「―――――――――――まったく、皆騒ぎすぎだよな」
夏の夜風に当たりながら、火照った身体を落ち着ける。
麻帆良で見た月よりも、見上げる夜空が近い錯覚。
冬木で見つめる月の世界に、今の俺は何を思うのだろうか?
「―――――――士郎君が無事に帰って来たからね、嬉しかったんだよ」
伽藍の堂の屋上。
式さんと先生は未だ飲み比べ大会満員御礼開催中。
騒ぎ疲れたイリヤを寝かしつけた幹也さんが、ひょっこり現れ俺と同じように月を探しにやって来た。
隣に控えた黒い人影が何よりも普遍的な存在に感じられたのはきっと気のせいだ。
幹也さんは“普通の人”なんだから。
「士郎君は麻帆良で何を見てきたのかな?」
やや語気を強めて、幹也さんは穏やかな疑問の言葉を夜の闇に放り投げた。
「―――――――――何故ですか?」
俺に対しての質問では無いのだろうか?
幹也さんは夜から目を外さない。
「うん、どこか四日前と雰囲気が違うと思ってね。男子三日会わざれば活目して見よってよく言うけど、ちょっと実感しているのさ」
僕も歳かなぁ、なんて恥ずかしげに首の付け根をぽりぽりと掻く仕草は、言葉とは裏腹に幼さを証明している。
そんな彼の言葉に俺は偽り無く返した。
「そうですね、麻帆良の街でも色々なモノが視えました」
正義の味方、神秘、守ること救うこと。
桜咲や近衛に出会って、切嗣の足跡を縫い付けて。
半年前とは比べようも無く、俺は変わった。
「冬木の街を出た。たったそれだけで、俺の世界はこんなにも広がりましたから」
かつて世界を駆けた正義の味方、どれだけの矛盾を、どれだけの幸せを、どれだけの不幸をその眼に刻んだのだろうか?
「そうだね、人間はたったそれだけで変わることが出来る。だけど、君の願いはいつまでも変わることは無いのかい?」
違える事無く、俺を射抜く黒い天秤。
全てにおける普遍の指針が極一の願いを、否定する。
「ええ、全てを救う正義の味方。これだけは変わりません」
俺だって馬鹿じゃない、この願いは絶対に叶わない、叶えてはいけない願い。
だって、―――――――――。
「全てを救う、普遍的な幸福・・・・・・・・・それは、全てが否定された世界なのに、かい?」
幸福だけで満たされた世界/不幸だけで満たされた世界。
結局は同じだ。
極一、無限であるが故にそんな世界はオレと同じガランドウ。
全てがある故に何も無い世界。
俺の願いは世界征服なんてモノより性質が悪い。
それでも、――――――――。
「ええ、きっと永遠に、―――――――――――」
俺の願いは変わらない。
「そっか、正義の味方が悪の親玉なんて、テレビドラマは酷いよね」
静かな微笑が幹也さんの欠けた瞳より零れる。
「まったくです」
瞳を閉じて、俺も笑って返す。
夏の夜空に輝く風が満ちていく。
お互いに目配り、黒の人影と合わせる様に月を仰ぐ。
「―――――やっぱり、皆を幸せにするのは“最後の魔法”かな」
不意に、月に映る黒い人影が心にも無い事を笑顔で零した。
「まさか、そんなものじゃ足りませんよ」
「士郎君も、そう思うかい?」
「ええ、だって、――――――――――――」
人を幸せに、人を救うのに魔術でも、科学でも、ましてや魔法でだって届きゃしない。
「俺たちを救うのは、“人”って言うちっぽけな奇跡だけなんだ」
かつて俺を救った正義の味方がいたように。
かつて俺を救った最愛の剣がいたように。
彼らに出会えた、その奇跡が俺をこんなにも満たしてくれる。
誰かを守るのは、誰かを救うのはきっと、――――――――。
「信ずべき誰かに、―――――――――――愛すべき誰かに、出会えた時だから」
見上げる月世界は遥か夜の円居の彼方。
空が遠い。
届かぬ願い、届かぬ誓い。
正義の味方、お前が綺麗だと言ったこの理想。
未だ遥かに遠い永遠の向こう側だけど、この道の果てにお前がいるのならきっと辿り着く。
辿り着くから、目指すんじゃない。
お前がいるから、辿り着くんだ。
「―――――――――――そうだろ?」
誰かの名前は風に乗る。
この願いが理想郷の果て、辿り着けぬ最果ての地に眠る彼女に聞こえますように。
いつか辿り着く、その願いに踏み出そう、―――――――――。
得られる物は何一つ無く。
叶う願いなど在りはし無い。
きっと、残せる物は何も無いけど、――――――。
願いを叶えたその時は、―――――――――――。
「また、いつかの空の下で、―――――――――――」
The story will never stop from cathedral.
His wish has been wandered whole over the life.
Trust to get his wish, so, he believes to heroic fantasy.
The period, first contact, finished.
----------------Next to second season.