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[39661] 【ネタ】ベルセルクの世界に神様転生したんですけど
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2014/03/17 22:32
・この作品は100%ノリで執筆しております。
・FFT要素があります。
・文才がない。
・主人公は人外かもしれないけど使徒じゃないよ。
・話の終わりが見えない。
・たぶん完結しない。

以上のことが耐えられる方のみお読みくださいませ。



[39661] 第一話 テンプレな神様転生
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2014/03/17 23:08
……あれ、ここはどこ?

――気がついたか、人の子よ。

ええと。誰ですか?
っていうかここどこですか?

――私は人の言うところ『神』だ。そしてここは……私の住んでる家みたいなものだ。

姿形すらみえないんだけど……

――人の理解を超えた存在であるからこそ人は『神』と呼ぶのではないか?

一理あるのかな?
というか俺は病院のベットで闘病生活してた筈なんだけど?
ひょっとして俺って死んだの?

――ああ、それで完全にこちらの都合でお前にとある世界に転生して欲しいのだ。

ひょっとしてこれってネットでよく見たテンプレな神様転生ものの主人公になったの俺?
いや、俺は別に神様のミスで死んだわけでも死因がトラックに轢かれた訳でもないんだが……

――神様のミスとかありえないし、トラックに轢かれるのが何故転生に繋がるのか理解に苦しむが……

あれ?ひょっとして貴方って常識人なのですか?

――そっちでいう常識とやらがこっちでいう常識と同じとは限らないが……
  少なくとも私にこっちでいう常識はないと思う。

へぇ~。

――少し話が逸れたが転生するにあたってなにか欲しいものはあるか?

神様転生するならやっぱりチート能力が欲しい。

――チートとは確か人外の力を指すのだったな。
  では、体から無数の触手を生やせるゴキブリに変身できる力を授けてやろう。

ちょっとまってーー!変身するにしてもそんな気持ち悪い生物イヤーーー!!
幾らチートと言っても別に怪物に変貌する必要ないでしょ。
『FFT』のあいつ並の力とかでもチートでしょう。
……変身するにしてもせめて石を使って変身するアレとか。

――よくわからぬが今お前がイメージしたとおりの力を授ければいいのだな。

え?今のイメージを本当に実現できるの?

――私は『神』だ。この世の全ては思いのままだ。

マジですか!!
あれ?でもそれにしては俺の生きてた世界のことしらないみたいですね。

――別にお前の生きてた世界に興味がなかっただけだ。

じゃあ早く見に行ったほうがいいですよー
最近RPGとかで魔王とか魔神がラスボスっていう展開になえて神がラスボスになっていたりしてますから。

――別にどうでもいい。

……神様って寛容なんだな。
誰だ?神は傲慢とか言い始めた奴。

――知らん。とりあえず行って来い。

?なんか周りが激しく輝き始めて……

――ああ、そうだ。私から一言二言、一応言っておこう。
  「あるがままにあれ」「望むままを行え」
  以上だ。第二の人生を楽しみたまえ。

……?
なんかその文句どこかで見た覚えがあるようなないような。
確か大人気ダークファンタジーの83話で……
あれ?なんか目の前が真っ暗に……



[39661] 第二話 生き残る自信は歴史の授業によって崩される
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2014/03/17 23:38
転生した世界は中世みたいな世界だった。

そんな世界で俺はバルデン王国という列強国家の大貴族の御曹司として生まれた。

この事実を知ったのは2歳位の時だ。

いや、メイド連中が話しているのを聞いて初めて知ったんだ。
俺の父親が騎士団の要職についていて家の領地もかなり広いのだと。

しかも俺の生まれた家の名前聞いて耳を疑ったよ。

オルランドゥ伯爵家って言う家らしい。
……で、俺の名前がシドルファス。

いや、確かに『FFT』のシド並みの力をあの時イメージしたよ。
でも別に名前まで似せなくてもよかったんじゃないかな?

因みに7歳の頃から武術の訓練をやらされたがシド並みの才能があるのかみるみる上達。
3年もしたら領内で俺に勝てる奴はいなくなったぜ!
騎士である父上でようやくいい勝負だ。

そして今俺は10歳なわけだが今年から国際関係の為に歴史のことも家庭教師から教わるらしい。

そういえばまだこの国の国名と自分の家の領地とその周辺位しかまだなにも知らないんだった。
そうなると歴史の授業も楽しみだな。

……この時俺は知らなかったんだ。

貴族の地位とシド並みの才能のおかげで寿命以外で死ぬ事はまずなかろうという自信がまさか歴史の授業によって崩されようとは。

「さて、シドルファス様。まずは触りとして今現在のことについてお勉強しておきましょうか。
まずは私達の住むこのバルデン王国。そしてミッドランド王国・チューダー帝国の3つです。
現在、ミッドランドとチューダーは長きに渡って戦争を続けております。
そのおかげといってはなんですが我が国も武器輸出などで利益をあげております。
それと東方にクシャーン帝国という私達の信じる神ではなく邪神を崇める国家があります。
これに対して法王庁が諸国に働きかけ連合を組んで戦いを挑んだこともあります。
有名なのはヴリタニスをクシャーンから奪ったことですかね。
他には………………………………」

すいません。さらっと問題発言があったような気がするのですが。

ミッドランド王国とチューダー帝国ね。

まぁそれだけならいいんだ。
似たような国名は異世界にもあるかもしれない。

そこを聞いた時はそう思って現実逃避していた。

しかしその後説明されたミッドランドとチューダーの関係。
そしてクシャーン帝国の存在と法王庁の対立関係。

ここに至って俺は現実を受け入れざるを得なくなった。

間違いねぇ!ここは『ベルセルク』の世界だッ!!

歩く死亡フラグが満載なダークファンタジー漫画だ。
シド並の才能だけで生き残れるような生易しい世界じゃねぇ!!



[39661] 第三話 今は原作でいうどの辺りなのか
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2014/03/18 13:40
マジかよ『ベルセルク』の世界なんか死亡フラグしか存在しねぇじゃないか。

この世界だとシド並みの才能でさえも死亡フラグにしかならない。

だってねぇ、歩く死亡フラグとでもいうかねぇ。
バトルジャンキーな使徒がいるんだよ。
ゾッドっていう三百年に渡って強敵を求めて彷徨っている戦闘狂が。

そんな奴がシド並みの力を持っている事を知ったらどうするか?

考えるまでもない。
まず間違いなく俺に挑みかかってくるだろう。

三百年も戦闘経験があってチートな力を持ってるゾッドに俺が勝てるわけねぇだろッ!!
幾ら俺がシド並みの力を持っていると言ってもなぁ!!

……今後は力を見せびらかすのは避けた方がいいな。
これからは誰かと模擬戦する時は手加減していこう。

ゾッド対策は今のところはこれが限界だな。

後は原作が今どの辺りかについてだ。

俺の原作知識は新生鷹の団が末神と化したガニシュカ大帝を打ち倒し、幻造世界が始まった所で終わってる。
……そういや髑髏の騎士の黄泉の剣はフェムトにダメージ与えられてなかったな。
加えてそれが幻造世界になる原因のひとつになったんだから報われないな。

それはさておいてだ。

とりあえず誰かに当たり所のない質問をして今がどの辺りか知る必要があるな。
さて、何から、というよりそもそも誰に質問したものか……

「どうかなさいましたか?」

うお、ビックリした。

「あ、すいません。中庭の真ん中で何分も立ったままでいらっしゃったのでどうしたのだろうと思いまして……」

話しかけてきたメイドが青い顔をして何度も謝ってくる。
そうだ。こいつに質問してみよう。

「別にいいよ。ちょっと考え事をしていてね。そういえば少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「は、はい。私に分かることならば」

「あのさ、鷹の団って知ってる?」

「鷹の団ですか? 申し訳ありませんが私は知りません」

少なくともまだ鷹の団は有名じゃないみたいだな。
ひょっとしたらまだ百年戦争中期で原作は始まってすらいないのかもしれない。
淡い期待を込めてもうひとつの質問をした。

「そうなのか、じゃあミッドランドの第一王女って誰か知っているか?」

「ミッドランドの王女でございますか? 確かシャルロット様であられたかと……」

ウボァー。

うん、これ絶対に俺が生きている間に世界が変貌しちゃうね。
……こっそり剣技の練習した方がいいかもしれん。
今まで化物扱いされるの嫌だったからしてこなかったがトロールとかが跋扈する世界になったら死ねる。
特に【闇の剣】は絶対習得しておかないと……

いや、今はそれより世界が変貌するまでにどれ程の猶予があるのか調べる方が先決だ。

「そ、そうか。それでシャルロット様が今おいくつか知っているか?」

「えっと……確か……11歳だったと記憶しておりますが……」

今、シャルロットは11歳。
確かグリフィスがシャルロットに手を出して国王の逆鱗に触れて幽閉された時が確か17歳だった。
世界が変貌するのはその2年後だから……

実に8年の猶予があるわけか。
……前世に不治の病にかかって病院生活を強いられた時、俺は18歳だったな。
そして今世だと世界が変貌する時、俺は18歳。

なんか俺の18歳って何かに呪われてるのか?

とにかく俺が今できることは自分を鍛えることだけだ。

原作知識を使いたくともバルデン王国なんて国は原作に出てこない。
いや、ヴリタニスの法王庁連合軍に参加してたような記憶があるにはあるが描写がねぇ。

まあ、しばらくは訓練に勤しむしかないのか……

「ああ、考えが纏まったよ。ありがとう」

「大丈夫なのですか?なにやら顔色が真っ青ですが……」

「大丈夫だよ」(抜刀)

「わ、わかりました。失礼致します!」

メイドが逃げるように俺の傍から離れた。
こういう時に貴族の地位は便利だよね。

さて、今日は俺の部屋に戻ってゆっくりするか。

……因みに俺が自分の身の上を嘆いて泣いていたのは内緒の方向で。



[39661] 第四話 諸事情で小隊長になりました
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2014/03/19 18:22
この世界が『ベルセルク』の世界であると知って3年がたった。

それに鷹の団の名前がバルデン王国でも有名になってきた。
まだミッドランド軍の正規軍にはなっていないようだがそれも時間の問題だろう。

俺はというとこの3年間は意図的に力を抑えてきた為、周りから伸び悩みしていると思われている。
実のところ裏で【無双稲妻突き】だの【聖光爆裂破】だの【闇の剣】だのを練習している俺としてはやや申し訳なく思う。

だからと言ってこれを父上や剣術指南役に教えるわけにはいかない。
ゾッドを警戒しているのもあるがそれ以前に法王庁によって社会的に死にかねん。

……絶対こんな剣技を使えることが法王庁にバレたら異端審問官が飛んでくるね。
そして火刑もしくは車輪轢きの刑に処されるのはほぼ確定だ。
処刑から逃げ出したところで異端認定は免れまい。

幻造世界の幕開けまで後5年。
そうなれば大っぴらに使っても異端だなんだとほざく馬鹿はいなくなるだろう。

それはそうと今日は父上からなにか話があるらしい。

「シドルファス。私は暫く家に戻れなくなる。
領地運営の方は代官に任せてあるので心配せずにいてよいが我が領内に残していく部隊をお前に託しておこうと思う」

「えっ?家に戻れなくなるとは……父上の所属する騎士団がどこかに派遣されるのですか?」

父上の所属している騎士団は王家直轄の騎士団だ。
余程のことがない限りは派遣されることなどない。

「うむ。ランデル地方で反乱が発生したらしくてな。
敵にかなり纏まった兵力があるらしく近辺の諸侯軍だけでは対処しきれんそうなのだ」

「ランデル地方?あのなにかと騒ぎが絶えない?」

「ああ、税金が高すぎるだの自治を認めろだの休みを増やせだのとよく開拓民どもがほざいている地だ。
そもそもあの地に入植した開拓民共は元は咎人だ。牢獄にいれられんだけでも泣いて感謝するべきなのだ。
だというのに奴等は今度は独立を認めろだのと言って身の程も弁えずに我々に牙をむいたのだ」

「……」

ランデル……最初にその名前を知った時、なぜか知ってるような気がした地名だ。
それに父上のランデルに関する説明なんとなく知ってたような気がする。
原作で出てきてたっけ?

思い出せないなら大したことじゃないと思うんだけどバルデン王国も原作だと存在感殆どなかったからな。
ヴリタニスでちょっと説明されただけだし。
あ~、駄目だわからん!!

「ん?どうかしたのかシドルファス」

「いえ、なんでもございません」

「そうか。では話を戻すが領内に残す部隊についてだが……500人ほど残しておく。
だが、実際にお前に指揮権を託すのは30人ほどだ。
他は都市の治安維持の為に各守備隊長が指揮権を持っている。
お前は領内に盗賊などが出たら近場の都市の守備隊と協力して排除することだ。
そろそろお前も実戦を経験するべきだと思うのでな」

う~む30人か。
近代編成単位で1個小隊相当だな。
ということは俺は小隊長になるわけか。

それに実戦か……やっぱ人殺しを経験するんだよな。

まぁそんな甘い事言ってたらとてもこの世界を生き抜くことはできなさそうだが。

まったく前世の人生の半分が病院生活の俺になんて無理ゲーを背負わせるんだ神様は。
この場合俺を転生させた神様かベルセルクの深淵の神どっちを恨めばいいんだ。
……考えるの面倒くさいからどっちでもいいや。

数日後、父上の所属する騎士団はランデル地方に向かっていくのにシドルファス伯爵領内を通るらしいので眺めた。
……この世界が『ベルセルク』であることを知っていても威風堂々とした騎士団の行軍はかっこいいと思った。

ただこの騎士団も数年後には魔物に蹂躙されて消滅しているだろうと思うが。



[39661] 第五話 罪悪感みたいなものを感じると思ってた
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2014/03/19 18:22
父上がランデル地方に向かってから数ヵ月後。

領内で盗賊団が出没しているそうなので俺が部隊を率いて出撃することになりました。

被害を受けた地方都市の守備隊から盗賊団がどれ程の規模かはわかっている。

都市を襲った盗賊は15人前後。
それ以外にもいるかしれないが30人を越える事はないと思われている。

よってそれぞれの守備隊は盗賊団が領内から逃げないように追い込み漁の要領で追い詰めた。
その過程で盗賊を数人討ち取っている。

そして最後は俺に実戦を経験させる為に俺が率いる部隊が盗賊団と戦うことになっている。

それにしてもいよいよ実戦か……
思わず気を張り詰める。

「シドルファス様。あまり気を張り詰めない方がよいですよ」

「ああ、わかったイスターク」

イスタークは下級貴族の出で俺より2つ年上の15歳だ。
12歳の頃から実戦を経験しているそうでそれなりに腕が立つ。

父上が俺の補佐役として着けていったらしい。
イスタークが言うには歳が近いというので補佐役に抜擢されただけらしいが。

「斥候によりますと盗賊の数は20人前後で山中の廃屋にいるそうですがどうなさいます?」

「そうだな二班を廃屋の背後に回そう。そして挟み撃ちだ」

「成程。その方がよいでしょうね」

「後、長弓が扱えるのは何人いる?」

「全員扱えますが、長弓を持ってきている兵は各班に2人ですね」

「では、その者達に火矢で廃屋を攻撃した後、前後から挟み撃ちにする」

「畏まりました。そのように手配します」

イスタークが優雅に礼をすると各兵に命令を下していく。
……そういえばオルランドゥ家の私設軍でイスタークはどんな立場なんだろう。
今の明らかに年上の兵に命令を下しているところをみるとけっこう偉いのだろうか。

そんなことを考えていると命令を出し終えたイスタークが戻ってきた。

「準備が整いました。突撃の御命令を」

そう言われて俺は剣を抜いて山中の廃屋を指す。

「弓隊!放てッ!」

火矢が廃屋に向かって飛んでいく。
木造の廃屋はたちまち燃え上がり、中から盗賊共がわらわら出てくる。

「全軍突撃ッ!」

……どこぞの傭兵団の千人長じゃないが俺も一度言ってみたかったんだ。
全軍といっても30人くらいしかいないがまぁいい。

俺も盗賊の一人に近づいて剣を振る。

ガキィン!

盗賊の持っていた剣筋がそれる。

ザシュ

盗賊の首元に剣を突き刺すと血飛沫を出して息絶えた。

……なんというか物凄くあっけないな。
人を殺すのってもっとこう罪悪感みたいなものが沸くものだと思っていたんだが……
狩りで狐や鳥を殺すのと差がわからん程あっけない。

そんなこと思っていたら矢が俺の顔をかすった。
あぶねぇッ!

「あ、ちくしょう!」

どうやらボウガンを持っているあいつが俺に矢を放ったらしい。
この野郎……危うく世界が変貌する前に死ぬとこだったじゃねぇかッ!!

そう思い、その盗賊に全力疾走で近づき燃え盛る廃屋に蹴りいれる。

「あちぃいいいい!!!」

廃屋でなんか転げまわってるな。そんなに熱いのか。
だが、お前は焼死させたりはせん。
俺の剣技がどの程度のものか実験台になって貰おうか。
屋内なら他の連中は壁が邪魔になって屋内の様子が見えないだろうからな。

「神に背きし剣の極意
その目で見るがいい・・・ 闇の剣!」

そう呟き俺は勢いよく剣を振り下ろす。
赤い目のようなものが転げまわる盗賊の上に現れ、地から赤い剣のようなものが盗賊を貫く。
すると盗賊は糸が切れたように倒れた。

矢がかすってできた俺の顔の傷は治っていないが体力が回復したような気がする。
つまりこれを使って戦えば疲れなくなるということか。
いままで誰にも向けず攻撃してたから技の詳細がよくわからなかったんだよな。
これはよい収穫だ。

そう思い、俺は燃え盛る廃屋に背を向ける。

どうやら既に殆どの盗賊が殺されるか、捕らえられるかしていたようだ。
随分早く終わったものだ。

「シドルファス様。こちらは怪我人はいますが死人はいません。
それと……盗賊共が蓄えていた金銀財宝の類はどう致しますか?」

イスタークが盗賊団の蓄えに目線を送って尋ねてくる。

「金貨は4割程徴収してそれで今回の盗賊討伐の費用にあてろ。
それ以外は盗賊団の被害があった都市に返してやれ」

「畏まりました」

一部の兵達が驚いていたがイスタークに叱咤されて黙った。
やっぱりイスタークってけっこう偉いさん?

とりあえず屋敷に戻る際にイスタークに尋ねてみた。

「イスターク。お前は私設軍でどういう立場にいるんだ?」

「この部隊の参謀ですね」

「ああ、言葉足らずですまなかった。平時の時の話だ」

「普段だと私は百人長ですね」

15歳で百人長だと!?
鷹の団でもないのにその歳で百人長ってどんなエリートよ?
俺が今まで見た私設軍の百人長って殆どが30代後半~50代前半だぞ。
若くても20代後半だったぞ!?
末端の兵の頭が上がらないのも道理だわ。

俺はそおの事実にかなり驚いて馬から転げ落ちた。
するとイスタークが可哀想な者を見る目で手を貸してくれた。

恥ずかしい……



[39661] 第六話 友達ができました
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2014/03/20 12:12
ランデル地方で繰り広げられている内乱は未だに決着がつかない。

なぜだかしらないが反乱勢の資金が不自然なほど豊富で多数の傭兵を雇っているらしい。
その為、反乱勢が派遣しているバルデン軍より兵数で上回っているそうだ。
結果、反乱発生から半年近くがたっているのに今だ決着がつかない。

なら援軍を派遣すればいいじゃないかと思う人もいるかもしれないがそうはいかない。

なぜならばこの国も含めチューダー帝国やミッドランド王国が理不尽な程、軍事力があるのだ。

原作でチューダー帝国がどう考えても百年戦争中にイースや北の小国と戦ってたのが不思議だったがある意味当たり前だ。
だってこの世界の列強国家って諸侯軍とか含めると全体で百万前後の兵力を誇っているんですよ?

どう考えても中世では不可能なレベルの兵力だと思う。

その為、国境を疎かにすれば周辺国に国境付近の領土が奪われかねないのである。

……中世レベルの文明でどうやってそれ程の軍事力を維持する為の軍事費をやりくりしているのかは永遠の謎である。

ガキィインッ!

「そこまでッ!」

剣術指南の先生が大声をあげて俺の方に手を挙げる。

「今度は私の勝ちだッ!」

俺は喜びながらそう言うと目の前で倒れている少年に手を差し伸べる。

「相変わらずの腕前ですね」

イスタークが俺の手を掴んで立ち上がった。

なぜイスタークが俺と一緒に剣の稽古をしているかというとあることに俺が気づいた為である。

今世でまだ友達が一人もいねぇことに。

前世だと普通に友達がいたんだがな。
……俺が入院してから態度がよそよそしくなったけど。

で、そのことに気づいたのが前の盗賊退治したあとで、そのことを剣術指南の先生に言ってみたんだ。
そしたら歳が近い+面識のあるイスタークと一緒に剣術の稽古をするようにしてくれたんです。

それで稽古の傍ら、話もしてたんだけど彼って個性がない。
というか意思というものが希薄で無私の忠誠を俺っていうかオルランドゥ伯爵家に向けてる。

なのであまり自分から仕事以外の話題を振る事があまりない。
最初の頃なんか俺から話題を振っても返答が遅い上に不明慮だった。

だがそれも何ヶ月も一緒に剣術の稽古を受けたり、たまに出てくる賊の退治をしている内に打ち解けてきた。
未だにイスタークからなにか話題を振ってくることはあまりないが、振った話題には答えてくれる位にはなった。

主従という関係が先につくが、もう友達と言っても過言ではないと俺は思う。
そうこの前、イスタークに言ったらなんか赤面した。

なんでも自分に友達なんかできるわけないと思い込んでいたらしい。

まぁ、友達ができにくい奴ではあるな。
俺も既に友達がいればイスタークにかまわなかったかもしれないし。

……イスタークと話す時間が増えたせいで隠れて剣技の練習をする時間が減ったけどまだ挽回できるよね?

そんな不安を抱いてはいたが今のところは大目に見ておこう。

だって友達が一人もいないって悲しすぎるでしょう。
そうだ。これは俺が生き残る上で必要な事だったんだ。

無理やりそう結論付けて俺は毎日をエンジョイしていた。



[39661] 第七話 20戦中6勝14敗
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2014/12/29 14:40
約8ヶ月に及ぶ内乱が終結した。

経緯としては反乱勢がモルガル公国とワラトリア公国の協力を取り付け、バルデン王国に独立を認めるよう迫ったそうだ。
バルデン王国は反乱勢の要求を幾つかの条件付きで認め、ランデル地方の独立を承認したのである。

……反乱勢の資金が不自然に潤沢だったのは十中八九、モルガルとワラトリアが資金援助してたからだろう。
いや、ランデル独立直後に友好的な態度をとったチューダーもバルデンの弱体化を目論んで反乱勢に資金援助していたのかもしれない。

モルガルとワラトリアは法王庁教圏で最東部に位置する小国だ。
小国と言ってもクシャーン帝国と国境を接している為、宗教的対立から戦争が絶えず、軍事力が小国としてはかなりある。

だが、彼らとしてはクシャーンとの国境に軍を配置しておきたいので背後を疎かにしたくないのだろう。

モルガルとワラトリアはバルデンとの仲が悪く、数年前には武力衝突もしたらしい。
だから2つの公国は自国と国境を接している地であるランデル地方を独立させ、バルデン王国との緩衝国にしたかったのだろう。

とにかくこれでランデル地方はランデル共和国として独立し、バルデン王国はモルガル・ワラトリア両公国との国境を失った。

……原作だとミッドランドとチューダーとクシャーン以外の国は殆ど描写がなかったけど中々腹黒いことを他の諸国もしてるじゃないか。

それはそうとして……

「ルークをc3へ。チェック」

「キングをg3へ」

「ナイトをe5へ。チェックメイト」

「あ、また私の負けか」

「シドルファス様も強いと思いますよ?」

「もうこれで俺が8連敗ってことに気づいて言ってるのか」

俺たちが今しているのはチェスという盤上遊戯だ。
前世でもよくチェスで遊んでいたのでこれを父上の執務室で見つけたときには驚いた。

思わず、執事に許可を得てイスタークとチェスで遊ぶことにしたのだ。

イスタークはチェスのやり方を知らなかった。
なんでもチェスはとても高貴な者がするお遊びらしいので下級貴族風情ではできないらしい。

そこでイスタークにルールとか駒の動かし方を教えてチェスで戦ってみたんだ。

まぁ、結果としては……途中からまったくイスタークに勝てなくなって……20戦中6勝14敗。

本当にイスタークはチェス初心者なの?
俺、前世だとチェスはかなり強い方だったんだけど……

そういえばイスタークは百人長だったな。

兵の動かし方とか熟知してるからチェスを理解するのも早かったのかもしれない。
それでも前世のネットとかでチェスの戦略を学びまくってチェスゲームのネット対戦で常にベスト5に入ってた俺に8連勝するってかなりの才能だよな。
因みにそのゲームのプレイヤーは2千万人位いた。

……イスタークは絶対百人長より参謀長とかの方が向いてると思った。



[39661] 第八話 その騎士団は絶対にヤバイ
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2014/03/21 19:04
ランデル共和国が独立して1年後。

少し前に鷹の団がチューダーの黒羊鉄槍重装騎兵団を破り、団長が騎士の称号と爵位を授かり、ミッドランド正規軍に迎え入れられたという噂を聞いた。
その後、チューダーに連戦連勝し、現在ではミッドランド王より伯爵位まで賜ったらしい。
もうそろそろドルドレイ攻略か?

俺はというと父上がランデルに引き連れていった私設軍の連中が戻った後もけっこう実戦を経験していた。

ランデル地方の内乱――いや、ランデル独立戦争が終わってからというもの、やけに盗賊の数が増えている。
終結直後の一過性の増加であれば分かるんだがもう終結して1年もたつのに増加の一途を辿ってる。
なぜだろうか?

まぁ、そのおかげで俺は多くの実戦経験を積む事ができたんだが気になる事は気になる。

そんなある日、俺が盗賊退治から屋敷に戻った際に執事から父上がお呼びですと言われて父上の執務室に向かった。
いつも2週間に1回くらいの頻度でしか王都から戻ってこないのに……なにかあったのだろうか?

執務室の扉を開けると父上が書類を決裁していた手を止め、俺の方を見た。

「座りなさい」

父上が自分の座っている椅子と机を挟んで正反対にある椅子を勧め、俺はそこに座った。

「シドルファス。お前にいくつか言っておかねばならんことがある」

何時もより真剣な顔をしている父上に気を引き締める。
やはりなにかあったんだろうか。

「まずは……お前も気づいているとは思うがランデル地方の咎人共が我が国から分離して1年もたつにも関わらず、賊が増えていることについてだ」

父上は未だにランデル共和国という国家を認めていないのか、ランデルの咎人共と言っている。
隣接する領主も似たようなものでバルデンの貴族の間ではランデル共和国という呼称は半ば禁句扱いになっている。

「やはり、なにか原因があるのですか?」

「ああ、原因は忌々しいランデルの咎人共だ」

「まさかとは思いますが、あの咎人共はランデル領内で捕らえた盗賊をバルデンに送り込んでいるのですか!?」

「いや、やつらが1年と半年ほど前に起こした内乱が原因だ」

「戦時中そして戦後の盗賊増加というのは一過性のものでは?」

「本来ならばな。だが、今回はそうはいかなかったのだ」

いったいなにがあったんだ?

「相手はランデルの咎人共。私を含めこの国の者は皆、1ヶ月以内に鎮圧することができると思っていた。
その為、中央に領地を持つ貴族達はかなりの数の私設軍を連れて行った。
なに、敵側に兵力があるとはいっても所詮は傭兵。すぐ咎人共の資金は底をつくだろう。
それに加えて数で威圧してやれば傭兵共は命惜しさに逃げ出すに違いないとな。
しかしながら、奴等はどやってか潤沢な資金を持っており、傭兵は十二分な報酬を貰っていたという。
1ヶ月以内に決着がつくだろうという予測は外れ、8ヶ月にも及ぶ長期戦となってしまった。
すると盗賊が残されていた私設軍では対処できんほどの数となって戦で私設軍が減っている貴族の所領を荒らしたのだ」

そういえば俺もこの前、近隣の貴族との社交界で盗賊がある都市を襲って焼き尽くしたと聞いたな。

「それで貴族が戦場から帰ったときには彼らの所領は盗賊により荒らされきっていたのだ。
当然、今までどおりの収入など得られないうえに戦は負け戦だったので大した報酬は貰えていない。
そこで彼らは税率をあげたり、私設軍の兵を解雇することによって乗り越えようとしたのだ」

あれ?なんか似たような事をFFTの貴族共がしていたような気が……

「もちろんそんなことをされたら農民共に不満がたまる。
そしてそういう農民達を私設軍から解雇された兵が纏め上げて盗賊になる。
貴族はそれを討伐する為に金を捻出せねばならぬので税率をあげる。
そして益々盗賊は増えていくという悪循環に中央や戦場となった東部は陥っているのだ」

まるっきり五十年戦争後の畏国の状況ですね。
いや、バルデン王国全体というわけではないそうだから畏国よりマシか。

「それでだな。国内の情勢が落ち着くまで念のためお前を聖鉄鎖騎士団に置いておこうと思うのだ」

「……エッ!?」

あの、父上。
なんか物凄くヤバイ騎士団の名前を言いませんでしたか?

「申し訳ありません父上。何処の騎士団に私を置くと?」

「ああ、知らなかったのか。聖鉄鎖騎士団は法王庁直属の騎士団でな。
典礼警護が主な任務で実戦には殆ど投入されん。それ故、戦に跡目を奪われたくない裕福な貴族の子弟が多数入団している。
私としてはお前を聖鉄鎖騎士団にいれるのは不承不承なのだが現在の国内の乱れを見る限りはこの混乱は長引きそうでな……
おまけにこの混乱に乗じて政敵を失脚させようと手の者を盗賊に扮して政敵の屋敷を襲ったりしたしておる輩もおるのだ。
私も王宮や騎士団で対立している者は多くおる。そやつらもそのような手段でお前を殺そうとするやもしれぬ。
お前が名誉の戦死をとげたというのならばともかく、暗殺されたりなどしたらオルランドゥ伯爵家にとって多大な損失になるのでな」

成程、対立している連中の妙な策動から守ろうと父上は俺を聖鉄鎖騎士団に入れたいわけですね。

確かに普通に考えればその通りでしょうね。
諸国に跨って広く信仰されている法王庁に逆らおうなどと企む輩は殆どいないでしょうよ。

だけどね!だけどねぇッ!!

将来的にその騎士団に凄まじい量の死亡フラグが発生するって俺は知ってるんですよッ!!
下手な戦場より遥かに危険な模擬蝕がおこるアルビオンに向かいますからねぇッ!!

「あの、父上。私は盗賊退治で父上のお力になりたいと思いま――」

「気持ちは嬉しいがシドルファス。これは当主命令だ。違えることは許さぬ」

グ...ズ...ギャァァァァム!

やばい、やばい。
当主命令ってなるとあまり駄々をこねればどこかに幽閉されても文句がいえん。

幽閉されたが最後、幻造世界の始まりとともに俺が魔物に蹂躙されるのが目に見えてる。

となると所属するしかないのか?聖鉄鎖騎士団に。
いや、でも幽閉されるよりかは……

「……わかりました。父上」

あかん。これは本格的に死亡フラグがたったぞ。



[39661] 第九話 美しき聖都
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2014/03/26 22:28
父上の命令で死亡フラグが多すぎる聖鉄鎖騎士団に入団することになりました。
……最悪だ。

原作で模擬蝕の後、聖鉄鎖騎士団に所属してて生き残った奴って確か4人しかいないんだよ。
そんな騎士団に所属するって本当に泣きたい。

せめてもの抵抗は聖鉄鎖騎士団に異端審問官の護衛を命じられる前に、バルデン王国の混乱が収まるのを祈ることくらいか……

嘆いていても仕方がない。

もう起きてしまった事を振り返ってくよくよしてたら死ぬ確率が上昇し続けるこの世界だ。
で、あれば少しでも状況をよくしようと努力するに越したことはない。

まずは駄目もとでイスタークも剣の練習相手として一緒に連れて行けませんかと頼んでみた。

これは聖鉄鎖騎士団で強い奴はアザンとセルピコしかいないからな。
おまけにアザンはともかくセルピコはファルネーゼしかたぶん守らないだろうし。
いざという時に頼れるイスタークを傍に置いておきたかったのだ。

その頼みはあっけなく父上が認めてくれた。
父上曰く、法王庁の信仰に篤い枢機卿方に多額の献金をしてさしあげるとその信仰心に感激して大概のことは聞いてくれるとのこと。

なんという信仰深い方々だ。
モズグス様が知ったらなんと仰るか。

……どうやら想像以上に法王庁は腐敗しまくっているようだ。

とにかくこうしてイスタークも聖鉄鎖騎士団に所属させることに成功した。

聖鉄鎖騎士団でイスタークと相談できるということは俺の精神的負担を幾らか和らげてくれるに違いない。

それと仮にも騎士団に所属するのだからと、オルランドゥ家の家宝である見前世で覚えがある石を渡された。

なんでもこの石を持つ者は死地からかならず生還できるという伝承が伝わっているらしい。

そしてその石は次期当主がいずこかの騎士団に所属する時に現当主から受け継がれてきたらしい。

この辺は数百年前に当時の次期当主が戦場で散ったという噂が国中に広まっていたにも関わらず、五体満足で戦場より生還した。
その時の次期当主が自分が生き残れたのはこの石のお陰だと現当主に伝えて以来、正式に軍務に就くときに譲り渡すのが伝統になったかららしい。

……石の正体を知っている俺に言わせればその次期当主は戦場で致命傷を負って石の力で人外に転生したんじゃなかろうかと思う。
対策のしようがないからできれば使いたくないが、死の間際に石の力を目の当たりにした時、誘惑に負けないとはとても言い切れない。

とにかくそんな物騒な家宝を所持した俺はイスタークと共に聖都を訪れた。

ミッドランドやチューダーで信仰されている一神教の中心地。
法王庁もここに所在している。

神を称える尖塔が林立し、鳴り響く鐘の音が神への賛歌を奏でる。

……そしてその美しい都市の隅にはその日の食うものにすらありつけないみすぼらしい格好をした第三階級の人達で溢れている。

その光景を見るにいったいどのへんが聖なる都なのかとても疑問に思う。
……そもそも聖鉄鎖騎士団含め、『聖』なんて言葉のつくものがとても胡散臭い世界観だから仕方ないか。

「イスターク。聖鉄鎖騎士団の本部って何処だ?」

イスタークは腰から出した聖都の地図を広げて一箇所を指差す。

「ここだと思います」

「この通りを真っ直ぐいけばいいわけか」

それを聞いて、俺たちは乗っている馬を走らせる。

やがて聖鉄鎖騎士団の紋章である交差した鎖が目に入った。

「待てッ!この先は聖鉄鎖騎士団の本部である。何用か?」

入口のところに立っていた騎士達が槍を俺たちに向けて目的を尋ねてきた。

「私たちは聖鉄鎖騎士団に所属予定の者である。願わくば団長殿と面会願いたい」

「了解した。しばし待たれよ」

そう言うと一番偉そうな騎士が一人の騎士に命令して奥に入っていく。
暫くするとその騎士は狐のような顔をして青年の騎士と一緒に戻ってきた。
物凄く見覚えのある顔だな。

「ええと入団予定者の方々ですね。失礼ですが名前を聞いても良いですが?」

狐のような顔の青年の騎士(ただ似てるだけの可能性をまだ捨てない)が気楽な声で尋ねてくる。

「私はオルランドゥ家のシドルファス。そして隣にいるのがエレウス家のイスタークだ」

「……確かに入団予定者のリストに書いてありましたね。僕が団長のところで案内しますので馬は向こうに繋いでおいてください」

そう言って狐のような顔の青年の騎士が馬小屋の方を指差す。

「その……貴方は誰ですか?」

中々自己紹介しないのでこちらから問う。

「や、これは失礼しました。ボクは紋章官のセルピコです。以後よろしく」

やっぱセルピコでしたか……

俺は馬を馬小屋に連れて行って繋いだ後、セルピコの案内に従って歩く。

セルピコがいるってことはファルネーゼも既に団長に就任しているということだ。
時期的に今は模擬蝕から3年と少し前だからファルネーゼが団長かどうか微妙だったのだが……もう就任してたか。

そう思いながら聖鉄鎖騎士団の本部にある団長の執務室に入る。
そこにはファルネーゼがに執務机で書類を見ており、その奥にアザンが控えていた。

「ファルネーゼ様、入団予定の人達を連れてきました」

「うむ、わかった」

ファルネーゼは椅子から立ち、俺たちの方を見る。

「私が聖鉄鎖騎士団団長のファルネーゼだ。貴公らの名前は?」

「私の名はシドルファスです」

「……イスタークです」

「うむ、確かに法王庁からその方らの書類が届いている。
シドルファスには十騎長に、イスタークはその指揮下の隊に配属せよとな。
他にも色々あるが……詳しい事はそこのアザンに聞け。以上だ」

いきなり十騎長ってどんだけ枢機卿の方々に鼻薬嗅がせたんですか父上。
物凄い便宜をはかってくれてるんですけど……
一応、国内荒れてるんですよね?

それにしてもやけにあっさりした対応だったな。
原作での団長時代のファルネーゼを見る限り、くどくどと長く騎士団について説明されるかと思ったが……

その後、アザンから騎士としての心構えを熱く説明さてた後、騎士団章を授かった。
それは原作で聖鉄鎖騎士団の連中が着ていた制服のようなもの(ただし、鎧の上から着る)

後、馬用のもあるがそれは後で渡すので待たれよとのこと。

……さて、この騎士団に3年以上所属し続けた場合はガッツやグリフィスとも関わらざるをえない。
そうなると死亡フラグがあることを覚悟で原作に関わっていくしかない……のか。

家宝の石の件も含め、死亡フラグが続々と建設されている気がするのは俺だけだろうか……

~~+~~+~~+~~

団長時代のファルネーゼの言葉遣いがイマイチわからない。



[39661] 第十話 あいつ子持ちだったのか
Name: クライス◆63e4338a ID:86c731b1
Date: 2014/04/06 18:53
アザンに連れられて俺が指揮することになる隊員達の宿舎に案内された。

アザンは隊員達を集めて俺とイスタークを彼らの前に引っ張り出すと説明を始める。

「彼が今後この隊を指揮することになるシドルファスだ。イスタークはこの前に爵位を継ぎ、騎士団を抜けた者に代わってこの隊に入る。皆、仲良くするように」

そう言うとアザンは今後の予定を軽く説明した後、宿舎から出て行った。

……予想はしていたが例外なく隊員達の視線が俺に集中している。

具体的には明らかに敵意を向けてくる者が5人、純粋に興味を持っているのが3人だ。
俺がオルランドゥ家の者であるにも関わらずここまであからさまに敵視する者の方が多いとは……

聖鉄鎖騎士団では新入りがいきなり千騎長・百騎長に抜擢されることも珍しくない。
無論、その裏では親とかが多額の献金(というか賄賂)を法王庁の方々に送っているからだ。

オルランドゥ家はバルデン王国有数の名家だし、いきなり百騎長とかに抜擢されててもおかしくないのだが、
ランデル独立戦争とそれに続く国内の治安悪化のせいでなにかと父上が節約している為そうならなかった。

……だからてっきり下っ端扱いで入団だと思ってたんだがそれなりに金に都合をつけてたみたいだ。

そんなことを思っていると一番俺に悪意ある視線を向けていた短い金髪で20代の男が俺に話しかけてきた。

「お前かぁ。私の代わりに新しく十騎長になる奴ってのは……」

どうやら俺が入団したせいで降格した人らしい。

「君は?」

「ザガンだ」

そう言うとザガンは指を突き刺して叫ぶ。

「はっきり言って私が貴様のような小僧の下に就くのは御免だ!十騎長の座を賭けて決闘を申し込む!!」

その発言と同時に他に俺に敵意を向けていた4人がザガンの後ろに回って応援する。
……どうやらこいつらはザガンの代わり俺が十騎長になったのが気に食わないようだ。

残りの3人はなにか面白いイベントが起きたぞみたいな感じで遠くからヤジを飛ばしている。

イスタークは何も表情を変えずにいるが手が剣の柄に触れていた。

……嫌だけどここで決闘受けないと後々面倒なことになりそうだしなぁ。

「わかった。外の広場でするとしよう」

「言ったな!後で『やっぱりやめて』とか言われても受け付けんぞ!!」

やけに強気だなこいつ。

そう思いながら俺達は外の練兵所に向かう。

練兵所にはアザンがいた。

「ほう、いきなり隊の全員で稽古か。感心した。どれ、私が稽古をつけようか?」

アザンの言葉に俺とイスターク以外の全員の顔がやや青くなった。
……なんかこのやり取りだけでアザンが普段からこんな行動してるんだと確信した。

「け、稽古をしにきたわけではないのです副長。私達は……ただ……その……」

ザガンがどもりまくりながら言い訳を言う。
……怪しさ満点だな。

「稽古しにきたのではないなら……いったいなにをしに練兵所に来たのだ?」

アザンが怪訝な声で尋ねる。

「新入りである私の実力がどの程度なのか皆が気になり、そこで前十騎長のザガンと一対一の決闘をすることになってここに来たのです」

適当にアザンが好みそうな理由をでっち上げて話した。

「成程!たしかに自分達の隊長の実力を知りたくなるのは部下として当然だからな。そうだ、その決闘の立会人は私がやってやろう」

アザンが立会人になるとの宣言にザガンを慕ってた4人の顔が一瞬ヤベッって表情になった。

なんか碌でもないことを考えてやがったのか?

だが、肝心のザガンの表情に陰りは見えないが……

「だぁーはっはっは。副長が立会人だぞ? 卑怯なまねはできんぞぉ~?」

ザガンはそう言うと俺に向かって槍を向ける。

「最初からそんなまねする気がない」

こんな場所で剣技なんか使った日には逃げる暇もなく火刑に処されそうだからな。

「では、始め!!」

アザンの合図と共にザガンが槍で突いてくる。

ヒュ、ヒュ、ヒュ。

かなり早い!いつもの手加減状態だとちょっと厳しいぞこれは。

「え~い、素早しっこい奴め!そこだぁ!!」

ガキィイン!!

振り下ろされた槍を防いだ。

……意外と強いぞこいつ!
父上以上の……いや、得物の違いがあるから単純に比較はできないか。
ただ、少なくともアランは俺が今まで相手にしてきた盗賊共よりは遥かに強いぞ。

「よくぞ止めたな小僧!だが、何時まで耐え切れるかな?
 コボルイッツ家に140年に渡り伝承されし戦槍術の奥深さ、その身で味合うがいい!!」

え、コボルイッツ家?

「そりゃああ!!」

ガキ、ガキ、ギャリン!!

やべ、後ろ壁だ。追い詰められた。

「いまだ、最大奥義、……」

ザガンはそう叫ぶと過ぎ勢いで頭上で槍を回し始めた。

……さっきの怒涛のような攻撃の連続攻撃をその口上のせいで中断しているのだが……ザガンはわかってやってるんだよね?

「喰らえ、岩斬旋風――!!」

「オラァ!!」

バゴン!!

剣の腹で思いっきりザガンの頭を叩きつけてやった。

するとザガンはしばらくフラフラと足をさ迷わせた後、バタッと倒れた。
……気絶してるな。

「これはいかん!誰か神官医を呼んできてくれ」

「わ、わかりました」

ザガンを慕ってたメンバーの一人が急いで聖堂の方に走っていった。

ちょっと強く叩きすぎたかな。大丈夫だろうかザガンは……

30分後。

「いや、大した強さだな。チューダー有数の武門であるコボルイッツ家の跡取りの私に勝つとは」

心配した俺が馬鹿だった。
神官医が気付薬を飲ませた直後に目を覚ましやがった。
あまりに即効で効いたから神官医が呆れてたぞ。

それはそれとして……

「ザガンがコボルイッツ家の跡取りってことは青鯨……なんとか騎士団団長の息子なのか?」

「その通り!私の父上は青鯨超重装猛進撃滅騎士団の団長なのだ。因みに叔父上が副団長」

なるほど、こいつは原作で出てきたアドンの息子なのか。

ということはあの野郎は妻子がいるにも関わらず、キャスカを辱めようとしていたと?

ゲス野郎……って言われるのも仕方ない気がする。

「父上も叔父上も騎士の鑑と称されるような人だ。父上の部下である人達からもそのような話をよく聞く」

は?

「女子供を辱める者あれば、喩え味方であろうとも斬り捨てる方だと――」

おいおいおいおい。

なんかスゲェ原作での印象と違うんですが?

あ、あれか。
アドンって多分親馬鹿なんだろう。
それで脚色しまくった話を部下ぐるみで息子にしていると。

容易に想像できるな。

「なんと、まさしく騎士の鑑だ! 是非一度お会いしてみたいものだ!!」

おーい、アザン。
感動の涙を流しながらそんなこというんじゃねぇ。

……こんな信じやすい奴が副団長で大丈夫なのだろうか?

ああ、聖鉄鎖騎士団そのものが法王庁のお飾りみたいなもんだから大丈夫なのか。



[39661] 第11話 寺院焼き討ち
Name: クライス◆63e4338a ID:86c731b1
Date: 2014/04/18 00:26
ザガンに十騎長として認められたことにより、俺の隊の奴等との対立はひとまず沈静化した。

その後、気づいたのだが俺の隊は色々な国の貴族が集まっている。
具体的にはバルデン・ミッドランド・チューダー・ラーナの貴族の子弟で構成されている。
割合的には3:4:2:1

……ミッドランドの貴族とチューダーの貴族を同じ隊に入れていいのか。
両国は絶賛戦争中だったと思うんだが……

後、ラーナは都市国家の集まりであるパネリア同盟諸国の盟主である都市国家だ。
パネリア同盟加盟国には千年帝国の鷹編で二十万余のクシャーン軍が攻めてくるヴリタニスがある。

……他国の貴族達と繋がりを持つには聖鉄鎖騎士団は最高の場所だな。
跡目を戦に奪われたくない貴族でも人脈作りに為に子息を所属させたりしてそうだな。

因みに……製鉄鎖騎士団のやってる仕事といえば殆どが寺院の警備や聖都の警邏である。
この日、俺の隊に夜の警邏の任が任されていた。

「寒いなぁ……」

「こんな寒い夜に警邏なんてついてませんね。隊長」

「ああ、寺院の警備なら暖炉で暖まることもできたんだがな」

確かに最近は日が進むごとに寒くなっている。
そろそろ秋が終わろうとしているのだろう。

……そろそろ冬ってことは鷹の団によるドルドレイ攻略の報を聞いていてもおかしくないんだがな?
現在チューダーはミッドランドに押されまくってるという噂ならあるのだが……

「まったく!この程度の寒さで音を上げるとは、冬になったらやっていけんぞ?」

「でも俺たちはザガン様みたいに丈夫な体をしていないんですよ」

「なら稽古でもしたらどうだ!?副長に頼めばいくらでも稽古はつけてくれるだろう」

「……そうっすね」

ザガンが文句を言う子飼いの貴族どもを黙らせている。

一応、ザガンは実戦をあまり経験していないとはいえ、武門の子だからとちゃんと武術は習っていたらしい。

結果、素晴らしい騎士である父に憧れる立派な騎士の卵という言葉がぴったりな男がザガンである。

アドンよ。息子は教育方針のおかげでプライドが高いとはいえ、かなりまともに育っているぞ。
お前より遥かにな。

そんなことを思っているとイスタークが声をあげる。

「おい、あれ!!」

イスタークが指差した先には火の手があがっている寺院があった。

「べリック、お前は詰所に戻って寝ている奴等をたたき起こして来い!他は現場だ。行くぞ!!」

指示を飛ばした後、俺は自分の馬を蹴る。

馬を走らせて急行するとなにやら薄汚い装いをした奴らが別の団員達に追いかけられていた。

「おい!そいつ等を捕まえてくれ!!」

追いかけている団員の叫びに答えて逃げている奴等の逃げ道を塞ぐ。

「どけっ!!」

先頭にいた男が血走った目で短剣を突き出してきた。

俺はその短剣を手で払い、馬からとび蹴りをかまして持っていた槍で男を地面に押さえつける。

「他の奴等もひっ捕らえろ!!」

ザガンやイスタークも薄汚い装いをした連中を捕らえていく。

「助かった。礼を言う」

「別にいい。それよりこいつらはあの燃えている寺院の件と関係あるのか?」

「関係あるもなにも……こいつらが寺院焼き討ちの犯人だ」

寺院焼き討ちって捕まれば火刑か車輪轢きの刑がほぼ確定の大罪だぞ。
なんでそんなことやらかしたんだ。

「他にもいる筈だから応援を呼ばなくては……」

追いかけていた団員の一人が慌てたように言う。
まぁ、大した仕事なんかないと思ってたのにこんなことになったんだからパニクっているんだろう。

「それなら心配ない。寺院に火の手が上がっているのを見つけた時点で部下を詰所に向かわせている」

「そうか、なら私達のやるべきことは……こいつらを本部に連れて行くべきだな。お前達はこの近辺で怪しい輩がいたら捕まえておいてくれ」

それだけいうと焼き討ち犯の連中を縄で縛って連行していった。

「聞いたとおりだ。このあたりに妙な行動をしている奴がいたら捕まえろ」

俺がそう命令すると部下達が2、3人に分かれて脇道に入っていく。

「なんというか、面倒なことになりましたね」

イスタークの言葉に俺は頷いた。



[39661] 第12話 異端派狩り
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2014/12/29 14:46
聖都によく雪が降るようになった今日この頃。
最近色々ありました。

コボルイッツ家からの手紙で父と叔父が戦死したと知ったザガンが号泣したりもしてね。
あんな下種野郎は死んだ方が世のため人のためだと思うが、ザガンにとってはただの自慢の父と叔父である。
隊員一同、ザガンを最初は同情していたが、ずっと泣き続けるザガンの相手を皆が嫌がりだして「アザン副団長のとこへ行け」とザガンのメンタルケアをアザンに任せることにした。

それで自分たちの隊舎へ戻ってきたザガンは「父上と叔父上は騎士として立派に戦って死んだんだ」と泣きそうな顔で誇らしげに言っていた。
脳筋だがアザンは歴戦の騎士だけあって、こういうサポートには向いているのかもしれん。
ザガンもアザンも単純だから通じ合うところもあるだろうし。

あとザガンの父が戦死したという時点で気づいている方々もいると思うが百年戦争終結しました。
グリフィスがシャルロットに手をかけて国王の逆鱗に触れるのも時間の問題だろう。
原作本格始動というか黒い剣士捜索の任につくまであと約1年……

あと聖鉄鎖騎士団がアルビオンに行くまでにバルデンに戻るという可能性はほぼゼロになりました。

なんかね、カリスマ的存在が農民達をまとめ上げて大勢力を築き上げたらしい。
父から手紙によると今列強の侵略を受ければ亡国の瀬戸際にたたされかねんとのこと。

百年戦争で疲弊したミッドランドやチューダーがバルデンにちょっかい出してる余裕ないと思うから大丈夫だとは思うが……

まあ、いずれにしろガニシュカが討たれて世界観が崩壊すれば必然的にグリフィスが治めるファルコニア以外の国家はとても人が住めない場所になるだろうから先がしれてるバルデン王国の未来を考えたところで意味はあるまい。

こうなったらいっそのことアルビオンの時に逃げてクシャーンに……
いや、グリフィスが魔女を脅威と認識してたことを考えれば……

「気が滅入るな」

「ああ。全くですね」

……現実逃避もここまでか。

今現在我々聖鉄鎖騎士団は聖都で寺院焼き討ちを繰り返す邪教徒狩りをしています。
邪教徒といっても乱交パーティー的なものしてる方じゃなくて教義の解釈によって異端と区別されてる方。

ハッキリ言ってこの任務にやる気がある団員は殆どいない。

寺院焼き討ちした奴らを罰するのはともかく一宗派丸ごと異端認定した上でその宗派を信じていた者とその家族は例外なく火刑にしているのだ。

今俺の隊は処刑場の警備をしているので火刑の様子がばっちりと目に映る。
なんとも気が滅入る任務だ。

が、この異端派狩りにとても積極的な方々がいる。
まずは「神の下人は平等」と唱える一派を異端と断定した法王庁上層部の方々。

一度、大審院の警備を命じられたことあるけどそこで行われてた宗教裁判が酷かった。
捕えられた50人位の異端派の信者を前にして

「これより宗教裁判の判決を行う!!
被告!!異端!!判決は死刑!!死刑だ!!死刑死刑死刑死刑死刑死刑!!」

と、大司教の裁判官が叫んで被告である異端派の信者が反論したら……

「おまえたちは哀れだ。だが許せぬ!! だから死ねぇッ!!」

と言って処刑場に異端派を連行して火刑に処すのだ。
一瞬、作品が違うと思ったが狂信者による宗教裁判などどこでもこんなものだと開き直ることにした。

それであともう一人……
と、その一人が処刑場に部下を引き連れてやってきて処刑の指揮をとっていた枢機卿に話しかけた。

「邪教徒を連行してきました」

「ほほう。相変わらず、仕事が速いですな」

「なに。この程度。それより新しい邪教徒の拠点の情報を入手しました。
今からここの警備の兵も連れて捕えに行きたいのですが」

「なんと。仕事の速いことで。流石は栄えある聖鉄鎖騎士団の団長ですな」

我らが団長ファルネーゼである。
そのあまりの積極性に団員から不満がでている。

この頃からファルネーゼに対する不満が団員たちにあったんだな。
よく3年間も団長をやれたものだ。

それはともかくとして部下達をまとめて、ファルネーゼの指揮下に入る。
だが、ファルネーゼはふとなにかに目をとめるとセルピコの方を向いた。

「紋章官。火刑に使うための木材が切れかかっている。
これを持ってヴァンディミオン邸へ向かい木材を確保してこい」

そう言うとファルネーゼはなにかを渡していた。
見たところ家紋が刻まれたもののようだが……

セルピコはそれを受け取ると軽く礼をしてどこかへ消えて行った。

「では行くぞ!!」

ファルネーゼの掛け声とともに団員達が聖都を行進する。

……それにしても処刑場に来て速攻で木材がなくなりかけてることに気付くってファルネーゼはどんなに火刑を見たいんだろう?

~~+~~+~~+~~
なんか久しぶり書いてみたら筆が乗ってんで更新しました。
そろそろ原作崩壊をやらかすべきかと考えている。



[39661] 第13話 副長による訓練
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2015/01/05 12:30
異端派をあらかた焼き殺しつくしてしばらくした頃……

鷹の団がミッドランド王家に刃向った逆賊として有名になりました。

つい最近まで救国の英雄と呼ばれていたにも関わらずなにがあったんだと諸国中の人が気になったことだろう。

……まったく、グリフィスもガッツが鷹の団を抜けて自暴自棄に後宮に忍び込んでシャルロットと情事をしなければ普通に王位を狙えただろうに。
いや、別にそれはそれでいいのだが。

問題はそのせいで世界改変の口火が切られるとかふざけんなよと言いたくて仕方がない。

「そりゃああ!!」

「甘いわぁああああああああああ!!!!!」

「ぬわああああああああああ!!」

ああ、ザガンが吹っ飛んでいく……

「シドルファス様」

「なんだイスターク」

「アザン副長はいったいなにを考えているのでしょう?」

「さあ?」

そう。
今日の朝、アザンから非番のものは練兵場に集まるようにという知らせがあった。
この知らせを聞いた非番の団員が顔青くし、当直の団員達は歓声をあげた。

この時点で既に嫌な予感しかしなかった。

そこで部下のベリックから話を聞くと……

「前にもこんなことがあって、この世のものとは思えない猛稽古を受けた」

と、震えながら教えてくれた。

猛稽古ってどんなの?って聞くと
曰く、毎回違って前の時は団員全員で総当たりで模擬戦を行い、それが終わるとアザンから休み時間という名の法王庁の聖典を朗々と読みあげることを強要される。
これを日が暮れ始めるまで繰り返し、日が暮れ始めると「あの夕日に向かって全力疾走!」と言って走らされる。
だが、どちらかというと最後尾にいるアザンに追いつかれないように全力で逃げると言った方が正しい。
アザンに追いつかれるとものすごく痛い拳骨を食らうことになるからだ。

いったいどこの体育会系のノリだよ!!?

ま、まあ、俺はシドだから体力切れなんて滅多なことではならないと思うが……

そんなことを思いながら練兵場にいくとアザンが武器以外完全武装した状態でいた。

「今から全員で儂にかかってこい!一本でもとれたら訓練を終わりとする!」

とそんなことを言って訓練用の木棒を構えた。

その時、訓練をするはめになった団員達の絶望した顔を皆にみせてやりたい。
だって幾らこちらが数で勝ってるとはいえ、勝てるわけねぇだろう。

なにせアザンは100の騎馬部隊と渡りあった逸話を持つ凄腕の騎士だ。
それに比べこちらは今日が非番の実戦経験のほとんどないおぼっちゃん騎士団の団員300人である。

どれだけ絶望的な状況かお分かり頂けることと思う。

そんなわけで団員達は半ば自暴自棄な感じになって訓練用の木剣を構える。

……なぜかザガンを筆頭に一部の奴らだけ闘気があふれ出してたけど。
因みにザガンは訓練開始早々アザンに挑みかかり、先程ふっとばされた。

実力を隠そうとすれば俺もあんな感じに吹っ飛ばされなければならんのか……

ええい、ちくしょう!それぐらいの痛みなんぞ耐えられるわぁ!!

そんな感じでアザンに特攻をかまして見事に星になりました。

因みにこの訓練に参加した300人の内その半ばまでもが治療院送りになった。
この凄まじい訓練成果を聞いたファルネーゼは団長としてアザンを叱ったらしい。

この聖鉄鎖騎士団に所属して初めてファルネーゼを尊敬できた。



[39661] 第14話 黙示録の確認任務
Name: クライス◆63e4338a ID:6ea63bc8
Date: 2015/01/30 15:48
聖鉄鎖騎士団の団員全員が広場に集められて、ある任務を仰せつかった。

「これより我が聖鉄鎖騎士団は奇跡認定局の命を受け、黙示録に記されし赤き湖が出現したか否かの確認のため、遠征の任に就く」

ファルネーゼ団長が言ったところによればそういうことだ。

それで自分の隊の宿舎へ行くとザガンから話しかけられた。

「騎士団がミッドランドへ行くという話ではないか!いったいなにがあったのだ!?」

ザガンにとってミッドランドは自分の父と叔父の仇なのでそこへ行くのに不満があるのだろう。
全身から行きたくないというオーラが漂ってくる。

生きたくないのは俺も同じなんだが……

「黙示録に記された預言が成就したか否かの確認だけですので、法王庁とミッドランドの関係が強化されるわけではないですよ」

「そうなのかイスターク。で、黙示録ってなに?」

ザガンの質問にイスタークは頭を抑えた。

ついザガンの取り巻きの一人であるチューダー貴族のゴランが耳打ちする。

「ある聖人がこの世の行き先を記した書物ですよ!
この前、アザン副長に散々教えられたのをお忘れですか!!」

「あー、いや、すまん。聞き流してた」

「ザガン、お前な……」

「ま、まあ俺とお前の仲じゃないか!謝るから大目に見てくれよシド」

ザガンが頭を描きながらまったく反省の色を見せずに謝る。

この世界において聖書とは即ち教科書であり、黙示録もその延長線上にある。

だから内容はともかく、存在自体を忘却しているなど貴族の子として常識を疑われるレベルである。

因みにザガンは入団直後の決闘以来、俺のことをシドと愛称で呼ぶようになった。

俺自身は別に気にしていないのだが、ザガンがシド呼びするとイスタークがなんか不機嫌になるのが困りものだ。

「それで、一体どこへ行くんだ?」

「ああ、ミッドランド西方の城塞都市シェトだ」

「シェトってそんな神秘的な都市だったけ?」

ミッドランド貴族の隊員マルティスがいぶかしげに呟く。

「シェトじゃなくてな。そろそろ日蝕があるって噂があるだろう?」

「そういや聖堂にいた天文学者がそんなこと言ってたような……」

「ああ、なんでも日蝕後、西の国境地帯にある平原に赤き湖とやらが現れるんだとよ」

「嘘くさいですねぇ~」

確かに嘘くさいけど実際におきちゃうんだよね~
原作知ってる俺だからわかってることだがと内心呟く。

「まあ、実際に起こるかどうかはともかく。『ミッドランドに旅行しに行くぞぉお』と思ってくれたら基本的に問題ない」

そして腕をあげながらそんな風に宣言する。
正直とっとと切り上げて今後の対策を練りたい気持ちだったから強引にこれで纏めようと思った。
ザガン達もそうだなとわんやわんや騒ぎだしたのでこれで纏まったと思った。

「……アザン副長が浮ついてるの許してくれそうにないと思うけど」

ボソリとつぶやいたベリックの言葉に場が静まり返った。

ヤベェ、アザン副長の対応も考えとかないと。
あの人のやることなすこととんでもなくて体力的にきついものがあるからな。

隊員10人の心が一つとなり、百騎長のとこへアザン副長対策のことを告げにいくと『今度の遠征に関する議論』という名目で百騎長がアザンから会議室一室を借り上げて、百騎長の号令の下、『遠征中どうやってアザン副長の訓練を断り続けるか』という議題を夜通しで意見を交わした。

結論としてはなんとかアザンの訓練を回避する算段はついたとだけ言っておく。


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