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[3823] コードギアス 反逆のルルーシュ・逆襲のボンクラ (8か月ぶり更新)
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2009/04/27 21:32
 コードギアス 反逆のルルーシュ・逆襲のボンクラ






いつもの道、いつもの街角。

日本のじめっとした夏の路地裏の抜け道。

崖の上のポ○ョを口ずさみながら歩いていたあの日。

未来へこれといったビジョンも持たずにただ惰性で過ごす日々。

だけども、そんな惰性で過ごす日々に小さな幸せを感じていたりする、小市民だった。

突然の立ちくらみ。

今まで経験したことのない感覚。

貧血とはまた違う症状。

身体のすべてに圧し掛かる重量感。

その不快感のすべてがたまらなくて、救急車を呼ぼうと携帯を取り出す。

百十九番を押し終わる前に目の前が真っ暗になり手足の感覚もなくなった。

脳裏を駆け巡る突然死という符号。

テレビの健康番組のBGMが脳内でリフレインされる。



身体からの最終警告をワタクシはどこで見逃してしまったのだろうか・・・。








そんな後悔をしていた数秒後。

突然目の前が明るくなりました。

周囲に見渡すとここは飛行機の機内のようです。

どこだここ?

まったく見覚えのない場所に大いに戸惑っていた時でした。

機内の窓という窓から強烈な光が差し込んできたのです。

その時、ワタクシの近くに座っていた、家庭教師風の女性が呟いたのが聞こえました。



「なぜ、ここでフレイヤを――」



次の瞬間意識が途切れました。







「あ~~~、失敗。 連れてく時間を間違えた。 気にしないで、この場面はまだ先の話だから・・・」







再び意識を取り戻すとワタクシは温かな水に包まれていました。

さきほどのアレは何だったのか、見当もつきません。

結局何も分らぬままにその水の中で、長い月日を過ごし、暗く長い道を通り抜け、外気と触れあい、ようやく外の世界に出れたのでした。

これまで不可解に過ごした月日の謎がいま解けることへの歓喜の涙で一杯です。

やはり途中からどうしてこんな事になったのかと、考えることをやめたのが良かったのかも知れません。

真面目に考えていたら頭がおかしくなってしまいます。

色々とこれまでの葛藤を思い出しながらも、外の世界はどうなっているのかしらと確認するために、ようやく開くようになったまぶたを開けることにしました。

肉体年齢0歳と数十時間、精神年齢"ピー"歳の賢しらな赤ん坊さんはゆっくりとまぶたを開け、その世界で最初に目にしたものは・・・



     

ちくわのお化けでした・・・・・・

こう頭をまきまきしている男性がワタクシをじっと見ています。

ワタクシはどうやら女性の腕に抱かれているようで、その女性は優しくワタクシの頬をなでたり摘まんだりしています。

ワタクシのほっぺたをぷにぷにしながら、その女性は言いました。



「陛下、お抱きになりますか?」



まきまきしている男性が手をのばしてきます。

その腕にワタクシを抱き、この生まれたての文字通りのベビーフェイスを眺めながら呟きました。



「ほう、これがワシの子か」







アナーゴさんです。

お声が渋い、渋すぎる。

ワタクシに一体なにが起きているのでしょうか?

もう訳が分からないのです。







助けて、神様・・・・・・。






皇歴千九百××年 七月××日  神聖ブリタニア帝国第九十八代皇帝 シャルル・ジ・ブリタニアの第六皇子 クロタール・ラ・ブリタニア生まれる。

兄は第三皇子、クロヴィス・ラ・ブリタニア。


     

     


ボンクラの新しい人生は、今ここに幕を開ける・・・・・・。















あとがきと謝罪。

このたびはお騒がせして申し訳ありませんでした。

SS探索掲示板のほうにも書かせていただきましたが、未熟な私が色々と至らないばかりに起こった出来事だと深く反省しております。

以前の作品に修正を加えながら投稿をしていきたいと思っていますので、至らない点などがあればご指摘をいただけると幸いです。



[3823] 第二話 恥ずかしいこと
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/13 20:39
第二話







ある日の路地裏で、時空間超越性突発ご都合主義貧血に襲われた、Aさん。

なにを血迷ったか、コードぎあっす!!な世界に生まれてしまった。  

パパは、お声の渋いちくわお化けこと ブリタニア皇帝 シャルル・ジ・ブリタニア なんと奥さんを煩悩の数だけ持っているという。

そんなムスリムも真っ青な一夫多妻なご家庭(サウジアラビアでは奥さんは、四人まで)に生まれた、Aさんの運命はいかに・・・







あの日、外の世界に出れたあの日からは散々なものでした。

まず、ちくわのお化けの顔を見た瞬間、頭は真っ白。

思わず呼吸をするのも忘れるぐらいです。

意図せずに窒息死して享年0歳と数十時間になる、一歩手前でした。



そして、もうとりあえず、泣きました。 



パニックです。

生まれた日から驚きの連続攻撃です。

なんでワタクシが赤ん坊になっているのか?

この部屋はどこ?

なにこの「文句があるならヴェルサイユへいらっしゃい!」っていう感じの宮殿?

ワタクシ、初めてセバスチャンを見ましたよ。

メイドさんが一杯です。

ワタクシの世話をする乳母だけで、両手の指より多いのです。

顔と名前が一致しない!

お家の敷地の中に森があります。

お庭を馬に乗ってお散歩?

日本人のウサギ小屋なめんな~!



いったい何が、この身に起きたのか信じられませんでした。

もう夢としか思えないぐらいで・・・

毎晩眠りにつくたびに、眠ったらもとの世界に帰れると念じてたりしました。



しかし、ある出来事をきっかけにこの世界を受け入れました。

もう受け入れるしかなかったと言い換えればいいのでしょうか。







この世界を受け入れる前のある時期のワタクシは、自殺という手段でこの世界から逃げ出そうと致しました。

いっさいの食事を絶とうと試みたのです。

なんていう消極的な逃避手段でしょうか。

しかし赤ん坊のワタクシには、首を括る体力も筋力もなかったのでした。

食事を与えてもらっても食べず、強引に食べさせられたら吐く。

これを繰り返しているうちに自分の意思の力とは関係なく、体が食べることを拒絶するようになりました。







この卑怯な精神を持つワタクシの真意に気づく者は、いませんでした。

いままでワタクシの世話をかいがいしく焼いてくれた、侍女や乳母たちは病気にでもなったかと狼狽。

このアホなガキの掛かり付けのお医者さんは、病気ではないかと検査し必死に原因を調べて治そうとしてくれる。

まだ幼い兄のクロヴィスはただごとならない状況を察したのか、ワタクシのふやふやした手をギュッと握り締めて、泣きそうな表情をしています。

こんな捻くれたワタクシをこの世に生み出してくれた母などは、大きく可愛らしい瞳に涙を溜めワタクシの名前を呼び続けるのです。







クロタール! クロタール!・・・と







これほど自分の行いを恥じたことは、今まであったでしょうか。

穴があったら入りたいぐらいです。

キンバリーのビッグ・ホールぐらいの穴に隠れてしまいたいです。

自分の命だから、どう扱おうが自分の勝手だと思っていました。

しかし、そうではなかったことに気づかされたのです。

この世界のワタクシは、母や兄の人生にとってもはや勝手に欠けることの許されない一部になっていたのでした。

これを悟ることできたワタクシは、大いに泣きました。



まだ言葉を喋るが出来ない、ワタクシは泣き声に自分の想いを乗せようとしました。





ごめんなさい、と 







皇暦 千九百××年 某月 第六皇子 クロタール・ラ・ブリタニア 原因不明の病により拒食状態になるが、母や兄の献身的な看病によって回復する。



[3823] 第三話 神の見えざる手?
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/13 20:39
第三話  







あの思い違いをしていた自殺未遂から、数年がたちワタクシは無事に成長を続けております。

いまワタクシは、自室にこもり消えてゆく記憶を必死にノートに書き写しているのでした。 

なぜこんなことをしているかというと、世界の修正力とワタクシが勝手に名付けたモノとの苦闘の日々を思い出さねばなりません。



ワタクシがこの「ぎあっす」な世界に生まれ落ちた時の原作の知識量を十とすると、今現在の数値は一ぐらいでしょうか。

これに気づいたワタクシは、必死に覚えていたことをノートに書き写してバックアップをとったつもりでしたが・・・

なぜかノートが無くなるのです。

侍女にうっかり捨てられること三回、ノートの隠し場所を忘れること六回、ノートを書いたことさえも忘れるプライスレス?

なんてことが立て続けに発生すれば、自分の超若年性痴呆の可能性よりもなんらかの外的要因に原因を求めざるをおえなかったのです。



イヤっ、ホントにぼけてないよね??



これがアダム・スミスの神の見えざる手なのかと、違う方向に捉えてみたこともありました。



この修正力のいやらしいところは、コードギアスに関連した記憶のみが失われていることにあるのです。

これから起こるであろう原作の重要な案件については百パーセント覚えておりません。

なにを覚えているかというと、原作の主要登場人物の名前とその人物の個人的な趣味などといった過疎っぷりです。

たとえば、ロイド・アスプルンド伯爵はプリン、セシル・クルーミー中尉はジャムおにぎり、卜部はセミで朝比奈は醤油コーヒーといったカオスな状況なのです。

あとは、ニーナ・アインシュタイン=原爆娘といったところでしょうか。



もう何の連想ゲームだか解らないのです。



この知識で今後をどう生き抜けと!!



それでもないよりはあったほうがいいのでこうして書き留めているのでした。

一方原作以外の知識は、まったく手つかずのシシ神の森状態なのですよ。




親父がブリタニア皇帝だけどなんか質問ある?・・・、なんて某巨大掲示板にスレッドを立てられるほどありますよ。



しかし、役には立たないのでしょうが・・・。



この修正力とのせめぎあいを進める中で一つの「骨太の方針」っぽいのが脳内会議で決定されました。

明日のために~という目標です。



それは簡単なモノで、主人公と敵対しないというものです。

古今東西の物語のなかでの鉄則は、主人公サイドの人間ほど死ににくいという点があげられるのでしょう。

これにはこの「コードギアス」も当てはまるのではないかと思うのです。

これはガチで安全パイではないかと自負しておりますよ。

ほらっ、主人公のルルーシュってブリタニア人で皇族だし、一応ワタクシとも異母兄弟で年も近い、それに兄と共によくチェスをやる仲だ。

これだけ、主人公と親しい接点があればクロヴィス兄とワタクシは安全圏ですよね。

それにルルーシュの妹のナナリーちゃんとも仲が良い、あのシスコンの気がある彼なら妹の親しい親族をボロ雑巾のようには扱うまい。

これで物語が進行してワタクシの命が危険にさらされることはないでしょう。



一時はどうなることかと狼狽しましたが、なんか希望が見えてきましたよ。

原作の物語のあらすじさえ忘れてどうなるかと思ったがこれで大丈夫。

EUでも中華連邦でもかかってこいや!!ってな感じですよ。

ワタクシと兄は、戦場で指揮をとるようなことは能力的に期待されてないと思われるので、ブリタニア本国や国家同士の外交などで皇族の義務を果たしていけばOKとライフプランを考えていたりして。

どうせちくわのお化けの後を継ぐのは、第一皇子のオデュッセウス兄上、第二皇子のシュナイゼル兄上、第二皇女のコーネリア姉上、の三人のうち誰かだろうし。

第六皇子のワタクシは影の薄い存在だから、命を狙われることなどないでしょう。



「本国で安全で静かな皇族生活を送るのですよ」





さてと、考えもまとまったことですしそろそろアリエスの離宮に出かける準備をしないといけないですね。

今日こそは、ルルーシュからチェスで一勝をして兄の仇を取らねば。

外出先に自前のチェスセットを持ち込んで再戦を望むのはちょっとしつこいかもしれませんが、せめて一勝しなければしゃくにさわるのですよ。

そういえば今日のアリエスの離宮には警護の責任者として、コーネリア姉上がいらっしゃるようだから久し振りに顔を会わせるので挨拶をしておくべきですかね。


では、いってきます・・・





皇歴二千九年 アリエスの離宮にてテロ事件が発生。  ブリタニア皇妃マリアンヌ殺害される。 事件現場に居合わせたナナリー皇女重傷を負う。  追加情報・・・クロタール皇子も巻き込まれ意識不明の重体に陥る。



[3823] 第四話 さよなら 優しき日々よ
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/13 20:53
第四話







目を覚ましたらそこは、知らない天井だった。

ある意味定番ともいえることを感じながら、大きくため息をつきました。

なんか体にたくさんチューブが付けられてますけど・・・



暗殺事件に巻き込まれて、瀕死の重傷をいつのまにか負っておりました。

えっ、原作事件回避失敗?

容体が安定したあと、母と兄のお見舞いでことの顛末を聞きました。

あの事件でマリアンヌ様はナナリーを庇って亡くなり、そのナナリーも傷がもとで歩けなくなり、心理的な原因で視力を失ったとのこと。

そしてワタクシはお腹に鉛の弾を二発プレゼントされて、しかも離宮の階段から蒲田行進曲のごとく転がり落ちたそうです。



全然思い出せないんですけど。



母からことの顛末を聴けたのはよかったのですが、ワタクシが目を覚ましたことに感極まったのか熱烈に抱きしめられました。

兄クロヴィスも涙をぬぐいながら、良かった、良かったと言っております。

ワタクシも生きて母や兄に会えたのは大変うれしいのですが・・・、傷が、キズが、きずが開いちゃう。

痛いよ、母上、このままじゃ死の抱擁になる~~。

ナ、ナースコール!!



それからしばらく入院し術後の経過が良好だったので、めでたく退院と相成りました。

幸いにも身体に障害は残らなかったのですが、頭を強く打ったことでさらに原作知識が失われたのでした。

しかし、得るものもあったのです!

これは原作の知識の中でも重要なものではないかと考察できます。

なんせ急に思い出したのですから。



そのキーワードは、「オレンジ」

このキーワードが何を指し示すものなのか、今はまだ分かりませんがワタクシの生き残り戦略の重要なヒントだと思うのです。



この「オレンジ」とは何なのかと考えたり、リハビリやナナリーへのお見舞いといったことをこなしてた時に事件が起こりました。

なんと、ルルーシュとナナリーが日本に留学させられるようなのです。

ブリタニアのインドシナ半島(エリア10)の自国への編入に抗議し、経済制裁を行っている日本ですよ。

考えようにはよっては、準戦争下といってもいい国に!?

ちくわお化けの何をかんがえているのでしょうか。

まるで人質じゃないか。

っていうか、本当に人質だし。

親子の情が薄すぎるぞ。

でもあのちくわが子供を心配して泣くところなんて想像できん。

やっぱり無理か・・・



それにしてもルルーシュは別にいいけど、ナナリーまで!

いや、ルルーシュは主人公だし友好的に接しないと、でもワタクシのことを「へっぽこチェス打ち」なんて呼びやがるし。

カードでならルルーシュに勝てるのに・・・。

ナナリーは絶対だめです。

ワタクシのことを「クロタール兄さま」 なんて可愛らしく呼んでくれるのに。

ユフィと並ぶ原作キャラの癒し系を失ってたまるか!

しかしどうしたらいいのだろうか?



ちくわのお化けに直談判?

怖いし、会ってくれなさそう。



オデュッセウス兄上に相談?

いい人なんだけど、頼りない。



シュナイゼル兄上は?

現在外交交渉で、EUに滞在中。



コーネリア姉上?

まだ政治的な権力は持ってない。



母上やクロヴィス兄上?

論外、母上は政治向きな話は無理だし、兄上はまだ若い。



はいっ、投了。

マイリマシタ。



無力な自分に軽く嫌悪を覚える。

この国で政治的に活動するには、まだ年が若すぎる。

ルルーシュたちの出発は一週間後らしい。

随分急な話だ。



そんなこんなで、早くも一週間たった。

この一週間の間ワタクシはルルーシュたちと会っても何やら気まずくて、まともに話もできない状況だ。

二人にあっても、何を言ったら良いかと身構えてしまう。

そして出発の日、ルルーシュとナナリーを見送る人も少なくアリエスの離宮から旅立とうとしていた。



ルルーシュとナナリーが見送りの人々と別れを済ませ、車に乗り込もうとしていた。



「ルルーシュ! ナナリー!」

ワタクシは息を切らせながら彼らに駆け寄る。

「へっぽ・・・、クロタール兄上」

おい待てや、ルルーシュいま何て言いかけた!

「クロタール兄さま」

二人はワタクシが来たことにすこし驚いたようだ。

ああ、ナナリーそんなに目を腫らして・・・

「どうした、ルルーシュ。 私が来たのが意外かい」

「そんなことはありません。 へっぽ・・・クロタール兄上」

もういいよ、へっぽこで・・・。

「まあいいか、ルルーシュ、ナナリー。 これを餞別にもらってくれないか?」

ワタクシはルルーシュにアンティークのチェスセット、ナナリーに夏用のやわらかな白色の帽子を手渡す。

「ありがとうございます、クロタール兄さま。 大事にします」

「ありがとう。 へっ・・・クロタール兄上」

ナナリーの笑顔を久しぶりにみたよ、良かった。

ルルーシュ、そんなに深層心理の奥まで、へっぽこという呼び名が浸透してるのか・・・

ワタクシは二人に最後にお別れを言う・

「二人とも日本にいっても元気で。  ルルーシュ、次に会う時までチェスの腕を上げておくから、覚悟しておけよ」

「言うじゃないか、へっぽこ。 いいだろう返り討ちにしてやる」

「兄さまも、お元気で」



二人を乗せた車が見えなくなるまでワタクシは手を振った。

次に会うときは、へっぽこなんて呼ばせないぞと心に誓って。







皇歴二千九年 第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア 第十二皇女ナナリー・ヴィ・ブリタニア、日本への留学という名目で送られる。

皇歴二千十年 八月 ブリタニア、日本と開戦  同年九月 日本、ブリタニアに降伏  日本に滞在中であった、第十一皇子・第十二皇女共に死亡したと思われる。

皇歴二千十四年 第三皇子クロヴィス・ラ・ブリタニア、エリア11総督へ志願し皇帝に任命される。 副総督に第六皇子クロタール・ラ・ブリタニアを指名す。



[3823] 第五話 エリア11へドナドナ
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/13 20:59
第五話    







へっぽこ? ボンクラ? 皇子のQ&A


Q エリア11ってなんですか?

A ブリタニアの植民地 旧国名「日本」  ブリタニアへの抵抗運動が盛んなエリア。  原作知識がある人、実力がある人以外は赴任しない方がいいかも。



Q エリアの副総督って何?

A 総督の次に偉い人。  総督のお仕事の補佐をします。  レジスタンスの方々にとっては、総督の次に狙いたいターゲット。



Q 回答者さんの目の前で熱く語っているのは、誰?

A ブリタニアの第三皇子でワタクシの兄である、クロヴィス・ラ・ブリタニアです。



Q 何を語っているの?

A エリア11へ総督として赴任することの意義。 このエリア11の平定は、死んだルルーシュの残した課題ではないかと考えているそうです。


  
Q そのことと回答者さんに何か関係あるの?

A 大いにあります。 兄は自分が総督として力量が足りないのは自覚しており、そのために弟であるワタクシに支えてほしいと言っております。



Q 具体的には何をしてほしいの?

A 副総督としてエリア11に一緒に来てほしいと、副総督就任については皇帝陛下の認可をすでにもらっているとのこと。  



Q で、回答者さんはどうしたいの?

A 行きたくない。 死にたくない。 いやな予感がする。 ママがね、危ないとこには行っちゃいけないって・・・(幼児退行化)







ポーン

「間もなく本機は、エリア11ナリタ空港に到着いたします」

現代のドナドナは飛行機なのか・・・、などとくだらないことを考えておりました。

ワタクシは今、帝国の特別専用機の機上の人となっております。

機内の執務室で兄上とともに新たに派遣された官僚団が新たな統治計画について激論を戦わせています。

公共事業の計画について話しているようですが、ときおり「クロヴィスランド」「クロヴィス記念美術館」「クロヴィス記念公園」などという不審な単語が聞こえてきます。
 
あきれた目でワタクシが見ていると兄上は何を勘違いしたのか、クロタールの名を冠したものも作るから心配するななどとおっしゃります。



兄上、どんだけ~~。







空港に到着すると、今までエリア11を統治していた軍政官が新総督の兄上を出迎えに来ました。

抵抗運動の激しかったエリア11は日本降伏後の数年間軍人の軍政官によって統治されていたのです。

夜間外出禁止令が毎日発令されているようなエリアに赴任するなんて・・・。

兄上とワタクシに軍政官が歓迎の言葉を述べていたその時、空港全体を揺るがすような爆発音と震動が襲いました。

驚いて地面に伏せたワタクシたちに軍政官はこともなげに言うのです。

ここではいつものことです、レジスタンスなりの新総督歓迎なんでしょう、と。

冗談じゃねえっす。



トラウマに残りそうな新総督歓迎式典を早々と終わらせて、兄上とワタクシはトウキョウ租界の中心で官庁街にある政庁到着しました。

有事には要塞となることを考慮された建物で威圧感があると申しますか、まあ立派なモノです。

兄上は政庁を真剣な顔で眺めています。

さすがの兄上も身が引き締まる思いなのでしょう。



ん、兄上の片手には政庁の設計図が広げられております。


何か、独り言が聞こえてきます。



「政庁の屋上にアリエス離宮の庭園を模したものを・・・」



見ざる 言わざる 聞かざるるr・・・。

兄上、あなたは決して悪い人じゃないんだけども、個人的趣味に走りすぎる傾向が・・・。

ちょっと胃が痛いよ。





そんなこんなで、兄上のエリア11総督就任から一か月ほどたったころでしょうか。

ワタクシは兄上に呼び出されて政庁の屋上庭園へと赴きました。

兄上が本国から連れてきたガーデナーたちの不断の努力により庭園は半月を待たずして完成するという快挙を達成したのです。

権力の使い方を若干間違ってないかと思いながらも、やると決めたときの兄上の行動力に感服したものです。

この兄上の行動力は、自身の得意とする分野で発揮されました。

それは、エリア11の文化財の保護でした。

戦争で傷つき、文化に無理解なブリタニア軍人によって荒らされた、寺社旧跡などを兄上と懇意にしている東洋文化の研究者たちに命じて保護計画を作らせたのです。

これにはイレブン=日本人の学者や識者なども自発的に協力を申し出て巨大なプロジェクトとして動き出しています。

この動きによって、日本の知識人などを中心に反ブリタニア感情の若干の沈静化がみられるとの報告が、ワタクシ子飼いの情報部から上がってきてます。

兄上の趣味がこんなところで役立つなんて・・・。



うん、なんか見直した。



屋上庭園に着くと兄上は、庭に咲いた花々を愛でていた。

「来たか、クロタール。 待ってたよ」

「お待たせして申し訳ありません。  ところでお話があると伺いましたが」

兄上は少し申し訳なさそうな顔をして、話の本題を切り出した

「ああ、そうなんだ。 クロタール、君に私の名代としてホッカイドウの抵抗運動鎮圧の指揮をとってもらいたいんだ」



はっ、はい~~~~???



な、なにをおっしゃるうさぎさん。

いきなり実戦ですか、本当に!?



「君が、私より軍事に関する才能はあるのを知っているんだ。 それにナイトメアの登場訓練も欠かさずに受けていることを私が知らないと思ったのかい」

そ、それはただ単純にナイトメアが好きなだけで、乗れたらカッコいいかな、なんてミーハーな気持ちだったなんて言えないし。



「私は君の気持ちにもっと早く気づくべきだったよ。  そんなに戦場に出たいと思っていたなんて」

いや、戦場に出たくないから情報部や警察、憲兵隊を指揮下において抵抗運動の芽を事前に摘む予防策に力を入れてたのに・・・



「コーネリア姉上のようになりたいんだね。 命を懸けて戦うからこそ、統治する資格があるという姉上の考えに感化されたのかい。 立派だと思う誇らしいよ」

無理です、姉上のマネは絶対無理~~。

ワタクシのナイトメアの腕前は、平均点ですよ。

指導してくれたダールトン将軍いわく「可もなく不可もなくですな」ってレベルなのに。

原作知識が警告してますよ、赤いナイトメアにレンジでチンされる!



「現地駐留部隊の報告だと敵のグループは、「ドサンコの誇り」と名乗る軍人崩れらしく、どこからか手に入れた我が軍純正のナイトメアを多数装備してるそうだよ」

何その名前センスないね~、じゃなくて純正ナイトメアを装備って!?

鹵獲品か? それともまた横流しか!?

くそ~、軍の規律が緩みすぎだよ。

誰も彼もレジスタンスの連中に骨抜きにされおって。

これが終わったら目にものを見せてやる、警察、憲兵を使って摘発してやる!!



「クロタール。 よろしく頼むよ。  君の無事を祈ってる」

ああ、兄上そんな真剣な眼で頼まれると・・・



「分かりました、兄上。  兄上の名代として恥じることのない働きをして見せましょう」



こうなったら腹をくくって、頑張るしかないか。







皇歴二千十四年 エリア11にクロヴィス総督、クロタール副総督着任。  クロヴィス総督、文化財保護政策を開始する。  同年、エリア11ホッカイドウ管区にて、大規模な抵抗運動が発生す。

クロヴィス総督はこれを受け、クロタール副総督に鎮圧を命じる。  鎮圧任務を帯びたクロタール副総督率いる親衛隊、チトセ空港に到着するも強力な敵部隊に空港ごと包囲される。



[3823] 第六話 ドサンコとへっぽこの誇りをかけた戦い。
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/13 21:15
第六話







アパーム、弾持ってこい。

言わずと知れた戦争映画のワンシーンですが、ワタクシいまリアル体験中でございます。

兄上のお願いを断りきれなかったワタクシは、兄上の親衛隊の精鋭を率いてお腹をすかせたレジスタンスさんたちを鎮圧するためにホッカイドウへと向かいました。

軍の大型輸送機四機にグラスゴー三機ずつ乗っけてチトセ空港に向かったのはいいのですが、なんだか空港の警備隊にブリタニアの共和主義者さんたちが潜り込んでたそうで、皇族が来ることを事前に知っておられたようです。

ブリタニアが嫌いなドサンコ・レジスタンスさんと、皇族がお好きでない共和主義者さんが敵の敵は味方とかなんとかで意気投合して、さあ大変。

レジスタンスとの戦闘から比較的離れていたチトセ空港には、警察用のナイトポリスが若干配備されていたのみで、そこに共和主義者さんとレジスタンスのナイトメアや装甲車、戦車などが突っ込んできて、ひとたまりもなかったのです。



空港への着陸態勢に入ったと思ったら、まるでモガディシュのようなロケットランチャーの雨あられ。

リアルブラックホークダウンですよ。

しかも運悪く着陸態勢に入っていたワタクシの乗った一番機がロケットを翼にくらうなんて。

もう仕方がないから滑走路に強行着陸ですよ。

それを見た残りの輸送機もクロタール殿下をお守りしろって次々に強行着陸してあっという間に大乱闘スマッシュ兄弟です。

ワタクシも身を守るために、グラスゴーに乗って戦闘に参加しました。



本来の予定では、ワタクシは後方の指揮車両で指揮を執るつもりで指揮官先頭なんて技量的に無理と思っていたのですが、ワタクシの事を壮絶に勘違いした兄上に専用機をプレゼントされてしまいました。

今回のホッカイドウ遠征の前から準備されていたのでしょうか、チューンアップしたグラスゴーしかも全身が赤く塗装されしかも角付きを渡されたのです。

えっ、赤い彗星ですか??

出力三十パーセントアップ??

あの角は、高出力のアンテナだそうです。

もう言葉も出なかったです。

それを兄上に言葉も出ないほど感動していると勘違いされるし。

格納庫で見た兄上のあの嬉しそうな笑顔、もう反論できません。

しかし、兄上に持たされたこの機体にこうも救われるとは、なんだかんだで兄上はすごい人なんでしょう感謝しておかないと。








ワタクシの乗っていた輸送機の周りに次々と降り立つ輸送機。

三番機は着陸直前に操縦席に直撃弾を受け、滑走路に機首から突っ込み大破炎上。

近くにいる残りは、ワタクシを含めナイトメア九機・・・今八機に減った、それと輸送機乗員とワタクシの幕僚団のみです。

いつまでも滑走路の真ん中でドンパチしている場合ではないですよ。

できるだけ早く、空港ビルに残っている味方と合流しなければ・・・

しかし、輸送機乗員や幕僚たちは徒歩で空港ビルまで移動しなければならない。

装甲車などの車両は、あちらで燃えている三番機に搭載してたし。

空港ビルまで結構距離があり、しかも敵の攻撃が激しい。

どうしたらいいかと悩んでいると通信が入った。



「殿下、我らに構わずお味方との合流を。 我らはコーネリア殿下並びにダールトン将軍より殿下のお役に立つようにと申し渡されております。 我らが足を引っ張る訳にはまいりません」



ああっ、そうだった。 

彼らは、未熟で危なっかしい弟で、教え子でもあるワタクシを心配した、敵に厳しく身内に甘い姉と豪快に笑う武人のおっちゃんが、自前の幕僚を持たないワタクシに推薦してくれた者たちだ。

彼らの言葉は正しいのだろう。

この状況なら仕方がないと言えるかもしれない。

いつもの臆病で自己保身しか考えてないワタクシならば、彼らに悪いと思いながらも提案を嬉々として受け入れるだろう。

(卿らの気持ちは分かった、すまぬ) なんて言いながら。



ところがどっこい、今のワタクシは初めての実戦でアドレナリンが過剰に分泌されて、ハイな状態。

いつも冷静であろうとしたクロタールは閉店休業中。

だからこんな恥ずかしいことも自然に言ってしまった。



「貴卿らは、第六皇子クロタールを侮辱するか!!  我は戦姫コーネリア・リ・ブリタニアの弟にして、ブリタニアにこの人ありと謳われた武人アンドレアス・ダールトンの弟子。 そして我はこの地に兄クロヴィス・ラ・ブリタニアの名代として来ている。 その我に無手の臣下をおいて逃げろと言うか!! 侮るのもいい加減にしろ!!」



一度堤を切ったら流れ出る水は止まらない。

後日思い返すと、いつの時代の戦国武将や騎士の言葉だ、っと自己嫌悪に陥るほど恥ずかしかった。



「我が殿を務める! 徒歩の者は早く空港ビルの味方と合流せよ! 戦闘可能なナイトメアは我に続け!!」


  
一瞬の静寂。

あれ、この専用機の通信能力が量産機よりも出力が高く驚いたのかな?

なんて、場違いなことを考えていた。



「「「「「「「「イエス・ユア・ハイネス!!」」」」」」」」



通信機のスピーカーから沸き起こる、怒涛のごとき命令承諾の通信。

親衛隊、幕僚団以外にも空港警備隊からと思われるモノの混じっている。

混線する通信には、クロタール殿下万歳、オールハイル・ブリタニアなんて大合唱が聞こえる



こんなにたくさんの人に、万歳、万歳と言われて決まりが悪くなったワタクシは、こちらに迫ってくる敵軍に向かって機体を駆ける。

ナイトメアの最大の武器は機動力とばかりに敵部隊を引っかき回し、徒歩の部下を逃がす時間稼ぎをする。

親衛隊のナイトメアもワタクシに続いて敵に突撃していく。

レーダーに映る味方の機影が多いことに気づいた。

空港ビルに残っていたナイトポリスが部下の撤退を助けるために援護に現れたのだった。



そこからは血で血を洗うと言っても差し支えのない大混戦だった。

両腕を失った親衛隊のグラスゴーが、レジスタンスの雪上迷彩が施されたグラスゴーに体当たりし自爆する。

ナイトポリスが敵戦車の直上からハンドガンを叩き込み炎上させる。

アサルトライフルの弾が切れたのかスラッシュハーケンのみで戦闘を行う敵のグラスゴー。

いつのまにか降り始めた雪は、煤煙で黒く染まっていた。



この最後には白兵戦まで行った戦闘の結果、敵の空港突入部隊を撃退することが出来たが、こちらも親衛隊のグラスゴー三機、ナイトポリス五機を失い残存戦力は、グラスゴー五機にナイトポリス二機。

それと空港警備隊の隊員とセイブ管区への移動のために空港にいた、ブリタニア海兵が一個小隊、その他ブリタニア人と名誉ブリタニア人の民間人が多数。

変わったところでは、Hi-TVのホッカイドウ支局の敏腕らしいプロデューサーと取材クルーがいるらしい。



一方敵のレジスタンスはと言うと、空港を厳重に包囲しアリの這い出る隙間もない。

後日聞いた情報によると、この「ドサンコの誇り」の決起に呼応した日本解放戦線の部隊が、ホッカイドウ管区の政庁を爆弾テロにより崩壊させて、現地駐留軍に大混乱をもたらしているらしい。

ホッカイドウ各地の駐屯地も散発的なゲリラ攻撃を受けており、チトセ空港までたどり着くのは時間がかかるようだ。

一方で、天候は時間が経つごとに悪化しており外は猛吹雪に覆われている。

空からの救援はあと三日は無理だろう。



・・・あれっ、ワタクシかなりピンチじゃない!?

この時期ってまだ原作も始まってないよね?

もうお終いなの!?

死ぬのは嫌~~。







皇歴二千十四年 冬 エリア11ホッカイドウ管区で大規模な反ブリタニア抵抗運動が発生する。

鎮圧に赴いた第六皇子クロタール・ラ・ブリタニア、チトセ空港で精強な敵部隊と交戦撃破に成功するも空港を数で勝る敵に包囲される。

同空港に別件の取材で訪れていた、Hi-TVの取材クルーによりこの戦いが全世界に生中継されることとなる。

後世に名高い通称、「チトセの七十二時間」の始まりであった。








次回 第七話 二千十四年のオールスターたち大集合。



[3823] 第七話 二千十四年のオールスターたち大集合。
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/13 21:39
第七話







アッシュフォード学園内のクラブハウスの一室。

テレビから流れてくるチトセ攻防戦の実況に車イスの少女は耳を傾けていた。

彼女は自分の異母兄である人物の安否を心配しているようだ。


部屋の扉が開く音がした。

この聞きなれた足音は、自分の兄であることが分かった少女は声をかける。

「お兄様、テレビのニュースをご覧になりましたか?」

お兄様と呼ばれた少年、ルルーシュは妹ナナリーに微笑みながらやさしい声音で返す。

「ああ、ナナリー。 へっぽ・・・クロタールが戦っているようだね」

「お兄様、クロタール兄さまは大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だよ、ナナリー。 アイツの運の強さは俺がよく知っているさ。 チェスはからっきしだがカードは強かったろ」

純粋にクロタールを心配するナナリーと、皇族に対して複雑な感情をもつルルーシュの二千十四年の出来事だった。







トウキョウ租界ブリタニア政庁の総督執務室。

エリア11総督クロヴィス・ラ・ブリタニアは室内を行ったり来たりと歩き回っている。

「バトレー! チトセへの援軍はまだつかないのか!? クロタールが危ないんだ!」

クロヴィスは弟に危機に狼狽して自分の部下のバトレー将軍に、この日すでに六回同じことを聞いている。

「殿下、落ち着いてください。 援軍はすでに向かっております」

「それは先ほど訊いた、いつ着くのだ!」

「現地の天候が悪化しており、いましばらく時間がかかるかと・・・」

バトレーは申し訳なさそうに伝える。

クロヴィスは自分のこの態度が皇族としてふさわしいものではないと自覚してはいるが、どうにも感情を抑えきれない。

今この瞬間、クロタールがチトセで苦戦を強いられていると思うと・・・

クロヴィスは唇から血が出るほど噛み締め、北の空を見上げた。



(無事でいろ、クロタール)







ドサンコの誇り 地下アジト

「藤堂中佐、片瀬少将の許可はまだ下りないのでありますか?」

ドサンコの誇りのメンバーで旧軍の少佐であった男が、日本解放戦線の藤堂鏡志朗に問いかける。

「ああ、まだだ。 すまないがもう少し待ってほしい」

藤堂は片瀬少将に自身を含めた北海道派遣部隊を、チトセ攻防戦に参戦させる許可をもらうべく何度となく連絡をとった。

しかし、片瀬は天候が回復したあとのブリタニアの反撃と藤堂をこの激戦で失うことを恐れて許可を渋っている。

今回の作戦の意義を藤堂は片瀬に何度も説明した。

この天候の悪化はブリタニアの航空部隊と増援を足止めしてくれている、このチャンスを逃せば副総督を打つことは難しいだろう。

ここで副総督を打てば、我々日本解放戦線が日本の解放をあきらめていないことを全国の日本人に示すことができるし、彼らの生きる希望となるだろうと。

こうしたやりとりが繰り返されていたのだ。

今も戦闘が続くチトセ攻防戦では、時間はブリタニアの味方である。

この悪天候が続いているうちにクロタールの首を取らねば作戦の成功は無い。

ドサンコの誇りのメンバーが肩を落として去っていくと同時に藤堂の部下が息を切らして駆け込んできた。

藤堂は彼の顔を見て、報告の内容がわかった。

自身の傍らに置いてあった軍刀をつかみ立ち上がった。

「出陣だ」







ブリタニア某大学の研究室

研究室に備え付けられていたテレビを見ていた女性に後ろから声がかかる。

「セシル君、あの戦闘のデータ手にいれたくな~い?」

「えっ、ロイドさん。 何を言ってるんですか。 軍の機密ですよ」

ロイドと呼ばれた、眼鏡の男性は特徴的なしゃべり方で答える。

「実はね、いま僕は第二皇子のシュナイゼル殿下にナイトメア開発で誘われていてね~。 そこでは、殿下が色々と便宜を図ってくれるらしいよ。 そしたら軍から実戦データが手に入るでしょ」

「たしかに今までに起きたナイトメア同士の戦闘では、ここまで大規模なものはなかったですし」

ロイドと呼ばれた男性は、その答えに満足そうにうなずく。

「そうでしょ、そうでしょ。 このデータが手に入れば僕らの考えている、第七世代ナイトメアの研究にも役立つよ~」

彼らのナイトメアが完成するまで、あと約三年。







エリア11トウホク管区 アオモリ

ブリタニア軍アオモリ基地の大食堂。

食堂の大型テレビモニターの前には人だかりができていた。

チトセ攻防戦の速報が流れ軍人たちの注目を集めていた。

そこに若き日の彼がいたのだった。



突然、ガタンと音をたてて食堂のイスから立ち上がった向かいの男性に、驚いた褐色の肌の女性は訪ねた。

「ど、どうしました、ジェレミア卿!?」

「うむ! ヴィッレッタ! チトセへ行くぞ!!」

いつものごとく、唐突な彼の発言に驚きながらも冷静に質問する。

「チトセと申しますと、あの今戦闘中のチトセ空港ですか?」

「そうだ、そのチトセ空港だ」

「そんなことを言われましても、ジェレミア卿。 我らに出撃命令は下っておりませんし、チトセはホッカイドウ管区、ここはトウホク管区です」

「ヴィレッタ、命令がなんだ! 管轄がなんだというのだ! いまチトセでクロタール皇子が命をかけて戦っているのだ! 我らは皇族の方々に忠誠を誓うブリタニアの騎士だ! 皇族の危機にこそ我らの忠誠心が試されるのだ!!」

「しかし、輸送機はこの悪天候で飛べませんが」

「空がダメなら海を渡ればいい、チトセ近くの港から陸路で救援に向かうのだ!  ついてこい、ヴィレッタ! 私の忠誠は天気なぞには負けぬ!」

ヴィレッタは毎度のことながら、熱くなると止められない上官に半ばあきれながらも、放っておけないので自分も追いかけねばと走った。

しかし彼女が上官を追って港に着いたあと、熱くなると止められないのはジェレミア卿だけではないことに気がついた。

クロタールのあの戦国武将のような発言がテレビで放送されたことで、アオモリの港にはジェレミア卿と同じく熱い忠誠心に燃えた人々がチトセへ行くために船を捜し集まっていたのだった。

のちの純血派はこの日に結成されたといっても過言ではなかった。







大小様々の輸送船が悪天候で時化る冬の津軽海峡を進んでいく。

その船団の先頭を進む輸送船の船首で男が吠えていた。

「クロタールー殿下ー!! 今、ジェレミア・ゴットバルトがまいりますぞーー!!」

「アリエスの離宮で、殿下やマリアンヌ様、ナナリー様をお守り出来なかったこのジェレミアをお許しくださいーー!!」

「今度こそは~~!! お守りいたしますぞ~~!!」

熱い男ジェレミア・ゴットバルトはクロタールの守るチトセへ向かって叫び続けるのであった。



輸送船の艦橋から、船首に仁王だちし海に向かって叫ぶ上官をヴィレッタは呆れた目で見ていた。

(あのまま海に落ちないかな・・・)

そう思った時、船首を洗うような大波がジェレミア卿を襲った。

「ジェレミア卿!!」

思ったことが現実になってしまい焦ったが、ジェレミア卿は船首の柵につかまって難を逃れたようだが、四つん這いになり激しくむせているようだ。

あの憎めない上官に仕方がないからもう少し付きやってやるか、とヴィレッタは思い船員にタオルの場所尋ねるのだった。







シンジュクゲットーの忘れられた地下街の一室。



「扇! 俺たちもチトセへ行こうぜ!」

古びた机をバンバン叩きながら一人の男が熱弁を奮う。

その熱弁を奮う男に諭すように、長身の男性が言った。

「玉城ぃ、もうちょっと考えてモノを言ってくれよ。 チトセは遠すぎる無理だ、それに俺たちの今の力じゃ何もできないんだよ」

「クソ~~! 情けないぜまったく」

彼らが表舞台で活躍するまであと三年。



[3823] 第八話 チトセに引きこもって七十時間&兄上へ。
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/14 00:04
第八話







「私が写す。 私が報ず。 私が煽り私が収める。 我が報道を逃れうる者は一人もいない。我が目の届かぬ者は一人もいない」



「――そのバカを捕まえろ!!」

チトセ空港ターミナルビルにワタクシの怒声が響き渡りました。

「イエス・ユア・ハイネス」

屈強な海兵隊員があのしっぽ頭を追いかけるが、追いつけない。

しっぽ頭の名前は「ディートハルト・リート」 エリア11のテレビ局であるHi-TVのホッカイドウ支局のプロデューサーである。

冒頭の発言は彼の捨て台詞です。

違う作品の電波を受信したのでしょうか?

くそっ、マーボ食って寝てればいいのに・・・

彼が、ハイなワタクシが言ってしまった、あの発言を公の電波に流したのである。

冗談じゃなかばい。

全国放送? そんなもんじゃない

全世界放送だ!!

つまりワタクシは世界のさ~ら~し~も~の。



Q 放送をとめられないの?

A 無理。 生中継です。 放送を妨害したらまたワタクシはさらしものになります。



Q さっきは何でディートハルトを捕まえようとしたの?

A ちょっと文句を言ってやりたかったのだが、私はやらなければいけない事があるので失礼と言ってロボットっぽい走りで逃げたんです。 それで捕まえようとした。



Q 話は変わるけどさ、君なんか暇そうじゃない?

A ねえ、なんでさっきから上から目線なの。 シカトか! シカトすんな!



Q 君、なんで暇なん?

A もういいよ・・・  今空港は猛吹雪に包まれています。 有効視界一メートル以下です。 こんなお外で殺し合いするなんて文明人のやることじゃないです~。



Q 文明人だったら殺し合いしないんじゃない?

A 難しいことは分らんとです。



Q ナイトメアなら雪降っててもいけるんじゃないの?

A ランドスピナーはスタッドレスタイヤではありません。  ナイトメア用のタイヤチェーン? そんなのあるの?、あったらこっちが欲しいわ。 機動力七十パーセントダウン? それだったらディートハルトを使ったほうがまだ早い。 ただ歩くだけのナイトメアなんて良い射撃的だ。 ナイトメアの機動力=防御力なんです~。



Q 歩兵の浸透戦術は?

A ねえ、君いったい誰さ? えらく軍事に詳しいけどさ?


  
Q 歩兵の浸透戦術は?

A シカトか・・・  それは結構怖いので警備隊や海兵に警戒してもらってます。



Q 敵はいつ襲ってくると思うの?

A それは頭のいい幕僚団に任せてます。  彼らによると吹雪が収まってきた頃が一番危ないらしいです。



Q でも吹雪が収まると空から援軍が来るんじゃないの?

A そうですけど、収まった瞬間に援軍が来るわけじゃないし、たぶん天候が回復してから輸送機なりを飛ばすと思うから、到着まである程度時間がかかります。



Q そこが敵の狙い目なんだね?

A たぶん全力出撃で、ワタクシの首を取りに来ると思います。 マジ怖いっす。



Q 良いこと教えてあげようか?

A うん、教えて教えて。



Q 雪止んだみたいだよ。

A えっ、うわ~~~。 本当だ!



Q がんばってね。

A うそ~~。 まじやべ~~。 死にたくないよ~!!

部下 殿下~! 殿下~! 敵が攻めてまいりました。 御出陣を!!






はいっ、チトセ空港で奇襲されて戦って引きこもって約七十時間経過しました。

いよいよ決戦です。 

敵軍の戦車が長距離からバカスカ打ってまいります。 このまま空港に引きこもっていると民間人ごとペチャンコになってしまうので、こちらから打って出るそうです。

くそ~! 「ドサンコの誇り」めやり方が汚いぞ、日本人だったらバンザイアタックしてこいや。

幕僚団の作戦では、敵陣の戦車をできるだけ早く潰してから、空港ビルに退却し籠城し援軍を待つとのこと。

それしかないか。

さすがにこの戦力差じゃ、「倒してしまって構わんのだろ」なんて冗談でも言えねーや。

補給参謀からは、こちらに残された弾薬は、約一・五会戦分で、気前よく使ったら援軍到着まではとても持たないと報告を受ける。

ただし、空港警備隊のナイトポリス用に用意されていた、エナジーフィラーは余るほどあるので機動力を生かした戦闘は十分に行えるとのこと。

まあ、元々十数機分の装着用と予備の分があったんだからね。

ずいぶん、ナイトポリスの数減ったし。

さて行きますか、って思っていたところに参謀長がやってきて「殿下、なにか兵にお言葉を」 ときたもんだ。

どうしよう、なにも考えてないしオツムの方も前みたいにハイな状態じゃないよ。



とりあえず時間がないので、ナイトメアに騎乗しコクピットから通信する。



「まず、始めに諸君に感謝を。  この苦しい状況の中でよく今まで耐えてくれた。 あと数時間以内に援軍が来るだろう。 ここまで頑張ってくれた諸君の忠節になにを持って報いたらいいのか、正直に言うと私には見当もつかない。 だからこの戦闘が終わったら諸君ら、ひとりひとりから私が直接要望を聞こう。 勲章でもいいし、昇格、昇給、ボーナス、休暇、転職相談や人生相談でも何でもいい。 諸君、信じられないかもしれないが、実は私はこのエリアの副総督で皇族だったりするんだ。 だから多少の無理は効くと思うんだが、これでいいかい」



「「「「「「「「イエス・ユア・ハイネス」」」」」」」」



「それと諸君、ひとつだけ私にも無理なことがあった。 私に女性の紹介を求めないでくれ、私が紹介してほしいぐらいなんだ」



「「「「「「「「イエス・ユア・ハイネス」」」」」」」」







通信機から明るい承諾の声が聞こえてきた。



ワタクシはそれを聞いて胸が痛む。

参謀長が、兵にお言葉をと提案してきた最後にポツリと言ったのだった。

これが最後になるでしょうから、と。

通信を聞いていた将兵たちもいかにこの状況が絶望的か理解しているのだろう。

ワタクシには、精一杯のカラ元気だと感じたのだ。

しかし、やるしかないんだ。

ワタクシは、自身の機体を駆動させ敵陣へと走らせた。







出撃前に空港の通信機でワタクシが最後に送った兄上あての私信が、無事に届いていることを切に願う。







 
 クロヴィス・ラ・ブリタニア殿下へ

敵の砲撃激しく、援軍到着までに敵に一矢報いることなく全滅することを避けるために、クロタールは残存戦力を率いて敵砲戦力の撃破を決意いたしました。

万が一、作戦通りに事が運ばなかった時のために兄上に二つお願いがありこの通信を送りました。

一つは、今回のチトセでの戦闘に参加し協力したものに、軍民問わず特別の配慮をお願いいたします。

二つ目は、母上のことをよろしくお願いします。  母上の泣き顔を見ることほど私にとって辛いことはなく、いつも笑顔でいてほしいのです。



そして最後に今まで恥ずかしくて言えませんでしたが、母上の息子として兄上の弟として生まれてクロタールは、幸せでした。

敬愛するあなたの弟 クロタール・ラ・ブリタニア より







皇歴二千十四年 冬 「チトセの七十二時間」の最後の二時間が始まる。



[3823] 第九話 ミラクル・トードゥー&チトセの七十一時間
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/14 00:13
第九話







いつもは石橋を叩いて渡る、ワタクシはこの時は焦っていたのです。

ワタクシたちのナイトメアを待ち受ける罠の数々、一機、二機と脱落していく部下のナイトメア。

一刻も早く敵戦車を破壊し、空港に逃げ込む。

もうそれしか考えられなかったのです。

なんせどこに隠していたのというほどのナイトメアの群れ。

我が軍の純正横流しグラスゴー、継ぎはぎが目立つ鹵獲品グラスゴー、日本人お得意と言ったら失礼だがの猿まねの無頼、そして無頼に頭飾りを付けサムライソードを装備したカスタム機無頼改。

この無頼改に騎乗するパイロットこそ、日本人の希望、生きる伝説のガチンコファイター。

人呼んで「奇跡の藤堂」 こと日本解放戦線のスーパーエース。

ブリタニアのナイトメア乗りから、戦場で会いたくない人のナンバーワン。



ブリタニア風に呼ぶと「ミラクル・トードゥー」



そんな「ミラクル・トードゥー」が後ろから追撃をかけて来るんですよ。

追いつかれたら、コクピットごと輪切りですよ。

くそっ、これが原作キャラのチート能力か!!







はいっ、なぜこんな事になっているかと言えば端的にいって罠にかかってます。

ブリタニア軍に「はっ、この戦車マジうざいんですけど~」と思わせた時点でこの勝負は決まっていたのです。

このまま戦車を放っておいたら、こちらがじり貧になるのは士官学校の一年生にだって解ります。

もちろん、コーネリア姉上とダールトンのおっちゃんが推薦してくれた幕僚団も敵がこちらを誘っているのは理解しているのです。



でも、やるっきゃないんです。



罠にかかると知っていても、待ち伏せしているとしても。



だって、空港には民間人が残っているんです。



みんな仲良くペチャンコ?  冗談じゃない!



何もせずに迎える死より、何かをしようとして迎える死の方がマシです。



今回のことは私自身非常に不本意です。



だってまだ原作すら始ってないでしょ。



ルルーシュに未だにへっぽこと呼ばれたままですよ



コーネリア姉上に自慢の弟ですって紹介させたいですよ。



ダールトンのおっちゃんにあのクロタール殿下の先生を務めたのは私なんですよと誇らせてあげたいよ。



クロヴィス兄さんに立派な弟を持てて幸せだって言わしたいよ



お母さんに僕を生んで良かったって思ってもらいたいよ。







ワタクシのスラッシュハーケンが最後の敵戦車を貫き爆散させた。


すでにワタクシのそばには味方は一機もいない。



ワタクシのグラスゴーの片腕はすでにパージしてしまって無く、アサルトライフルの残弾なしで、スラッシュハーケンは先ほどの戦車にプレゼントしてしまった。

空港から出撃して一時間か。

原作知識もあやふや、特殊能力なし、戦闘力も平均。



自分の自慢をするようでカッコ悪いけど頑張った方だよね。



「ミラクル・トードゥー」の乗った無頼改がサムライソードを構える。

ワタクシの機体に通信が入る。



「副総督のクロタール・ラ・ブリタニア殿下とお見受けする。 その首、日本国民の希望のため貰い受ける」



藤堂は幾分かつたないが正確な英語を使ってそう言った。

その通信にワタクシは長らく使っていなかった日本語を使い返事をする。



「いいだろう。 この首くれてやるぞ、藤堂。 これは負け犬の遠吠えだが、最後なんだから聞いてくれ」



「イエス・ユア・ハイネス」



藤堂のこの了承の返事に驚いたがこの際だから、言わせてもらおう。



「この首決して安くはないぞ、藤堂。 よく覚えておけ」



「承知。 あなたの首だからこそ、全ての日本人の希望を購えるのです」



藤堂の機体がゆっくりと構えをとる。



なんだろうさっきの会話は、最後の最後でブリタニア皇族の矜持を実践できたのだろうか?



死ぬことが怖くない訳じゃない。



だが自分は精一杯やったという自己満足みたいなモノはある。



最後の瞬間までこの世界を見ておきたいと思って、ワタクシは正面でカタナを構えた藤堂の無頼改をじっと見据えた。



その時だった、この世界への最後の未練がワタクシを紙一重で救ったのだ。

ワタクシの機体のコクピットにまっすぐカタナを突き立てようとした、無頼改が突然銃撃を受けてバランスを崩したのだ。

正確さを欠いた突きならワタクシの腕でも回避できた。

周りのナイトメアがワタクシを逃がすまいとライフルを構えた瞬間。

豪雨のような銃撃が彼らを狩るモノから狩られるモノへと変えたのだった。

銃撃の方向を確認するとそこには友軍のナイトメアの姿が七機もいたのだった。

彼らの隊長機らしきのグラスゴーがえらく汚れているのが気になった。

機体は泥にまみれているが、一番気になるのは、なぜか機体にペンキがベチャっとかかっているのだ。



それも オ・レ・ン・ジ色だ。



そのオレンジから通信が入った。



「ご無事ですか!! クロタール殿下!!  不肖、ジェレミア・ゴットバルトただいま参上しました!!」



ああ、――そうか。

キーワードは確かに「オレンジ」だね。



[3823] 第十話 チトセの七十一時間半&英雄の条件
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/14 00:21
第十話







た、助かったのか?

あれ?

へっ、なにそれ。

そんな~。



三十六計逃げるが勝ちです。

はい、前回辛くも命を永らえたワタクシは、オレンジ・グラスゴーを引っ張って敵の包囲戦を突破中です。

オレンジから謝罪の通信が絶え間なく入ってきます。

ジェレミア卿、あなたに助けられた事は決して忘れないよ。



カッコよく名乗りを上げた事も。



そしてその直後にエナジー切れで動かなくなったことも。



ジェレミア卿の同僚のヴィレッタ卿もこちらにお手間をかけさせますと、上官の失態を謝罪している。



ヴィレッタ卿の話によると、ワタクシを救いにきたこの七機は、アオモリから船でトマコマイまで行き、あとはあの吹雪の中チトセへ歩いてきたらしい。

それってすげー、っと思い彼らには感謝しきれないのだが、他の六機はエナジーは消耗しているもののまだ動けているし戦闘も行える。



なぜ、ジェレミア卿だけがエナジー切れ?



ヴィレッタ卿が恥ずかしいそうにその疑問に答えてくれた。

ジェレミア卿だけ吹雪の中迷子になったり、道路の側溝にハマって泥だらけになり、徒歩で進むことに焦れてランドスピナーを使いスリップ横転して納屋に突っ込み、ペンキまみれになったそうです。

合掌。

うん、苦労人のヴィレッタ卿には厚く報いてあげないと彼女が可哀そうだ。



オレンジと苦労人たちWITHワタクシは、後ろから修羅のごとく迫ってくる、ミラクル・トードゥーの追撃をしのぎつつ、空港目指して尻尾をまいて逃走中です。

増援が七機・・・今六機来たとしても彼我の戦力差はいかんともしがたいのです。

しかもワタクシがオレンジを牽引していることにより、移動速度も遅めです。

ジェレミア卿は、何度も何度も何度も私を置いて早く脱出をと進めてくるのです。

もう、彼の忠誠心が痛いほど感じられますがワタクシはガン無視です。

本当なら馬鹿なことを言うなと叱りつけてやりたいぐらいなんですが、ワタクシは賢明なので言いません。







だって、通信を繋いだら泣いていることがバレるじゃないですか。







もう嬉しいのですよ。

彼らがここまであの吹雪のなか強行軍で来てくれたことが。

どこか空回りしているジェレミア卿のまっすぐな心が。

ワタクシに取り入りたいとか、そういうのじゃない私心なき思いが。

ただ、単純にワタクシの身を案じて海を渡ってきてくれたことが。

ちょっと、間抜けなところもツボです。







でも、戦場ではそういったセンチメンタルな思いなど甘いのでしょう。

空港ビルまであと少しといったところで包囲されました。

一面が深い雪で覆われたここは滑走路なのでしょう。

これだけ雪が深ければランドスピナーも幾分か安定して、全速力とはいかなくてもある程度の速度を出せるのでしょう。

さすが地元です。

別動隊を使って包囲陣を完成させるとは。



空港ビルの歩兵隊も必死に援護してくれているのでしょうが、ナイトメアに軽くあしらわれています。



万事休す。



ジェレミア卿もヴィレッタ卿も覚悟を決めたのでしょうか、ワタクシに指一本触れさせるものかといった気迫を放ち、ワタクシを中心に円陣を組んでます。



ここまでか、ジェレミア卿たちに助けられてもしかすると、なんて希望を持ったのがいけなかったのでしょうか。

体が震えているのです。

希望から絶望へと一瞬で変わったことに、心が折れてしまったのでしょう。



ついさっき、あの藤堂と言葉を交わしたワタクシはもういないのです。

ここにいるのは、ただ生きたいと願う普通のワタクシ。



藤堂は、最早何も語るまいといった感じで構えをとっています。

もう、ワタクシは我慢できないのです。

喉まで出かかっているのです。







死にたくない、と。






こんなときにあれですが、皆さんは英雄ってどう考えています。

強い人、軍事の天才、カリスマ性、頭の良さ。

たぶんパッと思い浮かぶのはこんなところでしょうか?

ワタクシも今までそうだと思ってました。



でもそれは間違っていたんです。



英雄の条件とは?



一番美味しい所にさっそうと現れるタイミングの良さなのではないでしょうか?







ワタクシの目の前のナイトメアが空から降ってきたモノに串刺しにされてます。

空から現れたモノは敵味方に聞こえるように宣言したのです。



「私の大事な弟に指一本触れさせはせんぞ!!!  下郎ども!!!」



えっ、ウソ!  あ、姉上~~~~~!!!







皇歴二千十四年 冬 チトセの七十一時間半。  第二皇女コーネリア・リ・ブリタニア参戦す!



[3823] 第十一話 チトセの七十二時間
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/14 00:31
第十一話







ブリタニア本国のとある皇族の執務室



室内の大型テレビにチトセ攻防戦の中継映像が流れていた。

中継の中でディートハルトが「偶然」傍受したクロタールの通信が紹介されている。

この部屋の主である女性は面白くなさそうにテレビを消した。

女性の傍らにたたずむ、眼鏡をかけた長身の男性は自らが忠誠を捧げた女性にどう話を切り出そうかと迷っていた。



そんな時に女性の部屋に新たな訪問者が現れたのだった。

「姫様、アンドレアス・ダールトンお願いがあって参りました」

「言わなくても良い。 どうせ我が愚弟のことだろう」

「はい、クロタール殿下のことでございます」

それを聞き、姫様と呼ばれた女性、第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアは深くため息をつく。

「ギルフォード、貴様がさっきから言いたそうににしていたこともダールトンと一緒か?」

「はい、殿下。 ダールトン卿と同じだと思います」

さらにコーネリアはため息をつく。

「チトセへ行くことはまかりならんぞ。  あのエリアでの出来事は弟クロヴィスが解決しなければならないことだ。  私が手を出すべきではない」

その言葉を予測していたのか、ダールトンは言った。



「チトセでの戦闘はテレビで中継された時から、ただのエリアの問題でなくなり、我が国全体の名誉がかかった問題になったのです。 それに姫様、そのようなお顔で言われても説得力はございませんぞ」



そこには、いつもの誇りと自信にあふれ常に毅然とした態度を示すコーネリアはなかった。

「もうそれ以上言うなダールトン」

自身の態度に気づいて、顔をしかめて言った。

「いえ、言わせていただきます。 姫様の常に皇族として私情をはさまない態度、上に立つ者として立派でございます。 しかしギルフォードと私が何年姫様にお仕えしたとお思いですか。 主君の心を察するのも臣下の勤め。 たまにはお心のままに行動なさってもよろしいかと」

「・・・ダールトン」

そこでギルフォードが一歩進み出て言った。

「僭越ながら殿下。 すでに殿下のグロースターは整備済みで、輸送機の確保は出来ております。 また殿下の親衛隊も自発的に集まり準備を完了しております。 ご命令があればすぐにでも出発できます」

「お前もか、ギルフォード・・・」

コーネリアがさらにため息をつき言った。

「我が愚弟のことで迷惑をかける」

「迷惑だなんてとんでもない。 私も望んだことでありますし、それに久し振りに血がたぎっており、まるで若返ったようです。 息子たちも共に学んだクロタール殿下のためにと申してうるさいぐらいです」

「私もダールトン卿と同じです。 戦姫の騎士に恥じない働きをしてご覧にいれましょう」

側近二人の言葉を聞きコーネリアを立ち上がって言った。



「貴様らの気持ちは分かった。 わがままを通させてもらう。  先陣は私が務める、遅れるなよ!」



「「イエス・ユア・ハイネス」」







お空がナイトメアで一杯です。

突然現れた、姉上配下の親衛隊。

地上のことに気を取られていたワタクシは、まったく気づきませんでした。

藤堂たちも姉上の登場の仕方に嘘を突かれたのでしょうか、動きには動揺が見て取れます。

ナイトメア用ランスを構えて空から突撃するなんて、姉上無茶しすぎです。

空からの突撃に使ったランスが使い物にならなくなると、部下から予備のランスを受け取り、一騎当千の活躍をしております。

もう、一人戦国無双状態です。

敵のナイトメアが吹っ飛んでいきます。

姉上、ランスは突くためにあるのであって、なぎ払うためにあるのではないと思うのですが・・・



でも・・・、すごく嬉しいのです。

来てくれたことが。



姉上の無双状態のおかげであまり目立ってないですが、あの動きはギルフォード卿?

敵の無頼を確実に一機ずつ破壊しています。



そしてアレ。

それを見た時に思わず目がおかしくなったのかと擦ってみたほどです。

でも眼前の光景は変わりません。



ナイトメア用のランスに串刺しにされている、敵の無頼。

ナイトメア用のランスに串刺しにされている、敵の無頼。

ナイトメア用のランスに串刺しにされている、敵の無頼。



小学校の算数の問題だ。

Q ナイトメア用のランスに串刺しにされている、敵の無頼の数はいくつですか?

A はい、せんせい。 みっつだとおもいます。

先生  正解よ、クロくん。 偉いわね。

クロタール  やったー。



そう、人語を解する野獣パパ。

アンドレアス・ダールトン将軍のランスに串刺しにされている無頼は三機。

ランスの先が見えません。

ランスの根元まで無頼に刺さってます。



みんな知ってた? あの人がワタクシのナイトメアや軍事の先生なんだ。



Q それならクロくんも同じことできるの?

A 無理じゃい!!  それにクロくん言うな!



しかし、ワタクシと同じく野獣パパから指導を受けていたグラストンナイツたちが、ランスで敵を二機串刺しにするところを目撃してしまいました。

あれ、ワタクシも「串刺し」出来ないといけないの?

――無理です。



姉上とその親衛隊の参戦によって、形勢は一気に逆転。

ドサンコと日本解放戦線は後退の気配を見せております。



あれ、通信機からだれかの泣き声聞こえてくるよ?



「おお、なんという皇族方の姉弟愛! このジェレミア・ゴットバルト感動を禁じえませんぞ~!」

あ、まだいたんだオレンジ。

ヴィレッタ卿たちとともに追撃戦に加わってると思ってた。



・・・ああ、そうかエナジー切れだったんだ。

しょうがないエナジーフィラーを交換してあげるか。

えっと、ナイトメアの格納庫はっと。

あっ、鼻かんだ。

ジェレミア卿、鼻かむときは通信切ろうよ。




ジェレミア卿のグラスゴーを格納庫にトボトボと牽引していった時でした。

空港ビルから通信が入る。

おお、生き残ってた参謀長からだ。

「殿下、敵が撤退していきます。 我々は勝ったのです」



は~~、なんとか生き残れた。



天にまします、我等の父よ、感謝いたします。

でも、出来ればこんな事は二度とごめんです。

勘弁してください。



ワタクシはギアス無双の登場キャラでは無いのです。

ワタクシに封印されしミラクル・パッワ-なんてあるなら早く目覚めてください。

今回は、すごく危なかった。

ほら、「選ばれた勇者の力」くん、「封印された第三の目」さん、「目覚めると戦闘力が上がるもう一つの危険な人格」ちゃん、もういいよ、早く目覚めてよ。

恥ずかしがらずにさ!、ねえ、遠慮なんかしないで!







「・・・、お前、力が欲しいのか?」



えっ、マジでキターー!!



「王の力はお前を孤独に・・・」



どうしよう、何か対価を払わないといけないのだろうか?



「ふふっ、安くはないぞ。 そうだな、まずはピザを一年分を・・・んっ、横からうるさいぞ、マリアンヌ」



あれ、なんか揉めてるよ。

あっ、決着ついたみたい。



「すまない、こちらの手違いだ。 先約が入っているのだった」



先約!? そんなぁ。

なんだ、対価の上乗せを狙う交渉術か!?

そうだ、こっちは二年分いや、五年分以上もっと払えるぞ!



「ピザ五年分だと、ホントか! 本当に払えるんだな!!」



やった、食いついてきたぞ!

このまま、押し切れば!!

残念だったな、先約の人よ。

ワタクシがありがたくいただいていく!!

んっ、なんだかブツブツつぶやいてるぞ?


「ピザ五年分か・・・、信じられん。 これはこれで・・・、なんだマリアンヌ?、えっ、いい加減にしろと。 ふむ、たしかにコイツでは主役として華が無いか。 なんだまだ言いたいことがあるのか? 上の偉い人たちが怒るって、マーケティング? 視聴率? カップリング?? なんなんだその言葉は? っていうか、お前は本当にマリアンヌか?」



あっ、独り言終わったみたい。



「ごめん、やっぱ無理」



へっ、って口調変わってるし!

「てへっ」 じゃないでしょ!!



「なんだ、しつこいぞ。 そんなだから女にもてないんだぞ。 この童貞坊や二号が」



て、てめえ。 人が気にしてることを。 お前に皇族の恋愛の苦労が分かるか!

ワタクシに取り入るためにハダカでベッドに潜り込んでくる女がいたりする中で、健全な恋愛ができるか!

政略結婚のオンパレードだぞ、ベッドの時なんてワタクシまだ十代前半ですよ。

軽い貴族の女性恐怖症だ!

周りにいる貴族以外の女性は、メイドのおばあちゃんやおばちゃんたちと母上だけなんだぞ。



ていうか、一号は誰だ!



「お前こそ口調が変わっているぞ。 まあなんだ、縁が無かったのだな」



あれ、なにその残念でした~って雰囲気。

いままでのやりとり無かったことにしようとしてない?

そ、そんな~~。

ワタクシにも何かしらの能力補正を・・・。



「殿下、どうされました!! どこかお体の具合でも!?」



通信をつないでも、しばらく反応が無かったワタクシを心配したジェレミア卿の声が意識を取り戻すきっかけとなった。



あれ、なんだか変な夢でも見ていたのかな。

なんだろう、なんかすごく惜しい気がするのだけど。








皇歴二千十四年 冬 チトセ空港攻防戦、ブリタニア軍の勝利に終わる。 「チトセの七十二時間」終結。 



[3823] 第十二話 二千十四年の終わりと第一部の終わり
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/14 12:16
第十二話







皆さんは、銅像って見たことありますか?

まあ、有名な例を挙げれば上野のサイゴーさんとか、四国のサカモトリョーマ、ホッカイドウのグレート・ティーチャー、クラークとかのあれですよ。

ああいった物は、たいてい本人の死後に作られたりしていると思います。

銅像を作られた本人たちは、自分の銅像のことをどう思っているんでしょうか?

彼らの意見を聞くことは不可能ですが、ワタクシの私見を述べさせていただきたいと思います。



「恥ずかしいから、やめて~~!!」



ええ、恥ずかしいですとも。

でも、お前に銅像を作られた偉人たちの気持ちが分かるのか、と突っ込まれると反論できないので条件を修正させていただきました。

銅像を作られかけている(デザイナーに発注済み)、偉人ではない普通の人間(ワタクシ)の意見に修正して答えさせていただきます。



「恥ずかしいから、やめて~~!!」



なぜワタクシがこんなに悶えているかというと、あのチトセ攻防戦が終了した直後の通信が原因なのです。



チトセでの決着がつき、撤退していく「ドサンコの誇り」と「日本解放戦線」に止めを刺すべく、姉上とダールトン将軍、ギルフォード卿らが親衛隊の大多数を率いて追撃をかけたのです。

チトセには、ボロボロの赤グラスゴーのワタクシとエナジーフィラーを交換し、鼻をかんだ元気いっぱいのオレンジ・グラスゴーのジェレミア卿のほかには、姉上の親衛隊のサザーランドが数機いるだけです。

ちなみにジェレミア卿の同僚のヴィレッタ卿は、姉上の追撃隊と共に行動しておりここにはいません。



いつまでもナイトメアに乗っていてもしょうがないので、降りるかと思い操縦桿から手を放そうとしたのですが、離れないのです。

なかなか下りてこないワタクシを心配したジェレミア卿が、様子を見に来るまでワタクシの体は凍ったように動けなかったのでした。

ワタクシの状態を察したのか、ジェレミア卿は指を操縦桿から一本ずつ剥がしてくれました。

自分の思わぬ醜態を曝す羽目になり、ワタクシはいささかばつが悪かったのですが、ジェレミア卿は、私も初陣では殿下と同じにようになったものですなんてフォローを入れてくれるのです。

ジェレミア卿に言われて思い出しましたが、ワタクシこれが初陣だったんでした。

初戦からこんな激戦に遭遇するなんて、どんなに運が悪い事やら・・・

でも、この戦闘のおかげでワタクシはいくらか成長できたのではないかと思います。

これから先なにが起こっても多少のことでは驚かない自信はありますよ。







甘かった、ワタクシの見通しが甘かったのです。

甘~~い!!



ジェレミア卿にエスコートされて、幕僚たちに会うため空港の会議室だったところに向かったのですが、ここであの重大な事件と言っても差し支えないようなことがすでに動き出していることを知るのです。

会議室に入ると幕僚たちがワタクシに敬礼してきたので、答礼しつつお互いの無事を喜びました。

その後で参謀長が寄ってきて、クロヴィス総督から通信が入っているので通信室へどうぞ、と言われ通信室へ向かったのです。

皇族の通信ということで遠慮したのか、室内には誰もいませんでした。



保留中だった通信を繋ぐと、メインモニターにドアップの兄上の顔が映っているのです。

「クロタール、無事で何よりだよ。 怪我は無かったかい」

私信なので、危なっかしい弟が心配なお兄ちゃん全開です。



この兄上の態度がなんかこそばゆいぐらいです。



「ご心配をおかけしました、兄上。 幸いにも怪我は負っておりません」

ワタクシから直に聞いて安心したのか、急に総督としての立場に兄上が戻るのを感じました。

気づかわしげだった顔は、総督としての顔に変わっていくのです。

「クロタール。 今回の件についてだが、なんでも内部に裏切り者がいたそうだね」

「はい、兄上。 まだ詳細は調査中ですが、共和主義者がレジスタンスと手を結んでいた形跡がありました。 それと敵は我が軍のナイトメアを大量に保有し戦力化しています」

ワタクシの報告に兄上は顔をしかめる。 

「やはり、武の者は搦め手に弱かったようだね。 敵も一筋縄ではいかないな」

「はい、物資装備の横流しについてはトーキョーを離れるほど酷くなるかと思われます。我が軍内部に伸びた敵の手を駆逐するのには、いささか時間がかかるかと」  

「ふむ、なかなかやりがいある仕事だね。 わかった、クロタール後の詳しいことは君がこちらに戻ってから話し合おう」

「はい、兄上」

兄上と話して、このエリア11を治める難しさを再確認したワタクシに兄上の爆弾発言というか、計画? が知らされる。

「ああ、そうだ。 クロタール後で送るファイルに目を通しておくんだよ。 デザイナーには、発注を出してあるから二週間ほどで完成予想が出ると思うよ。 では」

そう言って兄上は軽く微笑んで通信をきった。



ファイル? デザイナー? 完成予想??



謎の単語の正体を確かめるために、送られてきたファイルを開いた。



はい、ここで冒頭の悶えるワタクシへと繋がるのです。

この計画では、今回のチトセでの激戦の慰霊と戦勝記念を兼ねる意味合いらしく、空港の周辺の空いた土地に慰霊碑を建てるそうです。

ここまでは、いいのです。

こういった、公共事業みたいなモノへの兄上の取り組みの早さは、ワタクシも驚かされます。

今回の死傷者の数に兄上は心を痛められて、少しでも早く慰霊をと思い計画を立ち上げたのでしょう。

まだ、計画の素案の段階ですが、兄上らしい死んでいった者への配慮に感動をしたのですが・・・

慰霊碑の反対にある戦勝記念碑の隣にあるものがいただけないのです。

ラフの図には、クロタール殿下の銅像の予定配置場所。

なんて書かれているのです。

そこに注釈がついていて、クロタール記念公園に使う予定の物を流用とあります。

兄上、本当に作る気だったのですか。



クロタール記念公園。



通信室で頭を抱えて、悶えているとドアがノックされました。

「殿下、コーネリア殿下の部隊が無事帰還なされました」

そうか、無事だったのですね。

「わかった。 すぐに出迎えに行く」



ワタクシは、姉上たち追撃隊を出迎えにでました。

姉上やチトセまで陸路で来てくれたヴィッレタ卿たちの無事な姿が確認できました。

そんな中でワタクシは、変な色の機体に目がいきました。



そう、人語を解する野獣パパ、ダールトン将軍のグロースターです。

全身が、なんていうか。

ブルーベリージャムに中濃ソースをかけた色? になってます。

返り血ならぬ、返りオイル??

もう、コメントのしようがないです。

あれが、ワタクシの先生です・・・



ダールトン将軍のグロースターから目をそらしつつ姉上が機体から降りてくるのを待ちました。

降りてきた姉上や将軍、ギルフォード卿、親衛隊、ヴィレッタ卿らに感謝を述べて空港内のなんとか使用できる部屋でまず休んでもらうことにしました。

さすがに皆チトセまでの強行軍に追撃戦で疲労しているようです。

ダールトン将軍とその息子たちは、元気でしたが。



ワタクシは空港の貴賓室に姉上を案内したのですが、部屋に着くや今回のワタクシの不味かった点を次々と指摘してくるのです。

エリア11の軍内部の規律の緩み、防諜体制の不備、自らが先頭に立ち戦ったことは良いが、もう少しナイトメアの腕を磨くことなど。

なんなら、もう一度ダールトンに鍛えなおしてもらうか、と言われてしまいました。

将軍のシゴキは本当に半端ないです。

皇族だからという遠慮がないのです。

熱血スポ根なのです。



つらつらとお叱りを受けた最後に姉上は、言いました。



「クロタール。 よく頑張ったな、姉として誇らしいぞ。 でも、あまり心配をかけるな・・・」



「・・・はい。 姉上」 



その優しい声音に、あのアリエスの離宮の頃を思い出しました。

すべてが優しかったあの日々。

マリアンヌ様がいて、ルルーシュ、ナナリー、コーネリア姉上、ユフィがいたあの庭。

そこにルルーシュとのゲームの決着を付けるべく、遊びに来る兄上と兄上に手をひかれたワタクシ。

血縁者を陥れることに躊躇がないヒトがはびこっていたあの地。

そこにあった楽園の風景と表現してもいい場所。

今は失われたモノ。

ふと、あの二人の顔が浮かんできたのです。

ルルーシュ。

ナナリー。

君らはこのエリアで本当に死んでしまったのかい?

失われた原作知識をこれほど惜しく思ったことはありません。



キーワード「オレンジ」と引き換えに忘れてしまった、二人の安否情報。



釣り合いとれているのでしょうか?



すこし感傷的になったワタクシは、スイッチを切り替えます。

ワタクシの目の前にはこれからやらねばならない事がたくさんあるのだから。



そういえば、今回の戦闘中に藤堂と対峙した時に思い出したモノがあったのです。

こんどのキーワードは単語の意味さえ分からないのです。



「ウザク」




英語に該当する語はなく、日本語には一応あったのですが、ウナギの三杯酢和えの呼び名だそうです。


(ざわざわ) 

うなぎ、ウナギ、鰻・・・

よく、考えるんだ、クロタール・・・

このキーワードがお前の生死に関わってくるんだ・・・

これを解読しなければお前は死ぬんだぞ・・・

今こそ全ての知恵を振り絞って・・・

(ざわざわ)



全然わかりません。

ワタクシはカイージさんのようにはなれないのか・・・

どうしよう。



皇歴 二千十四年 冬 ホッカイドウ管区で活動していた「ドサンコの誇り」 保有戦力の大半を失い「日本解放戦線」に吸収される。

   二千十五年 春 エリア11副総督 クロタール・ラ・ブリタニア 春を待ち、ホッカイドウ管区でレジスタンスの掃討作戦開始する。 同作戦において新たに創設されたクロタール親衛隊が抜群の働きを見せる。 

   二千十六年 夏 トウホク管区で反乱を起こした「ナマハゲの怒り」掃討作戦を開始。 同年 秋 掃討を完了。 「ナマハゲの怒り」は「サムライの血」に合流。 クロタール記念水族館開館。

   二千十七年 春 シンジュク事変発生。 総督クロヴィス・ラ・ブリタニア暗殺される。  副総督クロタール・ラ・ブリタニア、セイブ管区で「そのまんまのミヤザキを取り戻す会」との戦闘中に訃報に接す。



[3823] 第十三話 ホッカイドウ始末記
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/14 09:46
第十三話







春が来た~春が来た~何処へきた~



北の大地にやっとこさ来ました、春の息吹。

この暖かさに思わず眠くなってしまいます。

春眠暁を覚えずですね。



なんてホッカイドウの政庁の執務室でのほほんとしていられたのもつかの間だった。



廊下からドタドタと走ってくる音が響いてくるのだ。



今日も来たのかと、軽くため息をつく。



ドアがノックされ、ワタクシが入室を許可するとジェレミア卿とヴィレッタ卿が入ってくる。

ジェレミア卿は廊下を走るのだが、ちゃんとノックをすることは忘れていない。

やっぱり変に育ちがいいよ。



「殿下! 我々はいつになったら出撃出来るのですか~!? このジェレミア・ゴットバルトに殿下に御恩返しする機会を下され~!」



またなのか、ジェレミア卿・・・

ワタクシはヴィレッタ卿に困った顔でアイコンタクトをとる。

(ジェレミア卿をキチンと押さえてください。 ヴィレッタ卿は彼の相方でしょ)

(申し訳ありません、殿下。 しかし私を勝手にジェレミア卿の相方にしないで下さい・・・)

ヴィレッタ卿は申し訳なさそうに頭を下げた。



「チトセへの無断出撃をあの参謀本部の奸臣ギゲルフ・ミューラーに責め立てられた我々を庇い、あまつさえ殿下の栄えある親衛隊に加えて下さりました。 このご恩に報いる機会をぜひ」

都合よくジェレミア卿が説明してくれたが、ジェレミア卿・ヴィレッタ卿がなぜ春のホッカイドウにワタクシと共にいるかと言うとワタクシの親衛隊だからなのです。



あのチトセへ海を渡って駆け付けた、ジェレミア卿と愉快な仲間たちは、チトセ戦後に軍令違反で拘束されたのです。

まあ、無断で違う管区に出撃すれば処罰されるのは、卿たちも分かっていたと思いますが。

あのギゲルフ・ミューラー・エリア11統治軍参謀本部・中央軍管局長殿は、なんでもジェレミア卿とは犬猿の仲だそうで、これを機会にエリア11から追い出そうと企んだそうなのです。

この恩人たちの危機をワタクシは見過ごせるわけもなく、彼らを一階級降格の処罰は受けさせた上で全員ワタクシの親衛隊に転属させるなんてことをやってしまいました。



そしたら、毎日これですよ。

部屋に押し掛けて御恩返しをさせて下さいと来たもんだ。

今日も訪れたジェレミア卿に、春から私に仕えてくれている女性の秘書官兼ボディーガードの方はため息をついている。

この女性秘書官さんは、どこぞの貴族のお嬢様みたいなのだが片手でリンゴを握りつぶせる人だ。

見た目は普通の人なんだが・・・。

この間なんか、いい加減しつこくなってきたジェレミア卿に当て身を喰らわせて意識を刈り取るなんてことをしてみせた。

女性恐怖症とは違う意味で、こえーよ。



秘書官さんは、ジェレミア卿の熱弁に疲れたのか、ワタクシに(早くあの事を話してやれよ、ゴルァ)なんて熱烈アイコンタクトを取ってくるのです。

秘書官さんのアイコンタクトをそう解釈したワタクシは、顔を引きつらせながら冬の間に仕掛けておいた計画を、ジェレミア卿に話したのでした。



「ジェレミア卿、今まで待たせてすまなかった。 卿らに働いてもらう時が来たぞ」



ワタクシはこの広大なホッカイドウから雪が溶けてなくなる時期を待っていたのでした。

雪が無くなり、天候が良ければブリタニア軍はその力を十分に発揮できるのです。

空からの航空支援、ナイトメアの機動力と数的優位を生かしての掃討作戦の開始です。

ワタクシはこの冬のストーブ・リーグの間、炬燵で惰眠を貪っていたわけではないのです。

各レジスタンスに潜入させた、スパイから情報がバンバン入ってきます。

消耗した戦力を補充するために、新しい人間をたくさん仲間に入れるのを待っていたのです。

スパイからの情報でレジスタンスの物資供給ルートを警察や憲兵隊にどんどん摘発させました。

とくに警察の皆さんは前年のチトセで大勢の同僚を亡くしているので、弔い合戦です。



ナイトポリスにアサルトライフル持たせて突撃させてます。



おい、誰ですか!?



警察にナイトメア用のロケットランチャーを渡したのは!?







そんなわけで各都市のレジスタンスの物資供給ルートを根こそぎ摘発したワタクシは、掃討作戦の第二段階を開始するのです。

敵は物資供給が断たれて積極的な活動を行えなくなりました。

ゲリラ戦の鉄則、「ヒット・エンド・ラン」も弾がなければ「ヒット」もお腹がすいては「ラン」もできないでしょう。

そしてワタクシは「索敵撃滅=サーチ・アンド・デストロイ」なんて行いません。

敵に有利な場所に突撃するなんて真っ平ごめんです。

ワタクシは平均的な能力しかないのです。

ベトナム戦争やイラクみたいな泥沼はいやです~。



そんなお腹をすかせたレジスタンスさんたちの前に御馳走を用意するのです。

スパイを通じてこちらの補給部隊の移動計画を漏らすのです。

これは、チャンスとばかりに襲い掛かってくる敵を待ち伏せる罠です。

補給部隊に食いついた敵を包囲して殲滅して投了です。



ジェレミア卿のオレンジ・サザーランドが大活躍。

機体をオレンジにカラーリングした、サザーランドがギアス無双なのです。

真面目にやればジェレミア卿は、エース級の腕前なのです。

ワタクシの赤い角付きサザーランドとヴィレッタ卿のサザーランドは、ジェレミア卿の突撃を援護するだけで戦闘は終わるのでした。

エリア11にようやく配備され始めた、サザーランドがこの戦いで活躍しました。

グラスゴーや無頼などの第四世代機とは一味違います。



この一連の作戦で大活躍のジェレミア卿に、敵があだ名を付けたようです。

見たままのあだ名です。

「オレンジ」

このあだ名が全国に知れ渡るのは、そう遠くはないでしょう。



粗方のレジスタンスを打ち捕ったら作戦は、第三段階です。

日本人が暮らす各都市に十分物資が行き渡るように配慮し、それに合わせ現地駐留軍部隊の横暴を取り締まることを憲兵隊に命令。

十分に食べていけて、理不尽な暴力が減れば抵抗運動の火もいくらか下火になるでしょう。

作戦を一緒に考えてくれた、優秀な幕僚団に大感謝です。

持つべきものは優秀な部下です。







ここまでやれば、ワタクシの仕事もひと段落。

現地駐留軍に任せてトーキョーに帰還できますよ。

政庁でデスクワークですよ。

もう、戦場に出るのは勘弁してほしいのです。



早くトーキョーに戻り、兄上のお手伝いをしないといけないのです。





[3823] 第十四話 へっぽことオレンジ、重要無形民俗文化財の怒りと対決す。
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/15 11:40
第十四話







「なまはげ」の手に拳銃。

あれっ、この世界の「なまはげ」は飛び道具使うの?



拝啓、親愛なる兄上へ

軍内部のレジスタンスとの癒着調査で疲れていた、ワタクシに休暇を与えて下さってありがとうございます。

ジェレミア卿が選んだ旅館で、ワタクシの親衛隊員の慰労を兼ねて皆で楽しく過ごさせていただきました。

そう二日目の宴会の催し物までは・・・



旅館の大広間は、新撰組にカチこみをかけられた池田屋のような大騒ぎです。



「なまはげ」の銃撃を察知した秘書官さん。

浴衣の裾をバサリとはね上げ太もものホルスターから拳銃を取り出し、銃を撃ち落とすなんてマカロニウエスタンなことをやってのけたのです。

正直驚きました、秘書官さん銃も扱えたんだ。

でも、なんでそんなのを身につけていたのか・・・

エスパー? 趣味?



広間にいた親衛隊員たち。

襲撃してきた「なまはげ」に素手で挑みかかります。

「なまはげ」一目散に逃走!



ジェレミア卿とヴィレッタ卿。

油断なくあたりを警戒していますが、ジェレミア卿はお酒で少し酔っているのでしょうか?

両手にはデザートのオレンジが握られています。



それ、ジェレミア卿の宝具?







「なまはげ」が逃走した直後でしょうか。

旅館のあちこちから銃撃戦の音らしきものが響いてきます。

あれ、ランドスピナーのあの独特の音がかすかに聞こえているんですが・・・

ちょ、ちょっと、今回は親衛隊の慰労とワタクシ自身の休暇でこのトウホクまで来たのでナイトメア持ってきてないですよ!

旅館を警備しているのは、地元の警察オンリーですよ。

だって、トウホクはもう平定済みって報告書上がってたのに。



秘書官さんやジェレミア卿、ヴィレッタ卿らに護衛されて安全な場所を探して廊下をバタバタとかけていると中庭に侵入していたナイトメアがこちらに気づいたのです。

やばいです、無頼はライフルをこちらに向けています。

これで、終わりかとだれもがあきらめた瞬間。

無頼のファクトスフィアに黄色いものが命中!

ライフルの照準が少しずれて、ミンチにされずに済んだのです。

ふと横のジェレミア卿を見ると、両手にあったオレンジが一つなくなってます。



宝具発動!? 残弾一発!?



これに気づいた親衛隊員たちは、さすがはジェレミア卿と称えてます。

「このジェレミア・ゴットバルトの目が黒い内には、クロタール殿下に指一本触れさせん!」

カッコよく啖呵を切りましたが、次の瞬間にはヴィレッタ卿に廊下に押し倒されていました。

ワタクシも秘書官さんに押し倒されて廊下に接吻です。

ワタクシたちの頭上を無頼の放った銃弾がなぎ払っていきます。

中庭に面した廊下に遮蔽物はなく、とっさに伏せられなかった親衛隊員たちが次々と銃弾の嵐に巻き込まれ散っていきます。

ナイトメアの銃撃に木造の廊下屋根部分は耐えられるはずもなく崩れおちました。

無頼の操縦者は、これでは生きていまいと判断したのか崩れた部分に二、三発銃撃し、まだ抵抗を続けている警察部隊の掃討に向かったようです。



ワタクシたちは崩れた屋根の隙間でまだ生きていたのです。

ナイトメアの銃撃で崩れた柱が運よくワタクシと秘書官さん、ジェレミア卿とヴィレッタ卿を守ってくれたのです。

テロリストは旅館に爆発物でも仕掛けたのか、大きな爆発音が響きます。



旅館まるごとワタクシたちを吹き飛ばすつもりなのでしょうか・・・



警察部隊の反撃も終わったのでしょう。



もはや銃声も聞こえてきません。



ワタクシはがれきからはい出そうと体を動かしたのですが足の感覚がえらく鈍いのです。

自分の足を見ると、曲がってはいけない方に足が曲がっています。

ワタクシと同じく、崩れた隙間にいる三人はと言うと、ヴィレッタ卿は気を失っているようで頬をジェレミア卿が叩いても反応なし。

そのジェレミア卿も頭から血を流している。

ただ一人目立った外傷のない秘書官さんは、ワタクシの足に添え木を当てて浴衣の片袖ちぎり巻いて固定してくれました。



秘書官さんとジェレミア卿ががれきを何とか退かし、がれきから外に出ることができました。

がれきから外へ出ると辺りは、炎の赤で染まっていました。

旅館の建物は、半分近くが崩れ去り、残りは炎にまとわり憑かれています。

とりあえずがれきの山から移動し少し離れた中庭の外れの茂みに身を隠します。



ワタクシが泊まっていた旅館は、他の地域よりも高い場所にあり、眼下の温泉街などの市街地を一望できることが売りの一つだったそうです。

その眼下の市街地には文明の明かりはなく、原初から存在する炎の赤のみがあったのでした。

あれ、発電・変電設備が機能していない?

しかもここから見える範囲すべて闇の黒と炎の赤に彩られています。

その眼下の光景に時より、銃火が加わりますが散発的なものです。



ワタクシが眼下の光景を観察していると、敵の様子を探りに行ったジェレミア卿が茂みに戻ってきました。

「クロタール殿下、敵はここを完全に制圧したようで、捕虜となった警察官を処刑しておりました」

その言葉に衝撃を受けるとともにもう一ついやな考えが頭をよぎった。

「ジェレミア卿・・・ 敵は撤退する気配はなかったのか?」

ジェレミア卿はうなずく。



このトウホクは今夏真っ盛りで天候も良い。

夜間といえども航空部隊が発進不能のはずがない。

ワタクシがいるこの旅館は、トウホク管区を統括する政庁のある都市のはずれにある。

ここからブリタニア支配のシンボルでもある政庁が見えるのだが、炎に包まれている。

市街地で大規模な戦闘が起きている気配もない。

そしてここを襲った敵部隊は、撤退する気配もない。



そう、旅館襲撃部隊はブリタニア軍の増援が来ないことを確信しているのだ。

だから、捕虜の処刑なんて野蛮な事をする暇がある。

ゲリラ戦の鉄則、ヒット&アウェイをしない。

炎上する政庁。

本来なら出撃してるはずのブリタニア軍のトウホク管区の部隊が未だに姿を現さない。

それは、ワタクシたちが旅館の中庭から裏の山へ隠れるように移動したあとも状況は同じだった。

そして朝を迎える時になって恐れていた考えは確信へと変わった。



火事が鎮火した政庁に日の丸が揚がったのだ。

市街地各所にも日の丸が掲げられる。







トウホク管区は敵の手に落ちたのか・・・







皇歴 二千十六年 夏 エリア11 トウホク管区で発生した反乱により、トウホク管区政庁占拠される。 政庁職員数百名捕虜となる。

政庁のあるセンダイ市周辺は、反乱を起こした「ナマハゲの怒り」により制圧される。 管区内のいくつかの都市でも「ナマハゲの怒り」に同調する組織により駐留軍への攻撃が確認される。

各都市の名誉ブリタニア人の一部が反乱軍に参加。 反乱軍により占領される都市は増え続ける。 ニイガタ港に中華連邦の偽装輸送船団到着。 管区内の反乱軍部隊に「ガン・ルゥ」の大量配備が確認される。 

「日本解放戦線」トウホク管区に藤堂隊を派遣。 

センダイに滞在中だった、副総督クロタール・ラ・ブリタニアを打ち取ったと「ナマハゲの怒り」が発表する。 



[3823] 第十五話 大都会潜入密着二十四時半 不法滞在と吊り橋と看病
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/16 01:22
第十五話







木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中・・・

はい、有名な言葉ですね。

ワタクシは今、「ナマハゲの怒り」さんたちが新たに建国した、「超日本国」に絶賛潜伏中です。



「超」ってなによ? スーパーですか?

ブリタニア語で言うと、「スーパー・ジャパン」?

「スーパー」の発音間違うと、カるフールやウォるマート、ジャス子、イトー妖花ドウなんかの小売業種じゃない?







ワタクシはなぜか死んだことになっているようなので、「超日本国」に不法滞在していることになるのでしょうか?

とっとと出国したいのですが、「超日本国」の国境は兄上率いるブリタニア軍と戦闘状態。

空港は開店休業中、港から船もでない。

今日もお空では、超日本国の空軍とブリタニア軍がドッグファイトです。

なんでも超日本国空軍には、リボン付きと呼ばれるエースが在籍しているようでなかなか善戦されやがるみたいですぅ。



トーキョーに帰りたいです。

ワタクシのこの右足が折れてなければ・・・

柵越え、山越え、川越、なぞをして脱出するのですが。



そんなことを考えにに浸っていると、玄関のチャイムが鳴りました。

今ワタクシが住んでいる家は、ブリタニアのオタワからエリア11へ移住してきたマッケンジー夫妻の持ち家で、夫妻がワタクシたちを匿ってくれているのです。

夫妻はあいにく外出中で、ワタクシが応対するしかないようです。

しかし、一応名前の知れた人間なので慎重に対処しなくては。

日本人に見つかるとかなり困った事態になるし。



「あなたの愛するオフィーリアです。 開けて下さい」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。



リングのコーナーで真白になったボクサーのテンションで、扉を開ける。

白いワンピースに白いつば広帽子をかぶった女性。

伊達眼鏡をかけスーツをビシッと着た男性。

ワタクシを「あなた」と呼ぶ女性。

その三人が玄関先にいた。



ワタクシは、無言で三人を家の中へ入れる。

「ジェレミア卿、ヴィレッタ卿お疲れ様。 冷蔵庫に麦茶が冷えてるから、どうぞ。  そしてオフィーリアさん、「あなた」は勘弁してください・・・」



皆さん、つり橋理論をご存じでしょうか?

わからない方は、「やふー」でググっていただければ詳細が分かると思います。

簡単に説明すると、人は極限状況下で恋に落ちやすくなるという理論です。

あの旅館襲撃で足を骨折したワタクシは、自力で山を移動することができなくおぶって運んでもらったのです。



秘書官さんに。



最初は男であるジェレミア卿がワタクシをおぶると言ったのですが、秘書官さんが「殿下は私が運びます」と宣言して無理やりおぶったのです。

その時は、ジェレミア卿は頭に怪我をし万全の状態でなかったし、ヴィレッタ卿も気を失ったままでした。

ジェレミア卿は何度も自分が変わると言ったのですが、秘書官さんはガンとして首を振り拒否するのです。

いくら女性として膂力が優れていても、男のワタクシを長時間おぶるのは厳しかったと思います。

ヴィレッタ卿をおぶって下山するジェレミア卿ですら、途中何度も足を止めかけるほどでした。

秘書官さんは、足が止まりそうなときに「ガ~~ッツ」と掛け声をかけて頑張るのです。

これは本人いわく「ガッツの魔法」なのだそうで、妹さんにも教えているらしいです。



秘書官さんのこの姿を背中から一部始終見届けることになったワタクシは、恋に落ちてしまいました。

もともと仕事ができる切れ者ですし、ちょっと怖いところもあるけれど好感のもてる人物でした。

そんな秘書官さんのこのカッコいい姿を見て、惚れないほうがワタクシには難しかったのです。



マッケンジー夫妻の家に匿われたその日。

夫妻に貸してもらった二階の空き部屋で、ワタクシと秘書官さんが二人きりになったときに言ったのです。

ワタクシは骨折からくる熱で意識が幾分朦朧していました。

秘書官さんはベッドに寝ているワタクシをかいがいしく世話してくれております。

熱をもったワタクシの額に当てられた秘書官さんの手が、ひんやりと気持ち良かったのを覚えています。



額に当てられたその手がきっかけになったのでしょうか?

秘書官さんが物凄く愛おしく感じられたのです。

昨日の襲撃で親しくしていた人々を幾人も失ったワタクシは、この愛おしさを感じた女性まで失いたくはないと心の底から思ってやってしまいました。



額に当てられていたほうの秘書官さんの腕を引っ張ったのです。

思いがけず引っ張られた秘書官さんは、体勢を崩しワタクシの胸の上に覆いかぶさるようになりました。

「で、殿下!?」

突然のことにうろたえる秘書官さん。

その驚いている背中に手をまわし抱きしめてしまいました。

さらに驚いたのか秘書官さんは手足をバタバタと動かしています。

もう辛抱たまらずに言ってしまったのです。



「あなたはいなくならないで下さい」



バタバタと動いていた秘書官さんがピタっと止まりました。



「私の傍にはあなたが必要なんです。 ずっと一緒にいて下さい」



秘書官さんはただ無言で抱きしめ返してくれました。

しばらくお互いに抱き合っていましたが、秘書官さんをジェレミア卿が呼ぶ声がしたので慌てて離れてしまいました。

部屋を出るときに秘書官さん言ったのです。

「これからは、名前で呼んでいただけますか? オフィーリア、と」

ワタクシはコクンとうなずきます。



秘書官さんが部屋を出てしばらくすると廊下から声が聞こえてきました。







「お家再興フラグ、キターーー」



あ、あれ、秘書官さ・・・オフィーリアさん?






[3823] 第十六話 超日本国の残光 VS VS VS
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2008/08/20 16:27
第十六話







「私の! 男に! 手を出すんじゃない!!」



ワタクシの隣でロイド・アスプルンド伯爵が、モニターを見ながら満面の笑みを浮かべています。

なにやら、「でばいさー」がどうとかこうとか呟いています。

それとは対照的にセシル・クルーミー中尉は、伯爵と同じモニターを見て顔を引きつらせています。

二人の対照的な姿を横目で見ながら、ワタクシは再びモニターに視線を戻します。



モニターに映っているのはランスロット。

伯爵たち特別派遣教導技術部が、開発中の第七世代ナイトメアの試験機。

これまで開発されたどのナイトメアよりも強くあれ、と計画された機体。

通常のナイトメアより多くのサクラダイトを使用したことにより実現した、高出力。

抜群の運動性能。

モニターに映る戦場で、その機体スペックが机上の空論ではないことを実証しています。







そう、回し蹴りを「奇跡の藤堂」が騎乗する無頼改に炸裂させる、オフィーリアさんが乗るランスロット。







ワタクシの隣でロイド伯爵が、ものすっごい微笑んでいます。

メリーさんの羊を鼻歌で奏でてます。

顔の引きつらせながら、クルーミー中尉が目前で展開されている戦闘のデータを確認してます。

「ランスロットとの適合率八十八パーセントに達してます」

その報告を聞いたロイド伯爵はワタクシに眼で訴えかけてきます。



まるで「お菓子売り場の子供」 「消費者金融の小型犬」の如くです。



ワタクシの目の前に「キラン」っといった擬音が聞こえてきました。

なんかおかしいです。

この世界は「機動戦士」ではないのですよ。

それでもワタクシには、ロイド伯爵の思っていることが分かります。



(クロタールちゃん。 あの人特派にちょうだい)



もう伯爵ったら・・・・・・。

無理です。

眼をうるうるさせったってダメなんだからね!

ワタクシがなぜ特派のトレーラーでロイド伯爵の「ちょうだい攻撃」にさらされなきゃならんのです。









ワタクシたちはマッケンジーさん家に一週間ほど匿っていただきましたが、ブリタニア軍へジェレミア卿がなんとか連絡をとることができたので、比較的近くに展開中の部隊と合流することになったのです。

しかしながら、センダイ市はブリタニア軍と反乱軍のガチンコなファイトクラブの真っ最中。

お互いのベルトのバックルが掴める距離での戦争です。

そんな泥沼の市街戦のなかをワタクシはまたオフィーリアさんにおんぶされながら移動しました。



あれ、あのまま隠れてたほうが安全じゃね?



失敗したと正直思いました。

しかし、ワタクシたちの一番近くに展開していたロイド伯爵の特派とその護衛部隊に無事合流出来たときは、神様に感謝したものです、やっと安全地帯に入れたんだと。

安心したことにより、今回の反乱の戦況が気になりだしたのです。

まず反乱軍の本拠地であるセンダイで戦闘が行われているということは、反乱軍はもうお終いと見ていいかもしれません。

後でロイド伯爵にこれまでの戦況を聞いたのですが、シュナイゼル兄上の「紳士的な」外交によって中華連邦が反乱軍への戦力支援を打ち切ったそうです。

なんでも、中華連邦は「特殊機関の一部が妄動主義、英雄主義に走ってこうなった」と言い政府はまったく知らなかったと声明出したとのこと。

「ナマハゲの怒り」たちは見事にしっぽ切りにあったようですね。

なんだかな~。

中華連邦の支援が打ち切られた反乱軍は、あっというまに瓦解し一部は地下に潜伏し、残りは本拠地センダイでの最後の決戦を挑んでいると伯爵は説明してくれました。



無事に特派に合流できてほっと一息ついた時でした。

こちらに向けて接近してくる、ナイトメアの一団が発見されたのです。

その部隊の速度は通常の一・五倍。

最初は味方かと思っていたらIFF(敵味方識別装置)、通信ともに応答がないのです。

すわっ、敵のナイトメアかと臨戦態勢です。

向こうの戦力は、ナイトメア十一機。

こちらは、特派の護衛部隊のグラスゴー三機と、ジェレミア卿とヴィレッタ卿のためにわざわざVTOLで運んできたサザーランドが二機。

そして実戦テストのためにロイド伯爵が運んできた試作機のナイトメア、ランスロット・プロトが一機。

このランスロット・プロトには専属のパイロットがいたのですが、たった数回の戦闘で体調を崩し救護所送りです。

なんでも機体性能のすさまじさに身体が悲鳴を上げてしまったそうです。

ロイド伯爵はどんだけ過激なセッティングを機体にしたのでしょうか。

いくらプロトタイプとしても乗るたびにパイロットを交換するようでは・・・、完成するのかな?



そのような、パイロットのいないナイトメアを抜かしてもこちらは敵の半分の五機。

単純に考えても戦力差で不利です。

さっきのVTOLに乗っけてもらえれば良かったのでしょうが、あいにくお空はまだ危険なのだそうです。

そこらに潜む歩兵さんが、携帯型地対空ミサイルを抱えて走り回っているそうで。

さらに神出鬼没に現れる、リボン付きの死神。

各地の空港の大部分はブリタニア軍が奪還したのですが、急造の野戦飛行場をいくつか反乱軍は作ったようで散発的ながら、空戦が発生しているようです。

ああ、無常。

なぜ、ワタクシの行く先々には危険が満ち溢れているのでしょう。

神様からのいやな贈り物です。

特派のトレーラーで、ワタクシは自分の運のなさを後悔していました。

傍らにはオフィーリアさんも控えていますが、なにか考え込んでいるようで無言です。

どうしたのかと声をかけようとした時でした。



「伯爵、女性でもランスロットに乗ることは可能ですか?」



へっ?



オフィーリアさん今なんと???

さすがにロイド伯爵も驚いたのか、すぐに聞き返します。

「・・・君が、僕のランスロットに?」

「はい、私がそのランスロットに乗って戦います」

ちょっと、ちょっと何をおっしゃってますか!?

「以前、マリアンヌ様から、操縦を教えていただいた事があります」

えっ、それワタクシも初耳。

「う~~ん・・・。 あまり賛成できないね」

「ならばここで死んでもよろしいので。 さらにあなたのランスロットが、彼らに奪われても良いのですか?」

たたみ込まれるように、オフィーリアさんに言われた伯爵は、またムゥっと顔をしかめる。

しばらく無言で考え込んでいたロイド伯爵は、うんっと頷き言った。



「セシルくん。 ランスロットを出すよ。 準備を手伝って」



そして、あれよあれよと出撃して戦闘です。

出撃前にワタクシは、オフィーリアさんを捕まえて聞きました。

もう彼女のことが心配でたまらなかったのです。

戦闘に参加して大丈夫なんですか、と。

すると彼女は、カラカラ笑って言いました。



「殿下。 四の五の言わずに今日はおとなしく私に守られてて下さいね」



もう二の句を告げることは出来ませんでした。

そんなワタクシに満足したのか、こちらに近づいてきてギュッと抱きしめてくるのです。

あれ、あれあれ。

もしかして主導権取られてる?

姉さん女房ですか?

なんですか、この出撃する主人公(オフィーリアさん)を心配するヒロイン(ワタクシ)な構図は・・・。

しかし、そんな構図のことなど今は忘れて自分に出来ることをしなければと思い、ワタクシはトレーラーの通信室に向かうことにしました。







そして始まった戦闘。

敵は無頼改を運用する部隊。

無頼改の数は五機。

おそらく藤堂鏡志朗率いる、四聖剣なのでしょう。

戦力で不利なこちらは先制攻撃をかけました。

ランスロットが敵の隊列に突っ込み敵の無頼を二機すれ違いざまに撃破する。

・・・うそ、オフィーリアさんはワタクシより操縦うまいかも知れませんよ。

ジェレミア卿、ヴィレッタ卿も一機づつ撃破。

しかし敵も手錬のようですぐさま反撃を開始します。



ランスロット(オフィーリアさん)VS 白いカラーリングの無頼改

サザーランド(ジェレミア卿)VS 無頼改×二

サザーランド(ヴィレッタ卿)VS 無頼改×二

グラスゴー×三 VS 無頼×二



このような組み合わせで激しい戦闘が続く。

「ガ~~~ッツ!」

「ぬぅぅ! なかなかやる!」



「くらえ、我が忠義の嵐」

「切っちゃうよ!!」

「蝉の抜け殻アタック!」



「日頃のストレス発散!」

「こいつに勝ったらこんどこそ告白!」

「千葉! 落ち着け!」



オフィーリアさんは、意外にも善戦しており戦いは膠着状態になった。

ジェレミア卿、ヴィレッタ卿も多数の敵機相手に奮闘しトレーラーへ近づかせない。

この間に敵の無頼を撃破したグラスゴーが、援護射撃を開始する。

しかしさすがは藤堂というべきか、機体の性能差をテクニックでカバーしランスロットを徐々に追い詰めていく。

藤堂の無頼改がランスロットの腕が切り飛ばした。

バランスを崩したランスロットに止めを刺すべく追撃をかける無頼改。

その時でした。

追撃をかけようとした無頼改の前にロケット弾が着弾し炎の壁を作り上げました。

戦闘ヘリの編隊が上空を駆け抜ける。

なんとか航空支援が間に合いました。

ワルキューレの騎行です。

兄上に感謝しなければ、航空支援を要請したら、すぐに送ると言ってくれたのです。

オフィーリアさんたちは時間稼ぎに成功したのでした。



次々と発射されるミサイルやロケットにより吹き荒れる鉄の嵐。

いや~、ずいぶん派手です。

藤堂たちは、形勢の不利を悟り素早く撤退に移ります。

攻撃はまだ止みません。

まだ止みません

止みません

止まない

・・・・・・



上空を飛び交う爆撃機や戦闘ヘリの群れ。

どんどん増えていきます。

隣に立たんずんでいた、ロイド伯爵やクルーミー中尉も状況のおかしさに気づいたようです。

兄上・・・。

支援の量が過剰すぎます。

ストップ! 攻撃中止!

こっちまで巻き込まれるー!






[3823] 第十七話 星屑の思い出、そして世界は。
Name: 崖の下の◆d4540ced ID:fc9437d9
Date: 2009/04/27 22:50
第十七話






俺はあの灼熱地獄から生還したあの日を忘れることはないだろう。

日本の反乱組織「なまはげの怒り」にトウホク管区が不名誉ながら占領された時、俺はセンダイにいた。

あの組織的な抵抗が終結した日、俺は特派のロイド伯爵に頼みこまれて特派の試作機ランスロットに騎乗した。

俺は襲い来るレジスタンスたちをランスロットに乗り一騎当千の大活躍で、あの名高き因縁の相手藤堂と互角以上の戦い、いや圧倒的な優勢……。

……

……

……

ね、ねつ造だ!!



トウキョウの政庁の総督執務室には、ワタクシと兄上そしてバトレー将軍の三人がいます。

ワタクシが今読んでいたのは、兄上直筆の「クロタールのトウホク反乱事件回想」です。

最後の一枚を身体を震わせながら読み終えるワタクシ。 

なぜ兄上がワタクシの回想を書いているのでしょう。

兄上は「そんなに感動的な文章だったのかい?」 などという表情でニコニコしながらワタクシに感想を求める気が満々です。

部屋の壁際に直立不動で立っているバトレー将軍に、ワタクシは必死に眼球による意思疎通を試していました。

(いったい兄上にどんな報告書を読ませたんですか!)

(いや、その、それがですね。 あのミスコミュニケーションが……)

残念なことに『エア・リーディング』レベルの低い兄上が、バトレー将軍とワタクシの友好的であり正しいコミュニケーションに割って入ってきました。

「クロタールは、文章を書くのが苦手だったから、代わりに書いてあげたんだ。 思わず筆に力が入ってしまってね、いい文章だと思わないか? とくに藤堂との一騎打ちのくだりは……」



ああっ、親愛なる兄上。



兄上のワタクシへの愛は海よりも深く、空よりも広く包み込むようです。



しかし、なにかずれていませぬか……。



バトレー将軍とワタクシによるダブル説得攻撃の結果、めでたく回想録はお蔵入りと相成りました。 

まったく兄上も困ったものです。

回想録騒動が収まった後に兄上とバトレー将軍を交えての治安計画について話し合いました。

今度は西の方がきな臭いそうで。

トウホクの反乱からまだ半年も経っていないのに火種は日本全国に燻っていますね。

「クロタール、行ってくれるかい?」

「……はい。 しかしワタクシ親衛隊はまだ再建途中でして、戦力的に不安なのですが」

先のトウホクの反乱でジェレミア卿、ヴィレッタ卿を除いてワタクシの親衛隊は壊滅して、再建の真っ最中なのです。

皇族の親衛隊は大変名誉ある職務でありますが、同時に一定レベルの力量が求められ誰でも入れるものではありません。

だからと言ってエリア11に駐屯する各部隊からベテランを無理やり引き抜くわけにもいかないですし、現場の指揮官に極力迷惑はかけたくありません。

そのような訳で、クロタール副総督親衛隊は絶賛閉店中です。

「うん、それは聞いている。 しかし前線に出なくてもいいんだ、皇族がその場所に居ることが重要なんだよ」

「わかりました、兄上。 行って参ります」

「そうかありがとう、さすが自慢の弟だ」

兄上の満面の笑顔に見送られて執務室を後にしますと、あとからバトレー将軍が出てきました。

「クロタール殿下、我々軍人が頼りないばかりにご迷惑をおかけします」

バトレー将軍は律儀な人なんですね。 謝られても困ってしまいます。

「いや、軍が最善を尽くしていることは知っています。 そのように卑下することは……」

「しかし現実は現実です。 最善を尽くそうが結果を出さなければ意味がありません」

「……将軍」

この人は根っこから軍人なんだなと思いましたよ。 

好感の持てる人物じゃないですか。

「先ほどの件なのですが」

「ん?」

「クロヴィス殿下は笑顔で見送られましたが、本当はクロタール殿下を危険な場所に行かせたくないのです」

バトレー将軍の声に込められた感情をどう表現すればいいのか分かりません。

「クロタール殿下がホッカイドウ・トウホクと危険にさらされた時などは、表にこそ出しませんでしたが深く後悔なされておりました。 なぜエリア11にクロタール殿下を連れてきたんだと……」 

もしかしてバトレー将軍は、ワタクシたち兄弟の仲を心配して?

「将軍、大丈夫だ。 兄上のお立場も分かっている、分かっているからこそ頑張ることもできるんだ。 まあ、厳しくもあるんだがね」

「……」

「皇族に兄弟揃って生まれたんだからしょうがないけれど、たまに思うことがあるんだ」

「……」

「これが普通の兄妹だったなら良かった……なんて。 平和なエリア11、いや、日本にルルーシュ、ナナリーを兄上と訪ねる。 ルルーシュにチェスを挑んでは負ける兄上をナナリーと笑いながら見守る。 そんなありもしない空想が浮かんでくる事が」

「……」

「ああ、すまないバトレー将軍。 こんな愚痴みたいなことを言ってしまって。 私は大丈夫だ、兄上の信頼に応えてみせるよ」

バトレー将軍は首を左右に振り、言った。

「いいえ、お気になさらず。 私も自分の義務を全力で果たします。 両殿下の御心の安寧のため粉骨砕身していく所存です」

「ありがとう、将軍。 私がいない間兄上を頼みます。 それと私の親衛隊の再編成の件ですが……」




「なぜ、私をお連れ下さらないのですか!? 殿下が戦場に行くときに私が後方でぬくぬくとしてる訳には!」

「ジェレミア卿、今回は前線に出るわけでもありません。 あくまで現地レジスタンスへの圧力と交渉です」

「しかし、ホッカイドウの時のように万が一の事態になったら」

「ホッカイドウの轍は踏みません。 すでに先乗りの憲兵部隊が内通者のあぶりだしを終えてますし、現地司令部も十分警戒してます」

ジェレミア卿はまだ納得がいかない面持ちで、ヴィレッタ卿も困惑のようです。

「私は良くも悪くもレジスタンスに有名です。 そんな私が現地に行くだけでレジスタンスにはプレッシャーになるでしょう。 うまくすれば血を流さずに武装解除出来るかもしれません」

「しかし……」

「ジェレミア卿、そんなに心配しなくてもいいですよ。 それにもう一つやってもらいたいことがあります。 先ほどバトレー将軍と話したのですが、本国からパイロットの補充が来るそうで、その中からジェレミア卿あなたに私の親衛隊員の選抜をお願いしたいのですが」

「そ、そんな大役を私にお任せ下さるのですか!?」

「ジェレミア卿、これは名誉なことではありませんか。 殿下の親衛隊の再編を卿が任されたのですよ」

どうやら二人とも引き受けてくれるようでホッとしましたよ。

「今週中に第一陣が来るそうなので、よろしくお願いしますよ。 あとですね、最近シンジュクが騒がしいようですので、命令があったら警備任務に協力して下さい。 これはバトレー将軍に話は通してありますので指示に従ってくださいね」




「オフィーリアさん、あの現地司令部からのレポートは?」

「はい、プリントアウトしてありますので移動中に目を通して下さい」

無駄に広い副総督の公邸で荷作りに勤しむワタクシとオフィーリアさんプラス使用人たち。

ふう、これで荷物は準備できたかな。

「殿下、ほかにお持ちになるものはありませんか?」

「うん、大丈夫だろう。 執事長、明日から公邸をしばらく空けるから皆に休暇を出しておいて、現地から戻れそうになったらまた連絡を入れる」

執事長以下使用人たちは礼をして部屋から退出していく。

「オフィーリアさんは、準備できた?」

「すでに終わらせてあります」

む、素早いなあ。

「ああ、そういえばこの間の話だけど」

「公務ですから仕方がありません」

「せっかくアッシュフォード元伯爵や妹さんの……えっと名前が」

「ミレイですわ」

「そう妹のミレイさんに会えるかと思っていたんだが残念だ」

実は先週オフィーリアさんから、実家へのお誘いがあったのだ。 アッシュフォード家でパーティーがあるので是非にと。

「私も残念です。 殿下に是非会わせたい人がおりましたのに……」

「そうなんだ、へえ、誰なんだい」

何気ないように今聞きましたが内心はビクビクしていますよワタクシ。

これが両親への紹介などという人生のビッグイベントだったらどうしませう。

「それは秘密です。 おじい様も殿下なら会わせても問題ないだろうとおっしゃいましたし。 まだ当人たちには言っておりませんが、きっと喜んでくれるでしょう」

すっごい、気になりますよ。 

外堀を埋められたのですか!? おじい様ハードルクリア!? 次はやっぱりご両親!?

「じゃあ、次の機会の楽しみにしておくよ」

「ええ、きっと殿下もお喜びになると思いますよ。 やっぱり運命の神様っていらっしゃるんだって」










「わ、私じゃない! やっていない、やらせてもいない。 クロタールが巻き込まれ死にかけたんだぞ!」

クロヴィスの眼前に突き付けられた銃。

「分かったよ」

眼前の銃が下げられ、クロヴィスの表情が安堵の色を――、「しかし」

「や、やめろ! 腹違いとはいえ実の兄だぞ!」

「綺麗事で世界は変えられないから」

ルルーシュはクロヴィスに突き付けた銃の引き金を絞るように引いた。             







あとがき

衝撃的な最後を迎えたコードギアス。

ああするしか物語を収められなかったと思いますが、あそこまで綺麗に纏められると二次創作を書く隙間が無くなりますね。

それと話は変わりますが、最終話が放映されたあとの二次創作SS群の過疎っぷりはなんとも寂しい限りですが、私も一気にコードギアスのSSを書くモチベーションが失った一人なので人の事は言えませんね。


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