めちゃんこオリ設定&独断偏見てんこ盛り。
鬼人双剣乱舞舐めんな、溜め切りご機嫌、溜めハンマーでフルボッコ、片手剣こそ最強などの考えは捨てると楽。
■序文
…ガンランスは決して最強の武器ではない。
しかし、決して扱いにくい武器でもない。
我々のガンランスは、我々が扱うことによって初めて最強となる。
※ガンランサー教本 訓辞より抜粋
■□
これまで、それには敵がいなかった。
大岩のような巨大かつ頑強な体躯。数十を超す手下。
その雄たけびは天まで届き、向かう者を凍てつかせ、凍える息は全てを凍らせる。
それの名はドドブランゴ。牙獣種の中でも特に凶暴とされるモンスターである。
そのドドブランゴにとってここの雪山は己の領地。住処だった。
ここにあるものは全て己のもの。数十の手下の中の頂上に君臨する王として思い通りにならぬものなどない。
一度だけハンターと呼ばれる人間に追い立てられた事もあるが、特に脅威だったとは思っていない。火を噴く武器を相手にするのは面倒だったから逃げてやっただけの事。それにどうやらその時の人間はもう、ここには来ないようだ。さらにあの時よりも成長して巨大になった体には人間の持つ生半可な火は痛くも痒くもない。己と戦うために住処に入り込んできた人間を何人も粉砕してやった。
この雪山で己に逆らえる者などいない。
この雪山の王に敵などいない。
今日もそのはずだった。
□
おかしい。
この人間は己の息で凍りつかない。
おかしい。
この人間は己の体当たりで吹き飛ばない。
おかしい。
この人間は己の雄叫びに怯みもしない。
おかしい。
この人間のもつ火を噴く武器は熱い。
おかしい。
己の体の中に焼け付く痛みが奔る。
おかしい。
敵のいないはずの己が、王が逃げ出している。
己の背中で何かが聞こえた。
何かを擦るような音。
重い何かが動き、段々と高くなっていく音。
そして声。
「……逃げられると思うな」
意味は分からなかった。
なぜか己の体が震えていた。
□■
ジャンボ村の夜は騒がしい。
特に酒場は昼の静けさが嘘のように人が集まってくる。集まる人の大抵はモンスターを狩り、生計を立てているハンターと呼ばれる人間だ。それ以外にはその手のモンスターの討伐を依頼する人間や、ハンターに道具や食料を納品する業者だろうか。
ジャンボ村を興した村長の計画では村にハンターを集め、彼らの手に入れたモンスターの皮や骨、牙を買い取り、それをさらに大きな街に売りに行く。それで手に入れたお金で更に村を発展させそしてまた人が集まる……という計算なのだが、概ねそれは成功し、軌道に乗りつつあるといっていいだろう。
パーティーを組んでいる仲間内で酒を飲み騒ぐ者達もいれば真剣な顔で次の狩りの計画を立てている者達もいる。彼らに共通しているのは、モンスターという人間よりも優れた能力を持ったモノに立ち向かい戦うためのエネルギーに、覇気に、勇気に溢れているということだ。男女を問わず、ハンターとはそんな人間ばかりだった。そんな彼らが集まれば賑やかにならないわけがない。
そんな賑やかな夜の酒場には相応しくない少女が扉を開けて入ってきたことに気がついたのは酒場の娘のマキだった。
賑やか=忙しいという状況な酒場でマキがそれに気がついたのは少女の後に村長がついていたからだろう。少女は村長に背中を押されるように酒場に入ってきた。
酒場の中にいる人間で村長の顔を知らない者はいない。自ずと会話が止み、周囲の視線が村長に集まり、背を押されている少女はそれを感じて俯いた。
「ドドブランゴの討伐を依頼したい。依頼主はこの少女だ」
奇妙な静寂の中で村長が口を開いた。
ドドブランゴ。
この辺りの雪山を統べる王である。
討伐の標的、そして依頼主。村長の言葉にざわめきが広がった。
今は寒冷期である。この時期に雪山に入るのはどんな熟練のハンターとて自殺行為に等しい。更にはその寒冷期に活発になるドドブランゴを相手にするとなると、とてもまともな依頼とは言えまい。
温暖期のドドブランゴをここの地域から追い出したのは、この村に住む今は年老いたハンターだが、その彼とて追い出せただけである。
それが討伐となると……
さらに依頼人が少女であるという点。特産品の収集依頼ではなくモンスターの討伐依頼である。依頼料や報酬の相場はその時のレートにより様々ではあるが決して少ない金額ではない。ましてや相手はドドブランゴである。はたして少女にその大金を払えるのか。
俯きがちな少女はそんな考えが込められた視線を強く受け、怯えるように体を縮ませた。
「報酬は……金ではない。砥石が2つにホットドリンクが1本」
失笑。
からかいや冷やかしの類。大人の真似事。
そう、結論付けた。
やれやれ、といったような空気が酒場に広いがった。
「本気だ」
その空気を払拭するかのような言葉を村長は口にした。
少女の名前はナオという。ジャンボ村から少し離れた集落に住む娘である。
父親はハンターであるが、3年前に雪山で行方知れずになっている。おそらくは生きてはいまい。
母親は雪山に生える雪山草という草を摘み、街に売りに出す事で生計を立てている。その母親が雪山に入ったまま3日、帰ってこない。集落の男達が総出で雪山に捜索に入った時、奥深くに入ったところに雪山草の入った籠と血の跡、そして白く太い毛が落ちていた。普通ならばそこまで奥深くには入らない。だが、今年は雪山草が不作で雪山の高い位置にしか生えていなかった。雪山草を追い求めて、知らずにブランゴたちの縄張りに入り込んだとも思われるが、雪山草を採取するために雪山に入って長い母親がそんな素人のような真似をするとも考えられず、詳しい事は不明である。
敵討ち。
少女の依頼はそういうことだった。敵討ちという目的の討伐依頼というのは特に珍しいものではない。ハンター同士で組むパーティーでも同じような目的を持つものもいるし、モンスター相手に力及ばず命を落としたハンターの仲間、肉親がその手の依頼を出す事もある。が、大抵は依頼料は法外なもの……とまではいかなくとも、それなりの依頼の報酬よりは高くなりがちである。そこにはハンターという職の本質――強者に立ち向かう――がある。命の危険というのはどのハンターにもついて回るのだ。そしてモンスターの命を奪い、その身を糧として生きるハンターにとって、相手の命を奪い、己の命を奪われるという事は大自然の摂理のようなもの。それを受け入れなくてはハンターの世界では生きていけないのである。だからこそ、情という面の強い敵討ち的な依頼は引き受けるものが少ない。従って、依頼主は情以外のもの――報酬に訴える。裏返せば報酬の高さは依頼人の恨み、怒りといった感情の大きさとも言える。
その意味からすると砥石とホットドリンクという報酬は論外。引き受けるものがいるはずがなかった。
ハイリスク・ローリターンではなくノーリターンである。というよりもマイナスだ。
それ以前に「寒冷期の雪山にドドブランゴを討伐しに行く」という自殺行為に等しい事をどれだけ報酬を積まれたとしても普通のハンターにやれるわけがなかった。パーティーを組んでいるハンター達も、そういう熟練のハンター達こそ情では動かない。シビアに依頼を考えるのである。
言わんこっちゃない、と村長は少女の後で内心ため息をついた。村長にとってはこれはわかりきっていた事である。集落の長老に、この村のハンター達への口利きをと少女の事を頼まれたがこれは無理だと言うしかないだろう。これならば村長からの依頼という事にしたほうがまだ望みがあるだろう。ドドブランゴの毛や尻尾、牙は街ではかなりの高値で取引される。報酬を払っても十分におつりと儲けがでる。それを長老と少女に話しても二人は首を縦には振らなかった。
「ナオの報酬で依頼するからこそ意味がある」
と、閉鎖され気味な集落特有の現実的ではない考えと言葉に眩暈がする思いだった。
交渉するのは俺なんだが、と。
少女に対する諦めムードというより無茶苦茶な依頼に対する呆れが多かったろう。嫌な空気ともいうべきものが漂った。
とりあえず、長老に対する義理――ハンターへの口利きは果たした。このままここにいても少女の望みが叶う事はないだろう。もう一度現実的な話を長老としてみるかと、村長が俯く少女を連れて帰ろうとした時だった。
「………その依頼、引き受けよう」
酒場の奥のほうの席から静かな声が届いた。不思議と、周囲のざわめきの中でも男のそう大きくない声は村長の耳に届いた。
そして少女の耳にも。
俯いていた少女が初めて顔を上げた。前を向いた。
その顔に嬉しさはなかった。単純に驚きだけ。
少女にとって自分でも分かっていたのだろう、無茶で無理な依頼を引き受けてくれるハンターはいないという事を。いるわけがないという事を。ハンターである父親と母親を亡くした少女には、ある意味世間の厳しさというものを正常に理解していた。
けれども、もしかしたら、ひょっとして。
そんな僅かな希望ともいえないモノすらも少女は抱いてはいなかった。
だから驚いた。
ざわめきの止んだ酒場の奥。席を立ち、一歩づつ近づいてくる男。周囲からの視線を気にするでもない。
背は高い。小柄ではない村長よりも頭二つ分は上だろう。灰色の髪を短く立たせたような髪型で、おそらくそれほど年を食っているわけではないないようだが、口の周りと顎に生やした髭と太い眉が妙な貫禄と威圧感を与えていた。
「あ、あんた、引き受けるっていったのか?」
村長の驚きも同様だった。普段から依頼する機会が多い村長はそこらのハンターよりも依頼に対する計算というものに長けている。普通の一般的なハンターならばまず、手は出さないだろうと考えていたのだが。
「俺の相棒が出来上がるのが明日の明け方になる。それでいいか?」
男は村長に答えるのではなく、少女に、依頼人に告げた。「出発は明日になる」と。それでよければ引き受けると。
少女は小さく頷いた。まだ、驚きが抜けきっていないのかもしれない。
「ならば、先にそれを貰っておく」
右手を少女に差し出した。大きな掌だった。
少女は僅かに震えながら、静かに手の中の物を両手で男の手に乗せた。
小さく歪で不揃いな砥石。市販のビンとは違うものに入ったホットドリンク。
少女の両手はまめだらけ、そして赤くはれ上がっていた。大人ですら力のいるピッケルを使って砥石を掘り出し、自分で唐辛子を調合したのだろう。
男の右手に簡単に納まる物に少女の感情というものが全て、込められていた。
「待っていろ」
男は左手で少女の頭を静かに一度撫で、酒場を後にした。
同時にざわめきが広がった。
無理、無茶、自殺行為、馬鹿、死ぬだけ
視線と感情が少女にも向かう。
だが、少女はもう、俯いてはいなかった。男に想いを託した。