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[24056] 【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト(現実→擬似RO世界に転移)】
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2010/11/06 21:29
……平凡な生活を送り、ようやく大学を卒業した22歳の春。

厳しい就職戦線を潜り抜けて、実家を離れた場所とは言え晴れて内定が決まった迄は良かったけど。

明日から俺の社会人一年目が始まるんだッ! ……と一人で意気込んで寝て目が覚めた時。

何故だか知らないけど、地面に生える雑草を地面に寝巻き+スリッパ姿で立ち尽くしていました。


「???? はぁ~ッ? ……何処なんだよ此処」


寝ボケていた為かリアクションは乏しく、俺は夢だと思い込みペタペタと林を歩く。

そんな中 現れたのが、ドラクエのスライムみたいなポリーン♪とした可愛い生き物だった。

対して夢を素直に楽しむ事にした俺がペタペタとソレに触ると、何とアレは体当たりをして来るッ!

しかし楽天的な考えて受け止めようとすると、ソイツは俺の頭をスッポリと包み込んだ。


「うッ!? ぐぁ!! ぐおぇぇええええ……ッ! ゴボっ!」


ポリーンとしたのは、どうやら俺を窒息死させようとしているらしく必死に暴れる俺。

ソレと同時に今 経験している事は普通に苦しいので、コレは夢じゃ無いと判断した。

だとすれば死ねないので、俺は藁にも縋る思いで地面の石を掴むと自分の頭を強打!!

するとポリーン(命名)はバラバラに弾けたので、其処には奴の体液を吐き出す俺が残された。




……




…………




……十数分後。


「はぁ……はぁ……居ないな? ……良し……」


呼吸を整え周囲に同じようなモノが居ない事を確認すると、俺は自分の昨日の事を考える。

すると段々と思い出して来た。現代日本での自分の命は……アパートの火事で終わったと。

恐らく何処かの部屋のバカがトラブったらしく、慌てて逃げ様としたが間に合わなかったのだ。

特に苦しんで死んだ覚えは無いので、一酸化炭素中毒あたりで死んだってのが妥当な所だろう。

しかしだ。何故俺は逝ったと言うのに上下黒のパジャマ姿で此処に居るんだろう? 意味不明だ。

人生が遣り直せるのなら嬉しいんだけど、出来れば赤ん坊な状態でタイムスリップが良かったぞ。


「それにしても……さっき襲ってきたヤツって……"アレ"だよなぁ?」


とりあえず俺は死んだのだと結論付けて、適当な木に背を預けながら今の世界の事を考える。

何せ先程 俺を窒息させようとして来たのは……学生の頃に遊んでいたネトゲの魔物だったのだから。

奴を倒して"コレ系"のモンスターのコアとも言える収集品をドロップしたので、間違いは無い。

だったら先程の様に触ったりしなければ襲われないと思って同じヤツを探して眺めてたら的中。

やはりゲームの設定と同様にノン・アクティブ・モンスターだった様で此方を無視して消えていった。


「ま、マジかよ……ハハッ。卒業と同時に引退したってのに……」


もう少し何処かで見慣れた気がする雑木林を歩いていると、ポリーンっとしたの以外にも魔物を発見。

やはり見た事が有りノン・アクティブ・モンスター。手を出さねば攻撃をして来ないのも一緒だった。

よって其の時点で俺は辞めたハズのネトゲの中に死んだと同時に転移してしまったのだと理解した。

正直 普通に"あの世"に送ってくれた方が嬉しかったが、人間一度 死んだと思えば開き直れるモノだ。

あのネトゲには相当ハマってたし、折角だから楽しんでみようと考え……俺は街をペタペタと目指す。

知識が無ければ餓死でもしてるだろうが、マップは殆ど頭に入っているので特に迷う事は無かった。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト(現実→擬似RO世界に転移)】








……大陸一の大都市プロンテラ。


「ご苦労さん。ほれッ! 今日分の給料だ」

「有難う御座います!!」


"この世界"の中心に位置する王都であり、殆どのプレイヤーが此処に集まっていると言って良い。

"こちら"でも当然10万人以上の人間が暮らしているが、違うのは やはり冒険者が少ないという事。

ゲームでは目に入る全ての人間(プレイヤー)が必ず一匹の魔物を倒した経験くらいは有るだろう。

だが戦いとは無縁の生活を送っている住民達が大半で、モンスターを倒し生計を立てる人間は少ない。

大都市だけで有って戦わずとも生計を立てる方法は幾らでも有り、俺は暫く日雇いの仕事を続ける。

少なくとも最下級の魔物を容易く倒せる"武器"が必要であり、ようやく中古のブレイドを購入した。


「ふ~む、コレだけ有れば"この程度"は出すが……どうする?」

「其の値段で十分です。今度も宜しく御願いしま~す」


1ヶ月働いて攻撃手段を手に入れると、俺はノン・アクティブの敵を狩りまくってレベルを上げる。

其処で気付いたのは、此処の人間達は魔物を倒す事で強くなるって事を重要視していないと言う事だ!

流石に発展途上の村や集落では、魔物を倒すのが適した鍛錬だと教えられている らしいのだが……

プロンテラの教育(常識)では"無駄に戦いに赴くは無謀、訓練に励み友と挑め"と教え込まれていた。

何故なら人間同士で訓練しても僅かな経験値は入るらしいので、国が其方を推奨しているらしいのだ。

だがソレも正しい。ゲームと違って雑魚は即 湧きでは無く一匹を狩るのに少なくとも15分掛かる。

運が悪いと1時間掛かる事も有り、そう言う時に限って倒した際に何も落としてくれないのである。

されどレベルアップと小遣い稼ぎが両方出来る為、学校に金を払って訓練など遣ってる暇は無いのだ。

命の危険が無いのが利点なんだろうけど、狩をしてギリギリで黒字なのでハナから選択肢すらない。


「ようこそ大聖堂へ。武・盗・技・聖・魔・商……汝の心を声に」

「自分は"聖"の道を選ぼうと思います」


……そして更に王都の周辺の最下級モンスターを地道に狩り続ける事1ヶ月。

俺は王都に幾つか有るウチの1つの大聖堂に向かった。目的はゲームで言う"転職"をする為である。

本来ノービスっぽい位置付けから一次職である6つの職業に成るには、各ギルドでクエストを行う。

されど"そんなモノ"は無くプロンテラに限っては義務教育でノービスを卒業する経験値が溜まる。

よって中学卒業の年齢辺りで学校の"イベント"として全員が儀式を行い6つの進路を選択するのだ。

此処で選べる許可が神父から得れなかったら留年。得れれば卒業となり、成人となるのである。


「その言葉しかと神に届いた様です。道を踏み外す事 無きよう」

「分かりました。有難う御座います」


されど儀式を終えたダケで実際ゲームで言う"冒険者"になるにはギルドに登録する必要が有る。

例えば"剣士"になりたいのなら、更に鍛錬or狩りしてレベルを上げ、次はスキルを習得するのだ。

"スキル"とは先程の儀式で"道"を選んだ後にレベルアップ後に頭に浮かんで来るモノである。

ゲームではスキル・ツリーと言うモノが有って覚えたいスキルをレベルアップごとに選んでたんだが、
イキナリ頭から強制的に浮かんでくるとは驚きだった……一週間後に回復魔法(Lv1)を覚えたしな。

さて置き。話を戻すと……剣士に成って"バッシュ(強打)"を覚えたら一段階 進んだ事になり、
更なる経験値で"マグナムブレイク(範囲攻撃)"を覚えたら剣士と言う職でギルドに登録できる。

何故なら命の危険性が伴う"ギルド"に登録するには、剣士なら最低でも"●●を一撃で破壊"したり、
"一撃で複数の的を破壊する"と言う試験が存在し……ソレが出来なければ落とされるからだ。

つまりレベルアップをして"其のスキル"を覚え、試験で使用せねば通る事は不可能なのである。

だったらレベル上げさえすれば簡単……なんだけど、実際に遣ってみるとレベルアップは遠い。

理由はノービス卒業の経験値を得た直後 必要経験値が倍増する為に、一筋縄ではいかないのだ。

よって義務教育が終了して儀式を終えたにせよ……冒険者ギルドに登録する"物好き"は少なく、
武を選べば畑を耕し・盗を選べば飛脚をし・技を選べば料理を作り・聖を選べば教師を目指し・
魔を選べば本を書き・商を選べば実家の店を継ぐなど……様々な普通の生活を続ける者が殆どらしい。

しかしながら。俺は冒険を楽しみたかったので、更に一ヶ月掛けて更なるレベルアップを目指す。

回復魔法を覚えてからは、狩場を危なくない程度に上げる等して無駄に時間を過ごそうが我慢した。


「おめでとう。アンタは見事"聖職者"の試験に合格した! ……ホレ、コレが証明書だ」

「どうも……って、このアルファベットは何ですか?」

「お前さんの"ランク"だ。Eから始まってランクが高いほど金になる依頼を受けれるぞ」

「ほほ~ッ」

「最低でも二次試験を受けるにはC以上が必要だ。だがEランクの仕事は取り合いだから頑張れよ?」

「はははッ。まァのんびり上げますよ」

「しかし野郎サンなのに"聖職者"を選ぶのは珍しいな。最初は間違えたかと思ったぜ」

「確かに全然少なくて驚きましたね……でも自分は適職だと踏んでるんで問題無いですよ」


晴れて俺は"聖職者"として冒険者ギルドに登録されたワケだが、オッサンの言う通り女性が殆ど。

何故なら女性は男性と違って精神力(MP)が設定として高いので、支援職や魔法職が向いているのだ。

逆に言えば剣士を始め王都に就職も可能と言う二次職の"騎士"は男性が95%を占めているとの事。

つまり男女の体力は現実に忠実で、100メートル走を同Lvの女性が男性より速く走れる事は無い。

しかし……やはりファンタジーと言う事も有ってか、初期パラや英才教育の影響で天才も存在する。

どうやら"この世界"ではゲームの様にパラメーラー振りも出来ない様であり大体 決まっている模様。

ちなみに俺は聖職者の平均と比べると、体力的には150%以上有るが精神的には75%程度らしい。

されど後者が50%と言われなかった時点で適正は有ると思うので、ポジティブに考える事にしました。


「ホレ。この土属性のメイスで良いのかい?」

「こんダケで足りますか?」

「この品は結構 出回ってるからな。構わんよ」

「助かります」


……さて此処で何故 俺が聖職者(アコライト)を選んだのかと言うと、理由は極めて簡単。

先ず聖職者は消耗品が必要だが街に直ぐ帰還できる"ワープ・ポータル"と言う魔法を使う事が出来る。

またスキルに直ぐ様 逃げれる"テレポート"と言う魔法が有るからだ。此処じゃ死んだら終わりだし。

しかもゲームと違ってマップの何処かにランダムに飛んでしまうと言うワケではなく、
半径500m以内の予め脳内でメモして置いた場所に飛べるというスキルだから儲けモノである。

されど消耗がゲームより高く、犯罪で使えばギルドから追放されるから扱いは計画的にって感じだ。

また聖職者に成るに当たっては、決まりとして刃物が持てず鎧さえも着れず装備の制限が有る。

そう考えれば"聖職者"は前衛向けでもないし一人での旅はキツそうだけど、男の俺なら大分マシだ。

よってプロンテラの市場では土の属性を持った結晶が良く仕入れられる事から、俺は属性武器を購入。

更なる狩場での経験値効率の上昇と、ドロップ品での収入を狙って主に"風属性"の敵を狩りに行く。


「ご苦労さん。コレでアンタはDランクだ!」

「ようやく一段階ってトコですね」

「しかし良くあんなアイテムを直ぐに持って来れたな。随分なモンだからランク制限を解いたんだが」

「たまたま狩った魔物が落としてくれたんですよ。運が良いとしか思えません」

「じゃあそのモンスターを教えてくれる……ってワケには いかね~んだよなァ?」

「アハハハ。ソレを教えちゃ冒険者ってのは成り立たないッスから」


此処で新たに学んだのが、ゲームでは常に誰かが狩っている狩場に人が全然居ないと言う事。

つまりゲームの市場ではバカみたいに出回ってるアイテムが此方では何十倍もの値段になっている。

何故なら殆どの冒険者が、ギルドから仕事を請けて報酬を貰って生計を立てているのが常だから。

その際 プロンテラに近付いてきた魔物討伐の任務で多少の敵を倒してもドロップは高が知れている。

また大規模な魔物の侵攻ともなると、王都の騎士団が動くので流石に冒険者ギルドの出番は無い。

即ち俺の様に馬鹿の一つ覚えの様に同じ魔物を狩りまくる事でドロップを売り捌く事はしないのだ。

だが其処まで しない限りは"ゲームでは相場が安くても此方では高い"アイテムが落ちる事は無い。

よって……俺はゲームより経験値効率は悪けれど、レアドロップの収入効率は相当な高さなのだ。

コレはモチベーションの維持にも繋がり、この世界に来て半年も経つとレベルは微妙だが小金持ち。

……かと言って"この世界"では半年で叩き出せる経験値効率では無く、俺は今日も明日も敵を狩る。

どの狩場を試してもライバルは全く居ないし、強いの相手は無理だがレア・モンスターも独占し放題。

それらは俺が"此処しか湧かない"と知ってるから見つけれるが、誰も知らぬ存在も沢山 有ると思う。

勿論 レベルが低いので殆どのボス・モンスターは余程の事が無い限り見に行く気はしないけどね。


「やったなッ! コレでアンタもCランクになったぞ?」

「長かったですね~」

「全くだ。最近 見ないから何処かで死んじまったかと思ってた位だ」

「そりゃ縁起でもない(……此処で依頼を受けてもランク上げ以外は色々と効率が無いからな)」

「悪ィ悪ィ。ともかく二次試験も受けるんだろ?」

「是非とも御願いします」

「試験は厳しいが……アンタなら"覚えた"っぽいな。以前と比べたら大分 立派になってやがるしな」

「えぇ。でもコレからが本番ってヤツですよ」


そして1年が過ぎた時。ようやく俺は一次職・ラストのスキルが脳内に浮かんだので歓喜した!

毎日毎日 属性武器で適正階級の2ランクくらい下の雑魚を、事故死をしたくないので狩ったのだ。

よって随分と時間が掛かってしまったが、合格して二次職(プリースト)にさえ成れば更に上に行ける。

ギルドより更なる儀式を受ける事で、次のLvアップで新スキルを思い浮かぶと言う"フラグ"を貰い、
冒険者ギルドと連携している"カプラサービス"の支援をも受ける事ができ 冒険の幅が広がるからだ。

特にカプラサービスから受け取れる4次元ポケット(重量に限り有り)みたいなアイテムは必須。

鎧を拾ったとしても続けて戦えるし、度々500ゼニーくらいの青石を使って街に戻る必要も無い。

つまりプリーストから俺はスタート地点に立つと言っても良く、気合を入れて二次試験に臨んだ。




……




…………




……此処"アルカディア・オンライン"の世界に来てから2年後。

安全な狩りとは言え戦いを重ね、俺は最低限の装備と道具を全て揃えプリーストとしても成長した。

相変わらず一人な上に攻撃スキルを持たない為、自分に支援を掛けて敵を殴り続けるダケなので、
本来のプリーストと比べれば何か間違ってるけど……"殴りプリースト"としての実力は自信が有る。

カプラサービスから受け取ったポケットから、直ぐに敵の相性と合った武器を取り出せられ、
危機(湧き)に備え数百の青石(ブルー・ジェムストーン)を入れて置き、場合によっては惜しまず使う。

また俺の精神力が尽きた時の為にMP回復の"青ポーション"を馬鹿みたいに買う事も忘れなかった。

この武器の取替えや青石の貯蔵などは俺の知る限りは、どの二次職の人間も行っては居ないと思う。

だがコレが俺は普通だと思う。最初から生きて帰る つもりじゃないと実際には遣ってられない。


「……良しッ!」


ともかく。ゲームでは一ヶ月の筈が2年も掛かったが、コレで本当の冒険の準備はバッチリだ。

されど俺が考えている旅の期限は一年間。この期間で極力 資金を溜めて後は落ち着いて暮らしたい。

つまりプロンテラの隅でも良いから家を構えたいのだ。其の頃には25歳に成ってるだろうが……

聞いた話だとプロンテラじゃ"この歳"での結婚は当たり前らしく、それに肖ろうとしたのも有る。

勿論ずっと冒険者でも良いんだけど、俺は英雄に成るつもりで遣ってるワケじゃないだよなァ~。

最初は楽しそうだから頑張ったってのも有るけど、遣ってるウチに命を賭けたく無いと思い始めた。

しかし。此処まで来てサヨナラは勿体無いから、装備に金を叩き一文無しから始める事にしたのだ。

コレで赤字だったら泣けてくるが、職やランクは残るのでその時は其の時で低級狩場で稼げば良い。




「ワープ・ポータル!!」




――――そんなワケで。予め予習した上にメモって置いた"狩場"への転移門を魔法を詠唱し開くと。




「速度増加!!」




――――取り合えず素早く移動する事が出来る支援ダケを掛けると、俺はポータルへと走り出した!!




「葛城 綾人……行くぜッ!」




――――この一年後 俺はプロンテラの隅に酒場を構えるのだが、道中 様々な出会いが待っていた。








■プロローグ・完■








■次回:エルフ族の女ハンターと、さすらいの殴りプリ:世界樹■








■補足■


○アヤト・カツラギ(葛城 綾人)○
何処にでも居る中肉中背の普通の(元)大学生。物語当初は22歳だったが、現在は既に24歳。
其の2年間で肉体的にも成長しているので多少はカッコ良くなっている。(あくまで多少だが)
聖職者時代は鈍器持った普通の人ですが、24歳の姿はROの男プリと全く同じ服装をしています。
ですがアルカディア・オンラインでは存在せど"作中"では彼がデザインした事になっています。


○ラグナロクオンライン○
言わずと知れていた大規模オンラインゲーム。作者はAGILKとADSクリエを持っていました。
けど数年前にとっくに引退。でも姫狩りダンジョンマイスターをやってたら無性に載せたい衝動に。
本作はこのゲームの二次創作SSと言えます。以前の管理はともかくスキルやバランスは逸材でした。


○大聖堂○
一次職予備軍の儀式を行う場所。王都プロンテラでは義務教育の最後に行う事が決められている。
それなのに22歳だと言うアヤトが今頃になって儀式を受けに来たと言う事で白い目で見られた。
だがこの儀式は比較的楽に行えるので何処にでも有る施設です。王都プロンテラは大聖堂に有り、
集落や村などでは村長や其処の神父様などが村人に儀式を行ってくれる。でも無いと色々と不便です。



[24056] ■第一章:エルフ族の女ハンターと、さすらいの殴りプリ■
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2010/11/08 03:20
――――とある大森林の奥深くの集落で、ヒッソリと暮らすエルフと言う種族が存在した。


彼らは人間との関わりと極力避け……無駄な争いを好まず、魔物と戦う者さえ一部に限られる。

そんな環境と掟の中で"彼女"は育ってゆき、里で1・2を争う程のハンターとして成長した。

"ハンター"とはギルドで言う"技"を司る二次職であり、彼らは儀式で必ず"技"を選ぶと言って良い。

だが"彼女が属する集落"での話なので、地域によっては様々な職に就き生活するエルフも多い。

実際プロンテラでは 其の通りで有り……街中を歩けば必ず一人や二人のエルフとは擦れ違うモノだ。

されど"彼女"が存在する集落では余りにも田舎な為か、そんな王都の常識など知る由も無かった。


「どうやら、お前には精霊の声が聞こえた様だな。おめでとう……遂に合格だ」

「有難う御座います」

「良いか? コレからも我々を脅かす魔物達を討ち、村を守ってゆくのだぞ?」

「…………」

「どうした? 」

「いえ。畏まりました」


其処で考えられるのが、本来ギルドで試験を受ける必要が有る彼らが何故ハンターに成れるのか?

ソレは"この部族"は偶然 次の成長で新スキルを思い浮かぶ"フラグ"を得る手段を知っていたから。

当然 相応の実力が無ければ"形ダケの儀式"を行ってもフラグを得ることは出来ないのだが、
コレならギルドにワザワザ赴く必要は無く、其れが彼らを閉鎖的な環境にさせる原因でも有った。

また"この部族"ダケでなく他の地方でも何かしらの方法で"転職手段"を見出している事があるが、
そんな ギルドに登録せずとも強い一部の連中が、無法者や犯罪者に成っているのも少なくない。

反面 正規の冒険者と違ってカプラサービスの支援(特に四次元ポケット)を受ける事が出来ないが、
知恵を働かせれば軽い犯罪は容易であり、プロンテラなどの大都市を除けば意外と世界は荒れている。


「伝染病……ですって?」

「あァ……結構な事態だ。かなりの人数が苦しんでるから、間違いなく死人が出るだろう」

「そ、そんなッ! ……どうしてこんな事に……」

「早くオマエも家に戻った方が良い。妹さん含めて家族がヤバい状況の筈だ」

「!? どうしてソレを早く言わないのよッ!」

「お、おいっ! 待てって!!」


……話を最初に戻すが、ある日"彼女"は何時もの様に狩りを終えると家族の待つ集落に戻って来た。

動き易さを重視したオヘソを出したラフな装備・女性としては長身とは言えスレンダーなスタイル。

されど"有る"とは言えバストは若干 控え目な様だが、弓を扱う女性と成らば妥当な線だろう。

そんな銀のセミロング・ヘアに鋭い瞳をしたエルフの女性が……村の門番と言葉を交わした時。

家族が極めて悪質な伝染病に掛かっていると聞き、珍しくも当然 慌てて自分の家へと走って行った。


「な、何て事なの? ……このままじゃ……」

「後 持って3日か4日ってトコだな」

「ふざけないでッ! このまま黙って見てろとでも言うの!?」

「落ち着けよ!! 俺だって姉貴がヤバいんだ……でも仕方ないだろうがっ!」

「……クッ……」

「一応 滅多に無い緊急事態って事で、石頭の族長も街に助けを乞いに行かせたみたいだけどな……
 早くて往復に一週間は掛かるらしい。だから重傷者が"間に合う"見込みは殆どゼロだって事だ」

「…………」

「だが助かる"可能性"は有るっちゃある」

「!? 教えてッ!」

「――――世界樹だ」

「世界樹?」

「あァ。アソコに有るって言う伝説の"イグドラジルの実"ってのが一個でも有れば皆を助けれる筈だ」

「でも……ソレって……」

「遠い昔 俺達の部族を伝染病から救ったって代物だが、掟では取って来るのは禁止されている。
 何せ世界樹は魔物の巣窟だ……当時は一個 取ってくるのに相当な仲間が死んだって話だからな。
 結果 帰って来たのは一人ダケで、その生き残りが命辛々 持って帰ってきたのが例の実って事だ」

「けど"イグドラジルの実"が有れば皆が助かるんでしょッ? どうして行っちゃダメなの!?」

「"其の時"は危うく部族が全滅する程の凄い事態だったらしいから、行く他なかったって話だぞ。
 だが今回の犠牲は まだ少なくて済む。だから行かせるリスクを考えて族長は許可を出さなかった」

「……ッ……」


≪――――ギシッ≫


「だけど弓の調節をしてるって事は……行くんだろ? ガキの頃から そうだったもんな……オマエ」

「それなら止めないでよ? 私は皆を守る為に此処に居るの。掟に縛られるのは、もう沢山だわ」

「世界樹には猿どもの縄張りを抜けて往復で2日。正直 間に合うかどうかも分からないぞ?」

「黙って見てるよりはマシよ」

「例え生きて帰ってきても、部族を追放されるのは間違い無いってのにか?」

「聞くまでも無いわ。良いからサッサと矢やら属性結晶やら持って来なさい!!」

「……ったく、相変わらず部族一のハンター様は発想のスケールがデカいねェ」

「何 今頃になって買い被ってるのよ? 私は"上"の石頭達からじゃ煙たがれてる厄介者よ?」

「そうだった、そうだった。ともかく入り口で待ってろよ? 有りっ丈のアイテムを持って来てやる」

「有難う。私の家族を……お願いね?」

「あァ! 治療の手段が来る迄 絶対に持たせてやる……だから安心して行って来てくれよッ?」


会話を終えると幼馴染の男エルフは自宅へと走り出し、彼女も急いで旅の準備を再開する事にした。

そんな"彼女"は仲間&家族を守る為にと、必要以上の鍛錬や狩りを行う事で名が知れており、
勝手な行いが多いと言う事で"部族一の狩人"と言う扱いを受けていなかったが、彼は理解している。

例え抗えなかろうと……僅かでも希望が有れば、最後までソレを捨てずに追い続けると言う事を。

よって彼は止める事はせず、結局 告白は出来なかったが最期まで"らしかったな"と悔し涙を拭った。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト】




■第一章:エルフ族の女ハンターと、さすらいの殴りプリ■








……彼女が旅立ってから2日目。


「コレが……世界樹?」


此処周辺を縄張りにしている猿のようなモンスターの目を掻い潜り、彼女は世界樹に到着した。

その際 交戦も有ったので生傷が目立っており、回復ポーション(白)の消費は3割と言った所。

だが彼女は二次職と言えど(4次元)ポケットを持っていないので、残数は腰に挿して有る7個ダケだ。

残りの重量はポシェットの中の風結晶と鉄屑が大半でコレにスキルを使えば複数の矢が作成 出来る。

また入手のし易さにより、風が6割・物理が3割を占めてしまう彼女の矢の攻撃属性のウチ、
相性が悪い相手は接近戦しか無いので、火属性のスティレット(短剣)がフトモモに装備されていた。

ゲームであれば大抵ハンターのSTRは初期値な事から無駄かもしれないが、此方では有用な攻撃手段。

何処ぞの殴りプリがそうで有った様に、STRダケでなくVITもLUKもLvアップと同時に増えているのだ。


「これ程 迄 大きいなんて……登れるのかしら? 私に」


……さて置き。巨大な迷宮・世界樹を見上げながら呟くエリス・グリーンノア。(苗字は部族名)

正直パーティーも組まずに一人で。しかもポケットも無しに挑む事など馬鹿げているのは間違い無い。

されどエリスは考えている暇さえ惜しいのか、直ぐに表情を改めると世界樹に進入して行った。

そして注意深く進む事 数分……不動タイプの精霊系モンスター・ドリアードが此方を威嚇して来る。

対して身構えながらエリスは言う。自然を愛する彼女は、本当なら世界樹の魔物とは戦いたくない。


「御願いッ! 話を聞いて……私は貴方達を脅かしに来たんじゃない!」

『…………』

「今は仲間達が大変な状態なの! イグドラジルの実を一つダケ分けてくれれば大人しく帰るわ!!」

『……!!』


しかし説得は通じずドリアードは触手で攻撃して来たので、エリスは止むを得ず強行手段に出る。

今は時間が無い以前に火矢は勿体無いので、倒す事は考えず触手を回避し突破する事を選んだのだ。

対してドリアードは動けないので簡単に振り切れたが、新たなドリアードが自分を捕らえ様とする。


「ちぃっ!」

『……!?』


だがエリスは走るのを止めずに触手を掻い潜り、消耗を覚悟で どんどんと世界樹を登って行く。

次第に昆虫系のモンスターも襲って来る様な事が多くなった為、触手に足を掴まれたりもしたが、
その際は瞬時に火スティレットで触手を切り払い、一流のハンターだからこそ出来る芸当であった。

家族や仲間達を守りたい事も有ってか、エリスは自分でも不思議な程の突破を図れる事が出来ていた。


「クッ……此処でウッド・ゴーレム!?」

『グオオオオォォォォッ!!!!』


≪――――ドオオオオォォォォンッ!!!!≫


「くぅっ!?」


そして中層辺りまで来た時、世界樹の守護神が遂に動き始める。精霊の力で動く巨人の登場だ。

エリスとしては相手にしたくない魔物であったが、無視できない場所に居た為 対峙する事になる。

されど弱点は分ってはいれど、自ら過疎を望んでいるエルフにとっては火矢は貴重な攻撃手段だ。

ならば接近戦しか無いのだろうか……と考えた直後、ウッド・ゴーレムが巨大な拳で殴り掛かる。

対して咄嗟に回避したエリスであったが、その僅かな隙を気配を殺していたドリアードが逃さない。

2体で左右から触手を飛ばしエリスの体の一部を掴むと、そのまま宙吊りにしてしまったのである!

だがエリスも されるがままでは無く、右手で瞬時に火スティレットを抜き触手を切り落とすが……


≪――――ガシッ≫


「し、しまった!?」


ドリアードのアシストを無駄にせず、今度はウッド・ゴーレムがエリスの腰部を鷲掴みにした!!

ソレにより彼女の体は簡単に持ち上げられてしまい、火スティレットを片手に抗うがビクともしない。

弓矢は触手の攻撃により落としてしまったし、剥き出しの弱点にナイフを投げようかと考えていると。


≪バキゴキバキバキ……!!≫


「がっ!? グッ……うがっ! うああぁぁッ!!」


魔法生命体は躊躇う事無く腕に力を入れ、侵入者を殺そうとする。対して激痛に悲鳴を上げるエリス。

だが希望は捨て切ってはおらず、意識を朦朧とさせつつも火スティレットでゴーレムの腕を突く!!

何度も何度も何度も何度も。その反乱狂と言える様子には、明らかに彼女の生への執着が感じられた。

その効果は有った様で、ゴーレムは右手首の半分以上を失った事からエリスは地面に投げ出される。

直後 彼女は地面のハンター・ボウを拾うと、脚力を振り絞りドリアードの射程外に逃れ弓を構えた。


「邪魔するなああぁぁッ!!」

『!?!?』


相手は植物なので普段の心優しい彼女であれば、謝罪の言葉と同時に矢を放っていたのは間違い無い。

されど今の相手は間接的にとは言え仲間達の生命を脅かす魔物。邪魔をするなら排除する必要が有る。

ソレはウッド・ゴーレムも同様であり、更なる貴重な火矢の一撃で瞬時に枯れ木へと姿を変えさせた。


「ハァ、ハァ……ゲホッ!! ……ゆ、油断した……」


殲滅を終えたエリスは尻餅をつきながら軽く血を吐くと、白ポーションの蓋を開いて2つ飲み干す。

コレは市場でも高価な品なので彼女達にとっては更に貴重だ。しかし飲まねば動けないので仕方ない。

……とは言え最初からエリスが火矢を放っていれば、無駄な消耗はなかったので後悔を募らせた。

即ち今の油断は絶望に更に一歩近付いたと言って良く、彼女はフラフラとその場から立ち上がった。


「あと3個か……火矢もコレ以上は無駄に出来ないし、ナイフで倒す事も考えないと」


――――だが踏み留まっては居られない。彼女は しっかりと地面を踏みしめると更に奥を目指した。




……




…………




……2時間後。


「……グッ……はぁ、はぁ……痛ッ!? ……ぅう……」


アレからもエリスは一人で戦い続け、ようやく世界樹の上層エリアへと到達する事が出来た。

だがポーションは尽きて火矢も使い切り、右手を守る為に左手を犠牲にした為 肩から出血している。

交戦時を除けば歩いた方が体力を消耗しないので足取りも重く、時間が無いと言うのに急げない。

ならば帰りも有る事を考えると生きて帰るのは絶望的。されどエリスは諦めずに上を目指していた。


「……綺麗……」


世界樹の上層は緑が更に深いエリア。反面モンスターは視界には居らず、随分と雰囲気が変わった。

つまり此処からは神聖な領域で有る事から、中級・下級の精霊達は進入する事が出来ないのである。

そう言えば何時の間にか精霊達の気配は消えており、逆に神秘的な魔力を強く感じるようになった。


「も……もしかしたら、生きて……帰るのかもしれない……痛ッ……そうしたら……」


自分がイグドラジルの実を手に入れて先ずはソレで傷を癒し、急いで帰れば皆が助かるかもしれない。

敵対する精霊の気配が消えていた事から、エリスは少し希望を見出して更に奥へと進む事にした。

だが10分程 進んでゆくと……"血の匂い"を察してか、彼女を絶望へと誘う魔物達が姿を現す!!


「そ、そんな……どうして、どうしてコイツ等が"こんな所"に!?」

『ピギイイィィッ!!!!』


≪――――バサッ!! バサッ!! バサッ!! バサッ!!≫


風を司る鳥族の魔物・ハーピー。その数3体であり、衝撃の事実にエリスは驚くしか無かった。

昔の情報によると存在していなかった筈なのに、何時の間にか世界樹に巣を作っていたのである。

此処まで来て何故ッ? どうして!? 理不尽さに唇を噛み締めるエリスだったが、選択肢は一つ。

ハーピーは強敵だが、自分が奴らを倒さなければ"イグドラジルの実"は手に入らないと言う事だ。

よって満身創痍ながらも、エリスは体に鞭を打って弓矢を構えるとハーピーに向かって放った!!


≪――――ドドッ!!!!≫


『ピュアッ!?』

「あ、浅い!?」


しかし動揺していた為か放ったのは"風の矢"であり、命中していたモノの致命傷には成らなかった。

よって慌てて"鉄の矢"を2体目のハーピーに放つが避けられ、その鳥族は何か放って反撃して来る!

それは羽による目を狙った遠距離攻撃であり、既に足がフラついていたエリスは咄嗟に視界を塞ぐ。

だが"その場から動かなかった"時点でハーピーの狙い通りであり、3体目が急接近して来ると……


≪――――ドゴオオォォッ!!!!≫


「ごふっ!?」


急降下による"蹴り"を剥き出しの腹部に食らい、吹き飛ばされたエリスは後方の樹に叩き付けられる。

この攻略に置いて初めて食らったクリティカル・ヒットであり、彼女はゴトリと右肩を地に落とす。

同時に腹部と頭部に激しい痛みを感じ……意識を失っていないダケ、マシだったのかもしれない。

されどハーピーは人間を踊り食いするので、いっその事 即死した方が良かったとも言えるだろう。

ともかくエリスは動けない。ハーピーが自分を放置したとしても、死ぬ以外の選択肢は残っていない。

つまり家族や仲間は救えなかった。無茶な事は初めから分かっていたが、悔しくて涙が流れて来た。


「(……ごめんなさい……みん……な……)」


だが死ぬ時は誇らしく死にたい。故に泣き言は考えず、エリスは霞んで来ていた瞳を閉じようとした。

対して3体のハーピーは此方を煽る様に飛び回っており、間も無く自分は食われてしまうのだろう。

とは言え意識さえ喪失し掛けている今。最早 恐怖と言う感情さえ無く、現実に身を委ね様としたが。








「ヒールッ!!」(Lv10)

「え……っ?」








唐突にカラダの痛みが和らぎ、エリスが体勢そのまま瞳を開くと黒い修道服に身を包んだ男が居た!

そのビレタを被った男は此方に走り込んで来ると、自分とハーピーの間に割って入り敵と対峙する。

コレが騎士で有れば非常に絵になるが、彼は聖職者なので傍から見ると無茶にも程が有るだろう。

だが意識が沈み掛けていたエリスにとっては自分の救世主だった事も有ってか非常に頼もしく見えた。


「お前達の相手は、この俺だ!」

『ピギィピギィッ?』

「何て言ってるか分らねェよッ! さっさと掛かって来い!!」

『ピギイイィィッ!!!!』

「ふんっ! メイス修練をナメるなよ!?」


≪――――ガッ!!!!≫


『ピュアアァァッ!?』


聖職者の男は無謀にも急降下してきた鳥族のクチバシを迎え撃ったが、何と逆にダメージを与えた!

何故なら(持ち替えで)右手に鈍器(地属性スタナー)・左手にバックラー(対動物)を持っていたからで、
予め自分に掛けていた支援の効果も有ってか防御は完璧の様であり、対峙するハーピーも焦っている。

だが魔物達に取って久し振りの御馳走が増えたとも言えるので、今度も連携を駆使して襲い掛かった。

先程の様に一体のハーピーが羽を飛ばし、対して聖職者っはスタナーでアッサリと撃ち落すが……


「さ、避けてッ!!」


その後の急降下による"蹴り"の威力は尋常ではないので、エリスは思わず大声で叫んでしまった。

掟では人間と関わってはいけないが、自分を助けてくれた者を蔑ろにする事は出来なかったのだ。

だが忠告も空しく聖職者は動いてくれないので、エリスは思わず瞳を逸らしてしまったのだが……


≪――――ガコッ!!!!≫


『!?!?』

「なかなかヤるな」

「(す、凄い……どうして無傷なの!?)」

「(だけど攻撃を当てるのは難しそうだな……ってなると……)」


何と片足を踏み込んだダケの盾の防御で聖職者は蹴りを防いでしまい、エリスは驚愕した!!

後衛職で有りながら全く堪えない防御力……しかも、今の事を気にも留めずに彼は魔法を詠唱した。

敵を殴る事しか出来ない聖職者に取って、ハーピー達を倒すのには第三者の力を借りるしかない為だ。


「セイフティ・ウォール!!」


――――よって先ずは自分に近接物理攻撃を一定量無効化する障壁を張り。


「サンクチュアリ!!」


――――そして自分の少なかった回復量を補う為、HPを持続的に回復する領域を設置した。


「えっ? な、何なのコレ……体が……」

「君ッ! 動けるのか!?」

「は、はいッ。御蔭様で何とも有りません!!」

「だったらコイツを使ってくれっ!」


≪――――パシッ!!≫


「なっ!? こ、コレは!」


セイフティ・ウォールがハーピーの必死の攻撃により消える頃にはサンクチュアリが展開された。

ソレによりエリスは数秒で立ち上がれる程にまで回復し、10秒も経てば傷口は全て塞がっていた。

そして聖職者と会話を交わす中、彼に受け取ったのは"グレイトネイチャ"……地属性の結晶である。

エルフ達に取っては見るのも珍しい貴重なアイテムで有り、コレなら自分のスキルで地の矢を作れる。


「頼むッ! 矢を製造して、コイツ等を倒してくれないか!?(俺の代わりに)」

「で……ですけど、こんな高価なモノを使わせて貰うワケには……」

「大丈夫だから気にしないでくれ!! うおっ!? ハーピー3体は流石にキツいからッ!」

「(け、けど此処は悩んでいる場合じゃない!!)」


エリスは躊躇したが、彼に取っては市場で最も安く手に入る属性結晶なので大した負担にはならない。

それを彼女は知らないが……3体のハーピーとの攻防を繰り広げる人間を放って置く事は出来ない。

よってエリスが矢作成のスキルを発動させると、地結晶は瞬時に数百本の"岩石の矢"に姿を変えた。

そのウチ2本だけを残して、残りの全てを矢筒に素早く放り込むと、エリスは弓矢を構えるが……




「レックス・エーテルナッ!!」(通称LA)




聖職者が何かを叫ぶと、狙いを定めていたハーピの頭上に天秤と剣を持った女神が見えた気がした。

何と自分の"行いたい事"を察したのか、彼は敵の攻撃を掻い潜りながらもアシストを行ったのだ!

一方エリスも伊達に務めているワケでは無いので"対象への次の攻撃のダメージを2倍にする"と言う、
今の魔法の効果を理解しており、彼が長い修羅場を潜り抜けた一流の冒険者だと察する事が出来た。

何故。どうして此処に居るのかは分らないが、自分を信用してくれた彼の期待には応えねばならない。

生憎 自分は本調子。傷が癒えている今……素早く宙を舞うハーピーを捕らえる事など容易かった。




「ダブル・ストレイフィング!!!!」(通称DS)




エリスの必殺の二撃により、魔法と属性のアシストをも受けていたハーピは地面に落下する前に絶命。

それにより動揺した片方のハーピーは軽く跳躍した聖職者に地面に叩き付けられた上に追撃され死亡。

最後の一体は逃げようと試みたが、エリスの岩石の矢を背後から食らって世界樹から落ちていった。




……




…………




……数分後。


「何方かは存じませんが……本当に有難う御座いましたッ」

「はははっ。無事で何よりだよ」

「ところで……何故 人間の貴方が"こんな所"に?」

「えっ? い、いや……先ずは互いに名乗る方が良いと思うんだけど?」

「あッ。そう言えば私の方が、先に名前と境遇を話すべきでしたね……すみませんでした」

「別に謝罪は必要無いよ? それより俺はアヤト。アヤト・カツラギって言うんだ」

「アヤトさんですね? 私はエリス・グリーンノア。見ての通りエルフです」

「……(め、滅茶苦茶美人だな……服装も結構 際どいから余程)」


ハーピー達を撃破したエリスは、自分を助けてくれた聖職者と向かい合うと礼を言い自己紹介を行う。

ちなみに口調が素の彼女と違って丁寧なのは、人間と会話するのが生まれて初めてだからである。

さて置き。流石に人間相手とは言え嘘を付くワケにはいかないので、彼女は自分の村の境遇を話した。


「……と言うワケで、私は一刻も早く"イグドラジルの実"を手に入れなければ成らないんです」

「へぇ。成る程ね」

「それでは何故アヤトさんは世界樹に?」

「まぁ……俺も"イグ実"目的かな……(金稼ぎの為に来たとは言えないぜ)」

「!? で、ではアヤトさんも大切な存在が病にでも?」

「へっ? いや……そう言う訳じゃないんだけど……何と言うか……」

「…………」

「生憎 今は"大切な人"ってのは居ないけど、そんな事が起こった時の為にゲットしとこうかなァと」

「なっ!?」

「ち、ちょっと嘘くさい話だけどね」


エリスが そうで有った様に、人間なのに一人で こんな場所に来る等 余程の理由が有るに違いない。

幾ら"イグドラジルの実"が貴重とは言え、危険な場所で有る事は変わり無いし実際自分は死に掛けた。

故にアヤトと名乗った彼の返答が気になって仕方無い気持ちでみつめていると、恥ずかしそうに言う。

何と会った事も無い者の為、予め"イグ実"を手に入れて置き、病等に侵されても良い様にするのだと!

正直 馬鹿げた話だが一人で死地に来る位だ。金稼ぎ目的よりソレ程の理由の方が余程 信憑性が有る。

人間は今迄エルフを脅かす危険な存在と聞かされていたが、アヤトは随分と情熱的な人間ではないか。

だとすれば彼にも是非イグ実を持ち帰って欲しい……そう新たに決意すると、エリスは表情を改めた。


「アヤトさん」

「は、はい」

「もし宜しければ、私を同行させては貰えませんか?」

「同行……?」

「私が足を引っ張ってしまうのは百も承知ですが、同じ目的の為に力を貸して欲しいんです」

「……(や、ヤバい……やっぱり疑ってる?)」

「で、でも……ダメでしたら"岩石の矢"は、この場で返しますけど……?」

「いやいや。そりゃ願っても無いよ、少しの間 宜しく頼む」


アヤトは"彼の役に立ちたい"と言うエリス気持ちに対し、イグ実をパクって売る事を疑ってると予想。

何故なら彼が"世界樹"に来たのは本当に金稼ぎが目的だからであり、実際 相当な値段で売れる筈だ。

よってドリアードを遠距離攻撃無効の設置魔法を活かしてボコボコと殴り、昆虫も属性武器で殴り、
ウッド・ゴーレムさえドリアードの触手をニューマ(設置魔法)でスルーしてボコって進んでいった。

しかし命の方が大事なので一人で倒すのはキツいハーピーを見た時はポータルで帰ろうと思ったが、
偶然 女エルフのハンターが殺されようとしているのを発見し、思わず加勢に入ってしまったのだ。

結果 殲滅を済ませれど"イグ実"の入手は難しそうなので、再び帰ろうかな~とか思ったが、
此処でエリスが同行したいと訴えたので、ハーピーは経験値的に美味しいし更に上を目指す事にした。

其処で大事な仕様を述べるが、アヤトは"イグ実"は一個しか手に入らない事を知っていたのである。

故にエリスの邪魔をしない事を前提で稼がせて貰うつもりで応えると、彼女の表情が明るくなる。


「あ、有難う御座いますッ! それでは宜しく御願いします!!」

「うん。期待してるからね?」


――――そんなクール系と思っていたエリスの様子に、アヤトが罪悪感を感じたのは言うまでも無い。




……




…………




……1時間後。


「これが……"イグドラジルの実"が生るって言う世界樹の本体……」

「……凄ェ……」


アレからも特に精霊系の魔物と遭遇する事は無かったが、獰猛なハーピーに何度も襲われた2人。

されどレックス・エーテルナとダブル・ストレイフィングのコンボにより瞬く間に殲滅した結果。

上層に巣食っていた鳥族を根絶やしにする事ができ、アヤトは心の中で効率の良さに歓喜していた。

一方エリスも、確実にタゲを取ってLAを撒くアヤトの戦い振りに感心する他 無い心境だった。

さて置き。やがて上層の最後まで到達すると、アヤトとエリスは幻想的な情景に思わず言葉を失う。

周囲は外から見た"世界樹"相応の外壁と言う名の樹で覆われているのだが、天井の樹も非常に高い。

恐らく100メートル以上は有るだろう。また地面の樹は真っ平らで有り広範囲にひろがっている。

そして。そんな広い空間の中心に生えているのがコアとも言える10メートルほどの高さの木だった。


「で、でも……どうして でしょうか? "イグドラジルの実"が一つも付いていません」

「フ~ム。もしかして、ハーピーどもが啄(つい)ばんでたのかもしれないな」

「!? そんなッ! だったら私は何の為に此処まで来たって言うんですか!?」

「……すまない、今のは失言だったよ」

「あッ! わ、私の方こそ御免なさい。アヤトさんに言うのは筋違いでした」

「(何てこった……こう言う事も有るんだな)」


だが世界樹のコアには"イグドラジルの実"が生っておらず、アヤトの言葉にエリスは顔面蒼白になる。

……とは言えアヤトの言う事は最もなので、エリスは謝罪と同時にガックリと膝を地面に落とした。

アヤトも経験値は美味しいが金銭的には骨折り損なので、額を押さえて溜息を吐くしかなかったが……




≪――――ポウッ≫


「えっ!?」

「ちょっ!」




……唐突に世界樹のコアの枝に2個の光の塊が現れたと思うと、瞬時に果物へとカタチを変えた。

それに2人が反応出来ないでいると、それぞれが落ちてアヤトとエリスの腕に収まったのだ!!

ソレが紛う事なき"イグドラジルの実"でありコレを入手する為に今まで頑張って来たと言っても良い。

とは言え入手できた事が意外にも程が有った為に、2人は思わず無言で顔を見合わせてしまった。


「イグドラジルの……実……?」

「なァ……これって一体?」

「わ、私にもサッパリ……あっ……」

「エリス?」

「貴方は此処の精霊……えっ? 世界樹を脅かしていた鳥族を追い払ってくれて感謝している?」

「何言ってんだい?」

「そ、その……この樹から聞こえるんです。だから……この"イグドラジルの実"は礼だと」

「な……成る程……」

「それに精霊達は気が立っていて、私達に危害を加えてしまった事を謝りたいと言っています。
 また遥か昔……当時はハーピーの危害も無く実っていた"コレ"が目的で訪ねて来たエルフ達を、
 理由も考えずに殺してしまった事を悔やんでいます。されど、今は"この程度"の力しか無いので、
 いずれ遠い未来にチカラを取り戻せた時、改めて精霊の加護を授けたいと言ってくれました」

「おぉ~ッ……って事は精霊はエリスを認めてくれたんだな。良かったじゃないか」

「それはアヤトさんも同じです。2人で頑張ったからこそ、精霊は私達に感謝してくれたんです」

「そりゃ有難う。ともかく急いで戻らないとヤバいんだろ?」

「あっ! そ、そうでしたッ」

「なら ゆっくりしてるのは拙い。俺が集落の近く行きのポータルを開くから遠慮なく便乗してくれ」

「!? 恩に着ります!」

「じゃあ精霊サンよ、また会おうぜ!? ワープ・ポータル!!」


――――無論アヤトがエリスを急かしたのは、イグ実を持ち逃げする為だと言うのは語る迄も無い。




……




…………




……翌日。


「良かったなエリス。村を追放されずに済んで」

「こ、コレもアヤトさんの御蔭です」


本当に村の傍に着いてしまって驚いたが、エリスは帰還後 直ぐ長老にイグドラジルの実を渡した。

対して掟を破った彼女に小言の一つでも告げたかった所だが、彼の敏速な行動により伝染病は治まる。

まだ完全に潰えたワケでは無いが、目を覚まさない重傷者の呼吸は既に安定しているとの事だ。

つまり後は時間が解決してくれると言う事で有り……1週間も経てば元の平穏な暮らしが戻るだろう。

そうなれば残った問題はエリスの処置であり、彼女の部族は厳しく、多くのエルフが追放されていた。

だが恩人と言う事で機密裏に族長より招待されたアヤトが証人と成って"精霊の言葉"を伝える事で、
次は無い上にアヤトが此処に2度と近寄らない事を条件にエリスは村に留まる事を許されたのだった。


「俺は大した事はしてないよ。エリスの頑張りが皆の心を打ったんだ」

「そんな……アヤトさんと比べれば、私なんて……逆に今回で自分の無力さを痛感しました」


――――エリスは こう言うがチキンなアヤトにとって、あんな装備で頑張った彼女は尊敬の対象だ。


「卑下する必要なんて無いさ。ともかく達者でね? 縁が有ったら、また会えるさ」

「は、はい! アヤトさんも御元気でッ」

「(……とは言え、もう会う事も無いだろうけど)エリス……君の事は忘れないよ?」

「勿論 私も忘れませんっ! 絶対に絶対に……忘れません!!」

「ワープ・ポータル」

「……ッ……(そんな……もう本当に、会えないの?)」


実際 彼にとってエリスは相当な実力を持つ狩人であり、美人なのも有って普通に気に入っていた。

だが命を投げ出す程 村の事を想う彼女に"一緒に冒険して金でも稼がない?"と誘う勇気は無かった。

よって泣く泣く彼女の事を諦めるが、イグドラジルの実が手に入ったし容易に家は手に入るだろう。

その為 名残惜しくもプロンテラに戻ろうとするのだが……エリスは彼の背を見て葛藤していた!!

もしかすると、アヤトは自分の故郷を救う為に神が遣わしてくれた幻の存在なのでは無いだろうか?

考えてみれば妙だ……彼は此処 暫く人間が一度も訪れた事が無かった、集落の場所を知っていた。

そうで無ければ彼が、ワープ・ポータルの出口に其処を選ぶ事など絶対に出来る筈が無いのだから。

また彼は"縁が有ったら会える"とは言うが、此処で見送れば"世界そのもの"から消える気がした。

よってポータルを開いて其処に入ろうと動いたアヤトの背中に、無意識のウチに声を掛けてしまう。




「アヤトさん!!」


「うん?」


「私も……連れて行ってください!!」


「(そ、其処までイグ実の監視をしたいんですか!?)」




――――その言葉は一族を捨てると言う意味で有り、同時に彼女の新しい人生の始まりであった。




……




…………




……半年後。


「良い天気ね」


プロンテラの隅に位置する下級住宅街。其処に佇む酒場の二階から一人の女性が階段を降りて来る。

その女性は銀髪・長身の美しいエルフで有り、以前より若干伸びた髪をポニーテールに変えていた。

また彼女の上司が冗談で買って来たメイド服を自ら着ており、このエルフが目的で店に通う男も多い。

そんな一流のハンターでも有るエリス・グリーンノア……今はアヤトの経営する酒場で働いていた。

酒場と言っても昼は普通に、庶民的な料理を安い値段で提供する食堂と化しているのは さて置き。

彼は本気で冒険するのは後3ヶ月と決めており、終わったら夢で有った店を開くつもりだったとの事。

ソレを唐突に聞かされた時は流石に驚いたが……アヤトは既に世界中の旅を終えていたのだろう。

あれから冒険を続けていても初めての狩場だと言うのに妙に慣れていたし、冒険者を極めていたのだ。

思ってみれば冒険者の客と話している時に耳を傾けてみると、途轍もなく多くの情報量を持っていた。

つまりアヤトは少しでも未熟な冒険者のチカラに成る為に、あえて"この場"に店を開いたに違いない。

そう考えれば自分では25歳と言っているが、ひょっとしたら其の10倍は生きている可能性も有る。

だとすればエリスの生きる目的は一つ。彼が天に帰ってしまわない様に、末永く彼を見守ってゆく事。


「あッ……お早う御座います、アヤトさん」

「エリスこそ お早う。今日も良い天気だな」


だが実際には例の実が売り払えず金が足りなかったので、此処でしか店を構えられなかったダケだ。

未だにエリスに手を出せないのも、"イグ実"を監視されていると思っているので押せないのである。

対して彼女としては何時でもOKなのだが、エリスもアヤトに相応しい女だとは自覚していないのだ。

よって今日も平凡な料理店の経営が始まるのだが、最近は彼の斬新な発想も有り収入は安定している。

始めは料理が全く出来ないボンクラと、人並みに作れる程度の女ダケだったと言うのに大した進歩だ。


「では私は料理の仕込みに入ります」

「俺は掃除してくるよ~」


そんなワケで店で寝泊りする現聖職者の店長。及び2階を貸切り住み込みで働く現ハンターのエルフ。

2人は互いの仕事に移り始め、店の敷居を跨いだエリスは店内に展示されているモノに視線を移す。

ソレは小さな水槽に浮かんでいる実りが絶える事の無い"イグドラジルの実"……彼女の思い出の品。

当然 早くも"この存在"を聞き付けた人間に"売って欲しい"とアヤトは交渉を迫られてはいたが……

何百万ゼニーの金を積まれ様と、彼が首を縦に振る事は無いだろう。エリスは そう確信している。




≪生憎 今は"大切な人"ってのは居ないけど、そんな事が起こった時の為にゲットしとこうかなァと≫




「(ハァ……生憎ライバルは多いんだけど、絶対に負けるワケにはいかないわ……だって……)」




――――願わくば。何時かは自分が"これ"を使って貰える様な"大切な存在"に成れますように。








■第一章・完■








■次回:試練に挑む王女と、金策に励む殴りプリ:DOP■








■あとがき■
適当に考えた地雷っぽいタイトルなのに読んで下さった方、有難う御座います。(付けてから後悔)
一章はハンターでしたが、今後 順不同で騎士・アサ・BS・プリ・Wizっぽい娘が出て来ます。
話も今回みたく一人に焦点を当てる感じ。また勘違いとハーレムの成分が含まれるかもしれません。




■補足■


○アヤト・カツラギ(葛城 綾人)○
殴りプリ。ほぼ全ての相性に対する有効な攻撃・防御手段を持っているので、安定して敵を削れる。
しかし攻撃職の様に突出した火力を持たないので、敵に囲まれると直ぐにテレポで逃げ出すチキン。
基本殴りプリはSTRとAGIが高い事が多いが、他のパラメーターも一律して高いので結構強い。
またスキル・ツリーと言う概念が存在しないので、殆どのスキルを使いこなす支援役としても優秀。
チートな初期パラを持つ英雄と比べれば遥かに弱いが、ゲームの知識だけで大抵をカバーしている。
名前は感想で御指摘有った様にギガテンの主人公を肖っていますが、史人を"綾人"に変えています。
また作者は"葛城 史人"と言う名前のADSクリエを本当に持っていました。それが付けた理由かも。


○エリス・グリーンノア○
当時は22歳のエルフ。身長はアヤトより若干低い程度で、普通に美人……されど自覚はしていない。
性格はどちらかと言えば男勝りだったが、恩人のアヤトと出会う事で一気に女らしくなってしまう。
ROで言うとハンター。衣装も女ハンターをエルフっぽくアレンジした感じ。されど鷹は無いです。
酒場(食堂)を開いてる時は常にメイド服姿。本人は気に入っているので可愛いのに憧れていたのかも。
ちなみに名前は適当に考えました。私としては珍しく苗字も容姿も元にしたネタは特に有りません。


○イグドラジルの実○
ROでは同名のアイテムは簡単に手に入りますが当然この世界では貴重です。効果も一口で全快。
こんな感じでゲームでは量産されていても、アルカディアの世界では高価と言うアイテムが多いです。
ちなみに世界樹と言うダンジョンはROには有りませんが、NHに行く時 通るマップが近いかも。




http://www002.upp.so-net.ne.jp/shinjigate/



[24056] ■第二章:試練に挑む王女と、金策に励む殴りプリ■
Name: Shinji◆9fccc648 ID:1391bf9d
Date: 2010/11/10 22:56
――――この物語の舞台であるミッドガルド大陸。其処で栄えるルーンミッドガッツ王国。


広大な面積をほこり、十数の都市と数十の街や村……そして数百の集落や部族が存在している。

同時に大陸に存在する魔物の種類も数も非常に多く、常に襲われる脅威に晒されて居ると言えた。

そんな波乱の大陸ミッドガルドの頂点に位置するのが王都プロンテラであり、強力な騎士団を持つ。

何処かしらで魔物達が群れ人々を襲えば、近隣の街と協力して討伐し一定以上の繁栄を許さないのだ。

だが魔物は常に湧いて来るモノであり……長い歴史の中で それぞれの根源は未だに解っていない。

よって此処までの大陸に成長したのも、人類はプロンテラから始まり少しづつ領土を広げたからだ。

絶える事なく生まれて来る魔物の脅威が有れど、歴代の王が務めたこからそ今に至っているのである。


「クレア・ジュデックス」

「ははっ!」

「本日もって汝をルーンミッドガッツ王立騎士団の団長に任命する」

「有り難き幸せ」

「初の女性団長と言う事で周囲からは厳しい批判も有るだろうが、汝は相応の実力を持っている。
 先ずは焦らず"結果を"出してゆく事だ。そうすれば自然と周囲は汝を認めざるを得ないだろう」

「……はっ」


そんな数十代目と言えるルーンミッドガッツ国王。彼も最近 迄は大陸で1・2を争う武人であった。

だが先日の"討伐"で"ダークロード"を撃破した際 永続的な呪いを掛けられ、戦う事が出来なくなる。

同時に王立騎士団のトップも戦死してしまったので、急遽 副団長で有ったクレアが就任したのだ。

彼女は国王の側近として当然 討伐に行きたかったのだが、彼の娘で有る"姫"の傍に居ろと言われた。

即ち"もしもの事が有ったら国と騎士団を頼む"と言う意味で有り、その頼みを断れる筈が無かった。

此処で話が変わるが……時にミッドガルド大陸には手が付けられない程 強力なモンスターが現れる。

先日で言う某所で現れた"ダークロード"の事であり、大陸の人間はソレらを"古の魔"と呼んでいた。

何故なら遠い昔に撃破されたと言う記録がシッカリと残っていると言うのに、再び唐突に現れるから。

よって常に各都市と連携して"古の魔"の負の魔力を監視する際、現れれば被害が出る前に打って出る。

その為 今回も敏速な対応により早くも"古の魔"は討たれたが、予想通りの被害だったと言う訳だ。

だが……昔と比べれば、精鋭とは言え討伐に向かった者達が殺されたダケで済んだとも考えられた。

例えばオークの英雄を放置した時は、やがて数千の魔物達を従えて街を襲ったので戦争になった。

また熊が巨大化したような"古の魔"に対する対応を遅らせた結果、村を僅か一晩で轢いてしまった。

そんな前例が有るからこそ、歴代全ての者が強い力を秘めているルーンミッドガッツのトップが動く。

だから大陸の人間達はルーンミッドガッツ国王を支持・支援するので有り、常に其の実力が問われる。

されど今回の討伐で王立騎士団のトップが初の女性団長に代わってしまい王国のトップも同様の予定。

それが何を意味するかは近いウチに身を引く、現ルーンミッドガッツ国王が一番理解している。

彼は まだ40代前半で有り、肉体の衰えが遅い"この世界"の仕様を考えれば今だ現役の筈だった。


「……さて置きだ……汝も分っているだろうが……」

「存じております。間も無く私に続き、リディア様も王国の頂点として……」

「うむ。未熟なのは百も承知だが……そうせねば周囲が納得せんだろうし、先代に申し訳が立たん」

「……ッ……」

「すまぬな。私が呪いに冒されなどしなければ、まだまだ現役で有ったと言うのに……」

「と、とんでも御座いません! "古の魔"の中でも最上位の力を持っていたダークロードッ。
 それを見事に討たれ生還を果たしたダケで、私としては十二分な戦果だと思っております」

「ははは。確かに今 考えれば、生きて帰れた事すら不思議とも言えるな」

「それ故 後は我々に御任せを。確かに"古の魔"に抗うには再び騎士団を立て直さねばなりません。
 恐らく何年かは掛かるでしょうし、新たに出現すると思われる脅威に対する心中もお察し致します。
 ……とは言え、其の程度の猶予は有りましょう。よって今は姫を周囲に認めて頂く事が先決かと」

「ふ~む、それも……そうだな。以前の"古の魔"の出現は私の生まれる前の事だったと言う話だ。
 次の出現が早くて5年と見積もっても、其の頃には"リディア"も立派に成長している筈だろう」

「其の通りです」

「ならば余計な心配は止めて汝達に任せてみるとするか! ……ところで」

「はい?」

「汝は来年には25だろう? 今日も縁談の話が多く届いているが、いい加減 受ける気は無いのか?」

「なっ!? わ、私は骨の髄まで王立騎士団の人間です!! そんな事に現を抜かす気は有りませんッ」


――――この数日後。先代に代わり"リディア・ルーン・ミッドガッツ50世"が即位するのであった。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト】




■第二章:試練に挑む王女と、金策に励む殴りプリ■







――――プロンテラの王城・謁見の間。


「御疲れ様でした、リディア様」

「有難う……クレア」


ようやく本日の職務を果たしたルーンミッドガッツの王女、リディアは王座で疲れの色を表していた。

そんな彼女を王立騎士団長のクレア・ジュデックスが気遣い……コレが謁見の間の何時もの様子だ。

うちリディアは18歳と言う年齢で、父が呪いによって退いた事により唐突に王女とされてしまう。

容姿としては質量の有る長い金髪をツインテールに繕い、まだ幼さが見え隠れしている美しい女性だ。

さて置き。今迄は主に貴族との付き合いと聖職者の修行を毎日の様に行っており……簡単に言えば、
前者が"謁見の間での面会"に代わったダケなのだが、流石に即位したばかりだと言う事も有ってか、
大陸各地から連日リディアの事を祝う者達が訪れて来ており、気持ちは嬉しいが正直疲れ果てていた。

だがプロンテラの民ダケでなミッドガルド全体が自分に期待してくれている事を痛感した彼女は、
元から真面目な性格も有ってか、常に謁見中は笑顔を絶やさず彼女に対する評価は上々であった。

実力としても相当なモノで有り……リディアは歴代の英雄達の血筋をシッカリと受け継いでいる。

若輩ながら才能(初期パラ)の高さ故に既に"ハイプリースト"の称号を授かる日も近いと言われる程だ。


「今日は50名でしたか……流石に多過ぎましたね。明日は数を少なくする様 申して置きましょう」

「気遣いダケ貰って置きます。この程度こなさぬ様では王女としての示しがつかないでしょうから」

「……御立派です」

「でも確かに疲れましたね。またクレアの淹れてくれる美味しい紅茶が飲みたいわ」

「私の淹れたモノなどで宜しければ、幾らでも入れさせて頂きます」

「ふふふ。クレアって……わたくしよりずっと家事も美容も得意なのに、どうして未だに……」

「!? そ、それは仰らないで欲しいと言っている筈ですッ!」


一方 主君であるリディアを気遣うクレアは、金髪を若干 短く切っており左のサイドテールが特徴的。

幼い頃から姫の世話をしている姉のような存在でも有る為、戦いダケでなく家事全般も得意だった。

武力としては旧王立騎士団長を越えていたとも言われていたが、騎士では滅多に見ることの無い女性。

故に存在を軽視されており、退役が近い元・王立騎士団長の推薦が有っても周囲が納得しなかったが、
先日の"討伐"で団長が戦死した為……彼の代わりを担える者がクレアしか居ない事から受勲された。

そしてリディアも王女として即位した為に、多くの女性達に夢を希望を与えたのは周知の事実である。

よって未だ"古の魔"に抗うのは未熟とも言える2人だが、いずれ立派な王女と団長に成長できる筈だ。


≪――――ダダダダダダダダッ!!!!≫


「リディア王女!! クレア団長ッ!」

「えっ?」

「一体 何が有った? 騒々しい。王女の御前で有るぞ?」

「大変ですッ! つい先程 近隣の都市に"古の魔"の存在が確認されました!!」

「えぇ!? そ……そんなッ!」

「ば、馬鹿なッ! 幾らなんでも早すぎるぞ!?」


――――だが"古の魔"は時と場合を選ばない為、新たな恐怖がミッドガル大陸を覆おうとしていた。




……




…………




――――王都プロンテラの西方に位置する魔法の都市ゲフェン。


遙か昔……この地は死・闇と言った類(たぐい)の魔物に支配されており、人々の恐怖の対象だった。

しかし英雄達の活躍によって、魔物を率いていた"古の魔"は倒され……彼らは其処に村を造った。

其処は やがて魔術を極めんとする人々の訪れる地となり、魔法ギルドが存在する等 大きな街となる。


≪……ッ……だが……我は滅びる事は無い……人間がいる限り……必ず、再び復活を……≫


だが最初に倒されたゲフェンの"古の魔"が最期に告げた様に、何度も街は魔物達の脅威に晒される。

地下のダンジョンは決して魔物が外に出て来る事は無かったが"古の魔"が復活すると話が変わった。

魔物は獰猛になり・死体は蘇り・魂は実体化した幽霊と姿を変え……日夜 街を襲う様になるのだ。

ソレらは幾ら倒してもキリが無く、発生を防ぐには迷宮の奥に居座る"古の魔"を倒すしかなかった。

その魔物の名はドッペルゲンガー。現れる度に姿を変え、驚異的な力で勇者達を轢き殺す闇の頂点。

そんな脅威が潜む迷宮の入り口に、リディアとクレアは多くの騎士や神官を従えて訪れて来ていた。


「先日の討伐から日が浅いと言うのに、再びミッドガルドは"古の魔"の脅威に晒されてしまいました」

『…………』

「今はダンジョンより湧き出て来ている魔物を、魔術ギルドの皆さん達が抑えてくれていますが、
 いずれは被害が拡大してしまうでしょう……故に其の前に現状を打破しなくてはなりません」

『…………』

「故にコレより迷宮に侵入し"古の魔"を討ちます。それ以外に事態を治める方法は無いのですから。
 しかし……わたくしが未熟・若輩で有るが故に……皆を命の危険に晒してしまうかも知れません。
 ですが皆の力を貸してくださいッ! ルーンミッドガッツ王国に暮らす人々の平和の為に!!」

『ははっ!』


"古の魔"が出現したと言う報告を受け、一瞬リディアは困惑せど直ぐ様 王立騎士団の精鋭を集める。

同時に配下のプリースト達にゲフェンへのポータルを開く事を命じるが……其処はクレアが止めた。

何せリディアは激務で疲労しており、ゲフェンの魔術師達も持たせると言うので気持ちに甘えたのだ。

また多くの重臣たちはリディアが戦地に赴く事 自体を心配しており、本来は行かせたくなかった。

何故ならリディアは一人娘で有り、彼女が死んでしまえばルーン・ミッドガッツの血筋が途絶える。

しかし。歴代の国王・王女達は今以上の過酷な境遇で、血筋を絶やす事無く脅威と戦い続けており、
それを知っている彼女が"古の魔"に対して恐れを抱くワケにはいかず、勇ましさも引き継がれていた。

だが身の程は理解している様で、力を過信しておらずクレアを始め部下の力を借りる気は有る様子。

よって重臣達は"古の魔"の撃破が困難なら最悪 自分達が犠牲になる事で血筋を絶やさぬ様 影で指示。

対して王国の繁栄で無く"自分自身の未来"を心配する様な彼等に、騎士達は皮肉でも言いたかったが。

言われずとも王女を守る為ならば命を投げ出す覚悟は十二分に有るので、真剣に述べる彼女に対し、
騎士&神官達が剣・杖を天に掲げながら勇ましく応えた事で、ソレが戦い(突入)の合図とも言えた。


「では神官達は速やかに騎士達への支援を開始して下さいッ!」

「ブレッシング!!」(STR・DEX・INT上昇)

「ブレスッ!」

「速度増加!!」(AGI・移動速度上昇)

「スピード・アップ!!」

「マグニフィカートッ!」(SP回復速度2倍)

「マニピカット!!」


「我々は必ず勝ちます団長ッ! ツーハンド・クイッケン!!」(攻撃速度上昇)

「全員に掛かった様ですね……ならば戦いの鐘を鳴らすのです!!」

「はいっ! ――――エンジェラス!!」(VIT上昇)


≪ゴオオオオォォォォーーーーンッ!!!!≫


今回の討伐に参加するのは"前回"の半分程度の25名前後であるが、選りすぐりの勇者達である。

さて基本的な支援をリディアと神官達が掛け終えると、最後に一人の神官が"エンジェラス"を掛ける。

そのスキルを使うと全員の頭上で鐘を鳴らすエフェクトが発生するので、士気の上昇の意味が有った。

同時に味方PT全員の減算DFEを上昇させる効果が有るが、専ら後者の仕様は理解されていない。

だが士気の上昇 自体は間違いなく行われた様で、リディア達はクレアを先頭に迷宮に侵入してゆく。


『おおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!』


――――彼女達の目的は只一つ。"古の魔"で有る"ドッペルゲンガー"の討伐……それダケである。




……




…………




……ゲフェニア・ダンジョン上層。


≪――――ザシュッ!!!!≫


「ふんっ! 物怪の類が我々を止められると思うなよ!?」

「ですが、浅い階層に迄 中位の魔物が……やはり間違い無いのですね」

「最もです。普段は駆け出しの冒険者の鍛錬の場でも有ると言うのにッ」

「(お父様……わたくし達を見守っていて下さい)」

「リディア様」

「はい?」

「恐れながら私に対しての支援が切れております」

「す、すみません!」

「(やはり動揺されているか……無理もない。何せコレが初陣なのだからな……)」

「ブレッシングッ! 速度増加!!」




……




…………




……ゲフェニア・ダンジョン中層。


「な、何だ……この数は!?」

「!? ぐわああぁぁっ!!」


≪――――ドドォッ!!!!≫


「クッ! 大丈夫か!?」

「す、すみません団長……不意を突かれ……ゴフッ!!」

「喋っては いけませんっ! 今すぐ治療を!!」

「回復に集中している余裕は有りませんリディア様!! 先ずは死霊の群れを倒す事が先決ですッ!」

「で、ですがっ!」

「止むを得ん……1人は直ちにポータルを開いて、同時に負傷者を回収しろ!!」

「ははっ!」

「残りの神官は直ちに聖水による加護を寄越せッ! 通常の攻撃で奴等は倒せん!!」

「畏まりました……アスペルシオッ!」

「アスペルシオ!!」(3分の間 武器に聖属性付与)

「それでは今度は此方から仕掛けるぞ!? 全員 突撃せよ!!」

「うおおおおぉぉぉぉっ!!!!」

「くたばれッ! 化け物ども!!」

「("古の魔"と出会うまで脱落者は出したく無かったが……我ながら浅はかなモノだ)」




……




…………




……そしてゲフェニア・ダンジョン下層。


「此処が最下層へと続く階段……ですね」

「はい。ようやく此処まで来れた様です」

「残ったのは……えっと、20名ですか」

「想定外の事態が有ったと言うのに、良く遣ってくれていると思います」

「そうですね。皆さんには感謝しませんと」

「ですがリディア様。感謝して頂くのは"ドッペルゲンガー"を倒してからです」

「一理 有りますね。それでは参りましょう」

「ならば私が先に降りますので、その前に再支援の指示を」

「わ、分りました(……また忘れてしまいました)」

「皆は常に警戒を怠らぬ様に!! 支援中だからと言って魔物は待ってくれんぞ!?」

『――――ははっ!』


3つのエリアで構成されるゲフェニア・ダンジョンのうち、既に2つを攻略したリディア一行。

その際 非常にモンスターが密集していた場所が有った為に5名の脱落者を出してしまったが、
巧みに両手剣を操り的確に指示を出すクレアの健闘も有って、リディアを影で支援していた。

他の騎士・神官達もリディアに被害が及ばない様にする為。時には体を張って彼女を守っている。

だが……此処からが本番で有り"ドッペルゲンガー"が居座っていると思われるのは、次の階層だ。

よって支援を済ませ再度"アスペルシオ"をも受ける事で、クレアは慎重に階段を降っていった。

ちなみに武器に聖属性を付与して貰うのには理由が有り……通常の武器で幽霊は斬れないからだ。

またアンデットや闇系の魔物が多いゲフェニア・ダンジョンでは非常に有用な属性なのである。

さて置き。緊張と不安を胸に3階層目に足を踏み入れた一行は、信じられない光景を目にした。




≪――――ボコッ!!!!≫


「("こっち"の仕様的に湧き過ぎだろッ! コレ!!)」




「えぇっ!?」

「ぼ、冒険者……だと?」




何と!? 黒い僧服を着た男が、鈍器(火スタナー)を片手に人魂の様な魔物を殴っていたのだ!!

相手にしていた数は3体であり……されど幽霊(ウィスパー)の攻撃に怯む事 無く反撃を繰り出す。

殲滅の速度はクレアと比べれば遥かに劣ってはいたが、見た目と戦い方のギャップに皆が言葉を失う。

そんなウチに全てのウィスパーが倒され布へと姿を変えると、今度は"グール"が2体 近付いて来る。

そのグールはアンデットながらパワーが有り、二次職でも無ければ前衛でも厳しい相手なのだが……




「ターン・アンデット」(一定確率で不死属性 即死)

『!?!?』


≪――――バシッ!!!!≫


「(効いた? ラッキー)」

「(す、凄いッ!)」




冷静に手前のグールにターン・アンデット(TU)を当てる事により、早くも数を残り1体に減らす。

そして武器を そのまま魔物の攻撃を避けながら殴り、アッサリ2体目のグールを始末してしまった。

するとドロップが残されたので彼が布を拾ったりしていると、ゲフェニア・ダンジョンの強敵が出現。

見た目は可愛い悪魔の姿をした小さな魔物(デビルチ)なのだが、その攻撃力と俊敏さは尋常では無い。

しかも闇の魔法を使う事でも知られており……デビルチは黒い僧服の男に攻撃魔法を放つのだが……




「…………」

『……!?』


「さ、避けたのか?」

「でも……動いて……」




男は其処から動いてないのにダメージを受けた様子は無く、ソレは彼が闇属性の服を着ていたから。

それを知る筈も無いリディア達は既に加勢を忘れているが……デビルチは前述の様に接近戦も得意。

故に距離を詰めると手にするトライデントで可愛い仕草で突こうとするが、あくまで男は冷静だった。




「ブレッシング」

『!?!?』




何故か戦闘能力の向上に繋がる魔法をデビルチに掛けてしまい、リディアとクレアは目を丸くさせる。

だが悪魔系の魔物には戦闘能力を低下させる効果(仕様)が有り……敵が悶えている隙に武器を変更。

同時に盾もポケットに放り込んで新たなバックラーを取り出すと、直ぐ様 装備し次なる行動を取る。




「アスペルシオ」

「なッ!(自分自身に使うだと?)」

「……(何て器用な戦い方を……)」




彼は持ち替えたチェイン(対悪魔)に聖属性を付与すると、再びデビルチを殴る作業に移ったのだ。

対してリディア達の常識では、聖職者が自分自身に聖属性を付与して攻撃する事など有り得ない。

本来は先程の様に支援で使うのが定石であり、プリーストの攻撃方法は魔法による手段に限られる。

よって"そうである"リディアにとっては特に衝撃的であり、そんなウチにデビルチは倒された模様。

そして運良ドロップした"オリデオコン原石"を拾った辺りで、ようやく彼はリディア達に気付いた。

そのプリーストとは言うまでも無く"アヤト"であり……世界中の旅を始めて3ヶ月辺りと言った所。


「えっと……貴方達は?」

「えっ? あ、あの……わたくし達は……」

「……(おぉ~ッ。中々の上玉)」

「リディア様ッ! 気を付けて下さい!! どう考えても怪しいですっ!」

「!? な、何故なのです?」

「考えても見てくださいッ。この様な魔物の巣窟に一人で居るなど、絶対に何か有ります!!」

「……と言う事は……」

「貴様。ドッペルゲンガーか?」

「はぁ? 俺が……DOP?」(ドッペルゲンガーの事)

「何を言うんですかクレア。この方は今 魔物と戦っていたのですよ?」

「!? た、確かに そうでしたね……では貴様はニンゲンで間違い無いのだな?」

「見ての通り只のプリーストですよ」

「只のだと? 貴様の様な聖職者が居るかッ!」

「……(何この人!? 美人だけど怖ッ)」

「いい加減にして下さいクレア。何時もの貴女らしく有りませんよ?」

「す、すみません」

「……ともかく……今 聞いた話によると……」

「な、何ですか?」

「貴方達はDOPを討伐しに来たって事で間違い無いんですね?」

「……ッ……其の通りです。ですから後は わたくしたちに任せて下さい」

「ふ~む……(まァ物凄い人数だし大丈夫だろ。倒して貰えれば俺の狩りも安全に成るし)」


≪じ~~~~ッ…………≫


「ぅうッ?」

「何なんだ貴様ッ! 先程から無礼で有るぞ!?」

「あッ。すんません」

「い、良いのですクレア……と言う事ですから、貴方は直ぐに引き返して――――」

「じゃあ討伐の方。頑張って下さい」

「えっ!? あ、あのッ! 其方は出口の方向では……!!」

「リディア様。お待ちを」

「如何して止めるのですッ? クレア!!」

「アレはドッペルゲンガーの罠かもしれません。私も人の事は言えませんが……どうか此処は冷静に」

「で、ですが……もし本当に人間の方だったら……」

「されど考えて見て下さい。奴はリディア様を知らない素振りでした。やはり信用できません」

「とは言え わたくしを妙な表情で見ていましたし……恐らく頼り無いと思われたのでは……?」

「どう言う事です?」

「あの方は恐らく凄腕の冒険者なのでしょう。それ故に"古の魔"が現れたゲフェニアに訪れた」

「恐れながら理解しかねます」

「つまり……わたくし達の代わりにドッペルゲンガーを倒しに来たのではないでしょうか?」

『!?!?』

「勝手な推測ですが……改めて考えて見て下さい。あの方は わたくし達よりも先に此処に居た。
 ……と言う事は、わたくし達が通って来た時より更に険しい道のりを通過して来たのでしょう」


「た、確かにッ」

「そうなのか?」

「!? お、お前達ッ!」


「ソレが正解だとすれば……わたくし達は魔物を"殲滅"して頂けた事を彼に感謝せねば成りません。
 何故なら この程度の被害で此処に到達できたのは全て"あの方"の御蔭と言う事になるのですから」

「そう言えば……奴は自分の実力の半分も出していない様な気がしました」

「はい。まるで何か作業をしているかの様な戦い方でした」←其の通り

「し、しかしッ。我々は奴が"古の魔"を倒すのを黙って見ているワケにはいきません!」

「其の通りですね」

「(だが入り口の殲滅には感謝せざるを得んな……)では各員ッ! 再支援を行え!!」

『――――ははっ!』


たった一人で。しかも"このタイミング"でゲフェニア・ダンジョンに挑もうとする聖職者の男。

結局リディア達は彼を一流の冒険者と認識し、ソレは3階層まで潜れた"結果"が証明していた。

だが実際のアヤトはリディアの事は無論・ゲフェンに"古の魔"が現れた事さえ全く知らなかった。

……と言うか"こちら"では古の魔とか言われているドッペルゲンガーはゲームでは2時間湧き。

されど倒されなければ放置されるので、この世界の事だから最初から居そうだな~と考えていた。

ソレは討伐PTが来たと言う事で正解であり、王女を見ていたのは何処かで見た様な気がしたから。

対してリディアは"頼りない"と思われたと考えた上に、逆にアヤトに感謝する推測までしたのだが。

アヤトが此処まで来れたのは道中の魔物をスルーしたからで有り、全く交戦などしていなかった。

その結果 階段付近で纏めてしまった魔物達がリディアの部下を負傷させたので彼はむしろ加害者だ。

3階層目の入り口でアヤトが戦っていたのも、何とか成りそうだった故に倒し切ったに過ぎない。

勿論 迷宮の更に奥を目指したとは言え、DOPを発見したら即 逃げる気 満々だったのだが……

それすらリディアとクレアは"古の魔"すら一人で倒す実力と自信が有るのだと勘違いしていた。

しかしながら。手柄を彼に渡すつもりは無い様で、リディア達は気を改めてDOPを追うのだった。




……




…………




……幸いアレから大きな湧きは無く、ダンジョンの3階層目を進む事15分後。


『…………』

「お、お父様?」

「……叔父様……」


アヤトが去った逆の方向へと慎重に進んでゆく中。遂に古の魔で有る"ドッペルゲンガー"が出現する!

そんな"今回"のDOPは、頭部以外を全身鎧に身を包んだ"若き頃のリディアの父"の姿をしていた。

故に思わず彼の事を呟いてしまうと、DOPは口元を歪め……まるで父の退役を嘲笑うかの様だった。

直後 複数のナイトメア……物理が通用しない念属性の馬のモンスターを召喚して此方に嗾けて来る!


『ブヒヒイイイイィィィィィンッ!!!!』


≪――――ドカパッ、ドカパッ、ドカパッ!!!!≫


「王の身を装うとは……絶対に許せんッ! ツーハンド・クイッケン!!」

「皆さんッ! 誇り高きルーン・ミッドガッツ49世の姿を真似る"古の魔"を討つのです!!」


――――だが瞬時に正気を取り戻したリディア達の士気は逆に向上し、クレアが突貫すると。


「ボウリング・バッシュ!!!!」


――――敵1体を弾き飛ばし後方の敵をも巻き込んだ範囲攻撃をする事で、一撃で馬達を全滅させた。


「ひるむなッ! 私に続けェ!!」

「がああああぁぁぁぁーーーーッ!!!!」

「ルーンミッドガッツ王立騎士団に勝利を!!」

『…………』


しかし続いてDOPは周囲の魔物達を招集すると再び嗾け、王立騎士団と激しい戦いを繰り広げる。

一方クレアは王の姿をしたDOPと対峙するカタチとなり……自然と足が震えているのを感じた。

いわゆる生まれて初めての武者震いであり、クレアの胸の中では高揚感と恐怖感が入り乱れていた。




「コンセント・レイション!!」(攻撃&命中上昇・防御低下)




――――よって女性の身で有りながら唯一ロード・ナイトの称号を持つクレア・ジュデックスは。




「オーラ・ブレイド!!」(DFE無視の追加ダメージ付与)


≪キュイイイイィィィィン…………ッ!!!!≫




――――最大限の力を持って"ドッペルゲンガー"を討つべく、自信に補助のスキルを掛けた。




「はああああぁぁぁぁっ!!!!」

『…………』


≪――――ガキッ!! ガキッ!! ガキッ!! ガキッ!! ガキイイイイィィィィンッ!!!!≫




ブーストを終えるとクレアは跳躍してDOPに飛び掛かり、両手剣による激しい斬撃を繰り出す!!

されど"古の魔"であるDOPは彼女の剣撃が見えている様で……両者ともに引かぬ攻防を続けた。

だがDOPの方が若干スピードが遅い様で、僅かにだが装甲にダメージを与え続ける事が出来ている。

しかし。全ての攻撃を受け止めている筈のクレアの表情が見るみるウチに苦痛へと変化していった。

"コンセント・レイション"により攻撃力は上がっても、反面カラダに掛かる負担が大きくなるのだ。

よって今は優勢な様に見えても、クレアの体力が尽きてしまえば一気に押し込まれるのは明白である。


「(い、一撃一撃が重過ぎる!? コレでは相手を削る事は出来ても私が先に潰される!!)」

「イムポティシオ・マヌス!!」(攻撃力上昇)

「ひ、姫様!?」

「頑張ってください!! クレアッ! キリエ・エレイソン!!」(物理攻撃を無効化するバリア)

「クソッ! 負けてたまるか!!」

『…………』

「ヒールッ!」

「ならば今のウチに……パリイング!!」(敵の攻撃を一定確率で受け止める)


――――だがリディアの支援で体勢を立て直したクレアは、防御に徹しながら相手を削る方法を選ぶ。


「キリエ・エレイソンッ!」

「オート・カウンター!!」

『……!?』


それは前方にいる敵からの攻撃を完全防御した後に、防御力を無視した攻撃を放つスキルによるモノ。

この戦法は非常に有効だった様で、クレアは少ないカラダへの負担で確実にDOPを削ってゆく。

元々のDOPの攻撃速度も有ってかダメージ効率も良い様であり、クレアは優勢を実感していた。

……とは言えオート・カウンターの連用は精神力を多く使うが、コレでDOPを倒せれば十二分。

されど"古の魔"は殺られるのを待つばかりでは無い様で、再び口元を歪ませると奥の手に移った。




「(此処はクレアの精神力を)……マグニフィカート!!」

『…………』


≪――――ドオオオオォォォォンッ!!!!≫


「なっ!? 何だ……コレ……は……!!」

「く、クレア!? どうしたのですッ!?」




DOPはスキル:ハンマー・フォールを使い、クレアをスタン状態にさせてしまい無防備にした!!

しかもリディアが彼女の為に"マグニフィカート"を詠唱した硬直中を選んでおり、狡猾さが伺える。

つまりキリエ・エレイソンのバリアによる支援を受けれなくなっているので、クレアは絶体絶命だ。

対してDOPとしては狙い通りで有り、フラフラと後退する彼女の首を無情にも刎ねようとする!!

一方 周囲の騎士達は神官の支援を受けつつ必死で魔物を抑えており、どう考えても間に合わない。




『…………』

「し、しまった!!」

「クレアーーッ!!」








「リカバリー!!」








「えっ?(体が動く!?)」


≪――――ガシイイィィンッ!!!!≫


『!?!?』




だが神は彼女達を見捨てては居なかった様で、天の助けが現れクレアのスタン状態を解いたのだ!!

それは先程の聖職者によるモノで、御蔭でクレアはギリギリでDOPの剣を防御する事が出来た。

恐らく彼は戦いの気配を察して加勢に来たのだろう。即ちリディアの洞察は間違っていなかった。

やはりダンジョンの奥に進んでいったのは、最初から一人でDOPを倒すつもりだった為なのか……

クレアは一瞬のウチに そう思うと……彼に対する認識を改めると共に申し訳ない気持ちにもなる。

最初から一人で務めていた彼を全く信用しておらず、ましてやDOPと疑ってしまったのだから。

されど"一人"と言う事から、誰よりもミッドガルド大陸の人間達を守りたい者だと言うのは確定的だ。

しかしながら。実際の彼は傍から見ていたが、ゲームより弱い仕様だった為 加勢したに過ぎない。

例えば画面全範囲の筈であるハンマー・フォールの範囲が、かなり狭かったりしたのはさて置き。

予想に反してボス狩りPTじゃ無かったので、苦戦している様だしアシストすっかな~的な感じだ。

……とは言え此処に居た人間達は、皆がアヤトが自分達 以上の志を持つ英雄だと勘違いしていた。

そんな各々の心境を微塵にも察する事 無く、アヤトはリディア達が戦う場所へと近付くと叫ぶ。


「セイフティ・ウォール!!」

「ぅあっ!?」

「其処のLK(ロード・ナイト)さんッ! まだ耐えられそうか!?」

「だ、大丈夫だ!」

「精神的にも!?」

「先程のマグニフィカートが活きている!!」

「だったら……君はMEプリかな?」

「???? えっ?」

「マグヌス・エクソシズム」(範囲内の種族悪魔・属性不死の敵に対してダメージを与える)

「あっ! は、はい。ソレは わたくしの最も得意とする魔法ですけど?」

「だったら詠唱を頼む。今の状況だとMEしか奴を倒す手段は無いからさ」

「……ッ……ですが、詠唱中は無防備に成ってしまうので……先程の様な事が起これば……」

「サフラギウム」(変動詠唱時間の短縮)

「ふぇっ?」

「ソレなら問題無いよ……俺がちゃんとフォローするからさ。だから一刻も早くアイツを倒そう」

「!? か、畏まりましたッ! ……えっと……」

「生憎 名乗る程の者でも無いさ。ともかく話は奴を仕留めてからにしよう」

「そ、そうでしたね。それでは……宜しく御願い致します!!」

「セイフティ・ウォール」

「はああああぁぁぁぁッ!!!!」


―――― 一方リディアの詠唱により危機感を覚えたDOPは彼女に注意を向けようとするが。


「ふんっ! 貴様には、もう少し私と遊んでいて貰おう!!」

『……!!』


――――クレアに妨害されているので、配下の魔物を2・3体 嗾ける事で詠唱を止め様とするも。


「邪魔させるか!!」

『……!?』

「遠いのは……ホーリー・ライト!!」

『……ッ!』


――――近くの魔物はアヤトに殴られ。届かない魔物は魔法を当てる事でヘイトを取り邪魔させない。


『!!!!』


≪ドオオオオォォォォンッ!!!!≫


「うぐっ!?」

「リカバリー!!」

「お、恩に着る!」

「キリエ・エレイソン!!」

「(信じられん……何と言う的確な動きだッ)」


そして再びハンマー・フォールで怯んだクレアだったが、直ぐ様 回復させてしまい支援は完璧だ。

しかも今は支援を挟みつつも同時にタゲを取った魔物を鈍器で殴り続けており、全く隙が無い。

ゲームをプレイしている彼に取っては頭の中がショートカットなので、むしろ楽に成っている。

されど"この世界"のプリーストの中では、此処まで的確に魔法を操れる者は存在しないだろう。

よって誰にも妨害される事 無く詠唱を終了させたリディアは、遂に大魔法を発動させたのだった。








「マグヌス……エクソシズム!!!!」








≪――――パアアアアァァァァッ!!!!≫








『……!? ……ッ……!!!! !?!?』








直後 全員の目に入ったのは3体の天使のエフェクト。同時に地面に巨大な光の十字架が浮かぶ。

その中央に位置していたDOPは、ガリガリと光の蹂躙を受けて漆黒の装甲を磨り減らしてゆく。

だが"古の魔"は伊達では無く相当な耐久力が有る様であり……必死でモガく事で抗おうとするのだが。


「レックス・エーテルナ!!」

『!?!?』

「ホラッ! 使える人は どんどん撒いてくれ!!」

「そ、そうだわ……レックス・エーテルナ!!」

「私だってッ! レックス・エーテルナ!!」


――――追撃のレックス・エーテルナ(ダメージ2倍)により更にダメージは加速した結果。


『……ッ……』

「き、消えた?」

「倒せたみたいだなァ(ドロップはプレートか)」

「や……やれたんだわ……わたくし達が……」


遂に"古の魔"とされる"ドッペルゲンガー"は倒れ……初の"試練"とも言える"討伐"は成功を収める。

それ故にリディアは一気にカラダの力が抜けてしまい、地面にペタンとヘタり込んでしまうのだった。

ソレはクレアも同様で有り極度の疲労により尻餅をついていると、アヤトは何時の間にか近くに居た。

空気を読まずドロップ品を拾っており、ソレを持ち上げた直後 彼は注目を浴びて居る事に気付く。

此処で彼は以前の癖が抜けていなかった事を後悔する。DOPを撃破したのは自分では無いのだ。

よってアヤトは注目を浴びる中 黙ってリディアに近付くと……鎧を置いて笑顔で手を差し伸べる。


「立てるかい? 手を貸すよ」

「あッ……有難う御座います」


≪――――ぐいっ≫


「何処か痛むトコロは?」

「と、特に有りません」

「それなら良かった。じゃあコレ」

「!?(ど、ドッペルゲンガーの……鎧?)」

「(売ったりして)有効に活用すると良いよ」

「は、はい」

「じゃあ(下見も終わったし)俺は帰るね? ワープ・ポータル」

「!? そ、そんなっ! お待ちになって下さ――――あッ」


アヤトに立ち上がらせて貰ったリディアは、手の温もりを感じた時 不思議と胸が熱くなっていた。

だがドロップを持ち逃げしようとした罪悪感で居た溜まれなかったアヤトは、即ポータルで帰還する。

対して彼の名や目的が気になって仕方なかったリディアは、思わず彼を追いかけ様としてしまった。

だがアヤトがワープ・ポータルに入った時点でソレが消えてしまった事から、追う事は叶わなかった。


「……ふむ……行ってしまいましたね」

「そ、そうですね。まだ御名前を聞いていませんでしたのに」

「一体 彼は何者だったのでしょうか? まるで"古の魔"を討った事が当たり前の様でした」

「!? だとすれば……あの方は既に何度も"古の魔"を撃破しているのでしょうか?」

「可能性は有りますね。ひょっとすると我々の知らない場所で脅威と戦っているのかもしれません」

「随分と高く評価したのですね」

「あの様な戦い方を魅せられては、そう考えざるを得ませんよ」

「では……鎧をわたくしに託してくれたのも……」

「リディア様の事情を知っていたのでしょう。恐らくソレを討伐の証拠にしろと言う意味かと」

「ハァ。何から何まで"あの方"の想定の範囲内だったと言う事なのですね?」

「肯定です。もはやグゥの音すら出ませんね」

「……ッ……」

「リディア様?」

「クレアッ!!」

「ど、どうされたのです?」

「たった今……決めました」

「何をでしょう?」

「どうやら わたくしは、心を奪われてしまった様なのです」

「んなっ!?」

「故にルーン・ミッドガッツ50世の誇りに掛けて、絶対に"あの方"を見つけ出してみせます!!」

「は、はああああぁぁぁぁ~~~~ッ!!!?」


こうして周囲の心配を他所に、リディア・ルーン・ミッドガッツは"古の魔"の討伐を成し遂げた。

しかも即位して間も無かったダケでも凄いのに、18歳で撃破と言う最年少記録をも塗り替えた故に、
クレア・ジュデックスも踏まえて彼女達は国民ダケでなく貴族からも絶大な支持を得る事になった。

だが この偉業は王立騎士団ダケのモノでは無いが、一部の者達を除いて真相を知る人間は居ない。

そして常に"古の魔"と同等の脅威と戦い続ける一人の英雄にリディアが心を奪われたと言う事も。

またクレアもリディアに感化されて"彼"に対する興味が膨れてゆき……何度か元国王に指摘された。


「畜生ッ! もう一週間もGDに篭ってんのに、全然レアのドロップが無いじゃないか!!」




……




…………




……1年後。プロンテラの隅に位置する下級住宅街。


「とうとう見つけたのですね? クレア」

「はい。此処で間違い無いとの事です」


其処にチンマリと佇む酒場の入り口の正面に、2人の美しい女性が仏頂面で並んで立っていた。

彼女達は一年間掛けて ようやく捜し求めていた男性を発見したのだが……まさかの浮気である。

彼が酒場を経営しているのは良かったのだが、エルフの美女と一緒に仕事をしていたのだ!!

故に2人は機嫌が悪そうなのであり……別に恋人同士では無いが、傍から見ると そう見える。


「……ですがアレを見て……どう思いますか?」

「許せない気持ちも有りますが、容易く諦めては探した意味が有りません」

「それもそうですね」

「ともかくリディア様。重要なのは第一印象ですよ? 我々は争いに来たのでは無いのですから」

「分っています。先ずは"アヤト様"を知る事から始めませんと」

「では参りましょう……叔父様も当たって砕けろと申しておりましたし」

「!? 縁起の悪い事を言わないでクレアッ!」

「す、すみません(……自分の事の つもりで言ったのだが……)」


――――そんなワケでアヤト&エリスの寂れた飲食店に、嬉しい事に2人の常連客が増えたのだが。


「フフッ。申し遅れました。わたくしはリディア・ルーン・ミッドガッツと申します」

「私はルーンミッドガッツ王立騎士団長のクレア・ジュデックスだ。以後宜しく頼む」

「ぶフゥーーーーっ!!!!」

「(……どう言う事なの……)」


――――2人の正体を知ったアヤトは、口に含んでいたジュースを噴き出した上に盛大にコケていた。








■第二章・完■








■次回:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:騎士団■








■あとがき■
久し振りにROの情報サイトを見たらGD3Fのモンスターがゴッソリ入れ替わっていて驚きました。




■補足■


○リディア・ルーン・ミッドガッツ○
当時は18歳のプリースト。及びミッドガルド大陸の王女。やや童顔だがスタイルは結構良い。
聖職者の能力(初期パラ)は非常に高いチート人間だが、実戦の経験が皆無に等しいので微妙。
初の"古の魔"の討伐の際には出会ったアヤトにハートを盗まれてしまい、一年を掛けて探し出す。
そんな彼はエリスと一緒に店を経営しているヘタレになっていたが……やっぱり好きらしい。
故に一週間に2度は城を抜け出して彼の店に通っており、アヤトとの会話を楽しんでいる。
普段は白いドレスを着込んでいるが、戦闘時は女プリの衣装を豪華にした感じの姿で支援する。


○クレア・ジュデックス○
当時は24歳の両手剣ロード・ナイト。他の騎士達は大抵 片手剣 装備で有り大して強くは無い。
対して初期パラに恵まれていたクレアは非常に強力な騎士で有り、20歳の若さでLKとなる。
そんな彼女だが姫の世話をする事が多かった為 家事と美容のスキルが高く、王も評価している。
よって縁談の話を何度も持ち掛けられていたが、自分より強い者にしか興味は無く全て断っていた。
しかしアヤトとの出会いで自分の弱さを痛感し彼に想いを寄せる。自分よりずっと弱いけどね。
姿としては女LKでは無く普通の女騎士の衣装でOK。街を歩く時も同じ格好をしています。


○ルーン・ミッドガッツ49世○
リディアの父親で元国王。40代だがナイスミドルの叔父様。若い頃は超イケメンだったそうな。
娘と一緒に成長していったクレアの事も娘の様に可愛がっており、度々縁談の話を持ち込んでいる。
妻は既に他界しているが、毎週最低一回の嫁をオカズにしてでの自家発電を欠かさない超愛妻家だ。


○古の魔○
要するにゲームで言うMVPモンスター(ボス)の事。ゲームでは1時間で湧くので即 狩られる。
だがアルカディアの世界では10年・20年湧きが当たり前なのでボス狩りPTも存在しない。
されど古の魔は魔物を率いて都市を襲うので、リディアを中心に精鋭達が直ぐに討伐しに行く。
ボスの実力としてはオリジナルより弱くなっているが、アルカディアの人々に取っては普通に鬼畜。
ちなみにダークロードと比べるとドッペルゲンガー自体が弱いので今回は何とかなりました。



[24056] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:前編■
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2011/04/11 13:30
――――ミッドガルド大陸の頂点とされる50代目の女王、リディア・ルーン・ミッドガッツ。


即位して間もない18歳の少女(?)であったが、まさかの出現となった"古の魔"の撃破に成功した。

しかもダークロードの討伐により著しく弱体化した王立騎士団での撃破である事から、評価も上々である。

またリディアと同様 王立騎士団長に任命されたクレア・ジュデックスも多くの武勲と支持を得れていた。

よって、ひとまずミッドガルド大陸には平穏が訪れリディアとクレアは互いに職務に追われる事となる。


――――"ドッペルゲンガー"の撃破から3ヵ月後。プロンテラ城内の"謁見の間"にて。


「……それでは貴方には"グラストヘイム古城"の哨戒を御任せ致します」

「だが"ダークロード"が倒れたとは言え油断するなよ? 極めて危険な場所と言う事は変わらんからな」

「ははッ! 御任せくださいリディア様・クレア様。
 "ケイロン家"の誇りの掛けて、必ずや使命を成し遂げて御覧に入れます!!」


さて今現在 王座に座るリディア&横に控えるクレアの元で、十数人の騎士達が跪いて指示を受けていた。

何故なら王女リディアの職務の一環において、王都プロンテラより定期的に各地に軍を赴かせる事……

つまり各都市と連携してでの魔物の間引きが必要であり、これは毎月 欠かさず行っている最優先事項だ。

だが派遣されるのはリディアの直属であるエリート中のエリートと言える"王立騎士団"では無く、
ひとつ下のランクである"王宮騎士団"なのだが、指名を受けた騎士達には名誉な事には変わりない。

何せ絶対数が多い"王宮騎士"の中で直々にリディアがクレアのアドバイスも踏まえて選出するのだから。

そんな中で最も難易度が高いとされる"グラストヘイム古城"の哨戒を任された王宮騎士小隊長……

王立騎士団員に成るのも近いと噂の、最も前で跪く"ケイロン家"の騎士は勇ましくリディアに応えた。

"古の魔"に備える為。また敬愛するルーン・ミッドガッツ49世の娘で有る彼女の力に少しでも成る為。

今の段階ではリディアに近づく事さえ許されないが、王立騎士団員に加われば僅かとは言え可能になる。

故に名家とも言える"ケイロン"の王宮騎士小隊長は仲間達と共に"グラストヘイム古城"に赴いたが……


「隊長ッ! "深淵の騎士"……沈黙した様です!!」

「何とか倒したか……十分想定内では有ったが、やはり苦戦したな」

「はい。隊長が居て下さらなければどうなっていたか……」

「奴の攻撃力は尋常では無いからな。いくら私でも皆の的確な支援が無ければ倒す事は出来なかった」


――――グラストヘイム古城。


王都プロンテラの西に位置する魔法の都市ゲフェンより、更に西に存在する魔物達の巣食う巨大な城。

かつて人類がゲフェンを制圧した際、グラストヘイムを支配する"ダークロード"との大戦争が起こった。

その人間と"グラストヘイム騎士団"との戦いは何年も続き、長年を経て遂にダークロードの敗北で終結。

だが結局 城の制圧はダークロードの怨念により至らず、今も古城からはモンスター達が沸き続けている。

そんな中で最も脅威とされる魔物が"深淵の騎士"であり、ダークロードの意思を最も継いでいる存在だ。

巨大な馬に跨り大きな槍を持ち、その武器から繰り出される一撃は並みの騎士を一撃で死に至らしめる。

また大型のアンデット騎士で有る"カーリッツバーグ"を常に何体も従え、朽ちた鎧に魂が入った魔物……

"レイドリック"をも操る能力を持っており、それらの魔物一体でさえ並みの冒険者では太刀打ち出来ない。

流石に"古の魔"に次ぐクラスの魔物"ダークイリュージョン"を何体も従えるダークロードよりはマシだが、
何より主の怨念を全うすべく"深淵の騎士"は魔物達を従えて街を襲うと言う特性を持っているのである!

よってソレが"GH古城"への遠征が重要視される理由でもあり、任せて頂けると言うのは名誉な事なのだ。

とは言え"深淵の騎士"は"古の魔"と比べれば弱く十分 王宮騎士団でも撃破できる存在なのが救いだが……


「ともかく"深淵の騎士"は倒せましたし、今回は十分に良い戦果を挙げられました」

「うむ。コレで遂に私も王立騎士に成れる日が来ると言うもの……!!」

「あはははッ。隊長はリディア様に御執心ですからね~」

「!? そ、そうでは無くてだな……先日の戦いで人員不足となった王立騎士団を支える為に……」


――――"古の魔"で無ければ"そうでない相応"の恐ろしさが"深淵の騎士"の様な魔物には存在する。


≪パカラッ、パカラッ、パカラッ……≫


≪ガシャガシャガシャガシャ、ガシャンッ!!≫


「なっ!? た、隊長! アレを見て下さいッ!」

「ば、馬鹿な……"もう一体の深淵の騎士"……だと?」

「とにかく迎撃しませんとッ! 各員――――!!」

「……ッ……いや、疲労し切った今の状況でマトモに戦えば……多くの犠牲者が出る事は避けられん」

「だったら どうすれば良いって言うんです!?」

「私が囮になろう。皆は此処から脱出してくれ! 皆で奴と刺し違えるよりは安いモノだ」

「そ、そんな!? 正気なんですかッ? 隊長!!」

「リディア様……私が御仕え出来るのは、どうやら此処までの様です(……そして)」

「隊長!? 隊長おおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!」

「(御先祖に負けぬ偉大な魔術師になるのだぞ? ……カトリ……)」


非常に強力では有るが必ず一体しか出現せず、倒せば当分の間 出現しなくなる"古の魔"とは違い……

"一般の魔物"と該当されるモンスターは"深淵の騎士"程の存在でも2体以上 出現する事も有るのである。

よって前例の無かった"深淵の騎士"との連戦を強いられた"GH古城"の王宮騎士小隊は止むを得ず撤退。

2体目の撃破を諦め……将来を有望視されていた"ケイロン家"の長男を犠牲に残りの隊員達は生還した。


「はァ~!? に、兄さんが死んだって……そんなん嘘やろ!?」


――――彼の両親は勿論の事。妹であり"ケイロン家"の長女でもある、魔術師の女性を残して。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト】




■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:前編■








――――王都プロンテラの冒険者ギルドにて。


「なんでやねんっ!?」


≪――――バアアァァンッ!!!!≫


「ちょっと落ち着いて下さいって」


平日であれ休日であれ、大陸 最大級の施設だと言う事も有ってか多くの人々で賑わうプロンテラ支部。

主に依頼を受ける・納品しに来る冒険者 及び依頼をする者。そしてカプラサービス等 従業員が大多数。

だが冒険者達の寛ぎ&情報交換の場とも言える事から酒場と宿も兼用しており一般客の姿も確認できる。

そんな"何時ものギルド"な筈だったのだが、今日は問題が起きている様であり一人の女性が喚いている。


「コレが落ち着いて居られるかいなッ! ウチの依頼が聞けんとは どう言う事や!?」

「あのねェ御嬢さん。聞けない以前に無理なんですよ」


幸い大手ギルドと言う事も有り受付カウンターも多いので大事にはなっていないが、かなりの剣幕だ。

見た目は黒髪の短髪で緑の"とんがり帽子"を被り、毛皮のマントを羽織っている為"ウィザード"と分かる。

瞳も黒いので口調を考えれば"泉水の国アマツ"出身とも考えられるが、詳細は見た限りは不明である。

ちなみに"アマツ"とは簡単に言えば、東洋の国……江戸時代 辺りの文化を想像すれば良いのは さて置き。

ウィザードと言えば"魔"を司る一次職"マジシャン"の上位と言える職業であり、魔法のエキスパートだ。

魔法の都市ゲフェンでも無ければ お目に掛かれる機会は少ない上に、此処まで若い者も極めて珍しい。

だが冒険者ギルドに置けるマナーは弁えていない様であり、カウンターを強く叩きながら捲くし立てる。


「何でムリなんやねん!? ただウチと一緒に古城に行く冒険者を拵えてくれ言うとるダケやろ!?」

「それが無理なんですって。そんな場所に命張って迄 行く物好きなんて居やしませんよ」

「其処を何とかって言うとるんやッ! 報酬なら此処に……1000万ゼニー用意しとるんやで!?」

「それでも無理なモンは無理なんですよ……幾ら大金を積まれたからって引き受ける事は出来ません」

「ンなもん納得できんわ! アンタじゃ話にならん、責任者 呼んで来いッ! ウチが直接 話つけたる!!」

「だったらハッキリ言いますけどね……グラストヘイム関連の依頼は全て法律で禁止されてるんですよ」

「な、なん……やて……?」

「ギルド設立 直後から古城 関連の依頼は数多く有ったそうですが、成功率は当時1割を割っていました」

「!?!?」

「よって余りにも危険と言う事で、当時の冒険者ギルド・マスターとミッドガッツ王との相談の結果……
 全ての哨戒はプロンテラの騎士団が担うと言う事で今に至ってるんですよ(言わせんなよ恥ずかしい)」

「……ッ……」

「ですから、お客さんが無理に討伐なんかに行かなくても一月後にはまた、王宮騎士団が派遣されますよ。
 今のルーン・ミッドガッツ50世……リディア様は御熱心ですから、心配される事は有りませんって」

「(兄さんも素晴らしい方やって言うとったし……)そうなんやけど……そうなんやけどな……?」

「それに一千万ゼニーは確かに大金ですが、古城で戦える十分の面子を集めるにはソレでも足りません。
 どうしてもと言うなら"その辺の者"にでも頼んでみたら どうですか? 非公式ならお咎め無いですし」


このウィザードの名は"カトリ・ケイロン"19歳。先日 戦死した王宮騎士小隊長の男性の妹である。

かつて偉大であり大陸一の魔法使いとされた"カトリーヌ・ケイロン"に迫る魔力を持つと言われており、
黒髪は古くから栄える"ケイロン家"に嫁いだアマツ出身の母から遺伝子を強く受け継いだ為と見て良い。

しかしケイロン家は長く女児に恵まれず、男として生まれれば兄の様に騎士として英才教育をした事から、
両親は彼女の誕生を非常に喜び、偉大なる先祖を肖って"カトリ"と名付け魔法職としての道を歩ませた。

だがカトリは兄と共に騎士として戦う事に憧れる時も有ったが、数年前 魔法の才能が遂に開花し始める。

それに自然と気付けた彼女は、最近は兄離れも進んでおり将来を考え真面目に修行していたのだが……

まさかの兄の戦死を聞いて居ても立ってもおられなくなり、敵討ちを決意してケイロン邸を飛び出した!

同時に有りっ丈の(自己)資金を持ち出し、手持ちの宝石などをも全て売り払っての依頼だったのだが。

1000枚もの紙幣を見せても足りないどころか討伐自体"不可能"らしく、受付に言われて周囲を見る。

すると話を聞いていたと思われる野次馬(冒険者)達は苦笑しながらカトリに"お手上げ"のポーズを取った。

当然ながら殆どの冒険者には名誉や誇り等は無く、死なない程度に食い扶ちを探す者が大半なのである。

ソレは某 殴りプリーストも該当されるのは余談として。カトリは厳しい現実と言う物を突き付けられた。

故に彼女は正当な依頼は無理と悟った様で、先程の勢いは何処へやら肩を落として背を向けると呟いた。


「……ほな、邪魔したな」

「有難う御座いました~」


流石 王都プロンテラの冒険者ギルド員だけ有って、最後まで"冷静"な対応だったと評価できるだろう。

コレ以上 五月蝿ければ奥の傭兵が取り押さえた可能性も有るが、カトリは其処まで馬鹿では無い模様。

いきなり拒否された時は怒り心頭であったが、彼女も王宮→王立魔術師を目指す期待の新星なのだから。


「おい」

「ああ」


――――だがカトリは迂闊であった。冒険者ギルドに来るのは決して"まとも"な人間ダケでは無いのだ。




……




…………




……数分後。


「ふん……ハナから期待なんぞ してへんかったけど、どうすれば良ェんかなァ……」


冒険者ギルドを出たカトリは、トボトボと街中を歩きながら考える。どうすれば兄の仇を討てるかをだ。

報告によれば場所はグラストヘイム古城・魔物は"深淵の騎士"と言う事は分かっているので情報は十分。

だが途轍もなく強い魔物なので相当な人数を集める必要が有り当然 命の保障など微塵にも無いのは明白。

その上また一月経てばリディアは新たな王宮騎士団を派遣するだろうし、モタモタしていては倒される。

本来で有れば諦めて討伐隊に倒して貰うのが一番だが、生憎カトリは其処まで諦めの良い女では無かった。

持ち前の性格も有り何が何でも自分で仇を討ちたいと思っており、討伐隊に混ざるなど持っての他だった。


「ともかく絶対諦めへん……この金つこうて兄さんのカタキとったるんや……って」


故にカトリは今から魔術師ギルドや商人ギルドは勿論、暗殺者ギルドにでさえ行く気で兄の仇討ちを誓う。

確かに王都プロンテラの貴族から見れば一千万zは決して大金ではないが、庶民から言えば大金である。

つまり地方を巡れば必ず自分と共にグラストヘイム古城に赴いてくれる者達が見つかると信じていたが。


≪――――ゴソッ≫


「えっ? 無い……無い!? な、何でや!? 間違い無く此処に入れとったのに……!!」


大金を無駄に持って冒険者ギルドに行った上に注目を少なからず浴びていた事から予想外の事態が起こる。

何時の間にか金を掏(す)られていた様であり、カトリは街中の路上で大きく動揺し醜態を晒してしまう。

本来の彼女なら容易く気付けた筈なのだが……今はそれ程 兄の仇討ちに御執心だったのは間違いない。

だが資金が無くなれば只でさえ絶望的だった"可能性"が限りなくゼロになるのはカトリでも容易に分かる。


「くうっ!」


≪――――ダダダダッ!!!!≫


その為"怪しそうな者"を探すべく駆け出すのだが……最早 意味が無い事であり"そうする"しかなかった。

ともかく走らなければ前に進めそうに無かった為であり、やがてはソレすら疲労が溜まれば止まるだろう。

よって案の定 走りに走った彼女は、街の外れで体力が尽き両手を両膝に肩で息をして浅はかさを悔やむ。


「うぅっ……アホや……グスッ、ウチはホンマもんのアホや……! こんな時に何も出来んドコロか……」


その表情は涙目で有り……直ぐ汗と同時に別の水滴も地面を濡らす。コレが最近2回目の悔し涙である。

同時に頭に被っていた"とんがり帽子"も中腰になっていた事により、自然と地面に落ちようとしたのだが。

気付いていながらも抗わないカトリに対し、彼女に素早く近付いた人影が落下する帽子を掴んでしまった。


≪――――パシッ≫


「おっと」

「えっ?」


――――その人物とはビレタを被り黒い修道服に身を包んだ、自分と同様 黒髪の聖職者の男性であった。


「どうしたんだい? そんな所で」

「聖職者……さま?」

「ともかくコレを」

「あ、有難う御座います」


≪すぽっ≫


「ふ~む」

「……(み、みっともないトコ見られてしも~たな……)」

「それにしても」

「は、はい?」

「なかなか良い帽子みたいじゃないか」

「!?!?」

「ソレを被ってると、何となく"知識"が増す気がしないかい?」

「そ、そうそう……そうなんですわッ! 間違い有りません!」


自分を見下ろしている聖職者は落ち様としていた帽子を丁寧に手渡して来たので、彼女はソレを被り直す。

すると唐突に彼は自分 愛用の"とんがり帽子"を褒めてくれたので、思わずカトリは驚愕してしまった。

何故ならコレは兄から贈られた大事な品であり無駄に良く精錬してしまう程 思い入れが有った為である。

とは言え"この世界"の者達は"とんがり帽子"の仕様(INT+2、SP+150)を知らない為、理解してくれない。

彼女も効果は把握して居ないがコレを装備すれば妙に頭が冴えるので、未だに被り続けていると言う事を。

つまり他の連中は"兄の贈り物に良い年して執着するブラコン"としか思わない反面、目の前の男は違う。

瞬時にカトリ本人が感じている帽子の特性を理解したと推測でき、恐らく一流のプリーストなのだろう。

対して謎の聖職者はアヤトなのだが、彼は当然 仕様を理解しており精錬度も高いので言ったに過ぎない。

いわゆる社交礼状であり……彼はカトリの眼差しを受けつつ"本来の目的"を成すべく次の行動に移った。


≪――――ゴソッ≫


「ところでコレ、君のだろう?」

「えっ? あっ! それウチの金……!!」

「"偶然"だったんだけど――――」

「あああ有難う御座いますッ! 何て御礼いうたら良ェか……ホンマ有難う御座います!!」

「よ、喜んで貰えた様で良かったよ」

「(きっと取り返してくれたんやな……何て良ェ人なんや……!!)」


カトリは興奮を抑え切れずアヤトから引っ手繰る様にして札束を奪うと、何度も何度も頭を下げ礼を言う。

彼女は偶然 窃盗を受けた瞬間を見た事から、彼が犯人から資金を奪い返してくれたのだと思ったのだ。

だが実際にはカトリは盗まれておらず……アヤトが最初から尾行をしていた為2人の盗賊は諦めていた。

早くも聖職者が自分達の悪意に気付いてしまい、盗みを働けば彼に捕まって説教を受けると察したのだ。

その為"砂漠都市モロク"から王都に赴いた2人の盗賊は、真面目に依頼を受ける事にしたのはさて置き。

流石に1000枚もの紙幣を一度に盗む事は難しく、カトリは即ち札束を落としてしまったダケである。

対して札束の落下に尾行していたアヤト気付かない筈が無く、走り出したカトリを追い駆けて今に至った。

それはそれでカトリも盗まれると同じ位のマヌケを"しでかしている"が、知らない方が幸せとも言えよう。


「(はてさて……第一印象は良かったみたいだし、どう誘ってみるかな……)」

「(ひょっとして"この人"ならウチの悩みくらいは聞いてくれるかも知れへん……聖職者様やし……)」


では何故アヤトが彼女を尾行していたのかと言うと、偶然 彼女が古城に行きたいと言う話を聞いたから。

ギルドの酒場で食事をして寛いでいる中、突然 関西弁が聞こえて来た時は吹いてしまったのは さて置き。

ゲフェンのダンジョンに篭って約3ヶ月……レベルは上がったが結局DOPを倒したリディア達の様に、
レアを拾えなかった彼は多少資金が苦しくなったので、何か手持ちのアイテムで依頼品を納品できないか?

……と久し振りにギルドを訪れていたのだが、次第点の報酬を受け取る中 大儲けの話が飛び込んで来た!

"グラストヘイム古城"と言えばレアは勿論の事、経験値も魅力的で有るのは余りにも有名なのだから。

しかし死ねばアウトな現状では流石に一人で行く勇気は無かったが、一流の魔術師とのペアなら話は別。

頭装備&あの自信を見るに腕は立ちそうだったので、何とか臨時公平PTに誘えればと尾行したのだ。

だが"この世界の価値観"を考えれば容易に誘えるとは思えないので、アヤトは心の中で言葉を選んでいた。

対してカトリだが……今現在 優しい表情で此方を見下ろしている聖職者が非常に頼もしく見えている。

何せ完全にゼロになっていた絶望的な状況を打破してくれたダケでなく、自慢の頭装備を褒めてくれた!

また男性の聖職者=非常に珍しい=凄腕のプリーストと言う"価値観"から彼に賭けてみようと結論付けた。

聖職者は どんな悩みでも聞いてくれると言う事から例え無理と言われ様が無駄には成らないだろうし……

よってカトリは元々プライドが高い女性で有るにも関わらず、勢い良く頭を下げると叫ぶ様に口を開く。


≪――――ガバッ!!!!≫


「うわッ。どうしたんだい?」

「あの……御願いします!! 少しダケで良ェんでウチの話を聞いて貰えませんか!?」

「君の話を?(まさかの相手からの誘い!?)」

「はいッ! お金返して貰ォて申し訳あらへんけど、他に頼れる人がおらへんのです!」

「……頼れる人……?」

「忙しい中すんませんけど、御願いします!! ど~かウチの事 助けて下さいッ!」

「(意味が分からんが願っても無い)まァ……俺で良かったら話を聞かせて貰うよ」

「ほ、ホンマですか!? 有難う御座います!!」


――――そんな切羽詰った様子のカトリの要望に対し、アヤトが首を縦に振ったのは言うまでも無かった。


「じゃあ君の名前は何て言うんだい?」

「あっ! ウチとした事が……申し送れました、自分は"カトリ・ケイロン"言います」

「!?!?」

「どうされたんですか?」

「い、いや……何でも無い。俺はアヤト・カツラギって言うんだ、宜しく頼むよ」

「アヤト様ですね? 此方こそ宜しく頼んます」

「ではカトリ」(キリッ)

「はい?」

「もしかして君の両親は凄腕の魔法使いだったりするのかい?」

「えっと……父は元・王立騎士団員で母はアマツの良ェとこの出だったダケみたいですけど、
 ご先祖様にウチと似た様な名前のド偉い人がおったとは聞いとりますが……それが何か?」

「それなりに"聞いた名前"だったからね。まさかと思って確認してみたダケさ」

「さいですか(……やっぱり御先祖様はウチと違って有名なんやなァ)」

「じゃあ場所を変えよう。大金の事も有るし何処で狙われてるか分かったモンじゃ無い」

「わ、分かりました……確かアッチの方にレストランが有った筈なんで……」


カトリーヌ・ケイロン。実態はアヤトのプレイしていたゲームで登場する、最高クラスのモンスター。

また普通の魔物として沸くダケでなく……MVP(ボス)としても出現すると言う特性を持っているのだ。

その力は絶大であり、普通のタイプで有れど倒せれば高Lvモンスターの20倍以上の経験値を得れる。

当然 一筋縄ではいかないが、MVPの方にもなると手が付けられない程 強く放置される事の方が多い。

此方の世界で存在するかは分からないが、カトリの先祖として居た事から魔物では無い可能性が高い。

それ以前に"古の魔"として沸き街を襲われると勝てる気がしないが……逆に"仲間"としてならどうか?

原作のカトリーヌの強さを考えると、同じor迫る魔力を持っていそうなカトリは申し分無い存在である。

よってアヤトは何とか古城での臨時PTに誘って儲ける為。カトリは仇討ちに必要な知識を借りる為。

互いに大きく擦れ違う中 話は進んでゆき……2人は寛げそうな場所を求めて並んで歩き出すのだった。




……




…………




――――30分後。王都プロンテラの一般的なレストランにて。


「と言う訳で、ウチは一刻も早く"深淵の騎士"を倒して兄さんのカタキを討ちたいんですわ」

「敵討ちを……ねェ」

「でもアヤト様は聖職者やから、こんなウチを軽蔑したりされますか?」

「そんな事は思わないさ。それ以前に別に俺は立派な人間じゃ無いって」

「そうなんでっか?(でもウチの勘が凄い人って言うとるんやけど)」

「まァそれは良いとして……まさか"深淵の騎士"を倒すのが目的とはねェ……」


カトリと共にレストランに足を運んだアヤトは、互いにドリンクのみを注文すると彼女の話を聞いた。

どうやら目の前の魔術師は"特定の魔物"を撃破する為ダケに、グラストヘイム古城に行きたいとの事。

その"深淵の騎士"は確かに強力なモンスターでは有り、アヤトが一人で戦って勝てる相手では無いだろう。

完全にタイマンなら勝機は有るが、奴はカーリッツバーグを従えるので三体以上が相手では確実に詰む。

しかも"グラストヘイム古城"は原作で狩場として魅力的だった為、彼が既に調べていた情報によると……

"この世界"の深淵の騎士は絶対数は少ないがレイドリックをも従えるらしくアヤトは狩るのを諦めていた。

――――しかしながら。"カトリーヌ・ケイロン"の血を引くウィザードとのペア狩りなら話は全く違う。

自分が敵を頑張って釣って彼女に"大魔法"を撃って貰えれば、深淵の騎士の取り巻きなら容易く倒せる筈。

それは相当な経験値 効率にも繋がり、更にレア・アイテムが出れば申し分ない臨時公平PTと言えよう。

とは言え事故死の可能性も高い危険な場所と言う事から、何時ものアヤトであらば行かないだろうが……

最近まで同じダンジョンに3ヶ月間一人で篭っていた事も有り、何となく効率を求めたい気分だったのだ。

だが"深淵の騎士"が出現する場所は何処だったか……GH古城は幾つものマップで構成されるダンジョン。

よってアヤトは原作の記憶を漁る意味で首を捻っていると、彼を見るカトリはカラダを小さくさせていた。


「……(うぅ……やっぱウチの言うとる事は無謀なんかなぁ?)」

「じゃあ目的の"深淵の騎士"はGHの何処に居るんだい?」

「えっ? えっと……確か"グラストヘイム騎士団"の2階って話です」

「成る程。騎士団の方か……ふぅ~む(古城エリアじゃ無い分 少しは楽そうだなァ)」


現在のアヤトは既にGHに行く気マンマンであり場所を聞いたのも只 狩場を確認したダケで他意は無し。

だがカトリの方は違う捉え方をした様で、難しい顔をしている彼が真剣に悩んでいる様に見えてしまった。

故に改めてカトリ自身も"今喋った事"を振り返ってみると、確かに知恵を借りるドコロの話では無かった。

古くから代々続く"王宮騎士団"の選りすぐりの部隊が一体 倒して帰還するのがやっとだった深淵の騎士。

それを僅か一千万zの資金を元にゼロからPTを編成した上、一ヶ月以内に撃破 出来る様にして欲しい?

正直 無茶な相談であり、幾ら大金とは言え王宮魔術師"見習い"のカトリが用意 出来る程度の額なので、
もし彼女の兄ほどの能力を持つ貴族の騎士をGHに連れて行くべく雇うとなれば一千万zでも足りない。

つまり腕の立つ者を"命ごと"雇うのには途轍もない大金が必要であり、場所が場所で有れば尚更である。

そう考えれば……ミッドガルド大陸の為に命を掛けて戦う騎士達が民に支持されるのは当然と言えよう。

ならば更に強大な"古の魔"を撃破するべく努力を欠かさなかった歴代の王達が愛されていたのも頷ける。

さて置き。アヤトはそのまま、今後の予定を考えている的な意味で黙り込んでしまっていたのだが……

対して彼を眺め続けているカトリは、無茶な悩みに時間を使わせてしまって申し訳なくも思ってしまう。

彼は思っての通り"良い人"なのか真面目に知恵を貸そうとしているが、やはり無理なのはムリなのだから。

だが……カトリは既に諦めの心境の反面、何処かで彼の言葉を期待している自分も居るのを察していた。


「(ダメだしされたら、されたで構わへん。最悪グラストヘイムには一人でも行ったるさかいッ!)」

「(話によるとカトリは家出中の身みたいだし……出来るだけ早いウチ出発した方が良いなァ)」

「(でも……人に相談したのは初めてやったし、真剣に聞いてくれたダケでも感謝せにゃアカんな)」

「(だとしたら"善は急げ"って事だな。早速ポータルの場所をメモって来るとするか!!)」


≪――――ガタッ≫


「あっ……」

「んんっ?」

「(そんな!? やっぱり……知恵を貸す以前に話す事すら無いとでも言うんか?)」

「(し、しまったッ! 俺とした事が……!!)」


そんな行き違いの中アヤトが唐突に席を立ったので、カトリが声を漏らすと彼は我に返って視線を降ろす。

すると視界に飛び込んで来たのは涙目で自分を見上げる彼女の姿であり……アヤトは己の行いを悔いる。

何故なら今の自分は効率に酔いしれており、兄の仇討ちを望む彼女の心境を全く理解しようとしなかった。

それなのに何を空気を読まずに席を立ったのか。カトリは涙を流してまで辛い思いを話してくれたのに!

反面カトリは聖職者様からも自分は見放されたのだと錯覚した為に、自然と涙が出てしまったのだが……

彼女の涙を違う意味で捉えたアヤトは混乱するばかりで、着席すると苦し紛れに以下のような事を言う。


「そんな顔をしないでくれ……心配しなくても君の"お兄さん"の無念は必ず晴らすさ」

「えっ?」

「だから明日には発とう。勿論 目指すは"グラストヘイム騎士団"だ」

「……って事は……まさかアヤト様も協力して下さはるんですか!?」

「何か問題でも有るのかい?」

「そ、そう意味じゃあらへんけど……確かに"大聖堂"の力を借りれれば……」


アヤトは今の空気を変える為に話題を明日の件に変える事にしたのだが、更なる食い違いが生じた模様。

彼は2人で行くつもりで言ったのだが、カトリはGH古城にペアで行くと言う発想など最初から無かった。

よってアヤトの力で大聖堂の"モンク"や"クルセイダー"を傭兵として貸し出してくれるのだと考える。

だとすれば、どちらとも非常に強力な職業なので彼女にとって頼もしい味方となるのは間違いないだろう。

……とは言え経費も相当 高いだろうが……足りない分は一生掛けてでも払うと言う決意が彼女には有る。

その為カトリは自分の考えが思い違いだった事を喜ぶと同時に、協力を決めた彼に素直に感謝したのだが。


「大聖堂のチカラを借りるって?」

「は、はい。其処の兵隊さんをアヤト様に回して貰えるなら……」

「いやいや。そんな事をする必要は無いさ(……そもそも俺 顔なんか広くないし!)」

「へっ? じゃあ、何をどうやって"深淵の騎士"を――――」

「はははッ、そんなの決まってるだろ? 俺と2人ダケで行くに決まってるじゃないか」

「え……ええええぇぇぇぇ~~ーーッ!!!?」


カトリが思うにGH古城に行くには最低10人以上の頭数が必要であり、更に質も要る事が問題であった。

だが目の前の聖職者は"たった2人"で行く気だった様で驚きの余りカトリは大きな瞳をパチクリとさせた。

何と言う無謀な発言。自分も無茶な相談をした事は分かっているが彼の言う事も常識を大きく外れている。

しかしアヤトの価値観から言えば"臨時公平PT"は基本的にペア狩りが多く、GH古城でも例外では無い。


「そんなに驚く程の事だったかい?」

「あ、当たり前ですわ……その発想は有らへんかったです」

「なんと」

「えっと……アヤト様は腕が立ちそうな感じですし、ウチかて魔法には それなりの自身は有ります。
 それでも流石に2人で行くのはキツい思いますけど……こんな頭数で大丈夫なんですか?」


彼女の世界の常識から言えば、たった2人で"GH古城"に赴くなど"心中しに行く様なモノ"である。

故に当たり前の質問をしてみると、地味に先程から目立つカトリの胸元から視線を逸らしていた彼は。

今を"好機"とワザとらしい仕草で彼女の方を振り向くと、無駄に爽やかな笑みを浮かべて言うのだった。


「大丈夫だ、問題ない」


――――お前それが言いたかったダケだろ!! だが彼を見つめるカトリには無駄に格好良く見えたと言う。


「(嗚呼……やっぱり この人は、只者やないんわ……)」








■後編に続く■








■あとがき■
転生2次ながらカトリの魔法で秒殺されたのは良い思い出。実は名前をハヤテにしようか迷いました。



■補足■


○カトリ・ケイロン○
当時は19歳のウィザード。リディアと同様INTの数値が馬鹿みたいに高いのでチートキャラの一人。
詠唱に限っては普通のレベル(未熟)なので、二十歳には王宮魔術師として仕えれる様に日夜修行していた。
しかし兄の戦死を聞き、ブラコンでも有った彼女は"深淵の騎士"を倒すべく旅立つ事を決意し今に至る。
どうやらアマツ出身の母の血を強く受け継いでいる様で……黒の短髪でありエセっぽい関西弁を話す。
元ネタは知る人ぞ知るカトリーヌ・ケイロン。雑魚なのに下手すれば一部のMVPモンスターよりも強い。


○グラストヘイム古城○
ROで言えば中の上のレベルに当たるダンジョン。監獄を除けば基本ソロで行ける場所では無かった気が。
だがペア狩りなら結構な効率を叩き出せるので、監獄2・騎士団2には私もLKで良く行っていました。
MVPモンスターのダークロードは無詠唱で広範囲の大魔法を放ってくるので、鬼畜の強さとして有名?


○深淵の騎士○
グラストヘイム古城の恐らく1・2を争う強敵。カーリッツバーグ2匹を従えるので基本タイマンは危険。
範囲攻撃のブランディッシュ・スピアの威力が恐ろしくプリの支援が有っても湧きが重なれば落ちる事も。
ただ弱点は足の遅さなので振り切るのは簡単。でも5年以上前の事なので今は仕様が変わっているかな?



[24056] ■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:後編■
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2011/06/05 12:03
――――仇討ちを求めるカトリ・ケイロンが一人の聖職者と運命的な出会いをした、その翌日の昼前。


「…………」


彼女は王都プロンテラの少し西に位置する"地下水道"の入り口付近でアヤト・カツラギを待ち続けていた。

それにしても何故、よりによって男女の待ち合わせの場所が人気の少ない"地下水道"なのかと言うと、
最初はプロンテラ西の入り口で待ち合わせようとアヤトが提案したのだが、カトリは絶賛家出中である。

よって人通りの多い西口前では従者に見つかってしまう事を考えて、下水道を選択して今に至るのだが。


「……来ぉへん」


既に待ち合わせの時間から2時間が過ぎようとしているのだが、一向にアヤトは姿を現さないでいるのだ。

まさか本当に来ない? カトリは昨日……アレから色々と彼の世話になっていた分 ショックが大きかった。

アヤトはGH行き決めると、先ずは"攻略に揃っていれば安定して狩れるスキル"を聞きいて来た事に対し。

彼女が"その質問"をする彼の雰囲気の違いに少々 飲まれながらも、全てを習得している事を告げると……

カトリにとっては"全て覚えてなければ拒否される"と思っていたが……彼にとっては左程 重要では無い。

全て覚えていなければ"覚えている魔法での戦法"で対抗すれば良く、それ以前にカトリは全て覚えていた。

よって心底ホッとしたカトリの反面、アヤトは内心で歓喜しており続いて"ペア狩り"の攻略法を解説する。

実際に行ってみなければ分からないとは言え、予め告げて置かなければ何も出来ない事を避ける為にだ。

その大まかな"攻略法"はカトリにとっては冗談でも聞いているかの様だったが、不思議と信憑性を感じる。

詳しい理由は省くが、その時の彼女にとってアヤトは無条件で信用してしまう程 頼り甲斐が有ったのだ。


「やっぱり……冗談やったんかなぁ?」


――――これから言う内容は君達の"常識"を考えると、滅茶苦茶な事だとは思うけどね。


"攻略法"を告げる際、苦笑しながら そう話を切り出したアヤトの表情を思い出しながらカトリはボヤく。

アレは冗談。自分は遊ばれたダケ。2時間も待ち人が来なければ普通は諦めるべき……間違いない考えだ。

だがレストラン(割り勘)を出た後にも続きが有り……カトリはアヤトに一つの"肩に掛ける物"を借りた。

それは"壁に沿いながら歩けば姿を消せる"装備であり自宅から明日に備え装備を取って来る様 言われる。

何処で"そんな装備"を彼が手に入れたかは謎だったが、ソレが有ったからこそ彼女は大騒ぎ中の家に侵入。

そして言われた通り"生命力が上がりそうな盾や服や靴"を持って来て、アヤトは真剣な表情で装備を吟味。

結果 名家"ケイロン家"には彼の望む装備が有った様で、今は彼女のカラダに装備され準備は万端である。

ちなみに他に持ってきた(アヤト吟味 済みの)余剰分の装備はカトリの"四次元ポケット"に収まっており、
そのポケットは王都プロンテラから直接"カプラサービス"が依頼され王立&王宮騎士団に配布されるモノ。

故にカトリは思いの他 軽装であり、カオと上半身を覆う"フード"を被りつつアヤトを……以下 同文だ。


「……うぅッ……」


≪――――じわっ≫


しかしながら。幾ら待ってもアヤトは来ないので、とうとう泣きが入って来たカトリ・ケイロン19歳。

通りすがりの衛兵に白い目で見られながらも棒立ちする自分が、段々と惨めに感じて来てしまったのだ。

幾ら此処が過去に"古の魔"が出現した重要な場所で有るとは言え……此処は紛う事なき下水道の入り口。

流石に"こんな場所"から何回目のリトライと成った"敵討ち"の出発をするのは精神的にキツい物が有る。

その為 見た目は物静かに佇む魔術師に見えてフード越しに涙を毀れるのを我慢していたカトリだったが。


≪たったったったっ……≫


「カトリ!!」

「……ッ!?(アヤト様っ?)」

「悪い悪いッ! マジで遅くなった!!」

「そ、そうですよ? 何時まで待たせて――――」


唐突に背後から聞きたかった者の声が聞こえてカトリは体を震わせた……のだが、其方には振り返らない。

恐らくアヤトに泣きそうだった自分の顔を見られたくないのだろう。そうすれば本当に見限られてしまう!

しかし遅刻は彼が悪い以前に頼っているのはアヤトの方なのだが、違う意味で良いタイミングで来た様子。

つまりカトリの心が折れる直前に現れたと言う事で……こんな時の彼で有っても頼もしく感じたのである。

だが自分は誇り高く気丈な魔術師で居なければ成らず、振り返る彼女は既に何時ものカトリだったのだが。


「いや~、まだ待っててくれて本当に良かったよ」

「えぇッ!? ど、どうされはったんですかアヤト様……その姿!!」

「いや~、ちょっと予定より準備に時間が掛かっちゃってねェ」

「だからって、一体 何が有ったんですか!?」


――――2時間遅れで現れた聖職者様は、目立った傷は無いモノの黒い修道服のあちこちが汚れていた。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト】




■第三章:敵討ちを求める女魔術師と、列車がしたい殴りプリ:後編■








ようやく合流できたアヤトとカトリは、地下水道の入口を徒歩で離れながら今の件について話す事にした。

話題としては先ず"遅れた理由"が第一に来るだろうが、衣服が昨日より損傷しているのも気になるトコロ。

正直 世間に疎くもあるカトリには想像がつかず、少なくとも1時間や2時間で出来たモノとも思えない。


「アヤト様。何が有ったかは当然 説明して貰えるんですよね?」

「勿論だよ」

「全く2時間も遅刻って……ウチもう少しで待ち合わせ場所を離れる所だったんですよ?」

「それについては本当に感謝してるって」

「じゃあ話して下さいっ!」


――――最初はアヤトが来てくれて嬉しかった様だが、徐々にムカムカして来た(フードを取った)カトリ。


「実はだね。"グラストヘイム古城"のポータルのメモを取って来たからなんだ」

「へっ?」

「本当は昨日のウチには着く予定だったんだけどね……思ったよりもテレポ運が悪くて能率が悪くてさ。
 暗くなって場所の把握が難しくなってからは、結局"速度増加"を掛けて走って今に至るってワケだよ」

「……って事は……アヤト様は一人で"コボルト"や"プティット"の縄張りを抜けたって言うんですか?」

「うん」

「たった一日で?」

「そう」

「しかも一人で?」

「むしろ"一人だからこそ"とも言うかな?」

「は……はァああぁぁ~~ーーッ!!!?」


この世界の常識的に考えて"グラストヘイム古城"とは、到着する事 自体が難しい迷宮だと言われている。

冒険者達にとって"コボルト"も強敵だが、竜族のモンスターである"プティット"は二次職でも苦戦は必至。

よって普通の人間など近付く事すら自殺行為と言えるのに、アヤトは一人で其処を一晩で抜けてしまった。

てっきり先ずは彼に"魔法の都市ゲフェン"にまでワープ・ポータルで送って貰い地図で進路を決定した後。

何日か掛けてGHを目指すか、若しくは王都の何処かでGH行きのポータルを持つ者を探すと思っていた。

よってカトリのポケットの中には指示はされていなくとも2週間分の食料等は詰め込んでいたのだが……

まさかアヤトが自分の為に"GH直行便"を用意してくれていたとは思わず、自然と大声を上げてしまった。

此処は人気が無いので迷惑に成らないのは さて置き。コレなら遅れたのも納得できると言うモノである。

彼がGHへの道程や下準備について何も言わなかったのは、全ては直行便を用意する為だったのだから。

そうカトリは判断する事で、改めて彼が只者では無いと思うと同時に感謝した。遅刻の事やら何処へやら。


「おいおい、昨日から何度も驚き過ぎだって」

「す、すみません。でもウチはてっきりゲフェンから……ほんま手間が省けて助かります」

「感謝なんてしなくて良いよ。そもそも狩場のメモは当然の役割だし」

「当然の役割って……(冗談と捉えた方が良ェんやろか?)」

「ともかく出発しよう。メモは"騎士団の入り口"にして有るからさ」

「え、えぇ~ッ!? アヤト様は古城の中に入られたんですか!?」

「そうだけど? ……いや……正確には"古城の中"じゃなくって"敷地の中"かな?」

「どっちにしろ危険だったんじゃ?」

「内部はヤバそうだったけど、外は左程でも無かったよ。だから転送後は安全だから安心して良い」

「わ、分かりました」

「それじゃあ、カトリの装備は……大丈夫そうだな。良し早速 転送を始めよう」

「えっと! その前に休まれなくても平気なんですか?」

「全然 問題無いよ」

「……うッ……で、でも無理せんといて下さいね?」

「有難う」

「(ほ、本当に底が知れん人やわ……この人とやったら、本当に深淵の騎士を……)」


彼にとって今や"この世界"での狩りは徹夜でネトゲをしていた学生時代と左程 代わりは無かったりする。

また此方に来て間もない頃は絶望より喜びの方が強く、転職したい一心で一週間もの間 野宿をしながら、
ひたすら下級モンスターを狩り続けた事も有り、今やアヤトは"この世界"の軍人より戦いに順応していた。

だが生憎 彼のみぞ知る"狩場や魔物の知識"や"装備の特性"を最大限に活かしても超えられない壁は有る。

即ちリディアとクレア……そしてカトリの様な"英雄"達であり、性能はゲーム内の廃人達を優に上回る程。

それ故にアヤトは甘い汁を吸おうとしている為、徹夜によるポータルのメモなど普通に朝飯前であった。

しかしゲームと違い数分で済むメモの筈が十数時間を要したが、彼は遅刻して悪かったとしか思ってない。

よってカトリの心配をアッサリと流すと、開けた場所で歩きを止め……当たり前の様に魔法を展開させる。


「ワープ・ポータル」

「…………」


≪シュイイイイィィィィンッ……≫


「ささッ、消える前に入って入って」

「…………」

「んっ? どうしたんだい? カトリ」

「あ、あの……えっと、アヤト様?」

「うん?」

「恥ずかしい御願いなんやけど手ェ握って、一緒に入って貰っても構いませんか?」

「!? 別に良いけど?」

「ほんなら失礼しますッ」


≪――――ギュッ≫


此処でカトリは彼に"まさか"の御願いをするが、コレは何となく先にポータルに入るのが不安だったから。

実を言うと"ワープ・ポータル"は一定時間が経過or術者が入る事で消えるのだが、悪用する方法が有る。

つまりカトリが入った後にアヤトが入らなければ、カトリをGH古城に置き去りにする事が出来るのだ!!

……とは言え市販アイテムの"蝶の羽"を使えば街に戻る事が可能だが裏切られると相当ショックは大きい。

当然アヤトに置き去りにする気は皆無だが、カトリは"それ"が怖かった様で手を繋ぐ事で回避したかった。

このカトリ・ケイロン。何気に冒険者ギルドを頼るのは王都での最後の手段で、色々と挫折が有った模様。

その為 信用できると思い込んでいるアヤトで有っても、再び離れてしまうのが非常に怖かったのである。

対してアヤトは"手を繋げば同時に転送できる"と言う"この世界の仕様"を斬新に感じつつ足を踏み出した。


「(やっぱ俺って信用 無かったのかな~?)」

「(コレで安心して入れるわ……でも自分が情けない限りやで……)」


――――ウィザードの卵と胡散臭いプリースト。互いに地味な"擦れ違い"をしながら。




……




…………




……数分後。


「此処がグラストヘイム騎士団……」

「流石に他のダンジョンとはワケが違うって感じかな?」

「はい。雰囲気だけで飲まれてしまいそうですわ……」

「違い無いね」

「そ、それではアヤト様?」

「うん。俺が先行するからカトリはゆっくり後ろを付いて来てくれ」

「了解です」

「指示は都度 俺が出すから言われた通りにしてね?」

「分かりました」


アヤトの言う通り転送先は"GH古城"の騎士団エリアの入り口だった様で有り、改めて驚くのも束の間。

彼より直ぐ様"フル支援"を受けると早速 建物の中に足を踏み込んだアヤトの背中を慌てて追い今に至る。

そんな内部は常人ならば失禁しそうな程の威圧感が常に充満しているが、本当に2人ダケで来てしまった!

故に今更ながら不安になるカトリであったが、元より赴く事を決めていたし此処はアヤト信じるしか無い。

そう自分に言い聞かせスタスタと臆する事無く進んでいくアヤトに神経を集中させつつ付いて行くと……


「むっ? 早速お出ましか」

「あ、あれは――――!?」


≪ガシャガシャガシャガシャ、ガシャンッ!!≫


「レイドリックだな」

「来ますよ!? ウチはどうすれば良いんですッ?」

「昨日言った通り、単体はファイアーボルトの詠唱を頼む」

「は、はい!」


一体の"レイドリック"が此方に気付いた様で、重量級モンスターながらも俊敏な動きで距離を詰めて来る。

レイドリックとは騎士団では一般的な魔物だが……臆する事が無い上に何気に素早い両手剣持ちの全身鎧。

それダケで一般人など何も出来ずに真っ二つにされるのは間違いなく、二次職でも一人では苦戦する相手。

故にレイドリックの勢いに引き気味のカトリで有ったが、アヤトは相変わらず冷静で盾を構えて迎え撃つ。


『……!!』

「おっと」


≪――――ガキイイィィンッ!!≫


『!!!!』

「遅いなッ」


≪――――ブゥンッ! ブウウゥゥン!!≫


「(す、凄いッ! 正直 半信半疑やったけど、ホンマに相手しとる……!!)」

「(ふ~む。ファイアーボルトLv10の詠唱速度は、普通ってトコかな?)」



アヤトは接近して来たレイドリックの、2m近い巨体から繰り出される斬撃を先ず容易く防御してしまう。

そして今度は回避行動に移り……再び驚愕するカトリの反面、彼も彼で自分が"戦える事"に安心していた。

ちなみに反撃をしていないのは、撃破は可能だが能率が悪いので今回はカトリの火力に頼る事にした為だ。

よって現在のアヤトは"片手杖"を持っており、攻撃を捨て防御・回避・そして"支援"に徹そうとしている。

さて置き。此処で重要なのはカトリの能力であり、魔力や詠唱によって狩り方にも大きな違いが出てくる。

最悪 カトリが弱かったら必要最低限のフォローを任せて気合で"深淵の騎士"を倒す予定であったが……?


「(詠唱完了や)ファイアーボルトッ!!」

『!?!?』


≪――――ガガガガガガ……ッ!!!!≫


「(レイドリックが一撃!? しかもボルトが"6発"しか当たって無いのにだとォ!?)」

「ふぅ……(流石はアヤト様や! 王宮騎士でも苦戦するレイドリックの攻撃を捌けるなんて)」

「カトリ」

「はい?」

「次にレイドリックが現れたら3本のボルト(Lv3)を飛ばすダケで構わないからね?」

「へっ? あァ……"レックス・エーテルナ"を掛けるんですね?」

「そう言う事」

「ホンマ凄いです。普通そんな余裕を出すなんて無茶 思いますけどアヤト様なら出来そうな気しますわ」

「俺にとっては君の魔力にも驚きだけどねェ」

「あはは。ウチはそれダケが取り柄ですから」


≪――――ギリッ≫


「……っと新手が来たみたいだな」

「れ、レイドリックアーチャ!?」

『…………』


≪――――ヒュッ≫


「ニューマ!!」(遠距離攻撃無効の設置魔法)

「……あれっ?」

「カトリッ! アイツはボルトを2本で試すぞ!?」

「わ、分かりました!」

「レックス・エーテルナ!!」(対象への次の攻撃のダメージ2倍)

「(ウチは今 慌てて何も出来んかったのに……ああも動けるなんて本当に――――)」

「(本当に魔力は親譲りだったんだな。こりゃ~凄い効率が期待できそうだぜ!!)」

「(――――頼りになる人やったんや!!)ファイアーボルトッ!」


何と彼女の"ファイアーボルト"の7発目を受ける前にレイドリックが沈んだので相当な魔力が有るらしい。

つまりレックス・エーテルナを掛ければ3本のボルトで倒せると言う事であり、極めて効率が良くなる。

それにより、相当な士気向上を受けたアヤトは"レイドリックアーチャー"はどうかと試してみたのだが……

レイドリックよりもタフでは無いアーチャーは4発分のボルトで沈み、カトリのチートっぷりを実感した。




……




…………




……30分後。


「騎士団の2階に到着か~」

「此処に"深淵の騎士"が居るんやな……」

「ともかく慎重に進んで行こう」

「アヤト様の指示に従いますわ」


幾ら火力が高くとも場所が場所な為に2人は慎重に歩みを進め、主に単体のみを順当に撃破していった。

その際 背後からレイドリックが出現する事も有ったが、全てアヤトがタゲを取っていたのは余談として。

やがて階段が見えて来たので、其処を上り切った事で目的地のGH騎士団2階に辿り着いたと断定できる。

ちなみに"この時点"でカトリの信頼度は更に上がっており、今や言われた指示を疑う事すらしない程だ。

対してアヤトもカトリの次第点の詠唱速度と途轍もない魔力の高さにテンションが鰻登りになっている。


「……んっ?」

「!? な、なんやアレ? 物凄い数が屯(たむろ)してはりますね……」

「ざっとレイドリックが10、カーリッツバーグが5ってトコかな?」

「ついでにアーチャーも2・3体おるみたいです」

「"深淵の騎士"は居ないみたいだなァ」

「不幸中の幸いってトコですね……見つかる前に離れた方が……」

「それじゃ~カトリッ! ストーム・ガストの詠唱を頼むよ!?」

「えっ? はい。分かりました――――って、アヤト様ああぁぁッ!!!?」


≪――――だだだだだっ!!≫


『!?!?』

『……!!』

「気付きやがったな!? さあ……追いかけっこ(列車)の始まりだ!!」


≪ガシャガシャガシャガシャ、ガシャンッ!!≫


「(何考えとるんや!? こんな状況で範囲魔法の詠唱なんて、出来る筈が無いやんか……!!)」

「サフラギウム!!」(変動詠唱時間の短縮)

「……っ!?」

「なにしてるんだカトリ!? 早く詠唱してくれッ!」

「は、はい!(……でも何もせんかったら轢き殺されるダケや……やったる!!)」


何とアヤトは20体近い魔物達の中に走って行き、此方に連れて来ると言う信じられない事をした!!

それにカトリが呆然としていると、彼は追って来るレイドリックの攻撃を避けながら此方に支援をする。

故に彼女は慌てて詠唱に移ったとは言え……あの数は常識に考えると、どうやっても一人では捌けない。

しかしアヤトは違い、時には"ニューマ"でアーチャーの矢を遣り過ごし、時には盾で防御してしまい……

更に足の遅いアンデットの"カーリッツバーグ"をも距離を離し過ぎない様に釣る事で一箇所に纏めている。

"その場所"とはカトリが範囲魔法を設置しようとしている"中心"であり、現在進行形で剣撃を回避中だ。


「おっと!! 危ねッ!? ……ちぃッ!」

『……ッ!』


≪――――ガコオオォォンッ!!!!≫


「あ、アヤト様!?」

「(流石に避け続けるのはキツいな)セイフティ・ウォール!!」

「(もう少しで詠唱は終わる……でも良ェんか!? このまま撃ったら巻き込んでまうッ!)」

「まだか? カトリッ! そろそろ限界なんだが――――」


此処で今更だがゲームとは違う仕様が存在し、大魔法は味方を敵 諸共巻き込んでしまうと言うのが常識。

よってカトリは詠唱してはみたモノの、直前になって最も重要な事に気付くが、彼も当然 理解している。

つまり相応の対策を考えているらしく諦めずに敵の攻撃を捌いているので、カトリはヤケクソ気味に叫ぶ!


「えぇい、ままよ~ッ!」

「テレポート!!」


≪――――パッ!≫


『!?!?』

「ストォォーム・ガストォォッ!!!!」(指定した地点を中心に広範囲にわたって吹雪を巻き起こす)


≪ビュオオオオォォォォーーーーッ!!!!≫


ストーム・ガスト。これは水属性の範囲魔法であり、3ヒットした後は相手を凍らせる特性を持っている。

だが魔力の高さも有り、レイドリック(+アーチャー)は勿論カーリッツバーグも3発の時点で沈んでいた。

本来であれば発動の時間は暫く続くので、凍ったら即割る事で更に3ヒットさせダメージの底上げを狙う。

しかし必要が無かった以前に、味方にも範囲魔法が当たると言う仕様から狩人以外には難しい条件である。

つまりカトリ様々と言う訳であり、テレポにより彼女の背後に現れたアヤトは抜群の効率に歓喜していた。


「見事に片付いてるな」

「こ、これ……ウチが殺ったんか?」

「大正解」

「そうなんか~、コレだけの数を……ってアヤト様!!」

「うん?」

「何て無茶な事をされるんですか!? 万が一敵の攻撃が当たってたら、どうするトコだったんです!?」

「そんな事 言われても当たらなければ、どうと言う事は無いさ」

「そ、ソレはそうなんですけど……2度目はゴメンですからね? 正直寿命が縮みましたわ」

「あははは、悪い悪い。一度やってみたかったんだよ」

「でも……礼は言っときますわ」

「何でだい?」

「こうも爽快だった瞬間は、生まれて初めてかもしれません」

「それならカトリには"素質"が有るかもねェ」

「素質? ま、まァ……"一流"の聖職者様に褒められて悪い気はしませんわ」

「(列車による大量の撃破のって意味だけどね)」

「ともかく深淵の騎士を探しましょう。爽快よりも今は敵を討って"スッキリ"したいんです」

「了解~」

「(コレならアヤト様が居れば楽勝やな……ウチの火力も十分みたいやし、絶対に殺したる!!)」


大魔法が消えた頃には、レイドリック(+アーチャー)の残骸とカーリッツバーグの骨だけが残っていた。

コレにより騎士団2階の魔物の大半が撃破された事になったのだが、非常にリスクの高い一瞬と言える。

アヤトにとっても、思い返せば一つミスしていれば重症は必至だった為 今度は手堅く行く事にした模様。

しかしながら。今の快進撃はカトリの自信を飛躍的に高めてしまった様で、危機感が大きく衰えていた。




……




…………




……更に30分後。


「レックス・エーテルナ」

「ファイアーボルト!!」


≪ボヒュヒュヒュ――――ガガガッ!!!!≫


「(超効率)」

『!?!?』


≪――――ガシャンッ≫


「コレで何体目のレイドリックやろか?」

「なかなか現れないなァ」

「まぁ、邪魔するなら蹴散らすダケですわ」

「違いない」


アレからは大きな沸きも無く、2人は順調に2階を攻略して行き幾つかのエルニウム結晶を拾っていた。

エルニウムとは防具の精錬で必要不可欠な素材……と言うのはさて置き。既に間違いなく黒字と言える。

しかもカトリはドロップは全てアヤトに譲ると言っているので、表には出さないが内心歓喜なアヤト君。


「……んっ? 何やあのモンスターは」

「あ、あいつは――――!!」

「(射程範囲内やな)こっちには気付いてへんし……殺ったるで!!」

「ちょっと待て、カトリ!!」

『……!?』


そんな攻略中……カトリが初めて見るモンスターが登場! 巨大なカードの姿をした"ジョーカー"である。

ゲームと違って極めて数が少ない事からアヤトより強敵と話は聞いていたが、危険性を認識できなかった。

その為かジョーカーが背を向けていたのも有り、アヤトの指示を受ける前にカトリが詠唱を開始すると……


≪――――ゴォッ!!!!≫


「なっ!?(は、速いッ!?)」

「ちぃぃっ!!(詠唱反応か)」


ジョーカーは唐突に体(カード)内で"背中を正面に変える"と一直線にカトリに向かって突撃して来る!!

このカトリの勝手な行動は、攻略当初のカトリからは想像出来なかった事でアヤトは内心で舌打ちする。

自分も自分でカトリの火力による効率に酔いしれており、ジョーカーとの遭遇に対する警戒を怠っていた。

だが遣らかした事は仕方ないので、彼は驚異的な移動速度を持つジョーカーの進行方向をギリギリで塞ぐ。

ソレと同時に既に持ち替えていた"命中率を重視させたチェイン"を振るってタゲを取ろうと試みたが……


≪――――ブゥンッ!!≫


「嘘っ!?(念属性!?)」

『……!!』

「えっ……」


≪――――バコオオオオォォォォッ!!!!≫


GH騎士団での強敵ジョーカー。このモンスターは驚異的な移動速度を持つ上に魔法と打撃にも優れる。

更に回避率も異常に高く、アヤトが普通の武器で攻撃しても攻撃を殆ど当てる事が出来ないと言う始末。

故に命中率を上げる必須武器を予め用意して置いたのだが、ジョーカーには更なる特性が存在していた。

それはバリアチェンジ。属性を定期的に変化させる事が可能であり、現在は物理無効の相性だったのだ。

よって当たっていた筈のアヤトの攻撃は空を切り、ジョーカーの攻撃が無防備のカトリに直撃してしまう!

そのジョーカの一撃は超加速の遠心力も加わり……ゲームよりも遥かに重そうな破壊力を持っていた模様。


「カトリッ!?」

「(そ、そんな……ウチ……死ぬんか?)」


≪――――ドドォッ!!!!≫


対して まるでサッカーボールの様に吹き飛ばされたカトリは、意識が飛ぶ直前。瞬間的に死を覚悟した。

そして意識を手放すと同時に、およそ十数メートル後方の地点の地面に落ちると抗う事無く回廊を転がる。

ソレが止まったと思うと彼女はジョーカに右腕を向けた状態で仰向けに倒れており、血の池を広げていた。

言うまでも無く今の一撃は"致命傷"だった様であり、幾ら魔力が高くても所詮 体力は人間の女性 相応だ。


「……なんてこった……」

『……ッ!!』

「うおっ!?」


≪――――ガコオオォォンッ!!!!≫


『!?!?』

「効くかよ、そんなもん」

『…………』

「魔法も無駄だ。闇属性の服 着てますが何か?」


しかしながらだ。いくら強敵ジョーカーと言えど、アヤトがタイマンで負けるような相手では無かった。

そもそもカトリを置いて逃げる選択肢すらハナから無く……先程と同等クラスの打撃を容易く防御する。

対してジョーカーは、あの魔術師とは相場が違うと瞬時に判断し闇魔法を放つが当然対策 済みであった。

されど念属性と言う特性が有り、現に彼の攻撃が無効だった事から強気に攻撃を繰り出して来るのだが……


『……!!』

「セイフティ・ウォール」

『!?!?』

「アスペルシオ」(3分の間 武器に聖属性付与)


命中重視の武器に変えても念属性には意味が無く、属性武器を持っても逆に攻撃を当てる事が出来ない。

ならばソレを両立させてしまえば万事解決であり……コレは殴りプリーストだけが可能な特権であった。

よってアヤトは火力が微妙とは言え、ジョーカの攻撃を捌きつつ確実に相手の装甲を削っていっている

反面 狡猾とは言え"逃げる"と言う選択肢が無いジョーカーは、もはやアヤトに対して何も出来なかった。


『…………』

「時間が無いんだッ! くたばりやがれ!!」




……




…………




……1時間後。


「うぅッ?」

「…………」

「あれ? 此処は……って、アヤト様?」

「目が覚めたみたいだな」

「あ、あぁ~ッ!? もしかしてウチは――――」

「思い出したか? カトリはジョーカーの攻撃で意識を失ってたんだ」

「……と言う事は……アヤト様がウチを蘇生してくれたんですか?」

「うん。生憎"リザレクション"には大きな精神力と詠唱時間が要るからしんどかったけどねェ」

「り、リザレクションを!? こんな危険な場所で……」


――――カトリの言う様にゲームと比べると、蘇生魔法の詠唱は相当な余裕が無ければ出来ない仕様だ。


「ははは。今回ばかりは流石に骨が折れたよ」

「ホンマ凄いですわ……どうやってジョーカーやレイドリックを遣り過ごして……」

「遣り過ごす?」

「そうですわ。そもそも火力はウチしか居らへんかったのに……えッ……」

「どうした? カトリ~?」

「な、なんやこれ……何でアチコチにレイドリックやカーリッツバーグの残骸が有るんですか?」

「そりゃ俺が倒したからに決まってるだろ?」

「???? アヤト様が?」

「うん」

「沢山死んどりますけど、全部一人で?」

「周囲の安全の確保は最重要事項だろ?」

「……なッ……んな……」

「今度は何だい?」

「んなアホなああああぁぁぁぁ~~ーーッ!!!!」

「うわっ!? びっくりした」


目を覚ましたカトリはアヤトに蘇生して貰った事を知ったのは良いのだが、問題なのは"その方法"である。

攻撃職で無い彼では自分を一撃で倒したジョーカーを、此処から振り切る事ダケでも大変だったのは確実。

なのに術者によっては命を削るとまで言われている"リザレクション"を掛けてまで自分を蘇生してくれた。

この魔法は心臓が動いている事が絶対条件だが……詠唱時間がハンパでは無く当然その間は無防備である。

……とは言えセイフティ・ウォールやキリエ・エレイソンを駆使すれば比較的に安全では有るのだが……

其処まで頭の回っていないカトリは気付かない以前に、更なる衝撃の事実にまたもや大きな声で驚いた!!

何と周囲を見渡すと彼女の周囲にはジョーカーは勿論 レイドリックを中心とした残骸が広がっているのだ。

つまりカトリを蘇生する為に此処に留まってくれていたと言う事であり、命を掛けて自分を守ってくれた。

実を言うと詠唱を邪魔されるのが怖かった彼が一匹づつ釣り殴り倒したダケなのだが、彼女の認識は違う。

自分の魂すらも奪おうと群がる魔物達をたった一人で抑えてくれたと推測し、まさに彼はヒーローである。


「(なんや……最初からアヤト様は一人で騎士団で戦える実力が有ったんやな……それをウチは……)」


≪(コレならアヤト様が居れば楽勝やな……ウチの火力も十分みたいやし、絶対に殺したる!!)≫


「(自分の実力と勘違いして調子に乗った挙句……自業自得やし生きてたのが不思議な位やで……)」

「ところでカトリ」

「は、はい?」

「カラダの方は大丈夫かい? 蘇生はともかく回復は即効でしたけど、結構血が流れたからさ」

「御陰様で何とも無いですわ。何時でも行けます」

「それは良かった。じゃあ改めて"深淵の騎士"を探そう」

「分かりました……そ、その前にですけど……」

「何だい?」

「今の時点でアヤト様には一生分の借りができましたわ……ホンマ何と礼を言ったら良いか……」

「大袈裟 過ぎるってば。それ以前に礼は"深淵の騎士"を撃破してからにしてね?」

「す、すみません」

「(……嗚呼……心臓が止まってりゃアウトだったし、瀕死にさせちまうとかマジで無いわ!)」

「(もう……不思議と"深淵の騎士"には負ける気がせんな……だって、アヤト様が居るんやから……)」


――――さて置き。そんな2人が目出度く深淵の騎士を撃破できるのに、そう時間は掛からなかった。


≪パカラッ、パカラッ、パカラッ……≫


「!? 居たか……」

「深淵の騎士ッ!?」

「まだ近付くなよ? セイフティ・ウォール」

「はい。エナジー・コート」(精神力を消費して物理攻撃ダメージを軽減)

「サフラギウム!! では詠唱開始だ」

「了解や」

『……!?』

「ほらほらッ! こっちだ!!」

「ストーム・ガストッ!!」


≪ビュオオオオォォォォーーーーッ!!!!≫


『!?!?』

「他は沈んだが流石に"深淵の騎士"は落ちないか」

「でも凍っとりますね」

「(ボス属性じゃないしな)まァ呆気無いけどトドメと行こう。レックス・エーテルナ」

「……ッ……(この余裕……きっとアヤト様にとっては"深淵の騎士"すら雑魚なんやな……)」

「君の魔力なら倒せる筈さ。例の魔法で冥土に送ってやると良い」

「(でも関係あらへん……この人が居らへんかったら、絶対に仇を討てんかったんやから)」

「(ダメだカトリ無双でもテンション上がんねェ……もう上級の狩場はコリゴリだよ……)」

「コイツでトドメや!! ユピテル・サンダァァーーッ!!!!」(電気球体を敵に向けて発射)


≪――――カカカカカカカカカカカカッ!!!!≫(12Hit)


『……ッ……』


≪――――ドオオオオォォォォンッ……≫


「グッジョブ」

「や、やった……やった!! 遂に殺ったでェ!? 兄さああぁぁん!!」


――――この後リディアより再び王宮騎士団が派遣された際。当然"深淵の騎士"の姿は何処にも無かった。




……




…………




……1年後。


「どうした? カトリ。何故 未だに浮かない顔をしている?」

「やっぱり話してはくれないのですか?」

「す、すみませんクレア様・リディア様。コレばかりは言えんのですわ」

「(……兄の死は既に乗り越えているとの事だが……)」

「(以前のカトリ以上に修行に熱心らしい分、気になりますね)」

「(……嗚呼……未だに気になるなんて、やっぱ諦め切れとらんのかなあ?)」


アレから"深淵の騎士"を倒して帰還したアヤトとカトリは、直ぐに解散してしまい何時の間にか今に至る。

理由としてはアヤトがカトリを瀕死に追い込んでしまった事で相当な罪悪感を感じてしまった事が大きい。

何せ自分が調子に乗っていた事により判断を誤り、カトリにジョーカーによる直接攻撃を許したのだから。

……とは言えカトリは何とも思っていない上に感謝しているが、実を言うと"回避する方法"は多々有った。

最も無難な手段としては事前のキリエ・エレイソンか直前のセイフティ・ウォールを張れば良かったのだ。

しかしアヤトは鈍器でのタゲ取りを選択してしまい当たり所が悪ければ彼女が死んだ可能性も十分に有る。

その不甲斐無さにより彼はカトリから逃げる様に別れ、低級狩場で鬱憤を晴らすと言う逃避に出たりした。

ソレにより彼女はアヤトと再会する事も無く元の生活に戻る羽目となると、改めて魔法による修行を開始。

結果 努力が猛スピードで実って、極めて珍しいウィザードの"王立騎士団員"と成ったワケなのだが……

ケイロン家に戻った際は真っ先に両親の号泣で迎えられてから、どうも以前と違って覇気が感じられない。

彼女を知る者達は、その理由として真っ先に兄が戦死した事から成るモノだと思う事で納得したのだが、
当然 沈んでいるのには別の原因が有り……カトリの母親のみ何となく大まかな彼女の心境を察せた模様。

……とは言えアヤトの存在は微塵にも気付かないだろうが……カトリは頑なに口を閉ざして修行を続けた。

苦し紛れの"俺の事は内緒にしといて"と言う頼みを忠実に守り、再会の暁には肩を並べられる事を夢見て。


「……むぅ……」

「困りましたね」

「リディア様。口に出すのは如何なモノかと」

「あら? わたくしとした事が」

「(こ、この空気はアカんな……)ところで今から行く店の料理は、そんなに美味しいんですか?」

「うむ。中々だぞ? 特に私は"ヤキソバ"と言うモノが気に入っている」

「それに其処のマスターが、とても素敵な方なのですよ?」

「へぇ~ッ……リディア様から"そんな言葉"が聞けるとは思いませんでしたわ」

「もうカトリ。わたくしの事を何だと思っているんですか?」

「フッ。何にせよ良い気分転換には成るだろう」

「ワザワザすみません、ウチなんかの為に……」


そんな王立騎士団員のカトリ・ケイロンは今現在。リディア王女&クレア団長と共に王都を歩いていた。

一見 綺麗どころが3人歩いている様にしか見えないが、プロンテラの絶対権力者とも言える面子である。

さて置き。事の始まりは王立騎士団に配属するも未だ元気の無いカトリをクレアが心配しリディアに報告。

結果"それでは一緒に食事に参りましょう"と言う鶴の一声で気乗りしないカトリを引っ張り込み今に至る。

……とは言えカトリにとっては悩みの解決には成らずとも、彼女達と食事を出来るのは名誉な事だった。


「気にすることは無い。我々は仲間なのだからな」

「今回はカトリの事……色々と聞かせてください」

「わ、分かりました」

「さて。ようやく着いた様だな」

「今は空(す)いている様ですね」

「(あれェ? こんな"小さな店"で本当に合っとるんかッ?)」


――――そんなコンナで目的地に到着したのだが、奥から現れたのは意外な人物であった。


「いらっしゃい。何名様ですか?」

「!?!?」

「今回は3人だ。空いているか?」

「それなら此方のテーブル席にどうぞ」

「もう……"アヤト"様! わたくし達に そんな他人行儀な歓迎は要りませんわッ」

「それはさ? ……ホラ……周囲の視線が痛いからと言うか……」

「わたくしは構いませんのに」

「俺が構うの!!」

「リディア様、ともかく席へ参りましょう」

「……ッ……」


≪――――ドクンッ≫


「仕方有りませんわね」

「3名様 ごあんな~い」

「はーい!!」←エリスの声

「何をしている? カトリ。行くぞ?」

「……ぅあッ……ひぐ……」


≪――――じわっ≫


「ど、どうしました? カトリ」

「あれっ?(何処かで見た顔が……)」

「……ゃと……様……!!」

「……ってかリディア? 今この娘の事を"カトリ"って呼ば――――」




「アヤト様ああああぁぁぁぁ~~ーーッ!!!!」

「どわっ!?」


≪――――どっ≫




何とウェイターっぽい姿で現れた男は、カトリが一年間 一時も忘れる事が出来なかった聖職者だった!!

それにより彼を完全に認識した直後。彼女は泣きながら彼の名を叫びつつ抱き付き、胸の中に顔を埋める。

ソレと同時にアヤトの"ぬくもり"を感じた瞬間……カトリは彼に対する想い(悩み)が吹き飛んだ気がした。




「(そうだったんや……やっぱりウチは、アヤト様が"好き"やったんやな……)」

「も、もしかして君は……カトリッ? あの時のカトリ・ケイロンなのか!?」




……こうしてカトリ・ケイロンは一年前の本来の明るさを取り戻すに至り、以前の様に"多弁"となった。

その為 誰もが今迄の悩みが"恋をしていた"故の暗さと考え、ソレが実った事での今の彼女だと推理する。

だが実際に聞いてみると意外にも"悩み? それは中々恋が実らん事かなァ?"と笑顔で返って来たらしい。




「(あ、新たなライバル……?)」




―――― 一方。厨房から様子を伺ったエリスは、アヤトに抱き付いて泣いているカトリ見て頭痛を感じ。




「あらまあ」

「ほお……」




――――更に"その様子"を引き攣った笑顔で見守るリディア&クレアを見て、店の安否を気遣っていた。








■第三章・完■








■次回:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:伊豆■








■あとがき■
騎士団編終了! これでハンター・プリ・ウィズと出たので順不同でナイト→BSorアサと続く予定です。
クレア・ジュデックスが騎士ポジと思われた方も居るでしょうが、騎士役は別のキャラを考えています。
ちなみに"この世界"の仕様ではHFを食らいスタンに成ったクレアや、背後から矢を受けた鳥のように、
無防備な状態で敵の攻撃を食らえば大抵即死します。逆にアヤトの様に防御すれば被ダメは2桁だったり。


■追記■
06月05日誤字修正&リディアの口調が変だったので直しました。PV数が意外に高くて嬉しいです。



[24056] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:前編■
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2011/06/11 09:59
■はじめに■
今回の話は予告とは違い"騎士を夢見て努力する少女"は登場せず、違うヒロインがメインキャラで出ます。
またヒロインは原作のセージ♀と全く同じ衣装を着ている為 先ずは"RO セージ"で画像検索して下さい。
容姿も公式絵と同じとイメージして頂ければ幸いです。そして剣士娘を楽しみにして頂いた方々面目無い。
















――――国境都市アルデバラン。




王都プロンテラの北に位置する その都市は、かつて人類が領土を広げた際……北の拠点として作られた。

歴史は王都の西に位置する"魔法の都市ゲフェン"よりも遥かに深く、プロンテラに次いで古い都市である。

その理由としては、プロンテラの西側には御存知の通り様々な強力な魔物達が進出を防いでいており……

南に進むと砂漠・東にゆくと海にブツかってしまった為、先ず人類が北を目指したのは妥当と言えよう。

さて置き。以前は国境都市と呼ばれたアルデバランだが今は領土も大きく広がっており違う呼び名が有る。




≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫




それは"刻を告げる街"アルデバラン。何故なら"この街"の中央には、巨大な"時計塔"が存在するからだ。

肩書きが"都市"から"街"に変わっているのは、領土拡大により若干の過疎化が進んだ為なのは余談として。

その"時計塔"は人類が"その場所"に辿り着いた時から存在しており、何時から建っていたのかも謎である。

また内部には多くの"機械仕掛けのモンスター"が徘徊しているが……何故か人類に一切 攻撃して来ない。

故に行おうと思えば探検も可能なのだが、法律で立ち入りは禁止されており常に入り口は封鎖されている。

当初と同じく今でも無害とは言え、巨大なダンジョンに膨大な数のモンスター。危険な事は間違い無い。

その為 過去に当然……"時計塔"の謎の解明の為に、多くの騎士団や学者が何十回をも派遣されたのだが。

結局 謎は謎のままで、何度行っても収穫はゼロ。魔物達が何の原理で動き存在してるのかも未知の領域。

分かっているのは"こちらから何もしなければ絶対に敵対はして来ない"と言う内容ダケでしかなかった。

過去に興味本位で"時計の様なモンスターを攻撃してしまった事"も有ったそうだが、結局は何もされない。

また盗賊が侵入し貴重なアイテムが有れば奪おうとした際も、魔物達に追い出されたダケで五体は満足。

流石に本気で破壊の限りを尽くそうとすれば抗われるだろうが……行った者は居らず行う意味も全く無い。

よって人類は"時計塔"を"決まった時間に鐘を鳴らす巨大な置時計"と認識する事で今に至っているのだが。




≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫




「……ッ……う~ん……もう"こんな時間"かァ……」




――――"時計塔"の内部の上層には、知識を持っている"人の姿をした生命体"が存在していた。




「さァ~て、今日もバッチリ管理しますかッ!」




――――古くから人知れず"このダンジョン"の全てをコントロールする"時計塔の管理者"である。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト】




■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:前編■








――――時計塔の管理者。人間か魔物か悪魔か人形か? 実際の性別すらも謎である人の形をした生命体。




"その者"の話をする前に、先ずは外見は女性の容姿をしている事から呼ぶ時は"彼女"と述べる事にしよう。

彼女は気付いた時には"時計塔の管理者"としての役割を担っており、その方法を全て完璧に把握していた。

だが彼女は"それ"に疑問を感じる事も無くひっそりと。だが圧倒的な存在感を持つ時計塔を管理し続ける。

役目は主に誰の為にでもなく1時間置きに大小の鐘の音を響かせるのと、時計塔の仲間達を纏めてゆく事。


「現在の侵入者数……チェック完了……1階層27体・2階層クリア・3階層クリア・4階層クリア。
 1階層のパンク・デモーンパンク・ライドワードは哨戒を継続。2階層 入り口でも侵入者に備えよ」


"仲間達"と言っても知識らしい知識を持つのは"彼女"だけであり、此処の魔物達は管理者の操り人形だ。

しかし"彼女"にとって最も優先させなければ成らない使命が"時計塔を永遠に守り抜く"と言う事であり……

その為には此処の魔物達の力を借りなければ抗えず、彼女は何年も何年も侵入して来る魔物達を迎え撃つ。

目を閉じていようが開いていようが意識すれば視界全体に広がる、時計塔の"管理画面"の全てを駆使して。


「ライドワードNo0523、アノリアン撃破……現在の侵入者数……現在チェック中……チェック完了。
 1階層クリア・2階層クリア・3階層クリア・4階層クリア。修復作業開始。ライドワード再構成開始」


平地に建つ時計塔は只でさえ目立つ上に、此処一帯の地域に形容し難い膨大な魔力の流れを漂わせていた。

それが当時は更に獰猛だった野生の魔物達が放って置く筈は無く居心地の良い場所を求め攻めて来るのだ。

だが"彼女"は自分の使命を遂行する為に、何百年も気の遠くなるような管理者としての作業を繰り返した。

決して心折れる事無く……やがて撃退に必要な仲間達の"需要"が劣性によって"供給"できなく成ろうとも。


「現在の侵入者数……チェック完了……1階層284体・2階層195体・3階層75体・4階層クリア。
 1階層2階層 損傷過多により修復作業不能。再構成不能。3階層 劣勢。4階層 再構成作業を最優先」


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「4階層 アラーム10体・クロック10体・ライドワード10体 再構成完了。各個体3階層に移動せよ。
 現在の個体数……チェック完了。3階層 ライドワード全滅・アラーム8体……2時間後3階層を放棄」


数百年の時が流れた事で、遂に無限に沸き続ける魔物の撃退が"時計塔での沸き"では間に合わなくなった。

時計塔の存在を知って侵入して来る魔物の種類が更に増えた事により、とうとう滅びの時が来たのである。

"彼女"と各階層が無事な限り時間さえ有れば全ての"時計塔の魔物"を復活させる事が可能だったのだが……

1階層と2階層の仲間が全滅し再構成のプラントも破壊されてしまった今。もう抗う術は残されていない。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「……警告……警告……南2500メートル地点に新たな個体を発見。現在チェック中……数1572体。
 照合中……検索中……チェック完了。該当有り。1230個体 全て"人間"と判明。残り342体 照合。
 ……現在チェック中……簡易検索に変更……家畜の類と判明。一時保留。戦闘 継続・再構成作業 継続」


だが"彼女"にとって予想していなかった事が起きる。長い戦いの中で、初めて"第三者"が参入したのだ!!

彼らは王都プロンテラより北へ進出して来た軍勢であり、当時のルーン・ミッドガッツの王が率いていた。

とは言え人間も敵と認識せざるを得ない"彼女"は今やゼロとなった勝率を知るも迫る魔物達に抗い続ける。

逃げ出すと言う選択肢などハナから無い。最後まで時計塔を守り抜いてゆく事が彼女の"使命"なのだから。


「3階層 全個体 全滅。3階層 放棄。4階層 迎撃開始 再構成作業 継続……もはやこれまで……か……」

『…………』

「では我々も行くぞ? "オウルバロン"」

『…………』(コクリ)

「……何ッ……1階層にて……戦闘開始……?」

『…………』


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「現在の侵入者数……チェック完了……1階層1338体・2階層98体・3階層282体・4階層8体。
 ……1階層 再照合 開始……人間1200人・魔物138匹。1階層 優勢 戦闘中……4階層 クリア。
 2階層の侵入者 1階層に移動中……戦闘継続中。1階層 優勢継続中……人間1198人・魔物42匹」


時計塔の管理者ながら"彼女"にも戦闘は可能であり、気付いた頃から何故か攻撃魔法を扱う事が出来た。

よって遂に4階層に敵が侵入して来た事で"彼女"は杖を手に取ると、最初で最後の戦いに赴こうとしたが。

"敵"と思っていた人間達は、時計塔に侵入した魔物達に攻撃を開始し数の暴力で瞬く間に殲滅していった。

ソレにより下層の魔物は皆 人間を標的とした為、敵の供給も絶たれた事により"彼女"達は反撃に移れる。

"彼女"自身は戦闘を中止にしたのだが、管理者の"使い魔"とも言える上級モンスターの"オウルバロン"。

真紅のシルクハット&マントを羽織った大きなフクロウの様な姿をした彼が参入する事で、戦況は一転。

"オウルバロン"の召喚した"オウルデューク"をも加わる事で、3階層の魔物達も撃退する事に成功した。

本来は持久戦が常であったが、人間達の介入により攻勢に出た方が効率的だと管理者が判断した結果だ。


「オウルデュークNo0002、ハイ・オーク撃破。ミミックNo0532、バフォメットジュニア撃破。
 現在の侵入者数……チェック完了……1階層225体・2階層832体・3階層クリア・4階層クリア。
 うち人間1057人。3階層 修復作業 最優先で開始。4階層 再構成作業 継続。3階層 全個体 集合」


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「3階層に続く階段付近に人間の部隊 接近中。数は約300名 前後。3階層 階段付近 全個体集合せよ。
 ……個体数チェック……完了。オウルバロン1体・オウルデューク2体・アラーム8体・クロック5体。
 ライドワード10体・ミミック4体・エルダー4体・ベアドール3体・エクスキューショナー1体……
 勝率を計算中……うち計測不能の人間を2名確認……現在処理中……完了。敵の殲滅率4.0231%」


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「(これが時計塔の"最後の鐘"……か)……各個体 敵の行動開始と共に戦闘開始せよ」


しかしながら。時計塔側の絶望は未だ続いており、少ない戦力で"彼女"は人類とも敵対する必要が有った。

"時計塔"は自分が守らなければ成らない場所。それは魔物達は勿論 人間達が相手で有っても同じなのだ。

故に彼らが時計塔を"制圧"しようとするのであれば、排除する必要が有る。それが与えられた役目だから。

例え敵わぬ相手(英雄)であろうとも、恐怖を感じる事の無い"彼女"にとっては最早 関係の無い事だった。

よって"彼女"は最も前列で人間達を阻む為に、仁王立ちしている使い魔のオウルバロンの視界を借りつつ、
目の前の2人の"騎士"と"魔術師"に途轍もないチカラを感じながらも今度は自分も戦うかと思っていると。




「……何故 攻撃してこない?」


――――全身鎧を身に纏った騎士(先代のルーン・ミッドガッツ王)が唐突に喋り。




「貴方達は"敵"では無いのですか?」


――――相当な魔力を持っていると思われる魔術師(王の妻)が彼の言葉に続いた。




『…………』


――――対して反射的に"彼女"が頷くと、オウルバロンも首を縦に振ってくれた。




「フ~ム。どうやら"その通り"らしいな」

「だとすれば……この魔物達は此処を?」

「あァ。最初から妙だと思ったが、我々が片付けた魔物から"守っていた"のだろう」

「ならば どうするのですか?」

「どうするも何も引き上げるしか有るまい。我々は侵略者では無いのだ」

「宜しいのですか? 私達に害を成すかもしれませんよ?」

「……との事だが……其方は"その気"が有るのかね?」

『…………』


――――騎士の言葉に再び無意識に"彼女"が首を左右に振ると、オウルバロンも同様に首を横に振った。




「だそうだ。ならば問題無いだろう?」

「仕方 有りませんね」

「皆の者ッ! 引き上げるぞ!? 下の階の部隊と合流して速やかに休憩の準備に入れ!!」

『――――ははっ!!』

「全くもう。相変わらず勝手なのですから」

「なに。皆 長旅で疲れていて での戦闘で有ったし犠牲者も出た。戦わない事に越した事は有るまい」

「それもそうですね。あの魔物達……未だにアソコから動いていませんし」

「フッ。案外 我々人間の守護者として存在していたのかも知れんな」

「随分と都合の良い話ですね。ですが私も"そうであってくれれば"と思います」

『…………』


――――すると引き上げる人間達。守られた時計塔。計算外の結果に"彼女"は再起動に1時間を要した。




「……現在の侵入者数……チェック完了……1階層クリア・2階層クリア・3階層クリア・4階層クリア。
 1階層2階層 修復作業 開始。3階層 修復作業 継続。4階層 再構成作業 中断。各個体 各階に散開」


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫
 

「……ッ……また全個体に通達……人間に対し攻撃を全面的に禁止せよ。繰り返す……人間に対し……」

『…………』

「オウルバロン? 戻ったのか」

『…………』(ニコッ)

「何を笑っている? これから更に忙しくなるぞ?」

『…………』(コクリ)


こうして人類の介入で初めて魔物達を退ける事が出来た管理者は、彼らを見直すと同時に共に歴史を歩む。

人類側も時計塔には多少の"調査"を行うのみで踏み込まず、その周囲に"国境都市アルデバラン"を造った。

それから更に数百年間。アルデバランの人々は魔物の脅威に晒される事なく、平和な日々を過ごしてゆく。

その間 管理者で有る"彼女"は今も使命を忠実に守っている事で人目に触れる事は一度も無かったのだが。

どんドンと人間に憧れてゆき、やがては造られた筈の"彼女"の人格にまで影響を及ぼしてしまい今に至る。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫




……




…………




……ボクは時計塔の管理者。名前は……残念だけど無いんだ。だから"管理者さん"とでも呼んで欲しい。

そんなボクの仕事は"アルデバラン時計塔"の鐘を1時間置きに鳴らす事と、時計塔内部の平和を守る事。

でも前者はボクが活動してる時点で勝手に鳴るから……今でも複雑な心境だけど、鐘の音で目を覚ます。

そしたら起きるワケなんだけど……ボクが使っているベッドと布団は相変わらず鉄みたいな臭いがする。

なのに自分の髪とかをクンクン嗅いでみると意外と良い匂いがするんだから、人工生命体って凄いよね?

何時 何処で何をどうやってボクが出来たかは分からないんだけど、最初から持っていた記憶からすると、
ボクはホムンクルスみたいな存在らしく、時計塔の膨大な魔力の一部を拝借して生命を繋げているらしい。

だからボクは此処から長く離れると死んじゃうのは勿論、時計塔の魔物達も制御を失って暴走してしまう。

よって時計塔を……そして大好きなアルデバランと言う街を永遠に守り続ける事がボクの使命と言える。

さて置き。何も衣服を着ないで寝ていたボクは頭を掻くと、机に投げ出して有った何時もの服を着用した。

最初は"脱ぐ・着る"って言う発想すら無かったんだけど人間達を見てたら、その習慣を真似したくなった。

勿論"寝る"っていう考えも無かったから気付いた直後は椅子に座って何もしない事ばかりだったなァ……

そんなボクが今となっては新しい服が欲しいとか思うように成ったんだから、ホント人間って凄いと思う。


『…………』


≪――――コトンッ≫


「有難う。バロン」

『…………』(ニコッ)

「うん! 今日も美味しいよ」


そんな事を思いながら杖を手に5階層(屋根裏)のリビングにやってくると、ボクの"使い魔"が待っていた。

大きなフクロウみたいな姿をしているけど とっても強くて、ボクの身の回りの世話をしてくれてるんだ。

名前はオウルバロン。通称バロン。こう見えて凄く器用で趣味も持ち、4階層の隅で植物を栽培している。

其処で採れたハーブで紅茶を作り毎日 欠かさず振舞ってくれるから、今やボクの朝の楽しみとも言えた。

それにしても初めてオシッコ出た時は驚いたな~ッ……って、女の子が"そんな事"を思うモンじゃ無いね。

……って言ってもボクの肉体が偶然 人間の雌っぽかったダケだから、そう思うだけ野暮な気もするけど。

それも さて置いて。ハーブ・ティーを飲み干したボクは4階層の中央に向かうと早速"仕事"を開始する。


「……チェック完了……うんッ……1階層クリア・2階層クリア・3階層クリア・4階層も当然クリア。
 1階層2階層3階層4階層 現状を維持。各個体 哨戒を継続。アハハハ。相変わらず今日も平和だね~」


意識を集中させると時計塔の全体図から始まり何処に仲間や侵入者が居て何が起きてるかも鮮明に分かる。

此処に忍び込んで来れば攻撃はされないから、全ての階層(例外も有り)を自由に行き来できるんだけど、
人間達が仕事中のボクを見る事が出来ないのも、マップを見つつ仕掛けを活かす事でボクが動いてるから。

つまりボクを圧倒的な不利な"鬼側"が見つけられる筈が無く、結構スリルが有って楽しくも有ったりする。

ソレはそれで虚しいモノが有るけど、ボクの使命を考えるとコレでも贅沢な遊びな分 満足するしかない。


「それじゃあ仕事は完了ッ! 今日の皆は何をしてるのかな~?」


そんなコンナで最低 一日一回は行う"監視"と"命令"を終えたので、ボクは心躍らせながら瞳を閉じる。

そして借りるのは時計塔の四方からアルデバランの街並みの監視している、アラームやクロックの視界。

過去にバロンの視界を共有してたのと同じでボクは時計塔 全ての魔物の視覚を共有する事が出来るんだ。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


……嗚呼ッ! 今日こそ想いの男性に告白すると決めていた"あの娘"の運命はどうなるんだろう!?

最近は赤字 続きの南のレストランは今日 新メニューを出すみたいだけど、お客さんは入るのかな!?

昨日 仕事の事故で重傷を負って教会で治療を受けていた人は、無事に一命を取り留めたのかな~?

それと北の病院では そろそろ赤ちゃんが生まれるって話だけど、男の子かな? それとも女の子かな?


「アラームNo1012は少し右にズレてっ! クロックNo0562は角度を……そんな感じ!!」


昨日 楽しみにしていた事は多々有って、結果が どうなったかを想像するダケでもワクワクしてしまう。

生憎 建物内は見えず映るのは"景色"で何を話してるのかも分からないのが残念だけど、流石に仕方ない。

人間にはプライベートって言うのが有るらしいし、ボクは間接的に"人を見せて貰える"だけで幸せなんだ。

だから永遠に人間と会って話す事が出来ないとしても……共に時を過ごせれば十分 満足だったのに……


「……えっ? 何これ? データが壊れてるの? 距離2500に個体 接近中!? ……チェック開始……
 数1192体……うち計測不能の魔物を1体確認……検索中……該当モンスター無し。そ、そんなッ」


――――唐突に"ボク達の街"を魔物達が襲って来た事で、アルデバランは かつて無い恐怖に包まれた。


『ウオオオオォォォォーーーーンッ!!!!』


「な、何なんだよコイツらは!?」

「ぎゃああああぁぁぁぁーーーーッ!!!!」

「ひぃぃいいっ!! 腕がッ! 腕が!!」

「殺されるぞ!? 逃げろーーーーッ!!!!」


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「……照合中……終了。マーリン332体・サスカッチ824体・ハティーベベ35体。正体不明1体」


アルデバラン全体に狼の"遠吠え"の様なモノが聞こえたと思った瞬間、魔物達は人間達に攻撃を開始した。

数の暴力による奇襲で衛兵達を轢き殺してしまった後は、逃げ送れた住民達を容赦なく……殺戮してゆく。

人を襲う習慣の無い大人しい筈のマーリン(ポリーンの亜種)は人間に飛び掛ると同時に窒息させてしまい、
巨大な白熊のサスカッチは圧倒的なパワーで人間達を腕の一振りで殺め、時には頭から齧り付いている。

そして"デビルチ"の様に見た目は愛らしい"ハティーベベ"も居合わせた人間の喉を狙い鋭い牙を食らわす。

特にハティーベベは居る筈の無い親を探して雪原の奥を彷徨っていると言われる希少モンスターなのに……


「に、人間の死者……198名・199名・200名を突破……そんなッ……こ、こんなのって……!!」


何故"こんな事"が起ったんだろう? アルデバランが……ボクの大好きな人間達が次々と殺されてゆく。

南のレストランは営業どころでは無くなり、教会の周辺も慌しく重傷者の確認は今や ままならなかった。

そして北の病院は魔物の侵攻が有った側。周囲はマーリンとサスカッチが暴れてるし赤ちゃんはもう……


「……許さない……絶対に許さない!!」


――――この時ボクに初めて"怒り"と言う感情が生まれた。嬉しくも何とも無いけどね。


「正体不明の魔物を再照合。全履歴を検索中……該当あり。正体不明 個体は"古の魔"に属すると判明。
 過去の出現記録は無し? ……って言う事は、初めて出現した"古の魔"……なら気付かない筈だよ……」

『…………』

「あれっ? 来てくれたんだね? バロン。ともかくアイツを倒すよ!? 皆で人間達を助けるんだッ!」

『…………』(コクリ)

「アラーム・クロック・ライドワードの全個体は直ちに魔物達を迎え撃って。他の個体は1階層に集合!
 当然 人間に対して攻撃の禁止は継続。良い? ボク達の街を襲った事を必ず奴らに後悔させてやるよ?」

『…………』(コクッ)


数は多いけどマーリンとサスカッチの強さは昔の魔物に比べれば弱いし、ボクは負ける気がしなかった。

生憎 被害は甚大に成りそうだけど、次は同じ過ちを繰り返さなければ良いと既に未来の事を考えていた。

でもボクは直ぐに"現実"を知る事になる。"古の魔"とは手に負えないから"古の魔"と呼ばれると言うのを。


『ウオオオオォォォォーーーーンッ!!!!』


――――その結果ボクは大きな"過ち"を犯してしまう事となった。




……




…………




……国境都市アルデバランの北東に位置する雪原より唐突に誕生した、新たな"古の魔"であるハティー。

全身が氷で出来た巨大な狼の姿をしており、ハティーベベと酷似する事から"ハティー"と彼女は名付けた。

その"ハティー"は動きこそ実際の狼 不相応に遅いモノの、戦車の様に止まらず彼女の仲間達を蹂躙する。

ソレと同時に頻繁に無詠唱のストーム・ガストを撒き散らしアルデバランを強い冷気で染め上げていった。

また逃げ遅れた人間に"速度減少"を掛けた後、ハティーベベを嗾けて絶望を与えると言う残忍さも有する。

それに加えて今迄 街を襲わなかったマーリンとサスカッチを自然と集める力を有す反則的な存在である。


「1階層 機能停止 2階層 機能停止 3階層 機能停止。4階層……約30分後に機能停止の予定」

『…………』

「……クッ……どうやら……此処まで みたいだね……」

『…………』

「殆どの人は逃げられたみたいだけど……それでも沢山の人が死んじゃって……ボク達の街は壊滅した……
 そして……此処から離れられないボクは勿論……氷付けにされた時計塔も間もなく……機能が停止する」

『…………』


だが衛兵達の機転により、以前 初めて"古の魔"に襲われた事の有る街に比べれは被害は最低限に済んだ。

生憎 二千人程の命は失われたが、数万の命は助かっており直ぐにもリディア達が討伐に来てくれる筈だ。

しかしながら。多くの"幸せ"が失われたのは間違いなく……彼女は未だ"それ"を認める事が出来なかった。

よって時計塔の魔力が消え掛けている事から立つ事も出来ずに、4階層の中央で倒れている彼女は呟く。

そんな彼女の言葉をオウルバロンは相変わらず黙って聞いており……此処で未だに彼女を守り続けている。


「……でもボクは絶対に嫌だ……もっと人間達を見ていたかったし……何より"使命"を果たせていない……
 だから残った時計塔の魔力とボクの命を引き換えに……出来る限り時間を巻き戻して全てを遣り直す」

『…………』

「それは"新しい世界"で無事アルデバランを守ったとしても……どの道ボクの命は尽きる事を意味する。
 だけど何もしなければ時計塔は確実に失われるから……せめて、大好きな人間達を守ってあげたいんだ」

『…………』

「時計塔より全魔力を管理者に収集。タイム・リワインドのカウントダウン開始。100……99……
 あはははッ。勝手に使っちゃってゴメンね? バロン……禁断の秘術だったのにアッサリ決めちゃって」

『…………』(フルフル)


知っての通り以前 彼女が窮地に立たされた際、タイム・リワインドを使用すると言う選択肢は無かった。

何故なら それは時を遡ろうが結局は抗えない事が分かっていたからであり、感情が無ければ妥当だろう。

だが長い年月で管理者に感情が芽生えた結果。可能性が有ればソレに賭けてみようと思い秘術を使用した。

対して使い魔が何を考えているのかは謎だが、首を左右に振った辺り彼女の感情を快く思っているだろう。


「でも安心して? 絶対に"ハティー"を何とかして見せるから」

『…………』(コクリ)

「今迄 有難う。では残り3・2・1・0……タイム・リワインド開始」

『…………』


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


――――この時 間違い無く"彼女"は胸に希望を秘めていた。だが彼女が遡ったのは僅か一週間であった。




……




…………




どうやら時計塔に残っていた魔力は殆ど無かった様で、彼女の時を一週間 遡らせるのが限界だった模様。

だが彼女はソレでも十分だと捉え、人間を見習って絶対に諦めない事を胸に何度も何度も古の魔に挑んだ。

先ずは周囲に警戒されながらも"ハティー"の軍勢に対する防衛ラインを構築させ、住民の避難を優先する。

しかし何度やっても。どんなパターンを試してもハティーは止まらず被害の拡大を防ぐ事は出来なかった。

……とは言え少しでも住民を助ける編成が分かった事ダケでも良しとし、彼女はループを繰り返してゆく。

つまり"古の魔"を倒し奴から間接的に殺されるのを防がねば、何度でも彼女は時を遡る事となるのである。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


――――それ故 彼女は諦める事無く何十回をも一週間を繰り返しアルデバランに住む者達の為に努めた。


「やっぱりハティーの力が完全な状態だと何度やっても勝てない……それなら人間達に頼るしかないかァ」


そんな彼女が次に選んだ手段が、噂で聞く"英雄たち"の力を借りて事前にハティーを叩いて貰うと言う事。

だが人と会ってはダメだと"すりこまれている"彼女が出来たのは"使い魔"を使っての伝達 程度であった。

よって中途半端な要請では被害が無駄に増えてしまい、彼女の罪悪感を無駄に募らせたダケに過ぎない。

されど最も戦果の有った"結果"は彼女が満足ゆくモノで有り、彼女が力尽きる直前に援軍が到着したのだ!

それはリディア・ルーン・ミッドガッツが纏める王立騎士団。住民の被害も殆ど無く相当な命が守られた。

自分達でハティーを倒せなかったのは残念だが……以前 間接的に対峙した英雄は相当な力を持っていた。

その為 彼女はループの経験からリディア達なら住民を避難させさえすれば古の魔を倒すと判断したのだ。

強ち その判断は間違ってはおらず、むしろ正しい選択と言えたが……彼女は大きな"勘違い"をしていた。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「えっ!? ど、どうしてボクは……"また"此処に居るの?」


何時の間にか目的が変わってしまっていたが、彼女は"あの時間"まで生き残らなければ死ぬ事が出来ない。

つまり"ハティー"を倒し時計塔を守らなければ意味は無く、アシストだけでは結局ループしてしまうのだ。

ならば全ての部下をハティーの足止めに当てて"死ぬ刻"を待てば良いのだろうが、犠牲者を考えれば無理。

そんな事をすればタイム・リワインドを使った意味が無く……彼女は再びループを繰り返す羽目となった。


「……うぅ~ッ……こうなったら、直接ボクが戦うしかないよ!!」

『…………』(コクリ)


よって"ハティー"が誕生する瞬間を抑え……その直後に攻撃を仕掛ける事で早期 撃破を考える事にした。

だが"現場"を押さえる為ダケに彼女は百以上のループを繰り返し、捜索は全て自分と使い魔で行っている。

何故なら時計塔の魔物達は其処から離れる事は出来ず、彼女も長く外出すると時計塔の制御が疎かになる。

しかも時計塔を抜け出せるのは深夜限りで有るし……途方に暮れる作業を彼女は何度も何度も繰り返した。

そして、ようやく"現場"を押さえる事に成功したのだが。彼女を待っていたのは絶望的な戦いであった。


『……ッ……!?』

「ば、バロン!!」


"オウルバロン"は強力なモンスターで有り、そのポテンシャルは あの"深淵の騎士"の力を上回っている。

また深淵の騎士に引けを取らない"オウルデューク"も召喚 出来る事から、王宮騎士団でも手に余る存在。

そんなオウルバロンでさえ回復魔法をも持つ"ハティー"を追い込む事は出来ず、やがては力尽きてしまう。

彼女も使い魔も魔力は高く、弱点の"ライトニングボルト"を使用しながらも常に食い殺される運命が続く。

されど彼女は諦めずに繰り返し戦いを挑んで来たのだが……皮肉にも彼女の血の色が感情を蝕んでいった

四肢を食い千切られて甚振り殺されようが、頭から齧られて踊り食いされようが耐えて来たと言うのに……


『ウオオオオォォォォーーーーンッ!!!!』


≪――――ガブシュッ!!!!≫


「あがッ!? う"ああああぁぁぁぁッ!!!!」


≪――――ゴキッ、ゴキリ――――ボキッ≫


「(ボクの血は赤かった……そ、それなのに……どうして……)」


≪ブシュウウウウゥゥゥゥ――――ッ…………≫


「(人間とは違う存在で……誰かの為に死ぬ事さえ……許されないんだろう……?)」


――――1000回以上にも及ぶループの果て。やがて彼女は全てから逃避し、考えるのを止めた。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫




……




…………




≪カッチ、カッチ、カッチ、カッチ……≫


「…………」


"今回"の彼女は鐘の音で体を起こさなかった。理由は非常に簡単。どうせループは回避 出来ないからだ。

すると心配したオウルバロンが部屋を訪ねてくるが……彼女は動かない。どうせ今回も無駄なのだから。

当然 時計塔の管理も行う気は無く、アラームやクロックが住民達を襲ってしまおうと自分には関係無い。

寝てはいるが開いている瞳にも以前のような生気は無く、まるで気付いた直後の管理者の様であった。

そして十数時間後……遂にタイム・リミットが過ぎ、時計塔の魔物達が暴走してしまう刻がやって来る。

つまり最寄の人間を無差別に襲い始めると言う事であり……先ずは入り口を守る衛兵が犠牲になるだろう。

続いて個体達の矛先は一般市民にも向き、更に数日後"古の魔"が現れれば被害は拡大し阿鼻叫喚は確実だ。


≪警告。時計塔の管理者 不在により全個体の制御不能。繰り返す。時計塔の管理者 不在により……≫


「…………」


だが既に"諦めてしまった"事から彼女は動かない。大きな瞳は何も映してはおらず魂が抜けた様である。

よって。そのままハティーに襲撃される事で、何度も時計塔の終焉と同時にループする事に成るだろう。

しかし今の"彼女"は何とも思わない。ひたすら睡眠状態を維持する事で、永遠と眠り続けるつもりだった。

永遠に。永遠に。永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に永遠に。


「……!?」


――――そんな時。彼女の脳裏に、一瞬で2体のアラームの反応が消失したと言う情報が流れ込んで来た!


「1階層に侵入者を確認。個体数2体……照合中……人間1名・エルフ1名と判明。各個体 迎撃開始」


どうやら衛兵を襲おうとしたアラームが何者かに倒された様なのだが、彼らにそんな実力は無い筈だった。

アラームは鈍足だが"レイドリック"並みの力を持っており、平和ボケした衛兵に倒される程 弱くはない。

しかも侵入者が来た事も妙だ。人類が時計塔を敵と再認識し、反撃に出て来るのは幾らなんでも早すぎる。

人数も僅か2名であるし"ハティー"が出現した時とは違って本当にエラーでも起こったのかと思ったが……


「侵入者2名 2階層に移動。ライドワード6体・クロック4体 反応消失。1階層2階層 再構成開始」


侵入者で有る人間とエルフは接触した部下達を瞬く間に撃破し、真っ直ぐと此方(4階層)を目指している。

以前 侵入して来た者でも無いと言うのに、迷路のようなダンジョンを何故か迷う事 無く進んでいるのだ。

そして最も特筆する事が尋常ではない強さ。此処まで時計塔の魔物達がアッサリ倒された事は一度も無い。


「ミミック4体・エルダー2体・クロック4体 反応消失。侵入者2名 3階層に移動。各個体 迎撃継続」

『…………』

「馬鹿な……何者なの? 幾ら何でも早過ぎる」

『…………』


≪――――コトンッ≫


「ごめんなさい。何時もの紅茶は服を着てから飲む事にするわ」

『…………』(コクリ)


――――何時の間にか体を起こしていた彼女は、服を着用すると紅茶を飲みつつ再び情報を回覧する。


「更にアラーム12体・ライドワード4体・ミミック2体 反応消失。緊急事態。4階層への階段を閉鎖。
 及び1階層2階層3階層の全個体は4階層へ続く階段に集結し迎撃せよ……現在作業中……閉鎖完了」


相変わらず凄い速さで2人の侵入者はダンジョンを突き進んで来るのだが、彼女は未だに冷静であった。

何故なら彼女の判断で4階層には"鍵"を掛ける事が可能であり……開ける方法は簡単には見つかるまい。

数の暴力には扉"そのもの"を壊される可能性も有るが、人類2人が相手ならば時間稼ぎは十分に可能な筈。

故に今度は集めた部下達を一気に嗾ける事で愚かな侵入者を排除し、再び眠るのも良いかと思っていたが。


『…………』(ゴソゴソ)

『アヤトさん。何をしているんですか?』

『今アラームの残骸に光ってるモノが見えたからね……えっと……コレか?』

『そ、それは……鍵みたいですけど?』

『みたいだな。大方 4階層目に行くのに必要なアイテムだったりしてねェ。どう思う? エリス』

『確かに可能性は高そうですね。持っていて損は無いかと思います』

『だったら取り合えず2個確保して置く事にしよう(……原作の仕様的に)』

『分かりました』

『おっと。アッチにミミックが居るぞ? レックス・エーテルナ』

『ダブル・ストレイフィング!!』


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「……信じられない……もう気付かれるなんて……」


倒される前のミミックの視界を共有した所、侵入者はアラームに隠されている時計塔の鍵を発見していた。

何を隠そう"その鍵"を使用すれば4階層への道が開けてしまうので、何と勘の鋭い人間かと彼女は思う。

その男は黒い僧服に身を纏った黒髪・黒目の聖職者であり、強い力は感じないが非常に戦い慣れている。

またエルフの女性も凄腕のハンターらしく、小さくて素早い上にてタフなミミックを瞬時に沈める実力。

アラーム・クロック・ライドワード・エルダーの全てが彼女に倒されたと言う情報は、恐らく間違い無い。

だとすれば"私達"も……そう思っている間に侵入者は4階層に侵入。時間にして30分も経っていない。

ハティーの存在を除けば難攻不落で通して来た時計塔で有ったが、古の魔 以上にアッサリと到達された。


「侵入者2名 4階層に移動。現在エクスキューショナーが迎撃中。反応消失。バロンも迎撃に向かって」

『…………』(コクリ)


此処まで来られた以上 並みの魔物では倒されてしまうダケに過ぎないだろう。彼女は そう判断していた。

よって何となくオウルバロンを嗾けると、戦力が著しく低下した今 状況は絶望的な為 諦める事を考える。

元々既に諦めているのだが……恐らく奴らを迎撃してしまったのは本来の自分の戻ったからで間違い無い。

故に彼女は5階層(屋根裏)を動かず衣服をそのまま再び眠ろうとする。此処を発見できれば好きに殺れ。

……だが彼女は無意識のウチに交戦中の"オウルバロン"の視界を共有してしまい其処で見たのモノは……


『……ッ!!』

「うおっ!? これしきの事で!!」

「アヤトさん!? クッ……随分とタフなモンスターねッ!」


――――(属性服の恩恵で)オウルバロンと召喚された2体のオウルデュークの雷魔法の攻撃に耐え続け。


『…………』

「新手が来やがったかッ! レックス・エーテルナ!!」

「ダブル・ストレイフィング!!」


――――迎撃に合流したミミックを瞬時に無力化させる為に、魔法を食らいながらもアシストを行い。


「(支援が切れたか)セイフティ・ウォール!! ブレッシングッ! 速度増加!! マグニフィカート!!」

「アヤトさんッ! 私の支援よりも自分の事を優先させて下さい!!」

「大して効いてないから全然 問題無いさ!! それよりも、そろそろ敵さんらも弱ってる様だぜ!?」

「それなら……一気に決めてやるわッ! 集中力向上!!」(一定時間DEX&AGI上昇)

「(経験値が勿体無いし)エリスッ! 先に取り巻きを殺るぞ!? レックス・エーテルナ!!」

「はいッ! ダブル・ストレイフィング!!」

『!?!?』

「レックス・エーテルナ!!」

「(今度は そっちの番)ダブル・ストレイフィング!!」

『……!!』


聖職者が全ての攻撃を受けながら支援を行いつつ更なるアシストを兼ね後衛の火力を最大限に活かす戦い。

そのいかにも"人間らしい"戦いに、彼女は思わず言葉を失うと同時に何時の間にか見惚れてしまっていた。

そんなウチにオウルバロンの召喚した2体のオウルデュークがDSにより沈み、"あの時"より遥かに早い。

つまり"ハティー"と彼女(+オウルバロン)が交戦した時より、オウルデュークが沈むのが早かったのだ!!

この事実を認識した瞬間。彼女に"悔しい"と言う感情が唐突に芽生え……無意識のウチに呟いてしまった。


「クソッ! 人間の分際……で? ……あッ……ぅあ……!!」


――――それと同時気付く。自分は何をしていた? 大好きだった人間を何の躊躇いも無く迎撃していた。


「そ、そんなつもりじゃ無かった……どうせ繰り返すから……だからボクの本心は違くって……!!」


――――ループを選んだのも全ては憧れる人間の為。なのに全てを諦めて街の人々を殺そうとした自分。


「うわああああぁぁぁぁ!!!!」


≪――――ダダダダダダッ!!≫


それを理解した直後。何時の間にか瞳の色を戻していた彼女は泣きながら自分の部屋を飛び出してゆく。

目指すは勿論 オウルバロンが交戦している場所。この馬鹿げた戦いは一刻も早く終わらせる必要が有る。

この時の彼女には"人間と会ってはいけない"と言う"すり込み"など遥か彼方に吹き飛んでしまっていた。

よって全力疾走により直ぐ様 満身創痍のオウルバロンの背中を確認すると彼女は大きな叫び声を上げた。


「――――待って下さい!!!!」

『!?!?』

「ん~っ?」

「敵ッ!?」

「……あッ」


しかしながら……オウルバロンは当然 手を止めたとは言えエルフ(エリス)の矢先は彼女を捕らえていた。

それも当たり前。普通の人間が此処に居る筈が無く、居たとしても敵と認識されるのは当然なのだから。

故に彼女は自分の浅はかさを呪うと同時に……人間を殺そうとしたのだから最早 殺されて当然と考える。

だとすれば今後は やはり永遠に時計塔を管理しつつループし続けていれば良い……そう結論付けたが……


「待てエリス!!」

「――――ッ!?」

「その娘は敵じゃない。味方だと思う」

「で、ですがアヤトさん」

「そうなんだよね? 君」

「ぅえッ!? そ、そそそそうです!! ボクは敵じゃ有りませんッ!」


――――原作のプレイヤーキャラと同じ衣服を着ている彼女を、アヤトが敵と認識する筈が無かった。


「だったら……コイツもそうだったりするのかい?」

「は、はい。バロンは……オウルバロンはボクの指示で戦っていたダケなんです」

「そうなのか?」

『…………』(コクリ)

「少し話が見えないですね」

「俺も同じだなァ。君は一体 何者なんだい? 俺はアヤト・カツラギって言うんだけど?」

「私はエリス・グリーンノアです」

「えっ? えっと……ボクは……そ、その……」

「うん?」

「この時計塔の管理者です。名前は有りません」

「な、なん……だと?」

「(珍しくアヤトさんが驚いているわね)」


――――だが彼女の正体を知った時。衝撃の事実にアヤトは驚きを隠せなかったのであった。




……




…………




アレから10分後。


『…………』


≪――――コトンッ≫


「おっ? 有難う」

「良い香りですね」

「す、すみません。折角の御客さんなのに紅茶くらいしか出せなくって」

「お構いなく~ッ」


管理者の少女に案内されたアヤトとエリスは、5階層(屋根裏)のリビングに通されるとテーブルに着席。

それと同時に何時の間にか姿を消していたオウルバロンが現われたと思うと、3人に紅茶を出してくれた。

そんなアヤトとエリスは寛いでいる様子だが、管理者の心臓は人間かと思われる程にバックバクであった。


「……(ど、どうしよう……頭の中がメチャクチャで……何を喋って良いのか分からないよ……)」

「……(埒が明かないな)」


≪――――パチンッ≫


「ひゅい!?」

「(そろそろ)話をしよう」

「は、はい」

「実を言うと俺達はさ。最初から時計塔を攻略する気でアルデバランに来たんだ(……エリスも強いし)」

「えっ? で、でも時計塔は ずっとボクが管理していますから……」

「そう。冒険者ギルドで聞いた話だと時計塔のモンスターに敵対心は一切無いって事だった」

「ですけど情報を聞いたダケで鵜呑みにする訳にはいきませんので」

「うん。今回みたいに実際に訪ねて衛兵サンに話を聞く事で、ようやく諦めれたワケなんだけどねェ」

「私達が立ち去ろうとした時、アヤトさんが衛兵を襲おうとした魔物(アラーム)の接近に気付いたんです」

「そ、そんなッ!?」

「あと少しエリスの攻撃が遅れてたと思うとゾっとするよ」

「全てはアヤトさん注意力の御蔭ですよ」

「(ただ単に最後まで信じられなかったから警戒してたダケなんだけどね)」


管理者の少女は衝撃の事実に胸を撫で下ろす。彼らがアルデバランを訪ねていなければ衛兵は死んでいた。

それダケでなく時計塔に侵入する事で自分を正気に戻してくれていなければ、更に犠牲者が生まれた筈。

しかもアヤトとエリスはロクな報酬も保障されず時計塔に侵入する事を選んだらしく、見上げた人間だ。

ならば彼らには感謝せざるを得ず、申し訳ないと思うと同時に唐突に"感謝"と言う感情が強く生じて来る。


「あの……ほ、本当にすみませんでした!! 全てはボクの所為なんですッ!」

「何でだい?」

「本来なら"こんなミス"は絶対にしないんですけど、不具合が生じちゃって……皆さんを危険な目に……」

「ふ~む(不具合なら仕方ないなァ……ゲームでもアホみたいに有ったし)」

「も、もう二度と"こんな事"には成らない様にしますから……どうか許してくださいッ!」

「おいおい。大袈裟過ぎるって。それ以前に君の遣ってる事は凄いと思うけど?」

「……えッ……」

「(原作と違って)時計塔の全ての魔物達に人間を襲わせない様に、何百年も指示し続けてるんだろ?
 普通に驚きだよ。しかも人間とは会話すらしちゃダメとか……俺なら絶対に途中で投げ出してるって」

「私も現に里を捨てた身ですから、貴女の責任感は素晴らしいと思います」

「そ、そんな事を言われるとは思いませんでした」

「だから謝罪なんて要らないって。ともかくコレで一件落着なんだろ?」

「もう時計塔の魔物が人々を襲う事は無いんですね?」

「は……はい。そんな事はボクが絶対に許しませんからッ」

「そりゃ心強い限りだね」


そう返答する彼女であったが、罪悪感が募ってゆく。元々 自分が生きてさえ居れば管理は非常に簡単だ。

なのにループの身で有るとは言え使命を放棄した上に、今みたく嘘の謝罪 迄をもしてしまったのだから。

しかし彼女は改めて考える。もし今回 自分が逃避していなければ、アヤトとエリスとは出会えなかった。

更に深く考えると……今回もループしてしまうと、二度と2人とは再会する事が出来なくなるとも言える。

何故なら正気に戻った彼女は、ハティーの撃破は諦めたが永遠とも言える時計塔の管理は続ける気な為だ。

よって憧れの"人間との会話"が出来たとは言え、2人の事はキッパリと諦めてしまうのが定石なのだが……

彼女は考えるのを止めず、次々と都合の良い事を考えた。思えばアヤトとエリスは非常に強いではないか!

何せ古の魔よりも遥かに早く4階層に辿り着き、オウルバロンをも半分未満の時間で倒せる所だったのだ。

つまり"ハティー撃破"と言う奇跡を彼らに賭けてみようと思い、倒せたなら自分の運命(死)で償えば良い。

逆に殺されてしまえば自分も後を追い……次からのループでは各時間軸で生き残って貰えれば問題は無し。

彼女は そう自分に言い聞かせてしまうと"後ろめたさ"を拭い切れないまま、遂に話を切り出すに至った。


「ところで……えっと……そ、その……アヤトさん?」

「何かな?」

「"古の魔"って言うのを御存知ないですか?」

「あァ。ドッペルゲンガーみたいなのだろ?」

「(……アヤトさんの事なら、倒した事すら有りそうだわ)」

「だったら話が早いんですけど……時計塔のデータが、間もなく近隣に出現する事を示唆しまして……」

「な、何だってェ?」

「それが本当だとすれば……(時計塔の魔物もソレが原因で襲ってきたのかしら?)」←半分正解

「それで、出現するって言う"古の魔"の名前が……」

「まさか"ハティー"とか言うんじゃ無いだろうな?」

「……ッ!?」


――――自分が付けた名前を言い当てられた彼女は驚愕する。対して彼は最寄のボスだから述べたダケだ。


「えっ? もしかして正解だったりする?」

「正解も何も大当たりです!! な、何で知ってるんですか!? 出現した前例が無いんですよッ?」

「マジで? いや~俺も驚いたんだけど、この辺に"ハティーベベ"ってモンスターが居るだろ?」

「い、居ますけど?」

「それなのに"サベージベベ"と"サベージ"が居るのに"ハティー"が居ない。だとしたら……分かるだろ?」

「ふふふッ。いかにもアヤトさんらしい考えですね」

「有難うエリス」

「褒めてません」

「それで……その"ハティー"が どうかしたのかい? もしかして俺達に"倒して来て欲しい"とか?」

「!?!?」


このアヤト・カツラギと言う聖職者の男は何者なのだろうか? 自分の言いたい事を全て当ててしまった!

相変わらず大きな力は感じず、エリスと言うエルフの方が余程ポテンシャルが高いとデータは告げている。

それなのに1000年以上を生きる自分よりも、遥かに高い知識を持っている気がして成らないのは何故?

故に彼女は言葉を失っているが……アヤトと彼に感化されているエリスは、相変わらずペースを崩さない。


「……図星の様ですね」

「どう思う? エリス」

「アヤトさんに勝てる見込みが有るのなら、何処までも御供します」

「それなら決まりだな」

「……えッ……そ、そんな……本当にボク達と戦ってくれるんですか?」

「(セージは心強いけど)何なら俺達ダケでも構わないけど? 時計塔の管理も有るだろうし」

「い、いえ……大丈夫ですッ! ボクとバロンも一緒に戦わせて下さい!!」

「HAHAHA。時計塔の管理者とオウルバロンが味方か……こりゃ~心強い限りだね」

「……っ!? ……ぅう……グスッ……」


どうしてなのだろう? アヤトと言う聖職者の言葉の一つ一つが、何故こんなに強く胸を打つのだろう?

元々 自分は感情など存在しなかった人工生命体だったのに、人間とは此処まで温かい存在だったなんて!

そう思うと同時に彼女の瞳からは涙が零れ落ち、エリスからハンカチを受け取る迄 止まる事は無かった。

よって。彼女は自分の使命を再認識した結果。例え負けてしまおうがハティーの撃破を諦めない事を誓う。


「じゃあ管理者さん。また明日に落ち合おう」

「時計塔の問題は既に解決されたと報告して置きますから安心して下さい」

「お、御願いしますッ」

「では時計塔の入り口 直通ッ! ワープ・ポータル!!」

「それでは失礼しました」

「俺もお暇するとするよ」

「あッ……」




――――だが決意も束の間。アヤトとエリスが一時 帰還する事を若干 寂しく感じた管理者であったが。




『…………』




≪ドンッ!!≫




「ひゃああぁぁーー!!」

「う、うおおぉぉッ!?」




――――背後に立っていたオウルバロンに突き飛ばされた結果。アヤトと共にポータルへと消えていった。




『…………』




≪……し~ん……≫




『…………』(ニコッ)




≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫




――――そして"この顔"である。そんな彼に直ぐ様 主人のテレパシーが飛んで来たのは言う迄も無い話。








■後編に続く■








■あとがき■
後編を凄く書きたいのですが、16時間 書き続けてコレしか進みませんでした。要領の悪さが憎いです。
さて今回の話はエリスが登場した3ヵ月後くらいの時期であり、店を構える前の最後の戦いとなります。
ハティーはROでも強敵ですが、現在のアヤトが装備を駆使すれば壁は出来ると思うので挑んじゃいます。
また話数が増えた事から時間軸がややこしく成っているので、後編の更新時に解説できればと思います。




■補足■


○時計塔管理者○
遥か昔から時計塔を管理し続けている人工生命体。見た目は17歳か18歳くらいの女性の姿です。巨乳。
目覚めた直後は感情に非常に乏しかったのだが、年月が経つに連れて表情が柔らかくなり口調も変化した。
だが性別の認識は疎かだった為に中性的な生活を続けた結果。何を間違ってかボクッ娘になってしまった。
衣服は原作のセージ♀と全く同じモノを1着しか持っておらず、全裸で行動する事も以前は凄く多かった。
また意外ながらも魔力に優れており……カトリやリディア迄とはいかないが、英雄の素質をも備えている。
人間に対しては強い憧れを抱いていて、住民達の生活を観察しつつニヤニヤする事が毎日の楽しみである。
現在は秘術タイム・リワインドを使用している為、死ぬかループするかの運命にある。名前は募集中です。


○オウルバロン○
遥か昔から時計塔管理者を見守っている上級クラスのモンスター。HP72895。深淵の騎士より強い?
見た目は赤いシルクハットとマントを羽織った巨大なフクロウの姿をしており、可愛くてダンディな魔物。
時計塔管理者の唯一の友達であり、身の回りの世話をも担う。また多彩な趣味を持っていて手先が器用だ。
実際ゲームで出会うと"ディスペル"を掛けて来るので相手にしたくない敵です。オウルデュークは美味い。


○エリス・グリーンノア○
アヤトに命を助けられた事から彼に惹かれ、自分から同行を願い出た超一流のハンター。種族はエルフ。
非常に高いDEXを持っている事から、高速で飛ぶ敵の軌道を読んで矢を命中させる事すら出来る存在。
矢を打つスピードも原作とまでは いかないが非常に早く必殺のダブル・ストレイフィングの威力は抜群。
彼と出会う事で更に才能を開花させたと言え、古の魔に対しても効果的なダメージを奪えると期待できる。


○ハティー○
MVPモンスター。HP236400。強さとしては まだ良心的な方だが、本作では安定の鬼畜性能。
無詠唱のストーム・ガスト。回復魔法。超速度減少。挙句の果てには鋭い牙で武器まで破壊して来る敵。
その為 時計塔の管理者は既に1000敗以上している。それでも諦めません勝つまでは。性格は残忍。



[24056] ■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:後編■
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2011/06/18 02:59
――――時計塔管理人がオウルバロンの"まさか"の行動により、ポータルの中に突き飛ばされた直後。


「こ、こら~ッ! バロン!! 何て事するんだ!? これじゃ戻れないじゃないかッ!」


第三者による不可抗力とは言え、アヤトに抱き付いた状態で時計塔前に招待されてしまった管理者は。

初めて人間に触れた事による恥ずかしさを拭う意味をも兼ねて地団太を踏みながら使い魔に言葉を送る。

実を言うと管理者は時計塔を離れた事は有れど、夜に空を飛べるオウルバロンに掴まって抜け出していた。

つまり管理者は自分の足で時計塔に戻れないと言う事であり……こうなっては夜を待たねば帰れない。

生憎 仕様として時計塔内部にはポータルのメモが出来ないので使い魔に迎えに来て貰う意外 無いのだ。


「ボクは時計塔の外には出ちゃダメなんだぞ!? それをどうして"あんな事"をしたんだよッ!」

『…………』

「黙って無いで返事くらいしたらどうなんだッ! ボクは怒ってるんだからね!?」

『…………』

「いやいや君。そもそもオウルバロンって……」

「喋れないのでは無かったんですか?」

「――――あッ」


さて此処は時計塔の入り口と言えど衛兵の目も有る為、階段の脇 辺りと言う場所を選んだのが幸いした。

時計塔は"刻を告げる街アルデバラン"と言われてるのも有り観光客が多いが、丁度 死角だったのである。

よってアヤトは管理者が落ち着くのを待つと、先ず一緒に衛兵に今回の事件の終了を告げようと提案する。

対して街に"まとも"に出た事すらない管理者はアヤトに付いて行くしかなく、2人の背を追い掛けてゆく。


――――30分後。時計塔付近に建っている衛兵の詰め所にて。


「……と言う事で時計塔の内部を調査して来ましたが……」(アヤト)

「特に魔物が暴れていると言った様子は有りませんでした」(エリス)

「ふむ。つまり"入り口の衛兵"を襲った魔物 以外は攻撃して来なかったと言う訳ですな?」

「そうです。第4階層まで上がりましたが、間違い御座いません」

「ソレを聞いて安心しました。ですが前例が無かった事なので、後ほど調査隊を送るとしましょう」

「妥当かと」

「いくら緊急事態とは言え巡礼中の聖職者殿の手を煩わせてしまって申し訳有りませんでしたな」

「いえいえ。一般の者には公開されていない時計塔の内部を見せて貰えたダケでも良い土産話ですよ」

「では少ないですが、此方の資金は御布施として利用して頂ければと」


≪――――ジャラッ≫(約10万ゼニー)


「そんな!? 流石に貰えませんよ」

「どうか受け取って下さい。聞いた話によれば貴方達が居らねば"彼ら"は死んでいたと言う事です故」

「…………」(管理者)

「エリスッ」

「はい。それでは遠慮なく頂きます」

「有難う御座います。それでは私は是(これ)にて」

「御勤めご苦労様です」

「(流石は珍しい男性の聖職者だけ有って話が分かる者だった様だな)」


≪――――バタンッ≫


アヤト達3人はアルデバランの守衛隊長とテーブル越しに向かい合って今回の結果の報告を済ませていた。

内容としては事を荒立てない為、自分達が内部で多くの魔物と交戦した事は言わず証拠隠滅を図っている。

またアヤトは相手を安心させる為に"真面目な聖職者"を装っており、それが功を奏し報酬まで貰えた模様。

コレは嬉しい誤算であり、アヤトとエリスは守衛隊長が立ち去ったのを確認すると互いに溜息を漏らした。


「上手く誤魔化せたみたいですね? アヤトさん」

「そうだねェ。まさか資金も貰えるとは思わなかったよ」

「コレもアヤトさんの"人柄"の御蔭ですね」

「いやエリスが美人だったからじゃない?」

「も、もうッ。アヤトさんったら……(嘘でも嬉しいですけど)」

「ともかくだ。今から宿でも取って夜を待たないとなァ」

「話はソレからですね」

「そんな訳で管理者さん? もう暫く俺達と一緒に……んッ?」

「どうしたんですか?」

「…………」

「どう言う事だオイッ! この娘……目を開けたまま気絶してるじゃねーか!!」

「え、ええぇぇ~ッ?」


一方"真面目な顔をして黙っていれば良い"と言われた管理者だったが、先程から緊張しまくりだった結果。

当に心の糸が切れていた様で、アヤトに揺さぶられる事で目を覚まし彼にペコペコと頭を下げて謝罪した。

だが仕方ない。ループを除き人間を見る事 自体 初めてだったのに、唐突に街中に放り出されたのだから。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


――――そして2時間後。


「モグモグ……うわッ何コレ? モグモグ……ほんと何なのコレッ? ……モグモグ……ぐすッ」

「普通のハンバーグ・セットなんだけどねェ?」

「喋るか涙を流すか食べるかの一つにした方が良い気が……って、聞いていませんね」

「有り得ないんだけど。モグモグ……ホント有り得ないんだけど……モグモグ――――ンぐっ!?」

「ちょッ! 大丈夫かい? ホラ水。そんなに詰め込まなくても食事は逃げないぞ?」

「ご、ゴメンなさい……えっと……"食べ物"って、こんなに美味しかったんですね……知りませんでした」

「君が"食べなくても良いって体"ってのは本当だったんだなァ」

「はい。ボクのカラダは時計塔の魔力で維持されていますから食事も飲水も必要無いんです」

「納得」

「で、でも……もっと食べても良いですか? ……無理にとは言わないんですけど……」(チラッ)

「そんな顔されちゃ断れる訳ないだろ? 臨時収入も有ったし遠慮は要らないさ」

「すみません。追加の注文 御願いします」

「(嗚呼……この時点で思い残す事は無いかもだけど……今回も死ぬ気で頑張ろう!!)」


宿を取るとアヤトとエリスは当然の流れで食事に入り、管理者は乗り気はせずとも場を共にしたのだが。

誕生後 初めての"食事"による感動により、食事<会議と言う価値観が一瞬のウチに反対になってしまった。

しかも"今回"での決意も束の間。管理者は食い過ぎで倒れてしまい、結局 会議は明日持ち越しになった。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


――――数時間後。就寝前アヤトの借りた個室(女性2人は相室)にエリスが訪ねて来ていた。


「最後の冒険の場所を探しに来たつもりが……予想外の結果に成りましたね」

「うん。時計塔を"あんな娘"が管理してたなんて驚きだよ」

「それもそうですが問題は"古の魔"について ですッ!」

「……不安かい? エリス」

「そう思う以前に間も無く戦うと言う実感が湧きません。村や街を1日か2日で滅ぼしてしまう古の魔。
 対して古の魔を討伐する人智を越えし力を持つ英雄……最近までは、御伽話のような存在でしたから」

「御伽話ねェ」

「ですが今の時代の私達には身近な存在なのかもしれませんけど」

「あァ。確かに考えてみれば今年の"ハティー"で古の魔は3体目……有り得ない出現数だよな」

「はい(だからアヤトさんが現れたのも……古の魔に襲われる人々を救う為と言っても良いかもしれない)」

「でも安心してくれて良いよ。勝算は有るからさ(……そもそもオウルバロンが居りゃ負けるとか無いし)」


始めはアヤト本人が"壁"をする予定だったが、共闘するオウルバロンに代わって貰えば支援に集中できる。

また時計塔管理者が着ている衣装と同様に"セージ"の魔法を使いこなす事が出来れば、間違いなく楽チン。

それにエリスの火力が重なるのだから現在のアヤトはグラストヘイムに行く時以上に楽天的に捉えている。

だが"古の魔"に対する価値観が正反対なエリスは、アヤトの言葉を聞いて安心すると共に惚れ直していた。


「本当に流石ですアヤトさん」

「そりゃどうも」

「で、でも……そのッ……相手は"古の魔"ですから……何が起こるか分かりませんし……」

「うん?」

「少し"勇気"を私に分けて貰えればと……思うんですがッ」

「……って何を遣りゃ良いんだい?」

「そ、そそそそれは――――」(キス☆して欲しいらしい)


≪――――ガチャッ!!≫


「アヤトさんッ! エリスさァァん!!」

「きゃっ!」

「うおッ? びっくりした。どうしたんだい? 管理者さん」

「な、何だか急に"お腹"が痛くなって……ボクどうしちゃったんですか!?」

「腹が痛いとな?」

「今迄"こんな事"無かったから……理由が全然分からなくって……」

「(気を取り直して)やっぱり管理者の彼女が時計塔を出たのがダメだったんでしょうか?」

「まさか。さっき自分で"離れ過ぎなければ大丈夫"って言ってたじゃないか」


≪――――じわっ≫


「あうぅぅう……やっぱり"食事"なんてしたモンだからカラダが拒否反応を起こしたんじゃ……グスッ」

「腹が痛くって?」

「初めての食事?」


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「アヤトさんエリスさん助けて下さい……ボク"こんな事"で死にたくないですよォ」

「案内してやってくれエリス。後は任せた」

「はい。行きましょう? 管理者さん」

「えっ!? ど、何処に行くんですかッ? アヤトさんの魔法無しで治るんですか!?」


――――そして十数分後。顔をトマトの様に真紅にしてエリスとトイレから出てくる彼女の姿が有った。








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■第四章:人間に憧れる管理者と、そろそろ身を固めたい殴りプリ:後編■








翌日の午前10時。アヤトは作戦会議(ハティー戦)の為、彼の借りた個室にエリス・管理者を集めている。

尚 往復の能率を考え管理者は時計塔に帰るのは諦める事にしており、管理は簡易的なモノに留める模様。

本来 一刻も早く戻るべきなのだが、やはり"アヤト&エリスと一緒に居たい"と言う思いが強いのだろう。


「それじゃあ早速 始めるとしようか」

「はい」

「で、では最初にボクの分かっている"ハティー"の情報を出来るだけ多く伝えたいと思います」

「宜しく頼むよ」

「先ずは出現ポイントですが、時計塔を中央に北に12745・東に16445の地点に出現するとの事。
 時刻は丁度2日と2時間12分34秒後で、風は北西より時速12メートル。気温は氷点下2℃で……」

「????」

「わけがわからないよ」

「えェっ?」

「え~っと……今の話だと明後日の12時過ぎに湧くって事で良いんだよね?」

「そ、そうですけど?」

「だったら30分前"その場所"に案内してくれれば問題無いよ」

「わ……分かりました。なら次に"ハティー"の特徴についてを……」

「先に言って置くけど全長や体重は要らないからな?」

「あうッ」

「……って本当に分かってたのかよ!?」

「時計塔の"情報収集力"と言うのは凄いんですね」

「……ッ……」

「管理者さん?」


――――此処で彼女に"嘘を言う事"による罪悪感が芽生えたが気を取り直し本来 知らない情報を述べる。


「な、何でも有りません……話を続けますけど、ハティーは"ハティーベベ"を考えるに巨大な狼の姿の筈。
 全身は氷で覆われており、生半可な攻撃は通らず……再生の力も有るので"古の魔"相応の耐久でしょう」

「ふむ」

「当然 攻撃にも優れていて速度は遅いとの事ですが、噛み付かれると致命傷なのは間違い有りません。
 また水属性の魔法をも使いこなし、殆ど詠唱する事も無く"ストーム・ガスト"を放ち周囲を凍らせます」

「ほう」

「更に魔物を招集する特徴も持っていて戦いが長引くと"サスカッチ"や"ハティーベベ"が現れるでしょう。
 そうなる前に倒さないと勝ち目が無くなると思います(……それ以前でもボクじゃ勝てなかったけど)」

「大体把握させて貰った。それなら少なくとも氷結対策は万全にしないとな」

「相手が水属性なのは間違い無い様ですし私は"風の矢"を多めに持っていく必要が有りそうですね」

「えっ? あ、あのッ! 今の話で"何か"感じたりはしなかったんですか?」

「何かって?」

「その……えっと……相手が相手ですから、怖かったり驚いたりとか……」

「まァ多少は緊張するけどね。今の話で色々と見えて来たし何とかなるだろ」

「そう言う事です」

「……(まるで最初のボクみたいだけど、2人とも本当に強かったし本当に大丈夫なのかな?)」

「じゃあ今度は"君の事"を聞かせて欲しいんだけど?」

「ぼ、ボクの事を……ですか?」

「見た感じ"それなり"の魔術の心得でも有るんだろ? 味方を知る事も戦うに当たっては重要だからね。
 オウルバロンは戦った感じ"ハティー"に対して時間稼ぎは十分 出来そうな強さなのは分かったけど」

「でも……ボクなんかの事を聞いても役に立つかはどうか……」

「そう謙遜するなって。使えるスキルによっては戦いも楽になるだろうからさ」

「……ッ……じゃあ……えっと、先ずは使える攻撃魔法の事を……」


"ハティー"の仕様を既に理解しているアヤトにとっては、むしろセージだと思われる管理者の方が重要だ。

もしセージの魔法を使いこなす事が出来れば、ボス戦の難易度がグッと下がるのは間違い無いのだから。

対して"ハティー"に1000敗 以上している自分が何故 必要とされているか分からない時計塔の管理者。

しかし共に戦うと言う事から教える必要が有るのだと自分に言い聞かせてスキルを告げてゆく事 数分後。

管理者は1次職のマジシャンのモノを始め"セージ"としての魔法の大体を使える事が判明したのだが……?


「……使えるのはソレで全部かい?」

「は、はい」

「整理すると、1次職の魔法は"セイフティウォール"と"ストーンカース"(一定時間石化付与)を使えない。
 だけど時計塔の管理者(セージ)として扱える魔法が幾つか有って、更に詠唱のキャンセルや移動が可能。
 特に敵の詠唱をキャンセル出来る"スペルブレイカー"は有用だね。コレが有るダケで大分楽になるよ?」

「そうなんですか? アヤトさん」

「あァ。初めて聞く魔法だけど(嘘)上手く使えば完封も狙えると思う」

「実際(余裕が無くて)使った事が有りませんから、良く分かりません」

「……とは言っても!」

「えっ?」

「実を言うと他にも使える魔法が有るんじゃないかい?」

「ど、どうしてですか?」

「何回か"言いたそうで言わなかった"っぽい仕草が有ったからね。さっきから気になってたんだよ」

「確かに私も感じました」

「!? そ、それは――――」

「間違い無いみたいだな。では実際のトコロどうなんだい?」

「その……頭の中で覚えてはいるんですけど……どうしてか使う事が出来ない魔法が幾つか有ります」

「つまり"セイフティウォール"も"ストーンカース"も覚えてたけど唱えられないから黙ってたりした?」

「…………」(コクリ)

「成る程ね。こっちとしては言ってくれた方が良かったかな?」

「す……すみませんッ! ボクは黙ってる つもりじゃ無くって……いえ、実際は黙ってたんですけど……」

「気にしなくても良いよ。そんなワケで残りの魔法も全部 聞かせて貰えるかい?」

「分かりました(……そうだよ……最初で最後の挑戦なんだから、話せる事は全部言わなきゃ!)」


管理者が"覚えているのに黙っていた"のには理由が有り、今迄のループで試しても唱えられなかったから。

だがアヤトは方法を知っており、それらの魔法は"特定のアイテム"を使用する事により唱えられるのだ!

それ故に触媒のアイテム無しに"買出し"すら出来ない管理者が唱えられる筈は無く活かすのを諦めていた。

また原作と違って"セージ"は管理者 以外 存在して居ないらしく、幾ら彼女が調べても分かる筈が無い。

しかしながら。洞察力が人数倍 高い(事で通っている)アヤトなら魔法の謎を解いてくれると期待できる。

よって管理者の口から"セージ"が使用可能な魔法の全てを覚えている事を聞くと、アヤトは口を歪ませた。


「じゃあ心当たりの有る(触媒の)アイテムが幾つかあるから、早速それを持って試してみようか」

「それなら場所を変える必要が有りますね」

「な、なんだか本当に使える気がしてきました」

「特に"例の魔法"を使えれば極めて有利になるからね。何としてでも方法を探そう」

「では早速 出掛ける準備の方を……」

「……ッ……」


≪ぐううぅぅ~~ッ……≫


「……っと遅れた朝食を先に済ませて置くべきだったかな?」

「ふふふッ。その方が良さそうですね」

「あうぅぅう……(ボクって何で"この年"になって何度も恥ずかしい思いしてるんだろう……)」


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫




……




…………




……2時間後。アルデバランより2キロ程 離れた草原にて。


「それじゃあ宜しく~ッ」

「はいッ! ランド・プロテクター!!」(対象範囲の地面に設置魔法を置けなくする)


≪――――ピキイイイイィィィィンッ!!!!≫


「こ、これはッ!?」

「出来た!? アヤトさんッ! 出来ました!!」

「成る程。触媒にはイエロー・ジェムストーンとブルー・ジェムストーンが必要だったのか」

「透き通った地面……綺麗ですね」


――――アヤトはワザとらしく管理者にリトライさせる事でランド・プロテクターの詠唱を成功させた。


「凄いッ! コレを設置すれば"ハティー"のストーム・ガストも怖く無いですよ!?」

「アヤトさんの得意な"セイフティ・ウォール"が使えなくなる分 注意する必要も有りそうですけどね」

「その辺はキリエ・エレイソンや回復魔法でフォローするから平気さ……って物凄い範囲だなコレ……」

「そうなんですか?」

「いや(此処だと)見るのは初めてだし実際には分からないけど、君の魔力も絡んでるんじゃないかい?」

「良く分かりませんけど……唱えられたのに感動しちゃいました……(今回がダメでも次に活かせるし)」

「まだ感動するのは早いさ。次の魔法を試してみよう」

「は、はいッ!」


――――続いてエリスの火力を底上げする為ランド・プロテクターに続く"属性場"の詠唱を試させる。


「青と赤のみはダメ……次はイエロー・ジェムストーンのみで試してくれるかい?」

「分かりましたッ! バイオレント・ゲイル!!」(対象範囲で行う全ての風属性の攻撃力&回避率が増加)


≪――――バチイイイイィィィィンッ!!!!≫


「ビンゴ!!」

「や、やったッ! コレも成功するなんて!!」

「……確かに風の力を強く感じる……」

「管理者さん。続けてボルケーノ(火場)とデリュージ(水場)も試してみてくれるかい?」

「御安い御用です!!」


――――アヤトは火水風(土は存在しない)全ての属性場の設置を成功させると属性付与の詠唱も頼んだ。


「フレイム・ランチャーッ! ……どうですか?」

「特に俺のチェインに変化は無いな」

「……黄石でもダメみたいですね……」

「ジェム・ストーンが触媒じゃ無いみたいだなァ」

「ど、どうしましょう?」

「別に火力はエリスの"風の矢"任せだから、属性付与は左程 重要じゃ無いんだけど」

「では諦めるんですか? アヤトさん」

「いや。属性付与なら"属性石"って考えも有るしな……今度はコイツで試してみてよ」


≪――――ポイッ≫


「こ、これは……?」

「レッド・ブラッド」(火属性原石)

「!? 確かにソレなら唱えられるかもしれませんね」

「どうだか。ともかく"モノは試し"ってヤツだよ」

「良く思い浮かびますね……流石はアヤトさんです」

「有難う。そんなワケで遣ってくれるかい?」

「分かりました。フレイム・ランチャーッ!」(対象の武器に一定時間 火属性を付与)


≪――――キュイイイイィィィィンッ!!!!≫


「キタコレ」

「せ、成功したの!?」

「凄い……それなら他の付与も属性原石を使えば出来そうですね」

「じゃあ、早速モロク辺りに行ってサンドマンでも殴って来るわッ! ワープ・ポータル!!」

「え……えぇええ~ッ!?」

「ち、ちょっとアヤトさん!」

「エリスも管理者さんも入ってくれ!! 君の攻撃魔法の威力も検証して置きたいからさッ!」

「モロクって言ったら"砂漠"ですけど……行くしか無さそうですね……」

「きっとアヤトさんは"属性付与"を受けれて嬉しかったんだと思います」


こうして度重なる実験&検証の結果。時計塔管理者は"セージ"の魔法全てを唱える事ができたのである。

生憎 満足にサンドマンを殴り終える前に管理者が直射日光の影響で倒れたので"お開き"となったが……

既に彼にとっては"ハティー"対策は万全と言っても良く、満足気にポータルを開くと帰還するのだった。

そして数時間後。濡れたタオルを額にベッドに横になっている時計塔管理者を、アヤトが気遣っていた。


「……ごめんなさい……ボクの所為で迷惑を掛けたみたいで」

「俺こそ悪かったよ。砂漠なんかを選んで無ければ"こんな事"には成らなかったし」

「でも明後日には"ハティー"が出現するって言うのに、時間を無駄にしてしまって……」

「無駄も何も対策は十分だから気にしなくて良いよ。むしろ明日は休もうと思った位だし」

「そ、そうだったんですか?」

「あァ。だから折角の機会だし、やりたい事をすると良いよ」

「……やりたい事を……ですか?」

「うん」

「何でも構わないんですか?」

「勿論」

「だったらボク……"お買い物"がしたいです……よ、洋服とか欲しいから」

「そりゃ良い案だねェ。エリスとでも一緒に行って見れば良いよ」

「アヤトさんは来てくれないんですか?」

「そりゃ~俺で良ければ付き合うけどね」

「だったら一緒の方が良いですッ!」

「了解。それじゃあエリスが戻ったら頼んでみるよ」

「そう言えばエリスさんは何処へ?」

「風呂。ちなみに君のカラダも彼女が拭いてくれてるから安心して良いよ?」

「な、何から何まで有難う御座います」

「それほどでもない。そんなワケで俺も休むとするよ」

「あッ」

「では御機嫌よ~う」


≪バタンッ≫


「……グスッ……ほ、本当に信じられない……何だか夢みたいだよ……」


――――しかし彼女にとっては夢で有っても良い。今回の出会いは間違いなくループの糧となったのだ。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「だから……また幾ら"繰り返す"事に成っても……絶対にアルデバランを守るんだ……」




……




…………




……そして"古の魔"が湧く当日。アヤト達は管理者の案内で"ハティー"の湧く現場へとやって来ていた。

また出発前に昨夜 時計塔を抜け出したオウルバロンと合流しており、僅か3名(+1匹)での討伐である。

さて置き。管理者より湧き5分前と告げられると各々は昨日 購入した上着(氷点下 対策)を脱ぎ捨てた。

ちなみに管理者にとって、昨日の"お買い物"は長い人生の中で最高に幸せな一時だったのは間違い無い。


「そろそろだな……では手筈 通りに行くぞ!? 先ずは"属性場"だッ!」

「はいッ! バイオレント・ゲイル!!」


≪――――バチイイイイィィィィンッ!!!!≫


「集中力向上!!」(一定時間DEX&AGI上昇)

「続いてLPだ!」

「ランド・プロテクタァァー!!!!」


≪――――ピキイイイイィィィィンッ!!!!≫


「管理者さん、あと何秒だ!?」

「残り30秒です!!」

「了解ッ! ブレッシング!! 速度増加!! イムポティオ・マヌス!! 更にマグニフィカート!!
 ついでにグロリアッ!(PT全員のLUK30上昇)……エリス!! 全力で撃ち抜いてくれよ!?」

「分かりましたッ!」

「そしてオウルバロンは……キリエ・エレイソンッ! 防御に集中してくれ!!」

『…………』(コクリ)

「き……来ますッ!」


≪――――ボコオオオオォォォォッ!!!!≫


『ウオオオオォォォォーーーーンッ!!!!』

「出やがったな!?」

「ダブル・ストレイフィング!! ダブル・ストレイフィング!! ダブル・ストレイフィング!!」

『グガアアアアァァァァーーーーッ!!!?』

「す、凄い……効いてるッ! それに範囲魔法が来ない!?」

「まだまだよ!? ダブル・ストレイフィング!! ダブル・ストレイフィング!!」

「その調子だッ! 近付かれる前に出来る限り削っちまえ!! レックス・エーテルナ!!」

『オオオオォォォォッ!!!!』

「詰めて来たぞ!? オウルバロン!!」

『……!!』


≪――――ガコオオオオォォォォンッ!!!!≫


「ダブル・ストレイフィング!! ダブル・ストレイフィング!! ダブル・ストレイフィング!!」

「絶対に手を休めるんじゃァないぞッ!? レックス・エーテルナ!! レックス・エーテルナ!!」

「……ッ……(す、凄過ぎる……コレなら本当に……でも……ボクは何度も……)」


"ハティー"が少し離れた距離に出現すると、先ずはエリスが物凄い勢いで必殺の"DS"を連発した!!

対して早くも装甲を削られたハティーはストーム・ガストを放とうとするが、設置魔法により不発する。

その間もDSの連発は続いているので、ハティーは距離を詰めると先ずオウルバロンに攻撃を仕掛けた。

だがバリア魔法のキリエ・エレイソンが効いている為に効果的なダメージは与えられず十分に壁が可能。

よって完全に優勢に事が運んでいるのだが……それでも、管理者は実物を見ると不安に感じてしまった。

其処で"結果によっては絶望"なので本来 使っては成らない管理者としての能力を使ってしまったのだが。




≪勝率を計算中――――現在処理中――――完了。敵の殲滅率100.0000%≫


「!?!?」




実を言うと"ハティー"の出現と同時に処理していたのだが、結果が判明したと同時に管理者は驚愕した!

勝率が現時点で100%なら後はアヤト・エリス・オウルバロンが頑張れば間違いなく勝てると言う事。

当然 事前にバイオレント・ゲイルとランド・プロテクターを唱えた事も勝率には影響しているのだが……

時計塔管理者は今の結果により胸が熱くなるのと同時に途轍も無い高揚感を覚え改めて杖を握り直した。


『グウウウウゥゥゥゥッ!!!!』

「あの動きは……回復魔法!? させるもんかッ! スペル・ブレイカー!!」

『……ッ!?』

「うェっ!?(か、回復魔法は無詠唱だろ!? 何で妨害出来るんだ!?)」

『ウオオオオォォォォン!!!!』

「(今度は"速度減少"か……)必死なのは良いけど無駄だよ!? スペル・ブレイカー!!」

『……ッ!!』

「ダブル・ストレイフィング!! ダブル――――アヤトさんッ! 手が止まっていますよ!?」

「あ、あァ……悪い!! 皆その意気だッ! キリエ・エレイソン!!」

「ボクが居るからには直接攻撃 以外は許さないよ!? バロンッ! もう少しダケ耐えて!!」

『…………』( `・ω・´)b


本来で有れば無詠唱の魔法をキャンセルするなどネタの領域である。だが連発するダケで効果は有った。

しかし管理者は1000回以上"古の魔"に挑んでいる事から、ハティーの行動パターンは全て把握済み。

よって本来の管理者としてのスキルも相まって1フレーム単位でスキルを割り込ませる事が可能だった。

本来ボスに対しては10分の1の確率でしかスペル・ブレイカーは効かないが、魔力に依存するらしい。

……とまあ、そんなウチにエリスの攻撃によって"ハティー"の装甲は次々と削れてゆき最期の時が来る。

対するアヤト側の被害としてはキリエ・エレイソンによりオウルバロンは殆どダメージを受けていない。

故に後は魔法の触媒やエリスの精神力回復に使用したアイテムの消費程度で有り、正に100%の勝率。


『ウオオオオォォォォーーーーンッ…………』


≪――――ズウウウウゥゥゥゥンッ!!!!≫


「良しッ! 倒した!!」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

『…………』(黙ってシルクハットのズれを直している)

「お、終わったの……?」


――――結局 今回のハティーは殆ど抗えず倒れ、コレが初めて現れた"古の魔"の呆気ない最期であった。


「"アイス・ファルシオン"を落としてるしね……死んだのは間違い無いよ」

「さ、流石に草臥れました」

「エリス! お疲れ様~ッ」

「それにしても……出来てしまうモノですね」

「コレも作戦の勝利さ。しいて言えば管理者さんとオウルバロンの御蔭だな」

「間違い無いと思います」

『…………』(ポリポリ)

「……やッ……」

「あれっ? どうしたんだい? 管理者さん」








「やったああああぁぁぁぁーーーーっ!!!!」

「う、うおわーーーーッ!!!?」


≪――――ガバッ!!!!≫(抱き付き)








「勝てたッ! 勝てた勝てた勝てた!! 守れたッ! ボク達がアルデバランを守ったんですね!?」

「あ、あァ……その通り……って、大袈裟だって! (当たってるから)少し落ち着いてくれよッ!」

「ふぇっ!? す、すすすすみません!」

「ともかくコレで本当に一件落着ですね」

「そうなるなァ」

「ところで初めての"古の魔"の事を報告しなくても良いんですか?」

「(折角のドロップを没収とかされたくないし……)色々と面倒だから別に良いさ」

「そうですか? 私も堅苦しいのは苦手ですから無理にとは言いませんけど」

「じゃあ"古の魔"の死体は見つけて貰える様に適当に噂を流すって事で、アルデバランに帰るとしよう」

「戦ったのは数分ですけど早く休みたいですね」

「同意……ってワケでワープ・ポータルを開くけど……流石にオウルバロンは無理だよなァ」

「街が大騒ぎに成ってしまいますね」

「だったらバロン? 明日に成ったら迎えに来てくれる?」

『…………』(コクリ)

「壁をしてくれて本当にアリガトな? 御蔭様で助かったよ」

『…………』(ニコッ)

「それではアヤトさん」

「あァ。パーッと祝勝会と行こうッ! ワープ・ポータル!!」

「(コレでボクは"永遠"から開放されるんだ……嬉し過ぎて涙を我慢するのでやっとだよ……)」

「随分と上着が濡れてしまったわ。帰ったら乾かさないと」


――――エリスは上着を拾って そう呟くと、何事も無かったかの様にポータルの中へと消えていった。


「そう言えば俺も忘れてたな……ホラ管理者さん。君の上着だよ?」

「あ、有難う御座いますッ」

「じゃあ早く入ってくれるかい? そろそろ消えちゃうからさ」

「分かりました。じゃあバロン? また後でねッ!」

『…………』(コクリ)

「(そろそろバロンとも時計塔の皆とも"お別れ"なんだね……だけど、もう思い残す事は無いや……)」


3人はポータルでアルデバランに帰還すると、先ずは新たな宿屋を探してチェック・インを済ませる。

だが管理者は今夜にも一旦 時計塔に戻ると言う事で"祝勝会"は適当なレストランを探してから行った。

その為 食事の質が上がったので管理者は今回も食事に夢中になったがアヤトは快く注文を許してくれる。

理由として"アイス・ファルシオン"を話し合いの結果 彼が貰っても良いと言う事に成ったのが大きいが。

後々 考えればエリスが"アヤトさんならば使い方を間違えないでしょう"みたいな話をしていた為に、
結局は売れず彼の(四次元)ポケットの中で暫くの間 眠り続ける羽目になってしまうのは さて置いて。

食事が早くも"今回"が最後なので食べたいメニューを目移りしつつも選び、幸せな一時を過ごしたが。

アヤト&エリスと交わした会話の内容も時計塔管理者にとっては興味深く、非常に楽しいモノだった。

互いが"イグドラジルの実"を求めた"世界樹"での出会いから始まり、2人で攻略した幾つもの迷宮の話。

それらの話を外の世界を知らな過ぎる彼女が気に掛けない筈は無く……出来れば自分も冒険してみたい。

しかしながら。管理者は千数百回ループした身で有る事から"諦め"は心得ており今更 泣き言は考えない。

"憧れ"や"望み"と言う小さな川が幾つ重なろうと、死の運命と言う巨大なダムが全てを制しているのだ。

故に2人に別れを惜しまれない為にも、管理者はヒッソリと時計塔で最期を迎えるべきだったのだが……


「おっと。もう"こんな時間"だなァ」

「そろそろ"オウルバロン"が迎えに来る時間なのでは?」

「み、みたいです」

「だったら早く会計を済ませよう!」

「急いだ方が良いですよ?」

「その前に……えっと……アヤトさん?」

「何だい?」

「ちょっと言いたい事が有って……明日の夜に、また時計塔に来てくれませんか? 勿論エリスさんも」

「別に構わないけど?」

「右に同じです」

「だったら同じ時間にバロンを迎えに行かせますので、必ず来て下さいねッ?」

「あ、あァ」


……だが管理者は最初で最後の"我侭"を言ってしまいアヤトとエリスに看取って貰うと言う事を望んだ。

ちなみにアルデバランの街に出てしまったのはオウルバロンの所為なのでカウントには含まれて居ない。

さて置き。死ぬ事は既に受容しているとは言え、彼女は2人にとって只の管理人で終わるのが嫌だった。

短い間だとは言え折角 一緒に戦ったのだから、仲間として記憶の片隅に自分を残して欲しかったのだ。


「彼女は何を伝えたいんでしょうか?」

「それよか真剣な顔をされたから驚いたな」

「……何か胸騒ぎがしますね」

「やっぱ一件落着には成らないってか?」


――――対してアヤトとエリスは万が一の事を考え、万全な準備で翌日の招待に出向くのであった。




……




…………




……翌日の深夜。時計塔4階層。


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「あれっ? オウルバロンは何処に行ったんだ?」

「また何時の間にか居なくなってますね」

「ひょっとしてハメられたとか?」

「まさか。私達を殺す気なら空から落とせば良かったんですから」

「違いない」

「どうします? アヤトさん」

「徘徊してる魔物は襲って来ないのも変わらないし……適当に歩いて回ろう」

「仕方有りませんね」

「では支援開始!(何処かにレアなアイテムが落ちてる可能性も有るだろう!)」

「御願いしますッ(あの娘に"何か有った"と言う事態を考えているんですね?)」


昨日 時計塔管理者が言った通り、オウルバロンに掴まる事で4階層目まで来れたのは良かったのだが。

ふと気付いたら案内役のオウルバロンが居なくなり、5階層(屋根裏)を訪れてみても誰も居なかった。

その為 アヤトとエクスは"時間を潰す"と言う選択をし先日は攻略だったので今回は見学と洒落込んだ。

だが魔物は多く徘徊せど管理者の姿は発見できず……結局2人は適当な安全そうな場所で休む事にした。

そのまま更に数時間が経過し、昼が完全に過ぎてしまった辺りでアヤトは立ち去る事を考えたのだが……


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「14時の鐘が鳴ったか……」

「やっぱり居ないみたいです」

「どう思う? エリス」

「最初は問題が有ったのかと思いましたが、内部の雰囲気も魔物達の様子も変わり無いですから……」

「引き上げるべきなのかなァ?」

「ですが"あの時"の彼女の様子を考えると判断しかねます」

「う~ん。時計塔に(原作みたく)簡単に入れるなら迷ったりしないんだけどな」

「困りましたね…………ハッ!? 誰か近付いて来ます!!」

「な、何だってェ!? だったら再支援を――――」




「それは必要 有りません」


≪――――ザッ≫


「管理者さん!?」×2



このタイミングで探していた時計塔管理者が ようやく姿を現したので、アヤトとエリスの声がハモった。

だが現在の"彼女"は出会った時の朗らかな雰囲気とは違い……表情は真剣で何か神秘的なモノを感じる。

……とは言え"姿そのもの"は同じな故2人は違和感を覚えざるを得ないが、コレが気付いた直後の彼女。

つまり死ぬ時は時計塔管理者として逝こうと割り切り残りの"2時間"を今の様子で努めようとしている。


「お待たせして本当に申し訳有りません。話を告げるのは、どうしても"この時間"が良かったので」

「い、いや別に構わないんだけど」

「何か雰囲気が変わった様な……」


≪――――コツンッ≫


「……それでは私に付いて来て下さい」

「ちょっ!? やっぱり何か変だなァ」

「何にせよ……行くしか無い様ですね」


――――こうして管理者の後を追う事 数分後。4階層の中心 迄 来ると彼女は此方に振り返り口を開く。


「先ずはアヤトさんエリスさん。この度は時計塔……及びアルデバランの人々を古の魔より救って頂き、
 本当に有難う御座いました……御二人の力で非常に多くの命が救われ、街の平和が維持されたのです」

「は、はあ」

「……いえ」

「ですが"それダケ"では有りません。御二人は私の"永遠"に続く筈だった絶望からも救ってくれました」

「永遠? 絶望? なにそれ」

「……どう言う事ですか?」

「分からないのも当然でしょう。ですから御話したいと思います。私が抗えぬ脅威に対して選んだ道と、
 代償として定められた逃れられぬ運命を。少し長くなってしまうかも知れませんが……御願いします」

「それが一昨日の"言いたい事"ってワケなのか?」

「ならば聞くしか有りませんね……始めて下さい」


アヤトとエリスの同意を得られると、管理者は少しだけ口元で笑みを作った後 自分の境遇を語り始めた。

……時計塔を管理してゆく中……古の魔ハティーの出現に呆気なくアルデバランが壊滅してしまった事。

それを回避する為に自分の命と引換に"タイム・リワインド"を使い、一週間の時を遡(さかのぼ)った事。

しかし"古の魔"は余りにも強力で如何なる手段でも勝てず、1562回ものループを繰り返していた事。

よって絶望していて使命すら放棄していた時。アヤト&エリスと出会った結果、遂に古の魔を倒せた事。

全てを包み隠さず打ち明け……話を終えるとエリスは勿論、流石のアヤトも開いた口が塞がらなかった。

今や定時に鐘を鳴らす観光名所でしか無い時計塔に管理者が居たと言うダケでも驚きだったというのに、
平和の裏で管理者は何度も何度も孤独な戦いを繰り返していたとは……想像しろと言う方が無理な話だ。

しかも1562回も死んでいるとか……普通の人間だったら10回目の時点で気が狂ってしまうだろう。

挙句の果てに待っている運命が"死"とか正直 全く笑えないので、2人は口を詰まらせるしか無かった。


「ま、マジかよ……繰り返して繰り返して、ようやく倒せたってのに?」

「"後1時間程度"の命しか残って無いなんて……あんまり過ぎるわッ!」

「ふふふッ。でも私はソレで満足しているんです。本来はアルデバランの人々を守れるダケで良かった。
 それなのに人間との出会いに始まり、食事や買い物に加えて仲間との協力……本当に楽しかったです」

「なに言ってんだッ! 楽しいのは"これから"だろ!? それダケで"幸せだ"なんて欲が無さ過ぎる!!」

「そうですよ!! 美味しい食べ物は更に幾らでも有るし、面白い話も沢山 残って……それなのにッ!」

「分かっています。されど私は時計塔の管理者……本来 外に出る事は許されず静かに使命を果たす身。
 そんな"人ならざる者"で有る私が最期は人間に看取って貰おうと考えた。それダケで"奇跡"なのです」

「……クソッ……」

「そんな事って!」


幾ら"この世界"では無限の可能性を持つ彼でも、定められた運命は変えられず悔しさで拳を握り締める。

だが管理者は微笑んでおり2人の様子を見て"やはり言って良かった"と考え運命に身を任せる事にした。

即ち後はタイム・リワインド終了による"死"を待つダケと言う事で、何も思い残す事は無かったのだが。


『…………』


≪――――ひょいっ≫


「きゃっ!?」

「オウルバロン!?」

「い、何時の間にッ」


――――何時の間にか管理者の背後に現れていた"オウルバロン"が、彼女を強引に"お姫様抱っこ"した。


「!? な、何をするんだよバロンッ! 来ちゃダメって言ったじゃないか!!」

「(まさかのカリスマ・ブレイク!?)」

「(やっぱり偽りの顔だったみたいね)」

『…………』


≪のっし のっし のっし のっし≫(歩く音)


「えぇええっ!? ちょっと! 何処に連れて行くって言うのさ!? ボクは後1時間12分で……!!」

「あ、アヤトさん……どうするんですか?」

「追うしかないだろ」

『…………』

「放して!! 放してよッ! 折角 真面目に遣ってたのに、こんなの酷いじゃないかーッ!」


――――オウルバロンの手(?)の中で無駄な抵抗をする管理者。何だか色々とブチ壊しであった。




……




…………




≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


仕方なくオウルバロンの背中を追ってゆくと、時計塔の1階層目に迄 降りてしまい管理者が色々と抗議。

だが聞こえているのか・いないのか彼女の使い魔は1階層を進んでゆくと"とある地点"で立ち止まった。

其処は地面や壁に大小の時計が鏤(ちりば)められているエリアで、ウチ1つの時計の針を操作すると……


≪ズゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!≫


『…………』( `・ω・´)b

「おォ~ッ! 隠し階段が有ったのか」

「何故 今になって"こんな場所"に案内するんです?」

「えっ!? い、いえ……ボクも知りませんでした」

「時計塔の管理者なのに知らなかったのかい?」

「は、はい。そもそも"時計塔の地下"が有った事すら……」

「……って事は……」(チラッ)

「バロン……君って一体……」

『…………』

「とにかく入ってみようぜェ」

「時間も余り有りませんしね」

「……ッ……残り58分です」


何と管理者でさえ知らなかった"時計塔の地下"への入り口が出現し、アヤト達3人は驚くしか無かった。

だが管理者の寿命を考えると急がなければ成らず、かつ"オウルバロン"は意味が有って教えてくれた筈。

よって言いたい事は多々有るのだが、今は保留し3人(+1匹)は"時計塔の地下"の迷宮の攻略を開始する。


「キリエ・エレイソン!!」

「ダブル・ストレイフィング!!」

「ソウル・ストライク!!」(念属性の単体 攻撃魔法)

『…………』( `・ω・´)

「思ったより敵が強いじゃないか」

「油断できませんね」

「だけど"古の魔"と戦った時の事を考えると手応えが無いかな?」

「当たり前かと」

「ですよねーッ」

「そ、それにしても此処は一体……相変わらずボクの管理外みたいですし」

『…………』

「まァ謎に関しては"目的地"に着かないと解けないっぽいな」

「では急ぐしか無いですね。残されているのは何分ですか?」

「えっと……残り42分ですね」


オウルバロンを前衛に魔物達を蹴散らし地下4層目に到達すると、始めは迷宮を彷徨ってるかに感じた。

だが数分後に朽ちた置き時計を探し当てると、その時計の針を操作する事で閉じられていた扉を開ける。

すると置時計の内部には1冊のボロボロの本が眠っており……オウルバロンは此方に視線を向けて来た。

どうやら"これ"が彼(?)の見せたかった物だった様で、先ずはレアに五月蝿いアヤトが本を開いてみる。


「どれどれ」

『…………』


≪――――パラッ≫


「うぅ~む……」

「どうですか?」

「悪い全く読めん。武器としての効果も無いみたいだし……読んでくれエリス」

「分かりました」


≪――――パラッ≫


「何て書いて有る?」

「すみません……少なくとも私の部族には無かった文字ばかりですね」

「だったら君だなァ」

「ぼ、ボクですか? ……あッ! 結構 汚れてますけど、何とか読めそうです」

「良かった。それなら慌てずに解読してくれよ?」

「はい――――えッ!? …………………………………………………………これって嘘だよね? バロン」

『…………』

「どうしたんだ~? 何か分かったのかい?」








「時計塔の管理者として生きているボクが――――人間だったなんて」

「!?!?」×2








目的の書物はアヤトでは読めず、エリスでも同様。だが時計塔管理者ならば読む事が可能だったらしい。

よって自然な流れで解読に移る彼女だったが、書かれていた内容とは衝撃的な内容の連続で言葉を失う。

そんな中で最も彼女が驚いたのが"時計塔管理者は人間だ"と言う事であり、思わず口に出してしまった。

コレは無意識に出た言葉でありオウルバロンの方を向いていないが、更なる展開が管理者を待っていた。


『偽りでは有りませんよ? 御嬢様』

「!?!?」

「今何か言ったかい? エリス」

「いえ何も……と言うか……」

「うぇえぇ!? ば、バロンッ! 君って喋れたの!?」

「なん……だと?」

『はい。ですが今迄 喋るのを許されていませんでした』

「時計塔の地下と書物の内容の事も有るし、話してくれるんだよね? ……ボクが一体"何"なのかを……」

『良いでしょう。その為に此処まで御案内したのですから』

「それって俺達も聞いて良いの?」

「も、勿論ですよッ! 此処まで最後まで来たら付き合って貰いますから!!」


――――何とオウルバロンは人並み以上の知識を持っていた様でシルクハットの位置を直すと語り出す。


『"この地"には時計塔が出来る以前から知識・技術・そして魔術に優れていた者達が暮らしていました。
 ですが各地で"古の魔"が誕生する様に成ってから魔物の動きが活発になり、頻繁に襲撃を受けました。
 それに対し"力"の無い我々は始めは知識を活かす事で抗う事が出来ましたが魔物は無限に誕生します。
 故に昔は魔物の強さも今のアルデバラン周辺とは桁違いだった事から、後は滅ぶのを待つダケでした』

「そ、それでッ?」

『襲撃が重なるに連れて仲間達が死んでゆく中……我々は一族の血を絶やさぬ方法を必死で考えました。
 其処で幸いだったのが"この地"の近辺が縄張りである古の魔が当時は存在しなかったと言う事でした。
 つまり湧き続ける魔物に対して、此方も"無限の戦力"で対抗すれば永遠に"この地"守り続けられる……
 ですが気付いた時には既に遅かった様で、作成が可能な文明は有れど人員と時間が不足していました」

「だったら滅びちまったのか?」

『いえ。我々は最終手段として生き残り全員の命と引き換えに多大な魔力を凝縮させ触媒に当てました。
 その結果"無限の構成"を始めとする様々な機能を持ったダンジョンの作成時間を大幅に短縮させられ、
 やがて此処に残ったのが"時計塔"で有り……我が一族の唯一の生き残りで有る"御嬢様"だったのです』

「し、信じられない……!」

「そんな謎が有ったのかよ」

「で……でもバロンッ! ボクが人間だったら寿命が有るじゃないか!! コレも時計塔の力なの!?」

『はい。いくら時計塔が完成したとは言え機能させるには"管理者"が存在しなければ意味が有りません。
 よって族長の娘で有り魔術師としての能力に極めて優れている"御嬢様"が、その役割を担ったのです。
 されど長くに及ぶ管理を任せる身に人間の精神を持たせる事は出来ず……先ずは記憶を削除しました。
 代わりに管理者としての使命と知識を詰め込んで、時計塔の魔力を用いて生命を維持させる事により、
 "御嬢様"は人の身ながら"時計塔の管理者"として生まれ変わったのです。後は話す迄も無いでしょう』

「ま、まァ人間で良かったんじゃないか?」

「でも酷過ぎます……折角 人間だと知れたのに時間が僅かにしか残されて無いなんて……」

「アハハハ。以前のボクだったら驚いたってレベルじゃ無かったのかもしれないけど、仕方無いです。
 一族の血は潰えちゃいそうですけどアルデバランを守れて"人間として死ねる"ダケで満足ですから」

『それに関しては勘違いをされていませんか? "御嬢様"』

「へっ?」

『残念ながら"タイム・リワインド"を使われた事により、時計塔の"歴史"は間もなく終わりを告げます。
 ですが"御嬢様"は時計塔から得ていた魔力を失うダケに留まるので、死んでしまう訳では有りません。
 当然 管理者としての情報収集能力と不老不死と言う特性は失われますが……今では些細な事でしょう』

「!?!?」

「え~っと……つまりだ。彼女は後5分で死ぬワケじゃ無いんだな?」

『その通りです』

「…………」(ポカーン)

「す、凄いッ! 良かったじゃないですか!! 死なないッ! 生きれるんですよ!?」

「んん~っ? でも……何か色々と変じゃないか? どうして"今更"になって"ネタ晴らし"をしたんだ?
 一族の血筋を絶やさない事ダケが目的だったら、アルデバランが出来た時点で人間に戻るべきだった。
 逆に時計塔の管理のみを優先させるなら、オウルバロンが"御嬢様"を突き飛ばしたのは有り得んだろ」

『それに関しても話して置くべきでしたね。本来 我々の一族は非常に誇り高く……プライドも高かった。
 故に私は"御嬢様"に子を宿すに相応しい者が現れる迄 管理を続けて頂くと言う命をも受けていました。
 其処で現れたのがアヤト様とエリス様で有り、貴方達は"御嬢様"を絶望の淵から救って下さいました。
 先程の話は私も聞いておりましたが……よもや"御嬢様"がタイム・リワインドを使用していたにせよ、
 此処まで過酷な運命を強いられていたとは予想外でした。ですから御二方には本当に感謝しています』

「い、いや感謝はともかく……今のは俺の聞き間違いかなァ?」

「彼女がアヤトさんの……(こ、こここ子を宿すですって!?)」

『誤解なさらず。それに関しては全て"御嬢様"次第であり、アヤト様に強制する気も一切 御座いません。
 あくまで私の役目は今の時代の人間が我々と共に歩める程に迄 成長したのかを見極めるダケでした故』

「それで"御嬢様"をポータルの中に突き飛ばしたってワケかい!」

『…………』(ニコッ)


――――そして"この顔"である。真面目な事を言ってる"オウルバロン"だが見た目は巨大なフクロウだ。


「でも俺は そんなに立派な人間ってワケじゃ無いんだけどね」

『御謙遜を。我々の技術の象徴で有る時計塔を瞬く間に抜け"御嬢様"が自ら接触した程の魅力の持ち主。
 その"結果"を目の当たりにした時点で既に我々としては完敗だったと言えます。御見逸れしましたよ』


≪ゴオオオオォォォォーーーーン…………≫


「……って時間が来たのかッ?」

「ど、どうなるって言うの!?」

「――――うぐっ!? ああああぁぁぁぁッ!!!!」

「ちょっ! 何か苦しんでるけど大丈夫なのかよ!?」

『心配には及びません。人間に戻るに当たり時計塔より授かった魔力が瞬時に抜けているダケです』

「それって普通にヤバいんじゃ?」

『初めての感触に驚かれているのでしょう……そもそも本来は何も感じない筈だったのですが……』

「其処で思ったのですが、人間に戻る事で過去の記憶が蘇ると言う事は無いんですか?」

『残念ながら完全に削除した物を復元する事は出来ません。"御嬢様"本来の魔力は残っていますがね』

「はァ、はァ、はァ、はァ……」

「平気かい? 治まったみたいだけど」

「は、はい。やっぱり何とも無いみたいです」

「それなら良かったけど……"そっち"はダメっぽいなァ」

「話を聞く限り予想はしていましたが……残念ですね」

『…………』

「えっ!? そ、そんな!! バロンッ! バロオオォォン!!!!」


時計塔(元)管理者は少しダケ全身が白く輝くと同時に、纏っていた光が分散したに過ぎなかったのだが。

オウルバロンは時計塔の寿命と同時に消え去ってしまう様で有り……既に下半身の殆どが消滅していた。

当然 体の消失は現在進行形で続いており、(元)管理者は涙を浮かべて悲痛な叫びを投げ掛けるのだが……


『まさか私などが"御嬢様"に涙を流して頂けるとは……もう何も思い残す事は御座いません』

「駄目ッ! ダメだよ!! ボクが人間に戻るのは取り消しッ! だからバロンは消えないで――――」

『では"御嬢様"……さようなら。今後は名前を持ち、人間として幸せな生活を送って下さい』(ニコッ)


≪――――バサッ≫


「ば、バロンッ!? 嫌だ嫌だ嫌だ!! うぐッ……うわああああぁぁぁぁーーーーッ!!!!」

「…………」

「…………」


オウルバロンは消滅し地面には彼のシルクハットとマントが残された。ちなみにレア・アイテムである。

それに(元)管理者は駆け寄り両膝を折って拾うと、両腕で抱きしめながらボロボロと涙を流して叫んだ。

気付いた時には傍に居り、末永く自分の事を見守ってくれたオウルバロン。強いて言えば自分の家族だ。

それを失った(元)管理者の悲しみは計り知れずアヤトとエリスは彼女に掛ける言葉が見つからなかった。

さて置き。こうして時計塔は魔力を失った事で、地下を含めて魔物達は消滅し鐘の音も消えたのだった。

よって先日の魔物の暴走は時計塔の寿命が原因とされ……数ヵ月後には内部も一般公開される事となる。

また"刻を告げる街"と言う事で鐘も街の人間の手によって鳴らされ、管理者は全ての役目を終えたのだ。




……




…………




……十数分後。


「落ち着いたかい?」

「は、はい。みっともない所を見せちゃって御免なさい」

「とんでもないです」

「ともかく晴れて人間に戻れたんだ。どうしようか? コレから」

「私としては何か"呼び名"を考えた方が良い気がします」

「確かに有った方が良いなァ。何時までも"管理者さん"じゃアレだし」

「!? だ、だったらアヤトさんが付けてくれませんか? ボクの名前」

「えぇッ!? 何で俺が!?」

「駄目……ですか?」(じわッ)

「うぐッ!」

「彼女を人間にしたのは半分はアヤトさんの所為なんですから、責任は取ってあげましょうよ」

「ご、誤解される様な表現するなよ……とは言っても簡単に浮かぶモンじゃ無いぞ?」

「ボクはアヤトさんが考えてくれた名前なら、何でも構いません!!」

「……だったら……時計塔・管理者・トケイトウ・カンリシャ……う~ん……」


此処で予想外にもアヤトは(元)管理者の名前を考える事に成ってしまい、腕を組んで色々と悩んでいる。

本来 記憶を消される前の名前を使えば良いのだが、書物には彼女の本名らしい記述は無かったのである。

よって気乗りはしないが真剣に考える事にはした様で……エリスと(元)管理者が見守っている事 数分後。


「"ケイト"ってのは、どうだい?」

「それで良いです!」

「即答なのかよ!?」

「でも良い名前だと思いますよ?」


――――この瞬間 時計塔の管理者は消え緑の髪と瞳を持った"ケイト"と言う人間の少女が誕生した。


「(それにしても……結局 今回も売っても良さそうなレア・アイテムは無しかよ~ッ!)」




……




…………




……1年後。下級住宅街のアヤトの店にて。


「わたくしは"お好み焼き"で御願いします」

「私は今日もヤキソバを頼む。大盛りだ!」

「ウチはペコペコの空揚げ定食を頼んます」

「御注文 有難う御座いま~す。ケイトッ! (エリスは買い物に行ってるから)宜しく頼んだよ~!」

「分かりました!」


憧れの人間となったケイトだったが意外にも王都プロンテラに戻ると言う2人には付いて行かなかった。

何故なら数百年 欠かさず見守り続けていた"アルデバラン"での生活を先ずは送ってみたかったからだ。

その為 彼女はアヤトとエリスに1週間ほど掛けて一般常識を教わると、先ずは冒険者ギルドに登録する。

続いて(四次元)ポケットを使ってアヤトに預けていた時計塔のアイテムを売却して賃貸住宅を確保した。

その際 ケイトは時計塔のレア・アイテム全てを所持していたのでアヤトが羨ましがったのは さて置き。

こうして彼女は冒険者として1年の間 生計を立てる事で今に至り、既に2次職と成ったワケなのだが。


「それにしてもアヤト様に、あんな可愛い妹様が居らしたなんて」

「中々の魔力を持っている様で有るし王宮騎士団に欲しい位だな」

「(胸に関しては圧倒的に負けとるけど)ウチも油断しとれんなァ」

「はいッ! 御待ち遠様でした!!」

「(ケイトは仕事の覚えが早くて助かるぜ)」


ギルドにケイトの家族の有無を聞かれた際。何を間違えてか彼女はアヤトの義理の妹に成ってしまった!

それは彼女の苗字が直ぐに思い浮かばなかったのと、オウルバロンに子を宿す云々の話を聞かされた為、
ケイトに対しての気恥ずかしさから提案した所……彼女が大賛成してしまった事で強引に決定となった。

だがケイトは子供を作る方法を知らない為に賛成したに過ぎずリディア達に紹介した際に地雷をかます。




「ボクはケイト・カツラギ。アヤト兄さんの妹です! 職業はウィザードで最近ランクBに成りました!」


「(ケイトってば何時の間に……既に俺よりも高いじゃないか……)」


「それとボクの将来の夢はアヤト兄さんの"お嫁さん"に成る事ですッ! どうか宜しくお願いしま~す!」


「!?!?」×3


「ちょッ! おまっ!?(バカーーーーッ!!!!)」




さて置き。ケイトはアルデバランもだが、アヤトとエリスも大切な存在で有り一緒に暮らす事を望んだ。

つまり前述の"1年間"とは予め決めていた期間であり、最近 手紙の遣り取りを経て此方に移って来た。

その際 アルデバランのギルド員には引き止められ……ゲフェンの魔法ギルドからも勧誘されていたが。

"全て"を蹴ってケイトは此処で働く事を望み、今はエリスと同様メイド服の姿で店を切り盛りしている。

そんな彼女は働く様に成り一ヶ月も経っていないのだが、記憶力が良く既に戦力として成り立っていた。

アヤトとしても只 同然で働いてくれる事から素直に感謝しており、気持ち常連客も増えて来た気がする。

今更だが彼の店の料理は斬新で美味いのだが、コストが掛かり下級住宅街の市民には高い為 客は少ない。

また地味なリディア達の工作も有り、地位の高い人間は"この店"の存在に気付いてすら居ないのである。


「あっ!? いらっしゃいませーッ! こんにちわ!!」


――――だがケイトにとっては全く関係無く"家族"と共に人間として生きれる今が本当に幸せだったが。


「ところでケイト様」(コソコソ)

「何ですか~?」

「"古の魔"と言うモノを御存知ですか?」

「はい。知ってますけど?」


――――王女の使命を理解して居ない彼女が"ハティー"について暴露してしまうのは時間の問題だった。








■第四章・完■








■次回:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:伊豆■








■あとがき■
時計塔編終了ッ! 今回でアヤトの1年間の旅が終わり冒険中に会わせたかったキャラも全員出せました。
つまり第一部・完! ……となったので以後 続くのなら食堂(酒場)経営中での話になるんだと思います。
今回に置いては、もっとコンパクトに纏めたかったのですが無駄に長ったらしく(48KB)なって恐縮です。




■補足■


○ケイト・カツラギ(時計塔管理者)○
主人公の義理の妹で好奇心旺盛で活発な少女。ループを含むと二千年近く生きてるが肉体年齢は17歳。
精神年齢となれば更に下がるも非常に記憶力が良く天才と言える存在である。しつこい様だが巨乳です。
魔力はリディアやカトリには及ばないがアヤトよりは高く、身体能力にも優れており結構な実力を持つ。
よって一人の際は四属性の"本"を武器とした前衛として戦い……同時に降り注ぐ魔法は強力。(職業特性)
また支援役としても優秀で"属性場"の展開範囲は非常に広く、大きさも自由に縮小可能なチートっぷり。
更に特性を知っている魔物に対しては"古の魔"を含め無詠唱の魔法すら妨害する事ができる手腕を持つ。
だが問題は"その実力"を積極的に活かそうとはせず、人間としての生活を満喫していると言う事だろう。
将来の夢は"アヤトの子を産む"事なのだが実現 以前に方法を知る事でさえ当分先になるのは間違い無い。
ちなみに"この世界"にセージは存在せずギルドではウィザードとして登録中。装備は時計塔セット一式。


○セージ○
ROで存在する2次職業。デザインが神。本作では人数が多いとチート過ぎるのでケイトのみが該当者。
失われた古代の職とか思って頂ければ良いかと思います。スペル・ブレイカーは本作ではボスにも特効。
しかし発動まで0.7秒のディレイが有るので無詠唱の妨害は不可能な筈だが、ケイトは何故か出来る。
とは言え時計塔管理者では無くなった事で必ず成功するとは限らず、ハティー戦のみ真価が発揮された。




■葛城君の旅路■

1年目01ヶ月 "葛城 綾人"登場

2年目01ヶ月 プリーストに転職

3年目01ヶ月 本格的な一人旅開始

3年目03ヶ月 "ドッペルゲンガー"撃破

3年目06ヶ月 "深淵の騎士"撃破

3年目09ヶ月 世界樹を攻略

3年目12ヶ月 "ハティー"撃破

4年目01ヶ月 食堂(酒場)の経営開始

4年目03ヶ月 第1章のラスト 及び リディア&クレア入店

4年目06ヶ月 カトリ入店

4年目12ヶ月 ケイト入職 ←いまここ



[24056] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:前編■
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2011/10/22 04:01
●はじめに●
今回のヒロインである剣士は原作のソードマン♀と全く同じ衣装を着ているので先ず画像検索して下さい。
















――――王都プロンテラ。ちなみに某聖職者の出現から5年目。




言わずともながらミッドガルド大陸に置いて最も繁栄しているのは勿論の事、歴史も深い都市である。

そんな人口数十万人の大都市プロンテラは、北にリディアの王城を置き中央には巨大な"噴水"が有る。

この噴水を中心に上下左右に4本の"大通り"が伸びており、西・南・東の入り口へと続いているのだ。

尚 西口を出て少し離れた場所(地下水道の入口)がアヤトとカトリが待ち合わせた場所なのは さて置き。

大噴水より王城を繋ぐ北の大通りは衛兵が目を光らせているので別だが、各大通りは非常に賑わっている。

長さも数キロにも渡って伸びており、特に南の"プロンテラ中央通り"はゲームと同様 最も通行人が多い。

その"中央通り"の一部には数百メートルに及ぶ露店ゾーンが有り、夜を除いて常に商売が行われていた。

だが誰でも商売が許可されている反面、王都の兵達による監視によって常に不正は取り締まられるが……

別の場所でブラック・マーケット的な商売の場所が存在するのは、誰も口には出さないが周知の事実だ。

それも さて置き。本日アヤト・エリス・ケイトの3人は、買い物の為に"中央通り"の露店に来ていた。

外出時アヤトは黒の僧服。エリスもハンターの衣装。ケイトに至ってもセージの衣装を身に纏っている。

尚 凄まじい人口密度でも有る事もあるが、基本的に各々の衣装は"この世界"では左程 浮いた姿では無い。


「相変わらずの人だよな~」

「そうですね。ケイトは大丈夫?」

「うぅ……未だに慣れないですね」

「けど"今回"は頑張るんだろ?」

「無理そうなら買い物は私一人で行くけど?」

「!? だ、大丈夫ですッ! 早く人混みに慣れないと此処(プロンテラ)じゃ何も出来ませんから!!」


本日アヤトの酒場は休みであり、その為3人は不足した食材や備品を求めて買出しに赴いたのである。

勿論 信頼の置ける商品を買うならば各専門店を訪れるのが定石だが、アヤトの店にそんな余裕は無い。

……とは言え露店であれ常に巡回する衛兵(実際には王都に委託を受けた商人ギルドの面々)の管理も有り、
悪徳な商品が出回る事は無く、食材においても同様な為 下級住宅街の店であれば左程 影響は無いだろう。

故に週一回の食材の仕入れによる露店巡りは今やアヤト達にとって日課であり、同時に休日の一時だった。

ちなみにアヤトの店は基本的に週休二日制なのだが、王都プロンテラでは年中無休か週休一日が常識だ。

だが社会人経験の無い彼にとって、週5の12時~22時の営業時間外の準備や片付けダケでもキツいのに、
資金(主にエリスとケイトの給料)を稼ぐ事が重要で有れ、過剰な労働を避ける為に週休二日に甘えていた。

いわゆる"ダメ人間"の心理とも言え、狩りは徹夜で行って来た事も有ると言うのに情けない男であろう。

しかしながら。アヤトは"それ"を自覚しているので、エリスとケイトには申し訳ない気持ちで一杯だった。

文句も言わず彼女達は働いてくれると言うのに、現代日本の時給で言えば650円程度しか渡せていない。

されどエリスは"くれる"と言われて貰わないのは逆に失礼だと思って給料を受け取っているに過ぎず、
ケイトに至っては彼の傍に居られる時点で幸せなので無駄金は殆ど使わず義兄の為に貯めているのだが。
(補足しておくがリディア達に紹介した際 無駄な認識を避ける為にケイトは"義妹"と言う形で落ち着いた)

それを察さず後ろめたさしか抱いていないアヤトは限られた時間で何か出来ればと常に試行錯誤していた。

其処まで気にするなら週休二日は止めろと言いたいが、理不尽な人生を送らされた彼を誰が攻めれようか?

さて置き。開店当初アヤトは一人で買出しに赴いており、それはエリスが人混みを恐れていたからである。

だが彼女が順応する事により2人で露店巡りが可能になったが……今度は新人のケイトが慣れる番だった。

"刻を告げる街アルデバラン"はむしろ都会なのだが、何より露店通りの人口密度が桁違いなのだとも言う。

よって当初のケイトは目眩を訴えて早々と退場してしまい買物にならなかったが、次第に慣らし今に至る。

それはケイトの義兄(アヤト)と共に"お買物"がしたいと言う純粋な望みと努力の積み重ねから成ったモノ。


「はははッ、それじゃ~頑張って貰わないとな」

「ではケイト。行きましょう?」

「はいッ! 宜しく御願いしますエリスさん!」

「義妹を頼んだよ? エリス。あと買物も」

「分かりました」

「ケイトは ちゃんとエリスの手助けをしてやるんだぞ?」

「当たり前だよ~。義兄(にい)さん」

「そう言えばアヤトさんは、どうされるんでしたっけ?」

「い、いや俺はだな……(楽して金を稼ぐ為に掘り出し物 探しや金策でも……とは言えないな)」

「あっ! 確か義兄さんは聖職者としての"御仕事"をするんだよねッ?」

「アヤトさんが……聖職者としての仕事?」

「ほら前に言ってたじゃないですか~、義兄さんは"お店"でも人の話を聞いたりする事が多いけど、
 待つダケじゃアレだから"こう言う時"に悩みや相談を受けに人の多い場所に行く事も有るんだって」

「えっ!? そ、それは只の私の推測で……(と言うか内緒にして欲しかったのに)」

「推測ッ? だったら違うの? 義兄さん」

「んっ? いや……そうだった、俺の用は……そんなところかなァ」


どうやら今回はエリスとケイトに買物を任せる様であり、アヤトは彼女達と別行動をするつもりらしい。

その理由としてアヤトは適当にはぐらかす気だったみたいだが……純粋な性格の義妹が思った事を言う。

エリスとしては彼が自分に言わずに何をしようと見守ってゆくつもりだったのだが、ご覧の有様である。

だがアヤトにとっては好都合だった様で、苦笑いしながら頭を掻きつつ答えるとケイトは眉を落とした。


「はァ……だったら仕方ないか~」

「わ、悪いね」

「ボク義兄さんと此処で"お買物"した事、まだ一度も無いのに~!」

「でもダメよ? アヤトさんには"遣る事"が有るんだから邪魔してはいけないわ」

「遣る事?」

「えぇ。それに私達は此処で働かせて貰ってるんだから、ちゃんと勤める様にしないと」

「!? そ、そうでしたねッ! ゴメンなさい義兄さん!! ボクが間違ってました!!」

「別に謝るような事じゃないぞ? 分かってくれれば良いんだ」(キリッ)

「あッ……(や、やっぱり義兄さんはカッコ良くて優しいな~)」←単純

「ではアヤトさん。私達はコレで」

「うん。お互い暗くなる前には帰るとしよう」

「それじゃ~行ってきま~す!!」

「……(こりゃマジで給料を上げる様に内職でもした方が良いのかなァ?)」


前述のようにエリスとケイトは今の生活に全く不満は無いが、アヤトは後ろめたさを常に……以下同文。

とは言え最初から居たエルフは勿論、ケイトの加入で更に業務が楽になったのは願っても無い話だった。

されど手が空く分"相応の報酬"が必要と感じているアヤト。繁盛していれば話は別だが否なのである。

しかしながら。アヤトの店は斬新な料理を下級市民にとっては高いが比較的良心的な価格で提供している。

それらをリディア・クレア・カトリの3人が気に入っている為、口コミで繁盛は間違い無かったのだが……

リディアが外出する事により、彼女の父は快く承認しているとは言え当然 野放しには出来なかった結果。

影でアヤトの店が有名に成らないように調節されており、リディアの存在も公にバレない様にしている。

それに"彼"やエルフが気付いていない筈は無いが、特に気にする素振りも無く泳がせている余裕振りに、
事情を知るクレアは素直に感心し、気付いているエリスはアヤトが気にしないので有ればと放置する始末。

即ち現状で落ち着いているのだが、アヤト・ケイト・リディア・カトリは全く気付いていなかったりする。

さて置き。エリスとケイトが人混みに消えたのを確認すると、アヤトは軽く身形を直し表情を改めた。


「さてと……俺も見て回るとすっか」


――――これはアヤトにとって久し振りの(買出し以外の)露店巡りであり、更なる出会いの始まりだった。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト】




■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:前編■








原作で言う"プロンテラ中央通り"は歩道・車道(馬車が通る)関係なくビッシリと露店で埋まっていた。

しかし"こちら"では衛兵(此方は委託を受けていない方)により馬車が通れる様には整理されており、
その左右の歩道に数百の店が連なっていて、アヤトはエリス&ケイトと"反対側"の露店を見て回っている。
(尚 反対側に向かうのは横断歩道の様な場所を通る必要が有り、信号機の役割は衛兵が務めている様子)

ちなみにエリス&ケイト側には食品関連の露店が多く、アヤト側は小さな雑貨から家具まで並んでいた。

さて置き。露店めぐりの中、アヤトが特に目を光らせているのがアクセサリー等 小さな商品が並ぶ露店。

どうやら"ターゲット"を発見した様で、彼は何時もの"真面目な聖職者"としての仮面を被って交渉する。


「このカード……随分と古そうですね」

「おぉ? コレかい? 何だか不気味だろ? モンスターの姿が描いて有るんだぜ」

「何処で手に入れたんですか?」

「倉庫で商品を整理している時に出て来たんだよ。ずっと放ったらかしだったんだろうなァ」

「ちょっと見せて下さい」

「構わんよ」

「有難う御座います……フ~ム……」

「どうしたんだい?」

「御主人の出身は"衛星都市イズルード"ですか?」

「んっ? 正解だ。何で分かったんだ?」


――――露店の主人の言葉に、アヤトは軽く微笑みながらカードを裏返して描いて有る絵を見せた。


「コレは"マリンスフィアー"と言う魔物なんですよ。イズルード海底洞窟でしか出現しない魔物です」

「へ~ッ、成る程。随分と詳しいんだな。だから俺が其処 出身と踏んだ訳か」

「(やっぱ認識度は低いんだな……)そう言う事です」

「まァそれよりもだ。何か買って行ってくれないか?」

「だったら……この"カード"を頂きますよ」

「おいおい。そんなモノをか? だったらコレの方が……」

「500ゼニー出しますけど?」

「!? 売ったッ! ……って本当に良いのか? こんなのに500も出すなんて」

「趣味で同じようなモノのを集めていましてね。500でも安い位ですよ」

「そうなのか? こっちは願ったり叶ったりだ。毎度あり~ッ!」

「もし他にカードが有れば買わせて頂きますんで、また寄りますね?」

「分かった!! また見つけたら並べて置くから宜しく頼むぜ!? 他の商品も安くしてやるからなッ?」


アヤトの"ターゲット"とは何と"モンスターが描かれたカード"であり、実は驚くほどの力を秘めていた。

幾らホコリを被ろうが朽ちる事の無いそのカードは、モンスターを撃破した際ドロップするレアである。

ゲームでは5000分の1やら3333分の1で落ちるのが大半で、当然 此方の世界でも低確率だった。

されどアヤトは実際に2~3枚は魔物を撃破した際に拾っている為 体感 其処まで確率は低く無い模様。

しかしながら。アヤトが一人で必要なカードを揃えるのは寿命が1000年 有っても無理なのは明白だ。

よって彼は露店を隈なく回る事により只 同然で並んでいるカードを見つけ出し、全て買い取っていた。

対して露店を出していた者にとっては"棚から牡丹餅"状態であり……思わぬ収入で気を良くした事から、
次回アヤトが店や冒険に必要な商品を買おうとした際、それなりにオマケしてくれるので有り難い話だ。

同時に食料の仕入れの委託と"カード効果"により安いコストで商品を仕入れて行く事を本格化させた彼を、
エリスとケイトが更に尊敬&惚れ直したりするのは別の話である。(2人とも値切るのは慣れていない為)

ではアヤトが回収している"カード"の効果は何かと言うと、防具や武器に挿す事によって初めて発揮する。

例えば世界樹で戦った"ハーピ"のカードは肩に掛ける物に挿せ無属性攻撃を15%カットする事が可能で、
更にカトリとケイトが使える"ナパームビート"と言うスキルのダメージを5%増加させる事が出来る。

また"ハーピー"のカードは特殊であり、他の部位5箇所以上に特定のカードを挿して組み合わせる事で、
"セット効果"と言うボーナスも受けることが出来るのだが、アヤト以外が理解しているワケが無かった。

簡単な効果で言えば"レイドリック"のカード。肩に掛ける物に挿せば無属性攻撃を20%もカットでき、
ゲームでも使う機会が多くアヤトも当然持っていた。(無論 魔物自体は強いので彼は露店で購入している)

それらのカードは防具は一個に1枚しか挿せないが、アヤトの武器(チェイン)には3枚挿す事ができ……




――――るのだが。キリが無いので簡単に説明を行って置こう。




●武器●
アヤトのメイン装備の"チェイン"にはカードを3枚挿せ、各カードは特定の種族に20%の追加ダメージ。
つまり3枚挿す事で60%もダメージを上昇させる事ができ、更に属性を付与すれば乱獲が可能である。
だがチェインは比較的 高価なのでアヤトの持つ種類は其処まで多くなく、彼は属性武器を全系統所持。
尚 属性武器にカードを挿す事はできない。また彼に聖属性以外の付与はケイト以外は行う事は出来ない。


●盾●
主にカードを挿した"バックラー"を持ち替える事によって全ての敵からのダメージを30%カットできる。
彼は盾用の状態異常防御のカードも何枚も持っているが今の段階では使用していない。即ちコレクション。


●頭●
各状態異常耐性20%効果が多いが彼は使用せず。支援の時はINTが上がるカード効果のビレタを被る。
一人の時は"絶対に沈黙状態に成らない"効果の有るビレタを被り、今現在も彼の頭には乗っかっていたり。


●鎧●
カウンター効果で状態異常が発動するカードが非常に多いがアヤトは回避する事の方が多いので無意味。
逆に鎧に属性を付与するカードを挿した僧服を彼は多く持っており、狩場によっては非常に有効である。
つまり魔法攻撃を多用してくる魔物が多いダンジョンでは、彼がダメージを受ける事は殆ど無いのだ。
だが戦闘中はゲームと違って服を着替える余裕など無いので、基本的にアヤトの属性は常に一緒である。


●肩●
属性を直接付与する鎧のカードと違って、特定の属性のダメージを30%軽減してくれるカードが多い。
だが最も使用頻度が高いのは……無属性を軽減する"レイドック"カードと回避率を上げるカードである。
此方も即座に着替えるのは難しくアヤトは"肩に掛ける物"に該当するアイテムを出発前に組み込んでいる。
よって見た目は普通の僧服姿であり、彼は基本的にHPを上げる鎧+回避肩の組み合わせでの外出が常だ。


●アクセサリ●
他の部位と違って2種類装備することができ、基本的に元の装備が高価でアヤトは中々 手が出せない。
効果は大きく分けて2つあり、各能力を底上げするモノと他の職業のスキルを使えるモノが存在する。
アヤトの場合は選り好みが難しいので、常にAGIが上がるブローチを2個装備して行動している模様。
尚ゲームとは違い底上げされる数値は高いらしく、アヤトは自分でも驚くほどの素早さを持っている。


●仕様●
ゲームでは魔物から"カードの挿す事のできる装備"を入手する必要が有るが、基本的に何にでも挿せる。
だがゲームでの各アイテムと酷似していないと挿す事が出来ず、アヤトも僧服を改造するのに苦労した。
また原作では誰も買わない上、簡単に買えた装備群で有ったが彼にとっては高価で皆 入手が困難である。




……と言う事でアヤトは凡人の能力値で有りながら各 効果の装備を活かす事で全てをカバーできたのだ。

コレはアヤトしか知らない特権中の特権で、本来彼の資質であれば上級職にすら成れなかったのである。

つまり。恐らく先代の冒険者達がドロップさせたのであろう、全てのカードの値段が只 同然だったので、
挿す防具の品質さえ選ばなければ早い段階で非常に優れた特性を持った装備を入手する事ができたのだ。

それらを発見し活かせる事を知ったアヤトの興奮振りは凄まじく、元々高いモチベーションが一気に上昇。

よって努力に甲斐も有り、心が折れる前&死ぬ前に転職フラグまで漕ぎ着け……今に至ると言うワケだ。

そんな彼は"マリンフフィアー"カードの購入後 歩き出すと(四次元)ポケットからアクセサリを取り出す。

ソレはカードを挿す事が可能な"クリップ"と言うアイテムであり、類似品が多く何気に入手が困難だった。

だが時計塔の管理者であったケイトが部下の"アラーム"がクリップを落とした事から数多く持っており、
其方も只 同然で譲り受けた事で気を良くしたアヤトはケイトにINT効果のカードを挿して2個返却。

同様にエリスにもDEXが上がるクリップを2個 渡した事で、彼にはアイテムに特別な力を宿せる!?

……と互いに勘違いし、アヤトに対する認識を更に(良い方向に)改める事に成ったのも さて置いて……

アヤトは先程買った"マリンスフィアー"のカードを左手で持つクリップに近付けると、頭の中で念じる。

いわゆる挿した事により発揮される効果で有り……ソレを認識されたカードはクリップに吸い込まれる。

即ち"消えた"と言う事で、今の瞬間 付ければ剣士の"範囲攻撃"が他職でも使えるアクセサリが誕生した!


「――――へへっ」


自分でも範囲攻撃が出来る。ソレが嬉しかったのかアヤトは一人で忍び笑いすると本日の戦果を確認。

左手の(新)クリップをそのまま右手でカードを取り出すのだが、その数は10枚近くで大収穫と言えよう。

だがコレ以上は求めすぎと考えたアヤトは、何処か空いたスペースが無いかと焦点を別の方向に向けた。


「さてと。そろそろ出費ばっかりじゃ無くて稼がないとなァ」




……




…………




……そして十数分後。


「いっらしゃいませ。何かお悩みですか?」

「ウム……実は聞いて欲しいんだが……」


教室の机並みに小さなレンタルしたテーブルに手前(自分用)と奥(客用)の椅子二つ。幅は大体1メートル。

そんな露店と露店の間の小さな空間に、アヤトは"悩み・相談 聞きます"と言う小さな看板を置いていた。

いわゆる現代社会で言う"手相屋"の様なモノで有り、並ぶ者は居ないが意外と客足が止まる事は無かった。

しかも値段は決まってないとは言えワザワザ露店通りで悩みを言う様な客達 故に意外と良い収入になる。

流石に貰い過ぎると衛兵に目を付けられると思うので断っているが、調子に乗って治療をした時は驚いた。

足を骨折して踊れなくなった者を何となく治療したら、エラく感謝されて慌てて逃げ出した事が有るのだ。

彼は其処まで認識してなかったが彼程 回復力(及びレベル)が高い聖職者は多くなく、むしろ実に少ない。

よって大聖堂の高僧 並の回復力を持つアヤトが"こんな場所"で只同然の値段で回復屋をするのは異例だ。

その為アヤトは軽い"おまじない"程度の癒しに留め、気分良く料金(金額自由)を払って頂いているのだ。

尚アヤトの行っている事は殆どは話を聞いているダケだが、現代社会を活かした返答にウケは悪くない。

だったらコレを本業にした方が良い気もするが、彼はいずれ働かずに収入を得ると言う野望を抱いていた。


「どうですか? 貴方の苦悩は取り除かれましたか?」

「有難う……喉の閊えが取れた気分だ。何とか仕事 頑張ってみるよ」

「では貴方に神の御加護が有りますように」

「少ないがコレは礼だ。受け取ってくれ」

「かたじけありません」

「また見たら寄らせて貰うよ。じゃあ有難う」


ちなみに"この世界"での経験値はリディアやカトリの様に才能が高ければ修行や訓練で大幅に増えてゆく。

逆にアヤトの様な凡人で有れば魔物を狩る方が余程 効率的で、王立騎士団員も殆どが非戦闘での成長だ。

よって普通の人間が聖職者を目指すのは魔物を狩る訳だが、基本的に女性な上に非力な為 一人は不可能。

ならば仲間と共に狩るしか無く……戦わずとも味方と魔物の傍に居れば経験値は等分で配布されるのだ。

だがアヤトの様に途方に暮れる程の数の倍を倒す必要が有り、王都でそんな方法で転職する人間は少ない。

逆にエリスの様に物心ついた時から武器を持ち、常に狩りを行って来ていた地方の者達は別なのだが……

王都での認識は二次職=才能がある者で有る。よって凡人は早々に冒険者の夢を諦め好きな仕事を探す。

努力次第では誰でも可能とは言え……アヤトの様な知識無しだと考えると、無駄な努力でしかないのだ。

さて置き。一人10分で10人ほどの悩みや相談を受けたアヤトは3分程 客が来ない事で席を立った。

早くも店仕舞いの様であり、3分で諦める上 ハンパな時間で済ませる辺り彼のダラしなさが感じられる。


「……(さ~て、そろそろ飽きたし2人も戻る頃だと思うし……)」

「あ、あのうっ」

「んんっ? ……おっと……お客様でしたか?」

「はい……そ、それなんですけど……あたし……」


そんな(レンタル)机を片付けようと思ったアヤトだったが……彼の目の前に一人の"少女"が姿を現した。

原作のソードマン(女性版)と全く同じ衣装を身に着けており、紺色の長髪をポニーテールにしている。

瞳は赤く顔つきは大人びているので彼女が"普通の状態"ならアヤトは10代後半と認識したであろう。

だが近くで見ないと分からなかったが、髪はボサボサであり衣服は所々小さなキズが有り傷んでいて……

ロングスカートの下部は水分を吸収しているのか黒ずんでおり、表情にも覇気が無く影が掛かっていた。

対してアヤトが動揺を隠しつつも接客モードに入ると……剣士と思われる少女は遠慮がちそうに言う。


「何か?」

「その……お金とか持ってなくて……それでも、大丈夫ですか?」

「……(どうしたんだ? こんな姿で。狩りの後って感じだが此処じゃ珍しいよなァ)」

「え、えっと。無理だったら良いので――――」

「!? いえいえ。来られる者は拒みませんよ? お席の方にどうぞ」

「あっ……はい。あ、有難う御座います」

「その前に御手を拝借」(ヒールLv1)

「……ぅあッ……えっ? 腕の痛みが……消えた?」

「見るからに痛そうだったからねェ。要らぬ世話をさせて貰ったよ」

「す、すみません」


――――意外にも収入が見込めない客が来てしまったが、本気で困ってる様なのでアヤトは対応した。


「それで相談とは何なのかな?」(言葉使い変更)

「はい。それなんですが……その……実は途方に暮れてたんです……」

「どう言う事だい?」

「あたしはクレア様みたいな騎士に成りたくて村から出て来たんですけど、分からない事ばっかりで、
 ギルドの討伐や採取の依頼を受けても全然 達成できなくて、持って来たお金も無くなっちゃって……」

「ふ~む。それで何か"知恵"を借りたいって感じかな?」

「そ、そうなんです。このままじゃあたし、村に帰る前にノタれ死んじゃいますッ」

「そりゃ縁起でも無いな……とは言え随分と良い"カタナ"を持ってる様だけど?」

「これですか?」


――――此方の世界でのカタナはゲームと同様4枚のカードを挿せ属性を付与すれば凄まじい火力になる。


「うん」

「確かに村で"この剣"を扱えるのは、あたし くらいでした……でも、やっぱり無理だったんです」

「どうしてだい?」

「所詮は あたしは井の中の蛙。クレア様みたいに成れないのは勿論の事、ギルドにも強そうな人は沢山。
 "現実"っていうのを分かった気がして……やっぱり努力しても、出来ない事は出来ないんですね……」

「…………」

「あっ! す、すみません……情け無い事を言ってしまって」

「いやいや。気にする事は無いよ? そう言う話を聞くのが俺の仕事だからねェ」

「そう言って貰えると助かります」

「ところで君の名前は?」

「!? あ、あたしとした事が忘れていました。あたしは"セニア・イグニゼム"って言います」

「なん……だとッ?」

「な、何か?」

「えっ? あいや。ななな何でもない……俺の方はアヤト・カツラギって言うんだ。見ての通り聖職者さ」

「アヤト様ですね? 宜しく御願いします」

「……(この娘はカトリと違ってMVPにも成ってる"あの名前そのもの"じゃないかッ!)」

「と、ところで……その……」

「ぇあ?」

「やっぱり難しい相談だったでしょうか?」

「その前に聞きたいんだけど、君は騎士に成りたいのかい? それとも田舎に帰りたいのかい?」

「実を言うと……ソレも決め兼ねている心境です」

「そうなのかァ(だったら俺の判断に委ねる感じなのかよ!?)」


イグニゼム・セニア。原作では苗字と名前が逆と成っているが、高レベルのMVPモンスターである。

姿としては目の前の"セニア"のポニーテールを解いた感じなので、強ち"資質"も大差が無いと言える筈だ。

だが"この世界"では彼女の様に才能が有る者でも、開花される事も無く埋もれてしまう例も多々有る。

つまりだ。セニアもカトリと同様 此処でアヤトで運命的な出会いをしなければ、手遅れになっていた。

このまま下級住宅街の路地で静かに最期を迎えるか、田舎に帰って静かに余生を過ごす未来しか無いのだ。

されど名前ダケでセニアの才能を理解したアヤトは……露店でダイヤモンドの原石を発見したのと同じで、
彼女の実力に努力も重なると有らば、確実に自分を越える。そんな彼女が常連に成れば店の儲けも増える!

そんな横着な事を考える彼であったが、逆にセニアは真剣な様子で目の前の男のアドバイスを待っていた。


「ですから教えてください。あたしは……これから何をすれば良いんでしょうか?」

「夢を諦めずに騎士を目指すべきだね」(キリッ)

「で、ですけど……もう実力もお金も無いですし……今となっては何も……」

「そんな事は無いさ」

「えっ?」

「後者はともかくだ。君に実力が無いハズはないッ! その右手は何だ? その手のタコは何なんだ?」

「……ッ……」

「今迄 散々努力して頑張って来た証拠だろ? 一文無しが何だ? むしろ其処からがスタートだろ!?」

「あ、アヤト様……」


――――言っている事は滅茶苦茶だが、パジャマ姿でのデビューを飾った彼が言うと説得力が有る。


「ともかく、諦めるなんて どんでもない。俺で良かったら何か冒険の手助けをさせて貰うよ」

「!? それは願っても無いですけど……よ、宜しいんですか?」

「此処で会ったのも何かの縁だしね。何の問題も無いさ」

「あ、有難う御座いますッ! この御恩は絶対に忘れません!!」

「まだ礼を言うには気が早すぎるって。ともかく俺の家に案内するよ?」

「わ……分かりました(騙された事は何度も有るけど、不思議と疑う気には成れなかった……だから……)」


こうしてアヤトはセニアに自分の知識を授ける事で立派なナイトに成長して貰い、常連客にする事にした。

そんな遠回しな事する位だったら自分で冒険に行けよと言う話だが、彼は今の生活を崩したくなかった。

自分が旅に出れば当然エリスとケイトも付いて来るだろうし、2人が心配と言う親馬鹿心も抱いている。

よって帰ったら2人に何て怒られるだろうな~ッ……とか思いながらセニアを伴って彼は露店を離れた。


「ところでセニア」

「はい?」

「君は幾つなんだい? 俺は26だけど」

「あたしは今年で16歳になりました」

「!? そ、それにしては随分と大人びてるねェ」

「酷いです……コレでも気にしてるんですよ?」

「はははッ、悪い悪い」

「失礼ですがアヤト様も最初は もっと真面目そうな方だと思ってました」

「勘が鋭いねェ。実は今の俺が"本来の自分"だったんだよ」

「でも斬新で良いと思います。そう言う聖職者様が居るのも」

「それって褒められてるの?」

「勿論です(……この人を信じて平和の為に戦い抜こう。この命が尽きるまで)」


――――だがセニアの瞳は今だ諦めの色が強く出ているのだが、アヤトがソレに気付く事は無かった。








■後編に続く■








■あとがき■
剣士娘偏です。大変長らくお待たせ致しました。後半はイグニゼム・セニア育成計画が始まるよ!(逆だろ)
目指すダンジョンは予告通りの場所。其処で何が起こるかはROをプレイしていれば何となく分かるかも。
また今回アヤトが強い理由を少し詳しく書いてみました。故に次回ではリディア達も出る予定であります。




■補足■


○セニア・イグニゼム○
若干16歳で騎士を夢見て田舎を飛び出してきた少女。影響されたのは、やはりクレア・ジュデックス。
幼い頃に父はモンスターに殺されてしまい、病弱な母を支えながら仕事をしつつ生活をして来た苦労人。
よって若いながらも非常に大人びた容姿をしており、性格も勝気で真面目。村では一番の剣士だった。
だが都会での生活に緊張し本来の実力を出せず何を行っても失敗し挫折 直前にまで追い込まれてしまう。
そんな中アテも無く露店外を彷徨っている中、説教を行うアヤトを発見し思い切って声を掛けたのである。
元ネタは原作の"イグニゼム・セニア"。画像検索をした彼女をポニーテールにしたのが本作のセニアです。



[24056] ■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:中編■
Name: Shinji◆b97696fd ID:1391bf9d
Date: 2012/04/16 20:41
●はじめに●
再確認ですが王立騎士団長のクレア・ジュデックスは、原作の♀騎士と全く同じ衣装を着ております。
また髪型は金髪のサイドテールですが、イメージとしてはフランドール・スカーレットの様な感じかと。
















――――天気の良い ある日の午後 王立騎士団長のクレア・ジュデックスは、城下町を大急ぎで走っていた。


≪たったったったったっ……≫


「(くそっ! 姫様のポータルが無ければ、こうも遠いとは……!!)」


目的地は何を隠そうアヤトの経営する飲食店であり、クレアは彼に"自分だけ"呼び出されていたのである。

よって只でさえ彼女は週に2度もリディア&カトリと共にアヤトの店に(ワープ・ポータルでショートカットして)赴いて昼食を食べている為に他の日は常に忙しいと言うのに、本日の公務を素早く終わらせて城の者達の目を盗みつつ単独で外出し、今回は自らの足ダケでアヤトに会いに行っているのだ。

そんなクレアの走る速度は常人の域を優に超えており、横切られて微かな風を感じた通行人達は皆 何が起こったかと振り返るのだが、既に彼女の姿は見えなくなってしまった後であった。

つまりルーン・ミッドガッツ王国で知らぬ者が居ない程の有名人の一人である王立騎士団長クレア・ジュデックスが"こんな場所"で辺鄙(へんぴ)な飲食店を目指して走っているとは夢にも思わないと言う事だ。

さて置き。

正直なところクレアは"アヤト・カツラギ"に対して恋愛感情に近い強い憧れを抱いている。

それは今迄は異性に全く興味が無かった上に、常に主君と平和・そして剣の鍛錬の事ばかり考えていた彼女にとっては有り得ない心境の変化であった。

クレアと言う人間は10代の頃は常にリディアの世話役を担うと同時に勉学にも励み、早い段階で王宮の人間に必要な知識を吸収してしまい、20歳 辺りでは武力でも支えられる様にと本格的に修行した結果、天性の才能と本人の努力が実り若くしてロード・ナイトの称号を得れた。

更に2年ほど前(24歳の時)には実質ルーン・ミッドガッツ王国の"ナンバー2"である王立騎士団長と言う"権力者"とも言える存在に迄 昇り詰めてしまい、もはや心身ともにリディアと国民達に一生を捧げ世界の平和の為に努めてゆく覚悟で有ったのだが……"古の魔"で有るドッペルゲンガーの出現が彼女の人生を変えた。

だが"変えた"とは言っても古の魔(ドッペルゲンガー)の出現は予想 以上に湧きが早かったダケに過ぎず、最初から戦って最悪 死ぬまでの覚悟はしていた。

即ち"アヤト・カツラギ"との出会いが"全て"で有り……本来"古の魔"とは一体 撃破する度に多くの犠牲が出るのが数十年 湧きと言う事から当たり前なので、彼女はリディアの為に交戦の際ドッペルゲンガーとは刺し違えるつもりで全力で挑んでいた。

しかしながら。

クレアはドッペルゲンガーを倒すドコロか決定的なダメージを与える事も出来ず、相手の行動不能スキルに対応できなかった結果……と言うかスタン耐性は完全に自身のVITに依存するので女性の身な時点でスタン攻撃には元々分が悪いので、ドッペルゲンガーとの相性は最悪だったのだが……危うく王立騎士団長の身で有りながらアッサリと首を刎ねられ、未熟な故に支援に徹するしか無かったリディアが そのまま轢き殺されてしまうトコロで有り……元団長の様に主君を守る以前に逃がす事すら出来ず、50世が即位して早くもミッドガルド大陸が地獄に叩き落とされてしまう瞬間に陥っていたと言えた。

今思えば危機感 云々全てが足りなかったと言わざるを得ないが、そんな彼女の危機を救ったのがアヤトで有り、彼は瞬時にリディアの素質を見抜き自分にも的確なフォローを入れる事で勝利に大きく貢献してくれた。

対してアヤトにとっては当たり前かつ些細なフォローでしか無かったのだが……彼と再会する迄の一年の間、クレアは"あの時"の戦いを振り返る度に例の聖職者への憧れが強くなっている事を無意識のうちに感じる。

それはリディアと同様 好意なのだと気付くのには時間は掛からず、今はリディアが王女として未熟な為か結婚は遠慮されているので、それなら仕方ないと言う事で店に通って彼と話す事ダケで満足している彼女がいずれ彼に認められて婚約した後にでも、自分の気持ちをアヤトに打ち明けるつもりだったのだが。

特に自分からアプローチは(不器用な為に)リディアやカトリの様に一切していないと言うのに、前回 店に訪れた時の帰り際にクレアは彼から後日 一人で店に来る様にと"御願い"されてしまったのである!!

よって彼女は前述の様に急いでいるので有り、多忙の身だが彼の頼み事なら出来る限り力に成ろうと思うと同時に、あわよくば自分に対する評価を上げて欲しいと言う邪(よこしま)な気持ちも柄にも無く持っていた。


≪――――ピタッ≫


「(よ……良し!)」


そんな風の様な速さで走る中 店が迫ると、唐突にクレアは足を止め適当なガラスを見て乱れた髪を正す。

時間が無かった為 特に変わらない何時もの騎士服と必要 最低限の化粧……そして自分でも嫌になる仏頂面。

……とは言え己が結構な美人と言う事を全く自覚していないのは さて置き。

せめてもの"お洒落"と言う事で普段はサイドテールを纏めているダケのゴムを赤のリボンに変えている自分。

正直 反応は期待していないのだが、こんな気持ちに成る事が出来たアヤトには感謝しなくてはならない。

彼女が24歳に成った辺りで元国王に縁談の話を毎日の様に持ち掛けられていたのは親心でも有るが、実際にはダーク・ロードとの戦いで大幅に弱体化した王立騎士団の将来を本気で見据えていたからであり、クレアの様な女性の身で有りながらロード・ナイトの称号を得た程の血筋を持つ人間の子供で有れば、古の魔に抗う事が出来る最有力候補に成長する可能性が非常に高く、今やルーン・ミッドガッツ王のチカラだけを頼りにするのは時代遅れ。

故に英雄以外の才能に優れる人材を育成するのも非常に大切であり、勿論それはクレアも十二分に理解していたが……古の魔と実際に戦う迄は自分の実力に自身を持っていたので、確かに女性としての幸せにも僅かながら憧れてはいたが、少なくとも自分より弱い男に抱かれるのは武人として御免であった。

しかしアヤトに助けられ彼に恋する事で、自分のダメだと分かっていながら曲げなかった"こだわり"を やっと改める事ができ、彼の子を宿す事が出来れば元国王の期待にも応える事が出来るしで言う事ナシである。

よって女性としての魅力には自信が無い彼女だが"今回"の件で彼の役に立てば僅かにでも夢に近付ける筈。

それはリディアの為にロード・ナイトを目指す前の10代前半、微かながら望んでいた"好きな人"と幸せに成りたいと言う事なのは さて置き。

クレアは意を決してツカツカと歩みを進めると、緊張を隠しながらアヤトの店(定休日だが彼女の為に開いている模様)の敷居を跨いだのだが。


「こ、こんにち――――」

「おっ!? クレアさん。丁度 良かった!」

「!?!?」

「(ほ、本当に来て下さるなんて……!!)」


入店し彼女が挨拶をする前に振り返った彼は、自分の言葉を遮る様な勢いで此方を出迎えてくれた。

それは嬉しい事な筈なのだが……アヤトの真横に居た人物がクレアを驚愕させた原因であった。

初めて目にする自分より10歳近くも若そうな、ロングスカートの剣士服を身に纏ったポニーテールの少女。

だが逆に"この少女"は厨房の手伝いをしながらクレアの姿は確認していたので、既に知られていたりする。

それも さて置き……色々と期待しつつ無理して訪れたと言うのに予想外の歓迎(?)に言葉が出ない彼女であったが、アヤトは(素で)全く察さず、恐れ多いのかカチコチに固まっている少女を尻目に笑顔で言い放った。


「早速 紹介するよ。この娘はセニア・イグニゼム」

「よ、よよよ宜しく御願いします!!」


≪――――ばっ!!≫(頭を下げた)


「…………」

「忙しい中 呼び出して置いて申し訳ないんだけど、クレアさんに是非 実力を見定めて欲しいんだ」

「!?(ま、まさか"この為"……なのか?)」

「素質は凄く有ると思うからさ~? この通りッ! 頼みます!!」


――――何と言う事でしょう。あんまりな用件に、クレアは頭の中が真っ白になりそうだった。








【アルカディア・オンライン・イン・ストライク・プリースト】




■第五章:騎士を夢見て努力する少女と、常連客 獲得に必死な殴りプリ:中編■








――――プロンテラの南西 辺りに位置する、人気の無い下級住宅街の外れ。


「ではアヤト。覚悟は良いか?」

「……(空が青いなァ)」


其処でアヤトは何故か武器(木刀)を持つクレアと対峙しており……彼は訳が分からず現実逃避していた。

振り返ってみれば"セニア・イグニゼム"を連れて家に帰ると、最初は不満を露にしていた2人の従業員だったが、エリスは"アヤトさんが言うなら仕方ないですね"と溜息をつきながらも自分で納得し、天然のケイトはセニアの境遇を聞くとアッサリと同情して"それなら一緒に頑張ろうよッ!"と何を頑張るんだよと言うアヤトのツッコミを無視してセニアの手を取って勝手に盛り上がっていた。

よって皆の許可も得たという事で、先ずは着の身着のままで無一文だった彼女に衣服や生活用品を買う金を貸し、久し振りの寝床は2階の4つ有るウチの一部屋を無料で貸す事で先ずはアルバイトとして借金を返済する迄はアヤトの酒場で働いて貰う事と成り、セニアも確かにアヤトのアドバイスの元 早く冒険者として再出発したい気持ちも有ったが、コレだけでも大きな恩が有るし料理は得意だからと暫くは調理師として(無論メイド服姿で)頑張って大した額では無かったが遂に借金の返済に至る。

そんな仕事の合間で常連客の中に、憧れの"クレア・ジュデックス"が居た事を知ってテンションが飛躍的に上がったセニアの必死の働き振りは顧客の増加にも繋がり、非常にアヤト達は有り難かったのは置いておいて。
(尚 厨房からの覗いて いたダケだったので顔を知らないリディアの事は教えて貰っておらず気付いていない)

ようやく彼女はアルバイトを続けつつアヤトに冒険への再出発を促されると期待していたが、何と其の前に自分をルーン・ミッドガッツ王立騎士団長のクレアに紹介してみたいと言って来たのである!!

最初は何かの冗談かと思ったが、どうやら本当だったらしく……先程クレアは自分達の前に現れてくれた。

しかし彼女は何を思ったか条件としてアヤトと手合わせさせる事を望んだので、こうして彼と対峙中だ。

その意味が良く分からないセニアだったが、思わず見とれてしまう程の美しさを持つ(アヤト曰く)超一流のハンターであるエリス・何処か抜けていそうに見えて一度 学習した事は絶対に忘れない程の秀才で有る(実際にはセージだが)ウィザードのケイトを考えれば、本来だらしなくも感じるアヤトも只者では無い聖職者なのは間違い無い筈なので、セニアは期待を篭めて2人の様子を見守るしかなかった。

対してアヤトは今の状況が全く理解できてはおらず、前述の様に憎たらしい程に青い空を ただ眺めていた。

正直なトコロ自分は、クレアが店に来る度に(アヤトが欲しい的な意味で)"現在の王立騎士団は人材不足だ"と口癖のように言っていたので、気を遣って素晴らしい素質を持っていると思われるセニアを紹介していたので有り、あわよくば此処でコネを作ってしまう事で、冒険者として頑張って剣士の二次職業"ナイト"に転職し、いずれは王宮→王立騎士団員として仕えたいと言うセニアの"夢"に繋がれば良いな~とか思っていて、それ以外を望んだ つもりは微塵にも無い。

それなのに自分と勝負をしたいとか言うなんて、やはりクレアは自分の事を認めてくれてはいないのだろう。


「無防備な相手を襲う趣味は無い。早く武器を構えるんだ」

「へっ? え、えぇ……分かってますって」


……実を言うと彼はリディアが自分に好意を寄せている事には気付いており、簡単な支援をした事が切っ掛けと成って、箱入り王女っぽいし何かが色々と間違って、勝手に惚れられてしまったのだと分かっている。

だが只でさえエリスの監視が有るのに勘違いで惚れられたリディアと結婚して王様とか冗談ではないので好意は無難にスルーしているが、それを当然クレアは良く思ってはおらず通う事すら不服なのかもしれない。

よってセニアの紹介は嬉しいが"ついで"に自分の事を叩いて、リディアから距離を置かせるつもりなのか?

恐らく当たっているだろう……クレアは自分と話す時は至って人当たりが良かった印象を受けたが、そっと覗いて様子を窺ってみると常に仏頂面で(ソレが彼女の素なのだが)機嫌が悪そうに見えた。

そうなれば今回の勝負にも納得がゆき、自分はブチのめされてリディアに失望して頂くに限るのだろうか?

しかしながらだ。

リディア・クレア・カトリは店の貴重な常連客(資金源)なので、此処で負けてしまうワケにはいかなかった。

それに距離を置いて見守るセニアは勿論、(買い物中の)エリスとケイトの事も有るので此処は抗うしかない。

其処でクレアの言葉で正気に戻ったアヤトは既に腰が引けていながら、ポケットからメイスと盾を取り出す。

実は相手が人間で有れば反則級な効果を持つ武具なのだが……クレアは"ふむ"と呟くと木刀を握り直した。

彼女は殺傷力の有る両手剣(クレイモア)で戦う事は出来ないので、訓練用の非常に丈夫な木刀(エリス作)を持ってはいるが、元より刃物を持てない聖職者のアヤトはどうしたモノかと考えていたのだが、どうやら気持ち実戦用ではない古いメイスとバックラーを選ぶ事でバランスを取ったのだと納得したからだ。


「それでは此方からゆくぞ?」

「何時でもどうぞ~ッ!」


この"アヤト・カツラギ"。

彼は王立騎士団長で有る自分を相手に、聖職者ながら同じ条件で勝負を受ける程 肝が据わっているらしい。

しかも自身に十八番の支援を掛けたいと言う以前に、する素振りすら無いので見上げた根性である。

そう考えれば一瞬の怒りに任せて戦いを挑んだ自分が情けなくも感じるが……今更 後悔しても後の祭り。

元よりアヤトの接近戦による実力は気になっていたし、此処は胸を貸して貰うべきだろう。

既に彼の勇気を再認識できたダケでも既に十分とも言えるが怪我をさせてしまえば相応の責任は取る。

そう成ればリディアには大目玉では済まされないだろう……ぷりぷりと怒る彼女が目に浮かぶ。

クレアは瞳を閉じ軽く微笑して主君の表情を思い描くと、直ぐ気持ちを切り替えアヤトに鋭い視線を向ける。

即ち何時 飛び掛かって来ても良くアヤトも左に盾を構え右手のメイスを握り直す事で迎撃の態勢を取った。


「はぁあッ!!」

「(き、来たッ?)」


≪――――ダダダダダダッ!!!!≫


「しっ!!」

「くッ!?」


≪――――ガコオオオオォォォォンッ!!!!≫


「!?!?」

「痛ぅ~ッ」


小手調べにクレアの踏み込みの速さは8分、振り下ろしも8分のチカラで放ったモノだった。

しかしコレでも十分な程の威力で有り、木刀の硬度を考えると並みの王宮騎士ならガードしても吹き飛ばされた上に失神しても可笑しくは無く、クレアは王立騎士団長 相応のパワーを持つ世界最強の騎士なのである。

だが幾ら全力では無いとは言えシッカリと足を踏み込んだアヤトに完全に防御された事にクレアは驚いた。

コレだけで彼は聖職者で有りながら並みの騎士 以上の体力を持っていると簡単にだが推測 出来るからだ。

やはり只者では無い……クレアは そう口元を歪ませつつ思うと同時に次の行動に移り、一度バック・ステップで距離を取ると、再び踏み込んで今度は両手の木刀を振り下ろさず左から横に薙ぎ払った。


「せぇいッ!」

「おっと!?」


≪――――ブウウウウゥゥゥゥンッ!!!!≫


「(み……見えているだと!?)」

「(や、やべぇ!! 当たったら折れるだろッ!)」


≪――――ヒュッ!! ヒュッ!! ブウウゥゥンッ!!!!≫


「どうしたッ! 男と言うのに、避ける以外 無いのか!?」

「一発で手が痺れたし、避けるしか無いんですけどーっ!」

「(あ、あのクレア様と互角!? やっぱりアヤト様も凄い人だったんだ……!!)」


今度も8分の速度での初撃、同じく8分の連続攻撃だったのだが……全て危なげ無く回避するアヤト。

対してコレにクレアは更に驚愕する。

本来 彼女の十八番はパワーよりもスピードを活かした戦い方であり、同じ8分でも抗う為に求められる能力の相場が全く違ってくるのだ。

それなのに信じられない事に全てを避けてしまっているアヤト。

口では"避けるしか無い"とは言っているが、此方の攻撃に合わせてパワーではパワーで抗いスピードではスピードを活かして避けている事から、間違いなく嘘で有り早い段階で自分の実力を理解して貰いたいのだろう。

だとすれば100%の力を出して攻めるか? それでも自己強化のスキルを使わない為 全力では無いが……

早くも8分の力では役不足と感じたクレアは、攻撃を続けている中 再び仕切り直すタイミングを窺った。

だが考え直してみればアヤトから攻めて貰うのも良い勉強に成るかもしれない……そんな事を思った矢先!!


≪――――ガッ!!!!≫


「なっ!?」

「…………」

「!?!?」


唐突に右手からスイングされたアヤトのメイスが、クレアの木刀を弾き飛ばした。

それにクレアは瞳を見開き、アヤトは意外にも無表情で……そしてセニアは手に汗を握る。

此処でハッキリ述べるが、正直 有り得ない展開である。

何故ならドッペルゲンガーにスタン攻撃を食らっても決して武器を手から放さなかったクレアが、誰が見ても"適当"に放たれた苦し紛れの反撃にしか思えない様な一撃で、木刀(生命線)を弾かせる事を許したのだから。

コレは騎士としては非常に不名誉な事で有り、模擬戦でなければ死にも等しい失敗でも有ったであろう。

だがクレアの武器を容易く手放させた今の一撃……クリティカル・ヒットとは、まさに"この事"と言えた。

つまりパワー・スピード・角度・間合い・互いの態勢 云々 全てに置いてクレアが苦手とする一撃が今のタイミングで放たれたと言う事であり、幾ら天性の才能を持った最強の騎士でも、弱点を突かれれば どうしようもなく……アッサリと武器を弾かれてしまったのは必然だった。


「(な、何だったんだ……今の一撃は……!?)」


――――では、此処で種明かしをしよう。

現在アヤトが持っていた武器とはズバリ"クワドロプル・クリティカル・メイス"と言うモノ。

コレはクリティカル発動効果の有るカードを4枚挿しており、威力は無いが相手の虚を突けるのだ。

ゲームではプリーストが使っても実用的では無かったが……現実的に活かせば御覧の様な戦果を上げられる。

例えクレアの様に相手が格上で有れど、相手が攻撃の間合いにさえ入っていれば、ソレを一度 振るダケで"状況が有利になる"と言うクリティカル(TRPGで言えば決定的な成功)を起こす事が出来るのである。

ぶっちゃけアヤトが持つ装備の中でも1・2を争うチート装備で有り、逃げる時は良くコレの世話に成った。

だがクレアにとっては今の"クリティカル"が彼の実力に結びついていると考えるのは当たり前。

更に先程のアヤトの防御と回避も【対人型の盾】や【回避や速度に特化したカードを僧服に挿した恩恵】が大半だったのだが……それも踏まえてクレアは彼の実力を認識すると同時に甘く見ていた事を痛感した。

8分の力で挑んでいようと油断する気は無く、状況によっては直ぐに100%に切り替えるつもりだった。

それなのに"先程の一撃"は気持ちを切り替える"一瞬"の猶予すら与えず、恐らく彼は読んでいたのだろう。

無論 前述の様にアヤトの回避を見て、自分が仕切り直すタイミングを窺っていたと言う事を……だ。


「(……だがっ!!)」

「!?!?」


≪――――パシッ≫


今の一撃を決められた事により、既に勝負としては負けた様なモノだった。

だが"このままで終わらない"と言う負けん気から、クレアは尋常ではないスピードで上半身を右に捻ると、右側に弾き飛ばされた宙の木刀を左手でキャッチした勢いをそのまま、カラダを右に回転させ片手(左手)のみで木刀をアヤトから見て右斜め上から振り下ろした。

コレはスキルは未使用だが彼女の"本気"の一撃で有り、対してアヤトは意外な行動に驚愕しながらも再び盾を構えるしか無かった。


「……しッ!」

「ぅおっ!?」


≪――――ガキイイイイィィィィンッ!!!!≫


「!?!?(し、しまったッ)」

「ぐぁ~ッ……マジ痛ってぇ……(もう……ゴール【降参】しても良いよね?)」

「その、すまない……大丈夫だったか?」

「軽い手合わせじゃ無かったんスか? もう少し手加減して欲しいんですけど」

「少々ムキに成ってしまった事は認めよう」

「だったら そろそろ止めにしません?」

「そのつもりだ。貴方の実力は今ので十分に理解した」

「!? さ、さいですか(……降参する手間が省けたな)」

「ひとまず"この勝負"は預けて置こう」

「ずっと預かってて下さいって!」

「むぅ……ソレが望みなので有れば仕方が無いな」


そんな訳で今回の勝負はアヤトの謙虚さも有り"引き分け"と言う形で幕を閉じた。

実際の所 勝敗の条件は明確にはして居らず、アヤトが武器を弾いて勝ちと思ってしまえば彼の勝利だった。

しかし彼は追撃をして来なかったと言う事から今ので"勝ち"だと思っていたと言うのに、自分が反撃をしてしまった事で此方の意図を改めて察し、結果 自分から泣き言を告げる形で戦いの終了を促して来たのである。

即ちスキルを一切使わない軽い手合わせで有れど、王立騎士団長の自分が負けた事が何らかの悪戯で世間に広まると、王立騎士団のメンツに迄 関わるのが分かっているので、気を遣って"引き分け"で済ませてくれた。

コレ成らば誰かの耳に入っても許容範囲なので、クレアはアヤトの心の広さに感謝せざるを得なかった。


「さて置いて、セニアの事は見て貰えるのかな?」

「勿論だ。貴方の紹介ならば見定めない訳には いかんだろう?」

「(同意を求められる様に言われても困るんだけど……)だったら早速 御願いしますよ」

「フフッ。良いだろう……君はセニア……だったな?」

「!? は、はいっ!」

「改めて自己紹介をしよう。私はルーン・ミッドガッツ王立騎士団長のクレア・ジュデックスだ」

「あ、あたしは"騎士"志望のセニア・イグニゼムと申しますッ! リヒタルゼン地方から来ました!!」

「例の"企業都市"からか? 随分と遠くから来たモノだな」

「はい。ですがポータルを利用したので、其処まで長くは掛かりませんでしたけど」


詳しい説明は省くが"この世界"のリヒタルゼンは各街の貴族が集まり安全な場所で建築作業を行いつつ周囲の村の人間を集め協力させて出来た街の為に比較的 新しく、ゲームと違って難関なダンジョンも無いので至って平和(?)なルーン・ミッドガッツ王国の都市の一つだ。

只 王都プロンテラからは距離が有るので多少 連携が取り辛く、此処以上の貧富の差が問題となっている。

つまり強力なモンスターや古の魔の恐怖が少なければ街は成長するモノの、中身が上手く育たないと言うダメな都市の典型と言え、そう考えれば魔物に抗うがこそ人は団結すると言うのだから皮肉なモノだ。

故に貧しい人間の多くはリヒタルゼンに入る事すら許されず街の周囲に出来た村で暮らすしか無いと言う現状で、クレア達にとって早い段階で解決しなければ成らない問題の一つであった。


「では"村"の出身か?」

「そうです」

「やはりか……苦労を掛けて済まない」

「と、とんでも有りませんッ」

「有難う。では好きに打ち込んで来ると良い。遠慮は要らんぞ? 全力で来るんだ」

「頑張れよ~? セニア」

「はいっ! それでは宜しく御願いします!!」

「うむ(……実に真っ直ぐな眼だな)」


≪――――ザッ≫


「はああああぁぁぁぁっ!!!!」

「……ッ……」


≪――――ガコオオオオォォォォンッ!!!!≫


「!?(び、びくともしないッ?)」

「ほう(片手でギリギリか。かなり筋が良い様だな)」


セニアの故郷の話は出会って直ぐ出身地を聞いたアヤトも気になった程なのでクレアも同様だった。

だがクレアは普通に多忙の身なので悠長に話している暇は無く、早くもセニアの実力を確かめるべく話す。

対してセニアは2人の攻防を見て血が滾ったのか、クレアに臆する事無く両手に持った木刀で攻撃する。

その渾身の一撃をクレアは左手(利き腕)のチカラだけで防御してしまい、やはりレベルの桁が違う模様。

それに当然驚愕するセニアであったが、直ぐに素人とは思えない程 無駄の無い動きで一旦 距離を取った。


「くぅっ!」

「(引きも早いな……弁えているか)」

「…………」

「どうした? 私からは仕掛けないぞ? 直ぐに終わってしまうからな」

「……ッ!」


≪――――ダダダダダダッ!!!!≫


「(しかし何処で"この様な人材"を見つけて来るのやら)」

「やああああぁぁぁぁっ!!!!」


その場から殆ど動かないクレアと、一生に一度かもしれないチャンスに気合が入っているセニア。

今や彼女はアヤトと出会った時のボロボロな姿からは想像 出来ない程の勇ましさでクレアに挑んでいた。

最初は諦めの色が浮かんでいたセニアで有ったが、アヤトが特に気を遣った事を言って来なかったのは、ひょっとすると"今の展開"へと繋げる事で自然と蟠りの大半が抜けてしまうのを予想していたのだろうか?

そうセニアが考え付いたのは先の未来の話で有ったが、何にせよ彼女がアヤトに感謝したのは言う迄も無い。

無論 勘違いなのは さて置き。

セニアの激しい攻撃と対するクレアの防御&回避は一分ほど続くが全く決定打には至らず、やがてセニアの表情に焦りの色が浮かんでくるが……これは必然としか言い様が無い。

幾ら途轍もない才能を持ってようと、駆け出しの剣士が最強の騎士に一本が取れる程 現実は甘くないのだ。

だがセニアは憧れの人間を前に攻撃を止める気は微塵にも無く、木刀を強く握り直すと大きく振り被り叫ぶ。


「むっ?」

「バアアァァーーーーッシュッ!!!!」(敵1体に大ダメージを与える)


≪――――ガキイイイイィィィィンッ!!!!≫


「……(両手で受けざるを得ないとは、やはり彼の目に狂いは無かったか)」

「はぁ、はぁ、はぁっ……」

「ふんッ」

「きゃっ!?」


≪――――カコオオォォンッ!!≫


セニアが放った"バッシュ"とは剣士で有れば誰でも使えるスキルだが、高い凡庸性を持つ優れた技だ。

その必殺の一撃はクレアに"両手で防御させる事"に成功し、彼女は感心してセニアとアヤトを評価する。

だが今ので力を出し切ってしまったセニアはクレアの初の反撃にアッサリと武器を弾き飛ばされてしまった。

よって静かな住宅街に木刀が地面に落ちる音だけが響き、クレアは武器を左肩にトントンと当てながら言う。


「……成る程な」

「ま、参りました」

「大体の実力は定めさせて貰ったが、まだまだと言った所だな」

「!? ……ぅッ……そう……ですか……」

「だ、だけど結構頑張った方なんじゃないの? クレアさんから見て"王宮騎士団"ってのにはどうよ?」

「…………」

「クレアさ~ん?」

「正直に言うと是非"欲しい"人材だな。望むので有れば私の権限で士官学校に入れてやっても構わない」

「!?!?」

「ま、マジで!?」

「うむ。其の若さで大したモノだ……無論 其方が望めばの話だがな」

「いきなり話が飛躍したけど、どうするよ? セニア(……ウチから通えば手伝い位はしてくれるかな?)」

「そ、それは――――――――すみませんクレア様!!」

「むっ?」

「はっきり言って願っても無い話だとは思いますが……あたしは自分自身の力で転職してナイトと成り、王宮騎士団に入る為の試験を受けたいんです。ですから折角 仰って頂いたのに、本当に申し訳無いですけど……」

「いや。その心意気が有れば私が口を利かす必要は無さそうだ。いずれ共に戦える事を楽しみにしていよう」

「あ、あのッ! 今回は本当に有難う御座いました!!」

「礼など要らんさ」

「でもセニアはクレアさんに憧れて騎士を目指したみたいだからさ、ホント良い機会だったと思うよ?」

「あ、アヤト様!?」

「ほぉ。それは光栄だな……私としても女性の身ながら武器を持ち戦う者が増えると言うのは嬉しいからな。最近はリディア様の御蔭で"其の様な人間"が増えているのだと聞くが、私も捨てたモノでは無い様だ」

「……(ぶっちゃけクレアさんの方が同性からの人気は高いと思うんだけどなァ)」


≪――――ザッ≫


「それではアヤト。借りた武器は返そう」

「おっ? どうも……って、もう行くんですか? お礼に(セニアの作った)飯くらい出そうと思ったんスけど」

「う~む。ヤキソバは非常に惜しいが無理を言って出て来たからな。残念だが早く戻らなければ成らん」

「あ、改めて すみませんでした……あたし なんかの為に……」

「私が勝手に来たダケに過ぎないさ。それでは失礼する」


クレアはアヤトに近付いて木刀を手渡すと、立て掛けてあったクレイモアを背負うと背を向けて歩き出す。

急いで駆けて来た彼女であったが、アヤトの視界に入っているウチは硬派な女を無意識のウチに演じている。

対してアヤトは……今になって"言おうと思っていたが言えなかった事"を思い出し彼女の背中に声を掛けた。


「あっ! 忘れてたけど、クレアさん!!」

「なんだ?」(キリッ)


≪――――ピタッ≫








「そのリボン……似合ってますよ?」








「!?!?」

「(やばい。本当の事を言ったんだけど流石に怒らせちまったか?)」

「く、クレア様?」

「な……ななな何を馬鹿な事を言っているッ! くだらない話で引き止めないでくれ!!」


≪――――ダダダダダダッ!!!!≫


「トランザム」

「えぇっ?」

「いや何でも無い。じゃあ俺達も戻ろうか」

「わ、分かりました」


アヤトの言葉を受けたクレアは何を思ってか(背中越しだが)顔を真っ赤にして走り去ってしまった。

だがアヤトは彼女が怒るのは想定の範囲内だったらしく、あまり深くは考えず その場を離れるべく動く。

そう……男には言っちゃダメだと分かっていても"言わなければ成らない台詞"というモノが有るのだ。

一方セニアには意味が良く分からなかったが、互いに冗談を言い合える関係なのだと勝手に解釈した。

そしてクレア(間もなく26歳)はと言うと、褒められて相当 嬉しかったらしく中々 眠れなかったらしい。




……




…………




……十数分後。

アヤト&セニアは雑談をしつつ店に戻ってくると、店内のテーブルを挟み椅子に座って向かい合う。

どうやら早くも"本題"に入るらしくアヤトは真剣な表情となり、思わずセニアは息を呑んでいた。


「じゃあセニア」

「は、はい」

「借した お金も返して貰った事だし、君には"とあるダンジョン"に潜って鍛えて欲しいんだ」

「!? ダンジョンに……ですか? それは望むトコロですが、あたしは此処から……」

「ソレに関しては大丈夫。今後も2階には住んで貰って構わないから、多少の稼ぎを入れてくれれば良いよ」

「そ、そう言う事でしたら……何度も世話を掛けて済みません」

「気にする程でもないって。ともかく出来る限りのバックアップとアドバイスはするつもりさ」

「有難う御座います。では あたしは何処ダンジョンに行けば良いのでしょうか?」


働かざるもの食うべからず。

当然モンスターが湧く"この世界"では、一部の特別な事情を持つ障害者を除いて、何らかの勤めをしない者に与える様な支援(税)など微塵にも存在せず、路頭に迷いそうだったセニアも力尽きてしまえば静かに朽ち果てる運命であった。

そう考えればアヤト達に拾って貰ってから受けた数々の支援は、今の時点でも彼女にとっては大きな借りで有り既に頭が上がらない状態であった。(良く冗談を言うアヤトには度々ツッコむ事が有ったりするのだが)

よって自分の腕っ節を活かして3人の恩に応える心意気であり、早く冒険者として成功したいと思うセニア。

そんな彼女の"恩返しをしたい"と言う考えを今迄の短い付き合いから早くも理解してしまったアヤトは、今後 常連客としてダケでなく"冒険での稼ぎを入れて自分を楽させてくれる人"と成って欲しいと言う邪(よこしま)な気持ちを抱きつつ……本気で強くなって貰う予定のセニア・イグニゼムの問いに答えるのだった。


「――――衛星都市イズルードの"海底洞窟ダンジョン"さ」








■(今度こそ)後編に続く■








■あとがき■
今回はクレアさんがメインでした。思えば彼女の章は無いのでセニアの章に無理矢理 捻じ込んだとも言う。
尚カードについて詳しく描写すると話のペースを損なうので詳しくは書いていませんが、使用すると原作の効果とは桁違いに強力な恩恵を得る事ができ、ボンクラのアヤトでも条件次第では英雄達と互角に戦う事が出来ます。
色々と不透明なセニアに関しては、次回でしっかりと書こうと思うので(出来れば早く)宜しく御願いします。




■補足■


○クレア・ジュデックス○
ルーン・ミッドガッツ王立騎士団の団長で、女性の身ながらミッドガルド大陸最強の騎士。今年で26歳。
ゲームで言えばSTRは素で100くらい有りAGIとなると200くらいは有る超チートキャラである。
だがVITは少ない事からドッペルゲンガーに倒され掛けたが、アヤトに救われた事で彼に想いを寄せた。
実はエリスと同じで御洒落がしたい年頃。尚 苗字はアーク・ビショップのスキルを適当に拝借しています。
身長は約170センチ。しかも普通に美人なので若い女性ほぼ全てが彼女に憧れている。胸はCかDの間。


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