<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[6872] 【習作】 異世界混沌平凡譚[3月7日完結][9月12日リニューアル開始]
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/10/31 16:26
初めまして、へたれな作者の榊です。
色々と以前から書きたいと思っていた物を書いてみたのでアップさせていただきます。
この作品はへたれな作者の妄想、想像、自己満足のご都合主義で話が進むことが多々あると思います。
もし、それらの設定が不快であれば申し訳ありません。
それでも読んでくださる方がいらっしゃるのであれば、ぜひ読んでやってください。
更新は不定期にその時々の長さも不定です。
見てくださる方がいらっしゃいましたらぜひよろしくお願いします。




今回読んでいてこうしたらもう少し良くなるんじゃないかと思った部分を直しながらリニューアル版を投稿していきます。
最終的に前作を消してリニューアル版だけにするか、両方載せたままにするかは全話リニューアルを完成させてから決めます。
話しの流れは余り変わらない予定ですが、もし良かったら読んでやってください。





 新しく物語を初めまして……。
 同じくチラシ裏で「異世界の混沌」なる名前で投稿始めました。
 もし気が向いた方がいらっしゃいましたら是非読んでやってください。



[6872] 異世界混沌平凡譚 プロローグ
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/25 01:39
     プロローグ~つまるところの序章や導入部分って奴さ~


 高層ビルが遍く立ち並ぶ俺の街。
 ……ごめん、俺の街って言ったけど、俺が住んでる街ってことね?
 俺は今、この高層ビルが立ち並ぶ中でも一際大きなビルの屋上に身を寄せ街の風景を見つめている。
 …………。
 何回もすんません。
 正直かっこよく表現しようとしたんだけどいまいちだね。
 ぶっちゃけ仕事を抜け出し屋上で煙草とコーヒーの休憩タイム。
 煙草がチョコ煙草というのはお約束だよねぇ~。
 ―――俗に人はそれをサボリという。―――
 ……い、いいじゃん少しぐらい!
 ―――俗に人はそれをサボリという。―――*注*大事なことなので二回言いました!
 …………何か電波的な何かが同じことを二回繰り返した気がするよ!?
 それほど大事だってかそれが!
 ああ、ごめんごめん、こんなことをよくやってるから気味悪がって誰も俺に寄ってこないんだろうな。
 鬱だ死なない。
 当たり前だ。
 鬱ごときで俺が死ぬと考えるなよ!
 ……ああ、俺疲れてるなぁ。
 思考がよくわからんのはいつものことだが(おい!)、ここまでカオスってるのは久しぶりだ。
 まぁいいや、今は一人だし。
 何より考えるのがめんどくさいしぃ。





 とね?
 俺はついさっきまで考えていたんだよ。
 考えていたってか何も考えていなかったってか……。
 自分自身に対する葛藤に苦しみ悩み……しつこいって?
 マジすんません。
 めんどくさがって思考を手放して茫然と街の風景を眺めていたんだけど……何故か俺は今空を眺めている。
 ものごっつぅ嫌な感触が背中を濡らしながらな。
 背中っていうよりも首がおかしい……穴あいちゃってるよAHAHAHA☆
 何故だろう……首に穴開いて、背中にも嫌な感触がビッチャビッチャしてるのに痛くねぇ。
 本当に不思議だ。
 でも良かったぁ。
 痛くないってのは良い事だぁね。
 ……でも死ぬのは良い事じゃないと思うんだ。
 直接表現すると痛くなりそうだから避けてたけどさ……いい加減現実見ようか俺。
 正直今の機会を逃すと次がない気がするし。
 はい、直接的に言いますと、刺されました。
 茫然と街を見ていた後ろから突然サクッっとね?
 嫌、違うな……ザクッっとだな!
 ……すんません、擬音の表現なんてどうでもいいよね。
 つまり首を背後からナイフっぽい奴で(実際見てないから何か解らないけど恐らく包丁かナイフ?)刺された訳だ。
 これだけ色々考えられるにもかかわらず不思議と痛みはない。
 ただ体も微塵も動きやしない。
 ついでに言うと感覚なんてものも一切ない……首から下のな。
 一応顔っていうか眼だけ見えている状態だ。
 ……もちろん動かないから仰向けに倒れた俺は空をただひたすら見つめることしか出来ない訳なんだけどな。

  「ふひっ!ふひひひひっ!し、死んだ!しんだしんだしんだぁぁぁ!?この俺を、この僕を馬鹿にしつづけたこの屑野郎がとうとう死にやがったぁ!俺が殺したんだ僕は強いんだぁ!」

 ……あー声だけ聞こえるってのもなんだろう。
 今更ながら耳も一応生きてるらしい……っていう表現も微妙におかしいなぁ?
 かろうじて耳も音を拾えるらしい。
 ……うまく表現するのって難しいね?
 でも今はそんなのどうでもいいか、つまり声が聞こえたことで俺を刺した馬鹿の正体がわかった訳だ。
 職場の同僚で何かと入社以来俺に突っかかってきたエリートの馬鹿。
 そいつは一流大学を出て親がこの会社の専務というポジションにいることもあってか、入社した時から色々と我儘で煩い奴だった訳だが……何故かこんな馬鹿野郎と同期になっちまった。
 ちなみに俺が出たのは三流も三流の誰でも卒業できるような大学だ。
 まぁ……そんな奴とエリート、普通ならエリート様に期待も何もかもが集まるだろう。
 俺とそいつが入ったとき他にも十数人同期の奴がいたんだが親の力もあって仕事を狡賢くこなしていくそいつと、入ったばっかしでうまく仕事をこなせない新入社員の同期。
 比べられ、蔑まれ一人、また一人とやめていっちまった。
 俺だってまぁ……正直真正面から比べられたら頭来てやめちまってたと思うさ。
 唯、偶然というか運がいいというか俺はそいつと同じくらい仕事がうまく行っちまった訳だ。
 俺の仕事は簡単に言うと販売だ。
 一応この会社で作った商品を訪問販売するっていう奴だ。
 もちろんこの仕事は下っ端の下っ端である新入社員に会社の商品知識を叩き込み、人と話をする時、自分に有利に話を進めていく話術を身に付ける為らしい。
 この馬鹿は親の権力を使って販売実績を上げ続けた。
 俺はただたまたま休憩がてら入った茶屋に昔馴染みがいて話し込んでる最中、その昔馴染みがその商品を買ってくれることになった。
 だけで終わらず、その昔馴染みの周りの人もまとめて俺からその商品を買ってくれたのだ。
 偶然、その昔馴染みに合わなければ俺も他の同期と同じ道をたどっていただろうに、俺はその偶然に救われたっていうのか、この馬鹿と同じ成績でその販売期間(テスト期間っていうのかね?)を終えちまった。
 この馬鹿がどなり散らしながら喚き散らしているのを聞かされた時、何故この馬鹿がこれだけ怒っているのかが解った。
 解ったが……唯々まぁ、呆れるだけだったけどな。
 もともとこのテスト?
 は出来レースみたいなもんで、他の新入社員が何もできない、もしくは出来ても多少できた程度の中、この馬鹿一人が抜きんでた成績でそれを終える……という出来レース。
 そこに偶然割って入っちまったから、この馬鹿は俺に喚き散らしに来たって訳だ。
 その結果この馬鹿は予定していた部署よりも二ランクも低い部署に回された。
 俺も同じところに回されちまったんだけどな。
 それ以来、事あるごとに俺に嫌がらせをしつつ、俺を踏みつぶそうとするんだが、本当に一流大学を出たのか怪しいほどの馬鹿さ加減と迂闊さでほとんどが空回りの上自爆していた。
 時々本気で殺したくなるくらい成功した時とかもあったけどな。
 そんなこんなでこの馬鹿はストレスを貯め続けてきたんだろう。
 実際今回俺がこの屋上でサボっていたのもこいつとの衝突があったからだ。
 またくだらない嫌がらせをしてきたので無視してそのまま居たら、この馬鹿野郎何と突然PC(デスクな?)を持ち上げて俺に叩き付けようとしやがった。
 しばらく運動してなかったせいか、俺にぶつける前に落としちまって場がしらけちまったんだけどな。
 そんな空気が俺は嫌になって抜け出したって訳だ。
 ……ああきっとその抜け出す際にこの馬鹿を鼻で笑って出て行ったのがいけなかったんだろうなぁ。
 嫌、馬鹿なガキみたいで嫌な奴だって俺自身解ってるさ。
 でも毎度毎度くだらない嫌がらせ、そのうえ今回なんて物を使った直接的な手に出てきやがったんだからこっちだって内心ものごっつぅぅぅぅ!
 腹が立ってたんだよ。
 その気持ちが抑えきれずにそんなガキみたいな行動しちまったつぅ事さ。
 …………す、少しくらいいい訳したっていいだろう。
 そんなこんなで……恐らくプッツン逝っちまったんだろうなぁ。
 まさか殺しにまで来るとは思わなんだ。
 ……ぶっちゃけ痛くないんだけど眼も見えなくなってきやがったなぁ。
 耳もこの馬鹿が何か言ってるのは聞こえるんだが、何を言ってるのかまで聞き取れねぇ。
 ………………俺…………死ぬのか?
 嫌だなぁ。
 この会社っつぅか……今まで生、きてきて楽し、いとか、生きてて良か、ったとか……あんまり思、わなかったけ…………どそれでも……死ぬのは、嫌だなぁ。
 あー、な、に……か、あ、た……まま、で……あまり……まわ……らなく、なって……きた……なぁ……。
 生き……たい……な。
 無理……なのか…………な?
 く、ら……い……ふか……い……な……おち、た……く、ない……なぁ……しにたく……な、い……なぁ………………。





 そうして俺の意識は暗い暗い闇の底に落ちて、生涯をとじた筈なんだけどなぁ。
 何で生きてるんだろう?
 ってか……。

  「此処は何処なんだよぉぉぉぉぉぉ!?」

 何て叫び声をあげてんだろう……。




                         プロローグから物語本編へ続く~



[6872] 異世界混沌平凡譚 第一話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/25 01:39
     第一話~まぁ簡単に言うとあれから俺はって所かね?~





 俺があの雄たけびをあげてから早一ヶ月。
 今俺は小さな村で一人の村人として暮らしている。
 ……村人として暮らせていると信じたい。
 どういう意味でそんなことを言っているかというと……。

  「☆×●?☆☆☆×●★▽▼■◆。」

 この通り言葉が全く解りません。
 これでも一生懸命勉強してるんだぜ?
 絵本買って……というかもらってかね?
 それを何とか紐解きながら少しずつ言葉を覚えていき、その絵本の言葉を村の人達に何度も何度も読んでもらったりしている訳だ。
 正直……この村の人たちがいなければ一人で何とかするなんてぇ事は絶対に不可能だったんだから感謝してもしきれない気持ちがいっぱいだぜ!
 これで言葉が普通に通じればなぁ……。

  「も、すこし、ゆくり……はなして?」

 ま、間違ってないよな?
 きちんと意味通じてるよな?
 かろうじて本当にかろうじて、ゆっくりっていうか、超ゆっくりの上、単語単語を身振りを交えながら話しかけてくれれば少しは解る……と思いたい。

  「っ!★▼■●●!?っぁ……ご、ごめんなさい……これくらいなら、解る?」

 お、おぉぉぉぉ!?
 俺やったよ!
 解ったよ、今の一言二言聞くだけで一分近くかかったけどそれでも解ったよ!
 すげぇぇぇぇ、俺すげぇぇぇ!

  「はい、わ、かり……ます。しらな、い……ことば、たくさん、ごめんな、さい。ありがとう。」

 今俺が精いっぱい伝えられるのはこの程度。
 俺は何よりこの村の人たちにお礼を言いたかった。
 だから、お礼と思われる言葉を何とか覚えたんだ。
 ただ、やっとなんとなく解ってきたのがつい最近、お礼の言葉が解ったのは昨日だ。
 かろうじて、片言で話す程度というか、簡単な片言で話す程度ならできるっぽい。
 これで一歩前進だ。
 俺はこの村で生きていかなきゃいけねぇんだから早く言葉くらい覚えねぇとな!
 等と考えている間に俺が話したことに驚いた村の人がいなくなっている。
 どうしたんだ?
 と思った瞬間村人のほとんどが俺の住まわしてもらっている部屋に押し掛けた。
 早口でたくさんの人が何かを言ってるんだが全く俺には解りません!
 ……すんません。
 と落ち込んでいたら、さっきの村人がゆっくりとさっきと同じ早くらいで説明してくれた。
 その説明によると……。
 この大勢の(といっても三十人くらいだが、これが村の人数のほとんどだ)村人は、俺が話せたことをすごく喜んでくれているらしい。
 今まで言葉が通じない事で心細いだろうと心配してくれていたらしい。
 これで言葉が話せるようになれば少しは気持ちも楽になるだろう……と考えてくれたということだ。
 もちろん俺のことをだ。
 聞いた瞬間……少し耳を疑った。
 俺が聞き逃したのかと思ってその村人は同じ説明をもう一度してくれる。
 事実らしい。
 認識した瞬間泣きそうになった。
 でも俺もいい年下男だ、人前でぼろぼろ泣くわけにはいかない!
 ……。
 と強がってみたもののその村人の気持ちが嬉しくて思わず泣いちまったよ!
 畜生!
 それでも、その一言だけは村人の皆に伝えたかった。

  「あ、りがとう!」

 そうして此処に来てから一カ月。
 ようやく俺もこの村の人間となれた気がした。





 そうそう、俺が此処に来てからの事を簡単に話しておこう。
 まず俺は死んだはずなのに目覚めると周り一面の原っぱに寝っ転がっていた。
 しばらく茫然とした後、恐る恐る体を動かしてみると普通に動いたので立ちあがって周りを確認してみるが……どう考えても俺が知ってる風景ではなかった。
 そこで俺は雄たけびを上げた訳だ。
 しばらく茫然と喚き散らしていた俺だがその情けない行動が功をなした。
 俺の声が聞こえたのだろう、この村の人が俺を見つけてくれたのだ。
 俺の面倒を見てくれている村の人だ。
 これが俺とこの村の人とのファーストコンタクトだった。
 問題はそこからだった。
 俺がいくら話しかけても相手は首をかしげるだけ。
 相手がいくら話しかけても俺も首をかしげるだけ。
 言葉が通じねぇぇぇぇ!
 と嘆いたもんさ。
 身振り手振りで説明するが、こんな意味不明な現象をそれこそ身振り手振りで説明できるわけもなく、恐らくこのときこの村の人は家出か迷子か何かだと思ったんだろう。
 俺がだんだんと落ち込んでいくとその村の人は俺の肩を叩きながら俺を見て笑ったのだ。
 どうして笑ったのか何て解らない。
 それでも……そのとき見たその村の人の笑みで俺は気持ちが立て直せた。
 ぶっちゃけ、何でか解らないけど救われたような気分だった。
 そのあとその村の人は俺の手を取ってこの村まで連れてきてくれた。
 俺が村に着いた翌日、かわるがわる俺のことを村の人が見に来てくれた。
 誰もかれもが心配そうに俺を見つめ、言葉は解らないが恐らく気遣ってくれているというのが解った。
 何人かの村の人は俺に食べ物や飲み物まで持ってきてくれた。
 それから三日。
 俺は何をするでもなく、その家に厄介になっていた。
 いい年した男が真面に働きもせずお世話になる……あまりにも情けない。
 このままじゃいけない!
 そう思った俺は何とかして言葉を覚えようと思い立ったのだ。
 そこでようやっと俺は自分が身につけている物を調べてみることにした。
 といっても持っているのは財布だけ。
 中に入ってるのは数枚の札と十円玉と百円玉が数枚。
 五百円玉が三枚だけだ。
 こんな言葉も通じないところでこのお金が使えるわけもない……が、それでももしかしたらという思いを込めて、言葉を学べそうなというよりも、絵で何を言ってるのか解る可能性のある絵本を探すことにした。
 ここで誤算だったのはこの村では本があまり売られていないということだった。
 物を売っているっぽい店を何店か見たのだが何処にもない。
 諦めて帰ろうとしたとき村の中でも一際大きな建物が目に入った。
 何か……普通の建物とは違う雰囲気の建物だ。
 いろんな人が出入りしていたので恐る恐るこっそりと俺も中に入ってみた。
 ……教会だった。
 嫌、教会じゃないかもしれない。
 それでも見た感じや中の様子を見ていると教会にしか見えなかったのだ。
 その光景に茫然としていると後ろから軽く肩を叩かれた。
 真っ白な法衣を着込んだ村の人だった。
 恐らくこの教会?
 っぽい建物の人だろう。
 その人は言葉が通じずどうしていいか解らなくなった俺の手を取って教会(?付けるのめんどいので略することにした!)の奥に連れて行った。
 そこには俺が探し求めていたものがあったのだ!
 その法衣の村人は俺に一冊の本を渡してくれた。
 中を開くと恐らく絵本だと思われる本だった。
 驚いてその法衣の村人を見ると優しく笑いながら本を指さして俺に上げるといった感じのジェスチャーをしてくれる。
 くれるのか貸してくれるのかは解らないがそれでも俺にこの本を渡してくれるというのは間違いないみたいだった。
 俺は何度も頭を下げて、財布に入っていた小銭と札を全部その人に渡した。
 少し驚いたような表情でそれを見つめたその人は、首を振って俺にそれを返そうとしてくれたが俺も首を振って断った。
 しばらくの間そんなやり取りを続けていると、その法衣の村人が軽くため息をついた後札と小銭が半分こになるように分けて、その半分を俺に手渡した。
 それを俺が断ろうとすると、今度は無理やりそれを俺に握らせてうなづいた。
 俺は……どうしていいか解らなかった。
 だから精いっぱいの感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
 それから俺はその本を持って世話になっている家に帰ったんだが、帰った瞬間ものすごく慌てた世話になっている村の人がいた。
 俺を見た瞬間安心したように息を吐くと、色々と怒り出した。
 何を言っているかは全然わからないものの、その最初の安心した雰囲気とそのあとの心配そうにしながら怒っている雰囲気を考えると恐らく俺のことをとても心配してくれたんだろう。
 俺はおとなしくそのお怒りの言葉と思えるものを聞いて、落ち着いたところで先ほど法衣の村人に渡したものと同じものをその村の人に渡した。
 実際これがお礼になるかどうかなんて解らない。
 それでも今俺がこの気持ちを込めて渡せるものがこれしかないのだ。
 感謝の気持ち、嬉しい気持ち。
 それを込めてその村の人にそれを渡そうとするが、やはり法衣の村人と同じように断られる。
 俺は法衣の村人にされたように無理やりそれをその村人に手渡して足早に俺が寝かせてもらっている部屋に入った。
 最後俺の顔を見た村人が少しおかしそうに笑った顔が見えた。
 きっと俺の顔が赤くなっていることに気づいたからだろう。
 少し……というか、正直かなり恥ずかしかったのだ。
 最初思いつきでそうやって感謝の気持ち、嬉しい気持ちってものを込めてそれを手渡したのだが……よくよく考えてみると俺がそんなことをしたのはこの村に来てからこれで二回目だった。
 一回目の時はあの法衣の村人の雰囲気もあってそんなことを考えなかったんだが、今この時になって考えてしまった。
 正直普通は恥ずかしいことじゃないんだろう。
 それでも今までやったことのないその行為が、俺には恥ずかしかったのだ。
 突然そんな事が思い浮かんだ俺はその札と小銭を村の人に無理やり渡して走るようにして部屋に戻ったということだ。
 そんなことをしながら、時々村のいろんな人が俺のところに顔を出して差し入れをしてくれたりしながら一カ月を過ごし、それでようやく少しだけ話ができるようになったのだ。





 そして、俺が言葉を話せるようになってから半年がたった。
 そのときには俺もこの村の人達と普通に話せるようにもなったし、文字も書けるようになっていた。
 そして俺は……此処が俺のいた世界じゃないことを知ったのだ。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第二話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/25 01:40
     第二話~実は異世界でしたって何てお約束な展開何だ?~





 この世界の名前はナインディルというらしい。
 そして地球やら日本やらといった地名は存在しないどころか聞いたことすらないという事です。
 その上、信じがたいことにこの世界にはモンスターなるものまでいるという事だ。
 ……アリエネェー。
 嫌、それ以上に驚いたのはレベルというものまで存在することに驚いた。
 俺が世話になっている村の人、名をレイスと言うのだが色々話を聞いているうちにレベル云々の話しになった。
 俺が全く意味が解らずそれについて尋ねると突然目の前に半透明のウインドウが現われてそこにはこう書かれていたのだ。

     『レイス 職業:村人 レベル:五』

 驚いてそれを見ている俺に本人にしか見えないらしいが詳しいステータスなるものまで表示されるという話を聞いた。
 そしてなんと、そのレベルは各ステータスが基準値を上回った時に上がるらしい。
 少し簡単に説明を受けると、日々の行動一つ一つでそのステータスというのは上がるという。
 例えば毎日毎日筋トレをすればVITやSTRというステータスが上がり、毎日毎日走りまわっていればAGI、針仕事や細かいちまちました作業をしていればDEXといったステータスが知らず知らずのうちに上がっているらしい。
 そしてある一定上に上がった場合レベルが上がり、レベルが上がると体力と精神力が大幅に上がるということだ。
 思わず突っ込みそうになったよ。
 しょうがなくねぇか?
 だってそれって……。

  「どんなMMOだよ……。」

 ある意味そっち関係に関しては全く知らないであろうレイスにその突っ込みを入れるわけにもいかず、誰にも聞かれないようにぼそっと呟いた。
 そんなこんなで突っ込みを我慢しつつ俺もそのステータスっていうのが見れるかどうかを試してみたのだが……。
 結果だけ言うと見れなかった。
 ただ理由がはっきりしている為すぐに納得できた。
 その理由とは……。

  「……ん~もしかしたら……登録を済ませてないんじゃないかしら?」

 ということだった。
 ギルドというものがあり、そこに登録しなければこのステータスを見ることができないらしい。
 普通であれば生まれると同時に親がギルドにその子供を登録するのだが、俺みたいな異世界から来た人間はもちろん登録なんてされているわけがない。
 そんな理由だった。
 だが、レイスに俺は異世界から来たから登録何てしていません!
 なぁんてことが言えるわけもなく困っているとレイスのほうから何かを思いついたように謝ってきた。

  「ああ……ごめんなさい。そうよね……時々……本当に時々だけど登録できない子もいるものね……。」

 と嫌に悲しそうな切なそうな表情で言われてしまった。
 恐らく俺が登録されていない理由を勘違いしているのであろうが、どう勘違いしているかを知らない。
 何やら色々と問題となる理由らしい……ので、ぼろを出すといけないので無暗矢鱈に聞くわけにもいかなかった。
 一応俺が言葉を全く話せず、書けなかったのは異国から来たから……ということにしておいた。
 この村の人達はこの村と近くの街と城しか知らなかったので簡単に信じてくれた。
 ただこの登録に関しては全世界どんな場所でもあるらしく、登録していないのは異国の者だからという理由は通じない。
 嘘をつかないといけないというか、世話になった者に本当のことを言えずこんな顔をさせてしまう自分が情けない。
 ……情けないが今の俺にはどうすることもできないので話をそれからそらすことにした。
 俺は未だ知識不足というよりもこの世界のことをほとんど何も知らないからこそ、レイスに話をそらすついでに世界のことについて聞く事にした。
 そして世界のことについて聞いたから俺はこの世界の名前を知り、異世界であるということが解った訳何だが……まぁ、ぶっちゃけるとそんな世界の名前を聞く前からんな、レベルやらモンスターやらいる時点で間違いなく異世界であることは解っていたんだけどな。
 そしてもう一つこの世界のことについて聞いていた時驚いたのが、物や建物、生き物に対する呼び方だった。
 普通これだけ世界が違えば一つの建物をとっても呼び名が違ったり、全く別の意味を持ったりするはずなのだが、この世界驚くほど地球とそう言った呼び方や意味は同じものが多かったのだ。
 例えば家。
 他の違う呼び方は想像しづらい、だからこそ俺は覚えるまで大変だなぁという気持ちで色々聞いていたのだが、家はこの世界でも家というらしい。
 他にも俺が絵本を貰った建物、あれはやはり教会らしい。
 意味合いも神に感謝と祈りをささげ、懺悔したりする場所らしい。
 名前の他に意味合いまで同じなのだ。
 他にもモンスター一つとってもそうだ。
 よく、ゲームに出てきた名前のモンスター等が結構いるうえに、モンスターを例えるときにこういう例え方をレイスはしていた。

  「狼みたいな素早いモンスターや、ゴリラみたいなすっごく大きな怖いモンスターもいれば、ウサギみたいなすっごくかわいいモンスターまでいろいろいるのよ。」

 と。
 これを聞いてわかる通り、動物まで呼び方が同じらしい。
 実際見てはいないが聞く限りじゃ姿形も同じらしい。
 俺は……それらの世界の色々なことを聞いているうちに、異世界じゃなくて本当は何かのゲームの世界に紛れこんじまったんじゃないかと……思うようになっていた。





 でも、よくよく考えてみれば例えこれがゲームの中の世界であっても実際に入りこんじまった俺には異世界と何も変わらないから考えても意味がない……ということに次の日の朝気づいた。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第三話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/25 01:40
     第三話~ギルドで遭遇、プレイヤーって本気(マジ)なのか?~





 カランカランといい音をさせながら俺はギルドと呼ばれる建物に入ってみた。
 この村のギルドは他の町や村のギルドと比べてもとても小さな物らしい。
 実際この建物も俺の世話になっているレイスの家より一回り以上小さい。
 解りやすい大きさで言うと十五畳程度の広さでそこにカウンターと椅子、丸い木のテーブルが二つ置かれている。
 それだけでもうギルドの中はいっぱいいっぱいのようだ。

  「おう!あんたかい、どうやら体の調子もよさそうじゃねぇか!良かったな!んで今日は何の用だい?」

 驚くことなかれ、今村の中で俺のことを知らない人間は存在しない。
 村の老人方から小さな子供まですべての村人が俺のことを知っている。
 ……流石小さな村。
 ……流石地域一体型の協力体制。
 反場そんなことに感心しながらレイスが言った、「恐らく登録してないんじゃ?」的なことを説明していく。
 説明していくと俺に声をかけてくれたギルドの親父も少し表情を暗くして「落ち込むんじゃねぇよ?」と言って肩を叩いてくる。
 どういった誤解をされているのかがひどく気になるところだが……俺にそれを聞くことはできない。
 俺の話せない部分が色々と厄介だ。
 そんな思いをしながらもギルドの親父は親切に登録作業を教えてくれる。

  「おう、そこだ。そこに名前と生まれた……いや、名前だけでいい。」

 見た所名前と生まれた年を書くようになっているのだが……親父に言われてぎりぎり気づいた。
 俺の生まれた年って……この世界の年代にしたらいくつになるんだ?
 とね。
 親父のその一言がなければ俺はかなり困惑して、どうしたらいいものか解らなく、親父に色々と不振がられていたかもしれない。
 ……此処で改めてどんな誤解をされているのかが気になる。
 生まれた年で気まずそうに止める。
 登録されていない子(この表現から恐らく子供。)も時々いる。
 大概の良心的な人ならばこの話に顔を顰め、慰めてくる。
 その上色々辛かっただろうなどと言われ、応援される(これは村人の数人にばれた時に話したら泣きながら言われた。)。
 …………。
 なぁんとなくそうなんじゃなかなぁ?
 という予想は立てれる。
 あってるかどうか解らないものの恐らく……『生まれた時に捨てられた。』というものじゃないか?
 俺はそれを誰かに聞いてみたいものの、流石に不振がられる恐れがあるので聞くに聞けず……少しストレスがたまった……かな?
 なぁんてことを考えながら、次々と登録を進めていく。
 といっても書くことなんてほとんどなく、最初の名前を書いたとこ以外は全部説明だった。
 レイスが言った通り、この登録作業終了後からステータスというものが見えるらしい。
 その上最初のステータスの職業は無職だという。
 何そのあまりな職業!
 そう叫びそうになりました。
 我慢我慢。
 悪いの親父じゃないしね。
 後、初期ステータスは人によって変わるらしい。
 大概の人は殆どのステータスが最初は五前後らしい。
 馬鹿みたいにすごい奴ならば最初から十とか二十位の奴もいるらしいが……そんな奴は話だけで親父も見たことないらしい。
 俺には全く関係のない話だな。
 後、この登録を済ませた人間は死んだ際、自動的にギルドにその報告がされるらしい。
 何と、何とだ!
 此処でさらに驚くべきことに、その死んだ内容によっては蘇生させることが出来るという。
 あまりにもなその言葉に聞いた瞬間思わず笑ってしまった。
 その上思わず呟いちまったね。

  「えっ本気(マジ)で?」

 とな。
 俺のその驚きように逆に親父も驚いたようだ。
 そんなことも知らなかったのかと。
 そこでまた同情的な視線を向けられたんだけどな。
 恐らくそんな基本的なことも教えられないで今まで一人で生きてきた。
 そんな風にでもみられたのだろう。
 不振がられないで良かったと心の底から思った瞬間でした。
 詳しく聞いてみると、ほとんどの場合蘇生可能だという。
 中には特殊な殺され方があるらしく、その場合いくら蘇生させようとしても失敗してしまうという。
 ただ、その特殊な殺され方というのがはっきりしていない。
 モンスター等に殺された場合は大概というよりも、ほぼ間違いなく蘇生が失敗することはないらしい。
 対人。
 それも何やら特殊な人達の対人戦の場合時折その現象が起きるという。
 その場合(親父も見たことがあるらしいが……)には、得てして光り輝く鎧や、白い羽の生えた天使のような人がその場に現われてその人を連れていくらしい。
 そのあと数時間から数日かけてその遺体だけが戻ってくるのだが、その場合いくら蘇生させようとしても決して成功しないという。
 ……またここで俺は本気でこれゲームの世界っぽいなぁと思ってしまった。
 さっき言った光り輝くうんたらの人がGM(ゲームマスター)ならば、その連れ去った人というのはおそらく違反者だろう。
 その結果でアカウント消去、つまりそのキャラクターである人を消さなければいけなくなり、その現象がこの世界では死んだことになるのではないか?
 そんなことを考えてしまった。
 そして……その考えを深める言葉が更に俺の耳に入ってくる。

  「ちょうどそこのテーブルに腰掛けてる冒険者達がその特殊な人間だぜ。最初から普通の人間より強いうえに成長速度が半端ねぇんだよ。一日たってあってみるとレベル三ぐらいだったやつが二十位になってるときとかもありやがるからな。普通の人ならば絶対そんなこと不可能だからあいつら特殊な人間ってよばれてるんだよ。あんたならきっと……そのことも教えてもらったことないんだろう?」

 親父は俺が聞き返すよりも早くそう言ってその人たちのことを教えてくれる。
 ……レベルの異常成長にずば抜けた力ねぇ。
 だが、俺の考えを深めた言葉は親父のこの言葉ではない。
 次に冒険者たちから出た会話の内容だ。

  「にしてもよぉ、この間の対人戦の時のあの“プレイヤー”滅茶苦茶腹立つよな!」

  「全くだね!人さまが一生懸命集めたアイテムかっさらっていきやがったんだからな!スキルでそういうのがなければ”GM”に報告して“アカバン”してもらうのによ!」

  「ってかさ、何で”運営”側もんなスキル作っちまったんだ?やってらんねぇよ。俺本気でこの”キャラ”消して、その系統のスキルを取るキャラに”作り直そう”かと思ったくらいだぜ?」

 等と言う会話が飛び交っておりました。
 ……AHA、AHAHAHAHA☆
 うん、現実逃避しようがなにしようが事実は変わらないね?
 恐らく……ってかほぼ間違いなくこれってゲームの世界なんだろうね?
 でも俺にとっちゃ現実ですよ。
 ゲームの世界でも異世界でも変わりなんてないんですよ?
 ……まぁ……死んでそれっきりっていう可能性が少なくなったんだからそのあたりだけこのゲームらしき世界に感謝かねぇ。
 何気に異世界だと思ってたのがゲームの世界で落ち込み気味です。
 たいして違いはない、違いはないはずなのにその響きだけで少し落ち込んでしまったよ。
 なんだかなぁ……。
 そんな会話をしり目に俺は登録を済ませ、親父に礼と別れのあいさつをしてギルドを出た。
 そして少しドキドキしながらステータスウインドウを開いてみた。
 そこには何と……とてもすごい数字が並んでいた。
 ギルドの親父に聞いた話じゃ生まれた赤ん坊の時に登録してもオール1というステータスは存在しないらしい。
 そしてある程度成長した人間であればステータス最低でもオール5以上はあるという。
 最低でもだ。
 確かに俺は生まれてこのかた、体を鍛えたこともなければ、真面にスポーツに取り組んだこともない。
 多少自慢できるといえば記憶力と適応力。
 だからと言ってこのステータスはないんじゃないか……。
 俺はこのすごい数字のステータスを見て……思わず泣きそうになった。
 俺のステータスにはこう書いてあったのだ。


     ――――――――――
     名 前:岩崎 雅樹
     職 業:無職
     レベル:1
     STR:2
     VIT:2
     AGI;3
     DEX:1
     INT:8
     ――――――――――


 なにこの生まれたての赤ん坊並みか、それ以下のステータス。
 泣いてもいい?
 泣いてもいいよね?
 ってか泣くわ……。
 INTだけかろうじてまともな数値を放っているけど……他の数値のこの低さありえなくないでしょうか?
 ……ああ……世界はこんなに俺に冷たい。
 俺は近くを歩いていた村人の一人に声をかけて、迷惑じゃなければステータスって普通どれくらいなのか聞いてみた。
 藁にも縋るような思いでな!
 帰ってきた答えに俺は絶望したね……。

  「ん~普通あんたくらいの年なら大体平均ステータス8前後じゃないかい?最低でも6位はあると思うよ。特別苦手なものがあるんなら5とかもあるかもしれないけどね。」

 俺は簡単に御礼だけを言ってその村人と別れる。
 誰もいない物陰について……膝を落とした。
 まさに今こそあの表記がふさわしい!
 orz。
 いや冗談抜きにこっそり泣いたよ。
 ある程度泣き続けて落ち着いてからレイスの家に戻ったら、真っ赤にした俺の眼を見て慌ててどうしたのか聞いてきた。
 そのとき俺は半端自棄になっていたんだね。
 聞かれたことにそのまんま答えちまった。
 ってか後で聞いた話によるとその時に話した俺はどこかの壊れた機械人形みたいな話し方だったという。
 俺の話を聞いたレイスは何と言っていいのか解らないといった表情でしばらく茫然とした後……。

  「き、今日は!ご、ごちそうにしよう!うん、そうしよう!偶には美味しいもの食べて心の栄養つけなきゃね!?」

 そう言って逃げるように家を出て行った。
 そのあと大量の食糧を抱えたレイスと、何人かの村人にさっきまで話していたギルドの親父まで来てドンチャン騒ぎになった。
 俺に無理やり酒を飲ませて「嫌なことは忘れちまえ!」と言って騒ぎ続けた。
 そのおかげもあって次の日にはそのことをあまり気にしなくて済むようになった。
 だって……二日酔いでそれどころじゃなかったからな……。





 一週間後、ステータスのことなんて全く気にしてない俺がいた。
 よくよく考えてみると、ステータスが低いからと言って今村で暮らすのに不自由をするわけでもないのだから、それほど気にしなくてもいいことに気づいたのだ。
 その上、意外と村のいろんな人の手伝いをしていればそのうちステータスが上がるということもわかったので、がんばればなんとかなることが解ったからだね。
 だから俺の長所の一つの適応力を発揮して村人と仲良くなりながらしばらくの間、何事もなく平和に暮らしていたって訳さ。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第四話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/25 19:23
     第四話~赤子のような俺にどうないせいっつぅんだよ?~





 驚愕の事実を知り、それ自体割り切ってなんとなぁくどうでもいいかなぁと思えるようになってから十年がたった。
 俺も、あれから色々とがんばってみた。
 毎日の筋トレ、ランニングはもちろん、村人の手伝いで薪割りや裁縫、水汲みから大工作業等様々な作業をこなしてきた。
 そして此処がゲームの世界なんだなぁと思える出来事がまた増えたんだよな。
 此処の村人、年とらねぇの……。
 いや、驚くことにこの村の中で結婚やら出産やらは出来るんだよ。
 出産して出来た子供はある程度まで成長すると突然その成長を止め、それ以降は年をとらなくなるんだ。
 そんな不思議な現象を周りの村人は不思議じゃないのかと尋ねたら、神様って奴がいて、悪いことなどをして手に負えなくならない限り大丈夫なんですよ。
 とか言われたよ。
 驚いたね……。
 本気で、その事実を知った時は流石に一週間ほど悩んだ……悩んだがその現象どうやら俺自身にも当てはまるらしく、俺がここに来てから一切年をとっていない。
 それも含め、悩みに悩んだ。
 結論。
 成るようにしかならねぇよなぁ。
 で落ち着いた。
 ってか、正直悩んでもどうしようもないし、考えてもどうしようもなかったんでめんどくさくなっただけなんだけどね。
 そんな風に結論を出しつつ、日々の仕事のほかにも生き抜きで、仲良くなったギルドの親父のところに良く顔を出すようになった。
 勿論酒と肴は持参でな。
 んなことをしていると、またも驚くべき事実が明らかになることがあった。
 本当にこんな小さな村なのに結構色々解るもんだなぁ……と感心したもんだよ。
 その事実とは、偶然なのか必然なのかよくわからんが、以前会話をしていたプレイヤー達によってだった。
 以前と同じようにその会話をお届けしよう!

  「先週の対人戦もそうだったけどよ、今週もまたあのプレイヤーにやられたぜ!本気であいつどうにかしてやりたい!」

  「同感だね!人さまのアイテムだけでもむかついてしょうがないってのに、挙句の果てに装備品まで破壊していくってどういうことなんだよ!滅茶苦茶腹立つ!」

  「ってかさ、たった一週間で何であんなにスキルレベル上がってんだよ、おかしくね?チートか?」

  「チート……と思いたいけどよ、色々言った後に何だが、あれくらいなら少しコアな廃人ならあんなもんだろう?実際一週間とはいえこの中じゃ一年なんだからさ。」

  「……廃人かぁ……やっぱりそうだよな。そうじゃなきゃ納得できねぇよ。いやいや、廃人でも納得できない強さだけどな!ムカつくけど今度からあいつにかかわらないようにするか。」

  「そうだな……もうやめようぜ。普通にあんな廃人じゃない奴らと戦かっとこうぜ。」

 以上、プレイヤー達の会話でした!
 はい、何処で驚くべきポイントかは解ったよな?
 解らないとは言わせない!
 そう、一週間で一年。
 此処需要。
 一週間で一年。
 大事なことなので二回言いました。
 つまりだ。
 今俺の中では十年という長い年月がたっている。
 それでも特殊な人(プレイヤーな?)にとってはまだ三カ月経ってない位だということだ。
 この世界の日にちの計算は一日が二十四時間は変わらない。
 ただ一か月が二十四日。
 七か月で一年といったけいさんになる。
 確かに俺がいた世界より日にちと一年の長さは短いさ、それでも十年という月日は決して短くない。
 その会話を聞いたのはあの後一年後。
 そして、そのあともそのプレイヤー達はこの村を拠点にしてるらしく、度々現われて似たような話をしていた。
 といっても、訪れるのは一年に一回。
 恐らく対人戦というのがある日だけだ。
 そんなことから一番初めに聞いた異常な成長速度ってもんの答えが解った。
 そりゃそうだろう、そんだけ時差?
 っていいのかどうか解らんが、あれば短時間で強くなると感じてもおかしくない。
 何よりモンスターと呼ばれる奴らを倒せばそれだけで莫大な経験値になるから、プレイヤーたちの成長速度の異常さはそれにも関係があるだろう……ってかこれが殆どの理由だろうな。
 俺も一度だけ命がけで何とか一匹のモンスターを倒したことがあるが……本気で命がけだった。
 倒した後瀕死だったし、そのあと一カ月怪我して動けなかったからね。
 でも、それによってステータスは驚くほど上がった。
 ちなみに俺がモンスターと戦ったのはあの後半年後、偶然村の外を見ていると一匹のネズミを大きくしたような化け物が村に向かってきたのだ。
 流石に世話になってる村に入ってこようとするモンスターをほっとけないと覚悟を決め、近くにあった農作業用のクワで戦った。
 見た目雑魚っぽいモンスターのくせにやったら強かった。
 まぁ……そんなのは今はどうでもいいか。
 その後運ばれて治療を受けた俺は泣きそうになったね。
 あれだけ命がけで戦ったというのに通常モンスターは村に入ってこれないっていうじゃないか。
 ……落ち込んだ。
 大いに落ち込んだ。
 でも……そんな俺の気持ちが嬉しかったと言って、村人たちとはより一層仲良くなれたから結果オーライか?
 んでもって、半年くらいでステータスが上がる訳もなかった俺のステータスは以前と変わってなかったんだが……怪我が治った後確認してるとびっくりするほど上がっていた。
そのときの上がり方は……。


     ――――――――――
     名 前:岩崎 雅樹
     職 業:無職
     レベル:1
     STR:2.2
     VIT:2.3
     AGI:3
     DEX:1.2
     INT:8
     ――――――――――


 から一気に……。


     ――――――――――
     名 前:岩崎 雅樹
     職 業:無職
     レベル:1
     STR:2.8
     VIT:3
     AGI:3.2
     DEX:1.5
     INT:8
     ――――――――――

 だ。
 命がけだったけど、それ以上にこのステータスの上がり方に驚いたね。
 むしろ泣いて喜んだ。
 それをレイスに伝えると、レイスから村人やギルドの親父に伝わりまたどんちゃん騒ぎが始まった。
 今度は嬉しい事だからのどんちゃん騒ぎ。
 あの時は楽しかった……。
 まぁ……それでも命かけるなんて真似したくないからそれ以来一切モンスターとは戦ってないけどね。
 ……でもいざという時のために剣を習うようにはなった。
 習うようになってから九年もたてばそれなりに振れるようにもなる。
 まだまだ初心者見習いから経験者扱いになったくらいだけどね。
 そして十年たった俺のステータスは見違えていた。
 驚くことなかれ!
 今のステータスはこんなにすごくなったんだZE!


     ――――――――――
     名 前:岩崎 雅樹
     職 業:無職
     レベル:1
     STR:3.5
     VIT:3.8
     AGI:3.8
     DEX:3
     INT:9
     ――――――――――


 orz。
 いや……なんだかね、ステータス三を超えてから本当に上がりにくくなったんだよ。
 それでも前より全然ましだろう。
 基本的に三以下のステータスがなくなったんだからな!
 でも……ぼそっといった村人の一言で俺は一晩泣きはらしたね!

  「あら、生まれた私の子とステータス殆ど同じね……っあ!」

 最後の「っあ!」は俺の表情を見て慌てて口を押さえたせいだ。
 ……泣いても誰も文句言わないと思うんだ!
 …………。
 いや、確かに十年かけてもこんなもんだけど、それでも上がることが解ったんだ。
 その上この世界には寿命というものが恐らくない。
 そして年もとらない。
 ならば好きなだけ時間をかけてじっくりと強くなればいいじゃないか!
 とね。
 でも……ぶっちゃけ強くなってなにするんだろうなぁとか思ったけど、俺はその思いに思いっきり蓋を閉めて何重にも厳重に紐で縛って自分でも思い出せないような深い所に投げ込んだ。
 だってそれ思っちまったら……俺体鍛える意味見失っちまう気がしたんだよ。
 まぁ……んな感じで順調……とは言い難いもののそれでも少しずつステータスも上がり、村人とも仲良くなってそろそろ俺の家でも建てるか?
 みたいな話が出てきた矢先に事件が起こりやがった。
 その事件とは……モンスター被害だ!
 今まで村の中にはモンスターは入れないようになっていた。
 だが、何故か突然村の中にもモンスターが侵入するようになったのだ。
 幸いこの村にそのときはプレイヤーがいたので何とかなったがいなかったらと思うとゾッとする。
 確かに死んでも蘇れるってのは解ってる。
 でも、仲良くなった村人や自分が死ぬなんて絶対に嫌だ。
 そんなの誰だってそうだろうさ。
 それから村人と協力してモンスターが村に入ってこないように村の周りに柵を作り、罠を作った。
 それでもやはりモンスター被害は収まらない。
 毎度毎度プレイヤーがいるとは限らない……そんな恐怖にさらされながら一週間が過ぎた。
 そしてその日はちょうど対人戦の日。
 そこでどうしてこんなことになったのか解った。
 簡単に言うとアップデートによる変更。
 つまり神様が村の中だから安心するのは甘い!
 などとのたまいやがって村の中でも平気でモンスターが暴れられるようにしやがったわけだ。
 ちなみにこの場合の神=GMか運営だな。
 まぁ、現実としてこの世界で生きている俺にはんなの神様の気まぐれの戯言としかうけとめられねぇ。
 んで、その事実を知った俺はギルドの親父とレイスと話し合って村の警備団を作ることにした。
 何故レイスも話しに加わるかって?
 そういや、今まで全然話してなかったけど彼女……ってか女ってことももしかして初めてか?
 まぁいいやんなの。
 んでもって彼女はこの村の村長だからだ。
 だから俺が世話になれるほど大きな家を持っているし、色々と発言力もあり、物も知っている。
 ただ、実年齢は解らないが見た目は俺と同じ二十七位の女性だ。
 ……話がそれちまったな。
 んでもって俺が何故か指揮を執りながら警備団を結成ししていったわけだ。
 ……まぁ村長としてのレイスの仕事も、ギルド長としての(実は親父はギルド長!ってか一人しかいないから当たり前なんだけどな。)が色々あり忙しかったので発言者の俺が指揮をとって戦えそうな人を集めたってわけさ。
 そして警備団のリーダーを決めようとなったときになって問題が発生した。
 レイス、ギルドの親父、俺が集めたメンバー全員が何故か俺がリーダーをやると思ってたらしい。
 オイオイ待てよみんな?
 俺だぜ?
 INT以外のステータスがオール四以下のおれだぜ?
 まってくれって。
 常識的に考えて、戦いに出るのすら無理じゃね?
 みたいなことを言って説得したんだが……。

  「九年くらい前か?お前さん一人でラット倒してたじゃねぇか!それも今より低いステータスで、今と違って剣も振れないで。大丈夫だって、今度はお前さん一人って訳じゃねし、お前さんが集めた奴らだっているんだからな!」

 これがギルドの親父の話し。
 いや、後で聞いたらあの大きなネズミのモンスターはラットというらしく、レベル1のモンスターだった。
 普通なら一人で倒すことが難しいらしく、大概が村人三人がかかり位で倒すと言っていた。
 でも、あれは偶然も偶然。
 それも何とか命がけの上で勝てたようなもんだったじゃないか!
 俺はそう叫びたかったが続いてこんな言葉が放たれた。

  「マサキはさ、なんだかんだ言ってこの村の中で信頼されてるんだよ。いざとなったら何とかしてくれるってね?今までだって村の皆が困ってるとき、最後の最後で何とかしてきたのってマサキでしょ?正直……モンスターと戦ってなんて……酷いことだと思うけど、それでもマサキならって皆思ってるんだ……だから……お願いだよ。」

 これはレイス。
 実際今まで村の人が困ってるのを助けたことは何度かある。
 だがたまたま俺がそこにいて何とかできる程度のことだったからにすぎないぞ!
 だって、木に上った子供を下したり、火事になった家の中にいた子供をまだ煙が回ってなかったから助けてきたり、不作の時に肥料という概念がなかったんでそれを教えたり、畑の周りに水を回せる仕掛け作りを教えたりとか、その程度しか俺はしていない。
 実際このくらいならこの村の人ならだれでもできるだろう。
 ……確かに最後の農作業のことに関してだけはたまたま俺がいた世界でのやり方を知っていただけだから、それに関しては少し鼻が高かったのは事実だけど……。
 それにしたってなぁ……。
 ……でも、そのいいかたはずるいと思う。
 そんなこと言われたら断れないじゃないか。
 その上、何故か俺が集めた戦えそうな奴等まで俺にリーダーをしろという。

  「僕たちはマサキさんが一緒に戦ってくれるって思ってから勇気を出して此処に来たんです!村を守りたい……その気持ちはやっぱり大きいです。でも!それでも、マサキさんに憧れて、マサキさんみたいになりたくて僕達、此処にいる皆は決意したんです!だからお願いします!」

 ……これには俺どう答えていいかわからなくなった。
 俺のどこを見たら憧れるのかが全く分からない。
 毎日毎日筋トレ、ランニング、村の手伝いなどをこなし、それを十年かけて続けてもこのステータスの低さ。
 そんな俺の何処に憧れるのやら……そんな風に考えていると、その言葉が嘘じゃないといった感じで、その発言をした青年の後ろから、俺の集め青年たちが皆うなづいて「お願いします!」とか言ってきた。
 ……何を誤解されてるんだろう今度は?
 でも……誤解でも何でも……此処まで頼られたら……どうして断れようか?
 無理だよ、無理。
 断るのがね。
 俺は大きくため息をついて諦めた。

  「はぁ……知らないぞ。俺みたいな村の中でも一番弱い奴をリーダーなんかにして?ったく、俺のどこを見たら憧れるっていうんだか……レイスにしても、俺がやってきたことなんてこの村人ならだれだってできることだろう?偶々タイミング的に俺に回ってきただけでよぉ……。親父も親父だ、あれは倒せたっていうよりも、ぎりぎり命が助かったって表現のほうが正しいだろうが。確かに今なら……何とかもう一人くらいいれば倒せるかもしれないけど一人じゃやっぱり命がけだっての!…………でもまぁ……そこまで頼られたら断れないじゃねぇかよ。ったく!本当にどうなっても知らないからな!……はぁ……とりあえず……引き受けたよ。」

 次の瞬間俺が集めた青年たちが俺の周りに集まってがやがやわいわい騒ぎ始めた。

  「よろしくお願いします!」

 何て事を言いながらな。
 ギルドの親父は親父で腕を組みながらウンウンとうなづいてやがるし、レイスは嬉しそうに笑ってやがる。
 ……こんなのも悪くねぇな。
 そうおもっちまった時点で俺はもう負けてたんだな。




     視点、村の青年S

 僕は最初その人が村を訪れた時、言葉も解らず一人さびしそうにしている姿を見てかわいそうだと思った。
 それは僕の周りの人達も同じだったみたいだ。
 きっと僕なら不安で不安でどうしようもなく、訳も分からず喚き散らしていたかもしれない。
 それなのにその人はそんな状態でも言葉が通じないと確かにうなだれて困ったようだったが、そのあと身振り手振りで必死に伝えようとして、意志を伝えたりしようとすることをあきらめなかった。
 僕はそれだけでもその人がすごい人だなぁって思っていた。
 それから一カ月くらいした後村長がすごい勢いで広場に来て大声で騒いでいた。
 それを聞いた瞬間思わず僕は……いや、僕も走っていた。
 周りのその話を聞いた村の人やギルド長と一緒に。
 その村長が騒いでいた内容というのが……「あの人が話したよ!私たちの言葉を理解して話したんだよっ!」ということだったのだ。
 そして僕達がその人の部屋に言って口早に色々尋ねるが首をかしげるようにして落ち込んでしまった。
 戻ってきた村長がものすごくゆっくり、一分くらいかかったんじゃないかと思うくらいゆっくりとその人に話しかける。
 そしてその一言が出てきた。

  「あ、りがとう!」

 その言葉はとても拙く、聞きづらかったものの間違いなく僕達の言葉と同じ言葉。
 その声は決して綺麗な声とは言えなかったけど、どこか安心できるような温かさがこもった声だった。
 次の瞬間僕達は全員大声で自己紹介をし始めたが村長にがっつり怒られた。
 皆苦笑を洩らしつつ謝って、一人ずつゆっくりと自己紹介をしたりして言った。
 そのあと、家に帰ってから改めてあの人……彼、イワサキ=マサキさん……少し変だったけどきっとマサキ=イワサキさんというんだろうな。
 彼は凄い……本当にすごいと思った。
 全く言葉の通じないこんな場所に来て、決してあきらめずその上とうとう今日言葉まで話せるようになった。
 本当にすごい人だと思って僕はその日眠りに起ちた。
 それからしばらくしてマサキさんが肩を落としながら帰っていく姿を見かけた。
 何かあったのだろうか?
 そんな事を考えながら知っていそうな村長のところに行こうかと思ったとき、突然村長の家から村長が飛び出してきた。
 あまりにも気まずそうに慌てている村長に少し話を聞くと僕は驚いた。
 驚いたけど……これからそんなマサキさんはどうするんだろうと思った。
 最初から何かとマサキさんには興味が湧いていたけど今は興味だけじゃなくて、少し何か解らないけど少しだけ、何かわくわくする気持ちがある。
 マサキさんならきっと、こんな絶望してもおかしくないことを聞いても立ち直って進んで行くんだろうなと思ったからだ。
 だから僕は家に急いで戻って家に隠してあったかなりいい出来のお酒を持って村長の家までいったのだ。
 そこにはギルド長や教会の神父様、他にも結構たくさんの人が集まっていた。
 ……村に来てから一カ月ちょい、言葉を話せるようになってからもそんなに立っていないにもかかわらずこれだけいろんな人に心配してもらえるのも、きっとマサキさんが持つ魅力のせいなんだろうなぁと思いながら僕も皆に交じってマサキさんを慰める為お酒を勧めた。
 いい感じに酔っぱらったマサキさんは最初くらかったけど、そのうち元気に騒ぎ始めた。
 少し安心しながら……きっとそれが駄目だったんだろう。
 気づいたらぐでんぐでんによっぱらっていたらしく、次の日の朝だった。
 頭が痛い……二日酔いだ。
 マサキさんの部屋の床で寝ていたらしく、ベッドの上ではマサキさんも頭を抱えて痛そうにしていた。
 あれは間違いなく二日酔いだ。
 そのせいなのかどうなのか解らないけど、その表情に昨日のような暗い表情は全くなかった。
 それからマサキさんはステータスが低いことを認めたうえで鍛えるといった選択をしたようだ。
 正直それだけでも驚いた。
 立ち直ることはできると思った、進んでくれると信じていた。
 でもあのステータスの絶望的な数値を知った上で鍛える選択をするとは思わなかった。
 僕はだんだんマサキさんに憧れに近い感情をもっていった。
 恐らく、僕が実感したのはこの時が初めてだったが、最初からこの気持ちを少しはを持っていたんだと思う。
 そんなときに事件が起きた。
 マサキさんは意外とこの世界の常識というものをほとんど知らない。
 以前ギルド登録をしていなかったことを不思議に思ってギルド長に聞いてみたことがあった。
 ギルド長は深くは語らず、「お前も解るだろう?」と悲しそうに言った……その一言だけですべて理解した。
 マサキさんは棄て子何だということを。
 その上、言葉も文字も知らずに今まで一人であんな低いステータスで生きてきたんだということに。
 それにどれだけの苦労があったことだる。
 よく……本当によく今まで生きてこられたことだろう。
 それだけでも凄いことだ。
 その上で……今回マサキさんは村を守ろうとしてラットと一人で戦ったらしい。
 普通村の中にモンスターが入らないのは当たり前のことで、今更誰かがなにを言う必要もないことだ。
 だが、マサキさんにとっては全く知らないことだった。
 そのことでギルド長も村長も村の皆も落ち込んだ。
 どうしてマサキさんが知らないことを知っていながら誰も教えていなかったのかと。
 でも……それでもラットを何とか倒して、死なないで戻ってきたマサキさんはやっぱり凄いと思う。
 僕なら死んで教会で蘇生させてもらうことになっていたと思うからだ。
 僕のステータスは今オール8位ある。
 それでもきっと一人じゃ倒せなかったと思う。
 いや……それ以前の話だと思った。
 僕はモンスターを目の前にして立ち向かうことなんて絶対……今の……今の僕には無理だと思うからだ。
 確かに死んでも蘇ることはできる。
 それでも痛い思いもすれば死ぬことに対する恐怖もある。
 そして、本能的な恐怖がモンスターにはあるのだ。
 マサキさんは僕より低いステータス……というよりもこの村の中で誰よりも低いステータスにも関わらず村を守るためにその恐怖と闘い、モンスターに立ち向かったのだ。
 僕はこの時からきっとマサキさんに憧れて、尊敬するようになっていたんだと思う。
 マサキさんの怪我は治るまで一カ月がかかった。
 その間も色々と動ける範囲で動き続けたみたいだ。
 怪我が治った後はより一層今までよりも厳しい特訓をしていた。
 時々しか見ていないが、話を聞く限りじゃあの特訓を毎日してるという。
 毎日の筋トレやランニング。
 やってる人はそれは結構いるだろう。
 でもあれだけ真剣に倒れるまでやる人がどれだけいるだろうか……?
 僕は自発的にでも他の人に言われてでもやれるとは思わない。
 でも……こんな考えじゃ僕はマサキさんに憧れる資格もないんじゃないかと思った。
 それ以来、マサキさんほどじゃないけど僕も筋トレやランニング、弓の特訓をするようになった。
 何故弓かというと、マサキさんが剣の特訓を始めたからだ。
 もし戦いになったときにマサキさんと肩を並べて戦える……そんな姿にも憧れたけど、それ以上に後ろかマサキさんが間違って気づかないところから襲われた時、対応できるように後衛である弓の特訓を始めた。
 僕は……このときからいつの日かマサキさんと一緒に肩を並べて戦う日を夢見てたのかもしれない。
 それから……九年近く……十年にとどかないくらいの月日が流れた。
 やはりマサキさんはあの特訓を続け、なれたらそれ以上といった感じにどんどんレベルを上げていっていた。
 僕もその姿を見ながら特訓を続けた。
 僕以外にも数人僕と同じような思いの人がいた。
 僕達は皆マサキさんに憧れをもって、その姿を見つめながら負けないようにと特訓を続けたのだ。
 そんな日が続いて、このままの日常が続くんだろうなぁと思っていた矢先に事件が起きた。
 村の中にモンスターが入ってきたのだ。
 突然のことで今まで特訓していたにも関わらずやっぱり僕は動けなかった。
 ちょうど子供の一人がモンスターに襲われそうになっているというのに動くこともできない。
 その子供もお余りの恐怖におびえ泣くことすらできないようだ。
 襲ってきたモンスターはレベル3のウーモ。
 牛型のモンスターだ。
 普通の牛と違い全身が緑色で頭に角が生えている。
 あの角で突かれてしまえばきっと僕たちなんて一発で死んでしまう。
 その子供に向かって走るウーモ。
 誰もがきっと子供はもう駄目だと思った。
 でも……ここでやっぱりまたあの人だけは動けていた。
 結構距離もあったことが幸いだったんだろう。
 マサキさんは石を思いっきりウーモに向かって投げた。
 結構いい勢いで飛んだそれは運がいいのか悪いのかちょうど鼻先にあたり、ウーモは醜い悲鳴を上げた。
 その結果、ウーモは走るのをいったん止め、石を投げたマサキさんのほうを向く。
 かなり怒り狂っているようで、鼻息も荒く眼も真っ赤になっている。
 マサキさんは……震えながらもそれでも剣を構えて周りを見ながら村の外のほうへ走って行った。
 それをウーモが追いかける。
 ……モンスターを村の外へ連れ出そうという気らしい。
 ……情けなかった。
 昨日……マサキさんがギルドでお酒を飲みながら愚痴ってるのを聞いた。
 ステータスのことだ。
 マサキさんのステータスは驚くことに十年近くたつというのに殆ど変ってないらしい。
 僕だってこの十年近く鍛え続けてステータスもオール十二以上、DEXだけなら十七にまで上がっている。
 それなのにこのざまだ。
 僕と一緒に鍛えてた皆も似たようなもので、ウーノがいなくなった瞬間へたり込んでしまった。
 僕もへたり込みそうになるのを必死に我慢して、ほほを両手でひっぱたき気合を入れる。
 そしてマサキさんの走り去ったほうに向かって走っていく。
 僕のその姿を見た、僕と一緒に鍛えていた皆はお互い見合わせて同じように気合を入れると後から続いて走ってきた。
 そして、僕達がみたのは追い詰められたマサキさん。
 ただ、そこにいたのはマサキさんだけじゃなく、特殊な人たちもいた。
 その人たちは一刀のもとにそのウーノを切り裂いて何事もなかったかのように歩き去って行った。
 僕達は急いでマサキさんの近くまで走り寄って大丈夫か?
 怪我はないか?
 と尋ねた。
 マサキさんは怪我はなかったけど……滅茶苦茶怖かったといってそのまま気を失ってしまった。
 ……一人で立ち向かい、追いかけられる……その恐怖とはいかほどのものか……。
 僕には想像もできない。
 モンスター……ウーノを見ただけであのざまだったんだから……。
 正直僕と村の皆が力を合わせればきっとウーノくらいなら傷を負わないで倒せるはずだ。
 ウーノはレベル3のモンスター。
 基本的にレベル8もあれば二人いれば倒せるくらいのモンスターだ。
 一番今レベルが高い僕がレベル10。
 一番低い僕達の中の一人でレベルが7。
 それでも、人数が九人もいるのだ。
 皆で力を合わせれば問題なく倒せたはずなのに……皆足がすくんで恐怖で動けなくなり、この有様だった。
 気を失ってしまったマサキさんを僕は背中に背負い、改めてこの人は凄い人だと感心した。
 憧れが強くなった。
 いつか……この人と同じくらい強くなりたい。
 この人と肩を並べて信頼させれるようになりたい。
 そう思った……。
 だから、僕はマサキさんに声をかけらた時ものすごく驚いた……けど、ものすごく嬉しかった。
 マサキさんは実は僕達のことを色々みていてくれたらしい。
 自分と同じように体鍛えていたよな?
 そう言われた時、僕達はみんなして嬉しそうな顔をしたことだろう。
 だって、今までずっと憧れていた人に、僕たちなんてたいしてみられてもいないと思ってた人に、実はしっかりとみていてもらえたんだから。
 次に出た言葉には流石に驚いたものの、こういうときのために特訓をしていたのだ。
 僕隊は皆顔を見合わせてうなづいた。
 警備団。
 モンスターから村の人を守る人達の集まり。
 マサキさんの下なら僕は勇気を振り絞って恐怖に負けないで頑張れる。
 そう思ったんだ。
 だからギルドでマサキさんがリーダーをだれにするかって言った時には驚いた。
 一緒にいた村長やギルド長も驚いた表情でマサキさんがやるんじゃないのか?
 っていったら、今度は酷く驚いた表情でマサキさんが皆の顔を見回した。
 そのあとマサキさんは自分みたいな低ステータスの人間がいたら迷惑になる。
 足を引っ張るだけだ……ましてやリーダーなんて絶対にむかないだろうと言い出した。
 確かに……ステータスだけを見れば誰がみてもそう感じるだろう。
 唯……それはステータスだけを見た場合だ。
 今回、此処にいる皆はマサキさんのことをこの十年見続けて良く知っている。
 確かに力やステータスは弱いかもしれない、それでも誰よりも勇気があって、誰もが諦めるような状態でもあきらめないで、どんな絶望的な状態でも腐らない。
 そんな人だと解っている、尊敬すべき、憧れるこの人以外に僕はリーダーだと認める気はない。
 力なんて、ステータスなんていくらでも僕達がカヴァーできる。
 でも、皆を纏める。
 支持を受けるというのは誰にでもできることじゃない。
 村長も、ギルド長も必死にマサキさんがリーダーをやるようにお願いしていた。
 だから僕もマサキさんにどうにかリーダーをやってほしいと願った。
 僕が言った後皆も同じ気持ちで願った。
 やがて、マサキさんは大きなため息をつきながらもどうしようもない奴ばっかりだなぁといった表情で僕達を見て、リーダーになることを引き受けてくれた。
 その瞬間僕達は……この人のために……この人に失望されないように絶対に頑張る!
 そう思った。
 だから……これから、どうぞよろしくお願いします『リーダー!』。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第五話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/26 00:47
     第五話~人間意外となれると何とかなるもんだねぇ。~





  「や……やったぁぁぁぁ!とうとう、とうとう来たぜ!」

 俺は村を襲いに来た最後の一匹を倒しステータス画面を確認した瞬間、叫んだ。
 それはもう俺の周りにいた青年達全員が俺を驚いたようにみた瞬間だった。
 次の行動は普通何事かといった表情でみられる……普通ならそうだ。
 だが!
 此処にいる皆は違う!
 警備団を作り、俺がリーダーをするようになってから早二十年。
 長い月日がたった。
 それだけの間ともに過ごしてきたこの青年達とはもう既に心が通じ合っている。
 よって……。

  「ほ、本当ですか!おめでとうございます!」

 副リーダーの役についたセルビアが初めにそう言ってとても嬉しそうに俺に声をかけると、それに続いて他の青年たちも口々に「おめでとうございます!」と声をかけてきてくれる。

  「僕、これから村長とギルド長に連絡してきます!」

 そう言って走って行ったのはやはりセルビアだ。
 彼は何故か俺のことを異常に尊敬しているようなのだ。
 何故か未だに解らない。
 否、彼だけじゃなく此処にいる青年たちは本当に不思議なことに俺を慕ってくれる。
 慕う……どちらかというと本当にセルビアほどじゃないにしても尊敬されているのだ。
 本当にこれだけは二十年たった今でも不思議でしょうがない。
 ひとまずそのことは置いておいてだ。
 さて、俺が何にこれほどまで狂喜乱舞をしているかという……何と……何とだ!

  「これで念願のオールステータス十とっぱぁぁぁぁぁ!?」

 ということだ。
 セルビアなんて先ほど走り去る前、涙まで流して喜んでくれた。
 俺も今……瞳から熱いものが流れ落ちている。
 二十年だ。
 警備団を作ってから二十年。
 これだけの年月をかけてようやくここまで来た。
 ここまでくれば俺が異常なことくらいわかる。
 他の皆はこれだけ長い間戦い続けているだけあり一番低い青年でもステータスの最低値は三十ほどある。
 セルビアに至ってはこの警備団トップの実力で最低のステータスでINTの四十。
 最高のステータスになるとDEXで七十五まで上がっている。
 もう既にこのあたりのモンスターであれば敵ではない。
 ……まぁ俺も一応このあたりのモンスターであれば一人でも倒すことはできるよ?
 一匹ずつならなんだけどね……。
 それも……この三十年近く続けた剣の技があってこそ。
 …………つくづく……技というものの重要性をかみしめた二十年(最初の十年は訓練だったからなぁ……戦ったことなかったしね。)だった。
 っと、また話がずれちまったな。
 そう俺が異常だというのはこの成長速度の遅さだ。
 今説明したように普通の奴らであればそれくらい上がっても可笑しくないほど経験を積んでいるにも関わらず、俺は未だにこの程度なのだ。
 そして……レベルも上がっていない。
 俺の今のレベルは未だに一だ。
 これもおかしなことらしい。
 普通オールステータスが五を過ぎたあたりでレベルは人によって変わるものの二から三くらいはあるらしい。
 ましてオールステータスが十を超えるくらいであればレベル的に七から八位あっても可笑しくないのだ。
 なのに俺は未だ一。
 ……もう……もう慣れた。
 俺は五年前ようやくそのことをふっきり、人と比べることをやめた。
 ただひたすら自分のペースで強くなろう……それだけを心に誓ったんだ。
 だからこそ……このオールステータス十突破は俺にとってとても……そう、泣くほどにまで嬉しいことだったのだ。
 ちなみに、今のおれのステータスはこんな感じだ。


     ――――――――――
     名 前:岩崎 雅樹
     職 業:無職
     レベル:1
     STR:11
     VIT:10
     AGI:10
     DEX:12
     INT:15
     ――――――――――


 此処まで上がった!
 ちなみに最後まで足をひっぱていたのはAGI。
 それが今の戦闘でようやく上がったのだ。
 二十年前と比べたら見違えるほど高いステータスだろう?
 何度見てもほほが緩む。
 正直嬉しすぎる。
 今度目指すはオールステータスが二十だな!
 ……さ、三十年くらいで何とか……難しいか……うん。
 頑張って五十年以内にオールステータス二十を目指そう!
 俺も此処十年ほどで生きる年月の長さに対する違和感というものが多少なくなってきた。
 確かに未だはっきりと慣れた!
 とは言い切れないものの、それほど深く違和感を感じることがなくなってきた。
 とりあえず改めて、新たな目標に向かって頑張るぞ!
 と俺が叫ぶと、周りで「応!」という叫び声が上がった。
 ものすごく嬉しい。
 他人である俺の事を自分のことのように喜んでくれる……目標を真剣に応援してくれる……そんな奴らがいることにとても嬉しくなった。
 だから戻ってきたセルビアを引き連れ、どんちゃん騒ぎが確定している村の広場に皆で走って帰った訳だ。
 そこには、村の人たち全員が集まって口々に俺に祝いの言葉を投げかけてくれる。
 俺は……本当に改めてこの村にこれてよかったと思いながらその騒ぎに身を任せた。





 ああ、ちなみに警備団の人数が最初俺を含め十人しかいなかったんだが、村で生まれた子供たちが成長し、入ったりしてくれたことから何と十五人にまで増えた。
 ……相も変わらず一番ステータスが低いのは俺だけどな……。
 ってか入ったばかりの新人以下ってのも情けない……。
 一刻も早く……とはいかないまでも、入ったばかりの新人には負けないくらいのステータスを頑張って身につけないといけないなぁ。
 いくら人と比べないと俺が思っていても相手がそう思ってくるかは別問題だしね?
 ちなみに……俺のレベルが一なのに対してセルビアのレベルは何と今六十三もある。
 つくづく俺は思うのだが……何故俺がリーダーでお前が副リーダなんだ?



[6872] 異世界混沌平凡譚 第六話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/26 01:27
     第六話~本当に神(GMだか運営だか)の戯言も大概にしとけや!~





 オールステータス十を達成してから十年、俺たちは変わらぬ毎日を過ごしていた。
 いつものようにローテーションで見周りと町の入り口の見張りを置き、それ以外の奴は休みを取っている。
 この間……といっても十年前の俺のオールステータス十達成の時は本当ならば半分以上の人が休みだった……休みだったにも関わらす、俺のそのステータスのお祝いを言いたい!
 そういうことで集まってくれたのだ。
 今……思い出しても本当に心が温かくなる思い出だぜ。
 などと人がいい思い出に身を任せていると、突然空から声が降ってきた。
 そりゃパニックにもなるだろう。
 誰だって突然空の上から人もなしに声だけが降ってくればパニックになるってもんだ。
 俺は……パニックにならなかった……訳がねぇだろう?
 皆と同じようにパニックさ☆
 まぁ……出てきた言葉の内容から直ぐに正気に戻ったけどな。
 だって……降ってきた言葉の内容こんなんだぜ?

  『今より毎月この日に我の声が響き渡ることとなろう。我は神。この世界の創造主なり。これより毎月この日を各村や街の襲撃率に対する損害、撃退状況を報告する事にした。その割合に対して天よりの宝が与えられるであろう。この地に生けとし生ける皆の者よ大いに自らの村や街を守るといいだろう!』

 とかのたまってやがるわけだ。
 それもそのあとごちゃごちゃと色々言っていたのだが、どうしても聞き逃せない部分が出てきやがった。
 こればかりには少々鶏冠にきたね!

  『この日より各地域に現われるモンスター達が強化されるであろう。自らを鍛え、無事この試練を乗り越えてくれることを願う。』

 はぁ?
 正直そう言ったってしょうがねぇだろう。
 ぶっちゃけその前に、魔王の力が強まった云々なんて説明があったが……ぶっちゃけ、この村や街の防衛戦?
 っていうのかね、それに対しての難易度の強化だろうが。
 本気で腹が立つ。
 確かに向こうにとっちゃゲームなんだろうけどこちらにとっちゃ死活問題なんだっつぅの!
 いい加減にしとけやこの神の野郎め!
 ああ……本当に腹が立つ。
 ……。
 などといつまでも腹を立てていても仕方ないので、俺は未だパニックに襲われている周りの者たちを落ち着かせ、一度街に戻ることにした。
 勿論最低限の見張りは残しておいたよ?
 んでもって街に戻ってみると……案の定パニックになってる人が多数いた。
 とりあえず冷静さを保っているレイスとギルドの親父が手分けして落ち着かせようと頑張っているが、どうしても人手が足りていない。
 だから俺と正気を戻した警備団の皆でそれを手伝い、それから五時間ほどかけて全員を正気に戻した。
 …………本気でいい加減にしてくれよ……。
 俺は……疲れ切った体を投げ出し天を仰いだ……。





 今更ながらに思ったんだが……この村……今までプレイヤーが村を守りに来た事がないんだよな。
 他の村や街から来る人から話を聞くと、他のところでは比較的プレイヤーの皆で村や街を守っているらしい。
 一応そこに自分たちのアジトというか住処というか溜まり場というか……そんなものがあるからだろうな。
 ならば何故この村にはそういったものがないのだろうか?
 簡単な話だった……。
 この村最果てに存在するらしく、村の裏に続く森の先は崖がありかろうじて見えるほどの深さを保って毒の海が見える。
 村の左側に続く平原の先は崖。
 その先は存在せず、その底すら存在しないといわれているらしいな。
 村の右側に続く平原の先は毒の海。
 紫色のその海は海水がかかるだけで軽い毒に犯され、数分も海につかっていれば死にいたる毒に犯されるらしい。
 唯一前に繋がる道も最初はいいのだが途中から森が広がり、その中は高レベルモンスターたちの巣。
 その先に一応大きめの街があるのだが……そんなところを通ってこんなところまで来る物好きはめったにいないというわけだ。
 何せこの村、何一つ特別なものがない。
 村の中に名物の一つや、観光場所の一つもあれば違ったのだろうが……残念ながら何一つ……本当に何一つないのだ。
 あえて言うのであれば、村人たちの心の温かさくらいだろう。
 だがそれらは長く、俺のように住む人間にしかわからないため、プレイヤーにとっては本当に何もない村としか映らない。
 一年に一度来るプレイヤー達も対人戦のフィールドがこの近くの森の奥にある、古びた城が舞台だからだ。
 来る……そう言ってもギルドに少し手続きをしに来るだけですぐに帰って行ってしまう。
 まぁ、だからこそこの村の人達は、俺たちみたいな警備団を作って自力で強くなったんだけどな。
 さて……この先どれくらいモンスターたちは強くなるのだろうか?
 あまりにも強すぎるのだけは勘弁してもらいないもんだがな。
 間違って村の人間に被害が出るレベルでの強化であれば俺はどんな方法を使ってでもいつか神に復讐をしてやる……そんな事を一人心に思いながらいつも通りレイスの家に戻ることにした。





 ……そういえば過去に一度俺の家を建てるという話が出たのだが……なんだか知らないうちに、騒ぎの中その話がたち消えていた。
 何度か自分で貯めたお金で家を建てようとするとレイスがひどくあわてながら必死に止めに入ってくる……何故だ?
 そんな様子を見つつ、セルビアをはじめギルドの親父や村の人達もみんなして俺はレイスのところにいるべきだと言って自分の家を建てるのをやめさせようとしてきたのだ。
 その結果未だにレイスの家に世話になっているのだが……いい加減迷惑にもほどがあるだろう。
 これだけ長い間住んでおいてそれもないだろう……と、言われるだろうが、俺自身どうしてもその気持ちが晴れないのだから仕方ない。
 はぁ……いつになったら俺はレイスに迷惑をかけないで済むようになるんだろうか……。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第七話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/26 17:35
     第七話~これはないわー、本気(マジ)ないわー。ってかふざけんな!~





 今俺たちは正直途方に暮れている。
 突然こんな始まり方だと困惑する方々も多いだろう。
 だが……だがだ!
 こうとしか表現できないんだ……俺には。
 今俺は村の入り口のところから警備団全員を集めてその光景を見ている。
 目の前……というには少し離れすぎているが、そこで戦っているのは六名のプレイヤー達。
 正直……嫉妬を覚えるほどの強さをもっていやがります。
 本気で死ねば…………ゴフンゴフン。
 危ない危ない、少し危険な電波を受信するところだったぜ。
 などと……現実逃避していても目の前の事実は覆らないと……。
 …………畜生。
 神の野郎め……本気でいい加減にしてください!?

  『GUUURUUUUGYAAA!』

 明らかに……低レベルモンスターの上げる雄たけびじゃないですよねー。
 まぁ事実……明らかにレベルの高そうなプレイヤー達すらまともに相手になっていないって……どんだけ強いんだよ!
 あの冒険者たち副リーダーのセルビアと同じか少し弱い程度までの強さはあるぞ。
 ああ……ちなみにセルビア、先月とうとう念願のレベル八十を超えました。
 俺?
 AHAHAHAHAHA☆
 聞きますか?
 聞きたいですか?
 いいだろう!
 聞かせてやるよ!
 俺のレベルはこれだ!

  『職業:無職 レベル:1』

 AHHAHHAHHAHHA!
 ちくせぅ。
 未だ無職でレベル一ですよ!
 何それ……。
 ってかいつになったら俺無職じゃなくなるんだ?
 街の皆、俺がこのことを話すと口を合わせたかのように無理やり話をそらすし、絶対この手の話題を振ってこない。
 ステータスを見れるようになってからは本当に一切合財自分たちのステータスを見せようともしない。
 ただまぁ、聞けば普通に今のステータスとかレベルを教えてくれるから困ることがあるわけでもないんだけどなぁ。
 等と……考えているうちに戦いは終わった。

  『GUURUUUUGYAAA!』

 ええ、勿論モンスターの勝利でですよ?
 ふざけんな!
 きちんと退治してけよ!
 んな化けもんこっちにおしつけんなよ!
 はぁ。

  「皆……解ってると思うがあれは可笑しい。明らかに……高レベルモンスターとかふざけた奴らの更に上をいくほどふざけた可笑しさをもってやがる。正直こっちにかかわってこないなら放置して逃げ出したい!……だが……あの通り目標をあんの化け物野郎この村にしやがった。……ごちゃごちゃいわねぇ。倒すぞ!」

 俺がそういうと、少し顔を青くしているものの、お互い気合を入れあいながら「応!」という返事が返ってくる。
 本当にいい仲間たちだぜ!
 これでも……最弱な俺でもこの警備団のリーダー。
 そのリーダーが後ろに下がって指揮だけで満足できるか?
 出来るわけがねぇ。
 何より俺が我慢できない。
 つまるところ……我儘なだけなんだけどな。
 皆の答えを聞いた瞬間俺は先頭に立って突っ込んだ。
 最弱でもリーダー!
 この役だけは誰にもゆずれないんだっての!
 正直……本気で……嫌だぜ?
 今にも気絶しそうなほどにこわいですよ?
 でも、この村を守るため、こんな弱い俺でも、少しで仲間たちを守るため。
 動き続けると決めたからにはやるしかない!
 近くまで来るとその化け物の異常さがなおさらはっきりしてきやがる。
 大きさ五メートル近くあるんじゃね?
 一歩歩くごとに地面陥没とかどんだけ重いんだよ!
 ってか……明らかにその背中の黒い羽とか悪魔とか悪魔とか悪魔とかそんな感じの代物ですよね?
 本気で逃げたくなりました。
 でも逃げられません、勝つまでは!
 覚悟を決めて、大振りな相手の一撃を躱し、今俺の持つ最大の技で最初の一撃を放つ。
 点突き!
 簡単に言うと剣による突き。
 それは突きをつき詰めて技にまで昇華させたもの。
 この技だけは俺も自信がある。
 高レベルモンスターたちにすらダメージを負わせることができる。
 ……正直この化け物相手にどれだけダメージが与えられるか疑問だけどな。
 でも予想以上にいいところに入ったらしく、醜い叫び声をあげながらいいダメージが入ったぽい。
 ちなみに俺が突いた場所は左足の脛。
 感触的に骨に突き刺さった感触があった。
 俺は突き刺さった剣をそのままに後退する。
 抜こうとしたけど抜けなかったんだよ。
 畜生。
 どんだけだよ。
 俺が下がると入れ替わるように三人三組の前衛達が化け物を三方から囲むように攻撃を開始する。
 最初の俺の一撃ほどではないにしてもジワリジワリとダメージを与え続ける。
 後衛はセルビアが指揮をとって味方に矢が当たらないように確実に当てていく。
 ……本当に……警備団を作ってからすでに五十年。
 いい感じで動けるようになってきた。
 実際……俺がいる意味全くない気もするけど……。
 ひとまず今は落ち込んでるときじゃねぇ。
 新しい剣を構え、隙をついて更に点突き。
 上手くさっきみたいないい場所を突ける訳もなく、足に突き刺さりはしたものの、たいしてダメージはないようだ。
 他の皆の攻撃よりダメージが低いな。
 ……必殺技に近いこの技でこの差かぁ。
 落ち込みそうになる自分を叱咤激励しとにかく化け物の隙を突いて攻撃し続ける。
 そんな事を繰り返し一時間。
 後衛人は未だ全員無事だが前衛はそうはいかない。
 五人程村に戻った。
 幸い命に関わるような怪我を負った奴はいなかった。
 この化け物の一撃予想以上の攻撃力があり、一撃食らった瞬間大きく吹っ飛ばされ、立ち上がれないほどのダメージを負うのだ。
 幸いなのは大きく吹っ飛ばされることだな。
 そのおかげで吹っ飛ばされた奴のところにその化け物は行かず、目の前の俺たちが攻撃対象になる。
 その間にかろうじて動けるだけまで回復した仲間たちは、セルビアの指示の下、村に戻ることになったのだ。
 五人が五人、皆自分で戻ることができたことから少し安心した。
 それでも、仲間を傷つけられて平然としていられるわけがあるか?
 ねぇよ。
 それは俺の仲間たちも皆同じだ。
 より一層腹の底に気合とともに力を込めて攻撃し続ける。
 そのうち後衛の仲間達も一人また一人と気力を使い果たして倒れていく。
 予想以上にこの化け物と退治するプレッシャーがきついようだ。
 前衛の俺達はただひたすら動きまわり攻撃を加えることに集中している為、その手の感覚が少し鈍くなっている。
 後衛は俺たちに当てないように細心の注意を払いながらの攻撃だ。
 精神的にかなりきついのだろう。
 この戦いが始まって五時間。
 今現在この場にとどまっているのは俺を含めた前衛が三人。
 セルビアを含めた後衛が五人の八人だ。
 村に戻ったのは前衛が七人。
 後衛が五人の十二人。
 これでも続々と警備団の人数は増えていたのだよ。
 何て今はんなことは関係ない。
 俺と後衛の皆だけは未だ無傷。
 というよりも、俺はこの化け物の攻撃を受けたら一発で死ぬ!
 間違いない。
 だから本気で申し訳ないが、仲間たちが戦い、隙ができた時に最大の一撃を放つ。
 その繰り返しだったのだ。
 情けないな。
 でも、今は勝つことが先決だ。
 この五時間の攻防も決して無駄ではない。
 相手の左足はもう使い物にならなくなり、右手もそうだろう。
 右足、左手もかなりの傷を負っている。
 さっきまでの攻撃力は全然ない。
 それでも俺にとってその一撃は死の一撃だけどな。
 それに全身から血を流し、いつ死んでも可笑しくない状態だ。
 でもそれはこちらとて同じ。
 前衛の二人は既に息切れと、体のあちこちに傷を付け、頭や腕から血を流している。
 後衛のセルビア達もかなり疲弊が厳しく、いつ倒れても仕方ない。
 今この場でこうしてたてているのはひとえに村を守りたい、仲間を守りたい!
 この気持ちだけで立ち、戦っているといっても可笑しくないのだ。
 だが、俺たちにとってこの気持ちこそが力。
 最大の俺たちを奮い立たせる気持ちだ!

  「もう一息だ!気合い入れて押しきるぞ!」

 俺の叫びに「応!」という叫びが返ってくる。
 そして……とうとう、本当に漸く目の前の化け物が倒れた。
 総時間六時間ほどの攻防。
 それだけ長い間戦い続けたせいか、暫く誰もが信じられず呆然としていた。
 いつまでもこのままじゃいられない……一番最初に正気に戻った俺が倒れた化け物を調べ、本当に息絶えてるのかを確認した後……心の底より大きな叫び声をあげた。。
 正直、自分自身何て叫んでるのか解らないが叫び続ける。。
 俺の叫びで漸く理解が追い付いた仲間の皆も、少し周りの仲間たちと顔を見合わせた後、俺と同じように大声で叫び声をあげた。
 どれだけの間叫んでいたのだろう、かなり長い間叫んでいた気がする。
 まぁ……実際冷静に考えてみるとせいぜい十分程度なんだけどな。
 俺はその後、仲間たち全員が落ち着いたのを確認して化け物を村へ運び込んだ。
 何故かって?
 そりゃ、これだけのモンスター……それも高レベルモンスターすら生ぬるいレベルのモンスターだぜ?
 絶対にそのモンスターの死骸から取れる物は高く売れるはずだからだ。
 実際この村は金に困ることは殆どないものの、金は持っていても困るものじゃない。
 それに大勢の仲間たちが命をかけて戦ったのだから、多少の見返りを期待してもばちはあたらないだろう?
 つーわけで、村に持ち帰ったわけだ。
 俺たちが村に帰りつくと、心配そうにしている村人がたくさん集まっていた。
 俺たちの姿を見た瞬間大いに沸いた。
 その後はいつもの通りのどんちゃん騒ぎ。
 村に戻った仲間たちもそれほど大きな怪我じゃなかったらしく、夜になるころには普通に歩いたり酒を飲んだりするくらいはできるようになっていた。
 まぁ……流石に戦闘に参加できるほど直ぐに回復はしなかったけどな。
 んでもって次の日。
 俺たちは化け物を解体していた。
 とても固いその皮膚は表面だけで、少しはがれている部分から剣で少し差し込んでみると中のほうは意外と柔らかい。
 なので、革をはがし、肉をはがし、骨を取り、眼球や肝等の中身は薬になる場合があるので一応保管し、一日がかりでそれらの作業を行った。
 そして、一つのアイテムがその化け物から出てきて、それをどうするかと話し合っているところだ。

  「いやさ、俺的には村長に渡すのでいいんじゃないかと思うんだが……。」

 と俺が言うのだが、村長はそれを拒否。
 ならばと……。

  「なら、ギルドの親父に渡すか。それそうの価値がありそうだし結構評価が上がるんじゃないか?」

 とギルドの親父に振るとこちらも拒否。
 どうにもこのアイテムは規格外すぎて下手すると此処のギルドから外されるかもしれねぇから嫌だ!
 とか言ってました。
 ……出世が嫌だとはいやはや……親父も物好きなもんだ。
 皆笑いながら「それならしょうがない。」と言って親父に渡すのもあきらめた。
 よって、このアイテムをどうするかを話し合っているのだ。
 最初はこの化け物をたすのに一番貢献したセルビアに渡そうとした。
 断固として拒否られ多。
 俺がなにもないのに、受けられないという。
 何処までも俺を優先する奴だなぁ……。
 嬉しいっちゃ嬉しいが……どうしてなのかが本気で不思議でしょうがない。
 とりあえず……どこか街に売りに行ってお金に換えるかという提案をしたところ、全員に思いっきり拒否られた。
 全員が全員、これほどのアイテムを売るなんてとんでもない!
 と声を大にして言うのだ。
 ……。
 …………。
 解ってるさ、この発案は最初に出た。
 最初に出たが……俺が拒否った。
 何の活躍もしてないんだぜ?
 皆が倒れていくのを助けられもせず、最後まで仲間たちの影から隙を見て攻撃をしていただけなんだ……。
 そんな俺が受け取る……。
 この選択肢だけはねぇだろう。
 だけど、村長、ギルドの親父、果てには警備団の奴らまで全員が俺が受け取るべきだという。
 ……気持ちは嬉しい。
 でも……どうしても、正直役に立ってんのか立ってないのか解らない俺が受け取るということに違和感があるのだ。
 そんな問答を数時間繰り広げ、いい加減疲れてきたときに村長、ギルドの親父、セルビアの三人が強制的に俺にそのアイテムを付けようとしだした。
 流石に突然のその行動に俺も反応ができず、そのアイテムを身につけることに……。
 大いに慌てた。
 必死に逃げようとした。
 絶対に付けられてなるものか!
 と全力であがなった……。
 やはり俺より強い奴ら三人からの不意打ちに勝てるわけはなかった……。
 普通のアイテムならばこれほどまでに慌てないさ。
 装備したとしても外せばいいだけだからな。
 このアイテムは特別なんだ。
 一度所有者を決めてしまうと決して変更が聞かないというアイテム。
 呪われているわけではない。
 ただ、その者が死なない限り所有者の変更が聞かないというあたりは、呪われてると言われても違和感はないけどな。
 このアイテムの特殊なところは、装備アイテムにも関わらず、消耗アイテムだということだ。
 これは指輪。
 黒魔の指輪というらしい。
 その名前の通り指に突けるアイテムだ。
 通常指輪、リング系統のアイテムは左右に一つしか突けることができない。
 これが特殊効果のない唯のアクセサリーであれば問題ないけどな。
 特殊効果、防御力アップや何かへの耐性があるなどの装備アイテムの場合は、左右に一個ずつしかつけられないのだ。
 にもかかわらずこの指輪、能力的には装備アイテム……それもかなり上位のアイテム……といよりも……明らかに規格外のアイテムだ。
 そのうえ……装備したことにならないという特性までついている。
 つまりだ。
 この指輪は付けていても、他に左右に一個ずつ装備アイテムを突けることができるということだ。
 反則気味にも程があるアイテム。
 その内容もそうだ。
 正直俺にぴったりだとも思う。
 だからこそこれほどまでに強引に皆は俺に付けさせたんだろうけどな。
 この指輪の性能……。


     ――――――――――
     名 前:黒魔の指輪
     系 統:特殊装備
     性 能:全ての物理攻
         撃に対する耐
         性50%。
         体力向上。
     ――――――――――


 何ていうふざけた性能だ。
 物理攻撃に対する耐性。
 これがまず可笑しい。
 確かに……他の装備品にもそれらの効果を持つアイテムはある。
 ただこれの耐性の高さは異常だ。
 通常、攻撃に対して耐性があるとしても高いもので二十%位だ。
 それは物理攻撃、魔法攻撃関わらず変わらない。
 にもかかわらずこれの耐性は五十。
 すべての物理攻撃のダメージが半減するなんていうふざけたアイテムだ。
 その上に体力向上。
 詳しく調べてもらうと、どうやら使用者のVIT依存で変わるらしい。
 VITが上がればそれ相応に増え続けるということだ。
 それも可笑しい。
 普通この手のアイテムは最初から何%上がるとか、幾つ上がるとか固定で決まっているものだ。
 ステータス依存のアイテムなんぞ聞いた事がない。
 そんなおかしな性能を持つアイテムの上、装備品としてカウントされない。
 ふざけてるだろう?
 確かに……俺にとってこれはものすごく助かるさ。
 今まで低レベルモンスターの一撃すら下手したら瀕死のダメージを負っていたのだ。
 このアイテムがあれば恐らく一撃で瀕死は絶対になくなる。
 それの恩栄は素晴らしい。
 だからこそ……俺は受け取れなかった……だというのに。

  「付けました!」

 セルビアがその声を上げた瞬間俺の指にその指輪がはまっていたのだ……。
 その瞬間皆が皆良かった!
 といった表情をする……。
 本当に……本当に皆お人よしな奴ばかりだ!



[6872] 異世界混沌平凡譚 第八話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/27 20:36
     第八話~だから皆俺のために……って、はぁ……。~





 あの化け物みたいなモンスターを倒し一週間。
 漸く平凡な毎日が戻ってきたというのに、それをかき乱すかの如くまたあの野郎が現われやがった。
 そう、神をなのるあのむかつく野郎だ。
 いやまぁ……実際野郎なのか女郎なのか知らないんだけど……ゴロ的に野郎のほうが表現しやすいしね?
 とりあえず……その平凡を打ち砕く天からの声っつぅのがこんなのだ。
 思わずふざけんなって叫んじまったぜ。

  『今月の襲撃率に対する守護率の高い十の村や街を告げよう!』

 此処までは……此処まではまぁ前と同じだ。
 この神の野郎、あの天からの声をを落として以来、毎月毎月この日にしっかりとこの報告をやりやがる。
 ご丁寧に、時間まで計ってるとか、今聞いても馬鹿にしているとしか聞こえねぇよ。
 今回はそれに輪をかけてこの村に害を成すであろう天の声を落としやがった。
 本気で(マジ)でくたばれ神野郎!

  『今月の一番は何と最果ての地にある名も無き村であった!この村は冒険者がいないにもかかわらず常に上位にい、今回は何と魔王の、凶暴な配下であるモンスター一匹を村人のみで撃破したという素晴らしき村である。これの褒美に村には富と繁栄を与えよう!』

 なぁんて天の声がきたわけだぜ?
 一番になったことはまぁ……以前にも何回かある。
 この村未だに被害は何一つないからな。
 でもだ……そのときの声はこんな声じゃなかった!
 今回みたいに冒険者がいないとか、魔王の配下を村人だけで撃破したとか、富と繁栄を与えるとかんなのなかった。
 ってか……そんな声がもし全世界に聞こえてるとしたら……ってか聞こえてるだろう?
 なら……この村にまずその力を試そうとか考える馬鹿野郎どもが来る可能性がある。
 ……確かに……常識を知ってる馬鹿野郎どもならまだしも、常識知らずな馬鹿野郎共が来れば村の被害はどうなる?
 考えたくもねぇ。
 次にこの村に移住してくる奴が増えるだろう。
 それは悪くない。
 悪くないが……そいつらがこの村でどう行動するか……これが問題だ。
 すべての人間がこの村の人達みたいにいい人たちだと思うほど俺も馬鹿にはなってない。
 つまりだ、この一件で変な輩までこの村に住み着く可能性が増えた。
 今まではなんだかんだと上位にいながらも他の街や村のほうが規模もでかく、住みやすさも良かったからこの村までわざわざ来るやつはあまりいなかった(それでも物好きが数人移住してきたけどな?幸いにも普通のいい奴らだったのが救いだぜ。)が、今回この天の声によると不思議なことに俺たちが倒した化け物を倒したのは俺たちを含んで四つの街と村だけらしい。
 倒した街は常に一位か二位を占めているこの世界の中心の街。
 それに負けず劣らず菜大きな街の一つで村の制反対側に位置する街。
 この村と違い、村の名産品も聖霊の水という超素敵な回復アイテムが無尽蔵にとれ、観光地も色々と作られている比較的人気のある街。
 そしてこの村……確かに普通なら上記の三つの街を選ぶだろう。
 そりゃそうだ。
 この村みたいに自給自足の生活を出来る奴なんてめったにいない。
 でもだ。
 どの町にも上限人数というのは存在する。
 上記の三つの街は既にいっぱいいっぱいの筈だ。
 広げるにしてもその範囲にも限度がある。
 だが……この村ならどうだろう。
 見渡す限り平原が広がり広げようと思えばいくらでも広げられる。
 広場を中心とする村だが、その広さだけは結構あり、一軒一軒の家の間も結構な距離がある。
 建てようと思えばその間に一件に二件の家が建てられるほどの距離がな。
 それだけの情報も今回この天の声の神野郎全世界に話しやがった。
 欲にまみれた奴と、保身にまみれた奴らが必ず来るだろう……。
 最後に……この富と繁栄を約束しようとかほざいた事だ。
 本気でふざけるな!
 繁栄を約束されている村?
 人が来ないわけがない!
 その上富。
 この神の野郎あろうことか全世界に富を与えると宣言しやがった。
 今までなら褒美といっても与えられたのは動物たちであったり、ちょっとしたいいアイテムであったり、少しの間モンスターが寄ってこないといった感じのサービスであったりしたのに、今回のこの褒美は明らかに人がこの村に来るのを狙ったものだろう。
 本気で腹が立つ。
 間違いなく盗賊まがいの連中が増える。
 この村にある金をくすねようとする輩が必ず出てくる。
 村の中からじゃない、勿論外からだ。
 ……いや、ぶっちゃけ金を取られるだけならいい。
 それだけなら我慢もできる。
 問題はそういう輩は金と一緒に他のものまで持っていくだろう?
 若い女。
 金になりそうなアイテム。
 本気の常識知らずの馬鹿者共なら人を殺してでもそのアイテムを奪い取り、その女をかっさらうだろう。
 神にとっちゃゲームで、この村なんてその中の一つの小さな村であり、でかくなり人が増えればいいなぁ程度にしか考えていないんだろうが……この中で生きている俺たちにとっちゃそれほどまでに危険なものなんだってのに……畜生……。
 どうしようもできない俺が無性に腹が立つ。
 俺は……今の考えを伝えに村長とギルドの親父、他にも数名の村の人達を集めて話し合った。
 俺が考えた通りの事を他の皆も考えたらしい。
 だが流石人のいいこの村の皆だ。
 移住してくるなら皆受け入れよう。
 そう言って、お金は街に持って行ってもらって寄付しようという話が出たのだ。
 後……変に危険そうな輩が出てきたら今よりより一層警備団を強化して何とかするしかない……そういう話になった。
 思わず力が抜ける。
 皆が皆危機感を持っていない訳じゃない。
 レイスやギルドの親父は十二分にその危険性が解っている。
 その上でその結論を出すといったのだ。
 人がいいというよりも……この村の人達は本当に善人だ。
 いい人すぎる。
 長い間一緒にいて解っていたことだが……皆最初のころからその心の温かさが全く変わっていない。
 だから俺が……ここでいい人じゃなくなろう。
 もともといい人なんかじゃないんだ。
 ……正直このまま意見を通して、今まで通り何事もなかった日常を過ごしたい。
 嫌われるのは怖い……拒絶されるのは怖い。
 でもだ……それはできない。
 そんな事をすれば必ず近い将来後悔する日が訪れる。
 村の皆を傷つけられる、浚われる、最終的に殺されるという最悪を眼にする可能性すらある。
 そんな可能性がある以上、出来るだけの事をしてその可能性をつぶして置きたい。
 少しでも……たいして力になれないとしても少しだけでもその可能性を潰すことができるなら、例えこの村の人達に嫌われてでも俺はそれを実行しよう。
 そう決めた。
 だって……俺がこの世界に来て今まで世話になってきた村だ。
 どうしようもないほどお人よしの集まりで、どうしようもないほど暖かい人たちの村。
 そんな村を壊したくないのだ。
 だから俺はその意見に真っ向から意見をぶつけた。

  「いや、それじゃだめだ。厳しいと思うがこれから村に住みたいと思う者達には面接の上問題を起こした際に直ぐわかるよう、それ相応の目印を持たせるべきだ。お金も……これから人が増える以上村にあって困るものじゃない……全額寄付というのはやめたほうがいい。警備団の強化はこちらでも精いっぱい頑張るから、俺……セルビア達を信じてくれれば問題ない。」

 俺がそういうと驚いたように皆が俺を見る。
 その後、それは厳しすぎる。
 村に来る人を見て決める何てそんな!
 とかいろいろと意見があったのだが、それでも俺はかたくなにそれを崩さなかった。
 今まで警備団のリーダーをやっていたためこの村の中ではその辺を決める際、ある程度の力を持っている。
 嫌だな……こんなことにそんな風に力を振りかざすってのは。
 本気で自分自身が嫌になる……。
 そんな事を考えながらも反場無理やりにそういうやり方にすると決め、その話し合いは終わった。
 レイスやギルドの親父、村の人の俺を見る目が変わったかもしれない。
 眼を合わせるのが怖い……そんな臆病なチキン野郎な俺は逃げるようにその場を後にした。
 その後すぐに、警備団の人を集め村の入り口に小さな小屋を作る。
 人が三人入ればいっぱいいっぱいになってしまうくらいの小さな小屋。
 この小屋で一人一人面接をして村に移住をさせるかどうかを俺が決める。
 俺の勝手なわがまま……傲慢……エゴだ。
 本気で俺はなにさまだって罵りたくなる。
 ……そんなの全て終わってから……村の皆や住まわせなかった奴等から受ければいいことだ。
 今は……とりあえずこれから来るであろう……たくさんの人に備えて……休むとしよう。
 ……レイスの家に帰るのが怖い俺はこの小屋で寝泊まりするようになった。
 それから一週間……思った通り大量の人間が訪れた。
 プレイヤーだけじゃない、勿論この世界の人達も来ている。
 この世界の人達であれば大概簡単な面接をするだけで村へ受け入れる。
 基本的に……この世界の人間……裏に生きるものや、貴族関係、商人関係をのぞけば不思議なくらいに悪い奴が少ない。
 恐らく最初の設定でそうなっていたのだろう。
 そのまんま成長したって事なんだろうな。
 俺は……それから一カ月ほどをかけて村に移住してくる人たちの受け入れと拒否を続けた。
 ようやく落ち着いたころ……村の人数は最初のころの三倍近い人数に膨れ上がっている。
 恐らく……村に入った奴らの中でもおかしな奴らはいるだろう。
 俺自身全て完璧に見きれているなんて自信はない。
 だからこそ……問題を起こした奴は俺が何としてでも追い出して見せる。
 そう心に決め、改めて俺は村の中を見つめた。
 ……ああ……でも、出来ることなら皆に嫌われたくないなぁ……。





 俺はこれからどうしようと思って途方に暮れていると静かにレイスが俺のところまで歩いてきた。
 少しおびえながらレイスを見ると……とても怒ったように俺を見ている。
 やはり……嫌われたのか……。
 絶望に支配されそうになった俺に降りかかってきた言葉は……とても痛かった。
 ただ次の瞬間俺は力が抜けた。
 もしかしたら泣いていたかもしれない。

  「もぅ馬鹿!一か月も家に帰ってこないで心配させないで!毎日毎日……もう帰ってこないんじゃないかって不安だったんだよ!?その気持ちが解る?マサキはもう私の家族なんだよ!なにがあっても、どんなことをしても家族なんだよ……。だから突然家からいなくなったりしないでよ……。」

 そう言って泣かれた。
 泣かれたけど俺も泣いてたとおもう。
 だって……力が抜けて、どうしようもないほど力が入らなかったんだ。
 レイスの……その言葉だけで俺は……とても救われた気がした。
 その後……少し二人揃って恥ずかしそうに村の中に戻ると、今度はギルドの親父に怒られた。
 親父ももの凄く心配してくれていたらしい。
 その目を見ても、俺が心配させたことに怒っているだけで、嫌っている何て事はないと解った。
 村の皆もそうだ。
 此処一カ月俺は警備団の皆に頼んで食事とかを運んでもらい、なるべく村に近寄らなかった。
 それを村の民で心配してくれたという。
 俺が……あんな我儘で酷い提案をした上無理やり強硬したにも関わらず、それを知ってなお俺を受け入れてくれる。
 改めて……俺はこの村のためにこれからも……絶対になにがあっても頑張ろう……そう思った。





     視点、村長R。





 私は後悔していた。
 本当ならば私がしなくてはいけない事なのに、他の皆や、これから村に来る人に嫌われるのが怖くて言いだせなく、中途半端に終わらせようとしてしまった。
 それだけなら少し後悔して落ち込むだけで済んだかもしれない。
 でもそれだけじゃ終わらなかった。
 私がしなくちゃいけなかったことを私の代わりにマサキがしてくれたのだ。
 顔を見ればわかる。
 皆に嫌われるんじゃないか?
 拒否されたらどうしよう?
 そんなおびえた表情で真っ青な顔をして、それでも他の人がなにを言ってもその意見を覆さず決め切ったのだ。
 自分自身を殺してやりたくなった。
 その後マサキはふらふらと……誰とも視線を合わせずにその場所を去って行った……。

  「ったく……なにかあると本当に一人で背負いこみやがる……。って……押しつけちまった俺たちが言えた義理じゃねぇか……くそ!」

 ギルド長がそう言ってテーブルに拳をぶつける。
 私と思いは同じのようだ。
 眼が合うと……互いに視線を外してしまった。
 お互いに……あまりにも自分自身が情けなかったからだ。
 正直に言うと私はマサキが言った通りの事をしなければいけないと解っていた。
 解っていたけれでもできるかどうかは別問題だ。
 だって……間違ってしまったり、他の村の人達から変な視線を向けられるようになったら私には耐えられない……だから言いだせなかった。
 ギルド長だってきっと同じだろう。
 だからこうして私たちは自分自身にいらつきを持つ。
 その日は誰もが互いに話もせずその場所を去ることになった。
 マサキは行動が早かった。
 本気で……言ったことをやるつもりなのだ。
 昨日……マサキは帰ってこなかった。
 嫌われたのかもしれない……。
 いや、マサキのあの時の顔を見れば、私たちが嫌っていると誤解しているのかもしれない。
 そんなことはあり得ない。
 他の……世界中の皆がマサキを嫌い、敵と見ようと私は絶対にマサキを嫌うことはない。
 絶対にだ!
 それでも……マサキは一向に帰ってこなかった……。
 マサキとともにこの家で過ごすようになってから五十年以上がたっている。
 最初の二十年くらいはドキドキした。
 異性と一緒に暮らすということに……好きな人とともに暮らすということに。
 三十年を過ぎたあたりでそれが当たり前になってしまった。
 いて当たり前、いないとどうしようもなく不安になる存在。
 もう……私はマサキなしじゃきっと生きていけないくらい弱い人間になっているだろう。
 それでもそれに後悔はない。
 マサキがいなければだめならばマサキとずっと一緒にいればいい。
 私たちは家族だ。
 例え……夫婦という間柄になれずとも家族であれば常に一緒にいられる。
 ……出来れば……夫婦……という響きにも憧れは持つけど……。
 あの鈍感な人は後五十年はきっと気づかない。
 私たちには時間だけはある。
 気長に……気づくのを待つだけだ。
 私から告白するような勇気は微塵もない……だから……なるべく早く気付いてほしい。
 でも……今回そんな事を根底から覆すかもしれないのだ。
 マサキがとうとう一週間も帰ってこなかった。
 一応村の皆の前では普通にふるまっているけど……夜一人になってしまうとどうしようもない寂しさに襲われる。
 今までだって夜は部屋で一人でいることが大半だった。
 それでも……この家にマサキがいる……それだけで安心できていたのだ。
 今はそれがない。
 そのあまりにも心細くて、私は毎晩のようにマサキが帰ってくることを祈りながら、マサキの布団の上で涙を流した。
 最初にばれたのはギルド長だ。
 伊達に長い付き合いをしているわけじゃない。
 心配そうに大丈夫か?
 と尋ねられる。
 私が答える前に苦笑を洩らしつつすまねぇといって謝ってきた。
 私がそう聞かれれば必ず大丈夫だと答えると解っているからだろう。
 そんな……簡単なやり取りだけでも私の心は少しだけ軽くなった。
 だから私は聞いた。
 マサキのことが嫌いになったかどうかを。
 聞いた瞬間怒られた。
 此処まで起こったギルド長何て初めてかもしれない。
 ギルド長は……そんなわけねぇだろうが!?
 と、この村全員に聞こえるんじゃないかというほどの大きな声を出して怒った。
 その後……正気に戻ると少し顔を赤くしながらまた謝ってきた。
 それに……私は思わず笑ってしまった。
 だって……やっぱりギルド長もマサキの事が好きなのだ。
 あの、ステータスや力は弱いくせにどうしてか、いざという時に何とかしてくれる、そう感じさせてくれる彼が。
 私みたいに恋心を抱いているというのとは違う……違うと思う……ってかそうだとしたら大いに困る……けど、ないよね?
 私が笑っているとつられてギルド長も笑った。
 しばらく二人で笑っているとお礼を言われた。
 色々と吹っ切れたと。
 今までごちゃごちゃとめんどくせぇこと考えて動けなかったが、マサキが動いてるんだから、村の中では俺が動かなきゃな!
 と言って元気よく村の皆と話をしに行った。
 私はその後村の皆の様子をみるべく、街の中を歩き続ける。
 私を見かける村の人みんながみんなマサキは大丈夫なのか?
 と心配そうに聞いてくる。
 一緒に警備団の一人の青年も歩いていたのでその人が元気にしてますと答えると皆が皆、安心したように良かった……と言って、これを渡してほしいと色々なお菓子や食料をその青年に渡した。
 その光景に……私はどれだけ自分がこの村の事を馬鹿にしていたのかが解った。
 この村の皆は本当に凄い人達ばかりだ。
 マサキ……あなたも私と同じように誤解していると思うよ……けど、ほらこんなに……村の皆が皆全員があなたの事を心配しているよ。
 誰もあなたの事を嫌ってない。
 皆あなたの事が好きなんだ。
 だから……早く帰ってきてよ……。
 それから三週間……私はそろそろ限界かもしれないと……そう感じていた矢先に警備団の皆が帰ってきた。
 話によると村の入り口での受け入れと拒否の判別が全部終わったらしい。
 今まで……怖くて近寄れなかったけど行かなくてはいけない……。
 マサキはきっと自分からは帰ってこれない……私なら絶対にそうだから、そうだと思う。
 でも……。
 そんな風に悩んでいると、肩を押してくれたのは警備団の副リーダのセルビアだ。
 彼は、マサキさんはあなたが来てくれるのを待っていますよ?
 と言って私の肩を押してくれる。
 その一言を聞いた瞬間私は走った。
 考えていたんじゃない、ただ、マサキに会いたくて走ったのだ。
 そして……遠目からでも解る。
 マサキだ。
 彼は今……空を見上げて茫然としている。
 あの表情は……これからどうしたらいいんだろうといった表情だ。
 私は……そんな表情を見て思わず泣きそうになった。
 でも今はまだ泣かない。
 泣くんならマサキの腕の中で泣いてやるんだ。
 彼ならきっと酷く困るだろう。
 それでも……必ず受け止めてくれる。
 だから私は彼が気づくようにゆっくりと歩いていく。
 そして彼も私に気がついた。
 だから私は……彼に思いっきり怒った。
 八つあたりも交じってるけど、それでも怒った。
 いっぱいいっぱい怒った後やっぱり私は泣いてしまった。
 マサキの腕の中で大声をあげて泣いた。
 上からマサキが泣いてるのも解った。
 私たちは……漸く仲直りができたのだ……。
 その後……二人で仲良く手をつないで村まで戻った。
 皆心配していたようで村の中ではお祭りみたいな騒ぎでマサキを皆迎えてくれた。
 マサキは驚いたようだけどものすごく嬉しそうに笑って、そして皆にこう言った。

  「ありがとう!」





 一つだけこのときの展開で問題があったとすればマサキが私の事を本気の本気で「家族」としか見るようになってしまったことだ。
 今までは多少なりとも私を女性として見ていてくれた部分があった。
 それなのに……あれ以来彼は私の事を妹のように扱ってくる。
 何故妹!?
 普通姉とかそんなんじゃないのかと……見当違いの事に現実逃避しても仕方がない。
 問題点は彼が私を異性としてだんだん認識しなくなっていくんじゃないかということだ。
 大いに困った……。
 ああ……本当にこの鈍感な彼……どうしてやろうか……。
 いっそのこと裸で突っ込んでみようか……?
 ……だ、だめだ!
 想像しただけで倒れそうになる!
 はぁ……彼と夫婦になる……その難易度がさらに上がった気がした出来事でした……。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第九話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/27 20:34
     第九話~謎は解けた……さて……どうしよう?~





 恐らくこの話が聴けたのは新しい村人が増えたからだろう。
 良いことだったのか良くないことだったのか判断に困るけどな……。

  「そういえば、マサキさん無職って聞いたんですけど……転職ってしないんですか?」

 この、新しく住むことになった村人の一声からその話は広がっていった。

  「転職?ってなんだそれ?そんな事可能なのか?」

 始終はてなマーク乱舞の俺。
 正直……かなり期待したね。
 漸く無職とおさらばか!?
 とね。

  「えっ?……あっ!い、いいえ、勘違いでした!何でもありません!」

 俺が不思議そうに聞くとその村人は逃げるように走り去って行った。
 俺の後ろのセルビアがひどく緊張したようなため息をついたので、何か知ってるのかと思い尋ねてみるが……。

  「し、知らないですよ。あはは、転職だなんてそうそう出来る事だと思います?」

 どもりながらもごまかすように話をしてくるセルビア。
 明らかに怪しい。
 とてつもなく怪しい。
 一度気になってしまうと駄目だな。
 知りたくて知りたくてしょうがなくなっちまった。

  「ほぅ……ならば、お前さんのステータス見せてくれないか?問題ないよな?ステータスの数値も名前も解ってるんだからさ……ただ見たいのは『職業』の所だけなんだ。」

 俺がそういうとセルビアは決して熱いわけでもないというのに汗を流しながら後ずさる。

  「えっ?い、いやですね……少し今調子が悪いようで……自分でも確認できないんですよ!」

 セルビアよ……お前さん本当に嘘ってもんがつけないんだな……。
 見てるこっちが哀れになってくる……が、今は好都合。
 悪いが逃がすつもりはないぜ?
 俺は後ずさるセルビアの肩をがっしりつかみ、説得を試みた。
 『説得』をな。

  「はぁ……いや、悪かったな……無理言っちまって……。お前と俺も結構長いだろう?だからさ、それくらい聞いてもいいかなぁと思ったんだが……ずうずうしかったな。悪い……。嫌だよな……俺みたいなやつに自分のステータス見せるなんて……。基本的に信用してる奴にしかステータスって見せれるものじゃないって事……解ってたつもりだったんだが……少し勘違いしてた……気にしないでくれ……。今言ったことは忘れてくれ……。」

 というような、『説得』を数十分ほどセルビアの肩を『軽く』指が多少方にのめり込むように抱きながら続けた。
 俺が話すごとに『説得』の効果が表れるのがよくわかる。
 最後のほうはもう、今にも泣きそうな表情で「勘弁してください……わかりましたっ!?」と自棄っぽく叫んで見せてくれることになった。
 やっぱり誠心誠意溢れる『説得』を試みれば解ってくれるものだね?
 ただ……どうしてそれほどまでに拒んでいたのか……予想はしていたものの見た瞬間軽く……いや、ごめん。
 本当のこと言うとかなりショックを受けた。

  『セルビア 職業:精霊弓使い ランク3 レベル:88』

 いやね?
 名前とレベルは知ってたよ。
 職業がさ……村人から変わっているんじゃないかと、予想はした。
 さっきも言った通り予想はしたんだ。
 ……はぁ。
 俺はセルビアにどういうことなのか聞こうとしたんだが……俺が顔を上げた瞬間セルビアは逃げるようにこの場を去って行った。
 ……おいおい、そこまでみせて逃げるかよ……。
 俺は仕方なくギルドの親父のところに行くことにしたんだが、タイミングがいいというのかね?
 ちょうどそこにはレイスもいた。
 だから俺は二人の職業の事に関して……転職の事に関して尋ねてみたんだが……。

  「あはは、何言ってるの?転職なんて出来るわけないじゃないの。」

  「そうだぜ?職ってのは最初から基本的に決まってるもんなんだからな。まぁ……マサキの無職ってのはきっと……そのうち何か変更がかかるって……きっと……。」

 流石にセルビアと違ってサラっと本音を隠して何でもないことかのように言う。
 唯……実際転職したことを示す証拠を先ほど見てしまった以上、唯の道化にしかみえないがな。

  「へぇ……そうなんだ。ああそう言えばさ、ついさっきちょっと『偶然』にも『村人』から『精霊弓使い』っていう職業に転職した奴見たんだけどさー?」

 と俺がワザとらしくふざけたようにそう言うと『ギクッ!』という擬音が聞こえそうなほどレイスとギルドの親父の表情がこわばった。
 ヒット。
 やっぱりこの二人も知ってるわけだな。
 まぁ知らないわけがないか。
 さぁて……きりきり話してもらいますかね。

  「ということで、説明どうぞ。」

 俺がそういうと、レイスとギルドの親父は困ったように顔を見合わせて、ため息をついて説明始めた。
 ……なるほどね。
 だからか。
 うん、セルビア逃げたくなるのもわかるよ。
 そんな話俺にしたいわけないよな?
 AHAHAHAHA☆
 はい、此処で聞いた説明を簡単に言うと……。
 転職するためには最低限のステータス値が必要なんだってよ。
 その上……転職ができるのは『村人』からか、『冒険者』からのみなんだってさー。
 AHHAHHAHHA♪
 つまり、『無職』の俺からは転職が不可能だと言われたも同然な訳だ。
 不可能かどうかは解らないが、基本転職の『剣士』『弓使い』『盗賊』『魔法使い』『商人』には転職できないと、わざわざ確認してくれていたらしい。
 出来るということならきっと教えてくれてたんだろうけどな。
 その上……転職できたとしても……俺ならいつになったらその転職に可能なステータスを満たすことができたか解らないという問題点もあった。
 だってさ、例えば『剣士』の最低限のステータス値ってのがこれだ。


     ――――――――――
     STR:25
     VIT:20
     AGI:20
     DEX:20
     INT:15
     ――――――――――


 いや、普通の人達にとっちゃ決して高くないと思うけどさ、俺にとっちゃかなり高すぎる。
 今の俺のステータス色々あって、頑張ったりもして前より上がってはいるものの……。


     ――――――――――
     名 前:岩崎 雅樹
     職 業:無職
     レベル:1
     STR:17.1
     VIT:15.3
     AGI:14.2
     DEX:14.5
     INT:18
     ――――――――――


 確かに……昔と比べると飛躍的にあがってるさ。
 唯……此処まで来るのに五十年……五十年です。
 警備団結成して以来五十年かけてこのステータス。
 そして……ステータスは上がれば上がるほどなおさら上昇がしずらくなるという特性ももっている。
 つまりだ……これだけに五十年もかけているのにさっきの必要ステータスを満たすためにはどれだけの時間が必要になるんだか……想像しずらい。
 でもまぁ……それでもだ。
 少しずつでも上がる以上転職ができるという望みがあれば……少しは希望もあったんだが……俺の無職からは転職自体が出来ないかもしれないと……。
 レイスと、ギルドの親父が言うには、この基本職以外に特殊職ってのがあって、どうやってなるんだか解らないけど、その分俺でもなれる可能性がある!
 そう言って励ましてくれました。
 ただね……条件不明、職名も不明……。
 正直本当にあるのか疑わしいね?
 はぁ……。
 だからこそ皆して俺に職業に関しては秘密にしてたのかぁ……。
 好奇心は猫をも殺す……良く言ったもんだね。
 とりあえず……いつか、いつの日か……俺が転職できる職業が現われると信じて……頑張ろう……はぁ……。





      視点、精霊弓使いS





 この新しく住むことになった人は一体、何て爆弾を残して行ってくれたんだ!?
 今まで……この長い間隠し続け、ごまかし続けたというのにさらっとその『禁句』をいってしまうんだ!
 『転職』この村では……ある日を境にこの言葉が暗黙の了解で禁句扱いになった。
 勿論とある人に自分のステータスを見せるのもだ。
 ステータスでもSTRとかレベルを教えるのは別にいい、職業に関してだけは知られてはいけないからそういうことになった。
 その境となった日はと、とある人……これは誰もが知ってると思うけどマサキさんであり、そのマサキさんがギルドに登録した日以来だ。
 職業無職……正直こんな職業聞いたことすらなかった。
 その上あのステータスだ。
 転職という道があるのはこの世界の住人であれば当たり前に知れ渡っていることだが、恐らくマサキさんは知らない。
 転職という道があってもマサキさんが転職できるほどのステータスがいつになったら溜まるのかも解らない。
 何より……だ。
 マサキさんが普通の職業には転職できないと……解ってしまったのだ。
 そんなことから村全体の禁句となったのだが……ああ……あいつめ……その禁句という名の爆弾をそのまま放りこんで逃げた。
 僕にどうしろというんだ!?
 僕はマサキさんにこのことを話す勇気はないぞ!
 等とパニックになっているうちにマサキさんは案の定僕に転職について聞いてきた。
 そりゃそうだよね、今この場に僕しかいないんだし。
 でも……今のマサキさんに教えるわけにはいかない。
 だから……その心の奥底からあふれ出れるような恐怖心を湧きたてるその笑顔は勘弁してください……。
 等という僕の願いが聞き入れられるわけもなく、何とかごまかそうとする僕の肩に腕を回して逃げられなくすると、突然俯いて酷い『泣き落とし』をしてきた。
 むしろこれはもう『脅迫』に近いかもしれない……っていうよりも僕にとって『脅迫』以外の何物でもない。
 マサキさんは僕に本当は信用してなかったんだな……今まで信じていたのに……みたいなことを本当に切なそうに……悲しそうに話しかけてくるのだ。
 僕に限ってそんなことがある訳がない!
 だからこそ……そんな事がないと言ってしまえば……全てがばれてしまう……。
 どうすればいいの僕は!?
 等と頑張って耐え続けたんだけど……すいません。
 限界です。
 もう無理です!
 勘弁してください!?
 僕は自棄になってそう叫びながらステータスをマサキさんに見せた……。
 見せてしまった……。
 一瞬にして正気に戻った僕は、マサキさんが俯いてるのを確認してやってしまった!
 と思った。
 思った瞬間逃げ出していた。
 後ろからマサキさんが何か声をかけてきた気がしたけど、聞こえないことにして逃げた。
 その後……マサキさんはギルド長のところに行ったらしく、タイミング悪く村長もいたという。
 僕は……その後その二人から怒りの言葉を大量に浴びせられた。
 半分以上八つあたりもまじっているのはよくわかった。
 何で私があんな事言わなきゃいけなかったのよ!?
 みたいなことを二人から言われたけど……立場が弱い僕にはすいません……と謝ることしかできなかった。
 ああ……僕ってひょっとして……こんな役回りの立場なんだろうか?
 …………。
 思わずそんな事を思ってしまったが次の瞬間周りを気にする余裕もなく、大声で否定した。
 そんなことあって言い訳がない!
 そんなことあって言い訳がない!
 …………そんなことないですよね?
 そこはかとなく……嫌な予感を胸に残し、爆弾を放置して逃げた村人をどうしてやろうかと思いながら……とぼとぼと家に戻った……。
 本当にお願いします……。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第十話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/28 04:17
     第十話~落ち込み、へたれ……絶望したけど俺はまだ生きている!~





 色々と……あれから、色々とあった……。
 俺は……転職ができない……。
 そう解ってから二十年。
 立ち直るのにこれだけかかった。
 正直周りの皆に申し訳なかった二十年だ。
 この二十年、俺は一応警備団のリーダーとして今まで通り村を守り続けた。
 だが、その間の俺はきっと殆ど役に立っていなかったと思う。
 ほとんどを副リーダーのセルビアが請負い、俺はただひたすら攻めてきたモンスターと戦うだけ。
 半端自棄になったような戦い方だったと自分自身解るくらい、本当に危ない戦い方をしていた……。
 何度村の皆に心配されて怒られたか解らない。
 そして夜になれば酒を飲んで、嫌なことを忘れてしまおうと思った。
 時折……限度を超えて倒れてしまったりしたこともある、そのたびにレイスは怒りながらも決して見捨てずに俺を迎えに来てくれた。
 そんな事をしながら……村の皆やギルドの親父、何よりも何時もそばにいてくれたレイスが俺を何度も何度も励まし、立ち直らせようとしてくれたからこそ、少しずつ俺は立ち直り、今新たに目標を決めて頑張ろうという気持ちを持つことができる。
 本当に情けない限りだ。
 本当に……この村の皆は良い人ばかりだ。
 俺はこの皆の気持ちにこたえたい。
 例え無職のままであっても、他の人より全然弱くたってそれでもこの村を精いっぱい、この命尽きるまで守って見せる。
 ……村も……大切な人も……だ。
 正直……なんだかんだと言っても立ち直れたのはレイスのおかげ……だと思う。
 勿論村の皆の温かい気持ちのおかげもあるが、それでも俺にとって立ち直れた本当の一番の理由はレイスだ。
 彼女は俺にとって家族。
 それも妹に近い感情を抱いていた……抱いていたはずだった。
 だけど……この二十年の間、俺を支え続け、元気づけ続けてくれた彼女を見る目が変わっていることに気づいたのは五年前。
 悩んだ。
 気のせいだとごまかそうともした。
 出来なかった……。
 ただ、それでも長い間家族だと思い過ごしてきた相手に、突然違う感情を持ってしまったとしても、それを表面に出してしまう事だけは何とか我慢した。
 この……居場所をなくすことが怖かったからだ。
 でも、このままじゃいけない……そう考えた。
 だから俺はある目標を立てることにした。
 その目標を達成した時、俺は彼女にこの気持ちを伝えよう。
 例え彼女にその気持ちがなかったとして……この、関係が壊れるとしても伝えると決めた。
 俺は弱い人間だから、こうした目標を決めてふんぎりをきめなければ先に進めない。
 情けないけどな。
 だからこそ……俺は今、こんなところで腐っているわけにはいかないのだ。
 そう思えるようになるのにかかったのが五年。
 短いというべきか、長いというべきかよくわからない。
 だから……頑張ろう。
 俺の……この気持ちを彼女に伝えられるように……村の皆を守れるように、そのために今は只々頑張ろう。
 俺の目標……それは……。





 そんな事を考えていたのも、もう十年も前になるんだなぁと考えながら、俺は今レイスの入れてくれたお茶を飲みながらのほほんと、休日の一日を楽しく過ごしていた。
 その気持ちは今も変わらず、これからも変わらないだろう。
 だから今は家族という関係を心から楽しみ、彼女とともにいよう。
 そんな穏やかな日を過ごしていたというのに、問題は起こるものだ。

  「ま、マサキさん!盗賊です!」

 と、突然警備団の一人が慌てるように家に飛び込んできた。
 はぁ……またか。
 ここ最近よく出るなぁと思いながら俺は椅子を立った。

  「休みなのに……でもしょうがないよね。だから、怪我だけはしないように……絶対に怪我とか無茶だけはしないようにして、頑張ってきてね。」

 レイスはそう言って俺に剣を手渡し、肩にマントをかけてくれる。
 とても自然にこんなことができるようになっているが、最初のころはこれでも緊張したもんだ。
 何度も何度もギルドの親父や村の皆にからかわれたこともある……これもまた良い思い出だ。
 って……おいおい、この感じいかにも死亡フラグ立ってますよ?
 みたいな雰囲気じゃないか。
 ……まさかだよな?
 いやいや……油断はできないけど……そんなフラグ立ててないよな?
 気のせいだと思おう……でも、注意だけはしておくか。
 俺はそんな事を考えながら、迎えに来た警備団の一人と急いで村の入り口に向かった。
 俺がついた時にはセルビアが指揮をとり、襲ってきた盗賊たちを相手にしていた。
 もう、流石としか言えないね。
 彼がリーダーでいいじゃね?
 そんな事を考えながらも、前線に立ち指揮系統を譲り受ける。
 俺が来たことによって陣形が変わることはない。
 んなことを戦闘中に出来るかって話だ。
 いや、これがモンスターとの戦いで、これほどまでの混戦じゃなければ出来ることはできるが、間違ってこんな混戦の時に、この大人数を陣形変えてみろ……火を見るより結果は明らかだろう。
 慣れている、なれていない関係ないぞそればっかりは。
 今の陣形は普段からよく使っている二人ひと組の前衛と三人ひと組の後衛になり、ばらけず、いざというとき、余裕ができた時に直ぐ他のメンバーの手助けが互いに出来るような配置になっている。
 これも長年戦い続けたからこその陣形だ。
 絶対の自信……そんなものはないが、この陣形に信頼を置いているのは間違いない。
 その結果を示すように、襲ってきた盗賊たちは俺たちより十人近くは多かったであろうはずが、今は既にもう半数以下に減っている。
 多少の怪我はあるもののこちらのメンバーは誰ひとり戦線離脱している奴はいない。
 戦闘経験の差が違うのだよ?
 伊達に長い間村を守り続けて戦い続けてるわけじゃねぇんだよ。
 そうして、俺が来てから三十分もしないうちに盗賊たちの討伐は終わった。

  「ふぅ、マサキさん、わざわざすいません。もしかしたらということを考えて呼ばせていただきました。」

 セルビアはそう言って弓をしまいながら俺に謝ってくる。
 でも、この決まり事を決めたのは俺なんだから謝られるのはおかしくないか?
 そう思いながら苦笑を洩らす。
 もうセルビアのこれは癖みたいなものだろう。

  「何時も言ってるが俺が決めたことなんだから気にするなよ。俺が逆の立場でもそうするんだからさ。」

 俺が決めた決まり。
 モンスターの場合は余程のことがない限りその場に待機しているメンバーで対応する。
 だが、いざ人との戦闘になるのであれば、下手をすれば奇襲、入り口からだけではなく違う場所から侵入して攻撃してくる場合もある。
 だからこそ、メンバー全員を招集し、俺とセルビアは先頭に立ち村の入り口で。
 いくつかに分けた班を村の各場所に配置していざという時に直ぐ動けるように、助けられるようにしてある。
 そうするのだからどうしてもこの村の入り口のメンバーは少なくなる……よって、非番の者も強制的に参加する事……そう決めたのだ。
 本当に……この村が皆好きなんだろうな……誰一人文句を言う奴がいなかった。
 そんな事を話しながら俺はセルビアと別れ家に戻る。
 家にはレイスが甘いお菓子と飲み物を用意しておいてくれた。

  「お疲れ様。いつもありがとうね、これ用意しておいたんだ、食べて頂戴な。」

 そう言ってほほ笑むのだ。
 昔ならそれを見ても本当に良い娘だなぁ……程度だったのだが、最近だと本当に困る。
 綺麗だなぁと思ってしまう。
 見惚れてしまう。
 そんな事をごまかすように俺はマントをレイスに手渡し椅子に座り、そのお菓子を口にする。
 いつもの味。
 俺が好きな味……マントをしまったレイスは、向かいの椅子に座り俺と一緒にそのお菓子をつまむ。
 幸せな時間……俺はこうして休日の一日を楽しんでいるのだ。





      視点、村長R





 マサキは職業の事をを聞いてから、表面上は無理をして何でもないようにふるまっていたけど……誰がどう見ても落ち込んでいるのが解る。
 だって、今まで毎日こんなつぶれるまでお酒を飲むことなんてなかったし、こんな怪我ばかりして帰ってくることだってなかったからだ。
 最近の彼は酷く戦い方が危ないらしい。
 今までは、決して無理をせず仲間と協力しながら殆ど無傷で皆帰ってきていたというのに、最近は皆無傷にもかかわらず彼だけは何時も傷だらけ。
 セルビアに詰め寄ってどういうことか!
 と何度どなりこみに行ったか解らない……少々恥ずかしい。
 今……私にできることは彼のそばにいることだけだ。
 決して離れず、ずっとそばにいる事。
 ずっとといったってそりゃ二十四時間ずっとっていう意味じゃない。
 マサキが警備団として頑張っている間は一緒にいることができないのだから、それ以外の時間、私は出来うる限り彼とともにいるようにしていたのだ。
 このように酔いつぶれて運ぶのも私の仕事……と、言いたいいんだけど、流石に青年男子を一人運べるだけの力なんて私にはない。
 だからいつもセルビアが私の代わりにマサキを家まで運んでくれた。
 そのことには……嫉妬を覚える。
 え?
 普通感謝じゃないのかって?
 うん、普通はそうなんだけど……何でだろう、どうしてかセルビアだとそういう感情があるにはあるけどそれ以上に、何か起こりたくなる雰囲気とでもいうんだろうか、そう思ってしまうのだ。
 何度か……そんな事を話すと、やっぱりそうなのか!?
 等と奇声をあげていたことから……かわいそうな子なのかもしれない。
 今はそんなことどうでもいいわね。
 私は横になったマサキの横顔を見つつ、布団をかぶせる。
 少し汚れてしまっている所を水を含んだ布で軽くこすり、その汚れを落とす。
 なんだか……こうしていられるだけで幸せだ。
 これでマサキが元気であればどれだけ良いんだろう。
 だから……私は彼が元気になってくれるように、代わりに元気いっぱいで彼のそばにいよう……そう思ったんだ。
 何かがおかしい……そう思ったのはそれから十六年ぐらいたってからだ。
 少し前から何か違和感というか、今までと違った感じでマサキが私に接しているような気がしていた。
 最近になると……本当にその違和感が強くなってきている。
 気のせい……というには流石に無理があるかな……?
 今日だって夜、マサキがどうしてるか少し心配だったので部屋を訪ねると、ものすごく慌てたように部屋に入るのを止めようとする。
 逆に私の部屋に入ってくることもなくなっている。
 ……もしかして私の事を意識してくれてるの?
 なぁんて夢を見てみたいけど、彼が私の事を家族としてしか見ていないというのはあれ以来解っている。
 そんなもしかしたらという淡い夢を見つつも、反場諦めながらそんな彼を不思議に思い、そのまましばらくたった。
 やっぱり気のせいだったんだね……。
 少しがっかりしながら元に戻ったマサキを見つめる。
 元に戻った……そう、二十年前……落ち込む前のマサキに戻ったのだ。
 どうやって乗り越えたんだろう?
 私にはわからない、ここ最近のおかしな私に対する態度もすっかりと治ってしまった。
 期待したんだけどなぁ……少しは。
 はぁ……。
 でも……元気になってくれてよかったな。
 何か前より少し……元に戻ったと思ったんだけどマサキは私に対して優しくなった気がする。
 本当になんとなくなんだけどね……。
 それに何ていうか……日常でのやり取りが前まで少しぎくしゃくする場面が何度かあったのに、今だとそれが本当にスムーズになった。
 長い時間をかけたから慣れたといわれてしまえばそれまでなんだけど……。
 そんな少し変化があったようななかったような彼を見つめながら、私は今日もまた、彼のために食事を作る。
 今日のマサキはお仕事で帰ってくるのは少し遅くなる。
 だから……疲れて帰ってきたマサキが元気になるように、前みたいに落ち込まないように、私は私にできることを今、頑張ろう。





 にしてもあの鈍感な彼は……何時になったら私の気持ちに気づくんだろう?
 全く……少しくらいは気づきなさいよね!



[6872] 異世界混沌平凡譚 第十一話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/28 14:23
     第十一話~本気(マジ)で?転職できるっていうの本当かっ!?~





 俺が立ち直ることができてからもう、早いことに二十年……。
 今日も今日とていつもと変わらぬ、多少危険はあるがほのぼのとした平和な毎日を送っていた。
 そんな日常のさなか、まさかあんな期待感あふれる情報が流れてくるとは微塵も思っていなかったぜ。
 その日俺は休日を満喫すべく広場へ買い物に来ていた。
 久しぶりにこの村に商人が来たからだ。
 いつもと違う品物が手に入る……もしかしたらレイスにプレゼント出来るようなものもあるかもしれない……そんな事をちらっと考えながらそこを覗いていたんだが……少々聞き逃せない話をしているではないか。
 誰がって……勿論この村に来た商人達がだ。
 当たり前の事だが、商人が来たと言ったが、正確にいえば商人たちが来ただ。
 この危険な森を抜けなければこれない村に、ただ一人で来れるような商人はなかなかいない。
 今回訪れたのは総勢十五名ほどの商人たち。
 商品も様々で、見ているだけでも楽しめる。
 だが俺は、そんな商品なんかよりも商人たちの話している内容に耳が釘付けになった。
 その内容とは……。

  「そういえば、お聞きになりましたかな?とうとう特殊職実装されるらしいですよ。今すぐというわけではないようですが、来月あたりに実装にされるみたいですね。いやはや楽しみなんですが……転職内容が未定っていうのは……どういうことなんでしょうね?」

  「おお!私もそれは聞きました。本当に楽しみですね。本当に……そこが問題ですね。転職内容……ステータスは一切関係ないと聞いているので余程厳しい条件があるんでしょう……。私では到底達成できないような厳しい条件が……。」

  「そうですね……。きっとそうなんでしょう。私にも恐らく無理な厳しいものになると思います……それでもやはり、憧れてしまいますね。」

  「本当に……。何時の日かそういった特殊職になれる日が来ると信じて頑張りましょう。幸い……職業に関してはどんな職業からでも転職可能だと聞いておりますからね。気長に頑張ると致しますか。」

  「それは頑張ってください。私は憧れるだけで十分です。それほどの気力はありませんので頑張るのであれば精一杯応援させていただきますよ。」

 といった話が聞こえてきたわけだ……。
 もうさ……何ていうか……キタコレ?
 めっさ……気分が高ぶってますよ。
 凄いですよ今の俺……すげぇ気分が高まってる。
 ステータスが関係なく、どんな職業からも転職可能。
 それなら俺にだって転職ができるかもしれない!
 うおぉぉぉぉ!
 本気(マジ)キタコレ!
 もう……商品をのんびりと見ている余裕なんてないね。
 条件がどんだけ厳しくても……俺にとって転職ができる唯一の方法であればがんばってやろうじゃねぇか。
 絶対に転職して見せる!
 脱無職!
 等と気分が高揚していたのだが……一通り騒いだ後フッととてつもなく嫌な予想が思い浮かんだ。
 ……デマじゃねぇよな……?
 いやいや……此処まで期待させといてデマとか言ったら本気(マジ)許せないよ?
 勝手に信じてはしゃいだの俺だけど……。
 何か……そんなことが思い浮かぶと一気に興奮した気持ちが消沈しちまった……。
 ああ、お願いだから希望を持たせたあとに落とすのだけは許してください……。
 気分が少し落ちた状態で、改めて商人たちの露店を見て回ることにした。
 少し気分が楽になってきた。
 やっぱり見慣れないいろんな物を見ているとそれだけで楽しくなるからなぁ。
 等と三十分ほど色々と見まわしていると一つの露店に綺麗なネックレスが一つ置いてあった。
 綺麗といっても豪華でもなければ、細工がこっているというわけじゃない。
 銀色のチェーンに小さな半透明の水色の宝石が付いているだけのネックレス。
 どうしてか解らないが……俺にはこれがとても綺麗に見えた。
 どうしてか解らない……と言ったが、正直恥ずかしいだけで本当は解ってるさ。
 レイスが付けてるところを思い浮かべただけ……唯それだけだ。
 彼女は余りそういう細工品に興味がないらしく、殆ど身につけているのを見たことがない。
 俺も正直ごちゃごちゃと大量に見せびらかすように付けているのは好きじゃない。
 それでも少しは付けてもいいんじゃないかと、俺が思うくらいにレイスはそう言った類のものを付けているのを見たことがない。
 そして今俺はこのネックレスを見た瞬間、何故かこれは彼女にとても似合うんじゃないかと思ったのだ。
 その結果付けてる姿を思い浮かべて……となったのだが……正直考えてるだけでも恥ずかしい。
 俺はきょろきょろと周りを見回し、誰も見ていないことを確認してこっそりとそのネックレスを買った。
 俺が恥ずかしそうに買ってるのをどこか微笑ましそうに見ていた商人が、「サービスだよ、頑張りな!」と言ってもう一つ良いものをくれた。
 ネックレスについてる綺麗な半透明の宝石と同じ、半透明な水色の髪飾り。
 大きなものじゃない、物としてその宝石と違うのも解るが、本当によく似た半透明な水色の小さな葉っぱの形の髪飾り。
 俺は素直に礼を言ってそれを受け取ると、誰かに見つかる前にその場をそそくさと逃げ出した。
 急ぎ足で家まで帰ると、少し息を切らしている俺を不思議そうにレイスは見つめ、いつもと同じように「おかえりなさい。」と言って迎えてくれる。
 俺は……そのまま何も言わないで、レイスに今買ってきたネックレスと髪飾りを渡した。
 不思議そうにして、プレゼントだと気づいていないらしいレイスに、俺はとても小さな声で……。

  「ぷ、プレゼント……受け取ってもらえると嬉しい。」

 といった。
 とてつもなく恥ずかしい!
 今まで……そういえばこうしてプレゼントなどしたことなんてなかった。
 思いつきもしなかった……どんだけ俺馬鹿なんだ?
 いやさ、確かにこういった物じゃないものはあげたりしたこともあったが……厳密に言うとやはりプレゼントと呼べないような物だったし、初めてのプレゼントといっても可笑しくない。
 酷く驚いたように俺を見て、そのプレゼントを見ているレイス。
 あまり気に入らなかったのだろうか?
 少し不安になった次の瞬間、俺が送ったネックレスと髪飾りを身につけてくれた。
 やっぱり……よく似合う。
 飛躍的に変わった訳じゃない。
 ただ、時折そのネックレスの宝石と、髪飾りに日の光が反射したりする瞬間、思わず見惚れてしまうほど綺麗なんだ。
 これが俗に言う惚れた弱みってやつなのか。
 案外……悪い気分じゃないな。
 そんな事を考えて改めてレイスを見ると、今まで見たことがないというほどの笑顔でそのネックレスと髪飾りをいじっている。
 うん、やっぱりなんだかんだ言ってもレイスもそういうの好きなんだな。
 喜んでもらえてよかった。
 俺がほっとしていると、レイスは「少し出かけてくるね!」と言って家を飛び出して行った。
 珍しい。
 あそこまで元気よく家を出ていくレイスなんてあまり見たことがないからな。
 何をしに行ったのかは解らなかったが三時間ほどして、ほほをうっすらと赤く染めたレイスは、多少息切れをしながら帰ってきた。
 その日以来、レイスはずっとそのネックレスと髪飾りを毎日身に付けてくれるようになった。
 自分が送ったものを気に入ってもらえるのは本当に嬉しいな。
 いつかは……俺が送ったものだから嬉しいと言ってもらえるようになれたら……良いんだけど……。
 そのためにはまず、俺が頑張らないとな。
 決めた目標をしっかりと達成させてからだな、まずは。
 さて……精一杯頑張ろう!





      視点、ギルドの長





 その日商人たちが来てにぎわっている村を、少し離れたこのギルドの中から見ていた俺は、こんな日も悪くねぇなぁと思いつつ手元の書類を整理していく。
 依頼書の類を貯めちまうと、色々と厄介なことが起こるからな。
 来た以上は直ぐに整理して対処していかねぇといけねぇ。
 実にめんどくさいが、この村のためになっていると実感できる、嬉しい時間でもある。
 矛盾しているが……まぁ人間なんてこんなもんだろうさ。
 等と広場と書類を交互に見ながらのんびりとしていると、少し慌てたように小走りで広場から家のほうに向かうマサキが見えた。
 ありゃなんだ?
 まぁ……気にするまでのことでもないか。
 俺はそう考えてまたのんびりとその場で書類と戦いつつ広場を見つめる。
 そんな事を三十分程続けていると、入り口から凄い勢いで村長が入ってきた。
 何事かと思ったら、いきなり……。

  「ねぇねぇ!これどう?これどう思う!?マサキがね、マサキがくれたんだよ!プレゼントだって!受け取ってもらえると嬉しいとか言われちゃったよ!すっごい嬉しい、綺麗だよね!」

 正直……勢いよすぎてひいちまった。
 だが、落ち着いて彼女の話を聞きなおしてみるとなるほどなと思わないでもない。
 あの朴念仁の鈍感野郎、今までプレゼントの一つも贈ったことがない。
 それはこの村のものであればだれでも知っている。
 何よりこの村でプレゼント出来そうなものというものが何もない。
 こうして時折来る商人たちの品物に時々混じっているだけだ。
 それも……大概はマサキが見つける前に他の皆が買いあさっちまう。
 何より此処まで来る商人がその系統のアイテムを大量に持ってくるなんてことは殆どないのだ。
 この村に持ってくるアイテムは消耗品の類か装備品の類。
 そのほかに食料品と金具や木材といった材料類ぐらいだ。
 実際……アクセサリーなどはこの世界じゃ殆ど金にならん。
 物に特殊効果がついてるものなら話は別だが、この世界宝石類の類は何処に行ってもとれるのだ。
 例えば草原であっても場所が場所ならば土を掘ればごろごろ出てくる。
 鉱山とかに行けばそれこそトロッコ一杯所の話じゃない。
 そしてその宝石は多種多様な種類がある。
 だが、取れすぎる宝石に価値が出るわけもなく、とても安価で取引される。
 そんな中で時折、特殊効果付きの宝石が出ることがある。
 これが高いのだが……今は関係ないな。
 村長が付けているネックレスについてる宝石は恐らく『水の恵み』だろう。
 髪飾りのほうは『水樹の鱗』だろうな。
 どちらもこの周辺じゃ全然取れないものだが、大きな街に行けばアクセサリー屋には必ずあるものだ。
 そんな事は村長も百も承知だろうが、嬉しいのは綺麗だから……じゃないだろう。

  「良かったな、マサキからのプレゼント。」

 という事だ。
 マサキからもらったものだから嬉しいんだろう。
 きっとマサキからもらったものであれば、簡単な木彫りのアクセサリーでも喜んではしゃぐだろう。
 村の誰もが知っていて、誰もが口にしない暗黙の事実。
 だがその事実もあの朴念仁の鈍感野郎は全く気付かない。
 そして……この村長も実は超鈍感だ。
 ただ……マサキと違う点はその鈍感になるのが自分に対してのみなところだ。
 マサキの場合は常にだれに対しても鈍感、朴念仁を天然でいっている。
 少し前……といってももう二十年少し前か。
 少しマサキの様子がおかしくなったことがある。
 お?
 と村の皆が思っている中、あろうことがその中心人物であろう村長は、どうしたんだろう?
 と、本気で心配したように皆に聞きまわっていた。
 その時まで……村長がこんなにも鈍感だとは気づかなかった。
 実際、今まで自分以外の事に関しては結構感が鋭いのだ。
 それなのに……。
 笑っちまっちゃ悪いが、正直俺は笑ったね。
 村の皆も苦笑を洩らしつつ、微笑ましそうに生温かい視線で見守っている。
 そんな事とはつゆ知らず、二人は馬鹿みたいに両思いだと気付かず、それでも仲良く一緒に暮らしている。
 心配しているのが馬鹿らしくなるほど仲がいい二人だ。
 実際……二人とも今のままでもたいして夫婦と変わりない生活を送っているのだから、いい加減気づいてもいいんじゃないか?
 そんな事を考えながら、流しつつ適当に返事をしていたら突然村長がまた走って、村の他の人間に俺に言ったのと同じようなことを叫びつつはしゃいでいる。
 あんなにまで嬉しいかね~。
 俺は誰かをあれほど好きになったことがないからよくわからん。
 だがまぁ……見ていて微笑ましいな。
 さてはて……あの二人は何時になったら互いの気持ちに気づくやら、本人たちが気付くまで俺たちは唯見守るだけだな。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第十二話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/02/28 15:45
     第十二話~毎年懲りずによくよく来るもんだねぇ~。~





 俺がこの世界に来てから毎年、毎年必ず訪れるプレイヤーがいる。
 今まで一度として欠かしたことがない程、毎年そいつらは現われる。
 今まで決して欠かさず来ているのは対人戦をしに来ているプレイヤーたちだ。
 その中でも……この目の前の二人、この二人だけは一度としてこなかったことはないほど、もう既に見知ってしまった。
 向こうは決してこっちの事は知らないだろう。
 そこら辺にいる一NPCくらいにしかおもってないだろうな。
 前に一度話しかけたことすら覚えてないだろう。
 俺は……それ以来こいつらは酷く嫌いになった。
 仕方ないことなんだろうけど……こいつらにとっちゃ、俺たちは何処にでもいる一NPCで悪口を言おうが何を言おうがどうでもいい……そうなんだろう。
 だけど昔の……この世界に来てまだ数年しかたってなかったころの俺はそんな事を考えもしなかった……。
 どういった会話が繰り広げられたのかって?
 聞いてくれよ!
 聞けば絶対むかつくぜ。
 こいつら……俺はそのときかなり勇気を振り絞って話しかけたってのに……。

  「あ、あのすいません。少し良いですか?」

  「お?何何!何かのイベント発生か!?」

  「本気(マジ)で?でもこの村で何かイベント発生するようなもの何もなかったはずだけど……。」

  「ばっか。お前それはあれだよあれ、隠しじゃね?」

  「あ~申し訳ありません、これイベントとかじゃないんです……。少し頼みごとがあるんですが良いでしょうか?」

  「あぁ?イベントじゃねぇーの?つまんねー、んで何よ。」

  「えっとですね、少しGMか運営の人に連絡してほしいんです。自分……何て言うんですかね……?信じてもらえないと思うんですけどゲームの中のNPCじゃないんですよ。それで少し相談したいことがありまして、お願いできませんか?」

  「……何だこれ?バグってやがるぜ。」

  「ああ本気(マジ)何これ?このNPCバグるにしても程があるだろう……。この中でNPCがGMとか運営とかほざいちゃダメじゃね?ほんとイカレテやがる。さっさと消えちまえば良いのに……。」

  「本当にそうだよな。でも連絡する気ねぇ―けどな。んなめんどくせー事しちまったらなんだかんだめんどくさい事聞かれたりするし、そんなの絶対嫌だからな。」

  「どういけーん。まぁんないかれたポンコツほっといてさっさと行こうぜ。」

  「あいよ。ほらどけよバグ野郎。さっさと運営に気づかれて消えることを望むんだな。」

  「あっはっは!ばっか。バグってる奴にバグって言ったって解るかよ。無視してさっさと行こうぜ。」

 はい。
 以上このむかつくプレイヤー達との会話でした。
 あの頃はまだプレイヤーの善意ってのを少しは信じていたんだけどなぁ。
 あれ以来、反場アンチプレイヤーになりつつある俺がいる。
 仕方なくね?
 あんな対応されたら誰だって腹が立つだろう!
 まぁ……誰だってあんな話聞いたら信じられないだろうけど……それにしてももう少し人道的に対応ってもんできねぇのかよ!
 ああ、今思い出しても腹が立つ。
 むかつくことにこいつら、前より全然強くなっていやがる。
 何故解るかって?
 だって見るからに装備が違うんだよ。
 何あのいかにも強いですよ―的な防具。
 普通じゃねぇよゴラァ!的な武器。
 ああ……あんな奴らが強くなってるのもむかつく。
 まぁあれ以来、他のプレイヤーにも何人かに話しかけた事があったんだけど……皆あれほどとはいかないまでも、バグ扱い。
 この村に来るプレイヤーは皆ひでぇ奴ばかりだ!
 畜生。
 それ以来……俺はプレイヤーを見かけても話しかけないことにした。
 ってか、話しかけてもむかつくことしか言われねぇんだから、話しかけたく何てないね。
 まぁ……今更そんな事はどうでもいいか。
 ああ……思いっきり話がずれちまった……俺が何故プレイヤーの話をしたかっていうと気になっている事があったからだ。
 それは何か……ずばり対人戦だ。
 いやいや、対人戦自体に興味がある訳じゃないよ?
 ただ最近、対人戦で訪れるプレイヤーの数が増えたのだ。
 今までだとせいぜい来たとしても五十人から六十人くらい。
 それが最近だと最低でも数百人はいそうなほど大人数がこの村に来る。
 正直邪魔だからくんな!
 帰れ!
 とか言ってやりたいが、そうもいかねぇ。
 何か……前と変わったことでもあるのかねぇ?
 にしても……村に迷惑かけないようにやってほしいもんだよほんと。
 俺はそんな事を考えながらギルドの中で親父と二人ぐちぐち話していると、タイミングがいいことにその話題について話してるプレイヤーがいた。
 何というご都合主義!
 ご都合主義万歳!

  「にしても……他の城があらかた落とせないほど強い奴らに占拠されたからって……こんなところにこんな大人数集まらなくても良いだろうに……。」

  「まぁ仕方ないっしょ。城を持てればそれだけでステータス。知名度、有名度が郡とあがるんだからね。」

  「はぁ……そうだよねぇ~。こんな辺鄙なところにある城でも、取れればそれだけで有名人だもんねー。」

  「せめて……対人戦システムに城主になればアイテムゲット!とか持ち込まなきゃもう少し落ち着いてたんだろうに……運営も何考えてんだかね?」

  「何考えてるって……そのまんまでしょ?この対人戦をもっともっと賑やかにしたいってことじゃないの?それならその変更点も良い事……って事になるしさ。」

 うん、解りやすく説明ありがとう。
 教えてくれた事には感謝するけどやっぱり俺はあんたたちプレイヤーが嫌いだわ。
 まぁどうでもいい。
 でもそうか……。
 やっぱりシステムに変更かかってたのか。
 その上、他の所だと……絶対に勝てないからって此処に集まってきてるという事は……これからまだ増える可能性あるのかよ。
 おいおい、もうこの村の定員は既にオーバーですよ。
 まぁ……プレイヤーの大半は野宿だから良いんだけどさ。
 願わくば……問題だけは起こしてくれるなよプレイヤー達よ……。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第十三話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/01 05:29
     第十三話~やっぱり……平和がいちばんだよなぁ?~





 今日は朝から警備団の仕事がある日だ。
 警備団の人数もとうとう三十名を超え、今現在三十六人もいる。
 これだけの人数がいるおかげで、今までのように一日中仕事をしなくてはいけないという状態がなくなった。
 今は朝と夜のローテーションで休みをしっかりと与えつつ回していけるようになった。
 最初のころはひどかったなぁ……。
 人数俺入れて十人しかいないし、俺たちも凄くレベルが低かったから全員でかからないと危なくて、休みらしい休みというのがほっとんど取れてなかった……。
 今から考えると懐かしい……。
 苦労したけどそれも何だか良い思い出だなぁって思えるぜ。
 にしても……今日も平和だなぁ。
 最近はいいね、モンスターも殆ど襲ってこなくなったし。
 盗賊たちもこないだ討伐したせいか、全く出てこない。
 このままずっとこんな日が続けばいいのになぁ。
 俺は……村の入り口で周りを見渡しながら温かな日差しを浴び、少しまったりとしていた。
 油断していたんだ……。
 といっても……だからと言って何かがあったわけじゃないんだけどな。
 そう、何も起こらない。
 普通こういう場合、大概問題が起きたり、不意打ちを受けたりといった流れになるんだろうが、そういったものは一切ない。
 本当にただ、温かな日差しを浴びてまったりとしている。
 油断はしている……だからと言って周りを警戒していない訳じゃないからな。
 勿論ある程度、周りも警戒したうえでこうやっているのだ。
 俺と一緒に村の門についている警備団の他のメンバーも似たりよったりといった感じだ。
 はぁ……本当にあったけぇ。
 俺がそうしてまったりと村の入り口で警戒していると、今日もまたレイスが昼飯を届けに来てくれた。

  「そろそろ休憩時間よね?作ってきたんだからせっかくだし食べて。皆さんもご一緒にどうぞ。」

 そう言って手慣れた感じでシートを敷き、その上に少し大きめの弁当箱を五つばかり並べていく。
 ここ最近暇なときは毎回こうして昼を用意してくれるのだ。
 本当にありがたい。
 今までならば誰か一人に適当に食べ物を買ってきてもらい、それを食べていたのだからそれと比べると本当に感謝してもしきれない。
 何よりレイスの料理はかなりうまい。
 俺の好みの味付けに、好きな料理がかなりの割合で入っている。
 他の皆もこの時をかなり楽しみにしているが、しょうがないことだろう。
 こうして警備していてる最中此処を離れるわけにはいかないんだ。
 それ以上、こうして美味しい料理を食べられるなんて、凄く幸せな事だと思うぜ。
 それから料理を食べ終わり、しばらくレイスとともに雑談を交え、一時間ばかりが過ぎたころレイスは帰って行った。
 本当に今日もありがとう。
 そう心の中でお礼を言ってレイスを見送る。
 さて……また暇な見張り番だ。
 大事な仕事だってのは解るが、やはりどうしても気が抜けるなぁ。
 モンスターも何か、ちょこちょこと見かけはするがこの村に向かってくる輩は一匹もいないし、日差しはあったかいし、時折吹く風がとても心地よい。
 眠くなっちまうな……。
 ってか、うつらうつらしてる奴まで出てきたよ……モンスターだけどな。
 まぁ……あいつらも生きてる以上やっぱり寝たり食べたりするんだよな。
 にしても……人がいるというのに寝てしまうのはいかがなもんなんだ?
 確かにかなり距離が離れてるとはいえ、弓で狙えば腕が良い奴なら確実に仕留められるぞ。
 ……でもまぁ、あんな無防備に寝られちまうと逆に襲いづらいって訳かね。
 本当に……気持ち良さそうに寝てやがる。
 こっちまで眠気を誘う。
 ッハ!
 まさか、まさかこれが狙いか!?
 ……なぁんてことがある訳ねぇわな。
 暇だなぁ~。
 暇だ……本当に良い事だぁ。
 こんな毎日本当にずっと続けばいいのに……何でまぁこういう日ってのはなかなかねぇんだろう。
 村の見周りしている奴のほうが今日は大変だろう。
 いつもはこっちのほうが大変だから、なんだかんだで調整ができてるのかね。
 っと、そろそろ後退の時間か。
 セルビアがまったりしている俺見て苦笑を洩らしつつ、「交代しますね。」と言って俺の横に立つ。
 軽く雑談と引き継ぎを済ませて、出そうになったあくびをかみ殺し広場へ向かう。
 まだ時間的に早い。
 すぐに家に帰ったとしても何もやることがないのだ。
 ならば広場で何か手伝いを探してる人はいないもんかなぁ……と思ったんだが……今日は本当にのんびりした日らしい。
 何一つなかったよ。
 いつものようにギルドの親父のところに行くと、この時間からすでに一杯やっている奴がいた。
 ってかギルドの親父なんだけどな。
 時間が時間ならご一緒したいところだが、こんな時間から飲んでるとレイスが心配するから飲めないし、仕方ない今日はこのまま帰るとするか。
 ……たまには……こんな日も良いもんだな。
 今日くらいレイスと二人、まったりとゆっくり過ごすとしよう……。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第十四話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/01 08:00
     第十四話~来たよきたぁぁぁ!とうとうこの時が!?~





 明日でこの警備団を結成してからちょうど百年がたとうとしていた。
 今は夜。
 警備団の皆と村の皆が村の広場に集まり今か今かとその時を待ち続けている。
 時間……この世界、今までそういえば何故か話していなかったが、時間の概念がきちんとしている。
 時計……一応そういったアクセサリーもあるが、ものすごく高価だ。
 わざわざそんな物がなくても時間を調べることは簡単にできる。
 ステータスを見ると、右下のところに申し訳なさそうに時間が表示されているのだ。
 そしていま、時間は何時かというと……。

  『23:59』

 と表示されている。
 後一分。
 後一分たてばこの村は賑やかな祭りのようなどんちゃん騒ぎが始まる。
 一応、全員此処に集めるわけにもいかないので村の入り口にはきちんと数名見張り番をおいてある。
 唯いつもと違い、一時間おきに交代して、皆が皆このお祭り騒ぎ……どんちゃん騒ぎを楽しめるようにローテーションを組んだ。
 さて……いよいよだ!

  『00:00』

 この時間を刺した瞬間皆が大声を上げた……否、上げようとした。
 だが、それより先に俺から驚くべきことにどこぞのゲームのレベルが上がったような音がして、皆気がそれたようにというよりも、酷く驚いたように俺を見つめる。
 レベルが上がったわけではない。
 何事だ?
 そう思った俺は、何が起きたのか自分自身を確認していく。
 ……。
 …………。
 見た目変更なし、装備品、持っている道具、アイテムも変更なし。
 ステータスも見てみたけど変更……な……し?
 え?
 いやいや……本気(マジ)で?
 余りな事に少々眼を疑っちまった。
 何度も何度もステータスを見直している俺を、どうしたのか?
 大丈夫なのか?
 といった感じで村の皆が心配そうに見つめてくる。
 だけど……余りその視線を気にしている余裕がない。
 だんだん……それが冗談でも嘘でもなく本当だと解ってくると……思わず俺は雄たけびを上げた。

  「き……き、きたぁぁぁぁぁぁぁ!キタコレ!やったよ、とうとうだよ!奇跡だよ。ああ……今だけは……今だけは全ての者を愛することができるかもしれない!ああやったよ!きたよ!本当にやったぜ!?」

 と、どう考えてもおかしな人にしか見えないような叫び声をあげつつ俺は狂喜乱舞した。
 何事かと、いち早く正気に戻ったレイスが俺に話しかけてくるまで一人、延々と叫びながら小躍りしていた。

   「どうしたのかって?聞いてくれよ!来たんだよ。とうとうやったんだよ!転職出来るんだよ俺!」

 そう言って今ステータスのところに現われた変化をレイスに伝える。
 最初ハテナといった感じではてなマークを浮かべていたレイスだが、少ししてどういうことか思い浮かんだようだ。
 特殊職……。
 この職業が実際に数人の人間に認められたと噂になっていたのだ。
 そして、この特殊職はどんな職業からも転職ができ、特殊な条件さえ満たせばステータスも関係ない。
 それだけの情報が流れている。
 そして、俺のこの喜びようと、俺の言葉からその特殊な条件を満たして、転職が可能な職業が出てきたという事に気づいた……ということだろう。

  「本当なの!ああ、良かったねマサキ!おめでとう!」

 レイスがそう俺に本当に自分の事のように嬉しそうに微笑みながらそう言ってくれると、それを聞いていたギルドの親父とセルビアも「本当なのか!?」「マサキさん……本当に、本当におめでとうございます!」と言って喜び、お祝いの言葉を送ってくれた。
 まだ何が起こったのか認識していなかった村の皆にもセルビアが嬉しそうに事情を説明すると、口々に「めでたい!」「今宵は祝いの宴じゃ!」などと言って予想していた規模以上のどんちゃん騒ぎが始まった。
 セルビアをはじめ、いろんな人が自分の家から秘蔵のお酒や珍味を持ち出し、お祝いとともにともにそれらを開けていく。
 ものすごくいい気分だ。
 転職できる……そのこと自体もう狂喜乱舞するほど嬉しいというのに、自分の事じゃない、俺の事にもかかわらず、これほどまでに自分と同じ程喜んでくれる村の皆がいる……それが、それ以上に嬉しかった。
 だから……仕方ないよな。
 次の日……酷い二日酔いで一日起き上がれなくなったのもさ……。





 さて……俺が転職可能になった職業……その名も!

  『守護者』(別名ガーディアン)

 という職業だ。
 転職内容がこれは……この村の人であれば大概満たす事可能なんじゃないかといったような内容だ。
 三つの転職条件。
 まず一つ目……。

 百年間の間、同じ街、村を守り続ける事。
 その際、その住人に被害(死亡)があった場合は転職不可能になる。

 次に二つ目……。

 その守るべき街、村の一番先頭に立ち、その住人達八割以上の者たちの支持を受ける事。
 無理やりの同意は不可、心の底よりそう信じられている場合以外は不可。

 そして三つめ……。

 真に守るべき者を定めている事。
 街、村は勿論だが、それ以上に大切な一人の人間がいる事。

 といった条件だ。
 正直二つ目が……本当に達成できてるのか解らないが、一つ目と三つ目は確かに出来ていると思う。
 百年の間守り続けた村。
 幸いなことに多少の怪我を負う事はあったものの死亡という、最悪の事態を引き起こした事だけはない。
 そして大切な者……いまさら言う必要もないほどきまりきっている。
 普通のプレイヤーにこの条件はあまりにも厳しすぎるんじゃないかと思うが、だからこその特殊職なのか。
 にしても……二つ目の条件……本当に満たされているのか?
 確かにこの村の人達は俺たちの事を信じてくれている。
 ただそれは俺たち警備団であって、俺個人をというわけじゃないだろうに……。
 こうして……転職可能になっているという事は条件を全て満たしたという事なのだが……もしかしたら個人ではなく警備団として信用されているのをバグか何かで誤認したのかもしれないな。
 それならそれでもいい。
 転職できるんだ!
 ただ……問題はどこで転職すればいいんだろうという事だ。
 通常……普通職であれば森を超えた少し大きめの街に行くだけでその支部があり、そこで転職が可能だ。
 だが、特殊職となれば話は別。
 一体全体どこに行けばいいのだろうか?
 喜び勇んでいた俺に降りかかる次の難題だった。
 ……が、驚くべきことにその謎も直ぐに解けた。
 森の奥にある城。
 対人戦が行われている場所だな。
 その奥に祠がある。
 この村の者が一カ月に一度お供えをするために行く場所だ。
 この村の平和と繁栄をお祈りするための祠らしい。
 俺はいった事がないんだけどな。
 だって、場所的に結構とおいいから日帰りが出来ない。
 行って帰ってくるのに二日かかるのだ。
 幸いなことに、その道程だけはモンスターも襲ってこないので、村人だけで行くことができるし、野宿をしても安心なのだ。
 まぁ、万が一ということもあるので、常にその場合警備団から数名護衛として連れて行かせるんだけどな。
 そんでもって、今月もまたその祠にお供えをしにいって戻ってきたのだが……その戻ってきた村の人が嬉しい報告を持ってきてくれた。
 祠に俺の名前が刻まれていると……。
 あまりにも出来すぎだが、俺はピンッときたね。
 これは恐らく転職場所だ!
 と。
 例え、転職場所じゃなかったとしてする場所のヒントが必ず隠されているはずだと。
 ……出来ればすんなりそこで転職できると良いんだけどなぁ。
 その情報を聞いた俺は、村の皆から警備の仕事なんていいから早くいってきな!
 と数人のお供とともに強制的にその祠へ向かう事になった。
 休みを利用していこうと思っていたのだが、村の皆は本当に俺が転職できるという事を喜んでくれているらしい。
 ……本当に良い……人達に巡り合えた。
 俺は皆の行為を受け、その祠へ向かった。
 日も落ち、そろそろ歩くのも危険だろうと思えるぐらいの時、とうとうその祠が俺たちの目の前に現れた。
 警備団の皆と俺はその祠に入り奥へ進む。
 といってもそれほど深い祠じゃない。
 せいぜい歩いて数分で奥まで付いてしまう程度の祠。
 そして奥についた俺が見たものは、俺の名前が刻みこまれた一つの石板。
 そっと……それに触れた瞬間俺は今までいた場所とは違う場所に立っていた。
 周りを確認しても誰もいない。

  「なっ!皆大丈夫なのか!?ッチ!俺だけが変な場所に飛ばされたのか?皆無事であればいいんだが……。」

 俺はそう言って周りを見渡す。
 だが、周りをいくら見渡そうとそこに広がるのは闇のみだ。
 むしろ……今自分自身立っているはずにもかかわらず、地面に立っているという感覚がない。
 どういう事だ?
 試しに歩けるか試してみたところ……普通に歩くことはできる。
 だが……やはり地面の上を歩いているという感覚はない。
 きちんと足を動かしているのだが……どこか飛んでいる……そんな感覚を受ける。
 しばらく……何処ともなしに進み続けると、突然闇から光にその場所が変わった。
 現われたのは純白に光り輝くドラゴン。
 死を覚悟したね。
 ああ……俺此処で死ぬのか……とね。
 せっかく転職できるかもしれない場所に来たのに……こいつを倒すのも試練の一つか?
 と考えて……オイオイ勘弁してくれよ……反場覚悟を決めながら、死ぬと解っていても武器を構えてせいぜい抵抗してやろうとする。
 もしかしたら……万分の一……いや、億分の一も可能性はないかもしれない。
 それでも村人の皆が心底期待して、嬉しそうに送り出してもらった以上唯で諦めるわけにもいかない。
 出来る限りの事をやるのだ。
 と、いきこんでいたのだが、目の前のドラゴンは突然話しかけてくると、攻撃の意思はないといった。

  『我はこの地を守る一柱なり。世界に存在する守護の一柱。汝が挑む守護者への加護を与えし者である。守護者となり、その村を永遠に守り続ける覚悟……大切だと思った者を守り続ける覚悟がそなたにあるか?あるならば契約を実行しよう。汝が契約を違えない限り絶対の力を授けて見せよう……履行した場合はそなたの全てをなくすことになる。覚悟はあるか?』

 思わず戦わなくて済んだことにホッとしていた俺は、そう言われて今更何を当たり前な事をと思った。
 確かに……これから先絶対にとは言い切れないだろう。
 だが、俺はそれだけの覚悟を持って今あの村を守りたいと思っている。
 大切なものを守って見せると考えている。
 だからこそ、俺はその質問に何も考えることなくこう答えた。

  「問題ない。むしろそんなことで良いなら是非頼む。」

 とな。
 ドラゴンは俺の答えを聞くと、低い声で笑い声をあげた。

  「なるほどな、汝に守護者たる資格が与えられたのもうなずける。良かろう受け取るがよい。今より汝は守護者を名乗り、汝が村を永遠に、汝が大切なものを永遠に守り続けよ。」

 そういうとドラゴンは真っ白な光を放ち俺をその光が包む。
 次の瞬間……俺は元いた石板の前に立っていた。
 心配そうにしている警備団の皆を見ているかぎり、俺はこの場所から全く動いていなかったようだ。
 さっきの奴はいわゆる夢みたいなものか?
 俺は……なんとなしにステータスを確認してみると……そこには職業のところにこう書かれていた。

  『守護者』

 ……とうとう、とうとうやったのだ。
 長年夢を見続け、一時はあきらめかけたその夢を……今漸くかなえる事が出来たのだ。
 ……確かにこれから……これからが大変なんだというのは解る。
 それでも今はただ……その事を只々喜ばせてくれ……。
 しばらく……一人その事に喜び、ある程度気分も落ち着いたので、警備団の皆と話し合い、今日は此処で休むことにした。
 そして翌日……俺は村に戻り、数日前に騒いだばかりだというのにまたどんちゃん騒ぎが始まった。
 俺はこんな村だから……これからも絶対に守りたいと思うんだ。

  「マサキ本当におめでとう……。」

 とても嬉しそうに、感極まったかのように涙すら流しそうなほど喜んでくれるレイス。
 俺はそんな彼女だからこそ、絶対に君を護りたいと思うんだ。
 そんな気持ちを改めて強め、俺は自分のために開いてくれたこのどんちゃん騒ぎの中心に飛び込み騒ぐことにした。
 ああ……これじゃあ明日もまた二日酔いだな。





 此処でこの守護者の特殊スキルを紹介しよう。
 化のドラゴンが絶対の力といったのはこの村を守ることのできる防御力……といったものだった。
 俺にとっちゃ本当に嬉しい能力だな。
 だが、攻撃力が今まで以上に皆無に等しくなった事だけは少々切ない所だ。
 スキルの一つ……絶対防御圏。

 スキル詳細:このスキルは自動発動スキルであり、守護者がモンスターと戦闘中、守るべき村全体を絶対防御の盾で覆うものである。
       守護者が死なない限りこの盾は何度であろうと外敵からの攻撃を防ぎ続けることができる。
       護ると決めた村のみの効果。

 うん、正直反則スキルですね?
 解ります。
 スキルの二つ目……絶対防御。

 スキル詳細:守護者が受けるダメージは物理、魔法全てにおいて90%軽減される。
       ただし、守護者たるものが護ると決めた村を護る場合、大切な者を護る場合のみ効果を発揮する。
       その場合全ての物理、魔法攻撃力は50%ダメージが減少する。

 守備を第一と考えると……これほどまでにないほどの良いスキルだけどさ……。
 スキルの三つめ……オーバーキル、即死無効。

 スキルの詳細:体力が2以上残っている場合、そこからの一撃での死亡がなくなる。
        即死系の攻撃、魔法はすべて無効化される。
        発動は村を守る戦いのみ発動する。

 これも……本当に反則スキルだよな……。
 だってさ、体力が2以上残っていれば普通の攻撃で死ぬダメージを受けても死なないっていうんだぜ?
 残り体力が1になるが、それでも一撃での死亡はあり得ないというのだ。
 死ぬのは体力が1の時に連続で攻撃された場合のみ。
 つまり、攻撃された瞬間、薬草でも何でもいいから体力を1でも回復させれば不死身に近い耐久性を持つ事が出来るというわけだ……。
 問題は精神が持つかどうかだけどな……。
 いくら……死なないとはいえ痛みはあるみたいだしね……。
 守護者のスキルはこの三つ。
 これからランクが上がれば増えるのかもしれないが、この三つだけでもあり得ないほどの反則気味なのだ。
 本当に……こんな職業作って良かったのかと尋ねたくなったが……よくよく考えてみると、この職業……普通のプレイヤーにとって全くと言っていいほど利点がない。
 だって、村から離れられないんだからな。
 村から離れれば全てを失う。
 村以外で戦闘を行えばこの加護というかスキルは何一つ発動しない。
 ……なるほど……一応は考えているわけだな。
 ……俺は……このときは、俺にとっていいことづくめだなと……楽観的に考えていたんだ……。
 まさか……あんな落とし穴があったとは……つゆほども思わずに……。





 最後に俺の百年たったステータスを紹介しておこう。

     ――――――――――
     名 前:岩崎 雅樹
     職 業:守護者
     レベル:1
     STR:19
     VIT:19
     AGI:17
     DEX:18
     INT:23
     ――――――――――

 未だオール二十突破はならず……。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第十五話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/01 19:35
     第十五話~へへへ……所詮……俺の役回りはこんなもんさ……。~





 チートスキルで俺最強!
 俺つえぇぇぇぇ!
 俺に任せて皆下がってろ!
 …………。
 ……………………。
 ええ、ええ、そんな夢を見ていた時代も確かにありましたよ……。

  「ごへらっ!?」

 一発で瀕死のダメージを負い、そのまま意識が飛びそうになった。
 ってか動けねぇ……。
 いてぇよ、痛すぎるよ!
 無理!
 無理無理無理!
 何これ……いくら死ななくても痛くて精神がしねるっての。
 今……俺はどんな馬鹿な事をしでかしていたかというと……。





 なんだかなあ……微妙にチートスキル手に入れたのに……使う要素がないぞ。
 ……いやいや、そんなわけあるまい。
 せっかく転職して手に入れた特殊なチートスキル、役に立たないわけがない!
 …………いやないよな?
 ないって言ってくれよ!
 ……はは、そうだ、試してみればいいんだ!

  「よし!俺があいつをしとめる!他の奴等は頼んだ!」

 今までであれば絶対にしないような一人での特攻。
 皆が必死になって止めようとしている声も聞かず俺は突っ込んだ。
 例え低レベルであったとしてもこんなことした事がない……が、転職した今ならきっとできるはず!
 そう思って俺は中レベルのモンスターに一人特攻をかけた。
 最初のうちはよかったさ、いつも通り躱して攻撃、躱して攻撃を繰り返し順調にダメージを与えていった……といっても……泣きたくなるほど与えたダメージは少なかったけどな。
 ダメージ50%カット……予想以上に厳しいぞ……。
 等とダメージを一応与えていたにも関わらずモンスターの動きは一向に鈍らなかった。
 そして……俺が一人で戦い続けて躱し続けるなんて事が出来るわけもなく……思いっきり一撃をくらったわけだ。
 ……その結果が今……。
 一撃で瀕死です。
 ダメージ90%カット……されても一撃で瀕死。
 むしろ、一撃死でしたね。
 スキルがなければ。
 その証拠に余りの痛みに動くこともできず、俺のフォローのためにあわただしく動き回る仲間たちを見つめていることしかできない。
 等と……考えてたのだが……予想以上にダメージが大きかったようだ……肉体的にも精神的にも。
 気付くと俺は家の自分のベッドの上にいたのだった……。





 あまりにも情けない……というか、自分の馬鹿さ加減に嫌気がさす。
 今まで俺の戦闘スタイルというと、仲間を盾にしそのすきをうかがって一撃かまし、逃げる。
 その繰り返しだった。
 今考えれば……というよりも、今考えなくてもよく考えなくても解る事だよな。
 実際……特攻する前だって解っていたんだ。
 それでも……せっかく転職したというのに、今までと全く変わっていないなどという現実を拒否したかったのだが……周りの皆に迷惑をかけただけになっちまった。
 確かに……チートなスキルだろう。
 確かに驚異的な力だろう。
 ただそれらすべて、扱うものにそれを扱うだけの力がなければ何の効果も発揮しない。
 そんな当たり前のことを俺は……気付いていながら眼をそらしてこんな様になっちまった訳だ。
 ああ……本当に情けない……。
 確かにさ、ダメージ90%カット……体力があり、防御力があるならものすごい効果を発揮するだろうね。
 ただ……レベル一で体力が基本値のうえ、基本が絶対にダメージをくらわない戦い方の俺には全く無意味な代物だ。
 オーバーキルによる一撃死や即死攻撃無効化も、確かに最初のオーバーキルによる一撃死の無効化は本気で嬉しいスキルだ。
 これは役に立たないとは言わないさ……ただ、さっきも言った通り、俺は基本的にダメージをくらわない戦い方をするのだ。
 ならば……オーバーキルなんて現象がおきるのはよっぽどのことがあったときだけだろう。
 もしくは今回みたいな馬鹿な真似をしたときとかな。
 即死攻撃の無効化も……実際よく考えてみればこの周辺に即死攻撃を使ってくるようなモンスターは存在しない。
 唯一ものすごく助かるスキルだと思っていた村全体を盾で護るスキルも、意外と欠点が多かった。
 俺が戦闘に参加している事が条件で発生する盾だけあり、いくら本人が参加しているつもりでも世界的にというか、神的に?
 っていうのかね、見て、戦闘に参加していないと思われればその盾は解除されちまう。
 そして俺の戦い方は見方を盾にして、隙を窺って一撃を放つ戦い方。
 時々モンスターに隙を見いだせない時がある。
 そういうときは俺は待つことしかできない。
 そして、その待つ時間が少し長くなると戦闘に参加していないと認識される。
 大概……俺が隙を見計らっている間に村への盾は解除されていた。
 そして何より……色々と役に立つと思っていたその村の盾なんだけど……この周辺に遠距離から攻撃を仕掛けてくるモンスター等存在しない。
 その上、村まで接近できるほど強いモンスターもいないのだ。
 外敵から護るとはいえ、盗賊など相手であれば武装を解いた状態であれば問題なくとおれてしまうので、盗賊相手にも役に立たない。
 本当にモンスター専門の盾みたいなものなのだ。
 これが村にものすごい強いモンスターが現われて、間違いなく村にも被害が出る!
 といったような事が起こる場所じゃない限り実際盾が展開されていようがされていなかろうが全く問題ないのだ。
 そこまで考えて……俺にとってこれらのスキルって何一つまともに使いこなせないじゃないかと……気付いてしまったのだ……というか、気付いていたのを現実逃避で見ないふりを出来なくなってしまった。
 はぁ……。
 流石に……こんなバカみたいな真似して仲間に迷惑かちまってまで自分の我を通せるような人間じゃねぇんだよ俺は。
 今回は完璧な俺の馬鹿な行動によるミス。
 その上そのせいで実際仲間たちは結構傷を負った。
 もしかしたら死んでいたかもしれない可能性だってある。
 それなのに……俺が迷惑かけた仲間たちは俺を怒るどころか「元気出してください!」「たまにはこんな事だってあります!」等と誰一人責めず、慰めてくれるのだ。
 こんな真似されてまで……現実から逃げ回って等いられない。
 ふっきろう。
 確かに転職してチートなスキルを手に入れた。
 それらが俺にとって今は全くの無意味だと認め、その事をふっ切ろう。
 直ぐには無理だろうが、何とかなるさ。
 それにしても……はぁ。
 せめてもの救いはこれからは無職だと恥ずかしがらずに済むことくらいだな。
 せっかくの特殊職なのに俺なんかに引き当てられたこの『守護者』もかわいそうに。
 いつかは……この『守護者』の名前に恥じない程強くなりたいものだなぁ……。





 そんな……そんな嘘だろう!?
 俺はそんな決意をしてから早五年、いつも通りモンスターと戦っていた。
 最初は気のせいかな?
 と思った。
 偶々今回はモンスターの数が少なかったか、戦い方が悪かったんだろう……そう思った。
 二年三年と過ぎていくうちにどうしても可笑しいと思うようになった。
 何がって?
 ステータスの上がり方だ。
 今までであれば最低でも一年にどれかのステータスが0.1以上は上がっていたのだ。
 それが今回三年たってようやく0.1ステータスが上がった。
 INT+0.1。
 ないだろう?
 一番俺のステータスの中で上がりやすいINTが三年かけて0.1しか上がらないとか本気(マジ)ねぇよ。
 そして五年たった今……漸くまたステータスが上がった訳何だが……その上がったステータス……。
 INT+0.1……。
 本気(マジ)ですか?
 もしかしてもう……俺INTしか上がらない!?
 いやいやいやいや!
 そんなわけあってたまるかよ。
 きっと偶々だ、偶々運が悪かっただけなんだ。
 そう思って俺は……不安に駆られながらモンスターを退治し続けた。
 十年がたった……ステータスは上がらない……そろそろ本気で絶望しかけていた。
 十三年……良かった!
 本当に良かった!
 ステータスが上がった。
 今度はINTじゃなくVITが0.1あがった。
 本当に良かった!
 ……でも……あまりにも……今までと比べてもあまりにもステータスの上がり方がおかしい。
 確かに……ステータスが上がるにつれて上がりにくくはなっていたものの、これほどまで馬鹿みたいに上がりにくかったわけじゃない。
 それなのに今は十三年たって上がったステータスがたったのINT+0.2とVIT+0.1だけだ。
 今までならせめてこのほかに色々と上がっていたはずだ。
 せめてあと0.5から0.8位は上がっている。
 ……もしかしてと思った。
 でも、これでもまだ俺は認める気がなかった。
 だからきっと偶然に偶然が重なり奇跡的なものだと。
 それから二十年がたった。
 あれから二十年で上がったステータスはSTR0.1とDEX0.1のみだ。
 今回はモンスターが少なかったとか、戦い方が悪かったとかいういい訳が出来ない。
 何故かというと此処五年ほど何故か突然モンスターが増え、ほぼ毎日襲われていたからだ。
 今までの二倍から三倍以上の規模のモンスターが襲ってきた。
 今までであれば俺は一度の戦闘で一匹倒せればいいほうだったのが、此処五年間では一度の戦闘で大体三匹から五匹程倒している。
 これは……もう……認めるしかないのか?
 ……本気(マジ)なのか……。
 スキルが役に立たないだけじゃなかったんだ……もしかしたら逆のパターンがあるとは思っていたけど、このパターンが来るとは全く思っていなかった。
 ってか予想したくないから、考えないようにしていただけか?
 ……職業補正によってステータスの上がり方がものすごく厳しくなっただなんて……。
 普通職でもこんなに厳しくない……そうセルビアは言っていた。
 もともと上がるのが遅かったとはいえこれほど遅いのは普通職に、例え俺が付いていたとしても絶対にあり得ないとギルド長も言っていた。
 流石特殊職だけあるもんだ。
 こんなところまで特殊なのかよ。
 はぁ……俺って……結局こんな約まわりを押しつけられる人間なのか……。
 っていうか、俺って……強くなれないのか?
 ……認めねぇ。
 絶対みとめねぇよ!
 ちくしょぉぉぉぉぉぉ!?
 ………orz。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第十六話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/07 10:17
    第十六話~……そう言えばそうだよな……。~





 なんだかんだとありながら、日々は続くわけで……。
 俺がいくら落ち込んでいてもそれは変わらず続くわけだ。
 といっても、そこまで落ち込んでいるわけじゃないけどな。
 確かに強くなるには時間がかかるけど、決してなれない訳じゃないし……。
 等と考えながらいつもと同じ日常を繰り返しているある日、村の子供にある質問をされた。
 その質問をされて……思わず俺は笑っちまった。
 何を勘違いしてたんだ……と。
 何時手段と結果が入れ替わったのか……と。
 質問された後少し茫然とした後突然笑い出した俺を村の子供は少し心配そうに大丈夫かときいてくる。
 俺はそれに大丈夫だと答え、村の子供の質問に答えていく。
 村の子供の質問はというと……。

  「ねぇ、マサキさんはどうして強くなりたいの?」

 というものだ。
 最初……俺はステータスを初めて見て、その余りの低さに落ち込んだ……、そのときはなんとなく低くて嫌だな……情けないなぁ程度の思いだったな。
 次に、ステータスの上がり方がひどく遅い事に愕然とした。
 この時だってたいしてそれほど意識していなかった、ただなんとなく落ち込んでしまっただけだと……今なら言える。
 その後……俺は特に何でもなく唯ひたすら強くなろうと……いや違うな、このときはまだ強くなりたいと思ってたわけじゃない。
 周りの皆……仲間やレイス達に迷惑をかけたくないから頑張ろうとしたんだ。
 それなのに……何時の間にやら強くなるために頑張るようになっていた。
 ……強くなって何をしようとしたのか考えずに……。
 馬鹿だなぁ。
 本当に馬鹿だ。
 俺は……確かに最初仲間やレイス達に迷惑をかけないように……その思いだった。
 それが何時の日か気付けばレイスを護りたいと思うようになり、レイスが治める村を絶対に護ると誓った。
 ……そうか……これだ。
 これがきっと俺を勘違いさせたんだ。
 俺自身良く知っている事だというのに。
 俺は、一人じゃまともに戦えない。
 一人じゃ戦えない事を知っているからこそ、仲間たちを頼るのだ。
 協力して戦う……これが俺の基本的なスタンス。
 俺自身嫌というほど解っているし、つい最近改めてその事を確認させられた。
 だというのに、俺は一人でレイスや村を護ろうと考え始めていた。
 そのあたりから徐々に強くならないとと考え、何時の日からか強さを追いかけて行ったんだろう。
 はぁ……正直、俺が一人いくら強くなっても村を護ることなんて、一人では無理だ。
 そんな事誰だって解るだろう。
 そして、村を護るくらいならば今、この村にいる警備団の仲間たちと協力すれば決して出来ない事じゃない。
 そりゃ……おかしな化け物クラスの敵が来れば別だが、そんな事ほとんどあり得ない。
 せいぜい来ても高レベルのモンスター程度。
 確かに……高レベルモンスターであれば脅威だが、倒せない相手じゃないのでその時も協力し合えばどうとでもなるであろう。
 俺は……確かに強くなればそれだけ楽になるが、別段急いで強くなる必要もないんだ。
 そんなことに……今更ながらに気づいた……というよりも思い出したというべきか。
 何か……そんな簡単なことに今まで気付かなかったと思うと笑えてきたのだ。
 なんだなんだ、そっか。
 余り気にすることないんだ……ってか、一人勝手に気にしてただけなんだ。
 本当に馬鹿だなぁ。
 それなら……今度からというか、今から改めて決意しよう。
 俺は……この村と……何よりもレイスを護るために頑張ろう。
 力が足りないのならばそのときは精一杯あがいて強くなろう。
 だが決して強くなるために結果を用意する事だけはないようにしよう。
 そう……この村の皆と協力し合いながら……警備団の皆と力を合わせながら。
 改めて……今、俺は決意する。
 誰に言うわけでもない、誰に聞かせるわけでもない。
 ただ自分自身の決めたこととして……今度こそ忘れないように……。
 さぁ……、そうときめたんなら改めて気持ちを入れ替えて頑張れる。





 俺がそんな当たり前で簡単なことに気づいてから五十年。
 今の俺は前までのステータスや職業に一喜一憂していたころとは少し変わった。
 ……変わったと思う……。
 自分自身じゃたいして解らんけどな。
 そして、気にしなくなってしまえば意外と平気なものだ。
 確かにステータスが低いと弱い……それは間違いないが、一概に弱いだけじゃない。
 それなりの戦い方をすれば、例えレベルが一だろうと、ステータスが低かろうと戦えるのだ。
 今まで……長い間仲間たちと戦い続けて解っていたつもりだったが、実際の部分解っていなかったのだ。
 俺は今まで俺が弱いからどうしても迷惑をかけている……そう思っていた。
 それ自体が間違いだ。
 俺自身は確かに弱い。
 誰に聞いても否定できない事実だ。
 だが、戦えない訳じゃない、それならばそれ相応の戦い方……今までと変わっていないが、それが正解だった。
 自分自身を下手に貶める事がないと気付いた訳だ。
 俺が正面から戦えないなら後ろからしっかりと隙を窺い、危ない場面でしっかりと注意し、敵の動きを見て指示をする……そして隙あらば攻撃を加える。
 実際他の仲間たちの動きなどを見ているとだんだんとセルビア達が俺が前良く言っていた「俺いなくても全然戦闘に違いなんて出ないだろうに……。」という言葉に、「そんな事ありません!」と答えてくれていた理由が解った。
 実際うぬぼれているわけではない。
 恐らく……むいている部分が違うのだろうが、俺は基本的に敵の隙や動作を観察し、それを分析していくのが得意なのだ。
 セルビア達は基本体を動かし、戦う事は得意だが、隙を見つけたりずっと注意し続ける……敵の動きを全て把握する、そういった事があまり得意ではない。
 俺と同じ位置に他の仲間たちが来た事もある。
 だがどうしても俺のように指示を出したり、隙を見つけたりするのが出来なかった。
 そして……俺が指示をしている時と、していない時の戦闘時間やけが人の数が違う。
 そんな……普通にしっかりと周りをうがったみかたじゃなく、しっかりと冷静に見れていたのであれば簡単に気付くことにも、俺はこの五十年でようやく気付いた……。
 それを酒を飲んだ勢いでセルビア達に話をしたら何をいまさらと爆笑された。
 次の日……それが酒の冗談ではなく本気で言ったのだと解ると、本気で全員呆れていた。
 そういった事などに気づくと……自然と心にも余裕が出来てくるものだという事が初めて解った。
 今まで、結構余裕があると思っていたのだが、結構いっぱいいっぱいだったみたいだ。
 何せ前しか見えていなかったのだからな。
 今は自分で言うのもなんだが視界が広がった。
 周りを見ることができるようになった。
 そんな風に、自分自身多少成長出来たんだと……なんとなく思えたんだ。
 最近ギルドの親父やレイスによく言われるようになった言葉も俺がそう思えた要因の一つなんだけどな。
 流石に何もなしでそこまでうぬぼれる事が出来るほどまだまだ俺自身、凄い人間だと思えない。
 いつかはそう思えるようになりたいけどな?
 その言葉ってのがまた、こっぱずかしいんだが。

  「最近お前さん、落ち着いてきたなぁ。警備団のリーダーとしての風格ってもんが出てきたって感じだな!」

  「マサキ最近何か大人っぽくなったよね。警備団のほうでもなんだか前よりリーダーだっていう感じするし。」

 というような言葉だ。
 嬉しいけど恥ずかしいな。
 でも……悪い気はまったくしない。
 少しくらい自信を持ってもいいよな。
 それに……もう少しで目標が達成されるのだ。
 俺自身多少成長しなければ、目標が達成したとしてもレイスに気持ちを伝えることなんてできない。
 しようとはしても、結局は思いとどまっただろう。
 今でも少し自信はない。
 でも、俺はこれからも少しずつでいい成長していく。
 精神的にもな。
 だから……もう少し。
 もう少し……目標が達成できるその日までに、レイスにしっかりとこの気持ちを伝えられるようになろう。
 そう思うと……なおさら頑張れる。
 よし……目指せ…………。



[6872] 異世界混沌平凡譚 第十七話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/07 10:17
     第十七話~俺がこの世界に来たのは、この今をつかむためだったのかもな。~





 村の人が総出で今、俺のために手伝ってくれている。
 何をか?
 それは……自分の家を建てることをだ。
 といっても……俺の家はレイスの隣に建て、レイスの許可を取りつなげることになった。
 というのも、元は別々に隣に普通に家を建てる予定だった。
 その話をするとレイスが突然設計図を作ってくれている村の人のところにいき、俺の家とレイスの家をつなげる……そういう話にしてしまった。
 最初は家を造るのをやめさせようとレイスは俺を説得してきたが、どうしてもその意見が聞き入れられないと解ると諦めて、それで手を打ったというわけだ。
 やはり……長い間一緒にいたせいか、突然離れる……いなくなるという事に寂しさを覚えたんだろうな。
 俺も多少その気持ちはあったものの、家は隣り同士なのだ、いざとなればどうとでもなると考えたし……もし上手くいけばそんな事を考えなくても良いと思っていた。
 俺は……とうとう目標達成目前まできたのだから……。
 俺の目標……レイスに気持ちを伝える為に自分自身で決めた決まりごと。
 いくつかあるそれらのうち、一番最後まで難航していた『自分の家。』の所持。
 流石に……レイスの家に厄介になったままの状態では、少々情けないからだ。
 そして、ある程度の貯金。
 これはもしもという時のためだ。
 何もないに越したことはないが、何か起こってしまった時に何もできないという事だけはなくすための用意。
 最後に……レイスが気持ちを受けてくれた時に渡す指輪とドレスの調達。
 これは勝手に……こっそりと旅の商人に頼み手に入れてある。
 指輪とドレス……これが非常に高かった。
 今建てている家の五倍近い値段がした。
 そのせいで……今の今まで目標を達成することができずにいたのだが……それも今考えると幸いだったのかもしれないな。
 俺自身……こうして色々と考え、レイスに気持ちを伝えるという勇気を持つ事が……今の俺には出来ている。
 ……出来ているはずだ。
 これが……少し前……といっても数十年前になるんだが、そのときの俺ならば恐らくこの場に来てもなんだかんだと理由を付けて気持ちを伝えるのを先延ばしにしたことだろう。
 今の俺は違う。
 この家が完成した時……きちんとレイスに気持ちを伝えようと、そうしっかりと思えるのだから。
 俺も……少しは成長できたということだろう。
 逃げないで立ち向かう事が出来るくらいには。
 最低限なけなしの勇気を振り絞れるようになるくらいには。
 さぁ……後もう少しだ。
 俺は……今か今かと、家を建てる作業をしながら出来上がりつつある、俺自身の家を見つめた。





 家が出来た。
 出来事だけを伝えるとえらく短い言葉だが、その中身は大変だった。
 まず……最初のほうは順調だったのだが突然家を建てる為の素材が足りなくなった。
 何故かって?
 何度か自然災害のせいで建築途中の俺の家が壊れたりしたからだ。
 本当に何か、世界自体に俺が家を持つ事を拒まれてるんじゃないかと思うくらいだった。
 だってよぉ……この家を建てる間だけに三度も大きな災害がおきたんだぜ?
 普通一年に一度どころか、数十年に一度あるかないかのような災害が一年どころか三カ月余りの間に三度。
 余りにもあり得ない頻度に世界に対して怒りを持ったとしても誰もせめないよな?
 まぁ……そんなこんなで何とか俺の家が出来上がったわけだ。
 だが……本当の意味での完成はこれから決まる事だ。
 失敗すれば……完璧に完成する事はあり得ないことになってしまう。
 俺の……目指していた完成図の中には絶対に必要不可欠な者を手に入れる為に……今こそ最後の締めくくりを決めにいこう。
 ダサくても何でもいい。
 でも、出来ればかっこよく決めたいな。
 そんな事を考えながら、やはり緊張しているがそれでも足を止めることなく歩き続ける。
 彼女が待つその家まで……。
 家の前に立つと……緊張はピークに達していた。
 もうすごいね。
 心臓バクバクどころじゃないよ。
 全く音が聞こえない。
 恐らく今現在もバクバク凄い速さで鳴り響いてるであろうに、俺自身の耳には聞こえてこない。
 それほどまでに緊張しているという事だ。
 ……大きく深呼吸をし、軽く言葉が出るかどうかを呟いてみる。
 大丈夫だ……かっこよくなんて到底無理だろう……それでも気持ちを伝える事だけは出来そうだ。
 ならば……後は覚悟を決めてこの手を扉に叩きつければいい。
 ゆっくりと……俺は右手を扉へ近づけ……。

  『コンコン!』

 扉をたたいた。
 中から「は~い?」という声とともにレイスが扉を開ける。

  「マサキじゃないの?どうしたのノック何かして、いつも通り普通に入ってくればいいのに。」

 そう言って不思議そうにしながらも笑うレイス。
 俺は今笑えているだろうか?
 レイスにそうなんだけどね……ちょっと……と言葉を濁しながら返事をしながら、促されるままに家の中に入る。
 扉が閉まった……今の俺にとって逃げ道がふさがれた気分だ。
 好都合。
 逃げるつもりなどさらさらない。
 逃げ出したい位緊張して、怖いけどな。
 だから俺はレイスに出されたお茶で喉をうるおし、落ち着こうと考えた。
 大丈夫。
 まだ大丈夫。
 その言葉を頭の中で何度も繰り返し、お茶を少しずつ飲みながら落ち着こうとする。
 無理!
 絶対無理!
 この状況で俺が落ち着けるわけがない。
 ならば……このままいくしかない!
 覚悟を決めろ俺!
 今更迷うな、くじけるな!
 よしっ!

  「れ!レイス……少し良いか?」

 うわっちゃ……しょっぱなからやらかした。
 声上ずったよ。
 情けないけど今の俺には精一杯、勘弁してください。

  「ん?どうしたの?」

 レイスはそう言いながら俺の迎えに腰をおろして俺を見つめてくる。
 その視線を受けて……思わず声が出なくなりそうだった。
 腰を浮かし、すぐさま家から飛び出したい衝動に駆られた。
 何を不抜けている!
 覚悟を決めたんだろう?
 迷わないって決めたんだろう?
 ならばいけ!

  「話が……あるんだ。聞いてほしい。」

 俺は……恐らく凄い顔をしているだろう。
 決して笑顔なんてものはあり得ない。
 無表情……これが一番近いんじゃないかと思う。
 懐から小さな箱を取り出す。
 黒光りするこの世界だからこそ存在する鉱石で出来た箱。
 この箱だけでも家が一軒はたつほどの値段がした。
 この箱自体に腐食防止やら錆びつき防止、自動修復機能等の様々な効果が付いている。
 中に入っている者への効果と、箱自身に対しての効果だ。
 ……現実逃避するな俺……。
 俺はその箱をレイスに差し出しながら……気絶しそうなほど緊張した声でその一言を伝えた。

  「俺と……一緒になってほしい……。」

 色々と言葉は考えていた。
 例えば「愛している、俺と結婚してほしい。」等の様々な言葉だ。
 だが……今の俺に言えたのはその一言だけだ。
 箱を差し出す腕は震えている。
 体全体からは嫌な汗がとめどもなく溢れ続けている。
 それでも……反らしそうになる視線だけはそらさずレイスを見つめる。
 何か信じられないものを見たといった視線で見つめてくるレイス。
 その次の変化は瞳に涙をためて顔を覆うといったしぐさ。
 ……ダメ……なのか?
 俺はレイスを悲しませることしかできなかったのか?
 そんな絶望感に打ちひしがれながら……俺はその箱を机の上に置き、腕をひっこめようとした。
 が。
 出来なかった。
 とっさにレイスが俺の腕をつかんだ。
 痛いくらいの力で。
 未だに片手で顔を押さえ、涙を拭いているが、もう片手は絶対に離さないといった強い意志が感じられるほど力強く俺の腕をつかんでいる。
 漸く……手が顔から離れると、彼女に浮かぶその表情は…………歓喜のそれだった。
 今まで……これほど嬉しそうな彼女は見た事がない。
 涙をたたえながらも凄くうれしそうに泣き笑うレイス。
 彼女は俺の腕をつかんだままもう片手でその箱を手に取る。
 俺に視線で絶対に逃げないで……そう伝え、俺の腕を離すとその箱を開ける。
 出てくるのは指輪。
 とても……まぶしいくらいの嬉しそうな表情でその指輪を俺に手渡してくる。

  「……マサキに付けてほしい……。」

 震える声でそう言ってきたレイスから指輪を受け取る。
 ……震える俺の手で、左手の薬指にそれをはめていく。
 指輪自体に自動で指のサイズに合う機能が付いている為、大きさは問題ない。
 根元まではめると、レイスはそれを見つめながら席を立ち、俺のそばまで近寄ってくる。
 思わず俺も立ち上がってレイスと向かい合っていた。
 そして……次にレイスから聞いた言葉は生涯どんな事があっても忘れることはないだろう。
 俺の今までの人生の中でも、これから先長い人生の中でも絶対にこれ以上ないというほど俺を幸せにしてくれたその言葉。

  「何処までも……付いていきます。」

 たった一言。
 その一言が俺にとっての最高の幸せになった。
 俺は……この日、このときをもって……最高の幸せを手に入れたのだった。
 それから三日後……教会で俺たちは式を挙げている。
 レイスのために用意した真っ白なドレス。
 ところどころでドレス自体が光を放ちながらも、決してわずらわしい印象を与えない。
 そんなレイスと共に俺はレイスと夫婦となる事が出来たのだ。
 皆祝福の言葉を聞き、中には泣き出すほど喜んでくれるものまで現われた。
 セルビアなんかはその代表みたいなものだった。
 そんな彼らをしり目に、今日は二人だけで過ごす……そう決めていたので二人で二人の家に戻った。
 それからは……言わなくても解るよな?
 こうして……俺は、この世界に来て漸く……自分がどうしてこの世界に来たのかという事が解った。
 この日の、このときのためにこの世界に来たんだと。
 例え本当は違うとしても、例え本当は何の意味なんかなかったとしても、今俺がそう感じたのであればそれが事実になる。
 そう、俺はこの為にこの世界に来たんだ。
 だからこそ……絶対にこの幸せは失わない……永遠に、神に喧嘩を売ろうと絶対に永遠にだ!





     視点、村長R





 その日は私にとって憂鬱な日だった。
 何故かっていうとそんなの決まっている。
 今までずっと一緒だったマサキと離れ離れになってしまうからだ。
 確かに……家自体はくっついているものの、別の家何だと……そう感じてしまう。
 だから私にとってその日は憂鬱な日だった……いえ、憂鬱な日で終わるはずだった。
 そんな日が人生で最高の日になるなんて全く思わなかった。
 私が一人落ち込みながら家の中で家事をしていると、突然ノックがあった。
 誰だろう?
 そう思いながら扉を開けるとそこにはマサキが立っていた。
 どうしたんだろう?
 いつもはそのまま入ってくるのにノック何かして……やっぱり家が別れたからかしら?
 そう思うと少し哀しくなった。
 笑ったつもりだったんだけど、上手く笑えているかな?
 私はそう思いながらも、いつもの通りマサキに話しかけていく。
 どこかぎこちない笑顔を浮かべながらマサキはいつも通りの席に座りお茶を飲んでいる。
 何かおかしいな?
 そんな事を考えながら台所でお茶菓子を用意しているとマサキから緊張したような声で呼ばれた。
 珍しい……。
 マサキがそれほどまでに緊張して私を呼ぶことなんて今まで数度しかなかった。
 その中でも今日は今までの中で一番緊張しているんじゃないかと思うほどだ。
 私はマサキの向かいの席に座りながらマサキを見つめる。
 酷く緊張してるのが解る。
 見てるだけでこっちまで緊張してくる。
 でも……なんだろう?
 もしかして……好きな人が出来たとかのそういった感じの報告かしら?
 ……嫌。
 そんなのは嫌!
 絶対に許さない!
 例え相手がだれであってもマサキが望んだとしてもそれだけは許さない!
 そんな事を考えていると、マサキがどこか決意したといった表情を浮かべて口を開いた。
 私は……何を言われるのかと心臓をバクバクさせながら、こちらも緊張してその言葉を待った。
 だが……聞こえてきた言葉はそんな私を違う意味で打ち壊した。
 胸元の服の内側から一つの黒曜石の箱を取り出して私に差し出してくる。
 その次に出た言葉が……。

  「俺と……一緒になってほしい……。」

 ……。
 …………。
 ………………。
 今……今何といった?
 マサキは今何ていったの?
 一緒になってほしい……?
 その箱と一緒にその言葉の意味を考えると……そう考えても良いんだよね?
 私は……マサキの表情とその箱を見つめる。
 酷く緊張した顔だ。
 手もよく見ると震えている。
 ……嘘じゃないんだ!
 本当なんだ!
 マサキが……マサキが私とっ!
 思わず……それを理解すると泣いてしまった。
 とっさに恥ずかしくて顔を隠してしまったのだが、それを何か勘違いしたらしく、マサキは突然箱を机に置くと手を下げようとした。
 させない!
 逃がさない!
 私はとっさにそんな事を考える前にマサキの腕をつかんでいた。
 掴んだ後にその思いが浮かんできたのだ。
 私はそして涙をぬぐうともう片方の手でその箱をつかみ上げる。
 酷く軽いが、とても存在感のある箱だ。
 ……見ただけでも解る、持ったらなお解る。
 こんなもの……買うのにどれだけ苦労したんだろう……。
 私はマサキに絶対にその場から離れないようにと、視線で釘をさしその箱を開ける。
 中には綺麗な黒と銀の指輪が入っていた。
 見た感じは本当にシンプルな唯のリング状の指輪。
 でも、その指輪から感じられる感覚がおかしな程ひきつけられるものを感じる。
 きっと私には解らないけどこの指輪自体凄いものなんだろう……。
 そんな事後になってから考えた。
 そのときはそんな事考えられずにただひたすら……嬉しさだけがあった。
 他の何もいらない。
 唯嬉しさだけ……幸せな気持ちだけがった。
 だから私はマサキに指輪を渡していったのだ。
 付けてほしいと。
 マサキは震える手で私の……左手の薬指に指輪をはめてくれた。
 ぴったりだ。
 その事がまた嬉しくて……嬉しくて思わず涙がまた浮かんできた。
 でも……きっと今の私の表情はだらしなくなっている。
 絶対だ。
 間違いない。
 嬉しすぎてほほに力が入らない。
 本当に本当に……どうしよう。
 嬉しすぎる……。
 そんな風に感じていると、突然まだ返事をしていなかったことに気がついた。
 指輪を付けてもらった時点で普通なら解るけど相手はマサキだ。
 下手したらまだ解っていないかもしれない。
 ……マサキは本当に凄い勇気を振り絞って告白してくれた。
 なら次は私が……私が勇気を出して返事を返す番だろう。
 私は立ち上がり……マサキの前に歩いていく。
 マサキも立ち上がり、ちょうどむきあう形になった。
 緊張しすぎて失神しそうだ。
 でも……例え失神するとしてもこの言葉だけは伝えてからだ……。
 私は……そしてその一言をマサキに伝えた。

  「何処までも……付いていきます。」

 これが精いっぱいだった。
 もっといろいろ言いたい事はあったけどそれ以上言葉にできなかった。
 だから私はその言葉と同時にマサキに抱きついたのだ。
 本当に……今日この日、この時が私にとっての最高の一日になった。
 これまでの人生でも、これからの人生でもこれ以上の日なんて絶対にない。
 だから忘れないだろう。
 絶対に、永遠に。
 マサキに抱きしめられながら私はそう考えて眼を閉じた……。
 それからの動きは酷く速かった。
 三日後私は気付くとマサキの隣で白い純白に光り輝くドレスを着ていた。
 隣では黒いタキシードを着込んだマサキがいる。
 幸せだ……。
 その思いとともにこの日私たちは夫婦となった。
 わいわいがやがやと騒ぎたそうにしていた皆に謝りながら私たちはその日だけはという事で二人で過ごすことにした。
 二人で……二人の家に帰ったのだ。
 その日……何をしたかなんて恥ずかしい事いわせないよね?
 誰だって解る事でしょう?
 本当に……私は今幸せです。
 きっと……私は今こうなるために生まれてきたんだと思う。
 マサキと出会い、マサキと共にある……そのために生まれてきたんだ。
 本当は違うかもしれない、でも私がそう思ったのだからそれが事実だ。
 だから……私はこれから絶対に、永遠にマサキと一緒にいよう。
 絶対にだ……絶対に!



[6872] 異世界混沌平凡譚 エピローグ。
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/07 19:03
     エピローグ~始まり、続くこれからの日々。~





 俺とレイスが結婚してから数年の月日が流れた。
 むろん何事もなく俺たちは幸せな毎日を送っている。
 ……少々恥ずかしい事に結婚してから離してみると、お互いかなり前から両想いだったという事が初めて解った。
 周りの皆には馬鹿にされながら笑われたけどな。
 気付かないのは本人たちくらいだぞって。
 まぁ……気付かなかったものはしょうがないだろう?
 今現在こうして一緒になれたんだからかまうまい。
 そして……長年共に住みつつもお互いの思いに気付かず我慢し続けていたせいか、結婚してから俺たちは色々と爆発していた。
 というよりもしすぎた……。
 なんていうかね……子供が生まれました。
 五人ほど。
 はい、一年に一人ペースで産んでます。
 そして今現在更に妊娠中ときたもんだ。
 AHHAHHA☆
 仲良き事は美しきかな。
 俺たちは……二人だけじゃなく、この新しく生まれた子供達、これから生まれてくる子供達と共にこれから……変わらぬ日々を過ごしていくことだろう。
 目標の到達で最期じゃない。
 目標の到達から新たな目標への再出発。
 こればかりは死ぬまで終わる事のない、道なんだろうと思う。
 俺の今の目標は簡単だ。
 家族を幸せにする。
 家族と共に幸せに暮らし続ける。
 これだけだ。
 だから……俺の目標は既に達成されているが、終わることなどない目標。
 これが、俺の生きる道だ。
 こいつらを……護って、時に護られ、何時までも続くこの世界の日々を繰り返そう!





     視点、副リーダー。





 はぁ……本当に良かった。
 マサキさんも村長も本当にお互い鈍いというか何というか……可笑しい所があったので、こういう結果に……最高の結果に落ち着いて本当に良かったですね。
 まぁ……流石にあのマサキさんが告白するとは想像していませんでしたけど。
 ……いえ、そうですね。
 最近のマサキさんを見ていればそうそう変な事でもなかったかもしれません。
 前までならどこか自分自身に自信がなさそうに、どうしてか自分を卑下していた感じがあったのが、ここ最近だとそういった傾向が殆どない所か、少し自信……いえ、違いますね、恐らく自分自身をある程度理解できたといった感じがして、今まで以上に頼もしくなってきていましたし。
 それにしても……村長のあのはしゃぎようは見てて微笑ましいものがありました。
 結婚式までの日々、村長あろうことか毎日のように村の中を歩き回りながら、マサキさんからもらったという指輪を見せびらかして見てる方が恥ずかしくなるようなほほ笑みを浮かべながら自慢しまくってましたからね。
 ……そう考えると微笑ましいというよりも少しなんというか……な感じだったかもしれないなぁ。
 ……まぁ……今目の前にいる純白のドレスを着た村長からはそんな様子が見られないんですけどね。
 はしゃいでいる……そんなんじゃなく、本当に心の底から今その幸せをかみしめていますといった表情。
 ほほ笑んでいる……ただその微笑みが今まで見た事のないような代物だからかな?
 本当に……綺麗だなぁ……そして、その横に立つマサキさんが本当にきまっている。
 黒いタキシード……余りに合わないとマサキさんは言っていたけどそんな事はない。
 すっごく似合っている。
 村長とマサキさん……本当にお似合いのカップルですよ。
 だから……今はこの言葉を皆と共に送らせてください……。

  「おめでとうございます!」





 ……それにしても……マサキさんがたは本当に元気というか、凄いというか……、やはり普通じゃないですね。
 結婚してすぐに子供ができた。
 それはまぁ珍しくないんですけど……その後出産してからまた直ぐ子供ができたと始まったときには皆苦笑と共に笑ったものだ。
 三度目が続くと少し引いた感覚が出てきた。
 四度目になるともうなんというか……すごいなぁという感想で、五度目のときにはもう、隙に頑張ってくださいと言うしかなくなっていた。
 そして……今度は六度目の子供ができたというじゃないですか……マサキさんも凄いですが、その勢いで産み続けられる村長はもっとすごいですね。
 村の皆が皆……特に女性の方が村長を尊敬してやまないです。
 男として……マサキさんも凄いとは思うんですけどね。
 何だろう……僕も少し……恋人探してみようかな。
 毎日毎日あの二人のラブラブな様子を見ていると本気でそう思えてくる。
 ……よし!
 僕も恋を探そう!
 マサキさんみたいな……いや、マサキさんたちに負けないような素敵な恋人を!
 これから……これから僕の本当の戦いが始まるんだ!
 頑張ろう!
 あの二人に負けないように。





     視点、ギルドの長。




 ったく……本当に長かったぜ。
 あの二人……漸くくっつきやがった。
 誰から見ても明らかだってのに、あの二人は本当にお互い気付いていやがらなかった。
 あのままマサキが告白せずにもたもたしていたら張り倒していたところだったぜ?
 だがまぁ……ぎりぎり合格ってところだな。
 マサキからしっかりと告白して決めたみたいだからな。
 まぁ……最近のあいつの様子を見てりゃそんな感じしていたからなんとなく予想はしていたんだけどな。
 ……家を建てると言い張ったときになんとなく漸くか……と俺は思ったのも間違いじゃなかったわけだ。
 今……目の前に立つ二人は本当に綺麗でかっこいな。
 素直にそう思うぜ。
 こんな日は酒でも飲んで騒ぐに限る。
 流石に主役二人は誘うのはかわいそうだろう?
 ならば主役二人を除いた村人全員で、主役抜きの祭りをくりひろげてやろうじゃねぇか。
 これほど……めでたい席なんてそうそうないんだろうからな。
 まぁ、明日は覚悟しとけよ二人とも?
 今日だけだぜ、俺たちがお前さんがたに気を使うのもな。
 明日は思う存分酒の肴にさせてもらうから、覚悟しとけよ!
 まぁ何だ……だから今だけはこの言葉を送ってやるよ。

  「おめでとう!」











     エピローグ~終焉。



[6872] 感謝の言葉。
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/03/07 19:08
最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
ハッピーエンドが好きな作者は、やはり最後はハッピーエンドで占めたいと思い、此処にてこの主人公たちの物語は終わりとなります。
本当に今まで、さまざまなご指摘やご意見をいただきありがとうございました!
また、いずれかお会いできる日がありましたら、その時気が向けば是非その作品も読んでやってください。
それでは……最後に本当に最後まで読んでくださった皆様に感謝の事はを。
ありがとうございます!



[6872] 異世界混沌平凡譚リニューアル プロローグ
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/09/12 17:16








          【死んだと思ったら生きていた?】





 良い風が頬を撫でる感覚で俺は目を覚ました。


  「んぅ~良く寝た」


 自分でそんな事を呟いた後「あれ?」と思った。
 俺は何時寝たんだ?
 俺は寝てたのに何故外にいるんだ?
 突然思い至ったのはそんな疑問。
 先ず何時寝たか、否、俺は寝ていない筈だから先ず此処から既に可笑しい。
 一先ず置いて置こう、次に何故外にいるのか。
 外にいるのは俺が屋上に出たからだろう。
 それは良い、ならば何故屋上にいる筈の俺がこんな平原のど真ん中にいるのか?
 解らない。
 結論。
 意味不明。


  「ってなんじゃそりゃぁぁぁぁ!?」


 思わず叫んでしまった。
 だが俺は悪くないと思う。
 だって意味も解らず寝てもいないのにいつの間にか寝ていて気付けば平原のど真ん中。
 悪戯にしたって度が過ぎている。
 一通り叫び終えた後咳き込みながら改めて最後に記憶の合った時の事を思い出す。
 確か俺が屋上に行って煙草を吹かしている時だった筈だ……。





 俺は溜息と同時に煙草の煙を吐き出した。
 何故溜息何かを付いているかと言うと、職場の馬鹿が俺を妬んで嫌がらせをして来たがそれを普通に何でもない事のように結果を出してしまい、その場の空気を悪くして逃げ出して来たからだ。
 もう一度俺は溜息を吐いた。
 上手くいかない。
 別に仲良くしたいとは思わない、むしろ絶対に仲良く成りたくない。
 それでも今の現状はどうにかして置きたいそんな事を考えていたらいきなり背中が熱くなって力が入らなくなった。
 意味が解らず倒れたまま辛うじて動く首を動かす。
 先ず目に入って来たのは何かの柄とその付近から流れ出る真っ赤な血液。
 って俺の血か。
 そんな事をぼんやりと考えているといきなり可笑しな、明らかに狂っているとしか思えない嗤い声が聞こえてきた。


  「ふひっ!ふひひひひっ!し、死んだ!しんだしんだしんだぁぁぁ!?この僕を、この僕を馬鹿にしつづけたこの屑野郎がとうとう死にやがったぁ!僕が殺したんだ僕は強いんだぁ!」


 その声を聞いてやっと理解した。
 俺は此奴に刺されたのだと。
 さっき見えた柄はナイフの柄だったんだろう。
 俺はそいつにぼんやりとした視線を向けながら其処まで俺が憎かったのかとだけ考えていた。
 特別憎いとか、殺してやりたいとか何も考えられなかった。
 ただ純粋に人に此処まで憎まれるのは初めてだ、案外嫌な物だなぁと感じるだけだった。
 不思議と痛みを感じない。
 刺された瞬間熱いと思っただけで、それ以外何も感じない。
 それは今の俺にとって幸いだった。
 誰だって痛み何て感じたく無いだろう?
 俺は只管狂ったように嗤い、俺を罵倒する声だけを聞きながらだんだん意識が朦朧として来た。
 此のまま死ぬのか。
 俺はそう考えて、それならそれでしょうがないかと思った。
 人生を振り返っても余り特徴的な事も悔いに残るようなことも何もない。
 遺言を残すような相手も居なければ、本気で悲しんでくれるような親しい友人等も居ない。
 ああ、何だ。
 俺、別に此処で死んでも問題無いんだな。
 俺はその事に不思議な心地良さを感じながら、とうとう意識が無くなり、死んでしまった筈だった。





  「ってそうだよ、俺死んだ筈何だよ。何で生きてんだ?」


 改めて碌でも無いなぁと思いながら思い返して漸く其処に思い至った。
 死んだ筈なのにこうして今生を実感できているのは何故か?
 そんな事幾ら考えても解らない。
 解らないから俺はどうしようもなく混乱しまくっているのを解消すべく思いっきり叫びまくった。


  「此処は何処なんだよぉぉぉぉぉぉ!?」





[6872] 異世界混沌平凡譚リニューアル 第一話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/10/31 09:46





          【会話と言う名の奇跡】





 月日が流れるのは早い物だ。
 俺が混乱し、雄叫びを上げ続けていたあの日から早一ヶ月。
 俺は今小さな村で一人の村人として暮らしていた。
 多分村人として扱われていると思いたい。
 何故こんなにも自身が無いか、それは一重に是が理由だ。


  「☆×●?☆☆☆×●★▽▼■◆」


 因みに此の言葉は今俺を面倒見てくれている綺麗な女性が発した言葉だ。
 うん、全く解らないんだ☆
 だが、だがしかし!
 何時までも解らないままの俺じゃねぇ!
 此の一ヶ月、コツコツと必死こいて、今までに無い程頑張って勉強したんだ。
 此の綺麗な女性に絵本を見せてもらったり、教会見たいな建物の神父らしき人に絵本を貰ったりして何とか頑張ってきたんだよ。
 だから普通の速さで話される言葉は聞き取れ無いが、俺が片言でも言葉を話せるように成っている!
 筈なのだ。
 通じるといいなぁ。
 そう心の底から願いながら俺は言葉を話す。


  「も、すこ、しゆくり、はな、して」


 通じたか!?
 俺は固唾を飲んで目の前の女性を見詰める。
 是で通じていればゆっくりと話てさえもらえればきっと聞き取る事だって出来る筈何だ!
 どうにか通じていてくれ!
 次の瞬間、女性は酷く驚いたような表情をしながら焦ったように早口で話始めて、俺が肩を落としたのを見てから、今度はゆっくりと話かけて来てくれた。


  「っ!★▼■●●!?っぁ、ご、ごめんなさい、これくらいなら、解る?」


 俺の願いは天に通じた!
 否、俺の努力が実を結んだのだ!
 やったぜ、やってやったぜ俺!
 偉いぜ俺!
 凄いぜ俺!
 俺は一人酷く感動しながら自分自身を褒め称えた。
 そんな俺にもう一度ゆっくりと同じ言葉を綺麗な女性が言ってくれているのに気づいて慌てて返事をする。


  「はい、わ、かり、ます。しらな、い、ことば、たくさん、ごめんな、さい」


 ゆっくりで拙い話方ながら、それでも言葉を続ける。
 未だ一番言いたい一言が言えていないからだ。
 綺麗な女性が嬉しそうに俺を見てくれているのを見詰めながら俺はその一事を発した。


  「あ、りがと、う」


 是が、此の感謝の一言を此の村の皆に言いたかったのだ。
 だからこそ必死に言葉を覚えた。
 こんな身分不詳で怪しさ爆裂の俺で言葉さえ通じないというのに面倒を見てくれた村のみんなへの精一杯の感謝の気持ち。
 俺はそれを込めてその一言を発したつもりだ。
 違う言葉であればもう少し前に何となく解り、話せたかも知れなかった。
 でも俺は最初に話すならば此の言葉を覚えて、此の言葉を伝えられるように成ってからと決めていた為、一ヶ月も掛かってしまったのだ。
 実際此の言葉を漸く理解できたのは二日ほど前だ。
 それから何とか話せるようになるまで二日掛かった、長かった、長かったがこれで漸く一歩前進だ。
 俺は良く解らないがきっとこれからこの世界で生きて行かないといけない。
 なら俺は恐らくこの村で生きて行く事になるだろう。
 その為にはもっとしっかりと話せるように早く言葉くらい覚えちまわないといけないだろう。
 そんな事を考えている間にいつの間にか綺麗な女性が居なくなっていた。
 あれ?
 一体どうしたんだ?
 何て事を考えていると、多数の足音がドタドタと俺の方に向かってくる音が聞こえてきた。
 一人の村人が姿を現したと思ったら、次々と人が増え、俺が知ってる限りの殆どの村人が俺の目の前に勢揃いした。
 その沢山の村人は口早に言葉を紡ぎ俺に話かけてくる。
 ああ、何と言うか、本気ですんません。
 言葉が早すぎて本気で何言ってるか解りません。
 と、俺が落ち込んだのを見た綺麗な女性が他の村人たちに怒りながら俺に向き直って「ごめんなさい」と言ってきた。
 俺は相変わらず拙い言葉遣いだが、それでもしっかり「気に、しない、で」と返した。
 次の瞬間周りの村人たちから歓声が上がり、俺は非常に驚いてしまった。
 綺麗な女性はそれを見て苦笑を洩らしながらも、やはり嬉しそうだった。
 暫くして歓声が収まると、綺麗な女性がどうしてこんな事に成っているかを話てくれた。
 何と驚く事にこんな事に成っているのは俺が話せるようになったかららしい。
 村の皆、大体三十人前後だが、此の皆はそれを凄く喜んで、此処に来てくれたらしい。
 言葉を上手く聞き取れない俺に、辛抱強く何度も何度も同じ説明をしてくれる。
 此処に来た村人の皆は今まで不安そうにしていた俺を見ていて心配していてくれたと言う。
 そしてとうとう言葉を話せるように成って、これで少しは不安も無くなり、安心できるように成るんじゃないかと思ってくれているらしいのだ。
 俺は此の事を理解すると同時に涙ぐんでしまった。
 最初は耳を疑った。
 だが、綺麗な女性は俺が聞こえていないと勘違いをして何度も何度も同じように説明してくれる。
 俺の為に。
 そう、皆が皆俺の為に心配し集まり喜んでくれている。
 それを理解して俺は思わず泣いてしまった。
 今まで、この世界に来る前だってこれ程俺の事を心配したり、何かの事で喜んでくれたりした人は居なかった。
 ボロボロと我慢できず泣いてしまった。
 畜生!
 良い年した男だってのに情けない。
 それでも是は無理だ、我慢何て出来る訳が無い。
 でも、それでもこの一言だけ言っておかないと。


  「あ、りが、とう!」


 泣きながら、それでも俺の精一杯の気持ちを込めて村人全員に向けてそう言った。
 こうして、村に来てから一ヶ月。
 漸く村の一員に成れた瞬間だった。





 思い返せば此処に来てからの一ヶ月大変だったが苦しくは無かった。
 それも全て此の村の人達の御蔭だ。
 俺が混乱したまま叫びまくっていると、幸いな事に近くに合ったらしい此の村の人が俺を見つけてくれた。
 そう今俺の事を面倒見てくれている綺麗な女性だ。
 俺はとりあえずその瞬間見惚れたね。
 驚くほど綺麗な女性だったからだ。
 薄い茶色の髪を背中下まで伸ばしたストレートの長髪に、優しげなトロンとした感じの瞳。
 身長は低く百五十の半ばあるかどうか位だが、出る処は確りと出ており、引っ込む処は引っ込んでいる。
 顔立ちは少し幼い印象を与えるが、俺は綺麗だと思った。
 今、良く良く考えて見ると綺麗と言うよりも可愛いと言った感じなのだが、その時の俺はそう思っていた。
 そんな感じで此の綺麗な女性とファーストコンタクトを取ったのは良かったのだが、その綺麗な女性に話かけられて違う意味で固まった。
 何故か、そんなの決まっているだろう。
 言葉が通じなかったからだ。
 最初聞き取れないだけかと思いもう一度話かけてくるのを待ってみたがやはり全然言葉が通じない。
 綺麗な女性が何度も話掛けて来てくれるが俺は首を傾げるばかり。
 俺も話かけるが、綺麗な女性もまた不思議そうに、困ったように首を傾げるだけ。
 お互い困ったように見つめ合った後、俺は身振り手振りで何とか伝えようと頑張ったが、良く考えて見てくれ、こんな摩訶不思議な現象をどうやったら身振り手振り何かで説明が出来る?
 出来る訳が無い、と言うよりも普通に言葉が通じて話を出来たとしても通じないかも知れないんだからな。
 だけどそんな俺の一所懸命な姿が見を結んだ。
 伝わらず落ち込んだ様に肩を落とした俺に、綺麗な女性は恐らく俺を迷子か何かと思ったんだろうな、俺の肩を叩いてにっこりと微笑んでくれた。
 正直何で微笑んで貰えたのか、どう言う意図や意味があったのか何て解らない。
 それでも救われたね。
 思わずその笑顔を見て漸く俺は少しだけ落ち着く事が出来た。
 気持ちが立て直っていくのが自分でも解る。
 本当に不思議だけどその時の俺は本気で目の前の綺麗な女性の、その笑顔だけで救われたんだ。
 その後は、俺が少しだけでも元気になったのが解ったのか俺の手を取って村まで連れて来てくれた。
 村に着いた俺を綺麗な女性は少し大きな、その綺麗な女性の家だと思われる場所に連れ、部屋の中に入れてくれるとベッドを指差した。
 俺は何となく寝て良いと言う意味だろうと思ったが、はっきりと解らない為どうするか迷っていると、その綺麗な女性は優しく俺をベッドに横に成るように身振りで示してくれた。
 それを見て漸くやっぱりベッドを貸してくれるんだと言う事が解り、頭を下げた。
 綺麗な女性は少し恥ずかしそうに笑ったかと思うと手を振りながらベッドをまた指さした。
 照れた表情が一段と綺麗だと思った俺はもう末期かもしれない。
 そんな事を考えながらベッドに横になると、自分の予想以上に疲れていたらしく直ぐに眠りにつけた。
 次の日起きると、綺麗な女性が俺に御飯を作って持ってきてくれている所だった。
 それからが凄かった、代わる代わる色々な人が俺を見に来たのだ。
 珍しいから、それも合ったのだろうがそれ以上に皆が皆心配そうに俺を見て、元気付ける様に笑いながら俺の肩を叩いて行った。
 何人かの村の人は食べ物や飲み物等を持って来てくれたりもして、凄く嬉しかった。
 それから三日ほど何もせずその家にお世話に成っていたんだが、良い年した男が何もせず女性の世話に成っているだけではいけない、そう思い先ずは言葉を伝える方法を考えようと思った。
 その前に力仕事でも何でも手伝えることがあるなら喜んで手伝うが、言葉が通じなければ上手く手伝う事も出来ないんじゃないかと俺は思った。
 先ず何か役に立つ道具が無いかと、俺は自分自身の持ち物を調べてみる事にした。
 と言っても持ってるのは財布だけだった。
 煙草は恐らく倒れた時にライターと一緒に落ちてしまったのだろう。
 俺は財布の中身を確認して見る。
 中には札が数枚と小銭が少々。
 明らかに心許無い金額だったが、其処まで考えて俺は苦笑を洩らした。
 この世界で前の世界のお金が使える訳が無い。
 俺は苦笑を洩らしながらお金を財布にしまった。
 どうしよう、そう考えてふと窓の外に子供達が絵本を読んでいる姿が見えた。
 微笑ましい光景だなぁと思いながらその瞬間閃いた。
 絵本!
 そう、絵本であれば書いてある絵と文字を照らし合わせれば読めるように成るかもしれない。
 読めるようにさえ成れば、それを見ながら言葉を話せるように成る筈だ。
 其処まで考えて俺は落ち込んだ。
 金も無い、何も無い処か信用だって無い筈の俺がどうすれば絵本を手に入れられるんだと思い至ったからだ。
 溜息を吐きながら、落ち込んでいてもしょうが無い、取り合えず村に何か無いか、何とか出来ないかを見て回って見ようと思った。
 初めて外に出るので少し緊張したが、この歳で何時までもそんな事をやっては居られない、こうして俺は一歩外に踏み出した。
 一歩踏み出してしまえば案外何とか成る物で、俺は村の中を言葉は通じないが動作は通じるらしく頭を下げたりしながら歩いて行く。
 途中お店らしい場所を何度か見てみたが何処にも本らしき物は売っていなかった。
 誤算だった。
 予想以上に此の村では本と言う物が流通していないらしい。
 先程持っていた子供も余程運よく手に入れた代物だったのだろう。
 道理で沢山の子供が群がってはしゃいでいた訳だ。
 俺はどうしたものかと考えながら歩いていると、村人達が入れ替わり立ち替わり入っていく建物が有る事に気付き、何だろうと気になった。
 その建物はとても大きく、村の中では一番の大きさだと思われる建物だった。
 そして何か雰囲気も違う。
 お城を小さくした様なデザインの建物で、一番高い処には鐘まで付いている。
 俺が居た世界で俗に言う教会という建物に酷似していた。
 恐る恐るその中を覗き込んで見る。
 そんな俺に村人が後ろから肩を叩いて来た。
 酷く驚いて俺が振りかえると、腹を抱えて笑いながら俺の手を取って教会らしき建物の中に入って行った。
 普通に入って問題無いんだ。
 そう思い、村人から手を放して貰い、建物の中を歩いて行く。
 幾ら見てみてもやっぱり教会にしか見えなかった。
 中の造りも、壁の奥の方にあるステンドグラスみたいな絵の書かれたガラスも、奥まった場所、一段高くなった場所にいる人物の着ている服装と雰囲気も全部が全部そうとしか思えない物だった。
 その人が来ているのは良く教会の司祭とかが来ている法衣と呼ばれる衣装で、少し動き辛そうだった。
 呆然と教会の中を見ていると、その法衣を来た神父様らしき人が俺を手招いた。
 俺は素直にそれに応じて近付いて行く。
 近付くと俺は手を取られ、一つの部屋に案内された。
 其処には俺が探し求めていた物があった。
 神父様らしき人は、文字が読めず言葉が話せない俺に気を使って、絵なら問題ないだろうと思い絵本を手渡してくれたのだろう。
 俺はパラパラとページを捲り中を見て見る。
 絵と言葉が解りやすく載っているのでこれなら何とか成るかも知れない。
 俺が嬉しそうにパッと顔を上げると、神父様らしき人は俺に微笑みながら此の絵本を俺に上げると言った仕草をしてくれた。
 貸してあげるとかそんな意味かもしれないが、取り合えず持って帰って良いような感じの事を身振りで示してくれた。
 凄くうれしくて、どうにかして感謝を伝えられないかと考えて、俺は財布の存在を思い出した。
 確かに此のお金はこの世界では使えないだろう、それでも銅とか鉄とかアルミなら少しでも価値はある筈だ。
 俺は感謝の気持ちをお金で表すのは気が引けたが、それしか今の俺に出来る事が無いので、財布の中身を全て神父様に渡した。
 驚いた神父様は首を振ってそれを俺に還して来ようとしたが俺もそれだけは頑なに拒否した。
 頑固な俺に苦笑を洩らした神父様はお金を半分に分け、これだけなら受け取りますと言った仕草をして残りの半分を俺に無理やり握らせた。
 俺はもう一度深く頭を下げた。
 精一杯の気持ちを込めて深く。
 神父様はそれを見て微笑んでくれた。
 俺は最後伝わらないと解っていても「ありがとうございます!」と言いながら教会らしき場所を跡にして、お世話に成っている家に戻った。
 戻った俺を見て綺麗な女性が慌てて近寄ってきた。
 次の瞬間安心したように息を吐き出して、少しだけ涙を携えながら怒りだした。
 心配してくれたんだ。
 俺は怒られていると言うのに心が凄く温かくなってきた。
 嬉しい、本当に嬉しい。
 思わず笑みを浮かべてしまっていたのだろう、綺麗な女性は何か唸るとそっぽを向いてしまった。
 しまったと思った俺は必死に身振り手振りで謝り倒す。
 暫く必死にそんな行動をしていると、それが可笑しかったのだろう、綺麗な女性は噴き出すように笑いだした。
 俺はそれを見て怒るより先ず良かったと思った。
 笑っている綺麗な女性は一段と綺麗に見えたからだ。
 それから俺はお世話になったお礼の気持ちで神父様らしき人に渡したのと同じようにお金をその綺麗な女性に渡した。
 実際問題是がお礼に成るかどうかなんて解らない、それでも俺に出来る精一杯の気持ち。
 受け取ろうとしない綺麗な女性に無理やりそれを握らせて部屋に戻る。
 途中で恥ずかしくなってしまったのだ。
 普通ならそうでもない事だが、俺はそう言った事をした事が無かった。
 此の村に来てから初めてで、綺麗な女性に示したのが二度目。
 それに気付いた瞬間急に恥ずかしくなってしまった。
 お金を最後受け取ってくれた綺麗な女性が優しい笑みを浮かべていた。
 きっと俺の顔が赤くなっていた事に気付いたからだろう。
 それがまた恥ずかしい。
 それでも気分はかなり良い物だ。
 俺はそんな気分に浸り、それからは村をちょくちょく出歩きながら絵本で言葉の勉強をして過ごす日々が続いた。
 そしてとうとう最初の言葉を話す日が来たのだった。
 振り返ってみても此の村の人達の温かさをどうしようもなく感じる。
 俺は心の底から思った、此の村に来れて幸せだと。





 それから半年が経った。
 俺は普通に言葉を話、会話が出来るようになったし、文字を書いたりする事も出来るようになった。
 そしてとうとう知ってしまった。
 ハッキリとしてしまったのだ。
 半場自分でも認めていたのでやはりとしか言い様が無いがそれでも酷く驚いた。
 そう、此処が、この世界が俺が居た世界じゃないと言う事が。




[6872] 異世界混沌平凡譚リニューアル 第二話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/10/31 09:47






          【異世界と言う事実】





 言葉と文字を理解出来るように成ってから半年。
 俺は此処が異世界である事を知った。
 何となくそうかも知れないとは思っていた、思っていたがそれでもやはりショックがでかい。
 因みにこの世界ナインディルと言うらしい。
 聞いてみた処、当たり前なのだ地球という星の名前や日本と言う地名は聞いた事が無いと言われた。
 簡単に此の世界の事を聞いたりもして見たが、何と驚く事にモンスター等が普通に存在しているらしい。
 本気でありえねぇ。
 聞いた時は流石にショックで落ち込んだよ。
 その上レベル何て言う物まである。
 世界の話に成り、モンスターの話や生活の話の際にその話題に成った。
 レベルと言われても実際どう言う物なのかが解らず不思議そうにしていると綺麗な女性、俺がお世話になった女性がどう言う物かを見せてくれた。
 因みに、俺がお世話に成っている綺麗な女性は名前をレイスと言う。
 実際見せられたのは半透明のウインドウ見たいな画面に名前とレベル、職業と言う物が書かれた不思議な物だった。





           名 前:レイス
           職 業:村人
           レベル:5





 驚きながらそれを見ていると笑われて詳しいステータスは本人にしか見えないけど、本人であれば見れると言う様な事も言っていた。
 そしてそのステータスの値によってレベルが上がると言う事も聞いた。
 ステータス自体は日々の様々な作業で自然と上がっていく物らしい。
 簡単な説明だったが、大まかに毎日筋トレ等をしていればSTRやVIT、走り回ったりしていればAGI、針仕事や細かい作業をしていればDEX、頭を使う作業、勉強等をしていればINT等と言った感じらしい。
 詳しい事自体はハッキリと解っていないと言っていたが今までの経験上間違いないと思うと言っていた。
 そしてレベルが上がれば体力と精神力が大幅に上がると言う事だ。
 俺はそれを聞いて呆然としていた。
 と言うよりも呆然としながら心の中で突っ込みまくっていた。


  「MMORPGかよ!」


 と言った事を。
 最近のMMORPGはそう言う仕様に成っているゲームが非常に多い。
 リアリティを求めているらしいが俺にはぶっちゃけどうでも良い。
 俺は説明を聞きながらだんだんと疲れて来ていた。
 一通り自分の中での葛藤と戦い、ある程度落ち着いてから俺自身のステータスはどうな感じなんだろうと思いどうやって見るのかを聞いてみた。
 見るのは簡単らしく、自分のステータスを見たいと思い浮かべれば良いと言う。
 試しに見ようと試みるが一向にそんなステータスのウインドウが出てこない。
 何度か試したがどうしても出てこなかった。


  「俺にはステータスを見る力が無いのか」


 そんな事を呟きながら落ち込むと、レイスが少し考え込みながら「もしかして」と呟いた。
 俺はそんなレイスを見詰め、言葉の続きを待つ。


  「登録作業をしていないんじゃないかしら?」


 登録って言う物が何か解らない俺はレイスから説明を受ける。
 話を聞いたところ、この世界には何処のどんな街にでも必ずギルドと言う物があり、産まれた時に其処で必ず登録作業を行うと言う事だ。
 ただ時々様々な理由で登録作業をしない、出来ていない人もいるらしい。
 そんな時は気づいたときにギルドに行き、登録作業をすればいいらしいので其処まで困る事でもないと言っていた。
 勿論異世界から来た俺が登録作業等している訳が無い。
 だからその説明を聞いて「成程」と直ぐに納得が出来た。
 だが俺がレイスに異世界から来たから登録していない、等と言えるわけもなく困っていると、何かに思い至ったらしいレイスは、悲しそうに俺を見詰めた。


  「うん、時々、本当に時々だけど登録して無い人もいるよね、ごめんなさい」


 正直何故此処まで悲しそうに、その上謝られているか解らない。
 だが、何かしらその登録できない理由によってだと言うのだけは解る。
 酷く悲しそうで切なそうなレイスの表情を見ていた、直ぐに否定したかったのだが、理由が解らない為直ぐに否定をする事が出来なかった。
 むやみやたらに否定したりすれば可笑しく思われるだろう。
 一応俺は言葉を話せる様に成ってから、自分の事は言葉や文字が全然違う場所からとある事情で此処に来たと言う事にしておいた。
 だからこそ、変な事を言ってボロを出すわけにはいかない。
 幸い村の人達は皆良い人で俺の話を素直に信じてくれた。
 だけど此の話、ギルドの話に成ると下手な誤魔化しだと直ぐに嘘だとばれてしまう。
 違う場所から来たと言ういい訳も是には通用しない。
 だからこそ俺は曖昧に「気にして無いから気にしないで欲しい」とその場を濁した。
 俺に色々親切にしてくれる村の人達を、レイスを騙しているのが凄く心苦しい。
 それでもそれしか方法が解らないのだから情けない限りだ。
 ついでにそのまま話を逸らす事にした。
 色々他の話を聞いていると、驚く事に建物や動物、植物の名前等、俺の居た世界と呼び名が殆ど同じらしい。
 少し詳しくその事について聞いてみたが、やはり形や意味も同じなので間違いないだろう。
 例えば家。
 家はこの世界でも家と呼び、俺が貰った絵本もそのまま絵本と呼ぶらしい。
 そして俺が絵本を貰った建物をやはり教会と呼び、神を奉り、祈りを奉げる場所だと言う。
 モンスターの事を聞いた時にもそれと解る例え方をレイスが良くしていた。
 因みにモンスターの名前も俺の居た世界のゲームに良く出てくるモンスターと同じ名前のモンスターが多かった。


  「狼みたいな素早いモンスターや、ゴリラみたいなすっごく大きな怖いモンスターもいれば、ウサギみたいなすっごくかわいいモンスターまでいろいろいるのよ」


 と言った感じに動物の呼び名を例えに出している。
 その動物の事を聞いてみたがやはり狼は俺のいた世界の狼と同じ様な形らしいし、ゴリラもウサギもそのまんまだ。
 実際見てみないと解らない事だが、話を聞く限り違う処が見当たらない。
 俺はそんな話を聞いていて、さっき突っ込んだ通り本当にどこかのゲームの世界何じゃ無いかと考えるようになった。
 重なる点や似ている点が多すぎるからだ。
 俺は暫くの間、ずっとその事を悩み続けていたが、直ぐにその考えがどうでも良いんじゃないかと思うようになった。
 何故か。
 実際此処が本当にゲームの中の世界であろうが無かろうが、こうして今此処で生きている俺にとっちゃこの世界は本物で、此のまま生きて行くのに変わりは無いと気づいたからだ。
 それに気付いてから俺はその事を余り考えず、その内に日々楽しく生きて行く事で精一杯になっていった。




[6872] 異世界混沌平凡譚リニューアル 第三話
Name: 榊 燕◆972593f7 ID:e298aa1b
Date: 2009/10/31 15:45






          【悲しい現実】





 レイスからステータスが確認できない可能性として登録を済ましてないからでは?
 と言う事を聞いてから数日。
 カランカランという扉を開けた時の鈴の音と共にギルドと呼ばれる建物に入った。
 何故すぐに来なかったのかと言うと、実はステータスが見れなかったら切ないなぁとか考えていたからだ。
 結局心配そうに気にかけてくれるレイスや村人の視線が痛くてとうとう来る事になってしまったんだけどな。
 入ってみると意外とこじんまりとしていた。
 聞いた話によるとこの村のギルドは他の街や村のギルドよりかなり小さいらしい。
 実際レイスの家よりも一回り小さな建物だったことから、恐らく事実なのだろう。
 ギルドの広さは大体畳十五畳位かな?
 カウンターがあり、その前には五つ程の椅子。
 他は五人位座れるそうな小さな丸テーブルが二つ置いてあるだけだ。
 それだけだと言うのにギルドの中は狭く感じられる。


  「おう!お前さんは、身体の調子は良いようだな、良かった良かった!何事も身体が資本だからな無理しないように気を付けろよ。それで、今日は一体どうしたんだ?」


 俺がそんな事を考えているとギルドの親父がそう言って笑いながら俺に話かけて来てくれた。
 先ず最初に心配してくれていて、すっかり元気になっている俺を見て本当に良かったと言った感じで嬉しそうに笑っていた。
 本当に良い人ばかりだこの村は。
 心の中がほんわかと温かくなる。
 何故ギルドの親父が俺の事を知っているかと言うと、俺が目覚めた時家に来てくれていたからだ。
 それ以外にもこの村は小さい、かなり小さい。
 一時間もあれば十分に余裕を以て村全体を回ってしまえるほどに小さな村だ。
 そんな村だ、今では俺の事を知らない村の人は誰一人いない。
 小さな子供から年老いた老人まで全て俺の事を知っている。
 気に恐ろしきは村の小ささと地域一体型の協力関係よ。
 それだけ村人全員が仲が良いと言う事なんだろうな。
 少しそんな事を考えているとギルドの親父が「どうした?未だ体調悪いのか?」と聞いてきたので「いえ少し考え事をしてたんです、すいません」と答えて謝った。


  「あーむず痒くなるからそんな丁寧な言葉遣いしなくて良い!と言うか辞めてくれ!」


 とギルドの親父が言ったので、少しおどおどとした感じだったが為口で話すようになった。
 それからどうして此処に来たのかを話ていく。
 レイスに「もしかして登録をしていないんじゃ?」と言われたのでその確認に来たと言う事を。
 やはりそう説明するとギルドの親父も少し表情を暗くして「人生はこれからなんだ元気出せよ」と言って俺を慰めてくれた。
 どう言った誤解をされているんだろうか。
 気になる事だが、無駄に藪をつつけないので曖昧に返事を濁す。
 申し訳なさがだんだんと胸を締め付けるなこれは。
 話せないって言うだけで意外ときついもんなんだと改めて思ったね。
 そんな事を考えている内にギルドの親父は書類を持ってきて丁寧に俺に登録作業の仕方を説明してくれる。


  「そうだ、先ず其処に名前を書いてくれ。ん?変わった名前だな、まぁ次に……いや、取り合えず名前だけで良い」


 次の項目を見ると生年月日と年齢であり、その次が産まれた場所だった。
 その書類を見てから気付いたが、俺はこの世界の年号を知らない。
 つまり書きようが無かったのだが、親父のその誤解による気遣いのおかげで助かった。
 多分項目を見て気付いた瞬間ヤバイと思って緊張したのを見られたのだろう、直ぐにそう言ってくれたのだ。
 やっぱりそうなのかと言う思いが浮かんでくる。
 誤解されている内容だ。
 何となく回りから色々言われている内にそうなんじゃないかと言う事は思い浮かんでいた。
 先ず初めに登録されていない子、つまりこの表現から子供が時々いると言う事。
 大概のこの話を聞いた村人達が「大変だったろう」「辛かっただろう」と顔を顰めながら慰めてくれた事。
 それに追加して「本当に親として最低だ、あり得ない!」等と怒る人達がいた事。
 今のギルドの親父のように「頑張れよ」「挫けるなよ」「これから良い事が沢山ある筈だ」と応援してくれる人達がいた事。
 そんな様々な内容から少しずつ予想を立てていた。
 はぁ、やっぱりそうなのか?
 扱いや雰囲気から恐らく俺は村人達に『産まれた瞬間登録作業すらせずに捨てられ、一人で生きてきた』と思われているのだろう。
 確りと答えを聞いてみたいところだが尋ねる訳にもいかないのでもんもんとしたものが溜まっていく。
 自業自得だからこればかりは我慢するしかないか。
 そんな事を考えながらも登録作業は進んで行った。
 登録作業と言っても、俺がやったのは最初の名前を書く事だけであり、他は全て説明だった。
 説明によるとレイスが言った通り、登録作業が終わった後は好きな時にいつでもステータスを見る事が出来るようになるらしい。
 説明を聞いている内に職業の事について聞いた瞬間思わずポカーンとしてしまった。
 何せ登録して最初の状態は基本的に無職となっているらしいからだ。
 無職って何だその職業!
 とか突っ込みたくなったが、ギルドの親父に突っ込んでも仕方ないだろう。
 深呼吸をしながら我慢我慢と自分に言い聞かせて落ち着かせる。
 説明は続きステータスの事を聞いた。
 初期ステータスは基本的に人によって様々らしい。
 最初のステータスは基本的に平均五位だと言う、産まれたての赤ん坊がそれくらいと言う事だ。
 その時ギルドの親父が苦笑しながら「俺も実際そんな奴等は見た事ねぇけどな」と言う前置きと共に世界には最初から初期ステータスが平均で十とか二十の奴もいると言う。
 何だその反則気味のステータスはと思わず俺まで思ったよ。
 溜息をつきながら先ず間違いなく俺には関係ない事だろうな。
 そしてこの登録を行うと、死んでしまっても自動的にその死亡通知がギルドに来るらしい。
 どう言う理屈かは解っていないと言う。
 そして何と、心底驚く事にあり得ないと思わず突っ込んでしまった様な事があった。
 それは何か?
 そう、それは死んでしまっても、殆どの場合蘇生が出来ると言う事だ。
 思わず笑っちまった。


 「本気(まじ)で!?」


 と思わず突っ込んでもしまった。
 俺の驚き様に逆にギルドの親父が驚いていた。
 ギルドの親父が「そんな事も知らなかったのか」と言いながら同情的な視線を投げかけてくる。
 これもこの世界だと常識だったのか。
 少し心苦しい物があったが、変に不審に思われたりしなくて良かったと思ったね。
 その事について詳しく聞いてみると、どうやら普通に死んでしまった場合はほぼ間違いなく蘇生が出来るらしい。
 ならばどういう場合は蘇生が出来ないのか。
 それを聞くとどうやら対人戦、それも普通の対人戦ではなく特殊な対人戦の時だと言う。
 親父自体一度だけ見た事があるらしい、その時は光り輝く鎧に身を包んだ、真っ白な羽の生えた天使のような人が現れてその人を連れて行ったらしい。
 それから数時間、又は数日の後に遺体だけが戻ってくるらしい。
 その戻ってきた遺体はどんなに蘇生させようとしても成功しなかったという。
 一通りの話を聞いて俺は益々本当にゲームの世界みたいだと思った。
 レベルやステータス、挙句の果てには死んでも蘇る。
 そして今の話だ、光り輝く鎧に天使の羽の人が連れて行く、もしかしてそいつはオンラインゲームでは絶対の存在であるGM(ゲームマスタ―)なのではないかと。
 そしてそれがGMならば連れ去られた人は恐らく違反者だ。
 その結果違反者のアカウント停止、もしくはキャラクター削除でこの世界での理屈にあてはめる為に遺体だけを戻し死んだ事にしたんじゃないのか?
 そんな事を考えているとギルドの親父がついっと顎を差し出してテーブルで話ている三人組の方を指した。


  「丁度其処のテーブルにいる冒険者達もな恐らく特殊な奴等だ。産まれた瞬間は知らないがレベルが低い頃からそこいらの奴等より全然強いは、レベルが一気に上がったりするはで、成長速度も半端ない位凄い。普通の人なら絶対にあり得ない事だからこそあいつらは特殊な人間と呼ばれている。きっとお前さんはその事も知らなかったんだろう?」


 親父の言葉に頷きながらやっぱりゲームじゃないのかこれはと考えた。
 オンラインゲームなら最初の成長が早いのは結構多い。
 レベルも10や20位までならサクッと上がる物が大半だろう。
 その時、決定的とも思えるような話がその冒険者達から聞こえてきた。


 「にしてもよぉ、この間の対人戦の時のあの“プレイヤー”滅茶苦茶腹立つよな!」

 「全くだね!人さまが一生懸命集めたアイテムかっさらっていきやがったんだからな!スキルでそういうのがなければ”GM”に報告して“アカバン”してもらうのによ!」

 「ってかさ、何で”運営”側もんなスキル作っちまったんだ?やってらんねぇよ。俺本気でこの”キャラ”消して、その系統のスキルを取るキャラに”作り直そう”かと思ったくらいだぜ?」


 AHHAHHAHHAHHA☆
 思わず笑いしか漏れなかった。
 幾ら変な笑い声をあげて現実逃避をしたところで聞いた内容が変わる訳じゃない。
 って事はだ、まず間違いなくこの世界はゲームの中の世界だろう。
 それもオンラインゲームの。
 俺にとっちゃそれでもただの異世界と余り変わらないんだが、それでもゲームの世界だと知ってしまうとなんだかなぁ?
 それでもまぁ、死んでしまってそれっきりって言う可能性が無くなった事だけはゲーム特有のその世界観に感謝かな。
 それにしても、違いが無い筈何だけどその言葉の響きだけで何だかなぁと少し落ち込んだ。
 それから少しの間ギルドの親父と話をして、色々と教えてくれた事に礼を言ってギルドを後にした。
 それじゃあまぁ、気分を入れ直して俺のステータス確認と行こうかな!
 ドキドキしながらギルドの親父に説明された通り頭の中でステータス表示と考えた。
 すると目の前にステータスウインドウが現れた。
 思わずホッとした。
 出ないんじゃないかと少し思っていたからだ。
 だがそのホットした感覚も長く続かなかった。
 なぜならば、そのウインドウに刻まれた数字のせいだ。
 もう、何て言って良いか解らないほどすさまじい数字が並んでいた。
 赤ん坊から十三歳位までの間は基本的にステータスの変動が殆ど無いらしいがそれでも最低平均で五位はあるとギルドの親父が言っていた。
 そう最低でもだ。
 確かに俺は産まれてこの方何か特殊なものを習った事も無ければスポーツ等も特にした覚えが無い。
 そんな中で俺が自慢できると言ったら記憶力の良さと適応力の高さくらいだろう。
 だからといって、だからと言ってこれは無いんじゃないか?
 がっくりと膝を地面に落としながらそのステータスを見詰める。
 其処に書かれているステータスウインドにはこんな数字が並んでいた訳だ。





          ――――――――――――――――
          名 前:岩崎 雅樹
          職 業:無職
          レベル:1
          STR:2
          VIT:2
          AGI;3
          DEX:1
          INT:8
          ――――――――――――――――





 何これ、あり得ないほどの低ステータス。
 産まれたての赤ん坊以下のステータスってどういう事だよ。
 泣いても良いよね?
 と言うより既にもう泣いてますけどね。
 INTだけ真面で他のこのステータスの低さはあり得ないだろう。
 いや本気でさ。
 ああ、人々は優しくても世界は俺に厳しかった。
 一人落ち込みたそがれていると一人の村人が通ったので、一縷の望みを掛けてステータスって俺ぐらいだと普通どれ位ある物なのかを聞いてみた。
 本当にそれこそ藁にも縋るような思いだったよ。
 だが帰ってきた答えは俺を完璧に絶望に突き落とす物だった。


 「ん~普通あんたくらいの年なら大体平均ステータス8前後じゃないかい?最低でも6位はあると思うよ。特別苦手なものがあるんなら5とかもあるかもしれないけどね。」


 俺はとりあえずその村人に礼を言うと物陰になっているところまでふらふらと歩いて、其処でまた膝を落とした。
 散々落ち込んだが手を付いて愕然としている今の姿はorzと言った感じだ。
 いや、冗談じゃ無く本気でね、それも実は泣いてるから。
 ある程度泣いた後ふらふらとした足並みでレイスの家まで帰った。
 げっそりと疲れた様な表情に真っ赤な目、それを見てレイスは酷く驚いたように俺に詰め寄って来た。


  「い、一体どうしたの!?」


 俺はこの時もうすでに自棄になっていた。
 聞かれたのでギルドを出てからの事をそのまんま話た。
 ついでに笑いながら「ほら」と言って見せたステータスウインドウを見てレイスはまさかと言った表情で気まづそうにしていた。
 後でその時の事を聞くと、笑っていた筈なのに全然笑ってる感じじゃ無く、何処か無機物のゴーレム見たいだったと言われた。
 変な笑い声を上げる俺にあたふたと困惑していたレイスは、突然大声を上げて、家を出て行った。


  「き、今日は!ご、ごちそうにしよう!うん、そうしよう!偶には美味しいもの食べて心の栄養つけなきゃね!?」


 そうしてそそくさと逃げるように家を出て行った。
 その後大量の食べ物と酒を持ってレイスが帰って来たと思ったらそれに続いて村人達も何人か一緒についてきていた。
 その中にはギルドの親父もいて「悪い事は飲んで忘れちまえ!」と言う事で無理やり酒を飲まされ、なし崩し的にどんちゃん騒ぎになった。
 皆の気遣いと酒の力もあってその後は俺も元気を取り戻して騒いでいた。
 そして次の日も全く落ち込むと言った事はしなかった。
 と言うよりも出来なかっただけなんだけどな、二日酔いで。
 それから一週間、もう普通に元気良く動いている俺がいた。
 あれからゆっくりと考えると実際ステータスが低いからと言って困る事が何もない事に気がついた。
 それに村の手伝いとか、自分自身で鍛えればそれだけステータスは上がっていくと言う事も聞いて解ったのでその御蔭だ。
 だからこそ俺が自慢できる一つ、適応力の高さが役に立ち元気に普通の状態になっていた訳だ。
 俺は意外とタフなのかも知れないと自分で少し思った。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.13147497177124