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[35320] NARUTO ~もう一人の守護忍十二士~
Name: 岡目印子◆2d25a1f8 ID:f5cc0241
Date: 2014/08/17 02:10
・あらすじ
 主人公のセンリは火の国に存在していた組織――守護忍十二士の内の一人だった。一五歳のときに上忍となり、周囲からは天才と称されていた。しかし、彼女は間もなくして木ノ葉から身を隠すことになってしまう……。

 いまより何年前だろうか――
 センリは一部の守護忍十二士と共にクーデターを起こした。しかし、対立した猿飛アスマ、地陸たちにより返り討ちにされたのだ。

 その戦いを放棄したセンリは、抜け忍として世界を放浪していくことを余儀なくされてしまい――



[35320] 第一話
Name: 岡目印子◆2d25a1f8 ID:f5cc0241
Date: 2014/08/16 20:59
 天候は雨、気温は少しだけ低い――
 雨で道はぬかるみ、歩くたびに足が少し沈み込む感覚がする。センリを含む3人は特に会話をすることもなく、唯々真っ直ぐに歩き続けていた。

「――六人、来ている」

 センリがぼそりと呟くと同時に、彼女の両側に居る者達はいつでも戦闘できる準備ができていた。
 右側に居るのは、大きな包丁のような刀を担いでいる男――
 そして左側に居るのは、複数の千本を手に忍ばせている少女――いや、少年だった。
 センリ達は敵側には悟られぬように、特に動きを変えることもなく同じ歩幅で歩き続ける――
 
「敵の配置は?」

「四時の方向に二人、六時の方向に一人、そして九時の方向に三人いる」

 道のぬかるみによって行動し辛いため、人数的に向こう側が有利なのだが、大した問題ではないだろう。近くには川があるため、水遁の忍術が使いやすい上に気温が低いため霧も出やすいのだ。地形条件としてはこちらが明らかに有利であるのは間違いない。

「では、僕は四時の敵を討ちますね」

 左側にいる少年は、これから戦闘がであろう状況とは思えない眩しい笑顔でこちらを見てきた。センリも彼のほうを向いて少しだけ口角を上げながら頷いて対応した。

「一々役割分担する必要もねぇだろうが。……霧隠――」

「待て、再不斬。向こうは木ノ葉の忍だから、私たちの事をよく知っているはず……。何か策をもっているに違いないだろう」

 向こう側に再不斬以上に水遁を扱える相手は居ない上に、霧隠れの術もあるので大丈夫だとは思うが……そう簡単にいくとは考えづらい。センリ達はこういった追い忍を幾度と無く返り討ちにしているので、単純に戦闘して簡単に勝てないという事は分かっているはず。
 単体で勝てないのであれば複数人で高等忍術をしかけてきたり、特殊な忍術を扱う者を連れてきている可能性だってあるのだ。

「再不斬さん、ここはセンリさんに従いましょう? 僕らには今のところ相手が見えないですし……」

「チッ! 始まったら速攻で潰すぞ、白」

「はい、勿論です!」

 相変わらず仲が良いのだな、とセンリの間を挟んで会話をする二人を見ながら私は敵の監視を続ける。
 敵側はセンリ達と一定の距離を開けて同じ陣形で後をつけてきていた。向こうもこちら側と同様にかなり警戒しているらしい。

(火遁が四人、雷遁と水遁が一人、土遁が一人か……)

 センリの目の周辺に血管が浮かび上がる――
 恐らく六時の方向にいる一人――雷遁と水遁を扱う事ができる人物が隊長に違いない。雨のおかげで火遁の四人があまり使えなくなっているこの状況はかなり好ましい。

「陣形が変わった。そろそろ、向こうから仕掛けてくるに違いない。再不斬――」

「ああ、分かっているよ」

 そう言った直後に、敵側の三人がこちらに向かって来ていた――

「霧隠れの術――」

 辺りが霧に包まれて、視界が奪われていく。敵はそのことを予期していたのであろう、即座に印を結んでいた。

「火遁・鳳仙火の術!」

 二人が無数の炎弾を霧に向かって放ってきたが、センリと白は難無くそれを避けるなり防ぐなりした。
 すると、間もなくしてもう一人の火遁使いが印を結び終える。

「火遁・豪熱風波の術!」

 視界が揺らぐほどの熱風が、こちらに向かってきていた。

「氷結界」「八卦掌回転」

 白は自身の周りに氷の障壁を、センリは回転で熱風を弾いた。雨によって火遁があまり使えなくなると思っていたのだが、想像以上に強力な忍術を相手は使ってきていた。
 熱風を防ぎ切った時には、既に霧は熱風によって消えていて相手の姿も裸眼で確認することが出来た。

「まずは一匹目」

「なっ――!」

 霧が晴れたが再不斬は一人の背後に既に回っていて、その者は声を発する暇もなく首が飛んだ。生きている二人は即座に距離を置いて忍刀を構える。

「暗部か」

 どうやら今回は本気で殺しにかかってきているらしい。
 暗部特有のお面を被っているが、センリには彼らがどのような表情をしているかがよく分かる。仲間一人が死んでも彼らは心を乱さずに冷静だった。つまり、この第一波で一人くらい犠牲が出る予定だったのだろう。

「土遁・地動核!」

 背後からやってきた土遁使いによって、センリと白がいる足場が大きく押し上げられた。すると、背後に回っていた雷・水遁使いともう一人の火遁使いがこちらへ向かってきていた。

「雷遁・雷閃光の術!」

 視界が一瞬真っ白になり、不意に動きが奪われてしまうがセンリには相手の動きが見えていた。

「火遁・火炎車の術!」

 視界が奪われている白の前に立ってセンリは回転をして術を弾きながら印を結ぶ――

「風遁・風切刃の術」

「――ガッ!?」

 センリが放った鋭い風の刃が、火炎車ごと真っ二つに切断した。血の雨が空から降る中、隊長であろう男の顔には焦りと恐怖が見え始めていた。

「セツナさん……ありがとうございます」

「それは後。いまはこいつらを殲滅することに集中する」

「はい!」

 再不斬が居るほうを見ると、三人とも彼の水遁と首切り包丁に翻弄されていた。

「水遁・水蛇弾の術!」

 うねりと川から複数の水蛇がこちらへ向かってきていた。センリと白が押し上げられていた足場から降りても、それは執拗に追いかけてきていた。

「氷遁・氷雪吹の術!」

 しかし白によってその蛇は凍らされ、間もなくして崩れ去った。

「クソ……! 雷遁・雷糸網(らいしもう)の術!」

「風遁・風塵波の術」

 帯電した蜘蛛の巣は、あっけなく吹き飛ばされてしまった。動揺で上手く印を結べていない術など、五大性質の優劣に関係無く無効化できるだろう。

「最後に言い残す事はあるか?」

 センリは隊長格の男に近づいて印を結び始める――

「くっ……こ、木ノ葉――日向の面汚しが! 貴様が……貴様が一族の名を落としたんだ、日向センリ!!」

 仮面の外して見えたのは、日向一族独特の白い眼をした男だった。しかし、どうやら白眼は開眼していないようだった。

「そうか、お前は分家出身の者か」

「ただでさえ肩身の狭い血継限界の一族で、それも分家で、日向としての才能も無くて……ッ! 俺がどれだけの努力をして…………くそが!」

「そうか、日向はまだ木ノ葉に居続けているのか」

「あぁ、そうだ――」

 日向の男が返答するのと同時に、センリは彼の頭を吹き飛ばした。そして、死亡と同時に封印された白眼を目をから抜き取って跡形も無くなるように踏みつぶした。

「センリ、こっちは片付いたぞ」

「そうか、ならば帰ろうか――」

 雨はさっきよりも酷くなっていて、川がいまにも氾濫しそうだった。しかし、ここら辺ではよくあることなので特に気にすることもないだろう。

「波の国に」

 白い眼には、雲に隠れる満月がハッキリと映っていた。



[35320] 第二話
Name: 岡目印子◆2d25a1f8 ID:f5cc0241
Date: 2014/08/17 02:00
 波の国の近くまで辿りついた頃には、激しく降り続けていた雨もすっかり止んでいた。
 あの戦闘の後からは追手がやって来なかったところを見ると、しばらくは木ノ葉から暗部を送られてくるということはなさそうである。しかし、恐らく相手は木ノ葉の暗部組織――“根”のダンゾウであるため、油断は禁物である。

「センさん、雨も止んだことですし食事にしませんか?」

 小規模であるが、商店街の通りをセンリ達は歩いていた。行き交う商人や婦人、子供がそれぞれに口を動かして騒いでいた。

「そうしようか。黒はどこの店が良い?」

 センリ達は変化の術で全く別人に変わっているので、波の国の人々に正体がばれる事は無い。ただ、名前をそのまま使うと感づく者がいるかもしれないので適当な偽名を使って互いを呼び合うようにしていた。
 自分達の他にも変化している忍が中に紛れ込んでいるが、別にこちらを狙ってきているというものではないので気にすることなく素通りをしていく。ここ波の国は島国であり、且つ若干の無法地帯と化しているため、ならず者や抜け忍が集まりやすいのである。

「僕はセンさんが良い場所が良いです!」

 相変わらず白は私に綺麗な笑顔を見せてくる。変化で別人になっていても元の顔の様子が想像できるほどに、である。こうした彼の様子にセンリが癒されたことはこの五年間で数えきれないくらいあるだろう。

「なんだ?」

 それに対して再不斬は、いつも顔に包帯を巻いていて厳しい目つきである。加えて性格も不器用というオプションが付いているのが面倒くさい。

「斬はどこがいいのか、と思ってな……」

「それを聞くような目じゃなかっただろうが、今のは」

「いや、それは誤解だ。日光が当たっていて険しく見えたのかもしれないな」

「はぐらかすんじゃねぇ。本当は何が言いたかったんだ?」

 こうなると最後まで問い詰めてくるのが再不斬である。

「あの、僕あの店が良いです! ささ、お腹も減ってますし早く入りましょう!」

 両者の雲行きが怪しくなっていくのを悟った白は、間に入って場を和ませようとする。

「チッ……」

 白に対して弱い再不斬は、舌打ちをしながら白が指さす店のほうへ歩いていく。まあ、これがいつもの流れなので別にセンリ達が仲が悪いという事ではない。ただ、たまに二人に悪戯したくなってしまうだけなのだ――

「センさんも、行きましょう!」

「私はあっちの店がいいなぁ」

「もう、センさん!」

 ――こう言う風に



     *     *     *     *     *



 店でそれなりの食事を終えたセンリ達は、民家から離れた人気の無い建物へ来ていた。
 その目の前にある厳重な塀の中の大きな建物――“ガトーカンパニー”はセンリ達の居場所である。表向きは海運会社ということになっているが、実際は裏稼業を生業としており、センチ達は彼らの裏の仕事を引き受ける代わりに安全な居場所を設けて貰っていると言うわけである。

「おぉ、センリさん。帰りが早いですねぇ~」

「報酬を受け取りに来た――」

 センリは巻物から麻袋を口寄せしてガトーのほうへ投げる。中に入っている首を確認すると、彼は口角を上げて頷きながら部下に指示をした。

「これが今回の報酬――五万両です」

 要人暗殺というSランク任務となると百万両以上の報酬が普通なのだが、居場所を提供して貰っている以上センリ達はこの安い報酬で任務を引き受けるしかなかった。ガトーもそのことをよく分かっているから、このような破格な報酬しか出さないのである。

「あなた達には今後も期待してますよ。……ということで、これが次の仕事です」

「分かった」

 センリ達は報酬金と次の任務が記された紙を受け取ってさっさと部屋から出た。彼に期待されている以上、媚を売るよりもドライで相手に隙を見せない対応をしたほうが足元をすくわれ難いだろう。

「ガトー様に失礼な態度を取るなっていつも言ってるだろ?」

 部屋から出ると、ガトー専属ボディーガードの侍であるワラジに睨みつけられる。しかし、センリ達は彼を無視して歩き続ける。

「おい……何とか言えよ! ロクでも無いてめぇらに、ガトー様の御慈悲で居場所を与えられている事を忘れたのか?」

 ワラジがセンリの肩を強く掴んで動きを止めようとする。センリは無視をして前に進もうとしたが、彼は更に手に力を込めてそれを許そうとはしなかった。

「止めろ、白」

「ッ……分かりました」

 ギロリとした目でワラジのほうを振り向いた白をセンリは即座に止めて、彼の方へ振り向いた。

「ったく、手間取らせやがって……。取りあえず、いまからガトー様に謝って来い。そうすれば、今回は許してやるよ」

「貴様ッ!」

「白!」

 歯茎を剥き出しにしながら白が千本を取り出そうとするが、センリは見開いた白い眼で彼を睨みつけた。すると、白はシュンとして下を俯いた。

「部下の管理は、しっかりしてくれよ?」

「申し訳ない。彼はまだ若いから許してやってくれ」

「まあ、ガトー様のお気に入りであるセンリさんだからな、良いって事よ。……それじゃ、謝ってきてもらおうか」

「その必要は無い」

「…………あぁん? 今、なんて言った?」

 前に進んでいたワラジがゆっくりとこちらへ振り向いた。センリが放った言葉はガトーへの非服従の言葉と受け取ってもおかしくないだろう。

「その必要は、無いと言っている――」

「――ッ!?」

 ワラジがセンリの方を振り返った瞬間に、まるで石像と化したかのように固まってしまった。彼の顔からは大量の汗が流れ、次第に全身が震え始めていた――
 センリの眼は鏡の様に透き通っていて、ワラジの目を真っ直ぐに見つめていた。彼の目には何が映っているのかは分からないが、様子を見ている辺りかなり畏れ多いものを見ているに違いないだろう。

「必要は無いな?」

「……あ、ぁぁ」

 ワラジは今にも失禁しそうな脆く弱い声で返事をして、その場に膝を付いてしまった。それを確認するとセンリは再び振り返ってガトーカンパニーを後にした。

「センリ、それはあまり使うなと言ったはずだ」

「すまない、再不斬。でも貴方や白の事を否定するのはどうしても許すことが出来なかったんだ」

 センリが再不斬の方を向いた時には、彼女の目はいつもの白い眼に戻っていた。

「センリさん……」

「白……お前はもっと忍になるべきだ。でないと、この先を生きていくにはかなり不自由だぞ?」

「分かっています……けど…………」

 拗ねている白をセンリはそっと抱き寄せながら頭を撫でてやる。すると彼が強く抱き着いてきたため、センリの一本に纏めていた黒い長髪が少しだけ乱れてしまった。

「今回は白のおかげで助かったよ。これからもよろしく頼む」

「あ、ありがとうございます! ……僕、もっと頑張りますね!」

「フッ、甘やかしてんじゃねーぞ。ヘマした白は取りあえず水牢の刑だな」

「えぇ!? ざ、再不斬さん、それだけは……っ!」

「冗談に決まってんだろうが……! だから泣きそうな顔するんじゃねぇ……」

 やはり再不斬は不器用である――



[35320] 第三話
Name: 岡目印子◆2d25a1f8 ID:5c172f10
Date: 2014/08/21 00:26
 三人は少し寂れた茶屋に来ていた。雑談が飛び交う中、センリは一枚の紙を取り出す。

「次の仕事はこれ」

 机に置かれた紙を二人は軽く目を通して、小さく頷いた。任務のランクは比較的楽な“C”である。

「たった一人の“護衛”なら、俺が出る必要もなさそうだな」

 紙に書かれているのは、“波の国のタズナの抹殺”である。周囲に人が居る場合には、暗殺・抹殺は護衛と言うことにしている。
 タズナは、波の国と火の国を繋ぐ橋を築くリーダー的存在である。今まではこの橋については牽制という手を打っていた。しかし最近、中止していた建設作業を隠れて再開していることが判明した。このことがガトーの逆鱗に触れたため、遂にタズナ抹殺という決断に至ったようである。タズナは一般人で資金もないことから、抹殺には手間を取らないCランクに指定されたのだろう。

「私は別の仕事があるから、これは斬と黒に任せる」

「別の仕事とは、なんですか?」

「それは言えない。極秘だから」

 センリには二人とは異なる任務がある。ガトーによるものではなく、個人的な仕事だ。関係のない再不斬と白を巻き込むわけにはいかない。極秘という単語に二人は少し怪訝な顔をするが、特に何も言わなかった。

「分かりました。それでは、僕たちは仕事の準備をしますね」

「難無く終わると思うけど、気をつけること」

「ケッ……見くびるのも大概にしとけ」

「その油断が隙を生むぞ、斬――」

 二人は立ち上がって茶屋を後にする。白だけならば少し心配するが、再不斬がいるならば大丈夫だろう。出会った当初より彼らの実力は高くなっている。そう簡単にやられることは無いだろう。
 センリは支払いを済ませて茶屋から出ると、二人とは逆の方向に歩き始めた。背後から駆けてくる運び屋が、センリの横を通り過ぎると同時に小さな紙を渡してきた。

「――火の国、か」

 読み終えた紙を風遁で切り刻む。商店街を抜けた瞬間にセンリの姿は消えていた。



     *     *     *     *     *



 一日ほどして、センリは火の国の端に着いた。場所は田の国寄りの場所で、周囲に村や集落は少ない。波の国で受け取った紙の情報によると、この辺りに“奴ら”のアジトが存在しているらしい。センリは高い木の上に立ち、白眼で周辺を見渡した。

(――アレか)

 不自然に歪んだ空間が一つ目に入る。恐らく地形を利用した幻術であり、上手く自然に溶け込んでいる。よほど注視しなければ気づかないだろう。地下に続く階段の奥を透視するが、人の存在は確認できなかった。
 センリは相手に気づかれないであろう場所まで近付き、帰ってくるのを待つことにした。

(二人は上手くやっているだろうか)

 ふと、再不斬と白のことを思い浮かべる。今日はタズナが木ノ葉から波の国へ戻る日であり、早ければ既に仕事を済ませているかもしれない。しかし、木ノ葉が絡むとなると一筋縄ではいかないかもしれない。護衛に付く者によっては苦戦を強いられる可能性もあるだろう。

(……上手くやってくれると信じるしかない)

 いまはセンリにもやるべきことがあるため、こちらに集中するほかないのだ。センリは木から降りて近くにある幹に腰を預ける。

(手は出してこない、か)
 
 先程からセンリの近くに忍が三人こちらの様子を伺っているが、一定の距離を保ち続けている。少し移動すると彼らもそれに合わせてくる。恐らく木ノ葉の忍だと思うが、狙ってこないということは偶然発見したに違いない。この人里離れた場所に誰かが居れば警戒するのも無理はない。こちらが不用意に木ノ葉へ近づかなければ、向こうも手出しはしてこないだろう。
 センリは敵意が無いことを示すために切り株に座った。しかし、三人は変わらずセンリの監視を続けている。
 一度火の国から出なければ、彼らは監視を止めてくれないのだろうか。しかし、この機会を逃すのも考えものである。

(撒くか――)

 センリは立ち上がると同時に、その場から素早く飛び立った。予想通り、彼らも後を追い続けてきた。少しずつ距離が近づいていることから、こちらのことを敵と認定したようだ。先程までは敵対していなかったため戦闘を避けていたが、こうなれば仕様が無い――

「何故つけてくる?」

 センリは足を止めて、追手の方向へ目を向けた。すると、お面を被った三人が距離を開けて姿を見せた。

「こんな僻地にいる者を見逃すわけにはいかんからな」

 若い声をした男が一歩前に出て忍刀を抜いた。どうやら、話し合いの場は与えてくれないようだ。

「薬草を取りにきた。私はこの先にある村の人間だ」

 比較的近くにある村の方向に指を差し、逃げている最中に取った薬草を見せる。すると、お面の三人は武器を仕舞ってこちらに近づいてきた。

「それは申し訳ないことをした。ここは獣が出て危険だから、村まで護衛をしよう」

「それはありがたい。では、御言葉に甘えて――」

 男が友好的な振りをしていることは分かっていた。そして、それが後ろの一人による幻術であることも――
 彼が差し出している手――いや、忍刀をセンリは避けて素早く腕を突き出した。

「八卦空掌!」

 男が反応する前にその一撃が突き刺さる。一ヶ所に集められたその衝撃は、彼の骨を砕き、内臓を破裂させた。残りの二人は吹き出る鮮血を見ると同時に、その場から離れる――

「お前……まさか――」

 変化の術で姿は村人になっているが、柔拳を扱ったことによりその正体はすぐに察知された。センリは木ノ葉ではうちはイタチを筆頭としたS級犯罪者の抜け忍であるため、暗部が知らないはずがないだろう。残された男は後ずさりするが、女は前に足を踏み出して印を結んでいた。

「引くな、ここで始末する! ――火遁・炎柱獄の術!」

 センリの周囲を囲むようにして火柱が迫る。しかし、センリは難無く回転でそれを弾き飛ばした。

「風遁・風切波の術」

 素早く印を結んだセンリは、女に向けて刃を飛ばす。女は紙一重でそれを回避し、更に距離をあけた。

「まだか、クウ!」

「ま、待て! 急かすな!」

 先程まで怯えていた男が長い印を結び続けている。どのような術かは分からないが、厄介であるのは間違いない。センリは標的を男に変えて印を結びながら近づく――

「風遁・風塵波の術」

「させるかぁ! 火遁・炎防壁の術!」

 炎の壁により術は防がれたが、その分女に隙が生じていた。女は即座に距離を離そうと飛び下がるが、センリはそのまま指を鋭く立てて腕を突き出す。しかし、指が女に触れられなかった。徐々に離れていく女は、これを好機と見て印を結び始めるが――

「八卦刺刃掌」

 指先から長く飛び出す鋭利なチャクラの刃が、女の胸を貫く――
 お面越しに驚愕しながら絶望する顔が見える。セツナはそんな女を尻目に刺刃を抜いて、印を結ぶ男に向けて飛び込んだ。

「ミ、ミナぁぁッ! ふ、封印術――」

 男が印を結び終わる直前に、刺刃が男の首を刺す。男は何かを言おうとしているが、首がやられているため上手く聴き取れなかった。

「……お前たちの目的は?」

 センリは胸を押さえて血を吐いている女を起き上がらせた。面を剥がして目を合わせると、恐れた目をして身体を震わせ始める。

「言うわけ、無いでしょ……」

「そうか――」

 センリは女の心臓に刺刃を突き刺した。三人ともまだ若いことから、暗部になりたてであったに違いない。最初の男がやられた時点で伝書を木ノ葉に送るべきだったが、焦りで冷静な判断ができなかったのだろうか。考えたところで仕様がないため、センリは取りあえず死体を地中に埋めてその場から離れた。

(あまりゆっくりはしていられない)

 暗部を殺してしまった以上、他の暗部が様子に見にくるに違いない。できれば今日か明日中には仕事を終わらせたいところである。
 センリとしては、できるだけ不必要な戦闘を避けておきたい。無駄に体力やチャクラを消費して、いざというときに動けないということにはなりたくないのだ。

(早く来い、カズマ――)

 元守護忍十二士の生き残りの一人、カズマが姿を現すのをセンリは静かに待ち続けた――



[35320] 第四話
Name: 岡目印子◆2d25a1f8 ID:84b94c4b
Date: 2014/11/07 15:25
「――これで最後、か」

 カズマの仲間と思われる三人が帰ってきたと同時に、センリは強襲をしかけた。こちらの存在に気がついた瞬間に、一人が巻物を取りだして印を結ぼうとしたがその前に点穴を付いていた。残りの二人に関しては、五つのチャクラを使い分ける女が少し厄介だったくらいである。

「あん、た……何者、よ」

 桃色の髪をした女は話せる程度にしておいた。まあ、彼女らがここに来た時点でカズマも帰ってくると思うが――

「もう一人の男はいまどこにいる?」

「フリドの、こと? それなら、何も知らないわ……」

 真偽を確かめるために白眼で睨みつけたが、どうやら彼女は本当のことを言っているみたいだ。“フリド”というのは恐らくカズマの偽名だろう。

「ここに帰ってくるのか?」

「……どうせ、答えようが答えまいが私のこと、殺すんでしょ?」

 女は血を吐きながら笑っている。絶望・恐怖・憎悪の感情が瞳に浮かんでいるようだった。

「信頼されていない部下、か。滑稽だな――」

 カズマの配下でありながら、彼のことを何も知らない女に苦笑する。センリはクナイを取り出して彼女に目がけて振り下ろそうとした――

「……遅かったな、カズマ」

 横から飛んできた手裏剣をセンリは弾き飛ばす。姿を消す術を使っているが、センリから見れば丸見えも同然である。

「いくら時が経とうと、お前はいつも俺の邪魔をするみたいだな。日向センリ――」

 怒りが込められたその声に、センリは反応することなく彼のほうを見た。

「随分と老け込んだな、カズマ」

「フリ、ド……!」

 虫の息を放つ女が、希望に満ちた目でカズマを見ていた。センリは女を無視して彼に向かって歩き出す。

「ハッ、ほざいてろ。わざわざ俺を探しにくるとは、どういう風の吹き回しだ?」

「お前が何をしようとしているのか、それを確かめに来た――」

 センリは構えを取り、カズマに拳を刺した――

『そう慌てるな、日向センリ。まだ話は終わっていないだろ?』

 影分身と思われるモノが飛散すると同時に、カズマの気配が消えた。白眼で周囲を見渡したが、彼らしき人物は見つからなかった。

「おかしな術を身に付けたようだな」

『遠方から戦況を見るのが、玉の務めだからな――』

 静かな森の中に、反響したカズマの声が聞こえる。センリは構えを解いて一息ついた。

「それで、話というのはなに?」

『フハハ、ようやく聞く気になったか! ここで会ったのも何かの縁だ、日向センリよ。……俺と共に、やり直してはみないか?』

「……やり直す?」

 センリとカズマに共通したことと言えば守護忍十二士であり、そして――

『そう、木ノ葉再建だ! あの時は俺もお前も若かった……。だが、いまは違う! 今後木ノ葉の力が弱まったその時を狙い、我らが野望を成すのだ――』

 八年前、火の国による世界統一のため軍事国家化を計画したクーデター。それを、カズマは再度行おうとしているようだ。確かに彼の言うとおりあの時は若く、そして力も備えていなかった。いまならば、この力をもってして成し遂げることができるかもしれないが――

「無様極まりないな、カズマ。いや、いまはフリドか――」

『……なんだと!?』

 予想外の返答にカズマは憤慨している。自らの一生をかけた野望を“無様”などと言われたのだから当然であるが。

「過去に――火の国にいつまでも這いつくばるお前の姿を、“無様”以外にどう表す?」

『貴様……ッ!!』

 センリは木ノ葉を去ったと同時に、それを捨て去っていた。あの場所は自分の故郷ではなく、ただの敵という存在であるのだ。そんな木ノ葉を再建などと抜かすカズマは、酷く滑稽である。
 
「木ノ葉はもう腐りきっている。あれを再建することはできない」

 腐敗した木ノ葉に、なぜ日向一族は居続けるのだろうか――
 日向もあのような国に縛られるのではなく独自の国や里を持つべきだ、といつも思っているが、どうやらそれが叶うことはなさそうだ。ぬるま湯に浸かりきった日向はヒナタ、ハナビの代を経てより一層に衰退していくだろう。
 そんな木ノ葉を破壊するため、センリは形だけクーデターに参加しただけだ。木ノ葉が、火の国がどうなろうと問題はない。ただ、日向の発展を望んでいるだけなのだ。
 
 カズマが姿を見せない以上、もはやここに居る意味は無くなった。センリは倒れている三人の間を通り、森の中へと飛びたつ。

『クッ……いまに見ておけ! 再建を果たした暁には貴様を討ち取らん!』

 カズマの戯言を聞き流したセンリは一目散に姿を消した。八年前の幻想にいつまでも囚われつづける彼が、自らの愚考に気が付くときはくるのだろうか――




     *     *     *     *     *




「くっ……一体、君は――」

 白は突然豹変した少年――ナルトに苦戦をしていた。
 魔境氷晶でサスケとナルトを翻弄して先にナルトを始末しようとしたのだが、サスケが身代わりとなって倒れた。ここまでは良かったのだが、突然ナルトから赤いチャクラが沸きだし、とてつもない力で暴れ出したのだ。かなりの強度を持つ魔境は素手で破壊され、そしてそのまま彼に殴り飛ばされて仮面が割れた。

「お、お前……!!」

 ナルトは白の顔を見て正気に戻ったのか、赤いチャクラも消え去り動きが止まった。
 初戦で畑カカシに撃退された再不斬を治療するため薬草を集めていたとき、ナルトとは一度顔を会わせている。

(……好機!)

 彼が覚えていたことにより、隙が生まれた。白は即座にクナイを取り出し、彼に向かわんとするが――

「――ッ!!」

 白は、動きが止まっている再不斬に雷撃が近づいていることを悟る。このままナルトを倒していれば、再不斬は間違いなくそれを食らってしまう。しかし、いま再不斬とその雷撃の間に入れば防ぐことが出来る――
 白の脳内で高速に議論が繰り広げられる。自分の身を呈して再不斬を守るか、それとも再不斬を見捨ててナルトを始末するか――
 苦渋の選択が迫っているというのに、白はどちらかを選ぶことが出来ないでいた。

(センリさん……!!)

 センリがいれば、恐らくこのようなことは起きていないだろう。居るはずもない存在にすがりつくほどに、白は追い詰められていた。

 “白……お前はもっと忍になるべきだ”

(――――ッ!!)

 ふと、センリに言われた言葉を思い出す。あやふやな気持ちでいままで戦い続けてきた白にとって、最も痛い言葉だった。
 忍たる者は何ぞや――
 忍にならなければ、この先も進むことが出来ない。まさにこれが、白に課された試練であるならば、取る選択肢は一つ――

「はあああぁぁぁ!!」

 白は心の中で再不斬に謝りながら、クナイを握りしめて前に駆けだす。ここでナルトを始末して、恐らく弱り切ったカカシを討てば任務を達成することができるはずだ。いや、達成しなければならない。

「……ッ!! この!!」

(しまった……!!)

 間一髪でナルトは白の攻撃を避けて距離を置いた。あやふやな心で突撃したため、攻撃が単純なものになっていたのだ。
 一発で仕留めなければならなかったというのに、失敗した自分に絶望する。

「――ガハッ!!」

 背後から断末魔の叫びが聞こえる。あの首きり包丁が地面に落ちる音が聞こえ、静寂が走った――

「……ナルト、よく頑張った。あとは俺に任せろ」

「カ、カカシ先生! そいつはなんというか……悪い奴じゃないってばよ!」

 返り血を浴びたカカシがこちらに近付いてきている。再不斬との戦いで消耗しているようだが、まだまだ動けるというのはすぐに分かった。

「……サクラと一緒にサスケの様子を見てこい。これは命令だ」

「わ、分かったってばよ……」

 カカシの鋭い視線に圧倒されたナルトはサスケのほうへ駆けて行く。今までにない威圧感に膝が震え始める。

(僕が……僕がやらないと。再不斬さんの犠牲を、無駄にすることは……できない!)

 白は無数の千本をカカシに投げつけるが、軽く避けられて徐々に距離を詰められていく。あの写真眼がそれを可能にしていると悟った白は、距離を離して印を結んだ――

「氷遁、氷龍柱の術!」

 両手から二つの氷龍がカカシに向けて飛びかかる。カカシはそれを見るや否や長い印を結んでいた。

(あれは……!)

 よく隣で見たその印は再不斬が使っていた――
 
「水遁、水龍弾の術」

 橋の下から出てきた水龍が、二つの龍を巻き込むようにして襲いかかった。空中で氷龍と水龍は一体化し身動きが取れずに、そのまま地面に落ちて消滅した。

「抵抗はやめろ……お前はもう、詰んでいる」

「くっ……! 氷遁――」

 圧倒的な力量差があるが、白は抵抗を続けようとした。しかし、尋常ではない速さでカカシが距離を詰めて蹴りを放ってきた。

「ぐ、ぁ……ッ」

「もう一度忠告をする……抵抗を止めろ。これは最後の忠告だ」

「やめ、ない……! 僕は、忍だから……」

 どうせ捕まるくらいならば、再不斬と同じところに行きたい。忍びたる者、逃げだすことはできない。だから白は立ち上がり、千本を手に持った。

「そうか。なら、本気で行くぞ――」

 気が付けばカカシが目の前にきていた。ここで死ぬのだと悟りながらも、白は逃げ出すことなくそれを受け入れた――

「再不斬さん、センリさん…………僕は――」

 ようやく二人みたいな“忍”になれたのだろうか――









「――風遁、風切刃の術」

 白が意識を失う前に聞いた声は、よく聞き覚えのある人の声だった――



[35320] 第五話
Name: 岡目印子◆2d25a1f8 ID:84b94c4b
Date: 2014/12/17 23:20
「くっ――!?」

 カカシは突如襲いかかってきた風の刃を避けて後ろへ下がった。
 暴風により霧が飛ばされ、橋に光が差し込み始める。

「……死んだか、再不斬」

 黒い長髪の中性的な人物は、血溜まりに浸かる再不斬を起こした。写輪眼でその姿を凝視すると、木ノ葉ではよく見る“眼”――白眼が目に入った。

「まだ……だ。こんなところで、俺は――ッ!!」

 再不斬の顔に巻かれた包帯から血が溢れだし、その場に倒れた。心臓に雷切を食らったのだから、不死身でも無い限り死ぬのは時間の問題だろう。
 それよりも目の前に現れた白眼――日向の忍を見て、カカシは嫌な汗をかき始めていた。

(日向の抜け忍と言えば……“アイツ”しかいない――)

 “日向センリ”――ビンゴブックに載っているS級犯罪者が目の前にいる。センリの様子を見る限り、再不斬とは顔見知りもしくは仲間に違いない。

「白は生きている。再不斬、一緒に旅が出来て楽しかったよ」

「セン、リ……お前、は――」

 再不斬は何かを言い残して、息を引き取った。センリは目を瞑りながら立ち上がると、こちらに鋭い目を向けた。
 カカシは与えられた短い時間の中でどうするべきかを考えていた。
 再不斬との戦いでチャクラをかなり消耗しているため、長期的な戦いは望めないだろう。だからといって、日向センリは一撃で終わるような相手では無い。この時点でカカシはほぼ詰み状態にあると言っても過言ではない。
 カカシの他に戦力として挙がるのは負傷が少ないナルトとサクラの二人だが、力量的に論外だ。出てきたところで瞬殺されるのが目に見えている――

(選択肢は一つしか無いみたいだな――)

 どの道ここでカカシが死ねば全滅だろう。それならば、任務遂行のためにここでセンリを足止め――いや、仕留めるしか手段は無い――

「カカシ先生ェ! そいつ誰だってばよ!」

 後ろからナルトの叫び声が聞こえて、頭を抱えそうになる。ここは察して逃げて欲しかったのだが、彼にそれが出来るはずも無かった。

「ナルト、サクラ! タズナさんとサスケを連れて逃げろ! 理由は考えるな……走れ!」

「……ナルト! 行くわよ!!」

「でもカカシ先生が――」

「いいから! 早く!!」

 状況を察したサクラが先導して、サスケをおぶりながらその場から離れ始めた。ナルトとタズナさんもそれに並んでいった。一応これで四人の安全は確保されたが、問題は山積みである。

「再不斬を討つとは、流石は写真眼のカカシと言ったところか」

「二連続S級犯罪者……それも日向センリを相手というのは……骨が折れるな」

 カカシはできるだけ時間を稼いで四人の生存率を高めようとしていた。センリは特に攻撃を仕掛けてくる様子も無く、落ち着いている。

「“ターゲット”のことは気にしなくていい。もう、狙う必要も無くなったから」

 まるでカカシの心の中を見透かすかのように、センリは言及してきた。タズナを狙わない理由はどうでもいいとして、あの四人の安全がほぼ確保できたことに取りあえず安堵した。

「ということは、俺が狙いか?」

「特に恨みは無いが、再不斬の冥土の土産になってもらう。それだけだ――」

 センリは構えを取ると同時に、一気に距離を詰めてきた――
 素早い柔拳を交わしながら、カカシはセンリの攻略方法を考えていた。柔拳は普通の体術と比べて、指先を身体に接触させることができないのが難点である。指先が振れれば、点穴が閉じられて次第に身体にチャクラが流れなくなってしまうのだ。カカシは写輪眼を持っているため動きに付いていっているが、このまま近距離で戦闘を続けるのは明らかに不利である。
 カカシは隙を見てセンリから距離を離し、素早く印を結んだ――

「水遁・水龍弾の術――」

「八卦掌大回転」

 水龍をセンリが弾いている間に、カカシは影分身を四方に回した。
 回転が終わると同時に四つの分身がセンリに襲いかかったが、鋭い柔拳によって瞬く間に消されていた。

(くっ……! 隙が無い――)

 流石はうちはイタチと同格の天才と謳われているだけのことはあるだろう。
 センリは柔拳に殺傷能力を付ける応用をしており、風遁に長けている情報がある。それに加えてほぼ全方位を見渡すことが出来る白眼を持っている。遠近ともに非常に優れているため、攻撃する隙が無いのだ。
 こちらの動きが止まったとみたセンリが、印を結ぶ――

「風遁・大突破!」

 大きく息を吸ったセンリの口から、暴風が飛び出す――
 術は中忍級だが、センリのそれはかなりの威力であると即座に判断した。

「土遁・多重土流壁!!」

 何重もの土遁の壁で暴風を防ぐが、回りから入り込んできた風に吹き飛ばされそうになる。
 一瞬視界を奪われ、次に目を開けたときにはセンリが目の前に来ていた。
 指先から伸びたチャクラの刃が迫っていたが、無理矢理体勢を崩してそれを避ける。すぐに体勢を取り戻そうとしたが、センリの脚が腹部に刺さり、大きく飛ばされた。

「痛ッ――!」

 空中で体勢を整えて着地をすると、頬から血が流れた。
 刃が掠っただけで内部にも激痛が走るということは、あれも柔拳の一種なのだろう。身体に刺さることがあろうものならば、絶命を免れるのは難しい――

(“アレ”を使うしかないか――)

 リスクは伴うが、出し惜しみをしている場合ではないだろう。チャンスを掴むためにカカシは水遁の印を結んだ後、火遁の印を結ぶ――

「火遁・豪火級の術!」

 センリがいる橋一面ごと焼き尽くす程の炎を吹くと、狙い通りにセンリは橋下の海へ回避した。
 カカシは雷切の印を結び、右手にそれを溜め込み、センリがいる海へ飛び降りた――

「これで終わりだ――日向センリ!」

 迫るカカシに対してセンリは回転をしようとする。

「――ッ!!」

 背後から突然現れたカカシの水分身がセンリの腕を掴もうとする。しかし、センリは即座にそれを間一髪で避けることに成功した。
 カカシはそのまま真っ直ぐ心臓目掛けて右手を突きだすが、センリは難無く回転をして雷切の軌道を逸らす――

「詰めが甘かったな、写輪眼のカカシ――」

 センリは無表情のまま、勢いが止まったカカシに襲いかかった。
 雷切が不発に終わったカカシにチャクラの刃が突き刺さる――











「詰めが……甘かったな、日向センリ――」

「なっ――!?」

 刃が突き刺されたカカシの体内から雷撃が放たれた。
 そう、カカシは雷切を発動した際に“雷遁・影分身の術”を使用していたのだ。雷撃がセンリに感電し、動きが止まる。雷遁・影分身によってチャクラが半分消費されているため、これで最後にしなければならない。
 水中から姿を現したカカシの写真眼の模様が変わり、センリの心臓にその視線が定まる――

「万華鏡写輪眼――神威!!」

 瞳術が発動し、センリの胸部が歪み始める――

「くっ……!!」

(……時間はかかるが、局所的なら行ける!!)

 チャクラの消耗が激しいため、なかなかセンリの心臓を異空間へ飛ばすことができない。次第に歪みが強くなり、センリが苦痛の声を漏らし始める――

「うおおおおぉぉ!!」

 カカシは渾身のチャクラを振り絞り、神威を続けた。意識が飛びそうになるのを堪えてセンリを唯々睨み続けた。
 あと少しで日向センリの心臓が――






「――――――」






「な、に……!?」

 センリが何かを呟くと、歪んでいた空間が元に戻っていた。カカシは目の前で起きたことが理解できずに、佇むことしかできなかった。

(俺は瞳術を解いていない……それなのに、何故――)

 いつのまにか雷遁の拘束が解かれているセンリがこちらを見ていた。一瞬、目がまるで鏡のように見えたが、すぐに元の白眼に戻っていた。

「写輪眼、輪廻眼、そして白眼……この三大瞳術の中で最も長けているのは、白眼だ――」

 センリがゆっくりとこちらに歩いてくるが、カカシはチャクラを消耗しきっているため動くことができなかった。

「白眼が最も、長けている……だと!?」

 白眼といえば広範囲・遠距離・透視性を兼ね揃えた瞳術であるのは知っているが、万華鏡写輪眼を凌駕するということなど聞いたことがなかった。しかし、それを実際に目の前で行われたのだから、納得せざるを得ないだろう。いや、もしかしたら何かしらのトリックがあるのかもしれない――

「ここで死ぬお前に話す必要は無い」

 センリはカカシの前に立ち、チャクラの刃を首元に突きつけた――

「再不斬とあの世で仲良くしてやってくれ、写輪眼のカカシ――」

 刃を振り上げたのを見て、カカシは目を瞑ってその運命を受け入れることにした。

(リン、オビト、先生――)

 あの三人と過ごした時間が走馬灯のように流れ始める。結局、何もできないまま果たすこともできないまま――

『やめろおおおぉぉぉ!!』

 刹那、センリの姿が目の前から消えていた。
 橋の上から気絶していた少年の声が聞こえたからなのだろうか。そんなことを考えている内に、カカシは海上に倒れこんだ。

(助かった、のか――)

 事の真相が分からないまま、カカシはそのまま気を失った――



[35320] 第六話
Name: 岡目印子◆2d25a1f8 ID:84b94c4b
Date: 2014/12/18 01:31
「へへっ、やっぱり思った通りだぜ!」

「まさか本当だったとはな……。まあ、この顔立ちで“男”なはずがないか――」

「貴様ら……!」

 意識を取り戻したとき、白は衣服をはだけさせられていた。目の前に居るガトー・カンパニーの手下たちは、いやらしい視線をこちらに送ってくる。
 今すぐにでも彼らを殺してしまいたいのだが、カカシとの戦いでチャクラを消費しすぎているため、いまはただの村民と変わらなかった。辛うじて目の前の男たちを殺したところで後ろには何十人もの手下がいるため、すぐに取り押さえられてしまうだろう。

「触るな!」

「んだよ……いま置かれている状況、分かってる? 白“ちゃん”――」

「――痛ッ」

 白に手を出そうとした男の手を振り払うと、頬を殴られて床に叩きつけられる。後ろから下衆染みた笑い声が上がり、一人、二人と白に近づいてきた。
 男たちのその目を見て、白の身体が震えはじめる――

「おぉ? いい表情もできるじゃねェか。これは嬲り甲斐がありそうだなぁ」

「あ……あぁ……っ!!」


     *     *     *     *     *


 幼い頃に植えつけられたあの記憶が、脳裏に映し出される。男たちに弄ばれ、捨てられ、そしてまた弄ばれる――
 自分の意思など関係無しに生かされてきたあの日々。繰り返される迫害と嘘と暴力。それでも必死に“生”にしがみついていた。生きているようで生きていない――そんな絶望に悶え苦しみながら息をしていた。

 “僕は、この世に必要とされているのだろうか――”

 人間は何かしら意味を持って――必要とされて生まれてくるはずだ。しかし、それを全く実感することが出来なかった。
 この命に意味はあるのだろうか。意味があるとするならば、一体何があるというのだろうか。それを見つけることが出来るのだろうか――いや、見つけられない。
 この世に必要とされない存在があるとするならば、それは間違いなく自分自身だろう。この絶望の毎日に何の意味があるのだろうか――

「面白いモノを持っているな、君は――」

 寒い冬の街の隅で座り込んでいると、ふと優しい声が掛かった。しかし見上げることもなく、ただじっとしていた。こうして優しく接してくれるのは最初だけで、人が少ないところまで付いて行った瞬間に、声色を変えて襲いかかってくる者を幾度無くこの目で見てきたからだ。どうせいま話しかけている人も、彼らと同じに違いない。
 黙りつづけていると、肌を突き刺す寒さが無くなるのを感じた。咄嗟に視線を上げると肩から被されている羽織物と、いままで見たことがない淡白い目をした人が目に入った。その人は男か女か分からない中性的な顔立ちで、艶のある長い髪をしていた。
 何かを言おうとしても言葉が思いつかない自分に対して、その人は手を差し伸べてきた。他の人とは違う――そう感じ取るとその手を取り、ゆっくりと引き上げられる。すると、その人の後ろに強面の男が目に入り、思わず手を離して尻もちをついてしまった。

「ふっ……再不斬、怖がられているぞ?」

「うるせぇ。チッ……先に行ってるぞ」

「全く、人相が悪い」

 再不斬と呼ばれた男は、気分を害したのかそのままどこかへ行ってしまった。目を丸くしていると、再び手が差し伸べられて立ち上がった。

「あ、あの……どうして僕なんかに……」

 勇気を振り絞って目の前の人に声をかけてみた。いつもであれば自分から話すと怒鳴られたり、殴られていた。しかし、この人はそのようなことをしてくるようには思えなかった。人を見る目だけは確かな自信があるため、間違いないだろう。

「君、名前は?」

「な、名前は……」

 名を聞かれて言葉に詰まってしまう。この世に生まれる全ての人間につけられるであろう名前を持っていなかったからだ。いや正確には名前はあったのだが、物心がつく前に両親が居なくなっていたため分からないのだ。

「そうか……そうだな――」

 名前が無いことを悟ったのか、その人は空を見上げながら何かを考え始める。少し時間が経つと、その人は手のひらを上に向け、何かをそっと包み込んでこちらへ見せた。

「今日は雪だ。そして雪は白く……私の目も白い。これは何かの縁だろう――」

 瞳に映る白い雪と目を交互に見ていると、その人はしゃがんで頭に手を乗せてきた。いつもみたいに髪を引っ張られるようなことはなく、優しく撫でられていた。

「“ハク”という名前はどうだろう?」

 ハク――白と呼ばれた瞬間に、自然と涙が溢れた。今まで感じたことが無かった感情に、心の処理が追いつかなかった。優しく温かいこの感情――これが、幸福というものなのだろうか。

「私の名前は日向センリ。私と一緒に来ないか?」

 その日から、白はこの世に必要とされる存在となった――


     *     *     *     *     *

「それじゃ、まずは俺から」

「やめろおおおぉぉぉ!!」

 男が暴れる白を押さえつけて襲いかかろうとした瞬間に突風が吹き、次に目を開けると男の頭が無くなっていた。吹き出す鮮血にその場にいる者たちは絶句して固まっている。
 突如姿を現した長髪の人物を見て、全員が驚嘆する――

「お、おい……こいつは別の任務に――」

 センリは後ずさりする男たちの首を次々とはねられていく。その惨劇を目の当たりにして男たちは後ろへ逃げるものの、生きる時間を少し稼ぐ程度であった。センリは無表情のまま血を被り続け、そして一番奥に居る男――ガトーに歩み寄って行った。

「お、おやおやセンリさん……個人的な任務はもう完遂ですか?」

「…………」

「お、おおお、おい! お前、ガトーさんに、な、何をする――」

 ガトーの側近が首が飛ぶのと同時に、周りにいた取り巻きは海へ飛び込んでいった。ガトーが止めようとするものの、彼らは耳を貸すこともなく自分の命だけを考えて行動している。ガトーが少しずつ後ろへ下がるものの、そこに待っていたのは建設途中の橋の路面だった。逃げ場が無くなったガトーは後ろへ倒れ込み、身体を震わせ始める。

「こ、今回の任務は失敗したが、ほほほ報酬は出しましょう!! いや、言い値を出しますから許してください!!」

 奥に隠していた小者さをガトーは恥じることもなく晒していた。もともと彼は成金であるため特に驚きはしないが、普段の傲慢な態度と見比べると酷いありさまである。

「全部、じゃないと殺す。どこにある?」

「分かりましたぁ! ば、場所は地下の金庫――」

 救われた顔をしたガトーの顔が海に飛び落ちた。ある意味苦しまずに死んだのだから、幸せな人生であったと言えるだろう。
 センリは転がる死体に目もくれずに白がいるほうへ向かった。肌をさらけ出す彼女に羽織物を被せて、そっと抱き寄せた。

「白……生きていて良かった」

「センリ、さん……」

 全てが終わったと思った瞬間に、身体の力が抜けていく。そんなセンリを白が強く抱きしめることで支えていた。
 センリの頬に流れる涙を、白が拭う――

「再不斬が、死んだ……死んだんだ」

 まるで家族同然であった再不斬が、死ぬという事実を受け入れることができなかった。木ノ葉を抜けた直後から行動を共にしていた仲間が、居なくなってしまった。
 私的な任務など後回しにすれば良かった。少しの気の緩みで、このようなことになるとは想像もしていなかった。再不斬ならば厳しい相手であったとしても、生きながらえることができる――そう思っていた。

「僕の……、僕のせい、です……!! 僕があのとき、再不斬さんを庇わなかった、から……ッ!!」

 泣いている白を見て、朦朧としていた意識が取り戻される。目の前にいるセンリにとって唯一残された人物を、強く抱きしめ返した。
 二人を慰めるように、空から雪が降り始める。思えば白と出会ったときも雪が降っていた――

「いや、白は立派な忍になったんだ……。だからきっと、再不斬も喜んでいるはずさ」

 白を連れて雪が少し積もった再不斬の前に行く。そして横にある断刀首切り包丁を手に取り、白に差し出した。涙を拭いきってそれを受け取ると、力強い目になっていた。

「僕が、再不斬さんの跡を継ぎます! そして、センリさんを守れるような立派な忍になります!」

「ああ、期待しているよ――」





 再不斬の埋葬を終えたセンリたちは、ガトーの金庫から金を回収したあと波の国を去ることにした。これからは白と共に新しい土地を目指して旅をする。

(再不斬……貴方は私にとって――)

 


 桃地再不斬は、日向センリにとって家族のような存在だった――


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