ハーーー何も残らない。
もとから存在しないモノ、得るものもなければ失うモノなどありえない……
そう思っていたんだが、まいったねどうも。
このまま消え去るのはいただけない。死を恐れるとは思わなかった。
ああ、なんてこった―――
死んだら誰も殺せない。あっちにいるのは亡者ばかりだ。
なんの楽しみもないんだが……まあ、これが相応の罰ってヤツか。
いいぜ、このまま無残にちぎれて消えるさ。
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事の終わり…いや、
始まりはあの夜の事だった。
俺はあの夜、紅赤朱との死闘を制し、一族の誇りを取り戻した。まあ、代償としてその命を失ったんだが。やれやれ、一体全体どういうわけか俺は生きているようだ。見覚えのない森、動かない肉体
ーーーそして
辺りを包む死の証
一度はタタリとして宿った力だが、どうやら本格的に俺の浄眼も変化してしまったようだ。
ーーー直死の魔眼
二度の死を経験したあいつの浄眼が変化したもの
。触れるだけでその物体に死を迎えさせる厄介な目。それがあの死闘により、目覚めてしまった。
まあ、それは今考えても仕方あるまい。生憎とタタリの影響かはわからんが死を見ていても頭が痛む事もない。かといっていつまでも死を見るという訳にもいかない。早いうちに手は打つべきか...っと、少々脱線したか。何はともあれ、まずは現状把握だ。
現在地は森の中
精神は七夜志貴の者で間違いがない
肉体は何故か思うように動かない
服装として、何かに包まれているのはわかる
俺の視界には星と月。つまり仰向けの状態か
声は…
「あぶぅ(あんぱん)」
…ん?
「ぶぁ(直死の魔眼)」
ハーーーまさか、こんな事になろうとはな
この肉体、器は間違いなく赤子の物だ。時間逆流でもしたといえばいいってか?
だがしかし、この森は七夜の里の物ではない。ならば一体どういう事か…
あの蛇のように転生したか?
バカバカしい。
今は何を言っても仕方あるまい。ただこれではいけない。
自身で動けないというのは、即ち誰も殺せないという事だ。これは大問題だ
なんとか出来ないものか…
ん?人の気配。随分と隠遁が旨いな
「…こんな所に赤ん坊が?」
なんだ、その髪と格好は。色々とズレているぞ。今日日忍びの格好など流行るまいし
「…どうするべきか」
…こいつ出来るな。身のこなしからして幾つもの戦いを経験しているな。そのコスプレは伊達じゃないってか
「…連れて帰るか」
お?何処かへ運んでくれるのか。それは助かる。まあ、俺としては美人に運ばれる方が喜ばしいが…贅沢も言ってられないだろう
「お前、名前はなんて言うんだ?」
「あだ(七夜志貴だ)」
「……」
やはり伝わらんか。まあ仕方あるまい
お?持ち上げられた
ってちょっと待て。お前は赤子の一つも満足に運べないのか。首元を掴むな。俺は猫じゃないぞ
く、苦しい。くそ、こんな所で死んでたまるか
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導入はこんな感じです。凄く短いですがご容赦下さい