ある魔法使いの手記:
○年×月△日
ネギ先生が魔法世界より帰ってきた。
それも『完全なる世界』の野望を阻止し、魔法世界を救う方法を考えたというのだから驚きだ。
さすが、英雄ナギ・スプリングフィールドの息子だ。
英雄の息子はまた英雄なのだ。
・・・・・・・その事は素晴らしいことであり、何も問題は無いはずなのだけど、魔法世界から帰ってきたネギ先生は何だかおかしい。
いや、出かける前は子供らしい微笑ましい言動があったのだが、帰ってきてからその言動が強引というか、人の主張よりも自分の主張を強調して、相手の話を聞かないというか。
やはり、英雄ともなればああいう風になるものなのだろうか?
ネギ先生を称える先生や生徒を見ながら疑問に思う。
○年×月△日
大変なことが起きた。
ネギ先生の魔法が暴走して、闇が生徒を食らったのだ。
実際に生徒を食べたのではなく、生命力というか魔力というか生きるのに必要な力を飲み込んでしまったのだ。
これには学園中が大騒ぎになった。
恐慌状態の私たちに学園長が説明した。
ネギ君は魔法世界の『完全なる世界』に対抗するために、このよう危険な魔法を修得せねばならなかったらしい。
それは何と痛ましく立派なことだろう。
私はネギ君の覚悟に涙した。
「学園長。闇の魔法を教えたのは誰なのですか?」
ガンドルフィーニ先生が学園長に問いかけた。
「うむ。ラカン経由でエヴァの教えらしい。」
「なっ!? やっぱり闇の福音が!!!」
その言葉に驚いた。
いや、闇の福音がネギ君の師匠と言う事は知っていたが、そこまで頭が回らなかったのだ。
ガンドルフィーニ先生が学園長に突っかかる。
やはり、あれは危険だの。
今回の事件でその危険性ははっきりしただの。
しかし、学園長はネギ君を教えるのに最適な師匠がエヴァであり、実際、彼女の教えがなければ『完全なる世界』とやりあう事などできなかっただろうと。
それでも、ガンドルフィーニ先生は反論していたが、学園長は取り合わなかった。
私はその態度を見て疑問に思う。
力は大切ではあるが、その力を振るう者の良識はそれ以上に大切なのではないかと。
もやもやする気持ちを抱えながら、集会の場を後にしたのだった。
○年×月△日
「野沢先生。ちょっといいですか?」
物理の田村先生が話しかけてきた。
この先生は普通の先生とは違う魔法先生だ。
先日の集会にも一緒に出ていた。
ちょっとした事で飲みにいく飲み友達だ。
「何ですか?」
「ここではちょっと。場所を移して良いですか?」
田村先生の言葉に場所を移した。
田村先生は一言二言呟くと、結界を張った。
その事に驚愕する。
一体、何事だろう?
「先日の一件どう思います?」
痛いところをついてきた。
先日の一件は関係者の頭をいじくり、普通の事故として処理したのだ。
正直、教育者として色々と思う所はあるが、魔法使いとしての自分を優先して誤魔化していた。
あまり、話題にしたくない話だ。
「事故として処理されたのでしょう。蒸し返すのですか?」
「本当にそれでいいと思っているのですか?
先生として、立派な魔法使いを目指すものとして。」
痛いところにジャストミート。
私は何も言い返せなかった。
「ふう。
確かに、あの件はどうしようもなかった。
ネギ君のためにも、魔法の秘匿のためにも。
しかし、それで本当にいいんですか?
私はネギ君の問題は解決していないと思っています。
原因がまったく解消されていないのに、問題が再度起きないはずがないと考えています。」
「原因?」
「そうです。
今回の事件は何故起こったのでしょうか?
私は闇の福音がネギ君の師匠であるから起こったことだと考えています。」
田村先生は闇の福音が今回の人死にの原因だという。
それは私も思っていた。
大体、おかしくないだろうか?
ここは関東の魔法使いの拠点だ。
ネギ君を教えるのに適した人材などごまんといる。
仮に力が足りないというならば、本国から修行のための人材を派遣してもらったらいい。
なのに、なぜ、ネギ君の師匠は犯罪者なのだ?
英雄ナギによって封印された邪悪な吸血鬼を師匠とする。
それも多感な10歳の子供だ。
どれだけ悪影響があるか想像することすらたやすい。
魔法を使うまでもない。
師匠として弟子の心構えを教えるとして洗脳すれば、10歳の子供に事の善悪など分かるまい。
容易く染まるだけだ。
それがどうして分からない?
「魔法使いなら子供すら恐れる最悪の魔法使いで真祖の吸血鬼。
どうしてこんなのがネギ君の師匠なのでしょうか?
生きるために人の生き血をすすり、退治しようとした人間を片っ端から血祭りにし、自ら悪を名乗る物。
そんな者を師匠にしたら力こそ最上。
常識など関係あるか。
私に文句があるなら殺してみろ。
となっても不思議はありません。」
「それは私も思っていた。
闇の福音に師事してから、ネギ君の言動に強引さが増えているように思える。
実際、修行を優先して会議で寝不足というか疲れ手気味で聞いていないことも何度もあったし。」
「そうでしょう。
そうでしょう。
闇の福音に師事してから、明かに力を偏重している姿が見られます。
私はそれを危惧しているのです。」
「しかし、そうならないように学園長は手を打っているのでは?」
私の言葉に田村先生は沈黙した。
どうしたのだろうか?
学園長は私たちのトップだ。
私たちの危惧くらいは察して手を打っているだろう。
「本当に、学園長は手を打っているでしょうか?」
「はあっ!?」
私は耳を疑った。
学園長が手を打っていない!?
それはありえない。
「私は疑問に思っているのです。
そう、それはネギ君の初日の行動から始まっています。」
何と!?
ネギ君が来たときから?
そんな昔から何を怪しいと思っていたのか。
「覚えていますか?
ネギ君が初日に魔法を使い、それによって少女を助けたものの。
神楽坂君に魔法がばれた事を。」
「ええ、ですが。
学園長が手出し無用。
対策は自ら取ると言われていましたが。」
「そうです。
初日から一般人に魔法バレ。
本来なら、試験そのものを失敗とするもので、仮に処置がそれでは重いと加減しても、本人に厳重注意を行い。
二度とそのような事をしないように指導します。」
「確かに。
おかしいとは思いましたが、英雄の息子ですから手加減したのでは?」
「明かに手加減の枠を逸脱しております。
聞いておられるでしょう?
高畑先生への読心の魔法の一般人の前での行使。
ほれ薬の作成、使用。
オコジョの犯罪者がネギ君に近づいても手を打たない。
そのオコジョによるネギ君の生徒を従者にするパクティオーを無視する。
これは教育者としても魔法使いとしても人の道に外れておりませんか?」
「それは・・・・・・・・。」
私は絶句した。
薄々疑問を抱いていたが、こうも並べられると明かに胡散臭い。
学園長は一体何を考えておられるのか。
「そこで一つ怖ろしい仮定を導き出したんです。
考えすぎと笑ってくれてもかまいません。
聞いていただけますか?」
「分かりました。
教えてください。」
私は真剣に田村先生を見つめた。
田村先生もそれに負けないくらい真剣に見返している。
「学園長は・・・・・学園長は・・・・・・すでに、自我を失っているのでは?
闇の福音によって操られる操り人形ではないのか?
それが仮定として考えたことです。」
「何と・・・・・それは。」
普段ならそんな馬鹿なことと笑い飛ばすことだというのに、私は笑い飛ばすことが出来なかった。
続きますw