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[39941] 【マブラヴアンリミテッド×リトバス】終わりゆく世界【理樹主】
Name: 純金◆40e6eaeb ID:e91c0d77
Date: 2014/05/19 00:24
初めまして、純金と申します。

某小説投稿サイトに、いくつか掌編を投稿したことがある程度の若輩者ですが、温かい目で見守っていただければと思います。

リトルバスターズ!はVITA版にてコンプリート。マブラヴは無印、オルタを共にクリアしています。

いつかラブコメ作品の主人公をマブラヴ世界に放り込んでみたいと切望していたのですが、中々心から好きになれるラブコメ作品に巡り会えず、マブラヴの二次創作を書き始めることが出来ませんでした。

しかし、大学受験を終えて出会ったリトバスをクリアし、ようやく大好きだと胸を張って言えるラブコメ作品に出会えたため、筆を執りました。

拙作は一応、マブラヴにおける【Unlimited】編を下地にしていますが、原作が手元にない都合上、所々違和感のあるシーンがあるかもしれませんので、平にご容赦ください。

いずれはオルタネイティヴ編も書いてみたいと思ってはいますが、まずは拙作を完結させることを目標にします。

僕の好みと、リトバスの雰囲気を重視して、基本的に軽めなノリで進行していきます。

また作品の構成上、両作品の重大なネタバレを連発することになると思うので、そのあたりもご了承ください。

メインに極力オリキャラは出さないつもりですが、リトバス、またはマブラヴのオリ設定が時々出るかもしれません。ちなみに、作品の構成上マブラヴキャラは大半がリトバスキャラに置き換えられているので、ご了承ください。

オリ設定例
:あーちゃん先輩の本名

では、どうぞごゆっくりお楽しみください。

2014年5月17日 第1話修正しました。



[39941] 第1話  何かが起きた世界
Name: 純金◆40e6eaeb ID:e91c0d77
Date: 2014/05/17 17:48
「…………あれ?」

 目を覚ましたとき、僕は瓦礫だらけの町に一人きりだった。
 辺りを見渡しても、人っ子一人どころか、鳥の一匹も飛んでいない、寂しい町並みだった。
 身体を起こすと、節々が痛かった。まるで、鉄の塊の上で寝ていたみたいだ。
 ふと、僕は振り返る。
 そこにあったのは、くすんだ青色の、巨大な重機のようなものだった。
 より正確に言うと、人間と同じように四肢と頭のある、アニメのロボットみたいな重機だった。
 肩や胸、太ももの装甲がやけにゴツゴツしている割に、胴体がコンパクトにまとまっている。
 何より目を惹いたのは、何かに引き千切られたようにもげた、左肩だった。
 ミリタリーにはあまり詳しくないけど、少なくともミサイルか何かで吹き飛んだのなら、もっと焦げ跡とかがついていてもおかしくないような……とにかく違和感のある千切れ方だった。
 ふと、恭介あたりなら、こういうロボットを見たら、即座に夢中になるだろうな、と思う。
 そうだ、皆はどこに行ったんだろう。

「……恭介? 謙吾? 真人? 鈴? ……皆?」

 慣れ親しんだリトルバスターズの面々を呼んでみても、誰の返事も返ってこなかった。

「……恭介でしょ? 今度は何をしたの? ここは……誰がつくった世界なの?」

 少し声を大きくしてみる。でも、やっぱり返事はなかった。
 眠りに落ちる前のことを思い出してみる。
 確か、事故の怪我から復帰した恭介に連れられて、皆で海に行く途中だったはずだ。
 途中から、車内が狭いとか言い出して、謙吾がいきなり窓から天井に乗り出して、負けじと真人も上に乗ったもののすぐに転げ落ちたりと、二人らしい光景に皆でお腹を抱えて笑っていた。

 車中では他愛もない話でずっと盛り上がってたけど、2時間、3時間と時間が流れるにつれて、徐々に皆も寝息を立て始めて……そして、僕も睡魔に負けて眠ってしまった。

「とりあえず、この町を探検してみよう」

 何となく、この町が、僕たちが住んでいた町に似ているような気がした。
 もちろん、自分の町を隅から隅まで知り尽くしているってわけじゃないけど、強いて言うなら僕の勘がそう言っている。
 
「そんなわけ……ないよね、はは」

 心に浮かんだ不安を、乾いた笑いで吹き飛ばそうとするけど、出来なかった。
 そして僕は歩き出した。


 ◆


「そんな……」

 結論から言って、この廃墟は確実に僕たちの住んでいた町だった。
 商店街、並木道、河川敷、エトセトラ。
 とにかく、全てのファクターが、僕の確信の裏付けを果たしている。

 いや、まだ一箇所だけ行っていない場所があった。
 時々視界に入りそうになっても、必死で目をそらし続けた場所が。
 
 僕たちの通う学校が。

「…………」

 正直、怖かった。
 あそこが、町のように廃墟と化していたら……僕は平静ではいられない。
 リトルバスターズの皆と、最高に輝いていた日々を送ったあの場所が、無残に破壊されている光景なんて見たくない。
 だけど、

「これからは強く生きる、だよね。……恭介」

 現実から目をそらし続けてはいられない。いちゃいけない。
 例えそれがどんなに過酷なものであっても、前を向いて歩いて行かなくちゃいけないんだ。そんなんじゃ、恭介や真人、謙吾に顔向け出来ない。

「……行こう」

 僕は学校に向かって歩き出した。


 ◆


 桜並木が両脇に見ながら、僕は学校へ続く坂道を登っていく。
 もっとも、桜は季節じゃないのか、ろくに葉もついていなかったけど。
 もし、僕が寮生じゃなかったら、毎日この坂を登って登校していたのかもしれない。
 目線は、なるべく足元だけを見るように下向きのまま。

「…………」

 黙々と足を進めていくと、坂の傾斜が緩くなった。校門が近い証だ。

「…………さて、と」

 登り切り、平坦な地面に足をつける。
 そして、意を決して顔を上げた。

「……アンテナ?」

 真っ先に目に飛び込んできたのは、巨大なパラボラアンテナ群だった。
 まるで安いSF映画の軍事基地みたいな見た目に、僕はつい吹き出しそうになる。
 校門のすぐそばには、警備員の詰所のようなプレハブの建物があり、よく見ると門もかなり頑丈そうなものになっている。

「恭介……いくらなんでもこれはないよ……」

 多分、恭介の大好きな漫画『学園革命スクレボ』に、こんな風に要塞化された学校が出てきたんだろう。恭介はすぐ漫画に影響されるから、よく分かる。
 校門には2人の銃を構えた男の人が立っていた。場所柄的に、そして恭介的には番兵とか、そういう役柄なんだろう。階級は伍長とかそのあたりだろうか。

「なんだ、外出してたのか?外に出ても何もないだろうに。物好きな奴だな」

「ほら、認識番号と部隊所属名。あと、外出許可証を提示してくれ」

 彼らに近づいていくと、それぞれ東洋人と黒人の番兵が、フランクに話しかけてきた。
 どうやら、僕をこの基地の兵士だと勘違いしているみたいだ。

「そういえば、その制服やけに綺麗だな。どこで手に入れたんだ?」

 東洋人の方が、ぺたぺたと僕の制服の肩口を触っていたが、突然電流でも流されたかのように飛び退いた。

「……基地で支給している制服と生地が違う。それに、階級章が付いていない」

 にわかに緊張感を帯びた顔つきで、番兵が問いかけてくる。

「繰り返す。至急、認識番号と部隊所属名、外出許可証を提示せよ。指示に従わない場合は、実力行使も厭わない。……おい、司令部に通達だ」

 無言で黒人の方が頷き、詰所に消えていった。

「これが最後通告だ。至急、認識番号と部隊所属名、外出許可証を提示せよ」

「……も、持ってませんっ。とにかく、中に入りたいんです。通してくださいっ」

「そうか。……悪く思うなよ」

 そして僕は番兵に拘束され、数時間にも及ぶ尋問と身体検査の後、独房に閉じこめられた。



[39941] 第2話  既知との遭遇
Name: 純金◆40e6eaeb ID:e91c0d77
Date: 2014/05/18 15:00
「はあ……」

 僕は硬い寝台に腰を下ろしたまま、何度目かも分からないため息をついた。
 もう、何がなんだかさっぱり分からない。とにかく、知っている顔に会いたくて仕方がなかった。
 そのとき、こつん、と廊下の角からパンプスの靴音が聞こえた。

「…………」

 背中まで届く長い黒髪。サイドをリボンで纏めた髪型。整った顔立ちに、ピンと背筋の伸びた立ち姿。何故か着ている、糊の利いた白衣。
 そして、いつも何かを企んでいるかのような不敵な笑み。
 僕は、思わず叫んでいた。

「来ヶ谷さんっ」

「…………」

 不思議なことに、来ヶ谷さんは僕の呼びかけには答えず、ただ僕を冷たく見下ろしているだけだった。

「ねえ、これどういうことなの!? 目を覚ましたら町が壊れてて、学校が基地になってて、学校に入ろうとしたらいきなり捕まって……もうわけが分からないよ!」

「……何故、私の名前を知っているんだ? 不審者君」

 僕の必死の言葉にも、ただ彼女は静かにこう言っただけだった。

「何故って……同じリトルバスターズの仲間だからに決まってるじゃないか! ほら、さっきだって一緒に皆で海に行こうとしてたでしょ!」

「リトルバスターズ?」

 やっと来ヶ谷さんは怪訝そうに眉をひそめ、首を振った。

「知らないな。聞いたこともない」

「そんなっ……!」

 ありえない。
 リトルバスターズを潰そうとした高宮さんたちに対して、あんなに激怒した来ヶ谷さんが、そのリトルバスターズの名前を忘れているなんて。

「もしかして……また事故があったの?」
 
 僕は恐る恐る尋ねた。
 海に向かうバンが、何らかの形で事故に遭い、その影響で来ヶ谷さんが一時的に記憶を失っていること。
 そんなありえない憶測が事実であることを願って。

「……すまないが、私にはさっきから君が何を言っているのか分からない」

 当然ながら、ばっさりと切り捨てられる。

「繰り返すが、何故私の名前を知っていたんだ?」

「いやだから、さっき説明した通りだよ。からかうのやめてよ、来ヶ谷さん」

「では、そのリトルバスターズとやらについて聞こうか。それは、一体どういう団体なんだ?」

「どういうって言われても……野球チームだよ。まあ、それ以外にもいろいろしたりするけど」

「例えば?」

「ええっと、缶けりとか、新聞紙ちゃんばらとか、肝試しとか、バトルとか、本当にいろいろだよ」

「バトルとは何だ? 決闘をするのか?」

「恭介が決めたルール……観客から役に立たなそうなものをいっぱい投げ込んでもらって、その中から一つ選んで武器にして、戦うんだ。勝った方は、負けた方に自分で好きな称号をつけることが出来るんだよ。そうそう、来ヶ谷さんは物凄く強かったんだ。あの謙吾や真人でも、手も足も出なかったくらいだからね」

 説明しながら、改めて変なルールだな、と実感した。

「なるほど」

 説明を聞き終わった来ヶ谷さんは、それだけ言い残すと、僕に背を向けてしまう。
 僕は慌てて彼女を呼び止めた。

「待ってよ来ヶ谷さん! まだ話したいことがあるんだ!」

 僕の叫びは、暗い通路にこだまするだけだった。
 

 ◆


 さらに数日後。
 また来ヶ谷さんは僕のところに現れた。
 長い拘留生活に、僕はすっかり精気を失い、どんよりと彼女の顔を見上げる。
 そんな僕にはお構いなしに、来ヶ谷さんは淡々と尋ねた。

「ここから出たいか? 不審者君」

「…………」

「イエスか、ノーかで答えたまえ」

「…………イエス」


 ◆


 それから数時間後、よく分からない書類に何枚もサインをさせられ、僕は来ヶ谷さんと基地の中を歩いていた。
 宇宙船みたいな通路に、ただ2人分の足音だけがこだまする。

「来ヶ谷さん、どうして急に僕を出してくれたの?」

 沈黙に耐えかねて、僕は来ヶ谷さんに尋ねてみる。しかし、返答はなかった。
 やがて来ヶ谷さんはある部屋の扉の前で、通行キーのようなものを入力して、中に入った。僕もその後に続く。
 執務室のようなところだった。
 床を埋め尽くす、分厚い専門書の山。デスクの上にも、書類や書籍が山積みになっている。
 中でも目立ったのは、入って右手に掲げられた、国連の旗だった。
 
「直枝理樹。両親や兄弟はなし。軍歴もなし。ナルコレプシーに罹患していたが、現在では克服している。遠縁の叔父が唯一の親戚で、後見人でもある。年齢は16歳。市内の全寮制の高校に在学中」

 デスク前の椅子に腰掛けた来ヶ谷さんが、パソコンを操作して、僕が尋問中に述べた経歴を読み上げた。

「間違いはないか?」

「う、うん。……そんなことより」

「立場が分かっていないようだな、理樹君」

 来ヶ谷さんがすっと目を細めて、僕を見据えてくる。
 その視線のあまりの冷たさに、僕は思わず身震いした。

「君は今、非常に危うい状況にある。民間人は誰一人住んでいないはずの市街地から、精巧な訓練生用の制服の偽物を着て、基地に押し入ろうとした自称民間人。……率直に言おう。君が今自分の足で立って歩いていられるのは、奇跡に近いことだ――否、生きていること自体が奇跡だ」
 
「……僕を、どこかの国のスパイか何かだと思ってるの?」

「いや、その身体つきと物腰を見れば分かる。だが、不幸は芽を出す前に摘むべきだ。そうだろう?」

 笑みの形を崩さないまま言う。
 来ヶ谷さんはいつもこんな調子だった。本気なのか冗談なのか分からないようなことを、さらりと言ってのける。だけど、人を傷つけるようなことは絶対にしなかった。
 ただ、今回ばかりは、冗談であることを願うしかなかった。

「さて、次の質問だ。……何故君はこの基地に押し入ろうとした?」

「押し入るって……そんな言い方ないよ。僕はただ、学校の様子がどうなってるかを見たかっただけなんだ。町の方はほとんど壊滅状態だったから……」

「学校? どうしてここに学校があると思ったんだ?」

「どうしてって……僕が通ってた高校がここに建ってたからだよ。他に説明のしようがない」

「なるほど」

 そう言って、来ヶ谷さんは黙ってしまう。
 時々まばたきをする以外は、身動き一つしない。
 どうか、僕をどうやって処分するかを考えてるんじゃないことを祈りながら、僕は彼女が話し出すのを待っていた。

「時に理樹君。君には軍歴がないそうだな」

「う、うん。別に自衛隊とか興味なかったし、それに、前まではナルコレプシーがあったから、軍隊なんか絶対入れないだろうって」

「自衛隊?」

 来ヶ谷さんが、オウム返しに言った。

「本土防衛軍か、斯衛軍の間違いではないのか?」

「本土防衛軍? 斯衛軍? 聞いたこともないんだけど……」

「…………」

 来ヶ谷さんは、しばらくパソコンのモニターを凝視していたが、やがてまたいつもの不敵な笑みを浮かべた。

「なるほど。では次の質問で最後にするが……逆に、君の方から何か聞きたいことはあるか? 答えられる範囲で答えてやろう」

 少し考えて、僕は訊いた。

「……いろいろあるけど、何で学校に変なアンテナとか、番兵みたいな人が立ってたりするの? もしかして、どこかと戦争中とか?」

「戦争中? ……そうだな。確かにそうだ。私たちは今、非常に強大な敵と戦っている」

「ほ、本当に!? どこの国? 中国? 韓国? それとも北朝鮮とか?」

「いや、違う。私たちの敵は、人間ではない」

「じゃあ、何と戦ってるの? まさか、宇宙人とか?」

「よく分かったな。私たちの敵は宇宙人だ」

 あまりに真面目な顔をして言うものだから、ノリツッコミが返ってくるものと思って身構えたけど、来ヶ谷さんはいたって真剣だった。

「1958年、米国、探査衛星ヴァイキング1号が火星で生物を発見。しかし、画像送信の直後に通信不能となり、以後何度も探査機を送り込むも、何れも失敗」

「1967年、月にてサクロボスコ事件発生。国際恒久月面基地「プラトー1」の地質探査チームが、サクロボスコクレーターを調査中に、火星の生命体と同種の存在を発見、その後消息を絶つ。異星起源種がBETA:Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race――『人類に敵対的な地球外起源生命』と命名される」

「1973年4月19日、中国新疆ウイグル自治区喀什《カシュガル》にBETAの着陸ユニットが落下。中国側は戦況の優勢を理由に国連軍の派遣を拒否するも、およそ2週間後に確認された新種BETA、通称光線属腫の登場により、一気に劣勢へと追い込まれ、甲1号目標、通称オリジナルハイヴの建設を許す」

 いつの間にか来ヶ谷さんの背後に、プロジェクターで世界地図の画像が投影された。
 中国のあたりに、赤い光点が浮かんでおり、その下に小さくH1と入力されている。
 まるで教科書を読み上げるように、淡々と来ヶ谷さんは続けた。

「1974年、マシュハドハイヴ建設開始。ちなみに、この時点で世界人口は30パーセント減少している」

「1975年、ウラリスクハイヴ建設開始」

「1976年、ヴェリスクハイヴ建設開始」

「同年、ミンスクハイヴ建設開始」

「1977年、エキバストゥズハイヴ建設開始」

「1978年、スルグートハイヴ建設開始」

「1981年、ロヴァニエミハイヴ建設開始」

「1984年、アンバールハイヴ建設開始」

「同年、ノギンスクハイヴ建設開始」

「1985年、ブダペストハイヴ建設開始」

「1986年、リヨンハイヴ建設開始」

「1990年、ボパールハイヴ建設開始」

「1992年、敦煌《トンコウ》ハイヴ建設開始」

「同年、クラスノヤルスクハイヴ建設開始」

「1993年、重慶ハイヴ建設開始」

 来ヶ谷さんのセリフに同調して、世界地図にポツポツと同じような赤い点が浮かび、その地域周辺が同色に塗り潰されていく。

「ちなみに、2001年現在での世界人口は十数億人だと言われている。見ての通り、人類はBETAに対して圧倒的に劣勢だ。このままでは、もう10年持たないだろうな」

「…………」

 あまりのことに、僕は返事も出来ずにただ世界地図を眺めていた。
 宇宙人と戦争? 世界人口が十数億人? 10年持たない?
 衝撃的な事実に、全く頭がついていかなかった。

「……その赤く塗りつぶされたエリアって」

「無論、BETAの支配領域ということだが」

「……おかしいよ、こんなこと」

「おかしい? 何がだ」

「だって、だって……ヨーロッパとユーラシア大陸が、ほぼ全部真っ赤じゃないか! おかしいよ、こんなことってないよ!」

「おかしい? 私に言わせれば、こんなことも知らない君の方がよほどおかしいな」

「そうだ、恭介でしょ!? また恭介が世界を作って、僕を閉じこめて、新しいミッションを始めたんだ、そうでしょ!?」

「……なあ、理樹君」

 喚き散らす僕に、来ヶ谷さんはいっそ穏やかに告げた。

「この現実が、君の友達が作った夢や幻だと言うのなら、今すぐそいつにこう伝えてくれ。――――草の根分けても探し出して殺してやる、とな」

「…………っ」

「分かったか? 今の私には、君の現実逃避に付き合っている暇はない。現状を認識しろ。それがまず第一だ」

 そう言われても、まだ僕には信じられなかった。いや、信じたくなかった。
 僕の住む世界が、こんな絶望のただ中に叩き落とされているだなんて。

「では、最後の質問をしよう。君は兵隊になるつもりはあるか?」

「え?」

「厳密には、ここの基地の訓練兵になるつもりはあるかということだ。現在、君は何の軍事訓練も受けていないし、特別何か技術を持っているわけでもない。つまり、ただいるだけで穀潰し以外の――いや、私が若い男をたらしこんでいるという不愉快な噂が立つとすれば、厄介者以外の何者でもないわけだ。ここまでは理解出来るな?」

「う、うん……」

「となれば、君は若者として、然るべき訓練を受けて人類の盾であり、剣であるところの兵士にならなければならない。だが、どこの馬の骨とも知れない若造が、今の今まで徴兵を免れていたとなれば、帝国軍への入隊は絶望的だ。ならば、私の目の行き届くこの国連軍横浜基地にて従軍する方が、君にとっても都合がいいだろう」

「は、はあ」

「別に君が生産者として、アメリカあたりで農業に携わりたいというのは自由だ。だが君はパスポートどころか、免許証すら持っていない。そもそも、民間向けの船便に乗れる金もないだろうしな」

「……それって、結局イエスって言うしかないんじゃ」

「望むならここのMPに射殺されるという道もある。選択肢が2つもあるなんて、君は幸せ者だな」

「……いや、イエス。イエスだよ。僕はここで兵士になる。それでいいんだよね?」
 
「さあな。もしかしたら、今すぐここで死んでおいた方がいいかもしれん」

「…………」

「冗談だ。実を言うと、もう入隊手続きは済んでいる。訓練は明日からだから、今日のところはゆっくりしておくといい。ああそうそう、彩乃(あやの)に挨拶しておいた方がいいかもな。あいつは厳しいぞ」 

「は、はあ」

「ちょうどいい。しばらくあいつに会ってなかったからな。久しぶりにからかいに行くとしよう。ついてきたまえ」

「う、うんっ!」

 デスクに置かれた、学生証みたいなカードを受け取って、僕は執務室を出た。


 ◆


 基地の中は、ほとんど僕たちの学校と同じだった。
 食堂を通って、渡り廊下から直接外に出ると、グラウンドが見えた。何人かの軍服姿の女の子たちが、ボール遊びをしているのが見えた。
 と、ものの弾みでボールがこちらに向かって飛んできた。

「っと」

 来ヶ谷さんに当たりそうだったところを何とか反応して、ボールをキャッチする。微動だにしなかったのは、僕が取ることを見越してたのだろうか。
 慌てた様子で、ボール遊びをしていた女の子の1人がこちらに駆けて来た。

「た、大変申し訳ございません。お怪我はありませんでしょうか」

「いや、特に何も。ああ、そうだ。紹介しよう、彼女は君が所属する207B分隊の――」

「…………」

 来ヶ谷さんの言葉は、全く耳に入っていなかった。
 僕は息をするのを忘れて、彼女の顔を見つめていた。
 猫を思わせる、ややつり上がった目尻。
 無愛想な口元。
 ポニーテールに結い上げられた髪の根本には、鈴《すず》がついたヘアゴム。


「――――鈴《りん》っ!」


 かつて、『何かが起こった世界』で、ともに奇跡を起こした少女。
 棗鈴が、そこに立っていた。





 まことに勝手ながら、あーちゃん先輩の本名を『千場彩乃《せんばあやの》』と設定させていただきました。
 年号羅列の部分は、原作が手元に来次第修正していくつもりです。



[39941] 第3話  直枝殿
Name: 純金◆40e6eaeb ID:e91c0d77
Date: 2014/06/02 10:19
 ◆


「では、紹介しよう。彼が今日から207B分隊に入隊する直枝理樹君だ。彼は昨日まで徴兵免除を受けていたが、諸事情あってこの基地に来た。皆、ビシバシ鍛えてやってくれ」

「「「「「はっ」」」」」

「ああ、楽にしていいぞ。堅苦しいのは嫌いだ」

 来ヶ谷さんの言葉に、僕の目の前に立つ少女4人と、彼女たちから一歩先に立つ女性が休めの姿勢を取る。
 僕がいた世界では、見たこともないほど引き締まった顔をした彼女たちに、思わず気圧されそうになる。
 
「…………」

「理樹君。こちらの彼女が、君たちの教官を務める千場彩乃軍曹だ。あーちゃん先輩と気軽に呼んでやってくれ」

 にこやかに傍らに立つ女性を紹介しながら、僕に意味ありげなウインクを飛ばしてきた。初対面として振る舞え、ということだろう。さっきも、鈴の名前を呼んでしまったのを誤魔化すのにかなり苦労したから。
 紹介にあずかった寮長――じゃなかった――千場軍曹が、辟易したようにしかめつらをした。心の中とはいえ、ちゃんとした呼び方をしておかないと、とっさに出ちゃうからね。
 毛先にやや癖のかかった赤茶色の髪をひっつめにした、いかにも厳格そうな教官だった。

「お言葉ですが、来ヶ谷司令。その呼称を公の場で用いるのは、控えていただきたいと何度も申し上げたはずですが……」

「おっと、すまないな。プライベートでの癖が出てしまった。確かに公私混同はよくない。今度は気をつけるよ、はっはっは……」

 高笑いをしながら、来ヶ谷さんはひらひらと手を振って帰っていった。
 ごほん、と軍曹が大きな咳払いを一つして、話し始めた。

「では諸君。新米に一人ずつ自己紹介をしてやれ。西園!」

「「はっ」」

 列の両脇に立っていた2人の少女が、同時に返事をして進み出て、くるっとお互いの顔を睨み合った。
 僕から見て右手に立っているのが、かつて西園さんの影だった少女、美鳥。挑発的な口調と、活発な印象を与えるくりっとした瞳が特徴的な女の子だ。
 対して、左手に立っているのが、鏡の中に美鳥を見出した少女、美魚。美鳥と顔立ちや背丈は全く同じなのに、どこかおっとりして優雅な雰囲気を漂わせていた……はずだけど、今は四肢も背筋もびしっと伸びているから、まるで小間使いを纏め上げるメイド長か何かみたいだった。
 美鳥がせせら笑うように言った。
 
「あれ、どうしたの美魚しゃしゃり出てきて。こういうときは普通、隊長のあたしが一番に自己紹介するはずだと思うんだけど」

「そうですか。千場軍曹は、明らかに私の方を見ながら『西園』と呼ばれたように思ったのですが……気のせいでしょうか」

「ぐっ……」

「それに肩書きは隊長ですけど……実力が伴わなければ、ただのお飾りでしかないですし。重荷にならないうちに、早く辞退してはいかがでしょう?」

「な、何ですって!」

「貴様らぁ! 誰が口論などしろと言った! 2人とも前に出ろ、歯を食いしばれ!」

「「は、はっ!」」

 しまったといった顔をした2人が、ざっと一歩前に踏み出した。そして、その横面を、軍曹が思い切り拳で殴りつけた。
 ぱぁん、と鋭い音が二度して、西園さんと美鳥がよろめくが、何とか踏みとどまり、大声で斉唱した。

「「ご指導、ありがたくありますっ!」」

「下がれっ! 次やったらこの程度ではすまさんぞ!」

 激しい叱責を受け、2人はすごすごと元の位置に戻った。
 
(これが軍隊なんだ……)

 昔恭介たちと見た、戦争映画のワンシーンそっくりの光景を目の当たりにし、僕はすっかり度肝を抜かれてしまった。
 命令に背いたり、無礼な態度をとれば、容赦なく鉄拳制裁を加えられる。そんな過酷な環境で、彼女たちは生きているのだ。
 こっそりと、僕は軍曹の顔を覗き見る。しかしそこには、僕の期待したような悲痛や悔悟の色は全くなく、彼女はただ烈火のごとく怒っていた。

(何も、殴らなくたっていいのに……)

 口で言えば分かることを、どうして手を出すのか。僕にはさっぱり理解出来なかった。

「もういい、貴様らは後で個人的にしておけ。次、神北!」

「は、はっ!」

 ぴょこんと出てきたのは、あの世界で鈴の親友だった女の子、小毬さんだった。さすがに軍隊で星つきのリボンはまずいのか、彼女のトレードマークのそれらは、今は見当たらなかった。
 美魚さんとは違い、軍隊に入っているにも関わらず、ふわふわした物腰は直っていないみたいだった。

「え、えっと……神北小毬訓練兵です! 実技はダメダメですが、直枝さんの足を引っ張らないように精一杯頑張ります!」

「よし、下がれ。次、棗!」

「はっ」

 そつのない動きで進み出た鈴は、きちっと踵を揃えて僕の方に向き直った。

「棗鈴訓練兵であります。座学は苦手ですが、その分実技が出来るであります。分からないこと等おありでしたら、ご遠慮なさらずお尋ねになってください。早く仲良くなれば、早く強くなれます。では以上であります」

「…………」

 僕が知っているどの鈴よりも、今目の前にいる鈴は堂々としていて、社交的だった。相変わらず舌足らずな喋り方だったけど、むしろそれがいいアクセントになっていて、とても親しみが持てた。きっと、この世界の鈴は、恭介なしでもしっかりやってこれただろう。
 ……あの変な語尾がすごく気になるけど。

(……そういえば、恭介も真人も謙吾も見ないなあ)

 食堂をちらっと見た限りでも、結構見覚えのある顔がいたから、もしかしたらと思ったんだけど……まあ、きっとどこかで会えるだろう。特に恭介あたりに。

「よし、次……と言いたいところだが、もう一人は今入院していてな、退院時に紹介してやることにする。では、今日はここで訓練を切り上げる。各自、親交を深め、信頼関係の醸成に尽くすように。解散!」

「敬礼!」

 美鳥の号令で、皆がぴっと敬礼する。軍曹はそれに無言で答礼すると、どこかへ歩き去った。
 すると美鳥が僕ににっこりと微笑みかけて、言った。

「じゃ、改めて自己紹介。あたしは西園美鳥。一応、そこにいる美魚の双子の妹よ。ちなみに、この207B分隊の隊長やってるから、困ったことがあったら何でも言ってね」

「うん。よろしくね、美鳥さん」

 がっちりと握手を交わすと、美鳥は僕から離れた。

「じゃあこれからあたしが基地内を案内してあげる。皆は先にPXに行ってて」

 小毬さんと鈴は無言で頷きかけたが、それに西園さんが異を唱えた。

「待ってください。まだ、私の分の直枝さんへの自己紹介が済んでいないので、案内がてらさせてもらいたいのですが」

「何よ美魚。隊長の私の決定に逆らうつもり?」

「訓練中でもないのに、隊長権限を振りかざされても困ります。……行きましょう、直枝さん。まずは体育館です」

「ま、待ってよ西園さん!」

「美魚で結構です。間違えられたくない相手がいますから」

 すたすたと足早に行ってしまった西園さんと美鳥の顔を交互に見比べて……結局、僕は西園さんの後を追った。
 歯噛みする美鳥の顔が、瞳に焼き付いていた。


 ◆


「――これでひと通り案内は終わりました。何か質問等はありますか?」

 基地内をざっと一回りして、僕たちは食堂――ここではPXというらしい――に向かっていた。
 美鳥の制止を振り切ったときほどは荒れていないみたいだけど、まだ何だか声が硬かった。もっとも、普段から西園さん……美魚さんはこんな口調だけど。

「その、美魚さんは美鳥隊長とは仲が悪いの?」

「別に。彼女が私を目の敵にするので、あしらうのに苦労しているくらいです」

 それはお互い様だよ……と言いたくなったけど、やめておいた。今の2人は、僕が知っている2人じゃない。下手に首を突っ込んで、余計に怒らせるのはまずいだろう。

「じゃ、じゃあ、何で隊長は美魚さんを目の敵にするのさ」

「さあ? それこそ本人に訊いてみなければ分からないことです」

 言外に、これでこの話は終わり、と言っているのに気づき、僕は押し黙ってしまう。
 しばらく無言で歩き続けていた美魚さんが、唐突に尋ねてきた。

「……直枝さんの出身地をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「え? えっと……」

 ここだけど……と言おうとして、はたと思い留まった。
 そういえば、グラウンドに行くとき、来ヶ谷さんからいろいろ口止めされていたことがあった。
 その中の一つが、出身地を正直に言ってはいけないということ。話題づくりの一環なら、東京と言えと。
 理由を聞こうとしたけど、例によって「君は立場を分かっていないようだな」と封殺されてしまった。

「……東京から来たんだ」

「そうですか……。あちらは今、大変だそうですね」

「う、うん。そんな話もよく聞くよね」

「首都再編に伴い、皇居も京都からそちらへ移られたそうですが、最近は一部の過激派が、閣僚による政夷大将軍の統帥権干犯を糾弾していて、かなり不穏な雰囲気になっているとか……」

「そうそう。大変だよね、本当」

「…………」

 いい加減に相槌を打っていた僕の顔を、美魚さんがじっと見つめてくる。
 まるで、全てを見透かしているかのような眼差しに、思わずたじたじとなった。

「な、何?」

「いえ、何でもありません」

 そのまま、また顔を前に向けて歩いて行ってしまった。


 ◆


「――では、直枝君の入隊を祝して、カンパーイ!」

「「「かんぱーい!」」」

「ど、どうも……」

 掲げられた各々のジョッキ(もちろん中身はジュース)をぶつけ合い、乾杯する。
 夕食時とあって、PXはかなり混み合っていた。僕たちが全員一つの机に座れたのは、奇跡に近いことだろう。そう小毬さんに話したけど、彼女はただ曖昧に笑うだけだった。
 鈴は、最初に一口だけジュースに口をつけると、後は黙々と鯖の味噌煮……のようなものを口に運んでいた。よほどお腹が空いていたのだろう。
 不意に鈴が顔を上げたせいで、僕とばっちり目が合ってしまう。

「あ、ごっごめん。じろじろ見たりして」

「直枝殿も欲しかったのでありますな?」

「へ?」

「遠慮なさらずに、ささ一口。それ、あーん」

「え、ええっ!?」

 鈴本人も大きく口を開けながら、箸でつまんだ鯖の味噌煮モドキを、僕の口元に運んでくる。
 何故か冷たい目で見てくる美魚さんや、ニタニタしている美鳥、顔を赤らめている小毬さんの方をうかがうけど、当然誰も止めようとはしない。
 結局、

「あ、あーん……」

「ふふ、実家で飼っていた猫を思い出しますな。……元気にしているでありましょうか、龍馬は」

 猫なのに龍馬とはこれいかに、などと考えながら、給餌された合成鯖味噌を咀嚼する。絶品とまではいかないけど、学食のものと同じくらいの味わいだった。

「お、鈴は早速新米君と仲良くなったみたいじゃん。負けてられないね、小毬」

「ふえぇっ!? む、無理だよぉそんなこと」

「あっはっは、冗談よ冗談」

 ひとしきり笑ったところで、美鳥が真顔になった。

「さて、これから一緒に訓練をしていくにあたって、少し訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「……いいよ、何でも訊いて」

「じゃあ単刀直入に訊くけど……あなた、期待していいの?」

 いつの間にか、皆の視線が僕に集中していた。今までの賑やかな雰囲気とは打って変わって、張り詰めたような緊張が漂っている。心なしか、周囲の喧騒から遠ざかったような気がした。

「これから一ヶ月後に、総合戦闘技術評価演習……総戦技演習があるの。これに合格しないと、あたしたちは衛士になることは出来ない。つまり、失敗は許されないってわけ。あたしの言いたいこと、分かってくれた?」

 僕を見据える美鳥の目は、いつになく鋭い。総戦技演習とやらに掛ける思いは、相当強いみたいだ。
 当然、僕はリトルバスターズ以外でスポーツなんかやったことがないし、ナルコレプシーのせいで鍛錬も出来なかったから、体力は普通の女の子と大差ない。ましてや、軍事訓練を受けた女の子たちが相手では、何をか言わんやだ。
 だからといって、「あまり期待はしてもらいたくない」なんて言える空気じゃなかったから、慎重に言葉を選んで言う。

「……何とか、皆の足を引っ張らないように頑張るよ」

 一応の正解を引き出したのか、美鳥の表情が心なしか緩んだ。

「うん、そうしてほしい。多分、今のあなたじゃ私や鈴はもちろん、小毬や美魚にも実技じゃ勝てないし、座学は言うまでもないだろうから。かなりキツいと思うけど、あたしたちも精一杯サポートするから、いつでも頼って。ちなみに、格闘術なら鈴か、今はいないけど葉留佳。狙撃なら小毬。座学の兵法ならあたし、それ以外は美魚に聞くといいよ」

「分かった。これからよろしくね」

「うん、よろしく」

「よろしくね、直枝君」

「よろしくお願いするであります、直枝殿」

「…………」

 とりあえず、直枝殿だけはやめてもらいたいなと思った。
 そうして、PXが閉まると同時に解散になった。  


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