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[40369] 【ネタ】魔法の呪文はファラリスなの!【なのは×SW×足ながおじさん】
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:f554ae49
Date: 2014/12/28 14:03
あらすじ

 高町なのはは、お家でひとり寂しくすごしている平凡な四歳の女の子でした。
 ある日、家族の帰りを待ちながら夕日をながめていたなのはに不思議な声が聞こえてきたのです。
 ところが、その声の主は影も形もありません。名前は教えてもらえましたが、何を聞いても答えはいつも「汝の為したいように為すがよい」です。
 いつだって、どんなときだって近くにいてくれる、ずっとそばにいてくれる不思議な声の主に、なのはは毎日手紙を書くことにしました。
 「やりたいことをやるとよい」――なのはは、やりたいことを見つけられるでしょうか?




この話は、「魔法少女リリカルなのは」を原材料に、「ソード・ワールド」で味付けして、「足ながおじさん」に盛り付けた奇妙なクロス二次創作です。

※「ハーメルン」にも投稿しております。



[40369] ゆううつな毎日
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/08/23 20:17
 毎日がゆううつでした。
 お父さんが事故で入院してしまって、病院のベッドで寝たきりだったころ。お母さんは、始めたばかりのお店と家族の面倒をみることに一生懸命でした。お兄ちゃんとお姉ちゃんは、大好きな剣術の練習も休んで、家のことやお店の手伝いを頑張っていた。
 わたしは、なんにもできなくて家で待っているだけだった。
 昼は嫌いでした。
 家族のみんなが出かける時間。誰もそばにいてくれなくて、ひとりぼっちで寂しかった。自分は本当はいらない子なんじゃないかとか、そんなことばかり考えていた。おばあちゃんの前で泣いてしまったこともあった。お父さんの事故の原因になった人を憎んだこともあった。
 でも、そんなことをしても、どんなことを思っても、何もかわらなかった。
 だからわたしは、夜明けなんてこなければいいと願っていました。
 夜が好きです。
 誰もいない家で、ずっと日が沈むのを待っていた。お姉ちゃんが帰ってきて、お兄ちゃんが帰ってきて、最後にお母さんが帰ってきてくれる夜を待っていた。夜中にひとりで泣いていたお母さんが、いつもひとりにさせてごめんねって、抱きしめてくれた。お兄ちゃんとお姉ちゃんが、わたしが笑っていてくれるから元気が出るって、なでてくれた。
 でも、抱きしめてもらっても、なでてもらっても、わたしは心から笑えませんでした。
 だからわたしは、はやく夕暮れにならないかと待っていました。
 お母さんが、お兄ちゃんが、お姉ちゃんが、わたしに笑っていてほしいと言いました。
 だから、家族の前では笑顔でいることにしました。わたしにはそれしかできることがなかったから。なにもできなくて、ただ待っていることしかできなくて。守られて、心配されて、悲しくて、寂しくて、なのにそれしかできることがなかったから、わたしはいつもウソの笑顔をしていました。
 泣き顔を家族には見せられないから、ひとりのときにたくさん泣きました。
 それは、寂しかったからではなくて、悔しかったから。
 悔しかったのは、力がないこと。悲しいのは、悲しいことを前にしても、泣いている人を前にしても、なにもできないこと。うその笑顔しかできることのない自分が嫌だった。
 力が無いから、笑いたくないのに笑ってる自分。小さいから、なにも言えないわたし。夕暮れを待ちわびて、夜明けにおびえる毎日。みんなみんな嫌いでした。


 ひとりっきりの高町なのはは、今日もいつもどおりに家で良い子にしていました。
 なのはは、居間でジュースを飲んでいましたが、ふと時計を見ると二階へと昇っていって、廊下の窓から外を見ました。
 そこからは、夕暮れの道を母親と思われる女性に手を引かれて歩く子供の姿が見えました。何人かの子供たちがそうやって家の前をとおりすぎていきます。笑っている子、怒っている子、泣いている子もいたかもしれません。なのはは踏み台を使ってようやくのぞける窓から、顔だけをだしてその様子をじっと――うらやましそうに――ながめていました。
 そうして、自分がその中のひとりになって、お父さんとお母さんと手とつないで歩く姿を想像してみました。けれども、想像のお父さんとお母さんはすぐにぼやけて消えてしまうのです。
 なのはが、そうやって歩いたことがないというわけではありませんが、それはもうずっと前のことだったので――小さななのはにとっては、一年だって人生の大半なのです――あまりよく覚えていません。
 そんな子供たちの姿がなくなっても、なのははまだ窓から外を見ています。いつも夕方になったら、ここで家の人が帰ってくるのをずっと待っているのです。

 高町なのは

 そんなとき、どこからともなく声が聞こえてきました。
 家の中にはなのはの他に誰もいないはずです。家の外も今は誰も歩いていません。
 普通なら恐ろしくなってしまうようなできごとですが、なのはは不思議と怖くありませんでした。それどころか、強く大きな誰かに包まれているような安らぎを覚えたのです。
 すこしばかりの間、ぼーっとした後で、なのははわれにかえるとききました。

「だれ? わたしをよぶのはだれですか?」

 すると、なのはの頭の中にすうっとなにかがおりてきました。
 そのなにかとは、『言葉』です。ただし、その言葉はなのはがこれまでに聞いたことも見たこともないものでした。それはとても複雑な暗号のような、難解な方程式のような、この世のものとは思えない奇妙な記号のようなものでした。

 泣いてもよい
 怒ってもよい
 憎んでもよい
 わがままでよい

 その声が本当にそのように言っていたのかはわかりません。ただ、幼いなのははそのような意味で啓示を受け取ったのです。
 なのはの目から涙がこぼれ落ちました。
 とても大きな存在に見守られているという安心感。抑えてきた想いをわかってもらえた嬉しさ。なのはは、自分がこれから何をしても見放さず、許し、認め、ずっと一緒にいてくれる方にであったのです。
 なのはの涙は止まりません。
 泣いて、泣いて、泣いて、家に帰ってきた姉がなだめても、兄が不器用になでても、母が懸命に抱きしめても止まれません。ずっとがまんしてきたものがあふれ出してしまったのですから。
 なのははわめきました、泣きながら暴れて、胸のうちにため込んできたものをすっかりと吐き出したころには、もうすっかり夜中になっていました。
 泣いて、暴れても、わめいても、家の事情がかわる訳ではありません。
 だから、明日からもなのはが家で一人だけであることはかわらないのです。
 ただ、すっきりとはしたのでしょう。泣きつかれて眠ってしまったなのはの顔は、ここ最近では一番安らかな表情をしていたのです。



□ はじめてのなのはの祈り (他の人には理解できない音の羅列) 

高町家の庭にて

ファラリスさまへ

 昨日は、ありがとうございました。
 ファラリスさまの声を聞いたら、とても嬉しくなってしまって涙がとめられませんでした。
 いろいろと恥ずかしいこともしてしまったので、じかにお話をすることができそうにありません。
 ですからお手紙を書いてお供えすることにしました。
 それが、この手紙です。
 昨日、ファラリスさまが教えてくれた言葉をつかって書いているつもりなのですが、これで合っているでしょうか? 
 なにか変なことを書いていたら、またまた恥ずかしいのですがどうしましょう。
 でも、ファラリスさまはすごいのできっと間違っていても読めてしまうのだろうなと思っています。
 わたしはこれから毎日ファラリスさまにお祈りをしようと思ったのですが、そのときにお供えできる物を持っていません。
 どうしようかと朝から考えていたのですが、いいことを思いつきました。
 ファラリスさまを信じる気持ち、ファラリスさまを想う心が、ファラリスさまのご飯のようなものになるのですよね?
 ですから、わたしはこれからお供えとしてファラリスさまへの想いをこめた手紙を捧げて行こうと思っています。おやつくらいにはなりますか? ならなくてもがんばって書きますので、読んでもらえたらうれしいです。

 あなたを敬愛する 高町なのは











〇(ダーク)プリーストの基本的な能力

ディビネーション:祈りを捧げ神と対話する能力。神と人では精神構造が違うので、きちんとした会話はできません。神の言葉を抽象的にでも理解できるというだけでもすごいのです!
『T#ige^@¥~~[]..w=』(あなたの頭の中にだけ聞こえる声)
「ありがとうございます。ファラリスさま」
電波少女?
ボウ:神に何かを誓うことです。誓いに反することや、誓いから遠ざかるような行動をしようとすると神から注意や援助が与えられることもあるそうですが……あなたはファラリスさまへ自由に誓いをしてもよいし、自由に誓いを破ってもよい。そして、誓いをたてた者へ援助するのもしないのもファラリスさまの自由であり、誓いを破った者をどうするのかもファラリスさまの自由です。


〇ファラリス特殊暗黒魔法

イモレイト(呪文レベル5):暗黒神にいけにえを捧げることで願いを聞き届けてもらう魔法。
まだまだ使うことのできない魔法ですが……いけにえの代わりに手紙を捧げて真似事をするだけならできます。もちろん願いをかなえてもらうことはできませんが、どうやら手紙は届くようです。


〇高町なのは 4歳
 器用度2(+0) 敏捷度2(+0) 知力3(+0) 筋力2(+0) 生命力3(+0) 精神力3(+0)
 冒険者技能:ダークプリースト(ファラリス)1
 一般技能 :なし
 冒険者レベル:1 超英雄ポイント:0
 特殊装備:なし



[40369] 高町なのは嬢より ファラリスさまにあてた手紙集1
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:f554ae49
Date: 2014/08/23 20:17
 平凡な子供だったわたし、高町なのはに訪れた突然の事態、もらったのは勇気の心、手にしたのは癒しの力。
 神さまの導きが、出会いと冒険の運命へとわたしをいざなってゆく。
 
 暗黒神官ファラリスなのは、はじめてます。
 



 お父さんの病室から帰ってきて
 いじけた子供に声をかけてくださった親切なファラリスさまへ
 今日もダメでした! 怪我を治す魔法が使えないかとがんばったのですが、なかなかうまくいきません。できそうなのに、なにかが足りなくてどうしてもあと少しが届かない、とても惜しい感じでした。
 お父さんが入院している病院はとても大きくて、お姉ちゃんとはぐれたら迷子になってしまいました。病院の中を歩いているとたくさんの苦しそうな人たちがいます。わたしはまだまだ何もできませんが、お父さんを治すことができたら、次はあの人たちも治してあげられたら良いなと考えています。
 今日は日曜日です。お父さんには土曜日か日曜日しか会いにいけないので、来週までがんばって練習して、今度こそ使えるようになっていたいと思っています。
 ファラリスさまは家族っていますか? 神さまにはそういうのはないのでしょうか? もしいるのでしたら、いつか紹介してくださいね。ファラリスさまのお父さんにお母さん、お兄さんにお姉さんに弟さんに妹さん、もしかしたら子供もいるかもしれないですね。みなさんきっとファラリスさまのようにすてきな方たちじゃないのかなと、わたしはわくわくしながらかんがえています。
 明日からは平日で、お兄ちゃんもお姉ちゃんも学校です。お母さんはいつも忙しそうです。ファラリスさまはどうですか? 神さまはどんなお仕事をするのでしょうか。わたしみたいな子に声をかけてまわっているのでしょうか、困った人を助けたりしているのでしょうか、それとももっと大きな何かをしているのでしょうか。
 ファラリスさまがいろんなことをしている姿をそうぞうするだけで、わたしの一日はどんどん過ぎていってしまいます。
 目で見たことがないのでそうぞうするだけなのですが、わたしがファラリスさまについてしっていることを書きますね。

 一、とっても大きい
 二、たぶん男のひと
 三、子供好き

 当たってますか? 外れていたら教えて下さい。
 はじめてファラリスさまの声を聞いたとき、なんだかとっても大きな人に抱きしめてもらっているようで、とても安心しました。だからきっと、一番は当たってますよね。
 ファラリスさまの声は耳からじゃなくて、頭というか心というか、なにかそういうところに聞こえてくるので、はっきりとわからないのですが、多分男の人じゃないかとわたしは思ってます。 なので二番目はあんまり自信がありません。当たっていたらラッキーです。
 三番目は、これはもう絶対そうだと思っています。ファラリスさまが子供は嫌いって言ったら、わたしは泣いてしまいます。だから三番目は絶対当たりです。
 今日のお手紙はここまでにします。おやすみなさい。
 
   あなたをゆめみる 高町なのは


 ファラリスさまへ

 幼稚園でケンカをしてしまいました。
 男の子がわたしが書いていた手紙をやぶいたんです! ごめんなさい、ファラリスさまへのお手紙がやぶられてしまいました。
 それにひどいんです。わたしの手紙を「へんなラクガキ」だなんて、ちょっと許せません。
 もっと許せないことがあります。みんなが「ファラリスさまなんていない」って言うんです。先生に聞いても「いない」って言うんです。
 みんなも先生も嫌いです。もう、口をきいてあげません。
 今日は短くてごめんなさい。
 
   明日はきっと元気な 高町なのは


 年が明けて
 優しいファラリスさまへ

 今日はおねがいがあります。
 いきなりおねがいがあるだなんて、わたしはずうずうしい子です。でもこれはきっとファラリスさまのせいです。わたしが何を言っても、ファラリスさまが「いいよ」って言ってくれるから、わたしはとてもわがままな子になってしまいました。責任をとってくださいね。
 ウソです、ごめんなさい。今日はちょっと甘えてみたかったんです。
 おねがいというのは、そんなにむずかしいことではないのです。
 ただ、ファラリスさまを「おじさま」とよんでもよいでしょうか? ということなんです。
 幼稚園のみんなと話していたら、みんな親戚の人がいっぱいいるみたいで、ちょっとうらやましくなってしまったんです。ウチはなぜかはわかりませんが、お父さんの親戚が全然いなくて、お母さんのお母さん、お祖母ちゃんくらいしかお正月に会わなかったので。  
 いいえ、違います! お年玉がほしいわけじゃないんです。ほんとうですよ! 
 わたしがよびたいようによぶがよい、ですか。
 ありがとうございます! まだ手紙を送ってもいないのに返事をもらってしまいました。
 今日はもうこれだけで、いいえ、今年はこれだけでわたしは幸せいっぱいです。
 とてもうれしいのでお布団の中でゴロゴロして眠ってしまいます。おやすみなさい。

   今日からあなたの姪っ子 高町なのは  


 ファラリスおじさまへ

 お父さんの怪我が治りました! わたしが治したんですよ。
 いいえ、やっぱり違いますね。おじさまが治してくださったんです。わたしはお父さんの近くまで行って、おじさまに「どうかお父さんを治してください」ってお願いしただけです。
 すぐに調子に乗ってしまうのは、わたしの悪いクセです。ほんのちょっとだけ、おじさまと仲良くなれただけでうぬぼれてしまいました。どうかバカなわたしをしかってください。
 しかってもらえないので、自分をほめることにします。
 やったね、なのは。すごいね、なのは。お父さんの怪我がパーって治ったよ! お父さんも、お兄ちゃんもすごくビックリしてました。なんだかバタバタと隠すようにされて、お兄ちゃんに引っ張られて急ぎで帰ってきてしまったのですが、きっとすぐにお母さんに知らせたかったのだと思います。 
 ご存知だと思いますが、わたしのお父さんとお母さんはすごく仲良しさんなんです。今ごろは二人でいろいろ話してるんじゃないでしょうか。
 それから、怪我を治してもらうのってすごく疲れるんですね。わたしは、なんだかもうヘトヘトです。

 
 病院につれていかれました。
 お父さんを迎えに行ったんじゃなくて、わたしの検査、だそうです。
 こうきのう……なんとかかもって言われて調べられたのですが、よくわからないそうです。よくわからないのはわたしの方です。
 とにかく、ときどき病院に通うことになりました。
 あと、怪我を治すのをやっちゃいけないって言われました。お父さんとお母さんにです。
 よく、わかりません。
 お父さんは、前は、困っている人がいたら、その人を助ける力があるのなら、そのときは迷わずに助けようって言ってたのに、ウソつきです。
 人を治すことができて、苦しんでいる人がいる。おじさまに助けてもらうことができる。
 だったら……迷わずに助けてあげたらいいのに、よく、わかりません。
 

 お父さんに叩かれました!
 もう家に帰りません!
 家出です。
 なんで約束を守れないんだって怒られたって、わたしは悪くありません。
 病院の前で、すごい怪我して大変そうな人を見たら、助けてあげたいって思うのは当たり前じゃないでしょうか。
 お父さんはおかしいんです。冷たいんです。嫌いです。
 おじさまから借りている素敵な力、みんなを助けられる魔法の力。それを使っちゃいけないなんておかしいです。なんでそれが、わたしのためなのかわかりません。
 助けてあげたいって思って、頑張って、それで助けられたら、わたしもうれしくて、その人もうれしくて、みんなうれしくて、それでいいんじゃ……ないのでしょうか。

   あなたにあいたい 高町なのは   










〇キュアー・ウーンズ
 どんな傷でも一瞬で治します。剣で斬られても、ドラゴンの炎で焼かれても、隕石に押しつぶされたって大丈夫! 死んでなければ治せます。でも、手足が千切れたら繋がらないので気をつけてね。基本消費精神力が5もあるので、小さなお子様ではなかなか使えません。

〇高町なのは 
 精神力3→4(+0) 精神的に早熟なため低年齢による能力値修正を緩和
 冒険者技能:ダークプリースト(ファラリス)1→2





感想で疑問が書かれていた神聖語について

〇神聖語 神聖魔法を使うためには、神の声を聞くことができるほどの信仰心が必要です。神の思考形態は人間とはまったく異質で、そのため人間たちには完全に理解することができません。その言葉は頭の中に非常に複雑な記号として入りこんでくるからです。これに言葉を与えて奇跡を引き起こす手段として古代王国期に作り出されたのが神聖語と呼ばれるルーンです。(完全版ルールブックより)

この話の舞台は第97管理外世界「地球」ですので、フォーセリアの人間の言語は伝わっておりません。
なのはの使っているのは、「なのは式暗黒語」ってことになります。今のところ、なのは⇔おじさま間でしか通用しない暗号のようなものです。出典が確認できませんでしたが、SNEのQ&Aで古代王国期以前には、神聖語を使わない神聖魔法のルーンマスターも存在していたようなことが書かれていたはずですので、ありえないってことはないかと。
感覚で魔法を組み上げることのできる天才ですから、なのはさん。

降臨した神や神獣は、物質界に肉体があるのでまた違うのかなと考えております。精神的な存在として神官とテレパシーのみで会話するのと、肉体があって物質界に直接介入可能な状態では会話方法も変わってきそうです。

上位古代語魔法、精霊魔法はフォーセリアという世界の中だからこそ機能していると考えますので、他の世界では効果無しとしています。神聖魔法についてはラーリスさまがいるので……まぁ、ありかなと。

最後に、作者=GMってことで納得して頂ければ幸いです。



[40369] 高町なのは嬢より ファラリスさまにあてた手紙集2
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:f554ae49
Date: 2014/08/24 10:44
 ファラリスおじさま
 
 風邪をひいてしまいました。
 昨日お父さんに叩かれた後、ずっとずっと走っていって、そこでお手紙を書いた後に眠ってしまいました。
 海の見える公園です。
 公園の木の下で、いつも持ち歩いている紙とペンで書いたんです。
 その後、なんだかとてもみじめな気持ちになって、また泣いてしまいました。
 それから、気がついたら家のベッドで寝ていたのですが、いつものペンがないのです。今は、お父さんからもらったペンで書いています。
 いつものペンはお父さんが探しに行ってくれたのですが、見つかりませんでした。もしかして、手紙と一緒に届いていませんか?
 それで、ちょっと恥ずかしいのですが、お父さんにあたってしまいました。わたしは悪い子です。そうしたらお父さんが「本当はもうちょっと後に渡すはずだった」って言いながら、素敵なペンをくれました。今はその本当は誕生日プレゼントだったペンで手紙を書いています。
 このペンは綺麗なんですが、わたしにはちょっと重いかもしれません。お兄ちゃんやお姉ちゃんのみたいな全部が鉄でできたペンなんです! でも、お兄ちゃんたちの物とは違って、細かい模様が彫ってあったりしてキラキラしています。お姉ちゃんがうらやましがるかもしれませんが上げません、わたしのです!
 お父さんが戻ってきそうです。いつもはお仕事のあるお父さんですが、今日は一日中ひとりじめです。布団にはいっていないと怒られてしまうので、今日はもう書けません。おやすみなさい。

   また風邪をひきたい 高町なのは
 
 
 ファラリスおじさま 

 昨日、お父さんといろいろお話ししました。
 お父さんは、わたしが魔法をつかう度にフラフラしているのが心配だったみたいです。自分ではわかりませんでしたが、顔色も悪かったそうです。
 なんでも、お父さんの知り合いに似たようなことになってしまう女の子がいるらしくて、わたしもその子と同じかもしれないって病院で調べている途中なんだとか。
 わたしの他にもファラリスさまの声が聞こえる子がいるかもしれないなんて、とても嬉しいです。
 一度会ってみたいなって、お父さんに話したら、もう会ったことがあるよって言われました。わたしよりも年上で、日本には住んでいないそうですけど、ヒントを聞いても誰だかわかりません。教えてって頼んでみても、お父さんはそれ以上教えてくれませんでした。
 なんでも、わたしやその人みたいな特別な力(魔法のことでしょうか?)があると、普通の人から嫌われたり、怖がられたりしてしまうそうです。だから、そういう力があることは信用できる人以外には隠していないとダメだって言われました。そういえば、幼稚園で怪我を治してあげた次の日から、「お母さんから言われたから」って一緒に遊んでくれなくなった子がいました。
 「魔法を使うときは、必ずお父さんかお母さんに相談してからにしなさい」って言われていましたが、最初からいろいろと教えてくれてもよかったと思います。お父さんは、わたしが人から嫌われたり怖がられたりするなんて話したくなくて、もう少し大きくなってからキチンと話すつもりだったそうです。
 
 それから、世の中には悪い人たちがいて、その人たちにかわったことが出来ることを知られてしまうと、わたしが危ない目にあわされるかもしれないとも言われました。
 悪い人にさらわれて、そのままどこかに連れて行かれて、もう二度とお父さんにもお母さんにも、お兄ちゃんやお姉ちゃんとも会えなくなってしまうかもしれない。もしかしたら、体をバラバラにされて瓶に詰められてしまうかもしれないそうです。
 なんて怖いことでしょう。そんな悪い人はお巡りさんが退治してくれないと困ります。でも、お父さんが言うには、普通のお巡りさんではそういう「特別に恐ろしい」悪い人にはかなわないんだそうです。テレビのヒーローみたいな人はいないんでしょうか?
 なんだか今日は、お父さんから聞いたことばかりで、そうです、そうですと書いてばっかりでした。


 ファラリスおじさま

 友だちが増えました!
 病院の矢沢先生の娘さんとパソコンでお話ししてます。アメリカの大学でお医者さんになる勉強をしているって言ってました。
 大学生さんなのですが、不思議とあんまり年上の気がしません、って言ったらとっても失礼ですね。でも、なんだかとても話やすい人です。
 まだ名前をかいていませんでした。フィリス・矢沢さんって言うんですよ。
 写真を送ってもらったんですが、長い銀色の髪がとってもきれいなかわいい人です。かわいいって言ったら失礼でしょうか? でも、ほんとにかわいいんです。
 フィリスちゃん、って呼んでます。名前がおじさまとちょっと似ていますね。
 フィリスちゃんは人を助ける仕事につきたくてお医者さんを目指しているそうです、自分でやりたいことを見つけて、それに向かって進んでいるっていうのはカッコいいと思います。
 わたしもなにかそういうものが見つかるといいのですが、わかりません。わたしにはなにもわからないのです。 
 そんなことをフィリスちゃんに話したら「まだはやい」って笑われてしまいました。笑われた仕返しに、フィリスちゃんには猫に嫌われる呪いをかけてあげました。いえ、もちろん冗談ですよ。でも、猫好きのフィリスちゃんは「やめてー」って言ってました。
 ちなみにわたしは猫さんとはとっても仲良しです。歩いていると後ろについてきます。話しかけると甘えてきてくれますし、結構言うことも聞いてくれるんですよ。
 今日はフィリスちゃんのことばかりでした、明日は猫さんのことを書きたいと思います。

   自分用のパソコンがほしい 高町なのは


 ファラリスおじさま

 桜がとってもきれいです。桜って、早く咲く木と、おそく咲く木があるんですね。秋に咲く種類もあるんだよってお姉ちゃんが教えてくれました。
 今は早めの木が咲いています。おそい木の花が咲くころにみんなでお花見に行こうってことになりました。お父さんとどっちがうまく写真をとれるか競争することになってます。今からとても楽しみです。
 五才になりました。
 誕生日のプレゼントにお兄ちゃんとお姉ちゃんからは、それぞれに色の違うリボンをもらいました。
 そして、なんとお母さんとお父さんからはケータイをもらいました! 何かあったり、相談したいときにすぐ連絡できるようにってことみたいです。 
 手の中に家族のみんなとつながっているものがあるのって、なんだかうれしいです。
 でも、おじさまの電話番号は必要ありませんね。おじさまはいつも一緒にいてくれますから。
 おじさまはすぐ近くにいてくれるのに、とても遠くにいるようで、でもやっぱり見守ってくれていて、うまく言えないのですが、とても感謝しています。

 それから、この機会に髪型を変えてみようかと考えているのですが、どう思いますか?
 この間、男の子に「しっぽ」を引っ張られて痛かったので切ってしまおうか、でもそれだと負けたみたいで悔しいので逆に伸ばしてみようか、どうしようかと悩んでいます。
 おじさまは好きな髪型はありますか?
 お母さんみたいに長いのが好きですか? お姉ちゃんみたいにしてみてもいいかもしれません。それとも、肩くらいで短くスッキリしてる方がいいですか?
 あ、でもあんまり短いのは男の子みたいなので嫌ですよ。
 でもでも、おじさまがどうしてもって言うのなら、わたし、すごく短くしてもいいですけど。お坊さんみたいにしますか?
 おじさまの答えはいつも、「好きにしなさい」ですけど。わたしはおじさまに気に入ってもらえるわたしになりたいんです。
 わたしが、わたしのなりたいわたしになるために、どうか答えていただけませんか?
 答えてもらえたら、きっとわたしはその通りにします。
 答えてもらえなかったら、どうしましょうか。たぶん、うんと悩んでそのままにしてしまうかもしれません。
 ご返じ楽しみに待ってます。 

   あなたのおこのみ 高町なのは





〇高町なのは 5歳 知力3→6(+1) アメリカの友達に英語(共通語)を習い始めました。パソコンを扱い始めました。デジカメを使いだしました。お手紙をたくさん書きました。

〇女の子:お父さんにとっては女の子。なのはから見たらお姉さん。

〇フィリスちゃん:心のケア要員、お互いに。お父さんがいない間に、誰にも見えない「おじさま」と話すようになったなのはちゃん、周りの人はどう思っているのでしょう。

〇あなたのおこのみ:なのはの手紙を読んでいる、「あなた」は誰? 

〇お父さん:アサシンギルドの長の息子です。小さい頃から血反吐を吐くような過酷な訓練を強制されたことでしょう。男にはスパルタ、女の子でも厳しくが教育方針だったようですが、お母さんと出会って変更したのでしょうか? なのはにはかなり甘い気がします。



[40369] 君を助けたい!
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:f554ae49
Date: 2014/08/27 01:24
 四月のはじめ
 ファラリスおじさまへ 
 
 小学生になりました。
 小学校には幼稚園で一緒だった子もいれば、そうでない子もたくさんいます。今までに会ったことのない子たちと話すのはとても楽しいです。
 ですが、すこし嫌なこともあります。幼稚園でいつもイジワルしてきた男の子が、同じクラスでした。今日の帰りに、ランドセルをとられたんですよ。返して返してって追いかけたら、ようやく返してくれましたが、どうしてあんな風に人のいやがることをするのかわかりません。
 それから「おまえのランドセル、なんか重い」とか言って、中を見ようともしたんですよ。ちょっとデリカシーがないと思いませんか?
 ランドセルが重いのは――実は鉄板が仕込まれているからなんです。我が家の伝統ということで、お兄ちゃんやお姉ちゃんのカバンもそうなってます。緊急のときには盾にするようにって言われてます。
 文房具も金属製のものが多くて、いざというときの武器代わりにするんだそうです。お兄ちゃんが投げたペンは、木に刺さりました。わたしが投げると、木まで届きませんでした。
 いざという時のためにって、お父さんから体の動かしかたを習っているのですが、なかなか上手くできません。わたしには剣術とかの才能はないみたいです。お兄ちゃんが今のわたしと同い年のころは、毎日木刀を千回くらい振っていたそうですが、わたしは無理です!
 とりあえず、悪い人たちから逃げられるようにと毎日走っています。でも、体力はついたような気がしますが、足はあんまり速くなっていません。

   海鳴第三小学校一年生 高町なのは


 四月のなかば
 ファラリスおじさま

 聖祥大学付属小学校という学校があります。制服がかわいいので通ってみたいなって考えてもいたのですが、お金とか成績の関係で無理でした――ということになっています。
 お父さんやお母さんはそんな風に言ってくれたのですが、どうもわたしが幼稚園でいろいろと問題を起こしたのがダメだったみたいです。余所のおばさんがそんなことを言ってるのを聞きました。
 おじさまはいるのに、みんなが信じてくれないから悪いんです。お父さんやお母さんがどう言っても、周りの人たちがなにかこそこそ話してても、わたし、これだけは譲りません!
 あんまり大きな声で言わないようにとか、「そんなのいない」って言われても怒らないようにとか、そんな風に言われます。
 わたしのことで、お父さんやお母さんが余所の人になにか言われているのを聞いたこともあります。困らせているんだってわかってます。でも、おじさまがいないだなんて、そんなウソはつけません。
 みんな神社やお寺にはお参りするのに、どうして信じてくれないのでしょう。わたしには全然わかりません。
 書こうと思っていたこととちがうことを書いていました。
 今日、聖祥小学校の女の子がお店に来たんです。わたしが学校の帰りに翠屋へ寄ったら、店内でなにを食べようかって選んでいるところでした。たぶんですけど、わたしと同い年ぐらいの女の子が二人で「あれにしようか」「これがいいかな」って迷っていたので、うちのお父さんの得意技「とりあえず、全部」をおススメしておきました。お金持ちの家の子みたいだったので大丈夫でしょう、一緒にお付の人とかいましたから。
 また、話がちがう方向へ行ってしまいました。要するに、かわいなー着てみたかったなーって書こうと思っていただけなんです。
 
   あなたを信じる 高町なのは


 四月のおわりごろ
 ファラリスおじさま

 おじさまのことを信じてくれる子と友だちになりました!
 八神はやてちゃんって名前で、病院で出会ったんですよ。
 はやてちゃんにおじさまのことを話したら、ファラリスさまはよくわからないけれど声が聞こえるのはなんとなくわかる、って言ってくれたんです。
 はやてちゃんは、静かにして心を落ち着けるとたまに女の人の声が聞こえてくるときがあるみたいです。それから、起きてしまうとあんまり覚えていられないけれど、夢の中でも誰かと話をしてるような気がするのだそうです。
 はやてちゃんと会ったのは、病院の自動販売機のところでした。わたしは矢沢先生のところでの検査が終わって――最近は検査というより話してばかりです――お父さんが迎えに来てくれるのを入り口の近くで待っていました。そうしたら、わたしが座っていたところから少し離れた場所で、自販機を使おうとしていた車椅子の女の子が財布からお金を落としてしまったんです。
 その車椅子の女の子がはやてちゃんでした。
 散らばった小銭を拾い集めて渡したら、はやてちゃんはすごく嬉しそうに「ありがとう」って言ってくれて、わたしまで嬉しくなってしまいました。
 それから二人でいろいろと話して、友だちになりました。
 
 おじさま、今日はもう一つお手紙があります。 高町なのは
 

 ファラリスさんへ

 はじめまして、八神はやてです。
 なのはちゃんがお手紙を送るのに一緒させてもらいました。
 あなたがどういう方なのか、魔法ってどういうものなのかよくわかりませんが、一つだけわかっていることがあります。
 それは、なのはちゃんがとても優しい子だということです。
 なのはちゃんは困っていた私を助けてくれて、いろいろと話をして、それから内緒だよって言いながら怪我を治す魔法をかけてくれました。足が動くようにはなりませんでしたが、なんだか体中がポカポカしてきて、とても調子がよくなりました。きっとあの暖かさが、なのはちゃんで、それからファラリスさんなんでしょう。
 ありがとうございます。今日はとても良い日でした。
 私はファラリスさんの声を聞いたことがありませんが、いつかお話できたらいいなと思っています。

   八神はやて

 
 連休のころ
 ファラリスおじさまへ

 今日は温泉で手紙を書いています。
 今年の温泉旅行はメンバーが一人増えました。そうです、はやてちゃんです。
 はやてちゃんは原因不明の病気で足が動かせないというのは前にも書きましたが、ここの温泉は神経に良いらしいのでお父さんにお願いしたのです。
 お風呂場でのはやてちゃんは、すごくはしゃいでいました。足が動かないので、お母さんやお姉ちゃんがはやてちゃんを抱き上げて運んでいたのですが、そのたびに「おっぱい、おっぱい」と大よろこびです。
 はやてちゃんがうれしそうなのはいいのですが、どうしてあそこまで、と思わなくもないです。わたしは、はやてちゃんのことがわかりません。
 はやてちゃんは脚が太いです。普通は動かせないところというのは筋肉がなくなってしまって、もっともっと細くなってしまうそうなのですが、手で脚を動かしたりして頑張って治そうとし続けているのです。ずっとずっと、いつか治ると信じて続けているそうです。
 最近は、どうにかしてはやてちゃんの足を治してあげられないだろうかって、いつも考えています。
 わたしはまだまだ力が足りなくて、せっかくおじさまが魔法の力を授けてくれているのに上手く使うことができていません。だからわたしも、はやてちゃんみたいに頑張ろうと思います。魔法の力はどうすれば強くできるのかわかりませんが、初めておじさまから力をもらったころよりも今のほうがずっと強くなっています。
 だから、きっと、いつかきっと、でもできるだけ早く、友だちを助けられるようになりたい!

   はじまりの日をわすれない 高町なのは
   
 
 五月のおわりごろ

 はやてちゃんがウチに来ました。
 遊びに来たのではなくて、これから一緒に住むことになったのです。温泉旅行のとき、お父さんがはやてちゃんの保護者の人に許可を取ろうとしたのですが、連絡がつかなかったそうです。それで怪しく思って調べたら、はやてちゃんは大きな家に一人で暮らしていたんです。
 病院で会うたびにたくさん話しをしたけれど、そんなことは全然聞いていませんでした。電話やメールでも一言もさびしいとか、つらいって聞いたことがありませんでした。
 はやてちゃんがずっと一人だったと思うと、どうしてわたしはもっと早くそれに気付かなかったんだろうって悲しくなります。なんで、はやてちゃんの家に遊びに行こうって思わなかったのか不思議で仕方ないです。
 小さなころのわたしは昼の間ひとりぼっちだっただけで、さびしくてさびしくて、どうしようもありませんでした。それからもケンカして何度か家出もしましたが、すぐに一人でいるのが怖くなってしまって長く続いたことがありません。
 はやてちゃんはどんな思いで毎日を過ごしていたんだろうって考えてみても、想像がつきません。

 我が家は部屋は余っているのですが、バリアフリーとはとても言えない状況なのでしばらくはいろいろと不便かもしれません。なるべく早く必要なところは改装して、あとは力持ちな方々がどうにかしてしまうそうです。はやてちゃんごと車椅子って持ち上がるんですね、男の人ってすごいなと思います。
 
   しばらくバタバタしそうな 高町なのは  
   
  








〇高町なのは 7歳
 器用度4(+0) 敏捷度4(+0) 知力9(+1) 筋力4(+0) 生命力6(+1) 精神力9(+1)
 冒険者技能:ダークプリースト(ファラリス)3 ファイター1
 一般技能 :なし
 冒険者レベル:3 超英雄ポイント:0
 特殊装備:なし
 ※生命力が1クレスポになりました。


〇聖祥大付属小学校:良家の子女も通うそれなりな私立校。それなりな学力とそれなりなお金の他に、それなりな素行の良さも求められそうです。

〇ファラリスさまはいるんだよ:どこかの村のレナさんをどうしても思い出してしまいます。

〇八神はやて:不自由な方、束縛に苦しんでいる方、入信しませんか?



[40369] 呪われた本
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:f554ae49
Date: 2014/08/30 00:34
 六月のはじめ
 ファラリスおじさま

 はやてちゃんが引っ越してきて、少し日が過ぎました。荷物の整理も終わって、最初は何もなかったはやてちゃんの部屋(一階の部屋です)もいろいろと物が増えました。その中から変わった本が見つかったんです。
 その本には十文字に鎖がかけられていて、そのせいで開いて中を見ることができません。本の表紙と背表紙には金色の十字架みたいな模様がついています。はやてちゃんに何の本なのか聞いてみたのですが、小さい頃からあったけれど中を見たことが無いからわからないってことでした。何故だかわかりませんが、わたしはその本を見ているだけで不安な気持ちになります。
 なんだかとても嫌な雰囲気の本なので、はやてちゃんと相談して八神家に戻してきました。
 嫌な本はダンボールにつめてしまって、楽しい本の話にします。はやてちゃんはたくさん本を持っていました、それから図書館まで行って本を借りたりもするそうです。同じように本が好きなお姉ちゃんとは話が合うみたいで、とても楽しそうです。
 学校では読書が好きな子はたくさん本を読んでいるのですが、全然読まないって子の方が多いかもしれません。わたしは手紙を書くことはしていても(今も書いていますね)、あまり本を読まないので二人の話題についていけません。少し面白くないので、わたしも本を読もうと思います。

   絵本は卒業 高町なのは


 六月四日
 ファラリスおじさま

 今日ははやてちゃんの誕生日だったので、夜に翠屋を貸し切って(自分の家のお店でもこう言うのでしょうか?)誕生パーティー兼歓迎会をしました。
 病院の石田先生(はやてちゃんの主治医の先生です)や矢沢先生、仲良くしてもらっているナースのみなさんも来てくれました。
 みんなでプレゼントを贈ったのですが、順番に渡している途中ではやてちゃんが泣き出してしまって、なだめるのに一苦労です――なんて、書いていることがはやてちゃんにバレたら怒られてしまいそうですが、今日のはやてちゃんは本当に泣き虫だったのです。

   今日は一緒のお布団 高町なのは



 六月の終わりごろ
 ファラリスおじさま

 フィリスちゃんが帰ってきました。これからは病院で働いて(アルバイトみたいなものだそうです)、来年から正式にお医者さんとして勤めるそうです。
 去年、一昨年と夏休みに遊びに来てくれていましたが、海鳴市に住むということなのでこれからは毎日会えます! さすがに毎日だと迷惑だと思うのでやっぱりときどきにします。
 でも、病院に用があるときはいいですよね。わたしも、はやてちゃんも、ときどきお兄ちゃんやお姉ちゃんもかかってますから。
 ケガは魔法で治せるのですが、剣術の練習をし過ぎたりして、体を痛めたのはまた別みたいです。お父さんはそういうのないんですが「年季が違う」そうなので、お兄ちゃんもお姉ちゃんもまだまだなのでしょう。
 そんなことを書いているわたしは、ちょっとというか、かなりダメダメです。身を守れるようにって、お父さんに色々と教えてもらっているのですが全然覚えられません。
 目は良い、周りが見えているって誉めてももらったのですが、それ以外はこれといって良いところがないみたいでしょんぼりしました。
 でも、一度だけお父さんに勝ったことがあるんですよ! おじさまのおかげですけれど、魔法でお父さんを気絶させたんです。
 お父さんがわたしの魔法について知りたいと言うので、何日かかけて今使える魔法を見せたのですが、その中の相手の心に自分の心をぶつける魔法を全力全開で使ったら、お父さんが倒れてしまいました――わたしも倒れましたけど。あれ? これでは勝ったじゃなくて引き分けですね。
 フィリスちゃんの話に戻しますね。
 フィリスちゃんは猫が好きです。猫だけでなく動物が好きなのですが、特に猫が好きなのです。
 ですが、悲しいことにフィリスちゃんは猫さんたちに人気がありません。むしろ嫌われています。わたしが呪いをかけたせい――では、ありません。
 フィリスちゃんはお仕事の関係でどうしても薬の臭いがついてしまいます。それが猫さんたちは嫌みたいです。
 好きなのに嫌われる。さわりたいけれど、いやがっているのを無理にはできない。そんな感じで落ち込んでいたフィリスちゃんですが、昨日ようやくその問題が解決しました。

 我が家にはよく猫さんたちが遊びに来るのですが、この間、気が付いたら縁側の下に子猫がいたんです。親猫の姿は見えなくて、いつまでたっても迎えに来なくて、もしかしたら親猫が車にはねられてしまったのかもしれません。それでわたしとはやてちゃんでエサをあげていたのですが、いつまでも縁側の下というわけにもいかないので、ウチで飼おうかどうしようかと家族会議をしていたんです。
 そんな時にフィリスちゃんが遊びに来て、その子猫と出会ったんです。フィリスちゃんは「運命の出会いでした」って言ってました。その子猫はフィリスちゃんがお土産に持ってきたタコ焼きの香りに釣られたんだと思いますが、いつも猫に逃げられてしょんぼりしているフィリスちゃんに自分から近寄って行って、足首に尻尾をポスポス当てたり、前足でチョンチョンってつついたりしたのです。
 このときのフィリスちゃんの顔は、それはそれはひどいことになっていました。もうデレデレです。小声でなにやらつぶやきながら、踊るような仕草をした様子をわたしは今後語り継いでいきたいと思います。
 そんなこんなで、その子猫はフィリスちゃんが引き取ることになりました。フィリスちゃんが子猫につけた名前は「デイル」、白地に黒の点々が入ったぶち猫で尻尾(テイル)に二つ黒い点があるので、テイルにだく点を足してデイルだそうです。「黒猫だったらザザにしたんだけど」とも言ってました。「ジョマの宅急便」に出てくる黒猫の名前ですね。

   猫を飼い損ねた 高町なのは
 
   
 夏休みです
 ファラリスおじさま

 今日はテントの中でお手紙を書いています。
 今日はお母さん以外の家族と、フィリスちゃんとでキャンプに来ています。お母さんは仕事で来られませんでした。マスターよりもコックさんの方が忙しいの? とは聞いてはいけない質問だってお兄ちゃんが言ってました。男のコケンに関わるそうです。
 最初は病気のこともあって、はやてちゃんは家にお母さんと残る予定だったのですが、すごく行きたそうに「ええなー、ええなー」と袖を引いてくるので、ついついフィリスちゃんに頼ってしまいました。石田先生も「最近は体調も良さそうだし、フィリスさんも一緒なら」と許してくれました。
 キャンプに来ています、と書きましたがキャンプをしているのは三人だけで、あとのメンバーは修行中です。
 そうです、お父さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんは夏休みを利用して剣術の訓練をしているのです。今はもう日が落ちて、石で作ったかまどで燃える火をながめているような状態なのですが、森の奥から時々掛け声が聞こえてきます。暑くて暗い森の中で剣術の練習――わたしでは、ちょっとついていけそうにありません。はやてちゃんが来なかったら、わたしも参加するはずだったみたいなんですが、アレは無理です、とても無理です。
 ありがとう、はやてちゃん。ありがとう、フィリスちゃん。

   ランタンに照らされて 高町なのは


 キャンプ二日目
 ファラリスおじさま

 朝起きたらテントの中にあの本がありました。
 鎖で縛られた嫌な感じの本です。はやてちゃんの家に置いてきたはずなのに、なぜ山奥にあるのでしょうか?
 はやてちゃんも、他の人も、もちろんわたしも、誰もわかりません。いつ、誰が、どうして、ここまで運んできたんでしょう。折角の楽しいキャンプが、なんだか怖いものになってしまいました。
 とりあえず、本は大きな岩の下に挟んでゆくことにします。お父さんとお兄ちゃんとでなんとか動かせるような大きな岩です。誰が本をここまで持ってきたのかわかりませんが、これで変なイタズラできないでしょう。


 ファラリスおじさま

 家に帰ってきた次の日、またあの本がはやてちゃんの部屋から見つかりました。
 すごく不気味です、はやてちゃんもとても不安そうにしています。自分の部屋にあるはずの無いものが、いつの間にか置かれているなんてどういうことなのでしょうか。とても、とても怖いです。
 寝ている間に誰かが枕元までやって来て本を置いていくのでしょうか? はやてちゃんは良い子ですが、サンタクロースがプレゼントを配る時期にはまだ早いですし、お父さんとお兄ちゃんは結構イタズラ好きですがこんな気持ちの悪いことはしません。
 あの本はゴミに出しました。今日ははやてちゃんと二人でお父さん達の布団に潜り込みます。

   はやてちゃんにお母さんを取られた 高町なのは

 追しん
  送る前に返事を下さって、ありがとうございます。
  「呪い」ですか。呪われた本、はやてちゃんの病気の原因。魔法がもっと上達したら、どうにかできるのでしょうか。







〇闇の書:夜天という名の書がある。はるか古、ベルカの時代に作られた書だ。
     今の世の人々は夜天の書のことを、呪われた闇の書と呼んでいる。
     強大な力を秘め、持ち主を野望へと駆り立てるがゆえに。魔力を求め、多くのいけにえを貪るがゆえに。そして、主すら喰らい世界を滅ぼすがゆえに。
     鎖で縛られている上に、剣十字(ファリスの聖印は光十字)の紋章付き。とても嫌な雰囲気です。

〇ファイター技能:高レベルシーフ(推定)のお父さんに稽古をつけてもらったはずなのに、なぜかファイター。筋力の半分までの武器(小太刀)で、器用(二刀流)で、クリティカル低くて(徹・貫など)、アサシン(暗殺者)な御神流の使い手、そんな父・兄・姉はシーフ技能。なのはだけなぜか全力全開なファイター、不器用なんです。ただし魔法は別。

〇精神力(点):0やマイナスになった場合は意識を失います。

〇メンタル・アタック:消費精神力=1~  目標の精神力を自分が消費した精神力の2倍減少させます。冒険者(モンスター)レベルでの減点が出来ない精神ダメージなので、実はあの魔神王にも(6ゾロ必須で)効果的だったりします。

〇はやてちゃん:セージ技能持ち。精神力が高く、敏捷度の低いいきもの。

〇ナースさん:黒翼の邪竜。

〇フィリスちゃん:5レベル魔法「アポート」が使えるらしい。そして、彼女の姉は「テレポート」を使用するらしい……。ペットを甘やかし過ぎてデブ猫にしてしまいそう。

〇サモン・サーバンツ(ファラリス):8レベル魔法。フォーセリアでは、カラス、ネズミ、狼、コウモリを呼び出して簡単な命令を与えることができます。しかし第97管理外世界の海鳴市で一番自由っぽい動物は猫のような気がします。もちろんまだまだ使うことのできない魔法ですが、仲良くなるくらいはできるようです(マテリアル娘のシュテるん)。



[40369] 交際するって本当ですか?
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:f554ae49
Date: 2014/08/31 20:15
 ファラリスおじさまへ

 大変です。
 呪われた本をどうにかしようと家族一同いろいろな知り合いに頼んでいたのですが、そんな中で出会った巫女のお姉さんの胸を……お兄ちゃんがグワシッっと掴んでいるところを見てしまいました。
 西町の神社の階段で巫女さんを後ろからグワシッとする、お兄ちゃん。ちょっとどうかと思います。
 おじさまはどう思われますか? 
 そうですね、為したかったのなら仕方がないですね。
 でも、わたしがちょっとお兄ちゃんに冷たい目を向けるのも自由ですよね。
 だって、その後もお兄ちゃんと巫女さんはわたしが黙って見ているのを良いことに、二人で顔を赤くしてボソボソ、ムニヤムニャと楽しくおはなししているのです。普段は後ろからそーっと近寄ってもすぐに気付くお兄ちゃんが、周りが全然見えていないとはどういうことでしょう。
 お兄ちゃんもこっそりとはやてちゃんの仲間だったのでしょうか。
 このことを晩ご飯のときに話したら、お父さんはニヤニヤとお母さんはあららーと微笑み、お兄ちゃんはむせて、お姉ちゃんとはやてちゃんはぷくーっとむくれていました。
 ところで、おじさまはわたしが他の神さまに関係している人を頼っても構わないと言ってくださいましたが、本当のところはどうなのでしょうか? 少しぐらいぷくーっとしてくださいますか? 

   愛をこめて あなたのなのは


 ファラリスおじさまへ

 大変です。
 お兄ちゃんがフィリスちゃんと臨海公園でデートしていました。
 わたしとはやてちゃんが散歩していたところ、すごくおめかししたフィリスちゃんと二人で公園のベンチに並んでいる姿を見つけたんです。
 半年前には巫女のお姉さんと良い感じだったのに、どうなっているのでしょう。
 お姉ちゃんともすごく仲良しさんですし、イギリスには昔いろいろと約束した人がいるみたいで、呪われた本のせいで不安になってるはやてちゃんにサラッと「心配するな。俺が守ってやる」とか言って。
 うちの兄はどうなってしまうのでしょう。妹としていろいろと心配です。
 そういえば、お兄ちゃんの数少ない友達の赤星さんも、そんな感じの人でした。顔良し、頭良し、愛想良し、強くて、よく気が付いて――うちの兄より上ですね。「とってもモテてるんだよー」とはお姉ちゃんの言葉ですが、お兄ちゃんもそんな赤星さんに秘訣を教わったのでしょうか。
 しかし、いつの間にフィリスちゃんとそんなに仲良くなっていたのかと考えると――うちに遊びに来たときによく送って帰ってましたし、割と怖がりなフィリスちゃんをなだめていたりしました。送ってそのまま泊まって来た日もあったので、あんまり驚くことじゃあないのかもしれませんね。
 フィリスちゃんは、あの本がすごく怖かったみたいで、でもはやてちゃんとはずっと仲良しでいてくれて、わたしの言うことも信じてくれて、出来る範囲で手を尽くしてくれて。そんなフィリスちゃんが、わたしのお姉ちゃんになるんだったら、それはとってもうれしいなって思います。
 フグになったはやてちゃんと一緒にデートのお邪魔をしたら、たい焼きをくれました。お兄ちゃんはチーズ味、フィリスちゃんはココア味、公園のたい焼き屋さんはどんどん種類を増やしていますが、一体どこへ行こうとしているのでしょう。
 ちなみにわたしはこしあんが好きです、はやてちゃんはつぶあん派なので、この点では二人は相容れることのない敵となってしまうのです。どっちもおいしいのですけどね。
 おじさまはどちらが好きですか?

   おじさまはいつもそれですね あなたのなのは


 ファラリスおじさまへ

 大変です。
 お兄ちゃんが知らない女の人を連れてきました。
 多分お兄ちゃんよりも年上で、背中まで髪をのばした落ち着いた感じの人です。
 公園の階段で靴のかかとが取れて困っているところを助けて知り合ったそうですが、なんというか、ちょっとベタベタし過ぎではないでしょうか。
 わたし、あの人嫌いです。わたしと、それ以上にはやてちゃんを見るときの目がとても冷たいんです。優しげな言葉も、礼儀正しい態度も、なんだかみんなウソで本当は全然違う。そんな気がします。
 気がするってだけなのでみんなには言いませんが、一緒にいたくないって思ってしまったらもう無理です。自分の家なのに逃げ出すみたいで嫌なんですけど、あの人にくっつかれて照れているお兄ちゃんを見たくありません。
 フィリスちゃんにはどう言ったらいいのでしょうか。公園のときは「そんなのじゃないよ」って言っていましたが、フィリスちゃんはお兄ちゃんと話しているときとても楽しそうなんです。それなのに、あんな人と楽しそうにしてるなんて。
 おじさま、ごめんなさい。おかしなことを書いているってわかっていますが、どうしても
 ありがとうございます。だからおじさまが大好きです。

   大好きです あなたのなのは   

 追しん
  その人の名前を書いていませんでした。
  アーリア・クローノさんって名前ですけど、そういえばどこの国の人かは聞いていませんでした。


 もうすぐ二年生です。
 呪いの本はいろいろな方に見てもらって、お札をたくさん貼って庭に作った小さな社(でいいのでしょうか?)に納めてあります。
 はやてちゃんが「炊飯器に封じ込めるんや」とか言ってましたけど却下されました。わたしはときどき(しょっちゅう?)はやてちゃんがわからなくなります。お兄ちゃんは分かったみたいですけど、一体なんだったのでしょう。火にくべても燃えなかったのに、ご飯みたいに炊くつもりだったのでしょうか?
 それから、アーリアさんはあの本に興味津々みたいです。週に一度はうちにやって来るアーリアさんですが、最近はお兄ちゃんといるよりも社の前で考え込んでいることの方が多いような気がします。珍しいものだとは思いますが、怖くないのでしょうか?
 アーリアさんとは最初はダメだったんですけど、うちに来る猫さんたちをじゃらしていたときにアーリアさんまでじゃれてくるという珍事件があって以来、普通に話すようになりました。
 猫じゃらしをヒョイヒョイってして遊んでいたら、急に人の手が混じってきたときはビックリしましたが、「にゃっ」とか言いながらじゃれてきてそのあと真っ赤になっているアーリアさんを見てたら、実は面白い人なのかなって思えるようになって、それからは結構仲良しです。わたしが苦手にしていることに気付いて、わざとやってくれたのかもしれません。
 はやてちゃんとはまだあまり仲良く出来ないみたいですが、たまにすごく仲良しです。誰が話したのかわかりませんが、呪いの本のせいではやてちゃんが苦しんでいることを知っていたみたいで、本に向かって一緒に悪口を言ってたときは二人ともとてもよい笑顔でした。
 二人ともなんだかちょっと、どうかと思います。
 といいますか、アーリアさんはお兄ちゃんのことをどう思っているのでしょう。お兄ちゃん、フィリスちゃん、アーリアさんが揃ったときはどうなることかと思いましたが、わりと穏やかに終わったんですよね。
 あとでフィリスちゃんがすごく不安そうにしてましたけど、小学生にそういう相談をされても困るといいますか、どう返したらよかったのでしょう?
 
   
 誕生日プレゼントありがとうございます!
 絶対、死ぬま大事に、いいえ、死んでも大事にします。
 みんなもプレゼントをくれました。とてもうれしかったのですが、やっぱりこれが一番です。
 でも、ちょっと困ったことがあります。ふっ、と気付くとながめてニヤニヤしてしまっているようで「ちょっと気持ち悪い」なんて言われてしまいました。
 誰からもらったのか聞かれたので「おじさま」からって話したら、みんなすごくビックリしていました。特にアーリアさんがすごくて、あんまり質問が激しかったので「おじさま」のことや魔法のことを話しました。そうしたら、アーリアさんが考え込んで、うんうんうなって、レアスキルとか交信能力とか、る・るしえとか、高次存在とかなんだかブツブツ言ってました。
 そういえば、アーリアさんのプレゼントはなぜか猫じゃらしでした。実はじゃれるの好きなのでしょうか?

 るるしえってなんでしょうね? あなたのなのは




〇高町なのは 8歳
 冒険者技能:ダークプリースト(ファラリス)3→4
 プレゼントは神官がいつも身に着けるもの。
 まだまだリカちゃん(アドベンチャー)のレベルには届きません。

〇ぷくーっとはやてちゃん:イケメンに毎日お姫様抱っことかされてたら、多少はね。

〇フィリスちゃん:魔法少女リリカルなのは(R18版)でお兄ちゃんとくっついたヒロイン。自称内縁の妻のT村さんがいる状態からかっさらっていった超ヒロインポイントの持ち主。高町家の財産が目的とかそういうことはない。

〇アーリア・クローノ:高町家所蔵の本に興味津々の謎の女性。主の口から罵られる気分はどうよ? ザマーミロとか考えているかもしれません。

〇お兄ちゃん:なのはが小学二年生のときが本番の人。二刀流でズンバラリン。

〇御神流・裏:不破家は暗殺者なので、軽業、忍び足、潜伏、登攀くらいは出来ないと困るでしょう、とシーフ技能(2.0なら分離出来そうですが)。小太刀の必要筋力は未設定、両手同時攻撃に関するルール上、少なくとも一方は筋力の半分である必要があります→高品質武器の可能性。

〇魔力と精神力:この二つは別物とします。そうでないとなのはさんは9歳にして管理局の(魔導師限定でしょう)上位5%の精神力の持ち主と言うことになってしまいます。

〇パワーリンク:複数人の精神力を集積する。力を合わせて何かをするという意味では、ミッド式魔法の強装結界(複数人で協力して効果を上昇させた結界)が近いものかもしれません。闇の書の蒐集も(強制)パワーリンクっぽいですね。

〇トランスファー・メンタルパワー:精神力を他者に譲り渡します。二人できっちりはんぶんこ、の場面でこれを思い出した人は他にもいるはずだと信じています。

〇夜天の書:主と共に旅する機能があります。主が旅行に行けば勝手についてくる、置いてけぼりにはできません。

〇鉄槌の騎士:子供じゃない、ドワーフなんだ。だからベルカの騎士でもおかしくない。

〇ナースさん:一行だけで人気者、白衣の天使は格が違った。



[40369] 猫だけが知っている
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:f554ae49
Date: 2014/09/04 12:42
 ファラリスおじさまへ

 おじさまは「世界の果ての壁」ってご存知ですか?
 今日はアーリアさんからおとぎ話を聞いたのですが、これがなかなか難しくて困っています。
 一緒に聞いていたはやてちゃんはなんとなく分かったのか、まく宇宙とか、ビッグバンとビッグクランチとか、ブラックホールにホワイトホールだとか、振動宇宙論がどうこうって説明してくれたのですけど、さっぱりです。こんがらがって頭の中が紐宇宙です。
 はやてちゃんは宇宙や深海、人体の神秘みたいな番組が好きでよく見ています。だからいろいろな事を知っているのです。今度からハカセって呼びましょうか。
 
「二人とも、世界の果ての壁って知ってる?」

 アーリアさんのお話はこんな感じで始まりました。
 この世界には幾千幾万ではきかないようなたくさんの星があって銀河があって、わたしの頭では想像もできないほど広いのですが、それでも世界には果てがあるのだそうです。
 世界の外側には高次空間というもっともっと広い空間が広がっていて、そこからひとつひとつの世界をながめると確かに世界とその外側の空間の間には壁があるように見える、らしいです。それを「世界の果ての壁」って表現した作家さんがいて、その小説が売れたので一部の地域ではそう呼ばれているのだとか。
 今、わたしたちが住んでいるこの地球、この宇宙、それを外側から見るってどんな気分なのでしょうね。一度でいいからわたしも見てみたいと思いました。
 と、ここまでだったらなんとなくわかったんです。例えるならお風呂に浮かぶ泡が世界で、お風呂のお湯が高次空間って言われたのでイメージはできました。ですがアーリアさんのお話はそこからまだまだ続いて、なんと世界の始まりと終わりの物語になったのです。

「世界のはじまりのはじまりは無でした。そこにあるとき"偉大なる一つ"と言う存在がどこからともなく現れたのです」

 偉大なる一つさんは永遠の時の果てにはじけてしまいます。どうしてはじけてしまったのかと聞いたら、「寂しかったのかもしれないね。ずっとずっと一人でいたらから」って言われました。混沌の海(高次空間の別の呼び方です)には、他にも偉大なる一つさんと同じようなものがあったはずなのですが、ひとつひとつがあまりにも遠くに離れていたから声も届かなかったのかもしれません。さびしくてさびしくて、耐えられなくなってどうにかなってしまいそうって、少しわかります。
 とにかく、わたしなんかとは比べ物にならないほどさびしかった偉大なる一つさんはついに耐え切れなくなって自分で自分を引き裂いて、悲しみと怒りの炎を噴き上げて亡くなってしまったのです(はやてちゃんは「ビッグバンかなー」と言うてました)。そして偉大なる一つさんの体の欠片と、最期の炎が材料となって星や大地や太陽が生まれ、ひとつの世界になりました。
 
「忘れられし都とも言われるその世界の名前は"フォーセリア"。禁断の秘術の眠る場所」

 神さま(アーリアさんは高次存在って言ってましたけど)が本当に居て、亡くなった人を蘇らせる魔法が実在した世界。魔法の技術を発展させて、大きな竜も、空の天気も、あるいは空間でさえも魔法で操っていたという進みすぎた世界。そして進みすぎた魔法技術の暴走が原因となって、破壊の女神さまを起こしてしまった世界。今はもうわたしたちの高次空間には存在しなくて、虚数空間へと落ちてしまった世界。
 虚数空間というのはわたしたちの世界が浮かんでいる高次空間の「裏側」にあって、そこでは時間が逆さに流れていたり、こちら側の法則が通用しなかったり(魔法も使えないそうです!)するそうです。

「時間が逆さに流れる空間に落っこちた世界は、やがてなにかの拍子にこちら側に戻って来ます」

 そうして、はじまりのはじまりの無に、あるとき虚数空間の中で時間をさかのぼって"偉大なる一つ"に戻った世界が現れるのです。それから永遠の孤独に苦しんだ偉大なる一つさんは自分で自分を引き裂いて、新しい世界が生まれる――という周期をいつまでもいつまでも続けている。
 そんな物語を、アーリアさんは図書館で読んだみたいです。その図書館は、とても大きくて世界中のありとあらゆる本が集められていて、探せばどんなことでも大概はわかるそうで――はやてちゃんがすごく行きたがってました。
 アーリアさんは、今その図書館で見つけた本の翻訳のお仕事をしているそうです。翻訳家さんだったんですね、アーリアさん。
 今日はひとつアーリアさんのことを知ることができました。
 フォーセリアの話は、アーリアさんが手紙に書いてほしいと言っていたので書いてみました。よく分かっていないわたしが、よく分からないままに書いているので、意味が分からなかったらごめんなさい。

   お風呂でのぼせた あなたのなのは
 
 
 ファラリスおじさまへ

 お兄ちゃんがまた違う女の人を家へ連れてきました。しかも今度は姉妹を二人いっぺんにです。どうなっているのでしょうか、わけがわかりません。最近はこればかりですね。
 はやてちゃんを図書館まで連れて行ったお兄ちゃん、帰ってきたと思ったら連れてる女の子が増えていました。
 なんでも図書館ではやてちゃんと妹さんの方が仲良くなって、さらにそのお姉さんがお兄ちゃんのクラスメイトだったとかで、話が弾んだそうです。普段は無口キャラで通しているのに、そういうときには話が弾むようです。
 いえ、別に怒っているわけではいのです。お兄ちゃんがいろいろといろいろしてるのは「そういう年頃なんだ、むしろ今までがおかしかったんだ」ってお父さんも言っていたのでいいのです。お父さんは三十六歳でお兄ちゃんが高校三年生ですから、お父さんが今のお兄ちゃんと同い年の頃にはお兄ちゃんが生まれていたわけでして、それを考えれば、きっと、普通なんでしょう、たぶん。
 本日のお兄ちゃんの収穫は、お姉さんが月村忍さん、妹が月村すずかちゃんでした。
 お姉さんとはあまり話していないので、どんな人かはよくわかりません。すずかちゃんははやてちゃんと仲良しでした、ええ、とっても仲良しでした。わたしの知らない本の話とかを、すっごく楽しそうに語り合っていらっしゃいました。
 「なのは、ぷくーってなってるよ」とかウチの姉が申しておりましたが、それはもう仕方がないことなのです。すずかちゃんが帰った後で「モテる女はつらいわー」とか言い出したタヌキは抱き枕の刑にします。
 
   いつもどおりの あなたのなのは 


 日曜日
 ファラリスおじさまへ

 今日はみんなでお花見をしました。
 メンバーはウチの家族とフィリスちゃんと、アーリアさんとすずかちゃんと忍さんと、それから巫女のお姉さんです。巫女のお姉さんは、いつの間にかウチのお姉ちゃんと仲良くなっていました。
 本当はもう一人すずかちゃんの友達が来て、人数が増えたかもしれなかったのですが「知らない人ばかりのところに行って、邪魔しても悪いしね」って逃げられてしまったそうです。きっと照れ屋な子なのでしょう。
 お花見の場所は、すずかちゃんの親戚の方の別荘の近くで湖の周りに桜がたくさん植えてあるすごく良いながめのところでした。私有地ということで他に誰も来ていなかったので、わたしたちだけで占領です。
 お父さんは「いいながめだなー」って言ってお母さんにつねられてました。相変わらず仲良しさんです。
 お母さんは演歌を熱唱。わたしとはやてちゃんとフィリスちゃんとすずかちゃんでアニメの歌を一緒に歌ったのですが、はやてちゃんはいろいろ詳しすぎます。やはりハカセなんでしょうか。
 それから、お姉ちゃんの作ったおかずが普通に食べられる味でした。まれにある大成功だったのでしょう。ええ、お姉ちゃんの料理はたまに食べられる味のときがあるのです。
 それから、それから、お兄ちゃんはわたしの知らないうちに忍さんと山登りに行っていたようです。カナディアンピークの西側ルート(どこでしょう?)絶対不可侵の神の領域とまで言われている難しい登山に挑戦してきたそうです。いつの間にか命を預け合う仲になっていただなんて、フィリスちゃんは大丈夫なのでしょうか。
 その肝心のフィリスちゃんなんですが、酔いつぶれてしまったのでお兄ちゃんの膝の上に乗せておきました。ホントは毒消しの魔法で治せるのですけど、治さないほうが良さそうだったので使いませんでした。寝顔が幸せそうだったので、わたしも幸せです。

   ほろ酔い気分の あなたのなのは




〇月村忍:高一のときからお兄ちゃんのクラスメイト。でも、三年生まで話したことも無かった。

〇お姉ちゃん:クッキング3レベル(バツ技能)。

〇アリサ・?????:スペクターになると出番があるのですけどね。

〇キュアー・ポイズン:酔いをさますのに使うのが伝統です。

★祝福された神々しいファラリスの聖印:暗黒神の聖印だ それは魅力を高める それは信仰を深める それは神が発する電波をキャッチする それは逆鱗である

〇最終回:あしながおじさんに合わせる予定です。

〇なのはの年齢:三年生の四月はじめで9歳設定を採用しております(アニメ版)。三年生の終わりごろに9歳だと、SWの年齢による能力修正ルールで厳しいことに(9歳で制限が一段階外れます)。


レベルに関するご意見があったので、なんとなくML(モンスターレベルでも魔導師レベルでも、メイジレベルとでも)表記

時空管理局の陸部隊隊員がML1(一般兵相当) 陸の隊長がML3 海のエリート魔導師部隊隊員がML4 海の隊長がML5(騎士相当、空戦Aランク) 傀儡兵もML5(Aランク相当)

ここまでががいわゆる「ざこ」です。やられ役で引き立て役、リリカルなのは的に。プレシアさんに画面外で全滅させられるような存在です。

無印なのはML7(魔法を覚えて一ヶ月で騎士団長並なAAAランクの小三) 黒っぽい執務官ML?(分解消滅を使う中二)

こんなイメージで書いています。




[40369] 告白はインパルスのあとで
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:f554ae49
Date: 2014/09/07 22:32
 ファラリスおじさまへ

 お兄ちゃんがお姉ちゃんにやられてしまいました。
 剣術の稽古でいつもはお兄ちゃんがお姉ちゃんより上なのですが、今日はお姉ちゃんがすごく調子が良かったみたいでお兄ちゃんのコメカミがサックリと切れて血がものすごく出ていました。タオルが真っ赤です。
 もちろん治療の魔法ですぐに治したのですが、お父さんからはもう少し痛い思いをさせておかないと上達が遅くなるぞって言われてしまいました。お兄ちゃんが怪我をしているのも嫌ですが、剣術の上達を邪魔するのも嫌です。
 治したいけれど、治したらいけない。
 やりたいことがいくつもあって、そのいくつかがぶつかってしまう時はどうしたら良いのでしょうか? 全部選べたら一番なのですが、なかなかそうもいきません。
 それで、お姉ちゃんはお兄ちゃんに上達したって誉められたみたいですごくうれしそうにしていました。お兄ちゃんはお父さんに「まだまだだなー」って言われてむくれてました。わたしはお兄ちゃんの怪我を治せて満足です。治療すると自分が役に立ってるって感じがして気分がいいのですが、でもそのためには治す相手が居ないとダメなわけでして、でもでも誰も痛い思いをしないのが一番なわけで――治したいからって怪我をしてもらうわけにはいきませんし、これもどちらかしかダメっていう難問ですね。

   なやめる あなたのなのは

  追しん
 魔法を使うことについてなのですが、最初の頃はすぐにフラフラになってしまっていたので使ってはダメって言われていましたが、最近は結構上達したのか怪我を治すだけなら三回くらいは平気になりました。なのでお父さんとのお話の結果、家の中で魔法のことを知っている人しかいないときなら自分で決めて使ってもいいってことになりました、といいますか、しました(ホントは結構いろいろ使っているんですけど、それは内緒にして下さいね)。 
 

 ファラリスおじさまへ

 大変です。
 お兄ちゃんに婚約者がいたことがわかりました。なんでも小さい頃に婚約の式みたいなことをやっていて、お姉ちゃんが立会人をやっていたのだそうです。
 今日の夕飯のときにお兄ちゃんは結局誰が好きなのかなって話になりまして、そこでお姉ちゃんが「あー、そういえば……」と思い出したのです。
 その人はわたしも知っている人だったのですが、正直ちょっと苦手な人です。別にその人に何かされたわけでも、逆に何かをしたわけでもないのですが、おじさまの声をはじめて聞いた頃、わたしはその人のことがとても嫌いだったのです。
 その人のせいで、お父さんは病院で寝たきりで、お母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんもわたしにかまってくれないんだって憎んでいました。
 今は、嫌いではないと思います。でも、なんだか居心地が悪くて一緒にいることがつらくなってしまいます。なので、たまに会うことがあってもほとんど話したことがありません。
 なんだか、最初の頃のアーリアさんみたいですね。きっと話してみたら大丈夫だと思うのですが、何かの拍子でひどいことを言ってしまいそうでなかなか踏み出せません。
 その人は、六月にコンサートのためにこの町にやってきます。半月くらいはこっちにいるらしいので、その間に仲良くなれたらなって思います。
 今までおじさまへの手紙にも書かなかった人ですが、これからは機会があったら書いて送りますね。

   いくじなしの 高町なのは


 今日は赤星さんと巫女のお姉さんがやって来て、お兄ちゃん達と剣術の練習をしていました。
 それから皆で刀を取り出して、ここがきれいだ、これは実用的でカッコいい、などとお互いの宝物の刀を誉めあっていたのです。ウチのお姉ちゃんは刀マニアですし、お兄ちゃんも剣術家さんなのでそういうのが嫌いではありません。お父さんもいろいろとコレクションというわけでもないのでしょうが持っていますし、お母さんの場合は刀ではないですが包丁のセットなんかを持っていたような気がします。
 ひょっとしなくても、我が家は余所さまと比べてものすごく刃物が多い家なのかもしれません。
 お姉ちゃんは、小さいときにお父さんからもらった刀(小太刀としてはかなり小さい物らしいです)をとても大事にしていますが、わたしはもらっていません。みんな持ってるのにわたしだけ無いのは、ちょっと仲間はずれみたいで悲しいかもしれません。
 あ、でもはやてちゃんも持っていませんでした。仲間です。はやてちゃんの宝物は大きすぎてウチまで持ってこられなかったのですが、日曜日とかで時間があるときにはよく一緒に掃除をしに行ったりします。
 わたしの一番の宝物はおじさまから頂いたものです。
 学校でいつもいじわるをしてくる男の子がさわろうとしてきたので、つい叩いてしまった話はこのあいだ書きましたよね。あれからも未だに狙ってくるんですよ。
 どうして、いつもいつもわたしの嫌がることばかりしてくるのでしょうか。あの子は嫌なことをしたいのかもしれませんが、わたしはされたくないのです。「やりたいことがいくつもあるときはどうしたらいいのでしょうか?」って前に書きましたが、他の人とやりたいことが違っていて、そのどちらの願いもかなうってわけにはいかないときには、きっとぶつかり合うことになると思います。
 そんなとき、自分の願いを通した上で相手をできるだけ傷つけたくないと――これは同じことなんですね。
 自分の願いをかなえたい。自分が相手を傷つけたくない、嫌われたくない。どっちかを選んでもう片方を捨てるのか、逃げ出してどっちも選ばないのか、どうにかして両方を手にできないかとがんばるのか。
 どうするにしても「わたしのやりたいようにやってみなさい」ですから、それを考えて決めるのは「わたし」なんですね。そして、おじさまはわたしが決めたことを助けてくれる、見守っていてくれるのです。
 実は男の子を叩いてしまった日から、学校の先生に「学校にアクセサリーを持ってきたらいけません」って言われています。これはずっと身に着けているって決めたものなので、ウチに置いて行くくらいなら学校に行かないほうが良いです。でも、学校に行くのが嫌いってわけではありません。勉強して、いろんなことを覚えるのは楽しいですから。
 でもあの男の子は嫌いです。考えてみたら幼稚園のころからずっといじわるされているのです。そのうち仕返ししてやろうと思います!
 
   お父さんに相談してみます あなたのなのは 

  
 ファラリスおじさまへ

 えーと、なんて書いたらいいのか、ちょっと困っています。
 とりあえず、学校の先生の話を書きますね。昨日の夜、おじさまに手紙を送ったあとでお父さんにアクセサリーがダメって言われていることを相談しました。
 そうしたら、お父さんは先生から言われてもう知っていたみたいで、わたしに「それは神さまからもらったものだからか?」って聞いてきたのです。その通りだったのでわたしは「うん」って答えました。するとお父さんは何回か電話をかけて「これでまぁ大丈夫だろうが、あんまり見せびらかさないようにな」と言いながら頭をなでてくれました。
 これはおじさまから頂いたものなのでついつい見たくなってしまうのですが、他の人にとられたりさわられたりすると嫌なのでお父さんの言うとおりに学校では服の下にしまっておくことにします。
 今日の学校では先生には何も言われませんでした。というよりも何か怖がられていたような気がするのですが、お父さんは電話で何を言ったのでしょうか。これで学校の先生の話は終わりです。
 それで困っていることというのは、今日いつもいじわるしてくる男の子から告白されてしまいました。掃除の時間でまわりにみんないるし、すごく恥ずかしくて逃げてきてしまいました。
 仕返しをしようと思ったんです。その子は大きくてよく食べる子で、いつも一人分の給食じゃあ足りないみたいなことを言っていたので、きっと食いしんぼうだと思っていたのです。だからこっそりと魔法をかけて家に帰る前によけいにお腹が空くようにしてやろうって、それだけだったのです。わたしが自分でおやつの前に使うと、すごく食べたくなって我慢できなくなる魔法だったので、きっといじわるな子もお腹が空いて困るだろうって――。
 それが何故だか、魔法をかけたら急に手をとられて「好きだ」って言われてしまいました。わけがわかりません。
 幼稚園のころから気になってたとか言われても困ります。あんなに嫌なことばっかりしてきておいて何を言っているのでしょうか。
 わたしは家族や友達が好きですが、いじわるしようなんて思いません。困っていたら助けてあげたいし、悲しくて泣いていたらその悲しい気持ちを減らしてあげたい、一緒に楽しく笑っていたいし、相手にも自分を好きになってほしいから嫌がることなんてしたくありません。
 嫌いな人にするのならわかるんです、でも好きなのに嫌がることをするってどういうことなのでしょう。

   この手紙は書くのに時間がかかりました あなたのなのは


 ファラリスおじさまへ

 嫌いって言ってやりました。
 泣きそうな顔で走っていってしまったので、ちょっとかわいそうかなって思いましたが、物知りハカセが言うには「そーゆうときは、はっきり言ったらなあかん」らしいのでこれでいいのです。
 朝からクラスのみんなにからかわれて、他のクラスの子まで見に来ていました。ものすごく恥ずかしかったのですが、ビシッと言ってやりました。
 「男の子は優しくないとダメよ」ってお母さんが言ってましたが、やっぱりその通りです。お兄ちゃんも優しいときは好きですが、いじわるなときはどーかと思うこともしょっちゅうありますし。その点、赤星さんは優しくてカッコいいよねって、夕飯のときにお母さんやはやてちゃんと話していたのですが、お父さんとお兄ちゃんは「もうちょっとやわらかい言い方は無かったのか」って男の子の味方をしていました。
 会ったこともないいじわる男子の味方をするなんて、なんだかよくわかりません。
 ウチに来ていたアーリアさんは大人になればわかるようになるよって言っていましたが、どうでしょうか? わかるようになるのでしょうか。

   もちろん一番はおじさまです あなたのなのは

  追しん
 アーリアさんがこの手紙を書くのに使っている字(なのは語って言われました)を教えてほしいみたいで、次にアーリアさんが来るまでにノートに書いておこうと思っています。似たような文字を見つけたので、翻訳の役にたつかもしれないからお願いって頼まれてしまいました。
 わたしもとうとう先生です。生徒は翻訳家のアーリアさんと物知りハカセはやてちゃんの二人だけですが、なんだかとっても偉くなった気がしますね。




〇お父さん:人脈がすごそう。最近の趣味は女性関係の話で息子をいじること。

〇信教の自由:自由を定めている法というのは、おじさま的にはどんな気分なのでしょう。

〇フォース:暗黒魔法(2レベル)。一音節の詠唱(気合の一声)と共に術者から放たれる不可視の衝撃波。爆発系ダメージのため構造物を壊すのに向いています。取り上げられそうになったときにカッとなって床にぶつけた、反省はしても後悔はしない教義。傍目には床板を踏み壊したように見えたらしい。

〇イービル・インパルス:ファラリスの特殊暗黒魔法(4レベル)。この魔法の抵抗に失敗した目標は、心の中の欲望に沿った衝動的な行動を取ってしまいます。現代社会においては、子供ならともかく大人がかけられると社会的に死亡する可能性の高い非常に危険な魔法です。おやつがおいしくなる魔法ではありません。

〇高町なのは:色気より食い気。

〇男の子:相手が悪かった。

〇Waltz:こっぱずかしかった。

〇リザレクション「リコール・スピリットのことも思い出してあげて下さい」



[40369] ファラリス様がみてる!?
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:f554ae49
Date: 2014/09/11 00:44
 ファラリスおじさまへ

 今日ははじめての勉強会をしました。
 そうです、この手紙を書くのに使っている字の勉強をしたのです。メンバーは先生のわたし! それからはやてちゃんとアーリアさん、あとアーリアさんの職場の上司さんのギム・R・グレイさんです。
 グレイさんは落ち着いた雰囲気の白髪のおじいさんで、同僚の人からはお父さんって呼ばれて親しまれているそうです。アーリアさんも時々お父さんって呼んでました。
 そういえば、はやてちゃんがウチのお母さんに「お母さん」って間違えて言ってしまって、すごく恥ずかしがって耳まで真っ赤になるという事件がこの間ありました。はやてちゃんの両親のことはあまり聞いていないのですが、やっぱり寂しいのだろうなって思います。だからってもむのはどうかと思いますが。
 話がそれました。飛び入り参加だったグレイさんですが、事前に少しは知っていたはやてちゃんやアーリアさんよりも覚えるのが速かったです。
 わたしが話をするたびにうんうんとうなづいてくれて、なんだかとても楽しくなってしまいました。ただちょっと興奮してしまったみたいで、帰りはアーリアさんが付き添っていました。
 今日は、はやてちゃんとグレイさんの手紙も一緒に送ります。アーリアさんはもうちょっと上手く書けるようになってからにするってことだったのでありません。

   お手紙届けます あなたのなのは


 ファラリスさまへ

 おてがみをおくらせてもらいます 
 いままではにほんごでかいてきましたが きょうはなのはちゃんのつかっているもじでかいてみました 
 なかなかむずかしくてうまくかけていないとおもいますがよんでもらえたらうれしいです 
 すこしそうだんしたいことがあります 
 なのはちゃんみたいにこえがきこえないかとめいそうしてみたりしたのですが 
 そうするとわたしにはおんなのひとのこえがきこえてくるのです 
 そのこえは あるじ あるじ といているようでして そのこえにみみをすませるとだんだんと ぎんいろのながいかみにあかいめをしたおんなのひとがみえてくるのです
 わたしはこのおんなのひとがファラリスさまかとおもったのですが なのはちゃんとはなしてみるとどうもちがうみたいで ではいったいあれはだれで これはどういうことなんだろうってしんぱいなてきます 
 いきなりそうだんでごめんなさい おれいをいわなければいけませんでした 
 のろいのほんのことをおしえてくれて ありがとうございます
 おかげさまで あれからすこしちょうしがよくなりました 
 おしえてくれたファラリスさまとつたえてくれたなのはちゃんと たくさんいろんなことをためしてくれたみんなの かぞくのおかげです 
 いまわたしのまわりにこんなにひとがいてくれて まいにちがたのしくて うれしくて それもきっとさいしょのきっかけは なのはちゃんとファラリスさまです
 なんてかいたらいいのか わからなくなってきてしまいましたが とてもかんしゃしています 
 ありがとうございます

   おへんじおまちしています やがみはやて


 ファラリス様
 
 先日は貴重なアドバイスをいただき、本当にありがとうございました。
 私は幼い日より次元世界の秩序と平和のために法に従って仕事に励んできました。それがもう終わりに近くなってあのようなこととなってしまい、その復讐と、復讐のために罪のない子供を生贄とすることについて、ここ数年悩んでばかりの日々を過ごして参りました。
 そんな時に悩みの種であった呪いに取りつかれた子供が、余所の家に引き取られ家族同然の暮らしをしていると報告を受けたのです。生贄となる子供は身よりもなく親しい人間も少ない、だから犠牲としても悲しむ者は少ないのだからかまわないだろう、そんな風に自分で自分を誤魔化していた私にとってそれはとても衝撃的なことでした。
 実を言えば、その子供が孤独となるように少しばかり細工をしておりました。子供が悲しみ苦しんでいるのを知っていながら、後に悲しむ人間を少なくするためだと言い訳をして私は私のためにそうしていたのです。計画のことを考えるのならば、やり方を少し変えて交通事故などの不確定な要素を排除するために拘束しておいた方が確実だったかもしれません。そこまでせずとも、自分が家族のように接して信用させることでより計画の成功率を上げることも出来たかもしれません。
 ですが、私は子供から人とのつながりを奪っておきながら、せめて計画のときまでは普通に過ごさせてやろうなどと矛盾したことを考えていました。復讐のために犠牲にすると決めておきながらどっちつかずの状態だったのです。
 そんな私は使い魔に呪われた子供を引き取った家のことを調べさせ、そしてその調査結果にさらに驚かされたのです。魔法の存在知らないはずだった故郷の世界には、私の知識にない様々な力が存在していて、ある程度とは言えあの憎い闇の書の侵食を押さえ込むことさえしていたのですから。
 私の知っている魔法的な手段でそのようなことを行なっていれば、闇の書がどのような反応をしていたか――最悪、持ち主を飲み込んで転生をしてしまっていたかもしれません。それが、時空管理局のデータにない方法で影響を与えることが出来るとわかったのです。
 となれば、私の計画も変更できるかもしれない、何か、今まで考えてもいなかった方法があるのではないか、私はそんな風に考え始めました。
 そして、調査させていた使い魔があなたの名前を伝えてきたのです。
 失われた世界。禁断の秘術をもって繁栄を謳歌し、その魔導の技術故に滅んだとされる世界「フォーセリア」。その世界で神と呼ばれた高次存在の中でも、最も多くの者達から崇められたとされている暗黒神「ファラリス」の名を。
 調べました、遥か昔に滅んだとされる世界の力、もし借りることができるならと。無限書庫に潜り続けました。
 そして、あなたの声を聞いたのです。
 あの感動を、解放感を、私は生涯忘れることはないでしょう。
 今日という日もまた素晴らしかった。あなたから特別な印を与えられたと言う少女、高町なのはさんの言葉が私の心を決めてくれました。

「良いか悪いかじゃなくて、やりたいかやりたくないか。選べないのなら、迷っているのなら、とりあえず『どっちも』を選んじゃいましょう」

 彼女が闇の書に関する事情を知らないからこそ出てきた言葉ではあるのでしょう。ですが、この言葉は何故かストンと私の心にはまり込んだのです。
 この国には、二兎を追うものは一兎をも得ずという言葉がありますが、二兎を追うものだけが二兎を得るとも言うそうです。

 復讐は遂げる。「これから先の被害をなくす為」などという誤魔化しは言いません、これは確かに私の個人的な恨みを晴らすためのものです。
 子供を犠牲にしたりなどしない。誰もが平和に過ごすことができ、皆が笑顔でいられる世界、それが私の長年求め続けてきたものであることもまた確かなのですから。

 確かに闇の書の主を助けようとするならば、今までの計画を破棄、あるいは大幅に変更しなければいけません。それによって成功率も大きく落ちることになるでしょう。それでも今の私は『どっちも』を選びたいと、そしてそれを為し遂げたいと考えています。
 どうかこれからも未熟な私をお導き下さい。そして念のために別の名を使うことをお許しください。
 
   感謝を込めて ギム・R・グレイ
 
 
 ファラリスおじさまへ

 良いニュースがあります。
 今日は病院の日で、矢沢先生の代わりに担当になってくれたフィリスちゃんと話していたのですが、どうもフィリスちゃんは病院で泊り込みの仕事をするのが怖いようです。ナースさんたちから「フィリス先生はまだまだ子供だからねー」ってからかわれていました。
 昔に暗いところでいろいろと怖い思いをしたそうで、夜に一人でいると落ち着かなくて仕事がはかどらないらしいのです。わたしはどちらかというと夜のほうが好きなので逆ですね。昼間に一人になることがあると、おじさまの声を聞く前のことを思い出してしまうことがあります。
 それで、わたしと一緒にその話を聞いていたお兄ちゃんが、フィリスちゃんの夜勤の日に夜食を持ってお邪魔することになりました。暗いのが怖いこと自体は前から知っていたみたいなんですけどね、お兄ちゃん。どうもわたしには話してくれない「暗いのが怖い理由」も聞いているようですし、このまま上手く行ってくれてフィリスちゃんが「フィリスお姉ちゃん」になったらいいなって思います。
 それから夜食で思いついたのですが、今度から手紙と一緒にお供えとして食べ物を送っても良いでしょうか? 

   夜食作りを手伝う予定の あなたのなのは
 

 六月のはじめごろ
 ファラリスおじさまへ

 家の前であやしい女の人を見ました。
 髪が長くてスラッとした人でしたが、なんだか鋭い目をしていました。それからコートに隠れていてよく見えなかったので、当たっているかわかりませんが短い刀を持っていたような気がします。なんでそう思ったかというと、お父さんや、お兄ちゃんお姉ちゃんが外に練習へと出かけるときと似たような格好・雰囲気をしていたからです。
 その人は家の近くの電柱の影に隠れるようにして立っていて、わたしが見ていることに気付くと慌ててどこかへと行ってしまいました。なんだかとってもあやしいですよね?
 だからわたしは急いで家に入って、中に居たお兄ちゃんに相談しました。お兄ちゃんは急いで見に行ってくれましたが、あやしい人はもう見つからなかったそうです。
 その話を晩ご飯のときにお父さんとお母さんにも伝えましたが、お父さんはわたしの話を聞いた後、「心配ない」と言いました。お母さんは心配そうにしていましたが、お父さんと内緒話をしてから、「心配ないわよ」って言いました。
 でも、わたしは見てしまったんです。心配ないって言うお父さんとお母さんが悲しそうな顔をしているのを。
 お父さんとお母さんが仲良しさんだってことは、よーく知っていますが、何かあるのならわたしにも教えてくれていいと思うのです。
 お父さんが苦しいのなら、お母さんが悲しいのなら、わたしだって何かできるはずです。
 
 追しん
  フィリスちゃんに相談したら、海鳴市にいる警察関係の知り合いの方に相談してくれることになりました。
  



〇はやてちゃん:字が上手になるとなのはが喜ぶ。返事が聞えたら……。信者。

〇ギム・R・グレイ:ギムアルグレ。今までに登場した中でも上位三名に入る高レベルと推定されます。もしかすると超10レベルかもしれません。法と道徳と感情の間で思い悩んでいたら、声が聞えました。ダークプリースト(ファラリス)1レベルを取得。初級神官。

〇高町なのは:高司祭一歩手前。

〇聖印:アーリアさんがこっそり魔法で探査。地球上に存在しない物質製であることが判明し、フォーセリア及びファラリス実在の可能性が飛躍的に高まる。

〇お父さん:グレイ氏の施した細工に対する精神抵抗に成功していた。

〇男の子:「嫌い」を「好き」に、悪印象を好印象へと変換できる堕神「ケーマ・カッラーギ」を信仰するといいかもしれません。

〇イービル・インパルス:使いどころが難しい魔法。少なくとも戦闘中の相手には使わない。「今の俺はこの暗黒神官をぶん殴りたくて仕方ないんだ!」とか言われてしまいます。


原作アニメでの八神家について
小学校低学年の子供の一人暮らしなのに周りが気にしないのはおかしい→グレアムさんが何かしていたんじゃないか→必要最低限の人以外は、八神家に関わりたくなくなるような類の魔法がかけてあったのかもしれない→闇の書が起動しそうな時期に解除→やったね、すずかちゃんが遊びに来たよ! ということにしております。



[40369] 闇からの脅威
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:f554ae49
Date: 2014/09/21 00:16
 木曜日

 またあやしい人がいました。
 今日は白いセーター? みたいな服を着て普通の人みたいにしていますが、わたしはだまされません。なんというか、雰囲気というか、においと言いますか、そういうものがお兄ちゃんたちに稽古をつけているときのお父さんに似ていたのです。もしかしたら、あの人はお父さんの昔の仕事に関わっている人なのかもしれません。
 お父さんは昔、ちょっと危ない仕事をしていたみたいで、その関係で今でもそのころの知り合いの人が訪ねてくることがあるのです。
 とりあえず写真を撮ろうとしたのですが、ケータイを準備して構えたときには、もう姿が見えなくなっていました。昨日もそうでしたが、なんだか動くのがとてもはやい人です。
 
 それから、フィリスちゃんから連絡があってお姉さん(?)が、ちょっと気をつけてくれるそうです。

  
 金曜日

 翠屋から家に帰る途中であの人を見かけました。
 どうしてかはわかりませんが、とてもつかれているようでした。なので、今ならいけるかもしれないと思って後を追いかけることにしました。
 そろーり、そろーりとついていくと、やっぱり我が家の近くでウロウロしはじめました。あやしいです、とてもあやしいです。わたしの家に何の用があるのでしょう。
 声をかけるのもなんだか怖いですし、目を離すのも怖いので、そのまま電柱に隠れてじーっと見ていたのですが、学校から帰ってきたお姉ちゃんがわたしに声をかけたので見つかってしまいました。
 そうしたら、あやしい人は昨日やおとついよりもずっとはやい動きでシュタ、シュタッて感じで逃げてしまったのです。自分の家族のおかげで出来るってことは知っていましたが、壁や電柱を蹴って、屋根に上るなんてことができる人が他にもいたんですね。結構ビックリです。お姉ちゃんもすごくビックリしてました。 
 
 フィリスちゃんのお姉さんがあの女の人から詳しい話を聞こうとしたのですが、いろいろあって逃げられてしまったそうです。あんなにすばやく動く人が相手だと、警察でも捕まえるのは難しいのですね。


 金曜日二回目の手紙
 ファラリスおじさまへ

 明日は前に書いた苦手な人がウチにやって来ます。そのせいで緊張してしまっているみたいでなかなか眠れないので、またお手紙を書いています。
 おじさまへの手紙を書いているときが、わたしの一番落ち着いた時間なのです。
 苦手な人の名前はフィアッセ・クリステラさんと言います。このフィアッセさんはお父さんが事故で入院したばかりのころにウチにやってきて、自分のせいでお父さんは怪我をしたって言っていたのです。
 前にも書きましたが、お父さんの事故がフィアッセさんのせいなら、この人さえいなければお父さんは怪我しなかったのに、お母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんもって――そう思っていました。あのころのさみしい気持ちといっしょに今でもときどき思い出してしまいます。

 でも、いろいろと考えてみたのですが、もしかしたらわたしがおじさまの声を聞けるようになったのはフィアッセさんがいたからなのかもしれません。
 さびしくて悲しくて、でも声をあげて泣くことのできなったあの頃のわたし。心の中で泣いていたけれど、家族を心配させないように、面倒をかけないようにと笑顔を作って見せていたわたし。そんなわたしにおじさまは優しい声を届けてくれました。
 もし、お父さんが事故にあっていなかったら――なんだか怖いことを考えてしまいそうなので、今日はもう寝ますね。

   おやすみなさい あなたのなのは


 ファラリスおじさまへ

 フィアッセさんとそのお母さんのティオレさんがウチにやって来ました。今話題の「光の歌姫」と「世紀の歌姫」親子です。
 二人とも歌がとても上手で、わたしも少しだけ教えてもらいました。結構すじがいいってほめられたので、ちょっと調子にのってしまいそうです。
 はい! そうです。おじさまに励ましていただいたおかげでなんとか仲良くできました。ティオレさんがとってもお茶目な人で、ウチのお父さんと一緒になってわたしとフィアッセさんをからかってきたので、二人でがんばって反撃していたらいつのまにか――そんな感じでした。
 あんなに悩んでたのにあっさりしすぎていて、なんだか今までのことがバカみたいです。やっぱり迷っているくらいならやってみた方が良いのでしょうか? でも、やらないのも自由ですし、ずっと悩んでいるのも自由なのですよね。
 むずかしいですね。もしかしたら前に失敗しちゃったあの魔法は悩んでいるときに使ってみるものなのでしょうか? こう、山の奥で滝にうたれたりして心を落ち着けてから自分が一番に望んでいることをはっきりさせると言いますか。
 でも、そのときにお腹が空いていたら、悩みを解決するよりも先に魚を捕まえようとしてしまうかもしれません。やっぱりむずかしいですね。

   おじさまの歌をつくりましょうか? あなたのなのは


 日曜日

 今日はみんなでデパートに買い物に行きました。
 そして買収されてしまいました。ワイロでご機嫌とりな越後屋だったのです。
 デパートではクリステラ親子にたくさんの服で着せ替え人形みたいにされて、そのあと帽子に服に靴に鞄と一そろいを買ってもらいました(高町なのはのラッピング完了だそうです)。うれしいんですが、値札がなんだかすごい金額だったような気がしてとても普段着として着れそうにありません。でも、今のわたしは大きくなっている途中なので、着ないでいるとすぐに着られなくなってしまいます。そうなってしまうと、それはそれでもったいないですしどうしたらいいのでしょうか。
 とりあえずコンサートのときには着ていこうと思います。


 ファラリスおじさまへ

 ムシの王ルーテジアさんという人が書いた本をアーリアさんからもらいました。
 正確にはアーリアさんとグレイさんが図書館で見つけた本を翻訳したものらしいのですが、なんとこの本にはおじさまのことや、おじさまの力を借りる方法とその魔法のことがたくさん書いてありました。
 本の中に出てくる人や物、土地の名前なんかはアーリアさんたちが似たような言葉をあてはめただけなので結構間違っているかもしれないって言われましたが、それでもすごいです!
 傷の治す魔法はキュアー・ウーンズ、落ち着く魔法はサニティ、学校の床が壊れたのはフォースのせい。今までは、なんとなくこうかな、としかわからなかった魔法のことが詳しく書いてあります。
 そして本を読み進めることで見つけたのは――呪いを解く魔法リムーブ・カース! これが使えるようになったら、はやてちゃんを苦しめている呪われた本をどうにかできるかもしれません! 
 それから、それから、すごく難しい魔法の中には――。おじさま、がんばって使えるようになろうと思いますのでどうか見守っていて下さい。

   いつかあいましょう あなたのなのは


 おじさまへ

 今日はいろいろと大変でした。
 学校からの帰る途中におばさんにゆうかいされてしまって、それからおばさんをだましていた悪い人たちをやっつけて、ウチにかえってから家族会議をして、ともうクタクタです。
 おばさんっていうのは、この間からウチの周りで見かけていたあやしい女の人のことです。お父さんの妹さんでお姉ちゃんのホントのお母さんです。
 わたしをさらったり、やっぱり助けてくれたり、お父さんとケンカしたり仲直りしたり、そのあとお姉ちゃんと話したりで、さっき会ったときにはおばさんもすごく疲れているみたいでした。
 ねむくてねむくて字がうまくかけません、くわしいことは明日書きます。

  おやすみなさい 


 ファラリスおじさまへ

 今晩はフィアッセさんたちのコンサートなので昼間のうちにお手紙を送ります。
 コンサートのことは明日からにして、今日は昨日かけなかったゆうかいされてしまったときの話を書きます。
 昨日の学校からの帰り道におばさんが待っていたところから事件は始まりました。そのときのわたしはまだおばさんのことを「ウチの周りをうろうろしているあやしい女の人」としか思っていなかったので、その人が帰り道に待ち伏せしていたことにとてもおどろいてしまいました。そして「あっ!」と言うひまもなくおばさんはわたしを気絶させてしまったのです。
 次にわたしが目覚めたのは廃棄されたビルの倉庫でした。灯りは置いてあったので暗くて怖いってことはありませんでしたが、窓も無いしドアは外からカギがかけられていて開きませんでした。魔法の本に書いてあったカギを開ける魔法アンロックが使えればよかったのですが、それはおじさまから力を借りて使う魔法とは違うようでわたしには使えませんでした。
 そこで閉じ込められているのが嫌だったわたしはドアのちょうつがいをフォースで吹き飛ばして外に出ました。
 倉庫から外に飛び出たのはいいのですが、大きな音を立ててしまったのがダメだったみたいで黒いスーツにサングラスをかけたおじさんが怖い顔でこっちに走ってきました。すごく怖かったのですが、お父さんとの練習を思い出して倉庫の中から持ってきたモップでサングラスのおじさんのすねを思い切り叩いてやりました。そうしておじさんが痛がっているうちに走って逃げようとしたのですが、わたしが走り出そうとしたところで目の前の床がパンッ! という音と一緒にはじけたのです。音は後ろからしました、何かがわたしの足の近くを通って床に穴をあけたのです。
 おじさんの方へと振り返ったわたしが見たのは、おじさんの手に握られた拳銃でした。
「逃げようとしたり、抵抗したら撃つ」そんなことを言われたと思います。足ふるえてしまって立っていられなくなったのを見たサングラスのおじさんは、ひどく汚い言葉でわたしをおどすと「逃げられないようにしてやる」とわたしの足を撃とうとしたのです。
 大丈夫です。撃たれていませんし、大きな怪我もしてません。ちょっとすりむいたりはしましたけどね。
 とにかくそのときのわたしは、どうしようどうしようとパニックになってしまって何もできませんでした。そこに駆けつけてきてわたしをかばてくれたのがおばさんです(そもそもおばさんがゆうかいしたせいなんですけどね)。
 おばさんとサングラスのおじさんはしばらく言い合いをしていたのですが、どんどんと二人の間の雰囲気が悪くなって行きました。おばさんはお父さんを抑えるためにわたしをさらっただけで用が済んだらすぐに帰すつもりだったのですが、サングラスのおじさんはわたしをどこか遠くに連れて行こうとしていたのです。 
 ついにはおばさんは刀を抜きました、そしてサングラスの男が対抗するために拳銃を構えたその時でした、サングラスの男の後ろからもう一人サングラスに黒いスーツの男の人が現れたのです。その人はとにかく大きくて、背は二メートルくらいで横幅もあるものすごくきたえた感じの体つきをしていたのです。
 ここからは無我夢中というのでしょうか、とにかく必死だったのでくわしく覚えていないのですが、おばさんと大男がとんでもない速さの戦いを始めたのです。壁や床が急に吹き飛んだりするので危ないと思ったわたしはビルの通路をズルズルと這って逃げようとしました。情けないのですが、立ち上がることができなかったんです。
 そんなわたしを見逃さず、捕まえて銃を突きつけてきた人が居ました。そうです、サングラスの男です。
「これ以上逆らうなら、このガキを殺すぞ」そんな風に言われて、おばさんは動けなくなってしまいました。サングラスの男は大男にわたしを預けると、おばさんに拳銃を向けてフィアッセさんたちのコンサートを襲うように命令しました。
 わたしは大男に捕まえられていて動くことができませんでした。大男の手はわたしの首と右手を痛いくらいにがっしりとつかんでいてどんなに暴れても、例えフォースを使ってもとても逃げられそうに無かったのです。
 だからわたしはいちかばちかポイズンを使いました。体が痺れてしまう方の効果でです。
 そして、それがなんとか効いたみたいで大男がドサリと倒れました。それにサングラスの男がおどろいてこっちを見た瞬間、おばさんの手から糸が飛びました。そして、おばさんがサングラスの男の首に巻き付いた糸を引っ張ると、こっちもドサリと倒れたのです。
 これにて一件落着といけばよかったのですが、この後にまだいろいろありまして――長くなってしまいましたし、お姉ちゃんがさっきから呼んでいるので続きはまた今度書きますね。

   大人になっても兄妹喧嘩ってするんですね あなたのなのは





光の歌姫・世紀の歌姫:二つ名。自分で名乗るとあれですが、いつの間にか広まったりするのは冒険者の憧れ。でも大概変な名前がつけられる(例:8000ガメルの男、村長代理補佐心得見習い)

ムシの王の魔法書・日本語版:有用なのは暗黒魔法に関する記述のみ、遺失魔法などもたくさん載っていますが古代語魔法は使用できません。固有名詞などの誤訳がチラホラ。探せばなんでもある図書館(by司書長)ってすごいですよね。

サモンインセクト:6レベルの暗黒魔法。凶悪なムシの群れを召喚して目標を襲わせます。ムシマスターでアンデッドの王様みたいな名前の子がいましたよね。

おばさん:お兄ちゃんよりかなり上で、実戦から遠ざかっていたお父さんと同格か少し下程度。

サングラス一号:やつらの一員。2,3レベル程度。

サングラス二号:やつらの戦闘員。リリカルなのは(R18版)に出てきたお父さんを病院送りにしたタフガイにして、結果的にお父さんとお母さんとの仲を進展させたキューピッドと同程度。龍香湯ってゾンビメイカー+ファナティシズムみたいな効果ですよね。

ポイズン:3レベルの暗黒魔法。ダメージ毒なんて飾りです、麻痺毒こそが真価だってわかってるんです。

マイリー:人生は戦いだ! 死んでも戦いだ! 生まれ変わっても戦いだ! とおっしゃる神様。ディバインウェポン、ディバインシューター、ディバインバスター、ディバインアーマーと来て、ダメ押しに戦技教導官(いくさのわざをおしえみちびくやくにん)の高町なのはさん(Sts)にはお似合い。きっと 猛特訓→回復→もう特訓!? って感じで、スバル達がむごいことに。バトルソングを歌うのは執務官の中の人。

超英雄の条件:世界の行く末に大きくかかわる冒険を成し遂げ、その名が世界に広く知られ、国々の重要なポストの人間とも話す機会をもつような人物。
時空管理局と言う非常に大きな組織の中で高い地位につき、特に大きな事件を何件も解決してきたであろう海の英雄である元艦隊司令ならクリアしていそうですね。複数の世界滅亡級の事件を解決に導いたとして映画化までされているエースオブエースさんも資格は十分でしょう。

魔導師技能:ソーサラーに近いイメージの別技能。エターナルコフィンは精霊魔法アイスコフィンのようですし、ブレイクインパルスは古代語魔法ディスインテグレートのよう、ついでにライトニングプロテクションは神聖魔法のプロクティブサークルに似ています。
単一技能でありながらこれら全部を抑えられるものってなんだろうと考えた結果行き着いたのが、ソードワールドRPGバリアントと言えなくも無いドラゴンハーフRPGのルーンマスター技能でした。知らない人はごめんなさい、いつかドラゴンハーフ・ロードス島伝説とか書けたら解説します(書くとは言ってない)。



[40369] 猫の手冒険隊、結成!
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:f554ae49
Date: 2014/09/22 00:53
 ファラリスおじさまへ

 昨日はフィアッセさんたちクリステラソングスクールのみなさんによるコンサートの初回でした。
 歌はすごく優しかったり、綺麗だったりで素敵でしたね。おじさまも聞いていらっしゃいましたか? 魔法の本によるとおじさまは世界中、この世界だけではなくてたくさんの世界を同時に見守っているそうなので、もしかしたら聞き損ねてしまっているかもしれませんね。もしそうなのだとしたら、もったいないので次の公演の時には是非耳をすましてみてください。わたしのおススメです。
 これからみなさんはコンサートツアーとして日本では東京と大阪で二回、その後はアメリカなどの世界中の国々をまわってドカーンと荒稼ぎするそうです。稼いだお金は医療基金として寄付するそうなのですが、それによって人気が上がればさらにいつもの営業でも稼ぎがーとか、なんだか世知辛いいらない話まで聞かされてしまいました。
 まぁ、気分良く人助けができて、お金も稼げて、人気もあがってといいことづくめ――なのかはわかりませんが、みなさんマネージャーさんをはじめ関係者の方々などのためにもお金は必要ですしそういうものなのでしょう。
 ただ、詳しい事情はわかりませんが、とにかくそうやってチャリティコンサートで大きなお金が動くことが気に入らない人たちがいて、その人たちがおばさんをだましてコンサートの邪魔をさせようとしていたみたいです。

 薬というよりは毒で操られていた大男さんがいろいろと教えてくれました。何度も使われると記憶も思い出もなくしてしまって、洗脳されてしまう「龍香湯」というもので言いなりにさせられていたそうなのですが、ポイズンのマヒを解こうと毒消しの魔法キュアー・ポイズンを使った拍子に、一緒にその「龍香湯」の効果も消えてしまったみたいですごく感謝されました。
 もう一人のサングラス人は、「どうしてこんなことをしたのか、知っている範囲のこと全部、わたしにわかるように話してください」ってお願いしたらこころよく全部を話してくれました。
 
 それからおばさんなのですが、わたしが生まれる前に爆弾で殺されてしまった家族の敵討ちのための情報が欲しくて、それと引き換えにサングラスの男の言うことをきいていたのです。そのサングラスの人が仇の組織の仲間だったとわかったときには、だまされていい様に使われてしまったってすごく落ち込んでいました。
 殺されてしまったのは、爆弾で亡くなったのは、おばさんの家族と親戚で、それはわたしのお父さんの親類ということでもあります。
 おじさまはずっと前にわたしが「おじさまと呼ばせてください」ってお願いをしたときのことを覚えていらっしゃいますか? あのときにお父さんの親戚がいないって書いた覚えがあるのですが、その理由がようやくわかりました。
 お姉ちゃんがホントはお姉ちゃんじゃなくて、でもやっぱりお姉ちゃんだったりしたみたいに、ウチの家族は秘密がいっぱいです。お兄ちゃんが学校を一年留年しているのは秘密じゃないんですけどね。

   使える魔法が増えました あなたのなのは


 ファラリスおじさまへ

 本日は二回目の勉強会を行ないました。参加者も前回より一人増えたんですよ。
 新メンバーは美沙斗おばさんです! ビルでのことや、サングラスの人からお話をきかせてもらったときのことなどが気になったみたいだったので魔法のことを話したらすごく興味津々だったので誘ってみました。
 魔法の本には亡くなってしまった人を生き返らせる魔法も載っているので、やっぱり気になるのでしょう。わたしだって、もしその魔法が使えるのなら今すぐ御神のおじさんや、はやてちゃんのご両親を生き返らせて上げたいって思います。でも、わたしはまだまだ全然未熟者なのでとてもリザレクションを使えそうにありません。
 仮に使えるようになったとしても、亡くなってからの時間が長ければ長いほど難しくなるということなので、わたしが生まれるよりも前に亡くなった御神のおじさんを生き返らせるのはとても難しそうです。
 もう一つ亡くなった方を生き返らせることができそうな魔法があるのですが、その魔法リコール・スピリットを使うには、あの世から呼び戻した魂が入るための「生きている体」が必要で、さらにその生き返って欲しい人のことを知っていないと使えないらしいのです。こっちの魔法は生き返らせるというのとは微妙に違って、魂に入れ物を与えるというイメージですね。
 こっちはこっちで入れ物になる体と、きちんとその人を呼び戻すための記憶をどうするのかって話になります。
 本に書いてあった「魔力の塔」というものが造れたらいいのですけど、造り方までは書いて無かったのです。
 せめて、魔水晶とか言う魔法を使う助けになる石があればいいのですけれど、それもどういうものなのかよくわかりません。どうも青い宝石のようなものらしいのですが――。

 それからせっかく呪いを解く魔法リムーブ・カースが使える様になったのですが、呪いを解くことができるかもしれない機会は一度だけと書いてあるのが怖くて使うことが出来ません。もし、失敗してしまったら、はやてちゃんを助けることが出来なくなってしまいます。そんな話をみなさんにしたところ、グレイさんとアーリアさんがひどくあわてた様子で「闇の書はうかつなことをすると危険だから、何かする前には必ず連絡するように」と言いました。
 闇の書というのは呪われた本のことみたいです。アーリアさんとグレイさんはそんな名前であの呪われた本を呼んでいたみたいなので、これからは闇の書って呼ぶことになりました。
 
 えーと、それで話し合いを続けていたところグレイさんも生き返らせたい人がいるという話になりまして、リコール・スピリットのための器と記憶、それから魔晶石についてはグレイさんが心当たりがあるから用意できないか探してみてくれることになりました。記憶と石はいいのですが体はマズいんじゃないかって話も出たのですが、グレイさんが元から魂の入っていない生きているだけの肉体を用意できるかもしれないって言うのでお願いすることになりました。再生医療用のクローン技術がどうこうってことでしたけれど、誰かを誘拐してきたりするのではないのなら安心です。美紗斗おばさんも今までの仕事で似たようなものを見たことがあるそうですし。
 なんだか文字の勉強会というより魔法の研究会みたいになってしまいましたが、わたしも役に立てるみたいなので頑張ります! 

   魔法の練習あるのみらしい あなたのなのは


 ファラリスおじさまへ

 使い魔が出来ました。猫を素体とした使い魔でゼリーと言います。
 はやてちゃんは「猫やのにネズミみたいな名前やね」って言ってましたが、相変わらずよくわかりません。お母さんはわかったみたいで「あらー、懐かしい」って言ってましたけど。
 なんで急に使い魔なんてことになったかと言いますと、魔法の力は危ない場面や未知の出来事を乗り切ることでより早く強くなるのではないか、という説が例の大きな図書館で見つかった本に書いてあったからです。確かに、この間のゆうかいされてしまって危なくなったあとは急に魔法の力が強くなったのでこれは当たっているのかもしれません。
 ということでわたしは魔法の力を上げるため、魔晶石を探すため、休日冒険者になるのです。一緒に来てくれるのは、美紗斗おばさんと使い魔のゼリー、それからグレイさんが遺跡発掘の専門家を雇ってくれるそうです。はやてちゃんはうらやましそうにしていましたがお留守番です。
 なんだか上手く順序よく書けていませんが、今日は初めて空を飛んでしまったりしたので興奮してしまっているからだと思います。
 
 順番に書きますと、実はグレイさんとアーリアさんは異世界からやって来た魔法使いでした! さらにグレイさんはおじさまの声が聞こえる人だったのです。その上わたしにはおじさまからもらった暗黒魔法の力以外にも、グレイさんやアーリアさんが得意なミッドチルダ式魔法という魔法を使うための力もあったみたいでして、グレイさんからもらったデュランダルという魔法の杖(デバイスって言うみたいです)を使って空を飛ぶことができました。
 えーとそれから、身を守るためのバリアジャケットという魔法の服を作ったのですが、これは着てみたいなって思ったけれど着られなかった聖祥小学校の制服に似たようなものになってしまいました。もう気にしてないと思ってたのに実はまだまだだったんですね。身を守る服をイメージしろって言われたのに、とっさに浮かび上がったのがそれだったんです。
 杖も白っぽいですし、バリアジャケットも白っぽいのですが――おじさまは黒色のほうが好きですか? 本にはそんなことが書いてありましたけれど、どうなのでしょうか。    
 それから、それからですね、身を守るために使い魔を持ったらどうかという話になりまして、グレイさんおススメの猫を使い魔にしましたよって言うのが書き出しのところになります。ややこしくてすいません。
 ゼリーは人間の姿になることが出来て、すごく強くて、お兄ちゃんとバシバシ打ち合えるくらいでした。魔法を使えばもっといけるそうなので、美紗斗おばさんと一緒に前衛です。ゼリーのような強い使い魔を維持するには魔力がたくさん要るそうですが、わたしは魔力がかなり多いみたいなので大丈夫でした。

   もうすぐ夏休みの あなたのなのは


 夏休み
 ファラリスおじさま

 ワクワクとドキドキに急かされて、宿題をさっと片付けてしまったわたしは今日から探検家です。
 グレイさんから紹介してもらった遺跡発掘のプロ集団、スクライア一族のユーノ君を隊長に迎えた我等が探検隊の頼れるメンバーは、前衛に美紗斗さんとゼリー、後ろは回復役のわたしと心配だからって来てくれた割と万能な魔法使いのアーリアさんと補助魔法が得意なユーノ君、結構バランスの良いチームではないでしょうか? わたしは足を引っ張らないように着いていくだけで精一杯かもしれませんが、とりあえず頑張ります!
 今日はメンバーの顔合わせをしました、と言ってもユーノ君以外はみんな顔見知りですので専門家のユーノ君との打ち合わせ兼親睦会って感じでした。
 ユーノ君はわたしと同い年の男の子なのですが、なんともう独り立ちして仕事に就いているのだそうです。「仕事してるって言っても、元々の育った一族でやってることだから……」なんて言っていましたが、わたしはお父さんの元の仕事も、お母さんの仕事もとても今から出来そうにはないので尊敬するしかありません。
 ユーノ君の家族であるスクライアの人たちは、趣味と実益を兼ねた遺跡発掘をして旅を続ける夢とロマンの人々です。クリステラソングスクールの人たちもそうでしたが、やりたいことをやってそれで暮らしているって良いなって思います。もちろんウチのお母さんもそうなんですが、お父さんはどうなんでしょうか? 昔は風来坊でいろいろな土地をフラフラしていたそうなのですが、今は多分、お母さんと一緒にいるのが一番だから喫茶店のマスターをしているのかもしれません。
 話がそれてしまいました。とりあえずユーノ君はわたしと同い年の子供ですが、立派な遺跡発掘の専門家としてグレイさんの依頼でわたしたちのジュエルシード発掘の手伝いに来てくれたということです。
 元々ユーノ君たちスクライアの人たちも、魔力を秘めた青い宝石が埋まっているという遺跡を狙っていたそうなのですが、そこをグレイさんが先に発掘の許可を取ってしまったのです。スクライアの他の人たちは、これは仕方が無いと違う遺跡に行ったのですが、ユーノ君は初めての発掘主任を任されるはずの仕事が流れてしまったことが悔しくて、グレイさんとながーい交渉をした結果、遺跡発掘はほとんど素人なわたしたちの指導役としてやってきたのです。
 明日はいよいよ遺跡に突入です。果たして、魔力を秘めた青い宝石ジュエルシードはわたし達が探している魔晶石と同じものなのでしょうか?
  
   乞うご期待です あなたのなのは
 




〇高町なのは 8歳
 器用度5(+0) 敏捷度5(+0) 知力10(+1) 筋力5(+0) 生命力8(+1) 精神力10(+1)
 冒険者技能:ダークプリースト(ファラリス)5 ファイター1 ルーンマスター1
 一般技能 :シンガー1 
 冒険者レベル:5 超英雄ポイント:0
 特殊装備:暗黒神の聖印、生命なきものの王の魔法書(写本)、デュランダル
 ※知力、精神力の年齢修正は通常と異なっています。

〇経験値:バブリーズ方式。

〇魔晶石:マジカルなクリスタル。魔力が充填された青く光る宝石。似てませんかね?

〇使い魔のゼリー:出番が無かった方のリーゼ。お父様そろそろ齢で魔力キツくなってきてるかもね。

〇ルーンマスター:魔導師技能でもよいのですがカタカナで書きたかったので。アニメの高町なのはは無印終了までで7レベルのルーンマスターになれるだけの経験値を入手しているとしています(ソーサラー相当として換算すると42000点)。無印中にどれだけ稼いでいたのかわかりませんが、初期経験点が相当高かったのは確か。125万パワー。

〇デュランダル:優れた素材と機体だけを活かして高町なのは用に再調整された『不滅の刃』。氷結特性は外されて、単純明快に現時点での最高スペックを持つだけのストレージデバイス。待機形態はカード型、起動すると槍のようにも見える杖になる。白青デバイスに白青防護服ですが、「あなた」のお好みでシュテるんカラーでもOKです。
レイハさんごめんなさい、君はユーノ君と添い遂げて下さい。デュランダルって名前の競走馬がいたのが悪いんです(ライジングハートって馬なら居るみたいですけど)。

〇ユーノ・スクライア:生まれは「遺跡荒らし」、育ちも「遺跡荒らし」。セージ、ルーンマスター、シーフ、レンジャー技能持ち。




『はやてのスペルコレクション』

なのはちゃんがもらった魔法の辞典の真似をして、わたしもノートにちょろーと書いてみよう思いました。


〇キュアー・ポイズン:3レベル魔法。毒の効果を解除します。

 その男の意思はほとんど残っていなかった。ただただ、与えられた命令に従って動くだけのロボットのようなものにされてしまっていたからだ。
 男をそんな状態に変えてしまったのは恐るべき毒であった。その毒におかされたものは徐々に自分自身の意思を失い、意識や知識があっても命令に逆らおうという気持ちがなくなってしまうのだ。毒の効果で痛みを感じることもなくなった男は、忌まわしい悪党共に言われるがままに幾人も殺してきた。
 今回の任務もそうなるはずだった……。
「ファラリスおじさま、どうか力を貸して下さい。この人の中を巡る毒を消し去る力を……」
 意思が、心の動きが戻ってくる。長い間失われていた大切なものが――。男は目を開こうとしてあることに気付く。
「あ、あれ? マヒ毒が治せなかった……」
 体が痺れたままで動かせないのだ。どうやら心を縛っていた毒は消え去ったようだが、それ以外の毒がまだ残っているようだ。
 男は痺れが取れるまで、今までのこととこれからのことを考えることにした。


〇クエスト:5レベルの呪い属性魔法。目標に「~~をしなさい」と使命を与える。使命に反する行動をとった場合、使命への積極性が欠けた場合、目標は全身に激しい苦痛を受ける。

 自分こそが当の仇の組織の一員だと気付かず親族に刃を向ける女を嘲笑っていた男は、今やすっかり囚われの身となっていた。男を縛り上げた不破の兄妹は、さてこの男をどうしたものかと思案していた。
 憎い仇の一員である男を殺してしまいたいという気持ちもあったが、どうにかして男の所属する組織「龍(ろん)」の情報を聞き出したい。しかしこの男も裏の組織にいる人間、簡単に吐いたりはしないだろう、だからといって拷問するというのもイマイチ気が乗らない。いや、放っておけば妹の方はそれをしそうな雰囲気でもあった。
 そんな時に、事件に巻き込まれた兄の娘がやってきて男にこう言ったのだ。
「どうしてこんなことをしたのか、知っている範囲のことを全部、わたしにわかるように話してください」
 男はそんな娘をバカにしたように笑おうとして、その顔を途中でひきつらせた。誰が話すものかと考えただけで、男の全身を耐え難い激痛が駆け巡る。それは娘に言われたとおりに話を始めるまで続いた。
「――――――――」
 話ながら男は絶望していた。こんなことまで話してしまっては、例えここを生き延びたとしても組織に殺されてしまう! だが話さなければ、今ここで痛みのあまりに発狂してしまいそうだ!
 ついでで狙ったはずの「特殊能力持ちの子供」がこんなに恐ろしい力を持っているなどとは男は聞かされていなかった。
 上司を恨みながら、男は延々と話続けた。


〇リザレクション:神聖(暗黒)魔法9レベル。死者を生き返らせる。死後の日数が経過するほど困難になる。

〇リコール・スピリット:9レベルの暗黒魔法。死者の魂にいけにえの体を与える。死後何十年を経ていようと問題ありませんが、蘇らせることができるのは術者がよく知っている者に限られる。達成値が20以下の場合は蘇った者の記憶が失われる。
神聖魔法版では生き返ったあとの能力値、年齢、性別などは「中に入った魂のものと同じ」になるそうなので(Q&Aより)、暗黒魔法版でも優秀な肉体に入って強化とか、応用して若返るとか、うっかりTSしたりとかは出来ないと思われる。
必要なものは、魂の器となる「生きた肉体」と「その人についての記憶」。「あなた」はなんとか出来そうな人物に心当たりがありませんか?

〇リムーブ・カース:5レベル魔法。非解除以外のあらゆる呪文を解除する。一度解除に失敗しても、魔力が上昇すれば再挑戦が出来るのですが、魔法書の著者は滅多なことではもう魔力が上昇することのない御方です。



[40369] 剣の国のRPG
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/09/28 20:46
 
 旧い結晶と無限の欲望が交わるとき
 死せる王により聖地にて彼の翼が蘇る
 花嫁は捧げられ、海渡る法の書は虚しく焼け落ちる
 それを先駆けに死者達は中つ大地に躍り出る

  新暦63年『預言者の著書』より




 冒険初日
 ファラリスおじさまへ

 死ぬかと思いました。
 床がいきなり開いて、その下にはトゲがびっしりだったり。つかれて壁にもたれかかったらカコンとへこんでスイッチが入って、頭の上から槍が降ってきたり。それから、ながーい坂道を下っている途中で上からゴロンゴロンと鉄球が転がってきたり。前の二つは飛行魔法と頑丈に設定したバリアジャケットのおかげでなんとかなりましたし、鉄球はユーノ君が転移魔法でどこかへ飛ばしてくれたので大丈夫でしたが、「もっと気をつけて!」とか「うかつにそこらの物に触らない!」とか「対応遅いよ! なにやってんの!」などなど何度も怒られてしまいました。
 大人の方々には言いにくいからってひどいと思います。
 ウソです。だいたいわたしが悪いのはわかっています。美沙斗さんもアーリアさんも、わたしの使い魔もみんなして「こういうのは初めて」とか言ってたくせになんで余裕そうなのでしょうか? 前二人はともかく最後はちょっと納得できません。わたしの使い魔なのに!
 今日はそんな感じで、わたしが足をひっぱってしまったせいであまり進むことが出来ませんでした。
 グレイさんが手紙と一緒に牛を送って来てくれたので、供物として捧げます。一頭まるごとだなんて、すごく高いんじゃないでしょうか? なんでもファラリスさまと牛にはちょっとした縁のようなものがあるらしいのですけど、どういうことなのでしょう。
 美沙斗さんは「知らないほうが、いいよ」って言ってましたけど気になってしまいますね。

   反省中の 高町なのは


 二日目の探険を終えて

 魔力の塔ってご存知ですよね? 
 夕食のときにユーノ君とアーリアさんが話をしていて、おじさまの故郷だというフォーセリアの話題になりました。その中で、ずっと昔にフォーセリアから伝わったのではないかと考えられている魔法技術の影響が現代にも残っているのではないかって話になったんです。
 ルーテジアさんの魔法書にはあまり詳しくは書かれていませんが、魔力の塔というのは世界に満ちた魔力を集めて魔法使いが利用しやすいようにして蓄えておく機能があったそうです。わたしはそれを、ものすごく大きな太陽光発電システムとバッテリーみたいな感じだったのかもしれないなって考えてます。
 フォーセリアの魔法使いの人たちの中には、額に専用の水晶を埋め込んで魔力の塔に蓄えられた魔力を受け取っていた人たちがいたそうです。電波塔とアンテナみたいですね。
 それで、今の世の中にも額に特殊な紋様を刻んで魔力炉から魔力を受け取ることで自分ひとりでは使えないような大魔法を使う方がいるらしくて、アーリアさんの知り合いにも次元航行艦から魔力を受け取って空間歪曲魔法ディストーションシールドというものを使える人がいるそうです。他には埋め込むまではしなくても、サークレットなどで額の近くに受信用の宝石を身に着けることでも受け取りが可能になるそうです。
 この魔力炉から魔力を受け取って使う技術は、フォーセリアから伝わったものを改良したのかもしれないってユーノ君は考えているそうですが、ホントのところはどうなのでしょう。
 

 もう一週間が過ぎましたが、全然奥へと進めていません。
 アーリアさんが仕事の都合で一度家に帰ることになったので、わたしたちも一旦地球に戻って休みを取ることにしました。
 ユーノ君が言うには、本当は学術的な調査をしながら進めていくものなので半年とか一年で済めば早いほうでもっと時間がかかるのが普通だそうです。わたしたちは魔力の入った青い宝石を探しているだけなのでそのあたりは速いのです。
 初日の頃のユーノ君は、調査ではなくて宝探しみたいなわたしたちのことが気に入らなかったそうで注意の仕方が荒くなってしまったそうです。ごめんねって謝ってくれたので、わたしも事情があるからってスクライアの人たちのお仕事とっちゃってごめんなさいって謝って仲直りできました。
 仲直りついでにユーノ君も一緒に地球に行くことになって、明日は探検隊のみんなで温泉です。
 

 ファラリスおじさまへ

 昼間のことなんですが、ユーノ君と海鳴駅前を歩いていたら同級生の男の子にユーノ君が連れて行かれてしまいました。あのいじわるだった男の子です。
 何かまたイジワルなことをするんじゃないかと心配になってついていこうとしたのですが、何故だかユーノ君に止められてしまいました。仕方がないのでCD屋さんで二十分ぐらい待っていて、それから戻ってきたユーノ君に「もうちょっとやわらかい言い方なかったの?」って言われました。
 意味がわかりません。聞いても「わからないなら、別にいいかな」としか答えてくれませんでしたし、ユーノ君もイジワルです。
 そんなイジワルなユーノ君ですが、大昔の話とか最新技術の話とかが大好きなようで、その手の話題になると目をキラキラさせながら話をしてくれます。わたしのデュランダルや魔法書が気になって仕方がないみたいだったので見せてあげながらたくさんお話をしました。
 はやてちゃんが「なのはちゃんの浮気者ー!」って言ってきたので「モテる女はつらいね」と言い返してやりました。いつだったかの仕返しです。
 ハカセなはやてちゃんよりもさらに物知りなユーノ君はなんと呼べばよいのでしょうか? とりあえずヒマなときに考えてみることにしまして、今日ユーノ君から聞いた話をひとつ。
 魔導技術の中にカートリッジシステムというものがあるそうです。魔力を容器に充填しておいて、必要になったときに取り出して魔法を強化するのに使うそうなのですが、これがどうもわたしたちが探している魔晶石に近いものかもしれないというのです。
 カートリッジはアーリアさんやグレイさんが教えてくれたミッドチルダ式とは違うベルカ式という魔法で使われているものらしいのですが、おじさまの魔法を使うための魔力を込められるのでしょうか?
 おじさまへと祈る魔法とミッドチルダ式の魔法、どちらも魔法と呼んでいるのですが魔法を発動するために必要な力がどうやら違うようなのです。暗黒魔法は心の力ですが、ミッド式魔法は体の中にあるリンカーコアというところに溜まった魔力を使っているそうです。
 似ているようで違っていて、なんだかややこしいですね。

   明日からはまた探検です あなたのなのは



 扉をくぐったら、そこは広間でした。
 今までに無い風景に、わたしたちの意識は少しだけ捕らわれてしまったのです。その瞬間、広間がぼうっと光り、急に飛行魔法が解除されてしまったのです。頼もしかったバリアジャケットもなんだか薄くなってしまったみたいで、ついさっき罠の槍を防いでくれた頑丈さが感じられません。
 広間の壁が動き出したのは、ユーノ君が「AMFだ!」と言った直後だったと思います。動き出した壁はまるで巨大なロボットのようでした、鉄でできた大きな人形――アイアン・ゴーレムの群れがわたしたちに襲い掛かってきたのです! すぐに逃げましたけど。
 AMFというのはアンチ・マギリンク・フィールドの略称で魔力の結合と魔法効果の発生を邪魔してくる空間のことです。本で読んだ一切の魔法が使えなくなるアンチマジックの空間と比べたらまだ良いのですが、それでも魔法が使いづらい中で鉄の塊と戦うなんてとんでもないことです。
 とりあえず、今日はあれをどうしようかって相談をして終了です。


 ゴーレム退治の準備のために随分と時間がかかってしまいました。
 今日はお父さんや美沙斗さんの伝手をたどって手に入れた武器でゴーレムを退治しました。対戦車ロケット弾ってすごいんですね。
 ユーノ君が質量兵器がどうこうって言ってましたけど、最終的には黙ってればいいやって話になりました。お金の力ってすごいんですね。実はグレイさんってお金持ちなんでしょうか? 
 そして、ようやく魔法制限空間に鉄の巨人がいっぱいの厳しい場所を乗り越えたわたしたちは、探していた宝物を見つけたのです。
 歴史や学術的な調査とかは全然しないで力尽くで切り抜けてしまったので、ちょっと遺跡の中のいろいろなところがボロボロになっていますが仕方ありません。仕方なかったのです。
 

 ファラリスおじさまへ

 ジュエルシードってすごいですね!
 おじさまの魔法がいくらでも使えてしまいます! アーリアさんが調べてきてくれた資料と、ユーノ君の話を合わせると「願いをかなえる力があるけれど、滅多に上手くいかない」ということだったのですが、そんなこと全然ありませんでしたね。
 おじさまへとグングンと力を送ることが出来ているのがわかります。これなら、はやてちゃんを呪われた本から助けることが出来るでしょう。

 ジュエルシードは、ユーノ君とアーリアさん、それから何故かわたしよりも賢いゼリーがいろいろと調べてくれました。その結果によると、デバイスなどの機械に組み込むことで利用することができるかもしれないけれど、普通はそのまま使うことは無理だろうってことでした。
 暗黒魔法に利用できるのは、おそらく高次存在であるおじさまを介して力を発揮しているからじゃないかってことでした。
 やっぱり、おじさまってすごいんですね。

   尊敬しております あなたのなのは


 おじさまへ

 登校日のことをすっかり忘れていて怒られてしまいました。お父さんたちが連絡して呼び出そうにもわたしは異世界にいたわけでして、大失敗です。
 とりあえず、イギリスにいるお父さんの友達のところへ遊びに行っていたことになっていたので、それっぽい日記を書かないといけません。そうです、宿題の日記が済んでいなかったのです。はやてちゃんに頼んでおいた日記は、読書の話(わたしは読んでません)とアニメの話(わたしは見てません)と夏祭りなどの行事の話(わたしはイギリスに居た事になってます)という内容でした。
 ダメです、とても提出できません! ホントのことを書くわけにもいきませんしどうしたものでしょう。

   ウソ日記を考えながら あなたのなのは

 追しん
  休み明けに、あの男の子が髪の毛を金色に染めてきていました。感想を聞かれたので正直に「似合わない」と答えたら走り去ってしまいました。その後なぜか友達の女の子からしかられてしまったのですが、いまいち納得できません。




『なのはのモンスターコレクション』

〇モンスターのレベルと脅威の目安
1~2レベル 犬並み
3~4レベル 虎並み
5~6レベル 魔導師部隊の隊長並
7~8レベル 平凡な小学三年生並
9~12レベル 神社のきつね並み
13~15レベル 伝説の英雄、魔神の将など
15レベル以上 世界の危機


〇アイアンゴーレム:モンスターレベル9

 なのは達がその広間に入ったとき、どこかで甲高い音がした。そしてそれに続いて聞こえてきたのは、ひどく重いものが床を踏みしめる音だった。
 今や広間の壁の各所には無数の巨大な人型のくぼみが空いている。くぼみの中に納まっていた者たちが動き出したからだ。
 くぼみの中から這い出してきたもの、それはゴーレムたちだった。
 金属、おそらくは鉄の塊であろうその巨大な人形は、鈍重ではあったがひたすらに硬く頑丈だった。鉄をも斬ると言うなのはの叔母の剣であっても、さすがに魔導技術で強化された鉄塊を相手にするのは厳しい。
 魔法の力を自由に使えたならば状況も変わってくるのだが、それも遺跡の罠により妨害されている。なにより数が多い、このままではゴーレムの巨大ではあっても鈍い拳や足を避けることができても、いずれ数と質量によって押し潰されていまう。
「逃げよう!」
 誰からとなく声が上がった。魔法での飛行や転移が妨害されていても相手は鈍重な鉄巨人だ、走れば逃げ切ることはできる。
 古代の遺跡を踏み荒らしてきた盗掘者の背中を、ゴーレムは何の感慨も抱かない目で見送っていた。広間への侵入者を撃退することが彼らに与えられた命令であった、広間の外へと出て行ったのならば最早関係がない。
 重い足音と共にゴーレムたちは再び壁のくぼみへと戻っていった。

 爆音が響く。あれから数日が過ぎた、なのはたちは魔法によらない強力な遠距離攻撃の手段を用意して戻ってきた。
 広間の大きな扉を開けたまま、外から打ち込まれるロケット弾がゴーレムたちを破壊してゆく。
 ゴーレムたちは動かない。
 彼らに与えられた命令は『広間へと入ったものを排除すること』……。


 ゴーレム。神の手によらない人造の生命、あるいはそれはロボットに近いモノなのかもしれない。
 彼らは基本的に与えられた命令に忠実だ。与えられたプログラムから外れたことをしない、あるいは出来ない彼らは矛盾した命令を受けた場合には役立たずとなることもある。
 例えば、『侵入者を排除しろ』という命令と『この場を守れ』という命令、守れと命じられた場所よりも遠距離から攻撃を受けたとき、彼らは自己判断ができないのだ。
 君がもしゴーレムに限らず、このような忠実すぎる存在にプログラムを組み込むのならば、くれぐれもよく考えなくてはいけない。
 自分で組み込んだ命令によって、自分自身が忠実なる従者に殺されてしまう――そんな馬鹿げた話はないのだから。




〇考察・暗黒魔法のプロセスとインテリジェントデバイス

暗黒魔法のプロセス:神官―(祈願と精神力)→神―(神の力)→魔法現象 

グループSNEのQ&Aによると神官は祈りと精神力を神に届けているだけで、実際に魔法現象を起こしているのはお願いされた「神」ということになっています。
実はこの構図はインテリジェントデバイスを使った魔法のプロセスに似ているのではないでしょうか?

祈願型プログラム搭載デバイスのプロセス:魔導師―(祈願と魔力)→デバイス―(術者の願いに沿った魔法を自動選択)→魔法行使

無印の公式ページのプロローグの項目内の背景設定によるととこんな感じです。
要するにデバイスをインテリにすると、暗黒魔法での神への祈願とミッド式魔法の祈願型プログラムが混線しておかしなことになる可能性があります。
グレイさんはこのあたりを考慮しました(自分で試したのでしょう)。
なお前回の闇の書事件の際に切り札であるアルカンシェルを複数用意していたように、元司令官殿は切り札は複数所持することを好むタイプ。なのはに渡したデュランダルが最後の氷結の杖ではない、第二第三のデュランダルが……。


〇設定・ジュエルシードの正しい使い方

魔晶石とジュエルシードは、特に関係のない別物です。
が、どちらも魔力(あるいはそれに類似した力)を内に秘めた青い光を放つ宝石といった代物なので、古い書物を読んだだけでは混同することもあるでしょう。

魔晶石は、ご存知の通り術者が魔法を使う際に消費するはずの精神点を肩代わりしてくれる代物です。

そしてジュエルシードですが、これまた無印の公式ページにこのような記述があります。
『持ち主の「望み」を限定的にかなえる力がある。正しい使い方を知らないものが使用すると非常に危険。急いで望みをかなえようとしすぎると「オーバーロード」を起こす』

また、レイジングハートについては、
『術者の意志と心に合わせて、また回収・吸収したジュエルシードの数に合わせて成長していき、使用者の望む魔法を使用者とともに作り上げていく力を持つ』との説明があります。

アニメの作中ではあまり確認できませんでしたが、レイハさんにはジュエルシードを回収した数に合わせて成長するという設定があったのです。なので、デバイスに取り込んでしまえばある程度は利用可能というのが公式設定(レイハさんのみ〇 バルディッシュは× の可能性はあります。謎デバイスですからねレイハさん)。
そして、レイジングハートに出来たかもしれないことが混沌神でもあるファラリスさまに出来ないはずがない。 

人はいくつもの願いを同時に心の内に抱えています。その中には矛盾するもの対立するものもあるでしょう、そんな状態では「願いをかなえる石」が正常に動作しないのも仕方ないかもしれません。
レイジングハートでジュエルシードを利用できる理由をここでは「混沌とした人間の心の中の願いを、機械であるデバイスを使って純化することである程度利用可能とする」としました。
SW的にはファラリスさまこそ心と願いと欲望の神。

ジュエルシードを利用した暗黒魔法のプロセス:なのは――(暗黒魔法という形での「限定的な願い」とジュエルシードの力)―→混沌神ファラリス――(「正しく使って」神の力を振るう)―→魔法現象




〇AMF:魔法の発動に難易度判定が必要になるイメージ。濃度が上がると難易度も上昇、ガジェットのものなら難易度4(プロならほぼ成功する)、ゆりかごなどの遺跡内設置のものなら難易度9(達人といえど必ず成功するとは確約出来ない)くらいでしょうか。

〇アンチマジック:古代語魔法10レベル 効果=魔法行使不能の空間を発生させる 抵抗=なし 効果範囲内では灰色の魔女や限定SSランク魔導師でも魔法が使えなくなる。

〇牛:フォーセリアには牛になった竜王の御伽噺があるそうです。『ファラリス』で検索すると一番に出てくるのは牛なんですよねぇ……ロマールの貴族とかが使ってそうで怖い。

〇ユーノ君:はじめてのおつかい(8歳で発掘責任者)だったのに、遺跡の調査権利を時空管理局の偉い人経由っぽい圧力でぶんどられてかわいそう。さてはワイロを使ったなと悪印象からのスタートでしたが、既に攻略されているような……。

〇グレイさんと氷の武器:聖戦士じゃないから大丈夫。むしろミニオン。




[40369] バニングス・バニシング
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/12/07 16:50
 九月のはじめごろ
 ファラリスおじさまへ

 呪われた本、闇の書の呪いを解こうとリムーブ・カースの呪文を使ったのですが――効果がありませんでした。
 ジュエルシードの力をわたしが引き出せる限界まで使いましたし、魔法の手ごたえともたまにある会心の出来だったのです。間違ってもこれまたたまにある、プスンって感じの失敗ではありませんでした。
 それなのに闇の書は全然平気な感じで、うんともすんとも言いませんでしたし、なんの変化もありませんでした。
 グレイさんやアーリアさんの話ですと、闇の書はとりつかれた人以外が外から無理にいじろうとすると犠牲者を飲み込んでしまうそうなのです。
 もし失敗してはやてちゃんが死んでしまったらどうしようって、ちょっと、いえ、かなり怖いところを我慢して(もちろん、はやてちゃんはもっと怖かったはずですが)からの最高の出来のリムーブ・カースだっただけに、どうしてダメだったのかってものすごく落ち込みました。
 魔法をかけたのに闇の書が全く反応してないということは、かけたことすら気付いていないか、もしくは効果が全く無かったので無視されたかではないか。ということらしいのですが、さっぱりわかりません。
 とにかくわかったことは、闇の書にはリムーブ・カースでは解けない呪いがかけられていることだけです。
 今日は失敗してしまいましたが、まだ出来ることはあります。明日からはそのための準備を進めて行こうということになりました。

   どうかお願いします 高町なのは
  

 おじさま、変わった友達ができました。
 わたしの周りは世間様からすると変わった人ばかりかもしれませんが、その中でもとびっきりです。
 新しい友達の名前はアリサ・ローウェルちゃんって言います。偶然ですが、すずかちゃんの親友だというバニングスさんとおんなじ名前なんです。バニングスさんとは中々タイミングが合わなくて未だに会ったことがないのですが、なんでもものすごく頭が良いらしいです。
 でも、頭の良さならローウェルちゃんだって負けていないと思います。なんといっても成績は学年トップでIQ200越えの天才少女だったそうですから。
 普段はアリサちゃんって呼んでいるのですが、ややこしいので手紙ではローウェルちゃんって書きますね。
 
 天才少女「だった」って書きました。
 彼女の名前はアリサ・ローウェル。わたしとローウェルちゃんは、ごく普通に出会って、ごく普通の話をして、ごく普通に友達になりました。でも、ただひとつ違っていたのは……ローウェルちゃんは幽霊だったのです!

 「市街地のはずれの廃棄ビルに幽霊がでるらしいよ」
 そんなウワサを学校で聞いたわたしは、使い魔のゼリーを連れてオバケを見に行きました。
 幽霊なんて怖くありません。
 使ったことはありませんが、オバケを追い払う魔法だってありますしゾンビを作って操る魔法だって使えるのです。
 どうにかして亡くなってしまった人たちを生き返らせたい。はやてちゃんが「おっぱい、おっぱい」言うのもきっとお母さんが恋しいからでしょうし、美沙斗さんの旦那さんでお姉ちゃんのホントのお父さんや、会ったこともない不破のお爺ちゃんや親戚の人たちにだって会ってみたい。グレイさんやアーリアさんも大切な人を亡くしてしまっているようですから、出来ることなら幸せだった時間を取り戻してあげたい。
 世界中の人たちの悲しみをどうにかするなんて、そんな大それたことは思いませんが、わたしの周りにいる人たち、目に見える範囲、手の届く距離の人たちだけでも助けることが出来るのなら、きっと今よりももっと素敵な日々になると思うのです。
 実際に亡くなっている人である幽霊さんに話を聞くことができたなら、なにか知恵を貸してもらえるのではないかと――そんな風に考えての行動でした。
 あんまり夜遅くに出歩くといろいろとご近所のみなさまのウワサの的になってしまいますので、とりあえず最初は昼間に行ってみようってことになりました。そうして出会ったのが昼間なのに元気な(?)幽霊のローウェルちゃんです。
 ローウェルちゃんはわたしよりも年上で聖祥小学校の四年生だったそうなのですが、おととしにとてもヒドイ死に方、いえ、殺され方をしてしまって……それで幽霊になってしまったみたいです。ローウェルちゃんは自分では覚えていないそうなのですが、ゼリーが調べてくれました。
 ローウェルちゃんがあの世へと旅立てなかったのは、きっと死んだときのことを覚えていないせい。でも、あんなこととてもじゃないけど教えられません。
 だから、せめて一緒に遊んで、一緒に楽しく過ごせたらって……そう、思います。
 ただ、お姉ちゃんもフィリスちゃんも結構怖がりなので、どうしようかなって思います。   
 使い魔は平気なのに、幽霊は怖いってどうしてでしょうね? 


 九月のはじめごろ

 今日はわたしの頼れる使い魔、猫のゼリーの話をしましょう。
 ゼリーは普段の猫モード、遊び用でわたしと同い年ぐらいに見える子供モード、それから本気の時の大人モードに変身できるすごい子です。
 はやてちゃんによると「魔法使いの実力を知るには使い魔を見よ」って言葉があるそうですが、暗黒魔法以外ではわたしがゼリーに勝てる部分が全然無いのでこの言葉は違うんじゃないかなって思います。
 ゼリーはわたしよりもずっと強くてお兄ちゃんの剣術の相手も出来ますし、いろいろなことも知っています。ミッドチルダ式魔法もすごく上手で、一応主人であるはずのわたしが逆に教わっている有り様です。
 そんなわたしにはもったいないくらいな使い魔のゼリーですが、やっぱり元が猫なのでなでるとゴロゴロ言ってとってもかわいいんです。わたしが縁側で座っているとトコトコとやってきて、前足でつんつんってしてくるので「いいよ」って言ってあげると、ちょこんってひざの上で丸くなったりして――もうかわいくて仕方がありません。
 フィリスちゃんちのデイルなんか目じゃありません。フィリスちゃんはふとっちょでもあっちの方がいいそうですが、ウチの子は自分でちゃんとそのあたりの管理もできる賢い子なので、太ったりしないでいつもきれいにスマートさんです。
 ちょっと困ったことは、ゼリーはちょっと心配性なのかいつもわたしを追いかけてくるのです。「主人を守るのが使い魔の役目だから」と言ってくれるのはうれしいのですが、わたしが学校で授業を受けているときでも校舎内で待っているみたいなのです。そんなに過保護にしてもらわなくても大丈夫なのにって、そこがちょっと不満かもしれません。
 それから、なでるのは猫モード限定ということになっています。なんでも、子供モードもそうらしいのですが、特に大人モードのゼリーをゴロゴロさせてると「ちょっと見た目的によろしくない」ので禁止って言われてしまいました。大人モードのゼリーもあれはあれで手ざわりが気持ちよかったので残念です。
 ちょっとはやてちゃんの気持ちがわかった気がする、高町なのはなのでした。


 九月の中ごろ
 ファラリスおじさまへ

 ローウェルちゃんをゆうかいしてきました。
 高町なのはは、人(?)さらいになってしまったのです。
 どうしてかと言いますと、ローウェルちゃんはいつも暗くて寒そうなところに一人でいるのでウチに連れてきたら楽しんじゃないかなって思ったからです。前から誘っていたのですが、なかなか「うん」と言ってくれないのでちょっと強引に進めてしまいました。
 きっとお姉ちゃんやフィリスちゃんが怖がりなんだよって話を先にしてしまったので、ローウェルちゃんは二人を怖がらせたらいけないって遠慮していたのだと思います。ホントは幽霊だから廃ビルみたいな場所の方が雰囲気に合っていて居心地が良かったのかもしれませんけど、連れて来ちゃったら「なのははしょうがないなー」って許してくれたので問題ありません。
 ローウェルちゃんが、自分には冷気というか霊気なのかとにかくなんだかそういうものがあるからみんなが眠る建物には居たくないって言うので、道場に住んでもらうことになりました。なんでも幽霊の持っている「死の気配」が体に悪い影響を与えるかもしれないからだそうです。
 わたしもはやてちゃんもなんともないのですけれど、これはおじさまのご加護のおかげなのでしょうか?
 はやてちゃんは昼間にも遊べる相手ができたーって大よろこびでした。実は、昼の間はやてちゃんが家でひとりぼっちになってしまう時間が結構あったので気になっていたのです。おじさまと出会ったころのわたしもそうでしたから。
 でも、今日のゆうかいでその心配もなくなって一安心です。ローウェルちゃんもなんだかんだ言ってうれしそうだったので、わたしもうれしい、はやてちゃんもうれしいで、みんなうれしくてやったー! ということにしておきます。
 お姉ちゃんは、きっと、そのうち慣れてくれます。お兄ちゃんは、なんというかとにもかくにもお兄ちゃんでした。お父さんとお母さんは「もういろいろと慣れた」そうです、さすが大人ですね。
 はやてちゃんが「憑依して合体したんやから、今日からなのはちゃんはシャーマンやな」って言っていたのですが、精霊魔法は使えそうにありません。地球にも精霊はいるのでしょうか?

   悩めるあなたの 高町なのは


 九月の終わりごろ
 ファラリスおじさまへ

 ローウェルちゃんが消えそうになってしまうことがしょっちゅうあります。
 満足気な顔ですぅっと薄くなっていってしまうので、はやてちゃんと二人でがんばって引き止める日々です。
 実は我が家での暮らしがすごく嫌で逃げ出したくてたまらなかったのでしょうか? そう聞いてみても「違うのよ。もう、十分。これで満足したの」とか言って恥ずかしそうにするだけです。
 じゃあ何が不満で消えちゃうの? と聞いてみると「満足したって言ったでしょ。言わせないでよ。行くべきところに行くだけよ」とはっきり教えてくれません。
 とにかく油断しているといなくなっちゃいそうで不安なのですが、どうしたら良いのでしょう。
 あ、またはやてちゃんが呼んでいます。

  家出に困っている 高町なのは


   
『なのはのモンスターコレクション』

〇ファントム:モンスターレベル=5
反応:友好的、ただし極めて敵対的なものも存在する
特殊能力=ほとんどの攻撃が無効
     憑依(目標の体を乗っ取る)


「アリサちゃん、ライドオーン!」
「ちょっと、バカ! やめなさいよ!」
「でも、こうすればアリサちゃんも味がわかるんだよね?」
「そりゃ……そうだけどさ」

 海鳴市の中心からはずれてしまった場所に建つ廃棄されたビルの中から、二人の少女の明るい話し声が聞こえて来た。
 だが、奇妙なことにそのビルの中には女の子が一人居るだけだった。

「こうやって、わたしに乗っかってればアリサちゃんもここから移動できるんだよね?」
「そうなんだけどね。なのははなんで平気なの? あんたくらいの年の子があたしみたいな『死』に触れてたら、よくないはずなのに……」

 一人の少女の口から出た言葉同士が会話をしている。それは奇妙を通り越して薄気味の悪い光景だった。
 うそ寒い冷気が漂うその部屋の中で、なのはは亡霊――ファントムに憑依されてしまっているのだ。
 他人の身体を乗っ取ることで、ファントムは生命と共に失ってしまった生前の感覚を満たそうとしているのだろう。ビルの室内にはサンドイッチやクッキー、ジュースなどが置かれたテーブルが置かれ、用意された食べ物を口にするたびファントムは喜びの声をあげている。

 暗黒神の使徒の思惑通りに――。

「と、いうわけで……アリサちゃんをさらっちゃいまーす。ゼリー!」
「は!?」と驚くファントムの声を無視して、なのはは自分の欲望のままに誘拐を実行した。
 部屋の隅で大人しく出番を待っていた使い魔が、亡霊に憑依されたままの主人をその住家へと転送したのだ。
「成功、成功っと」
 一仕事を終えたゼリーは、また家が騒がしくなるなと思いながら主人の後を追いかけた。


 ファントムは怨念だけがこの世に残ってしまった存在だ。いわゆる地縛霊であり、生前の恨みや未練によって特定の場所や物品に束縛されてしまっている。生者の肉体を乗っ取る憑依能力の他には、せいぜいがラップ音やポルターガイスト現象を起こせる程度の力しか持っていない。
 あなたがもしもファントムになってしまったとしたら、邪神のしもべや邪悪な魔術師にはくれぐれも注意してほしい。暗黒の住人の中には『死』すら操り弄ぼうとする輩がいる、彼らにとっては哀れな死者の霊魂も自身の欲望を満たすための道具に過ぎないのだ。
 未練や恨みを晴らしてあの世へと旅立つことも許されず、長い時間を邪悪な魔術に捕らわれて過ごしたくなければ、どうか死してもそのことを忘れないでほしい。
 無論、未練や怨念など残さず綺麗さっぱりとあの世へ旅立つのが一番ではあるのだが。
    



〇リムーブ・カース:5レベルの暗黒魔法。呪いを解く魔法……ではなく、非解除以外の魔法効果を打ち消す呪文。

〇闇の書を構成している魔法:
クリエイト・デバイス:古代語魔法6レベル。持続時間=永続 効果=デバイスを作り出すことができる 種別=非解除 
コマンド・ゴーレム:古代語魔法9レベル。持続時間=永続 効果=魔法生物を支配し、命令を与えることができる 種別=非解除

SW的に考えれば、上の二つが闇の書を構成している魔法効果に一番近いと思われます。転生能力はエターナル・リーンカーネーションでしょうか。
無理にシステムへと介入しようとすると持ち主を飲み込んで転生してしまうようですが、リムーブ・カースはシステムに全く影響していないのでスルー。

〇バニングスさん:聖祥小学校に普通に在籍していますが、ローウェルさんとややこしいので出番は無い。

〇ゼリーちゃん:使い魔の人間形態及び魔力の波長(含む魔力光)は主人の影響を強く受ける。どこかのロッテさんとは見た目も魔力パターンも別物になっているでしょう。名前がお菓子っぽいのは元から――メーカー名ですし。

〇対人スキル:お兄ちゃんのいろいろアレな様子を見てきていますので、きっちりはっきりお断りしないと相手にもよろしくないってわかっているのですね。なのちゃんのマセたところと、なのはさんの朴念仁がユニゾンしてもいます。

〇モンスターコレクション:六門世界の方はあまり覚えていないのです。

〇アドベンチャー:いろいろとはっちゃけてましたよね。   



[40369] すばらしいプレゼント
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/10/10 07:29
 十月のはじめ
 ファラリスおじさまへ

 闇の書を退治するための儀式をすることになりました。
 ファラリス神へといけにえを捧げて、どうか助けて下さいとお願いする魔法を使うのです。と、言うことを当の本人(?)であるおじさまに話してしまっても良いのかわかりませんが、とにかくそういうことになりました。
 その魔法というのが、毎日の手紙をおじさまへと送っている魔法と同じ「イモレイト」という魔法なのです。
 ルーテジアさんの魔法の本には「このイモレイトはそれなりに難しい魔法であり最高位の司祭であっても事前の準備が無ければ成功率は半々ほど」と書いてあったのですが、手紙を送ることができなくてやり直しになるのって月に一度あるかないかですよね。
 わたしが使っているのはイモレイトではないのでしょうか? 
 それとも、アーリアさんも「翻訳が間違っているかもしれない」って言っていましたし、本の方が違うのでしょうか?
 うーん、どうなっているのでしょう。
 
   調べ物も大事ですね あなたのなのは


 十月のなかごろ
 音楽好きのおじさまへ

 九月ごろからグレイさんとアーリアさん、それから助っ人に雇われたユーノ君とで図書館の中からフォーセリアに関する本を片っ端から集めていたそうです。 
 そんな中からおじさまの音楽の好みについて書いてある本が見つかりました。わたしも訳したものを読ませてもらったのですが、おじさまってロックが好きだったんですね。
 読ませてもらった本の名前は「アレクラストの音楽」。本を書いた人はアノスという国の音楽家みたいでして、文中でとても批判的にロックケイブミュージックというものについて書いていました。

――西方には岩窟音楽(ロックケイブミュージック)なるものあるが、私に言わせればあれはおよそ音楽などと呼んでよいものではない。雑音だ。いや雑音の方まだマシと言うべきだろう、あれは騒音である。
 この岩窟音楽というものは、恐らく忌まわしき暗黒神の好む音色なのだろう。その証拠としてこの騒音を提唱し、広め始めたとされている連中の名は「夜の破壊者」というらしい。
 さらにこの邪教徒どもは「音楽は自由」、「音楽は体の中から湧きあがる衝動を表現するものだ」などと公言し、現地の吟遊詩人たちの組合との間に多くの問題を起こしているらしい。
 伝統を知らず、秩序を破壊し、己の衝動のままにふるまうことを自由と言ってはばからない。まさしく暗黒神の使徒に相応しい邪悪な輩だ。
 西方の音楽界にはこの邪悪な騒音について理解を示すものもいるようだが、この聖なるアノスでこの音楽と呼ぶのことも忌まわしい邪神の儀式が行われることは許しがたいことであり……

 いろいろと言いたいことのある内容だとは思いますが、ここからはもっとおじさまへの悪口なんかが出てくるので、気分を悪くされないようにここまでにしておきます。まったく、どこの誰なんでしょう。音楽論のはずなのに、おじさまの悪口を書くなんて!
 いつもでしたらここはガーッと怒るところですが、今日の所は許してあげることにしました。もういない人に怒ってもしょうがないですし、一応、おじさまの好みを教えてくれたわけですから。

   一応の感謝をしめす 高町なのは
  

 十月の終わりごろ

 神さまに捧げる儀式と音楽は深い関わりがあるそうです。そういえば、近所のお祭りでも太鼓や笛を演奏していたりします。
 それから踊りと言いますか、身振り手振り言いますか、とにかくそういう体の動きも必要になるそうです。これもよく、なんとか音頭にかんとか踊りなどとお祭りごとに色々ありますね。
 そういうわけで、今はみんなでおじさまに楽しんでいただくための練習をしています。わたしはクリステラさんたちに歌を教えてもらったことがあったので、ボーカル担当になりました。
 デュランダルにも歌用の魔法をいくつかインストールしてバッチリです。
 デバイスってマイクになったりもするんですね。最初に入っていたものは戦いのための魔法ばかりだったので、ミッドチルダ式魔法は物騒なものしかないのかと思い込んでいましたが、本当はこういう楽しいものもいっぱいあるみたいです。
 それから他の担当はと言いますと、お父さんと美沙斗さんがドラムを叩いてくれます。両手に刀ではなくて、両手にスティックの姿もカッコいいなってお父さんを見直しました。美沙斗さんはいつもカッコいいです。
 お母さんとお姉ちゃんはわたしと一緒に歌ってくれて(小さいころのフィアッセさんと歌ってたことがあるそうです)、はやてちゃんは鍵盤ハーモニカで、ローウェルちゃんは踊りながらポルターガイストとラップ音でいろいろやってくれます。
 それから、ゼリーはなぜだか知りませんがギターを弾けるということなのでギターを担当、そのゼリーからお兄ちゃんもギターを習っています。猫にギターを習うお兄ちゃんはなんだか見ていて面白いです。
 グレイさんはなんでも若いころに長期間船に乗る仕事をしていたそうで、ときには何か月にもなる航海の暇つぶしとして覚えたそうなのですが、いろいろな種類の楽器がとても上手でした。出身のイギリスにグレイさんと同年代でとても有名なロックバンドがあるらしくて、その人たちにあこがれていたともあったみたいですよ。ベース担当です。
 最後にアーリアさんはシンセサイザー。ウチの母もピアノなら弾けるそうなのですが、アーリアさんにはかないませんでした。若いころにお父さんに付き合って練習した、ということなのですが今でも充分に若く見えるアーリアさんは、本当のところ今いくつなのでしょう。

    
 十一月にはいって
 ファラリスおじさまへ

 こちらはずいぶんと風が冷たくなりましたが、おじさまのいらっしゃる所は季節の移り変わりはあるのでしょうか?
 もし夏の暑さも、冬の寒さもないのだとしたら、それはそれは過ごしやすい代りになんだか味気ないような気もしてしまいます。
 寒い寒いと言ってばかりいても仕方がないので、今日はゼリーと一緒に砂漠の世界に行ってきました。二つの太陽が交互に昇ってくるので夜が訪れなくて、草も木もない不毛の星ということだったはずなのですが、なぜだか生き物が住んでいました。
 砂漠の星でわたしが見たただ一つの生き物は、とてつもなく大きなミミズです。それが砂の中からわらわらとたくさん這い出してきたのですから、もうたまったものではありません。
 ゼリーも知っていたのなら先に教えてくれたら良かったのに、ひとが「キャー」って悲鳴を上げてから説明をするのだから、ほんとにイジワルです。素が猫だったせいなのかあの子はちょっといたずらっ子なんです。
 おじさまへの贈り物の儀式の練習用にって「大きくて強そうな生き物」を探しに行ったはずなのに、ミミズを捕まえてどうしようっていうのですかね。魚釣りのエサではないのですが。
 もしかしたらおじさまはミミズ好きなのかもしれないので、絶対にダメってことではないのですが、手紙と一緒に特大ミミズを送り付けるって、わたしには嫌がらせとしか思えません。
 先週の日曜日に送った家くらいの大きさの羊は気に入っていただけたみたいで、送ったわたしも大満足です。
 でも、あの、あんなにたくさんの金塊をもらってしまっても良かったのでしょうか? みんなで分けても物凄い金額になるようなので、ミミズとは違った意味でその場にいた全員がパニックになってしまいました。
 おじさま、あんなにすごいものをいただいたのにこんなことを言ったら怒られてしまうかもしれませんが、どうか聞いてください。
 わたしは大きな金塊よりもおじさまからのご返事を希望します。なぜ? だなんて聞かないでくださいね、わたしの一番はいつだっておじさまなのです。
 泣きたくても泣けなかったあの時に、おじさまからもらったものがわたしにとっての最高のプレゼントとでした、欲張りなわたしはもっともっとと同じものを、おじさまの言葉を求めてしまうのです。
 一言でも二言でもかまいません、どうかあなたの言葉をわたしに下さい。

   愛をこめて あなたのなのは


 いじわるなおじさまへ

 もう! おじさまはいじわるですね。
 何か違う言葉が欲しいのに、結局いつもの一言なんですね。おじさまはいつもいつもこればっかりです。
 おじさまなら、わたしがどんな言葉が欲しいのかなんて、きっとまるまるっとお見通しのはずなのに、ほんとにイジワルです。
 お兄ちゃんもはやてちゃんもゼリーも、そしておじさまも、わたしの周りはイジワルな人たちでいっぱいです。
 みんなしてわたしのことをつつきまわして遊ぶだなんて、なんてひどい人たちなのでしょう。
 そしてそんな目にあってばかりのわたしは、なんてかわいそうで――そして、なんて幸せなんでしょうか。
 怒ってません。本当ですよ? 
 愛されているという自覚はあるのですから、怒ったりなんてしません。でも、もう少しだけ扱いの変更を要求したいという不満もあるのです。
 いけません、お礼がまだでした。せっかくおじさまが(いつも通りとは言え)返事を文字で書いてくださったのですから、こんなにうれしいことはおじさまが他の言葉を下さること以外にはありません。
 ちょっとイジワルな言い方でしたか? でも、うれしいことは本当なので許して下さいね。

   ちょぴり仕返し あなたのなのは







○儀式:練習は結界内でしているので、ご近所から騒音問題で怒られたりはしません。魔法って、本当に便利ですね。

○直筆サイン入りピックのようなもの:ウロコの聖印。とてもだいじなものなのでギターを弾くのに使ったりはしません。

○お兄ちゃん:ローウェルちゃんは亡くなった二年程前の事件のときに四年生だったはずなので、緑亀さんとあまり歳が離れていないかも知れません。口説くのではない、いつのまにか好かれているのが主人公。


○クローン:闇の書は主をリンカーコアで判定しているのではないかと思っていますので、アリシアとフェイトみたいに魔力資質の違う肉体を作って、「魂」を移動できれば……。オリジナルとクローンの頭を強くぶつけたら入れ替わりませんかね。
 
○使い魔:元々が動物を素体としているので、人間形態の外見は主のイメージが元になっていると思われます。主の魔力をもらって活動しているので魔力の波長のようなものも、当然影響を受けるでしょう。ただし、記憶を受け継いでいるので、親しい相手には仕草や口が滑ったりなどでバレることはありえます。

○キャラクターコレクション:前の主から猫の使い魔(実質はお目付け役)を受け継いだ歌手技能持ちの主人公がいろんな人と出会う物語です。

○アイスソード→マイクソード




[40369] 夜天の王、不死の姫
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/10/12 23:57
 十二月
 ファラリスおじさまへ

 夜天の書。
 それが、呪われた闇の書の本当の名前だそうです。そしてその書の持ち主のことを「夜天の王」とか「夜天の主」と昔の人は呼んでいたみたいです。
 夜空で一番重要なものはなんでしょうか。大きく輝くお月様でしょうか? それともたくさんの星たちでしょうか?
 いいえ、違います。それは闇です。月のない夜も、雲に覆われた夜も、冷たく暖かく、恐ろしくも穏やかな暗黒は、いつもわたしを包んでくれるのですから。
 はい、そうです。夜の主役はおじさまです。決してフォーセリアの本に載っていた月の神さまでもなければ、知恵の星神さまでもありません。
 ましてや、はやてちゃんが「夜の天の王」だなんてとんでもないことです。
 昔々の人が言ったことなのでしょうが、そんな大それた名前を付けたものを人間が手にしていたからおかしなことになったのかもしれません。高みを目指すことは悪いことではないと思いますが、それでも今現在の夜天の書が呪われた本と言われて災いを振りまくだけのものになっている以上、夜天の王の名前は人には過ぎたものだったのでしょう。
 ですから、夜空の真の主のもとへ送りたいと思うのですがよろしいでしょうか? 

   明日は昔話を書きます 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 ユーノ君が図書館で闇の書について調べているときに見つけたという本の話を書きます。

 ――昔々、手にしたものに呪いをかけて殺してしまうと言われた 一冊の本がありました。
 呪われた闇の書、いつかそう呼ばれるようになったその本と、本を守っていた精霊は長いあいだ悲しみ苦しんでいました。男も女も、優しい者も厳しい者も、富める者も貧しい者も、王も民も区別なく本の持ち主となった人はみんな死んでしまうからです。
 なぜ本の持ち主は死んでしまうのか、なぜ本は呪われてしまったのか、精霊はその理由を知っていたからいつまでも悲しみ続けているのです。
 
 闇の書がまだ本当の名前である「夜天の書」と呼ばれていたころの持ち主に、ある一人の男がいました。 
 貧しい家の三男として生まれた男は随分とひもじい思いをしながら幼い月日を過ごしていました。そんな男には他の人と違うところがひとつありました、生まれた時から手元に一冊の本があったのです。
 いつ、だれが持って来たものかもわからない本を見た男の両親はたいそう気味悪がり何度も捨ててきたのですが、本はいつのまにか男の手元に戻っています。また、不思議とその本に親しみを覚えていた男は両親が本を捨てるたびに怒り狂って家族を困らせていました。
 そんなあるとき飢饉が起こりました。元々貧しかった男の家はその日の食べ物にも困るようになり、子供たちを食べさせてゆくことが出来なくなってしまいました。そうして、子供全員を育てられなくなって困った両親は、普段から気味の悪い本を抱えて離さない男を捨ててしまうことにしたのです。
 ある朝、目を覚ました男は自分が見知らぬ山中にいることを知りました。歩いても歩いても家に帰ることができず、男はやがて飢え疲れて倒れてしまいます。
 「このままでは死んでしまうな……」男がそんなことを考えていると、男の目の前にどこからか一冊の本が現れたのです。そうです、生まれた時から共にあったあの本です。
 死ぬ前にその本が現れたことに驚きと、それ以上の喜びを覚えた男の目の前で、本の中から一人の美しい女性が出てきたのです。
 女性は男に告げました。本が夜天の書と呼ばれていること、自分は夜天の書に宿る精霊であること、男にはとても大きな魔法の力があること、そして本とその精霊は主である男が死ぬまで決して裏切らず忠実に尽くし続けることを。
 とうに家族から捨てられたことを理解していた男はこの言葉にひどく喜びました。男にとって大切なものが、本とその精霊だけとなった瞬間です。

 さまざまな世界を旅して魔法の知識を蓄え続けてきた夜天の書を手に入れた男は、一夜にしてとてつもない魔法使いになりました。
 男の生まれた世界では魔法というものはごく一部の者だけが使うことの出来る特別な力でしたから、その魔法を誰よりもたくさん、誰よりも多く使うことの出来る男はまたたく間に大金持ちになりました。
 男が大金持ちになって有名になった後のある日、その噂を聞きつけた一組の男女が男のもとへと訪れました。その男女は男の両親で、家が貧しく苦しいことを男に訴え、男にお金が欲しいと言ってきたのです。
 男は怒り狂いました。自分を捨てた者が今更なにを言っているのだと、お前たちなどは家族ではないと。
 またあるときのこと、男の大きな魔法の力に目を付けた他の魔法使いたちがやってきました。その魔法使いたちは男に自分たち娘を嫁にやるから仲間になれと言ってきたのです。
 男はその話を断りました。断りましたが、魔法使いたちがその後も何度も何度もしつこく言ってくるのでやがて誰とも会わなくなってしまいました。男は美しい精霊を愛してしまっていたので、他の誰とも結婚するつもりになれなかったのです。
 こうして、またもや男にとって大事なものは本とその精霊だけになりました。

 それからずっと、他の誰とも会わなくても男は全く気にしませんでした。男には本が与えてくれた何でもできると言っていいほどの魔法の力があったので生活には困りませんでしたし、いつまでも美しい花嫁がいつも一緒にいてくれたので寂しくもなんともなかったのです。
 そんな男の幸せな日々もやがて終わりの時を迎えます。
 年老いた男のもとへと死神の足音が迫ってきたのです。男は魔法を使って死を長いこと引き延ばしてきましたが、とうとう追いつかれてしまったのです。
 どんなにあがいても無駄だと思い知った男は、最期の時を迎える前に愛しい精霊へと話しかけました。自分が死んだらお前はどうなるのだ、と。
 精霊はこう答えました。次の主のもとへと転移し、その者を主としてまた尽くすのだと。
 聞きたくなかった言葉です。その一生を精霊だけを思い続けて過ごしてきた男は、彼女が他の誰かのものになるということに耐えがたい苦痛を感じたのです。
 男はそのことを精霊へと伝えました。すると精霊は、それなら本とともに自身を消してほしいと言いました。主とともに滅びるのならば本望だと。
 結局、精霊を愛していた男には彼女を殺すようなことは出来ませんでした。だからと言って精霊が他の誰かのものとなることも許せません。

 ならばこれから先、誰も精霊の主としては生きられなくしてやろう。

 夜天の書が、闇の書となった瞬間です。精霊が現れるための条件を厳しくし、さらに現れると同時に暴走してしまうようにと男は本に呪いをかけました。
 精霊が現れるとすぐに本が暴走して持ち主は死んでしまうのですから、呪いをかけ終わったあとすぐに本は暴走し、男は死んでしまいました。男は自分の命を代償として、誰も精霊の主となることができないようにしてしまったのです。
 こうして夜天の書は呪われ、闇の書となりました。男が死んでから長い長い年月が過ぎ去りましたが、まだ誰もその呪いを解くことはできていません……


 ユーノ君は闇の書が暴走を始めてから今ほどには時間が経っていないころ、夜天の書という名前が残っているころに誰かが書いた作り話だろうって言ってましたから、これは本当にあった話ではないのでしょう。
 でも、わたしはこの話を聞いてラストワードの魔法を思い出しました。死んでからも永遠に残り続ける呪われた愛情、なんだか、こう、もやもやした気分になります。
 すずかちゃんが遊びに来た時に、はやてちゃんが構ってくれなくてイライラしたときの気持ちをずっとずっと強くしたようなものなのでしょうか? 人の気持ちって難しいですね。
 
   愛になやむ あなたのなのは



 冬至のせまるころ
 
 一年で一番夜の長くなる日、おじさまへと闇の書を捧げるための儀式を行います。まだまだつたない歌と演奏ですが、どうか最後まで聞いてくださいね。
 今日はこれから最後の練習と打ち合わせをしてゆっくりと休みます。明日は長い長い儀式に耐えられるように魔法をいっぱいかけてがんばりますね。
 では、行ってきます。



『はやてのスペルコレクション』

イモレイト:5レベルの暗黒魔法。ファラリスさまに供物を捧げて願いを聞いてもらいます。

 一昼夜に渡る儀式という名の演奏会によって、八神はやての精神と肉体はもはや限界寸前となっていた。
 事前に身体強化の魔法をかけてもらってはいたが、他の参加者とは根本的に体力が違っていたのだ。山籠もりの際には一晩中夜間の森林で訓練をする剣士たちや、魔法使い、さらには幽霊などといった者たちと同じというわけにはいかない。一番はやてに近い高町桃子にしても朝から晩まで厨房を切り盛りしている大人だ、やはり病気がちのはやてとは比べものにならない。
 それでも、みんなが自分のためにやってくれているのだとわかっているから必死で耐えてきた。はやての担当するピアニカのようなものの出番はあまりない。はやての負担を減らすためにそのようになっているのだ。
 はやてが不本意ながらも供物として祭壇上にある「闇の書」の持ち主となってしまっている以上、儀式に参加してはっきりとそれを神へと献上する意思を示す必要があった。だから彼女はどうしても儀式に参加しなければならなかったのだ。
 高く低く、まっすぐに、あるいはゆらゆらと響く歌声。神へと捧げる儀式はもうすぐ最高潮に達しようとしていた。
 儀式の中心となっている暗黒神官が手にした杖を頭上に掲げると、その周囲を旋回していた青い宝石たちから輝きが放たれ、杖の先端へと収束する。
「ファラリスさま、ファラリスさま。大きく強く、愛おしいわたしのおじさま。どうかこの供物を受け取ってください」
 そして、儀式による高揚によって蕩けるような顔つきとなった暗黒神官は、その興奮のままに青く輝く杖を儀式の供物である「闇の書」へと叩き付けた。
「呪われた、闇の書。災厄を振りまいて、人を恨み、人に恨まれる、そんな悲しいあなたの旅はこれで――おしまい!」
 青い輝きが弾け、風が嵐のように荒れ狂う、そして一瞬すべてが闇に飲まれた。
 闇が去ったとき、供物をのせていた祭壇の上には何も残ってはいなかった。
「やった……」かすれるような声をあげながら目を閉じる寸前、はやては大切な親友の体へと黒い光が吸い込まれていくのを見たような、気がした……。



 折れ目のついた手紙
 ファラリスおじさまへ

 この手紙がおじさまのところへ届いているのなら、儀式は成功したということですね。そのときのわたしは疲れ切ってなにも言えないでしょうから、先に手紙を書いておきました。
 闇の書の間にはさんでおいたのです。
 なるべくきれいにたたんだつもりですが、読みにくくなっていないかが少し心配です。
 演奏はどうでしたでしょうか? わたしの歌はあまり上手ではなかったかもしれませんが、お姉ちゃんはお兄ちゃんには下手とか言われていますが、フィアッセさんと一緒に練習していたりしたので本当に上手なはずです。お母さんは演歌だったら光の歌姫にも負けないってことらしいです。それでも、おじさまにはイマイチだったかもしれませんね。
 これからはもっと練習しておきますので、今はどうかこれでお許しください。これが今のわたしの精一杯、全力全開の歌声なのです。
 楽器の方までは、実はよく分かっていません。でも、悪くはないんじゃないかなーって思っています。あ、でもダメなところがあったらどんどん厳しい意見を下さい。待っています。
 
 闇の書と、その中にいるという精霊や騎士たちはどうなりましたか? 
 おじさまが持ち主であればなにも悪さは出来ないとは思いますし、本当に嫌でしたら受け取って下さらないか、先にダメだって教えてくださっているはずですから、おじさまの心配はしていません。
 はやてちゃんやグレイさんを苦しめたので好きになれそうにはありませんが、ユーノ君の話ではかわいそうなところもある人(?)たちなので出来ましたら優しくしてあげてください。欲張りだとは思いますが、これがわたしと前の持ち主であるはやてちゃんからのお願いです。


 新年を迎えて
 ファラリスおじさまへ

 はやてちゃんが歩けるようになりました!
 それもこれも全部おじさまのおかげです。本当にありがとうございました。
 はやてちゃんの担当医の石田先生はびっくりしていましたが、呪いがなくなったのに歩くのを我慢することはないので、リジェネレーションで治してしまいました。
 それから、病院に行ったときにフィリスちゃんにミッドの飛行魔法のフライアーフィンを見せたら「靴からフィンが出るなんて珍しい!」って言われました。普通は背中から出るものなんだそうです。確かに空を飛ぶのならその方が普通のような気がしますね。どうして靴からなんでしょう?
 それからそれから、あの夜天の書を送った儀式の日から続いている微熱がまだおさまりません。病気を治す魔法を使っても、病院で診てもらってもです。本当に熱が出ているわけではなくて、いたって平熱で健康なのですが、今のわたしだったらなんでもできる! やっちゃえ! といった感じのウズウズとした気持ちがなかなかひっこんでくれないのです。
 思わず海まで走って行って、胸の奥で燃えている行き場のないなにかを発散するために「うわーー!」と叫んでしまいました。他に人はいないつもりだったのですが、うっかり見逃していた人がいて、ぎょっとした顔でマジマジと見られてしまいました。あんまり恥ずかしかったので、今度は顔に火がついてしまいました。

   新年早々赤っ恥の 高町なのは
 


= = = = = = = = = =


 高町なのははこうして、小学二年生の女の子としてはそれなりのスリルに満ちた一年間を過ごしました。
 薬で意識を操られた武術の達人、鉄の巨人の軍団や巨大ミミズの群れ、自分の家より大きな羊をやっつけたり、使い魔や他の魔法使いたちとの練習、世界を滅ぼすと言われた魔導書を神のみもとに追放したりもしました。歌や踊りや楽器の練習もしました。
 そうして、おじさまへの手紙を毎日欠かすことなく送り続けたなのはは、ついにめでたく小学三年生になったのです。




〇高町なのは 9歳
 器用度7(+1) 敏捷度6(+1) 知力14(+2) 筋力7(+1) 生命力10(+1) 精神力14(+2)※1
 冒険者技能:ダークプリースト(ファラリス)7 ファイター1 ルーンマスター3
 一般技能 :シンガー2 
 冒険者レベル:7 超英雄ポイント:(1)※2
 特殊装備:暗黒神の聖印(サイン入り)、生命なきものの王の魔法書(写本)、デュランダル、ジュエルシード
 ※1 知力、精神力の年齢修正は通常と異なっています。
 ※2 暗黒魔法限定で働く暗黒神の恩寵、闇の書の対価、使い捨て。一応、闇の書という惑星破壊規模の怪物を退治した結果と言えなくもない。


○ラストワード:5レベルの暗黒魔法。術者の死を代償として発動する強力な呪い。

○リジェネレーション:7レベルの暗黒(神聖)魔法。身体組織の再生、または身体機能の回復の効果があります。切断された腕は新しく生えかわり、失われた視力を取り戻すことも可能とします。効果が完全なものとなるまでに魔法をかけてから一週間ほどの時間を必要とします。


〇なのは式暗黒語魔法(ファラリス)

四歳からのイモレイト:暗黒神に生贄を捧げることで願いを聞き届けてもらう魔法。
まだまだ使うことのできない魔法ですが……生贄の代わりに手紙を捧げて真似事をするだけならできます。もちろん願いをかなえてもらうことはできませんが、どうやら手紙は届くようです。

命なきものもイモレイト:暗黒神に供物を捧げることで願いを聞き届けてもらう魔法。
以前は物(手紙や食べ物)をおじさまの所へ送るだけでしたが、レベルの上昇によって本来の効果である「願いをかなえてもらう」ことが出来るようになりました。
が、なのはにとっては大好きなおじさまのもとへ手紙を出すことが一番重要なことなので、「願いをかなえてもらう」ために必要な20以上の達成値に届いていなくても〝成功〟です(ピンゾロ不発以外は成功)。
この話のなのはは、「命あるもの」だけではなく「命なきもの」も供物として暗黒神のみもとへと捧げてきました。特に「文字を書くための紙」を送ることにかけてはエキスパートと言ってよいでしょう。

この魔法でかなえてもらえる願いは〝それほど強いものではなく〟祭器を創ったり、死者を蘇らせたりは出来ません。金銭的な願いであれば生贄の体重と同程度の黄金(ドラゴンを捧げれば巨大な金塊程度)、超自然的な力としては〝特定能力値の1点上昇〟程度です。
等価交換的なところがあるとも言われているので、体重がある方がいいだろうって肥満男性を送ることはおすすめできません。邪神だって穢れない少女の方が好きです、さらに(ダーク)プリースト技能レベルが高いとなお良い――つまり邪神はみんな魔法少女が大好きなのです(ルールブックに書いてあります!)。
なお、前話のおじさまからの返事は以前にもらっていた聖印に浮き上がる形となっております。

○今回の話の供物と生贄一覧

闇の書:巨大ストレージデバイスにして、本という紙の束。以下の生贄は全てこの中に入っている。
闇の書の精霊
闇の書の闇
烈火の将
紅の鉄騎
風の癒し手
蒼き狼
砕けえぬ闇
闇統べる王
星光の殲滅者
雷刃の襲撃者

みんなまとめて「あなた」のもの。コレクションにするもよし、虚無界に捨てるもよし、魔神転生するもよし、為したいように為すとよいでしょう。

○王:大昔、神を祭るのは王の役目だったそうです。「命なきもの」を捧げる「王」でノーライフキング。死せる王。
余談ですが、フォーセリアで王権と神殿が分離している国が多いのはカストゥール王国時代の「神狩り」が関係しているかもしれないなと考えていました。

○花嫁:それは常に主人の傍らにあり、ときには主人とひとつとなり、死別の時まで主人を支える。
 
○法の書:暴走すると周辺物質を吸収・同化して飲み込み続け、臨界を迎えなければ地球程度は飲み込んでしまうかもしれない魔法技術の歪みによって生まれた怪物――どこかの魔精霊か、水晶宮の主のようですね。

○7レベル:正直高いと思う。でも、モンスターレベル換算するとアニメなのはさんは低く見積もってもこのくらいに。たった二人で時空規模の災害を退けたリリちゃなのちゃんは0レベルの超英雄。
アドベンチャーに登場したリカちゃんことアンジェリカ(9歳にして7レベル暗黒神官)が元になっています。アンジェリカ→フレデリカ・ベルンカステル→高町なのは という間に一人挟んだ名前と声優ネタがはじまりでした。
○緑亀と幽霊:緑亀さんは高校新入生らしきみゆきっちゃんより年下。でも一年生らしいから、ちゅうが……×××シーンのある人物は全員18歳以上です。だから緑亀も幽霊も大人です。この話はこれで終了ですね。
○砂漠:ヒューマノイドタイフーンとか知りません。たぶんアニメでシグナムさんが触手で釣り上げられた世界です。
○あしながおじさん:ほとんど表に出てきませんがこれも原作のひとつです。作中で主人公がおじさまから金貨や花束をもらっているところが元になっていたりします。手紙の返事はねだってもなかなかくれませんが。



[40369] 庭園にて
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/10/18 14:17
 四月
 ファラリスおじさま

 今日はまた一人、魔法使いの知り合いが増えました。グレイさんの紹介で出会ったその女の人の名前はプレシア・テスタロッサさんと言います。
 なんでも、プレシアさんはジュエルシードみたいなロストロギアと呼ばれるものを探しているうちに、同じようなものを探していたグレイさんと知り合ったそうです。グレイさんとプレシアさんは結構仲良しに見えました、年齢も結構近いそうなのでお似合いかもしれません。なんて、適当なことを書いているとプレシアさんに怒られてしまいますね。
 ロストロギアというのは、昔に滅びてしまった高度な文明を起源とする特に発達した技術や魔法の総称、だそうです。ジュエルシードや闇の書のような品物や、それからおじさまの力を借りて使う魔法もその中に含まれるのらしいですよ。わたしって知らない間にたくさんのロストロギアと関わっていたんですね。
 プレシアさんは最初はとても不機嫌な様子だったのですが、どうもそれは病気のせいだったみたいです。
 娘さんのためにいろいろな研究をしているときに、体に良くない薬品に触れてしまったみたいでして、それが原因で病気になってしまっていたのです。頭が痛かったり、胸がムカムカしていたりしたら、ついつい怒りっぽくなってしまうもの仕方がありません。その上、プレシアさんは病気を治さないままとても不健康な生活をしていたのです。体中の具合が悪いのに休まずに、痛いのを我慢してほとんど眠らないで研究をしていたなんて信じられません!
 そんなプレシアさんでしたが、毒と病気を治す魔法をかけて、壊れてしまった身体の機能を治してあげたらずいぶんと穏やかな顔になってくれました。
 やっぱりおじさまの魔法はすばらしいですね! 魔法の国ミッドチルダでもこんなに早く治る治療魔法はないそうですよ。
 それから、プレシアさんがおじさまの話をぜひとも聞きたいと言うので、たくさんお話をしました。体の中はまだ治って行っている途中だからゆっくりと休んだ方がよいと思うのですが、プレシアさんがすごくキラキラした目で熱心に頼んでくるので断り切れなかったのです。
 他ならぬおじさまのお話ですから、ついつい熱くなってしまって気が付いたら何時間経っていたのでビックリです。こんなこと、フィリスちゃんに知られたら叱られてしまいますから内緒にしてくださいね。

   いつもあなたを想う 高町なのは


 ファラリスおじさま

 プレシアさんから、すてきな招待状をもらいました。
 今度の連休に是非ともプレシアさんのお家に遊びに来てほしい、というものです。
 プレシアさんのお家は、とてもすごいところにあって、なんと、世界と世界の間にある高次空間に浮かんでいるそうなのです。「時の庭園」と言って以前にアルトセイムという場所にあった時の写真を見せてもらったのですが、ものすごく大きくて緑と花でいっぱいの素敵なお城でした。
 そうです、お屋敷ではなくてもうお城サイズのようなのです。前にすずかちゃんの家に行ったときも、なんて大きなお屋敷なんだろうって驚きましたが、プレシアさんのお家はそれよりも上なんです。世の中ほんとにいろいろな人がいるのですね。
 家族でどうぞっていうことだったので、今年は温泉ではなく異世界旅行(異次元でしょうか?)です!
 お城にふさわしい大きなお風呂もあるみたいなので、今年は泳ぐと言っていたはやてちゃんも安心です。足が動くようになってからのはやてちゃんは、体を動かすことが楽しくて仕方がないみたいです。でも、剣術の修業は「のーせんきゅー」らしいのがちょっと残念です。はやてちゃんも一緒にやってくれたら、わたしももう少し身が入ると思うのですが――なかなか上達しない言い訳ではありませんよ?

   また明日 あなたのなのは


 時の庭園にて
 
 時の庭園はやっぱりとっても大きなお城でした。
 お城の外は何とも言えない目のぐるぐるするような景色の高次空間ですが、お城の中はたくさんの傀儡兵さん(前に遺跡で襲われたゴーレムの一種みたいです)が居て、掃除をしたり草花の世話をしたりしていてとてもきれいになっています。
 これには、はやてちゃんとローウェルちゃんも「ほんとにあったんや!」と大こうふんです。去年の夏休みの冒険は二人とも一緒ではなかったので、ゴーレムに感動したのでしょう。わたしは初めての出会いが出会いだったので、ちょっとおっかなびっくり接してしまいます。
 プレシアさんはローウェルちゃんに興味しんしんでした。魔導の研究者として幽霊という状態がとても気になるそうです。
 たまにウチに来る巫女のお姉さんの話では幽霊って結構いるみたいなのですが、魔法使いのプレシアさんは今まで出会ったことが無かったようでした。魔法が広まっている世界でしたらそこらじゅうに幽霊がいそうな気もするのですけれど、ミッドチルダでは見かけたことがなかったそうです。地球には幽霊がポツポツといるのに魔法の国にはいないだなんて、なんだかちょっと意外ですね。
 ゴーレムが歩いたり飛んだりするためなのか、庭園の中は通路と言ってもものすごく広く造られていて、天井なんかはわたしが十人積み重なっても手が届かないかもしれないぐらいです。ぐるぐるとらせんを描いて昇ってゆく塔もありました、真ん中が吹き抜けになっているので空を飛べる人は天辺までひとっとびです。わたしもはやてちゃんも建物の中であんなに自由に飛び回ったのは初めてかもしれません。あんなに広い吹き抜けを造ってあるというのは、空を飛べる魔導士のお家ならではですね。
 お風呂もこれまた広くて、宣言通り泳ぎました。人様のお家のお風呂で何をやっているんだって言わないでくださいね。ちゃんとプレシアさんの許可もとったんですから。お願いしたといのプレシアさんはなんとなくうれしそうな顔をしていた気がするので問題ありません――お母さんは謝っていましたけど。
 それにしても広いお風呂でした、湯船の中に大きな岩とかが置いてありましたしお湯が出てくるところも蛇口ではなくてライオンなんです。壁にライオンの頭の彫刻がついていて、その口からお湯がドバドバと流れっぱなしになっていたのです。あれはもうお風呂ではなくて浴場といった雰囲気でした。
 最後ははしゃぎすぎて「転ばないように気をつけなさい」って怒られちゃったんですけどね。


 ファラリスおじさま

 おじさまはクローンってどう思われますか? 
 わたしは仮に友だちがそうだったとしても気にしないと思いますが、自分のそっくりさんが現れたら奇妙な気分になると思います。お兄ちゃんもケータイを見ながら「そうだな」って言ってました。
 ちなみにお兄ちゃんのケータイの待ち受け画面は、はにかみ笑顔のフィリスちゃんです。ようやくお兄ちゃんも落ち着いてくれたようで、妹としては一安心ですね。まぁ、その色々なことをする場所はもう少し大人し目でお願いしたいのですが。
 お兄ちゃんの話なんてどうでもよかったですね。プレシアさんに時の庭園を案内してもらったときのことを書こうとしていたのでした。
「あれがアリシアを生き返らせようとして造ったクローン。失敗してしまったけれど、廃棄しないでいてよかったわね」
 プレシアさんがわたしに見せてくれたのは、事故で亡くなってしまったプレシアさんの大切な大切な一人娘のアリシアちゃん――の遺体と、アリシアちゃんにそっくりな魂のないたくさんのクローンたちでした。
「そしてこの装置が、あれに記憶を植え付けるための機械。アリシアの記憶も残ってるわ。作ったはいいけれど結局こっちも使わなかった」
 次に案内してもらったのは人間の記憶を入れたり出したり、足したり引いたり出来るというなんだかすごい機械のある部屋でした。どういう原理なのかは説明してもらってもさっぱりわかりませんでしたが、これがあったら学校の勉強をする必要が無くなるんじゃないだろうかって考えました。世間に広まったら先生たちはクビになってしましますね。大変です!
 去年の夏休みの前に、グレイさんが言っていた「器と記憶の心当たり」というのはプレシアさんだったのです。
 亡くなった方の魂に新しい体をあげて生き返らせる魔法、リコール・スピリット。その魔法を使うためには魂の器になる生きている体と、あの世へ行ってしまった魂を探して呼び出すために生き返らせたい人との思い出が必要になります。プレシアさんはそのどちらもを持っていて、そして使うことなく残していた。そしてそのプレシアさんは娘さんにどうしても生き返ってほしかった。娘さんそっくりだから、娘さんの記憶が入っているから、クローンも記憶の機械も捨てることも壊すこともできなかったのでしょう。
「使い物にならなかったはずのものがこんな形で役に立つかもしれないだなんて、それもこれもファラリス神のお導きというやつかしら?」
 そんなプレシアさんのことを、たまたま知っていたグレイさんとわたしたちが出会ったこと。プレシアさんの言葉ではありませんが、なんだか運命的で本当におじさまが用意してくださったかのようです。
 おじさま、身に覚えのないことでしたらごめんなさい。でも、わたしはこれはきっとおじさまのおかげだと信じているのです。
 
   あなたを信仰する 高町なのは


 五月
 おじさまへ

 胸の奥から声がします。
 早く起こしてほしいと、はやくはやくはやく亡くしてしまった大切な人たちと会いたいのだと。わたしがもっと上手く魔法を使えたなら、今すぐにでもみんなのその想いをかなえてあげられるのに――。
 あのころと比べたら、ずっとずっと力がついたと思っています。それでもわたしにはまだ力が足りません。悲しんでいる人が目の前にいるのに、どうしてあげることもできないのです。
 わたしの知らない、わたしの大事な人たちの大事な人たち。いますぐに会えたらいいなって、それでみんなで一緒に遊べたらもっといいなって。
 大きくなったはずなのにまだ届かない。みんなは急がなくてもいいよって、方法はあるのだから自分たちで頑張るよって言ってますが、わたしが知っている中ではわたしが一番上手くおじさまの魔法を使えるのです。
 入れ物も、記憶も、あの世から魂を呼び戻すための問題はプレシアさんのおかげで解決しました。
 あとはわたしだけ、なんです。
 だから、力がついていっている実感はあるのですが、もっとはやく、もっとはやくとあせってしまいます。わたしの願い、わたしの望み、わたしの生き返らせたい人。
 変なことをばかり書いてしまいました、わたしわたしと何回書いているのでしょうね、わたしは。
 あ、また書いてしまいました。
  
   なのは




『なのはのモンスターコレクション』

○ドッペルゲンガー:モンスターレベル10

 高町なのはがプレシア・テスタロッサから聞いた話の中には、彼女が集めた資料のことも含まれていた。
 愛娘であるアリシア・テスタロッサを蘇らせるためならば手間も資金も惜しまず、罪を犯すことも厭わなかったプレシアの蔵書には、遥かなるフォーセリアについて書かれたものもいくつか存在していたのだ。
 そんな数冊の本の一冊に、「魔神戦争の英雄たち」というタイトルがあった。双子だという二名の著者によって記されたそれは、フォーセリアの一地方で起きた「魔神」あるいは「デーモン」と呼ばれる存在と人間を中心とした種族たちとの戦いを描いた物語であった。

「この本を読んだあと、夢を見たのよ……アリシアの夢を、偽物の夢を。酷いものだったわ」

 ――――夢の中でのプレシアは、まるでおとぎ話の中の悪い魔女のような恰好をして、暗い部屋のなかで呪文を唱え続けていた。床には不気味な文様が幾重にも描かれた魔法陣。夢のプレシアは「魔神召喚」の儀式を行う魔女であった。
 魔女の目的は現実のプレシアと同じ、亡くしたアリシアと変わらぬ姿と同じ記憶を持つ存在を造りだそうとしていたのだ。
 儀式によって呼び出された魔神は、真っ黒い、立体化した影のような巨人の姿をしていた。目も鼻も耳もないその顔には、大きく裂けた真っ赤な嘲笑だけが張り付いている。その世界で鏡像魔神と呼ばれている存在だ。
 召喚の成功に狂気の笑みを浮かべたプレシアは魔神と契約を交わた。そして魔神は、腐敗しないようにと魔法で保存されていたアリシアの遺体からその脳を取り出して喰らいつくした。
 それから一分ほどの時間で、魔神の姿はアリシアと全く同じ容姿となった。脳を喰らった相手の記憶と姿を完全に写し取る――魔神はその忌まわしい能力によって、アリシアそのものとなったのだ。
 新しいアリシアは完璧だった。その仕草、その言葉、その感情、すべてが本物のアリシアと相違なかった。プレシアは大いに喜び、そのアリシアを死ぬまで愛し続けた…………

「あまりのおぞましさに目が覚めてすぐに吐いてしまったわ。プロジェクトF・A・T・Eは、使い魔を超える人造生命を造りだすためのものに過ぎなかったというのに、アリシアの魂までも取り戻せると思い込んでしまっていたのよ。いつの間にかね……」

 夢の中の魔神のように記憶転写によって完璧なアリシアを造ったとしても、それはやはり偽物に過ぎない。どこかできっとダメになっていただろう。手にした本の表紙をなでながら、プレシアはそう語った。



 
○サニティ:1レベルの暗黒(神聖)魔法。心の平静さを取り戻します。

○無印とAsの黒幕:ホントに仲良し、などということはありません。大人は演じるものです。ジュエルシード以外にも合法・非合法の手段を問わず研究用のロストロギアを集めていた女史と、古代遺物を管理する部署のある「海」のお偉いさん。プロジェクトFATEについては管理局も掴んでいたようですから、知り合いになることもあるでしょう。ちなみにグレイさんはサニティを使用できます。
○ロストロギア:古代遺産と書いてロストロギアとルビをふったりもする。SW的にはカストゥール王国の遺産である魔法の品物たちは、ほとんどこれの定義に当てはまる気がします。
○お城の模様替え:傀儡兵はがんばった。



[40369] 黒翼の真竜
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/10/22 01:12

 小さかったころ、よく一人のときに泣いていた。
 それは、寂しかったからではなくて、悔しかったから。
 悔しかったのは、力がなかったこと。悲しかったのは、悲しいことを前にしても、泣いている人を前にしても、なにもできなかったこと。
 今のわたしはそうじゃない。
 力がある、魔法がある。
 おじさまが力を貸してくれている――冬に、闇の書のときに頂いた欠片が、胸の奥でトクン、トクンと鳴っています。願いをかなえよう、わたしの昔からの願いをかなえようって言っているのです。
 この衝動は止められない。いいえ、止めない。

 でも、まだ足りないのです。
 今のわたしでは頂いた欠片を使っても願いに届かない――そう、わかってしまうのです。
 だから、もっと力をつけたいときにはどうしたらよいのかって、みんなに聞いてみることにしました。

 お母さんはお菓子作りの腕を磨くために本場へ修業に行ってきたのですが、フォーセリアはもうこの世にないそうなのでこの方法はちょっと難しそうです。
 お兄ちゃんはとにかく一生懸命に頑張って来ただけ、ということなので見習いたいと思います。
 お姉ちゃんは、お父さんやお兄ちゃんのような自分よりも上手な人に習うのがいいよって言っていました。上手な人がどこかにいるのかもしれないのでこの方法は要チェックです。
 ローウェルちゃんには、今までの経験から上達しやすい状況はどういうときだったのか考えてみなさい、とアドバイスをもらいました。
 最後はお父さんなのですが、「あてもなく旅しながら修業しながら、仕事しながらほっつき歩いてたら自然と強くなったな」と楽しそうにお母さんと出会う前の放浪時代のことを話してくれました。




 ファラリスさまへ

 なのはちゃんが居なくなってしまいました。
 ファラリスさまでしたら、きっと行先をご存知でしょう。どうかわたしに、なのはちゃんがいるところを教えてください。
 それがダメでしたら、せめて、なのはちゃんに伝えていただけませんでしょうか? 

 先週に、なのはちゃんの宿題の作文を勝手に見ようとしたことは謝ります。読み上げようとしたときに目つぶし(ブラインドネス)をかけられたことも怒っていません。
 学校でちょっと調子に乗ってふざけたことも謝ります。
 この頃、なのはちゃんの様子がおかしいことには気づいていました。でも、急にいなくなってしまうだなんて思ってもみなかったのです。
「修業の旅に出ます。学校にはなんとか言っておいてください」
 そんな短い書置き残して、ゼリーだけ連れてどこか行ってしまうなんて、なのはちゃんの薄情者!
 足が治って、学校行けるようになって、友達もふえたって、なのはちゃんがおらんかったらなんも意味ない。
 なんでわたしも連れてってくれんかったんや。
 なのはちゃんがおらんと、さみしくて、さみしくて、わたしの頭がハゲたらなのはちゃんのせいやからな。
 アリサちゃんも、ものすっごく怒っとるんやから帰ってきたら覚悟するよーに。
 なのはちゃんのアホ。
 いや、アホやないな。バカやバカ。
 悪口を言うとその人がやってくる、そう聞いたことがあるのでこれから毎日なのはちゃんの悪口を言って過ごします。それが嫌だったら早く帰ってきてください。
 わたしの口が悪くなったら、なのはちゃんのせいです。
 バカバカバカバカバカバカバカ、バカー! 

 大変失礼しました。
 ファラリスさまの、為したいように為すがよい、という言葉にはついつい甘えすぎてしまいます。
 追いかけたくても、どこを探したらよいのかもわかりません。地球のどこかでも探せそうにないのに、いくつもある異世界を飛び回っていたりしたらどうしたらよいのでしょう。
 転移魔法などに詳しいはずのグレイさんやアーリアさんは、何故か余裕の表情で「心配ない」と言うだけです。なのはちゃんはわたしと同い年ですから、心配ない、なんてことはないはずなんですが。
 ファラリスさまから一言いっていただけたら、すぐに帰ってくるはずなんです。
 どうかお願いします。

   八神はやて


 ファラリスおじさまへ

 大陸を旅して旅行記を書いたという魔女にならって、わたしもそれっぽいものを書こうかと思ったのですが、上手く書けそうにないので今まで通りになってしまいました。
 いいんです。あの旅行記自体はとても面白かったのですが、あの魔女さんはおじさまのことを認めないって言っていたので好きではありません。ですから旅行記も書けなくてよいのです。
 
 今回の旅の目的は魔法がもっと上手くなるようになることです。そのためにわたしがすることは三つ。
 一つ目は、昔のお父さんのように「楽しんで旅をすること」。
 二つ目はお姉ちゃんの言っていた「先達に習う」ための先輩探し。
 三つ目はローウェルちゃんのアドバイスから思いついた「遺跡を探検すること」です。去年はそれまでと違ってグングンと魔法の腕前があがった気がするのですが、その始まりはジュエルシードを探して遺跡探検をしたころだったと気がしています。
 まとめると、先輩を探しながら旅をして、見かけた遺跡を探検すればいいのでしょう。勝手に探検したら、またユーノ君に叱られてしまうかもしれませんが……。

 最初の目的地はもう決めています。
 向かう先は第六管理世界のアルザス地方、そこに住んでいるというル・ルシエの民という人たちを訪ねてみようと思っているのです。

   今日から旅人 高町なのは


 アルザスにて
 ファラリスおじさまへ

 前の手紙にル・ルシエの人たちを訪ねると書きましたが、わたしが本当に会いたいと考えているのは実はその部族の人々ではありません。
 以前アーリアさんからル・ルシエ族について聞いたことがあるのですが、この人たちは大きな竜を神さまとして崇めているそうなのです。そしてこの部族の人々は崇めている竜から力を借りることで、ミッド式魔法とは異なった魔法を使うことが出来るようです。その魔法は、竜召喚・竜使役などと呼ばれているのですが、魔法を使うときに竜と心を通わせることがあるそうでして、そのあたりが暗黒魔法と少し似ているかもしれないってアーリアさんは考えていたみたいです。
 竜の魔法がどんなものなのかというのも大いに気になりますが、それ以上に気になっているのがル・ルシエの人たちが守護神としているドラゴンです。
 黒き火竜ヴォルテール。
 そうです。もしかしたらこの黒い竜はおじさまの加護を受けた竜たちの仲間なのかもしれないのです。もしそうだったら、いきなり魔法の先輩を見つけてしまうことになってしまうのですから、こんなにすばらしいことはありません。
 そうでなくてもこのヴォルテールさんはずっと昔から生きているということなので、遺跡などについても何か知っているかもしれません。
 それに何といっても「ドラゴン!」なのですから、一度は見ておきたいというわたしの想いはつのるばかりなのです。 

   黒い竜の夢を見そうな あなたのなのは


 ファラリスおじさまへ

 ドラゴンに会いました!
 とっても大きくて、頑丈で、ものすごく強そうでした。
 見た目はちょっと怖そうでしたが、(念話で)話した感じですと心の中はとても落ち着いていて山のようなイメージを受けたのですが、怒らせてしまたらきっととんでもなく怖いのでしょうね。火竜は気性が荒いって何かの本で読みましたし。
 
 今日はまず最初にル・ルシエ族の集落を訪ねたのですが、そこのみなさんはよそ者があまり好きではないようでして話もロクに聞いてもらえずに追い出されてしまったのです。何回か挑戦してみたのですが、最後には「しつこい!」って機嫌の悪い時のお兄ちゃんみたいな顔をされてしまったので慌てて逃げる羽目になってしまったのです。
 部族の人に竜の居場所を教えてもらうことが出来なかったので、ちょっと不機嫌気味だったわたしはしょうがなく集落を中心にしてグルグルと飛び回りながら辺りを探すことにしました。少しずつ範囲を広げながら飛び続けていると、そのうちに声が聞こえてきたのです。
 最初は部族の人がまた何か言って来たのかなって思ったのですが、そうではありませんでした。頭の中に響いてきた声はおじさまのものとも違っていて、ミッド式魔法の念話が一番近かったかもしれません。
 声から感じたイメージは先に書いた通り「山」でした。もちろんおじさまにはかないませんが、わたしからしてみるとどちらもすごく大きな意識というところは同じですね。
 残念ながらヴォルテールさんはおじさまの加護を受けた「闇竜の一族」ではありませんでしたが、それでもいろいろと面白いお話を聞くことが出来たのでわたしは大満足です。それにヴォルテールさんから、十年くらい前にわたしと同じように暗黒神を崇めているという男が訪ねてきたことがある、と教えてもらったので今度はその人を探してみようかと思います。
 ヴォルテールさんによると、その男の人はミッドチルダに住んでいると言っていたそうなので、次の目的地はミッドチルダになりそうです。十年前の話なのでもう引っ越してしまっているかもしれませんが、管理世界の中心ミッドチルダは一度じっくりと見て回りたいなと前から思っていたのでちょうど良かったかもしれません。こういうのを渡りに船っていうのでしょうか? なにか違うかもしれません。
 あと、ヴォルテールさんから一つ頼みごとをされました。黒い竜のお願いは、年に一度、それが難しければもう少し間が空いてもいいので時々訪ねてきて欲しいというものでした。もしかして寂しいのかなって思って、「だったら一緒に行きませんか?」って誘ったのですがそれは断られてしまいました。
 ヴォルテールさんが気にしていて、わたしにも気にかけるよう頼みたかったのは、ル・ルシエの集落でもうすぐ生まれようとしている命です。
 もうすぐ生まれてくるその子(ル・ルシエ族の女の子みたいです)は竜ととても相性がよくて、竜魔法に関してとても強い才能を持つようになるそうなのですが、そのせいでもしかしなくても不幸なことになってしまうかもしれないとヴォルテールさんは心配していました。
 これまでにも何人かそういった「竜に愛された子」が生まれたらしいのですが、そういった子はみんな「強すぎる力は災いを呼ぶ」と言って集落から追い出されてきた歴史があるみたいでして、もしも今度の子も今までと同じようにそうなってしまったときに、外の人間であるわたしにその子のことを頼みたいということだったのです。
 わたしはこのヴォルテールさんの頼みを引き受けました。
 頼まれなくても、その場にいたらきっとそうしてしまうのでしょうから大したことではありません。それよりも、まだ引き受けただけなのに「礼だ」と言って宝物を渡そうとして来るヴォルテールさんが誰かにだまされやしないかとちょっと心配です。
 そう言ったら何故だか笑われてしまいましたけど。

   なんで笑われたんでしょうね? あなたのなのは


   

〇ヴォルテール:モンスターレベル16~
ウイッキーさんによると体長15メートル程らしい。体格的にはレッサードラゴン級ですが、「真竜」なのでエンシェントドラゴン(通常は体長30m)。同族で並ぶと「チビ」とか言われているのかもしれない。



[40369] ダークプリーストの口づけ
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/10/26 15:39
 ル・ルシエの里にて
 ファラリスおじさまへ
 
 ヴォルテールさんの依頼を受けた後、わたしはもう一度ル・ルシエの里に向かいました。すると今度は長老さんが応対をしてくれまして、しばらくの間だけ集落に居ても良いということになったのです。きっとヴォルテールさんが何か伝えておいてくれたのでしょうね。
 もうすぐ生まれてくるル・ルシエの女の子のことをよろしく、と頼まれたわたしですが、さすがにその子の名前も知らないのではそれもちょっと難しいものがあります。なので、せめてそれくらいは確認してから出かけようと集落にやってきたのですが、ヴォルテールさんに会う前と会った後では部族の人たちの態度が大違いです。
 親切にしてもらえるのはうれしいのですが、わたしはファラリスさまの神官ですのでヴォルテールさんの頼みをきくことはあっても竜にお祈りを捧げたりはしませんよ。
 ここの人たちは竜に限らずいろいろな召喚魔法が得意ということだったので、わたしもサモンインセクトで虫を呼んで召喚魔法対決をしたりしました。本当はサモンインプも使ってみたいのですが、インプのことをよく知らないので呼び出せないのですよね――虫はよく知らなくても来てくれるのに、なぜかインプはダメなんです。
 わたしだって少しはインプのことを勉強したんですよ? 
 インプは小人のような姿をしていて、背中に翼があって、尻尾もはえています。それから頭が結構良ので、人間の言葉を理解して話すこともできるし、魔法を使うこともできます。少しだけ毒があるのですが、一旦契約してしまえばその契約主に対しては忠実な性格をしています。と、このくらいはわたしでも知っているのですが、それでも召喚できないのですよね。
 もしかしたら、もうインプはどこにもいないのかもしれません。おじさまを信仰する神官の使い魔としては定番だったらしいので、もう見ることも出来ないって考えるとかなり残念です。
 あ、もちろん猫が一番ですよ。使い魔は猫、猫最高!
  
   ゼリーにひっかかれた 高町なのは


 滞在四日目
 ファラリスおじさま

 今日は集落の人と一緒に召喚魔法の練習をしました。
 ル・ルシエの人たちともすっかりうちとけてきて、魔法の技術や心構えのようなものについて話をしたりしています。召喚に関しては、さすがに召喚部族なんて呼ばれているだけあってここの人たちには教えられることばかりです。
 わたしは召喚について教えてもらったお礼として、みなさんの怪我や病気、調子の悪い所などの治療しています。こっちについてはおじさまの魔法の方が断然効果が高いですね。
 そんな感じで集落の中でそれなりの交流をしていたところ、ちょっと興味深い映像を見せてもらいました。それはDSAA(ディメンション スポーツ アクティビティ アソシエイション)公式魔法戦競技会インターミドル・チャンピオンシップという魔法戦闘の大会の映像で、見せてくれたのは寝泊まりさせてもらっているところのおばさんなのですが、その人が昔に「召喚魔法の力を見せてやる!」って言ってその大会に挑戦した時のものでした。
 おばさんは召喚魔法の力を示すために挑戦したので当然召喚を中心にして戦っていたのですが、やっぱり戦っている最中に呼び出すのは難しいみたいでして、準決勝でメガーヌさんという人に負けてしまいました。「召喚魔法は事前に準備して戦力を揃えておけば最強なんだ!」とはこの家主さんのお言葉ですが、最強なのかは置いておくとしても召喚には準備が大事というのは、まったくその通りなのでしょう。
 ル・ルシエの人たちによると、召喚魔法を成功させるためには呼び出したい相手のことをよく知り、交流を深めて心を通わせることが大事なのだそうです。そしてその相手のとの間に意識の糸のようなものをつないで、それをたぐりよせるようにして自分の所に来てもらうイメージを持てるようになればまず大丈夫、ということなのですが――わたしの糸はずっとがんばっているのにまだまだ届かないようです。
 使えるようになりたいリコール・スピリットの呪文は、あの世へと旅立ってしまった人のスピリット(魂)をリコール(呼び戻す)する魔法ですから、召喚魔法に近いもののような印象があります。死後の世界から魂を呼び出すことを目標としているのですから、見たことのない生きものとは言えインプの一人や二人さくさくと呼べるようにならなければダメでしょう。
 そんなわけで召喚魔法の専門家に教えてもらって、相手の姿を思い浮かべながら見えない意識の糸を世界に伸ばしてその姿を探す、という練習をずっと続けているのですが、そうしているとたまに自分の周囲のどこに何があるのかが目で見なくてもわかるようになるときがあります。その状態に入ったときなら目をつむったまま自分に向かって飛んでくるボールを全部叩き落としたりできるのですが、「すごいけど……それ召喚と違う」なんて言われてしまいまして、召喚魔法の練習のはずがいつのまにか剣術の練習になってしまっていたということもありました。
 お父さんが本気のときは視界が白黒になるそうなのですが、目をつむったまま周りがわかるだなんて、わたしって実は結構すごいんじゃないでしょうか! 
 いえ、冗談です。剣術の腕前はちょびっとだけしか前進していません。ミッド式魔法はスルスルと上達するんですけど、剣術はなかなか上手くならないのはどうしてなんでしょうね。
 そういえばDSAAのインターミドルですが、家主さんを破って進んだメガーヌさんが決勝戦で戦った相手がバインドやシールドを破ってしまうアンチェイン・ナックルという技を使っていました。なんだかいいですよね、主に名前が――「つながれぬ拳」だなんてすてきです。
 そういう人が出場しているのならぜひ会ってみたいのですが、残念なことにインターミドルの出場資格は「十歳から十九歳までの管理世界の住人」なので出ることができません。「アルザスで出れば田舎だから、なのはなら代表になれるぞ」なんて誘ってももらいましたが、わたしは管理外世界の人間なので、仮にでも管理世界に移住したことにするのにはかなり面倒な手続きが必要になるので厳しそうです。時空管理局の嘱託魔導士になったりするとそのあたりずいぶんと優遇してもらえるそうなのですけど、お仕事するのはもっと先の話がいいなって思ってるのでこれもダメですね。
 ちなみにおばさんは魔法の勉強のためにミッドチルダに留学しているときに出場したので、管理世界の中心地で強豪ぞろいの激戦区であるミッド中央で出場したそうです。「アルザスから出ていれば、あたしは世界代表になれたんだ!」ってこれおばさんの口癖です。 

   海鳴市出身 高町なのは

 追しん
  今確認してきたら「つながれぬ拳」のクイントさんは、年齢が上がってしまったのでもうインターミドルには出場していないそうです。出場当時はミッドチルダに住んでいたようなので、何かの機会に会えたらいいなって考えています。


    
 ル・ルシエのキャロ――これが生まれてきた女の子の名前です。
 キャロちゃんは、ちっちゃくてかわいくて、ぐにって押したらつぶれてしまいそうでかわいくて、でもつつくとプニプニでやめられない止まらないかわいいですよね。
 ウチのお父さんとお母さんはずっと仲良しさんなのに、どうして弟や妹ができないのでしょうか? はやてちゃんは妹のようなものだと(勝手に)思っているのですけど、やっぱりちゃんとした年下の弟や妹がほしいなってあらためて思いました。
 家に帰ったときに頼んだらつくってくれないでしょうかね? 実は帰ったら家族が増えていましたって言うのも捨てがたいですけど。
 キャロちゃんをながめているのは楽しいですが、いつまでもこうしてはいられません。ヴォルテールさんから頼まれた相手の名前もわかったことですし、そろそろここをおいとますることにします。
 最後にひとつ、キャロちゃんにお呪いを残して行くことにしました。大きくなって姿が変わっても、一発で誰だかわかるように目印をつけておいたのです。

 キャロちゃんの両親はとても幸せそうで、部族の人たちも最初はあれでしたが今では優しい人たちばかりだってわかります。なかには怖い人もいますけど、ほとんどの人はそうじゃない。わたしには、この人たちがヴォルテールさんが言っていたような「力が強すぎる」なんて理由だけで女の子を追い出すような人たちにはとうてい見えませんでした。
 もしかしたらもっと別の理由があるのかもしれない、今から話をしておけばそんなことはしないかもしれない。そんな風にも考えましたが、結局わたしはル・ルシエの人たちに理由をたずねることはしませんでした。
 プレシアさんを見ていれば、まだまだお子さまのわたしでも親というものが子供をどんなに大切に想うものなのかってことが少しはわかります。それなのに昔からそうしてきたのなら、きっとなにかどうしようもない理由があるのでしょう。それをつついてせっかく仲良くなれた今の関係を壊してしまってはヴォルテールさんの依頼に応えることができなくなってしまいます。
 それに、ちょっと、ちょっとだけですけど、キャロちゃんが妹だったらうれしいなって思ってしまったり……ちょっとだけですよ?
 
   お父さんに子供が出来る特性魔法薬を送りましょう なのは


 アルザスから出発した日
 ファラリスおじさまへ

 ヴォルテールさんから依頼の報酬として魔法の品物をもらいました。前払いだなんて、ドラゴンはだてに大きなお腹をしていないですね。
 もらった物は三つあって、どれもミッドチルダからやって来たというファラリス信者の「ドクター」さんがお近づきにって置いていった物だそうです。全部人間用の品物なので、ドラゴンには使うことが出来ません。ドラゴンらしく財宝を集める趣味のあるヴォルテールさんですが、集めたものをどうしても手元に置いたままにしておきたいと考えるタイプのコレクターでは無かったようですね。
 
 もらった物は

 一、かぶると男の子からお婆さんまで、どんな人の姿にでも変身できる「ダブラブルグの仮面」。
 二、はおると透明になれる「ゴードベルのケープ」。
 三、水中で自在に泳げるようになる「メルビズのスーツ」。

 三つともミッド式魔法で再現できなくもないのですが、魔力を使わずに効果を得ることができるというのはものすごい発明ではないのでしょうか? ドクターさんは試作品と言っていたそうなのですが、これで試作品だとすると完成品はどんなものになってしまっているのかと興味津々です。
 試作品ということなので、これらにはそれぞれにちょっとした欠点があります。
 まず最初の仮面は、仮面をつけていないと効果が無くて、外すと元の姿に戻ってしまうのです。つまりどんな姿に変身しても同じ仮面をつけっぱなしなんですね。これではだれかをだましたりはできないでしょうし、「宴会用かな?」ってゼリーが言うのもわかる気がします。ただウチの猫は変身するなら仮面をつけるという考え自体は嫌いじゃなくて、とても共感できるともこぼしていましたけれど。好きなんですかね、仮面。
 二つ目のケープは簡単で、はおっている所しか透明になれないのです。ケープって名前の割にマントのように足首まで届くような「ゴードベルのケープ」ですが、フードはついていませんでした。普通に着た状態で透明になると「妖怪首だけ」になってしまいます。肝試しに使えそうですね。
 最後のスーツは機能としての欠点はないのですが、ピチピチなんです。これは体の線がまるわかりのスクーバダイビング用のスーツみたいなものでして、ちょっと着るのが恥ずかしいですね。サイズ的に大人用のようなので仮面と組み合わせて大人の姿で使うことになるのですが、そうするとちょっと、こう、恥ずかしいですよ!
 全部着けたら、ピチピチスーツの上からマントをはおって目元を隠す仮面までしているちょっと変な人になってしまいますね。

   スーツは封印 あなたのなのは

  
 

『はやてのスペルコレクション』

〇カース:5レベルの暗黒魔法。効果=目標にお呪いをかける。 
個人に対して命に直接影響を与えないペナルティーをかけます。その効果は千差万別、使い手の想像力次第。

 ダークプリーストの口づけ――それは呪いの儀式。

 少しばかり未来の話
 ル・ルシエ村のキャロには一つ悩みがあった。
 それは召喚できる竜の力に対して、自分のそれを制御するための技術が追いつかないこと――ではなくて、割とこじんまりとした、でも、女の子としては切実な問題であった。
「なんでここだけ髪がはねちゃうんだろう……」
 キャロの小さな顔を飾る桜色の髪の毛はほとんどの部分が素直に言うことを聞いてくれるのだが、ただ一か所、頭のてっぺんよりもやや手前にどうしても言うことをきかない「つむじ曲がり」な髪の毛がいるのだ。
 キャロはこれがどうにも気になって仕方がない。頑張って押さえつけてみても、いつのまにかピョンと跳ね上がって自己主張することをやめてくれないのだ。長く伸ばしてみても重力に逆らって立ち上がり続けるその姿は、ある意味で根性に満ちていると言えるのかもしれない。ひねくれ者なりの気合い、ではあるが。
 ある日のこと、キャロがこの頑固者について母に相談してみると一つ思い当たることがあると言う。
 母が語ったのは、キャロが生まれてくる少し前に集落へとやってきた不思議な女の子の話。いつもはよそ者を毛嫌いしている長老がなぜか受け入れた異教の神を信仰する神官の話。集落中の病人や、治療の困難な障害を残していた人間を残らず治療して、謝礼も受け取らずに去って行った奇跡の癒し手の話。キャロに変わった「まじない」をかけていった魔女の話。
――要するに年に一度訪ねてきてくれる「なのはお姉ちゃん」の話。
「これ呪いなの!?」
 彼女にどんな得があってそうしたのかはわからないが、生まれたばかりのキャロに口づけを落とした魔女は「髪の向かう先を見て行けば迷子にならないから」と言ってキャロに一つの呪文をかけたのだという。
「今度会ったときに聞いてみたら?」
 母の言葉に頷きながら、キャロは優しいと思っていたお姉ちゃんの意地悪に口をとがらせたのだった。キャロ・ル・ルシエのクセっ毛は、今日も元気に魔女の居場所を指し示す。


 王子様を醜いカエルに変え、美しいお姫様を覚めることのない眠りに閉じ込める。口にした水分は全て強烈な酒となって喉を焼き、手にしたものが全て黄金へと変わってしまうために飢えに苛まれる。ウソをつくたびに鼻が長く伸び、口にした言葉は全て偽りとなる。
 まだまだ他にも多くの事例がある。このカース――そのものズバリ「呪い」という名の呪文はある意味で魔法の代名詞と言ってもよいだろう。悪い魔女、洞窟の奥に潜む魔術士、死に際の魔王、物語の中では多くの敵役がこの魔法を使用してきた。
 ほとんどの場合においてこの呪文は陰険な復讐などの邪悪な目的をもって使用されるが、ごく稀に悪人を懲らしめるために使われることもある。

 事例の「おまじない」はどういった意図の下で使われたのかと言うと……呪いと祝いは表裏一体、すべての魔法は自分自身に対して「対抗/優越」であるという原則を思い出してみるといいかもしれない。


〇ドクター:アルハザードの遺児なんて呼ばれることもあります。アルハザード→フォーセリア(に代表される精霊界・妖精界・物質界など)のこの話では……。 



[40369] まぼろしの女
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/10/29 01:27

 ミッドチルダの首都クラナガン郊外の森にて
 ファラリスおじさまへ

 ミッドチルダへと移動したわたしは、とりあえず首都のクラナガンへとやって来ました。
 ここは時空管理局に加盟している魔法の世界の中心地ということだったので、どんなにすごい場所なんだろうって期待していたのですが――残念なことに何とも普通の街でした。

 地球と同じような道路があって、そこを普通に自動車が走っています。ところどころにレールがあってやっぱり普通にそこを列車が通って行きました。街を歩く人たちも海鳴とそんなに違いが無くて、わたしの想像していたような魔法の国の姿はここにはありません。
 もっとこう、街の人たちはみんな自前の魔法や魔法のじゅうたんを使って空を飛びまわったり、転移魔法であちこちに移動していて、働くのはほとんどがゴーレムがやっていて人間は一日中遊んで暮らしている、そんなイメージを持っていたのですが、そういったことは全然ありませんでした。
 みなさんの服装も地球とそんなに変わりません。
 ユーノ君やプレシアさんのバリアジャケット姿が剣と魔法のファンタジーな雰囲気だったので、ミッドチルダというところはそういう世界なんだって思い込んでいたのですが、そういえば二人とも普段着は日本のそれと変わらなかったんですよね。
 なんだか勘違いしていたようで、魔法の国なのだからみんなゲームに出てくるローブとか着ていると思い込んでいたのです。ル・ルシエの人たちはいかにもファンタジーといった雰囲気の民族衣装だったので、なおさらミッドチルダの人たちの地球っぽさにはガッカリさせられてしまいました。
 その点、時空管理局の局員さんはさすがでした。最初に見かけたときは地球のどこかにありそうな制服姿だったのでこれまた普通だなーって思いかけたのですが、これがいざ事件となると変身してローブの上から鎧をつけたような姿に杖を持つという「いかにも」なかっこうになってくれたのです。これで事件の犯人として追い回されたのが自分でさえなければ良かったのですけどね。
 そうなんです、ゼリーが知ってたくせにすぐに教えてくれなかったせいで管理局の人たちに追い回されてしまったのです。まさか魔法の国に街の中は飛行禁止なんて法律があるとは思わないじゃないですか! 
 わたしは管理世界の身分証なんて持っていませんし、こっちに身元を保証してくれる人もいません。お巡りさんに捕まったりしたら困ったことになってしまうのは確実なので必死になって逃げました。逃げながら転移魔法を使えるほどには器用でもないのでひたすら飛んでいたのですが、そのときにあわてて大変なことをしてしまいまして、もっと大事件になってしまったのです。
 ちょっと、いえ、かなりパニック気味だったと反省しています。ゼリーにもしかられてしまいました。
 街の上であっちへよけたり、こっちへ行ったりとあわあわしていたときに、どこからか射撃魔法が飛んできて頭に当たったのです。それで、こうカッとなってしまってちょっと砲撃魔法を撃ってしまいました。おどかして、そのスキに逃げようって予定だったのですが、当たってもかまわないって考えもありました――魔力ダメージだけにしていましたし。
 そんなつもりではなかった、と書くと言い訳みたいですが、ホントに、あんなに簡単に墜ちてしまうだなんて思ってもみなかったんです。
 だって、ミッド式魔法の師匠で練習の相手をしてくれたグレイさんやアーリアさんはもちろんのこと、使い魔のゼリーや魔法を覚えたてのはやてちゃん、その上病気が治ったばかりのプレシアさんでも平気な程度の攻撃だったんです。翻訳家や、猫や小学生、病気がちな研究者よりもお巡りさんの方が弱いだなんて、一体全体どういうことなのでしょうか……。
 そんなわけで、めでたくも危険人物と認定されてしまったらしいわたしのところへは、航空武装隊と名乗る強面の人たちがやって来てしまったのです。
 強かったです、ホントにもうダメかと思いました。ゼリーと協力してなんとか切り抜けようとしたのですが、捕縛用の結界を張られてしまって逃げるに逃げられず、(仲間が撃墜されているから当然なのでしょうが)向こうも遠慮なく攻撃してくるようになったので応戦するしかなくなってしまって、それはもうヒドイことになりました。結界で空間がズラされていなかったら街がどうなっていたのかと考えると頭が痛くなりそうです。
 結界が無ければ逃げられたんですけどね。
 結局最後はどうしたかは、おじさまの力をお借りしたのでご存知でしょう。
 はい、束縛から解放してくれる呪文「フリーダム」が有ったことをその時になってようやく思い出したのです。ただ、拘束されたり閉じ込められたりしたときにだけ瞬間移動できるこの呪文ですが、転移できるのはわたしだけなのが困ったところでした。
 逃げる方法はありますが、これだとわたし一人しか脱出できません。ゼリーは「一人でならどうにでもなるから早く行け」と言ってはくれていたのですが、やっぱり心配です。どうしようかと悩んでしまって時間は過ぎていくばかりでした。
 武装隊の人たちが「ゼストが来る。それまで持ちこたえろ」って叫んだのはそんなときのことでした。それを聞いたとたん、ゼリーの顔色が変わって(猫モードだったのですが、精神リンクがあるのでなんとなく雰囲気でわかります)「面倒なのが来る前にとっとと行け!」って怒鳴ったのです。
 それでも、わたしは動けませんでした。使い魔の言うことを信じてあげられないなんて主失格でしょうか? ゼリーはそんな情けないわたしから「ゴードベルのマント」を取り上げると、猫姿のままでマントをはおってクルクルっと縦回転、その姿は見えなくなってしまいました。
 「ほら、これで大丈夫だろ?」面白がるような余裕の声でした。それを聞いてようやく安心できたわたしは、束縛からの解放をおじさまに願うことができたのです。
 つかれた様子のゼリーが郊外へと転移したわたしのところへと帰って来たのは、それから二時間ぐらい後だったと思います。どうしようどうしようって慌てるばかりで何もできない、ダメダメな長い二時間でした。
 「まぁ、何事も経験だ。でも、こんなのを何回もやるはめになるのはごめんだけどな」
 そう言いながら、泣いてしまったわたしをギュッとしてくれたゼリーはすごくカッコよく見えました。

   野宿にもなれてきた 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 今日から変装して過ごすことになりました。理由は書かなくてもいいですよね?
 もう街の中をそのままで歩くことが出来ないわたしは、今日から仮面の魔法戦士です。ゼリーが知っていた変身魔法でも良かったのですが、せっかく手元に姿を変えることのできる道具があるので、それを使うことにしたのです。
 おでこから鼻の半ばあたりまでの幅があって目を完全に隠してしまう仮面をつけた姿は、我ながらなんとも怪しいと思います。でも、ゼリーが「いいね!」って言っているからいいのでしょう……たぶん。
 どうせ化けるのなら大人の男性になるくらいの方がいいんじゃないかとも言われたのですが、男の人の格好をするのはどうにも抵抗があります。なので大人の女の人に化けようってことになったのですが、お母さんを参考にしてみたら「ふつーに育ったらそんな感じになりそうだな」と合格点をもらえませんでした。
 それで次は美沙斗さんを参考にして体型を整えて、ついでに髪も少しあこがれていた黒髪のロングストレートで腰辺りまで伸ばしてみました。おじさまは黒色ってお好きですよね? 暗黒神って呼ばれているくらいですし、夜の色でもありますから。
 偽名も考えたんですよ。
 まぼろしとか蜃気楼って意味の「ミラージュ」から‟ラ‟を隠して、「ミージュ」です。おじさまのお名前から‟ラ‟を隠したらお巡りさんにも疑われないかなって、ちょっとした言葉遊びです。
 ゼリーも変身魔法で化けて、飼い猫じゃないよ野良猫だよ、ってことで「ノラ」と呼ぶことになりました。使い魔は変身魔法を使っていても普通らしいので結構気楽みたいですね。

   大人っぽい話し方ってどんなのでしょう? 考えるなのは


 おじさまへ

 上手く歩けません。
 幻覚魔法で見た目だけ変えているわけではなくて体自体を変化させているので、なれない大人の身体能力に振り回されてしまって空回りの状態なのです。これはどうも、二、三日はどこかで練習しないとダメかもしれませんね。
 人型になったり猫に戻ったりするゼリーはとんでもないことをしているんだなって、あらためて思い知りました。あと、あんなに小さいフェレットの姿で器用に動き回るユーノ君は天才じゃないでしょうか。わたしは同じ人間の姿なのに大きくなったってだけでフラフラしてしまうので、スクライアの人たちのマネはとてもできそうにありません。
 練習でつかれてしまっているので短くなってしまいました。ごめんなさい。

   おやすみなさい あなたのなのは


 ファラリスおじさまへ

 美沙斗さんを参考にしたおかげなのか、今までできなかった技ができるようになりました。
 なんだかこう、体が軽いと言いますか、思い通りに動かせると言いましょうか。今までは、目で見えていても体がついてこなくて動けなかったりすることがあったのですが、なんだか今は体が言うことを聞いてくれてるって感覚があります。イメージした通りに手足が動くってすばらしいですね。
 去年挑戦して、指が短いばかりに苦戦するはめになったギターも今ならちゃんと弾けそうです。ヒマがあったらゼリーに習うつもりですので、上手に弾けるようになったら聞いてくださいね。
 とりあえず今日一日でずいぶんと大人モードになれました。これなら明日か明後日には街に行けそうです。
 
   ごきげんな 高町なのは




〇ティーダ・ランスター(17歳):執務官を目指すエリート空士。逃走違法魔導士追跡任務中に撃墜される。受けた砲撃が魔力ダメージ設定であったため肉体的な怪我はなかったが、自身の防御が紙切れのように撃ち抜かれたことによって受けた精神的な影響は計り知れない。

〇使い魔:何事も経験(値)と考えていたらエライことに。黒の子とは違うんです。

〇ミッドチルダ式魔法:師匠はグレイさんとアーリアさん(推定Sランクオーバー)、練習相手は使い魔と後輩の親友(推定Sオーバーと魔力量だけならSS)、他に交流のあった魔導士はプレシアさん(条件付きSS)と防御に定評のあるユーノ君(Aランク結界魔導士)――これが高町なのはの考える「普通のミッド式魔導士」。ル・ルシエ族は召喚魔法の先生なので別枠。

〇フリーダム:6レベルの特殊暗黒魔法(ファラリス)。これは暗黒神の「束縛されず、自由であれ」との言葉を体現する呪文です。術者が拘束されていたり閉じ込められていたりする場合にだけ使用可能で、呪文を唱えるとその場から出来る限り近くの安全な場所へと瞬間移動して自由の身となれます。(ソード・ワールドRPGアドベンチャー『プロミジー急転!』収録)

〇仮面の魔法戦士:六英雄の名も無き人。ヴィヴィッド覇王様の初登場シーン。七つ月の世界の法の神と対になる神の申し子。

〇シェイプ・チェンジ:古代語魔法4レベル。よく知っている相手に変身した場合その肉体的な能力も使えるようになるという、実用的な魔法戦士作成のカギ。若い姿に変身することで永遠の命さえ可能とする割に使用可能となるレベルが低い。ウォートがベルドに化けたら……。
魔神ダブラブルグにはここまでの力はないが、上位種のドッペルゲンガーはこれよりも強力な能力がある。仮面は両者の中間程度を想定。


〇呪いの重複について:グループSNEのQ&Aには、カース、クエスト、ギアス、クリップルなどについての項目で「効果の異なる呪いは別の呪文として扱うので効果が重複します」という回答があります。
同時に、リムーブ・カースについての項目で「あらゆる呪文は自分自身に対して 対抗/優越 だから複数の呪いが同時にかかることはありません」という回答も存在しています。
重複可能と言う回答の方が日付が後なので「後出し優先の法則」で処理してもいいのですが、ここでは「カースが二重三重にかかるなど同一の呪文が重複することはないが、(内容が矛盾しない限りは)カースとクエストとギアスとクリップルとブラッド・プロテクションは同時にかけられる」として扱っています。
ルールブックには「同じ魔法の重ねがけは出来ない」と書かれているので、素直に読むとこうなりました。

前話でなのはがやったことは、誰かに凶悪なカースをかけられないように事前にちょっとしたカースをかけておくという「おまじない」です。
もしもあなたに仲の良い暗黒神官がいるのなら、足の小指などにクリップルをかけてもらっておくことで クリップル→頭 などを防ぐことが出来るかもしれません。



[40369] レプラコーンの涙
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/11/02 14:50
 ファラリスおじさまへ

 どうにか大人の体にも慣れたので、今度こそゆっくりとクラナガン見物をしようと考えています。
 ですが、観光名所などをめぐる前にひとつ確認しておきたいことがあったので、今日はそちらを先に済ませることにしました。
 先に済ませたい用事と言うのは、この間の騒動で最初に撃ち落としてしまった時空管理局のランスターさんのお見舞いです。
 他の人は仲間同士で助け合っていたので大丈夫だったと思いますが、あの人は地面ギリギリまで真っ逆さまでしたから気になっていたのです。デバイスの緊急処理で、落下速度制御が働いていたようだったので大丈夫だったと分かってはいるのですが、それでも気になりますから。
 お見舞いに行くのなら、相手がどこにいるかわからないと話になりません。
 そこで、街の局員の方に話を聞いてみたのですが、当然ながら教えてくれません。どうしようと考えていたところで、ウチの頼れる使い魔が「もう退院して家に戻ってるみたいだよ」ってランスターさんのことを調べてきてくれました。どうやって見つけたのかは教えてくれませんでしたが(ケチですね)、ありがたいことには違いありません。ゼリーにはお世話になりっぱなしなので、今度何か買ってあげようと思います。
 ティーダ・ランスターさんは、現在は官舎で静養中ということでした。ついでにたまっていた休暇の消化中でもあるそうです。
 時空管理局の中でも、危険な場所に出る仕事の人たちは急な呼び出しなどもあったりするのでなかなかお休みが取れないそうなのですが、そういう場所で働くためには魔法の力が必要です。その魔法を使うためには魔力が要るのですが、ランスターさんは魔力ををつくっているリンカーコアという器官が本調子ではないということでお休み中なんですね。
 バンカーバスターみたいな砲撃魔法が純粋魔力設定で直撃すると、威力によってはリンカーコアなどに影響が出ることもあるそうです。射撃魔法は弾かくが目に当たったりすると危ない時もあるそうですし、やっぱりミッド式魔法ってちょっと危ないのかもしれませんね。
 その点、おじさまの暗黒魔法は安全安心です。実際、ランスターさん以外の人たちはケガも後遺症もなかったそうですし。
 幸いなことに、ランスターさんの具合は時間が経てば自然に治る程度だったらしいので一安心です。場合によっては治療したほうがいいのかなって考えていましたから。
 自分でやっておいて治すところもないのにお見舞いというのもアレなので、顔だけ見て帰ろうとランスターさんが住んでいる官舎の近くまで行ってウロウロとしていたところ、妹さんらしい女の子と遊んでいるランスターさんの元気そうな姿を見ることができました。
 いつまでも人さまの家族団らんをのぞいていても仕方がないので、少しだけその様子を確認してから帰って来たのですが、帰り際にチラリと見た妹さんの表情、というか目が気になっています。どこかで見たことのあるような、懐かしいような悲しいような、そんな目でした。

 そういえば、ランスターさんたちは水鉄砲で銃撃戦ごっこをしていました。管理世界では銃やロケット弾やミサイルみたいなものは質量兵器と呼んで使用禁止になっているらしいのに、子供用のおもちゃがあるのはなんでだろう? と気になったので調べてみたのですが、時空管理局ができる前は普通にそういうものも使われていたそうです。そのころの名残で拳銃型のデバイスなんてものもあるみたいですね。
 
   高町なのは   


 わたしのおじさまへ

 ミッドチルダは首都クラナガンのある中央部と、その東西南北の四方向の五つの地域に分けられています。
 そのうちの南部地域にアルトセイムという緑豊かな土地があります。ここにはなんと、プレシアさんが昔に暮らしていたというものすごく広い土地があるのです。
 なんでこんなことを書いたのかと言いますと、実は現在「時の庭園」はそのアルトセイムに戻ってきていまして、今日はそこでお世話になってしまっているからです。
 お母さんからわたしが旅に出たことを聞いたプレシアさんが先回りしてミッドチルダで待っていてくれたみたいでして、なんだか母にはかなわないって感じです。わたしの行動なんてお見通しなんですね。
 修業の旅に出たはずなのに知り合いのお家に厄介になっていてはダメなんじゃないかって気がヒシヒシとするのですが、最近野宿も多かった身ではフカフカお布団と大きな風呂、それからプレシアさんの料理に抵抗できるはずもありません。
 今日は仕方がありませんが、明日にはきっと、たぶん出られるはずなんです。
 それからプレシアさんが届けてくれた はやてちゃんの手紙を読みました。
 バカって言う方がバカなのです。でも、わたしのことを耳とシッポの毛が抜けるほど心配してくれてるなんてって、ちょっとだけじーんと来てしまったことはタヌキさんには秘密です。先日のランスターさんたち兄妹の姿を見たせいなのか、プレシアさんのせいなのか、両方なのかわかりませんが、なんだかお家に帰って思いっきり甘えたい気分になってしまいました。とりあえずハカセをぐりぐりしないといけませんし。
 いいえ、ダメです。まだ何も結果を出していないのに帰るだなんて、そんなではホームシックになったみたいで、はやてちゃんに笑われてしまいます。
 お母さんのシュークリーム、お父さんのコーヒー(砂糖はいっぱい)、お姉ちゃんのたまにきずな料理、お兄ちゃんの……お兄ちゃんのなにか。ローウェルちゃんは元気にご飯を食べているのでしょうか? 足の治ったころから、はやてちゃんにもライドオンできるようになりましたけど、えんりょしてたりしないでしょうか?
 そんな感じで、いろいろととっても気になりますが帰りません。
 わたしはやると決めたらやる子なのです。
 今、そう決めました。
 なのにわたしを家に帰そうと、プレシアさんが親の気持ちとかそういうことをこんこんと語ってくるのです。プレシアさんはアリシアちゃんのことだけ考えていてくれればいいのです。確かに心配をかけているのだろうなって思いますが、これは必要なことなのですよ――たぶん。
 
   いつもおじさまがいてくれるから 強気のなのは


 めがさめて
 ファラリスさま

 はじめて声をかけてくださったときのことをおぼえていらっしゃいますか?
 わたしはあのときのことをずっと忘れません。それで久しぶりにあのころの夢を見ました。
 あのときおじさまが声をかけて下さらなかったらわたしはどうなっていたのでしょうか? 想像したくもありませんが、たぶんあのさみしかった時間がずっとずっと長く続ていたのだろうと思います。
 なんで急に昔の夢をみたのだろうって考えたのですが、それはおそらくあの子の瞳のせいでしょう。
 あの子は昔のわたしに似ていました。
 朝におびえてたころのわたし、お父さんが家にずっといてくれるから風邪が治らなければいいなって思ったわたし、家族が傷つくのは嫌だけれど、それで役に立てて喜んでもいたわたし。
 はやてちゃんのときも、ローウェルちゃんのときもそうでしたけど、またなんです。
 余計なお世話かもしれないけれど、どうにも気になって仕方がない。
 だから少しだけ、少しだけ寄り道。
 あっ、プレシアさんに呼ばれました。朝ごはんみたいです。
 
   あなたを信じる 高町なのは


 ティアナ・ランスターはお家でひとりさびしくすごしている普通の女の子でした。
 お父さんもお母さんも、ティアナが生まれてすぐに亡くなっているので顔も覚えていません。
 ティアナの家族はお兄さんのティーダさん一人だけです。ティアナはお兄さんが大好きで、お兄さんもティアナをとても大事にしてくれます。
 ですが、お兄さんは働かなくてはいけません。生活のため、夢のため、お兄さんは仕事に出かけなくてはいけないのです。
 お兄さんの仕事は忙しくて、帰りがとても遅くなる日も多く、泊まり込みになってしまって帰ってこない日もときどきあります。それでも、いい子のティアナはお兄さんが帰ってくるのをじっと待っているのです。
 そんなある日のこと、ティアナのところへ「お兄さんが撃墜されて病院へ運ばれた」と連絡があったのです。ティアナは大あわてで病院へ向かいました。
 そして、息を切らせてお兄さんの病室へとかけこんだティアナが見たものは、看護師さんを口説こうとしてる兄の姿でした。いろいろと言いたいことがあったティアナですが、それをグッとおさえこん兄の無事を喜びました。
 詳しく話を聞けば、お兄さんは魔力ダメージでノックダウンされただけで、砲撃魔法が直撃したことでリンカーコアに強烈な負荷がかかり数日間魔法が使えないかもしれないが、その後は何も問題なく治るだろうという程度のものだったので安心です。
 それから数日間は、ティアナにとってとても幸せな日々でした。いつもはなかなか家にいないお兄さんが、一日中ずっと相手をしてくれるのですから、お兄さんが大好きなティアナは嬉しくてたまりません。
 それはもう、ずっとこんな日が続けばいいのにと思ってしまうほどに。
 ティアナから聞いた話は大体こんな感じでした。
 家族の役に立ちたいけれど、まだ何かって言うほどのことはできなくて悔しい思いをしていることとか。お兄さんがまたケガをしたらいいなって思ってしまって自分がイヤになったこととか。少し似ているなとも思いますが、ティアナの方がわたしよりもずっと辛い想いをしてきたのだと思います。
 それでも、はやてちゃんや、ローウェルちゃんとお話したこともあるわたしですから、ちょっとくらいはティアナのことがわかるつもりです。
 最初に声をかけた時はすごく警戒されてしまいましたが(仮面が怪しいからだと思います)、だんだん仲良くなれて、帰るころには呼び捨てで呼んでもいいって言ってくれたんですよ。
 正確には「ちゃん付けは、なんか嫌」とかだったような気もしますが、わたしはあんまりひとを呼び捨てにすることが無いので、すごく新せんな気分になれました。


 ファラリスおじさまへ

 今日もティアナと遊んできました。遊びの内容は魔法の練習です。
 暗黒魔法でも、ミッド式魔法でもそうですが、魔法の練習って楽しいですよね。使っているだけでなんだかワクワクしてきて仕方がないのです。
 転んでりむいたティアナのひざを魔法で治したら、「魔法を教えてほしい」って頼まれました。昨日も今日もちょっとそっぽ向いた感じで(照れ屋なのです)、ちょっとつんつんした感じのことを言う子だったのですが、そのときはまっすぐにわたしの目を見てきました。
 「兄さんがケガしたときに治せるようになりたい」だなんて、そんなことを言われたらはりきって教えるしかありません。はやてちゃんに教えた経験を活かして、今日は一日字の練習をしました。おじさまに手紙を送るやり方も教えたので、そのうちティアナから手紙が届くはずですので、楽しみに待っていてくださいね。
 帰りぎわ、ティアナがわたしのそでをつまみながら、でも目をそらしながら「明日も来てくれますよね?」って――もうかわいくてかわいくて、思わずローウェルちゃんのときのようにお持ち帰りしそうになってしまいました。

   久しぶりに先生の 高町なのは




『はかせのスペルコレクション』

〇メズマライズ:6レベルの暗黒魔法。射程30mで持続時間は3分間。相手を催眠状態にして能動的な思考ができない状態にした上で、術者の言いなりにしてしまう。判断を必要としない簡単なことしかさせられませんし、直接自殺(自分に攻撃)させるような命令はできません。目標数・距離・持続時間・達成値の拡大が可能。


 男は数人の従者たちとともに目の前のスクリーンを眺めていた。そこに映し出されているのは、管理局の首都防衛隊などから逃走する一人の少女の姿だ。
 男たちが見守る中、空を飛んで逃げ回る少女の頭に一発の魔法の弾丸が命中した。弾丸は少女の強固な防護魔法によって防がれ、さして痛手を与えたようにも見えなかったが、この一発が状況を大きく変化させた。
 これまで防衛隊から逃げ回るだけだった少女が、これを切っ掛けに目の色を変え、反撃に転じたのだ。
 砲撃魔法が空に桜色の軌跡を残す。それは弾丸を放った管理局員が咄嗟に展開した防御魔法、防護服を易々と貫通して一撃で戦闘不能へと追い込む。墜落する者と、それを救助しようとして追跡から外れる者、まず二人が脱落した。

「発射速度、威力ともにディエチのそれを上回っています」
「続けてくれたまえ」

 従者の解析報告を男は軽く聞き流す。画面の中では防衛隊だけでは厳しいと判断されたのだろう、管理局内で俗に「空」と呼ばれている航空武装隊が包囲網に参加して来ていた。事件に際して対応が遅いなどと批判を受けることの多い管理局であるが、さすがに地上本部のお膝元であり、管理世界の中心地でもある首都クラナガンだけに反応が素早い。
 駆け付けた十数人からの武装隊員からの一斉射撃。並の魔導士が相手ならば過剰とも言える攻撃であるが、それが通用していない。少女とその肩に乗る猫の使い魔は恐ろしく強固な守りを持っていた。それは、例え一斉に打ち込まれる射撃魔法の数が千を超えても耐え切ってしまいそうなほどだ。
 砲撃に続いてこれもそれなりに興味深いデータではあるが、男が本当に見たいのは、この次の場面だ。

「武装隊員十五名、行動停止」

 少女の口が何事かを呟いたかと思うと、一瞬だけ青い輝きがその手の杖から漏れ出し、次の瞬間には武装隊の隊員隊はその場で呆然と浮かんでいるだけとなっていた。その口は半ば開かれ、目も何処を見るのか定まっていない様子。
 新しく増援にやってきた隊員たちもかけつけてくるが、次々と同様の状態となって無力化されて行く。
 ここから武装隊は捕縛結界の強化と、散開戦術に切り替えて対処してゆくのだが――そこには男の興味はあまりない。

「暗黒神への祈願。催眠の呪文のようだね……面白い。実に面白い」
 
 男は目を光らせて、少女が暗黒魔法で武装隊を蹴散らす勇姿を見つめていた。


 魔法の中には人の精神を操るものがいくつも存在している。混乱、眠り、魅了、忘却、その効果は様々で心の働きの数だけあると言っても良いだろう。
 メズマライズはその中では‟比較的„大人しい部類になるかもしれない。なにせこの呪文でできることと言えば、相手の思考力を奪い、判断が必要のない程度のことをさせるだけといった程度で、その効果も数分で消えてしまうのだから。
 攻撃的に使うとすれば、せいぜいが鉄の鎧を着た相手に「そのまま沼地の中へと歩いて行け」と命令したり、魔法で空を飛んでいる目標に「飛行魔法を解除しろ」と言ったりするくらいだろうか。そんな回りくどいことをするくらいならば、心無い魔術師は己の手で止めを刺してしまいそうなものだが……。
 もちろん、全ての魔法には思いもよらない使い方があるものだ。どうか、その方法を見つけた者が心ある術者であることを願う。
 



〇レプラコーン:混乱の精霊。悪戯好きであり、寂しがりやでもある。彼らは孤独を嫌うからこそ悪戯で混乱を発生させて人に構ってもらおうとしているのかもしれません。つまりツンデr

〇転送ポート:管理局員は配属先が家からかなり遠方だったりしているようですが、あまりそのあたりが問題になっている様子はない。レックスからケイオスランドまで通勤していた人がいたように、ミッドでもおそらくゲートが各地に設置されていて、それを利用しているのではないかという予想(アルザスやアルトセイムみたいな田舎は除く)。

〇教導:おしえみちびくこと。神官や僧侶の通常業務。 なのはがティアナを教えるのは原作通り、ミ(ラ)-ジュさんがティアナを導くのも原作通り、なにももんだいない。



[40369] ミラー・デーモンの仮面
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/11/03 00:44
 ファラリスおじさまへ

 ティアナへの授業は順調です。頭の良い子なので字を覚えるのはとても速いですし、慣れた今ではわりと素直に言うことも聞いてくれています。
 ただ、ティアナの声がおじさまへと届くかどうか、その耳がおじさまの声が聞こえるのかどうかは、わたしが関わることの出来ることではありません。どうにかやり方を説明しようとしてはいるのですが、おじさまの方から声をかけていただいたわたしでは、最初のきっかけを上手く説明することができません。
 わたしにできることは、ただティアナに啓示がありますようにと、こうしておじさまにお願いすることだけです。
 それから、よくばりなティアナは癒しの呪文だけではなくて、ミッド式の攻撃魔法も習いたいと言い出しました。聞いたところでは、ミッドチルダやその他の管理世界の子供は、小さいころから戦闘用の魔法を覚えるのは普通にあることのようなのです。「市街地で飛行するのは禁止だけど、攻撃魔法を覚えるのは問題ない」ってところが、この世界の現状をあらわしているんだって、ゼリーがなげいていたのを覚えています。
 車の運転は免許がいるけれど、拳銃は誰が持っていてもいいって感じなのでしょうか? 一見平和に見える街ですが、実は結構危険なのかもしれませんね。
 よくばりティアナは魔法学校へと通ってはいるのですが、まだまだ初歩の初歩の段階なので基礎を習うばかりでなかなか射撃などの派手な魔法を教えてもらえないそうです。それで他の子よりも覚えるのが早かったティアナはつまらなかったみたいなのですが、正直なところミッド式魔法についてはティアナの方が詳しいんじゃないでしょうか?
 わたしがグレイさんたちから習ったのは、飛行魔法に、バリアジャケットに、転移に、防御魔法、それから誘導射撃魔法のスティンガー系統と砲撃魔法を二つ程度です。特に重点的に習ったのはバリアジャケットの防御力を上げることと、防御魔法についてなので、射撃や砲撃はなんとなくやってみたら上手くできたって感じで、あまり深く分かっていなかったりします。
 こうして考えるとわたしってあんまり勉強せずに魔法を使っちゃってますね。ミッドチルダ式魔法の本場の子に、よその生まれのわたしが教えるだなんて難しそうです。「これはこうやってですねー」、「先生、それ違います!」、「あ、えーと……」ってなるのが目に見えてますね。
 やっぱり、ミッド式についてはプレシアさんに相談してみることにします。プレシアさんは大魔導士なんて呼ばれていたこともあるみたいですし、それがいいですよね?

   にわか魔導士 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 わたしとティアナの密会現場をティーダさんにおさえられてしまいました! 
「わたしは誘拐犯ではありませんよ」
「いいや、怪しい。妹をどうするつもりだ」という冗談のようなやり取りの後で、かなり長くお話をしました。
 お兄さんとしては、大事な妹が仮面をとらないような怪しい人物と仲良くしているのが気に入らないのでしょう。それはもう実によくわかります。わたしだって、はやてちゃんが国籍不明のあやしい人たちと仲良くしていたりしたら、気になってしまうに違いありません。
 ティーダさんが働いていて大変だってことは理解できます。ウチのお兄ちゃんよりも年下なのに、自分と家族を養っているなんてすごく立派な人だとも思います。 
 ですが、わたしはティアナの味方で、そしてさびしい妹の気持ちの方がよくわかるのですから仕方がありません。
 生活がかかっているから、働かないといけない。
 その上でティーダさんが自分自身の夢を追いかけたいと考えていることも、止めようとは思いません。誰だってやりたいことをやって悪いなんてことはありませんから。
 でも、その陰でさびしい思いをしている子がいるってことも覚えておいてほしい。なんてそんなことを言ってしまいました。
 よそ様の家庭の事情に首を突っ込んで、何を偉そうなことをいっているのでしょうか、わたしは。姿だけは大人になったからって、ちょっといい気になりすぎてるような気が今になってしてきます。なんだか、すごく恥ずかしいですね。
 自分と重ねてしまって、ついつい熱くなってしまったんです。自分で自分にサニティをかけていれば良かった。
 ただ、まぁ、そのおかげなのかどうなのか、ティーダさんと少し仲良くなれました。「今度、ティアナも連れて三人で食事にでも行きませんか?」って誘われましたし。
 それで、元々はクラナガンを見て回ろうと考えていたのに、全然やっていなかったことを思い出して話したんですよね。そうしたら一緒に遊びに行こうって言ってくれて、ティーダさんを撃墜したのはわたしなのに、いい人ですよね。いえ、変装してるんですけどね。

   楽しみな あなたのなのは


 ファラリスおじさまへ

 今日はミッドチルダ東部にある「パークロード」と言う遊園地(?)みたいなところへ行ってきました。
 わたしとティアナとティーダさんの三人でいっぱい遊び倒して来たんですよ。魔法の世界の遊園地なだけあって、アトラクションにも魔法を使ったものがたくさんありました。
 市街地では禁止されている飛行魔法を使えるようになっている所では、空を飛べない人に補助魔法をかけて飛行体験をさせてくれる人などもいて、三人で飛べて楽しかったです。やっぱり空はいいですよね、なんだかただ何も考えずに飛んでいるだけで気分が良くなります。
 それから他には、魔法戦競技会のシステムを体験できる施設もありました。これのダメージエミュレートシステムがすごく良くできていてティアナが本当にケガをしたみたいに見えたので、ついキュアー・ウーンズで治してしまったのですが、そうしたら機械が暗黒魔法には対応していなかったみたいで誤作動を起こしてしまって大変でした。
 しかし、このシステムでよくわからないのは、体は本当にケガをしているわけではないのに、何故かバリアジャケットは脱げてゆくのですよね。ティーダさんはインターミドルの大ファンなのだそうですが、もしかしてそっち目当てなんじゃないかって疑ってしまいます。
 ウチの兄も普段はあんな顔してそういうところはアレですし、ほんとに男の人は仕方がない生き物です。でも、お父さんくらいになると何故だかそれも気にならなくなって、むしろ面白さになってしまうのはなんなのでしょうか。
 あとは、そうですね。出身地とか、家族とか、趣味とか、いろいろと聞かれたのですけれどミージュとしてはそういうのが特にないので全部「秘密です」で済まさないといけなかったのが結構辛かったですね。隠し事があるとただ話すだけなのに気を使わないといけないですし、後ろめたくもありますし、仲良くしているはずなのにそれが全部ウソみたいで。
 ゼリーが何かしきりにうなづいていますけど、この子もなにか隠し事があるのですかね? ご主人さまに隠し事はいけないと思います!
 ティーダさんにはご飯をおごってもらったり、アクセサリーまで買ってもらったりしてしまってちょっと申し訳なかったですね。 
 そうでした、最後にクラナガンで夕飯を食べたのですが、それがなんと日本の居酒屋みたいだったのです! テレビとかでみるようなそのままの居酒屋さんでした。お品書きにも日本語で書かれているところがあって、読んだら二人に驚かれました。
 日本食ブームは異世界にまで届いていたんですね。これにはびっくりとしか言いようがありませんでした。日本食ではありませんが、クラナガンに翠屋二号店とか出したら売れるのかもしれませんね。ミッドと日本で味覚もそれほど変わらないようですし。

   ご機嫌な 高町なのは

 
 ファラリスおじさまへ

 ティアナともティーダさんとも仲良くなった「ミージュ」ですが、ずっとこのままというわけにも行きません。
 本当のわたしは高町なのはで、今は少し旅に出ているだけで、待たせている人がいて、帰る場所があるのですから。
 ティーダさんは「ずっと居てくれてもいいんですよ」なんて言ってくれますが、その言葉に甘えることもできませんし、連絡先を教えることもできません。
 ティアナと話すたびに心がズキズキと痛みます。仲良くならなければこんなこともなかったのでしょうが、わたしはこの状態をずっと耐えて行くことができそうにありません。なんだか自分の根性なし具合がイヤになります。
 耐えられないのなら、もう会わないようにするか、本当のことを言うかなのですが、どっちかを選んでも結局は同じことなのでしょうね。仮面なしではティーダさんに会わせる顔がありませんし、ティアナにだって、ずっとだましていたって嫌われてしまうでしょう。だからって何も言わずに居なくなってしまうのもそれはそれでイヤですし、ウソをついて会わなくするって言うのも、これもまたなんだか……わがままなことを書いていますね。
 嫌われてしまうのは仕方がないにしても、せめて一人ぼっちなところをどうにかしてあげたいのですが、名案が浮かんできません。お金はたくさんあるので、それを上げれば働かなくてもいいのでしょうけど、それでは執務官になるというティーダさんの夢はかないませんし、本当にどうしたらいいのやら。
 なんだかゼリーがいやに甘えて来ますけど、どうしたんでしょうね。猫はかわいいので癒されますけど――猫の肉球はこの世の至宝です。

 こんなダメダメなことを書いてしまって、ごめんなさい。今日はゼリーになぐさめられながら眠ることになりそうです。

   ダメダメな 高町なのは




〇飛行魔法:重力のくびきから自由になる、と書くとファラリスっぽいかもしれません。

〇精神抵抗について:地球の裏関係の方々は、幽霊やら妖怪やら超能力者と関わることもあるのでやり方を知っているでしょう。それから管理局の魔導士も、ロストロギアやドラゴンなどの怪物と関わることもある海の魔導士は出来るでしょう。地上部隊のみなさんは古強者な人が知っていて、必要な事態に遭遇したときに新人に教えていそうなイメージがあります。
魔法に対する抵抗のやり方は、「剣の国の魔法戦士」でローンダミスさんが、要は気合いだ、と言っていた覚えがあるのでそこまで難しいことでもないのでしょう――やり方を知っているからといって抵抗出来るかと言うと、それははまた別問題ですが。

〇無限の魔力:ファーラムの剣で干上がったようなので正確には無限ではないのでしょうが、古代語魔法でどれだけでも拡大可能と考えると本当に恐ろしい。「デス・クラウドを半径5キロに拡大します」とかが出来るってことですから。



[40369] 間奏『名探偵ティーダ』 
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/12/29 12:49
 
 ティーダ・ランスターは、コンビを組んでいる同僚とともに本日の報告書を作成していた。
 戦うための魔法も、そのための訓練も、前線の仕事を外れれば必要ではなくなる。だが、デスクワークだけは陸だろうが空だろうが海だろうが、医局だろうが事務屋だろうが人事部だろうが付いて回るのだ。
 これが素早く出来るかどうかで、仕事の終わりも相当に変わる。

「終わった」
「ティーダさん相変わらず速いですね」
「早く帰って妹の面倒見ないといけないからな」
「六歳でしたっけ? 妹さん」

 同僚の問いに軽く頷いて答えると、ティーダはいそいそと帰り支度を始める。同僚の目からは、最近のティーダは特に帰りを急いでいるように見えた。

「なんか、最近は特に急いでますよね?」

 同僚の口調に少しばかりの不満を感じたティーダは、別段仕事を疎かにしているわけではないが、たしかに近頃は周りとの付き合いが悪かったかと思い、その理由を話すことにした。
 
「昼間、妹の面倒を見てくれてる人がいてな」

 少しばかり自慢げなティーダの声に事情を察した同僚は、人差し指でデスクを軽く叩き。

「女ですね?」

 質問に「おう」ティーダが軽く返すと、同僚は「シスコンのくせに……」と舌打ちをしてきた。

「まぁ、別に付き合ってるわけじゃないんだけどな。ただ、あれだ、遊びに誘ったらエライ嬉しそうにしてたし。それで、一緒にパークロード行ったら子供みたいにはしゃいで、これがかわいい……じゃなくて、ガードがすげえ緩いわけだ。その上だぞ、その上、家帰ったら妹と一緒にメシ作ってくれてたりする時もあるわけよ」
「それ、もう完璧じゃないですか」
「だろ? 妙に世間知らずだったりするし、実はどっかのお嬢様なんじゃないかと思ってるんだが、そのあたりは教えてくれないんだよな」

 考えれば秘密の多い女性だ。
 ミージュと名乗るだけで家名は言わない。出身も秘密。いつもバイザーを着けたままで外さない。ティーダより少し年上のように見えるのに、妙に子供っぽい所があり、かと思えば魔法と武術の腕前は教導隊の連中にも通じそうな程である。その上よくわからないレアスキル持ちときている。

「それって……魔法はベルカ系ですか?」
「いや、ミッドだな」

 同僚は「ミッドなら違うのか……」かなどとブツブツ言いながら端末を操作する。やがて画面に映し出されたのはティーダでも知っている有名人の姿。
 
「たしか……聖王教会の」
「聖王オリヴィエですね。で、こっちがオリヴィエと関わりがあったんじゃないかって言われてる覇王イングヴァルト」
「で、これがどうしたんだ?」
「この二人の目を見てください」

 旧ベルカ系の人間が教会をつくって崇めている聖王は、紅と翠の虹彩異色であったと伝えられている。ティーダは覇王イングヴァルトについてはよく知らなかったが、画像を見る限りでは紺と青で微妙に違って見える。
 
「お前、なんでもかんでも古代ベルカに結びつけるのやめろよな」
「いや、でもティーダさん。ベルカの王族はこんな感じで特徴的な体質を受け継いでいるそうですし、それぞれの家ごとに武術なんかもやっていて、さらにレアスキルも独特のものを保有していたそうですよ!」

 確かに未だに時折ベルカ絡みの事件は発生しているし、それにかつての諸王たちの遺産が関わってくることも多い。血筋によってはそのせいで事件に巻き込まれることもあるらしく、隠れ潜んでいるかつての王族たち多いとは聞いたことがある。
 が、このティーダの同僚は単純にベルカマニアなのだ。「休日をつぶしてまで、無限書庫に入り浸ったりしているから女っけがないんだよ」と常々言っているのに聞く耳を持たない。それでいてティーダがその手の話をすると「なんで僕はモテないんだ」などと不満を言い出すのだから始末に負えない。

「ベルカの王族の体質は血で薄まらずに受け継がれやすいんだったか? なんか前に言ってたけどよ。ミージュさんは黒髪だ、少なくともこの二人とは関係ないだろ」
「黒髪!? こ、これを見てください!」

 ベルカマニアが鞄から取り出したのは、「伝説のフォーセリアを見た!」だの「闇の書悲恋伝説」だの「ミッドチルダに埋もれた古代の戦船」だの眉唾物の話ばかりが載っている、いわゆるトンデモ本の類だった。何度かこの手の代物を読まされたことのあるティーダは正直ウンザリしていたが、一応最近は付き合いが悪かったしなと手に取ってみた。

「えーなになに、ゆりかごの聖王に愛人発覚!? 侍女の日記に記された謎の人物……ふんふん」
 
 割合面白そうではあった。
 記事の内容としては、聖王オリヴィエに仕えていた侍女の日記と‟思われる”代物が最近になって発見され、その中には聖王が旅の途中で出会った黒髪の少年エレミアと床を共にしている姿を何度か見かけたなどと書かれていた、といったものであった。
 
「聖王と謎の黒髪少年エレミアとの間には子供がいたんですよ! そのミージュさんでしたっけ? その人は聖王の関係者に違いありませんよ!」
「アホらし……」

 興奮して騒ぎ立てる思い込みが激しく、ついでに冷めやすいというよくわからない同僚を放置して、ティーダは家路につくこととした。




〇同僚の名前は、ヤマモトさん。とんでも本愛好家。

〇体は大人、頭脳は子供、その名は――。「秘密は女を女にする」ってセリフをとある小学生探偵漫画で見た覚えがあります。
ティーダさん17歳、すでに働いているので日本の高校生よりは大人でしょうが、それでも立派な青春真っ盛り。年上のミステリアス美人(見た目は美沙斗さん19才バージョンを基本としています)かと思えば、妙に子供っぽい上に世間知らず(中身は子供で管理外世界人)のギャップ、ついでになんだかガードが甘い(お子様ですから)、その上結構な世話好き。
そんなつもりは全くなく書いていたのですが、17の健全な男子が気にしない方がおかしくないか、これ? となったのでショウガナカッタンデス。

〇魔力の塔:大地と大気の魔力を収集して蓄え、それを額の宝石を介して各魔術師に供給していたということなので、なんとなく「ダム」のイメージでした。使いすぎて一時的に干上がったところに蛮族が押し寄せて来て滅亡したのかと。ですが、ドライヤーの負荷に耐えきれなくてブレーカーが上がったという考えも納得です。拡大についてもフォルテス氏が負けていたりするので、大したことは出来なさそうなイメージもありますが、同時に古代王国人が「神狩り」をするほどのぼせ上った原因でもありますから、ロードス島を大陸から千切ったりした神々よりも上だと錯覚するほどの何かもあったのかなと考えています。ミルリーフの件もありますしね。
 前にちょっと書いていますが、リンディさんやプレシアさんが魔力炉から魔力供給を受けて強力な魔法を使えるのはこの技術が基になっている‶かもしれない〟、という程度の設定となっております。
 魔力の塔が大気中の魔力を集める姿は、劇場版1stのスターライトブレイカーの魔力収束シーンみたいなのだろうかと妄想。

〇ジュエルシード:全威力の一万分の一の解放で小規模次元震を発生させ、複数を同時に暴走させれば多数の次元世界を飲み込む次元断層を引き起こす。などと言われていた割に、Stsでは横流しされてガジェットの中に放り込まれていたりと扱いがぞんざい。お蔭で気楽に扱えますが、ドクターはうっかり暴発していたらどうするつもりだったのだろうか? 



[40369] 瞳輝ける夜
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/11/07 01:16
 ベルカ自治領の宿にて
 ファラリスおじさまへ

 ティアナを連れて聖王教会を見てきました。
 もちろん聖王教を信じようとかそういうことは全くありません。ただ、去年の手紙に「アレクラストの音楽」という本の内容について書いたことを、おじさまは覚えていらっしゃいますよね。
 そうです、あの聖王国という国の音楽家がおじさまの悪口を散々に書いていた本です。「聖王国」なのですから、そこの王様はきっと聖王と呼ばれていたのではないでしょうか? アレクラストの聖王国とベルカの聖王は、きっと関係ないのでしょうけれど、似たような名前であることは確かです。そのせいで聖王教会などの名前を聞くと、あの悪口を思い出してしまうのです。
 そういうこともあったので、わたしはこれまでミッドチルダ北部にあるというベルカ自治区に足を運ぶことはありませんでした。思い出すだけでも、サニティが必要になってしまいますから当然ですよね。
 ですが、昨日ティーダさんからちょっと面白い雑誌を頂きまして、それを読むと聖王という人も大変な苦労を重ねていたようでした。それで、嫌いなものと名前が似ているだけで、よく確かめずに嫌っている、というのもよろしくないのかなと思い直したわけです。
 お母さんも「好き嫌いがあるのは仕方がないけれど、喰わず嫌いはもったいないわよー」って言っていましたから、やっぱり何事も一度くらいは確認してみた方が良いのかもしれませんね。

 ベルカ自治領は石造りの建物があったりして、どこか、冬休み明けにすずかちゃんに見せてもらった、写真の中の古いドイツの街並に似ていました。すずかちゃんの家はあちらの方にも親戚が多いみたいでして、春夏冬の休みには遊びに行ったりしているそうです。すずかちゃんの友達のバニングスさんは、お父さんの会社がアメリカにあるみたいで、やっぱり休みのときにはそちらへ行っているそうです。
 聖祥の子はやっぱりお金持ちが多いみたいです。でも、ウチも負けてません、連休には世界と世界の間の空間に遊びに行きましたし!
 聖王教会の建物は信者でなくても見学可能になっていて、半分ぐらいは観光名所みたいになっていました。日本だと京都のお寺みたいな感じなのかもしれません。
 見るところが結構あったので、今日はそれだけで終わってしまいました。明日は、ベルカの騎士さんたちの練習風景でも見れたらいいなと考えています。
 ティーダさんも一緒に来れたら良かったのですが、なんでも大物の犯罪者がクラナガンで目撃されたそうでして、そのせいで休日返上で大忙しなのだそうです。詳しいことまでは教えてもらえませんでしたが、管理局が大あわてになるような犯罪者って、どんな凶悪な人なんでしょう。
 
   いつまでもあなたを信じる 高町なのは

 追しん
  お土産屋さんで木剣を売っていました。こういうのを見ると、ウチにはもうたくさんあるのに、修学旅行のお土産にわざわざ木刀を買って来たお姉ちゃんのことを思い出してしまいます。


 ファラリスおじさまへ

 なんだか妙に話のわかるシスターさんがいました。ニノという名前のそのシスターさんとは、聖王教会の中心地と言っていいのかわかりませんが、昔々の聖王本人の遺品をまつっているという教会で出会いました。きっと、大人の女っていうのはああいう人をいうのでしょう。なんだかとってもそんな雰囲気のある人でしたよ。
 わたしたちが教会の建物をキョロキョロと周りを見渡しながら歩いていたら、ニノさんの方から声をかけてきて、簡単なあいさつの後に「素敵なバイザーですね。どちらで買われたのですか?」とそんな風に聞かれたのが、話し始めるきっかけでした。
 怪しいと言われたことはあっても、ほめられたことはあまりなかったので、その一言をもらってわたしはすっかり上機嫌です。せっかくヴォルテールさんがくれたのに、プレシアさんには笑われてしまい、ティアナには最初おびえられ、と散々でしたからね。自分でもあやしいなーって思っていたことは内緒にしてください。
 正直に竜にもらいましたなんて言えば、トラブルになりそうな気がしました。かといって、上手いウソも思いつきません。なので結局、「秘密です」と短く答えることしかできませんでした。
 そんな返事しかできなかったのですが、ニノさんは気分を悪くした様子もなく、そのまま何故だか一緒にお茶までしてしまいました。あの人が勧誘したりするとすごいんでしょうね。なんだ、かんだと理由をつけようとしたのですが、結局断れなくて、気づけばずいぶん長話をしていたんです。

 よその神さまに仕えている人とあんなに話したことは無かったので、ちょっと新せんでした。
 わたしはおじさま以外にお祈りするつもりはないので、近所の神社の巫女のお姉さんとは上手く話すことが出来ませんでした。そのせいなのか、神社のキツネさんとは仲良くなれなかったんですよね。やっぱり、飼い主さんと微妙な関係だとなついてくれないみたいなんです。ローウェルちゃんとは仲良さそうだったので、ちょっとうらやましかったり。
 
 話の中で、どういう流れでそうなったのかは覚えていないのですが、ウソをつくことや、隠し事をしていることについてどう思うかって話題になったのですが、わたしはそれに上手く答えることができませんでした。今まさにそのことで悩んでいるところですから。
 わたしのそんな悩みはニノさんに見抜かれてしまったようでして、「もしよければ相談にのりますよ」って連絡先まで教えてもらってしまいました、なのにこっちからは教えられなくて、いろいろと複雑な気分です。
 おじさまの神官をやっているのに、あんな風にひとの悩みを見抜いたり、相談にのったりなんてできそうにありません。自分のことだけで精一杯なわたしは、まだまだ子供なんだなって否応なく実感させられました。
 
   高町なのは


 おじさまへ

 今日はとにかく空を飛びたい気分だったので、ミッドチルダの市街地以外の場所をずっと飛び回って来ました。街の近くを飛んでいる管理局の人がうるさいので、見下ろす景色は山や森がほとんどでしたが、広い空とそんな自然の風景のおかげで心が癒された気分です。
 南部のアルトセイムから飛び始めて、北へ北へと向かってベルカ自治領を越えたあたりで折り返し、今度は南へ南へと飛び続けてみました。当たり前ですが、雑誌に書いてあったような古代の遺跡は見つかりませんでした。空から見てわかるのなら、とっくの昔に誰かが見つけてるはずですから。
 そういえば、飛んでる途中でカメラの付いたカプセル型の機械みたいなものに追いかけられました。あれは時空管理局の無人監視機械かなにかだったのでしょうか? あの辺りは、飛行禁止区域では無かったはずなのですが、もしかしたら保護動物か何かがいる場所だったのかもしれません。実はあそこが「魔女の旅行記」に出てきたような、ユニコーンがいる森だったりしたらビックリですね。
 今日は仮面を着けていない、本当の「高町なのは」だったので、仮に写真を撮られていても問題ないのが悲しいところです。首都のクラナガンでは、街の人にもあの時の映像を撮られていて、ちょっとした(悪い意味での)有名人になってしまっていますから――今さらちょっとぐらい疑われたって同じなんです。

   蜃気楼のミージュ


 ファラリスおじさま

 ティーダさんに例のロボットの映像を見てもらいました。もちろん、わたしの姿が映っていない所だけですし、記録したデュランダルではなくて、ミージュのときの使っている量産品のデバイスに映像を移してから見せたんですけれど。
 ロボットを見たティーダさんによると、時空管理局であんな物を使っているなんて話は聞いたことが無いそうです。
 と言うより、あのロボットは管理局の法律的には違法なんだそうです。カプセル型の真ん中あたりの目みたいなところから撃って来ていた、レーザー光線のようなものがダメなんですね。それなのに、プレシアさんの傀儡兵が装備していた大型魔力砲はオッケーなのですから、管理世界の法律は難しい限りです。
 管理局の監視ロボではないとすると、あれは何だったのでしょうか? 「森の中に出現した謎のロボット軍団! その正体は一体なんだ!?」って書くとあの雑誌の見出しみたいですね。

   なんだか冒険の予感です あなたのなのは




『なのはのモンスターコレクション』


〇バンパイア:モンスターレベル10~

 広域指名手配の次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ。
 生命操作、生体改造、機械技術、古代遺失技術の復活、そして未だ表に出てきていないだけであろう数々の未知の技術、彼によって世に出た技術は数知れず、犯罪者でさえなければ間違いなく「歴史的な天才技術者」として栄誉をほしいままにしたであろう人物である。
 そう、彼は天才と狂人の境界を越えてしまった狂える科学者なのだ。
 そんな彼には多くの謎がある。
 彼の出生地、学歴などは一切不明であり、管理外世界の出身者ではないかとも言われている。ジェイル・スカリエッティという名も、本名なのかどうか怪しい。
 新暦50年以前から活動していた記録が存在しているのに、未だ容姿が若いままであることについては、変身魔法を使用しているのではないかと考えられているが、管理局の検知システムではその確認が取れていない。これもまた、彼の開発した新技術によるものなのであろうか。
 彼は、たしかに捕らえたと思っても、いつの間にか霞のように姿を消してしまうと言われている。さらに、ある管理局員などは、彼が確かに死んだと思われる場面を見たと証言しているのだが、その後も活動が確認されていることはご存知の通りだ。
 欲望と興味の赴くままに技術を開発し、それが与える影響を考えもせず世にばら撒く。捕縛しても消え失せ、魔法を封じた牢に入れても意味が無い。首を落とされ、断崖から落下しても一月後にはその姿が別の場所で確認される。
 そんな次元犯罪者なのだ、ジェイル・スカリエッティという男は。


「やあ、管理局の諸君。こんな夜更けに、いやもうすぐ夜明けかな? まぁとにかく、毎度ご苦労だね」

 管理世界の中心たるミッドチルダ、その首都を堂々と歩く広域指名手配犯の姿が目撃されたのはつい先日のことだった。管理局地上本部を預かる者たちが、それに激怒したことは想像に難くないだろう。
 完全になめられているのだ。一般市民は気づいていないようだが、これを捕らえられずに放置したとあっては、「陸(おか)」の威信など無いも同然となる。
 怒りに満ちた本部の指示を受けた首都の警備部隊は、この三日間で四度スカリエッティを発見し、四度逃がした。上司からは激しく叱責され、犯罪者からは嘲笑されることの繰り返し。
 そして五度目の邂逅。普通の犯罪者が相手ならば、隊員たちの心には怒りと憎しみが湧き上がっていた場面だっただろうが、ことジェイル・スカリエッティが相手ではそれは無い。隊員たちにあったのは、ただひたすらの「恐怖」だ。

「どうしたんだね? 犯罪者を見かけておきながら見逃すなど、職務怠慢の給料泥棒と言われても仕方がないと思うのだが……」

 スカリエッティの目が赤く輝く。それだけで局員たちの心は恐怖に支配され、その身体はピクリとも動かせなくなる。
 もし、目の前の犯罪者がその気になれば――彼らは抵抗も出来ずに皆殺しになるだろう。いや、死ねるのならまだ幸いか。生命操作、生体改造の禁忌を冒すことを厭わない目の前の化け物に捕まれば、局員たちは死ぬことも許されない実験動物となるかもしれないのだ。

「そちらの仕事をする気がないのなら丁度いい。少し聞きたいことがあるのだよ。君たちは、この少女について何か知らないかね?」

 化け物の青白い手が、懐から一枚の写真を取り出す。そこに写っていたのは、先日武装隊までも投入しながら逮捕することの出来なかった、飛行禁止違反の「軽犯罪者」だ。
 先に攻撃をしたのが局側であること、見た目どおりの年齢であるのなら法令についての理解が足りていない可能性があること、最初の一撃以外は局員が怪我をしないように手加減されていたこと、その最初の砲撃にしても魔力ダメージのみであったことなどから、たまたま近くに居合わせた「海」の高官がそのように扱うべきだと「陸」の事件に介入してきたのだ。
「高い資質をもった魔導士に温情を見せて取り込む、お決まりのやり口だな!」と、地上本部はこれにも非常に不機嫌であったが、子供一人にいいようにしてやられたなどという、陸の恥をあまり大きく広げたくなかったので、この海側の意見を入れることとした――それによって余計に機嫌が悪化したのは言うまでもない。

「その子をどうするつもりだ!?」

 化け物が答えを聞くまでの一時だけ、赤い瞳の輝きから逃れることを許された隊員が声を上げた。
 自分たちがいいようにしてやられた相手とはいえ、スカリエッティに目をつけられているらしい少女は、まだ十歳前後のようだった。そんな子供をどうするつもりだと、まさか生体改造の実験台にでもするつもりならば許さない、とそんな怒りの籠った声だった。

「なに、少し……死んでもらおうと思ってね」

 にたりと笑った怪物の口から、人間にはありえない牙がのぞいた。


 黄昏に目覚め、夜明けに眠る者。闇を好み、日を嫌う不死者。燃えるように赤い恐怖の瞳、血の気の無い蒼白い肌、生き血を啜る牙に、優れた身体能力と高い知性。
 ドラゴンに代表される大型な怪物たちが兵器によって打倒される時代となっても、未だ夜の闇に潜み続け、むしろ以前よりも力をつけたとさえ言われる怪物――それが吸血鬼だ。
 暗黒神の敬虔なるしもべや、その寵愛を受けた者が、死後に変じるとされるこのモンスターは、数々の強力な特殊能力を持つことで知られている。
 まず脅威となるのがその魔法だ。暗黒神の加護を受けた彼らは、例外なく高度な暗黒魔法の使い手である。暗黒魔法の脅威については今更語ることでもないので割愛させていただくが、吸血鬼と化した者は生前よりも高い知性を得るため、その魔力もまた強大なものとなっていることを覚えておくべきだろう。
 次に彼らは触れた相手の活力を奪い取る。そうして、その冷たい手によって心の火を消されてしまった者は、吸血鬼のしもべ「レッサー・バンパイア」となってしまう。
 さらにその赤い視線は、命あるものに激しい恐怖を覚えさせ、心弱い者はそのまま恐怖に囚われて動けなくなってしまう。
 また、吸血鬼は非常にしぶといことでも知られている。
 まず、通常の武器では傷をつけることも出来ない。剣であろうが銃であろうが、大砲であろうが通常の武器は一切効果が無いのだ。この特性については、それほどの脅威ではない。新暦以降、基本的に戦いの手段は魔力に頼ってるのだから、君が違法な質量兵器でも使用していない限りは問題とならないだろう。
 吸血鬼の呪われた生命は、彼らに強い再生能力と、毒も効かず病気にもならない体質、眠りを必要としない脳を与えている。
 そして、バンパイアのしぶとさを支える最も厄介な存在が、「邪な土(アンホーリー・ソイル)」と呼ばれるものだ。バンパイアは肉体がどれだけ破壊されようとも、一説ではその存在の源とも言われている邪な土さえあれば復活することが出来る。たとえ肉体の全てが崩れ去ったとしても、土のある場所で1日休めば元通りになってしまうのだ。この土の置き場所については、その重要性からバンパイアごとに違っていて、棺桶に敷き詰めるという古風な者から、自らが製作した機械人間の中に収めるという奇抜な者まで様々なようだ。

 最後に、バンパイアには有名な弱点が存在する。だが、これは今となってはあまり有効に活用することが出来ないだろう。(主に)女性魔導士の主導によって開発された、日よけ魔法のせいだ。バリアジャケットを生成する際に付属させる、太陽光による有害な効果を防ぐためのこの魔法が、吸血鬼どもに与えた恩恵は言うまでもないだろう。
 日の光の下は、最早安全な場所ではないのだ。



〇ニノさん:たくさんいる姉妹の中で、恐らく一番の苦労人。インヒューレント・スキルは変身能力『偽りの仮面』。

〇機械兵器:知能=低い 反応=命令による 
研究施設に配備されているものは侵入者の排除。外に出ているものは特定反応(高エネルギー結晶)を追尾して確保、そのために必要ならば障害を排除するよう命令されている。

〇質量兵器:マーチで行動速度を完全に揃えた二名のソーサラーが、同時に同一地点に向けて物体をテレポート→核融合で大爆発! みたいなものをどこかで見た覚えがあります。魔法を使っていればこれでも魔法攻撃扱いなのかどうなのか、管理世界の法律は複雑怪奇。小石という名の岩石をぶつける物質加速型射撃魔法スターダストフォール、こいつは合法らしいのですが……。



[40369] ゴーレムは証言せず
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/11/10 23:17
 ファラリスおじさま
 
 夜中に大きな音がして目が覚めました。
 プレシアさんのご厚意で泊めていただいている「時の庭園」は、今はミッドチルダ南部のアルトセイムに停泊しています。ここは平原と森と湖があり、少し離れたところに山が見えるとても景色のよい場所ですが、言ってみればすごく田舎です。夜中に爆発音や、鉄がひしゃげる音がするようなことは普通ありません。
 とにかく、大きな音で目を覚ましたわたしは慌てて仮面をかぶって、音のした方向へと飛んでいきました。そこでわたしが見たものは――レーザーを撃つカプセル型ロボットの大群と、それを迎え撃つ時の庭園の傀儡兵さんたちでした。
 形勢は庭園の魔力炉から魔力を受け取って、強いバリアを張ることの出来る傀儡兵さんの方が有利でした。カプセルロボットはアンチ・マギリング・フィールド(AMF)を周囲に発生させていたようなのですが、傀儡兵さんたちの攻撃は基本その手に持った大きな武器です。
 鉄の武器が鉄のカプセルを引き裂きます。謎のロボットレーザーを受けても、振り回された鉄のムチに打たれても、傀儡兵さんはひるみません。あれを人間がまともに受けたら大変なことになるのでしょうが、鉄の体を魔力炉からの魔力で満たした巨人には大したことがなかったようなのです。
 わたしも手伝おうかと思ったのですが、プレシアさんに止められてしまいました。傀儡兵さんは敵味方の識別はできるのですが、あまり周りを気にしないのでうっかりすると踏まれてしまうかもしれないそうなのです。
 確かに、あんな鉄の塊どうしがぶつかり合っているところに巻きこまれたら大変そうです。邪魔になってはいけないので庭園の奥に下がって、プレシアさんと一緒に監視カメラのようなもので見ていると、一時間もかからずに謎のカプセル型ロボットは、壊れるか引き上げるかしていなくなりました。
 傀儡兵さんは頼もしいですね。時の庭園の魔力を受けて動いているので、あまり遠くまでは出られないと言うのがネックですけど。

   これから寝なおします 高町なのは


 昨日「時の庭園」を襲って来たロボットについてですが、プレシアさんの提案でこれからは「ドローン」と呼ぶことにしました。ミッドの言葉で、無人の飛行物体をそんな風に呼ぶのだそうです。
 元々はオスのハチが由来なのだそうですが、どうしてそれが自動操縦のロボットの呼び名になるのかは教えてもらえませんでした。世の中はよくわからないことがいっぱいです。
 わたしには、どうしてドローンが襲って来たのかさっぱりわかりませんので、プレシアさんのドローンの残がい調査が終わるのを待つことしかできません。
 わたしの使うミッド式の射撃魔法はスティンガー系列で、これは「毒針」って意味があるそうなのですが、これでハチつながり――なんてことはないでしょうし、なにがどうなっているのやら。
 ドローンを操っている人の目的も、ドローンがあとどれくらいいるのかもわかりません。また襲ってくるかもしれないので、しばらくはAMFの影響下でも戦いやすいミージュの姿でいるようにします。
 ミッド式魔法で作ることの出来る魔力の剣スティンガーブレイドは、重さがないのでちょっと頼りない感じがしますが、魔法のシールドやバリア、物理装甲を貫通する性能がとても高いので、突きが得意な美沙斗さんの剣術を真似るにはちょうどいい感じです。ドローンはロボットなので少し刺したくらいでは壊せないかもしれませんが、この魔力刃は爆発させることもできるので、チクッと刺してドカン! という感じで結構上手くいくんじゃないかと考えています。
 これに衝撃波を飛ばすフォースをメインにして、剣も混ぜていけばたぶん大丈夫ですよね? 
 一番いいのはもう会わないで済むことなのでしょうけれど、なんとなくそうはならないんだろうなって感じてます。


 ファラリスおじさまへ

 ドローンについての詳しいことは、プレシアさんでもわかりませんでした。
 もっと時間をかけて調べれば違ってくるのかもしれませんが、それぐらいなら機械に関する専門家を探した方が早いだろうということです。それで、プレシアさんの提案で壊れたドローンはグレイさんのところへ送ることになりました。グレイさんとアーリアさんには知り合いが多いので、きっと専門家のあてが有るでしょう。
 時の庭園は、安全のためにミッドチルダから少し離れた高次空間に移動することになりました。転移魔法で飛んで行ける範囲なので問題はありませんが、ここに来てからのプレシアさんは表情がずいぶんとやわらかくなっていたので、それがまた戻ってしまわないか心配ではあります。
 そんな思いが顔に出ていたみたいで、「子供が大人の心配なんかしなくていい」と言われてしまいました。
 でも、プレシアさんはついこの間まで死んでしまいそうな状態だったわけですから、普通は心配しますよね? 放っておくと研究や調査が忙しいって、ご飯も抜いてしまいますし、睡眠時間も削ってしまします。プレシアさんは「自分の体調くらい管理できる」と言いますが、前科持ちだけにイマイチ信用できないのは仕方ないことです。
 それと、ミージュの格好のときに頭をなでられるのは、なんだかとても恥ずかしい気がします。大人の姿で子供みたいっていうのはどうなんでしょう。実はティアナやティーダさんにもこっそり笑われていたりするのかもしれません。
 そんなわけで、ちょっとは出来るところをお見せしようと夕飯をつくってみました。今日のプレシアさんはドローンを調べて疲れているでしょうから、いつもみたいにつくってもらうのも申し訳ないですし、よく考えるとドローンを追い払ったのは傀儡兵さんで、調べたのはプレシアさん、わたしって何もしてませんでしたね。
 
   おじさまは子供好きでしたよね? あなたのなのは


 ファラリスおじさま

 しばらくティアナに会うことができなくなりました。
 文字は教え終わっていたので、賢いティアナならあとは一人でも大丈夫だと思っても、やっぱり気になるものですね。連絡ができれば良いのですが、たぶんそれも控えた方が良いということなのでもやもやとしてしまいます。
 会いたい話したい、でもそうすると相手に迷惑がかかるので、それも嫌だ。こういうのをジレンマって言うんでしたっけ? お兄ちゃんのケガを治そうかどうしようかって考えたときを思い出します。
 肝心のことを書いていませんでしたね。
 実は今日、ティアナと一緒にいるときにドローンが現れたんです。幸い数が少なかったので問題ありませんでしたが、危うくティアナがケガをしてしまうところでした。
 何故なのか理由はわかりませんが、どうもあのドローンはわたしを追いかけてきているみたいです。その原因がわかるまで、それともドローンが出てこないようになるまでは、周りを巻き込んでしまうと困るので近くにいるわけにはいかないのです。
 アレは何が目的なんでしょうか? 
 あの日にあの森で追いかけられるてからこうなったんだって考えると、あそこには何か見てはいけないものがあったのかもしれません。そこをわたしが撮影したから追いかけられているのかもしれません。
 そうすると、あの映像のコピーを渡したティーダさんも、もしかして危ないのでしょうか? 
 それはたいへん困ります。アンチ・マギリング・フィールドはミッド式魔法しか使っていない人にはとても厳しい代物ですから、ドローンがティーダさんの所へも行ってしまったらかなり危険です。
 書いている内にすごく心配になってしまったので、プレシアさんに相談してきます。

   高町なのは

 追しん
  相談している内に良いことを思いつきました。


 おじさまへ

『謎の無人機械、東部森林地帯にも出現!』――これ、今日の新聞の見出しです。
 ドローンの映像を管理局のいろいろな部署や、新聞・雑誌・テレビの会社へと匿名で送ってみた結果とも言えます。街中に現れた時に見た人もいましたし、話題になっていてもおかしくなかったんですよね。なぜか今まで騒がれていなかったので思いもしませんでしたが。
 こっそりとティーダさんに聞きに行ったところ、前にティーダさんに渡したデータはまだ時空管理局の本局まで届いていなかったのだそうです。ミッドの地上本部だけで検討中だったそうで、よく調べてから広めるはずだった情報がもれてしまったって、ちょっと騒ぎがあったみたいですね。
 いまさらですが、わたしのことは内緒にしておいてもらって良かったです。偽物の身分ですので、詳しいことを聞かれても困ってしまいますから。
 この記事には、ベルカ時代やその後の混乱期に使われた兵器がまだ稼働していて、それが何らかの要因で外部へと出て来たのではないだろうかと書かれていました。さらに、無人機が街の中に現れるというのは危険な状態なので、近日中に目撃情報のあった地点付近を管理局が捜索するだろうとも書かれていますから、これで時空管理局の人たちがドローンをやっつけてくれれば一安心できそうです。
 
   みんなに広めてしまえば安全ですよね 高町なのは




『なのはのモンスターコレクション』

〇ラミア:モンスター・レベル=5~

 月村忍は今日も高町家に遊びに来ていた。
 体質の問題から来るコンプレックスによって、高校三年生になるまでろくに友人のいない人生を歩んできた彼女であったが、最近はその状況も変わって友人も血族以外との会話も増えた。
 それと同時に周囲からの評判は、「冷たい感じの美人だと思っていたら、実はあんなはっちゃけた人だったなんて」と好感度が上がったのか下がったのかわからないことになったが、周りはともかく、当人である忍にとっては今の状況の方が断然良かった。

「忍さーん。これ……なんですか?」

 この家の自称「次女」である八神はやてが引きずっているのは、忍が彼女のために作った「魔法の杖」だ。はやての魔力が並の魔導士と比べてあまりにも大きすぎるせいで、繊細なインテリジェント・デバイスは当然として、より機構が単純でそのぶん耐久力が高いはずのストレージデバイスですら、はやてのちょっとした力加減の誤りで壊れてしまうのだ。
 
「何って、杖の試作品に決まってるじゃない」
「いや……これ、ものすごくゴッツイんですけど」
「銃火器三門及びスタンガン機能、さらにマイク機能に撮影機能まで付いて、その上グレートソードとしても使用できる逸品よ!」
「こんなん、魔法の杖やない……」

 最近の忍が高町家に入り浸っている理由の一つは、はやてにある。なんと彼女は「魔法使い」なのだ。特異な体質のせいで普通の人とは仲良くなれない、と思い込んでいる忍にとって、魔法使いが普通に暮らしている家というのは実に居心地が良い。それは、自分の本当の姿がバレたとしても嫌われないで済みそうな気がするからだ。
 人ならざる身としては、一般人ではないとは言え「人間」の魔法使いだけでは、やはり受け入れてもらえないのではないかと心配なところだが、この家はその程度ではないのだ。

「忍、この程度の代物じゃあダメよ。材料をオリハルコンにするぐらいしないと」

 忍の頭上から、気の強そうな声が聞こえて来た。声の主は天井から逆さに生えている幽霊娘だ――幽霊娘なのだ。
 さすがに幽霊と比べたら自分たちの一族の方が人間に近いだろう。
 忍はそう思っているし、妹だってそう考えているはずだ。自分たちは必死になって世間から身を隠しているというのに、この家の奴らはなんでこんなにフリーダムなのかと怒りにも似た感情が湧き上がってこなくもないが、とにかく気楽である。
 楽しすぎて、ついつい長男にちょっかいをかけて、その恋人をむくれさせてしまったりもするが、そのむくれる姿がまたかわいいのだから仕方がない。

「オリハルコン……まず材料の入手から始めないといけないわけね」

 ここにはいないが、他にも通っていた高校の後輩が飼って(?)いるキツネの変化もよく出没するし、現在絶賛家出中(本人は修業の旅と書いていたらしい)のこの家の「末っ子」も魔法使いをやっていて、その使い魔というワーキャットまでいるのだ。

 なに、ちょっと生きていくために人間の血を必要とするぐらいどうということはない。たぶん大丈夫、きっと大丈夫。

 そう考えながらもなかなか言い出せないのは、臆病なのか慎重なのか。
 月村忍は今日も上機嫌だ。


 月明かりに煌めく濡れた髪。艶めかしい美貌と豊満な肢体。蠱惑的な仕草と甘いささやきで異性を虜として血を啜る、蛇の下半身を持った妖女。
 ラミアには人間を遥かに上回る怪力と、幻覚などの精神に作用する特殊能力があり、普段はその鋭い爪や牙を隠して何食わぬ顔で人の街で暮らしている。
 彼女たちはその生命を維持するために「人の生き血」を必要としている。そのために人の近くに隠れ潜み、人を誘惑し、その生気を吸い取るのだ。ラミアの妖しい魅力はときに正体を知った冒険者にさえ「ロールミー」の声を上げさせることがある。その先に破滅が待っていると知りながらも、彼女たちの妖しい魅力に誑かされた愚か者は自ら命を捧げてしまうのだ。

 例に挙げた月村の一族は自分たちのことを「夜の一族」と呼んで人間と区別している。
 彼女たちはラミアの特徴である蛇の下半身こそしてはいないが、その他の特徴においては概ねラミアと一致する。おそらく夜の一族とは、長い年月を人間に化けて過ごす間に混血、あるいは変異などを起こしてより人の街で暮らしやすい形態を獲得したラミア変種なのではないだろうか? 
 夜の一族の中にはワーウルフのような姿の者も存在するとの報告もあるため、これが正解とは言い切れないが、可能性の一つとして考えてみてほしい。
 夜の一族は蛇の外見は持っていないが、その魔性の魅力は健在であり、一度その魅力に捕らわれてしまえば、蛇に巻き付かれた獲物のごとく逃げることが困難であることはラミアと変わりがない。君が自ら望んで彼女たちにその身を捧げたいと言うのならとめはしないが、ひとつ覚えておいてほしいことがある。
 夜の一族の寿命は人間よりもかなり長い。もし、種族の差を越えて本当の愛を育むことが出来たとして、さらに平穏に暮らすことも出来たとしても、君と彼女が同じ時間を生きていられる期間はそれほど無いのだということを。
 なお、彼女たちはその類似性からよくバンパイアと間違われる。人間から見たラミアは確かに異形の存在かもしれないが、それでも正の生命力を持つ生き物だ。もしラミアと何らかの交渉を行う機会があったなら、負の生命力で活動する不死なるものどもと間違えていらぬ不興を買うことのないよう注意すべきだろう。




〇ミージュ・クランズ(偽名)
 器用度20(+3) 敏捷度20(+3) 知力14(+2) 筋力16(+2) 生命力15(+2) 精神力14(+2)※1
 冒険者技能:ダークプリースト(ファラリス)7 ファイター2 ルーンマスター4 セージ2 (シーフ7 ※2) 
 一般技能 :シンガー2 
 冒険者レベル:7 超英雄ポイント:(1)※3
 特殊装備:暗黒神の聖印、ダブラブルグの仮面、他いくつか
 ※1 知力、精神力は小学生のものです。
 ※2 〔受け身、軽業、忍び足、登攀、特殊な戦闘、幅跳び/高跳び〕にのみ適用します。その他の判定は知識によるところが大きいので不可。
 ※3 暗黒魔法限定で働く暗黒神の恩寵、闇の書の対価、使い捨て。一応、闇の書という惑星破壊規模の怪物を退治した結果と言えなくもない。

〇美沙斗さんの能力値:邪神戦争ルールのシーフとして作成
 2d6×8の結果が10・7・8・8・10・2・6・10 
 アレクラストルールでは 器17 敏15 知16 筋12 生8 精16 ですが、
 邪神ルールを適用すると B10→C10→A10→F8→E8→G7→D6→H2 となり、
 器用度20(+3) 敏捷度20(+3) 知力16(+2) 筋力16(+2) 生命力15(+2) 精神力9(+1)
 精神的に弱いところがそれっぽいかもしれません。


〇傀儡兵:モンスター・レベル=5~  出現数=数体から数十体
Aランク魔導士並の戦力。レベルの高い大型砲撃兵のバリアは、AAAランクの魔力持ち二人がかりで破れるくらいの強度。
魔女の城に大量配備された傀儡の兵ですから、サイズは違いますが竜牙兵のようなイメージ。

〇スティンガーブレイド:魔力を圧縮して刃を形成するミッド式魔法。バリア及び装甲の貫通能力が高く、任意のタイミングで爆散可能な毒針。
無印でフェイトが魔力刃を使ったとき、ディバイン・ウェポンみたいな魔法だと思った方はいませんかね。

〇疾風の剣:八神はやてのための魔法杖。はやてはその大きすぎる魔力のせいで、普通のデバイスを扱うことが出来ないため特別なものが必要になる。
SW的には、かなり重要なキーアイテムの名前。入手に失敗していると、アザーン諸島から世界の終わりが発生していたかも。
製作者の趣味と耐久性の問題でグレートソード型、魔法金属製になるかどうかは‶定かならざる〟。

〇ロールプレイ:役割を演じること。〔俗説〕ラミアにロールしてもらうプレイ。


〇バンパイア:常人の倫理は無い+自信家+具体的な計画は無さそうだが自由な世界を目指す+死んでも再生できる複数の種+研究施設に引き籠って日に当たってなさそう+能力で忠実な下僕をつくる+年齢不明だが若く見える+(黙っていれば)美形 元々こんな人ですから。
〇土:通常は研究施設の培養槽で再生しますので、いつもニョキニョキしているわけではありません(それも面白いですが)。
 ナンバーズの機械部分の中に土の収納用の器(無限バッグ①+➁仕様)を埋め込んでおいて、緊急用の再生場所を用意しているわけです。これは原作でもナンバーズの中に遺伝子情報と記憶データを込めたカプセルを埋めていたのでそのままです。

〇ミッドの法律についての言及:王城上空を飛んで捕まったリプレイがあったような記憶と、バブリーズで街中での攻撃魔法はご法度(でも私塾で攻撃魔法を教えている)と言っていた覚えが基になっています。
管理世界は「魔法メインのファンタジーな世界」なので、日本人感覚で考えるよりも、アレクラストの冒険者感覚で理解しようとすると結構納得できる社会体制です。アレクラストなら政治・軍事・司法が一つになっているのも普通。裁判なんて、決闘で勝てば無罪とか、デスダンジョンから生きて帰ってこれたら無罪(実質死刑)とか言われないだけ良心的――ロマールだったら、フェイトやヴォルケンズは剣闘士コースなんじゃないですかね……。

〇核融合:ファイブリアには、巨大なお椀の中で核融合して星界まで飛んでいたような場面がありましたね。
バスタードとロードスはD&Dの影響的には兄弟かもしれません。ドラゴンハーフRPGはSWがもとになっていますが、バスタードのパロもチラホラ……何か関わりがあったのかどうか、少し気になります。



[40369] 賢者の事情
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/11/15 20:57
 ファラリスおじさまへ

 ティアナに暗黒語を教えていたわたしですが、実はミッドチルダ語をよく知りません。
 どことなく英語に似ていることと翻訳魔法のおかげでこれまでどうにかなっていましたが、管理世界全体で通用する言葉なので覚えておいた方が断然便利です。そういうわけで、ドローンの問題が片付くまでの間に時の庭園でプレシアさんにミッド語を教えてもらうことになりました。
 ミッド語は英語に似ていると書きましたが、それは一部の単語などからもよくわかります。例えばプレシアさんが娘さんのために参加していたクローン量産計画は「プロジェクトFATE」と名付けられていたそうなのですが、英語にもFATEって言葉があるのです。文字もどことなく似ているような気がしますし、英語とミッド語は元々は同じ言葉から変化していった兄弟みたいなもの――だったりしたら面白いのですけど。
 英語の「fate」には運命という意味があるのですが、この単語で表される運命はどちらかと言うと死や破滅のような悪い結果を意味してるみたいです。
 そしてプレシアさんの参加した「プロジェクトFATE」はいつのまにか人造魔導士計画になっていったそうなのですが、最初の原案では「食糧増産計画」と呼ばれていたそうなんです。地球でも特別美味しい牛や豚の子孫を増やしたり、クローンをつくって増やそうって話をテレビで見たことがありますが、管理世界の人も同じようなことを考えたんですね。
 おいしいお肉をつくるだけならクローン技術だけでいいのではないかと思ったのですが、どうも最初に考えた人には「食事は心が大事」という考えがあったようでして「心のこもっていない、血も涙もない食事などうまくもなんともない」と言っていたそうです。
 そういえば、これもまたテレビの同じ番組の中ででしたが、食用の牛を育てている人は心をこめてその牛の世話をして、ときには音楽を聞かせたりしておいしいお肉にするんだって言っていたような覚えがあります。それが、大事に育てられたって記憶までコピーして植え付けてしまおうって考えになるのが、魔法世界のすごい所ですけど。
 世界が変わっても、料理に関わる人たちは味のために探求を続けているのですね。ウチのお母さんもお菓子作りの研究はいつもしていますし、そのあたりちょっとわかる気がします。
 この「食糧計画」ですが、プレシアさんが関わるころには食べ物ではなくて「人間」を増やす計画に変化していました。人間を生み出すのに「食糧=FOOD」はマズいだろうってことで「FATE」に変わったようなのですが、これは「養殖される食糧=食べられることが決まっている」ということから死ぬことを定められているって意味合いでFATEにしたらしいです。
 強い魔導士をつくって兵隊にするって計画だったそうですから、造られた命の結末は同じなのかもしれませんけど、なんだかちょっと怖いですよね。
 英語とミッド語で同じ意味になる単語があるんですよって話をするだけのはずが、たくさんのわたしが製造されて、それがあのお化けミミズとかのエサになっている風景を想像してしまいました。
 夢に見そうで怖いので、今日は寝ません。

   おやすみなさい あなたのなのは


 今日はプレシアさんに頼まれてアリシアちゃん(プレシアさんの娘さんの名前です)の遺体にプリザーベイションをかけました。アリシアちゃんは保存液で満たされたポッドの中に収められています。遺体の保存ということだけならもっと良い保存方法があったそうなのですが、プレシアさんはアリシアちゃんをどうしても死体扱いしたくなくて、それでただ眠っているだけに見えるような形にしたかったのだそうです。
 わたしの感覚では、水でいっぱいのポッドに浮かんでいるというのはすごく変に思えるのですが、研究者のプレシアさんはまた違った感性をもっているのでしょう。
 プリザーベイションについても、プレシアさんとしては見た目が変わらないので構わないってことなのでしょうが、わたしとしては遺体にこの魔法をかけるのはちょっと微妙な気持になります。
 何故かといえば、この腐敗防止の魔法についてルーテジアさんの本には「新鮮な死体にプリザーベイションをかけておくことで、良質のブアウ・ゾンビの材料とすることができる」と書いてあったからなんです。これって、ゾンビを腐らなくさせるために使われていたようなんですよね。食べ物の保存にも使えますけど。
 そういえば、ミッド式の使い魔作成魔法は死後間もない動物の死体をつかうのだそうですが、ゼリーも元はそうだったんでしょうか? わたしはグレイさんから引き継いだ形なのですが、もしかしてミッドの魔法使いのみなさんは動物を捕まえてきて、グサッ! としてから使い魔にしているのでしょうか? 
 結構な謎です。
 とりあえず、アリシアちゃんと猫のリニスの遺体に防腐魔法をかけました。ミッド式魔法なら、このリニスも使い魔にできるそうなのですが、話を聞く限りではアリシアちゃんと一緒にリニスが死んでしまったのはわたしが生まれるよりも前のようなのですが――それでも死後間もないということになるのでしょうか? 傷んでいなければ大丈夫ということなのでしょうか?
 これも結構な謎です。
 プリザーベイションも謎です。
 腐敗と発酵と熟成はどう違うのでしょうか? 
 パンをこねている途中でかけたらどうなるのでしょう? 
 チーズやヨーグルト、納豆にお酒なんかもどうなるのか? 試してみたいような、なんだか怖いような。上手くすれば一番おいしいところで止められるのかもしれませんね。
 そうなると、物を腐らせる魔法と書かれていた「ロッツ」も、本当は物を発酵させたり熟成させる魔法だったのかもしれませんね! 
 おじさま、ごめんなさい。
 今までこのロッツの魔法には使い道がないんじゃないかと考えていました。おじさまが授けて下さる魔法に、使い道が無いものなんてあるわけがありません。まさか、料理のための魔法だなんて今の今まで思いつかなかったんです。わたしはまだまだダメダメですね。
 ウチに帰ったら、お母さんとロッツを利用した料理をつくってお供えしますので、どうかバカなわたしを許して下さい。


 ファラリスおじさまへ

 プレシアさんにミッドチルダの言葉を習いながら、いろいろなことを教えてもらいました。今日はその中から「世界」についての話を書きたいと思います。
 「ミッドチルダ」というのは世界と言うよりも星の名前です。例えばわたしの生まれた「地球」は第九十七管理外世界なんて呼ばれていますが、別に世界の名前が「地球」というわけではありません。地球という星のある、九十七番目の管理外世界という意味みたいです。
 同じようにミッドチルダというのも、ミッドチルダ星のある一番目の管理世界という意味です。ここまでだけでも、なんだかものすごく大きな話ですよね。地球が存在している宇宙全部をまとめて第九十七管理外世界なんですから、管理世界、管理外世界両方を合わせたら一体いくつの宇宙が確認されているのでしょう。
 世界と世界の間にある高次の空間は、次元空間や「海」なんて呼ばれています。管理世界で造られている次元航行艦は、ここを渡って他の世界へと移動しています。
 この船は宇宙空間も航行できるそうなのですが、あまり一つの世界の内側の宇宙を移動することはないのだそうです。世界の外側へと出ることができるのですから、同じ一つの世界(宇宙)の中なんていくらでもすぐに移動できそうなものですが、どうも管理世界の移動技術はそちらの方向には進んでいないようです。
「宇宙を移動するよりも、世界間を移動する方が確実に成果が出るのよ」
 これは、プレシアさんの言葉です。
 どうしてそうなるのか、わたしにはうまく理解できませんでしたが、「ある世界の人間が住める星の位置から次元間移動をすると、おおむね他の世界でも人類の居住可能な星の近くに移動できる。宇宙を渡って人の住める星を探すよりも、世界を渡った方が高い確率で利用しやすい星にたどり着けるの。なら、わざわざ苦労して宇宙探索を進めなくてもいいでしょう?」ということらしく、世界移動の方が楽な上に効率が良いみたいなんです。
 たしかに魔法に関わるまでは、地球のある宇宙で他に住める星が見つかったなんて話は聞いたことがありませんでした。それが次元世界について知ってからこっち、もういくつもの普通に人間が過ごせる世界を渡って来ました。ジュエルシードのあった星、巨大ミミズのいた星、これまた巨大な羊のいた星、アルザスのあった星、アルザスからミッドチルダに来るまでの間に経由したいくつかの星、どこも普通に空気があって熱すぎず寒すぎず、バリアジャケットがなくても(一応)平気な環境でした。よく考えたらこれはすごいことですよね!
 地球のお隣の火星だってそんな風にはいかないのに、高次空間を飛び越えた先には地球と同じような環境の星がたくさんあるのです。
 時空管理局は、こういう人間の住めそうな世界(星)が年間に数か所見つかっているって発表しているのですが、その中には人の住んでいない無人の星も多くて、管理世界の人たちはそういう所から資源を採掘できるのであまり宇宙に関心が向かないみたいです。
 長々と、みょうなことを書いているなって思っていらっしゃいますか?
 結局なにが言いたいのかと言いますと、管理世界は土地に余裕があるので未開の場所がとてもとても多いのです。そのせいで時空管理局の調査が全然進まなくて、ドローンの件がなかなか解決しないってことです。
 管理局で働いている人の数に対して、世界が広すぎるのですよね。
 ミッドに降りたら、またドローンが襲って来て周りを巻き込んでしまうかもしれません。なので高次空間に移動した時の庭園で勉強をしていましたが、そろそろちょっと出かけてみたくなってきました。ミッドじゃなければ大丈夫だといいのですけれど。

   高次空間にあきて来た 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 大発見です! なんとインプのような子を見つけました。
 彼女には(女の子でした)名前がなかったので、「レッサ」と名付けて連れて来たのですが、コントロール・インプでは契約できませんでした。おじさま、似ているだけではインプ扱いにはならないのでしょうか? 
 ちゃんと小さな人型をしていて、背中に翼があって、尻尾もはえてます。それに人の言葉せますし、炎の魔法を使うこともできます。
 一応着いてきてくれていますし、手助けもしてくれるつもりのようなのですが、契約できなかったのが残念です。
「魔力量は多いし、魔力光も割と似てる。これでベルカ式だったらなー」なんて言われても、ベルカ式は使えません。
 ベルカ式魔法は武器と組み合わせて使うことが多いようなので、ミージュの姿でなら使いやすいのかもしれませんけどね。ただ、暗黒魔法にミッド式魔法、その上ベルカ式にまで手を出したらこんがらがってしまいそうなので、当分手を出すことは無いでしょう。
 どうやってレッサと出会ったのかまだ書いていませんでした。
 このところドローンに襲われないように時の庭園で読書や魔法の勉強をして過ごしていたのですが、庭園の中はともかくとして、外の高次空間の風景はあまり楽しいものではありませんでした。ずっと見ていると何とも言えない落ち着かない気分になってくるのです。そこで気晴らしにミッド以外の世界に行ってみることにしました。
 元々はいろいろな世界を見て回って修業の旅をする予定だったのが、さびしそうなティアナを見て放っておけなくなったからミッドに長い間いたわけですし、こう書くとあれなのですが、ドローンがやって来たのは良い機会だったのかもしれません。わたしもそのうち海鳴に帰らないとですから、いつまでもってわけには行きませんでしたから。
 時の庭園で過ごしている間に、ティアナとティーダさんの問題を解決するための方法も思いついたので、ドローンのことが落ち着いたら二人に話してみようと思っています。
 インプのレッサのことを書くはずだったのに、いつのまにかランスターさんちのことになってしまいました。どうもわたしは話が途中でそれてしまうクセがあるみたいで、読み難くなてしまってごめんなさい。
 レッサの話は長くなりそうなので、明日の手紙にまとめてみますね。

   祈りとともに 高町なのは




〇なのはの使用言語:全ての冒険者はその世界の共通語(英語)と母国語の会話ができる。知力12以上なので英語・日本語の読み書きができます。ミッドチルダ語を覚えるためにセージを2レベルにしました。蛮族生まれ(管理外世界出身)はミッド語を覚えるのに苦労するそうです。

〇プロジェクトF:背景のない、都合のよい精神を植え付けた人間を作成できる計画。基礎設計はドクターらしい。

〇プリザーベイション:6レベルの暗黒(神聖)魔法 効果=物体を腐敗から保護する
主に食糧・死体の保護に使われる。遠隔地に赴く際に役立つが、古代語魔法7レベルのテレポートが猛威を振るいだすまでの短い命になることも多い。

〇ロッツ:6レベルの暗黒魔法 効果=目標を三十分で腐らせる
GMは冒険者たちに死人が出たときの嫌がらせくらいしか使い道を思いつかなかった。なのはさんが三十分クッキングで発酵食品を造れるようになるかは、神のみぞ知る。味噌も発酵食品。

〇世界移動:頭の上の星界よりも、どこにあるのかわからない魔神の世界の方が近そうな不思議。

〇インプのレッサ:ソードワールドのインプと比べると随分と可愛らしく、かなり強い。原作の名前はルー子命名ということなので、なのはシリーズ伝統の車の名前に……どんどん原作の名前で書けない人物が増えてしまうのが困りもの。PSPゲーム版で、なのはとシグナムの魔力光の色合いがかなり似ていること、なのはのコピーとして生まれたシュテルが炎熱系なことから考えると割と相性が良いかもしれません(ベルカ系ならですが……)。蛮族っぽい恰好の、あかがみのようせい。

〇ゴーレムは証言せず=地上の守護者(レジアス)は語らない ドローンからはたどり着けない 傀儡兵は余計なことを言わない

〇賢者の事情=なのはがセージを取った訳 プロジェクトFの始まった理由



[40369] 南海の勝利者(1)
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/11/17 00:08
 ファラリスおじさまへ

 今日は、昨日の約束どおりにレッサと出会ったときのことを書きます。
 あの子を見つけたのはある研究施設の中でした、そこで動けないように縛られて、いろいろな実験をされていたのです。「あ、インプだ!」って思ったので、すぐに助けて連れ出したんです。サモン・インプで召喚しても反応が無かったのは捕まっていたからなんだ、って考えながらの行動でした。
 なんでそんな研究所に行ったんだって思いましたか? 
 わたしも最初はそんな予定は全然無かったんです、考えてもいませんでした。ただ、高次空間にずっといるのがあきてきたので、ちょっとミッド以外の世界に気晴らしに出かけたんですが、そのときにそこの研究所に関わっている人たちに襲われたんですよ。それを逆に捕まえて仕返しに行ったらインプのレッサリトナ、短くしてレッサが居たんです。
 
 ファナウンテラスというその土地は、どこかアルトセイムに似ている草原と、湖と、遠くに雪の帽子をかぶった山々が見えるところでした。ゼリーが調べてきてくれた情報によると、クラナガンで大騒ぎを起こした女の子(わたしのことです)は、なぜだか管理局の偉い人がかばってくれたおかげもあって、そこまで本気で追いかけられているわけではない、ということだったので久しぶりに「高町なのは」としての外出です。
 ミージュの格好のときは大人っぽく振る舞わないとって考えてしまって疲れるところもあったので、変装しなくてもいいのはとても気楽です。捕まったらその偉い人のところで厳重注意されてしまうらしいのですけど、ゼリーが「まぁ、そんなに気にしないでも大丈夫」と言うのですから大丈夫なのでしょう。
 自然が豊かで人の数も少なめなファナウンテラスを飛び回っていると、地球で言うとヨーロッパの田舎町みたいな雰囲気の町がところどころにありました。時の庭園で朝ごはんを済ませてから出かけて来てはいましたが、ちょうど十時くらいに見かけた町でおやつでも食べようかなって気分になったので、わたしはそこにあった喫茶店のような店に入りました。
 十時のおやつで思い出したんですが、異世界でも大体時間は同じなんですね。時差はあっても一日が地球の二十四時間と同じぐらいです。フォーセリアの本に出て来たみたいな、時間の流れが違う世界というのはまだ行ったことがありません。
 わたしが店の人にコーヒーのようなものとケーキらしきものを注文して待っていたときに、次のお客さんがやって来ました。男の人の二人連れのその人たちは、何かを話しながら店に入ってきて、そのあと入り口を見ていたわたしに気づくと、こちらを真剣な顔でじっと見てきたのです。
 日本でしたら、休みでもない日にわたしぐらいの子供が一人で喫茶店にいたら気になると思いますが、管理世界では九歳にもなったら立派に働いているユーノ君のような子もいるので、子供ってだけでそこまでは注目されません。
 そんなことをちょっと気にしていたら、店員さんがケーキを運んできました。それで、わたしの気持ちは目の前のものに移ってしまって、男の人たちのことはすっかり消えてしまったのです。
 ケーキやコーヒーの味については異世界のものなのでなんとも言えません。わたしはウチのものの方が好きですが、アレがこの世界流の味付けだったのでしょう。
 ものすごく、とんでもなく甘かったです。
 どれぐらい砂糖を放り込んで作ったのか気になるところです。きっと、グレイさんの知り合いの超甘党の人というのはああいうのが好きなんでしょう。もしかしたらこの世界の出身なのかもしれません。コーヒーらしきものも最初から砂糖が入っていたみたいで、あれを飲むくらいならお兄ちゃんのように苦いブラックの方がマシだったと断言できます。お兄ちゃんが甘い物を苦手にしている気持ちが少しわかりました。キュアー・ポイズンものです。
 ゼリーはこれを知っていたのでしょうか? いえ、きっと知っていたのでしょう。目の前でベーコンエッグをおいしそうに食べながら、ニヤニヤとしていたのですから、そうだったに違いありません。
 そんなびみょうなおやつを済ませ、ゼリーをつねりながら歩いていたところ、さっきの男の人たちがわたしに話しかけてきました。

「そこの君、ここへは旅行かなにかかい?」
「聖王家にゆかりの遺跡があるって聞いたので、ちょっと見学に来ました」とこんな感じで返したと思います。

 最初はあれです、ナンパかなって思いました。ミージュの姿のときは時々声をかけられたので、そういうこともあるって知ってます。このときのわたしは小学三年生ですから、きっと一緒にいるゼリー(大人モード)が目当てなのかなって考えたんです。
 でも、その考えはすぐになくなりました。そのあとに二人の男の人の内、太っている方の人が、わたしが映っている写真(クラナガンのときのものです!)を取り出したからです。

「実は君に会いたがっている人が居てね。見かけたら教えてくれって頼まれていたんだ」
「えっと、それはどこのどなたでしょうか?」

 管理局の人だったのならまだいいのですが、そうではないかもしれないってなんとなくわかりました。それはこの男の人たちには、去年会った「龍」の一員と似たような雰囲気があったからです。
 なんだかんだと人気の少ない方へと連れて行こうとするので、ちょっと危ないかなって思いつつもそれについていきました。なんでわたしの写真を持っているのか、会いたいって言っている人は誰なんだろうかって興味に負けてしまったのです。
 男の人たちが「ここでちょっと待ってくれ、すぐに転移してくるから」と言ってから数分して、わたしとゼリーを囲むようにして「ドローン」の出来損ないみたいな機械がたくさん現れました。

「これだけAMFの発生機を揃えりゃ問題ないだろ」
「クラナガンじゃ随分暴れてたからな」

 はい、おじさまが考えていらっしゃる通りです。全然問題ありませんでした。
 対アンチ・マギリング・フィールドの練習は、去年のゴーレムのときに済ませていましたから。
 結局ロケット弾に出番を取られてしまったので活躍できなかったんですけど、一応強力なAMF内でアイアンゴーレムを壊せるくらいには練習していたんです。
 バリア、シールド、フィールドを貫通して、金属の物理装甲をスティンガーで撃ち抜きました。そして、いくつかのドローンもどきを串にささったお団子みたいにつなげて、「バースト!」。
 貫いた内側からスティンガーが爆発してドローンもどきがバラバラになります。

「そうそう、その調子。こんなの相手に魔力を無駄に使うことないからね。練習、練習」

 ゼリーが手足に魔力を集めてドローンもどきを叩き壊しながら、簡単そうに言ってきました。AMFの範囲内では魔力の結合が解除されていってしまうので、結合のゆるい弾をたくさん出すよりも、高密度で大威力な一発をなるべく有効利用する形にしているのですが、これが結構難しくて大変なんです。
 アーリアさんの知ってる男の子は、これを覚えるまでに相当の時間がかかったそうなので、その子に比べたら「バカみたいな才能」があるってことなんですが、そんな言われ方をすると、なんだかホメられているのかけなされているのかわからなくなります。
 ドローンみたいな機械相手だとメズマライズで意識をうばうってことができないので、ミッド式の方が手早かったりします。もちろん、暗黒魔法にも見えない衝撃を飛ばすフォースや、それを自分の周り全方向に「ドーン!」って撃ちだすフォース・イクスプロージョンがありますけど、やっぱり物を壊すことにかけてはミッド式にかなわないみたいです。
 ホントに管理世界の魔法は戦争用に発達していて物騒です。
 暗黒魔法はやさしいので、あんまり物を壊すことには向いていません。癒し系って言えばいいのでしょうか? わたしは断然おじさまの魔法の方がいいと思ってますが、世の中には叩いて壊さないといけない場合がありすぎて困ってしまいます。

「はい、終了。三分もたなかったね」

 ゼリーが手をパンパンッってはたきながらそう言ったころには、あたりは壊れた機械でいっぱいになっていました。わたしがやった分は大体中からはじけているだけですが、ゼリーの方は本当に粉々です。たぶん、ブレイクインパルスを使ったのだと思いますけど、あれって機械相手にはすごく有効なんですが同時にすごく難しいのですよね。固有振動を割り出して物質を分解するなんて、普通なかなかできないと思います。
 さっき書いたスティンガーを覚えるのに苦労した男の子は、この難しいブレイクインパルスを使えるらしいのです。そっちの方がものすごい才能じゃないかと思うのですが、おじさまはどう思われますか?
 まぁ、アーリアさんはそれをさらに応用して、美沙斗さんの刀を高速で振動させたりして補助してましたけど――十年ぐらい頑張ったら、わたしでもああいうことが出来るようになるのでしょうか。

「全滅……。AMF搭載機がこんな簡単に……」

 二人の怪しい人たちがブツブツ言っていたので、ちょっと話を聞かせてもらおうとお願いすることにしました。逃げられないようにしっかりバインドをしているあたり、わたしの使い魔のよくできた子です。喫茶店でのことは許してあげました。
 
「それじゃあ、お話聞かせてくださいね」

 怖がらせないようにと思って、なるべくにこやかにお願いしたところ、二人はこころよく端から端まで話してくれた上に、その後の道案内からなにから全部協力するって約束してくれました。やっぱり、おじさまの魔法はすごいですよね。
 二人が争うようにして、でも時々痛みをこらえるようにしながら、つっかえつっかえしてくれた話をまとめると、

 一、この二人は違法研究をしている人などの依頼を受けて、研究に必要なものを集めてくる仕事をしている。
 二、最近上得意の人が「クラナガンで暴れた女の子」を探していることを知った。
 三、依頼は受けていないけれど、捕まえて連れて行けば良い稼ぎになると思った。
 四、反省している、命ばかりは助けてほしい。

 といったところでした。
 二人のお得意さんの名前は、ジェイル・スカリエッティ。プレシアさんに聞いたF計画の基礎をつくった人と同じ名前です。なんでそんな人がわたしを探しているのか本当の」ところはさっぱりわかりませんが、二人が管理局に勤めている友人から聞いた話では、そのジェイルさんはわたしのことを「殺してやる」と言っていたそうなのです。
 会ったことも無い人にどうしてそこまで恨まれているのでしょう?
 誰か他の人と間違えていたりするのではないだろうかって、いろいろと考えてもみましたが、わたしもゼリーも、話してくれた二人も、その場にいた誰にもジェイルさんの考えはわかりません。本人に聞くことができればいいのですが、「殺す」なんて言ってる人にはできれば会いたくありませんので、お二人にはそのことを聞いてきてもらうことにしました。
 わたしを殺そうとしてるかもしれないジェイルさんに売り飛ばそうとしていたんですから、このぐらいはタダで引き受けてもらってもいいですよね。それとは別になにかおしおきを考えておきますけど。
 この二人は、こういった違法な仕事を今までにもたくさんしていたので表には出てこないいろいろなことを知っていました。ゼリーがそういったことをすごく熱心に聞いてくれたので、わたしは「ゼリーがする質問に答えてください」とお願いしたあとは、ゼリーと二人が話しているのを聞いていただけでした。
 あ、ちゃんとデバイスに記録もしてましたよ。
 長くなってしまったので、続きはまた明日にします。

   気分はシェヘラザードな あなたのなのは




〇ミッド式魔法:スティンガーの活躍シーンを探して、テレビ版と劇場版をもう一度見ました。ミッド式魔法の破壊力は恐ろしい。でも、撃墜されたなのはをなかなか治療できなかったりしているので、癒し成分は薄い模様。

〇二人組の男:非合法活動の請負人。ファンタジーと科学が融合したこの管理世界で、表には出せない闇の仕事をこなす彼らのような人間を、人々は‶影走り〟と呼んでいる……かもしれない。

〇インプ・レッサ・リトナ:アリアンロッドのインプはアギトみたいだったような覚えです。
インプは‶レッサー〟デーモンのザルバードによく似ていて、一部の学説では下位種ではないかとも言われている。ザルバードは炎を吹き、また炎の攻撃を無効とする。
リトナとエトナは似ている。

〇シュテル:暗黒神官なのは→ダークなのは→シュテル? 
BOAのゲームキャラとしての星光の殲滅者は、なのはのデータをコピーしてヴィータとザフィーラのスキルを加えたもの。造物主M・T様的には最初は単純になのは・フェイトの色違い強化版だったそうですし(初期案では王様はいなかったらしい)。
設定的には、理のマテリアルである彼女が自分に一番合っているものを闇の書の中の大量のリンカーコアデータから選択したのではないかと考えてます。レヴィなら気分で選びそうですが、シュテルは合理的な判断の結果として相性の良いものを選んだ結果が「高町なのはのデータ」になったとしておきたい。
なのはやフェイトが蒐集されていなかったら、シュテルはシグナム、レヴィはヴィータの姿で実体化していたんじゃないかと勝手に思ってます(殲滅の炎剣と雷神の鉄槌的に)。
※すべては個人的なイメージによるものです。

〇RPG千夜一夜:語り手がクロノならぴったりなんですが、わかる人はいるのだろうか。

〇南海の勝利者:リプレイ第二部後半戦の内容が元ネタとなっております。



[40369] 南海の勝利者(2)
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/12/01 22:51
 ファラリスおじさまへ

 昨日の続きを書きますね。
 ファナウンテラスで怪しい二人組を捕まえたところまで書いたはずですので、今日はそこからですね。

 いつまでも二人組と呼ぶのもあれなので、先に二人のことを軽く紹介します。
 ビール大好きな太っちょのラガーさんは召喚魔法と無機物操作の専門家で、あの「ドローンもどき」を操っていた人です。ラガーさんは単純にロボットが大好きで、管理世界では違法とされていることの多い機械兵器を求め続けた結果、裏街道まっしぐら。
 ひょろりとしたノッポのパラディンさんは元ベルカの騎士で、現在はは改造人間です。年下のシャッハとかいう人にどうしても勝てなくて、それが悔しくて悔しくて、悩んだ末についつい魔が差してしまって、「戦闘機人計画」という身体を機械と交換して強くなれるという計画に参加してしまったのだそうです。結果として身体能力は上がったけれど、リンカーコアに悪影響が出てしまったみたいで魔力が下がってしまった上に、違法技術の被験体になったことで教会にもいられなくなってしまったところで、機械大好きなラガーさんと出会って現在の職業に就いたようです。
 わたしを売り飛ばそうとしたことはどうかとは思いますが、「汝の欲するところを為せ」とおじさまもおっしゃっていますので、自身の欲望に従った結果こうなってしまった二人の「命ばかりは助けて欲しい」という願いは聞いておくことにしました。
 ラガーさんもパラディンさんも、おじさまの寛大な(?)教えに涙を流して喜んでくれました。

 紹介が終わったところで話の続きです。
 ゼリーの質問が長々と続く中ですごく気になる答えがありました。
 それは、最近一番儲かった「お仕事」の話だったのですが(そのお金でラガーさんはAMF搭載の機械を買ったそうです)、それはベルカ時代の遺跡で見つけた小さな女の子をある研究施設に売ったというものでした。
 最初はわたしにやろうとしたみたいに子供を誘拐したのかと思ったのですが、詳しく話を聞いてみると本当に「小さな」女の子だったのです。
 もうお分かりかと思いますが、それがレッサだったんですね。
 売られた女の子の特徴を聞いたわたしは思いました。

「見つけた!」

 はい、前々からずーーっと探していたインプの手がかりだと考えたんです。
 インプの召喚は結構初級の魔法だって書いてありましたし、フォーセリアの本によると、おじさまの神官ならインプを使い魔にしているのは普通だったらしいのです。
 もちろん、使い魔にするもしないもその神官の自由だったみたいですが、「できない」ことと「やらない」ことは違うと思うんです。
 できることをやらないのはいいのですが、やってみたいことができないのはなんだかモヤモヤとします。
 ああ、これでようやくわたしも……と思ってしまったら居ても立っても居られません。

「すぐに、そこに、連れて行ってください!」

 こんな感じで、ぐわーっ! っと迫ったような気がします。ゼリーから見てもあの時のわたしはちょっと怖かったみたいです。
 反省。
「商売相手の情報をバラたってバレるとマズい」とラガーさんが言っていましたが、それでわたしの歩みは止められません。
「信用を無くすと機体の調整がー」ってパラディンさんも言っていましたが、たぶん機械を引き抜いてからキュアー・ウーンズとリジェネレーションすれば大丈夫です。試したことはないので、本当に治せるのかはわかりませんが。
 ゼリーが「相手は非合法の組織だから、慎重に」と言うので、いきなり押しかけるのは控えました。
 研究施設の中までは勘弁してくれと騒ぐ二人は、近くの森で半日ほど麻痺していてもらって、とある無人世界にある研究所へと潜入したわたしたちなのでした。
 えっと、結構遅い時間になってしまったので――

 つづく、です。

   明日をお待ちください 語り手のなのは


 ファラリスおじさまへ

 続きのお話の三日目です。
 捕まえた人さらいからインプの情報を入手したわたしとゼリーは、まだ見ぬインプちゃんに会うために無人世界の森の中に隠れた違法研究所へと潜入しました。
 どうやったかって言いますと、猫モードのゼリーを懐に入れて「大人用」のマントであるゴードベルのケープを頭からかぶって、目のところだけちょっと透けてコソコソと近寄ったのです。それから、ゼリーがなぜだかわかりませんが、隠れたり忍んだりするためのミッド式魔法に詳しかったので、そっちも使ってもらいました。
 そうやって建物の近くまで行ったのはいいのですが、当たり前のことですが入り口が閉まっています。窓もありませんし、これはどうしたものだろう? どこか壊して入ろうか? そうしようか? と相談していたところ――怪しい二人組を見つけたのです。
ええ、また怪しい二人組なのです。わたしとゼリーもずいぶんと怪しかったと思いますが、その二人もかなりのものでした。

「どうするの?」
「心配するな。この姉に任せておけ」

 ヴォルテールさんにもらった三種の魔法の品の内、わたしが恥ずかしいと思って封印したピチピチスーツこと「メルビズのスーツ」。あれとよく似た格好をした女の人の二人組がなにやら話をしていました。
 最初はその施設の人かとも思ったのですが、

「セインが居れば簡単だったのだがな」
「……壊すの?」

 こっそりと話を聞いていると、どうもその二人の目的もわたしたちと同じようでした。
 建物の周りを移動する二人をバレないように追いかけながら、どうするのかな? って観察していると、二人のピチピチさんの内、背が低くて白くて長い髪方の女の人が、壁が鉄でできているところまで歩いて足を止めると、右目に着けていた眼帯を外しました。
 眼帯をつけている人ってあまり会ったことがなかったので、目が悪いのかな? もしそうなら、こういうときでなければ治してあげられるのになって考えていたりもしたのですが、それは見当外れだったようでした。
 なぜって、もう、なんと言っていいのかわからなくなりそうなのですが、その「ビーム」が出たんです! 目から「ビーム」が!
 あの人の右目から発射されたビームが鉄の壁に当たった、そう思った瞬間でした。いきなり壁が音もなく消えてなくなったんです。
 あとでゼリーに聞いてみたところだと、「たぶんブレイクインパルスみたいな効果の光線だと思う」ってことでしたけど、目からビーム! ってちょっと、とっても、すごいですよね!
「はやてに見せたら、これがサイクロプスやー! とか言いそうだね」ってゼリーが言ってましたが、フォーセリアの本に出て来た「魔法王国を苦しめた」サイクロプスの王国というのはああいう人の王国だったのでしょうか?
 だとしたら、ものすごく進んだ魔法文明を築いていたという魔法王国が苦戦したのも納得です。だって、目からビームが出るのですから。
 このピチピチさんたちとは残念なことに後で戦いになってしまうのですが、このときはとりあえずおかげで入り口ができて助かった、とそんな風に考えていました。我ながらのんきです。
 ピチピチーズに続く形で研究所に侵入したわたしたちですが、どこにインプさんが居るのかなんてわかりませんので、とりあえず知っていそうな人を探すことにしました。
 そっと隠れてメズマライズして、ぼーっとしたところで中の見取り図とか、インプさんの居場所とかを指さしてもらったら、わかるかもしれないなって、そんな感じで適当です。催眠魔法ですから、こう「あなたは目を覚ましたらこのことを覚えていない」とかそんな感じですね。
 結局のところ、メズマライズをそういう風には使わなかったので実際はどうなるのかわかりませんが――今度誰かに試してもらいましょうか?
 どれぐらいの時間だったのでしょうか、十分か、三十分か、緊張しながら通路をコソコソというよりも、マントに隠れてゴソゴソと移動していたわたしたちに予想外のハプニングが起きました。

 突然、大きな叫び声が建物の中に響いたのです。
 あれは叫び声と言うよりも、吠えているといった感じだったかもしれません。難しく書くと咆哮でしょうか。
 あれはとても恐ろしい声でした、耳にしただけで足がガクガクとふるえてしまうような、どうしようもない声でした。
 あまりにも怖かったものですから、情けないことに思わず大声をあげながら走り出してしまいました。
 どこへって言えば、それはもう入り口です。入って来たところへと一直線です。あのときのわたしの顔は涙と鼻水でグチャグチャだったかもしれません。とてもおじさまにはお見せできない情けない姿だったと思うので、想像しないでくださいね。
 これは切実なお願いです。
 透明にしてくれていたマントも放り出してしまったので、当然わたしの姿は丸見えだったのでしょうが、逃げる途中で会った人たちもみんな震えていたりして大騒ぎだったので何も言われませんでした。
 中にはとても不名誉なことになっていた人や、壁に向かって殴りかかっているような人までいたのですから、逃げてしまっただけのわたしなんて軽いほうだったはずです。
 とにかくよくわからないけれど、どうしようもなく、心の底から恐ろしい声だったのです。

 今日はとりあえずこのあたりでおしまいです。

   もうちょっとだけ続きます 高町なのは


『なのはのモンスターコレクション』

〇バグベアード:モンスター・レベル9

 普段、彼女はその右目を眼帯で隠している。
 別段、そうしていなければいけないと言われたわけでは無い。それは光の速さで目標へと到達する彼女の恐るべき眼光が、間違っても彼女の大事な家族へと向かわないようにという彼女なりの用心だった。
 彼女は戦闘機人だった。
 とある天才科学者(天才の前に‶狂気の〟と付けてもよい)によって生み出された「人と機械と魔獣の合成体」。社会に溶け込みやすい人間の容姿と、機械の力と、失われた世界に由来する魔獣の特殊能力を持たされた存在。
 生物学の世界ではこのような複数の異なる存在が入り混じったモノをキメラ (chimera) と呼んで研究している者もいるらしいが、人間と機械と魔獣を混ぜるなんて真似をしたのは、自分たちの創造主だけだろうと彼女は考えていた。
 奇妙な生命として生み出されたことについて思う所はない。創造者の「食事」として量産されては消費されるだけの者たちと比べたら、「娘」として扱われている自分は遥かに恵まれていると思っていた。

「まぁ、戦闘用のはずなのに、とこの容姿については思う所が無いわけではないが……」

 不満に感じているのは別のことだった。
 他の姉妹たちは立派な「大人の女性」として作成されているのに、どうして自分の体格だけが小さいのかがわからない。
 戦闘用として造られたのならば、多少なりとも重さは有った方が良いはずであるし、体内に機械や様々な魔法の品を格納するスペースもとりやすかったはずなのだ。
 幼い姿の方が油断を誘いやすい、という考えもあるかもしれない。それを狙って暗殺者の中には薬物などであえて成長を妨げる者もいるとは聞いたことがある。
 造られてから数年、そうやって自分を納得させて来た。
 しかし、彼女のそんな考えを揺るがす事件が先日起きたのだ。

「ハハハ、すばらしい! 実にすばらしいな彼女は! 欲しい、是非とも欲しい!」

 何度も同じ記録映像を見ながら笑い声を響かせる自らの創造者の姿。スクリーンの中では十歳かそこらの少女が飛び回る姿が延々と流れ続けている。

「まさか、ドクターはロリコンなのか……」

 背筋を嫌な汗が流れ落ちるのを感じる。父とは思っている、親しみも、おそらく世間で「愛情」と呼ばれているものもなくはないとも思う。だが、そちらの期待を持たれていると考えると、正直に言って困る。
――頑張って捕まえよう。ドクターのためにも、自分自身の心の平穏のためにも。


 ここのバグベアードは製作者の趣味によって「少女」と呼んでも差支えのない容姿をしているが、本来のバグベアードというのはもっと奇妙奇天烈摩訶不思議な外見をしている。
「デカい目」、とりあえずバグベアードを見た者が最初に思うことはこれだろう。その次に「なんか毛が生えてる……キモ」などとも感じるかもしれないが、このあたりは触手だったり短い手足が生えていたりと一定していない。
 とにかく「宙に浮かぶなんだか黒っぽい大きな目玉の怪物」を想像していただければ大体その通りの姿をしているのがこの魔獣だ。
 フワフワと漂う直径一メートル半ほどの目玉と考えると、やわらかいから簡単に倒せそうと考える者も多いかもしれないが、外見に反してこの目玉は意外と頑丈である。ドラゴンの亜種の一つとされ、硬い鱗を持っているはずのワイバーンよりも強固だと言えば、その意外な頑丈さを理解していただけるだろうか。
 そしてこのバグベアードの恐ろしいところはその巨大な目から放たれる各種の特殊な光線である。

1、麻痺光線で動きを妨げ  
2、催眠光線で眠りに誘い
3、冷凍光線で瞬時に氷漬けに
4、洗脳光線を浴びた者は言いなりになり
5、金属破壊光線は魔法の保護を受けていない金属を粉々にする

 これらに加えてここのバグベアードは「金属爆破光線」までも所持している。これはその名の通り光線を命中させた金属を爆弾へと変化させるという、非常に危険な代物だ。
 君たちが彼女と敵対するつもりならば、少なくとも魔法の品ではない金属は身に着けないことだ。剣ならまだしも鎧が爆弾となっては、失うものは装備だけでは済まないだろうから。




〇ナンバーズ:新暦65年に製造完了して稼働しているのは、1・2・3・4・5・6・10 らしいです。名前的には12番を出したかった。

〇5番:ここではゼストさんとか関係なく眼帯っ娘、あるいはベア子。ISの「ランブルデトネイター」は、金属にエネルギーを付与して爆発物に変える能力。



[40369] 南海の勝利者(3)
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/12/05 01:29
『なのはのモンスターコレクション』

 〇レッサー・ドラゴン:モンスター・レベル10

 ジェイル・スカリエッティによって人と竜と機械のキメラとして生み出された彼女は「10」の番号で呼ばれている。
 彼女に合成されているのは真なる竜には到底及ばない下位種ではあるが、それでもかつて人類を震え上がらせた怪物たちの王者「ドラゴン」の端くれだ。
 その火力は現在稼働している姉妹の中では最大のものであり、それ故に機械と融合し通常の人間よりも遥かに強化された肉体であってもそのままでは扱うことが難しかった。
 その欠点を補うために用意された、巨大な砲身の形をした竜の咢の名を「イノーメスカノン」と言う。

 現在、ジェイル・スカリエッティのアジトは時空管理局によって発見されそうになっている。まだ見つかってはいないが、そう遠くない日に捜査の手が入り込んでくることは確実なため、「引っ越し先」を探すのが彼女たちの緊急の任務であった。
 自動機械たちを使っても、新しい拠点を一から建造するには時間がかかる。その間の仮住まいを同業者から借りようと言う割と杜撰な計画である。
 どちらにせよ、そう遠くない未来には叩き潰して研究成果や保管している古代遺物を貰い受ける予定であったのだから、それを少しばかり前倒しした形だ。
 いろいろと問題が予想されるが、「なに、脳みそどもがどうにかするさ」と言うことなので大丈夫なのだろうと、彼女の立場では考えるしかない。彼女はあまり頭の出来には自信が無いのだ。
 考えるのはドクターや「1」番、「4」番の役目で、手足となって働くのが自分の役目というのが、彼女の認識だから。

「竜の咆哮、発射」

 彼女の構えた巨大な砲口から、人の言葉では表現しがたい強烈なとどろきが放たれた。
 それは、あらゆる生き物の記憶に底に刻み込まれた「原初の恐怖」を強制的に思い出させる咆哮だ。
 物理的な破壊は一切なく、それでいてほとんどの生物を制圧することのできるこの能力は、現代においては竜の象徴である「炎の息吹」よりも優秀な兵器となり得る。
 気性の荒いことで知られている火竜の因子とその能力に反して、彼女はあまり破壊が好きではない。命令に反抗してまで押し通す程の感情でもなかったが、それでも誰かを傷つけることに少しばかりのためらいがあるのは確かだった。
 だから、彼女は焼き殺すことしかできない「息吹」よりも、こちらの「咆哮」を多用していた。

「やはり広域の制圧はディエチかクアットロの能力が便利だな。私の光線は時間がかかりすぎる」

 恐怖によって錯乱した相手を一人ずつ冷凍しながら、「5」番の姉がそう呟いた。
 基本的に広範囲にしか効果を及ぼせない彼女にしてみると、個別の対象に様々な影響を与えることのできる姉の能力の方が便利に思えるのだが、

「こういうのを、隣の芝生は青いって言うんだっけ」
「ベルカのことわざでは、メイスをうらやむソードというのもあるな」

 姉が竜の咆哮の影響を受けていないのは、ジェイル・スカリエッティによって造られた彼女たち「ナンバーズ」の内、長女以外に施された「脳への処置」によって与えられた精神攻撃に対する耐性によるものである。集団行動の際に仲間の能力の影響で動けなくなってしまっては問題があるし、何よりも自身の目を見た者を恐怖させてしまう「父」が「娘」に怯えられるのを嫌ったために施された処置だった。

「さて、荷物はあとで冷凍庫に運ぶか。実験体の保管用に大きいのがあるようだからな」
「了解」

 運ぶ時はうっかり炎で溶かしたりしないように気を付けないと、そんなことを考えながら彼女は先に歩き出した姉のあとを追いかけるのだった。


 ドラゴン。
 この「最強にして華麗なる」幻獣について語ることはあまりない。
 語ろうと思えばいくらでも語ることができるが、それは君も同様であろうと確信しているからだ。
 ある時は「神殺し」の魔獣として恐れられ、またある時は「神々に並ぶもの」として敬われたこの存在にまつわる逸話は数多い。
 そんな伝説の一つでも思い出してほしい――思い出せたなら、今回の説明は終了だ。




 ファラリスおじさまへ

 怖くて、怖くて、怖くて、怖くて仕方がなくて。何が怖いのかもわからないまま、わたしはどこまでも走りました。
 ゼリーが呼んでいることはわかっていましたが、その声も怖いのです。ゼリーはわたしの使い魔なのに、捕まったらきっとひどいことをされるって、そんな気がしてしまうのです。
 森の木が怖い。突然動き出すかもしれません。
 木の影が怖い。何かが隠れているかもしれません。
 地面が怖い。降り積もった葉っぱの下には何がいるのでしょう。
 空が怖い。急に落ちてきたりしないでしょうか。
 自分が怖い。どこに逃げたら自分から離れることができるのでしょう。
 ああ、ああ、ああ、怖い、怖い、怖い。
 とにかく逃げ続けないといけない。そうしないと、そうしないとどうなってしまうかわからない。

 あのときのわたしは、こんな気分でした。
 おじさまにお願いすれば心配ないはずなのに、そんなことも思いつくことができなくて、声を聞いただけで逃げること以外の何も考えられなくなってしまったのです。
 ようやく落ち着いたとき、わたしはゼリーに抱きしめられて、背中をなでられていました。ゼリーの胸が結構すごいことになってしまっていましたが、服自体が魔法で作っているものなので洗濯の心配はありません。

「もしかすると、ドラゴン・ロアーだったのかも」

 ゼリーが言った竜の咆哮については、ヴォルテールさんと会ったときに少し聞いたことがありました。ドラゴンが脅すつもりで声を上げると、大抵の生き物は怯えてしまって何もできなくなってしまうそうなのです。
 ヴォルテールさんのそんな声を聞いたことはありませんでしたが、今回のことでそれがどんなに恐ろしい体験なのかってことが、よーくわかりました。
「よっぽど自分に自信が無ければ、ドラゴンには関わるな」なんて言葉があるのも納得です。これはラガーさんから聞いた「裏稼業の常識」らしいですよ。
 どうしましょう! もうヴォルテールさんと関わってしまっていました。これはもう、自分に自信をつけるしか無いかもしれません。
 話の続きですが、その怖いドラゴンのヴォルテールさんからもらったマントを落としてきたことに気付いたので、恐る恐る拾いに戻ることにしたのです。
 ゼリーが拾って来てくれていたら良かったのですが、ドラゴン・ロアーを聞いてしまったときはわたしの懐で猫モードでしたし、途中で放り出されたあとは情けない主を止めるのに精一杯だったようなのでなんとも言えません。
 またアレを聞いてしまうと怖いので耳をふさいで、それから火を噴かれても嫌なので防火の魔法をかけて、ゆっくり、そっと、フワフワと、泣きながら走って来た道を飛んで戻ったのです。  
 建物の中に戻ると、今度は不思議なことにところどころに氷の柱に閉じ込められた人たちがいます。
 なにがどうなっているのかわかりませんでした。
 ドラゴンかと思えば今度は氷です。目からビームのサイクロプスさんも居ましたし、この日はいろいろと盛りだくさんです。
 耳をふさいでいるのでゼリーとは「念話」で話をしていましたが、音が聞こえないと言うのは結構変な気分でした。なるべく静かに動いているつもりではいたのですが、自分で自分のたてている音がわからないので、実はすごく大きな音を出していてもわからなかったでしょう。
 とりあえずマントを放ってしまったところに戻って回収して『さぁ、次はインプさんを探そう!』

『もう怖いから帰るって言ってなかった?』

 ちょっと余裕が戻って来たので、最初の目標を目指すことにしました。わたしって、立ち直りは結構早い方だと
 思います。自信もつけないといけませんしね。

「こんなところで会えるとは思わなかったぞ」

 と、進もうとしたところでわたしたちの目の前に、ピチピチさんたちが急いだ様子でやって来ました。
 何か話しかけてきたのですが、あいにくとわたしたちは耳をふさいでしまっていたので、ピチピチさんたちが何を言っているのか、そのときにはわかりませんでした。上に書いた言葉は後からデュランダルに記録されていたものを聞いたからわかったのです。
 少しの間話しかけてきた後、わたしたちの反応が気に入らなかったのか、サイクロプスさんが眼帯に手をかけました。そして、もう一人のお姉さんも重そうな大砲をこっちに向けてきます。
 そのときわたしはとっさに、サイクロプスさんに目つぶしを仕掛けたのです。なにせそのままでは当たったら粉々にされてしまうビームが飛んできてしまうかもしれませんから。
 これはよくききました。目が見えなくなったサイクロプスさんは少し混乱したようでしたし、それに慌ててしまったのか、大砲の人は空砲を鳴らしただけでだったのです。
 耳をふさいでいたので大砲の音は聞こえませんでしたが、肌がビリビリする感覚があったので、そのときはよっぽど大きな音をさせていたるのだろうなって考えました。興味があったのであとで聞いてみてビックリしましたけど。
 目つぶしが効いているサイクロプスさんの相手は万一にもわたしが物質分解攻撃を受けないようにってゼリーがまわってくれたので、わたしは安心して得意のメズマライズを使うことができたのですが、どちらにも全然効いた様子がありません。

「あいにくだが、我々にそれは通用しない」

 催眠魔法で穏便に済ますことはできませんでした。どうしてダメだったのかわかりませんが、ジュエルシードの力を借りても通じなかったのです。
 そこからは主にミッド式魔法を使った戦いになりました。
 おじさまの魔法と違ってミッド式は避けられてしまうことも多いので少し時間はかかってしまいましたが、目を封じた成果もあってサイクロプスさんからビームは飛んできませんでしたし、大砲さんが撃って来た炎も防火の魔法ファイア・プロテクションがあったので問題ありませんでした。
 おじさまのおかげで多少の怪我でしたらすぐに癒せますし、格闘戦はゼリーの方が相手よりも上手だったのでそれほど危ない場面もなくきっちり勝利しました。えっへん。
 えっへん、なんて書いてみましたが、最後の最後、追いつめて捕まえようとしたところで、ピチピチの二人ともが急に床の中に消えてしまったので捕まえることができませんでした。
 二人の着ていたスーツは「ドクター」さんの作った「メルビズのスーツ」にあんまにも似ていました。あれをどこで手に入れたのか訊けていたら、旅に出たそもそもの目的の一つだった「暗黒魔法の先生探し」が進んでいたかもしれないと思うと残念でなりません。
 その後の探索は楽々でした、みんな氷漬けになっていたので誰もわたしたちを止められません。透明になるマントを放り出してしまった後の姿が防犯カメラかなにかに記録されているとマズいということもあって、そういったセキュリティ関係の設備を探し出してよろしくない記録を消去しました。

 この作業はゼリーがやってくれました。ウチの使い魔はどうしてこういうことに詳しいのでしょうか? 聞いても「秘密」としか言ってくれないのでわかりませんが、やろうと思えば時空管理局の回線を傍受・妨害したり、記録を改ざんしたりもできるらしいですし、ホントになんでこんなに高性能になってしまったのでしょう。あれでしょうか、わたしのミッド式魔法の素質は「突然変異」じゃないかってグレイさんが教えてくれましたから、使い魔も「突然変異」なのかもしれません。
 お父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも、手先が器用でミッド魔法の魔力はありません。わたしだけが、なぜかちょっと不器用だったり魔力がいっぱいあるなんてことが起きるくらいですから、使い魔がなぜかいろいろできても不思議ではないのかもしれませんね。

 と、マスターがそんなことを考えている内に、優秀な使い魔さまが目当てのインプさんの居る場所を見つけてくれました。
 レッサは実験の対象になっていたので、研究所では記録映像をずっと撮っていたのです。どこのカメラで撮影しているか確認したら、目標まで一直線。パッとさらって逃げてきてしまいました。
 あとは前の手紙に書いた通りですので、これでこの日の冒険は終了です。いろいろと問題が残っていますが、そのあたりは現在相談しているところですので、またのお手紙に書きます。

   聖王核ってご存知ですか? 調べ中の高町なのは




『はやてのスペルコレクション』

〇デフネス/ブラインドネス:2レベルの暗黒魔法。目標の「聴覚/視覚」を封じます。 

「竜の咆哮」に宿る恐怖の力が砲身に装填され、ディエチのイノーメスカノンから放たれた。
 常人なら、いや心を鍛え上げた達人であっても気を抜けば心を砕かれてしまう轟きが、比較的広いとは言え逃げ場のない施設内に響き渡る。
 しかし、広範囲の相手を肉体的には傷つけず一気に制圧することを可能とするその一撃は、ディエチの期待に反して捕獲目標の少女とその使い魔と思われる相手に全く効果を発揮しなかった。
 耳にしたものに恐れを植え付ける咆哮も、相手がそもそも聞く耳を持たなければ意味をなさないのだ。


 油断したつもりはなかった。
 油断したつもりはなかったが、気づいたときには目の前に二本の指が迫っていたのだ。

「おじさま、この人の目を閉ざしてください!」

 ドクターが時折呟く言葉に似た響きとともに、少女の指先がチンクの目に突き刺さる。
 痛みはなかった。
 痛みは無かったが、視界は闇に閉ざされた。
 チンクの瞳は人間のそれと違って頑強なので、この程度の衝撃でどうこうなるということはないはずだったのだが、視覚関係の機能が停止してしまっている。
 戦闘自体は機体に埋め込まれたソナーによって続行可能だが、目をつぶされた状態では視線によって照準を合わせる各種の光線は使用できない。

「面倒なことになったな」

 少しだけ愚痴りながら、チンクはダガーを構えた。




〇ファイア・プロテクション:7レベルの暗黒(神聖)魔法。この魔法の加護を受けた対象は炎に対する抵抗に「自動的に成功」し、さらにそのダメージを減少する。
効果を拡大することでダメージをさらに減少させることも可能。魔力さえ都合できれば(理論上は)百魔獣の王の炎さえ無傷で済ますことができるでしょう。

〇竜の咆哮(ドラゴン・ロアー):竜語魔法5レベルの呪文の場合は半径10m内の対象を三分間恐怖させる程度ですが、モンスターとしてのデータには効果範囲も持続時間も記されていないので適当です。

〇距離=接触:魔法の射程の種類の一つ。文字通り目標に触れる必要がある魔法ですが、命中判定は必要なく「接敵状態であれば自動的に命中」します。回避不能抵抗可能。

〇ナンバーズ:基本的には知覚=五感(増光、赤外視、ソナー) 合成されたものによって追加変更有。

〇10番:レベル10と言えばドラゴン! ISの「ヘヴィバレル」には、自身のエネルギーを専用武装のイノーメスカノンから射出する能力あるそうです。


〇ラガー→リガー パラディン→騎士→侍:戦闘機人以前に人間を機械化しようとして失敗したという話があったので、こういう人たちもいるのではなかろうかと。

〇ドクターの食事:記憶転写型量産クローンというと、とあるラノベの十八万円 の娘さんたちが浮かんできてしまいます。おかげで「ナンバーズ」と「シスターズ」をよく間違えて困ります。



[40369] 聖王伝説のクリスタル
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/01/02 15:25

 夢を、見ました。
 夢の中のわたしは、見知らぬどこかの白い部屋にしばりつけられています。
 動けないわたしを白衣の人たちがいじりまわします。薬を打たれ、電気を流され、体中を調べられるのです。
 激しい痛みがわたしを襲いました。
 でも、わたしは逆らいません。わたしは「道具」だからです。
 夢の中のわたしは人に仕え、人に使われるために生み出された存在なのです。
 わたしは待っていました。ずっとずっと待っていました。
 苦痛はありますが、長い長い孤独の時間と比べればどうということはありません。
 わたしは人とつながるために造られた。それなのにあまりに長い間一人でいたせいなのか、何も覚えてはいないのです。
 記憶も、記録も、何も、何もないのです。
 わたしの中身は研究者たちの白衣よりも真っ白で、遠いかすかな思い出とも呼べない何かがあるだけでした。
 調べられることで、わたしの主となる人が見つかればいい。
 ずっと、そう思い続けていたのです。

 ファラリスおじさま、今日はこんな感じの変わった夢を見てしまいました。
 どう考えても昨日レッサにせがまれて「ユニゾン」したせいです。

「頼む。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから試させてくれよ!」

 そんなことを言いながら必死にまとわりついてくるから「しょうがないなぁ」って許してあげたのですが、終わったあとで「うーん、78パーセントかぁ。なんか違うな」なんて言うんですよ。あの子は!
 字で表現することは難しいのですが、その時の言い方がなんだかひどく腹が立つ声音だったのです。インプには毒があるって知ってはいましたけど、あんな感じだとは思いもしませんでした。

「不満がないこともないけど、ロード代理としてなら認めてやるよ」

 代理ってどういうことでしょう。きちんとしたロードの人が現れたら用無しってことでしょうか。
 レッサは見た目は小さくてかわいいのに、どうにも口が悪いのが玉にキズです。
 でも、まぁ「お姉ちゃんって呼んでいいよ」って言ったら、「アネゴ」って呼んでくれるようになりましたし、なんだかんだ言いながらくっついてきますし、これはこれでいいのかもしれません。

 ところで、です。
 おじさまは、去年わたしが誘拐されそうになったことを覚えていらっしゃいますか?
 そうです、「龍」に利用されていた美沙斗さんにさらわれてしまった時のことです。あのときのわたしって、実はあのままどこかへ連れていかれてしまっていたら、研究所にいたときのレッサと同じようなめにあっていたんじゃないかって気がしています。
 あの人たちは、おじさまの魔法のことを(魔法だとはわかっていなかったみたいですけど)研究しようとしていたみたいですし、今更になって本当に運が良かったなって思えてきました。
 いえ、ホントに運が良かったら、そもそも誘拐されてないのですけどね。
 そんなわけで、割と他人ごとではなかった境遇のレッサですので、仲良くしていけるといいなって考えています。毒のある子なので、どうしてもケンカになることもありそうですけど。ウチの人たちと会ったらどんな感じになるのかなーって、今から楽しみでもあります。

   ロード代理 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 ティアナに会いたい! って想いが日に日に積もる一方です。
 そうですよね。会いたいなら会えばいいって、おじさまのおっしゃる通りなのですが、それができないのが今のミッドチルダ情勢なのです。
 いえ、会うだけでしたらできるのですが、あの「ガジェットドローン」が問題なのですよね。アレが出てきてしまうと危ないから、わたしはガマンガマンで過ごしているのです。
 あのロボットの名前は「ガジェットドローン」になったそうです。ゼリーが仕入れて来てくれた、時空管理局での呼び方がそうなので、それに合わることにしたのです。
 本当は造った人が名付けた名前で呼ぶのが良いのでしょうけれど、そちらは今のところ知りようがないので仕方がありません。
「仕方がありません」なんですよね。ティアナの所へ行けないのもそれなんです。本当は「やりたい!」って思ったことを全部やれたらいいのでしょうけれど、世の中どうにもそう上手くはいかないようです。
 なんとなく最近この「仕方がない」が口グセみたいになってしまっているようでイヤな気分ですね。

「汝のなしたいことをなすがよい」

 おじさまのおっしゃるこの教えは、実際にやろうとするととてもとても難しいことです。フォーセリアの本を読むと、もっと守りやすかったり、わかりやすいことを言っている神様もいたようなのですが、その点ではおじさまはとても厳しい方なんだなって思います。
 言われたことをやるんじゃなくて、どうやったらやりたいことを出来るのかを自分で考えてやってみなさいって、ことですから。
 例えばプレシアさんです。
 プレシアさんのやりたいことなんて誰だってわかります。「アリシアちゃんと幸せに暮らしたい」、ただそれだけのことです。
 でも、そのためにはまずアリシアちゃんを生き返らせるところから始めなければいけないのですから、これはもう大変です。
 アリシアちゃんが亡くなったのは、たしか二十六年くらい前だって聞いています。
 二十六年です。
 二十六年というと、わたしが生まれてから今までの時間の三倍くらいです。プレシアさんはその間、「どうしようもない」、「仕方がない」、「どうせ無理」とあきらめず、こんなはずではなかった時を取り返すために歩み続けて来たのです。
 たくさんの人から無理だって言われたと思います。ほとんどの記録が不可能だって証明していたそうです。わたしと違って、「おじさまの魔法」という答えを知らなかったのに、それでもあきらめなかった、あきらめられなかった「なしたいこと」がプレシアさんには有った。
 そんな、ちょっとわたしには想像もつかない時間をひたすらにがんばって来たプレシアさんですから、手伝ってあげたいって思ってしまうのは仕方がありませんよね?
 今の「仕方ない」はわざとです。
 がんばる誰かを応援して下さるおじさまの神官としてだけではなくて、わたし自身がどうしようもなくそう思うから。
 どうしても口をついてしまう(この場合は筆が動いてしまう?)クセなのでしたら、どうせなら何かをあきらめるための「仕方ない」じゃなくて、何かをするための「仕方ない」が多くなるようにしたいなって、そう考えています。

   あなたに誓う あなたのなのは


 ファラリスおじさまへ

 ようやくです。ようやく時空管理局の捜査チームが「ガジェットドローン」の基地を見つけました。
 例によってゼリーがどこからか仕入れて来てくれた話なのですが、こういう時のゼリーの話が外れていたことはほとんどないので、これで一安心というところですね。
 管理局の調査によると、あのガジェットたちは主に「レリック」と呼ばれている赤い宝石の形をした「超高エネルギー結晶体」を探しているようでして、同じく高エネルギーを持っているジュエルシードに反応しているのじゃないかって言うのが、プレシアさんの見解です。
 はい、ジュエルシードのせいだったんです。
 ガジェットのセンサーはかなり大ざっぱな作りで、レリックと似たようなものがあればとりあえず反応して、強引にでも収集しようとする、適当と言いますか、乱暴と言いますか、そんなものでした。
 あと「時の庭園」が襲われた件ですが、実はプレシアさんがレリックの内の一つを持っていました。よく似たジュエルシードの反応に、狙われているレリックまであったのですから、これはもう来てくださいって言っているようなものですよね。
 プレシアさんがどうしてそんな物を持っていたかと言いますと、そんなの「アリシアちゃんを生き返らせるための研究用」に決まっています。
 どういうことかと言いますと、このレリック、ベルカの時代には「聖王核」とも呼ばれていました。この「聖王核」を体に埋め込んで、高い身体能力と巨大な魔力を手に入れた人々が、現在聖王教会で信仰されている「聖王家」の一族です。
 そんな聖王家で一番の有名人と言えば、やっぱり「最後のゆりかごの聖王」ことオリヴィエ・ゼーゲブレヒトです。
 オリヴィエは歴史上の有名人であり、聖王教会の信仰の中心ともなっている人ですから当然いろいろな話が伝わっています。それはもう食事の好みから、恋愛遍歴、ある日にふと口にした何気ない一言まで、あることもないこともいろいろとあるのです。
 正直怪しい話が多すぎて本当とウソの区別が難しいそうですけど、そんな中にオリヴィエが産まれたときの伝説があります。

 その伝説によると、オリヴィエは「母親の命と魂を奪い取って産まれた鬼子」だとされています。
 本当なら、オリヴィエは生きてこの世に産まれてくることのできない子供で、お母さんのお腹から生れ落ちる前に死んでしまっていたはずだったそうなのです。
 それが、どういうわけか「生き返って」産まれて来た。
 プレシアさんはこの伝説に興味をもって、レリック=聖王核には「人を生き返らせる力」があるのではないかと考えて取り寄せたことがあった、というわけです。そのときにはこの間のラガーさんたちのような人に依頼したそうなのですが、その依頼料を聞いてみてビックリです。普通に頼むととんでもない金額になるんですね。
 わたしは「依頼」ではなくて、「お願い」してるだけですから、もちろんタダですけど。

   明後日には強制捜査らしいです 高町なのは

 追しん
  伝説の続きで、オリヴィエが「生き返った」時、母親とその聖王核がオリヴィエと一体となったそうなのですが、これってもしかしてリコール・スピリットでしょうか?
  伝説の裏側におじさまが居た! なんて想像すると、なんだかワクワクしてしまいます。




〇魔改造:アレクラスト西部由来の由緒ある技術です(半公式)。闇の王子の配下には魔獣と合成された子供たちの部隊がいるのですが――詳しくは『サーラの冒険』シリーズ、『賽子の国の魔法戦士』収録の「絶対危険チルドレン」辺りを検索してみてください。

〇セージorバード技能+知力ボーナスで判定:
作中のどうでもいい裏設定として、「フォーセリアの遺児」であるドクターのご先祖さまが設定されています。
その人物は「他人からどう思われようとも気にせず」、それでいて「自己顕示欲は強い」。天才的な技術者であり作品にかける情熱は高いので「仕事の完成度は超一流」で「自身の作品には愛着を持つタイプ」(ただしどうでもよい量産品は除く)。世界を滅ぼすような武器を玩具にするような危険で歪んだ性格をしている。「娘」がいるとかいないとか。
知名度低い(有名)な人物です。



[40369] 亡者の城に潜む闇
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/12/06 23:36
 ファラリスおじさま

 また、夢を見ました。
 夢の中のわたしは真っ白なベッドに寝かされていて、体中にコードのようなものを繋がれています。
 周りにはわたしを研究しているらしい白い姿の人たちが何人もいて。
「動作確認」「動作安定」「適合率問題なし」などと、まるで機械がちゃんと動くのかを確認しているかのような話をしています。
 わたしは思いました。
 こんなのは嫌だ、嫌だ、と。
 でも、夢の中の「私」はそれを受け入れてしまっているのです。
 自分は「道具」だからと、穏やかな日々や、優しい時間よりも、そちらを選んでしまっているのです。

 レッサのせいで最近は嫌な夢をよく見ます。
 烈火の剣精とか呼ばれて、研究所の人たちに他人のため、主のために尽くすのが道具の喜びだなんて、記憶がないのをいいことに教え込まれていた――とかだったのならまだ良かったのですが、あの子は本気でそんなことを思っているところがあるのですよね。
 普段の態度からはそんな風には見えないのですが、ユニゾンして一つになってみると、「なんとなく」そういうことがわかってきてしまいます。
 きっとあの子は、何かがあって私やみんながピンチになった時、それしかないって考えたのなら「自分を犠牲にする」ことを選んでしまうような気がします。
 そんなことをされても私は全く嬉しくないでしょうが、それがあの子の「為したいこと」なら止めるわけにはいけないのでしょうか?
 あっ、そうですよね。
 私が「そうされたくない」のなら、そうさせないのもまた自由ですよね!
 ゼリーはなんだかんだでどうにかしそうなので心配いりませんが、レッサはなんだか心配になってしまうのです。
 大人な姿のゼリーと違って見た目が小さいからでしょうか。
 見た目ってやっぱり大事ですよね。
 私もミージュとして大人モードなときは、それなりに頼れる恰好ができていると良いのですが、自分のことだけにわかりません。
 かと言って、誰かに「私頼れる? 私って大人?」と訊くのもなんだかおかしな感じです。
 この間、自分に自信を持つんだ! なんて言っておいてすぐにこれです。なかなか進歩のない信徒で申し訳ありません。
 今後とも誠心誠意努力を重ねてゆく所存ですので……難しいことを書いてみようと思ったのですが、続きが思いつきませんでした。
 魔法の呪文も、もっとカッコいい言葉にできるといいなっていつも思っているのですが、いざそのときとなると「おじさま、なになにをお願いします」みたいな感じになってしまうのもどうにかしたいなって、考えてはいるんですよ。

   大人モードも大変です ミージュでなのは

 追しん
  そのままで良いのですか。
  おじさまがそういうことにあまりこだわらない方だってわかってはいるのですが、でも私だけではなくて、おじさまのイメージもありますし。
  はい! 高町なのは、為したいように為します!   


 ファラリスおじさまへ

 今日、時空管理局の人たちが「ジェイル・スカリエッティの研究施設」へと突入しました。
 プレシアさんの遠見の魔法で「時の庭園」のスクリーンに映し出されたその捜査の光景は、なんともひどいものでした。

「ここは廃棄することにしたよ。何度も来られてはわずらわしいからね。だが、ただというわけにはいかない。データの収集くらいは協力してもらおうか」

 スピーカーが男の人の声を伝えると、施設に突入した「海」の部隊に恐ろしいことが起きたのです。
 最初は壁や床から突然手が生えて来て、銃を撃ったり、手りゅう弾のようなものを投げつけたりと行った程度でした。
 まだこれはそれぞれの人がバリアジャケットやシールド、バリアで防いでいました。
 アンチ・マギリング・フィールドがあっても、ロストロギアや凶悪な次元犯罪者と出会うことの多い「海」の部隊は、「陸」よりも技術や魔力の優れた人が多いそうなのでキチンと対応できてはいました。キツそうではありましたが――AMFの中っていつもよりも魔力を使わないと上手く魔法が使えないので大変なんです。
 そんなエリートらしい「海」の部隊に私と同い年ぐらいの男の子がいて、その上どうも指揮官(?)みたいな仕事をしていたのはビックリしましたが、よく考えるとユーノ君も発掘責任者とか言っていたので、こちらではそんなに驚くようなことでもなかったのかもしれません。
 ガジェトたちもたくさん現れましたが、部隊はそれらも問題なく退治していきます。
 問題はそのあとから起きました。

「あらあら、生きのいいお人形さんたちがいーっぱい。たっぷりと苦しめてからぁ、飽きるまで遊んであげましょうねぇ」

 いやらしい言い方でした。何かを誰かをいじめて喜ぶような、そんな声。たまに、たまーに翠屋にもそんなお客さんが来たりしたので知っています。ああ、ウチに来たそういう人たちは、お父さんとお話しした後はとても親切なお客さんになってくれたんですけど。

「来るな、来るなー!」「やめ、やめて!」「あああぁ」

「にゅいいいいん」と不思議な音がしたと思ったら、部隊の人たちが一斉に悲鳴を上げて、それが施設の中いっぱいに響きました。
 遠くから(それこそ世界の外側から)見ていただけの私には何が起きたのかよくわかりません。ただ、悲鳴を上げている人たちが、何かをひどく怖がってそこから逃げようとしていた、ということだけです。
 やがて悲鳴が収まると、暴れていた部隊の人たちの大半がフラフラと無表情で立ち尽くすようになりました。大丈夫だった人たちが、その表情を無くしてしまった人たちに必死で声をかけるのですが聞こえていないようでした。

「うふふふふ。それじゃあ、かわいい、かわいいわたしのお人形さんたち、近くにいる人と殺し合いをしましょうねぇ」

 ひどい光景でした。さっきまで協力し合っていた人たちが、顔色一つ変えずに戦い始めたのです。
 無事だった人たちは、指揮をしていた男の子を中心にしてそれをどうにか止めようとしていたのですが、おかしくなってしまった人たちは全く言うことを聞いていません。
 やがて言葉での説得をあきらめたのか、おかしくなった人たちは拘束されて転移魔法でどこかへと飛ばされました。たぶん外で待機している人たちのところへでも飛ばしたのでしょう。

「つまらないことするわね。……まぁ、いいわ。あとの人たちはドクターが遊ぶそうだからぁ、奥へ進みなさいな」

 言われたから、というわけではないのでしょうが、管理局の人たちは奥へ奥へと進みます。
 そうしてドクターこと、ジェイル・スカリエッティさんが姿を現したのです。
 ドクターの目が光るたびに、突入した人たちは一人、また一人と、動けなくなっていきます。

 赤く光る瞳と、蒼白い肌。
 ドクターは魔法の本に書かれていた「不死の王」のようでした。たしか、ビカム・ノーライフキングの呪文でしたでしたね。そこに書かれていた姿とよく似ています。
 おじさまに「特に気にいられていたような人がなれる」というバンパイアは、私にとっては一つの憧れの姿です。
 ドクターは尊敬するルーテジアさんと同じで、自分でなった人なのでしょうか?
 それとも、おじさまの御力で変わった人なのでしょうか?
 どちらであってもスゴイことです。個人的にドクターのやっていることにはイマイチ賛同できませんが、おじさまの神官としては、すごいなーって感覚があります。
 今すぐなれるよって言われても、ちょっと遠慮しますけど。
 それに人の血を吸わないと生きていけない、というのも困りものです。他人に迷惑をかけたり、怖がられたりしたら嫌ですしね。
 思い出していたら話がそれてしまいました。

 一人、また一人と動けなくなっていって、最後に残ったのはあの男の子でした。

「君はクロノ・ハラオウン執務官でよかったかな? その年でなかなかのやり手だと、我々のような者の間でも評判だよ」

 自慢話が好きみたいで、いろいろと語り掛けながら逃げ回るドクターと、それをなんとか捕まえようとするクロノ君。
 しばらくそんなことが続いた後で、ようやくクロノ君のバインドが決まった時のことです。

「やぁ、これはありがとう。フリーダムの呪文は束縛を受けないと使えないのが難点でね。君のおかげで使うことができそうだよ」

 ドクターの言ったことは私にもよーくわかります。
 あ、いえ、決しておじさまに文句があるわけではないのです。そこは勘違いなさらないでくださいね。
 フリーダムは「おじさまの力で束縛や拘束から解放していただく魔法」ですので、普段は使えないのですよね。クラナガンで結界に閉じ込められたときみたいなピンチから脱出できるのは、とってもありがたいのですが、ちょっと使い勝手が……ああ、ごめんなさい、ごめんなさい。助けていただいたのに、こんなことを思ってしまってすいません。

「一つ受け取ってくれたまえ。これは、手伝ってくれた君に贈るささやかなお礼だ。――『ファラリスよ、彼に恐怖の病を与えよ。プレーグ!』」

 相手を病気にするプレーグの呪文は、私にはまだ使うことのできない魔法です。ルーテジアさんの解説によると「虫を退治するのに便利」な魔法らしいのですが、それを人間に使ってしまったらとんでもないことになります。
 呪文を受けたクロノ君は、ブルブルとふるえてしまって動くことも出来ません。その様子を確認したドクターは視線をさまよわせると、

「ふむ。大体こちらかな」

 そう言って、遠くから見ているはずの私たちの方を見つめてきました。私の目は、ドクターのその赤く光る眼に吸い寄せられてしまいます。
 遠く離れたところなので効果はないはずなのですが、吸血鬼の赤く光る眼を見ると動けなくなってしまうと本に書いてあったこともあって、私と、一緒に見ていたみんなギクリとして固まってしまいました。

「観客の諸君、またどこかで会おう。――『ファラリスよ、この身を自由なる地へと連れ去りたまえ。フリーダム!』」

 ドクターがフリーダムの呪文でどこかへ消えた後も、私たちはしばらく動くことができませんでした。
 プレシアさんによると、時の庭園の装置を利用した遠見の魔法は、時空管理局の次元航行艦に搭載されたセンサーでも感知できない位には見つかりにくいものなのだそうです。
 プレシアさんが昔関わっていた研究の基礎を設計したと言うジェイル・スカリエッティさん。天才だってウワサは本当だったんだって実感しました。
 話はここで終われません。私たちの目の前にはスクリーンの中で苦しんでいるクロノ君の姿が映っているのですから。
 特にゼリーが大慌てでした。ゼリーもルーテジアさんの本を読んでいたはずなのですが、プレーグの呪文について改めて確認されたので、知っていることを詳しく話すと大急ぎで転移魔法を使って飛んでいこうとします。
 ゼリーがそうしていなければ私がそうしていたのかもしれませんが、他に慌てている人がいるとなぜか落ち着いてしまうみたいです。
 疫病の魔法ですから、うかつに近寄るのは危険です。
 もしかしたら「一度死んでいる」ミッド式の使い魔は大丈夫なのかもしれませんが、それでもどんなことになるのかわかりません。
 あの時の私はとても冷たいことを言っていたと思います。でも、私は見知らぬ管理局員のクロノ君よりも、ゼリーの身の方が心配だったのです。
 レッサが「あたしは毒や病気は平気だから見てきてやるよ」って言ってくれなかったら、緊急事態なのにケンカになっていたかもしれません。
 クロノの君近くには、ドクターがいなくなったことで金縛りが解けた他の局員の人たちがいます。そのままではあの人たちにも伝染してしまうので(もうかかっているかもしれませんが)どうにかして警告をしなければいけませんでした。
 そこで、ユニゾンデバイスで機械の身体(とてもそうは見えませんが機械だったのです)のレッサが、プレシアさんが研究用にとミッド語に翻訳していたルーテジアさんの本のデータの中から、必要そうな部分急いで抜き出して持って行ってくれました。
 ドクターの仲間じゃないかと思われたのか、レッサが管理局の人に捕まりそうになりましたが、どうにか届けることはできたようでした。
 病気を治す魔法はあります。ずっと前から使える魔法で、それでプレシアさんを治したことだってあります。
 でも、私は怖かったのです。
 プレーグの呪文について知らなければ、きっとすぐに飛び出していたでしょう。それで、たぶん死んでしまっていたのだと思います。
 私は臆病です。もしかしたら助けられるかもしれないのに、怖くて行くことができませんでした。
 プレシアさんは「絶対に行ってはダメよ」と言ってくれました。レッサはあまり気にしていないようです。
 ゼリーは何も言ってきませんが、すごく悲しそうな顔をしています。何も言われてはいませんが、それが私の臆病を責めているように感じてしまいます。

   どうしたらいいのかわかりません 高町なのは





〇プレーグ:暗黒魔法9レベル。効果=この呪文への抵抗に失敗した者は、「非常に伝染力の強い」疫病に罹患してしまいます。疫病のタイプは様々で、詳しい症状は呪文の行使者がある程度定めることが可能。
 この呪文による病は非常に凶悪で、ある賢者の調査によると死亡率が八割五分を超えるとされています。
 フォーセリアには「英雄といえど、病には勝てない」との言葉があります。呪われた島に多数いたという破壊の女神に仕える神官達、彼らがこの呪文を効果的に使用しなかったことは人類にとってまことに幸運でした。

〇病気:完全版ルールの病気についての記述をそのまま適用します。
 プレーグによる疫病を魔法で治療する場合、仮に11レベルプリーストにして知力ボーナス+4の大ニースであっても、達成値の拡大をしなければ安定した効果は得られないでしょう。



[40369] 封印伝説のクリスタル
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/12/12 01:57
[カーウェス病]

症状=手足などの身体の末端から徐々に麻痺し、やがて死に至る。

 この病気の進行速度は非常に遅く、また伝染することはありません。ただし重度の症状に陥った場合、そこからの治癒は非常に困難な病気です。
 この病は、体内の魔力のバランスが大きく崩れることによって発病すると言われており、魔界や精霊界など異世界などへの転移によって世界に漂う魔力が大きく変化した際や、なんらかの要因によって長期間に渡って大きく魔力を消耗しつづけるなど、非常に珍しい状況を経験した者だけがかかる奇病です。
 カーウェス病の名前は、この病にかかった最も有名な人物がカーウェスと言う名であったために、いつしかそう呼ばれるようになりました。
 カーウェス病は初期症状の間に十分な休養を取ることが出来ればそのまま治りますが、そこで無理をして激しい魔力の消耗を続けると症状が悪化して治療が非常に困難になることで知られています。
 重症となってしまった場合、手足などの身体の末端から徐々に麻痺が広がり、やがては心臓などの重要な臓器が停止して死に至ります。
 治療法として、古の「魔力の塔」などのような莫大な魔力に触れることが特効薬になることが確認されています。

ラヴェルナ・ルーシェン 著 『アレクラストの博物学』より
アーリア・クローノ 訳




  ファラリスおじさまへ

 近頃は朝も手紙を送ることが多くなった気がします。
 今日は、悪夢を見ました。
 最近はいつも変な夢ばかり見るので困ってしまいます。
 四月ごろには、ユーノ君が下水道でものすごく大きなゴキブリと戦っている夢を見て朝から最低な気分になったこともありましたが、今日の夢は理由がわかっています。
 病気になった夢だったからです。きっとクロノ君を助けに行かなかったことが、気にかかっていたせいだと思います。
 夢の中の私は、テレビで見る病院の手術用のベッドみたいなものに寝かされていました。身体を動かすことはできませんでした。
 最近の夢はこんなのばかりです。
 私には手の感覚がありませんでした。体の中で魔力がおかしな具合になっていて、そのせいなのかどうかわかりませんが、体中のアチコチでも何かが抜け落ちてしまったような気がして仕方がありません。
 やがて手術が始まりました。
 腐ってしまっていた私の手は切り落とされ、体も切り開かれて、ダメになってしまった中の部分が取り出されて行くのです。
 どうしようもないと、わかってしまっている私がイヤでした。
 永遠のような時間が過ぎたあと、私はなんとか命だけは繋ぐことができました。
 代りにたくさんの大切なものを無くしてしまっていましたが……。

 たぶんクロノ君のことと、はやてちゃんの病気が頭の中でグチャグチャになってしまったのでしょう。
 もう治りましたが、はやてちゃんの脚はずいぶんとひどかったみたいで、病院で治療を続けていなかったら血が通わなくなってしまって、そのまま腐ってしまっていたかもしれないって聞いたことがあります。
 長い間「闇の書」に魔力を奪われ続けたせいで、病気になってしまっていたのです。本当なら子供のうちにかかるような病気ではないらしいのですが、魔法を使って消耗することとは比べものにならない位に「闇の書」がはやてちゃんに負担をかけていたせいです。「あと一年、あのままの状態が続いていたら、命にかかわっていたかもしれない」ってアーリアさんも言っていましたし、本当に早く助けることができて良かった――クロノ君は、どうしたらいいのでしょうね。
 私は自分で自分がどうしたいのかわからないのです。「よく知らない子なんて放っておけばいい」って気もします、「はやてちゃんも、プレシアさんも、最初は知らない人たちだった」って考えもします。

 ああ、そうでした。そうでしたね!
 おじさまは、こんな時のための魔法を教えて下さっていました。

   高町なのは いってきます! 


 ファラリスおじさまへ

 おじさまからアドバイスを頂いた私はすぐに自分にイービル・インパルスを使いました。
 そして自分の欲望に正直になった私はすぐさま「朝ごはん!」と走り出したのです。

 ああ、すいません、すいません。ちょっとした冗談です。
 あの時、私は飛び出そうとしたのです。でも、そんな私よりも先にゼリーが慌てだしたから、病気にかかったら大変だろうなって冷静な考えが浮かんできて、それで止まってしまったのです。
 とっさの衝動に任せていたら、きっとあの時の私は治しに行っていたはずです。どちらの私が良いのかはわかりませんが、去年の私はグレイさん……ではなくてグレアムさんに言ったんです。

「良いか悪いかじゃなくて、やりたいかやりたくないか。選べないのなら、迷っているのなら、とりあえず『どっちも』を選んじゃいましょう」って。

 自分で言ったことを守るのも守らないのも、そのときの気分次第でいいのでしょうけれど、今回はちょっと見栄を張ってみた私です。
 先生ですから!
 それで失敗してしまっているので、エラそうなことを言うなって話ではあるのですが。
 えーと、とにかく朝ごはんの席で「やっぱり昨日の子を治しに行きたい」と話をしました。プレシアさんにはものすごく反対されて「どうして話したこともない相手のために……」といった感じのことを言われたのですが、それは、たぶん、クロノ君が同い年くらいの子供に見えたからだと思います(実際には五つも年上だったのですが)。
 レッサは「好きにしたらいい」と言ってくれていまして、ゼリーはその話が出てすぐにどこかへ連絡をとっていました。
 プレシアさんをなんとか説得していたところ、グレ……ややこしいですね。このときはまだ、「グレイ」という偽名しか知らなかった「グレアムさん」から連絡が来たのです。
 プレシアさんとグレアムさんはしばらく二人で内緒話をしていましたが、そのあとでプレシアさんが行って来てもいいよって言ってくれました。病気にかからないためには少しでも体力が有った方がいいだろうってことで、大人モードのミージュの姿で、かつ、できる限り近くに行かないようにってしなさい、何度も言われましたけれど。
 プレシアさんは気づいていなかったのかもしれませんけれど、病気を治す魔法は触れないといけないのですよね。
 プレシアさんとグレアムさんが会うと、いっつも二人でひそひそと内緒の話をしています。仲良しさんですね。
 と、まあ、そんなこんなで「なぜかグレイさんとアーリアさんの案内」で時空管理局の病気や毒に関する研究施設に行くことになった私なのでした。
 このときは、なんで管理局のそんなところへ行けるの? って頭の中に「?」が浮かんでいました。
 なんだかすごい図書館に勤めている人だとばかり思っていたのに、だまされました! 
 でも、私もティアナやティーダさんをだましているので怒るに怒れません。なんだかズルいですよね。

 時空管理局が関わる世界は、数年に一つ程度の数でどんどんと増えて行っているそうです。たしか、現在は管理世界が三十五、管理外世界が百五十を超えていて、無人世界はもっと多いのだとか……。
 それだけの数の「世界」があると、そこにはもう数えきれないほどの未知の病気や毒物があります。そして、そういったものを持ち込んでしまう人もたくさんいます。そういった事態に日夜研究を続けている部署みたいでした。
 私がついていった所は。

 万一の事態(ウィルスがもれだしたり)に備えて、管理局の本局とは離れた場所に研究施設はありました。そこまでの移動中に、グレアムさんからいろいろと話を聞きました。
「闇の書」のせいで親しかった人を亡くしたこと。
 それからずっと「闇の書」を追いかけていたこと。
 実は、はやてちゃんにお金を送っていた「グレアムおじさん」だったこと。
 最初は、はやてちゃんごと「闇の書」を凍結して封印するつもりだったこと。
「なに、懺悔のようなものだよ」とグレアムさんは言っていました。話したおかげでスッキリしたと。
 それからクロノ君は、その亡くなった親しくしていた部下の人の息子さんで、孫みたいなものなのだそうです。今では、私やはやてちゃんもそんな感じに思っているそうなのですけど。

 研究施設内の隔離区画にクロノ君はいました。モニター越しに見るクロノ君は何かにおびえた様子でブルブルと震えています。それからよく見ると、そのクロノ君の目はギラギラと赤く光っているようでした。
 吸血鬼のドクターがかけた魔法で、目が赤く光っているのです。見られたらよくない、目を合わせるのは絶対にダメなんだろうなって思いますよね。
 グレアムさんもそう考えていたみたいで、直接視界に入ることを避けるように徹底していたようです。
 離れたところからの検査では、ウィルスなんかは特に見つかっていないようなのですが、この広い世界にはどんな形の病気だってあるのでしょう。
 フォーセリアの病気は「精霊力が乱れ」が原因で起きるとか書いてありましたし。精霊力ってなんなのかよくわかりませんけれど、とりあえずウィルスとか菌とかそういうものではないことはわかります。
 病気を治す魔法をかけるためには、どうにかしてクロノ君に触れないといけないのですが、さすがに隔離されている部屋に入る許可は降りません。
 私がもっと魔法が上手に使えたなら、ケガも病気も毒も石化もまとめて治せて、その上離れたところからかけることのできる「リフレッシュ」を使えたら良かったのですが、それはまだまだ私には使えないのです。
 グレアムさんも残念そうでしたが、とりあえず経過を見るしかないということになりました。

「こっそり入って行って、治せませんか?」って言ってはみたのですが、みんなに反対されてしまったんです。
 たぶん、なんとなくですが、大丈夫のような気がしたのですけれど。たぶんや、なんとなくじゃあダメなんだそうです。三人がかり、いえプレシアさんも含めて四人がかりでガンガン言わなくてもいいんじゃないかと思います。
 特にゼリーは! 
 ゼリーが責めるみたいに見てくるから、気になって気になって嫌な夢まで見たって言うのに、目前まで来てコロっと言うことを変えるんですから。
 大体、あの子は本当はリーゼロッテって名前で、グレアムさんの使い魔をながーい間やっていたんです。それなら主の私よりもいろいろできるのだって納得です。
 グレアムさんやアリアさんはいいですけど、ゼリーは今は私の使い魔なんですから、許しますけど許しません。意味がわからないかもしれませんが、なんとなくそんな気分なのです。
 使い魔を造る魔法のつもりで覚えていたものが、実は使い魔を譲り受けるための魔法だったなんて、危うく大恥をかくところでした。

 おじさま――グレアムさんやアリアさんは手紙に書く名前を変えますけれど、ゼリーはもう「私の使い魔」なので、そのままこれからもずっとゼリーです。

 幸いにと言うとクロノ君に申し訳ないのですが、あの場にいた他の局員さんたちは今のところ発症の気配はありませんでした。
 あと、あの「にゅいいいん」に操られていた人たちもいつのまにか元にもどっていたそうです。
 どちらの人たちも、検査のためにしばらく動けないそうですけど。
 グレアムさんと一緒に少しここで経過をみることになりました。

   力不足を実感している 高町なのは


 おじさまへ

 今日は夢を見ることもできませんでした。
 夜中(高次空間なので夜はないのですが、ミッドチルダ時間での夜中に)に眠ろうとして、でも目が覚めてしまってということを何度も繰り返して、結局朝までよく眠れませんでした。
 なんとも上手く言えないのですが、誰かに見られているような、そんな感じがしてどうにも気持ち悪かったのです。
 普段は結構どこででもあっという間に眠れるのですが、やっぱり管理局の施設ということで落ち着かなかったのかもしれません。
 前、追いかけられましたしね。
 寝ていないせいなのか、なんだか目がかゆい気がするのですが、仮面を取ると変身が解けてしまうのでかくことができません。
 目がかゆくてもかいてはいけないと聞いたことがあるので、うっかりゴシゴシとしてしまわないで済むのはありがたいのですが、でもやっぱりムズムズとしてしまいます。
 目を閉じているとずいぶんと楽になるので、今日はしばらく目をつむったまま過ごしてみます。実はミッド式の魔法を覚えてからこっち、だんだんと目ではなくて、魔法の目と言いますか、魔力の感触と言いますか、そんな感じの何かを感じることで周りのことがわかったりするのです。
 この感覚は結構便利でして、頭の後ろとかの目で見えないところのことわかるので、剣術の練習などで後ろから急に何かを投げつけられたりしても反応できるので、とても役に立っています。
 ただ、良い所があれば悪い所もあります。
 美沙斗さんに聞いたところでは、御神流の奥義は自身の持っている周りを感じ取る能力を必要最小限に絞るところから始まるそうなのです。
 奥義「神速」の領域に至ると、目に映る光景から色が消えて、世界が白黒に見えるようになる代りにすごく速く動けるようになります。さらにそこから視界やなにやらを削り落とすことで、もっともっと速い動きができるようになるそうなのですが、私は「見え過ぎているせいで神速に向いていない」かもしれないって言われてしまいました。 
 空を飛んでいるとこの魔法の感覚はすごく役に立ちます。でも、そのせいでお父さんの剣術をキチンと修めることができないかもしれないというのは、かなり残念です。
 目を閉じたままサッと避けたりできると、すごく「達人」っぽいのですけどね。 

   なのはより


 ファラリスおじさまへ

 クロノ君の病状がますます悪化してしまいました。目は昨日にも増して赤く光って、肌は青白く、頬はこけてすっかりやせ細ってしまっています。それから急に暴れだすようになったので、いまではベッドに固定されてしまっています。
 病室の中は魔法を使って暴れることが無いように、魔法が使えない状態にされているそうです。未知の病気にかかった患者さんが、混乱してどこかへ転移したりすると病気が広まってしまって大変なことになるので、そういった事態を防ぐための仕掛けなんですね。
 これは現在の技術ではなくて、この施設のもとになったロストロギア船の設備なのだそうですけれど。魔力の結合を解除してしまうというのは、魔法の本に載っていた「アンチマジック」のようなものなのでしょうか? アンチ・マギリング・フィールドと「アンチマジック」は似たような名前と効果ですけど、魔法の使用を抑える強制力が全然違います。
 AMF内でしたら魔法が使いにくくて魔力の消費が多くなるだけですが、「アンチマジック」をされてしまったら「アンチマジック」それ自体を解除できる「完全解除」の呪文以外は一切使えないのですから大変です。
 そんな魔法無効化空間にいるクロノ君のお世話はロボットがやっているのですが、それがなんだか例の「ガジェットドローン」に似ているのです。
 ああいう感じのデザインが管理世界の流行なのでしょうか?
 今気が付いたのですが、手紙がおじさまのところまで飛んでいく途中に魔法の効かない場所があったら、そこで手紙が落ちてしまうかもしれません! おじさま、昨日や一昨日の手紙は届いていますか?
 今日の手紙はどうしましょうか。とりあえず施設の一番はしっこから送ってみますね。

   どうか届きますように


 ファラリスおじさまへ

 凍結封印だそうです。
 この施設では現在の医療技術では治療の見込みがない人たちを、仮死状態で冷凍しています。
 それは技術が進歩して、治療可能になるまでの時間を作るためです。
 はやてちゃんの「闇の書」のことも、これと似たような考えがあったみたいです。「今は」無理でも、「いつか、きっと」と未来へと残す宿題です。
 幸いなことにはやてちゃんは助かりましたが、クロノ君は今のままだとあと三日もすると死んでしまいそうな状態です。
 どんな病気なのか見当もつかない。目に見えてわかることは、どんどんと命が弱っていくことを示すデータと、それとは逆にらんらんと光る赤い眼と、医療用のロボットのアームにまでかみついたりする暴れ方。
 ここに来てから少しだけ話をしたクロノ君のお母さん。リンディさんが涙のあとが消せていない顔で了承しました。

「悠久なる凍土 凍てつく棺のうちにて 永遠の眠りを与えよ 凍てつけ」

 エターナルコフィン。
 グレアムさんの詠唱が終わると、アンチマジックの切られた室内の時間が停止しました。
 クロノ君は、大きな氷の柱の中で眠っています。
 私は、ここで凍結封印されていた人たちの内の何人かを治療することができました。
 でも、ここに来た最初の目的はかないませんでした。
 でも、でも、病気を治すだけです。
 亡くなった人たちを生き返らせようって考えているのですから、次にここに来るときには全員まとめて治せるくらいになっていないといけません。
 どうか、それまで待っていてください。

   あなたに願う 高町なのは 




〇夢:無印冒頭のアレ。魔力が多くて技術が未熟な場合に発生するそうですが、どうしてそうなるのかは不明

〇病気:朱頭病(ハゲて赤くなって暴れて死ぬ病気)とエクリプスウィルス(Force) を参考にバンパイア風にした代物です。進行強度や治癒値などはプレーグの固定値(ルールブック記載の中では最悪級)。

〇神速:加速するほどに知覚領域が狭くなっているような印象。

〇空間認識(把握)能力:フェイトの死角からの一撃を防いだり、目を閉じたままヴィータの鉄球を撃ち落としたり。映画1st漫画版では、アリサに向かって「死角から飛んできた硬球をはじめから見えていたかのように正確に捕らえた」。なのはさんの知覚領域は相当広い模様。

〇高町なのは:知覚=「五感」及び「魔法」とします。



[40369] 間奏『幻獣の遺産』
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2014/12/14 19:17
『なのはのモンスターコレクション』

〇リュンクス:モンスター・レベル=6

 あらゆるものを見通すリュンクスの瞳。
 邪な目的でこの力を手に入れたいと願った子供に、とある賢者はこう言った。

 どうしてアンタがそんなものを欲しがるのか理解にくるしむのだけど……。
 本物か、偽物か、その区別を簡単につけられて便利ですって?
 はぁ、もう少しよく考えてみなさいよ。
 想像してみなさい。
 どんな人だって動いているのなら大概は生きているでしょう?
 だとすれば、その身体の中には何がある? 
 頭蓋骨の中に浮かぶもの、耳や鼻の奥にたまっているもの、食べたものが流れ込んで行く先、その下のお腹の中を覗き込んでしまったとしたら、どんなものが見えるのかって考えてみなさいよ。
 想像できた?
 そう……リュンクスの瞳なんてロクなものじゃないわね。
 私たちが美しいと思うものは外側にあるの、外見ね。下手に中身なんかを見てしまったら、あまりの醜さにそれこそ自分の胃の中身を見る羽目になるかもしれないわよ。
 見た目にひかれて近寄ってみたら、中身の方はどうしようもなく腐っていたなんてよくあることよ。
 あら、これだとリュンクスの瞳があった方が便利なのかしら。
 汚らしい奴らが近寄ってくる前にわかるもの。
 リュンクスの瞳は心の中まで見透かすなんて説もあるそうだけれど……アンタはそれでも欲しい?
 見なければ良かった、知らなければ楽しい気持ちのままでいられたのにって後悔するようなこと、世の中には結構あるから。
 賢明ね。
 思い出は楽しいことばかりじゃないもの、ホントに……。

   ある日のアリサ・ローウェルと八神はやての会話より


 リュンクスは体長三メートルほどの大きな猫のような姿をした幻獣だ。
 知能や肉体的な能力のほとんどは大型の肉食獣のそれと大差がない彼らだが、そんな彼らが幻獣とされる所以が二点存在する。
 一つ目は、彼らの体内に存在するリグニア石と呼ばれる琥珀色の小さな結晶である。この結晶は細かく砕き、煎じて飲むと精神に影響を与える病の特効薬となるのだ。このリグニア石は高値で取引されるためリュンクスを狩ろうと狙う者たちは多い。
 そんな狩人たちを悩ませるのが、リュンクスが幻獣と呼ばれる所以の二つ目である「透視能力」だ。リュンクスの目は半径百メートル内のものを見通してしまう。たとえ岩や木の影に隠れて近寄ろうとしても、リュンクスの鋭い眼は怪しい者たちの接近をいち早く見破ってしまうのだ。
 そんな鋭い瞳で物事を見通すリュンクスと対になる生物として、古代の人々はよくモグラを引き合いに出した。土の中に潜り潜みまともに目が見えないとされたモグラは、鋭い眼のリュンクスと対照的であると考えたのだろう。

 ここから先は、そんな対照的な二種類の生き物の特性を併せ持つキメラの話。




 ジェイル・スカリエッティによって製造され、現在稼働しているナンバーズはセイン以外に六機存在する。
 一番上のウーノは、製造者であるジェイル・スカリエッティ(ドクター)の近くにあって、その活動を全般に渡って助けている。
 二番目のドゥーエは、ドクターの予備計画の準備のために潜入工作を行っている真っ最中。
 三番目のトーレは完全な戦闘要員であり、今のところその出番はあまり無い。先日の「引っ越し」騒ぎでも表に出されなかった彼女は、毎日を戦闘訓練の時間に充てていつか来る出撃に備えている。
 四番目のクアットロは、ウーノの手伝いをしてみたり、前線に出てみたりと自らの役目を模索している真っ最中。
 五番目のチンクはいくつかの特殊能力を活かして外部での活動を主に行っている。現在はドクターが真竜に渡したはずの魔法具の行方を辿る為にアルザスに行っている。
 十番目のディエチはその能力の特性からトーレと同様の純粋な戦闘要員であるが、対個人戦闘に特化した性能のトーレとは違って集団を相手取ることに向いているため、制圧任務などに出かけることもある。が、普段は基本的にヒマにしている。

 さて、とここで六番のセインは考える。
 この中で一番忙しく働いているのがドゥーエであるということに異論はない。ドクターの予備プランの準備として聖王教会への潜入任務を年単位で行い続けているのだから。たまに帰省と称して動作データの共有と調整のために戻って来た時などには、仮面生活でのストレスなどについてボヤくこともあるので、それを聞いている身としては「自分じゃなくて良かったー」と素直にこの姉を尊敬するしかない。
 次に忙しいのはいろいろと自由なドクターの活動を支え続け、姉妹全員の管理・調整を手掛けているウーノだろう。突然の思い付きでフラフラと動きまわるドクターのお世話係りはこの姉以外には考えられない。
 そして「その次は誰か?」となると、ここは自分ではないだろうかとセインは考えていた。
 予定されている残りの姉妹たちが稼働しだしたらどうなるかわからないが、今のところ戦闘要員はそこまで忙しくない。対して、密偵としての能力に特化したセインはかなり頻繁に「ドクターのお使い」に駆り出されていたのだ。

 今回のお仕事は、時空管理局の「海」の大物であるギル・グレアムに関わる内容だった。
 最近のドクターのお気に入りである「クラナガンの少女」――アルザスのル・ルシエ族から魅了能力によってチンクが聞き出した情報では「高町なのは」という名前らしい。
 この「高町なのは」とギル・グレアムの間にはなんらかの繋がりがあることが予想されていた。
 というのも、ギル・グレアムは第一線で活躍していた時代も、後進に活躍の場を譲ってからも、「陸」の活動にあまり口を挟むことをしなかった。特にここ十年ほどはかなり控えめに行動しており、地上本部に限らず他の権力者とやり合うような事態を極力避けていた様子だったのだ。
 それが先日のクラナガンでの騒ぎでは、地上本部のレジアス・ゲイズと直接話をつけるなどの今までにない動きを見せた。
「怪しい」とそう考える者がでてくることは当のグレアムにもわかっていたはずであり、それでも動いたとなると、この「高町なのは」は彼にとって相当重要な人物ではないかとの考えも浮かんでくる。

 そこで、この二名の関わりを探るための哀れな生贄として選ばれてしまったのが、クロノ・ハラオウン執務官だ。
 この若くして執務官試験を突破した秀才は、グレアムの使い魔を魔法の師匠としており、またグレアム自身とも親しい付き合いであることはよく知られている。
「高町なのは」と年齢が比較的近く、また見た目が幼く見えると言うのも好条件であった。「高町なのは」は催眠魔法であるメズマライズを多用し、なるべく相手を傷つけないように済まそうとする傾向がある(とは言えやるときはやるようだが)。
「甘い」性格の彼女であれば、知り合いの知り合いであり、その上感情移入しやすい同年代の子供が「自分の魔法でないと治療が難しい病気」となれば表に出てくる可能性がある。
 時空管理局の最高権力者への伝手があるドクターにとって、この「都合のよい執務官」を自分の拠点への突入部隊へ編入させることなど大した手間ではない。
 予想と予測を重ねた適当な策ではあったが、当たれば利があり、外れたところで損害が増えるわけでもないのであれば、やらない手はなかった。
 そんな訳で、ナンバーズで三番目に忙しい女であるセインは、拠点での管理局の突入部隊相手の「お遊び」の後、すぐさまクロノ・ハラオウンが運び込まれた時空管理局の防疫施設へと「文字通りに」潜り込んだ。


 壁の中にいる。

 そこらの人間であれば即座に死亡するような状況であるが、無機物潜航能力を持つセインにとってはいつものこと。
 セインは本来別のインヒューレントスキルとリュンクスの「透視能力」を組み合わせることを前提として製造された。
 当初予定されていたISは、「離れた空間に毒の霧を発生させる」ものであり、これを透視と組み合わせることで、室内にいる相手を抵抗の余地無く攻撃することができるようになるはずだったのだ。それがどうしたわけか発生した突然変異によって、現在の能力である無機物潜航「ディープダイバー」へと変化してしまった。
 未だに理由は不明であるが、この予想外の出来事に対したドクターは「非常に珍しい能力だ」と大喜び。
 こうしてセインは、標的の前に現れることすらなく抹殺する恐るべき「姿なき暗殺者」ではなく、「夜の闇精霊」のようにいつの間にか目的地の内部へと入り込む密偵となったのだ。
 壁、床、天井。人間の造る建造物には欠かせないこれらの要素がセインの味方となる。人が無い物として扱うこれらの空間から出ることなく進めば、セインが通ったことに気付く人間はほとんどいない。
 稀に気配だのなんらかのレアスキルだのによって敏感に察知する人間もいるにはいるのだが――たとえば今回の目標、「高町なのは」のように。

 管理局の施設に這入り込んだセインが待つこと半日、ギル・グレアムに連れられて現れたのは、聖王教会でシスター・ニノとして働いていたドゥーエからの報告に有った「ドクターの作品である仮面」を着けた人物だった。
 ミージュ・クランズとクロノ・ハラオウンの母親に名乗ったその女性は、黒く長い髪にスラリとした身体つきと、どこか幼い言動の差異が奇妙な雰囲気を醸し出していた。

「こっちの格好で来たかー」

 壁の中で独り言を呟いても、それを言葉として伝える空気はない。多少、振動があるかもしれないが。
 つい昨日に廃棄した古いアジトの近くで「ガジェト・ドローン」が感知した、高町なのはが所有していると思われる高エネルギー結晶の反応、それと全く同じものがミージュ・クランズからも感知されている。それに加えてドクター製作の変身効果のある仮面を着けているとなれば、その正体は判明したも同然。
 その上、高町なのはもミージュ・クランズも同じ首飾りを着けているのだから「彼女は正体を隠す気があるのかね?」とドクターが言うのももっともなことである。
 とは言え、仮面に変身能力が付与されていることと、あの首飾りがこの世に二つとないだろう祭器であることを知らなければそんなことは思いつかないだろうから、あまり高町なのはのことを迂闊と責めるものでも無いのかもしれない。
 この高町なのはであるが、観察にやってきたセインとしては非常にやりにくい相手であった。どういう手段でセインのことを感知しているのか不明だが、仮面を着けた顔がよくセインのいる方向を真正面に捉えてくる。
「寝ている時なら」と近寄ってみても、セインがある程度近づくと起き上がって顔を向けてくるのだ。

「気付かれてる?」

 結局のところ、一晩中、壁がダメなら床、それとも天井からと試してみたが首飾りを奪い取れるような機会は訪れなかった。
 セインのことにはっきりと気付いていた訳では無かったのだろう。騒ぎになるようなことは無かったが、お使いも果たせそうに無かった。
 直感が鋭いのか、何かしらの魔法で警戒しているのか、それとも足運びなどから感じ取ることのできる武術の経験の賜物か、何にしても簡単な相手では無いと言うことだけはよくわかった。これは、クラナガンで管理局相手に大暴れし、無人世界に建造されていた無許可の研究施設ではチンクとディエチが敗退しているのだから、元からあった容易い相手では無いとの評価通りでとも言える。

 セインはドクターから「無理をする必要はない」と言われていたので、その後は透視による観察が可能なギリギリの距離である百メートルのギリギリまで離れて記録を続けた。
 高町なのはとギル・グレアムが施設から帰る際には、その乗艦した次元航行艦にも忍び込んだのだが、途中で転移魔法を使われてしまったので拠点の位置までは確認することができなかった。
 高町なのはの拠点に関しては、時空管理局のデータベースにプレシア・テスタロッサ所有として記録されている次元航行可能な移動庭園「時の庭園」に居るところを、ガジェット・ドローンが撮影している。そこに高町なのはが居住しているとは限らないが、何らかの関わりがあることは確実。出来ることならば位置情報を押さえておきたかったいところだったのだが、自分達のアジトの場所がリークされてしまったためにゴタゴタとしている間に何処かへと逃げられてしまったのだ。

「まぁ、しゃーないか」

 とりあえず、ギル・グレアムと高町なのはの関係はかなり親しいもののようだった。
 セインは仕事中に見たある場面を思い出す――高町なのはに、からかうように「おじーちゃん」と呼ばれてむせていたギル・グレアムの様子はそれなりに面白かったが、まさか本当に孫と祖父なんてことは無いだろう。ギル・グレアムにそんな家族がいるという記録は無いし、真面目な人間として通っているのだから隠し子の子なんてことも無いはずだ。

「いや、でも普段真面目なヤツほどとも言うしなー。そうすると……」

「プレシア・テスタロッサが祖母だったりしたら面白いのにな」と言うセリフは、ドクターや姉妹の前で報告する時に話のタネにでもしようか。

――そんなことを考えながら、セインはとりあえずの仮住まいである場所へと帰って行った。




〇六番:Stsでの専用装備である「ペリスコープ・アイ」のペリスコープは潜望鏡の意味なのでしょうが、その語源であるギリシャ語では「見回すもの」の意味だったらしい。



[40369] 誰がための記憶
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/02/26 21:05
 ファラリスおじさまへ

 クロノ君のことなどがありましたが、とりあえずガジェットたちの秘密基地は管理局の人に掃除されました。
 ガジェットを造っていたドクターたちは逃げ出してしまったので、またそのうちにやってくるようになるのかもしれませんが、試しにミッドチルダに行ってみても今は襲っては来る様子はありません。
 そんなわけで、ようやくまたミッド地上に降りることができます。
 久しぶりに行くのですから、お土産くらいは用意していきたいところですので、以前見かけてから欲しいなって考えていたものをプレシアさんに「ください」って頼んでみました。
 何か気になりますか? 
 それはまだ秘密です。いえ、おじさまはとっくの昔に気づいていらっしゃるんでしょうけれど。

 ティアナとティーダさんのことをどうしようかと考えているときに、ゼリーを見て思いついたんです。「ああ、こうすればいいんじゃないかな」って。
 ただ探すのは大変ですし、自分で用意するのもなんだかイヤです。探して見つかっても時間が経っていたら大変なことになってしまっているでしょうから、「時の庭園」にあったのはとっても運が良かったと思うんです。
 もしかしたら、これもおじさまのお導きでしょうか?
 お願いしたときのプレシアさんは最初戸惑っているようでした。当たり前ですね、私だって急にそんなことを言われたらビックリしたと思います。
 それからアリシアちゃんが帰って来た時に寂しがるからって断られました。
 そこで私は、プレシアさんにティアナとティーダさんのことを詳しく話すことにしたのです。
 なぜって、なんとなくではあるのですが、プレシアさんの昔の話を聞いた限りでは、きっとランスター兄妹のことを話せば親身になってくれるってわかっていたからです。
 私だってそれなりに考えもするのです。なんとなくが根拠なんですけどね!
 ティーダさんが執務官を目指して頑張っていること、でもたった一人の妹であるティアナの面倒を見ながらで苦労していること。そんなお兄さんを大好きな妹のティアナはいつも寂しそうに待っていて、お兄さんが帰ってくるだけで大喜びなこと。ティーダさんが帰ってくるはずの日に急な仕事が入ってしまったときなんかは、泣いてしまってなだめるのが大変だったこと。
 短い間ではありますが、私が二人と一緒に過ごして体験したこと、思ったこと、そして考えたことを語って行くと、プレシアさんは「わかったわ。ただし……」と一つだけ条件をつけて認めてくれました。
 その条件も元からするはずだったことですので、特に問題のあることでもありませんでした。一応、何かしらの対価を要求することで、等価交換と言いますか、取引と言いますか、「ただじゃないんだからね!」って感じにしてくれたのでしょう。
 プレシアさんはちょっと照れ屋さんですからね。
 それから、以前クラナガンに行ったときに買っておいたストレージデバイスに、プレシアさんに見てもらいながら魔法を入力して登録していきます。
 グレアムさんたちに騙されていたので、私が前もって入れておいたデータは一から作成するためのものではなくて、元々存在していたものを譲り受けるものだったのです。作業は当然ゼリーにも手伝わせました。
 明日はこのデバイスをティアナにプレゼントするのです。中のデータを書き換えれば普通ミッド式魔法のデバイスとして使えますから、二重に役に立って良いかもしれません。
 流石にグレアムさんからもらったデュランダル並みの品物は用意できませんでしたが、一応クラナガンの一番大きなお店に並んでいた中でも最新型です。たぶん……喜んでくれますよね?
 いえ、物でもってしばらく放っておいた形になってしまったのを許してもらおうなんて、そんなこと少ししか考えていませんよ。でも、私なんかは結構物につられるので、ティアナだってそんなに違わないと思うのですよね。

   欲する物がもらえたら嬉しい ゲンキンなのは


 ファラリスおじさまへ

 ちょっとバタバタしましたが、なんとかかんとか成功です。
 バタバタしたというのは、プレゼントを見せたティアナがいきなり泣き出してしまうとは思ってもいなかったことです。
 そうですよね、箱に入れた(丁寧に包んではいたんですけど)猫の死体なんかもらったらそうなりますよね。
 最近の私はプレシアさんの所のアリシアちゃんのクローンとか、それ以前の冒険とか、イモレイト用のイケニエとか、幽霊の友達とか、そんなこともあって感覚がマヒしていましたが、普通はこういうものは怖がるものでした。
 失敗失敗です。別に動いて襲ってくるわけでもないのですから、何も泣くほど怖がらなくてもとも思いますけど。
 ああ、でも猫を殺すなんてトンデモナイことですからね。他の生き物で慣れていないとそれはダメかもしれません。牛、豚、ニワトリなんかは誰だって平気でしょうけれど。
 だって、スーパーに並んでますからね。

 そういえば昔(と言っても一年生のころのことですが)はやてちゃんの呪いをどうにかしようって走り回っていたころに知り合ったお寺の住職さんが、家の前にメロンの箱が置いてあったので「だん家さんがくれたのかな」ってそのまま中を見ずに冷蔵庫に入れておいたって話がありまして。それで、「じゃあ、食べようか」って家族そろった夕飯のあと、テーブルの上でデザートの箱を開けたら……なんて体験談を聞いたことがあったのでした。

 話を戻しますね。
 そんなこんなでちょっとばかり混乱もありましたが、無事にティアナの使い魔としてリニス・ランスターが誕生いたしました。
 やっぱり、家で待っているときに一緒に居てくれる友達がいるのといないのとでは大違いだと思うんですよ。
 ただ、最初はティアナがマスターでって考えていたのですが、「兄さんに相談する」ってことになりまして。
 ティアナから連絡を受けたティーダさんが慌ててやって来たんですよ――「仕事は良かったのですか?」って聞いたら、ミッドの管理局で中島さんって言う先輩から私のことについて質問攻めにあっていたらしくて、どうにか連絡を取れないかって考えていたところだったのだそうです。
 それでティーダさんも交えて話し合った結果、使い魔のリニスはティーダさんが作成することになったのです。
 自分ではそんなに大した負担でもないのであまり気にしていなかったのですが、使い魔を維持するにはかなりの魔力を消費するのだそうです。それが性能の高い使い魔であればあるほど余計に消耗が激しいのです。
 例え家事と勉強、メイドさんと家庭教師くらいのことをするだけで、魔法関係の能力をほとんど持たないようにしてもまだ小さなティアナには厳しいようでした。
 ティアナのためにと連れて来たのに、ティーダさんの使い魔になってしまったリニス。考えていた予定と違ってしまったのは少し不満でしたが、でも、まぁよく考えればティーダさんの魔力を受けている使い魔が近くにいた方がティアナも安心かもしれませんね。
 うん、これはこれで良かったのかもしれません。
 魔力の消費を抑えるために、子供の姿として作られたリニスがちょこちょこと動き回る様子を見ているとなんだかほっこりした気持ちになります。
 ゼリーが子供モードになっていてもこういう気持ちが湧いてこないのは、やっぱりなんだかんだでしみついた年の功のようなものが感じられるからでしょうか?
 ティアナに私が事情があってあんまり来られなくなりそうと話すと、とても寂しそうな顔になりましたが、が、が、リニスがなぐさめだすとコロッと笑顔に戻るティアナでした。
 なんなのでしょうか、この気持ちは、自分でそうしようってやったはずなのに、いざそうなってみるととてもモヤモヤした気分になります。
 今日は、ランスター家のみんなと一緒に夕飯を頂いてそれから帰って来ました。
 そして時の庭園に帰ったところで、プレシアさんに「遅くなるなら連絡を寄越しなさい。無駄になるでしょう」って怒られてしまいました。最近は時の庭園でご飯を食べることが多かったので、プレシアさんが作って待っていてくれたんです。
 もちろん、もう一度いただきましたよ。

   お腹が苦しい 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 今日はアリシアを生き返らせるための「記憶」を受け取りました。
 プレシアさんがアリシアと過ごした思い出を体験したのです。
 それは最近になって見るようになった、まるで自分のことのように感じる夢とよく似ていました。
 夢の中の私はプレシア・テスタロッサでした。
 一人娘のアリシアとの穏やかな生活を心から望んでいて、でも、やりかけた仕事を手放すことのできない不器用な研究者でした。
 私はなんてバカだったんでしょう。本社がおかしなことを言い出して、安全も何も考えない連中が乗り込んで来た時点で、他の同僚たちのように仕事なんて放りだしてしまっていれば、あんなことにはならなかったのに!
 ああ、なんという愚かな私。せめて、せめて、せめて危険かもしれないヒュウドラの稼働実験のときにあの子を遠くへとやっていれば!
 そんな思いが未だにあふれて来てしまって困ります。プレシアさんの感情に引きずられているのですね。

 魔法のためにいるのは、アリシアが死んでしまった後からやってきた後悔の気持ちではありません。原因となった企業と、何よりも自分自身への憎しみでもありません。
 私が私の一部として思い出に変えるのは、「楽しかった頃の記憶」です。「こんなはずじゃなかった」なんて想いはいりません。必要なのは取り戻したい日々のこと。守りたかった笑顔のこと。
 アリシアが産まれたときのこと。
 陽気なアリシアが研究チームのみんなから好かれる人気者だったこと。
 アリシアが研究所の近くで拾った山猫に「リニス」と名付けて飼い始めたこと。
 仕事を終えて家に帰ったとき、出迎えてくれたアリシアの姿に疲れが吹き飛んだこと。
 アリシアが左利きの小さな手で、家事を手伝おうとして失敗したこと。そして、そのあと成功してとても喜んだこと。
 リニスを連れてピクニックによく行ったこと。出かけた先で食べた、不格好でおかしな味のサンドイッチが何よりもおいしかったこと。
 アリシアが描いていた私の似顔絵。アリシアが私のことを書いた作文。夜はいつも一緒のベッドで寝て、ときどき急に「ママ大好き!」だなんて言い出すから、照れてしまって顔が赤くなってしまって困ったこと。
 抱きしめたときにギュッと抱き返してくるアリシアへの愛おしさ。
 うん、こっちの方がずっといいですね。なんだか、お付き合いもしたことが無いのにお母さんになってしまったみたいで変な気分ですけど。

   ちょっぴり大人な あなたのなのは 





〇リニス・ランスター:イノセントワールドより



[40369] サラマンダーの憂鬱
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/02/26 21:25
『なのはのモンスターコレクション』

〇不確定名 アンデッドのナイト:モンスターレベル ?

 高次空間を漂う「時の庭園」には昼夜が存在しない。
 それでも生活の流れと言うものはある。眠る必要のない怪物ではない以上、食事と睡眠のリズムには気を遣うべきだ。
 そこで、なのはは管理世界の中心であるミッドチルダの首都、クラナガンの時間に合わせて活動することにしていた。
 事件は、そんななのはが眠りについていた時間に起きた。
 なのはがスヤスヤと寝ていると、突然「時の庭園」中に悲鳴が響き渡ったのだ。

「プレシアさん!?」

 ベッドから跳び起きたなのはの耳には、広大な庭園内こだますプレシア・テスタロッサの苦悶の声が未だ聞こえてきていた。
 なのはは、ドアを開け、走りながら魔法の防護服をまとうと、魔法を使って声の出所を目指して一直線に飛んだ。飛びながら、なのはの頭の中は焦燥でいっぱいになっていった。なぜなら、プレシアの声は段々と弱くなり、そしてついに聞こえなくなってしまったから。

「プレシアさん!」

 なのはがようやくプレシアのもとへと駆け付けた時には、既にプレシアは恐ろしい怪物の足元に倒れ伏し、その身体を怪物の巨大な鉄の脚甲によって踏みにじられていた。新しくやって来た獲物に反応したのだろう、プレシアを踏みつけにしていた怪物の顔がなのはへと向く。
 怪物は身長二メートルを軽く超えていると思われるスーツアーマーの姿をしていた。手にも足にも露出している部分の無い鋼の装甲の塊である。これだけだったなら、なのははこのモンスターと時代錯誤な格好をした大きな人間だと考えただろう。
 そう考えられなかったのは、その顔を見てしまったから。子供ならその胴鎧の中だけに入ってしまえそうな大きな胴体の上に乗った兜の中には、「何も無かった」。本来なら顔があり目が覗くはずの部分には、らんらんと光る赤い光が宿っているだけで、顔が無いのだ。

「置き捨てられ、忘れ去られた我らの恨み。存分に思い知るがいい」

 恨みの言葉とともに、亡霊の騎士が両刃の大剣をなのはへと突きつけてきた。どれほどの怨嗟がこもっているのだろう、その大剣からは死の気配がヒシヒシと感じられる。
 亡霊の騎士がプレシアごと床を強く踏みしめ、なのはへと飛びかかって来た。その衝撃にプレシアは血を吐くと意識を失ってしまったようだったが、なのはには彼女の治療を行う余裕は与えてもらえない。
 騎士の両手剣が、嵐のようにうなりをあげ、なのはは暴風に翻弄される木の葉のように、必死に防御に集中することしかできなかった。
 どうにか唱えた死霊返しの魔法も、催眠の魔法も通用しなかった。
 ミッドチルダ式の魔法も亡霊の騎士の鎧にまとわりついた白い魔力によって阻まれてしまい、思うような効果をあげてくれなかった。

「ものすごい魔力……ってこれ」
「やっと気付いたの? 遅すぎるわよ」

 ここまで来て、なのははようやく騎士の正体に気が付いた――。


 アンデッド・ナイトは、中身のない甲冑の姿をした亡霊だ。如何なる理由によるものかは不明だが、生きとし生ける者全てへの憎しみに囚われたこのアンデッドに出会ったが最後、多くの者は何もできないままに、その恐るべき剣技の前に斬殺されてしまうだろう。
 この亡霊の騎士の剣の腕前は凄まじく、また肉の身体を持たない鉄の塊であるためなのか彼らは耐久力もまた高い。その上このモンスターは、その赤く輝く目で見つめた相手や、触れた相手に恐るべき死の気配を送り込んでくる。そして、その怨念とでも言うべきものに触れてしまった犠牲者は徐々にその精神を破壊されてしまうのだ。
 重装甲にして大火力を誇ると名高い聖戦士「至高神の猛女」ですら、この死霊の騎士の前では一敗地にまみれたと伝えられている。
 ところで、アレクラスト大陸では王に直接仕える家臣の内、自身の領土を持つものを貴族、持たないものを騎士と呼んでいる――「不死の騎士」であるこのアンデッド・ナイトは、一体誰に仕えているのだろうか?




 ファラリスおじさまへ

 もう、信じられません!
 はやてちゃんにローウェルちゃん、それにプレシアさんまでグルになって私をおどかして来たんですよ!
「わたしらを置いてけぼりにした罰や!」って言われてしまうと文句も言いづらいのですが、だからってあんなことをされたら心臓に悪いじゃないですか。
 だいたい、途中で私がうっかり亡霊を消滅させるイクソシズムなんかを使っていたら……ローウェルちゃんは今頃「魂が消滅」してしまっていたんですよ。
 もし、そんなことになっていたらと思うと怖くて仕方がありません。死んでしまっても、「魂が残って」さえいれば生き返る可能性はあります。私は、それができるようになろうとしているのですから。
 でも、魂まで消えてなくなってしまっていたら――もう、よみがえることはできないんです! それなのに三人とも、もう! ですよ。
 そんな感じで怒ったら(ちょっと泣いてしまっていたので迫力はなかったでしょうが)、ローウェルちゃんが「あ、消えそう」とか言って誤魔化そうとするのです。ローウェルちゃんはよくそうやってひとが真剣に話している時に茶化してくるのですが、あのクセだけはあまり気に入りません。
 でも、そういうことがあった後のローウェルちゃんはなんだかすごく優しいので大好きです。
 プレシアさんは強気なフリをしていますが、実は「強く頼まれると断れない」性格の人なんです。特にローウェルちゃんやはやてちゃんみたいな子に頼まれたら、まず無理だと思います。
 プレシアさんは、元々から会社の決めた無茶なスケジュールや、おかしな命令でも、なんだかんだで従ってしまうようなところのある人です。その上アリシアちゃんのこともあるので、自分は悪くないのに不幸な目にあってしまった女の子に頼まれたりしたら……ええ、わからなくもありません。
 と、言いますか、記憶をのぞいたばかりなのでわかってしまいます。「仕方ないなぁ」としか言えません。

 はやてちゃんはマグネシウム・リボンの刑にしました。
 私もマグネシウム・リボンの刑にかけられました。

 マグネシウムのリボンはもう二度と見たくありません。
 このオシオキはお姉ちゃんの友達の陣内さんが考えたものなのですが、ウチのお兄ちゃんでも「死ぬほど痛い」って半泣きになると言えば、その恐ろしさをわかって頂けるでしょうか?
 ローウェルちゃんには通用しないのでリボン交換できませんでした。ズルイ!

   リボンこわい 高町なのは 


 ファラリスおじさまへ

 久しぶりにローウェルちゃんと会えたので「アリサちゃんライドオーン!」とやっていたら、レッサがすねてしまいました。「おまえは、あたしのロードだろー!」って言いながらピューって飛んで行ってしまったのです。
 よくわかりませんが私が悪かったのかなって、追いかけて行ってなだめていたら、今度はローウェルちゃんが、
「アタシというものがありながら、他の女に身体を許すなんて! よよよよ……」とか言い出します――なんだか、笑ってましたけど。
「そんなことを言ったら、アリサちゃんだって、はやてちゃんとあんなことしてるクセに」ですよ。
 そこにたぬきさんが「ふっ、モテる女はツラいなー」とか絡んできて、なんだかんだと騒いでいる内に模擬戦をすることになってしまいました。
 私とレッサのユニゾンチーム 対 はやてちゃんとローウェルちゃんの憑依合体チームです。ゼリーは私の使い魔なんだからってこっちに入れようとしたのですが、「アンタが駆け落ちした相手とはまた今度決着をつけてやるわ!」とわけのわからない理屈で却下されてしまいました。

 対戦結果ですか? 言わないとダメですか? 
 と、書いている時点でお分かりでしょうが、負けてしまいました。
 いえ、イクソシズムを使えば勝てるのですが、それだとローウェルちゃんの魂が消滅してしまいます。
 それに、私はジュエルシードを手に入れてからというもの「ジュエルシードを使った暗黒魔法」を中心にしてやってきていたので、「不思議な青い石パワーは禁止や」ってされてしまうと、それ以前の感覚がなかなか取り戻せません。うっかりいつもの調子でやると、すぐに暗黒魔法が燃料切れになってしまうのです。
 私が本気だったら勝てたんだー、といつまでも書いていてもしょうがないので、ここからは勝利者について書いてみます。
 はやてちゃんにはゴーレム使いの才能があったみたいです。
 はやてちゃんがアリアさんから聞いた話ですと、
「闇の書の残滓、かもしれない。
 前に少し話をしたけれど――闇の書には『守護騎士』って言うプログラムで動く魔法生命体を四体造りだす機能があって、ソイツラは闇の書が蒐集を始める前に出現して、闇の書に選ばれてしまったヤツを『主、主』とおだてて破滅に誘い込んでいたんだよ。
 で、ここからは推測になるけど、もう少し闇の書を始末するのが遅かったらソイツラははやてのところへ現れてたんじゃないかと思う。
 闇の書の主に選ばれてしまった人間は、魔導士ランクで言えばSランクに近いようなヤツラを『闇の書のバックアップがある』とは言え四体も創造して維持・制御するだけの資質が生まれつき備わっているか……もしくは成長の過程で闇の書の干渉を受けてそれができるように『作り変えられている』可能性が高い。
 そう考えると、魔法プログラムで動かすゴーレムの操作ができるのはそうおかしな話じゃない。
 まぁ、魔力がバカみたいに大きすぎるから……その場その場で臨機応変に魔法を使い分けるってのも難しいみたいだし、ゴーレムなら事前に時間をかけて準備しておけるから、高速・並列制御が苦手でもなんとかなるかもしれないね」ということだったらしいです。
 ゼリー曰く「バカ魔力」なはやてちゃんの魔力に耐えられるデバイスはそうそうありません。
 それで、特注で製造されたのが、希少な金属を使って、大きく頑丈な形にし、待機モードも削って変形機構なしで、人工知能はもちろん、魔法プログラムの記録機能もないと言う、インテリジェントでもストレージでもない、ただの「デバイス」。刀身に直接刻み込まれた術式は、はやてちゃんのバリアジャケット代わりでもある着装型ゴーレムの召喚だけです。
 ここまでやっても、はやてちゃんだけでは戦闘行動が難しかったみたいでして、足りない分の処理能力を幽霊のローウェルちゃんが憑依することで補っているみたいです。そのせいでメズマライズなども効かなくなってしまっているので大変です。
 着装型ゴーレムのリビング・アーマー「センチネル」君は、お腹の中に隠したはやてちゃんを守るためにとにかく頑丈でパワフルに造られています。それが「バカ魔力」でさらに防御魔法をかけられているのですから、もうとんでもなく頑丈でした。
 攻撃手段はあんまりありません。と、言いますかグレートソードを振り回すか、直射砲撃を発射するかしかありませんでした。でも、こっちもやっぱり魔力任せなので威力がバカみたいです。
 技も何もありません。魔力頼りで強引に速く動いて、魔力任せのパワーで押し切って、魔力量の多さと材料の頑丈さを信じて守る。
 単純過ぎて、どうしたらいいのかよくわからないうちにやられてしまいました。「時の庭園」の中の狭い場所ではなくて、もっと広い場所、たとえば「空の上」とかでしたらなんとかなったと思うのですけど……。
 レッサは絶賛いじけています。とてもしょんぼりとしてしまっているので、今日はそのまま捕まえておやすみなさいしますね。

   つぶしちゃったらどうしましょう 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 夏です。
 海です。
 冒険です。

 時間が過ぎるのは速いものでして、いつの間にやら海鳴では夏休みになっていたのです。
 日本の有名な旅人の方も「月日は百代の過客にして~」と、時間というものは冒険者みたいに忙しなく過ぎ去って行ってしまうと語っていたとローウェルちゃんに教えてもらいました。難しい言葉でしたが、なんとなくお父さんの昔話(武勇伝?)を思い出させてくれる言葉でした。
 そんなわけで、イギリスに留学したことになっているらしい「私」はともかくとして、普段はちゃんと学校に行っているはやてちゃんと思いっきり遊べる夏休みの間に、プレシアさんの記憶にあった海洋世界で冒険して遊ぼうと言うことなんです。
 大きな陸地の存在しないこの管理外世界には、なんと人魚さんや半魚人さん、それからものすごく大きな魚やタコにイカや海蛇がいます。管理局の自然保護部隊も海上の警備はやりにくいみたいで、あんまりうるさくないので「こっそり」と遊ぶには最適ですね。
 プレシアさんはこの世界に住んでいる人魚さんの「お肉」を狙っていたことがあって、それでいろいろ調べていたのです。「人魚の肉を食べると寿命が延びる」なんて伝説がありまして、それでもしかしたらアリシアを生き返らせるためのヒントになるんじゃないかって思ったんですよ。
 ちなみに、実際に食べても寿命は延びません。それに美味しくはあるそうなのですが、人魚は見た目が人間に似ているので、あんまり食べる気にはなれませんよね。
 今日は、この番号しか呼び名の付いていない海の世界についたところで満足です。「時の庭園」で高次空間を長い距離移動するのも初めての経験だったので、はやてちゃんやローウェルちゃんとワイワイできましたし。
 今の「時の庭園」は海の上にプカプカと浮かんで、移動する島みたいになってます。高次空間で平気なのですから当たり前なのですが、「時の庭園」は空や宇宙はもとより、海の中もオッケーなんですよ! すごい!
 プレシアさんがアリシアの事故のときにもらった賠償金と、その後の研究の特許で稼いだお金で買った中古品(遺跡級の年代物)でこれなのですから、最新型の次元航行艦などは、もっとすごいのかもしれません。この間グレアムさんと管理局の施設に行ったときによく聞いておけば良かったですね。
 自分の船とかあったら素敵だと思いませんか? 「いいなー」って言ったら、「維持が大変よ」って返って来ましたけど。
 今日もレッサに「一緒に寝よう」って誘ったのですが、「絶対イヤだ!」ってすごい剣幕で断られてしまいました。ちょっと気をつかってみたと言うのにひどい態度です。
 何がそんなにイヤだったのでしょうか? 

   昨日はやきいもの夢を見た 食いしん坊なのは




〇お姉ちゃんと陣内さん:「みゆきちゃん」と「みーちゃん」

〇高町なのは:ルーンマスター技能4→6
大魔導士プレシア・テスタロッサの記憶をなじませた結果。どこかの魔法戦士方式。
他人の「記憶」とか大丈夫なんだろうかと考えもしましたが、他の人間はともかくとして、「高町なのは」限定でなら大丈夫でしょう。魔法少女リリカルなのは(リリちゃ箱)の内容的に。
なのはの魔力量 = 原作の魔力 - 使い魔ゼリーの維持に回している魔力

〇八神はやて:闇の書の破壊後も守護騎士たちとの魔法的な繋がりがあったようなので、そちらにかなり魔力を持て行かれていたはず。
はやての魔力量 = 原作の魔力 + 守護騎士達の維持に回していた魔力
使い魔と似たようなもののヴォルケンズの維持にどれぐらい魔力が必要だったかは不明ですが、決して安くはないでしょう。それがまるまる上乗せされているので、原作よりも更に制御困難な「バカ魔力」になっていると思われます。

〇ローウェルブレード:魔力付与者=ローウェル 形状=死の気配が漂う、黒い刀身のグレートソード 必要筋力=20 基本取引価格=非売 魔力=魔法の発動体になる。宿った魂からの助言を受けられる。ただし、魔力を勝手に使用される。 
 この呪われたグレートソードには、非業の死を遂げた少女の怨念が宿っています。怨念の少女は非常に高い知力を有しており、持ち主に様々な助言を授けてくれますが、持ち主の身体を乗っ取ろうとする場合があります。
また、この剣は魔法の発動体としても使用できますが、剣に宿った少女の霊が使用者の魔力を使って勝手に魔法を行使することがあります。

〇憑依:漂流王と虎神も仲良く協力してたら、もっといけたんじゃないですかね。

〇Vivid:コロナはかわいい(断言)。
が、まだ生まれていないので代りに八神さんが、リビング・アーマー(ゴーレム)のセンチネル君使いになる。ラミアの時にMS化と言った方は鋭い。



[40369] 子供たちはまだいない
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/02/26 21:28
 ファラリスおじさまへ

 海ばかりの世界に到着して一夜が明けました。
「時の庭園」の外側の大きなトゲトゲに乗って見る水平線は、海鳴のそれともまた違って、何と言いますか、とにかくすごい風景でした。
 この世界は大陸がもう存在していなくて、小さな島々がところどころに残されているだけで、後の陸地は全て海の中に沈んでしまっています。
 海の水が増えたのか、大地が全部低くなったのか、それとも何か他の原因があったのか、どんな理由でそうなったのかわかってはいません。
 そんな世界ですので、比較的浅い海の底に陸地がたくさんあった時代の遺跡が残っているのです!
 これはもう潜って調べないことには仕方がありませんよね。
 とは言え、今日のところはみんなで釣り大会をして過ごしました。イキナリ海の底へGO! と言うのもなんだか慌て過ぎている気がしますし、ティーダさんと約束したナカジマさんとのお話の件あります。はやてちゃんの夏休みはまだ始まったばかりなので、ゆったり行きたいと思います。

「釣り大会」とは言いましたが、あんまりにも大きなものがかかるので途中からは魔法を使って捕まえるようになってしまいました。そうなってからはもう、「釣り」と言うよりも狩りとか漁って感じになっていったんです。
 プレシアさんの「記憶」のおまけで覚えた電撃魔法は、資質が低いので効率よく使うことはできませんが、それでも相手をシビレさせたりできるので、傷つけずに捕まえたい時などには便利ですね。
 遊び終わった後の夜には、釣り大会の獲物でパーティをしました。
 メイン食材はは私とはやてちゃんで獲った十五メートルくらいのシーサーペント。蛇って初めて食べましたけど、コリコリしていて意外と美味しかったですね。
 もう一つのメインはプレシアさんがサーチャーで探して、空間跳躍させて発射した弱めのサンダーレイジでそのまま焼きあがったジャイアント・クラブです。こっちはカニです! カニ! 脚一本が二メートルくらいありそうなカニ! 魔力刃で脚の甲羅をスパッと切ると、中から飛び出してくるのは私の腕より太いカニ肉です!
 魚もたくさん捕れましたけど、さすがに量が量なのでとても食べきれなくて、ほとんどは保存魔法をかけて食品倉庫行きになってしまいました。
 ジャイアント・クラブの分厚い甲羅をそのまま大鍋代わりにしたりして、とっても楽しかったんですよ。
 出来た料理はおじさまの所へもたくさん送りましたが、楽しんで頂けていたら嬉しいです。味付けは海の塩味そのままでしたけど、たまにはああいった豪快なのも悪くないと思うのです。

   あなたの料理人 高町なのは    


 大爆発の後で
 ファラリスおじさま

 集束砲と言うものが、こんなにとんでもないものだとは思ってもみませんでした。
 ゼリーからは「発動までに時間がかかり過ぎるから、援護の無い状況ではなかなか使いづらいロマン砲だね」って聞いていたので、今までこの集束魔法を使ったことはありませんでした。私のミッド式魔法の資質を調べてもらった時に「魔力集束」に関わる数値が高かったので、「そのうち試してみたいなー」って考えてはいたのですが、今までは機会に恵まれなくて「そのうち、そのうち」と延びてきていました。

 今回はせっかく見渡す限り海ばかりの広ーい世界に来たので、これは実験してみるのにちょうどいいねってなったのです。
「魔力集束」は自分の身体の中からではなくて、周りの空間に漂っている魔力を集めて束ねてそのまま利用する技術です。なので、自分の出せる最大の放出量よりも大きな威力を発揮できるのです。
 いつものミッド式の砲撃魔法バンカーバスターが蛇口から出る水そのままだとしたら、集束砲はそれをバケツにためておいて一気にドバッーっとする感じでしょうか。
 最初に、後から集束する時にやり易いように加工した魔力をバラまきます――これは魔力が余っているはやてちゃんから、ディバイドエナジーでドンドン分けてもらいながらやりました。
 次に、周りにバラまいた魔力を収束します――この時点で「あれ? なんだかコレ、結構スゴイかも……」と思ってはいました。
 集束が終わったら発射です。見ていたみんなが逃げ出したり防御魔法を展開したりしていました。ローウェルちゃんが「あっち、あっち!」と遠くの水平線を指さすので、なるべく遠くに飛んで行くようにとちょっと方向転換。

 結果は「大爆発」でした。
 着弾した海の上で、こう、なんと言いますか、魔力の光でできたドームみたいなものがふくれ上がって行って、弾けて飛んで、「なんかカボチャみたいな雲やなー」なんて言われるようなキノコ雲ならぬカボチャ雲が発生しました。

「雲の影が目や口みてーで、顔みたいだな」
「あー、アレや、ハロウィンの……」

 レッサがつぶやいて、それにはやてちゃんが返して、この魔法の名前が決まりました。
 ハロウィンの季節には、翠屋ではカボチャデザートをよく売ります。
 カボチャのプリンに、パンプキンパイなどもおいしいですが、一番はやっぱり「ジャック・オー・ランタン」のシュークリームです。
 カボチャみたいに見える生地に顔に見えるように切れ込みが入れてあって、その中には真っ赤なクリームが入っているのですが……普通のものは甘いんですよ? いたずら用のモノもあるってだけです。

 話を戻しまして、そんな訳でこのブッソウキワマリナイとの評価をみんなから頂いた集束砲撃魔法は「ジャック・オー・ランタン」になりました。
 博物誌には「ジャック・オー・ランタン」はファラリス神の暗黒魔法を使うって書かれていたので、私とカボチャオバケさんはおじさまの神官仲間です。なので、私はこの名前を結構気に入っているのですが、おじさまはどう思われますか?

  「お菓子をくれなきゃ撃っちゃうぞ!」by高町なのは


 治療の後で
 ファラリスおじさまへ

 ティーダさんのお友達のヤマモトさんの紹介で、ナカジマさんご夫婦の治療をしました。
 お二人は結婚してから長いこと子供ができなくて、どうもこれまでに関わった事件や戦闘のせいで子供ができない(できにくい)体になってしまっているのではないかとお悩みでした。
 そんなお二人に奥さんの上司の人が「治療不可能と言われていた病気を治した治療師がいるらしいぞ」と、この間のクロノ君の一件でミージュな私が何人かの人を治したことを話したそうなのです。
 グレアムさんは「レジアス・ゲイズからゼスト・グランガイツに話が行ったのか……」とちょっと考えこんでいるようでした。管理局の中身はいろいろと複雑なようなので、あまり関わり合いになりたくないかもしれません。

 それがどうしてティーダさんにつながって来たのかと言いますと、お友達のヤマモトさんのヤマモト家とナカジマ家にはご先祖様が一緒に神隠しにあった縁があるそうで、そこから私の話を聞いたのだとか。
 聞いた感じですと、お二人のご先祖様はどうも地球生まれの日本人ではないのかなって気がします。ヤマモトさんにナカジマさんですからたぶん間違ってはいないでしょう。
 そんなご先祖様たちがどういうわけだかミッドチルダにやってきてしまって、波乱万丈な物語があって、この世界に根付いたのだそうです。そこに日本生まれの私が関わるのは、なんとも不思議な縁を感じます。

 あとですね、ナカジマさんの奥さんのクイントさんが、あの「アンチェイン・ナックル」さんでした! 
 あれでしょうか、試合で無茶なことをし過ぎたせいで身体を壊してしまったのかもしれません。それとも危険な仕事だと聞いている、管理局の前線部隊勤務のせいなのかもしれません。
 どっちにしても、そうでないにしても、もう詳しいことはわかりません。
 身体の機能を回復するリジェネレーションの魔法で治してしまいましたから! はやてちゃんの脚も治した魔法ですからバッチリでしょう。

   医療魔導士メディカル ミージュ


 おじさまへ

 アンチェイン・ナックルさんのサインをもらってしまいました!
 アルザスでインターミドルの映像を見せてもらった時から、ちょっとファンだったんです。
 あ、ファンって言っても元々の語源らしい「狂信者(ファナティック)」って意味ではありませんよ。応援していると言いますか、会って話せたらうれしいと言いますか、そんな感じです。
 私の信仰はおじさまだけですからね。
 どうもフォーセリアには無謀と慢心の魔法「ファナティシズム」ってものがあったようなのですが、信仰と何か関係があったのでしょうか? ラヴェルナさんの「旅行記」に時々登場する魔法なのですがイマイチ効果がわかりません。
 とりあえず、今日うれしかったことの報告でした。

「脱力状態から、加速と炸裂点を調整して撃つのよ!」

 アンチェインさんは「つながれぬ拳」についてこう言ってましたが、これって、前にお姉ちゃんがおせんべいでやっていた御神流の「徹」と似ているのかもしれません。テーブルの上に三枚のおせんべいを重ねて置いて、上から叩いて真ん中のおせんべいだけを割るとかやってましたから。
 私よりもずっと剣術の才能のあるお姉ちゃん。「徹」はそんなお姉ちゃんが剣術一筋で練習をし続けて、中学生の時にようやくできるようになったらしい技ですから、魔法の練習が主体の私ができるようになるのは、もっと、ずーっと先のことになりそうです。
 まぁ、暗黒魔法にはフリーダムがあるので束縛から脱出することは簡単ですし、メズマライズなんかは相手の防御とかはあまり関係ないので、これを今すぐ練習する必要がそんなにないってところもあります。
 まずは暗黒魔法の上達が最優先ですしね。

 あなたの神官 高町なのは


『はやてのスペル・コレクション』

〇リジェネレーション:暗黒(神聖)魔法7レベル。 距離=接触 効果=目標の身体的な損失を回復します。


 高町家の浴室で、高町士郎は困惑していた。
 焦っていた。
 なぜ自分は、小学生の娘にこんな目にあわされているのかと。

「なのは……これはどういうことなんだ……」

 士郎は、自分の「大事なところ」に手を当てて魔法の呪文を唱える愛娘に向かって、情けない声でたずねることしかできなかった。
 今年の四月に「修業の旅に出ます」と書置きを残して異世界まで飛んで行ってしまった娘が、久しぶりに帰って来たので「なのは、一緒に風呂入るか?」と誘ったのだ。
 それに「うん!」と笑顔で答えが返って来た時、士郎はひどく喜んだ。それはもう、あなたの昔話のせいでと妻に怒られたことや、無言で放たれる長男の冷たい視線に傷つけられた心が瞬時に癒された気がしたのだ。
 それなのに――

「えっと……少し前に子供ができないってお悩みのナカジマさんの治療をしたんだけど。ここで子供の素ができるわけだから、ちゃんと治しておかないとって思って。お父さん、お母さんととっても仲良しさんなのに――弟も妹もできなから」

 ナカジマって誰だ!? ひとの娘に何を教えてやがるんだ! そんな心の叫びが士郎の中で吹き荒れるが、とりあえず、一応、確認を取る。
 高町士郎はいたって冷静だ。
 
「な、なのは……そのナカジマってヤツにも、もしかしてだな……その……この魔法をかけたのか?」
「うん、そうだよ。とってもよろこんでもらえたよ」

 今晩はじっくりと刀を研ごう――そんなことを考えつつ、士郎は娘にこういうことをそんな簡単にしてはいけないとよくよく言い聞かせる。
 娘が「プレシアさんに赤ちゃんを作るところを見せてもらったから、それぐらい知ってるよ」などと返して来たので、そちらにもちゃんと「お話」をしなければいけないなと、士郎は拳を握りしめた。

 ある事件のせいで生死の境をさまよった男、高町士郎。事件の後遺症によって失われていた、彼の重要な機能は無事に回復した。




〇英雄伝「覇王イングヴァルト」

 古代ベルカ諸王時代。
 諸国の王がベルカ世界統一を目指して争いを繰り広げたこの戦乱の時代に生き、その武勇によって歴史に名を刻んだ男がいた。

 名は、クラウス・G・S・イングヴァルト。
 聖王家の守護兵器「聖王のゆりかご」が空を制圧し、聖王連合による戦乱の終結が確実となったとき、他の多くの家は戦力の温存を考えた。
 そんな時代の中にあって、彼は地上でただひたすらに拳を振るい続けたと言われている。

「時間が無い。一刻も早く戦乱を終わらせねばならんのだ」

 命を削る戦いを続け、ベルカ平定の寸前に戦場で散った覇王。
 彼がそれほどまでに生き急いだ理由は伝えられていない。


  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


拝啓 過ごしやすい季節も終わり、いよいよ夏が目前となってまいりました。
 エース様におかれましては、なお一層のご活躍をされていることと拝察いたしております。
 先日はご多忙中にもかかわらずご丁寧なご指導をいただき、まことにありがとうございました。
 あなたの小手先の攻撃など通用しない頑強さと、防御を無意味とする恐ろしいほどの打撃力。全力で避け、急所へと正確に全力の一撃を。ただただ、それだけを要求された訓練は辛くもありましたが、同時にそれが私の中で確かな力となって行くことを実感できました。
 今年こそは、エース様よりご教授いただきました貴重な体験を糧とし、必ずや都市本戦出場、そして、かなうならば優勝をと日々のトレーニング励んでおります。
 昨年は抽選の結果とはいえ、ギンガとの同チーム対決となってしまいました。今年はそうならないことを祈ってはいますが、早く昨年の雪辱を果たしたいと逸る想いもまた募っています。
 もし、ご都合がよろしければ、私の戦う姿をご覧になって頂きたいと思っております。
 それでは、エース様のますますのご活躍とご健勝をお祈り申し上げております。
 ありがとうございました。
 
                        敬具
 新暦 七十八年 六月
 ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルト


  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



 ザンクト・ヒルデ魔法学院の教室で、アインハルトは慣れない異世界語で書いた手紙を確認していた。
 習い覚えた範囲で、失礼にならないように出来る限り丁寧に書いたつもりではあるが、やはり異世界の言語であるので、おかしなところはないだろうかとの不安は尽きない。

「ハーイジ。何見てるの?」

 この学校で、アインハルトのことを「ハイジ」と異世界風に呼ぶ人間は一人しかいない。

「ああ、ギンガ。ニホン語で手紙を書いてみたのですが、きちんと書くことができているのかどうか自信がなかったので――少し見てもらえませんか?」

 ギンガ・ナカジマ。
 アインハルトとギンガは同じ学年で、魔法学校に入学してすぐにお互いが格闘技を学んでいることを知り、一緒にいることが多くなった。共に鍛え、競い合って、時にはぶつかりあって来た長年の友人だ。

「うーん、これじゃあダメよ」
「そうですか――どこがおかしかったのでしょう?」

 机の上に広げた手紙を覗き込んだギンガは、手紙の内容を一通り読むと首を横に振った。
 完璧とは口が裂けても言えないが、自分ではまずまずの出来栄えと思っていた手紙を一目で否定されて、アインハルトは手紙をにらみつけて誤りを探す。
 が、どこがおかしいのか全くわからない。

「雪辱は果たせないわよ? 今年も私が勝つから」
「なるほ……ど……?」

 この後、二人の練習試合が行われた。




〇なのはのミッド式魔法の名称:ディバインはマイリー、星光はラーダの印なので、なのはのミッド式攻撃魔法の名前は自由の国の兵器関連となっております。

〇タイプ・ゼロ:原作では戦闘機人技術はドクターが流していましたが、ここのドクターは寿命が無い上に「不眠」、その上知力ボーナスが増えていて知力30オーバーなので、行動が違ってきています。
 子供たちはこれから夫妻が製造するでしょう。



[40369] しっぽのともだち
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/01/02 16:15
〇神獣:暗黒神ファラリスがすべての神々を滅ぼさんと放った魔獣の王から逃れるため、神の肉体を捨てて獣の体に身をやつした中立神たちのなれの果て。
 月の神であったとされるフェネスを長とした彼らは、フォーセリアに幾つか存在する大陸の一つである「クリスタニア」を結界で閉ざし、繰り返される「周期」による完成された世界を目指した。
 

――城壁の中に造られた獣の迷宮。永遠に続くかと思われたその小さな周期は、始まりと終わりの巨人による「大周期」の使者の出現によって終わりを迎えた。




 高町なのはは、ナカジマ夫妻の不妊治療の際に自分に弟や妹がいない理由に思い至った。
 ナカジマ夫妻の場合はどちらが原因なのかわからなかったので、結果は「おじさま」に任せして両者に治療を施したが、なのはの両親の場合はどうかんがえても大怪我を負った父「高町士郎」があやしかった。
 なのははインプのレッサを妹分として迎えはしたが、まだまだ弟分が足りていない。ここはひとつ弟ができない原因かもしれないものを取り除いてしまおうと、海洋世界の冒険の途中ではあったが、一時、両親のいる海鳴市へと帰って来たのだ。
 帰って来たその日に良い機会があったので、「善は急げと言いますし」と即座に治療を終了したなのはだが、一晩たったら「はい、さようなら」ともいかず、家族会議の末に「じゃあ、もう少しだけ」と二日ほど海鳴市で過ごすこととなったのであった。




『なのはのモンスター・コレクション』

 〇ツインテール・キャット:モンスター・レベル5

 ツインテール・キャットは尻尾が二股に分かれた猫、いわゆる猫又だ。気まぐれな性格で、人間との関係はからかったりすることがある程度で、浅い付き合いしか持たないことが通常である。
 だが、ごくまれに人間と深い絆で結ばれる個体が現れることがある。そういった場合、ツインテール・キャットからは決してその人間を裏切ることはない。もしも、ツインテール・キャットと絆を結んだ人間が、それを裏切るような真似をした時にはどうなるのかは――よくある怪談話を参考にしてほしい。


「にゃんがにゃんがにゃー」

 海鳴商店街内のペットショップのアルバイト店員、陣内美緒は本日も上機嫌。特に意味もない歌を口ずさみつつ、店内の掃除に商品の整理と仕事を順調にこなしていた。
 と、店の入り口のドアが開きお客さんがやって来た。

「いらっしゃいませー」
「みーさーん! お久しぶりです」

 やって来たのは、美緒の友達の妹である高町なのはだった。

「久しぶり―。なんか異世界留学してるって聞いてたけど?」
「帰省中なんです」

 美緒の友達であり、なのはの姉である高町美由希は友達が少ない。
 とても、少ない。
 美緒の知っている美由希の友達は、神社の巫女のお姉さんと美緒自身しかいない。それ以外の人を見かけたことはない。
 このことについては聞くも涙、語るも涙の事情があるのだが、美緒は空気を読んで聞いていない。なのはにとっての陣内美緒は、姉の数少ないとても大切な友達なのだ。

「今日はゼリーの姉さんは来てないんだ」
「ゼリーはただいま海に潜ってます。あ、これお土産です」

 なのはが美緒に差し出して来たのは、英語に似た文字の書かれた何か――「ミッドチルダの、異世界の、チーズです」――異世界チーズを受け取る。
 検疫とかしなくて大丈夫なのだろうかと思わなくもなかったが、ねこまたの心配することでもないような気がしたので、美緒はそれについては考えないことにした。

「ありがと。それで何かご入り用?」
「えーっとですね。ゼリーがだいぶ頑張ってくれているので、何かご褒美をと思いまして」

 なのはの目が店内をキョロキョロと見回しているのに気付いた美緒は、アルバイトとしてのお仕事を始めた。
 なのはがその使い魔と初めてこの店にやって来た時、美緒は二人の関係を訊ねた。それに「ペットとご主人様かな?」と答えが返って来た時には「ああ、前々からいろいろとおかしい子だったけど……ついにそんなことに……」と思ったものだったが、今ではそんな非常識にも慣れたものである。
 美緒は自分自身からして世間一般の常識から外れた存在なので、そのあたりをあまり気にしない――世の中には雪女だの、超能力者だの霊能力者だの、封印された大妖怪だのが結構いるものなのだ。

 魔法使いくらいどうということもない、たぶん。

 だいぶ昔に少しだけ遊んだことのあった美由希が、『実は妹が魔法使いで……』と深刻な顔で美緒に相談してくるようなことが無かったら、その後にこんなに深く友達付き合いをすることも無かったのだろうけれど。
「普通ではない」ことが原因で友達を作ることをあきらめてしまった美由希が家族以外で相談できたのが、昔少しだけ遊んで、たまたま再会した相手だったと言うのは少しばかり物悲しいが、そのお蔭で気兼ねなく付き合える相手が増えた美緒としては「なのはさまさま」である。
 ちなみにその時の美由希は、魔法使いうんぬんを信じてもらえなかったり、バカにされたりしたときは「冗談だよー」と誤魔化すつもりではあったらしい。

「お客様、これなんかどうでしょうかー?」
「あの、この首輪とかどうですか?」
「いや、それはやめとこうよ。ほんと……」

 姉も結構抜けたところがあるけれど、妹は妹でアレなのだ。やっぱり姉妹なんだなーと思いつつ、美緒はそれなりにお高い商品をおススメした。
 何故かお金持ちなのだ。この高町なのはという小学生は――。


 〇ワー・ウルフ(あるいはナイト・チルドレン):モンスター・レベル4(7)~

 高町なのはと八神はやては親友である。
 少なくともなのははそう思っていたし、はやての言葉がウソでなければ向こうもそう思ってくれているはずだ。 親友であり家族であり、「妹」とも思っているはやてが世話になった人には挨拶ぐらいしておこう。そう考えたなのはは月村邸へと向かうことにした。
 ――肝心のはやて自身は海の世界でブーブー言いつつも沈没した遺跡を探しているのだが。
 はやてのデバイス(と言うよりも魔力の通る大剣ではあるが)の材料となった希少金属は、月村姉妹からもらったものなのだ。

 なのははバス停でバスを待っていた。
 高町家から月村の御屋敷までは、歩いてゆくには少々遠い。もちろん、飛行魔法を使えばすぐに付く距離ではあるし、転移魔法を使えば一瞬で到着するのだが、あえて不便な移動手段をとることも、それはそれで趣があると言うヤツである。

「……なのはちゃん、どこかへおでかけ……?」

 おみやげの入ったバスケットをブラブラとさせながらバスを待つなのはの前に、乗用車がゆったりと停車すると、その運転席の窓が開いて、なのはの魔力光と似た桜色の髪の女性が顔をのぞかせる。

「あ、さくらさん! ちょっと月村さんちまでです」

 なのはは声をかけてきた相手が誰なのか気付くと嬉しそうに返事をし、タタタッと車へと駆け寄った。


 綺堂さくらは月村姉妹の叔母にあたる人物であり、なのはとは月村姉妹を介して知り合った。
 なのはとの付き合いは月村姉妹の姉である忍の方が長いのだが、何故かなのははさくらによく懐いて来たのだ。

「……乗って行く? 私もちょうど行くところだから……」
「はい!」

 さくらは忍やすずかと同じ「夜の一族」の一員であり、さらに人狼の血まで受け継いでいる。
 そのせいなのか、勘の鋭い子供などには少し怖がられてしまうことがあるのだが、特に勘が鋭いはずのなのはには何故か逆に懐かれているのだ。

 狼は月の神の眷属だが、同時に暗黒神の従僕でもある。自他ともに認める「猫好きの犬嫌い」である高町なのはだが、狼は好きなのだ。
「じゃあ、狼犬は?」とたずねられたら困るのだろうけれど、とにかく狼は好きなのだ。
 猫の使い魔に、コウモリ羽のユニゾンデバイス、鼠(フェレット)小僧な友人。会話のできる烏の知り合いはいないが、子狸や小烏などというあだ名の親友もいる。
 無意識に「おじさま」を象徴する動物を好いているのかもしれないが、「おじさま」と敵対していたらしいファリス神の象徴である犬・鷹・馬の内、犬は嫌いでも馬は好きなのだから、そのあたり割といい加減なものである。

「……なのはちゃん、そのバスケットの中身って……」
「いつもの翠屋のお菓子詰め合わせですけど……どうかしましたか?」

「あれ」とさくらが片手をハンドルから離して指し示した先には「喫茶・翠屋」と書かれた箱があった。

「あー! えっと、毎度ありがとうございます」
「どういたしまして。……生もの?」
「はいー。……かぶっちゃいました?」

 さくらが頷くのを見て、なのはが「あやー」と声を上げる。
「……どうしようか……?」「どうしましょうか?」と車中で話しながら、二人は月村邸へと向かって行った。

   ☽☽☽

「それでは、お邪魔しましたー!」

 なのはは、さくらと二人で内緒で月村家の猫にエサをやったり(忍はいい加減だが、すずかはそのあたり厳しいのだ)、はやてのデバイスや異世界の話をしたりして月村家での時間を過ごし、今は帰りの挨拶をしていた。

「バイバーイ、またね」
「なのはちゃん、また来てね」

 すずかの誘いに「うん!」と返事をして、なのはは玄関の扉をくぐる。

「……本当に、送って行かなくていいの……?」

 なのはがそろそろ帰ると言い出した時、さくらは「送って行こうか?」と申し出たのだが、「大丈夫です」と断られていたのだ。

「帰りは飛んでいきますから」
「……そう……見られないように気を付けて……」

「はい!」と答えがあったと思うと、なのはの姿が見えなくなる。異世界でいろいろあって、練習したと言っていた姿を隠す魔法を使ったのだろう。
 なのはの姿があった辺りから、さくらに向かって少し風が吹いた後には、もう魔法使いの気配は無くなっていた。


「……忍、すずか。まだ話せていないの?」
「う……」
「はい……」

 高町なのはとその周辺の人物と関わっていると、「夜の一族」だとか、普通の人とは違うとか、そういったことがどうでもよくなってくる。
 高町家の居候に、忍が神社の巫女をやっている後輩から聞いた「霊剣」の話をすれば、すぐに幽霊が剣にとり憑く。
 高町父とその妹、ついでに長男と長女は模造刀でドラム缶を切り捨てる。
 高町母が中卒でお菓子作りの修業として海外に行っていたのは、まぁ普通としても――小学三年生の次女が魔法の修業のために異世界に旅立つのは、あまりにもフリーダム過ぎる。

「なのはちゃん……ドラゴンと友達になったって言ってたね」
「インプを妹にしたとも言ってたような」
「……大海蛇と巨大カニを食べたとも言っていたわね……」

 三人の口から揃って「はぁー……」とため息がこぼれる。
 さくらは思う――今更「夜の一族」の話くらいどうということもなさそうなのに、どうしてこの一族の中では割と年の近い姪っ子たちは言い出せないのだろうかと。
 不安なのはわかるが、高町家と比べたら自分たちの方がむしろ「普通」なのではないだろうかと思えるのだ。

「……絶対大丈夫だと思うのだけど……何が問題なの?」
「う……」
「うう……」

 さくらの質問に、月村姉妹が二人して胸の前で両手の人差し指を合わせてモジモジとしだす。その仕草に、性格は結構違うようでも、こういう所はやっぱり姉妹なのだなと思いつつ詳しく聞いてみれば。

「……はぁー、相手が開けっぴろげ過ぎて今更言うに言えなくなったと……」
「うう……」
「ううう……」

 何ということもない、「夜の一族」どうこうよりも規模の大きな話を特に隠すでもなく先にポンポンと教えられてしまったせいで、微妙に内気なところのあるこの姉妹は「いまさらこんなことを秘密にしてましたー」とは言い出せなくなってしまっていたのだ。

「……しょうがないわね。それじゃあ私がなのはちゃんに話しちゃおうかしら……?」
「それはダメ!」
「さくらさん、待ってください!」

 高町なのはは約束を守らない。
 信じる「神」以外には誓いをたてない。
 嫌われるのがイヤだから「好きな人の本当に嫌がること」はしないが、そうでないことは平気でやる子なのだ。なのはに秘密を話したが最後、「約束はしたけれど、お兄ちゃんやはやてちゃんも知ってた方がいいよね」などと言って、少なくとも高町家の全員の知るところになるのは確実であった。

「……どうしようかしら……?」
「ああー、さくらのイジワル!」
「ううー」

 綺堂さくらは「ちょっと怖そうだけど優しい人」などと評価されることが多いが、ここの姪っ子二人に対しては少しだけイジワルなのだ。 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ファラリスおじさまへ

 今日は海鳴商店街でクラスの子と会いました。
 前に金髪にして来たりしていた男の子と、そのときの私の態度を怒って来た女の子が仲良く歩いていたのです。
 男の子は私を見てすごく困った顔をしたのですが、そうしたら女の子が「見て見て! これもらったの!」と男の子にもらったらしいキレイな石を見せてくれました。
 水晶か何かだと思うのですが、ジュエルシードみたいな力があるようには見えません。ただの川で拾った石です。
 でも、女の子にはそれがとてもうれしかったのでしょう。何度も私に見せて来るので「良かったね」と二人の仲良し具合をほめて(?)みました。
「うん、うん! そうなの!」と女の子は上機嫌で、男の子は頭の後ろの方を手でクシャクシャっとしてました。
 なんとなくどういうことかわかったので、私は仲良しさんたちに「バイバーイ」と言って、ゼリーへのプレゼントを買いに行くことにしたのです。
 お邪魔しては悪いですしね。

   仲良きことは美しいらしいです 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 久しぶりの海鳴はなんだか懐かしくて、ついついいろいろなところを見て回ってしまいました。
 数か月の間はなれていただけなのに、車の窓や、空の上から見る風景に「ああ、帰って来たんだ……」と、感慨と言えばいいのでしょうか? 何かそんなものを感じてしまいまったのです。
 実はちょっぴりホームシックだったのかもしれません。それをずっと上回る驚きが続いていて、あまり気にしていませんでしたが。
 と、昼間にすずかちゃんやさくらさんたちと話していて思い出してしまったのですが――

 私、はやてちゃんの誕生日のことをスッカリ忘れていました!

 どうしましょう。もうとっくの昔に過ぎてしまっていますので、いまさら「これ、誕生日プレゼント!」なんてことは言えません。
 とりあえず、がんばってくれていたゼリーには高級爪とぎを買ってみたのですが、これのついでにみんなにプレゼントを用意してみたと言うことにしましょうか。
 はやてちゃんには、何がいいのか。住まいから食事までお世話になっているプレシアさんには何がいいのだろう。幽霊のローウェルちゃんには渡せる物があるのか、とか。
 考え出すと、止まりません。
 レッサは髪留めがいいと思うのですよね、なんだかボサボサさせてますし。
 うーん、ローウェルちゃんは難題です。他のみんなにあげて、ローウェルちゃんだけ無しってなると、その場では「しょうがないわよ……」とか言いながら、きっと後でドンヨリしちゃうんですよ。
 おじさま、幽霊へ贈り物するに場合には、どうしたらよいのかってご存知ではありませんか?

   悩めるあなたの高町なのは




〇しっぽのともだち:グラスランナーとリザードマンの友情話でしたが、ここではリリチャ箱に出演したケモノっ娘の話に。

〇綺堂さくら:小学生のころは「はにゃーん」とか言いつつカード集めに夢中だったりした……などということはない。忍さんの数少ないともだち。

〇陣内美緒:なのはのやらかしたアレやコレやのせいで、なんやかんやで美由希さんに同い年のともだちが。

〇男の子&女の子:「無印のサッカー→巨大樹→砲撃」回のお二人をイメージ。年齢が違いそうとかは気にしないでください。ちなみにここの士郎さんは娘で手一杯でサッカーチームとかやってません。



[40369] 夢幻よりの……
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/01/02 18:56
始原の巨人が死んで、世界が生まれる
世界が死んで、終末の巨人が生まれる
終末の巨人は虚の空で無限の時を遡り、始原の巨人となる
始原の巨人が死んで、世界が生まれる……

始まりが終わりに、終わりが始まりに、永遠の周期を続ける世界 
無限に続く「周期」は何時も同じ過程を辿り終焉を迎える
多くの「周期」にあっては、世界の内に生まれた者たちもまた同じであった

だが、同じではなかった「周期」があった
終末の者の存在を知り、その脅威を退けてなお魔術師たちの王国が健在であった「周期」があった
世界の終焉を止める方法が無いと悟った魔術師たちは、考え抜いた末に、最も美しいと謳われた女神の教えに従ったのだ

  「夢幻の胡蝶」が暗黒神の使徒へと語った「神狩り」の始まり




 海鳴から帰って来て
 ファラリスおじさまへ

 気が付けば「はやてちゃんの夏休み」も、もう半分が過ぎそうになっています。 去年の夏休みもずいぶんと短く感じましたが、今年はさらに速く過ぎて行ってしまいます。
「毎日毎日遊び暮らしてたらそうなるわ」なんて言葉は聞こえません。と言うよりも、はやてちゃんにはあまり言われたくありません。脚の具合が悪かったせいではありますが、はやてちゃんは毎日毎日ゴロゴロとして過ごしていたのですから。
 ウチで英気を養ってきた私ですが、別に「時の庭園」だと疲れるってことではありません。
 プレシアさんはよくしてくれますし、私の部屋だってあります。中のいろいろな設備の使い方も覚えたので、生活に困るってことはありません。
 今だって「時の庭園」は海の上をドンブラコドンブラコと漂っているのですが、全然船酔いとかしないでリラックスできています。
 元々、飛行魔法の適正がある人はあんまり乗り物酔いとかにならないそうなんですけど――船に乗ったくらいで酔っていたら、空中で高速機動なんてとてもできませんから。
 お風呂も大きいし、掃除みたいなお手入れも傀儡兵さんたちがやってくれるので、広くても大体はなんとかなっています。
 魔力炉の整備のような細かいところは人間がやらないといけないのですが、私って機械をイジルの結構向いているみたいです。なんだかスラスラ覚えられましたし、プレシアさんにも「覚えが早い」ってほめられたんですよ。

 えーと、何を書こうとしていたのでしたか――夏休みが短いので、最初に考えていたよりもあまりゆっくりとしていられなくて残念って話でした。
 私が海鳴に行っている間にも、いくつかの発見があったようで水の中に沈んだ街のようなところとかがあったみたいなのですが、でっかいタコや半魚人がものすごく怒って襲って来たので一旦引き上げたのだそうです。
 気にはなりますけど、半魚人さんたちのお家なのかもしれないので、やっぱりやめておきます。
 私だって、家の中に知らない人がズカズカと入って来たらイヤですからね。

   ローウェルちゃんへのプレゼントが決まらない
                   高町なのは


 おじさま

 私はとても感動しています!
 うれしくてうれしくて、もう何と言っていいのかわかりません。いえ、きっと言葉なんて必要ないのでしょう。 いつもより少しだけ深く、いつもよりちょっとだけ強く、いつもよりもハッキリと、おじさまの存在を感じることができました。
 私はこの体験のきっかけを作ってくれたレスフェーンさんに、とてもとても感謝しなければいけません。
 今まで私の夢に勝手に入ってこようとしていたって言うのは、ちょっとデリカシーがないなって思わなくもありませんが、あの場所では、いつもよりもおじさまとつながっている感覚が強くて、それがとてもうれしかったから、それぐらいのことは許してあげるのです。

 前々からなんだかおかしいなって思ってはいたのです。「時の庭園」で眠った時に限って変な夢を見るのですから、それはもう、これは一体なんなんだろうって考えてしまうのも仕方がないこと。
 ちょっとレッサとユニゾンしたせいかもしれないって思っていたのは、レッサにはナイショですよ。秘密ですよ。
 いや、まさかあんなところに、おじさまの元仕事仲間の神さまが閉じ込められているなんて思いもしませんでした。プレシアさんがドッペルゲンガーの夢を見たのもレスフェーンさんのせいかもしれません。
 夢の中、無意識の領域、精神の部屋。レスフェーンさんはいろいろな言い方をしていましたが、あの場所はおじさまのことがよくわかるので、また行ってみたいと思ってしまいます。
 浸かりすぎると帰ってこれなくなるみたいなので、ちょっと怖いですけど。
 けれどアレですね。はやてちゃんは何というか、さすがですよね。
 私といっしょに寝ていたから、いっしょにアッチへ誘われたはずなのに「こんなんただの夢や」ってレスフェーンさんのお使いを斬り飛ばしちゃったらしいのですから!
 私なんて「あ、なんだかこっちにおじさまがいるようなー」ってフラフラとチョウチョに着いて行ってしまったので、起きた後で「なのはちゃん、なんだかようわからんもんに着いてったらアカン」って怒られてしまったのです。
 怒られはしましたが、おかげさまでとてもいいことがあったので、これからもなんとなく良さそうって時にはその気分に逆らわないようにしようと思います。
 はやてちゃんにはナイショですよ。秘密ですよ。

   夢見心地の あなたのなのは


 ファラリスおじさまへ

 昨日の夢の中で、レスフェーンさんに頼まれたお仕事をしようと思います。
 おじさまも近くにいらしたはずですので、ご存知だとは思いますが、一応私自身への確認の意味で書いておきます。間違っている所もあると思いますが、私の頭で理解できたのはこのぐらいだったのです。
 おじさま、もし、ものすごーく間違えていたら教えてください。私はまだまだ勉強中の身の上なのです。

 レスフェーンさんの話では、この海の世界にはレスフェーンさんや、レスフェーンさんのお仲間の方たちが閉じ込められた結晶がたくさん詰め込まれた船があるみたいです。

 船の名前は「アルゴーの船」。
 探す結晶の名前は「魂」。

「アルゴー船」は竜王「アルゴス」を材料として造られた、超大型次元航行艦です。
 世界が始まる前に存在した巨人さんが居た場所は、私たちが高次空間と呼んでいる虚無の海です。そこで無限の時を生きていた巨人さんの体はたくさんのウロコにおおわれていました。
 巨人さんが亡くなったとき、そのウロコからは竜の王さまたちが生まれてきました。ですから、竜の王さまには、生まれたその時から混沌の海を越え、世界と世界の間にある「虚無の海(高次空間)」を泳ぐ力が備わっていたのです。
 そこに目を付けたカストゥールの魔法使いたちは、竜の王さまの身体を材料として、滅ぶことの定められたフォーセリアから脱出するための船を造ったのです。
 全部で三隻建造された次元航行艦は、住むことのできる新しい世界を見つけるまでの長い長い旅に備えて、その中でずっと暮らせるようにできていたので、別名「ゆりかご」とも呼ばれていました。
「アルゴー船」はそんな三つの「ゆりかご」の内の一つです。

「レリック」、「聖王核」――私たちがそう呼んでいた赤い宝石は、大昔の魔法使いたちに結晶の中に閉じ込められた神さまたちの「魂」の欠片だったのです。
 カストゥールの魔法使いたちの魔法は、神さまたちがフォーセリアを創った時の言葉を利用したものでした。なので、異世界に行ってしまったら、いえ、フォーセリアから外に出てしまったらその言葉には何の力もなくなってしまうのです。
「無事に異世界に逃げ延びても、力を無くしてしまっては困る」、そう考えた魔法使いたちはフォーセリアができる前から魔法の力を持っていて、それを自在に使うことのできる存在を利用しようと考えたのです。

 それは「神」さまたちでした。
 魔法使いたちにとっては幸いなことに、その頃のカストゥール王国には、すでに神さまの魂を捕まえた経験がありました。
「万華鏡」なんて呼ばれていたらしい、鏡の中に無限回廊の牢獄を創造する技術で、大きなエイの姿をした神さま「ミルリーフ」さんを、小さな筒の中に赤い宝石の形にして閉じ込めていたのです。
 そして魔法使いたちは「力ある結晶」から魔力を引き出す方法も知っていました。「魔力の塔」とそこで集めた魔力を受け取って使うための宝石を体に埋め込む技術です。
 二つを組み合わせて、魔法使いたちは神さまたちの大きな魂をいくつにも引きちぎって、赤い結晶に閉じ込めて、自分たちの身体に埋め込んでその力を利用する恐ろしい技術を生み出したのです。

 レスフェーンさんの依頼内容を簡単に言うと「もう閉じ込められているのイヤだから、入れ物を壊してくれ」ってことでした。レスフェーンさんの話し方が少し難しかったので、ちょっとややこしいのですが、大体これで合っているはずです。
 合ってますよね?
 船を探して、中に入って、「魂の牢獄」を取って来て、壊して閉じ込められている神さまたちの魂を解放する。
 簡単かどうかはわかりませんが、見つけるところまではレスフェーンさんが手伝ってくれるそうなので、大丈夫そうです。
 何と言っても「束縛からの解放」のお仕事ですから、おじさまの神官としてはやる気満々です。報酬にはちょうど欲しかったものもくれるって言われてますし、なんだかとっても好都合ですよね。
 忘れないように、大事そうなところはこうして紙に書きましたし、バッチリ……
 これは手紙なので、おじさまに送ってしまうのでした!
 もう一枚書きますので少しだけ遅くなります。

   うっかりしていた 高町なのは




『はやてのスペル・コレクション』

〇ダーク・スキン:ファラリスの特殊暗黒魔法8レベル。
効果範囲=個人 効果=肌が黒くなり、精神抵抗力が大きく上昇する。


 夏と言えば海で、海と言えば水着、水着で遊びまわっていれば日焼けするもの――と言うのは過去の話。魔導士に限って言えば、フィールド系防御魔法の応用で紫外線をカットできるので日焼け止めも必要ないご時世である。

「黒ッ! なのはちゃん焼け過ぎ!」
「姉御、昨日まではなんともなってなかっただろ!?」

 なのはの姿を見て、はやては叫び、ユニゾンデバイスは主に飛びついた。
 ある日、ある朝、朝食の席で、友達が突然真っ黒になっていたら幽霊だって驚く。大魔導士だって口に出さないだけで疑問に思う。事前に知っていた使い魔は、「そうだろうなー」とうなづく。

「えへへー。実は、これはおじさまのご加護だったりします!」

 誇らしげにちっさな胸を張って宣言するのは、褐色肌になった高町なのは、御年九歳。
 色黒になったので少しばかり分かり辛いが、なのはの頬はうれしさのあまり上気しているようだ。さらに「えへへ」だの「うへへ」だのとつぶやきつつクネクネとしているその様子は、可愛らしいと言うべきか、気持ち悪いと言うべきか食卓に集まった人々には判断がつきかねた。
 ダークエルフや闇竜など、暗黒神の加護を受けた存在を知ってから、なのはの中で憧れの気持ちはふくれ上がる一方だった。
 その想いがようやく少しだけ叶ったものだから、なのはは黒く染まった手足をニヤニヤとしながら見てしまうことをやめられないのだ。

「はやてちゃーん、ちょっとちょっと……」

 褐色娘がはやてを手で招く。
「おいで、おいで」と呼びかける指先につられて思わず近寄ると、「ぎゅー」とそのまま抱き着かれた。

「どしたん?」
「うふふふふ、おすそわけー」

 意味が分からずきょとんとするはやての耳元で、なのはが暗黒語をつぶやく。
 すると、みるみる内にはやての肌の色が黒く染まりだした。
「ちょっ、うわっ!」と驚くはやてに、なのはは「お揃いだねー」と言いつつ頬ずりをする。暗黒神官の気分は相当に高揚しているようだ。
 高町なのははケチではない――幸せはみんなで分け合うことで、より良いものになると知っているから。

「ゼリーは済んでるから……次はプレシアさんかな?」

 主の言葉を受けた黒猫が「にゃん」と鳴き、長期間引きこもり生活のプレシアは、ずっと昔の少女時代に一時期日焼けしていたなと遠い記憶を思い出した。
 なお、デバイスには効果が無かった。

「幻の支配者」の領域は、欲望と衝動を司るファラリスの領域でもある。夢と無意識と衝動の世界で、高町なのはは普段よりもずっと強く暗黒神とふれあうことができたのであった。




〇「幻の支配者」レスフェーン:夢や幻を支配していた神。神獣となる際には、蝶の中にその魂を封じて「夢幻の胡蝶」となった。
『夢の中で幸せなら、現実が苦しくたっていいじゃない』

〇「永遠の逃亡者」ラフォンテール:最も美しい女神であったと伝えられている。多くの神々から求愛を受けたが、誰かに束縛されることを嫌いひたすら逃げ続け、やがて逃亡による自由と可能性を司る者となった。竜王に追われて鹿へと姿を変え、「枝角の大鹿」と呼ばれるようになる。
――フォーセリアとは異なる世界の話ではあるが、地球のシカ科の多くで、立派な枝角を持つのは「オス」である。女神でいいのですよね? 自由関連の神格だからって、実は……なんてことは無いと思いたい。
『逃走は恥ではない。〝新たな可能性〟への前進なのだ』

〇高町なのは:ダークプリースト7→8

〇事件の規模:ジュエルシード(次元災害級)>闇の書(惑星滅亡級)>レリック(大陸崩壊級) 
話が進むごとに事件の規模が小さくなってしまう……普通は逆ですよね。

〇エリオ:モンディアル家はお金持ちで、F計画も知っていたので裏にも顔が効く模様。大事な大事な息子が病気(恐らく難病)なら、時空管理局の記録から謎の仮面治療士にどうにかして連絡したりするかもしれません。



[40369] ドラゴンロードは神官娘の夢をみるか(1)
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/01/04 00:19
 ある世界はひとりぼっちの巨人の死によって始まりました。
 巨人の肉は大地に、血潮は海に、最期の吐息は風へと変わりました。そして、孤独な巨人の悲しみと怒りに満ちた心は炎となり、熱と生命をもたらしたのです。
 生命の炎の中から、巨人の体の一部を受け継いで神さまたちが生まれました。同時に髪からは植物が、鱗からは竜が生まれでてきたのです。
 こうして生まれた最初の生命の中で、最も強く巨人の心を受け継いだ者は竜たちでした。
 万物の根源である巨人を殺したものは、孤独に憤る自らの心の炎です。竜たちはその心を身体に宿しているので、あらゆるものを滅ぼす炎を吐くことができるのかもしれません。




 発見した一日目
 ファラリスおじさまへ

 プレシアさんが「魂の檻」を実験した時につけてしまった小さな小さな傷から、レスフェーンさんは少しづつ私の無意識に働きかけてきていたようなんです!
 どおりで、どうにもレスフェーンさんに都合のいいことばっかりだなって思えたわけです。私も別に都合悪くないと言いますか、むしろ好都合というモノなので、なんとも言えないのですけれど。
 それにしても夢の中に勝手に入って来てたなんて、「なんだかちょっと、デリカシーがないような気がします」
 そう伝えたら「ゴメン、ゴメン」といった感じの返事がありました。レスフェーンさんは、実は結構気さくな神さまなのかもしれません。
 プレシアさんとはやてちゃんはリアリストと言いますか、何と言いますか、「夢や想いだけで現実はかわらへん」と言う人たちなので、「夢や幻は現実と同じだけの価値がある」と考えているレスフェーンさんとはあまり相性が良くなかったみたいです。

 私ですか?
 私は本気で想って、真剣に願えば、夢はかなえられるって知っていますから。
 想うのも、願うのも「ファラリスおじさまへ」なのですけれど。
 今までそうでしたし、これからもずっとそうです。

 私達は今、「アルゴーの船」に向かって「時の庭園」を飛ばしています。目指す方向はレスフェーンさんが教えてくれるのですが、レスフェーンさんの声を聞くのがなかなか面倒でして、寝ていたりして意識が薄れているような状態でないと聞こえないのです。
 最初はそれで眠くもないのにどうにか寝ようとしたりしていたのですが、途中でローウェルちゃんがあることに気づいてからは、サクサクと進むようになったのです。

「なのは、アンタって催眠魔法使えなかった?」

 さすがのローウェルちゃんです。メズマライズを自分にかけてボンヤリモードになり、それでレスフェーンさんの声を聞き聞き庭園は船へと向かって進みました。
 そこからは早かったですね。はたから見た私はうつろな目つきでブツブツ言いながら、見えないチョウチョを追いかけてたそうですけど……。

「船って言うか、島だろアレ……」

 レッサがこんな風に言っていましたが、まさしくその通りでした。たどり着いた「アルゴーの船」はものすごい大きさで――船なので普通に海の上に浮かんでいたのですが、空を飛んで上から見ても島にしか見えません。
 船だって知っていて見てそうなのですから、何も知らなかったら見過ごしてしまっていたと思います。
 移動庭園である「時の庭園」は、管理局が使っている普通の次元航行艦よりもずっと大きいのですが、それが「アルゴーの船」の上に着陸できてしまうのです。「時の庭園」が島の上に建っている変わった形の大きな建物って感じに見えてしまうくらいです。
 たぶんですけど、船の大きさは一番長い所だと七キロくらいはあるのではないでしょうか? 船は細長くて、ちょうどケーキに生クリームを飾る時の絞り袋みたいな形をしています。
 たくさんの人が乗って来たはずの「移民船」で、本に「空を埋めるくらい大きい」って書いてあったドラゴン・ロードの身体を材料にしているのですから、このぐらいのサイズで当たり前なのかもしれませんが、それにしても大きかったです。
 どれぐらいの時間、海を漂っていたのかわかりませんが、「アルゴーの船」の上には色々なものが降り積もっていました。それを吹き飛ばし、吹き飛ばし掘り進んでいくとキレイな翠色が現れました。
 船の元にされてしまったと竜王のアルゴスさんは、翠色のウロコをしていたそうですから、ウロコの色そのままなのかもしれません。ウチの喫茶店は「翠屋」ですから、ちょっとだけ親近感を覚えます。

「水の中もダメだ。なんかイロイロ張り付いてるよ」

 海に潜って下側を見て来てくれたゼリーたちですが、そっちはそっちで貝みたいな生き物の死がいが何重にも張り付いていて、とても入り口がどこにあるか探せそうにありませんでした。
 今日はとりあえず「これからどうしようか?」と相談して終わりにする予定です。

   アルゴスさんの背中(?)で 高町なのは 


 竜は眠っていた。身体を縛られ、魂を閉じ込められ、赤い空間で眠っていた。
 竜は神話の時代から長く封じられて過ごし、伝説の時代に目覚め、そしてもう一度封じられた。
 一度目の封印は獣に落ちた神によって、二度目の封印は驕り高ぶった人間によって――。
 獣は滅び、人も去り、竜だけが残された。
 竜は眠る。夢を見る。遠く懐かしい気配を感じながら。




 ウロコ磨きの二日目
 ファラリスおじさまへ

 入り口が見つかりません。張り付いているイロイロなものをはがしながら探しているのですが、出てくるのは翠の壁ばかりです。
 たまーに、大きな紅い半球が見つかるのですが、これって多分、たくさんあったらしいアルゴスさんの眼ですよね?「百眼の竜王」ってことですから、きっとそうなのでしょう。
 とても頑丈そうではあるのですが、やっぱり「目」ですから傷をつけないようにって考えてしまうので、なかなか気を使います。

「もー! アルゴスさんはおじさまの家来なんですよ!」

 こんな感じで釘を刺しておかないと、「大規模魔法で全部吹き飛ばした方が早くないかしら?」とか言ってプレシアさんが吹き飛ばしてしまうかもしれません。
 プレシアさんって意外と短気なところがあるのですよね。気に入らないとすぐにポイってしちゃったりとか、カッとなるとムチを振り回しちゃったりとか、それで後からこっそり落ち込んでるんです。
 船の形に変わってしまってはいるのですが、元々は竜なのですから、体の中へ入るのならやっぱり口かお尻なんでしょうか。空を飛ぶ船の場合は、飛んでいるときに下側になる場所に、落下しながら外へ出るための扉を造ったりもするそうなのですが、なにぶん「アルゴーの船」は大昔のものなので詳しいことがわかりません。
 それなので今日はありそうかな? って場所を地道に探しました。
 レスフェーンさんもアルゴスさんの気配が強すぎて、よくわからなくなったなんて言い出してアテになりません。
 そんな感じで、今日は船の掃除をしただけで終わってしまいました。
 アルゴスさんの瞳はルビーのようでとってもキレイで、思わずそっとふれてしまいました。思ったよりも硬かったので、本当に宝石でできているのかもしれません。

   紅の瞳にアリシアを想って 高町なのは


 独りきりの長い年月が、竜の魂と身体に降り積もっていた。
 切り離された魂は肉体を支配できず、身動きの取れぬままに流されていた。
 まどろむ竜の背で、どこか懐かしい気配がうごめく。不快を覚えた竜は低く重くうめきをあげようとして、その程度のこともできぬ己の有様を思い出した。
 呼びかけることを諦めた竜は、そのむず痒い想いを無視することとした。
 だが、竜はその想いにひかれていることも自覚していた。
 背に降り積もるこの想い。以前にこれと同じものを与えられたのはいつだったか、竜は思い出すことができないでいた。




 考えた三日目
 ファラリスおじさまへ

 お掃除はそのまま続行するとしても、このままでは、いつまでたったら中に入れるようになるのかわかりません。
 なので、とりあえずゼリーには調べ物をしてもらうことにしました。本当ならプレシアさんにもそっちをお願いしたいのですが、傀儡兵さんたちの操作をしてもらわないといけないのでそうもいきません。
 グレアムさんは忙しいかもしれないですが、一応頼むだけ頼んでみることにしまして、必要ならユーノ君やその一族の人たちにも手伝ってもらって、例のすごい図書館「無限書庫」で何か手がかりが見つからないかって探してもらうのです。
 はやてちゃんとローウェルちゃん、それからレッサは現場監督です。プレシアさんには傀儡兵のみなさん全体の操作と指揮をしてもらって、細かい部分のフォローは三人にやってもらいます。
 みんなにお仕事をお任せしたので、私はお昼寝です。

 寝るのも仕事の内で、夢の中の通路からアルゴスさんとお話できないかなって試してみたのです。
 今日はどうにも上手くいきませんでしたが、明日にはちょっと、がんばればきっと、そのうち絶対なんとかなりそうな感じがしました。
 アルゴスさんだけではなくて、船の材料にされてしまった竜の魂は、心臓を素材にして造られた「駆動炉」に封じられているそうなのです。封印と言ってもそれは完全なものではなくて、力を引き出して船全体に回すために、ちょっとだけ通路が開けてあるみたいなんです。
 大きな大きなアルゴスさんは出てこられないようになっているようですが、私が入っていくことはできるかもしれません。
 そんなわけで、明日もう一度挑戦してみます。
 あと、レスフェーンさんはちょっとエッチです。夢の世界では毎回毎回ハダカで始まるので、服を創造するところからになってしまいます。

   寝てばかりの 高町なのは


 煩わしい想いが、近寄って来ようとしている。
 竜はまどろみながらも首を上げ、ゆったりと周囲を見回した。出ることはかなわず、力だけを搾り取る赤い牢獄の中で、誰かが己へと語り掛けようとしている声を聞いた。だが、まだその意味はわからない。何を期待しているのか、何を求めているのか、何かをさせようとしているのか、何もわからない。
 苛立ちと、わずかな期待が竜の中に生まれ、その魂が翠と紅の輝きを放つ。 覚えのない小さな気配と、遠くかすかな懐かしい気配を感じ取り、孤独を埋めるためのまどろみが消えて行く。
 竜の内でくすぶり続けていた心の炎が、ゆっくりと燃え盛り始めた。




〇「アルゴーの船」:「ゆりかご」の全長が数キロらしいので、それに合わせて大きさが㎞単位に――イラストで見ると微妙に蛇っぽいアルゴスが素材になっていることを考え、長めの全長七キロ。その分全幅は「ゆりかご」よりも細め。
 エクセリオンバスターで検索すると、何故か宇宙戦艦となのはさんの画像が出てくるから不思議です。



[40369] ドラゴンロードは神官娘の夢をみるか(2)
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/01/05 00:30
 夢の回廊から帰ってきて
 ファラリスおじさまへ

 私は、アルゴーの船の中に張り巡らされている、アルゴスさんの力を通すための道を使って、船の「心臓」まで行こうとしています。
 魂から取り出した力が通る道なので、夢幻の姿になればそこを進むことができるのです。「幻の支配者」で、夢の世界を司っていたレスフェーンさんの能力のおかげですけれど。
 そんなすごいレスフェーンさんですが、今の彼は元々の神さまだった時と比べたら、全然力が無くなってしまっています。
 レスフェーンさんは、おじさまとケンカして蝶の中に逃げ込んだ時にとても弱くなってしまって、そのあと魔法使いたちに弱った魂をバラバラに千切られてしまっています。その上、今は魂を閉じ込められている器(聖王核)についたちょっとしたキズ(プレシアさんの実験のおかげです)から、ほんの少しだけ顔を出しているだけのようなものらしいのですから、もうほとんど力を出せないのです。
 神さまなのに、無防備に眠っている相手か、受け入れてくれる相手にしか能力が通じないって相当なことなのではないでしょうか。
 そんなフラフラなレスフェーンさんですが、三十センチくらいのチョウチョの姿で一緒に探検にでてくれています。力はあまり出せないそうなのですが、夢や幻のプロ(というか神さま)が道連れというのは結構頼もしいことかもしれません。

「『心臓』までの道は、元々は竜王の血管だったものだろう」

 身体の端から端まで「心臓」から流れる力を運ぶ道なのですから、それが血管だって教えてもらって「なるほどー、わかりやすいですね」と返したり。

「そちらは違う。基本的には道が太くなる方向へと進むのだ」

 などと、肩や頭の上にとまったチョウチョさんに言われたりしつつ、アルゴスさんの眼玉だったらしき紅玉の半球から、私たちは「心臓」へと向かいました。
 それから、えっと、レスフェーンさんがわかりやすい話し方をしているのは、私のためだったらしいです。あんまり難しい言い方をされるとわからないので……文系科目も結構得意なんですけどね、一応。
 夢幻の存在と、ローウェルちゃんみたいな霊体ってどう違うのかよくわかりませんが、どっちも普通の壁なんかはすり抜けて一気に中へ入れそうな気もします。それなのに、どうしてわざわざ複雑な血の迷宮を進んでいるのだろうって思いませんか?
 実は船を造った魔法使いたちは霊体になる魔法や、霊体の怪物を造る方法を知っていたので、そういったものを防ぐための仕掛けを船に施していたのです。まったく用心深くてイヤになってしまいますね。
 通路は基本的には暗闇と静寂、あとは魔法的な感覚に引っかかる何かがある感じでした。感じとしか言いようがないので申し訳ないのですが、「あ、こっちには行けないんだ」って言う感覚です。それが周囲にグルリとあって、通路の壁なんだろうなってわかるのです。

「夢幻の空間は人間の持つ五感だけでは認識し辛い。お前は魔法的な感覚に優れているようだから、多少はマシだがな」

「誰か」の夢や意識までたどり着けると、そこはその「誰か」の感覚で表現されているのでわかりやすくなるらしいのですけど、そこまでは目も耳も鼻もあまり役にはたちません。レスフェーンさんと魔力を感じ取る力だけが頼りです。
 はぐれたら二度と出られなくなりそうで、かなり怖い迷路です。

「何か来るぞ。気を引き締めろ」

 怖い話のついでに、侵入者を退治する仕掛けがあるってさっき書きましたが、それは魂の力のラインにもなっている血管の中でも同じでした。霊体の侵入者を防ぐために、霊体のガーディアンが配置されていたのです。
  それは石のような肌をしていて、レッサのような羽をはやした怪物でした。身長は二メートル近くありそうでした――あくまでも私の感覚では、なのですが。
「なんとなくそう感じました」としか言いようがないのが面倒なところなので、ここからは見たまま感じたままに書いてみます。
 えっと、わかりますよね? 夢で霊体で、アストラルな、イリュージョンなので、実際のソレと私が感じたソレが全く同じなのかどうかはわからないと言いますか、とにかくそんななのです。
 えーと、アレです。コンピューターゲームで怪物と戦ったりするとして、その戦っている私のキャラクターも相手の怪物も本当の姿はデータ(霊体とか、精神とか、魂とか)で、でも見えている姿は例えばこのとき私の目の前に現れた――

「ガーゴイル!?」
「――のような精神体だな。正確には」

 なんて感じに見えている存在になるわけなのです。イマイチわかりませんか? 私もよくわかってません。と言いますか「人間がここを深く理解するべきではない」そうです。 
 なんとなくとか、そんな感じとか、直感でーとか、それぐらいでちょうどいいらしいので、なんとなくわかっていればいいのです。

「デュランダ……あれ?」

 ガーゴイルが出て来たので、デュランダルを準備しようとした私は、そのときになってようやく気付いたのです。ハダカはイヤだったのでバリアジャケット(のようなもの)は着て(創造して)いたのですが、デュランダルが手元にありません。もちろん、ジュエルシードもありません。

「簡単に服を創造していたから、理解していると思っていたのだが……」

「えええー!」と私はあわててしまいました。確かに夢の領域に入ってすぐはハダカだったのですから、何も持っている訳がないのですよね。バリアジャケットを着るのは、いつもとほとんど同じ感覚でいけたので全然気にしていませんでした。急に武器が手元にないってことになると困ってしまいます。

「と、とりあえず!」

 困った時は、とりあえずのメズマライズが私の十八番です。ナイフのような爪を振り回して襲って来たガーゴイルでしたが、催眠魔法が効いたようでフラフラとしだします。
 ついでに私もフラフラとします。ジュエルシードに慣れてしまっているので、魔法を使った時の疲れが大きく感じるとは前にも書きましたが、それにしてもはやてちゃんと模擬戦をした時よりもひどい感じでした。気持ち自分の体が透けて見えるてきたような感覚があったのです。

「今のお前は、あのアリサと言う幽霊に近い存在だ。心の力を使い果たしたときは消えてなくなるぞ」

 こういった大事なことは、もう少し早く教えておいて欲しいって思いませんか? 思いますよね。私は思いました。
 とりあえずのメズマライズを受けて、フラフラしているガーゴイルを「あっち、あっち」と遠くに追い払うと、私は奥へ奥へと進んだのです。

「また何か来そうだな。今度は数が多そうだ」

 レスフェーンさんがそう言ってから少しして、またガーゴイルがやってきました。ただ、数が増えていて、十匹くらいになっていたのです。
 夢の領域では「ダブラブルグの仮面」がないので、武器を持っても素手であっても強いミージュの姿にはなれません。高町なのはのそんなに上手でもない槍さばきと、なんとな創造したデュランダル(のようなもの)で戦わないといけなくなりました。
 うかつに魔法を使うと自滅してしまうので大変です!
 ガーゴイルたちの攻撃はそんなに鋭くはなくて、ウチで練習するときの感覚で言えば、練習前のウォーミングアップ程度のものだったと思います。ガーゴイルたちの爪も牙も、威力はそれほどでもありませんでした。おじさまのご加護が私を守ってくれていたので、よけ損ねてしまってもそんなに痛くもなかったと思います。
 ですが、少しでも爪がかするとその度に自分の身体(魂)が薄れて行くのがわかってしまうので、もう必至の必死になってしまいました。もう少し冷静に対応できていたら余力も残せたのではないかなって、今は反省しています。

「レスフェーンさん、ちょっと、もう、無理かもしれません……」
「そうだな。引き返した方が無難か」

 ヘロヘロになった私は、せっせとこっそり急いで、入口の場所へと逃げ帰って来たのです。 
 帰ってきた私は、体のアチコチに切り傷ができていてビックリしてしまいました。夢の中でも、心や魂が傷を受けたとはっきりと認識してしまうと、現実の体に影響がでてくることがあるようです。
 傷はすぐに治したのですが、その時にジュエルシードのありがたさを改めて実感しました。今日に限らず、寝る前にはジュエルシードをキレイに磨くようにしようと思います。
 今日は、プレシアさんのベッドで「おやすみなさい」といたします。     

  夢って怖いものですね 弱虫なのは


 竜は異変が起きたことを感じ取った。人間どもが身体の内側に放った者たちが騒ぎ出したのだ。
 そして、竜はそのざわめきの近くで懐かしい力を感じた。かつて己が主と認め仕えた存在の気配、はるかな過去の記憶ではあるが、いまだ忘れていなかった力の波動を確かに受け取った。
 竜は炎を燃え上がらせ、叫び声をあげた。翼を広げ、長い首を振り回す。
 やがて、気配が内側から消えた。
 竜は首を落とし、翼をたたむと、瞳を閉じた。竜の身体に無数にあったはずの瞳は自由にならない。感覚をとぎすまし、気配の源をさぐるため、竜は静かに力の流れに身を浸した。



 朝起きて

 目が覚めたら、プレシアさんが困った様子で私の顔をのぞき込んでいました。
「どうかしたんですか?」と聞くと、プレシアさんが少し笑いながら「下、下」と指差します。つられて下を見た私は、自分の手がプレシアさんのパジャマをしっかりと捕まえていることにようやく気付きました。
 なんだかひどく恥ずかしくて、私はシーツにグルグルとくるまって顔を隠します。
 そんなミノムシから飛び出た頭のてっぺんをポンポンと叩いて、
「朝ごはんの準備、手伝ってくれる? 遅れてしまったから」とプレシアさんが言いました。その声がなぜか泣き声のようだったので、私があわてて顔を出すと、プレシアさんが涙をツーっと流しています。
 涙をぬぐおうと思ってのばした手が、プレシアさんのほおにふれて、そのまま捕まえられてしまいました。

「そのシーツにくるまるのも、私のほおにふれたがるのも、アリシアがよくやっていたの」

 そういえばそうでした。よく覚えていたので、いつのまにかクセが少しうつってしまっていたのでしょう。
 そんなわけで、朝から二人でちょっとしんみりとしてしまいました。
 アリシアが帰ってきたら、「マネしないでよー」とか言われてしまいそうです。 


 昼過ぎて

 朝の一件もあって、今日はプレシアさんについてまわりつつ、夢の迷宮のことを相談してみたのです。
 さすがのプレシアさんでも、夢の中のことまではよくわからないようでしたが、一つアイデアを出してくれました。

「アレは一応『虫』なのよね……?」

 正確には、虫に姿になっていたこともある神さまなのですが、今でも少ない力で活動するときには、あのチョウチョの体が都合が良いようです。変身して小さくなると力の効率が良くなるなんて、ちょっとだけユーノ君みたいですね。

「じゃあ、召喚できないかしら? 確かあったでしょう。そんな呪文が……」

 そういえば、ル・ルシエの里で召喚魔法の練習をしていたのでした。虫を呼び出すのに結構適性があったのですよ。最近はサモン・サーバンツの魔法が使えるようになったので、カラスにネズミ、オオカミとコウモリなんかとも相性が良くなっていたのですが、この世界は海ばかりなので期待できません。
 その点たしかに「虫」は近くにいました。盲点というヤツなのでしょうか。
 ちなみに、プレシアさんはレスフェーンさんのことがあまり好きではないようです。私がドッペルゲンガーの夢を見たのも、レスフェーンさんが原因かもしれないって伝えて以来、「あんな気色の悪い夢を見せるなんて」とご立腹なのです。 
 神さまを「アレ」呼ばわりって言うのもそれこそアレですけれど。

 イロイロと交渉の結果、今回だけの特別措置で、使う能力と言いますか、魔法も一種類だけということで了解を得ました。
 元々からしてレスフェーンさんの依頼なのですから、これぐらい協力してもらっても良いと思うのです。

  召喚士 高町なのは



『はやてのスペル・コレクション』

〇サモン・インセクト:6レベルの暗黒魔法。 効果=虫を召喚します。


 少女の声が夢幻回廊に響く。

「吾は乞う、小さき者、はばたく者、夢幻の胡蝶。言の葉に応え、我が前に姿を現せ。召喚!」

 魂を分断されている上に、その千切れた魂でさえ「檻」に閉じ込められている現状、レスフェーンはあまり大きな力を振るうことができない。
 適性のある者を夢幻の領域へと導く程度のことはできるが、あとの力はそれこそ小さなピクシー並である。
「檻」である聖王核を通してならばかなりの力を引き出すことができるが、それは身体に埋め込んで使用するものであるし、元より夢幻の領域までは持ち込むことはできない。
 少ない力を使い切ってしまっては道案内もできなくなってしまうので、現在のレスフェーンはせいぜいが肩か頭にでも乗って言葉をかけることしかできないはず――だった。

「またか。少々扱いが荒すぎはしないか」
「早く、早く! お願いします」

 自分で頼んだ仕事のためであり、約束もした以上は、レスフェーンも召喚契約の内容に応えることに異存はない。異存はないが、この娘は少しばかり力の使い方が大雑把過ぎる。

「仕方ない」
「ありがとうございます。これでまた全力全開で行けます!」

 高町なのはに魔力を分け与えながら、レスフェーンはそう思わずにはいられなかった。
 この後、レスフェーンはすぐに送還され、そしてまたすぐに召喚されることとなる。魔法使いたちの仕掛けたガーディアンがいなくなるまで、その周期はくり返された。





〇トランスファー・メンタルパワー:1レベルの暗黒(神聖)魔法。 効果=他者に精神力を分け与える。

〇サモン・インプ:2レベルの暗黒魔法。 効果=インプを召喚する。

〇暗黒神官の奥義:サモンインプ→インプのトランスファー・メンタルパワーで精神力を回復。敵役だからこそ許される魔晶石いらずのコンボ。

〇高町なのは:左利き

〇リリカルな召喚魔法:契約と同意があれば相当強力な虫も呼べる模様。

〇レスフェーンさま:魔法少女のマスコットです。



[40369] ドラゴンロードは神官娘の夢をみるか(3)
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/01/10 00:03

 探索六日目
 ファラリスおじさまへ

 レスフェーンさんの活躍もあって、サクサクと奥へと進むことができました。
 迷路は複雑ではありますが、ワナなどは特になく(力の通り道なのですから余分なものはないのでしょう)、だんだんと襲ってくるガーディアンも少なくなってきています。
 船が動いていたころでしたら、警報がなったりしてもっとすごいものが出てきたのかもしれませんが、そういったことも特にないので、あとはもう私の体力というか、気力次第です。
 この気力というものは、当たり前の話ではありますが魔力を補給してもらっても回復しません。魔法をたくさん使うのは慣れたものなのですが、ほとんど魔法感覚だけを頼りにして何時間過ごすのはとても精神的に疲れてしまうのです。
 今日のところは感覚的には「半分を過ぎたんじゃないかな?」程度まで進めたような気がしていますので、早ければ明日、明後日くらいにはよい知らせをお届けできると思います。
 船に入るための入り口を開くだけでこんなに大変だなんて思ってもみませんでした。

   アンロックがほしい 高町なのは


 近づいてくる。竜のもとへと懐かしき気配と小さな気配が近づいてくる。
 それと同時に、竜はその身の内に潜り込んだ者どもが消えて行くのを感じ取り、むず痒さと解放感を憶えた。
 何がやってこようとしているのか、未だはっきりとはわからない。
 竜はただ檻の中で待つのみであった。



 ファラリスおじさまへ

 いきなり、しっぽではたかれました!
 ようやくアルゴスさんの魂がいる所にたどり着いて、それでちゃんと自己紹介もしたんです。
 そうしたらアルゴスさんが「人間か……去れ。我とこの船に関わるな」とか言って、その後は何を話しかけても無視するのです。ヒドイと思いませんか?
 そう思ったので、何度も話しかけて、どうにか会話をしようとしたのです。
 船のこととか、おじさまのこととか、レリックとか聖王核って呼ばれてるもののこととか、アルゴスさんのこととか、いろいろと聞いてみたいことがありましたし、私も話してみたいことがあったのですけど……。
「それ以上、近寄るな」って。
 それで、少しだけ、少しだけですよ! 一歩か二歩ぐらいアルゴスさんの方へ進んだら、いきなりバチーン! ってきたんです。
 アルゴスさんの魂は、船のサイズの割には小さい姿でしたが、それでもビルよりも太いしっぽが飛んできたのですから大変です。私はばーんっと吹き飛ばされてしまって、気が付いたら「時の庭園」のベッドの中でした。
 魂だけだから小さかったのか、実はとっても気が小さいから大きさも小さかったのか、小学生がちょっと近寄ったくらいであんなことをするなんて、アルゴスさんはちょっと器が小さいと思います。
 あ、私が「こんなこと」をおじさまに書いて送った、なんてことは秘密でお願いします。知られたら、余計に嫌われてしまいそうですから。
 なんだか、つい最近にも「秘密で」とか、「内緒で」とか、書いた手紙を送ったような気がしますが、おじさまと私だけの秘密がドンドン増えてしまいますね!

   高町なのは

 追伸
  悪口ばかり書いてしまいましたが、最初に見た時、翠色のウロコや、紅い瞳がキレイだなとも思いました。それに、なんだかがっくりとした様子だったのも気になります。また明日チャレンジしてみますね。おやすみなさい。


 竜は苛立っていた。
 昔、昔まだ熊の体に魂を納めた神に封印される前、竜には仕えるべき主がいた。その主の気配、懐かしい力を感じ取って、竜は心を湧き立たせていたのだ。かつて感じた主のそれと比べれば遥かに弱く小さいが、それでも間違えようのない暗黒を司る神の力が近くあることに喜びを覚えていたのだ。
「私、なのは――高町なのはです。ファラリスさまの神官をやってます」
 それが、人の子であったなど――死せる神の力を借り受ける術など、竜が空を自由に舞っていた時代には存在しなかった――わずかなりとも主がやってきた可能性を思ってしまった竜は、自身のその考えに苛立っていた。



 挑戦二回目
 ファラリスおじさま

 今日は爪でピーンって弾き飛ばされてしまいました。
 最初のうちは結構うまくいっていたと思うのです。アルゴスさんは何も言ってくれませんでしたが、私が小さいころからのイロイロな話をしてみたら、時々ピクピクって反応していたんです。
 やっぱりおじさまの話になると興味があったみたいでして、たくさんある眼がキョロキョロと動くのです。それが、ちょっとかわいかったかもしれません。
 好物の食べ物とかが持っていけたら良かったのですが、夢で幻なところなのでそういうわけにもいきません――そもそも、ものを食べるのかも知らないのですけれど。そんなわけで餌付けっていうとアレですけど、食べ物で釣る作戦ができなかったので、とにかく話しかけ続けたわけなのです。
 それでずーっと話していたのですが、途中でちょっと、「もしかしたら今ならウロコにさわれるんじゃないかな」と思ってしまったのが良くなかったのでしょう。
 じりじりと近寄りながら手を伸ばしたところで「調子に乗るな」って、アルゴスさんが大きな大きな口を、これまた大きく開いたのです。あんまり大きいので、ビックリしてしまってぼーっとしたところを横からきたアルゴスさんの前足の爪でピョンっと弾かれてしまって――気が付いたらまたベッドの上でした。
 明日こそはどうにかしてなでてみようと思っています。

 もちろん、最初の目的を忘れてはいません。でも、ちょっとさわってみたいじゃないですか。夢、ではあるのですが、それでもこう……どうしても湧き上がってくるこの仕方のない感じ、おわかりになりますよね? 

   高町なのは


 竜は戸惑っていた。
「――そのときにおじさまはそう言って下さったんですよ。他にはですね、えーっと、私がお父さんに叱られて家出をしたときのことなんですけど……」
 人間の娘はよくさえずった。 
「煩わしい」などと口にしつつも、いつの間にか娘の話に耳を傾けてしまっている今の自分の有様を、竜は内心で笑う。うるさい人間など一息で吹き飛ばすことも、魂ごと噛み砕いてしまうことも、竜にとっては簡単なことではあったが――結局、そうはしなかった。
 娘がよく口にする「おじさま」が竜にとっての主でもあったからだ。娘のことなど何とも思ってはいない。
 話を聞きながら、竜は遥かな過去を思い出していた。熊の姿に身をやつした神に封印されるよりも以前、天地の創造していた頃のことを、神々の間に不和が生まれ戦となったときのことを――。
 竜が思い出に浸っていると、娘がそろりと手を伸ばして来た。ほんの少し前に同じような真似をして、竜の尾で弾き飛ばされたことを覚えていないのか、娘には全く学習している様子が無い。
 竜はため息とともに爪を動かし、娘をそっと押しやった。竜と比べ人の魂は脆過ぎ、また小さすぎる――それは恐ろしく気を使う作業だった。



 二度あることも三度まで
 ファラリスおじさま

 今日はついに念願のウロコタッチに成功いたしました!
 思っていたよりも冷たく無くて(魂だからかもしれませんが)、なかなかサラサラとした手ざわりでした。
 おじさまが身体を持っていらしたころは、竜王さんたちに乗ったりしていたのでしょうか?
 そう思ったのでアルゴスさんに聞いてみたら、なんだかとってもあきれたような雰囲気になって、ぐぉおんっと私の頭のすぐ近くまで大きな爪がせまってきたのです。私はそれにあわててしまって、思わずしりもちをついてしまいました。そうしてそのままズリズリと後ろに下がったのです。
 それで、またピーンってされてしまうかと思って目をつぶっていたのですが、いつまでたっても何も起きません。
「どうしたんだろ?」って、目を開けてアルゴスさんを見たら、なんだかとっても悲しそうな、さびしそうな眼をしていました。
 自覚はあるのですが、私ってああいう目に弱くて弱くて仕方がありません。ああいう目をしてる子を見ると、なんだかこう胸の奥がぎゅーってなってしまって、どうしても放っておけなくなってしまうのです。
 何ができるのかとか、それでどうにかなるのかとか、そういうイロイロなことを飛ばして「なんとかしてあげたい」ってなってしまいます。
 それで、思わず目の前に止まっていたアルゴスさんの爪に抱き着いてしまいました。ものすごく大きくて長い爪なのですが、先の方は尖っているので、こう手をまわしてぶら下がる感じです。
 そうしたら、アルゴスさんがちょっと笑ってくれて(気がしただけかもしれませんが)、そのままブンブンと振り回された後に背中にちょんっと乗っけてくれたのです。
 と、そんな感じでついにウロコタッチに成功したのでした。
 その後は遅くなってきたので「また明日」と帰ってきたのですが、帰り道にかなり時間がかかってしまって戻った時にはずいぶんと遅い時間になってしまっていました。アルゴスさんにしっぽか爪でピーンってしてもらった方が速くて良かったのかもしれません。

   ズボラな なのは   


「また明日」と人の娘は言った。
 最初に来た時、二度目に訪れた時、娘はあれやこれやと煩かった。だが、今日の娘は何も聞かず、ただ竜の背で眠るようにしていた。
 竜にはわからなかった。
 娘が何を考えているのか、己が何を考えているのか、何もわからなかった。
 煩わしいのなら壊してしまえば良かった、あるいは問いに答えてやっても良かった。いずれにしても、人の娘は竜の前から姿を消していただろう。
 何故そうしなかったのか。
 娘の語る言葉など聞く必要は無かった、そして触れることを許してやる必要などなおさら無かった。
 何故そうしてしまったのか。
 竜がわかっていることは、己が明日を待っていることだけだった。



[40369] 赤い鎧 なのは死すべし
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/01/19 02:40
 なのはは欠片の警戒も無くアルゴスにその背を見せた。
 アルゴスは少しだけ爪を動かす。すると見る間に血があふれ出し、なのはの身体を赤く染め上げた。

 夢の迷路でガーゴイルに傷つけられたなのはの身体が現実でも傷ついたように、夢幻の胡蝶と共に赴く夢、竜が見る夢、どちらの夢も現実に影響を与える。巨大な竜の肉体によって建造された船の上で、アルゴスの百ある瞳の一つにもたれかかって眠る現実のなのはも、夢の中でのアルゴスの行いによって血だまりに沈もうとしていた。

「な、なのはちゃん……なんなん、なんなんこれ?」
「……呪いだよ」

 黒く染まった大地の上で、その背を真っ赤にしたなのはを見つけたはやては、震える声で神に治癒の奇跡を願う。

「ファラリスさま。どうか、どうかお願いします!」

 はやての祈りの声は確かに神へと届いた。
 だが、治癒の光がその身体に降り注いでも、なのはの姿は血に濡れたまま変わらない。

「……から、だい……じょうぶ……から……」なのはは申し訳なさそうに「大丈夫」と弱々しく繰り返す。
「なんでや。なんで、なんでなおらんのやっ! だれか、だれかっ! プレシアさん! レッサ! アリサちゃん!!」

 はやては泣き叫んで、血に染まったなのはの身体を抱きしめる。そして、イヤだイヤだと首をふりながら、助けを求めて声を張り上げた。

「ごめんね……はやてちゃん」

 抱え起こされる形になったなのはは、そっと手を伸ばしてはやての頬をつたう涙をぬぐった。




 ファラリスおじさま

 今日はアルゴスさんからいろいろなお話を聞かせてもらいました。
 フォーセリアがフォーセリアの形になる前の、世界が混沌ばかりだった時の話。
 おじさまや、他の神さまたちと世界を創った時の話。
 神さまたちが人間みたいにケンカをしたり、お酒を飲んで騒いだり、遊んだり、恋をしたりしていた話。
 いろいろなお話を聞きましたが、今日教えてもらった中で一番興味があったのは、竜のみなさんの間で、神さまの中で一番強いのは誰だろうって話題が出て、大騒ぎになった時の話です。

「というわけでっ! 神々の中で最強は誰なのか想像してみよう大会~~~っ!」

 実際はこんな言い方はしていないのでしょうが、とにかくお調子者な二頭の竜さんがこんな感じのことを言い出したのだそうです。

「最初っから大本命! 戦いを司るマイリー様に決まってるだろ!」
「ならばこっちは、至高神の名は伊達じゃない! 主神にして太陽神のファリス様だ!」
「いいや、夜と闇の守護者、混沌から力をくみ上げるって裏技もあるファラリス様だね」
「お前らはわかっとらん! チャ・ザ様は幸運を司り、運命にも干渉できる方なのだぞ!」
「普通に考えてマーファ様だろ。一番大きな部位から生まれたんだから、一番大きな力を持っている。なんでこんな簡単なことがわからないかな」

 その他にも月の神さま、海の神さま、結界の神さまに復讐の神さま、などなどたくさんの神さまたちの名前が上がりましたが、それぞれの竜がそれぞれに自分の好きな神さまが一番だと言って引き下がらなかったので、結局、答えは出なかったのだそうです。

 強ければいいってものでも無いと思うのでなんとも言えませんが、私はおじさまが一番だったと思っています。なぜかと言えば、「六大神」なんて呼び方があったみたいですけれど、おじさまは他の五大神――太陽神と戦神と知識神と大地母神と幸運神――を同時に相手にして引き分けだったのですから。
 と、そんな感じのことをアルゴスさんと話して一緒にうんうんとうなずきあって帰ってきました。
 ふたりの意見が一致したことは本当に良かったと思います。竜の王さまたちはこのことでケンカになってしまって、そのせいで島がいくつか吹き飛んでしまったそうなのですから、まったく大変なことです。
 今日はおじさまのお話をたくさん聞くことができたので、良い夢が見られそうです。お話を聞いたのも夢の中なのですけど。

   高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 久しぶりに変な夢を見ました。
 レスフェーンさんに聞いてみても「自分はなにもやってない」と言うばかりなのですが、なにぶん私たちを海の世界に誘導した前科があるのでイマイチ信用できないのが悲しいところです。
 それで夢の話なのですが、なんと夢の中の私はカストゥール王国の魔法使いだったのです。
 名前はミージュ・デラクロス。いくら夢だからって変装姿の名前そのままな辺り、私にはイマイチ想像力が足りないのかもしれません。
 夢の中の私はカストゥールではごく普通のと言っていいのか、悪いのかわかりませんが、死霊魔術師の家の子供でした。
 死霊魔術は上古の魔法の内の一つで、他には「基本」「拡大」「四大」「召喚」「付与」「精神」「幻覚」「創成」そして「死霊」も合わせた九つの系統を束ねた「統合」があったようです――このあたりはルーテジアさんの本に書いてあった内容そのままですね。
 死霊魔術師だったのは、夢の中とは言え「おじさまを信仰しない」系統にはなりたくなかったのでしょう。仮に私がフォーセリアのカストゥール王国の時代に生まれ変わるようなことがあったら、暗黒魔法も覚えていたらしい「死霊」系統しかありえません。せっかくあこがれのフォーセリアに暮らしているというのに、他の神さまはともかくとして、おじさまを信じられないお家なんて、それこそ信じられません!
 死霊魔術のそれなりの名門に生まれたらしい私は、それなりに上古の魔法の才能があって、それなりにおじさまの声を聞くこともできる子供だったようです。ある時はゾンビやスケルトンを作り、またある時はおじさまに蛮族をささげてみたり、はたまたある時は他の系統の魔法もちょっと使ってみたりと、修業と実践の日々を自分なりに楽しく過ごしていたようです。
 そんなそれなりに充実した日々でしたが、ある時デラクロス家の「当主様」に呼ばれたことで終わりを迎えてしまうのです。

「お前を生贄とすることが決まった」

「不死の王」な当主様の部屋でこう言われたところで、夢はおしまいです。
 起きた時には心臓がドックンドックンとうるさくて仕方がありませんでした。夢の中の私はこのあと一体どうなってしまったのだろうって、少し気になります。
 レスフェーンさんに頼んだら続きが見られるのかもしれませんけど……おじさまはどう思われますか?

  返事を知ってる 高町なのは

 追伸 
  やっぱりそうですよね!


 ファラリスおじさまへ

 今日の私はアルゴスさんの一日先生でした!
 なんでも知っていそうなアルゴスさんでしたが、実は暗黒魔法のことを知らなかったそうなのです。
 アルゴスさんは私がおじさまの力を使っているのがどういうことなのかわからなかったみたいで、それで人間と話をしてみる気になってくれていたようなのです。
 どうも、私がおじさまの神官ではなかったら、とっくの昔にアルゴスさんの「おやつ」にされてしまっていたのかもしれなかったらしいです。
 その上アルゴスさんが閉じ込められている檻にたどり着くまでに、たくさん魔法を使ったおかげでアルゴスさんの中でそう言う気持ちが高まったらしいので、もし、まだ暗黒魔法に慣れていないはやてちゃんだけで行っていたらと思うとゾッとします。はやてちゃんが物事をよく考える子なせいで「一緒に夢の世界に行けない」って不満もあったのですが、はやてちゃんが行けなくて本当に良かったって、今ならそう思えます。
 それで「先生」というのは、もうお分かりでしょうがアルゴスさんに暗黒魔法のことを教えたからです――すぐに追い抜かれてしまいましたけど!
 もう追い越されてしまったので「一日先生」です。
 アルゴスさんがおじさまの声が聞こえたことをものすごく喜んでくれていたので、いいんですけど、なんだか、ちょっと、こうアッサリと置いていかれてしまうとガックリと来るものがあります。
 もしアルゴスさんに身体があったら、もう魔法でなんとでもできそうなのですが、残念ながら昔々の魔法使いの造った檻は頑丈過ぎて出られません。ドラゴン用サイズなので、私みたいにちっちゃいとスカスカで通り抜けられるのですけれど、当たり前ですが中からの力で壊せるならとっくの昔に壊してますよね。
 私ではまだまだ無理ですが、アルゴスさんだったらおじさまを呼べるんじゃないかって、ちょっと思ってしまっただけに、あの魂の牢獄の硬さがイヤになって仕方ありません。
 そういえば、ジェイル・スカリエッティさんの名前の「ジェイル」って、英語で刑務所とか拘置所って意味の言葉によく似ているんですよね。言葉が違うからなのでしょうけれど、自分の名前がそんな意味になる言葉があったらって思うと、ちょっとイヤな気分になってしまいます。


 おじさま

 アルゴスさんとケンカになってしまいました。
 今日は私の話をくわしくしてみたのですが、小さいころに病院で患者さんたちを治そうとしたことや、それではやてちゃんと出会ったこと、ローウェルちゃんを家にさらってきたことや「闇の書」の話。それからプレシアさんとアリシアの話。
 そのあとティアナの話をして、それで私がアルゴスさんと初めて会った時に思ったことなんかを話していたのですが、そうしたらアルゴスさんが怒りだしてしまって……。
 どうしてあんなに怒ってしまったのかが、全然わからないのです。

「人の娘よ、お前は何だ? 一体何のつもりだ?」

 ってそんなことをイキナリ言われても、わけが分かりません。
 なんであんな目で見られてしまったのでしょうか? どうして、なにが、なぜ、って考えで頭の中がグルグルとしてしまっています。
 最初に会った時に「高町なのはです。ファラリスさまの神官をやってます」ってちゃんと自己紹介もしました(小学三年生とは言ってませんけど、通っていないからいいですよね)。アルゴスさんは私のことを「人の娘」って呼びますから、人間だってこともわかっているはずなのです。

「お前は何だ?」ってなんでしょう? 「何のつもりだ?」ってどういうつもりなのでしょうか?
 わかりません。私には全然わからないのです。
 楽しいリドルなら大歓迎なのですが、これは楽しくありません。なんで怒らせてしまったのでしょう。

  おやすみなさい 高町なのは



 いじけた朝の手紙
 ファラリスさまへ

 夢の続きを見ました。 
 当主様に生贄になるのだって言われてしまった、魔法の国の女の子の夢の続きの話です。
 ウンウンと悩みながら眠ったのが良く無かったのでしょうか。夢の中の私もウンウンと悩んでいます。
 悩んでも、もう生贄にされるの決められたことなので、あとはもうどうにかして逃げることができないだろうかってことしか考えることはありません。
 無限か有限かはわかりませんが、もう何万回もの始まりと終わりの周期を繰り返しているらしいフォーセリアで、この周回のデラクロス家(というよりも死霊魔術門派全体で)では生贄についての一つの決まりがありました。

 それは、「降神の儀式の生贄には身内を用いること」というものです。

 イモレイトやリコール・スピリットはなんでもいいのですが、コール・ゴッドの生贄は血族などの親しい者か、あるいは「願いの内容」をよく理解している者に限られていたのです。この決まりを守らないと、恐ろしい災いが訪れると信じられていましたし、実際に何度かそれによって一族が滅びかけるようなことがあったようなのです。
 そんなわけで、もし私が逃げ出したなら――万に一つそれが成功したとして――一族の中の誰か他の人物が生贄に選ばれることになってしまいます。
 そしてそれはファラリス様の好みから考えると、私でなければ妹になるだろうと確信できました。妹はまだ暗黒魔法の力が低いので、私よりも生贄としての適性は劣っていましたが、そのあたりは不死者の多い一門ですので儀式と塔の魔力とでどうとでもなってしまいます。
「はぁ……」と何度ため息をついたかわかりません。
 恐ろしくはあります。降神の儀式の生贄となれば魂が砕け散ると言われているので、バンパイアとして蘇ることもありません。もう、どうしようもなく破滅です。
 一門の中には既に死んでいる方もたくさんいるので、死ぬことはそこまででも無いのですが、やはりそれとは恐ろしさの度合いがまったく違います。
「はぁ……」と今度は別の意味のため息です。
 降神の生贄に選ばれることは大変な栄誉とされていました。それにファラリス様を自分の中へと迎えることは、それこそ魂が砕け散るほどに幸福なのだとも伝えられていました(大昔に破滅しないで帰って来た方がいたようなのです)。私はそれなりの信仰心を持ち合わせている身でしたので、神と一体となることを望む気持ちもまたそれなりにあったのです。
「はぁ……」と次のため息は世界の危機なんて大きなものに関してです。
 どこかのバカ達がバカなことをやらかして、バカみたいな魔物を生み出してしまったのです。

「魔精霊アトンとか……何なの」

 複合した精霊力によって生まれてしまった混沌の怪物。ありとあらゆる精霊力を喰らい尽くして大きくなり続け、やがてはフォーセリアそのものを飲み干してしまうかもしれない存在。
 私の身体は、そんなものとの戦いのために使われるようでした。逃げても、世界が滅びてしまえば同じことです。
 夢の中の私はずっと未来のバカな誰かみたいに、「誰かのために」なんて言いませんでした。
 ただ「仕方ないな」って、そう思ってしまったのです。

  夢の話で現実逃避 高町なのは



[40369] 赤い鎧と「暗黒の夜明け」
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/01/26 00:39
〇暗黒の太陽:混沌の王国ファンドリアに存在したとされるファラリス神殿の下部組織。
 高位の闇司祭たちはファラリス神の教義もあって社会的な行動を苦手としています。為したいように為してしまうためスケジューリング能力が低く、自己中心的であるため人員の統括も満足にできません。
 そんな社会的ダメ人間であるファラリス神官を支えていたのが「暗黒の太陽」の人々です。彼らはファラリスの教義を支持していましたが、「それはそれ、これはこれ」と実務的で効率的な組織運営を行う現実主義者でもありました。
 衝動的な行動が多く個人主義が過ぎるものの魔法能力は高い闇司祭と、実務能力に長けた「暗黒の太陽」構成員の厚い親交が、ファンドリア国内においてファラリス神殿が大勢力を築く原動力となっていたと考えられています。



 
 ファラリスおじさまへ

 おじさま、私は今まで知らないうちにみんなから嫌われてしまっていたようです。はやてちゃんもアリサちゃんも優しいから言わないでくれていただけで、本当は私のことが嫌いだったのです。

 アルゴスさんの問題が始まりでした。
「お前は何だ?」と言われても「高町なのは」としか返しようがありません。他になんと答えればいいのでしょう。
「何のつもりだ?」と聞かれても、そもそもそれが何を言われているのかさえよくわかりません。
 おじさまもそういうところがありますが、神さまやドラゴンのようなひとたちは、ものの言い方が難しいので困ってしまいます。
 そんなわけで「言われている意味がよくわからないのです」とアルゴスさんに聞きに行ってきました。「質問に質問で返すのは……」なんて話も聞いたことはありますが、そもそも聞かれている内容がよく分からないのでは仕方がないと思うのです。
 アルゴスさんは相変わらず不機嫌な様子でしたが、「そう言えば、お前はまだ子供だったのだな」と言った後に「お前が話していた車いすの子供や幽霊に聞いてみろ」とヒントをくれました。

「ああ、そうやね。アルゴスさんの言うことをよーわかるわ。わたしもな、なのはちゃんのそういうとこ嫌いや」

 言われたとおりにはやてちゃんに聞いてみたら、こんな風に言われました。

「そうね。なのはってちょっと人のこと、見下すってわけじゃないけど、なんていうか同情とか、かわいそうなっていうか、そんな風に見てるわよね。アタシもそれ好きじゃないな」

 ローウェルちゃんにまで言われてしまって、私はもう、何と言ったら良いのでしょうか。「ぐがーーーん!」って感じに落ち込みました。

「というか、アルゴスさんって会ったことないけどこの島のもとになってる竜王さまやろ? ドラゴン相手でもそのままって、なのはちゃんはさすがやな」
「ホントにね。幽霊に普通に話しかけてくるあたりでマトモじゃないことはわかってたけどね。というか、ファラリスさまを『おじさま』って平気で呼んでる時点で、いろいろオカシイ子なんだって知ってたけどさ」

 なんだかもう、ボッコボコに言われてしまいました。二人ともイロイロとたまってたんですね。
 それから二人はとっても卑怯なんです。
「嫌い」「キライ」「アレがアカン」「コレもダメ」ってイロイロイロイロとそれはもうイロイロと言われて、私ががんばって泣きそうなのをこらえているところに、

「なのはちゃんの嫌いなところ、いっぱいあるけどな」「それよりももっともっといっぱい、好きなのよ」

って言いながらギュッってしてくるのはオカシイと思うのです。徹底的にに叩いたあとで、ちょっと持ち上げる作戦だったんです。
 はい、私はアッサリ陥落して泣かされてしまいました。
 はやてちゃんは時々タヌキパーカーを着ているだけあってズルいです。ローウェルちゃんは幽霊のクセに顔を真っ赤にしたりしてオカシイと思います。
 いくら好き好き言われてもお嫁さんにしてあげるわけには行きませんので、二人はどこかでいい人を見つけてください。
 いろいろ言われたので、なんとなくアルゴスさんが怒った理由がわかったような気がします。

   あなたの姪っ子 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 おじさまも竜王さんたちや他の神さまからイロイロと言われていたのでしょうか?
 アルゴスさんの話を聞いているとなんとなくそんな印象を受けるのですが、本当のところはどうだったのですか?
 いえ、決してアルゴスさんがおじさまの悪口を言っていたとかそう言うことではないのですが、はやてちゃんやローウェルちゃんに言われたことをそのまま話したら、ウンウンとうなづいているような雰囲気だったものですから。それで、少し気になっただけなのです。
 私にはそんなつもりは無かったのですが、どうも竜王さんに対する態度がちょっと上から目線な感じだったようでして、それでアルゴスさんもお怒りだったようです。
 あと、おじさまのことを「おじさま」と呼んでいるのも気に入らなかったようなのですが、

「おじさまがおじさまって呼んでいいって言って下さったんです。だから、おじさまでいいんです!」と言ったら、「しょうがないな」って感じに許可してくれました。
 
 おじさまのことを私がなんと呼んでいても、アルゴスさんに許してもらう必要はないと思うのですけれど、おじさまのことを想ってのことだとも思うので、特別に許してあげました――こういうところが態度大きすぎって言われてしまうのでしょうか? でしょうね。
 でも、呼びかけに「さま」をつけるのは、やっぱりおじさまだけで、他の人(?)はどんなに偉い人でも、強い人でも、大きな人でも「さん」までで、尊敬はしても言うことを聞くことはないと言いますか、自分のやりたいこと優先でいいのではないかと、上手く説明できませんがそんな感じなのです。
 そんなわけで、「お前は何だ」と聞かれたら、「私はアルゴスさんの友達だよ」と答えるわけです。イロイロお話をして、一緒に歌も歌ったんですからこれはもう友達でしょう。
 そして「何のつもりか」と言われたら「魔法の先生」と答えるのです。すぐに追い越されてしまいましたけど、教えたことは確かなのですから、先生は先生です。なので、胸を張って言ってやりました。

「私はアルゴスさんの先生だから、えへんと偉そうでいいんです」って。

 そうしたらアルゴスさんが「生意気なヤツだ」とか言いながら笑い出してしまいました。
 なんだか前にもこんなことがあったようなと考えてみたら、私ってヴォルテールさんにも笑われていたんですよね。ドラゴンのみなさんは私のどこがおかしいのでしょうか。ドラゴンみんながこうだとしたら、種族そろってちょっと失礼なひとたちです。
 と、そんなやり取りをしていたらアルゴスさんもずいぶんと機嫌が良くなってくれました。
 それから「我が背に乗るか?」と難しい言い回しで言って来たのですが、残念ながら「いえ、もう前に乗せてもらってますけど」なのです。「乗ってもいいよ」と言われたら、それはまた乗ってみたいと答えますけど、改めてゲンシュクな雰囲気で言うことでもないような気がします。
 と、もう一回乗っけてもらっていることを話したら「そう言えばそうだったな」とまたアルゴスさんが笑い出してしまいました。アルゴスさんだけかもしれませんが、ドラゴンって結構よく笑うひとたちなんですね。
 そのあと詳しく教えてくれたのですが、「乗ってもいい」というより「座ってもいい」のだったようです、意味合いとしては。
 なんでも、改造されてしまったアルゴスさんの身体の中にアルゴスさんを支配するための「魔法の鞍」が取り付けられているそうなのです。それで、今までは「魔法の鞍」の力で無理矢理言うことを聞かされるのが気に入らないので、鞍に座った人を「竜熱」という病気にして殺してしまっていたそうなのです。
 怖い話ですけれど、自由を奪われてやりたくもないことをさせられて、そこから逃げることもできないとなればルゴスさんが怒るのも仕方がありません。鞍に座った人は魂の力のラインを通して竜王のアルゴスさんが宿している炎の精霊力を少しずつ流し込まれて、数年で命を焼き尽くされて死んでしまうのだとか――ユーノ君が遺跡の中のイスや玉座なんかには迂闊に座ったらイケナイって言ってたのがよくわかる話です。
 とりあえず私が座るぶんには「許してやる」と言うことなので、見つけたら座ってみようと思います。
 今度会った時に識別のための「印」をつけるって話になりまして、その代りに私もアルゴスさんに何か贈るってことにしました。何がいいかなってイロイロと考えたのですが、相手が夢の中の檻の中なんて「の」のたくさんつく場所にいるひとなので、物を持ち込むこともできません。
 それなので、一つ覚えみたいでちょっとアレなのですが、キャロと同じようにしようと考えています。アルゴスさんが気に入ってくれるといいのですけれど、おじさまはどう思われますか?
 戻った後ではやてちゃんから「アホか! なんでそんな危ないこと言うんや!」ってしかられてしまったのですが、はやてちゃんはアルゴスさんと話したことがないから竜ってだけで「危ない危ない」言うんです。

   アルゴスさん優しいもん 高町なのは


 朝一番
 ファラリスおじさま

 また変な夢を見ました。このごろどんどんとおかしな夢を見る回数が増えている気がします。
 夢の専門家のレスフェーンさんが言うことには「夢には記憶の整理という意味もある。どこかで見たことか聞いたこと、あるいは忘れていることを思い出しているのかもしれない」って話なのですが、そうすると私は「魔法の鞍」の話を聞いたからあんな夢を見たのでしょうか。
 ちょっと影響されすぎです。
 夢の中の私は(この言葉何回目でしょう)、王さまが座るような豪華な玉座に座っていました。私の目の前にはたくさんの人たちがいて魔法の儀式を続けています。
 皆が儀式をする中で私だけが玉座に座っているのは、なにもサボっている訳ではありません。これから私の中に皆がひれ伏すのにふさわしい方がいらっしゃるからです。
 長い長い儀式の最後に、主宰を務めていた当主様が静かに呪文を締めくくりました(夢の中の私はおじさま以外にも「さま」なのです)。
 そして、私は粉々に砕けてしまったのです。
 もう私は私のままであることができません。つぶれて、ひしゃげて、ちぎれてバラバラになって行きます。そんな私の魂にある意味で聞きなれた声が届きました。

 我が従僕よ、汝の望みをかなえよう

 私は神降ろしの生贄になるものが限られている理由を理解し、そして願いを告げました。
 この後には何もありません。私の小さな魂は砕けて散って、大いなる魂の中に飲み込まれて消えてしまったのです。
 
 この夢は縁起が良いのか悪いのか判断に困ってしまいます。おじさまと一つになれた瞬間はとても良い気分だったのですが、でもそのあとすぐに弾けて飛んで、壊れて消えちゃいましたから。
 でもでも、やっぱりうれしかったが大きいような気もしてます。ホントですよ。

   いってきます 高町なのは


 ファラリスおじさま

 自分ではよく見えないのですが、背中に真っ赤な紋様を描かれてしまいました。血で描かれているみたいなのですが、アルゴスさん曰く呪いの一種なのでこすっても洗っても普通にはとれないので安心なのだそうです。

「高町なのは――名を呼ばれても行くことは出来んが、この呪いが常にお前を助けるだろう」
 
 後ろを向けって言われたのでその通りにしたら、服を破かれてアッツイのをかけられた時にはさすがに「なにこれ、なにこれ!」ってなりましたけど。
 なんだか結構カッコイイ感じらしいのでいいのですが、これって温泉とか入る時に「ダメ」って言われちゃいそうですね。ウチはお父さんも昔の仕事でついてしまった傷跡がすごくて、お兄ちゃんも修業で傷だらけだったりするので、似たような物ってことで問題ないかもしれません(男の勲章なのだそうです)。お母さんやお姉ちゃんはビックリしそうですけど。
 私はこれのお返しにアルゴスさんのウロコを真っ黒にしてあげました。闇竜の話をした時にちょっとうらやましそうな感じだったので、おじさまのようにとはいきませんが、せめて色だけで変えてみようってことなのです。私もダークエルフの人たちに憧れていて、ダークスキンの魔法が使えるようになった時にはずいぶんとはしゃいだので、アルゴスさんの気持ちはよくわかりますから。
 アリアさんにもらったフォーセリアの本の中にあった話では、肌が黒くなる呪いをかけられてしまったエルフが白粉でそれを隠しながら生きて行く苦労話なんてものがありましたが、色がちょっと変わったくらいで差別されてしまうとか、フォーセリアはよくわかりません。グレアムさんに聞いた話では、時空管理局では蛮族(管理外世界出身者)でも、元犯罪者でも、生まれが違法な人(違法実験の被験者)でも能力さえ示せば出世できるし尊敬されるそうなので、そのあたりは地球よりもずっと大らかで良いなって思います。
 
 それから今日は反省することがあります。
 アルゴスさんの所から戻って来た時のことなのですが、目が覚めたら何故かはやてちゃんがすごく慌てていました。
 もしかして、これすごーく勘違いされてるんじゃ……と思った私はちょっとしたイタズラのつもりではやてちゃんをからかってしまったのです。
 まさかあんなに泣かれてしまうとは思ってもいませんでした。夏休みの初めにされたことの仕返しのつもりだったのですが、はやてちゃんがあんなになってしまうと「実はなんともありませんでした。テヘッ」とか言うわけにもいかなくて、「大丈夫、大丈夫だから」って言いながらあやすしかなくて、ホントに悪いことしたなと反省しております。
 アルゴスさん的には爪でちょっと身体を傷つけて血をたらした程度のことだったのでしょうけれど、紋様の形になって落ち着くまでは「全身血まみれ」って感じでとても派手なことになっていましたから、はやてちゃんがおどろくのも無理はなかったかも知れません。夢の中で魂に呪いをかけた影響なのか、地面(アルゴスさんの身体)が突然真っ黒に染まったので、天変地異みたいになったのも関係あるかもしれません。
 現在はやてちゃんは「先にいっとかんかー!」ってお怒りなので、明日はなんとかご機嫌をとろうと考えています。

   リボンは回避したい 高町なのは




『はやてのスペル・コレクション』

〇ブラッド・プロテクション:竜語魔法6レベル。効果=術者の生命力と引きかえに魔法の防御を与える呪い。

 竜の身体は魔力に満ち溢れている。竜の爪は同族間の順位争いで魔法的な拘束力を持つ。竜の牙は竜牙兵と呼ばれるモンスターを生み出す材料となる。竜鱗は強固な防具の素材となると伝えられている。
 このように、竜の身体のあらゆる部位は魔法的な力を秘めているのだ。
 もちろん、力の源である心臓から流れ出して全身に魔力を行き渡らせる血液もその例外ではない。
 ジークフリートの伝説を知っているだろうか。この伝説の中で悪竜ファブニールを退治したジークフリートは竜の血を浴びた結果、全身が鋼のように硬くなり、どんな武器でも傷つけることのできない不死身の身体になったとされている。
 このブラッド・プロテクション(血の護り)の呪文はその伝説を再現するものだ。もっともその恩恵を得るための過程は伝説とは真逆で、竜の好意を得なければならないのだが。
 どれほどの加護を与えるかは竜次第であるが、仮に伝説のような鋼の護りを手に入れたとしても、それが君の力によるものではないことを忘れないでほしい。伝説の英雄であるジークフリートでさえ、一点の弱点を突かれてその命を失っているのだ。
 時空管理局戦技教導隊にはこのような言葉がある。
「戦いの場で、これさえあれば絶対無敵などというものは無い」
 この呪文はあくまでも「呪い」である。赤い鎧の守りに慢心し、警戒を怠った時、君の背後には死が迫っているのかもしれない。





〇ファラリスさま:クリスタニア完全ガイドブックの原作者インタビューで、ファラリスは秩序の神々が世界を完成させてしまうとその反作用として「終末のもの」の力が増してしまうので、それを防ぐために戦いを起こしたと語られています。
 神々の会議での「承認」無しに戦いを引き起こしたので邪神とされていますが、会議をしてしまっては狙いが終末のものである破壊神カーディスに知られてしまいます。結果として問題をひとりで抱え込んで自ら悪役になったと好意的に解釈すると、割とリリカルなのはな行動をしていたことに。
 不死王に邪竜、魔神将に魔神王とコール・ゴッド出来そうな存在が結構いる割に呼び出されない理由を考えた結果、ウチの卓ではファラリスさまは生贄のお願いを叶えてしまうこともあるお茶目な御方となっておりました(光の神々は生贄=術者なので無問題)。

〇アルゴスさん:黒いバリアジャケット(鱗)になった、真っ赤な目のキレイな子。友好度が妙に高い理由はそのうちに。

〇竜熱:竜騎士が罹る不治の病、ドラゴンフィーバーとも。絶え間なく微熱が続くようになり、年単位の時間をかけてゆっくりと衰弱しやがて死に至ります。
 ゆりかごの聖王は玉座を守る生きた兵器として自我を奪われ、わずか数年でその命を燃やし尽くして死亡すると記された書物が存在するようです(Vivid)。ドラゴンのいるダンジョンにはパワー・スローンなるものが存在するそうですが……

〇リーンカーネーション:10レベルの暗黒(神聖)魔法。効果=神様の力で対象を転生させる。対象となった人物はこの魔法の達成値によって前世の記憶を取り戻す時期が変化します(達成値23の場合は10歳で覚醒)。

〇神様転生:夢の話が多く混乱するとの意見をいただいたので書いておきますが、この話は神様転生モノです。
 元ネタは「とらハ3」の当初案では、高町恭也の妹は「高町なのは」ではなく「高町七瀬」という転生者がなるはずだったとの原作者コメント(があったらしい)です。
 暗殺者と菓子職人の間に生まれた転生者にして魔法使い。地球の呪われた島みたいな海鳴市なら、これでも普通の小学三年生なのかもしれない。

〇レイハティア・アリアレート:アドベンチャーの主要人物の一人で略して「レイハ」と呼ばれていた。SWの蛮族系女戦士としては一番輝いていた気がする。戦乙女の紋を身体に刻んでいるあたりが、絵の具で描いていただけの人との差を生んだのかもしれない。黒髪ロングのクール系剣士で得物はシャムシール。いつも長袖長ズボンなところはとらハ版恭也と似ているかも。管理世界の人間にとって、管理外世界の住人は蛮族ではなかろうか。

〇時空管理局:年齢・出身・経歴関係なしの実力主義社会と考えると、マーモみたいで好印象。



[40369] 魔法王国カストゥール 復讐の継承者
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/02/06 23:16
 精霊都市フリーオンでそれは生まれた。
 幾柱もの精霊の王を呪縛し、酷使したことで魔精霊が誕生した。
 始め、それ姿は大地の精霊王ベヒモスに似ていた。
 それはその身に炎を宿し、すべての風を喰らい、すべての水を飲み干した。
 ありとあらゆる精霊はそれの餌食となり、ありとあらゆる魔法をもってしてもそれを倒すことはかなわない。
 喰らうほどに大きくなり続け、それはやがてその身を大いなる人の形へと変じる。
 それの名は「アトン」、世界を喰らう終末の使者。

 その姿は終末の巨人を思わせ、魔術師たちを恐れ戦かせた。
 カストゥールはその塔の力によって、すべての魔力を吐きだし、すべての知恵を絞りだす。
 ありとあらゆる方法が試され、ありとあらゆる失敗が繰り返された。
 数えきれぬ敗北の先、やがてファーラムがその身を剣へと変えた。

 神の言葉により、塔の力を宿す剣は異界の王へと託される。
 王は戦い、そして勝った。
 魔術師は喜び、そして驕った。
 神の言葉より、塔の力を信じて杖を掲げる。

 理想郷イシュフェーンでそれは起きた。
 空間を歪め、水の門を閉じたことで災いの扉が開いた。
 始め、そこには何もなかった。
 そこは時を渡る災厄の根源、すべてを乱し、すべてを凍り付かせる嵐の中心。
 ありとあらゆる時代が捻じれて混ざり、ありとあらゆる場所が凍てつき砕ける。
 渦巻くほどに育ち続け、災禍はやがて巨大な球体となる。
 それの名は「ヒドゥン」、時を狂わす終末の形。




 ファラリスおじさまへ

 夏は太陽の時間が長いものですが、日が過ぎ去るのは早いようでして、はやてちゃんの夏休みはもうそろそろお終いになってしまいそうです。
 そこで私はこう言いました。

「夏休みが短いのなら、延ばせばいいじゃない」
「できるか!」

 できないできないと言っているからできないのです。私なんてこのごろスッカリ年中無休でお休み生活なのですから、はやてちゃんだってできるはず! 
 と、そんな風に思ったりもしたのですが、闇の書の病気のせいで学校に行きたくても行けなくて、それが治ってようやく学校にいけるようになった子をあんまり困らせるの悪いので言わないでおきました。
 そんな感じで私が気をつかってあげていたと言うのに、はやてちゃんとローウェルちゃんが二人がかり私を責めて来たのです。

「なのは、これまでに引き受けちゃった頼まれ事を全部言ってみなさい」
「そやな。なんや、やりかけで放ってあることがいーっぱいありそうや」

 ちょっと、まだ二人に紹介していなかったティアナやキャロの話をしただけなのに、何故か問い詰められてしまいまして、どうしてそんなことになるのかよくわかりませんでした。そんなにやりかけのまま放置していたりしないはずなんですけど、一応二人に話した内容を思い出して書きだしてみます。

 まず最初が「亡くなってしまった人を生き返らせること」です。
 これをするための魔法の力が足りなかったので、どうにかしようと修行の旅に出たのですから、ちゃんと覚えてますよ。まだできないってだけなのです。

 次がヴォルテールさんに頼まれた「キャロをよろしく」です。
 たまに様子を見てほしいってことなので問題ないですね。そろそろ行って来た方がいいかなって気もしていますけど、会いに行っていない間に竜と仲良くする経験ができたので問題ありません。キャロにはキャロのお母さんが
 ついてますしね(お父さんは出稼ぎらしいですけど)。

 その次はティアナの件ですけど――これはもうティアナの面倒をみてくれるお姉さんがいるので大丈夫じゃあないですかね。お兄さんの使い魔と怪しい仮面女じゃあ比べようもないでしょう。たまには顔を出したいと思ってはいますけど――暗黒魔法は使えるようになったのかなとか気になってますから。

 それから、ガジェットドローンは直接は関係ありませんし、暗黒魔法の先輩として探してたドクターはどうにもアブナイ人のようなので(捕まったら殺されちゃうみたいですから)、自分から近寄って行く必要はさっぱりありません。

 えー、そのスッカリ忘れていたのがドクター関連で私を捕まえようとしてきたお二人ですね。パラディンさんとリガーさん……ドクターを探してとかお願いしてそのままになったました。ドクターは騒動があったので引っ越してますし、私も特に連絡先を教えてません。
 なんだか大変なことになってそうな気もしますが「自業自得や!」ってことなので、そのままで良いでしょう。

 あとはクロノ君と言いますか、グレアムさんからの依頼の病気の人たちの治療ですね。これは前よりも腕前が上がった気がしますので、はやてちゃんの夏休みが終わったら行こうと思ってます。いろいろお世話になってますし、グレアムさんには。
 大騒ぎした割に「すぐ治しに行かなきゃ」ってならないのは、のどもと過ぎれば~というやつなのでしょうか? 時間に余裕があるってところもあるかもしれませんが、なんとなくあの施設はイヤな感じがしたので、あまりお近づきになりたくないのです。

 レスフェーンさんに頼まれたことは、今やっているところなので、まるまる問題ありません。家主と言いますか、船になってしまっている身体の本来の持ち主と言いますか、とにかく中に入ることになる場所の権利者の許可も取れたので、いよいよ船内に突入というわけなのです。
 船の入り口は、アルゴスさんが大体この辺りだろうって教えてくれた場所で見つかりました。
 背中に一か所、わき腹の左右で二か所、お腹に一か所の全部で四か所くらい大きな出入り口があるような気がするそうです。四か所の出入り口は、なんでも溶かしてしまうらしい「竜の胃袋」の近くにあるようなのですが、背中側以外は海に浸かっていそうなので探していません。
 開き方がわからなかったので、「バールのようなものでコジ開けますよ」とアルゴスさんに話をしてきたところで本日のお仕事終了としました。

 それからそれから、また夢のお話です。
 最近は変な夢を見てばかりなので、だんだんと慣れてきました。なので簡単に書きます。
 今日の「私」は門主だったか当主だったかのアルヴィンスさんに、拳でお話をしていました。詳しく書かなくてもおじさまはとっくにご存知のことのような気がするので、問題ありませんよね?
 人と言うか、吸血鬼って、叩かれただけであんなに飛ぶものなんですね。

   鉄・拳・制・裁  高町なのは

  追伸
  この間のお手紙で「さま」って付けるのは「おじさま」だけです! って偉そうなことを書いていましたが、思い返すと「神さま」とか「王さま」って言葉を使ってたような気がしてきました。これはなんというか、個人にあてたものではなくて、仕事といますか役割と言いますか、役職につけていただけなので、ノーカウントでお願いいたします。ああ、でもそうなると「当主さま」とかも入ってしまいそうな……。
 とにかく、違いますので、そういうことですので!


 ファラリスおじさまへ

 扉を開けたら、そこは魔法の使えない空間でした。
 傀儡兵のみなさん総動員でゴリゴリとやって、なんとかかんとか入り口になるすき間を造ったのですが、そこから中に入ったとたんに魔法の効力がなくなってしまいました。
 無限書庫チームからの連絡で「ゆりかご」には魔力の結合を解除する魔法装置が積まれているって知ってはいたのですが、「作動していないといいなー」って期待ははずれてしまったようです。
 魔法の本に載っていた「アンチマジック」と同じ効果を「ゆりかご」の艦内全域に発生させる魔法装置のようなのですが、どこに設置されているのかは分かっていません。とりあえず、制御室で何らかの操作すれば解除できるはずですので、まずは魔法なしで制御室(最深部らしいです……)まで行かないといけません。カストゥールの魔法の「アンチマジック」は、ガジェットドローンなどの「AMF」と違って効果範囲内では「完全解除」の魔法以外は全く発動できないので、ものすごく困ります。
 船の中にはまたまたガーゴイルがいて、ついでにゴーレムもいて、おまけにインビジブル・ストーカーもいて、さらにはガジェト・ドローンと似たような機械もいて「侵入者ヲ排除シマス」って感じで私たちにおそいかかってきました。
 なんだかカチンと来たので「アルゴスさんの身体の中に勝手に侵入してるのはそっちだから!」と言ってやったのですが、昔に命令に従っているだけの機械にあたっても仕方がないのでした。
 幸いなことに、「呪い」や普通の解除魔法では解除できない魔法(ややこしい)は魔法無効化効果(またややこしい)の範囲外で発動させておけば中に入っても効果が続くので、傀儡兵のみなさんに突撃してもらえば、あまり苦労せずに進んで行けそうです――こういうことを言うと、よく後で苦労するんですけどね。
 はやてちゃんは鎧を動かすのに使っている魔法のプログラムを新しく製作中です。ゴーレム形式の自動操作だけだと上手く動けないみたいなのですが、艦内だとそれを調整するための魔法が使えなくなってしまうので、そのあたりを改良するようです。うーん、私も負けていられませんね。

 今日はファーラムシアさんとお話する夢を見ました。なんだかお悩みのようだったので「やりたいようにやればいいんですよ」とアドバイス(?)してみたところ、なぜか剣になってしまったファーラムさんなのでした。

   高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 はやてちゃんやローウェルちゃんに最近の変な夢について話してみたところ、

「バケモノ退治のために人間が武器に変身するってまんまやないか――でも槍やなくて剣なんやね」
「アンタ、マンガに影響され過ぎ。アレって元々は剣でしょ?」と言われてしまいました。

 これは私にもなんのことを言われたのかわかりました。お姉ちゃんが巫女のお姉さんから借りて来たマンガで、世界を滅ぼしてしまいそうな怪物を退治するための武器になってしまった人の話がありましたので。
 そうすると、あのファーラムさんの剣を使うと魂を吸い取られてしまうのでしょうか? なんだか怖いですね。そのせいなのか、夢の中の私は先代魔法王のメルドラムゼーさんから「剣を振るってくれ」と言われてもお断りして、「魔法戦士なら南の島に封じられている」と他のひとをおススメしていました。私が出ると事態がもっと悪くなるとかなんとか言い訳してましたが、私はなかなかズルいようです。

 今日の探索はあまり進んでいません。艦内の大きな通路までは行けたのですが、そこからある程度の距離ごとに「隔壁」と言うのでしょうか? 通路をふさぐ形でシャッターというか、壁のようなものがいくつもいくつもあって、それを壊しながら(アルゴスさんに許可はもらってます)の前進になってしまっているので、進み具合はカタツムリのようにゆっくりとなってしまいました。傀儡兵さんたちも消費する魔力が大きくなったせいか、しょっちゅう外まで出して魔力の補充が必要になってきました。
 アンチ・マジックのせいで遠かくで魔力を充電(?)できないので仕方がないのですが、これは電気の延長コードみたいなものを付けてもらうようにした方が良いのかもしれません。
 それから今日は面白いものが出てきました。そこで眠ると男性が女性に変わってしまうベッドだとか、その逆の女性が男性に変わってしまうベッドとか、飲むと子供になってしまう薬やほれ薬などが、通路の途中から行けた部屋の中で見つかったのです。他にもムチとか鎖とかが置いてあったのですが、プレシアさんに全部回収されてしまいました。

「ロストロギアはいい値段で売れるのよ。そのお金で傀儡兵を改造しましょう」

 とのことでしたが、なんであんなに焦っていたのかはわからないことにしておいた方がいいのでしょうね。はやてちゃんは「まぁ、うん、あれやな。長い船旅はヒマやしな……」とおっしゃっていました。
 ローウェルちゃんがすごくイヤそうに青い顔(幽霊ですけど)で震えていたので、よしよしとなぐさめつつ今日は一緒におやすみなさいといたします。

   ちょっとひんやり 高町なのは   


 ファラリスおじさまへ

 今日はプレシアさんがお出かけしているので、傀儡兵さんたちが動かせません。私たちでも動かすだけでしたら問題ないのですが、戦闘や何かがあって故障したりしたときの対処ができないのです。掃除くらいならいいのですが、ダンジョンアタックは何が起きるのかわからないので仕方がありません。
 そんな訳で今日はアルゴスさんに会いに行ったり、おじさまのための歌を練習してみたり、掃除できていないところを掃除してみたりで過ごしました。カースの呪文で黒くなったアルゴスさんはますますカッコイイので、ちゃんとキレイにしないとですよね。たくさんある真っ赤な目もキラキラと輝いて良い感じです。
 あとは水中の部分が問題でして、バリア系統の魔法の応用で水中にもぐれなくもないのですが、やっぱりなかなか上手くはいきません。一度、アルゴスさんの身体をゴロンっとひっくり返すといいのかもしれませんけれど、なにぶんとても大きいので、ちょっとそれもできそうにありません。
 もっとも、水上部分の掃除のほとんどは傀儡兵さんがやってくれたので、水中型の傀儡兵さんがいないことには全然すすまないのでしょうけれど。人力でやっていたらいつまでかかるのか見当もつきません。

 恒例の夢日記ですが、メルドラムゼーさんと「契約」した、レパースさんの姿のデーモン・ロードさんががんばって戦ってくれたおかげで、見事に怪物退治に成功いたしました。功労者のデーモン・ロードさんは「もうええやろ? はよ元の世界に帰してー」って感じだったので、仲間のみなさんと一緒にお家に帰してあげてました。勝手に呼びつけられて、「言うことを聞かないとお家に帰さないぞ」って無理矢理「契約」させられて、用が済んだら変な空間に閉じ込められてるなんてかわいそうですから。

   めでたしめでたし あなたななのは 


 ファラリスおじさまへ

 二人にいったい何があったのでしょうか? 
 プレシアさんがプレシア君で、グレアムさんがグレアムちゃんになっている映像をゼリーからもらいました。ゼリーは無限書庫で見つかった資料を持ってきてくれたのですが、その中に混ざっていたのです。
 ベッドとか薬の効果を試してしまったのでしょうけれど、どうしてそんなことになったのか、私にはわかりません。聞かない方が良いような予感がヒシヒシとするので、聞いてみることもしないと思います。
 でも、面白そうなのでこっそりと本棚のなかにプリントしたものを挟んでおきました。
 それで本題の資料の方なのですが、前に書いた気もしますが「ゆりかご」は全部で三隻あったみたいでして、それぞれの材料になった竜王さんごとに形や大きさが全然違っていたようです。
 一番大きくて最初に造られた金色の船は、なんと全長が約二百キロくらいあったかもしれないそうなのですが――これはさすがに大きすぎるんじゃないかなって思います。大体、日本の四国くらいの大きさって言ったら、そのとんでもサイズがお分かりいただけるでしょうか?アレクラスト大陸のエア湖に石化して沈んでいた竜王さんが材料だとすると、それぐらいだった可能性があるってことなのですけれど……。  
 次が今わたしたちがいるアルゴスさんの船で、最後の一隻は「最後のゆりかご」って書かれていました。この最後のゆりかごの竜王さんは、ものすごく頑丈な虹色の結界と、月の魔力を受け取る能力を持っていたみたいです。

 いつもの夢の話ですが、私はどうやら捕まえられてしまったようです。魔法使いたちにアルゴスさんが閉じ込められているのと同じような空間に閉じ込められてしまいました。元々の私はもっともっと大きかったのですが、器の中に収まっていた分だけがそこから切り取られて魂の檻の中でした。

   カストゥールはマカフシギです 高町なのは




『なのはのモンスター・コレクション』

〇デーモン:モンスター・レベル=5~20

 ほう、デーモンについて知りたいと言うのか。
 なるほど、たしかにこれからの人生にその知識はおおいに役立つことじゃろう。むしろこれまで何も知らずにやってこれたことが幸運だったのかもしれんがの。
 なに、たしかお前は一度デーモンの罠にかかっているはずだろうじゃと? おうおう、そうともそうとも。確かにわしは一度あれにひっかかってえらいめにあっておる。
 ありゃあ大変じゃった。そこいらをほいほいっと歩いておったらいきなり目の前の景色が変わりおってのう。気が付いたらどことも知れぬ薄気味の悪い空間に閉じ込められておったんじゃ。いやいや、あれにはほとほと参った。ケルベロスの頭同士の喧嘩を収めてやる方がずっとマシと言うものよ。
 おう、そうなんじゃよ「契約」じゃよ。なんじゃい、お主、結構知っておるではないか。
 そう、邪悪な異界の住人であるデーモンどもはわしらを無理矢理連れ去っておいて「ここから出してほしければ、大人しく言うことを聞いて『契約』しろ」なんぞと言いよるのよ。その上、こっちがそれを断ったならそのまま閉じ込めたままにするらしいんじゃから、まったくもって身勝手な話というものじゃ。
 で、したともさ。「契約」をの。なにせ「契約」に従って条件を満たすまで命の限り働き続けるか、デーモンどもの世界で与えられた仮初の肉体を破壊されるまではこっちに帰ってこれんからの。
 もちろん、「契約」の内容にそりゃあもう注意せねばならんかった。うっかり適当な「契約」を交わそうものならいつまでたっても終わりゃあせん。永遠にデーモンどもの奴隷じゃよ。
 賢いわしは上手いこと話して簡単な内容で済ませたんじゃが、なかにはあっちに行ったまま何百年と帰って来れんようになっとるのもいるようじゃの。デーモンどもはずる賢いからの、ふと気が付けばどうやっても解除することの出来んようなとんでもない内容の約束を取り交わしちまっとった、なんてこともあるようじゃから、もしもデーモンのトラップに引っかかったときには、そのあたりをよーっく注意するんじゃぞ。
 ま、頭を使うのが苦手なら、上手いこと向こうでの肉体を破壊させるんじゃ。なんだかんだでそれが一番手っ取り早いらしいからの。

 とある知識魔神が年若きグルネルに語った言葉


 デーモンとは異界の住人のことです。フォーセリアにおいては、主に魔界と呼ばれた世界から召喚された存在がこう呼ばれていましたが、魔界の住人にとってはフォーセリアの住人こそがデーモンに他なりませんでした。

 魔界の住人である魔神たちの間で特に悪名高いデーモンは「カストゥール」と呼ばれ、ひどく恐れられています。
 このカストゥールのデーモンは、魔神たちを「デーモン・トラップ」と名付けられた罠にかけて捕まえると、そこに魂を呪縛してしまいます。そして、解放して欲しかったら自分たちの言うことを聞け、と身勝手な要求を押し付けたのです。
 こうして、罠にかかってしまった魔神たちは(逆らっても永遠に縛り付けられたままになるだけだとわかると)泣く泣くこの一方的にカストゥールのデーモンに有利なだけの「雇用契約」にサインすることとなってしまいました。この「契約」の内容も、魔神たちの知識や技術を無償で譲り渡せだの、強大な巨人族と戦ってこいだのといったまったくもってひどいものばかりでした。
 魔神たちもやられてばかりではたまりませんので、「契約」の内容になんとか穴をつくって逃げ出そうと試みたり、「契約」の儀式をどうにかして失敗させようとしたりなどと様々な抵抗をしました。なかにはそうした抵抗が功を奏して早くに帰還できたものもいましたが、デーモンは魔神たち以上に邪悪で狡猾であったので、多くの魔神たちは数十年、数百年と捕らえられたまま帰ってくることができないままになってしまったのです。
 今も魔界のあちらこちらでは、カストゥールのデーモンたちが仕掛けた「デーモン・トラップ」による被害が発生しています。道をあるくとき、空を飛ぶとき、どこかへ転移するとき、まずするべきことはよく確認することです。うっかりしていたばかりに魂を捕らえられ永遠の牢獄行きなどとなってしまっては、たまったものではありませんから。




〇精霊都市フリーオン:地下に建造された球状都市。複数のベヒモスの力によって球体の内面に重力を発生させて大地とし、中央の空間にエフリートを縛り付けて太陽の代わりにしていたのだとか。その他もろもろも精霊を支配することで賄っていた。ラ・ギアスとかボルテクス界とかスペースコロニーのようなイメージ。

〇理想郷イシュフェーン:時間と空間を操作して生み出された人工の妖精界。常に花が咲き乱れ、飢えも病も老いも存在せず、あらゆる外敵が排除された場所だったらしい。
 レスフェーンとは名前が似ているが関係はない……はず。フォーセリアとリアセフォーみたいな偶然ではないでしょうか。

〇アルヴィンス・デラクロス:カストゥール末期、ファーラムの生きていた時代の死霊魔術門主でノーライフキング。生贄になった子のご先祖さまであり、デラクロス家の当主でもある。

〇ゴージャスなゴブリン:このシナリオが収録されているシナリオ集「石巨人の迷宮」を読み直していたところ、バレンさんにフリーオンの場所の手がかりを渡したのが自分(のPC)だったことに気付いた。アトン倒すのには関われなかったPCですが、復活には貢献していたらしい。ナンテコッタイ。

〇ファーラムシア:統合魔術の門主で魔法王。「あなたのことが好きだから。僕はなにを捨ててでもあなたを守る」と言ったのかどうか、人間性を捨ててしまった人。ファーラムの剣を使うと記憶が失われるのだとか。
 メルドラムゼーはファーラムの父親でもあり、先代の魔法王でもある拡大魔術の門主。

〇連奇岩:アレクラスト大陸最大の湖「エア湖」の中から突き出ている巨大な岩の連なり。伝説では石化した竜王の身体の一部とされている。



[40369] 流星落ちるとき
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/02/08 08:40
 ファラリスおじさまへ

 無限書庫での冒険で見つかった「ゆりかご」の資料の中には、艦内の見取り図もありました。
 無限書庫の「探せば何でもある」との評判は本当だったようです。私の個人的な意見ではあるのですが、あの無限書庫はものすごく貴重なロストロギアなのではないでしょうか? 時空管理局が手放さないようにしているというのもよくわかります。
 ただ、その管理はいい加減なようでして、最初に書いた通りに資料探しの作業はほとんど「冒険」だったようです。トラップをかいくぐり、モンスターを蹴散らして巨大な図書館の中を目当ての本を探してあっちへ、こっちへ――なんだか楽しそうですね。うーん、私もちょっと行ってみたかったかもしれません。
 それで、そんな図書館探検組のがんばりによって見つかった図面によりますと、どうもあの邪魔なアンチ・マジックやAMF、それから魔法生物や機械の制御をするための部屋があるようでした。
 それは、入り口から一番遠い所にある最深部の制御室です。「ゆりかご」の乗り手が座る玉座の広間からも、アルゴスさんの心臓(駆動炉)がある場所からもかなり離れた場所に、これまた大きな空間があって船全体の操作ができるようでした。
 最深部の制御室、玉座の間、心臓部の駆動炉と、あとは聖王核が保管されている部屋がとても重要な場所で防衛設備も厳重なようです。他には居住用の部屋が並んでいる場所や、研究用の設備なども造られているようですけれど、これってアルゴスさんはどんな感じなんでしょうね……。
 夢のおかげか、夢のせいか、赤い宝石の檻に閉じ込められている気分はよーくわかるようになりましたが、自分の身体の中にいろいろと造られてしまう気分はさすがに知りたくありません。
 重要な設備ではあるのですが、「聖王核の保管庫」は居住空間から近い場所にあるようです。これはおそらくですが、この船に暮らしていた人たちが聖王核を利用するのに、生まれた時に身体に埋め込む儀式を行って、亡くなった時に回収するという形をとっていたからではないかって言うのが、ユーノ君の推測です。
 この間の手紙にベッドなどがあったと書いたのでお分かりになっていらっしゃるかと思いますが、私たちがいま探索を進めているところがちょうどその居住用区画です。
 私としては広い通路を一気に最深部まで進んでしまって、魔法の制限を解除した方がいいんじゃないかなって思うのですが、「イロイロ引き受けてることあるやろ? ひとつひとつ片づけていかんとな」ってはやてちゃんが怖い顔になるので、先にレスフェーンさんから頼まれている「聖王核の回収と解体」をすることになりました。
 魔法が使えないのって、なんだか気分が良くないのでどうにかしたいのですけれど、「せやけどそこは最深部!」とか言われちゃうとどうにもこうにも仕方がありません。順番に片付けて行かないとですね。

   高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 居住区画の探索を始めてから、もう二週間が過ぎてしまいました。居住用のスペースなので中央の通路などと比べてせまい所が多くて、傀儡兵さんたちはその大きな体が邪魔になってしまってなかなか中にはいり込めませんでした。通路をふさぐ壁を壊したりするのには大きくて重いことが役に立っていたのですが、さすがに人の住むように造られている場所ではアチコチにつかえてしまいます。それなのに警備用のロボットや魔獣! なんかが居るのですから面倒で困りました。
 それから、なぜかベッドのある部屋に置いてあった箱などにもワナが仕掛けてあったりするのです。カストゥールの人たちの考えることはさっぱりよくわかりません。寝ぼけたときなどに、自分で自分の仕掛けたワナにかかってしまったりして危なそうな気がするのですが、結構そういう部屋があったのでビックリです。
 フォーセリアのお話を読む限りですと、どうもカストゥールには迷宮を造る趣味の人たちが大勢いたようでして、なんだかんだと理由を付けてはワナやモンスターを配置した迷路を造っていたみたいなのです。転移魔法が使えるのなら研究施設に出入り口をつける必要もないはずなので、それこそ地下都市フリーオンのように地面の下に家を造って、その後出入り口を無くしてしまって、出入りはテレポートですることにすれば、その方が安全だったのではないかなって思うのですけれど、これは素人考えと言うものでしょうか?

 また話が違う方向へ行ってしまいましたが、今日書きたかったのは「はやてちゃんが学校に行ってない」ってことなのです!
 こんな途中のやりかけ状態でそのままにして帰れるわけない、とのことでしたけれど――「なのはちゃんも無茶せえへんか心配やし……」ってローウェルちゃんに話してたみたいです。信用されてないと悲しめばいいのか、心配されてるなと喜べばいいのか複雑なところです。
 そんなわけで、はやてちゃんもめでたく「小学校中退組」です。決められたレールに乗っかった人生なんてツマラナイってヤツですね。中卒も小学校から不登校も、たぶん、きっと大差ないでしょう。高校に行かなくても大学に通う方法もあるそうですし、きっと、たぶん問題ないはずです。
 私は春から学校に行っていませんけれど、はやてちゃんの夏休みの宿題ってかなり簡単でしたから「勉強」については全く心配していません。なので「楽しいこと」「やりたいこと」「興味のあること」優先でいいと思うのです。お兄ちゃんは大学生になりましたけど、ウチのお父さんもお母さんも学歴とかはサッパリですが毎日楽しくやってますから!
 それに、おじさま頼りと言われてしまいそうですけれど、おじさまの癒しの魔法があれば将来のお仕事に困ることは無さそうですので、そのあたり全く心配していなかったりします。
 と、言いますか、おじさまが下さるお小遣いだけでも全然問題なく暮らしていけてしまいそうです。
 イモレイトで時々いただける珍しい物は、プレシアさんが「研究用の仕入れに使っていたルート」で売ってくれるので実は結構な額のお金が貯まっていたりします。このお金でおじさまへ何か良いものを贈ることができたらいいのですけれど、欲しいものって何かありますか? 
 またまた話があさっての方向へ行きそうでした。要するに、「はやてちゃんの面倒ぐらい見られるから心配ないよ」ってことなのです。まぁ、はやてちゃんもはやてちゃんで家と土地を持っていますし、グレアムさんがたくさんお金を振り込んでくれているらしいので、さりげなくお金持ちなのですけれど。

   あなたの神官 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 図面があるのだから、一直線に目的地を目指せばいいだろうって思ってはいらっしゃいませんか?
 私だってそれぐらいわかってはいるのですが、でも、それでもです、目の前に扉があったらついつい開けてみたくなってしまいませんか? そして開けて中に入ったら、ついつい調べてみたくなりませんか? 亡くなった人たち(たぶん)の遺した物だとわかってはいるのですが、ああ、それでも何故か調べることをやめられないのです。実は私はドロボウさんだったのかもしれません。
 と、そのあたりは置いておきまして、実は疑問に思うことがあるのです。
 それは「ここに居たはずの人たちはどこへ行ったのかな?」っていまさらな疑問なのですが、プレシアさんもローウェルちゃんも、はやてちゃんもレッサも、図書館組のメンバーも誰も答えがわからないのです。
 アルゴスさんの話ではこの船はどうも墜落したらしいので、人がいた場所はものすごいことになっているかもしれないって覚悟していたのですが、骨もオバケも見当たりません。アルゴスさんは「なんとなく」でしか檻の外の様子がわからないようなので、詳しいことはエアストーカーの顔のように不明です。
 どうして船が落っこちたのでしょう? なんで誰もいないのでしょう? 

   姪探偵 なのは


 ファラリスおじさまへ

 はやてちゃんの陰謀により、お父さんと美沙斗さんと、お兄ちゃんとザンダームさんが応援に来てくれました。ザンダームさんは自分を薬で操っていた「龍」への復讐のために、美沙斗さんと協力し合っていたそうなのですが、今回は私が魔法の使えない狭い場所で困っていると聞いて助けに来てくれたのです。
「命の借りは命をかけて返す」って言われたのですが、私がザンダームさんにしたことって、「誘拐事件」の時に毒の魔法でマヒさせたことだけなんですよね(解毒の魔法は失敗しましたから……)。
 四人ともやっぱりとんでもなくすごかったです。はやてちゃんの魔力全快ゴーレムや、大きな身体の傀儡兵さんたちと比べるとさすがに腕力では勝てませんが、技があるって全然違うものなのですね。私もお面で変身してみたのですが、やっぱり本人には勝てなくてコロッとやられてしまいました。
 そんなわけで心強い助っ人を迎えて、今日はメインの通路と比べて細くなった道でもサクサクと進むことができました。
 それから、魔法が無効な場所ではやっぱり銃火器が便利ですね。
 魔法が使えなくて「戦力外だー」って落ち込んでいたレッサもこれで参加できるって喜んでいました。ユニゾンデバイスなレッサは元々半分(全部?)機械のようなものなので、精密な動作は得意らしいのです。相手も動くので百発百中とはいきませんが、狙ったところへ撃つだけならまず外れないって言うのは、ちょっとうらやましいと思いました。助っ人のみなさんはそれを普通に避けてしまうので、なんともアレなのですけれど。

 私ですか? 私はみんなの薬箱です。ぜいたくな悩みだってわかってはいるのですが、私はちょっとツマラナイかもしれません。みんながすごいので船から外に出ないとすることが無くなってしまったのですから。

   治療薬の 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 ついに聖王核の保管庫にたどり着きました! 
 この船にどれぐらいの人たちが乗っていたのかはわかりません。この船に乗っていた人たちの内、どれぐらいの割合の人が聖王核を身体に埋め込むことを許されていたのかもわかりません。伝説の聖王さんは別の船に乗っていた中枢王家のひとつ「ゼーゲブレヒト家」の子供だったようですが、このアルゴーの船は移民の途中で墜落してしまったようなので、乗っていた人たちのことまでは詳しくわかっていません――移住に成功した人たちのことも、その引っ越し先のベルカの地が滅びてしまった今となってはあまり資料が無いそうなのですけれど。
 ちゃんときっちり全部封印されていたので良かったですが、この聖王核は外から大きな衝撃を受けると爆発してしまうこともあるそうなので、保管庫にあったたくさんの聖王核が全部(連鎖して)爆発していたら、いくら大きくて頑丈なアルゴスさんでも大変なことになっていたかもしれません。

 保管庫のケースから慎重に運び出した聖王核は、海の上の空に浮かべて(この世界は海しかないのですが)まとめてドカーン!! っと私とはやてちゃんとプレシアさんの協力技「次元跳躍集束砲撃魔法」で吹き飛ばしました。
 これは、はやてちゃんのトンデモ魔力とイマイチ使いどころのなかった魔法の「遠隔発動」の資質と、私の魔力集束と(プレシアさんの記憶で学んだ)次元跳躍魔法の技術、それからプレシアさんの魔力炉から力を引き出す技術と元祖次元跳躍魔法の技を合わせた現在の最大火力(魔法)だったりします。
 それでたくさんの聖王核が一緒に爆発したので、それはもうトンデモナイことになりました。空の上で大きな白とピンクと紫の光が弾けて、そこからまたたくさんの光が尾を引いて飛び散って、それぞれがイロイロな色の光を放って爆発したのです。

「たーまやー!」
「こりゃあ豪快な花火だなぁ」

 はやてちゃんとお父さんが言ったみたいに、ホントにホントに大きな花火のようで、あるいはものすごく立派な流星群のようでもありました。なにせ、空一面でどっかんどっかんと爆ぜて、その欠片たちがキラキラと光りながらさらに広がっていったのですから。
 これで一応頼まれたことは完了したのですが、依頼者のレスフェーンさん(のひとかけら)はまだまだ他に二隻分の聖王核があるので、自分はまだ解放されないでこのままがんばるのだそうです。なんというか義理人情にあつい方だったんですねレスフェーンさんは、ちょっと変なひとかもしれないって思ってしまったことをこっそりと謝っておきます。

 ごめんなさい

 レスフェーンさんから約束していた報酬ももらえたので、これでようやくみんなにプレゼントを渡すことができました。ローウェルちゃんの分だけ用意するのがものすごーく難しかったので、みんなに一緒に渡そうと思って依頼が終わるまで待っていたのです。

 はやてちゃんには夏用の帽子。夏休みもう終わってるんだけど、って言いつつうれしそうにしてくれていました。
 レッサにはちゃんとした服と、髪のお手入れのセット。放っておくと頭は適当にまとめて、服装はいつでも水着みたいになってますから。
 ゼリーはまだ図書館にいるので直接渡せないのですが、まぁ使い魔なのでその内でいいかなと。
 ローウェルちゃんにはレスフェーンさんに創ってもらった、「幽霊でもつけられるアクセサリー」です。蝶の形をしているところにレスフェーンさんの自己主張を感じますが、アリサちゃんが喜んでくれたのでいいのです。
 それからプレシアさんなのですが、どんなものよりもプレシアさんが望んでいること。それは今は私の願いでもあって――ちょっと早いような気もするのですが、でも、がんばればなんとかなるような気もするので、一度挑戦してみようと考えています。 
 おじさま、どうかよろしくお願いいたします。

   歌をあなたに 高町なのは





〇高町なのは 9歳
 器用度7(+1) 敏捷度6(+1) 知力18(+3) 筋力7(+1) 生命力10(+1) 精神力17(+2)※1
 冒険者技能:ダークプリースト(ファラリス)8、ルーンマスター6、ファイター2、セージ2
 一般技能 :シンガー2
 冒険者レベル:8 超英雄ポイント:(1)→0→1 ※2
 特殊装備:暗黒神の首飾り、アルゴスの血痕、他多数
 ※1 知力、精神力の年齢修正は通常と異なっています。
 ※2 レスフェーン(分霊)との契約に使用、使いきったので1点上昇。


〇流星:「俺は逃げたいのだ!」→解放しました。

〇褐色系ヒロイン計画:三隻の移民船、ひょうたん島、青い宝石にガーゴイルと揃えたのに、ダークスキンの効果は1時間しか無い上に「持続時間の拡大」が出来ない。その上、「非解除」でも「呪い」でもないのでアンチ・マジックですぐ消えてしまう。不思議の海のナノハ計画はなかなか上手くいかないようです。血痕は「呪い」なので正式な手続きをしないと消せないのですが。

〇無印:JSモンスターと戦って、マスコットの小動物に頼まれて不思議な石探しをして、(クロノ君やリンディさんに協力して)、赤眼の子と友達になって、魔法無効空間のあるダンジョンに突入して、プレシアさんの傀儡兵に囲まれて、想いを共有した同士が海辺で再会する話。で、大体合ってるはず。

〇竜と信仰魔法:竜王は神々の死亡とそう違わない時期にほぼ全滅しているので、信仰による魔法の存在自体知らない……はず。古竜ではマイセンのデータに神聖魔法10レベルが(一応)あります。

〇魔神:彼らとヒリガル・サイトゥーン氏、そう変わらないはずなのにどうしてああも扱いが違うのか。前話に「デーモン」についての話を追加しました。(2015.2.8)



[40369] ガール・ビショップに飛竜が怯む
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/02/13 00:00

 ファラリスおじさまへ

 グレアムさんに叱られてしまいました。
 この間の「たーまやー!」のときのことなのですが、実はあれでちょっとした次元震が観測されていたそうなのです。
 次元震は時空管理局の「海」のお仕事では時々あることのようなのですが、それでもこの無人のはずの世界を「今まで通りで良い」「何も問題無い」との扱いにするのはグレアムさんの立場でも結構大変だったみたいで、「気を付けてくれないと困る」と怒られてしまったのです。
 たしかに、ちょっとやりすぎたかなって思っていたので、素直にごめんなさいして反省しております。
 グレアムさんがいろいろと手続きをしているときに、「最高評議会」と言う時空管理局で一番偉い(?)人たちが味方になってくれたみたいで、とても助かったそうです。なんで助けてくれたのかわかりませんが、とにかくありがたいことです。
 反省はしても後悔はしないが高町なのはのモットーですので(今決めました)、この話はここまでにいたします。

 話がガラッと変わりますが、船の中の保管庫で見つかった聖王核は全部壊したのですが、あそこにあったもので数は全部ではないようなのです。考えなくても当たり前の話ではあるのですが、「使用中」だったものは倉庫で保管されていないので、どこかへ持ちだされたままなのですよね。
 それにこの間もちょっと書きましたが、船の中には人っ子一人いないのです。アルゴスさんがこの星に落っこちてから相当の年月が過ぎているようなので「生きている人」がいないのはわかるのですが、中に暮らしていた人たちが自分から出て行ったにしてはたくさんの物が残されたままになっていますし、急な病気か何かで全滅したにしても死体のかけらも見つかりません。
 まだ探索していないところで何か答えが見つかるのかもしれませんが、今のところはなんともミステリーです。たしか、メアリー・セレスト号の謎みたいな話があった気がするのですが、それと少し似ているかもしれません。
 そんなこんなで保管室の周りを探していたところ、ちょっと変わったことがありました。

 中身の無い「ミイラ」が居たのです。

 聖王核の保管室から少し離れた場所に、たくさんの扉が並んでいる場所がありました。図面によるとひとつひとつの扉を開けると小さな部屋になっていて、それぞれに魔法の品がしまわれているようでしたので、私たちは大喜びで調べていたのです。
 そんな部屋の一つにそのミイラがいました。その部屋は最初から扉が開いていて、部屋の真ん中にザンダームさんでも余裕で入って寝っ転がれそうな大きな銀色の箱があるだけで、他には何もありませんでした。そして私たちが箱に近寄ると、その中にボロボロになった布が人型にまとまって入っているのが見えたのです。

 ――封印、解かれた。よみがえる。暗黒、海、滅び。

 ミイラが何かしゃべっていたのですが、私では少し単語がわかっただけで詳しいことまでは聞き取れませんでした。夢の中で理解できていたカストゥールの言葉だった気もするのですが、私と同じくらいのことがわかったレッサの話では「古代ベルカの言葉に少し似ている」らしいので、そっちだったのかもしれません。闇の書の関係で少しだけ勉強したことがありましたから。
 ミイラは何かを言いながらこっちへと手を伸ばそうとしているようでしたが、動かしたところからその布の身体が順番に崩れて行きました。
 腕が、頭が、足も体もボロボロと崩れて消えて行って、最後にミイラの中からコロンと壊れた筒が転がり出てきたのです。筒の中身は鏡だったようなのですが、もう割れてしまっていました。
 何が言いたかったのか、何がしたかったのかわからないまま消えてしまったあのミイラは一体なんだったのでしょうか? とても気になるのに、なんとなく知っているような気もするのに、頭の中につっかえ棒が引っかかっているみたいでそれが出てきません。
 これを聞いたことか、見たことがあったはずなのですけれど。わかっている、知っていたはずなのにそれが出てこないことってありませんか? おじさまは神さまなので無いかもしれませんが、私は時々そういうことがあります。まだ十才にもなっていないのに、私はちょっとボケてしまったのかもしれません。
 脳みそトレーニングとかした方がいいのかなって、少し本気で考えてみました。

   高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 クロノ君と、そのついでに他の凍結封印中の方たちの病気の治療に再挑戦することにしました。前は魔法を使うために手で触れないとダメなキュアー・ディジーズしか使えなかったので、ホントに手も足も出なかった感染しやすい危険な症状の人たちも「リフレッシュ」が使えるようになった今なら問題ありません。
 十メートルくらい届きますから! 離れたところから魔法の効果があるって大事なことですよね。いつもポイズンのマヒ毒魔法が遠くから使えたらいいのにって思っていましたけれど、こっちも石化魔法のストーンカースや、身体の機能を停止させるクリップルが使えるようになったので大幅パワーアップです! 船の中は魔法が使えないのでちょっと実感がわきませんでしたが、新しい魔法が使えるようになると、何と言いますか、こう、すごく達成感がありますね。海鳴を飛び出してからもう少しで半年、結構いいペースで成長しているのではないかと、自画自さんしてみます。

   調子に乗ってる 高町なのは


 助っ人のみなさんが地球に帰ってしまいました。もうちょっと居たらいいのになって思ってしまいますが、居なくてもお店に影響無さそうなお父さんはともかくとして、大学生のお兄ちゃんや「龍」退治に忙しい美沙斗さん、ザンダームさんを引きとめるのも悪いので、また今度です。お父さんは残ればいいのになーって、もう一度思いましたが、そうするとお母さんがさびしそうなので。
 いえ、私が海鳴に帰れば良いだけなんだってわかっているのですけれど、旅に出る最初の最初に「復活の魔法が使えるようになるまでは」って決めたのですから、ここは耐えないといけません。ホームシックはもう乗り越えたはずなのです。


 ファラリスおじさまへ

 クロノ君の治療、なんとか無事に終わりました。グレアムさんやリンディさん、あとエーミーさんってクロノ君のお姉さんにもとても喜んでもらえて、私も治したかいがあってとても良い気分です。
 やっぱり喜んでいる人を見るのはうれしいですよね。私もうれしい、相手もうれしい、どっちもうれしくて誰も悲しくならない。おじさまの癒しの魔法は、前からわかっていたことではありますけれど、とてもとても素晴らしいものだって再確認しました。
 グレアムさんは怒るととても怖いので、この間のことをこれで許してくれるといいなって思ってなんかいませんとも言えませんけれど。

 その他にも治療をしたのですが、何とも次元世界は広いものでして、クロノ君がうつされた病気の他にもイロイロと変な病気があるようです。発症すると人を殺したくて殺したくて仕方がなくなって、それを我慢して耐えていると身体が変異してミュータントモンスターになってしまう病気なんて、その中でも極め付けでした。
 どこであんな変な病気が生まれるのかサッパリわかりませんが、科学的な原因も対処法もわからなくても、とにかく治せてしまうから「魔法」なのですから。
 この辺り、ミッド式やベルカ式の魔法は遅れているとしか言いようがありません。グレアムさんだけではなくて、はやてちゃんや他のみんなも、おじさまの魔法は「レアスキル」としてあまり言いふらさないようにって言うのですが、もっと世界の人たちにおじさまの魔法を広めたら、そうしたら、私やお医者さんのお仕事が無くなってしまうかもしれませんけれど――もっとみんなが幸せになれるんじゃないでしょうか。
 どうしてこんなに素晴らしいおじさまの魔法が世の中に知られていないのだろうって、そっちの方が不思議になってきます。
 残念ながら、今回私の力が足りなくて治してあげられなかった人については、もっと腕をあげてから再挑戦するつもりです。
 今日はうれしいことが多かったので、テンションがちょっと高かったかもしれません。でも、私がうれしかったのはおじさまのせいなので許して下さい。

   魔法の力を貸して下さるおじさまと、いつも助けになってくれるジュエルシードに感謝をこめて
    高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 今日ははやてちゃんに言われてアルザスへ行ってきました。
 最近のはやてちゃんは、あーだこーだとうるさいのでイラっとしてしまいます。あんまりイライラしたので、後ろから抱きしめてブルンブルンと振り回してあげたらキャーっとおどろいてうれしそうに目を回していました。いい気味です。
 はやてちゃんは私のお母さんかお姉さんにでもなったつもりなのでしょうか? 「マネージャー?」とか言ってましたけど、私はいつから芸能人になったのでしょう。私を追い出して、はやてちゃん、ローウェルちゃん、プレシアさんの三人で何かよからぬことでも企むつもりなのかもしれません。
 とにかくそんなわけで、久しぶりにキャロの顔を身にアルザスに行って来たのですが大変ショックなできごとがありました。

 おじさまは他人から「臭う」って言われたらどう思いますか? 寛大なおじさまは笑って受け流すのかもしれませんが、私は正直なところガックリとへこみました。自分ではそんなことないって思っているのですけれど、自分の臭いって自分ではわからないとも聞きますし、ああ、うう、となってしまいます。
 人間にはわからない臭いらしいのでいいのかもしれませんが、ヴォルテールさん曰く「竜の眷属にとって、そのにおいはかなり恐ろしい」らしいのです。
 今日アルザスに転移して、まずはヴォルテールさんの所かなとあいさつに向かいました。空を飛んでいるその道中で、アルザスの飛竜(フォーセリアのワイバーンみたいな生き物です)を何度か目にしたのですが、前はお腹がすいていたりすると襲って来ることもあった飛竜たちが、全然近寄って来なかったのです。
 遠目に「あ、ワイバーンだ」って私が気付くぐらいのタイミングで向こうも気が付くのか、最初はこっちに向かって飛んで来ました。でも、ある程度距離が縮まって、目が合うくらいの近さになるとみんなみんな怯えたみたいになって、飛行進路を急に曲げて逃げ去ってしまったのです。
 そんな話をヴォルテールさんにしたところ、その「臭う」発言だったんですよ! レディー(のつもり)に向かってなんて失礼なんでしょう。例えヴォルテールさんでも事と次第によってはマグネシウムリボンものです。

 詳しく聞いてみたところ、どうやらアルゴスさんのせいだったみたいなのですけど。背中に着いてるアルゴスさんの血の跡が、ドラゴン関係の方々には大変気になる感じ――みたいです。
 ル・ルシエの里の長老さんなんて、前はそれなりなお客さん扱いだったのに、今日はなんだか、こう、ものすごーく丁重にされてしまいましたし……。
 キャロのお父さんの赤竜にも怯えられてしまいましたし……。
 はやてちゃんには「ドラゴンも曲がって避ける」とか言われてしまいましたし……。逃げたのはワイバーンだけで、ドラゴンのひとたちはそんなのじゃなかったのに! 

   不本意です 高町なのは





〇ドラマガ:ドラまた→ドラマガ→SW って方はどれぐらいいるのだろうか。なのはさんは魔法少女と言うよりこっちの系統の気がします。

〇ドールショップに魔人が潜む:リプレイ集アンマント財宝編より お兄ちゃんに邪妖精と岩ゴーレムを足したような方がゲスト出演している回でございます。 

〇キャロパパ:As漫画版を知っている方は、烈火の騎士とか言う強盗に襲われてボコボコに痛めつけられ、相棒の心を通わせた火竜をズンバラリンされ、リンカーコアを抜かれた上で荒野に放置された人を思い浮かべていただければ。この人、たぶんル・ルシエの関係者ではなかろうかと思ってます。竜召喚士ってレアらしいですし。

〇フリード:どう見てもワイバーン。

〇マーキング:ブラッド・プロテクションはどうにも「これ俺のだから」って感じのマーキングのように思えて仕方がありません。(竜王の)血が匂う暗黒神官なのはさんが気にかけているらしい女の子――それを追い出すなんてとんでもない。

〇お父さん:学歴は気にして無さそうなイメージがあります。海鳴に落ち着くまで子供を学校に通わせていたのかどうかも怪しい。電車賃が無くて親類の結婚式に行きそびれるような人なので……。



[40369] 執務官になりたい?
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/02/16 23:02


 ファラリスおじさまへ

 おじさまは大きいのと、普通なのと、控えめなのではどれがお好みでしょうか?
 いきなり何の話なのかと思われたでしょうが、これは結構重大なことなのです。
 簡単に言いますが、要するに「おっぱい」の話なのです。

「ちっちぇえな」

 これ、はやてちゃんのセリフです。ひどいと思いませんか!? 
 はやてちゃんが「たまにはミージュの姿でお風呂行こう」って言うから、仮面着けたままでお風呂とかちょっと変な感じだなって、そう思いながらも一緒に入ったのにこの言い方です。
 ちなみにローウェルちゃんは「このぐらいが良い」そうです。
 ついでに、ミージュのモデルになってる美沙斗さんはもう少し欲しかったと言ってました――そしてこうも言ってました。

「不破の血筋は、男は体格に恵まれるけれど、女は体つきが薄くなるんだ」

「不破」ってウチのお父さんの昔の名字なので、私も「不破」の血筋なのです。
 と言うことで、おじさまの好みは非常に重要なことではないのかと思いまして。
 お父さんに似た場合、私はそのお父さんの妹の美沙斗さんにも似てくると考えられるわけでして、そうすると割と薄い感じになりそうです。
 逆にお母さんに似た場合を想定して大人モードになってみると、割と、結構、それなりなのではなかろうかと思うのですが、その場合おじさまの子供好きのお好みと離れてしまうかもしれません。そうなった場合、私はいったいどうしたら良いのでしょう。いっそのこと、この間プレシアさんに取り上げられた「エターナル・チャイルド」を使ってみると

 そうですよね! おじさまは人を身体的な特徴で差別したりされませんよね。まったく、はやてちゃんは美沙斗さんに射抜かれてしまえばいいのです。二つがいい具合に混ざって中間になるかもしれませんし、未来はわからないから良いのです。
 参考までに、お父さんは「大も小もどちらも良くて、どちらもすばらしい」と言ってました。玉虫色の回答というヤツです。
 お兄ちゃんは「そんなバカなことを聞くな」って怒ってましたが、フィリスちゃんがああなのですから、きっとそうなのでしょう。周りに大きい人はいっぱいいたのに、選んだのはちっちゃいフィリスちゃんですからね。まったく、お兄ちゃんは早く結婚して、お医者さんで稼ぎの良いフィリスちゃんの主夫にでもなると良いのです。
 グレアムさんには聞いていませんが、使い魔のアリアさんと元使い魔のゼリーの前の人形態からある程度の想像がつきますよね。使い魔の姿って魔導士のイメージが結構反映されますから。
 なんだか、すごくどうでもよくてバカらしいことを長々と書いてしまいました。

 ところで、実際のところおじさまってどうなのでしょうか? いえ、おじさまにはっきりとおっしゃって頂ければ、私もそれなりの努力しようと考えているのですが 

 この話はこれで終了ですね 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 はやてちゃんを連れてランスター家に遊びに行ってきました。
 はやてちゃんはティアナが暗黒魔法を使えるようになっているかどうかについて、どうしても確認したいことがあったようなのですけれど、その確認したいことを私には教えてくれないのです。グレアムさんもプレシアさんも内緒話仲間のようですし、なんだか仲間ハズレにされているようで悲しい気持ちになってきます。
「もう少しだけ調べたら教えるから、それまでちょっとだけ待ってな」と言われてから、もうもうちょっと経った気がするのですけれど、いつまで経ってもそのもうちょっとが終わらない三日目です。
 そんなわけではやてちゃんは調べもので、私は単純に遊びに行ってきたわけなのですが、そこでちょっと面白いことがありました。
 はやてちゃんとティアナがなにかと張り合うのです。「むー」とか「うー」とか言いながら大人モードでミージュな私を両方から引っ張ってみたり、どっちのほうが魔法の勉強が進んでいるかについて言い合って見たりと、九歳と六歳で年齢が割と近いので気があったのかもしれません。

 私ですか? 私は大人モードですから、頼れる年上のお姉さんですから。落ち着いていて、クールでいなせな大人の女なわけです。いなせって何か知りませんけれど。
 お母さんと美沙斗さんとティオレさんを足して割らないような大人になれたらいいなって思っていますけれど、それはちょっと無理なんだろうなとも思っています。いえ、何事もやってみないとわかりませんね。
 とりあえず努力だけは続けて行きます。
 おじさまの魔法で人を治していけたらいいなって思っているのに、ここで大人の女の人として名前が出せないのがフィリスちゃんのいいところです。なんだかすごく身近に感じられるのは、それはそれで良いものです。弟や妹よりも先に、甥か姪ができるかもしれませんし! お姉ちゃんは本当のお姉ちゃんではないですけれど、やっぱりお姉ちゃんなので、お兄ちゃんの子供が早く生まれてくれたら、それはもう弟妹のようなものではないでしょうか。
 それで、大人な私は見た目は大人なリニスとお話をしていたのですが、リニスの話によるとティーダさんはいろいろとお悩み中のようです。「執務官を目指している、目指していてなりたいとも思っているけれど、でもティアナを置いてはいけない」と、アレですね、私も時々悩んでしまうアレです。やりたいことがいくつもあると、何をどうやっていいのかわからなくなってしまうのですよね。
 よくよく考えて順番をつけてきっちり済ませて行けばいいんや、なんて話もあります。
 一番効率よく全部を叶えられるように思考することが大切よ、みたいな事を言われたりもします。
 大事なものはたった一つだけで他はどうでもいいわ、だなんて振り切ってしまって迷いのない人もいます。
 でも、私は簡単に整理できないですし、効率よくってのもイマイチ苦手です。たった一つの何かのためにって言えるほどのものなんておじさまのことしかありませんが、特にそのために何かしなくちゃってことは無いのですよね。
 難しいことを考え続けると、頭から湯気が出そうになるのでここまでにします。悩みすぎるリニスは毛が抜けて十円玉ができていましたけど、リニスがどんなに悩んでみても最後に決めるのはティーダさんなんですよね。
 冷たい感じになってしまいますけれど、ティーダさんが自分でどう成りたいのか考えて、そう成れるように選んで決めて行動するしか仕方がありません。悩み続けているのも、それはそれでティーダさんがそうしたいと思っていることをしているだけなのかもしれませんし。
「考えるのはいいけれど、悩むのは時間の無駄だからやめろ」って誰かが言ってた気がしますけれど、いいんじゃないかと思うのですよね、悩んでいても。
 悩んだ時間は無駄じゃなないし、その想いはきっと兄妹二人とリニスにとって大切なものなはずですから。
 それに、まぁ、こういうことを書くとミもフタもないのですけれど、この話って時間が過ぎれば解決しますからね。ユーノ君は八歳で現場主任ですから、あと二年もすればティアナだって一人前に働けるってものです。
 九歳の私が一人前かって言われると、全然サッパリまだまだなのですけれど。
 いつになったら一人前の神官になって、おじさまにお会いすることができるようになるのやら。道はまだまだ遠くて、アルゴスさんがひとっ跳びで昇ってしまったらしい頂上にはなかなかたどり着けそうにありません。
 でも、美沙斗さんの話にならって十六歳までにはルーテジアさんや、アルゴスさんや、アルヴィンスさんにデーモン・ロードさんのような立派な神官になりたいです。ドクターは先輩ですけれど、どれぐらい先を歩んでいるのでいるのかって、ちょっと気になります。

   まだまだの あなたのなのは


 ファラリスおじさま

 どうも最近グレアムさんのところにミージュ・クランズを紹介してほしいって話がたくさん来ているようです。
 一応、ミージュって治癒魔導士のことは管理局でもあまり表に出ない情報になっているはずなのですが、人の口に戸は立てられないのでしょうがないですよね。
 二度と口をきけないようにはできますけど。
 グレアムさん的には、おじさまの魔法についてはできるだけ知られないようにしたかったみたいなのですけれど、グレアムさんにとってクロノ君は孫のような子らしいので慌ててしまうのもわかります。と言いますか、グレアムさんって私やはやてちゃんも孫みたいな~って言ってましたけど、子供ならみんな孫扱いなのでしょうか?  クロノ君は小さく見えるけれど本当は十四歳で、その上バリバリと働いているので「子供」って呼んでいいのかどうかわかりませんが。
 ユーノ君はもう一族の発掘作業の責任者を任されていますし、クロノ君は十歳ぐらいで(とても難しい)執務官試験に合格したようですし、これはちょっと私も負けていられませんよね。
 話が明後日の方向へと飛んでいくところでした。
 話を戻しまして、「ミージュをさがせ!」的なことが発生しているようなので、出かけるときは気を付けるようにってグレアムさんに言われまして、それからグレアムさんでも全部の話を断り続けるのも難しいので、たまに治療を頼むことになるかもしれないって言われて、了解したって感じです。
 治せる人はどんどん治してあげたいとも思うのですが、あんまり節操なくやっているとキリがなくなってしまうので危ないみたいです。ケガや病気が治る程度ならいいような気もするのですけれど、さすがに死者復活の魔法がどうこうって話が広まってしまって、それが本当だってわかってしまったらって考えると――うん、ものすごく厄介なことになりそうです。
 フォーセリアでは月四回のリザレクションデーなんてものがあったそうなので、復活の魔法は世間で良く知られた普通のことだったようなのですが、そんなことはすっかり忘れ去られた現代では「死者の蘇生は不可能」とか「死者蘇生は理論上可能だが、反動で術者が死ぬ。そして術者が死亡すれば復活した死者もまた死亡する」なんて迷信が本気で信じられているようです。
 あとは、グレアムさんも若いときには管理局の執務官としてバリバリ働いていたそうなので、良かったらティーダさんの相談相手になってあげてほしいなってお願いしておきました。面倒をみる家族もいない、逆に面倒をみてもらってばかりで働いたこともない私ではティーダさんのお悩みはよくわからないので、きっとその道の大先輩のはずなグレアムさんに頼むのが一番だと思ったのです。 
「コネとカネは惜しまず使え」って黒い肌の軍師も言ってたそうですし。

  まるなげなのは


 ファラリスおじさまへ

 まだ少しばかり早すぎるような気もしますが、でもなんとなできそうな気もするので、アリシアを生き返らせるための「リコール・スピリット」の儀式の準備をしています。去年の「闇の書」のときのように、みんなで演奏しますのでどうぞお待ちください。
 ずっと前に書いた通り、おじさまへ捧げるための歌を作りました。歌詞の中身はまだ秘密ですが、おじさまから頂いたプレゼントへの感謝と、プレシアさんのアリシアの思い出がもとになっています。
 おじさまはなんでもご存知ですから、本当はもう何度も聞いていらっしゃるのでしょうけれど、それはそれとしてどうかよろしくおねがいします。
 歌うの語源は「訴える」って説もあるんよ、って物知りハカセが教えてくれました。きっと、昔々の人たちも歌の中に願いを込めていたのかもしれませんね。

   あなたにねがいを 高町なのは




〇管理局の偉い人:柔軟性のあるいい人ばかりのような気がします。目標実現のためなら手段を選ばないところが(ファラリス的に)高評価。
最高評議会、全部の頂点で(やり方はともかく)善人。
レジアスさん、陸のトップで(犯罪者と結託してても)善人。
グレアムさん、海のトップ付近(推定)で(違法行為もあるけれど)善人。

〇コネ:管理局は割と人情人事らしい(公式)。大事ですよね人情。





[40369] ファミリアー・ファミリー
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/03/01 00:40


『なのはとはやてのモンスター&スペル・コレクション』

 〇ファミリアー:モンスター・レベル 術者による 
  呪文効果=動物を術者の使い魔とする


 リニスの一日

 リニスの一日は朝食の準備から始まる。主とその妹の体調と好みを考え、最適な食事を用意するのも家政婦型使い魔の大切な仕事なのだ。
 好みを考えるとは言ってもあくまで栄養重視、アレルギーならば仕方がないにしても。好き嫌いでのお残しは決して許しません。

「ピーマンきらい」
「ダメです。ちゃんと食べましょうねティアナ」

 リニスも朝から嫌いなものを出さなくてもと思わないでもないが、ティアナが大きくなってから「あの子、ピーマン食べられないんだって」「うわ、子供みたい」などとバカにされないためにも、小さな内から出来る限り好き嫌いを無くそうと努力しているのだ。

「ティーダもですよ?」
「……はい」

 十七にもなった立派な社会人がアレでは少々みっともない。主とその家族には格好良くあってほしいとリニスは願っているのだ。
 朝食が終われば見送りである。主のティーダ・ランスターは勤め先の時空管理局首都航空隊に、主の妹のティアナは魔法学校にとそれぞれ出発する。

「いってらっしゃい」
「いってきます」
「今日はそのまま夜シフト入るから」

 犯罪者は昼も夜も選ばない。ミッドチルダの首都クラナガンの安全を預かるティーダの職場は、勤勉な犯罪者達のおかげでそれなりに忙しいのだ。

「そういうことはもっと早めにお願いしますね」

 ティーダが居ないとなると本日の夕飯予定の食材が少し余ってしまうなどと考えつつ、リニスは二人を送り出した。
 その後は掃除だ。元々は親を亡くした兄妹二人だけで暮らしていた家なのでそこまで広くもなく、丁寧に丁寧に行ってもさほど時間はかからない。
 リニスは昼食をとらない。元々使い魔の存在は主の魔力によって維持されているので食事の必要はないのだ。朝と夜は「一緒に食べた方が楽しい」と言われているため共に食卓を囲むが、家族――ティーダやティアナからはそう扱われている――の居ない時には物を食べようとは思えないのだ。味がわからないわけでも、食に楽しみを覚え無いわけでもないのだが、必要のない経費を発生させることに抵抗を覚えるのだ。
 時空管理局の尉官となっているティーダの稼ぎはそれなりに良いので、リニスが少々食べる程度のことはなんでもないのだが、この使い魔はそういう性分なのである。

「ヒマですね……」

 一通りの家事を終えたらあとは自由時間。しかし、残念ながらリニスには趣味が無い。
 素体となった猫の姿に戻っての昼寝がある意味趣味と言えば趣味ではあるが、使い魔となったことで引き上げられた知力がそれだけに時間を費やすことをどうにも許してくれない。
 読み終えた本をもう一度読み返してみたり、ティアナの学校やティーダの執務官試験の勉強用の資料を再確認したりなどして時間をつぶす。
 ティアナの魔法の教科書には手をつけない。自らの素体となった猫の死体を運んできた女性、ミージュ・クランズがティアナに渡した教科書からは、奇妙な魔力が漂っており、外には何やら不思議な紋章が描かれ、中身は手書きの得体の知れない文字で埋め尽くされている。
 これを手にしていないと使えない魔法があるようなのだが、あいにくとリニスにはそのような魔法の知識は与えられていない。大魔導士の技術によって、ミッド式に限らず管理世界で確認されている魔法に関しては相当な知識を与えられているはずのリニスが解読できない代物となると、実はこの「教科書」はとんでもない値打ち物なのかもしれないのだが、ティアナもそれを渡したミージュもあまり大した物だとは考えていないようだった。
 考えてもわからないので、リニスは考えるのをやめた。
 猫のようでもあり、人のようでもある。使い魔の心は複雑なようで単純なのだ。

「今日のおやつはミージュのお土産ですよ」
「シュークリーム?」
「ええ、ミージュの魔法は素晴らしいですね。いつまでたっても食べ物が傷まないなんて」
「はやく使えるようになりたいな、それ」

 ぼーっとしていれば夕方になる。
 学校から帰って来たティアナの相手をしながら、リニスは「ああ、仕事があるって素晴らしい」と喜びをかみしめる。ティアナの面倒をみるために、リニスは創りだされたのだから。

「ティアナ、髪を伸ばすのですか?」
「うん、ミージュさんくらいにするの」

 リニスはティアナと一緒にお風呂に入るなどしながら、今日あったことを中心にして様々なことを話す。
 ティアナの両親は、ティアナが生まれて間もないころに亡くなっている。ティーダは兄として、父親代わりとしてティアナに愛情を注いできた。ならば自分に求められているのは母親の代役なのだろうと判断し、実行しているのだ。素体となった山猫の性質のせいなのか、それはリニスにとっても大変喜ばしい役割であった。


 皆さんは「ファミコン」と言う言葉をご存知だろうか?
 とある管理外世界の遊具のことではない。家族に対するコンプレックスでもない。
 近年管理世界で問題とされている「ファミコン」とは使い魔に向ける愛着「ファミリアーコンプレックス」のことである。
 一昔前までの使い魔は、用事があるたびに創造し必要が無くなれば消去する存在だった。それが近年、倫理的・人道的によろしくないとされ、使い魔を保護する法律が制定された。このことがファミコンの増大と社会問題化に繋がって行ったのだ。
 現在知られている最も古いファミリアー・コンプレックスの話は、かの伝説の都フォーセリアに住んでいたとされる魔術師クロゼルグの物語である。
 このクロゼルグと言う魔術師、あるとき懸想していた女性にそれはもうこっ酷くフラれてしまうのだが、そのことで狂乱したクロゼルグは自らの使い魔の黒猫に変化の呪文をかけてフラれた女性そっくりの姿へと変えてしまったのだ! その後の話は省略するが、物語の最後には「こうして猫の耳と尻尾を備えた一族が生まれたのだ」と記されていることは書いておこう。
 使い捨てではなく長く長く付き合うことになる使い魔を創造するにあたって、自分の好みから外れたものを生み出そうとするものはまずいない。それが人型に変化する高度な使い魔であるなら、その外見には術者の好みが必ずと言ってよいほど反映されるのだ。魔法の根本に術者のイメージが影響する以上、これは避けられない事象である。
 こうして生まれた使い魔は、基本的に術者に対して好意的で献身的である。主のためならばその身を犠牲にすることすら厭わないなどいう者も珍しくはない。主の体調を気遣い、精神的なリンクもあるため主の心情をよく理解し、主のためならばどんなことでもしてみせる。
 このような存在を身近に置いて、愛着を抱かずにいられようか? 数か月で消えてしまう存在であればまだしも、法律によって保護された使い魔たちは主が魔力的に問題ない場合はその一生のほとんどに付き従うのだ。
 この愛すべき使い魔たちと、人間の異性(場合によっては同性かもしれないが)を比べてしまい。
「こんな面倒なヤツより使い魔の方が全然いいや」となってしまう心的状態をファミリアーコンプレックスと呼び、それによって発生している諸問題が現在話題となっている「ファミコン問題」である。
 新暦の世界ではエネルギーとしての魔力を重視し、それを扱う魔導士を重用している。ファミコンになりやすいのは、こうした世の中で活躍している高位の魔導士たちなのだ。人型の高位使い魔を持つ者の大半は魔力に余裕がある高位魔導士であり、そうした魔導士はその能力故に忙しく、そのサポートとして使い魔を製作することが多い。人間のパートナーと違って使い魔たちはまず裏切ることが無く(主の魔力で存在を維持しているのだから当たり前であるが)、また前述したように精神リンクによって主の感情を読み取ることができるため(主には)非常に気が利く。
 使い魔と主が喧嘩や口論になる場合、原因は概ね主の側にあると言われている。主に何かしら問題があって、それを使い魔が直そうと、諌めようとして――といったことが多いらしい。
 忙しい状況、気が利いて外見的にも内面的にも好ましい「使い魔」と言う生涯の相棒の存在。これらが合わさって、高位の魔導士ほど既婚者が少なくなって来ているのではないかと騒がれているのだ。
 この問題の解決策は簡単だ。いにしえのクロゼルグ師にならって、使い魔との間で子供が生まれるようにしてしまえばいいのだ。そうすれば魔力に恵まれた魔導士の減少を気にする必要もなく……(ここから先は延々とケモノ耳の良さについて書かれている)


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 グレアムさんの教会で
 ファラリスおじさまへ

 グレアムさんが退職後のためにと教会を購入しました。
 時空管理局のお仕事を辞めた後は、ミッドの田舎でおじさまの教えをみんなに伝える仕事をするのだそうです。
「とってもすばらしい人生計画だと思います」って言ったら「そのときには手伝ってくれるかね?」と聞かれたのでもちろん「はい」と答えました。
 とはいえなんとも悔しいことなのですが、管理世界ではおじさまの御名前はあまり知られていませんので、最初は「聖王教会系の分派」として活動するそうです。そこからだんだんと広めて行くつもりのようですけれど、なんだか、やっぱりそこは気に入りませんね。

 聖王教会については前にティアナと見学に行った時に書いたような気もしますが、もう一度おさらいしてみます。
  見学の時にニノさん(聖王教会の話しやすいシスターさんです)に聞いた話によりますと、今の聖王教会は主に古代ベルカの英雄「聖王」を崇めている管理世界で最大規模の宗教団体です。「聖王」の血族や、その聖王の一族に仕えていた騎士たちも信仰の対象のようなのですが、やっぱりたくさんの偉業をなした「聖王」本人が圧倒的な人気(人気って言って合ってますかね?)です。
 他の知られている宗教と比べて禁忌や制約がほとんど無いも同然なので、気楽に信仰できるところがウリで、そのおかげなのか信徒の数もものすごく多くて、時空管理局や主要な世界への影響力もやっぱりものすごく強い――みたいです。何に使うつもりかわかりませんが「ロストロギア」の収集と保管に熱心なことでも有名です。
 そんな聖王教ですが、本当は崇める「神」がいたようなのです。
 聖王教の元々の始まりは「最後のゆりかごの聖王」オリヴィエ・ゼーゲブレヒトがあるときに神の声を聞いたことから始まったのですから。
 ただ、その神さまの名前は伝わっていません。人々は姿も名も知らない神を崇めるよりも、神の声を聞き、戦乱の世の中を統一したオリヴィエ自身を分かりやすい信仰の対象としたのです。
 そうして、いつしかその名も無き神のことは忘れられてしまい、神よりも王を崇拝する「聖王」教になった――その教会のシスターさんが言っているのですからそういうことなのでしょう。
 声を聞いた神さまの名前を伝え忘れるなんて、オリヴィエはきっととてもヌけた人だったに違いありません。それに控えめでたれ目で、ついでにいじいじといじけた性格で、周りの顔色をうかがって、泣きたい時でもいつも作り笑いをしているようなバカな子に違いありません。だから私は「聖王」なんて名前は好きではないのです。
 ごめんなさい、なんだか悪口ばかりになってしまいましたね。でも、どうしてかそれを読んでいただきたいと思っているのです。

   オリヴィエの神さまはなんて名前なのでしょうね? 
    高町なのは


 おじさまへ

 今日なんとなくランスターさんのお宅にお邪魔したのですが、ティアナとティーダさんはそれぞれ学校とお仕事でお留守でした。
 そこで、家の中でヒマそうにしていたリニスを捕まえ、ご近所の喫茶店でお話をしてきたところ、執務官を目指すティーダさんに良い話があったことがわかりました。

「本局次元航行部のハラオウン執務官から、執務官補佐にならないかって話が来ているようなんです」

 リニスから話を聞いてグレアムさんに確認したら、ハラオウン執務官ってクロノ君のことでした。どうもグレアムさんがクロノ君に話したみたいで、そこから話がころころ転がってそんな感じのことになったみたいです。
 クロノ君もこの間の事件ことがあって、エイミィさんのような後方支援の補佐官だけではなくて、現場での副官が必要かもしれないって思っていた所だったようです。

 グレアムさんは「クロノは優秀だが、少々堅すぎてな。ランスター君のような、ある程度年齢の近い年上の男が身近にいれば、少しは柔らかくしてくれるのではないかと思ってな」と言ってましたけど、私の印象だとクロノ君はお堅いと言うよりもすごく緊張しやすいように見えたんですよね。あんまり話していないのでただの印象ですけど。

 執務官補佐って、ある意味では執務官になるよりも難しいようです。
 基本的に執務官が執務官補佐の資格を持っている人の中から「必要に応じて選ぶ」ので、必要ないって思っている執務官には一人も補佐官がいないし、逆にたくさんの補佐官をつけてチームを組んで仕事をしている執務官もいるのだそうです。
 そんなわけで、現役の執務官と何かしらの縁が無いと執務官補佐になれることってめったにないみたいです。ものすごく優秀で有名な人ならスカウトが来るかもしれないのですが、そういう人って当のクロノ君みたいにささっと執務官になっちゃうようなんですよね。クロノ君が今十四歳で、もう何年か執務官をやっていて、その前はエイミィさんと管理局の士官学校に通っていたようですから――クロノ君もユーノ君と一緒で、十歳になる前にはもう働いてたんですね。

 それで、すごいなーって言ってたら、「ウチのティーダだって、十二のころから男で一つでティアナを育てて来たんですよ」ってリニスに言われてしまいました。

 そうなんですよね。ティーダさんもすごいんですよ。
 二年後になっても、私が一人でちっちゃい子を育てながら働いて、がんばって行くなんてできそうにはありません。管理世界の男の子はみんなすごい! 
 まぁ、リニスは家でゴロゴロしているだけのぐーたら猫ですけど。猫ですからね、働かなくてもいいんです。ゼリーは働かせてますけど。
 私は頑張ってますよ? 朝起きて、お祈りをして、ご飯を食べたら発掘の様子を見に行って、それからアルゴスさんと遊んで、それから歌の練習をして、昼ご飯を食べて、お昼寝をして、また練習したり調べ物をしたりして、それからお夕飯を食べて、お風呂に入って、手紙を書いて、お祈りをして、おやすみなさいですからね。一日中スケジュールでびっしりです。
 もう忙しくて忙しくて大変、大変。

「ティーダのためには良い話だとは思うんです。でも、次元航行部隊って言ったら何か月も船に乗ってって職場ですから……。今でも帰って来れない日が多いのに、それがもっとってなると、ティアナがさびしがるんじゃないかと……」

 グレアムさんも昔は船に乗っていて、航行中がヒマでヒマでしょうがなくて楽器を覚えたって言ってましたね。グレアムさん的には、ティーダさんが今すぐに執務官を目指すのなら、ティアナと切り離されたところへ行った方がやり易いだろうし、やっぱりティアナの方が大事ならそれはそれで良いから、グダグダ悩んでいる姿を家族に見せて心配をかけるな――ってことみたいです。
 前に「考えるのはいいけれど、悩むのはダメ」なんてことを書きましたが、グレアムさん曰く「命の現場では考えているヒマもない。すぐ決めなければダメ」だそうです。現場ってきびしいのですね。
 グレアムさんは例え話もしてくれました。

「大きな岩が坂の上から転がってきた。左右どちらに避けるかね?」
「えーっと、左右の状況はどうなってますか?」
「君は岩につぶされてしまったよ。そんな場面で考えているヒマなど無いんだ」 

 最前線ってきびしいですよね……。ちなみに答えは「砲撃で岩を吹き飛ばす」でも、「空に飛んで避ける」でも良かったのです。与えられた選択肢だけではなくて、自分ができる範囲から最善の行動を最速で導き出せって言われました……私、管理局で働くとか絶対無理だと思います。
 そんな恐ろしい管理局で最強とか言われている戦技教導隊って所には、きっと鬼のような人たちがゴロゴロしているのでしょう。
 同じごろごろなら、リニスやゼリーたちと居間でごろごろ昼寝していたい。そんな風に考えてしまう、高町なのはなのでした。


 天高く猫ハゲる秋
 ファラリスおじさまへ

 リニスに十円ハゲができていました。悩みすぎて耳としっぽの毛が抜けて、頭から十円玉がでてきてしまったのです。もうちょっと気楽にできないのでしょうか。ティーダさんはティーダさんのやりたいようにやるだけですし、それに対してティアナがどうしようとどう思おうと、それもやっぱりティアナの思いたいようにやりたいようにってだけなんです。結局のところは。
 いえ、相談してもらえれば相談にのりますけどね、リニスの話し相手をしてるみたいに。
 ティーダさんはクロノ君の提案に結構乗り気みたいです。ティアナを任せる相手(使い魔)が居ますからね。
 で、それについてその当の使い魔であるリニスが「私が居なければ、ティーダはそう考えなかったのではないか。私のせいでティアナが……」とうんうんうなってるわけなのです。
 そんなことを言われると、「使い魔を創ったらいいのでは?」って最初に持ちだした私が悪いみたいじゃないですか。グレアムさんにティーダさんのことをお願いしたのも私ですけど!
 ティアナがさびしいだろうなってリニスを連れて来て、ティーダさんの助けになるといいなってグレアムさんに紹介したのに、なんかそのせいで考えると、私までうんうんとうなってしまいそうです。どうやらリニスの病気がうつってしまったようです。

 そうですね。悩みたければ悩めばいいですよね。

 プレシアさんも「戦うのは戦士の仕事、剣の世界は直感の世界。考えるのは賢者の仕事、本の世界は思考の世界。悩むのは神官の仕事、祈りの世界は思想の世界」って言ってましたしね。

 言葉の意味はよくわかりませんが、なんだか説得力がある気がします。たしか、「幸運の意味」について死ぬまで悩み続けた幸運神の神官の話もありましたし、神官は悩んでいても良いような気がしてきました。

   おやすみなさい あなたのなのは





〇ティーダ・ランスター(17):ミージュ(潜在的なロリコン道、見込みは無い)と、リニス(顕在なファミコン道、見込みは高い)どちらを進んでも既にシスコンなので問題ない。

〇執務官補佐:Stsの後日談でティアナがフェイトの補佐官になった話を読む限りでは、執務官本人が付けるかどうかを人数含めて決定している様子。ハラオウン執務官とランスター執務官補佐、原作通りなので問題ない。

〇考えるヒマがない:とらは3の選択肢でちょくちょくあるヤツ。でも、とりあえず「神速!」と選んでおけば問題ない……はず。



[40369] ゲセナの嘆き
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/03/02 00:07


『なのはのモンスター・コレクション』

〇ドッグ(犬):モンスター・レベル=1

 男は追われていた。
 木の枝が腕に顔にと当たり細かな傷を次々と生み出すが、男にはそれを気にしている余裕は無い。
 薄暗い森の中で男を追って来るのは、血走った眼をした犬の群れだ。
 犬達の足は男よりも速い。まして、枝が走る人間の上半身付近を妨げるような場所とあっては一分も経たずに捕らえられてもおかしくはないはずだった。

「なんで……っ」

 息が苦しい。もうどれだけの時間を逃げ続けているのか、男にはわからなかった。犬の群れは男と山中の道路の間を塞ぐようにして追い回しながら、時折襲い掛かっては逃げる男の身体をじわりじわりとその牙と爪で削り取っていた。
 男の脚に、背に、腕に、幾つもの浅い傷跡が刻まれ、そこから流れ出る血がボロボロになった衣服を赤く染めている。
 どこか遠くで絶叫が上がった。それは男の仲間の声のように聞こえた。
 ああ、アイツも同じなのか。自分を置き去りにして逃げた者も同じ目に合っていると思うと、男の気は少しだけ晴れた。
 そんなことに気を取られたのがいけなかったのだろう――あるいは犬達が男を追い回すのに飽きただけなのかもしれないが――ふくらはぎに牙を突き立てられた男はその場に転倒してしまった。倒れた勢いで、腐った葉でできた土が男の口や目に飛び込む。

「うぐぇっ!」

 男が口の中の土を吐きだし、涙の止まらない目で自周囲を見回すと、十匹を超える犬が男をグルリと取り囲んで涎を滴らせていた。

「助け……」

 いくら泣き叫んでみても、助けがくるはずもないことは男も承知している。そんな場所だから、男たちの「楽しみ」に都合がいいと考えてやって来たのだから。
 犬達が男の手足に噛みついた。指が順に食い千切られる。まるで、出来るだけ苦しみを長引かせようとしているかのように、犬の群れはゆっくりと少しずつ男を喰らう。
 慈悲のとどめは、最後まで与えられなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 アリサちゃんが「あたしをさらって」と言ったから、九月三十一日はさらった記念日

 小学校に二年しか通っていない私ですが、「にしむくさむらい」くらいは知っています。と、念のために書いておきます。
 世界はたくさんあるのに、人の住める星々では何故か一年の長さはあまり変わらないようで、一年は三百六十五日なところが大半です。
 フォーセリアは一年が三百六十日だったみたいなので、ちょっと変わり種ですね。それと同じように、ところによっては九月三十一日がある世界も存在するのです。
 
 私がランスターさんのお家のことで朝からうんうんとうなっていると、アリサちゃんがこう言いました。

「おじょうさん、気分転換にデートしませんか?」

 そんなわけで、そう言えばアリサちゃんと出会ってからもう一年が過ぎたねってことで、二人でお出かけすることになりました。はやてちゃんは留守番です。
 行き先は頼れる幽霊さんの希望で、初めて出会った廃ビルに始まって、アリサちゃんのお墓に、山奥の曰くつきの場所となんともステキな仕様です。
 
「あたしってさ、ここで殺されちゃったんだけど、知ってた?」

 なんともぶっそうなことを言い出したアリサちゃんでしたが、そのあたりは去年の内に調査済みです。
 二人で、ときどきゼリーも入って三人で遊んでいた場所は実は殺人現場だったのです。暗いし、寒いし、さびしいし、その上そんな場所だから無理矢理連れ出したわけなのですが。
 もしかして、またここに戻りたいって言いだすのかな? なんてちょっと思ってしまいましたけど、アリサちゃんは「さらってくれて、ありがとね」って言った後はうつむいてプルプル震えてるだけでした。
 それはそれはヒドい殺され方をされたアリサちゃんなので、その現場に帰ってきたら怖くて震えてしまうのもしょうがないことです。
 ふれることができないので、本当に手をつなぐことはできないのですが、そこは気持ちの問題ということで、しばらく手を握っているような感じにしていたら落ち着いてくれました。
 最初に会ったころは、死んだ時のことを覚えていないから成仏できないとか言ってたと思うのですけど、いつの間にか思い出してしまったんですね。

次に行ったのは藤見台の丘の上にあるお墓です。藤見台に登ると、海鳴をぶわーっと見渡すことができるんです。ここには一応、高町家のお墓予定地もあるのですが、今の所は予定のままです。たしか月村さんちのお墓もあったような気がします。
 で、そこにアリサちゃんのお墓もありました。
 簡単なつくりで、英語でアリサ・ローウェルって書いてあるだけの、ちょっとさびしいお墓。少し前まで秋のお彼岸だったせいか、周りのお墓の多くには花が飾られていたりするので、それで余計にそう見えるのかもしれません。
 お墓は西洋風なのにお彼岸参りするんだって思わなくもないですが、日本はこういうのなんでもありですからね。西洋でもそういう風習があるのかもしれませんが、海鳴近辺の人たちがみんなそうだとは思えませんし。
 アリサちゃん、ごめんね。お墓のこととか考えてなかっ
た。
 いつも元気に(?)しているから、全然気にしていませんでしたが、死んでしまっているから幽霊をしているわけでして、お墓ありますよね。
 謝ったんですけど、「それは別にどうでもいいの」って言って悲しそうな顔をするばかりでした。

 その次は海鳴からずいぶんと離れた山の道路です。姿を隠して飛んで行ったのですが、車も人もまったく通っていませんでした。

「ここ、昼間でもこんなでしょ。夜になると全然人が通らなくてね。でも、何年か前にね、ここでひどい事件があったの」

 そう言ってアリサちゃんが指差した道路のわきには、花が捧げられていました。

「夜中にここを走っていた運転手が運転を誤ったみたいで、そこの樹に車をぶつけて壊したのよ」

 捧げられていた花の束が、突然に吹いた風にあおられてバラバラになって飛び散ります。木の葉がパシンパシンといくつもはじけます。アリサちゃんの起こしたポルターガイストは、しばらくの間あたりをめちゃめちゃにしました。
 普段がとっても面白くて優しいの忘れがちですが、アリサちゃんは本当は悪霊で怨霊なので、怒るとものすごく怖いんです。実害はあんまりないので、顔と雰囲気だけなんですけどね。

「それで、運転手と一緒に乗っていたその『友人』二人が、運悪く野犬の群れに襲われて食い殺されちゃったのよ。……車に乗ってて生き残ったのは、乗っていた車にはねられたらしい女の人一人だけ。その女の人は家に帰る途中で車にひかれて、そこから後のことは何もわからなかったそうよ」

 デュランダルが録音してたアリサちゃんの声を聞き返すと、かなりおどろおどろしい感じで、いかにも私は怖いオバケですよーって感じです。どうでもいいのかよくないのかわかりませんが、幽霊の声って録音できるんですね。魔法の杖だからでしょうか? 
 アリサちゃんが仕返しをしてたことって、去年ゼリーが(実際はグレアムさんかもしれませんが)調べてくれてたので「たぶんそうなんだろうなー」くらいには知っていました。幽霊の世界はよくわからないので、その後になって、殺された時からのイヤなことを忘れてしまったのかと思っていたのですが、どうもアリサちゃんはそのあたりキッチリ覚えていたみたいです。
 それでどうもこのことがわかった私に嫌われると思って、でも言わないでいるのも後ろめたくて、うじうじしてたみたいなんですね――こっそりと。
 アリサちゃんは「あたし怖いんですよ」アピールをしているのに、私がそれにのっかってアリサちゃんから離れるようなそぶりをすると、今にも泣きだしそうな顔になったのです。
 私って性格悪いのですかね。アリサちゃんのその姿に、こう、なんと言いますか、キュンキュンきてしまったのです。
 ここで上手いことを言えるといいのですが、とっさに名セリフが出てくるような頭の回転力はないので、とりあえずいつも通りにしてみることにしました。

「アリサちゃん、ライドオーン!」

「は?」とか「へ?」とか言って反応がにぶかったので、こう身体の中に押し込むような感じで(さわれないので気持ちの問題なのですけど)、グイグイとしながら「ライドオーン」と何度か言っていたら、ようやく入って来てくれました。
「バーカ」とか言われた気もしますが、気にしません。やってから考えるのが現場らしいですから、ええ。

「また連れてってくれる?」と聞かれたので、

「私は闇の竜と契約した悪い魔法使い。お姫さまをさらうのは得意技です」

 とちょっと気取った感じで返したら、また「バーカ」って言われてしまいました。
 バカバカ言う方がバカなんだってよく言いますよね。
 そんなおバカなお姫さまがゆうかいを希望されたので、もう一度さらってきました。
 アリサちゃんは自分の誕生日を知らないそうなので、来年からは九月三十一日にお祝いをすることにします。 

   悪い魔法使い  高町なのは


 十月にはいって
 ファラリスおじさまへ

 アリサちゃんがわがままを言って困らせます。
 アリシアを生き返らせるために、みんなで歌の練習をしていることは何度も書いていますが、アリサちゃんだってそのうちにって考えていたんです。
 それなのに「私は生き返りたくなんかない!」て言って嫌がるのです。
 これを聞いたプレシアさんがひっそりとダメージを受けてました。結構仲が良いので、この二人。なんでも魂が存在することを確認できたことの意味は大きいのだとかどうとか言ってましたけど、魂があるなんて当たり前のことを改めて確認する必要ってあるのでしょうか?
 プレシアさん的には、長年の研究が無意味になるくらいの大事だったようなのですけれど。プレシアさんの記憶転写と器の作成の研究が無かったらリコール・スピリットができないので、研究の意味はすごくあったのですけども。

 アリサちゃんの話でしたね。
 生きていた時に良いことなんてほとんどなかった、死んでからの方が私やみんなに出会えて楽しかった。なんて言われちゃうと、ちょっと照れますよね。
 それに、まぁ、そのいろいろとデリケートなこともあるようで、ええ。
 あとは、その、ですね。アリサちゃんってアンデッドなんですよね。
 アリサちゃんは何度か行くべきところに行こうとしたのに、それを引き留めて亡霊のままにしているのは、高町なのは、お前のせいなんだぞって言われてしまうと、どうにも言い返せません。
 どうせ私は悪い魔法使いで、あの世に旅立とうとしてる友だちを捕まえて「行っちゃイヤだ!」とか言って呪縛した元凶なんです。
 アンデッドなアリサちゃんの魂は歪んでしまっているので、普通に復活させようとしても器に入らない。でいいのですよね? おじさま。
 そんなわけで、アリサちゃんを生き返らせようとしたら復活の奇跡よりも難しい、魂の救済の魔法が必要になってしまうわけでして――ええ、私が難易度を上げたんです。ええ、ええ、ちゃんと責任を取って、死んでからもアリサちゃんの面倒をみますとも。「一生……死んでも離さないから」とか言わなくてもわかってます。別に幽霊が憑いてくるくらいイヤではありませんから、アリサちゃんは大好きなので、うれしいぐらいです。
 そんなわけでして、もしも何かがあって私が死んでしまいましたら、転生とか、バンパイアになるとか、そういう……あつかましいですよね。なんとかがんばって、最低でも幽霊になれるようにしようと思います。
 一人ぼっちで呪縛された場所から動けないのって、あれ本当にさびしくて仕方がないですからね。友だちをあの状態で放っておくことはできませんので、せめて話し相手にはならないと、です。

   がんばります 高町なのは

 追しん
  アリサちゃんがうじうじと悩んでいたことを話してくれたのって、私がうんうんと悩んでいたからじゃないかって気がしてきました。
 自分がやってみせることで、応援してくれたのかなって考えると、うん、なんだかやる気がわいてきますね。      





〇ゲセナ:「自由人の嘆き」の登場人物で、ロマールの軍隊に蹂躙された村の生き残り。

〇犬:ルールブックでは特別扱い。モンスターたちの代表者とされている。



[40369] 進め! 未来の大英雄
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/03/07 19:25


 ファラリスおじさまへ

 グレアムさんが管理局引退後の余生の過ごし方として、おじさまの教えを広める道を進もうとしていることは前に書いたかと思います。
 そのために今では使われていない古い教会を手に入れて、修理修繕して使えるようにしていたのですが、そこに聖王教会からお手伝いの人が派遣されてくることになったのです。
 時空管理局のグレアムさんに近しい人たちは、聖王教会と仲が良いらしくて、そのグレアムさんが老後を信仰に生きようとしていると聞いて「お手伝いしましょう」と人を回してくれたようなのです。一応、表向き、最初の内は聖王教会の分派のような体裁で話を進めようとしていますし、今の仕事でも仲良くしているので断りにくいようで困ってしまいますね。
 おじさまの教えを広めようとしているのに、横から聖王教会の人が出て来て「それは違います。ここはこうです」なんて言い出したらどうしましょう――なんて心配をしてもいたのですが、お手伝いの人もさすがに毎日来るわけではないようだったので、そこはちょっと一安心です。いつもいつも見張られていたら(向こうにそんな気が無くても)疲れてしまいますから。
 と、何年後かもわからないグレアムさんの老後の楽しみについて心配するのはここまでにして、これからのヒーローを目指す女の子のことを書くことにします。実は、グレアムさんのお話を聞いてきたのは、ティアナのことを頼むついでだったので。

 魔法の弟子について管理局の偉い人に頼んだこととは、しょくたく魔導士の試験ついてです。
 時空管理局はなかなか話のわかるところのようで、実力さえあれば何才からでも働くことができるようなので、「ティアナをティーダさんと同じ職場にできませんか?」とお願いしてきたわけなのです。
 それで、まぁ普通の事務職員として働くにはさすがに若すぎるし、勉強が足りないと言われてしまいました。これについては、まだまだティアナも勉強中なので今後に期待してもらうしかありません。
 ただ、時空管理局にはしょくたく魔導士という制度がありまして、そっちだと「特例」として働く場所を選びやすい上に、「特例」として魔法の能力を示すことさえできれば大丈夫なのです。
 この制度ができたのには色々と理由があったようなのですが、そんな難しい話はどうでもいいでしょう。大事なのは、これを利用すればティーダさんが執務官補佐になれた場合に乗り込む船に、ティアナも一緒に着いて行けると言うことです。 
 普通ならしょくたく魔導士の試験はそれなりに難しくて、筆記試験に、儀式魔法の試験、それから魔法戦闘の試験と盛りだくさんなのです。でも、そこも「レアスキル持ちの特例」を利用すれば――あら、不思議、そこには新しいしょくたく魔導士の姿がありました! と、なるのです。
 初歩の魔法のキュアー・ウーンズができるだけでも、重傷を素早く癒せる魔法は貴重らしくて、すっぱりとオッケーでした。よく知られている魔法では、任務中に重傷を負ったときに何か月も入院しなくてはいけないことがよくあるそうなのですが、おじさまの魔法ならそれもこれもすぐに治せますから当然ですね!
 ティアナはお医者さんのお手伝いみたい扱いになって、危ない前線にはでなくてもいいそうなのでティーダさんも安心です。

「大事なのは能力と意思。他のことは過去も出自も何も関係ない」

 時空管理局で人事担当をしているレティ提督の言葉です。いい言葉ですよね。
 その後、「協力的で役に立つのなら、おとぎ話のダークエルフやゴブリンでも、仮にデーモンであろうとも、あるいは幽霊、はたまた人造人間だろうが、その上犯罪歴があろうが構わない! あなたの隠している素顔がどんなでも、局は受け入れるから一緒に働かない? 働かない? 働きましょう!」
 と続いて、勧誘がすごかったことには「あはは」と笑ってやりすごすことになりましたけれど――ティアナのことを「魔法の弟子です」って紹介した時の、レティさんのエサを前にしたヘルハウンドのような目が忘れられません。
 管理局のお仕事に興味がないわけでもないのですが、お金に困っていないのにお仕事をして、職場の決まりにしばられる気にはなれないのです。人助けがしたい気分になったら、その場その場で勝手にやればいいのですから。
 ティーダさんのように「執務官になりたい!」って思っていたり、ティアナのようにそんな家族と離れたくないって想いがあるのなら別なのでしょうが、私って基本的に団体行動が苦手なのです。

 ティアナ、先生はあなたをレティさんに売り飛ばしてしまったかもしれません。
 でも、「兄さんと一緒に行きたい」って言ったのはティアナなのだから、ティーダさんともどもがんばってね。先生は応援しています。
 それから、私が魔法をティアナに教えていることが「治療魔導士のミージュ・クランズ」を探している人たちにバレてしまったせいで、保護のためにもお兄さんと同じところに居た方がいい――となってしまったことは、ごめんなさい。いやもおうもなく学校の友だちから引き離すことになってしまいました。

   先生は身勝手なのです ミージュ・クランズ


 教会(予定)から帰ってきて
 ファラリスおじさま

 先日お伝えした、グレアムさんの教会のお手伝いさん、これがなんとニノさんでした。
 オリヴィエなんかを信仰している人の割には話しやすかったはずのニノさんですが、今日はちょっと(かなり?)変でした。
 まるで月村さんちのメイドさんのような態度で私に接してくるのです。いえ、何と言いますか、もっとこう、それよりもうやうやしい(?)雰囲気だったかもしれません。
「何でも言いつけてください」と言われたので、冗談でミッドの料理屋さんのヤキトリ(前にティーダさんに連れて行ってもらったお店にになぜかありました)が食べたいと言ったら、本当に買いに行こうとしてしまったのでビックリです。なんだか目つきも怪しいと言いますか、熱っぽいと言いますかで、正直、ちょっと怖かったかもしれません。
 ニノさん、いい人だったのにどうしてあんなことになってしまったのでしょう。
 理由が気になりますが、嫌な予感がするので聞いていません。聞きたい気持ちよりも、聞いたらダメだって気持ちがずっと上を行ったのです。
 うっかり演奏会の練習をしていることを話してしまった時などは、「私も参加させてください!」ととんでもなく熱心に頼まれてしまいました。
 おじさまの神官として、本人がやりたい、参加したい、是非ともどうかお願いしたい、とまで言うことを断るのはとても気が引けたのですが、ニノさんはオリヴィエの信者だから仲間に入れてあげません。

   心の狭い 高町なのは  


 ファラリスおじさまへ

 はやてちゃんはとんでもない子です。
 私の秘密にしていたことを勝手にティアナにバラしていたのですから、これはもうオシオキものでしょう。
 そうなのです。ひとがようやく決心して、ミージュさんは本当は高町なのは(九)と話をしたのに、「あ、はい。知ってます」と返ってきたら、もうビックリですよ。前からそうですけど、色々な人におどろかされてばかりの私です。
 ビックリさせようとして、カウンターをもらってしまった私は、そのわけを知りたくてはやてちゃんを問い詰めました。
 そうしたら、どうもティアナが私のことを「お姉ちゃん」と呼ぼうとしていたので、それを止めるためには仕方がなかったんや、とか言い出したのです。わけがわかりません。
「お姉ちゃん」ってステキなひびきですよね。それなのに、それなのにはやてちゃんがそれを邪魔したのです。
 犯人は、いろいろとマズいのではないかと思って……、などときょうじゅつしていましたけれど、これはもう大変なことです。
 ティアナから、六年くらいあとにまた考えてみます。って言われていなかったら、私を呼ぼうとすると自動的に「お姉ちゃん」と呼んでしまう呪いをはやてちゃんにかけていたかもしれません。
 受験勉強で忙しいランスター兄妹に迷惑をかけるなんて、はやてちゃんは本当に悪い子ですよね!
 読んだ話では、大地母神は「仲の悪い夫婦の間に子供を授けた」ことがあるそうです。
 おじさま、私のお父さんとお母さんは、とても仲が良いのです。仲良しさんなんです。仲が悪くても授かるのですから、仲が良かったらもっともっといいはずですよね? 

   祈り願う あなたのなのは


 おじさまはマンガを読むことがありますか? 私はよく読んでいます。
 と言うのも、はやてちゃんがよく借りて来てくれるからです。せっかくそこにあるのに読まないなんてもっていないですし、面白くて、発想も豊かになるといいことばかりです。
 巫女のお姉さんの暮らしている寮から借りて来たマンガの数はもうどうれぐらいになったのでしょう。未だに読んでいないものがゴロゴロとあることが、うれしいのやら、おそろしいのやら。
 ここから先はマンガに関わることばかりなので、興味が無かったらさっぱりわからないかもしれません。でも、おじさまは博識なので、きっと全部分かると思います。

 寮の本棚のラインナップはたいへんに豊富で、熱血スポーツバトルマンガ「エースをくらえ!」、爆発刑事ものマンガ「太陽にもえろ!」、ロボットアニメ「鋼鉄シリーズ」の漫画版、中世の騎士物語の「ナイツオブナイト」に「ローラン戦記」、「夏色の旅」と「千の眠り」、「夜の唄」に「夜の国」。それから忍さん一押しの「ハイテクさんが通る」。まだまだいろいろと並んでいるのですが、キリがないのでこのあたりにしておきます。

 マンガは面白いのですが、マンガはマンガで現実ではないので、お父さんたちまでその影響を受けていたことには、どう反応を返していいのかわかりませんでした。
 前に手伝ってもらった時のように、お父さんたちに何かを頼むときには、翠屋のシフトが書かれているボードに、「えっくすわいぜっとと書きこむんだぞ」って、ちょっとふざけすぎてはいませんかね? たしかに昔はそれなりにアブない普通の暗殺者をしていたお父さんです。その次にはボディーガードの仕事をしていたお父さんです。
 ちなみに、お父さんの実家と「アスラの門」や「アスラの刻」は関係が無い……はずです。そのはずなんです。
「名字」と言われて、うぐぐ。「家の代々のお仕事」と言われて、ぐぬぬ。確かに何百年も続いていたらしい「そういう家柄」ですけど。他にも、表の家柄として御神さんちがあったりしますけど。素手だったり武器ありだったりで、いろいろとぶっそうきわまりない技がいっぱいありますけど。
 ええ、まったく関係ありませんとも。お父さんが言ってたから間違いありません。



 ファラリスおじさまへ

 ティーダさんもティアナも無事に試験に合格しました。
 前々から執務官になるための勉強をしていたティーダさんですから、その補佐になるための考査試験を突破できたのは納得です。
 でも、ティアナが全然問題なく一発合格ってすごくないでしょうか。私よりも三つも年下なのに、あんな難しそうな試験で合格なんて――頭が良い子だって知ってはいましたけれどビックリです。
 ちなみに、前回の問題をやってみた私の成績は……おじさまにお伝えするわけにはまいりません。これは、そっと胸の中におさめておくべきことなのでしょう。
 言い訳かもしれませんけど、今年に入ってからミッド語の読み書きを覚えた私にはミッド語で難しいことばかり書かれているこの問題集は、ちょっとばかり難易度が高すぎます。どこかで聞いた、魔法をかけてから眠るまでの間に一度だけ、何でもわかるようになる呪文でもあれば別ですけど――それにしたって、寝てー起きてーと繰り返さないといけないので本番ではダメですよね。

   ティアナの先生 高町なのは




〇進め! 未来の大英雄:ヘッポコシリーズの第一巻。ランスター兄妹がヒーローを名乗れるようになるのかどうかは、ファラリスさまの気まぐれ次第。

〇お兄ちゃん:生みの母の名前は夏織さん。
 
〇嘱託魔導士:それなりに権限があるので試験は結構難しいらしい。漫画版でフェイトはPT事件の裁判対策として試験を受けていた。一方、なのはさんはいつの間にかAsの途中で嘱託魔導士になっていたので、きっと何か裏口的なものがあるのだと思われる。

〇大地母神マーファ:「離婚しない」と誓いを立てた夫婦の間柄が冷え込んだ時に「子供を授ける」ことがあるそうですが、そんなことをして大丈夫なのか? と話題になったお方。

〇インスピレーション:知識神ラーダの特殊神聖魔法。効果=かけてから眠りにつくまでの間に一度だけ、知識に関する判定を成功にできる。 
 スリープ・クラウドと組み合わせるのは如何なものか――そんなことを思ったGMがいましたとさ。



[40369] 奪うことあたわぬ宝
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/03/07 23:28
GM「君たちが街道を歩いていると、どうにも雲行きが怪しくなってきた。レンジャー技能持ちは嵐になりそうだってわかるよ」
ファイター「近くに雨宿りできそうな場所はないかな?」
GM「少し離れた丘の上に立派な館が建っているのが見えるね~」
プリースト「どうにも怪しいんですけど、これは行くしかないかな」
GM「そうしなさい、そうしなさい」

 とあるデスシナリオの導入


  ◇


『なのはのモンスター・コレクション』

〇スフィンクス:モンスター・レベル=7


「朝には四本、昼には二本、夕方には三本で歩く生き物は何か?」


  アルゴーの船の探索はまだ続いている。最深部にあるはずの制御室を目指し、傀儡兵たちはプレシアに命じられるままに進み続けていた。
 そうして、ある隔離された部屋で一頭のスフィンクスが見つかった。
 なのはたちはこの船ではじめて見つけた生存者に「この船で何があったの?」と質問をしたのだが、その返答はこの問題だった。
 ライオンの身体にワシの翼を背負い人間の女性の顔をしたその幻獣は、久しぶりに出会った言葉の通じる相手を見てたいそう喜んだ。
 そして、「一つの問に一つの問題。一つの正答に一つの答えを返そう」といかにもスフィンクスらしいことを言い出したのだ。
 もう守るものも無い、と船の外まで出て来たスフィンクスは集まった人間たちに向けて問題を繰り返す。

「朝には四本、昼には二本、夕方には三本で歩く生き物は何か?」

 この問題の答えは「人間」とされている。人間の人生を朝昼夕に例え、幼い赤子の時には手足四本を使って進み、やがて二本の足で歩くようになり、年老いてからは杖をつくので三本足というわけなのだが――八神はやての答えは違っていた。

「答えはモケケピロピロや」
「そう、にんげ……モケケピ?」

 スフィンクスは寿命も食事の必要もほぼない。とは言え、どれだけの期間だったのかもわからなくなるほどの長い時を船内で過ごし続けて来たのでヒマでヒマで仕方がなかった。そんな状態からようやく解放してくれたのだからと、一問目は簡単なものにしたはずだった。それがイキナリの奇妙な答えである。

「なんや、モケケピロピロも知らんのか。正しき知識の守護者とか、偉そうな肩書を名乗っとったわりには物を知らんのやな」
「ぐぬぬ……。ならばそのモケケピロピロとはどんな生き物なのかを説明してみせよ。納得の出来ぬ答えだった場合、お前を食べてしまうぞ」

 はやての失礼な、あるいは挑発するような物言いにカチンときたスフィンクスはライオンの前足を脅すように動かしながら、自慢の知識にはない「モケケピロピロ」なる生き物についての説明を要求した。

「一つの問に一つの問題、一つの正答に一つの答えを返そうやったな。わたしはもう正しい答えを言ったんやから、説明する必要はないはずなんやけど?」
「……では、その説明を第二問の代わりとする」
「まだ二つ目の質問をしとらんのやけど……。それなら、スフィンクスさんがモケケピロピロの説明に納得出来たら、なんでも聞いたことに答えてくれるってことでええな?」
「構わぬ」

 言質は取ったとばかりにニタリと邪悪な笑みを浮かべる九歳女児。伊達に腹黒タヌキ博士とは呼ばれてはいない。

(なのはちゃん、ユーノ君の映像ってある?)
(ユーノ君の映像? デュランダルに入ってたと思うけど……)

 友達と念話で打ち合わせをしながら、はやてのモケケピロピロ講座が始まった。

「モケケピロピロは夜は獣の姿をしとるんよ。小動物の姿をしとると体力の回復速度が上がるみたいでな」
「ほう、これがモケケピロピロか……。ネズミのような姿をしているな」

 はやての言葉に合わせて、なのはがデバイスを操作し空間モニターにユーノ・スクライア(フェレットモード)を映し出す。

「夜寝るときに四歩足の獣の姿をしとるんやから、朝になって起きた時も四本足なわけや」
「ふむ、よかろう。四足の獣ならば『朝に四本』は当然だな」
「次は『昼は二本』やけど。モケケピロピロは昼間には人型に変身するんよ。手が使えた方がなにかと便利やからな」
「むむむむ……」

 モニターに映し出されたユーノ・スクライアがフェレットから変身し、人間のような姿かたちとなる。そして、道具を使ったり、文字や絵図を書いたり、本を読んだりといった行動をしてみせた。

「最後は『夕方の三本』やけど……これは映像を見てもらった方が早いかな?」
「ぬぬ……これは、確かに三本で歩いているな」
「獣の姿に戻っても、昼間の間の二足歩行感覚が残るみたいやねー。それで二本足で歩こうとして、でも上手く歩かれへんから尻尾も使うわけや」

 空中に展開された魔法のモニター。そこには、器用に尻尾を使いながら二本足で歩くフェレットの姿が!

「これがモケケピロピロ……。まるで人間の魔術師がネズミに化けているように見えるが……しかし、確かに朝に四本、昼に二本、夕には三本ではあるな。まぁ、良いだろう。船の中で起きたことについて、私が知っていることは話そう。それから、もう一つの質問にも答えよう。で、二つ目の質問はなんだ?」

 八神はやてはニタリと笑って、スフィンクスにこっそりと耳打ちした。

「これからの問題の答えを教えてくださいな」




 ファラリスおじさま

「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだあれ?」

 アルゴスさんの船の中から、「真実の鏡」なんてすごそうな名前の物が見つかったので、ちょっとこんなことを聞いてみたのです。
 もし私が美しいお妃様や白雪の姫だったなら、鏡は「それはあなたです」って答えたのかもしれませんが、鏡から返って来た答えは当たり前の言葉でした。

「それはもちろん、ファラリス様です」

 私は鏡の返事に満足して、そのまま時の庭園の中に飾ることにしました。

 この鏡はけっこう面白くて、それからそれなりに怖い代物です。同じ名前で「どんなことでも答えてくれる」と言うものすごい魔法の品もあるそうなのですけれど、これはそこまですごいものではありません。
 この鏡に問いかけた人の心の中を映して、その人の本当の想いや考えを教えてくれるようなのですが――どうなんでしょうね、見たい人はすごく見たいかもしれないですし、絶対に関わりたくないって人も多いかもしれません。
 自分をだまして、無理をしている人がこれを見たらどうなってしまうのでしょう。

   鏡よ鏡、世界一かわいいのはだあれ? 高町なのは


 第一船人発見
 ファラリスおじさまへ

 今日も元気にみんなで歌の練習をしていると、傀儡兵さんたちがアルゴスさんの船の中で生き物を見つけました。中に入って結構な日にちがたっていますが、ようやくはじめての第一生存者発見です。
 中から助け出した(引きずり出したなんて言わないでくださいね)スフィンクスさんは、何かを聞こうとするたびになぞなぞを出してくるどうにも困ったクセのあるひとでした。

「私は空の上にいる。私は地の底にいる。私はあなたの中にいる。私は硬く、またやわらかい。私は目に見えるときもあれば見えないときもある。私は誰か?」

 なんてイキナリ聞かれても困るのです。答えを聞けば、「あー、まぁそう言えなくもないのかな」ってことばかりだったのですけれども――正直なところあまり頭がよろしくないのでわからないものばかりで耳から煙をだしてしまいそうでした。
 全問正解のパーフェクトはやてちゃんはさすがでした。ローウェルちゃんやプレシアさんでもわからないものがそこそこあったのに、どんな問題が来ても余裕で答えてしまうのだからビックリです。ちなみにレッサは頭から火を噴いていました。

「荒ぶる海の支配者にして、生の苦難に死の慈悲を与えるもの」

 それから、どうして船に誰もいないのかをスフィンクスさんに聞いたのですが、どうもおじさまの仲間の方(?)が鏡のオリから脱出したからだったみたいです。スフィンクスさんはたまたま近くにあった魔法の壺の中へと飛び込んで、そのまましばらく(何十年とか何百年単位で)隠れていたので助かったのですが、他の人は身体も魂も全部まとめて連れていかれてしまったのではないかって、これはスフィンクスさんの想像です。
 おじさまはミルリーフさんと仲が良かったのでしょうか? アルゴスさんに聞いてみても、あんまり覚えていないのです。とりあえず無事に逃げ出せたようで良かった良かった……良かったんですかね?

「生きて行くことは辛くて苦しいことだから、そんな思いをしなくて済むようにすぐに死んでしまいなさい。自分で死ぬことができないのなら、私が手伝ってあげましょう」って考えの方だったみたいなのですけれど。

 この海の世界って、昔々は陸地があったはずなんです。その上にはにたくさんの人や動物、植物が暮らしていて、飢えたり、ケガをしたり、病気になったり、いろいろと辛いこと苦しいことがあっても生きていた。それが今は海の生き物しかいないんですよね。
 これがミルリーフさんのやったことだとして、そうだとしても私にはもうどうにもできないことですけれど、なんだかとても悲しいなって、そう思ってしまいます。

   ミルリーフさんはどこに行ったのでしょうか? 高町なのは


 ファーンさん討ち取ったり!
 ファラリスおじさま

 やりました。びみょうに強そうな名前の人に勝利をおさめて参りました。
 今日はグレアムさんの昔からの知人で友人のファーン・コラードさんに魔法の練習相手をしてもらいました。
 ファーンさんは元はあの「鬼の戦技教導隊」の一員だったということもあって、ミッド式魔法ではとてもかないそうになかったので、先手必勝のメズマライズから全力ポイズン(マヒ)して勝ちです。
 いや、「ミッド式の練習にならない」って付き添ってくれたアーリアさんに怒られてしまいましたけど。でも、ミッド式でまともにやりあったら勝ち目があるとも思えないので、これでいいのです。
 その後の練習で、ボッコンベッコンとやられてしまいましたけど、一度勝っていると思えば何と言うこともありません。

「自分より強い相手に勝つためには、自分の方が相手より強くないといけない」

 一通りの練習が終わった後で、ファーンさんがこんなことを言い出しました。

「問題です。この言葉の矛盾と意味をよく考えて答えなさい」

 なんだかカッコ良い感じで問題を出されたわけなのですが、これの答えって考えるまでもありませんよね? 
 フォーセリアの物語でももちろんですが、ゲームでもマンガでも、主人公の前に立ちふさがる敵は、いつだって主人公よりも強い相手ばかりです。
 それでも主人公「達」は最後には勝利をおさめるのがお約束。
 自分一人で勝てない相手は、仲間を集めてパーティを組んで挑めばいいのです。

 自分より強い相手に勝つためには、「自分達」の方が相手より強ければ良い。

「そんなの常識ですよ」って返事をしたら、「そうね。でもよく考えなさいって言ったでしょう」と言いつつファーンさんは私の頭をなでました。
 ミージュの姿の時にそうされると、なんだか恥ずかしいのです。
 はやてちゃんではあるまいし、グレアムさんが勝手に話すとも思えないので、「ファーンさんはホントに何気なくやってるんだろうな。なんだか苦手かも」と考えていたら、

「あなたは私よりも強かった。でも、今のあなたは私のことをどう思ってる?」と言われました。

 私の方が強かったはずなのに、私はなんだかファーンさんが苦手な気分にされてしまって……? あれ?

   戦技教導隊こわい 高町なのは





〇奪うことあたわぬ宝:大盗賊イオドが残した、誰にも奪えぬ最高の宝の謎。
「宝はこの箱を開けて得られる。だが、中にはない」
答えは短編集「へっぽこ冒険者とイオドの宝」でご確認ください。なお、ここの世界では奪えたりします。

〇モケケピロピロ:「もけけけけけー」「おきゅきゅきゅきゅー」と鳴く謎の生き物。人間にそっくりの姿をしているとも、水中に住んでいるとも言われているが詳細は不明。別名、ボンボエリカ虫。

〇世界一:鏡よ、鏡!(デュダシリーズ)から「世界一かわいいよ!」なんてものにたどり着くとは思ってもいませんでした。あれだけの数の訓練されたファン(狂信者)を儀式に動員できたなら、達成値なんて簡単に上がりますね。身近な信仰ですが、入信は自己責任でお願いします。

〇ミルリーフ:海の支配者であり、人間が海に侵入することを酷く嫌っていたとされる神格。
エイの姿で有名ですが、人形態はピンク髪の女の子だったとの目撃証言があります。「ミルリーフ」で調べるとすぐにその御姿を拝見できますが、入信は自己責任でお願いします。  

〇ファーン・コラード:元戦技教導官の陸士訓練校学長。Sts漫画版で闇の書事件後のなのは&フェイトを二人まとめて封殺したAAランクのお婆さん。
 

〇問題:
それは一つの存在である。
それは存在無きものである。
それは大地であり、草木であり、雨であり風である。
それは男であり女でもある、それは幼子であり老人でもある。
それはゴブリン、それはドラゴン、それは虫、それは神。
それは善にして悪、災いと富をもたらす。
それは一にして無にして無限なるもの。

それは何か?

答えを知りたくば上を見よ。



[40369] 子供にはわからない
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/03/09 01:02


 ファラリスおじさまへ

 最近プレシアさんがお悩みの様子です。
 悩みごとの相談ならば、どうぞこの神官にお任せくださいって言いたいところなのですけれど。
 どうも「子供にはわからないわ」と言われてしまうような内容のようでした。そこでいろいろと私なりに探りを入れてみたのですが、さっぱり見当がつきません。
 アリシアを生き返らせるための儀式の準備は順調です。日取りは去年の「闇の書」の儀式と同じ日に、ゲンをかつぐって言うのですかね。そんな感じです。
 確かに成功するかどうかはカケのようなところもあるかもしれません。でも、わけのわからないロストロギアにすがるよりは、おじさまにお願いする方が良いに決まっています。
 ほいほいと気楽にできるとは思えませんが、やればきっとできる、アリシアの思い出が私に力をくれると信じられるのです。
 と、そんな感じで心配事のあたりをつけてはげましてもみたのですが、「はぁー」とため息を聞かせてくれる機会が減りません。
 はやてちゃんも、ローウェルちゃんも、レッサに相談してみても何故だかわかりません。
 でも、ゼリーはなんとなくわかったようでした。さすが頼れますね! だてに図書館で毎日毎日調べ物をしてきたわけではないようです。
 わかるのならなんとかしなさいって言ったのですが、ゼリーはケチなので、自分が行ったら逆効果だって言うことを聞いてくれません。
 前に送った映像が、答えかなとは話してくれましたけど。
 前にゼリーから送られてきた映像って、アレですよね。プレシアさんとグレアムさんが男の子と女の子になっていた写真。
 プレシアさんは男の子になりたいのでしょうか?

   高町なのは


 ファラリスおじさま

 一晩考えてみたのですがよくわからなかったので、ゼリーをしめあげて話させました。まったく、ご主人さまに隠し事なんてよろしくありません。

「二十六年経ってるんだよ。ヒュウドラの事故から」

 今年はアリシアが死んでしまった事故から二十六年目。プレシアさんのお母さんは(つまりアリシアのお祖母ちゃん)がプレシアさんより二十ちょっと年上。
 昔の親子の関係そのままとなるには、ちょっととしが離れすぎてしまったかもしれません。
 まだまだ大丈夫だと思うんですけど、気になるのは少しわかるような、わからないような。
 プレシアさんは半年前まで、不健康そのものな生活習慣だったわけでして、まぁ、その多少は仕方がないのかと思うわけです。
 大人っていろいろ大変なんでしょうね、多分。うちのお母さんも、美容と健康にはかなり気を使っていた気がします。
 使い魔の見た目はかなり自由にできますから、ゼリーがそれについて話しかけるのは、あまりよろしくなかっただろうってことは分かりました。
確か、相手の若さを奪い取る魔法があったはずなのですけど、この魔法は使った本人にしか効果がないので、私が使ってみても、私が若返ってしまうだけなんですよね。
 うーん、と悩んでしまったので、ここは一つ身近にいる一番の年長さんの意見を聞いてみることにしました。

「知らん」の一言で切り捨てられてしまいました。アルゴスさんには人の心はわからないようです。多分そうだろうなって、わかっていたことですけど。
 アルゴスさんと言えば、今一緒に歌の練習をしているのです。儀式に参加は出来ないけれど、同じ時に歌ってくれるそうなので、楽しみにしていてください。
 アルゴスさんに限らず、竜のほえる声には聞いた者の心をゆり動かす力があります。前に私が怖くて怖くて仕方がなくなって、逃げ出してしまったことがあったように。
 だから、歌声もきっとって思って頼んでみました。
 最初は恥ずかしがっていたんですけど、何度も何度もねだって、ようやく歌ってくれたときには、「ああ、これはすごいな」って簡単な感想しか思い浮かびませんでした。
 震えるのです、心が。
 歌声が牙や爪みたいに私の胸に食い込んできて、炎で焼かれたみたいに熱くなる――って書いたらドラゴンっぽいでしょうか?
 話が途中からズレてしまいました。明日はアルゴスさんの次に長生きしているひとに聞いてみます。

   おやすみなさい なのは


 ツボの中の変わった世界
 ファラリスおじさま

 昔の人は変わったロストロギアを創って遊んでいたのですね。
 今日はスフィンクスさんが逃げ込んでいた魔法のツボ――「安らぎのツボ」について書きます。
 この安らぎのツボの中では、みんな子供の姿になってしまうのです。私やはやてちゃんには関係ありませんでしたけど、プレシアさんが「プレシアちゃん」になっているのはとても新せんです。
 スフィンクスさんまでなぜか小さくなってしまっているのもスゴイところです。スフィンクスさんは最初から大人の姿で創造されたはずなのに、ツボの中では小さくなってしまうのです。無かったはずの子供時代の姿に変えてしまうって、一体どうやっているのかサッパリ不明です。
「カストゥールの魔術師の魔法は、フォーセリアから外に出ると使えなくなる」ってレスフェーンさんが言ってましたけど、一度作ってしまった魔法の品物は、普通にそのまま効果を残しているのですね。そうでないと、そもそも「船」が動かせなくなってしまうはずなので、当たり前のことなのかもしれませんけれど。

 外から見た安らぎのツボは、大人なら両手で抱えられるくらいの大きさで、表面には不思議な紋様(たぶんですけど、上古の言葉)が描かれていました。
 それで、そのツボの口に手や足を入れると、しゅるしゅるっと身体が小さくなって、ツボの中へと入れてしまうのです。
 ツボの中はかなり広い空間になっていました。私ではよくわかりませんでしたが、プレシアさんによると空間をねじ曲げているのかもしれないってことです。私たちが、ものすごーく小さくなっているだけなのかもしれまんが。
 空は雲のような灰色のもやもやで覆われています。少し上に飛んで辺りを見渡すと、そこには森に湖、草原に壁。
 ツボを内側から見ている状態ですね。ツボと同じ色の壁が、ぐるっと一周地面から空の上のもやもやまですっとまっすぐに生えていました。壁が作る円の直径は大体四キロくらいでしょうか。
 
 そうやってツボの中を飛び回っていたら、草原の辺りで私たちに向かって手を振っている人影が見えました。
 スフィンクスさんによると、案内役のホムンクルスさんとのことでした。
 ホムンクルスは魔法で創られた小人みたいな生き物って何かに書いてありました。見るのは初めてですけど、レッサにちょっと似ているかもしれません。
 そう言ったら「一緒にすんな!」って怒られてしまいましたけど。普通のホムンクルスさんは数年で死んでしまうそうなのですが、ここのホムンクルスさんはいつでも、製造されてすぐの新品状態に戻されるので寿命の心配は無いようです。でも、ツボから外に出るとやっぱり数年しか生きられないそうです。
 長くなってきたので続きは明日にします。

   また明日
    あなたの語りべ 高町なのは 


 ツボの中の閉じた世界
 ファラリスおじさまへ

 昨日の続きです。
 スフィンクスさんにプレシアさんのことを相談した私は、「答えになるかはわからぬが……」と案内された「安らぎのツボ」の中へと入って行きました。
 そこで出会ったのはホムンクルスさん。

「おじょうさま、おじょうさま。冒険を楽しまれますか? それともお菓子のお家でくつろがれますか? それともそれとも、母の胎内にてしばしの憩いを希望されますか?」

 詳しく聞いてみると、小さくなっているモンスターをいじめて遊ぶか、よくわからないお菓子を食べて過ごすか、それとも赤ん坊の姿まで戻って産まれる前の状態をもう一度体験するか、どれがいい? って内容でした。
 どれもちょっと、えんりょしたいお話です。
 でも、冒険担当でもあるホムンクルスさんに、お菓子担当のゴーレムさんも、赤ちゃん担当のルームイミテーターさん(部屋一つが丸々全部魔法生物なのです!)もみんなお客さんの相手をするためだけに作られたのだから、どうか仕事をさせて欲しいと泣きつかれてしまいました。
 しょうがないので、小さなヘルハウンド――これが、大きくなるとレティさんのようになってしまうなんて信じられないかわいさです――をモフモフしてみたり。またまた小さなグリフォンをなでてみたり。ちょっと引っかかれましたけど、相手が小さいせいかバリアジャケットで止まってしまうので痛くもかゆくもありませんでした。
 はやてちゃんなんかは例のあの鎧姿なので、どっちかというとはやてちゃんの方が悪役ですよね。子供モンスターたちにおそい掛かる凶悪な鉄巨人! って感じです。
 あとはオーガやミノタウロスがいたので観察してみたりしました。

 ツボの中にいる生き物たちを外に出したらどうなるのでしょうか? そのまま生きて行けるのかもしれませんし、もしかしたら消えていなくなってしまうのかもしれません。
 捕まえているだけなのか、ものすごく上級の幻なのか、プレシアさんでもわからないとても高度な魔法技術の結晶です。現代では再現できない技術だから「ロストロギア」なのでしょうけれど。翼のあるグリフォンが逃げ出していないことを考えると、外には出られないって考えの方が正解なのかもしれません。
 
 食べるのはえんりょしました。何百年も前の品物なので、賞味期限切れじゃないかと思うのです。魔法で保存してあるとは思うのですけど、ちょっと、こう、怖いですよ。
 森の木にはたくさんの種類の果物がなっていて、これもおいしそうでしたけど――なんだかちょっと食べる気になれません。
 昔話であの世の食べ物を食べたら帰れなくなるとか、そんな話があったような覚えがあります。日本の昔話か、ギリシャの話か、それともフォーセリアの物語だったかもしれません。
 とにかく、あやしいものはなるべく食べない方がいいと思うのです。

 最後が赤ちゃん体験コーナーですけど、何と言いますか、お子さまな私にはレベルの高すぎる遊びなのではないかと……。おっぱい大好き(ローウェルちゃんによると母性にうえている)はやてちゃんも、これはちょっとと引いていました。
 森の中に小屋があったのですけど、その小屋の中が全部、赤くてブニブニとしたお肉の壁になっていました。そこにあるくぼみの中に入ると身体がさらに若返って赤ちゃんになるそうでして、お母さんのお腹から産まれる前の幸せな時間をもう一度体験できるってことだったのですが――背筋がゾワッとしたのでやめておきました。
 こんなこと書くのはアレなのですけど、その、ちょっと気持ち悪いですよね? 

 あとはホムンクルスさんは説明してくれなかったのですけど、女性限定で育児体験もできました。なんでも魔法王国の女性魔術師は研究に忙しくて、子育てをしない人が多かったそうです。それで後になってやっぱりやってみたかったと思った人が、気分だけでも味わうことができるようにってことだったのですけど……プレシアさんがとても不機嫌になったので説明を途中でやめてもらいました。
 電撃がビリビリしてて、大変怖かったです。
 後から身体が子供になっていたのでちょっと感情の制御ができなかったって謝られましたけど、プレシアさんって普段からわりとカッとなることがあるのであんまり変わってなかった気がします。
 あ、これは内緒でお願いします。雷光少女なプレシアちゃんのムチで打たれる趣味は無いので、どうかご内密にしてください。

   痛いのは嫌いです 高町なのは

 追しん
  プレシアさんがそのうちツボの力を研究をするんだって、クククと笑っていました。ため息をついているよりは、どこか悪そうな笑顔の方が似合っていてステキです。





〇竜の歌声:なのはさんはリリカルな解釈をしていますが、ゲーム的に言えば「歌唱」は精神力を基準に判定です。竜王の精神力なら技量(レベル)が低くても、達成値は相当なことになると思われます。

〇安らぎの壺:魔法王国製の、童心に帰って遊びましょう的な娯楽用品。詳しくはスチャラカ短編集「子供たちはくじけない」で。

〇問題の答え:「GM」。ページの上の方を確認してください。時と場所と天候を当たり前に操作している存在が居ます。
  
 作中で答えを書いていなかったスフィンクスの問いは、模範解答として「水」を想定しています。「マナ」もありです。他にもいくつかあてはまる答えがあると思いますが、とりあえずそんなところで。



[40369] シーサイド・マーメイド
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/03/26 01:51
 レイジングハートは、なのはさんの願いであれば、どんなことでも叶えうる力を持っています。
 ただ、願いの大きさによって必要な魔力が増えるので、あまり無理なことは叶えられません。
 魔法を強くするのは……強い「想い」。
 こうしたい! こうありたい! と強く願うことによって「魔法」はより強い力を持つようになるのです。

 じゃあ……
 1.いきなり「種」を全部ゲット!
☆2.『亡くなった人を生き返らせたい……』
 3.大人になりたいな

 おもちゃ箱の選択肢 ――リンディさんの魔法講座――





 ファラリスおじさまへ

 近ごろ、グレアムさんの教会の関係でニノさんとよく出会うようになりました。
 そのニノさんなのですが、なんだかちょっとヘンなんです。

「親の頼みである物を取ってこないといけないのですが、そのためにあなたの許可を頂きたいのです」

 いきなりこんなことを言われた時、おじさまならなんて答えますか?
 私は「え、何の話ですか?」となんとも普通の返事をしてしまいました。
 返って来たのは「ごめんなさい」と頭を下げたニノさんの後頭部。つむじが二つあったのが印象的です。
 余計にわけがわからないのでもう少し詳しくと聞くと、それはどうも「衣服」のようでした。
 どうして服をもらってくるのに私の許可がいるのでしょうか? 
「それは秘密です」なんて繰り返されたら、地獄の番犬だって困ってしまってワンワンワーンと鳴きそうです。
 さっぱりわかりませんが、私はおじさまの神官。だから、前から一度は言ってみたいと考えていたセリフがあったのです。

「汝の為したいように為すが良い」

 いつものおじさまの声をマネして、がんばって偉そうに(おじさまは本当に偉い方なのですが、私はそうではないのでマネっこです)言ってみました。
 そうしたらニノさんは結構ノリのいい人だったみたいで、ハハーって拝むみたいにひれ伏してくれました。聖王の教会の人はお堅い人ばかりかと思い込んでいましたけれど、楽しい人ですよね。
 おまけに「今の仕事が終わったら……あなた様について行ってもいいですか?」なんて、私をさらに調子に乗せるような質問までしてくれました。

「汝の為したいように為すが良い」

 それで二回目はえっへんと胸をはって答えてみました。
 そうしたらニノさんは、今度は騎士が忠誠を誓うみたいなマネをしてくれたのです。いつかのようなちょっとキラキラし過ぎた目をしながら、私の手を自分の両手でこう、おしいただくって言うんですか? そんな感じでした。 ニノさんはちょっとサービス精神があふれ過ぎです。
 もしかしたら、普段はおふざけが過ぎて教会の他の人に怒られていたりするのかもしれません。グレアムさんの教会は聖王教会のフリをしていますけど、本当はおじさまの神殿なので問題ないですけどね。
 問題ないですよね? 

 ですよね。
 おじさまなら、きっとそうおっしゃって下さるとわかっていました。
 聖王教会の人がちょくちょくやってくるのは少し困ってしまいます。でも、それで息抜きになるのなら、それはそれでいいのかもしれません。

   ごまんえつの 高町なのは



 歌のお好きなおじさまへ

 人魚さんたちと友達になりました。
 キレイな方のハーピィは歌が好きだって本で読んだことがありましたけど、マーメイドのみなさんも歌が好きなんですね。
 勉強のついでに読んだ本に書いてあった伝説では、ローレライやセイレーンって呼ばれていた怪物はある話でははハーピィの仲間のよう、またある物語ではマーメイドの親せきのようだったりしていたので、実は二つの種族は「いとこ」か「はとこ」みたいな関係だったりするのかもしれません。
 はやてちゃん的には「要チェックや!」だそうですが、詳しく調べたらわかるのでしょうか? 
 少なくとも、「アレクラストの博物学」を書いた魔女さんは、全然違う種族として分類していたと記憶していますけど……。
 世界はいくつもあるので、この世界の人魚さんたちは歌好きでお祭り好き、ついでに甘い物とお酒も好き。だけどミルリーフさんが大地を全部沈めてしまったので、今ではお酒もお菓子も手に入らなくなって干上がりそうだったようです。海を泳いでる人魚なのに。
 ええ、そうなのです。アルゴスさんがドンブラコッコとしているこの世界ですが、ここを今の海ばかりな風景にしたのはやっぱりミルリーフさんでした。
 人魚さんの言うことによりますと、空から大きな流星(アルゴスさんのことのようです)が降って来たと思ったら、そこからミルリーフさんが現れて、大暴れしたあとに「閉じ込められていた時の仕返し」をするって飛び出して行ったきりなのだそうですが。
 ちなみに人魚感覚でそれなりに前の話だそうです。ここの人魚さんたちは、ものすごーくゆったりと長生きしているので「それなりに前」がどれぐらい前なのかは不明です。
 試験も何にもなくて、朝からグーグーだらだらと過ごすステキなライフスタイルの人魚さんたちは、人間とは時間の感じ方が違うようでした。でも、それって今の私と大差ない生活なのかもしれません。
 このままだと、私もいつか「来年の夏くらいに、北の方の海で会おうねー」って約束するような人になっているかもしれません。
 肝心なことを書いていませんでした。
 どんなきっかけで人魚さんたちと仲良くなったのかと言いますと、これがなんとアルゴスさんのおかげなのです。
 少し前に、アルゴスさんが歌を練習しているって手紙を送ったことがあるかと思います。
 どうもかなり良い耳をしているらしい歌好きの人魚さんたちは、アルゴスさんの魂の声にひかれて集まって来たのです。
 私も少しはほめてもらったのですけど、まだまだ練習あるのみのようでした。何千年何万年と歌ってきた人たちにはさすがにかないそうにありません。
 知り合った記念にって「人魚のウロコ」をもらったので、ビンに入れて飾ってみました。だんだんと宝物が増えてきたので、私も大昔の魔法使いにならってそのうち迷宮を造ってみたいなって、少し考えてしまいます。 
 人魚さんたちにお菓子を全部食べられてしまったので、明日は買出しに行かないといけません。しばらくぶりの甘味ということなので、あの食べっぷりも仕方がありません。お酒も頼まれたのですけれど、人魚さんはどんなお酒が好みなんでしょう。
 おじさまはお酒を飲みますか? いままで気づきませんでしたが、もしお好きなようでしたら一緒に送るようにします。

   はい、いろいろ送りますね 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 人魚さんたちに頼まれて、海に沈んでいた宝物と引きかえにたくさんのお菓子やお酒、その他イロイロの食べ物などを買って来て、それでもってみんなでパーティーパーティーとなりました。
 そのときに人魚の誰かが「こんだけおるのに全員女ってどうなんよ?」と言ったのです。
 その場にいたメンバーは、人魚さんたち(なぜか女性しかいないらしい)と私、はやてちゃん、ローウェルちゃん、ゼリー、プレシアさん、それからレッサ。
 ええ、見事に女ばかりなのです。言われてみると、最近はいつもそうだった気がしなくもありません。
 でも、私がそう感じなかったのはいつもおじさまが見ていて下さるからでしょう。いつもすぐ近くにおじさまが居てくれるから、全然そんな気がしなかったのですね。
 と、そこからどう話が転がったのかまでは覚えていませんが、人魚のみなさんに「知り合いを紹介してーなー」と頼まれまして、私の知る限りではフリーな人の映像を見せたのです。
 お父さんとお兄ちゃんはダメですから、お母さんにフィリスちゃんがいますからね。人魚さんにはあげられません。
 ユーノ君は大人気でした。でも、あともう少したってからかなーっとも言われていました。
 クロノ君も似たような感じです。まぁ、人魚さんたちは寿命が無いそうなので、ものすごく年上の人ばかりですから仕方がありません。少しだけ反応の違う人もいましたけど……。
 ティーダさんや赤星さんも大人気でした。「連れて来てー」と頼まれましたけど、二人ともアルゴスさんのことを教えていない人なので結構難しいお願いです。人間みたいな足をはやしてくれたら、人魚さんたちの方を連れて行けるんですけど。
 ザンダームさんは一部の人が盛り上がっていました。鍛えられた筋肉がいいのだそうです。ザンダームさんはここのことも知っているので、ご本人が「いいよ」って言ってくれたら紹介させていただきます。
 グレアムさんは「このシブい感じがイイ」「若いのには出せない味わいよね」とそれなりに高評価。特にスーミダさん(人魚さんの内の一人の名前です)がすごい食いつきようで、私の首をグイグイしながら「紹介しろー」と迫ってくるので思わずうなづいてしまいました。
 ゼリーがものすごく微妙な表情をしていましたけど、いいんじゃないですかね。たぶん、グレアムさんの好みにも合ってる人だと思います。たぶん。
 姿が半分似ているから興味があるだけで、人魚さんと人間の間に子供ができたって話は聞いたことが無いそうです。フォーセリアのエルフやハーピィとは違うのですね。
 ここの人魚さんたちは、自分たちがどこからどうやって生まれて来たのか知らないそうです。知ろうとも思っていないみたいでした。
 どこから来て、どこへ行くのか? 
 なんて言うとカッコイイような気がしますけど、考えてもわからないことは考えない。「今が楽しければそれでいいや」って生き方もそれはそれでありだと思います。
 ミルリーフさんは「生きることは辛いことだから、早く死んでしまいましょう」って教えていたそうですけれど、このお気楽生活な人魚さんたちには通用しない教えだったのかもしれません。
 人魚さんたちには寿命も無ければ病気も無い、食べることに困ったことなんて無いし、基本的に死ぬことも無い、天敵なんかもちろんいない。それで毎日毎日楽しくおかしく暮らしているだけみたいですから、うらやましい限りです。
 あと、プレシアさんがたくさんお酒を飲んでいました。それで人魚さんたちにからんでいました。人生苦労ばっかりってわけでもないですけど、プレシアさんの人生の半分近くは、アリシアを亡くしてからの後悔の日々でしたから……イロイロ言いたくなっちゃったんでしょうね。

   遠くから見守っていた 高町なのは



 ごめんなさい

 本当にごめんなさい。毎日手紙を送るって自分から約束したのに、それをすごく長く飛ばしてしまいました。
 ちょっと遊んできただけのはずなのに、それだけだったのに、なぜかすっかり世の中が十二月になってしまっていたのです。
 時間の流れる速さが違うなんて大事なこと、最初に教えてくれないと困ってしまいます。ホントに人魚さんたちはゆったりペース過ぎるので困ってしまいます。
 ごめんなさい。言い訳を先に書いてしまいました。
 おじさまに誓ったことを破ってしまった私にどうか罰を与えてください。
 何も言わなければ、おじさまはいつものように許して下さるかもしれませんが、それでは私の気持ちが納得しないのです。
 でも、私の納得のためにおじさまに面倒をおかけするのもよくないのかもしれません。
 でもでも、できましたらどうかおねがいします。

 ありがとうございます。
 おじさまのお許しもいただけたので、ここからはどうしてこうなったのかを書こうと思います。
 手紙を送らなくても今もおじさまが見ていて下さるんじゃないかって気もしていますけど、でも今日はこれを書かずにはいられないのです。
 何と言っても世間的には一か月近い期間の話をまとめて書くことになるのですから。私的には朝友達の家に出かけて、夕方帰って来たくらいの気分なんですけどね。
 アレです。そう、ちょうど浦島太郎のような気分なのです。
 お酒をあげた人魚さんたちに連れられて、竜宮城のような海の底のお家に行ってみれば、そこはもう異世界でした。フォーセリアの本で読んだ、水とか海の妖精界ってあんな感じなのかもしれません。
 どうやって海の底まで行ったかと言いますと、私は例によって仮面で変身しました。高町なのはマーメイドバージョン(仮面)出動です。
 一緒に行ったはやてちゃんは、例によって例のごとくの真っ黒フルアーマーでした。水の侵入も防いで、水圧にも耐えて、空気は魔法でなんとかしてしまう高性能。あれもこれも発動させて一日もつのは、はやてちゃんのトンデモ魔力があってこそですけど。
 ローウェルちゃんは幽霊なので、水でも空気でも変わりが無いようです。床や壁もすり抜けるのですから、水の中でも平気なのは納得です。
 プレシアさんとゼリーは「エンリョしておくわ」とのことでした。ゼリーは水の中が嫌いなのかもしれません。お風呂には入るのですけどね。
 ちなみにレッサは私と一緒です。なんだか久しぶりにユニゾンしたような気がします。本当は戦闘用の機能だってことですけど、戦うことなんてめったにないのであんまり役に立ちません。
 ベルカの人は戦いのことばかり考えていたような気がして仕方がありません。カストゥールの魔法使いも戦いのためのロストロギアをたくさん作っていましたけれど、それ以外の物もいっぱいありました。
 それなのにベルカの技術ときたら戦い、戦い、また戦いです。戦乱が続いていたってことですけど、もう少し他のことにも目を向けることができなかったのでしょうか。とイロイロ思うところがあるのですけど、レッサがカワイイので許します。
 話がまたおかしなところへ行っていました。
 とにかく人魚さんたちの家で遊んで帰って来た私たちは、留守番のプレシアさんやゼリーだけではなくて、お父さんにお母さん、お兄ちゃんお姉ちゃんからものすごく心配され、グレアムさんは予定が狂ってしまったらしくて大忙しと、とても大変なことになっていたのです。
 一か月近く行方不明の連絡不能だったらしいですから仕方がないですけど、人魚さんたち的には「え? それぐらいで何か困るの?」って感じだったようです。気が長いと言いますか、感覚が違うと言いますか――同じ世界の地球のでも国によって考え方が全然違うそうですから、異種族間交流となるとこれぐらいは当たり前なのかも知れません。
 おじさまにも許していただけたことですし。浦島太郎みたいに、竜宮城に行って帰って来たら家族も知り合いもみんな年老いていなくなっていた――なんてことにならなくて良かったとしておくことにします。

「人魚の肉を食べると不老不死になれる」

 この伝説の始まりがわかったかもしれないので報告させていただきます。
 この話、元々は「人魚と一緒に肉を食べる(人魚と宴会する)と歳を取らない」だったのではないでしょうか? 玉手箱を開ける前の、竜宮城から帰って来てすぐの浦島さんを見た周りの人たちは、「何十年も前に行方不明になったはずの人が若いままでいる」ように見えたのではないかなと、そんな風に思ったのです。

   おでこがヒリヒリしてる あなたのなのは 






〇選択肢:1を選んだあなたは「剣の国のRPG」へ
     2を選んだあなたは次の話へ
     3を選んだあなたは「まぼろしの女」へ
     あなたは選択肢に従っても良いし、あえて14へと進んでも良い。
 
〇シーサイド・マーメイド:波打際のなのはさん

〇聖遺物:ベルカを統一した聖王の衣服のようです。

〇神罰:ファラリス神の神罰はかなりきまぐれであるとされています。
 例として、
・呪文が失敗する。(使いたくない呪文は使うな)
・呪文の効果が変更される。(本当は違う呪文がいいのだろう?)
・急に金縛りにあう。(自由になりたいよな?)
 などが紹介されてしますが、その他にもさまざまに自由な発想で神罰が下されます。
 なお、肉体を持たない状態のフォーセリアの神々の神罰の影響は、司祭とその周囲にしか及びません。
 司祭が自身への罰を望んだ場合でも、ファラリス神が罰を与えてくれるかどうかはその時の神の気分次第となります。



[40369] かくもささやかな凱歌
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/03/29 02:20
 ファラリスおじさまへ

 私は予定神リアセフォーさんの神官ではありません。
 なので、ちょっとくらい予定がズレても気にしませんが、それでもさすがに一か月も練習時間が減ってしまったことは大問題です。それでアリシアの魂をあの世から呼び戻す儀式の日取りを、「変更しようかどうしようか?」とみんなで話していたのです。
 そうしたら人魚さんたちが「じゃあ、あたしたちも手伝うよー」と言って参加してくれることになりました。人魚さんたちなりに悪いなって思ってくれたのかもしれませんけど、単にヒマつぶしのような気もします。
 それでもこれは心強い助っ人です。亀の甲より年の劫と言いますし、どれぐらい生きてるのかわからないらしい人魚さんたちに応援してもらえば、なんとなく大丈夫な気がしてきます。
 ところで亀の甲と年の劫って何を比べているのでしょうね? よくわかりません。世の中わからないことでいっぱいです。だから面白いのですけど。
 人魚さんに「歌が上手になるおまじない」をしてもらいました。声を取り上げたり戻したり、嵐を起こしたり、船を沈めたり、人魚さんたちの力はマカフシギです。

   高町なのは


 おじさまへ

 明日はいよいよアリシアを生き返らせる日です。
 まず大丈夫だとは思うのですが、フォーセリアには「ウンディーネの川流れだって三十六回に一回は起こる」なんてことわざがあるそうですから油断できません。
 上手くいかなくてももう一度試せば良いだけなのですが、失敗してしまったらどうしようと言う気持ちが消えてくれません。
 どうにもこうにもドキドキしてしまって眠れそうにないのです。いつもは「どこでもあっという間に眠れる」のが自慢なのですけど、今日はお父さんゆずりのこの得意技も役に立ってくれません。
 明日の演奏会ためにお母さんも「時の庭園」に来ているので、久しぶりにお邪魔してくることにします。
 私がお母さんを取っちゃったら、今度はお父さんが眠れなくなってしまうかもしれませんけど、たまにはいいですよね?

   高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 あと一時間もしたら明日まで手紙を書けなくなってしまうので、かなり早いですが今日のお手紙を送ります。
 アルゴスさんの背中に乗っかった「時の庭園」の広間、そこでみんなと一緒に歌います。アルゴスさんはオリから出られないので参加できませんが、それでも一緒の時間に歌ってくれるそうです。
 ちょっと離れているけれど、アルゴスさんが応援してくれているのはすごく心強いですね。人魚さんたちの時にもこんなことを書きましたけれど。
 参加者は去年の「闇の書」の時よりも増えて、見た目にもレッサにスフィンクスさんに人魚さんたちとバラエティ豊かになってます。
 どうぞお楽しみください。

   行ってきます あなたの神官より


 ありがとうございます

 やっぱり、おじさまの魔法はとてもすばらしいものでした。
 プレシアさんが無くしてしまった幸せを、もう会えないはずのあの子を取り戻して下さったのですから。
 本当にありがとうございます。
 さっきまでみんなでものすごく騒いでいたのですけど、今はものすごく眠くなってきてしまいました。
 ごめんなさい。この感謝と喜びをもっとたくさん書き続けたいのですけれど、今は少しだけ眠ります。そうしないと、何を書いているのか、わからなくなってしまいそうで。
 だから、明日。明日のお手紙に書きますね。

   ありがとうございます なのはより


 ファラリスおじさま

 昨日はぼやーっとして変な手紙を送ってしまい申し訳ありませんでした。
 儀式の間のことは、おじさまも見ていらしたことですから書きません。
 アリシアが帰って来たあとのこと、一休みしたあとのこと、これからのことなどを報告させてください。
 とりあえずこれからのことですが、プレシアさんとアリシアは海鳴で暮らすことになりました。
 ずっと前に死んだはずのアリシア。亡くなった人間が管理世界で暮らして行くことはとても難しくて、事情を知っている知り合いと、あとはまったく知らない人ばかりの地球に住むことになったのです。
 戸せきとかイロイロあるそうなのですけど、そのあたりはお父さんとその知り合いの人がどうにかできるようです。お金についてはプレシアさんは管理世界ではお金持ちなので、グレアムさんが管理局を使って上手いこと地球のお金にかえてくれるようです。
 やっぱり大人の人は頼りになります。私だったらそんなことを頼まれてもどうにもできません。どうしようどうしよう、どうしたらいいのかなってアワアワとあわててしまうだけになりそうです。
 アリシアは来年度から聖祥の小学校へ通う予定です。私やはやてちゃんと違う学校なのは、(主に私が)いろいろと有名人なのでちょっと避けたってヒドイ言われようです。これでも人気者とは言いませんが、それなりにやっていたつもりなのですけど――カッとなって床板を吹き飛ばしたこととか、ありましたけど、あれはおじさまのプレゼントを取り上げようとした方が悪いのでいいのです。
 ええ、まったく問題ありません。
 私もとりあえず海鳴に戻って小学四年生をしてみようと考えています。広い世界に出かけたおかげで、グッと魔法の力が成長した一年でしたけれど、今度はゆっくりとそれを自分のものにすることも大切かなと思いまして。
 胸の奥でモヤモヤ、カッカとしていたものも、今はなんとなく落ち着いて、自分自身の本当の力となってきている気がします。
 レスフェーンさんから頼まれごとはこれからも続けて行くつもりですので、お休みの日などにちょくちょく出かける日曜冒険者ですね。一番大事な情報集めをグレアムさんや、図書館に入りびたりのユーノ君がやってくれるらしいので、私は出かけて見つけて壊して帰るだけです。
 ユーノ君には十分なお礼が渡されてるそうなのですが、そのあたりグレアムさんがやってくれているので詳しくはわかりません。そのあたりは、「ケガや病気の人の治療を頼まれてくれれば全く問題ない」とのことです。
 それでグレアムさんはおじさまの信者の方を増やすこともできて、そのための活動の資金も増えてと良いことづくめ。私も困っている人を助けられるのなら大満足ですし、レスフェーンさんは仲間を解放できるし、ユーノ君は仕事ができる。みんなハッピーなステキな活動ですね。
 あとはですね。「時の庭園」をもらいました。
 アリシアを助けたお礼なのだそうです。メンテナンスや設備の維持費用はこれまで通りにプレシアさんがやってくれて、あとは好きに使えばいいってことなのですけど、正直に言ってどう使っていいのやら困ってしまいます。確かに前に「自分の船がほしい」って言いましたけど、どうしましょうか? とりあえず地球の近くの高次空間に停泊させておくことになりそうです。
 それから残念なのがアルゴスさんのことです。どうにかして海鳴まで来てほしかったのですけれど、さすがに大きすぎて転送できませんでした。制御室や玉座の間までたどり着けたら動かせるかもしれないので、聖王核の件と一緒にこっちも進めて行かないといけません。なんだか大忙しです。
 さっき四年生をするって書いたばかりなのに、なんだか学校に通っているヒマが無さそうな気がしてきました。

 来年の話をあまりしていてもゴブリンに笑われてしまうので(ゴブリンはそんな先のことは考えないのですね)、今日の出来事について。
 アリシアが「ママ」って呼んでくれません! そりゃあプレシアさんがいますから、そちらがママに決まっていますけど、私にもそのプレシアさんの記憶があるわけでして、だから「なのはママ」とか呼んでくれてもいいじゃないですか。
 生んだわけではありませんけれど(そんな年でもありませんし)、おじさまと一緒にあの世から連れて来たわけなのですから、ある意味生んだようなものじゃないのかなと、その場合お父さんはおじさまになるわけでして。
 ええ、なんだかステキですよね。
 せめて「お姉ちゃん」と呼ぶように話してみても、「わたしの方が年上」って言ってきかないのです。どう見ても私の方が年上ですよね? アリシアが生まれたのは三十年以上前ですけど、あの世にいた間はノーカウントじゃないとおかしいと思います。
 そうしないとアリシアはもう三十過ぎです。お母さんや美沙斗さんと同年代ってことになってしまうのです。
 それからプレシアさんはしばらく役に立ちそうにありません。
「無能は悪」って言葉に従うと、今のプレシアさんは悪の権化です。「アリシア、アリシア、ああアリシア。えへへへ」って感じです。もう、だるんだるんのぐてんぐてんです。気持ちはわかりますけれど、わかりますけれど、今までのイメージがこっぱみじんに吹き飛んでしまいました。

 最後にアリシアが起き上ってすぐの話です。
 駆け寄ったプレシアさんにアリシアが最初に言った言葉が忘れられません。

「ママ、おかえり」

 アリシアは自分が今まで死んでいたことをわかっていなかっただけなのかもしれません。
 でも、それを聞いた私は、「ああ、そうだったんだ」って思いました。ずっとずっと遠くに旅していたのは、プレシアさんなんだって。
 あの世から帰って来たのはアリシアだけど、家に帰ることができたのはプレシアさんなんだって。

「ただいま」

 抱きしめたプレシアさんはこの一言をずっとずっと言いたかったのだって。

「おかえり」と「ただいま」。
 これはとてもささやかだけれど、とてもたくさんの人の間で交わされている、一日の戦いの終わりを告げる凱歌――なんて言ったら格好のつけすぎでしょうか?

   リリカルなのは




『はやてのスペル・コレクション』

〇リコール・スピリット:暗黒魔法9レベル 効果=亡くなった人の魂にいけにえの肉体を与える。


 私がアリシアを授かったのは二十八歳の時のことだった。
 七年間を共に過ごした夫とは三十の時に別れることとなってしまったが、幸いなことに魔導研究者として高給を得ていたので生活に困るようなことは無かった。
 また、職場の上司や同僚の理解と協力にも恵まれたこともあって、アリシアをどうにか育てて行くことができていた。
 陽気で活発で、人見知りもしない愛しいアリシア。少しだけわがままなところがあって悩まされたりもした。それから、勉強が嫌いなようで困らされたりもした。
 でも、楽しかった。
 なによりも、愛おしかった。
 あのころは仕事も、家庭も、何もかもが幸せだった。

 こんなはずではなかった。

 アリシアのためにと引き受けた仕事が原因で、毎日の帰宅は遅くなり、休日もなくなり、娘の笑顔も少なくなった。
 代わりに増えたのは、疲労と心労と不和と、アリシアの寂しげな瞳。
 それでも、この仕事さえやり遂げれば、この一時さえ切り抜けさえすれば、もっとアリシアのために時間を取ってあげられる職場に移動できる――そう考えてしまった。
 新型魔力駆動炉「ヒュウドラ」の開発。あんなものに関わりさえしなければ……と、どれほど悔いたただろうか。
 自宅と開発現場が遠いからと、開発室の一室を寮として借りたりしなければ。そこにアリシアを連れてきたりしなければ……。せめて稼働実験の当日、アリシアを遠く離れた場所に移動させていたら……。
 私の頭の中を後悔が埋め尽くした。


 ――満ちた。
 誰ともなくそう感じた時、それまで室内に鳴り響いていた歌声が、楽器の音色が止んだ。
 プレシア・テスタロッサから受け取った記憶を目印として、アリシアの魂を呼び戻す時が来たのだ。
 瞳を閉じ――まぶたの裏にアリシアの姿を思い描く。
 呪文の言葉はそっと優しく――小さな魂を驚かさないように。

「おじさま、どうかアリシアの魂にこの声を届けてください」

 なのはは信じる神に願いを告げると、リコール・スピリットの詠唱を始めた。

 帰っておいで 思い出をたどり
 母の笑顔 優しい日々へ
 ライ・プルマ・コルネ・サイト・ホルムス
 ライ・プルマ・レンス・レンス・フヴール

 湖の近く あの日の草原で
 約束したね また来ようって
 はしゃぐあなたと ほほえむわたし

 帰っておいで 思い出をたどり
 いつもいっしょの ベッドの中へ
 ライ・プルマ・コルネ・サイト・ホルムス
 ライ・プルマ・レンス・レンス・フヴール

 遅くなった日も 早く帰れた日も
 言ってくれたね 大好きだって
 いだくわたしと ほほえむあなた  

 帰っておいで 思い出をたどり
 あなたが生きる この場所へ
 ライ・プルマ・コルネ・サイト・ホルムス
 ライ・プルマ・レンス・レンス・フヴール

 一昼夜を越えた儀式によって、「時の庭園」内部に設けられた儀式場には莫大な魔力と「想い」が満ちている。それらが儀式の主宰者であるなのはの〝ノスタルジィ〟に導かれて、「器」の周囲に渦を巻く。
 そして、その魔力と想いに応えた神は、どこかにある魂の在処、アリサ・ローウェルが行かなかった「行くべき場所」からアリシア・テスタロッサの魂を連れ戻し、新たなる肉体へと定着させた。
 渦の中心に居た少女は――もはや「器」ではない――ゆっくりと目を開くと、ぼんやりとした表情で辺りを見回し始めた。
 アリシア・テスタロッサは復活を果たしたのだ。


「反省はしても後悔はしない」――このようなことを言っていられる者は幸せだ。何故なら「取り返しのつかない」事態に出会ったことがないのだろうから。
「死」は誰にも等しく降りかかり、逃れることも取り戻すこともできない大いなる損失だ。一度その深い眠りに陥ってしまった者は、もはや二度と目を覚ますことは無い。だからこそ「死」は人にとって最も恐ろしいことであり、そこからどうにかして逃れようと多くの者があがき続けて来た。
 真の「魔法」はこの恐るべき「死」の恐怖すら「取り返しのつくこと」にしてしまう。

「ああ、うっかり死んじゃった」
「死ぬかもしれんけど、勝てるかもしれんし」
「まぁ、生き返らせればいっか」

 あなたが気軽に振るい(あるいは受け取る)復活の秘術は、次元世界中で数えきれないほどの人々が探し求め、生涯を費やしても手がかりすら得られなかった代物なのだ。復活の奇跡の使い手はもちろんのこと、奇跡によって復活した人物もまた(さまざまな意味で)計り知れない価値を持っている。
 おかしなことだが、死者蘇生の技術は「命」よりも貴重なのだ。






〇ノスタルジィ:聞いた者に望郷の思いを起こさせる呪歌。
 リコール・スピリットの詠唱は、短編集『マンドレイクの館』収録の短編「幻獣の遺産」でクロノ君(ドワーフ、男、37歳)が詠唱したノスタルジィと、NANOHA MOVIE 1st THE COMICS に書かれていたアリシアの作文の内容を元にしています。
 呪歌の詠唱部分は小説でもあり歌詞でもあるので、レクイエムの部分でもそうでしたが「リリカルなのは関連」で登場している内容を元に古代語部分(意味の分からないカタカナ部分)以外は変更しております。どうもその部分以外は似たような意味合いであるならば、呪歌に限らず他の魔法系統でも呪文の詠唱として成り立つようでしたので……。
 ポエムせずして、何がリリカル(抒情的な、詩的な)か!

〇高町なのは:シンガー2→3 超英雄ポイント1→2

〇ここまでのまとめ

 高町なのは:8レベル暗黒神官 前世あり
 お父さん:元暗殺者 元ボディガード 現喫茶店のマスター サッカーチームはやってない(次女の世話で忙しいから)
 お母さん:(おそらく)中卒の料理人 戦闘能力が一般人なのでよくのけ者にされる そしてスネる
 お兄ちゃん:お兄ちゃん
 お姉ちゃん:メガネ
 フィリス・矢沢:なのはよりも年下かもしれない兄嫁(確定)
 八神はやて:黒衣の騎士 主なネタ要員(重要)
 御神美沙斗:叔母さん 十六歳で出産 育児放棄 復讐者 いろいろ大変な人 
 ザンダーム:名前は老竜コーラスアスに全滅させられたパーティーの生き残りから
 アリサ・ローウェル:元スペクター、現ファントムの悪霊娘 なのはに憑いて行くことにしたらしい
 アリサ・バニングス:ややこしいので出番はない
 月村すずか:稀に出現する
 月村忍:同上
 ギル・グレアム:闇の書は消え 退職金はもらえ 老後の生きがいを見つけた
 リーゼアリア:残った方の使い魔 そのうちはやての所へ行くらしい
 ゼリー:前の名前はリーゼロッテ 今はなのはにこき使われている
 闇の書の中の懲りない面々:神の御許に召された 
 ユーノ・スクライア:セージ、ルーンマスター、シーフな冒険者
 プレシア・テスタロッサ:海鳴に引っ越した
 アリシア・テスタロッサ:来年から聖祥へ通う予定
 フェイト・テスタロッサ:製造されていない
 キャロ・ル・ルシエ:追い出されない 両親と一緒
 ヴォルテール:ゆっくりしている
 レッサ:なのはのユニゾンデバイス 「アギト」と名付けるセンスは無かった 
 ジェイル・スカリエッティ:9レベル暗黒神官 バンパイア 不死者に転生しても性格は変わらず
 ウーノ:?????
 ドゥーエ:変身能力持ちの失敗作(ある意味成功例)
 トーレ:????????
 クアットロ:幻覚能力持ち
 チンク:バグベアード怪人 数種類の怪光線能力
 セイン:リュンクス怪人 透視+物質透過能力
 ディエチ:ドラゴン怪人 砲撃、火炎、咆哮、怪力持ち
 他のナンバーズ:製造されていない 
 ナカジマ夫妻:子供ができるよ。やったね!
 ギンガ・ナカジマ:アインハルトのクラスメイト
 スバル・ナカジマ:リオやコロナの同級生
 アインハルト・ストラトス:ギンガの友人兼ライバル
 ティアナ・ランスター:レアスキル持ちの医務官待遇嘱託魔導士
 ティーダ・ランスター:クロノの執務官補佐
 リニス・ランスター:ティーダの使い魔 書類仕事が優秀
 クロノ・ハラオウン:「地球? グレアム提督の故郷でしたよね?」
 リンディ・ハラオウン:同上
 エイミィ・リミエッタ:クロノに現場補佐官が付いたので少し安心 姉か!
 アルゴス:移民船にされた三竜王の一 ある意味なのはの弟子
 ルテジア:ルーテジア呼ばわりされている不死の王 ある意味なのはの師匠
 レスフェーン:夢空間の案内者 分霊の一部が蝶の姿で魔法少女のマスコットキャラに 
 ミージュ・デラクロス:カストゥールの死霊魔術士(それなりのレベル) 世界を旅してみたかった
 ラヴェルナ・ルーシェン:なのはの愛読書「アレクラストの博物学」の著者 口が悪いと評判の魔女

〇フォーセリア:始まりと終わりのループを無限に繰り返している世界。
 法則や出来事がループごとに微妙に違っている。旧ルール世界や完全版ルール世界、自由騎士の母親が亡くなっていたり生きていたり、とフォーセリアの外側から観測した場合に矛盾する事柄が存在しているのはそのため。
「四大魔術師の塔事件」を解決したのは私達であり、あなたたちであり、リウイたちでもある。
 全ての小説、全てのリプレイ、全てのプレイは、無限の周期の中でそれぞれが確かにあった。公式も、非公式も、ハウスルールも全てあり。
「汝の考えたいように考えるが良い」



 これにて無印終了。次からはちょっと跳んでVividへ。



[40369] 間奏『うつしすぎた鏡』
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/04/02 01:08
 あなたに宛てて毎日送られてくる手紙。
 もうすぐ二十年になるこの供物は、今も文箱の中に重なり続けている。
 ある日、ふと思い立ったあなたは、その積もった手紙を読み返すことにした。
 それなりの時間をかけ、新暦六十五年の終わり部分までを読み終え一息をつくと、あなたの目に一枚の鏡が映りこんだ。
 人はその鏡を「真実の鏡」と呼ぶ。
 高町なのはが手にした、鏡の精を呼び出すものではない。
 映したものの真実の姿を示す鏡でもない。
 あなたがその鏡に与えた魔力は、古のベルカ諸王時代に名を馳せた五竜帝サルバーンの秘宝である「真実の鏡」と同じものだ。
 あなたは過去と現在におけるあらゆる真実を見せる鏡を手に取ると、つい先ほどまで読んでいた手紙を受け取ったころの出来事を映し出すように命じた。




『なのはのモンスター・コレクション』

〇ドッペルゲンガー:モンスター・レベル10


『聖王教会から聖遺物を奪取せよ』

 ナンバーズの二番、ドゥーエが任された仕事の内容を短く書けばこうなる。
 方法の指定は特になかった。
 ドゥーエの変身能力が完全なものであったなら、聖遺物の管理を任されている司祭をコピーするだけで良かった。管理者の記憶を写し取ることができれば簡単な任務だったのだ。
 ただ、ドゥーエにはそこまでの能力はなかった。女性型の戦闘機人として製造されたためか、女性人格が邪魔をして男性に変化できないのだ。さらに機械部分の影響なのか、身長が大きく変化する子供に化けることも不可能だった。
 製造者であるジェイル・スカリエッティの趣味が悪い方向に作用した結果である。
 ドッペルゲンガーの本来の姿である「黒い巨人」として生み出されていれば、このような問題は発生していなかった可能性が高い。
 最短の方法を取ることができなかったドゥーエは、司祭に近い立場にあった「ある女性」に変身した。
 ドゥーエが変身した女性、シスター・ニノは聖遺物の管理者である司祭を誑かすのに十分な容姿を持っており、さらに非常に熱心な聖王教徒であったため、聖遺物に対して強く興味を持ったとしても不思議ではなかったから。
 ただ、このオリジナルの信仰は少々深すぎた。
 シスター・ニノは周囲の人間が「ああ、あのシスターなら聖遺物を見るためだけにおっさんと付き合ってもおかしくない」と納得するような女性だったのだ。
 シスター・ニノの性格は、行動を周りに怪しまれ難いという点では都合が良かったのだが、移ろいやすい自我を持つドゥーエには少しばかり鮮烈過ぎた。



 初めて見た時は、面白い子供だとしか思っていなかった。
 子供が一生懸命に背伸びして、さして年齢の変わらない子供を連れ歩く姿が滑稽だったのだ。
 人は見た目で相手を判断する。
 中身が心根や中身が大切だと説いていたあの司祭にしても、私の外見が醜かったらそもそも相手にもしなかったはずだ。それが今では随分とこちらに入れ込んできているのだから、偉そうなことを言ってはいてもやはり見た目が大事なのだろう。
 見た目という意味ではその「背伸びをしている子供」は十分に大人だった。どこかで見たことのあるデザインのバイザーを着けた、二十歳前後の黒髪の女性の姿をしていたのだから。
 与えられた能力の特性なのか、それとも別の要因なのかわからないが、私は他者の真実の姿を見抜くことができる。
 見た目は大人、中身は子供。退屈な聖王教会の日常業務中にそんな面白そうな相手を見つけたら話しかけないわけにはいかなかった。

「素敵なバイザーですね。どちらで買われたのですか?」

 ミージュ・クランズと名乗った相手はこんな簡単な質問にも上手く答えることができないようだった。なんと答えようかと迷っていたのだろう、しどろもどろになって結局は、

「それは秘密です」といかにも怪しい返事をしてきた。

 私はその答えが返ってくるまでの間、このどこか見覚えのあるバイザーはなんだっただろうかと、戦闘機人としての機械部分に備えているデータベースを検索していた。
 そして「秘密」と言われる前にそれがなんなのか知ったのだ。
 ダブラブルグの仮面――私の製造者、ドクターことジェイル・スカリエッティの昔の作品で、アルザスの黒竜に渡されたはずの品物。
 それがどうしてこんなところに出て来ているのか? この子供はどうやってそれを手に入れたのか? 親の関わっている品物なのだ。確認しておこうと考えたのは自然なことだったと思う。
 あるいはこの時点で、私の中の「シスター・ニノ」があの方にひかれていたのかもしれないが。 
 あの方との会話は楽しかった。
 この時にはまだあの方が「そう」だとは知らなかったので、ついつい悪い癖を出してしまって、仮面で変身していることや、それで連れ歩いている子供――名前はティアナ・ランスター――を騙していることなどをつついてイジメてしまった。
 私は少しだけ嗜虐趣味がある。ドクターによる精神操作の結果なのか、合成された鏡像魔神の性質が原因なのかわからないが、それは同じくデーモンを合成されたクアットロにも共通している。
 いや、デーモンのせいにするのは間違いかもしれない。トーレもデーモンの系統だが、私やクアットロとは随分気質が違う。
 クアットロの場合は私の影響が強かったのだろう。あの子は私によく懐いているから。
 そんなわけで私とあの方とのファーストコンタクトは、私が一方的に楽しむだけで終わってしまった。あの方は困ったように笑うばかりで、内心では不快に思われていたのかもしれない。
 その証拠に連絡先を交換しましょうと誘っても受け入れてはもらえなかった。あの司祭なら大喜びだったでしょうに。


ドクタージェイル・スカリエッティは、他人にどう思われようとも構わないと考えている。それでいて自己顕示欲は非常に強く、技術者や知識人にありがちな嫌な性質を持っている。
 最高評議会を利用して管理局の影に隠れて動けば活動の障害も少なくなるはずなのに、自分の(主に違法な)功績を世に知らしめたいがためだけに、あえて犯罪者となっているくらいなのだからそれはもう筋金入りだ。
 つまり、話が長い。
 聖王教会で出会った子供を連れた仮面の女について報告すると、それに対して十倍も二十倍も長いありがたい話をしてくれた。
 
「――――――つまり、だ。最も重要なのは彼女の身に着けている暗黒神の聖印なのだよ。あれこそはかつて私が『〝最後〟のゆりかご』の中で発見し、そしてそのまま見失ってしまった聖遺物なのだからね」

 ドクターが「ゆりかご」を調査した際、あの方が身に着けている首飾りと同じものが玉座の上に置かれていたのだと言う。

「座したもの死へと誘う呪われた玉座、その上に置かれた曰くありげな暗黒神の聖なる印。さすがの私でも怪しいと考える。とりあえずその調査は後にまわし、コントロールルームの復旧を先にしてしまったのがマズかった」

 ドクターの知識と技術は、古代カストゥール王国の遺産を蘇らせた。
 鍵となる玉座の聖王がいないため浮上こそできなかったが、それ以外の艦内の設備の制御を手にすることに成功したのだ。だが、艦内の魔力結合を取り戻したことが切っ掛けとなったのだろう、玉座の上にあったはずの「首飾り」は何処かへと転移して消えてしまったのだ。

「それが約十一年前のことだ。闇の書の事件で管理局の連中が慌てている隙を狙って『〝最後〟のゆりかご』起動したのだからね。まぁ、再起動によって大規模な魔力反応などが生じて感知される可能性を考えてそうしたのだが……結果としては必要のない心配だったわけだ」

 十一年前、「首飾り」に関するドクターの簡易的な鑑定が正しかったとすれば――そして、それによって玉座の主が生まれ変わっていたならば……。
 ちょうど、今のあの方の本当の姿の年齢になっていることだろう。

「困るのだよ。今を生きていられてはね……。それなりに苦労して、ようやくオリヴィエ・ゼーゲブレヒトの記憶を持つ者を探し出したと言うのに……本人の魂がこの世にあっては『ゆりかごの聖王』を蘇らせることができない」

 私が担当している「聖王の遺物」の入手はあくまでも予備プラン。ドクターの本命はリコール・スピリットによる聖王の復活だった。 
 もし――私は既に「そう」なのだと確信しているが――あの方が生きていることによって「聖王の復活」がなされないのだとしたら……私はどうするべきなのだろうか?
 戦闘機人のナンバー2、ドゥーエとしてはドクターの計画を優先しなければならない。
 では、ニノは?
 シスター・ニノはどうすればいい?
 ああ、頭に仕込まれたコンシデレーション・コンソールがわずらわしい。脳の形を少し変えなくては……。



 この奇妙な上位魔神についてのエピソードは以前にも紹介している。
 解説が遅れたことは誠に申し訳ないと思ってはいるが、これにはそれなりの理由がある。この魔神について気になる記述を発見したため、その真偽を確認していたのだ。
 ドッペルゲンガーは下位魔神ダブラブルグの同系列の上位種であるとされている。あのファーラムの剣を振るって魔精霊アトンを討ち果たした魔神の王がこの系列の魔神たちの最上位種であるとも言われているが、これについては確かな証拠は無い。
 この系列の魔神の最も特徴的な能力は観察した相手の姿を写しとる「変身」能力だ。
 下位種のダブラブルグであれば姿形に口調や仕草を真似る程度だが(これでも十分に脅威となるが)、上位のドッペルゲンガーともなると、それに加えて記憶や能力までも完全にコピーしてしまう。
 気付かない内にあなたの仲間は魔神と入れ替わっているかもしれない。そして、その魔神はあなたを陥れる機会を今か今かと待ちわびているのだ。
 隣で戦う仲間の剣は、次の瞬間にはあなたに向かって振り下ろされるかもしれない。後ろに控える仲間の弓矢や魔法は、あなたを狙っているかもしれない。
 ドッペルゲンガーの存在を知った瞬間、あなたの心には不信の種が既にまかれているのだ。
 この魔神の最も恐ろしいところは、何もせずとも「ただ存在する」だけで多くの人間を自滅させるところにあるのかもしれない。
 最初に書いたこの魔神に関する気になる記述についても記しておこう。
 一つ目は、この魔神について判明した新しい能力。
 それはドッペルゲンガーは標的の脳を吸収することで、観察時間無しに瞬時に記憶と能力を写しとることが可能という恐ろしいものだ。
 二つ目は欠点、あるいはその奇怪な習性。
 鏡像魔神とも呼ばれるドッペルゲンガーは、その名の通り鏡のように我々を写す。その際に必要のないものまで写し取ってしまうことがあるようなのだ。
 それはその写した相手の「想い」であり「願い」である。
 狂気にも似た強い感情の持ち主を写したドッペルゲンガーは、その心の影響を強く受ける。時には自身がドッペルゲンガーであることを忘れてしまうことさえある。それは長期間「変身」を続けた場合も同様で、徐々にオリジナルの自我に染められてしまうことがあるようだ。
 人の間に不信と不和をばらまくこの恐るべき魔神は、実のところそれほど自分に自信を持っていないのかもしれない。
 
 狂信者と言う言葉があるように、強すぎる信仰は非常に強い「想い」となる。
 それはドッペルゲンガーにどのような影響を与えたのだろう。
 彼女は崇拝する聖王の「完全な復活」と「現在の幸福」どちらをより尊いと考えたのだろうか?





〇2番:ニノはイノセントの二乃・スカリエッティから。変身能力、脳みそと関わりがある、聖職者(聖者)、とこれだけ揃えばドッペルでしょう。
 姉妹の中で最も合成されたモンスターの影響が強い(原作では最もドクターの影響が強いらしい)。ISは変身能力「偽りの仮面(ライアーズ・マスク)」。専用武装のピアッシング・ネイルは伸縮自在の刺突爪――頭蓋骨に穴をあけ中身を取り出すのに便利。
 自分の深く関わっているサブプランを強く推している。

〇コンシデレーション・コンソール:スカさん謹製の精神操作技術。原作ではルーテシアやギンガ(もしかしたら聖王ヴィヴィオも)を操るのに使ってたそうですよ。
先に精神系をかけておくことで、後からの敵対的な精神操作を予防するのはよくあること(バトルソングとか)。

〇ドッペルゲンガー:完全版ルールブックに唯一記載された上位魔神。ロードス島伝説でも存在感を示し、ロードスワールドガイドで特性が追加される。変身なしの殴り合いで同レベルの巨人フォレスト・ジャイアントと互角。その上、高レベルの古代語魔法も使える。優遇されすぎじゃないですかね。
 

〇Vivid:なのはさんはヴィヴィオのママ(母体)。Vividはヴィヴィが初等科(小学)4年生、10歳で始まる物語。

〇「死神」の首領:あのアイテムは祭器ではないかと思う次第。



[40369] 神代の国の聖王女
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/04/06 01:06
戦乱に明け暮れた世界『ベルカ』
その統一からすでに数百年が経過して――
諸王時代を終わらせた『聖王家』もすでに消え去った――
そしてかつてのエースオブエースはごく普通の女の子に……?





〇英雄伝:「〝最後のゆりかごの聖王〟オリヴィエ・ゼーゲブレヒト」

 古代ベルカ諸王時代。列強の王たちが天地の統一を目指し覇を競い合った戦乱の中で、戦技無双(エースオブエース)と讃えられた一人の王女がいた。
 後のベルカ統一の象徴、「聖王」オリヴィエ・ゼーゲブレヒトである。

 伝承は、オリヴィエには両の腕がなかったと語る。
 物心つく前に行われた魔導実験の失敗。それにより両腕と内臓の多くを欠損した彼女は、ゆりかご生まれの正統王女でありながら王位の継承権をも失ったのだ。
 さらに彼女はその誕生の際に発生した事故のため「母殺し」と父親を含む多くの親類から疎まれていた。事故の詳細は不明であるが、幼いころのオリヴィエは「呪われた姫」「亡者の王女」などと呼ばれたとも言われている。
 継承権もなく周囲から疎まれたオリヴィエは、留学の名目で聖王家の友好国であったシュトラへの人質として国を追われた。

 シュトラでの彼女の生活については諸説あり、友人を得て健やかに過ごしていたとも、両腕のない幼い身でありながら常に危険な戦場へと送られ続けていたとも言われている。
 また、聖王教会が語る「聖王の偉業」の多くは、この留学期間に集中している。偉業とは即ち英雄譚であり、英雄譚とは冒険譚である。これが事実であったとすると、オリヴィエは人質として送られた先で伝説となるほどの命の危機を何度も乗り越えたことになる。
 なぜシュトラが王位継承権を持たないとはいえ、友好国の王女であり、人質であるはずの人物を幾度も死の危険にさらしたのだろうか? 
 このことにどのような事情があったのかはわからない。古代ベルカ世界が滅び去った現在、真実を知るための手がかりはあまりにも少ないのだ。
 オリヴィエについて多くの資料を保管しているはずの聖王教会は、それを表へと出さない。そのことが多くの憶測を生んでいることは確かだ。現在の聖王教会で上級騎士や司祭などの高い地位に就いている者たちは、この留学時代の「聖王女」に付き従っていた騎士たちの子孫を名乗っているのだから。
 留学から数年の後、シュトラで多くの偉業を成し遂げその名声を高めたオリヴィエは、追われたはずの「聖王家」へと帰還することとなる。
 当時、ベルカ全土で激化していた戦乱を鎮めるため、反聖王家を掲げて同盟を結び包囲網を築き始めた列強諸国を制するため、聖王家の誇る最強の剣「最後のゆりかご」を操る「聖王」となるために――

 ベルカについて、あるいは聖王教について少し詳しい者であれば、「ゆりかごの聖王」とは人柱であることを知っているだろう。あまりにも強い「ゆりかご」の力は、その主となった者の命までも数年で焼き尽くしてしまう。聖王家が誇った最強の戦船を動かすためには代償が必要だったのだ。

 疎まれ、追われ、死を望まれ、その最後まで利用されたオリヴィエ。
 彼女は当時のベルカに満ちていた「死蝕」と呼ばれた大地への呪いを「ゆりかご」の力で打ち払い、その後にベルカを武力統一してこの世から去った――「ゆりかご」と共に文字通りこの世から消え去ったのである。
 聖王教会はこのことについて「聖王陛下は人には過ぎた力を神の下へと届け、そのまま神々の一員となった」と教えている。
 伝えられている限りでは、その不幸な生まれと短く苦難に満ちた生涯について、オリヴィエが不満を口にしたことはない。

「様々なものを失い、いつ命を落としてもおかしくはなかった。それでもこうして生きながらえ、暮らすことができている。支えてくれる人たちがいて、友と呼べる人もできた。自分の命は皆のおかげで繋がっている」
「私は大切な誰かを抱きしめることもできません。ですが、そんな私にもできることがあります。この終わらない戦乱と灰色の雲と、人々の飢えと悲しみが少しでも早く終わるよう、私は私の意志でゆりかごの聖王になります」

 彼女の本心はもうわからない。聖王教会によって神格化された「聖王女の言行録」が伝わっているだけだ。
 聖王教会は、オリヴィエが神託を受け信仰したとされる神の名を伝えていない。それ故、聖王教の信者たちは人々のために自ら望んで身を捧げた「聖王」へと今日も祈りを捧げるのだ。 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 おじさま、あけましておめでとうございます。
 本年も、来年も、いついつまでも末永くよろしくお願いいたします。

 初詣は、アルゴスさんの背中(!)に乗っけたおじさまの神殿に行ってきました。と言いますか私が神主さんでしょうか? どうでもいいことなのかもしれませんが、日本語の神主って神の主って書くのでちょっとエラそうに感じてしまいます。
 グレアムさんの教会へやってきた信者さんたちとの挨拶も終えて、ついでに不治の病で苦しんでいるという男の子の治療もやってきました。
 赤毛の男の子だったのですけど、なんでも生まれた時から病気がちでミッドのお医者さんからはもう何年も生きられないって言われていたらしくて、ご両親が伝手をたどってグレアムさんに頼んで来たそうですよ。
 その子は今までは療しても治療しても再発してしまっていたそうで、今日治しても「また」病気になるかもしれないって、その子のお母さんがすごく心配していました。おじさまの魔法の力が信じられないなんて困ったことです。ちゃんと治っているんですけど!
 とはいえ、心配する気持ちはわかりますので怒ったりはしません。それに、おじさまの力はすばらしいものですけど、それをお借りしている私はヘッポコなので、未だにもう一度リコール・スピリットができるかと言われると不安な状態です。
 できる、できる、絶対やれるって気はするのですが、何度も成功させられるかと言うと……うーん、となってしまうのです。どうにも感覚的なことで説明し辛いのですけれど。
 最初はアリシアでしたけど、まだまだなのです。美沙斗さんの旦那さんで、お姉ちゃんの本当のお父さんな静馬おじさん。お父さんの弟の一臣おじさん。不破のおじいちゃん、おばあちゃん。不破家と御神家のたくさんの親戚のみなさん。
 それからローウェルちゃんは……イヤだって言うので後で説得することにして、はやてちゃんとティアナのご両親。グレアムさんが気にしているクロノ君のお父さんだっています。
 ええ、まだまだいっぱいなのです。
 一年の計は元旦にありとか言います。なので計画を立てることができたらいいのですけど、私がまだまだなのでなんともなりません。
 ゆっくり急いでがんばります!

   新年最初の 高町なのは 


 ファラリスおじさま

 おじさまはミカンお好きですか? お父さんの知り合いの方から、ミカンがたーくさん送られてきたので私はミカンの食べ過ぎで黄色くなってしまいそうです。
 魔法のおかげでくさることはないのでゆっくり食べてもいいのですけれど、コタツの上にいつでも置いてあるとついつい食べ過ぎてしまうのです。

「はやてちゃん、あーん」「アリシアも、あーん」「プレシアさんもどうぞ、どうぞ」「レッサとゼリーもあーん」

 みんなにミカンを配達する――私は高町家のみかん係です。
 アルゴスさんにもあげたいところなのですが、あの大きな身体が満足するまで食べたら、日本のミカンが全滅してしまいそうです。アルゴスさんは食いしん坊ですね。
 そう言えば、グレアムさんが時空管理局を引退したら(何年後のことかわかりませんが)、アリアさんをはやてちゃんが引き取るみたいです。
 強くて賢い使い魔は、維持するための魔力がたくさん必要なので、年をとって魔力を生み出すリンカーコアが疲れてくると大変みたいです。
 ゼリーと一緒で、アリアさんも食いしん坊なのです。

「なのはちゃんがゼリーやから、わたしはミカンにしよかな?」

 ああ、アリアさんはミカンになってしまうのでしょうか? 「毎日日記を書かせるんや!」などと、はやてちゃんは恐ろしい計画を立てています。アリアさんの未来はミカン色です。
 おじさまもミカンどうですか?

   はい、あーん あなたのなのは  


 おじさま大変です!

 なんだかこの出だしも久しぶりのような気がします。お兄ちゃんがイロイロとお騒がせしていたころ以来でしょうか?
 大変と言いますか、困ったと言いますか、どうしたらいいのかよくわからないことがあるのです。
 それは、はやてちゃんのお父さんとお母さんのことなのですが、詳しく覚えている人がいないのです! はやてちゃんもずっと小さいころに(大人からしたら今も小人ですけど)別れてしまっているので、あんまり覚えていなくて……プレシアさんに聞くと、記憶を転写するにはおぼろげなものではなくて、きっちりはっきり覚えていないときびしいそうでして……。グレアムさんが本当にはやてちゃんのお父さんの友達だったら良かったのですけれど、アレはうそだったので、それで困ってしまいました。
 リザレクションでしたらリコール・スピリットと違って知らない人でも生き返らせることができるのですが、亡くなってから時間が経つほどに難しくなってしまいます。リザレクションで何年も前に亡くなった八神さんを生き返らせようとしたら、とんでもなくたくさんの人を集めて儀式をしないといけません。
 それぐらいでしたら、いえ、でもそっちの方ができそうな気もしますけど――確かどこかで、この問題をかいけつできそうなロストロギアの話を読んだことがあるのです。ユーノ君ならこういうことも忘れたりしないんでしょうね。私はなんだか、たくさんのことを忘れているような気がしています。

  悩める 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 昨日は困ったことばかり書いてしまいましたが、本当は昨日・今日と大掃除をしていたのです。
 もちろん高町家の掃除ではありません。はやてちゃんの家です。
 グレアムさんとアリアさんが管理してくれていたのですが、忙しくてなかなか掃除まで手が回らなかったようでして。建物は風を入れてあげないとダメになってしまうらしいので、お兄ちゃんが時々様子を見てくれていたりもしたのですが、やっぱり掃除まで手が回らなかったようでして。
 年末は大忙しでしたから――私たちの行方不明事件もありましたので……。
 もう、見当がついていらっしゃるでしょう。そうなのです、プレシアさんとアリシアが住むのです!
 高町家は部屋が余っているので(割と大きいお家なのです)一緒に住みましょうって誘ったのですが、遠りょされてしまいました。近くにアリシアを置いておこうとする私の計画はお見通しだったようです。半分ぐらいくれても罰はあたらない(あたりませんよね?)と思うのです。
 話がまたどこか遠くへ行きそうでした。このクセは全然なおりませんね。
 それで、八神家大掃除をしていたのですが写真がないのです。家族の写真が全然見つからなくて(掃除してましたよ)、がんばって家中探してもなくて、それでどうもはやてちゃんも親のことをほとんど覚えていないって話になったのです。
 そこから昨日の、困った困ったどうしましょう? になったわけなのです。
 それで、本題なのですが。おじさまはキュリエって女神をご存知でしょうか? 
 どうも「時を統べる女神」と呼ばれていたみたいで、このキュリエさんはなんと時間移動ができるそうなのです。それでですね、どうもこのキュリエさんなのですが石化されてしまってどこかに封印されているようでして、助けてあげたらタイムワープさせてくれるのではないかなーと、そう思うのです。
 そうしたら八神のおじさんたちが亡くなる前の時間行って会って来れますから。
 無限書庫から出て来た怪しげな本に書いてあったことなので、ウソかホントかわからない話ではありますけど、こういうウソみたいな話って結構本当なんですよね。いえ、本当に。
 昔に戻れるのなら、そもそもの死亡原因をなくしちゃえばって思わなくもないのですけど、そうするとイロイロ問題があるらしくて――タイムパラドクスがどうのこうのと難しい話ばっかりです。
 ホントにいたらいいのですけど、キュリエさん。
 実際のところはどうしたらいいのでしょう。

   頭の痛い 高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 とりあえず考えてもどうにもならないことは、後に回していろいろ探してみることにしました。
 そんな私のもとへ、新しい困ったさんがやってきたのです。困ったさんの名前はニノ――聖王教会のシスターさんです。
 おじさまは「どうぞ、お納めください」とものすごくかしこまって言いながら、下着を差し出してくるシスターさんに出会ったらどうされますか?
 私はとりあえず固まりました。

「他のものは仕方がなく流したのですが……これだけは、これだけはできませんでした」

 言っている意味はよくわかりませんでしたが、とにかくよくわからない説得力を感じたので、思わず差し出された年代物の女性用下着(?)を受け取ってしまったのです。

「もしかしたら、それが必要になるときが来るかもしれません。そのときには、それが一番役に立つはずですので……」

 最近のニノさんはよくわからないことばかり言います。そして、ニノさんは私が受け取ったのを確認すると、すぐに急いでどこかへ行ってしまったのです。グレアムさんから緊急だって連絡をもらって、ミッドの待ち合わせ場所まで急いで転移した私の気持ちを、ニノさんは一体全体どう考えているのでしょうか?
 緊急なのに、下着。わけがわかりません。私には本当になにもわからないのです。
 でも、なぜだかこのものすごく古そうな布きれを見ていると、本当になぜか懐かしい気持ちがこみ上げてくるのです。
 ごめんなさい。あんまりな事があったので、ちょっと混乱してしまったようです。なぜか「あ、これ私の!」とか思ってしまったのです。
 早く休むことにします。おやすみなさい。

   またまた頭の痛い 高町なのは 





〇オリヴィエ様言行録:間違ったことは書いていない……はず。詳しい事情を知ることができない信者たちからすると、シュトラって国は人質としてやってきた聖王様をいじめていたように思われていそうだと。

〇八神みかん:人の言葉を話して、二本足で歩き、酒も飲めばゲームもする猫がいたような記憶があります。

〇はやてパパ・ママのリザレクション:達成値の問題なので、信者を三万人くらい動員できれば可能かもしれません。

〇キュリエ:時を統べる女神の像ってロストロギアがありまして……。

☆聖遺物:投げると相手は混乱する。

〇普通の女の子:少なくとも王族よりは普通。

〇超英雄ポイント:いくつかの使い道がありますが、その中の一つに「魔法技能レベルの一時的な上昇」が存在します。



[40369] 父と子の剣
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/04/24 21:35


 永全不動八門御神真刀流、小太刀二刀術。
 お父さんは「名前だけ立派な、歴史の闇にうずもれそうなカビの生えかけた剣術」なんて言ってます。でも、これ中々スゴイ剣術なんです。
 極めた御神の剣士は銃器で武装した兵隊さんたちにも負けないそうですし、実際に次元世界の怪物相手にも通用していました(アイアンゴーレムには刃が立ちませんでしたが)。
 そして、私は全然上手くありませんけれど……。
 美沙斗さんの姿を借りているときは結構できている思うのですけれど、自分自身ではどうにもしっくりとこないのです。

「なのはには御神流の才能は無い」

 前にも言われたことです。ですが、今回はそれに少し付け足しがありました。

「御神流はなんだかんだで速さの剣なんだが……なのははどこでクセをつけたのか剛の剣だな」

 剛の剣とか言われてもよくわからないので、意味を聞いてみました。
 わかりやすく言えば「力で押し切るタイプ」のことらしいです。力づくです。強引に真正面からカラタケワリで、相手の守りごと押しつぶして勝つ! みたいな。
 ちょっと、これはどうなんでしょうか? 女の子に言うセリフでしょうか?
 いえ、私が筋肉ムキムキでお父さんよりもガッシリしたミノタウロスみたいな身体ならそれでもいいのです。でも私、力ではお父さんどころか美沙斗さんやお姉ちゃんにも全くかないませんし、料理でいろいろと力を使うお母さんにだって負けています。
 小学生ですからあたりまえなのですけど。
 ちなみにウチで一番の力持ちは「リビングアーマーはやてちゃん」です。でっかい鎧を動かして、大きな両手剣を振り回しているわけですからあっちの方が断然「剛の剣」だと思うわけです。 
 と、そんなことをお父さんに言ってみたところ「なのはにしみついている動きは、御神流よりもアレに近い」と返って来ました。
 自分でもちょっとそんな気はしていました。はい。
 御神流には「徹(とおし)」なんて技術があります。これは技の衝撃の炸裂点を調整できるってどこかで聞いたような技です。
 それから「貫(ぬき)」って技もあります。こっちは相手の見切りを見切るとか言うよくわからない見切りです。見切りを見切って、その見切りをまた見切られて。それをまた……と、とにかくそんな感じです。
 この二つ、特に「貫」の方はちょっとひねった動きをします。手首をグネグネっとねじったりして相手の守りをすり抜けて攻撃をねじ込むのです。私にはそのあたりができません。
 正面から、まっすぐに、全力全開でただ撃ち貫くだけ! とかなら得意なんですけどね。
 そういう性格のせいなのか、ミッド式魔法も砲撃魔法の適性が妙に高くて、本場でもそこそこ珍しい「砲撃魔導士」タイプとか言われちゃってますし……。
 お父さんが言うことには、御神流は対人間用の剣術なので遺跡で出てくるような大きくて頑丈な怪物を相手にするのには向いていません。達人はそれでも結構なんとかしてしまうわけなのですが、それでもやっぱり厳しいのです。
 それで、御神流ではない私のよくわからない動きのクセなんですが、どうも対怪物用じゃないかなってことなのです。自分ではサッパリなのですが、お父さんが言うからにはそうなのでしょう。
 そんなに力持ちでもないのに、どこでそんなクセをつけてしまったのやら。




 ファラリスおじさまへ

 私はよくお父さんっ子だと言われます。 
 何か話しているときによく「これお父さんが言ってたことなんだけど~~~~」って言うことが多いようなのです。自分ではそんな風に思ってはいなかったのですけれど、そう言われるとそうなのかもしれないなって気もしてきます。
 別にいいんですけどね。お父さんっ子で。ついでにお母さんっ子で、お兄ちゃんっ子で、お姉ちゃんっ子と追加してもらってもかまいません。かなり甘えているのです。
 もちろん、おじさまっ子でもあります!

「困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるなら、その時は迷っちゃいけない。何もしなかったことを後悔したくないなら」

 これお父さんの教えです。ってずっと前にも書きましたっけ?

「やりたいことがあって、それをできる力が自分にあるなら、その時は我慢しなくてもいい。自分の想いに素直になりなさい」

 これはおじさまの教えですよね? 
 お父さんはおじさまとお話しできないのですけど、もし話すことができたら、きっと気が合うんじゃないかなって、私は思っています。
 ウチの父さんは結構いい加減です。でも、その代りにいろいろと理解もあるのです。
 なぜそう言えるのかって言いますと、うちの父さんは世間さまだったら絶対ダメ! って人たち相手でもそれなりに考え方を尊重すると話していたからです。

 たしかお母さんと出会ったころの話を聞いた時のことです。
 フィアッセさんのお父さんでウチの父の友達でもあるアルバートさんという人がいるのですけど。その人が日本のホテルで講演会か何かをしているときにテロリストに襲われてしまったんです(この事件が切っ掛けでウチの両親は仲良くなったみたいですよ)。
 そのときのことを話しながら、お父さんはこう言ってました。

「思想や目的のために暴力や脅迫なんて手段に頼らなくちゃならないヤツラもいる。そんなヤツラの痛みや苦しみも、少しはわかる」って。
 でもそこから続きがあります。
「ただ、ソイツらがどんな人種で、どんな思想を持っていて、どんな願いを持っていたとしても――俺が守りたいものに危険をもたらすのなら、俺の前に立って邪魔をするのなら……誰であろうとブッタ斬る!」

 その話を聞いた私は思わず拍手してしましました。

 誰のどんな行いも、どんな思いも、どんな願いも否定はしない。
 でも、それが自分や、自分の大事なものの害になるのなら実力で切り抜ける。

 ウチのお父さんはおじさまの声は聞こえませんが、ずっと昔からそれをしてきたんです。
 そんなわけで、きっとおじさまとも話が合うのではないかと、そう思っているのです。

   お父さんっ子の 高町なのは


 おじさまへ

 おじさまはエライ方なので、お家に使用人の方がいたりしたこともあると思います。
 そんなおじさまにお聞きしたいことがあります。

「お帰りなさいませ、陛下」

 今日の夕方のことです。ちょっと世界三つほど転移した先まで散歩に行って帰って来たら、家にメイドさんがいました!
 正確にはメイドさんではなくてシスターさん(姉や妹ではなくて教会にいる方です)ですけど。
 誰かって予想は簡単ですよね? 私の知り合いで、こんなお茶目なことをしでかすシスターはニノさんしかいません。
 なんで我が家の場所を知ってるの? とか
 どうして「陛下」なんて呼ぶの? とか
 ミージュじゃないよ、なのはだよ。とか
 ついでに何やってるんですか? とか
 いろいろ話をしたわけなのですが――どうにもニノさん、お仕事もやめて、実家からも家出して、ウチにやってきちゃったみたいなんです。
 前にジョウダンで「私の家来にしてあげてもいいよー」みたいなことを言ったような気もしますけど、大人の人が本気にして来ちゃうなんて予想外です。
 私、どうしたらいいですか? 謎の急展開で、私の脳みそは集束砲を受けたように真っ白です。

 とりあえず、聞いたことの答えを簡単に書きますね。

「陛下、なんだかよくわからない物を受け取ったらよく調べないとダメですよ」

 ニノさんが高町家の場所を知っていたのは、この間もらった「謎の下着」に仕掛けがあったのです!
 世界間を越えて探知できる発信機的な代物が仕込んであったとか……ニノさんはいつから私のストーカーになってしまったんでしょう。ちょっと怖い。 いえ、たしかにせっかくミージュに化けて行動していたのに、こんな簡単なことでバレちゃうとかダメダメですね。バレたのがニノさんだったのでまだ良いですけど、今後はもっと注意して行動しないといけません。反省。

「陛下は陛下ですから。どうしてもお嫌でしたら『なのはさま』と呼びしましょうか? いえ、『お嬢さま』も捨てがたいですね。いえいえ、ここは『ご主人さま』なども……」

 よくわかりませんが、ニノさんの中では私はとーってもエライ人になっているようです。ちょっと怖い。
 とりあえず長い長い交渉の結果、「なのはさんでいいよ……」と言わされてしまいました。これからはニノさん(大人の女の人)に「なのはさん」と呼ばれる日々です……。ニノさんの私に対する態度もあって、なんだかどこかの怖い家のお嬢さまのような感じになってしまいます。
 たしかにお父さんの実家は結構アレな家ですけど。
 陛下や、さま付けや、お嬢さま、ご主人さまよりはだいぶマシな気がします。ただ、はやてちゃんやレッサ、ローウェルちゃんにゼリーまでが面白がって「なのはさん」と呼んで来たりして困ってしまいます。

「実は私、変身を見抜くことのできるレアスキル持ちなんです」

 ニノさんに変身は通用していなかったようでして……実はベルカ自治区の教会で初めて会った時から「本当は子供」だって知ってたそうです。
 知っていて、それを黙ったまま私の「大人の女」の演技をながめて楽しんでいたのだとか。うう、恥ずかしい。ティアナのときもそうでしたけど、耳まで真っ赤になってしまいます。

「前に約束したように、あなたにお仕えさせてください。もちろんタダでとは言いません。お金は払いますので、どうかおそばに置いてください」

 何やってるんですか? と聞いた答えがコレです。
 私の身の回りの世話とか、我が家の家事とか、なんでもかんでも雑用その他もろもろ、どんなことでも言うことを聞きます。らしいのですけれど――それでそうさせてくれるのならお金も払うって……? あれ? え? なんで、お仕事してくれる上にお金までくれるのでしょう?
 意味がわかりません。わけもわかりません。何もわかりません。

「あなたの近くにいられる。あなたの言葉を聞ける。あなたの役に立てる。私はそれだけで幸せなのです」

 もう、ちょっとではありません。かなり怖いです。
 でも、でもですね。私なんかと比べるのもおかしな話ではありますけど、もし、もしですよ? 私がおじさまのところまで行けたなら、おんなじようなことを言ってしまうかもしれません。
 そうすると、もしかしなくても、私もちょっと言わず、相当に怖いのでしょうか? そんなことありませんよね? ね、おじさま。

 ですよね。私も「なんじのなしたいようになすがよい」です。
 そんなわけで我が家に新しい一員が加わりました。さすがにお金をくれるって言うのは断りましたけど。
 逆に払うって言ったんですけど、それはどうしても受け取ってもらえませんでした。
 あと、はやてちゃんに「前々から思っとったんやけど。なのはさんはやっぱり恭也さんの妹なんやね」と言われ。
 ローウェルちゃんには「むしろ恭也さんが、なのはさんのお兄さんなんじゃない?」と言われ。
 お母さんにまで「なのはさんってモテるのねー」と言われてしまいました。お母さんまで「さん」付けなくてもいいと思います!
 私は一時期のお兄ちゃんとは違いますから! シスターさん(巫女のお姉さん)の胸をグワシってしたわけじゃありませんから! 
 行く先々で女の人を引っかけて来て、家に連れてきたりとかしてませ……してませんよね?
 ホントに違うんです。

   けっぱくの 高町なのは






〇父と子の剣:剣鍛冶師の親子が量産品と高品質品を巡って対立する短編。
御神流は速さと技で、避けて急所を抉るシーフ系のイメージ。
回想でオリヴィエさんが使っていた武器は――グレートソード、グレートアックス、ロック(石)、鉄腕パンチ、と大火力。防御面でもクラウスの覇王断空拳(推定)を指でつまんで止める重装甲。昔も今も、遠近どちらでも、鎧でカキンと弾いて、一撃必殺の大砲をぶっ放すファイタータイプのようです。

〇お父さん:非暴力主義のなのちゃん。バリアに向かって「徹す!」とか言って突貫するなのはさん。この違いはお父さんの存在が大きいはず。
 士郎さんの考え方は「リリちゃ箱のリリカルなのは」で語られています。「気に入ったヤツの邪魔者はブッタ斬る。守りたいものに危害を加えるヤツもぶったキル」
 妹の美沙斗さんも「とらハ3」の登場ルートでは「目的のためなら甥っ子だってブッタ斬る、必要なら実の娘だって斬る」となかなかアレです。
 不破家……



[40369] ハーフエルフの御守
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/04/29 02:27


 ファラリスおじさまへ

 我が家にニノさんがやって来て一週間がたちました。
 この七日間の間で私はスッカリとダメ人間街道を進んでしまっております。
 朝は起こされ、着替えを手伝ってもらい、顔を洗えば横からタオルが差し出される生活です。さすがにあらってもらうようなことはありません。けれど、何かしら用事があると、ニノさんは私が何かしようとする前にそれをササッと片付けてしまうのです。
 いつも身の回りにお付きの人がいて、世話される生活とか想像もしていませんでした。すずかちゃんは、生まれてこの方毎日こんな生活をしてきたのでしょうか?
 そして、そんな特別な環境だと思っていた生活をあまり疑問に思わなくなってきている自分がいます。
 なんということでしょう。
 あの「ひとりでできるもん」と言っていた高町なのはが、たった一週間でお世話されるのを当たり前と感じてしまうような上流階級のレディ(冗談です)に変身してしまいました。
 このままでは、そう遠くないうちに私はひとりでは何にもできないダメっ子になってしまいそうです。
 どちらかと言うと、私はお世話してもらうよりもお世話してあげたい性格なのだと思っていました。それなのに、ちょっと甘やかされたらすぐにコレです。
 周りに人の目から見ると、もうすでに従者がいるのが当然みたいな雰囲気をだしてるときがあるらしいです。
 前から、使い魔のゼリーはいました。ユニゾンデバイスのレッサもなんだかんだで世話焼きでした。
 でも、そういうのとはまた違って――なんだか最近変な感じです。

   高町なのは


 おじさまへ

 久しぶりに夢を見ました。
 赤いオリの中にいる夢が長い間続いていたのですが、今日はようやく違う夢です。
 夢の中の私には、なんとお付きの侍女がいたのです。 
 名前まで覚えているのですから、夢の中の人にしてはすごく重要人物です。まぁ、今の私がニノさんにお世話されてるみたいに、いえ、それ以上にお世話になっていたので当たり前ですけれど。
 侍女の名前はマウナ。
 マウナは髪の毛を頭の後ろでお団子にしていて、とってもかわいいんです。あの髪をくるっとまとめて布で包むのって、なんて言えばいんでしょう。ちょっと調べてみたのですが呼び方がわかりませんでした。
 マウナはちょっとだけ耳が尖っています。ずっとずっと昔の先祖に森の妖精がいたからなのだそうですけれど、ピコピコとしてこっちもかわいいかったです。
 詳しいことは覚えていないのですが(なにせ夢の話ですから)、どうも彼女は「私」がすごく小さいころからずっとそばにいて支えてくれた人のようでした。
 夢の中の時間はすごく速く流れてしまって、なにがなんだかよくわかりません。
 小さなころに薄暗い通路で泣いていた私の手を引いてくれたマウナ。
 少しだけ大きくなった私の世話をしてくれたマウナ。
 知らない土地へと送られることになり、不安に押しつぶされそうな私をはげましてくれたのもマウナ。
 新しい場所で、新しい友人との日々を見守ってくれていたのもマウナ。
 彼女は「私」にとって一番信頼できる人だったのだと思います。
 夢の中の「私」はどういうわけなのか、大事な大事な友達と戦っていました。
 戦って、勝って。その友達に心配をさせないために、地面に倒れた相手に笑顔のまま背を向けるのです。
 本当にバカな「私」。
 泣きたかったら泣けばいいのに、いつもいつもガマンして、大事な人たちに心配をさせないためって、いつも笑顔の仮面をかぶっているんです。
 高町なのはが幼稚園のころにおじさまから教えてもらったことを、この「私」は死ぬまでできなかった。

「マウナ……クラウスのことを助けてあげてください。リッドはきっと、すぐには帰って来られないから……」

 碧銀の髪の友達に背を向けて、駆け付けて来た恩人からも顔を背けて、「私」はたったそれだけの言葉を絞り出しました。顔は涙でグチャグチャなのに、声だけはカッコつけて。
 分からず屋で、意地っ張りで、ガンコ者。自分も、友達も、恩人も泣かせて、どこかの知らない誰かのためになんて――だから私はこの「私」が大嫌いです。
 どうせ命をかけるのなら、みんな、みんな、みんな、誰も泣かないですむようにすればいいじゃないですか。だから「私」はバカなんです。ホントにバカ、バカバカバカ。
 夢の中で会ったステキな人の話のはずが、なんだかバカバカなってしまいました。

 こんな内容の手紙でも、いつも気にせず受け取ってくださって本当にありがとうございます。おじさまが聞いてくださる(読んで?)おかげで、私はまたいつもの私に戻れそうです。

   「私」の嫌いな 高町なのは



 ファラリスおじさま

 今朝はなんともグチグチとしたことを書いてしまってごめんなさい。
 気分を切り替えまして、本日発生したちょっとした大事件について書きます。
 えーとですね。大事件と言うのはですね。実はお姉ちゃんが友達のみーさんと一緒に行方不明になってしまったのです。
 別に、いつぞやの私のようにさらわれたわけでもありません。
 かといって、これまた去年の私のように猫を連れて旅に出たわけでもありません。
 ツボの中に落っこちてたんです……二人とも……。
 おじさまは前に「安らぎのツボ」について書いたことを覚えていらっしゃいますか? 
 おじさまのことですから覚えていらっしゃるとして続けますけれど、あのツボには大きな欠点があるのです。私もはやてちゃんも、ゼリーもレッサもプレシアさんも、スフィンクスさんもあのとき入った誰も気が付かなかった欠点。
 それは――実はあのツボ、空を飛べないと外に出られないのです。
 あのツボの中は、ツボの中の形をした空間ですので(ややこしい)、壁を登ろうにも指をかけるところがありません。仮に針と糸を上手く使って登ったとしても、ツボが首の部分で細くなっているのでそこからは垂直どころかぶら下がりです。さすがのお姉ちゃんもツルツルした天井にぶら下がっての脱出は危ないと思ったみたいでした――できないとは言わないところがスゴイのですけど。
 そんなわけで、私の部屋の置物を勝手にいじった二人はツボの中で救助を待っていたのです。そんなことを知らない私達家族は夕飯にやってこないお姉ちゃんについて、「まぁもうすぐ高校三年生ともなれば、帰りが遅い日もあるさ」とすき焼きを食べていました。
 我が家ってよそさまと比べて結構おおらかなんです。異世界にでかけたりする娘がいますから、はい。
 みーさんの家族の方はよく知らないのですが、どうもウチと同じようなところがあるようです。世の中って世間一般の常識よりもずっとイロイロありますので。
 結局、二人はあのツボを部屋代わりに使っているレッサが眠りに戻るまで、中で遊んでいたそうです。ひとが心配していたって言うのに、ウチのお姉ちゃんときたらまったくのんきなものです。
 ところで、おじさまはすき焼きで卵をつけるのは平気ですか? ニノさんはあのお肉に卵をからませるのが微妙に苦手だそうです。出身によって食べ物の好みって結構違ってくるので面白いですよね。
 私はよく汁のしみ込んだ「ふ」が好きです。あれをこうぐるぐるっと卵とからめてつるんとするわけです。
 いつかおじさまと一緒に鍋をつつけたらいいなって、そう思っておりますのでごいっこうください。

   高町なのは



 ファラリスおじさまへ

 夢で見たことをヒントにして、はやてちゃんに習いつつ、魔力を使って身体を動かす練習をしてみました。
 すると、あら不思議。おどろくほどうまく動かせるのです。お父さんやお兄ちゃんがビックリするくらいの上達ぶりです。今までの練習は何だったのだろう……ってくらいの急成長ですけど、何か感覚をつかむ時と言うのはそんなものだってお父さんが言っていました。
 やっぱり、御神流の動きとはぜんぜん違う方向へと突き進んでいますが、もうこれはどうしようもない感じです。
 ミージュに変身すると感覚まで切りかわるのか、動きもかわってしまうのでなんだか変な感じがします。
 何にしても、とにかく強くなれたのは良いことでしょう。
 普段から鍛えておかないと、いつなんどき暴漢におそわれるかわかったものではありませんし。ピンチになってから「ああ、もっと練習して置けばよかった……」と思っても遅いのです。
 剣(私の場合は得物がデュランダルなので槍ですけど)の話のついでに、ニノさんに剣術についても書いておきます。
 ニノさんは聖王教会の人らしく、あのトンファーみたいな剣の二刀流が得意です。あの武器ってすごく扱いが難しそうなんですけど、聖王教会の修道騎士団ではそれなりに使い手が多いのだそうです。
 振り回して斬りつけるだけではなくて、剣を盾として使って補強ブーツで蹴る! なんて戦い方の人もいるみたいですから、なかなか奥の深い武術なのかもしれません。
 珍しい流派(それも二刀)の人と練習試合ができるって、お兄ちゃんは(こっそりと)大喜びでした。
 私はどうにも身体と得意な動きがかみあっていないようです。必要な筋力は魔力で補えるのですが、根本的に身長が足りていないみたいですね。かと言ってミージュに変身すると、自然と美沙斗さんの動きをマネてしまいますし――困ったものです。
 アルゴスさんのところにたどりつくまでの通路でガーゴイル相手にずいぶんと苦労させられたので、魔法をバンバン使えるって状況でないときに備えておきたいのですけれどなかなか上手くいかないものです。
 十才のころのお父さんよりも上らしいので、小学生としては十分すぎるのかもしれませんけれど。
 あと、レッサとニノさんからベルカ式魔法を覚えてみたらどうかってすすめられています。魔法が三種類に、武術に、勉強に、習うことも覚えることもいっぱいで、私は正直いっぱいいっぱいです。

   高町なのは がんばります! 



 ファラリスおじさまへ

 なんとなく、大きな事件の予感です。
 夕飯のあと、家族みんながそろっているときにお兄ちゃんがすごく真剣な顔つきで「明日、時間を作ってほしい」と言い出しました。
 なんでもお兄ちゃんの将来に関することで家族のみんなに大事な話があるようなのです。
 それからその家族会議(?)にはフィリスちゃんもやってくるようでして……これはもしかするともしかするのかなーなどと考えてしまったりしています。
 ウチのお兄ちゃんの特技は「剣術」です。それも世間に見せてまわるような立派な「武道」ではなくて、あまりほめられたものではない殺人術だったりしています。
 それで、まぁ、お兄ちゃんは大学を卒業した後はお仕事どうするのかなーとか、フィリスちゃんと一緒になったら主夫にでもなるのかなーとか、それとも翠屋で働いてあとをつぐのかなーとか、大学生ってイロイロ考えなきゃいけなくて大変だなーとか、そんな風に思っていた所でした。
 私の将来の仕事と言いますか、夢と言いますかはもう決めています。でも、そのあたりって悩ましいですよね。悩めるってことは選択肢が多いってことなので良いことなのですけれど、それまで「学生」ってことで狭かった道が一気にバーッと広がるので大変です。
 お父さんはそのあたりあんまり悩まずに世界中をブラブラ―っとしていたそうです。
 お母さんは計画性バッチリと言いますか、すごく順調に夢をかなえた人です。中学を卒業した後すぐにお菓子作りの修業でヨーロッパに渡って、そこで数年修業した後に日本に帰ってきて、帰国後すぐに業界で名前を知られるようになって、イギリスの上院議員さん(フィアッセさんのお父さんですけど)のおもてなしのためにってホテルのオーナーさんから特別に招かれて、そこでお父さんと出会ってお付き合いをして結婚。小さなころからの夢だった喫茶店を開業させて、これも順調に繁盛させているって人ですから。
 改めて書いてみるとお母さんってスゴイなって思います。何が一番スゴイって、風来坊だったお父さんを捕まえて海鳴市に定住させたことです。
 私もがんばってお母さんを見習います!

   あなたのなのは







〇高町なのは:ファイター2→5  一般技能プリンセス(ベルカ諸王時代)1を取得。思い……出した?
 ※プリンセス(ベルカ諸王時代)技能:古代ベルカ戦乱時代の王族としての常識と心構え。
 戦国感覚なので現代日本人とは倫理観がかなり違っているでしょう。
 Stsでのスカさん曰く、古代ベルカの王族の間ではクローン技術の利用などはごく当たり前だったそうです。

〇マウナさん:Vividのオリヴィエの場面でちょくちょく登場する侍女さん。幸せな日常シーンを片隅で演出し、何気にクロよりセリフが多いと大活躍。13巻までで名前が不明なので、SWが誇るお給仕ハーフエルフ、マウナ・ガジュマから名前を頂きました。
 クラウスに力づくで(肩を)傷物にされていたマウナさん。クラウスだからマウナさん、それだけです。

〇お母さん:大阪生まれの関東育ち。高町家のすき焼きはどっちよりなのだろうか。
 十五で菓子職人の道を進むことに決め、フランス・イタリアなどで修業(公式)。娘が中卒でも夢のためだったら気にして無さそうな人。

〇ハーフエルフのおもり:ハイエルフの森。御守=子守り。余談ですが、ガジュマルの樹には妖精が住むのだとか。



[40369] 鮫の子は鮫
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/05/04 00:33
 ファラリスおじさまへ

 今日はいろいろなことがありました。
 お兄ちゃんのこと、フィリスちゃんのこと、ニノさんのこと。たくさんの話があってすぐにまとめることが難しそうなので、明日からの手紙に分けて書こうと思います。
 ひとつひとつ整理していかないとわけがわからなくなるって、去年はやてちゃんに怒られましたしね。
 とりあえず今日は、美容院でのこまった出来事などを書かせていただきます。明日はお兄ちゃんの話でもって考えています。
 髪を切ってもらいに行ったんです。年も変わりましたので心機一転ってヤツです。
 それで最初は問題なかったのですけれど、途中でうっかりうとうとと眠ってしまったのです。そうしたら――美容師さんのハサミが壊れてしまいました。
 眠った瞬間から、私の髪の毛がものすごーく頑丈になったようでして、それでハサミの刃が負けてしまったのですね。
 アルゴスさんにかけてもらった「竜血の護り」の呪いの効果です。「竜血の護り」の呪いは私がケガをしたり傷を負ったりすることを防いでくれます。
 私が起きている間は、「切ってもらう」って意識があったのでセーフだったようなのですけれど、眠ってしまったせいで呪いの効果が髪の毛にも働いてしまったのです。
 髪は女の命、ヒゲはドワーフの命って言いますしね。
 そんなわけで、ハサミの修理代を(こっそりと)弁償することになってしまいました。自分で切る分には問題なかったので、すっかりと油断していました。
 命を守ってくれるこの呪いはすごくありがたいのですけれど、時々ちょっと不便なこともあるようです。

 今日はニノさんが家から追い出されるんじゃないかって不安そうにしているので、ニノさんをよしよしとしながら眠ることにします。
 どうしてニノさんが不安そうなのかって、おじさまはきっとご存知でしょう。でも一応、今度また別の手紙に書くことにしますね。

   一応雇い主の 高町なのは


 親愛なるおじさまへ

 昨日の手紙に書いたように、今回はお兄ちゃんのことを書きます。
 私のお兄さん、高町恭也さんはもうすぐ大学二年生。ついでにもうすぐ二十歳で大人の仲間入りです。
 それでいろいろと自分の将来について考えたお兄ちゃんは、この海鳴市で整体とか指圧とか、マッサージとか、柔道なんとか師とか、どうもそういう関係の仕事に就くことにしたらしいです(この辺り、いろいろと細かい区別があるらしいのですが詳しいところはよくわかりません(リフレッシュすればすぐに治りますしね)。
 これは、まぁ、どう考えてもフィリスちゃんの影響です。フィリスちゃんは(大人にしては)小さい体つきをしていますが、メキィ! とかバゴン! って感じでなかなかすごい技の持ち主なんです。私も前はやってもらったことがあるのですけど、あれはなかなかすごい体験でした。身体の中で音がするんです……。
 お兄ちゃんは高校生のころまでは特技の剣術を活かせるような「ちょっと危ない」仕事ができないだろうかって考えていたようです。昔のお父さんみたいな感じですね。
 それがお医者さんのフィリスちゃんと仲良くなって、お付き合いを続けている間に「もう一つの特技」で身を立てて行けないかって考えるようになっていったそうです。お兄ちゃんのもう一つの得意技は「マッサージ」です。武術をやっていると人間の身体についても詳しくなった方が良いらしくて、お父さんもそうなのですが、簡単なケガの治療なんかはできるようになっていくみたいですね。
 ちなみに私には魔法があったので、そう言うのよくわかりません。必要がないとなかなか覚えられません。
 お兄ちゃんとお姉ちゃんを鍛えたのはお父さんです。でも、お姉ちゃんの剣術の練習メニューを組んだり、ひねったときの治療なんかは主にお兄ちゃんがやっていました。お父さんが面倒がったわけではなくて、そういう後進の指導についても教えていたわけです。
 ちなみにお姉ちゃんの後輩は私なのですが、魔法使いの指導は無理だったようでした。
 とにかくそんなわけで、ウチのお兄ちゃんは御神流不破家数百年のそういった人体に関する知識と技術を元々持っているのです。これを現代ではなかなか表だって(昔から裏ですけど)お仕事にしにくい剣の道ではなくて、医の道に使うことにしたのですね。
 私はこれに大賛成してきました。剣術を活かせる危ない仕事をするよりずっと安心できますし、「あんたんとこのお兄さんって何の仕事してるの?」って聞かれた時に「殺し屋」とか答えなくてよくなりますし。
 アルゴスさんの呪いのおかげで頑丈な私と違って、お兄ちゃんは爆弾で吹き飛ばされたりしたら大ケガではすみません。おじいちゃんはそれで亡くなってしまっていますし、お父さんだってそれで長い間入院生活だったのですから、これはもうどんなに鍛えたってどうにもならないことなのです。
 もしも何かで死んでしまったとしても、生き返らせることはできます。でも、できればそんなことにそもそもならないでいて欲しいって、そう思ってしまうのも仕方がないことではないでしょうか。
 なんて言いながら、一番危ないところ(遺跡での冒険など)に呼んでいるのは私なわけでして、それがどうにも矛盾してしまっているのですけれど。
 あっちもこっちも、どっちも欲しい。どうにもこうにも、私はとても欲張りです。

   高町なのは


 敬愛するおじさまへ

 今日もこの間の家族会議の話になります。
 今回はフィリスちゃんの復讐の話です。実は、フィリスちゃんはある人たちにとても深い恨みを抱いていて、その仕返しのためにお医者さんになっていたのです。
 いつもニコニコと優しくて可愛らしいフィリスちゃんですが、心の奥底では復讐神ミゴリさんの信者のように、メラメラとした炎がいつも燃え盛っていたのでしょう。
 お兄ちゃんと手をつないで、でもまっすぐに私たちの方を向いて、フィリスちゃんは言いました。

「私が医者になろうと思った理由は、仕返しなんです」

 フィリスちゃんの今のお父さんもお医者さんで、そのお父さんに憧れたところももちろん大きいのだそうですが、それでも一番の理由は「仕返し」だったのです。

「私は戦闘用につくられた、能力者のクローン。命を奪うために生み出された私が、逆にたくさんの人の命を助けちゃうんです。それが…私をつくった人たちや、運命とか世界への復讐」

 あまり詳しいことまでは聞かせてもらっていません。
 わかったことはフィリスちゃんは戦闘用に開発されたクローン人間で、造られてから今のお父さんに引き取られるまでの間はとても辛いことと、すごく悲しいことばっかりだったことです。
 今は幸せでいっぱいみたいですけどね。だってずっとお兄ちゃんと手をつないだままでいて、ウチの家族が「そういうこと」を気にしないってことがわかったら今度は二人で見つめ合っちゃってましたから!
 フィリスちゃんも、少し前まで「呪いの本」があって、幽霊が普通に住んでいて、使い魔とかいってしゃべる猫が歩いていて、パタパタと飛び回る小悪魔がいる高町家なのですから、いまさらクローンだのアンドロイドだのでどうこうってことはないだろうって、最初からわかってはいたみたいなんですけど。
 それでもやっぱり人には言いづらいことを明かすのって勇気がいりますよね。信じてもらえなかったり、バカにされたりするぐらいならまだいいのですけど、それが原因で避けられちゃったりしたらどうしようって悩みますから。私もそのあたり、ちょっとだけわかります。

 お兄ちゃんが将来的に海鳴から離れないで済む仕事を選んで、それからフィリスちゃんが大事な身の上話をお兄ちゃんの家族に(私たちのことですが)してきたってことはですね――やっぱり、「そういうこと」なのでしょうね。
 いいですよね。おめでたいですよね。
 いや、まだ少し先のことなのでしょうけれど。
 もしかしたら、もしかしたらですよ? 弟か妹が生まれてくるよりも先に、甥っ子か姪っ子ができたりして、それでおばさんになってしまうかもしれません。
 私がおばさんになったら、おじさまは「おおおじさま」になってしまうのでしょうか? 
 これはちょっとした問題ですね。もちろん、冗談ですよ?

 明日は近頃フィリスちゃんと仲良しのニノさんのお話です。

   おやすみなさい 高町なのは


 親愛なるファラリスさまへ

 家族会議の話の第三回目です。
 フィリスちゃんの「大事なお話」が終わって、みんなが部屋や居間に移動した後のこと。自分の部屋でゴロゴロっとしていた私のところへ、すごく真剣な顔つきをしたニノさんがやってきました。
 フィリスちゃんの話からの流れに乗っかったのかもしれませんが、ニノさんも自分の生まれに関する大事なことを話してくれました。
 ニノさんの秘密を誰に話すのも「なのはさんの判断にお任せします」ってことでしたけど、そんなことを言われてもどうしていいのかって困ってしまいます。
 でも、おじさまになら大丈夫でしょう。だっておじさまは神様なのですから。

「実は……私、人型の魔獣なんです」

 そう言うと、ニノさんの片腕が黒く大きな巨人の手のように変わって、それから爪が鋭く長く伸びてシミターのようになりました。ちょっとハサミやカッターが必要かなってときに便利そうですよね。
 アルゴスさんみたいに大きすぎる爪だとあつかいに困りますけど、ニノさんのは伸縮自在らしいので本当に便利そうです。
 ちなみにゼリーは猫なので爪の出し入れができますけど、しょっちゅう研ぎたくなるので困ります。猫の爪って古い部分がスルって蛇の皮みたいにむけるんですよね。新しい爪の表面ができあがって、それなのに前のが残っている状態だとなんだかイライラってしちゃうみたいです。
 ニノさん的には魔獣発言の後の爪を出したところで、ビックリさせるつもりだったみたいです。でも残念、アルゴスさんとよく遊んでいる私はちょっと長い爪なんて怖くありません。
 それで、そんな話をしつつ「ニノさんも爪とぎがしたいんですか?」なんて言ってたら、

「実は……私、ジェイル・スカリエッティに造られた戦闘機人なんです」と爆弾発言をされてしまいました。

 ドクターことジェイル・スカリエッティさんと言えば私を殺そうとしているって人です。どうして見ず知らずの人に命を狙われているのか、その理由は知りません。ニノさんも「できれば自然に思い出していただきたいので」とか言って教えてくれませんでした。
 とにかく、そんな(私にとっての)危険人物と深く関わっているって言われたら、それはまぁビックリします。
 それで問題は、そんなドクターさんちのニノさんが私のところへやってきた理由です。普通に考えると暗殺なわけですけれど、それならわざわざ私に言う必要がありません。いえ、そうやって話をしておくことで信用させて、そのあと油断したところでぶっすりってことかもしれません。もしかしたら、お前の家の場所を知っているんだぞ、っておどしをかけるつもりなのかもしれません。
 そんなことを考えないでもありませんでしたが、とりあえずニノさんに話の続きをしてもらうことにしました。さわいだって状況が変わるわけではありませんし、わざわざ話してくれたのですから何かしら話し合いたいことがあるんだろうなって思ったのです。
 話し合って、分かり合えるのならそれが一番。
 分かり合えなくても、争わずにすめば悪く無い。
 話をして、それでもどうしてもお互いに譲ることができないのなら――そのときは戦うことになるのは仕方がありません。
 そんなことを思いながら、お父さんの言っていた「ぶった斬る相手の条件」のことを思い出しながら、ニノさんの話の続きを聞いたわけなのですが。

 結論から先に書きますと、ニノさんの我が家での待遇は今まで通りです。一昨日のお手紙で書いているのでお分かりだったとは思いますけれど。
 今まで通りと言いますか、むしろ今までよりも仲良くなった感じかもしれません。フィリスちゃんともイロイロと話したりして仲良くなったみたいです。仲良きことは美しきかなとか言いますし、よかったよかった。
 これだけですと、さすがのおじさまでも意味不明でしょう。
 戦闘用に造られた特殊な能力をもった存在って意味では、ニノさんとフィリスちゃんはよく似ています。だからフィリスちゃんの大事な話があった日にニノさんも話してくれたのでしょう。
 よく似ているけれど、ニノさんとフィリスちゃんの育った環境はものすごく違ったようです。子供って言える時代がなくて、知識なんかも特殊な学習装置で植え付けられて、戦闘訓練なんかもしてってところまでは一緒なのですが、それでも大きく違うんです。
 フィリスちゃんは自分を造った人のところにいる間は、辛くて苦しくて悲しいことばっかりだったって言っていました。
 でも、ニノさん(ドクターのところではドゥーエって呼ばれているそうです)は特にそんなことはなかったみたいで、ちょっとおかしな生みの親のドクターと、しっかり者のお姉さんと、何人かのかわいい妹さんたちとそれなりに楽しく暮らしていたみたいです。

「ただ……こうしたい! こうありたい! そんな願いや想いがありませんでした。ドクターに『汝の為したいように為すがよい』と教えられても、為したいことがありませんでした。造られた存在だからなのか、人間として育っていないせいなのか、私にはそれが無かったのです」

 何にもなかったニノさんは、特に何かを想うこともなくドクターの命令に従っていました。それしかやることが無かったから。
 そんなニノさんがある仕事のときにたまたま「強い想い」を手に入れました。
 それはニノさんの能力の副作用みたいなもので、自分の内側から出て来た本当のことではないのかもしれません。

「手に入れたんです。元々は他人のものかもしれない……それでも今は私の願い、私の想い。ようやく手にした『為したいこと』。それを手放すことはできませんでした」

 手にした想いを手放したくないって想い。ちょっと複雑ですが、それがニノさんの願いなのです。
 その「為したいこと」がどうして私の世話をすることなのかってところはサッパリわかりません。「まだ秘密です」って教えてくれませんから。
 でも、特に害が有るわけではありませんし、何か邪魔をされるわけでもありません。むしろ私の大事なものを守りますなんて言ってくれました。
 そんな話を聞いたので、(よくわからないところもありますが)ニノさんはこのままウチに居てもらうことになりました。
 本人の希望もあったので、一応呪いをかけさせてもらいましたけど。
「いいよ」って言ってるのに、まだ追い出されるかもって思っていたのでしょうか。ニノさんがどうにも不安そうにしていたので、納得してもらうのがのがちょっと大変でした。
 ニノさんはああ見えて結構甘えん坊さんみたいですよ?
 なんだかよくわからないところが多いので、自分でもちゃんと書くことができているのかよくわかりません。何かありましたら、ぜひともお尋ねください。
 早急にお答えしますので! お待ちしております。






〇戦闘機人の想い、培養された人間の願い:二番さんはドクターの因子が強いらしいって前にも書きましたが、戦闘機人でもあるので二つを混ぜました。


戦闘機人(あたしら)は別に夢や希望があるわけではなし、生みの親の言うとおりに動くしか無いっスけどねー。

   No.11 ウェンディ

(StrikerS 20話より) 


 我々が望む、我々の世界、自由な世界。
 培養槽で生まれた時から変わらずに揺らめいていた私の願い。
 刷り込まれたものなのかもしれんが、それでもこの手で叶えたい願いには違いない。
 襲いかかって奪い取ろうじゃないか。素晴らしき我々の夢を――

   Dr ジェイル・スカリエッティ

(StrikerS THE COMICS② Ep-12 15.5話より)



[40369] いわれなき(?)濡れ衣
Name: 網星仁◆4dda2125 ID:1ae9b4ed
Date: 2015/05/06 01:05
 ファラリスおじさま

 グレアムさんと連絡が取れなくなってしまいました。行方不明です。
 リンディさんやクロノ君、ティーダさんにティアナ、レティさんなどの管理局の人に連絡してみても、どこに行ってしまったのかわかりません。
 どうも誰かに襲われて連れ去られてしまったようなのですが犯行声明もなにもなくて、このことが管理局の偉い人を狙ったものなのか、それともグレアムさん個人を狙ったものなのかも分かっていません。
 事件はどうも昨日の夜に発生したようです。
 グレアムさんは昨日は教会に泊まり込みで庭をいじったりするつもりだったみたいです――クロノ君がそんな話を聞いていました。

 教会には複数の魔導士が争った形跡――ミッド式の射砲撃によるものと、剣やハンマーのような武器によって壊されたようなところが何か所もあったようです。そのことから、どうもグレアムさんは何人かのベルカ式の魔導士に襲われたんじゃないかって話になっています。
 時空管理局の高官が襲撃されて、そのまま行方不明になってしまった大事件。
 管理局はかなりの人を調査に回しているようなのですが、この手紙を書いている時点ではまだよくわかっていません。
 だいぶお年寄りではありますが、グレアムさんはまだまだ強い魔導士です。そんなグレアムさんが逃げ出すこともできなかったとなると、襲った人たちは相当強い魔導士だったのでしょう。
 ベルカ式の強力な魔導士、騎士について詳しい聖王教会もその捜査に協力してくれているとのことなのですが、今はまだ犯人の目星もついていない状況です。
 元々はグレアムさんの使い魔だったゼリーはすごい慌てようで、そのせいで私は逆に冷静になってしまいました。いつもは私を助けてくれる頼れる使い魔がアワワワっとしているのですから、今は私ががんばらないといけません。
 時空管理局のプロの人たちがたくさん動いてダメなものに、私のようなシロウトが出て行ってもなんの役にもたてないかもしれません。でも、知り合いが大変なことになっているのを放っておくなんてできません。
 何ができるかわかりませんが、私もグレアムさんを探しに行ってきます。

   高町なのは


 ファラリスおじさまへ

 昨日の手紙の後に考えたのですが、時空管理局の人たちとは違った方向の情報を持っていそうな人に話を聞いてみることにしました。
 去年、私をさらおうとしたお二人のことを覚えていらっしゃるでしょうか? 
 そうです、ラガーさんとパラディンさんです。あの人たちの知り合いだったら、リンディさんたちが知らないようなことでも知っているのではないかと思ったわけでして。
 いちおう連絡先を決めておいたのに、そのすぐ後にクロノ君の病気のことやアルゴスさんのことがあったのでスッカリ忘れてしまっていました。
 そんなわけで、本日は二人に呼び出しをかけておきました。
 話し合いの場所は、例のあまーい喫茶店です。
 味の好みは人それぞれ、高町家ではお兄ちゃんが甘い物が特別苦手です。そのせいなのか、私はひかえめくらいが好きです。ハラオウンさんちでは、リンディさんはかなりの甘党で、逆にクロノ君は甘い物が苦手らしいですよ。
 一家の中でも好みは違っていて、さらに地球の中だけでも国や地方や文化でいろいろと違うって知ってはいるのです。世界まで違うとなったらそれはもう、激辛大好き民族や、モンスターの肉を好んで調理する料理人さんや、味なんてどうでもいいなんて人たちだっているでしょう。
 味といえば、ドクターは吸血鬼だってニノさんから教えてもらったのですけど、やっぱりサラサラ血液とドロドロ血液では味が違うのでしょうか? すずかちゃんに聞いたら教えてくれますかね。「秘密にしてね」って言われてたので書いていませんでしたけど、おじさまにだったらいいですよね。
 神さまは全てお見通しなのですから。

   料理人の娘 高町なのは


 ドクターことジェイル・スカリエッティさんとお話してきました。
 たしかにラガーさんとパラディンさんのお二人には、ドクターのことを探してくれるように頼んでいました(スッカリ忘れていましたが)。けれど、イキナリ本人とご対面ってなるととてもおどろいてしまいます。
 喫茶店で会うなり「頼まれていた人はアンタの後ろの席に座ってるよ」って言われたわけなのです。
 私がビックリしている間に二人はピューっといなくなってしまいましたが、聞きたかったことはドクターが教えてくれたのでとりあえずの目的は達成できました。
 グレアムさんはどうも聖王教会の人たちに連れ去られてしまったみたいです。そして、その原因はニノさんにあるみたいでして……。
 ドクターがニノさんに頼んでいた仕事が聖王教会をとても困らせる内容だったらしくて――そのニノさんとよく会っていたグレアムさんとミージュ・クランズも「共犯者」ではないかって思われちゃってるようで。
 ええ、私も聖王教会(の一部)の人たちから狙われているみたいです。
 どうも聖王教会はニノさんのことをドロボウ扱いしているようなのですが、帰ってからニノさんに聞いてみると「たしかにそのような仕事はしましたが、持ち主の許可を取っていますのでドロボウではありません」ってことでした。
 まったく、勝手にカン違いしてニノさんをドロボウ呼ばわりして、その上グレアムさんを無理やり連れて行ってしまうなんてひどい話です。ドクターだって「まったくひどい話だね」って同意してくれました。
 まぁ、ドクターだったら連れていかれてオリに入れられてもしょうがないですけど。グレアムさんが何をしたって言うんでしょうね。
 それにしても、時空管理局が調査への協力を頼んだ聖王教会が犯人では、それはもうなかなか見つからないわけです。探してないんですから。むしろ隠しているわけですから。
 さらにややこしいのは、聖王教会の中でも「なになに派」とか「まるまる系」とかグループがあるようで、その中のどれだけが関わっているのかもわかりません。なんと言っても管理世界最大の宗教組織ですので、内部は複雑怪奇なキマイラ構造なのです。
 どうにも私の頭だけでは対処できそうにないので、こういうことにも詳しそうなゼリーに頼りっきりになってしまっています。管理局にも知らせた方がいいのかどうかわかりませんしね。聖王教会と管理局は仲が良いらしいので。

 話は変わりますが、私を殺そうとしていたはずのドクターさん。
「今日のところはそのつもりは無い。少し話をしてみたかったのでね」と言うと、なんとも難しい、よくわからない質問をしてきました。
「情報料の代りだと思ってくれ」と言われたら、なんとも断りにくいので答えられる範囲で答えましたけど。元々はドクターがニノさんにやらせたお仕事が原因なのになって思わないでもありませんでしたが、ドクターはグレアムさんがどうなってもかまわないらしいので仕方がありません。

「次元世界の平和と安ねいのために、少数の人間をイケニエとし多くの違法行為を行う者たちがいる。君は彼らについてどう思うかね?」

 具体的にどんなことをしているのかは教えてくれませんでした。
 その「彼ら」が誰なのかわかりませんが、世界平和って願いは全然問題ありません。
 よりよい未来のためなら、違法行為も気にすることではありません。管理局に捕まっちゃうと困りますけど。
 少数のイケニエって言葉には引っかかります。そんなものは無くて済めばそれに越したことはありませんから。それが私にとっての大事なものだったら全力で抵抗はしますけど、ある程度は仕方がないのかもしれません。戦争を終わらせるために戦争をする、そんなことだってあるのですから。

「人類が病と老いを克服し、死を乗り越えた世界。命を落とす闘争の存在しない世界。平和と安定を約束された理想郷。……それを実現する手段があるとしたらどうする?」

 誰も亡くならない、争わない世界――地球でも、管理世界のどこでも実現していない人類の理想。それができるのなら手伝いたいなって思います。

「そのためには人々を導く者が必要なのだ。何千年、何万年の歴史を積み重ねても成長しない子供たちを理想郷まで案内する笛吹きがね。私ではダメだ。私のような者の後ろについて来る者などたかが知れている――いないとは言わんがね。民衆が自ら従う『王』が必要なのだよ!」

 表情をコロコロと変えながら、大きく身振り手振りをして夢を語るドクターの姿はちょっとかっこよかったかもしれません。「ドクターの言うことはよくわからないことが多い」ってニノさんが言ってましたけど、本当にそのようです。何が言いたいのかよくわかりません。
 話す相手も自分と同程度の理解力があると思っているのかもしれません。これだけ言われても何が何やらなので「よくわかりません」としか答えようがありませんでした。
 そんな答えだったのですが、ドクターは「なに、時間はいくらでもある。ゆっくりと考えてくれればいいさ」と何やら満足そうでした。頭の良い人は勝手に納得してしまうことがあるので、そんな感じなのかもしれません。
 ローウェルちゃんもたまにそんな感じです。それで行き違いがあったりするんですよね。
 あとは私が気になったので聞いてみたことがあるのですが、「ベラドンナ」ってなんでしょうね?
 バンパイアは目に魔力を宿しているので、お話の最初は必死にドクターと目を合わさないようにしていました。でも、少ししてドクターの目が赤く光っていない普通の目だってことに気づいたのです。それで気になったので質問したわけなのですけど。

「我がうるわしのベラドンナのおかげさ。彼女が作ってくれる『ベラドンナ・アイズ』と言う特殊な毒薬の効果が、私の目や肌の色などを誤魔化してくれるのだよ。人間が服用すれば大変なことになる代物だが、私にとっては便利な道具に過ぎない。魔法があれば外を普通に歩くこともできるし、このように外見の問題も克服できる。それに、こうやって食事を楽しむことも可能だ。なってみれば実に快適なものだよ――バンパイアは」

 実にうらやましい話です。太陽も問題なしで、見た目もどうにかできて、食事も楽しめるなんて(ドクターは甘党なのでしょう)。
 ドクターはやっぱりすごい人でした。おじさまが特別に目をかけていらっしゃる人ですから、当たり前なんですけど。
 これで私を殺そうとしてなかったら良かったんですけど。世の中上手くいかないことばっかりです。 
 あと、話が長いのも困ったところかもしれません。お話の間、ほとんどうなずいているだけだったような気がします。

   うなずきなのは






〇グレアムさん:囚われのヒロイン。

〇盗賊ギルド:重要な情報源。次元世界の裏社会でも情報のやりとりはあると思われる。犯罪者の知り合いがいないと接触が難しい。

〇シャドウランな二人:クエスト達成。

〇遺物管理者の司祭:がんばって(自分の失態を)隠蔽しようとしてた。

〇最高評議会:ドクターとの仲が悪いとは限らない。為したいこと(世界平和)のためなら手段を選ばない人たち。盗賊ギルドと国のトップが繋がっているのはアレクラストではよくあること。


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