「志乃君!もうやめなさい!!終わりよ」
葛城ミサトはそう叫ぶ。それに反抗するように不気味な笑い声が返ってきた。
「なんで!?まだまだ死んでないよ!!思い知らせなきゃ、もっともっと
苦しめなきゃね!!」
鮮やかな水色のエヴァは何度も使徒を殴りつけ真っ赤な池が出来上がってから
動きを止めた。戻ってきた志乃はまだ笑みを浮かべて余韻に浸っている。
「帰って来なさいと命令したはずよ志乃君」
ミサトは志乃を睨む。それでも彼は首を傾げる。
「?どうして?俺はしっかり殺してやった。その後は俺の自由だろ?それに
シノが言うんだ~俺にこいつを潰してくれって!」
フラフラと彼は部屋を出ていく。こんなに不気味な少年は見たことがない。
何か理由があるのか。志乃は嬉しそうに家に帰ってきてぬいぐるみを抱く。
水色のウサギのぬいぐるみだ。妹はずっとこれを大切にしていた。
―お兄ちゃん!
「ッ!?シノ…?あぁ、シノ!!!」
確かにいるはずなのに彼女を抱くことはできなかった。「あー…」姿が
見えなくなり再び妹はいないのだと自覚する。
「これが…新型のエヴァ、漆号機か」
ゲンドウは鮮やかな水色の機体を見つめる。コアの中には二人の魂が
しまってある。狂っている少年の母と妹の魂だ。
第10使徒が現れ、いつも通り志乃は飛び出す。他を待たず零号機を取り込んだ
使徒にとびかかる。漆号機の片腕が吹き飛ぶ。荒い息が聞こえた。
痛みに苦しんでいるのではなく逆にそれを楽しんでいるようにも感じる。
否、彼の行為はまるで死に場所を探しているかのよう。
「志乃君!!撤退よ、ここで死んじゃ駄目よ!!」
「うるさい!!黙れ!!!シノが、シノがいるんだ!!シノが言ってる、こっちで
一緒に遊ぼうって!!」
笑いながら彼は再び動き出した。
―お兄ちゃん、悲しいの?
悲しい?まさか、お兄ちゃんは凄く嬉しい!だってやっとシノに会えたんだ!
全身骨折では済まされない、全身の機能が全て麻痺している。彼は最後まで
狂っていた。
「なんで…貴方はそこまでして」
「シノに死ねって言われれば死ぬ、殺せって言われればコロス…だけど
シノがいつも言う。一人にしないでって」
あの日、初陣から戻ってきたとき彼はそういった。そして片腕の包帯を
全て取って腕を上げる。
「だから探してるんだぁ♪妹たちと一緒に死ねる場所!妹と同じぐらい
苦しんで、苦痛の中で死にたい!!!」