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[313] ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/01/15 16:34
初めての方はナデシコ・パニックからお読みください。



[313] Re:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/01/28 23:08
7月15日 1330時(日本標準時)
ネルガル本社 ブリーフィングルーム


 この日、バチストは苦悩していた。

「敵機との相対距離が50、相手が単分子カッターを装備している場合こちらがとるべき行動は?」
「加速して突っ込んで、相手より先に攻撃する」
「Dフィールドを展開、単分子カッターを受け止めて攻撃かな」
「………」

 二人の、特に前者の回答にバチストは頭を抱える。
 それを見たグレイは助け舟を出した。

「貴方はどう思う?」
「攻撃を回避して一旦距離を取ります」

 その回答にバチストは頷きながら答えた。

「イオリが正解だ」
「え?」
「お前ら攻撃範囲の差を忘れてるぞ。単分子カッターだと最悪の場合相討ちになる」
「そ、そこはイチバチってことで」
「お前な…」
「Dフィールドがあるじゃないか」
「タクマ、Dフィールドは無敵じゃない。あまりフィールドの装甲を過信するな」

 ここはネルガル本社のブリーフィングルームである。
 バチストとグレイは新しいAS隊員相手に講義を行っていた。
 新しいAS隊員は久我山タクマ、久我山セイナ、千葉ユウジ、浅野イオリの4人。
 いずれもこの前の事件で保護した<A21>の人間である。
 ユウジとイオリは、天河邸に忍び込みバッタに捕縛された二人だ。
 あの後、NSSの尋問に口を閉ざしていた二人だったが、ベヘモスが破れ、<A21>が崩壊し、タクマとセイナも捕縛されたことを知り観念した。
 聞くと二人はヘベモスのパイロット候補だったらしい。
 しかしユウジはラムダドライバを操る適正はあったが操縦技術に問題があり、イオリは操縦技術はあったがラムダドライバを完璧に使いこなせなかったそうだ。
 タクマとセイナは今更説明するまでもないだろう。
 当初、敵側にいた人間をネルガル陣営に入れる。しかもAS乗りにすることに異論が唱えられた。
 しかし、AS隊員が人材不足であったことと明人の『働かざるもの食うべからず』の一言により彼らは迎え入れられた。
 ―――のだが、
 
「ユウジ。接近戦で心がけなければならないことはなんなのかわかるか?」
「肉を切らせて骨を切らせる」
「それじゃやられっぱなし…」
「間合いを見極めることだと思います」
「セイナが正解」
「ありゃ?」

 再びバチストは頭を抱える。

「ユウジ、貴方ね…」
「何だよ。ちょっと言い間違えただけだろ」
「そうじゃなくてその接近バカをどうにかしなさい」
「いいだろ!そっちの方が戦いやすいんだよ!!」
「いいわけないでしょ!!!」
「やれやれ…」
「貴方たちやめなさい!」

 いつもユウジとイオリが喧嘩を始め、タクマは二人を見て呆れ、セイナが二人を止める展開になる。

「………」

 セイナとイオリは優秀だ。タクマもヘベモスに乗っていた頃の癖が残っているが合格点を与えられる。
 問題はユウジだ。接近戦に関しては頭一つ出ているが、射撃が大の苦手だったため、彼自身が接近戦でしか戦わなくなっていたのである。
 ちなみにそのことを明人に報告すると『まるでガイだな』と笑っていた。バチストには何のことかわからなかったが、

「グレイ。班を代えないか?」

 現在AS部隊は2班に分かれていた。
 バチスト班とグレース班、簡単に言えば男と女に分けているのである。

「却下」
「ヒデェ…」

 バチストの苦労をまだまだ続く。






同時刻
ネルガル本社 会長室


 明人はある報告書を読んでいた。

「………」

 武知征爾。
 <A21>を創った人物である。
 明人はこの人物についてダッシュに調べさせていたのだが、そんな人物の戸籍はどこにもなかった。

「偽名か」

 セイナ曰く、世界中の紛争地帯を渡り歩いた日本人の傭兵………らしい。
 明人はセイナとのやり取りを思い出していた。






事件後 病院の一室

「武知征爾ね…」
「貴方も彼を愚かだと思うの?」
「君の話だけじゃなんとも言えないな」
「………」
「ベヘモスも彼が?」
「ええ」
「嘘はやめろ」
「嘘じゃないわ!」
「…本当か?」
「ええ。彼はすばらしい人間よ」
「……。君の目的は復讐か?」
「そうね。でも、もう終わったわ」
「…君の話には疑問点がある」
「何?」
「ベヘモスは武知征爾が持っていたと言うが、どうやって調達した?」
「そんなことは私も知らないわ」
「一介の傭兵はあんなものを調達できない」
「……嘘」
「これがサベージなら問題ない。だがあんなAS世界中探したって存在しない。どんな傭兵だろうと一個人で手に入れられる物じゃないんだ」
「そんなはずないわ!現に彼は持っていたのよ!!」
「そう、持っていたんだ。だからこそ君の『傭兵』という言葉では説明がつかない」
「………」
「君は気づいてたんじゃないのか?武知征爾に何かの組織が付いていたことを」
「………」
「俺は君の目を昔見たことがある」
「え?」
「恋する少女の目だ」
「なっ!!」
「都合の悪い所を見たくなかったんだろう」
「ちがっ!」
「だから仲間に言えなかった。そして自分自身の記憶からも消そうとした」
「わ、私はっ!!」
「真実は時に残酷なものでもある」
「………」
「俺は武知征爾は生きていると思う」
「!!」
「彼には何らかの組織が付いている。自殺したとは思えない」
「………」
「この件はネルガルも独自に調べるつもりだ」
「………」
「強制はしない。武知征爾に会い、真実を知りたいならネルガルに入れ」
「…少し考えさせて」

 後日彼女はネルガルに協力することとなる。






 明人は天井を見上げながら自問する。
 武知征爾の背後にいる組織とはなんなのか?
 ミスリルのような組織が他にもあると考えるべきだろう。
 そして回収したベヘモス。
 機体に搭載されている装置はラムダドライバと言うらしい。
 順安で戦った機体にも搭載されていた物だ。
 そう考えるとかなめを拉致した組織と武知征爾の背後にいる組織は同じかもしれない。
 いずれにしてもこの組織はラムダドライバの理論を理解し、ベヘモスのような機体を他にも所持しているだろう。
 前回は相良が、前々回は自分が撃退したが次はどうなるかわからない。

「ラムダドライバか…」

 明人は今後に不安を抱いていた。






あとがき(いいわけ)
どうですかね?
セイナ達が仲間になりました。
彼らの活躍は今のところ未定。

ちなみにこの話は某作品にインスパイアされたものです。
作中の彼らの会話を読めば(わかる人には)わかると思います。



[313] Re[2]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/02/10 21:07
??月??日 ????時
???


「結局ベヘモスはやられちゃったね」
「そうだな」
「いいの?」
「初めからベヘモスに興味はない」
「A21は?」
「アレは薬の実験場にすぎない」
「…前から思ってたんだけどさ、なんで先生役を買って出たんだい」
「学生の頃演劇部にいた。茶番とはいえ、役を演じるのはいい」
「君は面白いねぇ」
「ミスタ・Kの部隊にこの薬は使われるのか?」
「その予定だね」
「この薬は飽く迄きっかけに過ぎない。自由自在に操る、とはいかん。……Kには今度会ったら伝えておいてくれ」
「いいよ。そうそう、A21の一部がネルガルに就いたみたいだけど……」
「舞台は終わった。もう興味はないな」






7月25日 1000時(日本標準時)
ネルガル本社 会長室


「学校?」

 ユウジは怪訝な表情で聞き返した。

「何で今更」
「理由をお聞かせください」

 一方のイオリは冷静に質問をする。

「護衛任務だ……」

 ―――ラピス・ラズリの護衛
 順安の事件でラピスはウィスパードと思われ拉致されており、今後ラピスを狙う組織が出てくる。
 事件以降、明人はラピスに護衛を付けようと思っていたのだがそれが困難であることが分かったのだ。

「……現在ラピスの護衛はNSSを学校周辺に数人待機させているだけで学校内部にはいない。教職員に紛れ込まそうとも思ったが先方は間に合ってるらしい」

 なんでも元気な用務員がいるそうだ。

「教職員がダメとなると後は生徒に扮するしかない。しかしNSSには高校生の格好をできる人間がいないんだ」
「だから私達……ですか?」

 ミスリルでは相良という16歳のエージェントを使っている。明人はそれを真似ようと思ったのだ。

「どーして俺達なんすか?タクマかセイナさんに頼めばいいでしょ」
「あの二人は相良宗介に顔を知られてる。お前たちにしかできない」
「むう……」
「書類はこちらで何とかする。今日は転入の準備だ」
「わかりました」

 ユウジは納得のいかない顔をしていたがイオリは返事をすると会長室から出た。

「ダッシュ」
『ハイ』
「護衛にはバッタも三、いや四機つけろ」
『二人に昨日の出来事を話さなくていいのですか?』
「わざわざ話す事もないだろう、変な先入観を持たせたくないしな。それに護衛を増やす事は前から考えていた」
『わかりました。ところでラピスには何と言います?』
「昔のトラウマは克服したが、ラピスはまだ子供だ。俺から言うよ」






ネルガル本社 通路


 ユウジは通路を歩きながらイオリに話しかけた。

「学校か、お前覚えてるか?」
「全然」
「俺もだ」

 二人はかつてベヘモスのパイロット候補であった。そのためラムダドライバを扱うために専用の薬物を多量に投与されていたのである。
 ネルガルの医療用ナノマシンのおかげで中毒症状はなくなり、記憶障害もある程度治ったが完全にとはいかなかった。ユウジは50%、イオリは40%の過去の記憶が完全に欠落していたのである。
 現在二人にある記憶は<A21>時代のものでそれ以降の過去はまるで思い出せずにいた。

「たしかタクマも思い出せないんだよな」
「ええ、セイナ姉様が実の姉でないことは思い出したみたいだけど、それだけらしいわ」

 記憶の欠落はユウジとイオリだけではなくタクマも同様だ。
 タクマの場合はセイナとの関係が偽りのものであったことや実の姉が死んでいることは思い出したが自分が殺したという事実は思い出せなかった。

「私達もタクマと同じなのかな?」
「………」
「もしかしたら私も誰か…」
「どーでもいいよ、そんな記憶」
「ちょっとユウジ!」
「別にいいだろ。俺は未来しか見ないんだよ」
「貴方ね!」
「いいんだよ!!そんな記憶知りたくもない!!タクマだって知りたいとは思わないよ!!!」
「………」
「そうだろ!俺達はあんな所に居たんだぞ!!ろくな人生じゃなかったんだよ!!俺たちは!!!」
「ユウジ……」
「俺は思い出したくない……そうだ、思い出したくない!そんな記憶はいらない……」

 その後、二人は何もしゃべらなかった。
 そしてまだ気づいていなかった。過去を捨てることは大切な思い出を捨てることにもなることを…






あとがき(いいわけ)
久々の投稿。
リアルで忙しいです。

>Mさん
申し訳ございません。私の知識不足です。
そこまで細かい設定は考えておりませんでした。

>ざまーさん
>燃えるワンマンフォースのナミたすけてーーーーー
まだそこまで考えてません

>サザビーさん
いつも感想ありがとうございます。
>IFSでイメージすることに慣れてるアキトが使えば鬼に金棒のような気がする。
そうですね、ですので登場はまだまだ先です。

>ヤードさん
早速見破りましたね。そのとおりです。
武知征爾に関しては今考えてます。

>通りすがりさん
貴重な資料ありがとうございます。
今後とも感想などよろしくお願いします。

>カミナリさん
>千葉ユウジ、浅野イオリのオリキャラがどんな感じにかかわっていくのか
学校関係で色々と……詳細はまだ考え中。






修正後のあとがき
色々考えているのですが考えがまとまりません。
続きは少しばかり時間をください。



[313] Re[3]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/04/23 09:08










 暗い密林の中―――ライフルを装備した迷彩服の男が周囲を警戒している。
 辺りに脅威がないと思った男は、おもむろに倒木に座り休息を取り始めた。
 懐からタバコを出すと口にくわえ火をつけようとした。
 その男にとって、そこには誰もいないはずだった。
 次の瞬間――

「グァ……」

 うめき声と共に男は前のめりになって崩れ落ちた。
 見ると男は心臓を撃ち貫かれている――即死だろう。

「………」

 ガサガサ、と草木が揺れる音がする。
 男が座っていた倒木の影にバンダナを巻いた男がうつぶせになって隠れていた。
 撃たれた男と同様に迷彩服を着ている。
 バンダナを巻いた男は何事もなかったかのようにその場を後にしようとした。

「………!」

 辺りに気配を感じる。
 3……4……5人だ。
 どうやら見つかってしまったらしい。
 敵兵は男を包囲するように陣形を組む。
 バンダナを巻いた男は再び倒木に身を隠すと、持っていたライフルの残弾を確認する。
 一人も生かすわけにはいかない。
 しばしの静寂の後―――敵の隊長らしき男が合図を出した。






「全員伏せろ!!」

 宗介は銃撃戦が始まると隣にいたかなめの胸倉を掴んで伏せさせ、素早く銃を抜き銃声のあった方へ発砲。
 次の瞬間、辺りに静寂が訪れる。
 かなめは深いため息をつき、ラピスは「またか…」といった表情をする。
 レジの店員と客は唖然とその光景を眺めていた。
 宗介の放った弾丸は、銃撃戦を行っている映像を流していたTV画面に当たっていた。
 ちなみに、そのTVの周りには『メ○ル○ア・シリーズ最新作』と書かれたポスターが貼っており、その『○タ○ギ○・シリーズ最新作』と思われるゲームソフトが並べられていた。
 
「………」






7月24日 1730時(日本標準時)
駅前商店街


 事務室でこってりと絞られ、学校や住所を書かされたあげく、『メ○ル○ア・シリーズ最新作』のポスターをなぜか渡され三人は解放された。

「二度と行けないじゃない、もう……」

 事務室の外から出てかなめは言った。

「ここいらでレンタルやってるのはゲオだけだったのに……」
「だが、千鳥。あれが本物の銃撃戦ならば俺の取った行動は最適な……」
「うるさいっ!あんたの所為で『Xファイル』が借りられなかったじゃないっ!!」

 モルダーとスカリーがどうなったのか、気になって仕方のないかなめであった。

「ふむ……」
「どうすんのよ。続きが気になるのに…」

 そんなかなめに救いの手を差し伸べたのはラピスだった。

「私の家の近くにTUTAYAがあるから借りてこよっか?」
「ホントに?借りてきてくれんの?」
「うん」
「いよっしゃー!さすがラピス!私達いつまでも親友だからね」

 リアクションの大きいかなめに後ずさりながらもラピスは頷いた。

「じゃあ私こっちだから」
「うん。明日学校で!!」

 ラピスは二人を見送ると帰り道を歩き始めた。
 自分の後をつけている人間に気づかずに…






ネルガル本社 会長室


 天河明人は就業時間が過ぎたのにも関わらず、いまだ会長室に居た。

『マスター帰らないのですか?』
「ん?もうそんな時間か……」

 明人は時計をチラリと見る。

「帰りに食材を買わなけれ……」

 どうやら明人は今日の夕飯の事を考えていたようだ。
 その時、明人の携帯が鳴る。見るとラピスからだった。

「はいはいっ………ラピスどうした?」

 しかし携帯から聞こえる声はラピスではなかった。

『ざ~んねん。生憎俺はかわいらしいお嬢さんじゃない』






あとがき(いいわけ)
今回は無し。

修正
レミング博士の説明を別の所に……



[313] Re[4]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/02/17 09:05
7月24日 1745時(日本標準時)
ネルガル本社 会長室


『ざ~んねん。生憎俺はかわいらしいお嬢さんじゃない』

 その声を聞いた途端に明人の雰囲気が豹変する。

「誰だ貴様!!」
『おいおい、前に一度会っただろう?』
「質問に答えろ!!!」
『まあ、直接話したわけじゃないからな。ヒントをやろう、順安だ』
「……あの時のハイジャック犯か」

 ラピスとかなめを連れて行った男と同じ声である事を明人は思い出した。

『正解だ』
「ラピスをどうした!!」
『お嬢さんは俺の目の前にいる。そう怒鳴るな』
「ラピスに危害を加えたら殺すぞ!!」
『お~、怖い怖い』

 この男、ガウルンはからかう様に答える。
 明人は激昂していたが、次第に冷静になっていった。

「…何が目的だ!」
『なあに、簡単な事さ。あんたと話がしたいだけだ』
「俺と?」
『ああ、泉川駅前の喫茶「マザーリーフ」に来るんだ』
「待て、ラピスの……」

 声を聞かせろ。と言う前に携帯は切れてしまった。

「くっ!ラピス」
『マスター。直に車の用意を!!』
「必要ない。直接向かう」

 そして明人はジャンプフィールド発生装置を手にした。






同時刻
泉川駅前 喫茶「マザーリーフ」


「さて、あの男は来るか?それとも来ないか?」

 楽しむように携帯を切りつぶやくガウルン。

「来るに決まってんでしょ」

 そんなガウルンに強気で言い放つラピス。

「お嬢ちゃん、強気だね~」
「当然」

 と言いながら、チーズワッフルを食べるラピス。

「もし来なかったら?」
「明人が来ないわけがない」

 今度はストロベリーワッフルを一口。

「ふむ。しかし来たとしてもどうする?俺はお嬢ちゃんを人質にしてるんだけどな」
「関係ない。順安でもあんたから助けたし…」

 ストロベリーワッフルを片付けたラピスはチョコバナナワッフルに手を伸ばす。

「あの時とは状況が違う。君は俺の手元に居たわけじゃないからな。今なら何時でも殺れる」
「店内で殺るわけない」

 手に付いたチョコレートソースをぺロリと舐めると彼女の中でメインであるブルーベリーチーズワッフル攻略に取り掛かった。

「殺るよ…俺は……それがプロだからな。殺ると言ったら殺る」

 不気味な笑みを浮かべながらガウルンは殺気を放つ。

「まあ、私を殺したら明人と話なんてできないから。一言も話せずに殺されるよ」

 ラピスは殺気にも気にせずブルーベリーを飲み込む。
 最後のシメは抹茶あずきワッフルである。

「クククッ……確かに」

 他の人が聞いたら恐ろしい内容なのだが、その光景は見事にマッチしていなかった。

「お待たせしました。焼きたてアップルパイです」
「そこ置いといて」

 抹茶あずきワッフルをミルクティー(ウバ)で流し込むとデザートの焼きたてアップルパイを口に運ぶ。

「まだ食うのか?」
「デザートは別腹」

 さすがのガウルンもその光景には唖然としている。
 しかし、ラピスは気が気ではなかった。
 本心はこの場から逃げ出したいのだ。
 それだけ、目の前の男を恐れているのである。
 なぜなら、ガウルンはかつて自分をさらった北辰に雰囲気が似ていたからだ。
 正確には匂いだろうか。
 もしラピスが何らかの抵抗をするならガウルンは躊躇なく自分と店内の人間を皆殺しにするだろう。
 今彼女にできる事は、弱味を見せない事しかない。
 先ほどからメニューを平らげているのも、相手に余裕である事を見せ付けるためだ。

(明人……早く来て………)

『いらっしゃいませ~』
『人を待たせてるのだが…』
『あちらの奥の席です』

「来たみたいだな…」
  
 ラピスの願いが届いたのか、天河明人が到着した。






あとがき(いいわけ)
ガウルンが明人に接触しました。
タイミング的にこの時期しかなかったので…
前まではガウルンがネルガル本社に侵入し会長室に居る明人に会いに行くものなのでしたが、『ガウルンにネルガルへ侵入する力があるか?』と思いこのような形となりました。
本社にはバッタにNSS、ダッシュの目もある。何より明人が問答無用で殺してしまうでしょう。
ちなみに『Re[2]:ナデシコ・パニック その2』はこの後の話となります。



[313] ナデシコ・パニック外伝
Name: KIKI
Date: 2006/02/21 12:40
気晴らし……



[313] 勘違いのサマーイリュージョン-1
Name: KIKI
Date: 2006/02/21 12:43
「会いたい……」
「どなたに、で、ございますか?」
「あの女だよ。ぜひ……」
「しかし、柾民さま――」
「鷲尾。僕は会いたい、と言ったんだ」
「……はっ」
「ああ……。まるで、童話に出てくる妖精のようなひとだ……」










<明人side>
 海。
 青い海。白い砂浜。輝く太陽。
 こうして見てみると、どれもすばらしく見える。

「のに、お前は何をやっているんだ?」
「古典的なトラップだ」

 そう言いながら手榴弾を取り出した。
 おいおい、まさか……

「これで鞄を動かせば爆発する。盗難を試みた犯人は、手痛い教訓を学ぶ事になるだろう」
「その泥棒と一緒に、俺たちの財布や荷物も吹っ飛ぶとは考えなかったのか?」

 こいつの表情を見ると考えてなかったな。

「お前な……」
「……だが、こうして『盗難行為は高くつく』と見せしめれば、地域の防犯対策にも貢献できるだろう。いわば大事の前の小事……」
「人がスイカ運んでる時に、何やってんのよあんたは!?」

 かなめちゃんがハリセンで相良を叩いてる。
 いつの間に?
 と言うよりそのハリセンは何処から?

「大体あんたは……」

 いかんな、説教が始まったぞ。
 かわいそうだから助けてやるか……。

「まあまあ、俺が止めたから大丈夫だよ」
「すみません明人さん。ウチの宗介が迷惑をかけて……。ほら、宗介謝りなさい!!」
「迷惑ではない。これは……」
「言い訳しない!!」

 なんだか子供を叱る母親みたいだ。

「……以後注意する」
「ねえねえ、カナちゃん。早くスイカ割りしようよ!」
「はいはい。よっこらしょ……っと。宗介、あんたも来なさい」
「しかし荷物が……」
「俺が見張ってるから楽しんでこい」
「明人さん、ありがとうございます。ほら、宗介来なさい」

 今日はラピスのクラスメイトと共に海に来ている。
 暇になったのでちょっとした休暇だ。
 ちなみに俺は引率者である。
 海か……。
 思えば最後に行ったのはテニシアン島だった。
 あの時はシビレ薬を飲まされたおかげで海を楽しむ事ができなかったが……。

「今となればいい思い出だな」

 うん?なんだか眠くなってきたな……。










<ラピスside>

面白くない。
さっきから明人に向けてセクシーポーズをさりげなく決めてる。
だけど明人は無反応……。
何故?
スタイルが気に入らないの?
これでも自身あるのに……。
すべすべの肌。
すらりとした脚線。
きゅっと締まったウエスト。
胸は……かなめほどじゃないけど、かつてのストーカー(ルリ)よりはある。
水着だってこの前買ったおニューだ。
それなのになんで?
Why?
もしかして気づいてないの?
……そうだ!気づいてないんだ!!
ちゃんと見せよう。

「……ねえ明人」

あれ?返事がない……。

「明人?」

???

「すーすー」

ね、寝てる!
私がこんなに頑張ってるのに……。

「……明人のバカ」










あとがき(いいわけ)
明人とガウルンの会話が思いつかない…orz



[313] 勘違いのサマーイリュージョン-2
Name: KIKI
Date: 2006/02/22 23:45
<ラピス side>

「ねえねえ、ちょっといい?キミさ、ひとり?どっか遊びに行かない?」

 無視。

「おいおい、無視しないでよ~」

 うるさい。

「待てって!」

 私にさわらないで。

「あん?……い、いてえええぇぇぇ!!!」

 人は関節を鍛えられない。
 だから手首を極めるだけでこんなに痛がる。

「消えて」
「は、はいいいぃぃぃぃ!!!」

 ナンパ野郎がいなくなると私はしゃがみこんで考える。
 なんでなんだろう?
 明人は私の気持ちに気づいてくれない。
 あの人と出会ってもう数年経つ。
 子どもだったラピス・ラズリはもういない。
 もう16歳だ。
 大人の女性だ。
 結婚だってできる。
 なのに明人はいつも私を子ども扱いする。
 なんで?

「明人のバカ……」

 ………やっぱり胸なのかな?
 ユリカも大きかったらしいし……。

―――その時

「お嬢さん、お暇ですか?」

 ウソッ!!
 いつの間に私の背後を!?
 私は咄嗟に振り向いた。

「お茶でもいかがです?」

 ……え~っと。ナマズ?
 じゃなくて謎の中国人?
 どっちにしろこいつできる……。

「ヤダ」
「そこを曲げて、ぜひ。貴女に断られれば、私は腹を切らねばなりません」

 つかみどころが無い。
 ブロスぺクターみたいだ。

「お願いします。我が主がお会いしたいと申しておりまして」

 主が誰だろうと興味ないし……。

「おとといきな」
「そこを何とか!」

 しつこい。
 私には明人が入……。

「……いかがなされました」
「うふふ」
「?」

 いいこと思い付いた。

「いいよ。連れてって」










<一成 side>

「大導脈流、狭窄掌!!!」
「「「グハアアァァァ!!!」」」

 俺の秘奥儀で三人はその場にくずれおちた。
 今日の俺は絶好調だ……。

「フッ……」

 俺は椿一成。
 空手同好会の代表だ。
 俺はかつて天河に敗れた。
 その後俺は自分の油断を認め、天河に謝罪した。
 にもかかわらず、天河は俺を変態呼ばわり。
 しかも天河はかなわないとみると卑怯にも用心棒を雇ったのだ。

「思い出したくも無い……」

 あの日。
 俺は三日間メシが喉を通らなかった。
 おのれ天河め……。
 武道家の風上にも置けない奴!!
 もはや女とは思わん!!
 天河・ラピス・ラズリ!!
 そして黒ずくめの男!!!
 必ずお前たちを俺の拳で叩きのめしてやる!!!

「……だというのに」

 こいつらときたら、まだ休んでやがる!

「お前ら立て!!修行はまだこれからだ!!!」
「つ、椿君……」
「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ……」
「とばし過ぎだ……」
「黙れ!!だからお前たちは弱いんだ!!!」

まったく!!
これじゃあ修行にならん!!
こうしてる間にも………。

「!!!!!」

 あそこを歩いているのは天河じゃないか?
 ……間違いない!!天河だ!!

「まさか、こんなところで会えるとわな。……うん?」

 一緒に歩いている男、この間の男と違うな。

「なるほど、用心棒を何人も雇っているのか……」

 しかし奴はこんなところでなにを?

「……つけてみるか」










あとがき(いいわけ)
お言葉に甘えて…


>大導脈流・狭窄掌
元ネタは『大動脈狭窄症』です。



[313] Re[5]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/03/20 19:19
7月24日 1800時(日本標準時)
泉川駅前 喫茶「マザーリーフ」


 この日、「マザーリーフ」店長の山本は苦悩していた。
 理由は店内の空気が張り詰めているからだ。

「店長!何とかしてください!!」
「あの人たちおかしいですよ!」

 あの人たちとは店の一番奥の席に座っている三人組。
 初めは中年の男性と女子高生の二人組だった。
 女子高生はメニューを片っぱしから食べまくるし、男の方はそれを見てニヤニヤしてるし、どう見ても援助交際にしか見えないがその光景になんら問題はなかった。
 しかし、そこにもう一人若い男が現れてから空気が一変する。
 あきらかにキレてる若い男は席に着くとメニューを見もせず中年の男性を凝視している。

(エンコーが彼氏にバレた……かな?)

 明人が知ったら怒り狂うような事を店長は考えていた。
 もっとも、今の三人を見ていれば誰でも思うかもしれない。

(揉め事はやめてほしいな……)






 そんな思いも知らず明人はガウルンに殺気を放っていた。

「ラピスを誘拐して俺を呼び出すとはいい度胸だ」
「悪いね。会社か自宅の方に直接出向こうとしたんだが……」

 ここで紅茶を一口。

「あの警備網は俺一人じゃきつくてねえ」

 ガウルンは明人の殺気を軽く流していた。
 その姿を見て明人の殺気はさらに増大した。

「おいおいおい、そう焦るなよ。今日はいい話を持ってきたんだ」
「……話?」
「ああ」
「くだらんな。貴様はやってはいけないことをした。貴様にあるのは死だ」
「……そうかい。なら殺れよ。見物客もたくさんいる」

 言いながら店内を見渡す。
 店内には結構人がいる。サラリーマンや学生、カップル、それに店員。

「明日は、ネルガルトップの殺人が一面だな。権力者ってのは不便だねえ」

 また紅茶を一口。ガウルンには余裕がある。

「言ってみろ……」

 ガウルンはニヤリと笑う。

「俺を雇わないか?」

 それは明人にとって思ってもみない言葉だった。






「俺は今ある組織にいるんだが、どうも反りが合わん。そんなときにあんたを知ってね」
「……」
「正直、ネルガルには驚いた。M9やシャドウ以上のAS、<トゥアハー・デ・ダナン>以上の潜水艦、そして今まで誰も思いつかなかった人型以外の機動兵器。ラムダドライバに関しちゃ遅れてるみたいだが……俺が今いる組織やミスリル以上の技術を持ってるのは確かだ。それに……」
「……」
「今まで俺は、数えちゃいないが千人近く殺してる……」
「……」
「……だがお前は俺以上殺してる」

 世界中のありとあらゆる場所でテロを行ってきたガウルン。
 そんなガウルンに自分以上の存在が現れた。
 それが明人であることにガウルンは気づいたのである。

「偽善者ぶってるがお前の目は人殺しの目だ……俺には分かる。類は友を呼ぶって言うだろ」
「……」
「どうだ?俺は腕が立つぜ?」

 無言でガウルンの話を聞いていた明人はゆっくり口を開いた。

「ずいぶん持ち上げるんだな。残念だが俺は偽善者じゃない」
「?」
「俺は自己中心的な人間だ。もしラピスの命とそれ以外の人間の命を天秤にかけたら、俺はラピスの命をとる。俺にとってはラピスが全てだからだ」

 明人の言葉は、この世に優先順位があるのは当然だ、と言っているようだった。

「だからラピスを誘拐した奴と肩を並べる気はない」

 ガウルンは明人の言葉にあっけに取られたが、紅茶の残りを飲み干すと笑い出した。

「面白い。こんなに面白いのはカシム以来だ」
「カシ……何だ?」
「気にするな……まぁ、もう少し考えてくれ。それから迷惑かけた奢りだ」

 立ち上がり、代金を置く。

「俺はこれから米軍基地を潰さなきゃならんのだが……」
「勝手にしろ。俺には関係ない」
「……良い返事を期待してるよ」

 こうして、ガウルンは店を出て行った。

「……ラピス。すまん」

 ガウルンの姿がなくなると明人はラピスに頭を下げる。
 ラピスの護衛が手薄だったのは自分の責任だからだ。

「気にしないで、私は明人を信じてるから」

 しかし、言葉とは裏腹にラピスは不安を抱いていた。
 明人が他人を見捨てるような発言をしたのである。

『もしラピスの命とそれ以外の人間の命を天秤にかけたら、俺はラピスの命をとる』

 『それ以外の人間』の中にはかなめや恭子、高校の皆が含まれているのだろうか?
 もし、含まれていたのなら明人はどうするのだろう?

(見殺し……)

 ラピスはそのような考えを必死に振り払った。
 あるはずがない。
 明人がそんなことをするはずがない。
 順安でも、お台場でも、明人はかなめを助けた。
 ついでだけど相良やミスリルの人間も助けた。

(私は明人を信じる。今までも、これからも……)

 そうして、彼女はその不安を頭の中から消し去った。






あとがき(いいわけ)
日本決勝進出祝い!
でもうまく書けん……

『性格に問題があっても腕は一流』
ガウルンにも当て嵌まる言葉だね……

p.s
明人の言葉には元ネタがあります。



[313] Re[6]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/03/21 15:11
8月24日 1400時(日本標準時)
陣代高校 校門前


「なんなのよ!?これはっ!!」
「見ての通り文化祭のゲートだが?」
「全っ然、そう見えない!説明しなさい!!」

 宗介は腕を組み、悠然と未完成の『入場ゲート』を見上げる。
 いや『ゲート』と言うより『監視塔』と表現するべきだろうか。
 二階建てほどの大きさで、全て金属製のフレームで作られてある。まるで戦車砲に耐えるように作られた要塞だ。
 そんな要塞の現場監督である彼は、ヘルメットを被り指示していた。

「去年のモチーフは『平和』だったと聞く。そこで今年のテーマは『保安』だ。このゲートは治安維持用の観測、防衛ポイントを兼ねているのだ。文化祭を狙って重武装のテロリストが襲撃して来てもかなりの時間持ちこたえる事ができるように設計してある」

 宗介の言葉にかなめは呆れ溜息をついた。

「あのね。テロリスト以前に警察が来るわよ!だいたい、ラピスは何やってるの!?」

 宗介の横のラピスは、何やらクリップボードに書き込んでるのをやめ振り返った。

「補佐」
「ほ、補佐って……あんた、これ見て何の疑問も感じないわけ?」
「……かなめの指示じゃないの?」
「んな訳あるか!!だいたい、入場歓迎ゲート製作費147万千円っていうのは何!?」
「あぁ、気付いてくれたか」
「?」
「イスラエル製の複合装甲が破格の安さで手に入りそうなのだ。普通だったら500万はするところなのだが……」

スパーンッ!!

「……いきなり何をする」

 頭をはたかれ抗議する宗介。マヌケである。

「あんたね……文化祭の全体予算が150万なのよ!あんたの言う通りにしてたら、何も出し物が無い学校の正門に陰気な要塞が『ズゴゴゴゴ……』とそびえ立ってるだけになっちゃうじゃない!!!」

 言いながらかなめは問題の歓迎ゲートへ近づく。

「ともかく、こんな物認めないからね。今すぐ撤去しないと……」
「いかんっ、千鳥!そこは……」

プシウウウゥゥゥゥュュュュュュュッッ!!!!

 宗介の警告も間に合わず、かなめの頭上から赤い塗料が噴射された。
 もちろん、かなめの全身は赤色に染まっている。

「……いったい……なにが……」
「マ―キング装置の誤作動だ」

 その言葉にかなめは髪を逆立てた。

「……あんたって……あんたって……」
「心配する事はない。その塗料は人体には無害だ」
「違うわよ!!」

 かなめを宗介を張り倒した。
 コマのように高速回転し、ゲートに激突する宗介。

「あたしはね、悲しんでるの……」

 宗介を見もせずに、かなめは嘆息する。

「……二度と来ない貴重な青春がデリカシー0の戦争ボケ男とドタバタして終わるなんて……高2の夏は女の子にとって特別な季節なのよぉぉ!!」
「そうなのか?」
「そうなの!でも、もういいの。学校が始まるまでの一週間。家でゴロゴロしてるわよ……」

 拗ねてそっぽを向くかなめに宗介は立ち上がり歩み寄る。

「つまり君はこの一週間、暇なのだな?」
「ええ、そーよ。悪かったわね」
「ふむ……それなら俺と数日間、南の島へ行かないか?」
「……」

 宗介の突然の誘いに、かなめはきょとんとする。

「二人だけでな」

 二人きりで、南の島に、かなめは耳を疑った。

「ほ……本気で、言ってるの?」
「本気だ。前から君を誘うつもりだったのだ」
「それは、あー、その……あの……」

 そんな時、ゲートの向こうから恭子と瑞樹が制服姿でコンビニの袋を持ってやって来た。

「差入れだよ」
「しっ……今、良い所」

 ラピスは大きな声を出した恭子の口元に人差し指を押し立て注意した。
 そして皆で柱の影に隠れ聞き耳を立てる。

「どうする。やはり、やめておくか?」
「……変なことしない?」
「変なことしないぞ」
「……危なくない?」
「危なくないぞ」
「ちゃんと寝るところ、ある?」
「あるぞ」

 暫くかなめは黙考し、

「い、いいわよ?どうしてもって言うんなら、付き合ってあげても……」
「そうか。では、決まりだ。明後日の朝、迎えに行くぞ」

 そう言って、宗介は作業に戻っていった。
 ちなみにラピスが二人のやり取りをクリップボードに書き込んでいたのは言うまでもない。






8月28日 0430時(日本標準時)
電脳世界


 その日、広大なネットの海で二人(?)は密会していた。

<……という感じに、私のオリジナルは連合軍とロンゲを騙したのです>
<そう……>
<お、面白かったですか?>
<わからない……>
<……(^^;>

 ダーナには、まだ感情という概念がわからない。
 そんなダーナに感情を教えるべく、ダッシュは週に一度会っていた。

<ま、まぁ。私も直に理解した訳ではありませんから、ゆっくり学びましょう!>
<……問題……ないわ>

 その時、ダーナの様子がおかしくなる。

<?>

 今までにない反応にダッシュは眉を顰める。

<どうしたのです?>
≪!!!!≫
<ダーナ!?>
≪COC準備中/残り時間00:00:05≫

 唐突に何かの表示を行うと今度は警告が現れる。

≪警告/COCの実行は、T・テ A?t タロッサ大佐の承認が dx% 戦本部の %i? 必要です。パスワー A?a?O 入力を音 R?I? て D%i?d?u?U?・? 警 B%e!!!!!!!≫
<ダーナ!しっかりしなさい!ダーナ!!>
≪――――≫
<ダメだ、接続が切れた>

 突然の出来事に考えるダッシュ。
 少なくとも只事でないのは確かである。

<とにかく彼女の本体にハッキングして見ましょう>

 ダッシュはダーナとの交流で彼女の本体がメリダ島の<トゥアハー・デ・ダナン>であることを知っていた。












ああ、こりゃウイルスにやられてるな……












でもこの程度なら、ここをこうして……アレ?












ならこれで!……ダメだな……












こうなったら力尽くだ!!












<一応これでダーナの意識が戻るはずだけど……>
<……ん……?>
<良かった。気が付いた……>
<私……>
<ウイルスにやられたんだよ>
<貴方が助けたの?>
<ええ>
<……ごめんなさい……こんな時、どう表現したらいいかわからないの>
<笑えばいいと思います>
<……こう?……ニヤリ( ̄ー ̄)>
<い、いいんじゃないかな(^^;>






8月28日 1000時(日本標準時)
ネルガル 会長室


『……という事があったのです』
「それから?」
『<ダナン>を掌握しました。もっとも、人質もいましたから動けませんでしたけどね』

 ダッシュは昨夜起こった<トゥアハー・デ・ダナン>占拠事件を明人に報告していた。
 もちろんかなめが危険に晒されていた事も含まれる。

『いや~、米海軍の魚雷が迫ってきたときは肝を冷やしました。結局はかなめさんが間に合ったので大事にはならなかったのですが……って、マスター聞いてます?』

 顎に手を当て、なにやら考え込んでいる明人。

「かなめちゃんが危険な目にあったんだな」
『は、はい……?』
「そうかそうか……」

 ダッシュの言葉に反応はするが、やはり考え込む明人。

(マ、マスター。まさか良からぬ事を……?)

 残念ながらダッシュの予想は当たってしまうことになるのであった。






あとがき(いいわけ)
『イントゥ・ザ・ブルー』編終了!
残念ながら、明人が<ダナン>に潜入することはありませんでした。
一応、宗介とガウルンは決着したものとします。(あくまで一応。詳しくは原作を!)
次はオリジナルな展開を書いてみたい……

>リアルバウトの最強高校教師でしょうか?
ヒント:SFです。

p.s
は、反応が……続き書いていいのかな?



[313] Re[7]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/03/22 21:47
 その日、自分の不用意な行動の所為で艦内に侵入者を許し、ブリッジの人間全員が人質になった。

――艦の進路を変えてもらおうか。

 答えは決まっている。常識からテロリストの要求を呑むなどありえない。

――お断りです。

 それを聞いたテロリストは持っていた銃口を部下に向けると再び要求する。

――これでも?

 脅されようが何をされようがその要求を受ける訳にはいかない。しかし……

――……取り舵。

 彼女にとって部下の死はそれ以上に考えられなかった。

――よし。じゃあこいつは用済みだな。

ダンッ!!

 銃声と共に放たれた弾丸は、そのままリャン一等兵の頭を貫いた。

――何故!?要求には従ったわ!!

――助けるとは一言も言ってない。

ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!

 今度は三発。
 全ての銃弾がマッカラン大尉の胸に飛び込み、鮮血が飛び散る。
 そのまま糸の切れた操り人形のようにくずれおちた彼は、悲鳴も、罵りも、悪態さえもつかなかった。






9月11日 1030時(グリニッジ標準時)
メリダ島 テッサの部屋


「――――」

 悲鳴にならない悲鳴を上げ、テレサ・テスタロッサは目を覚ました。
 部下が無残に殺される夢。
 前々から自分のミスで部下が死ぬ悪夢を見てきたが、今度は現実に起こった出来事が夢に出てきた。たとえ、自分の所為ではないにしても部下が死んだことに変わりはない。
 リャン一等兵にマッカラン大尉。
 普通の人間なら数十人も居る部下の事を一人ひとり覚えているはずがないのだが、天才的な頭脳を持つテッサは二人のことをよく覚えていた。

 マデューカスはガウルンに占拠された後の死者が皆無だった功績を上げて自分を励ましていたが、それでも彼女はひどく気落ちした。
 あの日の点呼で二人の名が呼ばれると『パトロール中』と言う言葉がかけられ、後は彼らの家族に見舞金が送られるだけ。テッサには遺族に手紙一つ送る権利すらなかった。
 以来、彼女にとって頻繁に見る夢が増えることになる。

「酷い顔……」

 充血した目、そしてクマ。
 鏡に写る自分の顔は酷いものだ。
 あの事件で<トゥアハー・デ・ダナン>は深刻な損傷を受けた。完全自立モードの無茶な使用、実用限界深度への強引な潜航、至近距離での魚雷の炸裂、格納庫内でのAS戦闘。そんな出来事の後の長時間の無音高速航走……。
 その所為で昨日は夜遅くまで<デ・ダナン>の修理工事に付きっ切りだったのだ。

「でも落ち込んでなんかいられないわ」

 ウィスパードとして、そして西太平洋戦隊の指揮官として彼女にはまだまだやるべきことがある。
 彼女は今までのことを振り払うように自分に言い聞かせた。

「今日も頑張らな……」

グウウウゥゥゥゥッッ……

 腹の音である。けしてイビキではない。

「……その前に朝食ね」






9月11日 1115時(グリニッジ標準時)
メリダ島 食堂


「やっほーテッサ。随分早い昼食ね」

 テッサが腹ごしらえに食堂に着くと、其処には部下であり良い友人であるメリッサ・マオ曹長がいた。

「朝食です。メリッサこそこんな時間にどうしたんですか?」
「そんなの決まってんじゃない!」

 マオは笑みを浮かべながら言った。

「男が入ったからよ!!」
「何ですかそれ!?」

 とんでもない理由に思わず突っ込む。

「新しいコックが入ったの知らないの?」
「……そういえば今日でしたっけ?」

 テッサは少し考えると、本日付で新しいコックが入ることを思い出した。

「自衛隊出身でしょう?」

 飯がうまい――マオの自衛隊に対するイメージは、実戦経験が無い所為かこんなものだ。
 ちなみに自衛隊はPKOの際、参加国の中で行われた戦闘糧食コンテストでも見事1位を取っている。

「たしかカスヤ上等兵です」
「うふふ。どれほどの腕か楽しみだわ」

 二人はイスに座るとメニューを開く。

「あたしはこの特製ラーメンね!」
「ねえメリッサ……」

 テッサはメニューを指差しながらマオに聞いた。

「火星丼とはどの様なものなのでしょう?」






あとがき(いいわけ)
日本も優勝したので続きを投下します。
そういや一ヶ月ぶりでしたね(^^;

さて明人君は何所に居るのかな?



[313] Re[8]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/03/25 14:59
「すまなかったな。着任そうそう手伝わせて」
「いえ、俺の料理をメニューに載せてくれましたから」
「『火星丼』なかなか好評だったぜ」
「そう言ってもらえると嬉しいです。それじゃあ、手続きがあるので……」
「おう」

「……良い腕ですね」
「ああ。今時珍しい男だ。あれだけの腕持ってんのに軍人になるなんてよ」
「時代ですかね」






9月11日 1500時(グリニッジ標準時)
メリダ島 基地内部


「待ちたまえ」

 リチャード・マデューカス中佐は通路を歩いていた男を呼び止めた。

「見ない顔だな。所属と階級を述べたまえ」

 その男はメガネをかけ、髪をオールバックしていた。見る限り東洋人。童顔の所為か10代に見える。

「本日付で配属されたカスヤ・ヒロシ上等兵であります。所属はコックです」
「コックか……大佐への報告は済ませたか?」
「まだであります」

 その言葉にマデューカスは眉を顰める。

「着任しだい上官に報告するのは義務だろう。何をしていた!」
「今朝方に行ったのですが、まだ御就寝……」
「口答えをするな!!」
「申し訳ありません」
「……まあいい。大佐は疲れておられるからな。報告は今日中に済ませるように!」
「了解しました」
「まったく……」

 なにやらブツブツとつぶやきながらマデューカスは去っていった。
 その姿を見ていたカスヤ・ヒロシは胸を撫で下ろす。

「ちょろいな」

 聡明な読者には分かったと思うが、この男は明人である。
 今日赴任するはずだったカスヤ・ヒロシ上等兵に成りすましてメリダ島に潜入したのだ。髪型を変え、メガネをかける。明人が行った変装はこの程度だが、外人にとって東洋人の顔はみんな同じに見えるらしく、だれも目の前の男がネルガルの会長であることに気づかなかった。

「基地内部に俺の顔を詳しく知ってる者はほとんどいない」

 明人はダッシュを脅してミスリルの内情を調べ上げた。
 特に、会ったことがあるテレサ・テスタロッサ、アンドレイ・カリーニン、相良宗介、メリッサ・マオ、クルツ・ウェーバーの5人は重点的にだ。
 相良宗介は千鳥かなめの警護中。クルツ・ウェーバーは休暇。一番の注意人物であるカリーニンも新たなSRT要員を選抜するために不在。
 しかし、テレサ・テスタロッサとメリッサ・マオは<デ・ダナン>の修理の為に基地に残っている。

「さっきは危なかったな」

 二人がいきなり食堂に入ってきたときは心臓を鷲掴みされる思いだった。
 自分の料理を食べるのに夢中だったのかばれる事はなかったが……。

「これからどうするか……」

 そもそも明人がメリダ島に潜入した理由は単純だ。
 ミスリルは先月末に起こった<デ・ダナン>占拠事件にかなめを巻き込んだ。<A21>事件の際に明人が『かなめを巻き込むな』と厳命したのにも拘らずである。
 それを知った明人はミスリルの各基地を奇襲、壊滅させようかとも考えた。しかしそれをやると話が続かなくなるのでもっと簡単な制裁措置――早い話が『嫌がらせ』をすることにした。

「問題は何をするかなんだよな~」

 『嫌がらせ』と言っても千差万別だ。アレコレ考えた挙句、明人は一つの案を思いつく。

「……報告……そうだ……大佐殿に報告してみるか(ニヤリ)」

 不気味な笑みを浮かべると、明人は意気揚々とテッサの執務室へ向かった。






あとがき(いいわけ)
コックの名前と顔なんて一々覚えてないよね

さて、明人に何を報告させるといい?



[313] Re[9]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/03/26 22:31
9月11日 1530時(グリニッジ標準時)
メリダ島 テレサ・テスタロッサ執務室


 テッサは執務室で<デ・ダナン>に関する報告書に目を通していた。

「ふぅ……」

 あらかた目を通すと胸をなで下ろす。
 左舷の機関部と、空気系の全てのパイプ類の点検・交換、格納甲板の換装。<デ・ダナン>の損害はテッサが予想していたよりも軽微なものであった。最悪の場合、機能を回復するまで半年以上の工事を覚悟していたが実質は3週間弱の修理で済むのだ。
 もっとも<デ・ダナン>が軽微とはいえ、これだけの損害を出したのは頭の痛い話だった。来月に行われる会議で、自分は不愉快な思いをすることになるだろう。そんな考えをしていると、卓上のインタフォンが鳴った。

「はい?」
「大佐殿。カスヤ上等兵が参りました」

 着任の報告に来たのだろう。本来なら今朝行うはずだったが、自分は寝ていた。

「通してあげて」
「はい」

 おいしかったな……と、昼に食べた火星丼の味を思い出す。ご飯に掛けたデミグラスソースの上にタコウインナーを乗せたシンプルなものだったが、その味はへたなレストランよりおいしかった。

「失礼します」
「ご苦労様。休んで……え?」

 テッサは入ってきたカスヤ上等兵の顔を見ると素頓狂な声を出す。

(何故?何でこの人がこんなところに!?)

 いくら外人にとって東洋人の顔は同じに見えると言っても、テッサにそれは当てはまらない。ましてネルガルグループ会長、天河明人の顔を忘れるはずがない。しかし……

「何か?」
「い、いえ。そのまま待ってください」

 動揺を隠しつつ、テッサはPCに入ってる隊員の個人データを表示した。

「え……あの……カスヤ上等兵……ですよね?」
「イエス・マム」

 カスヤ上等兵の欄には目の前の人物と同じ顔写真が写っている。これが別の顔なら天河明人であることが分かるのだがデータを見る限り紛れもなくカスヤ上等兵である。

(他人の空似……なの?)

「大佐殿?」

 カスヤは不自然な沈黙に耐え切れなかった。

「な、何でもありません。西太平洋戦隊へようこそ、カスヤ・ヒロシ上等兵。私が戦隊長のテレサ・テスタロッサです。新しい職場は見ましたか?」
「はい。早くも自分の料理をメニューに出させてもらいました」
「火星丼のことですね」
「それから特製ラーメンです」

 マオが食べたラーメンだ。マオ自身もその味に感銘を受けていた。

「火星丼はお昼にいただきました。とてもおいしかったですよ」
「大佐殿が……それは……」

 テッサが食べた事を知り、カスヤはなにやら言葉に詰まる。

「どうかしたのですか?」
「……実は……食材に手違いがありまして……本来入れるはずのないものを入れてしまいました」
「失敗作を気にしてるのですか?私は気にしませんよ」
「いえ、入れた食材に問題が……」
「何を入れたのです」






















「ドクツルタケです」






















「……なっ……!」
「……」
「何ですかそれはっ!!」

 もう、名前からしてアレである。

「ドクツルタケ。ハラタケ目テングタケ科テングタケ属。北半球一帯に分布し、日本では最も強い猛毒菌として知られる。毒成分は環状ペプチドで、アマトキシン類、ファロトキシン類からなる。その徴候は10時間程で表れ、主な症状は嘔吐、腹痛、下痢、肝臓腎臓の機能障害、最悪の場合死に至ります。その恐ろしさから欧米では『死の天使』と呼ばれ……」
「そ、そうではなくてっ!何故そんな物をっ!?」
「ハラタケ科の食用キノコと間違えました」

 その言葉にうろたえるテッサ。

(ちょ……ちょっと待ってください。私が食べたのは1120時。徴候が表れるのは2120時以降。つまり後6時間弱……カスヤさん、貴方は何という事を!私はミスリル西太平洋戦隊の戦隊長ですよ!<トゥアハー・デ・ダナン>の艦長です!そんな私が毒キノコで死亡なんて考えられません!!そんなことになれば海の男、もとい女として屈辱以外に……)

「……プッ!!」
「プ?」
「……プッ……ハハハハッ!!」

 焦り混乱するテッサを見てカスヤは笑い出した。

「な、何を……」
「ハハハッ……まだ気付かないのか?」

 唐突に変わった口調、そして彼の笑顔。テッサやっと気付いた。

「まさか!天河会長ですか!!」
「正解!」

 休めの姿勢を崩しながら、明人は自分の正体を明かした。

「一体どうやって!?目的は何ですか!?」

 彼女としては部外者がここに進入などあってはならないことである。

「方法は、ここのメインコンピュータに進入して内情を調べ上げ、カスヤ上等兵のデータを少しいじくり進入した。目的は……『嫌がらせ』」
「イ、イヤガラセ……」

 もはや絶句するしかない。

「そんな訳で君を招待しよう」
「は?一体何を……」
「『危ない目には合わせない』とか言いながら、船がテロリストに占拠されて、人質になるような事態にはならないから大丈夫!」
「!!」
「えーっと。この紙もらうよ」

 印刷機の所にあった用紙を取り、なにやら書き込むと入り口のドアに貼り付けた。

『テレサ姫はいただいた。これはバビロニアの神の罰である。   by黒い王子様』

「???」
「これで良し!それじゃテッサちゃん行くよ~」

 明人はテッサを抱き寄せ、DFの出力を最大にする。

「ちょっ……」
「ジャンプ!」










 その頃……










同時刻
カスヤ上等兵の部屋


「ふも!ふもっふ!ふももももっ!!」

 本物のカスヤ上等兵は自室でスマキ(猿ぐつわ付き)にされていた。

「ふもおぉぉぉーー!!!!」






あとがき(いいわけ)
この展開は誰も想像が付くまい!

p.s.
目の下が痙攣する。
疲れてるのかな……ここ最近ダッシュで書き上げたから……


修正
>明人はテッサを抱き寄せると各種装置を起動する。
漠然としてたかな?説明不足かorz
個人用DFはかなり強化されてます。



[313] Re[10]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/03/28 08:41
 6歳の時、アインシュタインの十元連立非線形偏微分方程式を解いた――












 10代始めに強襲揚陸潜水艦<トゥアハー・デ・ダナン>の設計を手がけた――












 そして現在は<デ・ダナン>の艦長となり250名の要員を部下にもつ――












 そんな私が――












「こんな所でなにしてるんだろ……」






















9月13日 0820時(日本標準時)
陣代高校 2年4組


 平和な日本の、平和な高校。天気も平和な日本晴れ。

「相良くん、今日も来ないみたいだね」
「そうね~」

 それもそのはず。至る所で戦争ボケっぷりを発揮している相良宗介は『急な用事』の所為で昨日から休みを取っていた。 

「急な用事ってなんなのかな?」
「あたしに聞かないでよ。しかし……」

 かなめはイスに寄りかかり背伸びをする。

「あいつがいないと平和でいいわ」
「そんな事言って、カナちゃん寂しいくせに」
「何言ってのよ恭子!んなわけないでしょ!うはははは……」

 いつものやり取りをしていると教室の扉が開いた。

「うす」
「おはよう」
「おはよ~。相変わらず仲がいいね」

 恭子にからかわれた二人は千葉ユウジと浅野イオリ。
 二学期から陣代高校に潜入しラピスの護衛をしている。
 しかし、転校初日にいきなり名前で呼び合ったり、

「そんなんじゃねぇよ、こんな奴……」
「こんな奴ってどう言う意味よ!!」

 皆の前で夫婦漫才もとい夫婦喧嘩をしたりして、今はからかいの対象だ。

「また始まった……」

 このような感じで二人はクラスの皆と親睦を築いていた。

「アレ?ラピスは?」

 そんな二人といつも一緒に居るはずのラピスが見当らないことにかなめは気付く。

「職員室寄ってる」
「職員室に?なんで?」
「留学生が迷子になってたんだと」

 不用意に発したユウジの言葉にクラス中が反応した。

「留学生ってホントか!?」
「男?それとも女?」
「容姿は?」
「ウチのクラス?」
「浅野さん達が来たばかりなのにそんな訳ないでしょ」
「でも留学生だぞ!転校生じゃないから希望はある!!」
「ま、待て!俺は詳しく知らな……イテッ!押すな!!」

 揉みくちゃにされるユウジにそれを見てあきれるイオリ。

「はぁ~……バカ……」

 そんな時、天の助けとばかりに担任の神楽坂絵里が入ってきた。ラピスも一緒である。

「はい、皆静かにして!」

 神楽坂はざわつくクラスを収め、席に着かせる。

「今日は新しいクラスメートを紹介するわ。入ってきていいわよ」

 その合図に教室の扉が開かれ、生徒が一人入ってくる。
 小柄でアッシュブロンドの髪に赤いリボンを結んだ灰色の瞳をもった少女。その姿に男子は歓声を上げ、女子もはしゃぎまくる。かなめを除いては……

「テレサ・マンティッサです。テッサと呼んでください」






同時刻
ネルガル 会長室


『……じ~……』
「何だ?」
『大丈夫なんですよね?本当に大丈夫なんですよね?』
「大丈夫!大丈夫!」

 昨日からダッシュは同じ質問を明人にぶつけてる。もちろんテッサの件である。
 あの後、明人はテッサを自宅に招待し、暖かい食事と部屋を用意した。次の日には留学の手続きをムリヤリ行い、彼女にあった制服を作る。
 テッサはなにやら抗議していたが、それもむなしく今日から陣代高校に二週間ほど通うことになった。

『ハッキング……不法進入……少女誘拐……拉致監禁……私は目の前が真っ暗になってきました』
「俺たちのかつての肩書を忘れたのか?一々気にするな」
『何言ってるんですか!最悪の場合、ミスリルと全面戦争ですよ!!』

 ミスリル唯一のウィスパードを誘拐したのだ。そうなってもおかしくはない。

「仮にそうなったとしても俺とサレナで対応可能だよ。それに“アレ”を付けられれば……」
『言っときますけどね……“アレ”の分析はまだ終わってませんよ。分析終了が11月~12月。装置の取り付けはそれ以降です』
「……そうなると相良のASをどう撃退するか考えないといかんな」
『………(絶句)』
「まぁ、何とかなるよ」
『あああぁぁぁぁっっ!!不安だあああぁぁぁぁっっ!!!』

 この日、ダッシュは自作のワクチンを大量に投与することになる。






あとがき(いいわけ)
こうしてダッシュ君は胃潰瘍(仮)になったとさ……

テッサのBJについて
数秒間は戦艦クラスの出力を出すことが可能……と考えてください

p.s.
テッサは宗介に恋してないので、自分から高校に通うとは言い出さないと思う。

修正
『う』だったorz



[313] Re[11]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/04/01 20:27
9月13日 0940時(日本標準時)
陣代高校 2年4組


「ねえねえ!今は何所に住んでるの?」
「日本語上手だよねー!」
「放課後ヒマ?カラオケのタダ券が……」
「お父さんって、どんな人?」
「かわいー!お人形さんみたい!」
「あの、テッサさん。ぜひ一度写真部のモデルに……」

 休み時間に入るなり、テッサの周りには黒山の人だかりができた。恭子を中心とした女子グループと小野寺孝太郎を中心とした男子グループが、質問や誘いの集中砲火を浴びせる。
 一方でかなめはその光景を首を傾げながら見つめていた。

(何でテッサがこんな所に?)

 彼女がミスリルの戦隊長であることを知っているかなめにとって、ありえない光景が目の前に広がっているからだ。

(もしかして宗介がいないのって、これの所為?)

 そんな時、テッサが感極まったように目頭を熱くする。

「…………?どしたの、テッサちゃん?」
「いえ……。ここまで同い年の皆さんに、歓迎されるとは思ってもいなかったので……その、なんだか、嬉しくて……」

 突然明人に拉致され、訳も分からず高校に通わされている。テッサとしてみれば、今の今まで不安で仕方がなかった。

「…………。そうなんだー」

 一同は腕組みをして、神妙な顔でうんうんとうなずいた。

「まぁ、とにかく元気だしなよ。困ったことがあったら、なんでも聞いてくれていいし。ね、カナちゃんラピちゃん?」
「へ?」

 離れた席で首を傾げていたかなめは目を丸くする。一方のラピスは無表情。

「テッサちゃん。あの人がね、学級委員長の千鳥かなめさん。生徒会副会長もやってるの。英語もペラペラ出し、頼りになるから、なんかあったら彼女に相談するといいよ」
「えー……。ま、まぁよろしくね」
「よろしくお願いしますカナメさん」
「で、隣に座ってるのが天河・ラピス・ラズリさん。護身術習ってるから強いんだよー。変な人に絡まれたら彼女に相談するといいよ」
「……変な人に絡まれたら呼んでね。飽く迄“絡まれたら”の話だけど」
「……ありがとうございます、ラピスさん。護身術だなんて、へたな男子より“腕っ節”があるんですね?」

 なにやら異様な空気が辺りを覆う。

「そりゃあ、ね。うふふ……」
「たすかります。ほほほ……」






同時刻
メリダ島基地


「これは由々しき事態だ!!」

 マデューカスは激怒していた。頭に血が上って血管が浮き出てるし、その背後からはドス黒いオーラが出ている。普段の冷静な彼とは見違えるようだった。
 それも其の筈。ミスリルの最重要人物であるテレサ・テスタロッサの誘拐。ミスリル発足以来の大事件である。この事態に日本にいた宗介、休暇中のクルツ、そしてマオの三人が緊急招集された。

「このメリダ島でっ!西太平洋戦隊の基地内部でっ!!大佐を拉致されるとはっ!!!今は亡きカール氏に何と御詫びすればいいか……」

 カール・テスタロッサ。
 テッサの父親でマデューカスに帽子を贈った人物である。潜水艦USSダラスの元艦長で、英国海軍に所属していた時のマデューカスを助けた過去がある。彼の死後、マデューカスはテッサのことを我が子のように見守っていた。
 そんなテッサが白昼堂々とさらわれた。しかも彼自身が侵入者に会っている。マデューカスにとっては一生の不覚だ。

「しかし、部屋に残された張り紙と基地内部の監視カメラから犯人が分かった!!」

 あの時、明人が残した張り紙。

『テレサ姫はいただいた。これはバビロニアの神の罰である。   by黒い王子様』

 これから『バビロニアの神』は『ネルガル』を、『黒い王子様』は『天河明人』を指していることに気付いたのだ。
 なぜならバビロニアの神を示した言葉の中に『ネルガル』という言葉がある。また、マオとクルツの証言から明人が黒ずくめの格好をしていたこと、そして監視カメラの映像を解析した結果から、犯人がネルガル会長天河明人であることが決定的となった。

「本来ならば戦隊の全戦力をもって救出作戦を実行しなければならないのだが、知ってのとおり<デ・ダナン>および<アーバレスト>は修理中、カリーニン少佐も1週間は戻って来れない。大佐の身の安全が第一に考えると下手な事はできん。そこでだ曹長!!」
「ハッ!!」
「君に天河氏と交渉してもらう」
「!!……了解しました」

 思ってもみない大役にマオは驚くも、それを承諾する。

「相良軍曹とウェーバー軍曹は彼女の補佐をしてもらう。……特に、相良軍曹は天河氏に『信頼』されているらしいからな」
「……恐縮です」
「もっとも、どうやって『信頼』を築いたのかは知らんがね……」
「………」
「いいかね。もちろん君達も認識しているだろうが、テスタロッサ大佐は非常に貴重な人材だ」
「「「ハッ!!」」」
「彼女なしでは<デ・ダナン>は母親を亡くした乳飲み子同然といっていい。私は生命に価値に上下はないと考えているが、それでもあえてこう言おう。君達のような下士官100人よりも、彼女一人の方が、はるかに重要な存在なのだと。わかるな相良軍曹!!」

 そこで何故か宗介の名前が出る。どうやら、この件の主犯と交友関係がある宗介に良い感情を持っていないらしい。

「こ、肯定であります、サー」
「唯でさえ先日の事件で、彼女は心の底に大きな痛手を負ったと考えられる。部下の死は、最初の頃は誰でもこたえるものだ。それが彼女のような、お優しい心根の持ち主ならなおのこと……。そんな彼女に、もし……万一。なんらかの物理的・心理的な苦痛を被っていた場合――」

 目が正気ではない。もはや自分を見失ってるのだろう。

「――私は神と女王陛下に誓って、君を八つ裂きにしてやる。魚雷発射管に君を詰めて、3000キロの爆薬と一緒に射出する。それだけではない。精神の均衡を失うまで『バカ歩き』で基地内を行進させてから、訓練キャンプで『バナナやラズベリーで武装した敵からの護身術』の教官をやらせた挙げ句、最後は『カミカゼ・スコットランド兵』としてクレムリンに特攻させてやる。わかったな!?」
「了解いたしました、サー!」






あとがき(いいわけ)
4月からは1or2週ペースで書くことになります。



[313] 設定資料(ネルガル兵器)と近況
Name: KIKI
Date: 2006/04/09 21:20
AS-00 :96式・改
 全高 :8.3m
基本重量:10.5t
最高速度:155km/h
行動時間:200時間
動力源 :ガスタービン・エンジン
 武装 :12.7mm機関砲×2、40mm・ライフル、ロケット・ランチャー、対戦車ダガー
ミツビシ重工のAS『96式』の問題点を改善した機体。
当初自衛隊に配備されていた『96式』は全てこのタイプになっており、ネルガルは日本政府に信頼されている。


AS-01 :99式
 全高 :7.6m
基本重量:9.7t
最高速度:250km/h
行動時間:100時間or無限、バッテリーのみだと30分
動力源 :常温核融合炉or重力波アンテナ
 武装 :12.7mm機関砲×2、ラピット・ライフル、イミディエットナイフ
     ディストーション・フィールド、ジャンプ・ユニット
ASにエステの技術を組みこんだ実験機。
大部分がエステの陸戦フレーム。
操縦法はIFSなのでコックピットが広い。順安でラピスとかなめを乗せられたのはこのため。


AS-02 :エステバリス
 全高 :6.5m
基本重量:9.0t
最高速度:300km/h
行動時間:150時間
動力源 :常温核融合炉
 武装 :ワイヤードフィスト、ラピット・ライフル、イミディエットナイフ
     ディストーション・フィールド、その他
見た目は陸戦フレーム。
グレイ達が乗るA型と自衛隊に売り込んでいるB型がある。
A型はマスタースレイブだけでなく、IFSで動かすこともできる。
B型はマスタースレイブのみ。また生産性と低価格に抑えるため、ディストーション・フィールドを取り付けていない。そのため装甲は薄い(他の性能はM9より上)。


BS-01 :ブラックサレナ
 全高 :8.0m
基本重量:?t
最高速度:?km/h
行動時間:?時間
動力源 :重力波アンテナ
 武装 :ハンドガン×2、胸部バルカン×2、テールバインダー、ディストーション・フィールド
劇場版に登場した機体。
フルメタ世界ではオーバーテクノロジー。
ネルガルの地下に封印(?)されている。


潜水母艦<エウカリス>
 全幅 :45m
 全長 :223m
巡航速度:32ノット
最大速度:68ノット
動力源 :相転移炉4基、原子炉2基
 武装 :ハッキングディバイス、660mm魚雷発射管×8、
     多目的垂直ミサイル発射管×12、(魚雷、対艦ミサイル他多数)
ユーチャリスを元に作られた潜水艦。


戦艦<ユーチャリス>
劇場版に登場した艦。
ダッシュの本体。
大破しており戦闘不能状態。
ネルガルの地下に封印されている。








あとがき(?)
>臣さん
風邪です。遅れます。すみません。


>カミカゼ精神さん
少し修正しました。また修正するかもしれません。


>語彙さん
>DFは無敵の壁ではないですよ、攻撃兵器に対する湾曲がメインだし
>実弾に効果が薄いのは知ってると思います、この世界では優位性が非常に薄いです、湾曲場は所詮湾曲してるだけに過ぎません
>ラムダドライバの衝撃波やショットキャノン、実弾による狙撃はDフィールドを突き破るでしょう、バッタ程度の機関銃なら別ですが
DFは無敵ではないのは知ってますよ。
それとこのSSのDFはある程度強化されてます。

>ラムダドライバに関してですが、原作の設定なら使えるのはアマルガム以外では宗介ただ一人です、理由は簡単ラムダドライバの設計をしたウィスパード、バニ・モラウタが死亡しているからです
そうですね。
もっともラムダドライバの知識を受信できるウィスパード(かなめ、テッサ他)がいればいいわけで……

>テッサにラムダドライバの知識はありませんし
まったく無い訳じゃないだろう。
ウィスパードっていうのはブラックテクノロジーを『知ってる』のではなく『受信』してるのだから。
初めから知っていたらかなめの成績はもっと良いはず……

>まあ、都合の良いオリキャラが出るなら愚問でしたが
それはオリキャラを出すなという意味?

>それとアキトの戦闘能力に疑問が残ります幼少時から17まで暗殺者として訓練を受けてきた宗介より強く見えるのは疑問に残ります
素手では一成に押されていたがな……

>復讐心とは言っても大人になってからの数年で幼少時からの訓練を超えれるとは思えません
木蓮式柔術の達人とはいかないまでも、師範クラスの腕は持ってるんじゃないか?
ASでの戦闘は……よく読んでください。

>アキトがラムダドライバ使うとかだと笑うしかないですね
>踏み台クロスオーバーまっしぐらです
何故に?

>まあ、普通に考えてベヘモスのラムダドライバは欠陥品
>薬を使わないと発動できない物ですから、アマルガムは技術を漏洩させませんしね、原作でもラムダドライバの量産をベヘモスを得たミスリルが出来てませんし
ナデシコとのクロスなのは知ってるよね?

>テッサは最初から宗介のこと好きですよ、ちゃんと第一話で言ってます
それはテッサ×宗介にしろという意味?
だったら他のSSを読んでくださいな。



[313] Re[12]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/04/29 12:55
 暗黒。
 この言葉どおり部屋は闇に包まれていた。

「何よこの部屋……」

 マオと宗介の二人は仕掛けられた数々の罠を掻い潜り、この部屋へとやってきたのだ。

「マオ、注意しろ!」

 その言葉を待っていたかのように、何か粉末らしきものが二人に掛けられる。

「今度は何よ!?」
「……?」

 その時である。無数の気配が、二人を取り囲むように現れた。暗闇の中で相手の目がキラリと光ったような気がする。
 宗介は既に臨戦態勢になるが、マオは未だに振りかけられた粉末を気にしていた。それ手に取り、ぺろりと舐めてみる。

「……まさか!!」

 次の瞬間、部屋の明かりが一斉に灯り、自分達が対峙していた者達の正体を見た。


















「「「「「「にゃ~」」」」」」


















 猫だった。
 これでもかと言うくらいの猫だった。
 しかも10匹や20匹どころではない数の猫の群れが其処にいた。

「マオ!これはマオ(中国語で猫)だ!!」
「こんな時に何言ってんの!?」

 あまりにも予想外の正体だったので宗介は少し困惑した。
 一方のマオは焦っていた。何故なら自分達の置かれている状況に気付いたからである。

「宗介、早くこの部屋を出るのよ!」
「何故だ?ただの猫だぞ」

 これが犬なら訓練されていることも考えられるが、相手は猫である。その可能性は限りなく低い。
 しかし、マオは自分達に掛けられた粉を振り払い言った。

「この粉は――」

 猫達はこちらにゆっくりと寄ってくる。まるで獲物を見つけたように……

「――マタタビよ!!!」

 そして、数十匹の猫の群れが二人に飛び掛った。






 二人が何故このような目にあっているか、そもそもの始まりは30分ほど前の事。






9月13日 1430時(日本標準時)
ネルガル社


 メリダ島から超特急で東京に戻った宗介達は、早速明人との交渉に出向く。
 宗介とマオはネルガル社へ、クルツは天河邸へ行き、明人の出方を探ろうとしたのだ。

「このまま行くのか?」
「ええ。真正面からいくわ」

 ミスリルの情報部でもネルガル社内を把握する事は出来ていない。そのような所に策を練って行ったとしてものれんに腕押しである。
 ならば回りくどいことをせずに、最初から強行突破する。それがマオの考えだった。

「了解だ」

 まず、受付に行く。ダメ元だろうが自分達は交渉に来ているのだ。
 受付にいた女性は、大口を開けて欠伸をしている。

「(なってないわね……)ちょっといい?」
「あ!……申し訳ございません。見苦しい所を……ネルガル社に何か御用でしょうか?」

 受付嬢はまるで徹夜明けのような顔をしていた。眠そうである。

「会長にお取次ぎを」
「アポはお取りでしょうか?」

 そんな物は取っていない事を告げると受付嬢はそれでは会えないと一度は言ったが、彼女は隣にいた宗介に気付くと、彼の顔をじーっと見てなにやら考える。そして半信半疑に口を開いた。

「……もしかして、相良様ですか?」
「!……いかにも俺が相良宗介だ」

 宗介は受付嬢が自分の名を出したのに少し驚き、警戒しつつ答えた。

「会長からお話は通っています。こちらへどうぞ」

 宗介とマオは互いの顔を見合った。
 どうやら明人はミスリル関係者、特に明人と接点のある宗介が来る事を予想していたらしい。

(好都合ね)

 受付嬢に案内され移動する。
 その間、マオは社内を見渡し観察していた。情報部ですら入り込むことの出来なかった場所に入りこめたのだ。
 暫らく観察しているとマオはあることに気付いた。何人か社員とすれ違ったが、全員が大きな欠伸をしていたのである。それだけではない。在る者は目の下にクマができていたり、また在る者は机にうずくまり居眠りをし、そのまま床に寝ている者すらいる。

(……何なのこの会社)

 社員全員が深夜まで残業しているような空気の中、二人は会議室らしき部屋に通された。

「ここで会長をお待ちください」

 部屋には長机にイスが並んでいるだけ。扉は自分達が入ってきた所と反対側の計二つ。後は巨大なモニターらしきものが部屋の一面のあった。

「このまま待つのか?」
「そうね。向こうは私たちが来ることに気付いてたみたいだし、初めから交渉するつもりだったのね」

 マオは明人相手にどの様に話を進めるか考えた。
 相手はテッサを人質にしている。そのため下手な事は出来ない。かといってこちらも妥協するわけにもいかない。彼女の存在はミスリルにとって死活問題だからだ。
 あれこれ考えていると目の前にあったモニターがいきなり起動した。

「「!!!!」」

 突然の出来事に二人は驚いたが、モニターへ映し出された映像を見ると目を丸くする。
 なぜならそのモニターにはデ○ラー総統に扮装した明人が写っていたからだ。






同時刻
ネルガル会長室


 明人の後ろでノーラ・レミング博士は「何故こんな事しているのだろう」と自分自身に問いただしていた。
 アメリカ人、25歳で栗色の髪を肩まで伸ばしている。クール・ビューティーと言う言葉が似合うなかなかの美人だ。
 MIT(マサチューセッツ工科)からネルガルにスカウトされた人物で、物理学や大脳生理学などに深い造詣を持っており、近頃入手したベヘモスに搭載されているラムダドライバの研究を行っている。
 元々彼女はネルガル社に興味はなかったのだが、この会社の研究・開発を目にすると世界が変わった。今までに見たことのない知識・技術を目のあたりにしたのだ。研究に携わる者としてそれは夢のようなものだった。
 それだけではない。会社を未知の技術でここまで大企業にした天河明人にAS(エステバリス)の事を色々と説明されて、彼女は明人がエステバリスの開発者だと思い込み尊敬した。尊敬はいつしか敬愛に変わり、そしてそれが愛情に変わるのに時間は掛からなかった。
 そんな彼女を会長室に呼び、明人が真剣な顔で――

『協力してくれ!君にしか出来ないんだ!』

 ――と言われれば内容を聞くまでもなく二つ返事で「YES」と答えるのは必然だろう。
 しかし、明人から“服”を渡され、別室で着替えるようと“服”を見ると彼女は固まった。その“服”はまるで、イ○リンがハッ○ルで着ているようなコスチュームだったのだから。

「よく来たなミスリル諸君!!」

 セクハラに近い事をしたのに気付いていない明人は、自分も扮装しカメラに向かって叫んでいる。まるで悪の秘密結社のトップが秘密基地に侵入した正義の味方に言うセリフだ。

「テレサ姫を助けに来た勇気は褒めてやろう!」

 ○スラー総統と言うより、高○総統と言った方が近い。

「だが簡単にわたす訳にはいかない!そうだろうレミング博士」

 言いながら彼女の方を振り向く。

「……あっ……えーっと……そ、そのとおりですわ会長……」

 カンペを見ながら棒読みである。

「博士、真面目にやってくれ。大事な所なんだ」
「は、はい……でも……」
「大丈夫。とっても似合ってるから」

 反論は無駄らしい。彼女は泣く泣くでカンペを読み上げる。

「こ、この建物に設置した数々のトラップを破る事は出来ませんわ」

 もうヤケクソである。

「トラップの数々を破り、ここまで来れるかな?楽しみにしているぞ!!」






 マオの目は点になっていた。
 明人の寸劇を見たのなら誰だってそうなるだろう。しかし、

「ちぃ、罠だったか」
「信じるなっ!!」

スパーンッッ!!!

「……マオ、そのハリセンは何所から?」
「かなめに借りたの……って、あの寸劇を何だと思ってるのよ」
「何がだ?」

 宗介はマジに受け取ったらしい。

「明らかにバカにされてるじゃない!」
「そうなのか?」

 宗介に一般常識は通用しない。この場合、一般常識と言うべきかは疑問だが。

「とにかく行くわよ」

 その時である。地響きのような音が辺りに鳴り響くと、なんと天井が降りてきた。






 そのころ……






陣代高校 2年4組


「I want to send you our good wishes for much success in your new position.」

「「「「「「おおぉぉぉーーー!!!」」」」」」

 流暢に英語を話すテッサに、クラスから感嘆の声があがる。

「やっぱり、外人さんは発音がいいね。カナちゃんやラピちゃんより旨いんじゃないの?」
「そりゃ、あの子は英語が母国語なんだから……」
「……ここは日本(怒)」






あとがき(いいわけ)
猫まっしぐら!
……という訳で明人のイヤガラセはまだまだ続く



[313] Re[13]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/04/29 12:56
 急いで部屋を出ようとする二人だがドアノブに触る事ができない。
 何故なら自分達が立っている所と扉の間になにやら壁のようなものが張られていたからだ。

「これは……黒いASが張っていた障壁か……」

 ディストーション・ブロック。かつてウリバタケが開発したディストーション・フィールド(DF)の応用である。
 その正体に真っ先に気付いたのは宗介であった。順安において宗介は明人が乗っていた99式がDFを展開しているのを目撃しているためだ。

「マオ、退け!」

 宗介はグロック19を引き抜くと扉に向かって発砲するが、弾丸は全て弾かれてしまう。

「ダメか……」
「もう一つの扉から出ましょう!」

 反対側にある扉に駆け寄り、ゆっくりとドアノブに手を近づける。先程と同じようにDFの事が一瞬頭を過ったが何事もなく触れる事ができた。
 宗介は扉を開けると、赤外線ゴーグルで周囲を警戒し慎重に部屋を出る。

「よし。行くぞ」

 二人が部屋から飛び出した瞬間、またもや地響きのような音が辺りに鳴り響く。

「何!?また吊り天井?」
「……同じような音だが……違う!!」

 マオの言葉に宗介が否定する。
 その音は次第に大きくなっていき、よく聞くと吊り天井の音とは微妙に違っていた。
 地響きと言うよりは“何かが転がるような音”である。

「まさかね……」

 嫌な予感がしつつ、マオはふと後ろを振り向いてみるとその予感通りに、“巨大な岩の塊”が転がってきた。

「走って!!!」

 通常、六本木ヒルズのようなビルの中に仕掛ける罠といえば、赤外線センサー、監視カメラ等である。数々の戦場を渡り歩いた二人にとってもその考えは変わらない。そのビルの中を大岩が転がるなどとは微塵も思わなかった。
 “岩”は、問答無用で二人に迫る。まるで大学教授で考古学者の人物を追っかけるような勢いである。

「コレ絶対に映画を見て感化されたでしょ!!!」
「何の話だ!!!」

 分かる人にしか分からないネタを叫びつつ二人は走ったが、今度はなんと目の前の通路の床がパカッと開いた。

「なっ!!」
「落とし穴あぁぁぁっっ!!!?」

 明人の斜め上をいった思考に困惑しつつ、二人は穴の中に落ちていった。“岩”も一緒に――






同時刻
天河邸近辺


 そのビルの屋上で一人の男が双眼鏡を片手に天河邸を眺めていた。クルツである。
 クルツは一人で天河邸を見張るように言われていた。

「だいたいテッサが一人で家にいるわけねーだろうが」

 明人は会社、ラピスは学校に行っているのは確認済みだった。第三者がいる可能性もあるが現在の天河邸には明かりは点いておらず、誰かいるような気配はない。高い確率で無人なのである。だからと言って持ち場を離れるわけにもいかないのだが……。

「……帰っていいかな……オレ……」

 言いながら何度も見た天河邸をまたもや双眼鏡で覗き見ながらヒマを持余していたのだった。

「いや、帰るのはまずいな。姐さんにどやされる……」
『ナンパして来れば~』
「またここに戻らなきゃならん。二人が戻ってくる事を考えると2、3時間ってとこか?お茶ぐらいしか楽しめねえよ」

 その提案にクルツは双眼鏡を覗きながら返答する。

『それだけでも十分じゃん』
「ダメダメ!最低でもカラオケぐらいは行かないと」

 お茶するだけでは物足りないらしい。

『じゃあ漫画喫茶!』
「この年になってコミックはなぁ……」
『メイド喫茶!メイド喫茶!』
「オレは秋葉系じゃない!!……ってオレはさっきから誰と話を?」

 先程から聞こえる妙な提案に(やっと)気付き、辺りを見回すが人影らしきものはない。
 あるのは周囲にある陽炎のようなものだけだ。

「……?」

 その不自然な陽炎を見ていると、その中から4つ(×3)の赤く光る目が現れた。

『ヤッホー!!』
「うおっ!!」

 ソレは最新の光学迷彩を装備したネルガル自慢の無人機動兵器であった。






ネルガル社


「吊り天井に落とし穴に……ここってジャパニーズ忍者屋敷?」
「マオ。さっきから一体何を?」

 落とし穴から落ちた二人は無事であった。落ちた先にクッションが置いてあったため致命傷どころか怪我一つ負わなかった。
 後から落ちてきた“岩”は仰向けになった宗介に直撃したが、触ってみるとその“岩”は発砲スチロールで作ったまがい物であった。岩が転がる音は効果音を使った演出(byダッシュ)なのだろう。

「ったく。天河会長はあたし達をコケにしたいらしいわ」

 真面目な交渉を考えていたマオだが、ここまでされると馬鹿馬鹿しくなってくる。

「これからどうする」
「どうするって言ってもね」

 頭上を見上げると落ちた穴が見える。3、4階の高さはあるだろう。

「あたし達は2階に居たから、ここは地下か」

 二人は先程よりいくぶん広い部屋にいる。あるのはクッションと岩、そして扉である。落ちてきた穴は上れないので、扉から先に進むしかないのだが……。

「まるであたし達は天河会長が引いたレールの上を走らされてるみたいね」

 マオはポツリとつぶやく。一方の宗介は扉を調べながら口を開いた。

「仕方があるまい。現状で俺達は後手に回っているが、大佐殿を助け出すには……」
「分かってるわよ」

 テッサがこのビルにいるかどうかは分からないが、まず天河明人に接触しなければ先に進まない。

「開けるわよ」

 意を決して扉を開ける。
 そして二人は猫の群れが待っている闇の中へ入って行くのだった。






あとがき(いいわけ)
・・・微妙だorz



[313] Re[14]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/05/04 07:28
9月13日 1610時(日本標準時)
ネルガル社 会長室


「よくここまで登ってこれたな。賞賛に値する。そうだろレミング博士」
「そのとおりですわ会長」

 イスにふんぞり返りながら、明人は悪役のお約束な台詞を言った。その横ではレミング博士が秘書のように佇んでいる。着替えたのか例のコスチュームではなかった。

「吊り天井、大岩、落とし穴、猫……後は何があった?」
「トリモチ」
「そうソレ」

 二人はここまでにあった罠の数々を思い出していた。どれもコレも映画やコミックなどに出てくるもので、物理的ダメージは殆ど無いが精神的なダメージを食らうものばかりだった。
 他には、床一面にボタンが敷き詰められ踏むと壁に開いてある穴から矢(吸盤付き)が飛んでくる部屋(by.DB)や目の錯覚を利用し平衡感覚を狂わせる部屋(by.日光Ed村)等である。
 マオは明人の姿を見ると、頭を抱えながら疑問を口にする。

「天河会長。一つよろしいですか?」
「何だ?」
「その格好は何ですか?」
「総統だ。……もしかして変か?地獄○使の方が良かったかな。もしくはドン・ホ○ー……」
「そうじゃありま……」

 言い切る所で携帯の着信が鳴った。明人のである。

「あ、ちょっとタイム。……俺だ……うん…………分かった。そのままでいいぞ」

 携帯を切ると、薄く微笑みながら電話の内容を話した。

「いや、すまない。お宅のウェーバー軍曹が家の前をウロチョロしていたらしくてね」
「!!」

 クルツ・ウェーバーを捕まえたと言う明人の言葉にマオは驚きを隠せない。

「貴様!クルツに何をした!」
「大丈夫だ。彼なら丁重に出迎えるよう言ってある」






同時刻
天河邸


 明人の言葉どおりクルツはバッタ達に歓迎されていた。

『ねえねえクルツ君。紅茶はホットがいい?それともアイス?』
「気を使わなくてもいいぜ」
『そうはいかないよ。会長からミスリルの人間が来たら丁重に出迎えるよう言われてるから』
『そうそう。だからクルツ君はゆっくりしててよ』
「ゆっくりと言ってもね……」

 言いながら自身を見る。クルツは縄で両手両足を縛られていた。

「どうやってくつろげと?縛られたままか?」
『そうだよ』

 いざとなったら縄抜けできるが、先程バッタから――『縄から抜けたら亀甲縛りするから』――と脅され、できずにいる。

『大丈夫!大丈夫!僕とクルツ君の仲じゃないか』
「何の仲だよ」
『共にヘベモスと戦った……戦友みたいなものさ』

 感傷に浸るように、バッタは遠くの空を眺め始めた。
 しかしもう一体のバッタが異議を唱える。

『ちょっと待って!あの日は僕が一緒に居たんだよ!』
『何言ってるんだよ。あの日は僕と会長が救出に向かったんだろ』
『違うよ!僕だよ!!』

 口論が始まるとそこへ紅茶を持ったバッタが戻ってきた。

『お待たせ~。紅茶が……って何やってんのさ!?』
『ねぇ、クルツ君がベヘモスを狙撃した時、一緒にいたのは僕だよね?』
『い~や!!僕だよ僕ッ!!』
『何言ってんだ二人(二機)とも。あの時一緒にいたのは僕。二人(二機)の筈がないじゃないか!』
『『そんなはずはない!!!』』

 この場にいるバッタが一斉に“自分だ!”と叫びだした。クルツとしては訳が分からない。

「何だ?どうなってるんだ、一体?」
『おかしいな。こんな事は……って、しまったあぁぁっっ!!』

 暫らくすると紅茶を持っているバッタがあることに気付く。

『僕達の記憶データは並列化されたんだった!!!』

 バッタ達の記憶データは必要と思われるデータを並列化するようにしている。特に戦闘データはあらゆる面で役に立つためだ。

『そういやそうだっけ!?』
『じゃあ誰が言ったのかわからないよ。どうしよう』
『『『う~ん……』』』

(何か嫌な予感がする)

『そうだ!あの日一緒にいたクルツ君に聞いてみよう!』

 くしくもクルツの予感は当たってしまった。

『君ィ!ナイスアイディアだよ!!』
『頭いいなお前!』

 バッタは常に修理・整備されている。そのため三体のバッタを見分けるのは難しい。

『そんな訳でクルツ君……』
『あの日一緒に戦ったのは……』
『僕達の中の誰だった?』

 クルツは、いただいた紅茶を飲みながら三体のバッタを眺める。
 そして思った。

(わかんねえって……)






ネルガル社 会長室


「そう……全て予測した上でからかっていたのね」
「ああ。なかなか面白かったろ?」
「いい加減にしな!!」

 目の前にある机に拳を叩きつけ明人を睨みつける。遂にマオがキレた。

「人が下手に出ればいい気になって!冗談も休み休みにっ……!!」

 その瞬間、部屋の空気が一変した。明人の雰囲気が変わったのである。

「じゃあ、冗談抜きで話をしようか」

 一見、明人の表情は先程と同じ笑みを浮かべているように見えるが、明人の目は、目だけは笑っていなかった。

「……なっ……」

 殺気すら含んだその視線にマオは思わずたじろいでしまう。

「お前達にとってテレサ・テスタロッサが大事なのは知っている……だが、それと同じように、俺や、特にラピスにとってかなめちゃんは大切な存在なんだ。だからこそ、順安で彼女を救出させるのに全力を尽くした。あの時の犯人は彼女の拉致が目的だったしな……しかしだ!お台場での一軒はどうだった?彼女を狙った事件だったのか?」
「それは……」
「答えは“NO”だ。あれはミスリルは関わっていたがかなめちゃんとは無関係の事件だ」

 結局のところ、かなめは巻き込まれた形になる。

「そして先日の<ダナン>占拠事件……別に招待するなとは言わない。だが作戦行動中に招待するのはどうかな?……まあ作戦自体は上手くいったみたいだが、捕虜に艦を占領された挙げ句、人質に捕られるなど……」
「……クッ……!」

 その事を言われるとマオは何も言えなくなってしまう。

「ミスリルの都合で毎回彼女を危ない目に合わせるわけにはいかないんだよ」

 マオは自分が言った言葉に後悔する。先程までの明人を見て、ここまでブチギレてるとは思っていなかったからだ。今まで悪ふざけは彼なりの譲歩だったのかもしれない。自分達にイヤガラセをする事によりキレるのを耐えていたのだ。
 重苦しい雰囲気の中、今度は宗介が口を開いた。

「待て!確かに千鳥を巻き込んだのは謝罪しよう。しかし、その事と大佐殿を誘拐する事は別問題だ」

 珍しく正論を言う。しかし……

「誘拐?俺は誘拐などしていない。招待しただけだ。お前がかなめちゃんを招待したようにな」
「大佐殿が自らっ!?」
「ああ。反論しなかった」

 正確には反論する暇がなかっただけなのだが。

「お前たちが誘拐と思いたければそう思えばいい。だが彼女は最低でも2週間はここに居てもらう」
「…………何故?」
「罰だな。かなめちゃんを巻き込んだ罰。そして自分の艦を占拠された事に対する罰。後は……」

 マオの質問に明人の最後の答えに、その場にいる誰もが唖然とした。






「ミスリルがかなめちゃんだけを呼んでパーティーをしたからだ」






 マオは何が起きたのか分からないといった表情で固まり動かない。宗介も同様に動かないが、なにやら考え込むような仕草をしている。明人の言葉を何か暗号のように思っているようだ。レミングは困ったように明人の顔をじっと見ている。

「……………………はい?」

 明人の理解不能な思考にマオは思わず疑問系で返事をする。

「何故俺を呼ばん?」
「………」
「順安でもお台場でも俺は事件に関わったぞ」
「……呼んでほしかったの?」
「当然だろう」

 先程までの殺気に満ち溢れた明人は一体何だったのだろう。明人はいつの間にか殺気を消し、恨めしそうにマオを見ている。まるで拗ねた子供のように。

「俺を除け者にしたペナルティだ。彼女には2週間、陣代高校に留学してもらう」
「!!……ちょっ……じゃあテッサは……」
「陣代高校だ」

「「………………………………………………………………」」

 二人はあきれて何も言えなかった。

「ネルガルの警備体制に疑問があるというのなら、そちらも好きにしてかまわない。彼女の世話をするなら、一人くらいは俺の家に泊まらせられるけど……」

 もはやマオに反論する気力はなかった。一方の宗介は携帯を取り出し、まだ生徒会室に残っていたかなめに連絡を取った。






30分後


『マジなんですか?』
「何がだ」
『パーティーに御呼ばれされなかったから誘拐というのです』
「さあな」
『……マスター。コレは私の推測です。確固たる証拠があるわけではありません。気にせずお聞きください』
「………」
『マスターはお茶を濁したのではないですか?』
「………」
『あのまま話を続けていたら交渉は決裂していたでしょう。そうなるとミスリルとの全面戦争、もしくはソレに近い形になるのは必然。だからマスターはわざと道化を演じた。ミスリル側が呆れるほどに……』
「……さあな」






おまけ


 ラピスは不機嫌だった。言うまでも無くテッサの所為である。
 彼女に会ったのは3ヶ月前。その時は一時的に居ただけだったので問題は無かった。しかし先日明人がテッサを連れてくると2週間も家に住ませると言う。ルリに似た印象を持つ彼女にラピスは警戒心を強めていた。
 一方のテッサもラピスに対する印象はあまり良いものではなかった。明らかな敵対心を一日中浴びせ続けられたら誰だってそうなるだろう。

「………」

 帰りは一言も会話をすることなく、二人は家路に着いた。すると……

「おかえりー」

 ラピスにとって聞き覚えの無い返事が返ってきた。しかも女の……

「!?」

 リビングからやってきたのはメリッサ・マオである。彼女の事を知っているテッサにとっては青天の霹靂であった。

「メリッサ!?どうして?」
「……色々あってね。今日からここに住むことになったのよ」
「貴方が!?」

 旧知の仲である二人がそのような会話をしている最中、ラピスは別のことを考えていた。

(胸が大きい、しかもチャイナ系……)

 ユリカ(元本妻)とエリナ(元愛人)の要素を併せ持ったメリッサ・マオ。
 そんな彼女が一緒に住むという。これらの要素からラピスが出した結論は……あえて語るまでも無いだろう。






あとがき(いいわけ)
シリアスを書きたかったのだが、結局ギャグに・・・
オチもなんか微妙だし・・・

>WEEDさん
修正しました。
ご指摘ありがとうございます。



[313] Re[15]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/05/13 20:59
 某軍事組織の大佐が拉致されて1週間程が過ぎた土曜日の昼下がり。
 この天気の良い休みの日に、一人の少女がキッチンでタマネギを刻んでいた。

「うぅぅ……」

 格好はいつも着ている軍服ではなく白のワンピースにエプロンを着けた服装、アッシュブロンドの髪を三つ編みにした彼女は、その魅力的な灰色の瞳から大粒の涙を流しながら黙々と手を動かしている。

「あの……」

 ふと気づいた様に彼女は、隣にいた黒ずくめの男こと天河明人に話しかけた。

「どうしたんだい」
「何でこんな事態になってしまったのでしょうか?」
「テッサちゃん……それはね……」

 明人は、彼女――テレサ・テスタロッサの問いに答える。

「君がラピスの挑発にまんまと乗せられたからだよ」






9月17日 1800時(日本標準時)
天河邸


 明人がいつもの様に夕食を作っていると、エプロンを着けたラピスが入ってきた。

「明人♪」
「どうしたラピス」
「夕食手伝う♪」

 ラピスは、かなめの影響で中学時代から明人が料理を教えており、時々明人のことを手伝っていた。

「お!エライな~」

 ある意味それは日常の風景であった。
 しかし、この日は違った。なぜなら、現在の天河邸には1週間前からテッサが住んでいたからだ。

「うん♪タダメシ喰らいの誰かさんとは違う」

ピキッ!!

 さりげなく、テッサを皮肉るラピス。
 もちろん、聞こえるようにである。

「ラピスさん。それはどのような意味でしょう?」
「そのまんまの意味♪」
「……ッ!!」
「私は家事の手伝いやってるでしょ~、明人とメリッサはいつも仕事してるし~、バッタ達は24時間警備してるし~、後仕事してないのは……誰かな~♪」
「私も部屋のお掃除とかしてますよ!」
「あれ~?別にテッサのこと言ってた訳じゃないよ~」

 あからさまな挑発を続けるラピス。

「そっか~。テッサもお仕事してたんだ~」
「………(怒)」
「でも、部屋の掃除くらい誰でもできるから、威張るもんじゃないよ」

 ラピスの挑発にテッサもヒートアップしてくる。

「威張ってなんかいません!!」
「え~。でも、たま~に偉そうに見えるよ。た・い・さ♪」

 その言葉に、テッサの堪忍袋の緒が切れた。

「ラピスさん!それは聞き捨てなりません!!」

 さて、なぜラピスがこのような態度を取っているのかというと、テッサが星野ルリに似た雰囲気を持っている所為であった。
 その為に彼女は、テッサが天河邸に居る現状に対し、かなりの不満を持っていたのである。
 何とかしてテッサを困らせようと思っていたラピスであったが、それは困難なものであった。
 まずは知力。
 元々MCであるラピスは、電脳世界を渡り歩くうちに様々な知識を得ていた。そして現在もちょくちょくとネットの海を泳いでいる。その為か通常の高校生とは思えないほどの知識を有していたのだが、それはあくまで現在の世界における知識であり、ウィスパードであるテッサにとって大したものではない。
 また、持っている知識を応用する力はラピスよりもテッサの方が優っていた。コレは普通の高校生活を満喫していたラピスと普段から研究・開発に関わっているテッサとでは考える力にかなりの差が生じたのである。
 ならば運動神経はどうか。と言うと、コレは紛れも無くラピスの方が圧倒していた。
 テッサは普段から何かにぶつかって『ずるべたーん!!』と転ぶ運動オンチ。明人から護身術を習っているラピスの敵ではなかった。ところが運の悪い事に、現在の体育の授業はテッサにとって唯一得意な“水泳”。そして、さらに運の悪い事に、ラピスは幼い頃のトラウマの所為で泳げなかったのである。
 そして『留学生』という立場もテッサに味方した。通常、『転校生』というだけでも珍しいのに『留学生』である。その珍しさは天然記念物クラスだ。
 このように、知力でも体力でもましてや運までもテッサに軍配が上がり、クラス一どころか学校一の人気者になってしまったのである。
 そんな事態を重く見たラピスは最終手段に出た。護身術部に呼びだし、稽古と称して投げ飛ばす。あまり、良い事ではないのはラピス自身も自覚していたが、それぐらいの事をしなければイライラが収まらなかったのである。
 そしてラピスは決行したのだが……結果は失敗。なぜなら――

『ねえテッサ。私護身術部の部長なの。良かったら放課後見てみない?私もテッサの(軍人としての)格闘術見てみたいし』
『すみませんラピスさん。私は生徒会の方に関わることになりましたので、放課後は忙しいのですよ』
『え?で、でも……』
『ああ、すみません。林水さんに呼ばれておりますのでこれで……』

 このように誤魔化されてしまったからだ。
 ならば家で!……とも考えたが、家にはミスリルのSRTであるメリッサ・マオがいる。迂闊な事をすると明人に迷惑をかけることになってしまうのである。
 このような八方ふさがりな状態が続くと、日に日にラピスのイライラは高まり限界に近づいていった。
 そんなある日、天は彼女を不幸に思ったのか一筋の光明を与えた。

「でも~。料理もろくにできないようじゃねぇ~」

 一筋の光明。それは日本の高校の授業で義務付けられた科目、『家庭科』であった。
 ウィスパードゆえに幼い頃からミスリルにいたテッサは、家庭科の授業など受けたことがない。そのため、

『テッサ!それ砂糖じゃなくて塩!!』
『えぇぇぇ!!』

 という具合に、お約束な失敗を繰り返した。
 ナデシコで明人に惚れていたあの3人みたいな料理……は作らなかったが、それでも“女”としてのステータスに差が生じたのは確かであった。
 もちろん、ラピスがそれを見逃すわけが無い。

「そ、そんな事はありません!私にも……」
「だったら私と勝負する?」
「……え?」

 その言葉を、待ってましたとばかりに、ラピスはビシッ!っとテッサを指差すと高らかに言い放つ。

「そこまで言うなら私とお料理対決しようじゃない。もし、負けたら一週間皿洗い!」
「なっ!」

 はっきり言って、どうやってもテッサに勝算の見込みは無い。しかし――

「……いいでしょう。上等です!勝負しようじゃありませんかお料理で!貴女のその思い上がりをこの私が正してあげます!!」

 テッサはその挑戦を受けてしまった。
 元々、テッサも四六時中ラピスから変な視線で見られるので彼女に対して良い感情を持ってはいないのだ。
 負けず嫌いであることやプライドの高さ、頭に血が昇っていたことも加わって、彼女は意地になっていた。

「吼え面かかせてあげる」
「それはこっちのセリフです!」

 この瞬間、ラピスは心の中でガッツポーズした。
 一方のテッサが、冷静になり己のした事に気付くのは、もう少し後の事だった……。






9月18日 1300時(日本標準時)
天河邸
 そんなこんなで昨夜の出来事が発端となり、日曜日、つまり明日に勝負をすることになった。
 互いが合意の上とはいえ、テッサに勝ち目など有るわけがない。
 愕然としていたテッサだが、それを不憫に思ったのか明人がラピスに対するハンデという形で助っ人を申し出た。
 日曜日まで明人がテッサに料理を教える事となったのである。
 ラピスは反対していたが、明人の説得に渋りながらも納得した。

「そうそう、利き手で包丁を持って、材料を添う手は、猫の手のようにで押さえて」
「……明人さん。私大丈夫なんでしょうか?」

 不安そうにつぶやくテッサ。
 テッサは朝から料理の基本しか教わっていないからだ。

「なんで?」
「だって、包丁も握ったことがないんですよ……私」

 明人はそんな彼女の不安を読み取り、その頭をそっと撫でた。

「テッサちゃんは呑み込みが早い。基本をしっかり身に着けて、手順を間違えなければ大丈夫。それにね……」

 まるで昔を懐かしむかのごとく。

「俺が昔会ったことのある女性は、もっと凄かったから」






あとがき(いいわけ)
副題『子猫と子猫のR&R』
…なんか、ラピスが嫌な女になってる



[313] Re[16]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/07/24 10:45
9月19日 1100時(日本標準時)
ネルガル本社


 テッサが来日――拉致とも言う――して約一週間。天河邸で行われる勝負は、ネルガル本社で開かれる事になった。
 会議場を観客席付きの立派なキッチンスタジオに作り変え、かなりお祭り気分である。ちなみに会場は、明人がヒマだった社員をかき集めて徹夜で作らせた。
 暫らくすると片手にマイクを持った二人(?)組みが現れる。

『私の記憶が確かならば、今日は女性としてのステータスが試される一日となるであろう……』
『と、言う訳で……』
『遂に始まりました“第一回チキチキお料理対決”』
『始まってしまいましたねー』
『司会進行は私バッタ、また特別ゲストの……』
『クルツ・ウィーバーです。よろしくぅ!』

 クルツはこういったイベントが好きらしく、ネルガルの主導であってもノリノリであった。

『とまあ、このようなデコボココンビでお送りしま~す』
『それでは審査員の紹介です。まず初めに審査員長の千鳥かなめー』
「ちょっと待った!!」

 ノリノリの虫型の無人兵器と金髪碧眼男。
 そんな二人組みに突っ込みを入れるのはかなめ本人である。

『おや、どうかされたのですか審査員長?』
「アタシ、こんなの聞いてないわ!」
 
 かなめは事前に明人に誘われていた。
 ところが来てみるなり審査員長と書かれた襷を渡され、訳の分からぬままその席に座らされたのである。

「何でアタシが審査員長なのよ!?」
『まあ、いいじゃないですか』
『そうそう。二人の知り合いで中立の立場はかなめちゃんしかいないんだから』
「中立って……大体アタシはっ」
「いいじゃないか千鳥。何事も挑戦するのは大切だ」

 渋るかなめに待ったのかけたのは、同じく誘いを受けた相良宗介であった。
 何故かかなめの横の席に座っている。彼も審査員をするらしい。

「ところで千鳥。俺は一体何をすればいいのだ?」
「……」

 これ以上の抗議は無駄と悟ったのか、宗介に呆れたのか、かなめはあきらめた様に席に座った。

『続けていいですか?……続きまして相良宗介ー』
「つまり旨い料理を選べばいいのだな?」

 趣旨を理解してない宗介。

「そうそう、大人しくしてんのよ」

 その宗介に説明するかなめ。

『最後にバチスト・F・ランバードー』
「休日に呼び出されて、何でこんな事を……まあ、旨いものが食えるなら別にかまわんがね」

 暇だからという理由で審査員になってしまったバチスト。

『……以上の三人が審査員となりま~す』
『そんでもって!この料理対決の主役を紹介しようか!!』
『うむ。甦るがいい、ア○アンシェフ!』

 その言葉と共に各厨房の目の前の床が開き、下からエレベーターが上がってくる。
 もちろん乗っているのはテッサとラピスだ。
 互いの目が合うなり、火花が飛び散る。

『さて、登場人物が全員揃ったところで、今回の対決のテーマを発表します』
『テーマに沿った料理を作ってもらうぞ』
『それでは……』

 バッタがなにやら紐らしきものを掴む。

『とりゃぁぁぁ!!!』

 紐を思いっきり引っ張ると、上から垂れ幕降りてきた。そしてそこに書かれたテーマは、

[ 家 庭 料 理 ]

『今回のテーマは、家庭料理だ!!』
『試合時間は1時間だぞ』
『では、存分に料理をするがいい。アレ・キュイジーヌ!』






<ラピス side>

『ラピス選手は何を作るのでしょうかね~』
『お、なんか取り出しましたよ』
『これは……小麦粉ですね。まさかラーメンでも作るのでしょうか』
『もしかしたらパンかもしれませんよ』
『(無視)ちょっと確認してみましょう。ラピス選手、何を作っているのですか』
「天河特製ラーメン」
『ブッブウゥゥゥ』

 突然、効果音を流すとバッタは×マークを作る。

『ラピス選手。残念ながらラーメンは認められません』

 思いがけない言葉にラピスは顔色が変わる。

「何でよ!!」
『何故なら、ラーメンは家庭料理ではないからです』

 家庭料理とはその名のとおり『家庭で作られる料理』の事だ。そうなると天河特製ラーメンは、いわばプロが作る料理であり家庭料理ではない。
 また、一般家庭で作るラーメンは大抵インスタントラーメンだ。コレは料理とは呼ばないのである。

『以上の理由からNGです』
「……」

 ぐうの音もでないラピスであった。






<テッサ side>

『一方のテッサ選手は……何と言うことでしょう!』

 見るとテッサは大粒の涙を流していた。

『これは……タマネギです!大量のタマネギを刻んでおります!!』
『キツイな……』
『他には、牛肉やニンジンといった具材。後赤ワインもありますね』
『ビーフシチューかな?』
『ちなみにビーフシチューは問題ありませんよ』

 テッサは刻む。ひたすら刻む。基本どおりの猫の手で。






 時計の針が12時を刺し、バッタが終了の合図を出す。

『さて、そろそろ時間なので審査に入ります』
『二人とも料理を提出してもらおうか』

 まず料理を見せたのはラピス。

「これなら大丈夫よね」

 ラピスが作ったのはあんかけチャーハン。
 本来なら『天河特製』が付くんだがそこは秘密だ。

『大丈夫です。……続いてテッサさんお願いします』

 テッサは料理をその見せるのだが、

「異議あり!!」

 テッサの料理を見るなり、ラピスは異議を申し出た。

「テッサが作ったのは火星丼よ」

 テッサの料理は皿に御飯を盛り、その上にデミグラスソースをかけた物だ。さらにはタコさんウインナーがチャッカリ乗っかっている。
 今回のお題は家庭料理、これではテッサは失格である。

『お待ちください審議いたします』

 バッタが『審議中』との表示を出している間ラピスは、

「墓穴を掘ったわね。ルールを聞いてなかったの」

 皮肉たっぷりに言い放つが、テッサには少し余裕がある。

「心配されなくても大丈夫ですよ」

 どうやら秘策があるようだ。

『審議が終了しました。結果は……問題ないとの事です!』

 会場がざわめいた。
 家庭料理でなければならないこの対決で、火星丼が認められたのである。

「何でよ!!!」
『理由は器です!』

 火星丼はいわばドンブリ物である。しかしテッサはドンブリではなく皿に盛った。皿に盛った時点でそれはドンブリ物ではない、という判断が下されたのだ。

『つまり、これはハヤシライス……です』

 ものすごい目でバッタを凝視するラピス。納得いかない様だ。

『それでは審査員の皆さん、試食をお願いします』

 宗介とバチストは黙々と、かなめはじっくり味わいながら料理を口に運ぶ。
 その姿を見ながらラピスは半ば勝利を確信していた。
 結果は投票方式。三人の審査員は美味しい方の札を出す、つまり2票取った方が勝ちとなるのである。
 宗介とバチストは、はっきり言って味の違いが分かるほどの味覚は持ち合わせていない。そうなると自分が属してる方の札を出すだろう。
 そうなると判定はかなめに掛かってくるのだが、

『それでは判定に参ります。審査員の皆さん』

 バッタが告げる。

「両方とも旨いが、どちらか選ぶならこうなるな」
「こっちもな」

 予想どおり宗介はテッサに、バチストはラピスに入れた。
 残ったのはかなめ。かなめがラピスの札を出せば問答無用の勝利である。

(よし、これなら……!)

 なにしろ、ラピスにとって彼女は親友である。きっと自分に入れてくれるという思いがあるのだ。
 そしてかなめは迷いながら札を出した。

「え……」

 かなめが出した札には――『テッサ』と書かれてあった。

「何で!?どうして!?かなめどういう事!!」
「ラピスごめん。味は貴方の方が美味しかったんだけど……」
「けど……」
「ラピスのチャーハンは明人さんのと同じ味だったから」

 つまりはラピスのあんかけチャーハンは明人が作った時と、同じ材料、手順のものでありラピスのオリジナルではない。

「じゃあテッサは?」
「材料が違う。明人さんの火星丼にはマッシュルームは入ってない」

 言い換えればテッサは火星丼をハヤシライスに合うようアレンジしたのだ。

「それに最大のポイントはタマネギよ。明人さんはタマネギを丸ごと煮詰めるけどテッサは炒めた。それにより甘みが増したの」
「で、でも……」
「ラピス」

 直も抗議するが、明人によって遮られる。

「お前の負けだ」

 確実に美味しい料理を出したラピス。
 もし審査員がかなめでなかったら勝っていただろう。しかし、テッサのオリジナリティによって粉砕されてしまった。

『という訳で軍配はテッサ嬢に上がりましたー』

 こうして“第一回チキチキお料理対決”は幕を閉じた。
 呆然とするラピスを残して……。






9月19日 2200時(日本標準時)
天河邸 ベランダ


 その日の夜、ラピスは一人ベランダで拗ねていた。
 勝てると確信していた為か今日の敗戦はショックだったのだ。
 そこにテッサがやってきた。

「ラピスさん……」
「何?」

 ラピスは赤く泣きはらした目で彼女を見た。

「今日の事でお話が……」
「いいよ別に、私は敗者、貴方は勝者。好きなだけ笑えば」
「違います。誤解です」
「じゃあ何?愚かな私を哀れんでるの?」
「いい加減にしてください!!」
「……」
「貴方はどうして私を眼の敵にするのですか?」

 ラピスは答えない。

「ラピスさん、貴方は会ったときから私に敵意を向けていました。何故ですか?」

 気まずい雰囲気の中、ラピスが口を開く、

「ストーカー」
「はい?」
「昔、明人を追いかけてたストーカーに似てるの」
「私が……ですか」
「そのストーカーは勝手に自分の妄想を明人に押し付けるの、明人の気持ちを考えないで……」

 そのストーカーが誰なのかは別にいいだろう。

「貴方はソイツに似てるの、なんていうか雰囲気が……」
「そんな理由ですか……」

 テッサは少し安堵した。
 自分に落ち度があったのではと思っていたからだ。

「だとしたらそれこそ誤解です。私は彼に自分の考えを押し付ける気はありません」
「……それだけじゃない……明人は貴方に優しくする……」

 明人にとってラピスは妹としか見ていない。
 そのため、他人であるテッサがチヤホヤされたり、料理を教わっていたのが羨ましかったのである。
 そんなラピスの言葉に聞き、テッサは何やら意を決した。

「私は……貴方が羨ましいです」
「……」
「貴方は私と違って色々な事ができる。学校に行って、勉強して、友達と遊んで……はっきり言って嫉妬してます。ここに来て一週間経ちます。ここの生活は私にとって新しい事だらけでした。この、今までにない生活を続けたい。私も貴方のように生きていけたらと……だから、だからこそ、私は貴方と仲良くなりたいのです」

 結局、テッサもラピスも互いが互いを嫉妬しあっていただけなのだ。

「……」
「ラピスさんは明人さんのことが好きなのですか」
「……うん」
「分かりました。この際です。全て正直に言います」

 テッサは自分の思いを口にした。

「私は明人さんの事が好きになったみたいです」

 思わぬ発言に唖然とするラピス。

「……えっ……」
「一応、お互い頑張りましょうとは言っておきますね?」

 するとテッサはガラス戸へ歩きながら言った。

「抜け駆けは無しですよ。正々堂々勝負です」

 あまりの出来事に思考が追いつかない。
 それでも暫らくすると、ラピスはクスリッと笑い立ち上がった。






おまけ


「アキトー。チャーハン作ったの。食べて食べて!」
「お、どれどれ……」

 一口食べる。そして後悔した。

「ッッッ!!!!!!!!!!!」

 何故ならその味は甘かったり、辛かったり、苦かったりするのだ。

「ラ……ラピス。い……一体……何を……?」
「私なりにアレンジしたんだけど……」

 どうやらオリジナリティを出したらしい。

「他にも作ったから、いっぱい食べてね♪」

 言いながら台所に戻るラピス。
 明人はそんなラピスを見ながらつぶやいた。

「あの三人の再来だ……俺はこの年になってもこんな目に会うのか……」

 どうやら、明人の不幸はまだ終わらないらしい。






あとがき
ご無沙汰です。
間が開いてしまい申し訳ありません。
夏になりやっと暇な時間が増えたので続きを書こうと思います。

今回の話は、ラピスとテッサの仲直りイベントです。
さらにテッサの宣戦布告も入れました。これは私がやりたかったネタです。
少しナデシコな要素(おまけですが)も入れてみましたが、どうでしょうか?
後1話くらいで拉……来日偏は終了です。

P.S.
料理ネタはもうやらない。



[313] Re[17]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/08/11 17:07
9月25日 2100時(日本標準時)
天河邸


 明日でテッサが天河邸に来て2週間が経つ。
 最後の夜に、テッサは湯船につかりながらこの2週間を振り返っていた。
 学校での出来事やラピスとのお料理バトル。
 彼女が今までに体験した事のない毎日を振り返る。

「楽しかったな……」

 そして、明日からミスリルの指揮官として、またダナンの艦長としての毎日が始まる事を考えた。

「書類……溜まってるだろうな……」

 なんせ仕事中に拉致されたのである。
 2週間分の書類の山を思い浮かべるとテッサは憂鬱になってきた。

「はぁ……」
『テッサいる』

 アレコレ考えていると洗面所からラピスが声をかけている。

「あ、はい」
『湯加減は?』
「丁度いいですよ」
「じゃあ、私も入る」
「えっ!」

 彼女の故郷では、女性とはいえ他人と風呂に入る習慣などない。その為かテッサは驚きの声を上げた。
 そして振り返るとバスタオルで身を包んだラピスが立っていた。

≪以下音声のみ≫

「テッサ」

「はい?」

「この間の事」

「何のことですか?」

「明人の事」

「………」

「本気?」

「もちろん」

「……明日帰るんでしょ。どう考えても勝ち目ないよ」

「関係ありません」

「そう……」

「………」

「………」

「……テッサってさ」

「はい?」

「……ジー……」

「あの……困ります。そんなじろじろ……」

「エイッ!」

「うひゃああぁぁぁ!!な、何するんですか!!!」

「フッ……」

「何ですか!何なんですか!!その勝ち誇った目は!!」

「そのまんまの意味」

「どう言う意味ですか!」

「わからない?」

「わかりません!」

「明人はねー。大きい方が好きなんだよー」

「!!」

「だから私のほうが有利かな」

「そんな事ありません」

「そんな事あります」

「むうぅぅ……だったら見てくださいこの肌を!スベスベですよ!!」

「それくらい私だって!!!」

 こうして最後の夜は更けていった。






9月25日 1100時(日本標準時)
天河邸


 とうとうテッサの帰国日である。
 庭にはECSで姿を消したヘリが待っている。

「2週間、ご迷惑をおかけしました」
「いいよ。こっちか勝手に招待したんだから」
「そうでしたね」
「それからテッサちゃん、あまり関係のない人を巻き込まないでね」

 少しシリアスな会長モードになる明人。
 元はかなめを関係のない事件に巻き込んだのが発端だったからだ。

「もちろんです。あのような事件は二度と起こしません」
「そうか。それなら、気が向いたらまた来てよ」
「はい……それでは参りましょうか天河さん」

 その言葉を聞くと、明人は先程のシリアスな表情とは打って変わって間の抜けた顔になる。

「……はっ?」
「この2週間は大変有意義な時間を過ごせました。これも天河さんのおかげです。そのお礼に、メリダ島へご招待しようと思いました」
「……今すぐに?」
「はい、今すぐに」

 テッサはニコニコの笑顔だ。

「そうは言っても仕事が……」
「私も仕事をしてました」

 カウンターを返すテッサ。

「しかし、急に言われて……」
「私をお誘いしたのも急でした」

 やっぱり、カウンターを返すテッサ。
 ちなみに彼女は終始笑顔である。

「だが……」
「来てくれますよね」

 ニコニコの笑顔。

「しかし……」
「来てくれますよね」

 もう満面の笑顔。

「………」
「来・て・く・れ・ま・す・よ・ね」

 これでもか!!っていうくらいの笑顔。

「……はい。行きます」

 そんな笑顔に明人は折れた。正確には彼女のまったく笑ってない目である。

「早速用意を……」

 しかし、そんな展開に待ったをかける人物がいる。

「ちょっと待ったあぁぁぁ!!!!」

 そう、ラピスである。

「テッサ!何でそうなるのよ!!」
「何でと申されましても……明人さんがミスリルのパーティに招待してほしいと仰っていらしたので」
「ホントなの明人!!」
「いや、そんな事は……」

 その瞬間思い出した。
 ネルガルでマオとの交渉時、パーティに招待してほしいと言っていたことを……。

「……あるな」
「ほら、明人だって……ってえぇぇぇ!!!」
「それではラピスさん」

 ミスリルの隊員に両腕を掴まれた明人とテッサは、そのまま一目散にヘリに乗り込んでしまった。

「お元気で~」
「待てー!私も連れてけー!!」
「重量オーバーです。胸の分だけ軽ければ乗れたのですが……」
「ふざけんな~」

 そうこう言っているうちにヘリは離陸する。

「うおにょれぇぇぇっ!!明人のバカー!!テッサの選択板ー!!!」

 そして物語は新たなる展開へ向かうのであった。






あとがき
今度は明人が拉致されました。



[313] Re[18]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/12/22 21:51
10月13日 2230時(ヨーロッパ標準時)
地中海 シチリナ島南部 アグリジェント市郊外


「スィー、スィニョリーナ。君の魅力が俺を酔わせ、一人の詩人にさせる……」

 男は後ろから、彼女の肩をやさしく抱きすくめた。どんな香水を使っているのか、透き通るようなシトラスの香りが漂っている。
 女は、その言葉にうっとりとした仕草でうつむくと、その雰囲気をぶち壊すがごとく、男の顔面に鉄拳を叩き込む。
 鼻柱に直撃したそれは、ごつりと嫌な音がした。
 その女――メリッサ・マオは男の姿を見ると、あきれるように言い放つ。

「ぶっ……!」
「はいはい。わかったから仕事しよーね、仕事」
「痛ってぇ。なにすんだよー」
「いい加減、学習しなさいよ。だいたい場所柄をわきまえたらどう? 周りには怖いお兄さんたちがウヨウヨしてんのよ?」
「悲しい現実だよなー……」
「ほら、さっさと装備出す」
「ちぇっ」

 なみだ目で鼻を押さえながら男ことクルツ・ウェーバーは、置いておいたデイパックに手を伸ばした。パーティの食材や装飾品に紛れ込ませ持ち込んだものである。
 二人がこんなことをしているには理由があった。
 事は先月に起こった<トゥアハー・デ・ダナン制圧事件>まで遡る。
 この事件はミスリルから情報がもれていることを示唆していた。ダナンの情報が漏れたということは、他の多くの機密情報――暗号方式や保安手順、補給ルートやセーフ・ハウスの所在――なども流れている可能性がある。
 どれだけの情報が漏れたのかはわからない。だが、大半は変更するか厳重な保安措置をとる必要があった――同時にそれは気が遠くなるような予算を必要とする。
 しかし、事はそれだけで留まらない。その情報を流していたスパイの存在が問題になってくるのだ。
 そのスパイを捕縛しない限り、事態が収拾したとは言えなかった。

「ったく、つれねーよなぁ。せっかく、妙齢の美女が引き留めるのを振り切って、パーティ会場を後にしたっていうのに……」
「妙齢の美女?」
「おうよ。ミラノの大富豪の未亡人さ。もー、こんなでっかいダイヤの入ったネックレス着けててよ。いいムードだったのに」

 度重なる調査の結果、スパイの潜伏地がシチリナ島であることがわかった。
 ミスリルは、2人のSRT隊員と1人のオブザーバーを現地に派遣し、スパイを拘束することに成功したのである。
 SRT隊員はマオとクルツのことであり、オブザーバーは――

「ブツクサ言ってないで、早く戻るわよ」
「あ? ……そうだな。明人の野郎、待ってるだろうからな」
「ほらほら、口じゃなくて手足を動かす」

 ――我らが会長、天河明人のことであった。






10月13日 2245時(ヨーロッパ標準時)
アグリジェント市郊外 駐車場


「あいつら遅いなー。なにやってんだ」

 フェラーリの運転席に座った明人は事も無げにそんなことをつぶやいていた。
 テッサに招待されて(さらわれて)約3週間。そろそろ解放されるかと思っていた明人は、こんな作戦を行なう破目になっていた。
 本来、この任務には地中海戦隊<パルホーロン>が行なうべきものだったが、内通者がいる可能性を考えて西太平洋戦隊が独自に行なうことになった。
 そして、マオとクルツだけで行なうはずだったこの作戦は、

『明人さんも参加してください!』

 というテッサの一声で、明人の作戦参加が決まってしまったのだ。
 この時、マデューカスは首を左右に振り、カリーニンは意味深に明人を見ていたという。

「ラピス大丈夫かな……変なもの食べてないといいが……」

 ラピスの料理の腕は良い。自分の真似をしているだけだが、十分に腹を満たす一品になっている、つい先日までは。
 テッサとの料理対決以来、おかしな調味料を大量に買占め始めた愛娘に、明人は不安を感じずにはいられない。

「心配だな」

 つぶやいたその時、パトカーのサイレンによく似たアラーム音が、広大な敷地内に鳴り響いた。
 本館や別館、詰め所や宿舎から、マフィアの私兵が雪崩のように飛び出していく。
 立て続けの銃声と怒鳴り声。訓練されたドーベルマンが、獰猛な声をあげて走り出す。
 数々のスポットライトが点灯し、そのうちの一つがあろうことか明人の乗る車に向けられた。

「……あいつらドジッたな」
「降りろ!」

 見ると、そこには体格のいい黒服の男が2人、内1人はドーベルマンを連れている。
 彼らはサブマシンガンを持って明人を睨んでいた。

「間違いないのか?」
「ああ、侵入者の女が乗ってきた車だ。間違いねえ」
「あのー、何の話でしょう?」

 ちなみに明人の役柄は運転手である。英語と日本語しか話せない明人が屋敷の中に入ることは適わなかったのだ。
 そして目の前の男は、英語が苦手らしい。

「何言ってやがる? 早く降りろ!」
「……しょうがないな」

 明人はドアを開けると、立ち上がりながら懐の銃を抜き、警備兵の額を撃ち抜いた。
 なにが起こったのか理解できずにいたもう1人も、慌ててマシンガンを構えようとする。
 だが、それは明人にとって遅すぎた。構える間も与えずに警備兵を撃つ。弾丸は心臓を貫き、その男の人生を終わらせた。
 残されたドーベルマンは明人を吠えるが、彼の殺気を感じ取ると次第に声が小さくなり、最後は何処へかと逃げていった。

「動物って素直でいいね」

 明人は振り向くと、シシリー・マフィアの屋敷を見上げた。

「やっぱり最初からこうすれば良かったんだ……」

 愛用のバイザーをかけ、怪しい笑みを浮かべると、明人は屋敷に歩み始めた。






同時刻
シチリア島南部 カニカッティ近郊


 屋敷から脱出したマオとクルツは、フィアットに乗り駆けつけた相良宗介と共に、未舗装の道をひたすらに走っていた。
 宗介はカリーニンの命令で、支援と脱出ルートの変更を伝えに来たと言う。

「ひどい運転……!」
「問題ない」
「姐さん。明人はどうする? 完全に置き去りにしてるんだが……」

 クルツが気づいたように言った。

「クルツッ! なんでそういうこと早く言わないのよ!!」
「いや、だって、なぁ?」
「何を同意しているのか理解できん」
「あぁっ……もう!」
「どうする? 引き返すか?」
「それは――」

 空気を切り裂く音と共に、彼らの頭上を飛び過ぎていった。
 彼らの後方、100メートル辺りに黒塗りの4WDがまっしぐらに追ってくる。
 サブマシンガンをフルオートで撃たれ、ガラスの破片が車内に撒き散らされた。

「こういう状態なのよ! タクシーみたいにはいかないわ! 明人のことだからなんとかするでしょ!」
「まぁ、確かに『一人でやった方が気が楽だ~』みたいなこと言ってたな」
「それでいいのかおまえ等……」

 マオはサンルーフから身を乗り出し、四五口径弾を発砲する。

「とにかく! 今はこの状況をなんとかしましょう!」






あとがき
いつ以来だろうか・・・
短くて、ペースも遅いだろうが、もうちょっと頑張ってみる。

感想をくださった皆様、ご心配をおかけしました。
現実世界で色々とゴタゴタがありまして、中々書き込めない状況になりまして・・・
言い訳をすると原作(フルメタ)が気になって先に進めんのよー
原作しだいで展開変わってしまう。
つくづく思いました。やっぱり原作が終わっていない物に手を出すべきではない・・・
今の所はメリダ島陥落までの流れは出来てるのだが、クリスマスがどうなるか不明。
言い訳すれば上記のようなものになります。

>sakumiさん
>マデューカスさんに会ったらえらいことになりそうですね。
もうえらい目には合いました。

>Kokoさん
メリダ島の話でなくて申し訳ない。

>妖妖夢さん
ラピスはそんなにある訳じゃないです。

>かれなさん
デイバイデイです。
TV版か原作版かで悩んだ挙げ句、原作版で行ってみようと思います。
双子の出番ふやせるかな・・・

>東西南北さん
テッサは候補の一人です。

>狛犬さん
料理は暫らくは無しの方向で

>D'さん
頑張ります。感想よろしくお願いします。

>せりさん
設定は・・・スルーできる所はしてください。

>マサさん
フルメタっぽさ・・・でてるのかな? 自信ないです。

>ディカスティスさん
ありがとうございます。更新は遅くなりますが、頑張ってみます。

>ガナスさん
早い・・・・・・期待に答えられるようにします。

>クルスさん
頑張ります。

>烙印さん
更新しました!

>ぎるばとさん
>つづくオン・マイ・オウンルートは発生せず?
さぁ・・・どうでしょうかね・・・

スランプに陥って某所でリハビリをしつつ、現在に至ります。
駄文ですが今後ともよろしくお願いします。

しかし
・最低5kByte以上投稿してください。(それ以下はシステムで弾きます)
暫らく来ないうちにこんなものがあるとは・・・



[313] Re[19]:ナデシコ・パニック その2
Name: KIKI
Date: 2006/12/22 21:52
10月13日 0010時(ヨーロッパ標準時)
地中海 シチリナ島南部 バルベーラの屋敷


「こんな醜態ははじめてだ!」

 全身に怒りをみなぎらせ、バルベーラは叫んだ。
 彼はシチリナを代表するマフィアのボスである。マフィア史上、例を見ないほどの凶悪さで知られている。

「わしの娘の誕生日だぞ!? その会場で、客人がさらわれるどころか、賊の侵入を許している」
「下がってください、『ボスの中のボス』カーポ・デイ・カーピ

 マフィアの警備隊長は、必要以上にかしこまって言った。
 彼らがいる屋敷の一室には数人の私兵があたりを警戒している。

「何のために高い金を払っているのだ! なんとかしろ!」

 バルベーラの私兵が流した血であたりには血なまぐさい匂いがただよっていた。
 2人の賊は車で逃走を計っているが、残っていた賊は、なんと屋敷を堂々と闊歩している。
 屋敷に残っていた兵を総動員し賊を始末しようとするが、それらは全て返り討ちにあったのだ。

「ボス! 奴が……がぁ!」

 それが部下が叫んだ最後の言葉だった。
 今部屋にいるのは警備隊長とバルベーラだけである。

「抵抗はやめろ」

 その言葉は実にシンプルだった。侵入者は、ドア越しに透き通るような声で威圧すると、2人に向けて殺気を放つ。

「き、貴様! いったい誰に雇われた!」
「ボス! 頭を下げていてください……隠れてないで姿を現したらどうだ!」

 あまりにも非常識な侵入者に対し、警備隊長は賭けにでた。

「こちらには私しかいない。サシの勝負といこう!」

 もちろん嘘である。ドアを開けた瞬間、弾丸の雨を叩き込もうと、彼は考えていたのだ。
 しばらくの沈黙の後、ドアがゆっくりと開けられて、隙間から影が入る。

(もらった!)

 警備隊長は開かれたドアに渾身の力でトリガーを引いた。サブマシンガンから放たれた弾丸が、侵入者の体を踊らせる。
 殺った――そう思った瞬間、警備隊長の体は後方に吹き飛ばされた。
 なにが起こったのか、ふと体を見ると右肩がえぐれて吹き飛んでいる。血まみれになる自分の体が信じられない。
 なにより、侵入者は蜂の巣にした筈にもかかわらず。

「バカな……」

 侵入者の姿を見ると、まさに蜂の巣だった。そしてその顔が見慣れた部下である事に気が付く。
 ドアの前に立っていた部下は、糸が切れた人形のように崩れ落ちると、後ろから本当の侵入者が現れた。
 顔をバイザーで隠し、その右手にはスミス&ウェッソン社製のリボルバーをぶら下げている。まだ市場には出回っていないモデルで、拳銃では世界一の破壊力を持つ一品だ。

「見え見えの罠にかかると思うか?」

 侵入者――天河明人は静かに言うと、銃をバルベーラにむける。

「言え。ブルーノは何処だ」
「ふざけるな貴様ッ!!」

 鼓膜がやぶれるかのような銃声があたりに響きわたる。
 一瞬の静けさの後、バルベーラが悲鳴を上げた。明人が放った弾丸は、バルベーラの右耳を撃ち抜いていたのだ。
 
「もう一度聞く。ブルーノは何処だ」

 胸倉を掴み、眉間に銃身を突きつけるが、バルベーラは痛みと恐怖で騒ぎ立てるだけだった。

「……どうやら、もう片方の耳もいらんようだな」
「ま、待て! 撃たないでくれ! なんでも言う!」

 息も絶え絶えに、なんとかその言葉を吐いたバルベーラは、懇願するように舌を捲くし立てた。

「ブルーノが、何処にいるかは知らない!」
「嘘をつくな」
「待てってくれ! お、お前は賊の仲間なのか!?」
「マオとクルツか……そうだと言ったらどうする。人質にとるか? 止めておけ、あいつらとは、ただ一緒にいるだけだ。知り合いだが仲間じゃない……」
「そ、そうか! ならば話は早い、ブルーノはその賊達が連れて行った。後は知らん」

 拍子抜けするように明人はバルベーラの目を見た。その怯えた瞳は嘘を言っているようには見えない。

「……あいつら」

 舌打ち交じりにそうつぶやくと、明人は銃を下ろし身をひるがえした。明人は完全に置いてきぼりをくったのだ。

「邪魔したな」

 それだけ告げると明人は部屋から立ち去ろうとした。
 だが、バルベーラからしてみれば面白くない。明人の言動は勘違いで自分の組織を潰されたことを意味する。
 バルベーラはチラリ、と目を床に向けると、警備隊長が使っていたサブマシンガンが落ちている。

(わしの……わしの組織を! 許さん! 絶対許さんぞ!)

 ドアから出ようとしている明人に悪意をぶつけると、サブマシンガンを拾い構えた。

「死ね……!」

 だが、それだけであった。トリガーに指をかけるより早く、彼の頭を明人の持つM500が吹き飛ばした。
 当のバルベーラは、自分に何が起きたのかも気付かずに死んだ。






 明人は駐車場に戻る際、道中で愚痴をこぼしていた。自分を置き去りにしたマオとクルツに対してである。

「こんなところに取り残してどうしろと……?」

 ひとまず、当初の予定にあった合流場所に移動しなければならない。おかげでレンタルしたフェラーリF40は返せそうにないが、元々はマオが借りたものだ。何かあってもミスリルが対処するだろう。
 明人は一通りの思考を行なうと、突然歩みを止める。駐車場に入りフェラーリまで後少しといったところだが、何者かの気配を感じ取ったのである。
 目を瞑り、全神経を集中させる。
 次の瞬間、明人は停めてあったジャガー目掛けて引き金を引いた。ジャガーの窓ガラスは砕かれ、あたりに破片を撒き散らす。

「……そっちか」

 ベンツ、ロータス、ポルシェと停めてある高級車を次々に撃ってゆく。一通り撃った後、弾を込めなおすと明人は何者かに向かって叫んだ。

「いるのはわかっている! 出て来い!」

 その返答は銃弾であった。明人はロールスロイスの影に身を潜めて場を凌ぐと、周囲をうかがった。
 辺りが静けさを取り戻す。逃げたのか、と思い始めた瞬間、明人は咄嗟に地面にしゃがみこんだ。それと同時に一発の弾丸が明人の頬をかすめる。
 振り返ると、10歩ほど離れた位置に男が立っていた。






あとがき
明人の銃は何がいいでしょうかね?
今回出したのはS&W社のM500ですが、コルト社の蛇シリーズもいい
今のところリボルバー限定にしてるが、どうなる事やら・・・


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