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[5218] さらば、そしてこんにちは、誇り高き戦士(リリなの×DB)
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:02576504
Date: 2009/05/06 02:29
初めまして、そしてこんにちは、トッポです。

下手くそな癖にまたこのような作品を投稿する事をお許し下さい。



今回も性懲りもなくリリなの×ドラゴンボールの作品です。



【リリカルでマジカル!?(オリ主最強モノ)】
と平行して進めようかと思いますが、好評によってはどちらか削除しようかと思います。

今更ですが携帯からの投稿ですので読み辛い部分があるかと思います。


では、それでも良いという人はどうぞご覧になって下さい。


ご指摘ご感想お待ちしています。

最後にこの作品の主人公であるベジータの性格は独自の自己解釈によりかなり壊れています
お読みになる際はその辺りをお気をつけて下さい


タイトルに少し付け加えました。



[5218] さらば、そしてこんにちは、誇り高き戦士
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:eed9440f
Date: 2008/12/15 02:53


とある丘に位置する小さな小屋、そこにあるベッドで、死を待つばかりの老人が横になっていた。

いや、老人と言うには他の人とは随分若く見える。
髪は黒く、瞳も髪と同じ黒曜石のように澄んでいる。

だがやはり体は昔とは勝手が違い、最早動くことすらままらない。

体はやせ細り盛り上がっていた筋肉は今は見る影がない。

しかしその老人には覇気があった。

死を待つばかりの自分に恐怖することなく、ただ天井を見上げている…。

ふと、その老人はどこか遠い目でこれまでの人生に振り返っていた…。

若い頃の自分はまさに傍若無人。

刃向かって来た者は平等に死を、役に立たないのなら喩え同族でも殺すのは躊躇わない。

冷酷非道、悪逆非道、残酷無慈悲、そんな言葉がピッタリな生き方をしていた。

しかし、そんな自分にある人物が立ちはだかった。

その人物は同じ同族でも最下級に位置する出来損ないの落ちこぼれだ。

そんな落ちこぼれが仲間を殺された怒りで自分に立ち向かう。

その男俺とは実力差では雲泥の差があった筈だった。

なのにあの男は…奴はそんな事もお構い無しに言い放つ。

『落ちこぼれも必死に努力すりゃエリートだって越えられるかもよ』

そして事実、アイツは俺を超えやがった。

最初の時は俺が圧倒していた、だが奴は……何時も俺の一歩俺の先を行っていた。

最初に超サイヤ人に覚醒したのも奴だった。

俺も奴に負けないよう死ぬ気で修行した。

奴を倒す為、奴を超える為、俺は自分の限界を幾度となく越えた。

だがそれでも……。

「超えられなかった」

老人の呟きに開いた窓から入ってきた風がカーテンを揺らす。

この小屋には自分以外いやしない、家族にはこんな自分を見せたくはない。

恐らくは俺を探しているかもしれないが、気が極端に小さくなっていく俺を見つけるにはかなり時間を有するだろう。

ブルマも俺を探してくれいるのか…?

だが、それにしても。

「家族……か」

思えばこんな自分に家族が出来るとは昔は思いしもしなかった。

何だかんだ言いながら俺を支えてくれたブルマ。

最初は下品な女かと思ったが中々どうして、かなり肝が据わっている。

俺の鍛錬するのに使われる修行場もアイツの手製のものだ。

偶に壊してしまうが。その度にブルマから小言を言われ、それでも徹夜して直してくれる姿に俺はすまないと思いながら口にする事が出来なかった。

今なら素直に言えるかもしれない。「すまない。そしてありがとう」と。

録に父親らしい事はしていないのに自分を慕ってくれたトランクス。

俺とは違い要領もよく俺には過ぎた……出来すぎた息子だ。

今は子供も出来て、その子供も今やカプセルコーポレーションの総帥だ。

後に産まれた娘、ブラはサイヤ人の血筋はあまり受け継げなかったがそれでも元気に幸せに育ってくれた。

………時折悪い虫が付いた時は徹底的にそいつ等を【教育】してやったが。

その娘も、悪い虫ではなく、誠実な男と幸せに暮らしていて、やはり子供も出来たようだ。

娘の結婚が決まった時はそれは暴れたものだ。

ウーブを始め、悟飯や悟天、トランクスにパン、果てにはクリリンに18号、天津飯や餃子、あのヤムチャまで俺を止めに来たのだから。

しかし、そんな奴らでも超サイヤ人4の、しかも半暴走状態の俺を止めるには少しばかり戦力が足りなかった。

だが……。

「いい加減にしてよお父さん!!」
「黙れ!お前が結婚なんて、許すものか!!」
「酷いよお父さん……分からずやなお父さんなんか…大嫌い!!」
「!?!?」

この一言で俺は意気消沈……いや、轟沈した。

それは以前髭を生やしていた時の「似合わない」発言よりも効いた…。

ある意味一撃必殺だ。

その後、俺の気持ちを察した悟飯は自身の仕事もあるのに俺の憂さ晴らしの相手になってくれた。

ブルマや他の女共には呆れられたりもしたが……今となっては良い思い出だ。

俺はきっと幸せな日々を過ごして来たんだろう。だが、それなのに俺は何処か虚しさを感じていた……。

「カカロット……」

一星龍との決戦の後、奴はドラゴンボールと……神龍と共に何処かへ消えちまった。

尤も、その事に気付いたのは俺とパンくらいだったが…。

奴が消えても、俺は修行を続けた。

それはきっとカカロットの代わりにこの地球を、宇宙を護ろうと俺の無意識の行動なのだろう。

……残虐なサイヤ人であった自分が他人を護ろうなど……おかしな話だ

だが危機という危機は訪れず地球は長い平穏に包まれた。

その間に俺はカカロットの奴を探し続けた。

地球は勿論、東西南北、全ての銀河を回って。

働かない俺にブルマは最早諦めたのか、最新の宇宙船を与えてくれた。

けど、やはりというかカカロットは影の形も見当たらなかった……。

カカロット、お前はあの世にいるのか?

幾ら長寿族のサイヤ人でも全宇宙を探し回るのには時間が掛かる。

だがこれほど探しても見つからないとなると心当たりは一つしかない。

「カカロット……直に俺もそっちに逝く。首を洗って待ってやがれ」

老人は口元をニヤリと歪めていた。

もしカカロットがあの世に居るならば、閻魔の奴を脅してでも会いに行かなければ……。

「カカロット、俺はあれから強くなったぞ、俺がそっちに逝ったらトコトン…ゲホゴホッ!はぁっ戦ろうぜ…!」

もう直ぐ俺は死ぬと言うのに……これもサイヤ人の性か、俺の頭はカカロットとの決着でいっぱいだった……。

「ガハッゴホッ!はぁっはぁっ…ゲホッゲホッ!」

どうやらお迎えが来たらしい……段々意識が薄れていきやがる…。

「はぁっはぁっ待ってろよ、カカロット!今度こそ、俺は貴様を……ゴホッ、超えてやる!!」

薄れゆく意識の中、カカロットとの決着だけを考え、そして俺は……。

「………」

意識を……手放した……。


















「父さん!!」

勢い良く扉を開け、少し老けめの男性が小屋に入ってきた……。

「父さん!何処にいるんだ!?」

男性は小屋の奥へと入っていく。

男性はつい先程目つきの鋭い老人がこの小屋に入っていくのを見たという情報を頼りに文字通り飛んできたのだ。

間もなく親友の悟天も来るだろう。男性は……トランクスは小屋の奥へと向かい、扉を開けた。

「父さん!!」

バンッと大きな音を立ててトランクスは雪崩れ込むように入るが、次に見たものに驚愕する…。

「父……さん?」

後ろから悟天や悟飯の声が聞こえるが、トランクスの耳には入ってこなかった…。

何故なら……。

その部屋には誰も居なく、【誰かが寝ていた】という形跡のあるベットと、窓から入ってくる風にカーテンが揺れているだけだったのだから…。




















「おき………タ」
「んん?」
「起きろベジータ!」
「のわっ!?」

突如聞こえてきた声に老人……ベジータは跳ね上がるように目を覚ます。

「こ、ここは……?」

ベジータが辺りを見渡すが周りは白い霧に包まれているようでどうも見渡しが悪い……。

「お〜いベジータ、こっちだぞ〜」

とそこに後ろから聞き覚えのある声がベジータの意識を覚醒させていく……。

「その声……カカロットか!?」

後ろを振り返るベジータの表情はどこか明るく見える。

「オッス」

ベジータが振り返るとそこには嘗ての宿敵、カカロットこと孫悟空が子供の姿で座りながら此方に手を振っていた。

「あはは、ベジータ、おめぇスッカリお爺ちゃんだな〜♪顔が皺だらけだぞ、チチやブルマ程じゃねぇけど」
「漸く見つけたぜカカロット!!此処がどこだか関係ねぇ、今すぐ俺と勝負しやがれ!!」

悟空の出現に、ベジータは老いた体にも関わらず、臨戦態勢に入る。

「まぁちっと待てよベジータ、オラはおめぇと闘いに来たんじゃねぇんだ」
「ふざけるなよカカロット!!俺はこの瞬間を心待ちにしていたんだ!それにどうせここはあの世なんだろ?だったら時間はタップリあるんだ!逃がしゃしねぇぞ!!」
「ああ、分かってるさ、オラはずっと見ていた。オラが神龍と消えちまってからずっと……それに、ここはあの世じゃねぇ」
「何だと?どういう事だカカロット」
「おめぇが死ぬ直前、オラが神龍に頼んでおめぇの体をこの空間に連れてきた。ここは全ての時間が止まった場所だ、おめぇの体も今はそんなに辛くねぇはずだぞ?」

言われてみれば……確かに随分と体が軽い。

「……妙に舌が回るじゃねぇか、貴様ホントにカカロットか?」
「ひでぇ〜な、オラそんなに頭悪そうに見えるんか?」

心外だと悟空は顔をしかめらせる。

「それより、俺をこんな所に連れてきて一体何を企んでやがる?」

ベジータの問いに、悟空は表情を変え真剣なものになる。

「ベジータ、おめぇ人生をやり直してぇとは思わねぇか?」
「………何?」
「おめぇはこれまで戦いに次ぐ戦いの連続の人生だった……そこでな、おめぇには真っ当な人生を歩んで欲しいんだよ」

悟空は真っ直ぐな目でベジータを見つめる。

「オラが消えちまった後も、おめぇは平穏に身を投じる事なく、修行に明け暮れた……」
「…………」
「オラを探す為に宇宙を旅してきて、その星で出逢った人達の中で困っている奴がいる時は助けていたのも、知ってる」
「………」
「だから、オラはおめぇをもっと幸せな日常に過ごしてほしいんだ」
「……くだらんな」
「ベジータ……」

悟空の提案に、ベジータは一言で一蹴する。

「俺は誇り高いサイヤ人の王、ベジータ様だ。貴様は勿論、誰の指図も受けん」
「………」
「言いたい事はそれだけか?」
「やっぱり駄目か?」
「くどいぞ!」
「そっか……なら」

すると、途端に悟空の表情は明るくなり、悪戯を企む悪ガキの顔になる

「強硬手段に出るしかねぇな♪」
「なっ!?」

いきなり変わる悟空の表情に戸惑うベジータ。そして淡い光がベジータの全身を包んでいく…。

「こ、これは!?カカロット!何をしやがった!!」
「悪ぃなベジータ、おめぇがそんな事を言い出すと思って、コッチで準備を進めていたんだ」
「な、何を勝手な事を!俺をどうする気だ!」
「これからおめぇは全く別の世界に跳ぶ」
「何だと!?」
「跳ぶ先はランダムだが、おめぇの実力ならそうそう負ける事はねぇさ。頑張れよ、ベジータ……」
「ふざけるなカカロ……」

何かを言おうとしたベジータだが、淡い光が更に強まりベジータは光と共に消えていた。

辺りは静寂になり悟空は上を見上げる……。

『これで良かったのか悟空?』
「神龍か……ああ、いいんだこれで」
『だが、これでベジータはお前に恨みを残したんじゃないのか?』
「そん時は、またアイツが死んだ時に思いっきり闘えばいいさ♪」
『……相変わらず無責任だな、お前は』
「にしし♪」

悟空は笑みを浮かべるとどことなく寂しそうに呟いた…。

「ベジータ……幸せになれよ」

送るのは嘗ての宿命のライバルへ向けての言葉、それは傍にいる巨大な龍にしか聞こえてはいなかった。
















「はっ!?」

風が髪を撫でる感覚にベジータは目を覚ます。

「ここは……一体?」

困惑の色が隠せないベジータだが、直ぐに憤怒の色に染まる。

「カカロットの野郎余計な真似をしやがって、待ってろよ、直ぐに戻ってやるからな!」

そう言ってベジータは勢いよく立ち上がるが、ある異変に驚愕する。

場所が庭園の様な所だからか?

違う。

悟空の思惑どうりになったから?

惜しいが違う。

ならば何だ?

それは……。

「が、ガキの姿だとぉぉ!?」

やたら視線が低くなった事に気付いたベジータは体をアチコチ触り、知りたくなかった現実に直面してしまった。

「く、くくく……」

いい知れぬ怒りがこみ上げ、……そして。

「くそったれぇぇぇぇ!!」

ベジータの第二の人生の幕開けの瞬間だった。



[5218] 金髪少女と王子様
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:77ae07ba
Date: 2008/12/10 23:08


「はぁっはぁっ……」

一通り叫び終えたベジータは呼吸を整え、自分を落ち着かせる。

「カカロットの野郎、まさか本気で俺に人生やり直させる気か?」

ベジータは改めて自身の体を触り始める。

幼くなった自分、鏡が無いからよくは分からないがどうやら10才……フリーザ軍に従っていたばかりの頃だろうか?

服は自分がいつも愛用していた紺のパワードスーツ、両手両足には白を強調したグローブにブーツを装着していた。

だが、サイヤ人の象徴たる尻尾は生えていない……。

体のチェックを終えた後、ベジータは拳を握り締め物思いにふける…。

(カカロットめ、俺に幸せな人生を送って欲しいだと?ふざけやがって、俺達サイヤ人は戦いこそが至福の時、幸せな日常など……それに……)

思い返すは家族との日常、争いは無く、穏やかな日々。

息子のトランクスも後継ぎも孫に任せたあと、度々俺の修行に付き合ってくれた。

ブラも時々俺に差し入れだと言ってワザワザ遠い北の都に足を運んできてくれた…。

ブルマも悪態をつきながらも俺に良く尽くしてくれた……。

(俺は十分……幸せだったさ)

歳の所為か目頭が熱くなる。

俺は思わず自嘲の笑みがこぼれる。

(随分と……甘くなったものだな…俺も……)

昔……というか今の頃の俺が見たら何て言うだろうか?

きっと……高笑いしながら何の冗談だそれは?と言うに違いない。

我ながら想像し易いな……。

(まぁいい、喩え別世界に跳ばされようと俺の目的は変わらん……)

カカロットを……この手でブッ倒すまでは。

ベジータは不敵な笑みを浮かべながら拳を掲げる。

「世界という壁が立ちはだかるならば……次元の壁をぶっ壊してでも貴様に会いに行くぞ!待ってやがれよカカロット!フフフ……ハハハ、ハーッハッハッハ!!」

ベジータは新たな決意を胸に高だかく、それでいて無駄に高笑いをしていた。

「さて、俺の目的も具体的なものになった所で……」

ベジータは漸くテンションを下げ、改めて周りを見渡す……。

「ここは何処だ?何やら庭……のようだが」

どうやら俺は広大な庭……にいるようだ。

「ふん、まずは此処を把握する必要があるか」

ベジータは目の前にある宮殿?らしき建物を見上げて、建物内部へ入っていった。


















「ねぇアルフ、今の聞こえた?」
「聞こえた、随分と馬鹿笑いしてたねぇ」

母さんからジュエルシードをというロストロギアの探索を頼まれて、97管理外世界、【地球】に向かう途中に庭園からとても大きな笑い声が聞こえてきた……。

その声は、何というか……こう、自信の塊、というか……絶対の自信を秘めた声だった。

「ど、どうしよう……もしかしたら侵入者?」
「今の空耳とは思えないし……もしかしたら管理局の人間かも……」
「そ、そんな!?」

母さんの願いを叶える為には今管理局の人達に嗅ぎつけられるのは非常に拙い。

母さんは研究室に籠もっていた所為か聞こえていないようで、母さんからの念話が聞こえてこない。

「ど、どうしようアルフ……」
「……次元転移による魔力も全然感じないし……もしかしたら強敵かも……」

私の使い魔、アルフは耳をピンと立て目を見開き警戒の色を露わにしている。

こうまで魔力を感じさせずに侵入してくるなんて只者じゃない……けど

「でも折角上手く侵入しても自分でバラすなんて……もしかして相当なバカ?」

アルフ、それは直球過ぎだよ……。

でも、相手はもしかしたら此方が気付いた事に感づいていないかも……それなら。

「アルフ、侵入者を捕まえるよ」
「フェイト?」
「相手はまだ此方が気付いた事に感づいていない筈、ならその一瞬の隙を突いて一気に勝負かけるよ」
「電撃作戦か……OK、わかったよ。ならあたしが捕縛用のバインドで捕まえるよ」
「お願いね、その代わり私が初撃で相手を誘導するから」
「了解、んじゃ行こうかい!」

そう言って私達は侵入者の人に向かって空を翔ける。

侵入者の人には悪いけど、捕まってもらうよ。

捕まえて、母さんに……。

(褒めてもらうんだ!)

私は右手に相棒であり武器であるバルデイッシュを携えて侵入者に向けてのスピードを上げた。














「ちっ 、いい加減ウンザリしてきたぜ。この建物の構造は……」

ベジータは広く長く続く通路に若干苛立ちを覚えながら歩いていく…。

「気は二つ、そして妙なものが一つ、此処にいるのは分かっているんだ。後はそいつ等の所に向かうだけなんだが……」

再び感じる気の位置とは真逆の曲がり角に突き当たってしまう……。

「………」

ベジータのこめかみにはデカい青筋が浮かんでいる……。

「……もぅ面倒くせー、こうなりゃ力付くで道を造るだけだ」

ベジータは壁に向かって右手を向ける……。

「ド派手にいくぜ…」

ベジータの右手の掌に光の粒子が集約されていく…。

「これが新生ベジータのビッグバン……」

徐々に大きくなっていく光の弾だが、ベジータは突然それを消した。

「片方の気と妙な気が……こっちに近付いて来る?」

するとベジータの口端がつり上がる。

「あちらから来てくれるなら好都合、此方に気付いてるみたいだし俺は此処で待たせてもらう事にするか……」

ベジータはその場に留まり腕を組んで前を見据える。















「見つけた!!」
「けど、あれって」

フェイトが見つけた侵入者は自分と同じくらいの少年が腕を組んで此方に見据えていた。

てっきり成人した男性魔導師かと思ったが……想像していたとは全く別の人物にフェイトは動揺が隠せなかった……。

「フェイト、フェイト!」
「な、何アルフ?」
「……気持ちは分かるけど、アイツは敵だよ」

………どうやら精神がリンクしているアルフには私が今どんな気分か敏感に感じ取ってしまったみたいだ。

私に心配してくれるアルフの表情はとても苦しそうだ…。

……しっかりしなくちゃ!

私はバルデイッシュを握り締め侵入者の……私と同じ位の子に杖を向けた。

「どうやら向こうにはもう気づかれてるみたいだね、どうするフェイト?」
「最初に言った通り、此方から仕掛けるよ。アルフ、付いて来て」
「りょ〜かい!」

私は杖の先端に魔力を込めて、男の子に対して幾つか魔力弾を放った。

(ごめんね)

そう心で呟きながら。



















何なんだコイツ等?いきなり攻撃してきやがったぞ?

俺は幾つか飛んできたエネルギー弾らしきものを片手で弾いた。

相手はそれに驚いたのか暫し動きを止めるが、すぐさま機敏に動き始める。

……成る程、どうやら俺を侵入者と勘違いをしているようだな。

いや、実際侵入者なんだろうが…。

カカロットの奴、いい加減な仕事しやがって。

悪態つきながらも俺は鎌?のようなもので切りかかる金髪小娘の攻撃を避け上空へと逃げる。

「たぁぁぁぁっ!!」

が、オレンジ色の髪をした……変な尻尾と耳をつけた女が上から殴りかかってくる。

「………ふん」

だがそんな攻撃当たる訳がないだろう。

俺は体を捻り女の攻撃を避ける。

だが……。

「な、何っ!?」

振り返った先には五つの光球が待ち構えていた

「打ち抜け、ファイア!」

小娘の合図に光球は一斉に此方に向かってきている…。

「ちっ!」

避ける暇が無いと判断した俺は腕でガードする。

何やらビリッと痺れたが対した衝撃は無くダメージにはならない。

だが……。

(コイツ等、全く気の動きが掴めん、一体どうなってやがる?)

これほどエネルギー弾を放つのだからそれなりに気が変動すると言うのに……なのにこの小娘の気は全く何の動きもない。

……手加減されているのか?

だとしたら随分と舐められたものだな俺も…。









い、一体何者なのこの子!?

私の初撃を片手であっさりと弾いた事にも驚いたけど、私とアルフの攻撃にいとも簡単に避け続けている。

魔力による肉体強化?

いや、違う。この子からは魔力が全くと言っていいほど感じない。

じゃあ一体何?……駄目だ考えれば考えるほど分からない。

『フェイトっ!!』

アルフからの念話に私はハッとする。

そうだった。今はこの子を捕まえるのが先決だ。









(そろそろケリを付けるか……)

俺はしつこく拳を撃ち出してくる女に掌を向け。

「つおっ!!」
「あがはっ!?」

カウンターで腹部に掌底を叩き込む。

女は地面に叩きつけられ気を失う。

やりすぎたか?一応これでも手加減してるんだが。


「アルフ!?」

小娘は女の方に視線を向けたあと、此方に殺気を交えた視線をぶつけてくる。

ほう、中々良い眼をするじゃねぇか?

小娘と俺は弾かれるように間合いを取る。

「………」
「………」

小娘は鎌を今度は斧に形を変え、下段に構える

俺は内心、心躍る思いを隠しながら構える…。

二人の間に沈黙が流れ……そして。

「はぁぁぁっ!!」
「おおおおっ!!」

同時に駆け出す二人だが……。

「!!」

突如フェイトの姿がベジータの視界から消える。

相手の予想外の動きにベジータは思わずニヤケてしまう。

やはり戦いはいい。心が、血が、魂が奮える!!

ベジータはフェイトの気を感じ取り、それを辿っていき、後ろに振り返る。

そこには驚愕に満ちながらももう止められないフェイトはなりふり構わずバルディッシュを振りかざす。

対するベジータも手を手刀に変え、振り抜く。

互いにぶつかり合う衝撃は逃げ場を失い爆発を引き起こした……。














「おい……」
「あ……う?」
「おい、さっさと起きろ!」
「ふぁっ!?」

突如聞こえてきた声にフェイトはガバッと起き上がり辺りを見渡す。

目の前には先程まで戦っていた少年、ベジータが腕を組んで壁に寄りかかり此方を見下ろしていた。

「まったく、いつまでも寝てりゃ気が済むんだ?」
「あ、貴方は!?」

フェイトはバルディッシュを取り出しベジータに牽制する。

「騒ぐな、俺は別に貴様等をどうしようだなんて思っちゃいない」

だが、フェイトはバルディッシュを握り締めたまま警戒を緩めない。

「貴方が管理局の人間じゃないって証明できるんですか?」
「管理局?何だそれは?」
「………へっ?」

だが、返ってきた返答にフェイトは毒気を抜かれてしまった。

「う〜ん?」
「あ、アルフ!気が付いたの!?」
「あ、フェイト〜、おはよう……ってアンタ!!」

目の前にいるベジータに噛みつくアルフ。

「…おい飼い主、この犬を何とかしやがれ」
「あたしは犬じゃない!狼だ!!」
「似たようなものだろ」
「違う!!」
「あ、アルフ、落ち着いて」

興奮する使い魔にフェイトは暫く余計な疲労を被る事になった…。









「じ、じゃあ君は侵入したんじゃなくて、気が付いたら此処にいたんだ」

「だから何度も言わせるな、そうだと言っているだろう」
「あぅ、ごめんなさい」

あれから漸くアルフを落ち着かせ、ベジータは話の本題に入る事にした

と言っても本当の事を言っても信じて貰えず。逆に警戒されては元も子もないので、そこら辺を適当な言い訳をして誤魔化した。

「で?これから俺をどうするんだ?」
「そうだね、取り敢えず君を母さんに報告したいから、付いて来て」

そういってフェイトは踵を返して歩き出す。

「おい小娘」
「……あ、私?」
「貴様の名前は?」
「………え?」
「だから、貴様の名前は何だと聞いているんだ。何時までも小娘では呼びにくいだろ」

そう言えばそうか、フェイトは一つ咳払いをしてベジータに振り向く。

「私はフェイト。フェイト・テスタロッサ」
「フェイトか、良い名前じゃねぇか」
「え?そ、そうかな」
「俺様はベジータ、ベジータだ」

今此処に、有り得えない物語が、動き出す



[5218] 戸惑いと決意の王子様
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:d9bb5981
Date: 2008/12/12 09:30
フェイトの案内の途中、俺は様々な事を聞かされた。

何でもここには世界が幾つも存在しているようだ。

全く文明の無い無人の世界、逆に高度な文明を持つ世界。

更にはフェイトが使っている力は魔法と言うもので、デバイスという媒介を通して行使しているという。

驚かせられたのは後ろで俺に敵意をぶつけている犬、アルフというこの自称狼はフェイトが造り上げた使い魔だという……。

いやはや魔法というものは何でもありだな。

「着いたよ」

フェイトの言葉に俺は顔を上げる。

目の前にはデカい扉、それを開けると……玉座の間のような場所で一人の女が頬付きしながらこちらに鋭い視線を投げ掛けてきた。

「フェイト、一体どうしたのかしら?もうジュエルシードを見つけたの?」
「ご、ごめんなさい。母さん、その……会わせたい人がいたから」

何やらフェイトの様子がおかしい、それにこの女、フェイトの母親らしいが……何でそんなに冷たい目で見る?後にいるアルフも表情が険しくなっている。

「………」

女は視線を俺に移し、値踏みするように見て来やがる。

やがて女は何か一人で納得し、溜め息を吐く

「もういいわ、フェイト、貴女はジュエルシードを探しに地球へ向かいなさい」
「え?で、でも……」
「……何度も同じ事言わせないで頂戴」
「……はい」

フェイトは俯き表情が暗くなる。

(やはり、この親子何かあるな、いやそれよりもこの女、今何て言いやがった!?)

俺の耳が確かならば、この女は地球と言った。ならばフェイトについて行けば地球に帰れる!?

そうと決まればこんな所にもう用はねぇ、さっさと帰らせて貰うぜ。

俺はトボトボと重い足取りで扉に向かうフェイトに声をかける。

「おいフェイト」
「え?な、何ベジータ?」
「俺も地球に向かう、だから待ってろよ」
「え!?だ、だけど……」

フェイトは俺と女に交互に視線を向け。困惑しているのか困ったといった顔になっている。

「……この男には二、三聞きたい事があるだけよ、貴女は早く行きなさい」
「は、はい……分かりました」

フェイトはアルフを連れて今度こそ玉座から出て行く。

暫く続く沈黙、それを破ったのは女の方だった。

「それで、お前は何者かしら?」
「それを言うにはまず自分から言うのが筋じゃないのか?」

女は俺の言葉が感に障ったのか眉間に皺を寄せる。

「……プレシア、私は大魔導師、プレシア・テスタロッサよ」
「俺様はベジータだ」

女はかなり俺に嫌悪しているようだ。苛立っているのが丸見えだ。

「それで、そのベジータが一体この時の庭園に何の用かしら?」
「用などない、気が付いたらここの庭に居たんだ」

俺の答えにプレシアは少し考えた後、やはりと呟き向き直る。

「貴方、次元漂流者ってご存知?」
「次元漂流者?知らんな」
「簡単に言えば迷子よ、ただ世界規模のね」
「……どういう事だ」
「未開の世界から何かの拍子で別の世界に跳ばされた人間の事よ」
「成る程……」
「ただ、元の世界に戻るには座標などを調べるのに相当な時間を有するわ、それに私にはそんな時間はないわ」
「ああ、それならば必要無い」

プレシアはベジータの言葉に意外と思いつつ、納得した。

「貴方、地球から来たの?」
「まぁな、お陰で早く帰れそうだ」
「そう、ならもういいわ、二度と会う事はないでしょう」

そう言ってプレシアは席を立ち、奥へと姿を消していった。

「ふん、あばよ」

俺も踵を返し部屋から出て行った。













「あ、ベジータ」

俺が最初に目覚めた場所でフェイトとアルフは立っていた。

「ベジータ、母さんと何を話してたの?」
「大した話じゃない、ちょっとした話だ」
「そう……なんだ」

フェイトはまた表情を曇らせる。

(それにしてもコイツ、少し落ち込み過ぎじゃないか?……やはりこの親子、何かあるな)

俺は暫し考え込むが今はそんな場合じゃない、早く地球に戻ってカカロットを探す準備をしなければ。

(カカロットの野郎、な〜にが別世界に跳ばすだ、焦らせやがって……今に見てやがれよ!)
「じゃあ、行くよ」
「ああ、やってくれ」

俺がそう言うとフェイトは目を瞑り何やらブツブツと呟くと地面から俺達を囲むように現れ光を発する。

(成る程、これが魔法か……)

やがて光は強くなり俺達を包んでいった……。

(……だが、もし今の俺の姿を見たらブルマの奴怒り狂うんじゃないか?)

俺は光に包まれながら少し帰るのが怖くなってきた……。

だが、この時俺は知らなかった。

俺が本当の意味で違う世界に来ていた事に…。

この直後、それを思い知らされる事になるなんて……。




















「なん……だと?」

とある建物の屋上、俺は目の前の光景に我が目を疑った。

「ここが地球か……」
「ここに母さんの探し物があるんだね」

隣でアルフとフェイトが何か言っているが俺の耳には入ってこない。

(バカな……そんなバカな事が!?)

眼下に映されるのは夜に所狭しと建ち並ぶ建物、人々の声、そして車の駆動音、ここまで聞けば俺のいた世界と何ら変わりはないだろう……だが。

(文明の差が違い過ぎるだと!?)

本当に此処は地球か?周りには見たことのないものやそうでないもの、それのお陰で俺の思考はグチャグチャになっていく。

やがて俺は力が抜け、その場に倒れ込んでしまう。

「べ、ベジータ!?」
「ちょっと、どうしたのさ!?」

アルフとフェイトが心配そうに此方を見ている

「い、いや大丈夫だ。それよりフェイト」
「な、何?」
「ここは本当に地球なのか?」
「え?う、うん、そうだけど……」
「フェイトが転移先を失敗する筈がないだろう。まったく」
「そ、そうか……」

二人の言葉は俺を叩きのめすには十分だった。

「な、なぁフェイト、お前、地図を持っていないか?」
「地図?」
「ああ、少し確認したい事があってな……出来れば世界地図を頼む」
「う、うん」

俺は僅かな希望を信じフェイトから渡される地図を恐る恐る見る。

「……冗談だろ?」

そこにあるのは地形、国、それら全てが異なった地球の様子が書かれてあった。

「ど、どうしたのベジータ?顔色悪いよ」
「は、ははは……」

俺は隣で声をかけ続けるフェイトの言葉など聞こえちゃいなかった。

(そう言う事かよ、まったく別の世界って…)

俺は以前、未来から来たトランクスから聞いた話を思い出した。

世界には未来があり、その一つ一つが異なり並んでいると……つまり。

(並行……世界)

認めたくなかった事実を、遂に俺は自分で肯定してしまった……。














「あの、ベジータ、大丈夫?」

近くの公園にやって来たフェイト、ベジータ、アルフの三人はベンチに腰掛けていた。

ベジータの表情は暗く、目は死んだ魚のように虚ろいでいた……。

「ちょっと、一体どうしたのさベジータの奴」
「分からない…けど」

フェイトはベジータの顔を覗き込む。

「ベジータ、もし何か困っているなら、私で良ければ出来るだけ手伝うよ」

ベジータは心底心配そうに見つめてくるフェイトに己の不甲斐なさに怒りを覚えた。

(俺は何をしている?こんな……小さな女に気を使わせて……)

そうだ、俺は言った筈だ、喩え世界の壁が阻もうと、それを乗り越えてやると、ならば!

「く、くくく……」
「べ、ベジータ?」
「フフフ……」
「だ、大丈夫かい?」

肩を震わせ、何やら笑い始めるベジータに戸惑う二人。

「くくく……ハーハッハッハ!!」
「きゃっ!?」
「うわっ!?」
「そうだ、俺はこの程度でへこたれるヤワな男ではない!俺は……俺こそがサイヤ人の王子、ベジータ様だ!!」

突然大声で笑うベジータに二人はポカーンと呆然としている。

「え、えーと……これは」
「大丈夫……みたいだね」

ベジータの高笑いは、人集りが出来るまで続いた。

















「えっ!?ベジータ、本気なの!?」
「ああ、俺もそのジュエルシードとやらを探してやるよ」
「で、でも危ないよ」

ベジータの高笑いで出来た人集りから逃げ出し、今は遠見市という街の、あるマンションの一室に来ていた。

尚、この部屋がプレシアが用意したもので中々の部屋だ。

……取り敢えず今の俺には情報が必要だ。コイツ等には借りがあるし、ジュエルシードとやらを探しながらこの世界を散策するとしよう。

「ふん、この俺を舐めるなよ、こう見えてそれなりに修羅場を潜っているんだ」
「だ、だけど……」
「俺の実力はお前達二人は良く知っている筈だぞ」
「け、けど……」
「はぁ、もういいじゃないかいフェイト」
「アルフ……」
「ジュエルシードを集めるにはやっぱり動ける奴が多い方がやりやすいよ、それにコイツも結構強いし役に立つと思うよ」
「………」
「安心しろ、足は引っ張らん」
「……分かった。けど、これだけは約束して」
「……何だ?」
「絶対に、一人で無茶はしないで…」

フェイトは真剣な瞳でベジータを見つめる。

「……ああ、分かった。約束しよう」

フェイトの目を見つめ、ベジータは頷いた。

「なら、これから宜しくねベジータ」
「ふん、宜しくしてやるよ」
「可愛くない奴だね〜、アンタは」
(今は無理だが……いつか必ず貴様の所に行くからな、待ってやがれよカカロット!!)


月明かりが照らす中、ベジータはこの世界で戦う決意をするのだった。











〜おまけ〜

くぅ〜……。

「あ、あぅ……」
「ん?何だ腹減ったのか?」
「そういや私達、今日は何にも食べてなかったんだっけ」
「うぅ……」

フェイトは顔を真っ赤に染め上げ、顔を俯かせる。

「仕方ない、俺が作ろう」
「え?ベジータ、料理できるの?」
「当然だ、料理くらい俺にもできるさ」
「へぇ、大した自信じゃないかい、なら頼んじゃおっか」
「任せろ」

そう言ってベジータは台所に向かった。

そしてベジータの前に沢山の材料が並べられる。

「さぁテメェ等!覚悟しやがれ、このベジータ様がタップリ料理してやるぜぇ!!」
「え?ちょっ、ベジータ?」
「まずはキャベツだ、みじん切り、木っ端微塵にしてやるぜ!!」
「ど、どうしたんだい?」

いきなり歌い出したベジータに若干引き気味のアルフとフェイト。

「次は貴様だ、人参野郎!人間みてぇなその名前、まったくふざけた野郎だぜ。貴様の苦味には反吐がでる。ククク……ハーハッハッハ!!」

「あ、あのベジータ……やっぱり私が…「だがそれも、今の俺には通用しねぇ!さぁ、ゆっくりと皮を剥いで、バッキバキに刻んでやるぜ!!」………」

フェイトの声も、乗りまくっているベジータの耳には届かなかった。

……そして、数十分後、完成した料理は……。

「これって……」
「お好み焼きだ」

目の前に出されたお好み焼きからはいい匂いがする。

「お好み焼きバトルも、さぁ口を大きく開けて、これで頂きだぜ」
「ば、バトル?」
「と、とりあえず美味しそうだし、食べようよフェイト」
「う、うん、そうだね、それじゃあ頂きます」
「頂きます♪」

二人はフォークをナイフを使ってお好み焼きを切ろうとするが……。

「おおっといけねぇ」
「な、何?」
「今度は何だい?」

アルフはまたかと少しウンザリする。

「マヨネーズも忘れんじゃねぇぜ」

ベジータはポケットからマヨネーズを取り出し二人に渡す。その表情はどこか楽しそうだ。

「「…………」」

二人は今回の食卓でベジータに対してのイメージを少し変えた。

だが、意外と美味しかったお好み焼きに二人はかなり満足したのだった。



[5218] 王子様の一日
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:f28d3525
Date: 2008/12/13 00:24


俺がこの世界で過ごして早数日、この星、地球の事も少なからず分かってきた。

スーパーに行けば食い物も飲み物、これらは全て俺がいた世界と何ら変わりはない。

だが……。

(カプセルポイホイが無いのは驚いたな)

違う世界がある以上違った点があるのは当然か。

フェイトやアルフは今ジュエルシードを探しに行っている。

俺はというと……。

「ふむ、今日は海鳴市で卵パックの特売か…」

買い物籠を片手にチラシを見ていた。

因みに今の俺の格好は赤いタンクトップの上にジャケットを羽織りGパンを履いている。

アルフやフェイトからは「流石にその格好は……」と言われた。

……まぁ、確かに戦闘服では目立つな。

それよりも、どういう訳か俺が家事担当になりフェイト達の朝昼晩の飯を作る事になってしまった。

俺にはジュエルシードを探す手段が無いため致し方なくこんな事している。

フェイトが言うには俺には魔導師としての素質が欠片も無いらしい。

攻撃魔法は勿論、防御、転送、果てには念話すら出来ないでいるのだから使えない事この上ない。

「くそ、大体プレシアの奴、大魔導師と自称するならジュエルシードを探すレーダーでも造りやがれってんだ」

ベジータは開いた左手でドラゴンレーダーを手にしていた時みたく親指をカチカチと動かしている。

「む、いかん、そろそろタイムサービスの時間だ。急がなければ」

俺は少し歩くの早め海鳴にあるスーパーへと向かった。

この時、周りから暖かい視線を感じたが……一体何なんだ?















「ふぅ〜、買えた買えた。今日も大漁だぜ」

俺はレジから金を払い荷物をまとめている。

「切らしていたマヨネーズも買えたし、当分は安泰だな」

最初の頃はこの世界の金の単位に苦戦をしたが、今では随分と慣れたものだ。

尚、これらの出費は全てプレシアが負担するらしい。

「卵も買ったし、今日はオムライスにしとくか、あとドッグフードを買わないとアルフの奴がやかましいからな」

まったく、自分は犬じゃないと言っておきながらドッグフードが食べたいなどと言うんだから、分からん奴だ。

「ついでにフェイトにも何か買ってってやるか」

俺は荷物をまとめスーパーから出る。

「さて、あらかた目的の物を買ったし、帰るとするか……ん?何だこの気は?」

ベジータはマンションに向けて進めていた足を止める。

(この気……一体何だ?まるで隠しているみたいだが……)

俺は好奇心を抑えきれずアルフ以外で感じた妙な気の所へ向かった。












「おいおいお嬢ちゃん、どうしてくれんのこれ?折角の卸した服、台無し何だけど〜?」
「ご、ごめんなさい」

とある路地裏、そこに複数の男が一人の少女を取り囲んでいた。

その内の一人がアイスクリームが服に付いた事を見せびらかす様にしている。

「ご、ごめんなさい」

ウェーブの掛かった青い髪の少女はどうすればいいか分からず、ただひたすら謝っていた。

「ごめんなさいだって〜どうする〜?」
「い〜や許さないね」
「そ、そんな……」

少女は涙目になるが男達はそれを見て愉快そうに顔を歪める。

「く、クリーニング代なら払いますだから……」

「だから〜、そういう事じゃないんだって〜」

男は嗤いながら少女に手を伸ばす。

「っ!!」

少女はビクッと肩を震わせ目を閉じる。聞こえてくるは気味悪い男達の嗤い声。

「そこまでにしとけ」

ふと、男達ではなく別の若い声が聞こえる。

「………え?」

うっすらと目を開ける少女、するとそこには買い物籠とドッグフードが見え隠れするナイロン袋を持ったやけに家庭的な格好した少年が此方を見ていた。

「あ〜、何だ坊主?」
「これは見せ物じゃねぇぞ〜」
「それとも見たいのか〜?まったくマセたガキだぜ」

ゲラゲラと笑う男達に少年は冷たく言い放つ。

「失せろ下衆ども」

その一言に男達の笑い声は止まった。

「……おいガキ、今何つった?」
「お兄ちゃん達よく聞こえなかったな〜」
「見た目も悪けりゃ頭も悪いか……目障りな存在この上ないな」

少年は淡々と言葉を重ね、その度に男達は額に青筋を浮かべる。

「…死ぬか?ガキ?」
「止めにこんな安い挑発に乗る、猿から人生やり直してこい」

この言葉に男達の頭からプッツンと千切れる音が聞こえる。

「調子に乗ってんじゃねぇぞクソガキ!!」

男達は相手が子供にも関わらず複数で殴りかかる。

だが、少年は……ベジータは特に何もせず凜と構え……。

「ふんっ」

一人には股間を蹴り上げ、一人には顎を蹴り飛ばし、一人には脇腹を、最後の一人には鳩尾に。

それはまさに一瞬。瞬きをする間もない刹那のやり取りに少女は勿論、やられた本人達も何が起きたか理解していないだろう。

男達はただ苦しそうに悶え、中には白眼を向けて泡を吹いている。

「……殺されなかっただけありがたく思いやがれ」

ベジータは男にそう言い捨て少女に睨みつける。

「ひっ」

少女はベジータの鋭い視線に恐怖を覚える。

その瞳は少女でも分かる程凄まじい殺気を宿していた。

「………ふん」

やがてベジータは少女に興味を無くし、その場から去っていく。

「卵は……よし、割れてねぇな」

それだけを言い残して。

少女はベジータが居なくなったと同時に我に還り……。

「あ、ちょ、ちょっと待って下さい!」
「…………」

少女の呼びかけにも応えず、ベジータは黙々と歩き続ける。

「待って、お願い、待って!」

やがて人気から離れ人通りの少ない公園で漸くベジータの足は止まり少女に向き直る。

「……何の用だ?」
「あ、その……ええと」

少女はベジータの冷たい瞳にこれまで考えていた言葉が全て吹き飛んでしまう。

「えと、お礼が……言いたくて」
「別に貴様を助ける為じゃない、群れないと何もできないガキ共に躾をしただけだ」

少女がやっとの思いで言い出した言葉をベジータは一呼吸で言い捨てる。

「で、でも…「大体貴様もだ」へ?」
「何故力を持っている癖にそれを使わん」
「!?」
「気付かないと思ったか?貴様からには他の奴とは違う何かがある」
「……そ、それは」
「いくら弱い力でもあの程度の奴等なら簡単に払いのける事が出来た筈だ。答えろ、何故力を使わない?」

ベジータの低く、それでいて威圧感のある声に少女は震える声で小さく応える。

「わ、私は……誰かを傷ついたり、傷付けるの嫌だから……怖いから」
「………」
「それに……人を傷付けると、いつか誰かに仕返しされるから……」
「………」

ベジータは少女の答に黙って聞いている。

「私はそれが……絶対嫌だから」

少女は徐々に瞳の色を強くしベジータを真っ直ぐに捉える。

「……それが貴様の答えか?」

ベジータの問いに少女は頷く。

「なら俺からはもう何も言わん、好きにしろ」

ベジータは踵を返し去っていく。

「ま、待って!」

少女の呼び掛けに足を止め。

「安心しろ、貴様の事は口外しないし、そちらから仕掛けて来なければ手は出さん」

ベジータはそう言うと今度こそ振り返らず去っていく。

少女はそれを呆然と見つめ、やがて緊張が解けその場にへたり込んでしまう。

「こ、怖かった……」

ベジータの目線に、逃げ出さなかった自分を褒めてあげたかった。

「あ……」

するとここで少女はある事に気付いた。

「お名前、聞き忘れちゃった……」

青い長髪の少女、月村すずかは、誰もいない公園に一人呟いた。








一方ベジータは……。

「ククク、先程の小娘といい、どうやらこの世界、少なくともこの街には面白い奴が何人かいそうだな」

ベジータは不敵に笑いながら夜の街を歩いていく。

「大した奴はいないと思っていたが……中々退屈しないで済みそうじゃねぇか、クク、フフフ」

両手に買い物袋を携えた今のベジータがそう言っても不気味に見える。

それを証拠に周りの人間から白い目で見られているが、当の本人は気づいていない。

「ママー、あのお兄ちゃん何か恐いよ」
「み、見ちゃダメ!」

こうして、ベジータの1日は過ぎて行くのだった…。














〜おまけ〜

「よし、作るとするか」
「「わ〜♪」」

袖を捲って調理を始めるベジータに、探索から帰ってきたアルフとフェイトは両手を挙げてはしゃいでいた。

「それじゃ、先ずはご飯!てめぇから片付けてやるぜぇ!!」

例によってベジータの歌声が部屋に響いていく。

その事に慣れたのか、アルフは尻尾を振り、フェイトは頬を付いてニンマリしていた。

調理は進み、アルフはある質問をする。

「ねぇベジータ、一つ聞いて良い?」
「何だ?」
「アンタが歌っているその歌、一体誰の歌なんだい?」

するとベジータはよくぞ聞いてくれた!と言わんばかりに口端を吊り上げる。

「勿論、俺の歌だ!」
「……あっそう」

アルフは内心引いていた。

「す、凄いよベジータ!ベジータって歌も作れちゃうんだ!」

自分を造った主はベジータの発言に食いついた。

「当然だ、何たって俺はベジータ様だからな!」
「わー!!」

フェイトは目を輝かせている。

「そ、それで、その歌は何て言うの?」
「ふん、そんなに知りたいなら教えてやる、題して【ベジータ様のお料理地獄】だ!」
「わーっ!!!」
(い、いやフェイト、そんなに大袈裟に驚く所じゃないよそれ、大体料理に地獄って……)

アルフの心の突っ込みには誰も届かなかった。

「CDもあるぞ」
「あるの!?ってかいつの間に!?」
「じ、じゃあ一枚下さい……」
「千円になります」
「ちょっ!?何売ろうとしてんのさベジータ!?そしてフェイトも買っちゃダメぇぇぇ!!」

今日も、世界は平和でしたとさ。









〜あとがき〜
な、何かベジータの日常を書こうとしたら何だか変な事に……。

ご指摘ご感想宜しくお願いします!!m(_ _)m



[5218] 魔法少女と魔法少女と王子様
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:1bc60784
Date: 2008/12/14 23:37


「何?ジュエルシードを見つけただと?」

いつもと同じ食卓、カレーを食べている最中フェイトが話を切り出してきた。

「うん、今日探している途中で見つけたんだ」

フェイトの話し方はどこか嬉しそうだ、プレシアの役に立てるのが嬉いだからだろうか?

「漸くか、まったく、俺の体も鈍っちまう所だぜ」
「あ、ご、ごめんねベジータ、私ももっと早く見つけたかったんだけど……」
「い、いや、別にそんな意味で言った訳ではないんだが……」

コイツ等と過ごして分かった事、それは事ある度にコイツの……フェイトの思考がマイナス方面に向かってしまうという事。

「本当にごめんね」

フェイトは悲しそうに顔を俯かせている。

お、俺の所為か!?

何やらアルフから殺気の混じった視線が突き刺さるのだが……。

「い、いやまぁ何だ、これでプレシアの奴に顔向け出来るようになったんだから良かったじゃないか」
「そ、そうかな?」

途端に表情が明るくなりやがる。

フェイトにとってプレシアは絶対といっても過言ではない程の存在らしいな……。

アルフはどうやらそれが気に食わないようだが。

「よし、なら俺も行くとしようか」
「で、でもベジータ、本当にいいの?」
「? 何がだ?」
「ジュエルシードはロストロギア、とても危険な代物なんだよ。それを……本来なら無関係なベジータを巻き込むわけには」

またその話か、いい加減ウンザリするぜ。

「俺の心配をするより自分の心配をしたらどうだ?」
「で、でも……」
「最初に言った筈だ。俺はそれなりに修羅場を潜っているしそれに見合った実力を兼ね備えている。寧ろ俺は貴様の方が心配だ」
「え?」
「お前は一人で何でも背負い込もうとしやがる。俺やアルフが居るのに、だ」
「そ、それは……」
「只でさえ貴様はガキなんだ、ガキはガキなりに我が儘言いやがれ」
「ベジータ……」

それだけ言うとベジータは黙々とカレーを食べる。

「ありがとうベジータ」
「勘違いするな、貴様が潰れると俺にまで迷惑がかかるから言ってるんだ。貴様の為じゃない」
「でも、それでも……嬉しいよ」
「ふんっ!」

ベジータはソッボを向いてカレーを食べ続ける。

フェイトはそんなベジータに感謝しながらカレーを美味しく頂いた。

「ベジータ〜、もっと肉を入れてよ〜」
「……文句があるなら食うな」

今日も、楽しく過ごせそうだ。

フェイトは目の前でやり取りしているベジータとアルフに微笑みながら、一人そう思った。














翌日。フェイト、アルフ、そしてベジータの三人はそれぞれ戦闘服に着替え、マンションの屋上へ来ていた。

「今日はジュエルシードの封印、そして捕獲、それは私とベジータで、アルフは引き続き残りのジュエルシードの探索に当たって」
「はいは〜い♪」
「いいだろう……」
「それじゃあアルフ、無理はしないでね」
「大丈夫だよ。それよりもベジータ、フェイトの事、頼んだよ」
「貴様に言われるまでもない、そういう貴様こそヘマすんじゃねぇぞ」
「分かってるよ、それじゃあしっかりね」

そしてベジータとフェイトはジュエルシードを、アルフは残りのを探しに一斉に屋上から飛び出していった。














「ここか?」
「うん、この家の敷地内からジュエルシードの反応があるんだ」

俺とフェイトがやってきたのはやたらデカい屋敷の裏にある森、何やら何処かで感じた事のある気があるが……気のせいか。

「それで、ジュエルシードは何処にあるんだ?」
「えっと確か……」

フェイトがジュエルシードを見つけようとしたその時だった。

「なっ!?こ、これは!?」

突如辺りの空間の色が変わり人の気配は勿論、気すら感じ取れなくなった。

「広域結界、辺りの空間とは時間軸をずらす魔法……」
「魔法?では……」
「うん、私達の他にジュエルシードの探索者がいる……」

という事は……。

「私と同じ……魔導師だ」












「え、えっと……これは」
「た、多分あの子の大きくなりたいっていう願いが正しく叶えられた……んだと思う」

私、高町なのはは極々平凡な小学三年生の筈……だったんだけど。

「でも、あのままじゃ危険だから、早く封印しないと」
「そ、そうだね、流石にあのままじゃすずかちゃん困っちゃうだろうし……」

何の因果か運命か、……魔法少女なんてやってます……。

私は違う世界からやって来たユーノ君の手伝いでジュエルシード集めをしてるんですけど…。

今私達の目の前にはジュエルシードの願いを叶える力の所為で大きくなってしまった猫さんに私の相棒であるレイジングハートを構えると…。

「「っ!?」」

背後から光が通過して猫さんに直撃してしまう。

「にゃ〜〜っ!」

猫さんは驚いたのか悲鳴を上げよろけてしまう。

「だ、誰!?」

光が現れた方へ振り返るとそこには黒い服を着た……綺麗な女の子と。
やたら目つきの悪い変わった格好の男の子が空中にただずんでいました。
















「さて、どうするフェイト、向こうは今ので此方に感づいたみたいだが?」
「大丈夫、何とかしてみるよ」
「できるか?」
「うん、もし危なくなったら呼ぶから」

そういってフェイトはあの白い小娘の方へ飛んでいった。

「さて、着いて来たのはいいが、どうやら俺の出番はないようだな」

動きを見て分かる。相手はまだまだ素人の域を抜け出していないヒヨッコ、フェイトの相手ではないな。

「つまらんな……ん?」

ふと、近くにもう一つの気を感じた。

「何だあれは……ネズミか?」

俺が感じた気の方角を見ると、ネズミ?みたいな生物がチョロチョロと嗅ぎ回っていた。

「ネズミ……にしては気が大きいな」

俺は少し疑問に思いながらもそのネズミ擬きの所へと飛んだ。










「いけない、なのは!」

いきなり現れた黒い服をきた魔導師に苦戦するなのはにユーノは走る。

(まさか僕と同じ世界から来た子が来るなんて……!)

しかも相手はジュエルシードの正体を知っている、一体何者なんだ!?

(いや、今はそれよりもなのはを助けないと!)

幾らなのはの魔力が凄くても相手の方が技術や経験は上だ。このままでは!

「よう」
「!?」


なのはの所へ向かおうとするユーノに突然人影が舞い降りた。

「そんなに急いでどうした?」
「君はっ!?」

ユーノの驚きの声にベジータは鼻で笑い。

「ふん、やはり化けていやがったか、ネズミにしては気が大きいから、おかしいと思ったぜ。おい応えろ、何故貴様等はジュエルシードを集める?」
「君達は一体何者だ!?何故ジュエルシードの事を……「話を聞いていないのか?質問をしているのはこっちだ」!?」

ユーノが言い切る前にベジータの殺気に押し黙ってしまう。

「それとも、見た目同様中身も下等生物だから此方の言葉が理解できんか?」
「かとっ!?」

余程ショックだったのだろうか、ユーノは石化してしまう。

「まぁいい、あちらも直ぐに片はつく、それまでに……」
「くっ!」
「遊んで貰おうか?」
















「貴方は誰!?どうしてこんな事をするの!?」
「………」

突然現れた黒い服の女の子。その子はとても綺麗で、綺麗な赤い目をしていて、だけど……どこか寂しい目をしていた。

「聞いても……きっと分からないから…」

フェイトはそう呟くと間合いを取り木の上に着地し、バルディッシュを構える。対するなのはもレイジングハートを構え迎撃の構えを取る。

[photon lancer get set]
[Divin bustar stand by lady]

二人の持つデバイスから既に発射態勢のコールが聞こえる。……だが。

「な〜」
「!」

倒れて気絶していた猫の声に反応してしまい、なのはは気を逸らしてしまった。

「ごめんね……」
[Fire]

フェイトの呟きは誰も聞こえず、なのははバルディッシュの放った光の閃光を浴び、空に打ち上げられてしまった。











「どうやら終わったらしいな……」

ベジータは打ち上げられたなのはを見て呟く。

「なのは!」

ユーノはなのはを見た瞬間、ベジータの横を走り去る。

「ふん、あれじゃ間に合わんだろう、……仕方ない」

そう呟いたベジータはピシュンッと音と共に姿を消した。










「くそっ!間に合ってくれ!」

打ち上げられ、気絶し重力に逆らえず、落下してくるなのはにユーノは焦っていた。

いくらBJで強化されているといってもあの高さからでは怪我をしてしまう。

(仕方ない!ここからで!!)

ユーノは立ち止まりなのはの落下する地点を読み取り魔法陣を描いていくが。

「よっと」

空中にいきなり現れたベジータがなのはを抱きかかえ、地面へと着地する。

「なっ!?い、いつの間に!?」

先程まで自分の後ろに居たはずの人間が突然現れた事に驚愕する。

「まったく、手間取らせやがって」

そう言いながらも、ベジータは壊れ物を扱うようになのはをそっと横に寝かせる。

「ベジータ」
「フェイトか、そっちも終わったか」
「うん」

フェイトは手のひらに乗せている青い宝石を見せる。

「コイツがジュエルシードか……」
「そうだよ。お願い、バルディッシュ」
[Sir]

バルディッシュのコアが点滅するとジュエルシードを取り込むように収納する。

「それじゃあ行こうか」
「ま、待って!君達は一体何者なんだ!?」

その場から離れようとした二人に背後からユーノは呼びかける、……だが

「「……………」」

二人は何も話す事なく空の彼方へと消えていった……。















やがて、合流した三人はマンションへ帰り食卓に着いた。

フェイトは何故か犬形態になっているアルフの頭を撫でていた。

「フェイト、どうしたんだい?」
「え?どうして?」
「何だか、フェイトが元気無いように見えたから……」
「そんな事ないよ」
「なら良いけど……」
「大丈夫、私は平気だよ、ジュエルシードもちょっと邪魔が入っちゃったけど、うまくいったし……」

フェイトはこの時、今日会った白い服を着た女の子、高町なのはの事を思い出していた。

「幾つかは……あの子が持ってるんだよね」

少し悲しげな表情のフェイトにアルフは心配そうに見つめ。

「………」

ベジータはその事を考えながら黙々とお玉で鍋をかき混ぜていた。











〜おまけ〜

「できたぞ」
「わ〜い♪」

料理を持ってきたベジータに人間形態へと戻り食卓に着く。

「今日はシチューを作った。ありがたく頂きやがれ」
「「いただきます」」

両手を合わせ各々で食べる途中、アルフの手が止まった…。

「? どうしたアルフ?」
「あぅ〜、人参嫌い〜」
アルフは人参をスプーンで転がしながら嫌悪感を示す。

「好き嫌いせずに食え、人参だけでなく野菜にはそれぞれ栄養が豊富なんだ、残さず食べないとおやつのアイスは抜きにするぞ」
「うう〜、ベジータ、お母さんみたいだよ〜」

ベジータの言葉にアルフは皮肉を言い、ベジータはため息を吐きながらフェイトの方へ振り向く。

「はぁ、おいフェイト、お前からも何か……」

フェイトは複数の人参を皿の隅っこに追いやっていた。

「あ、え、えっと…」

フェイトは顔を真っ赤にして俯かせる。

「まったく、飼い犬といい飼い主といい……はぁ、しょうがねぇ」

ベジータはフェイトの皿から一つ人参を摘み口へ放り込む。

「一つは食べてやったんだ、あとは残さず食べろよ」
「あ、ありがとベジータ」
「あー!ベジータずるーい!あたしにもー!」
「貴様は肉ばっか食い過ぎだ!野菜食え野菜!!」

やっぱり今日も平和でしたとさ。








〜あとがき〜

トッポです。
今回はベジータがユーノの良いところを全て持って行く話でした!

できれば冒頭の突っ込みにはご勘弁を!(コラ

ご指摘ご感想お待ちしてます!



[5218] 温泉と王子様
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:63c2297a
Date: 2008/12/16 14:06


一つ目のジュエルシードを手に入れてから翌日、俺達はアルフから聞いたジュエルシードの発見場所に向かった。

が……。

「何故に温泉?」

今、俺とアルフは海鳴温泉と書かれた旅館の前に来ている。

「あたしが見つけた場所がこの辺りだったのさ、ほら、早く行くよ」
「ち、一々指図するんじゃない」
「可愛くないな〜、アンタ一人じゃ入れないから保護者同伴でアタシも来たんじゃないか、何ならお母さんって呼んでもいいんだよ♪」
「……死ぬか?」

本来ならアルフ一人で十分なのだがフェイトが

「ベジータはいつも私達に美味しいご飯を作ってくれるんだから、今日はゆっくりしなよ」

と、言われたので俺まで来るハメになってしまった。

最初は断ったのだがフェイトの「よ、余計なお世話だったかな?」と、涙目で訴えて来たので断念。

何だか俺、フェイトに言いようにされていないか?

「ほ〜ら、早く行くよベジータ♪」
「わ、分かったから腕を組もうとするんじゃない!」

半ば無理矢理、俺はアルフに引っ張られ、旅館の中に入っていった…。

「……む?」
「どうしたのベジータ?」

旅館にチェックインして部屋に向かう最中、少しベジータの表情が険しくなる。

「あの時の奴らもここに来ているらしい……」

その言葉にアルフの表情も険しくなる。

「ほ、ホントかいそりゃ!?」
「ああ、以前感じた全く同じ気を複数感じる」
「じゃあ、その中にフェイトやアンタが会った奴らがいるんだね」
「そうなるな……」
「ちょっと待って、アタシがフェイトから指示を仰ぐから」

そう言ってアルフは念話を始めたのか目を閉じ荷物を地面に落とす。

(それにしても、俺の感じた気の中にあの青髪の小娘の気も感じやがる、それに……その小娘と似た気の持ち主も……)

それだけじゃない。

(それなりに気が大きい奴もチラホラ……ククク、少しは楽しめそうか?)

不敵な笑みで笑うベジータは端から見ればそれは不気味に見えただろう。

「うん、わかったよ」
「フェイトの奴は何だって?」
「取り敢えずは様子見、このまま続行だって、唯アタシは例の魔導師に挨拶を兼ねて警告しに行くよ」
「俺はどうする?」
「ベジータは今日はゆっくりと休んで……だってさ」
「ち、つまらん」

少しふてくされるベジータに苦笑いするアルフ。

「まぁそう言うなよ、アタシだってアンタには感謝してるんだ。ここいらで体を休めるのも、アンタの仕事さ」
「……仕方ない、だが何かあったら直ぐに呼べよ、いいな」
「ああ、分かったよ」

そう言いながらアルフとベジータは部屋へと向かった。















「っあ〜、やはり温泉の湯は体に沁みやがるぜ〜♪」

俺は今、温泉を満喫中だ。誰もいないしほぼ貸切状態、内装も悪くはない、そして風呂上がりに飲むキンキンに冷えた牛乳があれば最早言うこと無しだな。

カラカラカラ……。

ん?誰か来たか?

戸が開かれ入ってきたのは体の至る所に傷の入った若い男だった。

「ふぅ〜、やっぱりここの温泉はいいな〜」

男は体を洗った後、ワザワザ俺の隣に入ってきて……。

「君もそう思うだろ?」
「………」

いきなり此方に話しかけて来やがった。

「君、この辺りじゃ見かけないね、何処から来たんだい?」

男はやたら親しみ安そうに笑いながら話しかけてくる。

「……遠見市」
「あそこかぁー、あそこは都会だし色々と揃ってそうだな〜」
「………」
「でも、ここ海鳴市だって負けてはいないぞー!空気は旨いし、海や山に囲まれて、いい街だぞ〜」
「………」

一体何なんだコイツは……?

「時に……君に一つ聞きたい事がある」

ほぅ?やはり俺がそれなりにと感じた気の出所はコイツだったか、雰囲気ががらりと変わりやがった…。

「君は……コーヒー派?それともフルーツ派?はたまたノーマル?」

っ!?こ、コイツ……まさか。

「……確かにコーヒー、そしてフルーツ、どちらも甘美で美味だ……」
「…………」
「だがしかし!やはり俺は王道、つまりノーマル派だ!!」

そう言い放つと、横にいる男は不敵な笑みを浮かべていた。

「俺は高町士郎、君は?」
「俺はベジータだ」
「ベジータ君か、奢ろう、好きなだけ飲んでくれ」
「頂くとしよう……」

最早俺達に言葉など不要、俺達は同時に湯船から上がりタオルを巻き、腰に手を当て牛乳瓶を二本も頂いた。

(高町士郎、貴様の名、しっかり刻んだぞ)

俺はこの世界に来て初めて同士という友を得た…。














同士士郎と別れた俺は通路でアルフと例の魔導師、それと奴の友達らしき人物が絡んでいる所を目撃した。

「アイツは……あの魔導師の仲間だったのか?」

以前屑共から助けた時に会ったあの青髪の小娘が一緒にいた。

「それにしても……アルフ、あれではまるで酔っ払いの絡みじゃないか」

俺ははぁっと溜め息を吐き内心焦りながら見届ける。

やがてアルフは高笑いをすると魔導師の肩に乗っている……下等生物の頭を撫でるとそのまま女湯の方へ向かっていった。

その際、魔導師は顔を険しくしてアルフの後ろ姿を見つめていた。

「あの様子だとアルフの奴、念話で警告したようだな」

俺もこの場に留まる必要が無くなったので、そそくさと離れていった。

















そして、今度は俺は遊戯場へと足を運んでいた。

卓球台にUFOキャッチャー、それとちょっとしたゲーム。ふむ、中々面白そうじゃないか。

「さて、まずはどこから制覇「あっ!?」ん?」

何やら後ろから声をかけられた気が……。

振り向くとそこには先程アルフと会った三人娘が……というかその内の二人が此方に指を指して驚愕していた。

「えっ!?すずか(なのは)ちゃん知り合いなの!?」

……どうやらコイツ等は友ではあるが仲間ではないらしい。

「え?な、何?二人ともコイツと知り合い?」

金髪の小娘が不思議そうにしている。

「え、ええっと……」
「そ、その……」

二人は何やら言い辛そうにしている。

肩に乗っている生物は此方を睨んでいる、どうやら俺に念話しようとしているが……。

「ふんっ」

取り敢えず鼻で笑ってやった。

「っ!?」

何やらショックを受けているみたいだが俺には関係無い。

「ち、ちょっと、アンタ一体何なのよ?」

金髪の小娘は自分だけ仲間外れなのが嫌なのかやたら食ってかかる。

「そんなに俺の事が知りたいのか?」
「え?う……うん」
「知りたい……かも」
「そうか……なら」

この時の俺の顔はある意味生き生きしていただろう。

「勝負をしようじゃないか」
「「「勝負?」」」
「そう、お前達の中で誰でもいいからこの俺に一度でも勝利する事が出来れば、俺の全てを教えてやろう……但し、俺が勝ち続ければ俺の正体は教えられない、どうだ?」
「え?で、でも…「上等じゃない!!」あ、アリサちゃん!?」
「要はアンタに勝ちゃ良いんでしょう!だったら簡単じゃない!」

思った通り。やはりこの女勝ち気が強い、直ぐに乗って来やがった。

「で?どうやって勝負着けんのよ?」
「安心しろ、考えてある」

そう言って俺は一つの卓球台に指を指す。

「卓球?」
「今、俺達は温泉に入って浴衣を着てそして卓球台の前にいる、ならば、やる事は一つだろ?」

ベジータは不敵な笑みを三人に向ける。

「やったろうじゃない!見てなさいよ〜!」
「が、頑張ってアリサちゃん!」
「ファイトだよ!!」

「先ずは貴様からか……いいだろう」
「さぁ、始めるわよ!ちゃっちゃと勝って、アンタの正体吐かせてやるわ!!」
「フフ、威勢がいいな……」
「ぬかしなさい!!」

そして、金髪の女のサーブからこの戦いは始まったのだった。

ククク、さあ、ショーの始まりだ。
















「どうした?もう終いか?」
「はぁっはぁっ、くっ…!」

熱き卓球バトルが始まって早二時間、三人の内二人は体力が尽きダウン、そして今は青髪の女が最後の砦だ。

……どうでもいいが白い魔導師の奴、たった一試合で体力が尽きるのはどうかと思うぞ…。

「さぁ、最早貴様等に後は無い、この一球で終わりだ!」
「私は負けない……負けられない!なのはちゃんやアリサちゃんの……二人の為にも、貴方を討つ!!」
「勝手に殺すんじゃないわよ〜……」

金髪の女はフラフラと手を挙げて講義をしている。

「………」

魔導師の方は返事がない。下等生物が必死に呼び掛けているが大丈夫だろうか……。

「行きます!!」
「こいっ!!」

二人の思いを背負い、少女は今、最後の戦いに挑んだ……。



















「よし、そろそろ行くか」
「そうだね、フェイトも合流地点に居るだろうし、急がないと」

今俺達は宿をチェックアウトし、裏口からフェイトとの合流地点へ向かっている。

卓球勝負?当然俺の全勝だ。

唯最後の青髪の女には焦らせたがな、思わず必殺の【ファイナルスマッシュ】を使ってしまったが……。

大体体力勝負で胴体視力、体力、反応速度に優れたサイヤ人に挑んだ時点で俺の勝ちは決まったようなものだ。

「さて、旅館のメシも頂いた所で、本来の役目を果たすとするか」
「ベジータ、どうだった?疲れ、取れた?」
「中々楽しませて貰ったぜ」
「そっか……ならさ、また来ようよ。今度はフェイトも連れて、三人でさ!」
「なら、そうする為にも……」
「ああ、今は……」
「「出来る事をするんだ……」」

月夜が照らす中、二人の男女が夜の森を駆けていった……。












〜おまけ〜

『なのは、しっかりして!なのは!!』
『ゆ、ユーノ君……』
『なのは!気がついた?』
『ゴメンね……約束……守れなかったよ…』
『ちょっ!?なのは!何そのマジで死んじゃう五秒前みたいな台詞!』
『…………』
『なのは?ちょっ!?ま、待ってよ!だ、誰か衛生兵!衛生兵!!』





魔法少女リリカルなのは………完!!









『完じゃないよ!!勝手に終わらすな〜!!』













〜あとがき〜

今回はベジータ君はっちゃけるお話にしたのですが……如何でした?

ご指摘ご感想、お待ちしてます!!



[5218] 王子様の観戦
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:5dcd52d3
Date: 2008/12/18 01:11



旅館での寛ぎを満喫したベジータとアルフは現在、フェイトとの合流地点へ向けて翔ていた。

「アルフ」
「ん?何だいベジータ?」
「お前から見て、あの白い魔導師の奴についてどう思う?」
「ああその事かい?全然大した奴じゃないね、フェイトの敵じゃないよ」
「そうか……」
「ベジータは違うのかい?」
「……いや、俺もアルフの意見に賛成だ」
「でしょう♪」

アルフは自分の事の様に喜んだ。

(確かに、フェイトがあの白い奴に負ける事はほぼないだろう、……だが、それは現時点での話だ)

奴やフェイトは魔導師だから戦士である俺にはよく分からんが、あの白い奴はもしかしたら潜在能力はフェイトより上かもしれん……。

尤も、潜在能力の高さはフェイトも負けてはいないだろうがな…。

(だが、ああいうタイプはちょっとしたキッカケで化ける可能性がある、……気をつけるべきだな)

「お♪いたいた、お〜いフェイト〜!」

アルフが手を振ると先に着いていたフェイトが振り返していた。

「ベジータ、どうだった?楽しめた?」
「ふん、まぁそれなりにだったな」
「そう、良かったね」
「フェイト、ジュエルシードは?」
「あそこだよ……」

フェイトの指した方向へ視線を向けると川の中から淡い光を放っているジュエルシードを見つけた。

「そういやまだ聞いてなかったな……」
「何が?」
「お前の母、プレシアは何だってあんな物を欲しがるんだ?」

その言葉にフェイトは目を瞑ったあと…。

「関係ないよ……私は唯母さんが欲しい物を届けるだけだから……」

返ってきた言葉にベジータは若干顔をしかめる。

「バルディッシュ、起きて!」
[Yes sir]

フェイトのかざした左手の手袋の甲から黄色の三角形が外れ、空高く舞い上がり一振りの杖へと形状を変えた。

「……む?」
「どうしたんだい?」
「例の魔導師も感づいたようだ。此方に近づいて来やがる。……急いだ方がいいな」
「そうなのかい?やれやれ、折角親切に忠告したってのにあのガキんちょは……」
「あれが親切か?」
「何か言った?」
「イヤ、ナニモ……」

フェイトはバルディッシュの形状を変え、封印する準備に入る。

「封印するよ。アルフ、サポートお願い」
「へいへい」

二人は光を放つジュエルシードを見据え、ベジータは一人考え込んでいた。












「あ、あれって!」

フェイトがジュエルシードを封印し、手にした瞬間あの白い魔導師も桟橋へとやってきた。

「あ〜らあらあらあら、やっぱり来ちゃったか……」

アルフが白々しくそう言うと肩に乗った下等生物が食ってかかった。

「それを、ジュエルシードをどうする気だ!それは、危険な代物なんだ!」
「さぁね、応える理由が見当たらないよ、それにあたし親切に言ったよね?良い子にしてないとガブッと行くよって…」

アルフがそういうと目をギロリと光らせ体を獣へ、狼へと変化させる。

「やっぱり……彼女は使い魔だったか」
「使い魔?」
「そう、あたしはこの子に造って貰った魔法生命、主の魔力を命とする代わりその命と力の全てを賭けて護るのさ」

と、アルフの自分について説明しているが……やはり何度見ても慣れないな。

(あんな風に体を変化させても、服など元に戻るから不思議だ……尤も、大猿から超サイヤ人4へと変身した俺がいうのもおかしいか)

そんな事を考えていると…。

「あ、あの……!」
「ん?」

フェイトと似たような杖を手にした魔導師が此方に話しかけてきた。

「俺に何か用か?」
「え、えっとその……き、君もジュエルシードも探しているの?」
「悪いが、俺についてはノーコメントだ。言った筈だ、俺との勝負に勝たない限り俺の事は話さんと……」
「で、でも……」
「それとも……また勝負するか?」
「え?」
「ただ、そうなると今度は……命を賭けて貰うがな……」
「っ!?」

ベジータの不敵な笑みを浮かべながらも途方も無い殺気になのはは思わず尻込みしそうになってしまう。

「べ、ベジータ……」
「ふ、冗談だ」

ベジータはそう言うが、アルフは「コイツ、絶対本気だったよ……」と一人呟いていた。

「で?そう言う貴様等は一体何しに来たんだ?」
「は、話を聞こうと思って……」
「話?それを聞いて何になる?」
「そ、それは……」

ベジータの言葉に、なのはは押し黙ってしまう。

「それに私達はジュエルシードを集めなければならない、そしてそれは貴方も同じ、だったら私達はジュエルシードを求めて争う敵同士って事になるね」
「だから!そんな勝手に決めない為に、話し合いって必要なんだと思う!!」

……何か俺の時と大分差があるのは気のせいか?

「言葉だけじゃ、何も変わらない……伝わらない!!」

フェイトはそう言うとデバイスを振りかざし白い魔導師の背後に回る。

「う、くっ!」
[Flier fin]

魔導師の奴は何とかフェイトの初撃を回避し足から翼の様なものを展開して空へと舞い上がる。

「けど、だからって!」
「賭けて、それぞれのジュエルシードを一つずつ」
「なのは!!」
「アルフ!!」
「分かってるよ!!」

空へ翔て行く二人へ何かをやろうとする下等生物にアルフをぶつける。

「くっ!?」
「させないよ!!」

襲い掛かるアルフの攻撃を交わし、ユーノは森の中へと逃走し、アルフもユーノを追って森の中へ入っていった。

残されたベジータは桟橋の手すりに寄りかかり激しくぶつかり合う二人の魔導師を眺めていた。

「さて、手を出す必要もなさそうだし、俺はゆっくりと魔導師同士の戦いとやらを見物させて貰おうか……」











なのはと離されたユーノは森の中でアルフと壮絶な鬼ごっこを繰り広げていた。

「チョロチョロ、逃げんじゃないよ!」
「使い魔を造れる程の魔導師が何故この世界に来ている!ロストロギアを、ジュエルシードについて何を知っている!」
「ゴチャゴチャうるさい!!」

アルフはこれ以上話すことは無いという風にユーノに飛び付く。

ユーノはそれを避けながらアルフと向き合う。

「それに君の主と一緒に居る彼、一体何者なんだ!?」
「うるさいと言ったのが聞こえなかったのかい!?」

アルフはしつこく質問してくるユーノに苛立ちながら再び飛びかかった。














「はぁっ!!」
「あぅっ!」

フェイトの攻撃を防御の障壁から叩き付けられ吹き飛んでいくなのは。

「バルディッシュ!」
[photon lancer get set]

デバイスから聞こえてくる男性の電子声、そしてその黄色のコアに文字が書かれていくとフェイトの周りに複数のスフィアが展開される。

「プラズマランサー、ファイア!!」
[Fire]
「くっ!」

なのはは襲い掛かる稲妻を纏った光の弾を何とか全て回避する。

「レイジングハート!」
「バルディッシュ!」

それぞれのデバイスが砲撃体勢入り構える。

「サンダー……スマッシャー!!」
[Thunder smashira]
「ディバィン!!」
[Bustar]

それぞれのデバイスから放たれた金色と桜色の閃光が激しくぶつかり合う。

「レイジングハート、お願い!!」
[All right]

すると、白い魔導師の言葉にデバイスが応えるように点滅し、桜色の閃光が更に勢いを増していく。

「ほぅ?火力だけならフェイトより上か…」

ベジータは少し驚いた様に呟く。

桜色にかき消された金色の閃光、フェイトは少し表情を強らばせる。

また、遠くから離れて見ていたアルフとユーノは。

「なのは、強い!」

自分が教えた訳でもない砲撃に感心と驚きの声をあげるが……。

「だけど……」
「甘いな……」

この時、ベジータとアルフの声は重なり、勝負の結末を読みとった。

「あっ!?」

なのはの砲撃はフェイトに当たる事なく終わり、その一瞬の隙を突かれ上空から鎌の形状に変え振り下ろすフェイト。

「っ!?」

鎌の刃はなのはの首筋に当てられ、少しでも動けば切り裂かれる位置に置かれる。

「……40点て所か」

これまでの戦いをベジータはそう評価した。

「折角相手の虚を突けたんだ、俺ならそこはフェイントを使って背後に回り込み打ち込んでそこから更に追い討ちを仕掛けるが……」

するとベジータは一呼吸置いて。

「……ま、一応は見事と言っておこうか……」

と、何処か嬉しそうに呟いた。

[Pull out]

なのはのデバイスから女性の電子声が聞こえると赤色のコアからジュエルシードが出てくる。

「レイジングハート、何を!?」
「きっと、主人思いの良い子なんだよ」

白い魔導師のデバイスからジュエルシードを受け取ると、フェイトは地面へと着地した。

「んふふ〜♪流石あたしのご主人様、じゃあねオチビちゃん」

アルフは人間形態へと戻りフェイトの下へ戻る。

「ま、待って!」

なのはの呼び止めにフェイトは足を止める。

「できれば……もう私達の前に現れないで、今度会ったら、きっと加減なんて出来ない」
「貴方の……貴方の名前は!?」
「フェイト、フェイト・テスタロッサ」
「フェイトちゃん、あの、私は」

白い魔導師の話を最後まで聞くことはなく、フェイトは茂みから空へ向かって駆け出し。

「じゃあね〜♪」

アルフもフェイトに続いて夜の空へ消えていった。

「さて、俺も行くか」

もうこんな場所に留まる理由は無くなった。早めに戻って朝食の仕込みをせねば……。

「ベジータ君、待って!」
「ん?」

いきなり背後から呼ばれたが、……っていうかベジータ君だと?

「おい、何で俺の名前を知っている?」

なのははベジータの睨みに身を震えてしまう。

「え、えっと、さっきフェイトちゃんがベジータ君の名前を言ってたから……」

ああ、そういやそうだったな。

「あ、あの!私高町なのは!なのはって言います!」
「?」
「え、えっと、だからその……」

………何が言いたいんだコイツは?

「悪いがお話はここまでだ。じゃあな」

振り返り歩いていくベジータに顔を俯くなのは。

「………なのは」
「!」

自分の名前が呼ばれた事になのはは顔を上げるが、既にベジータの姿はなく、辺りは静寂に包まれていた。

「なのはー!!」

背後からユーノの声に振り返るなのは、その時の表情は何処か明るく見えた。


















〜おまけ〜

「あ、あのさベジータ」
「ん?何だ?」
「ベジータはさ、どうやってさっきみたいに姿を消せるの?」
「あ、それアタシも気になった。どうやったんだい?魔法の類には見えないけど……」
「別に、どうもしてないが?」
「え?だ、だって」
「あれは唯早く動いただけ、特に特別な事はしていない」
「……マジで?」
「マジだ」
「………魔力も無しに私のソニックムーヴより速いだなんて……」

フェイトは膝を抱えて落ち込んでしまう。

「ふ、フェイト!だ、大丈夫だよ!それはコイツがおかしいだけさ!フェイトは悪く無いよ!」
「おいコラ、それはどういう意味だ?」
「ゴメンねリニス、リニスの教えには私、応えられないかもしれない……」
「フェイト!そんなに落ち込まないで!!コラベジータ!アンタも何とかしなさい!!」
「……一体どうしろと?」

このあと、ベジータとアルフはフェイトを立ち直させる為、多大な心労を被る事になったのは言うまでもない……。












〜あとがき〜

どうもトッポです。


今回は話が全く進んでおらず申し訳ありません!

ご指摘ご感想絶賛お待ちしています!!



[5218] 苛立ちの王子
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:643859f5
Date: 2008/12/21 15:12

「モグモグモグ……」

遠見市にあるマンションの一室、そこに尻尾を揺らしベジータが買ってきたドッグフードをアルフがこれでもかと食べている。

「モグモグ、ベジータのご飯も美味しいけど、これも悪くないよね〜♪」

ぷは〜っと満足になったアルフはドッグフードを片手に二階の寝室へ向かう。

部屋に入るとBJを着たフェイトが横になっていた。

「ま〜た食べてない。ダメだよフェイト、ちゃんと食べないとまたベジータに叱られるよ」

台の上に並んだ食事はあまり手を出していないのか、幾つか残っている

フェイトは小食の所為かあまりご飯を食べようとはしない。しかし、これでもベジータの毎日食べさせようとする行いのお陰でそれなりに食べるようになったのだ。

「ちょっとだけど食べたよ」
「まぁそうみたいだけどさ……」
「ベジータは?」
「今買い物に行ってる、多分そろそろ帰ってくると思うよ」
「そう……」

そう言ってフェイトは起き上がる。

その際に見えたフェイトの背中にある無数の傷痕を見てアルフは顔を悲痛に歪ませる。

「フェイト、その……やっぱりベジータには言わないの?」
「……うん、ベジータには余計な心配は掛けたくないから…」

フェイトもアルフが何を言いたいのか理解し、応える。

「で、でもさ、ベジータならきっとフェイトの事をあの人から護ってくれるよ」
「その必要はないよ、母さんは私の為と言ってたし、これ以上ベジータに迷惑掛ける訳にはいかないよ」

それを最後に、アルフからは何も言わず。只静寂に包まれていた。

「ジュエルシードの位置特定は出来ているからベジータが帰ってきたら直ぐに出発しよう……」
「う、うん……けどフェイト、あんまり無理はしないでね」
「私なら大丈夫だよ」

微笑みながら応えるフェイトだが、アルフにはやはりどこか無理をしているように見えた。
















そして、ベジータが買い物から帰ってきた後。ベジータとフェイト、アルフは獣形態となって空を翔け、再び海鳴市へとやってきた。

「ここか?」

あるビルの屋上にやってきた二人と一匹、眼下からは車の音、人々の笑い声が聞こえてきた。

「なんだってゴミ々してるな、これでは探すのに苦労するな」

ベジータの尤もな意見、するとフェイトは杖を掲げて……。

「ちょっと乱暴だけど辺りに魔力流を打ち込んで強制的に発動させるよ」
「ああ、ちょっと待って、それアタシがやる」
「大丈夫?凄く疲れるよ」
「アタシを一体誰の使い魔だとお思いで?任せてよ」
「うん、それじゃあお願いね」

アルフはフェイトに自分がやると言い出し前に出る。

広範囲への魔力の打ち込みはかなりの体力(魔力か?)を消耗する、だからこそアルフが代わりにやるのか……。

(正に忠犬だな)

ベジータはアルフのフェイトへの負担を掛けないようにするやり方に感心を示した。

本人に聞かれたらうるさくなるなと思いながら……。

「はぁぁぁっ!!」

アルフの足下からオレンジ色の魔法陣が展開され、それにジュエルシードが反応したのか辺りは暗くなり、海の方では波が激しくなり雷鳴が轟いていた。

「! フェイト……」
「うん、分かってる。あの子もいるんだね…」

フェイトもベジータの言いたい事が分かったのか少し表情が暗くなる。

「やりにくいなら俺がやるか?」
「……うぅん、いいよ、ベジータは私が本当に危なくなった時だけ手助けしてくれればいいよ」
「……そうか」
「それに……」
「?」
「ベジータに任せたらあの子に怪我させちゃうよ」
「……俺にだって手加減はできる」

ベジータは腕を組んでソッポ向くと同時に世界の色が変わった。

街の中心からはジュエルシードが放つ光が柱となっていた……。

そして少し離れた場所で例によりあの白い魔導師、高町なのはが杖を構えていた。

互いにデバイスを掲げジュエルシードに向けフェイトは金色の、なのはは桜色の光がジュエルシードにぶつかる。

「リリカルマジカル!」
「ジュエルシード、シリアル14!」
「封!!」
「印!!」

二人のデバイスから閃光が放たれジュエルシードは光を失いただ空にただずんでいた。

「ベジータ、手は出さないで、アルフはあの子を」
「はいよ!」

フェイトとアルフはそう言ってジュエルシードへと向かう。

ベジータは二人が見えなくなってから動き始める……。

(さて、どうする高町なのは、言葉で諭すか……それとも)

ベジータはフェイトを嘗ての自分を重ねてライバルになりつつある高町なのはにどこか期待を抱きながら二人の後に続いた。












「フェイトちゃん…」

今、私の前には何度もぶつかったあの綺麗な女の子がいました。

(どうして……そんなに寂しそうな目をしてるの?どうして……そんなに悲しそうなの?)

分からない、けど、知りたい……。

「なのは!早くジュエルシードを!」
「あ、う、うん」

ユーノに声を掛けられ我に返るなのは。

「そうはさせないよ!!」
「くっ!」

その時、アルフが上からなのはに襲い掛かり、ユーノが障壁を張り防御する。

「ちぃっ!」

弾かれたアルフは体勢を立て直しなのはとユーノに睨み付ける。

「アイツは僕が引きつける、なのはは彼女をお願い!」
「う、うん」
「例の彼もどこかにいるかもしれない、気をつけて!」

ユーノはそう言ってアルフを引き付け離れていく……。

なのはは、街灯に佇んでいるフェイトにゆっくりと近付く。

「この間は自己紹介出来なかっけど、私は高町なのは、私立聖祥大付属小学校に通う三年生、フェイトちゃんは……」

なのはが言い掛ける前にフェイトがバルディッシュを鎌の形に変え有無を言わさずに襲い掛かる。

「!」
[Flier fin]

なのははアクセルフィンを展開し空へと逃げる。

ぶつかり合う桜色と金色の閃光、それは誰もいない無人の街を飾っていった……。












「驚いたな……」

少し離れた場所でベジータは驚きの声を漏らした。

アイツ、昨日迄は単なる火力が強いだけの砲台かと思ったが……フェイトの動きについていってやがる……。

ベジータは予想を超えた成長をするなのはに自身の宿命のライバルを重ねた。

「何処にでもいやがるもんなんだな……規格外って奴は……」

ベジータはただ沈黙を守り、二人の幼い魔導師の戦いを見守った。










「はぁっ!」
「くっ!」
[Flush move]

なのはは迫り来る刃を避け、フェイトの背後に回り込み。

[Divin]
「バスター!!」

すかさず打ち込む桜色の砲撃。

[Defenser]

だがフェイトはそれを読み、振り向きざまに障壁を展開し防ぐ。

弾かれて間合いを図りながら牽制しあう二人……。

「フェイトちゃん!」
「!」

突如名前を呼ばれた事に驚くフェイト。

「話し合うだけじゃ、言葉を交わし合うだけじゃ何も変わらないっていうけど……伝える事ができるのもきっとあるよ!」
「………」
「私は、ユーノ君のお手伝いでジュエルシードを集めているけど、ジュエルシードの力で街の人や大切な人が傷付くのが嫌だから、だから私は自分の意志でジュエルシードを集める事に決めたの」

「………」
「これが……私の理由!!」
「わ、私は……」

なのはの真っ直ぐな想いに戸惑うフェイト…。

「フェイト、応えなくていい!!」
「!」
「優しい人の達の所でヌクヌクと甘ったれて過ごして来た奴に何も教えなくていい!!」
「え……」

アルフの言葉に我に返るフェイト。

(やはり、プレシアとフェイト……この二人に関係している事か……)

ベジータは表情を険しくしアルフの言葉に一人考えていた…。

そしてフェイトはなのはの相手を後にしジュエルシード目掛けて翔る。

「あっ!?」

それに続いてなのはも追いかけ……。

ガキンッ

「「「え?」」」
「む?」

二人の持つデバイスがぶつかり合いその瞬間……。



光が……。



爆発した……。








「なっ!?こ、これは!?」

突然襲い掛かる魔力の奔流。ベジータは腕で視界を遮りながら目を細め前を見る。

「ちぃっ!フェイト!!」

魔力による衝撃、自分には大した事はないが魔導師であるフェイトにはどうなのか全く検討がつかない以上、ベジータは傍観するのを止め、フェイトとアルフの所へ向かった。












やがて光は収まりフェイトとなのは吹き飛ばされながらも何とか体勢を整える。

「バルディッシュ…」

膨大な魔力により傷付いたバルディッシュを待機モードにさせて前を見る。

目の前に佇むジュエルシード目掛けて再び翔た

「お、おいフェイト!」

デバイスが使えないなら自身の力で……ジュエルシードを掴み取ったフェイトだが、ジュエルシードから再び光が放ち始める。

「う……くっ!」

徐々にに激しさを増していく光、それはフェイトの手袋を突き破り血が吹き出していく……。

「フェイトッ!!」

その様子にベジータはフェイトに駆け寄るが。

「こないで!!」
「っ!?」
「大丈夫だよベジータ、私は大丈夫……」

フェイトはベジータに心配かけぬよう笑みを作る。それがベジータの心境をより悲痛なものにさせるとは知らずに……。

「止まれ……止まれ」

フェイトは懇願するようにジュエルシードを握り締め魔法陣を展開する

「止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ!」

光は更に強まりフェイトの体を包んでいく…。













やがて光は収まりフェイトはふらつきながら立ち上がる…。

「「フェイトっ!」」

ふらついたフェイトをアルフが抱きかかえ、振り返りざまになのはに睨み付ける…。

「あっ」

その瞳になのははどうする事もできなかった。

「アルフ、今はフェイトの治療が先決だ」
「うん……」

アルフはベジータの指示に従いビルを渡り去っていった。

「………」
「あ、あの……」

恐る恐るなのははベジータに話し掛ける。

「……今回は身を引いてやる、だが……」
「っ!?」

なのはは振り返ったベジータの眼を見て凍り付いた。

その眼光はまさに殺気の塊。なのはは生まれて初めて感じた死を前にして身動きどころか筋組織の一本すら動かせずにいた。

「今度また俺達の前に立ちはだかるというのなら、その時は覚悟しておけ……」

ベジータは別になのはに対しては何の恨みもない、あれはフェイトの自身の選択であってなのはは何の関係もない。

だが、苦しんでいるフェイトに何一つ出来ずにいた自分自身にベジータは怒りを覚えていた。

ベジータはなのはに八つ当たり紛いの行いに更に苛立ちながら夜の空へ消えていった……。

「あ、あう……」

唯、高町なのはは、ベジータの殺気にやられ、暫く身動き一つできなかった。

………失禁こそはしなかったが多少チビったのは彼女の生涯に渡っての禁則事項になるだろう……。








〜あとがき〜

トッポです。

もう間もなくクリスマス、皆さんはいかがお過ごしでしょう?

私?私は一人寂しく積みゲーを攻略していきますよ。

ではご指摘ご感想お待ちしています。



[5218] 怒りと驚愕の王子
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:2f449fc8
Date: 2008/12/22 21:30


アルフを追っていつものマンションの一室に入るベジータ。

ソファーには気がついたフェイトにアルフが手当てをしていた。

「あ、ベジータ、お帰り」
「………」

笑顔で迎え入れるフェイトに対しベジータの表情はとても険しいものだった。

「フェイト……」
「は、はい」

ベジータの明かな怒気にフェイトは姿勢を正した。

こんなベジータは初めて見た。

フェイトは怒りながらも悲しい瞳を見せるベジータにフェイトは恐いと思ったと同時に申し訳ない気持ちで一杯になった。

「フェイト、大丈夫か?」
「う、うんアルフが手当てしてくれたから」
「そうか……」

それだけ言ってベジータはフェイトの前に立ち。

ゴンッ

「「!?!?」」

フェイトの頭に拳骨を落とした。

「〜〜〜〜っ!!!」
「ベジータ、アンタ何を!?」

フェイトは両手で頭を抑え悶え、アルフはベジータの行動に鋭い牙を立てる。

「アルフ、黙っていろ……」
「っ!?」

アルフはベジータからの尋常じゃない怒気に押し黙ってしまう…。

「フェイト、お前言ったよな?一人では無茶をするなと」
「………」

ベジータは責めるのではなく、子供をあやすような口調でフェイトにゆっくりと語りかける。

フェイトも痛みが治まってきたのか目尻に大きな水滴を付けたまま俯きながら聞き入れた。

「お前は母親の……プレシアの為にジュエルシードを集めるのは分かった。だが、それはお前とアルフだけの話だ」
「………」
「そんなにお前は、俺が信用できないか?」
「! そんな事は…」

フェイトは目を泳がせて戸惑う。

「なら、今度はお前が俺に約束してもらう」
「え……?」
「もう、一人で背負うな、もっとアルフを……俺を頼れ」
「あ……」

その一言にフェイトは目を見開き一筋の涙を零す。

「約束できるか?」

フェイトはベジータの問いに俯き首を縦に動かす。

「良い子だ……」

不意に頭に感じた暖かさ、顔を上げるとベジータがフェイトの頭に手を乗せ、自分と同じ目線で微笑んでいた…。

「………」

フェイトは暫しそのベジータの顔に見とれていた……。

フェイトにはそのベジータの表情が……とても同い年には見えなく、……そう、まるで父親のような顔に見えたのだ。

「さて、そろそろ飯にするか」
「あ、う、うん」

頭から手を離し立ち上がったベジータはそのまま台所へ向かい……。

「………」

フェイトは自分の頭を両手で撫でた後ベジータの手を見つめていた。

(怒られたのに、痛いけど……痛くない)

こんなのは初めてだ。

フェイトは台所で調理しているベジータの後ろ姿を眺めながらそう思った。









「で、明日はどうするんだ?」

食事を終え、皿洗いをしていたベジータが不意に問い掛ける。

「明日は母さんの所へ行ってこれまでの報告をしてくるよ」
「プレシアにか?」
「うん、あんまり遅いと母さん心配しちゃうだろうから……」

少し申し訳なさそうに俯いているがアルフはそれを聞いて表情が暗くなる。

「報告だけならアタシが行ってくるんだけど……」
「母さんは…あんまりアルフの話を聞いてくれないもんね」

フェイトは隣に座るアルフの頭を撫でる。

「アルフはこんなにも素直で良い子なのに…」

その言葉にアルフは嬉しかったのか尻尾をフリフリと動かし頬を緩める。

「だ、だけど、明日なら大丈夫だよ!なんたってこの短期間でジュエルシードを4つもゲットしたんだから、褒められこそすれ、叱られる事はまず無いよ!」
「そうだな、その事に関しては俺も同意しておこう」
「ベジータ……」
「ここ数日お前はよく頑張った、少し張り切り過ぎなぐらいにな」
「あう……」
「だから、誇りに思え……そして胸を張って会いに行ってこい」
「ベジータ……うん!」

ベジータの励ましにフェイトの表情は明るくなる…。

「ね、ねぇベジータ」
「ん?何だアルフ?」
「何か今日のベジータさ、やけに大人っぽいよね……何か変なもの食べた?」
「………明日の夕飯、お前だけ肉抜きだ」
「えぇ〜!?」

少しざわつきもあったけど、今日も楽しく過ごせそうだ。

フェイトは必死にベジータに許しを請うアルフのやり取りを見ながらそう思った。




だが、この時誰も気付かなかった。





これが嵐の前の静けさにすぎないという事に……。










「ベジータ、準備はいい?」
「ああ」

翌日。今俺はアルフとフェイトと共にマンションの屋上に来ている。

フェイトはジュエルシードだけでは味気ないということである喫茶店からケーキを買って箱に詰めて持っている。

(全く、こんな娘を持ったプレシアは幸せ者だな)

ベジータはアルフと何か話しているフェイトを見て、一人暖かい目で見守っていた。

「でもベジータ、母さんに一体何の用事があるの?」
「ちょっと……な」

プレシアに俺が元の世界への帰り方を聞き出したいのだが……さて一体どうしたものか。

(今更教えろと言っても気が引ける)

そもそも奴は俺とは二度と会わないと思っているだろう。

尤も、俺もそのつもりだったのだがな……。

「じゃあ……行くよ」

フェイトはそう言って足下に魔法陣を展開していく…。

「次元転移、次元座標。876C 4419 D699 3312 3583……」

フェイトの呟きに呼応し魔法陣の光も徐々に強まっていき……。

「開け、誘いの扉。フェイト・テスタロッサの主の下に!」

その言葉を最後に、魔法陣は一際強い光を放ち、三人は金色の光に包まれていった。















「着いたよ」

光が止みゆっくりと瞼を開けると、次元に漂う庭園。時の庭園の庭にベジータ達は其処にいた。

「今回で転移は二度目だが、意外と呆気ないものだな」
「まぁ、転移だからね、結構あっという間でしょ?」

フェイトが律儀に俺の呟きに応えてくれる。

カカロットの瞬間移動とどっちが早いだろうか?

などとどうでもいい事を考えていると、まだプレシアにどんな言い訳をすればいいか考えていなかった事を思い出した。

「フェイト、トイレは何処だ?」
「トイレ?えっと、そこの角を右に曲がって、突き当たった所にあるよ」
「そうか、済まないな」
「ダメじゃないかベジータ、ちゃんとトイレは済ませておかないと」

アルフがちゃかすように笑いながら言ってきて、フェイトは頬を朱に染めて俯いている……。

(アルフ、貴様は俺を怒らせた)

帰ったら貴様だけ肉なしチンジャオロースの刑だ。

俺は一旦フェイト達と別れ、プレシアへの対策を考えながらトイレに向かった……。
















「やはり……この案でいくしかないか……」

俺は長い通路を歩きながらプレシアへ一応の対策を思い付いた案を今一度考えていた。

プレシアはジュエルシードに異常に固執している、ならば次からは俺が前面的に協力する事を条件に俺の世界を少しでも探して貰うという交換条件だ。

「俺が前に出る事でフェイトの負担も減る、やはりこれがベストか…」

問題は俺が使えると奴にアピールする事だが……。

「アルフとでも手合わせするか?いや、それではまだ足りんだろう」

となると……やはり一番手っ取り早く、超サイヤ人になればいいか?

腕を組み、考え歩くベジータの視界にアルフの姿が見える。

だが、アルフは扉の脇で頭を抱え込みうずくまっている、その姿にベジータは違和感を覚える。

「アルフ?」
「ベジータ……」

ベジータの声が聞こえたのか、ピクンと耳を動かしゆっくりと顔を上げベジータの方を見ると……。

「ベジータっ!!」
「ぬわっ!?」

途端に涙目になり、アルフはベジータへと抱き付いた。

「ど、どうしたアルフ?何かあったのか?」

ベジータはアルフを落ち着かせるように頭を撫でながら聞き出す。

「お願いだよベジータ、フェイトを……フェイトを助けて……」
「何?」

泣きながら懇願するアルフにベジータは表情が険しくなっていく…。

「一体何が……どうなっていやがる」

ベジータは崩れ落ちるアルフを支え、床に座らせ目の前にある扉に睨み付ける。

「アルフ、お前は此処で待ってろ」

アルフに残るよう言い聞かせ返事を待たずに扉へと向かった…。











「フェイトっ!!」

勢い良く扉を開け部屋に入るベジータ。

「っ!?」

ベジータは目の前で起きてる状況に眼を見開いた。

そこには……。

「フェイト……?」

無惨にBJを引き裂かれ、体の至る所に傷ができたフェイトが……横たわっていた…。

「フェイトぉぉぉっ!!」

ベジータはフェイトに駆け寄り抱き起こす。

「フェイト、しっかりしろフェイト!!」
「う……ベジータ?」

うっすらと瞼を開け、ベジータを見るフェイト。

「あら?貴方また来たの?」

聞こえてきた声に振り返ると、鞭を片手に悠然と立つプレシアが此方を見下ろしていた。

「おい……これはどういうつもりだ?」
「貴方、一体何の用?悪いけど私は今忙し「そんな事はどうだっていい!!」む?」
「何故、フェイトにこんな仕打ちをする……」
「何故って?躾よ、悪い子には当然の処置よ」
「貴様……!」

その言葉にベジータは憤怒を感じた。

(コイツは……フェイトは貴様の為にどれだけ頑張ったと思っている。どれだけ傷付いたと思ってやがる!!)

フェイトの背中にできた古傷を見て漸く理解した……。

(そういう事か……)

フェイトとプレシアの間に合った妙なわだかまり……アルフがプレシアに対してあった嫌悪感、それら全てがベジータの中で一つに纏まった……。

(許さん……)

ベジータは髪をざわつかせ、瞳は碧眼へと変化させ拳を握り締めプレシアに向き合う……だが。

「ダメ……!」
「!?」

突然背後から掴みかかったフェイトにベジータは動けなくなってしまう……。

「フェイト……」
「ベジータ、お願い……止めて、お願い……だから」
「…………」
「お願い……」

フェイトの言葉にベジータは拳を下ろし、瞳を元の黒目に戻す……。

「……ふん」

プレシアは興味なさそうに鼻で笑い、奥へと消えていった。

「くっ!」

ベジータは気絶したであろうフェイトを抱き抱え、プレシアが消えていった先へ睨み付けてギリッと歯軋りの音を立てて……。













「フェイト!!」

扉を開けた途端にアルフが泣きながら此方に駆け寄ってきた。

「フェイト、フェイト!」
「心配するな、気絶しているだけだ……」

ベジータはフェイトをアルフに手渡す。

「アルフ、フェイトの手当てを頼む」
「ベジータは?」

そう言ってベジータは出て来た扉を睨み付けて

「少しあの女と話してくる」

ベジータは後ろで何か言ってるアルフに構わず、再び扉開け、玉座へと入っていった…。













「プレシアの野郎……何処にいやがる」

ベジータはプレシアの気を辿り玉座の中をさまよっている。

「さっきからこの辺りで感じるのだが……」

辺りの壁を適当に触って行くと……。

ガコンッ

「な、何だ?」

ベジータが触った一部の壁がヘコミ、隣の壁が横にスライドし道が開かれた。

「隠し通路か……」

ベジータは中に入り他と比べ若干狭い通路を歩くと……。

「なっ!?こ、これは」

ベジータは目の前に置かれた生体ポットを見て驚愕した……。

「フェイトが……もう一人だと!?」

ベジータの目線の先には共に過ごしたフェイトと……全く瓜二つな少女が。





緑色の液体の中に漂っていた……。










〜あとがき〜

今回は父親バリバリのベジータでした。

……何だかキャラが違う気もするが。

ご指摘ご感想宜しくお願いします!



[5218] 苦悩の王子
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:1bc60784
Date: 2008/12/25 00:19

「これは……一体」

ベジータはポットに入っているフェイトに瓜二つな少女に向かって歩いていく……。

「何故……フェイトがもう一人?」

いや、よく見るとフェイトより僅かに幼く見える……。

「クローン……なのか?」

ベジータの手がポットに触れる……瞬間。

「アリシアに触らないで!!」
「!」

突如聞こえた怒気の孕んだ声と同時に紫色の雷がベジータに降り注ぐ。

「ちぃっ!」

直ぐにポットから離れ間合いを取り回避するベジータ。

「その声……プレシアか!」

眼前を睨むベジータ。するとポットの背後から現れたプレシアに疑問をぶつけた。

「貴様、これは一体何だ!?何の為にこんな物を造った!?」

しかし、ベジータの問いにプレシアは溜め息を吐きながら…。

「五月蠅いわね……それにしても一体どうやってここを嗅ぎ付けたのかしら?」
「此方の質問に答えろ!」

ベジータの叫びに場はシン……と静まり返りやがてプレシアが再び溜め息を吐いた後に応え始める。

「いいわ、なら教えてあげる」

プレシアはポットの中に漂うフェイト?に寄り添うように立つ。

「私は……いえ、私達はアルハザードに向かうの、ジュエルシードを使って……ね」
「アルハザード?」
「そう、失われた秘法を用いる約束の地。其処へ行って私達は取り戻すの、全てを……」

そう言ってプレシアはフェイト?に目線を向ける。

「アルハザードに行くのがお前の目的なのは分かった。だがソイツは何だ!?何故フェイトのクローンが必要なん「ふざけないで!!」!?」

プレシアの形相が変わると同時に掌から稲妻が疾る。

ベジータは持ち前の反射神経で避けるがプレシアの変わりように驚きを隠せずにいた。

「アリシアがあの子のクローン?笑わせないで、あの子は私が造った人形よ」
「!? 何……だと?」

プレシアの告げた言葉に、ベジータは目を見開いた。

「あの子は……フェイト・テスタロッサは私がアリシアの代わりに造った生命体、使い魔を越えた完全な生命、フェイトの名前はその同時のプロジェクトの名残よ」
「………」

ベジータはプレシアの語る真実に呆然と聞き入れた。

「けどプロジェクトは失敗。折角あげたアリシアの記憶も、何の役にも立たなかった」
「………何?」
「アリシアはあの子よりもっと素直だった。もっと可愛いく笑顔を見せてくれた。」
「………」
「アリシアは時々我が儘も言ったけど、私の言うことはキチンと聞いてくれた……けど、やっぱりダメね、ちっとも上手くいかなかった。だから私はあんな出来損ないを捨てて私はアルハザードでアリシアを蘇らせ失った時間を取り戻すの!」

プレシアは両手を挙げ舞台の役者のように言い放つ。

それを見たベジータの感情は複雑なものだった。

勿論その中には怒りも含まれるだろう。だがそれ以上にベジータにはある感情が生まれた。

(哀れだな……)

それは同情だった。

アルハザード、そこに行った所でアリシアが生き返られる保証などどこにも無いと言うのに、この女はそれを信じて疑わない。

(それに、コイツはある意味俺に似ているかもしれない……)

プレシアを見て嘗て未来から来た息子が自分の目の前で殺された光景を思い出した。

(あの時の俺は無我夢中でセルの奴に挑んだが……)

その後、トランクスはドラゴンボールで生き返り事なきを得た。

(だが……この世界にはドラゴンボールはない)

故に、大事な存在を亡くしたプレシアがこうなるのは仕方がない事かもしれない…。

だが……。

「笑わせるな……」
「……何ですって?」
「喩え貴様がアリシアを蘇らせた所で、貴様にアリシアの母親たる資格はない」
「なっ!?」

ベジータの一言にプレシアは激昂の表情となる。

「所詮貴様はフェイトもアリシアも自分にとって玩具でしかない!」
「!?!?」
「アリシアの【代わり】?そんなもの最初から何処にも存在しやしない!」
「………黙れ」
「貴様はフェイトという【代わり】を造ってアリシアの魂を弄んだ」
「黙れ」
「その上フェイトを娘と認めずアリシアの死という真実から逃げ出した。そんな貴様にアリシアやフェイトの母親である資格が……あるわけ無かろう!!」
「黙りなさいって言ってるでしょう!!」

プレシアから放たれる幾つもの巨大な雷が狭い通路に降り注ぎ、ベジータは弾き出されるように通路から出て高速移動で全て避けきる。

「どうした?図星を突かれて怒ったか?」
「黙れ、その口八つ裂きにしてやる!!」

鬼の形相で通路から出てきたプレシアは杖を掲げ呪文を唱える………が。

「ぐ……がはっ」

突然プレシアが口を抑え膝をつき咳込むと、地面に幾つか血液が付着する。

「やはり、病を患ってやがったか」

ベジータが確信を持って近付くとプレシアは杖を立てて鋭い視線を投げかける。

「何故……そんな事も知っている」
「俺は一度覚えた気はそうそう忘れん。貴様の気は時折小さくなっていったからな、気を操るならともかくそんな芸当が出来ない貴様等が気を小さくなるには死を迎えるか病を患った時だけだ」

ベジータは冷たい視線でプレシアを見下ろしている。

「私を殺すのかしら?」

プレシアは自嘲の笑みを浮かべて死を覚悟と同時に安堵した。

死んだら確実とは言わないが少なくとも愛するアリシアと同じ場所に逝ける。

ベジータはツカツカとプレシアの下に歩み寄り。

「ああ、本当なら貴様を今すぐにでも殺してやりたい、……だがな」

そう言いながらベジータはプレシアの胸倉を掴んだ。

「貴様を殺したらフェイトはどうなる?フェイトは貴様を支えに生きているんだぞ……」
「そんな事……私の知った事ではないわ」
「……何故フェイトがあんなに必死に貴様に尽くしているか、考えた事はあるか?」
「それは……あの子が私のむす「違うな」!」
「アイツが貴様の娘だからではない、貴様がアイツの母親だからだ」
「!!」

プレシアはベジータの言葉に目を見開いた。

「その事を……よく考えやがれ」

その言葉を最後にベジータはプレシアを放し部屋から出て行った……。

プレシアは地面に力無く座り込みベジータが出て行った扉を見つめて……。

「アリシア……私は……貴女を道具として……見ていたの?」

プレシアはアリシアが眠るポットを見つめて呟いた……。

「教えてアリシア……私は一体……どうすればいいの?」

プレシアの呟きに答えは返っては来なかった……。














「ベジータ!!」

玉座から出て、とある一室のベットで寝かされたフェイトの横にいたアルフは入って来たベジータの下へ駆け寄った。

「アルフ、フェイトの様子はどうだ?」
「う、うん……今は落ち着いて眠っている」
「そうか……」

ベジータはベットで眠っているフェイトの頭を撫でる。

「済まないアルフ、フェイトを守ってやれなかった」
「ううん!ベジータは悪くないよ!悪いのはあの鬼婆だよ!!」

アルフの言葉でベジータはプレシアとのやり取りを思い出す。

(あんな偉そうな事を言ったが、ドラゴンボールがなければ俺もどうなっていたかわからなかった)

プレシアのように壊れたか……。

(いや、そもそも俺は生きてはいなかったな)

ベジータはアルフに気付かれないよう密かに自嘲の笑みを浮かべた。

「アルフ、フェイトをちゃんとした場所で眠らせてやりたい、転移……いけるか?」
「あ、ああ、分かったよ、それじゃあベジータは フェイトをお願い」
「分かった」

ベジータは眠るフェイトを起こさないよう優しく抱き上げる。

(やはり……似ている)

ベジータは先程見たアリシアの顔を思い出した。

(だが、フェイトはフェイト、アリシアはアリシアだ)

それを理解出来ないでいたプレシアにどちらも母親である資格はない。

(だが、もしかしたら俺も……ああなっていたかもしれない)

ベジータはプレシアを否定しながらも、どこか自分に似た所に共感を覚えていた。











そして翌日。結局あのままフェイトは眠ったまま夜が開け、BJを装着したフェイトが屋上にいた。

「フェイト……やはり行くのか?」
「うん、それが母さんの望みだから……」

背後から掛けた言葉は思った通りの返事が返ってきた……。

その言葉にベジータ歯軋りし昨日の出来事を思い出す……。

(くそ、どうする?このままジュエルシードを集めてもいずれはフェイトはプレシアの奴に……)

かと言って真実を伝えてた所で……。

(ダメだ、フェイトの心が耐えられる筈がない)

アイツはプレシアに依存している。だが、それも当然だ。

フェイトは幾ら魔導師として優れていてもまだ十歳の小さな女だ。母親に甘えたいのも当然だ。

(くそ!一体どうすれば…!?)

ベジータはとうとう何も見いだせないままフェイトとアルフと共に街の空を翔たのだった…。









〜あとがき〜

……プレシアVSベジータ、勝敗はドローで(え?

どうもトッポです。

何だか自分で何書いてるのかわからないでいる今日この頃。

それより今日はクリスマス!

何だか私も番外編書いて見たくなりました。






……書いてみようかな。


ではご指摘ご感想宜しくお願いします!!


管理人の舞様、お疲れ様でした。



[5218] 番外編 聖夜の夜の王子様
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:151c5782
Date: 2008/12/25 21:07


『ジングルベール♪ジングルベール♪』

街に彩られたイルミネーションの数々、聞こえてくる音楽。

季節は……冬。

そして今日はキリスト誕生の前日、クリスマス・イブ。

街の至る所に恋人、そして家族の笑い声が聞こえてくる。

そんな中、一人の少年が買い物籠を下げて大通りを歩いていた。

「ふぅ、これで一通り買い揃えたか……」

少年はポケットから取り出したメモ用紙を見て一人呟く。

「流石に……寒くなってきたな」

少年は……ベジータは両手に息を吐き温める。

「何やら街が賑やかだと思ったら……そうか、今日はクリスマスか」

一際大きなビルのモニターにデカデカと映し出されるXmasの文字。

それを見上げたベジータは嘗ての記憶を思い出す。










『サンタ?』
『そうだよパパ、クリスマスにはサンタさんがプレゼントを運んでくれるんだ』
『地球にはそんな風習があったのか?』
『そうね、クリスマスはサンタという赤い服を着たお爺さんがトナカイをソリに繋いで走らせ世界中の子供達にプレゼントを配るのよ』
『ねぇパパ、サンタさん来てくれるかな?』
『俺が知るか』
『コラ!ベジータ、そんな事は言うもんじゃないわよ!大丈夫よトランクス、良い子にしてればサンタさんはきっと来てくれるわ』
『ホント!?やったー!!』
『……くだらん』













「…………」

今思えば、クリスマスにはアイツのプレゼントを与えた事はあまり無かったな。

プレゼントを与えたのはいつもブルマの役割、俺はそんな事などお構い無しに修行に明け暮れた。

「もっと……父親らしい事をしてやれば良かったか」

今更後悔しても遅いがな……。

「さて、帰って夕飯の支度でも……っ!?」

その時、ベジータは何か言い知れぬ気配を感じ取った……。

「何だ……この気は?」

小さくもないがデカくもない、しいていえば……そう【薄い】のだ。

「こんな感覚……あまり感じたことはないな」

ベジータは気の感じる方向へ目を向け……。

「少し……様子を見てみるか」

そう言ってベジータは感じた気の方向へ足を運んだ。













「確か……この辺りなんだが」

気を辿ってやってきたのは人気の無い公園。辺りは既に夜となり、暗闇を照らす街灯が公園を明るくしている。

「……気のせいだったのか?いや、そんな事は………む?」

キョロキョロと見回していると、草陰に隠れうずくまっている赤い服と帽子、真っ白な髭が特徴的な老人を見かけた。

「あれは?」

気の出所はコイツだったか……。

ベジータは老人に近付くと更に草陰から何やら大きな袋を乗せたソリが真っ赤な鼻をしたトナカイにくくり付けられていた…。

「………まさか」

ベジータは口端をひくつかせながら更に気配を殺し近付くと何か話をしているのか、声が聞こえてきた。

「ダメだよアニキ、そんな体じゃあ!」
「馬鹿やろう!俺にとってこの程度、屁でもねぇ!!」

老人が木を手すり代わりに立ち上がろうとするが……。

グキリッ

「ぐぁぁぁああ!!」
「アニキぃぃっ!?」

腰から聞こえた嫌な音に老人は再び地面に伏してしまう。

トナカイは首に掛かった鈴を煩く鳴り響かせ老人に声を掛ける。

「ちくしょう……あと少しでプレゼントが配り終わるってのに」
「流石のアニキも年には勝てないか……」
「馬鹿やろう、泣くんじゃねぇ……」

くくく、と泣くトナカイに老人は力なく激を飛ばす。

「おい、貴様等そこで何をしている?」
「「!?」」

若干戸惑いながらも話し掛けるベジータ、その声に二人(?)は肩をビクッと震わせ恐る恐る振り返る。

「ね、ねぇアニキ、もしかしてこの子、俺達が……」
「……見えてるみてぇだな」

何やら二人(?)はコソコソと話している。

「おい、貴様等は何者だ?何故この街にいる?応えろ」

「お、おい坊主、オメェ俺達が見えるのか?」
「? ああ、随分と気配が薄いが……見えるな」

その一言でトナカイは涙を流した。

「げ、現代社会におけるこのご時世、未だ純真な心を持つ少年がいるとは……!」

どうやらトナカイは感涙の涙を流しているようだ……。

「ああ、まだまだ今の時代も捨てたもんじゃねぇな」

老人の方も感極まっているようだ…。

「……一体何なんだ?」

ついていけないでいたベジータは一人呆然としていた。












「……で?貴様等は本当にサンタクロースとそのトナカイなのか?」

今ベジータとサンタはトナカイのソリに座り話をしていた。

「ああ、昔は皆俺の姿を見ては大はしゃぎしていたものさ、だが時が経つにつれ、徐々に子供達は俺達の姿は見えなくなっちまった」
「何故だ?」
「純真な心を持つ子供は今は殆どいなくなって、本当に極希にしかいないんだ。世界でも数十人いるか居ないか……」
「それで?」
「今俺達はその僅かな子供達の為に世界中を駆け回っていたんだ。……だけど途中でアニキが持病の腰がやられて」
「けっ!この程度、どうってこと……アタタ」
「アニキ!!」
「クソっ!今この瞬間もプレゼントを楽しみに待っている子供達がいるってのに情けねぇ……」
「アニキ……」

ククク、と泣き始めるサンタとトナカイ。ベジータは腕を組んだまま考え込みやがて……。

「その役目、俺が引き受けよう」
「「!?」」

その一言にサンタとトナカイは目を見開く。

「坊主、気持ちは嬉しいがオメェさんじゃ無理だ」
「そうだよ、プレゼントは海外の子供達のも幾つかあるんだ、とても君じゃ「ガタガタ抜かすな」!」
「世界中のガキ共がプレゼントを待っているんだろ?だったらゴチャゴチャ言ってないで付いてこい」

ベジータの有無を言わせない物言いに二人は唖然とし、言われるがまま着いていった…。













「フェイト達は居ない……か」

今、ベジータはマンションの屋上にサンタ達を待たせ一人部屋に帰ってきた。

「書き置きでもしておくか……」

ベジータは料理を作った後、慣れない手付きで書き置きを残した。














「待たせたな」

そして片手に袋を持ち屋上にやってきたベジータ。

「おい坊主、本当にお前さん一人で何とかできるのか?」
「クドいぞ、いいから見ておけ」

ベジータは脇に袋を置き拳を握り締め体全身に力を込める。

「かあああぁぁぁぁぁっ!!」
「おわっ!?な、何だぁっ!?」
「じ、地震!?」

ベジータが力を込めると地震が起こりサンタ達は足元をふらつかせる。

下からは街の住人から悲鳴が聞こえてくる。

「はああぁぁっ!!」

やがてベジータの体から光が発していき……。

「だぁぁぁぁっ!!」

光が……爆散した。

突然発した光に目を瞑るサンタとトナカイ、ゆっくり瞼を開けると……。

「ふぅ、この姿になるのも久し振りだぜ」

身長はサンタを越え大人のそれに、鍛え抜かれた戦士を現す肉体に赤い体毛、肩に掛かった黒い髪、そして何より履いたGパンの腰から生えた尾が特徴的な姿に変わったベジータが立っていた。

「「………………」」

サンタとトナカイは何とも間抜けな顔になっている……が、それも仕方ない事、突如目の前の少年がこうまで姿を変えれば誰だって驚くだろう。

「あとは……と」

ベジータが持ってきた袋を漁り、取り出したのはサンタの被る赤い帽子と、白い付け髭が出て来た…。

「よし、これでいいだろう」

それらを被り取り付けたベジータは満足気に呟く。

「おい、早くプレゼントを渡しやがれ」

差し出してくるベジータの手に、二人は漸く我に返る。

「ぼ、坊主、オメェ……一体」
「時間がない、急ぐから早くプレゼントを」
「わ、分かりました」

トナカイはベジータの指示に従いプレゼントの入った袋を渡した。

「坊主、いいのか?」
「安心して任せろ、貴様の想い、俺様が届けてやる」

その一言でサンタは笑顔になり。

「済まねぇな、こんな厄介頼んじまって」
「気にするな、これも一興」

ベジータがそういうとサンタとトナカイは笑顔のまま姿を消していった……。

「よし、行くか!!」

気合いの雄叫びをあげながら、超サイヤ人4ベジータは、………いや、ベジーサンタは夜の空を飛んでいった……。











そして、ベジーサンタは怒涛の快進撃を見せる。

〜イギリス〜

「お姉ちゃん、サンタさん来るかな〜?」
「そうね、ネギが良い子にしてればきっと来てくれるわ」

ガタッ

「あら?何かしら?」
「わっわっ!お姉ちゃん見て見て!煙突からプレゼントが!」











〜フランス〜
「早くサンタさん来ないかな〜」
「何だクラン、サンタなんか信じているのか?」
「な、何を言うミシェル!サンタさんは本当に居るんだぞ!」
「はいはい……」
「む〜!」

ガタッ

「な、何だ今の音?」
「おー!見ろミシェル!サンタさんからのプレゼントだ!!」
「ま、マジか…?」










〜日本〜
「武ちゃん見てよ!サンタさんからのプレゼント!」
「えっ!?お、俺には…?」








「おぉ!見ろ仁!サンタからのプレゼントだ!」
「へぇ〜、良かったじゃないか凪、で?何を貰ったの?」
「Dカップの胸パット!!」
「……………」










〜高町家〜
「お父さん見て!サンタさんからのプレゼント!」
「そ、そうかそうか、良かったななのは(な、何の気配もしなかったぞ?)」
「来年も貰えるといいな(俺達に気付かれる事なくプレゼントを置いて行くとは……何者だ?)」








〜八神家〜
「はやて〜!巨大ノロウサギ貰った〜!」
「良かったな〜、私はお鍋セットをもろたよ〜♪」
(わ、我らの魔力包囲網が……掠りもしないだなんて……)
(相手は……オーバーSランクの魔導師か!?)









そしてやがてプレゼントを全て配り終えたベジーサンタはマンションの屋上へ戻り、元の姿へと戻った。

「ふぅ、漸く終わったか」

肩をコキコキと鳴らしベジータは袋から最後のプレゼントを取り出す。

時刻はもう間もなく日が変わる時間帯辺りは夜の静寂に包まれていた。

「フェイトとアルフは……やはり寝てるか」

部屋に入り寝室を覗くと二人は寄り添うように寝ていた…。

「……悪いことをしたな」

片付けられた食器の数々、自分の分を残しておいたのかラップをして食卓に並べられていた。

「これで帳消しとはならないか……」

ベジータは二人の枕元にそれぞれプレゼントを置いた。

アルフには骨付き肉の抱き枕。

フェイトには少し大きめな熊のヌイグルミを。

「雪か……」

ふと窓に目を向けると空から白き結晶、雪が降ってきた。

「メリー……クリスマス」

シン……と静まり返ったリビングにベジータが呟いたのはこの世界にくる前の家族に向けての言葉か、それとも……。







それは誰にもわからない。












〜あとがき〜

はい、突っ込み満載な今回の話し、如何でした?
時間系列は勿論、設定すら無視した今回の話し、読んでくれれば嬉しいです。



[5218] 八つ当たりな王子
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:5b779123
Date: 2008/12/27 00:03


ベジータとアルフ、そしてフェイトは今ジュエルシードの位置を特定した場所へとやってきた。

「ここか……」
「うん」

そこは海が見える公園。ベジータ達が公園に来た瞬間ジュエルシード特有の光の柱が現れ、ジュエルシードは一本の木取り込まれるように入っていき……。

「ゴアアアアッ!!」

巨大な木の化け物へと変貌する。

「バルディッシュ」
[Yes sir]

フェイトはバルディッシュを化け物に向け光の弾をぶつけるが。

「ガァァァァッ!!」

障壁を展開しそれを防御する。

「へぇ、バリアまで張れるなんて生意気な」
「うん、それに……」

フェイトが視線を鋭くし眼前を捉える。

フェイトの視線の先にはやはり、あの白い魔導師の奴もいた……………だが。

「ひっ」

ベジータの姿を見るなり怯えた表情に変わった。

(……以前の脅しが相当効いてるようだな)

ベジータは少しだけ罪悪感を感じた。

「フェイト……」
「な、何ベジータ?」
「今回は俺がやる、お前は封印の処理だけしておけ」
「え、で、でも……」

ベジータの提案にフェイトは渋るが譲る気はないベジータにフェイトは折れ……。

「分かった……けど、無理はしないでね」
「お前が言っても説得力はないがな……」
「あぅ……」

そう言って前に出て逆にフェイト達を下がらせる。

(ありがとうベジータ)
(何の事だ?)

すれ違い様に小声で声をかけるアルフにベジータは知らぬ顔をする。

(惚けないでよ、フェイトの負担を軽くする為にあんな事言ったんでしょ?)
(……さぁな)

ベジータはそれ以上語る事なく、木の化け物の所へ向かった。

(全く、本当に可愛くないんだから)

そう思いつつもアルフはそんなベジータに感謝しながらフェイトの所へ戻った。











(一応フェイトの負担を減らすようにはしたが、如何せん安心とは言わない)

あの言葉でプレシアが変わるとは思えん。

(あの女はかなり我が強い、他者の言葉にそうそう素直に聞くような女じゃない)

だが、フェイトの最優先事項は奴の望みを叶える事…。

(だが、それを成した所でフェイトは……!)

ベジータは行き詰まる己の思考に歯軋りする。

「あ、あの……」
「ん?」

ふと横をみると、白い魔導師。高町なのはがかなり怯えた様子で此方に話しかけてきた。

「ああ、お前か」
「べ、ベジータ君、その……」

高町なのは。恐らく魔導師になったばかり、動きは雑だし反応も遅い、オマケに体力もあまりない、だが………。

(もしかしたらコイツなら、俺には出来ない事が出来るかもしれない……)

フェイトと何度もぶつかりあったコイツなら……。

「ベジータ君……?」

む?考えしすぎたか?

「……お前等から手を出さない限り、此方は仕掛けん」
「え?そ、その……」
「それよりいいのか?」
「ふぇ?」
「奴はどうやら無視されてかなり機嫌が悪そうだ」

ベジータの言葉に振り返ると、木の触手をうねらせ雄叫びをあげる化け物が此方に木の根を振り上げていた。

「オオオオッ!!」

「レ、レイジングハート!!」
[All right]
「ふん」

慌てて足元から翼を展開し空へ逃げるなのは。

対象にベジータは、冷静に後ろへ跳び間合いを取る。

「ゴアアアアッ!!」
「ふん、無視されて怒ったか?」

だがな……。

気が立ってるのは…。

此方も同じなんだよ。

ベジータはグローブの拳を握り締め化け物に睨み付けた。

「貴様には恨みはないが……少しばかり俺の憂さ晴らしの相手になってもらおうか……」

これより、ベジータの八つ当たり紛いの暴力が始まる。

「グガアアアっ!!」

再び木の根を振り上げる化け物、しかしベジータは……。

「………」

避ける素振りも見せず、ただ化け物を睨みつけていた。

「ガァァァァッ!!」

そして化け物はそのまま木の根を振り下ろす。

凄まじい轟音と共に舞い上がるアスファルトの欠片と土煙。

「「ベジータ(君)!?」」

驚愕の声をあげるフェイトとなのは。

二人は舞い上がる土煙を凝視していると……。

「どうした?これが全力か?」

土煙が晴れていくと、そこには片手で巨大な木の根を防いだベジータが不敵な笑みを化け物に浮かべていた。

「まさか……本当にこれで全力か?とんだ期待ハズレだぜ」

ベジータは化け物の木の根を掴み……。

「グオォォォッ!?」

勢い良く引き寄せた。

化け物は大地に張り付いた根ごとベジータに手繰り寄せられ……。

「ふんっ!!」

ドコォォォッ

残った片方の拳を化け物に叩き付け上空へと打ち上げる。

「まだ終わりじゃないぞ」

ベジータは体に白い炎を纏わせ上空に昇り続ける化け物へ先回りをする。

「だぁぁぁっ!!」

手を組みハンマー打ちの要領で化け物を再び地面へ叩き落とす。

「グギュォォオっ!」

化け物の叫びは悲鳴に変わり、敵意は失っていた…。

「フェイト、今だ!」
「あ、う、うん!!」

呆気に取られていたフェイトも我に返りデバイスの形状を変える。

「あ、こ、こっちもだよレイジングハート!」

続いて我に返ったなのはもデバイスの形状を変えて……。

「「封印!!」」

同時に化け物に降り注ぐ閃光、心なしか化け物には安堵の表情が見える。












そして宙に佇むジュエルシードを挟み、フェイトとなのはは対峙し、ベジータはそんな二人を上から見守った。

「……ジュエルシードには衝撃を与えないほうがいいみたいだね」
「うん、こないだみたくなったらレイジングハートも、フェイトちゃんのバルディッシュも可哀想だしね……」
「でも……譲るつもりはないから」

フェイトはバルディッシュの形状を斧に変える……。

「私は……フェイトちゃん達のお話を聞きたいだけなんだけど……」

対するなのはも臨戦体勢に入る…。

「「…………」」

二人の間に沈黙が流れ……。

「「!!」」

同時に駆け出した。

二人がデバイスを振り下ろす………その時。

「そこまでだ!!」
「「「!?」」」

突如二人の間のに青い魔法陣が展開し空間が歪むと、フェイトよりも黒いBJを羽織った少年が片手に持った杖と手で二人のデバイスを阻んだ。

「……何者だ?」

いきなり現れた人物にベジータすらも驚きは隠せなかった。

「ここでの戦闘は危険過ぎる!二人とも一旦デバイスを下げるんだ」
「え?え?」
「………」

二人は混乱したまま黒ずくめの少年に従い地面に降りる。

「君もだ!」
「………」

ベジータは警戒を崩さないまま地面へと降りた。

「僕は時空管理局に務めている、クロノ・ハラオウン執務官だ。詳しい事情を聞かせて貰おうか…?」
(管理局?まさか……以前フェイトの言っていた組織の奴か?だったら何故今更?)

この時ベジータは何時ものように考えているが、この直後、その事を酷く後悔することになった…。

クロノという少年が二人に問いただそうとしたその時…。

「「「!?」」」

突如上から降り注ぐ魔力弾、クロノは障壁で防ぎベジータは間合いをとる事で回避。

「フェイト、ベジータ、逃げるよ!」

頭上を見上げると、アルフが魔力弾を携え空中に佇んでいた……。

そしてそのまま魔力弾を放つアルフ。

四人はそれぞれ間合いを開けて回避する。

巻き上がる土煙の中、眼前にあるジュエルシードを見つめるフェイトは……。

「くっ!」

ジュエルシードを目掛けて飛んだ。

……しかし。

「ああっ!」
「フェイトっ!!」

土煙の中から現れた幾つもの蒼い閃光に阻まれ、フェイトは地面へと墜ちていく……。

「フェイト!!」

地面へぶつかるスレスレにベジータはフェイトを抱き上げる。

「はぁっはぁっ……」

フェイトの顔は赤く、呼吸も荒くなっていた。

(まさか…プレシアの時の傷が開いたか!?)
「フェイト!!」

すぐさまベジータに駆け寄るアルフ。

「…………」

クロノは追い討ちを仕掛けるように、杖を向け光の粒子を収束していく。

「だ、ダメ……」

しかし、なのはの言葉は届く前に……。

[Fire]

閃光が放たれた…。

クロノが放った光の弾が当たる直前。

「………」

ベジータが此方に振り向く事なく手刀で粉砕した…。

「アルフ、先に戻ってフェイトの手当てをしてやってくれ……」
「べ、ベジータは?」
「俺はあの雑魚を片付けたらすぐに行く」
「わ、分かった」
「ベジータ……」

アルフはベジータに殿を任せこの場から去り、フェイトは小さくなっていくベジータの背中をいつまでも見つめていた。

「……事情を聞かせてもらうが……構わないな?」
「…………」

クロノの質問にベジータは沈黙で応えた…。

「おい、聞いているの「小僧」?」
「少し……調子に乗りすぎたな」
「!? あ……あ…」

ベジータの低い声になのはは以前の恐怖がぶり返していた。

「………相応の対応になるが、覚悟はいいか?」
杖を構え臨戦体勢に入るクロノ。

ベジータはその言葉に片手で顔を抑え含み笑いをしていた。

「ククク……やはりあの化け物擬きではもの足りんな……」

ベジータはピタッと笑うのを止めクロノと対峙し…。

「小僧、貴様は……俺のストレス発散の、捌け口になって貰うぞ」

ベジータはこれ以上ない冷たい笑みを浮かべていた……。











〜あとがき〜

あ、あれ?何かクロノ君死亡フラグビンビンしてない?

トッポです。

最近変な夢を見ます。


猫のコスプレをしたフェイトと。

犬のコスプレをしたなのはと。

狸のコスプレをしたはやてが。(全員十年後の姿)

玉座に座った超サイヤ人4のベジータに寄り添う夢を見ました。

……やばいな色々と。

ではご指摘ご感想お待ちしています。



[5218] 邂逅、時空の管理者と王子
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:21835973
Date: 2008/12/28 17:38


雰囲気は正に一触即発。緊迫過ぎる空気に高町なのははベジータとクロノに視線をあちらこちらに移し替えていた…。

「君達は……どれだけ危険な事をしでかしているのか分かっているのか?」
「………」
「これが最後通告だ。武装を解いて此方に従って「馬鹿か貴様」!?」
「貴様はお喋りをしにここに来たのか?なら失せろ、帰ってママのミルクでも吸ってな……坊や」

その一言でクロノの顔が一瞬、険しいものになるがすぐさま平常心を保った顔つきになる。

「そうか……覚悟はできたみたいだな」

クロノは杖を携えベジータに向ける。

「あ、あの……」

なのははどうすれば分からず、ただオロオロしていた。

「君は下がってて。大丈夫、すぐに終わるさ」
「は、はい……」

なのははユーノを肩に乗せ巻き込まれないよう距離を取った。

「ベジータ君……」

なのはは途中ベジータに声を掛けるがベジータはなのはに応えることなく前を……クロノを見据えていた。

そしてなのはがその場から離れて、辺りは静寂に包まれる…。

クロノとベジータ。双方は動く事なくただ互いの動きを観察していた。

そして……。

「はぁっ!!」

先に動いたのはクロノの方だった。

[Snip shot]

自身と同じ黒いデバイスをベジータに向け蒼い閃光をぶつける。

「………」

ベジータは構えもせずただ腕を組み佇んでいた。

そして巻き起こる爆音と巻き上がる土煙、その衝撃は周りの木々を揺らし地面を抉る。

「ベジータ君!」

なのははベジータの名を呼び安否を気遣う。

「これで大人しくしてくれればいいんだが」

クロノは杖を下ろし土煙を見つめる…。

やがて土煙は晴れ、人の影が見え始めると……。

「……どうした?もう終いか?」

傷一つ付いていないベジータが悠然と立ち尽くしていた……。

「なっ!?」

余裕の表情のベジータに対しクロノは驚愕した。

今のはそれなりの力を込めて放った魔力弾だ。それをこの目の前の少年は何事もなかったかのように平然としている。

(……どうやら一筋縄ではいかないようだ)

クロノは目の前の相手を強敵と定め身構える。

「小僧」
「?」
「貴様は知っているか?」

不意に投げ掛けられた言葉にクロノは警戒しながら耳を傾ける……。

「知っているか……骨の砕ける音を」
「!?」
「肉が裂き腸がぶちまけられる様を……眼球は潰され、四肢はもがれ、頭蓋は砕かれ、血の雨と人だった肉塊の断末魔の宴を……知っているか?」
「な、何を……!?」
「討たれる覚悟もない奴が……」

ベジータの殺気、怒気、覇気、それら全てに呑まれ始めたクロノは……一瞬自分の視界にベジータの姿が消えた事が分からず…。

「が……は…!?」

メリリと腹部にめり込む拳に、クロノは何が起きたか理解できずパニックになっていた…。

「簡単に牙を向けるんじゃない」
「お……がは……」

クロノは杖を落とし腹部を抑え悶えていた…。

そんなクロノをベジータは冷たい目で見下ろす。

「どうした?痛いか?これでも手加減したんだぞ?」

そう言ってベジータはクロノの隣に座り。

「貴様はまだ……本当の痛みを知らない」
「くっ!!」

クロノは咄嗟に杖を広い上げベジータに向けて……。

[Blaze cannon]

ゼロ距離で先程放った閃光よりも巨大な光球をぶつけた。

再び舞い上がる轟音と土煙、クロノは腹部を片手で抑えながら上空へと昇り。

「はぁっはぁっ……」

足場に魔力陣を展開し杖を振り上げ無数の剣を生成する。

「スティンガーブレイド、エクスキューションシフト……!!」

その言葉に剣達は回転し…。

「行け!!」

杖を振り下ろし未だ収まらない土煙に向け剣の雨を降らせる……。

そして巻き起こる爆発。

「キャァァァッ!!」
「ウァァァァッ!!」

吹き荒れる爆風になのはは杖を支えに踏ん張り、ユーノも襟を掴んで耐えていた。

「こ、これなら……」

クロノは徐々に晴れていく土煙を睨み付け杖を向けていた。

「これなら……何だって?」
「!?!?」

突然背後から聞こえた声に振り返ると。腕を組んで不敵な笑みを浮かべるベジータがいた。

「ど、どうして……?」
「別に喰らってもよかったんだがな、何だか喰らうのも馬鹿らしくなってな……」

肩を竦めて苦笑いするベジータにクロノの顔は険しくなっていく…。

「このぉ!!」

なりふり構わず振り回す杖を……。

「ふん」

片手で掴み……。

「つぉッ!!」
「!?」

掌低をクロノの腹部に叩き込み浮き上がらせ。

「ぬんっ!!」
「!?」

肘打ちを背中にめり込ませ地面へ叩き付ける…。
高度な性能を誇るBJも僅かな攻撃にボロボロになり、あと一発でも貰えばBJごと体が貫かれてしまう…。

クロノは声にならない悲鳴を必死に堪え上を見上げるが…。

「どこを見ている?こっちだ」
「!?!?」
「ウスノロ」

いつの間にか背後に回るベジータにクロノは恐怖を覚えた。

(何なんだ……何なんだコイツは!?)

魔法も無しに空を飛び、魔力強化も無しにも関わらず一撃必殺級の攻撃を繰り出す少年。しかも、これでもまだ本気とは程遠いと言うのだから魔法を使役するクロノ達魔導師には恐怖を覚えるのも無理はない。

「どうした?笑えよ、小僧」
「くっ!!」

一歩、また一歩近づくベジータにクロノは震える膝を立たせ無理矢理にでも立ち上がろうとするが……。

「何だ?立てないのか?なら立たせてやろう」

胸倉を掴み持ち上げ、残った手を堅く握り締め拳を鈍器に変える。

「あぐ……ぐ」
「待ってろ、今楽にしてやる……」

なす術なくうなだれるクロノにベジータの拳が振り抜かれる…。

「ベジータ君、ダメェェェェッ!!」
「!」

突然背後から掛けられたなのはの叫びにベジータの拳はクロノのスレスレで止まり、衝撃だけが突き抜けた。

「…………」

鋭い視線でなのはを射抜くが最早涙でグジャグジャになっている顔を見て興が冷めた。

拳を緩めてクロノを地面に落とした……その時。

「はぁっ!!」
「!?」

突如現れた緑色の輪に拘束されベジータは地に伏してしまう。

「ユーノ君!?」

気がつけばなのはの足下で魔法陣を展開していたユーノがいた。

「クロノ執務官!今です!」

ユーノの掛け声にクロノはありったけの力で杖を手にし、ベジータに蒼い輪を縛り付ける。

二重に掛けられた拘束術にベジータは顔を地面に突っ伏している。

「はぁっはぁっ……済まないな」

クロノは杖を支えに何とか立ち上がりジュエルシードを回収する。

《クロノ!大丈夫!?》

いきなり何もない空間から現れた小さな魔法陣と画面に映し出された碧髪の女性。

「艦長、はい……何とかジュエルシードと片方の魔導師、そしてもう片方の魔導師の片割れを捉える事ができました」
《そう……分かりました、今から医療班を転送先に待機させます。此方に戻る際に治療を受けて下さい》
「了解です……」

そういって宙に浮かぶ画面は消え、クロノはなのは達の方へ振り返る。

「君達も……いいね」

ヒューヒューと呼吸を吐き、最初の凛々しさは影も形も見当たらない。

「ユーノ君……」

なのははユーノにどうすればいいか聞いてベジータに視線を向ける。

「今は取り敢えず、彼の指示に従おう。彼については……」

ユーノが話をしている最中、三人の足下に巨大な魔法陣が展開し包まれていく……。

だが、この時誰も気付かなかった……。

(………掛かったな)

地面に伏しながらも不敵な笑みを浮かべていたベジータの事など……。

















「もう止めようよフェイト!!」

アルフはフェイトを抱えマンションに帰ってきて手当てをしたあとフェイトに詰め寄っていた。

「ダメだよ、母さんのお願いをまだ叶えていないから……」
「だけどさ!ただの雑魚なら兎も角、アイツ一流の魔導師だよ!ベジータも帰ってこないし……管理局が本格的に調べればここだっていつバレるか……」
「ベジータなら大丈夫だよ、母さんが言ってた。ベジータは次元漂流者、次元漂流者なら管理局が保護してくれるって」
「アタシは………アタシはただフェイトが幸せになってくれればそれでいいんだよ……フェイトが泣いてたり悲しいと、アタシの鼻の奥がツンとしてどうしようもなくなるんだ」

アルフは地面に伏せ、フェイトを説得するが、フェイトは頑なに首を縦には振らなかった。

「アルフと私は精神がリンクしているから、私の感情が流れちゃっているから……ゴメンね、私、もう泣かないよ」

届かない言葉……そんなフェイトにアルフも決意を固める。

「なら……約束して、あの女の為じゃなく、フェイトはフェイトの為に頑張るって。それならアタシ、全力でフェイトの事を守るからさ」
「うん、ありがとうアルフ……」

フェイトはアルフの頭を撫でながら微笑む。

(ベジータ……)

いつもなら台所で夕飯の支度をしていた所も、今は明かりを失っていた。

(ごめんなさい……ベジータ)

フェイトはアルフに聞かれないよう静かに呟いた……。










〜あとがき〜

まずは一言。

クロノファンの皆様ごめんなさい!!

そしてご期待下さった皆様ごめんなさい!!

中途半端になってしまった今回の話し、読んでくれれば幸いです。



[5218] 王子様の思惑
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:82bb3fc0
Date: 2008/12/30 22:40

魔法陣からの放たれる光が収まった後、ベジータとなのは達を待ち構えていたのは宇宙船のような艦に連れられ白衣を着た数人とクロノとは違う鎧と杖を手にした魔導師達だった。

「あ……う……」

限界が来たのかクロノが倒れようとした時、一人の女性が抱きかかえる。

「クロノ!!」
「艦長……?何故……ここに?」
「貴方が心配だからに決まっているじゃない!!」
「いけ……ません、貴方はこの艦のトップ。持ち場に戻って……」
「……分かっています」
「艦長……」
「クロノの事……宜しくお願いします」
「「「はっ!!」」」

栗色の、碧色の髪の女性と同じ青い制服女性が心配そうに声を掛けると、女性は表情を変え、稟としたものになり、クロノを白衣の人達へと引き渡す。

「では、其方の少年は独房へ……」
「「「はっ!!」」」

そして武装した魔導師達にも指示を与えると魔導師達は拘束されたベジータを連れて行った……。

「あ……」

この時なのはは声を掛けようとしたがベジータは何の反応も示さず、魔導師達に連れられて行った……。

「ごめんなさいね、バタバタして」
「あ、い、いいえそんな」
「ここで立ち話もなんだし、此方で」
「は、はい!」

栗色の女性の促しになのは達は奥へ進み……。








「ふぇぇ〜〜!?」








数分後、なのはの叫び声が通路に木霊した……。












「まずは潜入成功……っと」

薄暗い独房の中、ベジータは辺りに誰も居ないことを確認して呟いた。

「まさかここまで上手くいくとは……」

特に高町の叫び声で演出がかなり良くなった。

ただあの下等生物にいいようにされたのが癪だったが……。

ベジータは辺りを見回し簡易ベッドに腰掛ける

「時空管理局か……さて、どれほどの規模の組織なんだか」

フェイトの話では幾つもの世界を管轄、管理しているから……相当の規模だというのは分かる。

だが……。

ベジータは歯軋りをして表情を険しくなっていく…。

「気に入らんな……」

世界を管轄?管理?

神にでもなったつもりか……?

しかもフェイトが言うには地球に第97管理外世界等と【番号】を付けているとの話だ。

「ふざけやがって」

ベジータは拳を握り締め壁を殴りつける衝動を必死に抑えた。

世界は違えど地球は最早ベジータの第二の故郷と呼べる場所、そんな大切な場所に番号等とつけるのだからベジータの怒りに触れるのは当然といえるものだった…。

そんな中ベジータは溜め息を吐いて…。

「だが……フェイトを保護できるとしたら……それも奴らだ」

悔しいが俺ではフェイトを護りきる事は……出来ない。

プレシアがジュエルシードを求める限りまたフェイトは危険な戦いを強いられる事になる。

そうなったらこの……管理局の奴らの本格的な捜索が始まるだろう……。

そうなる前に……。

「俺が……奴らを抑えなければな……」

または利用してやる。

「あとついでに俺の元の世界の帰り方も聞き出さないと」

ベジータはおもむろに立ち上がり。

「ふんっ」

手錠に繋がれた鎖を外す。

「それにしても……」

ベジータは辺りを見て呆れ口調で呟く…。

「今まで色んな星を征服したが……ここまで警戒に疎いとはな」

見張りの奴が一人もいやしない。

それともどこかで監視しているのか?

「まぁそんな事はどうだっていいな……」

ベジータはパキパキと拳を鳴らし鉄格子の前に立ち……。

「さて、派手に行くか」

拳を振り上げた瞬間……。

グゥゥゥゥ……。

盛大に腹の音が鳴り響いた……。

「………まずは腹ごしらえだな」

腹をひと撫でし、再び拳を振り上げた。












「では、此方に座ってください」
「は、はい!」

なのは達が連れてこられたのは和風感が漂う部屋だった。

なのはと、人間の姿となったユーノが正座に並んで座る。

「粗茶ですけど……」
「あ、ど、どうも」
「い、いただきます」

差し出されたお茶に困惑しながらなのはとユーノは頂いた。











「……そう、ジュエルシードは貴方が」
「はい……」

少しほのぼのしながらも事の顛末を話し終えたユーノに対し緑色の長髪の女性……リンディ・ハラオウンは湯飲みを置きながら話を進めた…。

「あれは……僕が見つけたもの……だから、僕が集めなければいけないんです!」

ユーノの必死の言葉にリンディは頷き。

「立派だわ」
「だが、同時に無謀でもある!」
「「「!?」」」
「だ、ダメだよクロノ君!」

不意に背後から聞こえた声になのはとユーノは同時に振り返り、リンディは驚きの表情をしていた。

そこには執務官の証しである黒い服を着たクロノが腹部を抑え扉に寄りかかっていた……。

「クロノ!?貴方医務室にいたんじゃ……」
「僕なら大丈夫です、優秀な治癒魔導師のお陰で何とか立つ事はできます」

見るからに無理をしていそうな表情のクロノ、傍でオロオロとしている栗色髪の女性……エィミィは申し訳無さそうにリンディに顔を向ける。

「申し訳ありません艦長、止めたんですけどクロノ君が……」

そんな二人にリンディは溜め息を吐き額を抑える。

「分かりました、同席を許可します。エィミィ、クロノの様子が変わったら直ぐに医務室に連れてって頂戴」
「分かりました」
「ありがとうございます。艦長」

そう言って二人はリンディの隣に座り会話を再開した……。











そして暫く話してなのはは自分がどれほど大事に巻き込まれたか漸く理解できた。

遺失物【ジュエルシード】、それは下手をすれば世界をも滅ぼす超危険な代物だった。

なのはは呆然として、ただ話を聞いていた…。

「これからは私達、管理局がこの事件の担当になります」
「あとの事は僕達に任せて、君達は安心して今までの生活に戻るといい」
「!? そ、そんな……だけど」
「ここから先は本当に危険なんだ、一般人である君達を巻き込む訳にはいかない」
「で、ですが……」

ユーノも納得がいかないのだろうか、抗議の声をあげるが、クロノは一向に首を縦には振らなかった。

ふとなのははベジータの事を思い出し、リンディ達に聞いてみた。

「あ、あの……ベジータ君はどうなるんでしょうか?」
「ベジータ君?もしかしてさっきの彼の事?」

エィミィの言葉になのはは頷く。

「彼は今回の件の重要参考人だ。身柄は此方で預かる事にな……」

そう言い掛けてクロノは口元に手を当てて考え始めた……。

「クロノ君?」
(そう言えば、何故彼はああも簡単に捕まったんだ?)

実力差で言えば悔しいが彼の方が遥かに上だ。それを油断を突いたとはいえ呆気なさ過ぎる。

その気になればいつでも逃げ出せた筈なのに……。

「まさか!?」

嫌な予感がクロノを襲い、立ち上がった瞬間。

《た、大変です艦長!!》
「アレックス?どうしたの?」

リンディの前に現れた画面には眼鏡を掛けた青年がやけに慌ただしくしていた。

《じ、実は独房で拘束していた少年なんですが……》
「「「!?」」」
《と、兎に角急いで食堂に来て下さい!!》

それを最後に通信は途絶えリンディ達は顔を見合わせ…。

「行きましょう」
「「はいっ!」」

リンディを筆頭に部屋から出て行った…。

「え、えっと……」
「ユーノ君」
「な、何?なのは」
「私達も行ってみようよ」
「えぇっ!?そ、それは不味いんじゃないかな〜、今勝手に動くのは」
「でも……やっぱりほっとけないよ!」
「あっ!ちょっなのは!」

ユーノの制止を振り切りなのはもリンディ達の後を追い、ユーノもつられるように追いかけるのだった。














「こ、これは……」

食堂に来たリンディ達は目の前の光景に唖然とした。

何故なら……。

「おい、お代わりだ」
「は、はい〜〜!!」

周りに武装した魔導師達が囲んでいるのにも関わらず、テーブルに山のように積み上げられた空になった食器の数々、その中心に今回の重要参考人であるベジータが悠々と食事を楽しんでいたのだ。

「お?来たな」

リンディ達が食堂の入り口で棒立ちになっているのを見てベジータは席を立ち近付いてくる。

その際に周りの魔導師達は一斉に身構えるが、やはりベジータの眼中に入っていないのか、全く気にしている様子はない。

「貴様がこの艦のトップだな」
「貴方は……」
「まぁまずは座れ、話はそれからだ」

ベジータがリンディ達に座るよう促すが……。

「き、君はこんな所で何をやっているんだ!?」

案の定、やはりクロノが突っかかってきた。

「黙れ小僧、貴様には用はない。今度はそんなお痛だけでは済まんぞ」
「ぐっ……」

鼻息荒くベジータに言い寄るクロノだが、一呼吸で切り捨てられグゥの音も言えなくなった。

「ベジータ君!」

ふと後ろから聞き慣れた声に目を向けると息切れを起こし肩で息をしているなのはと……。

「なのは!」

見覚えの無い少年がなのはの傍に立っていた……が。

(なる程、あのネズミ擬きの下等生物の正体はコイツだったか……)

と、一瞬でユーノを見抜いたベジータだった。

「さて、ゲストも来た所で始めるとするか」

ベジータは振り返り、そそくさと別の席に座り、リンディ達の反応を待った…。

「「…………」」

クロノとリンディは互いに顔を見やり、無言の会話をしていた。

(ち、やはり念話で相談してやがるか……コイツ等魔導師はそういう小細工ができるから厄介だ)
内心舌打ちするも、相手に悟られぬよう余裕の表情は崩さずにいたベジータ。

………やがて相談し終えたリンディとクロノ、エィミィはベジータの向かい側に座り相対する。

「高町、お前も座れ」
「ふぇっ!?う、うん……」

なのははベジータの言われるままに隣に座った。

「おい女、人払いを頼むぞ」
「え!?わ、私?」

いきなり話し掛けられ焦るエィミィ、リンディに視線を向け指示を仰ぐが黙って頷くリンディにエィミィは泣く泣く人払いに向かった。

「さて、全員座った所で始めるとするか」
「な、何を?」
「なぁに、そんなに身構えなくてもいい、ある意味貴様等の土俵でやり合うものだ」

そしてベジータは十歳の少年とは思えない不敵な笑みで……。

「貴様等の大好きな……交渉と言う名の話し合いだ」

時空管理局の提督、リンディ・ハラオウンに盛大に啖呵を切ったのだった。












〜おまけ〜

「あ、あの〜」
「? 何だ?」
「ぼ、僕の席は……」
「貴様は立ってろ下等淫獣」
「!?!?」

ベジータの一言にユーノは石化し、砂へと消えていった……。









〜あとがき〜

最近とらハ板へ移動するか迷っているトッポです。

ベジータ君は一体何を企んでいるのか、作者である私も見当つきません(コラ

ではではご指摘ご感想お待ちしています。



[5218] 王子様の憂鬱
Name: トッポ◆c99ced91 ID:f0e76790
Date: 2009/01/01 15:32


広々とした食堂の中心に六人の男女が対立するように座っていた。(一人棒立ち)

その構図は端から見ればかなり異色に見える事だろう。

若い女性を筆頭にしかめ面のまま隣に座る漆黒の服を着た少年と、もう方ほうの隣でオロオロしている栗色の髪をした女性。

対するは余裕の表情を崩さないで座る少年に、栗色の女性と同じオロオロとしているツインテールの少女が座り、何故か白く燃え尽きている少年が立っていた。

「それで……貴方の要求は何?」

碧髪の女性……リンディ・ハラオウンは真正面に座る少年、ベジータに険しい表情を向けて質問をするが……。

対してベジータは不敵な笑みを崩さずに応え始める。

「おいおい、話を聞いていなかったのか?俺は交渉と言ったんだ。要求とは人聞きが悪いな、え?リンディ・ハラオウン提督殿?」

ニヤリと口端を吊り上げ、足を組むベジータにクロノは唯でさえ険しかった表情を益々強らばせる。

「貴様は!!」
「クロノ……」

掴み掛かろうとするクロノをリンディは片手で制する。

「……申し訳ありません」

渋々と席に座るクロノ、ベジータはそれを鼻で笑いクロノの怒りを煽るがグッと堪えるクロノに興味を無くし、リンディに向き直る。

「……その前に、何故貴方が独房から出てきたのか教えてくれないかしら?」

リンディが険しい表情のままベジータに問い詰めるが、ベジータはふんっと鼻をならし。

「見張りもなければ監視もない、そんな所は逃げて下さいと言っているような者だろうが……」

溜め息混じりにそう吐き捨てるベジータにリンディ達は呆然となる。

「き、君は……ここが何処か分かっているのか?」

今、この艦……アースラは次元の狭間を航行中だと言うのに一体何処に逃げるだと言うのだろか……クロノの質問にベジータは……。

「だから、今その事を話そうとしているんだろうが……」

ウンザリとした表情で言い切るベジータにクロノは怒りを通り越して唖然としていた。

「話が逸れたな」

気を取り直して向き合うベジータ。

「さて、まずは此方の条件を聞いて貰おうか」

ベジータはテーブルに肘をついて真剣な表情になる。

「条件?」
「ふん、条件と言っといて一体何を無理難題をぶつける気だ?」
「……頼むから黙っといてくれないか?」
「なっ!?」

腕を組んで言い捨てるクロノだが、ベジータの心底鬱陶しいと言わんばかりの表情に固まる…。

「何、条件は至って簡単だ。ただ一人の少女とその使い魔を保護して欲しいだけだ」
「「!?」」
「ベジータ君、それって……」

隣で置いてけぼけりにされていたなのはは、その言葉にベジータへ視線を向ける。

「それは……まさか例の?」
「そうだ、黒いBJを着て、い……狼を連れた……なのは」
「にゃっ!?にゃに!?」
「貴様も何度もぶつかった相手だ、分かるだろ?」
「う、うん……」

戸惑いながらも頷くなのはにベジータは満足気に口端を吊り上げる。

「ですが……彼女はロストロギア……ジュエルシードを集めている、彼女がジュエルシードを求めている限り我々と衝突するのでは?」
「そうだ、また以前のようにそこの彼女との魔力衝突で次元震を引き起こす可能性がある」
「次元震?」
「あ、あのねベジータ君、次元震って言うのはね……」

なのはからの説明を受け、ベジータは以前のフェイトとなのはのデバイスが衝突した際に起きた爆発を思い出す。

「……アイツはある奴の命令で仕方なくジュエルシードを集めているに過ぎない、故にアイツ自身には何の罪も無い」
「奴?」
「……プレシア・テスタロッサ」

ベジータは一瞬言うのを躊躇ったが意を決して話し始めた。

「プレシアはある願いを叶える為、ジュエルシードを集めている」
「願い?」
「失われた秘術の眠る約束の地……アルハザードに向かう事」
「「「!?」」」

ベジータの一言にリンディ達に戦慄が走る。

「アルハザード……旧暦の時代に栄えた伝説の地」
「だが、それは遙か昔に大規模な次元震で失われたと言われている……夢物語もいいとこだ」
「プレシア・テスタロッサは一体何の為にアルハザードへ?」
「さぁな……其処までは知らんな」
「……本当に?」
「嘘だと思うか?」
「……否定はしないのね」
「だが、肯定もしていないだろう?」

疑問の視線を投げかけるリンディにベジータは真っ正面から捉える。

「……いいでしょう、貴方の情報、取り敢えず信じましょう」
「感謝する、ついでにもう一つ……」
「まだ何かあるのか!?」
「く、クロノ君……」

いきり立つクロノにエィミィが必死に抑える。

「それで、要件とは?」
「この事件が終わるまでに俺のこの艦での身柄の自由を約束して欲しい」
「なっ!?貴様……いい加減に「但し」?」

身を乗り出すクロノにベジータは片手で制止し、続ける。

「俺もこの事件が終わるまで全面的に協力してやる」
「……何だと?」
「俺はただアイツを保護をして欲しいだけ、事件が終われば俺を煮るなり焼くなり好きにするがいい」
「…………」
「実力ならそこのクロノ・ハラオウン執務官殿が証明した筈だが?」
「くっ……」

クロノは悔しそうに唸りベジータへ睨み付けるが、ベジータはクロノを視界に入れる事なく淡々と続ける。

「だけど……貴方のような子供を……」
「それこそ今更だろう、自分の息子を戦わせている時点でそんな事を言う資格が……貴様にあるとでも?」

「そ、それは……」

ベジータの鋭い眼光にリンディは押し黙ってしまう。

「それに、もしかしたら貴様等は人員不足に悩まされているんじゃないのか?」
「……何故それを?」
「何だ本当だったのか?最初の次元震……だったか?あれからの対応が遅かったからてっきり……いやはや俺の勘も捨てたもんじゃないな」
「…………」
「で?どうする?」
「艦長、僕は反対です。このような危険な人物は早急に本局へ護送するのが一番かと……」

クロノの意見を聞きながらもリンディは目を瞑り考え始める。

「…………」

やがてリンディは考えをまとめ、ゆっくりと瞼をあけ口を開く。

「……いいでしょう、貴方が我々の指示に従う事を条件に貴方の艦内での身柄の自由を約束します」
「艦長!?」
「ほ、本気ですか!?」
「彼の言うとおり、私達人員不足に後手に回るのも確か、不本意ですが……貴方の条件を飲みます」
「なら……交渉成立だな」

リンディとベジータは同時に席を立ち、握手を交わす。

(本当ではないが嘘でもない……か、はっきり言って我ながらバカな条件を鵜呑みにしたものだわ)

それにこの子……相当な修羅場を潜り抜けている。

幾ら無防備な艦でも途中で局員に出くわすかもしれないのに……。

それを察知されずにここまで来て、しかも武装局員に囲まれても平然としていられる大胆さ。

まだ十歳位の男の子が……一体どれ程の体験をすればこのようになってしまうのだろうか…。

リンディはベジータに少し悲しみを含めた瞳で見つめた。

(よし、ますば第一段階クリアか)

本当ならプレシアにも保護を頼みたいところだが……。

(無理だろうな、最早コイツ等はプレシアを犯罪者として見てやがる)

自分で言った事とは言え、後味が悪い…。

(フェイトは……きっと俺を恨むだろうな)

恨まれるのは慣れている。

呪いの言葉をぶつけられるのは慣れている。

(だが……今回のは堪えそうだ)

ベジータは何処か切なそうな面持ちでリンディの瞳を捉えていた。

「では、貴方の今後利用する居住区への案内をします」
「分かった」

そして長いようで短かった会談は終わり、全員が席を立とうとしたその時だった……。

「わ、私も……私もお手伝いします!」
「「「!?」」」

意外な所からの挙手にベジータを含めた全員がなのはへ振り返る。

「な、なのは!?」

今まで白くなっていたユーノも漸く復活し、これに反応する。

「私ならその……ジュエルシードの回収もできますし、何か役に立てるんだと思います!」
「し、しかし……」
「お願いします!!」
「ぼ、僕からもお願いします!!」

頭を下げる二人にリンディは手を顎に添えて……。

「はぁ……分かりました。あなた方も乗艦を許可します」
「か、艦長!?」
「現地の協力者を得れば色々と有利に進むでしょうし、私達以上にジュエルシードに詳しいスクライアの子もいればサポート面が楽になるわ」
「……了解」

クロノは色々と納得がいかないようだが、渋々と引き下がった。

「では、なのはさんは一度ご家族とお話して、明日にまた公園に来てください」
「は、はい!ありがとうございます!!」
「ありがとうございます!!」

再び頭を下げるなのはとユーノに苦笑いをするリンディ。

(もしかしたら……この少女が今回の件の鍵になるやもしれんな)

ベジータはなのはに期待の眼差しを向けて一人考え込んでいた。










〜おまけ〜

「えっへへ〜、ベジータ君♪」
「何だ高町、馴れ馴れしいな」
「あ〜!ひど〜い!前は名前で呼んでくれたのに〜!」
「……だから、それがどうした」
「ねぇ、また名前で呼んでよ」
「断る」
「え〜〜!どうして〜〜!」
「どうしてもだ!」
「ぶ〜〜!呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで!!」
「えぇ〜〜〜い!やかましい!!」
「む〜〜………にゃ〜〜〜〜!!」
「のわ!?止せ、引っ付くな!!」
「名前呼んでくれるまで離さない〜〜!!」
「えぇ〜〜い!☆HA☆NA☆SE☆」
「だが断るの〜〜!!」
「あはは、なのは、あんなにも楽しそうに……」
「うわっ!?ど、どうしたんだ涙なんか流して?」
「いいえ、これは心の汗です。涙ではありません」
「……君も大変だったんだな」

ベジータとなのはのやり取りを見て、少年は一人、心の汗を流したのだった……。










〜あとがき〜

新年明けましておめでとうございます!

本当なら年明け前に更新したかったのですが……諸事情により出来ませんでした。
申し訳ありません。

さて、今回の話し、ベジータ君の交渉でしたが……書けてるかな?

多分書けてないんだろうな……。

最後のオマケで書いたベジータとなのはの絡みに和んでくれれば嬉しいです。



[5218] 王子様の日々
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:97d5daf6
Date: 2009/01/03 22:05




次元航空艦アースラ。

リンディ達との会談からはや数日。

アースラの居住区の一室にベジータの部屋があった………が。

「……何故貴様等がここにいやがる?」
「にゃはは〜〜♪」
「お、お邪魔しています……」

シャワーを浴びた後、タオルを肩に掛け部屋に戻ってきて待っていたのは……。

ベッドに座りパタパタと両足を動かしてにこやかにしているなのはと、座布団の上に正座してガチガチに固まっているユーノがベジータを迎えていた。

「取り敢えず……出ていけ」

ベジータはそんな二人に目もくれずデスクの椅子に座る。

「ねぇ、ベジータ君、ベジータ君のお話、聞かせて」
「人の話を聞いていなかったのか?」
「な、なのは、やっぱり悪いよ」

ベジータの放つ威圧感にユーノはなのはを引き止めるがなのはは笑みを崩さなかった。

「ベジータ君、どこ行ってたの?」
「貴様には関係ない」
「ベジータ君はフェイトちゃんとはお友達なの?」
「貴様には関係ない」
「ベジータ君の好きな食べ物は?」
「貴様には関係ない」

なのはの質問攻めにベジータは一言で切り捨てる。

だが……余りにしつこいなのはにベジータはとうとう折れてしまい……。

「ベジータ君は「おい」にゃ?」
「貴様は何だって俺にしつこく絡んでくるんだ?」

ベジータの初めて返ってきた質問に、一瞬なのはは目を開くがすぐに満面の笑みに変わり。

「だって、分かっちゃったから」
「………?」
「ベジータ君、実はとっても優しいんだって」
「………はぁ?」

なのはの答えにベジータは頭の上に?を立てる。

「最初はベジータ君、とっても怖くて、話し掛けるときも怖くて、ベジータ君に睨まれた時は……正直怖すぎて死んじゃうかと思っちゃった」
「…………」
「でもね、この間のリンディさん達とのお話でベジータ君は優しいんだって分かったんだ」
「なのは……」

なのはは手を組みクルクルと指を動かしている。

「ベジータ君、フェイトちゃんの事になると物凄く必死で、頑張ってて……」
「…………」
「だから……その」
「……ふん」

ベジータは席を立ち部屋の扉の前にに足を進める。

「ベジータ君……」
「取り敢えず言っておく、俺は貴様等に協力してやるといったがお仲間ゴッコをしている訳じゃない」
「…………」
「だが……一応礼は言っておいてやる」
「!」

俯いていたなのははその言葉にガバッと顔をあげるが、以前と同じで既にベジータの姿は無く、扉の閉まる音が部屋に響いていた。

「にゃははは〜〜♪」

なのはは枕を抱き締め益々顔をにやける。

「…………」

ユーノはあの恐ろしいまでの威圧感を放つベジータを前に平然としていられるなのはを軽く尊敬していた……。













「全く、よくわからない女だぜ」

俺が優しい?サイヤ人の王子であるこの俺を優しいと言ったのか?

「おかしな事を言う奴だ……」

だが……。

「そんな事を言われたのは初めてだ」

ベジータは生まれて初めて言われた言葉に戸惑いと同時に暖かさを感じていた。

「ち、何だかこの世界に来て益々甘くなったみたいだぜ」

ベジータは鬱陶しそうに、それでいてどこか照れくさそうに言い捨てた。

「………む?」

通路を歩いていると、何やら視線を感じ辺りを見渡すと制服を着た男女がわざとらしく視線を背ける。

「……ふん」

どうやらあの執務官の小僧との一件がまだ尾を引いてるようだな。

「まさに悪役だな」

険悪し、それで畏怖するその視線、昔を思い出させるぜ。

(フリーザ軍にいた時もこんな感じの奴らが多かったな)

野蛮な猿が、生意気なサイヤ人が、そんな奴らの罵声の声の裏にはいつも恐怖が見え隠れてしていた。

(フフ、我ながら中々の嫌われっぷりだな)

ベジータは局員達を鼻で笑いながら通路を歩き続けると……。

「あ!ベジータ君♪」

向こうから栗色の髪の局員、エィミィが手を振りながらベジータに駆け寄ってきた。

「……何だ?」
「う、そんなに目くじら立てなくてもいいじゃん……」
「これは生まれつきだ!」

ベジータの突っ込みにエィミィは苦笑いをしながら謝罪する。
「あはは、ゴメンゴメン、謝るから怒らないでよ」
「ケッ、……それで、一体俺に何の用だ?」
「用って程じゃないんだけど、同年代のなのはちゃん達と上手くいってるかな〜って思って」

そう言いながらエィミィは笑顔を浮かべる。

(さっきの高町といい、コイツといい、ここはお人好しの巣窟か?)

それにコイツに至っては同僚が傷付けられたってのに他の奴らと違って平然と俺に話し掛けて来やがる。

「おい」
「ん?何?」
「協力しているとは言え、俺は貴様の仲間を叩きのめした男だぞ、何故そんなにも平然としていられる?」

ベジータの質問にエィミィは指を顎に添えて。

「うぅ〜ん、確かに最初はクロノ君が傷だらけで倒れた時は驚いたし、今も治療を続けていて、正直ベジータ君を恨んだりもした」
「…………」
「でもね、クロノ君、ああ見えて結構頑丈に出来てるし、最近仕事で疲れていたから、かえって休めるようになったから、今は寧ろ感謝しているかな……」
「……本っ当に、貴様等は……」
「え?何?何か言った?」
「何でもない!!」

ベジータは話を無理矢理に切り上げ、ズカズカと先へ進んでいった。

「何か足りないものがあったら言ってね〜!」

エィミィが手を振りながら言っても、ベジータは振り返る事なく通路の奥へと消えていった。















「あの鬼婆、一体今度は何の用だってんだい」
「ダメだよアルフ、母さんをそんな事言っちゃ」
「だけどさ……」

アルフとフェイトの二人はプレシアに呼び出され、プレシアの居城、時の庭園へと赴いていた。

「でも、一体何だろうね?」
「さぁ……」

心底不思議そうなフェイトに対し、アルフは心底苛立っていた。

(まだジュエルシードも集めていないってのに、あの鬼婆、またフェイトに八つ当たりする気かい!?)

アルフはフェイトに悟られぬようにし、こみ上げる怒りを必死に抑えていた。

(だけど、またアイツがフェイトに酷い事しよってんなら……)

アタシがフェイトを守ってやるんだ。

ベジータがそうしたように……。

(ベジータはフェイトの為に体を張って守ったんだ、使い魔であるアタシがフェイトを守らなくてどうするんだい!)

アルフは決意を込め、拳を握り締める。

そして目の前で開かれる扉が開かれ、玉座の間が露わになる。

中心で佇むプレシアの背中を見て、フェイトは戸惑いながら話し掛ける。

「あ、あの……母さん、話しって……何かな?」
「……フェイト、ジュエルシードはどうしたの?」
「ご、ごめんなさい母さん、まだ……」

怯えながら返答するフェイト。

また、母からの折檻が待っているのか……しかし、震えながら返事を待つフェイトに返ってきた答えは……意外なものだった……。

「そう、……ベジータはどうしたの?」
「え?」
「ベジータはどうしたのかって聞いてるのよ」
「ベジータはその……管理局の人達に……」
「! そう……」
「母さん……?」

珍しく狼狽える母にフェイトは小首を傾げる。

「……何でもないわ、貴方達は引き続きジュエルシードを集めなさい」
「で、でも母さん……」
「行きなさい……」
「はい……」

プレシアの有無を言わさない物言いにフェイトは顔を俯き部屋を出ようとするが……。

「フェイト」
「な、何母さん?」
「………頑張りなさい」
「!?」

背中を見せながら初めて言われた言葉にフェイトはこの上無い笑顔を浮かべる。

「は、はい!!行こうアルフ!!」
「え?あ、ああ……」

意気揚々に部屋から出て行くフェイトにアルフは拍子抜けたように脱力しながらも後を追った。


















「どうして……あんな事を言ったのかしら」

誰もいなくなった玉座にプレシアただ一人佇みながら呟いた……。

「そもそも、私は何の為にあの子を呼んだのかしら……」

分からない。

幾ら考えても答えは見付からない……。

ただ……無性にあの子の顔が見たくなった。

「何故……?」

あの子はアリシアの写し見だから?

分からない……。

「……ベジータ、貴方の言葉、今の私には難しすぎるわ」

プレシアは以前ベジータに言われた言葉の意味を探しだそうとしているが…。

未だ、答えは見つからなかった…。












〜おまけ〜

「ふぅ」
「あら?ベジータ君?どうしたのかしら溜め息なんかついて」
「……リンディか」
「何か悩み事?」
「いや……何でもない、それよりも何を飲んでいるんだ?」
「ああ、これ?お茶よ、まだ手を付けてないから飲んでみる?」
「……頂こう」

ゴクッ

「ブッハァァッ!?」
「きゃっ!?」
「あ、甘っ!?何だこれは!?何をどうやったらお茶がこんなに甘くなるんだ!?」
「な、何って、ただミルクとお砂糖を入れただけよ?」
「き、ききき貴様は……」
「?」
「お茶を舐めとんのかぁぁぁっ!!」
「きゃああっ!?」
「そこに座れ!!貴様にお茶の何たるかを徹底的に教えてくれるわぁぁっ!!」
「ひぇぇぇ〜ん、ベジータ君怖いよ〜〜」

平和なアースラの一コマでした。











〜あとがき〜

あと二、三話書いたら移行しようかと思うトッポです。

おまけのリンディはギャグ使用ということで……。

ご指摘ご感想お待ちしています。



[5218] 王子様の計画違い
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:80914e30
Date: 2009/01/06 18:34
草木が生い茂る森の中、三人の少年少女がそこにいた。

「なのは!」
「うん!」

今、俺達はジュエルシードを集めの為に管理局の連中が探索して見つけた場所へ赴いている。

「くっ、コイツ!」

そこにいたのは鳥の原住生物を取り込んだのか、不死鳥をイメージさせる巨大な怪鳥が緑色の鎖に繋がれ暴れ回っていた。

「ふんっ」

溜め息混じりに鼻息を鳴らし、ベジータは怪鳥の眼前に浮かび……。

「大人しくしやがれ」

ドゴンッと強烈な右ストレートを怪鳥の眉間に叩き込んだ。

「クァァァッ!?」

怪鳥は断末魔の様な悲鳴をあげて地に伏してしまう。

「べ、ベジータ君……それは幾ら何でも……」
「大人しくしてやったんだ。とっとと回収しやがれ」
「もぅ……封印!」

渋々と引き下がったなのははレイジングハートを掲げて封印処理を始める。

「………クァァ」

怪鳥はレイジングハートから放たれた光の紐?に、包まれて元の姿へと戻っていった。

「なのは、お疲れ様」
「ユーノ君もお疲れ様、ベジータ君も」
「ふんっ 」

ベジータはなのは達へ視線を向けず相変わらずソッポを向いている。

『なのはちゃん、ユーノ君、ベジータ君、お疲れ様、今ゲートを開ね』
「「は〜い」」
「…………」

二人は元気よく返事を返すが、ベジータだけは腕を組んで考え込んでいた。

(あれから数日、未だフェイトとは鉢合わせする事はない……か)

恐らく居場所をバレないように隠れながらジュエルシードを回収しているに違いない。

(流石というべきか、それとも無謀というべきか)

いずれにしても早くフェイトと合流せねば……。

「ベジータ君?」
(だが、一体どういってフェイトを説得するべきか……)
「ねぇベジータ君」
(いや、きっと俺が幾ら説得した所でアイツが俺を憎む結果は変わらんな)
「ベジータ君ってば」
(だが、だからといって他の奴に任せておけるのか?)
「…………」
(ちぃっ、これじゃ堂々巡りも良いところだ)
「すぅ〜〜……」
(それとも最後の手段、プレシアとフェイトを守り、管理局を消すか?)
「すぅ〜……」
(いや、しか「ベジ〜〜〜タくぅぅ〜ん!!!」ほわぁぁぁ〜〜!?」

いきなり耳元で打ち付けられる大声に思考を強制的に遮断され、ベジータは情けない声をあげてしまった。

「き、きききき貴様ぁ!!いきなり何しやがる!?」
「だってベジータ君ってば何度も呼んでるのに無視するんだもん」
「だからといって限度ってもんがあるだろうが!」
「にゃはは〜〜♪サービス、サービス」
「何がサービスだクソッタレ」

埒があかないと判断したベジータはチッと舌打ちをしながら話を切り上げる………。

「!?」
「ベジータ君?どうしたの?」

いきなり顔を上げある方向へ目線を向けるベジータになのはとユーノは小首を傾げていた。

(この気……間違いない、フェイトだ)

結界が解かれた瞬間。やはりまだこの街にいたのか、中々感じ取れなかったフェイトの気が今、はっきりと感じた。

(アルフの奴もいやがるし、今ならフェイトの奴に会えるかもしれない……)

だがどうする?今こうして管理局の奴らは俺を見張ってやがる……迂闊な動きをすれば……仕方ない。

ベジータはこの時、一時己のプライドを投げ捨てた。

「おいユーノ」
「は、はい!?」
「転送の準備はどれくらい掛かりそうだ?」
「え?えっと……多分10分位かな……です」
「そうか……」

ベジータは自分が考え事をしている事を悟られぬよう平静を装う。

(……近いな、大体数十キロ、全力で行けば一分も掛からんな)

ベジータは考えをまとめてなのは達から離れていく。

「あれ?ベジータ君?どうしたの?」
「………」

呼び止められる声に足を止める。

「あ、あの……あまり勝手な事をされると困るんですけ「……だ」?」
「…………」
「え、えっと……」
「トイレだ!!」
「す、すみません!」

真っ赤になりながら叫ぶベジータにユーノは目を瞑り謝り、なのはは顔を真っ赤にして俯いている。

「じ、じゃあリンディさんには僕が言っておきますので……ごゆっくり」
「ふん!!」

回れ右で向こうへ向くなのはとユーノ、ベジータは林の茂みに入ると表情を変え、駆け出した。

「フェイト達は動いてはいない……間に合うか!?」

ベジータは更にスピードを上げ、林を暫く駆けた後、空を驚異的な速さで舞い上がった。














「ダメだよフェイト、やっぱりハズレだ」
「……うん」

遺跡が眠る湖畔、その一角にフェイトとアルフはいた。

「やっぱり、隠れながらジュエルシードを集めるには限界があるよ」
「うん、でも……もう少し頑張ろう」

フェイトは腕に巻かれた包帯を外し、空へと投げる。

「ベジータは……どうしてるんだろうね」
「…………」

アルフの一言に、フェイトの表情は暗く染まっていく。

「もぅ……会えないのかな」
「…………」
「あ、ご、ごめんフェイト、アタシ……」
「うぅん、私なら平気だよ」

フェイトはそう言っているが、相変わらず何処か無理をしている表情にアルフは己の無力を恨んだ。

「さぁ、早く行こう。母さんが待ってる」

フェイトはマントを翻し飛ぼうとするが…。

「漸く見つけたぜ」
「「!?」」

声が聞こえた方へ振り返ると、一本の気の枝に腕を組ながら佇むベジータが二人を見下ろしていた。

「「ベジータ!!」」

ベジータが下へ降りると同時にフェイトとアルフがベジータに駆け寄る。

「ベジータ、無事だったの!?」
「この俺があの程度の小僧に遅れをとるわけがないだろう」
「あはは♪やっぱりね、コイツがそう簡単に捕まる訳ないよ♪」
「そ、そうだよね、ベジータは強いもん」
「さて、ベジータと合流した所で、もう一踏ん張りしますか!」
「うん!」
「…………」
「ベジータ?」

途端に表情が曇るベジータにフェイトは小首を傾ける。

「……フェイト、もう……ジュエルシード集めは止めるんだ」
「…………え?」

フェイトは一瞬、ベジータに何を言われたのか理解出来なかった。

「フェイト、もうお前が耐える必要はない」
「え?……え?」
「ち、ちょっとベジータ、アンタ一体何を……」「管理局に、お前等の保護を頼んだ」
「「!?」」
「恐らく管理局の奴らがプレシアの居城を割り当てるのも時間の問題だろう」
「どう……して?」
「俺は……これ以上お前が傷付くのは耐えられん」
「…………」
「だからフェイト」

ベジータはフェイトの前に手を差し伸べ……。

「俺と来い」

差し出されたベジータの手にアルフはオロオロするだけ、フェイトは顔を俯かせている。

「今、ここにいるのは俺だけだ。他の奴らは俺の動きを読んではいないが感づかれるのも時間の問題だ……だから「あのね」?」

不意にフェイトから掛けられた言葉にベジータは首を傾げる。

「あのねベジータ、私、母さんに言われたんだ。頑張れって」
「! な………に?」
「初めてだったんだ、母さんにそんな事言われたの」
「………」
「だからね……私、母さんの願いを叶えてあげたいの……だから」
「!?」

驚愕し呆然となっているベジータに、フェイトはバルディッシュを突き付け……。

「邪魔をするなら……誰であろうと容赦はしない、それが喩えベジータ、……貴方でも」

フェイトの低く、それでいて強い決意を宿した眼差しにベジータは言葉を失ってしまう……。

「それじゃあ……【さようなら】ベジータ」
「! ま、待てフェイト!」

フェイトの言葉に我に返ったベジータ。

フェイトを呼び止めようと手を伸ばすが…。

「……さよなら」

フェイトは振り返らずに空を舞い彼方へと消えていった……。

「ご、ごめんねベジータ……」

アルフはフェイトの使い魔、故に主を優先とするが、自分達の為に自身を管理局に売った事で保護するように頼んだベジータに対し、心の底から謝罪の言葉を残してアルフもフェイトの下へと後を追った。













「フェイト……」

遺跡が沈む湖畔に一人佇むベジータは、フェイトに差し出した手を眺めていた。

「クソ!!何なんだこの様は!!」

本当なら掴んでいた筈の掌を握りしめ、堅い拳に変える。

「俺は……俺は一体何の為に……」

行き場の無い怒りに拳を震わせ……。

「ちくしょう………」

救えなかった己の非力にベジータは一人、打ちひしがれていた……。















〜おまけ〜

「ベジータ君遅いね〜」
「…………」
「そろそろ時間なのに何処に行っちゃったんだろ?」
「…………」
「……ユーノ君?」

返事がなく、プルプルと震えるユーノになのはは不思議に思い、顔をのぞき込むと……。

「は、初めて名前で呼んで貰った……」

感動で涙を流していたユーノになのはは一人コケるのだった……。








〜あとがき〜

今回の話で移行する事にしました。

トッポです。

今回ベジータ君、フェイトにふられる話でした。

……どうなるんだろう?(マテ

ご指摘ご感想お待ちしています。



[5218] 王子の決意 再び
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:ea3bd0c7
Date: 2009/01/13 22:03
フェイトとの決裂から数日、なのはとユーノは着実にジュエルシードを集めていた。

「…………」

管理局もジュエルシードの探索に全面に協力し、事態は少しずつ進んでいる。

「…………」

しかし、いつも賑わっている食堂では、まるで通夜が始まっているかと思わせるくらい静まり返っていた。
何故か……それは。

「…………」

拳を握りしめ負のオーラを撒き散らすベジータが食堂の中央に陣取っていたのが原因だった。

「あ、あの……ベジータ君?」

意を決したなのはがおずおずと声を掛けるが……。

「…………」

なのはの言葉は届くことなく、ベジータは考えに没頭していた。

(フェイト……)

あれから早数日、フェイトとアルフは相変わらずジュエルシードを集めにいっているようだ。

既に二つのジュエルシードを管理局の奴等から先回りをして回収しているとのこと……。

(相変わらず無謀というか何というか……)

だが、幾らフェイトが上手くいっているとしても、それは一時の凌ぎにしかならない。

だが、幾ら俺が頭を悩ましている所で事態は好転する訳ではない。

(クソッ!一体どうすればいい!?どうすれば!?)

ベジータは更に拳を握り締め、奥歯を軋ませる。

(俺のしてきた事は……無意味だったのか?)

フェイトはああ見えて頑固な部分がある。恐らくアルフが必死に抑止力となっているだろうが……それも時間の問題だ。

(このままではフェイトは……「あ、あの」?」

ふと、投げ掛けられた言葉に思考から浮かばせ、声のした方に目線を向けると。困惑と心配の表情のなのはがベジータの向かい側に座っていた。

「ベジータ君、どうかしたの?何だか元気無さそうに見えるけど……」
「……………」

本来ならここで鼻息の一つでも鳴らすものなのだが、ベジータからは何時もの覇気が嘘のように消え失せ、沈黙で返していた。

「何か悩んでいるなら……私でよければ話してくれないかな?」
「……………」
「……やっぱり、フェイトちゃんの事?」
「!?」

あまりにもアッサリ見破られ、ベジータは一瞬表情を険しくするが……すぐに元の表情に戻る。

(……我ながら、惨めなものだ)

フェイトに引き続き、こんな小さな女に気を使われるとは……。

(だが、俺一人グジグジ悩んでいても仕方ない、なら………)

と、ベジータは不本意と思いながらも、なのはに自身の悩みを打ち明ける。

「………アイツは、フェイトの奴は、一見大人しそうに見えて意外にも頑固でな、中々此方の話を聞こうとはしない」
「…………」
「今はアルフの奴がフェイトを支えているだろうが、………それも正直時間の問題だ」
「…………」

なのはは黙ってベジータの言葉を聞き入れる。

「このままでは……アイツは一人になってしまう」
「………ねぇベジータ君」
「?」
「なのはのお話……聞いてくれる?」


唐突に掛けられたなのはの言葉にベジータは疑問に思いつつも話を聞く姿勢になる。

「うんとね、私のお父さん。高町士郎は喫茶店を始める前、あるお仕事で事故にあって大怪我をしたんだ」
「………なに?」
「まだ、人気が無いお店だったからお母さんとお兄ちゃんはお店の切り盛りに追われて、お姉ちゃんはお父さんの看病。………だから私、割と最近まで部屋でいる事が多かったんだ」
「…………」

なのはの過去の話に、今度はベジータが黙って聞き入れる。

「ねぇベジータ君」
「………何だ?」
「一人ぼっちの子にしてあげるのは大丈夫って優しい言葉を掛けるのも、心配することじゃないと思うんだ」
「………では、いったい何だ?」
「それは………」


















次元の狭間に佇む時の庭園。

広々とした居城の一室、並べられた書物の部屋でプレシア・テスタロッサはあるものを探していた。

「確か……ここら辺に……あった」

並べられた本棚から一冊の本を取り出し、埃を払いながら机に腰を掛ける。

「………アリシア」

本に載せられているのは今は亡き娘、アリシア・テスタロッサの笑顔の写真が飾られていた。

「そして……こっちが」

頁を捲り、また同じ顔の少女の笑顔が飾られていた。

「……やっぱり、何度見ても似てないわね」

同じ顔で笑う二人の少女、しかし満面の笑顔で笑う少女に対して、片方はぎこちなく、戸惑いの色が強かった。

満面の笑顔で笑うのはプレシアの実子、アリシア。
そしてぎこちなく戸惑いの笑顔をしているのはアリシアの記憶と容姿を似せただけの別人、フェイトだった。

「フェイト……」

以前まではこの写真が目に入る度、憎しみと怒りが込み上げてきた。

「だけど……」

何故だか……今はとても心地良い。

「私は……あの子の母親」

あの子は、フェイトは私を心から慕ってくれている

アルハザードへの道が拓かれたら捨てようと考えていたこの私を……。

「ベジータ、貴方の言いたいこと、何となく分かってきた気がするわ」

でも……。

「貴方は……とても残酷な言い回しをするのね」

ベジータの答えの意味、それはフェイトとアリシア、どちらか片方を選べと同じ意味だとプレシアは感じていた。

「フェイト……アリシア」

誰一人いない部屋で、プレシアは一人、決断の時を迫られていた。

















曇り空が海鳴市を覆う中、海上では金色の巨大魔法陣が展開されていた。

「フェイト……」

魔法陣から少し離れた場所で、狼形態のアルフが自分の主がいる場所を心配そうに見つめる。

(海の中にある残り六つのジュエルシードに魔力を打ち込み強制発動。ここまではいいけど)

そこから先の封印処理は……ハッキリ言って絶望的だ。

(幾らフェイトの魔力が凄くても、一人で出来る範囲を完全に越えている!)

唯でさえここ最近、フェイトは異様に張り切り、禄に休んではいない。

(このままじゃ、魔力を打ち込んだ瞬間にフェイトの体力が尽きちまうよ!)
「アルタス・クルタス・エイギアス……」

そんなアルフの心配を余所に、フェイトは魔法発動の呪文を唱え始めている。

(ベジータ……)

本当なら隣で腕を組み不動の構えで佇むベジータも……今はいない。

(ベジータ……アンタなら、上手くフェイトを抑えてくれたんだろうね)

アルフはそこで考えを切り替え、ブンブンと首を振る。

(何を弱気になってんだいアタシ!ベジータはベジータ、アタシはアタシだろ!)

アタシはアタシのやり方でフェイトを守るんだ。

だからベジータ……

(アンタの力……少しだけでいいからアタシにも貸してよ……)

新たに決意を固めるアルフに対し。

「サンダー……フォォォル!!」

雷鳴が、海鳴の街に鳴り響いた。




















ヴィー!!ヴィー!!

「きゃっ!?」
「なにが起きた?」

突如鳴り響く緊急事態を知らせるアラームに二人は同時に席から立ち上がる。

「はぁっはぁっ……なのは!!」

その時、余程慌てていたのか肩で息をするユーノが食堂に雪崩れ込むように入ってきた。

「ゆ、ユーノ君?どうしたの?」
「はぁっはぁっ……い、今海の方で強大な魔力反応があったんだ!!」
「「!?」」

ユーノの言葉に、二人の間に戦慄が走った。

「そ、それって……」
「うん……多分、例の」
「………チッ!」

軽く舌打ちし、ベジータは食堂出入り口の扉に向かう。

「ベジータ君!!」

なのはの呼び止めに脚を止め……。

「なのは」
「な、何?」
「……借りが出来たな………礼を言う」
「ふぇ?」

最後の方が聞き取れず、聞き返そうとするなのはだが、その前にベジータは早々に食堂から出て行き、アラームの音だけが鳴り響いていた。














「……つくづく、甘くなったものだな、俺も」

だが……。

「一人ぼっち……か」

孤独、か……昔の俺には縁の無い話だ。

だが、だからこそ……。

「フェイトに……アイツにはそんな思いはさせんさ」

ベジータは、最初の時とは打って変わっていつもの……大胆極まりない不敵な笑みを浮かべ、ブリッジに向かい駆けだしていた。















〜あとがき〜

トッポです。

更新が遅れて申し訳ありません!!

次回はもう少し早くするよう心掛けます。



[5218] 王子の海上決戦
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:c4aae752
Date: 2009/01/16 07:00


フェイトが海面に向けて放った巨大な雷にジュエルシードが反応し、海中から光が発せられたと同時に六つの竜巻が巻き起こり、強烈な突風が吹き荒れる。

「はぁっはぁっはぁっ………」

杖を両手に持ち替え、必死に体を支えるフェイト。

「見つけた……残り六つ!」

今ので限界近く体力が奪われたにも関わらず、フェイトは眼前にそびえる竜巻からの突風に屈する事なく、前を見据えていた。

















「……全く呆れた無茶をする子達だわ!」

アースラの艦長、リンディ・ハラオウンは呆れ気味の口調で、それでいて心配そうに画面に映るフェイトとアルフを見詰めた。

「無謀ですね、間違いなく自滅する」

オペレーターの側で待機しているクロノは、悪びれる様子もなく、フェイトの末路を淡々と述べる。

オペレーターのエイミィも別室で見守る中、ブリッジの扉が開く。

「おい、俺も出るぞ、転送の準備をしろ」
「あ、ベジータ君」

ズカズカとブリッジに入り転送装置に向かうベジータに。

「その必要はない」
「何?」

クロノがベジータを呼び止める。

「………どういう意味だ?」
「あれだけの魔力を打ち込んだんだ、放って置いても直に自滅する」
「!」
「そこでジュエルシード諸共、彼女を捕獲すればいい」
「!?」

クロノの発した言葉に、ベジータは目を見開いた。

「ベジータ君!!」

その時またもやブリッジの扉が開かれ、入ってきたのはなのはと……。

「…ゼェッ……ゼェッ………」

息も絶え絶えのユーノが入ってきた。

「あ、あの……私も」
「君までそんな事を言うのか」
「………え?」

溜息混じりのクロノになのはは呆然と聞き返す。

「放って置いても自滅する、喩え自滅しなくても力尽きた所で叩けばいい」
「そんな………」

あまりにも非情なクロノの言葉になのはただ、言葉を失った。

「……………」

画面に映る必死に戦うフェイト、しかしジュエルシードの凄まじいまでの力に跳ね飛ばされ、海面スレスレに迄弾き飛ばされる。

「フェイトちゃん!!」

その様子になのはは声を張り上げ、リンディへ視線を向ける。

「私達は常に最善の手段を取るしかないのよ、辛いけど……これが現実よ」
「だけど……」

リンディも険しい表情で画面を見上げ、なのはには視線を向けずにいた。

「…………」
「あ、おい!何処へ行く気だ!」
「ベジータ君?」

何も言わぬまま転送装置に向かおうとしているベジータにクロノが呼び止めなのははやはり呆然としている。

「決まっているだろう、フェイトの所へ向かう、ユーノ、貴様ならあそこに跳ばせるだろう?」
「はぁっ……はぁっ……そりゃ……はぁっはぁっ………ぐっ……出来ます……けど……なんなら……はぁっ……彼女達の真ん前……はぁっ……はぁっ……に、……ゼェッ……送りましょうか?」

ヤケクソ気味に言い放つユーノにベジータは口端を吊り上げる。

「上等だ、すぐに準備をしろ」
「おい!!」
「?」

傍若無人極まりないベジータの行動に、クロノは食ってかかる。

「勝手な行動は控えて貰おうか、君は我々に従うというのが条件でこの艦での身柄を自由にしているんだ」
「…………」
「君のような輩が勝手に動かれると……「黙れ」!?」
「俺に指図するんじゃない」

ベジータのこれまでとは比較にならない程の殺気にクロノはその先からは言えなかった。

冗談や八つ当たり等ではない本気の殺気、隣にいるなのはには向けずにいたのでただベジータが怒っていると思っているが、なのはは何故そこまで怒るのか理解出来ずにいた。

(何て殺気を撒き散らすのよこの子は!?)

小さな体からは似合わな過ぎて、それでいて途轍もない殺気に、リンディは尻餅が着かないように堪えるだけで精一杯だった。

(最初からただ者じゃないとは思ったけど……こんなのって……!)

背後では男性局員は真っ青に震え、女性局員は失神しているものも何人かいる。この膠着が数秒続いた後、執務官の意地で正気を保っていたクロノが喰って掛かる。

「き、君は自分が何を言っているのか理解出来ているのか!?これは契約違反……「ふざけるなよ」!?」
「先に貴様等が契約違反をしたんだ、フェイトの捕獲?俺は保護を頼んだ筈だが?」
「だ、だが、それは……」

言い淀むクロノに更に追い打ちを掛ける。

「それとも何だ?貴様等はたった一人の小娘と使い魔も満足に保護出来んのか?」
「!?」
「だったらこの契約、此方から解消して貰う。時空管理局と大層な名前をしても所詮その程度、……手を組む相手を間違えたか」
「なっ!?」

溜息と共に吐き捨てるベジータの言葉にクロノの顔は憤怒の表情に変わる。

「言わせておけば……!!」
「止めなさいクロノ!」
「母さ……艦長!?」
「彼の言うことも尤もだわ、……ベジータ君、貴方には彼女の保護を頼みます」
「ふん、言われなくともそのつもりだ」

仲介に入ったリンディにベジータは殺気を消し、振り返って転送装置の中心に立つ。

「あ、あの、私も行きます!!」
「な!?」

挙手をするなのはにクロノは目を開けて驚きの声を上げる。

「私もベジータ君のお手伝いを……フェイトちゃんを助けたいんです!!」
「だ、ダメだ!許可出来るわけないだろう!!」
「………高町」
「な、何?ベジータ君?」
「……足手まといにはなるなよ」
「! うん!」

声を掛けられ戸惑うなのはに、意外にもベジータが不敵な笑みを浮かべてなのはの同行を許可した。

その事に一瞬なのはは戸惑ったが、すぐさま笑みを浮かべて元気よく返事を返す。

「………分かりました。貴方方の行動を許可します」
「貴様の言い方には引っかかるが……まぁいい、行くぞ高町!ユーノ!」
「はい!」
「うぇっ!?僕も!?」

笑顔で頷くなのはに対し、ユーノは若干渋るが。

「………何か言ったか?」
「イイエ、ナンデモアリマセン!!」

とても良い笑顔で聞き返すベジータにユーノはすぐさま転送の魔法陣を展開する。

「リンディさん、クロノ君、皆さん、ごめんなさい!!」
「あの子達の結界内に……転送!!」

なのはの謝罪の言葉を最後に、三人は光の粒子になり、消えていった……。

それを見届けたリンディは座席に力なく崩れ落ちるように座り。

「……とんでもない子を……拾っちゃったわね……」

改めてベジータの底知れない力に、恐怖を覚えたのだった……。
























「はぁっ……はぁっ……」

最早何度弾き跳ばされたかは数えてはいない、既に体力は限界を超え、両手に持つバルディッシュから放たれる魔力の刃も光を失い、体を支えるだけで精一杯。

(それでも……やらなきゃ!!)

満身創痍の体に鞭を打ち、竜巻となっているジュエルシードに再び向かおうとした時だった。

「べ、ベジータ!?」

突如フェイトの前に戦闘服を着たベジータが現れ、思わず踏みとどまってしまう。

「何だフェイト、随分苦戦しているようじゃないか?」
「……何をしにきたの?」

挑発的なベジータの言葉にフェイトはバルディッシュを構え威嚇する。

「ベジータ君!」

上から聞き覚えのある声に振り向くと、例の白い魔導師、高町なのはがベジータに追いつき隣に並ぶ。

「フェイトの邪魔はさせないよ!!」

フェイトを守ろうと、鋭い牙を立て噛みつこうとするが。

「待って!僕達は戦いに来たんじゃないんだ!」
「ユーノ君!」

なのはとの間に入り緑色の魔法陣を展開し、それを防ぐ。

「何?そりゃ一体……ってベジータ!?」
「よう」

漸くベジータが居る事に気づいたアルフが目を見開き驚きの声を上げる。

「さて、言いたい事はそれぞれあると思うが……」

そう言いながらベジータはそびえ立つ六つの巨大な竜巻に目を向け……。

「まずは……あれを片付けてからだ」

ニヤリと口を歪めるのだった。

「フェイトちゃん!」
「!」

いきなり隣に並んできたなのはに身構えるフェイト。

「レイジングハート、お願い!!」
[All right]

なのはが己のデバイスに懇願すると、呼応するかのように点滅し、赤い宝玉から桜色の一筋の光が放たれ。

[Recovery]

フェイトのバルディッシュの黄色い宝玉部分に吸い込まれると、再び輝かしい魔力の刃が宿る。

「バルディッシュ?」

自分の相棒をとなのはを見ると、なのははウインクを返し微笑むだけだった。

「よし、なら始めるか!」

フェイトとなのはの様子を見て安心したベジータはそれぞれに指示をだす。

「アルフ!ユーノ!お前等はこの結界を極限まで固め、出来れば広くしろ!」
「えぇ!何でさ!?」
「理由は後で話す、フェイト!なのは!」
「「は、はい!?」」
「お前達はジュエルシードが炉閣した後に封印作業に入れ!」
「え?そ、それじゃあ……」
「ベジータ君は?」
「俺は……あの喧しい竜巻と雷を黙らせる」
「「「「へ?」」」」

ベジータの発言になのはとユーノ、フェイトとアルフが頭に?を付け首を傾げている。

「ほら、分かったらとっとと散りやがれ、消し飛ばされたくなかったらな」

ベジータの笑い顔に悪寒を感じたなのは達は黙ってその場から離れ始める。

「さて、全員持ち場に着いたな……さて」

ベジータは四人がそれぞれの位置に着いた事を確認したあと再び向き直り。

「……石ころ風情が、調子に乗るなよ」

勢いを増していく竜巻達に睨み付ける………。

「消し飛びやがれ」

手を重ね、体を捻り。

「ギャリック……」

紅と紫の混じった光が集約され………。

「砲ーーーー!!!!」

十字に交差した掌から、巨大な赤紫の閃光が放たれ……。







六つの竜巻を呑み込み。








衝撃と轟音が……。








轟いた。





















「「「「………………」」」」

四人は、目の前の光景に唖然としていた。

ベジータが放った閃光は支援型の二人が張った強度の高い結界を撃ち抜き、更には雲までも貫き、竜巻はものの見事に消し飛んだ。

「何をボーっとしてやがる、さっさと封印しやがれ」
「あ、う、うん」
「わ、分かった」

ベジータに言われ我に返った二人は空中に佇むジュエルシードに視線を落とし、互いに目線を向ける。

「半分こ……で、良いよね?」
「…………」

オズオズと聞き返すなのはにフェイトは黙って頷き。

「「封印!!」」

遂に全てのジュエルシードを封印したのだった。















「……ベジータ」

ジュエルシードを回収後、フェイトは鋭い視線をぶつける。

「ふ、フェイト……」

アルフはそんな二人にオロオロとして。

「……行け」
「!」

意外な言葉にフェイトは目を見開くのだった。

「ベジータ君……」
「…………」

フェイトは振り返りマントを翻しその場から立ち去ろうとするが。

「フェイト!」
「?」
「……体、大事にしろよ」
「!? …………っ」

一瞬肩を震わせるが、そのままアルフを連れて姿を消していった。

「ベジータ君……」

ただ、なのはの呟きはさざ波にかき消されて……。














〜おまけ〜

「…………」
「ね、ねぇ、フェイト」

帰った後、顔くフェイトにアルフは話しかけるが、何の反応もなく、途方に暮れていた。

(何だろう……これ……胸の奥のモヤモヤが……取れない)

ベジータの隣に、あの真っ白の子が一緒に居るのを見てからずっと……この感覚が拭えない。

(一体これは……何?)

初めて覚えた感覚に、フェイトは一人、戸惑っていた。









〜あとがき〜

トッポです。
今回初めてベジータが気弾を放ちました!

これを見て、管理局はベジータを一体どうみるのか、期待してくれれば幸いです。



[5218] 王子の考えと大魔導師の悲しみ。
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:02576504
Date: 2009/01/18 19:45


「何なんだ……あれは?」

静寂に包まれたブリッジでクロノの呟きが響いた。

「ジュエルシードの暴走を……力でねじ伏せただと?」

有り得ない。

暴走しているジュエルシードに下手に衝撃を入れると次元震が起きるのは先日で実証されている。

(それなのに……彼は……更に馬鹿でかい衝撃と閃光を放ち、ジュエルシードを黙らせた)

しかも六つのジュエルシードの暴走を……。

しかも、彼が放った閃光からは魔力の反応が一切無かった。

そこから導き出される答えはただ一つ。

(質量……兵器)

その考えが頭に過ぎった瞬間、クロノは背筋から大量に嫌な汗が流れた。

(彼は本当に……人間なのか?)

きっとこの中にも自分と同じ考えた局員は何人かいる筈だ。

(だが……そんな芸当、出来るはずがない、出来る訳がない!!)

出来てたまるか!!

「クロノ執務官」
「は、はい!」

リンディの言葉に我に戻ったクロノは頭を振り振り返る。

「直ぐに三人の転送の準備を……そして」

リンディは震える手を抑えて……。

「彼の……ベジータ君のお話を……聞かせて貰えないかしら」

クロノと同じ考えをしていたのか青ざめた表情のリンディが見て取れた。



















その頃、時の庭園ではプレシアが相変わらずアリシアとフェイトの様子を見比べる為、アルバムを漁っていた。

「……やっぱり……そうなのね」

もう何度か分からない溜め息を吐きながらも、プレシアはアルバムの頁を捲る。

その時のプレシアの表情は以前の狂気は消え失せ、穏やかな……優しい顔をしていた。

「……似ているけど違う。代わりなんていやしない、……こんな事を気付くのにこんなにも時間が掛かるなんて思いもしなかった……」

いいや、正確には違う。

本当は気付いていた。

アリシアの代わりなんてどこにもいやしない。

ただ、気付きたくなかっただけ。私の我が侭でアリシアを……そしてあの子を傷付けた。

でも、私に真実を教えてくれたアイツのお陰で……前に進む事が出来た。

「フフ、全く……大した度胸の持ち主だったわね。この大魔導師に真っ正面からあんな事を言い放つ子供がいただなんて」

プレシアは照れ臭そうに思い出し、微笑む。

「……アリシアの、命の代わりは……ない」

でもそれはあの子にも……フェイトにも言えること。

「………やり直せる事は……出来るのかしら」

正直言って……その事を考えると……怖い。

あの子は……フェイトは私に怯えている。

もしあの子が私を見て拒絶されたら……怖い。

だけど……それでも。

「本当の自分を……始めるためには」

今までの自分を……終わらせよう。

ゆっくりでいい、少しずつでいい。

もう一度初めから……やり直したい。

「また……あの丘の上で、花冠を作りたい」

今度はアリシアとしてではなく、私の娘……フェイトと一緒に。

「その時は……ベジータの奴も呼んでやりましょうか」

丘の上で戯れるアルフとフェイト、それを見守るアイツと私。

………中々面白そうな場面ね。

「……ごめんなさいアリシア、こんな勝手な母親で……」

きっと私は……地獄に堕ちるわね。

でも……それでも私は……。

「明日が……欲しい」

罪はきっと裁かれる。

でもそれは……願わくば先送りにしたい。

フェイトが幸せを掴む……その日まで。

あの子の母親として……見守ってあげたいから。

プレシアは顔を上げ、優しく笑う。

そこには、慈愛に満ちた母親の表情が含まれていた。

「帰ってきたら……何て喋ろう」

何を語ろう、何をしよう。

戸惑うことばかりだけど……それでもいい。

前に進む事に……決めたのだから。

「……と、取り敢えずベジータの事で話をしないと、そして管理局に事情の説明と……」

やる事が盛り沢山である事に気付いたプレシアは一歩前に足を進めた……その時だった。








「ゲホッゲホッ……ガハッ……ゲホッ」

突如体に衝撃が走ったと思った瞬間、襲い掛かる病魔にプレシアは膝を折り、地面に伏せる。

「ゲホッゲホッ……はぁっはぁっ……」

漸く治まってきた咳に目を開けると。

自分の手から地面にかけて……夥しい血がプレシアを染め上げていた。

「ああ……そうだった、忘れていたわ」

プレシアは自分で作った血の池に顔を映し皮肉に口を歪めていた。

「私には最初から……時間が無かったんだ」

皮肉ね……漸く間違いに気付いた時が、自分が死ぬ時だっただなんて……。

でも……だからって。



「こんなの……あんまりじゃない」



プレシアは、悲痛に顔を歪め。



「う……うぐ……ヒック……えぐ……」





漸く見えた希望が……絶望に染め上げられ……。





「ウァアアァァアアアアァァアアア!!!!」




プレシアの……悲鳴とも取れるその叫びは…。




誰にも聞こえる事なく……。




ただ虚しく……。




響いていた。















「いい加減にしろ!」

ダンッと机を叩いて声を張り上げるクロノに対し、向かい側に座るベジータは……。

「……はぁ」

心底鬱陶しいと言わんばかりに溜め息を洩らした。

帰ってきたベジータを待っていたのはクロノによる尋問紛いの追求だった。

なのは達は別室にて待機させ、ベジータは連れてこられた部屋でかれこれ一時間以上クロノとこうして【お話】をしていたのだった。

「大体さっきから気だの何だの訳の分からない事を……」
「だから何度も言っているだろう、気というのは誰にでもある力、生命エネルギーと言った方が分かり易いか?それを練り上げ戦闘力を高める事が出来る代物だ」
「それはいい、それは分かった。だがあの巨大な光はなんだ!?魔導師でもない君が何だってあんな事が……」
「はぁっ……」

疲れたと言うようにまた溜め息を吐くベジータ。

しかし、それでも収まらないクロノの追求にベジータは最早半分聞き流していた。

「おい、聞いて「クロノ」艦長……」

唐突に開いた扉に目線を向けると、少し疲れた表情のリンディが入室してきた。

「漸く少しは話の分かる奴が来たか」
「貴様……」
「止めなさいクロノ執務官」
「……はい」

ベジータの態度に気に入らないクロノが睨み付けるが、リンディが制する事により渋々退ける。

「クロノ、ここからは私が彼から話を聞きます、貴方はブリッジで待機していて下さい」
「……了解です」

クロノはリンディの指示に従い部屋から退出する。

そして部屋に沈黙が流れるとリンディが溜め息を吐きながら席に座りベジータと対峙する。

「まったく、あの子は生真面目なんだから、あまり刺激しないで頂戴」
「それは無理だな、アイツが俺に噛みつく度に俺は俺なりに対処するしかない」
「それでも、手加減ってものがあるでしょ」
「手加減って何だ?」

ベジータの返しに、リンディは苦笑いを浮かべるしかなかった。

「それより……何か分かったか?」
「ええ、少し時間は掛かったけど……大分彼女の……プレシア・テスタロッサの事が分かってきたわ」

ベジータの真剣な眼差しにリンディも表情を引き締め応え始める。

「プレシア・テスタロッサ。ミッドチルダではかなり有名な大魔導師だった人物よ」
「…………」
「次元航空の実験に違法素材を使用し、中規模次元断層が発生、それが原因で地方へ移され何年かしたのち行方不明となる……」

リンディは手元にある書類を淡々と読み上げベジータに説明する。

「……そうか、大体の事情は理解した、礼を言う」

明らかに礼を言っている態度ではないが、内心そう思いながらも苦笑いしつつリンディは口には出さなかった。

「それで、貴方はどうするの?」
「何がだ?」
「フェイトさんを保護しないで、そのままだったから……」
「確かにあの時は力づくでフェイトと捕まえる事が出来た。……だが、そんな事をすればフェイトは素直に此方には従わないし……何より」
「?」
「貴様等と同類と思われるのはごめんだからな」
「……耳が痛いわね、でもどうするの?このままでは……」
「それには考えがある」
「……?」

ベジータの考えとやらにリンディは小首を傾け頭に?を付ける。

「だが……尤もそれは」

言いよどむベジータの表情は、どこか悔しそうに見えた。

「貴様等とあまり人の事が言えない手段だがな」
「ベジータ君、ちょっといいかな……って、あれ?」

再び扉が開くとなのはが元気よく入ってくるが部屋に立ち込める雰囲気に目を丸くする。

「……お邪魔でした?」

恐る恐る聞いてくるなのはにリンディはため息を吐くが……。

「いや、寧ろ丁度良かった」

ベジータの不敵な笑みに、なのははどこか冷や汗を流したのだった。



















「はぁっはぁっ……」

漸く治まった病魔にプレシアは壁に寄りかかり休んでいた。

「もう……私に残された時間は……あと僅かしかない」

これは……きっと神様が私に与えた罰。

自分を慕い、身を削る思いをしてまで私に応えてくれたあの子に……酷い仕打ちをした私に対しての……罰。

それは……もういいわ。

受け入れるしかないし、受け入れる覚悟は出来た。

でも……一つだけ心残りがある。

「フェイト……」

もし自惚れでないのなら、私の身勝手な妄想でないのなら。

朽ちゆく私を見て……きっと心を痛めてしまうかも知れない。

あの子は優しいから……きっと自分を責めるに違いない……。

「だから……あの子は、私と一緒にいるべきじゃない」

こんな私に、縛られてはいけない。

あの子には……笑っていて欲しいから。

あの子には……私とアリシアの分まで……幸せになって欲しいから。

「だから……」

終わらせよう。

私は……あの子の鎖になってはいけない。

「……ごめんねフェイト、こんな勝手な母さんで……ごめんね」

プレシアは、玉座の間の中心で一人、心から愛おしく想うもう一人の愛娘に対し心からの謝罪と、心からの涙を……。










流し続けていた。












〜おまけ〜

「ベジータ……」
「? どうしたのアルフ?」
「う、ううん、何でもないよ」
「そ、そう?」
「そ、そうだよ!」

部屋で少し休息していた二人だが、この間から微妙な空気が流れ始めていた。

(な、何なんだい?これは?ベジータの……アイツの事を考えると……胸が苦しい)

アルフはフェイトに見えないように胸を抑え表情を歪める。

(ど、どうしちゃったんだろうアタシ)

これまで感じたことのない感覚に、アルフは一人、悩み続けていた。












〜あとがき〜

トッポです。

無印編も後わずかになりました!!

この調子で頑張りますのでどうか生暖かい目で見守ってください!!

PS.
おまけの方はできるだけ流して下さい。
何故か衝動的に書いてしまったものですので(汗



[5218] 王子と魔導師達の決意
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:5b779123
Date: 2009/01/19 23:46


ジュエルシードを回収後、リンディの計らいで地球へ戻ってきたなのはとフェレットモードのユーノ……そして。

「ふぅ、漸くあの喧しい小僧から解放されたぜ」
「……はぁっ」


背筋を伸ばし解放感を味わうベジータと、憔悴しきったリンディだった。

リンディの計らいで地球へ一度戻り、なのはの家族へ報告へとやって来たのだが……。

『俺も行くぞ』

と、ベジータも同行を求めてきたのだ。

それには当然クロノは大反対した。

しかし、揺るがないベジータの意志に先にリンディが折れ、自分が監視をするのを条件に同行を許した。

「……ところでベジータ君」
「? 何だ?」
「貴方が言っていた考え、いい加減話してくれないかしら?」

表情を真剣にし、問い掛けるリンディ、対するベジータも引き締め応える。

「そうだな、だが、その為には……」
「おぉ〜いベジータ君、リンディさ〜ん!早く早く〜!」

遮られた声に目線を移すと、先に前を歩いていたなのはが元気よく手を振っていた。

「……取り敢えず、なのはさん達のご家族へご挨拶してからね」
「……そうだな」

苦笑いを浮かべるリンディと、やれやれと溜め息を吐くベジータ。

そんな二人は肩を並べて先に待つなのはの所へ歩いていったのだった。
















「……っとまあ、そ〜んな感じの十日間でしたのよ〜」
「あらまぁ、そうなんですか」

間延びした感じの喋り方をするリンディとなのはの母親、高町桃子は意気投合しているかのように語り合っている。

「…………」

その様子を横目で内心苦笑いを浮かべるなのはとユーノ。

対するベジータは…。

「ほぅ、このコーヒー、いい豆使ってるじゃねぇか。旨みが違う」
「お!分かるかい?実はいい豆が最近手に入れてさ……良かったら幾らかあげよっか?」
「いいのか?」
「他ならぬベジータ君の為だ、これ位構わないさ」
「礼を言うぞ同士士郎」
「なぁに、礼はいらんさ」

いつの間に仲良くなったのか、二人はまるで十年来の友のように親しげだった。

(な、何故だろう……何だか初めて会った気がしない……)
「? どうしたの恭ちゃん?」
「あ、いや……何でもない」

高町家の長男。高町恭也はベジータに対し、どこか不思議に思いながらも話に混ざっていった。

余談ではあるがその夜、恭也は全身緑色のタラコ唇の戦士とモヒカン頭の人造人間になるという奇妙な夢を見るのだった。











そして、なのはは一時自宅に戻り二日程休む事になった。

「私はこれからアースラに戻るけど……貴方はどうするの?」
「……俺は少しその辺りをフラフラしてくる」

なのはと別れた後街道を歩くリンディとベジータ。

「大丈夫なの?」
「フン、たかが二、三日野宿したくらいでどうにかなる程俺はやわじゃない」
「そうじゃないの」
「?」
「ベジータ君、貴方……何か思い詰めてない?」
「…………」
「やっぱり、フェイトさんの事?」
「…………」

リンディの質問に沈黙で返すベジータ。

その肯定とも取れる沈黙にリンディはやれやれと思いつつため息を吐く。

「いいわ、行きなさいな」
「! いいのか?貴様は曲なりにも管理局の人間だろ?」
「ええ……でも、私では貴方を止めるのは無理だし、下手に刺激を与えて被害を広げるわけにもいかないし……ね、私には信じるしかないわ」
「……ふん、上手く言い逃れやがったな」
「これしか貴方に勝てそうなものが見当たらないからね」

ベジータの皮肉にも皮肉で返し、ベジータは不敵に、リンディは内心冷や汗を流しながら口端を吊り上げていた。

「……礼などしないぞ」
「遠慮するわ、貴方からお礼されると何だか怖いから」
「フン、言ってろ」

それを最後にベジータは踵を返し、その場から立ち去っていく。

それをリンディはどこか哀愁漂うベジータの背中に……少しばかり見取れていた。


















「………やはり、いないか」

片手に袋を持ってベジータがやってきたのは遠見市の、以前までここで三人で過ごしたマンションの一室だった。

鍵の掛かっていない部屋に不用心だなと思いつつ中に入っていく。

「……思ったとおり、禄に飯を食べていなかったらしいな」

辺りを見渡してテーブルに置かれているコンビニのオニギリ。

粗末な食事にベジータはやり切れない思いで奥歯を噛み締める。

「どうやら、コイツを持ってきたのは正解だったらしいな」

ベジータは袋の中身を見ながら呟き、台所に立つ。

「ここに立つのも久しぶりだな……さて、恐らく二人はまだ帰ってきてはいないみたいだし、とっとと終わらせるか」

ベジータは袖を捲り袋の中から材料取り出す。

「今の俺に出来るのは……この程度くらいだ」

辺りに気の探索を掛けながらベジータは黙々と調理を続けた。








やがて調理は終わり、コトコト煮える鍋の中を確認したあとコンロの火を消す。

「さて……後は」

再び袋を漁り、取り出したのは紙と鉛筆、ベジータは相変わらず慣れない手付きで書き置きを残し。

「……こんなものでいいか」

これでいいだろ。と、出来の良さに納得し鉛筆を置いた。

「………じゃあな」

少し名残惜しそうに目を細めて、これまでの暮らしを懐かしみ、後ろ髪を引かれる思いで……別れを告げた。


















「あ、あれ?これって……」

部屋に戻ってきたフェイトとアルフに待っていたのは、片付けられた部屋と香ばしい匂いだった。

「この匂い……カレー?」

鼻をヒクヒクと動かし、耳をピンと伸ばしながら匂いの出所を当てた。

「一体……誰が」

台所にある鍋を覗きながらフェイトの問いにアルフはすぐさま答えをだした。

「そんなの……決まっているじゃないか」
「ベジータ……」

鍋からの温かさからみて恐らくできたてなのだろう。

ついさっきまでこの場にいたベジータの事を考えながらフェイトは辺りを見渡し……。

「……これって」
「置き手紙……?」

テーブルの上に置かれた手紙にフェイトが手に取り、アルフが覗き込む。

『フェイトとアルフへ……。お前等最近まともな物を食ってないだろ!フェイトは禄に食べないのだから栄養のあるものを食べやがれ!そしてアルフ!!貴様は何度同じ事を言わせれば気が済むんだ!!野菜を食えというに!!……というわけで鍋にあるカレーは野菜を多めに入れて置いたから必ず食べるように!!』

「「………………」」

手紙に書かれた内容に、言葉を失っていた。

「えっと……」
「相変わらずというか……なんというか」

互いに顔を見合わせ苦笑いをする二人だが、最後の文章に表情が強らばせる。

『PS.二日後の明朝5時に、海鳴の公園にて待つ。……ベジータより』
「フェイト、これって」
「うん、多分……これは」

きっと、次に会った時に決着を付けるつもりだ。

フェイトは手紙に書かれた意図に気付き、強く拳を握り締める。

「じゃあこれって……」

アルフは鍋を指差しベジータの真意に感づき始める。

「きっと……ベジータなりにフェアな勝負にしたいんだと……そう思ってるんじゃないかな?」
「そっか……」

フェイトの代弁にアルフは穏やかな表情になり手紙を見下ろす。

「それじゃあ……フェイト」
「うん、食べよう」

ベジータが久しぶりに作ったカレーをフェイトにしては珍しく完食し、アルフも文句を言いながらも綺麗に食べ尽くした。

(ありがとうベジータ……でも、負けないから)

十分な休息を得たフェイトはベジータに感謝しつつも……。

(それと、本文とPS……逆だと思うよ)

手紙に書かれた文に突っ込みを入れて、アルフとともに眠りについたのだった。
















そして二日後の明朝、まだ薄暗い住宅街、高町邸から決意の表情に固めたなのはの前に……。

「ベジータ君……」
「よう、その分だと……覚悟はできたみたいだな」
「………」

ベジータの問いになのはは静かに、それでいて力強く頷く。

「そうか……なぁ高町」
「? なに?」
「フェイトは……強いぞ」
「うん、……知ってるよ」
「そうか……高町」
「?」
「フェイトの……アイツの心を、救ってやってくれ」
「! うん!!」

元気よく力強い返事にベジータは微笑みながら安堵する。

(恐らく、今の高町とフェイトの力は五分)

ならば俺などではなく、なのはが戦えば……フェイトの奴は納得してくれるやもしれん。

(全く、俺も落ちぶれたものだ)

小娘一人も満足に救えないとは……管理局の事が言えんな……。

(だが……俺ではなくコイツなら)

何度もぶつかり、言葉を交わしたなのはなら……アイツを救えるかもしれない。

(……すまんな、こんな役回りをさせて)

ベジータは先に歩くなのはを見つめ、幼い少女に重荷を背負わせた事に、心の底から謝罪した。












そして海鳴公園に辿り着いたベジータとなのはとユーノ。

時刻は5時を差し、ユーノはなのはの肩から降り隣に並ぶ。

「ここなら……いいよ、出て来て……フェイトちゃん!」

なのはの呟きに呼応するかのようにざわめく森林、………そして。

「………来たか」
「…………」


振り返るベジータとなのは、そしてそこには街灯に降り立ち、此方を見下ろしているフェイトと……。

「…………」

獣人形態のアルフがフェイトの隣に並んでいた。
既にBJを装着し、金色の魔力刃を展開するフェイトに、ベジータはやはりと目を細める。


「さて……互いに準備は万全のようだな」
「フェイトちゃん……」
「…………」

声を掛けようとするなのはだが、フェイトの瞳を見た瞬間思いとどまり、片手をゆっくりと掲げ、自分もBJを装着する。

「ただ捨てればいい訳じゃないよね、逃げればいいって訳じゃもっと……ない」

片手に掴んだ相棒を前に構え、なのははゆっくりと言葉を繋ぐ。

「きっかけは、きっとジュエルシード、……だから賭けよう、お互いのもつ全てのジュエルシードを!」

[[Put out]]

なのはの提案に、無言に賛成するフェイトはデバイスからジュエルシードを自身の周囲に展開し、またなのはも同じくする。

「それからだよ、全部……それから!」
「…………」

なのはがデバイスを突き出すと同時にフェイトもデバイスを下段に構える。

「私達の全ては……まだ始まってもいない、だから、本当の自分を始める為に……」

ユーノとアルフ、そしてベジータが見守る中……。

「始めよう、最初で最後の本気の勝負!!」

二人の魔導師の激闘の幕が……。

開かれる……。













〜おまけ〜

(やはり……こうなったか)

ベジータは自分でやった事とはいえ、結局こうなってしまった事に酷く自己嫌悪していた。

(………む?)

ふと身に感じた視線に目を向けると……。

「「………」」

険しい表情のフェイトとアルフがベジータを射抜いていた。

(やはり……恨まれていたか)

当然か……と一人納得するベジータだが……。

(………むぅ)
(いつまでその子の隣にいるんだい!!)

全く違う事を考えていた二人に、ベジータは気付く事は無かった。








〜あとがき〜

はい、なんだかグダグダになってきました。

トッポです。

オマケのフェイトとアルフ、これは私の趣味です。



[5218] 王子と終焉の幕開け
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:a5d1681f
Date: 2009/01/20 23:34


なのはとフェイトの戦いが始まる中、アースラの管制室にて待機中のクロノとエィミィはその様子を見守っていた。

「戦闘開始……みたいだね」
「全くアイツ、余計な真似をしてくれたもんだ」
「でも、これで漸くプレシア・テスタロッサの居場所が特定できそうだから、よかったんじゃない?」
「だが、僕達に一言くらいあってもよかった筈だ。それがないのが気に入らない」
「あはは……」

機嫌悪そうに腕を組み、画面に映るベジータに睨み付けるクロノ。

リンディがアースラに帰還してから、事態は大きく進展。

二日後、なのはとユーノ、ベジータが使う転送ポートのある海鳴公園にて決闘紛いの戦いが始まる。

何の根拠もない情報に当初クロノは疑問に思ったが艦長のリンディが「女の勘ってやつよ」の一言に納得【せざるを得なかった】のだ。

そしてなのはとフェイトの決闘の最中、フェイトの帰還先追跡の準備をしておき、動きがあればすぐさま捉えられる事が可能。

つまりはどっちが勝っても事態はあまり変わらないのだ。

「でも……いいのかな?」
「何がだ?」
「こんな事をして、ベジータ君、怒らないかな?」

エィミィは以前、ベジータの殺気を感じた事はないから分からないが、噂によれば相当怖いらしい。

それを思い出したのか、クロノの表情は若干青ざめ肩が震えた。

「か、管理局が暴力に屈する訳にはいかない!それに、彼には執務官に対して執行妨害の容疑が掛けられている。今回の件が終ったら然るべき処置を行うつもりだ!!」
「あ、あはは……」

エィミィは二度目の苦笑いを浮かべながら思う。

やっぱり根に持ってたんだ。と、彼を敵に回したらもしかしたら今回の事件よりもかなり厄介なのでは?

エィミィは心の底で今後ベジータが暴れないよう祈りながら画面に映る二人の魔導師の戦いを見据えていた。















「てぇぇぇいっ!!」
「はぁっ!!」

海鳴の公園、その海上で桜色の閃光と金色の閃光がぶつかり合い……。

「シューット!!」
「ファイア!!」

弾けるように距離を開け、すぐさま魔力弾を互いに向け放つ。

鋭く早いフェイトの魔力弾になのはは一つ一つ丁寧に、それでいて確実に避ける。

フェイトはなのはの追跡誘導弾型の魔力弾をバルディッシュで切り裂く事により破壊する。

(やっぱり……フェイトちゃん、強い)

目の前に悠然と構えるフェイトに改めてその強さを実感した。

(私よりも速いし、鋭いし、何より魔法使いの経験あるから先読みされちゃう)

でも……。

それでも……。

(負けられない……負けちゃだめだ!!)

ベジータ君、フェイトちゃんの為に頑張って、悩んで、苦しんで、悲しんで、それでも負けないでフェイトちゃんを助ける為に考えてきた。

そのベジータ君の想いが今、私に託されている。私にフェイトちゃんを救ってって、頼まれた。

(きっとベジータ君は……とてもプライドが高い人なんだ)

そんな人がお願いするなんて……きっとまた、かなり悩んだんだろうな……。

(だから、ベジータ君の想いを引き継いだ私が……フェイトちゃんに伝えるんだ!)

君は……一人じゃないんだって!

(だから……勝たなくちゃ!)

なのはは、ベジータから託された想いと意志を胸に、不屈の心の相棒……レイジングハートを握り締め、再び駆け出した。













(以前までは……ただ魔力が強いだけの素人だったのに)

もう、違う……。

誘導弾の使い方も上手いし、一撃の重さがある。

(でも……負けられない)

あと少しで母さんの願いが叶う。

そうしたら……そうなったら母さんはまた、私に優しく笑ってくれる。

私に……微笑んでくれる。

(だから……負けられないんだ!!)

フェイトはバルディッシュを両手に掴み、前に構え、巨大な魔法陣が展開される。













「? フェイトの奴……何をするつもりだ?」
「あれは……フェイトの奴、本気であの子を潰す気だ」

なのは達の戦いを間近で観戦していたベジータ達だが、様子が変わった事に目を見張った。

「どういうことだ?」
「あれはフェイトの持つ最強の魔法だよ!どうしよう、まさかフェイトがここまで本気だったなんて……」

成る程、どうやらあの魔法はフェイトの切り札らしいな……逆に言えばフェイトは高町の事を認めたということ。

(だが、だからこそ……アイツ等の戦いを見守らなくてはいけない)

ベジータが腕を組んで以前とは違い何があっても手出ししないよう……静かに見守ることを己の魂に刻みつけた。

「あぅっ!?」

なのはの叫びに沈みかけた意識を急浮上させ、上を見上げると、フェイトと同じ色の魔力陣が囲むと、貼り付けにされたかのようになのはは身動きが取れなくなっていた。

「やっぱりだ……フェイトの奴、本気で……」
「なのは、今サポートを……」

相手を気遣うアルフに、ユーノは本気で拙いと判断し、一歩前に出て、魔法陣を展開するが……。

「余計な真似をするんじゃないユーノ!!」
「「!?」」

ベジータの怒声にユーノは勿論、アルフまでもが身を震わせてしまう。

「ど、どうして?」
「これは二人だけの……一対一の戦いだ。それを貴様の勝手な手出しで邪魔をされる訳にはいかん」
「で、でもベジータ……フェイトのあれは本当に拙いんだよ」
「それでも……だ、例えどんな事が起きようとも、この戦いを邪魔をするものは……この俺が、何人たりとも許しはしない」

ベジータの瞳を見て、それが本気であることは二人はよく分かった。

その様子を横目で見ていたなのははどこか嬉しそうに笑い。

(ありがとう……ベジータ君)

心の中で感謝の言葉を述べた。

「アルカス・クルタス・エイギアス……」

着々と呪文が唱えられ、空は雷鳴が轟き、魔法陣には無数の魔力スフィアが生成される。

「疾風なりし天上よ、今満ちるし時、眼下の敵を打ち砕け。バリエル・ザリエル・ブラウゼル」

呪文を唱え終えたフェイトは眼前に貼り付けにされているなのはを睨み……。

「フォトンランサー・ファランクスシフト!!」

手を空に掲げ……。

「打ち砕け……ファイア!!」

なのはに向け振り下ろした。

「っ!!」

歯を噛み締めなのはは必死に耐えようとする。

そして1000を超える魔力の弾丸が雨のようになのはに降り注ぐ。

巨大な煙が立ち込めても、魔力弾丸の雨は止むことがない。

「……くぅっ!!」

激しく魔力を消耗する魔法にフェイトは歯を食いしばる……。

そして……。

「まだ……まだぁ!!」

更に多くの魔力スフィアを周囲に展開する。

「なっ!?フェイト!?」

ここへ来て更に消耗を激しくする行為にアルフは目を見開いた。

「はぁぁぁぁっ!!」

限界ギリギリまでスフィアを展開し、ぶつける、その数は2000、3000までも超え始めていた。

「ダメだよフェイト!それ以上は……!!」

アルフの呼び止めにも関わらず、スフィアをぶつけ続けるフェイト。

そして全て撃ち終えたフェイトは残りの魔力の欠片を集め、一つの魔力弾を生成する。

そして立ち込める煙も一陣の風が消していく。

そして、煙の中から、BJは所々破れ、場所によっては血が流れているにも関わらず、強い意志を瞳に宿した……。

高町なのはが杖を天に掲げ、前方に巨大な魔力球を生成し、佇んでいた。

「!?」
「……今度は……こっちの……番……だよ」

なのはの耐久力に驚愕するフェイト、しかしなのはも最早限界、2000を超えた辺りから障壁を解き、ありったけの魔力を前方に収束していたのだ。

「受けて……みて……ディバィン……バスターの……バリエーションを!!」

息も絶え絶えになりながらも更に巨大化していく魔力の球、その様子にユーノは目を見開いた。

そして……。

「これが……私の、全力ぅ……全開!!!」

片手に掲げた杖を両手に持ち替え。

「スターライト……ブレイカァァァァ!!!!」

前方に展開した魔力陣に向けて、全身の力を込めて……振り抜いた。

「くっ!?」

目前に迫り来る桜色の閃光、フェイトはかき集めた魔力弾をぶつけるが……何の抵抗も無くかき消されていった。

「!?!?」

フェイトは避けようとするが、ガクンと体から力が抜け、思うように動けなくなっていた…。

そして閃光はフェイトを包み込み。

海鳴の海は桜色に……包まれた。














「はぁっはぁっはぁっ……」

やがて収まってきた閃光に目を開けるベジータ達、するとそこには……。

「なのは!」
「フェイトォォ!!」
「はぁっはぁっはぁっ……」

何とか堪え、徐々に高度を落としていくなのはと……。

「…………」

気を失っているのか、バルディッシュを手放し、海面に向けて墜ちゆくフェイトの様子が写されていた。

「フェイト……ちゃん」

フェイトを助けようとするが、自分も限界を超えて放った一撃に魔力を持って行かれたので、思うように動けなくなっていたのだ。

海に墜ちかけるフェイト……だが。

「よっと……」

いつの間にかベジータがフェイトを抱き抱えていた。

「あ、あれ?」
「い、いつの間に?」

気が付けばベジータがフェイトの所にいたことに驚きを隠せずにいるアルフとユーノ。

「……べ…ジータ?」
「気が付いたか?」

自身に包み込まれていた暖かさにゆっくりと目を開くと、ベジータが優しく微笑んでいたのが視界に映っていた。

「ベジータ君……」

片腕を抑え、ゆっくりと近付くなのはにベジータは……。

「俺の気を分けてやる、じっとしてろ」
「ふぇ?」
「え?」

首を傾けるなのはとフェイトだが、体が軽くなってきた事に目を見開いた。

「これで多少は回復したはずだ、フェイト、飛べるか?」
「あ、う、うん」

驚くが隠せないまま指示に従いバルディッシュを受け取りベジータから離れる。

「そっか……私、負けちゃったんだ」

漸く頭が回り始め、フェイトは自分がどういう結末だったのか思い出した。

[Put out]

フェイトは黙ったままバルディッシュからジュエルシードを取り出し、なのはに手渡した……その瞬間。

ガコォォォォッ

「アアアアアアアアア!!!!」
「「「!?」」」

突如空が曇り、巨大な紫の雷がフェイトに降り注いだ。

「フェイトちゃん!」
「フェイト!!」

雷にやられたバルディッシュは砕かれ、待機モードに戻される。

よろけるフェイトはベジータが抱えるが、ジュエルシードは歪んだ空間へと吸い込まれていった……。

「プレシアァァ……!!」

ベジータはこんな事をしでかした人物に怒りを覚え、歪んだ空間を睨み続けていた。



























「グフッゴホッ」

時の庭園の玉座に居座ったプレシアは襲い掛かる病魔に耐え、口を抑え咳き込んでいた。

「ゲホッ……はぁっ、もう、次元魔法は体が耐えられないわね」

それに今ので管理局はこの場所が分かったみたいだし……。

「フェイト……見事だったわ、貴方の戦い」

プレシアは横に映し出された映像を見て優しく微笑んだ。

「最後に……あの子の成長が見られて……良かった」

これで思い残す事はない……。

「さぁ……終焉の……始まりよ」

プレシアは悲しみを秘めた決意の瞳を隠し、狂気の仮面を……。



被った……。











〜あとがき〜

なんだかかなりテンポが早いような気がする……。

トッポです。

次はいよいよ最終決戦!!

頑張るぞー!!



[5218] 王子の想いと母の願いと
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:97d5daf6
Date: 2009/01/22 12:38


「エィミィ!」
「分かってるって!」

プレシアの動きを狙っていた二人は、物質転送を使用した際に流れた魔力流を辿って、プレシアの座標位置特定を割り出していた。

「武装局員、転送ポートから出動!任務はプレシア・テスタロッサの身柄の確保です!」
「「「はっ!!」」」

遂にプレシアの居城の位置を割り出した局員達はリンディの指揮のもと、武装した魔導師を時の庭園に送り込み、アースラも現場へ向かっていった。

そして、ブリッジの扉がが開かれ戻ってきたベジータ達が入室してくる。

フェイトはベジータとなのはの間に挟まれ、悔しそうに俯いていた。

尚、最初はフェイトに拘束具を取り付けようと局員は近付いてきたのだが。

「何をするつもりだ?」

ベジータのこの一言に一蹴され、しかも殺気に当てられ気絶してしまっている。

「リンディ、状況はどうなってやがる?」
「もう間もなく武装局員がプレシアの身柄を抑える所よ」
「!」

その一言にフェイトは肩を震わせ、唇を噛み締めバルディッシュを握り締める。

リンディはそのフェイトの様子を見て失言だったと口元を抑える。

「フェイト……」
「えっと……フェイト……さん、だったわね?初めまして」

気を取り直してフェイトに語り掛けるリンディだが、フェイトは一向に顔を俯かせたままだった。

『玉座の間にて、プレシア・テスタロッサを発見!!』

気まずい雰囲気の中、通信から聞こえてきた報告に振り返るベジータ達。

目の前にある画面一杯にある巨大モニターには玉座の間の様子が映し出されていた。

数多くの局員に囲まれているにも関わらず、プレシアは一切動じた様子は見せない。

しかし……。

「?」

ベジータはプレシアから発せられる妙な雰囲気に僅かながら感じ取っていた。

(何だ?プレシアの気が……小さい)

確かに、プレシアの気が小さくなることは多々あった……。

(だが……これは)

プレシアの奴の気が……異様に小さすぎる。

これではまるで……。

『プレシア・テスタロッサ!管理法違反の疑いで、貴方を逮捕します!』
『……………』

武装局員の一人がプレシアの罪状を述べ、囲んでもプレシアは眉一つ動かさずに佇んでいる。

(プレシアの奴……何を考えていやがる)

ベジータはプレシアの衰退しきった気に違和感を覚えながら画面を睨みつけていた。

『な、何だここは?』
『隠し通路?』
「!?」

何名かの局員がプレシアの背後に回り込み、そして……見つけてしまった。

「よせ!映すんじゃない!!」
「ベジータ君?」
「ベジータ?」

ベジータの珍しく必死の様子になのは達は軽く驚く……が。

「「「「!?」」」」

次に映し出された光景にベジータを除いた全員が絶句した……。

「フェイトちゃんが……もう一人?」
「…………」

目を見開いて愕然としているフェイトとなのは、その様子を見たベジータはギリッと奥歯を噛み締める。

そして局員の一人がアリシアの亡骸の入った生体ポットに近付くと…?。

『うぐわぁぁっ!?』

局員の前に突如現れたプレシアがに弾き飛ばされる。

『私のアリシアに……近付かないで!!』

狂気の入り乱れたプレシアの形相、局員達は怯みながらも各々が手にした武器を突き出し……。

『う、撃てぇっ!!』

魔力の閃光を浴びせる。

しかし、その攻撃もプレシアの張った障壁にかき消され……。

『五月蠅いわ……』

再び手を前に突き出し。

「危ない、防いで!!」
『『『がぁぁぁぁぁっ!!!』』』

玉座の間に幾つもの雷を叩き落とし、局員達の悲鳴が木霊した……。

『フフフフ……ハハハハ……』
「いけない!局員達の送還を!!」
「り、了解!!」

慌ただしくなるブリッジの中、ベジータはどこか釈然としない面持ちで画面向こうのプレシアを睨みつけていた。

(やはり……おかしい)

俺に放った雷は、あんなものじゃなかった……。

(以前のプレシアなら、アリシアに近付いただけで殺している筈だ)

手加減をしているのか?それとも……力が出せないのか?

(あるいは……その両方か?)
「座標固定!0120−503!」
「固定、転送オペレーション、スタンバイ!」

ベジータが考え込んでいる中局員達はアースラへ送還されていく……。

そして、プレシアはアリシアに近付き……。

『もうダメね、時間がない……たった九つのジュエルシードでアルハザードに辿り着くかどうかは分からないけど』

縋るように跪いた。

『でも……もういいわ、終わりにする。この子を失ってからの暗鬱な時間を……この子代わりの人形を娘扱いするのも』
「!?」

プレシアの言葉にフェイトはビクッと体を震わせ、なのはは心配そうに顔を歪める。

『聞いていて、貴方の事よ……フェイト』
「どう……して?」

フェイトはプレシアの言葉に信じられないと言った表情で聞き返す。

『どうして?そんなの決まっているじゃない、折角アリシアの記憶をあげたのに役立たずでちっとも使えない……私のお人形なのだから』
「!?」

プレシアの斬り捨てるように吐かれた台詞に、フェイトは後退り顔を悲痛に歪める……。

『アリシアをあの事故で失ってからは私は全てが無意味に思えた、生きている事が馬鹿らしく思えてきた。そんな時、ある研究に着手したのよ、使い魔を超える……人造生命の生成、……いい機会だから教えてあげるわ。フェイトって名前は当時使われていた開発コードの名前よ』
「やはり……そうだったのね」
『でもダメだった。ちっとも上手くいかない……所詮偽物は偽物、アリシアの代わりなんてどこにもいやしないのよ』
「…………」

プレシアの吐き捨てる一つ一つの言葉がフェイトの心を抉り、傷つけてゆく……。

「止めてよ……」

これ以上聞きたくない。

そんな思いを込めて言い放つなのはの言葉は、届くことはなく、プレシアの罵声は更に続く。

『アリシアはもっと優しく笑ってくれた、アリシアは時々我が侭もいうけれど、私の言うことはちゃんと聞いてくれた』

プレシアの言葉にフェイトは顔を俯き、唇から血がでるほど噛み締め、目尻には涙を貯めている。

誰もが辛そうに顔を歪めるが、ベジータだけは違った……。

(何故だプレシア、何故お前は……)

そんなに辛そうなんだ?
何故そんなにも苦しそうなんだ?

(俺には……まるで自分を苦しめているようにしか聞こえんぞ)

何故、何故お前はそんなにも……。

泣きそうな声で言うんだ!?

『所詮、貴方はアリシアが蘇るまでの間に、私が慰みものに使うだけのお人形……だから貴方はもう要らないわ、何処へなりとも消えなさい!!』
「!?」
「お願い!もうやめてよ!!」

もうフェイトの心は限界寸前、なのははそんなフェイトが見ていられず、プレシアに喰ってかかるが……。

『フハハハハ……フフフフ……ハハハァ』

プレシアはそんな言葉に耳を傾けず、嗤い続けていた……。

(そういう……事か)

ベジータはプレシアが振り向き様に見えたほんの一瞬の出来事を見逃さなかった。

片方の目は髪で見えなかったが……その一瞬はベジータだけが見えていた。

プレシアが流した、確かな涙を……。

(プレシア……お前は……本当は……フェイトの事を)

ベジータはプレシアの心中に気付き、拳を握り締め、これまでとは違った表情でプレシアを見つめていた。

『フフフ……最後に良いことを教えてあげるわフェイト、私ね、貴方を造りだしてからずっとね……私は貴方の事が』

この言葉は……フェイトだけではなく、自分すらも傷つけていく。

(これが……お前の出した答えか……プレシア)

ベジータは最早何も語らず、プレシアの言葉を唯、聞き入れた。

『大嫌いだったのよ』
「!?!?」

プレシアの言葉に、フェイトは体を揺らし握り締めたバルディッシュを落とし……。

パリィィンッ

フェイトの心の有様を代わりに伝えるように……。



粉々に。





砕け散った…。






「フェイト!!」
「フェイトちゃん!!」

そして力無く崩れ落ちるフェイトをなのはが抱きかかえ、アルフが支える。

ヴィー!!ヴィー!!

「や、屋敷ないからの魔力反応が多数!!」
「何だ!?何が起こっている!?」

突如、庭園が激しく揺れはじめ、アースラではアラームがブリッジに鳴り響き、画面が移り変わる。

そこに映し出されたものは地面から武器を手にした様々な形をした無数の機械兵士。

その数は50や80所では収まらず、更に増え続けている。

「プレシア・テスタロッサ、一体何をするつもり!?」

プレシアは生体ポットに手をかざし、ポットから固定装置を取り外し、通路をゆっくりと渡り歩き、玉座の中心に立つ……。

『私達の旅を……邪魔されたくないのよ』

庭園の揺れは更に激しさを増していく……。

『私達は旅立つの……忘れられた都、アルハザードへ!!』

プレシアの叫びに九つのジュエルシードは呼応するかのように回転し、展開してゆく……。

「まさか!!」
『この力で旅立って、取り戻すのよ……全てを!!!』

その言葉を合図に、ジュエルシードは……。





その力を……。






解放した。





「次元震です!中規模以上!!」
「振動防御!ディストーション・シールドを展開して!!」
「ジュエルシード、九個発動!!次元震、更に強くなります!!」
「転送可の距離を維持したまま、影響の薄い空域に移動を!!」
「了解!!」
「規模、更に増大!このままでは次元断層が!!」

慌ただしくなっていくブリッジ、そんな中、なのはは瞳から光を失い、壊れたフェイトを優しく抱き抱えた……。

「……………」

ベジータは地面に落ちたバルディッシュを欠片と一緒に広い集め……。

(これが……貴様の願いか……プレシア)

狂気の仮面をかぶり、嗤いながら泣き続けるプレシアの顔を見つめて……。





(ならば……俺は)






拳を強く……。





握り締めていた。












〜あとがき〜

トッポです!!

すみません、前回最終決戦と言いつつ、結局こんな話しになってしましました!!

次は……次こそは!!



[5218] 王子の次元分け目の超決戦
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:436d4576
Date: 2009/01/24 10:15

「次元震、更に増大!」
「この速度で震度が増加していくと、次元断層の発生予測値まで、あと三十分足らずです!!」

背後から聞こえてくる局員たちの声が耳に入っている中、ベジータ達は医務室に向けてかけだしていた。

その途中、やけに慌ただしく通路を走るクロノと遭遇する。

「クロノ君、どこへ?」
「現地へ向かう、元凶を叩かないと」
「私も行く!」
「僕も!」

力強く同行を求むなのはとユーノ、クロノはそんな二人の瞳から感じた強い決意の籠もった目を見て……。

「……分かった!」

二人の気持ちを汲んだクロノは同行を許可した。

「アルフはフェイトに着いててあげて」
「う、うん……」
「ベジータ君は……」
「……俺もフェイトに着いている」
「そっか……」
「安心しろ、すぐに追い付く」
「うん……きっとだよ!!」

心配そうに見つめてくるなのはにベジータは不敵な笑みを浮かべて応え、それに安心したのか、なのははそれだけ言ってクロノと共に引き返して行った……。

「フェイト……」

なのは達が見えなくなるまで見送ったあと、アルフは自分の腕の中でグッタリとうなだれるフェイトに、辛い面持ちで見つめていた。

「俺達も行くぞ」
「……ねぇベジータ」
「?」

先に行こうとするベジータだがアルフの呼び止めに振り返ると……。

「アンタさ、もしかして……全部知ってたんじゃないの?」

怒りと悲しみ、憤怒と涙で埋め尽くされたアルフは、その鋭い眼光でベジータを睨みつけていた。

「……さぁな」
「ここまで来てふざけないでよ!!」
「……………」
「フェイトは、フェイトはね、アンタがいなくなったあとも必死に戦ってたんだ!!一生懸命に戦って、傷ついたんだ!!アンタが現れる前から、ずっと……ずっと!!」

アルフの泣き叫びながらの言葉に、ベジータはただ聞き入れ……。

「……すまん」
「謝らないでよ……」
「…………」
「フェイトはただ、アイツに喜んで欲しかっただけなのに……こんなの……あんまりじゃないか」

アルフはフェイトを抱えたまま崩れ落ち、涙を流し続けていた…。

「顔を上げろ、アルフ」
「…………」
「泣くなとは言わない、涙を流すなとは言わない」
「…………」
「だが逃げるな、ここで逃げたり、目を背けたりするのは簡単だ。だがな、そんな事をすれば……いつか必ず、自分が後悔する事になる」
「…………」
「泣きながらでもいい、がむしゃらでもいい、恨む事が必要なら……俺を恨め、憎め、その代わり……立ち止まるんじゃない」
「………うん」

ベジータの言葉にアルフは頷き、立ち上がる。

「ベジータ、フェイトを頼めるかい?」
「……ああ」

アルフはベジータにフェイトを手渡し、腕で顔を拭い、表情を引き締める。

「アタシも行くよ、あの子達が心配だから」
「分かった」

ベジータの力強い頷きに、アルフは安心したように笑い。

「フェイト……すぐ帰ってくるよ、それで全部終わったら……ゆっくりでいいから、アタシの大好きな本当のフェイトに戻ってね」

優しくフェイトの頬を撫でたあと、アルフはなのは達の後を追い、時の庭園に向かっていった。



















「ここだな」

アルフと分かれ、医務室へ辿り着いたベジータは、フェイトをベッドに寝かせ、おもむろに部屋から出て行った……。

「……待っているからな」

その一言だけを残して……。







「あ……う……」

瞳に光を取り戻したフェイトは、自分が何故ここにいるのか、どうなったのかを思い出し、医務室に取り付けられたモニターに視線を向けた。

「あぁ……そっか、私、母さんに捨てられたんだ」

母さんは……最期まで、私に微笑んでくれなかった。

(私が生きていたいと思ったのは、母さんに認めて欲しかったから……昔の母さんに……戻って欲しかったから)

どんなに足りないと言われても、どんなに酷いことをされても、私は、母さんに笑っていて欲しかった……。

(あんなにハッキリと捨てられたのに、私はまだ、母さんに縋りついている)

ふと、モニターに映された映像に、アルフが現れた所を見て、これまでの事を振り返っていた。

(アルフ、ごめんね、こんなダメなご主人様で……)

ずっと私の傍にいてくれて……。言うこと聞かなかった私に、きっと随分悲しんでいた…。

(そして……)

何度もぶつかった真っ白な服を着たあの子…。

(初めて私と対等に……真っ直ぐぶつかってきたあの子)

何度も出会って戦って、何度も……私の名前を呼んでくれた。

(何度も……何度も……)

すうっと頬を伝う涙に、フェイトはベッドから起き上がる。

(私が生きていたいって思ったのは、母さんに認めて欲しかったから)

それ以外に……生きる意味なんてないって思ってた。

それができなきゃ……生きてちゃダメなんだって思ってた……。

(捨てればいいって訳じゃない、逃げればいいって訳じゃ……もっと……ない)

フェイトはなのはから言われた言葉を思い出し、ベッドから立ち上がる。

「漸く起きたか」
「!」
「この寝坊助め」
「ベジータ……」

横から声を掛けられビクッと肩を震わせながら其方を見ると……。

壁に寄りかかりながら不敵な笑みを浮かべるベジータが佇んでいた。

「ほれ」
「あ……と……」

不意に投げ渡されたものに慌てながらキャッチするフェイト。

目を開いて掴んだ手のひらを覗き込むと、至る所にヒビが入り、中には欠けてたりする部分があるバルディッシュがあった。

(ああ、そうだ、いつも私はベジータに助けられていた)

いつも私達の為に頑張って、怒って、叱ってくれた……。

(怒られても、怖くても、痛くなくて……暖かくて……嬉しかった)

フェイトはベジータに前を真っ直ぐに見据えて問い掛ける。

「ねぇベジータ、私、まだ始まってもいなかったのかな?」
「さぁな、俺はお前じゃないからな、俺には分からん」
「そっか……」
「だが……」
「?」
「お前の中では、もう答えは出たんじゃないのか?」
「!?」

ベジータの一言に、フェイトは目を見開くが、直後に笑顔になり……。

「うん!!」

力強く……頷いた。

そして、フェイトはバルディッシュを斧の形状に変化させる。

やはり所々にヒビが入っているバルディッシュ、しかし、その金色のコアは光を失うことなく、輝いていた。

「バルディッシュ、いける?」
[Off course my master]

ノイズ混じりだが確かな返答にフェイトは嬉しく思い、両手に持ち、強く念じ始める。

やがてバルディッシュは光に包まれ……。





真新しく生まれ変わった。





それはまるで……。







自身の事を照らし合わせるかのように……。








[recovery]

万全な状態に戻ったバルディッシュ、更にフェイトは漆黒のマントを身に纏い、BJを装着する。

「私たちの全ては……まだ始まってもいない」
「………」
「だから、本当の自分を……始めるために、今までの自分を……終わらせよう」

まだ少女の瞳には……迷いは消えない。

だが、その瞳は強く、確かな意志を宿らせていた。

「よし、行くか」
「うん!!」

ベジータの声に応え、フェイトは魔法陣を展開し、二人は時の庭園へと向う……。



全てに……決着を付ける為に……。
















「やっぱり……数が多い」
「ケッ、ぞろぞろと目障りな奴らだぜ」

フェイトとベジータが転送してきたのは、緑が生い茂る庭園の最上階。

しかし、そこも既に多数機械兵で埋め尽くされていた。

その数は200、300を超えても尚、増え続けている。

「フェイト、お前は先に行ってろ」
「ベジータ!?」
「お前は高町と合流してから先に進め、アイツ等ならお前の足手纏いにはならんだろ」
「で、でも……」
「お前はこんな所で立ち止まっている場合じゃないだろ」
「け、けど……」
「余計な心配はするな………俺を誰だと思ってやがる?俺様だぞ」
「! うん、分かった」

ベジータの不敵な笑みにフェイトは頼もしく思い、背中を向け走り去っていった……。

「フェイトは……行ったな」

フェイトが見えなくなった事を確認したあと、再び数多の機械兵に向き直る。

「さて、あとはコイツ等の片付けだが……」

機械兵はベジータの姿を確認すると一斉に構え、突撃してくる。

「コイツ等程度に手間取る訳にもいかんし……」

何より……。

「俺もいい加減、鬱憤が溜まってきたぜ」

多数の刃がベジータに降り注ぎ……。





ベジータに触れる……。






その刹那……。





「かぁぁぁっ!!」







ベジータの体から光が発せられ……。








衝撃が疾った……。








吹き飛ばされた機械兵達、立ち込める煙が晴れていくと……そこには。



逆立った金髪に……。




碧眼の瞳を宿らせ…。






金色の炎と、迸る稲妻をその身に纏わせた…。





ベジータが、悠然と立ち尽くしていた。










「さて……プレシアの奴に聞きたい事があるから、フェイトの奴を先回りしなくてはならないな」

と、ベジータは機械兵達に指を差し。

「おい、木偶人形ども、纏めて相手になってやるから、とっととかかってきやがれ」

チョイチョイと指を動かすベジータに、機械兵達は一度に襲い掛かる。

一対300超の数の暴力……。

端から見れば、それはあまりにも無謀な戦い。

しかし……。

「はぁぁぁぁっ!!」

ベジータが繰り出す無数の拳が機械兵達を貫いてゆく……。

「でぇぇぇいっ!!」

高機動の飛行型には右手から放った気の波動で粉砕。

「おおぉぉぉっ!!」

中型の戦士と大型の巨兵には拳と蹴りで轟砕していく……。

「何だ?もう終いか?」

数が減りつつある機械兵に物足りないと言うように言い捨てるベジータ。

「おっと」

下の地盤から現れた超巨大機械兵にベジータは距離を開けて様子を見る。

「ほう?まだこんな奴がいやがったか」

不敵に口端を吊り上げるベジータに向けて、両腕両肩に搭載された砲身に魔力エネルギーが集束していく……。

「いいぜ、来いよ」

集束されていく魔力光にベジータは避ける様子もなく、ただ、腕を組み睨み付けるだけ。

そしてベジータは超巨大兵から放たれる魔力砲弾の光に包まれ……。

爆発が巻き起こった。

舞い上がる土煙に巨大兵は更に追い討ちを仕掛けようと次弾を装填する。

「こんなもので全力か?」

再び集束されていく魔力の光、対してベジータは親指、人差し指、中指の三つを向けて……。

「なら教えてやる、これが本物の……」

すると、ベジータの炎は自身の体を纏うバリアの様に丸みを帯び、指先へ集束されて……。

「砲撃って奴だ」

次弾を放つ魔力砲弾と同時に……。

「アトミックブラスト!!」

閃光の矢を放った。

ベジータの放った閃光の矢は超巨大兵の魔力弾を消し飛ばし……。

巨兵の体を貫き、その余波で周りの残った機械兵を巻き込み……。

爆裂と爆発が……庭園の最上階を吹き飛ばした。


「……ここの雑魚はあらかた片付いたか」

ベジータは金色の姿を保ったまま、辺りを見渡す。

「プレシア……お前の答え、俺はまだお前の口から聞いていないぞ」

ベジータは、拳を握り締め、その場から飛び立っていった……。
















〜あとがき〜

さて、漸くベジータが超サイヤ人へ変身しました。

しかも2に、これは今までの鬱憤が溜まっているのでこうなってしまいました。

次回はいよいよベジータのあの技が!?

舞様。お疲れ様です。
お体には十分に気をつけて下さい。



[5218] 王子の母に送る鎮魂歌・前編
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:643859f5
Date: 2009/01/26 01:58

「グッ、何だ……今の音は?」

なのは達と分かれ、一人プレシアの所へ向かうクロノ、その途中頭上からの凄まじい轟音によろけてしまう。

「なのはも、駆動経路のロストロギアの回収に向かっている筈だ……僕も急がないと……ぐぅっ!!」

歩きだそうとしたクロノの表情が苦痛に歪む。

「くそっ、まだあの時の傷が治りきっていないか……」

以前、ベジータにやられた時の傷が、未だにクロノの体を蝕んでいた。

「だが……この程度で立ち止まる訳には……」

クロノは徐々にに広がっていく痛みに耐えながらも、前に進んでいく……。

しかし、目の前に無数の機械兵が出現し、クロノの行く手を阻む。

「チィッ!!」

本来のクロノならこの程度ならどうと言うことはない、だが……。

「ぐぅっ!?」

ベジータにやられた傷が疼き、動きが鈍くなり反応が遅れてしまった。

「ガハッ!」

斬りかかる機械兵の斬撃を咄嗟に杖で受け止めるが、勢いに負け、壁に叩き付けられる。

「ぐ……くそ……」

杖を支えに立ち上がるクロノ。

そんなクロノを機械兵は取り囲み、武器を振り上げる。

「………っ!!」

次にくる衝撃に目を瞑るクロノ……。

と、その時。

「ふん」

もはや聞き慣れつつある鼻笑いと同時に横から閃光が突き抜け。

「!?」

機械兵達を一瞬にして飲み込んでいく。

閃光が過ぎ去った後は壁に巨大な空洞が出来上がっていた。

クロノは首を閃光の出どころをへ向けると…。

「よう、随分と無様じゃな格好になってるじゃないか」

金色に輝くベジータが憎まれ口を叩きながら此方に歩んでいた。

「き、君……は?」

クロノはベジータの姿を見て驚きと同時に畏怖していた……。

自分と同じ背丈の筈なのに、この少年から発せられる威圧感に、クロノは息苦しさを感じていた。

「さて、貴様の事だから聞きたい事があるとは思うが……」
「……ああ、不本意だが……僕にはまだやるべき事がある、今は其方が優先だ」
「……プレシアか」

ベジータの問いにクロノは無言で頷く。

「だが、はっきり言って今の貴様ではそれは適わんな」
「そんなこと……」
「俺にやられた傷が痛むのだろ?」
「!?」

一瞬にして自分の状態を見抜かれた事に、クロノは大きく目を見開いた。

「そんな貴様がプレシアに立ち向かった所で、奴の雷に撃たれて焼け死ぬのが関の山だ」
「…………」
「悪い事は言わん、さっさとアースラに戻れ」

ベジータの言葉に、クロノは……。

「折角の忠告に悪いけど……聞くわけにはいかない」
「……何?」
「僕は執務官だ、職務を全うし、責務を果たす義務がある」
「…………」
「だから……」
「……はぁ」

クロノの揺るがない決意の瞳に、ベジータは溜め息を吐きながら……。

「ふっ」
「!!」

一瞬でクロノの背後に回り、手刀を首筋に当てて意識を断った。

「やれやれ、責任感を重視するのは結構だが、もっと良く周りを見るんだな」

と、一言文句を言いながら、クロノを背負うベジータ。

そこへ……。

「クロノ!!」

背中に光の羽を展開したリンディがベジータの下へ駆け寄ってきた。

「!! ベジータ君……あなた」
「リンディか、丁度いい、コイツを貴様の艦へ送ってやれ」

ベジータは自分の姿を見て驚くリンディを無視し、話を進める。

「え?あ!クロノ!?」

そう言われてハッとなるリンディはベジータが背負うクロノを抱きかかえる。

「ソイツは以前俺にやられた傷がまた広がったらしい、貴様は早くアースラへ戻れ」
「で、でも……」

リンディは本音はすぐにでも引き返したかった。

だが自分はアースラの艦長という立場な上、既に現場には本来なら無関係な筈のなのはや、ユーノ、更には保護した筈のフェイト達がプレシアの元へ向かっている。

しかも自分は次元震を抑えるためにここまで来たのだ。

ここで戻ってしまえば恐らく次元断層は起こってしまう……。

(一体どうすれば)

リンディは自分の息子の顔を見ながら判断に苦しんでいた……が。

「おいリンディ、貴様まで責務とかグダグダ言うつもりか?」
「え?」
「確かに貴様はあの艦のトップ、常に最善の策と最小の被害を考えるのが貴様の仕事だし、使命なのだろ」
「…………」
「だが、その所為で感情を殺しても、その先に待つのは後悔しかないぞ」
「!」

ベジータの言葉にリンディは俯いていた顔を上げるが、既にベジータは背を向けて歩き始めていた。

「安心しろ、高町もフェイトもアルフも、序でにユーノも、オマケにジュエルシードや次元震も、みんなまとめて俺が面倒見てやる。貴様はとっととアースラへ戻りやがれ」
「…………」

リンディは呆然とベジータの背中を見ながら、やがて笑みを浮かべて立ち上がり。

「……分かったわ、これから私はクロノ執務官を治療させる為、一端アースラへ帰還します。だけど……」
「…………」
「それが終わったらまた来ます、貴方達を迎えに……」
「ふん」

リンディの言葉に何も言わず立ち去っていくベジータに、リンディは微笑みながら転送の魔法陣を展開した。

(……安心……か、まさかたった一言でこうも安堵するのは思わなかったわ)

それに……多分、彼なら……きっと何とかしてくれる。

(そんな気が……する)

リンディは後の事をベジータに任し、クロノを連れてアースラへと帰還した。
















「グホッゲホッゴホッ」

時の庭園の最深部、プレシアは吐血を手で抑え、何とか保っていた。

「……もぅ、限界ね」

もう間もなくここに執務官が現れ私を捉えにくる。

管理法違反、しかも次元断層を引き起こす張本人なのだから、その罪は重罪。

恐らくは500年以上の幽閉、もしくは……。

「ふっ、無駄ね、仮に私を捕らえた所で、直に私は……」

そこで言葉を区切りプレシアはアリシアのポットを撫でて……。

「ごめんなさいアリシア、貴方を巻き込んでしまって……」

その表情は悲しみで、先ほどの狂気地味たものとは変わっていた。

揺れは激しさを増していき、プレシアが少しよろけた時……。

ドォォォッ

「!」

背後から聞こえてきた爆音に振り返ると。

「よう、久しぶりだなプレシア」

相変わらずの不敵な笑みを零し、迸る稲妻を纏い金色に輝くベジータが塞がれた入り口をこじ開け、プレシアを見据えていた。

「ベジータ……なの?」
「またそれか、いい加減ウンザリするぜ」
「その口調、どうやら本物みたいね」

階段を降りながら変身を解き、元の黒目黒髪に戻ったベジータにまた目を見開くが、コイツには此方の常識は一切通用しないと悟ったプレシアは無理矢理納得した。

「で、今更になって私に何のよう?」
「……貴様の答えを聞きにきた」
「答え?貴方がいつ私に問答したのかしら?」
「…………」

プレシアの睨みに全く動じないベジータは、何も語らずプレシアの目を見つめ返した。

その事にプレシアは溜め息を吐きながら……。

「……お見通しって訳ね」
「……いつまで保ちそうだ?」
「さぁ、分からないわ、だけど……恐らくはもう長くはないわ」
「……そうか」
「ねぇベジータ、貴方以前言ったわよね、あの子が私の娘ではなく、私があの子の母親なんだって」
「……ああ」
「最初は何のことだか全く分からなかった、只の戯れ言だって思ってた」
「…………」
「でも、あの子とアリシアのアルバムを見てから思ったの、ああ、代わりなんていやしないんだって」
「…………」

ベジータは、これまでの出来事を懐かしむプレシアの言葉をただ黙って聞き入れた。

「それから……あの子の事が愛おしく思い始めたの、あの子の笑顔、あの子の勇姿、そのどれもが愛おしくてたまらなくなっていった」
「…………」
「でも……気付くのが遅すぎた。皮肉よね、自分が死にそうになって初めて間違いに気付くだなんて……」

プレシアの痛々しい自嘲の笑みに、ベジータは内心で今のプレシアがどれほどまで辛い思いをしてきたか容易く理解できた。

「ねぇベジータ」
「……何だ?」
「フェイトの事……貴方に託してもいいかしら?」
「……今度は俺にまで厄介ごとを押し付ける気か?冗談じゃない」
「……そう」
「だが……まぁ何だ、フェイトが独り立ちするまで……面倒みてやらないこともない」

そっぽを向きながら答えてくれたベジータに、プレシアは微笑み……。

「ありがとう、……ねぇベジータ」
「今度は何だ?」
「私は……地獄に堕ちるのかしら…」

プレシアの悲しげに俯く顔にベジータは……。

「貴様が地獄?はっ、笑わせるな」
「………え?」
「地獄というのは俺のような極悪人が逝く所だ、貴様程度の三流が地獄に堕ちるわけないだろう」

「ベジータ……」

そう言ってベジータはクルッと振り返り……。

「ここから先はお前達親子の問題だ。俺は暫く退場するとしよう」
「……………」
「……じゃあな」

それっきりベジータは振り返らずに黙り込み、プレシアとの距離を開けた。

「……さようならベジータ。そして、ありがとう……」

プレシアはベジータに対し、心から感謝を述べて……。

(……もっと早く、貴方に逢いたかった……)

遠くなっていくその背中をいつまでも眺めていた……。

そして………。

「母さん!!」

上から地盤を破り、舞い降りてきたフェイトを見て……。







プレシアは再び、仮面を被る。







こんな筈じゃなかった全てに……決着を付ける為に。







そして、後に残す愛娘の幸せの為に……。



















〜あとがき〜

トッポです。

今回は長くなりそうなので前編後編に分けることにしました。

何だかクロノ達の反応が薄い気がするけど……そこはスルーで(コラ



[5218] 王子の母に送る鎮魂歌・後編
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:162f3664
Date: 2009/01/27 02:40

「ベジータの奴も来てたんだ」
「うん……」

アルフと共にプレシアの前に降り立つフェイト、背後に立っているベジータに一目みた後、プレシアに向き直る……。

「う……ゲホッガハッ」
「母さん!!」

その時、プレシアが吐き出した血液に目を見開き駆け寄る。

「何をしにきたの」

しかし、プレシアの氷のような鋭い目に押し黙り歩みを止めてしまう。

「消えなさい、もう貴方には用はないと言った筈よ」

冷たい氷の目にフェイトは……真っ直ぐに見つめ。

「貴方に……言いたいことがあって、此処まできました」

己の想いを……打ち明けた。










「私は……確かに貴方の道具で、人形だったのかもしれない」
「…………」
「でも……私はそれでも貴方に育てて貰った。貴方の娘です」

ああ……。

「だから……私は」

やっぱり……。

「だから……」
「だから何?今更貴方を娘と思えと?」

私は……。

「それが、貴方の望みなら」

この子が……。

「私は、どんな出来事からも、どんな敵からも、どんな……」

愛おしい……。

「くだらないわ」
「!?」
「私の娘はアリシア唯一人、貴方はその代わりに過ぎない人形以下の存在よ」
「…………」

プレシアの言葉一つ一つが、フェイトの心に突き刺さり傷つけていく。

「そんな人形にも劣る存在が、娘と思え?図々しいにも程があるわ」

ごめんなさい……。

「プレシアぁぁ……お前!!」

牙を剥き出しにして今にも咬みかかろうとするアルフをフェイトは片手で制する。

「フェイト……」

アルフはその様子を見て痛々しく思う。

その手は震え、今にも泣き出しそうな顔のフェイトに、何も言えなくなってしまった。

「目障りよ、失せなさい」

ごめんなさい……。

「貴方との思い出も、記憶も」

こんな勝手な私が……。

「偽物よ」

こんな酷くて醜くて……。

「だけど……思い出なら後から作ればいい」
「!」
「過去も、記憶も、全てが偽りだとしても」
「フェイト……」
「無いのなら作ればいい、貴方と私で……」

フェイト……貴方って子は……。

「だって、貴方は私の母さんなのだから」
「!?」

手を差し伸べるフェイトに、プレシアは一瞬目を見開いた。

(こんな私を……貴方はまだ母さんと呼んでくれるの?)

こんな……薄汚れた私を……。

願うならば今すぐにでも貴方を抱き締めたい。

貴方と一緒に、思い出を……記憶を作っていきたい。

だけど……。

「ふん……何度も言わせないで、私の娘はアリシア只一人、偽物の貴方と思い出を作っても、何の意味もないわ」
「!?」





だからこそ……。






貴方と私は……一緒に居てはいけない。









プレシアは杖を地面を叩き、魔法陣を展開する。

「私はアリシアと共にアルハザードへ向かう、貴方とは此処でお別れよ」

その言葉と同時にジュエルシードは輝きを放ち、揺れは一層激しさを増してゆく……。







そして……。





「!?」

崩れ行く足場はプレシアとアリシアを呑み込んでいった。

「母さん!!」
「フェイト!!」

追いかけようとするフェイトを寸での所でアルフが押し止め……。

「母さん……」

落ち行くプレシアを。




見つめ続けていた…。










(泣かないで……フェイト)

貴方は……私の自慢の娘よ……。

(ごめんなさいアリシア、結局私は……何も出来なかった……)

だからフェイト、貴方は……貴方だけでも、幸せになって……。

(もし、もし私の願いが、居もしない神様に届くのなら……どうか、どうかあの子を……)

あの子の未来に……幸せがある事を……。








どこまでも落ち行く中、プレシアは後に残したフェイトの幸せを、望み続け…。








淡い光の中へと……。








溶けていった……。















「母さん……」

虚数空間へ消えていったプレシアをフェイトは呆然と見つめていた。

「フェイト……」

そんなフェイトをアルフは心配そうに見ていると……。

「!?」

残されたジュエルシードが眩い輝きを発し揺れがこれまでよりも遥かに激しくなっていく。

「フェイト戻ろう、ここも危ないよ」
「……………」

アルフの声が届いていないのか、フェイトは呆然とプレシアの堕ちていった場所を見つめて。

「いつまで呆けているつもりだ?顔を上げろフェイト」
「!?」
「ベジータ……?」

いつの間にか隣にいたベジータにアルフは驚愕し、フェイトはやはり目が虚ろになっていた。

「今のお前は、立ち止まる事は赦されない」
「…………」
「恐らくこれからのお前は困難な道を歩く事になるだろう」
「…………」
「だが、だからこそ前を向け、下を向くんじゃない」
「…………」
「それに……何より」
「?」

ベジータが上を見上げているのをみて、吊られてフェイトも見上げると……。

「フェイトちゃん!」
「お前は……一人じゃない」

その光景を見たフェイトは、再び光を取り戻した。

赤い宝石をコアに不屈の心を手に、純白の魔導師高町なのはがユーノを連れて地盤を破りフェイトの下へと駆け寄った。

「フェイトちゃん、大丈夫?」
「え?あ、うん……」

不意に声を掛けられたので返した言葉はやはりどこか覇気がない。

「フェイトちゃん…」
「ま、マズい!!」
「どうした?」

突然大声で叫ぶユーノに全員が振り返ると、ジュエルシードが眩い輝きを放ちながら空間に漂い、不規則に動いていた。

「こ、これって!?」
「魔力暴走、今まで一番の次元震が起きる!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!今次元震なんて起きたら……」
「次元断層が……起こってしまう。このままではミッドが、なのはの世界が危ない!!」
「そんな!!」
「何か、手はないの!?」
「それは……」

絶望的な危機、それに何とか抗おうとあれこれ模索するなのは達。

すると、ベジータが四人の前に立ち、ジュエルシードと向き合う。

「べ、ベジータ?」
「ベジータ君?」
「アンタ、何を?」
「この石っころは俺が何とかしてやる、お前等は下がってろ」
「「「「え?」」」」

ベジータの発言に全員が間の抜けた顔になり。

「え、え……と、ベジータ君?」
「幾ら何でもそれは……」

なのはとユーノがオズオズと聞いてくるが。

「時間がないんだろ、ガタガタ抜かしてないで、とっとと下がりやがれ!!」
「「「「は、はい!!」」」」

ベジータの迫力に全員の身が震え、一目散に下がっていった。

「ベジータ君、何をするつもりなんだろ?」
「さ、さぁ?」

物影に隠れながら話すなのはとユーノ。

「ベジータ……」

そしてフェイトはそんなベジータを心配そうに見つめていた。















「よし、大分下がったな」

だが、本音を言えば庭園からアースラへ戻って欲しかったのだがな。

(だが、恐らくは言うことを聞きはしないだろうな)

特に高町辺りが。

「まぁいい、リンディの奴と約束だけは守ってやるか……」

そう言ってベジータは両拳を握り締め……。

「だぁぁぁっ!!」

炎と稲妻を纏い、金色の戦士……超サイヤ人へと変身する。

「わぁぁぁっ!?」
「きゃぁぁぁっ!?」
「ぐっ!?」
「なぁぁぁっ!?」

いきなり姿が変貌し、吹き荒れる突風になのは達は岩に掴まり何とか堪える。

「あ、あれって……」
「ベジータ君……なの?」

金色に輝くベジータの姿に素直に驚くなのはとユーノ。

そしてフェイトは……。

「……………」

どこか大きく見えるベジータの背中を……。

いつまでも見つめていた。













「さぁて、これまでの鬱憤を払うために……」

ベジータは口端を吊り上げながら輝きを増していくジュエルシードに片手を向けて、光の粒子が収束され巨大なエネルギーの塊が生成されていき……。

「魅せてやるぜ……」

プレシア、お前の願い、お前の想い、この俺が……。






引き受けた……。







だから……。








「これが!!」

悲しみも……。

「新生!!」

憎しみも……。

「超!!」

痛みも……。

「ベジータの!!」

辛さも……。

「ビッグバァァァァン……!!」

みんなまとめて……。

「アタァァァァック!!!!」

消し飛びやがれ。








ベジータの放った巨大光球は九つのジュエルシードを呑み込むだけでは留まらず……。





庭園をも包み込み……。







光が……。








爆ぜた……。



















〜あとがき〜

はい、最終決戦も無事(?)終了しました。

展開が急過ぎる気がしますが……。

さて、こっからはエピローグです。

此方も長くなりそうなんで前編後編に分けたいと思います。

最後に一言、なのは達は生きてますよ!



[5218] 王子様と少女の名前を呼んで・前編
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:bbab8271
Date: 2009/01/28 13:30



時の庭園崩壊から数日、アースラは未だ次元震の影響のある区域から離れ、通常運航に戻っている。

管理局はベジータの依頼通りにフェイトは本局の保護施設へ移送される事になった。

ただ、今回の事件の重要参考人の一人なので暫くは事情聴取は受けることになる。

そしてベジータは当時クロノに対して公務執行妨害により起訴される……筈だったのだが。

「え?ベジータって保護されてたんじゃないの?」

このフェイトの発言にリンディやクロノ、何故かなのは達までもベジータに問い詰め、本人は渋々と自身がミッドでも管理・外世界のどれにも属さない次元漂流者である事と判明。

これにより管理局はフェイト共々ベジータも保護する事となった……。










そして、次元震の影響がなくなるまでアースラに滞在する事になったなのは達はリンディ達と共に食堂で雑談していた。

「本当に貴方達何ともないの?」
「は、はい……」
「あれだけの魔力爆発の中、無事でいられたのは奇跡だ……君達、本当にどこも異常はないんだな?」
「う、うん!大丈夫だよ!!」

歯切れが悪いなのはにクロノはジト目で睨み、ユーノは頭に大きな汗を浮かべていた。

(大体、僕もなのはも、恐らくフェイトやアルフもあの出来事を理解できてないんだ)

リンディさんはあの爆発をジュエルシードによる魔力爆破という結論で本局報告するみたいだけど……。

彼の放った光がジュエルシードを包み込んだと思ったら、一気に光が広まって、気が付いたら全壊した庭園で彼に抱き抱えられてたんだ。

因みにフェイト、なのはは両脇に、アルフは背中に背負いこみ、僕は彼の足に掴まっていた。

端から見れば滑稽だったんだろうな。

モニターも、庭園の激しい魔力流や場所の不安定さが原因で映像が遮断されて映ってはいないみたいだし……。

「おい、牛丼特盛りとタンタン麺特盛り、カツ丼特盛りにお好み焼きキングサイズ、大至急だ」
「うっす!!」

どう答えればいいか分からないユーノの耳に、聞き慣れた声に振り返ると慌ただしいカウンターの前にベジータが寄りかかっているのが見えた。

「あ!ベジータく〜ん!!」

誤魔化すようにベジータに声を掛けるなのはに、クロノは呆れながら溜め息をついた。

そんななのはにベジータは横目でチラリと見た後、再び厨房へ目を向ける。

「へい!牛丼特盛り、タンタン麺特盛り、カツ丼特盛りのお好み焼きキングサイズ、お待ち!!」
「牛丼は……」
「つゆだくですぜ!」
「お好み焼きは?」
「マヨネーズ、忘れてませんぜ!」
「上出来だ」

フッと厨房の大柄のコック長らしき人物とベジータの不敵に笑う姿に、周りの局員は若干引いていた。

そして特別大きな台に、それらの料理を乗せてなのはの隣移動する。

「あ、相変わらず凄い量だね……」
「そうか?」
「……頼むから食材庫を空にしないでくれよ」

呆れ口調のクロノに苦笑いのリンディ。

「これでも遠慮しているんだがな」

意外そうに呟くベジータに全員が「どんだけ〜」と心のシンクロを果たしたそうな。

「ねぇベジータ君、フェイトちゃんは……」

ズゾゾと勢い良く麺を啜るベジータ、一通り飲み込んだ後に口を開いた。

「まだ部屋の中だ」
「そっか……」

少し気落ちしたなのはにベジータは食べながら……。

「心配するな、今は少し気持ちの整理に集中している最中だ。今暫くすれば立ち直る」

と、素っ気なく言うがどこか暖かみのある言葉になのはは笑顔に戻る。

「にゃはは〜♪やっぱりベジータ君は優しい〜♪」
「…………」
「ぶぅ、無視しないでよー!!」

頬を膨らませるなのはに構わず食べ続けるベジータ、そんな二人を微笑ましく見守るリンディ。

「所で……プレシア・テスタロッサの言っていたアルハザード何ですが……それって」

その一言にリンディは顔を一旦伏せた後、少し表情を引き締め話し始める。

「……伝説の秘術の眠る約束の地、アルハザード……死人を蘇らせ、過去の過ちをも覆す事も可能な術を用いて、それはどんな願いも叶うと言われているわ」
「どんな願いも……」
「だけど、アルハザードは遙か昔の旧暦に大規模な次元震によって虚数空間に墜ちたとも言われている、正直、かなり胡散臭い話だ」

クロノも全く信じていないように一言で切り捨てるが……。

(どんな願いも……か)

俺の居た世界にも同じ代物が存在した。

まるで……。

「ドラゴンボールみたいだな」
「え?」
「ドラゴン………ボール?」
(ち、声に出てたか)

自分の失態に舌打ちをしながらもどう誤魔化すか思考を巡らすベジータだが……。

「おい、なんだそのドラゴンボールというのは一体何だ?」
「……チッ」

当然の如く突っかかるクロノにベジータはまた舌打ちを打つ。

「まさか……君の世界にも願望を叶えるロストロギアが存在するのか!?」
「……………」
「答えろ!」
「ふん、何故貴様にそれを話す必要がある?」
「何ぃ!?」
「俺の世界は俺とその世界に生きる者達のものだ。貴様等の押し付けがましい理屈に付き合ってられるか」
「お前……!!」

殺伐としてきた空気になのははオロオロ、ユーノは勘弁してくれと半泣きになっていた……。

「まぁまぁ、ベジータ君の世界が特定出来ないでいる現段階でそんな話をしても始まらないわよ」
「………はい」
「ふん」

リンディの仲介に取り敢えず引き下がるクロノ、なのはは話を逸らすようにリンディに会話を進める。

「でも……プレシアさんは本当に、アルハザードの場所を見つけられたんでしょうか?」
「さぁ、でもあれほどの大魔導師がそんな信憑性のないものに縋る程だから、もしかしたら本当に見つけたのかもしれないわね、アルハザードへの道を……」
「どうでしょうね、大魔導師と言っても彼女も人の身、それに、最後の彼女はどう見ても普通じゃなかった。どうせ「おい 」?」
「それ以上奴への冒涜は許さんぞ」
「何?」

ベジータの発言が意外だったのか、なのはやユーノもベジータへ目線を向け首を傾げる。

「リンディ・ハラオウン、貴様に聞きたい事がある」
「………何かしら?」

箸を置き、リンディを射抜くような鋭い視線を向けるベジータに、リンディは姿勢を正ながらその瞳を見つめ返す。

「貴様の目の前で大切な存在、……息子のクロノが事故で死んだり、誰かに殺されたりしたら、貴様は冷静さや正気を保っていられるのか?」
「!?」
「な!?」

ベジータの質問にリンディの目は大きく開かれる。

「どうなんだ?」
「…………」

リンディはベジータの目から嘘や誤魔化しは通用しないものだと思い。アースラの艦長としてではなく、母親として応え始める。

「そうね、恐らくは……プレシア女史と同じ状態になると思うわ」
「艦長!?」

その言葉をクロノは信じられないといったようにリンディを見つめるが、リンディの表情は冗談といったものではない事と分かり、押し黙ってしまう。

そんなリンディを見つめたベジータは、一間を置いて箸を手に取り……。

「……親が親である限り、誰も奴を責める資格はありはしない、……奴を戒めようとする輩がいれば……容赦はしない」

まるで警告を告げる様に言い放つベジータは、そのまま残った料理を平らげ食堂を後にし、なのは達はその背中をじっと見つめていた……。










「…………」
「フェイト……」

アースラの居住エリアにある一室で、フェイトはベッドに座り込んだまま塞ぎ込んでいた。

「母さん……」
「よう、まだグジグジと引き籠もってやがったか」
「ベジータ!」

突然声を掛けられたことにアルフは耳をビクッと立て、扉に目を向けると壁に寄りかかっていたベジータが呆れた表情でフェイトを見下ろしていた。

「ベジータは……知ってたの?」
「何がだ?」
「アリシアの事、母さんの事……全部」
「……ああ、知っていた」
「……………」
「アルフもいる事だし、丁度いいな」

そう言ってベジータはフェイトの前を横切り、備え付けの椅子に腰を掛ける。

「お前の母、プレシアはアリシアの代わりとしてお前を造りあげた」
「…………」
「だが、外見は同じでも中身は全くの別物であることを気付いたプレシアはアルハザードへの道を導き出し、その要となるジュエルシードの回収を命令づけた」
「……………」
「そして俺はその際にプレシアの目的と理由を知った」
「……そっか」

フェイトは顔を俯きながら自嘲の笑みを漏らし、アルフは辛そうに顔を歪める。

「……以前アルフにも言ったが、前を進むことに恨みが必要なら俺を恨んでも構わんぞ」
「……どうして?」
「恨みは人を生き長らえさせる、ただそれだけだ」

ベジータの言葉にフェイトは……。

「そんな事……しないよ」
「…………」
「だって、ベジータはアルフや私の為に頑張ってくれたんでしょ?」
「それは……」
「私知ってるよ、本来なら私は次元断層を引き起こそうとした罪人で、本当は数百年の幽閉で処罰がされるんだよね?」
「…………」
「それをベジータは無罪も同然の所まで管理局の人達と交渉してくれた」
「…………」
「正直、私は今でもどこか納得していないと思う。けど、それでも決めたんだ、前に進もうって。自分の意志で……自分の想いで」
「そうか」

フェイトの確かな意志を感じ取ったベジータは一先ず安堵した。

「ねぇベジータ、お願いがあるんだけど……」
「ん?何だ?」
「え、えっとその……」
「?」

頬を赤く染め、口ごもるフェイトに小首を傾げると。

クゥゥゥゥ……。

「あぅ……」
「……くくく」
「わ、笑わないでよ!」
「ぷっ、くく」
「アルフまで!?」

耳まで真っ赤になるフェイトをベジータとアルフは大いに楽しんだ。

「ははは、そうか、腹が減ったか、なら食堂へ行くか?」
「そ、それでなんだけど……食べたいんだ」
「何をだ?」
「ベジータが……初めて作ってくれた、あの料理……」
「………」
「だ、ダメかな?」

呆けた顔のベジータにオドオドと上目遣いのフェイトにフッと微笑み。

「いいだろう、なら早く来い。厨房を占拠してやる」
「え?ま、待ってよベジータ!」

意気揚々と部屋から出て、通路を歩いていくベジータに、フェイトはテテテと追いかけていった……。













〜あとがき〜

何が書きたいのか私自身分からなくなってきた……(汗

トッポです。

今回はフェイトの立ち直り?と、ベジータによるプレシアの弁護を書いてみましたけど……大丈夫かな?



[5218] 王子様と少女の名前を呼んで・後編
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:e3986068
Date: 2009/01/29 01:35


そしてその翌日、漸く次元震の余波も収まり、なのは達が元の世界へ帰る当日、ベジータとフェイト、クロノとアルフが途中までの見送りの為に一緒に地球へ行く事になり……。

そして、暫くの別れの時が……。

迫っていた。








地球の日本、海鳴市の海に面した公園、淡い光が満ちるとそこからなのはとフェレット形態のユーノが、続いてフェイト、クロノ、アルフ、そしてベジータの4人が現れた。

「今回の件、君達には随分と世話になった、礼をいう」
「い、いえそんな」
「私達、ただ自分の事をしたかっただけだったし……あんまりお役に立ててなかったと思うし……」

そう言いながら横目でベジータに目を向けるが、気付いた本人は心当たりが無いのか頭に疑問符を付けているだけだった……。

「さて、これから僕達は本局に向かう、あまり時間は取れないから……言いたいことがあるならなるべく早く……な」

クロノはそれだけ言うと、アルフやユーノを連れてその場から離れていき……。

「フェイト、お前も言いたい事があるんだろ?」
「え?」
「じゃあな」

ベジータもそう言って二人から離れ……。

「ベジータ君、えっと、ありがとう!」

手を振りながらのなのはにベジータは振り返る事なくただ指をピッと振るだけで応え、クロノ達の所へ向かった。

「ベジータはいいのかい?」
「何がだ?」
「二人の所だよ、今回の功労者の一人なんだしさ」
「功労者?バカを言うな、俺は誰の為でもない、ただ自分の為に戦ったにすぎん」
「相変わらず、素直じゃないね〜……」
「俺は十分自分に素直だ」
「……可愛くないの」

ベジータの言葉に唇を尖らせるアルフを余所に、ベジータは二人の様子を見守り続けた。


















「え、えっと……」
「…………」

二人きりになったなのはとフェイト、互いに掛ける言葉はまだ見つかっておらず、ただ沈黙が続いているが……。

「にゃはは……ごめんね、考えていた言葉、頭のどこかに置いて来ちゃった……」
「うん、そうだね私も同じ……かな」
「……ねぇフェイトちゃん」
「な、何?」
「覚えてる?私達が初めて会った時の事」
「う、うん……」
「それから私ね、フェイトちゃんにずっと伝えたい事があったんだ」
「え?」

なのはの言葉にフェイトは少し驚いた表情になる。

「戦って、傷付いて、頑張ってるフェイトちゃんを見て、その気持ちを分け合いたいって思ったんだ」
「…………」
「辛い思いも、悲しい思いも……」
「………」
「だから……」
「?」
「友達に……なりたいんだ」

差し伸べたなのはの手を、フェイトはジッと見つめなのはの顔と見比べ続け…。

「……あ、あのね、私、アルフ以外で友達とかそう言うの出来た事ないから……どうすればいいか分からなくって」

胸に手を当て、どうすればいいか迷っているフェイトになのはは優しく微笑み……。

「簡単だよ、友達になる方法……すっごく簡単」
「?」
「名前を呼んで」
「名前?」
「うん、君とか貴方じゃなくて、その人の名前を呼んであげて、全部そこから始まっていくから……」

フェイトは優しく微笑んでいるなのはの顔を見つめ……。

「……なの……は」
「うん……」

目の前の少女の名前を呼ぶ。

「なのは……」
「うん」

何度も……。

「なのは」
「うん!」

互いの存在を確かめるように……。

「……寂しくても、悲しくても……名前を呼べばその気持ちを分けあえる、私は……そう信じてる」
「………」
「これからフェイトちゃんやベジータ君は本局の方へ行っちゃうんだよね?」
「うん、局員の人達にこれまでの事情をお話しなくちゃいけないから……ほんの少しだけ長い旅になる」
「また……会えるよね」

心配そうに顔を覗き込むなのはに今度はフェイトが優しく微笑み。

「うん、それにね……」
「?」
「寂しくなったら、また君の名前を呼ぶよ、……なのは」
「!!」

フェイトの……はっきりと呼んでくれた自分の名前に、なのはは抑えていた感情が少しずつ溢れ出してきた。

「……なのはの言ったとおり、友達が泣いていると自分も辛く、悲しくなるんだね。……でも、それがとても嬉しい」
「フェイトちゃん!」

涙を流しながら抱きつくなのはに、フェイトもまた、涙を流す。

「全部終わったら……また、なのはに逢いに行ってもいい?」
「うん……うん!」

涙を流し続ける二人を……。

一陣の風が、二人を優しく……。

包み込んだ……。

そして、フェイトから離れたなのはは自分の髪留めを外し、フェイトに差し出す。

「思い出に出来るもの、これ位しかないから……」
「じゃあ……私も」

そう言ってフェイトも髪留めを外して差し出し……。

互いの髪留めを交換する。

互いの想いを、通じあえるように……。

















「ひっく……えぐ……」
「……何泣いてるんだお前は?」
「だってさ、なのはってばスゴく優しい子だし、フェイトがあんなにも笑ってるの、初めて見たから……」
「まぁ……それもそうだな」

フェイトの、泣きながらも安らかな笑みにベジータは嬉しく思い、なのはに心の中で礼を述べた。

(やはり、フェイトをアイツに任せたのは正解だったな)

だが、それ以上にあの二人はライバルとも言えるな……。

(ライバル……か)

ベジータは広がる青空を見上げ、自身の宿命の相手を思い出し……。

(カカロット、貴様との決着、いつか必ずつけてやるからな……)

だから……。

(待ってやがれよ)

何処までも続く蒼天の空を眺め続けていた…。

「………アルフ」
「あ、時間かい?」
「ああ、そろそろ出発しなければならない。……悪いけど」
「……分かったよ」

ユーノはアルフの肩から降りてなのはに駆け寄る。

「話は済んだか?」
「ベジータ……うん」
「フェイトちゃん!」
「安心しろ高町、フェイトの奴は俺が面倒見てやる」
「ベジータ君……」
「まぁ、仮に管理局がフェイトに何かしようものなら……」

その時は管理局の最期だ……。

「あ、あの……ベジータ君?」

クククと笑うベジータになのはは少し引き始める。

「ああそうだ……お前に渡したいものがあったんだ 」
「ふぇ?」

ゴソゴソと懐を漁るベジータに首を傾げるなのは。

「これだ」

取り出した少し大きめの封筒になのはは少し戸惑う。

「え?で、でも私、ベジータ君に渡せるものなんて……」
「余計な気遣いはいらん、これは俺の勝手な謝礼でもあるし……」
「?」
「別に、形あるものだけが思い出になる訳ではないだろ?」
「! うん、そうだね」

なのははベジータの言葉に素直に頷き、封筒を手に取る。

「じゃあな」
「あ、待って!!」
「?」
「名前、私の名前を……」
「ベジータ、そろそろ……」
「ああ、今行く」
「あ……」

遮断されたクロノの言葉になのはは少し気落ちするが……。

「またな、……なのは」
「!」

背を向けながらも、はっきり聞こえた名前に……。

「うん!またね!!」

満面の笑みで手を振った。

そして、ベジータ、フェイトはなのはから離れ、クロノに歩み寄ると魔法陣が展開され、四人を包み込む。

「フェイトちゃん、ベジータ君、クロノ君、アルフさん、またね!!」
「うん、うん!!」
「またね、なのは!」
「ああ、また……」

手を振り続けるなのはに、フェイトとアルフも手を振り返して応え、クロノは言葉で返し……。

「………ふん」

ベジータは腕を組ながら指をピンと伸ばし、別れと再会の意味を込めた……。

やがて魔法陣の光は強くなって、光が一瞬弾けると、公園は静けさを取り戻し、そこはなのはとユーノだけが残された…。







だが、これは別れではない。







明日に続く道と、これから始まる物語の序章に過ぎない……。






故に……。





「なのは……」







まだ、この物語は終わらない……。






「うん!!」








終われない。













to next stage in As→

















〜おまけ〜

「ふぅ、やっと着いたよ〜」
「なのは、お疲れ様」
「ユーノ君もお疲れ様〜、ゆっくり休んでね」
「うん、……そういえばなのは、ベジータさんから何を貰ったの?」
「あ!そうだった?」

ユーノの言葉で思い出したなのははベジータから貰った封筒を開けると……。

「これって……」
「C……D?」

同封されてたのは一枚のCDディスク、なのははそれを開け、ユーノと一緒に覗き込むと……。

「え゛?」
「こ、これは……」

派手なデザインを施され、オマケにサイン付きの……。

【ベジータ様のお料理地獄】が……。

収納されていた……。














〜あとがき〜

無印編最終話、如何でしたか?

自分なりに綺麗にまとめたつもりですが……。

さて、ここからは幕間を書いて、そこからAsへ移るつもりです。



最後の最後に色々とぶち壊したベジータ様のご活躍、期待してくれれば幸いです!!



[5218] 幕間其の壱
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:eed9440f
Date: 2009/02/01 14:34

「う〜ん……」
「?」

本局の住居エリアにある中央公園。

周りの子供達の明るい声が聞こえてくる中、噴水近くで座っているアルフとフェイト。

「どうしたのフェイト? 何か悩みでもあるの?」
「うん、悩みというか……ちょっと気になった事があって」

P・T事件から早1ヶ月、事情聴取の最中であるフェイトとアルフ、ベジータの三人はここ、管理局本局の保護施設にて日々を過ごしている。

穏やかな日々、そんなある日にフェイトは一つの疑問を浮かべた。

「ベジータって、何者なんだろうなって……」
「へ?」
「ほら、私達ってベジータが次元漂流者ってだけで、実は全然何も知らないんだよね……」
「ああ〜、そう言われてみればそうだね」
「でしょ?」
「フェイトやクロノみたいな魔導師でもなさそうだし、手から砲撃みたいなの出すし」
「しかも、その砲撃も下手したらオーバーSランク以上の威力だったし」
「極めつけはあのバチバチゴウゴウの金ピカ形態だしね〜」
「うん、何だかその……上手く言えないけど、威圧感が増したみたいだし」

フェイトは時の庭園で見たベジータの姿を思い出していた。

「考えれば考える程、分からない所が多い奴だよね」
「うん」

アルフもフェイトの疑問に理解して腕を組んで考えを巡らせるが……。

「でもさ、何だって急にそんな話しに?」
「え? い、いやその、私だけ何も知らないのは不公平とか、ズルいとか、そういう意味じゃないんだよ!!」

顔を真っ赤にしてワタワタと両手を振るフェイトにアルフは苦笑いを零す。

「じゃあ本人に聞けばいいんじゃない?」
「そ、そそそんな事言われても私、何て言えば……」
「俺がどうかしたか?」
「きゃわ!?」

突然声を掛けられた事にフェイトは大きく反り返り、危うく噴水に落ちそうになった。

「べ、ベジータ? どうしたの?」
「戦闘訓練室が開いたから組み手の相手に誘おうかと思ったが……何か用事でもあったか?」
「う、ううん、大丈夫だよ」

平静を装って立ち上がり、そんな自分の主にやれやれと思いつつアルフも一緒に立ち上がる。

「あ、ごめんベジータ、バルディッシュを取りに行くから先に行っててくれないかな」
「仕方ない、なら先に行ってるぞ」

それだけ言ってベジータはその場から離れ、フェイトはその背中を見えなくなるまで見続けていた。













「い、いけない、早く行かないとベジータに叱られちゃう」
「大丈夫だって、アイツがそれ位で怒るような奴じゃないよ」
「で、でもやっぱり心配させたらベジータ、困っちゃうと思うから」
「ああ、それはあるかも」

何だかんだでベジータの奴、フェイトに激甘だからさ。

小走りのフェイトとアルフが通路進み、曲がり角に差し掛かったときだった。

「きゃっ」

曲がり角に曲がった際に何かにぶつかり、フェイトは尻餅をついてしまう。

「フェイト、大丈夫かい?」
「あたた……うん」

お尻をさするフェイトをアルフを抱き起こすが。

「最近の子供は礼儀知らずなんだな」
「!」

上から掛けられた冷たい言葉に、目線を上に向けると。

人を見下した目をした制服姿の、スキンヘッドの男がフェイトをその目で射抜いていた。

「あ、ご、ごめんなさい」

萎縮しながらすぐに謝罪するフェイト、アルフは気に入らないと言ったように目を鋭くする。

「ふん、見慣れない奴だな、また本局はどこぞの子供を拾ってきたのか」

吐き捨てる男の台詞にフェイトは顔を俯き、アルフは牙をちらつかせている。

「全く、管理局は子供の預かり場所ではないというのに……おいお前、名前は?」
「は、はい、その……フェイト・テスタロッサです」

オドオドと自分の名前を言うと、男は目を開いた。

「テスタロッサ!テスタロッサだと!?まさか、貴様の母親は……」

そこまで言って男は更に顔を歪ませ、険悪な表情になる。

「犯罪者の娘まで保護するとは、落ちぶれたものだな海の奴等も」
「!?」
「アンタねぇ……」

男の、言ってはならない禁句にフェイトは涙目になり、アルフは殺意の眼光を男にぶつける。

「何だねその目は?全く、流石は犯罪者の娘の使い魔だ。礼儀どころか恩義すら知らないと見える」

男の言葉にアルフはギリギリと歯軋りして一歩手前で何とか堪える。

この場にベジータが居合わせなくて良かったのかもしれない。

もしかしなくても、今のベジータは男のその言葉を聞いた瞬間に、文字通り血の雨が振ったのかもしれない。

と、そこに。

「そこで何をしてられるのですか」
「クロノ執務官殿」

後ろの通路から通りかかったクロノが男に話し掛けるが、その際に男から舌打ちの音が聞こえたのは、気のせいではないだろう。

「貴方は別所に報告がある筈、此方とは逆方向ですが、一体何のご用件がおありで?」
「いえ、少々道に迷いまして、……それにしても」

男は再びフェイトに向き直りフンッと鼻を鳴らし。

「何故ここに犯罪者の関係者がいるのですかな?」
「…………」

男の鋭い目に、フェイトは何も言えず、ただ俯いていた。

「……彼女は様々な経緯があって、今は此方で保護していることになっています」
「犯罪者の娘を保護してどうするのです? 危険分子をワザワザ法の城である本局に? 理解できかねません」
「彼女はここで充分な教育を受けて、事の正しさを教えてあげていくつもりです」

クロノの発言に男は口元を歪めて。

「さて、それはあまり信用出来ないと思われますよ、なにせ……【前例】があるわけですしな」

男の一言で、フェイトの目尻に大粒の涙をため込め、今にも溢れ出しそうになり、アルフは今にも男に殴り掛かりそうになる。



「それ以上の暴言を吐かれますと、執務官として許す訳にはいかなくなりますよ」
「!?」

今まで穏やかだったクロノの目が鋭くなり、男は身震いを感じた。

「彼女は彼女です。過去がどうあれ、今は未来に向けて前に進もうとしています。それを摘み取る真似をするならば……容赦はしませんよ」

クロノは鋭い眼光を男にぶつけ続け。

「で、では私は報告があるので……これで」

男は逃げるようにその場から去っていき、その姿が見えなくなるとクロノはフェイトに向き直り。

「大丈夫かフェイト? 君とベジータの様子見で来たのだが……正解だったみたいだな」
「そう……うん、私なら平気だよ」

赤く腫れ上がった瞼を見て、クロノは拳を握り締めた。

「済まない、彼は地上の人間だから、犯罪者に対して過剰なまでに反応してしまうんだ」
「…………」
「だけど、局員全てがあのような人じゃないって事……少しずつでいいから、理解してほしい」

そう言ってクロノはフェイトに深々と頭を下げ

「本当に、申し訳ない」

心の底から謝罪を述べた。

その時、フェイトは目を見開いて慌てて

「だ、大丈夫だよクロノ、それならちゃんと分かっているから、リンディ提督もクロノも、保護施設の人達もみんないい人ばかりで、そう言うの分かってるつもりだから」
「………」
「ね、だから……顔を上げて」

フェイトの言葉にクロノは漸く頭を上げる。

「本当に済まない」
「良いってば、アルフも分かってくれるよね?」
「まぁ、クロノやリンディさんは悪い人じゃないって言うのは知ってるから良いけどね」

渋々と言ったように頬を掻くアルフにフェイトは苦笑いを零す。

「そうか、そう言ってくれるとありがたいよ。……じゃあ僕はこれで」
「うん」

そう言ってクロノはフェイト達から離れ、元来た道を戻り。

フェイトはクロノの姿を見えなくなるまで見つめたあと……。

(このままじゃ……ダメだ)

私、全然前に進んでいない。

(ベジータやクロノ、リンディさんに頼ってばかりで……何も出来ていない)

ベジータにも、これ以上迷惑は掛けられないし

(私は私を守ってくれる人達を……守りたい。その為には)

フェイトは懐からバルディッシュを取り出し。

(強く……なりたい)

新たな決意と共にその手を強く

握り締めていた












「ふん、やたら遅いから戻って来てみれば」

少し離れた通路で、壁に寄りかかるベジータはフェイトの表情を見て安心する。

「あの様子だと一先ず大丈夫そうだな」

ここの所、フェイトは時折暗い表情になるのは分かっていた。

だからこそ、気を紛らせる為にちょくちょく模擬戦を誘っていたのだが

「それももう必要ないか、……あとは」

途端にベジータの表情は歪み、とても冷たい笑顔になる

「あのハゲ頭……だな」

ピシュンッと音を立てた瞬間、ベジータの姿はその場から消え去っていた。













「ち、あの執務官にはつくづく頭に来るぜ」

報告を終えた男は鼻息荒く通路を歩いていた。

「いつかあの小娘にも、生意気な小僧にも、目にものを見せてくれる」

拳を握り締め、口端を吊り上げる男だが。

「ほぅ? どんな目に合わせるつもりだ」

背後から声が聞こえた瞬間、汗が噴き出した。

(な、何だ……この悪寒は!?)

後ろの方を向くなと本能が警告している

だが

「だ、誰だ!?」

男は勢い良く振り返るが。

「誰も……いない?」

誰一人いない事に男は首を傾けるが。

「どこを見ている?」
「!?」

また背後から声を掛けられ、男は振り返るが。

「な、何なんだよ一体!?」

自分が今体験している事に恐怖を覚え、男はその場から逃げ出すが。

「どこへ逃げる気だ?」
「俺はここだぞ」
「こっちだ」
「ほらほらどうした」
「ひぃっ!?」

多方面からの姿なき声に男は遂にうずくまり。

「どうしたんだ?」

正面から聞こえてきた安心感を感じさせる声に男は顔を上げ。

「あ、ああすまない、少し落とし物を……」

だが、顔を上げた瞬間、男は固まった。

何故なら

「そうか、まぁそれよりもそんなに走って暑いだろ、今冷やしてやるよ」

悪魔のような顔をしたベジータが。

「あ……あ……あ」

物凄く【いい笑顔】で腕を組んでいて。

「少し……頭冷やすか?」

瞬間。

「!?!?!?」

時空管理局本局に、一人の男の叫びが

木霊したそうな。













そしてその後、中央公園に血達磨で意識不明の男が木に全裸でぶら下げられ。

「あ、悪魔だ……悪魔の子だ」

と、額に【M】の文字を掛かれ、失神しながらブツブツとつぶやいていたそうな












〜おまけ〜

「ご、ごめんベジータ、遅れちゃった」
「ふん、まぁいい、少しくらいは多目に見てやる」
「あれ?何かベジータ、機嫌良さそうだね?」
「それにほっぺたの赤いのはどうしたの?」
「ん? ああこれか?さっき上手いオムライスを食べてな、その時のケチャップだろ」
「いいなぁ、アタシも食べた〜い」
「この模擬戦が終わったら俺がご馳走してやるよ」
「ホント!?」
「ああ」
(何だろ、ベジータは機嫌良さそうなのに……何故だか寒気が)

それにあれ、ケチャップにしては……やけに。


フェイトはそこで考えるのを止めて、模擬戦へと集中したのだった。

















〜あとがき〜

今回はフェイトの嘱託魔導師になる為のキッカケを書いて見ました。

その為に犠牲になった名も知らぬ局員さんに心からの御冥福を(コラ

かなり無理矢理感がありますが。

見てくれれば幸いです。



[5218] 幕間其の弐
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:55c82ad4
Date: 2009/02/01 14:50

「嘱託魔導師?」
「うん」

保護施設の住宅地の一室、ベジータとフェイトはそこで朝食を食べながら話をしていた。

因みにアルフは狼形態でドッグフードを食べている。

「嘱託魔導師とは、何の事だ?」
「嘱託魔導師というのは言わば仮の局員、これを受かる事が出来れば私の行動規則もグッと緩くなるし」
「………」
「ベジータやクロノ達に……恩返しができるんだ」

ベジータは食後のコーヒーをテーブルに置き、腕を組んで少し考えに浸る。

(嘱託魔導師、それは言わば管理局の道具にされる前提になるという事)

本来なら絶対に反対するのだが

(だが、幾ら俺が言った所でコイツは考えを変える気は無いだろう)

ベジータはフェイトの瞳をジッと見た後溜め息を吐く。

「お前の生き方だ。俺がどうこう言うのは筋違いだろ」
「ベジータ」
「それに、俺は今後お前を手助けをするつもりはない」
「!」
「ベジータ、どうして!?」

ベジータの言葉が意外だったのか、フェイトは目を開きアルフは食べるのを中断する。

「これはお前の人生だ。どう生きるのも貴様の自由、そこに俺が横槍を入れるのは野暮ってものだ」
「………」
「だがなフェイト、これだけは言っておく」
「……何?」
「後悔を残す生き方だけはするな」
「うん……」


想像以上に気落ちするフェイトに、ベジータはすこし気まずくなり。

「ま、まぁお前の行く先にどうしても、どうしようもない事が立ちはだかった時、その時は……」
「?」
「少しばかり、手を貸さない事もない」
「! ありがとう。ベジータ」
「ふん」

フェイトの満面の笑みにベジータは照れ臭そうにソッポを向いて。

「やれやれ、ホント、素直じゃないよね」
「五月蠅いぞアルフ!」
「へーい」

もう幾度目の台詞に、アルフは笑いを堪えつつ、食べるのを続けた。

「所で、その嘱託魔導師にはどうなるんだ?」
「うん、それはね……」

フェイトの話しに夢中に聞き入れるベジータを見て。

(結局は、何だかんだ言って放っておけないんだよね、ベジータは)

ベジータの姿を見て、アルフは微笑ましく思い、ベジータの買ったドッグフードを食べていた。












そして、ベジータとフェイトとアルフの三人は戦闘訓練室にて対峙していた。

「話を聞くに、嘱託魔導師の資格をとる為には筆記試験と実施試験があるらしいんだな」
「うん、筆記試験は私が何とかするからベジータは…」
「実施試験は俺がお前を鍛えてやればいいんだな?」
「うん、ごめんねベジータ、結局手伝わせちゃって」
「構わん、俺も体を動かさないでいるのは堪らんからな」

戦闘服に着替え、準備運動しているベジータにフェイトは意を決してある質問を聞いた。

「ね、ねぇベジータ」
「何だ?」
「どうしてベジータはそんなに強いのに、その……まだ強くなりたいの?」
「…………」

フェイトの質問に、ベジータは動きを止め押し黙ってしまう。

「あ、あのベジータ?」
「………」
「も、もしかして聞いちゃ…「昔」?」
「昔、俺とある奴とは互いに殺し合いをしていた」
「!?」
「そいつは、奴は最初こそは俺との力は天と地との差があった」
「…………」
「だが、奴はメキメキと腕を上げ、今ではこの俺の上をいきやがった」
「ベジータよりも」
「強い……」

悔しそうに、それでいてどこか誇らしそうに語るその話を、フェイトとアルフは呆然と聞いていた。

「そんな奴に俺は命をも助けられた事があって、今では俺の倒すべき敵だ」
「て、敵って……」
「そいつはベジータを助けてくれた事もあるんでしょ!? 何だってそんな……」
「それが俺と奴の貸し借りを消す、唯一にして絶対の方法だ」
「そんな…」
「それになにより」
「?」
「俺は、奴を超えたい」

拳を固く握り締め上を見上げるベジータの表情は、どこか遠く、自分達とは別の場所を見ているみたいだった。

「さて、少し長話が過ぎたな。始めるぞ」

話を切り上げ、そそくさと離れていくベジータの姿にフェイトは何も言えず…。

(もし、もしベジータのいた世界が見つかって、そこに帰る事になっちゃったら…)

私は、どうすればいいんだろう。

(ベジータ)

やけに遠くに感じるその背中を私は見つめ続ける事しか……出来なかった。














そして数日が過ぎ、現在フェイトとアルフは別世界にて嘱託魔導師の認定試験を受ける準備をしていた。

『こちらが私の使い魔、アルフです』
『よろしくー』

画面越しからの挨拶に微笑むのはエイミィとリンディ、そして

「ベジータ君♪ 久しぶり〜♪」
「のぁ!? 離れろレティ!!」

ベジータに抱き付くのはリンディとは親友関係のレティ・ロウラン提督である

部屋に入ってきていきなりベジータに抱きついてきたレティにエイミィとリンディは微笑んでいた。

「ねぇ、いい加減私の養子になってよ〜!」
「またそれか!? 貴様こそいい加減にしやがれよ! 俺は誰の施しも受けん!」
「う〜ん、その強がりっぷり、やっぱりベジータ君は可愛いな〜♪」
「……おいリンディ、コイツ殺していいか?」
「それでも私の親友なの、許してあげて」
「なら何故笑う?」

笑いを堪えているリンディにベジータはこめかみに青筋を浮かべ、レティを引き剥がす。

その際にレティの「ベジータ君のいけずぅ〜」という台詞は聞かなかった事にする。

「で、フェイトの筆記試験の結果はどうだったんだ?」
「ほぼ満点、魔法知識も戦闘関連に関しては修士生クラスよ」
「筆記に関しては問題なし、か」


画面越しからフェイトとアルフが儀式魔法が展開されていくのを見守りつつ、どこか安堵したベジータを見て。

「ふふ、ベジータ君、まるでフェイトちゃんのお兄さんみたいだね」
「いや、寧ろお父さんじゃない?」
「……本気で死ぬか?」

拳を握り締めるベジータに、リンディ達は慌てて画面に向き直る。

『サンダーフォールッ!』

響き渡る雷に、エイミィはコンソールを叩いて儀式魔法の使用を確認する。

「なる程、これは期待できそうね」
「でしょう?」
「お疲れフェイトちゃん、儀式実施終了だよ」
『はい』
「一時間休憩だから、一休みしてゆっくり英気を養ってね」
『分かりました』
『やったー! お弁当♪』

はしゃぐアルフに笑みを零しつつ、二人はベジータが作ったお弁当を広げ始めた。

「それにしても驚いたな〜、まさかフェイトちゃんが自分から嘱託魔導師になりたいだなんて」
「まぁ、此方にすれば高ランク魔導師が増えてくれるのは助かるんだけど」
「でも、何だってまた」

そういって三人はベジータの方に視線を集め

「……何だ?」
「「「別に……」」」

心底不思議そうに首を傾げるベジータに呆れつつ再び画面へと向き直った。

「さて、ここからは試験官との模擬戦闘ね」
「ベジータ君、貴方ならどう思う?」
「戦闘技術や速さは中々のものだし、俺との組み手でそれも向上している。……だが」
「だが?」
「……体力が無さ過ぎるのが欠点だな。長期戦に持ち込められれば勝ち目は薄くなるな」
「う〜ん、基本的に試験に勝敗はあまり関係ないんだけどね」
「やるからには勝て、フェイトにはそう教えてやった」
「ベジータ君ってもしかして、かなりスパルタ?」
「さぁな、俺的には普通だが」

恐らくはかなりスパルタであろうベジータの戦闘指導に、エイミィはフェイトに激しく同情した。

そして。

『クロノ!?』

聞こえてきたフェイトの驚きの声に、ベジータは画面に目を向ける

「何故あの小僧が?」
「AAAランク魔導師の戦闘試験をできる試験官となると中々いないのよ」
「クロノ君はAAA+で指導も上手いし、フェイトちゃんも全力で挑めると思うんだよね」
「………」

ベジータはエイミィの言葉に眉間に皺をよせ、エイミィの隣に立ち。

「おいフェイト、聞こえるか?」
『ベジータ?』
「これからお前は小僧と模擬戦をするみたいだが、正直言って今のお前では勝ち目は薄い」
『………』
「だが、それはやりようによって変わるものだ、勝ち負けはともかく、思い切りぶつかっていけ」
『ベジータ……うん!』
「だが……」
『?』
「隙あれば殺れ、俺が許す!」
『…………』

ベジータの激励?にフェイトはやる気は出たのか、杖を握り締めてクロノと対峙した。

「ふ、いい面構えになったじゃないか」
「あの……ベジータ君、仮にも母親の前で言う台詞じゃないわよ今の」
「気にするな、軽い冗談だ」
(君の台詞は冗談に聞こえないのよ)

ベジータに心で突っ込みを入れるリンディをよそに、ベジータ達は画面に映るフェイト達を見守っていた。










「全く、あの男は」

ベジータの激励にクロノはこめかみをひつかせていた。

「ごめんねクロノ、ベジータにも悪気はないんだと思うんだよ、……多分きっと」
「否定するならハッキリ言ってくれると嬉しいんだけどな」

少し涙目のクロノにフェイトは苦笑いを零す。

「さて、これから君と僕とで嘱託魔導師認定試験を始めるが、準備はいいね?」
「うん」

取り出した黒いカードがクロノのデバイス、S2Uに変化すると、フェイトはバルディッシュを下段に構える

(この試験に合格すればクロノやリンディさん達のお手伝いが出来るようになるし、何より)

ベジータの背中に、一歩近付ける。

今はとても遠くて、大きなあの背中

それに少しでも近づいて。

いつか、追い付ける為に

(私は、ここから始まるんだ!)

バルディッシュを握り締めるフェイトはクロノを見据え。

「いきます!!」





未来に向けて、遙か遠い目標に向かって





駆け出した。












〜おまけ〜

「そう言えばさ」
「?」
「クロノ君はAAA+ランク、フェイトちゃんはAAAランク、ならベジータ君はどうなんだろう?」

エイミィの疑問にベジータは鼻で笑い

「そんなランク付けなど、実際の戦いには関係ないだろう」
「い、いや、ベジータ君の価値観はそうかもしれないけど……」
「……まぁ、強いて言うなら」
「言うなら?」
「Zランク……とだけ言っておくか」
「ぜ、Zランク?」
「そんなランクあったかしら?」
「いや、無いわよ普通に」

クロノとフェイトがぶつかり合う最中、リンディ達は談笑に浸っていた







〜あとがき〜

さぁてと、幕間も後わずかで終わり、Asも間もなく始まります。

ただ、As編はオリジナルな展開になるかと思われますが、生暖かい目で見守って下さい。



[5218] 幕間其の参
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:dca449bd
Date: 2009/02/08 01:08


ごめんなさいフェイト、ごめんなさいアリシア

私は全くダメな母親だった。

いや、きっと私は母親ですらなかった。

アリシア、私は貴方を失って、貴方を取り戻そうと命を造り、貴方の魂を穢した。

フェイト、こんな私を身を削ってまで私に尽くしてくれた貴方を私は酷い仕打ちを何度も繰り返した

最期まで、私の事を母さんと言ってくれた貴方を。

だから

「お〜い」

だから

「もしも〜し」

私は

「聞こえてねぇんかな? お〜い」

だけどもし、もしもやり直せる事が出来るなら

「しょうがねぇな」

図々しいと思いながらも、願いが叶うというのなら

「すぅ〜…」

私は

「お〜〜〜〜い!!」
「ひゃわぁぁ!?」

耳元で大声を掛けられ、プレシア・テスタロッサはガバッと勢い良く起き上がり辺りを見回す

「な、何今のは?」

プレシアが目を覚ますと、辺りはどこまでも続く真っ白な空間に支配され、霧のようなもので視界はあまり良好とは言えなかった

「ここは……一体?」

見たことのない光景に戸惑い、立ち上がるプレシア

「お〜い、どこ向いてんだ?」
「!?」

突然声を掛けられ振り返るが

「いない?」
「こっちだぞ」

またもや声を掛けられ、辺りを見渡すが

「誰なの?」

霧が濃い所為か声は聞こえるが姿は見えない

すると

「ここだここ」

下から聞こえてきた声にまさかと思いながら視線を向けると

「オッス」

見た目十歳の少年が満面の笑顔で片手を上げ、挨拶していた。

「貴方は?」
「オラは悟空、孫悟空だ」

悟空と名乗った少年は明るい笑みを浮かべ手を差し伸べる

「悟……空?」

確かめるように目の前の少年の名前がを口にすると

「そうだ……私は」

これまでの出来事を思い出したプレシアは自嘲に笑い

「随分、可愛い死神ね」
「死神?」

プレシアの言葉に少年は小首を傾げる

「そうでしょ、ここは死後の世界、貴方はさしずめその案内役なのでしょう?」
「おめぇ何か勘違いしてねぇか? ここはあの世でも何でもないし、大体おめぇ死んでねぇぞ」
「……え?」

少年の言葉にプレシアは間の抜けた声になる

「オラ何て言えばいいか分かんねぇけど、ここは全ての時間が止まった世界、つー所だ」
「全ての……時間が? ならばここは、アルハザードなの!?」
「あるはざーど? いや、多分違ぇと思うぞ」
「……そう」
「それにしてもオラ驚いたぞ。まさか自力でこの空間に来るなんて」
「………」

プレシアの耳には少年の言葉は入っておらず、ただ俯いていた。

「なぁ、おめぇは一体何の為にここまで来たんだ?」
「何の……為に?」
「おめぇ自身の為か? それとも、そこで眠っている子の為か?」
「え?」

少年の指差す方へ振り返ると、そこには裸で倒れているアリシアが横たわっていた。

「アリシア!!」

プレシアはアリシアに駆け寄り抱き起こし、何度も呼び掛ける。

「アリシア、アリシア」
「どうやら訳ありみたいだな、それにおめぇ自身も死ぬ一歩手前まで来てやがるぞ」
「………」
「今はこの空間で何とか保っているけど、ここから離れたら一気に閻魔のおっちゃんまで逝っちまうぞ?」
「………わ、私は」

プレシアは目に涙を浮かばせ口を開くが

「待った」
「?」

目の前に掌を突き出され、言葉を遮断される

「おめぇの話、長くて難しそうだから、オラがおめぇの記憶を読みとらせて貰う」
「記憶を……読み取る?」
「ああ、だから屈んでくれ」
「は?」
「おめぇ背が高ぇから届かねえんだよ」
「そ、そう……」

少年の言葉に、プレシアは流されるまま言うとおりにして、少年の前に跪く

そして少年、悟空はプレシアの頭に手を置き目を閉じる

「ふむふむ」
「…………」
「なる程なる程」
「あの……坊や?」

やがて悟空はプレシアの頭から手を放し目を開く

「大体おめぇの事情は察した。その子を生き返らせるのがおめぇの目的だったんだな」
「!?」
「それにしてもベジータの奴、面白ぇ所に行ったんだな」
「!?!?」

ニヤリと笑う悟空に対し、プレシアは驚愕で目を見開いた

(本当に……私の記憶を読み取った!?)

ただ頭に手を乗せただけで記憶を覗き込むなんて

(そんな希少スキル、聞いた事ないわ! いや、それよりもこの子、ベジータの知り合い?)

プレシア驚きの表情を崩さず、ただ頷いている少年をみつめているだけで

「ね、ねぇ、貴方は一体「おーい、神龍!」?」

プレシアの質問を遮り、悟空が名前らしきものを呼ぶと、辺りの霧は消え去り、見晴らしが良くなっていく

そして、プレシアと悟空の目の前に

『どうした? 孫悟空』

100m以上はあるだろう、巨大な龍がプレシアの前に舞い降りてきたのだ

「な……な……な」

プレシアは目の前の巨龍に驚愕を飛び越え、腰を抜かした

「神龍、頼みがあんだけどよ、大丈夫か?」
『どんな願いも、と言いたい所だが今の私では星を直すレベルの願いは聞けんぞ』
「ああ、それよりも多分簡単だ。この女の人の病気の治しと、その子の魂を呼び戻して欲しいんだ」

悟空の言葉に巨龍はその赤い目でプレシアを見つめ。

『容易い事だ』
「……はい?」

巨龍の言葉にプレシアは思わず間の抜けた声を出してしまう

「んじゃ神龍、早速やってくれ」
『承知した』
「え? え? ち、ちょっと」

抗議の声を上げるプレシアだが、巨龍の目が光った瞬間、プレシアとアリシアの体が光に包まれていった

「な、何なのよ一体!?」

最早自分の理解を遥かに超越した現象にプレシアは頭がついていけないでいた

そして、光が収まっていくと

「な、何よ…これ」

プレシアは自分の手を見て幾度目かの驚愕に浸る

「体が……軽い! それに…若返ってる!?」
『お前の体は病魔によりボロボロにされていた。仮に病を治した所で次の病がお前を蝕む。ならばいっその事、お前自身を病魔に巣くう前に戻したと言うわけだ』
「そ、そんな事が……可能なの?」
「それだけじゃねぇぞ」
「え?」

悟空の微笑みにポカンとするプレシアに

「その子の体、見て見ろよ」
「あ!」

抱き抱えたアリシアを見ると、可愛らしいワンピース姿に変わり、その顔には生気が宿り、胸の動きが上下に揺れていた。

「アリ……シア?」
『その者は長い間魂と切り離され、あの世に漂っていた。完全に蘇生するには少しばかり時間がかかるが、直に目を覚ます』
「アリシア……」

巨龍の言葉に、プレシアの瞳からは、ボロボロと大粒の涙が零れ落ちる

「アリシア!」

プレシアは壊れた蛇口のように涙を溢れさせ、アリシアを抱き締める

「さて、おめぇの願いを叶えた所で悪いけど」
「?」
「もうお別れだ」

悟空のその言葉と同時に、プレシアとアリシアは淡い光に包まれ始める

「こ、これは!?」
「心配すんな、これはおめぇ達を元の世界に戻す為の光、なんの害もねぇ筈だぞ」
「ちょっ、ちょっと待って、貴方は一体!?」
「ベジータの奴に宜しくな〜♪」

プレシアの質問に悟空は笑顔と手の振りで応え

「あ、ありがと……」

お礼の言葉を最後に、プレシアとアリシアは光に包まれ

消えていった



















「ハッ!?」

ボーっとしていた頭を一気に覚醒させ、プレシアは辺りを見渡した。

「こ、ここは?」

プレシアが呆然と立ち尽くした場所は、眼下に広がる街を見渡す丘の上だった。

「夢……だったの?」

いや、夢じゃない。

あれが夢だったのならば、今頃私は虚数空間に堕ち死んでいた

「なのに、私はこうして立っている」

これそのものが夢と言われればそこまでなのだが、何故かそれはないように確信できた

それに……。

「体が軽い」

体に魔力が満ち、力が溢れてくる

何より

「う……ん」
「アリシア!!」

腕に抱かれたアリシアが声を漏らし、身じろぎをする姿にプレシアは腰を下ろし呼び掛ける

「アリシア、目を開けて、アリシア!!」
「う……お……母…さん?」
「!!」

うっすらと目を開け、母と呼んでくれた娘に

「う……グ……エゥ」

プレシアは再び涙を流した

「お母さん、どうしたの? どこか痛いの?」
「うぅん、うぅん!」

不思議に思うアリシアに、プレシアは涙を流し続けた

「お、お母さん、痛いよ」
「アリシア、アリシア!!」

痛い程まで抱き締める母にアリシアは苦笑いしながらも受け入れた。










世界はこんな筈じゃない事ばかり



確かにそれは世界の理の一つ



だが



それに抗うのもまた。



真実ではないのだろうか?



「アリシア……」
「大丈夫だよ母さん、私なら……ここにいるよ」

泣きじゃくる子供をあやすように、アリシアはプレシアの背中を撫で続けた。







薄暗い丘を朝日が照らし始め







海鳴の町に一つの奇跡が






舞い降りた















どこまでも白い空間に支配された世界に、悟空と巨龍……神龍が佇んでいた。

「それにしてもベジータめ、一人であんな面白ぇ世界に行ってるなんてずりぃぞ」

魔法、次元世界、時空管理局

「そして……」

戦闘機人と人造魔導師

「むっふぅー♪」

悟空はプシューッと鼻息を飛ばし、目を輝かせている

「やっべぇ、久し振りにオラワックワクしてきたぞ♪」

見た目相応の悟空の姿に神龍は溜め息を吐いて

『ベジータをあの世界に跳ばしたのはお前だし、ベジータに感づかれると面倒な事になるぞ』
「それはそれで面白くなるからオラは全然構わねえぞ」

悟空の一言に神龍は再び溜め息を吐いていた

「近い内、行ってみっかな〜♪」

頭に手を組み、上を見上げる悟空は、とても嬉しそうに笑っていた。















〜おまけ〜

「え、閻魔大王様〜! 大変オニ〜!」
「どうした?」
「あ、アリシアちゃんの魂が消えてしまったオニ〜」
「何だと!?」

大声を張り上げ椅子から立ち上がる閻魔大王にちょび髭のオニは少し後ずさり

「は、はい〜、天国にも地獄にもいないみたいですオニ〜」

暫く考えた閻魔大王は溜め息を吐いて

「また誰かがドラゴンボールを使って生き返らせたな」
「そ、そんな〜」
「アリシアちゃんは我らあの世番人の心のオアシスだったのにオニ〜」
「もぅあの笑顔は見れないオニか〜」
「えぇい、見苦しいぞ! さっさと持ち場に戻らんか!」

閻魔大王の一括にオニ達は元の持ち場に戻り

「アリシアちゃん……もぅ儂に肩を揉んでくれんのか……」

書類に判子を押しながら、閻魔大王の溜め息はあの世に木霊した












〜あとがき〜

はい、プレシアとアリシア、復活させました

誤解のないように一つ言っておきます。

今回のお話は以前から考えていたもので。

誠に失礼ですが、感想を書いて下さった皆様に感化された訳ではございませんので、ご理解のほう、何卒お願いします。


尚、プレシアとアリシアはAsに登場しますので、ご期待下されば嬉しいです



[5218] As is prologue
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:4af33f10
Date: 2009/02/04 03:02







時間は遡り、まだベジータがこの世界にくる前







どこまでも薄暗く、辺りからはネズミの足音が聞こえてくる

ここはとある無人世界の廃都市の地下

そこに奇しくも時空管理局の制服を身に纏った中年男性がその地下を歩いていた

男性の名はギル・グレアム提督、威厳あるその瞳に今は僅かながら迷いと焦りと恐怖が見え隠れしている

「ここか」

狭い地下道を抜け、広く見渡しの良い場所に出ると、グレアムは声を張り上げる

「さぁ、私はここにいるぞ! いい加減出てきたらどうだね!」

声が響き渡り今ここには自分一人しかいないと再確認された

その時

「ようこそ、待っていましたよギル・グレアム提督殿」
「!!」

突然背後からの声に振り返ると

そこには全身をフードに包み込んだ人間らしき人物が佇んでいた

先程まで人の気配がしなかった場所に、仮にも提督で幾つもの修羅場を潜り抜けてきた自分が全く気付かなかった事にグレアムはうっすらと冷や汗を流した

「君……かね? 私を呼んだのは?」
「はい、貴方が来るのを心待ちにしていました」

フード越しから一瞬見えた口の歪みにグレアムは身の危機を感じた

「ああ、そんなに怯えなくとも大丈夫ですよ、別に貴方を殺す為に呼んだのではないのですから」
「……私に何の用だ? わざわざ秘匿回線まで使って呼びつけ、一人で来いなどと」

男の一挙一動に睨みを利かせながら問い詰める

しかし、男はそんなグレアムを嘲笑うかのように再び口元を歪ませ

「何、大した事ではありません。私はお願いがあって貴方を呼んだのですから」
「お願い?」
「貴方が秘密裏に進めている計画に便乗したいだけですよ」
「!?」
「八神はやて、年齢は10歳、両親共に既に他界、今は海鳴市という街で一人の生活……だったが」

男は驚愕に目を見開いているグレアムの反応に含み笑いを浮かべ言葉を続ける。

「数日前、彼女の誕生日の際に彼女の下に転生した闇の書……いや【夜天の書】が起動、現在守護騎士達と他愛もない日々を満喫中」
「どこで……それを知った?」
「なぁに、私の力を以てすれば容易い事です」
「説明になっていないが」
「そんな事はどうでもいいではないですか、重要なのはそこではないのですから」

興味はないというように質問を無視されグレアムは奥歯を噛み締める

「それで? 君のお願いとは何だね?」

グレアムの一言に男は待ってましたと言うようにまた口元を歪ませる

「そんな難しい事ではありませんよ、ただこれを」

男は懐を漁り、掌に乗った小さな石像を取り出した

「彼女に、八神はやての所に送り届いて欲しいだけです」
「これ……は」

男の取り出した石像、その姿は禍々しくその面持ちは醜悪、まるでこの世全ての悪意と憎悪が集約されているようだった

「これを、ただ彼女の下へ置いて欲しい、ただそれだけの事ですよ」
「………」
「そんなに難しい事ではないと思いますが?」
「これを送り届けるのが、君のいう【便乗】なのかね?」
「!」

グレアムの一言に男は一瞬驚いたように見えた

「ええ、そうですよ」
「………」
「それに、これがあれば貴方の計画もよりスムーズに進む事が出来るかと思いますよ」
「!?」

返し刀の言葉に今度はグレアムが驚きの色に染まる

「貴方も復讐を果たしたいのでしょう? かの忌まわしき闇の書に」

口元を歪ませる男の言葉にグレアムは正直寒気がした

(この男は…危険だ)

何を考えているか分からない上に、この男を野放しにしていればいつか大きな災いが全ての次元世界に降りかかるやもしれない

根拠のない確信、しかしグレアムはまるで魔に魅入られたかのように手を差し伸べ

「どうぞ」

男の持つ不気味な石像を

手にしてしまった

「では私は目的を達したので、これで」

男はグレアムに石像を手渡したのを確認すると、踵を返してその場から離れていくが

「ま、待ちたまえ!」
「………?」

グレアムの呼び止めに男は足を止める

「君は一体何者だ!? 何故こんなものを私に渡す!?」

グレアムの問いに男はゆっくりと振り返り

「……私の名前を名乗っても構いませんが」
「?」
「もしも万が一貴方の計画が失敗し、貴方が私の名を口にしたとき」
「………」
「私は……貴方を殺さねばならない」
「!?」

瞬間、グレアムは身が凍る思いをした

一瞬だけ見えた男の目には途轍もない殺意を帯びて、とても人間のものとは思えなかったのだ

「………」
「では、さようなら」

男はこの台詞を最後に忽然と姿を消し

「…………」

カタカタと震え、石像を握り締めたグレアムだけが残されていた









そして時は流れ








管理局の本局内にある住宅地の一室、そこではベジータとフェイトがある事で揉めていた

「ほら、ベジータ、早く早く!」
「……どうしても俺もそのビデオメールとやらに出なくてはならないのか?」
「当たり前だよ、なのはもアリサもすずかもベジータに一目会いたいって、この間のメールで言ってたじゃない」

楽しそうにベジータの服の袖を引っ張るフェイトにベジータはやや鬱になっていた

因みにフェイトは嘱託魔導師認定試験を無事合格となった

更に詳しく言うならクロノとの模擬戦は惜しくもフェイトの敗北、敗因はフェイトの体力消耗による集中が解けてのバインド拘束だった

「大体、俺と一緒に映るのはいいがなんて紹介するつもりだ?」
「え? えっ……と」
「……考えてなかったのか?」
「そ、そんな事はないよ! えっと……お父さん?」
「………よし、今日の昼飯はご飯大盛の回鍋肉だ」
「はわわっ!?」
「アタシなら望む所だ!」
「因みにアルフは肉抜きだ」
「ヒドッ!?」

ベジータの罰にフェイトとアルフは涙目になり講義の声を上げるが本人は無視を決め込んでいた

「それにそんなに慌てなくても、後数日も経てばあっちに遊びに行くんだろ? リンディ達の巡航任務の途中に」
「そ、それはそうだけど……」

そう言ってフェイトは涙目の上目遣いでベジータに訴えかけるように見上げ

「……ダメ?」
「いや、ダメとは言わないが」
「ダメ?」
「いやだから」
「ダメ?」
「…………」

徐々に詰め寄ってくるフェイトの圧力に、ベジータは思わず仰け反ってしまい

「分かった、だが少しだからな!」
「ありがとうベジータ!」

満面の笑顔のフェイトに根負けし、カメラの前に座らせられ、ビデオメールに出演することになり

結局最後まで撮らされるハメになった

因みにベジータはフェイトの親戚の従兄という事なった。






しかし、この瞬間誰も
気づきはしない



誇り高き王子と宿命を背負いし少女とその忠犬も









「なのはー、フェイトちゃんから手紙が届いたよ〜」
「はーい♪」
「その文通も始まって結構時間が経つよね?」
「フェイトちゃんも今度遊びに来てくれるみたいだし、お母さん、うんと歓迎しちゃう!」
「ベジータ君も来るんだよね」
「うん、来てくれるってフェイトちゃんも言ってたよ」
「そっかー、お父さんも楽しみだな、久しぶりに色々語り合いたかったからな」
「お父さんってやけにベジータ君と仲いいよね?」
「ああ、なんとゆーかこう、どことなく気が合うんだよね」





和気あいあいと日々を楽しむ高町なのはとその家族も









そして









「シャマル〜、そこのキャベツ切って〜」
「は〜い♪」
「なぁ〜、大丈夫なのか? シャマルに料理の手伝いなんかさせて」
「だ、大丈夫よ! 私だって材料を切る事くらいできるもん!」
「いや、材料を切る事じゃなくて切る材料の事を言ってるんだけどよ」

明るく、いつも笑顔が絶えないこの家族も

「ヴィータ、ザフィーラ、そろそろ」
「ん、そうか」
「心得た」
「 シグナム、ヴィータ、ザフィーラどないしたん? どこかでかけるん?」
「えぇ、少し散歩を」
「最近食べてばっかで禄に運動してねぇからな、ダイエットに少し歩くだけだよ」
「なっ!? ヴィータ!出鱈目を言うな!」
「いひゃいいひゃい!引っ張んなよ!」
「あはは♪ ダメやよヴィータ、女の人にそんな事きいちゃ」
「では主、少し外を歩いてきます」
「うん、気ぃつけて」
「はい」
「シグナム、ザフィーラ、ヴィータちゃん……」
「?」
「気をつけてね」
「……ああ」
「案ずるな」
「心配すんなっての、んじゃはやていってくんね〜」
「は〜い」

知らない

「さて、みんなが帰ってくる前にサクッと終わらせちゃお」
「はい」

これから始まる、運命という名に縛られた争いが始まり

「所ではやてちゃん」
「ん、何?」
「はやてちゃんのお父さんのご友人から届けられたあの石像は、一体何なんですか?」
「う〜ん、叔父さんが言うには魔除けのものだって手紙に書いてたんやけど……どうして?」
「いや、その〜」
「あはは〜、気持ちは分かるよ〜、見た目があんなやしヴィータなんてあれが怖くてコッソリ枕元に置いてたらその晩から暫く一人でトイレに行けへんようになってたもんな」
「え、ええ」

人智を超えた戦いが始まる秒読みを始めるように







ドクン






嘗て夜天の書と呼ばれ、今は忌まわしき呪われた魔導書【闇の書】と言われる本の隣で





ドクン







男から渡された不気味な石像が







ドクン








脈打っていた事など








誰も








知りはしない














〜おまけ〜

「らんらんらん〜♪」
「おぉ〜シャマル、調子よさそうやな〜」

鼻歌混じりに材料を刻むシャマルに振り返ると、はやては驚きの声をあげ

「ちょっ! シャマル、それキャベツちゃうよ!」
「らららら〜♪」

だが、余程ノッているのか、はやての叫びはシャマルに届かず

「あ……あ……あ」
「らんらんる〜♪」
「避けろナッパァァァ!!」

八神家にはやて魂の叫びが

木霊した











〜あとがき〜

すみません。今回はプロローグでしたので地の文は少なくなってしまいました。

読みにくかったらごめんなさいm(_ _)m



[5218] 王子と襲撃者
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:2f449fc8
Date: 2009/02/05 03:09
12月2日時刻PM6時45分

次元航空船艦アースラ内

「ん〜、今の所は問題ないわね」
「ですね〜」

エイミィから差し出された緑茶にリンディはミルクと砂糖を混ぜ込み、満足気に飲む

「フェイトさんやクロノ達はどうしたの?」
「戦闘訓練室でベジータ君にしごかれてるみたいですよ」
「あらあら、クロノ達も大変ね」
「でも、楽しそうですよ。クロノ君、結構負けず嫌いだからベジータ君に何度もぶつかっているみたいですし」

楽しく談笑している二人だが、エイミィは影を落とした表情になり

「所で、リンディ提督、あの話なんですが」
「ん? もしかしてフェイトさんの事?」
「あ、それもありますけど……」

少し歯切れの悪いエイミィにリンディは目を細める

「例の捜索一級遺失物の事?」
「……はい」

リンディの問いにエイミィはゆっくりと頷く

「何でも、あるロストロギアの所為でレティ提督の人事部は大騒ぎだとか」
「今回の巡航任務はその辺りの事も含めて進んでいくみたいだから……」
「休暇は延期ですか〜」

はぁっと溜め息を吐くエイミィにリンディは苦笑いを零すしかなかった

「あ、それとフェイトさんの養子にする件なのですが」
「?」
「ベジータ君はどうなるんでしょう?」
「ベジータ君か……」

するとリンディはう〜んと腕を組み悩む姿勢を見せる

「私もその事を言ったんだけどね、もし元の世界が見つからなかった場合はうちの子にらないかって」
「次元漂流者、殆ど前例はないし戻り方も見つからない。私達管理局の問題の一つなんですよね」
「そうなのよね……」
「それで、ベジータ君は何て?」
「……聞きたい?」
「まぁ、一応」

戸惑いながらのエイミィの応えにリンディは再びため息を吐き

両目の端を吊り上げ、ベジータの真似をしながら

「前に言ったはずだ。俺は誰の施しも情けも受けん、俺は俺一人で生きていく……ですって」
「は、はは」

ベジータの真似をしたリンディは三度目のため息を吐いて

「全く、子供とは思えない程強情だったわ」
「子供とは思えないと言ったら、ベジータ君は何だか随分大人びてますよね?」
「貴方もそう思う?」
「艦長も?」
「ええ、確かに年相応に見えるけど、時折私ですら子供と見られる事があったわ」
「それに、なんと言っても」
「「怒らせると本気で怖い!」」

互いに指を指し、共通の感想を言うと二人は吹き出し、笑い出していた














「ふぇっくし! ……誰かが噂でもしてやがるのか?」
「隙あり〜〜っ!!」

アースラ内にある戦闘訓練室でフェイト、クロノ、アルフの三人を相手に組み手をしているベジータはくしゃみの際に鼻を擦り、よそ見をしているとアルフが死角から殴りかかるが

「このくしゃみだと……リンディかエイミィだな」

パシパシッとアルフの攻撃をよそ見したまま片手でいなし

「ふん」
「あ〜れ〜……」

ポイッと当然の如く投げ飛ばす

「アルフがやられたか、フェイト!」
「うん!」

前方に金色の魔法陣を展開してベジータに狙いを定め

「サンダー……スマッシャー!!」

轟く雷鳴と轟音と共に放たれる閃光、そして

「これならどうだ!」

別角度から狙いを定め

「ブレイズキャノン!」

黒き杖S2Uに光を収束させるが

「そらっ」

ベジータは握り締めた拳を横に振り、フェイトの放った閃光をクロノに向けて弾き飛ばした

「何っ!?」

驚きに目を開いたクロノは咄嗟に回避行動で避けるが

「遅い」
「!?」

背後を取られ

「はっ!」
「うぁぁぁっ!?」

気合い砲でクロノを吹き飛ばし

「クロノ!」
「人の心配をしている場合か?」
「!?」

フェイトの真ん前に現れる事でたじろがせ

「ふっ!」
「きゃあああっ!?」

フェイトにも気合い砲をぶつけ吹き飛ばすのだった








「ふん、少しは持つようになったか」
「く……そ……」
「……………」
「フェイト、しっかり!」

一通りの組み手を終わらせ、一人悠々と佇むベジータと

「この……体力……お化け……め」

呼吸を整えながら皮肉を言うクロノに対し

「……………」

フェイトは既に虫の息にまで追い込まれていた

「さて、今日はここまでだ。 俺はシャワーを浴びてるからお前達も体力が戻り次第汗を流せ」

それだけ言ってベジータは訓練室の内部にあるシャワールームへ入っていった

「はぁっ……はぁっ……ふぅ」

ベジータがシャワールームへ入っていったのを見送ると、漸く呼吸を整えられる事が出来たフェイトは深呼吸を繰り返し体力を回復させる

「大丈夫かフェイト?」
「うん、私ならもう平気」
「それにしてもあの怪物め、少しは手加減したらどうなんだ」
「ベジータはあれでも十分手加減していると思うよ」
「……その事実は余計に腹立つな、AAAランクの魔導師を二人がかりで子供扱いするなんて、中々出来る事じゃない」
「あはは……」

クロノの苦虫を噛み締めるような顔にフェイトは苦笑いを零す

「それに、彼の言う気は僕達魔導師とは似ているようで全く違う」
「………」
「それに、彼はどちらかと言うと」
「?」
「彼は……」

何かを言いかけようとしたクロノだが



ヴィーッ!! ヴィーッ!!



突如緊急事態を知らせるアラームが訓練室に鳴り響いた

「これは!?」
「何かあったのかな?」
「行こう」
「うんっ!」

何が起きたかを確認するためと事態収拾に協力する為に、訓練室を出てブリッジに向かった




















最初は、何が起きたか分からなかった

今日はいつも通り朝早く起きて魔法の練習をして、学校でアリサちゃん達と勉強して、お家に帰って宿題をしていたら

急に結界が張られて、誰かが私に近付いてくるのが分かって、ユーノ君と一緒に街のビルの屋上に出て行くと

「なのはっ!!」
「!!」

突然鉄球のような魔力弾が襲いかかり、ユーノの叫びに反応し障壁を展開、これを防御するが

「テートリヒ・シュラーク!!」
「「!?」」

反対方向から真っ赤な服を着た赤毛の少女が、ハンマーらしきデバイスを振り上げ

「潰れろぉぉっ!!」

勢い良く振り下ろしてきた

「あぁぁぁぁっ!」
「なのは!」

爆発に吹き飛ばされ、地上へと落下するなのはにユーノは人間形態になり、助けようとするが

「でぁぁぁっ!」
「!?」

上空から襲い掛かる屈強の戦士のような男がユーノのに攻撃を仕掛けてきた

「レイジングハート、お願い」
[All right]

傷を負った手を抑え、なのははレイジングハートを起動し、光に包まれる

「…………」

それを見た赤毛の襲撃者は掌大の鉄球を生成し

「ふんっ!」

テニスのサーブを打つように、なのはを包む光に叩き付ける

鉄球の受けた光は爆発

「だぁぁぁっ!」

襲撃者は更に追い討ちをかけるよう煙の中を振り抜くが

「いきなり攻撃される覚えはないんだけど!」

既にBJを装着したなのははアクセルフィンを展開、回避する

「………」

しかし、襲撃者は何も応えず、掌を出し指の間に鉄球を生成するが

「教えてくれなきゃ分からないって……ば!!」
「!」

バッと手を横に振り、事前に放っていた無数の魔力弾を操り、襲撃者に背後からぶつけようとする

「うぐっ!?」

意外な反撃に襲撃者は僅かに怯むが

「っのヤロー!!」

手にしたハンマーで全て叩き落とす

「こんなもんでやられるかよ!!」

フンッと鼻息荒く吐き捨て、振り返ると

「ディバィン……」
[Buster]

桜色の閃光が襲撃者に向けて放たれ

「!?」

襲撃者の横を掠めていった

「君は一体どこの子! 何でこんな事をするの!?」

威嚇射撃の為、ワザと外したが、襲撃者の返事はなく

「っ!!」

ボロボロになって落ちていく帽子を見て

「てめぇ……」

その瞳には明らかな怒りの炎を灯していた

「あ……」

その瞳になのはは身を竦めてしまった

「グラーフアイゼン、カートリッジロード!!」
[Explosion]

ハンマーのデバイスが煌めくと、ガシャンと撃鉄を打った音を立てて、デバイスの形を変えていった

「へ……えぇっ!?」

見たこともない魔法になのはは唖然となり

「ラケーテン!!」

襲撃者のデバイスは噴射口らしき箇所からジェットエンジンの様に炎を吹き出し

「でぇぇいっ!!」
「!!」

先端の尖った部分をなのはに叩き付ける

なのはは杖を向けて障壁を展開するが

「ハンマーッ!!」

襲撃者の魔力に圧され

「きゃああぁっ!?」

デバイスごと吹き飛ばされ

ビルに叩きつけられてしまった

しかし、襲撃者は攻撃の手を休めず、ビルに向かい

「ゲホッゲホッ」
「でぇぇぇい!!」
「!?」

再びハンマーを振り下ろす

なのはは残った力を振り絞り障壁を展開するが

「ぶっ潰せぇぇっ!!」

襲撃者の攻撃が障壁をも貫き、BJを引き裂いた

「あぅぅっ!!」

衝撃に壁に叩きつけられたなのはは地面に伏してしまう

「はぁっはぁっはぁっ……」

赤毛の襲撃者はデバイスから薬莢らしき筒を弾き出すと、瞳を元の色に戻し、なのはに近付いていく

「なのはっ!!」

なのはの元へ急いで助けに向かおうとするユーノだが

「させん!!」

屈強の男、誰かの使い魔らしきもう一人の襲撃者がそれを阻む

そして、赤い襲撃者は一歩、また一歩なのはに近づき

(こんなので……終わり?)

虚ろになる瞳で襲撃者にボロボロとなったレイジングハートを向け、悪あがきをするなのはに

「………」

ハンマーのデバイスを振り上げ

(いやだ……クロノ君、ベジータ君、フェイトちゃん!!)

なのはに向けて振り下ろされた

その瞬間



ガキンッ



自身に来ない痛みと衝撃に恐る恐る目を開けると

(フェイト……ちゃん?)

漆黒のマントを翻し、斧のデバイスで襲撃者の攻撃を受け止めた

なのはの親友の一人

フェイト・テスタロッサが

佇んでいた

「なのは、大丈夫かい!?」
「アルフ……さん?」

自分の横に現れたアルフになのはは驚き

「ちっ、仲間か!?」

襲撃者は唾斬り合いから弾いてフェイトとの距離を開ける

「…………」
[Size form]

フェイトは自身のBJと同じ漆黒の斧を前に突き出し、魔力刃を展開させ

「……友達だ!」

赤き襲撃者と、強い意志を宿らせ

相対したのだった













〜おまけ〜

フェイト達が襲撃者達と相対している一方、ベジータは

「ふぅ、さっぱりしたぜ」

頭にタオルを乗せ、牛乳瓶を片手にシャワールームから出ると

「ん? あいつ等何処へ行きやがった?」

誰もいない戦闘訓練室に

一人、ポツンと

取り残されていた











〜あとがき〜

漸く原作第一話にまで漕ぎ着けました!

若干原作と違いますが、ここから更に物語は変化させていきますので

宜しくお願いします!



[5218] 王子VS襲撃者
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:fce82a21
Date: 2009/02/08 01:09


なのはの救援に駆けつけたフェイトは、バルディッシュで赤毛の襲撃者と対峙していた

「民間人への魔法攻撃、軽犯罪ではすまない罪だ」
「あんだてめぇ、管理局の魔導師か?」

気に入らないといった風に襲撃者は睨みを利かせながら問う

「時空管理局、嘱託魔導師……フェイト・テスタロッサ」

フェイトはバルディッシュを下段に構え、一歩前に踏み出て

「抵抗しなければ弁護の機会が君にはある、同意するなら武装を解除して」
「誰がするかよ!」

襲撃者の少女はそう言って割れた窓から飛び出し、空へと逃げ出していく

「アルフ、なのはをお願い!」
「オッケー!」

なのはをアルフに預け、フェイトは少女の後を追いかけていく

「アルフさん……」
「フェイトなら大丈夫だよ、それよりなのはの方こそ大丈夫かい?」

アルフの問いに、なのははゆっくりと頷き自身の安否を示した

そしてアルフはなのはを抱き抱え立ち上がる

「取り敢えず、ここは危ないから一旦下がって、ユーノの所に援護に向かう。それでユーノが相手している奴をあたしと交代させてなのはに回復させに戻らせるから」

少し慣れない説明にたどたどしく言うアルフ

「それまで、我慢できるかい?」
「大丈夫……だよ」

やはり、どこか辛そうにしているなのはに対し申し訳なさそうに俯くアルフは首を振り、今自分がするべき事を考え、ビルの屋上へ走り出した

「本当なら、明日になのはの所へ遊びに行こうとしたんだけど。広域結界が出来ていたことが分かって、急いでアタシ達が来たんだよ」
「そう……なんだ、ごめんね、ありがとう」
「謝る必要はないよ、それより、アイツ等は何者だい? 一体何でまたなのはを?」
「……分からない、急に襲ってきたの」

なのはの悲しげに俯かせる顔に、アルフは何とか元気付かせようと笑顔になり

「けど、もう大丈夫だよ! フェイトはベジータとの特訓で数段レベルアップしているし、そのベジータも後少しもすれば駆け付けてくるさ!」

アルフの言葉になのは僅かながら表情が明るくなるが

対してアルフは面には出さなかったが内心焦り始めていた

(そういやフェイトはあの鬼教官のしごきで今の体力は絶望的だったんだ!!)

今のフェイトは恐らく長期戦は無理だ

アタシもあの使い魔の相手をしなけりゃならないし

(ああもぅ! ベジータ、早く来てよ!!)

絶望的状況に陥り、内心焦りまくりのアルフは、こうなった元凶に毒づきながらなのはを抱え、走り続けていた














「へっくし! アルフめ、俺の陰口でも行ってやがるのか?」

艦内が慌ただしくなっている中、ベジータは先程の格好のままで通路にある自販機の前に立ち

「ングングング……ぷはぁ〜〜、やはりシャワー浴びた後のこの一杯は格別だ」

腰に手を当てて通算三本目の牛乳瓶を飲み干すベジータに

「君は一体此処で何をしている?」

コメカミをひくつかせ引きつった笑顔のクロノがベジータに詰め寄ってきた

「何だお前か、こんな所で何をしている?」

その時、クロノからブチッと音が聞こえ

「それは此方の台詞だ! この非常事態の時に君は一体何をしているんだ!?」
「何って……牛乳瓶を飲んでいるが?」
「……君は一体何様のつもりだ?」

クロノの鋭い視線に

「俺様だが……何か?」

しれっと応えるベジータにクロノは頭を抑えて溜め息を吐いた

「もはや怒りを通り越して呆れてくるよ」
「何をそんなに苛ついていやがる? 牛乳でも飲んで落ち着け」
「いらない、それに牛乳は嫌いだ」
「なる程、だから何時もイライラしていて背が低いのか?」
「背は関係ないだろ!!」

ベジータにおちょくられるクロノは頭を抱えてウガーと言いそうになる

「ってそうだ、それよりも君にも現地に向かって欲しいんだった」
「現地?」
「今フェイトとアルフがなのはを襲った襲撃者に対して迎撃してもらっている、君も彼女達の後を追って襲撃者の撃退、若しくは捕らえて欲しい」

真剣な眼差しのクロノに対し

「断る」

ベジータは牛乳を飲みながら即答で応えた

「な、何故!?」
「俺は貴様等管理局の狗になった覚えはない。それに以前言った筈だ、俺に指図するな……と」

ベジータは飲み干した牛乳瓶を空き瓶入れに入れてクロノに向き合う

「君は……君の勝手な理屈でフェイト達を見殺しにする気か!! もういい、僕が行く!」

クロノは踵を返して歩き始めるが

「今の体力のないお前が行った所で、何の意味もないだろ」

ベジータはツカツカとクロノの前を通り、持っていたグローブを手にはめて

「それに、貴様の言う事も一理ある、それに……」
「?」
「アイツと、約束したからな」

少し物悲しく俯いたベジータの表情に、クロノは複雑な面持ちで腕を組み

「では、行ってくれるんだな?」
「ああ、お前に代わって【行ってきてやるよ】」

一々棘のある言葉に顔をしかめながら、クロノは転送ポートへ向かうベジータの姿を眺め続けていた













「はぁぁぁっ!!」
「でやぁぁぁっ!!」

ぶつかり合う刃と鈍器、何合か打ち合っているフェイトと赤い襲撃者は未だ戦闘を続けていた

だが

「はぁっはぁっはぁっ……」

ベジータとの戦闘訓練にて体力を消耗し過ぎたフェイトは、打ち合う度に更に体力を削り取られていった

「何だ? 威勢良く出てきたのはいいけどよ、てんでダメダメだな」
「はぁっはぁっ……くっ!」

悔しそうに歯を食いしばるフェイト

「大人しくしとけよ、そうしとけば命までは取らねぇからよ」
「誰……が!」

体力が無くなりつつある今でも、フェイトの瞳には強い意志を宿し、バルディッシュを構え直した

「…………」

少女は目の前に立ちふさがるフェイトに目を細め

(ごめんな……)

心の底から謝罪した










「フェイト!!」

主の危機に駆け寄ろうとするアルフだが

「…………」

目の前の男がそれを阻む

「こんのぉぉ……」

眼前にいる障害にアルフは牙を立てて

「邪魔だぁぁっ!!」

勢いを付けて殴りかかる

「……ふん」

男はアルフの拳を余裕に避けるが

「はぁぁぁっ!!」

途中でピタッと止まり

「ぬっ!?」

蹴りで男を吹き飛ばしていく

「当たった!」

幾ら小細工をしてもベジータには掠りもしなかった攻撃が当たった事にアルフはこれをチャンスとみなし

「だぁぁぁっ!!」

再び男に向けて拳を振り抜く

しかし

「あまり調子に乗るな」
「!?」

アルフの拳を掌でいなす事で軌道を逸らし

「ふっ!」
「あぐぁぁっ!?」

片方の拳でアルフの脇腹を打ち抜いき、ビルに叩き付けた










「アルフ!」
「よそ見する暇あんのかよ!」

アルフの様子に気を取られ、少女の攻撃に回避が間に合わず防御で凌ぐフェイト

「ぐ……く……」
「ぶっ潰れろぉぉぉっ!!」

少女は力を込め、フェイトの張った障壁を破ろうとするが

「なっ!?」

突然抵抗が無くなり少女は大きく体勢を崩してしまう

フェイトはその隙を逃さず

「たぁっ!」
「うぐっ!?」

脇腹を回し蹴りの要領で蹴り飛ばす

フェイトは体力的にこれを最後の好機とみて

「はぁぁっ!」

まだ体勢の取れていない少女に向けて駆け出す

「くっ!」

初めてしてやられた事に少女は焦り

フェイトの鎌が振り下ろされる

が……。

「はぁぁぁっ!」
「!?」

横から突如剣を持った女性がフェイトと女性の間に入るように現れ、フェイトを弾き飛ばしていく

「なっ!? もう一人!?」
「レヴァンティン、カートリッジロード」
[Explosion]

驚愕するフェイトに、甲冑を着た女性は手にした剣を天に掲げ

赤毛の少女の持つデバイスと同じガシャンッと音を立て、薬莢をはじき出し

「紫電」

刀身に焔を宿らせ

「一閃!!」
「!?」

フェイトに向けて叩き付けた

[Defenser]

バルディッシュは咄嗟に障壁を展開するが

「ああぁぁぁっ!!」

障壁ごとバルディッシュは女性の剣に叩き斬られ、真下のビルに叩き付けられた













「フェイトちゃん! アルフさん!」

離れた別のビルの屋上で退避していたなのはは、アルフのお陰でユーノと合流し、回復の魔法を掛けられていた

しかし、突然現れた女性と男性にビルへ叩きつけられた二人を見て声を張り上げる

「不味い、このままじゃ」

不利な状況になりつつあるこの場で、ユーノは印を結び術式を展開する

「退魔の響き、光となれ、癒しの辺のその道に鋼の護りを与えたまえ」
「あ……」

自身を包み込む光になのはは僅かに違和感を覚える

「回復と防御の結界魔法だよ、なのはは絶対にここから出ないで」
「う、うん」

ユーノはそれだけ言ってフェイトとアルフのいる空へ飛び出していき

「…………」

なのはは何もできないでいる自分に歯痒い思いで見守り続けていた











「少し、油断したなヴィータ」
「うぐ……」

女性の言葉にヴィータという赤毛の少女はグゥの音も出せずに黙り込んでしまった

「フフ、そぅ拗ねるな」
「あ……」

頭に乗せられた帽子に、ヴィータは頭を抑えて

「あ、ありがとう、シグナム」

少し照れた様子のヴィータにシグナムと呼ばれた女性は優しく微笑んだ

「さて、現状は我等と向こう合わせて三対三だな」
「ああ、けどシグナム、アイツには気を付けろ」
「アイツとは?」
「お前が吹き飛ばした金髪の奴だよ、……アイツ、何だかここにくる前よっぽど体力が消耗されていたんだと思う」
「何? ならばアイツは消耗した状態のまま、一瞬とはいえお前を追い詰めたのか?」
「………」

黙って頷いたヴィータにシグナムは申し訳なさそうに俯き

「……叶うなら、全力で勝負したかった」

残念そうに呟くシグナムだが

「まだ、勝負はついてない!」

ゆっくりと自分の背後に並ぶフェイトに目を見開いた

「よくあの一撃を今の状態で耐えきったものだな」
「鍛えていますから」

額に汗を流しながら不敵に笑うフェイトを、シグナムはとても面白く感じていた

「ヴィータ、お前はあの緑の奴へ向かえ」

不敵に笑うシグナムにヴィータは溜め息を吐きながら

「あんましやりすぎんなよ、ソイツも後で糧にすんだから」

それだけ言ってヴィータはその場から離れていった

そしてシグナムは剣を携え

「私はベルカの騎士、ヴォルケンリッターの将シグナム、そして我が剣レヴァンティン、お前の名前は?」
「時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ、この子はバルディッシュ」

互いに名乗り、相手の動きを読み

一歩を踏み出した

瞬間

『そこまでにしておけ』
「「「!?」」」

どこからともなく聞こえてきた声にその場にいた全員の動きが止まり、辺りを見渡していた

「なっ!? どこから!?」
『クハハハハッ! どこを見ている? 俺はここだぞ!!』

姿なき声が辺りに響き渡った瞬間



ゴゴゴゴゴッ


地響きが起こり、一際大きなビルが音を立てて崩れ落ちる様を全員が呆然となり

崩れ落ちたビルから蒼き光が放ち、その中から

「よう」

無邪気な笑みを浮かべたベジータがフェイト達の前に現れたのだった











〜おまけ〜

ベジータの登場を眺めていたアースラスタッフ一同は

「目立ちたがり屋め」
「目立ちたがり屋ね」

クロノとリンディは口々に同じ言葉を言って

「てゆーかあのビルどうするの?」

管制室のエイミィは一人疑問に浸っていた











〜あとがき〜

最近風邪を引いたのか腹痛が治まらないトッポです

自分風邪を引くと毎回お腹を下してしまうんですよね

皆さんも風邪に気をつけてください



[5218] 王子と襲撃者達の邂逅
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:80914e30
Date: 2009/02/09 23:40

ベジータがなのは達の救援に駆け付けた同時刻、そこから少し離れたビルの屋上

「不味いわ……」

建築物の影に隠れて、その脇に十字剣の記された書物を抱えた女性が、ベジータの様子を伺っていた

「数も此方が不利だし、時間がくれば管理局も更に増援を送り込んでくるだろうし」

女性の表情は焦り、額にはうっすらと汗を流していた

「……失敗は、許されないわね」

手にしている書物に目を向け、女性は戦いの場所を見守り続けていた












「ベジータ……」

倒壊したビルの中から不敵な笑みを崩さず、フェイトと相対するシグナムに近付いてくるベジータ

「ベジー……タ」

肩を抑え、苦悶の表情を浮かべるフェイトにベジータは見向きもせず

「無様にやられたものだなフェイト」
「………」
「体力が無かったから等と言い訳するなよ、貴様の今の立場はそんな甘いものではないということを覚えておけ」
「……うん」

ベジータの厳しい言葉にフェイトは顔を俯き、力無くうなだれる

「だが……良く頑張った」
「!」

ベジータの一言に、フェイトは一気に表情が明るくなり、顔をあげるが背を向けているベジータの表情は見えなかった

「こいつは俺が抑えてやる、お前はとっととなのはの所に行ってこい」
「ありがとう……ベジータ」

フェイトはベジータに一言礼を述べると肩を抑え、なのはの下へゆっくりと駆け寄っていった

その様子を見守り、目線を前に向け、ベジータは剣を携えし女性シグナムと相対する

「貴様……管理局の魔導師か?」

剣を突きつけ鋭い眼光と殺気をぶつけてくるシグナムにベジータは鼻で笑う

「ふん、あんな奴らと同類と思われては貯まらんからな、二つ程言っておく、俺は管理局の駒でもなければ狗でもない。そしてそもそも俺は魔導師じゃない」
「何?」
「俺は誇り高きサイヤ人の戦士にして、王子……ベジータ様だ」
「サイヤ人? 戦士? それに……王子だと!?」

ベジータの聞き慣れない言葉と最後の一言にシグナムは驚愕する

「まぁ、そんな事はどうでもいい」
「!?」

途端にベジータからの発する威圧感に若干仰け反るシグナム

「貴様等の目的は知らんし、知った事じゃないが」

ベジータはフェイトを見つめていた目とは打って変わって

「少しばかり、俺と遊ぼうか」

言葉とは裏腹に凄まじいまでの殺気と更に増す威圧感にシグナムは頬から冷や汗を流した

「ぐっ!」

シグナムはベジータからの殺気を真っ正面から受け止め

「はぁぁぁっ!!」

剣の柄を握り締め、ベジータに斬りかかる

「…………」

斬りかかるシグナムに対し、ベジータは何もせず指に気を纏わせ

「何っ!?」
「ふっ」

シグナムの斬撃をたった指二本で受け止めた事にシグナムは驚愕する

「どうした? 何をそんなに驚いている?」
「くっ!」

シグナムはすぐに間合いを開け、ベジータに剣を向け牽制する

(何なんだこの男、今までの相手とは明らかに違う)

否、違いすぎる

(魔力は全くと言っていいほど感じないのに)

なのに何故、一体どこにこれほどの強さを宿しているんだ!?

「おい、戦いの最中に考え事とは、随分余裕だな」
「!?」

いきなり眼前に現れたベジータにシグナムは虚を突かれて

「ヌンッ!」
「アグッ!?」

ベジータの蹴りによってシグナムはガードの上から吹き飛ばされてしまう

「シグナム!」

赤い帽子を被った少女、ヴィータは吹き飛んだシグナムを見てその原因たるベジータに睨み付け

「てめぇぇぇっ!!」

手にしたハンマーを握り締めベジータに殴りかかる

「よし、今の内に転送を!!」

相手から解放されたユーノは掌に魔力を集中させ、緑色の光球を生成させる

「ふん、今度はハンマーの奴か」
「ぶっ潰れろぉぉっ!!」

振りかぶった鈍器をベジータに向けて振り下ろすが

「蠅が止まるぜ」

余裕綽々でこれをかわす

「うぉぉぉっ!!」

しかし、ヴィータもベジータの動きを読んだのか、一度振り抜いたハンマーを体ごと一回転させ横に凪払うように再び振り抜くが

「ふん」
「!?」

パシッと簡単に抑えられ、ヴィータは驚愕に目を開く

「どいつもこいつも、いちいち驚き過ぎだ」
「なっ!? うぁぁぁっ!!」

溜め息混じりにポイッと投げ捨てられたヴィータは体制を整え、ハンマーを構えベジータに睨み付ける

「目つきだけは一人前だな」
「うっせぇ! これは生まれつきだ!」

瞳孔を開いての睨みにベジータはやはりフンと鼻で笑う

「ヴィータ」
「シグナム! 大丈夫か?」
「ああ、それよりも」

吹き飛んだシグナムがヴィータと合流し、二人はベジータへ睨み付ける

「貴様は強い、故に不本意だが此方は二人掛かりでお前を潰させてもらうが」

問いかけるように聞くシグナムに対し

「何だ、たったの二人か? 何ならあの男も数に入れても構わんぞ」

腕を組んで上から目線で物言うベジータにヴィータが噛み付く

「うっせぇ!! てめぇなんざホントはアタシだけで十分なんだよ! 調子に乗るなよこのMっパゲ!!」
「Mっぱ!?」

遂に言ってしまった禁句、ベジータは顔を俯きシグナムはオロオロとしている

「クックックック……ハッハッハッハッ……いいだろう、そんなに死にたいなら殺してやる。安心しろ、痛みはない、ただ塵一つ残さないがな」

不気味に笑うベジータの顔 、それは嘗て残虐だった頃と同じものだった

「やれるもんなら……」

ヴィータはそれに気付かず指の間に鉄球を生成し

「やってみろよ!!」

ハンマーで鉄球をベジータへ向けて打ち抜く

「ふん」

ベジータはそれを上空へと避けるが

「何? 追尾機能があるのか?」

少し驚いた表情のベジータにヴィータはしてやったと口端を吊り上げ

「はぁぁっ!!」
「!」

いつの間にか前に回り込まれ、ベジータは目を開いた

「レヴァンティン!」
[Explosion]

ガシャンッと音を立てて薬莢をはじき出し、刀身に炎を纏わせ

「紫電一閃!!」

辺りの空気は爆発と衝撃で震えた

「おっしゃ!」

指を弾いて確信するヴィータだが

やがて煙は晴れていき、ヴィータの目に映ったのは

「思ったよりやるじゃないか、正直驚いた」

手刀に気を纏わせ擬似剣を生成して、シグナムと唾り合いをしているベジータだった

「貴様……一体何者だ!?」
「言った筈だ。俺は誇り高きサイヤ人の王子、ベジータ様だと!!」
「なっ!? うぐぁぁぁ!!」

腕力をもってシグナムを弾き飛ばすベジータ、無防備になっているシグナムに対し追い打ちは仕掛けず

(しかし、どういう事だ?)

コイツ等の気、殆ど感じない

いや、感じるには感じるが何か……違う

(そうだ、コイツ等の気、アルフと似ているのか?)

どちらかと言えば恐らくどこぞの使い魔であるあの男と感じ方が似ている

(ということは……コイツ等は……人間じゃない?)
「おぉぉぉっ!!」
「チッ」

斬りかかるシグナムに思考は中断され、ベジータは攻撃をかわし続けた














「ベジータ君……」

離れたビルの屋上で状況を見守っていたなのははベジータの登場により胸を撫で下ろしていた

「やっぱり、ベジータ君は強いんだ」

安心したなのはは手にしたレイジングハートに目を向け表情を暗くする

「ごめんね、レイジングハート」

なのはの言葉にレイジングハートは自分は大丈夫と示すように点滅し、なのはを安心させようてするが

「…………」

それでもなのはの表情は俯いたままだった

「アルフさん、フェイトちゃん、ユーノ君、ベジータ君……頑張っ!?」

最後の言葉が言えなかったなのは、その瞬間、衝撃がなのはの体を貫いた

「なの……は?」

なのはに合流しようとしたフェイトの目は大きく開かれた



何故なら



幼いなのはの体に



何者かの手が



貫かれていたのだ


「よし、一発成功」

緑色の甲冑を身に纏った女性は指輪にはめた宝石を用いて空間の断面を生成し、なのはの体内から淡く光る何かを取り出していた

「リンカーコア、捕獲」
そして女性は十字剣を模した書物を開いて断面に触れて

「蒐集開始」

女性の言葉に呼応し、書物は淡く光り、空白の頁が埋まっていき、それに反比例するようになのはの光、リンカーコアは小さくなっていく








「なのはぁぁっ!!」
「!」

フェイトの叫び声が聞こえ、振り向いたベジータの顔も驚愕に染まった

「なっ!? もう一人隠れてやがったのか!?」

ベジータは辺りを見回しもう一人の衝撃者の居場所を探すが

「でゃあぁぁっ!!」

ハンマーを振り下ろしてくるヴィータに阻まれてしまう

「させっかよ!!」
『ヴィータ、挟撃して奴を足止めするぞ』
『応!!』

念話でヴィータに攻撃を伝えると、二人はベジータを挟むように立ち合い

「「おおぉぉぉっ!!」」

二人同時に武器を振り下ろす



「邪魔だぁぁっ!!」
「何っ!? うっ!!」
「うぁぁぁっ!?」

ベジータの体から発した衝撃波でヴィータとシグナムは吹き飛び

「! そこか!」

ビルの影から見えた人影でベジータはそれを最後の襲撃者と断定し左手に氣弾を錬り

「でやっ!」

そのビルに投げつけ

爆発させた

「なっ! きゃぁぁぁっ!」

横からの爆風と飛び散る瓦礫と共に女性は悲鳴をあげて吹き飛んでいく

「シャマル!!」

ヴィータはシャマルと呼んだ女性の下へ飛び出し、シグナムはベジータと対峙する

『これ以上は消耗戦になる。撤退するぞ』
『何? しかし』
『これ以上時間をかければ管理局の奴らが更に増援を送ってくる。我等はまだ捕まる訳にはいかない』
『……心得た』
『ヴィータ、シャマルの様子は?』
『気絶してるだけみてぇだから大丈夫だと思う』
『そうか、なら結界を解いて引き上げるぞ』
『だけど!!』

ヴィータは地面に落下するシャマルを抱き抱えると、ベジータへ殺意を込めた視線をぶつける

『決着は、また次の機会まで我慢してくれ』
『…………』
『我等の主のため、堪えてくれ』
『……分かった』

拳を強く握り締めるシグナムを見てヴィータは渋々と結界を解いていく

『では、荷重転送しここから離れた後、いつもの場所に集合だ』
『心得た』
『分かったよ』

念話を伝え赤、白、の光が空へと向かったのを見届けたあと、未だ仕掛けてこないベジータにシグナムは疑問に思い

「念話は終わったか?」
「!?」
「ならとっとと失せろ、俺は貴様等の邪魔はせん」
「……何故?」
「ふん、貴様等をここで捕らえ管理局の連中に差し出すのは簡単だ」
「………」
「だが、俺は奴らにそんな事をする義理も義務もない、……それに」
「?」
「アイツ等の事もあるしな」

ベジータの視線の先に映るは倒れ伏したなのはに駆け寄るフェイト達

「…………」

シグナムはベジータの穏やかな表情を見たあと、他の仲間達の後を追って飛び立ち

「……どうやら、退屈せずに済みそうだな」

ベジータはこれから起こるだろう戦いに、心を踊らせていた















〜あとがき〜

更新が遅れて申し訳ありません

トッポです

37度8分という微熱も収まり、漸く執筆出来ました

……やっぱり何日か書かないと書くのが下手になってくるな



[5218] 王子の今後
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:aa723b19
Date: 2009/02/09 23:38


謎の襲撃者達からベジータの活躍?により無事になのはを保護できたアースラメンバーは、現在時空管理局本局に滞在してこれからの行動について指示を仰いでいた

「うん、見た目より怪我は軽いから、これならすぐ良くなるよ」
「はい、ありがとうございます」

襲撃者達による攻撃で負傷したフェイトは本局にある医務室で処置してもらい、腕は包帯に巻かれながらもその表情は明るい

「ありがとうございました」

医務室から出て、暫く通路を歩いていると

「ベジータ」
「………」

腕を組んで壁に寄りかかるベジータがフェイトを待っていた

「ベジータ……その、ごめんね、折角ベジータに鍛えて貰ってたのに期待を裏切っちゃって」
「……そんな事はどうでもいい、それよりも」

ベジータはフェイトの包帯が巻かれた腕を見て、フェイトはそれを隠し

「あ、私なら全然平気だよ」
「…………」

ベジータの細めた目にフェイトは冷や汗を流し

「……本当だな」
「本当だよ、もう、ベジータは心配性だなぁ」
「勘違いするなよ、お前が倒れると俺の組み手の相手がいなくなるから困るんだ。お前の心配はしていない、その程度でどうにかなるような鍛え方はしていないからな」
「う、うん……」

ベジータの妙に強い物言いにフェイトはたじろぎながら頷く

「二人とも、ここにいたのか」
「クロノ」

横から声を掛けられ、振り向くと制服姿のクロノが二人に近づいてきた

「怪我は大丈夫か?」
「うん、平気」
「そうか、ならなのはの所へ行ってあげてくれ、彼女は別の医務室で眠っている」
「分かった」

クロノに言われ、通路を走って行くフェイト

「それとベジータ」
「……何だ?」

フェイトの後に続こうと歩き出すベジータだが、クロノに呼び止められる

「君に、会わせたい人がいるんだ」
「………」

クロノの言葉にベジータは珍しく従い、フェイトとは別方向へ歩いていった












ベジータが連れてこられた部屋に入ると威厳のありそうで、それでいて穏やかな表情の老人が珈琲を啜っていた

「グレアム提督、彼を連れてきました」
「うむ、ご苦労だったねクロノ、さぁ座ってくれ」

ベジータとクロノの入室に気付いた老人は席に座るように促す

対立に座った二人は差し出された珈琲を飲み、老人の出方を待った

「済まないね、わざわざここまで来て貰って」
「御託はいい、さっさと用件を言え」
「お前!」

穏やか口調に話す老人に対し、ベジータのいつも以上の対応にクロノは掴みかかろうとするが

「いいんだクロノ」
「しかし……!」
「いいから」

目の前の老人に諭されクロノは大人しくなる

「失礼した。私はギル・グレアム、良かったら君の名前を教えてくれないかな」
「……ベジータ」

笑みを浮かべ問い掛けるグレアムに、ベジータは興味がないようにフンッと鼻を鳴らして応える

ベジータの対応が気に入らないのか、クロノは横目でベジータを睨みつけるが本人は至って気にしてる様子は無い

「ベジータ君か、君の事はリンディ提督から聞いているよ、とても強く、優しい子だと」
「…………」

ベジータの苛ついた鋭い視線に、グレアムは内心少し冷や汗をかいた

「話が逸れたね、では本題に入ろうか」
「ふん」

姿勢を正すグレアムにベジータは腕を組んで真っ正面で見据える

「君は我々管理局が管轄・管理外世界のどちらでもない、次元漂流者だと聞いた」
「…………」
「君はまだ幼い、どうだろう、ここに身をおいて君の世界を探してみては?」
「………何?」
「ここ時空管理局は様々な世界を管轄・管理している。もしかしたらここで暮らしているうちに君の世界が見つかるかもしれない」

呼び出しの内容はグレアム提督直々のスカウト、その言葉にクロノは呆然となっていた

対してベジータは

「断る」

ベジータはグレアムの誘いを一言で、しかも即答で一刀両断したのだった

「……理由を聞いてもいいかね?」
「簡単な事だ、俺は誰かに指図されるのが大っ嫌いだからだ」

ベジータの単純にして明解な応えにクロノは更に呆然となり、その顔は少し面白い事になっている

「……そうか、ならば仕方ないな」

溜め息を吐いてグレアムは再び珈琲の入ったカップに手を付ける

「話はそれだけか?」
「ああ、済まなかったね時間を取らせて」

ベジータは珈琲を一口で飲み干した後、立ち上がってドアの方へ歩いていき

「ああそうだ、貴様等には一言いいたい事があった」
「?」
「いつまでも自分達が神の立場に付いている等と勘違いしていると……いつか痛い目に合うぞ」
「!」
「じゃあな」

ベジータの言葉に目を開いたグレアムは、部屋から出て行くその姿をただ眺めていた

「………っハ!?」

漸く我に返ったクロノは辺りを見回し、これまでのベジータの言動を思い出していた

「アイツ……提督に対してなんて事を!」
「いいんだクロノ、私は気にしてはいない」
「ですが!」
「彼の事は君達に任せるよ」
「……はい」

グレアムに諭されたクロノは席を立ち、退出するが

「提督」
「何かね?」
「もうお聞き及んでいると思いますが、先程の件で自分達が遺失物【闇の書】捜索・捜査担当に入る事に決定しました」
「……そうか」

クロノの報告に、グレアムの表情はどこか暗くなる

「こんな事を言えた義理ではないかもしれんが、無理はするなよ」
「大丈夫です。急事にこそ冷静さが最大の友、提督の教え通りです」
「うん、そうだったな」
「では」

クロノはグレアムに一礼し、部屋をあとにする

グレアムはそんなクロノをどこか影を落とした暗い瞳で見つめていた















「ふん、グレアムとか言う奴、随分胡散臭い奴だったな」

腕を組んで通路を歩くベジータ、その表情は苛ついているようで周りの局員は避けるようにベジータから離れていく

(いつぞやエイミィから聞いた事がある、歴戦の勇士ギル・グレアム提督)

艦隊指揮官、後に執務官長として活躍。

管理局の奴らからしてみれば相当偉い奴みたいだが

(尤も、俺にはそんな事関係ないが)

だが、それにしても問題は奴の目だ

あの目は何か企んでやがるな

俺を管理局にスカウトという形で縛り付けるのが目的か……それとも

「あら? ベジータ君じゃない、どうしたの?」
「ん? リンディか」

横の扉から開かれ声を掛けられたことに思考を止めリンディと向き合う

「なのはの様子はどうだった?」
「外傷はそんなに酷くはないからすぐによくなるわ。……ただ」
「ただ?」
「魔導師の魔力の源、リンカーコアが少し小さくなっているの」
「何故奴らはそんなものを奪うんだ?」
「……実は、以前から局員がさっきの騎士達から襲撃があったって報告があったの」

リンディの話に頷くベジータだが

「騎士?」
「ええ、彼女達は私達ミッドチルダと二大に分けられたもう一つの魔法、ベルカ式の使い手よ」
「ベルカ式?」
「なのはさんやフェイトさんのように長距離砲撃や広域攻撃を出来るだけ除外して対人戦闘に特化した魔法、その優れた術者は騎士と呼ばれるわ」
「……なる程、通りで俺との戦いの相性がいいわけだ」
「ええ、どちらかと言えばこの世界ではベジータ君もベルカ式に分類されるわね」
「で? そのベルカ式の奴らが何でまた?」
「…………」

ベジータの言葉でリンディの表情は少し暗くなる

「その事も含めて今後の事を話すから、ベジータ君はなのはさんとフェイトさん達を連れてきてくれないかな」
「チッ、仕方ない」

ベジータは舌打ちをしながらも素直にリンディの言葉に従い、なのはとフェイトのいる別の医務室へ足を運んでいった

















海鳴市から離れたとある街のビルの屋上

そこには例の襲撃者、シグナム達が佇んでいた

「シャマル、大丈夫か?」
「うん、もう平気よ。大分楽になったから大丈夫よ」
「そうか、……それと闇の書だが」

申し訳無さそうに問い掛けるシグナムにシャマルは顔を俯かせ

「……ごめんなさい、あまり蒐集出来なかった」
「……そうか」
「ごめんなさい」
「シャマルは悪くねぇよ! 悪いのは全部あのMッパゲの所為だ!!」

悔しそうに表情を歪ませるヴィータに対し、シグナムは顎に手を添えて考え事をしていた

「どうしたシグナム?」

狼に姿を変えたザフィーラの声にシグナムは三人に問い掛ける

「皆、サイヤ人という民族は知っているか?」
「サイヤ人?」
「何だそれ?」
「聞かぬ名だな、それがどうしたのだ?」
「例のあの男は自分の事をサイヤ人の王子と言っていた」
「お、王子!?」
「アイツ、どこぞの王族だったのかよ!?」

とてもそうは見えないと言った風にそれぞれが驚いていると

「でもよ、やっぱりサイヤ人なんてアタシ聞いた事ないぞ」
「私も」
「我もだ」
「そうか……」
「どうせあのMッパゲのハッタリだろ? 気にする事ねぇよ」
「そうだ、それよりも我等には成すべき事があるだろう」
「……そうだな、済まない、余計な事を言ったな」

ベジータの話は一先ず後回しにして、シグナム達は今後の話を始める

「でもどうする? 蒐集対象は一人につき一回、もうあの白い奴には使えないぞ」
「シャマル、先程のでどれくらい埋まった?」
「ざっと10頁、あの子の魔力を考えると半分くらいかしら」
「その事に付いては既に考えている」

シグナムの言葉に全員が振り返る

「どう言う事だシグナム?」
「もう別の蒐集対象を見つけたのか?」
「ああ、実は先日探索していた時に偶然見つけた。ただ、あの時は主と買い物に来ていたので手出し出来なかったが」
「それで、その人は大物なの?」
「そんで、そいつはどこに居るんだよ!」

シャマルとヴィータの質問にシグナムは口端を吊り上げ

「ああ、恐らくそいつはこれまでの中で一、二を争う魔力保持者だろう。そしてその場所は」

シグナムは下に一差し指を向けて

「この街だ」

自分達の居る遠見市を指差したのだった

「よし、なら直ぐに行こう!」
「待てヴィータ、先程の騒ぎの後でまた事をすると管理局の奴らが狙ってくる」
「蒐集を確実にするためには少し時間を置こう」
「だけどっ!」
「主の事が気掛かりなのは皆同じ、だからこそ我等は確実で慎重に行動するんだ」
「…………」
「その間に私達は別の場所で蒐集するから、だから」
「……わぁったよ」

渋々と引き下がるヴィータにシグナム達は苦笑いを零し

「ならば帰ろう、主が待っている」
「「「応」」」

四人は街の夜空を翔ていった










〜おまけ〜

「なのは……」
「フェイトちゃん……」

医務室で目を覚ましたなのは、そしてフェイトは互いに再会を喜び合い抱き合っていた

その時

「フェイト、なのは、居るのか……って」
「「あっ」」

丁度部屋にベジータが入ってきた事で、その場の空気が固まった

そして

「……邪魔したな」
「ま、待ってベジータ!! 何かもの凄い勘違いをしていない!?」
「いや、ホント済まんな空気読めなくて」
「何がさ!?」
「前に言った筈だ。お前の生き方に横からとやかく言う野暮なことはしないと」
「ま、待ってよベジータ!!」
「ベジータ君カムバ〜〜ック!!」









〜あとがき〜

トッポです

何か色々飛ばしていますがそこはスルーで(コラ



[5218] 王子様の来日
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:643859f5
Date: 2009/02/11 01:48


結局は今回の事件、闇の書の捜査担当はリンディが率いるアースラスタッフに決定

そしてなのはとの再会を果たしたフェイトとベジータはアースラスタッフ達と共に再び地球へと赴いていた

「わぁーっ! 凄い近所だ♪」
「本当?」
「うん、ほら、あそこが私の家!」

なのはの保護を兼ねて近くのマンションに司令部を移したリンディ達は引っ越しの荷物運びに勤しんでいた

本来なら無関係なベジータとフェイトだが、フェイトの

「リンディ提督やクロノが大変なのに、呑気に遊んでなんかいられないよ」

この一言でフェイトも今回の捜査の一員となり

ベジータはフェイトの面倒を見るため、同じく同行する事となった

しかし

「おい、何で俺が貴様等の荷物を運ばなきゃならないんだ?」

何故か引っ越しの手伝いをやらされて、ベジータの機嫌はかなり思わしくなかった

そして大きな冷蔵庫を運びながら不満タラタラに愚痴を零すベジータに

「君の馬鹿力を上手く活用出来ているんだ。この時くらい働いて欲しいものだな」
「……ぶっ殺すぞ?」

ベジータの苛つきにクロノは更に怒りを焚き付ける

「ご、ごめんねベジータ、私も手伝うよ」
「わ、私も」
「禄に力がないお前等に手伝われても邪魔になるだけだ。大人しくしてろ」

ゴトンッと冷蔵庫を所定の位置に置き、フェイトとなのはに向き直る

「ま、それでもその気持ちだけでもそこの役立たずよりはましだからな」
「ぐっ!」

ベジータの一言で黙るクロノにフェイトとなのはは苦笑いを浮かべる

「ベジータ君、お疲れ様もう大丈夫よ。一休みをして頂戴」
「分かった」

ベジータは肩をコキコキと鳴らしてリビングに向かった

「ユーノ君やアルフはコッチではその姿なんだ」
「新形態子犬フォーム♪」
「なのはの友達の前ではこの姿でないと」

何やら騒がしいリビングには愛玩動物となったアルフと、フェレット形態のユーノがチョコンとダイニングに座った

「わぁ♪ アルフちっちゃい、どうしたの?」
「ユーノ君もフェレットモード久し振り♪」
「可愛いだろ♪」
「うん♪」
「あ、あはは」

それぞれのパートナーに抱きかかえられ、アルフはフェイトの鼻を舐め、ユーノはなのはに頬ずりされて苦笑いをしていた

「はっ!?」

その時、ユーノはなのはの背に立つベジータに氷のように冷たい視線を向けられ

「……ふっ」

鼻で笑われた

「あれ? ユーノ君、どうしたの?」
「……イヤ、ナンデモナイヨ」

何故か冷や汗がだだ漏れのユーノになのはは首を傾げた

「なのは、フェイト、友達だよ」
「「はーい♪」」

クロノの友達という言葉にフェイトとなのはは嬉しそうな顔になり

対してベジータ

「………はぁ」

かなり疲れた様子で溜め息を吐くのだった

「こんにちは〜」
「来たよ〜!」
「アリさちゃん、すずかちゃんいらっしゃい」
「こ、こんにちは」
「初めましてってのも何か変かな?」
「ビデオメールで会ってたもんね」
「うん、でも……会えて嬉しいよアリサ、すずか」

四人の少女達で玄関口は賑やかになる

「そ・れ・で? アイツは?」
「アイツ?」
「アイツよ! ベジータ!! アイツも来てるんでしょ!」

ズイッと迫るアリサにフェイトは少し後ずさる

「俺に何か用か?」
「あ……」
「あーーーっ!!」

フェイトの後ろから出てきたベジータにすずかは少し怯え、アリサは指を指して突っかかる

「アンタねぇ! どうしてビデオメールに出て来なかったのよ! フェイトの従兄なんでしょ!?」
「何を言ってやがる、一度でたじゃねぇか」
「最後に一度きりじゃない! 謝りなさいよ」
「いや意味が分からん」
「あ、アリサちゃん落ち着いて」

予想通りの展開になのは達はそれぞれアリサを抑えるが、アリサはベジータに突っかかるのを止めない

それをベジータははぁっと溜め息を吐いて

「分かった分かった。なら一つ勝負をしよう」
「「「「勝負?」」」」
「まさか、また卓球なんてやろうだなんて言うんじゃ……」
「そんなワンパターンするわけないだろう」

そう言ってベジータは一呼吸置いて

「赤巻紙、青巻紙、黄巻紙」
「………へ?」
「それって……」
「早口言葉?」
「これを三回連続、一度も噛まないで言えたらお前達の言う事を一日中何でも従ってやる」
「えぇっ!?」

ベジータの提案になのは達は大袈裟に驚愕し

「ふ、ふん! 何よそれ、馬鹿じゃないの! そんな子供の遊びに付き合って……「何だ、逃げるのか」うぐ」
「出来ないのなら仕方ない、無理にとは言わないぞ」

ベジータの挑発的な笑みにアリサは悔しそうに歯をギリギリと鳴らして

「い、いいじゃない! 上等よ! 楽勝じゃないこんなの!」
「ちょっアリサちゃん!?」
「すずか、なのは、フェイト! アンタ達もやるのよ!」
「ふぇ〜っ!?」
「わ、私も!?」

初めて会って早々に巻き込まれたフェイトは戸惑いながらもどこか楽しそうだった

「じゃあ、私から行くわよ!」

アリサは深呼吸を繰り返し、自分を落ち着かせ

「赤巻紙! 青巻紙! きまぎゅ! あぅ〜……舌噛んだ」
「ふん、次、高町なのは!」
「ひ、ひゃい!」
「なのはちゃん、もう噛んでる」

なのはもアリサ同様、深呼吸を繰り返し

「赤巻紙! 青巻きゃみ!」
「…………」
「な、なのは、惜しかったよ!」
「フェイトちゃん、優しさは時に暴力よりも人を傷付けるんだよ」
「えぇっ!?」

やさぐれたなのはをスルーし、今度はすずかがベジータの前に立つ

「あの時は負けましたけど、今度は負けません!」
「ふん、できるものならやってみるがいい!」
「いきます!!」

そう言ってすずかは大きく息を吸い込み

「赤巻紙! 青巻紙! 黄巻紙! 赤巻紙! 青巻紙! 黄巻紙! 青まきゅ!!」
「あぁ〜、惜しい!」
「ふんっ! 少しは出来るが……まだまだ甘い! さて、次は……」

ベジータは最後に残った挑戦者、フェイトを見据える

「フェイトちゃん頑張って!」
「アンタの底力見せて貰うわ!」
「貴方に……力を」

何故か某ガンダムの少女のように祈るすずか

フェイトは若干尻込みながらもベジータと相対する

「さぁ、こい!」
「い、行きます!!」

フェイトは拳を握り締め、息を大きく吸って

「赤まぎゅ!!」

暴発した

「「「…………」」」
「あ、あの……」
「……フェイト、これからは嫌な事は素直に嫌と言うんだぞ」
「べ、ベジータ?」

ベジータの手が肩に置かれて諭されるフェイトはキョトンとしていた

「ふん、随分な口を利いてた割には大した事ないな」

ガックリと膝をつくアリサにベジータは不敵に笑いながら見下ろす

「そ、そういうアンタはどうなのよ! アンタの番がまだ終わってないわよ!」

アリサの抵抗にベジータはクククと笑い

「赤巻紙! 青巻紙! 黄巻紙! 赤巻紙! 青巻紙! 黄巻紙! 赤巻紙! 青巻紙! 黄巻紙!」
「なっ!?」
「そんな……」
「ククク……分かったか! これがお前達と俺との決定的、越えられない壁の差だ! ハーッハッハッハ!!」

力無くうなだれるアリサ達にベジータは高々と笑い、その風貌はまさに王者の風格そのもの

しかし

「あらあらまぁまぁ、ベジータ君ったらもぅなのはさんのお友達とあんなに仲良しに♪」

端から見ればそれはとても滑稽で微笑ましく見えた光景だったであろう
















その後、リンディがなのはの両親に挨拶という事で、喫茶翠屋へと足を運んできた

「ユーノ君久し振りだね〜♪」
「キュッキュー」
「うーん、何かアンタの事どっかで見たことある気がするんだけど……気のせいかな?」
「アゥ〜ン」

外のテラスで談笑しているなのは達、ベジータはというと

「おぉベジータ君! 久し振りだね! 元気そうで何よりだよ」
「お前もな士郎、あの時貰った珈琲の豆、旨く頂いているぞ」
「そうかい! なら今度は俺のブレンド珈琲をご馳走するよ」
「楽しみだな」

相変わらず士郎とは意気投合しているベジータ

「……という訳で、これから暫く近所になりますので、宜しくお願いします」
「いえいえ此方こそ」

リンディとなのはの母親、桃子も気が合うのか仲良く談笑していた

そこへ

「あ、あのリンディていと……リンディさん!」

少し慌ただしく店に入ってきたフェイト達、そのフェイトは困惑になりなながら両手に子包みを抱えていた

「はい、なぁに?」
「え、えと……その、これって」

恐る恐るフェイトが子包みの中を見せると、中には白を強調した制服が入っていた

「フェイトさんのも転校手続き取っといたから、週明けからなのはさんのクラスメイトね♪」

悪戯っぽく笑うリンディにフェイトはやはり困惑している

「あらあら素敵♪」
「聖祥小学校ですか、あそこはいい学校ですよ。な、なのは」
「うん!」
「良かったわねフェイトちゃん」
「は、はい、その、えと……ありがとう、ございます」

フェイトは嬉しそうに制服の入った子包みを抱き締めた

(……良かったな)

ベジータは遠くでアリサ達とワイワイと賑やかに話をしているフェイトに優しく微笑んでいた

するとそこへ

「はい、ベジータ君の」
「………は?」

リンディが手渡してきたもう一つの子包みにベジータはポカーンと口を開ける

「あら? 言ったじゃない、フェイトさん【のも】転校手続き取っといたからって♪」
「な、何っ!?」

ベジータはもぎ取るようにリンディから子包みを奪い、中を確かめる

そして入っていたのはフェイトと同じ白を強調とした制服で

男子に合わせた短パンが同封されていた

「な……な……な!?」

ワナワナと震えるベジータになのははのぞき込み

「えぇっ!? ベジータ君もウチの学校に!?」
「そ、そうなんですか!?」
「ええ、流石に同じクラスじゃなくて隣のクラスにだけど」
「おお! ベジータ君もなのはの同級生か! 良かったな、なのは」
「うん!」

未だ震えが収まらないベジータにリンディは耳元で

「なのはさんやフェイトさんのデバイスは今は本局で修理中だから、今例の騎士に襲われるのは危険なのよ。だからベジータ君の力が必要なのよ………お願い」

尤もな意見を言うリンディだが、その目は明らかに笑っていた

その事を見破ったベジータは更に肩を震わせ

「く……く……く」

制服の入った子包みを握り締め

「クソッタレェェェェッ!!」

ベジータの魂の叫びが再び

海鳴の街に木霊した














〜あとがき〜

今回は久しぶりに色々はっちゃけたベジータを書いてみました!



[5218] 王子と母と娘と
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:454563dc
Date: 2009/02/12 00:23


ここは私立聖祥大附属小学校

そこの三学年の二つの教室では異様にざわついていた

「さて皆さん、実は先週急に決まった事なのですが今日から新しい友達がこのクラスにやってきます。海外からの留学生さんです。フェイトさん、どうぞ」
「し、失礼します」

教室に入ってきたのはなのは達と同じ、真っ白い制服を着たフェイトだった

なのは達が見守る中、戸惑いながらもフェイトは教卓の前に立つ

「あの、フェイト・テスタロッサと言います! よろしくお願いします」

その一言でクラス中から拍手が巻き起こり、フェイトは少し面食らう

しかしそれでも皆笑顔でフェイトを招き入れ、なのはと視線が重なったフェイトは、どこか照れ臭そうに、それでいて嬉しく微笑み返した








対して隣のクラスでは

「え、えー…、先日急に決まった事なのですが、今日から皆さんに新しい友達がやってきました」

まるで葬式の最中のような静けさだった

「で、ではベジータ君、自己紹介を」

同い年とは思えないほど発達した筋肉が制服を張り詰めて、やたら目つきの悪い小学生、ベジータが教卓の前に立っていた

「…………」

周囲を睨み付けるベジータにクラスの誰も喋ろうとはしない

「あ、あのベジータ君、自己紹介をお願いできるかな?」
「あぁ?」
「ひぃ! すみませんごめんなさい!!」

ベジータに話し掛けた女性教師はベジータの鋭い眼光であっさりと引き下がってしまう

だが、それも仕方のない事、明らかに人を射殺すような目つきをした人物に睨み付けられ、誰が怯まずにいられようか

「……チッ、ベジータだ」

簡潔に自分の名前を言うと後ろの窓側の空いている席に鞄を置いて着席し、ベジータは窓の外を眺めていた

「じ、じゃあ早速授業を始めるわね」

重苦しい空気の中、クラスの生徒は誰一人声を出すものはいなく

(隣のクラスは可愛い女の子が来たってのにどうしてウチのクラスには……)
(不幸だ……)
(逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ)

等と生徒の心の声が聞こえてきたのは気のせい……ではないだろう









そして休み時間

転校したてのフェイトにクラス中の生徒が質問するため押し掛けてきた

「ねぇ、向こうの学校はどんなのだったの?」
「わ、私は家庭教師だったから学校には」
「すげー急な転入だよね、何で?」
「えと、その……色々あって」
「日本語上手だね、どこで覚えたの?」
「前に住んでた所ってどんな所?」
「えっと、その……あの」

あまりの人気でもみくちゃにされるフェイト、それを見かねたアリサは

「はいはーい、転入初日の留学生を、そんなにみんなでもやクチャにしないの」
「アリサ」

助けてくれたアリサにフェイトは少し感激した

「それに質問は順番に、フェイトが困っているでしょ」
「じゃあ俺から」
「ハイ、いいわよ」
「向こうの学校ってどんな感じ?」
「えっと、私は普通の学校には行ってなかったんだ。家庭教師というかそんな感じの人に教わってて」
「へぇー、そうなんだ」
「ハイハーイ、次アタシ!」
「はい待って! 待ってってば」

押し寄せてくる生徒の質問攻めに遂にはアリサまでモヤクチャにさるる始末

「あはは、フェイトちゃん人気者だね」
「アリサちゃんも大変だ」

苦笑いを浮かべつつ、クラスに溶け込めそうなフェイトになのはは嬉しく思い

「そう言えば、ベジータ君は大丈夫かな?」

ベジータの事が心配ななのは

一方隣のクラスでは

「「「……………」」」

ベジータに話し掛けるどころか半径二メートル誰一人近付こうとはしない

何故なら

「…………」

ベジータの放つ「話し掛けたらぶっ殺す」的なオーラが溢れ出て、誰も言葉を交わそうとはしなかった

「……チッ」
「「「「!?」」」」

ベジータが舌打ちする度に生徒達の肩はビクッと震え、恐る恐る様子を窺ってしまう始末

こうしてベジータは転入早々に聖祥小学校の番長という噂が流れる事になってしまった











そして、昼休みと午後の授業も終わり、一緒に帰宅する事となったベジータ達

「フェイトはこれからどうするんだ?」
「えっと、私はこれからなのはの家に行って、それから帰るよ」
「そうか、なら一旦此処で別れるとするか」
「え? どうして?」
「今日の食事当番は俺でな、その食材を買いに行かねばならない」
「アンタ、料理なんてできるの?」
「うん、ベジータの作るご飯、とっても美味しいんだよ」

何故かベジータではなくフェイトが誇らしげに語った

「へぇ〜、意外」
「ふん、この俺に出来ないことなどありはしない」

自信満々に胸を張るベジータになのは達は苦笑いを零す

「そう言うわけだ、フェイトもあまり遅くならないように帰れよ」
「うん、分かった」

そして交差点に差し掛かったなのは達とベジータはそこで別れ、それぞれ反対方向へ歩いていった













「チッ、まったくついてねぇ」

舌打ちをしながら街道を歩くベジータ。辺りは既に夕日に染まり、すれ違って行く人々の人影が伸びていった

しかし、ベジータの表情はどこか思わしく無かった

「マヨネーズがどこも売れ切れだとは」

俺が求めるマヨネーズはキュー○ー印のもの、他のマヨネーズに興味はない

「あそこにもないとなると、残るは……」

ベジータは様々なスーパーを渡り歩き、遂には隣町の遠見市にまで足を運んできていた

「ここなら品揃えも豊富だし、見つかるだろ」

遅くなりそうなら飛んでいけばいいしな

「遅くなればエイミィ辺りが五月蠅いからな、早く済ませるか」

そしてベジータが一歩を踏み出した瞬間

「!?」

世界の色が突如変わり、人の姿も消えていった

「これは……結界? 奴らが来たのか」

ベジータは辺りを警戒し、辺りを見渡した

その時


「なっ!?」

ベジータは驚愕に目を見開き、肩を震わせていた

「こ、この気は……」

まさか……そんなバカな!?

「何故、何故貴様が、お前が此処にいる!?」

ベジータは拳を握り締めいきなり駆け出した

「お前はあの時、死んだ筈じゃなかったのか!?」




なのに何故、お前はこの街に、この世にいるんだ





プレシア















「うぉぉぉっ!!」
「くぅっ!」
「きゃぁぁぁっ!!」

ヴィータの放つ数々の鉄球が二人の親子に襲い掛かる

黒い長髪の女性は咄嗟に障壁を展開し、これを防ぐ

「アリシア、大丈夫?」
「う、うん、私なら平気だよ。お母さんは?」
「大丈夫よ、さ、早く」
「うん!」

手を繋ぎ、必死に逃げる親子、プレシアとアリシア

人無き大通りを走る二人に剣を持った女性、シグナムが待ち構える

「済まないが、此処で終わりだ」
「くっ!」

剣を向けられ身構えるプレシア

「お母さん……」

プレシアの裾を掴み怯えるアリシアにプレシアは優しく頭を撫でて

「大丈夫、母さんが守ってみせるから」

眼前のシグナムに睨み付ける

プレシアの視線にシグナムは表情を一瞬暗くするが、すぐにまた鋭い目となり

「大人しくしていれば命までは取らん、我等は貴様に用がある」
「シグナム!」

プレシアとアリシアの背後に回ったヴィータがハンマーを携え、二人に威嚇する

「貴方達は何者なの? 管理局の人間じゃなさそうだけど……」
「貴様がそれを知る必要は無い」

それだけ言うとシグナムとヴィータは同時に構え、攻撃を仕掛ける

「くぅぅっ!!」
「だりゃぁぁっ!!」
「おおぉぉぉっ!!」

両手に障壁を展開し攻撃を防ぐプレシア

そして魔力による爆発が起こり、シグナムとヴィータは一旦距離を開ける

『クソッ! アイツ魔力に物言わせて障壁を固くしてやがる』
『仕方ない、ヴィータ、カートリッジを使って一気に落とすぞ』
『応っ!』

念話での短い会話の後、煙が晴れていくのを待つと

「いねぇ!?」
「煙に撒かれて引いたか」
『シグナム、ヴィータちゃん! そこから距離500の所で目標を確認、ザフィーラが向かってるわ』
「分かった!」

逃がさないと言ったようにシャマルの指示に従い、空を翔るヴィータ。

シグナムは飛び立ったヴィータを見つめた後、自分の持つ剣に視線を落とし

(我ながら……情けないな)

首を振ってヴィータの後を追いかけ、空へと飛び立った









「はっはっはっはっ」

シグナムとヴィータから振り切る為、プレシアとアリシアは路地裏へと逃げ込んでいた

「あぅっ!」
「アリシア!」

プレシアの手を放してしまいバランスを崩したアリシアは転んでしまう

「アリシア、大丈夫!?」
「だ、大丈夫」

アリシアは自分の無事を示す為笑顔を向けるが、明らかな疲労が見えるその表情にプレシアはこれ以上は逃げられないと悟った

「アリシア、貴方は此処にいなさい」
「お母さん?」

プレシアはアリシアを地面に座らせ立ち上がる

「だ、ダメだよお母さん!」

プレシアが何をする気か気付いたアリシアは服の裾を掴む

しかし、プレシアはそんなアリシアの手を優しく解き、頭に手を添えて笑顔を見せる

「私なら大丈夫、お母さんはとても強い大魔導師だからね」
「お母さん!!」

安心させるように笑ったプレシアは、アリシアの制止を振り切り路地裏を出て行く

(私の魔法は広域攻撃型、下手をすればアリシアまで巻き添えにしてしまう)

救援を呼ぶにも通信妨害でそれも不可能

(いや、そもそも重罪人である私に、最初から味方なんていやしない)

でも、それでも

(あの子だけは、アリシアだけは私が守ってみせる!!)

再び大通りに出てくるプレシアに

「でぁぁぁっ!!」

人間形態のザフィーラがプレシアに殴り掛かってくる

「あまり調子に……」

プレシアは右手に稲妻を迸らせ

「乗らないで頂戴!」

雷をぶつける

「ぬぅっ!?」

ザフィーラは三角形の障壁を展開し

「盾の守護獣を、舐めるなぁぁっ!!」

再び殴りかかってきた

「くっ!」

プレシアは空へと飛んで避けるが

「ラケーテン」
「!?」
「ハンマーッ!!」

背後から回転しながらハンマーを振り回すヴィータ

プレシアは避け切れないと判断し、障壁を展開する

しかし

「紫電一閃!!」
「なっ!?」

別の背後から炎の剣をぶつけてくるシグナムに対処しきれないプレシアは

「あぐっ!」

瞬時に張った障壁ごと地面に叩きつけられてしまう

「これで決まりだ」
「我等の連携によく凌いだ」
「だけど……これで」

地面に叩きつけられ、意識が朦朧とするプレシアに三人はそれぞれ構え

「「「終わりだ!」」」

プレシアに向けて獲物を振り下ろす

その時

ガキンッ

「………え?」

突如目の前に現れた人影が三人の攻撃を受け止めていた

ヴィータのハンマーは右手で

シグナムの剣は左手で

ザフィーラの拳は片足で

「よう、久し振りだな」

漸く視界がハッキリしてきたプレシアは目の前の人影に目を見開いた

全身に身に纏った紺のパワードスーツ

両手両足に装着した白きグローブとブーツ

プレシアと同じ黒髪の少年

そして

「ベジー……タ?」

自分に間違いを気付かせてくれた、誇り高き戦士

ベジータが三人の攻撃を防ぎ

「俺、参上ってか?」

やはり、不敵に笑っていた









〜おまけ〜

誰もいない街に駆けるベジータ

「おっと、いかんいかん」

急に何かを思い出し、辺りを見渡し、物陰に隠れ

「こんな姿、あいつに見せる訳にはいかんからな」

バックから自分が愛用しているパワードスーツを取り出し、着替え

「よし! 行くか!」

気を取り直して駆けだしたのだった








〜あとがき〜

今回の話は原作の第1話を参考

……大丈夫だよね?



[5218] 王子と母娘と騎士達
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:2d15808e
Date: 2009/02/14 01:34

「て、てめぇっ!」
「何故、貴様がここに!?」

目の前に現れた介入者にシグナム達は驚愕し、同時に距離を開ける

「べ、ベジータ……どうして貴方が?」
「それは此方の台詞だプレシア。お前は虚数空間に墜ちて死んだんじゃなかったのか? それに……」
「お母さーーん!」
「……何故アリシアが生き返っている?」
「………」

路地裏から出てきたアリシアはプレシアに駆け寄る

「お母さん…」

ベジータの質問にプレシアは何も言えず顔を俯かせる

「ふん、まぁいい、その話しは後で聞くとして」
「!」

シグナム達に向き直ったベジータは凄まじい程の威圧感を放ち

「俺もアイツ等には聞きたいことがあるしな」
「くっ!」

ベジータの威圧感に呑まれつつあるシグナムは手に持った剣を握り締め、ベジータに再び斬りかかる

「うぉぉぉっ!!」
「でぁぁぁっ!!」

それに続いてザフィーラとヴィータもベジータに殴りかかる

「プレシア!」
「え?」
「コイツを持ってろ」

と、いきなり渡された鞄にプレシアは困惑する

「え? こ、これは?」
「そいつを持ってアリシアと共に隠れてろ、ただもう一人どこかでお前のリンカーコアを狙っている筈だ。それだけ気をつけろ!」

ベジータはそれだけ言うと空高く舞い上がり、シグナム達も追いかけていった

残されたプレシアとアリシアはその様子を見て

「お母さん、あの人って」
「…………」
「お母さん?」

飛び立ったベジータをプレシアはどこか嬉しそうに微笑んでいた

















「でぁぁぁっ!!」
「ふん」

プレシアとアリシアの場所から少し離れた遠見市上空

そこではシグナム、ザフィーラ、ヴィータとベジータの激しい攻防が繰り広げていた

ザフィーラはベジータに無数の打撃を繰り出すが

「そんなに頭ばかり狙っていると」

ベジータはワザとスレスレで避け

「腹がお留守だぜ?」
「がっ!?」

ドゴンッと鈍い音がすると、ザフィーラの腹部にベジータの膝がめり込んでいた

「そら」
「ぐぉぁぁぁっ!」

ベジータはそのままザフィーラを浮かべて、肘打ちでビルに叩き付ける

「アイゼンッ!!」
[Explosion]

ガシャンッと音を立てて薬莢を弾き出し、ハンマーの形状を変化させ、回転しながら突っ込んでくるヴィータに

「そんなに回りたきゃ」

ベジータは拳を振り上げ

「一生回ってやがれ!」

噴射口を殴り飛ばす

「あぁぁぁっ!!」

勢い良く吹き飛んでいくヴィータ

「これならっ!!」

背後から刀身に炎を纏わせ、斬りかかるシグナムに

「そらぁっ!!」
「何っ!?」

ベジータはヴィータを殴った勢いで体を回転し、遠心力を付けて柄を蹴り上げ押し返す

「ふっ!」
「ぬぁっ!?」

そのままベジータは零距離からシグナムの腹部に気合い砲を放ち吹き飛ばす

「もう終いか?」
「はぁっはぁっ……」
「くそっ!」
「我等ヴォルケンリッターが、まるで赤子扱い……化け物か!?」
「ザフィーラ、大丈夫か?」
「ああ、何とかな」

既に肩で息をする三人に、ベジータは腕を組んで見下ろしていた

当然、ベジータは汗はおろか呼吸一つ乱れてはいない

「どうした? もっと楽しませてくれよ。俺を失望させないでくれよ?」
「くっ!」

余裕の笑みを浮かべるベジータにシグナムは奥歯を噛み締め睨み付ける

しかし、ベジータはそれをまだ戦えている意思表示と判断し口端を吊り上げる

「……ざけんなよ」
「?」
「ヴ、ヴィータ?」

顔を俯かせ、肩を震わせるヴィータにシグナム達は動揺する

「ざけんじゃ……ねぇぇっ!!」
「よ、よせヴィータ!!」

目尻に涙を溜めて、ベジータ睨み付け吼えるヴィータにシグナム達は落ち着かせるが

「うるせぇっ!! あたし達には……はやてには、もう時間が少ししかねぇんだ! それなのに……」

ヴィータはベジータに向け、殺意の眼光をぶつけ

「こんな……こんな奴に、邪魔されてたまるかぁぁぁっ!!」

鉄の伯爵、グラーフ・アイゼンを掲げ特攻を仕掛ける

「くっ、ザフィーラ! ヴィータを援護するぞ」
「心得た」

特攻するヴィータにシグナムとザフィーラが引きずられる様に続いていく

「このぉぉぉっ!!」
「ふん……」

鋭くなったヴィータの攻撃をも、ベジータは楽々にかわしていくが

その表情には先程の余裕さは消えていた

(はやて? 時間? 何の事だ?)

疑問に思い考え事をしながらのベジータに、ヴィータはこれを隙だと見定め

「アイゼン!!」
[Jawohl]
「?」

突然間合いを取り、上空へ逃げるヴィータにベジータは首を傾げる

[Gigant form]
「轟・天・爆・砕!!」
「な、何っ!?」

ヴィータの振り上げたハンマーが超巨大に変わり、ベジータは面食らう

「だが、そんな大振り、当たるつもりは「させん!!」!?」

回避動作に入るベジータに突如地面から白き牙の様なものが突き出て円錐形にベジータを閉じ込め

「ギガント・シュラァァァック!!!」

ヴィータは巨大と化したハンマーを、檻ごとベジータにぶつけ

砕けた檻からベジータは吹き飛んでいき、地面に叩きつける

「はぁっはぁっはぁっ……」
「ヴィータ、大丈夫か?」
「ああ、アタシは何ともない」
「だが……これで」

巻き起こる土煙を見て、シグナムとザフィーラは悲痛に歪める

「ごめんシグナム、ザフィーラ」
「……仕方ない、ヴィータが殺らねば我等が殺られていた」
「……でも」
「もう、我等には後戻りが出来なくなったな」

今のはヴィータの持つ最大級の魔法攻撃

魔法もBJも無い、ただ腕力だけのベジータに、今のは耐えきれる筈がない

シグナム達はそう考えていた……が

バコォォォッ

「「「!?」」」

突如、ベジータの落ちた場所が爆発し、瓦礫が吹き飛んでいく

そして爆発の中心点には、金色の炎を纏い金髪碧眼となったベジータが、肩に掛かった埃を払っていた

「な……な……」
「バカな! 直撃だった筈だ!」
「何故、奴は無傷なんだ……!?」

驚愕し、目を見開いているシグナム達に対しベジータは

「まずは貴様等に謝らなければならない」
「!?」
「何を……!?」
「貴様等の連携は大したものだ。練度の高い攻撃、そして切り札の使い方、どれもこれも一級品だ」

ベジータは拳を握り締め

「だから、その礼に報いる為」

前傾姿勢に構え

「俺も、少しばかり本気でやる」

その身に纏った炎を、デカくし

「行くぞ!!」

初めて、ベジータから攻撃を仕掛けた

「ヌンッ!!」
「!?!?」

ベジータの動きは誰一人捉える者は出来ず、ベジータの拳がザフィーラの腹部に深くめり込み

ザフィーラは声にならない悲鳴を上げる

ザフィーラの体から衝撃が突き抜け、身に纏っていた服が背中から破けていった

「ザフィーラ!!」

ガックリとうなだれ、意識を断たれたザフィーラはベジータにもたれかかる

「まず、一人」

超スピードでザフィーラを近くのビルに下ろすベジータ

その動作も、シグナムとヴィータの目には映らなかった

「さて、あとは」

振り返ったベジータの表情に、シグナムとヴィータはこれまで感じた事の無い恐怖感に襲われる

「あ、あ、うああああああああっ!!」
「!? 止めろヴィータ!!」

もはやヴィータの目は眼前にいる正体不明の化け物しか映っていない

ヴィータは再び、ハンマーを巨大化させ

「くるなぁぁぁぁっ!!」

ベジータに向け振り下ろす

「………」

それをベジータは拳を握り締め、メキメキと腕を膨らませて

「ダッ!!」

短い呼吸と共に振り抜いた拳はヴィータのハンマーと激突し

「!?」

砕けたハンマーの破片と共に、ヴィータの体は吹き飛んでいく

「レヴァンティン!」
[Shutorm Farken]

シグナムの持つ剣と鞘が連結し、一つの弓と化す

そしてシグナムの手からは一本の矢が生成され

「翔よ、隼ァァッ!!」

シグナムの展開された魔法陣から炎が迸り、魔力と物理を兼ね備えた矢が放たれる

その矢は音速を超え、ベジータの死角に向かっていくが

バシンッ

「なっ!?」

音速を超える速度の矢に、ベジータは振り返らずに掴み取っていた

「狙いも悪くはないし、タイミングも申し分ない……しかし」

ベジータは掴み取った矢をへし折り

「まだ、速さが足りんな」
「!?」

そして、いつの間にかベジータはシグナムの眼前に現れ

シグナムの意識は、そこで途切れてしまった















「待たせたな」

シグナム、ヴィータ、ザフィーラを抱えたベジータはプレシアの前に降り立ち、それぞれ地面に寝かせる

「見事に殺ったものね」

頬を引くつかせ、寝かされているシグナム達に視線を落とすプレシアとアリシア

「バカが、殺しちゃいない、俺が殺そうと思えばその時点でコイツ等は消し炭になっている。今は気絶しているだけだ」

アッサリと言い放つベジータにプレシアは冷や汗を流す

「さて、コイツ等を片付けた事だ「ま、待ちなさい!」?」

横から聞こえてきた声に振り返ると

「し、シグナム達を放しなさい!」

膝を震わせながら身構えるシャマルが立っていた

「……そう言えばもう一人いたな」

ベジータがシャマルに向かって一歩踏み出した時

「?」

何かが引っ張るのを感じて振り返ると

「もう、止めてよ」

泣きそうな顔のアリシアがベジータを見上げていた

「………」
「あ……」

しかし、ベジータはアリシアの制止など聞き入れず、シャマルに近づいていく

「…………」
「シグナムを、ザフィーラを、ヴィータちゃんを解放して!」

一歩、また一歩近付いてくるベジータにシャマルは恐怖で竦み上がり、今にも逃げ出したかった

しかし、シャマルは抱えた闇の書を握り締め、仲間を……【家族】を見放すような事だけはしたくなかった

「…………」
「ひっ」

無言の圧力にシャマルはとうとう膝を折り、その場に座り込んでしまう

「…………」
「ひぅっ!!」

眼前にまで迫ったベジータ、そして自分に向かって出された掌にシャマルは涙を流して目を瞑る

「……ホラ」
「………へ?」

聞こえてきたのは乱暴ながらも暖かみのある声だった

目を開いたシャマルの前に差し出されたベジータの手には殺意や恐怖は微塵も感じなかった

「さっさと掴め」
「え? え?」
「グズグズするな!」
「ひゃい!?」

怒鳴られたシャマルは咄嗟にベジータの手を取り、立てらせられる

「もうすぐ管理局の奴らが此処を感づいて来る、さっさと離れるぞ」
「え?」
「プレシア!」
「な、何かしら?」
「お前の家はどこだ?」

シャマルは目の前の少年が何を言っているのか分からなかった

「! ここからすぐ近くよ」

ベジータの考えに気付いたプレシアは自分達の家を指差す

「分かった。アリシアもいいか?」
「う、うん」

一応アリシアにも確認を取ったベジータは気絶しているシグナム達に歩み寄る

「おい、貴様も手伝え、男と女は俺が運ぶ、お前は小娘を運べ」
「は、はい!」

ベジータの有無を言わせない物言いに、シャマルはアッサリと従い

「よし、行くぞ」

結界が解けた瞬間、ベジータとプレシア、アリシアとシャマルはそれぞれ気絶したシグナム達を抱え、その場から離れていった















〜あとがき〜

まずは一言

ヴォルケンファンの皆様!!

本っっっっっっっっっっ当に!!

申し訳ありません!!

もう少し穏便にしたかったのに超サイヤ人にさせてまでフルボッコにしてしまった私は、きっと皆様に呪われるのだろうな……

ごめんなさい

私もヴォルケンズは大好きですよ。シグナムとかシャマルとかヴィータとか、勿論ザッフィーも



[5218] 新勢力結成!その名も王子同盟
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:a413f9a5
Date: 2009/02/14 02:01

「此処が……今のお前の拠点か?」
「えぇ、そうよ」

両肩に気絶したザフィーラとシグナムを抱え、やってきたのは嘗てベジータとフェイトが拠点としてきたマンションの一室だった

そして部屋へ入ってきたベジータはザフィーラにはソファーで、シグナムとヴィータは寝室で寝かせ、ベジータとプレシア、アリシアにシャマルはそれぞれ食卓に座る

「あ、あの……「黙ってろ」はいっ!!」

手を挙げて恐る恐る発言するシャマルはベジータの一言で一蹴される

「プレシア、俺が何を聞きたいのか……分かるな」
「……えぇ」

ベジータの鋭い眼にプレシアは顔を俯かせる

そこへ

「…………」
「な、何だ?」
「お母さん、苛めないで」

ベジータとプレシアを挟み乗り出してくるアリシアに、ベジータは戸惑い

「……安心しろ。俺はただプレシアに幾つか聞きたい事があるだけだ。別にどうこうしよう等と欠片も思っとらん」
「本当?」
「嘘はつかん」

ベジータの短いながらハッキリとした応えに、アリシアは信じ

「……分かった」

ベジータの様子を見ながら引き下がった

「さて、お前がここにいて、アリシアが生き返ったという事は……」

目を細めるベジータに、隣にいるシャマルは冷や汗をかく

「……行ったのか? アルハザードに?」
「あ、アルハザード!?「五月蝿いぞ」……ごめんなさい」

反応するシャマルにベジータは目もくれずに言い放ち、シャマルは涙目になっていた

「大丈夫?」

向かい側に座り、心配そうに覗き込むアリシアにシャマルは感激していた

「どうなんだ?」

そんな二人をスルーし、ベジータはプレシアに問い詰める

そしてプレシアはゆっくりと首を振った

「………いいえ、違うわ」
「なら、一体何故?」
「虚数空間に堕ちたものは生きられない、それは例外なく死を意味する……筈だった」

プレシアは自身に起きた出来事を少しずつ語り始め、いつの間にかシャマルまで興味深そうに聞き入っていた

「私が目を覚ましたのは、辺りが真っ白に包まれた空間だった」
「!」
「霧のような場所で見通しが悪い所で、私はある少年にあったわ「待て!!」?」

いきなり身を乗り出してくるベジータにプレシアは仰け反る

「そいつは、その男はなんと名乗っていた!?」

これまで見たこと無いベジータの反応にプレシア以外の二人は目を見開いた

「……悟空、孫悟空と名乗っていたわ」
「!?」

プレシアの一言にベジータは力無く椅子に座り込む

「私はそこで、神龍と呼ばれる巨龍に、体を若返らせて貰って、アリシアを……この子を生き返らせて貰ったわ。しかも、それを容易い事だっていいながらよ」

アリシアの頭を撫でて、少し呆れた様子になり、ベジータは俯いていた

「そして、いつの間にか私達はこの世界にいたってわけ」
「………」
「やっぱり、貴方の知り合いだったのね」
「やっぱり?」
「孫悟空が別れの際に言ってたわ。ベジータの奴によろしくなって」
「!?」

プレシアの一言にベジータは肩を震わせ

「クックックッ……ハッハッハッハ」
「あ、あの?」
「ベジータ?」

急に笑い出すベジータに、三人は若干引いている

「なる程、カカロットの奴が、これで全部納得いったぜ」

ベジータの邪気に満ちた笑みに、その場にいた全員の背筋が凍った

「プレシア」
「な、何かしら?」
「カカロットの奴はお前に何かしたか?」
「え? ……そう言えば彼は私に頭に手を添えて記憶を読みとっていたわ」
「なる程な」

ニヤリと不敵に笑うベジータにプレシアは悪寒を感じた

「分かった。貴重な情報感謝する」
「そ、そう」

カカロットの性格なら、この世界に少なからず興味を持つ筈だ

そして、俺と同じ純粋なサイヤの遺伝子を持つ奴ならばいつか必ずこの世界に来る

(その時が、俺とカカロットの決着を着ける瞬間だ)

メキッと拳を握り締め、楽しそうに笑うベジータに、プレシアはどこか嬉しく感じていた

「さて、後は……」

一通り話を終えたベジータは、今度はシャマルに向き直る

「貴様等の目的を話してもらおうか?」
「………」

シャマルはベジータの眼光に僅かに怯むが、下唇を噛み締め俯く

「……ベジータ」
「?」

不意にアリシアから声を掛けられ、ベジータは少し意表を突かれる

「苛めは……だめだよ」
「いや、俺は別に」
「ダメだよ」
「だから……」
「ダメ」

徐々に声色を強くするアリシアに、ベジータはたじろぐ

「チッ、分かった分かった。穏便に済ませればいいんだろ」
「うん!」

満面の笑みで応えるアリシアに、ベジータは溜め息を吐いて肩を竦める

そして再びシャマルに向き直る

「貴様は何か勘違いしているかもしれんが、俺は管理局の人間ではないぞ」
「え?」
「訳あって今は奴らと行動を共にしているが、俺は奴らの仲間でもなければ従うつもりもない」
「それを……信じろと?」
「ああ、……そして」

ベジータは一旦目を瞑り、話を止めて

「貴様等も出てきたらどうだ?」
「「「!?」」」
「えっ!?」

ベジータの言葉にいつの間にか寝室からそれぞれ獲物を持ち、甲冑を纏うシグナムとヴィータ、そして腹部を抑えながらザフィーラが起き上がった

「……いつ気付いていた?」
「正確に言えば寝室から物音が聞こえた時だな。念話でもしてやがったのか動きが統一されているのが分かったし、何より」

ベジータはシグナムとヴィータに不敵の笑みを浮かべ

「そんなに殺気を撒き散らして、気付いて下さいと言っているようなものだろう」
「…………」

ギリッと歯軋りをするヴィータとシグナムはベジータの様子を窺うように距離を開けていく

「丁度いい、貴様等からも話を聞きたかった所だ。座れ」

顎でソファーに座るように促すベジータに、シグナム達は更に警戒を強める

そんな三人にベジータは溜め息を吐いて額を抑える

「そこの女に言った通り、俺は管理局の人間じゃない」
「そんな事信じられっかよ!」

ハンマーを構えるヴィータに

「シグナム?」

シグナムが一歩前に出てヴィータを制していた

「その言葉、嘘偽りはないな?」
「シグナム!?」

シグナムの意外な言葉にヴィータは目を見開く

シグナムは鋭い眼でベジータの瞳を見つめ

「我が戦士の魂に誓って」

対するベジータもまた、シグナムの眼光を真っ直ぐに捉える

そして、少しの間を置いたあと

「分かった、貴公の言葉、一先ず信じよう」

シグナムは剣を鞘に収め、BJを解いていく

「本気かよシグナム!!」

ヴィータは信じられないと言った風にシグナムを見上げる

「この男は己の誇りを引き合いに出したのだ。その覚悟は本物だろう」
「……っく」

かなり納得いかないのか、ベジータへ睨み付けながら獲物をしまい。同じくBJを解除していく

「ザフィーラもいいな」
「分かった」

ザフィーラも、体を光らせ、狼形態へと姿を変える

「あー! ワンちゃんだ♪」

その姿にアリシアは感激し、ザフィーラに抱きついていく

「……俺は狼だ」
「ワンちゃん♪」

緊迫した空気が一気に和んだ空間に変わり、シャマルとプレシアは苦笑いを浮かべていた

「……話を進めるぞ、俺が聞きたいことはただ一つ、貴様等の持つ闇の書とやらの完成の目的についてだ」
「…………」
「時間とはやてとなる人物、これに関係しているのか?」
「!」

ベジータの一言にヴィータの表情が強張る

「……全ては、主はやての命を救う為だ」
「命?」

疑問に思うベジータとプレシア、シグナムはそんな二人を見ながらも話を続けたのだった















「……成る程な」
「闇の書が主の命を蝕む、何とも皮肉な話ね」

シグナムの話では闇の書の主は八神はやてと言って、聞く話ではなのはやフェイトと同い年の少女だという

その幼い頃から闇の書に蝕み続けられてきた少女は、足の不自由だけではなく今は命の危険が迫っているとの事

そして、その呪いから解放するために、白紙となっている666頁を全て埋めて闇の書の真の主へ覚醒させる事がこの守護騎士達の目的

「闇の書の主の真の覚醒、それで本当にはやてとやらの命は救われるのか?」
「その筈だ。主はやてが覚醒すれば元々あった足の麻痺も消える可能性もあるし」
「少なくとも麻痺の進行は止まる」

アリシアに跨れながら応えるザフィーラに、少し笑えたのは此処だけの話し

「プレシア、お前は何か分かるか?」
「私は次元航空における研究が主な仕事だから、あまりプログラム系列は得意じゃないのよ、せめてもう少し情報が欲しいんだけど」
「ふむ……」

顎に手を添えて考えるベジータ

「仕方ない、俺が情報を集めてこよう」
「え?」
「丁度明日、俺は本局へ付き添いがてら向かう所だ。何かしらの情報は掴めるだろう」
「……何故?」
「ん?」
「何故お前は、そこまでして我等を?」

呆然としている守護騎士達にベジータは鼻で笑い

「また勘違いしているようだから言っておくぞ、俺は何も貴様等の為に動く訳じゃない、上から目線の管理局共に一杯喰わせてやりたいだけだ」

ベジータはフンとソッポを向いて腕を組んでいる

「アタシ達は何をすればいいんだ?」
「貴様等は蒐集を続けていろ、明後日は俺もそのはやてとやらに一目見てみたいからな。貴様等の誰か一人、ここの部屋か海鳴の公園で待っていろ」
「分かった」
「だが、海鳴で合流する場合は気をつけろ。管理局の魔導師がいるからな」
「心得た」
「プレシアもいいか?」
「貴方には借りがあるし、私は構わないわ……けど」

プレシアは少し表情を暗くする

「……フェイトの事か?」

ベジータの言葉にプレシアはゆっくり頷く

「私は大丈夫、いつかあの子と話をするから」

苦痛を含んで笑みを浮かべるプレシアに、アリシアまで表情を俯かせる

「そうか……」

ベジータはそんなプレシアに掛ける言葉は見つからずにいた

「では今日はこの辺りにしておくか」

席から立ち上がり周囲を見渡し時計を見つけたベジータは少し驚いた顔になる

「もう7時か、貴様等も自分の家に帰ってやれ」

「てめぇに言われなくても!」

突っかかる物言いでドアに向かうヴィータに

「ヴィータちゃん!」
「ん?」

アリシアが呼び止め

「またね」

アリシアの満面の笑みにヴィータは先程この母娘に攻撃したことを思い出し

「あの、アリシアだっけ? さっきはその、ごめんな」
「プレシア女氏もすまなかった」
「ごめんなさい」
「すまなかった」
「気にしないで、誰かの為に必死になるの、私にも分かるから」

笑顔でシグナム達の謝罪を受け入れるプレシアとアリシアに、守護騎士達の気持ちは少し軽くなった

「ヴィータちゃんも、良かったらアリシアのお友達になってあげてくれないかな?」
「あ、アタシは構わないけど……」
「宜しくねヴィータちゃん!」
「うわ、いきなり抱きつくな」

二人の微笑ましい光景に皆、明るく笑い出し

「わ、笑うなよ!」
「クックック、満更でもないくせに照れるな、似合わんぞ」
「うっせぇぞMッパゲ!!」
「なっ!? 貴様〜〜!! まだそれを言うか!!」
「バーカ、ハーゲ」
「ぶっ殺す!!」

賑やかになるマンションの一室で、プレシアは楽しそうに

「フフフフッ」

恐らくはこの世界にきて初めて、心の底から笑う事ができた

そして、ベジータとプレシア、そして守護騎士達は手を組み、はやて救出作戦へ向けて

それぞれ動き出していた










〜あとがき〜

難産だった今回の話、呼んでくれれば幸いです



[5218] 王子の捜査と蠢く影
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:63c2297a
Date: 2009/02/14 23:36


そして、シグナム達の襲撃から一週間が経過し、なのは達のデバイスが修理されると聞いて、フェイトとアルフ、ユーノとベジータが本局へとやってきた

「なのは!」
「フェイトちゃん!」

医務室から出て来たなのはにアルフとフェイト、ユーノが駆け寄っていく

「なのは、どうだった?」
「無事、完治!」
「こっちも完治だって」

フェイトの掌に置かれたのは傷一つない真新しい姿になったレイジングハートとバルディッシュだった

「……ベジータ君?」
「………」
「ベジータ?」
「ん? 何だ?」
「どうしたの? ボーっとして」
「いや、ちょっとな、それよりお前等はこれからどうするんだ?」
「あたし達はこれから第2中継ポートから……」

その時、ベジータ達の目の前に画面が開かれ慌てた表情のエイミィが映し出されていた

『なのはちゃん、フェイトちゃん聞こえる!?』
「エイミィさん?」
「何かあったの?」
『海鳴市上空で例の騎士達が現れて、現在武装局員達に強装結界に閉じ込めているの』
「え!?」
「…………」
『本当は二人のデバイスの説明をしたかったんだけど……』
「私ならいけます」
「私も!」
『お願いね、今転送ポートから送るから』
「「はい!」」

画面が閉ざされ、なのは達は転送ポートに向けて走り出す

しかし

「ベジータ?」

ベジータだけはその場から動こうとはしなかった

「ベジータ、どうしたの?」
「俺は他にやることが出来た。あの騎士達の相手はお前達がやれ」
「なっ!? どうして!?」
「アンタがいればあっという間に終わらせる事だって「甘えるなよ」!?」
「いつまでも俺が貴様等のお守りをしてやれると思うなよ、自分の身くらい、自分で守ったらどうだ」

ベジータの言葉になのは達は押し黙り

「……分かった」
「フェイト?」
「アルフ、ベジータの言うとおりだよ。ベジータはいつだって私達を助けてくれる訳じゃないし、いつまでも甘える事はできないよ」
「フェイトちゃん」
「大丈夫、私達も強くなってる、ベジータがいなくても、やってみせるよ」

フェイトはそう言って踵を返し、走り出した

「あ、待ってよフェイトちゃん!」

なのはもフェイトの後を追いかけ、ユーノもそれに続くが

「さて、俺も行くとするか」
「…………」

反対方向へ足を向けるベジータに、アルフは目を細めて、ジッと見つめていた













そして、ベジータは一人闇の書について情報収集の活動を始めた

だが

「しかし、情報を集めるにしてもどうするか」

シグナム達が言うには闇の書は主が死んだり闇の書自体が破壊されれば次の主に転生されるとの事

(つまりは、管理局もこれまで幾度も闇の書の事件に関わっている)

しかし、それを扱っている場所が皆目見当がつかん

(さてどうするべきか)
「あ、ベジータ君」
「む?」

考え事をしていたベジータに、白衣にメガネを掛けた少女が現れた

「マリエルか」

ベジータよりも少し背の高いこの少女はマリエル・アテンザ。エイミィの後輩で技術部の局員たる人物

マリエルはポケットから時計らしきものを取り出し、ベジータに手渡した

「以前から言われてたもの、【重力制御装置】完成したわよ」
「ああ、礼を言う」
「脇にある赤いボタンが大気中の魔力を集めて重力を増やして、青いボタンがそれを拡散して軽くするわ」
「そうか」

マリエルが時計型装置の説明をすると呆れ気味になる

「それにしても……本気なの?」
「何がだ?」
「い、いやだって、通常の……地球基準値で10倍から……600倍の重力だなんて」

腕時計をはめたベジータは不敵に笑い

「俺も、ボヤボヤしていると足元を掬われそうだからな」
「……え?」
「アイツ等に」

クククと笑うベジータにマリエルは冷や汗を流した

「それはそうとマリエル、お前に聞きたい事がある」
「? 何?」
「闇の書の事についてなんだが」















「ぐっ!」
「くぅっ!」

海鳴の街の上空で戦いを繰り広げるのはなのはとフェイト、シグナムとヴィータ

フェイトとシグナムは互いに武器をぶつけ合い、火花を散らしていた

(くっ、強いな……流石ベジータの一番弟子と言った所か)

それに

「はぁっ!」
「チィッ!」

唾斬り合いから放ってきた蹴りに、シグナムは膝で受け止める

(戦い方が、ミッド式とベルカ式が融合されているようだ)

手強い

(ベジータとの一戦がなければこれ以上苦戦していたな)

しかし、内心とは裏腹にシグナムの口元は吊り上がっていた









(やっぱり、強い!)

私やなのはのデバイスにカートリッジが取り付けられて、この人達と同じ条件の筈なのに

(近距離も中距離も、この人にあと一歩届かない!)

折角ベジータが私に戦い方を、強くなる方法を教えてくれたのに

(負けられない、負けたくない!)

フェイトは杖を鎌の形状へ形を変えてシグナムと相対し

「たぁぁぁっ!!」
「はぁぁぁっ!!」

再びシグナムと激しい攻防を繰り広げるのだった












「闇の書事件について?」
「ああ」

相対するマリエルはベジータの一言で表情を暗くする

「ベジータ君、あのね、あまり大きな声で言いたくないんだけど……」
「?」
「11年前、リンディ提督の、クロノ君のお父さんが当時の闇の書事件で亡くなってるの」
「何?」
「封印した筈の闇の書の護送中、暴走して艦のコントロールが奪われたらしいの」
「…………」
「艦のコントロールを奪われて、クライド提督は他の局員を脱出させ、自分一人は最期まで残ってたらしいの」
「…………」
「そして、暴走寸前まで追い詰められた艦を同じく護送任務を請け負ったグレアム提督がアルカンシェルでクライド提督ごと闇の書を撃ち抜いたの」
「グレアムだと?」
「うん、グレアム提督はクライド提督を息子のように思っていたから。色々思う所があるんじゃないかな」

ベジータは顎に手を添えて考え込み

「分かった、変な事を聞いて悪かったな」
「あ、うん」
「この装置、ありがたく使わせてもらう」

腕を振って別れを告げるベジータにマリエルは少し見つめた後、自分の持ち場に向かう

「この事件、どうやら想像以上に根が深そうだな」

真剣な顔つきになったベジータは、拳を握り締め、通路を歩いていった















海鳴市から離れた場所に位置するとある廃ビル

そこには仮面を付けた青年が一人、腕を組んで佇んでいた

「来たか」
「すまない、遅れた」

窓から現れたのは仮面の男と同じ格好をした青年だった

「守護騎士達は?」
「闇の書を使って結界を破壊して逃走した……例の奴はいなかった」
「そうか」

青年達はそういうと、体から光を発して姿を変える

光が収まると、そこには青年の姿は無く、猫の尻尾と耳を生やした少女二人が立っていた

「まさか、あの漂流者と守護騎士が手を組むとは……」
「それに、死んだはずのプレシア・テスタロッサとアリシアまでいるなんて……どうなっているんだい!!」

髪の短い方の少女は憎たらしいといった風に奥歯を軋ませる

「今頃、此方の内情を探っているみたいだし」
「どうすんのさアリア! このままじゃ父様の夢が!」
「そうは言ってもロッテ、あの男、相当の手練れよ。あの守護騎士達をいとも簡単に退けたんだから」
「だからって!!」

ロッテと呼ばれた少女は悔しそうに拳を握り締め、アリアと呼ばれた少女も顔を伏せて表情を歪ませる

「どうやらお困りの様ですね」
「「!?」」

突如掛けられた言葉に二人は同時に振り返ると

ビルの影から全身をフードで隠した人物が、闇の中から現たかのように佇んでいた

「き、貴様は!?」
「いつの間に!?」
「そんな事はどうだっていいじゃないですか」

フード越しから見えた歪んだ口端に、アリアとロッテはそれぞれ身構える

「おやおや、嫌われたものですな」
「貴様、どこから現れた! 何が目的だ!」
「そう牙を向けなくても」
「質問に答えろ!!」

瞳孔を開いて威嚇するロッテに、男はやれやれと肩を竦めて

「私は、先日あなたのご主人様の計画に便乗したものですよ」
「父様の!?」
「はい♪ 貴方々のご主人様はご健在で?」
「貴様、一体……」

アリアの問いに男は懐を漁り、二人はその様子に警戒する

「はい、どうぞ」

男が取り出したのは黒く四角い小さな箱、アリアとロッテはそれを甲斐甲斐しく見て

「これは?」
「これは私から、いつも頑張っているお二人に対してのプレゼントです」
「プレゼント?」
「はい、この箱は【時の牢獄】と申しまして、簡単に言えば強度の固い捕縛結界みたいなものですよ。ああ但し、外からの衝撃には滅法弱いので、使用する際にはそこら辺気をつけて下さい」
「どうしてこれを…」
「私達に?」

二人の問いに男は不敵に口元を歪め

「なぁに、私達は一応共犯者、そんな貴方達に協力するのは当然でしょう?」
「………」

アリアの疑問に満ちた睨みにも、男は笑みを崩さず

「で? どうするんです? 手にするのか、しないのか?」

男の挑発的な言葉に二人は……。

「いいわ、乗ってやろうじゃない!」

男の掌から奪い取るように四角い箱を受け取る

「では、ご健闘を祈っていますよ」

男はそう言って、闇に溶けるかのように消え

「「…………」」

静かになった廃ビルで二人は渡された箱を見つめ

自分達の選択したものが、本当に正しいのかどうか

ひたすら自問自答を繰り返していた










〜あとがき〜

か〜な〜り、展開を進めた今回の話、ヴィータは?なのはは?ザフィーラは?アルフは?クロノやシャマル、ユーノはどうした?という方
申し訳ない
ただ、ほぼ原作通りの展開になったと思います

……ごめんなさい、次はきちんと戦闘シーンも書きますので!

生暖かい目で見守って下さい!!



[5218] 王子様と夜天の王
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:e8594695
Date: 2009/02/15 23:45




我が……喰われていく





本当の名も失い、ただ破壊を行うだけの闇の書である我が

喰われていく








我の何かが……喰われていく








これは……一体何なのだ





我が主、八神はやて



守護騎士達よ



どうか……どうか、我の願いが叶うのならば



どうか……











八神家のリビングのソファーに置かれてあった闇の書の前に

本来なら別の場所に保管されていた筈の

グレアムによって渡された石像が

ドス黒い¨何か¨を纏って

不気味に脈打っていた













シグナムとフェイト達の激闘から一夜明け

ベジータは今日も渋々と学生生活を送っていた

因みに今はクラス合同の体育でドッジボールの授業だ

「たぁぁっ!」
「…………」

すずかの投げたボールをよそ見しながら片手で受け止め

「ふん」

手首のスナップを利かせて投げ返す

この時、ベジータの手首から時計が見えて、そこには150Gと表示されていた

「あうっ!」

ベジータの投げ返したボールにすずかは対処仕切れず弾いてしまう

「やったぁ! ベジータの勝ちだ!」

アッサリと勝利したベジータにクラスの生徒が駆け寄ってくる

ベジータは近付いてくる生徒達に舌打ちしながら腕時計に付けられた青いボタンを押して表示を0にする

ベジータと生徒達が打ち解けたキッカケ、それはある日の登校時間に起きた出来事だった

いつも通りの日常を送る生徒達、和気あいあいと登校している時、それは起きた

とある外国人兄妹が十字路に差し当たった時だった

『ルルーシュッ!!』

トレーラーの運転手が居眠りを起こし、兄妹へ突っ込んで来たのだ

『ナナリーッ!』
『お兄様っ!!』

親友らしき少年が走り出すが間に合う筈がない

抱き合う兄妹に誰もが死を予見した

しかし

『ふん』

凄まじい轟音と共に煙りが舞い上がり、人々の視界が遮られた

そしてやがて煙は晴れていき

気がつけば兄妹は一人の少年に抱えられていた

トレーラーは何かで殴られたように凹まされていて

『ふん』

少年は、ベジータは抱えた兄妹を歩道まで運び、乱暴ながらも丁寧に下ろし

『さっさと行かんと遅刻するぞ』

ベジータは鞄を肩に掛けて何もなかったかのように去っていった

その場にいた生徒及び兄妹、一般人は呆然とその背中を見続け

いつの間にか













(こんな事に……)

もみくちゃにされるベジータは鬱陶しそうに表情を歪めていた

しかし、クラスの生徒達はそれでもベジータに構うのを止めない

「流石だなベジータ、スザクしか対抗できなかったあのすずかを一蹴するとは」
「止めてくれよルルーシュ、でも確かに凄いよベジータは」
「どうやったらそんなに強くなれるの?」
「カレン、がっつぎすぎよ」
「これはこれは、もしかしてもしかするかも?」
「シャーリー! 変なこと言わないでよ! リヴァルも!」
「…………」

賑やかになっていくベジータの陣営、しかし当の本人はかなり不機嫌な顔をしていた

それを遠くで見ていたなのは達は

「大丈夫すずか?」
「私なら平気、ベジータ君手加減してくれてるから」
「ったく、あの馬鹿力は」

腰に手を当ててベジータを睨み付けるアリサになのはが宥める

「まぁまぁ、アリサちゃん、ベジータ君も漸くクラスに馴染めたんだし」
「でも、あの噂って本当なのかな?」
「噂って?」
「ベジータ君がトレーラーを壊してルルーシュ君やナナリーを助けたって噂」
「いやすずか、流石にそれは有り得ないから、そんな事できたら馬鹿力や怪力を超えて化け物だから」

呆れ気味のアリサに対し

「あ、あはは」
「そ、そうだよね」

なのはとフェイトはただ苦笑いを浮かべるだけだった

「なぁベジータ、今度また家に来てくれないか。 ナナリーも是非と言っているし、母さんも一目会いたいと言っているし」
「お前やナナリーは悪い奴じゃないとは分かる、だが」
「だが?」
「お前の父親を見ると……無性に殴りたくなる」
「……あー」

こうして、ベジータはクラスに溶け込む事ができ、穏やかな時間を……無自覚なまま過ごすのだった










そして時間は過ぎ、放課後

「フェイト、今日は帰るのが遅くなる」
「え? どうして?」
「足りなくなった材料を買いに行く」
「じゃあ、私も」
「必要ない、お前はリンディ達と先に夕飯は済ませとけ」

断りの言葉を述べたベジータは、そのまま学校の廊下を歩いて

フェイトは伸ばしかけた手を宙ぶらりんにして、ベジータの背中を見続けていた















「あ、ベジータ♪」

プレシアの部屋に入ると、迎えてきたのはアリシアと

「……ふん」

やたら不機嫌そうに牛乳を飲むヴィータだった

「何だ、貴様か」
「悪いかよ」
「てっきりシャマルやシグナム辺りが来るのかと思ったが」
「シグナムとシャマルは蒐集に行ってるし、ザフィーラははやての護衛に回っている」
「あら、ベジータ来てたの」

台所からエプロン姿のプレシアが現れ、その手には焼きたてのパイが持っていた

「何だそれは?」
「ミートパイだ♪」

プレシアにパタパタと駆け寄るアリシアにベジータは肩を竦める

「アリシア、これははやてちゃん達と食べるから、我慢してね」
「は〜い!」

素直に頷いたアリシアは靴を履いて準備を済ませる

「お母さん、ベジータ、ヴィータちゃん、早くいこう!」
「お前等もくるのか?」
「認識阻害魔法を掛けるから心配いらないわ。勿論、関知されないようにするし、私も興味あるわ……それに」

プレシアは嬉しそうに足をパタパタと動かすアリシアを慈愛の眼差しで見つめ

「アリシアに、新しいお友達が出来るみたいだしね」
「……そうか」

パイを包み、エプロンを脱ぎ捨て私服に着替えるプレシアに、ベジータは納得し、玄関を出る

「さて、行くか」
「ちょっと待ってろ」
「?」

玄関を出たベジータ達だが、急にヴィータが足を止める

「どうした?」
「アタシ達の家は海鳴にあるんだ、お前の言うとおり管理局の奴等がいるなら姿を変えた方がいいだろ」
「何?」

小首を傾けるベジータを無視し、淡い光がヴィータを包み込むと

「……お待たせ」

ヴィータはウェーブの掛かった髪のグラマーな美女へと変貌していた

「…………」

呆然としているベジータにヴィータは得意そうに笑い

「何だ、アタシの魅力に恐れをなしたか?」

胸を張らしてポーズを決めるヴィータにベジータは溜め息を吐いて

「行くぞ、無駄な時間を使った」
「おい! 無駄ってなんだよ!」

ギャーギャーと騒ぐヴィータをスルーし、ベジータははやての家へ向かった

「おい、いつまでも騒いでいないでさっさと案内しろ」
「うっせぇ!!」











「ここだよ」

ヴィータの案内で辿り着いたのはどこにでもありそうな一軒家だった

そしてヴィータは元の姿に戻り

「はやて〜、ただいま〜♪」

まるで別人の様な猫なで声を発して玄関へ入っていった

「お帰りヴィータ」

そんなヴィータを迎えたのはなのはやフェイトの同い年の、車椅子に乗った少女だった

「あ、もしかして貴方達がみんなが言ってた人達?」
「……ああ」
「お話は聞いてますよ。私は八神はやてって言います」
「こんにちははやてちゃん、私はプレシア、プレシア・テスタロッサ」
「私はアリシア!」
「アリシアちゃんにプレシアさん、よろしゅうな、そんで」
「……ベジータだ」
「うん! 宜しく、ベジータ君」

ぶっきらぼうなベジータに対し、満面な笑みで返すはやてに、ベジータは一瞬仰け反ってしまう

「ここで立ち話も何ですし、どうぞ入って下さい」

はやての案内でリビングに入るベジータ達、そこにはソファーで横になっている狼形態のザフィーラがいた

「今お茶を用意しますので、適当に座って下さい」
「私も手伝うよはやてちゃん」
「ありがとうアリシアちゃん」

仲良く台所に向かった二人に、プレシアとベジータはソファーに座りザフィーラに視線を落とす

「先日は大変だったみたいだな」
「……まぁ、な、そっちはどうだ? 何か進展はあったか?」
「悪いな、まだ情報という情報はない、あったとしてもまだ確信が持てない」
「そう……か」

小声で話すベジータとザフィーラにお盆にお茶を乗せたアリシアとはやてがやってきた

「粗茶ですが」
「ありがとう」
「悪いな」

ベジータは差し出されたお茶を飲み、はやてに向き直る

「それにしても、こんな所に親戚と一緒に住んでいるとは言え一人暮らしをさせるとは、お前の両親はそれ程まで忙しいのか?」
「!?」
「…………」

何気ない言葉に、ヴィータは殺気の籠もった眼になり、ザフィーラは横目でベジータに睨み付け、はやては表情を暗くし、顔を俯いていた

急に変わった空気にベジータは少し戸惑う

「ど、どうした?」
「……私、両親が……いないんよ」
「「!?」」
「何?」
「もう何年も前かな、私のお父さんとお母さん、交通事故で亡くなったんよ」
「……………」

はやての告白にベジータは顔を俯く

「あ、ごめんな、変な話をしてもうて」
「……いや」
「確かに、私の両親はお星様になったけど、生活資金は叔父さんが送ってくれるし」

はやてはヴィータの頭を撫でて、宥める

「今の私には、この子らがいるから、寂しくないんよ」
「……そうか」

ベジータは心底嬉しそうに笑うはやてに、内心自分を罵倒し、そして決意する

(コイツを……管理局の好きにはさせん)
「あ、そうそう、はやてちゃん達に渡したいものがあったのよ」

話題を変えるべく、プレシアは両手を叩き、テーブルにミートパイを広げる

「これ、プレシアさんが?」
「ええ、娘の好物なのよ、よければどう?」
「ありがとうございます、ヴィータ、ザフィーラ、今日はちょっと早いけど晩御飯にしよか」
「うん!」
「アリシアちゃんも、プレシアさんもベジータ君もよければどうです?」
「わーい!」
「失礼するわ」

賑やかになりつつある八神家に

「ただいま帰りました〜!」
「ただいま戻りました」
「シグナム、シャマル、お帰りー」

更に賑やかになっていく

「あら、これじゃあ足りないかしら?」
「よっしゃ、久しぶりに腕を振るおうか」
「なら、俺も手伝うか」

ソファーから立ち上がるベジータに全員の目が開かれる

「お前、料理できるのかよ?」
「こうみえて料理は得意なんだ」

ベジータはそう言って冷蔵庫の前に立ち

「さあ、行くぞ冷蔵庫! 食材の貯蔵は十分か!?」
「なんやベジータ君ノリノリやな〜♪」

こうして、八神家はいつも以上に賑やかな時間を過ごしたのだった











そして、夕飯をごちそうになった頃には既に辺りは暗くなり、ベジータとテスタロッサ親子は帰ることにした

「今日は本当に楽しかったです、またきて下さいね」
「ええ、ありがとう」
「バイバイはやてちゃん」
「ベジータ君もな〜」
「ああ」

はやて達に見送られ、ベジータとプレシアは十字路で別れる

「じゃあベジータ、私達はここで」
「ああ、気をつけろよ」
「分かってるわ」
「バイバイベジータ」

手を降ってくるアリシアを適当にあしらい、ベジータも自宅に向かった

そしてプレシアとアリシアは、関知されないようわざと人影の少ない道を歩いていく

「ねぇお母さん、また明日もベジータに会えるかな?」
「そうね、きっと会えるわ」

カラァァン。

ふと、物音の聞こえた方へ振り向くと



月の明かりが照らし出し




プレシアとアリシアの前に







「お……母……さん?」

驚愕に目を開いたアルフと




フェイトが






相対したのだった










〜あとがき〜

トッポです

今回はネタを多目に詰めました
ネタに関しては全力で見逃せ!!

本当にごめんなさい


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