<一ヵ月後・アースラブリッジ・クロノ=ハラオウン>
血塗れのマリア、その凄まじい活躍に心が躍る前に寒気がする。
思わず仕事を忘れ、彼女の事を調べつくした。
……お陰で母さん……艦長やエイミィに変態扱いされてブリッジまで呼び出されたのだが、今は静かだ。
無理も無い、こんな記録を見てしまえば普通言葉を失くす。
個人の記録だけでも撃墜記録約500、内将校16人、中には佐官も含まれている。
それに小隊全員の記録も入れると一気に数は倍以上に膨れ上がる始末。
彼等の戦力は一個大隊に匹敵するとも言われているのだ。
全く笑えないが、記録を見てしまうと信じざるをえない。
この世界の佐官はミッドチルダの魔道師ランクで言えばAAAランク以上だ。
少佐がAAA、中佐がAAA+程度、大佐がS以上。
まぁ、魔力保有量重視の評価の為、それが正しい実力とは限らないが、そうである。
その中にいて、魔力保有量AAランクにして佐官を打ち倒し少佐になっている人物がいる。
それが彼女、マリア=エルンスト少佐だ。
……そう、以前僕が酷い誤解を受けた彼女である。
あの時の事は余り思い出したくない。
……管理局内では長距離戦闘に関して言えばSSランクに届くとも言われる彼女。
冗談でも何でもなく、対称面の狭い一直線状のみとは言えAAAクラスの攻撃を連射する彼女は最低でもSランク。
今や敵味方両方から恐れられる存在だ。
初めに僕もそう呼んだが、彼女の呼び名は血塗れ。
気に入った相手を殺した後は氷漬けにして弔う事から氷葬のマリアとも呼ばれている。
まぁ、その二つ名からも分かる通りにあまり好かれてはいない様子。
もっとも、彼女がいる前線にある町、サウスハンプトンではそんなに嫌われてはいないようだが。
この情報から彼女が人格者である事が伺える。
無表情と無愛想で有名な彼女を容姿だけで誤認するとは思えない。
……また、彼女が嫌われている理由も分かる。
彼女が嫌われているのはその異例の昇進速度と、その強さを嫌悪する故であろう。
要は妬みであり、軍の上層部が情報操作している影も見えた。
ブリテン王国軍上層部は彼女の存在を危惧し、戦後は管理局へ引き渡されるのだという噂まで流れている。
噂はあり得なくも無く、もし本当ならば管理局にとって願っても無い事だが……。
……果たして彼女が素直にいう事を聞くであろうか?
そこだけが、僕の疑問であり、危惧している所でもある。
リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第十話 聖剣奪還
未だ沈黙の帳が降りているアースラブリッジ。
漸くといった感じでリンディ艦長が言葉を発した。
「……クロノ、この情報は確かなの?」
「はい、艦長。
少々調べるのには時間がかかりましたが、確かです。」
僕の答えに、艦長は短くそう……とだけ言って再び情報に見入ってしまった。
「……酷いよ、子供にこんな事をさせるなんて……。」
同じくスクリーンの情報に見入ってしまったエイミィが言う。
気持ちは分からなくも無いのだが、実際に彼女を見ている此方としてはどうかと思う。
……少なくとも、彼女は周りに流されるような人物には見えなかった。
だが、訂正はしない。
エイミィにとってそういう現実は重過ぎる、と判断した。
今更ながら無理にでも彼女は置いてくるべきだったと後悔する。
「これが戦争だ。
エイミィ、少なくとも終戦までは管理局が介入する事は出来ないぞ。」
下手に管理局が介入し続けると、終戦後のお互いの関係に亀裂が入る。
戦後に直戦争をするなど愚の骨頂だ。
……まぁ、戦力的に見ても疲弊した王国が戦争を決断するかは分からないが。
少なくとも管理局に対する感情は悪化するだろう。
「……私だってそのくらい言われなくても分かってるよ。」
何処か機嫌を損ねたように言うエイミィ。
だが、直に有難うと小さく言ってきた。
そう言ってもらえると、憎まれ役も悪くないと思えてくる。
様々な場面において理解ある人物は重要だ。
「クロノ、この子の詳しい魔道師ランクとか分かる?」
「いえ、残念ながら。
やはり、正式な過程で軍に入った訳ではないようなので。」
「そう、まぁ当然よね。
元々は軍の広告塔として利用されていたようだし……。」
顔を不愉快気に歪めながら言う艦長。
念の為に一応聞いてみただけと言う事か。
顔の歪みはきっと己のふがいなさを表している。
……エイミィの表情も先程よりも更に歪んだ。
此方が表しているのは悲しみと憤りか。
彼女の感情を否定する事を僕は出来ない。
その憤りもまた、少なからず自分自身へ向いているのだろうから。
艦長の言う通り彼女は元々軍の広告塔で、要らなくなったから前線へ送られた。
此処までなら悲劇のヒロインとでも言うべきだろうが、このヒロインは少々凶悪すぎた。
強さは先程言った通り、詳しい情報は分からなかったが前線基地で着任早々決闘騒ぎまで起こしている。
嘘か真か相手は佐官で、しかも彼女の圧勝だったと言う。
…………本当なんだろうなぁ。
多分間違いないだろう。
その証拠に彼女はその次の日には敵のエースを単独で撃破している。
何でも相手は歴戦の少佐で、彼が率いていたのはこれまた歴戦の中隊だったと言う。
彼女が隊長を勤めているのはガルム『小隊』だ、洒落にならん。
「彼女、アースラに引き抜けないかしらね……。」
「正気ですか艦長!?」
また母さ…艦長の悪い癖だ。
艦長は若くて優秀な人材を見ると無理やりにでも引っ張ってくる時がある。
無論、そこには打算も善意もある。
一概に悪いとも言えない行動だが……。
ただ今回は……。
「あら、勿論終戦後…」
「そういう問題ではなく、恐らく彼女は無理です。」
「………何故かしら。」
艦長が目を細めて真剣に聞いてくる。
……前会った時に感じた事なのだが。
「恐らく彼女は死と言う概念を受け入れています。
また、戦士である事に誇りを持ち、そこに隙は無いでしょう。
少なくとも、彼女は管理局とは相容れないと思います。
……寧ろ侮辱すれば此方が唯では済まないかも知れません。」
僕の答えに艦長は納得して、考え込みながら呟いた。
「……そう言えば、彼女は管理局には良い感情を持っていないんだったわね。」
「ええ。」
「……そんな。」
僕に遅れてエイミィが何故と言う顔でそう呟いた。
彼女の顔色は驚く程に悪く、信じられない事を聞いたかのようであった。
事実信じられないのだろう、そんな考えを持つ幼い子供がいる事を。
しまった!……先程エイミィには言わないでおこうと考えていたばかりじゃないか。
僕は思わず内心で舌打ちをする。
……艦長がするかも知れないが、後でフォローが必要だろう。
「……一先ず、この話はおいておきましょうか。」
艦長が複雑な声で言った。
子供を戦場へ送り出すと言う点で言えば管理局も同じ様なものである。
此方は非殺傷設定を使うが、相手が必ずしも使ってくれるとは限らない。
いや、当然の如く使わない事の方が多いだろう。
何せ相手は犯罪者である。
殺す覚悟はしなくて良いが、殺される覚悟は必要だ。
……いいや、時と場合が許さなければ殺す覚悟も必要か。
「艦長!緊急事態です!」
悪い空気が漂うアースラブリッジに、エイミィの声が響き渡った。
先程から落ち込んでいた彼女が突如張り上げた声、余程の事なのだろう。
ブリッジの陰鬱とした空気も一気に吹き飛んだ。
「何事ですか?」
艦長の冷静な声が周囲に響き渡った。
それはエイミィを含めた周囲の人間に少々の落ち着きを与える。
こういう時に落ち着いた艦長の雰囲気は流石だと思える。
……これで僕をからかったり変なお茶を飲んだり飲ませたりしなければ……。
「聖剣が、強奪されました!!」
「何ですって!?」「何だと!?」
どうやら、そんな下らない事を考えていられるほど事態は甘くないようだ。
<マリア少佐>
この一ヶ月で随分と俺も強くなったと思う。
まぁ命を懸けた戦いだ。
こう言う所でも程ほどのリターンが無ければ困る。
そう、此処で生活を続けてきて既に一ヶ月。
戦場の空気にもかなり慣れてきたと言って良いだろう。
俺が未だに生きている事を考えればまず間違いない。
殺人に対する抵抗感は薄くなり、生への執着心は尚強まっている。
あの戦闘が終わってから一ヶ月半経過した。
此処での生活にも大分慣れてきた感じだ。
悪くは無い。
訓練や任務、その他疲れる事も多々あるのだが、逆に言えば充実している。
余裕のある昼や、休日には猫飯へ料理を食べに行ったりもしている。
あそこのウエイトレスは非常に和むんだが存在が謎だな。
後、この前はフィーネ中佐が手料理を披露してくれたりもした。
美味しいと言って頑張って笑ったら母さんとアンナちゃんが対抗意識を燃やして大変だったが。
たまーにクレメント夫妻の来襲があったりするが、やはり問題ない。
何せ俺にはストレス発散に付き合ってくれるイリーナ大尉と言う心強い味方がいる。
……ん?ああ、勿論イリーナ大尉が何かしでかしてくれた時だけさ!
いや、ホント懲りずに何か問題を起こしてくれるからな。
まぁ、勿論加減もしてるし本当に嫌がったら止めるんだが…………。
……最近は何だか年下に負ける不甲斐ない自分に嫌気がさしたのか良く訓練をしてくれといってくる。
うん、本当に真面目だ、息を切らして顔を真っ赤にしてまで向かってくるんだから。
さて、行き成りだがお知らせがあるのだ。
俺にとっては非常に重要な内容の事。
俺のレアスキルは皆さんご存知の通り。
俺の戦闘方法の要にもなっている魔法維持だ。
このレアスキル、かなり優秀で維持する魔法の数は無制限。
……しかし、二週間ほど前か思わぬ限界を発見した。
このレアスキルは確かに数には限界が無いが、規模には限界があるようなのである。
どう言う事かはお分かりだろう。
スターライトブレイカークラスの魔法は維持出来ないと言えば更に分かりやすいか。
……分かり難くなった?……ああ、あの魔法めちゃくちゃだもんなぁ。
……うん、この前のインゴベルト少佐との戦いで作った大剣!
アレよりももう少し行った所が限界だ。
この前念の為にと大量の弾丸と渾身の魔力を込めて再度作ったんだが……。
途中で唐突に維持に限界が来たのが分かった。
あのままやっても爆発したりはしなかっただろうが、魔力の流出は抑え切れなかっただろう。
無論その大剣はとっておいてある。
どうやら使う時に維持分とは別に魔力を込めるのは大丈夫な模様。
やってみた感じ、どうやら俺の魔力保有量が関係している感じがする。
……いや、リンカーコアか?
まぁ、今はどちらでも良い。
維持限界と、その限界が上がる可能性があるだけで十分だ。
「マリア少佐、緊急出撃指令って何なんですかね?」
「……ろくな事じゃないのは確かだろう。」
うん、今の会話だけで十分だとは思うが、一応言う。
歩いている場所は基地指令の性格が現れている綺麗に磨かれた廊下。
俺達は今、緊急出撃指令の内容を聞くために司令室へ向かっている。
伝えに来たのがアルベルト中佐で、彼も内容は知らないとの事だから余程の事だろう。
ほぼ間違いなく王国側のなんらかしらの失態の尻拭い。
「殺した敵兵の数に合わせて褒章があるのは良いんすけどねぇ。
こう忙しくっちゃぁ使う時間もねぇ。」
アントニウス少尉がそうぼやいた。
だが、その台詞は俺にとっては聞き捨てなら無いものだった。
「……この前小隊全員が色町に颯爽と繰り出していたようだが?」
「い!?……何でご存知で?」
こいつらこの前の休みに全員でその手の所回ってきやがった。
俺はもう既にそれをする為のものが無い。
ぶつけ所の無い憤りを感じずにいられるものか。
ちなみに、この情報は猫飯のウエイトレスから得たものだ。
やはりあいつら唯もんじゃねぇぜ。
「……いや全く、ご一緒できなくて残念だよ。」
本当にな。
「い、いや、あのですね少佐。
俺達も男な訳で……。」
少々困ったような表情を浮かべる少尉。
そんな彼に向かって俺は理解の色を瞳に乗せながら言ってやる。
……まぁ顔は無表情だが。
「分かってるとも、男がケダモノだとも、な?」
何せ元男だもの。
「…………。」
少尉は少々項垂れながら黙ってしまった。
俺は目を瞑って、少し頷きながら彼の背中をポンポンと叩いて慰めてやる。
いや、しょうがない事も分かってはいるがな……口には出さんが。
アントニウス少尉、いや、おっさんは少し泣いた。
無表情に(性的な意味で)理解ある視線を向ける幼女。
無表情な幼女に(性的な意味で)理解ある視線を向けられるおっさん。
……ああ、シュールかも。
少々涙ぐんでいるおっさんと無表情の幼女。
司令室に訪れた俺達を、ハロルド大佐が何とも言えない顔をしたのはしょうがないかもしれない。
<ハロルド大佐>
私はやってきた二人に今回の緊急任務の内容を伝えた。
……最初二人が入ってきた時の様子の異様さに驚き、暫し思考が停止したが何とか復帰できた。
この連中は私を驚かす事がとことん好きらしい。
「……聖剣の奪還!?」
故にアントニウス少尉が驚いた事には過程は如何あれ少々溜飲を下げられた。
…………いや、私は最近少々疲れているのかも知れんな。
見れば内容を聞いたマリア少佐は普段の無表情を少々崩し、実に不愉快気な表情を浮かべている。
……彼女の表情は相変わらず分かり難いな。
まぁ、自分たちが必死に前線を守っている間に、平和ボケした後方の連中が致命的なミスをすれば当然か。
更に言えば彼女は聖剣などに誇りを持っている様子。
許容範囲内故に私も文句は言っていないが、今回の件ではかなり自身の矜持を傷つけられたのだろう。
誇るべき王国軍がこの体たらくでは、な。
「情報によれば盗み出したのは次元犯罪者集団の連中だそうだ。
中には連中のリーダーの姿も見えたらしい。」
「はぁ、専門の連中が動き出したって事ですかい。
……痺れを切らしたんですかね、最近はマリア少佐のおかげで此処も楽ですし。」
そう、この前の作戦で帝国は大分疲弊している。
元々ここは量で攻めてきてもそう簡単には落とせないような戦力だった。
そこに対集団戦闘のスペシャリストが加われば、と言う訳だ。
その後攻めてきた連中も例外なくほぼ殲滅できている。
その中でガルム小隊と彼女の戦果は群を抜いて凄まじい。
「時空管理局の協力で敵の転送魔法は阻止できているようだ。
しかし、敵は既に円卓へ逃げ込みそこから帝国へ向かう積りでいる。
そこまで逃げられれば管理局も手の出しようが無い。
最悪、聖剣は敵の手に渡って取り戻せなくなるかも知れん。」
「……転移魔法ってのはそんなに簡単に阻止し続けられるもんですかい?
態々円卓まで逃がすのは管理局に手柄をやらん為でしょうが。」
「阻止のタイミング的には正に奇跡的……まぁ、十中八九罠と言う訳だ。
聖剣が敵の手に渡っている以上それの使用の可能性もある。」
私の言葉を聞いた二人がげんなりした表情を浮かべる。
気持ちは分かるが、上官の前でそういう顔は止めてくれないものか……。
目の前の二人に言っても無駄だろうな。
実際は聖剣による一撃を貰って王城が半壊した所為もあるのだが……。
これを言ったらマリア少佐がクーデターでも起こしそうだ。
ガルムを如何にかするとなるとこの基地の三分の一の兵力が必要になる。
……まぁ、少佐ならばそこら辺も自制すると思うがな。
「まぁ、そう悲観する事もない。
今回は管理局と王国軍の強力な援軍が来るそうだ。」
「……泣き付いて呼んだ管理局と点数稼ぎの王国軍か……。
まぁある意味期待できるな……。」
相変わらずキツイ言い様だ。
だが、優秀で任務をきっちりとこなす彼女を私は嫌ってはいない。
彼女は交戦した敵を決して逃さず皆殺しにする。
彼等を逃がした時にそれが何時か報いとなって帰ってくることを確り知っているのだ。
味方に優しすぎる所は多少はあるが、唾棄すべき役立たずを容赦なく消す一面も見せている。
まぁこの前編成に文句を言いつつも書類を手伝われた時は、私も思わず苦笑してしまったがな。
現在のこの基地に、彼女は欠かせない存在だ。
「ではガルム小隊、頼んだぞ。
王国の威信は文字通り君達に掛かってる。」
【了解!】
少々冗談めかした私の言葉に二人は真面目に、しかし不敵に笑いながら答えた。
全く以って頼もしい限りだ。
彼等がいれば、きっと大丈夫だろう。
<マリア少佐>
聖剣奪われるとかマジで洒落になってねぇ。
権威の象徴とか余り興味ないけど、敵勢力の戦意高揚と此方の戦意喪失が洒落にならん。
先ず避けえぬ事だろう。
仕舞いにはクーデターでも起こしてやろうか。
「王都の連中も何やってんですかねぇ。」
アントニウス少尉がぼやくように言う。
確かに王都の連中は如何にも平和ボケしすぎている。
前線にいる連中の苦労が全く分かっちゃいない。
戦後のクーデターとか起きなけりゃ良いけど……。
まあどっちにしろ……。
「……我々は任務を遂行するのみ。」
うん、そう言うこったな。
口がたまに勝手に動くのはどうにかならんか?
……如何にもならんな。
自分で言うのもなんだが、今の俺の声でこういう台詞を聞くと改めて変だな。
まぁ、そこまで甲高い声じゃないのが救いか?
「ま、そうですね。
……なんつぅか今回の作戦って十中八九少佐狙いの罠じゃぁないですか?」
「…………かもな。」
やべぇ、ありそう。
此処最近景気良く殺しまくってる所為でもう俺大人気!
……いや、何か此処以外の場所では味方にも嫌われてるらしいけど。
つぅか、此処にも俺を嫌ってる人間はいるけどな、数は少ないけど。
…………本格的に泣きたくなった。
「ハロルド大佐から貰ったデータによると……聖剣ってのはとんでもないもんですね。」
「……魔力生成装置兼高出力長距離レーザー発射装置、か。」
マジ半端ねぇ。
まんまエクスキャリバーじゃねぇかよ。
しかも無限に撃てる。
「まぁ、少佐を倒そうと思ったら聖剣でも持ち出さなくちゃぁ無理かも知れやせんが。」
「…………。」
流石に買いかぶりすぎだぜアントニウス少尉。
最近じゃぁ大分自信もついてきたけどな?
毎日毎日って訳じゃねぇが死と隣り合わせな訳で…………素直に喜べんよ。
「貧乏くじ引かされた事にゃ変わりやせんね。」
「……全くだ。」
アントニウス少尉の溜息が聞こえた。
俺も溜息を吐きたかったがそれより先に作戦を考える。
王国からの援軍は少々遅れるそうだ。
かと言って作戦開始時刻を遅らせる訳にもいかない。
この事態は非常に面倒くさい且つ陰謀臭くもあるが……。
さっきも言った通り俺達はやるしかない。
最近順風満帆だったってのになぁ……まぁ。
「敵がレーザーならこっちもレーザーで対抗してやろう。」
「…………また何か作ったんすか?」
アントニウス少尉が呆れ顔で言ってくるが気にしない。
インテリジェントデバイスにはまだ遠いが、ストレージデバイス作りにおいてはかなりの腕になったと自負する。
まぁ、俺のデバイスは特殊過ぎて他の連中には使えんし、レアスキル頼りの所も多いけどな。
……この前白衣でデバイス作りしてたらアンナちゃんにマッドみたいって言われたのはショックだった。
入れ知恵したイリーナ大尉には格闘訓練をみっちりしてやったが……。
う~ん、新しい御仕置きを考えねばならんか?
「……ケツバット?」
「は?」
「いや、何でもない。」
俺達は小隊の待つ会議室へと入っていった。
全く、本当に面倒だよな。
何で俺らが王都の阿呆どもの尻拭いを……いや、少なくとも今指揮官である俺が考えるべき内容じゃぁない。
さっさと作戦内容を伝えねばならん。
「今回の任務の目的は奪われた聖剣の奪還だ。」
小隊全員がざわめきだす。
まぁ当然。
こっちが前で必死で戦ってるってのに後ろで阿呆共が行き成り致命傷を負わされたのだ。
俺は彼等を無視して続きを言う。
内容はハロルド大佐に伝えられた内容そのまま、罠である確率が高い事も含めて言った。
聞き終わった小隊の反応は皆一様にうんざりと言った感じ。
しかし、直に立ち直って聞く姿勢をとった。
ここら辺は流石だ、俺も安心して続けられると言うものだ。
今回の作戦の内容は……まぁ、簡単だ。
大体はこの前とあまり変わっちゃいないさ。
ただ、今回は管理局の連中が加わっていて、先制攻撃は向こう側にくれてやると言うだけだ。
これが罠なら、十中八九聖剣のその攻撃力で最低でも俺を持っていく積りだろう。
いや、事実敵の援軍が迫っているという情報もあった、或いは既に配置されているのか。
纏まって行ったら即座に全員お陀仏する可能性が高い。
だが、ハロルド大佐から渡された資料にある通りの威力なら、防げない事も無い。
IWS2000で攻撃すると言う手もあるが、万が一にも聖剣に当たって壊れでもしたら目も当てられん。
対象には確実に当たるが、何処に中るかまでは予想がつかない。
聖剣もロストロギア故に簡単に壊れはしないだろうが……傷がつく可能性はある。
……面倒な。
IWS2000が一点突破型故に使えないとは。
小隊連中に作戦を伝え終わった頃には管理局の連中が到着していた。
武装局員の錬度は見たところ中々高そう。
ガルムまでとはいかないだろうが前に戦ったインディゴ中隊レベルはあるか?
指揮官は……クロノかよ。
何か小隊の連中が物凄い勢いでクロノを睨みつけております。
良く分からんがこの前の一件がまだ尾を引いているらしい。
クロノマジでビビってる。
俺は何だか疲れを感じつつ、小隊連中を手で制した。
クロノの感謝の瞳が正直ウザイ。
……まぁ、ガルムの連中に追いかけられれば当然か。
「……久しいな、クロノ=ハラオウン執務官。」
と、手を差し出しつつ俺。
「お久しぶりです、マリア=エルンスト少佐。」
差し出した手を握り返しつつクロノ。
お互いに基本無表情だから友好的には見えんかも。
まぁ、俺はこいつの事嫌いじゃないけどな。
「今回の作戦では、私の指揮下に入ってもらう事になるが……構わないか?
無論、確り仕留めてさえくれれば非殺傷設定で構わん。」
「……ええ、宜しくお願いします。」
クロノは丁寧に返してくるのだが……う~ん。
「……人死にに慣れていない奴はいるか?」
俺の質問にクロノの表情が少々強張った。
……そうか、こいつ自身そこまで人死にに慣れている訳ではないか。
「……いえ、問題ないでしょう。」
気丈に振舞うクロノに、俺はそうかとだけ返す。
まぁ、こいつならば大丈夫だろう、強がりを通すだけの力はあると見た。
こいつも男、大丈夫だろう。
「すまんが、少し時間を貰う。」
「?ええ、構いません。」
でかい戦場へ行く前なんだ。
戦意を鼓舞する演説の一つもなければなぁ。
俺にとっては何とも締りの悪い事になる。
死ぬ覚悟ってのは相変わらず出来ていないんでな。
それにしても、こういった行為も今では大分慣れたのもだ。
俺は予め考えていた言葉を言う事にする。
この体になってから記憶力は上がった……魔法の訓練のお陰もあるだろうけどな。
俺は、管理局の連中から目を逸らして、小隊を向いて口を開いた。
「……今回の任務は自分の下の世話もまともに出来ん後方の阿呆共の尻拭い。
要は連中がオムツを穿き忘れてしまったらしいと言う事だ……。」
俺の言葉に、管理局の連中が驚愕し、小隊の連中が大きく声を上げて笑った。
困難な任務の前でも彼等は余裕を失わない。
一見頼りなさそうなカール上等兵でもそうである。
「連中の締りの悪いケツから漏れた糞の滓を始末するなど私もしたくは無い。
だがしかし、聖剣奪還は果たさねばならぬ事。」
失敗したら評価下がるし、つぅか俺死ぬし。
小隊の連中は笑い声を止め、管理局の連中は未だ停止している。
「……そう、我々が王国の兵士であり続ける限り、責務は果たさねばならぬ。
先ずは帝国に組する、両生類の糞ほどの価値も無い次元犯罪者どもを皆殺しにしなければならない。」
俺はそこで一旦言葉を切り、小隊を見つめて言う。
「敵兵を皆殺しにし、敵国の戦意を奪わなければ平和は来ない。
殺さなければ殺される、そんな当たり前を究極の形にしたのがこの戦場だ!
我々の戦場だ!
諸君、私は殺戮を、地獄の様な殺戮を望んでいる。
諸君、私に付き従う小隊戦友諸君。
君達は一体何を望んでいる?
更なる殺戮を望むか?
情け容赦のない糞の様な殺戮を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様な殺戮を望むか?」
【Genocide!(殺戮)Genocide!(殺戮)Genocide!(殺戮)】
日常から見ればかなりいかれた熱気だ。
だが、戦場へ向かう前はこれぐらいで丁度良い。
日常のぬるま湯から戦場と言う極寒へ移行するのだから。
「宜しい!ならば殺戮だ!
我々は渾身の力を込めて今まさに噛み砕かんとする番犬の顎門だ!
……だが、王国の権威を踏みにじられた我々に、唯の殺戮では最早足りない!
大殺戮を!
一心不乱の大殺戮を!!
次元を跨ぐ糞共に我々の存在を教えてやろう。
髪の毛を掴んで引きずり降ろし、眼を開けさせ思い知らせてやろう!
連中に我々の生み出す恐怖の味を刻み込んでやる。
連中が二度と忘れられぬように、我等の姿を目に焼きつかせてやろう。
次元世界の狭間には、奴らが想像もしないような化け物がいる事を思い知らせてやる!」
俺は、右手を眼前で握り締めた後、解き放つように右へ振りながら言った。
「我等ガルム一個小隊で、糞蛆虫共を地獄へと叩き込んでやるぞ!!」
【YAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!】
周囲を飲み込む異常な熱気。
細まる視界。
自身の顔に笑みが浮かんでいるのを自覚した。
僅かな笑みだろう、しかしきっと、野獣のような笑みだろう。
…………大分過激だが言ってる事は可笑しくないだろ?
別に殺しつくさなきゃ平和はこない何ざ思ってないが……効率が良い事は確か。
まぁ、うん、これ以外思いつかなかった。
小隊連中の戦意は既に最高潮だ。
日常と戦場で雰囲気を切り替える技能に彼等は長けている。
「……マリア少佐、貴女は…」
「クロノ執務官、少々お待たせしたな。
……出撃しよう。」
クロノが何か言いかけるが、それを制して出撃を伝える。
「っ……了解。」
管理局の連中にとっちゃ許容できない内容であることは分かる。
しかし、これが俺達だって事は分かってもらわなきゃならん。
この演説は戦意高揚の演説であると共に、管理局連中の覚悟を決めさせる演説にもなっただろう。
そうして俺達は戦場へと向かった。
<クロノ=ハラオウン執務官>
可憐な容姿と、老成しているとは言え幼さを残す声の少女には到底似合わない演説だった。
しかし、何処か引き込まれてしまうような魅力があった。
或いはこれが彼女の彼女たる所以なのか。
マリア少佐は此方が想像していた人物よりも遥か上を行っている。
この演説の様子はアースラのブリッジでも見ていただろう。
普段ならば許されはしないが今回は特別だ。
恐らく、これで艦長も彼女を管理局へ入れたいとは思わない筈だ、思えない筈だ。
あの冷徹な意思を秘めた瞳、彼女は一人の人間として既に完成されている。
敵兵を殺しつくしてその血肉の上に平和を築き上げる。
そう、既にああある事が彼女にとっては正しい事なのだ。
≪クロノ君……。≫
≪エイミィか。≫
≪あの子は、あれで良いのかな。≫
エイミィは柔軟性のある思考の持ち主だ。
しかし、こういう事になると如何にも悩むのが悪い癖……。
いや、人間としては間違っていないが。
≪彼女は、あれで良いのだろう。
残念ながら彼女と我々の思想は違う。≫
≪…………そっか。≫
やはり何処か寂しげな声を発するエイミィ。
……慰めるのは苦手なんだが。
≪……慰めにはならないかも知れないが。
彼女は我々の思想をある程度認め、今回は矛先を揃えてくれている。
それは救いにならないか?≫
僕がそういうと、暫くしてエイミィの念話から小さな笑い声が聞こえる。
≪クロノ君、ホント慰めるの下手だよね。≫
≪う、五月蝿い!念話はもう切るからな!≫
こっちが頑張ったってのに……。
≪クロノ君……有難う。≫
最後に聞こえた呟き、僕は聞こえなかったふりをして念話を切った。
…………慣れない事はするもんじゃないな。
<マリア少佐>
作戦成功率については程ほどの値を確保出来ている。
だが、聖剣なんて化け物相手と言うことが如何にも俺の精神を蝕んでいた。
≪大丈夫なのか?≫
クロノか?
心配性だな……今は有り難いが。
お前等にとっちゃロストロギア持ちを相手にして勝率がこれだけあれば十分だろうに。
……感謝の言葉よりも軽口で返すほうが俺らしいか。
≪……私の心配をする暇があったら自分のケツでも隠してろ。≫
≪ぐっ…了解。≫
真面目な奴め、軽口には軽口で返すのが礼儀だろ?
…………ありがとよ。
何、死にはしないさ。
既に小隊と管理局の連中の配置は終わっている。
後は俺が出て行くだけだ。
俺はAL-37FUを起動して空へと舞い上がった。
今日の円卓は何時も以上に風が強い。
……嘗て聖剣を持った王者が戦った場所は此処だという。
或いは王者の剣が戻ってきた事に歓喜しているのか。
だが、今この場この時王者は聖剣を携えたものであってはならない。
俺達ガルムであらねばならない。
偽りの王と呼ばれようとも関係ない。
誇りも糞も関係なく、生き残る為に俺はこの円卓の空を飛ぶ。
そして――
「ロンギヌス、起動。」
――最後まで戦い抜いてみせる。
<次元犯罪者集団・誇りを略奪する者・リーダー・踏み躙るグレゴール>
俺達は最大の注意を払いながら円卓の空を飛んでいた。
俺達が持っていた十km四方を探知できる高性能レーダーを使っている。
我々は、いや、帝国は常に聖剣周囲を観察していた。
流石国の宝だけはあって聖剣の警備は厳重。
相手が巨大な国だけに我々でも正攻法では盗めなかった。
よって今まで帝国に組する事でそれを奪い取ろうとしていたのだが……。
その警備に突如穴が出来た。
最初は罠かと疑ったのだが、警備が緩んだ原因は唯単純な怠惰。
戦争とその戦争が起きた理由を実感できず、緩んだ心に隙が生まれた。
ただ、それだけだった。
聖剣が盗みだせる、強力なロストロギアである聖剣は戦力になるだろう。
だが、我々の契約は聖剣を手に入れるまでだった。
聖剣さえ手に入れれば後は如何でも良いのだ。
だが、帝国にしれみればそれは困る内容だった。
よって連中はある条件を出してきた。
劣勢の今を変えられるのならば仕方がないと提示してきた妥協案。
一つは聖剣を盗み出す時に出来る限りの破壊工作と聖剣自体による破壊行為を行うこと。
これは既に完遂した。
お目付け役のジルヴィア少佐殿も満足の結果だった…………と言うか何かビビってた。
聖剣で王城を攻撃した時は流石の俺も興奮したものだ。
こいつの威力は目に焼きついている。
巨大な王城は、唯の一撃で半壊した。
自らが誇りとしている聖剣に焼き払われたのだからあいつらも満足だろう。
もう一つは……ガルム小隊とやらを潰す事。
俺も最初は高が小隊と思っていたが……連中の戦果には度肝を抜かれた。
噂には聞いていたが噂そのままの強さってのは中々無い。
奴等の頭に関してはロストロギアかと思わんほどの力を持っていた。
連中がこいつらさえと思っても仕方が無い……が、どっちみち帝国に勝ち目は無いだろうな。
警備に穴が開いていたとて普通の盗みよりも遥かに危険な事には変わりない。
だと言うのに半ば強行したのは帝国に勝ち目が無いからだ。
相手が王国だけなら、俺達が聖剣を携えてこのまま戦場を駆け巡る事で盛り返せるかも知れんが。
連中の背後には管理局だって存在しているのだ。
例え劣勢を盛り返したとしても王国が奴等を頼れば結局イーブン。
帝国の連中は管理局の脅威をまるで分かっちゃいない……教えなかったんだけどな。
負けと引き分けがあっても勝ちが無い勝負なんてしたくはないだろう?
結局逃げるのならなるべく早く確実な方が良いに決まってる。
……まぁ、そう言う訳だ。
連中が俺らから聖剣を奪い取る積りでも逃げる算段は十分に出来ている。
正直俺達も今回の盗みは失敗かと思っていた。
だが、諦めきれずにずるずるとやってきていた。
連中の俺達に対する待遇も悪くは無かったし、その他の事で収入もあったからな。
まぁ、それが功を奏して聖剣は今俺の手の中にあるのだから何れにせよ結果オーライだが。
それにしても……。
「それにしても、だ。
本当に美しいものだな、聖剣というのは。」
思わず感想が声に出てしまったのは仕方が無いだろう。
剣としての性能は言うに及ばず魔力生成機能に高出力魔力レーザー発射機能。
間違いなく一級品のロストロギアで、その造形美は超一級品の芸術作品だ。
何よりこいつにはこの世界の連中の誇りが詰まっている。
ほら、今も俺の隣にいるジルヴィア少佐が恐ろしい目で睨んできている。
「持ってみるか?」
何となく意地悪気にそういってやると……。
「え!?良いのか!?」
…………予想外の反応。
こいつはきっと、かなりハイレベル(馬鹿)だ。
「…………ほれ。」
俺達の周りには既に強力なプロテクションが張ってある。
まぁ、一発ならばあの血塗れの出鱈目な一撃にも耐えられるだろう。
戦場の映像と解析データを見た時は開いた口が塞がらなかったが。
最悪カートリッジを使用すれば良い。
ジルヴィア少佐は、死ぬだろうがな。
「おぉ!?……おぉ~これが聖剣か。」
手に持っているのが聖剣と言う名の凶器でなければ、まるで珍しいものを見た普通の少女に見える。
……いや、監視を任されるくらいならば戦場を経験してない筈が無いが?
と、言うか今自分が如何に危険なことをしているのか分かっているのだろうか?
「うむ、有難う。
結構良い奴だな!」
ジルヴィア少佐はそう言って剣を返してきた。
眩しい笑顔まで浮かべているしまつ。
「……………どういたしまして。」
こいつは予想を超えるハイレベル(馬鹿)さだ。
純朴な笑顔を見ていると俺の僅かな良心が締め付けられる。
「う~む、それにしても本当にあの血塗れを倒せるのか?」
「む…………盗賊風情は信用なら無いと言うことか?」
俺がそう言ってやるとジルヴィア少佐は目に見えて動揺した。
「ち、違うぞ!ホントだぞ!
ほら!聖剣もこうして無事盗み出せたし!」
「くっくっく。」
その少佐の様子に俺も俺の仲間も皆笑っている。
最初見た時は堅物だと思っていたが中々どうして面白い。
何ともからかいがいのあるお嬢さんと言った所か。
……これで、凄腕の魔道師だというのだから世の中如何にかしている。
まぁ、それを言ったら敵の血塗れも外見と強さが一致していない。
…………結構二人は似ているのかも知れんな、ある意味正反対だが。
例の血塗れが陽気な性格をしているとは思えない。
「む、からかったな?
私はからかわれる事が嫌いだぞ、グレゴール。」
「はは、すみませんお嬢様。」
「…………馬鹿にしているな?」
さてさて、俺達で血塗れに勝てるのか、か。
如何答えたものか。
単純に聖剣でふっ飛ばせば良いから勝てる?
いやいや、連中を舐めちゃいけない。
要は真正面から来なければ良いだけだ。
分散してくるかも知れんし、或いは超スピードで一気に接近してくるかも知れん。
そうだな…………。
「連中だってこれが罠だって事は分かっている。」
俺が話し始めるとジルヴィア少佐は真剣な顔になった。
真面目なのは良いが、誤魔化されているって言う自覚はあるのか?
「連中は俺達を逃がす訳には行かない。
やはり、罠だと分かっていても来るだろう。
だが、聖剣の威力は連中が良く知っている通り。
迂闊に来ればあっと言う間に消し炭以下だ。」
「うむ。」
「俺が連中ならこう考える。
要はさっさと一度聖剣をあいつらに使わせちまえば良い。
チャージの時間は暫く掛かるだろ?
そうだな……遠隔操作で遠距離から攻撃できるものを用意するのが一番か。
まぁ、手が聖剣しかないならこっちの負けって事だ。」
俺が説明を終えるとジルヴィア少佐は呆れた顔をした。
「何かあるんだよな?」
「勿論。」
ほっとしたようなジルヴィア少佐の顔に思わず笑いが漏れる。
いやいや、中々良いリアクションをしてくれる………?
一瞬顔が曇ったようだが………。
まぁ、俺には関係の無い事か。
敵さんが真正面から来るなんて愚考を犯さなきゃ普通負けるわな。
ま、何れにせよ罠にかけているのはこっち。
俺達の罠は食い破れるほど甘くは無い………。
…………突如強い風が吹き始めた。
何かを迎え入れるかのような風だ。
戦場の空気が一気に場に満ちた。
勘が来ると告げてくる。
「…………?
どうした?」
「…………来るぞ。」
俺がそう告げると、ジルヴィア少佐は何も言わずに両刃剣型デバイスを構えた。
構え方にも覇気にもまるで隙が見当たらない。
……なるほど、監視を任されるだけの力量はある、か。
俺達もプロテクションに魔力を注ぎ足し強化する。
「敵、レーダー圏内ギリギリに捕捉しました。
容姿から恐らく、血塗れ。
高速で接近中です。」
「………。」
正気か?捨て駒になる気か?
俺は少し信じられず、自分でもスコープを使って確認する。
…………間違いない、血塗れだ。
…………手に持っているのは、大型のデバイス………?まさか!
「撃ち合う積りなのか?
まさか……正気か?
聖剣と?一級品のロストロギアだぞ?」
俺は信じられないながらも聖剣を構える。
「エクスキャリバー発動準備。」
既に何時でも放てる状態になっている。
ただ、少し魔力を込めて撃ち放つ意思を込めれば聖剣は発動する。
こいつの威力はS+以上、それに込められた魔力は計り知れない。
防ぐにはSSランクの魔道師でもなければ無理だ。
「敵更に接近!残り五km!」
っっ!迷っている暇は無いか!
俺は魔力を聖剣へ込め、敵へ向けて撃ち放つ意思を込めながら掲げた。
「エクスキャリバー、発動!!」
そして、聖剣の輝きは違う事無く敵へ向かって放たれた。
<ジルヴィア少佐>
国を挙げて、唯の一人を完殺する。
仇の、恩人の最後を見るために私はこの作戦に志願した。
……だが。
「ああ、ああ、あああああああ!」
口から漏れ出す声が止められない。
聖剣の輝きは放たれた。
先程一度解放した時にも見た輝きだ。
何よりも美しい筈のそれ、全てを焼き尽くす白の極光である筈のそれは今。
「馬鹿な!馬鹿な!こんな馬鹿な事があって堪るものか!!」
血塗れのマリアから放たれた藍色の極光と衝突し、相殺されていた。
血塗れの名に相応しくない深い藍色は、まるで揺らがぬ彼女の心のあり方の様に。
そして、インゴベルト少佐を思い出させる色でもあった。
私の口は正確な言葉を紡ぐ事が出来ず。
グレゴールは目の前の光景を必死に否定していて。
他の人間はこの恐るべき光景に何も言えずに居た。
白と藍色の極光はぶつかり合い激しい衝撃波を生み出している。
紛う事無くこの世界の人間では紡げる筈の無い光景。
自らが誇りとしている筈の聖剣の威光を、しかしその手で否定する。
偽りの主ではその力を扱えないとでも言うつもりなのか!奴は、奴は!あの――
――化け物は!!
眩しい光で最早まともに目を開けることも出来ない。
プロテクションを必死に張って耐えるしか出来ない。
心なしか身を貫く衝撃が強くなってきているような……。
私にとってこの世の終わりのような光景は、しかし、やがて終わりを迎える事となる。
極光は消え去り、衝撃波は止んだ。
聖剣からも既に威圧感は感じず。
……しかし―――
「…………This is my gun.(これこそ我が銃)」
――代わりに三連続の轟音が鳴り響いた。
水気を含んだ、何かを粉砕する音が聞こえてきた。
この戦場の、王が来た。
「There many like it, but this one is mine.(銃は数あれど我がものは一つ)」
続く続く、轟音はまるで止まらない。
三度轟く度に命が一つずつ潰えていくのを感じてしまう。
頭を冷静に、震えを必死に押し殺す。
「My gun is my best friend.(これぞ我が最良の友)」
見えているのか、何故?……いや、魔力を感じ取っているのだ。
「It is my life.(我が命)」
ならば、私にもきっと感じる事が出来る筈だ。
「I must master it as I must master my life.(我、銃を制すなり、我が命を制す如く)
Without me, my gun is useless.(我なくて、銃は役立たず)
Without my gun, I am useless.(銃なくて、我は役立たず)」
轟音は収まらない。
九度撃つたびに一度止まり、また三回ずつ鳴り響く。
まるで機械の様に正確なリズムだ……まるで美しい詠声に合わせているかのよう。
詠を紡いでいる少女の声は年相応に、しかし、何処かやはり老成していた。
悲鳴が聞こえる。
また一人、撃ち抜かれた。
あたりに響く犠牲者の悲鳴は、皮肉なことにこの狂騒に更なる彩を与えていた。
「I must fire my gun true.(我的確に銃を撃つなり)
I must shoot struggler than my enemy who is trying kill me.(我を殺さんとする敵よりも、勇猛に撃つなり)
I must shoot him before he shoot me, I will.(撃たれる前に必ず撃つなり)」
反撃をしているものもいる。
しかし、混乱で状況をまるでつかめていない様子。
私には見えた、氷の弾丸が攻撃を打ち落としていく様子が。
頼りになるのは……グレゴールくらいか。
彼のみが佐官クラス。
「Before god, I swear this creed :(神にかけて我これを誓う)
my rifle and myself are defenders of my country.(我と我が銃は祖国を守護する者なり)
We are the masters of my enemy,(我らは敵には征服者)
We are the saviors of my life.(我が命には救世主)」
悲鳴が続いた、肉の潰れる音が続いた。
死に切れなかったものは痛みに発狂して死ぬのだろう。
出来れば綺麗に殺して欲しいと願うのは過ちか。
どんどんどんどん少女の姿をした死神に命を潰されていく。
…………否、死神なものか。
死神は命を刈り取るのだ。
奴は唯、命を踏み潰すのみ。
「So be it, until there is no enemy, and peace――――(敵が滅び、平和が来るその日まで―――)」
見つけた!!
あの化け物の魔力は、自分と比べても脆弱だった。
発見が遅れたのはその為か。
しかし、それ故に、更なる恐怖を感じてしまう。
あれは自身の理解の及ばぬ何かだと。
己の守りをより強固に!
守りごと敵へとぶつかっていく!!
「―――Amen.(――――かくあるべし)」
しかし、期待していた肉を切裂く音と感触はなく、硬い何かに剣をぶつけた音が響き感触が伝わって来た。
奴を挟んだ反対側でも音が鳴り響いていたのが分かった。
まるで待ちわびていたかのように円卓に風が吹く。
私達三人以外の魔力反応は……もう無い。
粉塵の晴れたそこにあった光景は。
左手の逆手に持った藍色に煌く氷の大剣で、私の剣撃を防ぎ。
右手の指に挟んだ三本の透き通った氷のバイヨネット(銃剣)で聖剣の一撃を止めている少女。
聖剣を握り締めて憎悪の眼差しを少女に向けているのはグレゴールだ。
しかし、少女はその憎悪の視線を受けても平然と、その身を返り血で真っ赤に染めながら佇んでいた。
これが、これがあの――!
「血塗れのマリア!」
瞬間、血塗れのマリアが体を回転させて私達二人を弾き飛ばした。
次の瞬間には既に襲ってきている投擲されたであろう銃剣。
恐ろしい早業で私とグレゴールに三本ずつ。
私は剣とプロテクションで受け止めて―――爆発した銃剣にふっ飛ばされた。
守りを抜いて衝撃を与えてくるとは…!
「悪魔、いや、鬼神め!」
上手く防げたのだろう、グレゴールの叫び声が聞こえてきた。
逃げろ、と言いたいが既に意識が朦朧としてきている。
…………鬼神、か。
実に上手い事を言うな、グレゴールは。
恐ろしき鬼神、血塗れのマリアとその戦場。
ここで意識を失った私は或いは幸運だったのか。
最後に見えた光景は、大剣で体を貫かれたグレゴールと、それをなした血塗れだった。
<血塗れのマリア>
ああ~、小隊連中の出番無かったな。
撃ちながらの高速接近、粉塵と圧縮魔力に紛れての奇襲上手く行ったし。
イージスをサーチャー代わりにするのも成功したし。
魔力感知スキルも鍛えておいて良かったわ、全く。
銃剣投擲も銃剣爆破も綺麗に成功した。
言う事無しだな、男は上手く防いだけどバランス崩れてたから簡単に倒せたし。
俺は死んだであろう少女と男を見ながら思う。
一先ず、と、魔法を使い、己の腕から聖剣までの氷の柱を作り出して、男から聖剣を奪った。
念の為、と言う奴だ。
≪少佐~一人で全部食っちまったんですか?≫
≪聞いていたが、凄まじいな。≫
アントニウス少尉とクロノから念話で連絡が入る。
……クロノに凄まじいと言われると何か照れるな。
原作キャラだからってのもあるがこいつかなり優秀だし。
≪……ああ、だが、警戒は怠るな。
罠自体は上手く潰せたと思うのだが……。≫
「ぐっうっ、ぐふっ……。」
おぉ!?まだ生きてやがったのかこいつ!
危ねぇ危ねぇ、下手すっと串刺しにされてたかも知れんな。
うん、こいつが俺の事を鬼神と呼ぶのは少し予想外……でも無いのか?
≪どうしやした、少佐。≫
≪……いや、唯死に損ないが一人居ただけだ。≫
普通に返しておく、聖剣も俺の手にあるし。
…………つぅか聖剣マジ半端じゃなかったなぁ。
何とか相殺できたから良いけれどさ。
圧縮魔力砲ロンギヌス……まぁ、新しく作ったデバイスは氷弾をカートリッジの代わりにするんだ。
IWS2000の弾丸を27個まで装填出来る……今回?勿論27個。
試作の段階は抜け出しているけれど、連続使用は何処まで耐えられるか分からんね。
デザインはアレだ、人間台風のアレ。
……ま、一応弾丸は自動装填されているけれど。
≪……大丈夫なのか?≫
クロノが心配そうな声で言ってきた。
慎重なのは良いが、慎重すぎるのはどうかと思うぞ?
≪心配性な奴だ……こんな死に損ないに出来る事など高が知れて……。≫
「転送、開始゛!!」
突如、俺と死に損ないの周囲に巨大な魔法陣が幾つも展開された。
≪≪少佐!≫≫
二人の声が重なった。
無理も無い、これは転送陣。
これだけ大きなものを、しかも円卓で展開できるなんて!!
不味いと思った俺は、即座に男を撃ち殺した。
死んだ男の最後の皮肉気な笑みが酷く気に障った。
展開された転送魔法陣から現れたのは、少なく見積もっても一個大隊規模はいる帝国兵達。
こいつらの切り札はこれか!こいつらの援軍の姿が見えなかったのはこれなのか!!
正しく、絶体絶命のピンチを迎えてしまった俺。
「見ていたぞ、こいつの持つ秘宝の中から。」
…………遠距離からの転送ではなく、人間を収容するロストロギアか。
「凄まじい強さだ。
……だが、これで終わりだ血塗れのマリア。
いや――」
一斉に、杖が構えられた。
「――円卓の鬼神!」
[To be continued]