とある観測系念能力者の手記
Greed Island Onlineのプレイヤーたちがハンター世界に飛ばされたのは、その年の冬だった。
彼らは突如としてグリードアイランドに現れた。レイザーは彼らを不法侵入者と判断し、“排除”した。
そしてプレイヤーたちはわけもわからぬままアイジエン大陸に放り出されてしまった。
文章にすればたったこれだけの事実を理解するのに、しかし、プレイヤーたちは多大な時間を要した。
あまりにも常識はずれの事態と、そして自らがおのれの設定したプレイヤーキャラクターの身を纏うこの現実を受け入れかねて。
現実に気がついたとき、同時に悲劇も始まったのだ。
プレイヤーキャラクターとなった彼らのすべては念能力者であり、そればかりか三分の二近くが、ライセンスを持つ正規のハンターだった。
たとえ異世界に放り出されたとしても、ただ生きていくには、それは充分な条件だった。
ただし、多くの者はこの世界で平穏に過ごすことを拒絶した。
元の世界に帰る。
その目標のもと、彼らは精力的に動き始めた。
ほとんどの者が帰るための手段として、グリードアイランドを手に入れることを考えた。
“リープ”は彼らが考え得るほとんど唯一の脱出手段だったからだ。
超えねばならぬ条件は多かったが、彼らは目的のために動き出した。
ちょっと目端の効いたものは天空闘技場で金と名声の双方を手に入れることを思いついた。ただし、これは天空闘技場二百階クラスの人数増加とともにレベル上昇をも招いたが。
初期においては、彼らはおおむね順調であり、しかし、順調でなかった者たちも居た。この世界にとどまることを選び、その上で原作キャラクターたちとの交流を図った者たちであった。
原作主人公側に接触を図った者たちに起こったトラブルは、まだしも平和的であった。彼らは主人公たちに近づこうとする者を同胞であると認識し、しかし、一緒に仲よくなろうなどとは思いもしなかった。
結果、彼らは、自分が近づかない変わりに他人も近づかせない。周囲からながめるのみという、いわば紳士協定を結ぶに至った。
この集団が別の相貌を見せだすのは、また、後になってからのことである。
ゾルディック家、あるいは幻影旅団に近づこうとした者こそ、哀れだった。
もとより原作でも突出した戦闘能力を持つ彼らの感知域に、不用意に近づいた者たちは、拷問と尋問により、保有するすべての情報を引き出された後、適切に処分された。
一方では犬のえさになり、一方では念能力を掠奪されたのち、放逐されることが多かったようだ。むろん、異郷の地で念能力をすら失った彼らの末路は言うまでもない。
過少数の者は原作キャラクターと親しむ機会を得たが、それが危険に見合ったものであったかと言えば、やはり疑問が残る。
異世界に飛ばされた彼らが、肩を寄せ合うようにコミュニティーを生成しなかったのは、ひとえに独力で生き延びるに足る能力を持っていたためだろう。
そんな彼らが何よりも欲したものは、原作の情報だった。
グリードアイランドを手に入れるため、危険な世界に足を踏み入れなければならない彼らにとって情報は何よりも貴重だった。
電脳ネットにおいてそれを共有しようという動きが起こるのは当然のことだった。
Greed Island Online と名づけられたサイトには百人近くの人間が書き込みを行い、おそらくはより多くのプレイヤーたちが見ていたことだろう。
むろん、この後猛威を振るう同胞狩りたちもこのサイトを見ていたのである。
グリードアイランド入手。
そのクリア特典で手に入れられる脱出アイテム。
プレイヤーの総数からすれば異常と言える狭き門であり、それがプレイヤーたちを一致協力させなかったと言っていい。
もっと積極的に、競争者を殺すことを考え、そして実行した者たちもいた。
彼らは同胞狩りと呼ばれGreed Island Online に所在地まで登録していたプレイヤーが、数多く犠牲になった。
むろんこれに対抗する者たちもいた。
その多くが、この異郷に飛ばされたものの中でも高い実力を保有する、いわばトッププレイヤーだったが、それでも多大な犠牲が出ることとなった。
グリードアイランドクリアを目指すトッププレイヤーたちと同胞狩り。二者の争いは同胞狩り側の中心人物が全滅するまで続いた。
両者の争いに決着がついたころから、時の歩みは緩やかになっていく。
それが凍ったように止まったのは、ゴン・フリークスたちがグリードアイランドに入ったころからである。
幻影旅団。爆弾魔。この両者による殺戮が収まるのを息をひそめて待つかの如く、このころのプレイヤーたちはなりを潜めていた。
それぞれの時を、それぞれが過ごし。
そしてハンター歴2001年4月。再び時は動き出す。