最初に感じたのは異臭だった。臭い。それもとてつもなく。
いや、これほどの異臭を感じたのは大学一年の頃に生ごみを捨てずに帰省してしまったお盆以来だよホント。
もう玄関に立った時点でワイルドスメルが鼻腔に直☆撃♪ だったからね。
「それにしても何処よここ……?」
辺りを見回すも薄暗くて何にもわからない。
いやいや、ホント、もう何これ~。いきなり異臭の中に叩き込むなんてドッキリにしちゃタチ悪すぎだよ。おらー、主犯さっさと出てこーい。
なんて事をぶつぶつ呟きながらちょいと辺りをうろついてみる。しかし目新しい物何もなし。つかさっきからなんか声おかしい。妙に高いし子供みたいな声だ。
「……いやいやない。それは無い」
ないないあるわけ無いじゃんHAHAHA☆
ちらりと身体確認。
「いやね、もうほんと……なんでやねーん」
小さく呟いた。
ホントは気付いてたよ。異臭に起こされた時から俺にはないはずのながーい髪の毛がばっさばっさ顔面に降りかかってくるしさ。それがパッキンだしさ。つか全裸だしね。そーですよその辺に落ちてた布で股間隠してますよ。マイサンも恐怖以外の理由で縮んでますよ。要するにですよ、
「子供になっちゃった☆」
しかもパッキンとか。オレ将来イケメンじゃね? キタコレー! HAHAHAHAHA☆
………にぎゃー。
01/~リリカル~
一時間経過。
いや適当だけどね。だって時計とか持ってないし。
つかなんか起きないわけ? 異臭のおかげで食欲なんて全くわかないですけど、人間ってのは喰わなきゃ死んでしまうんですよ? こんなとこで餓死とか洒落になんないってマジで。
「あ~もぉ、何でもいいからイベント起これやイベントー。もう分かっちゃってますから。あれでしょ、よくネットとかであってる憑依系とか転生物とかその辺でしょ。加減にしてよマジで。憑依なら憑依で自堕落に過ごして人生終わるからさー。
凄いよおれの自堕落っぷりは。トイレ行くの面倒くさっかたから友達に行かせたんだけどサー俺の尿意はびんびんな訳よ。そんでもーいっかってことになってそのまま友達の部屋のコタツで漏ら―――『Please call my name』ぎょぇうぅぅっ!! ごめんなさいごめんなさいイベントなんて起きなくていいです助けてください!」
ど、どこ!?
なんか声聞こえたってマジで。
思わず頭を抱えガクブルですよ。
だって……こえーよ超こえーよ、今ちょっと漏ら―――、
『Please call my name』
「―――ひぃっ」
すげー近い。
まじ耳元すぎんだろ。耳たぶ噛めるくらいの距離だったって絶対。
「こえーよこえーよぜってーなんか憑いてるよ俺。
……いや、よく考えたら俺が憑いてんのか。HAHAHA☆ こりゃ一本取られちゃったなーおにいさん♪
そーだよね。こんだけ不思議現象起きてんだから今更声が聞こえたぐらいでなに動揺してんだっての。あーもーホントもうちょっとで漏ら―――『Please look at a wrist』ほぎゃぁぁぁああ!……じゃないじゃない。このパターンはもういいや。ん、りすと、リスト…手首か?」
俺は意を決して手首を見たっ!
そこまでいくのに十秒間の瞑想と18回の腹筋を経てっ!
この身体筋肉ないから凄い疲れたっ!
声が何度か催促してきたけど俺には集中が必要だったんだっ!
そして今、俺は声の主と遭遇するっ!
バッ!
力いっぱい手首を返してみた。なな、何とそこには―――
「きも。何これ宝石?」
こう、なんていうか、金色の石?みたいなのが埋め込まれていた。
もとの身体の持ち主ろくなヤツじゃねぇな。身体に異物入れるのはピアスまでにしとけって。
それとも何か?宇宙人にさらわれて埋め込まれたんか、ん?
『Please call my name』
やっぱり喋りやがった。
もう大体分かったや。
「お前デバイス?」
『yes』
「英語わかんないから日本語しゃべってください」
いやいや、イエスくらいなら分かるよ?
けどほらやっぱ日本人だしさ。世界で一番英語がしゃべれない国とか言われてるこっちとしちゃリスニングなんて出来ねー訳で。
つか劇中は皆日本語しゃべくり倒してるくせになんでデバイスは外国語起用やねーん! みたいな。
『これで・よろしい・ですか?』
「うん」
『私の・なまえ・呼んでください』
「いや知らんしw」
さすがに失笑を禁じえなかった。
馬鹿かこいつ。
自己紹介も何も無いのに名前呼べて。
『…それなら・なまえ・ください。わたしに・なまえ・つけてください』
「え、いいの? おれってば猫拾ってきて三日間くらい名前悩んでてその間、おい、おいって呼んでたんだけど、なんかやっぱ捨て猫だったらしくて病気してたんだよね。それでまぁ病院連れて行ったんだけど名前は何ですかって聞かれて『おい』ですって答えるような男ですぜ?」
『……かかかかまいません』
「かかかかまいませんか。そうですか。
ん~、何にすっかね。急に名前なんていわれてもなー」
考える。考える。手首に付いてるからリスト……ってのは安直過ぎるよな。
もっとこう、はっちゃけ感が欲しいね。
ゴールド・リスト。―――だめ。なんか語呂悪い。
むしろ日本語で、金手首。―――だめ。さすがにダメ。金手首、セットアップ!……言えね。
やっぱゴールド欲しいな。
ゴールド……いやゴールデン・リスト……いやいや……。
ゴ、ゴ…ゴールド・エクスペr―――、
『わたし・嬉しいです。本当なら・ここで廃棄・でした。マスターが・生きてて・良かったです』
「……ん、なに? 今考えてんだから黙っててくんない?」
『……もうしわけ・ありません』
なんだよコイツ。せっかく今すごいネーミングの神様が降りてこようとしたのに。
いつもは温和な僕でも怒っちゃうぞ。ぷんぷん。
それにしても手首と会話してる人って傍から見てどうなんだろ。
俺だったらぜってぇ生暖かい目で見るな。
うふふ、脳がやられてしまったのかい?
―――うん。僕の脳みそもうだめぽ!
あはっ☆ 大丈夫さ。そんなときの為に君の手首はついてるんじゃないか。
―――うん。僕の手首いっぱいお話聞いてくれるんだよ!
あはは。そうだねぇ、手首はいっぱいお話聞いてくれるよね。
―――うん。あはは☆
みたいな事を脳内再生しながら見守る。
『……マスター?』
「え゛あ、はい。ちゃんと考えてるようん」
『そう・ですか』
「えーと……君ってさ、融合型の、ユニゾンデバイスになるのかな?」
実は気になってた。
なんたって埋め込まれてるしね。
まぁそれだとなんか妖精?ポイのがでたりでうざいけど。
はやてはよくリィンフォースと仲良く出来たもんだよ。俺だったら絶対べちってやってるよ。べちって。だってあれ絶対キモイよ。りかちゃん人形が空飛んでるようなもんだぜ?
いやまぁ、あんだけ強力なら使い道は抜群だけどさ。
『よく・ご存知ですね。しかし・私は・ユニゾンデバイスでは・ありません』
おぉっとっとぉ? こっちは右手差し出してんですよ? おそらくだけど取り外しできるようなモンじゃないだろうから、長袖かリストバンド着用じゃなきゃ街にも繰り出せないんですよ? UFOの夏みたいなせつないエンドにはなりたくないんですよ。こんな体にしといてくだらねぇ糞デバイスだったら叩き壊して犬の餌にした後さらに犬の腹から出てきた所を豚の餌にしてやるからなキサマッ!」
『……もうしわけ・ありません』
あれっ。
どうにも魂からのシャウトが口からはみ出てたみたいだ。おちゃめさん☆
「あ、いやいいから。んで君、ユニゾンデバイスじゃないとすると何に分類されるの?」
『はい。わたしは・融合装着型の・デバイス・です』
「ゆ、融合装着型……?」
『イエス・マスター』
な、なんだこのどっかで聞いたことのあるフレーズは……。
あぁ、ダメだ。テーマソングの脳内再生が止まらないっ!
―――うばーえすべーてこのーてーでー♪―――
「りゅぅぅぅぅっ!!」
『ま、マスター!?』
「ほぉぉぉうぅぅ!!」
『おちついて・ください!』
俺は泣いた。むしろ啼いた。
ま、まま魔法少女リリカルなのはなのに、魔砲少女リリカルなのはとも言われるほど魔砲なのにっ!
いや、いやいやまて。
まさかあんなどこぞのガンダム並のビーム兵器よろしくな魔法をフリーダムな感じでばかばか飛び交うような戦場で武器がKO☆BU☆SIなんてあるわきゃないっしょ!
俺は戦闘機人なんかじゃない! ……はず。ないよね?
俺は一縷の望みを託し自分の手首に聞いた。
「あ、あの~、ちなみにセットアップ時の形状はどのようになるんでしょうか……?」
『はい。形状というのは・ありません。しいて言えば・右腕から身体にむかって・わたしが・侵食を・行います。』
「し、侵食っすか……」
『イエス。侵食・です。形状は・マスターの意思が・反映されます。すでに・わたしの・名前・決まって・いるのなら・起動確認を御願いします』
「……うん」
拳で戦うのがほぼ確定ですな。つか侵食て。
ふぅ……無理。ぜっっっっっってぇ無☆理!
あ、ああああんな白い悪魔に突っ込んで行ってる途中にスターライトなんちゃらを撃たれたらどうすんだよ。消し炭すら……。
うん…やっぱ自堕落に行こう。それがいい。
うんうん。そうだよな。原作レイプなんてダメだよなやっぱ。
幸い俺もこのデバイス作ったやつと同じでスクラ○ド好きだし(決め付け)。見た目も相当にかっこいいはずだぜウヘヘ。
俺って~カズマさんのことチョーリスペクトしてて~マジやばいっすよマジで。マジヤバですって~。うへ、うへへ」
『大丈夫・ですか・マスター。笑い方が・俗に・キモイ・です』
「おま、キモイとか言うなよな、ほんとキモイとか言うなよ! 傷つくんだぞキモイとか!」
『申し訳・ありません。ところで・わたしの名前・決まりましたか?』
「ん、おお。お前にぴったり……つーか製作者もこれを意識して作ったとしか思えん名前があるぞ」
『マスター・物知りです。わたし・マスターのこと。チョーリスペクト・します』
「ふ、ふふ、ふはははは! うむうむ、愛いやつ愛いやつ。これからもよろしく頼むぞ《シェルブリット》」
『了解。シェルブリット・登録しました。改めまして・よろしくお願いします・マスター』
まぁ……死なない程度にがんばんべ。
。。。。。
「おや、生体反応があるね…?最後の廃棄品を出したのは……二日前か」
声の主は女性だった。
十人が見たら十人とも美人というような、艶やかな美貌を持ったその人物は今コンピュータの様なものの端末の前に座っている。
とても仕事が出来そうな服ではないのだがその人物にはよく似合っており、端末のような無粋な物がなければ一枚の絵画の様。
だがその瞳。どろりと濁り、腐ったドブ川に工業用水をぶちまけたようなその瞳には当然の如く光を映しておらず、明らかに狂人のそれだった。
彼女はふんっと鼻で笑うと、
「リニス、処分してきなさい」
完全廃棄を命じた。
「し、しかし生きているのならっ」
「……リニス」
リニスと呼ばれた女性。実は彼女は使い魔と呼ばれる存在であり、彼女の主は先ほどの妙齢の美女。
本来なら使い魔に反論は許されていない。
主の機嫌が悪いのは分かっている。廃棄品。アリシア・テスタロッサの記憶を受け継ぐ事がなかったデッドコピーが存在していること自体が気に入らないのだろう。
だがリニスはさらに問うた。
「……もうやめませんか?こんな事をしてもアリシアは―――」
「アリシアが、なんですって?」
「……いえ、何でもありません。処分に向かいます」
言える訳がない。
彼女の主はこの計画に全てを賭けている。自分の命すら。
リニスはくるりと反転すると地下に向かった。
本来なら死んだはずの者を廃棄する場所。定期的に魔獣と呼ばれる大型種の獣を呼び出し『処分』させるのだがそれから生き残ったものがたまに出てくるのだ。
ソレを処分するのは彼女、リニスだ。
はぁと大きいため息をつく。思ったより自分は堪えているらしい。
アリシアを失った時はどんなことでもしてやると思ったものだが、もしかしたら自分は薄情なのだろうかと彼女は自問を繰り返す。
(ごめんなさい)
それは誰に対して思ったものか。彼女自身にも、もう分からない。
。。。。。
呪文。
呪文だよほお!
ほら、あれだよ。なのはだったら『リリカル・マジカルほにゃららら~』ってやつ。俺もそれ考えなきゃデバイスは起動できんらしい。
『決まりましたか・マスター?』
「焦らせんなって。いま考えてるから」
マジどんなのにしようかな。
『俺はやられに来たわけじゃねぇ、背負いに来たんだ。今はただアイツにこの拳をあてるだけでいい…!』とか超言いてぇ。ぜってぇ惚れるだろこれ。……うへ、うへへへ」
『声に・出ています。本当に・考えていますか?』
「お、おお」
なんかこのデバイスちょっと怖いんですけど。
あれ? このデバイスのマスターって俺だよな……?
『どうか・しましたか?』
「いえ、何でもありません」
若干考えるのに疲れた。だいたいんなモンぱっと思いつくもんかよ。俺もユーノみたいなイタチがほしい。
はふぃ~、ときんもちい~ため息を吐いたときにソレは起こった。
―――ボゥ、
そんな音がした。気がした。
目の前には何か幾何学的な模様をした魔法陣が輝いている。
「え、え? ちょ、まっ、俺何かした!?」
『術式・記録。マスター・早くわたしを・展開・してくださいっ』
シェルブリットの声が若干焦っている様に聞こえる。
ちょ、まじでやばい……?
えーと、えーと!
マジで思いつかんぞ!!
そうこうしている内に魔方陣の中にヒトガタが現れた。
たたかう
まほう
どうぐ
にげる
たたかう
まほう
どうぐ
⇒にげる
現れたのは美人のねぇちゃんだったのだが、如何にも俺の本能と右手の唯一の武器が逃げろといっている。
っち。なんか腹立つけど逃げなきゃたぶん……死……?
「う、わ……っ」
想像した途端に背中を駆け巡る悪寒。
俺は猫みたいな瞳をしたねぇちゃんに背を向け一気に駆け出した。
「っくしょう! なんだありゃ!?」
『わたしと・マスターは廃棄品・です。おそらく・処理・実行しに・来ました』
「なんだそりゃ! 自堕落生活は何処いった!?」
後ろを振り返るが急いで追ってきている様子は無い。
その代わりに俺のぺたぺた裸足で走る音とカッカッという硬質な足音だけが聞こえる。
こ、こここえーよ!!
冗談じゃない!
「くそっ! 何かアイツを撃退できる魔法は!?」
走りながら問う。
俺に残された生存フラグってそんなもんじゃね?
『その前に・わたしを・起動・してください』
「だぁ、そうだった~」
ちくしょうめ。
つか疲れてきたぞ。マジ体力ねーなこの身体!
「はぁ、はぁ、きっつ」
こんなに走ったの高校以来だ。
と、とりあえずあのねぇちゃんは……おろ? 足音聞こえねぇな。まさか撒けたのか。
「ふ、ふふふ……」
雑魚が! 子供のこの俺にすら追いつけないカスがっ!
今こそ、そう今こそあの台詞を言う時!
「残念だったな猫目のねぇちゃん。
お前に足りなかったのはッ! 情熱思想理想思考気品優雅さ勤勉さっ! そして何より――速 さ が 足 り な い !」
「あらそうかしら?」
「……ですよねー」
『バカ・ですか・マスター。マスター・バカ・ですか……?』
はい。ビシッと暗闇を指差してる俺の真後ろに居ますよ、と。
それとシェル、馬鹿って言うな。聞くな。聞かれたら認めるわけにはいかないじゃないですか。
「あなた、随分変わったわね。廃棄される時は人形みたいだったのに」
「あ、はは。まぁ男の子って三日合わなかったら活目してみなきゃなんないらしいですよ?」
「……頭も悪くないみたいね。致命的な欠陥品だったのにね」
「いやぁ、そんなに誉められると」
照れちゃうジャマイカ。何を隠そう俺はシャイボーイ。
だ、大丈夫かな。顔赤くなってないかな。こんなに暗かったらどっちにしろ見えねっか。
『誉められて・いません』
「それにデバイスとの関係も上々みたい」
「あ、こいつシェルって言うんスよ」
ず、ずいぶん難しい顔してるな。どうやって殺そうか迷っているのか。
死にたくねぇ。切実に。
「生きたい?」
「え、まぁ……どっちかというと」
あぶねぇ。引っ掛けだろ? 速攻で食いつくようじゃダメーとかそんなんだろどうせ。
くくく、よんでるよ☆
「どっちかっていうと、か。……やっぱり実験体なんてそんなのもよね」
U☆RA☆ME♪
「いやいやいやいやいや!! かなり、かんな~り切実に生きたいです! 俺の生存本能がびんびん働いてます!」
『必死な・マスター・カッコイイです』
だろ?
「そう……。でもあなた、最終調整の直前だったからこのままじゃ十年もたないかもしれない。それでもいい?」
「HAHAHA☆ そんなもんどうでも―――ってなにぃ!? ダメじゃんそれ!
え、え~とつまりこの身体が五歳……くらいかな? つーことは俺十五歳で死ぬの!?
無理無理無理無理無理! ぜーったいダメそれ! そこからが一番楽しい時期じゃん! どーにかできないのそれ? つかやってよ最終調整! 今すぐに! さぁ、さぁさぁばっちこーい!!」
『……マスター』
そこ、かわいそうな人を見たリアクションをするんじゃない!
お前も死んじまうんだぞ!? 俺の活き活きしている姿を見たくはないのか!? 俺はそんなに早く死んでやるつもりなんてない!!
「ごめんなさいね。培養層は対を成す形でひとつしか空いてないの。だから、出来ない。いま入っている素体はやっとたどり着いた完全オリジナルクローンなのよ。」
「ク、クローン。もしかして俺もクローンすか、クローン人間すか…?」
「ええ、そう。作った目的は違うけどあなたのDNAパターンはオリジナルを基にして作ってある。あなたを作った目的は―――」
「ああ、いや、いいです。聞かなくてもいいです」
「……」
『マスター・お気を・たしかに』
「ん? ああ、だいじょぶだいじょぶ」
なんなんだシェルのやつ。
まさか俺が気を遣ったとでも思ったのか。
だとしたら甘いなんて甘いんだ。毎日塩水に右手を漬け込んでいいほどに甘すぎる。
俺が製作目的を聞かなかったのはある程度予測できるのと「聞いちまったら生きて帰すわけにはいかねぇ」って言わせねぇためじゃい。
このくらい予測しろよな、俺のデバイスなんだから。
大体猫目のねぇちゃんもしゃべり過ぎだっての。優秀そうなやつに限ってどっか抜けてんだよな。それに引き換えこの俺☆ この限りなくパーフェクトに近いbody。さらには猫娘の策を見抜く頭脳。もうね、完璧すぎる自分が怖い…。ふは、ふははは、はーっははははは! 人がゴミのようだっ!」
『お口は・パーフェクトでは・ありませんね』
「…そうみたいね」
「……あの、どこらへんから…?」
「毎日塩水、くらいかしらね」
……にぎゃー。
。。。。。
「それじゃ、送るわよ。いいわね?」
「あ、やっぱもう一回くらいおしっこ……」
『マスター。これで・三回目・です。余りに・残尿感がある場合は・病院・行くの・勧めます』
「やかましいわ!」
結局俺は逃がしてもらえるみたいだ。名前は教えてもらえなかったけど、ま、十中八九リニスだろ。何となく猫っぽいし。
んでもって俺はアリシアクローンα版ってとこか。
何故か男だが。
……本当によかった。神様有難う。これでおてぃんてぃんもげてたら僕は死を選んでいました。
『ま、マスター・子供なのに・とても・ご立派・です』
「ああ、俺も始めて見たときはびびったモンさ。やっぱり日本人のとはぜんぜん違うな。……すごいだろ? ―――この髪の毛」
『イエス。肌触りも・滑らかで・とても気持ち・いいです』
「……早くしてくれない!?」
「はーい」
フェイト……。
フェイトか。アイツは俺の妹になるのか。くくく、会うことがあったらたっぷり可愛がってやるぜ!
頭をなでる程度じゃおさまらねぇ。いっしょにショッピングとかペットショップにもいってやるっ!
自分で自分が怖いぜ。
「それじゃ、送るわよ?」
「はい」
『お願い・します』
―――パキィィィイイン
少し耳障りな音と共に魔法陣が構築された。先ほど見たのとはまた別物のようだ。大きさもちょっとデカイ。
「有難う御座いました」
『術式・記録しました』
「ええ、それじゃあね」
ふわりとした一瞬の浮遊感。
魔法陣が強く発光し次の瞬間―――、
「っあ」
リニスが消えた。
いや、俺が空間転移したのか。いやいや、すげーわ魔法。飛行機いらねぇし、日帰り海外旅行も夢じゃない。
うん。フェイトと行こう。ヤツは愛情に飢えておる。くくく、注いでくれるわ!
……で。
「何処よここ」
『ミッドチルダ・です』
「森じゃん」
『森・ですね』
「また暗いし」
『夜・ですから』
「……とりあえず、火おこして寝るか。全部明日からしよう!」
『やらない人の・謳い文句・ですね』
「やかまC!」
『イエス・マスター』
こんな感じで俺のリリカル生活スタート! すごい強そうな死亡フラグ立ってるけどねっ!
へ、へへへ、もうヤダ……。