レオナルド……そして、鬼女アルケニー。

数体の仲魔の想いも、ランス達の身を案じている。


「(ランス様、無事に戻ってきて下さい……"私達"は待っていますから。)」


ちなみにこの3時間後、アニスが彼女の部屋に出現する事となる。

突然のアニスの登場に香姫は多少の驚きで済んだが、永常と五十六は驚きを隠せなかった。

香姫は目を覚ましただけにしか見えないが、アニスは突然"現れた"のだから。

しかし、アニスの言葉で香姫は状況を把握し、適当に誤魔化す事にした。

細かい内容は省くが、なかなか信用しない二名(特に五十六)を、
ランスの名を出して納得させる事で纏めるに至った。


「アニスさんは、私とランス様の知人で、"テレポート"でこちらに……」

「テレポート!? と言う事は、五十六さん……」

「まさか、アニス殿は"魔法レベル3"とッ?」

「その通りです! では証拠に"メギドラオン"を~!」

「だ、駄目ですアニスさん! そんな魔法を使ってしまっては、
 リーザス城が消し飛んでしまいますッ!」

「消し飛ばす~? それは無理ですよぉ、せめて半壊させる程度……」

「は、半壊も駄目です! 魔法は絶対に使わないで下さいっ!」

「わ、わかりましたよぉ~。 そう言えば、
 ランスさんにも大人しくしているよう言われましたしー。」

「もうちょっと、早く気付いてください……」

「(この御様子……)」

「(やッ、やはりランス王と……)」


……


…………


『ん? テメェ、何しにきやがったッ?』

『け、ケイブリス様! お願いします!』

『あぁ~ん?』

『私に……私にカミーラ様の魔血魂のお世話をさせてくださいッ!』

『何ィ!? カ、カカカカミーラさんの魔血魂をどうするつもりだァ!?
 まさか魔人にでもなるつもりじゃぁ無ぇだろうなあ~ッ!?』

『ち、違います! 私はカミーラ様の傍に居たいだけで――――』

『ふぅ~む……』

『け、ケイブリス様ッ?』

『オレ様のアホな使徒と違って、その心意気は立派なもんじゃねぇか……』

『じ、じゃあ……』

≪のそっ……≫

『だがなぁ!!』

『えっ……』

『カ、カカカカミーラさんを助けずにだなぁ……
 ノコノコと戻ってきたァお前を、生かしておく訳にゃあいかねぇんだよォ!!』

『ひっ……!?』

≪ズウウウゥゥゥン……ッ!!≫


……


…………


「――――ハッ!?」


≪がばっ!!≫


「……(夢……か)」


丁度一時間後……魔王城の一室。

香姫に続いて、今度はカミーラが目を覚ました。

順番的にカミーラが二番目であるのはご存知だろうが、
"世界(東京)"と"世界(大陸)"の転送により、1時間の誤差があるようだ。

そんな彼女は何やら"嫌な夢"を見ていたようだったが、
頭を軽く左右に振ると、気を取り直して自分の体を確認する。

魔血魂では無く、しっかりと"肉体"を持ってでの帰還を確かめるのである。


「(戻れたか……ふふ……)」


スティーブンの技術で、魔血魂に"カミーラの肉体"が上書きされたので、
現在の彼女は"魔人"として蘇った状態のようだ。

自分の肉体なので、それをあまり掛からず理解したカミーラは、
少しだけ不敵な笑みを浮かべた(本人は微笑しているつもりのようだが)。

直後、しっかりと"あちら"での記憶は受け継がれている事から、
カミーラは自分の目的を果たす為に、ゆっくりと部屋を出て行った。


……


…………


「(……静かだな)」


≪コッコッコッ……≫


「(ケイブリスの気配が、しない……)」


膨大な広さの魔王城をカミーラは歩く。

自分は"魔人"なのでいくら強いモンスターと遭遇しても負ける事は無いし、
ケイブリスが自分に近付いてくれば、気配で簡単に場所が判る。

今は一対一で戦うべきではないが、勝てないとしても"逃げる"事はできる。

以前のプライドが高い彼女は、逃げる事など考えず、
戦って死ぬ事を選ぶタイプだったが、命を無駄にする気は無いのだ。


「(あれが良いか)」


さておき、カミーラは歩みを進める中、一匹の女の子モンスターを発見する。

自分には気付いておらず書類を持って廊下を歩いている、
最も高い知能がある女の子モンスター、その名は"バトルノート"。

カミーラは、その女の子モンスターに背後から近寄ると――――


≪ば……っ!!≫

「うッ!?」

「動くな。」


素早く接近し、右手で胸元を押さえ、左手で口を塞ぐ。

そして今は武器となっている翼で"バトルノート"を包むようにすると、
長身のカミーラは、若干腰を落として耳元で小声で言う。

そんなカミーラの姿を横目に、驚きを隠せないバトルノート。

彼女はカミーラの魔血魂の存在を知っていたので、
カミーラがが"こんな場所"に居ることなど、"ありえない"のだ。

頭脳に優れるが戦闘力は高くない"バトルノート"は、
相手がカミーラと知って抵抗する気を無くす。

"相手"が別であればどうにか勝機を窺うが、魔人と言う事実が思考を停止させる。

対してカミーラもバトルノートの力が抜けたのを感じると、口を塞いでいた手を放す。

考えてみれば、カミーラはまだケイブリス派の魔人に属されているので、
これもバトルノートが抵抗する気を、直ぐに無くした理由のひとつでもある。


「(ぷはっ)そ、そんな……貴女は……」

「状況が掴めん、教えて貰おう……」

「わ、わかりました。(そうか、カミーラ様は魔血魂だったから……)」

「(ケイブリスは、何処に行ったのかしら)」


……この後、カミーラは"ケイブリス"が魔王城に居ない事を知った。

"ホーネット"と"シルキィ"が地下に囚われている事も知ったが、
今の彼女は"ケイブリス派"という事になっているので、無理に助ける事は出来ない。

やろうと思えばたいして苦労はしなさそうなだが、恩着せがましい事はしたくないのだ。

あまりホーネットが好きではないのもあるが、"以前"ほど嫌いと言う訳でもない。


「(急ぐか) ……スクカジャ。」

≪ブイイィィンッ!! ――――バシュンッ!!≫

「は、速い……(それに……)」


バトルノートから話を聞き終わると廊下を進み、
驚きを隠せない何匹かの魔物とすれ違う中、堂々と魔王城を出るカミーラ。

ランスと合流する約束をしたのもあるが、急がねばならない理由がまだある。

そんな中、しっかりと"継承"されていた"スクカジャ"を唱え、
跳躍後高速で飛び立つカミーラを見送って、唖然とするバトルノート。

冷静な彼女の弱点は、"常識外"や"想定外"の事であるので、仕方ないだろう。

それを一度に何個も経験したバトルノートだが、一番印象深かった疑問は……


「……何だか、優しく感じた……」


今までのカミーラは、殺気だけで人を殺せる程の威圧感を持っていた。

直接カミーラとバトルノートは話したことは無かったが、彼女の頭の中には、
カミーラには"近付くことも許されい、冷酷な魔人"というイメージしかなかった。

しかし、初めて会話をしてみると……早い話、何とも無かったのだ。


「(カミーラ様……ご無事で。)」


カミーラの姿が消えると、バトルノートは何故か彼女の無事を祈った。

正直ケイブリスは好きではないが、彼女には死んで欲しく無いと思ったのだ。

これからの"勝敗"がどうなるかはバトルノートにでも判らないが、
想像しておいた以上の結果が、彼女を待っている事になる。

何を隠そうカミーラにとって、始めての"女性使徒"が誕生するのだ。



[2281] Re:エピローグPart2
Name: Shinji
Date: 2006/06/17 23:37
Part2


カミーラが魔王城で目覚めた2時間後。

時刻は23時……リーザス軍の駐屯地では、夜戦が行われていた。

相手は1000体規模のケイブリス軍であり、
ランスとマリスが欠けた事で、何時まで経っても動かないリーザス軍を奇襲。

よってリーザス軍は混乱しており、迫り来る巨大な"魔人"を遠目に、
"日光"を片手に"小川 健太郎"は唇を噛み締める。


≪ズゥンッ、ズゥンッ、ズゥンッ!!≫

「ぐぅがァははははははッ!!」

「くそっ……こんな時に奇襲なんて!!」

『健太郎殿ッ、此処は何としてでも……』

「わかっています!」

「おらァ! 人間の王は何処に居やがるんだぁーッ!?」


リーザス軍が攻めて来ない5日間で、削られた体力の大半を取り戻したケイブリス。

彼は幾つものテントと兵士を掻き分けながら、指揮官用テントを探している。

だが、ランス・リア・マリスはいまだに目を覚ましておらず、
無抵抗の三人にケイブリスを近づける前に追い払わなくてならない。

よって健太郎が物陰から出ようと、聖刀日光を握る腕に力を込めた時だった!!


「いくわよぉ、ハウゼル!! 仲良しビ~ム!!」

≪ビシュウゥ……ッ!!≫

「はあぁッ!! ファイアー・レーザー!!」

≪バシュウゥーーッ!!≫

「うおぉッ!?」

≪ずがガああぁぁんっ!!≫


何処からか発射された二発の攻撃魔法が、ケイブリスを襲う。

放ったのはラ・サイゼルとハウゼルであり、
ケイブリスは片腕で完全な防御態勢に入って魔法をガードした。

並みのモンスターであれば一瞬で絶命する魔法なのだが、
ケイブリスには全く効いていないようで、彼は空中のラ・姉妹を睨み上げる。


「相変わらず、タフな奴ねぇ。」

「こうなったらもっと強力な魔法を……」

「痛ッてぇな~、鬱陶しいカトンボがァー!!」

≪ビシュシュシュシュッ!!≫

「きゃあ!」

「危ない!」

≪バササァッ≫


大して痛くは無いが鬱陶しく感じたケイブリスは、数多くの触手のうち、
数本をサイゼル・ハウゼルに放ち、二人は左右に分かれて回避する。

ケイブリスにとってリーザスの兵など敵のうちに入らないのだが、
魔人だけは別格であり、向かってきたのであれば倒す必要があるのだ。

それにより、一旦彼の注意はラ・姉妹に向いたので――――


≪ばっ!!≫

「はあああぁぁぁ……ッ!!」

≪ざしゅぅっ!!≫

「ぐぉあッ!? この野郎っ、何しやがる!!」

「えっ……うわっ!?」

≪ブォ……ッ!! フォンッ!!≫


物陰から飛び出してきた健太郎が、一本の触手を切り落とす。

しかしダメージは少なかったようで、健太郎は寸前で巨大な片腕の、
薙ぎ払いによる攻撃を紙一重で回避した!

不意打ちに焦った所を一気に決めようと思ったのだが、
思った以上にケイブリスの体力が回復してしまっていたようで、
大して怯ませる事が出来ず、直ぐ彼は反撃をしてきたのだ。

よって慌てて態勢を整える健太郎の頭の中に、日光の言葉が響いてくる。


『接近戦では不利のようですね……彼女達に期待しましょう。』

「と言うことは――――(時間稼ぎか)」

「何ブツブツ言ってやがんだァァ~ッ!?」

≪ズシンッ、ズシイイィィンッ≫


ランスとのタッグでもなく、兵もおらず、健太郎だけでケイブリスとの接近戦は不可能。

兵士は現在魔物兵達と小競り合いをしているのだが、今回は条件が悪すぎる。

敵領に攻める時の場合は、例え相手が魔人であっても、
しっかりと一般兵との連携で健太郎が確実にダメージを与える。

また、防衛であれば、攻めて来た規模を確認し、相応の対策をして迎え撃つ。

だが今回は、タダでさえ軍を仕切っていたランスとマリスが目を覚まさず、
完全な"奇襲"であるので、いくら頭の悪いケイブリスであれど、
指揮官が行動不能と言う前代未聞の状況から、動くに動けないリーザス軍の不意を突くのは、
難しくは無かった(魔物将軍やバトルノートのアドバイスもあるが)。


≪ブゥンッ! ぶぅんっ! フォォンッ!!≫

「くっ! うわっ、と……ッ!」

「こんの野郎~、チョコマカしやがってぇ!!」

「くそっ……(まずいな、これ以上は避けられないかも……)」

「よ~し、ソレだけ避けてりゃ十分よ!!」

「ケイブリス! こっちよ!!」

≪ブイイイイィィィィ~~ンッ……≫


人間離れした素早い動きで、ケイブリスの力任せの攻撃を回避する健太郎。

彼とケイブリスでの対格差は人間と猫以上の差があるのだが、
これも健太郎の今までの経験により成せる事なのだ。

かといって避け続けている中、どんどん周囲のテントやリーザス兵、
そしてモンスター兵が犠牲になってしまっており、
何時までも回避する事はできず、ランスアタックでも使おうかと考えた健太郎。

……だが、時間稼ぎは十分だったようで、ラ・姉妹のライフルの銃口からは、
青と赤の光が凝縮されており、ケイブリスを捕らえていた。


「あぁあんッ!? そうだそうだ、すっかり忘れてたぜ。」

「馬鹿にすんじゃ無いわよ! クール・ゴー・デスッ!!」

≪ドシュウウゥゥ……ッ!!≫

「タワー・オブ・ファイアッ!!」

≪キュボオオォォーーッ!!≫

「うぜぇぇーーっ!!」

≪ドゴオオオオォォォォンッ!!!!≫


……


…………


同時刻、戦場から少しだけ離れた位置の指揮官用大型テント。

幸いまだ戦火には巻き込まれてはないが、中に居る者の耳には、
激しい戦いを連想させる音が遠くから聞こえてくる。

そんな"中に居る者"とは、サテラ・ワーグ……そして目を覚まさない三名。


「全く、こいつら……何時になったら目を覚ますんだよッ。」

「おにいちゃん……」

「くそッ、こうなったら、サテラも"あいつら"の加勢をしに行かないと――――」

「ま、まってよぉ、サテラ! ワーグ(+ラッシー)をひとりにしないでっ!」

「!? 何を言ってるんだ、お前も魔人だろうッ?
 魔物くらい夢でも見せて追い払えっ、ケイブリスはサテラ達が止める!」

「だめ、だめなのっ! ワーグ、おにいちゃんたちが おきるまで、
 もう"ゆめ"はだれにも みせたくないの~!」


未だにランス・リア・マリスが目を覚まさない事は、
サテラ・ワーグ・健太郎・日光・ラ姉妹で秘密にしていた。

よって"テントの中"でランスを守るのはサテラとワーグだけであり、
健太郎とラ・姉妹は、互いの部下達(450名+50名)と、
ランスの部下であるリーザス正規兵(450名)、計950名を魔物兵とぶつけていた。
(シーザー含むサテラのガーディアン50体はテントの外で警戒中)

だがケイブリス軍を迎え撃つのには不安が有り余るので、
ようやくテントを出て行こうとしたサテラだが、慌ててワーグが彼女を止める。

コッソリ入ってきた魔物程度であれば、ワーグの"夢操作"で簡単に追い払えるのだが、
今のワーグは"自分の所為でランス達がこうなった"という思い込みから、
持ち前の"夢操作"に対する自身が無くなってしまったのだ。

ここ四日間のワーグの落ち込み具合から、その気持ちが判らなくもないサテラは、
呼び止められた立位のままランスを見下ろしながら、拳を握る。


「くそっ……でも、このままじゃ皆が……」

「うぅ~っ、ごめんねっ、ワーグがしっぱい しなかったら……」

「わふわふぅ~。」

「こらッ、何を言ってるんだ! まだ勝負は――――」


ベットの上で俯き、ラッシーを抱く両手に力を込めるワーグ。

対して、サテラはワーグに近付き、彼女をどうにか安心させようとする。

サテラは、ワーグに何とか立ち直って貰い、"夢操作"を使わせ、
自分も戦いに行くことにより、この状況を切り抜けようと思ったのだが――――


「……んっ? お……おぉ~ッ!?」

≪むくっ≫

「えっ!?」

「おっ、おにいちゃ……」

「がははははは!! 戻って来たぜぇ! 俺様ふっかあァ~~つ!!」

「ら、ランスッ……?」


何の前触れも無く、ランスは目を開け、むくりと上半身を起こすと、
そのままベットの上に立ち上がってキメポーズをとった。

あまりにも突然で、唖然としてランスを見上げるサテラとワーグ。

その驚きが"喜び"に変わるのにそんなに時間は掛からず、
サテラは思わずランスに飛びつきそうになったが、ワーグが居るので若干躊躇ってしまう。

しかし(見た目が)子供であるワーグは、すぐさま素直な行動に出た。


「おにいちゃああぁぁ~~んっ!!」

≪がばっ!!≫

「うぉっ!? ……ワーグか。」

「グスッ……よかったよぉ! ワーグ、このまま ねちゃってたら、
 どうしようかと おもってたんだよぉッ……うぇ、うぅぅ~っ……」

「そ、そうだぞ、ランス! いったい今までどうしてたんだ?
 やっぱりワーグが見せた"夢"が原因だったって言うのかッ?」

「いや、全然そんなんじゃねぇぞ。 ワーグ、お前の所為じゃねぇから泣くな。」

「えぇっ? そ、そうなのぉ? ……けど……」

「なら、何が原因だったって言うんだ!?」

「ただ単に、ちょっとばかし長く寝ちまってただけだ! 四の五の言うなッ。」

「ふぁぁ……うぅ~ん……良く寝たあぁ~っ……」

「はい、長い間、"寝て"しまいましたね。(戻ってこれたのね)」

「うわっ!? リアとマリスも起きた!!
 しかし何だッ、お前らも似たようなことを言って~。
(なんだかサテラが除け者にされてるみたいじゃないか……)」


泣いているワーグを宥めていると、リアとマリスもあっさりと目を覚ます。

同時に、ただ単に"長く寝てた"と言うだけで誤魔化す三人。

"東京"での三週間は内緒であるし、説明するのが面倒な上、どうせ信じ難いからだ。

かといってサテラは納得がいかない様子だが、ランスは話を変える。


「しっかし、何だか騒がしいな、どうしたってんだ?」

「あッ、そうだった! 大変だぞ、ケイブリスの奴が攻めてきたんだ!!」

「と言うことは、この音は戦闘が行われている故での……」

「遠くの方で、戦ってるみたいだねぇ~。」

「今は健太郎とサイゼルとハウゼルがケイブリスを迎え撃ってる!
 でも、モンスターの数が多くて、健太郎達はとにかく、
 このままじゃ兵隊は全滅するかもしれないぞッ!?」

「へッ、あっちからきやがったか! そりゃ上等じゃねぇか……おぉっ?」

≪ひょいっ≫


話題を逸らす事は楽に成功し、慌てた様子でケイブリス軍のことを言うサテラ。

その話を聞いたランスは全く動じはせず、むしろ"手間が省けた"と考えていた。

よって"自分も行くか"とようやくベットから降りたとき、ランスは一振りの剣を拾った。

"東京"で重宝した、唯一の"こちら"に持ってくることが許された武器だ。

刃(やいば)は鞘に納まっているので一見只の"刀"にしか見えないが、
聖刀日光にも劣らない、強力な"合体剣"の"雷神剣"なのである。


「ッ? 何だ、その剣は?」

「サテラ、俺様に丸腰で外に出ろとでも言うつもりか?」

「そう言う訳じゃないけど……」

「では、ランスさん。」

「その前にだが……マリス、体の方はど~なんだ?」

「このように幸い、スキルは継承しているようですね。」

≪――――ボォウッ!!≫

「ほぉ。」


こちらでは火炎魔法が使えなかったマリスだが、指を弾いて炎を出現させる。

それを見ると、ランスはニヤリと口元を歪ませてから、リアに視線を移す。

するとリアは、何やらランスの注意が向くのを期待していたようで、言葉を待っていた。

しかし彼女の場合、スキルが継承されているだけでは駄目なので、ランスは叫んだ。


「ウィリス! 出て来い、ウィリ~ス!!」

「(これで、リア様の運命が……)」


……


…………


『それではランスさん、ごきげんよう~。』

≪ぽんっ≫

「まぁいいか……リア、お前も来い。」

「はぁ~いッ!」

「ち、ちょっと待て! こんな奴を連れて行っても足手纏いになるだけじゃないのか!?」

「何言ってんだ、今は才能限界だとしても聞いた通り"64"だぞ?
 リスは無理だろうが、モンスターの相手くらいは出来るだろ。」

「私は66/67のようですね……」


オカシな音をたててウィリスが消えると、リアの同行を許可するランス。

なんと、リアの才能限界は"東京"でのレベルが上書きされ、20から64になったのだ。
(技能を挙げるのであれば、魔法Lv1&神魔法Lv2あたりだろうか)

マリスは才能限界値が元々高い(67)のでレベルそのものが高くなっただけだが、
しっかりとスキルが継承されているので、"ムド"と"マカラカーン"があるだけで、
"こちら"では相当なパワーアップを遂げたと言っても良いだろう。
(彼女の技能は、神魔法Lv2&剣戦闘Lv1に追加して、魔法Lv2あたりだろうか)

そして、ランスはどうなったかと言うと……それは後のお楽しみである。

リーザス王の鎧をいつの間にか装備していたランスは、
気休めであるが軽装の戦闘服を着用したリアとマリス・そして、
いまいちランスたちの交わす"才能限界"の意味がわからないサテラに向かって言う。


「まぁ、さっさと行くぜ! あいつらだけじゃ足止め程度しかできんだろうしな!」

「そうですね、この音からすると、そう遠く無さそうです。」

「ダーリン、急ごッ。」

「こらッ、待てランス! まだ話は――――」

「うるさい、そんなん後にしやがれッ!」

「わ、ワーグもいくぅ~っ。」

「(美樹ちゃんは勿論として、シィルの奴も助けてやるか……ついでにな。)」


もう"東京"での戦いは終わり、もう"あちら"に戻ることは無いだろう。

多少未練はあるが、気持ちを切り替えることのほうが先決だ。

よってランスは"いつもの"自分を装い、早足にテントから外へと出て行った。

……リーザス王として、残り僅かの戦いを終結させる為に。



[2281] Re:エピローグPart3
Name: Shinji
Date: 2006/06/23 13:43
Part3


「ぐははははは!! さっきまでの威勢はどうしたァァ!?」

「全く、相変わらずタフね!」

「まずいわ、姉さん……味方がモンスターに押され始めてる……」

「ッ!? ハウゼルさん、危ないッ!!」


健太郎&ラ・姉妹と、ケイブリスとの戦いは続いていた。

先程はラ・姉妹が一発づつ特大の魔法を放ったのだが、
ケイブリスは多少肉体を焦がした程度のダメージしか受けておらず、
圧倒的なパワーで三人を圧倒してしまっていた。

今は基本的に、ラ・姉妹が空中からライフルで魔法弾を撃ち込み、
健太郎が障害物を生かして"聖刀日光"による攻撃を続けている。

そんな中、ケイブリスの目が慣れて来たようで、
彼の触手が一瞬だけ余所見をしたハウゼルの隙を突いて掴もうとする。

それを察した健太郎が地面から叫んでいたが、既に遅かった。


≪ビシュルルッ!!≫

「きゃっ!」

「は、ハウゼル!?」

「おォらあぁぁ!!」


左足を掴むと、ケイブリスは掴んだ触手を地面に振り落とそうとする。

掴まれた直後僅かにだが対抗したハウゼルだったが、
たった32kgしかない彼女が、ケイブリスのパワーに対抗できるハズが無い。

よって力を込められると、ハウゼルの視界が反転し――――


≪――――バコォンッ!!≫

「うぐ……っ!!」

「うらぁ!! もういっちょー!!」

≪ブゥンッ!! ――――ばきっ!!≫

「……かふッ。」

≪――――ドドォッ!!≫


手短な岩に叩きつけられると、ぶつかった勢いでバウンドする。

その反動を活かし、ケイブリスはハウゼルを大きく放り投げると、
彼女の体は触手からは離れたが大木に激突し、そのままバサりと地面に落ちた。

ダメージ高いようで、動きが見られないハウゼルに、サイゼルは瞳を見開く。


「は、ハウゼル……ハウゼル!!」

「ぐがはぁははは!! 今度はテメェを黙らせてやろうか!?」

「さ、させるかぁーーッ!!」

≪ばばっ!!≫

「チッ!!」

≪ギャリイイィィン……ッ!!≫

「くっ……(やっぱり"必殺技"じゃないと、正面からじゃ……)」

「ヤケクソかぁ~? あらよっと、オレ様アタックッ!」

≪バキィ……ッ!!≫

「ぐぅっ!!」


ハウゼルが心配で無防備になったサイゼルを、ケイブリスが叩き落そうとした矢先。

健太郎が飛び出してケイブリスの注意を向けようと、正面から斬り込む。

しかし、真っ向勝負のぶつかり合いこそケイブリスの十八番。

ケイブリスは彼の太刀を片手で受け止めると、健太郎をもう片方の腕で殴り飛ばす。

やる気の無い声だったが、威力は抜群のようであり、
咄嗟にパンチを"聖刀日光"縦に構える事でで防御した健太郎だが、
そのまま真っ直ぐ、10メートル以上も弾き飛ばされる。

その飛ばされた距離は、後方の大型テントまで届き――――


≪ボォォンッ!!≫

「――――がっ!?」

≪……ばさばさばさぁっ!!≫


健太郎はテントに激突し、テントはその衝撃で崩れてしまった。

幸いテントがクッション代わりになり、ハウゼルのようにダメージは、
そう大きく無いようだったが、テントが崩れた事により、
"中に居た人物"が何事かと、慌てて外に出てくる。

その"人物"は二人で、健太郎が見知った顔だった。


「け、健太郎君! 大丈夫!?」

「あわわっ……ま、魔人がこんな所まで~!」

「み、美樹ちゃん、シィルさん……? し、しまったッ……」

『まずいですね、これは……』


健太郎が吹き飛ばされた所にあったのは、美樹とシィルが寝ていたテントだったのだ!

彼女達はテントで大人しくしているよう指示を受けていたが、
いつの間にかケイブリスとの戦いの場が近付いてしまったようだ。
(二人のテントを護衛していたリーザス正規兵は近場で戦闘中)

最初から気をつけていればこんな事にはならなかったが、
彼らは"ランスのテント"にケイブリスが向かうのを避けて戦っていたので、
彼女二人のテントの事を踏まえて戦う事を忘れてしまっていたのだ。

そんな中、美樹がなんとか立ち上がろうとしている健太郎を気遣ったとき、
前進してきていたケイブリスの顔色が変わった。


「おォ~ッ!? 何処の砂利(じゃり)が出てきたと思ったら、
 リトルプリンセスじゃねぇかッ! こんな所に居やがったのか!!」

「えっ? ひっ……!」

「み、美樹ちゃんッ……下がって……」

「ねぇ、ハウゼルってばッ、しっかりしてよぉ!!」

「っ……姉さん、それよりもッ……リトル、プリンセス様が……」

「えぇッ!? そんなァ、何時の間に――――」

「ぐがはははは!! こりゃ良いぜ、これで俺様が"魔王"だあぁッ!!」

≪ズゥン、ズゥン、ズゥンッ!!≫

「い、嫌ああぁぁ~~っ!!」

「(ランス様ッ、助けて……!!)」


もうひとつの目的である存在の、"美樹"を発見したケイブリス。

彼がこうして人間界と戦うようになったのも、彼女の存在からと考えても良い。

よって彼は喧しく大笑いしながら、健太郎・美樹・シィルの方へと更に足を速める。

それに対し、よろけながらも身構える健太郎、体を強張らせるシィルと美樹。

ラ・姉妹は遠方の大木の根元におり、健太郎だけでケイブリスに対抗するのは不可能。

しかし美樹を守らなくてはならず、もはや絶体絶命と思ったその時――――


≪バヒュゥ……ッ!!≫

「うぉあッ!?」

≪ドゴオオォォンッ!!≫

「だ、誰が……?」

「ケイブリス! 好き勝手やり過ぎだぞ!!」

「ケッ、誰かと思ったらサテラかよ……舐めやがって。」


ケイブリスと健太郎たちの間の地面を、横から飛んできた魔法が直撃した。

それを放ったのは"サテラ"であり、数十体のガーディアンを従えながら、
彼女は鋭い眼付で、自分に振り返ったケイブリスを睨んでいた。

サテラはそれほど魔法の潜在能力が高いというワケではないが、
ガーディアンらの力も重なり、地面を破壊した事により大量に散布した瓦礫と煙から、
ケイブリスの動きを止め、注意を向けるには十分だったようだ。

そんな中、サテラはラ・姉妹のほうを見ると、鞭を構えながら大きく叫んだ!!


「サイゼルは動けるんだろ!? もう少しだけ、ヤツを抑えるんだ!!」

「で、でもハウゼルがぁ~。」

「姉さん、私は大丈夫だから……サテラを助けてあげてッ。
 あの様子だと、何か策があるのかもしれないから……」

「あ~もう、しょうがないわね! わかったわよッ!」

≪バササッ!!≫

「よ~し! 行けぇぇッ!!」

≪ドドドドドドォ……ッ!!≫

「雑魚共がうざってぇな!! まとめてぶっ潰してやるッ!!」


サテラが鞭を地面に叩き付けると同時に、シーザー除くガーディアン達が、
一斉にケイブリスに向かって勢い良く突進する。

これが再戦の合図となり、サイゼルとサテラ・シーザーを含む乱戦となった。

しかし、相手が一体だけと言えど、ケイブリスは圧倒的な力で、
ガーディアン達を次々と薙ぎ払い、最強の魔人の動きはナカナカ止まらない。

かといって、部下が居るというだけでかなり違い、サイゼルとサテラは効率よく戦えている。

だが、所詮は決定力に大きく欠けるので、軋む体をハウゼルはなんとか動かし、
姉とサテラの援護をしようと立ち上がった時だった。


「わ、私も援護を……しに行かなくっちゃ……」

「あ~、駄目駄目っ! 魔人だからって、無茶しちゃ駄目だよぉ~?」

「えっ……? そんな……あ、あなたは……」

「動かないでね? できるだけ早く治しちゃうからッ。」

「リア様……(ど、どうして?)」

「――――ディアラマ~。」

≪キュイイィィンッ……≫


いつの間にか"眼を覚ましていないハズ"のリアがハウゼルの傍に居たのだ!

しかも衝突に"回復"すると言ってハウゼルの体に手を当てている。

ハウゼルは、リアが"このような事"が出来るとは全く思っていなかったのだが、
リアの手から伝わってくる感触は、紛れも無く"回復効果"のあるものであり、
彼女は大人しくリアの"ディアラマ"を受ける事にした。

聞いた事の無い魔法の名前だったが、次第にハウゼルは痛みが消えてゆくのを感じた。


「健太郎さんッ、大丈夫ですか? 痛いの痛いの、飛んでけー!」

「た、助かります。」

「健太郎君……」


一方健太郎も戦いに参加する為、シィルに回復魔法を掛けて貰っていた。

その様子を、美樹が心配そうに見守っている。

しかし、相手はケイブリスだけではなく、闇から三人を狙う者達が現れる!


≪ガサガサッ≫

『まだ居たぜぇ~! 人間だぁ!!≫

『ヒャヒャヒャヒャ!! 殺せ殺せ~!!≫

「!? い、何時の間にッ!」

『味方が決壊したようですね……』

「こ、こんなに沢山~……」


それはモンスター兵であり、リーザス兵が全て全滅したのでは無いが、
一部の魔物が新たな相手を求めて紛れ込んできたのだろう。

"一部"と言っても10匹近くおり、そう簡単には捌けそうにも無い数だ。

よって健太郎はケイブリスからモンスター兵に注意を変え、
シィルも魔力を両手に集める事によって何とか役に立とうと思ったが――――


「……マハラギオンッ!!」

≪ズゴオオォォン……ッ!!≫

『えっ……うぉッ!?』

『ぐわああぁぁっ!!』

≪だだだだっ!!≫

「おりゃぁぁ! 死ねぇい!!」

≪ざしゅっ! ざしゅぅっ!!≫

『うぎゃああぁぁーー!!』

『き、貴様ァ!!』

「今度はテメぇか!? 達磨返しィィッ!!」

≪ずヴしゅぅ……ッ!!≫


突如放たれ、モンスター兵を焼き尽くす火炎魔法。

また、魔法を逃れたモンスター兵は一人の男が一太刀で斬り捨てる。

その二人は知っての通り"ランスとマリス"であり、
モンスター兵と対峙していた健太郎とシィル(+美樹)は、
驚きのあまり構えた体勢のまま固まってしまっていた。

対して、ランスは最後のモンスター兵を斬り捨てると、雷神剣を肩に言う。


「(大して鈍って無ぇみてぇだな、安心したぜ。)」

「お、王様ぁ~……」

「良かった、眼を覚ましてくれたんだ……」

「らっ、ランス様ぁぁ~~っ!!」

≪たたたっ≫

「あん? 何だ、お前も居たのか。」

「(わかっていたでしょうに……)」

「王様ッ、もう大丈夫なんですね!?」

「おぉ、見ての通りだぜ! それよりもシィル、"カオス"はどうしたッ?」

「あ、はい! 直ぐに取って来ます!!」


ベソを掻きながら近付いてくるシィルの頭をくしゃくしゃとするランス。

まるで"ついで"のような扱いであるが、彼女が居も事は当然知っていた。

さておき、再会に浸っている場合ではないので、
ランスの指示を受けると、シィルはパタパタとテントの中に潜っていった。

この時、シィルは健太郎の"目が覚めたんですね"という言葉が気になったが、
ランスが来てくれたのには変わりないので、深くは考えない事にした。

その間、ランスは健太郎・美樹・マリスを前に偉そうに言う。


「美樹ちゃんはナンともないか?」

「は、はい……大丈夫です。」

「健太郎、お前は動けるのか?」

「なんとかいけます。」

「それならお前は俺様に続けッ! 良し……後はマリス、
 お前は美樹ちゃんを守ってやれ、"今のお前"にならやれるだろ。」

「わかりました、やりましょう。」


ランスの登場が嬉しかったか、健太郎は回復魔法も受けた事から、
しっかりと立位を保って戦える事を告げる。

それと同時にシィルがこちらに戻って来たので、
マリスに"雷神剣"を手渡しながら、ランスは美樹の護衛を命じた。

モンスターの攻撃で美樹がダメージを受ける事は無いが、
連れ去られたりでもすれば面倒なので、そのままには出来ないのだ。


「ランス様~、お待たせしましたぁ。」

『ふぅ~、危うく生き埋めになるところだったわい。』

「(不本意だが、"こいつ"じゃねぇと魔人を斬れねぇからな。)」

『おぉッ? お前さん少し見んうちに、雰囲気が変わっておらんか?』

「そうかぁ? 気のせいだろ。」

「あのぉ、ランス様~……私は何をすれば~。」

「お前はマリスと居ろ。 すぐ終わらせるから待ってろよ?」

「は、はいっ!!」


ランスは"雷神剣"を気に入っていたので、
少し口喧しい"カオス"に持ち替えるのに違和感があったが、
彼(?)を無くしてケイブリスを倒せないので、妥協した。

一方、カオスを手渡したシィルだったが、
ランスが何も指示をしてくれないので彼女自信から恐る恐る聞いてみる。

あえて彼女から話を振らせようと、ランスは何も言わなかったのだが、
シィルの言葉を受けた彼から"待ってろ"と告げられ、彼女はその一言で安心した。

戦いが終われば、ランスは自分の元に戻ってきてくれるという、
事実があるだけで、シィルにとっては十分だった。

そんな瞳を輝かせるシィルは無視して、ランスは遠方で乱戦を続けている様に向き直る。


「健太郎、カオス! いくぜぇー!!」

「はいっ!!」

『張り切ってゆくぞい!!』

「サテラぁ! もう良いぞ、邪魔なのを下げろ!!」

「ランス、"邪魔なの"は余計だ! チッ……もういい、下がるんだッ!」

≪ばしいいぃぃんっ!!≫

「ッ!? 人間の王! 出やがったか!!」


ケイブリスとの戦いで、サテラのガーディアンの大半がすでに破壊されていた。

しかし残った十数体は、彼女が鞭を地面に叩き付けると同時にケイブリスの元を離れる。

背を向けて離れているので丸っきり無防備なのだが、
ケイブリスの注意は走って来る"ランス"に変わり、空中のラ・姉妹も気付く。


「あれはランス王ッ? と言う事は――――」

「や~っと"起きた"みたいね、全く迷惑な話だわッ!」

「まあまあ姉さん、そんな事より。」

「わかってるわよ! 援護すりゃイ~んでしょ!?」

≪ばささぁっ!!≫

「おい健太郎、先ずはお前が行け!」

『健太郎殿、今度は"時間稼ぎ"の必要は無いでしょう。』

「そうですね……なら、王様の"あの技"で!!」

≪バシュゥッ!! バシュシュゥッ!!≫

「ファイアレーザー、ファイアレーザーッ!!」

「そ~れッ、それッ!!」

「ちっ……今はお前らと遊んでる程、暇じゃァ無ぇんだよ!!」

≪ボヒュッ、ボヒュゥゥ……っ!!≫


ケイブリスに向かって走り出すランスと健太郎を見たラ・姉妹は、
彼らを援護するためにケイブリスに接近する。

直後、妨害狙いである威力の低いレーザーを何発も発射し、
ケイブリスの注意を空中の自分達に向けさせようとする。

対してそれを邪魔に感じたケイブリスは、片腕を振りかざす事によって、
数発の魔法弾を発射したが、攻撃を読んでいたラ・姉妹は魔法を回避する。

その隙にランスと健太郎は、走るスピードを上げて一気にケイブリスに接近し、
健太郎はランスの指示を受けると、高く跳躍して日光を振り下ろそうとする!!


「何処を見てる、こっちだー!!」

「んっ!? やべっ……」

≪だだだだだッ! ……ばっ!!≫

「せ~のッ、ラーンス・アタックッ!!」

≪ずがああぁぁんっ!!≫

「うごぁあああ……ッ!! この野郎ォ~!!」

≪――――ズボォォンッ!!≫

「うわっ!!」


成り行きで習得してしまった健太郎の"ランスアタック"が直撃し、
彼の両手での一撃はケイブリスの一部の皮膚を吹き飛ばした。

もし完全にケイブリスが防御に回っていたらダメージはもっと少なかっただろうが、
健太郎のスピードを活かした"ランスアタック"はランスの振りの速さを上回るほどあり、
ケイブリスの体勢は整っておらず、ダメージを与える事ができた。

しかし決して大きなダメージではないようで、頭に血が上ったケイブリスは、
健太郎に瞬時に放った魔法を御見舞いして彼を遠ざけた。

そんな時、ランスもケイブリスにカオスを横に構えて駆け出していた。


「がははははは! 終わらせてやるぜぇッ!」

「ッの野郎!! 人間が調子に乗るんじゃねーー!!」

≪――――ダンッ!!≫

「おおおおぉぉぉぉーーッ!!!!」

『(なんじゃ、ランスに"違う力"が……)』

「いくぜぇ~!! ランス・ストライイィィクッ!!」

≪ギュドオオォォ……ッ!!≫

「なっ……ぎ、ぎゃああああぁぁぁぁ~~ッ!!!!」

≪ゴブシュゥゥ……ッ!!!!≫


ケイブリスは"魔王城"で篭城し、何度かランスの軍と戦っていた。

その時では、健太郎とランスの"必殺技"の威力に大きな差は無かったので、
健太郎の攻撃で眼が覚めたケイブリスは、正面からランスとぶつかり、
逆に返り討ちにしようと、構えてランスを迎え撃とうとした。

しかし、健太郎を遥かに上回っていた、ランスのパワー。

"ランスアタック"と"東京"で習得した"メガストライク"が合わさり、
今までの"必殺技"とは桁違いの"ランス・ストライク"がケイブリスに炸裂した!!

ランスが"こちら"戻って得た能力はたったこれだけなのだが、
"鬼畜アタック"さえも凌ぐ威力に、ケイブリスの両腕が激しく吹き飛んだ。

更に余波は彼の肉体を軋ませ、その激痛でケイブリスは地面にどうと倒れる。


『ら、ランス……なんじゃ? その技は。』

「知らねぇよ、自分でもビックリだぜ。(半分は嘘で、半分本当だがな。)」

『むぅ……(一週間ほど見ないうちに、何かが変わったようだが~……)』

≪ぐっ、ぐぐぐっ……≫

「ちッ……ちょっくしょおぉぉ……痛ぇッ、痛ぇよぉ~~……」

「ランスのヤツ、"俺様に任せておけ"とか言ってたけど、本当にやった……」

「あったりまえでしょお? だってダーリンだもんッ。」


一転して絶体絶命はケイブリスとなり、遠くで見ていたサテラは驚きを隠せない。

いつの間にかサテラのほうまで下がっていたリアは"東京"での戦いで、
ランスのパワーアップを予想していたのであまり驚かず、何故か得意気になっていた。

そんな思いがけない事にケイブリスの醜い顔が更に歪むが、
それ以上に"思いがけない事"が、彼に直面してしまう事になる。

夜戦を終わらせる為、ケイブリスに止めを刺す必要のあるランスが、
どうしてかケイブリスを無視して、明後日の方向を眺めていたのだ。

それが気になった健太郎は、ランスのパワーに対する驚きを隠しながら声を掛ける。


「…………」

「お、王様? どうしたんですか?」

「んっ? いや、ど~やら"来た"みてぇらしくてな。 マリス……お前も見えるか?」

「よく見えませんが、"あれ"は間違い無さそうですね。」

「来た? それってどう言う――――」

≪バサッバサッ……≫

「えぇッ!? 姉さん、あれって……」

「か、カミーラ!!」

≪――――バサァッ!!≫

「う、嘘だろ!? カミーラだってッ!?」

「丁度良かったみたいだねぇ~。」

「こらリア! お前、さっきから何なんだッ? サテラに何か隠してるだろッ!?」

「それよりホラぁ、すぐソコまで来てるよぉ?」

「うっ、ホントにカミーラだ……まさかケイブリスに加勢をッ?」


ランスが遠くを見ていたのは、魔王城を飛び立った"カミーラ"の気配を感じたから。

ランス・リア・マリスを除く全員は彼女の接近に気付くのが遅かったが、
思った以上にカミーラは高速で接近してきたので、そんなに間は無かった。

よっていつの間にかカミーラは、空中のラ・姉妹の間に止まると、
驚く二人を無視して冷めた表情でケイブリスを見下ろしていた。

"見下ろしていた"というのは、カミーラの接近が早すぎて、
ラ・姉妹がカミーラの急接近を確認したとき、既にケイブリスを見ていたからだ。


「!? か、カカカカミーラ……さん……」

「…………」

「カミーラ、生きて……」

「な、何よカミーラ! ケイブリスの味方するんだったら、容赦しないわよ!?」

「……サイゼル……腰が引けているぞ?」

「なッ、なんですってぇ~ッ?」


この時誰もが思ったのは、カミーラはケイブリスに加勢をしに来たのではないかと言うこと。

それをサイゼルが確認しようとライフルをカミーラに向けているが、
彼女に言われたように腰が引けており、カミーラの登場による動揺は隠せていなかった。

タダでさえサイゼルの力を遥かに上回るカミーラに、今回は何故か更に強い"力"を感じたのだ。

そんなサイゼルに視線を移したカミーラの態度が、ケイブリスにとってどう感じたのか……


「た、助けて……か、カカカカミーラさん……
 助けに来てくれたんだよね? こいつらが俺をよってタカって~……」

「……(これで、私は……)」

「って事はカミーラ! やっぱり敵ってことなのッ!?」

「姉さん落ち着いて、何か様子が……」

「(――――解放される。)」

≪ババ……ッ!!≫


ケイブリスはカミーラを"味方"と勘違いし、助けを請う。

対してカミーラはランスをチラりと見ると、彼はは黙って彼女を見上げて頷いた。

余計な事を言って、ケイブリスの警戒心を高めないようにする為だ。

するとカミーラは視線を戻し、一瞬だけ瞳を閉じると、
すぐ見開きケイブリスを捕らえながら、彼に向かって急降下した!!

自分に長きに渡って付き纏っていた者との関係を、完全に断ち切る為。


≪ザザシュウウゥゥ……ッ!!≫

「がァ……ッ!?」

「……(デスバウンド。)」

「ゲハッ……な、なん……でぇっ……」

≪ずうううぅぅぅん……っ!!≫

「ね、姉さん……カミーラって、"あんな事"出来たのッ?」

「そんな事、あたしに聞かないでよ!」

「ほぉ~、ありゃあ"タルカジャ"が掛かってたのかもな。」

「そうかもしれませんね。」

≪たたたたたっ≫

「ダーリーーンッ!!」

「ランスッ、これはどう言う事なんだッ?」

「見りゃわかるだろ? カミーラがケイブリスを殺ったんじゃねぇか。」

「そんな事はわかってる! それよりも、
 どうしてカミーラが生きていて、"こんな所"に来ているのかって聞いてるんだ!」

「そんなの俺様が知るか、さっきまで寝てたのによ。」

「うっ……(言われてみれば、サテラはずっと寝てたランスを見てたじゃないか……)」


カミーラの"タルカジャ"をMAX掛けをしてでの"デスバウンド"。

その"鋭い翼"がケイブリスのカラダに深く食い込み、
なんとか起き上がろうとしていたケイブリスは汚い血液を散布させながら、
再びどうと地面に倒れて、そのまま動かなくなった。

同時にリアとサテラがランスの元に駆け寄り、疑問を投げ掛けるが、
やはり"あちら"の事は秘密であるので、ランスは常識的な事を言ってしらばっくれる。

よって一番"寝ていたランスの近く"に居たサテラは、何も言えなくなってしまい、
間が空いたことを確認して、マリスが横から声を掛けて来る。


「ランス王、ケイブリスは倒れました。 ですから……」

「そうだったな、良し! 勝鬨を上げろッ、俺達の勝ちだ!!」

≪うおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!≫

「モンスターたちが逃げて行くわね。」

「はぁ……一時はどうなる事かと思ったわ~。」


残ったモンスター兵の数は、リーザスの兵士の数を上回っていたが、
総大将が倒れてしまっては戦う気力など無くなるだろう。

リーザス側には多くの"魔人"も居るので、慌てて逃げてゆく魔物たち。

対してランスの周辺で戦っており、彼の言葉が聞こえたリーザス兵達は、
大きな歓声で剣を天に翳(かざ)して、勝利を自分に称えた。

その様子を空中から見下ろしているラ・姉妹は大きく溜息を漏らしていた。


「良し、終わったか……健太郎、マリス、後は任せた。」

「はいっ。」

「わ、私も健太郎君と行きますッ。」

「了解です。 ……動ける者はテントの回収に当たって下さい!
 負傷兵は後方の衛生班のテントで治療を受け、休んでいて結構ですッ!」

「シィル、リア、お前らは兵隊の治療でもやってろ。」

「はい、ランス様。(良かった、本当に……)」

「まぁ良いかぁ~、どれ位まで(回復魔法)を使えるようになってるか、
 もっと試してみたいと思ってたし~……」

「り、リア様? それってどう言う……」

「とにかく、明日になったら魔王城を制圧しに出発だ! 急げよッ!?」


……こうして、ケイブリスの襲撃を抑えたリーザス軍は、
次週には魔王城を制圧し、大陸全土を治めるに至る。

その前に燦々な状態となった駐屯地の整理などが必要だが、
もはや抵抗する勢力は皆無なので、作業を行う者達の表情には覇気があった。

ランスはその場で何分か作業に当たろうとしている部下達を、
カオスを肩に眺めていたが、少し目を横に移すと、
サテラ・サイゼル・ハウゼルに囲まれているカミーラの姿があった。

余談だが、この時点でケイブリスは"魔血魂"となっている。


「何を話してんだ、お前ら?」

「あっ、ランスッ丁度良かったぞ。」

「今、聞こうとしていたんです。 どうして彼女が味方になってくれたのかを……」

「それと一度死んじゃったらし~に、生きてるのかも気になるじゃない?」

「何だそんな事かよ……それよりカミーラッ、また"やる"からこちへ来~い!」

≪ぐいっ≫

「ま、待てランス! まだ何も――――」

「…………」

「こいつは嫌がって無ぇみてぇだけどな、がははははは!!」

≪すたすたすた≫


様々な疑問を今まさに投げかけようとした時、ランスが横から割って入る。

この時三人の魔人はランスが"何かを"知ってそうだったので、
横槍を受け入れたが、真実を話すつもりのないランスは、
カミーラの事を誤魔化してしまう為に、彼女の腕を強引に取った。

するとそのまま引っ張って、大型テントの方へと去ってゆき、
しかもカミーラはランスに対して全く抵抗しようとする様子はなかった。

その様を見せ付けられたサテラ達は、"唖然"として二人の背中を見送る。

ハウゼルはそんなにでも無く、むしろ心を誰にも開かないカミーラが、
ランスには心を開いたらしいので、嬉しい方向に持っていくようにしたようだが、
サテラとサイゼルにとっては、相当ショッキングだったようで、額に縦の線を引く。


「あのカミーラが、ランス王と……」

「サテラぁ? あ、あの二人……何時の間にあんな関係になってたのぉ~?」

「そんな事、知るかっ……(ま、まさかカミーラに出し抜かれるなんて~ッ……)」

「それよりワーグ、もう戦いは終わったわよ? 出て来なさい。」

「う、うんっ……」

≪ぽんっ≫


ランスとカミーラが去ると、取り残されるサテラとラ・姉妹。

そのまま数秒の沈黙の後、ハウゼルがワーグの気配を察して話すと、
何もない空間からワーグがラッシーと共に出現した。

サテラは、まだ表情が優れないワーグを見て、再度彼女に聞き直す。

ワーグに聞いても、もはや彼女はランスの昏睡と関係無いので仕方ないのだが、
どうしても納得がいかない事態が多過ぎて、機嫌が悪いようだ。


「ワーグ! 絶対何か隠してるだろッ、何でもいいから話すんだ!」

「わ、ワーグは なにもしらないよぉ~っ。」

「サテラぁ~、八つ当たりしても始まんないわよぉ?」

「第一、カミーラがワーグと絡んでる筈無いでしょ?」

「くそっ……もうサテラは自分のテントに戻るぞ! 行くぞ、シーザーッ!」

『ハイ、サテラ様。』


サテラの気迫に押されるワーグを、サイゼルとハウゼルが助ける。

それにサテラは頬を膨らませると、ガーディアンを従えて去って行った。

ずっとランスのテントに入り浸りで、ようやく久しぶりに、
自分に用意されたテントにへと戻ってゆくようだ。

そんな小さな後ろ姿を、ランスに付きっ切りだった気持ちが判らなくもない、
ラ・姉妹は、苦笑しながらお互いの顔を合わせると、
ワーグと共にその場を飛び立って自分の成すべき事へと移るのだった。



[2281] Re:エピローグPart4
Name: Shinji
Date: 2006/06/27 01:08
Part4


……翌日、魔王城へとやってきたランス達。

500名弱残ったリーザス兵は城の外に駐屯させておき、
ランス、シィル、リア、マリス、健太郎、美樹、サテラ、ラ・姉妹、ワーグ、カミーラと、
更に数十名のリーザスの騎士を従えて魔王所の中を歩く。
(カオス、人間形態の日光、シーザーも共に行動している)

先頭は魔王城に来るのがはじめてなランスが歩いているのだが、
サテラに"王座へは真っ直ぐに行けば良い"と言われ、ズカズカと歩みを進めている。


「しかし広ぇトコだな、何時まで真っ直ぐ歩きゃ良いんだ?」

「そうだねぇ~、リーザスのお城よりも全然広いよぉ。」

「黙って歩け、もう少しだ。」


二・三百メートル歩いても王座に辿り着かない。

"王座がある広間"が見えたきたと思ったら、ただ十字路の広間であり、
その"フェイント"のようなモノが何度か続いていたのだ。

よって何となくランスとリアが不満を漏らすと、サテラが強めに答えた。

その彼女の言葉は正しかったようであり、謁見の間に差し掛かった一行が目にしたのは――――


「おっ、あいつ……(あんな所に居やがったのか)」

「そう言えば、"ここ"に飛ばされてたんだったねぇ。」

「ですが、何だか納得してしまいました。」

「……(あの方らしい)」


魔王城の王座に腰を下ろしている、ラフな服装をした女性の姿だった。

その王座に"座り慣れて"いるのか、足を組んで背中を預けており、
一行がやってきても、その姿勢を崩そうとしていなかった。

対して、ランス・リア・マリス・カミーラ以外の者は、
まだリアクションが起こせていないが、彼女の成り行きを知っている4人は、
何故か納得したような様子で、上記のように口々にしていた。

その次に口を開いたのは、彼女を全く知らない健太郎と美樹だ。


「美樹ちゃん、あの人、誰なんだろうね……?」

「わからない、でも何処か私に"似てる"気がする……」

「似てる? そう言えば、確かに何か雰囲気が……」


『なッ、何と言うことじゃ! ジル、生きておったのか!!』

『ふ……封印されていたと、聞いていましたが……』

『こりゃ日光、"魔王"に対して"そんな姿"でどうするッ!?』

『ッ!? そ、そうでしたね。(刀にならなければッ)』

『(しかし変じゃのお……以前は素っ裸だった筈じゃが。)』


「えぇ~、ままま魔王ですってぇ~!? って事は~……」

「今までの歴代魔法から考えれば……ジル様ッ?」

「あれが、ジル様なのか……(サテラがノス達と復活させようとしていた……)」

「ど、どうして そんなひとが、こんなところに いるんだろうねぇ~?」


ジルの存在から"今の姿"になったと言っても良いカオスと日光は、驚きを隠せない。

一方、二人(?)の言葉を聴いて、4人の魔人達も驚きを隠せなかった。

ケイブリスを倒し、抵抗する敵が皆無であるはずの魔王城に"彼女"が居たのだから。

そんな注目の的である"ジル"はニヤリと口元を歪ませながら、ゆっくりと立ち上がった。


「待ちかねたぞ、貴様ら……ようやく来たか。」

「おう、ちょっくらゴタゴタ(戦い)があってな。」

「…………」(ランスを睨むジル)

「…………」(ジルを睨むランス)

「それでは、始めるとしようか?」

「……そうだな。」

≪――――チャキッ≫


他の者は眼中にないようであり、ランスと視線をぶつけるジル。

対して、珍しく真剣な表情で"カオス"構えるランス。

その表情を見上げて、カオスは心の中で武者震いしながら思う。

以前は何とか撃退できたが、一筋縄でいかない相手なのは明白……


『(ワシの力が通用するかはわからんが、やるしかあるまいて。)』

「ら、ランス! どうしたって言うんだ、何で戦う必要があるッ!?」

「サテラ、お前は手を出すな! ほかの奴らもなッ!」

「えっ、ランス様! 相手は"魔王"なんですよッ? お一人では……!」

「そうですよ! ケイブリスよりも強ければ、いくら王様だって!!」

「五月蝿ぇぞッ! 黙って見てろ!!」

「う……(嫌ッ、ランス様……折角"戻ってきてくれた"のに――――)」

「お、おにいちゃん……」

「ふっ、だがその前に……来いッ!!」

≪――――パチンッ!!≫


数では遥かに勝るのだが、どうしてか一人で戦う事を望むランス。

彼の決断に驚きを隠せないサテラ達だったが、ランスに強く言われて言葉を失う。

シィルやワーグに至っては、ランスを想うあまり涙目になってしまっている。

そんな中、ジルはまだ構えてはおらず、余裕の笑みを浮かべながら指を鳴らした。

すると、玉座の後ろから二つの人影が現れ――――


「…………」

「…………」

≪ザザッ……≫

「くくく……"観客"は多い方が良いしな。」

「し、シルキィとホーネット様ッ!? ど、どうして……!!」

「ほぉ~、あれが"ホーネット"なのか。」

「そうだ、貴様を血祭りにした後は……存分に暴れさせるとするかな。」


無言でジルの左後方と右後方に佇む"魔人"。

その二人を見てサテラは思わず二人の名を叫んだ。

ランスは二人を見たのが初めてだったので少しだけ瞳を見開いたが、
それだけであり、"カオス"を構えるのは止めていなかった。

この緊張感が膨れ上がる中、ハウゼルは冷や汗を流しながら言う。


「シルキィ、ホーネット様……こ、これはまさか……」

「は、ハウゼル? どーしたのよ?」

「もしかして二人はあの"魔王様"に逆らえないんじゃ? だから今みたいに無表情で……」

「逆らえない? だ、だったら何であたし達は平気なのよッ?」

「良く判らないけど……今の魔王様は"不完全"なんじゃないかしら?
 だからまだ、私たちには"絶対服従"の効果が出ていなかったり……」

「……不完全だと? 言ってくれるなッ。」

≪ギロッ!!≫

「ッ!? ひっ……う……」

≪がくんっ≫

「は、ハウゼル!? 大丈夫よ、気を確かに持って!!」


ハウゼルは咄嗟に前途のような推理をするが、ジルの勘に触ったか睨みつけられる。

その威圧感により、ハウゼルはその場で膝を崩し、サイゼルが慌てて気遣う。

このままジルの威圧に負けてしまっていれば、彼女の言いなりになってしまいそうだったからだ。

魔人にとって、魔王に服従するのは当然の事なのだが、
ジルの正体がまだ判らず、今は"リトルプリンセス"という魔王候補が居る事から、
最悪"ホーネットとシルキィを助ける"という事も考えなくてはいけないのだ。

プレッシャーに潰されそうになりながらも、ハウゼルが立ち上がると、
既にジルの注意は再びランスに向いており、彼女の長髪がふわりと浮いた。


「少々、お喋りが過ぎたようだな。」

≪シュオオォォォォッ……≫

「うっし馬鹿剣、行くぜぇ~?」

『う、うむッ。』

「ゆくぞ!!」

≪――――ダンッ!!≫

「うおおぉぉっ!!」

≪だだだだっ!!≫


ジルの魔力が高まり、空気の流れが変わり、彼女は戦闘態勢に入ったようだ。

パワーは判らないが、魔力として感じる力は、ケイブリスを大きく勝っている様子。

直後、ジルはランスに向かって突っ込み、ランスもジルに向かって走り出す!

そして、ジルの魔力が圧縮された片腕と、ランスの太刀が交差しようとした矢先だった。


≪――――ピタァッ!!≫

「…………」

「…………」

「あ、あれ?(ランス様と魔王のカラダが……)」

「なんで、いきなり止まったんだ……?」


力と魔力がぶつかり合うと思った直前、二人の体が止まったのだ。

てっきり激しい一騎打ちが行われると思ったのだが、
思わぬ結果にシィルとサテラは唖然として口々にしていた。

すると、互いに近距離で目を合わせていたランスとジルから――――


「プッ……」

「ふっ……」

「くくくっ……」

「まさか、貴様が"乗って"くれるとはな。」

「俺様には、お前が"そんな事"をしようとしたのが意外だったぜ。」

「フッ、あまりにも暇だったのでな。 少し演出をさせてもらった。」

「だろうと思ったぜ。」

「私は"こんな事"を演出するのは反対だったのですが……」

「全くですよ……」


笑みがこぼれ、二人とも戦闘態勢を解いて破顔した。

何故なら、これまでのジルの態度は、演技によるものだったからだ。

お気づきの通り、カミーラよりも一時間送れて"魔王城"に転送されたジルは、
たまたま遭遇した"バトルノート"にカミーラの事を聞いたが、
結局ランスを待つ事にしたようで、魔王城に居る事にしたのだ。
(このときのバトルノートの驚きといったら、カミーラの時以上だった)

それからランス一行が魔王城に到着し、王座に現れたのだが、
"元魔王"としてさっきまで取っていた態度が、
東京での経験があったランスにとっては、演技としか思えない行動であり、
最初のアイ・コタンクトで、ジルの演出に乗ることにしたのだ。

結果対峙した時もお互い殺気は無く、寸止めに至ったと言う訳だ。

そんなリアとマリス・カミーラを除くメンバーが言葉を失う中、
"演出"に加わっていたホーネットとシルキィが、二人に近付いてくる。

それぞれの瞳には生気が宿っており、服従しているという雰囲気は無かった。


「ジル、誰なんだ?」

「あぁ……この二人は地下で囚われていたのを見つけてな。
 ホーネットは私も初対面だったが、シルキィは以前の私の部下でもあった。」

「人間の王……ランス殿ですね? 私はホーネット。
 ケイブリスを倒して頂き、本当に有難う御座いました。」

「う、うむ。(近くで見ると、物凄ぇ美人だな……)」

「シルキィ・リトルレーズンだ、私からも礼を言おう。」

「……シルキィよ、本来なら貴様がホーネットを守る立場だったのだがな。」

「!? も、申し訳ありません。」

「ホーネット様~ッ!!」

「良かった、大丈夫だったんですねッ?」

「サテラ、ハウゼル……」


ホーネットとシルキィが軽く自己紹介を行うと、正気に戻り駆けてくるサテラとハウゼル。

対して、懐かしい者を見るかのように二人の名を漏らすホーネット。

すなわち感動の再会となるわけだが、此処は他の者の目があるので、
ホーネットは視線をランスに直すと真面目な表情で口を開く。


「ん、なんだぁッ?」

「あの……ジル様のことなのですが、一体何故彼女が此処に居るのでしょうか?
 お聞きしてみても、あまり詳しくは言ってくださらなかったので。」

「そうだぞランスッ、今度は寝てただけじゃ済まされないぞッ!!」

「(何だか面倒臭ぇ事になっちまったな。)……ジル、"何処まで"話した?」

「(言い分は貴様に任せよう)"自力"で"あそこ(異次元)"を脱出した事、程度だな。」

「ふ~む……実はだなぁ……」


説明が面倒であるジルは、ランスに全てを任せたようだ。

彼は少し"本当の事"を言うか言うまいか迷っていたが、
全てを話すと1時間や2時間で済まないので、やはり勝手な言い訳を考えた。

それは異次元でジルと"和解"した後、自分は神によって"闘神都市"に飛ばされたが、
残されたジルは数年掛りで自力で脱出し、出た場所が魔王城だったという内容だ。

その後"バトルノート"に事情を聞いたジルは、ホーネットとシルキィを助け、
ランスが来るのを魔王城で待っていたのだと言う事に至った。

異次元の脱出についてはデタラメだが、辻褄は合うので誰も疑う気にはなれなかった。


"だったら他に、ジルがど~して此処に居るのか説明が出来るのか?"


……と言われれば、何も言い返す事ができないからだ。

それらの話を全て聞いていたホーネットは、納得する事にしたか、静かに頷く。

"この大陸"には摩訶不思議な事、自分には到底理解がし難い、
数多くの謎がある事を、ホーネットは知っているからだ。


「成る程……和解されたという事は、今のジル様には、
 ケイブリスのように、もう人間を殺(あや)めようとする気はないのですね?」

「あぁ、今更許して貰う気など無いが、もう興味は無くなった。
 当分は久しい"この世界"の居心地を楽しむつもりでいる。」

「そうですか……」

「しかし殺めると聞くのは筋違いだ、私が人間をどうしていたのかが間違っているぞ。」

「ッ? ……そうでした、"家畜"として扱っていたのですね。」

「くくく、その通りだ。(その気も今は無いがな)」

『う、うぅむ……あの、あのジルが……納得いかんぞい~~……』

「がはははは、ドッキリ大成功だな!」

『全く、お前さんも人が悪いわい……』


ランスが"ドッキリ大成功"と言うと、カオスはもはや"ぐう"の音も出ない様子。

また、大げさに引っ掛かったハウゼルに視線を移すと、真っ赤になって俯いていた。

シィルも未だにポカンとしており、リアが彼女を横目でケラケラと笑っていた。


「な、なんだか判らないけど、やっぱり王様って凄いや……」

「健太郎君。 あの人も、"魔王"だったんだね。」

『不本意ですが……今は魔王では無いようです。』

「では、もう良いだろう? "それ(日光)"の言う通り、私はもう"魔王"では無いのだ。
 ホーネット、後の話や交渉は貴様の好きにするが良い。」

「……わかりました。」

「ホ、ホーネット様ぁ、良いんですかッ?」

「シルキィ、貴女はジル様を良く知っているようだけど、今彼女に殺気はあった?」

「い、いえ……(あそこまでジル様を変えてしまうとは……あの男、何者なんだ……)」


話の流れから、ジルにリーザス軍と敵対する気はないと判った。

よってある者は胸を撫で下ろし、ある者は開いた口が塞がらない。

特に2000歳前後のシルキィと1500歳前後のカオスと日光は、
以前の"魔王ジル"とのギャップに最後まで動揺が隠せていなかった。

そんな彼女達を差し置き、蚊帳の外で立っていたカミーラの元まで、
リーザス正規兵を掻き分けながらやってくるジル。


「ジル様。」

「……カミーラか。」

「どちらに?」

「面倒なので暫く席を外そう……行くぞ。」

「はい。」

≪ザッ……≫


軽く言葉を交わすと、カミーラを従えて謁見の間を去ってゆくジル。

その後ろの姿を遠目に、ホーネットは話題を変えるようだ。

今度は彼女の守るべき存在であった、リトルプリンセス……美樹について。

ケイブリスが倒れ、美樹の力を手に入れようとする者は居なくなったので、
ホーネットは正式に彼女を魔王とするべく、説得をしなければいけない。

心から"来水美樹"に心から魔王になって欲しい訳ではないが、
ホーネットは魔王の娘として、彼女の本心を聞かなければならない。


「ではランス殿、リトルプリンセス様をここに……」

「わかってるぜ、マリス。」

「はい、美樹さん。 ランス王がお呼びです。」

「あっ……そのッ。」

「美樹ちゃん、王様も居るし大丈夫だよ、頑張って。」

「う、うんっ。」

≪とたとたとたっ≫

「美樹様……」

「美樹ちゃん、言ってやれ。」

「は、はい……やっぱり、私は――――!」


……この後、美樹は魔王として生きる事を完全に拒否し、
ホーネットの腹心の魔人は"美樹が人間に戻る為"の協力を心掛ける役目を承る。

さておき、これで大陸は統一され……世界に平和が訪れる事となる。

だが魔王城が落ちた報告はこれからであり、リーザス城へと帰還するリーザス軍。

その馬車で移動する行列を見下ろしながら、サイゼルは大きな溜息を漏らした。


「はぁ……なんだか、ワケの判らない事ばっかだったわねぇ。」

「そうね、姉さん。 でも思ってみれば、ジル様とカミーラが蘇っただけよ?」

「そう、そうなんだけど……頭の中で色々とコンがらがってんのよぉ~!」

「私もそうよ? けど、また仲良くできるんだから、喜ばなくっちゃ。」

「はいはい、おねーちゃんはデキの良い妹を持って幸せでーっす。」



[2281] Re:エピローグPart5
Name: Shinji
Date: 2006/06/29 00:16
Part5


……魔王城に遠征したランスの軍が戻ってから、1ヶ月後が経った。

その間、"創造神ルドラサウム"が大軍を大陸に送り込み、
地上の至る所を破壊し、面白みが無くなった世界を消そうと企んだ。

それに対し、ランスは全軍を率いて"黄金像"を使い、彼の元に出向き、
"ワーグ"の能力を使ってルドラサウムに長い夢を見せるという事に成功した。

結果、無事生還したランスは、暫くの間リーザス城でのんびりとしていたが……


……


…………


「ふんふんふ~ん♪」

「がおがお~。」


午前10時、リーザス城内の廊下を鼻歌交じりに歩くリア。

頭にはまだ眠たそうな"はるまき"が乗っかっている。

創造神の大破壊の後始末に追われ、朝から忙しそうにリーザス兵が走り回り、
五月蝿い事この上ないが、何故だかリアは機嫌が良さそうだった。

周囲の忙しさと、彼女のマイペースさのギャップが激しい。


「はるまきー、今日も良い天気だね~。」

「がお、がおがお。」


……何故なら、ランスとの冒険は終わってしまったが、
こちらでも残っている自分の"レベル"と東京で覚えた数多くの"魔法"。

また、資金不足故にマリスがランスに"ハーレムの解体"を訴えたのだが、
"良いぞ"と二つ返事でOKを出し、リアは大いに喜んでいた。

流石に東京に居た時程ランスの傍に居れる様になったという訳では無いが、
"東京に飛ぶ前の自分"の立場と比べれば、遥かにランスに近付いたので嬉しかった。

そんな"幸せオーラ"を振りまいて歩くリアの進行方向に、見知った顔が立っていた。


「リア様。」

「あっ! マリス~、どうしたのぉ?」

「ふふ、今日もお元気そうですね。」

「うん! マリスはどうなのぉ? 忙しそうだけど~。」

「確かに忙しくはありますが、特に問題ありません。」

「そうなんだ~。」


それはマリス・アマリリスであり、リアの二番目に大切な人。

東京で多くの死線を乗り越えた、信頼できる仲間でもある。

マリスは、創造神との戦いが終わってから非常に忙しい毎日を送っており、
本当ならリアと話している暇さえ(会釈程度はあるが)無いのだが、
彼女はその忙しい間に、ある"計画"を立てていた。

それはまだ判らないが、笑顔のリアに軽く微笑み返すと、マリスは表情を改めて口を開く。


「ところでリア様、お話があるのですが……」

「えっ? 話ってなにぃ~?」

「とても、重要な事です……此処では何ですので、こちらに。」

「あっ、うん。」

「がお~っ?」


……


…………


……十数分後。

場所は変わって、ランスの部屋である高級寝室。

その部屋の片隅で、ランスは机に向かいながら"何か"を書いていた。

地面に正座していたシィルは、そんな彼の背中をポカンと見ていたが、
暫くしても書き終わらないようなので、恐る恐る聞いてみる。

普段雑務は全て自分に任せるランスが"こんな事"をしているのは非常に珍しいからだ。


「あ、あの……ランス様?」

「かきかきっと(できたできた)。 ……ん、何だシィル?」

「一体何を、書かれているのですかッ?」

「あ~、大したモンじゃねぇよ、ただの"離婚状"だ。」

「り、離婚~!?」

「何を大袈裟に驚いてやがるッ?」

「そ、それは驚いちゃいますよ~! 離婚と言う事は、まさか王様を――――」

「あぁ、辞める。(当初の目的も果たしたしな)」

「それでは……こ、これからどうするんですかぁ?」

「そんな事は心配するな! お前は黙って俺様に付いてくりゃ~良いんだ。」

「!? ら、ランス様~……」

「おいッ、返事はどうしたッ!?」

「あ、はいッ! 私は何処までもランス様に付いて行きますッ!!」

「ふん、当然だ! お前は一生俺様がコキ使ってやるんだからなッ。」


なんと、ランスが書いていたのは離婚届け。

字は非常に汚いが、書いてある事はまさに離婚を促す内容だった。

つまり、ランスはリーザス王を辞め、再び冒険者に戻るつもりなのだ。

流石にその大胆な判断にシィルは大きく慌てるが、
今のランスの立場があまり好きでなかったシィルの感情が、
"驚き"から"嬉しさ"に変わるのに、そう時間は掛からなかった。

よって興奮気味にシィルが立ち上がり、ランスがニヤリと笑った時だった。


≪コンコンッ≫

「きゃっ!」

「……(来たか)」

「ランス王、私です。」

「おう、開いてるぜ? 入れ。」

「失礼します。」

≪ガチャッ≫

「~~……」


突然ノックの音が響き、シィルがビクりと体を強張らせる。

対してランスは冷静であり、応答してノックをした者を部屋に入れた。

その者はマリスとリアであり、リアは何故か俯いて暗い様子だった。


「(ままま、マリス様とリア様~……)」

「何の用なんだ?」

「ランス王……"離婚状"は書かれたのですね?」

「おう、たった今な。」

「……ッ!!」


"離婚状"と言う言葉に、リアはビクりと体を揺らした。

確かに当たり前の反応であるが、実はリアの"ビクつき"は、
ただ単にランスが離婚状を書いたと言うことダケが原因ではない。

一方、シィルのハートもドッキドキである。

てっきりランスとコソコソとリーザス城を離れるのだと思ったが、
いきなり最重要人物であるマリスとリアが現れ、しどろもどろになっている。

そんなシィルの感情はさておき、マリスは真剣な表情で続ける。


「その件について……リア様からお話があります。」

「ほう。」

「……さあ、リア様。」

「うっ、うん……」

「がおがお、がおがお。」

「(はるまき……リアを応援してくれるのッ?)」

「あわわわっ。(ランス様ぁ、どうなっちゃうんですか~っ?)」


いつの間にか立ち上がって腕を組むランスに、
リアはまるで告白する下級生のような足取りで彼の前に歩み寄る。

非常に緊張している様子であり、今までのリアからは想像できない覇気の無さだ。

彼女はマリスの母のような眼差しとはるまきの声で勇気付けられながら、
息を吸い込んで吐き出すと、ランスを見上げて言った。

まさに、一世一代の大告白と言っても過言ではない。


「ダーリン、わたしも――――!」


……


…………


……数時間後、午後2時。

昼を挟んで謁見の間には、リーザスの将軍達が集められていた。

いずれも大陸制覇の戦いで、大きく貢献した将軍達だ。


「エクス、何か"重大発表"があると言うらしいが、どのような事なのじゃろうか。」

「復興支援活動についての会議は先週終わりましたから、僕にはなんとも……」

「会議とは相場が違うでしょう、キングとリア様による重大発表なのですから。」

「マリス様も凄ぇよなぁ、何せ俺達全員が出席出来る様に時間を調節したんだからな。」


まずは黒の将軍バレス、白の将軍エクス、赤の将軍リック、青の将軍ゴルドバ。

そろそろ時間が近いが、まだ現れないランス・リア・マリスを待って、
召集による些細な考えを口々にしているようだ。


「ランス王とリア王女の事だ、くだらない事で無ければ良いが……」

「ハウレーンさ~ん、そんな事いっちゃダメですよお。」

「……(うぅむ、もしかして、私が復興活動に手を抜いていた事がバレたのだろうか……)」

「もうそろそろ、時間だけど……(ランス君、まさか……)」


前途の彼らは当然として、副将のハウレーン・メナド・キンゲート、親衛隊のレイラ。

この者らも、マリスの力によってスケジュールが調整され、この場にやってきた。

中には遠い所から戻ってきた者も居るが、不満がある筈も無い。

何せ、リーザス全ての将軍と顔を合わす機会は非常に少ないのだから。


「……(王様、私は判っています。 リーザスはこれから……)」

「……(アールコートの言ってた事が正しければ、今度は私がッ……)」

「(どんな内容であれ、私に出来る事であればやらないと。)」

「ふぁ~、ねむい、ねむいろぉ~。」


そして、アールコート・ラファリア・メルフェイス・アスカという、
リーザス国の幹部全員が謁見の間に集められているのだ。

他の国の者は出席していないが、これは"リーザス国"だけに関わる問題故だ。

……と、将軍達が待つ中、彼らが待っていた三人が姿を現した。

十数人の将軍達が見守る中、偉そうに王座へと歩き、
その前で止まると向きを変え、両手に腰を当てながら、将軍達を見下ろす。

そんな彼の左右やや後ろにマリスとリアが控えると、ランスは大声で言った。


「おう、お前ら! 今日はリアから大事な話がある!!」

「なんと、リア様からですとッ?」

「(一体、どのような事なのでしょうか……)」

「みんなーー、静かにしてぇーーっ。」

≪……しーん……≫


王女である"リアから"の重大発表による召集。

今までこのような召集では、ランスとマリスが内容を言うのが殆どだった。

だが今回はリアが言うという事で、少し将軍達はザワつくが、
一歩足を踏み出したリアが口を開くと、あっさりと沈黙が訪れた。

それを確認すると、リアはまるで小学生低学年の先生のような口調で叫ぶ。

彼女にとっての"本当の幸せ"を、これから歩んでゆく為に。


「わたしは……わたしは今日限りで王女様を辞めちゃいまーーーーす!!」

『え、えええぇぇぇ~~~~ッ!!!?』


……


…………


リーザス国の王女リアの、突然の辞任。

そして、ランスとの離婚、及びリーザス王・ランスの辞任。

結果"リーザス国の君主"が今日限り居なくなり、"次期国王"が必要となった。

よって"バレス・プロヴァンス"が直ぐさま国王に就任し、
荒れ果てた世界を復興させるため、マリス・アマリリスを筆頭に将軍達と、
新しい"リーザス"という国を、各国との連携も兼ねて創り上げる事になったのだ。

正直なところ展開が凄すぎるが、アールコートなど、
一部の者はこの流れを予測しており、リーザスが纏まりを欠くという事は無く、
皆ランスとリアが築いた国を守ろうと、引き続き活動を再開するに至った。


「ランス様、リア様……あっ!(来た!)」

「シィル、ちゃんと待ってたな?」

「はい! 勿論ですっ。」

「し、シィルぅ……重いよぉ、半分持ってぇ~……」


……ここで話を振り返ると、マリスが朝リアを待ち、言った事は、
"リーザスの王女を辞めてランスと冒険する"という事を促す内容だったのだ。

以前から"全てが終わったらランスはリーザスを去る"という事を推理していたマリスは、
創造神との戦いの後にランスと話し、"リアを連れて行って欲しい"という事を告げ、
ランスが"離婚状"を書き終えたタイミングでリアに想いをぶつけさせたのだ。

東京でマリスとエッチする前に、耳打ちされた彼女の"提案"とは、
"もしリーザスを去る気があるのならば、リア様をお連れください"と言う事だったのである。

その為には"リアが東京で得た強さを失わない"という条件があり、
何より"ランスの許可"が必要だったのだが、東京の3週間でランスは、
リアに対する価値観が若干変わり、"こちら"でもリアと冒険する事を認めたのだ。

離婚状を書いたランスに想いを告白する時、断れる事を考えると、
リアは"愛する者と離れてしまう"という恐怖で胸が張り裂けそうだったが、
自分の事を"わたし"と言い、精一杯の"告白"をランスにあっさり受け入れられると、
感激のあまり涙してランスに体当たりしてしまう程だった。

こうして、"リーザスの王女"とう地位よりも"ランスとの冒険"を選んでしまったリアは、
フードを纏ってマリスを別れの挨拶を済ませ、こっそりとランスとリーザス城を出ると、
城下町の外れに待たせていたシィルに"金塊"を受け取って貰いながら荒い息をついていた。

そんな地面に伏せるリアを見下ろしながら、ランスは容赦無しに言う。


「全く情けないヤツだ、その程度で根を上げるようじゃあ、俺様との冒険は務まらんぞッ?」

「そっ、そんな事言ったってぇ……はぁはぁ、全部で50キロもある金塊なんだよぉ~?」

「がおがおっ。」

「大丈夫です、リア様。 ちゃんと半分お持ちしますから。」

「シィル! お前もお前だ、リアはもう王女じゃなくって、"冒険者"なんだぞ?」

「あう……で、ですけど……」

「別に良いじゃなぁい、わたしはダーリンのパートナーだけど、シィルは奴隷なんだし~。

≪ぽかっ≫

 ひゃんっ! い、痛い~……」

「調子に乗るなッ、もうシィルを苛めたら許さんからなッ!」

「は、はぁい……(でも、いつかはダーリンをぉ……)」

「ランス様……(今の一言、嬉しかったです!)」

「良いか!? シィルを苛めて良いのは俺様だけなのだ、がははははは!!」

「……(う、嬉しく……無いかも……)」


25キロの金塊と旅道具を背負うシィルとリアを後ろに、ランスが笑い声を響かせて歩く。

二人とも旅道具と一緒では若干重そうだったが、表情には笑みがあった。

そんな中……ある程度歩くと、ランスは腕を頭の後ろで組みながら言う。


「さ~て、これから何処に行くかなぁ?
 アニスとジルはゴタゴタしてて結局犯れなかったし、
 香やカミーラともあまり会わなかったしなぁ……そいつらの所にでも行くか!」

「ダーリン! それよりも、ちゃんと冒険しようよ~、前みたいにー!」

「えっ? "前みたいに"ってどう言う事ですか……?」

「んんっ? それは秘密だ。」

「そうそう! わたしとダーリンだけの秘密だもんね~ッ。」

「そ、そんなぁ~!」


……互いに負けないランスに対する想いがあるシィルとリア。

これから3人の間に、多くのすれ違いやトラブルが起きるだろうとランスは感じていた。

しかし、ある意味面白そうであり、新しい門出に彼は期待に胸を膨らませていた。

まるで……仲魔を求めて出発する、"悪魔召喚プログラム"を入手したときのように。

よってランス達の新しい冒険は……今ここから、始まるのである。


「がははははは!! 俺様世界一ィィーーッ!!」


――――幸福、ランス再び冒険へ……!!



[2281] Re:Last Part
Name: Shinji
Date: 2006/06/30 19:26
Last Part


あれから、更に数ヶ月が経過した。


≪ヒュウウゥゥ~~……≫


……大阪城、天守閣。

まだ朝早い時間帯、香姫が微かに風を感じていた。

なにやら遠くを眺めているようで、快晴の空よりも其方の方が気になるようだ。


≪ダダダダダッ≫

「失礼いたしますッ!!」

「何ですか? 騒々しい。」


そんな中、彼女の耳に慌しい足音が聞こえたかと思うと、
一人の"侍大将"が入室し、ある程度中へと進むとその場で跪いた。

天守閣に居た香姫は彼の声は聞こえたものの、振り返らなかったが、
部屋の中に居た"永常"は、向きを香姫の背中から、
侍大将へと移すと、香姫の変わりに訪問した相手に対応した。

すると、侍大将は表を上げずに彼女達に向かって低く大きな声で言った。


「先程、佐渡の方で中規模な戦闘行われているとの早馬がッ。」

「何ですって、まさか一揆? もう少し詳しくお話しなさい。」

「はっ……一揆ではなく、どうやら賊が略奪をしているとの事ですッ。」

「まぁ、こんな時に……」

「佐渡には兵が僅かしか置いておられませぬッ、これでは被害が増す一方。
 ここは何卒! 私(わたくし)に兵を出す許可を頂きたい! 何卒ッ!!」

「そうですね、五十六殿は生憎"長崎"におられますし――――」


現在のJAPANのトップは、ランスに直々に任命された"山本五十六"である。

その彼女が現在は長崎での任務で出払っているので、
今の最高責任者は香姫であり、軍を動かすには"一応"彼女の許可を貰わなくてはならない。

"本来"の香姫は部下に命令する事に慣れてはいないようで、
侍大将は五十六に命じられていたように、香姫のGoサインをとりあえず確認しに来ただけだ。

よって永常はこの"侍大将"は五十六の腹心で有能でもある事から、
まだ天守閣から出てこない香姫の変わりに遠征を許可しようとした。

しかし、面倒な事は五十六の腹心に任せ、香姫に負担を掛けないという気遣いは必要無かった。


≪ギシッ≫

「いえ……私が行きましょう。」

「……は? い、今何とッ?」

「ひ、姫様!?」


今まで何も話さず、遠くを見ていた香姫が振り返る。

同時に出た彼女の言葉は意外な事であり、永常と侍大将は目を丸くした。

その反応を気にせず、ゆっくりと香姫が天守閣を床を軋ませながら出てくる。


「永常、そして貴方。 暫く大阪は任せましたよ?」

「は、ははっ!!」

「しっ、しかし姫様!」

「良い、永常? これからは五十六と私が"この国"を引っ張っていかなくてはならないのよ?
 そんな私が何もしないで居るようでは、民は決して付いて来てはくれないでしょう。」

「ですが……わざわざ姫様が危険な場所へと赴く事は――――」

「それは心配要らないわ、私はお父様から受け継いだ"力"があります。
 お父様は"力"を良い方向へと使おうとはしませんでしたが、
 私は少しでも"この国"に為に"力"を役立てなければなりません。」

「…………」

「ふふ、そんな顔しないで? 大丈夫よ……永常、二十一の事は任せたわよ?」

「は、はいー。」


"織田信長"の娘である香姫は、確かにある程度"力"を持っている。

しかしそれは誤魔化しであり、東京で"天魔"として授かった、
数々の"魔法"及び魔力をJAPANの為に役立てようとしているのだ。

その高い魔力の流れはすぐさま侍大将に伝わり、彼は慌てて再び頭を下げる。

永常も彼女の大胆発言は心配だったが、香姫は優しく微笑むと階段を下りていった。

よって……残された侍大将と永常だが、二人は口々にした。


「香姫様……暫く見ないうちに立派になりましたな。」

「そうですね、ここ最近は特に……」


……この後、JAPANは二人の女性によって長らく治められる。

武に秀でる"山本五十六"と、魔に秀でる"香姫"の二人によって。

そして、互いに"一人の男"の事を胸に、逞しい青年・二十一を育ててゆく事となる。


「(ランス様。 たまには、二十一の……私の顔を見に来てくださいね?)」


……


…………


「千鶴子様ー!」


≪だだだだだだっ!!≫


「千鶴子様ー、千鶴子様ー!」


――――ゼス王国、千鶴子の塔。

最上階の一室でデスクワークをしていた山田千鶴子(ドレス姿)の元に、
アニス・沢渡が慌(あわただ)しく走って来た。

だいぶ前に彼女によって破壊されてドアが無くなっている入り口を通り抜ける。


「来たわね。」

「千鶴子様ッ、このアニスに何の御用ですか?」

「アニス、私ちょっと手が離せないの。
 この"書類"を大至急、マジックの所まで届けてくれる?」

「はい、わかりました! それでは早速ッ、トラポ~……」

「ち、ちょっと待ちなさい! どこで覚えたか知らないけど、
 瞬間移動は使わないで、ちゃんと走って持って行きなさいッ。」

「えぇ~、どうしてですか~ッ?」

「この前の瞬間移動の時……貴女、間違えて"書類だけ残して"テレポートしたでしょ?
 あの時みたいに、結局私が郵送するなんて事にはしたくないのよ。」

「うっ……痛いところを突いてきますねッ。」

「とにかく急ぎなの! 早く持って行きなさいッ!」

「わっ、わかりましたーっ。」


奇跡的に"生き返った"事になったアニスは、聞こえは悪いが、
今では再び千鶴子の使い走りとなり、文字通り王国内を走り回っていた。

東京での一件は、彼女の心に様々な傷や疑問を残したが、
考えるのが面倒であり、人に相談(説明)できる程頭の良くないアニスは、
(彼女にとっては)深く考える事は止め、手に入れた"今"を精一杯生きる事にした。

よって今日も千鶴子に、彼女の能力と全く比例しない命令を受けるが、
アニスにとって彼女から貰える仕事は何でも最重要任務と言う認識があり、
シュタりと額に片手を添え、アニスが部屋を出てゆこうとした時だった。


「――――待って。」

「ッ? どうしました~?」

「暫く経つけどアニス……どうして、何も言わないの?」

「何もって、なんですかあ?」

「私が貴女を、ピカの材料にした事を……よ。 恨んでいるんじゃないの?」

「…………」

「最初何食わぬ顔をして戻って来た時、私に復讐する機会を狙っているのだと思ったわ。
 けど、貴女は何も変わっていなかった。 ちょっとお馬鹿が治った程度だけだった。」

「……嫌ですねぇ、思い出させないでくださいよーっ。」

「ご、ごめんなさい。」

「千鶴子様、アニスは恨んだりなんかしてません。
 "あっち(東京)"で何となく判りましたが、私にも(ピカの材料にされた)問題はあったんです。
 私は今まで、ちっとも千鶴子様の役に立っていませんでしたから。」

「否定はしないけど……本当に、悪かったわ。」

「謝らないでくださいよ~ッ、とにかく……このアニス、
 千鶴子様のお役に"もう少し"立つまでは、此方に居させて頂きますッ!」

「……わかったわ。 ところで、"あっち"って何の事――――」

「!? そっ、それでは行って来ます! トラポォーートッ!!」

≪――――バシュンッ!!≫


リーザス城に生還したアニスは、ランスと対面はしたものの、
結局ゴタゴタでセックスは出来ず、再会した千鶴子に付いて行った。

最初千鶴子は腰が抜かさんばかりにアニスの登場に驚いたが、
ランスの思い付きのハッタリで無理矢理納得させられ、
こうしてアニスの監視及び世話と、新ゼス王国の重役を任されたのだ。

千鶴子はランスを慕っているが、リーザス軍との戦いによって大きな犠牲を出したゼスと、
ピカの材料として殺したアニスへのせめてもの償いの為、今に至る。

アニスにとっても、千鶴子の"役に立つ"まで彼女の傍に居るというのは、
ある意味"ケジメ"であり"目標"であり、それからランスを追っかけるのが良いと思った。

さておき、千鶴子の疑問で慌てて"トラポート"してしまったアニスだが、
彼女が消えた後にハラりと"書類"が落ちる。

それに千鶴子は苦笑して立ち上がると、ゆっくり書類に近付き、膝を折って拾う。


「ふふ……全くもう、やっぱり失敗したじゃない。」


……この更に数ヶ月、アニス・沢渡はゼス王国から姿を消す。

千鶴子の指導によって、そこそこ一般常識が身についたアニスは、
"冒険者"となって第二の人生を歩んでいく事を決めたのだ。

そんなアニスの冒険の旅路を阻(はば)んだ者達は、
"あいつは滅茶苦茶な女だ……"とか"強すぎる……いろんな意味で"等と、
大陸のに数多くの噂を生み、波乱をも撒き起こすのだった。

しかしアニスは止まらない……再び恩人である、ランスと再会する為に。


……


…………


……カミーラの城。

其処の庭園で、テーブルを挟んでチェアーに腰掛けていたカミーラとジル。

現在魔人界はホーネトが秩序ある領域にしようと取り仕切っているが、
政治に興味が無い二人は、特に何をする事も無く時を過ごしていた。

数ヶ月の時など彼女らにとっては短いが、だからといって一瞬で過ぎる感覚では無い。


≪コッ、コッ……≫

「カミーラ様、ジル様、お茶が入りました。」

「…………」

「ご苦労だったな。」

「では、失礼します。」


基本的に口数が少ないカミーラとジルだが、何故だか二人は相性が良いようだ。

だからといって会話が弾む事は今まで一度も無かったが、些細な事。

その"いつもな雰囲気"な二人に新しく使徒となった"バトルノート"が近付く。

彼女は無駄の無い手付きでテーブルにティーカップを置くと、
頭を下げて来たときと同じように、足音を響かせて庭園を去っていった。

ジルはティーカップに口を付けながら、去ってゆくバトルノートの後姿を眺める。

そして去ったのと同時に半分ほど水分を口に含み、カップを置くと言った。


≪コトンッ≫

「まさかお前が、同性の"使徒"を作るとはな。」

「…………」

「もう、男に興味は無くなったというのか?」

「……いえ……私が興味がある男は……一人しか居ませんから。」

「ほぅ。」

「…………」

「…………」

「~~……」

≪し~ん……≫


カミーラの答えに、ジルが相槌をうつと訪れる沈黙。

そのまま一分ほど経過すると、カミーラの頬が徐々に赤くなってくる。

対してジルが口元をニヤりと歪ませると、カミーラは残りを飲み干した。

するとまた沈黙が経過するが、ジルも残りのティーを飲み干すと、
立ち上がり、視線の角度を上げているカミーラを見下ろしながら言う。


「では、行くかな。」

「……ジル様?」

「そろそろ退屈して来た頃だろう? 出かけるぞ。」

「…………」

≪ガタッ≫


ジルは何処に行くかは何も言っていないが、カミーラは頷くと無言で立ち上がる。

彼女が向かおうとしている場所が、何となく想像できたからだ。

この数日後、目標である一人の男が、冒険の合間に宿泊していた宿で、
突然の二人の女に夜這いを受ける事になるが、それはまた別の話である。


……


…………


≪――――ガチャッ≫

「ふぅ……」


午前0時、リーザス城のとある一室。

ようやく一日の仕事を終えたマリス・アマリリスは、
自室に戻ると、上着を投げ捨ててベットに腰掛け溜息をついた。

ようやく彼女の仕事は一段落つき、疲れはあるが何故か表情は冴えていた。


「……ようやく、リーザスも落ち着いてきたわね。」


マリスが漏らしたように、リーザスはランスとリアが抜けた穴を埋める事が出来ていた。

政治の知識をマリス程持たない将軍達は最初は動揺を隠せていなかったが、
マリスの指導により様々な事を学習し、もはやリーザスはマリスだけが纏める国ではなくなった。

彼女がやろうと思えば、今までのように自分がリーザスを引っ張ってゆけるが、
全てはリアの為の引っ張りであり、リアが居なくなった今、マリスがするのはリーザスの後始末。

自分が居なくても、もはやバレス達がリーザスを纏めれるようにする義務があったのだ。


「そろそろ私も、"この世界"から身を引くべきなのかもしれないわ。」


新しいリーザス(バレスの意思により名はそのまま)が誕生してまだ半年も経っていないが、
エクスとアールコートを筆頭に優秀な将軍達は、マリスの知識を次々に吸収。

やがてそれはマリスが認める程にまでなり、もはや教える事は無くなってしまったのだ。

全く無いといえば嘘になるが、100%全ての知識を押し付けなくても、
ある程度自分の知識を生かしてリーザスを引っ張る能力が将軍達にはあるのだ。


「リア様、ランスさん……許して頂けますよね?」

≪カチャッ≫


"東京"で戦いを共にした二人の顔を思い浮かべ、マリスは立ち上がる。

そのまま部屋の片隅まで歩くと、一振りの"剣"に手を掛ける。

それは"雷神剣"であり、そのままランスから預かっていたものだ。

この後、長きに渡って自分の愛刀となる雷神剣を見ながら、クスリと笑みを零すマリス。


「まだまだ子供ね……私も。」


……翌日、マリス・アマリリスはリーザスを去る。

更に数日後、彼女は29歳と言う年齢で初めて冒険者ギルドにその名を登録した。

リアと香姫もだが、マリスも"東京"での冒険を有意義に感じており、
それをもっと経験したいが為、新たな人生を歩んでゆく事にしたのだ。

大きな目標は特に無いが、あるとすれば何処かで"ランス達と会いたい"と言う事。


「マリスさーん、宜しくお願いしますねー!」

「ふふ……こちらこそ、これからお願いします。」


ランス達との再会を期待しての旅路の中、マリスは一人の冒険者とも再会する。

それは同じく冒険者になってそんなに時の経たない、アニス・沢渡。

この出会いで二人は行動を共にするようになり、
二人(殆どマリスだが)の抜群コンビネーションは大陸に名を残す実力を見せた。

どうやら……ランス・リア・シィルと巡り合う事は、そう遠くは無いかもしれない。


……


…………


……最後に一度だけ、場面は"東京"に戻る。

そこは"カテドラル"の最上階であり、広間の中心でミカエルが腕を組んで立っていた。

彼は何者かを待っていたようで、その人物がやって来ると、瞳を静かに開いて言う。


『来たか……ウリエル・ラファエル・ガブリエル……そして、
 かつての友までもを殺し、あくまで神に歯向かおうとする、偽りの救世主よ。』

「…………」

『"エストマ"で身を隠し、確実に幹部クラスだけを仕留めて行く貴様の所業、
 見事なものだった……ましてや、"アスラ王"までも倒してしまうとは思わなかった。』

「…………」

『メタトロンも、最後の"処理"で天に戻ったようであるし、残ったのは私だけと言う訳だ。』

「…………」


基本的に、カオス側もメシア側も、多くの部隊が自勢力を固めている。

普通に進入したのでは、たちまち大軍に囲まれ、あっという間に殺されるだろう。

そこで自分より実力の劣る相手から全く自分の姿を見えないようにする、
"エストマ"……その魔法で、ミカエルの目の前に居るサマナーは、姿を現して勝負を挑み、
セラフやアスラ王等多くの強力な悪魔を"仲魔"と共に打ち破って来たのだ。

そんな自分に向かって武器を持つ"デビルサマナー"と、
彼女の"パートナー"睨み返しながら、ミカエルは槍を片手に話を続ける。


『しかしッ!! 最後の最後で神は私にチャンスを下さった……!!
 此処で貴様らを倒せば、全ての手柄は私のモノになるという訳だッ!!』

≪バサッ! バササッ、バササァッ!!≫

「……!!」


ミカエルが槍を天井に突き上げながら叫ぶと、現れる何体もの"天使"。

パワー・ヴァーチャー・ドミニオン・ソロネ・ケルプ。

全てミカエルの部下であり、目の前のサマナーを倒すために集められていたようだ。

彼らは空中を浮遊しながら、既に戦闘態勢に入っている。


『さぁ、貴様も仲魔を召喚するが良い!! そして始めよう、
 どちらが生き残るに相応しいか、これから決めようではないかッ!!』

「……召喚!!」

≪バシュッ! バシュバシュバシュバシュゥゥ……ッ!!≫


どうやら戦いの前からインプットしていたのか、エンターを押すだけで、
複数の屈指の"仲魔"が彼のアームターミナルから召喚される。

……直後! 互いに全員が相手に向かって突進し、最後の戦いの火蓋が気って落とされた。

これから東京は、誰の手で世界を創り上げていかなければならないのか?

秩序と支配を望む神か? 破壊と混沌を望む悪魔か? それとも……


『うおおおおぉぉぉぉーーーーッ!!!!』

「はああああぁぁぁぁーーーーッ!!!!」


≪ガキイイイイィィィーーーーン!!!!≫


―――――――――人間か。


=鬼畜召喚師ランス=


=THE END=



[2281] Re:鬼畜召喚師ランス あとがき
Name: Shinji
Date: 2006/07/01 03:56
これにて鬼畜召喚師ランスは終了です、
約五ヶ月間にわたってのご愛読、ありがとうございました。

ほんの思いつきで投稿させて頂きましたが、
正直こんな続くとは思わなかったので、感想をくれた皆様のお陰です。
カテドラルやアニスの話は当初全く考えていなかったので、
アニスとジルのエッチシーンを書く余裕が無かったり、
無理矢理な展開がかなり目立ってしまいましたが、
完結する事が出来てできて非常に満足している次第です。

最後にだけヒーローが出ましたね、ミカエルと戦って終了です。
どっちが勝ったかはご想像にお任せしますね^^;
ちなみに、原作をプレイした方の9割はエストマを使ったと思います。
普通に両サイドのボスを各個撃破するのは現実的に考えれば、
エストマ無しでは絶対に出来ないと思うんですよねぇ……

……鬼畜王ランスと他の作品ののクロスオーバー。
もしかしたらまた書きたいかもしれません。
ファイアーエンブレム=鬼畜の剣= とか(笑)
今の予定はありませんが、次回作でまたお会いしましょう~。

PS:情けない事に誤字が多いですが、本家掲載時修正致します^^;


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