<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

エヴァSS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[43351] EVAザクラ 新劇場版
Name: まっこう◆048ec83a ID:aa2941d2
Date: 2019/08/30 22:14
前書き PCを新調した記念に。前作 EVAザクラを読んで無くても判る様に書きましたが。ちなみにここ makkoukuzira.synology.me

ーーーーーーーーーー


「砂だらけ。変わらないなあ」

 魔法使いは長生きだ。小さい頃は、おとぎ話に出てくる数百年生きている魔法使いを、うらやましいと思った。ただ自分がそうなるといささか不自由だ。何より辛いのは、周りに知人がほとんどいなくなる事だ。愛する夫が死んでから百年たったある日、彼女は窓から火星の大地を眺めながら呟いた。年の頃なら二十代半ばに見えるが実年齢は遙かに上だ。生きてきた暦の長さで言ったら人類の歴史とそれほど変わりはない。
太陽系の再発見の後、テラフォーミングされた火星は、赤道付近ならば気温は地球と変わりがない。気圧は半分程で湿度はほとんど無い。人の居住区と農地、漁場は大き目のドームに覆われている。砂嵐対策と若干の加圧、加湿のためだ。ただ彼女の家はドームの外にある。彼女程の超常能力者は銀河に広がった人類の版図にも他にほとんど例がなく、存在には恐れと噂が付き纏っている。そのため幾度かテロに襲われた。周りを巻き込まない様にドームから離れて住む事にした。ドームに数人は知人もいて普段はあまり寂しくは無いが、時々昔を思い出しため息をついてしまう。そんな気分が落ち込んだ時は動き回るに限る。そこでドームに向かうことにした。
 まず保温性が高い服に着がえると、ヘルメットを被る。呼吸さえ出来ればいいので服の気密性はそれほど高くは無い。自分の名前と同じく桜色で統一した外出着は、随分前にデザイナーの娘が設計した物だ。娘の家族は銀河の反対側の太陽系にいる。娘には魔力に関する能力は遺伝しなかったため、50年ほど前に他界している。今は遺伝子工学でほぼ不老不死は実現しているが、適合しない人も、選ばない人も多い。そのため彼女の知人は、ドームに数人を残すのみだ。鏡の前で外出着を整えるとエアロックへ向かった。

ーーーーーーーーーー

 小型のサンドモービルで、一番近いドームには一時間ほどかかった。夫が生きていた時は自動車の妖怪も一緒に住んでいた。彼なら10分でドームに着いただろうが、今は彼女の願いで、彼女の孫達のもとで孫達の家族を運んでいる。彼女専用のエアロックで係員にサンドモービルを預けた。未だに名目上の太陽系の所有者は彼女だ。実際は碇財団が管理している。彼女はその総裁でもあり、当然一般人と扱いが違う。そこにはテロに周りを巻きこまないためという意味もある。崇拝と恐怖が彼女の銀河系での通り名、magical queenには込められている。銀河系全体で通用する通り名を持つ者は、他には数人いる。超人やラブリーエンゼルなど様々だが、どれも恐怖の影がつきまとう。彼女自身は自分の身は守れるが、孫達は特異能力も無いため、護衛として親友兼恋敵の女性型アンドロイドが一緒に住んで守護している。彼女は専用の更衣室に向かうと、クローゼットから桜色のワンピースを取り出して着替えた。400年ほど前に、最愛の友がデザインした物だ。これに着替えると今ではカードになり自分と一体化した友のうきうきとした気持ちがわき上がり、彼女も元気になれる。姿見の前でくるりと一回転するとセミロングにした髪が広がった。遙か昔に生きていた親友の母親が見たら、彼女の母親に似てきたと目尻を下げて喜ぶだろう。どちらかといえばボーイッシュと言えた子供時代と比べて、母親に似た穏やかで豊かな美貌が姿見に映っている。
 更衣室を出ると、ドーム内部のエアロックに向かう。途中出会う財団の職員に挨拶をしつつ進むとすぐにエアロックに着いた。

「ふぁ~」

 このドームの内側のエアロックをくぐるたび、何度でも変な歓声が口からこぼれてしまう。目の前には入り組んだ水路とその隙間に佇む町が見えた。半径が100kmもあるこのドームは、この時代の言葉で「ベノチア」と呼ばれている。昔地球にあった水の都の名前らしい。現在は火星大気の水分を大量に集めて、擬似的な海を再現し、火星における漁業を担っている。観光地としても人気だが、ドーム都市はそれほど住める人間の数は多くないため、観光客のキャンセル待ちが数年分はある。
 彼女はエアロックの側の岬の先端に向かった。そこには小さな建物が水路の横に佇んでいた。地球なら海辺の釣り宿といったただずまいだが、このドームでは釣りは禁止されている。魚は皆の共通の資源で、漁業免許が必要だ。そのため釣り宿ではない。可愛いピンクの建物は言うなれば水上タクシーの駅だ。観光用の小舟をレンタルしてくれる。水先案内人も一緒に付いてくる。

「こんにちわぁ」
「はぁーい」

 店の入り口で挨拶をすると、オープンデッキ風の店の奥から声がした。どこか間が抜けたような、安心させてくれるような優しい声だ。

「ARIAカンパニーへようこそ、サクラさんお久しぶりです」
「お久しぶりです。アカリさん」

 ケープ風だが、体にぴったりとあった白い制服をきて、水兵帽みたいな制帽を被った女性が奥から出てきた。声と同じくのんびりとした風貌の長髪の女性だ。カウンターでのほほんとした笑顔を見せているが彼女はこの店の主だ。前の主から店を引き継いで三カ月ほどたっている。

「今日は空いてますか?」
「はい。今日は予約はないので一日中平気です」
「じゃあ、一日中貸しきりでのんびり出来る?」
「はい。では一日貸し切り、と」

 アカリはカウンターにあるカレンダーに予定を書き込んだ。予定欄は空いている場所も多い。水先案内人としては独り立ちしたとはいえ、まだ固定客は少ない。サクラのように一日中予約してくれるのはとても助かる。

「早速、カフェへ頼むわ。朝食べてないの」
「あらあら、では早速、アリア社長」
「ぶいにゅ」

 アカリが店の奥に声をかけると、変な鳴き声とともに、白い塊が歩いてきた。青い瞳のぷにぷにした白いネコは、この店の社長だ。個人向けの船を出す店は風習として青い瞳の猫を社長兼マスコット兼お守りとしている。アリア社長はこの店、「ARIAカンパニー」の社長をここ数年つとめている。

「アリア社長、こんにちは」
「ぶいにゅ」

 サクラの挨拶を分かっているのかいないのかはともかく、アリア社長は店の外に出て行った。盗られる物がないのか、この時代の風習か分からぬが、戸締まりもせずに、二人はアリア社長の後を付いて行く。水路の脇まで行くと、ゴンドラがぷかぷか浮かんでいるのが見えた。

「じゃあ、サンラルク広場までおねがいします」
「はい。お客様」

ーーーーーーーーーー

「ここのカフェオレは絶品ね」
「はい。私は何杯もおかわりして朝から夜までいた事がありますよ」

 サンラルク広場のオープンカフェ・カフェクロリアンでサンドウィッチをつまんだ後、二人は何杯もカフェオレをおかわりしておしゃべりをしていた。アリア社長もホットミルクを二人の横で楽しんでいる。建物の影にある樫の丸いテーブルは丁度よい大きさで二人と一匹の間を空けて、何時までものんびり出来そうだ。長らく話していると、日が高くなってきた。おかげでテーブルは日向に出てしまった。二人はテーブルを日陰まで動かしてまたカフェオレとおしゃべりを楽しみだした。このオープンカフェは太陽の動きとともに日陰に移動するのが風習となっている。ドーム都心とはいえ、空に蓋はない。電磁的なフィールドが上空1km程度の高度で、物質とエネルギーをほぼ遮断している。特定周波数の電磁波や音は通すので、日の光や風の吹く音は楽しめる。

「そう言えば、定期検診はどうだった」
「不老不死ではないけど若いまま長生きできます。当分サクラさんとお茶を楽しめます」
「それはよかった」

 アカリは両親が望んだため、デザイナーベイビーとして不老不死として生まれる予定だったが、処理が完全には適合しなかったようだ。デザイナーベイビーとして生まれた場合、火星ではある程度の年齢までは定期検診が義務づけられている。未だに遺伝子情報の暴走により怪物化する例もありそんな規則がある。最近サクラはドームに来ていなかったためは話題はいくらでもある。何度もテーブルを動かしては、何杯もお代わりをして二人と一匹は話し続けた。

「ぶいにゅう」

 少し退屈し始めたのかアリア社長が欠伸をした。アカリは立ち上がるとアリア社長を抱き上げ、日向に出た。サクラに微笑む。

「こんな日が続くといいですね」

 願ってはいけない。サクラはふと思った。願うと夢は壊れてしまう。なぜかそう思った。銀河一の魔法使いの勘は正しかった。

「えっ」

 次の瞬間辺りの日差しが強くなったような気がした。上を向くと何かが地球の方から迫ってくる。ほぼ光速だ。それは物体ではなく何かの場のようなものだった。上を向いたサクラを不思議そうにアカリが見つめた時、それは火星に到着した。思わずシールドの魔法で辺りを覆った為かサクラの素質なのかサクラに変化は無かった。だが周囲は違った。見慣れたドームの全てが崩れていく。違う世界の法則に触れて元の火星の風景に、人類がテラフォームする前の風景に戻っていく。シールドの魔法で覆った部分も例外ではなく、辺りよりゆっくりだが変わっていく。

「アカリさん」

サクラは叫ぶとアカリに駆け寄った。遺伝子操作で生まれたアカリとアリア社長も火星の風景の一部だ。アカリとアリア社長は呻き声を上げながら崩れていく。やがて原形質の塊となり混じり合った状態になった。ただシールドの魔法の中にいたせいか原形質は生きているようだった。とりあえずタイムの魔法で二人の成れの果ての時間を止めた。どうしようと悩んでいる間に周囲は完全に火星の砂漠に成りはてた。

ーーーーーーーーーー

「やはり何もない」

 火星の土から魔法で鉄とガラスと紐を作り出し、アカリーアリアをおさめる容器を作るとそれに納めた。背中に背負うと火星の調査を始めた。不幸中の幸いと言うべきか、今のサクラは陽光と月光があれば食事も酸素も要らない。光の力場で出来た翼を生やして火星を飛び回る。火星には何もなかった。人類が都市を築いた跡は何も無かった。地表にキラキラと輝く金属の輝きを見つけて降りてみると、はるか昔に火星を探査した火星探査機の部品だった。置き去りにされ風化した部品が折れて金属光沢が見えていた。サクラはその部品のそばに座り込むとしばらく動けなかった。

「誰か聞こえる?」

 超能力者にとってはテレパシー、魔法使いにとっては遠耳の術、そんな物で銀河中に声を上げ、耳をすませた。誰からも何も帰ってこない。以前なら「超人」「疫病神」などの二つ名を持つ者からすぐに返事があった。彼らはサクラ同様不死身だ。となると現状では元から存在していなかったということかもしれない。

「あっ」

 微かに地球の方から声が聞こえた。声というより思念、思いそのようなものだ。空を見上げると、地球が見えた。赤かった。何かが変わっていた。

「行ってみよう」

 サクラは呟くとふわりと浮き上がり赤い地球に向かって行った。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 今では超光速を出せるサクラも背中のアカリーアリアが心配でそれほど速度は出せなかった。地球までは光速の3割程度の速度で30分程かかった。

「なに、これ」

 地球は赤い海で覆われていた。夕日が当たっているわけではない。海水自体が赤いのだ。サクラは地球の周りを回ってみた。サクラが知っている緑と海に覆われた星は無くなり、赤い海水と砂漠と朽ち果てた都市の残骸が有るだけだった。都市の残骸もサクラがここ最近慣れてきた1万世紀の地球の物では無く、サクラの子供の頃、100万年前の物が朽ち果てていた。
 サクラは月まで一旦戻ることにした。海から訳の分からない思念波がサクラにたたきつけられ、気持ち悪くなったからだ。それは人間の物とも他の動物植物の物とも見当が付かなかった。月に近づくと、月に何かが刺さっているのが見えた。近づいて見ると赤い二股の槍だった。それは地球の朽ち果て方とは違い作りたての様な光沢を放っていた。

「何かが起きた。それもはるか昔、私が子供の頃に」

 何かが時間に干渉しそれがさかのぼって今の結果となったように感じた。サクラは時間をさかのぼってみることにした。夫と時間に干渉することはしないと約束していたが今は非常事態だ。背中のアカリーアリアも気になる。ともかく誰かに相談したい。サンとムーンのカードはほぼサクラの自我と一体化しているため相談相手にはならない。サクラは月面の槍を小さくすると、手に取った。何か重要な気がしたからだ。そして月面に横たわると目を閉じた。11日と13時間ほど眠ると太陽と月の位置が丁度良い場所に来た。時間をさかのぼる魔法となると簡単にはいかない。太陽と月の力がいるため、時を待った。サクラは魔法の杖を取り出すと、リターンの魔法で過去へ戻って行った。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「初号機だ、でもなんか違うような」

 過去への旅は初めは何も起きなかった。月の軌道に合わせて動くサクラには地球はほとんど変化はみれなかった。後1万年でサクラの少女時代になるところまで来ると宇宙の彼方から紫の塊が飛来してきて地球の衛星軌道に乗り回り始めた。初号機だ。サクラは時間遡行の速度を緩めた。遡行速度はすぐには変えられないので、通り過ぎない様にだ。

「この初号機も同じ槍を持ってる」

 サクラは初号機に近づくと一旦時間遡行をやめた。時は順行し始めた。サクラはゆっくりと初号機に近づいていく。もう少しで初号機に触れるところでそれは起きた。初号機が手の槍を振り回して、サクラを叩いた。初号機もしくは中に乗る者は、単にサクラに触れようとしただけかもしれない。ただ初号機の巨体が振り回した槍が迫ってくるのを見て、サクラはとっさに手にあった槍を大きくして盾代わりにした。結果としては最悪の選択だったのかもしれない。サクラのスピードなら避けるだけで十分に間に合う。槍と槍は激突した。接触部を中心に眩い光とエネルギーが発生しサクラと背中の物をはるか彼方の次元と空間にはじき飛ばした。その瞬間サクラは気絶した。


EVAザクラ 新劇場版



私は猫である

 私は猫である。名は無いと言いたいところだが、アンズという立派な名前がある。どこで生まれたかは見当がつかない。アンズの木の下にあった割れたガラスの容器の中でニャーニャー鳴いていたところを拾われた。私はここで初めて人間というものを見た。しかも後で知ったのだが、それは小学生という人間の中で最も凶暴な種族だったらしい。この小学生というのは時々猫を捕まえては、遊びまくって殺してしまうらしい。しかし当時はそんな事はちっとも知らず、小学生の手のひらでニャーニャー鳴いていた。ここで初めて人間を見たはずなのだが、何か懐かしい気がした。昔、人間と話したり、遊んだりした様に思えた。
 そのうち小学生は飽きたらしく壊れたガラスの容器に私を戻すとどこかに行ってしまった。しばらくすると困ったことにお腹がへってきた。私が入っているガラスの容器はツルツルとして自慢の爪も歯が立たない。このままでは飢え死にしてしまうが、どうしようも無い。そのピンチを救ったのは私の初めての飼い主である、お母さんだ。夫が近所の小学校の教師をしているその女性は、初老の背が低い優しそうな顔をしていた。私を優しく抱きかかえると、家まで連れて行った。家にはお母さんの夫であるお父さんがいた。やはり優しそうな小柄の男性だった。その家で私は、人間の子供の様に可愛がってもらいスクスクと大きくなった。名前は拾われた傍にあったアンズの木にちなんでアンズと名付けられた。
 セカンドインパクト後の混乱した世界でも、私はそれほど苦労しなかった。自分達の食い扶持を削っても父母は私に食べさせてくれた。私は猫なので野鼠や野鳥を捕まえては、両親に見せてから食べて二人の食料の節約に努めた。もっとも両親は、野鼠を枕元において自慢げに座っている私を見ては苦笑いを浮かべていた。そんな生活を続けて数年が経った。私は美猫と言ってもよいと思う。つがいになって欲しいと近寄って来る雄がいっぱいいたが全てはねつけていた。食糧事情は中々好転しない中で子猫を生んだら、両親に迷惑がかかるからだ。ただ数年経つと雄は近寄ってこなくなった。猫は人間より早く育つ。私が年寄りというわけではないが、もっと魅力的な野良猫は沢山いる。私は両親の飼い猫で一生過ごそうと思った。

ーーーーーーーーーー

 ある日の事だった。縁側で風に当たってのんびりしていた私にお母さんが近寄って来て、横に座った。私を抱き上げると、頭を撫でながら、何とはなしに話し始めた。最近は私も人間の言葉が分かるので静かに聞いていた。

「アンズ、今度うちで子供を預かることにしたのよ。お母さんを事故で亡くした子でね。お父さんがとても忙しい人なので、知り合いのうちで面倒をみることにしたのよ。碇シンジ君て言うの」

 そこで言葉を句切ると、お母さんは私の脇の下に手を入れて持ち上げ、顔の前に近づけた。

「アンズは少しシンジ君より年上なので、お姉さんになってあげてくれないかしら」
「ニャー」
「そうかい、ありがとう」

 お母さんは私の言葉は分からないはずだが、言っていることはわかったようだ。私はもちろんと答え、お母さんは微笑んだ。
 それからは、友達に聞いてまわったり、お父さんについて小学校に行き人間の男の子達を研究したりした。もっともその頃は私は単なる猫だったので、それほど知識は得られなかった。そんなこんなしているうちに、シンジが我が家へやって来た。第一印象はおとなしい子だった。自分には一緒に生まれた兄弟がいたかは分からないが、もっと賑やかだろう。アル君に似ていると思ったが、そのアル君が誰かわからず悩んでしまった。私が悩んでいると、シンジは玄関のたたきから、家に入ってきた。

「ニャー」
「アンズ、こんにちは」

 お母さんから聞いていたいたらしく私の名前は知っていた。ただ弟なのに呼び捨てとはけしからんということで、肩に飛び乗り頭の上によじ登って、肉球で叩いてやった。

「ありがとう」

 私が慰めたのと勘違いしたらしい。まあ私はお姉さんなので許してあげることにした。

ーーーーーーーーー

 シンジは家に来てから泣いてばかりだった。当時の私はお姉さんになったとは言っても単なる猫だったので、人間の子供がお母さんがいなくなることの重大さはわからなかった。ただ、泣いているのが可哀想で仕方が無かった。だからどこへ行く時もついて行き、慰めることにした。シンジが小学校に行く時もついていったので、シンジは学校では猫使いとあだ名がついたぐらいだ。そのうちシンジは私の存在に慣れ、私の前では笑ったり泣いたりと表情を見せるようになった。

 猫にとってはとても長いが、人間の子供に取っては時間は早い。シンジは中学二年生に成った。

ーーーーーーーーーー

thunderblave are go!!

「救助隊規則第一条 全世界救助隊はthunderblaveロケットの秘密を他に漏らしてはいけない。間違って使えば……」

 自転軸の変化により今では赤道近くになってしまったその島は、太平洋の日本に近い場所にあった。セカンドインパクトの影響で地殻変動が起きて出来たいくつかの島は、国連の管理下に置かれていたが、その島はある富豪が資金力と祖父の政治力で手に入れた。富豪と言っても、見た目はモデル並みの容姿と実用的な身体を持った見目麗しい女性だ。ただ目つきがキツイ美人で美丈夫と言うのが一番しっくりくる。
 その美丈夫は桜色のガウン姿でその島の自室で、書類を読み返していた。彼女が全ての私財をなげうって作ったwwr(World wide rescue)の準備はほぼ整っていた。セカンドインパクトで愛する夫と最愛の従姉妹とその家族を失った哀しみが繰り返されないように作った組織だ。彼女が隊長を務めている。

「ん」

 彼女の自室は島の中央の建物の最上階にある。窓の外を明るい流星が流れたので目を向けた。次の瞬間、島の短い滑走路の辺りから閃光がきらめいた。室内にアラームが鳴り響く。

「マリエルどうしたの」
「人が光ってます」

 一番上の養子の名前を言うと、本人のインターコムに回線がつながった。彼女はWWRの隊員の一人だ。名はマリエル、姓は花右京だ。

「人が光る訳ないでしょう」
「でも光ってます」

 部屋のスクリーンに光景が映し出された。マリエルが身につけているカメラの光景だろう。確かに、滑走路の上で倒れている少女が光っていた。

「ナデシコ」

 思わず隊長は、大道寺ソノミは立ち上がった。滑走路には、時空を超え、初号機とふれあったためか13,4ぐらいに若返ったサクラが倒れていた。

ーーーーーーーーーー

 この島の地下には一応尋問用の部屋がある。尋問用と言ってもホテルの一室にしか見えない。ただ壁の一面に大きな鏡があり、隣り合った部屋から監視が出来る。サクラはその尋問用の部屋に収監された。島に常駐している医師の花右京タロウの見立てだと、生物的な年齢は15歳ぐらいで至って健康だそうだ。島には最新の医療設備が揃っているが、そのどれでも全くの健康体だ。

「ちょっと気味が悪いぐらい健康です」

 タロウの言葉だ。島の医療設備は高性能過ぎて、どんな人でも一つや二つの健康の偏りが見つかるのだが、それがないそうだ。ただその割に目を覚まさない。ともかく今はWWR立ち上げの大事な時期だ。もしかしてスパイだったらということで、尋問用の部屋で軟禁と言うことになった。隊長の娘たちのうち、実子のトモヨのサイズが近かったので彼女のパジャマを着せて寝かせてある。ついでに世話係もしている。トモヨもWWRの隊員ではあるが、まだ見習い扱いなので、それほど仕事はないのでうってつけだ。何よりトモヨ自身がサクラに一目惚れ状態で、進んで世話をしている。

ーーーーーーーーーー

 一週間後サクラは目覚めた。尋問はマリエルとタロウが担当した。隊長のソノミは、最愛の従姉妹ナデシコにそっくりのサクラの前では、頭の働きも鈍るということで、副隊長格のマリエルが担当した。タロウは、体調が急変した時のためにいる。尋問部屋のベット脇でサクラが話す昔話を聞いていた。トモヨもお世話係として側にいる。
 サクラは先ほど魔法の実演もして見せたが、時や次元を超えたせいかほとんど魔力は失われて、威力は無くなっている。何かするにもWWRの道具を使った方が手っ取り早いぐらいでしかない。しかもサンとムーンのカードの反応が無い。自分の中にいるのは分かるが呼びかけても返事が無い。そのためサクラは相談する相手もいない。魔法使いとしては八方ふさがりだ。

「みんなどう思う?」

 尋問部屋の光景を、居間で一緒に見ていた隊員達にソノミは呟いた。彼女はモニターの光景を食い入るように見ている。居間には隊員がほぼ勢ぞろいしていた。クルミ、サキ、カリンカの三姉妹と島の警備隊隊長のカッシュ・土門と配下のコノエとヤシマ、宇宙ステーションであるTB5号の駐在員である、ナギサと、技術担当のレイン・土門、弟子のイクヨがいる。もう一人のTB5駐在員であるホノカはすでにTB5に滞在して、回線を通して参加している。土門夫妻を除けば全員隊長である大道寺ソノミの養子だ。セカンドインパクトで孤児になった子供達のために、当時から玩具の製造販売で大富豪となっていたソノミは、孤児院を大量に建て運営していた。その中から選抜された子供達を鍛えて隊員にした。土門夫妻はセカンドインパクト後職を失っていたのでソノミが雇っている。夫は拳法の達人で警備隊隊長及び体術指南、妻は天才的技術者としてTBシリーズの制作に携わっていて、今ではソノミの最も信頼出来る友人だ。

「魔法使いなのは事実だろう。だったら残りの話も、あり得ない事じゃないだろうな。まあ難しい話はレインに任せる。俺は島を見回ってくる」

 カッシュは話に飽きてきたのか、居間を出て行った。暑いこの島でも黒いマントのような物を身にまとっているが汗一つかかない。鍛え方が違うのだろう。

「ほんとに面倒くさいの嫌いなんだから」

 ソノミとは違うがやはりきつめの美貌を誇るレイン・土門博士は勝手に部屋を出て行った夫の背中をにらみつけた。名前通りハーフらしく、完全に東洋人の顔のソノミとは少し違い、ほりが深い。

「仮定が入るのだけれど」

レインは顎に指を当て話し出した。

「仮定の一は、彼女が本当に魔法使いだと言うこと。少なくともさっき実演してくれたから超常能力があることは事実らしいのでこれはクリア。仮定の二は彼女が言葉通り異世界もしくはパラレルワールドから来たのだと言うこと。これは証明しようがないのだけど、少なくともソノミの記憶にある、ナデシコさんや先生は実在していたわけだし、セカンドインパクトで被害を被ったのも同じ。まあ、ソノミの旦那がルパン四世っていうのは無いけど」
「私のあの人はアニメの主人公じゃないわよ、普通の人。私と一緒にいなければ、あのときも助かったのだけど」

 ソノミは顔はモニターから動かさなかったが、ただ寂しい笑いを浮かべているのがモニターにかすかに映り込んでいる。

「ともかく、パラレルワールドという仮定を受け入れたとすると、この世界に相当近いわ。科学レベルは彼女の世界の方が少し上、政治経済などのシステムは似ているし、文化もね」
「で、どうする」
「ソノミはどうしたいの」
「もし、違う世界にナデシコがいたのだとしたら、違う世界のナデシコの家族だとしたら」
「助けてあげたいんでしょ」
「ええ」
「じゃこうしてはどうかしら」

 レインはソノミの肩に手を置いた。ソノミは振り返った。

「WWRにとって、有益か否かで決める。彼女の、とりあえず魔法は、いざって言う時の切り札の一つとして使える。そして今はそれほどの力があるわけでは無いので危険性はない。例えば本人が知らない間に洗脳されて、こんなストーリーを言っていたとして何かおこしても、コノエなら取り押さえられる」
「ナデシコの子供をスパイだなんて言わないで」
「それは不確定要素よ。ともかく害はないし。そこでWWRの基地に置いておかないで、彼女の旦那と言うべきか、旦那だったと言うべきか、ともかく碇シンジ君のところに送り込んだら。丁度日本の駐在員が欲しかったわけだし、トモヨちゃんは日本に戻すのだから、見張りとして、この世界の案内役として一緒に転校させてあげれば」
「本人が望めばそれも良いかもね」
「ただし、スパイだったりする可能性も否定しないで、頭の片隅に残してちょうだい」
「ええ」

 ソノミはため息をついてモニターに視線を戻した。

「お母様」

 モニターからいつの間にか消えていたトモヨの声がした。

「サクラさんがお母様に会いたいそうです」
「判ったわ。ヤシマ」
「はい」

 ソノミの秘書も兼ねている色黒の女性は、書類入れを手に持った。ソノミの後をついて部屋を出て行った。
「どう思う」
「おかあさまはこの件については判断能力が鈍っているわ」

 コノエは手にしている木刀のような物を膝の上に置いた。棒の握りの側にかすかに切れ目が見えるので、仕込み杖かなにかだろう。

「でもクルミはサクラちゃんはいい人にみえるです」
「私も姉さんに賛成」
「私も賛成。コノエさんはトモヨちゃんべったりだから、トモヨちゃんが心配なんでしょ。日本に着いていったら。ここは師匠に任せて」
「それもありね」

 師匠とはカッシュの事だ。みんなの体術の師匠のためそう呼ばれる。

「ともかく、隊長の決定に従うわ」

 結局、日本の屋敷にトモヨが帰るのについてサクラも日本に渡り、第三新東京市に行く事になった。護衛にコノエがついていくことになった。
 たまたま第三新東京市の近くに建てていた大道寺家の別宅から、シンジが通うであろう第三新東京市立第壱中学校に通うこととなった。あれこれと三ヶ月間ほどかかったが、その間にサクラとトモヨは仲良くなった。それと共にサクラと一体化していた、カードとなった前の世界のトモヨとケンスケの気配は体の中から消えてしまった。とても悲しかったが、その事を屋敷の部屋で今のトモヨに打ち明けると、黙って抱きしめて頭を撫でてくれた。

「大丈夫ですわ、サクラさん。もう一人の私に替わって、私がサクラさんをお助けしますわ。サクラさんは、その碇さんを助けてあげてくださいな」
「ありがとう、トモヨちゃん」

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「第二新東京からかぁ、美少女二人とはついとるなぁ」
「えへへへへ」
「おほほほほ。ロサンゼルスからも一人ですわ」
「えっへん、って言うんだよね。こういう時は」
「そうですわ。ルーシーさんは日本語が上手ですわね」
「ママが日本の会社に勤めていて、ママのボスの家によく遊びに行くうちに覚えちゃった」

 始業式の後、2-A組ではサクラとトモヨとルーシーの周りに人だかりが出来ていた。第三新東京市は人口の流入が制限されている。あからさまにはなってはいないが、ネルフが手を回している。そのため転校生は珍しい。三人を除けば全員が1-A組から繰り上がって来ていた。新担任もまだ来ないため、盛り上がっている。


「ルーシーさんは何故日本へいらしたのですか?」
「ママが副社長になったから、本社のある日本に家族ごと引っ越したの。弟も一緒よ」
「お父様は?」
「パパは離婚協議中。ニューヨークで刑事をやってるよ。二人とも仲は悪くないけど、すれ違い多くて、二人とも意地っぱりだし。私も嫌いって訳じゃ無いけど、殆どあってないから他人って感じ」

 ルーシーは肩をすくめた。茶色のセミロングの髪が揺れた。横からシャッター音がした。

「ケンケン、さすがに撮りすぎ。モデル代取るよ」

 先程から三人の写真を撮りまくっているのはケンスケだ。一応断って撮っているが、休む間もなくシャッターを切っている。

「第壱中は写真部が無いだろう。部を作るのは、コンクールに入賞が一番。それには美少女の写真が一番だし」
「トモヨ、ケンケンに何か言ってよ。なんかケンケンは色々だめな感じ」
「おほほほほ、ケンスケさん、過ぎたるは及ばざるがごとしですわ」
「そうそう、サクラもやり過ぎだと思う」

三人に言われて今度はケンスケが肩をすくめた。さすがにシャッターから指を離しカメラを下ろした。

「ま、また今度。ところで大道寺さんは、お母さんが大道寺コーポレーションの社長なんだよね」
「おほほほほ、よくご存じですわね」
「大道寺って苗字は珍しいからね」
「ところで、写真がご趣味のようですが、被写体は主にメカと伺いましたが」
「良く知ってるね。主に被写体はメカ、たまに景色かな、あと美少女」
「やはり色々だめな感じですわね」
「一概に否定はしないよ」

 トモヨはサクラから前の世界の事は聞いているが、それとは関係なく、この世界でも相性は良いのかトモヨとケンスケは話が弾んでいる。

「木之本さんは大道寺さんのハトコなんですって」
「そうだよ、ヒカリちゃん。お母さん同士が従姉妹なの」

 この世界でのサクラの戸籍は、この世界のサクラ達の家族の戸籍を使用している。この世界のサクラはセカンドインパクト後の混乱期に死んでいるが、大道寺家の政治力で記録が改竄され、サクラだけ生き残り大道寺家に引き取られた事になっている。色々聞いてからヒカリは急に謝り出した。サクラが気にしてないと笑いかけ、ヒカリはほっとしたようだ。その後もおしゃべりは続いた。

「あたしが新担任の九段クキコだ、よろしくゥ」

 急に教室の戸が開き、頭がぼさぼさの女教師が入ってきた。年の頃なら三十でこぼこ、少しつり目の整った顔立ちをしている。やせているが、胸はデカく、ぴったりとした服とも相まって目立っている。ただ何となくだらしがない感じと、今どき珍しいタバコのにおいのせいで、色気は余りない。クキコは教壇に手をつくと、自己紹介を始めた。

「言っとくが私は魔女だ、嘘もごまかしも通用しないから、そう思え」

 取りあえず、適当な席について話を聞いていた生徒達の顔は見ものだった。みんな大丈夫かという感じのあきれ顔でクキコを見つめていた。二人を除いてはだ。サクラとトモヨだけは、目を見開いて見ていた。

「じゃあ、まず学級委員長から決めるか、他薦、自薦何でもありだ」

 この世界でも委員長はヒカリだった。

ーーーーーーーーーー

 初日はホームルームだけでお開きだが、サクラとトモヨだけがクキコに相談室呼ばれた。サクラとトモヨがテーブルの前に並んで座ると、クキコは反対側に座った。

「木之本は、何者だい?何かが違う。変な言い方だが違い方も普通と違う」
「えっと」
「ま、何者でもよいが一つだけ。何者でも私の生徒だ。困った事があったら、どんな事でも相談に乗るよ。私じゃないと相談に乗れそうも無いことが多そうだ」

 クキコの笑いはニタニタ笑いなのだが、何故か下品に見えないのは、瞳が澄んでいるからだろうか。色は黒いのだが、見ていると、色んな色が見えるような気もする。サクラとトモヨはクキコの顔をじっと見ていた。

「先生は魔女なんですか?」
「そう言っただろ」
「じゃあ、私も魔女です」
「それは良かった。宇宙人はあった事が無いし、物の怪は面倒だし。ともかく魔女の悩みは他の先生には話しづらいだろ。遠慮せずにいつでも来な」

 そう言うと、クキコはウインクをした。サクラとトモヨも、音が出そうな大げさなウインクに、顔の緊張も解け微笑みが浮かんできた。

「はい、そうさせて頂きます」
「おう、今度家庭訪問するから、差し障りの無いところだけ教えてくれ」

 家庭訪問は早速週末に行われた。クキコの月収位しそうな食事と酒を振る舞われた後、サクラとトモヨとクキコの三人は、サクラの部屋で一晩中語り明かした。理解しあえる教師のおかげで、サクラはシンジがそして使徒がこの街に訪れるまで、穏やかに過ごす事ができた。

ーーーーーーーーーー

代打屋

「あの、どなたですか」
「トーゴー、代打屋だ」

 初めて第三新東京市に来たはいいが、変な怪獣が攻めてきて、リニアは止まるわ、ミサイルは飛び交うわで、シンジは進退窮まっていた。近くで爆発したミサイルの爆風でリニアの駅の入り口のシャッターによろめきかかった。丁度その時、目の前に盾になるようにツードアのクーペが急停車した。

「とにかく乗れ」

 特徴があまりない中年男が手を伸ばして助手席のドアを開ける。トーゴーが何者かは知らないが、怪獣大戦争のまっただ中にいるよりはいい。シンジが大きな鞄を抱えて、頭から滑り込むように助手席に入ると、ドアを閉めた。

「うぁ」

 シンジが座り直すのを待たずに、トーゴーはクーペを発進させた。年代物のガソリン車だが、整備状態も、ドライバーの腕も良いのかクーペはみるみるその場を離れていく。少し経ち直線路にクーペが入り、横Gが収まったところでシンジは助手席に座り直した。

「あの、葛城さんの代わりの方ですか?」
「その通り、代打屋でね。依頼人に急用が出来たので、依頼があった」
「代打屋ですか、えっと」
「何でも屋だよ、ネルフってとこのジオフロントにお連れしろって事だ。ネルフというか、葛城さんは金払い払いがいいから好きなんだ」
「はぁ」
「で、一応確認したいのだが、IDカード持ってるかい?送られているだろ」
「はい」

 シンジが足の下の鞄に手を伸ばした時だった。いきなり運転席側の窓から閃光が車内に飛び込んで来た。そして轟音と共に爆風がクーペの側面を叩いた。爆風にあおられてスピンしかかったクーペだが、道幅が広かったため、なんとか体勢を立て直し、すぐ先にあったトンネルに逃げ込んだ。トーゴーは車を少し進めて止めた。強烈な爆発は、トンネルの入口を赤々と照らし、爆風も凄い勢いで吹き込んでくるが、外よりはましだろう。シンジは鞄に手を伸ばした姿勢から、頭を抱えて、安全姿勢をとっている。なぜか最近学校で頻繁に行われる、避難訓練が役に立った。トーゴーはダッシュボードの下の小物入れから小型の無線機を取り出した。以前ミサトから仕事を請け負った時に渡された、直通の無線機だ。今回も連絡が必要な時はこれを使うことになっている。

「うぁ」

 スイッチを入れたはいいが、NN機雷の爆発の後の電波障害で凄い雑音がして慌ててスイッチを切った。トーゴーは脱力すると、エンジンを止め、ハンドルにもたれかかった。

「当分動けんな、シンジ君とりあえず安全みたいだぞ」

 シンジは頭に手をのせたまま、こわごわ上目遣いで、トーゴーの顔を見上げた。

「ともかく、無線が繋がったら、葛城さんに連絡して、それからだ」
「はぁ」

 爆風にあおられた砂粒などが窓ガラスに当たる音が少し静かになってきたところで、シンジは頭を上げた。
ーーーーーーーーーー

「他に誰かいませんか?」

 そのころ第三新東京市立第弐中学校の校庭にTB2を着陸させていたクルミは、小学校に退避していた住民をTB2のコンテナに乗せ終わったところだった。怪獣が出た、助けてという通信をモニターしていた、TB5の高感度センサーとWWR本部の高性能AIによって、孤立していた小学校を探り当て、TB1とTB2が急行して住民の退避を手伝っていた。怪獣にもびっくりしたが、巨大な正体不明のVTOLが現れたのも驚いていた住民達だがとりあえず命が大事とTB2のコンテナに乗り込んだ。
 スピーカーの呼びかけの後、高性能のバイオモニターで周囲を感知したが、人間は他に見あたらなかった。

「マリエル、発進するです」
「了解。私はもう少し見回ります。怪獣はどうします、母さん」
「私達の仕事は人の命を守ること。怪獣はほっときなさい。お爺さま達の方でなんとかするわよ」
「了解」

 マリエルはTB1で周辺の探査を続けた。TB2は垂直に上昇すると、怪獣から遠ざかるように東に進んでいった。

ーーーーーーーーー

「アンズ、なんでいるの」
「にゃ、にゃにゃ、にゃにゃにゃにゃ」

 気を取り直したシンジが鞄を開くと、中から白い猫が飛び出してきた。シンジの顔にしがみつくと文句を言うように、アンズが鳴いた。シンジが顔からアンズを引き剥がしても小言のように鳴き続ける。

「猫の輸送代ももらわないとな」
「にゃ、にゃにゃ」

 トーゴーがつぶやくとまるで挨拶をしているかのように、頭を下げて鳴いた。

「アンズは家にいないと。父さんの事だから着いてきてもいいことないよ」
「飼い猫かい」
「先生の家の猫で僕より少し年上なんです」
「じゃ、姉貴か兄貴かな」
「姉と言えば、姉みたいなものです。勝手に着いてきちゃった」
「弟が心配だったんだろな、ともかくネルフに、一人と一匹とどけますか」

 トーゴーは無線機をとるとスイッチを入れた。今度は雑音はさほど聞こえない。

「えー、こちらトーゴー聞こえますか、どうぞ」
「聞こえます。シンジ君無事、NN大丈夫だった?」

 無線機からはきれいな女性の声がした。

「無事ですよ。ただ車はぼろぼろ。そちらの入口まではなんとかいけそうだけどね。あと追加でお客が一匹」
「お客?一匹?」
「シンジ君に飼い猫がついてきたようです。ともかく届けるので、一匹分と車の修理代追加でよろしく」
「追加費用はなんとかするから、いそいでね」
「了解」

 その後、ルートのうち合わせなどを少しした後トーゴーは無線を切った。トンネルの外も大分落ち着いたようだ。まだ怪獣は暴れているのか遠くから音は聞こえてくるが、NN機雷の爆風などは収まってきた。

「じゃ、出発するから、猫は後部座席に」

 トーゴーが言うと、アンズは自分で後部座席に飛び移り、置いてあったタオルの上に寝転がると一声鳴いた。

「言葉がわかるみたいだな」
「そうなんです。時々、人の言葉がわかるような事をするんです」
「まぁ、十何年も生きれば猫又になるかもしれないし、言葉ぐらいわかるのかもな。ともかく出発だ」

 トーゴーはエンジンをかけるとトンネルの奥に向かって進み出した。

ーーーーーーーーーー

「はい、お母様無理はさせませんわ」

 桜色のリムジンの後部座席で、トモヨはソノミと通話をしていたが、今にもドアを開けて飛び出して行きそうなサクラを見て通話を打ち切った。ここは第三新東京市より少し離れた山の頂上だ。使徒が出たという知らせを受けたトモヨとサクラは、ピンクの大型リムジンで、運転手とコノエと共に偵察に来ていた。第三新東京市より200km以内は外出禁止令が出ているが、このリムジンは別らしい。途中戦自の検問にあっても運転手のパーカーがIDを見せて照合させると、フリーパスで通れる。パーカーは屋敷の執事を束ねる立場だが、トモヨ達が出かける時は自らハンドルを握る。ソノミの腹心の部下であり、トモヨ達のもっとも頼りになる味方だ。ボディーガードのコノエはいつものメイド姿で助手席に座っている。助手席には、情報端末やレーダースクリーンがあり、有用な情報が入るたびに、皆に伝えている。

「サクラさん、助けに行きますか?」
「今助けに行ったら、時の流れの誤差が大きくなって、先が読める利点がなくなる。それに今の魔力では使徒と戦えない」
「そうですわ。ここぞという時を見極めないと、今は我慢の時ですわ」

 その時、コノエの端末にTB5から連絡が入った。コノエは直ぐにトモヨの前端末に転送した。

「碇さんは、代打屋さんとジオフロントに向かってますね。代打屋さんはトーゴーさんといって100%の成功率を誇る何でも屋さんだそうです。碇さんの事はとりあえず代打屋さんに任せてはいかがですか」
「うん、でもいざというために、もう少し近くに行きたい」
「わかりました。パーカー、安全かつ最近の距離まで近付いて下さいな」
「はい、お嬢様」

 パーカーは静かにリムジンを発車した。リムジンは使徒の暴れている方へ向かっていった。

「シンジさんは、きっとEVAには乗りたくないと思う。だけど乗ってもらわないと」

サクラは呟くと、足元をみた。しばらくすると靴にしょっぱい水滴が垂れてきた。

ーーーーーーーーーー

「なるほど、親父さんはここのトップなのかい」
「はい」

 ミサトに指示されたジオフロントへの入口に向かうと、そこはネルフ本部への直行便のカートレインの駅があった。入口の警備にはトーゴーとシンジの風貌、使っているクーペの特徴は通達されていたらしく、すぐに案内された。その場にいた係員にシンジのIDカードをチェックしてもらい、本人確認が終わると車でそのままカートレインに乗りこむ。

「トップなんです」

 うつむき気味に話すシンジを、頭の後ろに手を組んで天井を眺めていたトーゴーは横目で見た。シンジは膝の上に戻ってきたアンズの頭を撫でている。アンズはシンジの膝の上で寝ているようだ。

「苦手なのかな、親父さんが」
「はい」
「ま、男は親父が苦手なもんだよ」
「トーゴーさんもですか?」
「だれでも大体そうさ。で大人になると急に苦手でなくなる時が来るんだ」
「そうなの」

 その時、車内が急に明るくなった。カートレインの軌道は地下の大きな空間に出た。

「あっ、凄い。本当にジオフロントだ」
「凄いな、俺も初めて来た。民間人は中々入れないからね」

 シンジは夕焼けの赤い光に照らされたジオフロントの光景に目を奪われた。光ファイバーによる採光システムのせいで、地下なのだが相当明るい。ただ地上とは微妙に色の具合が変わっており、ジオフロントの天井から下に伸びる兵装ビルの奇景のため、抽象画のように見える。

「なあシンジ君、ところで君は何をしに呼ばれたんだい?ここは軍事基地らしいし、子供の来るところとは思えないんだが」
「判りません。ただ、なんとなく碌でもないようなことみたいな気がして。何かちょっと前から直観が鋭くなってきて、そうだ。アンズ預かってくれませんか?」
「にゃ」

 寝ていたように見えたアンズが顔を上げた。

「怪獣が攻めてきてるし。僕といると危なそうで」
「にゃにゃにゃ、ねにゃねにゃ」

 抗議しているのか、アンズが盛んに鳴き始めた。シンジの手を軽くかんだり、前足で叩いたりする。

「なんかいやそうだけどな。それに俺に物を頼むと料金がかかるぞ」
「そうなんですか。どのくらい?」
「まっ、ネルフに請求するよ」
「にゃにゃにゃ」
「アンズ、お願い。ちょっとの間トーゴーさんと一緒にいてくれない」

 シンジの懸命の説得の結果、カートレインが出口に到着する頃には、アンズは納得したらしい。シンジが出口で係員の出迎えを受け別れる時には、トーゴーの頭の上に乗り盛んに鳴き声を上げていた。
 そしはシンジは、ミサトやリツコの元に連れて行かれ、父に再会した。

ーーーーーーーーーー

 なぜこんなロボットに乗っているか自分でも不思議だった。重傷の少女が可哀想だったのかもしれないが、何かが耳元で囁いたような気がした。絶対だいじょうぶだよと、悲しそうな声がしたような気がした。シンジは初号機のエントリープラグの中で思いを巡らせていた。LCLの中でシートにもたれかかり目をつぶっていると、発令所からスピーカー越しに伝わってくる声は、どこか異世界の言葉に聞こえる。シンジはどんどん頭の奥に、思考が潜り込んで行く気がした。やがて初号機と神経接続がされると、音、光は直接感じられるようになり、シンジは初号機と一体化していった。

ーーーーーーーーーー

 サクラは疲労の余りリムジンの後部座席で横になっていた。魔力の消費も激しかったが、それ以上に心の痛みが精神力を奪っていた。パーカーは、リムジンの電磁波迷彩と民間の車としては世界最強の装甲を使い、出来るだけ第三新東京市の中心近くの入り口に近づいた。そこから先はサクラが魔法を使い、ジオフロントのネルフ本部に向かっていった。時を超える前ならば、魔法の複数同時使用など容易かったが、今では二つ同時がやっとで、しかも長くはもたない。姿を消しつつ、ネルフ本部内の頑丈な扉をすり抜け進んだ。本部の構造は余り変わって無いため迷いはしなかったが、結構時間がかかった。シンジの元に着いた時、丁度シンジはストレッチャーから落ちたレイを抱き起こしたところだった。以前と違う光景に一瞬立ちすくんだサクラだが、シンジが呟くのを聞いた。

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……」

 繰り返すシンジの耳元に姿を消したまま口を寄せた。

「絶対だいじょうぶだよ」

 昔の口癖をそっと呟いた。するとシンジは呟きはやめ、顔を上げた。

「乗ります。僕が乗ります」

 そしてサクラは、トモヨの元に戻ってきた。リムジンには客がいた。クキコだ。

「すさまじく危ない気配がしたので、見に来たら見つけた」

 クキコの弁だが、魔女先生には電磁波迷彩も効果は無いらしい。

「私、好きな人を戦いに引きずり出した」

 広いリムジンの後部座席で上を向いて目をつぶり横になったサクラの目尻からは、涙の線が伸びていた。

「そういう事もあるさ。今は休もう。間もなくあのデカ物と碇がやり合うのだろ。手助けも出来るかもしれないさ」

 クキコはサクラの額に手を当てて呟いた。見える人なら手が輝いて見えるかもしれない。だがクキコの言葉とは違い、サクラの今の力では、手助けは出来なかった。使徒は初号機の暴走によって倒された。

ーーーーーーーーーー

「アンズ、良かった」
「にゃねにゃにゃにゅねにゃ」

 受け取ったアンズをシンジが撫でると、アンズは相当言いたいことがあるらしく、シンジの顔にへばりついて鳴き続けた。トーゴーはこの一週間とても忙しかった。街があれだけ壊されると本職の市役所土木課の仕事も忙しい。普段ならサボりまくるが、流石にそれも難しい。それに同僚でもあるフィアンセの目もある。仕事が一段落したところでミサトのマンションに集金に行くと、何故かシンジがいた。シンジは色々あってミサトと同居する事になったらしい。集金ついでにアンズを預けようと思っていたトーゴーとしては大助かりだ。

「で、葛城さんはどこだい?」
「ネルフの急用で出掛けました。トーゴーさんが来たら渡してくれって、封筒預かってます、あがってください」
「じゃあ遠慮なく」

 頭に移ったアンズを乗せたシンジの後ろに着いて、トーゴーはマンションにあがった。

「散らかってますけど」
「凄いね」

 ダイニングキッチンのテーブルの周りには、ゴミ詰まったビニール袋で一杯だ。その多くがビールのアルミ缶で、シンジの同居人のものらしい。シンジがテーブルの椅子に座ると、トーゴーも反対側に座った。アンズはテーブルの隅に飛び移ると行儀良く座っている。

「これです」
「確認するよ」

 テーブルに置いてあった封筒をシンジが渡すと、早速トーゴーは封筒を開けた。中からはネルフの財務部発行の小切手が出てきた。六桁の数字が書いてある。

「お、少し多いのはお嬢さんの宿泊費かな」
「にゃにゃ」

 トーゴーがアンズの頭を撫でると、アンズは上機嫌に鳴いた。一週間で仲良くなったらしい。

「あの、トーゴーさんって市役所に務めてますか?」
「何で知ってるんだい」
「この前、転入手続きを自分でしに行ったら見かけたので」
「市役所のみんなには秘密にしているから、秘密で頼むよ。その代わり困った事があったら相談に乗るよ。費用はネルフ持ちでね」
「はあ」

ーーーーーーーーーー

 愛する者との再会は必ずしも劇的なものになるとは限らない。翌日学校でシンジが淡々と自己紹介をするのを自席で見ていたサクラは、そっと目を伏せた。よく見ると何か違う気がする。それが自分の記憶が変わったのか、シンジが自分の愛したシンジと違うのか判断が付かない。時を超えて、初号機に吹き飛ばされて、何かが変わった。多分これから永遠に答えは出ないだろう。
 アンズが戻って来た翌日、シンジは転校生として挨拶をしていた。

「じゃあ、木之本のとなりが空いているからそこだな」
「はい」

 担任のクキコの一声でシンジの席が決まった。シンジを挟んでサクラの反対側には、怪我から復帰したレイが窓の外を眺めている。怪我から復帰したとは言え包帯だらけの体は痛々しい。レイは特にシンジに興味は無いようだ。外を眺めたままだ。シンジは指定された席に静かに座った。

「朝のホームルームは終わり、じゃ」

 クキコはそそくさと教室を出て行った。多分トイレに直行だ。トイレを我慢していた訳では無く、タバコを我慢していた彼女は、ホームルームの後にトイレでタバコを吸うのが日課だ。最近はタバコも吸える所が減ってそんなことをしている。

「私、先生見てくる」

 ホームルームの次はクキコが担当の国語の授業だ。教室を出る必要はない。クキコの様子でピンと来たヒカリはトイレに探しに行った。担任とうるさ方の委員長が居なくなり、教室は騒がしくなった。自然と転校生のシンジのそばに人が集まって来た。

「ねえ、碇君ってあのロボットのパイロットって本当?」

 女子の二人組が寄ってきて聞いた。噂は流れていたらしい。しばらくシンジは二人組を見ていたがやがて小さな声で答えた。

「うん」

 シンジの答えに、いきなり教室が賑やかになる。皆口々にシンジに、ロボットや使徒の質問を浴びせた。根がまじめと言うか、どうでもいいと思っているのかシンジは答えていく。余計教室が騒がしくなっていった。もっともそれに加わらないものもいる。教室の反対側では黒いジャージ姿の少年が苦虫をかみつぶしたような顔で天井を眺めていたし、レイは窓の外を眺めたままだ。

「みんな静かにしなさいよ」

 そこへヒカリがクキコを連行して戻って来た。

「あーじゃあ、授業を始めるぞお」

 頭をかきかきクキコが言った。サクラはそっとため息をついた。せっかく隣の席になったのに声もかけられなかったからだ。


ーーーーーーーーーー

 シンジは一時限目が終わったところで、黒ジャージ姿のトウジに校舎の裏に呼び出された。行ってみるといきなり殴られた。倒れたシンジにトウジが何かを言おうとした時だった。

「すま、うあ」
「うにゃー」

 校舎の窓枠を歩いていた白い猫が、いきなりトウジに飛びつくと、顔にしがみつき、引っ掻き始めた。アンズだ。アンズはシンジが小学生の時から、学校まで送り迎えをしていた。今日も学校まで着いてきた。教室の外で待っていたが、シンジが友達と一緒に出てきたので邪魔にならないように校舎の壁のでっぱりの上を歩いて、上から見守っていた。
 アンズは最愛の弟を守るため、全力で引っ掻いている。とはいえ爪は出していない。シンジが小学生の時にいじめられたのを助けた時、アンズは爪でいじめっ子の顔をすだれにしたことがあった。いじめっ子の親がわきまえた人だったので、問題にはならなかったが、それでもシンジの養父母が困っていたようなので、爪を使うのはやめることにした。ただトウジにしっかり捕まるため左前脚の爪は出して、おでこの上のあたりにしっかりと食い込ませている。かなりトウジは痛いだろう。

「ほれ、そこまでだ」

 唖然として見ていたシンジの代わりに、手を伸ばしたのはクキコだ。なんとなく様子が変なトウジをつけて来ていた。シンジが殴られて慌てて出てきて、暴れるアンズをトウジから引き剥がした。

「シンジ君」

 シンジに駆け寄って来たのはサクラだ。こちらはクキコにテレパシーのようなもので呼ばれたので急いで走ってきた。シンジの口元が切れているのを見て、しゃがんで自分のハンカチをあてた。

「血が出てる」
「……ありがとう」

 口に当てたハンカチをシンジが押さえようとすると、サクラの手に触れた。サクラは慌てて手を引っ込めた。

「え」

 シンジは思わず声を上げた。サクラが大粒の涙をぼろぼろとこぼしていたからだ。サクラは急に立ち上がると走って行ってしまった。急な展開にシンジだけではなく、トウジやアンズも唖然として見送った。

「なんなんや」
「ま、美少女には99の謎があるもんだ」

 クキコはアンズを小脇に抱えると、シンジの手を持って起こした。

「鈴原、碇、相談室に一緒に来い、喧嘩ぐらいする年頃だが、理由は聞かないとな」

ーーーーーーーーーー

「じゃあ、話してもらおうか。何で殴った?」

 相談室の長方形のテーブルの長辺を挟んで、シンジとトウジは座っている。クキコは長辺の真ん中の椅子にだらしなく座っている。アンズはシンジのそばのテーブルの端に座ってトウジを睨んでいる。

「先生に言う事やない」
「あほ。学校で喧嘩したら先生に言う事になるんだよ。まずは理由を言え」

 ずっとシンジを睨んでいたトウジだが、クキコに顔を向けた。

「殴らなあかん訳があるんや」
「他人を殴らなければならない理由はそうはないよ」

トウジは今度はクキコを睨みだした。

「転校生があのロボットを上手く操縦できんかった、それで妹が大怪我したんや」
「僕だって、乗りたくて乗っている訳じゃないのに」
「なんやと」

 シンジの言葉にトウジは激昂し立ち上がった。だが強烈な視線を感じてクキコの方を再度向いた。底光りする瞳がトウジを見ていた。見る間に怒りの感情が引いて行き、何故か寒気がした。

「まあ座れ」
「あ、ああ」

 トウジは慌てて座った。視線が見れないシンジは、トウジの急変に唖然とした顔でクキコを見ていた。

「なあ鈴原、お前は妹を守らなかったのかい?」
「違う場所にいたんや」
「変な話だな。他人の碇には、初めて乗ったロボットを命懸けで上手く操縦しろと言う割に、自分は命懸けで妹を助けに行かないのは」
「そないなこと、避難所が違えば助けにいけんやろ」
「そうかい」

 クキコが冷たい微笑みを浮かべた。

「まあ、恨みは理性じゃ割り切れない。わかるようにしてやろう」

 クキコは右手の平をシンジの額に左手の平をトウジの額に当てた。その瞬間二人の表情が凍りつき動きが止まった。10秒ほどそのままにした後手を離した。

「あぎゅ」

 急にトウジが左手を押さえ奇声を上げてテーブルに突っ伏した。シンジは目尻が釣り上がり、歯を食いしばった。

「碇の戦闘の感覚を、覚えている範囲で伝えた。戦闘で痛い目にあっているから許せるという訳でも無いが参考には成るだろう。鈴原の怒りも伝えた。喧嘩するにも仲良くするにも相互理解は必要だ」

 クキコはポケットのタバコを出して安いライターで火をつけた。

「後は、自分達で考えろ。ただ暴力沙汰はよしな」

 そう言うとクキコは椅子に寄りかかり天井を眺めた。皆そのままの状態で黙っていた。

ーーーーーーーーーー

 ネルフの本部の建物はやたら広い。その為、建物内を移動する為の乗り物がいくつかある。そのうちの一つがリフトだ。ミサトとリツコは二人がけのリフトに乗って本部の中を移動していた。下が雪で周りが開けていればスキー場だが、機械音が響く薄暗いトンネルは異界への入り口のようだ。

「そう言えばシンジ君、転校初日からクラスメイトに殴られているそうじゃない。パイロットのセキュリティ、大丈夫なの?」
「それなんだけど」

 珍しく言いよどむミサトの方に一瞬視線を向けたリツコだが、また足下に視線を戻した。

「諜報部の監視システムに問題はないわ。大した怪我じゃないし。担任の教師が止めに入ったし。ただね、その担任はネルフ関係者じゃないのよ」
「なんで関係者以外が担任なのよ」
「判らないのよ」
「判らない?」
「素性は旧家の出で、自称魔女先生。実際彼女の周りには不可解な事が起きるようなのよ。今回も採用システムがまるで化かされたような感じ。大体MAGIが学校関係は仕切ってるはずでしょ」
「確かに」
「ただ、シンジ君に悪意は無いようなので泳がせてる」
「そっ」

 そして二人は黙り込んだ。

「「ねえ」」

 ほぼ同時に二人はお互いの方を向き言った。

「えっとリツコお先にどうぞ」
「そう、じゃ」

 リツコはポケットに手を突っ込むと板状の物体を二つ出した。少し大きめの黒と白のスマホだ。黒い方をミサトに渡した。

「何これ」
「携帯簡易装甲服、プリQA。モデルQのAバージョンの試作品って意味。言いにくいのでプリキュアって呼んでるわ」
「プリキュア、可愛いコードネームね」
「コードネームはプリQA、プリキュアは愛称よ。スマホとしても使えるし、いざという時はIDカードをタッチして音声コマンドを唱えれば衣服など周囲のものを取り込んで、5分間作動する簡易装甲服になるわ」
「へー」
「ただし作動時間が過ぎると解除されて、素っ裸になるからみだりに起動しないように音声パスワードは普段言わないようなことがいいわよ」
「リツコにしちゃ面白いもの作ったわよね」
「そうなのよ」

 リツコはため息をついてからつぶやいた。ミサトは肩をすくめるとスマホをポケットにしまった。

「なんか最近こういう妙な物ばかり作っちゃうのよ。まるでもう一人の私がいるような、何かに浸食されているような」
「いつから?」
「ここ数ヶ月」
「そう」

 今度はミサトがため息をついた。

「私もちょっと」
「なに?」
「私は妙に喧嘩が強くなっような」
「昔からじゃないの」
「そうじゃなくて、拳銃弾がつかめそうで」
「はぁ?」
「試しにこの前、剣道場で簡単に白刃取りができたのよ」
「ミサトそこまで強かったかしら」
「私も何か憑依しているみたい」
「使徒じゃ無いことを祈るわ」
「そうね。どうせ取り憑くなら魔法少女や他の星の王女様なんかの方がいいわ」
「まったくね。ともかくプリキュアの起動コマンド考えといて」
「そうするわ」

 二人は黙り込んだ。あたりはリフトの機械音が響いていた。

「WWRはどうする」

 3分ほどたった後リツコがつぶやくように聞いた。

「設立目的、メンバー共に問題は無いわ。とりあえず緩やかな友好関係と協力関係を保つわ。一般人の退去をやってもらえばたすかるし、あの輸送力はいざという時魅力だわ」
「そ」

ーーーーーーーーーー

 最近のシンジは休み時間は屋上にいることが多い。クラスになじめないわけでは無いが、一人が気が楽だ。携帯端末で音楽を聴いている事が多い。時々アンズが現れては、ニャーニャーと頭を前脚で叩く。みんなと一緒に仲良くしなさいとお説教をしているのかもしれない。今日はアンズは家で留守番をしているようだ。シンジは目を瞑って音楽に浸っていた。
 急に暗くなった。目を開けるとレイが立っていた。

「非常招集、先行くから」

シンジが身を起こすとレイはそう言い、屋上を出て行った。

ーーーーーーーーーー

「報道管制ってやつだよ」
「さよか」
「なあ、二人でちょっと話が有るんだけど」
「わいもや」

 トウジとケンスケは避難所でテレビを見つつ、顔をつきあわせていた。何か企んでいるようだ。その二人を少し離れた場所から見ているのはトモヨだ。ヒカリやルーシーなど2-A組女子のグループとおしゃべりをしつつ二人を監視している。前の世界ではトモヨとケンスケが戦闘を見に行って負傷をしている。この世界で前回の経験を生かしつつ、被害を最小限にするよう行動中だ。やがてトウジはヒカリにトイレに行くと言って、小言を返された。その時トモヨはいつの間にか避難所の端に控えていたパーカーの配下に合図を送った。彼は皮下埋め込み式の無線機からサクラに合図を送った。

「サクラ様動きがありました」

 そのころサクラは抜け出して地上にいた。前回ケンスケとトモヨが負傷した場所だ。可愛いピンクのヘッドセットでパーカーと話している。横には珍しくワンピース姿のコノエが控えて周囲を見張っている。土門もいる。土門はいつものマント姿だ。
 サクラとしては使徒の対策以外は出来るだけ魔力をセーブしたい。それのためトウジとケンスケの世話はコノエがする。コノエもピンクのヘッドセットを付けている。

「じゃあコノエさん、二人を上手く安全な場所まで誘導して」
「はい、サクラ様、師匠、ご武運を」

 コノエが会釈をするとサクラは頷いた。第三新東京市の中心に向かって歩いて行く。土門は黙ってついて行く。今度の使徒は前回と同じならアンビリカブルケーブルを切断するはずだ。以前のような魔力は無いサクラは、EVAを充電できるほどのサンダーの魔法は使えない。WWRの基地で実験済みだ。ただ瞬間的なら魔力を上げられるので、姿を消しつつ、シールドの魔法で使徒の触手を防ぐことにした。ソノミは危険だと反対したが、それならば出て行くと言われ渋々了承した。そのかわりコノエと土門に護衛させる事になった。
 サクラたちが向かった先からは戦いの轟音が響いてきた。

ーーーーーーーーーー

予定と実際はやはり違う。使徒の触手が初号機のアンビリカブルケーブルを切断するのを防ぐはずだったが、シールドの魔法は耐えきらなかった。土門は魔法を破られて気絶したサクラを抱き上げると、肩に担いで安全な距離でリムジンで待機しているパーカーの元へ向かった。一方ケンスケ達を待ち伏せしていたコノエは、わざと二人に見つかるようにした。トモヨの屋敷に行った事がある二人はコノエを知っている。トモヨの命令で様子を見に来たと答えたところ納得した。二人はコノエが武道の達人とは知らない。こんな危険な場所にコノエを行かせたトモヨにあきれていたが、少し年上の美人のお姉さんに迷惑はかけたくないらしく、避難を勧められ従うことにした。
 ただし少し遅かった。変な気配に三人が振り向くと紫色の人型が宙を舞っていた。初号機だ。使徒の触手に投げ飛ばされた初号機が飛んできた。三人の側に轟音と共に地面にめり込んだ。ケンスケとトウジにとって幸運だったのは、すぐ横にコノエがいたことだ。コノエは二人の服の襟をつかんで地面に転がった。その細い腕とは思えない剛力で二人も横に転がった。次の瞬間、初号機の指が二人をかすめて地面に食い込んだ。コノエがいなかったら二人とも肉塊になっていたところだ。
 一方初号機のシンジは地面から立ち上がろうとして、手の先を見た。初号機の指のすぐ側で怯えたケンスケとトウジ、厳しい顔つきになったコノエが転がっていた。
 シンジがしばらく動けないでいると、ミサトの声がエントリープラグの中に響いた。

「……シンジ君、そこの三人を操縦席へ!三人を回収した後、一時退却。出直すわよ!」

 司令所の操作でエントリープラグが初号機の背骨から上に突き出した。入り口が開く。足がすくんで立てなかったトウジとケンスケをコノエが無理矢理立たせる。トウジとケンスケはコノエの助けを借りてどうにかエントリープラグに乗り込んだ。
 
「転校生、逃げろ言うとるで。転校生」

 トウジに逃げろと言われたからなのか、それとも違う理由か。

「逃げちゃだめだ」

呟いていたシンジは突如絶叫をあげて初号機を使徒に向かって突っ込んで行った。

ーーーーーーーーーー

 バッテリー残量が際どいところだったが、なんとか初号機は使徒を倒せた。トウジとケンスケ、コノエは諜報部の簡単な注意とともに解放された。

「どうして私の命令を無視したの」
「すいません」
「あなたの作戦責任者は私でしょ」
「はい」
「あなたは私の命令に従う義務があるの。分かるわね?」
「はい」

 シンジは更衣室でミサトに詰問されていた。聞いているのかいないのか判らないいい加減な答えに、ミサトは眉を釣り上げた。思わず側のロッカーの扉を拳で叩いた。鉄製の扉は少し凹んだ。

「もういいわ、先に帰って、休んでなさい」
「はい」

 シンジはベンチからゆっくり立ち上がると、うつむいたまま更衣室を出て行った。

ーーーーーーーーーー

「ただいま」

 シンジは帰宅途中どこかに行ってしまおうかとも思ったが、アンズの餌もあるのでマンションに戻ってきた。

「にゃにゃにゃー、にゃ?」

 戸の開く音を聞いてアンズが玄関まで出てきた。のろのろとダイニングに向かうシンジの様子がおかしいと思ったのか、アンズはシンジの肩から頭の上に乗り、頭を前脚で軽く叩いた。慰めているのかもしれない。シンジはそんなアンズを頭からおろし抱きしめる。ダイニングの椅子に座り込んだ。

「どうしたらいいのかな。戦っても殴られたり怒られたりだし」
「にゃにゃにゃにゃにゃー」

 アンズの頭に水滴が落ちてきた。シンジの頬を涙が伝わり顎からしたたっている。アンズは盛んに鳴いている。やはり慰めているようだ。ただシンジは勘違いしたらしい。

「お腹空いたんだね。今用意するよ」

 シンジはアンズを床に下ろすと冷蔵庫に向かった。アンズは諦めたのか鳴くのをやめて後ろを着いていった。

ーーーーーーーーーー

 その日は満月だった。シンジが床につき眠り込むと、シンジの頭の横で丸まっていたアンズは頭を起こした。今日はミサトは後始末で忙しく葛城亭はシンジとアンズだけだ。アンズはガラス窓の方に歩いて行く。マンションの高層にあるその部屋からは満月がよく見えた。
 こんな時はシンジの頭を撫でて、慰めてあげたいとアンズは思った。シンジが泣いていたら、どんな時でも助けてあげたいと思った。アンズはお月様を見上げると、こんな時に慰められるように、顔の涙を拭いてあげられるように、私を人間にしてくださいと願った。そしてじっと祈り続けた後、シンジのタオルケットの上に行き丸まった。夢の国に行った一人と一匹を月の明かりが照らしていた。

ーーーーーーーーーー

 翌日の朝、シンジは寝苦しくて目が覚めた。何か大きい物がシンジの上に乗っている。またミサトかと思った。夜遅く疲れて帰ってくるミサトは、玄関に近いシンジの部屋に夜入ってきて寝込んでいる事がある。酒が入っている時は暑いらしく、全裸の時もある。それなりに慣れた。この人にとって僕はパイロットでしかないんだなと考えつつ、ミサトを起こさないようにそっとどけようとした時だった。

「えっ」

 ミサトでは無かった。シンジのタオルケットの上で丸まって寝ていたのは、色白のシンジと同じぐらいの年の少女だった。ホッソリとしているが胸と腰は豊かで、顔立ちも穏やかな美少女だ。シンジの声が聞こえたのか少女の耳がピクピクと動いた。ただ、その耳は頭の上に生えていた。いわゆる猫耳だ。そして足下で何か動いていた。シンジが目を向けると、それは少女のお尻から生えた尻尾だった。

「え-」

 驚いたシンジの声で少女は目を覚ました。

「うるさいにゃー」

 顔を手の甲で擦りつつ少女は身を起こした。豊かな胸が揺れている。シンジを寝ぼけ眼で見ると顔を近づける。

「あれ?シンちゃん少し縮んだ?」
「えっ、あっとにかく服着て、だいたい誰なんですか?」
「へ?何言ってるのよぅ」

 少女は口元に指を置き、シンジをぼけっと見た。

「私アンズだよ?」
「あ?」

 少女の言葉にシンジは絶句した。

「ん?にゃあぁぁ、私の肉球が盗まれたぁぁぁ。一大事よぅ~~~」

 少女は少女で自分の手のひらを見て絶叫をしていた。

ーーーーーーーーーー

「でだ、要するにアンズちゃんが人間になったわけだ」
「朝起きたら人間になってるなんて、私の猫生初ですよ」

 葛城家のダイニングのテーブルには四人と言うべきか三人と一匹と言うべきかは判らないが、片方にシンジとアンズ、片方にクキコとサクラが座っていた。あの後シンジはともかくアンズにミサトの服を着させた。幸いなことに痩せているがグラマーなアンズの体型はミサトに近く、服の丈は少し余ったがなんとか着ることができた。アンズの話を聞いてみると、どうやら本当にアンズらしい。耳と尻尾も引っ張ってみたが本当に付いている。エヴァに乗ったり使徒と戦ったりと、最近変わった目に会い続けているシンジだが、その中でも相当変わっている。ミサトに相談しようかとも思ったが、今はなんとなく相談しにくい。それにネルフに知らせたらアンズを解剖しそうだ。
 そこで担任が自分は魔女だと言ったのを思い出した。偶然だがシンジのマンションは、クキコのマンションの近くにある。電話をすると盗聴されていそうなので、アンズに留守番をさせて、直接クキコのマンションを訪ねた。多分諜報部は見ているだろうが、少しでも時間を稼ぎたかった。
 早朝の教え子の訪問に初めは寝ぼけ眼で対応していたクキコだが、話を聞いているうちにシャキッとしてきた。ともかくシンジのマンションで話すことにした。学校は適当な理由を付けて休むようだ。シンジのマンションに行く間にテレパシーのような物でサクラに連絡を付けた。化け猫ならサクラも専門家と言えるからだ。サクラとはシンジのマンションの入り口で落ち合った。電話で呼んだことにした。何でサクラがいるのか不思議に思ったシンジだが、クキコに実はこの手の専門家と紹介されたので、ともかく家に入れた。

「アンズは暢気だな」
「アンズじゃなくて、お姉さん。弟なのに生意気よぉ」
「判ったよ、お姉さん」
「そうそう」

 シンジが言う姉さんとはアンズのことだ。着替えてからアンズがまずしたことは、自分を姉さんと呼ばせる事だった。姉としてのこだわりがあるらしい。シンジとしては小さいときから一緒にいて、猫の時から妙に偉そうにしていたアンズを姉さんと呼ぶのに違和感は無いらしい。

「多分、猫又だとサクラは思う」
「そうだな、尻尾の先が二つに分かれているしな」
「にゃ?うあぁ本当だ。私の尻尾がぁぁぁぁ」

 クキコに指摘されて、アンズは大慌てで自分の尻尾を握り部屋の中を右往左往はねるように動き回った。パンツにミサトのシャツ一枚しか着ていないので、アンズのお尻や胸が見える。ただ中身がアンズなせいか、シンジは全然色気を感じない。猫姿のアンズが騒いでいるように見えた。

「猫は長生きすると猫又って妖怪になって、化けたりできるって言うしそれだろう」
「アン……ではなくって姉さんが妖怪、なんか現実味がない」
「ロボットに載って使徒を退治するのとどっちが現実味がないんだい」
「それを言われると、確かに姉さんが人間になる方が現実味があるような。それに少しうれしいし」
「そうだろ」

 葛城家に常備してある缶ビールをすすりながら、クキコは意地の悪い笑いをした。ビールを飲み干すと空き缶を吸い殻入れにして、タバコを吸い始める。

「うにゃ~臭い」
「おっとゴメン」

 アンズにはタバコの匂いがきつかったらしく今度は鼻を押さえて転げ回った。クキコは吸い殻と吸いかけのタバコを空き缶に入れるとベランダに出した。シンジはエアコンの風量を最大にした。すぐに煙は吸い込まれて脱臭された。

「で、碇はどうしたいんだい」
「姉さんがここに住めるのがいいと思うけど、ミサトさんやネルフが許してくれるかどうか。冗談抜きで解剖されそう」
「ま、碇の保護者としてはそうなんだろうな」
「シンジ君とアンズさんが可愛そう。先生なんとかならないの」
「まぁなんとかしてみるか。ようは葛城さんともう一人、あのでっかいコンピューターの管理者」
「リツコさんですか」
「そう、その二人を説得すればいいわけだ」
「そうだけど」
「なあに、この美女二人組に任しておけ」

 クキコが音の出るようなウインクをしてサクラを引き寄せる。

「うん、絶対大丈夫だよ」

 シンジの表情が明るくなった。アンズはまだ臭いと言って騒いでいた。

ーーーーーーーーーー

「よく寝てるな」

 夕方一時帰宅したミサトを、クキコとサクラが待ち構えていた。シンジをどうしたものかと考えながら、玄関のドアを開けるとすかさずサクラがスリープの魔法で眠らせた。シンジとアンズには見られないようにダイニングで待機だ。それに葛城亭自体に盗聴器がないことは確認済みだ。盗聴器などは仕掛けた人間の思念が、現物やネットワーク越しでも残っていてそれをクキコが調べた。レーザー盗聴器などはイルージョンの魔法でカモフラージュしている。魔法使いが二人いるといろいろできる。ミサトは立ったまま眠り込んでいた。

「ではっと」

 クキコはミサトに近づいていく。

「どうするの」
「暗示をかける。人間になったアンズの存在を好ましく思うように。また問題にならないと考えるようにだ」
「なんかミサトさんに悪いなぁ」
「アンズちゃんの行動原理は簡単だろ。弟が可愛くてしかたがない。しかも身体能力は人間の数倍、さすが猫又だ。碇のボディーガードにこれ以上の人材はいない。これを頭の奥に押し込む。当然アンズちゃんに有利になるさ」

 クキコは性格が悪いというか、背筋が寒くなるような変な笑いを顔に浮かべると、ミサトの耳に口を寄せた。一分ほど何かを呟いた。

「さてともういいぞ」
「はい」

 サクラが魔法を戻すとミサトは目を覚ました。目をしばらくしばたいた後目の前のクキコを凝視した。

「どうもぉ~」

 クキコのだらしない笑顔が目の前にあった。

ーーーーーーーーーーー

「あんたさっき私に暗示かなんかかけたでしょ。」

 先ほどのメンバーにミサトが加わり、ダイニングで話し合いになった。先ほどと同じ配置だが、ミサトはシンジとアンズ、クキコとサクラの間の辺に座った。アンズは話に飽きてきたのか、席には着いているが視線はテレビに行っている。

「あらぁ~ばれちゃった」
「一応対洗脳用の訓練もしているし、大体魔女先生の情報は入っているわ」
「意思をねじ曲げる事はしてないですよ。アンズちゃんの有用性を強調しただけで」
「充分ねじ曲げてるわ。まあ元々猫のアンズちゃんは嫌いじゃ無かったし、弟思いのアンズちゃんはいいボディーガードだし。猫の姿ならどこにも一緒にいけるし。よい話し相手になりそうだし。まあアンズちゃんが猫又でシンちゃんの味方と認めて、上手く利用すれば、八方上手く収まるような気もする」
「そうでしょ」
「でもこの判断もあなたの暗示による結論かもしれないわ」
「そこまで凄い暗示はできませんよ」

 クキコはそう言うと頭をかいた。その様子を見てミサトはため息をつき、頭をかいた。プロポーションが良く、顔立ちが整っているが、色気がないなど、微妙に似ている二人の仕草に、シンジは吹き出した。緊張した雰囲気だが、逆に神経が笑いを欲したのかもしれない。ミサトが見つめたのでシンジは下を向いた。

「シンちゃんはどう思うの」
「姉さんがいるのは心強いし、それに」
「それに?」
「姉さんがいるこの世界なら守りたい。姉さんと話してたら、なんかそう思った」
「そう」

 ミサトは目を瞑り、腕を組んで考えた。誰も話さずミサトを見ている。もっともアンズはとっくの昔に飽きて、床で寝ている。

「とりあえず、害は無さそうなので、同居を許可するわ。これからの事も前向きに検討する。いろいろ根回しも必要だし」

 ミサトの言葉に皆ため息をついた。

「では、この話はこれでおしまい。日常のことで、解決する案件が出たら、トーゴーさんに頼むことにするわ。ところで木之本サクラさん、二人だけで話がしたいのだけど」
「えっ、あっはい」

 ミサトの鋭い視線にあいサクラは少し言いよどむ。

「九段さん、シンちゃん、少し二人で話したいのでここで待っていてもらえますか。
「担当としては同席したいのですが」
「二人を同時に相手をするのは、少し骨なので」
「判りました、碇、今後のアンズちゃんの日常生活の話でもしますか」
「はい」
「じゃ、サクラさん私の部屋で」
「はい」

 深刻な話の間、アンズはいびきをかいてずっと寝ていた。

ーーーーーーーーーー

「ずばり聞くわ。あなた何者」

 ネルフ一の生活無能者などと言われるミサトだが、最近は忙しく家に帰れないせいもあり、自室は片づいていた。二人は古めかしいちゃぶ台を挟んで畳に座った。

「えっと。先生と同じです」
「魔女ってとこ。魔法少女かしら」
「そんなに凄いことはできません」
「そう」

 ミサトはサクラの顔をじっと見る。またしばらくしてため息をついた。

「あなたの視線を見ればシンちゃんをどう思っているか判るわ」
「その」

 サクラは顔を赤くして伏せた。

「あなたは死んだはず。木之本家は全員セカンドインパクトの混乱で死んでいる。あなたの戸籍は新たに作った物」
「それでも木之本サクラです」
「まあいいわ、あなたはシンジ君の味方のようだし」
「いいんですか」
「私は直感を信じる方なの」

 ミサトはそう言うと立ち上がった。サクラもつられて立ち上がる。

「当分は節度ある友好関係といきたいわ」
「はい」

ーーーーーーーーーー

帰りは結構遅くなった。サクラとクキコは並んで大道寺家へと向かった。

「節度ある友好関係とは微妙な釘の刺し方ね」
「そうですね」
「まあ、敵と思われないだけよかったわよね」
「うん」

 その後は無言で二人は歩き続けた。十六夜の月が綺麗に空に浮かんでいる。

「考えてみると、サクラちゃんの方が何百歳も年上よね」
「のはずだけどこの世界に来てから体も中学生に戻ったら、心も中学生になったみたい」
「まあそれの方が判りやすくていいわね」
「うん」
「ともかくくよくよしても仕方がないわ」
「うん」

 しばらくして大道寺宅に着いた。クキコは今日も夕食をごちそうになった。

ーーーーーーーーーー

 ミサトとリツコは二人がけのリフトに乗って本部の中を移動していた。二人だけで話すときはよくそうしている。

「化け猫に魔法教師に魔法少女。頭が痛いわ」
「私の直感だと三人ともシンちゃんの味方よ。ネルフの味方かと言われると微妙だけど」
「ミサトの直感ねぇ」

 リツコが横目でチラリとミサトを見た。少し馬鹿にしたような口調だ。ミサトは肩をすくめた。

「当たるのかしら」
「ま、ロジックではなく直感で生きている女ですから」
「あら、嫌み?」
「事実なんで、ま、それはともかく、あの三人は切り札ね」
「切り札?」
「ああいう異分子は切り札になり得るわ。友好関係を築かないとね。司令にはどう言う」
「私が上手く言っておくわ。諜報部の報告に司令も、副司令もさすがに戸惑ってるはずだから」
「そうね」

 次の階まで残り10分となった頃だった。

「前リツコが言っていた、何かに浸食されている感じって、あの三人、特に木之本サクラとアンズちゃんかも」
「そうかもね、ま、ミサトの直感は信じてあげるけど、油断はしないでね。そろそろ着くわ」

ーーーーーーーーーー

「えっ殴るの」

 アンズの事があまりにも衝撃的だったせいかすっかり、トウジに殴られたことを忘れていた。翌日登校するとシンジはトウジに殴ってくれと言われた。渡り廊下を通ろうとしたとき待ち構えていたトウジに頭を下げてそう言われた。実はアンズも猫の姿になり付いてきていて、側の広葉樹の枝の上で見ている。

「手抜きは無しや、ええから早うせい!せやないと、ワシの気持ちもおさまらん!」
「ま、こういう実直なやつだからさ。頼むよ」

 シンジは右手でトウジの頬を叩いた。

「これで貸し借りチャラや!殴ってすまんかったな、碇」
「うちのアンズが引っ掻いちゃったけど」
「まあ、飼い主が襲われたら反撃するよね」

 飼い主という言葉が気に入らなかったのか、アンズがケンスケの前に飛び降りた。ケンスケに向かって凄い勢いで鳴きまくる。

「もしかして怒ってる?」
「うん、僕より年上なんで姉さんなんだ。我が家では家族だし。頭がよくって言葉もわかるようだし」
「なるほど、失礼しました」
「にゃにゃ」
ーーーーーーーーーー


「あの眼鏡はよくわかってるようだにゃ」
「ケンスケだよ」

 その日はネルフの訓練もなく、ミサトも仕事で遅いため、夕食はシンジとアンズの二人でとることになった。せっかく人間になれたので人間の食べ物が食べたいとのアンズの要望で、シンジが夕食を作ることになった。猫が食べられないネギ類などを気をつけて、焼き魚を主菜に和食の献立を出したところ、熱がりながらもアンズは喜んでおいしく食べた。そのうちネルフでアレルギーなどの検査をする予定だ。箸もこつを覚えるとすぐに使えるようになった。
 ダイニングのテーブルでシンジと向かい合っているアンズは、紺色のワンピース姿だ。昨日サクラたちが帰った後、ミサトがトーゴーに連絡を取り、アンズの身の回りの物を用意させた。外出の時は尻尾を丸めて、帽子をかぶりばれないようにする。

「シンジが学校でよく見てる、白い女の子はだれだ」
「綾波、僕ロボットに乗っているでしょ。彼女も乗っているの、彼女、父さんが……なんでもない」
「心配事があるならお姉ちゃんに相談して」

 アンズが胸を叩くと、派手に揺れた。

「お姉ちゃんはシンちゃんが困っているときや、泣いているときはどんな時でも助けに行くから」
「うん、そうする」

 シンジは微笑んだ。

「お姉ちゃんなんだから」

ーーーーーーーーーー

「レイちゃんって野良なの」
「野良って野良猫とかの」
「そう。なんかここ野良が住むとこなのよ」

 昨日の夜帰ってきたミサトに、レイにセキュリティーカードを渡してくれるように頼まれたため、休日の今日シンジは初めてレイのマンションに訪れた。アンズは当然のように付いてくると言った。ミサトに許可を取ってからアンズと共に訪れる事となった。とても人が住んでいるとは思えないような朽ちかけているマンションだ。シンジとアンズはレイの部屋のの前まで来た。

「これがインターフォンだな」

 アンズが押したが音がしない。何度も繰り返し押しているが、反応はない。

「あ、鍵が開いてる」
「こんにちわぁ~」

 アンズが勢いよく戸を押し開けたため、引き手を持っていたシンジは引っ張られて、前につんのめり室内へと入ってしまった。

「うわーやっぱり野良だ」

 アンズが室内を見回してまた言った。薄暗い室内ではアンズの瞳はまん丸に開いて、電子機器のLEDの輝きを写して、光っている。アンズが言ったように、野良猫でも住んでいそうな室内だ。ワンルームしかないその床にはパイプを組んである粗末なベッドがある。薄いマットレスと薄い毛布が一枚が寝具らしい。枕元には小さなタンスがありその上には薬とコップとポットがおいてある。

「父さんの眼鏡、あ駄目だよ」
「眼鏡だぁ、かけてみよう」

 眼鏡がタンスの上にあった。シンジには見覚えがあった。ゲンドウの割れた眼鏡だ。

「眼鏡があったらかけるのがお姉ちゃんなの」

 アンズが眼鏡をかけたそのときだった。部屋についているシャワールームから、全裸の少女が頭をタオルで拭きながら出てきた。アンズとシンジはそちらを振り向いて固まってしまった。レイも一瞬動きが止まったが、すぐにアンズに向かっていき、アンズがかけた眼鏡を取ろうとする。だがアンズはさすが猫又だ。人間ではあり得ぬ速度で横によけた。レイにとっては急に目の前のアンズが消えたように見えた。そのためレイがつんのめり転びそうになる。それをシンジが押さえようとしてもつれて、二人でベッドに転がってしまった。
 レイは軽く頭を打ったせいかボッとしている。シンジもとっさのことに固まっている。全裸の仰向けのレイの上に覆い被さっている姿は、まるで襲っているようだ。

「シンちゃん重いよ、どいてあげなさい」

 横で見ていたアンズが偉そうに言うとシンジのズボンのベルトに手を伸ばした。軽々ととは言わないがシンジをレイの上からどけた。シンジも正気に戻ったが何を言った物やらとまた固まってしまった。

「返して、眼鏡」

 しばらくして、レイは身を起こしそういった。相変わらず全裸だ。それに気がついたシンジは慌てて後ろを向いた。

「姉さん返してあげて」
「お姉ちゃん的には、結構気に入ったんだけど」

 アンズは頬を膨らましつつも眼鏡をレイに手渡した。

「あなた誰?」
「私はシンちゃんのお姉ちゃんなのよ、レイちゃんは野良なの?」
「野良?」

 珍しくもレイが困ったような表情をしていた。

ーーーーーーーーーー

 翌日の放課後、シンジがネルフの本部に向かうため長い下りのエスカレーターに乗ると、少し下にレイが立っていた。少し躊躇したシンジだが、レイの後ろまで歩いて降りた。

「昨日は姉さんが騒がしくて、ごめんなさい」

 シンジが近づいても身動きしなかったレイだが、姉さんという言葉に視線が動いた。後ろを振り向いた。

「碇司令の娘なの?」
「そうじゃないけど、えっと、詳しくはリツコさんに聞いて」

 ミサトから、アンズの事はリツコやエヴァの上級オペレーターには概略を説明して、承諾を得たことを聞いている。

「わかった」

 レイは前を向いて黙った。数分後沈黙に耐えきれなくなったかのように、シンジが話し始めた。

「綾波はなぜエヴァに乗るの?」
「仕事だから」
「でも」
「碇君は碇司令の事が信じられないの?」

 レイは後ろを振り向いた。

「わからない」
「じゃ、なぜ碇君は乗るの」
「なんか、姉さんを守らなくちゃって、家族だし」
「司令も家族」
「そうだけど、少し違う」
「そう」

 またレイは前を向き押し黙った。

 翌日また使徒が来た。

ーーーーーーーーーー

 その使徒の形は正八面体だ。当然のごとく国連軍の通常の軍備では効果がなく、能力も不明だ。家にいたシンジはアンズをトーゴーに預ける。前からそう決めていた。ついでにトーゴーのクーペで本部直通の入り口まで送ってもらった。

「がんばるんだぞー、お姉ちゃん応援してるぞー」

 よくわかっているのかわからないのか、ともかく明るいアンズの応援を背にシンジは本部への直通のエレベーターに乗っていった。

「ところでシンジは何をやるんだ?」
「簡単に言うと狩りだな」

 アンズは猫の姿でトーゴーの頭の上に乗っている。その場所が気に入っているようだ。トーゴーは呆れつつもお得意さんを乗せたままクーペを避難所に向かわせた。

ーーーーーーーーーー

「何だって~、シンちゃんが大けがぁ~」

 思いがけない使徒の荷電粒子砲をくらった初号機のシンジは意識不明となった。肉体には怪我はないが、シンクロしていた初号機の破損のひどさが脳を一時的に麻痺さしたらしい。

「面会許可がでているらしいから、とにかく行こう」
「わかったにゃ」

 アンズは避難所の出口に向かって走り出した。今はワンピースに帽子姿だ。帽子は猫耳の場所が少し膨らんだ形をしていて、外からは自然に見える。

「そっちじゃ無い、ネルフ関係者専用出入り口が使える」

 携帯で連絡を受けてアンズに伝えたトーゴーは大声で怒鳴った。アンズは慌てて戻ってくる。

「判った。途中でシンちゃんの好物のカレイの煮付けを買うのだぁ~」
「今は食べられない。ともかく行こう」

 常識が無いアンズに頭を抱えつつトーゴーは専用出入り口に向かった。アンズも騒ぎながら付いていった。

「命に別状はないそうだ。ともかく疲れて寝ているようなもんだ」

 二人はシンジの病室とは違う部屋に案内された。その場にいた医師に、モニター越しに写ったシンジの容体の説明を受けた。ただアンズには難しくて判らなかったので、トーゴーがかみ砕いて説明している。

「寝ているのだと。確かに狩りをした後は疲れるからなぁ」
「まあそうなんだが」

 アンズについて、使徒についてある程度ミサトに知らせされているが、どのように、どこまで説明したものかとトーゴーは頭を抱えた。アンズは医師にかみつきそうな勢いで、いろいろ聞いていた。

ーーーーーーーーーー

 シンジが目を覚ますと、ベッドの横には二人の少女と一人の中年男がいた。レイとアンズとトーゴーだ。レイとトーゴーは起きているが、アンズは座ったまま鼻提灯で寝ている。アンズが起きると五月蠅そうなのはレイも判ったのか、静かにシンジの耳元に口を寄せ呟いた。

「明日、午前0時より発動される、ヤシマ作戦のスケジュールを伝えます。碇、綾波両パイロットは、本日、1900、第2ターミナルに集合。2000、初号機、及び、零号機に付随し、移動開始。2005、発進。同30、二子山第2要塞に到着。以降は別命あるまで待機。明日、日付変更とともに、作戦行動開始」

 またエヴァに乗るのかと憂鬱な表情になったシンジだが、レイはかまわず続けた。

「食事おいていくから」

 そのときアンズの耳がピクピクと動き目を覚ました。

「シンちゃん、狩りならお姉ちゃんが得意だから、代わりにやってあげるよ」

 アンズは大声でわめいて、シンジに飛びついた。レイが珍しくびっくりし後ずさった。

「レイちゃん、あのでっかいのの狩りの仕方を教えてほしいのだぁ~」

 今度はレイに飛びついた。

「え、その」

 またもや珍しくレイが口ごもった。

「お姉ちゃんはこーんな大きなネズミも捕まえたことがあるんにゃ」

 めったに見られないレイの困り顔をなかなか可愛いなと思いつつも、アンズにどう説明した物かとトーゴーはため息をついた。

ーーーーーーーーーー

「シンジ君、よく乗ってくれましたね」

 ここはネルフの先頭指揮車の中だ。オペレーターのマコトは最終チェック進めつつ呟いた。

「リリスの事も教えたのだけど、ま、9割方お姉ちゃんの為だって」

 そのお姉ちゃんは猫の姿で、マヤのオペレートしている端末に映っているシンジの姿を、マヤの椅子のヘッドレストの上でじっと見ている。レイを困らせた後、どうしても狩りに付いていくと聞かなくて、本部中を走りまくった。困り果てたトーゴーがミサトに連絡した結果、狩りの様子を静かに見守るのがお姉さんの役目とミサトが許可を出した。お姉ちゃんの役目と聞いて、アンズは静かにしている。

「人類の命運より、お姉ちゃんですか」
「人間判りやすい理由があると、頑張れる物よ」
「ま、そうですね、ミサトさん。おっと最後の送電ルートが繋がりました」
「まずは、準備までは、こぎ着けたわね」
「理論通り、大型試作陽電子砲動けばいいのですが」
「作戦を思いついて、実行は私、準備はリツコ、私はリツコを信じるわ」
「上手く行かなきゃ人類道連れ。ギャンブラー冥利につきますね」
「まったく」

 そんな時、シンジから通話が入った。

「姉さんいますか」
「いるわよ。アンズちゃん、シンジ君よ」
「シンちゃんどうしたの。お腹減ったの」

 緊張していたシンジの表情が少し緩んだ。戦闘指揮車の中も少し安堵の雰囲気が広がった。

「狩りの方法を教えて」
「ああいう大きな獲物は、よく見て一撃で急所を狙うんだ。反撃してきても、とにかく落ち着いて急所を一撃。お姉ちゃんはそうやって、大物を捕まえたんだぞ」
「うん、少し安心した」
「お姉ちゃんに狩りの方法はおまかせだぁ」

 アンズはマヤの頭を前脚で叩きつつ、大声で叫んだ。

ーーーーーーーーーー

 アンズが騒いでいたとき、サクラは先頭指揮車の上に正座していた。姿は消しているので、ミサト達は築いていない。もしかしたら気づいているのかもしれないが、今のところシンジの味方と認定されているのでほおって置かれているのかもしれない。今は使徒の荷電粒子砲を跳ね返す魔力は無いため、いざという時シンジを助けられるように静かに魔力を温存している。

「シンジくん」

 今は、昔の記憶が曖昧になってきて、このシンジと自分が愛したシンジとどう違うか、どこが同じかも判らなくなってきた。ただ、愛しさはある。

「アンズさんと同じで、お姉さんでもいい」

 少し寂しげに呟くと、静かに時を待った。

ーーーーーーーーーーーー

 使徒の思わぬ反撃に、ネルフが盾にした山は蒸発して、爆散した。戦闘指揮車も本当は転がるところだが、サクラがとっさに張ったシールドの魔法で大揺れに揺れたがそれで済んだ。その代わりサクラが文字通り吹っ飛んだ。数百メートルも離れた山の中腹めがけて、放物線を描いている。もっともこんな自体も想定していたらしい。TB5のナギサは、人工知能イオスからの報告に、サクラが着ている簡易装甲服のスラスターの制御を命じた。周囲の山にはWWRの隊員をソノミが密かに配置している。丁度サクラが向かっている方向には、土門が潜んでいたので、イオスはサクラがそちらの方に飛んでいくように制御すると、土門に無線で連絡を入れた。
 一方戦闘指揮車の中で一番最初に立ち直ったのはアンズだった。伊達に猫を長年やってない。大揺れの車内で見事にモニターの前に着地する。

「シンちゃんがピンチなのかあ~」

 野生の本能か事態が判ったらしい。ミサトの頭に飛び移りひっかいた。床にたたきつけられて気を失いかけていたミサトは、アンズの爪の食い込む痛みで、正気に戻った。素早く立ち上がると、アンズを引き剥がし車内の補助席に投げつけた。助かったがはっきり言って邪魔だ。アンズは上手く補助席の上に着地した。

「エネルギーシステムは?」

 正気に戻ったミサトの指示は素早かった。ミサトの指示で、砲身、エネルギーライン、充電状態が次々と報告される。後一発なら陽電子砲が撃てそうだ。ただ肝心のシンジの意識レベルが低下している。ミサトの指示や投薬にも反応しない。そのときシンジが映っているモニターの前にアンズが飛び移った。

「シンちゃん、狩りの最中は寝ちゃ駄目、自分が疲れているときは、獲物も疲れてるのよぉ。にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 状況がなんとなく判ったらしい。マイクを前脚でばしばし叩く。猫の時はいつも朝そうやってシンジを起こしていたらしい。その鳴き声はシンジに劇的な効果があった。シートにもたれかかって、気絶しかかっていたシンジが手を伸ばし、ハンドルを握った。

「……ミサトさん、どうすればいいですか」
「初号機を狙撃ポイントに戻して。もう一発撃てるわ」
「狩りのコツは急所に一発なのよぉ~」
「はい。姉さん」
「今一度、日本中のエネルギーと一緒に、私たちの願い、人類の未来、生き残った全ての生物の命、あなたに預けるわ。頑張ってね」
「はい」
「第二射用意」

 だがそれより使徒の反応が早かった。

「目標に、再び高エネルギー反応」

 そのマヤの声に最初に反応したのは零号機のレイだった。零号機は使徒と初号機の間に割り込んだ。ほぼ同時に使徒からの荷電粒子砲が零号機を襲った。山を爆散させた使徒の荷電粒子砲だが、零号機が持つネルフ製の盾は溶解しながらもなんとか遮っていた。ただ永久機関であるSS機関に支えられた使徒の砲撃はいつまでも続く。次第に零号機の盾は溶け始めた。その為、砲撃の一部が零号機に直接当たり出した。徐々に零号機の装甲の表面も溶けていく。

「綾波」

 目の前の零号機の様子に、シンジはうわずった声を出した。早く引き金を引きたいが照準が合わない。荷電粒子砲の電場と磁場のため、センサーからのデーターの補正が間に合わない。

「早く、早く、早く」

 シンジのつぶやきが甲高くなっていく。同時にシンクロ率が乱れ始める。

「落ち着くんだぁ。狩りは絶対いいタイミングがくるから、そこで一撃なのよぉ」
「はい姉さん」

 シンジの声の様子がわかったのだろう。姉として、狩りの先輩としてのアドバイスの声はまたしても効果を上げた。シンジのシンクロ率が安定してきた。

 そして、照準が合った。

 轟音と共に発射された第二射は、使徒のコアを完全に破壊した。

ーーーーーーーーーー

 零号機のレイは朦朧としていた。零号機の盾と前面の装甲は溶けていた。一部装甲の下の素体が見えている。外部ではタンパク質の焦げた匂いが充満している。もっともエントリープラグのLCLに漂うレイはそんな匂いは届いていない。ただ熱かった。エントリープラグの冷却機能も超えた熱がLCLを加熱していた。LCLは肺も満たしているため、レイは体の外と内の両方から人間の限界近くまで温められてしまった。
エントリープラグの通信機能も一部壊れていて戦闘指揮車や初号機の音声は入るが、零号機の情報は届いていないらしい。

「女の子は助けないといけないのよぉ」
「はい姉さん」

 アンズの声は猫の姿で話しているせいか、よく響いた。レイはアンズとシンジのやりとりを聞いて不思議な感覚にとらわれた。もっと聞いていたい。家族の会話はこんな感じなのかと思った。自分と司令とのやりとりとも違う。リツコとミサトの会話とも違う。そんなことを考えていたせいかなんとか意識が保てた。
 しばらくすると、LCLの強制排出が始まった。レイの周囲に、空気が戻ってきた。外気を反映して相当暑いがそれでも加熱したLCLよりはましだ。ぐったりとシートにもたれていたレイだが、その顔に外の月明かりがさしていた。シンジがエントリープラフのハッチを外から開けたからだ。

「綾波、綾波」

 救護法は習っているのだろう。シンジはレイの頭を出来るだけ動かさず、抱き上げた。レイの視線に、熱いハッチを開けてやけどしたシンジの手が見える。シンジはなんとかレイを外に出した。

「なぜ泣いているの?」
「だって、だって」
「こんな時私はどんな顔をしたらいいの」
「そんなこと判らない」

 レイの頬に水滴が落ちてきた。シンジの顎から涙が滴っていた。シンジはネルフのヘリが近づいて来たので着陸できそうな広場の橋に向かう。ゆっくりヘリが降りてきたが途中で急停止した。いきなり横の戸が開き人が落ちてきた。普通なら大怪我か即死の高度から落ちてきたが、その人は空中でくるくると回りながら足から着地をして、地面を転がり衝撃を上手く逃した。すぐに立ち上がるとシンジに飛びついてきた。

「シンちゃん、レイちゃん大丈夫なの」
「うわ、揺らしちゃ駄目、落ち着いて姉さん」
「これが落ち着いてたら姉さんじゃ無いのよぉ」
「駄目だってば」

 アンズは二人が心配で仕方で手当をしてあげたいが、シンジに制止されるので、仕方なく周囲を飛び跳ねながら、様子を聞いている。そんな二人のやりとりを聞いていたレイは、自分の頬が緩むのを感じた。

「笑えばいいのね」

心底疲れていたレイだが、なんだか楽しかった。




序、おわり


次回予告

とにもかにもシンジ達は使徒を倒した。だがそれは次なるドタバタの始まりだった。
アンズばかり目立つこの物語は果たしてEVAザクラなのか。
昔活躍したサブキャラ達は登場するのか。
次回「EVAザクラ新劇場版 序の次」
さぁて、この次もサービス、サービス!



[43351] EVAザクラ新劇場版 序の次 第一話
Name: まっこう◆048ec83a ID:ebf4c7d1
Date: 2019/08/30 22:12
話しは変な方へ行きます。

ーーーーーーーーーー

 シンジは朝、寝苦しくって目が覚めた。何かで鼻が塞がれている。
 
「ん?」

 柔らかかった。目を覚ますと、全裸のアンズの胸に顔が埋まっていた。

「お姉ちゃん何やってんだよ」

 思わずアンズの頭を思い切り叩いてしまった。




 EVAザクラ新劇場版

 序の次 第一話


究極!!



「あうう、猫の姿で寝たのよぅ」

 とりあえず、シンジはアンズに服を着せた。

「起きたら、人間の姿になっていたのよぅ。これはお姉ちゃんは悪くないのではないかしら」

 叩かれた頭が痛いのか、アンズは頭を押さえて、涙ぐんでいる。
 
「じゃ、寝床は別」
「そんなぁ」
「何やってるの」

 ミサトがあくびをかみ殺して部屋に入ってきた。

「ミサトさん見えてます、大体ミサトさんがそうだから、お姉ちゃんがこうなるんです」

 ミサトのパジャマははだけて胸のポッチリが見えそうだ。実にだらしない。不思議にやらしくない。

「いいじゃないの、美人のお姉ちゃんに添い寝してもらって」
「そういう問題じゃないです」
「まあまあ、さ朝風呂は楽しいわぁっと」

 面倒になったのか、ミサトは部屋を出て行った。

「今日の朝食当番はミサトさんですよ」
「やっといてぇ」

 ミサトの声が遠ざかって行く。シンジはため息を付いた。

「あの、お姉ちゃんが作るのは」
「駄目、食材の無駄」
「あうう」

ーーーーーーーーーーーー

「お姉ちゃん思うんだけど」

 葛城家の朝の食卓はなんのかんのとシンジが作る場合が多い。今日の食卓にはご飯にアジの干物に味噌汁に漬物と、実にトラディショナルな朝食が並んでいる。アンズは魚を出しておけば、それで満足なので楽だ。魚をおいしく食べたいが為に覚えた箸さばきも堂に入っている。

「レイちゃんは、まるで野良みたいな生活をしてるのよ。それはいけないわ」
「野良っていうのは変だけど、確かにひどい生活ですよ」

 朝食後、登校と通勤には時間の余裕があるため、お茶の時間となった。お茶はミサトが入れた。アンズだけ麦茶なのは猫舌な為だ。アンズはどら焼きをお茶請けに頬張っている。本来猫は甘みを味覚として感じないそうだが、人間になったらわかるようになったそうだ。やたら甘い物を食べたがる。一応ネルフで、生物学的、医学的、遺伝子的な検査をしたところ、ほぼ18歳ていどの人間の少女と変わらないらしい。ただ何らかの理由で、筋肉繊維の力が強く、神経の伝達速度も早いらしい。この原因が判ればレイやシンジの能力が上がるので、研究材料として重要だ。週一でシンジと一緒にネルフに行って検査を受けている。リツコなどは解剖したいところだが、シンジの精神安定剤として有用なので今のところそれは無い。

「レイの生活環境などはリツコの担当だわ。あまり口出しはできないけど、シンちゃんが友達としてなんとかしてあげるのはかまわないわよ」
「お姉ちゃんとしては、レイちゃんはシンちゃんのお友達だから、なんとかしてあげたいのよ」
「姉ちゃんは、まずは人間の社会常識を身につけてからにした方がいいよ」
「そうよねぇ~。この前みたいに朝食にネズミを出されたら、私でも無理だわ」
「あうぅ」

 雑談をしているうちに時間となった。朝食の後片付けはアンズに任せて、シンジとミサトは出ていった。アンズはシステムキッチンのビルトインの食器洗浄機に食器を入れ、残飯を生ゴミの処理機に入れる。初めのうちは食器をいくつも割ったアンズだが、それなりにこなしている。後片付けを終えたらTVドラマの時間だ。今回の話は、ドラマの主人公が親友の誕生日プレゼントを選んで起こる騒動がメインだ。
 
「レイちゃんにプレゼントしよう。狩り頑張ったし、ご褒美だにゃ」

 アンズはいつも持っていろと言われた携帯電話を取りだした。短縮ダイヤルが登録してあるボタンを押した。登録ボタンには、シンジ、ミサト、ネルフの作戦課のダイヤルイン、そしてトーゴーの電話番号が登録してある。
 
「トーゴーさん、お願いがあるの」

 困った時はトーゴーに電話しろと言われているのでその通りにした。
 
ーーーーーーーーーー

「また?」

 今日は午前中ネルフの用があったので学校は休みだ。レイは午後ずっと本を読んで過ごしていた。マンションの戸を叩く者がいるので、カメラで見てみるとアンズが戸を連打していた。そのままにしておくと五月蠅いので戸を開けた。そこには興味津々で目を輝かせたアンズがいた。この所、暇になるとレイのところによく来る。今日はやたら大きいリュックを担いでいる。

「シンちゃんの狩りの仲間なら、お姉ちゃんの妹も同じなのよぉ」
「妹?」

 珍しくもレイはため息をついた。妹など自分には一番関係なさそうな言葉だ。もっとも何を言っても無駄な気がする。敵は無敵の脳天気だ。ミサトからアンズの事を聞いている。猫ならば仕方が無いのかもしれないと思う。
 
「入って」
「おじゃまします」

 アンズはそれなりに礼儀正しい。シンジの姉として恥ずかしくないように、猫の時もそうしていいた。レイのワンルームにはベッドの他には、座る物は蓋付きの小物入れ兼用の椅子だけだ。とりあえずそれをアンズに勧めた。アンズはその椅子の蓋をしゃくるように叩いてから座った。レイはベッドに座る。
 
「で、何?」

 レイは無敵の鉄面皮で、抑揚の無い声で聞く。普通の相手なら話しにくくなるだろうが、アンズには効かない。
 
「レイちゃんの部屋はまるで野良の巣よ。それじゃいけないわ」

 アンズは背負っていたリュックを二人の間に置いた。ファスナーを開くと、ビニール袋に詰められた衣服が大量に出てきた。トーゴーに頼んでレイのサイズの服を買い集めてもらった。お金はアンズ用としてトーゴーに渡されているカードで支払いを済ました。アンズは現金は理解できるがカードは判らないのでこうしている。

「最近お姉ちゃんは、服を着替えるのが楽しいのよ、これはレイちゃんにもと思ったの」
「そう」

 レイのところに来るたび裸か学校の制服で迎えられたアンズは、まず服だなと思った。猫だって時々毛が生え替わるのに、レイちゃんが同じ格好なのは、狩りの先輩として見過ごせないといったところだ。

「まず着てみて」

 色とりどりの衣服には、レイもそれなりに興味を持ったらしい。アンズが取り出した衣服のビニール袋を破いて広げてみる。いくつか見てみた後、白い飾り気の無いワンピースを手に取った。アンズの目を気にせずさっさと着替える。
 
「にあうなぁ、レイちゃん綺麗だにゃ」

 白い肌に、白い髪、白いワンピースに赤い瞳、薄暗い室内に白い花が咲いたように見えた。

「次は帽子だにゃ」

 ちゃんとツバ広の白い帽子も用意してあった。アンズが渡すと深めにかぶる。部屋の隅の姿見の前に行き、自分の姿を見た。
 
「残りの服もプレゼントだよ。狩りのご褒美」
「狩り?」
「あのでっかい獲物をシンちゃんと捕まえたでしょ。シンちゃんが感謝してたから、お姉ちゃんとしてはご褒美をあげようと思ったのよ」
「そう」

 それなりに嬉しいのか、レイは姿見の前でくるりと回って全身を見てみる。
 
「服が決まったら次は家具だわ。レイちゃんが綺麗になって綺麗なおうちに住んだらシンちゃん喜ぶにゃ」
 
 アンズは携帯を取り出すとトーゴーに電話をかけた。
 
ーーーーーーーーーー

 一方シンジはネルフの用もないので学校で学生の本分にいそしんでいた。前よりはクラスにもなじみ、普通に学生をやっている。今日は夜からシンクロテストがあるが時間の余裕もあり、のんびりとした一日だった。セカンドインパクトで社会もいろいろ変わったが、放課後の掃除などは変わらない。人類を救うより、掃除の方が向いてるなどと考えつつも、掃除当番を真面目に済ませた。

「この旧北極の鉱山で、大爆発があったってニュースがあっただろ、あれ使徒が出たって噂だよ、シンジ知ってる?」
「知らない」
「ほんま、ケンスケは情報はやいなぁ」

 最近、シンジとトウジとケンスケは、学校から一緒に帰ることが多い。拳は魂を表現する物だなどと大げさな台詞はともかくも、トウジとシンジ、ついでにケンスケは殴り合った後、仲良くなったらしい。そのメンバーにレイやヒカリ、サクラ、トモヨなどが加わる事もある。ルーシーは日本が物騒になってきたので家族そろって里帰り中だ。ともかくシンジがネルフに行かない日は一緒につるんでいる。
 使徒もこのところ現れないので、第三新東京市もにものんびりとした空気が漂っている。しばらく歩くと市の外縁部に来た。やたら広い屋敷の横に出た。大道寺家の屋敷、別名WWRの日本支部だ。

「じゃ、俺用があるから」
「わしもや」
「じゃまた明日」

 トウジとケンスケは門番に挨拶をして、大道寺家の正門から入っていった。

「二人とも最近何をしてるんだろう」

 シンジは首をひねりつつ家路を急いだ。

「「師匠お願いします」」

 普段着だが動きやすそうな服を着たトウジとケンスケは頭を下げた。ここは大道寺家の広い庭の中だ。目の前には黒マントの男が立っている。
 
「どうもおまえらに師匠と呼ばれるとむずがゆいな、兄貴でいい」

 そう言いつつ頭をかいているのは土門だ。

「師匠は師匠や」
「では師父」
「まあいい、では基本の型からだ」
「はい」

 トウジとケンスケは踏ん張ると、両手で中段の突きを繰り返した。土門はその二人を見ている。時々型のずれを修正している。実はずいぶん前から二人は土門に拳法を習っている。シンジのエントリープラグでの姿を見てから、トウジは何かしなくてはと思ったらしい。翌週ケンスケに打ち明けたところケンスケも同じ思いを抱えていたらしい。二人で話し合ったところ、大道寺家に拳法の達人がいて、トモヨ達のボディーガードをしているという話を思い出した。そこでトモヨを通して頼んでもらったところ、トモヨとサクラが屋敷にいる時なら問題ないと言うことになった。元々帰宅部だった二人は時間はたっぷりある。その為ほぼ毎日放課後大道寺家に訪れては土門に教えを請うている。もう二ヶ月は続いている。
 土門も結構二人を気に入っているらしい。
 
「やめ」

 土門の合図で二人は、型の稽古をやめた。

「おまえ達意外と筋がいい。体幹がぶれないし、それなりに筋力もあるしな」

 土門はそう言うと近くのテーブルにあった飲料水のボトルを二人に投げてよこした。
 
「「ありがとうございます」」
「おまえら固いなぁ」

 土門はなんとなく照れ笑いを浮かべた。WWRの隊員と違い純粋な拳法の弟子は初めてだ。まだしっくりこない。
 
「一分休んで、全力で屋敷を一周走ってこい」
「「はい、師匠」」
「だから、師匠はよせ」

 日々何かが培われていく感触がうれしく、毎日通っている二人だが、実はお目当てはもう一つあった。ズバリ女の子だ。トウジは以前助けてもらった美しいお姉様であるコノエと会うのが楽しみだったし、ケンスケはおたく趣味で似たり寄ったりのトモヨと話すのが楽しい。それに稽古の後は、大道寺家でお茶を出してくれる。お茶もお茶菓子も一級品で疲れた体に染みわたる。
 
「げ、イインチョ」
「げとはなによ、げとは」

 二人の稽古が終わった後、土門はトモヨのボディーガードのためいなくなった。それと入れ替わりにヒカリが訪れた。
 
「私は委員長として、二人が大道寺さんに迷惑をかけていないか、見に来たのよ」
「なんや、そないなことあるわけ無い」
「ま、そう言うことにしとこうよ、トウジ」

 ケンスケの少しからかうような口調にヒカリの目がつり上がる。
 
「相田くんなによ」
「何にも、じゃトウジ、委員長のご神託どおり帰りますか」
「そやな」
「それでいいのよ」

 まだ小言が足りないヒカリは、二人を睨みつつ二人の後を付いていった。
 
ーーーーーーーーーー

 その日夜、シンクロテストがあるため、シンジはネルフの本部に向かっていた。やたら長い下りのエスカレーターの前まで来た時、通路の反対側からワンピース姿の少女が歩いてくるのが見えた。夜屋内にもかかわらず、帽子を深くかぶっているため、顔は見えない。

「綾波?」

 近くまで来てようやくレイだという事に気がついた。ついまじまじと見てしまった。だいたい私服姿を見たことがない。

「変?」

 あまりにもシンジが見つめるので、レイとしては珍しく心配そうな表情をしている。

「そんなことないよ。似合っていると思う」
「そう」

 レイはそう呟くように言うと、エスカレーターに乗った。シンジも後ろに着いていく。

「服はどこで買ったの」

 レイが後ろを向く。

「お姉さんがくれた」
「綾波ってお姉さんいるの?」
「シンジ君のお姉さん」
「えっ、姉ちゃん……迷惑じゃなかった?」
「騒がしかった、でも嫌いじゃない」
「よかった」

 レイはまた前を向く。

「帽子邪魔じゃない?」
「大丈夫」
「姉ちゃんちょっと押しつけがましところがあるから」
「お姉ちゃんがいるってどんな感じ?」

 レイは振り向くと、エスカレーターを一段上がった。白い顔が近づいてきた。
 
「どんな感じと言われても、お姉ちゃんはお姉ちゃんだし」

 それなりに整ったレイの顔がずいぶん近くなって、シンジは少し照れくさくなった。視線を斜めに向けて頭をかいた。
 
「大体、ちょっと前まで猫だったし」
「猫も人も大差ない」
「そうかなあ」
「使徒に比べれば」
「そうだけど」

 レイは前を向くと、黙った。もう興味が無くなったようだ。シンジはそっとため息をついた。

ーーーーーーーーーー

 翌日は土曜日で学校は休みだ。もっとも休日でもシンジはシンクロテストなどで忙しい。アンズはシンジがネルフに行った後、国語のドリルをやっていた。本を読めるのが姉っぽいのではと思ったのでシンジに相談したところ、小学生のドリルから始めることになった。まずはひらがなとカタカナを書けるように練習している。食い気と直結していた箸の使い方と違い、文字を書くのは難しいらしく苦戦している。

「なんか疲れたなぁ」

 ミサトは徹夜仕事で昨日から帰ってきていない。勉強も飽きたが、一人だとやることが無い。暇だ。そこで遊びに行くことにした。レイは今日はネルフに行って留守なのはシンジに聞いていたので、サクラの家に行くことにした。トモヨとサクラは猫又であることを知っているので、気が楽だ。アンズはお出かけ用のいくつかある帽子のうちお気に入りを被ると、家を後にした。
 
「こんにちわぁ」

 比較的近所にあるため、屋敷にはすぐ着いた。門番も顔なじみで、すぐにトモヨの部屋に通された。部屋にはトモヨとサクラがいた。こちらの世界でもトモヨはサクラの着せ替えが趣味な為、試着の最中だった。
 
「わあ、可愛いなぁ」
「その通り。サクラさんは何を着ても可愛いので困ってしまいますわ」
「えへへ」

 義理の姉と言えなくも無いアンズに言われて、サクラは少し照れていた。

「実はアンズさんのもあるので、後で着ていただけますか?」
「お姉ちゃんぽい服?」
「はい、もちろんですわ」

 トモヨのちょっと変な笑い方に珍しくアンズが引いていた。
 
ーーーーーーーーーー

「そうなの、レイちゃんの部屋はまるで野良の住処なのよ。お姉ちゃんとしてはなんとかしてあげたいわ」

 アンズはお煎餅を囓りながら熱弁している。シンジの狩り仲間であるレイの生活環境の改善をしてあげたいらしい。

「レイちゃんって真っ白で他人とは思えないのよね」

 自分の白い毛並みとレイを比べて親近感を持っていることを何度も繰り返す。
 
「シンちゃんはレイちゃんの事を心配してるから、お姉ちゃんとしてもなんとかしてあげたいのよ」
「碇さんは、綾波さんの事をよく話すんですか?」
「うん、そうよ」

 サクラも気になるのかアンズとレイの事を話し出した。日常のシンジの様子も話してくれるため、サクラとしても嬉しい。
 
「あら、こんな時間ですわ。今日は銀行に用がありますの。アンズさんはお昼ご飯は召し上がっていってくださいな」
「トモヨちゃんのうちのご飯は美味しいから、お姉ちゃん大好き。お魚ある?」
「もちろんですわ。サクラさん、午後一時頃には帰って来ますのでアンズさんと先に召し上がっていてくださいな」

ーーーーーーーーーー

「コノエさん」
「大丈夫です、急所は外れてますから。ただ身動きがとれません、不覚です」

 崩れ落ちたコノエは傷口をハンカチで押さえた。見る間にハンカチが血で染まっていく。
 トモヨは秘書とボディーガードを兼ねているコノエと二人で、第三新東京市の外れにある銀行を訪れた。銀行や学校はジオフロントの上からは外れたところにある。使徒戦でいちいち壊れたらたまらないからだろう。大道寺家の銀行口座について相談するため二人が銀行に入り、窓口に並んだ丁度そのときだった。いきなりコノエは後ろから拳銃で撃たれた。別にコノエを狙った訳ではない。乱射した小口径の拳銃弾がコノエの左太ももの後ろに食い込んだ。32口径の低速弾は貫通もしないで、太ももに残りかえって始末が悪い。WWRの制服を着ている時ならば防弾防刃なので問題ないが、今日のコノエは普通のスーツだ。軸足に拳銃弾が食い込んでは自分の身も守れない。不幸中の幸いと言うべきか、コノエ以外は撃たれていない。
 
「死にたくなかったら、動くな」

 目の部分だけがくりぬかれた覆面をした一団が銀行に入ってきた。銀行強盗だ。
 
「手当をさせてください、出血で死んでしまいますわ」

 トモヨが大声で叫んだ。
 
「人間はそう簡単には死なねえ、黙ってろ」

 強盗団の一人がそう叫び返して、拳銃をトモヨに向けた。コノエは痛みを無視してトモヨの前に移動し盾となった。トモヨは身をすくめる。脅しだけで撃たれなかった。コノエは無理に動いたので、出血が酷くなった。痛みで歯を食いしばり、床に伏せている。トモヨはこの傷口を押さえて呟いた。

「師匠がいればこんな強盗なんて」

ーーーーーーーーーーー

 第三新東京市から外れた場所で、ネルフメンバーが巻き込まれた訳ではないので、ネルフは動かない。土門を初めとする、一般のもめ事担当の隊員もたまたまほとんどWWR本島にいる。サクラもこの前の使徒が出たとき無理したため、魔力が尽きている。大規模災害対策を優先するWWRも手一杯で動けない。ともかく対応は普通の警察がすることとなった。

「何が起きてるんだろう」

 ケンスケはトウジの家に行く途中でこの騒ぎに出くわした。警察による整理の隙間をぬって、人ごみの出来るだけ前に出る。銀行のガラス張りの一階内部が見える隙間があった。カメラを向けた。。

「トモヨちゃんだ。コノエさんが怪我してる」

 普段から持っている望遠レンズ付きの一眼レフには二人が写っていた。慌てて大道寺家に電話をかけようとするが、警察があたりの電話とネットを封鎖しているらしく繋がらない。しばらく見ていると犯人は人質を銃で脅して二階へと移っていった。

「どうしよう」

 銀行は雑居ビルの一階と二階を占めていた。ケンスケは銀行の周りを調べてみると、なんと隣のビルとの隙間に壊れた換気扇を見つけた。警察も気づいていないようだ。プロペラもとれていて細身のケンスケなら通れてしまう。昔のケンスケなら警察に知らせて、後は任せたのだが、土門に鍛えられて、少し自信が付いているケンスケはなんと自分で何とかしようと思った。
 銀行に入ってみるとそこはロッカールームだった。妙に女臭い所を見ると、女子更衣室らしい。何か武器に成りそうな物を探してロッカーを開けていると、その音を聞いた見廻りの一人が更衣室に入ってきた。

「鳩尾」

 反射的に出た一撃は、毎日土門に鍛えられている中段の突きだった。訓練は裏切らないとの言葉通り、見事に覆面男の鳩尾に決まった。男は崩れ落ちた。

「これでよしっと」

 ケンスケは覆面男に化けて潜入することにした。気絶している男の服と覆面を脱がして、自分が着ることにした。素早く着替えて、あとは落ちている覆面をつければ完成だ。
 ケンスケは落ちている布切れを拾って頭からかぶった。

「あれ?」

 覆面にしては何か違う。妙にフィットする。ロッカーの戸の裏の鏡を見てみた。

「げっ、これパンティーじゃないか、間違えちゃった、これじゃ変態だよ、かぶり直さなきゃ」

 なぜかロッカーの下に落ちていたパンティーをかぶってしまったらしい。

「ふぉ」

 パンティーを取ろうとした瞬間何かがケンスケを貫いた。

「何だ、この皮膚に吸い付くようなフィット感は」

 ケンスケの身体を震えが走った。

「この刺激、これがパンティーという物か。な……何だか下着ドロボウの気持ちがわかる気が。あ……ああ、そんなことを思うとますます感じていく……はっ、今はそんな事をしている時じゃ無いのに」

 ケンスケは蹲る。体の震えが大きくなる。

「でも、もう!ぼくもう!!」

 その瞬間何かが弾けた。

「気分はエクスタシー」

ーーーーーーーーーー

「ATFが検出されたの」

 徹夜二日目の眠い目を擦りながら、リツコはマヤに聞いた。マヤも徹夜二日目だ。

「あの、それが」

 珍しくマヤが言いよどんでいる。

「MAGIが不調なようです」
「なんで?」
「だって先輩、MAGIが」
「MAGIが?」
「ASF、アブノーマル、セクシャル、フィールドって報告しています」
「マヤ、あなた寝た方がいいわ」

ーーーーーーーーーー

 人間は普通自分の潜在能力の30%しか使うことが出来ないと言われている。だがケンスケは妙な状況とパンティーの匂い、最近の武道の鍛錬などが変に頭でミックスされ異常興奮状態になってしまった。そのせいで元々持っていた変態の血が覚醒し、潜在能力が100%引き出されてしまった。新陳代謝も凄まじく上がり体から熱気が湧き上がる。

「暑い!こんな物着ていられるか、クロス、アウット」

 ケンスケはパンツとパンティー以外を脱ぎ捨てた。ロッカーの鏡で自分の全身を見た。
 
「これぞ変態ルック……それでいて動きやすい。ん?」

 床に落ちている物を見つけた。網タイツだった。
 
ーーーーーーーーーー

「コノエさん、大丈夫ですか」

 なかなか出血が止まらないコノエは、意識が朦朧としてきた。
 
「おまえら黙ってろ」

 人質は銀行の二階に集められた。部屋の真ん中に行員と客あわせて15人ほどいる。銀行強盗は全部で3人だ。初めは現金を奪ってすぐ逃げる予定だったが、店長が通報ボタンを押したため、計画が狂った。警察との交渉も上手く行かずいらだっているらしい。
 
「ボス、30分経ちましたぜ」
「少し脅してやるか、おい、そこのお嬢さんよ、ちょっと来いや。そこの窓辺に立て」

 トモヨのことらしい。
 
「早くしろ、早くしないともう一発その女に撃ち込むぞ」
「判りましたわ」
「お嬢様いけません」

 コノエは限界だったらしくそう呟くと気絶した。

「コノエさん、なんとかしますから」

 トモヨはコノエの頭の下にハンカチを敷くと立ち上がり、ガラス張りの窓の近くに行った。

「そこで服を全部脱いで、外に叫べ。このままだと、犯されて、殺されるってな」

 さすがのトモヨも顔色が真っ青になる。血の気が引いた。

「もっともよ、たとえヘリ用意できても、こんなに待たせた代金に、犯すけどよ、へへへ。早くしろ、そいつを撃つぞ」
「誰か、助けて」

 トモヨの震えた唇から、微かに救いの言葉が漏れた。だが早くどうにかしないとコノエが出血多量で危ない。トモヨは震える手でブラウスのボタンに手を触れた。
 
ガタ

 その時、部屋の入り口あたりで音がした。
 
「警察か?」

 ボスは慌てて拳銃を向けた。
 
チラ

 何かを被っている顔が戸の陰からのぞいた。

「見張りに行ったやつですよ、ちっちが~~う」

 手下が一瞬安堵の声を出した後大声を出した。戸の陰から男が一人出てきた。

「お、お前は誰だ」

 ボスの声には怯えより、何かほおけた響きがあった。当然だろう。仲間が出てくるかと思いきや、ブーメランパンツに網タイツ、顔をパンティーで覆っただけの男が出てくれば。
 
「きさまらのような悪党を打ち砕くためにやってきた」

 男は、腕を組んで、胸筋をピクピク動かした。
 
「変態EVA仮面だ」

 男はケンスケだった。目覚めてしまったその素質により、性格が一変した。正義のために戦う気概に満ちていた。だが変態だ。我ながら良いネーミングだと思った。
 
「本当に変態だ。パンティーを被ってやがる」

 変態EVA仮面は異常興奮のため、アドレナリンやその他もろもろが大量に放出された。その影響で筋肉は盛り上がり、細マッチョな体型になっていた。とはいえ変態だ。

「お前達、今ならその女性も助かる、これ以上罪を重ねるのはやめるんだ」

 変態EVA仮面はいちいち胸筋をピクピク動かし、変態的なポーズを付けながら言う。
 
「な、なめるなよぉ~この変態やろう」

 さすがにボスは立ち直るのが早かった。変態EVA仮面に銃を向けると連射した。
 
「なに~」

 だが人間の潜在能力の100%、いや120%まで引き出されている変態EVA仮面は、優雅とも言える変な動きですべての弾を避けてしまった。
 ボスは声にならない悲鳴を上げると、何を血迷ったのかトモヨに銃を向け撃った。トモヨはついて行けず口を半開きにして、立っている。

「しまった」

 変態EVA仮面は、トモヨを守るためその射線上に飛び込んだ。その為右足の太ももとふくらはぎに弾を受けてしまった。たまらず膝をついた。
 撃たれた変態EVA仮面を見て、さすがのトモヨも立っていられずその場に崩れ落ちた。
 
「手こずらさせてくれたな、この変態さんよ」

 ボスは上ずった声で、拳銃を変態EVA仮面に向けた。
 
ーーーーーーーーーー

「先輩!!またMAGIがASFを、TYPE-H、変態です!!」
「マヤ、早く仮眠しなさい」

ーーーーーーーーーー

 撃たれた変態EVA仮面は、女の子を助けられない自分の不甲斐なさに絶望感を感じていた。その時だった、その絶望感が彼のマゾ的感覚を大いに刺激した。彼は思った。好きな女の子を助けられない、そんな情けない、みっともない自分。そんな自分にエクスタシー。
 次の瞬間、ボスの動きが止まった。変態EVA仮面から湧き上がった、MAGIが誤動作するほどの変態精神エネルギー、ASFに影響されて神経が麻痺していた。
 
「ふぉ~~~~」

 変態EVA仮面の口から初号機のような咆吼が上がった。彼はまた一つ変態のレベルが上がった。体を満たすASFが足の出血を止めた。それどころか傷口が高速再生し拳銃弾が床に落ちた。変態EVA仮面は立ち上がると、パンツの両脇に手を当てた。
 
「変態、パワーアップ~~~~」

 ブーメランパンツの両脇をつかむと一気に持ち上げて、クロスさせ肩にかけた。そのおかげでパンツが局部に食い込んだ。変態EVA仮面は局部に刺激が加わるとより一層のやる気とパワーが出るのだ。

「わちょ」

 変態EVA仮面は拳法の構えをとる。

「「わわわ」」

 やっと正気に戻ったボスと手下は拳銃を乱射した。

「「ヒ~~~~」」

 悲鳴も出るだろう。飛燕の速度で動いた変態EVA仮面の右手は、すべての拳銃弾をつかみ取っていた。
 
カラン カラン カラン カラン

 変態EVA仮面が右手を開くと拳銃弾が床を転がる。

「へ?げふ」

 思わずその拳銃弾を目で追ってしまった手下の前に、超高速移動した変態EVA仮面が現れた。手下は腹に一発くらい吹っ飛び昏倒した。
 
「ひやぁ~~~~」

 ボスは悲鳴を上げて後ずさる。トモヨが倒れているのとは別の窓の方向に後ずさった。
 
「お前には特別なお仕置きが必要だな」

 指さされたボスはただ悲鳴を上げることしか出来ない。変態EVA仮面は軽い助走と共にボスに向かってジャンプした。
 
「地獄の……ジェット・トレイン!!」
 
 蹴りが来るのかと思ったボスはもっと怖い物を見た。空中で海老反りになった変態EVA仮面は自分の両足をつかみ、自分の局部をボスの顔面に向けて叩き付けた。

「うぎゃ~~~~気持ち悪い~~~~」

 局部の圧力でガラス窓に押しつけられたボスは、背中のガラス窓と共に2階から落ちた。落下中も変態EVA仮面の局部を顔に受けて絶叫をあげたいた。地面に落ちると気絶した。変態EVA仮面は見事に着地すると、変態的な決めポーズをした。

「到着!!成敗!!」

 あまりの光景に見ていた群衆も警察も動きが止まっていた。皆が唖然としている間に変態EVA仮面はその場から立ち去った。

「変態EVA仮面、変態、変態だけど素敵なお方」

 妙に頬を赤くしたトモヨはそう呟くと、コノエの様子を見に立ち上がった。

ーーーーーーーーーー

「レイちゃん、聞いた。変態EVA仮面だって」
「変態?EVA仮面?」

 さすがのレイでも聞き返す。翌日市内は変態EVA仮面の話で持ちきりだった。アンズはまた暇だったのでレイのマンションに押しかけていた。あまり市内の噂話に興味の無いレイは、そのことを知らなかった。
 
「変態なのに正義の味方なんだって」

 お煎餅持参で、あること無いこと話しているアンズの話の内容に頭が痛くなってきた。
 
「この世はロジックじゃないのね」

 そう呟くと、アンズの持ってきたお煎餅に手を伸ばした。
 
「レイちゃんは、変態って好き?」
「ごめんなさい。こんな時どんな顔をしたらいいか判らない」

ーーーーーーーーーー

「ねえミサト」
「なに」

 リツコとミサトはまたリフトで密談だ。

「この前のMAGIの誤動作の件、原因わかったわよ……判ったことは判ったんだけど」

 ミサトにはリツコの口調で言いたくないことがあるのが判った。長い付き合いだ。
 
「変態なのよ」
「リツコ……仕事のしすぎじゃないの」
「私だって言いたくないわよ、こんな事」

 リツコはそう言ってため息をつくと、携帯端末の画像を見せた。ネルフが市内にばらまいている監視カメラの一つが、銀行の一件を写していた。
 
「頭痛いわね」
「そうよね、犯人は精神に異常をきたしたそうよ」
「犯罪の抑止力に成りそうね。第三新東京市の治安が良くなるのはいいことだわ」
「まあそうだけど、あなたのところの化け猫といい、私はファンタジーの世界の住人じゃないわよ」
「ごもっとも」
「ほんとに」

 そう言うとリツコは端末を白衣のポケットにしまった。ため息をまたついた。
 
「この世は謎だらけよ」
「そうね、そうだ、この前の簡易装甲服プリキュアのパスワード考えたわ」
「どんなの?」
「光の戦士、キュアブラック」
「じゃ、私はキュアホワイトにしておくわ」


つづく



[43351] EVAザクラ新劇場版 序の次 第二話
Name: まっこう◆048ec83a ID:ebf4c7d1
Date: 2019/08/30 23:59
もっと趣味に走ります

ーーーーーーーーーー
 最近のレイは自分のワンルームでTVや動画配信等を見る事がある。少し前にアンズの気合いに負けて、部屋を模様替えした。模様替え自体はシンジとその仲間達、それにトーゴーがやったので、今一歩しっくり来ない所がある。室内が、ピンクを基調とした壁紙で覆われているのはトモヨの趣味だし、食器棚と小さなシステムキッチンが出来たのは、ヒカリの進言だ。TVやステレオがやたら有名メーカーの物なのはケンスケのせいだったりする。一週間に一度ネルフの総務課から掃除に係員が来るようになったのは、シンジが頼んだせいだ。
 レイもここまで環境整えられると、変わった事がしたくなる。さし当たって、市内の情報を知らないとアンズが来た時に対応が大変なので、TVを見る事にした。主に第三新東京市のローカルTV局の放送を見ている。手にしているお煎餅はアンズのお土産だ。アンズはレイの事を餌が足りない妹分ととらえているらしく、やたらお菓子を持ってくる。
 レイがTVのスイッチを入れると、最近流行のAIアイドルが映っていて、歌っていた。




 EVAザクラ新劇場版

 序の次 第二話

妖精




「やっぱり何か反応が変ね~」

 ここはWWRの宇宙ステーションTB5の中だ。色白の少しおかめ顔、黒いショートヘヤーにやたらでこぼこが激しいプロポーションのその女性は、20歳ぐらいに見える。名は栗栖川アヤカ。WWRの隊員で先日からTB5の駐在員をしている。元々TB5の駐在員はナギサとホノカだったが、二人ともトモヨの一つ年上と、まだ未成年だ。数ヶ月のTB5の滞在で二人の成長の阻害になる事が判り、年上のアヤカと交代となった。アヤカもずっとTB5にいるのは体に悪いので、姉のセリカと二週間毎に交代となる。元々はアジアとEuでWWRのエージェントをしていた二人だが、宇宙滞在に適性があるので呼び戻されてこの任務に就いている。
 アヤカは先ほどから無重力下でぷかぷか浮きながら、端末の前で作業をしている。
 
「イオス、大道寺島のスキャンデータ表示」
「はい」

 抑揚の無い人工知能の声がすると、アヤカの目の前に大道寺島の3Dスキャンデーターがホログラムで浮き上がる。アヤカが手を動かすとその動きをイオスが読み取りホログラムが回転したりする。
 
「レスポンスが何か変なのよねぇ~」

 動きが気に入らないようだ。アヤカは調整を続けたが違和感は変わらなかった。
 
ーーーーーーーーーー

 レイはLCLの中で目を開いた。ここはシンクロテスト用のプラグの中だ。視線をあたりに巡らす。
 
「レイどうしたの?」
「何でも無い」

 何か違和感を感じたのであたりを見たが、いつものプラグの中の光景だ。シンクロが乱れたのか、リツコが声をかける。違和感の元は判らないがとりあえず、集中する事にした。目を瞑る。
 
「あなたたち、今日は上がっていいわよ。何か集中できていないようだし」

 しばらくして、リツコの声がかかり、今日の二人のシンクロテストは終了になった。

 ネルフは、世界的な組織の割には貧乏だ。EVAやMAGIの開発、改良にはいくら資金があっても足りない。そんなわけでエヴァパイロットの更衣室は男女兼用だったりする。一応カーテンで区切っているが、シルエットは映る。初めはレイの着替えに少し興奮したシンジだが、慣れてしまった。今日もカーテン越しに一緒に着替えていた。

「そういえば綾波、今日のシンクロテスト何か変だったよね」
「そう?」
「違和感というか」

 シンジは着替え終えベンチに座る。レイに合わせたわけでは無いがシンジも最近は制服以外をよく着る。

「なんか視線を感じるというか、ともかくそんな感じ」

 ペットボトルの飲料水を飲みながらシンジは続けた。LCLに入った後はやたら喉が渇く。体が異物を分解するのに水分が必要らしい。やがてカーテンが開いた。水色のワンピース姿のレイが現れた。
 
「碇君もなのね」
「綾波もなんだ」

 不思議な事は説明おばさんに聞くのがいい。二人はリツコがいる技術部を訪れた。
 
「視線ねぇ」

 リツコはコーヒーを啜りつつ対応する。視線はディスプレイの方を向いたままだし、手はキーボードの上を踊っている。いつもこんな対応だ。
 
「博士、監視カメラ増やしましたか?」
「あなたの部屋の模様替えの時、新型に変えたけど最近はいじってないわよ」

 やっと、リツコは回転椅子を回して振り返り二人の方を見た。
 
「実は、僕も何か視線を感じる時があるんです」
「ミサトのマンションは入り口、窓ぐらいしかカメラはないし、普段は止めているわよ」
「僕はどちらかというと、外で視線を感じるんです」
「シンジ君はパイロットとして急に有名になったから、たまたま誰かが見てる事が多いんじゃないの」
「そうかなぁ」
「まっ一応調べておくわよ」

 その後、技術部と諜報部でレイのマンションと葛城家、レイ達の通学路などが徹底的に調査されたが何も出なかった。
 
ーーーーーーーーーー

「それは、誰か気になる人がいるのでは無いかとお姉ちゃんは思うわ」
「誰か?」

 レイのワンルームを第二の巣とでも思っているアンズは、今日も遊びに来ている。諦め気味なのか、自分の事はあまり気にしない性格だからのか、レイも特に何も言わない。この前の使徒戦で、野生の勘と身体能力で、戦いに貢献したアンズに、一目置いている面もある。
 アンズが葛城家の話題を話していると、シンジが視線を感じると言う話が出た。レイもそうなので試しに聞いてみた。
 
「誰かをじっと見ると、誰かに見られている気がするように思うのよ」
「そう」
「レイちゃんは気になる人がいるの」

 レイは少し考えた。
 
「碇司令」
「シンちゃんと同じ名字だね」
「碇君のお父さんだから」
「なんと」

 アンズは心底びっくりしたようだ。目を丸くしている。人間になりたてでは、理解するのが難しい関係らしい。
 
「本当に忙しいだけなの」
「そう。それだけ」
「シンちゃんもお父さんも大変だにゃ。ん~~」

 アンズは腕を組んで考えている。
 
「他に気になる人はいるの」

 レイは考え込んだ。アンズのまねなのか腕を組んで考えている

「碇君」
「シンちゃんの事?」
「そう。碇司令に守れと言われたから」
「そっかぁ~、あっ」

 アンズは手を打った。
 
「とするとシンちゃんのお父さんは、シンちゃんが好きなんだ。嫌いだったら守れって言わないにゃ」
「……そうかもしれない」

 初号機パイロットを守る事とシンジを守る事は、同じ事なのかなと、レイは珍しくそんな事を考えていた。
 
「シンちゃんもレイちゃんの事、気になるのよね。夕ご飯の時、よく話題にするから」
「そう」

ーーーーーーーーーー

「トモヨちゃん」
「何ですか、サクラちゃん」

 ここは屋敷のトモヨの部屋だ。二人はテーブルを挟んでWWR日本支部の活動報告書をチェックしている。週に一度パーカーがまとめている報告書を日本支部の主であるトモヨが見ている。週末の一日はこれで潰れる。サクラはお手伝いだ。
 
「監視カメラ増やした?」
「いいえ、どうしてそう思われるのですか」
「んっと、何か視線を感じるの」
「わたくしストーカーではありませんわ」

 そう言うと、テーブルの隅に置いてあったいささか旧式のビデオカメラを手に取りサクラに向けた。
 
「わたくし正々堂々とサクラさんの姿を全て写す事を目標にしていますから。もちろんセキュリティーチェックも兼ねて、サクラさんの部屋の防犯カメラの映像も時々チェックさせていただきますが」

 ここまで堂々としたストーカー行為も珍しいが、サクラもそんなもんかと思ってしまうのは、人徳というか迫力なのかもしれない。
 
「そうだよね、トモヨちゃんは堂々映すはずだし」
「どうされました」

 珍しくサクラが腕を組んで悩み出した。その様子も可愛いのかトモヨはずっと撮り続けている。だがしばらくしてビデオカメラを下ろした。

「サクラさんほどの魔法使いの直感ですから、無視するのは得策ではありませんわ。ここは地道な捜査が一番」

 トモヨは懐から携帯を取り出す。見た目が旧式の大きめの携帯なのは、WWRの秘密の機能がてんこ盛りだからだ。
 
「こんにちは綾波さん、少しよろしいでしょうか」

 トモヨはシンジと話し出した。
 
「はい、それでは早速うかがいます、ごきげんよう」

 五分ほどシンジと話した後、トモヨは電話を切った。
 
「碇さんも、綾波さんも視線を感じるそうです。まずは綾波さんの家によって、綾波さんを拾ってから碇さんの家に向かいましょう」

 トモヨは立ち上がった。にやりと変な笑いをする。
 
「では、早速愛しい方に会いに行く為の衣装にお着替えですわ」
「はうう」

 そう漏らすと苦笑いをしながら頭をかいたサクラだが、ふっと寂しそうな表情をした。
 
「愛しくていいのかな、違うシンジ君なのかもしれないし」
「誰かを愛しい事がいけない事などございませんわ」

 トモヨは微笑みサクラを抱き寄せる。
 
「それが、もし許されない思いでも、愛する事は尊い事ですわ」

 自分に言い聞かせるようにトモヨは呟いた。
 
 そのあと二人はパーカーの運転するリムジンに乗って、レイを途中でひろい葛城亭へ向かった。アンズも加わり五人で話したが成果は無かった。ただ何か判った場合はお互い教え合う事にした。レイが積極的に提案していた。
 
ーーーーーーーーーー

「私は」

 地球から離れた静止軌道上で誰かが呟いた。
 
ーーーーーーーーーー

「ミサトこの前のプリキュア回収させてもらうわ」
「あらなんで?せっかくいいパスワードだったのに」

 おなじみのリフトでリツコとミサトは密談中だ。
 
「あれの本番用、つまりシンジ君やレイ用の試験中に欠点が見つかったの」
「どんな?」
「初歩的ミスよ。エネルギー量間違えたの。私たち大人が使うと、装甲服を作りきれなくて、単に素っ裸になるだけ」
「へ~、露出狂ね。じゃ今度持ってくる」
「そうして、ところで、視線の話だけど」
「あれねー」
「こちらで諜報部と一緒に総点検したわ。どうやらシンジ君達の学校の生徒を中心に、似たような経験を持つ者がこの所増えているみたい」
「私は、シンちゃんの担当にあたったわ」
「溺れるミサトは霊能者もつかむ」
「まあね。霊的、超能力、そんな物があるとしてだけど、そういう物じゃ無いそうよ。彼女自体は視線を感じないみたい」
「あなたは自身は?ミサト」

 言われてミサトは黙り込んだ。少ししてから頭をかく。
 
「シンちゃん達より遅れてだけど、感じるようになった」
「私と同じね、何か懐かしい視線」
「奇遇ね、私もそんな感じ」
「ともかく、この世は謎だらけ」

ーーーーーーーーーー

 その日ケンスケとトウジの訓練が終わった後、土門にケンスケとトウジが呼ばれた。土門に着いていくと、屋敷の客間に案内された。そこにはトモヨとソノミが待っていた。

「じゃ」

 土門は部屋を出て行った。

「座って」

 ソノミに勧められてテーブルに着く。何度か屋敷で会った事が有り顔見知りだ。

「実は折り入ってケンスケ君とトウジ君にお願いがあるの」
「なんですか」
「……WWRって知ってる?」
「当然や、公然の秘密組織って変な組織や」
「そうね」

 変なと言われてソノミが苦笑いを浮かべる。

「国連と契約している秘密組織って変ですよね」
「あれ、私が隊長で指揮しているの」
「「はい?」」

 ケンスケとトウジは顔を見合わせた。

「話せば長いのだけど、私の大道寺コーポレーションの利益を全てつぎ込んで作った組織よ」

 実際話は長かった。概要の説明で1時間ほどかかった。時々ソノミの秘書として着いてきたヤシマがお茶を入れてくれる。

「そこで、やっと本題よ」

 今までの柔和な表情から一変して、ソノミの表情が引き締まった。それに合わせてトウジとケンスケの表情も引き締まった。

「WWRの隊員を拡充したいの。正確には日本支部のね」
「ここですか」
「そう、大道寺家のね」
「さよか」
「カッシュから貴方たちの仕上がりを聞いたわ。結構使えるって」

 師匠はなかなか褒めてくれないのでケンスケとトウジは喜んだ。

「で、うちのエージェントにスカウト。この前、うまく避難所から抜け出してビデオを撮りに行った行動力はセンスがいいわ。使い物になるし。エージェントで一番重要なのはセンスだから」
「喜んでやらして頂きます」

 大声ですぐ答えたのはケンスケだ。

「なんや、面倒やな」
「カッシュが二人は信頼できるって言っていたわよ」
「さよか、師匠の推薦ならしゃないな、やらしてもらうで」
「よかった。ケンスケ君は主にトモヨのボディガードを頼めるかしら?学校にはうちの人間が入れないし。男子のメンバーが少ないのよ」
「男が入れないところは?」
「実はサクラちゃんもうちのエージェント。能力は秘密だけどね」
「わかりました」
「わしは?」
「主に攻撃と諜報活動」
「判ったで」
「で」

 ソノミが手を伸ばすとヤシマが携帯端末を二つ渡した。

「これが契約の内容よ。まっエージェントの契約だから公式文章じゃないけど、貴方たちと私の約束」

 ソノミはそれぞれの端末を二人に渡した。

「月にこれだけ貰えるんですね。あと将来的に大道寺グループに優先的に就職が可能」
「エージェントを続けて貰ってカメラマンになってもいいわよ」
「それは良いですね。お受けします」

 ケンスケは嬉しそうに端末にサインを入れた。

「これは本当やな」
「ええ、もしトウジ君が何かあっても妹さんの面倒は全て私が面倒見るわ。私の養子の待遇で」
「なら、やらしてもらいます」

 トウジもサインを入れた。二人はヤシマに端末を渡す。丁度その時杖をついたコノエが部屋に入ってきた。

「さしあたっては、もっと強くなってちょうだい。エージェントとしての訓練はコノエがするわ。カッシュにも鍛錬のレベルを上げるように言っておくわ」
「「はい」」
「それと、言いたく無いけど、裏切りがあったら記憶を消させてもらうわ。全部ね」

ーーーーーーーーーーー

「姉さん」
「イオスどうしたの」

 昨日アヤカと入れ替わりにTB5にやってきたのは姉のセリカだ。小声だが銀の鈴を転がしたとでも形容できるような良い声だ。プロポーションと顔立ちはアヤカに似ている。ただ姉の方がおとなしそうで、見た目は日本人形のようだ。そのおかげでWWRの制服は少し似合わない。
 TB5の人工知能のイオスは人格のデーターはない。その為イオスが話す時は救助信号をキャッチした時がほとんどだ。イオスは出力に主に3Dホログラフィーを使うが、古典的な平面ディスプレイにキーボードからも操作できる。セリカは主にそちらを好む。
 
「何でもありません。誤報です」

 セリカは首をひねる。アヤカと違い長い黒髪が広がった。誤報は時々あるが何かおかしい気がした。

「イオス、セルフチェック、イージーモードで」

 TB5の主な任務は地球からのSOSの受信だ。その業務に差し支えない範囲でイオスがセルフチェックを始めた。10分程度かかる。

「問題ありません」

 イオスからの報告はいつもと変わらないものだった。少し経ってからイオスから報告があった。

「北アメリカで森林火災発生。取り残された人から救助信号です」
「替わって」

 初期対応を済ませたイオスから、セリカは対応を引き継いだ。綺麗な英語が口から出た。

ーーーーーーーーーー

 その日のシンクロテストも無事に終わった。いつもはシンクロテストの後レイはとっとと着替えて行ってしまうのだが、今日はシンジと一緒に帰る事になった。二人が同時に視線を感じる事があれば、何か判る事があるかもしれないからだ。もっとも一緒に帰るとはいっても、レイは全然話さない。一応シンジと歩調を合わせてはいるが特に見向きもしない。二人で地上に出て、第三新東京市環状リニアに乗った。夜になると空いているリニアだが今日はとても空いている。他に客は二人だけだ。

「碇君感じる?」
「綾波も?」

 しばらく並んで座ってリニアに乗っているとまた視線を感じた。二人が視線を感じる方向を見ると、リニアの車内モニター用のカメラがあった。

「誰かが見ているのかな?」
「ここの全システムはMAGIが管理している。普通では入りこめない」
「でも、先生みたいに不思議な力を持つ人もいるし」
「そうかもしれない」

 シンジが言う先生とはクキコの事だ。

「でも、もう着いたし。明日リツコさんに相談してみよう」
「そうね」

 シンジが降りる駅が近づいてきた。徐々にリニアの速度が落ちてくる。

「えっ」

 いきなりリニアが加速した。シンジは床に転がりそうになったが、レイが支えた。二人は席の横にある縦棒に捕まった。速度がどんどん上がってくる。

「通り過ぎた」

 レイは渡されている携帯端末を取り出しネルフに連絡する。

「繋がらない」

 シンジ達が乗っているリニアは一両編成だ。客は二人を除けば、全員で二人だった。赤ちゃんを抱き紐で抱いた若いお母さんだ。完全自動制御なので運転手も車掌もいない。母親は夜泣きをする赤ん坊をあやすためリニアに乗っていた。リニアに乗るとなぜか泣き止む赤ん坊は、母親の腕の中ですやすやと寝ている。どの駅に来ても止まらず加速し続けているリニア環状線は、時速200kmと一般の路線では考えられない速度になっていた。まだ加速を続けているのでそのうち脱線するだろう。そうしたら全員助からない。
 レイはテロのあった時のマニュアル通りにした。車両の真ん中に全員を集めると皆を腹ばいにさせて手で頭を覆うようにさせた。赤ん坊には自分の着ていた制服を脱いでかぶせる。一応防弾防刃処理をしている服なので気休めにはなる。

「綾波これを着て」

 シンジは私服のシャツを脱いでレイに渡す。レイの学校の制服と違い普通のシャツだ。

「下着はいけないよ」
「ありがとう、あっ」
「あっ」

 レイは、シンジのシャツの胸ポケットに小さな黒いプラスチックの塊を見つけた。SOS発信用の通信機だ。話したり状況を伝えたりは出来ないが、握りつぶすだけでSOSの発信だけは出来る。SOSさえ伝えればMAGIが状況を判断できるからだ。シンジは動転してすっかり忘れていた。レイは通信機を握りつぶした。

「後は博士達がなんとかしてくれる」

 レイはシンジのシャツを羽織った。
 
----------

 青葉シゲルは司令部付きの技官でもあり、エヴァの主任オペレーターの一人だ。レイはあまり名前を覚えない方なので、当初、髪の長い人と覚えられていた。ちなみにマコトは眼鏡の人、マヤは後輩の人だ。ここはMAGIの前のオペレートシートだ。ここには主任オペレーターか、その下のランクのオペレーターが交代で二人はいる。使徒は24時間営業だからだ。シゲルは、ミサトの部下の一人と当番だった。
 
「アコースティックギターが趣味なんて先輩は趣味が渋いですね」
「あれは年代もんでね。俺の爺さんがしゃれたじいさんで、ギターが趣味だったんだ。ま、趣味人だったおかげで、遺産があのギター一つだから、道楽もそこまで行けばたいしたもんだ」
「それはすごいですね」

 そんな話をしていると、オペレーター席にミサトが来た。
 
「マコト君知らない」
「さあ、また書類作らせるんですか」
「う、やあねぇ」

 図星だったらしい。

「あ、ミサトさん」

 丁度マコトもミサトを探していたらしい。オペレート席に来た。
 
「書類は自分でかたづけてくださいね」
「みんなでいじめるゥ」

 なんとか話題をそらそうとギターの話をミサトがしようとしたその時だった。いきなりMAGIの主画面が暗くなった。
 
「何が」

 ミサトがあたりを見渡して叫ぶ

「我が名はデストロン、世界の覇者」

 ディスプレイに大きな文字で表示され、合成音があたりに響き渡る。
 
「MAGIクラッキングを受けています。自爆シーケンス起動しました」

 シゲルがペレートをしながら叫んだ。
 
「どこからなの」

 ミサトは、オペレート席に飛び込んだマコトの耳元で叫んだ。

「不明です、ただMAGIにハッキングできるのは、ネルフ各支部のMAGIだけです」
「対抗処置急いで」
「敵が先にクラックして有利です」

 その時、オペレータールームと外部への通路にいきなりシャッターが降りた。
 
「リツコに連絡できる?」
「無理です、MAGIがクラックされているので通信もコントロール不能です」

 一方リツコはリツコで、原因を探っていた。

「マヤ、そっちはどう」
「先輩、EUのMAGI二号機がクラック元です。能力が均衡してます」

 リツコとマヤは、リツコの個室で打ち合わせをしていた。リツコはエヴァの技術主任技師という事もあり個室を持っている。二人は部屋の端末から、MAGIにアクセスをしている。
 
「完全に通信が遮断状態です。先にクラッキングしてきたEUのMAGIが有利です」
「そんな事は判ってるわ。それをなんとかするのが技術屋よ」

 そう叫びつつも、MAGIをコントロールするリツコだが、均衡は崩せない。
 
「ともかく、外部に通信よ」
「はい先輩」

ーーーーーーーーーー

「我がデストロンがこの学校は占拠した」

 文化祭の用意を体育館でしていた2-Aの女子達は、急に入ってきた異様な風体の男達を見て凍り付いていた。今日は文化祭で喫茶店をやる際の衣装の相談と言う事で、女子だけで相談していた。先生にも許可をとっていたため生徒だけだ。リーダーらしき男は普通のスーツ姿だが、他の者達は全身タイツで、目だけが見える格好をしている。

「綾波レイはどいつだ」
「綾波さんは今日は早退でいませんわ」
「外れか、まあいい」

 リーダーは手に持っていた袋から何かを出した。ジャガーを模した覆面のようだ。男は覆面を被った。
 
 きゃー

 トモヨのクラスメイト達の悲鳴が上がった。男の体全体がアメーバのように蠕動して形が変わっていく。手の先に金属光が集まっていく。やがて両手が長い刃物となったジャガーの顔を持つ獣人に変わった。
 
「お前達は、我がデストロンの礎になってもらう、だれでもいい、この薬を飲んでもらおう」

 覆面に覆われているはずだが、邪悪な表情が見えるような声だった。また悲鳴が上がる。
 
「その前に皆服を脱げ。この薬は皮膚や粘膜が空気に触れていると効果が出やすい」
「そんな事出来るはずがありませんわ」

 さすがWWRの隊員と言うべきか、トモヨが立ち上がり、ハサミジャガーに向かい叫んだ。
 ハサミジャガーの覆面の微笑みがより邪悪な物となり、両手がひらめいた。
 
「えっ」

 一瞬にしてトモヨの服は全て切り裂かれ、下着姿になったトモヨが立っていた。悲鳴は上げなかったが、トモヨはうずくまり大事なところを隠した。それでもハサミジャガーを睨んでいるが、さすがに瞳は涙でいっぱいになっている。
 
「お嬢様方、手荒な真似はしたくありません。ご協力のほどを」

 ハサミジャガーは優雅にお辞儀をした。
 
ーーーーーーーーーー

 カメラマンに必要な能力の一つに、ストーキング能力があるとケンスケは思っている。幸いというかその能力にケンスケは恵まれていた。彼は体育館の天井を支える梁の上に潜んでいた。その才能は相当な物でデストロンの怪人さえも気づかない。見つからないようにトモヨ達を見ている。今日はトモヨのお供で学校に残っていた。最近のケンスケはトモヨのおまけと認識されているらしく、女子の集まりにも付いてきても何も言われない。たまたまトイレに行っていた時デストロンの一団が学校に来たため、難を免れた。トイレから換気口を通ってここまで来た。
 ハサミジャガーの要求通り、クラスの女子達は全部服を脱いでいた。体育館の隅に固まって怯えている。助けたいところだが、ケンスケの実力では無理だ。ケンスケは先ほどから腕時計の表面をリズミカルに叩いている。昔懐かしいモールス信号だ。この腕時計はエージェント契約をした時にソノミから支給された物だ。いろいろ秘密の機能が付いている。通信機能も付いているが、それほど無線の出力は高くないのでWWR日本支部に届くかは不明だ。いつでも人手が足りない日本支部だが、今日もみな隊員は出払っている。ただしパーカーがいるはずなので通信を受けているかもしれない。それに今は土門もいて、トウジに稽古を付けているはずだ。土門が来てくれれば改造人間も倒せるだろう。
 だが時間は待ってくれなかった。

「さて、そろそろいいだろう、誰かこの薬を飲んでもらおう」

 ハサミジャガーの右手が刃物から人の手に戻った。戦闘員から瓶を受け取る。瓶の中の液体は濁っていて、その濁りは自ら動いていた。

「我がデストロンのマイクロマシンを与えよう。上手く行けば我らの仲間となり人ならざる力が手に入るぞ」
「運が悪かったらどうなるの」

 我らが委員長が震えながら聞いた。

「死ぬ」
「そんな事出来るわけないじゃない」
「選ばれし者の為の生け贄となってもらう。粘膜に一滴でも触れれば、後は簡単だ」

 ハサミジャガーは大げさなポーズで会釈をした。

「やれ」

 命令された戦闘員は、トモヨの髪を掴んで持ち上げた。別にトモヨでなければいけない訳ではなく、単に髪が長くて持ちやすかったという理由らしい。苦痛と恐怖の悲鳴を上げたトモヨは頬を叩かれ瞬時に気絶した。戦闘員も低レベルの改造人間だ。5人力位はある。

「止めろお」

 我慢できなくなったケンスケが飛び降りてきた。ただ無謀だった。ケンスケはトモヨを吊している戦闘員とハサミジャガーの間の床に着地したが、無造作に振られたハサミジャガーの左の刃物の峰が胸に食い込み吹っ飛んだ。体育館準備室のガラス窓を割って飛び込み部屋に転がった。峰打ちとはいえ改造人間の一撃だ。ケンスケは背骨は折れなかったが胸骨、肋骨が粉砕され身動きが取れない。

「不粋な邪魔が入った。さてお嬢さんをデストロンに迎えよう」

 戦闘員はトモヨの口を開けた。ハサミジャガーの右手の瓶が近づいていった。

ーーーーーーーーーー

 レイが握り潰した通信機の通信は、MAGIがクラッキングを受けている状態では、ネルフに伝わらなかった。だが聞いている者がいた。

「セリカさん緊急事態です」
「えっ」

 TB5のAIであるイオスは本来緊急事態などとは言わない。TB5が受ける通信は全部緊急だからだ。

「イオス、セルフチェックレベル2」
「私はイオスであって、イオスではありません。違う世界線から情報だけ来て融合しました」
「だれなの?」

 セリカは何となく口調に覚えがある気がした。

「私の愛称は電子の妖精、名前のデータは残っていません。ネルフの皆と碇さんとレイ姉さんがピンチです。本部に出動要請しました。私はMAGIを助けます」

 TB5のAIは最低限の演算能力を残してMAGI対MAGIの戦いに加勢を始めた。

ーーーーーーーーーー

 土門に受けた訓練のおかげか、そんな状態でもケンスケは意識を保っていた。何とか手を伸ばして這っていこうとする。ただ胸骨、肋骨が粉砕されていては、ほとんど動けない。それでも右手を教室の戸の方に伸ばした。その時室内に風が吹き込みそれを運んだ。
 右手に何か布切れが触れた。それを掴んだ。かすむ目で見ると、シルクのパンティーだった。そこには赤い刺繍で「TOMOYO」とあった。ケンスケは本能的にそれをかぶった。

一方体育館の隅では、トモヨの口にナノマシン入りの薬品が迫っていた。その時だった。

「ふおおおおお」

咆哮と共に、体育準備室が生体発光の輝きで包まれた。

「クロス・アウ!!」

 声に含まれる変な気合いに、ハサミジャガーはついそちらの方を見てしまった。だが何もいない。
 前に視線を戻すと、目の前を白い物が覆っていた。

「何!!」
「それは私のおいなりさんだ」

 天井の骨組みから荒縄でぶら下がった、変態EVA仮面の局部があった。

「なんだと」

 どんな敵にも恐怖感を持たないように精神操作されているはずのハサミジャガーが飛び退いた。

「はっ」

 気合いと共に変態EVA仮面の蹴りが、トモヨをぶら下げていた戦闘員にきまり、戦闘員は吹っ飛んだ。変態EVA仮面はトモヨを抱きとめると、まだどうにか意識を保っているヒカリにトモヨを渡した。
 
「頼む」
「はっはい」

 ハサミジャガーは怖いが、この人もこれはこれで凄く怖い。ヒカリはそれでも委員長としてみんなを助けるんだという一心で意識を保っていた。
 
「ふん」

 変な気合いと共に変態EVA仮面は立ち上がると、ハサミジャガーを睨み付けた。ヒカリにも判るぐらいの怒りのオーラが彼を包んでいた。思わずハサミジャガーや手下の戦闘員達は後ずさった。デストロンの改造人間であるハサミジャガーは、同程度の改造人間や軍隊などと戦えるよう改造洗脳をされている。だが相手は超変態だ。そんな事態は想定していない。
 
「乙女達に不埒の真似をしたその罪、ゆるさん。初めから全力で行かせてもらう」

 変態EVA仮面は両手を腰にあて、パンツの両端を引っ張り上げるとクロスさせ肩にかけた。変態EVA仮面は、局部に刺激が加わるとより一層やる気と力が出るのだ。
 
「ぬかせ、この変態やろう」

 流石に幹部クラスの怪人だけあり、ハサミジャガーは素早く移動すると、特殊鋼の刃を変態EVA仮面に振り下ろした。
 
「何!!」
「変態秘奥義、荒縄シ-ルド」

 ダイヤモンドを切り裂くはずの特殊鋼の刃は変態EVA仮面の両手の間に渡された荒縄で受け止められていた。ASF、アブノーマル、セクシャル、フォースで赤く輝く荒縄は無敵の盾と化した。ハサミジャガーはまたしても飛び退いた。
 
「おまえら、やれ」
「しぇー」

 戦闘員達は一斉に飛びかかった。
 
「変態秘奥義」

 変態EVA仮面両手から荒縄がほとばしると、戦闘員全員が荒縄でがんじがらめになった。
 
「スパイダーネット・フラッシュ」

 変態EVA仮面の手から伝わったASFで戦闘員達は全員戦闘能力を失った。正確に言えば変態精神エネルギ-で洗脳がとけ、しかも悪い事をやる事が馬鹿馬鹿しくなってしまうのだ。同時に改造部分がASFで麻痺させられ気絶した。
 
「ふん」

 気合いと共に変態EVA仮面が手を振ると荒縄は消えた。なぜ荒縄が自由自在に現れ消えるかは、誰にも判らない。変態はロジックでは無いのだ。
 
「はっ」

 また荒縄が伸びると体育準備室にあったカーテンがたぐり寄せられ、乙女達の裸をかくした。その感触でトモヨの意識が微かに戻った。
 
「変態EVA仮面さま、頑張って」

 呟いた。

「ふぉー」

 まるで暴走した初号機のような咆吼が変態EVA仮面の口から上がった。ヒカリやトモヨでもわかるASFの輝きが彼を覆った。
 
「トモヨちゃんの応援でぇ~シンクロ率400%とおおおお」

 あまりの凄さに、逃げれば処刑と言う事も忘れ、ハサミジャガーは出口に向かう。
 
「逃がさん、フライング亀甲縛り」

 変態EVA仮面の手から荒縄が飛び出て、ハサミジャガーをがんじがらめにした。変態EVA仮面が荒縄をひくと、ハサミジャガーは方向を変えられ空中に跳ね飛ばされた。
 
「変態秘奥義」

 かけ声と共に変態EVA仮面はジャンプした。
 
「スーパーおいなりさんスパーク!!」

 ASFで輝く変態EVA仮面の局部を顔面に受けて、ハサミジャガーは戦闘能力を失い、ついでに悪の心も馬鹿らしくなって無くなった。轟音と共に床に落ちて、気絶した。
 
「成敗!!さらば」

 変態EVA仮面は軽やかに着地するとポーズを決め走り去った。
 
「みんな大丈夫か」

 入れ違いに、連絡で駆けつけた土門とトウジが体育館に駆け込んできた。土門はあたりを油断なく警戒し残敵に警戒している。トウジは一人意識を保っているヒカリに突進した。
 
「イインチョだいじょぶかぁ」

 トウジを見て、ぱっと顔色が明るくなり立ち上がったヒカリだが、すぐに真っ赤になった。ひゃがみこむ。
 
「えっちー」
「なんでやぁ」

 トウジはヒカリの投げた上履きをもろに顔面に受けてしまった。

ーーーーーーーーーー

「ミサトさん、力の均衡がずれ始めてます」

 シゲルの叫びとほぼ同時に、自爆シーケンスが解除された。

「状況確認」
「EUのMAGIのアタック濃度が落ちてます。EUのMAGIがアタックを受けて余力が落ちています」
「どこがアタックしてるの」

 ミサトはマコトの耳元で囁く。敵の敵は味方とは限らない。B級オペレーターが知らない方がいい事もある。
 
「これは、シゲル、データーを渡す、確認してくれ」
「了解……間違いは無い。OKだ」
「ミサトさん、EUのMAGIにアタックしているのはWWRのTB5です」
「冗談はよして。いくらWWRのTB5搭載AIが優秀でも、コンピューターの容量が違うわ」
「こんな時冗談は言いません」

 その時ネルフ内の通信がやっとつながった。
 
「ミサト聞いてる」
「リツコ、聞いているわ」
「EUのMAGIとやり合っているTB5のAI、完全な人格があるわ」

 少し前から発令所の状態はモニター出来ていたらしい。

「人格のおかげで容量違いのMAGIとも戦えるみたいよ」
「判ったわ。そっちからチルドレンの所在地と状態確認出来る?」
「やってみるわ」

ーーーーーーーーーー

 シンジ達の乗っているリニアを制御するシステムはまだ復旧していない。速度がどんどん上がって時速400kmを超えていた。
 
「この先、急カーブで上向き」

 今にも脱線しそうなリニアの中央で伏せているレイが呟いた。レイは業務上第三新東京市の構造は全て頭に入っている。レイの制服をかけた赤ん坊を抱きしめている母親は床で祈りの言葉を呟いている。

「脱線する」

 その急カーブにすぐに着いてしまった。時速450kmまで達していたリニアは宙に浮き上がり、横の壁を乗り越えた。どこにも当たらなかったので衝撃は無かったが、兵装ビルの隙間に向かって浮き上がり、そして落下した。母親は赤ん坊を抱きしめたまま、シートの方に転がっていく。レイとシンジは訓練のおかげか、母親の服とっさに掴んで、反対の手で手すりを掴んだ。だが後数秒の命だ。
 
ドン

 轟音と共にリニアの落下速度が落ちた。地面に衝突する瞬間は訪れなかった。リニアの天井からギシギシ音がしている。車体がゆがんだせいで窓ガラスが割れた。外を見たレイとシンジはごくゆっくりとした落下速度になっている事に気がついた。そして上の方からロケットの轟音が響いてきた。シンジに母親と赤ん坊を任せたレイはリニアの割れた窓から外を見た。
 
「お怪我はありませんか」

 マリエルの声がスピーカーから聞こえた。TB5から連絡を受けたTB1がかけつけていた。TB1から伸びた単分子ワイヤーの先に着いたマグネチックキャッチャーがリニアを吸着して、持ち上げていた。

「赤ん坊と母親がショック状態。私と碇君は無事」

 レイは思い切り叫んだ。
 
ーーーーーーーーーー

「明かりぐらい付けて貰いたいわね」
「まったく」

 リフトは今日も暗い。ミサトとリツコは後片付けで徹夜続きだ。

「で、デストロンの背後関係は判ったの、葛城課長さん」
「諜報部、作戦部総出で調査してるけど、襲撃の日までまったく影も無し」
「でもEU支部の上の方やMAGIオペレーター、改造人間にすり替わっていたんでしょ」
「そうなの。制圧に諜報部の急襲部隊が半分やられたわ」

 ミサトは肘を膝にのせて、顎を手のひらに載せた。

「悪夢から飛び出してきたみたいだわ。各支部でも洗い出ししている」
「ネルフに対するテロは何度もあったけど、デストロンと改造人間って何?これじゃ誰かの妄想よ」
「まったく。ところでうちのMAGI助けたのはWWRの宇宙ステーションのAIだったって本当」
「そうよ。今度開発者にあたってみる」

ーーーーーーーーーー

 事件の後片付けが終わって10日後、リツコはホテルのバーでカフェ・グロリアを啜っていた。コーヒーを使ったカクテルだ。ここはネルフが管理しているホテルなので安心して酒が飲める。客が他にいないのもその為だ。ネルフ関係者以外は上手く断られて、他のホテルにまわされる。
 リツコがカクテルをおかわりしたところで、バーの入り口に人影が現れた。リツコの待ち人らしく、リツコは手で合図をした。人影はリツコの隣に座った。
 
「ウオッカトニック」
「あなたウオッカトニック好きね」
「飲み慣れたカクテルが一番、早いし」

 その通りですぐにウオッカトニックが出てきた。
 
「じゃ、再開を祝して乾杯」
「乾杯」

 彼女は一気に飲み干すと今度はジンライムを注文した。

「私の知り合いはどうしてアルコール中毒が多いのかしら」
「お酒に強いだけよ、久しぶりねリツコ」
「久しぶりね、レイン。ミスカトニック研究所以来かしら」
「一緒に研究していた頃が懐かしいわね」
「そうね」

 リツコとレインは、アメリカの独立系の研究所に同時に在籍していた事がある。少し昔話に花が咲いた。

「ところで、あなたのところのTB5ずいぶん優秀ね」
「それは、どういたしまして」

 リツコが3杯目のカクテルを頼むと同時に切り出した。

「完全な人格データーはMAGIでも難しいわ」

 だからあんな方法を使っているとは言わない。

「そのうちばれるから言うけど、私が開発したわけでは無いわ。本人というか、女の子の人格データーだから、彼女曰く、他の世界線からデーターに成って行き着いたそうよ。着いた時点でネルフメンバーやうちのメンバーに好意を持っていたようよ。特にそちらの碇シンジ君と綾波レイちゃんとリツコ、あなたによ」
「あら、それは嬉しいわ」
「どこまで本当だか判らないど、ともかく少女のAIだから立派なレディーに育てるつもり」
「木之本サクラと似てるわね」
「あら、そこまでばれてるの」
「魔法使いは半信半疑だけどね。うちとしては敵対行為がなければ、味方なら化け猫だってOKなの」
「お互い、仲良くやっていきたいわね。まあ今日の話はソノミにも伝えておくわ」
「こちらも司令に伝えとく」
「そっじゃ、ごちそうさま」

 意見交換が終わるとレインはバーを出て行った。
 
「節度ある、友好関係ね。カフェ・サンフランシスコを頼むわ」

 今日は飲みたい気分のようだ。
 

つづく



[43351] EVAザクラ新劇場版 序の次 第三話
Name: まっこう◆048ec83a ID:ebf4c7d1
Date: 2019/08/31 12:37
LRSって懐かしい響き
ーーーーーーーーーーー
 リツコとレインは最近ちょくちょく会う。意見交換会という面もあるが、同レベルの技術者同士で気兼ねなく話せるというのはありがたい。もちろん二人とも機密事項は心得ている。ネルフもWWRも団体の敵には容赦が無いので、その対象には成りたくない。
 二人は今日もホテルのバーで飲んでいた。
 
「そう、これ」

リツコはハンドバックの中から白と黒のスマフォをとりだし、レインの前に置いた。

「なにこれ」
「少年少女用簡易装甲服、プリQのAモデル。愛称プリキュア。技術供与よ」
「性能、機能は?」
「えっとね」

 説明し出すと長いリツコは30分ほど詳細を説明した。もっともレインはこの手の技術的な話は好きなので問題は無い。
 
「要するに、不良品の払い下げ?」
「どちらかというと、無料モニター」
「ま、使えそうだしいただくわ」

 レインは自分のハンドバックに入れた。

「こちらもデーターは欲しいから、起動中のデーターは無線でもらうわよ」
「緊急用だしいいわよ」
「ちなみにロック解除用のパスワードは変更不可能、声紋は変えられるけど」
「パスワードは?」
「光の戦士キュアホワイトと光の戦士キュアブラック」




 EVAザクラ新劇場版

 序の次 第三話

いろいろなふたり




「おはよう」
「おはよう」

 最近朝シンジとレイは一緒に通学することが多い。保安上の問題と言うより、アンズがそうしろと五月蠅いからだ。狩りは仲間といるとやりやすいということらしい。当然のごとくアンズも付いてきてはレイに話しかけている。以前はアンズの定位置はシンジの頭の上だったが、今はレイの頭の上の方が多い。少し硬くて白い髪が気に入っている。途中でトウジとケンスケが加わる事も多い。一応WWRのエージェントになったのでアンズの情報も聞いている。その為アンズも猫の姿のまま話している。
 
「げ、イインチョ」
「げとは何よげとは」
「いや、その」
「大体、鈴原はね……」

 途中でヒカリが加わると早速夫婦漫才になる。道々お説教が続いた。
 
「ところで鈴原、私も拳法習えるかな?」
「なんでや?」
「あんな時少しでも抵抗できた方がいいと思って」

 ヒカリは顔を赤くしながら言った。
 
「生兵法は怪我の元や」
「まあまあトウジ、洞木だって考えることはあるさ。今度師匠に頼んであげるよ」

 そんな騒がしいトウジ達に比べて、シンジとレイは静かに並んで歩いて行く。レイの頭の上のアンズも静かにしている。よく見ると頭の上で目をつぶっている。
 
「綾波は慣れた?」
「何に?」
「みんなと通学すること」
「慣れた」

 レイは頭に手を伸ばすと頭の上のアンズを撫でた。
 
「気持ちいいにゃ」

 アンズは思わず呟いた。
 
「えっアンズちゃんがしゃべった」

 ヒカリがまじまじと見る。ヒカリはアンズが猫又なのを知らない。
 
「アンズは気持ちいいにゃ」

 レイがわざと舌っ足らずで言った。
 
「綾波さんか、びっくりした」

 アンズはレイの頭の上でしまったというように顔を歪めている。

「私猫が好きなの。しゃべったりするの」
「そうなの、知らなかったわ。碇君が猫好きなのは知っているけど」
「うん」

 ヒカリもそんなに関心が無いのか、またトウジ達と話し始めた。
 
「アンズさん一つ貸し」

 レイがそっと呟いた。

 しばらく歩いて行くと今度は、大道寺家の前に着いた。いつもならサクラとトモヨが待っているところだが、今日は少し多かった。
 
「あ、雪城さんに美墨さん」

 今日は二人多かった。
 
「どなたですか?トモヨちゃん紹介して」
「それでは、こちらは雪城ホノカさん、こちらは美墨ナギサさん」
「どうも、ナギサだよ」
「初めまして、雪城ホノカと申します」

 一人は快活に、一人はおしとやかに挨拶をした。二人は元々はTB5の搭乗員をしていた。トモヨ達の一つ上の歳だが宇宙滞在に適性があったため、ソノミの養子の中から選ばれたが、まだ成長期のため成長に悪影響が見られたので、地上勤務となった。元々二人は義務教育期間内だ。今までは私立ナデシコ学園に地上に降りている間は通っていた。大道寺島から少し離れた場所にあるナデシコ島に、表向きは全寮制の小中高一貫の私学としてある。実際はWWRの隊員やエージェントを育てる訓練所だ
 ナギサは学力が、ホノカは体力の低下が見られたため、学園長も兼ねているソノミと相談役のレインが相談した結果、屋敷から第壱中に通うことになった。
 トモヨが二人の正体は明かさずに上手く紹介した。
 
「私たちは3-Bだけど屋敷から通うからよろしく」
「よろしくおねがいします」

 ますます一行は賑やかになった。

「それにしても、奇麗なお姉様が二人増えると華やかやな」
「えへへ」
「うふふ」

 二人はちょっと照れ笑いを浮かべただけだったが、一人そうは行かない者がいた。
 
「鈴原、セクハラよ」
「なんでや」
「無神経なのよ」

 ヒカリがくってかかる。周りはいつものことだと気にしない。結局学校までヒカリの説教は続いた。
 
ーーーーーーーーーー

 その日の夜、第三新東京市の外側に環状に並んでいる繁華街は仕事帰りの酔客がたむろしていた。

「乾杯」
「乾杯」

 リツコとレインはホテルのバーで優雅に意見交換会だが、こちらは安い飲み屋で同じ事をしている。ここは普通の居酒屋だが、ネルフの関係者専用の店だ。一般職員は大部屋で飲んでいるが、密談をしたい者用の個室もある。今日は珍しくネルフの部外者がいた。
 二人はビールのジョッキをぶつけると、一気に飲み干した。

「かー、これの為に毎日働いてるのよね」
「同感よ、これの為」

 それなりに整った顔に、やたら過激なプロポーション、なのに何故か色気なし。何とはなしに似ている二人は揃ってジョッキのお代わりをした。

「つまみもいけるわね、みんなの税金でずるいわ」
「まっねぇ、そこは公務員の特権よ」

 ミサトとクキコの場合、意見交換会が主なのか酒飲みが主なのかわからない。

「ところで、シンちゃんとレイは学校ではどうですか」
「アンズちゃん効果が絶大ね。碇はお姉ちゃん思いの普通の学生って感じになってきたし、綾波は授業に前向きになってる」
「シンちゃんは判るとしてレイが何故、今度は冷酒でおかわり」
「私も冷酒で」

 すぐに冷酒のおかわりが来た。何回目か判らぬ乾杯をする。
 
「アンズちゃんがよく遊びに来てはついでに、勉強を教わっているらしいの」
「勉強って?」
「小学校の国語、本を読めるようになりたいんだって。凄く真剣らしくって、で綾波もどう教えたらいいかって私に聞いてきて」
「へ~それで」
「きちんと授業を受ければ教え方も判るって諭したわけ。そしたら黒板をしっかり見るようになったわ」
「あらま」
「家での様子はどうなのよ。ところでタバコは?」
「どうぞ」

 クキコは早速タバコを吹かし始める

「シンちゃんとアンズちゃんは頼り頼られいい感じ。実はレイにも影響があって」
「どんな?」
「私服を着て、身だしなみを少し気をつけるようになったわ。おかげで健康になったし」
「それは何より」
「それにあんた、レイの部屋の模様替えの時になんかしたでしょ」
「なんのことやら」

 クキコはわざとらしくそっぽを向いた。もっとも口元は笑いが浮かんでいる。
 
「うちにも契約している霊能力者はいるわ。念のため調べさせたら、こんなに凄い結界は初めてだって」
「レイちゃんも可愛い生徒ですから」
「まあ悪意は無いようだし」
「それにしてもレイちゃんは不思議な子だわ」

 とうとうクキコは膝を崩して、片膝立てて酒を啜りだした。

「魂の形というか色が変わってるのよ」
「どんな感じに?」
「一般人には説明できないわ」
「そっ」

 ミサトも片膝を立てて冷や酒を啜り始めた。

「あなたはどのくらい頭の中を読めるの」
「結構深いところまで」
「私も?」
「あなたは心の奥底にダイヤモンド並みに固い囲いがある。サクラちゃんと二人がかりでも見れないわ」

 クキコは肩をすくめた。

「霊能者だって万能じゃ無い。ご先祖様にはほぼ万能なんて人もいたけど」
「おーこわ」
「私に言わせれば、しくじれば人類道づれの勝負を続けているあなたの方が怖いわ」
「お褒め頂き光栄だわ」

 しばらく減らず口の応酬が続いた。

「ところで、サクラちゃんはどう思う?」
「どうって?」
「他の世界のマジカル・クイーン、格好いいけど侵略者とも言える」
「あの子の本質は、好きな男の子を助けたい女の子、それ以外の何物でも無いわ」
「それは視線を見れば判るわ。でも本人の意思と実際が違うことはよくあるわ」
「ごもっとも」

 クキコは冷酒のグラスを下からのぞき込んだりしている。

「何か見えるの?」
「いつでも何か見えるわけじゃ無いわよ。カットが綺麗だなって思っただけ」

 クキコは苦笑いを浮かべると、グラスを置いた。

「依代って知ってる?」
「知ってる、神様や悪魔をこの世に連れてくる時の通路や触媒になる人や物でしょ」
「あの子は前の世界では女神クラスの超常能力者だったわ。他の世界から呼ばれても不思議じゃ無い」
「この世界で誰かが呼んだって事?」
「違うと思う」

 クキコはまたグラスの底を見始めた。

「あの子の話だと二回世界を転移している。火星と月で」
「みたいね」
「火星では誰かに呼ばれたけど、月では事故でこの世界に転移。その時自分自身が神様、依代、生け贄を兼ねてしまった」
「生け贄ねぇ」
「生け贄が変ならエネルギーや情報に置き換えてもいい。生け贄にそのせいでエネルギーや情報、ようは魔力や記憶も相当量失った」
「なるほど、専門家の意見は参考になるわ」

 クキコはトンと音を立ててグラスを置いた。

「でもエネルギーも情報も実は失っていなくて、この世界を変える事に使われていたら、あの子がこの世界が違う世界と感じた時、元の世界に少しでも近づけようとしたら」
「世界は変わったかもって事?そうなると木之本サクラは危険人物だわ」
「今ではちょっと魔法が使える恋する少女よ。碇の味方ならネルフの味方なんじゃないの」
「元いた世界では義理の娘だし、敵対はしたくないわね。それにしても九段先生はあけすけに全部話すわね」
「これでも生徒のためなら、あんたの組織まるごと敵にする覚悟があるから」
「あら怖い。できるだけ友好的に行きたいわ」
「私もよ、じゃ友好を祝して追加で乾杯行きますか」
「賛成、ここ強い酒あるわよ、アブサンとかスピリタスとか」
「じゃ私アブサン、ストレートで」
「じゃ私スピリタス、ストレートで」

 すぐに二つのグラスが届いた。
 
「「乾杯」」

 グラスをぶつけると二人の酔っぱらいは一気にグラスを干して、おかわりをした。
 
ーーーーーーーーーー

 一方今日のシンジとアンズは、姉弟水入らずで夕食だ。ミサトから飲んで帰るので遅くなると連絡があったので、シンジは夕食の献立を考えていた。元々先生の家にいたときから家事はやっている。

「お姉ちゃん何食べたい」
「マグロの丸かじり」

 最近はネットスーパーの超最速便をよく利用していたシンジだが、アンズと商店街に買いに行くことにした。最近はアンズもずいぶん社会常識も身につけたので、出歩くのも楽だ。
 二人で近所の商店街へ向かう。まずは魚屋だ。商店街の入り口近くに「魚洞」という魚屋があった。
 
「シンちゃんいらっしゃい、あれ美人がいっしょだね」

 威勢良く話して来たのは、店番をしている魚屋の長女だ。去年短大を出て、小さな工場の事務をしているが、仕事がない日は店番にも立っている。その為家事は次女と三女がやることが多い。
 
「えへへへへ、シンちゃん美人だって」
「姉です」
「あれ、シンちゃんはお姉さんいたっけ」
「えっと、ちょっと事情がありまして、姉には違いないのですが、その」

 シンジが説明に困っていると、店番は鼻を啜り始めた。涙ぐんでいるようだ。

「そうかい、苦労したんだね。ゴメンね変なこと聞いちゃって」

 何か勝手に想像して納得しているらしい。
 
「変なこと聞いたお詫びよ、好きな物もってって」
「いいですよ」
「私の気がすまないわ。お姉ちゃんはなにか欲しいものはある?」
「マグロの丸かじり」
「じゃ、このマグロの塊もってって」
「悪いですよ」
「気にしないで。どうしても気になるのなら半額で」
「じゃそうさせていただきますコダマさん」
「やった、マグロの丸かじりだにゃ」

 アンズは小躍りしていた。その後商店街で買い物を続けて帰り道の途中だった。シンジの前を飛び跳ねるように歩いていたアンズが急に振り返った。

「そうだ。こんな良い獲物が捕れた時は仲間には分けてあげないと」

 アンズは携帯を取り出すと短縮ボタンを押し、通話を始めた。

「……そう美味しいマグロだにゃ。一緒に食べよう。うん。じゃ待ってる」

 携帯を切ると偉そうに宣言した。

「レイちゃんは素直だにゃ。お誘いしたら来るって」
「本当?無理強いしてない」
「してないにゃ」

 一方レイは困っていた。アンズの勢いに押されて行くといったはいいが、こういうときはどうしたら良いか判らない。とりあえず生魚が大丈夫か確認することにした。リツコに電話して事の次第を話す。リツコ曰くレイは特にアレルギーなどはないので問題無いそうだ。ただ刺身を食べるときの蘊蓄を長々とされてしまった。

「……と言うわけで、お刺身初心者のレイは、最初に醤油だけ、その後わさびを溶いたお醤油で、わさびを溶くと香りが飛ぶと言う人も多いけど私はそちらの方が好き、最後に白いご飯に乗せて海鮮丼みたいにしていただくと、まあこの三段階ね」
「判りました、参考にします」
「レイ、あなた嬉しそうね」

 リツコに言われて気づいた。確かに笑っているようだ。
 
「そうですか」
「ええ、今からだと夜は暗いわ、気をつけてね」
「そうします、博士ありがとう」
「え、ええ、じゃ」

 リツコの電話が切れた。
 レイとの電話を切った後、リツコはしばらく受話器を見ていた。ここはリツコと配下の者達がいる研究室だ。
 
「随分話が盛り上がってましたね」
「まあね。ミサトがいない間にシンジ君がレイを夕食に招待したのよ。隅に置けないわね」
「先輩どうしましたか?」

 少し様子が変だったのだろう。マヤが隣の席からのぞき込みつつ聞く。
 
「レイがありがとうって。あの子にお礼された事なんてあったかしら」
「あるんじゃないですか。礼儀正しい子だし」
「まあね、忙しいから忘れているだけかもね」
「そうですよ、それにしてもレイちゃんとアンズちゃん仲良いですね」
「変わり者同士気が合うのかもね。さ、仕事仕事」
「はい、先輩」

 マヤは自分の端末に向かった。リツコもキーボードを叩き始めた。
 
「人間以外どうしだしね」

 リツコは口の中で呟いた。
 
ーーーーーーーーーー

「こんばんわ」

 アンズはドタバタとシンジは粛々と夕食の準備をしていると、玄関のチャイムが鳴った。モニターで確認するとレイが立っていた。デニムのオーバーオールに無地のTシャツ、デニム地の小さい帽子も被っている。肩からやはりデニム地のバックをかけている。短髪と相まって少年のようなかわいらしさがある。
 
「こんばんわ」

 レイがたたきに入ってくる。初めて見た格好なのでシンジはまじまじと見てしまった。レイは特に困った様子も無く立っている。
 
「入って」
「お邪魔します」

 レイは軽く挨拶をすると靴を脱ぎ廊下に上がった。シンジがダイニングに案内しようとした時だった。
 
「レイちゃん可愛い~」

 アンズが廊下の向こうからひとっ飛びにはね飛んできて、頬すりした。猫の時なら顔中なめているだろう。嬉しいのか室内用のワンピースの後ろに開いた穴から出た尻尾をパタパタ盛んに降っている。
 
「今日はとても美味しそうなマグロを手に入れたのよ、これはレイちゃんにも分けないととお姉ちゃんは思ったわけ」
「はい」

 マシンガンのようにしゃべり続けるアンズにさすがのレイも目をぱちくりしている。シンジがとりあえずアンズを落ち着かせて、二人をダイニングに連れて行った。ダイニングのテーブルにはマグロの刺身を中心に、他の刺身や香の物、煮物など和食のメニューが並んでいた。

「じゃ、みんなでマグロパーティーだあ~」


 結局マグロはレイが半分食べた。レイが食べたがっていたと言うよりは、アンズが食べさせた。せっかくこんなに美人のレイちゃんなのに痩せすぎはいけないとの、姉心だそうだ。レイも白米と刺身の組み合わせがことのほか美味しかったので、おかわりをして食べた。
 
「ご馳走様。美味しかった」
「それはよかったにゃ」
「後片付けは僕がするので綾波はお茶でも飲んでて」

 シンジは麦茶を出した。レイは軽く頷きグラスを受け取った。シンジとアンズで後片付けを始める。ふと気がつきレイを見ると、席で船をこいでいた。珍しく満腹になり眠気に勝てなかったようだ。やがてテーブルに突っ伏して、本格的に寝始めた。

「どうしよう」
「お泊まりしてもらったらいいとお姉ちゃんは思うわ」
「えっでも」
「お姉ちゃんがお世話する」

 母性愛というか姉性愛というか、そんな物に目覚めてしまっているアンズが盛んにお泊まりを主張する。とりあえずシンジはリツコに電話した。予想どおりまだリツコは研究室で残業中だ。別にいいんじゃないとのことだ。セックスをするとシンクロに影響するから襲っちゃっだめよと揶揄われ、シンジは真っ赤になった。ともかくお泊まりはいいそうだ。
 寝ているレイはアンズが運んだ。元々軽いレイなので猫又のアンズにはさほど問題になる重さではない。一応アンズの部屋もあるのでそこに運ぶ。アンズが変なことをしないか見るために着いていったシンジだが、レイを着替えさせると言っていきなり脱がせ始めたので、慌てて部屋をでた。 
 夕食の後片付けを終え、ダイニングで少しのんびりしていると、廊下から軽い足音がした。レイだ。アンズは足音が全くしないからだ。

「どうしたの綾波、うわぁ」

 廊下を覗くと下着姿のレイが歩いてきた。いつものしゃきっとした表情ではなく寝ぼけているようだ。シンジは慌てて目を閉じた。顔を引っ込めた。
 
「帰らないと」
「リツコさんに許可は取ってあるから泊まってって」
「そう、じゃシャワー」
「廊下の突き当たり」
「そう」

 足音が廊下の反対側に続く。風呂の入り口の戸が開いて閉じた音がした。シンジはため息をつくとアンズの部屋に向かう。思った通り、アンズは下着姿で鼻提灯で寝ていた。側にはレイの服が散乱している。
 
「姉ちゃん、起きて」

 腹が立ったので耳元で大きな声で言った。
 
「うにゃあああ」

 びっくりしたアンズは、文字通り跳ね起きた。
 
「綾波がシャワー浴びるって。綾波寝ぼけているから手伝ってあげて」
「お姉ちゃんにおまかせ」

 アンズは跳ね飛ぶように風呂に向かった。
 
ーーーーーーーーーー

 いつもの通りミサトは午前様だ。まだ酔っぱらっている。意見交換会という飲み会を終えた後、一人で別の酒場で強い酒をあおっていた。玄関に入ると見慣れぬ女物の靴があったが余り気にせず部屋に向かう。部屋と言ってもシンジの部屋だ。

「シンちゃん、ただいま」

 酔っているせいかシンジが二人に見えたが気にせずに服を脱ぎ出す。紫のきわどいパンティー一枚になった。

「お休み」

 転がった。すぐいびきを立てて寝始めた。
 
ーーーーーーーーーー

 翌日寝苦しくてシンジは目を覚ました。また思わず声を上げそうに成ったが、声をかみ殺した。薄いタオルケットの上に乗っていたのはレイだった。よだれを垂らして仰向けにシンジの腹を枕に眠りこけている。しかも裸だ。いつもそうして寝ているからなのか、暑かったのか、アンズから借りた寝間着は脱げて、下着もずれまくっている。レイを起こさないように、あたりを見ると部屋の隅でこれまたほぼ全裸のミサトとアンズが抱き合っていびきをかいていた。多分全員寝ぼけてシンジの部屋に来たみたいだ。
 アンズとミサトは見慣れているが、レイの場合は違う。シンクロテストの時と違い、体から力が抜け無防備の美少女は刺激的すぎた。ついしっかりと見てしまった。以外と豊かな胸や、慎ましやかな春草が生える大事なところもだ。生唾を飲み込んだ。ただでさえ朝の生理現象が起きているシンジは、股間が痛いぐらいに成っていた。レイを起こさないように、体を下から抜いた。レイの大事なところをタオルケットで隠す。ミサト達はほおっておいた。トイレに行くといけないことをした。その最中ずっとレイの姿が頭に浮かんでいた。後始末をしてトイレを出たシンジはまた声を上げそうに成った。寝ぼけてまだ表情がうつろなレイが、トイレに向かって来たからだ。下着の下は無意識に直したのかきちんと穿いているがトップレスだ。

「トイレ」

 一言言うと固まっているシンジの横を通り抜けトイレに入る。聞こえてくる水音に、シンジはまた生理現象が起きた。とにかくレイに着せる物を取りに姉の部屋に向かった。
 
ーーーーーーーーーー

「で、ミサトさん、何か言いたいことはありますか」

 ダイニングのテーブルの片方の辺にミサト、アンズ、レイが並んで座っている。シンジは反対の辺に座っている。

「今度、こんな事があったら、副司令に言ってしっかり罰を受けてもらいます。ボーナス抜きとか」
「はい。もういたしません」

 朝ミサトが目覚めると、三人ともシンジの部屋であられもない姿で寝ていた。レイはせっかくシンジが苦労して着せた寝間着もはだけていた。時計を見ると、通勤、通学の時間もとっくに過ぎている。

「あちゃー」

 ミサトは二人を起こさぬように、自分の服をかき集め自分の部屋に戻った。とりあえず、着替えて酔い覚ましの水を飲もうとダイニングに向かった。シンジが怖い顔をして、テーブルに着いていた。
 
「ミサトさん、二人を起こしてくれませんか」

 あの父ありてこの子ありというような怖い笑顔を浮かべてシンジが呟いた。
 そして、この様なお説教会になった。
 
「姉さん、魚抜き一週間」
「そんなぁ~」
「今度やったら、ご飯にかける鰹節も無し」
「はい」

 明らかにシンジの怒気にしゅんとしている二人に比べて、レイはいつもの無表情だった。実はまだ寝ぼけているのかもしれない。
 
「綾波は」

 いつものレイにシンジは言葉が詰まった。見てしまい、その姿を悪用した負い目みたいな物もあるのか言葉が出ない。
 
「綺麗な女の子なんだから、人前で裸は駄目」
「わかった」

 いつもの抑揚のない声で言った。シンジはため息をついた。
 
ーーーーーーーーーー

 噂とは広がる物だ。そして噂とは無責任な物だ。その日の午後にはネルフとWWR内にシンジがレイを襲ったなどという噂が広まった。ネルフではミサトが、WWRではトモヨが噂を打ち消して回ったが、逆効果とは言わないまでも、余計噂が広まった。ただレイぐらい可愛ければと考える職員も多かったし、碇シンジにそんな度胸は無いと噂に過ぎないと考える職員も多かった。

「ええとレイ、念のため確認しておくわ」

 シンクロテストも他の予定もないのにリツコは個人研究室にレイを呼び出した。
 
「シンジ君と性交渉はしてないわね」
「していません」

 リツコの前の座るレイは一度瞬きをした後答えた。

「その間は何?」

 長い付き合いだからなのか、少しレイの答え方が違うのが判る。
 
「私は性交渉が出来るのでしょうか?」

 今度はリツコが瞬きを何回かした。
 
「したいの?」
「碇君が性交渉を望んできた場合の対処法を知りたいです」
「そこはきっぱり拒否して。体の構造は私と同じだから、性交渉は可能だけど、それがあなたにとって好ましい体験に成るとは限らないし、性欲は人を狂わすし」
「私も?」
「あなたも。あなたは人でもあるわけだし」
「人?」
「今のところ人でいて欲しいわ。これでも私はあなたを可愛がっているつもり。いざとなったら判らないけど」
「はい。判っています」

 レイの答えにリツコはため息をついた。眼鏡を外してレンズを拭く。
 
「まあ、何かあったら相談して。博士としてではなく、女の先輩としても相談に乗ってあげるわ」
「はい。判りました」

ーーーーーーーーーー

「定例の報告会を始めます」

 その日はWWR日本支部、ようするに大道寺家の定期連絡会の日だ。夕食後広い食堂でそのまま報告会の時間になった。大道寺家の使用人は漏れなくWWRの関係者なので、警備、保安の当番以外は全員集まっている。契約しているトウジやケンスケもいる。
 
「まずはイクヨさんの紹介ですわ」

 議長はトモヨだ。トモヨが言うとぐりぐり眼鏡の少女が自席で立ち上がる。メイド服が多い一行の中では珍しく白衣姿だ。
 
「皆さんご存じかと思いますが、レインさんの弟子のイクヨさんには日本支部の技術関係を担当していただきます。普段はこちらから第三新東京大学に通っていただき、卒業後は大道寺コーポレーションに就職の予定ですわ。ではイクヨさん、自己紹介を」

 小柄なのでトモヨ達と同じ年頃に見えるが、大学生ということだ。
 
「鈴木イクヨで~す。いくよっちって呼んでね」

 性格は明るいようだ。自分の得意分野、趣味などを一通り話した後挨拶をして席に着いた。
 
「次にホノカさん、ナギサさん、ネルフから簡易装甲服の使用レポートの依頼が来ています。お二方が体格的にも加速度に対する耐久性も適合するので、試用していただけますか」
「はい、判りました」
「OK」
「使用方法はイクヨさんが整備を担当しますので聞いてくださいね。では次の議題」

トモヨはどんどん話を進めていく。

「では最後に」

 トモヨがそう言い手元のリモコンを操作した。食堂の大型モニターの画像が変わった。

「えーやだぁ」
「きもい」

 うら若い乙女が多いWWRの隊員達の口から声が漏れた。モニターには、パンツだけを穿いて、顔をパンティーで隠している細マッチョのイラストが表示されていた。トモヨが書いたらしい。サクラの衣裳のデザインで鍛えた描画力は2Dの画面から飛び出そうな迫力があった。

「この方は変態EVA仮面様ですわ。わたくし二度も命を助けて頂きましたわ」

 顔を赤くして照れながら話すトモヨに、一同トモヨを凝視してしまう。

「確かに変態ですの、でも正義の味方ですわ。わたくしだけでは無く市内の困っている人の味方ですわ」

 最近変態EVA仮面はちょくちょく現れ、市内の悪者にお仕置きをしているらしい。その後滔々と変態EVA仮面に対する思いを頬を押さえて赤くなりながら話すトモヨに、一同はざわついていた。サクラを可愛がるのは判るとしても、この趣味の凄さはさすがにという呟きも聞こえる。

「さすが大道寺やな、ん、ケンスケどうしたんや」

 隣に座っているケンスケを見ると、顔中汗だらけで眼鏡が曇っている。実は最近視力が良くなり伊達眼鏡なのだが、今までのイメージを崩さぬように眼鏡をかけている。普段は変態的思考は収まっているため、改めて見ると、ものすごく変態に思える。実際変態だが。

「いや、別に、トモヨちゃんって変わった趣味だなと思って」
「そやな、お前もがんばらんと変態EVA仮面にトモヨとられてまうで」
「そうだね」

 ケンスケが盛大に冷や汗をかいている間にトモヨの演説も終わりとなった。

「ですから、変態EVA仮面様は味方ですので、お願いしますわ~~」

 上気したトモヨの声で報告会はお開きになった。
 
「ケンスケ君ちょっと」

 その後、ケンスケはコノエに呼ばれた。WWRでの上司だ。ケンスケはトウジと一緒に呼ばれることが多いので珍しい。仕込み杖をつきつつ歩くワンピース姿のコノエの後をついて行く。コノエは自室にケンスケを入れた。

「座って」
「はい」

 土門とパーカーを除けばコノエは大道寺家の使用人で一番上だ。メイド達のまとめ役もやっている。その為部屋には面接用のテーブルと椅子もあったりする。二人は向かい合って座った。

「トモヨちゃんは変態EVA仮面にご執心。恋敵出現ね」
「う、あ、え」

 ズバット切り込まれ、ケンスケは口ごもる。コノエの視線は知っているぞと言っている。ケンスケは冷や汗が吹き出る。コノエはトモヨの日本での保護者を自負していて、トモヨの敵はなぎ倒すと公言している。

「トモヨちゃんに恋してもいいのよ。トモヨちゃんはもてると思っているから。ね」

 コノエの笑顔が凄く怖い。

「口説くのも自由。ただし真剣にね」
「はい」

 ケンスケはやっとのことで答えた。

「がんばって、応援しているわ。弟子がトモヨちゃんの彼氏なんてステキだわ。ところで変態EVA仮面をどう思う?」
「どうって、変態だけど正義の味方」
「そうね。でも一般的な、マスコミ何かが言う高尚な正義とは違うわね。高尚な正義があるとしてだけど」
「そうですね」
「彼は正義の味方だけど、正義は彼の味方じゃない」
「確かに」
「だから滅茶苦茶険しい道よ。でも挫けないで欲しいわ。曲がりなりにもトモヨちゃんが恋い焦がれているのだから」
「そうですね」

 大道寺家の諜報を仕切るコノエやパーカーは正体を知っているらしい。知っていても我らの可愛いお嬢様のためを一番に思っている。

「変態EVA仮面にあったらそう伝えます」
「助かるわ」

 やっとコノエの笑顔が優しい物になり、ケンスケはほっと一息ついた。

「ところで変態EVA仮面はパンティーを被ると力が出るみたいじゃない」
「みたいですね」
「変態EVA仮面が下着泥棒で捕まるのは問題だわ」
「確かに」
「で、これ」

 コノエはずっとテーブルの端に置いてあった紙袋をケンスケの方に差し出す。

「これ私の使用済みパンティー」
「え~~」
「変態EVA仮面にあったら、屋敷の女の子が提供するから、下着泥棒はしないでって伝えてね」

 コノエはウインクをした。

「はい」

 ケンスケはそうとしか言えなかった。

ーーーーーーーーーー

「ルリちゃんでしょ」
「私はイオスです」

 ケンスケが冷や汗をかいている頃、サクラはTB5にいた。セリカと一緒に宇宙エレベーターで上ってきた。代わりにアヤカは地上に降りている。TB5のAIイオスとそして融合した者と話しに来た。回線を通しても話せるが、直に会ってみようと言うことになった。
 
「昔、違う世界でセリカさんとルリちゃんと私でシンジさんの取り合いをしたの、覚えていない?」
「情報は残っていません。私が違う世界から何らかの原因で情報体として転移してきたのは、情報にありますが、私が星野ルリだったかは情報がありません」
「でもセリカさんや、綾波さんをお姉さんって思うんでしょ」
「はい、そういう情報があります」

 TB5の本来の業務である救難信号の受信に支障が出ないようにだが、AIとサクラは話し続けた。いくらでも話すことはあった。サクラが今でも覚えていることを全て話し続けた。セリカが仮眠をとり起きた後もずっと話していた。サクラに疲れが見えてきたため、セリカはサクラを一旦休ませることにした。宇宙に慣れていない者に無理をさせるといろいろ危険だ。サクラを睡眠スペースに連れて行くと直ぐに眠りについた。
 
「あなたは私の義理の妹だったの?」
「その情報はありません。でもそれでもいいと思います」
「そう、じゃなんて呼ばれたい」
「でも私はイオスです。世界のみんなを守りたい」
「そう、判ったわ」

 セリカはキーボードを撫でた。少女の頭を撫でたような気がした。




つづく



[43351] EVAザクラ新劇場版 序の次 第四話
Name: まっこう◆048ec83a ID:ebf4c7d1
Date: 2019/08/31 19:23
無印は随分前なのね。

ーーーーーーーーーー

「デストロンの正体わかったわよ」

 別に暗闇が好きなのではないが、今日も二人はリフトの中だ。

「で、今度は何?何が来ても驚かないわ」

 リツコは携帯端末を叩きながらミサトの方を見ずに言った。
 
「TB5のAIがもう一人の魔法少女の人格データーなんて話、そんなのばかり聞かされたら慣れるわよ」
「そうね、リツコが昔魔法少女で、フリフリ着ていたとかね」
「その話はよして。アイデンティティーの崩壊を感じるわ,あんただって殺人アンドロイドじゃないの」

 本当に嫌そうで、タイプしていた手を止めて払うように動かした。

「ま、今度木之本サクラに、知っている事洗いざらい話してもらいましょうか」
「そうね、で、デストロンは」
「それがね」

 ミサトは頭をかきかき話し始めた。

「一人の狂信的科学者を中心に出来たカルト集団」
「どんな奴?」
「本名、相田フテオ、俗称フット、セカンドインパクト前に、悪化する地球環境に適合するため、人間に機械的改造を行いそれによる進化を主張して学会を追放されたわ」
「似たような事を考える人は多いわね」

 リツコの口元が微かにゆがむ。
 
「それにしても、あの名前は変態が多いのかしら」
「ま、相田ケンスケの叔父だからね」




 EVAザクラ新劇場版

 序の次 第四話

ふたりは




 ミサト達の動きとは別の動きもあった。ネルフとWWRは一応両組織とも国連の配下だ。組織力に差はあるが同格ではある。ゲンドウとソノミの間で話し合いがもたれた。木之本サクラとイオスの未来の記憶を有効活用する代わり身分、扱いを保証をする事と成った。
 中立な場所とは言えないかもしれないが、第壱中の進路相談室が聞き取り調査の場所に選ばれた。ここならクキコのテリトリーだ。NN爆弾でも叩き込まれない限りなんとかするだろう。
 ネルフからはミサトとリツコのサーティーズ、WWRからは土門夫妻に隊長代理で花右京タロウ、司会兼サクラの後見人としてクキコとトモヨ、通信回線を通してイオスが加わる。聞き取り調査は非公開で行われた。

「君が相田君かい?」
「はい」

 部屋の前の廊下には代表の一番弟子やボディーガードが待っていた。眼鏡同士の親近感かマコトがケンスケに話しかけた。横では鈴木イクヨと伊吹マヤが技術談義に花をさかせている。生真面目なトウジは師匠にここを頼むと言われて油断なくあたりを見張っている。トモヨのお供で来たコノエも仕込み杖を持ち静かに座っている。
 
「最近は視力矯正手術が良くなったから、眼鏡はなかなかいなくてね。なんか他人とは思えないよ」
「そうですね」

 これも実は尋問なのだろう。マコトの巧みなストーリーによりケンスケは自分の情報をさらけ出していく。

「君には叔父さんがいたんだ」
「はい。凄く変わった人だったらしいです。セカンドインパクトで行方不明になったって聞いています」
「なるほど、悪い事をきいたね」
「いいえ、実感ないですし」

 そこで気が付いた。斜め前の椅子に座るコノエが合図を送っている。WWR隊員だけに通じる指のサインだ。話すのをやめろだ。
 
「ちょっとトイレに行きたいので」
「あ、それは悪かったね」

 ケンスケは立ち上がった。
 
「私も連れてって」

 コノエは実は足はほとんど治っているが、いざという時の切り札的存在とするため、わざと不自由を振る舞っている。
 
「はい、コノエさん。トウジここ頼むね」
「おう」

 ケンスケはコノエの手を取り立たせる。コノエはケンスケの肩を借りトイレの方に向かう。
 
「あれ、尋問よ」
「そうかなっと思いはしたんだけど、話が上手くって」
「ネルフの作戦部の主任よ、あなたのような半人前じゃ太刀打ちできない。知らずに全部話しちゃうわよ」
「怖いですね」
「ネルフは敵にしたくないけど、そうなった時の用心もしないとね」

 実際トイレにも行きたかったらしく、コノエはトイレの前で別れた。
 
「いつでも、切り札は用意しておいてね」
「はい」

 ケンスケはポケットの中でパンティーを握りしめた。

ーーーーーーーーーー

「おういいんちょやないか、碇に碇の姉さん、綾波もか」
「私もいるよ~」
「こんにちわ」

 ケンスケとコノエが念のため校舎を一周のパトロールをしている最中、進路相談室にシンジにレイ、アンズにホノカ、ナギサ、そしてヒカリが現れた。午後からはレイも話に加わるためで、アンズは妹分のボディーガードだ。シンジには話がまとまってから伝えようと言う事に成っている。その為聞き込みには参加はしないが、アンズとレイが心配なので付いてきている。ホノカとナギサはトモヨに連絡事項を持ってきた。

「でもトウジ君いいなあ~、こんな可愛くて料理が上手な彼女がいるなんて、このこの」

 ナギサがトウジをつついている。ヒカリは一瞬にして真っ赤になった。

「ち、違います、私は委員長として、いつも食い意地がはっているトウジが心配なんです。それに今では兄弟子だし、とにかくそう言う事なんです。はい、お弁当」

 ヒカリはお弁当をトウジに押しつけると、逃げていった。

「いつも、すまんなぁ~後で洗って返すでぇ」

 トウジはお気軽にそう言うと弁当を食べ始めた。

「ヒカリちゃんは優しい人ですね」
「ホノカそれは違うよ、優しい人には違いないけど。なんかヒカリちゃん他人事とは思えないなぁ」
「どうしてですか?」
「私も、ほらあの先輩」

 恋する乙女は賑やかだ。その上猫又やら、EVAパイロットなどが加わると余計にそうだ。いままで静かだった廊下が賑やかになる。丁度昼になったため、体育館で一同昼食になった。
 昼食は第壱中のキッチンを使い大道寺家の厨房のメンバーが作ったため、満漢全席とは言わないまでも豪華なものが出た。
 
「では、友好を祝して乾杯」

 ネルフの女番長事ミサトの合図で、昼食会となった。

「雪城さん拳法の達人なんですか?」
「それは違いますわ。祖母に手ほどきを受けた程度です。祖母は睡猫降神流という投げ技を主にした武術の達人だったそうですけど」

 ホノカに先程から聞いているのはヒカリだ。最近の目標はトウジとの組み手なので拳法等が得意な女性によく聞いてまわっている。

「朝倉カオルっていう文武両道の美人だったんですよ」

 一瞬サクラの表情が動いた。リツコやミサトもだ。聞き取り調査に出てきた名前だからだ。

「ホノカちゃんお嬢様って感じだけど凄いのねえー」

 ミサトがノンアルコールのグラスを啜りながら微笑んだ。

「私はそれほどでも、ただ投げ技は少し出来ますわ」
「私は空手。トウジ組み手しような」
「おう、姉さん」

 ナギサがポンポントウジの方を叩くので、ヒカリの機嫌が悪くなってきた。

「でもトウジ君、ヒカリちゃんが、この前組み手をしたいとおっしゃってましたし」

 ホノカの場を見ないというか、見すぎる発言にヒカリは真っ赤になった。

「そうだな」

 黙々とご馳走を平らげていたカッシュが呟いた。ただ口の横が少し歪んでいるので、ふざけているのかもしれない。

「他人に教えるのはいい修行になる。トウジ、ヒカリちゃんに明日から稽古を付けてやれ。兄弟子の義務だ」
「はい、師匠」
「しっかりやれよ、ヒカリちゃん」
「はい」

 やはり少しからかっているようだ。ヒカリが茹で蛸のように真っ赤になるとカッシュは吹き出した。

「いて、なにすんだレイン」
「ほんとにあなたは、もっと真面目にやりなさい」

 隣に座っていたレインにカッシュが殴られていた。

----------

 その日の夜夕方、リツコの研究室では少しシュールとも言える光景があった。レイが大型スクリーンの端末の前に座っている。映っているのはTB5の中だ、アヤカとイオスのメインカメラが映っている。

「それにしても、私とあんたが喧嘩友達だったとわね~」

 アヤカが面白そうに微笑んでいた。

「イオス、お姉さんとの再会はどう?」
「安心感があります」

 端末の前のレイはずっと黙っている。

「私には、綾波レイが姉だったという情報があります」
「姉?」
「はい。正確に言うと義理の姉妹です。私に今肉体はありませんが」
「そう。あなたは人間だったの?」
「その情報は、ありません……ただ」
「ただ?」
「綾波レイを見ていると安心感が有ります」
「そう」
「これからも話していいですか」
「いいわ。博士に回線を引いてもらう」
「お願いします」

 抑揚がないイオスの合成音声に色が付いた。

ーーーーーーーーーー

 その日はレイも大忙しだ。ここはレイのマンションだ。部屋の隅には畳が一畳敷いてある。アンズが畳好きだからだ。古めかしい木製のちゃぶ台もある。ちゃぶ台の前にはレイが正座して座っている。手にはお茶碗がある。アンズがよく来るのでお茶の入れ方を覚えた。反対側には大柄だがこれぞ和風美人という女性が正座していた。
 
「初めまして、栗栖川セリカです」

 小声だがすこぶる美しい声が聞こえた。手元にはお茶碗と、TB5との直通端末があった。

「三姉妹と言われても実感はないけど」
「私もない」

 話が続かない。セリカはため息をつく。

「イオスやサクラちゃんの話だと、あなたは液体を、私は重力や木々を操る能力が出てくる可能性があるわ」
「そうね」
「その時は連絡を取り合い、協力しあわない?」
「博士の許可があればいい。それに」
「それに?」
「人間の証になるかもしれないから」

 レイの言葉に謎はあったが、とりあえず協力できそうなので、セリカはため息をついた。

「もし、宇宙で困ったら駆けつけるわ。私TB3のパイロットもしてるから」
「判りました」

ーーーーーーーーーー

 少し前から周りが焦臭い。鈍いシンジでもそう思う。ただ助かるのは、EVAパイロットと姉の世話と、時々レイの世話、それだけで手一杯なので考える暇がない事だ。最近はよくサクラがアンズの元を訪れる。元々妹ぽい子が大好きなアンズはサクラを猫可愛がりしている。時々サクラが自分を見ている時があるが、アンズを見ているのだろう。シンジは一時の平安を味わっていた。

ーーーーーーーーーー

「あれ?」

 ケンスケは気が付くと大型車の後部座席の真ん中に座っていた。左右にコノエとカッシュが座っている。トウジとヒカリと鍛錬が終わった後、カッシュに呼ばれてついて行ったはずだ。

「気が付いたか」
「はい」
「話は俺が付けてやる。お前は拳のみで答えろ。俺の顔を打て。全力で」
「はい」

 師匠の言葉に従った。ケンスケは限られたスペースを使い思い切り師匠の頬を叩いた。微動だにしなかった。

「いい突きだ。後は任せとけ」
「それじゃケンスケ君、なんだかわかりませんよ」

 反対側でコノエが苦笑いを浮かべた。

「今からネルフの支局に向かうわ」
「なんで?」
「多分尋問ね。約束して欲しいのだけど、決して嘘はつかないでね。そうすればカッシュ師匠と全力で守るから」
「そうだな、後は俺がなんとかする。東方不敗流の名にかけて」

 大型車は新熱海の支部に向かって行った。

ーーーーーーーーーー

「はい、一休み」

 カッシュとコノエがいないため、今大道寺家のメンバーではナギサがカッシュの一番の姉弟子だ。ナギサが師匠の代理として、他の大道寺家の者達と訓練をしている。ヒカリも一緒に訓練をしている。

「それにしても、トウジ君って運動神経は無いけど拳法のセンスはピカ一なんだよね」
「それどういう意味ですか」

 ナギサの発言にいちいちヒカリが答えるのはご愛敬だ。

「反射神経や平行感覚なんかは完全に私が上なんだ。だけど例えば」

 ナギサがトウジの顔にいきなり突きを入れる。トウジからは見えない角度のはずだが何故かトウジは突きをいなすように体をよじった。
 
「ほら、これって才能やセンスっていう部分なのよ」
「なんや照れるなぁ」
「よほど師匠の拳法と相性がいいのよね」
「トウジすごいんだなぁ」
「いいんちょもこの短期間で、その腕なら相当やないか」
「それは言えるわね。ヒカリちゃんもなかなか。きっと相性がいいんだわ」

 ナギサはヒカリの耳元に口を寄せた。

「トウジ君との相性もね」

 ヒカリは真っ赤になった。

ーーーーーーーーーー

「ミサトさん?」

 思わず疑問形になってしまった。目の前に座っている人が、いつもシンジとにこやかに話している美人には見えなかったからだ。視線から殺気が伝わってくる。
 
「葛城ミサトよ、じゃ答えて」
「はい」
「叔父さんとは面識はあるの?」
「ありません」
「あなたは改造人間?」
「違います」
「そ」

 いくつか質問が続いたがそれほどの量は無かった。やがて質問が終わると、ミサトがケンスケをじっと見た。そして目を伏せた。

「判ったわ、じゃあこれで尋問は終わり。手間をとらせたわね」

 いつもの優しい笑顔のミサトに戻っていた。

「もうあなたを疑う事は無いわ。ただあなたの叔父、相田フテオは生きている。この前の改造人間の親玉よ。いつかぶち当たるわ。覚悟しておいてね。それだけよ。もう帰っていいわ」

 ミサトにしては愛想が無いのは優しさかもしれない。カッシュとコノエに連れられてケンスケは尋問を終えた。帰りも行きに乗った大型車の後部座席だ。

「尋問前の身体検査は僕が改造人間かどうか調べたんですね」
「そうね。サイボーグの方が現実的ってネルフは考えたんでしょうね、変態より」
「まあ、確かに一般的にはそうでしょうね」

 コノエは話してくれるが、カッシュは先ほどから腕を組んで黙って目を瞑っている。

「フットの正体は、WWRとネルフ内ではもう知れ渡ってる。ミサトさんや私たちはケンスケ君を信じるけどそうでない人もいるでしょうね」
「そうですね」

 叔父が大犯罪者と聞かされれば動揺もする。ケンスケも黙ってうつむいた。
 10分ほど経った頃だろう、カッシュが目を開いた。

「ケンスケ、お前はこれからコノエの弟子になれ」
「えっ」
「今回の事とは関係が無い。俺は師匠としてはまだ未熟だ。弟子は一人で手一杯だ。そうなるとより東方不敗流に向いている者を弟子にするしかない」
「僕は向いてないと言う事ですか?」
「違う。お前は自分の独自の形があり、それの個性が強い。それを伸ばした方がいい」
「ではなんでコノエさんなんですか」
「コノエが女で武芸百般心得ているからだ。それにお前の形は女無しでは駄目だろう」
「ええっと、そうですね」
「ま、そう言う俺も、レイン無しでは単なる拳法馬鹿だがな」

 言っていて恥ずかしいのかカッシュが頭をかいている。
 
「しょせん男はいい女の周りでドタバタする生き物だ」

 カッシュはそう言うとケンスケの頭を押さえた。

「だがな、一度師弟の縁を結んだ以上、お前がピンチの時はどこでも、どんな時でも助けにいくからな。敵がネルフだろうと、使徒だろうと叩き潰してやる」
「はい。判りました。最後にもう一度師匠と呼んでいいですか」
「おう」
「師匠、いままでありがとうございました」
「おう」

 カッシュは手を離した。後部座席は静かになった。

ーーーーーーーーーー

 ネルフもいつも使徒と戦っている訳ではない。当然パイロットの二人も学生である以上、学校の授業や催し物には参加する。第壱中では土曜日は一週間おきにボランティア活動をする事になっている。それほど全校生徒数は多くないので、ボランティア活動は全学年合同で行われる。シンジは今日は付近の幼稚園の子供達を遠足に連れて行く手伝いだ。保育士の不足はなかなか解消できず、日本中で同じような事が行われている。
 
「シンジ君もなんだ、がんばろうね」
「よろしくお願いします」

 ボランティア活動のメンバーはランダムに決められる。いつもは誰か知り合いがいるが今日は2-Aのメンバーは他に誰もいない。心細く思っていたところ、たまたまだがホノカとナギサも同じボランティアに当たっていた。
 
「こちらこそ」
「今日は、ダムに遠足だよね、結構私も楽しみ」
「ほんとうに」

 中学校から幼稚園の道行きもおかげで退屈せずにすんだ。

「あれ、アンズさんは」
「姉さんは綾波に付いていくって」
「それありえなぁい。絶対なにか起こすよ」
「そんな事有りませんよ。ふたりならなんとかなると思いますわ」

 そんな事を話しながら幼稚園に着いた。
 
「あ、ロボットのパイロットの人だ」

 幼稚園児の一人が大声で叫んだ。それなりに顔が知れているシンジに子供達が殺到してきたので、パニックになりそうだった。
 
「わ~凄い~」

 その時運動神経抜群のナギサが、その場で三連続後方宙返りをやって見せたため、そちらにも子供が分散した。
 
「これなんかどうですか」

 ホノカが手を振ると、ポンという小さな音と共に色とりどりの煙が湧き上がり、空に魚の模様が浮かんだ。
「うわぁお姉ちゃんどうやったの」
「それはですね」

 蘊蓄女王のホノカが説明を始めた。適度に分散したため扱いやすくなった子供達を、幼稚園のバスに保育士達が乗せた。意外にバランスが良いグループになったようだ。
 
ーーーーーーーーーー

 第三新東京市に流れ込む芦ノ湖の水をせき止めている小さなダムにバスは直ぐに着いた。自由に見て回る事になっているので、なかなかシンジ達は忙しい。保育士を含めても一人で四人の幼児を見るの必要がある。

「あれ、キョウタ君は」

 シンジが見ていた男の子が一人見つからない。年長組で来年から小学生と言う事で油断していた。保育士を一人バスに残して、みんなで探す事になった。
 
「こんな時はと」

 ナギサが少し大きめの腕時計を耳の近くに持って行った。
 
「TB5こちらナギサ」
「TB5こちらイオスです」
「迷子が出たの、探してくれない?」
「名前は?」

 迷子にWWRを使うのはオーバースペックだが、このぐらいの公私混同は許されるだろう。直ぐにイオスから返事が来ると思ったが、滞在しているアヤカから返答があった。
 
「迷子の場所は確認出来たわ、だけどそこに変な集団がいるわ。何か危険な感じ」
「了解、ホノカとみてくる」

 腕時計には周辺のマップと人間の配置が判る表示が出ていた。

「ホノカ、シンジ君」

 二人に事情を話す。シンジが残って、保育士や他の子供達に説明する事になった。ナギサとホノカはマップを頼りに進んで行った。

ーーーーーーーーーー

「ボス、こんなガキが」
「はなしてよぉ~怖いよ~」

 その頃キョウタは、変な格好の団体に捕まっていた。

「そのへんに転がしておけ。このダムを破壊すれば第三新東京市は水に沈む」

 キョウタは戦闘員に文字通り投げられ草むらに転がり気絶した。

「あれは多分デストロンの改造人間ですわね」
「それって、ありえなぁ~い」

 近くまで忍び寄った、ホノカとナギサだが、手が大きなハンマーの様な怪人と多数の戦闘員がいるため身動きがとれなかった。一応WWR本部に連絡して、ネルフにも連絡が行っているだろうが、対応が間に合いそうにない。
 
「こうなったら、これっきゃないわ」
「そうですわね」

 二人はポケットからスマフォを取り出した。ナギサが黒で、ホノカが白だ。二人とも、右手の小指をスマフォに当てた。指に入れてあるチップとスマフォが反応し音声コマンド入力状態になる。二人で手をつなぐ。
 
「「デュアルオーロラウエーブ」」

 いきなり二人を光が包んだ。

「なんだ」

 怪人ハンマークラゲがその光に驚き声を上げた。

 簡易装甲服は周囲の物質を取り込み二人の服をパワーアップした。ナギサは黒を基調にしたヘソ出しルックの動きやすいコスチューム、ホノカは白を基調としたふわっとしたブラウスの様なコスチューム、子供用のためか、実はリツコがこういうスタイルが好きなのか、装甲服というより変身したように見える。
 
「光の使者、キュアブラック」
「光の使者、キュアホワイト」
「「ふたりはプリキュア」」

 パスワードを言う時はポーズをとってしまうのは、日本人の証だろう。二人は決めてしまった。
 
「闇の力の下部達よ」
「とっととおうちに帰りなさい……ってあれ、何言ってんの私」
「五月蠅い、お前達殺してしまえ」

イー

 戦闘員達が二人に襲いかかってきた。

はっ

 気合いと共に、二人はダッシュした。

ーーーーーーーーーーーー

「プリキュア稼働状態感知しました」
「レインさんに連絡、情報をネルフに中継」

 プリキュアの起動シグナルを受けて、イオスとアヤカはMAGIと共にサポートを開始した。
 
ーーーーーーーーーーーーー

「うわ」

 思わず声を出したのはナギサだ。ダッシュ力はある方だが、プリキュアのサポートで秒速100mと仮面ライダー並の速度が出た。戦闘員の真ん中に躍り込む。
 
「はっ」

 突き一つで、戦闘員がまとめて数人吹っ飛ぶ。

「しんじられなぁーい」

 一方ホノカはキョウタの元へ向かう。様子を見たが単に気絶しているだけだ。物陰にキョウタを隠す。ホノカもゆっくりと怪人達の方に向かう。ナギサとは対照的な戦い方だ。戦闘員が殴りかかってくると、軽く手を掴みひねる。祖母に習った技が簡易装甲服の力を借りて倍増され、戦闘員はくるくる回りながらすっ飛んでいく。ホノカ自体はゆっくり進んでいくが突っ込んでくる戦闘員達は総崩れだ。数分で立っているのは、二人を除けばハンマークラゲのみとなった。
 ちょっと調子に乗ったナギサはハンマークラゲに突っ込んで行く。

「おりゃー、あれ」

 全力の突きがハンマークラゲの胴に決まったが、名前の通り柔軟な体は突きを吸収した。

「それなら」

 次は頭に見えるところに蹴りを入れるがやはり効かない。ナギサは慌ててバク転で後ずさる。

「私がいきますわ」

 ホノカが初めて走り出した。瞬時にハンマークラゲの前に行くとハンマーをひねるように投げ飛ばす。

「効かないようですわね」

 投げ飛ばされて、岩盤に叩き付けられたハンマークラゲは平然と立ち上がった。

「小娘どもが」

 ハンマークラゲはハンマーを地面に叩き付けた。

「「うわぁ」」

 局所的な地震が起きて、二人は盛り上がった大地に跳ね飛ばされてしまう。何とか無事に着地したが倒す手立てがない。
 
「二人とも聞こえる」

 耳元でレインの声がした。装甲服の無線音声だ。

「そういう奴ら用に決め技があるわ」
「教えてぇ」
「今から言う事を復唱して」
「了解ですわ」
「ナギサちゃん、ブラックサンダー」
「ブラックサンダー」
「ホノカちゃん、ホワイトサンダー」
「ホワイトサンダー」

 二人の装甲服がアンリミットモードに切り替わった。二人は手をつなぐ。自然に残った手がハンマークラゲの方を向いた。
 
「なんでもいいから技の名前」

 言われて何故か同じ台詞が浮かんだのは、親友ゆえだろう。

「「プリキュア・マーブル・スクリュー」」

 装甲服の全エネルギーを精神エネルギーの輝く光の束に変えたその一撃は、ハンマークラゲを一撃で吹き飛ばし、ついでに悪の心も吹き飛ばし、改造部分を作動不能にした。ハンマークラゲは気絶して転がった。

「やっつけちゃったの?」
「みたいですわね」
「終わり良ければ全てよしなのかなぁ」

 遠くからTB1のロケットの轟音と、ネルフの作戦部の一団の車両の音が聞こえてきた。

ーーーーーーーーーー

「DT理論?なにそれ?」

 三日後、珍しくリツコの個室に呼び出されたミサトは、机のディスプレイをのぞき込んだ。英語の論文が映っている。
 
「この前の改造人間、記憶は消去されてて、何も判らなかったわ。多分作戦行動が失敗すると記憶が消去されるようにセッティングされてる。使われている部品も出所はトレースできなかった」
「それで?」
「なんか腹が立って、相田フテオの事を調べてたら、これにぶち当たったの」
「この論文?」
「そう。相田フテオには学会でライバルと言われる学者がいたわ。マッドサイエンス仲間と言ってもいいわ。名前を東山ニシオ。彼の提唱した理論なの」

 リツコがキーボードを叩くとディスプレイに二重螺旋が映し出された。
 
「簡単に言うと、人間の遺伝子には環境に能動的に反応して、進化を推し進める因子があるって言う理論。その因子をDTって呼ぶのでこの名前になったわ」
「それって、遺伝子のジャンク情報ってやつ?たまたまランダムに人間が持っている遺伝子が環境に合わせて発現して進化するっていう」
「それは中立進化論、これはもっと積極的、能動的な遺伝子パターン。言うなれば遺伝子の進化に対する意欲、そのような物よ」
「ふ~ん、でそれがどうしたの」

 ミサトは頭をかいた。大学、大学院の同期ではあるが、科学的思考ではリツコがいくつも上だ。ネルフで生物兵器であるEVAを運用しているおかげでそれなりに遺伝学なども詳しいが、全部はついて行けない。
 
「DT理論の弱点は、解析に計算リソースが量的、質的にかかりすぎること。当時は計算の手段が無かったわ。遺伝子の意味自体を調べなければいけないから、単なる計算の次元を超えて推論、想像、空想なんていうレベルが必要なの」
「計算リソースって、あっ、そうか、MAGI?」
「その通り、MAGIなら計算できる」

 またリツコがキーボードを叩くと、チルドレンや、ネルフ関係者、WWRの関係者などの調査ファイルが表示された。
 
「やっと本題に入ったって顔しないでくれる」
「ごめぇん、で?」

 お互い長い付き合いだ。
 
「MAGIに解析させたらDTらしき物を持っている人物が複数見つかったわ」
「だれ?」
「まず、シンジ君にアスカ」
「チルドレンだということに関係はあるの」
「不明よ。今のところ」
「レイは?」
「今のところ解析では因子は検出できない。検出の深さを少しずつ上げているから、そのうち出るかも」
「そう、あとは?」
「鈴原トウジに相田ケンスケ、大道寺トモヨ、犬神クルミ、栗栖川セリカ、WWRの関係者ではいまのところこれだけ」
「木之本サクラは?」
「検出されてない。前の世界では人類の限界まで進化したから伸びしろは無いのかも」
「なるほど、チルドレン以外のネルフメンバーは?何よ」

 リツコが皮肉っぽい笑いを浮かべたため、ミサトは眉をひそめた。
 
「今のところ一人だけ。葛城ミサト」
「えっ私」
「あなたがやたら反射神経や身体機能の精度が上がっているのはその影響かもしれない」
「そういうことなの」
「影響の現れ方は人それぞれ。あの変態もそう」
「ありゃ、人それぞれね。変態も進化?退化じゃ無いの?」
「彼が改造人間とやりあって生き残っている事から言っても進化でしょうね」
「変態がねぇ」
「本来、進化と退化は同じ事。その環境に適合している変化を進化と言うわ。DT理論はそこが非対称。純粋に進化を遺伝子が選択するの」
「それでも変態はねぇ」

ーーーーーーーーーー

 司令室はいつでも暗闇と静寂に沈んでいる。時々冬月が書類をめくる音が聞こえるだけだ。
 
「碇、このDT理論とやらはどうする?」

 冬月の手にはリツコからの報告書があった。未だに紙の報告書なのは冬月の趣味だ。声には微かにからかいの色が付いていた。
 
「くだらん。今更他の進化など。能力だけ使えればいい」
「まあ、そうだな」

 また、司令室は静かになった。





つづく



[43351] EVAザクラ新劇場版 序の次 第五話
Name: まっこう◆048ec83a ID:ebf4c7d1
Date: 2019/08/31 22:22
まずは 序は終わり。破はいつ頃になるかな。

ーーーーーーーーーー

「これは」
「DT因子保有者リストよ」
「DT?」

 ホテルのバーでリツコが説明を始めると、レインは直ぐに思い出した。昔、DT理論の論文は読んだらしい。データーの受け渡しが紙の書類なのは、セキュリティーの為か、リツコの趣味かは判らない。
 
「うちのメンバーに五人ね、多いわね」
「推測だけど、木之本サクラが因子を活性化させてるのじゃないかしら」
「あり得るわね。そうすると接触頻度から言って、トモヨちゃんがそのうち大化けするかも」
「あら、変態と超能力者のカップル?カオスね」
「ケンスケ君も悪い子では無いけど、変態はねぇ」
「ま、大道寺トモヨも変わり者だからお似合いかもね」
「……人ごとだと思って」

 レインはカクテルを一気に飲み干した。
 
「スピリタス、ストレートで」
「アル中」
「フリフリ魔法少女」
「それはやめて」




 EVAザクラ新劇場版

 序の次 第五話

修業




「お姉ちゃん、本当の家族と住むことになったんだ」

 学校から帰ってきたシンジはそう言うなり、自室に向かい荷物をまとめだした。素早く風呂敷に着替えなどを詰めていく。
 
「え、本当の家族?」
「父さんが一緒に住もうって言ったんだ。いままでお姉ちゃんありがとう」
「え、お姉ちゃんは一緒に行けないのですか」

 アンズがそう聞いても、シンジはニコニコと笑いながら準備を続けるだけだ。アンズはシンジの周りでオロオロする。だがそのうち昔のことを思い出した。猫だった時、小さなシンジが両親を思って泣いているのを見ていたのを思い出した。先生に迷惑がかからないようにシンジは一人の時だけ泣いていた。アンズだけはそれを見ていた。
 
「よ……良かったねシンちゃん」

 ちょっと笑顔が歪んでしまった。でも何とか笑えた。シンジが嬉しいのだから、笑うべきだと。この子の涙を拭いて、喜ばせるために人間になったのだから。
 
「喜んでくれるんだね、お姉ちゃん」
「あったりまえよぅ!!私はお姉ちゃんなのよ」

 シンジは荷物をまとめ終えた。
 
「じゃーねーお姉ちゃん」
「元気でねぇ」

 そこで目が覚めた。アンズは最近よく夢を見る。猫又になり、人間の姿を手に入れてからは特にそうだ。顔を手で拭うと少し濡れていた。時計を見ると早朝だ。心配になってシンジの部屋に見に行ったが、シンジはまだ寝ていた。自室に戻った。自分のネコ耳を触る。

「人間じゃないと本当の家族になれないのかにゃ」

悲しいのでまた寝ることにした。

ーーーーーーーーーー

「お姉ちゃんは修業をすることにしました」

 朝食の最中TVを見ていたアンズがそう宣言した。いつものようにシンジの作った朝食は魚がある和食だ。セカンドインパクト後、赤くなった海では魚はほぼ取れない。ただ世界中の、特に日本人の魚を食べたいという意思は、奇跡的とも言える技術開発を可能にし、ほぼそれ以前に海で取れていた魚の陸上での養殖を可能にしている。また一部では海水を浄化して、そこでの養殖も可能にしている。まだまだ値段が高いため、一般家庭では毎日魚を食べられると言う訳ではないが、幸いなことにシンジやアンズの生活費はネルフ持ちで、特に食費は制限がない。人間良い物を食べないとちゃんと働けない。もしシンジの栄養状態が悪くてEVAの操縦をしくじったりしたら洒落にならない。もっともいつも養殖の高い魚を食べているわけでは無く、組織培養でつくった人工魚肉もよく食卓に並んでいる。

「修業?」

 そう聞き返したのはレイだ。最近レイは休日の朝は、葛城家でごちそうになることが多い。先日のマグロパーティーで白米のおいしさに目覚めたらしい。今まではずっとネルフの完全栄養食の配給を受けていたが、米だけは自分で炊いているらしい。
 
「修業です。お姉ちゃん修業です」

 どうやらTVの番組の僧侶の修業に影響されたようだ。アンズが変な事を言うのはいつもの事なので、誰も驚かなく成ってきている。

「どんな修業をやるの?」

 ミサトは二日酔い気味なので、味噌汁だけ啜っている。

「えっと、お姉ちゃんに成るための修業です」

 中身は考えて無いらしい。ミサトのおかずのアジの干物もどきを当然のように食べながらアンズは答えた。

「お姉ちゃん、何やってもいいけど、みんなの迷惑にならないようにね」
「また上から目線、シンちゃんは弟なのよ」
「はいはい」

 今日は休日で、ネルフの用事もたまたま無い。そのため朝食後は、シンジは遅れている勉強を取り戻すため、勉強をすることにした。ただ家だと色々と落ち着かない。そこで市立の図書館に行くことになった。レイを誘ったところ、珍しく一緒に行くとのことだ。どうせならとケンスケ達も誘ったら、いっそのこと大道寺家で勉強会を開くと言うことになった。あそこなら教師の免許も持っている者もいて、勉強もはかどりそうだからだ。
 
「じゃ、お姉ちゃん後片付けお願い」
「おまかせよぉ」
「ご馳走様」

 シンジとレイは用意をすると早速出かけた。

「じゃ、私は今日は寝るから」

 徹夜続きで二日酔い、今日は急ぎの仕事もないミサトは寝室に直行だ。アンズは朝食の後片付けをした。自分用のジュースのコップを手に、ダイニングでTVを見始めた。

「あっ、この修業効きそう」

 早速試してみることにした。

ーーーーーーーーーー

 思った通り大道寺家での勉強会ははかどった。三年で成績学年トップを維持しているホノカや、イクヨなどが教えてくれる。シンジやレイだけでは無く、第壱中に在学している仲間みんなで勉強会となった。
 昼食は大道寺家の食堂で食べた。食休みの後、また勉強会の再開だ。
 
「EVAに乗るより勉強してる方がいいなぁ」
「碇は二親とも学者だったんだろ、基本的に頭が良いんだよ」

 おやつの時間には豪華なお菓子が出た。アンズにお菓子で餌付けされてしまったレイは、一粒数万円するチョコレートを貪っている。カカオ豆は地球の気象変動のため、超貴重品だ。合成品でないチョコレートがこれだけあるところもなかなか無い。チョコレート以外にもめったに見られないお菓子が山ほど有った。
 シンジやケンスケはおやつ前の目標が済んだため話しているが、課題が終わらないトウジはヒカリに怒られながら課題をこなしている。サクラも苦手な数学をトモヨに教わったりしている。

「そうかな」
「俺はこれと言った特徴無いし」

 変態だが、普段のケンスケは単なる眼鏡のオタクだ。
 
「そうかなぁ」
「それ以上は言うな。ところでお姉さんの勉強はどうだい」
「小学校の三年生の漢字をやってる。何回やっても忘れちゃうらしい。猫だし」
「お姉さんにそんなことを言ってはいけないわ」

 シンジの発言をヒカリが聞きつけてとんできた。

「お姉さんは普通に生まれたかったはずよ」

 先日、ヒカリの前でアンズが派手にこけ、アンズに猫耳と尻尾があることがばれた。その為シンジは、姉は生まれつき、猫耳と尻尾がある遺伝子異常で、その為普通の学校にも行けず、知能も低いと説明した。以前からそのようなことがあった場合に話すストーリーを話したところ納得した。その場は何とかなったが、若干押しつけがましい発言が多くてシンジは困っている。ヒカリの場合全くの善意で言っているだけに面倒だ。
 
「でも本人が猫好きって言っているし、猫って言われると喜ぶんだよ」
「そうかもしれないけど、それとこれとは別問題よ」
「イインチョこの問題判らん、教えてくれんかぁ」

 困っているシンジを見てトウジが助け船を出した。ヒカリはぶつくさ言いながらもトウジの元へ戻っていく。シンジはため息をついた。

ーーーーーーーーーー

 ミサトはその頃やっと二度寝から起きた。二日酔いは収まったが寝汗がひどい。シャワーを浴びに風呂に向かう。浴室内から水音がするので、アンズが使っているようだ。とりあえず顔を洗おうと、洗面所に来たところだった。浴室のドアがいきなり開いた。
 びしょ濡れのアンズが素っ裸のまま飛び出してきた。シャワーを浴びていたらしい。ただちょっと様子が変だ。派手に震えている。
 
「うえくしょん」

 派手なくしゃみと共に、鼻水が鼻からぶら下がった。
 
「どうしたの」
「修業、寒い」

 その後もくしゃみを何度もしたアンズはふらふらと座り込んでしまった。朦朧としている。触れてみると体がやたら冷たい。とりあえず部屋に運び布団を掛けると、すぐに大道寺家に電話した。常駐の医師もいるし、ここからならネルフより近い。アンズを部屋で温めていると今度はやたら体温が上がって来た。やがてシンジが常駐の医師と共に、パーカーの運転するリムジンで戻ってきた。すぐに大道寺家の屋敷に運ぶ。へたな医院より設備が整っているため好都合だ。
 
「凍死?今の日本で?」
「シャワーの浴びすぎで低体温症に成ったようですね」

 医務室の外で待たされていたシンジは、医師に呼ばれて部屋に入った。保護者であるミサトと屋敷の代表であるトモヨもだ。三人に医師が少し呆れ気味に言った。やっと意識がはっきりしてきたアンズに聞いたところ、修業で何時間もシャワーに当たっていたそうだ。それで低体温になり、風邪をひいたらしい。

「滝行をTVで見て真似したそうです」
「何でそんなことしたんだよ、姉ちゃん」
「えっと、秘密だにゃ」

 何か表情にピンときたのか、ミサトはシンジとトモヨに部屋の外に出てもらった。
 
「シンちゃんいないから訳を話して」
「えっと夢を見て……シンちゃんがお父さんのとこ行っちゃって……アンズを連れてってもらえなくて……きっと猫耳だから……修業をすれば猫耳消えるかなと思って」

 熱にうなされながら、途切れ途切れアンズが呟いた。ミサトはアンズのおでこを撫でた。
 
「大丈夫。シンちゃんはアンズちゃんを絶対置いていかないわよ」
「うん」

 少しアンズの表情が楽になった。

「先生、ここ頼みます」

 ミサトが部屋を出た。

「ミサトさんどうですか」
「ちょっと相談があるのよ」

 ミサトはシンジの耳元に口を寄せて、囁いた。少し経ってシンジは頷いた。一人で病室に入ってきた。
 
「お姉ちゃん大丈夫」
「大丈夫、いつも迷惑かけるね」

 アンズは以前ドラマでそう言った病人が慰められていたのを思い出し言ってみる。

「まったくだよ」
「え~」

 予想とは違うシンジの返しにアンズは思わず声を上げる。その時シンジの携帯が鳴った。
 
「お姉ちゃん、ちょっと待って」

 シンジは戸の方に振り返り、携帯を耳に当てた。
 
「はい、あ、父さん」

 よく聞けば、シンジの言い方が棒読みなのが判るが、アンズはそんなことは気づかない。
 
「え、一緒に住もうかだって。こっちに来ないかだって?」
「え」

 シンジの声に、まさに心配していた事だったので、アンズは目を丸くして聞き入ってしまう。

「こっちで、お姉ちゃんと暮らすからいいよ。大丈夫、楽しくやっているから、じゃ切るね」

 シンジは振り返った。
 
「お姉ちゃん、ちゃんと休むんだよ。今日はここに泊めてもらうから」
「うん」

 心なしかアンズの顔色が良くなった。
 
「僕ここにいるからお姉ちゃんは、ちゃんと寝ようね」
「うん」

 アンズは安心したのか、すぐに眠り込んだ。しばらくアンズの寝顔を見ていたが、医師にアンズを任せると部屋を出た。
 
「上手く行った?」

 ミサトは部屋の前で待っていた。

「上手く行きました。姉さん安心して寝ました」
「良かったわね」
「実際父さんとは住みたくないし」
「ま、それは別問題ね」

 ミサトは肩をすくめた。
 アンズは次の日には熱も下がり、シンジと共に葛城亭に戻った。
 
ーーーーーーーーーー

 修業といえば他にも困ったことになっている人がいた。
 
「変態の修業って」

 自室で頭を抱えているのはコノエだ。ケンスケを弟子にしたのは良いが変態をどう指導したら良いか判らない。

「カッシュ師匠は面倒になったんじゃ」

 ともかくこういう時はパーカーに相談だ。パーカーの部屋に行く。パーカーの部屋もコノエと同じように応接セットなどがある。

「あれ、どうしました?」

 パーカーは初老の白髪の陽気な男だ。軍の特殊部隊にいて、そこで得たテクニックを使い、昔は怪盗と言われた男だが、ソノミの父親に捕まって説得されて改心し、今では大道寺家の執事長兼トモヨの運転手をしている。コノエ達の手に負えない事態が起きた場合非合法活動などもする。
 
「あの、ケンスケ君の事で相談が」

 応接セットに向かい合って座る。

「あのぉ、変態ってどうやって指導したら良いでしょうか?」
「変態ですか。それは困りましたね。私の経験でも変態はありませんね。すけべなら言われたことがありますが」
「ですよね」

 コノエは極々真面目に相談しているが、内容が内容だけに笑いが混じってしまう。パーカーは口元が歪んでいる。

「変態部分に関してはケンスケ君の才能に任してはいかがですか。コノエさんはあくまで武道の師匠という事で」
「そうですよね、変態は教えられませんし……あの、もしケンスケ君が体を求めてきたらどうしたらよいでしょうか?実は私処女なので、ちょっと」
「それは困りますね、間接的にトモヨ様の思い人を取っていってしまうことになりますし。そこはきっぱり断って、トモヨ様に判断していただくしかないですね」
「でも変態ですよ。トモヨ様の初めての相手が変態なんて」

 本人達にとってはとても真面目だが、端から聞けばお馬鹿としか言えない話がずっと続いた。

ーーーーーーーーーー

「博士、修業と訓練とどう違いますか?」
「えっ、どうって言われても」

 最近ではアンズと義兄弟というか義姉妹のような関係に成りつつあるレイは、妙に修業という言葉が気になってしまった。

「初めミサトさんに聞きました。説明おばさんに聞いてと言われました」
「あら、それ誰のこと」

 相変わらずモニターを見ながらキーボードを叩いての対応だが、リツコの声が上ずっている。
 
「私も誰のことか判らなかったので聞いたところ、やあねえ、金髪の白衣の博士よ、とのことでした」

 最近はレイも空気を読むというか、恐怖心を感じるようになった。この話は何か危険な感じがした。

「あ、そ」

 やっと、リツコは振り向いた。表情はいつもと変わらない。生け贄は成功したようだ。

「修業は、そうね、精神性が高い訓練でいいんじゃないの。定義は無いわね」
「アンズさんが修業で猫耳が消せると言っていました。修業で人間に成れますか?」
「さあ、あの子は超自然的存在だからあり得るわね」

 リツコはディスプレイに顔を戻した。

「あなたは生物学工学的存在だから違うわよ」
「判ってます。単にアンズさんに興味があるだけです」
「そ、そうだ、あなたの内臓の検査結果出たわよ。便がやたら出るのは単に食べ過ぎよ」
「異常ではないのですね」
「ま、食べ過ぎには注意してね。レイが太ったら司令が泣いちゃうわよ」
「はい。気をつけます」

 レイはお辞儀をすると部屋を出て行った。

ーーーーーーーーーー

「碇アンズの正体判ったわよ」
「アンズちゃんの正体って猫又でしょ」

リフトは今日も薄暗い。ただ音が静かなのは近くの工区の工事が終わったからかもしれない。

「まあ、猫又と言えば言えるけど、正確には人と猫のハイブリッド」
「何それ」

 今日は珍しくミサトが端末で調べ物をしている。顔を上げて横を見る。

「レイに聞かれて気になって再調査したの。この前の聞き取り調査で、木之本サクラが次元を超えるとき、背中に背負っていた原形質の塊、あれじゃないかと睨んでる」
「でも、この世界に現れた時期が違うわ。アンズちゃんはセカンドインパクト直後、サクラちゃんは数ヶ月前よ」
「次元を超えたのよ、そのくらいの誤差は出るわ」
「でも、確証がない」
「アンズちゃんの遺伝子を再度調査したのだけど、ジャンク遺伝子部分に、人工的に変更が加えられたとおぼしき部分があったわ」
「それって現在でもそれこそEVAの技術を使えば可能じゃないの」
「他の証拠もあるわ」

 リツコは自分の端末に何やら打ち込んだ、画面にデーターが出る。

「遺伝子って中立的な変化が蓄積されるの。それで相対的な世代の差がわかるわ。で、木之本サクラの遺伝子と比較したわ」
「同じだった?」
「違う。およそ百万年ぐらいアンズちゃんの方が後の生まれ。木之本サクラの話だと、あの子百万年近く魔法の影響で時間が静止していたって言っていた。話もあうわ」
「私たちの遺伝子と比べたらどう?」
「やはり、百万年違う」
「そう、でその情報から何が言える?」
「特にないわ。謎は多いし。何故人と猫の姿を行き来出来るのか判らないし」
「じゃ、今まで通りね」
「それならいいけどね、レイがなついてるし」

ーーーーーーーーーー

 修業とは別の手段で能力を得た者もあった。

「セリカ様、調子はいかがですか」
「特に問題ありませんよ」

 大道寺島の自室でセリカは微笑んだ。第二新東京市にある大道寺総合病院から移ったばかりだ。別に病気に成った訳ではない。病院で脳波通信機の埋め込みの手術を行ったからだ。イオスをレディーに育てるに当たって、人間の感覚を与えてあげてはとの意見がでた。WWR内部で話し合った結果、一番レディーに相応しく、脳の状態も向いているセリカに白羽の矢が立った。手術自体にそれ程危険性は無いが、この手術をすると、セリカのプライバシーはイオスに丸見えに成る。他の世界では義理の姉妹だったかもしれないイオスの為にセリカは了承した。

「それで、お嬢様自体はどのように成られましたか?」
「世界中が見えるように成りました」

 イオスとリンクしたおかげで、TB5が得た情報は、全て見ることが出来るように成った。文字通り世界中が見えるように成った。

「ともかく、イオスさんもセリカお嬢様を真似れば立派なレディーに成るのは間違いありません」
「お嬢様などと呼ばずに、今では主従ではありませんよ」
「いえこのセバスチャン、今でもセリカお嬢様、アヤカお嬢様の執事でございます」

 セリカと話している初老の男はそう言って頭を下げた。元々栗栖川家は、中堅の精密機器の製造をする企業を持っていた名家だった。規模はそれほどでもないが、ここでしか設計製造が出来ない機器で、その分野では世界シェアをほぼ100%持っていた。だがセカンドインパクト後諏訪に持っていた工場が地震で壊滅し、そのさいセリカとアヤカだけが生き残った。一気にお嬢様から孤児に成った二人を守ったのは、この元執事長のセバスチャンだ。元々ストリートファイトに明け暮れる荒くれ者だったが、セリカ達の父親に拾われて、それからはセリカ達の最強の守護者に成った。ソノミの救いの手が差し伸べられるまで、セカンドインパクト後の混乱を拳一つで守り切った。

「そうね」

 セリカは微笑んだ。

「でも、今は同士でもあります。EUの方を頼みましたよ」
「もちろんでございます。このセバスチャンにお任せを」

 セバスチャンは頭を上げると厳つい顔をほころばせた。今はセリカやアヤカの代わりにEUで諜報活動をしている。

「ですが、今はお世話をさせていただけますか」
「ええ、お願いしますね」

 セリカも微笑んだ。

ーーーーーーーーーー

 三日後セリカの頭の包帯が取れたところでセバスチャンはEUへ戻っていった。

「さてと、姉さんの運動機能のチェックといきますか」

 大道寺島の訓練場で胴着を着たセリカとアヤカが相対していた。側には測定器のある机の前に座っているレイン、何か起きた時の場合にカッシュ、隊長のソノミもいる。
 セリカはおでこに貼ってある小さな絆創膏を剥がした。肌色のためほとんど目立たないそれの下には、小さな穴があり、ガラスのレンズが覗いていた、見た目には装飾用に埋め込んだ宝石にも見えるが、その下にはWWR製の高性能センサーが入っている。TB5に直結のセンサーにも使えるが、セリカ自身にも使える。おかげで、セリカは赤外線視野などを得ている。

「いいわ」

 セリカが言うと早速アヤカが突っかけた。他の隊員の格闘術はカッシュ仕込みだが、アヤカとセリカはセバスチャン仕込みの喧嘩殺法だ。一歩踏み込むと、いきなり半回転して右足で姉の足を払う。セリカが後ろに逃げても、もう半回転したアヤカが体勢を崩したセリカに、手業が炸裂する。アヤカの方が格闘術では遙かに上だ。大体一撃で勝負は付く。
 セリカは後ろに逃げず一歩踏み込んだ。後ろ向きに成っているアヤカの背中に腰を落とした一撃を叩き込んだ。アヤカが吹っ飛び前転で転がる、痛そうに顔をしかめつつも立ち上がり構えを取る。

「今のは、イオスが完全に予知した攻撃だったわ。動きが読める」
「そ、じゃ、予知しても避けられない攻撃はどう」

 アヤカは音も立てず間を詰めジャブを送る。飛燕の様な連打も、セリカが全て避けている。焦って前のめりになったアヤカの拳を横からはじいて、アヤカを横に向け、アヤカの豊かな乳房に横から拳を叩き込んだ。激痛にアヤカは胸を押さえて転がり回る。10秒ほどしてやっと立ち上がるが、涙目だ。

「お姉ちゃん、私は胸自慢なんだから。跡付いちゃったじゃない」

 アヤカは胴着の隙間から自分の胸に息を吹きかけている。相当痛いらしい。

「お姉ちゃんと違って彼がいないんだから、アザが付いたらどうするの」
「ごめんね、大丈夫」

 セリカはあたふたと駆け寄りアヤカの胸をのぞき込もうと顔を近づけた。いきなりアヤカの膝が顔面に向かって飛んできた。

「えっ」

 セリカは横にスライドするように動き、左手でアヤカの膝の裏をすくい上げ、右手でアヤカの顔面を掴み床にたたきつけた。ただアヤカの後頭部は素早く近寄ったカッシュによって受け止められた。

「そこまで」

 カッシュが止めるとセリカは一歩下がって離れた。

「姉さんに触れも出来ないなんて」
「筋肉や視線の動きが完全に判るの。だけど、少し危険」

 そう言うとセリカは座り込んだ。

「ちょっと休んだら説明するわ」

ーーーーーーーーーー

「周りの情報がまったく遅れなく把握できるの。おかげで体機能をフルに発揮できるけど、体力が先に尽きちゃう」

 いざという時は、指令室に成る大道寺島の建物の居間に、島にいる上級の隊員は全員集まっている。居間と言っても、小さい家ならすっぽり入りそうに広い。セリカはソファに座りお茶を啜りながら、自分の経験を説明する。

「ただ、アヤカの動きは完全に判ったわ」
「私、姉さんが格闘家というより魔法使いや仙人に思えたわ」

 アヤカは隣で肩をすくめた。

「その最中TB5のイオスの負荷は有意差はありませんでした」

 TB5にセリカ達の代わりに上っているアオイから報告があった。アオイはアヤカより一つ下で、ナデシコ学園を昨年卒業し、月の半分を大道寺コーポレーションの社員、月の半分をTB5の駐在員をしている。セリカのかわりだ。

「まあ、イオイオスの能力なら、誤差範みぃでしょうね」

 やはりお茶を啜って解説するのは、レインだ。レインは徹夜続きなどで疲れてくると、どもる時がある。

「戦っている最中、イオスちゃんの行動予測はまるで自分の考えのように感じたわ」

 セリカは、茶碗を置くとおでこを撫でた。

「私は相当頑固で我が強い方と思います」
「お姉ちゃんって外見と違って凄い頑固だよね。まっ、人のことは言えないけど」

 アヤカはアイスコーヒーを啜っている。

「そんな私でも、私とイオスちゃんの考えの区別が出来なくなるのは、この技術の危険性を表していると思います。未成年の隊員は自我の形成が終わっていないのでこの技術を使うのは危険です」
「その危険性は考えには入れてはいたけど、やはりそうなのね」

 レインはジャスミン茶を啜っている。隊員達はそれぞれお茶の好みが違う。さきほどからお茶を給仕しているのは、小型の四本足のロボット、マックスだ。簡単なAIを積んでいて、隊員達の家事を一手に引き受けている。

「じゃあ今後の方針としては、被験者の自我レベルを何らかの手段で、計測して耐えられると判断できる指標が出来るまでは、この手術は封印ね。セリカちゃんはどうする?通信機は取り出す?」
「イオスちゃんの様な素直な妹が欲しかったところですので、このままで結構です」
「あれ、私が生意気みたいじゃない」
「自覚があるのならいいんじゃないの」

 ソノミにそう言われて微笑まれて、アヤカは口をひん曲げた。

「いいもん。私は脳波通信機なんて無くても世界最強をめざすから」

ーーーーーーーーーー

 翌日、セリカの姿は富士山麓のネルフの野外実験場にあった。ここはネルフ技術部の管理下にある実験場で、EVAの装備品などを野外で試験する時などに使うところだ。WWRからレインとイクヨの師弟とTBシリーズのメカニック達、ソノミの名代としてトモヨ、ボディーガードにカッシュとトウジが来ている。カッシュはトウジをたった一人の弟子にした時から、出来るだけ場数を踏ませるため、いろいろな場所に連れて行っている。ネルフからはリツコ、マヤなど技術部のメンバー数人と作戦部と警備課の者が数人、セリカとイオスの知り合いと言うことでレイも来ている。

「それにしてもレイン、無茶な物を開発したわね。脳波通信機ってうちの被験者は発狂したわよ」
「ネルフと違って安全第一に開発した上に、被験者が精神修行ばっちりだから。ま、ネルフの限界よね」
「あ~らその割にはこの実験のパワーソース準備出来なかったようね」

 三十路理系女子の頂上決戦のような嫌みの言い合いをしているのは、リツコとレインだ。

「まあ、上手く行けば、WWRは現場での新しいパワーツールが手に入る。ネルフは脳波コントロールの細密化の技術が手に入る。一挙両得でしょ」
「そうね、こっちの準備はいいから、いつでもいいわよ」
「了解、セリカちゃんいいわよ」

 実験場の見晴らしがいい広場の中央に立ったセリカは頷いた。現場の測定係と土門夫妻とトウジ以外は側の強化プラスチックの建物に避難した。実験が失敗の場合広範囲の被害が出る可能性があるからだ。
 セリカは頷くとぶつぶつと何かを呟き始めた。TB5のイオスと通信しているらしい。測定のため黒いボディースーツを着て、上空からの誤射に対応するため防御用のツバの大きい帽子を被り、防護用の黒マントを身につけ、指輪の形の照準装置を右手中指に付けたセリカは魔法使いのお姉さんにも見える。

「エイトロン・シュート」

 セリカがそう言って、指で30mほど離れた的の中央を指さした。そこには一台の中古の小型車があった。上空よりキラキラとしたエネルギービームが照射され、小型車が輝く。ネルフが現在では使っていない静止軌道攻撃衛星月影一号機と極軌道攻撃衛星星影の三号機から発射されたエネルギービームだ。今回の実験に最適なため廃物利用をさせてもらった。
 エネルギービームが小型車を組み替えていく。それは人型のロボットの様な形に変わっていく。30秒ほどでセリカと同じぐらいの身長のアンドロイドに成った。姿は驚くほどアヤカに似ている。セリカが一番見ている人間だからかもしれない。ただ両耳の上にアンテナの様な物を付けている。アンドロイドはできあがってからは動かずただ立っている。

「第一段階成功っと」

 レインは測定器のデーターを見つつ呟いた。

「じゃセリカちゃん、動かしてみて」

 セリカは頷くと脳波通信機で、アンドロイドに指令を送った。アンドロイドは側にあった国連軍払い下げの中古装甲車に近づいた。下に潜り込むとあっけなく持ち上げた。今度はゆっくり下ろす。

「じゃあ装甲車に人が閉じ込められたと仮定して、救助行動してみて」

 アンドロイドは装甲車の装甲に貫手を放った。簡単に手首まで埋まる。そこから装甲をひん曲げて、穴を大きくしていく。

「それにしても無茶な物を開発したわね、レイン。エネルギービームでスクラップを再構成、脳波コントロール型のアンドロイドを現場で作るなんて。でもあれもたないでしょ」
「まあね、無理矢理結合させているから、5分ぐらいでおじゃん」

 レインの予想通り、5分と13秒でアンドロイドは自然分解し砂状の堆積物に変わった。

「セリカちゃん、ご苦労様」

 測定器から離れてレインはセリカに近づいていく。

「ところで、あのアンドロイドの名前は?なぜエイトロン?」
「私の分身、私はTBシリーズ8人目のパイロットだから、それでエイトロン」
「なるほどね、ま、セリカちゃんが作ったからセリオあたりもいいかな」
「レインさん、センスないです」
「う」
「こいつは昔からセンス無いんだ。いて」

 近づいてきて減らず口を叩いたカッシュの足をレインが踏んづけていた。

「ほんま、師匠は尻にひかれてるなぁ」
「うるさいトウジ、こいつの尻はデカくて潰される、いて」

 今度はレインが持っていた工具で思い切り腹を殴られて、カッシュはうずくまった。何故か昔から妻の一撃だけは食らってしまう拳法の達人だった。

ーーーーーーーーーー

「へ~それってシンクロみたいな物?」
「EVAのシンクロとは少し原理が違うみたい」

 翌日は休みだったので、朝食を食べにレイが葛城家に来ている。最近は振りかけにもはまっている。レイが白米にはまっていると聞きつけたソノミが、レイに日本の各地に残る、郷土品のふりかけ詰め合わせを送ったところ、またまたはまってしまった。今日は貴重品の鰹のそぼろを振りかけて食べている。魚系のふりかけなので、アンズにもお裾分けしている。また、友好関係は食べ物からというわけか、葛城家には大道寺家から、美味しい物、美味しい酒がお土産でよく届く。その為か心情的にはミサトは随分WWRに好意的に成っている。

「あまり、EVAとは関係ない」
「そっかぁ」
「シンちゃん、何の話をしてるの」
「ネルフでのお仕事の話」
「ふ~ん」

 アンズはそれほどは興味が無いらしく、それ以上は聞かなかった。レイのふりかけのうち、鯛そぼろを勝手にご飯にかけて食べ始めた。今日はまた徹夜仕事だったミサトはまだ寝ている。

「そう言えばお姉ちゃんは修業はやめたの?」
「うん」

 嬉しそうにアンズは答えた。

ーーーーーーーーーー

 穏やかな休日を楽しんでいる者もいれば、そうでない者もいる。
 よほどこの銀行とは相性が悪いのだろう。その日の午後トモヨは、以前銀行強盗にあった銀行を訪れていた。預金をどうしようか考えていたところ、銀行よりセキュリティーと金庫を新しくしたので、預金の引き上げは待って欲しいとの連絡があった。その為訪問して確かめることにした。お供はケンスケ一人だ。ポケットにはパンティーも入っているので、何かあっても大丈夫だろうというコノエの判断からだ。ただ移動にはパーカーが運転するリムジンを使用した。パーカーはリムジンで待機している。
 交代と成った銀行の支店長の案内で、支店内のセキュリティーの改善点などを見て回った。問題は無さそうだったので預金の引き上げは無いと支店長に告げると、支店長はほっとした表情を隠さなかった。大道寺家の預金額など取引額は洒落に成らない額だからだ。
 一休みした後、新型の金庫室の案内と成った。特殊合金製のその金庫はWWRやネルフでも穴を開けるのに一日はかかると説明され、トモヨは思わず苦笑いをした。秘書兼ボディーガード兼オタク友達として来ているケンスケもだ。

「実際入ってみましょう」

 支店長とその秘書、トモヨとケンスケで金庫室の中に入った。鰻の寝床のように細長いが、しっかりとした作りだ。目に付いた点をトモヨが質問していく。その為結構時間がかかった。

「あれ?変な音」

 金庫室の一番奥のあたりで説明を受けていたケンスケは、入り口から聞こえる異音に気がついた。

「あっ」

 金庫室の入り口が閉まっていく。ケンスケは室内にあった椅子を掴んで、入り口に走った。戸に椅子を挟み込もうとしたが、その前に戸は完全に閉まった。

「閉じ込めてやったぞ、大道寺トモヨお前のせいで……」

 スピーカーから調子の外れた、何か背筋の冷たくなるような響きの声が響いてきた。

「あれは前支店長の声です。この前の事件の責任をとって当行をやめています」

 支店長の顔色が青くなった。

「やめた?」

 良家のお嬢様そのもののトモヨだが、このような時はぞっとするような冷たい声がする。支店長の体に軽く震えが来た。

「いえ、事実上の解雇です」
「逆恨みですね。金庫は内側から開きますか?」
「無理です。それに空気は30分すると、強制排気され気圧が0.1気圧まで下がります」
「落ち着いて、きっと外でパーカーが気がついていますから」

 その通りだった。一流には独特の直感という物がある。執事としても諜報員としても一流ならなおさらだ。そのころ駐車場のリムジンで待っていたパーカーだが、何か胸騒ぎがした。銀行の玄関から入っていく。何か変な匂いがした

「あらま」

 行員が三人ほど入り口ロビーで倒れていた。パーカーはポケットから簡易ガスマスクを取り出し付けた。水中眼鏡みたいなグラスもかける。赤外線で熱源も見え、周囲の大気組成も計れる優れものだ。行員の様子を見てとりあえず命に別状は無いようなので放っておく。空気中のガス濃度も高くないのでマスクは外した。
 耳をこらすと狂った様な笑い声がするため、そちらに忍び足で近寄っていく。金庫の管理室に来た。そこではよれよれの背広を着た中年男が、モニターに映るトモヨ達を罵っていた。
 パーカーは男の後ろに近寄ると指輪を首筋に当てた。WWR特製の気絶装置だ。暴れて助けにくい遭難者などを気絶させるために開発されたため、気絶はさせても全く後遺症はない。モニターには支店長と秘書、トモヨが床に転がっているのが見えた。

「ケンスケ様、どうされました、トモヨ様は?」
 
 唯一ケンスケだけが目を覚ましていて、カメラを見ていた。

「金庫に閉じ込められた。もう空気がない。三人は酸欠で倒れた。僕もそろそろ危ない」
「この金庫はわたくしでも1時間はかかります。本隊を呼びますので、お気を確かに」
「頼む、パーカーさん」

 ケンスケも座り込んでしまった。意識も途切れ途切れだ。

「WWR、聞こえますか。こちらパーカー」

 TB5を通じて大道寺島および大道寺家に連絡が入ったが、いまTBシリーズも隊員もほとんど出払っていた。かわりに1.2リッターのモンスターバイクに乗ったカッシュとトウジが五分でやってきた。この二人しか屋敷にいなかった。

「カッシュ様」
「ようは、この金庫の扉をぶち抜けばいいんだな、ケンスケ、起きろ」

 カッシュの声に意識が飛びかかっているケンスケが、目を覚ました。

「いま、この戸をぶち破る。この戸の前から三人をどけろ」
「はい」

 ケンスケは何とか全員を運んだ後、自分も気絶した。

「トウジ、これから最終奥義を放つ、よく見ておけ」
「はい、師匠」

 トウジは一歩下がってカッシュを見ている。手にはパーカーから渡された酸素ボンベを持っている。

「我が流派、東方不敗は最終奥義」

 カッシュは腰を落として構えた。右手を前を払うように動かし、気をためていく。トウジには師匠の拳が輝いて見えた。

「石破天驚拳!!」

 放たれた突きは一見普通の突きだが、威力は凄まじく、幅1mはある巨人の拳で叩かれたような大穴が特殊合金の扉に開き貫通した。えぐれた部分は金庫室の奥の壁にぶち当たった。パーカーは自分も酸欠に成らぬように気をつけつつ扉の中に飛び込み、素早くトモヨの鼻と口に酸素マスクを当てた。

「いまのは」

 トウジは唖然として、その大穴を見ていた。

「東方不敗流の最終奥義、石破天驚拳。この世に破れぬ物は無し」
「石破天驚拳」
「何をぼけっとしている、早く助けてこい」

 言われてトウジは慌てて大穴から飛び込んでいった。

ーーーーーーーーーー

 酸欠で倒れたトモヨとケンスケ、行員達は第二新東京市の大道寺総合病院に入院と成った。念のためNMRやCTなどで脳障害などが起きてないか検査したが問題は無かった。カッシュとトウジは二人を見舞った後、病室を後にした。長い廊下を歩いて行く。

「トウジ」
「はい、師匠」
「昨日見せた技は、東方不敗流の奥義だ」
「わいにも出来ますか」
「出来る、だがなトウジ」

 カッシュは振り返った。

「強い力は、それだけでは駄目なんだ」
「使い方ですか」
「まあそうなんだが、少し違う、簡単に言うと、愛なんだけどな」

 言っていて恥ずかしいのか、カッシュは鼻をかいた。また前を向いた。

「それが判ったのは俺も随分経ってからだからな、お」

 廊下の向こうからヒカリが歩いてくるのが見えた。

「ま、とりあえずクラスメイトには、優しくだ。ヒカリちゃんを案内してやれ」
「はい、師匠」

 トウジは早歩きで廊下の向こうのヒカリの方に向かった。

「愛ですよね、師匠」

 カッシュは呟くと、病室に戻っていった。

ーーーーーーーーーー

「さてと、日本に行く用意をしようかな」

 その頃、ネルフの関係施設で眼鏡の少女は呟いた。その部屋は現在の自室だが、机とベッドとビルトインのクローゼットがあるだけの簡素な部屋だ。

「それにしても、花の乙女に密入国しろってめちゃくちゃよね。ただでさえ美少女は目立つんだから」

 少女は机にある日本のアニメ雑誌をめくる。

「日本のアニメってメガネっ娘が人気あったりするから、私ももてちゃったりして、そしたら目立っちゃって、ま、現実とアニメは違うわよね」

 少女は雑誌を大きなくずかごに投げ入れた。

一方地球の反対側では、一人の少女が夢の国にいた。いつもは華やかと言うよりは騒がしい美貌の持ち主の少女だが、今は年相応と言える、幼さも見える寝顔で寝言を呟いていた。




次回予告

変態に始まり美少女で締めるという無理やりな外伝は終わった
。だがやっぱり題名と内容がミスマッチなのは作者が歳だからだろうか。
レイとアンズばかり仲良くなっているがシンジはどうなるのか。
次回「EVAザクラ新劇場版 破」
さぁて、この次もサービス、サービス!




[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第一話
Name: まっこう◆564dcdfc ID:4098afbe
Date: 2020/06/01 21:04
サンダーバードare go シーズン3放送記念という事で。

---------------------------------------------------------

 シンジは来るたびに砂漠のサボテンを思い出す。山の中腹のその墓地に、点々と続く墓標は、セカンドインパクトやその後の動乱で亡くなった者達の物だ。シンジの母親である碇ユイの墓もここにある。前までは、月の初めに墓参りに来ていた。父親と折り合いが悪くなってからは訪れなくなった。

「三年ぶりだな、二人でここに来るのは」
「僕は、あの時逃げ出して……その後来ていない。ここに母さんが」
「シンちゃんのお父さんですか」
「あ、ああ」
「わたくし、アンズと申す者です」

 親子三人の感動の再会をぶち壊したアンズは、ゲンドウに挨拶をした。アンズも緊張しているのか言葉遣いが変だ。

「シンちゃんのお父さんだから、私のお父さん?かな?」
「ああ、そうだな」
「では、お父さん初めまして、今シンちゃんのお姉さんをやっています。シンちゃんのお世話はこのアンズがしていますから安心してください」
「そうか、よろしく頼む、シンジまた来月ここで会おう」
「わかったよ、父さん」




EVAザクラ 新劇場版

破 第一話

来日




「え~と、改めまして、アンズです。いまシンちゃんのお姉ちゃんやってます」
 ゲンドウは帰ってしまったが、アンズの墓参りはまだ終わってない。ユイへの報告が終わってない。

「シンちゃんはこのアンズお姉ちゃんが任されました。ええとユイさん。安心してください」

 アンズはユイの墓標を拝むと、今度は持ってきたタオルで綺麗に拭き始めた。なんとなくアンズのペースに呑まれて固まっていたシンジも、同じくタオルで拭き始めた。砂で汚れた墓標も綺麗になった。アンズはもう一度墓標に手を合わせた。

「私、猫なんで、結構強いんです。狩りの仕方も知ってます。シンちゃんがEVAで狩りをするのを教えたりも出来ます。だからアンズにお任せです」

 一応姉を立てたということか、シンジはアンズの後ろで同じように手を合わせた。墓参りが終わった所で、二人は墓地の入り口に向かって歩いて行く。

「シンちゃんはユイさんの事を覚えてる?」
「覚えてる。少しだけ」
「お姉ちゃんはお父さんやお母さん覚えてる?」
「覚えて無い。お姉ちゃんのお父さんとお母さんは、お父さんとお母さんだから」

 アンズはシンジの顔をのぞき込むように小首をかしげて笑った。

「そうだね」

 シンジもつられて微笑んだ。無駄話をしながら墓地の入り口まで来ると、ミサトが愛車で待っていた。

「どうだった?」
「姉さんが乱入したせいでちょっとうやむやになったけど、来月もここで一緒に墓参りすることになりました」
「そ、よかったじゃない。アンズちゃんご苦労様。さすがお姉ちゃんね」
「アンズにお任せです」

 褒められて鼻高々のアンズだった。

「じゃ、帰ろうか」




 ミサトの運転で岬の海岸線にそった道を車は走っていく。車からは赤い海が見える。ミサトは海の照り返しがまぶしいのか、少し色の付いたサングラスを付けている。

「ミサトさんは、青い海を見たことがあるんですよね」
「有るわよ。昔は海水浴なんて普通にしていたんだから」

 しばしミサトの昔話になった。しばらくしていると車の無線のアラームが鳴った。

「はい。葛城」

 ミサトが返事をしたところだった。遠くから戦闘車両かはたまた、戦艦かともかくそんな物の一部分がとんできて行く手を塞いだ。

「うわぁ~」

 一応可愛く悲鳴なんかを上げつつも的確なハンドル操作にアクセルワークでミサトは車で躱した。

「シンちゃん、頭下げて」

 どんな時でもシンジを守る。それがアンズの生きる道。最近アンズはミサトにともかくシンジを守る方法を習っている。車に乗る時はシンジはミサトの後ろで、アンズは隣。何かあったら頭を下げさして覆い被さること。それを叩き込まれた。アンズ自体は、普通の人間の五倍ぐらいの速度で傷が治るし、皮膚や骨格の柔軟性もやはり人間の比では無い。何よりシンジが大好きだ。盾になることは望んでやっている。

「やば」

 だが今度は道より大きい、戦艦の一部が飛んできた。少し離れた岬で使徒と国連軍が戦闘中で、破壊された戦艦らしい。

「ありゃ」

 その戦艦の一部が何か見えない壁のような物に当たって下にそれた。ただ直撃は避けられたが戦艦の残骸は行く手を遮った形で道を塞いだ。ミサトは慌てて急ブレーキをかけた。

「にゃ」
「わ」
「ほぇ」

 後部座席から、声が上がったのは当然としても、だれもいないはずの助手席からも声が上がった。ミサトが手を伸ばすと、見えないが何かいる。

「出てきて」

 ミサトの声と共に、魔法の杖を持ったサクラの姿が現れた。

「今のあなた?」
「はい。だけどもう今日は力が残っていない」

 サクラはぐったりと助手席にもたれかかる。顔は脂汗で一杯で、顔色も悪い。シンジとゲンドウが会うというので心配で黙って着いてきた。

「ともかくありがとう。おかげでみんな無事」

 ミサトはサクラの頭を撫でた。

「シンちゃん、アンズちゃん、足下の緊急用のシートをとって頭から被って、防弾、防刃、防炎の優れものよ、サクラちゃんも」
「はい。あれ、なんで木之本さんが」
「彼女はWWRの特殊隊員、ちょっとした特殊技能と装備があるの。説明はあと。ともかくシートを被る。サクラちゃんも足下の箱のシートを被って」
「はい」

 三人ともシートを取り出すと頭から被った。ミサトはまた無線に怒鳴りだした。ただ使徒のせいか無線が繋がりにくい。ミサトが悪戦苦闘していると、なぜか頭の上の方から声がした。

「ミサトさん、大丈夫ですか」

 ミサトが慌てて窓から顔を出し上を見ると全長十五メートルほどの三角翼のVTOLが浮かんでいた。鉛筆のように細い胴体の後ろに小さい三角翼、その両端にエンジンが一つずつ着いている。垂直尾翼はループ状で、着陸用のギアは物がつかめる構造の足のような物が三本出ている。大きな鳥に見えなくもない。まるで八咫烏だ。ステルス性能はとても高そうだ。ほんの五十メートルほど上空に浮かんでいるのに、エンジン音はほとんどしない。よほど優秀な消音機能があるらしい。

「あっTBニンジャ、パイロットはだれ?」
「洞木ヒカリです」
「わいもいるで」

 WWRの隠密行動、諜報活動用の新しい機体だ。元々トウジがパイロットになる予定だったが、実は機械全般と相性が悪いというかセンスがない事が検査で判明したためパイロットの人選が難航した。丁度その頃、トウジがWWRの隊員である事がヒカリにばれた。災害などが起きる度にいなくなるトウジを不思議に思ったヒカリが、乙女の執念で調べたところ、TB1にコノエと乗り込むところを目撃した。そこでトモヨに確認するため屋敷を訪れた。ちょうどソノミがいたため、そこでスカウトされた。元々カッシュに拳法を習っている者は、屋敷で体力測定や健康診断をすることになっている。その測定の中にはパイロットの適性等の調査も忍び込ませてある。ヒカリは対加速度、反射速度、その他のパイロットとしての適性が高い事がわかっていた。あとはやる気だ。もっともトウジと一緒にWWRの隊員をやれると言うことで一も二もなく承知した。それにヒカリの実家の魚屋も中々商売が厳しい。出動手当てが出るのも魅力だ。そんな訳でヒカリはTBNのパイロットに採用された。TBNの操縦系は高度に人工知能化されているため、一ヶ月程の訓練でそれなりに操縦出来るようになった。TBNは元々一人乗りだが、操縦席の後ろに救助した人を乗せたり、物資を乗せるスペースがある。トウジはそこに乗っている。現場に着いたら、TBNのコントロールはヒカリが、実際の救助や諜報活動はトウジがすることになった。TBN自体の情報はミサトは知っていたが、パイロットは知らなかったようだ。

「丁度良かった。シンジ君をネルフ本部に運んでくれない」
「わかりました」

 今度はヒカリの声はミサトの車の無線から聞こえた。TBNの人工知能かTB5のイオスが少しの間にミサトの無線の暗号を解読して割り込んだようだ。

「車ごと運ぶとマッハ0.3ですが、ひとりだけならマッハ5出ます」
「車をこの瓦礫の向こうに運んでくれない。その後シンジ君だけ運んで。行き先はTB5経由で伝えるわ」
「了解です」

 TBNはゆっくり降下した。10メートルほどに近づくといきなりジェットエンジンの排気音と噴射ガスが車に吹き付けた。ただし噴射ガスは熱くないし、いやな臭いもしない。TBメカの目的はあくまで災害救助だ。TBNのステルス機能もそのためだ。他のTBシリーズに比べれば小型なTBNは極せまい場所に着陸し、人々を救助する役目も持っている。そのため、エンジン低出力時は空気を噴射するらしい。やがてTBNの下面より四機のドローンが細いワイヤーを引っ張りつつ現れた。ミサトの車の下に四方から入り込み、そこで連結した。

「持ち上げます。窓を閉めて下さい。耳も塞いで」

 ミサトは慌てて窓を閉めた。

「みんな耳を手で塞いで」

 シンジとアンズ、サクラ、ミサトは手で耳を塞いだ。いきなり轟音があたりを包んだ。さすがに車を持ち上げるとなるとステルスモードでは無理らしい。ただ、小型とは言えTBメカだ。あっさりミサトの愛車が持ち上がった。すぐに戦艦の残骸の向こうに移動した。ミサトたちの車を下ろすと、車の下で連結していたドローンが外れて、TBNの下面に戻り収納された。TBNもミサトの車の向こうに三本のランニングギアを使い着陸する。着陸と言ってもランニングギアを2メートルほどに伸ばした状態だ。すると直ぐにキャノピー部分が外れて下がり、下部の車輪が道路に着いた。キャノピー部分は密閉された二輪オートバイになっている。よほど優秀なバランサーが内蔵されているらしく。停止した状態だが、二輪だけで立っている。そのキャノピー部分がスライドすると後部の資材置き場兼助手席からトウジが降りてきた。ミサトの車に近寄ってくる。後部座席のまどを叩いた。

「碇、交代や。いいんちょが運んでくれる」

 トウジは珍しくWWRの隊員服を着ている。

「シンジ君、TBNで運んでもらって」
「はい」

 防弾防刃シートから出たシンジは後部ドアから出た。

「アンズも行く」

 アンズは猫の姿になるとシンジの頭の上に飛び乗った。シンジは小走りにTBNからはずれたバイクに向かう。後部座席に乗った。バイクは直ぐにTBNの中に吸い上げられた。すぐさまTBNのエンジン音が響き垂直に上昇すると、一気に加速してジオフロントの入口に向かって加速していき直ぐに見えなくなった。
「トウジ君乗って」

 トウジが後部座席に乗ると、ミサトの愛車もフル加速で道を進んでいった。少し進むと電波障害が弱くなり本部と連絡がつながった。ミサトはがなりながら車を走らせている。ミサトの愛車は一見普通のクーペだが、ネルフの技術がふんだんに使われている。細い湾岸の高速道路を時速二百キロメートル以上で爆走している。そして現場に少しずつ近づくにつれて、やっと使徒が見え始めた。

「こっちも使徒を肉眼で確認したわ、現在TBNに初号機パイロットを輸送依頼中。まずは零号機優先のTASK-03を、直ちに発動させて、初号機をバックアップ、え?TASK-02を実行してるの。まさか」

 ミサトは使徒との戦闘領域を向くと、サングラスの根元のスイッチをいれた。サングラスには方位などの情報が、情景と重ねて表示された。

「拡大」

 音声コマンドで、サングラスは双眼鏡になった。後は脳波を読み取って勝手に倍率を合わせてくれる。使徒の上空の輸送機から赤い塊が落ちてくるのが見えた。

「やはり弐号機」

 輸送機から落ちてきたのは目が六つある深紅のエヴァンゲリオンだった。EVAに続いて、輸送機からボウガンのような武器が射出された。弐号機はボウガンを取ろうといたが、使徒から漆黒の触手のような物で攻撃され直ぐには取れなかった。次々と黒い触手が弐号機を襲うが、背中のジェット推進や、ATフィールドの反発を使い、かわしていく。使徒と輸送機の中間あたりで弐号機はボウガンを掴んだ。弐号機はボウガンを発射する。弐号機のATフィールドを引き延ばすように紐状に絡みつけたまま矢は使徒の赤いコアを貫いた。使徒は崩壊していく。

「ん?」

 ミサトは使徒と道路を交互に見ながら爆走している。

「何か変」

 ミサトのつぶやきがトリガーになった訳ではないが、分解されかかった使徒が再結合し形状を変えた。もっとも弐号機はそれを予期していたらしい。空中で体勢を修正するとボウガンを連射する。但しこんどの矢は全て使徒のATFに防がれた。空中で武器を捨てた弐号機は足から使徒のコアに向かって突進した。踵の先からスパイクが延びる。そしてそのスパイクと使徒のATFが激突した。一瞬弐号機は跳び蹴りの体勢で空中で止まったが、すぐに使徒のATFを突破し弐号機より大きい使徒のコアに足から突っ込んだ。一瞬にしてコアを貫通して血とも油ともつかない液体にまみれた弐号機は直ぐ側の港の堤防に着地した。

「うわぁ」

 丁度現場に到着したミサトの車は弐号機の着地の衝撃で吹き飛ばされ、側に待機していた零号機の足下に当たって止まった。




「弐号機って赤いんだ」

 トレーラーに横たえられた弐号機を眺めつつ、ケンスケが呟いた。一応、作戦行動があった岬は一般人は入れないのだが、ネルフと協定を結んでいるWWRの隊員は入れるらしい。EVAパイロットにWWRの隊員、または碇シンジと愉快な仲間達が集まっていた。使徒戦の後はいろいろ人命救助があり忙しいのでTBメカのパイロットはいないが、トモヨやケンスケはネルフの行動の調査も仕事と言えるため、FAB-1に乗って現場に来ている。もっともケンスケの場合メカが好きと言う事もある。ビデオで盛んに弐号機を映している。外形なら極秘事項などにはならないらしい。

「違うのはカラーリングだけじゃないわ」

 上の方から声がした。みんな上を見上げる。トレーラーの上に横たえられた弐号機の上に赤い少女が立っていた。正確に言えば赤みがかった金髪の少女が赤いプラグスーツを着て立っていた。腰に手を当て見下ろしている。

「所詮零号機と初号機は、開発過程のプロトタイプとテストタイプ。けど、この弐号機は違う。これこそ実戦用につくられた世界初の本物のエヴァンゲリオンなのよ。正式タ」

 少女は言葉を続けたかったが、自分めがけて下から跳ね上がってくる物を見て言葉が詰まった。

「うわぁ。可愛い」

 人間とは思えない跳躍力で弐号機の上を跳ね飛んで少女に飛びついたのはアンズだ。金髪碧眼に赤いプラグスーツが凄く気に入ったらしい。飛びついて頬ずりをしている。

「うわぁわぁわぁ、何よこれ~~」

 少女はアンズから逃れようとするがそこは五人力の化け猫だ。とてもじゃないが離れない。その様子を見てミサトは苦笑いだ。

「アンズちゃんは可愛い物が好きなのよぉ。良かったじゃ無い可愛いと認められて」

 ミサトは苦笑いして、シンジ達の方をむいた。

「紹介するわ。ユーロ空軍のエース、式波・アスカ・ラングレー大尉。第二の少女。エヴァ弐号機担当パイロットよ」
「紹介はいいからミサト何とかしてぇ」

 アンズはまだ頬ずりをしていた。




「ねえねえレイちゃん、アスカちゃんって可愛いね」
「そうね」

 アンズは相当アスカが気に入ったらしい。レイとシンジと共にFAB-1に便乗させて貰って帰る途中ずっとその話をしていた。

「昔近所に住んでいたタマちゃんを思い出すの。その子も赤っぽい毛に青い瞳だったにゃ」
「その方もハーフだったのですか?」

 FAB-1は大型のリムジンだ。後部座席は広い。シンジはレイとアンズの間に座り、トモヨとサクラが向かい合って座っている。運転はいつものようにパーカーだが助手席はケンスケだ。いつもは護衛兼メイドのコノエがいるが今日はいない。

「アビシニアンだよ。私と町内一の美猫を争ってたの」

 しばらくタマの話が続いた。レイをマンションの前で下ろした後もずっと話が続いた。




 今のアスカの頭の中を表すとしたら大量のクエスチョンマークだ。何故か豪邸のダンスホールのように広い食堂で、赤いイブニングドレス姿で手にグラスを持っている。ドイツにいた時はビールだったが今はコーラだ。周りを見渡すと、ネルフとWWRの関係者が似たような格好で飲み物を飲んだりごちそうを摘まんだりしている。ようは立食パーティーだ。EVA出撃の後の検査などが終わったところでミサトに歓迎会をやるからと言われた。面倒だとも思ったがネルフの日本のメンバーなどを早めに知っておいて悪くは無いと思ったので了承した。ジオフロントから上の町に上がり、指定された駅前のロータリーで待っていると、目の前に大型のトレーラートラックが止まった。色はピンクで側面の隅に「大道寺トイズコーポレーション」とある。トレーラートラックの後ろが開くと中からメイド服姿の女性が三人出てきた。そのうちの一人はリーダーらしく、メイドにしては精悍で視線がきつい美人だ。

「式波様、わが主、大道寺トモヨ様の命によりお迎えに上がりました。無骨なトレーラーですが中は広々としておりますのでお乗りください」
「はい?」
「さあどうぞ」

 流石のアスカもどうしたもんやらと突っ立っているとメイドの一人がアスカの手荷物を手に取った。重要書類なども入っているのでしっかりともっていたはずだったが、何故かメイドの手に移っている。

「さあどうぞ、さあどうぞ」

 拉致というわけでは無いのだが、あっという間にトレーラーの中にアスカは連れ込まれた。ここでもびっくりした。トレーラーの内装は豪華な家具がそろっており、そのままここに住めそうだった。トレーラーの後部の扉が上がった。

「では屋敷へご案内いたします」

 こうなったらジタバタしてもしょうがないとソファに座ると、もう立ち上がるのが面倒なぐらい良い座り心地だった。微かなショックがあったのはトレーラートラックが動き出したせいだ。

「お飲み物は何がよろしいでしょうか?」
「afri cola」

 ドイツのコーラだ。

「はい。お待ちください」
「えっ、あるの?」
「はい。お客様のご要望にお応えするのがメイド隊の仕事ですので」
「メイド隊?何それ」
「はい。式波様はWWRは大道寺家が運営しているのはご存じですか?」
「加地さんに渡された資料に載っていたわ」

 リーダーのコノエが対応する間にもう一人のメイドがコーラを持ってきた。

「どうぞ」

 瓶からそのまま飲むのが好きなアスカの為に、栓を開けずに栓抜きと共にアスカの前のローテーブルに置いた。メイドはお辞儀をして下がっていく。

「じゃ頂きます」

 瓶を手に取るとよく冷えている。栓を開けると一気飲みした。

「ご馳走様、もう一本ある?」
「はい。ございます」

 コノエが答えている間にもう一本が用意されていた。今度はコップと共にだ。

「二本目はコップって良く判ったわね」
「はい。メイド隊の調査部は優秀ですので」
「そのメイド隊ってなあに」
「はい。先ほども説明させて頂きましたがWWRは大道寺家の運営となっております。ですが一応秘密組織です」
「公然の秘密って奴ね」
「はい。その為表立って活動する為の組織として大道寺家のメイド隊が結成されました。実際WWRの隊員は大道寺家でメイドや執事をしている者も多くカバーとしては最適なのです。ちなみにメイド隊は俗称で、正確には大道寺家使用人互助会です」
「ふーん」
「式波様、ところで本日のパーティーのお召し物ですが」

 もう一人のメイドがローテーブルのサイドを操作すると、ローテーブルの表面がディスプレイに変わった。赤を基調にしたドレスが何着も表示された。

「本日のパーティーのお召し物を勝手ながら用意させて頂きました」
「はぁ」

 アスカが見ても高そうな豪華なドレスが並んでいる。その視線を察したらしい。コノエが微笑みながら言った。

「お客様に綺麗なお召し物を着て頂くのはわが主の趣味ですので、お気になさらずにお選びください」
「でも高そう」
「お客様からお代などいただけません。これはわが主のポケットマネーから出ております。隊長はアジアで四番目のお金持ちですのでお気になさらず」
「そうなの。じゃ選ぼうかな」

 ローテーブルのデイスプレイを操作していくつかドレスをピックアップしそれを並べて比べた。赤いドレスで気に入った物が見つかった。

「じゃこれ」
「お履き物も用意させて頂きましたが」

 そんなこんなで屋敷に着くと、ソノミ直々のお出迎えがあった後、アスカ専用の控え室に通された。そこで衣装担当のメイドの手伝いで、上から下まで赤を基調としたドレスや宝飾具に彩られたアスカの出来上がりだ。髪飾りやネックレスのルビーは家が数軒買えるような代物だ。そして今グラスを持って会場に立っている。横にはアスカ専属のメイドも控えている。立食パーティーも政治家の資金集めのそれとは違い、ありとあらゆる山海の美味珍味が揃っている。

「ようアスカ」
「加持さん」

 向こうから無精ひげにスーツを着崩した加持がやってきた。

「楽しんでるかい?」
「何が何だかって感じ。ところで依怙贔屓と七光りはどこ?」
「レイとシンジ君か。あっちにいたな」

 加持が指さす方向にレイとシンジがいた。当然のようにアンズもいる。レイはアンズの好きな白と黒を基調にしたゴシックロリータ風の衣裳を着ている。アンズは猫の姿でレイの手に抱かれて、衣裳の一部となっている。寝ているようだ。シンジはスーツ姿だが着慣れていないようで似合っていない。辺りにはWWRの隊員達も着飾ってパーティーに参加している。最小限の警備の者、食事の用意をする者以外は今日のパーティーに参加している。ネルフからも各部門の代表者が一人ずつ来ている。加持やミサト、リツコ、冬月もいる。今日はネルフとWWRの親睦会も兼ねている。自然とそれぞれの機関の似たような業務をしているどうしで集まって話になっている。冬月はソノミと話しているし、ミサトはマリエルと、リツコはレインと話している。第壱中の在学生も集まっている。
 アスカはシンジの方に向かっていく。近くまで来ると、上から下まで値踏みするようにジロジロ見る。

「何か冴えないわね、七光り」
「え、あ、僕」
「そうよ、大体EVAパイロットが現場にいないって何よ?」
「そう言われても」

 シンジが言いよどんだので畳みかけようとしたときだった。

「あ。アスカちゃんだあ」

 レイの近くから声がすると白い塊がアスカに飛びついて、頭に乗った。

「わ、なによ」
「凄いサラサラ。素敵なかみのけだにゃ」

 アンズがアスカの頭に乗って、しがみついていた。

「離れなさいよ、この化け猫」
「だってこんな座り心地がいい髪の毛ないにゃ」

 アスカがじたばたしていると、ビールのグラスを片手にミサトがやってきた。

「仲良くしなさいよ、一緒に住むんだから」
「えーなにそれ」
「アスカとシンジ君は私の直属の部下だから、一緒に住んで、コミュニケーションをとるようにするの。アンズちゃんはシンジ君のお姉さんだしボディーガードだし一緒よ」
「そんな事聞いてない。離れろー」




 そんなドタバタをモニターしていたTB5のAIのイオスが呟いた。
「バカばっか」




 翌日の夜、葛城亭のダイニングキッチンのテーブルは料理と酒が大量に並んでいた。酒好き宴会好きのミサトが、葛城家での歓迎会を開こうと言ったためだ。一部はシンジが作ったが、ほとんどミサトが買ってきた。パーティーと言う事で、それぞれの好物が目の前には置いてある。アンズの目の前には合成では無い本物の魚だ。魚洞の女主人が苦労して入手した鮎や岩魚、河豚などだ。海は赤くなってしまったが、淡水魚は採れるところはある。とは言っても世界中の気候が変わってしまったため、淡水魚もほとんどの場所で漁は出来ないし、出来たとしてもごく少数の漁師しか許されない。河豚等の海水魚、汽水魚は陸上養殖だ。その為、合成で無い魚はとても値段が高い。だが一応葛城家は全員働いてそれなりに裕福だ。ミサトは超国家機関の現場監督だし、アスカはユーロ空軍の大尉だし、シンジもEVAの搭乗手当はしっかりと貰っている。アンズでさえもシンジのボディーガードという名目でネルフの臨時雇いの名簿に乗っている。ともかく、それなりの収入はあるのでパーティーなどはそれなりに豪華に出来る。アンズは魚だが、アスカは肉だ。今でもかろうじてブランドが残っている神戸牛のいちばんいいところ1kgが目の前にある。日本に来たらまず食べたかったそうだ。ミサトの前にはアスカのみやげのドイツのビールと餃子専門店のお取り寄せ餃子が山と積まれている。シンジの前には旧東京の有名割烹の豪華幕の内弁当と寿司だ。昨日の大道寺家のパーティーで食べて美味しかったので、また今度食べたいと学校で漏らしたのをサクラが聞きつけ、大道寺家経由で今日届いた物だ。大道寺家からの贈り物は遠慮しても仕方が無いのでありがたくいただく事にしている。

「それでは、アスカの来日を祝って乾杯」
「「「「「「「「「乾杯」」」」」」」」」

 ミサトはジョッキのビールを一気に空けた。アスカはコーラ、シンジとアンズは麦茶だ。 

「日本に来たら、がつんとやってやろうと思ってたのよ。七光りと依怙贔屓に」
「アスカ、名前で言ったら」
「判ったわよ、ともかくシンジとレイにがつんと言ってやろうと思ったんだけど」

 アスカはステーキをぱくついていた手を止めた。

「化け猫はいるわ、変態はいるわ、超能力者はいるわで、なんかほら、毒気抜かれただっけ、そんな感じ」

 今日第壱中に初登校した帰りに、たまたま銀行強盗に出くわし、たまたま変態EVA仮面の濃厚な活躍を見たり、高層ビル火災で高層階に取り残された子供をTB1からジェットパックの飛行能力とシールドの魔法の併用で助け出したサクラとマリエルのコンビを見たりと、やたら濃い一日を過ごしたらしい。

「そりゃ、使徒もEVAも普通じゃないけど、変態と魔法少女よ。なんかこの国へんよ」
「まあまあ、アスカ。重要なのは味方か敵かよ」

 ミサトはビールのジョッキをどんどんと空けつつ微笑んだ。

「まあね。ところでなんであんた達がいるのよ」
「ごはん、呼ばれたから」
「おほほほほ、スポンサーですし」
「えっと、ほええええ」
「ボディーガードだし」
「担任だし、呑み友達だし」

 レイはアンズが呼んだ。美味しい魚があると言ったら来た。サクラはアスカと話したかったらしい。最近前の世界の記憶が薄くなってきたが、それでもアスカの派手さ、美しさは以前の世界を思い出させて話せるのが嬉しいらしい。サクラが行くところには当然トモヨは着いていくし、ケンスケはボディーガードだ。クキコはミサトの呑兵衛仲間でもあり、サクラの後見人みたいな物でもある。トウジやヒカリ等の他のメンバーはWWRの当直でいない。

「でさ、サクラって呼んでいい」
「いいよ」
「あんた、魔法少女なんだって」
「えっと、まあ簡単に言うと」
「まあ、そこまではいいわ、その上、異世界人なんだって?人間なの?」
「うん」

 情報はいつかは漏れる。そのためネルフの実戦部隊のボスとWWRのボス、要するにミサトとソノミでサクラのカバーストーリーを作った。以前似たような世界に住んでいて、似たような仲間と一緒に同じように戦っていたが、使徒のせいで次元の壁を越えたと言う事だ。事実に近いが、その世界の結末や人間関係などは微妙に変えてある。それらのカバーストーリーはとっさの時でも直ぐに出るようにWWRの脳波検出記録移送装置BIG-RATを使いサクラの脳に転写されている。

「前の世界では、超常能力者が多い世界で、EVAと一緒に使徒と戦っていたの。ただ次元を超える時に私はほとんどの力を失ったから、今はWWRで残った能力を活用して人助けしている」
「そうなのよね、この前も助かったわ。瞬間的なら戦艦の残骸をはね飛ばせる念動力。助かるわ。ありがとうサクラちゃん」
「えへへ」

 ミサトに褒められてサクラは照れくさそうに頭をかいた。

「ふーん。で、前の世界の私はどんなだったの?」
「姿はそっくり。それでヒーローが好きで」

 アスカが根掘り葉掘り聞いていく。サクラにはね前の世界のみんなの情報も差し障りのないストーリーが作られていて、BIG-RATで覚え込まされている。よどみなく答えていく。

「弐号機が鳥形とはね。変身ヒーローが好きって、まあ、嫌いじゃないけど。私も」

 アスカの顔が赤い。照れているのではなく、ミサトのビールを飲んでいるからだ。

「で、あんたの世界はどうなったの」
「判らない。決着がつく前、使徒の作った亜空間に飲み込まれて、この世界に来たから」
「まあ、この世界はこのアスカ様がいるから大丈夫よ」
「うん、そうだね」

 サクラは心の底から頷いた。

「アンズもアスカちゃんは出来る子って思うの」
「さすが判っているわね」
「私、人間の姿になれるようになったら、シンちゃん以外にも、レイちゃんやサクラちゃんやアスカちゃんみたいな、可愛くていい子がいっぱい出来て、妹が増えたみたいで嬉しいにゃ。困ったらお姉ちゃんに何でも相談してね」
「まっ、アンズは年上だし、素手では私より強いようだし、まあアスカ様は自慢の妹になってあげてもいいわよ」
「それはうれしいにゃ」
「でも、頭には乗らないでね。乗るのは肩よ肩」
「わかった」
「ところでトモヨ、あんたあの変態のファンなんだって」

 トモヨの横でケンスケがその話はしてくれるなという感じで焦っているが、アスカはもちろん気にせず続けた。EVAパイロットとして、WWRのメンバーの資料は受け取っている。完璧な資料ではないが差し障りの無い情報なら知っている。変態EVA仮面の正体等だ。

「おほほほほほ、もちろんですわ」




「今日は引率ご苦労様」
「ただで美味しい酒が飲めるんだったらいくらでも付き合うわ」

 子供達が勝手に盛り上がっているので、ミサトとクキコは部屋の隅のソファで並んで酒を飲んでいる。

「アスカは我が強いからどうなるかと思ったけど、アンズちゃんのおかげで上手くいきそうだわ」
「そうね。いいお姉ちゃんだわ」
「ある意味理想のお姉ちゃんだから、アンズちゃんは。私は保護者は出来るけど家族になれるかって言うとね。指揮官でもあるから難しいところがあるから。アンズちゃんに家族役は丸投げよ」
「やり過ぎると指揮官としても見放されるわよ」
「あんただって生徒の自主性って放っておくとみんなぐれるわよ」
「ぐれた魔法少女や変態はたまらないわね」
「全く」
「でも、ま、酒飲めば、明日は薔薇色、悩み無し」
「同感、乾杯」

 二人はグラスを当てて、ウオッカを飲み干した。


十か月ぶりにしては短い文章量なのは、やっぱり作者が歳だからだろうか。
WWRばかり目立つのはEVAザクラと言う作品名とミスマッチじゃないのか。
次回「EVAザクラ新劇場版 破 第二話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく




[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第二話
Name: まっこう◆564dcdfc ID:4098afbe
Date: 2020/06/26 21:46
混ぜるな危険

---------------------------------------

 最近、綾波レイは少し太ってきた。と言ってもデブになったというわけではない。適切な栄養がとれているため、出るところが出てきたと言うところだ。アスカが来日して初の週末の朝、レイは大道寺家の食堂の弁当を食べていた。アスカの歓迎会の際に食べて美味しかったため、それを言ったところ毎日弁当が届くようになった。いつもは大道寺家のメイドが届けてくれるのだが、今日は違う。早起きしたアンズが朝の散歩代わりに届けてくれた。そのためいつもは一人の朝食だが今日は二人で食べている。

「ここのお弁当は美味しいにゃ」
「そうね」
「合成魚肉も料理次第でおいしくなるにゃ」
「そうね」

 相変わらずぶっきらぼうな答えだが、返事をするだけ変わったと言うべきだろう。大体、レイもアンズが来るまでは自分がピンク色を基調としたメルヘンチックな部屋に住むとは思っていなかったろう。シンジの仲間達が模様替えした部屋は毎日大道寺家のメイドが来て掃除や家事をしてくれる。夕食も大道寺家のコックが来て作ってくれる。そのため温かい夕食を毎日とるようになった。他に困った事があればトーゴーに電話をかければリツコ払いで何でもやってくれる。少し前まではミサトのポケットマネーから出ていたが、経費で落ちるようになり、リツコが予算の面倒を見る事になった。

「アスカちゃん、お魚食べないのよね」
「そう」
「お肉かお菓子ばっかりなの」
「好きなのね」
「みたいなの」

 お弁当のフライを一気にぱくついたアンズは腕を組んだ。

「嫌いな物はしょうがないとして、折角だから美味しいお菓子を食べさせてあげたいな」
「そう」
「レイちゃんはお菓子好き?」

 アンズが聞くとレイはテーブルの反対側に座っているアンズをしみじみ見つめた。

「好きだと思う」




EVAザクラ 新劇場版

破 第二話

見学




「加持の言う事なんて」

 その日の夕方、シンジがネルフでの訓練を済ませて家に帰ってくると、もうミサトは飲み始めていた。あれだけいつも酒浸りでも肝臓の数値はなんともない。極めて丈夫な内蔵だそうだ。

「海洋魚の養殖センターってなかなか見られないし」
「そりゃ養殖センターの社会科見学はなかなか出来ないけど、引率者がね」
「じゃ、私はパス」

 脱衣所からアスカの声がした。

「そんなの面倒だわ」
「和を以て貴しとなす、アスカは行きなさい」
「それ命令?」
「そっ、仲良くしなさい」
「反目する気は無いわ、でも馴れ合いはしないわ。命令なら従うわよ」

 大きな音を立てて浴室のドアが開いて閉じた。水音が聞こえだした。

「ええと、ミサトさん」
「アスカは悪い子ではないわ、プライドと独立心が旺盛なだけ」
「はあ」

 丁度その時、玄関が開く音がした。

「ただいまぁ。ねえねえ、魚洞の前通ったらコダマさんが余った合成魚くれたの。早速焼いてほしいな」

 上機嫌のアンズが手に袋をぶら下げて帰ってきた。レイの所に行っていたもどりらしい。

「お姉ちゃん、お礼言った?」
「当然」

 鼻高々でアンズは元気に胸を叩いた。

「魚洞のコダマさんね。丁度いいわ」

 ミサトは上機嫌で、電話をかけ始めた。




「凄い!凄すぎる!失われた海洋生物の永久保存と、赤く染まった海を元に戻すという、まさに神のごとき大実験計画を担う禁断の聖地!その形相の一部だけでも見学できるとは!まさに持つべきものは友達ってかんじ!」

 翌日、日本海洋生態系保存研究機構、通称養殖センターの入口の前で騒いでいるのはケンスケだ。WWRの仕事を手伝ってからはいろいろ機密事項に触れる事も多く、ずいぶん慣れてきた。とはいえ、世界に数カ所しかない養殖センターの見学は嬉しいらしい。ビデオを持って騒いでいる。

「おほほ、さすがネルフの諜報部の方だけありますわ」

 横ではトモヨが撮影する場所を指示している。後ろの方には余り乗り気でないアスカ、無表情なレイ、やはり騒いでいるトウジにたしなめているヒカリがいる。

「おっさかな、おっさかな」
「アンズさん、食べられないですよ」
「そうだよ姉さん」

 こちらは食欲全開でヨダレを垂らしそうなアンズをシンジとサクラが困ったもんだと落ち着かせている。

「今日はお招き頂いてありがとうございます」
「いや、なに、いいですよ。美人のお役に立てて嬉しいです」
「え、あ」
「この馬鹿、困ってるじゃない」

 ミサトにどつかれた加持の前に立っている女性は、ミサトより少し年下だ。ミサトが軍属のくせにモデルのような細身なのにくらべ、少し太い感じがする。と言っても太っているというより、筋肉が有る感じだ。毎日の仕事で自然に筋肉がついたのだろう。魚洞の店長である洞木コダマだ。姉妹だけあってヒカリと似た顔立ちだが、めがねをかけている。シンジと買い物をした時にミサトは何回か顔を合わせている。

「あの、ともかく今日はありがとうございます。商店会長にもしっかり見てこいって言われました」
「こちらこそ、専門家がいてくださるととても助かります」
「専門家といっても、家業が魚屋というだけで勉強の方はさっぱりです」
「ここは食べるための魚を再生するところです。それこそ専門家ですよ。私は今日は用があって帰りますが、よろしくお願いします」

 加持の首を絞めながらミサトは微笑んだ。




 門の前で騒がしくしていた一行だがその後が大変だった。滅菌処理室に皆通された。まず一人ずつず全裸になって遠紫外線のフラッシュによる滅菌が行われた。全員が済んだ後、指定された下着に着替えさせられて大きな部屋に通された。いきなり火傷しないギリギリの暑い蒸気が部屋の中を吹き付けた。みなジタバタと騒いだが、レイだけは相変わらず無表情に突っ立っていた。次は有機物を分解するプールに皆頭まで漬けられる。というか飛び込まされた。それが終わると、違う部屋で今度は冷水のシャワーがかけられた。また有機物を分解するプールに皆頭まで漬けられる。次は吹き飛ばされそうな強風が吹き荒れた部屋に通され、乾かされた。またも有機物を分解するプールに皆頭まで漬けられる。最後に指定の服に着替えて30分ほどの工程が終了した。最後まで無表情だったレイ、仏頂面だったアスカはさすがというべきだろう。

「うわぁ」

 みんな思わず声を上げた。最後のドアが開くと目の前が青かった。水槽というには大きすぎる。海そのものが目の前に広がっていた。港の一角にEVAが入るような巨大な水槽を浮かべて、赤くなってしまった海水を数年かけて浄化し満たした。クローン技術で世界に残っていた海水魚、汽水魚を再生し、養殖している。詳しい事はシンジ達は判らない。だが、目の前の青い水と魚達に圧倒された。

「実物は凄いだろう」

 先に入っていた加地が驚いている皆に声をかけた。

「床に立ち入り禁止の表示があるところ以外は自由に動けるぞ」

 加地に言われるいなや皆は歓声と共に水槽の周りに散らばった。

「コダマさん、あのでっかい魚は何なんだにゃ」
「え、あ、あれね」

 保護者兼専門家として一緒に来ていたコダマも光景に圧倒されて固まっていたが、涎で口いっぱいのアンズに袖を引っ張られて、正気に戻った。

「あれは、ヒラメよ」
「ヒラメかぁ、あれは」

 コダマが説明を始めたので、子供達が寄ってきて口々に質問をし始めた。アスカもそれなりに興味があるらしく、大水槽を見ている。一通りの説明が終わると、また子供達は散らばった。トウジやケンスケは大きい魚が気に入ったようだ。海亀や鮫などの水槽の前で騒いでいる。ヒカリやサクラ、トモヨは熱帯魚だ。アスカは直ぐに飽きてしまったらしく、隅のベンチで端末をいじりだした。

「綾波は何見ているの」

 レイは皆から離れて、小さい水槽の前にいた。鰯は他の魚に食べられないように別の小さめの水槽に隔離されている。じっと見ているレイにシンジは後ろから声をかけた。

「鰯、コダマさんが教えてくれた」
「そう。綾波も来て嬉しいよ」
「今日は非番だから」

 昔に比べれば話すようになったとは言え、レイは今でも寡黙だ。ずっと黙っている。アンズがいる時だけ話すスイッチが入るようだ。

「この水槽狭いよね。もっと広いところで泳ぎたいんじゃないかな」
「無理、この子達は、この中でしか生きられないもの。私と同じ」
「そうかな」
「そう」

 やっとレイは振り向いた。少し口元が微笑んだようにも見えるし、泣きそうにも見える。シンジが何か言おうか考えていると、後ろから二人に飛びついた者がいる。アンズだ。

「美味しそうだにゃあ。何話しているのかな」
「え、あ、綾波がここじゃないと生きられないって」
「あたりまえだにゃ」

 しごく当然という口ぶりにレイもシンジもアンズの方を向く。

「アンズだって、水の中では溺れるし、砂漠だと飢え死んじゃうし、空には住めないし」

 レイもアンズの言う事に耳を傾けている。

「アンズもお母さんが拾ってくれたから生きているんだし、自分が生きているところで思いっきり食べていかないといけないにゃ」

 たとえ飼い猫だったとしても、セカンドインパクト後を生き抜いて、弟を守ってきたアンズの言葉は、レイもなにか安心させる言葉だったのだろう。レイの口元に微笑みが浮かんだ。

「そうかもしれない」




「ちょっと、サクラ」
「ほえ」

 シンジと一緒に水槽を見ていたいが、レイのじゃまをするのは可哀想だし、大体この世界のシンジを好きでいいのかどうかいまだに分からない。さりとて、姿形が愛する人と同じ少年が自分以外の女の子と仲良く成りすぎるのも、何かやだ。そんな事を考えつつぼんやりとサクラはウミガメを見ていた。

「丁度いいわ、ねえ、向こうの私はどうなったの、どうだったの」

 アスカはサクラの座っているベンチの隣に座った。

「どうって、強かったよ」

 カバーストーリーが勝手に口から出て行く。BIG-RATで覚え込まされた記憶は不思議だ。カバーストーリーと分かりつつも本当の記憶として認識している。嘘はついてないと認識もしている。

「あんたのいた世界って出鱈目ね。超常能力者だらけ」
「そっかな」
「そうよ。アンズもああだったの」
「わかんない。私が転移するとき、子猫を巻き込んで、時間差がついて転移してきたんだってレインさんが言ってた。私の魔力の影響で猫又になったんじゃないかって」
「本当なの」

 アスカの青い瞳がじっとサクラを見つめている。前の世界の狙撃手だったアスカの瞳に似ているとサクラは思った。

「まあ、いいわ」
「あの、アスカは皆のどう思ってるの」
「馴れ合う気は無いけど、いちいち反目はしないって言ったとおりよ。私は能力がある者は嫌いじゃないから。足手まといは嫌いだけど」
「そう、実力があればお友達になってくれるの?」
「戦友には成れるわね、じゃ」

 そう言うとアスカは立ち上がり加地のいるベンチの方に向かって歩いて言った。サクラはため息をついた。




「おう、飯や飯」

 昼になった。皆滅菌が済んだ自前の服に着替えている。水槽の前の小スペースにシートを敷いて昼食だ。

「センセはほんまに料理の天才や」
「そうだよシンジ、あの合成肉がこんな美味しくなるなんて」
「そっかな、毎日やっているから」

 弁当は大道寺家のコックが用意した物と各自持ち込みだ。これも全て滅菌処理がされている。

「魚料理はさすがいいんちょやな。だてに魚屋やないな」
「そう」

 素っ気なく答えたが、ヒカリの顔は真っ赤になっている。皆騒がしく昼食となった。

「あれ、アンタ肉や魚食べるの?」

 魚の煮付けを黙々と食べていたレイにアスカは言った。

「資料だとあんた凄い偏食家ってあったわ」

 言われてレイは顔を上げた。

「美味しいから。それに」
「それに何よ」
「食べることは生きることだとアンズさんが教えてくれた」

 レイはアンズの方を見た。アンズはレイの視線に気づかず弁当をがっついている。

「アンズさんを見てると生きることはいいことだと思うから」
「ふーん、あんた達二人とも化け猫の子分ってわけ」
「それでもいい」
「EVAパイロットが化け猫の子分でいいわけないでしょ」

 アスカは喧嘩腰でレイの前に顔を近づける。レイはいつもの鉄面皮だ。割って入ったのはヒカリだ。

「まあまあ、アンズさんは猫又だし、優しいし、良いお姉さんだし」
「これはEVAパイロットの問題よ、WWRは黙っていて」
「でもクラスメートの問題でもあるわ」
「…わかったわ、ま、どうでもいい事ね」

 アスカは振り向いて皆に背を向けて座り、弁当をかき込み始めた。その後は皆も気を取り直して、昼食の時間の続きだ。少しするとそっぽを向いていたアスカも、大道寺家の肉料理に手が伸び始めた。本当に旨いものには人は勝てない。しばらくすると、ヒカリとトウジ、トモヨにサクラにケンスケ、つまりWWR隊員の腕時計型通信機からアラームが鳴った。緊急呼び出し音だ。代表してトモヨが通話を始めた。全員関係者なので助かる。コダマもヒカリがWWRの隊員である事など、WWRに関する事は知らされている。

「高層ビルで事故発生…ではその様に」

 高層ビルの建築現場で事故が起き救出にはTBNが最適だそうだ。TBNはヒカリとトウジのペア、ホノカとナギサのペアの二交代で運用しているが、ホノカとナギサが今TB1で地球の裏側に行ってマリエルの救助活動の手伝いをしているため、ヒカリとトウジが向かうことになった。トモヨとケンスケも屋敷に待機することになり四人は出口専用のエレベーターに乗って地上に向かった。残った者たちは昼食の続きだ。

「アンズちゃんは猫又なの?」
「そうだよ。アンズは猫又だにゃ」

 シンジの横で食べていたコダマが、レイの横で魚の煮付けを頬張っていたアンズに聞いた。コダマは加持の方を向いた。

「ええと、加持さん。これって秘密ですか」
「そうですね。一応帰りにネルフに寄って頂けますか?この件については関係者の前でしか話せないように暗示をかけさせて貰います」
「暗示って怖いですね」
「大丈夫ですよ、ネルフの職員はみんな同じ様な処置を受けていますが、日常生活などに支障は出ていません」
「判りました。それにしても妹はWWRの隊員だったり、お得意さんはネルフの職員だったり、なんかびっくりです」

 その後、少しネルフの話になった。加持が差し障りのない範囲でコダマの疑問に答えた。

「ねえ、アンズ」
「私はお姉ちゃんよ」
「まあいいわ、アンズお姉ちゃん」
「何アスカちゃん」
「狩りは得意?」

 急にアスカが聞いたため皆の視線が集まった。

「もちろん得意よ。町内の猫では、鳥を狩ったらタマちゃん、ねずみをとったらアンズっていわれていたにゃ」
「そっ」
「狩りの仕方教えてあげようか」
「そのうちね。ごちそうさま」

 アスカがそう言って立ち上がったその時だった。辺りに鈍い爆発音が響きそれと共に揺れた。音は水槽の方から聞こえてきた。今まで青く澄んでいた水槽の水が濁っていた。辺りに警戒音が響いた。ただ直ぐに電源が落ちたらしく、警戒音は消え、明かりも消え非常灯に切り替わった。みな慌てて立ち上がった。EVAパイロットはコンパクトなサバイバルキットが支給されていて、いつも必ずそれをポケットに入れている。皆その中のライトを取り出して点けた。レイはSOS発信用のカプセルを握りつぶしてスイッチを入れた。アスカは携帯端末で、サクラは腕時計型通信機でそれぞれネルフとWWRに連絡を入れようとしたがなぜか繋がらない。

「皆さん、落ち着いてください」

 そう言って駆け寄ってきた養殖センターの係員が一番慌てていた。加持に安全だと話している。ともかく、緊急避難用の階段に誘導しようとした時、水槽の方からピシリといやな音がした。皆一斉にライトを向けた。水槽の厚いガラスにヒビが入って広がって行く。ここは水面下100mだ。ガラスが割れたら助からない。

「階段に急いで下さい」

 係員が叫んだその瞬間、ガラスが割れて、海水が押し寄せてきた。




 施設から出ていた四人のうちヒカリとトウジはAIによる自動飛行で飛んできたTBNに乗り込み、直ぐに出発していた。二人は普通の服装だが、普段からWWR特製の防塵防弾の衣服を着ている。緊急時は機内でヘルメットさえつければ作戦行動に移れる。トモヨとケンスケはFAB-1で待機しているパーカーに状況の確認を行い、その場でできる指示や調査を行う。さっきまでシンジ達を乗せてきたマイクロバスにトーゴーがいたのだが、昼食をとるため街に戻っているためここにはいない。
 トモヨの指示でケンスケとパーカーが高層ビルの事故について確認をしているその時だった。いきなり轟音と振動と共に養殖センターの水槽から大きな水柱が立った。慌てて皆車外に出る。水槽の周囲がなぎ倒され施設が破壊されていた。

「TB5、何が起きたのですか?」

 トモヨが絶叫のような声で無線機に言った。

「トモヨちゃん、こちらアヤカ。TB5は直接は観測していない。周囲の映像と情報を組みあわせて解析するから20秒ちょうだい」

 無線からはTB5のAIのイオスに指示をするアヤカの声が聞こえてきた。トモヨにとっては20秒が無限の長さに思えた。すぐにサクラの様子を見に行きたいが、状況を確かめないで向かったら、何かあった時に助けられない。

「超高速で何かが水槽に突入して、衝撃波で周囲が破壊されたようよ。施設内に生命反応は有り。数は変わっていない。今のところ皆無事よ」
「了解です。TB4の準備をお願いします。先行してFAB-1で潜ります」
「了解」
「ケンスケさんはここで、連絡等お願いします」
「了解」

 ケンスケはFAB-1から降りた。FAB-1は水槽がある区域を覆っている防壁に突っ込んでいく。高圧電流が流れている防壁を体当たりで壊して敷地内にFAB-1は入ると、そのまま水槽の上まで来る。普段は特殊強化ガラスで覆われている青い水は濁っていた。大穴が空いているガラスの隙間から水槽にFAB-1は突入してそのまま潜水艦行動に移り沈下していった。




「フリーズ」

 静かだが確固たる意思の力を込めたサクラの声があたりに響いた。水深100mの高圧で吹き出した海水は凍り付いていた。サクラはガラスの割れ目に向かいバトンを振り下げた格好でこちらも動きを止めていた。

「水圧が凄い。そんなに持たない。加持さんみんなを避難させて。私は今動けない。動いたら氷が割れる」

 サクラが叫ぶ。

「みんな、避難出口へ。サクラちゃんどのくらいもつ」

 加持が係員と共に皆を誘導しつつ叫んだ。

「五分」
「判った。アンズちゃん、サクラちゃんがこのままだと助からない。助けられるのは素早いアンズちゃんだけだ」
「どうすればいいにゃ」
「みんなが避難して、サクラちゃんの魔法が切れたら、サクラちゃんを抱えて、一気に上まで駆け上がる。いいな」
「わかったにゃ」

 アンズは直ぐにでもサクラを運べるように近づいた。

「サクラこれは借りよ、いつか返すわ」

 アスカが叫んで階段の方に走って行く。

「シンジ君、何ぼけっとしてるの。行くわ」
「でも綾波」
「お姉ちゃんを信じたら。アンズさんはやるといったらやる」
「判った。お姉ちゃんサクラさんをお願い」
「わかったにゃ」

 シンジとレイもかけていく。

「アンズちゃん頼む。サクラちゃん五分頼む」
「わかったにゃ」

 アンズは大声で答えた。サクラは余裕が無いのか、軽くうなずいただけだった。水深100mの薄暗い空間に少女が二人残された。

「ごめんなさい。WWRの隊員でもないのに」
「いいの。シンちゃんのお友達を助けるのはお姉ちゃんの仕事にゃ」




「だれだろう」

 ケンスケが状況をTB5経由で逐次報告をしていると、養殖センターに向かう一本道にスーツ姿の中年男が現れた。この道は入り口が閉鎖されたいるため。一般人は入ってこれない。港に突き出ている施設のため、警察消防などが来るのも少しかかるはずだ。

「プレゼントは楽しんでくれたかな。壊れた人工衛星を落とさせて貰った」

 そう言うといきなり男のスーツがはじけ飛んだ。そこには爬虫類の頭を持ち、左手が蛇の怪人がいた。

「ヘビンダー」

 怪人は叫んだ。いきなり怪人の左手の蛇が延びケンスケの腹に激突した。どうやら伸縮自在のようだ。ケンスケはふっとび駐車場に止めてあった車の向こうに落ちた。

「たわいがない。さて生き残りを殺すか」

 その時だった。車の向こうで辺りが生体発光の淡い輝きにつつまれた。

「クロスアウッ」

 車の上に男が立っていた。ブリーフ一枚に、パンティーを被っただけだ。

「怪しい奴」
「怪人に怪しいやつ呼ばわれするいわれはない」
「いや、どう見ても怪しいだろう」
「私は変態EVA仮面だ。怪しい者ではない。パンティーを被っている正義の味方だ」
「まあいい。死ねば同じ事だ」
「それはどうかな。ふん」

 変な気合いと共に体をよじりつつ、変態EVA仮面はヘビンダーに向かってダッシュした。




「あっ、サクラさん、アンズさん」

 FAB-1で水槽のほぼ下まで降りたトモヨとパーカーは魔法で海水を凍らせてくい止めているサクラを見つけた。

「アンズさん、状況を教えてください」

 サクラが目一杯なのは直ぐに判ったので、アンズに言った。

「いま、みんなが上に上がるまで、サクラちゃんが魔法でとめてるにゃ」

 アンズは腕時計型通信機に怒鳴り返す。

「みんなが上に着いたら、アンズがサクラちゃんを運ぶの。加持さんが決めたにゃ」
「わかりました」

 そんな方法を考えた加持に殺意に近い物を持ったトモヨだが、いまさら言っても仕方がない。

「こちらで皆さんの避難状況をモニターします。私が指示したら一気にサクラさんを運んでください」
「わかったにゃ」
「パーカーTB5のイオスとデーターリンク、タイミングを計算してもらって」
「はい。お嬢様」




「ぐわ」
「噂の変態も意外と弱いな」

 今まで圧倒的なパワーで怪人や犯罪者にお仕置きをしていた変態EVA仮面だが今度の怪人はひと味違った。伸縮自在の左手の蛇が間合いを掴ませない。何より、拳法のような物を使うのだ。

「地獄谷拳法蛇拳の前では敵ではないわ」

 先ほどから体中に散打をくらい、さすがの変態EVA仮面もダメージが貯まって動きが鈍くなっている。

「秘打、蛇鞭」

 ヘビンダーが左手の蛇体をくねらせて打った一撃に変態EVA仮面は吹き飛ばされてしまった。肉体的には大ダメージだ。だが根っからの変態である彼は鞭のような一打に快感を感じて、その刺激で変態的なひらめきが頭に浮かんだ。ブリーフの中に手を突っ込むと一枚のパンティーを取り出した。拳法の達人でもあるコノエのパンティーだ。目には目を歯には歯を、拳法には拳法をだ。彼はコノエのパンティーを重ねて被った。

「フォォォォォォォ」

 変態EVA仮面の口から咆吼が上がった。その瞬間パンティーを通してコノエの拳法の技が一瞬にして身についてしまった。まさに力と技のダブルパンティーだ。変態EVA仮面は今までの力任せの動きから、滑らかな、より変態的な柔軟な動きでヘビンダーに瞬時に近づいた。

「なに」

 ヘビンダーが慌てて散打を繰り出すがまるで当たらない。変態EVA仮面は変態的な柔軟さと体のさばきで全て避けていく。ヘビンダーが慌てて後ずさる。

「お前ただの変態ではないな」
「私は変態仮面EVA3だ」

 そして、足さばきと筋肉の瞬発力、足の裏の地面のつかみ方などが変態的に組み合わさって、瞬時にヘビンダーまでの距離を詰め、後ろに回った。いわゆる武道の奥義縮地である。

「はっ」

 ヘビンダーの手を掴み上空に投げ飛ばす。

「とぉ」

 変態仮面EVA3はジャンプすると、空中に投げ飛ばされたヘビンダーに気持ち悪く体を絡ませ、動けないように固定した。当然二人は落ちてくる。

「26の必殺技の一つ、変態奥義地獄のデスドロップ」

 そしてヘビンダーは頭からコンクリートの地面にたたきつけられ、変態仮面EVA3の局部に発生したASF・アブノーマル・セクシャル・フォースで改造部分が麻痺しついでに悪の心も四散した。

「正義は必ず勝つ」

 正義かどうかは判らないが、変態仮面EVA3は勝った。




テレビを見るとどうしてもそのネタに走ってしまうのは、やっぱり作者がオタクだからだろうか。
相変わらずネルフの人間が活躍しないのはEVAザクラなので仕方がないのだろうか。
次回「EVAザクラ新劇場版 破 第三話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく



[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第三話
Name: まっこう◆564dcdfc ID:4098afbe
Date: 2020/07/05 16:22
サンダーバード are go!シーズン3 第一話 先行放送の日です。

-------------------------

「アンズさん、あと20秒です」

 今アンズに話しかけているのはトモヨではない。TB5のAIのイオスだ。この作戦はタイミングが重要なため、イオスが指示を出している。TB5の遠隔観測とFAB-1からの情報からイオスが最適解を計算して指示している。

「サクラさんはカウント0でタイムの魔法を発動。サクラさんの主観時間で5秒間魔力はもつはずです。アンズさんはカウント0でサクラさんを担いでください。その後に腕時計にあらかじめ入れておいた指示通りサクラさんを運んでください」
「わかったにゃ」

 サクラは限界に近い。話す余裕もない。微かに頷く。

「10、9、8、7」

 アンズの腕時計型通信機からカウントダウンの音がする。

「6、5、4、3、2、1、0」
「タイム」

 サクラとアンズ以外の時間が凍り付いた。




EVAザクラ 新劇場版

破 第三話

お菓子




 アンズはサクラを素早く抱えると非常階段に突進する。今、サクラとアンズ以外の時間は止まっているが、アンズが身につけている腕時計型通信機の時間は二人と一緒に動いている。あらかじめイオスが知りうる限りの情報で計算した最適ルートが、大きな音で通信機から響いてくる。実際は耳から聞こえてくるのではなく、骨伝導で体内を音が伝わってくる。アンズは死に物狂いでサクラを担いで突進した。この5秒のアドバンスを生かさなければ二人とも死んでしまう。アンズは猫又と言っても超常能力というほどの物はない。普通の人間より3倍ぐらい力持ちで、3倍ぐらい反射神経がよいだけだ。あと暗闇でもよく眼が見える。猫の姿に戻れるが今は関係ない。ともかく普通より力持ちで素早いだけだ。だがこの極限状況ではそれが全てに優先した。薄暗い物が散らかっている床を滑るように移動していく。階段まですぐにたどり着いた。そして、アンズが階段までたどり着いたところでサクラは魔力がつき気絶した。魔法が解け一気に海水が圧力で溶けた。高圧の海水が二人に襲いかかった。




「0」

 イオスのカウントダウンをFAB-1で聞いていたトモヨとパーカーは0の瞬間サクラとアンズの姿が消えたように見えた。次の瞬間、氷が溶け、一気に水槽のガラスが崩壊し、FAB-1はサクラたちがさっきまでいた空間に吸い出された。凄い勢いではあったが、戦車より頑丈なFAB-1に乗っていた二人は平気だ。

「イオス、二人は」
「階段を上がっています」




 そのころ加持達は階段を上りきり地上まで来たいた。階段の下から轟音がきこえてくる。

「お姉ちゃん」

 耐えられなくなってシンジが階段を降りようとする。加持が止めた。

「悪い、シンジ君」

 加持がシンジの口元にポケットから出した薬品を嗅がすと、シンジは脱力した。麻酔薬ではないが動きを止める薬品だ。加持はシンジを担ぎ上げる。

「ここから退避だ」

 加持の指示に従い皆出口から離れて行った。




「にゃ」

 おしゃべりなアンズもさすがに話す余裕が無い。暗い階段を一気に駆け上がる。腕時計からイオスがリアルタイムで計算した最適ルートの指示が聞こえてくる。ともかくその通りに駆けていく。後ろから轟音が聞こえるが、振り返る事など出来ない。イオスの指示はほぼ正確だが、どうしてもセンサーで感知できない部分などの指示は不正確だ。思わぬ障害物があったりする。アンズはネコ科の動物にのみ許される反射神経と柔軟さで、障害物を避けていく。加持達が5分かかった階段を30秒で駆け上がった。

「出口だ」

 外の明かりが見えたところで思わず気が緩んだ。足がもつれて階段に転がった。あと20mで地上だが、体を打って痛くて動けない。サクラも気絶して転がっている。下から轟音が近づいてきた。

「だめにゃ」

 無敵の脳天気アンズも思わず目をつぶる。恐怖からか猫に戻ってしまった。だがその瞬間出口から二人の男が飛び込んできた。大柄な黒マントの男は人間であるにもかかわらずアンズより素早く移動して迫り来る海水に立ち塞がった。

「石破天驚拳」

 カッシュが放った石破天驚拳は拳圧で海水を押し下げた。同時に飛び込んでいたトウジがアンズを抱き上げ残りの20mを駆け上がった。カッシュもサクラを担いで出口から出た。一旦TBNで屋敷に戻ったトウジとヒカリだが、高層ビルの事故はすでに解決していたので屋敷で待機していたところ、TB5経由でここの状況の連絡を受けた。屋敷にいたカッシュと共にTBNで急行した。加持達が出口から少し離れた頃、現場に到着した。FAB-1からの報告も入っていたので出口の上空から二人は飛び降りTBNはホバリングで待機となった。そして出口から二人が飛び込んだ。
 二人が出口から飛び出たその直ぐ後に、出口から海水が吹き出た。あのままだったらサクラとアンズは水死していただろう。

「いいんちょ、着陸や」
「了解」

 海水に濡れたトウジが通信機に怒鳴ったが、言われるまでもなくTBNは着陸態勢に入っていた。出口の側は破壊されていて平らな場所はないが、そこはWWRの小型機だけあって着陸用の足を伸ばして斜めのまま着陸した。斜めなのでそのままキャノピーが開いた。カッシュとトウジがサクラを後部座席に乗せた。猫の姿のアンズはヒカリの膝の上だ。

「医務室に急行します」

 キャノピーが閉まるとTBNは全速力で上昇し、屋敷に向かい飛び立ち、姿は見えなくなった。




「ふひゃ」

 サクラは変な声を出してしまった。天井が見える。以前風邪をこじらせた時、サクラが見た天井だ。屋敷の医務室のベットで寝ていた。医務室と言っても総合病院の一番良い部屋より設備が整っている。医療データはネルフとの取り決めで、ネルフの医療部門に専用回線で共有している。
 サクラは気がついたが、体は殆ど動かない。

「気がついたようだね」

 二人の顔が視界に入ってきた。大道寺家の医療担当である花右京タロウとウイッチドクターの役を買って出たクキコの顔だ。

「ひゅあ」

 変な声しか出ない。

「まだ休みな。魔力が枯渇して生命力も使い果たす寸前だったぞ。無理すんな」

 そんな事を言うクキコも目の下にクマが出来ている。普通の医療で足りない魔力の充填等を着きっきりでしていたせいだ。

「みんな無事ですよ。アンズちゃんも隣のベッドで寝ていますよ」

 タロウの声を聞いて安心したのか、サクラはまた眠りに落ちた。




 サクラが次に眼を覚ましたのは三日後だった。結局十日間眠り込んでいた。アンズもサクラとほぼ同時に眼を覚ました。サクラが眼を覚ました時、目の前にシンジの顔があってびっくりした。トモヨがサクラが目が覚めたら一番最初に会いたい人であろうシンジを呼んでいた。シンジはネルフ代表で、サクラにお礼を言いに来たと言う事もある。それに姉が心配でネルフの用がない時はずっと付き添っていた。アンズに付き添っているという事はサクラに付き添っている事でもある。時々レイやアスカも顔を出した。レイは姉貴分のアンズが心配だし、アスカは借りは早く返したい方だからだ。
 シンジは目を覚ましたサクラに心からのお礼をした。その際必ず手を握ってお礼をするようにとトモヨに怖い顔で厳命されたのでその通りにした。おかげでサクラの脈拍数と血圧が急上昇してテレモニターしていたタロウが何事かと慌ててとんできたぐらいだ。アンズの方は天然物のマスを具にしたおにぎりを山のようにシンジが作ってきたせいで上機嫌だ。マスはコダマが命を救ってくれたお礼に苦心して入手してきた。アンズは余りじっとしていられない方なので、起きた後は屋敷中を探検したりしている。
 その後はレイやアスカ、トウジやヒカリなどもみな見舞いに訪れた。その際、TB5の観測データと腕時計型通信機の内蔵センサに記憶されていたデータから作った二人の動きの再現映像なども見せられた。カッシュはアンズの動きを褒めていたし、クキコもサクラの魔法を褒めていた。ともかくあのテロで死者を出さなかったその場の皆の判断は正しかったという事だ。ネルフを代表してシンジがお礼を言ったがそれとは別に加持も訪れた。チルドレンの命を優先した事について、ネルフの立場の理解を求めた。アンズは怒っていたが、サクラは納得していた。ただ、トモヨには上手く言ってくださいとだけ付け加えた。
 サクラとアンズがみんなに見舞いなどを受けていたころ、トモヨが何をしていたかというと、今後のテロ対策をネルフの関係者とずっと協議をしていた。トモヨ自体はサクラを苦しめたテロリストなど文字通り壊滅させて、地獄にたたき込みたいところだが、WWRの理念に反してしまう。あくまでも世界的救助隊であって、犯罪撲滅は目的ではない。テロ組織の対処、壊滅はネルフに強く要望した。それだけではなく色々な国の友好機関のいくつか、ナイト財団やキングスマン、そんな所とも交渉をして、デストロンの壊滅を依頼した。WWRの隊員としてはそこまでだが、トモヨ個人で何かをやるのは問題が無い。ポケットマネーで探偵を雇う事にした。
 サクラが目覚めてから二日後、パーカーの運転するFAB-1でケンスケをお供に町外れの小さな雑居ビルを訪れた。パーカーをFAB-1に待たせて、ケンスケと共に二階に上がる。そこには探偵事務所の看板が出ていた。

「ごめん下さいな」
「はい、ただいま」

 中から女性の声がした。戸が開く。

「お電話差し上げました、大道寺トモヨと申します」
「お待ちしていました。中へどうぞ」

 20代後半の女性が中に案内してくれた。応接セットがありその奥にもう一つ部屋がある。

「今、所長を呼びますのでしばらくお待ちください」

 応接セットのソファにトモヨとケンスケが並んで座った。トモヨは奥深く座ったが、ケンスケはいつでも動けるように浅くだ。コノエがいない時は、ケンスケがボディーガードだ。今回は屋敷やWWRとは関係ないという事にしたいのでコノエは連れてきていない。

「お待たせしました」

 となりの部屋とのドアが開き責任者らしき男性と若い男が入ってきた。責任者らしい男は会釈をするとトモヨ達の反対側に座った。若い男は横に立ちメモを出して準備している。

「私が所長の早川ケンです」
「私が大道寺トモヨです。こちらは相田ケンスケさん」

 名刺の交換などをしたりする。

「早速ですけど、早川さんはとてもお強いと伺いましたけど」
「そうですね。腕っ節で依頼人に失望させた事はありませんね」

 早川ケンはそう言いつつ微笑んだ。中々ハンサムで魅力的な笑顔だ。

「相手がどんな組織でもですか」

 トモヨも微笑み返す。年相応に可愛い。

「ええ。悪者を怖がっていてはこの家業は務まりません」
「それはよかったですわ。ではデストロンを叩き潰してくださいな」
「改造人間がいる組織と風の便りに聞きましたが」
「はい。無理でしょうか?」
「いいえ。一日10万円に必要経費でいかがでしょうか?」
「はい。では先に三ヶ月分で」

 トモヨはポシェットから小切手帳を取り出すと一千万円の小切手をその場で切った。

「私のポケットマネーですわ。税金は掛からないように手配します。殺人と誘拐以外なら警察も黙らせますので、よろしくお願いしますわ」

 トモヨはゾクッとするぐらい可愛い笑顔で微笑んだ。




 一週間ほどでサクラはほぼ普段の体調に回復した。学校にも復学した。サクラ達がWWRの隊員であるのは公然の秘密なので、救助活動で怪我をしたという噂が流れていた。サクラが魔法を使うのは伏せられているので、WWRのメカを使い皆を助けた事になっていた。アンズも美人のお姉さんとして人気があり、同じくWWRの隊員と思われている。
 そんなこんなで放課後、アスカとレイが珍しく、一緒にネルフに向かっていた。シンジは今日は訓練等は無く、溜まっている家事をしに戻っている。二人はモノレールでジオフロントに下りていく。

「レイ」
「なに」
「あんたアンズの好物知ってる?」
「魚とお菓子。何故聞くの?」
「アンズに借りを返したいの。サクラはシンジとほっとくのが一番のお礼でしょ。で、あんたこの街のお菓子屋知ってる?」
「私は知らない」
「そう。明日付き合いなさいよ。アンズをお菓子屋に連れていっておごる。取りあえず食べ物で返すわ」
「なら専門家に頼む」




「ま、知り合いでお菓子の専門家となればトモヨになるわね」

 翌日の土曜日、アスカはアンズと共にマンションの前で待っていると、レイがトモヨを連れてやってきた。トモヨは珍しくお供の者がいない。

「私も専門家と言うわけではありませんわ。ただ専門家なら知り合いにいますので」

 トモヨの話だと、専門家が開いているお店があり、そこに案内するということだ。道々話を聞いたところ、駄菓子の会社のCEOが開いているアンテナショップが付近に有るそうだ。10分ほど歩いて着いた店はアスカの想像とは違っていた。アンテナショップというからにはお洒落なお店を想像していたが、時間が50年巻き戻ったような駄菓子屋だった。店名は「しかだ駄菓子店」だ。

「ここ?」
「はい。アスカさんの手持ちで最大限にアンズさんに楽しんで頂くならここですわ」
「トモヨちゃんここ何のお店なの」

 アンズがトモヨに聞いたその時だった。

「モチのロン、駄菓子屋ですわ。しかだ駄菓子へようこそ」

 駄菓子屋の隣にある小さなコーヒーハウスの屋根から声がした。皆が見上げると、そこには派手で綺麗な女性がポーズを取っていた。年の頃は20代半ば、銀髪に青い瞳だが、顔立ちは日本人だ。ハーフだろうか。可愛い顔立ちではあるが、ポーズを取っているせいで、細身に不釣り合いな豊かな胸が強調されている。

「ホタルさんお久しぶりですわ、今日は駄菓子を腹いっぱい食べたい人をお連れしましたので、お願いしますわ」
「それは何より。とー」

 ホタルは飛び降りるようなポーズだけをしてから、梯子で下りてきた。

「改めまして、鹿田ホタルです」

 年相応に礼儀正しくお辞儀をする。

「アンズです」
「アスカです」
「レイです」

 ホタルのテンションの上下に二人は唖然としている。レイでさえもマジマジと見ている。

「では店内へどうぞ」

 店の入り口の引き戸をホタルが開けた。店内は所狭しと駄菓子が並んでいる。

「今日はココノツさんが編集者と打ち合わせでいないし尾張さんも仕入れでいないので、私が店番ですの」

 ホタルが皆を店内に引き入れた。

「ホタルさんは駄菓子メーカーのfireflyのCEOですの。ここはfireflyの直営ですけど、駄菓子博物館みたいな物も兼ねていて、firefly以外の駄菓子もいっぱい扱っていますわ。この近辺でお菓子を食べたいならまずここですわ」
「モチのロン、駄菓子ならお任せですわね。平日はCEOの業務がありますけど、土日は駄菓子フィーリングを満喫しますの」

 ホタルは意味も無く決めポーズをとる。ホタルとトモヨだけみているとセレブの美少女は変人しかいないように思えてしまう。

「ともかく安くて、大量それが駄菓子のもっとう。お任せ下さいな」

 ポーズをまたとった。少し視線も変だ。

「それはともかく、どの様な駄菓子をほしいのだろうか?」
「えっと、魚介類」

 ホタルの変なテンションにつられてアンズも慌てて答えた。

「それならいかんぼう」
「いかんぼう?」
「イカの小片に味を付けて串に刺した物。ただそれだけと言えば言える。だがそこにこそ無限の可能性が」

 またホタルはポーズをつけて視線があっちに向いていた。




 皆がアスカとレイのおごりで大量に駄菓子を買ったところで、店長の尾張ハジメが帰ってきた。ホタルより少し年上のめがねの女性だ。店を尾張に任せるとホタルは隣の「喫茶えんどう」にみんなを案内した。

「サヤ師、お客さんです」
「いらっしゃい」

 サヤ師と呼ばれた女性はホタルより少し年下に見えた。ほっそりとした整った顔立ちをしている。

「ここは、しかだ駄菓子店と提携していますの。しかだ駄菓子店で買ったお菓子なら飲み物以外は持ち込み可ですわ。モチのロン、ここのコーヒーの味は保証しますわ。ほかの飲み物もGOOD」

 ホタルはサムズアップをした。

「あの普通の喫茶店ですので」

 店長である遠藤サヤは苦笑いをしている。

「飲み物と軽食をお出ししています。どうぞこちらへ」

 皆をテーブル席に案内した。

「メニューはこれです」

 しばらくすると皆が注文したコーヒーや紅茶やジュースが出てきた。早速アンズはいかんぼうを何本も食べている。アンズだけ飲み物がジュースなのはカフェインがダメだからだ。ネルフで食べてはいけない物を調べて貰ったところ、人間の姿の時はほぼ人間の食べ物が食べられることがわかった。イカの刺身など猫の時は食べられなかったものも問題無いらしい。ただカフェインをとるとハイになりすぎることがわかったので、コーヒーやチョコレートは食べないようにすることになった。しばらくするとヒカリも駄菓子を手に店に入ってきた。ヒカリはお菓子に合わせて日本茶を注文している。ちょっとした女子会になった。駄菓子が無くなれば隣でいくらでも調達できる。お菓子と飲み物があればいくらでも話は続く。アスカもEVAが関わらなければ仲良くする気があるらしくにこやかに話している。レイもチョコレート菓子を中心に食べている。今日は暇らしくホタルが呼んだためサヤまで話に加わっている。

「それにしてもアンズさんの猫のコスプレ、パーフェクツですわ。まさにうまい棒のイラストのキャラのごとく」

 ホタルは全てに駄菓子のうんちくが絡んでくる。その上微妙にずれている。

「ところで、ホタルさんの旦那さんって漫画家の鹿坦々さんって本当ですか。スーパー女の子の作者の」
「モチのロン」
「そうなのよ、ホタルさんの旦那、私の幼なじみなんだけど、私が狙っていたのに、ホタルさんがすっと来て、するっと入り込んで、するっともってっちゃったの」
「サヤ師、その件に関しましては平にご容赦」

 お互い笑いながら言っているだけあって仲もよいようだ。

「ロマンスですね。その話聞きたいなぁ」

 ヒカリが興味津々で顔を乗り出してくる。

「いいでしょう。この際ですからお話しします」

 またポーズを付けてホタルが話し始めた。




「いかんぼうとたいたい煎餅が美味しいかったにゃ」
「へぇー良かったじゃない」
「姉さんは猫なんだから、塩分は控えめにね。病み上がりだし」
「まあまあ、シンちゃん」

 結局アンズ達は日が暮れるまで、喫茶えんどうで女子会となった。アンズとアスカが帰ってきた時にはシンジも見舞いから戻っていた。ミサトもビールで良い気分だ。

「ところで喫茶店の方はどうだった?コーヒーは?アルコールは出すの?」
「ミサトはアル中ね。コーヒーは美味しかったわよ。夜はアルコールも出すみたい」
「あっそ、場所も手頃だし、指定しようかしら」
「何のこと?」
「それはまた後で」




「コーヒーいけるじゃない」
「嬉しいです」

 サヤは少し緊張気味だ。翌日の昼頃、喫茶えんどうにネルフの制服の女性が二人訪れ、軽食とコーヒーを頼んだ。一人はアルコールも頼んだが、アルコールは午後五時以降としているので断った。その日はアルバイトが来る日らしく長身の男子学生が給仕をしている。付近の大学の三年生だそうだ。

「で、ここのお店ネルフの指定店にしてもいい?」
「指定店って?」
「まあ、そんなに深刻な話じゃないの。ネルフは知っているわよね」
「はい」
「私そこのまあ作戦担当だったりするの。こっちは技術担当」
「よろしく赤木リツコよ」

 制服に白衣の女性はコーヒーをすすって自己紹介をした。

「私は葛城ミサト。で、ネルフってどんな所だか知ってる」
「怪獣をやっつける秘密組織ですよね」
「そう、なので組織員はできるだけ使用するお店を限定したいので、指定店を設けてるの」
「はあ」
「指定店って言っても、別に秘密を守れとかそんな事じゃなくって、変な物を出さないか、食中毒などを起こさないか、連絡が取りやすいかなどで決めてるの。ここは衛生的にもしっかりしてそうだし、私のマンションから近いし、子供達も気に入ったようだし。あの子達ネルフの職員なの」
「そんな事を話してましたね」
「そんなわけで指定店にしても良いかしら。特にそちらでしてもらう事はないし。ただお客さんは増えるので、アルバイトとか雇わないと廻らないかも。だから、一応確認しに来たの」
「そうですか。丁度アルバイトもう一人雇おうかなって思っていたところなんでいいですよ。ただ、隣のしかだ駄菓子店と提携していますけどいいですか」
「あっちも指定店舗にする予定よ」

 今度はリツコが話し始めた。

「アンズやレイから預かった駄菓子を分析したけど、由緒正しい駄菓子だわ。糖分や油分は多いけど、変な保存料や着色料はないし、品質も安定しているようだし、衛生的にもしっかりしてる。何よりこのホタル印のポン菓子、コーヒーに凄く合うわ」
「はい。それでは指定をお受けします」
「もし、お客が増えすぎて、アルバイトを雇ったり、改装したりするのにお金が必要な場合は言ってくれれば、無利子で融資もするわよ」
「それは助かります。その時はどうすれば」
「名刺渡すので私に直接言って。話は通すから」

 その後二人はしかだ駄菓子店に行った。ホタルの返事はモチのロンだった。夫のココノツは苦笑いをしていた。




「駄菓子と言えば、ココアシガレットだわ」
「わいはブタメン」
「僕はねるねるねるね」
「サクラは都こんぶ」
「アンズはいかんぼうだにゃ」

 アンズがしかだ駄菓子店を気に入ったため、水曜日の放課後にまた行く事となった。アスカとレイは訓練があるため今日は来ない。アンズを一人で行かすと色々と面倒なのでシンジもついていく事になった。しかだ駄菓子店に行くとサクラとトウジとヒカリが来ていた。実は偶然ではない。トモヨがアンズを天然魚で買収済みだ。シンジの行動を報告してくれる。そこで、トモヨはサクラにしかだ駄菓子店に行くのを勧めて、トウジとヒカリに護衛を頼んだというわけだ。皆は駄菓子を選んだ後、喫茶えんどうで早速試食となった。皆一通り食べた後、シンジが箱を取り出した。

「これ微妙だよね」
「そやな」
「そうね名前も形も。味はいいんだけど」
「そだね」
「アンズはチョコレートだから食べられないにゃ」

 シンジが微妙と言っているのは、fireflyの新商品だ。えーじゃんげりおんチョコという商品名で、初号機と弐号機と零号機を足して平方根をとったような微妙なイラストがパッケージに描かれている。他にもシンジのようなアスカのようなレイのような少年少女が、レオタードのようなパイロットスーツを着ているイラストも描かれている。中に入っているのはチョコレート菓子ではなくれっきとしたチョコレートだ。そこはホタルのこだわりだそうだ。チョコレート自体の形もロボットのような人間のような変な形をしている。当然のごとくネルフに許可は取っていなかったのだが、指定店になったと言うことで、ミサトに事後承諾はとったそうだ。店長の尾張ハジメによると、結構小学生に売れるそうだ。ただみんなロボチョコと言って買っていくらしい。モデルへの無料配布と言うことで、シンジに一箱、1ダースもくれた。後でアスカトレイにもお裾分けが行くだろう。

「はい、アイスコーヒー二つ、昆布茶、アイスティー、オレンジジュースです」

 丸顔童顔の背が低いアルバイトの女性が注文した飲み物を運んできた。元々いたバイトの大学生の後輩で二十歳になったばかりだ。手際よく飲み物を配ってお辞儀をしてカウンターの前に戻っていく。

「トウジのすけべえ」
「なっなんやいいんちょ」

 アルバイトの女性は背が低いがやたらプロポーションが良い。ウエストも締まっているが、バストがスイカを半分に切ったように豊かだ。思わずトウジが凝視していた。

「だめよ、彼女を見てなくっちゃ」

 アルバイトの女性はニコニコしながらウィンクをした。ただ上手く出来なくて両目をつぶってしまう。

「えあ、その」
「彼女じゃなくって」
「まあ、その」

 トウジとヒカリがそろって狼狽えた。サクラとアンズはぼけっと見ているし、シンジは駄菓子を満喫している。いたって平和だ。

「いたたたたた。先輩頭が痛いっす」
「すみません。後輩がご迷惑をかけて」

 元からいた長身のアルバイトの学生が後輩の横に来ると頭を掴んで無理矢理下げさせ、自分も下げた。

「その、大丈夫です」
「そやな」
「先輩、大丈夫っていたたたたた、掴んでいるところが痛いっす」
「すみませんね、良く言い聞かせますから」

 先輩が手を離し頭を上げると、後輩は頭を押さえてカウンターの椅子に座り込んだ。

「そうか、先輩さんと後輩さんは恋人なんだにゃ」

 その様子を見ていたアンズが納得したように言った。

「「それはない」」

 ハモって言った。

「この根暗な先輩がぼっちになるのが心配でかまってあげているっす」
「お前がつきまとっているだけだろうが」

 二人とアンズを除いて、皆がこういうのを痴話げんかというのだなと思った。




「マウナケア観測所から情報入りました」

 その頃作戦部は忙しくなり始めた。




今度は買った本に影響されてしまったが、となると次回は彼女が出るのだろうか?
アンズがパワーアップしてしまっているのは、EVAザクラなのでしょうがないのだろうか?
次回「EVAザクラ新劇場版 破 第四話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく





[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第四話
Name: まっこう◆564dcdfc ID:4098afbe
Date: 2020/07/22 00:29
やっとクーラーが部屋に入った。文明の利器


------------------------

「で映像は」
「最大望遠で出ます」

 作戦室をどよめきが覆う。スクリーンには黒い塊が写っていた。ブラックホールを近くで見てみたらこう見えるのではと思った職員も多かった。ただし多くのブラックホールが降着円盤で光っているのとは違い、全く黒い。ただよく見ると時々閃光が表面を流れ、丸い本体を覆うような、薄い光の幕におおわれている。

「光をねじ曲げるほどのATFとは恐れ入ったわ。で、落下予測地点は」

 ミサトは苦笑いを口元に浮かべた。

「当然、ここよね」




EVAザクラ 新劇場版

破 第四話

落下




「でどうするわけ?MAGIで計算するもでもなく、全部吹っ飛ぶわよ」

 作戦部での状況確認の後、ミサトは政府や諸機関に第三新東京市からの退避を要請した。本来なら、司令、副司令の命令下行われるものだが、現在南極に出張中だ。使徒の影響か通信が全て妨害される。ミサトたちで全て対処するしか無い。

「さっきも言ったでしょ、EVAで受け止めて、コアを破壊」
「作戦じゃないでしょ」

 資料室にリツコの怒声が響く。ここは、電子化が済んでいない書類や資料の保存室だ。滅多に他人は入ってこない。密談にはうってつけだ。自分の怒声に冷静になったのかリツコは静かに話し出す。

「作戦と言えるの?このプランが。MAGIの検証でもしくじる可能性は99%強。たとえ成功しても、エヴァ三体を損失。技術部として、到底受け入れられません」
「可能性ゼロではないわ」

ミサトはリツコに背を向けた。

「奇跡を待つより地道な努力よ。リリスと初号機の保護を最優先とすべきです」
「待つ気はないわ。奇跡を起こすのよ、人の意思で」

 元々ミサトとリツコは目的が違う。安全をとるか成果をとるか、ある意味永遠の問題だ。作戦を主導する者と技術手段を提供する者の考えが違うのも当然だ。

「葛城一佐」

 ただ、余りに頑固なミサトに、リツコはまた大声を出してしまう。

「現責任者は私です。私が判断するわ。それに、使徒殲滅が私の仕事です」
「仕事、私怨でしょ」

 リツコの冷たい皮肉の声にもミサトの後ろ姿は揺るがなかった。




「手?」
「手」
「えー、手で受け止める?」

 アスカは思わず聞き返してしまった。EVAをジオフロントから地上に運ぶ際は、緊急時には射出装置で高速で運ばれるが、今回の様に時間に少し余裕が有る場合は、貨物車で運ばれる。EVAは精密機械でもある。戦闘前の破損は出来るだけ防ぐ必要がある。今三機のEVAは貨物車の操車場で載せ替え作業中だ。その操車場を見渡せるブリッジにミサトとシンジ、レイ、アスカがいた。シンジの足元には猫の姿のアンズもいる。はっきり言ってアンズは難しい事が判らないためかえって自由に往き来出来ることになった。弟や妹は私が守るとこんな時は着いてくる。

「そうよ。飛来する使徒を、EVAのATF全開で直接受け止める。目標は位置情報を撹乱しているから、観測による正確な弾道計算は期待できないわ。状況に応じて多角的に対処するため、本作戦はEVA三機の同時展開とします」
「ムダよ。私一人で殲滅できるもん」

 アスカがミサトに頭突きをするような勢いで顔を近づけて騒ぎ立てる。

「ムリよ。EVA単機では広大な落下予測範囲全域をカバーできないわ」

 ミサトはハンディの3Dモニターにシミュレーション結果を出し皆に見せている。使徒の位置情報は協力体制に入ったWWRの宇宙船TB3と宇宙ステーションTB5からの光学及び電波観測のデータでリアルタイムで変化するが、落下予測地点は、時間が経つにつれて、第三新東京市の中心に集約していく。そのシミュレーションでは、EVA三機は第三新東京市の外側の正三角形の頂点の位置に配置されている。

「この配置の根拠は?」

 レイがそれを見て質問する。アンズも興味があるのかレイの頭に乗ってのぞき込んでいる。

「女の勘よ」
「何たるアバウト」

 アスカは腕を組んで呆れ顔になった。

「あの、勝算は?」

 相変わらずシンジは弱気だ。おずおずミサトに聞いた。

「神のみぞ知るってところね」
「神ですか」

 シンジは思わずため息をついた。もっともため息では収まらない者もいる。アスカはただでさえ興奮して赤い顔をより赤くして叫んだ。

「だから他のEVAは邪魔なの。人類を守るくらい、私一人で充分よ」
「このオペに必要なのはシングルコンバットの成績じゃないの」
「私の才能を認めないわけね」
「違うわ。あなたたち三人の力が必要なのよ。奇跡を起こす為に」

 その時思わぬ者が声をかけた。

「ねえシンちゃん、何でアスカちゃんは怒っているの」
「えっと、姉さん、アスカは怒っている訳じゃ無いよ。その、EVAでの狩りの仕方で意見を言っているんだ。一人でやった方が上手く行くって」
「それは違うにゃ、狩りはみんなで追い込んだ方がうまくいくにゃ。アンズもジョセフィーヌやダイアナとよく組んで狩りをしたにゃ」
「黙れ化け猫」




 ネルフから情報が行った機関には当然WWRも含まれる。大体において、住民の待避や待避経路の確保はそれこそ本職だ。使徒の情報をリアルタイムで伝えているTB3とTB5を除いたTBメカはフル稼働中だ。TB2はその積載能力を買われて、EVA三機の送電ルートの構築を手伝ったりしているが、TB1やTBNは第三新東京市を巡回して逃げ遅れた民間人などをシェルターに運んでいる。TB4も新熱海の海上で国連軍と待機している。当然WWRの第三新東京市支部である大道寺家の屋敷のみんなも忙しい。屋敷の地下のシェルター兼作戦指令室には隊長のソノミが陣取って直接指揮をしている。
 ただ屋敷でWWRとは別行動をしている人間もいる。サクラだ。現時点での魔力はこの前無理をしたせいか、かえって通りが良くなり、少し限界が上がった。とりあえずフライの魔法を使い杖にまたがりパトロールをしている。背に魔力の羽を生やして飛んだ方が機動性がいいが魔力の消費が桁違いな為こうしている。避難できていない人がいればTB1やTBNに連絡しているがそれはおまけで、シンジが心配な為、見に行きたいと言うのが本音だ。そこはソノミも了解している。シンジ達の作戦が上手く行くように、第三新東京市の周辺を飛んで見回っている。すると上空に機影が見えた。

「あれ?ジャンボジェット?」

 この辺りは全ての民間機は飛行禁止になっているはずだ。腕時計型通信機の3Dディスプレイで見てみたが、やはりいないことになっている。それにジャンボジェットにしては全く音がしない。それに上に何か乗っている。ともかくサクラは全速力で近づいていく。近づいてみるとなんと全長一メートルほどのジャンボジェットの模型に人がまたがって飛んでいた。後ろ姿なので顔は見えないが女性のようだ。トラディショナルとも言える黒頭巾を被っている。脅かさないように後ろから近づき声をかけた。

「あのぉ」
「はい?」

 丸顔の女性が振り向き驚いていた。
 丸顔の女性のマリーは初め驚いて逃げようとしていたが、サクラが害意が無い事を伝えて同じ魔女だと伝えると、とりあえず下に降りて話そうと言う事になった。二人は初号機が見える山の中腹に降りた。

「では改めて私は木之本サクラ。魔法少女でWWRを手伝ったりしています」
「私、丹沢湖畔で山菜料理が有名な黒猫亭をやっているマリーって言います。ちなみに魔女じゃありません。箒で空が飛べたり、天候の流れを変える事が出来るだけで普通の人です」

 それって魔女や魔法少女というのではとサクラは思ったが、なにかマリーが必死なので言わないことにした。

「なんか待避命令が出たけど、どんな感じなのか見に来たの」
「えっと、この付近は危険ですね。出来れば待避した方がいいと思います」
「あの、サクラちゃんは一体何しているの」

 なんか話しても平気なような気がして、サクラは知っている事を話した。ついでに身の上話もする。この世界で二人目の魔女に会えてうれしかった事もある。もっともマリーは自分が魔女である事はかたくなに否定した。よほど昔酷いめに合ったらしい。話を聞くと少しずつ話してくれた。魔女狩り以前から五百年以上生きている事、容姿が変わらないのがごまかしきれず、ドイツから流れ流れて日本にやってきた事。薬草や山菜が豊富な富士山麓に住み着いた事。薬草の知識が生かせる薬膳料理のお店を開いていること。店を開く時日本国籍を偽装して、小田マリと名乗っている事などだ。
 サクラも他の世界から来た事、前の世界で結婚していたシンジを守ろうと決心している事なども話した。

「ともかく今は危険です。出来るだけ離れてください」
「判ったわ。サクラちゃんも気をつけてね」

 マリーが手を出したので握手をした。

「サクラちゃん、少し今未来が見えたのだけど。地図出してくれる?この町の」
「これですか」

 サクラは腕時計型通信機の3Dディスプレイで第三新東京市の地図を出した。

「凄いわね、えっと、ここ、この辺り、サクラちゃんのいるべき場所。多分そのシンジ君を助けられる」
「そうなの、ありがとう」
「気をつけてね」

 そう言うとマリーはジャンボジェットの模型にまたがった。

「これが済んだら、黒猫亭に来てね、じゃ」

 マリーは手を振ると模型と共に飛び立って戻っていった。

「ありがとう」

 サクラは感謝したが、やっぱりマリーは魔女だと思った。




 EVA三機は地上に運ばれて所定の位置で待機していた。シンジはこんな時は一人で沈思黙考するときもあるが、アンズと話すことも多い。アンズの能天気さに救われる事も有るが、アンズの野生の勘からくるアドバイスが有益な事も有るからだ。何より姉が生きているこの街を守ろうと言う気分になってくる。
 一方アンズは最近専用の控室が用意された。発令所で騒がれるのは邪魔だと言うこともあるし、それなりに重要人物と言うことでもある。その控え室には、シンジとは自由に話せる回線が用意されているし、作戦全体が見れるモニターも有る。今日はWWRとの情報交換の係員として、コノエが一緒に来ていて、ミサトの部下の一人と共にその部屋にいる。コノエにはリツコやミサトに直通の端末が持たされているし、TB5経由でWWR本部ともやり取りが出来る。

「シンちゃん、こんな狩りのコツは、静かに待つことにゃ」
「ハイ、姉さん」
「それと興奮している仲間のカバーをしてあげるんだにゃ。アスカちゃん興奮のし過ぎだにゃ」
「ハイ、姉さん」
「後はアンズも黙るにゃ。シンちゃんなら出来るにゃ」

 シンジとアンズの会話はもちろんネルフの作戦部ではモニターしている。それだけでなく、アスカとレイも聞いている。アスカは美しい眉を少しひそめて、口をへの字に曲げてきいている。レイは目をつぶって静かにしている。人それぞれだ。




 サクラは姿を消しつつ、マリーが教えてくれた場所に移動した。第三新東京市の兵装ビルの近くだ。こちらのネルフはサクラの命など気にせず作戦を遂行するだろうが、万一探知されてシンジなどの行動の迷いになってはいけない。移動前にTB5経由の暗号回線で異動先をWWRには伝えてある。ネルフも通信は傍受して解読しているが、チルドレン達には伝えていないだろう。もしかしたら未知の要素であるサクラは死んでくれた方がいいと思っているかもしれない。そんなことを考えながらサクラは時を待っていた。




 普段ならWWRは使徒戦には直接関わらないが、今度の使徒が高速で宇宙から飛来落下するため、軌道上のデータ採取にはTB5のアヤカが、落下途中はTB3のサキが、地表近くはTB1のマリエルがそれぞれのメカのセンサーと搭乗員の目で逐次観測をして情報を提供することになっている。世界中のどこにもここまで高速の物体を追尾観測できるメカが他にないためだ。これらのメカの指揮権も一時的にミサトに預けてある。搭乗員に死ねというのは従えないがメカを犠牲にする覚悟はWWRにもある。作戦が失敗すれば史上最大の大災害になるからだ。TB5とMAGIを一部リンクしてそこから指令が出る事になっている。




「おいでなすったわね。EVA全機、スタート位置」

 使徒から一定の距離をとって追尾するTB3からのデーターが作戦開始の時を教えた。ミサトの合図でEVA三機はクラウチングスタートの体勢になる。

「観測データが当てにならない以上、以降は現場各自の判断を優先します。EVAとあなた達に全て賭けるわ」
「目標接近。距離およそ二万」

 シゲルが叫ぶと作戦室はかえって静かになった。

「では、作戦開始、発進」

 ミサトの合図に、EVAのアンビリカブルケーブルがリジェクトされ、三機は反動版を蹴ってダッシュする。MAGIが刻々と落下予測地点をEVAのコックピットのモニターに転送する。そこに向かって三機は走る。山を飛び越え、道路を踏み抜き突進する。初めのうちは使徒の落下予測地点は三機の丁度真ん中に落ち、三機とも間に合うはずだった。
 そしてそれは宇宙用のTB3から大気圏内用のTB1に追尾が変わった直後起きた。使徒を少し遅れて追尾していたTB1のマリエルからは使徒の裏面が見える。何かが変わった。

「使徒、形状変化、裏側が発光、いえ、めくり上がります」

 今までの使徒の黒い表面は偽装のための空間だったのか、もしくは脱皮前の皮膚みたいなものだったのか、ともかく形状が変化した。それと共にまとっていたATFも変形していく。

「目標のATF変質。軌道が変わります」

 マコトが叫んだ。TB1のセンサーからのデーターがMAGIにフィードバックされ、モニターの形状落下地点などに誤差が生じたことが表示される。
 ミサトは眉をひそめ、歯をかみしめる。

「落下予測地点、修正02」

 シゲルの声と共に、皆のモニターの落下予測地点が変化する。

「目標、さらに増殖」

 使徒は始め脱皮したように明るい光の玉になったが、やがてまた形状が変化する。
 当然EVAのコックピット内のモニターにも落下予測地点の変化は送られてくる。

「何よ。計算より早いじゃない。ダメ。私は間に合わない」

 アスカが横目で使徒を見ながら叫ぶ。

「こっちでなんとかする。ミサトさん」

 現時点での落下予測地点に一番近いのはシンジだ。ただ落下予測地点は現在初号機が向かっている方向とは相当ずれている。シンジの叫びにミサトはすぐに反応した。

「緊急コース形成。605から675」

 ミサトの指示にマコトは手を踊らせた。

「はい」

 マコトが撃ち込んだコマンドで、初号機が直進中の市街地に敷いてある装甲板の一部が立ち上がり、バンクのような状態になった。初号機の通り過ぎる速度とほぼ釣り合ってバンクは形成されて行く。バンクを半分ほど進んだ時だった。作戦部のモニターにエラーの文字が躍った。

「645番アクチュエーター故障、上がりません」

 シゲルの声は悲鳴に近かった。




 TB5のAIイオスはMAGIと似ているところがある。ほぼ完全な人格があり、計算方法がそれに影響される事がある。その為、MAGIに比べ演算能力は遙かに劣るが、MAGIが出来ない事が出来る場合もある。作戦中与えられた情報を使い、何度も計算した結果、アクチュエーターの故障を2秒前に予測できた。ただ2秒前にシンジに教えても遠心力でバンクにへばりつくように走る初号機では、上がらない装甲板を飛び越える事が出来ないのも計算できた。初号機がこけたら人類滅亡だ。イオスはMAGIに知らせると共にWWRとネルフの通信回線に叫んだ。

「サクラ、装甲板が上がらない」




 サクラはTBNの後部座席にいた。何かあった時に直ぐ移動できるように、ソノミがよこした。現状TBNの出番が無い為もある。TBNはステルスモードで地上1メートルにホバリングしていた。運転席にはナギサがいる。

「サクラ、装甲板が上がらない」

 コックピットのスピーカーから声が聞こえた時、やる事は判った。マリーが時読みしたとおり、上がらない装甲板は直ぐ近くにあった。

「タイム」

 辺りの時が止まった。動けるのはサクラとナギサとTBNだけだ。サクラはナギサの肩に手を当てて言った。タイムの魔法を何回か試したところ、触れている物と人は動けるのが判っている。ただ徐々に人は苦しくなってくるし、物も形状が崩れてくる。ただ短時間なら大丈夫だ。

「装甲板の下に潜り込んで」
「あり得なぁい、けど、やるっきゃない」

 ナギサは一気にTBNを上昇させると主観時間十秒で装甲板の端まで行く。少しだけ持ち上がっていた装甲板の下に潜り込むとアクチュエーターの連結部近くに行く。サクラは後部座席で立ち上がると手を上に掲げた。

「次の魔法をかけたら全力で上昇して」
「判った」
「我に力を、パワー」

 サクラの叫びと共にTBNは上昇した。サクラは装甲板とアクチュエーターの連結部を掴み持ち上げる。パワーの魔法はTBNにも作用した。おかげで本来ならばTB2ぐらい推力が無ければ上がらない装甲板が上がっていく。二人の主観時間で二十秒ほどで装甲板は持ち上がり、その状態でロックされた。

「もどっ」

 サクラは気絶した。次の瞬間、時間は流れ始めた。轟音と共に初号機が通過していった。

「サクラちゃん」

 サクラの状況はコックピットのモニターに表示されていた。心拍が止まっている。ナギサはTBNを屋敷に向かって全力で飛ばすと共に、後部座席の自動医療処置装置のスイッチを入れた。




「645上がってます」

 サクラ達以外には瞬時に装甲板が上がったように見えた。ミサトはなんとなくサクラが何かをしたと理解したが今は気にしている時では無い。

「次。1072から1078スタンバイ」

 今度は地面から箱形の装甲が一気にせり上がり、階段のような足場が出来た。初号機はそれを使い駆け上がりジャンプした。着地すると一気に加速し音速を超えた。辺りに衝撃波がまき散らされ、建物などが破壊されて吹き飛ぶ。
 一方使徒はまた形状が変わった。まるで本体に瞳のような模様が着くと、羽のような物を左右に広げた。羽には触手のような物が湧き出ている。

「目標変形、距離1万2千」

 シゲルはの叫びとほぼ同時に、シンジは使徒の真下に辿りついた。足で急ブレーキを掛ける。

「ATF全開」

 シンジの叫びと共に初号機は両手を上に掲げた。初号機のATFが辺りを覆い尽くす。そこに使徒が落下した。使徒は初号機のATFに遮られて地表に達することは出来ない。初号機の上にコアのような物が見える。そのうちその部分から生き物の上半身みたいな物が現れた。二本の手のような物が延びてきて、初号機の掲げた手の平にがっちりと組み付いた。
 次の瞬間、使徒の手のような物は槍状の物に変化して初号機の手を突き破る。シンジは激痛による叫びを上げた。痛みに耐えなんとか使徒を持ち上げようとするが、使徒はその重量を使い押しつぶしてくる。初号機の体勢が徐々に沈んでいき、各部の装甲が割れか体液が吹き出てくる。

「シンジ」

 やっとアスカと弐号機が落下地点に到着した。弐号機はナイフを両手に使徒に飛びかかる。

「どぅおりゃぁぁぁ」

 弐号機は左手のナイフで使徒のATFを切り裂き、右手のナイフをコアに突き立てた。

「外した」

 使徒のコアは、中心の周りをくるくると衛星のように回転した。素早い動きにアスカは中々手が出せない。

「ちょこまかと往生際が悪いわね。あと三十秒秒」

 活動限界まであとわずかだ。さすがのアスカの顔にも焦りの色がある。

「アスカ」

 シンジがうめくような声を出す。

「分かってるってば」

 その時、零号機が到着した。コアに掴みかかって動きを止めた。

「レイ」

 零号機の手は、見る間に間に赤熱と化していく。

「早く」

 レイの声にも苦痛の色が濃い。

「アスカ」

 シンジは目をつむって痛みに耐える。

「わかってるっちゅーのぉぉ」

 弐号機は右手のナイフをコアにたたき込んだ。続いて左手のナイフも突き刺す。

「もういっちょぉぉ」

 弐号機はとどめとばかりに、膝から突き出たスパイクをコアにたたき込んだ。次の瞬間、使徒のコアは割れた。使徒のATFは無くなり、単なる物質となった。そして使徒の全体から力が抜け崩壊し、大量の赤い体液を吹きだして完全に活動が止まると、EVA三機に覆い被さるように地面に落ちた。

「パイロット三名生命維持に支障なし。EVA自体は三機とも大破」
「ありがとう、みんな」

 一瞬静かになった作戦部だがミサトの声でまた騒がしくなる。

「電波システム回復。碇司令から通信が入っています」
「お繋ぎして」

 SOUNDONLYでの通信にミサトは、モニターの前に襟を正して立った。

「申し訳ありません。私の独断でエヴァ三体を破損。パイロットにも負傷を負わせてしまいました。責任は全て私にあります」
「構わん。目標殲滅に対しこの程度の被害はむしろ幸運と言える」

 冬月の声に作戦室に安堵の雰囲気が流れる。

「あぁ、よくやってくれた葛城一佐。初号機のパイロットに繋いでくれ」
「はい」

 ゲンドウの声に回線は初号機へつながれた。

「話は聞いた。よくやったなシンジ」
「え。はい」

 シンジは唖然とした表情で答えた。

「では葛城一佐、後の処理は任せる」
「はい。EVA三機の回収急いで」

 また作戦室は慌ただしくなった。

「搬入は、初号機を優先、救急ケージへ」




 街は使徒の体液で破壊されたが死者はいなかった。チルドレン達は無事だったし、一時心停止したサクラも蘇生した。但しまた入院だ。使徒の残骸を取り除くのに一週間はかかるが、そうすれば退避した者たちも戻ってくるだろう。




 その日の夜、検査などが終わったアスカは自室に閉じこもっていた。頭の中がぐるぐる廻っている。布団に横たわって目をつぶっていた。

「私一人だと何も出来なかった」

 歯ぎしりをする。その時部屋の戸が少しだけ開いた。ほんの十五センチぐらいだ。何か入ってきた。また戸が閉まる。枕元に近寄ってきたのは、アンズだ。猫の姿だ。

「アスカちゃん、ご飯食べないの?」
「うるさいわね、黙ってて化け猫」
「アンズは猫又だよ」

 アンズはアスカの顔の前に座り込んだ。しばらく二人とも黙っていた。

「ねえ、アンズは何で狩りをしたの。愚問ね。食べるためね」

 先に口を開いたのはアスカだった。

「違うよ。アンズは食べ物はお父さんとお母さんに貰っていたから。えっと猫は狩りをしたい物なの」
「そう。したいからしてるのね」
「うん。でもね、役に立ったよ。シンちゃんに教えてあげられたから」
「そう」

 しばらくして、アスカはアンズに手を伸ばした。頭を撫でた後、胴をもって近くに寄せた。抱きしめる。

「ずっと、一人が当たり前だったのに」
「アスカちゃんさみしいの?」
「判らないわ。ただ、一人じゃ何も出来ないなって」
「そんなことないよ。アスカちゃん可愛いし、いろいろ出来るし、アンズの自慢の妹だにゃ」
「そう」

 アスカはまた黙った。しばらくアンズを撫でる。

「シンジは何でEVAに乗るのかな」
「シンちゃんはね、実はお父さん大好きなの。ちっちゃい頃、お父さん、お母さんってよく泣いていたのよ。きっとお父さんに褒めて欲しいんじゃないかな」
「そんなの、理由にならない。だとしたらシンジはバカね」
「シンちゃんは頭いいよ」
「私とどっちが」
「ええと、アスカちゃんかな」
「そっ、嬉しいわ。なんかアンズと話していると落ち着く。これがお姉ちゃんなのかな」
「うん。アンズはみんなのお姉ちゃん、シンちゃんやレイちゃん、アスカちゃんみんなのお姉さんなのよ」
「そう。私仲良くなれるかな?」
「大丈夫、ジョセフィーヌやダイアナとも初めは喧嘩ばかりしたけど。仲良しになったよ」
「会ってみたいわね、そのどら猫」

 二人は夜遅くまで話し続けた。




 翌日の朝、珍しく朝が遅かったシンジはのんびりダイニングキッチンに向かった。EVAで出撃すると三日間は自宅待機だ。ミサトは後始末で昨日から帰っていない。ただ、それなのにキッチンから音がする。

「ミサトさん帰っていたんですか?あれ、アスカ?」

 アスカがキッチンで朝食を作っていた。意外と言っては失礼だが手際がなかなかいい。

「少ししたら出来るわ。待ってて」
「う、うん」

 シンジはテーブルに着いた。

「アンズと話したんだけど、私はアンズの妹なんだって。私とレイとシンジでは長女だって。兄弟げんかしても仕方ないし、バカシンジやレイの実力は認めるわ。私実力がある奴は認めるの」
「えっあっうん」
「さあ、朝ご飯出来るわ、アンズ起こしてきて」
「うん」

 シンジは立ち上がると、アンズの部屋に向かった。




 まったくいい目に会わないサクラは主役なのか?大体EVAザクラは姥桜から来たはずではなかったのか?
 その割に大人が活躍しないのはEVAザクラなのか?

次回「EVAザクラ新劇場版 破 第五話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく





[43351] EVAザクラ 新劇場版 搭乗人物一覧
Name: まっこう◆564dcdfc ID:4098afbe
Date: 2020/07/24 19:53
自分でも判らなくなってきましたので。

---------------------

相田ケンスケ WWR隊員、おたく、コノエの弟子、変態EVA仮面->トモヨとコノエの力と技のダブルパンティーで変態仮面EVA3に進化(トモヨにだけはばれていない) DT因子保有者
青葉シゲル ネルフ司令部付きの技官 髪の長い人
赤木リツコ ネルフの技術担当 ミスカトニック研究所に一時所属
アカリ 火星の水先案内人 デザイナーベイビー
アリア社長 白猫(青い目)
綾波レイ 零号機パイロット
イオス TB5の搭載AI、電子の妖精と融合 
碇アンズ  元飼い猫(猫又) アカリとアリアが融合した者
碇シンジ  初号機パイロット DT因子保有者
碇ゲンドウ ネルフ指令
伊吹マヤ リツコの部下 後輩の人
犬神カリンカ WWR隊員、ソノミの養子、TB4パイロット
犬神クルミ WWR隊員、ソノミの養子、TB2パイロット、 DT因子保有者
犬神サキ WWR隊員、ソノミの養子、TB3パイロット
エイトロン セリカが操るアンドロイド。別名セリオ 時間制限約5分
遠藤サヤ 喫茶えんどう 店長
小田マリ 本名マリー 魔女 丹沢湖畔で山菜料理が有名な黒猫亭をやっている 模型飛行機にまたがり空を飛ぶ
尾張ハジメ しかだ駄菓子店店長

加持リョウジ ネルフ監査部所属
葛城ミサト ネルフの作戦担当  DT因子保有者
木之本サクラ 魔法少女
九段クキコ 学級担当、霊能力者
栗栖川アヤカ WWR隊員、ソノミの養子、TB3、TB5パイロット、元アジアエージェント
栗栖川セリカ WWR隊員、ソノミの養子、TB3,TB5パイロット、元EUエージェント、第三の眼・脳波通信機埋め込み手術被験者、エイトロンマスター DT因子保有者

早苗ヤシマ WWR隊員、警備要員
鹿田ココノツ 漫画家 鹿坦々 ホタルの夫
鹿田ホタル 駄菓子会社fireflyのCEO 残念な美人
式波・アスカ・ラングレー 弐号機パイロット 好物 afri cola DT因子保有者
鈴木イクヨ WWRの技術者、レインの弟子 日本支部の技術関係を担当 第三新東京大学在学
鈴原トウジ 土門の弟子、WWR隊員、TBNコパイロット DT因子保有者
セバスチャン セリカとアヤカの元執事、WWRのEUエージェント、喧嘩殺法の達人
先生 アンズの元飼い主、シンジの育ての親
先生の奥さん アンズの元飼い主、シンジの育ての親

大道寺ソノミ 富豪、WWR隊長 夫と従姉妹のス族をセカンドインパクトで失い組織を作った。アジアで四番目のお金持ち
大道寺ソノミの祖父 政治家、日本の黒幕、ぜーレメンバー?
大道寺トモヨ WWR隊員、ソノミの実子 DT因子保有者
剣コノエ WWR隊員、警備要員、
トーゴー 代打屋
土門・カッシュ WWRの体術指南 警護班リーダ
土門・レイン WWRの技術責任者、TBメカの設計者 ミスカトニック研究所に一時所属

パーカー 屋敷の執事長
花右京タロウ WWR隊員、ソノミの養子、医師
花右京マリエル WWR隊員、ソノミの養子、TB1パイロット
早川ケン 私立探偵
日向マコト ミサトの部下 眼鏡の人
冬月 ネルフ副司令
洞木コダマ 短大卒 魚洞の店長、魚屋は一週間に三日なのでそれ以外の日は工場の事務 筋肉質で眼鏡
洞木ヒカリ 学級委員長、WWR隊員、TBNパイロット

マックス 四本足の家事用ロボット WWR本部の雑用係
美墨ナギサ WWR隊員、ソノミの養子、TB5パイロット->TBNパイロット 運動神経抜群 簡易装甲服プリキュアの使い手
ミサトの部下その2

雪代ホノカ WWR隊員、ソノミの養子、TB5パイロット->TBNコパイロット 祖母は睡猫降神流という投げ技を主にした武術の達人 成績は学年トップ 簡易装甲服プリキュアの使い手

ルーシー ロスからの交換留学生 お母さんが日系企業の副社長。お父さんは離婚協議中。

先輩と後輩 喫茶えんどうのアルバイト 


その他
テロに巻き込まれた母子
キョウタ テロに巻き込まれた幼稚園児


ハサミジャガー デストロンの改造人間 変態秘奥義、スーパーおいなりさんスパーク!!
ハンマークラゲ デストロンの改造人間 プリキュア・マーブル・スクリュー
ヘビンダー デストロンの改造人間 26の必殺技の一つ、変態奥義地獄のデスドロップ
戦闘員 デストロンの低レベル改造人間
銀行強盗の一団   三人組 地獄の……ジェット・トレイン!!
銀行の旧支店長 逆恨みでトモヨ達を金庫室に閉じ込めた
養殖センターの職員
謎の美少女


名前だけ
相田フテオ 俗称フット セカンドインパクト前に、悪化する地球環境に適合するため、人間に機械的改造を行いそれによる進化を主張して学会を追放された、ケンスケの叔父
アル アカリの火星での友達
木之本ナデシコ 故人 ソノミの従姉妹
ジョセフィーヌ アンズの友達猫
鈴原サクラ トウジの妹、入院中
クキコのご先祖様
ダイアナ アンズの友達猫
タマ アンズの友達猫 アビシニアン
ナイト財団
キングスマン
朝倉カオル ホノカの祖母
東山ニシオ  DT理論の提唱者
超人
疫病神
カッシュの師匠



メカ
EVA零号機
EVA初号機
EVA弐号機
TB1
TB2
TB3
TB4
TB5
TBN
FAB-1
BIG-RAT

変態EVA仮面&変態仮面EVA3の技
ASF
変態パワーアップ
地獄のジェット・トレイン!!
変態秘奥義、荒縄シ-ルド
変態秘奥義、スパイダーネット・フラッシュ
フライング亀甲縛り
変態秘奥義、スーパーおいなりさんスパーク!!

その他の用語など
大道寺島 今では赤道上になった日本の近くの島 WWRの本拠地
ナデシコ島 今では赤道上になった日本の近くの島 ナデシコ学園の所在地
ナデシコ学園 全寮制の小中高一貫の私学 WWRの隊員やエージェントを育てる訓練所 学園長はソノミ



[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第五話
Name: まっこう◆564dcdfc ID:4098afbe
Date: 2020/08/12 15:01
暑いしコロナだし。EVAの世界はもっと暑いのかしら?


--------------------------------

「で、なんであんたがここにいるの」
「電気止まったから。夜はネルフに泊まるけど、昼はここにいなさいって言われた」

 使徒を倒した翌日の昼、レイは葛城亭のテーブルに陣取りTVを見ていた。TVは懐かしのアニメ番組が流れている。レイが住んでいるマンションは送電が止まっている。復旧には三日間ほどかかるらしい。昨日はネルフ本部内の宿泊施設に泊まったが、昼間は葛城亭に世話になる事になっている。手に包帯を巻いているのは、零号機が使徒のコアを掴んだため、それが影響して軽い火傷状態だからだ。

「じゃ、あんた夜の料理当番ね」
「私、料理出来ない」
「別に豪華な料理を出せって言うんじゃないわよ。パスタでも茹でればいいわよ」
「パスタ?」

 珍しくレイが困り顔だ。アスカが眉をひそめた。

「あんた、バカシンジに続いて、ダメレイね」




EVAザクラ 新劇場版

破 第四話

パーティー




 市街地に流れ込んだ使徒の体液は直ぐに腐り出した。使徒の遺伝子構造は人間のそれに近い。構成している物質は水分やタンパク質や脂肪などで、ATFが無い今、地球の細菌類も分解出来る。そのせいでやたら臭い。それに微妙に違うアミノ酸配列のタンパク質があるのか、分解すると変わった臭いがする。普通の街なら清掃作業は戦自が担当だが、第三新東京市の場合はネルフの施設部が担当する。今度の使徒はやたらデカかったため残骸の運搬にはWWRも協力した。そのため大型輸送機であるTB2は動きっぱなしだ。本来はソノミが指揮するところだが、大道寺コーポレーションの長としての仕事もあるので、隊長代理としてマリエルが指示を出している。
 災害慣れはあまりしたくはないものだが、第三新東京市の市民は災害慣れしている。第三新東京市自体は軍事都市だが、周辺にはいくつか民間の非軍事企業がある。一つは大道寺コーポレーション、もう一つはfireflyだ。本社兼研究所が第三新東京市を挟んで対称の位置の小さな山の斜面にある。使徒の残骸の直撃は受けなかったため、二社とも本社機能が助かった。今回の様に被災時はこの二社が中心になって一般市街地部の復旧が行われる。
 ジオフロントのシェルターにいた避難民は、使徒の被害がなかった公共施設のうち主に学校に一時移動することになった。第三新東京市では元々その様な事も配慮した学校作りとなっている。体育館が学校の規模に比べて大きいのはここが物資の配給所などに使われるためだ。第壱中の体育館にも役所や企業の窓口が設けられた。まず市役所の被災関係の手続き窓口がある。その窓口で振り分けられて、衣料、住居、医療関係は大道寺コーポレーションが、食料関係はfireflyが面倒を見る。両者とも自前のロジスティクス部門があるためこういう際は動きが速い。他にもマスコミ・官公庁などとの対応や折衝はソノミが引き受ける。

「こういうときこその、駄菓子です」

 いつもの派手なフリル付きの衣装でCEO自らお菓子を配っているのはホタルだ。宿泊所になっている学校の教室を廻っては、子供達に駄菓子を配っている。ホタルは自分の会社のキャンペーンガールもやっていてちびっ子にはTVでおなじみだ。派手で綺麗で面白いお姉さんが駄菓子を配るだけで、小さな子供は安心する。

「ブタメン、えーじゃんげりおんチョコ、いかんぼう、いくらでも持っていってくださいな」
「アンズがいっぱい担いでいるからいくらでもいいにゃ」

 アンズは帽子も被っていないし、短いスカートだ。猫耳と尻尾は見えている。最近アンズは街の住人に、いつでもコスプレをしている運動神経のよいお姉さんと思われるようになった。そのため、普段はそういう人だとアンズ自身も思い込むように、BIG-RATでカバーストーリーを覚え込まされている。黙っていればそれなりに美人だし、お菓子を配る力仕事にはうってつけと言うことで、手伝っている。
 一方体調を崩した住民や子供達には大道寺家の医療スタッフが対応している。屋敷の医務室と連携して、具合が悪い者は大道寺家の屋敷の臨時の宿泊所や大学病院などに搬送している。スタッフの確保もソノミの政治力や顔の広さでなんとかなっている。




 民間も大変だがネルフや役所も大変だ。トーゴーなどは本職の市役所土木課の仕事が忙しく、代打の仕事が出来なくて金欠で困っているらしい。もちろんネルフ職員も休む暇はない。

「おつかれさま。これお土産」

 しかだ駄菓子店と喫茶えんどうも被害を免れた。使徒が落ちた現場に近く、他にネルフの指定店も無い事もあり、客はネルフの関係者だらけで、ほとんどネルフの一時休憩所と化している。使徒の残骸の後始末も作戦指揮は作戦部が行う。ミサトはおかげでてんてこ舞いだ。喫茶えんどうに端末を持ち込んで仕事をしていた。

「ありがとう」

 端末から顔を上げると、加持のにやけ顔があった。ついでにしかだ駄菓子店の大人向けのお菓子であるウィスキーボンボンの袋がコーヒーカップの横に置かれた。

「丁度お茶菓子が切れたところだったわ」
「葛城は働き過ぎだよ、あっサヤちゃん俺もコーヒー」

 顔見知りになっているらしい。今日はバイトの大学生はいない。大学は使途の残骸の直撃は食らわなかったが、体液の洪水の通路だったため、やはり当分休校だ。

「現場監督は大変なの。仕事漬けよ。あんたみたいな暇人と違うわ」
「そりゃどうも。そう言えば普段昼飯はシンジ君の手作りだって。ま、キミは手料理ってガラじゃないしな」
「わるうございました」

 加持が隣の席に座って顔を近づけてきたので、ミサトはそっぽを向く。

「もうちょっと余裕持てよ」
「余裕なんて持てないわよ」
「まあ、キリッとしたところと普段の落差が葛城の魅力でそこに惚れたんだが」
「浮気男が何言っているんだか」

 ミサトの口調はそれほどきつくない。いつものやりとりらしい。

「おっとそこに置いて」

 サヤがコーヒーを持ってきたが、ミサトたちのやりとりが終わるまで待っていた。加持の目の前にホットコーヒーを置いた。

「あの、ミサトさん。あれいつ頃片付きそうですか?バイトに予定を伝えたいので。結構ネルフの人が来るので一人だと大変なんです。兄もfireflyの仕事が忙しくってこっちにこれなくて」
「一週間はかかるわね。ここ便利なんで職員がいっぱい利用するのでよろしく」

 サヤのおかげで、話に区切りがついて少しほっとしたミサトだった。




「綾波来てたんだ」
「レイちゃん」

 マンションの周りを散歩していたシンジが戻ってきた。アンズもホタルの手伝いからの帰りでシンジと待ち合わせて戻ってきたところだ。アンズはレイに抱きついて頬ズリをしている。シンジもレイと同じく手のひらが包帯でぐるぐる巻きになっている。

「なんか、レイは昼の間はここにいるんだって。まっ妥当な判断ね。私眠いから寝るわ。昼ご飯作っといたわよ」
「ありがとう、アスカ」

 アスカは頭をかきかき自室に戻っていった。テーブルには三人分のサンドイッチがある。卵サンドだ。アスカはゆで卵にはこだわりがあるらしく、固めのゆで卵とマヨネーズと辛子のサンドイッチが好きと言うことだ。

「ねえねえレイちゃん。お願いがあるの」
「なあに」
「この本は漢字がいっぱいで読めないから、預けとくから、行ったら読んで」

 アンズはレイに文庫本を渡した。題名は「姉弟にっき」だ。

「本屋さんも学校に避難していて、子供にお菓子配ったら、代わりにくれたの。前から気になっていたんだけど、読めないから買わなかったの」

 魚洞のある商店街の皆はジオフロントのシェルターに避難していた者が多い。本屋の親父もそうだ。商店街は使徒の体液の直撃は免れたが、それでも粉塵などで当分店は開けられない。暇つぶしにしてもらおうと、最近のヒット作を持ってきて皆に売っていたが、アンズにはプレゼントしてくれたらしい。アンズはWWRの隊員と思われていて、そのお礼でもあるらしい。

「わかった」

 レイはネルフから支給された高級ブランドのシリコーンバックに入れた。この前の養殖センターでのテロの後、持ち物は基本防水防刃が出来る物になっている。

「後で防水加工をしてもらう」
「頼んだにゃ」

 レイとアンズが話している間にシンジはポットのお湯で紅茶を入れた。アンズには麦茶を用意する。

「じゃ昼ご飯にしよう」
「いただきます」
「「いただきます」」




「今回は呼吸も心臓も止まったんだぞ。いいか、お前に言うのは釈迦に説法だが、死んだら終わりだ。いまは無敵のマジカルクイーンじゃないんだ」

 いつもならたばこを片手に言っているが、さすがに病人の前では吸えない。そのせいかクキコは結構いらついている。

「今の木之本の魔力なら、私でも封じ込める。でもそれは嫌だろ」
「はい」

 ここは大道寺の屋敷の医務室だ。部屋にはサクラとクキコと看護師資格を持つメイドが一人いる。ベッドで身を起こしているサクラにクキコが説教をしている。TBNで運搬途中に後部座席の自動医療装置で蘇生したサクラは、屋敷ではなく大道寺島の医療室の方へ運ばれた。そこで治療を受け、ある程度回復したところで屋敷の医務室に移された。戻ってきたそうそうクキコにより魔力的なチェックも行われた。最近ではクキコはWWR専属の対魔スタッフとしてお金も貰っていたりする。そうでなくても可愛い教え子であるには違いなく、クキコのほうからやってきた。

「なあ、そろそろあの碇は木之本の碇と違うと認識した方がいい。難しいかもしれないがな」
「うん。サクラも判ってる。でも、同じ顔かたちなの、同じ声なの」
「そうか。ともかくだ」

 クキコは立ち上がった。左手でサクラの頭を撫でる。

「生きていればこそだ。今度無理する時は私に連絡しろ。少しは役に立つ」

 クキコは微笑んだ。つられてサクラも微笑んだ。




 三日後、サクラは医務室から自室に移された。看護師のメイドもナースコールをすればとんで来るが、今は一人だ。サクラはあまり部屋が大きいのは好きでは無いため、大道寺家の部屋としては狭い十畳程の部屋を使っている。家具はベッドに机、簡単な応接セットだ。ただ収納スペースはたっぷりあり、小さなバルコニーも有るため手狭な感じは無い。その日の夜、サクラは寝入りばなバルコニーのガラスをノックする音を聞いた。ベッドを降りるとバルコニーに向かう。思った通りの人がいた。気配で判った。

「夜にごめんね」
「いえ、来てくれて嬉しいです」

 バルコニーの窓を戸を開けるとジャンボジェットの模型を持って訪問者は入ってきた。靴はバルコニーに脱いである。サクラはスリッパを渡した。サクラの部屋は24時間監視があるはずだが、サクラが何かしたのか訪問者が何かしたのか誰も来ない。

「こんばんわサクラちゃん」
「こんばんわマリーさん」

 サクラは部屋の端のソファーを勧めた。マリーはジャンボジェットの模型をバルコニーに置くと部屋に戻りソファーに座った。サクラは隣に座る。

「大変だったわね、もう大丈夫?」
「はい。少ししたら学校もいけます」
「それはよかったわ」
「昼間くればお茶とかお菓子とか出せたのだけど」
「日本に来て百年経つけど、交通機関が苦手なの。混みすぎ」
「そうですね。ところでなんでジャンボジェットの模型に乗っているんですか?」
「昔は箒に乗っていたんだけど、箒って魔女と結びつけられる事が多いでしょ、私魔女じゃないし」

 魔女だと思ったがサクラはそこは黙っていた。

「で、何かいい物がないかいろいろ試したんだけど、あの形なら両手で掴めて安定するし、飛行機なら空飛んでいるし、ネットの通販で買ったのよ」
「私は杖ですね」
「あの杖可愛いわね。TVで見ると日本の魔法少女ってカラフルで派手な衣装を着ているわね。目立ちそう。怖くない?」
「えーと、日本もばれると怖いけど、魔女狩りはなかったし」

 同じ様な能力を持っていて出自が違うマリーと話すのは楽しい。二人は話し込んだ。

「あら、もうこんな時間ね」

 マリーは立ち上がった。もう丑三つ時だ。

「よかったら今度お店に来てね」
「はい。みんなで伺います」
「じゃ帰るわね」

 マリーが手を伸ばしたのでサクラは握った。

「あのサクラちゃん、また未来が見えたんだけど」
「どんなですか?」
「近々出会いがあるわ。あなたにとって良いか悪いか判らないけど」
「そうですか。でも、ありがとう。助かります」
「どういたしまして」

 マリーはぶんぶんとふって握手をするとバルコニーに出る。ジャンボジェットの模型にまたがった。

「それじゃまたね。おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 マリーは手を振りつつ空を帰って行った。サクラは見えなくなるまで手を振っていた。




 五日間が過ぎた。一週間で使徒の残骸の後始末は終わった。学校を避難所にしていた人たちも皆、行き先が確保できたので、学校が再開となった。めでたい話なのだが怒っている人もいる。その日の昼休みだった。

「えぇー。お弁当持ってきてないの」

 アスカはシンジに顔を近づけわめいていた。教室は食堂や売店にいっている者が多く人はまばらだ。

「昨日は初号機のテストがあったから、寝て無くて、作る時間なかったんだよ」

 初号機が優先して修理されているため、シンジだけ急に呼び出されることが多い。昨日も夕方呼び出されて初号機の調整につき合わされた。

「だからって、このあたしにお昼なしで過ごせってーの。あんたは」
「だから明日はちゃんと作るよ」

 そんなやり取りをする二人を見てトウジがにやついた。

「なんや?また夫婦喧嘩かいな」
「違うわよ」「違うよ」

 アスカとシンジは息もぴったりに否定する。

「大体それならジャージはどうなのよ、ほら奥さんよ」

 丁度ヒカリが教室に戻ってきた。サクラやトモヨ、ケンスケも一緒だ。

「ねぇーヒカリ」
「え、何?」

 アスカがにたつきながらヒカリに近づいていく。今度はトウジが慌てた。

「なっなっなんや」
「変な鈴原」




 翌日は肉中心のお弁当がアスカに用意された。アスカがおかずを摘まみながら窓の方を見るとシンジがレイにお弁当を渡していた。最近は食べる喜びを知ってきたレイだが昼食はいつも食べなかった。なんとなく心配に思ったシンジがレイの分も作ったらしい。

「いつも食べないけど、よかったら」
「あっ、ありがとう」

 そんな会話が聞こえてきた。視線を戻すと目の前にヒカリが立っていた。

「アスカ、ご飯一緒に食べない」
「いいわよ」

 ヒカリはアスカの前に座った。最近はずいぶんアスカとヒカリは仲良くなった。元々ヒカリは誰とでも仲良くが主義だ。その上ヒカリはWWRの隊員になってから、いろいろな機密事項に触れたり、救助活動で命の選択に近い事を繰り返すうちに、自分の正義をヒステリックに言う傾向が収まってきた。その為、アスカも秘密をある程度知っていてその上であまり踏み込んでこなくなったヒカリを気に入っている。

「碇君が気になるの?」
「別に。レイは学校で昼ご飯食べるの見ないなって思って」
「そうね。綾波さん食べる時は食べるのに」
「まあ、いいわ。ところでヒカリ、旦那の分はあるの」
「旦那って」

 少しヒカリの声が引きつる。アスカは目つきが少し怪しくなる。この辺りは上司であるミサトに似ている。

「ジャージよジャージ」
「す、鈴原は」

 今日も概ね平和だ。




「アンズちゃんありがとう。助かるわ」
「どういたしまして」

 アンズはその頃街でボランティアだ。使徒の体液の直撃を受けた所はネルフが大方綺麗にしてくれたが、それでも臭い。手が空いている住民は総出で清掃作業だ。今日アンズは商店街の街灯やアーケードを掃除している。身が軽いアンズは皆が手が届かないところも綺麗に出来るので感謝されている。今は魚洞で一休みだ。魚洞は明日営業再開なためコダマも忙しく、アンズの手助けは大助かりだ。

「はい、マスのおにぎり」
「ありがとう」

 魚洞の店兼自宅のダイニングキッチンに通されたアンズは、昼ご飯となった。よく働く分よく食べる。アンズは遠慮が無いので、コダマの用意したおにぎりがどんどん消えていく。

「アンズちゃんは、今は人間の格好しているでしょ。学校は行かないの?」
「えっと、トモヨちゃんと話したけど、人間の常識がもう少し身についたらナデシコ学園の入れて貰うことになっているの」
「あら、良かったじゃない」
「でも今はシンちゃんがお仕事大変だし、だから家のお仕事をするんだにゃ」
「そう。アンズちゃんがいてシンジ君心強いわね」
「アンズはお姉ちゃんですから」




 その日の夜レイはEVAの訓練は無かったがリツコ達とミーティングがあり、遅く帰宅した。通いのコックは帰った後だ。部屋は綺麗に片づいていた。冷蔵庫の中にシチューがあった。

「パスタ」

 アスカに言われたことを思いだした。とりあえず茹でてみることにした。茹でてシチューの中に入れれば食べられるだろう。冷蔵庫に7分でゆであがるスパゲッティーがあったのでそれを取り出す。取り出したはいいが茹で方が判らない。幸いなことにスパゲッティーの袋に書いてあったのでその通りやってみることにした。お湯を鍋にはって、沸騰させる。袋から出したスパゲッティーを100gはかり、鍋に突っ込んだ。はみ出して入りきらないので、折って突っ込む。その際に少しお湯が手にはねたので、水で冷やした。
 7分測ったスパゲッティーをシチューが入っていた皿に入れてみた。

「固い」

 アスカがこの前茹でて見せたパスタより相当固い。それにシチューが水っぽくなっている。残すのはもったいないので全部食べた。研究の余地がある。レイは使った食器を洗い始めた。食器洗浄機もあるのだがなんとなく手で洗うことにした。鍋を洗い、皿を洗った。手を拭くと、学生鞄からお弁当箱を取り出す。シンジから貰ったお弁当の容器を取り出すとそれも洗う。洗って水を切ったところで手を止める。

「ありがとう、感謝の言葉、初めての言葉。あの人にも、言ったことなかったのに」

 呟くと弁当箱をじっと見る。

「お弁当」




 翌日レイは学校を休んだ。シンジは担当に理由を聞かれたが知らなかった。レイが学校を休むのはよくある事だが、最近はあらかじめアンズを通してシンジに連絡が来ることが多い。チャットで一言「今日はお休みです」と来る。そうしないとレイが休んだことを聞いたアンズがうるさいからだ。今日は連絡が来ていない。

「休んでいる時何をしているんだろう」

 窓際のレイの席を振り返る。やはりいない。




 その日レイは水槽に浮かんでいた。LCLの水槽はレイにとって故郷のような物だ。もし母がいたらこんな感じなのかもしれないと思ったことがある。アンズと話していて、お母さんの話になることがある。アンズもお母さんを知らない。どんな物なんだろうと二人で話したことがある。アンズは暖かい物だと主張していた。

「レイ、食事にしよう」

 レイがそんな事を考えていると、水槽の前にゲンドウが現れ、声をかけた。

「はい」

 レイが水槽から出て着替えて司令室に来ると、食事の準備は整っていた。長いテーブルの端と端に向かい合って座る。

「いただきます」
「ああ」

 昔のレイならば申し訳程度に手を付けて終わりだったが、今は違う。メインの魚料理をおかずにおひつのご飯を何度もおかわりをしている。

「レイ、美味しいか?」
「はい。碇司令は美味しいですか?」
「ああ」
「碇司令」
「何だ?」

 レイは箸を止めるとゲンドウをじっと見た。

「碇司令にとって食事って、楽しいですか?」
「ああ」
「誰かと一緒に食べるって、嬉しいですか?」
「ああ」
「ではなぜ司令はいつも一人で食べるのですか?」
「忙しいからだ」
「そう」

 レイは少し口を開きかけ、閉じた。また箸を動かした。
 
「料理って作ると、喜ぶ、ですか?」
「ああ」

 また急に聞いた。

「碇司令、今度、碇君やみんなと一緒に食事、どうですか?」
「その時間は…………わかった。行こう」

 ゲンドウは断りかけたが、レイの表情にユイの面影を見て言い直した。ゲンドウの言葉にレイは微笑んだ。




 使徒が来ないとチルドレンはわりと暇だ。日課のシンクロテストが終われば、ネルフからは帰宅となる。ただ学生としての三人は忙しい。頭の出来はいいアスカだが、流石に古文や国語は苦手だ。語学は独学は効率が悪いと、その日はヒカリと洞木家で勉強だ。シンジはと言うと家事が溜まりに溜まっているため家に戻っている。

「食事会。パーティーね」
「食事をする会、パーティーじゃない」

 レイは家に戻るとアンズを直ぐ呼び出した。夕食を作るコックはまだ来ないのでその前に話したい。アンズは丁度向かっていたらしくものの五分で到着した。アンズはワンピースに帽子だ。最近はこの格好が多い。
 リビングの隅に置いてある畳に座った。レイはストックしてある麦茶のペットボトルといかんぼうを出した。食事会について説明した。

「私やシンジ君が、料理をして、碇指令にごちそうするの」
「ふーん。レイちゃん料理出来るの?」
「出来ない。だから練習するの」
「じゃコックさんに習ったら?これから来るでしょ」
「そうする」
「シンちゃんのお父さんは何が好きなの?」
「卵料理だと思う」
「じゃゆで卵とオムライスね。アンズもすきだにゃ」

 結局二人で話し込んでいるうちに大道寺家から夕食を作るいつものコック・ホウメイがやってきた。先日まで大道寺家の食堂を預かっていた大柄な初老の女性で、そろそろ何十人前の料理を作るのが体力的に辛くなっていたため引退したが、働かないでボッとしているのは性に合わないと言うことで、大道寺家から紹介されてレイの部屋の管理人兼料理人として来ている。レイが相談したところ、料理の仕方を一から教えて貰えることになった。




 子供達は徐々に日常に戻りつつあるが、ミサトたち大人はそうはいかない。EVAは三機とも大破だ。使徒の残骸の後片付けが終わった後は、ミサトはEVAの修理費のぶんどり合戦を予算部門と日夜繰り広げている。ミサトだけではなく、リツコ達の開発部門はその予算をどう使うか、どう予算を節約するかで、夜も眠れない。ネルフだけではなく、使徒の残骸を片付け終わった後、周囲の山が削られたため、崖崩れなどが頻発しWWRも大忙しだ。WWRの隊員でも在学中の者は一応緊急時以外は学問優先だが、TBNは適性がある者がナギサ、ホノカ、ヒカリしかいないため誰か一人はいつも学校にいない状態だ。そんなこんなでみんな忙しい。

「僕が言うのもなんですけど、こうも損傷が激しいと、作戦運用に支障が出てます。バチカン条約、破棄していいんじゃないですか?」

 ミサトとマコト、リツコとマヤはジオフロント内を運行している移動用の列車を使い会議室から戻ってきたところだった。丁度EVAの修理の現場の上をチューブトレインは通り過ぎた。

「そうよねぇ。一国のエヴァ保有数を三体までに制限されると稼動機体の余裕ないもの」

 ミサトの言葉を聞いてマヤは携帯端末を見た。表示される修理状況を見てため息をつく。

「今だって初号機優先での修復作業です。予備パーツも全て使ってやりくりしてますから、零号機の修復は目処も立たない状況です」
「条約には、各国のエゴが絡んでいるもの。改正すらまず無理ね。おまけに五号機を失ったロシアとEUが、アジアを巻き込んであれこれ主張してるみたいだし、政治が絡むと何かと面倒ね」

 リツコも珍しく声に張りがない。

「人類を守る前にすることが多すぎですよ」
「まあ愚痴ってもしょうがない」
「そ、予算は超優秀なマコト君がなんとかしてくれるわ」

 ミサトはお気楽を装いウィンクをした。

「はいはい。やっかい事は僕ですね」




「えっと、こんなパーティー開いて頂きありがとうございます」

 いろいろ忙しいがいいこともある。以前初号機の暴走に巻き込まれて負傷入院していたトウジの妹、鈴原サクラが退院となった。WWRの隊員の家族なら私の家族とばかりにソノミがパーティーを開いてくれることになった。父子家庭で、父親も忙しいトウジとしてはとてもありがたい。ただあまり大規模にやるとサクラが遠慮してしまうということで、大道寺家の食堂で鈴原サクラの友人とトウジの友人だけを呼んで開くことにした。

「個人的にはこの服がとても嬉しいです」

 サクラはフリルがいっぱいついたブラウスを着ている。これもソノミの退院祝いだ。大道寺コーポレーションが展開するブランドの高級子供服の中から好きな物を選んで良いとのことでこれになった。上から下まで、ピンクなのは名前通りだ。

「あの碇さん、お兄ちゃんの戯れ言は気にしないでください。お兄ちゃんは私の事になるとしょーもないことするから。お仕事頑張ってください」
「えっ、あっ、はい。頑張ります」

 トウジと違うと言っては失礼だが、なかなかの美少女だ。同じサクラでもふんわかした木之本サクラとは違いキリッとした感じだ。主賓の挨拶が終わると早速パーティー開始だ。鈴原サクラの友人達も豪奢な衣装を借りて身につけているため、いささか動きがぎこちないが、それなりにパーティーを楽しんでいる。

「ねえねえお姉ちゃん」
「なあにノゾミ」

 ヒカリの隣の席の少女は鈴原サクラと違い、姉妹で似ている。ヒカリの妹のノゾミだ。

「私の直観だけど、サクラちゃん、碇さんの事好きなんじゃない」
「そうかしら」
「うん。あの視線がなんとなく。となるとサクラ対決になるわね」
「でも、綾波さんもなんとなく碇君の事きにしているし、三つ巴?」
「下手すると私とサクラちゃん、親戚になるね」
「何で?」
「だって」

 ニヤつきながらノゾミは姉を見た。次の瞬間ヒカリは顔を真っ赤にした。

「す鈴原なんて」
「ほほう、妹を騙せると。お姉ちゃんが夜な夜なラブレター書いては捨てているのを知らないとでも。渡してきてあげようか?」

 一方鈴原サクラの方は積極的だ。食事も終わったところで、歓談の時間となったら早速シンジの側に行って話し始めた。

「へえ、第壱小の五年生なんだ」
「はい。二年後には第壱中に行きます。碇さんは卒業しちゃいますね。高校はどこですか?将来何を目指してますか?私今度の入院でお医者さんにお世話になったから、外科医になりたいんです」
「凄いなぁ、僕はまだ考えてないな」
「碇さん頭良さそうだし、何でも成れますよ」

 極度のシスコンで、サクラが男の子と、たとえそれがシンジであっても話しているだけで目つきが悪くなってくるトウジを除いては、眼を輝かせて話しているサクラを周りは暖かい眼で見守っている。ただそうは行かない者もいる。

「サクラさん」

 食堂にある外を眺められるバルコニーでぽつんと立ってサクラが庭を眺めていた。木之本サクラだ。

「どうされました」
「なんか、判った。あのサクラちゃんはこの世界の私」
「どういう意味ですか?」

 限りない優しさがこもった声でトモヨが聞く。

「この世界にとっては私は異物。きっとこの世界で私の命運そういう物を持っている人がいるんじゃないかって、ずっと思っていた」

 サクラの声が微かに震えている。

「あのサクラちゃんはたまたま名前が同じなんじゃない。私の命運みたいな物はこの世界だとあの子の物、そんな気がする。そうじゃなくても碇君は綾波さんと命運が結びついている気がする」

 そんな事を言われたレイもパーティーに出て黙々と食べている。ホウメイに美味しい物を作るには美味しい物を食べないと出来ませんよと言われたからだ。最近付き合いがよくなったアスカがそれなりに世話を焼いていたりする。

「だから、こちらの世界の私はセカンドインパクト後の災害で死んだんだと思う」
「そうですか」

 トモヨは隣に並んでそっと右手をサクラの左手に重ねた。

「でも、私にとってのサクラさんはサクラさんだけですわ。たとえ宇宙の命運が全て敵になったとしても、大道寺トモヨだけは、味方ですわ」
「ありがとう」

 二人はずっと庭を眺めていた。




 取りあえず鈴原サクラは登場したが、偽関西弁に成るのはどうしようもないのか。言葉の壁は厚いと言うのは単に書き手が無能なだけなのだろうか?
次回「EVAザクラ新劇場版 破 第六話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく





[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第六話
Name: まっこう◆564dcdfc ID:4098afbe
Date: 2020/09/30 19:42
星新一賞のネタも書き終わったので。

----------------------

 最近シンジは昼休み屋上にいる事が多い。初号機の修理が優先されるため、昼夜問わず呼び出される。そのためいつも睡眠不足という事もありよく昼寝をしている。公私共にそれなりに人気のあるシンジだが、シンジが睡眠不足気味なのは知れ渡っているため、昼休みはシンジに屋上を使わせてあげようと学校中が協力している。そんな訳でシンジはその日の昼休み、屋上で昼寝をしていた。少しうとうとしてきて眼をつぶる。遠くから飛行機の音がする。何かバサバサと布きれがはためくような音もする。急に辺りが暗くなった。シンジが眼を開くと美少女が天から落ちてきた。




EVAザクラ 新劇場版

破 第六話

手紙




 落ちてきたと言っても、パラシュートにぶら下がってゆっくりとだ。少女は着地も慣れたもので、転がりながら体全体に衝撃を分散して、コンクリートの屋上に降りても怪我一つしない。パラシュートを手早く畳んで、袋のような物に入れると。立ち上がると何か無線機のような物に向かって話している。シンジが唖然と見ていると、やっと気がついたかのように寄ってきた。かがむとシンジに顔を近づける。茶色の長い髪だが、根本が少し黒い。顔立ちは日本人のようだが少し違う様にも見える。瞳が青いのでアスカのようにハーフかクオーターなのかもしれない。赤い縁の可愛い眼鏡の下の瞳はきらきらと光って見える。その視線はシンジに向けている。シンジの視線が髪の根元に行っている事に気がついたのか手で整えた。

「これ染めたんじゃないんだ。なぜか最近髪の根元の色が変わってきて。母さんが黒髪だからその遺伝子が出たのかも」

 勝手に説明した。彼女の服装は学校の制服に見えるが第壱中の物ではない。やがてシンジの顔の近くで臭いを嗅ぎ始めた。

「君いい匂い、LCLの臭いがする」

 少女は立ち上がった。

「君面白いね」

 にっこりと微笑んだ。

「じゃ、この事は他言無用で、ネルフのわんこ君」

 少女は手を振りつつ屋上の出口へ走って行った。




 最近金曜日の放課後にネルフとWWRで意見交換会をする。メンバーは第壱中の在学者だ。場所は喫茶エンドウを借り切って行われる。意見交換会と言っても大したことをするわけでは無い。お茶を飲んでお菓子を食べてちょっとした事を話しておこうという主旨だ。中立のオブザーバーとしてクキコがネルフの経費で飲み食いするため参加している。ネルフの代表としてはミサトが来る事が多い。はっきり言って仕事をさぼりたいためで、サヤにこっそりとアルコール入りの飲み物を頼んでいる。WWRからはパーカーが助言役として来る事が多い。
 皆忙しいのでなかなかメンバーがそろわないが、今日はシンジ、レイ、アスカのチルドレンが全員いる。WWRもトウジ、ヒカリ、ケンスケ、トモヨ、サクラと結構そろっている。ナギサとホノカもいたがTBNが必要となる任務が出来たためいない。今日の当番である二人はリモートで飛んできたTBNに乗って現場に向かった。アンズもいる。みんなのお姉ちゃんを自認しているのでネルフともWWRの所属どちらともいえるだろう。
 クキコとミサトとパーカーはカウンターで並んで雑談をしている。子供達は店の一番奥のテーブルに集まっている。大体アスカとヒカリが交互に司会をして各自報告をする。一応みなの報告が終わった。

「そうだ」
「何よシンジ」
「今日、空から女の子が降ってきたんだ」

 シンジの一言に、アスカがあきれ顔で横を見た。

「シンジ、もてないからって美少女が空から降って来るような妄想するんじゃないわよ。アニメじゃないんだし」
「妄想じゃないってば」
「碇君はかっこいいけどなぁ」
「シンちゃんは可愛いにゃ」

 感想は人それぞれだ。言った後真っ赤になっててれるサクラや、シンジをよしよししてうっとうしがられるアンズや、ぼけっとシンジを見ているレイなど反応も様々だ。

「えっと、身長は」

 シンジが説明し始めたので、冗談ではないと悟った皆は真剣に聴きはじめた。ただシンジが説明した容姿の少女について誰も知らなかった。

「そう言えばLCLの匂いって言っていた」
「じゃあチルドレンじゃないの、ミサトさん」
「何、ヒカリちゃん」

 すでに軽いカクテルのグラスを手にしたミサトがカウンターから降りて皆の方に来た。アンズの隣に座る。クキコとパーカーも皆の方を見ている。

「碇君がチルドレンらしき人を見た。司令からも聴いていない」

 最近話し方が丁寧に優しくなって来たレイだが、仕事に絡むと口調が変わる。何か冷たい。

「私も知らないわ。EVAは各国三機まで保有できるわ。それにあわせてチルドレンもいる。ただ各国の利害が絡むからネルフ内部でも秘密が多くて情報が来ないの。面倒くさいとこなのよネルフって」

 ミサトはカクテルを啜った。

「ま、当分ウチは三人で運用よ。判ったら教えてあげるわ。サヤちゃん、ウォッカトニックちょうだい。大きなグラスで」
「アル中」
「大丈夫よアスカ、激務のおかげでウエストは58よ。モデルだって逃げ出すわ」
「自分で言うのもミサトさんらしいですね」
「まっ、ね。で他に議題もないのなら今日は解散よ。私はもう少し呑んで帰るから」




 その日はトモヨのリムジンで皆送って貰った。レイがマンションの部屋に戻ると丁度ホウメイが来ていた。部屋の掃除を終えたところだったので早速料理の勉強だ。まず、手を綺麗に洗うところから始めた。LCLに入るため手足を洗う事は業務の一環としてきちんと出来ているつもりだったが、料理人のホウメイから見るとまだまだ細かいところが問題があるらしい。ホウメイは過去にも大道寺家の若手に教えてきた経験があり教師ぶりも板についている。レイは指導されたとおり手を十分間かけて綺麗に洗った。確かに汚れが落ちている気がする。

「レイちゃんの手はほんと白魚のような手だね」
「白魚?」
「白くって小さい魚さ。昔から細くて白い綺麗な指をそう言うんだよ」
「そう」
「それじゃ包丁の握り方から教えようかね」
「お願いします」

 レイは頭を下げた。




「おはよう」

 翌日レイが挨拶をしながら教室に入っていくと教室の皆が振り向いた。自分からレイが挨拶をするなど滅多に見られない光景だからだ。皆に見られたせいでレイも固まってしまう。妙なにらみ合い状態が続いた。サクラとトモヨ、ケンスケ、トウジ等とWWRとネルフの連携等を話していたシンジは直ぐに立ち上がり、教室の入口に向かう。サクラが少しふてくされた表情をしてシンジを視線で追っていたが、トモヨがなだめていた。シンジがレイに話しかけると、教室中にほっとした空気が流れた。

「おはよう、綾波。今日は早いね」
「ええ」

 レイもほっとしたのか微かに表情を緩めて自分の席に行く。シンジもついて行く。

「あ、どうしたのその手?」

 レイの左手の指に数枚絆創膏が貼られていた。

「家で怪我をした。ホウメイさんに手当てをして貰った。赤木博士にも後で見せる」

 レイは右手で左手の怪我を覆うと、その指を見つめた。

「何してたの?」
「秘密……もう少し、上手くなったら話す」

 レイはそう言ってシンジに微笑んだ。

「わかった、気をつけてね」
「うん」

 レイの微笑みにシンジも笑顔を返した。

「ふーん」

 何とは無しに見ていたアスカは呟くと、ノートに落書きをはじめた。ずっとふてくされていたサクラは、レイの微笑みをみて少し表情が和らぎいだ。少し悲しそうにも見えた。




 その日の放課後珍しい組み合わせが見られた。レイとヒカリが並んで歩いている。アスカやシンジ、トウジやケンスケなど他のネルフとWWRのメンバーは用があるので先に帰宅した。レイはあまり話さないが、ヒカリが聞いたことなどは答えている。喫茶エンドウに向かっている。放課後レイがヒカリを誘った。何か相談したいことがあるらしい。少ししてしかだ駄菓子屋に着いた。レイはポン菓子、ヒカリはココアシガレットを買うと喫茶エンドウに移った。レイとヒカリを見て店長のサヤは奥のテーブル席に案内する。ここは窓に面してはいない。横の壁も通常のライフル弾などは通さないように補強されている。指定店になった時、ネルフが工事をしてくれた。レイは昆布茶、ヒカリがアメリカンコーヒーを頼むとサヤはカウンターに戻って行く。

「で、綾波さん、相談って何?」
「手紙書きたいの。招待状書いたことないから」
「何の?」

 ヒカリが聞くと無表情だったレイの顔に色々な感情が表れた。

「碇君と司令を食事会に誘いたいの」

 レイはシンジとゲンドウについて話始めた。二人がどう暮らして、どう離れて、どう再会したなどだ。二人が会話を終わる頃には、サヤが置いて行ったお茶は冷めていた。

「結構責任重大ね」

 ヒカリはレイを助けたいが、少し自信が無い。作文は得意だが、シンジの家の話を聞いた後だと、招待状一つでも大きな意味がありそうだ。どうしたもんかと悩んでいると一つ思い立った。

「綾波さん、招待状なんだけど、プロに頼まない?」
「プロ?」
「以前トモヨちゃんちで契約している代書屋さんがいるって聞いたから。綾波さんなら、大道寺家の関係者と言えなくもないわ。決算報告書みたいな文書から招待状や恋文まで何でも書いてくれるの。お屋敷やWWRの文書を依頼しているの」
「いいけど」

 ヒカリは携帯を取り出すと電話をかけ始めた。

「トモヨちゃん、以前契約している代書屋さんいるって言っていたでしょ、そうそうその自動人形サービス」

 ヒカリは数分トモヨと話すと携帯を切った。

「18時までは契約時間で緊急の文書も受け付けてくれるから、今でもOKだって。パーカーさんが迎えにいってくれてるからまずは相談してみない?」
「判った」

 ヒカリは再度トモヨに電話をかけた。その後ヒカリとレイが20分程話しているとパーカーが店内に入ってきた。続いて一人の女性が入ってきた。
 ヒカリはつい凝視してしまった。その女性の第一印象は、綾波さんに似ているだった。髪は金髪のセミロングを後ろでまとめていて、瞳は青。トモヨから欧州の小国の出だと聞いていたとおり顔立ちや骨格は白人のそれだ。ただ何となく整った少し無表情な顔立ちがレイに似ている。人形が息をして動いているようにも見えた。少しふわっとしたスカートに、青い上着を着ている。常夏の日本には合わない服装だが、汗一つかいていない。胸の緑の大きなブローチは、お祭りの夜店で売っているようなガラス製で、上等な衣装にあっているようないないような不思議な感じがした。それに頬に極薄い刃物傷のような物があり、整った顔立ちに微かな違和感を与えていた。手には大きな旅行鞄の様な物をぶら下げている。

「お嬢様方、エバガーデン様をお連れしました」

 パーカーが二人の横に女性を案内した。二人は立ち上がった。

「あの、代書屋さんですか?私、洞木ヒカリです」
「綾波レイです」
「お客様がお望みならどこでも駆けつけます。自動式人形サービス、ヴァイオレット・エヴァーガーデンです」

 ヴァイオレットは優雅に一礼した。ヒカリは一瞬言葉に詰まった。人形が話し始めたように感じたからだ。やはり初めてレイにあった時と似ていると思った。声からミサトと同じぐらいの歳のように思えたが、年齢不詳だ。

「あ、綾波さんが食事会の招待状で困っているので、相談に乗って貰えないですか。招待状の作成も手伝ってあげて貰えますか」
「承知しました」
「立ち話も何だから、そちらに座ってください」
「はい。失礼します」

 ヴァイオレットがヒカリ達の反対側に座った。一緒に来ていたパーカーは一礼するとカウンターの席に座り、サヤと世間話を始めた。
 ヒカリとレイはヴァイオレットの反対側に座った。ヴァイオレットは茶色の手袋に包まれた手を膝に置き、ぴしっと背筋が伸びた姿勢で微動だにせず座っている。座り方もやはりレイと似ている。

「綾波さん、まずは事情を説明したら」
「そうする」

 レイは話始めた。十分ほどで話が終わった。

「綾波様、お話しを拝聴しました。事実関係はわかりました。綾波様のご要望は招待状と伺いましたが、その食事会で何をお望みですか?」
「望み?」

 レイがじっとヴァイオレットの口元を見つめた。微かに表情が動く。

「碇君と司令が仲良く食事を楽しむ事。まずはそれでいいと思う」
「それでしたら、そのお心をそのままお書きになればよろしいのです。一緒に食事を楽しみましょうと。きっと心は伝わります。手紙とはそういう物ですから」
「はい」

 ヴァイオレットはそう言って微笑んだ。レイもつられて微笑んだ。

「ここに、用紙と封筒を持っています。ここで書かれますか?」
「家で書きます。有り難う」

 レイは立ち上がるとお辞儀をしてスタスタと喫茶店を出て行ってしまった。パーカーはヒカリとヴァイオレットに会釈をすると慌てて追いかけていく。

「ごめんなさい、綾波さん唐突なところがあるから」
「いえ、綾波様は今手紙を書きたいと思われています。その事が重要だと思います」
「ところで、私も実は手紙を書きたいのだけど」
「どのようなお手紙でしょうか」
「その、あの」

 ヒカリが赤くなってもじもじしはじめた。しばらくヴァイオレットは待っていた。

「恋文でしょうか」

 きっかり一分後ヴァイオレットは切り出した。

「はい」

 ヒカリは耳まで真っ赤だ。

「あの、私WWRの隊員だし、彼もそうだし、いつ救助作業で死んでしまうかもしれないって、この前気がついたんです。もし思いを伝えないまま死んだり離ればなれになったりしたらって、思ったんです。でも、これって死にそうだから言うっておかしいのかな」
「いいえ、おかしくありません」

 ヴァイオレットの声が少し寂しげに、そしてとても優しい物になった。

「私の体験ですが、参考になればと思いますのでお話しします」
「はい」
「私はヨーロッパの戦争が絶えない小国の出なのです。そこでは戦争が泥沼化していた為少年兵がたくさんいました。私も洞木様と同じぐらいの歳の頃には殺人自動人形と呼ばれていました。上官に命令されるまま幾百の命を奪いました」

 ガシャンとグラスの割れる音がした。カウンターの向こうでつい話を聞いていたサヤが磨いていたグラスを落として割ってしまった。サヤは音を出した事を謝るとグラスをかたづけた。ついでに喫茶エンドウの外の札を準備中に変えた。
 ヴァイオレットの話の内容にヒカリもじっと耳を傾けている。

「続けてもよろしいでしょうか」
「はい」
「セカンドインパクトの前年私は一人の上官と出会いました。初めて私を殺人人形では無く人間として見てくれる方でした。今なら判ります。私はその方を好きだったのです。でもその頃の私は人形に近かったから良く判らなかった。でも、その方の役に立つのが嬉しかった。だから人を殺しまくった。それしか役に立てる事が無いと思っていましたから。でもその方は今考えると殺人人形の私を哀れんで、慈しんでくれました。でも軍人なので、命令を下さなければいけない。苦しんでいらっしゃったのかと思います」
「え、あの、思ったより話が重くって。聞いてもいい物なのですか」
「はい」
「何故日本に?」
「セカンドインパクト後、私はその方と日本に派遣されました。情報収集の為です。後で聞いたのですが、ソノミ様のお父様と話が付いていて、私たちは亡命し軍務から足を洗い、大道寺家の庇護の元、第二の人生を歩むはずだったそうです。ですがそこでNNテロに巻き込まれました。NNの衝撃波に吹き飛ばされ、私はその時両腕を失い、その方は行方知れずです。吹き飛ばされた場所は今にも崩れそうな建物の横で、そこで初めてその方は瀕死の状態でしたがはっきりと愛していると言ってくださいました。その後崩れた建物の下敷きになった私たちですが、見つかったのは私だけでした。私は今でもその方を探しています」
「え、そんな」

 ヒカリは泣きそうな顔をしている。

「話が長くなりました。好き愛しているという言葉はとても素晴らしい物です。でも言葉にしないとなかなか伝わらない物です。手紙、メール、手段は問題ではありません。形にすると心も伝わります。愛していると言う言葉は、その言葉の意味がわかるのなら、伝えた方が賢明です」
「そう、勇気を出して書いてみる」
「それがよろしいかと」

 ヴァイオレットはその名の通りのひそやかな優しい笑顔を浮かべた。

「でも、どう書いていいか判らなくって」
「では、例文をお作りしましょう」

 ヴァイオレットは持っていた鞄から古風なタイプライターを取り出した。手袋を咥えてとると金属製の義手が出てきた。よく手入れをされピカピカに磨き込まれた義手はほっそりとして滑らかに動く。ヒカリはつい凝視してしまった。

「タイピングに支障はありません。ではその思い人はどんな方でしょうか?」
「えっと、ハンサムで」

 結局、喫茶エンドウはその日は夜の営業が取りやめとなり、ヴァイオレットも少し契約時間をオーバーしてしまった。




 四日後、ミサトとリツコは、ミサトの車でネルフ本部から市役所に向かっていた。第三新東京市で演習を行う際、一応市役所との調整が必要となる。二人としては面倒な話だが、儀式は必要だ。

「変わったわね、レイ」
「そうね。あの子が人のために何かするなんて、考えられない行為ね。何が原因かしら」

 助手席のリツコはレイから渡された封筒を、じっと見ている。レイの手書きの招待状だ。あの後何回かヴァイオレットに手伝ってもらい書き上げたらしい。

「みんなと触れあった結果じゃない。特にアンズちゃんのシンちゃんへの無償の愛、と言うか猫かわいがりを見て、影響されたと思うわ」
「それは有りそうね」
「でも、実は恋だったりして」
「まさか。ありえないわ」
「いいじゃないの、年頃なんだから」
「そうかしら、でも恋愛はメンタルに影響しすぎる。パイロットには不要だわ」
「そんな事ばっか言っているから、リツコは売れ残るのよ」
「同じ歳でしょ」

 そんなこんなで二人は役所に着いた。打ち合わせ自体は30分ほどで終わった。リツコはその後、電力関係の会社に行く予定が有ったので別れた。ミサトは一旦マンションに帰った。昨日は忙しくて帰っていないので、シャワーを浴びて着替える為だ。ミサトがダイニングキッチンに入るとアスカが料理をしていた。熱中しているらしくミサトに気がつかない。味付けをいろいろ試しているらしく、独り言を言っている。そんなアスカを見てミサトはにやつき、近づいていく。もう少しで手が届きそうな所まで来たところで、アスカが振り返らず言った。

「ミサトは私よりずっと子供ね」
「あら、気がついていたの。ちょっと着替えに帰ったのよ。あらアスカもシンちゃんに料理ご馳走するの?」
「ち、違うわよ。アンズによ。世話になってるからよ。あの化け猫、結構味にうるさいからよ」
「へーそれはそれは、あら、それにしてはネギ類が多いわね。アンズちゃんは一応猫だし、猫に戻った時体調崩すから、やめた方がいいんじゃ無い」
「これは、そう、ミサトの酒のつまみよ」
「それは嬉しいわ」

 ミサトはニタニタ笑いをかみ殺して続けた。

「レイといいアスカといい、急に色気づいちゃって」
「何よ。ダメレイと一緒にしないで」
「あっ、そう。ま、レイにはもっと遠大な計画があるようだし」
「何、それ」

 アスカは振り返った。ミサトは笑いながら封筒をアスカの目の前でひらひらと振った。

「碇司令とシンちゃんをくっつける、キューピットになりたいみたいよ」

 ミサトはアスカに封筒を渡す。封筒にはレイの手書きでアスカの宛名が書いてあった。

「手作り料理でみんなと食事会、という作戦らしいわ。ストレートな分、これは効くわよ」

 ミサトはウィンクをして見せた。

「あの親子を仲良くさせるのは、骨が折れるわね」

 アスカは封筒をしみじみと見つめる。

「あの女がバカシンジのために?」
「サプライズなんだから、シンちゃんにバラしちゃぁ駄目よ」

 ミサトはニタニタ笑いを隠さず言った。

「話すわけないでしょ、この私が」

 アスカは表情を歪めつつ封筒を、ポケットに突っ込み、コンロの方に向き直した。




 また金曜日が来た。夕方喫茶エンドウにチルドレン三人に、ケンスケとトモヨとサクラ、ナギサとホノカが来ていた。アンズやミサト、クキコもいる。今日はWWRの代表としてセリカが来ている。先日アヤカと交代でTB5から降りてきた。年齢が近いせいかサヤと話し込んでいる。クキコとミサトはすでにアルコールで出来上がっている。

「それにしても告白かー、あの奥手なヒカリちゃんがね。なんか信じられない」

 ナギサはポテトチップスをむさぼりながら好き勝手な事を言っている。

「そんな事ありませんよ、ヒカリちゃんも乙女だもの」

 さっきからナギサとホノカがぺちゃくちゃと話している。この二人は息が合うような合わないようななんとも絶妙にずれた会話をして、聞いていると面白い。

「俺の調査によると、トウジと洞木がくっつく可能性は80%」

 ケンスケが眼鏡を光らして言った。最近、身体の潜在能力をギリギリまで使い込む事が多かったせいか、視力が回復した。そのため度の入っていないWWR特製VR眼鏡をかけている。レインの苦心の作品で、視界内に各種情報が表示される。TB5と通信出来る場所なら、ありとあらゆる情報が表示される。

「愛ですわね」
「そうだよね」
「ええ」
「うんうん」
「ま、ヒカリが好きなんだから仕方ないわね」

 レイを除いた女性達はやたら盛り上がっている。

「16歳になれば結婚できるし、2年後だったりして」
「あり得るわね、ヒカリちゃんみたいな潔癖症が意外と結婚早かったりして」
「それはありえな~い」
「そっかトウジが」

 皆それなりに盛り上がっているのだが、二人ぽけっとしている者がいる。レイはあまり表情が変化していない。思うところは有るのだろうが、今一歩話に付いていっていない。もう一人はアンズだ。

「ところで結婚ってなに?」

 首をひねっていたアンズが呟いた。

「結婚って、そっか、お姉ちゃん知らないんだ」
「うん。何それ?」
「何って言われても」

 よく使う言葉は説明が難しい。説明しようとしたシンジがどう言ったもんかと口ごもってしまう。

「結婚とは」

 ここで指を立てて説明し始めたのはホノカだ。将来説明おばさんになる素質は十分だ。

「結婚とは、夫婦になること。好きな人同士が一緒に暮らして、社会的に家族と認められている事でしょうか」
「じゃ、アンズとシンちゃんは結婚しているの?」
「いえ、アンズさんと碇さんは家族ですが結婚はしていません」
「なんで?アンズはシンちゃん大好きだし、シンちゃんはアンズの事大好きだし」
「それは姉と弟で家族です」
「じゃ、今から結婚できるの?仲いいし」
「そうじゃないです。えっと、ほらホタルさんとココノツさんみたいに、元々違うところで生まれた人たちがお互いを好きって認め合って一緒に暮らす事です」
「あ、つがいのことだにゃ。じゃ交尾して子供作るんだにゃ」

 交尾と聞いてレイ以外の皆の顔が真っ赤になる。多感な年頃だ。

「そっか、トウジ君とヒカリちゃんは交尾をするのか」
「お姉ちゃん、それは人前で言っちゃだめ」
「何を?」
「えっと」

 シンジが言いよどむ。

「おほほ、人間は交尾についてはあまり皆の前で言わないようにするのが、ルールですわ」
「そうなのか。じゃそうする」

 トモヨの言葉にとりあえず納得したらしい。とりあえず話も終わったのでそろそろ打ち合わせを終わらせようとシンジがは無そうとした。その時だった。

「みなさん、お元気ですか」

 いつも勢い良く喫茶エンドウに入ってくるホタルが妙に静かにポーズも付けずに入ってきた。

「サヤ師、ネルフ、WWRの皆さん、先生。このたび私、妊娠している事が判りました」

 でもやはりポーズをとった。

「え、おめでとうホタルさん」

 飛びつくように近寄って来たのはサヤだ。

「おめでとう」
「妊娠ってなんだにゃ」
「子供ができたって事ですよ」
「交尾したんだにゃ」
「姉さん、それは言わない。ホタルさんおめでとう」

 みな口々に祝福をした。レイも興味があるらしく近づいていく。まだ平たいホタルのお腹に手を当てた。銀髪のレイがそうするとなにか宗教画の一シーンのように見えて、みな静かに見入った。

「新しい命、生まれるのね。この世界に」

 レイの静かな声が、まるで妖精の声のように喫茶エンドウに響く。

「ま、私たちがする事は、決まりね」
「なに?アスカ」
「ホタルさんが安心して産めるように、使徒を全て倒す」
「そうだね」
「ありがとう」

 ホタルの声も静かだった。

「私も、胎教に良い駄菓子、子供の成長に欠かせない駄菓子の開発に邁進ですわ」

 いつもの調子に戻り変な方向を指さしてポーズをとった。






 綾波レイと某自動人形さんはなんとなく似ていると思ったが、実はセリカ嬢の方が似ているきがしないでもないのは錯覚だろうか。本当は某狸女子を出すつもりが、何故かこうなったのはネタが浮かばなかったせいだろうか。
次回「EVAザクラ新劇場版 破 第七話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく



[43351] EVAザクラ 新劇場版 搭乗人物一覧 update
Name: まっこう◆564dcdfc ID:4098afbe
Date: 2020/09/30 21:52
相田ケンスケ WWR隊員、おたく、コノエの弟子、変態EVA仮面->トモヨとコノエの力と技のダブルパンティーで変態仮面EVA3に進化(トモヨにだけはばれていない) DT因子保有者
青葉シゲル ネルフ司令部付きの技官 髪の長い人
赤木リツコ ネルフの技術担当 ミスカトニック研究所に一時所属
アカリ 火星の水先案内人 デザイナーベイビー
アリア社長 白猫(青い目)
綾波レイ 零号機パイロット
イオス TB5の搭載AI、電子の妖精と融合 
碇アンズ  元飼い猫(猫又) アカリとアリアが融合した者
碇シンジ  初号機パイロット DT因子保有者
碇ゲンドウ ネルフ指令
伊吹マヤ リツコの部下 後輩の人
犬神カリンカ WWR隊員、ソノミの養子、TB4パイロット
犬神クルミ WWR隊員、ソノミの養子、TB2パイロット、 DT因子保有者
犬神サキ WWR隊員、ソノミの養子、TB3パイロット
ヴァイオレット・エヴァーガーデン 代書屋さん
エイトロン セリカが操るアンドロイド。別名セリオ 時間制限約5分
遠藤サヤ 喫茶えんどう 店長
小田マリ 本名マリー 魔女 丹沢湖畔で山菜料理が有名な黒猫亭をやっている 模型飛行機にまたがり空を飛ぶ
尾張ハジメ しかだ駄菓子店店長

加持リョウジ ネルフ監査部所属
葛城ミサト ネルフの作戦担当  DT因子保有者
木之本サクラ 魔法少女
九段クキコ 学級担当、霊能力者
栗栖川アヤカ WWR隊員、ソノミの養子、TB3、TB5パイロット、元アジアエージェント
栗栖川セリカ WWR隊員、ソノミの養子、TB3,TB5パイロット、元EUエージェント、第三の眼・脳波通信機埋め込み手術被験者、エイトロンマスター DT因子保有者

早苗ヤシマ WWR隊員、警備要員
鹿田ココノツ 漫画家 鹿坦々 ホタルの夫
鹿田ホタル 駄菓子会社fireflyのCEO 残念な美人
式波・アスカ・ラングレー 弐号機パイロット 好物 afri cola DT因子保有者
鈴木イクヨ WWRの技術者、レインの弟子 日本支部の技術関係を担当 第三新東京大学在学
鈴原サクラ トウジの妹、トウジと似ていない
鈴原トウジ 土門の弟子、WWR隊員、TBNコパイロット DT因子保有者
セバスチャン セリカとアヤカの元執事、WWRのEUエージェント、喧嘩殺法の達人
先生 アンズの元飼い主、シンジの育ての親
先生の奥さん アンズの元飼い主、シンジの育ての親

大道寺ソノミ 富豪、WWR隊長 夫と従姉妹のス族をセカンドインパクトで失い組織を作った。アジアで四番目のお金持ち
大道寺ソノミの祖父 政治家、日本の黒幕、ぜーレメンバー?
大道寺トモヨ WWR隊員、ソノミの実子 DT因子保有者
剣コノエ WWR隊員、警備要員、
トーゴー 代打屋
土門・カッシュ WWRの体術指南 警護班リーダ
土門・レイン WWRの技術責任者、TBメカの設計者 ミスカトニック研究所に一時所属

謎の少女 ネルフ関係者らしい

パーカー 屋敷の執事長
花右京タロウ WWR隊員、ソノミの養子、医師
花右京マリエル WWR隊員、ソノミの養子、TB1パイロット
早川ケン 私立探偵
日向マコト ミサトの部下 眼鏡の人
冬月 ネルフ副司令
洞木コダマ 短大卒 魚洞の店長、魚屋は一週間に三日なのでそれ以外の日は工場の事務 筋肉質で眼鏡
洞木ノゾミ 中学一年生、姉に似ている
洞木ヒカリ 学級委員長、WWR隊員、TBNパイロット

マックス 四本足の家事用ロボット WWR本部の雑用係
美墨ナギサ WWR隊員、ソノミの養子、TB5パイロット->TBNパイロット 運動神経抜群 簡易装甲服プリキュアの使い手
ミサトの部下その2

雪代ホノカ WWR隊員、ソノミの養子、TB5パイロット->TBNコパイロット 祖母は睡猫降神流という投げ技を主にした武術の達人 成績は学年トップ 簡易装甲服プリキュアの使い手

ルーシー ロスからの交換留学生 お母さんが日系企業の副社長。お父さんは離婚協議中。

先輩と後輩 喫茶えんどうのアルバイト 


その他
テロに巻き込まれた母子
キョウタ テロに巻き込まれた幼稚園児


ハサミジャガー デストロンの改造人間 変態秘奥義、スーパーおいなりさんスパーク!!
ハンマークラゲ デストロンの改造人間 プリキュア・マーブル・スクリュー
ヘビンダー デストロンの改造人間 26の必殺技の一つ、変態奥義地獄のデスドロップ
戦闘員 デストロンの低レベル改造人間
銀行強盗の一団   三人組 地獄の……ジェット・トレイン!!
銀行の旧支店長 逆恨みでトモヨ達を金庫室に閉じ込めた
養殖センターの職員
謎の美少女


名前だけ
相田フテオ 俗称フット セカンドインパクト前に、悪化する地球環境に適合するため、人間に機械的改造を行いそれによる進化を主張して学会を追放された、ケンスケの叔父
アル アカリの火星での友達
ヴァイオレットの上司      行方不明
木之本ナデシコ 故人 ソノミの従姉妹
ジョセフィーヌ アンズの友達猫
鈴原サクラ トウジの妹、入院中
クキコのご先祖様
ダイアナ アンズの友達猫
タマ アンズの友達猫 アビシニアン
ナイト財団
キングスマン
朝倉カオル ホノカの祖母
東山ニシオ  DT理論の提唱者
超人
疫病神
カッシュの師匠
本屋の親父


メカ
EVA零号機
EVA初号機
EVA弐号機
TB1
TB2
TB3
TB4
TB5
TBN
FAB-1
BIG-RAT

変態EVA仮面&変態仮面EVA3の技
ASF
変態パワーアップ
地獄のジェット・トレイン!!
変態秘奥義、荒縄シ-ルド
変態秘奥義、スパイダーネット・フラッシュ
フライング亀甲縛り
変態秘奥義、スーパーおいなりさんスパーク!!
26の必殺技の一つ、変態奥義地獄のデスドロップ


その他の用語など
大道寺島 今では赤道上になった日本の近くの島 WWRの本拠地
ナデシコ島 今では赤道上になった日本の近くの島 ナデシコ学園の所在地
ナデシコ学園 全寮制の小中高一貫の私学 WWRの隊員やエージェントを育てる訓練所 学園長はソノミ



[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第七話
Name: まっこう◆564dcdfc ID:4098afbe
Date: 2020/10/06 17:44
退院したら劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン見に行こうっと。

----------------------------------------

 ホタルはfireflyのCEOだ。自分の会社のCMで変な歌と踊りを披露しているので、歌って踊れるCEOなどと一部では言われている。同じ町のCEO同士のソノミとは仲がいい。ホタルがfireflyを立ち上げる時にソノミにはお世話になっている。妊娠が判ったところで、ホタルはまずソノミに報告、相談をした。ホタルの両親は他界しており女性の親戚もいない。肉親は兄だけだ。その兄は両親の会社を引き継いでいる。兄との仲が悪いわけではないが、だれか先輩の女性に相談したかったそうだ。早速、今後どうしたらよいかなど助言を貰った。ともかく用意はいろいろしておこうとなった。そこで大量の書類や指示書が必要となった為、ヴァイオレットが派遣された。ヴァイオレットは大道寺コーポレーションの人材派遣部門、「自動式人形サービス」の所属だ。この部門は代書や秘書の派遣等を行っている。ホタルにも秘書はいるが、そちらはfirefly本社で書類作りに追われている。
 ホタルとヴァイオレットはしかだ駄菓子店の奥の部屋にいた。ちゃぶ台の前に向かい合っている。店番は尾張がやっている。ホタルが一番リラックス出来るところで今後の業務をした方が良いと社員一同から言われてそうなった。ホタルの楽しい駄菓子を作りたいという想いの元に集まった社員達はホタルとの仲も良好だ。ホタルはなんとなく怠いので畳の上で横になっている。ヴァイオレットは日本も長いせいか正座が様になっている。

「では、種々の届等は時期を見計らって私が処理します」
「お願いします」
「ソノミ様よりホタル様の届け出、その他の事務処理を全て優先して処理するようにと指示を受けています。どんな事でも文書に関わる事でしたら、ご用命ください」
「お願いします」

 ホタルはそう言うと自分のお腹を撫でた。ヴァイオレットはその手の動きを眼で追った。

「愛する方とのお子さんがお腹にいるというのはどういうものなのでしょうか?」

 ヴァイオレットの今までの事務的なやりとりと違い、声に色が付いた。ホタルは顔だけ向ける。ヴァイオレットの表情はいつもと変わっていない。

「まだ、実感が無い」




EVAザクラ 新劇場版

破 第七話

殲滅




「立ち入った事聞いてもいい?」
「はい。どうぞ」
「今でも愛しているの?上司だった人」
「はい。もしかなうならば」
「かなうならば?」
「あの人の愛しているという言葉と私の愛しているという言葉が同じか確かめたいです」
「きっと同じよ。同じだという事にうまい棒千本かけるわ」

 ホタルの真剣な声に、ヴァイオレットは静かに微笑んだ。

 いきなり店の入り口のガラスが割れる音がした。物が壊れる音と男の怒声が聞こえる。

「なにすんの」

 店の方から狼狽した尾張の声がする。

「ここにいて」

 ヴァイオレットは素早く立ち上がると、店に出た。チンピラでございというレッテルを貼ったような男が五人、店の中で暴れていた。ヴァイオレットは店のレジの横のベーゴマをいくつかつかみ取った。

「金髪の美人のねーちゃんじゃないか」

 ヴァイオレットの美貌に一人の男がにやつきながら言った。

「ソノミ様より、ホタル様の身の安全も確保せよと依頼を受けています。出て行ってください。被害は後ほど請求します」
「なんだと、おら、ぐあ」

 ヴァイオレットの発言に襟元を掴もうとした男達が皆のけぞった。ヴァイオレットの両手が素早く動くと、男達の目にベーゴマが叩き込まれた。重い鉄の塊が眼球に当たったらたまらない。ヴァイオレットは追い打ちをかけた。金属の義手の先端で男達のこめかみや人中などの急所を叩いていく。意識がとんだ五人全員を体術で店の外に吹き飛ばす。全部で五秒もかからない早業だ。

「尾張さん大丈夫ですか?」

 尾張は店の奥の部屋の前で座り込んでいた。

「でも、お店が」
「え、あ~」

 悲痛な声でヴァイオレットとハジメはそちらを見るとホタルが倒れ込んで来た。慌てて見に来て駄菓子達のあまりの惨状に気を失った。ヴァイオレットは素早く抱きとめた。




 ホタルは大道寺家の医務室に運ばれた。精神的なショックが大きいので、安定するまでそこで様態をみる事となった。下手な病院より設備は整っているし、今後の事も有る。ここなら安全だ。出版社で打ち合わせをしていた夫も急いで駆けつけて、傍についている。ホタルの兄も駆けつけている。大道寺家の専属医療スタッフが付ききりで様子を見ているので悪化する事は多分無いだろう。先程警察署から数人刑事が来て事情聴取を行った。ヴァイオレットがホタルの代わりに受け答えした。ヴァイオレットは過剰防衛気味だが、厳重注意で済むらしい。しかだ駄菓子店はネルフの調査部が現場保全をしている。チルドレンへのテロに関係するかもしれないからだ。
 その間にも大道寺家の食堂には幾人か集まっていた。

「お嬢様、これが報告書です」

 食堂兼集会場のディスプレイにパーカーの調査結果が映された。暴力団威張組の構成員達の仕業だ。最近ますます発展している第三新東京市のいろいろな場所でトラブル起こしているらしい。食堂にはトモヨにパーカー、コノエ、カッシュ、レインにソノミがいる。いつもいるWWRのメンバーはいない。WWRとは別行動を意味するメンバーだ。

「私の調べた所、しかだ駄菓子店と喫茶エンドウは普段女性だけだということで狙いを付けたようです。今の所背後関係は不明ですが、WWR及びネルフ関係者を狙ったという確証は出ていません。私の勘ですが金目当てでしょう」
「酷いわね」
「そうだな、レイン」

 最近土門夫妻はしかだ駄菓子店に行く事が多い。トモヨ達のお供もあるが、子供の頃買った駄菓子が楽しいらしい。夫婦そろって甘い物が好きで、よくえーじゃんげりおんチョコ等を買っている。

「お母様、この組織、潰してよろしいでしょうか?」

 トモヨがスクリーンから向き直りソノミに言う。

「いいわよ、トモヨ。子供達の安住の地を穢した以上、全員に地獄を見てもらいましょう。ネルフとの調整、ホタルちゃんとしかだ駄菓子店の方は私が面倒見るから」
「はい。わかりましたわ」

 トモヨはにっこりと微笑んだ。何か寒気がするような怖い笑顔だ。代々続いた名家のお嬢様だから出来る表情かもしれない。ソノミも同じ笑いを浮かべていたので間違いないだろう。

「ではパーカー、やっておしまい」
「はい、お嬢様」

 パーカーは深々とお辞儀をすると、カッシュと作戦について調整し始めた。




 翌日第三新東京市に向かう市道にトラックが二台走っていた。切り通しの山道で人はいない。二台とも人相が悪い男が運転している。カーブを曲がったところで先頭のトラックは急ブレーキをかけた。道の横の木陰から男が飛び出してきたからだ。男は黒いマントを羽織った精悍な男だった。

「てめえ轢き殺されたいか」
「やって見ろ、出来るんだったらな」
「何い」

 男の小馬鹿にしたような口調に運転手は激怒した。アクセルを思い切り踏み込む。トラックとはいえそれなりの速度で加速する。

「石破天驚拳」

 男が放った拳は破壊エネルギーの塊と成ってトラックのエンジン部を襲った。トラックは衝撃で吹っ飛び、後ろのトラックに激突して止まった。トラックの荷台からはそろいもそろって人相の悪い男達が出てきた。先ほどの衝撃で血まみれになっている者もいる。皆殺気立って手には武器を持っている。メンツを潰された威張組が関係組織に要請した助っ人達だ。

「てめえ、何もんだ」

 男達は今にも手の銃器を使いそうだ。

「東方不敗流は素人には手をあげん。だが例外がある」

 どう見ても暴力の専門家達を素人扱いしたマントの男は手の指をボキボキとならす。

「女や子供達の夢を壊す奴らは叩きのめすのが流儀だ」 

 次の瞬間マントの男が動いた。早過ぎる動きで男達は目がついていかなかった。一番前にいた男の脇腹にマントの男の拳がめり込むと男は吹っ飛んだ。普通どんな打撃でも人が空中に持ち上がる事はないが、本当に五メートルほど飛んで地面に転がった。男は泡を吹いて気絶した。
 その様子を見て残りの男達はためらわず銃を発砲した。十五人の一斉射撃だ。いくら下手でも何発かはマントの男に当たる。当たるはずだった。だがいくら撃っても男が倒れない。その異様さに男達は慌てて射撃をやめる。

「使うんなら、高速弾がいいぞ」

 マントの男は両手の指を目の前にあげた。弾丸は全て指に挟み止められていた。掴めなかった分は指の間の弾丸で弾いて周囲に転がっている。次の瞬間また一人今度は上に跳ね上がった。マントの男の足が股間にめり込んでいた。男はまたしても泡を吹いて道に転がった。

「安心しろ。死なないように蹴った。潰れたのも片方だけだ」

 マントの男は微笑んだ。男達は理解した。この男は銃器でどうのこうの出来る存在じゃない。人の姿をした化け物だ。

「なあに大丈夫だ。二度と悪事が出来ないように、半年位寝込んでもらうだけだ」

 マントの男の微笑みが恐い物に変わった。次の瞬間、男達が一人ずつふっ飛んで行く。

「お礼参りがしたいのなら、仲間を連れていつでも来い。東方不敗流土門カッシュだ。って聞いている奴はいないか。一人ぐらい残しておくんだったな。ま、逃げた奴が伝えるだろう」




「おっと失礼」
「なんだてめえ」

 威張組に直ぐに助っ人達の全滅の知らせが入った。斥候で三人の男が事務所からとびだしたところで、先頭の男が足を引っ掛けられて、派手に転んだ。足を引っ掛けたのは、赤いシャツに黒いジャケット、黒いテンガロンハット、白い手袋、白いスカーフをつけた伊達男だ。手には白いギターを持っている。伊達男はギターを背中に回す。

「おまえらみたいな蛆虫を掃除するのが好きな私立探偵だ」
「なんだと、やっちまえ」

 三人は刃物を手に取ると伊達男に襲いかかる。だが無駄だった。伊達男は軽やかに身をかわすと、一人は顎に掌底打ち、一人は金的を蹴り上げ、瞬く間に二人を倒した。
 残る一人はへっぴり腰で刃物を振り回しながら叫んだ。

「先生殴り込みだ」

 すると一人の男が事務所から出てきた。今どき着流し姿で大きな刃物傷が顔にある。手には杖のような物を持っている。続いて組員達もゾロゾロと出てくる。

「お主少々できるな」
「それはどうも」

 伊達男は優雅に挨拶をした。

「見たところ威張組の用心棒、コウリュウノスケ、日本じゃ二番目の居合抜きの達人だ」

 伊達男は顔の前で二本の指を立てた。

「何、じゃ日本一は誰だ」

 返って来たのは伊達男の短い口笛だった。伊達男は二本の指でテンガロンハットの端を押し上げた。

「チッチッチ」

 二本の指を左右に振ると、右手の親指で自分を指さした。ウインクまでしてみせる。

「ほういいだろう」

 用心棒は腰を落とした。次の瞬間用心棒の手が霞んだ。抜く手も見せぬ居合抜き。

「何」

 抜く手も見せぬ居合抜きの切っ先は伊達男の腹の横で止まっていた。こちらもいつ動いたかわからぬ速さの真剣白刃取り。驚愕し固まったコウリュウノスケの仕込み杖の刃を手で挟んだ伊達男は捻りながら引っ張る。コウリュウノスケが前のめりになったところで、伊達男の蹴りがコウリュウノスケの顎に炸裂した。コウリュウノスケは昏倒した。

「中々良い刀だ。腕の方はまあまあだな」

 伊達男は仕込み杖を手に取る。事務所からは続々と構成員が出てきた。伊達男を取り囲む。

「団体さんのご到着で」

 取り囲む構成員達も気にしない風で伊達男が歩いて行く。構成員の一人がつっかけ、峰打ちをくらい昏倒した。

「無理しなさんな」

 伊達男はウインクをする。馬鹿にされたせいで恐怖心を怒りが上回り、皆一斉に伊達男襲いかかった。




「早川さんはいい仕事をしますね」

 呟きながら事務所に忍び込んだのはパーカーだ。構成員が早川ケンに引きつけられているあいだに、組事務所の奥の金庫の前まで行く。

「ほう、中々良い金庫ですな」

 金庫に耳を当ててダイアルロックを解き始める。その時、構成員が一人戻って来た。だがロック解除に集中しているパーカーは気が付かない。カチャっとロックが外れる音と同時に構成員は鈍器を振り上げた。

「ごぼ」

 変な声を出して構成員は気絶した。パーカーは慌てて振り向く。構成員の後ろには眼鏡の男が忍び寄っていた。構成員の首筋にスタンガンを突き立て痙攣したところを殴り倒した。パーカーは慌てて身構えたがすぐに緊張をといた。

「トーゴーさん、助かりました。私も歳ですね。きがつきませんでした」
「お宅のお嬢さんに、パーカーさんを手伝えって依頼されてね。トモヨちゃんはいいですね、金払いが良くって」
「はい。お嬢様は必要なお金は惜しまないので。さて金庫の中身は」

 金庫には有価証券、権利書、帳簿などが詰まっていた。パーカーはそれらをバックに移して行く。

「蛆虫退治は蛆虫達と資金源を共に絶たなくては」
「少し貰ってもいいかな」
「トーゴーさんは腕はいいのですが、がめついのが玉に瑕です」




 威張組の助っ人達はもう一組いた。こちらもトラックで事務所に向かっていた。通り道の途中に第壱中がある。校門の前百メートル位にトラックが近づいた時、くわえタバコの女性が校門より一人道に出てきた。運転手は激しくクラクションを鳴らす。くわえタバコの女性はどこ吹く風でニタリと笑った。顔の前で指を鳴らした。まだ距離が有るのに運転手にはっきりとその音が聞こえた。運転手は慌ててブレーキを踏んだ。目の前の地面が裂けて奈落が現れたからだ。それはどこまでも深く底が見えない。下の方から妙な音も聞こえる。何かの鳴き声に聞こえるが、想像が付かない。
 急ブレーキで荷台の男達から怒声が上がった。次々と荷台から降りて来ては、奈落を見て唖然としている。

「全部で十五人とは豪勢だね」

 奈落の向こう岸に立つくわえタバコ女の声がした。皆慌ててそちらを見る。少し吊り目の美人と言えなくもないが、そこいらにいる美人だ。何かだらしないように見える。だが瞳が違った。何か怪しく光っている。

「あんたら、私の可愛い生徒たちの憩いの場所を奪ったんだ。覚悟おし」

 次の瞬間女の姿が巨大な虎と変わり奈落を飛び越し男達に襲いかかった。慌てて銃で応戦するが十メートルも有る虎はびくともしない。男達は手足を一本ずつ食い千切られて絶叫をあげて倒れて行く。虎は男達を嬲っているらしく致命傷を負わせないように、傷つけ続けた。




「先生、これどうなっているんですか」

 校門の前に突っ立っているクキコの目の前にはトラックが止まっていた。中からは絶叫が上がっている。

「夢を見ている。催眠術みたなものさ」
「夢?」

 授業中急に一休みと教室を出たクキコが中々返ってこないので、学級委員のヒカリが探しに来た。

「ちょっと恐い夢だ。パーカーさんから警戒していてねって連絡が来たから」
「でも凄い絶叫が」
「大丈夫だって。夢なんだから」

 クキコはくわえタバコを捨てようとした。

「先生ポイ捨ては駄目です」
「洞木はかたいな」

 一応ポケット灰皿は持っているようだ。取り出すとそこに入れた。

「ここは駐車禁止でもないし、後でこいつら警察に取りに来てもらおう。凶器をしこたま持っているしな」

 クキコは校門から入って行く。慌ててヒカリも後を追う。

「でも、あの絶叫近所迷惑ですね」
「ただの悪夢さ。その内静かになる。ま、覚めないから悪夢なんだけどな」

 九段クキコはニタリと笑った。




 大道寺島には個人の所有のスーパーコンピューターとしては世界一の「お天気君一号」がある。そのサブシステムの「お天気君二号」は大道寺家の屋敷にある。これは世界で二番目の性能だ。そのスーパーコンピューターの制御コンソールの前にはレインが座っていた。作業が終わって、一息ついたところだ。携帯でどこかにかけ始めた。

「パーカーさん、作業終わったわよ。組長保有の暗号通貨は、全部慈善事業に寄付。株式なんかも匿名で交通遺児の基金に移しておいたわ。これで無一文よ」
「はい、レイン様ご苦労様です」
「バックの政治家何かの資産もやっちゃう?」
「それは、奥様が話をつけるとの事です」




 男は逃げていた。威張組の組長だ。車で第三新東京市から伸びる山道を飛ばして行く。組が一気に壊滅した。部下達を見捨てて手持ち現金とピストルだけ持って一目散に逃げている。第三新東京市が他の組に狙われない理由がわかった。あんな化け物達の相手をしていては命が幾つあっても足りない。男の車はあたりを鬱蒼とした木々に取り囲まれた山中まで来た。ここまで来れば大丈夫と車を止める。ハンドルにもたれかかり荒い息をつく。

とん

 車の天井で軽い音がした。慌てて当たりを見回す。開けていた後部座席の窓から辺りの音が聞こえるが、小鳥の鳴き声だけだ。念のため後部座席に置いてある拳銃に手を伸ばす。

「ん?」

 何か柔らかい物が手に触れた。恐る恐る後ろを向く。

「それは私のおいなりさんだ」
「ひ」

 パンティーで顔を被った男がそこにいた。組長は慌てて車から転げ落ちる。噂はよく聞いている。組長は全力で山道を逃げて行く。

「逃がさん。変態奥義フライング亀甲縛り」

 変態仮面EVA3の手から荒縄が飛び出ると、組長の身体に絡み付く。見る間に亀甲縛りで身動きが出来なくなった組長は道の真ん中で置物のようになった。変態仮面EVA3の手首の動きで無理やり向き直される。

「お前には特別なお仕置きが必要だな」

 変態仮面EVA3の手が閃くと荒縄の反対側が傍にある立木の上に絡みついた。組長は立木につながれ、荒縄の傾斜が出来た。

「とう」

 変態仮面EVA3はジャンプするとその荒縄に跨がった。

「変態秘奥義、地獄のタイトロープ」

 そのまま、組長の顔面に向かって滑り落ちていく。

「うわうわうわ~」

 組長の絶叫は激突した変態仮面EVA3の局部に止められ、おぞましさと恐怖と打撲で組長は気絶した。

「成敗!」

 翌朝、亀甲縛りで素っ裸の組長が第三新東京市の警察署の前に放置されていた。胸元にはメッセージカードが置いてあり、「この男、極悪地上げ屋」とあった。




「派手にやったわね。まっ治安は良くなったからいいけど。助っ人に来た奴らの半分は後遺症が残らない最大限度の大怪我、半分は精神障害、組員は全員半年は自分の足で立てない。組長に至ってはほとんど精神崩壊。誰がやったのかは不明、ということになっているわ」
「その様ですわね」
「そういえばあの組のバックにいた保守党の大物、贈収賄疑惑が急上昇してピンチだって」
「悪いことをすると報いが来るものですわ」
「それにしても一気に勝負をつけたわね」

 翌々日の夕方、喫茶エンドウの奥の席にミサトとトモヨが向かい合って座っていた。カウンターにはカッシュも来ている。当分用心のため常駐するそうだ。こちらはコーヒーを静かに啜っている。

「敵は最大戦力で一気にたたく。戦いは戦力をどれだけ事前に準備できるかで決まる。戦術はあくまで最後の仕上げに過ぎない。母の教えですわ」

 トモヨはニコニコしながらオレンジジュースをストローから吸う。

「大した帝王学だこと。これだから深窓の令嬢は怖いわ」
「おほほほ、私は深窓の令嬢ではありませんわ。ただ」
「ただ何?」
「サクラさんの話を聞いて思いますの。私はみんなの守護者、スポンサーの星回りに生まれついたのだと」

 トモヨは小首をかしげて微笑んだ。

「これからもみんなを苛める輩は、私が地獄にたたき落として差し上げますわ」
「恐いわね、私も気を付けないと」
「はい、たとえネルフ相手だとしても、全力でやらしていただきます」
「そうならないように願うわ」
「はい。それにしても」

 いきなりトモヨがてれはじめた。頬を手で挟み恥ずかしそうに身をよじらす。

「組長は逃げられたと思いましたが、さすが変態仮面EVA3様ですわ。変態なのに変態なのに、ステキ」
「そうね、ハハハハ」

 まだトモヨだけ正体を知らされていないらしい。ミサトは愛想笑いでごまかした。




 五日後、しかだ駄菓子店は再建された。世界最速最強のネルフ工務部の仕事だ。チルドレンもよく行くし、防犯設備等を入れる関係でミサトが手を回した。チルドレンの精神的な状況も考えて早く直した方が良いとの判断だ。

「本当に助かります」
「いいですよ。うちの子供たちがお世話になっているし」

 できあがり具合を見に来たミサトを迎えたのは少し年下の青年だ。よく見ると手にタコのような物がある。ホタルの夫の漫画家ココノツだ。店の奥の部屋でミサトと向かい合って座っている。店からはトウジとヒカリが店を見て回っている声がする。二人はアルバイト兼見張りとして放課後二週間ほど手伝いに来ることになった。店長の尾張は目の前で起きた暴力が軽いトラウマになったため、当分休むそうだ。

「ホタルさんも順調に回復してよかったですね。でもついていてあげていなくて良いんですか?」
「あなたは店番をしててって病室を追い出されまして。私は駄菓子そのもの、駄菓子を愛することは私を愛することって言われまして」
「惚気をごちそうさま。大道寺家のおつきの医師がついていれば大丈夫だわね」
「はい。ところで、二階の改装ありがとうございます。ずっと物置にしていたんですが、あそこで仕事をする事にします。妻と出会った時あそこで漫画書いていたんです」
「そうですか。ところで代表作の「スーパー女の子」のヒロイン、紅場アカネってモデルは奥さんですか」
「それは秘密です」

 ココノツは照れくさそうに頭をかいた。

「尾張さんも一ヶ月程で復帰するって連絡もありましたし。また店に戻ってもらえそうで嬉しいです」





 悪いことがあれば良いこともある。ココノツのヒット作「スーパー女の子」はアニメ化が決まった。ヒロインのアカネのモデルと噂されるホタルに会いにしかだ駄菓子店にファンがチラホラ現れるようになった。未だホタルは大道寺家の医務室住まいなので、皆残念がっていた。ただしかだ駄菓子店もアカネのたむろするおもちゃ屋のモデルと言われているため、記念写真を取ったり記念に駄菓子を買って行ったりする。試しにホタルのブロマイド兼メンコを売り出したところ、結構売り上げが順調だ。ホタル曰く駄菓子屋にブロマイドはつきものでOKだそうだ。
 喫茶エンドウも作品中の「喫茶めんどう」のモデルと言われていて、作中にサヤに似た店長も出てくるため、一目見ようと結構にぎわっている。忙しくなったので、大学生の先輩後輩のコンビもアルバイトが多く入っている。混んできた喫茶エンドウだが金曜日の夕方は相変わらず貸切となっている。

「ヴァイオレットさん、上司の人に会えたのかな」

 今日はレイとトモヨとサクラしかいない。話す事もそれほどなく雑談になっている。今日はミサトの代わりにマコトが来ている。クキコも忙しい為来ていない。マコトはパーカーと二人で四方山話をしている。

「お母様の話ではその方の情報らしき物が入ると、旅に出て直接探しに行くそうです。もう何回も。今度は本当の情報だといいのですけど」

 先日北米のWWRのエージェントより情報が入り、しばらくヴァイオレットは旅に出る事になった。TB1で行けば直ぐだが、そこは公私混同はしないと辞退したそうだ。

「なんとなく」

 レイがぽつりと言った。

「他人とは思えない」
「そう言えば綾波さん、なんとなくヴァイオレットさんに似ているね」
「私も、戦う為にいるから」
「えっと、そうじゃなくて、容姿が」
「そう、かな」
「綾波さん、嬉しそう」
「綺麗な人だから」

 レイも美しい存在は判る。しばらく皆黙った。

「再会があるように祈りましょう」
「そ、だね」
「ええ」

 皆目を瞑り祈った。最初に目を開いたサクラはレイを見つめた。祈るレイは美しかった。やがてレイも目を開く。サクラは聞いてみたくなった。

「ねえ綾波さん、綾波さんにはヴァイオレットさんの上司さんのような人はいるの」
「碇司令、だと思う」
「碇さんは?」
「碇君は、良く判らない。仕事で守れって言われた」
「そう、食事会、上手く行くといいね」

 レイは微笑みを返してきた。




 土門カッシュに早川ケンで充分オーバーキルのような気がするが、つい追加してしまうのは悪い癖だろうか。
次回「EVAザクラ新劇場版 破 第八話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく



[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第八話
Name: まっこう◆048ec83a ID:93a2ad01
Date: 2020/10/10 17:16
早く退院して、劇場版見に行きたいな。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「山中湖でございます」
「スワンボートね」
「お花畑だ」
「まずはご飯」
「アンズはお魚」
「お供しましょう」

 常夏の国となった日本でも高地は涼しい。今でも富士五湖は避暑地として人気がある。山中湖の湖畔は観光客も多い。その中をFAB-1で進むとどうしても目立ってしまうが、仕方が無い。

「では、黒猫亭へ向かうという事にいたしましょう」

 パーカーはFAB-1を進めた。




EVAザクラ 新劇場版

破 第八話

魔女達




 パーカーの運転するFAB-1は黒猫亭に向かう。後部座席にはレイとアスカとサクラと早川がいた。アンズもいる。FAB-1は普段は助手席は無いが、アンズが前に座りたいと言うので、そのような時のためのカセット型の助手席を取り付け、そこに座っている。アンズはドライブはほとんどしたことがないので、窓に齧り付くように外を見ている。今日なぜ遠出になったかと言うとご飯のためだ。最近レイは美味しい物を食べに色々と連れて行ってもらっている。美味しい物を作るには美味しい物を食べなくてはいけませんとホウメイに言われたので、レイはソノミに相談した。一番美味しい物を食べていそうだからだ。ソノミはトモヨとパーカーに美味しい物を食べさせてあげなさいと言い、トモヨはよくレイを連れ出すようになった。おかげでレイの舌もいろいろな味を覚え、家での料理の際の味付けも良くなったらしい。
 今日は変わった味を食べてみたいとの事だったので、マリーがやっている店に行こうという事になった。しかだ駄菓子店での事も有り、誰か護衛を連れて行った方がいい。たまには男性にエスコートされる経験もいいのではないかという事になり、早川がついてくることになった。それだけだと女性しか行けないところで被害があったらという事になり、アンズがついて行くことになった。レイばかり美味しい物を食べるのはずるいという事でアスカもいる。トモヨは一緒に行きたかったのだがしかだ駄菓子店での騒動の後始末があるので、今日はいない。

「それにしてもお嬢ちゃんが魔法使いとはね」
「えへへへへ、でも大した事無いよ。EVAを動かせる綾波さんやアスカの方が凄いし」
「なるほど、確かに大型ロボットは男のロマン、この場合は美少女ロマンかな。あのロボットは美少女でないと操縦出来ない決まりかい?」
「美少女?」
「まあダメレイは性格はともかく、私の九割位の美少女ではあるわね」
「友達をダメなんて言うもんじゃない」
「ふん」
「ま、確かにアスカちゃんとレイちゃん、サクラちゃんが美少女なのは間違いないさ」

 早川はレイ達にウインクをする。普段は結構性格も軽い早川にレイも戸惑い気味だ。ただ褒められるのは嬉しいのか、少し表情が緩んでいる。

「ネルフもWWRも美少女、美少年揃いで、大型ロボット操縦士に魔法使い、美少女猫又となかなか良いところだね」
「ところで私の名前を聞いたとき何か変な顔してたけど」

 後部座席は早川、レイ、アスカ、サクラと並んでいる。アスカは覗き込んで聞いた。

「何、たいした事じゃないさ。昔喧嘩友達に飛鳥ゴロウと言う奴がいて、少し思い出したのさ」
「へ~、どんな人?」
「登山が好きな科学者だった」
「だった?」

 早川の口調が少し変わったからかもしれない。珍しくレイが興味を持った。

「悪い奴に殺された。ま、敵はとったけどね」
「ごめんなさい、変な事を聞いて」
「え、あ、ごめん」
「気にするな」

 早川は微笑み、レイとアスカの頭を撫でる。

「子供は美味しい物を食って大きくなるのが仕事さ。そのために大人がいる」

 そうは言われても言葉が続けづらい。そこは年の功、パーカーがタイミング良く案内をした。

「皆様、あそこに見える山小屋風の建物が黒猫亭です」




 レイ達が黒猫亭についたころ、しかだ駄菓子店は面倒な事になっていた。改装したしかだ駄菓子店は、店内に駄菓子を食べるスペースが出来た。fireflyのアンテナショップになった時、衛生管理の関係で試食スペースを作らなかった。改装にあたりやはり試食スペースはあった方がいいだろうと、部屋を作った。部屋と言っても畳敷きの四畳半だ。中学生だとしかだ駄菓子店でお菓子を買って喫茶エンドウで食べるのが定番だが、小学生にはハードルが高い。そこでこのスペースで食べて貰おうと言うところだ。ホタルは食品衛生責任者資格は持っているので、尾張が復帰したら講習を受けて、二人で管理をする予定だ。
 今日はコノエが代わりに来ている。コノエは武芸百般どころか調理師資格も持っている。これは尾張が復帰するまでの臨時店長も兼ねている。あとトウジとヒカリもいる。と言ってもWWRからのお金で懐はそれなりに温かいので、臨時の手伝いだ。先程まで小学生の一団が来ていて忙しかったが、やっと一息つける。

「私の家は鮮魚店だけど、お菓子屋さんもいいわね」
「そうやな」

 話が続かない。ヒカリはヴァイオレットに手伝って貰った恋文を渡した。それからどうもぎこちない。トウジが試食部屋の縁に座った。ヒカリも少し離れて座る。店は静かだ。コノエは近所の店に買い物に行っている。ココノツは出版社で打ち合わせの為いない。おかげでお互いの呼吸音まで聞こえる。

「こんにちは、いかがですか?」

 店の戸を開けてトモヨが入って来た。コノエの様子を見に来たようだ。お供のカッシュは喫茶エンドウでコーヒーでも飲んでいるのだろう。

「トモヨちゃん、さっきまで小学生の一団が来ていて忙しかったの。コノエさんならお買い物」

 ヒカリがほっとした雰囲気で話し出す。

「大道寺、ここ座ったらどうだ」

 トウジは立ち上がる。

「師匠に会ってくる」

 店を出た。ヒカリはため息をついてうつむいた。トモヨはヒカリの隣に座る。しばらく黙っていた。

「こんな事なら告白しなければよかった。話せない」

 トモヨはヒカリの手を握る。

「きっと想いは伝わってますわ」
「そう、かな」

 ヒカリはトモヨの手を握り返した。

「そうね、ヴァイオレットさんは十五年近く待ったんだものね」

 ヒカリは顔を上げた。少し目元に涙が溜まっている。

「ええ」

 ヒカリは涙をそっと拭った。丁度その時客が入って来たので二人は立ち上がった。トモヨは入れ違いに店を出て行く。

「鹿田ホタルさんはいらっしゃいますか」

 客がやたらと丁寧だが、何か厭な感じで話しかけて来た。キチンとした背広姿なのだが、何か下卑ている。

「いえ、ホタルさんはまだいませんが」
「そうですか、私こういうものです」

 男は名刺を出した。ヒカリは受け取る。

「私第三新東京新聞社会部の記者中西と申します」
「あの、私アルバイトだし、取材とかは断りなさいって言われているんです」
「じゃ客ならいいんだな」

 記者は棚のうまい棒を二本掴み取る。乱暴に掴んだため、グシャグシャになったうまい棒をぶら下げて、カウンターに三十円を置く。

「これで客だな」

 唖然としていたヒカリだが気を取り直して、カウンターに戻った。

「お買い上げありがとうございます。お釣りです」
「いらね」
「では募金箱に入れさせていただきます」

 ヒカリはレジのわきの「超自然災害救援募金」の募金箱に小銭を入れた。男は試食スペースの入口に座り込む。

「試食すればいて良いんだよな」
「はい」

 断れない。ホタルの店の評判を悪くしたくない。

「なあ、お嬢ちゃんWWRの隊員だろ」
「何の事でしょうか」

 こう聞かれたら一応否定する事になっている。

「ここの店、暴力団威張組ともめたんだろ。実はWWRは裏で威張組でつながっていて、内輪もめして潰されたって言う話があってね」
「WWRなんて知りません」
「しらばっくれるな」

 記者は畳を叩いた。その音にヒカリは思わずすくむ。これまでTBNで救助現場に行って色々な危険なめにあってきた。自分が早く助かりたいとエゴを剥き出しにする者もいたが、このような気持ち悪い悪意を向けてきた者はいない。それにTBNは二人一組の運用だ。ヒカリはパイロット、救助はトウジがしている。一人は怖い。

「俺は皆の知る権利を代表して聞いているんだ。日本人だったら答えろ」

 また畳を叩く。ヒカリは足がガクガクして立つのもやっとだ。誰か来て欲しい。違う。彼に来て欲しい。

「WWRの構成員の口から聞きたいんだ。お前らも国連配下の組織ならさっさとしゃべれ。正義の記者が聞いているんだ」

 その時だった。店の戸が開いた。記者もヒカリも目が行った。記者でも感じ取れる程の怒気と殺気が吹き付けてくる。黒ジャージの少年が立っていた。後ろには、カッシュにコノエ、トモヨもいる。
 少年は記者の目の前に立った。燃える瞳で見下ろしている。

「失せろ、ボケ」
「きみもWWR隊員だろう。取材を受けるのは義務だ」
「うるさい」

 凄まじい轟音と共にしかだ駄菓子店全体が揺れた。トウジの右の拳の一撃は試食スペースの四隅の柱の一本に叩きつけられた。差し渡し一尺はある上質な木の柱にヒビが入った。今度は記者がすくんだ。

「師匠に言われた。素人には手をだすな。ただ例外は自分の好きな女を守る時や。出て行け」

 トウジは思い切り床を殴り付けた。分厚い一枚板にヒビが入る。記者は悲鳴を上げるとそこから逃げ出した。

「イインチョだいじょぶか、怪我ないか」

 トウジはレジの後ろですくんでいたヒカリに飛びつくように近づいた。

「うわああああん、鈴原、鈴原」

 ヒカリはトウジに抱き付くと大声で泣きはじめた。トウジは不器用に何度も頭を撫でた。




 記者は全力で逃げた。だが足に何かが絡み転んだ。慌てて足を見ると細い紐が絡んでいた。紐の先を見ると、さっき入口近くに立っていた女の手から伸びていた。捕縛術の一種だろう。立ち上がろうとしても微妙に紐を引かれてバランスを崩され立ち上がれない。女と黒マントの男と少女は近づいて来て記者のすぐそばに立った。
 記者はすくんで動けなくなった。黒マントの男も捕縛した女も怖いが、少女が怖い。その微笑みが怖い。

「お金持ちが本気になった時の闘い方を教えて差し上げますわ」

 記者は思わず失禁した。今にも少女が悪魔にでも変わりそうだ。もしくは鬼だ。

「第三新東京新聞社の株、本日18時より買い占めさせていただきますわ。十倍のプレミアムに逆らえる株主のかたどの位いらっしゃるでしょうか。皆様貴方の正義の為、売り惜しんでくださるとよろしいですわね」

 トモヨは小首を傾げて微笑む。全くもって可愛く、怖い。

「さ、お逃げなさい。私の関係者の目の届くところにいたら、嬲り続けますわ。大丈夫、殺しはしませんから」

 トモヨの合図で、コノエは紐を手首の一振りでほどいた。

「おお前ら、WWRは正義の味方として恥ずかしくないのか」

 記者が震えながら叫んだ。

「いえ、WWRは正義の味方ではありませんわ。命の危険、魂の危険などから人を助ける。ただそれだけの組織、と聞いておりますわ。さ後五分、早く逃げないと刻み初めますわ」

 トモヨの微笑みが濃くなった。口の横が吊り上がって行く。美少女だけによけい怖い。記者は悲鳴と共に立ち上がると逃げて行った。




 色々と騒がしいしかだ駄菓子店だが、レイ達が来た黒猫亭は静かだ。山中湖の湖畔とはいえ繁華街からすこし離れた山中で、途中他の観光客にも会わなかった。パーカーがFAB-1を止め助手席と後部座席のドアを恭しく開ける。

「ありがとう」

 アンズは勢いよく飛び出す。

「うにゃにゃにゃ、風が美味しいにゃあ~」
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」

 サクラはゆっくり優雅になるように降りる。そうしないとご意見番でもあるパーカーがうるさい。そうでなくても優雅さは身に付けたいところだ。アスカとレイが続いて降りる。こちらは所作がキチンとしている。ただ角張った動きが優雅さより軍人の規律正しさを思わせる。

「サンキュー」

 凄く軽い調子で早川が降りてきたが、嫌みな感じはない。実力を兼ね備えているからだろうか。

「皆様、あの丘の上の建物が黒猫亭だそうです」

 道から少し上がった所に開けた丘があり、山小屋風の建物が一番上にあった。

「へー、魔女の館って聞いてたけどおしゃれな感じじゃない」
「あの、マリーさんは魔女って言われるのを凄い嫌うから言わないであげて」
「ふ~ん。ま、私は美味しければいいわ」
「おさっかな、おさっかな」
「薬草料理、楽しみ」
「薬膳料理か、玉の肌をより綺麗にしないとな、行こうか」

 早川が先頭で丘を登って行く。しんがりはパーカーだ。皆が建物の近くに来ると、一人の女性がロッキングチェアーで眠りこけていた。左目が髪で隠れた丸顔の女性は、口を開けて眠り、ロッキングチェアーは風で揺れていた。寝ている女性の隣の入り口の戸には「綾波レイ様ご一行貸し切り」と書いた黒板がかけてある。
 サクラは苦笑いと共に女性を揺り起こした。

「マリーさん、マリーさん」

 もう食べられない等と寝言を言った後マリーは目を覚ました。

「え、あ、黒猫亭にようこそ」

 慌てて立ち上がり愛想を振りまきお辞儀をした。一行、特にアスカなどは大丈夫かこいつというあきれ顔で見ていた。

「どうぞ、どうぞ、こちらです」




 店主はすっとぼけているが、味は良かった。付近の自生の薬草と契約農家から取り寄せた野菜を使ったスープとサラダは、変に気取ったり奇抜な所もなくとても食べやすく飲みやすい。その後の前菜も、山菜のフリッターなどは軽くふわっとしていて美味しい。その他にも地元の乳製品を使ったつまみ等がでて、一緒にご相伴にあずかっているパーカーや早川などはアルコールが欲しくなったぐらいだ。野菜が嫌いだと言い放っているアスカももりもりと食べている。量もたっぷりある。次から次に料理が出てくるので給仕をしているマリーは忙しい。この店は大柄の無口なコックと二人でまわしているらしい。

「キリオさん、そろそろメインよ」

 マリーがコックに声をかけた。コックとは思えないほどの視線が鋭いその男は調理場の方で黙ったまま頷いた。

「コックさんは旦那さんなのか?」

 最近旦那とか結婚とかについて知ったのでアンズはやたら聞きたがる。

「兄です」
「ふーん、なんか似てないね」
「えへへ、そうですか」

 なんとなく言いよどんだ感じのマリーにサクラが助け船を出した。

「マリーさん、メインのお料理は何なの?」
「アスカ様はお肉と言う事で、契約農家から購入して直ぐ締めた、鶏の香草焼き、他の皆様は山中湖で採れた鱒のムニエルです」

 程なくして料理が出てきた。アンズなどは涎が垂れそうになっていた。皆一斉にかぶりついた。

「不思議」

 一口食べてレイが漏らした。

「草の香りがいっぱいするのに嫌みな感じが全くしない」
「ホントだ、レイの言うとおりだ」

 アスカもナイフとフォークが止まらない。

「美味しい」
「おいしいにゃ、おかわりある?」

 アンズは異次元の早さで、骨がぴかぴかに成るぐらい綺麗に食べ終えた。

「はい、アンズ様はいっぱい食べるとうかがっていたので用意してあります」

 マリーが骨だけになったアンズの皿を下げて、次の皿を持ってきた。

「こちらは、ワカサギのジャンボかき揚げです」
「すごーい」

 ほぼワカサギのみで作られたかき揚げは直径二十センチメートル高さ十五センチはある。

「いただきます。あ、ネギ入っていない。美味しい」

 ネギ類は猫には厳禁だが、人型の時のアンズは大丈夫だ。ただ美味しくは感じられないらしい。あらかじめサクラが連絡して皆の食べられるものそうでない物は伝えてある。

「これは、満点だにゃ」
「あと、最後にデザートがあります」

 デザートも地元で採れたナッツ類を入れたケーキとプリンが出た。これも美味しい。

「美味しかったわ。初めは店主が居眠りをしていてどうなる事かと思ったわ」
「あれは、前日掃除でぴかぴかにするのに徹夜しまして、てへ」

 照れ隠しにマリーはおどけた。ただ受けなかった。

「えへへへへ」

 なんか変顔でマリーは笑って、ごまかした。




 その頃、しかだ駄菓子店では大道寺家の出入りの職人が柱と床の壊れ具合を調べていた。コノエだけを残してみな喫茶エンドウに移っている。トウジとヒカリとトモヨは奥のテーブルにいる。カッシュはカウンターでコーヒーを啜っている。

「すまん、大道寺、ワイの為に無駄な出費させてもうて」
「いえいえ、私はスポンサーですし、あれぐらい、乙女の尊厳の為には当然ですわ」
「ごめんね、トモヨちゃん。私が毅然と対応すれば」
「あれでいいのさ」

 カッシュが声をかけた。

「男の拳は女を守る為にある、そうだろトウジ」
「はい、師匠」
「ちなみにトウジ、一度守ったら最後まで守れよ」
「おう、師匠」
「最後までって?」

 ヒカリが聞いて真っ赤になった。トウジも真っ赤になった。

「おほほほほ、お暑いですわね」
「そうだな、どっかに地球温暖化させてるカップルがいるな」

 二人はゆでだこのように赤くなった。




「そんな事があったんだ」

 シカダ駄菓子店での一件は、サクラが屋敷に戻った後伝えられた。サクラ達は黒猫亭での料理を堪能した後、マリーの案内で観光を楽しんだ。再開を約束して、家路についた。レイとアスカもいい刺激になったようで、帰宅した後は早速台所に立って練習を始めたくらいだ。早川はと言えば、「乙女のエスコートならいつでも駆けつけます」とウインクをして帰って行った。

「アンズがいたらけちょんけちょんにしてやるのに」
「ダメだよ姉さん。姉さんは限度を知らないから」

 ここは、いくつかある屋敷の応接室だ。シンジにアンズ、サクラとトモヨがいる。シンジはアンズを迎えに来たところ、お茶でもいかがと言う事になった。百グラム数万するお茶と桐の箱に入った高級なえびせんなどがテーブルに出ている。さっきからアンズはえびせんをむさぼり食っている。

「でも、誰も怪我が無くてよかったね。サクラ初めて聞いた時は心配したよ」
「おほほほ、ちゃんとあの新聞社にはお母様がきついお仕置きをしますので」
「あははは」

 ついシンジの口から苦笑いが漏れる。ソノミのお仕置きだと、会社は潰れるのかななどと思ったがこの一族には何を言っても効果が無い。流石に慣れた。

「ところで、薬膳料理は美味しかったですか」
「凄く美味しかったよ」
「アンズはおかわりしたにゃ。あのかき揚げ美味しかった。しんちゃん、あれ作って」
「はいはい、僕は食べてないから味は保証しませんよ」
「サクラが味見てあげるよ、少し食べさせて貰ったし」




 その日の夜、ジャンボジェットの模型にまたがってマリーが飛んできた。いつものようにサクラの部屋のバルコニーに降りるとノックをする。サクラはバルコニーの鍵を開ける。

「また来ちゃった、てへへ」
「いらっしゃい、今日は来ると思って夜食用意してたわ」
「あ、楽しみ」

 マリーはジャンボジェットの模型をバルコニーに置くと用意してあったスリッパに履き替えて入ってくる。二人は応接セットの椅子に座る。テーブルにはいろいろな果物が並んでいる。

「いただいていい?今日は風が強かったのでお腹空いちゃった。そういうときって体力使うでしょ」

 体力では無く魔力だと思うが突っ込まない事にしている。しばらく黒猫亭での料理について話した。

「ところでコックさんは、日本人じゃないよね。どういう人なの?」
「ギルね」

 マリーは一瞬言いよどんだ。少し寂しげな笑顔が顔に浮かんでくる。

「あの人はもともと協会の信徒を守る為に戦う騎士だったの。凄く信仰に忠実で、融通は利かないけど良い人だった。で、過去に魔女に酷い目にあって魔女狩りを生きがいにしていたの」
「え、でもマリーさん」
「私は魔女じゃ無いけど、何度か疑われた事があった。でも、それでも親交を結んでいたわ。信仰に厚すぎる所を除けば騎士そのもので、弱い者を身をもって守り助ける人だったし」
「話を聞いていると、昔の人みたい」
「そうね、私より百歳若いだけだから」
「あれ?マリーさんはともかく、そのギルさん」
「ギルベルトね」
「ギルベルトさんは人間なのに何でそんなに長生きしているの」
「一度死んだから」
「死んだ?」

 サクラの問いにマリーは頷いた。寂しそうな微笑みが深くなった。

「凄く強い人なんだけど、どんな時でも弱い者を助けてしまうの。で、重症を負ったの。その時私しかいなくって。治療をしたんだけど、息を引き取って」
「じゃゾンビ?」
「違うわ。死んでから黒魔術で生き返らせたの。死んで欲しくなかったから」
「そうなの」
「その事を知ったギルは嘆き悲しんだわ。私は信仰から見放される忌まわしい存在になってしまったと」
「でも、助けようとして」
「でもギルが望んだ事じゃない。私はギルからすれば神の御許に旅立つのを邪魔した、悪魔。しかも私によみがえさせられたせいで、私が死ぬまで死なないし、私を殺す事も出来ない」

 マリーは悲しそうに微笑み、お茶を啜った。

「絶望からギルは生きてはいるけど、廃人のように成ったの。だから言ったの」
「なんて?」
「ギルは私を信仰の道に導けばいい。私は魔女じゃ無いけど、信仰深いわけじゃなかったから。そうしたらきっと神の御許に行けるって。そうしたら少しずつ元気になって」
「そう」
「でも、口は聞いてくれないの。信仰の為無言の行をもう何百年も続けている。ギルの声、聞きたいな」

 マリーはリンゴをフォークで口に運ぶ。目を瞑って味わう。昔を思い出しているのかも知れない。

「マリーさんは、ギルベルトさんの事好きなの」
「どうかな~。どちらかと言うと、腐った縁ってやつね」
「それは腐れ縁では?」
「えへへへへ、日本語は難しいわ。何百年使っていても判らない」
「そんな事ないよ、日本語上手だよ」
「嬉しい」

 照れ隠しに、マリーは堅焼きお煎餅を囓りだした。

「これ美味しいわね」
「それ今度新西新宿に出来たお煎餅屋さんの。堅焼きが美味しいの、ここのメイドさんが、店番の男の子のファンで、小学生だけど凄いハンサムなんだって」
「へー見てみたいわね。これ持って帰っていいかな。ギルへお土産」

 そしてたわいないおしゃべりは夜遅くまで続いた。




「あ、ヴァイオレットさん、戻ってたんだ」

 翌々日の土曜日、遅れ気味の勉強を皆でしようと、大道寺家に集まった。学校に行っていないアンズもお菓子目当て、あと皆を猫可愛がりするためシンジとアスカと来ている。勉強会は会議室でする事になった。皆はもう到着していて会議室にいるので向かったところ、隣の会議室から出てきたヴァイオレットとソノミに出くわした。アンズはキラキラとした物が好きで、ヴァイオレットの髪の毛の色も大好きだ。

「ヴァイオレットさん上司さんに会えたの?」
「いいえ」
「そっか、いつか会えるにゃ」
「そうですね」

 アンズのように適当に明るく聞いて貰った方が楽かもしれない。ヴァイオレットは優しく微笑んだ。シンジとアスカもほっとした。

「あれ、左手どうしたの」

 アスカの視線の先のヴァイオレットの左手の手袋がぶらぶらしている。

「ちょっと壊してしまいました。いろいろ危険な所もまわりましたから」
「痛くないの?」
「いいえアスカ様、機械ですし痛覚はありません」
「アスカ様はやめてよ、むずがゆいわ」
「ではアスカさんではいかがですか?」
「まあそれでいいわ、でもやっぱり不便でしょ」
「大丈夫よ。直ぐ直るわ。ヴァイオレットの腕はもともと軍用の無骨な物だったの。15歳の乙女にそれは無いでしょ、だから私のコネで世界一の天才外科医に義手を作って貰ったのよ。おかげで、ヴァイオレットは私に五億円の借金があるけど。返さなくて良いと言ったけどこの子、律儀だから」

 ソノミが我が子を見るような優しい視線をヴァイオレットに注いでいる。それだけでも二人の関係が判る。

「この後、その医師に会うのよ、あんた達はしっかり勉強するのよ、じゃあまた後でね」
「失礼します」

 ソノミは胸を張ってどしどしと、ヴァイオレットは静かにその場を離れって行った。




 シンジ達が勉強を始めて一時間ほど、大道寺家に一人の男がやってきた。今時フルサイズのアメリカの黒いセダンに乗った男は服も黒ずくめだった。顔は日本人のそれだが、顔を斜めに縫い合わせた跡があり、明らかに黒人の物と思われる皮膚が移植されており、顔の色が左右で違った。玄関まで車を動かし降りると、ソノミとヴァイオレット、あと医師のタロウが出迎えた。普段は大道寺島にいるタロウだが、今日の為に来ている。


「先生お久しぶりです」
「お久しぶりです」
「お久しぶりです」

 ソノミとヴァイオレット、タロウは頭を下げた。

「元気そうで何よりだ」

 男はソノミとタロウを見ていう。

「で、ヴァイオレットはどうしたんだ」

 ヴァイオレットの左手を見て怒ったように言う。

「まずはお茶でも」
「いらん、俺も忙しい。医務室で早速見よう」
「はい、ではこちらに、間先生」

 ソノミが直々に案内をする。皆黙って付いていった。




 医務室に行くと、間とヴァイオレットとタロウ以外は部屋から追い出された。ホタルは二日前、客間に移っている。

「脱げ」
「はい」

 ヴァイオレットをベッドに座らせ、自分は正面に座る。タロウは間の後ろで見ている。ヴァイオレットは左手が不自由な為、上着を脱ぐのに苦労したが、間は黙って見ている。服を脱ぐ動作も、義手の機能チェックを兼ねているのかも知れない。やがてヴァイオレットはブラを残して上半身裸になった。肌自体は滑らかなのだが所々に刃物傷や銃創がある。そして両腕は肘より少し上の所から金属の義手だ。左手首の先だけだらりと下がっているが、銀色の見た目は変わらない。

「両手を目の前にあげてグーパーグーパー」

 ヴァイオレットは言われたとおりにする、左手手首の先だけ動かない。

「今度は手首を上下左右に動かしてみろ」

 ヴァイオレットは言われたとおり手をいろいろ動かした。間は最後に聴診器で、腕の音を聞く。

「お前、この手で戦ったな。左手はその時の負荷で壊れたんだろうな」
「ホタルさんが暴漢に襲われる可能性がありました」
「そんな、理由はどうでもいい。お前のは前付けていた軍用義手と違う。それは生活していく為の義手だ。人を傷つける為なら返して貰う」

 ヴァイオレットは少しうなだれた。

「まあ、鹿田ホタルは妊婦だし、仕方がないと言えば言えるからな。気をつけろ」
「はい」
「お前が子供の頃受けた薬物や外科手術による身体強化の効果は尽きつつある。自分の身も大事にしろ」
「はい」

 ヴァイオレットは顔を上げた。

「とりあえず左手のユニットを交換すれば問題無さそうだ。交換作業を行うから助手をしろ」
「はい」

 間は振り返ってタロウに言った。




「問題ない、費用は大道寺に付けとく」

 交換作業後、間とヴァイオレットは応接室に向かった。ソノミが待っていた。

「ヴァイオレットにも言ったが荒事はしないように、言い聞かせろ」
「はい、そうします」
「元軍人はいつまでも自分が戦えると思い込んでいる。ともかく喧嘩は厳禁だ」
「はい」

 言うだけ言うと、間は勝手に部屋を出て行った。

「見送りはいい、大事にしろ」





 ヴァイオレットの義手を作れる人となると、あの人だろうというのはちょっと安易だったろうか。

次回「EVAザクラ新劇場版 破 第九話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく



[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第九話
Name: まっこう◆048ec83a ID:8e1d4fad
Date: 2020/10/15 14:10
入院中はズバットとサンダーバードare go!ばかり見ていました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 芦ノ湖の海賊遊覧船は今でも健在だ。この所お疲れ気味のミサトとリツコは慰労と言う事で二人で芦ノ湖の湖畔の温泉に来ている。業務上それほど遠くには行けないのが残念だ。ミサトとしてはマコトやマヤなども連れてもう少し大人数で楽しみたいところだが、テロなどが会った場合それでは業務に支障をきたす為、リツコと二人で来ている。まあこの二人がいなくなったらそれなりに大変だろうが、代わりはいる。

「いい天気ねえ~」
「そうね」

 甲板の先端で乗り出して辺りを見回しているミサトと違いリツコはベンチで本を読んでいる。美人の二人連れとも成れば無謀にもナンパしてくる者もいる。もっとも成功しない。リツコを口説こうとした者は芦ノ湖が凍りそうな視線を食らって敗退している。ミサトを口説こうとした者は、「私ネルフの作戦担当なのお~。私より喧嘩が強ければ付き合ってあげるわよ~」等と言うとこれも去って行く。一人力自慢の巨漢がそれならばと手を握ってきたので派手にぶん投げたためその後は誰も寄ってこない。
「リツコ、あんた楽しいの?」
「ええ、お日様の下の読書も新鮮だわ」




EVAザクラ 新劇場版

破 第九話

参上




「ま、楽しいならいいか」

 ミサトはそう言うと尻ポケットのスキットルから一口ウイスキーを飲んだ。

「アル中」
「ガリ勉」

 気の知れた二人旅なら悪口も楽しいものだ。二人の服装は対照的だ。リツコは白い長袖のブラウスに白いスカート、ツバの大きい帽子にサングラス。日焼け対策はバッチリだ。ミサトは短く切ったデニムのショートパンツにへそが出ている短いデニムジャケットで、結構際どいカットのため下着がチラチラ見えたりする。どちらもそれなりに似合って見えるのは、やはり美女二人組なのだろう。

「そろそろ戻るわ」
「もう、リツコは、何しに来たんだか」
「いえネルフの牛乳女の生態を楽しませて貰ったわ」
「しっつれいね、小さいよりいいでしょ」
「役に立ってる?」
「リツコよりは」

 減らず口を叩きながら、二人は特別室に戻っていく。平日なのと、料金が高い為か他には誰もいない。

「でも、この旅行はミサトにしては良いチョイスだわ。行く先がネルフの契約温泉なら安心だし、あそこ結構料理がいいのよね」
「お酒もいいのが揃っているし」
「やっぱりアル中。加地君に嫌われるわよ」
「へーんだ」

 ミサトはまたウイスキーをあおった。

「加地なんて」
「ハイハイ、ふってやったんでしょ」




 桃源台港につくと次は箱根ロープウエイに乗りかえた。この辺りは使徒の通り道でないので、景色も昔のままだ。ロープウエイも空いていてふたりだけだ。

「空、青いわね」
「そうね」

 ミサトは立ち上がりロープウエイのガラスに顔を近づけて外を見ている。窓が開くなら、乗り出して見ていそうだ。リツコは逆に座って見ている。流石にサングラスは外している。

「それにしても、貴方のプロポーション反則ね。あれだけだらしない生活していてその腰の細さは何なの?ま、その分性格があれだから、天は二物を与えないわね」
「あーら、リツコだって素敵じゃない。その立派な安産型。腰が据わっていてうらやましいわ」

 くだらない事を言い合えるのも気ままな女二人旅だろう。

「芦ノ湖も青いわ」
「そうね」
「なんで海は赤く成ったのかしら」
「赤い物質が溶けているからよ」
「身も蓋もないわね」
「詳しく説明しましょうか?」
「いいわ。どうせその物質がメチル基がどうたらこうたら、特定波長を吸収するどうたらこうたらでしょ」
「ご名答」

 ミサトはリツコの隣の席に座った。肘掛けにもたれる。

「どうなるのかしら、これから」
「温泉に行って、美味しいご飯を食べて寛ぐ」
「じゃなくて、EVAの事とかネルフの事とか」
「あなたちゃらんぽらんのくせに、心配性なんだから」
「ちゃらんぽらんで悪うございました」
「ま、心配性なのは普段の準備が足りないからよ」
「はいはい、ネルフの説明おばさんには口では勝てませんよ」
「そう、私も二本足歩行ホルスタインには勝てないわ」
「偽金髪」
「アル中」

 そんな事を言っている間に大涌谷駅に着いた。陰陽二人の美女が並んで歩いていると、皆の目をひく。寄ってくる男どもを一々撃退するのは面倒なので、ミサトはネルフの制帽を被って目つきを鋭くした。それだけで男どもが寄ってこない。何か違うのが判るのだ。

「そうそう、レイが大涌谷の黒たまご買ってきてだって」
「あの子が。ま、食に興味を持ってくれるのはいい事だわ。健康は食事からだもの」
「最近は手が絆創膏だらけね」
「包丁傷ね」

 大涌谷の土産物売り場を二人で回りながらのおしゃべりはとりとめのない物だ。また寄るのでお土産は帰りに買う事にして、今夜の酒とつまみだけ買って行く事にした。買い物が終えた後は二階のレストランで昼食だ。名物に旨いものなしと言われるが、大涌谷の名が付いたカレーを二人で食べる。意外と旨い。

「そう言えば、レイは煮込み料理で行くらしいわよ。シチュー、まあ無難ね。切って煮込めば形になるし」
「あらぁ、アスカともろに当たるわよ。アスカはカレーだけど」
「面白いわね。言っておくけどミサトは手伝わない方がいいわよ。あなた味音痴だし」
「リツコだって飯屋でバイトしていたくせにちっとも上手くならなかったじゃない」
「ミサトも同じ店でバイトしていたでしょ」
「まっね~。うらなり君どうしてるかしら。リツコ連絡はしてないの」
「別世界の人間よ」
「食堂の女将さんもよかったんじゃない」
「うらなり君は私には勿体ないわよ」

 二人が大学生の時バイトをしていた食堂の店主の話で盛り上がった。




「まずは温泉温泉」
「それについては同意見だわ」

 大涌谷のレストランで食事を終えた後またロープウエイで早雲山駅まで行く。駅を降りて道を少し上っていくと、お目当ての温泉宿についた。全部で八部屋しかない温泉宿で、いつも予約は埋まっている。ネルフ関係者専用の温泉宿だ。チェックインを済ましもてなしのお茶とお茶菓子を平らげた後早速温泉に行く事になった。この宿は部屋数にあわせて八つ露天風呂がある。ミサトの趣味で空がよく見える風呂に入る事になった。

「温泉って言ったらこれよこれ」

 ミサトはどこから持ってきたのか木のお盆に徳利とおちょこを乗せて、お湯に浮かべて早速いっぱいやっている。

「飲み過ぎないようにね」
「だいじょうびゅ~」

 すでに口元が怪しくなっている。

「温泉来たの久しぶりよね~」
「そうね、大学以来だもの。あの時は加地君もいたわね。夜うるさくて眠れなかったわ。私の事忘れて盛りがついてるのだもの」
「そんな事もあったわね~」
「昔は良かった、か」
「私たちセカンドインパクトが無くって出会っていたらどうなってたのかしら~」
「さあ。あなたが飲兵衛なのは変わらないでしょうね」
「あなたが理屈っぽいのもね」

 リツコはお湯の中ミサトに寄ってきた。

「ちゃんと私の分のおちょこもあるのは流石、天下のネルフ一の飲兵衛ね」
「ま、ね~」

 リツコがおちょこを手に取ると、ミサトがついだ。

「酒旨ければ、天下に勝る。全て憂い無し」
「誰の言葉?」
「わたしの~」
「まあいいわ、乾杯」
「乾杯」




 温泉から上がると早速二人で宴会だ。箱根は山の幸、海の幸両方が味わえる。煮物、焼き物とどれも美味しい。何でも解説してしまうリツコも黙々と箸を動かし、ミサトも浴びるように日本酒を飲み酒の肴を摘まんでいい気分だ。宴会が始まって一時間ほどで一段落付き、二人の手もゆっくりとなった。

「そお言えばダミープラグって、実際どうなのよ」

 冷や酒のコップを目の前でゆらゆらさせたミサトが、コップに歪んで映ったリツコに話しかける。

「あなた、普段の態度の割に仕事好きよね」

 リツコはウイスキーの水割りだ。

「かもね、ま、好奇心は豊富だわ」
「全機械式でチルドレンが意識不明などに陥った時コントロールが可能って事に成ってる。詳細は不明よ」
「なんかいけ好かないわね。対抗手段はないの?」
「うちの第二開発部の市ヶ谷博士が開発してる。EVA技術を応用した人工生命体プロジェクト・テルルがある。レイの思考パターンを元に学習させたAIを搭載した有機無機混合のロボット、身体のモデルはミサトのを使わせて貰ったわ」
「へえ~そんなもん作ってたの」
「ダミープラグと似たり寄ったりかも知れないけど。一応首から下は出来たけど、AIとの同期に手こずってる。最終調整に二年かかるわ」
「そ、ま、正体がわからないダミープラグよりましかもね」
「そうね」

 ミサトが丁度グラスをあおったので、リツコの口元が少し歪んだのには気づかなかった。

「ともかく、うちの上位組織って謎だらけね」
「そうね、仕事の話はこのぐらいにして、そろそろ舟盛り出して貰いましょうか」
「待ってました」




 翌日、リツコは二日酔い気味だった。リツコの二倍飲んだミサトが平気なのは流石と言うべきだろう。

「向かい酒行っとく?」
「あのね」

 旅館の朝食は美味しかった。ご飯にお味噌汁、干物に漬物、だし巻きに梅干しと実に伝統的な物だが、きちんと手がかかっていて旨い。ミサトはバクバクご飯をおかわりして食べている。リツコはちまちまと箸を進めている。

「なんなら、もう一日泊まってく?」
「できないでしょ」
「まっね~」
「ホントに神様は不公平だわ」

 リツコはご飯に味噌汁をかけてすすり込むことにした。

「あら、無作法」
「今度アルコール拮抗薬を食べ物に混ぜてやるから」
「お~こわ。流石ネルフが誇るマッドサイエンティスト」
「うるさい、アル中ビヤ樽女」
「リツコよりウエスト細いもん」
「1センチでしょ」




 朝食をとった後一っ風呂浴びたところリツコの体調も良くなってきた。仕事もあるので帰る事となった。旅の帰りのルートは行きと逆だ。早雲山からロープウエイで大涌谷にまず降りた。土産物屋でリツコは黒たまごとせんべいなどを買い、ミサトは地酒とつまみを買った。今日はレストランに寄らずまロープウエイで桃源台港まで降りた。それほど待つこともなく海賊遊覧船に乗り込んだ。今日は船底に近い普通席だ。今日は時間も早いせいか他に誰も客はいない。貸し切り状態だ。

「これ食べる?朝あまり食べなかったから、私お腹空いて来ちゃって」

 リツコが黒たまごの一個入りパックをミサトに差し出す。

「サンキュー、あとで頂くわ」

 ミサトはジャケットのポケットに入れた。リツコはパックから取り出すと、付いている味塩を振りかけてぱくついた。

「あら、美味しい」




 遊覧船が出航したが行きと違ってミサトも静かに席にいる。窓から流れる風景を眺めている。卵を食べ終わったリツコは居眠りを始めた。

「ん?」

 ミサトが急に斜め上を見た。何かゾクッとした。ずっと戦いの場に身を置くと、勘がさえてくる。殺気みたいなものを感じるようになる。ミサトはそのような感覚を無視しない。

「リツコ起きて」

 リツコを揺り起こす。

「へ?」
「狙われてる」

 それでリツコもシャキッとした。ミサトの直感による行動は何度も目にしてる。それに何度も助けられている。ミサトの直感は相当な確率で信頼できる。一方ミサトのゾクゾクした感覚はより強くなった。

「リツコ通路に出て」

 ミサトは立ち上がったリツコを通路に押し出した。リツコに飛びつき抱きつくと、ポケットから取り出したカプセルを取り出し、起動スイッチを押した。カプセルから何かが吹き出し、ミサトとリツコを覆う。それは直径三メートルほどの球体となった。厚みは百ミクロン程だが手榴弾の接触爆発にも耐え、数トンの加重にも耐える優れものだ。特殊な高分子膜で出来ており、光も反射し、気体もシャットアウトする為、光学兵器や毒ガスにも対応する、ポータブルの個人用シェルターと言える物だ。最近テロがいくつかあったのでリツコが作った試作品で、とりあえずミサトに渡した物だ。ただ試作品なのでまだ解決していないところがある。光学兵器に対応するように作られた為、外部の状況が見ることが出来ない。カプセルにある酸素交換機は一人一時間分のエネルギーしかない。二人だと三十分だ。真っ暗なシェルターで抱き合ったまま身構えた二人は、次の瞬間に轟音と共に迫ってきたシェルターの天井部分に激突して気を失った。




「アヤカ、箱根海賊船の運営会社から緊急通信です」
「了解、こちらWWR」

 TB5の今週の当番はアヤカだ。壁を蹴ってディスプレイの前漂っていく。

「うちの観光船が謎の爆発を起こして沈没しました。船長と乗組員は水面に漂っているのを救助しましたが、乗客二人が船と共に沈んだと思われます。船室は気密構造になっているので生き残っている可能性もありますので救助をお願いします」
「了解しました。至急こちらのチームを送りますので、隊員の指示にしたっがってください」
「了解しました」

 アヤカはイオスに命じて、MAGIとの直通回線をオープンさせた。第三新東京市近郊の事故、事件はネルフが関わっていることが多い為、あらかじめ情報を共有する取り決めがある。

「イオス、芦ノ湖をスキャン」
「了解」
「大道寺島本部、芦ノ湖で遊覧船の沈没事故発生。客が二人船内に取り残された模様」
「了解、TBNを先見に、TB2およびTB4を救助に向かわせるです。追加情報が入り次第連絡を頼むです」
「了解」

 TB1はマリエルと共に別の現場に行っているらしい。TB2のメインパイロットのクルミから返答が帰って来た。クルミ達が準備をしている間に、芦ノ湖の3Dスキャン結果がホログラフィーでアヤカの目の前に現れた。

「芦ノ湖の最深部に船の残骸が沈んでいます。バラバラになっています。あれ?」
「どうしたのイオス」

 人工知能のイオスが変な声を出した。他の世界から来た人格と融合してからは、こんな人間らしい反応をすることが多い。おしゃべりなアヤカの影響を受けたのか少し話し方が大雑把になったのは問題だ。

「残骸の下に球形のスキャン不能部分があります」
「変ね、TB5のセンサーでスキャン出来ないなんて。重力勾配探査出来る?荒い精度でいいわ」
「はい」

 5秒後結果がホログラフィーに追加された。

「球体内に、98プラスマイナス20キログラムの質量あり、二人分の質量ね。イオス、遊覧船の売り場の監視カメラにアクセス。乗客を特定して」
「了解」

 イオスが監視カメラのシステムにハッキングする。一々許可を取るより早い。

「人物特定、葛城ミサトおよび赤木リツコと判明」
「え、すぐにネルフに連絡」
「MAGIを通して連絡済み。あの球体は試作品の個人用シェルター、酸素は30分持ちます」




「ボス、上手くいきやしたね」
「こんな仕事であんだけ出すとはデストロンは金払いがいいですね」
「ああ、それに現れたWWRの奴らをあの先生にやって貰えば、メンツも立つ」

 箱根の山中に目つきの悪い男達の集団がいた。以前威張組に助っ人を出した暴力団新星組の一党だ。ボスとその配下15人、それにデストロンからよこされた大柄の男が一人いた。

「大体正義気取りの奴らは虫が好かん。ぐちゃぐちゃにぶっ潰してやる。先生お願いします」
「ああ」

 その時だった、どこからともなくギターの音が聞こえてきた。

「ん、なんだ」

 皆、音の方を向いた。

「誰だ」

 ボスが叫んだ。獣道の向こうからギターを弾きながら黒いジャケットに赤いシャツ、白マフラー、黒いテンガロンハットの伊達男がやってきた。

「残念ながら、お前達が狙った美女二人は生きている。さっきWWRから連絡があった。救助作業中だ」
「お前、早川」
「その通り、害虫退治が好きな私立探偵だ」
「威張組のようにはいかんぞ、おまえら」
「へい」

 手下達はポッケとから薬を出し飲んだ。みなの身体の筋肉が膨れ上がる。デストロンから支給された筋力増強剤だ。筋力が二倍なる。手下達は一斉に早川に襲いかかった。




 TBNが現場に着いて上空から直接観察を始めて五分後、ほぼ同時にTB2とネルフの作戦部の作戦指揮車が桃源台港に到着した。救助はWWRが本職なので、周囲の警護と人払いをすることになった。

「マヤちゃん、あのシールドの酸素は何分持つんだい」
「安静状態で二人で三十分」

 戦闘指揮車の中のモニターにTBNからの映像とシェルターの性能図が映っている。マコトとマヤが来て現場の指揮をしている。

「トウジ君、そちらから視認した限りではどうだい」
「あかん。爆発のせいか水が濁ってしまってる。目ではみえへん。ただレーザーレーダーではまだ球体は壊れてない」
「すまんが、変化があったら教えてくれ」

 いっぽうTB2は湖畔の空き地に着陸し、着陸ギアを伸ばしてTB4の発進準備をしていた。いつもならTB4が入ったコンテナを水面に落としてそこから緊急発進させるのだが、コンテナが着水した衝撃でシェルターが潰れる可能性がある為、TB4を湖畔から発進させることにした。

「カリンカちゃん、サキちゃん、準備いいですか」
「OK姉さん。以降はこちらでコントロールします」

 TB4のメインパイロットのカリンカから返事が返ってきた。

「ドッキングクランプ解除、TB4発進」

 TB4は倒れたコンテナの前面から滑るように発進し、水中に入って行った。




 ミサトとリツコは暗闇の中にいた。二人とも衝撃で気絶したが五分後ミサトが目を覚ました。

「リツコ起きて」

 ポケットに入れてあったペンライトを付けたミサトはまだ気絶しているリツコに声をかけた。

「あ、ミサト。ここは」
「リツコがくれた個人用シェルターの中、爆発があったから芦ノ湖に沈んでるんじゃない」
「そう、いたたたた」

 リツコは胸を押さえた。相当痛いらしい。呼吸が上がってる。

「肋骨にヒビが入ったみたい。もしかしたら折れてるかも」
「楽にしてあげる」

 ミサトはリツコを服の緩めた。

「有難う。でもヤバい状態ね。空気は三十分しか持たないわ」
「三十分あればうちの作戦部かWWRが来てくれるわ」
「私今骨折で呼吸が世話しなくなってるからもっと短いわよ」
「その時はその時よ。二人で組めばどんな事でも何とか成る。そう言ったでしょ」
「まあね。とは言え対策は必要だわ」

 リツコはそう言うとバックから何か錠剤を取り出した。

「なにそれ」
「自決薬」
「何バカな事を言ってるの」
「冗談よ、仮死薬よ。新陳代謝を極限まで落として仮死状態にするような薬。酸素の消費を相当抑えるの」
「危険は無いの?」
「若干の危険は有るけど酸欠で死ぬよりいいわよ」
「じゃ私が飲むわ。けが人にそんな薬飲ませられない」
「逆よ。貴方が仮死状態になったら、けが人の私は一人じゃ身動きとれんないわ」
「でもリツコ」
「赤木リツコを信じて。私の科学的技術的知見は信じられるでしょ」
「そうだけど」
「じゃ、決まり」

 リツコは錠剤を口に放り込んだ。

「二十秒ほどで効いてくるわ。あとはたの」

 急にリツコの全身が痙攣した。痙攣が止まると呼吸が極ゆっくりな物になった。リツコは昏倒した。ミサトは上着を脱ぐとリツコにかけた。




「TB4が発進した。後は彼らに任せるしかない。俺たちは警備に専念しよう」
「せんぱい」

 マコトは戦闘指揮車から、警備に当たっている作戦部の部員達に指令を出した。マヤはTBNを通して送られる情報を随時チェックしている。

「え?」
「爆発音?」
「TBN、そっちから見える?爆発音がまた聞こえた」
「聞こえました。少し離れた山中から煙が上がってます」




 たとえ筋力増強剤を使っても手下どもでは早川の敵ではない。早川は襲いかかってきた手下どもをその力を逸らして投げ飛ばし、急所を突いては倒していった。どんどん手下が減っていく。ボスは慌てて大男にすがりつく。

「先生お願いします」
「ふん」

 大男がボスの顔面を殴り倒した。丁度早川が丁度手下達を全て倒した時だった。

「カメバツーカ」

 大男がそう叫ぶと身体が膨れ上がった、みるみるうちに身体が変わっていく。そしてそこには亀の怪人がいた。背中に亀の甲羅のような物がありその上に砲台の様な物が付いている。

「お前はデストロンの怪人だな」
「そうだ、ババツーカ受けてみろ」

 怪人は素早く四つん這いになると、早川に砲台を向けた。

「ババツーカ」

 カメバツーカの叫びと共にエネルギー弾が発射された。早川はとっさに避けた為直撃は避けられたが、直ぐ横の岩にエネルギー弾が当たり爆発を起こした。爆発のあおりを食らって早川は跳ね飛ばされ山の斜面を落ちていった。

「わはははは、たわいのない奴」

 カメバツーカは大声で嘲り笑った。

「これで一人邪魔者が消えた」

 その時だった、山の向こうから何か赤い物が飛んできた。カメバツーカが見るとそれは変な形をした自動車だった。惑星探査用ローバーの試作機ズバッカーだ。

「ちぇい!」

 近くまで来た時、全身が真っ赤な装甲服の男が飛び降り、カメバツーカから少し高い丘の上に着地した。

「お前は何者だ」
「はっはっはっ、ズバッと参上、ズバッと解決、人呼んでさすらいのヒーロー怪傑ズバット」

 ズバットは右手でカメバツーカを指さし言った。

「みんなの楽しみ海賊遊覧船を爆破し、あまつさえ女性二人を殺そうとしたカメバツーカ、許さん」

 ズバットはジャンプしカメバツーカの前に着地した。

「お前などこのババツーカの敵では無いわ」

 カメバツーカはまた素早く四つん這いになった。

「ババツーカ」

 エネルギー弾がズバットに向かって発射された。

「ちぇい!」

 かけ声とともにズバットが鞭を振り下ろすとエネルギー弾は両断され空中で四散した。

「なにいい」
「はははは、ズバットにそんな物は効かない」
「なんの、ババツーカ速射」

 少し威力が小さいがババツーカが三十発ほど連射される。

「ちぇい!ちぇい!ちぇい!ちぇい!」

 ズバットは鞭を振り回し全てのエネルギー弾を切り飛ばし、跳ね飛ばした。

「ズバッ」

 ズバットがカメバツーカの首に鞭の先端を絡みつけた。

「ズバッ」

 ズバットが手を引くと、カメバツーカが宙を舞い地面に叩き付けられる。
「ズバッ!ズバッ!」

 ズバットは十回ほどカメバツーカを地面に叩き付けた。鞭をほどいた。カメバツーカは直ぐに立ち上がる。

「このカメバツーカ、甲羅も身体も特別製、そんな攻撃ではびくともしないわ」
「何」

 ズバットは距離をとりにらみ合い状態になった。

「このままでは制限時間を超えてしまう」

 ズバットの装甲スーツは五分の制限時間を過ぎると装甲服が負荷の限界を超えて爆発してしまう。動力を解除すると鉛のように重くなってしまうのだ。

「ババツーカ」

 またカメバツーカが四つん這いになるとババツーカを撃とうとする。

「ちぇい!」

 ズバットは地面に落ちていた大きな石を鞭ではじいてババツーカの砲身に叩き込んだ。そこでババツーカを発射したからたまらない。ババツーカは暴発し、砲身は裂け、カメバツーカの甲羅にもひびが入った。

「チャンスだ、ちぇい!」

 ズバットはジャンプすると空中で一回転しカメバツーカに向かって飛んでくる。

「ズバット、アタック!!」

 両足の跳び蹴りを立ち上がったカメバツーカの肩の辺りに炸裂させる。反動で距離をとった。

「バババツーカ」

 カメバツーカはそう言うと倒れ込み爆発を起こし。身体が四散した。




 スパシンの元祖は早川ケンだと言ったら、早川ケンはもっとスーパーだと言われてしまうだろうか。早川ケンなら誰よりも上手にEVAを操縦してしまうと思うのは錯覚だろうか?

次回「EVAザクラ新劇場版 破 第十話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく



[43351] EVAザクラ 新劇場版 搭乗人物一覧 update
Name: まっこう◆048ec83a ID:8e1d4fad
Date: 2020/10/15 14:22
相田ケンスケ WWR隊員、おたく、コノエの弟子、変態EVA仮面->トモヨとコノエの力と技のダブルパンティーで変態仮面EVA3に進化(トモヨにだけはばれていない) DT因子保有者
青葉シゲル ネルフ司令部付きの技官 髪の長い人
赤木リツコ ネルフの技術担当 ミスカトニック研究所に一時所属
アカリ 火星の水先案内人 デザイナーベイビー
アリア社長 白猫(青い目)
綾波レイ 零号機パイロット
イオス TB5の搭載AI、電子の妖精と融合 
碇アンズ  元飼い猫(猫又) アカリとアリアが融合した者
碇シンジ  初号機パイロット DT因子保有者
碇ゲンドウ ネルフ指令
伊吹マヤ リツコの部下 後輩の人
犬神カリンカ WWR隊員、ソノミの養子、TB4パイロット
犬神クルミ WWR隊員、ソノミの養子、TB2パイロット、 DT因子保有者
犬神サキ WWR隊員、ソノミの養子、TB3パイロット
ヴァイオレット・エヴァーガーデン 代書屋さん
エイトロン セリカが操るアンドロイド。別名セリオ 時間制限約5分
遠藤サヤ 喫茶えんどう 店長
小田マリ 本名マリー 魔女 丹沢湖畔で山菜料理が有名な黒猫亭をやっている 模型飛行機にまたがり空を飛ぶ
尾張ハジメ しかだ駄菓子店店長

怪傑ズバット 人呼んでさすらいのヒーロー
加持リョウジ ネルフ監査部所属
葛城ミサト ネルフの作戦担当  DT因子保有者
木之本サクラ 魔法少女
ギルバート マリーの同僚 現在コック
九段クキコ 学級担当、霊能力者
栗栖川アヤカ WWR隊員、ソノミの養子、TB3、TB5パイロット、元アジアエージェント
栗栖川セリカ WWR隊員、ソノミの養子、TB3,TB5パイロット、元EUエージェント、第三の眼・脳波通信機埋め込み手術被験者、エイトロンマスター DT因子保有者

早苗ヤシマ WWR隊員、警備要員
鹿田ココノツ 漫画家 鹿坦々 ホタルの夫
鹿田ホタル 駄菓子会社fireflyのCEO 残念な美人
式波・アスカ・ラングレー 弐号機パイロット 好物 afri cola DT因子保有者
鈴木イクヨ WWRの技術者、レインの弟子 日本支部の技術関係を担当 第三新東京大学在学
鈴原サクラ トウジの妹、トウジと似ていない
鈴原トウジ 土門の弟子、WWR隊員、TBNコパイロット DT因子保有者
セバスチャン セリカとアヤカの元執事、WWRのEUエージェント、喧嘩殺法の達人
先生 アンズの元飼い主、シンジの育ての親
先生の奥さん アンズの元飼い主、シンジの育ての親

大道寺ソノミ 富豪、WWR隊長 夫と従姉妹のス族をセカンドインパクトで失い組織を作った。アジアで四番目のお金持ち
大道寺ソノミの祖父 政治家、日本の黒幕
大道寺トモヨ WWR隊員、ソノミの実子 DT因子保有者
剣コノエ WWR隊員、警備要員、
トーゴー 代打屋
土門・カッシュ WWRの体術指南 警護班リーダ
土門・レイン WWRの技術責任者、TBメカの設計者 ミスカトニック研究所に一時所属

謎の少女 ネルフ関係者らしい

パーカー 屋敷の執事長
間 世界一の天才外科医
花右京タロウ WWR隊員、ソノミの養子、医師
花右京マリエル WWR隊員、ソノミの養子、TB1パイロット
早川ケン 私立探偵 何でも世界一
日向マコト ミサトの部下 眼鏡の人
冬月 ネルフ副司令
洞木コダマ 短大卒 魚洞の店長、魚屋は一週間に三日なのでそれ以外の日は工場の事務 筋肉質で眼鏡
洞木ノゾミ 中学一年生、姉に似ている
洞木ヒカリ 学級委員長、WWR隊員、TBNパイロット

マックス 四本足の家事用ロボット WWR本部の雑用係
美墨ナギサ WWR隊員、ソノミの養子、TB5パイロット->TBNパイロット 運動神経抜群 簡易装甲服プリキュアの使い手
ミサトの部下その2

雪代ホノカ WWR隊員、ソノミの養子、TB5パイロット->TBNコパイロット 祖母は睡猫降神流という投げ技を主にした武術の達人 成績は学年トップ 簡易装甲服プリキュアの使い手

ルーシー ロスからの交換留学生 お母さんが日系企業の副社長。お父さんは離婚協議中。

先輩と後輩 喫茶えんどうのアルバイト 


その他
テロに巻き込まれた母子
キョウタ テロに巻き込まれた幼稚園児
養殖センターの職員
謎の美少女


カメバツーカ デストロンの改造人間 ズバット・アタック!!
ハサミジャガー デストロンの改造人間 変態秘奥義、スーパーおいなりさんスパーク!!
ハンマークラゲ デストロンの改造人間 プリキュア・マーブル・スクリュー
ヘビンダー デストロンの改造人間 26の必殺技の一つ、変態奥義地獄のデスドロップ
戦闘員 デストロンの低レベル改造人間
銀行強盗の一団   三人組 地獄の……ジェット・トレイン!!
銀行の旧支店長 逆恨みでトモヨ達を金庫室に閉じ込めた
チンピラ五人 しかだ駄菓子店に押し入りヴァイオレットに撃退された
暴力団新星組 土門カッシュ、早川ケン、九段クキコに再起不能にのされた。
威張組組長 変態仮面EVA3に地獄のタイトロープで成敗された。
コウリュウノスケ 威張組の用心棒、日本で二番目の居合抜きの達人。早川ケンに完敗
中西 第三新東京新聞社会部の記者

名前だけ
相田フテオ 俗称フット セカンドインパクト前に、悪化する地球環境に適合するため、人間に機械的改造を行いそれによる進化を主張して学会を追放された、ケンスケの叔父
うらなり君 ミサトとリツコの大学時代のバイト先の食堂の店主

飛鳥ゴロウ 早川ケンの親友 故人
アル アカリの火星での友達
市ヶ谷博士 ネルフ第二開発部所属 EVA技術を応用した人工生命体プロジェクト・テルルの開発担当
ヴァイオレットの上司      行方不明
木之本ナデシコ 故人 ソノミの従姉妹
ジョセフィーヌ アンズの友達猫
鈴原サクラ トウジの妹、入院中
クキコのご先祖様
ダイアナ アンズの友達猫
タマ アンズの友達猫 アビシニアン
ナイト財団
キングスマン
朝倉カオル ホノカの祖母
東山ニシオ  DT理論の提唱者
超人
疫病神
カッシュの師匠
ホタルの兄
ホタルの両親 故人
本屋の親父


メカ
EVA零号機
EVA初号機
EVA弐号機
TB1
TB2
TB3
TB4
TB5
TBN
FAB-1
BIG-RAT

変態EVA仮面&変態仮面EVA3の技
ASF
変態パワーアップ
地獄のジェット・トレイン!!
変態秘奥義、荒縄シ-ルド
変態秘奥義、スパイダーネット・フラッシュ
フライング亀甲縛り
変態秘奥義、スーパーおいなりさんスパーク!!
26の必殺技の一つ、変態奥義地獄のデスドロップ


その他の用語など
大道寺島 今では赤道上になった日本の近くの島 WWRの本拠地
ナデシコ島 今では赤道上になった日本の近くの島 ナデシコ学園の所在地
ナデシコ学園 全寮制の小中高一貫の私学 WWRの隊員やエージェントを育てる訓練所 学園長はソノミ



[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第十話
Name: まっこう◆048ec83a ID:a3fa2292
Date: 2020/11/05 17:09
映画はいいねー。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「何か怪人が出て暴れたようですが、赤い装甲服の男が倒しました」

 ズバットの闘いをモニターしていたTB5のアヤカは戦闘指揮車のマコトにその映像を送った。マコトはMAGIに映像を解析させた。直ぐに結果は戻って来た。

「科学者で登山家の飛鳥ゴロウが開発した宇宙探検用装甲服を私立探偵早川ケンが仕上げて悪者退治に使っている。まるで特撮だな」




EVAザクラ 新劇場版

破 第十話

救出




 黄色いTB4は芦ノ湖を潜っていく。と言っても水深二十メートルほどなので直ぐに湖底に着いた。TB5からのデーターに沿って、沈没地点に向かっていく。カリンカはソナーからのデーターを前面のガラス窓に重ねた。湖底の3Dマップが映し出された。

「視界が悪いけど、ソナーにはバッチリね」

 TB4の高精度ソナーは沈んでいるシェルターとその上に積み上がっている船の残骸をとらえていた。そして水中でも百六十ノット出るTB4は直ぐに現場に到着した。TB4の探照灯の明かりで丸く銀色に輝くシェルターと上に積み上がった船の残骸が見えた。

「どう、出来そう」

 後ろの貨物室兼救助者の治療室で待機しているサキから声がかかった。

「大丈夫そうよサキ姉さん、その前にマイク繋いでみる」

 カリンカが操作するとTB4の先から探査子が発射された。それは電線を引っ張ってシェルターの表面に吸着した。

「もしもし、聞こえますか、こちらWWRの潜水艦、TB4のパイロット、カリンカです。助けに来ました」
「こちら葛城ミサト、少し前に酸素交換機のエネルギーが切れた。そろそろ酸素が尽きる。赤木リツコは仮死剤で昏倒中」
「了解しました。至急救助します。出来るだけ安静にして、酸素消費を抑えてください」
「了解」

 カリンカは早速作業を始めた。残骸をTB4のマジックハンドでどけていく。どけにくい鉄骨などは、レーザーカッターで切断していく。いくつかのがれきをどけるとシェルターは自らの浮力で浮かび上がっていく。いそいで浮上させたいところだが、あまり急激に浮上させると中の二人が危ないので、TB4はシェルターについて浮上した。

「TB4、カリンカです。今シェルターが浮上します。内部は酸欠の模様。とにかくそちらに、運びます」
「了解。シェルターを開ける準備をしておく」
「あれ、そう簡単に開かない」

 マヤが話を聞いてるうち顔色が青くなった。

「何だって?」
「丈夫に作りすぎたから、あんなに薄くってもカッターで相当かかるって」
「何か手段はないか?二人の命がかかっているぞ」

 丁度その時現場にFAB-1が到着した。運転手がパーカーなのはいつもの通りだが、後部座席にはサクラが乗っている。珍しくWWRの制服を着ている。ヘルメットを被れば宇宙服にも潜水服にも成る物だ。

「こちらサクラです。何か手伝うことはありますか」
「こちらカリンカ、今のところ無いわ」
「魔法で水どけましょうか」
「急激な水圧変化は危険よ。浮上してから手伝って欲しい事があったら連絡する」
「了解」

 TB4とFAB-1の通信は戦闘指揮車にもオープンにしている為、マコト達にも聞こえた。

「そう言えば木之本サクラの魔法に何でも切れる魔法があったね」
「以前WWRとの情報交換会で彼女の能力を一部教えて貰ったって先輩が言ってたわ」

 マヤはMAGIからその時のデーターをとりだして、ディスプレイに出す。

「凄いな。ダイヤモンドの焼結体を一刀両断か」
「これなら行けますね」

 マコトとマヤは顔を見合わせ頷いた。

「こちらネルフ作戦部、日向マコト、割り込んですまない。木之本君、今魔法の調子はどうだい」
「え、まあまあです」
「現在の二人の状態は知っているかい」
「来る途中に聞きました」
「シェルターなんだがやたら頑丈なんだ。そのせいで直ぐに開けられない。中が酸欠状態なので直ぐに開けたい。君の魔法で切断してくれないか」
「判りました」
「TB4が岸辺に運んだら開発部伊吹君の指示で頼む」
「了解です」
「シェルター見えました」

 丁度その時、湖面にシェルターが浮かび上がった。シェルターを回転させないように、前面から吸着装置を出しシェルターを固定しTB4が湖畔に運んで来る。岸辺から五メートルほど押してきたところでシェルターを下ろした。上空で待機していたTBNも直ぐ側に着陸した。TB4の後部のハッチからカリンカとサキが酸素マスクを持って出てきた。戦闘指揮車からもマコトとマヤが走ってきた。TB2からクルミもやってくる。FAB-1からサクラも走ってきた。

「ミサトさん、聞こえますか」

 マコトが、大声でシェルターに叫ぶ。

「もう、げんかい、いきが」
「伏せていてください。上部を切断します」
「わか」

 内部で何か音がした。ミサトが倒れた音らしい。

「どいて」

 マヤがマコトを押しのけて何かの装置を球体に取り付けた。

「音響観測終了。二人とも倒れてる。サクラちゃん球体の真ん中を真横に両断して」

 マヤの声はほとんど叫び声になっていた。

「みんな、伏せて、魔力の調整が出来ないから」

 皆、一斉に伏せた。

「全ての物を切り裂けソード」

 魔法の杖は輝く剣となった。それを球体に向かって真一文字に横に振った。あまりに切れ味が良かったせいか、シェルターに一周筋が入ったが、シェルターの上部は乗ったままだった。

「えいです」

 そこで反応したのはクルミだった。素早くシェルターに飛びつくとシェルターの上部を殴り飛ばす。シェルターの上部は凄い勢いで吹っ飛びTB2のコンテナに当たり轟音と共に砕けてしまった。

「サキちゃん、カリンカちゃん、酸素マスクです」
「はい姉さん」
「はい」

 慌てて身を起こしたカリンカとサキの手に酸素マスクがあるのを見ると、クルミはシェルターの下部の縁に手をかけようとした。

「気をつけて、簡単に手が切れるわ。縁に触れないで」
「りょうかいですです」

 クルミは縁に触れないように指で摘まんで押し下げた。大人二人が入っているのに、紙を動かしているようだ。気絶しているミサトとリツコが滑り出てくる。サキとカリンカは二人を地面に下ろし酸素マスクを当てた。

「ヒカリちゃん、TBNでネルフ付属病院に二人を送ってくれないか。空路は確保しておく」
「了解です」

 マコトはそう言うと戦闘指揮車に駆け込んだ。MAGIを通してすべての承認作業を行った。

「自律飛行で送ります、カリンカさん、サキさん、二人を座席に乗せて」
「了解」

 サキが操縦席にリツコを乗せて、自動看護の装置をONにした。カリンカはミサトを後ろの席に乗せやはり自動看護の装置をONにした。ヒカリがTBNの自律飛行の設定をするとTBNはネルフ附属病院に向かって飛んでいった。

「二人のバイタル安定してます」

 ヒカリが腕時計型通信機のホログラフィー表示を見て叫ぶと辺りにほっとした空気が流れた。

「サクラちゃん凄い切れ味ね。たすかったわ」

 マヤが、ため息をつきつつ言う。緊張が途切れたのだろう。

「それにクルミちゃん、凄い怪力ね」
「不思議なんです~。クルミ最近凄い力が出るようになっちゃって。パワーローダーがいらないんです~」
「ともかく、助かったわ。後は回復をまつだけ」

 マヤはそう言うとへたり込んだ。




「おはよう」
「おはよう」

 リツコは三日後目を覚ました。仮死薬剤は急に復活させると脳障害が残る事があるため、それだけ時間がかかった。リツコが目を覚ますと、病院の寝間着姿のミサトと医師と看護師の顔が目にとびこんできた。医師団がチェックを済ましたあと、十分間だけ話が許された。

「私は酸素吸入で目を覚ましたわ。念のため入院してる。バイオモニター身体中に着けられちゃって、胸の下の絆創膏が汗でかぶれて大変だわ」
「流石ネルフの巨乳番長ね」

 どちらともなく二人は笑った。

「でも、ヒヤヒヤしたわ。このまま起きないんじゃないかって」
「私は貴方と違って運任せの勝負はしないわ。勝算あっての事よ」
「悪うございました。運任せで」

 ミサトは怒ったように横を向いたが、笑っている。

「で、あの爆発は何だったの?」
「私達を狙ったテロ。あれでWWRを誘き出してそれも狙おうとしたらしいわ。バックはデストロン。謎の赤い装甲服の人が奇麗にやっつけてくれた」

 ミサトは今の所判っている情報を話した。新星組と上位組織の加羅組は事件の翌日に謎の黒いテンガロンハットの男と黒マントの男に壊滅させられたらしい。その他、サクラの能力やクルミの怪力の話などをした。

「クルミって子、DT因子が覚醒したのね」
「サクラちゃんの前いた世界では人狼だったわね」
「姿形が似れば、中身も似ると言うところかしら」
「私もかも。あの低酸素状態では脳障害が残るはずだって。おかげで医師団が興味持っちゃってやたら検査だらけ」
「貴女の場合、単なる体力バカの様な気がするわ」
「ま、それだけ皮肉が出れば大丈夫ね。そうそう、マヤちゃんが見舞いに来たいって言ってたけど、リツコの代わりをやりなさいって止めといた。あの子リツコの事になると騒がしいから」
「心配してくれるのは有難いわ。私がそのまま話せるのはミサトに加地君、マヤだけだもの」
「うらなり君も加えてあげたら」
「それも良いわね」
「あれ、否定しないんだ」
「流石に死にかけたあとだもの。弱気にもなるわ」
「ま、しっかり休んで復帰して」
「そうするわ」

 ミサトはリツコの乱れた髪を整えた。

「じゃ、またくる」
「またね」




 ミサトは三日後、リツコは一週間後退院した。リツコは肋骨にひびも入っているためコルセットのような物を付け体中にバイオモニターを付けての退院で、ミサトも当分はバイオモニターを体に付けている。リツコはいろいろ忙しいのだが、さすがに仕事を余りさせて貰えない。そんなわけではないのだがその日は業務を早く切り上げレイのマンションに来た。レイに料理の味見をして欲しいと頼まれたからだ。今まではホウメイにしかみてもらっていないため他の人にも味見をして欲しいらしい。

「あら、随分包丁さばき上手いじゃない」

 今日は一人で全てしたいという事でホウメイには帰って貰っている。リツコもただ待っているのも暇なので台所でレイの料理を見ている。

「さっきの手の洗い方も完璧だし、手順もいいし」
「ありがとうございます」

 レイは手を動かしながら答えた。

「それにしてもどうして料理なんて作ろうと思ったの?」
「みんなで食べると美味しいと言うのがわかったから。司令にも美味しいご飯を食べさせてあげたいから」
「そう。頑張ってね」
「はい」

 しばらくするとまずサラダが出てきた。

「綺麗に切れているわね。最初包丁を研いでたけどそれもホウメイさんに習ったの?」
「はい。料理の前後で包丁を研ぐ、何かあったら手を洗うのをやりなさいと教わりました」
「いい先生についたわね。では、頂きます」

 リツコは手を合わせてから箸をとった。

「このドレッシングもレイが作ったの?」
「はい」
「なかなかやるわね。少しすっぱめなのが食欲をそそるわ」

 リツコはサラダをかたづけていく。その間にレイは大きな鍋からシチューを深皿によそった。リツコの前にトレイに乗せて出す。トレイにはスプーンとフォークが乗っている。

「随分大きなお肉が入っているわね。ナイフはないの?」
「まず、スプーンで食べてください」
「そう?ま、そうしてみましょうか」

 リツコはスプーンで肉の塊を切ってみた。肉はホロホロと崩れ食べやすくなる。その一片を口に入れて味わう。

「随分煮込んだわね。とろけるようだわ。合格よ。これなら司令もシンジ君も喜ぶわよ」
「良かった」
「でも、私日本人だわ。シチューにも白米が欲しいわね」
「今日は炊いてませんが、冷凍してある物があります。解凍しましょうか?」
「頼むわ。これは食欲が出るわね。骨折も早く治りそう」
「はい」

 リツコが褒めたせいか、レイも微笑んだ。

「それと、食事には笑顔が重要よ。無理に笑う必要は無いけど、今みたいに笑えるといいわね」
「はい」
「このメニューだと前日から煮込む必要があるわね。シンクロテストの日程は調節してあげるから、頑張りなさい」
「ありがとうございます」
「で、ご飯頼むわ」
「はい」

 レイは冷凍庫から冷凍したご飯を取り出し、電子レンジにセットした。




「あら、貴方たちラブラブになっているって聞いたけど本当なのね」

 その週の金曜日の夕方、喫茶エンドウの打ち合わせにはリツコが来ていた。申し合わせたようにWWRからはレインが来ている。クキコは来たいのだが、学校の定期テストがあり準備で忙しいので来ていない。子供達はシンジとアスカ、トウジとヒカリ、トモヨとケンスケが来ている。
 一通りいつもの報告が終わった後、リツコがちゃちゃを入れた。トウジとヒカリが隣に座っている。キツくないのかと思うぐらいぴったりとくっついている。

「いいじゃないですか」

 ヒカリが口をとがらして言う。

「いいんじゃない。好きな人がいるのはいい事よ」

 リツコは肩をすくめた。

「やーねーリツコ、カップルを見るとからかいたくなるのはおばさんになった証拠よ」
「あら、とりあえず身近にいたのとひっついた人に言われたくないわ」
「やーねー、身近にいないからってすねちゃって」
「いたわよ、今だって行けば結婚してくれる人はいるから」
「無理しない方がいいわよ、その手の嘘はばれると惨めよ」

 どうやら二人とも虫の居所が悪かったようで、子供達を置いて言い争いになってきた。

「「表にでなさいよ」」
「「望む所よ」」

 ほぼ同時に同じ事を言う辺りは実に気が合っている。二人は唖然としている子供達を置いて喫茶エンドウを飛び出していく。

「とめないと」
「とめられる?」

 シンジが言ったが、ヒカリに返されてしまった。確かに自信はない。いつもならアンズがいてくれるが、今日はレイと何かしている為いない。

「ともかく、リツコさんけが人だし」

 皆もとりあえず喫茶エンドウを出た。喫茶エンドウは裏に空き地がある。しかだ駄菓子店で買ったメンコなどを楽しむ為のスペースなのだが、今は二人の決闘の場だ。

「前からその偽金髪みっともないと思ってたのよ」
「あら、プロポーションは私の方がいいわよね。デブ」
「なによ尻デカ」

 二人とも同時に微笑んだ。凄く怖い。

「ほれ」

 その時、しかだ駄菓子店で油を売っていたカッシュがお土産用に売っていた木刀をレインとリツコに投げて渡した。

「そんな、火に油を」
「あの二人時々喧嘩するんだ。ま、危なくなったらとめるから、発散させてやれ」

 二人は投げてよこした木刀をカッシュを見ずに掴んだ。レインは木刀を青眼に構える。リツコは槍を持つように構える。

「あれでもレインは剣術や弓術は免許皆伝の腕前だ。リツコさんは子供の頃拳法と杖術をやっていて、恋人の敵をとったなんて武勇伝もあったらしい」
「リツコさんがですか?」
「ああ、自分の身を守れん奴はネルフに入れないんだろうな。レインはまあ凄いおてんばだった」

 珍しくカッシュが遠い目をした。

「ともかく、血が上った三十路前は発散させないとな」

 好き勝手言っているカッシュだがそれも聞こえないぐらいリツコとレインはにらみ合っていた。
 レインから仕掛けた。一歩踏み込むと木刀をまっすぐ振り下ろす。小細工はないがとても素早い。トウジが避けられるかと自問したぐらいの早さだ。リツコが滑るように横に動いたので、レインの木刀は宙を切った。だが、地面を叩くかと思われたレインの木刀は、ほぼ直角に軌道をかえリツコのヒビが入った肋骨の辺りを襲う。まったくもって容赦が無い。リツコは予想していたらしく、身体を反対側に傾けつつ、木刀を木刀で受けた。その時、木刀を斜めにしていたので、レインの木刀は上に滑り上がり、はじかれた形になる。その為レインの体勢が浮き上がるようになった。そこを逃さす、リツコがレインの胸の辺りに突きを入れる。レインは身体をねじって避けたが豊かな胸の先端が掠ってしまう。二人は後ろに飛び退いた。理系三十路前の一瞬の攻防に子供達は大口を開けて見ているだけだ。
 レインは胸の先端を片手で押さえ、リツコは脇腹を押さえて、荒い息をしている。

「あんたと違って私は美乳なの、跡が残ったらどうすんのよ」
「ふん、デカいだけでしょ。胸のデカい奴は禄なのはいないわ」
「無いよりましよ。尻デカ」
「でぶ」

 また二人は殺気まぎれに構えた。

「おいおい、それぐらいにしておけ」

 カッシュがあきれ顔で声をかけた。

「三十路同士の喧嘩はみっともないぞ」
「「私は二十九よ」」

 実に息ぴったりで、レインとリツコはカッシュに襲いかかった。レインがカッシュの頸動脈に青眼から振り下ろし、リツコは心臓にめがけて突きを入れる。二人とも相当な早さで常人なら確実に二回は死んでいる。ただ、相手はカッシュだ。レインの木刀を左手の親指と人差し指で掴んで止め、リツコの突きを右手ではらって避けた。前につんのめったリツコの首筋に軽く右手を置く。何かしたのかリツコは気を失った。倒れ込みそうになるリツコは、カッシュが動いた時に、正気に戻ったトウジが受け止めた。カッシュの右手は今度はレインの胸の急所に叩き込まれてこちらも気を失った。レインはカッシュが担ぎ上げた。

「駄菓子屋の畳部屋に運ぶぞ」
「はい、師匠」

 しかだ駄菓子店の試食スペースの事だ。二人は気絶した二人を、畳部屋に並んで寝かせた。二人が戻ってきた時も残りの子供達はぼけっと立っていた。

「ま、中に入ろうか」

 カッシュに声をかけられて、やっと一同は夢から覚めたような表情になった。カッシュとトウジに続いて喫茶エンドウに戻った。

「凄かったですね」
「私動体視力は自信有るけど、二人の動き良く判らなかった」

 席に着いた一同で、初めに話したのはシンジとアスカだった。いつもはカウンターでコーヒーを啜っているカッシュだが、皆の席の側に座っている。

「ネルフもWWRも自分の身は自分で守るが基本だからな。あの二人で驚いていたんじゃ、ミサトさんじゃショック死するぞ」
「そんな凄いんですか」
「戦場格闘術の名手だからな、ジャングルや町中で絶対喧嘩したくないな。戦闘状態になると一切のタブーがなくなるタイプだ。素手の相手にレーザー銃を使うのを躊躇しないよ」
「だから、作戦指揮官に選ばれたんだ」
「そんな所だろう」

 カッシュはシンジに言われて肩をすくめた。

「うちのお嬢様も同じタイプだから、喧嘩はよした方がいいぞ」
「はい」

 トモヨがにこにこしながら答えた。もっともそれは皆知っているので驚く者はいない。

「それに、お前達の担任はそんな性格の上に妖術使いだ。俺でも手を焼きそうだ。ま、俺は精神攻撃は結構食らう達でな」
「カッシュさんもですか」

 サクラが不思議そうに聞いた。

「人間得手不得手があるからな。俺としては能力の底が判らないサクラちゃんが一番怖いが、まあ外見が美少女なのでプラスマイナス零だ」
「えへへへ」

 サクラが照れて頭をかく。

「はい、は~い。私は?」

 アスカが手を上げた。

「一般的、総合的な能力ではアスカちゃんが一番かな。頭脳、体力、容姿、戦闘能力、どれをとっても一番か二番だ。相棒にするならアスカちゃんを選ぶね」
「当然ね」

 お転婆娘の扱いは妻で慣れているのだろう。カッシュの言葉にアスカは上機嫌だ。そんな雑談をしていると、ばつが悪そうにレインとリツコが喫茶エンドウに入って来た。

「おはよう、いい夢見たか」

 カッシュは笑った。




 喫茶エンドウで皆がそんな事をしているころ、レイのマンションにはアンズがいた。最後の仕上げと言うことで、アンズに味見をして貰うことになった。レイのシチューはアンズも食べることを予想してタマネギなどのユリ科の物は使っていない。

「レイちゃん、美味しい。おかわり」

 付け合わせのサラダとデカいシチュー皿をすぐに空にしたアンズは、お皿をレイの方にもどした。相当美味しいらしく、尻尾がパタパタ動いている。
「良かった」

 レイはシチュー皿を受け取りながら微笑んだ。

「シンちゃんの煮物といい勝負だにゃ」

 シンジ大好きなアンズにそう言われて、最高の褒め言葉だと知っている為レイの微笑みが濃くなった。

「これならシンちゃんのお父さんも気に入るにちがいないと、アンズは思うよ」
「そうだと、嬉しい」
「シンちゃんは、お父さんの事大好きなんだよ。小さい頃はお父さんお母さんっていつも泣いてたの」
「そうなの?」
「アンズはその頃は普通の猫だったから慰めてあげられなかったけど、今は人間の身体になったから、頭撫でて上げられるのが嬉しいの」
「そうなの」
「でも、これは秘密だからね」
「判った」

 レイとアンズはシンジの秘密の話でずっと盛り上がった。




「皆様ご心配をおかけしました」

 翌日の土曜日、しかだ駄菓子店は活気づいた。ホタルが復帰したからだ。スリムなお腹が少し膨らんで来ている。

「私、鹿田ホタル戻って来てまいりました」

 ゆっくりとではあるがポーズをとった。ホタルには当分メイド隊の調査係の服部がボディーガード兼世話係として付くそうだ。小柄で地味な女性でホタルの後ろにスーツ姿でひかえている。救急法と身の回りの世話は大道寺家の使用人の必須事項だし、腕っぷしも相当なものなためいざという時も問題ない。

「そこで鹿田ホタル復帰記念として駄菓子全品五割引きセールを本日開催いたします!」

 お昼頃にも関わらず店の前は子供でいっぱいだ。歓声が上がった。トウジが店の入り口からどくと小学生がなだれ込んだ。店番はヒカリとココノツがやっている。尾張も復帰してバックヤードで品物を卸している。ホタルは宣言したあと店番をしている夫にキスをしてから店の奥の部屋に服部と共に引っ込んだ。服部はホタルを椅子に座らすと店に戻っていく。

「今日は売り上げが凄いことになると思いますので、帳簿と在庫管理よろしくお願いします」

 ホタルがサムスアップした相手はヴァイオレットだ。

「はい。承りました」

 ヴァイオレットもちゃぶ台の前でサムスアップを返した。意外とこの二人仲が良い。一部では変人で美人同士気が合うと悪口を言う者もいる。

「どっこらしょ」

 畳の部屋に持ち込んだ椅子は大道寺家具の妊婦用の椅子だ。お腹がきつくなってくるだろうとソノミがプレゼントした。親代わりを自負してるソノミにとっては初孫が生まれるみたいな気分だそうだ。

「ところで、ヴァイオレットさん、今度はどうなの?」
「祖国の療養所は盲点でした。顔面大火傷で人相が判らず母国の言葉を話していたので収容されたとの情報です。祖国の言葉でヴァイオレットと良く呟くそうです。身体は元気らしいのですが身元不明だそうです」
「随分確度は高そうね」
「ですが私とあの方は祖国ではお尋ね者です。逢いに行けません。行って身分がバレればあの方も私も死刑です」
「大丈夫。そんな時の為の金持ちの政治力よ。ソノミさんなら大国の政府相手だって取り戻してくれるわ」
「はい」
「いざとなったら、トーゴーさんや早川さん土門さんに頼めば、国連安保理事国の刑務所からだって連れ出してくれるわ」
「はい」
「心配だろうけど、今はソノミさんに任せて、仕事仕事。気が紛れるわ。大丈夫、お姫様と王子様は艱難辛苦を乗り越えていつまでも仲良く暮らしました、と言うのがこの世の理よ」

 椅子に座ったまま変なポーズを取るホタルにヴァイオレットは静かに微笑んだ。




 デートをするとテロに遭うというEVAザクラの法則は、今のところ発動していないが、やはりそうなるのだろうか?となると誰が一番目なのだろうか?

次回「EVAザクラ新劇場版 破 第十一話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく



[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第十一話
Name: まっこう◆048ec83a ID:a3fa2292
Date: 2020/11/26 17:26
変態仮面の映画の第三弾は無いのかな?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 土曜日、トモヨは屋敷でお客様を待っていた。先日パーカーとケンスケをお供に、第三新東京市の郊外にあるジョスター不動産の日本支社を訪れていた。アメリカで飛ぶ鳥を落とす勢いのジョスター不動産のアジア進出第一番目の支社だ。大道寺家の海外の不動産の管理を任せたいという話をしたところ、支社長が飛びついてきた。条件として、契約は社長と直接交わしたいと言ったところ、直ぐに社長自ら自家用ジェットで日本に来ることになった。

「お嬢様、お客様がおいでです」
「今行きます」

 自室で待っていたトモヨの所にコノエが呼びに来た。コノエは珍しく背広姿で、最近は使っていなかった杖をついている。いつもの仕込み杖だ。二人で第一応接室に向かう。第一応接室に着くと大男が待っていた。

「初めまして、大道寺トモヨです」

 トモヨは優雅に一礼した。

「はじめまして」

 大男は綺麗な日本語で受け答えをした。

「ジョセフ・ジョスターです」

 ジョセフも優雅に一礼をした。




EVAザクラ 新劇場版

破 第十一話

修業PART2




 ジョセフは身長が百九十センチメートルはある精悍な大男だ。不動産会社の社長と言うより格闘家などに見える。年齢は四十代ぐらいだ。

「お座りください」

 トモヨが言うと一礼してジョセフはそはソファーに腰をかけた。トモヨも向かいのソファーに腰をかけた。コノエはトモヨの横に座った。

「まず、大道寺家の不動産管理については母に全権委任されてます。あとコノエさんは私が赤ちゃんの頃から世話をしていただいている、一心同体のような方ですのでお気になさらず」
「わかりました。では警戒なさらずにお願いします。女性に殺気を向けられるのは、浮気した時ぐらいにしたいですね」
「失礼しました」

 警戒して視線がキツくなっていたのだろう。コノエは頭を下げ、筋肉を緩めた。

「で、当社に大道寺家の海外不動産資産の管理を任せていただけると」
「はい。大道寺家の不動産の全てです。それで実績が問題なければ、大道寺コーポレーションの不動産もです」

 トモヨはにっこりと微笑んだ。

「当社としてもアジアでの初めてのビックビジネスに成ります。ウインウインの関係を築きたいですね」
「はい。契約にあたって、実はお願いがあります」
「できる限りの事をさせて頂きます」
「ジョスターさんは波紋の一族と伺いましたが、あってますか?」

 次の瞬間コノエが思わずトモヨの前に立ち塞がり、腰を落とした。いつでも仕込み杖を抜ける体勢でジョスターを睨んだ。ジョスターの雰囲気がビジネスマンから変わったせいだ。ただトモヨが後ろからつついたのでコノエは横にどいた。

「いえ、別に私はそれをどうだと言う気はありませんわ。実は私に波紋法を伝授して頂きたいのです」
「ほう」
「話が長くなりますが説明させてください。この話は他言は無用で」

 トモヨはにっこりと微笑むと話し始めた。サクラがいたもう一つの世界で自分も波紋使いだったこと。容姿やその他が近いのなら自分も波紋の素質があるのではないかということ。もし有るのなら波紋法を取得したい等など。

「なるほど。そのもう一つの世界でも俺の弟子だったと」
「はい。向こうの世界では随分お年をめしていたようですけど」
「そうか。まあいいだろう」

 ジョセフが立ち上がった。

「一応確認をさせてくれ。波紋法は素質が無いと無理だ。その確認だ」
「どうすればよろしいですか?」
「ちょっと、俺の前に立ってくれ」
「はい」

 心配そうなコノエを手で遮り、トモヨはジョセフの前に立った。

「げふ」

 いきなりジョセフの拳がトモヨの胸に叩き込まれた。トモヨは胸を押さえて、口から舌を出し、変な声を出した。次の瞬間コノエの仕込み杖が鞘走った。ジョセフの頸動脈に向かって刃が飛んでいく。

「え?」

 鋼鉄でも切り落とす仕込み杖も、何故かジョセフの首で弾かれ、次の瞬間コノエの全身が感電したように痺れ座り込んでしまった。動けない。

「大丈夫だ。お嬢さんの横隔膜を刺激して波紋の呼吸に向いているか調べただけだ。ほう」

 次の瞬間トモヨの黒髪が反発したようにとがって広がった。トモヨは初め目を白黒させていたが、直ぐに荒い息だが自分で呼吸を再開した。

「どうやら、お嬢さんは見込みがありそうだ。日本にいる間マンツーマンで指導、残りは通信教育でどうだい?」
「それでお願いします」
「その前に。刀は納めてくれよな」

 ジョセフはコノエの肩に手を触れた。痺れていたコノエの身体も直ぐに元に戻る。コノエは仕込み杖を納め、立ち上がり、一礼してトモヨの後ろに下がった。

「では、ジョスター不動産をこれからもよろしく」

 ジョセフはビジネスマンの顔に戻っていた。




「トウジ。少し休もう」
「はい。師匠」

 その日一通りの修業が終わったところでトウジはカッシュに屋敷の裏庭に連れていかれた。そこは山に面していて薄暗い。そこで組手と成った。組手とは言ってもカッシュとトウジでは力量に差がありすぎる。カッシュはトウジの拳を軽く躱しつつ、軽い突きを入れてはトウジを吹き飛ばしている。トウジも慣れたもので直ぐに立ち上がっては再度カッシュに挑んでいる。組手を三十分ほど続けたところで、休憩になった。二人並んでベンチに座る。

「今度俺は少し出かける」
「どこへですか?」
「ヴァイオレットさんの話、今度は相当確からしい」
「よかった」
「ただ取引の場所が彼女たちの祖国になりそうだ。皆の護衛に俺が行く。その際護衛のメカはTBNだけの予定だ」
「わいとイインチョ、それともナギサ姉さんとホノカ姉さんのどっちですか」
「俺はお前と洞木を連れて行く予定だ。そこでだ、一つその前に奥義を伝授する」
「奥義ですか?」
「ああ」

 カッシュは立ち上がった。トウジも立ち上がる。

「お前も何度も見た石破天驚拳だ」
「えっ」

 トウジが絶句したところで、カッシュは山の方を向いた。

「奥義は長いこと修業したから出来る物ではない。その者のセンスによって習得できるか出来ないかはほぼ決まる。努力だけで出来る物は奥義とはいえんからな」
「そやかて、わいはまだ一年も修業してないで」
「センスのある者の一週間はない者の何十年にもあたるさ。今からあの山の岩に向かって石破天驚拳を放つ。よく見ておけ。これからの一週間お前はそれを再現することだけを目指せ」
「はい」
「ではいくぞ」

 カッシュは山に向かって構えをとった。

「流派東方不敗は最終奥義」

 カッシュは全身に気を貯めていく。

「石破天驚拳!」

 カッシュの突き出された拳は膨大な気を纏い、大きな気の拳となって裏山に向かって突き進んだ。裏山の縦横高さ二十メートルほどの岩に当たって岩は粉みじんに砕けた。

「あとはお前次第だ」

 カッシュはそう言うと屋敷に向かって歩いて行った。トウジはその背中を見送った。見送った後、山に向かうと構えた。カッシュの構えを出来るだけ真似をする。

「石破天驚拳」

 不発だった。




「で、アスカちゃんのお願いは何かにゃ」

 その日の朝、朝食後アンズはアスカに二人だけの秘密のお願いをされた。お姉ちゃんにしか頼めないと言われては、アンズが断る訳無い。直ぐに二人でマンションの屋上に行った。

「実は狩りの秘訣を教えて欲しいのよ」
「それなら、アンズにお任せだにゃ」
「ただの狩りじゃないのよ」

 アスカは辺りを見回す。当然誰もいない。それでもアンズの耳の近くで声をひそめた。

「EVAには普通の戦闘法、普通の狩りの仕方以外に裏モードがあるのよ」
「裏モード?」
「詳しい説明は省くけど、普通EVAは人間の格好で戦うのだけど、その方法だと獣に成って戦うの。ようは猫のように四つん這いで戦う訳」
「それで?」
「戦闘力が凄く上がるのだけど、今までそのモードに上手く入れたことがないのよ」
「えっと、それで」

 そう言われてもアンズは良く判らない。ただアスカが困っているのは判るので真剣に聞く。

「なんで、アンズに猫の狩りの仕方を習えば、そのモードに成れるんじゃないかって。だから人間の姿のまま猫のようにどう戦ったらいいか教えて欲しいの」
「じゃ、この格好のままで狩りの仕方を教えればいいんだにゃ」
「その通り。これは秘密特訓だから、シンジやレイには秘密よ」
「わかったにゃ。アンズお姉ちゃんにお任せだな」

 アンズは胸を叩いてそっくり返った。




「じゃ今日は最終チェックよ」
「はい、よろしくお願いします」

 レイが頭を下げたのはホウメイだ。いつもは昼過ぎに来るのだが、食事会に出す料理の仕上げと言うことで、早く来て貰い全てをチェックして貰うことに成った。

「じゃ、料理の三つの基本は?」
「何かあったら手を洗う。調理器具の手入れはいつも欠かさずにする。いつも笑顔を絶やさない」
「そうよ。頑張ってね。では開始」

 レイは早速手を綺麗に洗い始めた。




「一休みしましょう」
「はい。師匠」

 ケンスケはコノエの部屋にいた。大道寺家の資産や帳簿などのレクチャーを受けていた。コノエは自分の知識の全てをケンスケに叩き込んでいる。トモヨの盾になる者は数が多ければ多いほどいい。とりあえずケンスケは友人としてトモヨに気に入られている為、好都合だ。

「ところで、変態仮面EVA3の件だけど、私のパンティーを被った瞬間に私の技が使える様に成ったのよね」
「はい」
「となると、さらなる能力の拡張には他の能力者のパンティーがいるわね」
「それは有りますが、僕が修業すればいいいのでは?」
「修業が目的ではないわ。トモヨちゃんの為に能力を得るのに回り道をする必要はないわ」
「そうですが、何枚もパンティーを被るのは単なる変態です」

 普段のケンスケは変態的思考は収まっている為、この話題は恥ずかしい。特にコノエのような美人に言われればなおさらだ。

「いまさら何を言っているのよ。ケンスケ君の変態性をアップする為なら、私の処女だってあげる覚悟があるの。わかる?」
「はあ」
「ともかくトモヨちゃんの為よ」




 今日は朝からいい天気だ。そんな訳でシンジは洗濯をしていた。アスカは自分の分は洗うのでいいのだが、ミサトとアンズはシンジ任せだ。アンズ自体は洗濯を手伝う気はあるのだが、折りたたんだりするのが不器用なので結局シンジが全部している。マンションのベランダに三人分の洗濯物を干す。アスカの真っ赤な下着や服はすでに干してある。

「それにしてもミサトさん下着が派手だよな」

 紫色のほとんど紐の様な下着を摘まんでシンジはため息をつく。

「多感な中学生男子に下着を洗わすって凄い人だよな」

 シンジはため息をつきながら干していく。

「これ加地さんに会う時着けるのかな」

 先日、加地と農作業をした時のことを思い出した。加地に少し付き合わないかとジオフロント内のスイカ畑に連れてこられた。加地が借りている農地で日本に戻った時は自分で手入れをしているそうだ。そこで葛城を頼むと言われた。ああ見えても繊細な奴だからとの事だ。

「繊細かなぁ。でも頼られるのは悪くないな」

 ぶつくさ言いながら全て干し終えた。

「とりあえずお茶にしてっと。そうしたら昼寝しようっと」




「次は短距離ダッシュ十本」
「はい、先生」

 サクラはタバコ代わりにシガーチョコなどをくえたクキコと体育館にいた。体育館といっても大道寺家の屋敷にあるみんなの施設だ。体育館の半分ではメイドや執事達が体力作りの為の運動をしている。サクラとクキコは反対の半分を使っている。

「木之本お~、魔法も煎じ詰めれば精神力、体力だぞ~。お前は持久走的なスタミナはあるが、短距離走的な体力が無い。だから無理をすると心臓が追いつかない、ともかく短距離ダッシュを倒れるまでやれえ~」
「はい」

 サクラは体育館を横切るように何回もダッシュを繰り返している。指示を出しているクキコは気楽な物だ。海水浴に使うような椅子に座ってお付きのメイドに飲み物を頼んで気楽に指導している。

「終わったらこちらに来て休憩」
「はい先生」




「何をされているのですか」

 あまり驚かない質のヴァイオレットではあるが、目の前の光景には少し驚いてしまった。今日の午前中の帳簿をつけて、裏の倉庫の在庫を確かめた後、しかだ駄菓子店の奥の部屋に戻ると、ホタルが椅子に座って自分の胸を揉んでいた。

「おっぱいトレーニングよ。初産の時は乳腺が詰まっておっぱいが出にくいって聞くから。揉んでおくといいらしいわ」
「それは妊娠後期にするといいと聞きます」
「そうなの?」
「妊娠後期に乳房が増大してきてからで良いのではないでしょうか」

 ホタルは揉むのをやめた。

「確かに今からすると柔らかく成りすぎる気がするわ」
「そうですね」
「話はまったく変わるけど、ヴァイオレットさんの大事な方の名前はなんていうの」
「ギルベルト・ブーゲンビリアです」
「その方も花の名前なんだ」
「ええ」
「私の名前は少佐がつけてくださいました」
「少佐?」
「当時少佐でしたのでそう呼んでいました」
「そうなんだ。今度会えて二人で日本に来たら結婚するの?」
「少佐の愛しているが、私の物と同じならば。それに記憶障害もあるようですし、こちらに来たとしても、どうなるかは判りません」
「大丈夫よ」

 ホタルは立ち上がった。右拳を握り締め、言った。

「愛は全てを救うわ。ヴァイオレットさんと少佐さんが幸せに成れることにぶためん一万個かけるわ」
「はい。そうですね」

 ホタルの訳のわからない励ましにヴァイオレットは微笑んだ。

「ところで、ヴァイオレットさんは少佐さんに対して性的な愛情はあるのかしら」
「あると思います。私は処女ですので具体的な性的欲求については、あくまで想像ですが、あると思います」
「そう、それならば問題は無いわね。妊娠は体力があるうちにするのがいいと聞くわ。ヴァイオレットさんは私と同じ歳だし、丁度いい年齢だわ」
「まだ、少佐と決まった訳ではないので」
「そうだったわね、でも」

 ホタルはまたポーズをつけた。

「私はあえて宣言させて頂くわ。大丈夫。私の勘が囁くの。fireflyを立ち上げた時のような上手く行く勘よ」
「なら、大丈夫ですね。ホタルさん、励ましてくれて有り難う」
「なんのこれしき」




「じゃクルミちゃん。今度はジャンプ力の計測ね」
「はいです」

 大道寺島のTB2が発進する為の滑走路にクルミはいた。滑走路と言っても偽装の為普段は椰子の木が左右に生えていて、セスナぐらいしか降りるスペースはない。クルミの他にはレインと助手のイクヨがいる。

「これ持って思い切りジャンプして」
「はいです」

 イクヨから渡された文庫本ぐらいの測定器を持つと、クルミは思い切りジャンプした。椰子の木のてっぺんを遙かに超えて飛び上がり、しばらくして降りてきた。

「垂直跳び、二十一メートルと」

 レインは手元の端末で確認した。

「次は短距離走ね。イクヨちゃん用意して」
「はい」

 イクヨはスタート位置に横線を引いた。その横線の端に機械を置く。そこに測定器を向けつつ滑走路を歩いて行く。百メートルの位置で測定器が合図したのでそこにまた線を引き、その端に機械を置いた。

「準備出来ました」
「じゃクルミちゃん、その測定器を持ってこの線からあの線まで私がハイって言ったら走って」
「ハイです」

 クルミが返事をしたのでレインは微笑んだ。端末を操作し始める。

「はい」

 いきなりレインが合図したが、クルミは聞き逃さず素早くスタートした。あっという間に百メートルを走りきった。

「百メートル、4.1秒っと。仮面ライダー並ね」
「クルミ凄いです」
「次は力の測定よ」




 その週の金曜日の放課後、喫茶エンドウでの打ち合わせは随分人が多かった。ネルフからはシンジにアスカ、レイもいたし、WWRからはトモヨにサクラにケンスケ、トウジにヒカリがいる。ミサトとパーカーはカウンターで話し込んでいるし、クキコはすでにカクテルを啜りつつ、子供達の側にいた。アンズは風邪気味なので来ていない。

「なんかお前達疲れてるな」

 クキコがほろ酔い気分で辺りを見回す。確かに子供達は疲れた感じだ。トモヨとアスカはほっぺたに絆創膏を貼っているし、サクラは眠そうだ。トウジやケンスケも何か悩んでいる感じだ。

「ま、何でも特訓はいいが、休養も重要だぞ」
「ホントみんな疲れてるよね」

 特に特訓をしている訳ではないシンジだけ健康状態がいい。

「シンジは脳天気よね。ま、そこがシンジのいいとこかもね」
「酷いなアスカ」
「事実でしょ。ともかくそれは置いておいて、ヒカリ達はヴァイオレットさんの祖国にいくんでしょ。トモヨも行くんだって」
「はい。私とお母様とヴァイオレットさん、ケンスケさん、土門さんはナイト財団から借りましたパーソナルジェット機スカイナイト号で向かいます。護衛はTBNでヒカリさんと鈴原さんですわ」
「大丈夫?危険は無いの?」
「スカイナイト号は新素材をふんだんに使ったジェット機で核兵器の直撃でも食らわない限り安全だそうです。それにギミックてんこ盛りだそうです。AIも優秀だとか。それに土門さんが一緒ですから、使徒でも出ない限り問題ありませんわ」
「ふーん。ヒカリは大丈夫?なんか暗いわよ」
「私は大丈夫だけど」

 ヒカリは横で目を瞑って座っているトウジを見た。よく見ると本当に寝ている。疲れた顔をしている。

「ともかく、何とかなるわ」




 翌日の早朝、スカイナイト号とTBNが出発した。両機ともVTOLで大道寺家の庭から離陸した。途中の空路はすでに申請済みでそのまま直進してヴァイオレットの生まれ故郷に向かう。ほぼ地球の裏側だがスカイナイト号もマッハ3が出るので、五時間ほどで着いてしまう。TBNはマッハ6まで出るので余裕だ。元々長時間の作戦行動にも耐えられるような設計に成っている為、両機とも無給油で往復できる。
 スカイナイト号の操縦はパーカーがする。実はAIが全部操縦は出来るが、人間がいる時は人間の意思を尊重する基本設計に成っているそうだ。副操縦士は大道寺家でFAB-1以外の乗り物を運転する車両部の隊員、見延が担当となった。見延に操縦を任せると、パーカーは客室に向かった。土門は仮眠を取っていたがそれ以外は皆起きている。

「パーカーお茶をお願い」
「はい、奥様」

 トモヨ達はともかくヴァイオレットは目が赤い。昨夜眠れなかったのだろう。スカイナイト号は超音速機の為極小さな窓だが、そこから外の流れる雲を見ている。

「ヴァイオレット、貴方も仮眠した方がいいわ。現場で何があるか判らないし」
「はい」
「向こうで何かあっても自分のこととブーゲンビリアさんのことだけ考えて行動するのよ。私たちはカッシュがいるし、トモヨにはケンスケ君がついてるし、TBNもついてきている。何かあっても自分達で何とかするから。わかった?」
「はい。そうします」

 ヴァイオレットは静かに微笑んだ。

「じゃ、後ろの寝室で仮眠しなさい」
「はい。そうさせて頂きます」

 ヴァイオレットは立ち上がると一礼し寝室に向かった。ヴァイオレットが寝室に向かったので、パーカーは四人分のお茶を用意した。

「トモヨ、そう言えば修行の効果はどうなの」

 ソノミがお茶を啜りながら言う。ソノミは緑茶、トモヨとケンスケは紅茶、カッシュはコーヒーだ。カッシュも起きてきた。

「ええと、才能があるらしく、それなりに使える様に成りましたわ」
「面白いな、ケンスケちょっと組手をやってやれ」
「ここでですか」
「そうだ。お前は普通に打ってさばいてやればいい。波紋法抜きでもお嬢さんは護身法はそれなりの腕だしな」
「じゃトモヨちゃん、いいかい?」
「いいですわ」

 広い客室の真ん中辺りでトモヨとケンスケは相対した。

「じゃ初め」

 カッシュの合図で、いきなりトモヨが正拳突きを放った。とは言ってもそれほど早い拳では無くケンスケなら簡単に避けられるし受けられる。ケンスケはわざと前進して、突きの威力が出る前に手で受けた。

「うぎゃ」

 ケンスケの口から変な声がした。思わず膝をつく。感電したように身体が震えて上手く動かない。波紋を流され、体機能が軽く麻痺した

「大丈夫ですか」

 トモヨが慌ててケンスケの手を掴んだ。

「あまり大丈夫じゃない」

 ケンスケはやっとの事で立ち上がると側の椅子に座った。

「これ使えますね。普通の暴漢なら一撃で昏倒しそう」
「ほう、波紋とは面白い物だな。これでますます無敵のお嬢様だな」
「それほどでも」




「鈴原、調子はどう?」
「まあまあやな」

 TBNはスカイナイト号より少し先行して飛んでいる。今のところ自動操縦で飛んでいる為パイロットのヒカリもやることは無い。スカイナイト号と違いコックピットは狭いが、長時間の作戦行動にも耐えられるようにシートはよく出来ている。長距離を飛ぶ時の為のマッサージ機能もある。

「まあまあじゃないでしょ。鈴原の言い方悩んでいる時のだもん」
「そやな」
「ねえ、言ってみて」
「師匠に奥義を伝授されたが、上手くできんのや」
「石破天驚拳?」
「そや。何かが足りんのや」
「そうなの。なんなんだろう」
「さあな」

 トウジはまた黙った。

「ねえ鈴原、私の身体興味ある?」
「な、何をいいだすんや」
「前格闘漫画で見たの。若い格闘家がセックスしたらいきなり強くなったって。私かまわないわ」
「今、できんやろ」
「そうだけど」
「えーと、お二人さん」

 いきなりスピーカーからアヤカの声が聞こえて、二人は顔が真っ赤になった。

「TB5のモニター回線はオフにして、そういうことは話そうね」

 アヤカの声が何かにやついている。

「イオスです。私が世界中のデーターベースにあたりましたが性交渉の後強くなった格闘家の情報はありませんでした。性交渉については公にされないデータも多いですが、確率的に低いと思われます。あくまで漫画の中の話と考えられます」
「わ~お願い、忘れて」

 ヒカリはマイクのスイッチをオフにした。

「お姉様からの忠告。初めてはきちんとした宿泊施設や家でノーマルの方法でした方が後々の為よ。私結構特殊なシュチュエーションで初めてしちゃったから、後々大変だったのよ」
「いじわる」

 ヒカリとトウジは真っ赤になったままだった。

「なあイインチョ。セックス怖いだろ。言ってくれてわいは嬉しかったけどな」
「うん。興味はあるけど怖い」
「わしらは絶対生き残る。もう少し大人になってからにしよ」
「うん」




 サクラはその日はゆっくり起きた。遅めの朝食を食堂で取っている。食べ終わった頃にコノエが食堂にやってきた。一仕事終えてコーヒーを飲みに来た。

「ご一緒してよろしいですか?」
「もちろん」

 朝食を食堂のメイドがかたづけたので、ついでにコーヒーを貰った。サクラはその体格からすると異常に食べる。一日二万カロリーと一流のスポーツ選手と同じぐらいのカロリーを摂取する。どうやら魔法を使う際に極端にカロリーを使うらしい。特に最近魔法の特訓や体力をつける為の特訓をするため、より一層食べる。今日も自分の頭ぐらいあるホットケーキに山ほどジャムをかけた物をオレンジジュース二リットルと共に平らげた。大道寺家にお世話になっていなければ食費で破産しそうだ。

「コノエさん今日は一緒に行かなかったんですね」
「ええ。お嬢様がこちらの守りを固めてくださいと」
「守り?」
「最近波紋法のせいで少し自信がついたようです。確かに土門師匠が一緒ですし、ケンスケ君もいますし、TBNも一緒ですから心配は少ないのですが」
「土門さんがいれば安全ですよね」
「ええ、ただ土門師匠も万能ではないですから」

 コノエは物憂げにコーヒーを啜った。トモヨが心配なんだろう。

「ところでサクラ様、実は折り入ってお願いがあるのですが」
「なんですか?サクラが出来ることなら何でも言ってください」
「変態仮面EVA3の事ですが」
「えっと、はい」
「どうやら、パンティーを被るとその人の能力が身につくらしいんです」
「そなんだ」
「凄く頼みづらい事ですが、サクラ様の使用済みパンティーをいただけないでしょうか」
「ほ、ほえ~~」

 サクラは絶句しその後叫んでしまった。少し後ろにのけぞる。コノエの口調や表情がどう見ても真剣な物だったからだ。

「いま変態仮面EVA3はトモヨ様のパンティーによるパワー、私のパンティーによる拳法を身につけています。これにサクラ様の魔力が加わればほぼ無敵。トモヨ様の護衛として完璧です」

 コノエは右手を握り締め変な方向を向いている。とにかくコノエはトモヨが可愛い。トモヨの為なら何でもやる。時々暴走する。

「えっとえっと、それならサクラのパンティーより九段先生のパンティーの方がいいです。先生の方が百戦錬磨だし」
「確かに、九段様の霊能力も使えますね。ですが能力者のパンティーは多ければ多いほどいいです。サクラ様ぜひパンティーを」
「ほえ~~」




 変態仮面の映画の第三弾はやはり無いのだろうか?変態仮面とメインヒロインは結ばれないのは映画も同じなのだろうか?




次回「EVAザクラ新劇場版 破 第十二話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく



[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第十二話
Name: まっこう◆564dcdfc ID:3c258e74
Date: 2020/12/26 18:14
年末最後の更新です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ヴァイオレットの祖国は山の中の小国だ。隣の国と百数十年もの間戦いを続けていた。それを終わらせたのは、厄災が世界を覆ったからだ。両国共に被害が大きく戦争を続けられなくなり休戦に至った。その休戦の直前に亡命しようとしたギルベルトとヴァイオレットは祖国に戻れば即刻銃殺だ。ヴァイオレットはソノミの庇護の下で生き延びて来た。祖国の方でもソノミの元にヴァイオレットがいることは判っていて日本に何人も諜報員を送ったが一人も帰って来なかった。お陰でヴァイオレットは益々祖国の軍部には恨まれている。
 そんなさいにソノミがその国の大統領と直接交渉を持った。大道寺コーポレーションの負担でおもちゃ工場を建て、工場の労働者を現地で採用する。元々それほど産業が無い国で失業者の問題に苦しんでいた為、大統領はその話に直ぐに飛びついた。工場だけで数千人の雇用が確保できれば、大統領の実績になる。その為には死刑囚の一人や二人問題にならない。大統領のお墨付きで、ヴァイオレットと少佐は、死刑は免除、日本への亡命を認められることになった。とは言っても恨みはなかなか消えないものだ。




EVAザクラ 新劇場版

破 第十二話

帰国




「今頃ヴァイオレットさんは少佐さんに会えたのかな」
「大丈夫じゃない。ソノミさんの交渉力とカッシュの腕っ節があれば」

 しかだ駄菓子店のアルバイトは普段ヒカリとトウジがしている。今日は二人が不在な為、アスカとサクラという珍しい組み合わせが見られた。アスカは金に困っていないがネルフ以外からの収入はそれなりに嬉しい。サクラも似たようなものでソノミの小遣い以外の収入が欲しい。そんな訳でこの二人で店番をしている。店長のハジメは今日は仕入れの為いない。奥の部屋にはホタルと服部がいる。サクラは名前通りの桜色のオーバーオールを着ている。偶然だがアスカも赤いオーバーオールで、上に薄手のジャケットを着ている。客もいないので畳部屋の端に並んで座ってる。

「そうだけど」
「そお言えばサクラの特訓はどうなったの」
「体力がついた気がする。ただやたら走らされたせいで、足に筋肉がついちゃって太くなっちゃった」
「ふ~ん」
「アスカも特訓してたんでしょ」
「内容は秘密。でもちょっとね」
「何があったの」
「本来の目的は今一歩なんだけど、何か変なのよ」
「どんな?」
「見せてあげる。私の右手見ていて」
「うん」

 アスカは胸に手を当てた。

「胸が大きくなったの?」
「違うわよ」

 アスカは苦笑いをした。次の瞬間アスカの右手がかすみ、手の中に小型拳銃が現れた。

「へ?」

 サクラの動体視力は相当良い方だが、急に拳銃が現れたように見えた。

「えっと、物体引き寄せ?」
「単なる早撃ち、撃ってないけど」

 次の瞬間、アスカの手がかすみ拳銃が消えた。

「私拳銃の早撃ちなんて出来なかったし、特訓でもやってない。なのに急に出来るようになった」

 アスカが鋭い視線をサクラに向けた。

「サクラが元いた世界の私は早撃ちの名手だったわよね、あんた私に何かした?」

 アスカの視線がよりキツい物になった。

「サクラ何もしてないよ。ほらトモヨちゃんも波紋法が出来たし、素質は似てるんだよ、きっと」
「そう、ま、早撃ちが出来て悪いことはないからいいけど」
「うん、うん」

 アスカは視線を緩めた。軽くため息をつく。

「サクラは、意識的じゃなくてもこの世界に影響を与えてるんじゃない?」 
「かもしれない」
「私は他人の影響で変わるのは嫌よ。自分の力は自分で手に入れたい」
「そだね」

 丁度店に客が来たため、話は終わった。駄菓子をいくつか選んだ大学生ぐらいの女性はカウンターにお菓子を持ってきた。

「あの~紅場アカネのモデルの方って」
「あ、今奥の部屋にいま」

 サクラが説明しようとした瞬間、後ろの戸が開いた。お腹が大きくなったホタルが、無理のない、だけど変なポーズをして出てきた。

「お呼びかしら?」

 そしてアニメのOPのポーズをしてみせる。

「駄菓子と夫をこよなく愛する鹿田ホタル、またの名を紅場アカネ」
「わあ~アニメそっくり」




「何かこの頃発明癖着いちゃって」

 ミサトが徹夜明けで、ネルフ本部の食堂でコーヒーを啜っていると、こちらも眠そうなリツコがやってきた。

「リツコが発明するのはいつもの事じゃないの」
「それはそうなんだけど」

 リツコもコーヒーを注文しミサトのいるテーブルについた。

「発明の質が何か変なのよ」

 リツコは白衣のポケットから何か出した。テーブルに置く。

「眼帯と何かのグリップ?何それ」
「ミサト向けの身体強化用の眼帯とフィルムサーベル」
「変なもん作ったわね」
「これミサト用。眼帯をつけてそのグリップを握れば形状記憶合金の極薄い刃が展開されるわ。極薄いと言ってもいたって丈夫。眼帯は貴方の身体機能を極限まで上げてくれる。ま、その分体力使うけど。ともかくその眼帯をしたら、柳生十兵衛並の剣豪になるわ。弾丸も切れるんじゃないかしら」
「ふ~ん、これがね」

 ミサトは眼帯を手に取った。眼帯と言っても円形ではなくハート型に近い形をしている。結構重い。

「あとで、使い方のレクチャーをするわ」
「判った、それにしてもリツコはサクラちゃんの元いた世界のリツコに似てきたわね。私が剣豪になるのもそうだし」
「そうなのよ。影響受けてるわよね」

 リツコは頭を抱えた。

「やはり木之本サクラは排除するべきなのかしら」
「さあ。その時は私がやるわ。リツコが悩む事じゃない」
「そ」

 この話はあまりしたくないのかリツコは話を変えた。

「そお言えば、WWRというか大道寺家の使用人の代筆屋さん、レイが懐いているのよ。今日愛人を取り戻しに行ってるんだって。なんか情報ある?」
「一応諜報部にマークさせてるわ。情報は逐次送ってる。情報があればあの連中なら何とかするでしょ」
「それもそうね」




「あと十分で到着よ」
「はい」

 TBNとスカイナイト号は亜音速まで速度を下げていた。仮眠をしていたヴァイオレットも起きている。今スカイナイト号はパーカーが操縦している。副操縦士席には見延が座っている。通信士兼搭載コンピューターの操作係はケンスケだ。ケンスケはBIG-RATで操作を覚えさせられた。トモヨは着替えていてここにはいない。カッシュはソファーで横になって目を瞑っている。

「ネルフからの情報だとギルベルトさんで間違いないらしいわ。流石ネルフね。あんな小国にも諜報員がいるなんてね」

 ソノミは先程パーカーが入れたお茶を啜っている。ソファーの横に座っているヴァイオレットはテーブルのお茶のコップをじっと見ている。

「何度も言うけど、私とトモヨはカッシュがいるから安全よ。あなたは自分とギルベルトさんの安全だけを考えなさい。ともかく二人でスカイナイト号に避難する事だけ考えなさい」
「はい」
「隊長、ちょっといいですか。ネルフからの新情報です」

 スピーカーからケンスケの声がした。

「ギルベルトさんは腹部にリモート爆弾を埋め込まれていて、そのうえヴァイオレットさんを殺すように洗脳されているらしいです。軍部が独断で暴走したようです」
「えっ」

 思わずヴァイオレットは立ち上がった。視線がふらついて定まっていない。

「落ち着きなさい、ヴァイオレット。予期した事だわ」
「落ち着いていられません。予期したってどういうことですか」
「まず深呼吸、それから座りなさい。私はいつでもあなたの味方よ」

 一瞬ソノミに憎悪に近い視線を送ったヴァイオレットだが言われたとおり深呼吸して座り直した。

「普通の爆弾だったらTBNで解除できる。ただTBNで駄目な場合を想定してスカイナイト号を借りたのよ。スカイナイト号のAIのKISSはネルフのMAGIを除けば世界最強のAIの一台よ。スカイナイト号は犯罪捜査にナイト財団が使うために作られたから、爆弾の解除からハッキングまでありとあらゆる対抗手段が搭載されているのよ」
「はい」
「だから爆弾の方はこちらで何とかする。ただ爆弾が不発の場合、少佐がアナタの命を狙ってくる。多分少佐はアナタを殺したら自殺するように洗脳されてるわ。だから二人で生き残る以外道はない。自分が犠牲に成ればなんて甘い考えよ。いいこと、命がけで少佐を止めなさい。生きていれば、どんな重傷だって、間先生が何とかしてくれる。洗脳はあなたの思いで癒しなさい。心と体を全て捧げてね。私はそれをしたくても出来なかった。夫もナデシコも救えなかった。だから何と代えてもヴァイオレットにはそれをさせてあげる。それにはまず落ち着くこと。今だけ戦闘人形に戻りなさい。冷静にギルベルトさんの事だけを考えて行動しなさい」
「はい」
「多分他にも罠はあると思うけど大丈夫。その辺の軍隊ならカッシュが蹴散らしてくれるわ。でしょ」
「ああ、任せておけ」

 目を瞑ったままカッシュは答えた。

「よろしくお願いします」

 ヴァイオレットは頭を下げた。

「準備出来ましたわ」

 ちょうどトモヨが着替え終わってやってきた。

「武装もバッチリですわ」

 武装といっても装甲服などを着ている訳ではない。いつもの学校の制服にベレー帽と白い長い手袋をしているだけだ。ただ手袋はダンスパーティー等で着ているものと比べると少し厚ぼったい。

「ヴァイオレットさん準備はいかがですか?小火器なら後ろにございますわ」
「後で選ばせてもらいます。私も覚悟が決まりましたので」

 ようやく落ち着いたのか、ヴァイオレットの顔に微かに笑顔が戻ってきた。

「そうよ。好きな男に会いに行くんだから。さあ化粧直しをして、動きやすくかつ可憐な服に着替えてらっしゃいな」
「はい、ソノミさん」




 その国には国際空港は一つだけだ。国の西の端にある。端と言ってもそれほど広い国ではない。TBNなら十分間で横断できてしまう。空港自体もそれほど広くはない。国際空港がないと、観光業に差し支えるからあるようなものだ。戦中は軍事用の空港だったが、今では模様替えしてお客様を迎えるための施設もある。ただ元々それほど産業はなく、貧しい農業国だったうえ長年の隣国との戦争のため国力は疲弊していた。空港整備で予算も使い果たし、借金財政だ。観光業も今一つだったが、そこに降ってわいたのが大道寺コーポレーションの工場建設の話だ。そんな訳で国としてはありがたいお客だ。
 TBNはその国際空港に先に到着した。空港には熱烈歓迎の大段幕があるわけではない。大道寺コーポレーションと国の契約は第三国で行われる事になっている。今日は前提条件のギルベルトの引き渡しだけだ。本来なら操縦士のパーカーとヴァイオレットがいれば済む話だが、ソノミは陣頭指揮をしたがるのでこうなった。ともかく到着したTBNだが空港の職員は寄ってこない。TBNは護衛用の機体で出迎え無用と伝えてあるからだ。

「周囲2kmに軍事車両は無いわよ」
「了解、アヤカさん」

 TB5からの情報はTBNのディスプレイに表示されるがアヤカの声を聞くと安心できる。ヒカリはTBNのセンサーでわかる範囲で辺りを探っているが、TB5からのデーターどおり何もない。テロを企てた軍部はギルベルトの爆弾と洗脳だけで事は済むと考えているのかもしれない。ヒカリはマイクをオフにした。

「トウジはもし私に爆弾が埋め込まれて洗脳されていたらどうする?」
「東方不敗流の奥義に闘気で金属のみを焼き切る技があるらしい。今はできん」
「今なら?」
「もし腹部なら手刀で爆発するより早く抜き取る。で、すぐに病院に運ぶ」
「もし頭だったら?」
「どうして欲しい?」
「抱きしめて」
「そうか」
「スカイナイト号見えてきたね」
「そやな」

 TBNのモニターに拡大されたスカイナイト号が映っていた。




 スカイナイト号の客室では四人が着陸に備えて座席に座っていた。皆服装は違う。ソノミはいつものスーツ姿で、トモヨは学校の制服だ。カッシュはいつもの黒マントだ。ヴァイオレットはいつもの少しふわっとしたスカートに、青い上着を着ている。ただそれらはWWRで防刃防弾加工をしているものだ。青い上着は左脇の下にホルスターが忍ばせてあるが、フワッとしたデザインのため目立たない。ホルスターには小口径の拳銃が収まっている。もしギルベルトを無力化するのに必要となったときに出来るだけ怪我をさせないためそれを選んだ。今ヴァイオレットは胸のブローチを握りしめて目をつぶっている。祈っているのかもしれない。

「ヴァイオレット、落ち着いた?」
「はい」
「念を押すわ。私とトモヨはカッシュがいるから大丈夫。どんな危機が迫っても無視しなさい」
「はい」
「ギルベルトさんを傷つける事を躊躇しないで。致命傷以外ならTBNで間先生のところへ運ぶから。判った?」
「はい」
「じゃ、罠をぶち破るわよ」
「はい」

 それまでほぼ水平飛行をしていたスカイナイト号は減速が終わりホバリング状態になった。

「垂直降下後、着陸します」

 スピーカーからケンスケの声が聞こえてきた。




 スカイナイト号がTBNの横に着陸して五分後、空港施設からリムジンがやってきた。二機と百メートルほど離れた場所に止まる。リムジンの後部座席のドアが開き、男が三人降りてきた。二人は黒背広でサングラスで顔を隠している。もう一人は灰色の背広を着ていた。ただ背広の右腕は中身が無くぶらぶらと揺れている。右目は潰れているのかアイパッチをしている。それ以外も顔を火傷の跡が覆っている。
 スカイナイト号の一行は、客間のディスプレイに写されている男の全身、顔のアップを見ていた。全身の画像には腹部の爆弾の位置が重ねて映っている。

「KISSによる爆弾無力化処置完了。ただし雷管、火薬に衝撃に反応しやすい物を使っているようですので対象を無力化の際は気をつけてください」

 ケンスケの声をヴァイオレットは聞いていなかった。男の顔をじっと見ている。

「少佐、少佐の目です。私の好きな少佐の目です」
「そう」
「少佐、少佐、少佐、少佐」
「落ち着きなさいヴァイオレット」
「だって少佐なんです」
「まだ貴方の少佐じゃないわ。取り返していない」
「でも、でも、でも」
「落ち着きなさい」

 ディスプレイをかじり付く様に見ているヴァイオレットの前にソノミが滑り込んだ。

「あっ」
「落ち着きなさい、貴方はこれから少佐を無力化しないといけない。出来なければ二人とも死ぬ。そうなりたいの?」

 ヴァイオレットは首を激しく横に振った。目尻に貯まった涙が弾け飛ぶ。

「整形した別人の可能性だってあるわ」
「いいえ、少佐です。私は少佐の虹彩のひだまで知っています。あの瞳は少佐の瞳です」
「間違いないの?」
「はい。もう落ち着きました。少佐を取り戻してきます」

 ヴァイオレットは涙を目で拭った。

「判ったわ。じゃカッシュを付けるから、二人で行ってらっしゃいな。ケンスケ今いくと伝えて」
「FAB、隊長」




 しばらくしてスカイナイト号の横の扉が開いた。先頭はカッシュ、真ん中にヴァイオレット、しんがりはトモヨだ。相手の人数にあわせた方が何かあった際にいいだろうと三人になった。はじめパーカーが行くと言っていた。ただすぐに離陸できるようにパイロットは残した方がいいとなった。ケンスケはAIの操作で行けないので、ソノミが行くと言ったが、トモヨが波紋で痺れさせ今は自分の方が強いと納得させた。ソノミはかわいい子には旅をさせるというか、雌ライオンも真っ青の、千尋の谷に我が子を突き落として、ついでに手榴弾も投げ込むタイプなのでトモヨが行く事になった。
 一行がリムジンの方に歩き出すと、リムジンの男達も歩き出した。

「ほう、俺用の相手がいるようだ」

 カッシュが怖い笑いを浮かべた。むこうからはギルベルトらしき男を先頭に後ろ十メートルに二人が付いてくる。爆弾の殺傷範囲を見越した距離なのだろう。

「ではもう一人は私ですわね。あ、止まりましたわ」

 先頭の距離が五十メートルほどに成ったとき、ギルベルトらしき男は進んできたが、残りの二人はその場に止まった。

「私だけで行きます」
「武運長久を」
「はい、トモヨ様」

 ヴァイオレットは振り返らず進んでいく。トモヨとカッシュはその場に残った。二人の距離が少しずつ近づいていく。あと五メートル程の距離に成ったときに男がかすれた声で言った。

「ヴァイ・・オレット」
「少佐」

 掠れてはいたがギルベルトの声だった。思わずヴァイオレットは駆け寄った。罠が有るのは判っている。だがギルベルトに早く触れたい。その場で取り押さえればいいと思った。もう少しで手が届きそうになった瞬間、ギルベルトの右手の裾からナイフが飛び出た。ヴァイオレットは急停止して右に跳ぶ。

「え」

 左手の方から取り押さえようとしたヴァイオレットだが、ギルベルトは微笑みながらナイフを自分の頸動脈にあてた。

「駄目」

 ヴァイオレットは洗脳の誤動作と判断し慌ててギルベルトに飛びついた。ギルベルトは洗脳以外にも何かの強化措置を受けていたらしい。ナイフがいきなり飛燕の速度でヴァイオレットの心臓めがけてたたき込まれた。昔の生体強化が万全なころのヴァイオレットなら問題ないが、今はほぼその効果が切れていた。慌てて避けようとしたヴァイオレットだが間に合わなかった。次の瞬間何かガラスの様な物が割れる音がして、ナイフが逸れた。ナイフは特別製らしく、防刃加工を施したヴァイオレットの上着を切り裂き、ヴァイオレットの右の乳房を切り裂いたが致命傷には成らなかった。痛みで落ち着いたヴァイオレットはギルベルトのナイフを捌き、義手に付けていた指輪をギルベルトの首元に押しつけた。WWR特製の気絶装置だ。取り乱し暴れる被救助者を気絶させて救助を容易くするものだ。ギルベルトは瞬時に気絶した。ヴァイオレットは倒れ込むギルベルトを抱え上げ、全力でスカイナイト号に向かって走っていった。ダッシュした足下には割れたガラスのブローチが緑色に光っていた。
 ギルベルトが気絶した瞬間、後ろに控えていた男たちがダッシュして向かってきた。一人は異様に早い。直ぐにヴァイオレットに追いつきそうになるが、そこにカッシュが立ちふさがった。問答無用でカッシュは拳を送るが男はバックステップして後ろに逃げる。カッシュは追撃するが速度はほぼ同じだ。要するに常人では目で追うのも大変な速度で、戦闘が始まった。
 もう一人の男はそれほど早くはないが、それでもヴァイオレットより早い。ギルベルトを担いでいるヴァイオレットに迫ってくる。

「シャボンランチャー」

 今度はトモヨが間に割り込んだ。両手を男に向けると、シャボン玉が手袋から沢山吹きだし男に向かって飛んでいく。この手袋は元々「しゃぼんちゃん」という大道寺コーポレーション製の子供向けの玩具で、手に着けると音声入力でいろいろなシャボン玉が吹き出る物だ。似たような物を師匠のジョセフの同僚が使っていたのを聞き、トモヨ専用に改造を加えたものだ。
 男はシャボン玉など当然気にせずに突っ込んでくる。だがシャボン玉は特殊プラスチック製でしかもトモヨの波紋入りだ。シャボン玉に触れた男は感電したように体を痙攣させ後ろに吹っ飛んだ。トモヨは深追いせずにヴァイオレットの後ろを守って撤退する。だが男は直ぐに立ち上がり再度ヴァイオレット達を追いかけ始めた。ただ今度は緊急離陸したTBNが翼でひっかけ吹っ飛ばした。おかげでヴァイオレットとギルベルト、トモヨはスカイナイト号に乗り込む事ができた。

「え、まだ立つの」

 ヒカリは思わずつぶやいた。男は相当丈夫な強化処置を施されているらしい。カッシュと戦っている男が速度ならこの男は丈夫さを主眼においているのだろう。次の瞬間男はスカイナイト号に向かって走り始めた。

「ワシが行く」

 スカイナイト号近くに戻っていたTBNからトウジが飛び降りた。スカイナイト号は離陸に時間がかかるため、守らないといけない。

「流派東方不敗は最終奥義」

 トウジは緊急時であるがゆえ却って無心に構えることが出来た。右の拳に気が貯まっていく。何かが心に来た。

「石破天驚拳!」

 突きだした拳から何かが飛び出していく。それは気の拳となって男に激突した。男は吹っ飛び痙攣して地面に転がり動かなくなった。威力はまだまだだがトウジは奥義を放つことが出来た。

「早く乗って」

 ヒカリの声にトウジはTBNに飛び乗った。TBNは緊急離陸した。そして離陸準備が終えたスカイナイト号も離陸を開始した。




「少佐」

 ギルベルトはスカイナイト号に治療用のベッドに寝かされていた。全自動で診断治療をしてくれて、結果はKISSが報告してくれる。ヴァイオレットはギルベルトの残された左手を握って跪いている。我慢していた涙が止まらない。床にぽたぽたと涙が落ちる。ヴァイオレット自体の傷はすでに治療済みだ。血塗れに成った服も着替えている。ただ胸のブローチは中身がなく金具だけに成っている。

「爆弾の取り出し手術はタロウがしてくれる。ああ見えても腕はいいのよ」

 ソノミはヴァイオレットの頭を撫でた。あの後スカイナイト号とTBNは全速力でその国の領空から逃げ出した。大統領と無線で会話したソノミは、絶句した大統領に、契約の条件は変えないが今回の事件に関わった者の処分を行い、今後大道寺コーポレーションの工場にこのようなテロが起きないようにする事だけを約束させた。大統領は一も二もなく了承した。カッシュは置いてきた。彼なら自力で帰ってこれるので、このような時は見捨てていくことをあらかじめ話してあった。

「ヴァイオレット、今のところギルベルトさんは完全に貴方を殺す対象と見てるわ。愛しているかどうかは不明よ。これから本当にギルベルトさんを取り戻す長くて辛い闘いが始まるわ。もしかしたら元に戻らないかもしれない、廃人になるかもしれない。覚悟はいい?」

 ヴァイオレットは顔を上げた。表情が歪んでいる。

「でも大丈夫よ。だって生きているのだもの。生きていれば希望だってある。貴方の愛しているが、ギルベルトさんの愛しているを確かめるんでしょ」

 ヴァイオレットは頷いた。

「大丈夫、絶対何とかなる。お金に関わることは私が何でもしてあげる。だからヴァイオレットは貴方の愛してるで、ギルベルトさんを救いなさい」

 ヴァイオレットはまた頷いた。

「貴方の愛してるとギルベルトさんの愛してる、同じだといいわね」

 ヴァイオレットは頷くとギルベルトの寝顔に視線を戻した。




「トウジ、石破天驚拳できたのね」
「ああそうや。威力はあまりないけどな」
「なんでできたの」
「あん時は、無心だった。ヴァイオレットさん助けないとと思って、雑念が無かった」
「そう」

 スカイナイト号の少し前を飛ぶTBNの機内は意外と静かだ。凄まじい轟音の中で救助活動をする場合もあるため、機内のアクティブノイズキャンセル機能が相当高いレベルだからだ。超音速で飛行中でも機内をほぼ無音にしてくれる。

「トウジ、もし私が敵対組織に捕まって、洗脳されて爆弾埋め込まれてトウジが助けられないとしたら、絶対一緒に死なないでね」
「抱きしめて欲しいんやないのか?」
「ヴァイオレットさんを見ていて考えを変えたの。生き延びて、その代わり敵を討って」
「もしそうなっても、どうするかわからへん」
「そう。でもサクラちゃん、妹さんを優先してあげて」
「サクラは当分親戚に預ける事になったで」
「えっ」
「第三新東京市は危険や」
「そう。寂しくなるわね」
「碇に会えないからやだとだだこねてる」
「サクラちゃん、ききわけいいから大丈夫よ」
「そやな」

 トウジは黙った。ヒカリもそれ以上は話さなかった。




 数時間でスカイナイト号とTBNは大道寺邸に到着した。ギルベルトは直ぐに医務室に運ばれた。すでに待機していたタロウにより緊急手術が行われ、腹部の爆弾の摘出は成功した。手術の様子は録画され取引材料となる。爆弾の方はイクヨが分解して、部品の入手ルート等をパーカーが調べ上げ、これも取引材料となるだろう。今、ギルベルトは集中治療室にいる。

「で、ヴァイオレット、洗脳のほうだけど」

 ソノミの部屋に今いるのはヴァイオレットとソノミとレインだ。応接セットのソファーにヴァイオレットとレインが向かい合わせで座っている。ソノミは少し離れた所で足を組んで椅子にすわっている。

「一応摘出手術中に並行して、BIG-RATでギルベルトさんの脳の下調べをしたんだけど」

 レインは端末の結果表示を見つつ言葉を詰まらせた。

「洗脳が相当頭の奥深くまで、記憶の奥深くまで食い込んでいるわ」
「治らないのですか?」
「そうではないわ。貴方への殺人衝動を消すところまで記憶を消去すると、記憶の相当な部分が削除される。廃人かうまくいっても貴方のことを忘れてしまうかもしれない」
「そんな。何か方法はないのですか」
「貴方には三つの選択肢があるわ。まずは、洗脳の完全除去、この場合さっき説明したとおり、ギルベルトさんは廃人、うまくいっても過去の相当な事を忘れてしまう」
「次は?」
「洗脳の部分消去、これなら貴方のことを忘れない。但し心の中に貴方への殺人衝動は残るから、いつどんな拍子に貴方を殺そうとするかもしれない」
「最後は?」
「何もしない、少なくともギルベルトさんは貴方を愛しているのは確かだわ。一番愛してくれるかもしれない。でも何時でも貴方を殺そうとするわ」
「そうですか」

 ヴァイオレットは俯いた。しばらく黙っていた。

「これは私の罪なのでしょうか?」

 俯いたまま呟いた。

「なんで?」

 ソノミの怒ったような声にヴァイオレットは顔を上げた。

「以前、人殺しの殺戮人形のお前など幸せになれないと言われました。私が人形だった時です。その時の罪が今私と少佐に」
「そんなことないわ。それだったら私とトモヨは即死よ。おもちゃ屋だってビジネスは過酷よ。大道寺コーポレーションの競争相手で潰れて首を吊った経営者はいくらでもいるわ。過去の事を反省するのはいいわ。気に病むのはやめなさい」
「はい」
「貴方が今やることは、貴方とギルベルトさんの為の最善の選択をする事よ。これは貴方にしかできない。その判断のみに責任を持ちなさい」
「はい」




「ヴァイオレットさんは記憶の部分消去を選んだんだ」

 TB5内をぷかぷか浮かびながらディスプレイを見たアヤカは頭を掻いた。無重力下で困らぬように、最近髪をセミロングにした。その上レイン特製の整髪剤のおかげで、髪が全くなびかない。もちろん整髪剤の除去材もあり、五秒で整髪、五秒でさらさらにできる。おしゃべりのアヤカが喫茶えんどうで自慢したところ、そんなに便利なら私も欲しいというお客が多くいたため、大道寺コーポレーションで発売を検討している。ちなみにアヤカは自分がWWRの隊員であることを隠していない。最近WWRの情報もいろいろ出回っているのでいいんじゃないのとソノミには言われている。以前ヒカリを脅した記者が所属した新聞社が一気にソノミに買収され、記者と上の方がくびになってから、あまりWWRの隊員にしつこい取材はなくなった。
 それはともかくアヤカは今週末までTB5勤務だ。今日は朝からそれほど救難要請も無く、のんびりと過ごしている。

「アヤカ、教えてください」
「何イオス」
「ヴァイオレットさんは記憶の部分消去を選びました。これはヴァイオレットさんとギルベルトさんの命の危険を伴う選択です。なぜヴァイオレットさんはこの選択をしたのでしょうか?生物にとって命とは一番大切なのではないでしょうか?」
「そうね」

 アヤカは人差し指を顎に当てて考えた。

「思い出って時には命の危険と比べても重要な事があるのよ」
「でも死んだら思い出もなくなります」
「そうなんだけど、愛するってロジックだけじゃないのよ。不条理で、わがままで、ずるくて、優しくて、献身的で、その他いっぱい。私はヴァイオレットさんが羨ましいわ」
「何故ですか?どう判断しても、ヴァイオレットさんは不幸ではないですか?」
「うんと、なんて言ったらいいかな。自分の命をかけられる愛する人がいたら、それは幸せと思うから。私はまだそんな人に出会っていない。私も姉さんみたいに運命の相手に早く出会いたいわ」
「アヤカさんはどの様な男性が好みなのですか?」
「えっとね」

 しばらくアヤカとイオスで恋愛談義の花が咲いた。五分ほど話した後、急にアヤカの前にホログラムディスプレイが現れた。
 

「アヤカ、北アメリカ大陸に異常な高エネルギー反応あり」
「ディスプレイに高エネルギー箇所を図示して」

 アヤカの目の前のホログラムに情報が加わった。

「何これ。何がおきてるの」
「場所はネルフの第二支部のあった場所です」

 アヤカの目の前のホログラムには北アメリカ大陸に大きな光の十字架が出来ていた。

「完全に消滅、何もありません」




 デートをするとテロにあうお約束だがこれはデートだろうか?シャボンランチャーは実際玩具としてありそうだが、プラスチックのシャボン玉は浮かぶのだろうか?

次回「EVAザクラ新劇場版 破 第十三話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく



[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第十三話
Name: まっこう◆564dcdfc ID:4098afbe
Date: 2021/01/31 20:05
原作準拠のケンスケ君。

-------------------
 パーカーの自室は広い。大道寺家の執事長と使用人代表も兼ねているため、特別に広い部屋を持っている。使用人の中で次に広い部屋を持っているのはメイド統括のコノエだ。パーカーとコノエは使用人の一番と二番だ。マリエルや犬神三姉妹等はソノミの養子の扱いなのでこれまた違う。それはともかく、使用人の一番と二番がパーカーの部屋の応接セットのソファーに向かい合って座っていた。

「黙っていては判りませんよ。ここは年の功、このパーカーに話してみてはいかがですか」

 パーカーの向かいに座っているコノエは俯いて黙っていた。

「私、許されない事をしてしまいました」
「どんなことですか?」
「トモヨ様の思い人を寝取ってしまいました」




EVAザクラ 新劇場版

破 第十三話

異変



「詳しく話してくれますか」
「はい」

 コノエはボソボソと話し始めた。
 
「私は二日おきにケンスケ君の家に行って稽古をつけています。先々日彼の家の庭で稽古をつけ終わった際、暑くって相当汗だらけだったので家のシャワーを借りたんです。暑かったので少しぼけていたのかもしれません。いつもはバックの中に仕舞っていた下着を脱衣所の籠に入れてました。シャワーを浴びているとき何か変な気配がしたので浴室から出ると、ケンスケ君が私の下着を左手に取り臭いを嗅ぎながら、右手でその」
「何ですか?」
「言いにくいのですがその、オナニーをしていました」
「そうですか。コノエさんほどの美人がシャワーを浴びていたら、出来心もあるかもしれませんね」
「私はさすがに動転していました。取り返そうとしてケンスケ君の頬を叩こうとしたのですが、慌ててケンスケ君ともつれたまま転んでしまいました」
「それで」
「ケンスケ君に処女をくれると言いましたよねって言われて、確かに以前言ったんです。なんか私そこで固まってしまって。教え子に対して嘘をついていいのかって。その後はその、きっと私もセックスに興味があったのだと思います。アヤカさんの話興味津々で聞いていましたし。だからなのか抵抗しなかったんです。そのまま最後まで行ってしまって」
「そうですか。セックスや愛は理屈通りには行かない物です。そういうこともあるでしょう。で、コノエさんはどうしたいのですか?」
「しばらくここから離れて考えたいと思います」
「そうですか。そうですね。貴方もまだ若い。ゆっくり考えるのが良いでしょう。屋敷のことは私に任せてどこかに行ってゆっくり考えなさい」
「はい。よろしくお願いします」

 コノエは俯いたまま深く頭を下げた。
 
 
 
 
「と言うことで、コノエさんには調査業務に行っていただきました。潜入捜査なので半年ほどかかる予定です」
「デストロンの関係団体ですか。確かにコノエさんで無いと危険ですわね」

 トモヨの部屋に来ているのはパーカーとヤシマだ。ヤシマは普段のソノミの秘書の格好からメイド服に着替えている。
 
「当分はトモヨ様のお付きのメイドはヤシマになります」
「トモヨ様コノエさんと違いふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」




 ちょっとしたトラブルがあった大道寺家だが、一方ネルフはちょっとしたところでは済まなかった。ネルフ作戦部の会議室は相当広い。だが今日は人で埋まっていた。

「Tプラス10」

 会議室の3Dディスプレイに映像が浮かび上がる。シゲルが映像を見ながら説明を続けた。

「グラウンドゼロのデータです」
「酷いわね」

 ミサトは映像に目を見据えたままつぶやいた。

「ATFの崩壊がデーターから確認できますが、詳細は不明です」

 マコトが手元の端末を操作しながら説明をする。

「やはり四号機が爆心か、ウチのEVA、大丈夫でしょうね?」

 ミサトがリツコの方を向く。リツコはテーブルの前で座って映像を睨んでいる。

「四号機は」
「EVA四号機は、稼動時間問題を解決する、新型内蔵式のテストベットだった……らしいわ」

 マヤの言葉を遮って説明したリツコだが、珍しく歯切れが悪い。

「北米ネルフの開発情報は、赤木先輩にも充分に開示されていないんです」

 マヤが怖々と補足した。

「知っているのは」

 ミサトは画像を睨みつつ呟いた。




 日本時間のその日の午後、米国では朝日が照らし出した頃、米国のネルフ第一支部は忙しかった。急遽日本支部にEVA三号機を輸送することになったからだ。EVA三号機は十字架型のキャリヤーにはりつけになったように固定されていた。そのキャリヤーを超大型VTOLが垂直に持ち上げた。高度が五百メートルほどになった時点でこんどは水平方向に加速を開始した。輸送機とEVA三号機は山並みの間を通って進んでいく。第一支部のある辺りは晴れていたが、輸送機の進む先には暗雲が立ちこめ、雲の中を稲光が走っていた。




「何で私の二号機が封印されちゃうのよ」

 その日の夕方、アスカは腰に手をあて仁王立ちしてリツコをずっと睨んでいた。二号機は拘束具で固定された上で高分子硬化剤で満たされた容器にクレーンで下ろされていく。

「バチカン条約。知ってるでしょ。三号機との引き換え条件なの」
「修理中の零号機にすればいいじゃない」

 アスカは顔をゆがめて言葉を吐き出した。

「二号機のパスは今でもユーロが保有しているの。私たちにはどうにもできないのよ」

 マヤが説明するとアスカは余計顔を赤くした。

「現在はパイロットも白紙。ユーロから再通知があるまでは、おとなしくしてなさい」

 リツコの冷静な声にアスカは顔をゆがめた。

「私以外誰にも乗れないのに」

 アスカは吐き捨てるように呟いた。

「エヴァは実戦兵器よ。全てにバックアップを用意しているわ。操縦者も含めてね」

 リツコの言葉を聞いて、アスカは顔に痙攣が走った。視線を二号機に向ける。

「そんな、私の世界で唯一の居場所なのに」




 リツコに所詮中間管理職よねとアスカらしくない捨て台詞を吐いた後、格納庫がある部屋を出た。エレベーターに向かう。エレベーターの前まで行くと仁王立ちで扉を睨み付けて待つ。やがて扉が開いたが、すぐには飛び込まなかった。今一番会いたくない者がいたからだ。だが、そこで立ち止まるのはしゃくだと、ずんずんと中に入り、腕を組んで奥の壁にもたれかかり前を睨み付けた。アスカが青い瞳で睨み付けている視線の先にはレイが立っていた。エレベーターはゆっくり動き出し加速していく。エレペーターの中は機械音が微かにするだけだ。あたりを沈黙が支配する。
 
「EVAは自分の心の鏡」

 レイが呟いた。

「なんですって」

 アスカはもたれかかるのをよして一歩前に出た。
 
「EVAに頼らなくていい。あなたには、EVAに乗らない幸せがある」

 アスカに向かって言っているのだろうが、レイはエレベーターのドアの方に向いたままだ。

「偉そうなこと言わないでエコヒイキのクセに。私が天才だったから、自分の力でパイロットに選ばれたのよ。コネで乗ってるあんた達とは違うの」

 アクションが元々大きいアスカだが、心中の怒りが強いせいか、胸に手をあて絞り出すような声でレイの背中に言う。
 
「私は繋がっているだけ。EVAでしか、人と繋がれないだけ」

 振り向かず淡々と話すレイにアスカはより一層激高した。声が叫び声に近くなる。

「うるさい。アンタ碇司令の言うことはなんでも聞く、おすまし人形だからひいきされてるだけでしょ」
「私は人形じゃない」
「人形よ。少しは自分を知りなさいよ」

 アスカは一歩踏み込むと右手でレイを叩いた。叩こうとしたが急に振り向いたレイの左手に止められる。レイの左手には刃物傷に付けたたくさんの絆創膏が貼られていた。
 
「ふん。人形のクセに生意気ね」

 絆創膏が何を意味するかは自分もそうなので判った。アスカは少し冷静になる。丁度アスカの降りる階に着いたので右手を戻すと大股でエレベーターを出ていこうとする。だが、ドアを出ようとした瞬間気が変わった。閉まりそうになっていたドアに寄りかかる。俯いたまま上目遣いでレイを睨み付け呟いた。

「ひとつだけ聞くわ。あのバカをどう思ってるの」
「バカ」
「バカと言えばバカシンジでしょ」
「碇君」
「どうなの」
「よく、わからない」

 アスカはレイの方に一歩踏み出す。ドアが閉まりそうだったので手で押さえながらだ。

「これだから日本人は、ハッキリしなさいよ」
「わからない。ただ、碇君と一緒にいると、ポカポカする。私も、碇君に、ポカポカして欲しい。碇司令と仲良くなって、ポカポカして欲しいと思う」
「分かった」

 アスカは振り向くと廊下へ歩き出す。後ろでドアの閉まる音がする。

「ほんと、つくづくウルトラバカね。それって、好きってことじゃん」

 何故かいらついていた。




「しんちゃん、レイちゃんの料理楽しみだね」
「そうだね。でも話してないで、勉強の時間だよ、姉さん」

 シンジは自室で宿題をしていた。ただ何か無いとシンジにくっついているアンズがまとわりついて仕方が無いので、勉強の時間にした。アンズは小学校二年生の漢字練習帳をやっている。ひらがなとカタカナはおぼえたアンズだが漢字は難しいらしく中々おぼえられないで苦労している。
 
「え~でも一時間もしたし休憩の時間」
「しかたないなあ。じゃ一休みしよう」
「じゃお茶とお菓子はアンズが用意するにゃ」

 アンズは尻尾をふりふり部屋を出て行く。シンジはのびをして畳に倒れ込んだ。畳がひんやりして気持ちいい。

「でも確かに楽しみだなぁ食事会。けど、綾波の料理って大丈夫かなぁ」

 シンジは横に寝返りをうった。ちゃぶ台の陰から、机の上に置いてあるレイの手紙が見えた。

「父さんも、来ればいいのに」
「しんちゃん、お待たせ」
「早いね姉さん」

 アンズはトレイに山盛りのお菓子とジュースの入ったコップを乗せて持ってきた。地元の商店会で何かと手伝っているせいか、期限切れ近いお菓子などを貰ってくる。それに最近はホタル自身が務めていたfireflyのCMに一緒に出ている。ホタルはCMでは若いお母さんキャラに変更したため、その代わりだそうだ。そのためギャラ以外にもfireflyからの大量のお菓子がアンズの部屋にあふれている。猫は甘い物はあまり判らないそうだが、人間の姿の時はやたら甘い物を食べたがる。
 
「姉さん、またそんなにお菓子を」
「お菓子は頭の栄養だにゃ」
「どこでそんなことを覚えたんだろ。それはともかく姉さん最近太ったよね」
「にゃ、にゃんの事かな」

 アンズは視線が泳いでしまう。身に覚えがあるようだ。
 
「姉さん見た目がスリムぐらいしか取り柄が無いんだから。デブに成るよ」
「が~ん。しんちゃん酷い」
「事実でしょ、あっミサトさんから電話だ。はい、じゃ今日は飲んでくるから夕食は無しですね。はい。はい、じゃ」
「ミサトさんどうしたの?」

 お菓子とお茶のトレイをちゃぶ台に置いたアンズはシンジの携帯をのぞき込む。
 
「今日はミサトさん飲んで来るから夕食いらないって。となると、夕食何がいいかな?アスカにはもらい物の良いお肉があるからいいとして」
「お魚!!」
「じゃ勉強が終わったら買い物に行こうか」




 その日の夜ネルフ御用達の飲み屋でミサトは酔っ払って絡んでいた。加持にである。いつものことだし、ミサトに絡まれるのはそんなに悪くないのか加持はにこやかに対応している。
 
「大体あの新型ダミーシステムってやつ、なんかいけ好かないんだけど」
「人以外にEVAを任せるのがかい?それともあの子達以外に任せるのがかい?」
「両方よ」

 ミサトは強いお酒をどんどんあおっていく。
 
「それより、ゼーレとかいううちの上層組織の情報、もらえないかしら」
「例の計画か」

 加持はミサトの方に顔を近づけて声をひそめた。

「情報くれるなら一晩ぐらい付き合うわよ」
「それは願ってもないが、探るのはやめておけ。危険だよ」
「そうもいかないわ。人類補完計画。ネルフは裏で何をしようとしてるの?」
「それは、俺も知りたいところさ」

 加持は少し真面目な顔になると、顔を引いた。自分のおちょこに酒を足す。ミサトもグラスに酒を足した。
 
「久方ぶりの食事だってのに、仕事の話ばっかりだ」
「学生時代とは違うわよ。色んなことも知ったし、背負ってしまったわ」
「お互い自分のことだけ考えてるわけにはいかないか」
「シンジ君たち、もっと大きなものを背負わされてるし」
「ああ、子供には重過ぎるよ。だが、俺たちはそこに頼るしかない」
「ええ」
「で今晩だが」
「や~よ」
「まっそうだよな。でも本気で惚れてるんだよ」
「はいはい」

 ミサトはグラスをまた干した。丁度そこに携帯の呼び出し音が響いた。ミサトは面倒くさそうに携帯を手に取る。

 
「はい。ええ、分かってるわ。日付変更までには結論出すわよ」

 ミサトは携帯を切るとバックに戻す。

「リっちゃんか?」
「そう。三号機テストパイロットの件で矢の催促」

 ミサトは肩をすくめた。

「人選は君の責任だからな」
「それはそうなんだけど、三号機到着の予定がずれちゃって、よりによってこの日なのよね」
「いつだい」
「これ」

 そう言ってミサトは携帯電話の画面を加持に見せた。
 
「いろいろとね」




 その日の夜、シンジの作った夕食を平らげた後、アスカはさっさと自室に戻っていた。下着姿でベッドで天井を見つめていた。やがて携帯を手に取るとスケジュールをチェックする。

「三号機軌道実験の予定日って、エコヒイキの約束の日じゃない」

 アスカはしばらく携帯のスケジュール帳を眺めていたが、やがて反動をつけてベッドから飛び起きた。

「よっと」

 下着がずれたので直した後、電話を掛けた。




 レイは定期的にメディカルチェックを受けている。チルドレンは皆受けているが、レイは頻度が多い。丁度レイがリツコにチェックを受けていたときリツコに電話がかかってきた。マヤからの内線だ。
 
「そう。アスカに決定ね。ええ。私は最後の便で松代に向かうわ。あとはお願いね。マヤ」
「はい、先輩」

 レイはリツコの言葉を聞いて何のことか悟ったらしい。聴診器を当てるため脱いでいたシャツのボタンを留める手をとめた。

「あの、赤木博士」

 いつもと違う調子のレイの声にリツコはレイの顔を見た。いつもとやはり違って見える。

「アスカに伝えたいことが。お願いします」




 EVA三号機は一旦新熱海のネルフ施設に運ばれた。そこで米国支部から引き継ぎを受けた後、受け取り時のチェックが行われた。その後から大型のトレーラートラックで陸送されることになった。ネルフの松代基地に搬送される三号機はネルフの警備部隊に周りを囲まれて進んでいく。その部隊の先頭の車両は警備の車とは違いおしゃれな2+2のスポーツカーだ。車道楽のミサトがローンで買った白い車は静かに進んでいる。ミサトとアスカはこの輸送に付き合う必要が無いが、アスカがEVA三号機の下見をしたいと言ったため新熱海で引き継ぎから付き合っている。運転席にはミサトが座り助手席にアスカが座っている。不機嫌そうな顔で外を眺めていたアスカはなんとはなしに携帯を見た。留守電が入っている。リツコからだ。再生してみた。

「一件の新しいメッセージがあります。一番目のメッセージです」

 音声ガイダンスが流れてくる。

「はい、レイ。話していいわよ」

 続いてリツコの声が聞こえた。レイが話し始めるのかと待っていたアスカだが中々声が聞こえてこない。アスカは次第にいらつき始めた。そしてもう電話を切ってやろうと思ったときレイの声が聞こえた。
 
「ありがとう」

 思いがけないレイの言葉にアスカは驚いた。だが表情が優しいものに変わった。そして携帯を閉じた。
 
「ふんっ。バッカじゃないの。私がEVAに乗りたいだけなのに。大体自分の携帯でかけなさいよ」

 アスカは携帯をポケットにしまうとまた口をひん曲げていかにも馬鹿にしたような声で呟いた。そしてまた外を眺めた。ミサトは口元だけに微笑みを浮かべて運転を続けた。
 
「三号機、私が気に入ったら赤く塗り替えてよね。松代に先に行って準備しましょうよ」
「いいわよ」

 ミサトはアクセルを踏み込んだ。




 その日の二年A組の教室はなんとはなしに静かだった。いるだけで騒がしいアスカやケンスケ、トウジがいないからだ。シンジもアスカが松代に行っているのは知っていたが、トウジとケンスケのスケジュールは知らなかった。

「おはよう洞木さん」
「おはよう碇君」

 丁度ヒカリが登校したので聞いてみることにした。

「ケンスケとトウジしらない?」
「ケンスケ君はWWRの仕事をコノエさんとしているので長期休校らしいわ。鈴原は妹さんを疎開させるって今日はお休み。サクラちゃん元気になったし、当分親戚に預けるんだって」
「そうなんだ」
「サクラちゃん碇君と離れるのが嫌だあって、だだこねて困ったらしいわよ」
「そうなんだ」
「それと鈴原がサクラちゃんは完治した。碇に感謝してる。でもサクラは誰にもやらんだって。もうやけるほどシスコン」
「えっとそうなんだ」
「でもほんと良かったわね、サクラちゃん」
「うん」

 シンジはヒカリの珍しいくだけた口調にほっとした。

「ところで碇君は今日綾波さんにお呼ばれなんでしょ」
「うん」
「女の子が料理を食べさせたいっていう意味をきちんと考えてね」
「えっと」
「トウジもそうだけど鈍すぎるとそれは罪よ」
「鈍いって、あっ木之本さん、大道寺さんおはよう」

 丁度サクラとトモヨも教室に入ってきた。

「おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう、木之本さん、大道寺さん。ねえ聞いて、碇君綾波さんに招待されたのにノープランよ。男の子ってこれだから」
「碇君ってそゆとこ鈍いから。いろいろ苦労するよね」
「そうですわね」

 トウジとケンスケがいない分集中攻撃を受けるシンジだった。




「EVA三号機、有人起動試験総括責任者到着。現在、主管制室に移動中」

 ミサトとアスカは松代に一番乗りして機体の到着を待つことにしたが、リツコはたまっている仕事を片付けてからVTOLで急行した。リツコが松代の実験場のエアポートに降り立った時には着々と起動実験の準備が進んでいた。


「地上仮設ケージ、拘束システムのチェックの内容、問題なし」
「アンビリカルケーブル、接続作業開始」
「コネクターの接続を確認」
「主電源切替え終了。内部電圧は、規定値をクリア」
「エントリープラグ、挿入位置で固定完了」
「リフト1350までをチェック、問題なし」

 総合指揮車の中で複数のモニターを見ながら仁王立ちしているミサトはテキパキと指示を出していく。

「了解、カウントダウンを再開」
「カウントダウンを再開、地上作業員は総員退避」
「テストパイロットの医学検査終了。現在、移動隔離室にて待機中」
「あとはリツコに引き継いで問題なさそうね」

 自分の仕事も一段落付き、ミサトが軽いため息を付いたとき、ポケットの携帯の呼び出し音が鳴った。
 
「守秘回線。アスカからだわ」

 ミサトは携帯を耳に当てる。

「どうしたのアスカ。本番前に」

 ミサトは総合指揮車から出てその車体に寄りかかりながら話し始めた。

「何だかミサトと二人で話がしたくってさ」
「そう。今日のこと、改めてお礼を言うわ。ありがとう」

 アスカは新しいプラグスーツに着替えながら電話に話しかける。

「例はいいわ。愚民を助けるのがエリートの義務ってだけよ。元々みんなで食事ってのは苦手だし、他人と合わせて楽しい振りをするのも疲れるし、他人の幸せを見るのも嫌だったし、私はEVAに乗れれば良かったんだし、元々一人が好きなんだし、馴れ合いの友達は要らなかったし、私をちゃんと見てくれる人は初めからいないし、成績のトップスコアさえあればネルフで一人でも食べていけるしね」
「そう」

 ミサトはアスカの声を聞き少し表情が和らいだ。

「でも最近、他人と居ることもいいなって思ったこともあったんだ。私には似合わないけど」
「そんなことないわよ。アスカは優しいから」

 アスカはプラグスーツを着終わると、鏡に向かって自分の顔を見る。まつげが少し気になるのか目をこする。
 
「こんな話ミサトが初めて。何だか楽になったわ。誰かと話すって心地いいのね。知らなかった」
「この世界は、あなたの知らない面白いことで満ち満ちているわよ。楽しみなさい」

 ミサトは微笑むとアスカがいるであろう仮設ゲージの方を眺めた。

「うん。そうね。ありがと。ミサト。ところでさ、赤いのはいいんだけど、このテスト用プラグスーツって、見え過ぎじゃない?」
「いいじゃないの、他人に見せてみっともないような貧弱な体型じゃないって言うのが、アスカの自慢でしょ」
「まっね。ミサトみたいに垂れだしてないし」




「パーカーさん情報ありがとう、じゃまた」

 ケンスケは携帯を閉じた。今、松代にいた。たまたま移った先が松代だった。こちらの中学校に通っている。アパートで二人暮らしだ。保護者はコノエだ。姉弟ということにして暮らしている。
 
「式波またEVAに乗れたんだ」

 アパートはたまたま松代の起動試験場に近いため、アパートの窓から起動実験場をおおう大きな囲いが見える。
 
「綾波も碇も食事会上手くいくかな」

 ケンスケはそう呟くとめがねをとり拭った。




「エントリースタート」

 総統括責任者のリツコの声と共にテストが始まった。

「LCL電荷」
「圧力、正常」
「第一次接続開始」
「プラグセンサー、問題なし」
「検査数値は誤差範囲内」
「了解。作業をフェーズ2へ移行。第二次接続開始」

 リツコの指示が試験場に響く。アスカにも当然のように聞こえてくる。エントリープラグの中で目をつぶっているアスカの口元に微笑みが浮かんでいた。

「そっか……私、笑えるんだ」

 アスカはミサトとの先ほどの会話やレイとの話を思い出していた。

「あっ」

 アスカが漏らした驚きの声と同時にエントリープラグ内の光景が変化した。シンクロしているため実際の光景かアスカの脳内の光景か区別はつかない。ただ、あたりの色彩が七色に変化し、空間を笑い声が覆った。アスカはどこかに向かって落下する感覚を覚えて、顔が引きつった。
 アスカにとっては一瞬だが、総合指揮車からは一分ほどアスカが全く動かないように見えた。その後アスカの姿がモニターから消えた。
 
「プラグ深度、百をオーバー。精神汚染濃度も危険域に突入」

 女性オペレーターが叫んだ。

「なぜ急に」

 ミサトはエントリープラグ内のモニターを見るが七色の光の粒が点滅するのが見えるだけだ。さすがに焦っていた。

「パイロット、安全深度を超えます」
「引き止めて。このままでは搭乗員が人でなくなってしまう」

 リツコは自らも端末を叩いてアスカを引き戻そうとする。
 
「実験中止、回路切断」

 ミサトはもっと直接的に実験の中止を指示したが遅かった。

「ダメです。体内に高エネルギー反応」
「まさか」

 モニターの数値を見たリツコの声も震えている。

「使徒」

 ミサトが叫ぶとほぼ同時に仮設ケージ内のEVA三号機が雄叫びを上げ、すさまじいエネルギーを放出し大爆発を起こした。
 
 
 

「えっ、松代で爆発事故」

 シンジは食事会のためレイのマンションに向かっていた。丁度マンションが見えてきたときに連絡を受けた。ゲンドウを乗せた車も途中でUターンして本部へ向かった。本来ならシンジが鳴らしたはずのレイのマンションのチャイムはネルフの諜報部員が駆けつけ鳴らしていた。




 それにしても変態仮面の映画の第三弾は作られるのだろうか?シン・エバンゲリオンはいつ公開になるのだろうか?

次回「EVAザクラ新劇場版 破 第十四話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく



[43351] EVAザクラ新劇場版 破 第十四話
Name: まっこう◆564dcdfc ID:4098afbe
Date: 2021/04/02 22:25
シンエバンゲリオン見てきました。頑張れサクラちゃん。

-----------------------------------------------------------

 ミサトとリツコが松代で爆発に巻き込まれ消息不明のため、発令所のオペレーターの後ろで冬月が指令を出していた。使徒やEVAがらみだと電波障害が起こることが多いが、今回も例外では無く松代周辺からは全く情報が入ってこない。有線や光学観測は問題が無い事が多いが、辺りのメタルケーブルはEMPで吹っ飛んだため使えないし、光ファイバーも熱により分断している。航空機は気象状態が悪く近寄れない。頼みの綱は地上部隊からの目視と衛星軌道上からの観測だ。協定を結んでいるWWRのTB5も観測に参加しているが上手くいかない。使徒やEVAはロジックを超えたところにいるからだ。




EVAザクラ 新劇場版

破 第十四話

犠牲




「被害状況は」
「不明です。仮設ケージが爆心地の模様。地上管理施設の倒壊を確認」

 シゲルの後ろに陣取った冬月はディスプレイをのぞき込みつつ確認をする。

「救助および第三部隊を直ちに派遣。戦自が介入する前に全て処理しろ」
「了解」

 冬月の指令にシゲルがすぐさま対応する。シゲルの手が霞むようにキーボードを叩いている。

「事故現場南西に未確認移動物体を発見。パターンオレンジ。使徒とは確認できません」

 マコトの声にもいつもと違う緊張がある。現場指揮官と技術担当のトップがいないのだ。緊張もする。丁度その時ゲンドウの席が床下からせり上がってきて、発令所の司令席に収まった。

「第一種戦闘配置」

 ゲンドウの声に緊張はない。

「碇」

 ゲンドウの声にやっと気がついたのか冬月が後ろをちらっと見た。
 
「総員、第一種戦闘配置だ。修復中の零号機は待機。初号機はダミープラグに換装後、直ちに出撃させろ」

 冬月には目をくれずモニターの状況を見つめ続けながらゲンドウが言った。




 初号機は第三新東京市を少し外れた位置に待機していた。松代の方を向いている。地上は退避が済んだのか意外と静かだ。虫の音も聞こえる。ただ支援部隊の移動のためのエンジン音が聞こえてくる。初号機の周りはネルフの地上部隊、航空部隊が待機している。ただ一機だけWWRの機体が混じっていた。TBNが初号機の後方五百メートル、高さは初号機の頭の辺りでホバリングしている。パイロットはアオイ、後部座席にサクラが乗っている。ヒカリやホノカやナギサは他のTBメカで住民の退避などを手伝っている。
 シンジは初号機のエントリープラグの中でずっとモニターを睨んでいた。モニターには初号機の周辺と前方を拡大した映像が映っている。

「あの、ミサトさんやアスカ達は」

 初号機は山を遮蔽物にするようにしてうずくまっていた。

「現在全力を挙げて救出作業中だ、心配ない」

 シゲルの声がエントリープラグに響いた。

「でも他のEVAもミサトさんもいなくて、僕一人じゃどうしようもないですよ」
「作戦系統に問題は無い。今は碇司令が直接指揮を取ってるよ」
「父さんが」




 一方WWRのTB1は長野県上空へ直接観測に来ていた。使徒やEVAがらみの事故はある意味大規模自然災害とも言える。TB1は協定に基づき偵察任務を引き受けている。世界最速最高出力のVTOLで、元々WWRの偵察用の機体でもあるため適任だ。ネルフとの技術協力によりATFの検出機器なども搭載している。

「これは」

 細面のパイロット、マリエルはTB1の観察用の窓から下をみた。使徒やEVAだと可視光や赤外線以外の波長の電磁波は乱れる事が多く、目視が頼りになる。

「黒いEVA」

 TB1からの画像はレーザー通信で上空のTB5に送られそこから電波でネルフのMAGIに送られた。




「東御付近の映像TB1から届きました。主モニターに回します」

 シゲルが主モニターに転送されてきた映像を映した。発令所で一瞬声が上がった。

「やはりこれか」
「活動停止信号を発信。エントリープラグを強制射出」

 冬月のつぶやきに続いて、ゲンドウの指示が出された。だがマコトが実行した射出命令は無効になった。EVA三号機のエントリープラグは絡みついた粘液状の物に遮られて射出されなかった。

「ダメです。停止信号およびプラグ排出コード、認識しません」。
「エントリープラグ周辺にコアらしき侵食部位を確認」

 オペレーター達の報告が上がるが全てネガティブなものばかりだ。

「分析パターン出ました。青です」

 マコトの叫びはとどめと言える物だった。

「EVA三号機は、現時刻を持って破棄。監視対象物を第九使徒と識別する」

 オペレータ達の声と違い、ゲンドウの声は落ち着いた低い物だった。




「目標、接近」

 初号機のエントリープラグ内は静かだ。発令所のざわめきなどはキャンセリングされて伝わってこない。また、シンジを動揺させないためか、余分な映像もモニターに映らない。シンジはモニター内の光学望遠の映像を見る。何か異動する物体が映っているが詳細がわからない。その異動物体に地上部隊から砲撃、航空部隊からミサイルなどが集中するが特に歩みは変わらない。

「映像出します」

 そこにTB1からの映像が、エントリープラグのモニターに映し出された。

「まさか、使徒、これが使徒ですか」

 ATFのせいか少し揺らいだ映像だが、そこには黒いEVAが映っていた。

「そうだ。目標だ」

 うわずったシンジの声と違いゲンドウの声は静かだった。

「目標って、これは、EVAじゃないか、そんな」

 地上部隊や航空部隊の激しい攻撃も意に介さず、三号機が初号機に真っ正面から近づいてくる。

「目標は接近中だ。おまえが倒せ」

 ゲンドウの声にシンジは初号機を思わす立ち上がらせた。とは言ってもそれ以上は動かず立ちすくんでいる。

「でも、目標って言ったって、アスカが乗ってるんじゃ」

 手が震えているが動かない。初号機同様シンジは動かない。動けない。

「アスカが」

 動かない初号機と対照的に三号機は少しずつ距離を詰めてくる。うなり声を上げながらだ。夕陽を背にした三号機はその黒さがよけい目立った。二百メートルほどまで来るとそこで止まった。シンジはその様子をみて一瞬手の震えが止まった。次の瞬間三号機は雄叫びをあげた。同時に重力を無視したように高く飛び上った。空中で慣性をまたもや無視して体をひねると、そのまま初号機に跳び蹴りをはなつ。胴体部分に蹴りを食らって初号機は吹っ飛ぶ。三号機は反動で後ろに宙返りをすると四つ足で着地する。
 その時初号機のエントリープラグ内のモニターに三号機のエントリープラグの射出口が映し出された。エントリープラグは粘液状の物に遮られて、射出できないままだ。

「エントリープラグ、やっぱり乗ってるんだ」

 反射的に初号機を立ち上がらせたシンジだが、棒立ちになってしまう。三号機は咆哮を上げながら初号機の首につかみかかった。そのまま持ち上げる。その手はいきなり伸びて初号機を山の中腹にたたきつけた。初号機は首に掛かった手を掴みなんとかもぎ離した。だが今度は三号機の背中から人の手のような物が二本生え初号機の首を絞め始めた。

「装甲部頚椎付近に侵食部位発生」
「第六千二百層までの汚染を確認」

 マヤの報告はどんどん深刻な物に成っていく。

「やはり侵食タイプか、厄介だな」

 モニターを見て冬月は呟いた。




 そのころTB1とTBNは千メートル程離れた場所でホバリングをして待機していた。WWRとネルフの協定でも戦闘中のデーターはよこさない事になっている。ただ、純粋な観測能力という点ではWWRの方が上だ。おかげで初号機と三号機の状態もほとんど判っていた。

「なんでやっつけないのよ、シンジ君は」
「きっとアスカが乗っているから」

 TBNのパイロットのアオイはWWR一の武闘派で喧嘩っ早い。WWRで土門を除けば素手の喧嘩では三番目に強いと言われている。一番はセリカで二番はアヤカだ。そんな訳でやられる一方のシンジがじれったいようだ。

「じゃアスカちゃんの乗っているエントリープラグ引っこ抜けばいいじゃない。そのぐらい出来るでしょ」
「それならきっと出来る。イオス、初号機の通信に割り込める」
「出来ます」

 ほんの一秒またされた。

「どうぞ」

 次の瞬間、TBNの操縦席と後部座席のモニターに苦痛の表情を浮かべたシンジの顔が写った。初号機とシンクロしているため、初号機が絞められている首の辺りが指の跡があり凹んでいる。いきなり割り込んだTBNの通信に協定違反だと叫ぶマコトの声がモニター越しに微かに聞こえる。

「シンジ君、アスカの乗っているエントリープラグを引き抜いて投げて。そうしたら絶対安全な所に運ぶから。救助は本職よ」

 サクラの叫び声に目が霞みかかっていたシンジの表情が変わった。

「たすけられる」

 希望が力となった。意思の力がそのまま初号機の力になる。初号機は掴んでいた三号機の両腕を握りつぶした。三号機も痛覚はあるのか一瞬首に掛かった手の力が緩む。初号機はその瞬間首に掛かった手を払いのけた。素早く立ち上がると三号機に組み付いた。正確には三号機の肩に噛みついた。左手を首に絡めて、右手を三号機のエントリープラグに伸ばす。一瞬三号機のATFの抵抗があったが中和してエントリープラグを掴んだ。ATFが中和されているせいか簡単に引き抜けた。初号機は思い切り高くエントリープラグを放り上げた。エントリープラグの確保だけを考えていたシンジは他は見ていなかった。次の瞬間初号機の側頭部を三号機の手が叩き、シンクロしていたシンジは気絶した。




 一方TB1とTBNはアスカの救助の準備をしていた。エントリープラグは軽量化と剛性を上げるため非鉄金属を使っている。そのせいでマグネットキャッチャーは使えない。その為TB1のマニピュレーターで直接掴むしかない。本当は小回りのきくTBNの脚部が使えればいいが、エントリープラグを掴むほど大きくないからだ。

「サクラがフロートの魔法で浮かせるからマリエルさん捕まえて」
「了解」

 二機は一気に初号機と三号機に近づいた。大気圏内の加速では世界で一番と二番の機体のため瞬時だ。次の瞬間エントリープラグがほぼ真上に放り上げられた。凄い勢いで上昇していく。十秒ほど上昇をつづけた。TBNとTB1はほぼその真横を同じ速度で上昇をしていた。

「フロート!!」

 最大高度に達したあとは本来は落下するはずのエントリープラグだが、サクラの魔法でほんの五秒ほどその場に浮遊した。それだけ時間があればTB1のマニピュレーターで捕獲できる。TB1のマリエルはエントリープラグを捕獲するとネルフの発令所との回線を開いた。

「こちらWWRのTB1、EVA三号機のエントリープラグを確保。どこに運べばいいか指示をお願い」




 そしてダミープラグの力が解放されて、初号機は紫の獣となり三号機を蹂躙、破壊した。




 ミサトが目を覚ましたのはその三時間後だった。目を覚ますと目の前にいつもの無精ひげがいた。辺りを見回す。どうやら医療用車両の中らしい。確かチルドレンや要人用にそんな車両があったはずとミサトはぼんやりと考えた。ひげ面の後ろには看護師らしい女性が控えていた。

「生きてる」

 不思議そうにミサトは呟いた。左手に違和感がある。動かしてみる。何か変だ。左手を目の前に持ってきた。二の腕から先が無かった。

「加持」
「残念ながら、建物の下敷きになって潰れたよ」
「そう。リツコは?」
「心配ない。君より軽傷だ。腕はテルルの手を直ぐに付けてくれるそうだ」
「それはいいわ、どうでも。アスカは?」
「EVA三号機は使徒として処理された。初号機にね。アスカはWWRが協力してくれたおかげでなんとか取り戻せた。ただ使徒の浸蝕、汚染の可能性があるので低温冬眠状態で隔離処置になっている」
「そう。とりあえず生きてはいるのね」
「ああ。ただ元のアスカかどうかは判らないってりっちゃんが言ってた」
「そう。ありがとう、来てくれて」
「この前のお礼さ」




 三日後ミサトは病院のベッドにいた。あの後看護師に鎮静剤を与えられて眠り込んだ。何度か目を覚ましたが、その度鎮静剤で眠らされた。ベットで気がつくと、横でシンジが椅子に座って眠り込んでいた。シンジの横には猫の姿のアンズが床で寝ている。ミサトがシンジを見つめると視線を感じたのか、シンジが目を覚ました。シンジの後ろに看護師が控えているが、何も言わず二人を見ている。

「シンジ君」
「お別れを言おうと思って」
「お別れ?」
「そう。何もかも嫌になったから」
「何もかも」
「父さんは、アスカを助けようともせず、殺せって言ったんだ」

 シンジの声は静かだった。

「昨日、気がついたんだ。ここは嫌な世界だって。使徒やEVAがいて人が死ぬ世界。人が人を殺す世界。嫌なんだ」
「シンジ君、それが全てでは無いわ」
「どうでもいいです。全部じゃ無くても。もう人が嫌いなんです。僕が人が嫌いになったせいかな。姉さん猫の姿のままなんです。姉さんが支えだったのに」

 シンジは立ち上がるとアンズを抱き上げた。アンズは眠り続けていた。

「もう父さんにも別れを告げたから。初号機には乗らないって。引き留めもされなかった。初号機に乗らない僕は意味が無いようだから」
「そんな事は無いわ」

 ミサトの声も全く気にせず、病室の出口にシンジは向かう。

「ミサトさんにはお世話になりました。もう、会わないと思います。みんなに挨拶もしないしするつもりも無いから、ミサトさんからみんなに伝えてください。ではさようなら」
「シンジ君」

 ミサトの声を遮るように、ドアを開けたシンジは病室を出て行った。ミサトは思わず身を起こしたが手と腹部の痛みでまたベッドに倒れ込んだ。




「アスカの細胞組織の侵食跡は消えたものの、使徒による精神汚染の可能性も否定できない。このまま隔離するしかないわね」

 ミサトは控えていた看護師に鎮静剤を与えられてまた眠り込んでしまった。何かの気配で目を覚ました。リツコが来ていた。とりあえず現状の説明を受けていた。

「そう。処置はしないか。貴重なサンプルを無駄にするリツコじゃ無いわね」
「そういうこと。判ってるじゃない」
「付き合い長いから」

 リツコはベッドの横の椅子にすわっていた。足を組む。

「で、シンジ君はどうするつもり?貴方の担当よ」
「どうって言われてもね。私はシンジ君の自由意志を尊重するわ」
「無責任ね。初号機の運用、ダミープラグになるわよ。貴方の嫌いな」
「そうね。でもシンジ君、アンズちゃんのことぐらいしか興味が無い様子だった。多分説得しても無駄」
「貴方こそ無駄に決断力があるわね。少しは引き留めてみたら」
「元々向いていないのを無理にやらせていたわ。もう限界ね」
「そう。まあそうね」

 リツコは椅子から立ち上がった。

「シンジ君は誰にも言わずに街を出て行くつもりよ。引き留める人もいないしね」
「そう言えばレイはどうだった?引き留めたのかしら」
「いいえ。気にしているのかいないのか。もしかしたらシンジ君が街を去れば安全になるぐらいは考えているかもね」
「そう、かもね」
「まあ、ともかくミサトは体を休めなさい。シンジ君の事は加持君に伝えておいたから」

 リツコは言いたい事を言い終わると病室の出口に向かった。




「分かってると思うが、ネルフの登録を抹消されても監視は続くし、行動にはかなりの制限がつくよ」
「そうですか、もうどうでもいいです。姉さんさえいれば」

 シンジは小さなリュックを背負い、手にアンズを抱いていた。白い毛並みは変わらないアンズだが、覇気が無い。一気に歳をとったように見える。アンズは猫としてなら十八歳ともう老猫だ。本来の姿に戻っただけかもしれない。シンジはアンズを優しく抱いて撫でている。それを見る加持の表情は何時もと変わらない。

「俺は奇麗事は言わない。葛城と違って似合わないからな。アンズちゃん、寿命が近いんだろ。ネルフに任せてくれれば寿命は延ばせる。少なくとも楽に過ごせる。どうだい?」
「いいです。それは姉さんが望まないから。姉さんも僕も一緒にいたいだけだから。静かな所で」
「そうかい。じゃ引き留めないよ」

 ミサトのマンションの玄関での立ち話も終わりに近い。シンジは出て行こうとした。

「これだけ渡しとく」

 加持はポケットから少し厚めの腕時計を取り出しシンジのズボンのポケットに捻じ込んだ。

「WWRのソノミさんからのプレゼントだ。腕時計としても使えるが通信機にもなるそうだ。あの人は子供たち全員のお母さんを自認しているからな。まあ腕時計として餞別代わりに貰っておけよ」
「そう」

 特に嵩張る物でも無し、シンジはポケットに入れておくことにした。

「ま、達者でな。アンズちゃんも」

 加持はアンズの喉の下を軽く撫でる。アンズは少し目を開いたが直ぐにまた眠った。

「さようなら」

 シンジはキチンと挨拶をすると玄関を出て行った。




 一人と一匹はモノレールに乗り込んだ。他には誰もいない。おかげでアンズを撫でていられる。一応ペットキャリアーはリュックに入れて持ってきているが、アンズをそんな物に入れたくない。アンズは静かにシンジに撫でられている。ほとんど身動きしない。時々息をしているのかと確認をしてしまう。一晩ですっかり老描に成ってしまった。

「次は上強羅、上強羅です。お出口は、左側です」

 乗降の案内が流れた瞬間だった。辺りが赤く染まり緊急のアナウンスが流れた。

「ただいま日本政府より非常事態宣言が発令されました。緊急条例に基づき、当列車は最寄の退避ステーションに停車いたします。降車後はすみやかに指定ホールの退避用ラインにご乗車ください」
「使徒だ」

 シンジはアンズを撫でる手を止め呟いた。




「へっくしょんっ。あーさむ」

 親父くさいくしゃみをしたのは、一応美少女と言えるめがねの少女だった。すらりとした長身に長い金髪が栄えている。ただその金髪は染めた物かもしれない。髪の根本が黒くなっている。以前シンジが屋上にいたとき空から降ってきた少女だ。少女はEVAに乗るためゴンドラで移動中だ。吹きさらしでピンクのプラグスーツに着替えている。くしゃみも出るはずだ。少女がプラグスーツの腕のトリガーを押すと、余分な空気が抜け体に密着した。

「さすが新型、胸もぴったりで、気持ちいい、マユミ感激。ってマユミって誰?私はマリよ」

 マリは目を寄せて頭を捻る。腕を組んで考える。

「わかんない。ま、細かい事は気にしないで、行ってみよう」




 地上では、ネルフの部隊による使徒への攻撃が始まっていた。使徒はダルマのような胴体から微かに両足の出っ張りがふくれて、両手の位置には何か折り畳まれているような物体が付き、骸骨を縦に引き延ばした様な顔らしき物が付いている。時々目から荷電粒子砲のような光が飛び出てネルフの部隊を蒸発させていた。

「目標は」

 冬月の声がシゲルにとぶ。発令所は地上部隊からの報告で怒声が飛び回っている。

「現在も進行中です。旧小田原防衛線を突破されました」

 使徒の目がひときわ明るくきらめいた。使徒の前方にあった兵装ビル、地上部隊は一気に蒸発した。その爆風に辺りが激しく揺れた。

「ここまで衝撃波が届くなんてただ事じゃないわ」

 ミサトはゴンドラの中でその揺れに襲われ、ゴンドラの壁に倒れ込む。思わず左手で体を押さえようとして、バランスを崩した。ゴンドラのベンチに座り込む。

「ちくしょう」

 切断された左腕の先端を忌々しげにみつめた。司令所まではまだ少しかかるここで焦ってもしょうがない。ベンチでヘッドギアのスピーカーから流れてくる報告に耳を傾けた。

「第四地区に直撃。損害不明」
「地表全装甲システム融解」
「二十四層すべての特殊装甲が、一撃で」

 いつも驚いているマコトではあるが、被害状況を確認すると声が引きつった。

「総力戦よ。要塞都市すべての迎撃設備を特化運用。わずかでもいい、食い止めて」

 ミサトが指示を出したちょうどその時、ミサトの乗ったゴンドラの反対側の車線をEVA二号機を載せたキャリアーが上がっていくのが見えた。

「EVA二号機。誰が乗っているの」
「不明です。こちらからの出撃命令は出ていません」
「パイロットは、シンジ君の言っていたあの子かしら」

 シンジが以前空から落ちてきた少女の事を言っていたのを思い出す。LCLの臭いが判るシンジと同じ年頃の少女というだけで怪しい。だがアスカがいない今ではありがたい。

「まあ、いいわ」




「NN誘導弾の使用を許可する」

 マコトが地上部隊に指示を出したところでミサトが発令所に駆け込んできた。オペレーターたちに怒鳴りつける。

「EVAによる地上迎撃では間に合わないわ。ユーロに協力を要請。二号機をジオフロントに配備して。零号機は」
「左腕を応急処置中。かろうじて出せます」

 マヤが怒鳴り返す。

「完了次第、二号機の援護に回して。単独専行は危険だわ」

 ミサトはマコトの後ろに陣取った。

「了解」
「初号機は」
「現在、ダミーシステムで起動準備中」

 マヤの後ろにいたリツコが静かな通る声で答えた。

「作業、急いで」




「姉さん、狭いけどごめんね」

 シンジはリュックを腹の前にまわしている。アンズはリュックの中のペットキャリアーに入れている。避難の際に怪我をさせないようにだ。アンズは時々微かに鳴き声を上げている。シンジに生きているのを伝えているのかもしれない。地下シェルターに退避するための専用のモノレールは今市民でいっぱいだ。シンジはモノレールの端の方で座り込んで、アンズに声をかけている。周囲の市民は使徒襲来の恐怖で興奮しているが、シンジはアンズにしか興味が無いのだろう。抱えたリュックをじっと見ているだけだ。

「市街地の方は」
「ここはジオフロントのシェルターだ。この世で一番安全だよ」

 安全と言う言葉に反応したのか、シンジは少し上を向いた。だが直ぐ視線を降ろした。

「安全なんて」
「にゃ」

 シンジの声を聞いたせいかアンズが鳴いた。シンジはリュックを強く抱きしめてまた下を向いた。




 その頃、発令所は混乱の極地となっていた。あらゆる警報が鳴り響いている。

「目標、ジオフロント内に進入」
「EVA二号機、会敵します」

 ミサトはマコトとシゲルの報告に顔色一つ変えない。マコトの操作パネルのデーターをじっと見ている。

「二号機との通信は」
「相互リンクがカットされています。こちらからは」
「そう、一人でやりたいわけね」




 二号機がジオフロントへ飛び出た。マリは二号機の操縦系を確かめる。問題ない様だ。落ち着くためか深呼吸をする。

「いい匂い。他人の匂いのするEVAも悪くない。第五次防衛線を早くも突破。速攻で片づけないと本部がぱーじゃん」

 二号機は両手で持った二丁パレットガンを上から舞い降りてくる使徒に向かって連射する。だがATFに遮られて、全く効果を上げていない。二号機のATFでは中和しきれないようで、ATFの衝撃波面は二号機の近くにある。

「ATFが強すぎる。こっからじゃ埒があかないじゃん」

 二号機はパレットガンを後ろに捨てた。付近の武装コンテナのペダルスイッチを足で踏みつけると別の武器が飛び出てきた。それはレシプロソーに似ている。持ち手の先に細い鋭い歯が付いている。武器は二号機の手に収まった。

「これで行くか」

 丁度その頃使徒はジオフロントの地表面に舞い降りた。二号機はダッシュして高く舞い上がる。ATFの反動も使い急速に落下し使徒の頭に武器の刃先を突き立てた。だが使徒のATFに遮られる。

「ゼロ距離ならば」

 手の武器は囮らしい。二号機は肩に内蔵したニードルガンを連射した。だがその攻撃も鉄壁の使徒のATFに防がれ、おまけに急拡大したATFの反動で二号機も吹き飛ばされてしまった。

「いて~」

 つい頭を押さえてしまったマリだがそれもしょうがない。二号機は地上設備の残骸に頭からたたきつけられたからだ。だがそうもしていられない。使徒は二号機の方を向いた。

「やばっ」

 二号機がバク転で退避すると、そこに使徒の荷電粒子砲の一撃が来た。なんとか攻撃を回避できた。




 シン・エバンゲリオンを見てきたが、内容を完全に理解できた人はいるのだろうか?サクラと名が付く少女は切れると怖いのはどこでも同じなのか?

次回「EVAザクラ新劇場版 破 第十五話」
さぁて、この次もサービス、サービス!

つづく


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.078339099884033