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[37289] Muv-Luv in 1998 九州戦線~英雄の子供達~
Name: 水無月◆2cb962ac ID:c38a834a
Date: 2013/04/15 18:14
慣れないSSを書いてみました。
1998年のBETA日本上陸における九州戦線の部隊がメインとなります。
原作やメカ本等を出来る限り踏襲しようとは思いますが、矛盾が生まれるかもしれません。
もしよかったらご指摘、ご指導ください。


以下の要素を含みます。
・ほぼ、オリキャラです。
・設定もオリジナルな部分があります。

仕事ある身ですので、少し短めかもしれません。
ですが、投稿をコンスタントにやっていきたいと思っています。
ではでは、よろしくお願いします。

※以前チラシの裏で一部だけ投稿していたものと同じ内容です。

2013/4/15



[37289] 第一話 「BETA襲来」 第一節
Name: 水無月◆2cb962ac ID:c38a834a
Date: 2013/04/15 18:13


“1998年7月7日”



 その日付を聞いて、何の感慨も抱かない日本国民はいないだろう。
 ある者は思い出したくもないと首を振り、またある者は怒りがこみ上げてくるのを抑えられまい。
 だがほとんどの人間は、悲しみの表情を浮かべて、きっとこう言うのだ。
 「あんなことは、もうごめんだ」と。
 
 1998年7月7日……その日、日本は醜悪な侵略者『BETA』の侵攻を受けた。
 列島へ突きつけられた匕首である朝鮮半島が落ちたときから、それは宿命づけられた事柄だった。

 …………一週間。

 たった一週間でBETAは九州、中国、四国地方を呑み込み、3600万に及ぶ人間の尊厳と命を蹂躙した。
 そして、四季と豊かな自然が長い時間を懸けて生み出した、本当に色鮮やかで美しい青山は特徴もない灰色に、
 瑞々しい清流は乾いた茶色へと染められていった。

 けれども、ただ敵にされるがままだったのではない。
 BETA上陸に際し、帝国本土防衛軍において「最精強」と呼ばれた西部方面軍麾下、福岡第4師団、熊本第8師団、
 都城第15師団は、卑怯なる侵略に抗し戦いを挑む。
 大型台風という天災にあって、そして先の朝鮮陥落時に行われた脱出計画“光州作戦”の傷跡も癒えないままに。
 それは故郷を守るため、愛する人を守るため、自らの務めを果たすため。 彼らと彼女らの願いは、どこまでも
 純粋なものであった。

 だが、その想いが報われることは決してなかった。
 北九州だけでなく、BETAは熊本や中国地方にも上陸。 それらBETAによって挟撃され、西部方面部隊は壊滅してしまう。
 台風によって戦力配置が遅れ、本州や海からの増援が間に合わなかったのだ。
 戦力が圧倒的に不足している以上、そうなるのは必然だった。
 そして追撃される形となった西部方面部隊は、文字通りBETAの「餌食」となっていく。
 自らを守ってくれるはずの存在を失った、人々もまた同様に。
 ……これが、一週間で3600万人という犠牲者を生むことになる、誰もが忘れたい“史実”である。



 ―――だが、
 BETAによって部隊が壊滅した後も人々は逃げ続け、
 最後のそのトキまで抵抗を続ける兵士達がいたのもまた、
 忘れてはならない“史実”である。





 <Muv-Luv in 1998 九州戦線 ~英雄の子供達~>





  ―――背にシートで覆われた大きな荷物を抱え、大型トラックが九州の大動脈である九州自動車道を進む。
  真っ黒に淀んだ空からは大粒の雨がバシャバシャと車をうち、強風がときに揺らすこともあった。
  その振動が、ふと、シートの中で眠っていた一人の少女を起こす。 彼女はぶんぶんと首をふりつつ、
 揺れに気をつけながら立ち上がる。
  “ようこそ熊本市へ”という看板が自動車道脇に現れ、シートの隙間からそれを見た少女は、クスリと頬を緩めた。
  そのとき強風がシートの隙間から入り込み、彼女をないだ。

  艶やかで瑞々しい漆黒の長髪が大きく舞い上がり、パラパラと音を立てて流れていく。
  覗いたのは真っ白な肌と、頬に小さく浮かぶピンク色の赤み。 長い睫毛と、二重瞼でぱっちりとした大きな瞳。
  年齢は16、7歳くらいだろうか。 衛士強化装備によって浮き出た大人らしい体つきに比べ、目の輝きは未だ
 初々しく、どこかあどけなさを感じさせる。
  一見して美少女である。 この年頃であれば、学校で友人達との恋愛話に花も咲かせるだろう。 そして異性達の
 話題の的となり、青春に相応しい、甘酸っぱい思い出を作っていてもおかしくない。

  ……だがそれも、“平時”での話だ。 今は“有事”である。
  彼女は、狭い肩と細い腕に不釣り合いな大きい小銃を担ぎ、斯衛軍の制式装備である漆黒の88式衛士強化
 装備をその身に纏っていた。
  兵士なのだ。 他の皆と同様に、当たり前のように。
  戦いを業とし、敵を殺すことを務めとする一兵士。 今ここでこの時で必要なものは、華ではなく血と汗と硝煙の匂いを
  感じさせる屈強さだ。
  そんなものなど微塵も感じさせず、少女はシートから顔を出し、風で自分の髪が乱れないよう抑えながら辺りを
 見渡した。
  昼時であるのに、空は真っ黒だ。 雷鳴もときに聞こえ、その度に彼女は体に力が入る。
  ……その中に混じって、戦闘音も耳に入った。
  少女は顔を険しくさせた。 自分がそこにいられないことの悔しさと、ただ離れることしかできなかった不甲斐なさ
 が堪らなかった。
  それが自分の未熟さゆえにとわかっているのだから、彼女はなお苦しさを感じた。
  屈強さこそ持ち合わせていないが、彼女は戦場にヒロイックな華を求める酔いと甘さは有していたのだ。

  ふと視界をずらすと、とてつもなく大きな山が目に入る。
  少女はすぐにそれが「阿蘇山」であると分かった。 熊本県の象徴、古代より“火之神”として崇められてきた
 神山である。
  知らず知らずのうちに二つの手が合わされ、彼女は祈り始めた。
  一つは先の戦闘で亡くなった大勢の御魂の安らぎを。 もう一つは今現在も戦い続けている戦友達の無事を。
  そして最後に、侵略者を討つための力を。
  目を瞑り、ただひたすらに、彼女は請い願った。
  ……どれほど手を合わせていただろうか。
  顔を上げる。 幼いながらも凛々しいその少女は、静かに息を二、三度吐き出し、表情を決意と覚悟によって
 彩っていく。
  彩りが進む中、彼女を乗せたトラックは更に進む。 その先では無数の戦車が鉄の音と油の匂いをさせながら
 屯し、更に奥で、鋼の防人――戦術機達が縦隊で隆立し、こちらを見ていた。
  ……それは紛れもなく、これから真っ白なキャンパスが戦場として彩られる、その前段階のさまだった。




[37289] 第一話 「BETA襲来」 第二節
Name: 水無月◆2cb962ac ID:c38a834a
Date: 2013/04/15 18:28



 「ほっ」

  停車したトラックから少女は跳び降りる。
  ビチャッ、と地面の泥が跳ねた。 九州を覆っている大型台風によって、地面がぬかるんでしまったのだろう。
  少女はうわ、とイヤそうな表情を浮かべるが、すぐに気を直し、トラック脇に向かい、そこに取り付けられている
 スイッチを押す。
  するとシートで覆われたまま荷台が徐々に立ち上がっていき、最終的に直角の位置まで押し上げられた。
  それから整備兵達が、雨と強風の中でゆっくりとシートを剥いでいく。

 「…………」

  漆黒に染め上げられた人型の機体。 
  人類初の戦術機であるF-4をベースとし、皇帝と将軍を守護するために作られた帝国斯衛軍の忠義なす剣。
  それは、TSF-TYPE82C “瑞鶴” と呼ばれている。

 「……皮肉なものだな」

  「鶴」の名を冠されているにもかかわらず黒一色とは、と自分の瑞鶴を見る度に思う。
  白く美しい羽根を持ち、古来より霊鳥として扱われてきたのが鶴である。 それが今や、神も仏もいないかの
 如く振る舞われる戦場で漆黒の鎧として扱われている。
  彼女はそれを矛盾であると思っている。 そして同時に、その矛盾が自分の出自と今の待遇にあまりに合致して、
 他人事とは思えなかった。

  ふと、少女は脇から白木で出来た棒状のものを取り出し、目の前へと持っていく。
  両端を手でしっかりと握り強く引くと、白木は二つに別れ、中から刃紋が美しい一本の短刀が姿を現わした。
  それは彼女自身の出自を表す、たった一つの『証明』である。 その刀身に映る自分を見ながら、少女は大きく
 息を吸い込み、吐き出した。
  そしてゆっくりと、まるで染み込ませるように、言葉を発した。

 「お前は、誇り高き武家の長女だ」
  
  一言一句、重くはっきりと。 これは自分が何者で、何に属しているのかをアイデンティファイする『儀式』である。
  彼女は自分の同一性を脅かされるたびに、この儀式を通じて自らを再確認する。 自分の使命と帰属を
 思い出すために。
  ……彼女は儀式を終え、短刀を元に戻し改めて瑞鶴へと向き直る。 暗く沈んだ、その瑞鶴へ。
  “武家”の瑞鶴はその名の如く、白美に染められていなければならない……だが彼女に与えられたのは、闇黒
 に塗られた機体だ。

  武家とは、江戸時代において編纂された武家系譜集を基に、明治政府が認めた諸人によって構成される階級のこと
 である。 当然、その中に認められない家も多数あった。
  例えば幕府や大名家に対し反逆した者であったり、江戸時代末期に行われた大政奉還を最後まで認めなかった
 下級武家がそれに当たる。
  彼女の場合も、その例に漏れなかった。 少女の家は幕藩体制において平民を苦しめ、享楽を貪った主君を
 正そうと行動したが故に、家を取りつぶされた経緯がある。
  だから彼女は、自分を「守られるべき弱い平民」と思ったことはない。 「守るべき高貴なる武家」と常に教わった
 し、自分もそう確信している。

 「瑞鶴、誇りに思うが良い。 本来ならば貴様には平民が乗らなくてはならない。
 武家である私が乗ることなど、まずありえないのだから」

  少女は巨大な乗機を眺めながら、そう呟いた。
  嫌いなのである。 その色が、目の前にある瑞鶴が。
  自身を武家と認じていながら、他者からの評価はそうではないということを、この瑞鶴は彼女へ突きつける。
  
 「……馬鹿か、私は」

  ふと、彼女は顔を赤くし、俯いた。
  愚痴、しかも物言わぬ機械にそんな言葉を吐くなど、と自分の行為を恥ずかしく感じたのだ。
  言葉ではなく行動で示す、それが彼女の指針である。 一週間前に訓練学校を卒業し、やっと前線へと
 配属されたのだ。
  自分の血と信念を表せる場へようやく来れたのなら、行うことは一つだけだと自分を叱咤する。
 
 「私の任務はBETAを倒すことだ。 それに注力すればよいのだ」
 「“吉野阿子”少尉」

  ふり返ると、そこには敬礼をしつつ声をかける、本土防衛軍の制服を着た若い男子の姿があった。
  彼女――“吉野阿子”も敬礼し、「何か?」と返した。

 「あなたが配属される部隊のことなのですが」
 「ああ」

  やっと来たか、と阿子は笑みを浮かべる。
  そもそも、たった一週間前に斯衛の訓練学校を卒業し、正規兵となった彼女がここ九州へやって来たのは、
 数ヶ月前に行われた光州作戦の損耗分を一時的に補充するためだった。
  まさかその当日にBETAが上陸してくるとは考えなかったが。 だから彼女は配備先の福岡から、ここ熊本へ
 下りてきたのである。

 「それで、私はどこの部隊に配属されるのだ?」
 「はぁ、それが」

  若者は言葉に詰まる。 阿子は不審に思いながらも、彼の言葉を待ち続けた。

 「あなたが配属されるはずの部隊ですが、福岡での損耗が激しく……
 もはや部隊としては機能しないものと」

  阿子は目を大きく開き、愕然とした。
  福岡での戦闘がいかに熾烈なものかは、周りから聞いて知っている。
  戦闘には勝利したが、こちらの損害も大きなものだった。 そして斯衛は、戦場にあっては常に前線に立つものだ。
  もっとも苛烈な戦場へと飛び込むのが、斯衛の務め……その結果は、いつも凄惨なものである。
  勝利にあっても。 敗北にあっても。

  阿子は歯軋りを堪えられなかった。 悔しさがこみ上げ、BETAに対する憎しみが更に生まれた。
  だが同時に、自分が配属されるはずだった部隊の戦友を、少し『羨ましい』とも思う。
  敵の攻勢がもっとも激しい戦場へ出撃し、戦死するとは、斯衛としてこの上ない『名誉』である。
  彼らは死後も『英雄』として語り告がれるだろう。 阿子は自分がその名誉を得る“好機”を逃がしたことを、
 少し残念に思った。

 「そうか。 彼らは立派に戦ったのだろうな。
 彼らの分も、戦わなくては」
 「そうですね少尉。 必ずBETAを殲滅しましょう」
 
  防衛軍の若者は、何故か彼女の言葉に忙しく返した。
  それが阿子にはどうも不審に思えた。

 「少尉、こちらが本部からの指令を示した書類です。 あなたが配属される先も書いてあります。
 では、私はこれで失礼します」
 
  彼は阿子に書類を渡すと即座に敬礼し、足早にその場を後にした。
  まるで逃げていくようなその態度に、阿子は返礼する間もなく、ただ呆然と眺めるしかない。

 「何なのだ一体」

  彼の行動を不審に思いつつも、新たに指示された自身の配属先が気になり、視点を切り替える。
  阿子は濡れないように、テントに向かって走ると、改めて書類へと目をやった。
  それによれば、九州には隊を構成出来る斯衛軍の戦力がもはや存在しないこと。 よって、阿子は本土防衛軍に
 出向の形をとり、現地の部隊へ配属される旨が記されていた。

 「平民の部隊に配属される、か。 まあ斯衛部隊がない以上、仕方ないか」

  更に書類を読み進めていく。 そして最後のページに、ようやく自分の配属される部隊名が現れた。
  ……阿子はその部隊名を見た瞬間、顔を険しくさせた。

 「なんとも不吉な名前だな……」

  そのページには手書きで、
  “斯衛軍、吉野阿子少尉。 本土防衛軍 都城第15師団 第4戦術機甲連隊 第4大隊隷下、第4中隊への配属を命ず”
  とだけ書かれていた。

  『都城第15師団、略称“第444戦術機甲中隊”』

  これが彼女に指示された新たな配属先であり、書類は慌てて書かれたのか、乱れていて汚い文字だった。






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