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[27071] まどか☆マギカキャラと石ノ森ヒーローが出会うだけのSS【イナズマン編】
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/08/16 12:09
注意事項
・タイトルに偽りあり
・萬画版設定
・まどか☆マギカ側は基本的に一人
・時間軸は無視かもしれません
・作者はチラシの裏からやってきた

以上を留意してお楽しみください。




近況報告
4月29日:快傑ズバット編完結
5月6日:イナズマン編開始
6月17日:データを保管していたPCがクラッシュしてしまったので、しばらく投稿期間が開きそうです。スイマセン……
8月16日:お待たせいたしました!新PCに前PCのメモリを移す作業が終わりましたので、投稿出来る環境があらかた整いました。3ヶ月間、本当に申し訳ございません!



[27071] 【快傑ズバット編】さすらいの地平線で【1】
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/05/04 16:55
とりわけ、その日は曇っていた。
今にも雨が降りそうだが、佐倉杏子にとってはそんなのどうでもよかった。
杏子にとって、ここは自分のテリトリーじゃない。それどころか、来ようと思ったことも無い。ただ、足が向くまま歩いたらこの町にいた。
ただそれだけだ。

カリッ。
歩きながら咥えていたポッキーが音を立てる。それと同時に、杏子の目に留まったものがあった。
ゲームセンター。なんら変哲の無い。
まぁ、今歩いているここはアーケード街。ゲーセンくらいあるだろう。しばらく店頭を眺めていた杏子だったが、彼女の足は流されるようにゲーセンへと向いていた。

(日が落ちるまで時間あるしな。見知らぬ街のゲーセンを遊び倒すってのも、まぁ、悪くないだろ)

その程度の心境で。

数時間が経過していた。といっても、杏子は時計をろくに見ていないまま、遊びに没頭していたため、どれくらい時間が経ったのかをまるで気にしていなかったのだが。
今、杏子はシューティングゲームに集中している。自分のテリトリーにあるものよりも、手応えがあった。

「へっ……」

プレイしている間に、彼女は自分が思った以上に楽しんでいることを感じた。ダンスゲーム、レースゲームと散々楽しんだ彼女だが、どれもテリトリー近場のゲーセン程では無い。
だが、このシューティングは、意外にも手応えがある。このまま、このゲーセンのハイスコアを塗り替えてやろうか。そう考え始めたときだった。

ヒューゥ。とどこからか、妙に響く口笛の音が彼女の耳に飛び込んできた。

「……?」

同時に画面の中の標的を撃ち、ゲームクリア。無論ハイスコアだ。それも今まで獲得したスコアの中で一番高い。
ガンコントローラーを元あった場所に戻し、杏子は後ろを振り向いた。

「なんだよ、アンタ?」

そこには、黒一色のウェスタンルックに身を包み、黒いテンガロンハットを深く被り、真っ白なギターを肩に掛けた人物が立っていた。
体格からして男だろうが、黒いテンガロンハットのおかげで、顔は見えない。まるで映画か何かに出てくるような格好の人物だ。
男は、杏子の問いに答えず、代わりに小さく拍手をした。

「へぇ、そんなカッコでナンパかい? 生憎、間に合ってるよ」

ナンパされた経験は杏子にはないが、そのあしらい方ぐらいは心得ていた。だが、答えは予想外のものだった。

「見物させてもらったが、中々の腕前だ。ただし、その腕前は……」

低い男の、しかし不思議とよく通る声。男は右手の甲を彼女の方に向け、人差し指と中指を立て、開いた。

「日本じゃあ、二番目だ」

何だコイツ? ナンパだという予想は大きく外れ、杏子は目を丸くした。しかし、どうやら挑発をしているらしい。
面白い。暇つぶしに挑発に乗ってやろうじゃないか。

「アタシの腕前が日本で二番目だって? じゃ、聞くけどさ。日本一は誰なんだよ」

ヒューゥ。杏子の問いに、男は再び口笛を短く吹き、右の人差し指を左右に振る。そして、小さく連続的な、言うなればキザな舌打ちをし、人差し指で帽子のつばを押し上げる。
同時に、親指で自分を指差す。まるで、『俺さ』とでも言うかのように。その時、杏子は男の顔を見た。不敵なその笑顔は、見た感じ自分よりも大分年上だ。

「へぇ、大きく出たもんだな。なら、さっきのアタシのスコアを超えてみなよ。日本一なら、出来るだろ?」
そういって、杏子はポケットからコインを出し、男に弾いて寄越した。

「アタシのおごりだ。再挑戦は不可。どうだい?」

これだけやっといて負けるわけには行かないだろう。負けたらそれこそ赤っ恥だ。杏子はそれをわかってコインを投げたのだ。
といっても、彼女だってこのスコアを出すのに自分の全力を出した。負けるはずがない。それだけ自信のあるスコアを出している。
男はそのコインを親指で弾く。宙を舞うコイン。その直後、杏子の目の前でコインは投入口に寸分の狂いもなく、入っていった。

「……!」

杏子は、目の前で起こったことが信じられなかった。
今、コイツ何をした? 離れた位置からコインを弾いて、この狭い投入口に『投げ入れた』っていうのか?

思えば彼女は、この時点で男に負けることを悟っていたのかもしれない。



「自身あったってのに……完敗かよ。何者だ、あんた」

ゲーム筐体から少し離れた所で、後頭部を掻きながら、杏子はぼやいた。結果は杏子の負け。男が出したスコアは杏子の倍。いや、それ以上かもしれない。
挑発に乗ったのは間違いだったかもしれない。あれだけのことをしておいて、赤っ恥を掻いたのはこっちだからだ。

「っていうか、何だあの無茶苦茶なスコア。どう考えても人間技じゃねぇだろ!」

男に食って掛かる杏子。しかし、男は動じず、相変わらず不敵な笑みを浮かべているだけ。

「世の中には、こういう人間もいるってことさ。それより、食うかい?」

男が杏子に差し出したのは、ポッキーの一袋。しかも、彼女がさっきまで食べてたものと同じ。
はっとなった杏子がポケットを弄るが、そこに入っていたはずのポッキーの袋はない。無論、男に慌てたように食って掛かる。

「おまっ、いつ取り上げた!?」
「さぁ、いつでしょうね? 『佐倉杏子』ちゃん」
「とぼけんじゃ……って、へ?」

今、コイツ何て言った? アタシの名前を呼んだのか?

「な、何でアタシの名前を知ってんだよ!?」
「依頼されたからな。『佐倉杏子を守ってくれ』とね」

男は上着から一枚の写真を取り出すと、杏子に見せた。途端に彼女の顔色が変わり、その写真を取り上げ、じっと見る。
そこに写っていたのは、紛れもなく杏子自身だった。しかも、今までの人生で一番楽しかった、『あの頃』の。
二度と戻ってこない『あの頃』の。

「この写真……アタシが小3くらいの時の……」
「理解してもらえたかい」

写真から顔を上げ、杏子は男を見上げた。
男の顔は不敵な笑顔から、優しい顔へと変わっていた。

「あんた、『依頼された』って言ったよな。さしずめ探偵さんってトコかい?」
「おっと、申し送れたな。俺は早川健。さすらいの私立探偵さ」

杏子の問いに、早川健と名乗った男は静かに答えた。





後書
ズバットは今でも宮内さんの代表作だと思ってる。



[27071] 【快傑ズバット編】さすらいの地平線で【2】
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/05/04 16:55
『早川か。どうだった?』
「ああ、元気ないい子だったよ。ま、少々お転婆な所が目立つがね」
『そうか……』
「しかし、信じられんな。あの子の家族が一家心中したなんて……」

早川は今、杏子の停泊しているホテルの備え付きの電話を使用していた。

『ところで、その一家心中の件なんだが……』
「うむ……いくつかの教会を回ってみたんだが、答えは一緒だったよ」
『というと?』
「『あの佐倉さんが、いきなり新しい教えを模索するなんておかしい』ってな。東条、俺はどうもな……」

電話の相手は早川の友人であり、刑事でもある東条新吾だった。

『ああ。何故、彼がそこまで盲質的に新しい教えを求め始めたのか。それは俺も気になっていたんだ』
「こうなってくると、『何か危なげなことに巻き込まれてるんじゃないか』っていうお前の推測も、否定できなくなってきたな……」

その時、早川の部屋のドアからノック音が響いた。

「おーい、探偵さん。入っていいか?」

杏子の声が聞こえる。早川は一旦、言葉を切ると、早口で東条に告げた。

「おっと、噂のお嬢さんが呼んでるらしいな。それじゃ、切るぜ」
『ああ、わかった』

受話器を電話に戻した早川は、少々早足で部屋のドアに向かい、ドアノブに手をかけ、開けた。
そこには、相変わらずポッキーを咥えた杏子が、両腕を後頭部に回して立っていた。顔にはわずかに喜色が浮かんでいる。

「なぁ、探偵さん。メシに連れてってくれるんだろ? 早くしてくれよ、腹減ったんだ」
「はいはい。わかりましたよ、お嬢さん」

すぐさまドアの近くに掛けてあった黒いテンガロンハットを被りながら、またもキザに言う。
早川のその口調に、杏子はぼやきながら、ちょっと不満そうな顔をする。

「お嬢さんはやめろって……」

だが、当の早川はお構いなしだ。

「それで、今日の夕食は何がお望みでしょうか? お嬢さん」
「あーまた言った! だからやめろって!」

ゲームセンターでの邂逅の後、早川は杏子と同じホテルに一週間前から宿泊していることを彼女に明かした。しかも部屋はすぐ近く。
当然、杏子は驚いた。近くにこんな目立つ格好の人物が寝泊りしているというのに、自分は全く気が付かなかったのか?



ホテルの近場のレストランで、早川と杏子は夕食を共にしていた。ちなみに早川の奢りだ。当の杏子は「自分の分は自分で払う」と言ったのだが、早川は首を縦には振らなかった。
レストランの窓際の席で、杏子と早川が向かい合って座っている。はたから見れば親子か、兄弟にしか見えないだろう。
メニューを頼んでから、彼女は早川にずっと同じ質問を繰り返していた。

「なぁ、再三聞くけど。あんたにアタシのお守りを依頼したのって、誰なんだい?」
「悪いが、そいつは答えられない質問だぜ、お嬢さん」
「またそうやって呼んで……。いい加減にしないと怒るぜ?」

しかし、早川は相変わらずの調子。
コイツはどこでもこの態度なのか? おまけに『さすらいの私立探偵』だなんてカッコつけてたが、それなら何でこんな場所で食事が出来るだけの金銭があるんだ?
正直、杏子はついさっき会ったこの男を、まだ信用できないでいる。
だが、なぜだろうか。この男には言葉では言い表せない『説得力』があることを、彼女は感じていた。
杏子が口を閉じたとき、ふいに早川が口を開いた。

「それで、今まで何度盗みを働いたんだ?」

その言葉に杏子はびくりと体を震わせ、眼を丸くした。図星だったからだ。
世間で言えば中学生である彼女に、自分の食い扶持を稼ぐほどの力は無い。例え魔法少女だったとしても。
杏子は家を飛び出してから、生きるためにあらゆる方法を模索した。他人の畑から芋を掘ったり、募金活動を装って金を稼いだり、盗みだって働いた。
魔法を用いて恐喝を行ったこともある。もちろん、抵抗が無かったわけではない。だが、彼女はそれらの行いをやめるわけにはいかなかった。

「なっ……何も盗んでなんか……」
「いや、君はまだ10代前半だ。その君があんな場所に泊まれるほど、金銭的に余裕があるとは思えないんでな。誤魔化しはいけねぇぜ?」
「……っ!」

証拠を指摘され、勢い良く杏子は椅子から立ち上がり、そのまま逃げ出そうとしたが、早川の右腕がそれよりも早く彼女の左腕を掴んでいた。

「放せよ!」

振りほどこうともがく杏子。その声に驚いたらしい他の客が何事かと視線を向ける。
しかし、早川は意に介さず、左腕を掴んだまま静かに言う。

「杏子ちゃん、君を責めてるわけじゃあない。落ち着くんだ」
「……!」

今、コイツ何て言った? さっきまでアタシのことを『お嬢さん』呼ばわりしてたヤツが、アタシの名前を呼んだのか?
早川は左手を離す。同時に杏子は抵抗をやめ、大人しく椅子に座った。だが、すぐに逃げ出す体勢は出来ている。逃げようと思えば、逃げられる。

「責めてるわけじゃなけりゃ、何なんだよ……」
「どうして、そんなことをしなければならかったのか。それを聞いておきたかったのさ」

早川には、一つだけ確かめたいことがある。それは、この年端も行かぬ少女が『一家心中』という悲劇に巻き込まれ、負った心の傷が、どれほど深いものなのか、ということだ。

「別に、何かあったって訳じゃねぇよ……」
「嘘はいけねぇな。じゃあ何でさっき逃げようとしたんだ?」

駄目だ。杏子は確信した。この男に嘘は通用しない。何言ったって見透かされる。流離っているのかどうかは知らないが、探偵と言うのはあながち嘘ではないようだ。
結局、杏子は白旗を揚げることにした。しかし、そのまま話すのも癪に障るので、もっともらしい意見だけは付けておく。

「……話すよ。ご馳走になったしな……。でも、ここじゃ話したくない」
「なら、どこでなら話せるんだい?」
「アタシが時々行く所に案内するからさ。そこで話すよ」



ホテル近くのビル屋上。
夜風に当たりたい時や、ふいに誰もいないところに行きたくなる時、杏子はここに来ていた。だが、今回は一人じゃない。
早川は、屋上のベンチ座り、足を組む。杏子はそんな早川の隣に座り、両腕を後頭部に回した。
どこへ行ってもキザなヤツだ。杏子は胸中でつぶやいた。

「それで、君の家族に何があったんだい?」

早川はあまり声のトーンを変えずに聞いた。
杏子の指定した場所は、このビル屋上だった。ビルといっても、あまり大きい場所ではなく、夜景が眺めるほどの高さもなかった。

「探偵さん。あんたさ、何も知らずにアタシのお守りを引き受けたわけじゃ、ないんだろ?」
「質問を質問で返しちゃいけねぇな。だが、その通りだ。君は突然の一家心中で、家族を失っている。神父である君の父親が、『新しい教え』を広めようとし、それで世間の不信を買った。世間の荒波に耐え切れなくなった君の父親は、一家を道ずれに死を選んだ……とまぁ、俺が知っているのはこのくらいだがね」
「へぇ、あらかた調べは付いてるんじゃないか。でも、一つだけ抜けてるよ」
「ほう……?」

早川の声の調子が少しだけ高くなった。だが、杏子は意に介さず、自嘲気味に小さく笑い、言葉を繋げた。

「アタシの親が死のうとした理由さ。世間の荒波にもまれただけじゃないんだ」
「と言うと……?」
「アタシのせいなんだよ。ホントの所は」
「……どういうことだ。父親に「一家心中しろ」とでも言ったってのかい」

目線を合わせなかった早川が、横目で杏子を見た。しかし、彼女は両腕を後ろに組み、上を見上げている。

「なぁ、探偵さん。『魔法』って信じるか?」
「……魔法……?」



同時刻。
早川と杏子のいる町のある場所で、数人の男が集まっていた。
男たちは全員が黒い帽子にサングラスをかけ、頭から足までが全て黒ずくめだ。しかし、首から下げているそのネクタイだけは赤い。
彼らが集まっている部屋の中心には、神父らしき風貌の男が一人。しかし、その神父服は血のように赤く、対照的に胸の十字架は黒い。
神父服の男は、黒ずくめの男たちに一言、命じるように言う。

「全員集まったか。報告しろ」

その声は神父の出すような声ではなく、むしろ重犯罪者が発するような、低く、殺意を孕んだ声だった。
黒ずくめの男たちの中から、一人が歩み出て、神父服の男に「報告」をする。

「申し訳ありません。この町にいることは確認済みなのですが……」

そこまで言ったとき、神父服の男が声を張り上げる。

「言い訳無用! 馬鹿者共が! たかが小娘一人探すことすら出来ないとは!!」

その声に、何人かの男たちが怖気づくように後退る。ため息を一つつき、神父服の男は懐から一枚の写真を引っ張り出し、部屋の隅に放り投げた。

「……お前の出番だ。始末の対象はその娘だ」

黒ずくめの集団は気が付かなかった。部屋の隅に誰かがいる。姿が見えないのは、そこに光が行き届いていないからだろう。
その人影は、放り投げた写真を摘むように取ると、しばらく眺めていたがすぐに指を離し、その写真を床に落とす。
すると、その写真に小さく火が付く。人影がやったことは、ただ摘んで眺めただけ。ライターやマッチ等を使った素振りはない。
なのに、落とした写真には火が付き、徐々に燃え広がっていた。

「りょーかい。わかったよ」

人影から発せられた声は、拍子抜けするほどに幼い。高い、恐らく少女のような声。
人影は上着のポケットから何かを取り出し、それを右手で真上に放り、キャッチ。それを繰り返す。子供が玩具をもてあそぶように。
写真に付いた火が少し大きくなり、人影の姿がはっきりと見えてきた。その風貌は大人ではなく、ほんの子供と呼ぶべきにふさわしい体躯。
青い運動靴に、膝が出ている程度の長さのズボン。赤黒いタンクトップに黒いジャンバーを羽織っている。
右手に持つそれは、小さな卵形の物体であり、宝石のような煌びやかな光を放っている。その子供は、卵形の物体を弄ぶのをやめ、しばらく眺めると、口の片端を上げ、悪意を含んだ笑みを見せる。
そして、それをジャンバーのポケットに突っ込んだ後、部屋の奥に歩いたかと思うと、姿が消えていた。
驚いたのは黒ずくめの集団。この部屋には自分たちが入ってきた扉しかないはず。しかも、その扉は自分たちの真後ろ。さっきの子供が自分たちの後ろに行った気配は全くない。

「何なんです、あの薄気味悪いガキは?」

黒ずくめの集団の一人が、神父服の男に小さな声で聞いた。

「ダッカー本部から送られてきた殺し屋らしいが、詳しいことは知らん。だが、妙な技術を使う。ヤツはそれを『魔法』だとか呼んでるがな」
「はぁ……?」

訳がわからないというように、首をかしげる黒ずくめの男。神父服の男は、最初に子供がいた部屋の隅に眼をやる。
部屋の隅では、半分以上燃え尽きている、佐倉杏子の写っている写真があるだけだった。





後書
ズバットと別作品をクロスするときの恐ろしさは、完全にズバットの世界観に別作品が食われてしまうこと。
さすがは日本一の特撮ヒーロー。



[27071] 【快傑ズバット編】さすらいの地平線で【3】
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/05/04 16:55
翌日の正午。杏子は早めに目が覚め、林檎と菓子パンで朝食を済ませ、近場の公園に来ていた。
何か目的があって来たわけではない。昨日と同じ、たまたま足がこちらに向いた。それだけである。
昨夜、いつもより早めに眠気が来たのもあるだろう。といっても、夜に魔女や使い魔が現れた訳でもない。現れたところで疲れるわけでもないが。
大体、使い魔程度では杏子は動かない。非効率だからだ。……早川なら動いたかもしれないが。
ふと、杏子の脳裏に、使い魔と早川が戦う情景が浮かんだ。まぁ、早川なら何とかならない訳でもないだろう。



昨夜、ビルの上で杏子の発した「魔法って信じるか?」という発言に、最初早川は考え込むような表情をしたが、「信じるしかないだろうな」と言った。
彼が言うには、

「俺みたいな職業をしていると、それこそ冗談みたいな本当の話を聞くことがあるんでね。やれ宇宙人だの、やれ超能力者だの、やれ改造人間だのってね。だから魔法だってもしかしたら、とは思っていたんだが……」

ということらしい。
またも杏子は早川に驚かされた。世の中にはそんなに非常識なモノが転がってるのか?無論、自分が言えた身ではないが。
杏子は、続けて自分が「魔法少女」という存在になって、「魔女」と呼ばれる化け物と戦っていることを打ち明けた。
その過程で、自分の一家を破滅させる引き金を杏子自身が引いたことも。早川は杏子の話を聞き、

「……そうか。君にも、地獄が見えたのか。……俺と同じように」

とだけ返すと、傍に置いてあったギターを持ち、そのまま弾き始めた。冗談と受け取ったのか、本気と受け取ったのかは定かではない。
杏子は、聞き返す。

「『俺と同じ』?」

だが、早川は応じずそのままギターを弾き続ける。

「なぁ、アタシが自分の話をしたんだ。探偵さんだって、理由も無しにさすらってる訳じゃないんだろ?」

早川はまたも答えない。その代わりなのか、ギターを弾きながら真っ直ぐ、遥か遠くを見つめるような表情で、早川は静かに歌いだした。

それは、悲しげな、それでいて孤独な唄だった。
杏子はその歌に聞き覚えがあった。たしか、『二人の地平線』とかいう曲だった。電化製品売り場のテレビに映っていた、どこかのバンドチームが歌っていた記憶がある。
唄が終わったとき、早川はギターの弦を押さえて音を止めると、口を開いた。

「この曲は、俺の親友の形見だった」
「形見? じゃあ、その親友ってのは……」
「ああ、俺の目の前で、ウジ虫共に殺されちまった。……俺にとっては、言わば兄弟も同然の奴だった……」
「そんな……」

思わず、杏子は自分の口から、哀れみとも取れる言葉を零していた。だが、彼女はそれにも気が付かない。
早川は両目を閉じる。杏子は悟った。彼は目を閉じたのではなく、過去を見ているのだと。
察しの通り、早川の瞼の裏には、あの光景が甦っていた。

燃え上がる病院の廊下。
曇り硝子の向こうから響き渡る銃声。
次々と銃弾を撃ち込まれ、血塗れになりながら倒れる親友の姿。
親友の最後の言葉。

『俺は…許さねぇぜ……。あんな、爆弾なんか使う奴ら……』
『俺は戦うぜ……。怪我が治ったら、お前と……二人でな……』
『飛鳥、飛鳥……!』
『飛鳥ああぁぁぁぁ!!』

そして、爆発音とともに病院内に響き渡る、親友を殺した者の笑い声。

早川は両目を開く。その瞳には、明らかな怒りが満ちていた。

「俺は親友を、飛鳥を殺した奴を探している」

杏子は言葉を発することが出来なかった。早川のその言葉に、恐ろしいまでの覚悟、そして決意を感じていたからだ。
同じだ。杏子は思った。この探偵さんも、理不尽に大切なものを失くした。この人は、さすらうことで、その『理不尽』に抗っているのだ、と。

「だが、ひょっとしたら、君のほうが不幸かもしれない」
「どうしてだよ……? 友達を殺されちまったんだろ!?」
「俺は仇を探し出せればいい。だがな、君は、誰に当たることも出来ない……」

早川の言葉に杏子は言い返せず、口をつぐんだ。その通りだ。誰にも当たることなんてできやしない。だが、言い返せないだけではなかった。
この人はこんなにもつらい目に遭ってるのに、どうしてアタシなんかを哀れんだりするんだ?
今まで、利己主義的に物事を考えていた杏子には、早川の真意が理解出来ない。言い返せないまま、口をつぐんでいる杏子を見て、早川がギターを肩にかけ、ベンチから立ち上がった。

「つまらない話をしちまったな」
「それはアタシも同じだよ」

立ち上がった早川を見て、杏子も立ち上がる。
二人はそのままビルから降りると、各々の寝床に戻った。



早川の姿は公園にはない。だが、杏子にとってそれは好都合だった。昨夜のあんな話を聞いた後じゃ、それこそ気が重い。
街中の大人たちは、杏子が睨み付けるだけで逃げ出したり、応援を呼んだりする。自分一人じゃ手に負えないとでも思ったんだろう。
いつの間にか、街の人々は杏子を避けて行くようになった。杏子の格好や行動等も相まって、よくいる不良少女とでも思われてるのか。まぁ、どうでもいいが。
だが、早川健だけは違った。杏子が睨み付けても、食って掛かっても、嫌な顔するどころか、優しそうな笑顔を浮かべていた。おまけに「それで終わりかい?」とでも言いたそうな、大胆不敵な態度を取られる。
ゲームセンターで見せ付けられた、人間離れした腕前や、レストランで腕を掴まれたときの、驚異的な反射神経。
いや、こんなものはきっと早川の実力の一端に過ぎないのだろう。杏子にはそう言い切れる自信があった。
上には上がいるとは、よく言ったものだ。きっと日本中探し回れば、自分なんか足元にも及ばない力を持った魔法少女だっているだろう。
いや、日本中じゃないかもしれない。ひょっとしたら、すぐ近くに、そんなのがいるかもしれない。
例えば、早川のような性格の魔法少女がいたら、それこそ天敵だ。魔女なんかより数倍厄介な存在かもしれない。

(何が悲しくて自分から自信喪失するようなこと考えてるんだよ……)

はぁ。一人、彼女はため息をつく。しばらく歩くと、自動販売機に隣接してあるベンチが目に入った。相当古いものなのか、塗装の大部分が剥げている。
一休みするつもりで、杏子はベンチに乱暴に腰掛ける。そして、上着からビニール袋に包まれた小ぶりのドーナツパンを取り出し、袋の封を空け、二口ほどで食べ終わる。
目の前を散歩に来ている人、運動に来ている人、家族連れの人たちが次々と目の前を通り過ぎて行った。
杏子は家族連れに目が留まった。家族連れの人たちは、父親、母親、少女が二人。二人の少女は顔が似ているので、姉妹らしい。
父親も、母親も、姉妹も、幸せそうに笑っている。杏子の目にはいつの間にか、目の前の家族に、もう戻ってこない自分の家族の姿が重なって見えていた。
杏子が笑い、妹が笑う。両親も幸せそうに、笑う。自分にも、きっとこんな幸せな時間が待っていたのかもしれない。
しかし、杏子にはついにその時間は来なかった。
どうして、こうなってしまったのか。
父親が「新しい教え」を伝えようとしたから。
どうして、「新しい教え」が必要だったのか。
新しい時代がやってくるから。
どうして、新しい時代がやってきたのか。
時が経つから。
どうして、時が経ってしまうのか。
それが自然の摂理だから。
自問自答が、頭の中で思い出とともにぐるぐる回り、最後には何もなくなってしまった。今の自分のように。
新しい時代なんか来なくたっていいのに。そうなれば新しい教えなんて必要ないのに。アタシはその『時代』に幸せも、家族も奪われたっていうのか?
探偵さんの言った「俺よりも君のほうが不幸」と言うのも、そう考えるとあながち間違っていない。
「ちくしょう……」
杏子は座ったままうつむき、誰に向けてでもなく呟く。握った拳に、ぽたり。涙が落ちた。
そのまま、誰にも聞こえないくらい小さな声で、杏子は一人、泣いた。

5分ほど経ったろうか、杏子の後ろから突然、妙に間延びした声が飛んできた。

「家族に会いたいー?」

突然の声に杏子は驚き、立ち上がり、後ろを振り返る。迂闊だった。つい、感傷的になって、周りの気配に気を配っていなかった。
後ろに立っているのは、自分と同い年ぐらいの少女だ。距離はあまり離れていない。
青い運動靴に、膝が出ている程度の長さのズボン。赤黒いタンクトップに黒いジャンバーを羽織った姿。軽いウェーブのかかった長い黒髪を後ろで乱雑に縛った髪型。無邪気な笑顔を浮かべた表情。
だが、彼女の目を見たとき、杏子の背筋は、凍りつかんばかりに冷えた。目の集点がまるで定まっていない。右目と左目でバラバラの方角を向いている。
これが人間のする目か?
少女は笑顔を浮かべながら、ジャンバーのポケットから何かを取り出す。そして、見せ付けるように手を開く。
手の平の上には、小さな卵形の宝石のようなものがある。杏子は、それが魔法少女の証たる「ソウルジェム」だということに確信を持った。

「同業所ってことか?」

杏子は聞くが、少女はニヤニヤ笑いながら、ソウルジェムを上に放り、キャッチするのを繰り返すだけ。

「おい、聞いてんだよ!」
「その前にこっちの質問に答えよーよ」

杏子の荒げた声に、間延びした声で応じる少女。

「家族に会いたいー?」

第一声とほとんど同じ言葉を発する少女。
杏子は片目を細めた。今の彼女にとって、家族のことは触れられたくない事柄だった。

「何が言いたいんだ?」
「聞いたとおりの意味に決まってんじゃーん」
「生憎、答えたくないね」

杏子の答えに、少女の目が、初めて同じ動きをし、彼女の場所に固定した。

「会わせたげよーか?」
「何……?」

その瞬間、殺気。とても冷たい殺気が杏子の体を貫いた。
杏子は後方に跳ぶ。着地した彼女が見たのは、今まで自分のいた位置に、大型のナイフ、というより短剣を突き立てている、少女の姿だった。
もう少し遅れたら、あれは自分の頭を貫いていただろう。突然襲われた杏子は状況を理解できなかった。
何故いきなり襲われたのか、そもそもコイツは一体何者なのか。少女の姿は、先ほどとは違い、赤と黒を強調した色合いの服装に変わっている。
魔法少女としての姿に変わったらしいが、その格好はあまりにも簡単なデザインで、魔法少女の服装と言うより、戦うための機能美を追求したというに相応しい物。
そして、その頭には黒光りしたティアラがあり、眉間の位置に、ソウルジェムが輝いていた。

「何のつもりだ!?」
「えー何のつもりって? 家族に会いたいんでしょ?」

何言ってるんだコイツ?
杏子の頭の中はまだ混乱している。だが、一つだけ理解できた。
家族に会わせる。
自分の家族はこの世にいない。
その家族に会わせる。

コイツ、アタシを殺す気か!?

「魔法少女ってさー。人に希望を与える存在なんでしょ? じゃあさ、それって願いを叶えてあげるってことだよね? だからさ、ワタシが、あなたの願いを叶えてあげるの!」

無邪気な声色と笑顔。だが、その中には恐ろしく研ぎ澄まされた殺気と、もはや形容できない狂気が込められていた。
台詞を聞いて、杏子は確信した。コイツは普通じゃない。魔法少女としても、無論、人間としても。

「あなたさ、魔法少女なんでしょ? ワタシね。人をシアワセにするときに、お金をもらうの。でもあなたは、ワタシと同じだから、タダでシアワセにしてあげる! ね、嬉しーでしょ?」

少女は言うだけ言うと、再びナイフを構えて飛び込んできた。杏子は飛び込んでくる方向を瞬時に計算し、再び跳ぶ。
そして、距離が離れたのを確認すると、一目散に公園の外を目指して走った。逃げるのは癪だが、奇襲された時点でこちらが不利だ。
先手を打たれた方は、一旦守りに徹するしかないが、生憎杏子は守りが苦手である。しばらく戦ってきたから、それは自分でもわかっている。
公園を出て、町の裏路地に回る。廃倉庫が立ち並ぶそこには、この時間でも誰もいない。杏子は倉庫の壁に寄りかかると、乱れた呼吸を整えた。

「何なんだよ、アイツ……! アタシのテリトリーが狙いか!?」

いや、違う。杏子は自分の回答を頭の中で否定する。
あの少女は、「人を幸せにするときにお金をもらう」と言ってたが、詰まるところ、「人を殺した時に金をもらう」という事だろうか?
そう考えると、杏子の脳裏に恐ろしい想像が浮かんだ。

「なんてこった……。アイツ、本物の殺し屋かよ……!」

あの少女は、誰かに杏子の殺害を頼まれたのだろう。おまけに彼女が魔法少女であるということを知っている。
誰がそんなことを頼んだかなんてことは、この際どうでもいい。
大体、あの少女が魔法少女と言うことは、キュゥべぇと契約をしたという事になる。
杏子は寄りかかっている壁に、拳を叩きつけた。

「ったく、キュゥべぇのヤロー、契約するなら見境なしか!?」

今は姿の見えないキュゥべぇに、杏子は毒を吐いた。
その時である。

「見ぃーっつけた」

間延びした声が杏子の耳に飛び込んできた。声のした方向を見ると、彼女が寄りかかっている倉庫の右隣の倉庫の壁から、声の主が現れた。
片手に持っている短剣は、長い棒の両先端に刃の付いた、所謂両刃剣に変わっていた。すかさず、杏子は体制を整え、自分のソウルジェムを出現させ、構える。
やるしかない。ここでコイツを潰さないと、やられるのはアタシの方だ。
こんなことなら、あの探偵さんに一言言ってから出ればよかったか。と少し杏子は後悔したが、今更遅い。
杏子はソウルジェムを輝かせ、魔法少女の姿に変わる。



その頃、早川は、東条からホテルの電話を通じて、ある事実を聞いていた。

「何だと? 本当か東条!」
『ああ、きちんと裏の取れた情報だ。佐倉神父の交友関係を洗ったんだが、その中に一人だけ、素性の知れない男が浮かんだんだ』
「その男ってのは?」
『本名は不明で、いくつかの偽名を名乗っていた。佐倉神父の教会に何度か出入りしていた男らしい』
「それで?」
『その男だが、どうやら、怪しげな集団と裏で繋がっていたそうだ』
「怪しげな集団?」
『恐らく、過激派集団の一派では……』
「……彼女が危ない……。すまん東条。また連絡する!」
『お、おい早川!?』

早川は乱暴に電話を切り、一目散に駆け出した。
甘かった。まだ明るい時ならば、連中もそう派手に動かないと思っていたが、相手が集団と来れば話は別だ。
早川の向かった先は近くの公園。しかし、そこに杏子の姿はない。早川は踵を返し、公園の外へ飛び出した。





後書
ズバットの世界観にまど☆マギを合わせるにはどうしたらいいか。その結論がこれ。
うまく行ったとは、思ってない……
さて、そろそろズバットスーツをスタンバっておくか……



[27071] 【快傑ズバット編】さすらいの地平線で【4】
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/05/04 16:56
少女の両刃剣が無数の斬撃を放ち、杏子の槍が斬撃を全て受け流し、一撃を加える。だが、その一撃は虚しく宙を斬るに終わる。
杏子は魔法少女としては戦い慣れているが、生身での戦闘経験は皆無に等しい。対して、少女は殺し屋として生身の戦闘に慣れているが、魔法少女になってから、まだ日は浅かった。
総じて、二人の実力に開きはほぼ無いといってよかった。だが、二人の最大の違いは、人間相手が慣れているかどうかであった。
無論、杏子に、自分と同じ、つまり魔法少女との戦闘経験は少ない。しかし、少女は人間を相手にするときの駆け引きや、間合いを心得ている。
結論として、杏子の方が不利だったのだ。だが、状況は拮抗していた。両刃剣が地面を抉り、槍が倉庫の壁を貫く。
どちらかが捕らえられたら、その場で決着が付くと言っていいくらいの状態。少女は痺れを切らしたのか、一度、両刃剣で杏子の槍を思い切り弾く。思わず体制を崩す杏子。

「いけね……!」

杏子が口走ったのと、少女が突っ込んできたのは同時だった。少女の鋭い刃が杏子の頭上目掛けて振り下ろされる。武器だけで止めを刺したいらしい。
だが、杏子はとっさに槍を分解させ、多節棍状に変形させ、両刃剣を絡めて受け止めた。予想外の防御をされた少女は、一瞬、ほんの一瞬だけ動きが止まる。
その瞬間を見逃すほど、杏子は甘くない。

「んのヤロォ!」

少女のがら空きになった腹目掛けて右足を思い切り上げ、前蹴り、一般にはケンカキックとも呼ばれる蹴りを叩き込む。
杏子の体重、そして魔法少女となったことで強化された脚力、それら全てを、この一発に込めた。少女は悲鳴も上げずに、遥か後方へ吹き飛んだ。
地面を二転三転し、倒れる少女。それでもよろよろになりながら立ち上がろうとするが、目の前には、すでに杏子がさっきまで持っていたものより、数段巨大な槍を振りかざして、口の端を上げて笑っていた。
少女の目に、杏子の口内の八重歯が見えた瞬間、槍は少女の頭上に打ち下ろされていた。コンクリート地面が陥没する音が響き、砂煙が辺りを覆う。
砂煙が上がったそこには、地面にめり込むように、うつ伏せになって倒れる少女と、槍を元の大きさに戻し、肩にかけている杏子の姿があった。
杏子は変身を解き、額の汗を手の甲で拭う。短い時間で決着を付けるためとはいえ、魔力をバカにならないほど消費した。
これ以上魔法少女になっていたら、それこそソウルジェムが濁ってきてしまう。倒れる少女を見下ろし、再びにやりと笑う。少女が動く気配はない。

「なるほど。さすがは殺し屋って事か。けどな、アンタのその腕……魔法少女としては……」

杏子は右手の甲を少女の方に向け、人差し指と中指を立て、開いた。
早川のように。

「この町じゃ、二番目だ」

今の台詞は早川の真似事だったが、言ってみると中々気持ちのいい台詞だ。今度から決め台詞にしてみようか。そんなことを考えながら、倉庫を後にしようとした。
杏子はくるりと向きを変え、歩み去ろうとする。こんな場所で大きな物音を立てたため、人が集まってくる可能性があった。騒がれたらそれこそ面倒だ。
しかし、杏子が数メートル程離れたときに、音も立てずに少女は起き上がっていた。手にはナイフが握られている。
音を立てずに立ち上がり、最初のときと同じ、後ろからの奇襲で杏子を仕留めようとしていた。
だが、そのナイフが杏子に届くことはなかった。

ドン、という、乾いた、しかし重苦しい音と、何かが砕ける音がし、杏子は後ろを振り返った。

「なっ……」

そこには、自分と数歩しか離れていない場所で、眉間をソウルジェムごと撃ち抜かれ、倒れている少女がいた。
変身は解け、周りには血痕が飛び散っており、眉間からも血が流れ出ている。

「お、おい!」

少女に駆け寄ろうとするが、再び重苦しい音が轟き、杏子の足元が小さな砂煙を上げる。どうやら銃声らしい。杏子は少女から視線を外し、前を見る。
杏子から数メートルほど離れたそこには、数人の男たちがいた。どの男も黒い帽子にサングラスをかけ、頭から足までが全て黒ずくめ。
その中に、一人だけ、歪な色の神父服を着た男がいる。血のように赤い神父服。胸にある十字架は黒い。
そして、右胸には、「D」の形をしたバッチのようなものをつけていた。その男の右手には、黒光りした拳銃が握られており、銃口からは白い硝煙が上っている。
杏子は、本能的に目の前の連中がただの集団じゃないことを悟った。ヤバイ。コイツ等は普通じゃない。関わってはいけない類の集団だ。今すぐ逃げるかやり過ごすか。
かと言って、背を向けて逃げ出したら、何をされるかわからない。結局、杏子はその場に佇むことを選んだ。

「おやおや、どうかしましたかね?」

神父服の男が、警戒心を露にしている杏子に向かって、猫撫で声で言う。そして、杏子のほうへ一歩、また一歩と歩いてくる。
とりあえず、杏子は男の言葉に応じる。舐められない程度の言葉を選んだのは、彼女の純粋なプライドだ。

「どうかしたか? こっちの台詞だ。……何で撃ったんだ?」
「撃った? ……ああ、この役立たずのことですか。全く、始末しろといったのに逃がしてしまうとはね……」

なんら罪の意識を感じていないらしい神服の男の視線は、杏子の前で倒れている少女に向けられていた。杏子は目を丸くした。
コイツ何を言ってるんだ? 人を殺しておいて、役立たず呼ばわりしたのか?

「全く、世の中には、自分がどういう状況なのか。それすら分からない馬鹿もいたものですね」

神父服の男がそういうと、周りの黒ずくめの男たちが各々、下卑た笑い声を上げた。
続けて、神父服の男は言う。

「この娘も……貴女の父親も」
「アタシの、父親?」

ここで思わぬワードが飛び出した。杏子の頭の中はさらに混乱し始めた。
神父服の男は、分からない様子の杏子を見て、歩み寄りながら、語り始める。聞いてもいないのに、それこそ言い聞かせるように、である。

この神父服の男の名は十文字と言う。彼は杏子の父親とは友人であり、同じ教会に務めていたこともあった。
しかし、十文字は非合法な手で手に入れた裏金を、秘密裏にある組織に流していた。だが、ある日、それを杏子の父親に感づかれてしまった。
十文字は焦り、とっさに、ある一つの嘘を彼に吹き込んだ。

『自分たちは、いつまでこんな古臭い教えにすがっていかなければならないのか。このような古い教えにすがり続けるからこそ、世の中には矛盾が蔓延っていると私は思っている。ある日、私はある素晴らしい教会を知った。しかし、その教会はまだ資金が足りていない。だからこそ、どんな手を使ってでも金が必要なのだ。今こそ、教えを進ませる時が来たのだ。そうとも、世の中とともに、教えも新しくすべきではないか。頼む、ここは見逃してくれ』

しかし、杏子の父親は、友人の不正を見逃すどころか、手伝わせてくれと言い出したのである。十文字の嘘は期待以上の効果を出した。
杏子の父親は、元々人よりも優しい人間だった。それこそ、自分の命と他人の命を秤にかけ、他人の命を優先するような。
十文字は、彼のその性格と、友人と言う自分の立場を利用し、杏子の父親に『新しい教え』を広めるよう、頼んだ。
彼は我武者羅に、友人の言う『新しい教え』を広めようとした。それこそ教会から破門されそうになっても、彼は友人の頼みを優先した。
自分の家の崩壊が待っているのにも知らずに。

「……まぁ、そういうことですよ。本当に馬鹿な人でしたね……。まぁ、目撃されたからには放っても置けませんしね……」

そう言って、語り終えた十文字はせせら笑う。周りの男たちも笑う。呆然と聞いていた杏子の頭の中は、ほとんど真っ白になっていた。

そうだったのか。だから自分の父親は後先考えずにあんなことを。信用していた人の頼みなら、優先したくもなるだろう。
しかし、それは嘘だった。父親は騙され、自分の家庭を崩壊寸前に追い込まれた。彼がしたことは、友人を助けようとしただけ。友人を信じたことだけ。
なのに、それは全部嘘で、父親は信頼していた友に、最悪の形で裏切られてしまった。

杏子の口内で、歯が軋み合う音がした。もうあまり離れていない十文字を彼女はにらみつける。

ふざけるな。何が自分の状況だ。何が新しい教えだ。全部コイツのせいじゃないか。
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。

「ふっざけんなぁぁぁ!!」

杏子の今まで押さえつけていた怒りが爆発し、叫び声となって響く。
その声に反応した数人の男がナイフを取り出すが、十文字がそれを右手で制した。

「しかし、まさか一家心中するとはね……。そうそう、聞けば、彼が心中に走ったのは、
貴女が原因だそうじゃないですか?」

十文字のその言葉に、杏子の心が大きく揺れ、口をつぐんでしまった。コイツの言うことは正しい。はらわたが煮えくり返るほど癪だが。
確かに、父親を心中へ走らせたのは自分だ。でも、自分が何かしなければあのままだった。
アタシは家族を『幸せ』にしたくて魔法少女になった。『幸せ』になるために戦い続けることを選んだ。

「ア、アタシは……家族を『幸せ』にしたかった……」
「ほう、それで『幸せ』にしようとした結果が『あの世行き』ですか。皮肉なものですねぇ」

十文字はにやにや笑いながら、銃を構え直し、銃口を杏子に向けた。彼女の言葉など、まるで意味を成さないと言うかのように。
だが、それを見ても杏子は動くことが出来ない。十文字の言葉に揺さぶられているのもあり、自分の足が震えだしていたからだ。

「アタシは……アタシは……」
「そう、貴女は自分の家族を不幸のままに『殺して』しまったのですよ。……まるで、『魔女』のようにね」

十文字のその言葉に、杏子は全身の力を抜かれ、地面に両膝を付いた。
もう、彼女の目には何も映らない。杏子の中であの悪夢が蘇る。『魔女』と罵る父親。泣き喚く母と妹。呆然とする自分。

こんな結末を、望んじゃいない。
こんなことがあるわけがない。
有り得てはいけない。
こんなの嘘だ。
絶対に嘘だ。

「神父である私としては、『魔女』である貴女を放っておくわけにもいきませんね?」

拳銃の標準が、杏子の心臓部分を捉えた。指が引き金に掛かる。

ああ、アタシはここで死ぬんだな。いや、違うか。『死んだ方がいい』のか。
それもそうだよな。家族を殺した挙句に、人間を散々見殺しにしてきたんだ。当然の報いか。
でも、死んだ後は、家族になんて言い訳すればいいのかな。それとも言い訳も聞いてくれないか。
確か、あの世には、天国と地獄があるらしいから、アタシみたいなのは地獄に送られるのかな。
こんなことになるなら、最初からもう少し考えて魔法少女になるんだったな。

「死ね」

十文字の声が猫撫で声から、殺意を孕んだ低い声に変わる。
その時だった。

「待てぇい!」

その叫びとともに、何かが倉庫の屋上から姿を現した。十文字も、周りの男たちも、杏子も、声のした方角を見る。
屋上に立ち、太陽の逆行の中に立つ人影。そこにいたのは、早川だった。

「た、探偵さん……?」
「杏子ちゃん、逃げろ!」

早川の言葉に、杏子の身体は即座に反応した。さっきまでろくに力の入らなかった身体に、いきなり逃げるだけの余力が生まれる。目の前に広がっていた悪夢も、嘘のように消え去った。
杏子は走り出し、倉庫と倉庫の間の通路に隠れた。とりあえず、ここに逃げ込めば、撃たれる心配はないだろう。
あっけに取られた十文字は、次に標的を逃がす原因を作った者、早川に殺意の目を向ける。

「邪魔しやがって、死ねぇ!」

銃声が立て続けに早川を襲った。だが、早川は身を翻すと向こう側に逃げていく。
痺れを切らしたらしい十文字は、手榴弾をいくつか取り出し、口汚く罵りながら、倉庫の天井に投げつけた。
耳をつんざくような爆発音が何度も轟き、早川のいた倉庫の天井が爆炎を上げ、吹き飛んだ。

「た、探偵さん!!」

物陰から見ていた杏子は、悲鳴にも似た声を上げた。
あの場所を爆破されたのでは、早川も無事では済まない。杏子は打ちのめされたような気分になった。

「また、またアタシのせいで、アタシのせいで……」

十文字は爆炎を上げる倉庫を見て、満足そうな笑みを浮かべる。
さぁ、次はあの娘だ。別に放っておいてもいいのだが、家族の元に送ってやるのがせめてもの慈悲だ。
だが、十文字のその企みは、突如あたりに響いた爆音でかき消された。

「な、なんだあれは!?」

十文字の目に飛び込んできたのは、遥か彼方から走りこんでくるオープンカーのようなもの。
その色は全体的に赤く、ボンネットに白く『Z』の文字が入っている。
何より目を引いたのは、その車の後方に巨大なローターのようなものが付いていること。
そして、その座席には、炎のように赤いスーツで全身を固めた何者かが乗っている。

「フラァァイト・スイッチ! オーーン!!!」

その赤いスーツの人物が発した言葉に反応するかのように、車体の両側に、赤い翼のようなものが展開。
さらに後方にはロケットらしきものが炎を吹き上げている。
すると、車体が地面を浮かび上がり、上空へ飛び、一度宙返りをする。
座席の赤いスーツの男がそこから立ち上がり、掛け声とともに鞭のように見える何かを振るう。
振るわれたものが、十文字がいる場所に近い電柱に絡みつく。

「ズバァァァーーーッ!!」

赤いスーツの人物がその掛け声とともに、空飛ぶ車から飛び出し、鞭を巻きつけた電柱を軸にして、軌道を整える。
着地したそこは、ちょうど杏子の隠れた通路の倉庫の屋上だった。

「き、貴様、何者だ!」

十文字が取り乱したかのように、赤いスーツの人物を指差し、叫ぶ。
その姿を、杏子ははっきりと見た。
頭を覆う赤いマスクのようなメットで、耳の部分には、タイマーにも似たものが付いている。目の部分には、偏光ガラスの役割があると思われるものがあった。
スーツの胸には、大きく白い『Z』の文字があり、両手両足の部分が、黒い手袋とブーツで覆われていた。
杏子の目の間に、突如として出現した赤いスーツの人物。これが早川の言っていた『非常識』の一つなのか?

「ハッハッハッハッハ………」

十文字の叫びに、赤いスーツの人物は歯切れのいい不敵な笑い声で返す。
杏子にはその笑い声に、なぜか聞き覚えがあるような気がした。

「ズバッと参上!」

その人物は、左腕を倒し、右腕を立てることで右の顔を隠した。

「ズバッと解決!」

次に右腕を倒し、左腕を立てることで右の顔を隠す。

「人呼んで、さすらいのヒーロー!」

左手を引き、腰に備えると、右手を天高く伸ばす。
右手を斜め下に下ろし、左腕を斜め上に上げ、独特のポーズをとる。その形は、アルファベットの「Z」を模しているように見えた。
赤いスーツの人物は、そのポーズとともに、高らかに宣言するかのように叫ぶ。


     「快傑、ズバァァァーーーット!!」





後書
ズバット参上~ ズバット解決~
そんなノリで書いといて結構難産だった回。
え、いくらか強引なところがある? 70年代の特撮なんだからしょうがない。
しかし、私の書く杏子は他と比べてマトモだなぁ……。

(◕‿‿◕)「君たちはヒーローが出てくると口々に騒ぎ立てるね。ヒーローがいつも正しいと本気で思ってるのかい? わけがわからないよ」



[27071] 【快傑ズバット編】さすらいの地平線で【5】
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/05/04 16:57
「快傑、ズバット……!?」

十文字の顔には明らかに動揺の色が浮かんでいた。この男は何者だ? 一体何が目的なのだ?
『快傑ズバット』と名乗った赤いスーツの男は、十文字の方に身体を向け、一歩踏み出す。彼の行いを責め立てるように。

「罪も無い神父を騙し、彼の一家を陥れ! あまつさえ……彼の娘も手に掛けようとした十文字神父!」

ズバットは十文字の罪を挙げながら、右手の指を十文字に向ける。
物陰で見ていた杏子には、ズバットの姿は太陽の逆行で見えなかったが、彼の仕草には明らかな『怒り』が感じられた。

「許さん!!」

言い終わるや否や、ズバットは屋上から跳び、十文字のすぐ近くに降り立つ。
十文字を取り巻いていた黒ずくめの男たちが、応戦するかのようにナイフを構え、ズバット目掛け、一斉に襲い掛かる。

「デェッ!」

ズバットは叫び、先ほど移動に使った赤い十字状の取っ手がついた鞭を振るう。
驚いたことに、一振りで、男たちのナイフが全て叩き落され、宙を舞った。驚く男たちだが、ズバットは容赦無しにさらに鞭を振るう。
振るわれた鞭が一人の男の首に巻きつく。そのままズバットは鞭を勢いよく振り上げる。

「うわああぁぁぁ!?」

悲鳴を上げたとき、既に男の身体は宙に浮き、地面に叩き付けられていた。鞭一本で大の男を軽々と投げるその姿に、十文字は、そして杏子も戦慄を覚えた。
さらにズバットの鞭が生き物のようにしなり、男たちを叩き伏せ、投げ飛ばす。中には、鞭で叩かれただけで数メートル吹き飛んだ者までいた。

「す、すげぇ……」

杏子の口から、思わず言葉とともに言葉がこぼれていた。しかし、それは決して感心の言葉などではなく、ある種の『畏怖』だった。
目の前に広がるこの光景は、何に例えればいいのか。大量の使い魔と魔法少女の戦いとでも例えればいいのか。いや、もっと凄惨な何かかもしれない。
そんな杏子は、後ろに迫ってくる気配に気が付かなかった。いきなり後ろから何かを口に当てられる。
そして、襲ってくる強烈な眠気。彼女は抵抗できず、そのまま意識を手放すことになった。杏子を捕らえたのは、黒づくめの男の中の一人だった。
彼は杏子を右腕で抱えたまま、ズバットの前に躍り出る。

「抵抗をやめろ! この娘が……」

しかし、彼の言葉は最後まで続かなかった。
躍り出た瞬間、ズバットの鞭が飛び、それが杏子の身体に巻きついていたからだ。
そのまま鞭を振り上げ、男の右腕から彼女を救出。杏子の身体は、ズバットの左腕に収まった。

「ズバァッ!」

雄たけびとともに鞭が唸り、杏子を捕らえていた男を叩き伏せる。
次にズバットは高く跳躍し、少し離れた倉庫の屋上に着地する。杏子をその場に寝かすと、再び飛び降りた。

「うわ、うあぁぁ!」

逃げようとした最後の男も倒され、残るは十文字一人。彼はズバットを、激しい憎悪を込めた表情で睨み付ける。
懐からもう一つの拳銃を取り出し、ズバット目掛けて乱射した。だが、ズバットは鞭を縦横無尽に振るい、銃弾を次々に叩き落す。
おまけに叩き落した銃弾が縦に積み重なり、そこに一本の細いタワーが出来てしまった。
驚く十文字。だが、引き金を引く指は止めない。が、とうとう両方とも弾が切れ、虚しい音を響かせるだけになる。

「くそっ! くそっ! くそぉ!」

だが、十文字は諦めない。そこらに転がっている黒づくめの男から何本かナイフを抜き取り、ありったけの本数を投げつける。
しかし、やはり結果は同じだった。ズバットが鞭を一度振るだけで、投げつけられたナイフは全て弾き返されてしまった。
弾き返されたナイフが十文字を襲い、服の裾を何本かが通り過ぎていった。
こうなれば最後の手段しか、十文字には残されていない。懐から、十字架を取り出す。十字架の取っ手を抜くと、そこには短刀が輝いていた。
唸り声を上げて、仕込み十字架で突撃。ズバットは鞭の取っ手で仕込み十字架を受け流す。
仕込み十字架の刃先が何度もズバットを襲うが、彼はその都度、鞭の取っ手で受け流し、防ぐ。
そうこうしている内に、ズバットのマスクの側面にあるタイマーが音ともに点滅を始めていた。ハッとなるズバット。

あと2分しかない……。

襲い来る仕込み十字架の刃先を、今度は真上にジャンプすることでかわし、十文字の背後に降り立つ。
そして、十文字の首目掛けて鞭を振るうと、たちまちそこに巻きついた。そのショックで、彼の手から十字架が落ちる。
ズバットは間髪いれず、鞭を振り上げ、十文字を投げ飛ばす。天と地がひっくり返ったような衝撃とともに、十文字は悲鳴とともに地面に叩きつけられ、のた打ち回った。

「デェッ!」

再びズバットは鞭を振り、十文字の天地を逆転させる。今度は倉庫の壁に叩きつけられ、地面に転がる。

「た、助けて……助けてくれ……」

もはや十文字に抵抗するだけの力は無く、転がりながら命乞いをするのが精一杯と言う状況。
しかし、悪事に手を染め続け、友人すらこの手で裏切った彼に、神は決して微笑んだりしない。
懺悔しても、いまさら遅い。
ズバットは鞭を引っ張り、十文字を強引に立たせる。バランスを崩しながらも、彼は立ち上がる。
その口からは、今だ命乞いの言葉が漏れていた。ズバットはその命乞いに答える代わりに、一つの問いを叫ぶように彼にぶつける。

「2月2日! 飛鳥五郎と言う男を殺したのは貴様か!?」

その言葉には、愛や正義といった感情は感じられず、あるのは私怨だけのように聞こえた。
しかし、十文字はその言葉に答えず、命乞いを垂れるのみ。ズバットは鞭を振るい、再び彼の天地を逆転させた。

「言えぇっ!」
「ち、違う……!」

十文字にとっては本音を言ったつもりだった。しかし、ズバットはまたもや天地を逆転させる。みっともないほど悲鳴を上げながら、彼は地面を転がった。

「嘘を付けぇ!」
「し、知らな……い! 俺は知らない……知らないんだ……」

ズバットは十文字の必死の言葉も無視するかのように、鞭を引っ張り、再び強引に立たせる。

「本当のことを言えぇ!」
「ほ、本当だ…、お、俺はその日、あすなろ市に、いたんだ……!」

十文字はもはやその質問に答えるしかなく、涙声で答えた。ズバットはその答えを信じたのか、鞭を解く。開放されたと同時に、地面に倒れこむ。
全身打撲に神父服はボロボロ。満身創痍もいい所だ。
ズバットはそんな彼を見て三度倉庫の屋上に跳び、身構える。
さぁ、最後の仕上げだ。
倉庫の屋上から跳びあがり、直立姿勢で、空中を二度三度回転し、十文字に迫る。迫り来るズバットを見て、何とか起き上がろうとする十文字だが、その体力はもう彼には無い。
ズバットの両足が十文字目掛け、空中から身体ごと突っ込む。

「ズバット、アタァァァーーック!!!」

回転とともに放たれた跳び蹴りは、十文字の首を捉えていた。その威力で遥か後方に吹き飛ぶ十文字。ダメージの限界を向かえ、彼はそのまま、意識を失い、倒れこんだ。
地面に倒れた十文字を見下ろし、ズバットはマスク両側面のスイッチを押し、目の部分のフィルターを外した。
マスクの中から現れたのは、他でもない、早川健の顔だった。

「コイツでも、無かったか……」

ズバット、いや早川は、そうつぶやくと、一枚のカードを取り出し、十文字に投げつける。
それは、早川の手の平よりも少し大きく、カード全体に大きく赤い「Z」の文字があり、そこにはなにやら黒い文字が書いてある。

「杏子ちゃん、君の、『過去』の仇は取ったぜ……」

早川は踵を返し、そこから歩み去った。



警察のパトカーが喧しいほど音を鳴らして、そこにたどり着いたとき、早川と杏子の姿は無く、ただ凄惨な出来事があったとしか言えない状況が広がっていた。
その中には、東条新吾の姿もあった。気絶している十文字の神父服に、何かが刺さっているのを見つける。
手に取ると、なにやら黒い文字で文章が記してある。

【この者 極悪謀殺犯人!】





後書
戦闘中BGM「地獄のズバット」(カヴァーverでもおk)

というわけでずっとズバットのターン! でしたが如何でしたでしょうか?
正直に言います。書いててメッチャ楽しかった! 特に拷問部分は!(笑)
やってみたかった事は大体やったのですが、5分と言う時間制限の都合上、「これをやるには時間が足りないかも」と言うところがいくつかあったので、端折った部分も結構あります。スイマセン……。

そういえばズバットも本編で相当鬱クラッシュをしてましたね。
公式に鬱クラッシュの許されるヒーローとはまた恐ろしいw

さて、次はキカイダーかイナズマンか、どっちを先にするか……。



[27071] 【快傑ズバット編】さすらいの地平線で【6】(終)
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/05/04 16:58
アタシが目を覚ました所は、ホテルの自室にあるソファの上だった。上半身を起こし、周りを見渡す。あの後、どうなっちまったんだ?
確か、変な赤い車に乗ってきた『快傑ズバット』とかいうのが現れて、あの連中を叩きのめしていて……それから先の記憶が無い。
くそっ、まだ頭がガンガンしやがる。と言うより、何でアタシはここで寝てるんだ? ここに来た記憶が無いということは、誰かが運んで来たってことか?
誰が? あの探偵さんか? いや、そんなわけ無いな。あの探偵さんは、アタシのせいで……。
その時のことを思い出して、アタシはがっくりと肩を落とした。それと同時に、妙な封筒が目に入った。
見覚えのない物の存在に思わず、手が伸びる。
デカイ封筒だ。しかし、ここに来てからアタシに手紙が来たことなんてない。と言うより、これは手紙じゃないだろう。あて先どころか、郵便番号すら書いてない。
しかし、中に何か入っているようだ。薄っぺらいものじゃ、ないな。
中をのぞく。

「うわっ……!」

びっくりした。入っていたのが、こともあろうに札束だったからだ。な、何でこんなモンが入ってんだよ?
とにかく、驚いてたってしょうがないので、中をソファの上に開ける。
ぽそっと音を鳴らし、姿を現したのは、紛れも無く一万円札の束だった。この厚さなら、1、20枚はあるだろう。
それと、札束ではない紙が一枚同封されている。見ると、それはメッセージのようだった。中々の達筆で書かれている。

『杏子ちゃんへ。
これを読んでいる頃は、恐らく俺はこの町にはいないだろう。
 君の過去に巣食っていたウジ虫どもは、全員逮捕された。君の過去はこれで清算できたかな?
 同封しているお金は、君の護衛を依頼してきた人の依頼料だが、君にあげよう。
 元気でな。
 追伸、もう盗みなんか働くんじゃないぜ。 早川健』

アタシは、そのメッセージを二度三度読み返し、その紙を握った。そのまま、一目散に部屋を飛び出す。
ソファには封筒と札束が置きっぱなしだが、そんなのどうでもいい!

何だよ何だよ何だよ! 何でもかんでも一人で終わらせやがって! 礼くらい言わせろってんだ! それに生きてるなら顔ぐらい見せろよ!
こっちは心配までしちまったんだ! おまけに、アタシはまだ「ありがとう」すら言ってねぇんだぞ!



全力疾走。人を掻き分け、信号を無視し、走りに走り、たどり着いたそこはここから最寄りの駅だ。
あの目立つ格好だ。まだいるなら絶対に見つけられるはずだ。アタシは小走りになりながら探す。間に合え。間に合ってくれ!
頼む。神様でも仏様でも天使様でもいい! 一度だけ、あと一度だけでいい、探偵さんに会わせてくれ!

「探偵さん!!」

息が切れ、走る気力も無くなり、アタシはとうとう叫びだしてしまった。どこにいるんだかわからないはずなのに、この辺りにいるという保障すらないのに、だ。
その時、アタシの肩にそっと、白い手袋が置かれていた。後ろを振り返る。

「どうしたんだ? そんな息切らしてさ」

そこに立っていたのは、相変わらず不敵な笑顔を浮かべ、ギターを肩にかけた探偵さんだった。
魔法が無くったって、奇跡は起こるもんだな。アタシはその時、本気でそう思ったね。
アタシは、その時何故か急に悲しくなって、探偵さんに飛びついてしまった。彼の腹に顔を埋めると、自然と涙が出てきた。

「おいおい、叫んだ後はすすり泣きかい?」
「うるせぇよっ……! 生きてるんなら顔くらい見せろよ……こっちは、心配……したんだぞ!」

言葉が途切れ途切れになって、上手く言えたかどうかは分からないが、アタシは言いたいこと全てを、その状態のままぶちまける。
慰めのつもりなのか、探偵さんの右手がアタシの背中に当てられ、子供をあやすように撫でた。
平常時だと突き飛ばすところだったが、その時は、大人しく撫でられたままになっていた。
探偵さんの上着を掴んで、アタシはしばらく、泣いた。
アタシの背中に圧し掛かっていた『十字架』が、家族を亡くしたときに背負った十字架が、この時、背中からやっと落ちてくれた、ような気がした。



「やれやれ、もう少し眠っているかと思ったんだがね」
「朝には強いんだよ。こう見えても」

探偵さんの軽口にアタシは冗談で返す。駅のホーム近くのベンチに、アタシと探偵さんはしばらくの間、並んで座っていた。

「なぁ、探偵さんは、これからどこへ行くんだ?」
「さぁな。近くに、見滝原とか言う街があるらしいから、そこへ行ってみるかな……」
「あのさ、アタシも、付いてっていいかい? どうせ行くところなんて無いんだしさ」

アタシの言葉に、探偵さんはふっ、と鼻で笑う。
全く、最後まで本当にキザだな……。

「悪いが、その頼みは聞けねぇな。俺の旅に道ずれはいらねぇさ」
「はは、だよな……」
「だが……」
「へ?」

探偵さんはベンチから立ち上がる。背をアタシに向けながら、言葉を繋ぐ。

「この町に、また来ることだってあるかも知れない。親友の敵が、どこにいるかなんて分からないからな」
「じゃあ……」

探偵さんは振り向く。明るい笑顔が、そこにあった。
アタシの顔も、きっと笑ってただろう。

「さようなら……じゃあないかも知れないぜ、杏子ちゃん」
「本当なんだな!?」

その質問には、探偵さんは明確には答えず、片目をつぶる事で答えた。



探偵さんは歩き出す。燃える夕日へ向かって。さすらいの地平線へ。

その道は一人で行く道なんだろう。

愛か誠か苦しみか、風か嵐か高潮か、雲か光か稲妻か。

その先に待つのは戦いの道であり、そこは地獄でもあるはず。

何があるかなんて、探偵さん自身も知らないんだろう。

アタシは去っていくその背中に、一番言いたかった言葉を投げかける。

「ありがとうな、『早川さん』!」

アタシのその言葉に、早川さんは一度立ち止まったかと思うと、何かを取り出し、アタシに投げて寄越す。
夕日のような、そしてあの『快傑ズバット』みたいな、真っ赤な林檎を。
その時、アタシはあの快傑ズバットの正体が、誰だか判った気がした。




















さすらいの地平線で【終】










後書代わりの何か



健が護衛を依頼された少女。
彼女の過去には、悲しい秘密があった!
過去の秘密とは何か、そして、そこに隠された陰謀とは何か!

次回、快傑ズバット。
さすらいの地平線でにご期待ください!

ズバットの真似は危険ですから、絶対にしないでね♪



[27071] 【オマケ】幕間的寸劇 その後の杏子
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/06/11 08:10
その1

見滝原―――

ドンドンドン!(マスケット銃声)
ギギィイヤァァァ……(魔女の断末魔)

マミ
「ま、ざっとこんな物よ」

さやか
「マミさんすごーい!(パチパチパチ……)」

???
「ふっ……」

マミ
「! 誰!?」

テレレレ~~ン、テレレレ~~~ン~~~♪(あのテーマ)

杏子(テンガロンハット&ギター装備)
「よう」(物陰から参上)

マミ
「誰よ、貴女?」

杏子
「佐倉杏子。さすらいの魔法少女、さ……」

さやか
「さすらいの……?」

マミ
「魔法少女ですって……?」

杏子
「巴マミ。見滝原の魔法少女。マスケット銃の使い手にして、現役最強とまで呼ばれている……」

マミ
「……?」

杏子
「ただし!
 その腕前は日本じゃあ、二番目だ……」(指を二本立てつつ)

マミ
「私が二番目? なら、日本一は誰なのよ」

杏子
「ヒューゥ、チッチッチッチ……」(ハットを上げ、自分を指差す)

さやか
(え、ちょ、いきなり何この人……)

マミ
「……」(ポカーン)

さやか
「あ、あれ、マミさん?」

マミ
「……やだ、カッコいい……」(ウットリ)

さやか
「あ、あれ!? ちょ、マミさん!?」





その2

まどか
「さやかちゃんを助けられるの!?」

杏子(テンガロンハット&ギター装備)
「大丈夫さ。アタシを信じな」

まどか
「わたしにも、何か出来ることが……」

杏子
「そうだな……。なら、さやかの家で待ってるんだ」

まどか
「そ、それだけ?」

杏子
「『それだけ』? いや、ちゃんと意味はある」

まどか
「意味……?」

杏子
「アタシは、さやかを助け出せる。だけど、『心』を救ってやることまでは出来ない……。
 けど、まどか。アンタなら救える。さやかの『心』ってヤツを」

まどか
「杏子ちゃん……」

杏子
「せめて、帰ってきた親友を、その腕で思い切り抱きしめてやんな。
 大丈夫、アンタなら、日本一優しい心の持ち主であるアンタなら、さやかを救えるはずだ」

まどか
「杏子ちゃん……。
 お願い! さやかちゃんを助けてあげて!」

杏子
「オーケイ。じゃ、行って来るぜ」(投げキッス&ウインク)

まどか
「ふぇっ!? き、杏子ちゃん!?」



魔女の結界内部―――

杏子
「なるほどな、さやかのヤツ、完全に自我が無くなってやがるか……」

ほむら(途中参戦)
「倒すしかないわ、こうなってしまっては……」

杏子
「いや。倒すんじゃない。助けるんだ」

ほむら
「……何を言っているの?」

杏子
「要はグリーフシードを体外にはじき出せば、とりあえずは落ち着くはずだ」

ほむら
「そんなことできるわけが……」

杏子
「アタシの槍に、不可能は無い!」(魔女に突っ込む)

ほむら
「! その部分は、彼女のソウルジェムがあった場所……」

杏子
「デエエェェェイ!!」(グリーフシード摘出成功)

ほむら
「嘘、こんなことが……。魔女が……」

杏子
「よっ……と」(落ちてきたグリーフシードをキャッチ)

ほむら
「魔女から人へと戻す方法があったなんて……」

杏子
「魔女になって短時間の間なら、完全に魔女にはなりきってないと思ったんでな」

ほむら
「でも、助けたといっても、その身体は抜け殻のようなものよ?」

杏子
「そこでこのグリーフシード。コイツに癒しの魔法をかけてやれば、ソウルジェムとしての機能も取り戻す」

ほむら
「それでも上手くいくとは限らないわ。第一、再びグリーフシードになったらどうするの?」

杏子
「忘れたのか? さやかの力は強力な『癒し』だ。少しでもソウルジェムの機能を取り戻せば、後は勝手に自己再生するさ」

ほむら
「理屈はわかるけど、納得はし兼ねるわ……(というか、佐倉杏子ってこんな性格だったかしら……?)」



美樹家―――

さやか
「あ、あれ? あたし、何して……」

まどか
「さ、さやかちゃぁぁん!!」(飛びつき&抱きつき)

さやか
「おわ! ま、まどか!?」

まどか
「杏子ちゃんが、助けてくれたんだよ! 杏子ちゃんが……」(半泣き)

さやか
「え、あいつが……?」

まどか
「そうだよ! ねぇ! ……あれ、杏子ちゃん? さっきまでそこにいたのに……」



見原滝周辺の港―――

杏子
「さやか。もう二度と、親友を悲しませんなよ……。
 一人ぼっちってのは、寂しいもんだ……。今のアタシみたいに、な……」(上を見上げる)

ニャァ、ニャァ、ニャァ……(カモメの声)

杏子
「あばよ、カモメさん……」

杏子
「赤ぁ~いぃ~夕日にぃぃ~、燃えぇ~ぇ~あぁ~がぁ~るぅ~~♪」(ギター弾きながら)





その3

帰り道―――

仁美
「な、何ですか貴方達!」

人相の悪い男1
「へっへっへ……」

人相の悪い男2
「お嬢ちゃん、悪いがちょっと付き合ってもらおうか?」

仁美
「ひ……た、助けて! 誰か!」(猛ダッシュ)

人相の悪い男1
「おっ! 逃げたぞ!」

人相の悪い男2
「待ちやがれ!」

ヒュッ(投石音)

人相の悪い男1
「イテッ!」

人相の悪い男2
「だ、誰だ!」

テレレレ~~ン、テレレレ~~~ン~~~♪(あのテーマ)

仁美
「!?」

杏子(テンガロンハット&ギター装備)
「おっと、お兄さん達、女の子を誘うなら、もっと紳士的にやるもんだぜ?」(道の脇から参上)

人相の悪い男1
「……何モンだ、テメェ!」

杏子
「アタシかい? お前さんみたいな、悪い虫を退治して回ってるモンさ」

人相の悪い男2
「あんだと……?」

杏子
「おっとっと、穏やかじゃないねぇ。もっと紳士的にやんなよ、そういうのさ」

人相の悪い男1
「バカにしてんのかテメェ!」(殴りかかる)

杏子
「おっと」(後ろに避けつつ、足払い)

人相の悪い男1
「あがっ! ってぇ!」(地面にヘッドスライディング)

人相の悪い男2
「このガキ……!」(ナイフを取り出す)

杏子
「はぁ、やれやれ、物騒なもんだねぇ。……下がってな」(仁美を庇うように立つ)

仁美
「は、はい……」

人相の悪い男2
「死ねぇ!」(ナイフを振り下ろす)

杏子
「よっと」(ギターでナイフを持った腕を捌く)

人相の悪い男2
「うわ!?」(ナイフを落とす)

杏子
(男の股間を蹴り上げる。思い切り)

人相の悪い男2
「いっ!! あ、ぐぐ……」(悶絶)

杏子
「ヒューゥ、痛ったそう♪」

人相の悪い男1
「くそっ、おい行くぞ!」(2を連れて逃げ出す)

人相の悪い男2
「覚えてやが……イテテテ……」

杏子
「バイバーイ♪」(右手をヒラヒラさせつつ)

仁美
「………」(ポカーン)

杏子
「全く、無駄に騒ぎばっかり起こしやがって……。っと、アンタ、怪我は無いか?」

仁美
「え、は、はい! ありがとうございます、おかげさまで……」

杏子
「あーいいよいいよ、そういう堅苦しいの苦手なんだ。
 しかしまぁ、大の大人が女子中学生なんて攫うかよ普通。世も末だな」

仁美
「多分、私の身代金狙いかと……」

杏子
「おや、こいつは驚いた。良家のお嬢様ってことか」

仁美
「いえ、そんなお嬢様だなんて……」(照)

杏子
「ま、これからは気を付けるこった、それじゃあな」(背を向けて歩き出す)

仁美
「あ、あの……貴女は一体……」

杏子
「何、しがないただの根無し草……さ……」(夕日に向かって再び歩き出す)

仁美
「……なんて、素敵な方……」(ウットリ)










原作まどか「……こっちの世界は、何もしなくても大丈夫そうだね……」(苦笑)
(◕‿‿◕)「わけがわからないよ」










後書
杏子がこんな感じだったら、もう何も恐くない!
いや、杏子がテンガロンハット被って馬に乗っている夢を見たので……



[27071] 【イナズマン編】超能力者と魔法少女が出会ったら【1】
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/05/25 18:22
午後2時ジャスト。
バスに揺られること4時間ほど。そろそろ付いてもいい頃だ。
さすがにずっとこの体制だと眠くなってくる。こんなことなら、素直に瞬間移動法テレポートを使えばよかったか。
荷物を肩にかけ、バスのドアを出たあと、少しばかり歩くと、目の前に静かな住宅街が広がった。

「おかしなモンだ……」

見原滝に着くなり、おれはそう言った。
人の密集している場所には、プラスとマイナスの感情の『波』が複雑なバランスを保っているものだが、この街に限って、そのバランスがおかしい。
ここは、マイナスの『波』のほうが明らかに大きい。何かの力が働いているのは、間違いなさそうだ。

『少年同盟』のメンバーから連絡を受けたのが、つい三日前。帝王バンバ率いる『新人類帝国』が崩壊してから、既に半年以上経っている。
しかし、その間にも新人類帝国の残党や超能力者ミュータントの引き起こす事件は発生し続けていた。
少年同盟はこれらの事態を受け、世界各地に超能力者を駐屯し、事態の終息を図らせていた。その中には、当然おれもいた。
今回のおれのやることは、ここ見原滝に続発する原因不明の事件の数々。その原因の解明、そして終息をさせることだ。ちなみに、おれ一人。
引き受けはしたものの、見原滝がここまで遠い所だとは予想外だった。バスと電車を乗り継いだだけで、手持ちの予算の半分を使い切っちまった。
こうなると、帰りはテレポートを使うようだな。といっても、あまり長い距離を移動すると、それだけ体力を浪費する。やれやれ……。

さて、とりあえず指定された宿を探すか……。少年同盟に渡された地図には、寝泊まりする場所と、今までの事件現場が書き込まれていた。
その宿は、少年同盟と事前にコネを作ったらしく、宿泊料自体は無料。
まぁ、こんな所まで出向かせておいて、宿泊料を自腹とか言われたら、少年同盟に予算を請求するところだ。
しかし……この町はどうしてここまで静かなんだ? あちこち歩いているが、人の気配が驚くほど少ない。
おれ自身、夏休みを使ってここに来たので、ここも夏休みシーズンのはずなんだが……?
おまけに時間は真っ昼間。天気も快晴と来た。しかし、公園に行ってみても、人っ子一人いない。
だんだんとおれは気味が悪くなってきた。
その時だ。おれの聴覚に人の足音が聞こえた。靴が地面に当たっているこの音を出せるのは、人間以外にはない。
おれは周りに精神感応テレパシーを飛ばした。テレパシーといっても、周囲に念波を飛ばし、生物の存在を感知する。いわば潜水艦のソナーのような物だ。
反応によると、誰かが息を切らして走っているようだ。背丈は恐らくおれよりも小柄。ということは中学生かその辺りだろうか?
しかしこの反応はなんだ? 人間、と言うより生物というものは、その『身体』に生命反応があるはずだ。
だが、こいつは違う。今まで感じたことのない反応だ。なんというか、まるで身体と生命が『切り離されて』いるような……。
とりあえず、その反応を辿ってテレポートをした。といってもそいつの目の前に行くわけじゃない。感付かれない程度に距離は取る。

「……あれか?」

おれがテレポートした場所で見たのは、紛れもなく人間だ。
服装と顔立ちからして性別は女。歳はおれと同じくらいかもしれない。目を引いたのは、その少女の髪が青白かったこと。おまけに瞳の色も青みがかっている。
おれの町にはこういうのはあまりいなかったな……。まぁ、どうでもいいや。
しかし、どうしてこの少女はこんなに必死に走っているんだ? 誰かに追いかけられているわけではないようだが……。
気になったおれは、その青髪の少女の後を追うことにした。

青髪の少女の足は、小さなCDショップみたいなところで止まった。ここはアーケード街だが、やはり人がいない。それは店内も同じだ。
どうやら、付いて早々集団失踪に出くわしたらしい。いや、あの青髪の少女が残っているか。
その青髪の少女は、上着のポケットから何かを取り出すと、ぐっと握り締め、そのCDショップ内に駆け込んでいった。
おれも後を追ってCDショップ内に入る。

「……?」

少女の姿はない。それどころか気配すらしない。
おかしい、この中に駆け込んで数秒しか経っていないはずだ。その短時間で気配ごと消せるとは思えない。
おれは店内を見回してみた。店内は明かりがついているが、人の気配はない。
少し歩くと、視聴コーナーがあった。しかし、そこでは壁にかかっているはずのヘッドフォンが地面に落ち、音楽を鳴らし続けていた。
さっきまで誰かが利用していたように、だ。
おれはヘッドフォンを耳に当ててみる。ありきたりなロックミュージックが流れていた。しかし、何故か所々に雑音のような歪な音が入っている。

歪……?
おれはハッとなった。周りに再び念波を飛ばす。その時、近くの買い取りカウンターの奥の空間が、グニャリと歪んだのを見た。
そこに少し観念動力テレキネシスを加えると、ぱっくりと空間が裂け、そこに穴が出来ていた。
なるほどな。どうやら、何者かが空間を歪めているらしい。自力で別の空間を作るとは、それだけ大したヤツがそこにいるらしい。
なら、油断は出来ない。さっきの青髪の少女のことも気になるし。
意を決して、おれは歪んだ空間の中に飛び込んだ。

「な、何だこりゃ……?」

目の前に広がったのは、空間と言うより、まるで『絵画』。
どこもかしこも黒と白の二色のみ。見ようによっては、影に光が差し込んだようにも見えなくはない。
見ると、おれの全身も影のように真っ黒に染まっている。この状態でいてもあまり支障はないようだが、それでも気持ちのいいものではない。
とりあえず、おれは真上へ跳ぶ。全体の状況を確認したかったのもあるが、同じところに留まっているとヤバそうだと悟ったからだ。
足場らしきところを見つけ、そこへ飛び乗る。その瞬間、目の前に真っ黒い手のような形の物が無数に現れ、こっちへ伸びてきた。
驚いたおれは、とっさにテレキネシスで真っ黒い手の起動を逸らそうとした。けど、黒い手はそれをものともしない。
マズイ、このままじゃやられる。おれは腹を決めた。

突然変異メタモルフォーゼ……サナギ……サナギに……なる……

おれの周りを覆っていた黒い手が消し飛ぶ。今、おれの皮膚は岩石のように硬くなり、形状も人の形からは大きく離れている。
単純に防御力を上げただけに近いこの状態……仲間内では『サナギマン』と呼ばれる状態に、おれはなっていた。
おれは再び迫り来る黒い手を、力任せに振りほどき、この黒い手の発生源を探して走る。そして、あの青髪の少女の姿も探す。
いや、ここに必ずいるとは限らないのだが。
走る間にも、黒い手は引っ切り無しに襲い掛かり、その都度、振りほどく。まだ、エネルギーは完全に溜まっていないようだ。
『あの状態』なら…おれの最終手段でもある…あの姿なら、この妙な空間を無力化することも容易いはずだ。
しかし、ここに誰か捕らわれていないとも限らない。迂闊に力を振るったら、被害の方が大きくなる。
どこからが天井で、どこからが地面かわからない、こんな場所に普通の人間が長時間いたら、それこそ発狂モノだ。
現におれだって目がちかちかし始めている。マジに頭が痛くなりそうだ。
とりあえず、黒い手から逃れると、再び高く跳躍する。視点を変えたかったからだ。

「ん……?」

今、何か人影みたいなのが見えたような……?
もう一度、周りに目を凝らしてみる。さらに、視力を超能力で一時的に強化し、周囲を見渡す。

「いた!」

確かに、誰かがいる。どうやらさっきの青髪の少女らしい。
しかし変だ。さっきまで学生服みたいな格好だったはずなのに、今は…なんというか、白いマントに青白い鎧、なのか?
とにかくそんな感じの格好をしている。まるでファンタジーか何かに出てきそうな格好だ。
オマケに、あれは剣か? それらしき物を振るっている。戦っているのか? 重火器当たり前のこのご時勢に剣で……だ。
と言うか、それ以前に、どうしてこんな所であんな事をしているんだ?
一瞬、超能力者かと思ったが、少年同盟が知っている以上では、見滝原に超能力者はいないはずだ。
となると、何なんだあの子は?
混乱しながら、青髪の少女の戦いを見ていると、彼女の後ろに、あの黒い手が迫っているのが見えた。しかも、彼女は気が付いていないらしい。
おれは焦った。このままじゃあの黒い手に捕まる。
捕まってどうなるのかは想像できなかったが、愉快なことにはならないだろう。しかしどうする!? サナギマンの状態じゃ、あそこまで行くに行けない。
確かに、サナギマンの状態でも10m以上の高さを跳ぶことや、鎖を素手で引き千切るぐらいのことは出来る。しかし、その強化された身体能力でも、少女の元へ行くのは距離が開きすぎている。
仕方が無い。まだ本調子じゃないが、他に方法が無い。

突然変異メタモルフォーゼ……チョウ……チョウに……なる……


全身に溜め込まれたエネルギーを一斉開放。同時に発生した、稲妻のような放電エネルギーが周りを蹂躙する。周囲全てを吹き飛ばすような衝撃波を、念動力で抑える。
そして、『サナギマン』だったおれは、その皮膚を破り、青白い身体に、稲妻模様のラインが入り、額からはチョウの触角に似たものが生えている状態。
仲間内では、『イナズマン』と呼ばれる身体になっていた。

「おおおおおぉぉぉっ!!」

念動力によって空気中に生み出された電気エネルギーが、一本の稲妻を作り出す。稲妻は、少女を後ろから狙っていた黒い手に命中。黒い手は、霧散するように消え去った。
青髪の少女は、後ろにいた敵が突然消え去ったことに気が付き、少々混乱している様子だ。おれはテレポートを使い、ここよりかは少女のいる位置に近い場所へ移動する。

「なっ、え? 何、何なの?」

青髪の少女がおれを見つけたのか、混乱の声を上げる。だが、今はそれに構っている場合じゃない。
少女が走っていた方向はこっちだよな。おれはその向こうへ目線を向ける。ここから100m以上は離れた場所にあったのは、これまた真っ黒で、柱とも大木とも言えない物体。それは、まるで生きているように蠢いていた。
何だ、こいつは?
新人類が突然変異したもののようにも見えるが、ここまで生気の感じられないものは初めてだ。かといって、ロボットの類でもないようだし……?
おれは再びテレポートする。少女が呼び止めていたようだが、気にするのは後だ。
黒い物体は、おれがいるのに気が付いたのか、黒い手を上方から無数に伸ばしてきた。しかし、おれは動じず、放電でその黒い手を霧散させる。今の動作から察するに、どうやらこいつが異変の大元らしい。
おれはテレポートを繰り返し、黒い物体の周りを回る。テレポートを繰り返した移動法は、即ち光速にも等しい。周りから見れば、おれの姿は輪郭を保ってすらいないだろう。
おれ自身におれの残像が見えてきたのを確認すると、全身から放電を発した。触覚を伝って放たれた電撃は、どれも違わず、黒い物体を直撃し、その身を焦がした。
周囲が電光で照らされ、黒い物体は身をよじり、黒い手達は一瞬にして消え去った。
しかし、その物体から響いた『声』が、おれの放電をやめさせる。

「……!?」

響いてきた声は、人間の…それも少女のような、甲高い声だった。しかし、黒い物体はその悲鳴のような『声』を上げると、黒い手と同じように霧散していき、最後には何も無くなった。

「なんだったんだ……? 今のは……」

テレポートを止め、地面に降り立つ。確かに、人間の悲鳴だった。機械で作った声なら聞き分けられる。しかし、今の声はどう聞いても肉声だった……。
わからないことだらけだ。人の形をしていないのに人の声を発する怪物、黒い手、この妙な空間。
そして……、この空間で一人、戦っていた青髪の少女。
この見原滝は、想像以上の事態に直面しているらしい。おれは、そう確信した。

「あーっ、いたいた!」

後ろから聞こえてきた声に振り向くと、さっきの青髪の少女が、マントを揺らしながらこちらへ飛んできていた。プロペラどころか羽だって無いのに。この少女は飛ぶことまでできる。
やはり、超能力者なのか?

「はぁ、全く……待てって言ったのに……」

少女は、おれの近くに来ると地面に着地して、一度ため息をつくと、つかつかと歩み寄ってきた。顔には疑念の色が浮かんでいる。
彼女の足は、手の届くぐらいの距離で立ち止まり、おれの全身をまじまじと見る。
すると突然、俺の顔に人差し指を向け、言った。

「あのさ、あんた一体何者? 魔法少女…じゃないわよね……?」
「魔法……少女……?」

今度は魔法少女と来た。
本当に何なんだ、この街は?



これが超能力者であるおれ、風田サブロウと、魔法少女である青髪の少女、美樹さやかの出会いだった。





後書
お待たせしました、イナズマン編開始です。ズバット編は完全にズバットでしたので、今回は王道なクロスオーバーモノを目指してみます。



[27071] 【イナズマン編】超能力者と魔法少女が出会ったら【2】
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/05/10 17:42
奇妙な空間からおれ達二人は抜け出す。
すると、青髪の少女の姿が光に包まれ、最初目撃した時みたいな服装に瞬時に変わる。胸元の大きいリボンが目を引く服装。やっぱり学生服か?
おれも変身を解き、空気中の物質を固形化し、服を再構成させた。やれやれ、この再構成能力に早くから目覚めていりゃ、今までの洋服代もバカにはならなかったのにな……。
おれが変身を解いた瞬間、隣にいた青髪の少女は素っ頓狂な声を上げた。

「うわ! に、人間になった!?」
「『なった』ってなんだ『なった』って! これが元の姿だっつの」
「え? じゃあ、さっきのガみたいな格好は……」

反射的に言い返すと、少女は考え込むような表情をする。
あれがガに見えたのか? チョウのつもりなんだが……。
彼女の言葉に、おれは少々へこみたい気分になる。とりあえずここから出ようと、自動ドアに向かって歩き出した。

「あ、こら! 話を聞けー!」

後ろで少女がわめく。答えたい気持ちは山々なんだが、その前に確認したいことがあった。
CDショップを見渡すと、そこには客と店員がいて……と、CDショップ『らしい』風景に戻っている。店の外には通行人と、車が通っており、これもまた『らしい』風景だ。
やはり、さっきのヤツが、集団消失の原因だったのか。周りの状況を見るに、皆は消されていた間の記憶が無いらしい。
超能力者が関わっていたなら、記憶を操作することも出来る。しかし、さっきの黒い怪物は超能力者が突然変異したものではない。
となると、一体?
おれは思索にふけり始める。しかし、そんなおれの背後を小突くものがあった。しかも結構力を込めて。

「いてっ……!」
「こら! 聞けっての!」

後ろには腕を組んで、頬を膨らまして、明らかに『怒っています』という剣幕の青髪の少女。

「んで? あんた一体なんのよ?」

これ以上放っておいたら、今度は小突かれるどころか蹴りが来そうだな……。彼女の表情から、おれは直感的にそう思った。



「超能力者……!?」
「ああ」

おれと青髪の少女は、アーケード街から出て、通学路らしいところを並んで歩いていた。
あの後、おれは彼女の剣幕に押され、自分が超能力者であることと、さっきみたいに変身できることを明かす羽目になった。
信じるかどうかはわからないが、イナズマンの状態から元に戻るのを見たんだから、さすがに信じてないってことは無い、よな……。
説明が終わると、青髪の少女は顎に手を当て、考え込むような様子で、「超能力者かぁ……」等とつぶやいていた。もっと派手なリアクションをするかと思ったが、そうでもないようだ。

「……イイかも」
「は?」
「イイ! 凄くイイ!」
「いや、だから何が?」

理解の出来ないおれを尻目に、突然、彼女は両手の拳を握り、興奮したような、それでいて嬉しそうな表情でおれを見る。
心なしか目が輝いている。おれ、何か喜ばせるようなこと、言ったか?
おれが頭に?マークを浮かべているのも知らずに、突然彼女は歓声を上げた。

「超能力者っての、凄くイイ! 正義のために悪と戦う超能力戦士なんでしょ!? カッコいいーー!!」

前言撤回。やっぱり派手だ。
そういうことか、凄くイイって……。
普通、人間は自分とは違う、つまり『異端』である人を排除したり、毛嫌いしたりするらしいが、どうもこの青髪の少女は違うようだ。
それとも、彼女もおれと同じ『異端』な人間だからか?
拍子抜けしたおれの両手を、彼女は握手するように両手で握る。いきなりのことにおれは内心焦ったのだが、彼女の手から伝わってきたのは、人の温もりと言うにはあまりにも冷えたものだった。
それは、普通の人間には気が付かない程度の温度差なのだが、明らかに人の体温より低い。もしかして、そういう特異体質なのか?
もしくは、最初に感じた、『身体と生命が切り離されているような』感覚に、何か関係があるのか……。

「あたし、美樹さやか! 花の中学生兼見原滝に住む、正義の魔法少女! んで、あんたは?」
「ああ、おれは、サブロウ……風田サブロウ。おれも同じく中学生で……」
「すっげー! 超能力者と魔法少女のコンビ! あたし、超能力者とコンビ組んだ最初の魔法少女かも! 超ラッキー! しかも歳同じとか、まさに奇跡じゃん! ああ、あたし中学生でよかったー!」

突然の歓声の次はマシンガントークと来た。自分で花の中学生とか言うか普通……。
おれの自己紹介が言い終わらないうちに、彼女…さやかはおれの両腕を上下に激しく振る。それほど感動してるってことか。
……ってちょっと待て! 今なんつった!?

「お、おい! コンビ組むなんて言ってねぇぞ!?」
「どうしてよ? 魔法少女が協力し合うなら、超能力者だって協力し合うものでしょ?」
「なんだよ、その無茶苦茶な理屈!?」
「正義の味方同士、仲良くやろうではないかー! と言うわけでよろしく、サブロウ!」
「人の話を聞けよ……」

おれのため息にも全く意に介してない様子で、さやかは腕をぶんぶん振り続けた。
魔法少女のことについて、詳しく聞く暇すら、おれには与えずに。



さやかと出会ってから2日ほどが過ぎ、ようやく現状がはっきりとわかってきた。
この見滝原は、『魔女』と一部で呼ばれる謎の怪物の脅威にさらされている。
魔女は結界と呼ばれる、外界とは閉ざされた空間に隠れており、呪いと呼ばれる一種の念波を結界の外に送り続けている。
この呪いを受けた人間は、洗脳状態とでも言うべき状態に陥り、原因不明の自殺や、無差別な犯罪を始めてしまう。
その魔女の存在を探知し、殲滅する使命を帯びているのが、『魔法少女』と呼ばれる存在。
魔法少女は、『契約』によって力を与えられ、その時に『願い』を一つ叶えられるのだと言う。
力を与えた上に、願いまで叶えるとは随分と出来た話だが、それはその際置いておこう。
とりあえず、今解っているのはこれくらいだ。
この二日間、無理矢理コンビを組まされたおれは、さやかと共に魔女を倒して回っていた。と言っても、さやか曰く『あれは使い魔であって、魔女じゃない』らしい。魔女の手下のようなものか?

「なぁ、さやか」
「ん? 何?」
「魔法少女ってのは、お前一人だけなのか?」
「いやいや、あたし一人じゃないよ」

手をひらひらさせてさやかは答える。
ここはさやかの自宅の居間。テーブルを挟んで、おれ達は座っていた。
今まで倒してきた魔女が、どれもここから近い場所で現れていることから、『魔女が何かに引き寄せられている?』とおれが言い出したのがきっかけで、ここで作戦会議をすることになったのだ。
しかし、本当にいいのか? 自宅に勝手に男を上げて。家族に見つかったら怪しまれるぜ、こりゃ。
と思ったら、さやかの両親は旅行に出かけているようで、家には彼女一人だという。それでも、誰かに見つかって噂されなきゃいいんだが……。

「じゃ、他にもいるのか?」
「うん、えーっと、あたしの先輩で一人、転校生で一人だから……あたしを含めて合計3人だね」

一本一本指を折りながらさやかは言う。
おれはテーブルに置かれたコップに口をつけた後、聞き返した。
魔法少女の数は、おれが思ったよりも多いようだ。

「そんなにいるのか……」
「ああ、でも、今はあたし一人なんだよね……」
「え、なんで?」

おれが不思議そうに聞き返すと、さやかは恥ずかしそうに後頭部を掻き、苦笑しながら理由を言った。

「いやぁ、実はさ、みんな臨海学校に行っちゃってて……」
「は? え、何で今頃?」
「本当は先月に行く予定だったんだけど、諸事情で夏休み中に変更になっちゃって……」

はぁ、とため息をつくさやか。なるほど、それなら納得だ。学校の行事に逆らえないのは、超能力者も魔法少女も同じってことか。

「生徒全員でか?」
「2年生だけだけど……」
「じゃ、その先輩って人は?」
「用事があるって、見滝原から離れてる。タイミング悪いったらありゃしない……」

椅子に寄りかかり、うんざりしているような表情でため息をつくさやか。
しかし、ここで一つ疑問が生まれる。

「あれ、それじゃ何でさやかはここにいるんだ?」
「あたし、その行事に行く日に風邪引いちゃってさ……いやはや情けない……」
「魔法で治せないのか? 風邪ぐらい……」
「う……それは……」

突然、さやかが口ごもる。上手い言い訳を探して焦っている。そんな表情だ。
ははぁ。その様子を見て、おれは大体の予想が付いた。こいつ、ズル休みしたな。
学校の行事が面倒臭くて仮病を使うのと、そう変わらないわけだ。まぁ、気持ちはわからんでもないが。
妙な親近感に、おれは笑いがこみ上げてきた。堪えはしたが、やはり肩が震えてしまう。

「ちょ、サブロウ! 何がおかしいのよ!」
「いや……、何がおかしいってお前……くっくっく……」
「あー! あんた、まさかあたしがズル休みしたとか思ってるなぁ!?」

赤面して、かなり焦った様子でまくし立てるさやかだが、おれは意に介さず、むしろその様子がおかしくて、また笑ってしまった。
案の定、テーブルから身を乗り上げて、駄々っ子よろしく手をばたつかせて、さやかは叫んでいた。

「わーらーうーなー!!」

ホント、愉快なヤツだな。
おれの幼馴染にもこういうヤツがいたが、そいつとは、二度と会えなくなっちまった。
ちょっとからかったら、すぐに顔を真っ赤にして怒り出し、

『サブちゃん、嫌い!』

とか言ってプイッといなくなってしまう。それほど短気なヤツ。でも、一時間足らずで、いつの間にか仲直りしてたっけな。
さやかはそいつの性格に、どこか似ている。だから話が合うのかもな。
彼女は『魔法少女と超能力者のコンビ』とか勝手に言い始めていたが、気が合うという点ではあながちベストパートナーかもしれない。
おれはさやかのわめきを聞き流しながら、再びコップに口をつけ、注がれた水を飲んだ。夏休みシーズンだからか、外は暑い。まぁ、去年の猛暑ほどでもないが。

「こらサブロウ! 無視するなー!」
「ヘイヘイ解ったよ、で、なんだって?」
「~~~~っ!」

からかうおれと、言い返せず赤面するさやか。周りから見れば、とても微笑ましい光景に見えていただろうな……。
まぁ、そんなこんなで、その日の午後は過ぎていった。



だが、この時おれは気付くべきだった。『ここ』じゃない何処からか、おれとさやかを交互に見つめる、一つの視線に。





後書
さやかの性格が、初期のサブロウチックなのに気が付いた。
まどか☆マギカの魔法少女は、魔法少女と言うより、改造人間や超能力者の類に近いような……?

※説明不足な部分があったので加筆しました。



[27071] 【イナズマン編】超能力者と魔法少女が出会ったら【3】
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/05/24 17:02
「サブロウ! サブロウ! 助けて、サブロウ……」

さやかがおれに手を伸ばして叫んでいる。
助けを呼んでいる。助けなければ……。
何……身体が動かない!?
催眠術か? いや、違う。何かで縛られているわけでもない。
くそっ、動け! 動けよ!
こうなりゃ、突然変異で……! 身体が動く!
よし、今助けるぞ!

さやか、手を伸ばせ!
伸ばされたその手を、おれは掴む。
さやか、もう大丈夫だ。
その時、おれの目の前でさやかの身体が黒く染まり、崩れるように霧散する。

さや……か……!?
『人殺し!』
四方から声が聞こえる……。
違う! おれがやったんじゃない!
『よくもあたしを殺したな!』
さやか? 何を言ってるんだ!?
『あんたも魔女と同じだ!』
何で、おれがさやかに剣を向けられてるんだ?
『魔女は倒す! あんたも同じようにね!』
さやかの剣が、おれの胸に突きつけられる。
どうしてこうなったんだ!? どこで間違えたんだ!?
銀色の剣が、おれの胸を貫く。

「ウアアァァァァーーーッ!?」

同時に見たさやかの表情は、暗い笑顔で歪んでいた。



飛び起きる。全身が汗で濡れている。心臓も早鐘のように鳴っている。口の中もカラカラに乾いている。
首を振り、強引に我に帰る。どうやら夢だったらしい……。呼吸を整え、おれはふらふらと布団の上から立ち上がる。
しかし、力が上手く入らず、バランスを崩し、毛布の上に尻餅を付いた。立つことを諦め、額の汗を手の甲で拭う。
カーテンの隙間から外を見ると、外はまだ明るくなりかけたばかり。毛布の脇に置いてあった腕時計を見ると、午前4時ちょうどだった。

「くそっ、なんて夢だ……」

誰ともなく、おれは呟く。超能力者の見る夢は、ただの夢で済まされない時がある。所謂予知夢と言うやつだ。しかし、おれには遠い未来を読むなんて力は無い。
精々、ほんの一瞬先の未来を読むことぐらいだ。故に、今までおれの見た夢が現実になるなんて事は無かった。あまりにも不吉だった今回の夢も、そうだといいんだが……。
おれは再び、布団の上に横になる。しかし、全くと言っていいほど、眠気は来ない。おれの昔からの癖は、今でも変わってないようだ。



結局、おれはそのまま寝付くことができず、朝早くから外をぶらつくことになった。一応、パトロールのつもりでもある。
しかし、朝方は何も起きないらしいな……。魔女は昼か夜にだけ活発に行動するのか? 最初に遭遇したときは、住民を丸ごと消失させるなんて派手なことをしていたが、さやかに言わせれば『普通、魔女はあんなことしないはず。精々、人を操るぐらい』らしい。
と言うことは、魔女以外の何らかの力が、この街で働いていることになる。が、その正体も、その目的もわからないのが現状だ。
昼に差し掛かり、小腹も空いてきた。どこかで腹ごしらえでもするかと思ったその時、おれの尻ポケットに入っている携帯から、着信音が流れた。
携帯を開いて、通話モードをオンにする。

「もしもし?」
『あ、サブロウ?』

携帯から聞こえてきたのはさやかの声だった。そういえば携帯番号交換してたっけ。と言うか、無理やり交換させられたんだが。

「さやか? どうしたんだ?」
『どうしたかって? 決まってるでしょ!』

さやかの声には若干焦りの色が混じっていた。その声色で、おれは何が起こったのかを悟った。おれの勘が当たった場合、これで3回目だ。

「まさか、また出たのか!?」
『うん、使い魔か魔女かはわからないけど……と、とにかく、今から言う場所に来て。大至急!』

さやかの指定した場所は、最初に彼女と会ったCDショップの近くにある銀行だった。ここからは多少離れているが、テレポートを使えば一分とかからない。

「わかった、すぐに行く」

携帯を切り、テレポートの体制に入る。移動する地点を、人目につきそうにない場所に決め、テレポートを開始した。
目の前の光景が一瞬で切り替わり、その場所に着いたという実感が沸く。そこは、ビルとビルの間の物陰で、やはり人気は無い。おれはそこを抜け、アーケードの架かった大通りに出た。
すぐ近くに、指定された銀行が見える。そして、建物の脇にさやかがいた。おれが来たのに気が付いたのか、こちらへ手招きをしている。
駆け寄ると、彼女の顔には感心したような喜色が浮かんでいた。

「おー…本当に一瞬で来たね」
「まぁ、テレポートを使ったからな」
「くっそー、瞬間移動なんてうらやましいな……あたしもそれぐらいできたらなぁ……」

悔しそうに、というかわざとらしそうに、さやかはぼやく。時々思うんだが、なんでこいつはこう、緊張感が無いんだ……?
それとも、無理をしてこんな感じに振舞っているのか? 前者も後者もありそうだが、まぁ、後で考えるとするか。

「銀行にいるのか?」
「みたい……ほら……」

さやかがおれに右手を差し出す。その手の平には、魔法少女が戦うときに必要とされる宝石『ソウルジェム』があった。そのソウルジェムが、ぼんやりとした、青い光を発している。
これは、恐らく探知機の役割も果たすのだろう。おれは、そう納得した。

「魔女ってのは銀行強盗までするのか?」
「うーん……今まではそんなの無かったんだけど……」

今まではってことは、今回が初めてのケースってことか……。そう、またもや『今回が初めて』だ。しかし、銀行の中とは随分と目立つ場所に現れたもんだ。
外から銀行の中を見る限りでは異変はないようなんだが……?

「とりあえず行ってみるか……」
「それが一番手っ取り早いね」

おれ達二人は同意し、銀行の自動ドアを抜け、中に入り込んだ。銀行の中は、ものすごく重苦しい空気に包まれていた。普通の人間だったら、圧倒されて逃げ出してしまいそうな。
ここにいる銀行員や、たまたま来ていた客達は全員が床に倒れ伏していた。それは何かに襲われたと言うよりかは、中に毒ガスでも撒かれたと言った感じだ。
外からのここの光景は、やはりまやかしだったってことか。おれが一人の銀行員の首筋に手を当てると、脈があることがわかった。死んでいるのではないらしい。

「何よ、この空気……いるだけで気が沈みそうなんだけど……」
「この人たちはこの空気に触れて気を失ったのか?」
「多分……」

おれ達は受付を乗り越え、銀行の中心部へ差し掛かっていく。倒れている銀行員達を避けながら、辺りを探す。途中、さやかが立ち止まり、手の平のソウルジェムをいろいろな方向に向けた。
すると、ある方向で、その輝きが強くなった。受付の地図を見る限りでは、どうやら、その向こうには金庫部屋があるらしい。

「サブロウ、金庫の鍵の場所ってわかる? さすがに金庫破りはマズイっしょ?」

さやかもそれに気が付いたのか、おれに聞いてきた。確かに、金庫を破るのは簡単だが、非常事態とはいえ、後始末が大変だよな……。仕方ない、テレポートの応用を使うか。

「いや、鍵は必要ねぇよ」
「何で?」
「おれが金庫内にテレポートして、中から開ければいい」

おれの提案に、さやかは一瞬あっけにとられた表情をしたが、突然感心したように、

「さっすがぁ……!」

と、おれの背中を叩いた。



「開けるぞ、いいか?」
「いいよ、準備オッケー」

重い扉が開放された。さやかの姿は学生服姿から、魔法少女の服装に変わっている。準備オッケーってのはそういう意味も含んでたってことか。なぜか得意げに笑みを浮かべている。

「で? あんたはならないの? その……イマズママンに」
「……イナズマンだっての」

俺が訂正すると、照れくさそうに、さやかは苦笑いした。
こんな間違い方をされたのは初めての経験だ。おれのネーミングセンスって、結構悪いのかな……?





後書
流石に一週間で二話投稿するのは無理だった……。
友人にイナズマンの原作漫画版を貸した際の感想は、
『超能力者で電気使いって、どこの超電磁砲だよw』
とのこと。
……その発想は無かったわ……。



[27071] 【イナズマン編】超能力者と魔法少女が出会ったら【4】
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/08/16 12:03
「ちょっと! また使い魔だけ!?」

後ろでさやかが苛立っているかのように怒鳴っていた。金庫の中はすぐに結界と繋がっており、その中は鍵のような形をした使い魔の群れが辺りをうろついている。
使い魔は辺りを不規則にうろうろしながら、金品類をあっちこっちへ運んでいたようだ。
おれの前に飛び出したさやかは、剣を振り上げ、使い魔の一匹を切り伏せる。すると、周りの使い魔が反応したらしく、一斉にこちらを向き、迫ってきた。

「ちっ……」

おれはテレキネシスを使い、使い魔の一匹を吹き飛ばす。
吹き飛んだ所を見るに、こいつらには念力が効いているようだ。多少はこれで楽になっているか?
しかし、テレキネシスを使って次々に吹き飛ばしても、すぐに体制を整えてこちらへ迫ってくる。正直、埒があかなかった。
サナギマンになっても良かったが、その間に隙ができる。その間に、攻撃が集中しないとも限らない。迂闊に変身はできなかった。

「サブロウ! こいつらを浮かせる!?」

突然、さやかがおれに向かって叫んだ。周りの使い魔を切り払っている真っ最中のようだ。

「浮かせる必要がどこにあるんだよ!?」
「いいから早くしろぉ!」

さやかの剣幕に押されるように、おれはテレキネシスを広範囲に使い、使い魔を数匹、宙に浮かす。この使い魔は、空中では行動できないらしく、ただ身体をくねらせている。

「やあぁぁぁぁっ!」

そして、自由の利かなくなった使い魔を、さやかの剣がまとめて切り裂いた。なるほどな。この方法なら数を減らしやすい。これは思いつかなかった。
最初、さやかのことを単なるお調子者かと思っていたが、その認識は改めたほうがよさそうだ。それとも、おれが単独戦闘に慣れ過ぎているのか。

「サブロウ、もっかい!」
「おう!」

しかし、同じ手は二度と通用しなかった。おれがテレキネシスで浮かせた途端、一匹の使い魔がなんと近くにいた使い魔を弾き出し、こちらへ飛ばしてきたのだ。
こいつら、そこまで知恵が回るのか!?
おまけに、その軌道上には、テレキネシスの使用で隙が出来ているおれがいた。

「サブロウっ!」

それに気が付いたさやかが庇うようにおれの目の前に飛び出し、飛んできた使い魔を切り裂く。
しかし、それこそが連中の狙いだったのか、使い魔たちが一斉に仲間を弾き飛ばし、自らの身体を弾丸として、一斉にさやかに襲い掛かった。

「なっ……」

慌てて剣を振るい、使い魔を叩き落すさやかだが、やがて一匹が腕に命中し、剣を取り落としてしまった。
さらに、次々と襲い掛かってくる使い魔の弾丸がもろに命中し、彼女は後方に吹き飛んだ。
その光景に、おれは意を決した。

突然変異……サナギ……サナギに……なる……

変身のショックで身に纏っていた衣類が千切れ飛び、おれの皮膚は茶色い岩のように変わる。
おれは、『サナギマン』に変わっていた。
倒れているさやかの前に立ち、その身体で、使い魔の弾丸を受け止める。サナギマンの皮膚は落石すらも耐えうる。この程度の質量なら、びくともしない。

「おい、大丈夫か!?」
「さんきゅ、サブロウ……」

苦しそうだが、笑みを浮かべている上に、ウインクをしている。
色々とツッコミたい所…だが、まぁ大丈夫そうだな……。

「離れてろ! イナズマンになる!」
「えぇ!? ちょ、ちょっと待っ……」

既におれの身体からは放電が漏れ出していた。超能力を極力節約して戦っていたので、今回は早めに変身できる。
慌てふためきながらもさやかが離れたのを確認し、おれはサナギマンの殻を破る。

突然変異……チョウ……チョウに……なる……

溜め込まれたエネルギーを開放し、周囲の使い魔を消し飛ばす。
『サナギマン』だったおれは、その皮膚を破り、『イナズマン』へと変わる。

「いよっ、待ってました!」

さやかが後ろで歓声を上げている。何故か拍手まで聞こえる。
おれはイナズマ放電を放射。放電は逃げ惑う使い魔も、挑みかかろうとした使い魔も分け隔てなく焼き尽くし、消滅させた。
放電のレベルは一瞬で人間が消し炭なるレベルにしている。と言うことは、こいつらは人間よりもヤワってことらしい。
おれは一歩も動かず、さらに放電を放射し続け、使い魔を消し去っていった。

「圧倒的ってこういうことを言うんだっけ……」

後ろでさやかがため息混じりにそう呟いたが、おれは無視した。
粗方片付いたらしい。
近くには使い魔の影も形も無い。結界も消滅し始めている。おれとさやかは変身を解き、結界から出ようとしたが、さやかが思い出したように立ち止まった。
つられて、おれも立ち止まってしまった。

「どうした?」
「ねぇ、サブロウ。テレポートって、サブロウしか移動できないの?」
「? いや、おれに触れてれば一緒に移動できるけど……それがどうかしたのか?」

おれがそう返すと、突然、さやかは恥ずかしそうに身体を縮みこませ、上目遣いになる。
なんだその反応……。

「いやぁ…テレポートするって、どんな感じなのかなーと思いましてね……」
「………」



「うわっ、もうあたしの家だ! いやぁ、便利ですな!」
「お前なぁ…他人の力だと思って……」
「いや、だって! テレポーテーションなんて普通体験できないじゃん!」

いい訳をするさやかだが、おれはそれを無視した。テレポートするためにも力使うってのに……。

「さやか、『また』使い魔だけなのか?」
「無視かよ…まぁいいか……。うん、これだけ使い魔ばっかりっていうのも……」
「使い魔ってのは、魔女の手下なんだろ?」
「うん、だから、魔女が近くにいることは間違いないんだけど……」

さやかがソウルジェムを出す。それは淡い青色の光を放っていた。しかし、よく見ると所々色があせていたり、濁ったような色をしている所がある。
……本当に変身するためだけの物なのか、これは?

「反応なし……か……」
「うん……。おっかしいなー……」

さやかが首をかしげ、おれも腕を組む。ここ一連の使い魔の挙動を思い返す。
まず共通していることは、必ずおれやさやかの近くで事件を起こしていること。最初は単なる偶然かと思っていたが、今ではまるで誘われているようにすら感じる。
おれとさやかを誘い込んでいるかのような……。もっと言えば、おれたち二人に狙いを絞っているかのような……。
ここで、おれの脳裏に一つの想像が浮かんだ。

「魔女じゃないとしたら……」
「……え?」
「使い魔は魔女の手下なんだろ? だったら、誰かが魔女に成り代わって……」

突然、さやかが噴出す。しかも腹を抱えて笑い始めている。

「……なんだよ」
「くっくっく…ないない。誰かが魔女のフリして使い魔を操ったって? それはさすがに無いって…くっくっく……」

さやかの押し殺した笑いは、次第に大笑いに変わっていく。
……まぁ、そういう反応が来るのは予測できていたが…なんと言うか、予測できていたとはいえ、引っかかるものがあるな……。
しかし、そう簡単に『有り得ない』で割り切っていいのか? 今の状態だって十分『有り得ない』と言うのに……。
考えるうちに、おれの表情は険しいものになっていたらしい。笑っていたさやかがおれの顔を見てはっとしたからだ。
慌てたように、言い訳まで始めた。

「ご、ごめん……あたしったら……。あまりに突飛なこと言い出すもんだから……」
「いや、いいよ……。そういう反応が来ることは大体わかってたしな」

おれがフォローのつもりで言った言葉にも、さやかは申し訳なさそうに口ごもっていた。フォローになってなかったってことか?
おれは続けることにする。

「考えもしてみろよ。使い魔の今の状態だって、十分有り得ないことなんじゃないのか?」
「うーん……仮にそうだとしてもさ。どうやって使い魔を操るの?」
「そりゃ……魔法で?」

突然、さやかがムッとした表情で、睨み付けてきた。おっと、失言だったか……。

「……言っとくけど、あたしはそういうこと出来ないからね?」
「お前を疑ってるって言ってるんじゃないよ……」
「なら良し」

とはいっても、怒ったような表情をあまり崩さないさやか。
いつもやっちまうことだが、こういうタイプの奴と会話するのには本当に慣れない。やれやれ……。

「むしろさ、サブロウみたいな超能力者ならどう? 使い魔をあんなふうに投げ飛ばしたり出来るし……」
「それもあるんだが、この町には超能力者はいないって調べが付いてんだ」



結局、その日は二人して、額に手を当てて考えることしか出来なかった。
おれは宿の自分の部屋に戻り、考えを纏めることにした。わかっていることを、一つ一つ紙に書き出す。
しかし、わかっていることは精々、使い魔はおれ達の近くで行動を起こしていることだけ。しかも、それはただの偶然と片付けることもできるような問題だ。
おれは毛布に寝転び、この4日間の事件を思い返す。さやかと会ったその次の日、さやかから連絡が来て、事件を知らせる。おれが向かう。二人で収束させる。
その次の日、さやかから使い魔が現れているとの連絡を受け、そこへ向かったが、既に使い魔はあらかた倒されていた。
そして、一日空けて、今日は……。

「……まさか……」

今日の事件を思い返したとき、おれは布団から飛び起きていた。おれの脳裏に、『敵』の正体が浮かんだからだ。
これなら、全てのつじつまは合うし、何より、今朝見た『悪夢』の説明も付く。
しかし、もしそうだとしたら……一番危機に立たされているのは……。
おれは携帯電話を持ち、少年同盟に連絡を入れた。おれの仮説がもし合っていたとしたら、まずはこの敵が『有り得る』存在なのかどうかを、確かめなくてはならなかった。

「もしもし……。ああ、おれだ。風田サブロウ。一つ、調べて欲しい事柄が……」





後書
まどか☆マギカ最終回を見て、『リュウの道』を思い出した人ってどれくらいいるんでしょうかね?



[27071] 【イナズマン編】超能力者と魔法少女が出会ったら【5】
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/08/16 12:25
『はい、もしもし……ふぁ~あ……』

携帯電話の向こうから聞こえてきたのは、だるそうに欠伸を漏らしたさやかの声だった。
あれ? 欠伸なんか上げる時間か?

「おいおい、何欠伸なんか漏らしてんだよ。今正午だぜ?」
『うっさいなぁ……昨日とり溜めてたドラマを一気見してたんだよ……』

ああ、なるほど。それで夜更かししたってことか……。
昨日おれが布団の上で、考え事をめぐらしていたのがバカバカしくなってくる。

「悪いけど、今から、さやかの家まで来ていいか?」
『えぇ……? 勘弁してよ……。まだ寝足りないんだよ……』

聞いている限りは、演技とかじゃなく、本気で眠いらしい。一体何時まで起きてたんだ……?
仕方ない。会ってから話そうと思ったが……。

「ここ一連の騒ぎにカタを付ける方法が見つかったんだよ」
『……それ本当?』
「ああ……」

なんだ? いきなり声に生気が戻ったような……。
と思った矢先、突然電話の向こうから元気な声が飛んできた。

『なんだ、それなら早く言ってよ! えーと何時? 何時に来るの?』
「……え? ああ……」

突然元気になったさやかに少々引きつつ、時間を伝える。
どうやら、こいつの元気の源は『魔法少女として戦うこと』そのものらしい。
裏を返せば、それは正義のためとはいえ、『戦うこと』が好きと言うわけでもあるのだが……。

『あと一時間ちょいか……。了解、待ってるよ。んじゃね』
「あ、おい!」

電話が切れた。まだ言わなきゃならない事があるってのに……。
仕方ない。この際『敵』の説明は家の中でするしかないか。
おれは携帯電話をズボンのポケットにしまい、部屋を出た。しかし、さやかは信じてくれるだろうか。その『敵』の正体を。
おまけに、この敵に立ち向かえるのはおれだけと来ている。いや、信じるしかない。
思えば勝手に組まされたコンビだったが、それはつまり、さやかはおれを信頼してくれていたってことだ。
なら、きっと信じてくれるはずだ。



おれはさやかの家の前に来ている。チャイムを押したが、目の前の扉は閉じられていた。
テレポートは使っていない。精神を極力消費しないためだ。
何の変哲も無い扉が、戦場への入り口にまで見えた。

「おっ、来たなサブロウ!」

ドアを開け、元気な声と共にさやかが顔を出す。
…これがさっきまで眠そうな声を上げていたやつの出す声か?
とりあえず、おれはそれに右手を軽く上げることで答えた。

「よぉ、さやか」
「上がって上がって!」

招き入れるその手に誘われるように、おれは扉の向こうへ歩く。
もう、ここからは思考を戦闘用に変えなきゃならない。
妙に緊張しているおれに気が付いたのかもしれない。おれの前を歩いていたさやかが後ろを向き、変な顔で尋ねた。

「……どうしたのよサブロウ。そんな緊張して……」
「あ、いや…別に……」

つい誤魔化してしまったが、さやかは怪訝な表情で、おれの顔を凝視し始めた。
そして突然、にやっと笑いかけた。

「あ、ひょっとして、まだオンナノコの一人部屋に慣れてないとか!? いやぁ、可愛いねぇ、サブロウも!」

にやにや笑いながら、冷やかすような声を出すさやか。
……もう緊張感無いとか、そういうレベル通り越してるな、こりゃ。
言っちゃ悪いが単純にバカなだけなんじゃ……。
とりあえずおれはその場を苦笑いして収めにかかる。しかし、さやかも冷やかしを続けた。
そんな子供みたいな(いや、子供だけど)じゃれ合いを繰り返す内に、前にも集まったテーブルのある場所にたどり着く。
さやかに勧められるように、おれは座り、向かい合うように、さやかも座った。

「んで? カタを付ける方法ってのは?」
「それなんだが、まずは敵の正体を聞いて欲しいんだ」
「敵の、正体?」

おれは説明を始める。
まず、ミュータントにも色々種類がいて、使う能力も様々であるということ。
おれのようにイナズマ放電を得意とするものもいれば、火炎放射を得意とするものもいる。
だが、そういった事象を起こす超能力者とは、全く違うタイプの超能力者もいる。
即ち、『身体を持たない超能力者』だ。
生前が超能力者だった人間は、死んだ後も残留思念と言う形で存在し続ける事例がある。勿論、それも素質に左右されるのだが。
それでも、その状態でもある程度の超能力を使える。それは、ただ話すことが出来ると言ったものから、何かを間接的に操ると言うことまで可能だ。
昔からある、突然何も無いところから石が降ってきたり、物が勝手に動いたりする『ポルターガイスト現象』も、そう言った超能力者の仕業である場合があった。
今回の敵はまさにそれ。しかも、そいつはとても厄介な部類のやつで、『特定の人間の精神に潜む能力』を持っていた。

「え、じゃあ……」

おれの説明に驚いたらしく、さやかの眼が丸くなった。
そう。おれは頷いた。

「敵は、さやか、お前の『精神の中』にいる」
「え…ちょ、ちょっと待ってよ。訳解んない……。大体、あたしの心の中にいるんだったら、あたしが気が付かない訳ないじゃん」
「いや、そういうのって案外気付かないものなんだ。人間って言うのは、自分の心の中を除けない生き物だからな……」

さやかが押し黙る。信じてはくれたらしいが、やはりショックなようだ。
そうだった。今までの使い魔に対するおれの行動パターンは『さやかが見つけた』あとで始まっている。
つまり、『敵』は使い魔をさやかの内部から動かしていた、と考えられる。使い魔は一種のエネルギー体らしく、テレキネシスである程度操ることが出来る。
それを使って使い魔を操り、おれ達を襲ったんだ。目的は不明だが、それは後で確かめる。

「……それで、サブロウは、どうするの?」

やけに心配そうに、さやかはおれを見た。
心なしか、身体が震えているようにも見える。

「あたしを……殺すの?」

何を言い出すんだ?

「何でそうなるんだよ?」

そう聞いた途端、さやかが手の平をテーブルに叩き付けた。明らかに取り乱している。
咄嗟におれは身構えてしまった。

「だ、だって、そいつはあたしの中に潜んでるんでしょ!? だったら、あたしやサブロウにはお手上げってことじゃない!」

取り乱したように騒ぎ出すさやか。
だとしても、こうなることも予想できていた。
しかし、こうなると言わないほうが良かったんじゃないか、と思ってしまう。
それでも、味方に何も話さず、ただ行動を起こすよりかはマシに思った。
とりあえず、暴れだしそうなさやかを止めることにする。

「落ち着けよさやか! 方法が無いわけじゃない!」

その言葉に、さやかは動きを止めた。だがそうは言っても、その震えは止まらない。
さっき、おれに『あたしを殺すの?』とさやかは言った。つまり、おれの力なら簡単に自分を殺せる。とさやかは思っていたってことだ。
それは、使い魔退治の時に、調子に乗って力を振るった『ツケ』のようにも感じる。
……自分の肝心な時に限って後先考えない性格に、軽い自己嫌悪を覚えた。
自分のやった事柄に対する『ツケ』って言うのは、今までにも痛いほど味わっている。
おれは、何もかも一瞬にして奪われ、守りたいものを守りきれなかったあの頃から、何一つ変わっちゃいなかったのか……。

「方法って……。何があるのよ……」
「これは、おれにしか出来ないことなんだが……」

一応、落ち着いたらしいことに安心感を覚えつつ、おれは説明を始めた。
つまり、おれがさやかの心の中に入り込んで、そこで倒すと言うこと。自分以外の精神の中に入るのは、非常に危険な行為とされている。
心の中を『覗く』のはそんな危険な行為でもないのだが、中に『入る』なら話は別だ。
元々の精神の持ち主が、入ってきた者を拒絶するかもしれないし、第一入ることすら出来ないかもしれない。
それは、入られる側と入る側の心の強さに左右されるのだが……。

「……そっか……」

説明が終わると、さやかはうつむき、そう小さく言う。
それは、自分の無力さを痛感しているようにも、おれは見えた。
少しの間、気まずい沈黙がそこを支配していた。さやかは考え込むように動かない。やはり、仲間とはいえ、心の中に入り込まれるのは、色々と抵抗があるのだろう。
そうだよな。いくら力のある存在だからって、結局は10代の少女なのに変わりは無い。拒絶するのは、当然だよな。
おれは別の方法を考えることにした。心の中に潜んでいるのなら、そこから追い出す方法だってあるはずだ。
それを探そう。
だが、おれがそれを言う前に、さやかが顔を上げ、口を開いた。

「いいよ、やって。サブロウ」
「!」

突然のさやかの発言におれはあっけに取られてしまう。今何て言った!? と言い出しそうになったが、喉元で飲み込む。
その代わりに、極力落ち着いた姿勢で、静かに聞き返す。

「いいのか? 心の中だぞ?」

さやかはやわらかく微笑んで、返した。

「サブロウを信じるよ」

その笑顔からは、信頼のほかにも、何か覚悟のようなものも感じ取れた。
会ってからまだ数日しか経っていないようなヤツに、どうしてここまで信用するんだろうか?
おれの疑問を汲み取ったかのように、さやかがにや付いた笑みを浮かべた。
しかし、その笑いはどこか、あきらめの含んだ笑顔だった。

「お、不思議そうな顔をしてますな? まぁ、サブロウの言いたいことはごもっともだよ。何言ってるんだろうね、あたしって」

図星なので、おれは言い返せない。

「あたしさ、昔から、一度信じたものは最後まで信じる癖があってね? それで痛い目に遭ったり、バカを見たりしたんだけどさ……」

さやかは静かに眼を閉じる。瞼の裏にある、過去の思い出を見ているのかもしれない。

「後悔だけは、絶対にしなかったんだ」

瞼を開くさやか。青みがかったその眼に、決意の色が浮かんでいた。

「だから、あたしはサブロウを信じるよ」



壁に沿って置いてあるソファに横になったさやか。そして、その枕元に立つおれ。
精神の中へ潜入するには、まず、テレキネシスの応用で脳にショックを与え、人体を一時的な仮死状態にすることが必要だった。

「本当にいいんだな、さやか?」

未だ、おれは自分の中にある心配を拭えていない。
これは、一種の恐怖にも似ている。

「いいよって何度も言ったじゃん」

しょうがないな、とでも言いたげな表情で、さやかは気丈に笑って見せた。

「あ、でも、いくら敵を倒すためだからって、あたしのトラウマとか掘り返したら、絶交だからね?」
「へいへい……」

……やっぱり、こいつには緊張感が足りていない。まぁ、でも、変に緊張されるよりマシだよな。
おれは右手を伸ばし、さやかの額に中指を軽く当てる。さやかは体を強張らせたようだったが、腹の上で両手を握り合い、眼を閉じる。
精神統一。準備は出来た。

「サブロウ」

か細い声が聞こえた。さやかは眼を閉じたまま、静かに言った。

「頑張って」

おれは頷く。
さぁ、行くぞ、精神の中へ!





後書
とある書店にて、まどか☆マギカのポスターに目が止まった、母親の台詞。
「何か、このピンク色の子(まどか)だけデザインが昭和チックだね。他の子は今風だけどw」
そんな母はサリーちゃん世代。



[27071] 【イナズマン編】超能力者と魔法少女が出会ったら【6】
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/08/29 17:58
精神の内部とは、その人間の人生観、もしくは心の有り様を表す。しかも、とてもダイレクトな形で、だ。
それでも、さやかの精神の内部は、おれには理解し難い情景が広がっていた。
ある種、魔女の結界にも似た世界が、そこに広がっていた。
天井には青空。というより、青一色で塗りたくったような、丸い天井。まるで、卵の中にいるような、そんな感じだ。
そして、おれが今いるここは、どこかの舞台のような形をしている。
しかし、そこに客席はなく、一つの巨大な舞台を丸く囲むように、階段が立ち並んでおり、その上には一人ずつ、バイオリンを持った人影が並び、構えていた。
これが、さやかの心の内部。音楽とは無縁そうに見える彼女の心が、どうしてこんな形を表しているのだろうか。

「さぶろう」

どこかから、さやかの声が聞こえた気がした。
驚いたおれは、辺りを見回す。
確かに、さやかの声が聞こえた。しかし、それは有り得ることではない。
人間は人間である以上、自身の心の中に入ることは不可能だ。
ということは……。

「やっぱりか……」

舞台の奥に目線をやる。
そこから音も立てずに現れたのは、適当な色のペンキをぶちまけ、それを人の形に、いや、さやかのシルエットの形にしたようなものだった。
その人の形をしたものが、一瞬、真っ黒になり、新しく色を付け始める。
頭の部分が薄い青に、胴体を薄い橙色に、足の部分を茶色に。
学生服を着たさやかが、そこにいた。
……いや、こいつはさやかじゃない。こいつはただ単に、さやかの姿をそのまま真似ただけだ。
そいつは口の両端を曲げ、いびつな笑顔を作り出す。

「さぶろう」

そいつはさやかの声で、しかも優しい口調で、おれを呼びかける。
つまり、声は全く同じだが、口調がまるで違っている。

「お前は……?」
「さぶろう、私ガ判ラナイノ?」

違う。こいつはさやかなんかじゃない。
おれはなるべく押し殺した声で、目の前のそいつに向かって言う。

「……お前は、さやかじゃない。他人の中に勝手に居座りやがって。一体何が目的だ?」
「ヤッパリ、コノ程度ジャ騙サレナイカ。不意討チヲ狙ッタノニ」

おれは身構えた。
心の中での戦闘はあまり経験が無い。だが、そんなことは言っていられない。
こいつを何とかできるのは、おれだけだ。

「目的ガドウノトカイッタヨネ? ソンナノナイヨ」
「何だと……?」

そいつの声に、さやか以外の声が混ざり、二重音声のようになる。
この声が奴の本来の声なのか。それとも、本来の声なんてものは無いのかもしれない。

「私ハ、コノ子ノ望ミヲ叶エテルダケダヨ」
「さやかの、望み……?」

おれが聞き返した途端、そいつは突然、火が付いたように笑い出した。
二重音声の大きな笑い声が当たり一帯に響く。あまりに奇妙な声なので、長く聞いていると、耳がおかしくなりそうだ。

「何笑ってんだ……?」
「解ラナインダ? ズット一緒ダッタクセニ、ホント、鈍インダカラ!」

いきなり何を言ってるんだ、こいつ?

「ミキサヤカハネ、戦イタクテショウガナインダヨ? 使イ魔を、魔女ヲ殺シタクテ、ショウガナインダヨ!」

そいつがげらげら笑いながら、右手をかざす。
何も無いところから、さやかが使うものとよく似た剣が引き抜かれた。

「ダカラ、戦ワセタノ! 私ッテ親切!!」

段々と、台詞が破綻しているのを見て、おれはこいつが正常じゃないことを確信する。
しかし、一体こいつはいつさやかの精神に入り込んだのだろう?

「邪魔シチャ駄目ダヨ! さぶろう!!」

突然、目の前にそいつが立っていた。瞬間移動でもしたのだろうか。
右手に持った剣を構え、おれを目掛けて振り下ろす。
どうやら、おれを邪魔者だと判断したらしい。
バイオリンを持った人影に囲まれた舞台の上で、死闘が始まった。

「ちっ……」

鼻先を掠めていくさやかの、いや、ミュータントの剣。
太刀筋を見る限り、こいつの戦い方はさやかの戦い方をそのままコピーしているらしい。
しかし、だからといって太刀筋が全て読めるというわけではない。
おれの仲間にも剣道の得意な奴がいて、何度か戦ったこともある。だが、そいつの剣術は、ちゃんとした流派のあるものだった。
比べて、さやかの剣術は完全に形にはまっていない我流だ。
結局、面倒なことに変わりは無い。

「ドウシタノ? 何デ避ケタリスルノ?」

誰かの声とさやかの声が入り混じったような声で、そのミュータントは囁いた。
その囁きは非常に優しげで、ともすれば身体の力が抜かれそうだ。
だが、この程度の話術に惑わされるもんか。第一、さやかはそんなしゃべり方はしない。

「避ケナケレバ、コノ子ヲ助ケラレルノニ……」
「うるせぇ!」

つい、そいつの言葉に反応して、声を荒げてしまう。
こいつの言う、「助け」は、恐らく、これからもずっとさやかを戦わせる「助け」なのか。
……戦わせることを、「助ける」だと?
あまりにも滅茶苦茶な理論に、おれの中に怒りが生まれる。だが、それは心を乱すという意味でもある。
心の乱れは、超能力の乱れにも繋がる。魔法が心の力なら、超能力も精神、つまり心の力だ。
ある種この戦いは、心と心の戦いのようにも思えた。
縦に横に、右に左に、闇雲に振るわれる剣をかわし、体勢を整えようとする。
だが、向こうもそれに気が付いていたらしい。
頭上に刃が降ってきた。
攻撃パターンが変わった!?

「っ!?」

声にならない悲鳴を上げ、その刃を右腕で受け止める。
おれの右腕は、岩石のように変わっていた。

突然変異……サナギ……サナギに……なる……

サナギマンへと変わったおれは、剣を受け止められ、一瞬動きが鈍ったミュータントの腹を蹴飛ばす。
吹き飛んだミュータントは、体勢を空中で整え、ふわりと着地、そのまま飛び込んできた。
ここは精神世界。空気も重力もない。明らかにこちらが不利だった。
距離を詰められたおれは、両腕を盾にして、斬撃を防ぐ。
だが、斬撃は次々と襲い掛かり、それら全てがおれの両腕に集中する。
ガードを無理矢理破ろうとしているらしい。
ここが精神世界じゃなければ、剣を奪い取るなり、折るなりしてやり過ごすところだが、ここではそうも行かないようだ。
相変わらずミュータントは、さやかの顔でニヤニヤ笑いながら、剣を振り上げてくる。
余裕の表情って言うのは、こういうことを言うのか。

「クスクス……アハハ……アハハハ……」

聞いていて頭の割れるような笑い声を出しながら、次々とおれの両腕に切り傷をつけていく。

「チクショウ、調子に……」

おれは両腕にありたっけの力を込め、一気に広げる。

「乗るんじゃねぇ!」

発生した衝撃波が、ミュータントを吹き飛ばすが、そのミュータントは身を翻し、軽やかに着地する。
その時、おれの視界からそのミュータントが消える。
奴がいないことに気が付いた時には、そのミュータントが目の前に立っており、おれは奴の斬り上げをモロに食らう羽目になった。

「う……あっ!」

はるか後方に吹っ飛び、おれは背中から落下する。
また瞬間移動かと思ったが、どうやら、それは瞬間移動の類ではなく、単に一時的に自身の速さをマッハ以上にしていたようだ。
恐らくこの能力も、さやかからコピーしたものって所だろう。
こいつの姿がさやかそのものだからか、おれの中には迷いが生じていた。今思い返せば、あの悪夢も、こいつが見せたんじゃないかとすら思えてくる。

「アハハハ……スグ戦ワセテアゲルカラネ、サヤカ……アハハハ……」

倒れたおれの目の前に、ミュータントが立っていた。
剣をまっすぐ下に構えていて、おれを串刺しにするつもり。ってのが、手に取るようにわかった。
おれは身体を転がし、その攻撃から逃れる。

「幸セニ、シテアゲル! 私ガ、助ケテアゲル!」
「……くそっ」

小さく悪態をつき、おれは再度身構える。
こいつの攻撃は、よく見るとパターンをちょくちょく変えているだけで、あとは闇雲に振るっているに過ぎない。
剣の達人が見れば、すぐに見抜けるだろう。剣に関しては、こいつは達人なんかじゃなく、まったくの素人だ。

「サヤカ、サヤカ! サヤカハ何ニモ悪クナインダヨ! 好キナ人ノタメニ戦ッタッテ良インダヨ! 助ケナクテ良インダヨ! 正義、セイギ! マホウショウジョサヤカ! サヤカ!」

錯乱したかのような台詞を並べ立て、ミュータントは剣を振るう。
正直、ここまで狂ったミュータントは始めて見た。一体何がこいつをここまで狂わせたんだ?
ミュータントとはいえ、こいつも元は人間だったはずだ。

「サヤカサヤカサヤカサヤカサヤカ! サヤカサヤカサヤカサヤカサヤカ! サヤカサヤカサヤカサヤカサヤカ! サヤカサヤカサヤカサヤカサヤカ! サヤカサヤカサヤカサヤカサヤカ! サヤカサヤカサヤカサヤカサヤカ! サヤカサヤカサヤカサヤカサヤカ!」

しきりにさやかの名前を連呼しながら、ミュータントは剣をおれに振り下ろす。
おれはそれを右手で防ぎ、そのままなぎ払う。
そして後方に飛び、両腕を交差させる。こっからが、本番だ!

「イ!」

突然変異……

「ナ!!」

チョウ……

「ズ!!!」

チョウに……なる……

「マーーン!!!!」

全身に溜め込まれたエネルギーを一斉開放。
同時に発生した、稲妻のような放電エネルギーが周りを吹き飛ばす。
今度は念動力の抑えは必要ない。精神世界ならば、あらゆる質量はイメージと化し、肉体へ与える影響はなくなるからだ。
しかし、それは、なるべく早いうちにここから出ないと、おれ自身もイメージとして、永久にここから出られなくなる、という意味でもあった。
対して、このミュータントはすでに肉体が無いのか、永久にここにいても平気らしい。
イナズマ放電を収束し、ミュータントに向けて放つ。
とっさのことに反応が出来なかったのか、放電はミュータントにモロにぶち当たり、吹っ飛んだ。
手から離れた剣が中を舞い、空中で消える。床に倒れるミュータント。放電のショックか、全身が痙攣していた。

「イタ……イ……サヤカ……痛イヨ……助ケテ……」

弱々しく、そう、助けを請うミュータント。
おれは慎重にそいつに近づく。あれだけの放電を受ければ、さすがに動けなくなるだろう。
すると、ミュータントは恐ろしいものを見るような表情で、倒れたまま後退った。

「さぶろう! さぶろう! 助ケテ、さぶろう……」

眼に涙が浮かび始めた。本気で恐れているのか?
だが、手は伸ばさない。
こういう時、手を差し伸べたら、どういう結末が待っているのか。
おれはそれを今までの戦いで痛いほど承知していた。全てを失う痛みを、伴うほどに。
触角を動かせ、振るわせる。触覚に電流が流れ始め、火花がスパークする。
思念波放射。
サイコキックウェーブアタック。
破壊という思念の塊を、電流のイメージに乗せて放つ、必殺の一撃。
それは、さやかの姿を模したミュータントの胴体を確実に射抜いていた。悲鳴が辺りを振るわせる。
ミュータントの身体が崩れ始め、元の黒い塊に戻ろうとするが、さらに崩れていく。断末魔のミュータントは、不気味なほど形だけが残った、さやかの顔をおれに向けた。

「駄目ダヨ……。サヤカ、戦ワナキャ、死ンジャウヨ……。サヤカ、自分ヲ殺シチャウヨ……。駄目ダヨ、ダメ……」

ミュータントの声が段々と小さくなってくる。おれは背を向け、イナズマンから、風田サブロウへと戻る。
もう、そのミュータントは、消滅から逃れられない。
全ては終わった。後は、ここから出るだけだ。
しかし、おれの気は晴れない。あのミュータントの言っていたことが気になっていたからだ。
ただ、錯乱していただけ、という解釈も出来なくはない。だが、おれはそれだけでは納得がいかなかったのだ。
事実、さやかから聞いた『魔法少女』自体、胡散臭さが漂っている。
契約。願い。魔法。そして、代償は魔女と戦うこと。
……本当にそれだけなのか?
そして、さやかに手を握られたときに感じた、妙な『冷たさ』、この奇妙な精神空間。
と、疑問符の浮かぶ場所はいくらでもある。

……魔法少女。
……魔女。

何かわからない、しかし、冷たいものが、おれの背中に落ちた。





後書
次回エピローグです。



[27071] 【イナズマン編】超能力者と魔法少女が出会ったら【エピローグ?】 ※後ほど追記します
Name: アキカン◆b8524357 ID:a4044280
Date: 2011/12/25 13:40
目覚まし時計代わりの携帯電話から、起床時間を知らせるアラームが鳴り響く。
あたしはその音の発生源に右手を伸ばし、寝ぼけ眼で、その音を止めた。
暑い……。
夏でも朝早ければ涼しいだって? 嘘ばっかり。今7時だけど、部屋の中相当暑いっての……。
かといって朝早くからエアコンをつけるわけにも行かないし。
結局、学校が始まっても、あたしはしばらくこの暑さと戦う羽目になるのだ。
少々うんざりしつつ、あたしはベッドから這い出て、壁に下がっている我が見滝原中学校の制服を取り、大体一ヵ月半ぶりに、袖に腕を通すのだった。
朝食を済ませ、持ち物の確認をした後、玄関に行く。まだ眠気は取れない。まぁ、歩いているうちに覚めるからいっか。
靴を履こうとしたその時、あたしはそばに置いた鞄に眼が留まった。

「っと、いっけなー……」

大事なものを忘れるところだった。自室に駆け込み、机の上に置いてあったそれをとる。
夏休みに出会った友達からもらった、世界に二つと無いもの。
チョウの触角に似た形で、手の平サイズの大きさ。色は真っ青。正直地味だけど、世界にたった一つだけのアクセサリー。
それを鞄の金具にしっかりと付け、鞄の取っ手を握り、持ち上げる。

「行って来まーす!」

勢いよく、あたしは家から飛び出した。
ふっふっふ……さぁて、一ヶ月以上も会えなかったから、今日はアノ手コノ手でたーっぷりと可愛がってあげようかな! 
我が親友へ、そんな少々邪な期待をしつつ、あたしは道を駆け出した。



と、調子に乗ったまでは良かったものの、結果はごらんの有様。
いつものように後ろから抱き着いて、一か月分のまどか成分を補給しようとした。そしたら、見事なステップでかわされたと来た。まどかってこんなに運動神経あったっけ?
結果、あたしは派手に蹴つまずき、スカートの中を(一瞬だけど)晒してしまうという、結構な醜態を披露したのでした。とほほ……。
あたしの前で、まどかは仁王立ちした。いかにも「怒ってます」な表情。

「やっぱりしてくると思った! さやかちゃん本当に懲りないんだもん!」
「ふええ~ん……。まどかに怒られた~。もうあたし生きていけない~……」
「もう、大げさですわよ。さやかさんったら……」

んで、そんなあたし達の漫才に仁美が苦笑い。
うん、いつも通りだ。でも、昨日は今日じゃない。毎日って言うのは、少しずつ変わったり、戻ったりするものだ。
今日変わってるのは……。

「あら、さやかさん?」
「ん? 何?」
「鞄にアクセサリーが……」
「あ、ほんとだ」

最初に気が付いたのは仁美。お、中々めざといな……。

「ねぇねぇ、何これ?」
「鳥の羽……ではないですわね……」

口々に聞いてくる二人に、あたしは鞄からアクセサリーを外し、これ見よがしに天に掲げる。
そして、いかにも自慢げに、説明。

「ふっふっふ……。良くぞ聞いてくれました! これぞ、世界に…いや、宇宙に二つと無い、チョウの触角を模った神秘のアクセサリー! これを手にした者は、それに込められた超能力により、己の隠れた潜在能力を開花できるようになるのだー!」
「あ、あはは……そう、なんだ……」

うん、苦笑いと呆れが混じった反応。期待通りの反応だ。

「隠れた潜在能力……、す、凄いですわー!」

……うん、こちらも大方予想通りの反応。口の前で手を広げて、とかなりテンプレな驚愕の表情。
親しい人の言うことは大概信じてしまうのは、仁美の長所だよね。その方が案外話しやすいし。

「でも、そんな凄い物を、一体どこで?」
「うん? これはね……」

右手に持ったアクセサリーを凝視しながら、あたしは言う。

「あたしの、相ぼ……じゃなくて、知り合いとの約束の証なんだ」
「約束?」

まどかが不思議そうな表情で尋ねる。

「どんなことがあっても、絶対に自分を見失っちゃいけない」

あたしは目を閉じ、そのときの事を回想。

『何? これ』
『まぁ、持っとけよ。御守りみたいなもんさ』
『超能力者のあんたが渡すものなんだから、なんかあるんでしょ?』
『……やっぱわかっちまうか』
『とーぜん!』
『そいつは、おれの……イナズマンの触覚の一部だ』
『え、ちょ、ちょっとじゃあ、これ……』
『大丈夫だって、ほんの一部だし……大したことはねぇよ』
『ふ、ふーん、そうなんだ……。で? これ何があるの?』
『まぁ、簡単言えば超能力の増幅器みたいなもんだな。おれが持てば』
『あたしが持てば?』
『魔法の増幅装置……ってことになるのか?』
『いやいや。『なるのか』ってことはないでしょ……』
『でも、マイナスの効果にはならないはずだ。事実、お前の魔法を見たとき、超能力と同じものを感じ取れたからな』
『ふーん……。んじゃ、有難くもらっとくとしますか!』
『あ、それと……』
『ん? 何、改まっちゃって……』
『一つ、約束をさせてくれ』
『約束?』
『ああ、……絶対に自分を見失うな。どんなことがあっても……』
『……それってつまり、何があっても、あたしらしくしろってこと?』
『まぁ、そういうことでいい。出来るよな?』
『なんかよく分かんないけど……わかったよ。んじゃ、あたしからも、一つ、いい?』
『何だよ?』
『いつか、近いうち、またここに、見滝原に来なよ。サブロウのこと、あたしの仲間に紹介したいしさ』
『紹介? 自慢の間違いじゃないのか? 超能力者のダチがいるってな』
『う……返す言葉もありません……って言うか、勝手に人の心を読むなー!』
『やべ、バレてたか……』

あの後、サブロウは見滝原から去っていった。そして、まどか達も帰ってきて……。
いつもの日常が、戻ってきた。
アクセサリーを空にかざし、陽の光に透かす。
イナズマンみたいに、それが光る。それ自体が、輝いているようにも見えた。
その輝きを見た途端、何かがあたしの脳裏にフラッシュバックする。そう、これはただのアクセサリーじゃない。なら、名前があったっていいはずだ。
これに合う、カッコいい名前が。

「ゼーバー」

そうだ。ゼーバーだ。










後書
生存報告です。
夏休み中には、イナズマン編を完結させるつもりだったのにどうしてこうなった。
こちらの事情とはいえ、読んでくださった皆様、長らく更新停滞していて申し訳ありません。

※一応、これはエピローグなのですが、さやかサイドとサブロウサイドがあります。
現在の所はさやかサイドしか書き上げていませんが、サブロウサイドも完成次第追記いたします。


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