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[12914] 【ネタ】ルイズが○○を召喚しました【短編連作】
Name: giru◆2ee38b1a ID:d4c12229
Date: 2013/07/04 00:01
タイトルにある通り、短編連作で召喚ネタ物を書いていきたいと思います。
※基本的に懐キャラネタです

2009/10/23 チラシの裏からゼロ魔板へ引越し。
       操作ミスで一度、全削除してしまいました。
       チラ裏時に感想を書き込んでいただいた皆様、大変申し訳ありません。

2010/11/05 「ルイズが学園最強の女を召喚しました」更新

2011/04/19 「ルイズが白銀の騎士を召喚しました」更新

2011/04/19 誤字修正

2012/11/21 「ルイズが金髪の悪魔を召喚しました」更新

2013/04/04 ヤマグチノボル先生のご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申しあげます。

2013/07/04 「ルイズが美人三姉妹を召喚しました」更新



[12914] ルイズが鬼使いを召喚しました
Name: giru◆2ee38b1a ID:d4c12229
Date: 2010/11/05 01:22
「宇宙の中で~~(省略)~~出てきなさいっ!」

 春の使い魔召喚儀式。
 何度目になるのかも分からぬほどに繰り返し、そうしてようやく手ごたえを得る事が出来た。
 そうして現れたのは、艶やかな黒髪を肩の線で切りそろえた女性。
 何やらお嬢様然とした雰囲気も纏っていたが、状況を呑み込めないのか、きょとんとした表情で周囲を見回している。

(やった……上手くいったのよ!)

 そんな女性を見て、ルイズもまた現れた使い魔が人間だという事には驚いたが、とにもかくにも成功したのである。
 人生で初めて、魔法を使って爆発以外の結果を出せたのだ。

(父様……母様……! 姉様にちい姉様も……! ルイズはやれば出来る子でした!!)

 固く固く拳を握り締める。
 今、まさに目の前に在る自らが成したその結果に、ルイズは思わず涙ぐみそうになった。

 何だあいつ。
 ゼロのルイズが人間を召喚したぞ!
 いや、どこかから連れてきたんじゃないか?

 そのような周囲からのはやし立てる雑音など、耳に届いてすらいない。

「え~っと~~? ここは~どこなのかしら~?」

 感激に浸るルイズの胸中を露知らず、女性はひとしきり周囲を見回した後に、何やら酷く間伸びした声で尋ねてきた。

「ここ? ここはトリステイン魔法学院よ」

 本来ならば、ルイズとしては一気に契約を済ませたい所であった。
 しかし流石に向こうも状況を理解していないようだし、これから使い魔になってもらうのだから――と成功の余韻に浸り、ひどく寛大な気持ちでもってルイズは質問に答える。

「トリステイン魔法学院? それは~どこなの~?」

「どこって……トリステイン王国の中に決まっているじゃない」

 ルイズにしていれば当たり前の答え。
 このハルケギニアの中で、トリステイン魔法学院といえば、該当箇所などたった一つしかないのだ。

「え~?」

 だが、女性は更に戸惑うばかり。
 とりすていんってなに? ハルケギニアってどこの事?
 そして更に、女性の口からは日本、東京、令子ちゃん、ごーすとすいーぱー等々……ルイズが全く聞いたことの無い名前が次々と飛び出てくる。

 こと此処に至り、ルイズもようやく感激が落ち着き、状況のおかしさに気がつきはじめた。
 そうして落ち着き、話し、互いの情報を交換してみるものの、お互いの認識が全くと言っていいほど一致しない。

「そんな~……。じゃあ私は~、もう令子ちゃんにも、お母様にも会えないの~?」

 女性もまたその事態・現状をを理解したのか、目が潤んでいく。

「ぁ……」

 歳としてはルイズよりも明らかにその女性は年上であった。
 しかし言動は酷く幼く、そして涙ぐむその姿を見ると、むしろ年下の少女のような印象すら抱いてしまう。
 慰めるべく、ルイズが反射的に一歩踏み出そうとした時――

「ふ、ふえ……」

 小さく泣き出した彼女の周囲でパリパリ……と何やら弾ける様な音が響いた。

「――――?」

 当然、それはルイズの耳にも届いている、しかし、その正体が何なのかまでは分からない。
 ……これが、彼女の世界、彼女の周囲に居た人間であったなら即刻退避していたであろう。
 だが、ルイズは不審には思いつつも、とにかく目の前の女性を慰めようと歩み寄っていってしまう。


「ふぇ……ふえええええええええん!!」


 ――ちゅどどどどどどどおおおおん!!


「きゃーーーーー!?」
「ぬおおおおおおお!?」

 ルイズはもとより、側でルイズと同様に彼女の魔法の成功に感動していたコルベールも、突如現れた十数体の幻獣らしきものにぶっ飛ばされた。


「何だなんだ?」
「ラッキーが!? 俺のラッキーが食われた!!」
「うわあああああ来るなあああああ!?」

 その局地的な嵐の被害は、ルイズがコルベールのみにとどまる規模のものではなかった。
 とーぜん周囲で成り行きを見守っていた他の生徒にまで波及していく。

 先に召喚された使い魔を貪り食おうとする幻獣。
 所構わずその鋭利にして長大な耳で周囲を切り刻んでいく幻獣。
 辺りに炎を撒き散らし、微細な体毛を硬質化させて飛ばし、他の人間に化けて等々……

 その後、数十分間に渡り、召喚の儀式、その現場は大混乱に陥った。





「ゴメンなさい~。私、式神のコントロールがまだまだ未熟で~」

 周囲の地形を変え、もうもうと砂塵や煙を上げ、ボロボロになった者達の中心で一人、怪我一つ無いままに気持ちを落ち着けた女性が申し訳なさそうに謝罪する。

「み、みすた……みすた・こるべぇる……!」

 自慢のピンクブロンドをぼさぼさにし、そして魔法学院の制服も埃だらけにしながらルイズがよろよろと立ち上がった。

「な、何かね……?」

 そして教師のコルベールもまた、膝の笑いを抑えこみながら立ち上がる。

「召喚を、やり直させてください」

 私だって命は惜しいんじゃあ――とでも言わんばかりに恥も外聞も無く、ルイズは目を血走らせてコルベールに迫る。

「だ、だが……この儀式は神聖なモノだ。例外は認められないのだよ」

「それで私に、あんなのと契約しろといいますか!?」

 冗談ではない。あんな者が側にいては、命がいくつあっても足りやしない。
 視線だけではない。態度、雰囲気、仕草。その全身を以ってルイズはやり直しを要求する。

 しかし――コルベールも気持ちとしてはルイズに同意しているのか――どこか目を逸らしつつも、言葉を続ていく。

「だ、だが……彼女は君が召喚した使い魔だ。何かしらの意味はあるのだろうし、その……言いにくい事だが、このまま使い魔契約をしないとなると、君は留年という事に……」

「う、うぅ……」

 留年。
 ただでさえ魔法が使えず、ゼロと蔑まされている上に、更に留年のレッテルを貼られてしまう。

 そうなればもう、この学院に留まることも出来なくなるだろう。
 即刻父に帰省を命じられ、下手をすれば一生日陰者として生きていかなくてはならなくなってしまう。

「どうしたの~?」

「う~~~~~っ!!」

 ルイズの葛藤を全く知る由も無いような暢気な声。
 唸り、悩み、女性と大地と天と……しばし視線を回転させたルイズは、やがて腹を括って女性へと話しかけた。

「あ、あの……貴女の名前は?」

「私~? 私は~六道冥子よ~」

 名前を尋ねられた事が余程嬉しいのか、にこにこと満面の笑みを浮かべて女性――冥子は名を名乗る。

「で、では……ミス・メイコ」

 先までとは違い、僅かにでも機嫌を損ねるまいと非常に改まった態度でルイズは交渉に臨む。

「何かしら~?」

「私と、契約をしていただきたいのです」

「けいやく~? でも、勝手に書類に名前をサインしちゃいけませんってお母様が……」

「? よくは分かりませんが、サインは必要ありませんわ」

「そうなの~?」

「はい、すぐに済みますので」

「わかったわ~。じゃ、いいわよ~」

 サインをしなくて良いと分かった途端に、冥子は気軽に了承する。

「我が名はルイズ(省略)」

 で……呪文を唱えて冥子の唇にぶちゅっと口付けをかました。

「これが~、契約なの~? え~と、ルイズちゃん~」

「え、ええ……」

 何とか上手くいったのだろうか。
 僅かに安堵しかけた時――突如冥子が蹲る。

「ど、どうしました? ミス・メイコ?」

「お手てが……お手てが痛いの~~~~~~~!」

 ――ちゅどどどどどどどど!!


 再び暴走。


(ああ、そういえば契約すると、使い魔にルーン刻む時にかなりの痛みが走るんだったっけ)

 散々に頭に叩き込んでいた使い魔契約儀式のはずなのに、なんで忘れちゃってたんだろうなぁと、そんなことを思いながらルイズは空を舞っていた。










 で、どーなったかとゆーと……それからが、大変であった。


「ぐすん……お母様ーーーー!!」

 ――どーーーーーん!!


 二つの月を見て、異世界に来た事を改めて認識したホームシックにかかって冥子が泣く。


「さあ、この石を『錬金』してごらんなさい」

 BOMB!!


「きゃーーーーー!?」

 ――ちゅどーーーーーん!!


 翌日の授業にて、ルイズの爆発魔法に驚いて冥子が泣く。



「ケーキが…………ふええええええええええん!!」

 ――ちゅどどどっどどどどどーーーーーん!!


 食堂にてギーシュと肩がぶつかってしまい、余ったために自分が食べていいと言われたショートケーキを落とされ、冥子が泣く。




 その度に、トリステイン魔法学院は多大な被害を被っていた。
 もはや一人の生徒に扱いきれる使い魔ではないと学院長オールド・オスマンも動き出し、前代未聞の『使い魔を送り返す魔法』を学校を上げて探しだす事になったのだ。
 何しろ本人に悪気が無いのである。
 悪意を持って暴れまわるわけではなく、驚いた拍子、泣いた拍子に彼女が従える十二体の使い魔が暴れ回るのだから……ハルケギニアの者には理解されないだろうが、その存在感は正しく『地雷』に等しかった。

 運悪くそれを踏みつけてしまえば、途端に十二体の使い魔に蹂躙される。
 他の誰かが踏んでしまっても、被害に遭う。
 他でもない彼女が踏んでも、こっちに被害が来る。

 冥子の暴走に巻き込まれた被害は語るにも恐ろしく、被害が無かった者らも明日は我が身と血眼になって探していた。

 だが、ルイズの責任問題は波及していない。
 何故なら『使い魔は主人と一心同体』という言葉を伝えた後、健気に冥子がルイズの側につくようになり――つまりは冥子が暴走すれば、常にその渦中に置かれるという、そのあまりにも悲惨な状況に同情こそ集まれど非難する者はいなかったのだ。
 ルイズを馬鹿にしていた太っちょの風使いでさえ悪口を言わなくなり、それどころか哀れみを込めた視線すら送るようになっていたのだから、周囲のルイズに対する評価は推して知るべし。



 そして件の魔法だが……一ヶ月くらいの不眠不休・全校あげての涙ぐましい図書館内の捜索の末、なんとか見つける事ができた。
 何でこんなモンが今まで見つからなかったんだとツッコミを受けそうな代物だが、とにかく、見つかった。


「ルイズちゃん~本当に、ありがとう~~~」

 宙に浮かび、不思議な光を発する鏡を背後に冥子は微笑む。

「いえ、いいのよ、メイコ」

「でも~せっかくお友達になれたのに、お別れなんて寂しいわ~」

「そっ……そうね。でも、いつかまた、きっと会えるわよ!?」

 そしてそれに応えるルイズはというと、頭には包帯、腕には三角巾を吊り、体中が擦り傷だらけであった。
 それでも浮かぶ顔は笑顔――ただ、口の端が若干引きつってはいたが。

 ここで残るなどと言われてはならんと、必死に冥子を帰るように促す。
 その背後ではキュルケ・タバサ・ギーシュを初めとする生徒一同。
 そしてオールド・オスマンや秘書のロングビル。そしてコルベール。果てにはマルトーやシエスタといった平民までもがその場で似たように引き攣った笑みを浮かべていた。

「ルイズちゃん……」

 ルイズの言葉に感動したのか、冥子の目の端に涙が滲む。

「なっ泣いちゃダメよ、メイコ!」

 パリパリ……と何やら彼女の周囲で弾ける様な音が走る。
 既に経験則的に、それがあの『暴走』の前兆と理解していたルイズは慌てて声をかけた。

「別れに涙は不要なのよ! メイコ、笑いなさい!!」

 ――泣くな! お願い泣かないで!!

 そんなルイズの願いが通じたのか、冥子は手の甲で目元を拭う。

「ルイズちゃん……私……私……!」

 そんなルイズの言葉を受け、冥子は無理やりにでも笑顔を作ろうとする。

「それじゃあね。帰っても元気でね、メイコ!!」

「ルイズちゃん……っ! ありがとーーーー!!」


 ――ちゅど(以下略)



「なんでこうなるの~~~~?!」

 そして……既に恒例行事の如く、十二神将は暴れまわり、ルイズは眼の幅の涙を撒き散らしながら空に舞う。

 ――宙に浮かぶ送還の鏡の側で。









「な、なによこれえええええ!?」

「わ゛ーーーー、吸い込まれるううううう!?」

「解析不能・九十九・九九九八%の確率で・これは・地球上の現象では・ありません」

「ンな事ぁ見りゃわかんだよっ!!」

「ひーーーーーん! 横島さはーーーーん!!」

「なんと! 超合金のマリアですら耐えられん吸引じゃと!? 一体これは……」

「いや~~んピート~~~~。エミこわ~~~~~い♪」

「え、エミさん、そんな引っ付かないで……ってカオスさんも暢気に分析なんかしないでください!」

「あ、あ……やめてくれ……。この勢いは頭に、頭によくない……っ!」

 そのころ、地球。
 六道母によって集められた、美神をはじめとする冥子捜索隊の面々。彼女らは冥子の行方を求め続けてはいるものの、全く見つからない手がかりにどう動いたものか――と、美神の事務所で会議を開いていた。
 議論を繰り返そうとするものの、有効な案が出ない閉塞した空気の中、突如目の前に鏡が現れ――ものすげー勢いでその場にいる全員を吸い込んだ。







 ――で、結局どーなったかとゆーと。


「をををををビデオではなく、生、生の魔法少女!? 制服にマントおおおおお!! そこのおじょーさん、よろしければボクと熱い一夜をーーーー!!」

「あら? そうね……じゃ、少し暖めてあげようかしら?」

「おおおおおつまりそれはオーケーって事!? 苦節十七年、ついに……ついに大人の階段をををををってああああああ熱い!! 何だか愛があついいいいいい!?」

 キュルケに迫った横島は、背後からフレイムによって焼かれていた。



「な、なんと……あなたはそのようなモノを作り出したというのですか!?」

「ワハハハハハ! まあ、このドクター・カオスにかかればその程度は軽いものよ! だが、この世界のオカルトも大したものじゃな……」

「ええ、ええ! そもそも私が今研究しているのが――」

「おお、ならば良い理論があるぞ! ワシも一度試してみたかったんじゃが――」

 コルベールの賞賛にドクター・カオスが高笑いを返し、次第にメカオタク同士の熱い議論へと取って代わっていった。




「…………」
「…………」
「…………きゅい?」

 何か通じるものでもあったのか、マリアとタバサが無言のままにじっと見つめ合い、それを見たシルフィードが首を捻っていた。




「私もね……私も苦労しているんです……。でも、その人には逆らえなくて、泣く泣くこのような仕事を……」
「ええ、凄く分かりますわ、その気持ち。私もスケベジジィの下で、いらん苦労があってねぇ……」

 唐巣神父がロングビルに涙ながらに愚痴を吐いていた。
 受けるロングビルも思うところがあるのか、しきりに頷いている。何故かロングビルの口調が普段と違っていたが。



「おう! お嬢ちゃんトコじゃその食材はそんな風に料理するのか!?」
「え、ええ……。あ! 後、他にも――」
「それって、私の故郷の料理で『ヨシェナベ』っていうのに似てますね……」

 マルトーに迫られ、腰が引けつつも、おキヌもシエスタを交えてどこか楽しそうに料理談義を繰り返していた。



「あの人ってカッコいいよね!?」
「ピートさんって言うんですって!!」
「あ、ケティに声かけた!?」
「けどさ……あの人、バンパイア・ハーフなんですって。吸血鬼の仲間らしいわよ!」
「嘘ーーー!? ああ……でもあんな人になら私、血を吸われたーーーーい!!」
「キュっと締まったお尻が素敵ーーー!!」

「ざけんじゃないワケ小娘ども! ピートは私が目をつけてたワケ! あれは私の尻なワケーーーーー!!」

 そして遠目にピートにはしゃぐ女子生徒へとエミが噛み付いていた。




「だ、大丈夫ですか?」
「はい……すみません」

 近くで転んだケティに、ピートは手を貸して起こす。
 その際にケティが顔を赤らめ……

「きっ……キミ! 決闘だ!!」

 ケティに手を貸そうとして、先にピートにその役割を奪われたギーシュは、伸ばしかけた手をそのままにピートへと突きつける。

「え。ぼ、僕ですか?」

「きっ……キミは薔薇の名誉を傷つけたのだ! ……相応の報いは受けてもらおうっ!!」

「え、あ、あの……一体!?」

 やられ役イベントがプッツンで消滅していたため、香水の一件がケティにまだバレていなかったのだが……ピートに手を取られて赤らめたケティを見て、ギーシュが決闘を申し込む。


「待て待て待て! 喧嘩なら俺も混ぜろ!!」


 ――が、ピートを押しのけるように戦いの気配を察した雪之丞が、魔装術を展開して乱入した。
 いきなりの乱入者に驚きつつもワルキューレを展開するギーシュだったが、むしろ雪之丞は的が増えたとばかりに嬉々として次々と薙ぎ倒していく。

「ケッ……もう終わりかよ」

 一分とかからず全てをスクラップにし終えた後は、ワルキューレの質の低さに不完全燃焼だった雪之丞がギーシュをもボッコボコにした訳だが……殆ど逆ギレで決闘を申し込んだギーシュに、成り行きを『全て』見守っていたモンモンは冷めた視線で見下ろすだけであった。




「つーまーり! コレはあんたの所の不手際でしょ! 私には慰謝料を受け取る権利があるわ!!」
「じゃ、じゃがのう……なんぼなんでも、その額は……」

 美神がオールド・オスマンにこの一件に関して慰謝料請求をしていた。
 被害者だとか加害者だとか以前に、その美神の金に対する妄執に近い執着に、さしものオールド・オスマンもすっかり押されていた。

 決して、話を引き伸ばしてボディコンスーツの胸の谷間を少しでも長く見たいわけではない。







「よかったわ~……やっぱり皆と別れるのは寂しかったし、しかも令子ちゃん達が来てくれてとっても嬉しいわ~」

 そんな混沌たる光景を、冥子はニコニコと見守っていた。
 送還の鏡は何故か都合よく地球の面々をハルケギニアに連れ込んだ後には、役目を終えたとばかりに忽然と消えてしまっている。
 もう一度この魔法を使う事も出来なくは無いが……補助に貴重な秘薬を使いまくるため、それらを再び集めるのにどれほど急いでも一年はかかる。

 一年。

 また冥子に加え……このようなワケの分からない連中と過ごさねばならないのだろうか。


「は、はは……あははははは………」


 それを思うと……ルイズは、口を半開きにしたまま、薄ら笑いを浮かべるしかない。

(何で……ねえ、何で皆こんな連中と和気藹々と出来るの?)

 決してそうでは無いのだが……お祭り騒ぎに等しい目の前の光景は、ルイズの眼にはそう映っていた。


「お願い……! 夢なら覚めて……っ!!」

 そう願いつつ――現実に耐え切れなくなったルイズは、その場に倒れこんでしまう。




 ……なお、残念ながら彼女の悪夢は一年間きっちりと続いたという事を、ここに明記させていただく。




『GS美神』より六道冥子を召喚





[12914] ルイズが正義の味方を召喚しました
Name: giru◆2ee38b1a ID:d4c12229
Date: 2010/11/05 01:22
「あんた誰?」

 使い魔召喚の儀式。
 そこに煙と共に登場した異様な風体の男に、ルイズは思わず半眼になって問いかける。

 青い服に赤いパンツ、そしてパンツと同色のマントを羽織っており、胸の中心には何やら奇妙な文字が丸い円の中にデカデカと描かれていた。
 胴体と顔のデカさがほぼ同じくらいであり、しかもその容貌は明らかに『オッサン』である。
 ルイズの声が訝しげなものになるのも、致し方ないことであった。

「……」

 男の方もしばし状況が飲み込めなかったのか、しばらく呆けた顔で辺りを見回していた。
 しかしやがて周囲に多くの人間が居る事に気がつくと、立ち上がって尻についた汚れを払い、居ずまいを正す。

「私はオカカウメ星からやって来た正義の味方! 人呼んで、スッパマン!!」

 ――と、男はいきなり瓶を取り出し、そこから『紅くて丸いモノ』を取り出したかと思うと口に含んだ。


「スッパーーーーー!!」


 その言葉が何を意味しているのかは分からなかったが、ルイズは何やらその光景を見ているだけで口の中に唾液がたまってきそうな気がした。周囲を見れば、何やら皆も同じような思いを抱いているのか、生徒ばかりでなくコルベールまでも同様の表情を浮かべている。

「……で、アンタは何が出来るの?」

 ルイズの見る限りでは、マントこそ羽織っているもののどう見てもメイジには見えない。
 どれだけ贔屓目に見ても『平民がメイジの真似をしようとして、失敗して変な格好になっている』といった所だろうか。
 何度目になるかも分からない召喚儀式の末に出てきた者。
 この際どんなヤツでもいいから来てくれと願いはしたものの、流石にこれでは容易に契約へと踏み切る勇気が持てなかった。

「私の力が見たいというのか? いいだろう……見て驚くなよ!」


 だが、男――スッパマンはルイズの言葉に自信あり気な笑みを浮かべ、これまたどこから取り出したのか鈍色の物体を持ち出す。
 大きさはそれほどではない、容易に片手でも持てそうな程度のモノ。全体的になだらかなフォルムとなっており、それをスッパマンは地面に置く。
 その瞬間には重そうな音が響いたため、そこそこの固さはありそうであった。

 ルイズ達は知る由も無かったが、それは地球では『瓦』と呼ばれるものである。

「……?」

 一体何をするつもりなのか。
 その場にいる者達の注目がスッパマンに注がれる。

「すぅぅぅ~……」

 そしてスッパマンは地に置いた物体の前に立ち、呼吸を整えて右拳を大きく振りかぶり――


「――ていっ!」



 ……ぱきょっ



「どうだ!!」

 自らの足元。
 真っ二つになった物体を見下ろした後、誇らし気な笑みをルイズへ向けて浮かべる。

 なお、その際に右手を何やら痛そうにさすってはいたのだが、やせ我慢なのか表情に出す事は無い。
 ――目元に微妙に涙が滲んでいたが。



「いや、別に魔法使えばあれくらいどうにでもなるしなぁ……」
「そもそも平民……っていうか、ウチの学院の料理長でもあれくらい出来るんじゃないか?」
「あ、ウチの実家の警備兵はリンゴを握りつぶせるって言ってた」




 ルイズよりも先に、横で経緯を見守っていた生徒が口を開く。
 そしてルイズもまた、そんな事で納得するはずがない。

「あ、あんた……まさかそんな事しか出来ないとかいわないわよね…!?」

「んむぅ!?」

 怒りを堪えるような震える声に、スッパマンは大きく唸ってしまう。
 スッパマンにしてみれば、必殺の一撃。賛美されてしかるべきものであったのだ

「な、何だと! コレは凄いだろう!?」

 故に尊敬の視線を期待していたというのに――向けられるのは、怒りに震える声。

「ミスタ・コルベール!」

 そしてルイズは鋭く教師に首を向け、噛み付くような勢いで呼びかけた。

「な、何かね?」

「召喚をやり直させてください!」

「いや、だがこれは神聖な「なんでこんなのと契約しなきゃならないんですかぁ!?」

 師の言葉を遮るようにして、ルイズは畳み掛ける。

 ――これがまだ、同年代の若い若い男の子とかならばまだ諦めもついたかもしれない。
 この際格好いいとまで贅沢は言うつもりは無い。どんなに小さい幻獣でも、メスでも良かった。

 だが……だがしかし!!

「こんなダッサイ服! 太った身体! おまけに非力! しかもオッサン! こんなの相手に契約しろといいますか!? ミスタ・コルベール!!」

 使い魔の契約といえば、つまりキスなのである。ぶちゅっとかます、アレなのだ。
 ルイズとて――胸はお子ちゃまレベルであるが――花も恥らう乙女。口付けにも憧れを持っている年頃。
 その正しく一生の思い出になるかもしれないキスを、いかに契約と割り切るとはいえ、目の前の自分よりも背の低い変な二頭身体型のオッサンと交わせと言われて納得できるわけが無かった。

「い……いや、その……だね。ミス・ヴァリエール……」

 さしもの炎蛇様も、そのルイズの鼻息荒い抗議の剣幕に圧され、説得も弱々しいモノとなってしまう。


「………………」


 だが、その場でルイズの主張を聞いているのは、コルベールだけではないのだ。
 生徒達……一部、モンモンやキュルケなどは何やらルイズの主張に深くうんうんと頷いていた……は元より、その召喚されたスッパマンにも聞こえているのである。

 で、そんな言葉を聞いて彼が何を考えていたかと言うと。

(正義の味方である私の事をここまで悪く言うとは……さてはこいつは、悪者だな! ついでに私の事を全然凄くないといったあいつらも悪者に違いない!)


 極めて明快、短絡化した思考でそう結論づけていた。
 そしてそう認識してからは、彼は迅速に行動する。

 またどこからか奇妙なモノを取り出し、言い争う……というよりも一方的にルイズがコルベールに噛み付いているだけなのだが……二人、そして生徒らからも距離を取る。


 ――ピン!


 取り出した物体。
 その上部についていた金属性の細い輪っかに指をかけ、一気に引きちぎる。



「お~~~い、い~ものやるぞ~~~!!」



「――え?」

 主張に熱中していたルイズ。そしてそちらに注意が注がれていた生徒達一同はそこでようやく、ルイズの召喚したオッサンが距離を取っている事に気づき――


 ――ひゅるるるるるるる……


 ……こちらへと投げ込まれたモノに気がついた。

「――え?」

 すぽりと自らの手の中に納まったそれに、ルイズは何かと目を奪われ……


 ――BOOOOOOOOM!!







「……正義は勝つ」

 もくもくと上がる黒煙に背を向け、スッパマンは必殺技「ダブルはなくそほじほじ」を発動させながら、優雅にその場を去るのであった。









 で、その後どうなったかというと。

「な、なぜだ……! ここには電話ボックスが無いのか!?」

 度のキツいメガネをかけ、ランドセルを背負った半ズボン姿というキモいファッションのオッサンの姿が王都トリスタニアの城下町各所にて見受けられた。
 彼は何かのトラブルを目にするたびにその言葉を叫び、聞いていた住人たちの不審を買っていたという。

 そしてとうとう「ここで一番偉い人」つまりはアンリエッタ王女に『電話ボックス』なるものを作るように直談判するため、トリステイン城へと向かったのだが、当然の事ながら門番に拘束され、わけの分からない事を叫び続ける危険人物として牢屋に叩き込まれた。


 まあその後彼がどーなったのかというと、ギャグマンガキャラのために死にはしとらんはずである。


 ――多分。




『ドクタースランプ』よりスッパマンを召喚





[12914] ルイズが青い雷を召喚しました
Name: giru◆2ee38b1a ID:d4c12229
Date: 2012/11/20 12:17
「どんな願いでも三つだけ叶えてくれるという伝説の秘刀、満願丸、か……」

 昨日に入手した刀を片手に、風林館高校二年生・九能帯刀は学校へと向かう。
 古き時代より岩に突き立ち、誰一人として抜けなかった天下の名刀。その刀を抜き放つ者は、どのような願いも三つ叶える事が出来るという。

「ふ、ふふふ……」

 満願丸の突き立った岩を敷地に持つ寺に備えられし古文書。
 それが指し示す、選ばれし者――それが自らであったという事に喜びとともに誇らしい気持ちを隠せない。


 ――実際は、単に運よく百万人目に挑戦した人間であっただけなのだが。


 そうしてしばし、忍び笑いを漏らしていた九能であったが、ふとその笑いを止める。

「うーむ……しかし、参った」

 人差し指を額に当てた、重々しい呟き。
 それは難解な問題に挑む受験生のような。はたまた不倫相手から無理難題を押し付けられたサラリーマンのような、そんな苦悩。

 ……ちなみに原作では学生服であったが、演出上ここは剣道着姿で脳内補完していただきたい。
 銃刀法違反とか細かい事は気にしたら負けである。

 しばらく参った、と口の中で小さく呟き続ける九能であったが、満願丸の鞘を持つ手に力を込め、全力で天を仰ぎ見る。

「性格よし! 器量もよし! 剣の才にも恵まれ正に文武両道・清廉潔白なるこの僕が……! 僕が!! 一体どのような願いを叶えればいいというのだっ!?」

 ――ずざざっ!!
  ――ひそひそひそ……


 九能が歩くのは、朝の通学路である。
 当然、周囲には登校中の風林館高校の生徒が数多く居る。

「――ん?」

 しかしそのような周囲の痛い人を見る目つきを全く気にする事なく悩み続ける九能の上に、突如太陽を遮る影が現れた。


 ――ぶぎゅる!


「おっはよ、九能センパイ! どっかに修行にでも行ってたんだって?」

 おさげ髪の男子生徒――早乙女乱馬が九能の頭を踏み台にしてアスファルトへと着地し、爽やかな声に挨拶をした。


 ――ぴき


「ふ……!」

 つい今しがたまで願いなど無い、と宣言していた九能であったが……その頭には乱馬の足型と、そして大きな井桁が二つほどくっきりと浮かんでいた。

「満願丸よ、一つ目の願いだ!」

 声と共に躊躇い無く刀を抜き放つ。
 周囲の生徒の中からも「真剣!?」と驚いた声も上がった。

「早乙女乱馬を成敗せよ!」

 満願丸を掲げ、力強く宣言する。

【承知つかまつった……】

 九能の声に満願丸が答え、「剣が喋った!?」と更に周囲がどよめきだす。

「覚悟ーーーー!!」

 鞘を打ち捨て、両手で満願丸を上段に構えた九能が一気に乱馬へと迫る。

「おもしれぇ、やるかーーー!」

 そして乱馬の方も抜き身の日本刀に怖れる様子も無く、むしろ不敵な笑みを浮かべて九能を迎え撃つべく走り出した。


 ――ぽん♪


「ん゛!?」

 実力差は、明らかであった。
 明らかに乱馬の動きは九能よりも速く、刀の間合いを越えて距離を詰め、そして拳をその顔面に叩き込まんとする一瞬の溜め。
 九能が刀を振り下ろすよりも速く行われた一連の動きであったのだが……乱馬が拳を放とうとしたその瞬間、満願丸は煙を上げてその姿を大木槌へと変える。
 あまりの唐突すぎる変貌振りに、思わず乱馬は動きを止めてしまい――

「てい!」

 持ち主である九脳はその変化に全く動じる事無く、めし! とその大木槌を乱馬の脳天へと振り下ろした。

「勝った……!!」

 頭を抑え、うずくまって痛みを堪える乱馬を前に、九能を嬉し涙を流す。
 願いを叶えた満願丸は再び煙を上げて元の姿へと戻り、九能は鞘を拾い上げて刀身を納めた。

「これに懲りたら、二度と僕には逆らわん事だ……」

「ち……ちくしょう……!」

「ふははははは……ハーッハハハハハハハハハ!!」

 悔しげに睨み付けてくる乱馬に背を向け……余程勝てた事が嬉しかったのか、小躍りしつつ高笑いを上げる九能に先を行く生徒達も思わず道を譲ってしまう。

 ――と、その九能の行く手に突如光り輝く鏡が現れた。


「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」


 だが、未だに高笑いを続ける九能はその存在に気づかない。
 その結果、何の抵抗も無く、九能は鏡の中へと吸い込まれるようにしてその姿を消してしまった。


 そして間を置かずして、鏡も空気に溶けるようにして消えていく。

「く、九能センパイが鏡に飲み込まれた……」
「おい、一体なんだって言うんだ……」


 驚き、九能が消えた辺りを見つめる風林館高校の生徒たち。
 だが、ざわめきは沈黙となり……やがて誰がともなく、言い出した。


「――ほっとくか」
「そうだな、九能センパイだし」
「お腹が空けば帰ってくるんじゃない?」


 わいわいとまた話に興じながら、彼らは学校へと歩き出す。
 こうして、彼らは何事も無く日常へと戻っていった。


 ちなみに乱馬と九能の戦いを電柱の影から見ていた熊猫が『あ、あれは……』『紛れも無く満願丸!』と書かれたプラカードを掲げていたのだが……この話には全く関係がないので割愛する。





「お前は誰だ」

 使い魔召喚の儀式。
 ルイズの呼びかけに応じて姿を現したその男は、当のルイズが「あんた誰?」と問うよりも先に尋ねてきた。

「わ、私は――」「いや、待て! 人に名を聞く時は自分から名乗るのだ礼儀だな! よし、僕から名乗ろう!!」

 思わずそれに答えようとした時、更に男は割り込んだ。

「………………ど、どうぞ」

 普通に考えれば、散々な儀式失敗の末に出てきた男。しかもそれは見るからに平民。
 そのような男に対し、ルイズも文句を垂れそうなものなのだが――この男が持つ独特のノリに、すっかり会話の主導権を奪われてしまっていた。

「風林館高校二年生、剣道部主将! 姓は九能、名は帯刀!
 人呼んで風林館高校の青い雷!!」

 高らかに名乗る九能の前で、ルイズは「あー……そー」と小さく呟いた。
 なにがどう青い雷なんだ、とゆーか貴様は平民か。
 ああ、私はなんて外れを引いてしまったんだ……とぐるぐると文句がルイズの頭の中を駆け巡るが、男――九能の持つ妙な迫力により、普段の気丈な態度を表には出せずにいた。

「それで、どうして僕はこのような場にいるのだ?」

「あ、えと――……」

 すっかりと調子を崩されたルイズは、九能に乞われるままに現状を説明する。

「ふむ……つまり僕がその『使い魔』として呼び出されたという事か」

「え、ええ」

 一通りの説明を受けた九能は、しばし考え込むように顎に手を添える。

「で、僕は既にお前の使い魔になってしまっているのか?」

「う、ううん。『サモン・サーバント』の次には『コントラクト・サーバント』をしなきゃならないんだけど……」

 つまり、まだ使い魔ではない。
 もし拒否されたら……いや、この魔法を失敗してしまったら、と一瞬浮かんだ考えに怯えたルイズであったが、九能の方はあっさりと同意する。

「いいだろう、使い魔とやら、了承しよう」

「ホント!?」

「うむ……僕は今、長年の宿敵を打ち倒したことで非常に機嫌がいい。既に日本で僕に敵う奴などいない事だし、ここで使い魔をするのもまた一興。おさげの女や天道あかねに会えぬ事が残念といえば残念だが……まあ、いざとなればこの満願「じゃ、じゃあ『コントラクト・サーバント』を……」

 九能の言葉を遮り、ルイズが口早に呪文を唱えて九能の唇に己のそれを重ねようとする。

「待て」

 しかし、ルイズの額に九能はその大きな手を当てて遮った。

「な、何よ」

 果たしてコレも上手くいってくれるのか。そんな期待と不安に駆られながらもかけようとした魔法を途中で止められてしまい、ルイズはうろたえつつも睨みつける。

「すまんな……ルイズとやら。僕の心の中には既におさげの女と天道あかねがいる。お前の想いに応えてやる事はできんのだ」

「なんでそーなる!?」

 九能の言い草にルイズも思わず突っ込むが――確かにやろうとしてた事はキスな訳で、その事実を自覚してしまい顔を赤くする。


「おい、『ゼロのルイズ』! 『コントラクト・サーバント』も満足にやれないのかよ!」


 経緯を見守っていたルイズのクラスメイトの一人がからかいの声を上げr。
 その言葉を契機として、周囲の皆も次々に囃し立てた。

「う、うううううううるさいっ!!」

 顔を真っ赤にしてルイズも反論するが、そんな反応が周囲を一層煽ってしまう。

「さすが『ゼロ』だ!」
「呼び出すだけじゃ、やっぱり失敗よね!?」
「恥ずかし~~~!!」

「み、皆! 静まりなさい!!」

 コルベールが何とか場を収めようとするが、調子に乗った生徒たちの野次は中々収まらない。

「……」

 そしてそれらの暴言をルイズの横で聞いていた九能の頭に――静かに一つの井桁が浮かび上がった。
 九能も性格は超絶変態であるが、基本的に女性には優しい。
 そして自らがこの場に初めて来て言葉を交わした少女が、ここまで悪し様に罵られるのを聞いて黙っていられるほどに温厚ではない。

「――満願丸よ! 二つ目の願いだ!!」

 ハルケギニアへと迷い込む時にも来る際にも手放さなかったその刀を、九能は躊躇無く抜き放った。

「ルイズという女を罵る者らを成敗せよ!!」

【承知つかまつった……】

「け、剣が喋った!?」
「インテリジェンスソード!?」

 突如九能が声を張り上げた事に皆も驚いたが、その声に手にしていた刀が応えた事で、更に混乱は増す。

「ハアアアアアアアアアア!!」

 裂帛の気合と共に九能は天高く掲げた満願丸を振り下ろした。


「――――……?」


 ――だが、何も起きない。
 てっきり何かが起きると身を硬くし、眼を腕で隠していた生徒らも、それを理解すると更に嘲る笑みを深める。

「流石は『ゼロのルイズ』の使い魔だ! 使い魔まで魔法に失敗してやがる!!」


 ――ひゅるるるる……

 太っちょの風使いの言葉を皮切りに、再び周囲の者らもルイズを馬鹿にしようと口を開いたその時。


 ぶぎゅる




 突如天から振ってきた『ケロちゃん』や『信楽焼きの狸』果てには『地蔵』などの中々に重そうな置物がルイズを馬鹿にしていた生徒らの脳天に残らず突き刺さった。

「ふっ……成敗」

「ちょ、ちょっとアンタ、それは一体何なの!?」

 満足げに鞘へと刀身を納めた九能に、ルイズは詰め寄った。

「これか? これは満願丸と言って、どんな願いでも三つだけ叶えてくれるという秘刀だ」

(どんな願いでも……? ッてことは、その最後の願いを使えば私も魔法を使えるように!?)

 さして躊躇いもせずに説明してくれたその内容。そして既に二つ叶えているという言葉にルイズの眼の色が変わる。

「た、タテワキ! その刀で私の願いをかなえなさい、ご主人様の命令よ!」

 次の瞬間には、ルイズは行動へと移していた。
 まだ『コントラクト・サーバント』を済ませていない、つまりは主従関係は結ばれていないというという事実など頭から吹き飛んでいる。

「な、何と……」

 しかし九能はルイズの言葉に、酷くうろたえていた。
 それは、単に傲慢に求められたから、という事ではない。もっと何か、彼にとっての重大な、根幹に関わる事ゆえの狼狽であった。

「すまんな、ルイズよ……」

 重々しい返答に、ルイズもいくらか正気に返った。

「な、何よ」

「先にも言ったが、僕には既に心に決めた女性が二人「だから何でそーなるのよ!」

 ――が、その冷静さは九能の答えによって再び吹き飛んだ。

「い~い!? つまり、彼女だとかそういう話じゃなくて、私はねえ……!」

 独特の思考展開を広げる九能に、何とかルイズは辛抱強く説得を繰り返し……何とか叶えてもらいたい願いがあるという事だけは、理解してもらえた。

「うむ、分かった。聞くだけ聞いてやろう……それで悩みとはなんだ」

「――この、身体の悩みよ」

 それがルイズにとっての最大の悩みの種。
 無念そうに見下ろす、歳の割に起伏に乏しい身体。母から魔法を初めて教授された時には自分にも凄い才能があると信じて疑わなかった身体であった。
 だが、今の自分は爆発ばかりするゼロ。
 何としても……何をしてでも、魔法を使えるようにならなくては!!

「……まあ、よかろう」

 沈痛な面持ちで己の想いを吐露するルイズの身体へと目を走らせ、九能は短い沈黙の後、了承する。

「ホント!?」

「うむ。それでお前が僕への思いを諦めてくれると言うのならば……お互いのためだ」

「…………」

 結局説得してはいても微妙に話が通じていなかったようだが……ひとまず願いは叶えてくれるという事で、ルイズももうそれ以上の文句は言わなかった。

「満願丸よ、三つ目の願いだ!」

 九能が満願丸を抜き放ち、宣言する。

(やったわ……! コレで私はゼロじゃなくなる! ああ……どんな二つ名のメイジになるのかしら――)

 希望溢れる未来を夢想し、笑みが溢れてくる。
 そんなルイズを尻目に、九能は三つ目の願いを高らかに口にした。




「この女の『ちち』をもー少し大きく
「誰がぺチャパイよおおおおおお!!」




 こう、漫画であれば爆発効果と「ちゅどーん!」という効果音が似合いそうなくらい、見事なまでに九能は吹き飛んでしまう。
 なお、その際の九能の指の形は五指を広げた上で中指と薬指だけ折りたたんでいると言う、中々に器用な形であった。





 まーその後にどーなったのかとゆーと。

「うううううううううう……」

 だくだく、とルイズは目の幅ほどの涙を流し続ける。

「あー、その……ね、ヴァリエール?」

 悪口には参加していなかったため、満願丸の制裁を受けなかったキュルケが気まずげながらもその背に声をかける。

「ううううう……」

「今にして思うと、別に彼が言いかけてた奴でも良かったんじゃない?」

「うううううううう……」

「確かに魔法が使えるようになればよかったかもしれないけど、そっちの問題でもアンタは悩んでたみたいだし……」

「ううううううううう……」

 珍しく。本当に珍しく、本気でルイズを慰めるキュルケ。
 ルイズの前には、爆発によって黒こげになった九能と――ぽっきりと刀身が折れた満願丸。

 念のために気絶した九能を尻目に「魔法を使えるように」と願ってみたのだが……【ぶーっ声紋照合不可。お取り扱いできません】という謎の言葉によって、ルイズの願いは叶えられることは無かった。


 自らの手で自らの願いを閉ざしてしまった事で悲嘆に暮れるルイズと、さすがに哀れに思い慰めるキュルケ。
 そしてその周囲では未だに信楽焼きの狸やらが鎮座しており、その下で潰されている生徒達を助け出すためにコルベールが奮闘している。

「まぁ……結局、願いっていうのは自分の力で叶えるものみたいだし……」

「うううううううう……」

 キュルケの慰めに、しかしルイズは泣き声を上げるばかり。
 その背後で、必死に置物をどかそうとしているコルベール教師の頭から――ストレスのせいか、はらり……と数本の毛が抜け落ちた。



 そしてその後、実は折れていても九能の命令であれば、最後の願いを叶えることが出来ると判明し、ルイズのみならずキュルケやタバサ、ギーシュ、果てにはコルベールやオールドオスマンまでもが参加する下克上等の満願丸(+九能)争奪戦が繰り広げられることとなるのであるが、それはまた別の話。




『らんま1/2』より九能帯刀を召喚




[12914] ルイズが火の目を召喚しました
Name: giru◆2ee38b1a ID:d4c12229
Date: 2010/11/05 01:24
「赤ん坊……?」

 使い魔の儀式に応じて姿を現したその者に、思わずルイズは目を丸くしてしまった。

 現れたその赤ん坊は、ルイズらが見守る中で草むらにこてんと横になり、すやすやと気持ち良さそうな寝息を立てている。
 ルイズ自身と同じような薄い桃色の髪に、柔らかそうな頬。
 服も……見る限りでは、かなり上等なのではないだろうか。
 そんな様子をみるだけでも何不自由なく育てられている事が見て取れた。

「おや、まぁ……これは……」

 そして儀式の監督をしていたコルベール教師も、流石に召喚されてきたのが人間の赤子とあっては、言葉を失ってしまっている。

「ルイズ。召喚できないからって、よその赤ん坊を攫ってくる事は無いだろう!」

 これは一体どうすべきか……対処に困り、誰もが固まった中、周囲で見守っていた同級生の一人が囃し立ててきた。

「う、うるさいっ!」

 ルイズにしても召喚して出てきた『人間』が、まだ普通の成人。せめて会話を交わせる程度の歳頃であるのならば、八つ当たりの一つでもしていたかもしれない。
 しかし、流石にこちらの言葉も解しそうに無い赤ん坊に向かって怒鳴りつけるわけにもいかなかった。

「う~?」

 周囲の声。そしてルイズの怒鳴り声に反応してか、不意に赤ん坊が声を上げてゆっくりと眼を開いた。
 
「ぅ~……あ、あぁ~……」

 やはり頭部が重いのか、やや危なっかしげな仕草ながらもゆっくりと上半身を起こして辺りを見回す。
 しかし頭はまだ寝ぼけていたのか、目の焦点もあっておらずぼ~っとしている。しかし、そのような赤ん坊の仕草の愛らしさに、一部の女子生徒が黄色い声を上げた。

「う……? うー。うぁー……」

 しかし赤ん坊自身は徐々にに己の置かれた状況のおかしさに気づいてきたのか、はたまた単純に母親の不在に気がついたのか――見る見る内にその顔が歪んでいく。

「ふぁ……ふぁ……ふぁ……!」

 口を大きく開閉する。
 呼吸も大きくなり、目元には涙すら滲んできた。

 そしてそう間を置かず――

「ふぁぎゃあああああああ!!」

 泣き出した。それはもう思いっきり。
 己の喉や声の大きさ、その限界に挑むかのような泣き声を辺りに撒き散らす。

「ち、ちょ、ちょっと……!」

 ルイズもこれには慌て、赤ん坊へと駆け寄って抱き上げる。

「ほ、ほ~ら、高い高~い♪」
「あああああああああああああああん!!」

 必死にあやそうとするが、全く効果は上がらず、赤ん坊の泣き声は止まらない。
 それどころか、何が気に入らないのか泣き声は更に大きさを増していく。

「ちょ、ちょっと……何やってるのよヴァリエール!」

「しょうがないでしょ! この子が泣きやまないんだから!」

 その様子に見かねて側に寄ってきた学友――キュルケにルイズも噛み付くが、そんなやり取りをしている間にも赤子は泣き叫び続ける。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 もはや音波兵器。
 比較的離れた距離にいるはずの生徒達も耳を押さえて赤ん坊から距離を取り始める。
 その渦中に居るルイズは当の赤ん坊を抱き上げて両手がふさがっているため、顔をしかめるしかなかった。

「あなたじゃやり方がまずいんじゃない!?」

「じゃアンタがやってみなさいよ!!」

 赤ん坊の音波攻撃の側にあって、自然と声を張り上げてキュルケが口を挟み、とうとう頭痛すら感じ始めたルイズもたまりかねた様子で彼女に赤子を押し付けた。

「え……?」

 そう簡単に泣き止むものでは無い。

「ああ……ん。ふぁっぐ……ひぇっぐ……!」

 そう思っていたはずなのに――キュルケの腕にすっぽりとおさまった赤子は、途端にその鳴き声を収めていた。
 嗚咽を繰り返してはいるものの、大きく泣き出そうとする様子はない。

「え……? ど、どういう事……?」

 キュルケが抱くと、泣き止む。

「な、何で……?」

 一体何がいけなかったのか、とキュルケの胸の中で鼻を鳴らしている赤子を凝視してしまう。

「ぁ~……う、う~」

 赤ん坊は己の身体の横に感じる柔らかな感触。
 それを確かめるように身体を押し寄せ――涙を目の端に残しながらもきゃっきゃと笑い出す。

「…………」

 キュルケもあっさりと泣き止んだ事でしばし驚きに固まっていたが、やがてその赤ん坊の仕草、反応に何かを察したような顔でルイズに向き直る。
 そしてその視線は、しっかりと『胸部』に注がれていた。

「……貴女のその薄い胸に抱かれるのが嫌だったんじゃない? ヴァリエール」

「なななんででですってええええええ!?」

 キュルケの指摘にルイズも烈火の如く激怒するが……

「ほらほら、そんなに怒鳴ったらまたこの子が泣き出すわよ?」

「うっ!?」

 そして赤子を引き合いに出されては、ルイズも引くしかなかった。

「う゛~……?」

 しばし恨めしそうに赤子とキュルケの胸を交互に見やり……やがて、ルイズは赤子の背中に奇妙なモノを見つけた。

「これ、何?」

 それは赤ん坊の背中に貼り付けてある紙。掌サイズの小さな長方形の紙片であった。
 何気なく手を伸ばす。軽く力を込めると、それはあっさりと赤子の背中から剥がれてしまう。
 手元に引き寄せ、まじまじと見つめる。その長方形の紙には奇妙な文字やら絵やらが描かれているものの、ルイズの知識にも全くこのようなモノは無い。


 ――ちなみにルイズには読めなかったが、それは呪を込めた文字で中央に『火気厳禁』とデカデカと描かれていた。


「ぅ……ぁ……! ああ……!!」

 ……!!

 そしてひとまずキュルケの胸の中に治まって大人しくなった赤ん坊も、また表情が崩れてぐずりだしていく。

「あらあらあら、どうしたのかしら?」

「この子の母親もアンタほど馬鹿みたいな胸はしてなかったって事じゃない、ツェルプストー?」

 先の意趣返しとばかりに思い切り皮肉を込めたのだが、キュルケは小揺るぎもしなかった。

「ふゃっぎゃ……! ふゃぎゃああ……!!」

 ――……リ

「お腹が空いたのかもしれないわね……それともおしめかしら?」

 ルイズの皮肉を意に介さず、そっと草むらに赤ん坊を一度降ろして観察する。

「……やけに詳しいわね」

 そしてそのキュルケの慣れた動作から、ルイズの中の怒りも一時おさめてそのような感想を漏らしてしまった。

「情熱の国ゲルマニアでは男女の情熱……その後の結果にもきちんと責任は持つように教えられているのよ。だから小さい頃からこういった事も礼儀作法に混じって仕込まれたわ」

「ふ~ん……で、この場合は?」

「そうね、取り合えずおしめを確認して……」

「ふぎゃあっ! ふぎゅあ! ふぁぎゃあああ!!」


 ――パリッ……!


「……?」

 ふとルイズは気が付いた。
 先ほどから赤ん坊が泣き出すたびに、何やらパリパリ……と乾いた木を裂くような音が周囲を震わせていたのだ。

「ちょ、ちょっと。ツェルプストー?」

 まさかコレも自分が知らない赤子特有の何かなのかと考え、こちらに背を向けて赤子を地面に降ろし、おしめの確認をしようとしているキュルケの肩を叩く。

「それにしても、初めて見る形の服ね……一体何で出来ているのかしら?」

 だが、キュルケは赤子の服を脱がす事に悪戦苦闘しており、ルイズの呼びかけにも気づいた様子は無かった。
 見た事も無い形状をしている服に興味を惹かれたのか、じっと赤子へとその視線は注がれている。

「ふぎゃあっ! ふぎゃああああ! ふぎゃあああああああああああ!!」

「はいは~い、今おしめの確認をしてあげますからね~」


 ――パリ!
   ――パリ!
  ――パリッ!!


 だが、キュルケが優しげに赤ん坊に語り掛ける間にも、どんどんその音が大きくなってくる。

(い、一体何……?)

 言いようも無い不安感がどんどん高まっていく。

「ふぁっ……!! ふあああああああああああああああああん!!」

 ――そして、赤子の泣き声が頂点へと達した時。


 ――ドオン!!


「わ゛~~!?」


 突然、少し離れた位置で成り行きを見守っていたコルベールが炎に包まれた。
 周囲の生徒も突然燃え上がった教師の姿に驚き、硬直する。

「ふぁああああ! ふぁあああああああああ!
 ふぁああああああああああああああああ!!」


 ――ドオン!!

  ――ドオン!!

 ――ドオン!


 が、そんな間にも赤ん坊が泣き叫ぶたびに近くに周囲の土が抉れ、炎が草原を焼いて燃え上がる。

「ど、どどどどどどーすればいいのよ!?」

「そ、そそそそそそそんな事言ったって!?」

 いきなりの、そしてあまりの出来事に、ルイズもキュルケもおろおろと混乱する事しか出来なかった。反射的に赤子から距離を取り、互いの身体を抱き合うようにして怒鳴り合う。
 ひとまず赤ん坊に泣き止んでもらえれば何とかなるのかもしれないが、今のその赤ん坊の周囲では特に各所で爆発が巻き起こり、とてもではないが近づける状況ではなかった。


「ふぁああああああああああああああああ!!」


「「きゃーーーーーー!?」」

 そして、至近の爆破によってルイズとキュルケは揃って吹っ飛ばされた。
 あくまで至近距離での爆破炎上であり、その直撃を避けられたのは不幸中の幸いか。

「う……うぅ……」

 とはいえ、無傷という訳にはいかない。
 吹き飛ばされ、転がったお陰で制服も土塗れ、身体にもいくつか擦り傷を作ってしまっていた。

「うわああああああ!?」
「ひええええええええ!?」

 生徒はすっかり混乱し、この場を収める責任者であるコルベールは最初に燃やされている。
 ぴくぴくと身体を痙攣させている事から辛うじて生きてはいるようだが、この様子ではもう期待など出来そうも無い。

「ど……どうにも、ならないの……?」

「ああああん! ああああん! ああああああああん!!」

 絶望感に打ちひしがれるルイズの視線の先では、泣き叫ぶ赤子とその周囲で踊り狂う炎、そしてそれに彩を添えるかのような爆発と――最早収拾など望めない状況が広がっていた。


「ふぁあああん!! ふぁあああん! ふぁ……だああああ……――」

 ――が、不意に赤子が泣き声を弱め……そしてそのままぽてりと仰向けに転がり、すやすやと寝息を立て始める。

「え……?」

「――ひとまず、これで大丈夫」

 突然の事に呆然と眠る赤子を見つめるルイズの横で、静かに語りかけてくる者が居た。

「あんた……タバサ?」

「スリープクラウドを掛けたから、これでしばらくは大丈夫なはず」

「あ……あり、がと」

 コルベールも役に立たず生徒が混乱する中、それでも冷静に事態へと対処してくれたタバサに、戸惑いつつも礼を告げる。
 そのまま警戒しつつゆっくりと赤ん坊へと歩み寄るが、確かにぐっすりと眠っており、その表情だけを見れば先までの出来事の犯人である事など想像も出来ない。

「……ひとまず、今の内に契約を済ませちゃえば?」

 ルイズと同様、土に塗れながらも重傷は避けられたキュルケが腰に手を当て、若干に疲れた様子で提案する。
 確かに今くらいしか契約のチャンスしかない。もう一度泣かれては、もう手の付けようもないだろう。


 そう考えたルイズは『コントラクト・サーバント』の呪文を唱え、ゆっくりと眠る赤子の唇に己のそれを寄せていったのだが……



「どうしたの? 早く契約を済ませちゃいなさい」

「……ねえ、ツェルプストー」

 赤ん坊と唇を重ねる直前、何を思い立ったのかルイズはぴたりと動きを止め、そのまま首を九十度曲げてキュルケへと話しかけた。

「何かしら?」

「……この子が泣いたら、つまり火がぼーんといったわけよね?」

「え、ええ……」

 神妙な顔つきで、確認するように告げてくるルイズにキュルケも戸惑いながらも頷く。

「で、私がこの子に契約するとなると……当然この子にルーンが刻まれるわけよね?」

  「そ、そうね……」

 そこに至ってルイズが言いたい事に気がついたのか、答えるキュルケの視線がわずかに逸れる。

「ルーン刻まれるのって、痛いわよね?」

     「………………」

「……泣くんじゃない? この子。流石に魔法も解けて」

       「……………………だ、大丈夫よルイズ――多分」

「なら……なんでじりじりと距離をとってんのよあんたはああああああああ!!」


「ふぎゅああああああああ!!」


 魔法のかかりが弱かったのか、或いは生来に抵抗力でもあったのか……ルイズの大声によって赤ん坊は目が覚め――また一つ大きな火柱が立ち昇った。





 そしてその後、ルイズはゼロに変わって、新たなる二つ名を手に入れた。

「う゛っ……! う゛っ……!! う゛ぇっ……!!!」

「いっ……いかん! 彼女がぐずりだしたぞ!!」

「総員、退避! 退避~~!!!」

 学院内にて講義の真っ最中であったものの、その予兆に生徒は勿論、教師の顔も青ざめる。
 われ先に立ち上がり、教室の外へと逃げ出す生徒達。


「う゛ええええええええええ!!」


 ちゅどどどどど!!!!!!!!!!!



「ほっ……! ほ~らほら、高い高~~~い!!!」

 黒こげになりつつも、必死になって使い魔のルーンが刻まれた赤ん坊を世話するその姿から、誰が言い出すでもなく、ルイズはその二つ名へと取って代わっていった。



 ――すなわち『子守のルイズ』と。






 そしてルイズが『学院で使い魔の赤ん坊を育てている』というのが、『学院で不純異性交遊の末に生まれた赤ん坊を育てている』と捻じ曲げられてヴァリエール領へと届き、凄まじい形相でヴァリエール夫妻がトリステイン魔法学院へと来襲する事となっているのだが……子守に必死になっているルイズ、秘書のスカートの中身を覗くことに必死になっている学院長オールド・オスマンは未だ知る由も無かった。




『GS美神』より美神ひのめを召喚




[12914] ルイズが高校一年生(19)を召喚しました
Name: giru◆2ee38b1a ID:d4c12229
Date: 2010/11/05 01:27
「いかーーーん! 遅刻してしまーーーーーう!!
 今日から高校生! 今日から新学期! 遅刻王の汚名は何としても返上しなければーーーー!!」

 朝の通学路。
 既に周囲には学生の姿がなくなりつつあるその道の真ん中で叫びつつ、全速力で道を駆け抜ける学生の姿があった。

 焦りは言葉の内容から十二分以上に汲み取る事は出来る。
 しかしその走る様からして、足はガニマタなのか内股なのか良く分からん開きかたをしており、腕の方も広げたりすぼめたり、見ようによってはラジオ体操の深呼吸の動きともとれなくもなさそうな謎の動き。
 そんな身体一つ一つのパーツがそれこそ別の生き物であるかのように蠢くという、心臓の弱い者が見ればそれだけでひきつけを起こしそうなブキミなモノであった。

 そしてそんな学生の目の前にいきなり鏡が現れ――


「遅刻するううううううう!!」


 ――その鏡が視界に入っていないかのような勢いで、迷い無く突っ込んでいった。




「あ……あんた誰!?」

 数えて13回目の召喚詠唱。
 度重なる失敗の末に、ようやく手ごたえを感じ、『サモン・サーバント』に全力を注いだ末にルイズの前へと姿を現した使い魔。
 だが、その全身がハルケギニアの太陽の光の下で露になった途端、ルイズは杖を突きつけてそう叫んでしまった。


 ルイズの杖の先にいる物。それは、恐らくは人間なのだろう。
 いやそうだそうと信じたい辛うじて顔の一つ一つのパーツならば人間に見えなくも無いと思わなくもないかなあとうんきっとそう信じるものは救われるに違いないからとりあえず今日の朝食に使ったスプーンにでも祈って……

「っていうか人間!? 人類!? アンタまさか亜人なの!?」

 ――いつの間にやら自己暗示気味の思索へと耽ってしまっていたルイズであったが、その者が一歩踏み出した瞬間に我に返って怒鳴りつけてしまう。

「いきなり出会いがしらに何を言い出すのかね、キミは!?」

 奇面。
 恐らくこの人間――性別は恐らく男だろう――を一言で言い表そうとするならばそれが一番適切だろうか。

 人間……なのだろう、多分。眼は二つだし鼻は一つ、そこにある穴は二つでその下には口もある。黒い髪は天然気味に各所で跳ね回っており、それが顔の中心線から見事な線対称を描いていた。
 それぞれのパーツはそれぞれのあるべき場所に収まっている。収まっているはずなのだが、どこをどー見回してもマトモな人相には見えないという、ある意味なんとも器用な顔であった。

「だってアンタどー見ても普通じゃないでしょ!?」

「その通り! 私は常に、世の中の歯車となるよりも世の中を彩る調味料を目指しているのだっ!」

 ルイズの叫びに男はむしろ誇らしげに胸を張り、だからこんな事もできるのだっ! といきなり首を360度ぐるりと捻じ曲げて見せた。
 その瞬間、周囲で経過を見守っていた生徒達が……監督の任を負っているはずのコルベールも含めて……一歩大きく後ずさる。

「訳わかんないわよっ! やめんか気色悪い!!」

 ルイズもまた一歩退きかけたのだが、辛うじて踏み止まる。
 彼女を止めたのは貴族の意地か、はたまた使い魔(予定)に対する主の意地か。
 何とかルイズが話題を転換させようとするも、その度に男は珍妙な動作を繰り返して話を振り出しへと戻す。
 とにもかくにも、その後数十分に渡って二人の間で不毛なやり取りが繰り返された。


「一応中学出身、一堂零!! 特技は「フンフンむちむち踊り」と「驚きしぱた」です!!」


 肩で息をつくほどの口論の末、何とか当初の「お前は誰だ」という会話にまで引き戻し、ルイズは男(人間?)の名前を聞き出す事に成功した。

「って! ブキミな顔をそれ以上こっちに近づけないでちょーだい!」

 しかしその自己紹介の際に、いきなり男の頭が膨れ上がったかと思うと、妙な迫力を伴ってルイズの方へと迫ってきた。
 退きそうになる足を鋼鉄の意志で押さえ込み、ルイズは男――零の顔面に手に持っていた杖を突き刺す。

「うぐぉっ!?
 じゃ、若干傷ついたが……ところでココはどこなのだ?
 私は一応高校へ向かっていたはずなのだが。それとも始業式の日からいきなり野外実習でも始まったのかね?」

 ルイズの攻撃にわずかに痛そうな仕草を見せたものの、零はすぐに照れくさそうな笑みを浮かべる。
 ここが教室かと思ってつい力んで自己紹介をしてしまった……などと言いながら頭をかく零に、今度はルイズが怪訝な表情となる。

「何それ? アンタは私の召喚に応じてきたんじゃないの?」

「召喚……? 一体どういう事なのかね?」

 そして零の方も、ルイズの言う事が全く理解できない様子であった。

「いい? つまりアンタはね――!」

 現状を理解しきれない零に、ルイズがため息交じりに一通りの説明をしてやる。

「――つまり使い魔っていうのは主人のために存在する奴隷。
 主人に尽くし、主人を優先し、主人のために死ぬ。
 そんな使い魔の呼びかけに応えて出てきたのが、アンタって訳。
 後は契約するだけなんだけど……」

 ざっと説明を聞き終え、零も己がこの場に来た理由、契約の内容を知った途端……その表情をゆがめた。

「なんと……! キミは、キミは……っ!!」

「な、何よ?」


「そんな人権を無視した契約など、許されると思っているのかね!」
「ギャグSSだからいーのよ!!」


 歪めた事で更に奇面が見苦しいモノとなったが、次の瞬間に零の口から飛び出た主張に、ルイズは真っ向から対抗した。
 字面だけ聞けば、それは論破などとは呼べないほどに稚拙な主張。
 しかし清清しいくらいにきっぱりと言い切った宣言に、一瞬だけとはいえ思わず納得しかけてしまった零は言葉を失い、頭を大地にめり込ませて煙を上げてしまう。

「勝った……! そうよ、多少原作に比べて世界観とか概念に誇張表現があろーが所詮コレは一発ネタ。ギャグの二次創作なんだから……!!
 ふふふ……最近なんだか酷い目続きばかりだったような気がするけれど、ようやくこれで私優位の話に……っ!」

 そんな反応にルイズは満足げに拳を握り締め、妙な電波を受信したかのような台詞を呟きだす。

「ふ、ふふ……」

 だが、勝利の笑みを浮かべるルイズの横で、零もまた不敵な笑みと共にゆっくりと立ち上がった。

「な、何よ?」

 その妙に自信に溢れた態度にうろたえるルイズへと視線を送りつつ、制服に付いた埃を払い、零はガニマタになって胸を張る。

「これがギャグSSであるというのならばっ! 私もジャンプ黄金時代・ギャグマンガ主人公筆頭としての実力を見せよーではないか!」


「な、何をする気!? っていうかだからブキミな顔をそれ以上近づけないでちょーだい!!」

「じゃ、若干傷ついたが……ならばお見せしよう!!!」

 どうあってもバケモノかモノノケ扱いするルイズに、僅かに落ち込んだ様子を見せる零であったが、じきに気を取り直して高らかに宣言する。
 そうして足を交差させ、ラジオ体操のように腰をくねって両腕を指先まで左側へ伸ばし、その先を見つめるように頭も捻り上げるとゆー何とも奇妙なポーズを取った。

「今の~~~~~……………………」

 更にその姿勢からいきなり左足一本で片足立ちへと移行し、右足を股裂きするのではないかと思うほど天高く突き上げて身体を無理やり半回転させてねじり上げ、頭は餌に群がる鯉の如く口を馬鹿のよーに開けるという……なんとも文章では表現しがたい、それ以前に人間の関節の稼動域では不可能なのではないかと思えるほどの動きを見せて体勢へと変えていく。

「―――――なし!!!!」

 そして、馬鹿のよーに開けた口から、一つの言葉が飛び出した。

 密林奥地の原住民ダンスか新興宗教の宣伝か、はたまた宇宙人の祈祷か何かを思わせるようなブキミな動きにうろたえていたルイズであったが……次の瞬間、更に驚く事となる。

「な、何よこれええええええ!?」

 まるで時間を巻き戻っていく――それこそまるでビデオの巻き戻しのように、零は逆走を始めていったのだ。

「何だこいつは!?」
「先住魔法!?」


 そして、あまりの動きに距離を開けていた生徒達も、その変態技に驚きの声をあげる。

 そして零が戻る先には、何故か消えていたはずの召喚の鏡まで現れており……



「わはははははは! さらばーーーーーー!!」

 高笑いと共に、零の姿は鏡の向こうへと消えていった。


「…………」


 呆然とそれを見送っていたルイズとその周囲の生徒、そしてコルベール。
 間を置かずして、鏡もまた消え去り、何事も起きていなかったかのように一陣の風が吹く。

「あー……その、ミス・ヴァリエール?」

 あまりの展開に介入する機会すらも失っていたコルベールがまず我に返り、風に薄くなりかけた頭髪を揺らしながら、気まずげにルイズへと声をかける。

「なによ……!」

 だが、その言葉はルイズには届いては居なかった。

「み、ミス?」

「たまには……」



◇◇◇



「たまには、私が勝ち組の一発ネタがあったっていいじゃないのおおおおおおおお!!」

 がばりとベッドから飛び起き、がおーんと天高く咆哮を上げるルイズ。

「ハッ!?」

 我に返り、改めて周囲を見渡す。
 周囲に広がるのは、見飽きるほどに馴染んだ、女子寮の自室。
 そして己が着ているものもトリステイン魔法学院の制服ではなく、就寝用の寝巻き。

「ゆ……夢?」

 現実感に溢れた夢が、頭に貼り付いて離れない。
 どくどく、と激しく鼓動を刻む心臓の音が少しずつ落ち着くにつれて、そして寝ぼけた頭に前後の記憶が蘇ってきた。

 確か今日は使い魔召喚儀式の当日。普段からゼロと呼ばれ、蔑まれているが、なんとしてもこの儀式だけは成功してやると、昨日も遅くまで詠唱の確認や精神集中の練習を何度も行っていた。

(だから、あんな妙な夢見ちゃったのかしら……)

 それにしては妙にリアルな夢であった気がする。
 まるで、そう……『予知夢』であるかのような……。

「っ!!」

 思わず浮かんでしまった考えを追い出すように、頭を激しく振る。

「あれは夢、あれは夢、あれは夢、あれは夢……」

 夢だ。
 夢に違いない。
 夢じゃなきゃおかしい。
 っていうか夢だろコラァ。

 言い聞かせるように幾度かぶつぶつと呟きつつ、寝台から身を起こして身支度を整えていく。

「――よしっ!」

 制服に着替え、マントを羽織った時には何とか気分は切り替わっていた。
 と、同時に空腹を覚えてしまい、急ぎ足で食堂へと向かう。

「見てなさい……! 絶対に、誰もが驚いて、言葉すら無くしちゃうような使い魔を召喚してやるんだから……!!」

 その道の途中、決意を確かめるように、ルイズは杖を持つ手にぎゅっと力を込めた。


 そしてルイズは使い魔召喚の儀式に望んだ。
 すっと呼吸を整え、精神も高揚させつつも落ち着かせ……そして詠唱を紡ぐ。

「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ――!!」







 ――同時刻。宇宙の果てかどこか別の世界。


「いかーーーん! 遅刻してしまーーーーーう!!
 今日から高校生! 今日から新学期! 遅刻王の汚名は何としても返上しなければーーーー!!」

 朝の通学路。
 既に周囲には学生の姿がなくなりつつあるその道の真ん中で叫びつつ、全速力で道を駆け抜ける学生の姿があった。

 焦りは言葉の内容から十二分以上に汲み取る事は出来る。
 しかしその走る様からして、足はガニマタなのか内股なのか良く分からん開きかたをしており、腕の方も広げたりすぼめたり、見ようによってはラジオ体操の深呼吸の動きともとれなくもなさそうな謎の動き。
 そんな身体一つ一つのパーツがそれこそ別の生き物であるかのように蠢くという、心臓の弱い者が見ればそれだけでひきつけを起こしそうなブキミなモノであった。

 そしてそんな学生の目の前にいきなり鏡が現れ――


「遅刻するううううううう!!」


 ――その鏡が視界に入っていないかのような勢いで、迷い無く突っ込んでいった。





『ハイスクール!奇面組』より一堂零を召喚






[12914] ルイズが掃除人を召喚しました
Name: giru◆2ee38b1a ID:d4c12229
Date: 2010/11/05 00:56
 「あの男」を召喚した後、私は一つの魔法を使えるようになった。

 それは念願の魔法。どれだけ努力しても、練習を積み重ねても、爆発にしかならなかった私が出す事の出来た、初めての魔法。爆発以外の結果だった。
 そう考えれば、確かに嬉しくないと言えば嘘になる。嬉しいと思う部分は少なからずあると認めよう。
 だが、それでも私はこの魔法を行使できる、という事実に対して素直に喜ぶ事ができなかった。

 いや、正直な所、私が使えるようになったコレが、果たして『魔法』なのか、『魔法』と呼んでいい現象なのかどうかすら疑わしい。

 四大のどの系統にも属す事はなく、酷く状況が限定された中、限定条件を満たす事で初めて使えるようになるという極めて使い勝手の悪い『魔法』。
 ただ、それでも発動条件や使用することの出来る状況を考えれば、確かにこれは有用である。必要に迫られる事態は今までも幾度と無く訪れており、その度に私はこの力を行使した。
 それはやはりこれが有用であるからだと認めざるをえないとはいえ、いつも使った後に「こんなの違う…!」 と思い悩む私を誰が責められるだろうか。


 ただ、なんにせよ、その男が召喚された事。そして私の使い魔となった事。
 これが私にとっても、魔法の使用云々は置いておいても、あらゆる意味で一大転機であった事は間違いない。

 こいつは強かった
 見かけは30代から40代(本人は20歳と言い切っていたが、どう見ても10歳はサバを読んでいる)
 しかし、その肉体は歴戦の傭兵と言えるほどに鍛え込まれており、シャツを下から押し上げる筋肉のラインも、格闘技を齧った事のない私でも見事な物だと思った。
 学院の料理長のような、大柄であり、自然とそうなったという訳ではない。
 研ぎ澄まし、研鑽し、その上で得た肉体なのだろう――そう思わせるほどに鍛え抜かれた身体だった。

 更にこいつは見たことも無い銃を持っていて、とあるいざこざから同学年のギーシュといざこざが起こった時にも、神業としか思えない銃の腕前でギーシュを降参させた。
 ただ、その腕前には凄いと感心はしたのだけれど、直後に肝心の弾丸がどうやら容易には補給出来ないという事実に気付き、非常に落ち込んでいたが。

 ツェルプストーの奴なんか、それを見ていつもの病気が出たらしく、即座に言い寄っていた。
 腹立たしい事に、私が召喚した使い魔もデレデレと鼻の下を伸ばす始末!

 思えばその夜だった。初めてこの魔法が発動したのは。
 夜にふと目覚めれば、隣――というか床で眠っていたはずの使い魔の姿がない事に気付き、先のツェルプストーの態度からもしやと思って部屋へ急行してみれば、あ、あ、あ……あああああいつがこ、こ、こここここ股間を……!!

 ……落ちつけ私。
 とにかく……とにかく心を落ち着けよう。

 とにもかくにも、その光景を見たその瞬間、私の思考・感情に呼応するかのように『それ』は手の中にすっぽりと収まっていた。

 前兆など何も無く、なぜそれが現れたのかなど理解もできない。
 だが、その重量感溢れる凶悪なフォルムは私に微塵も重さを感じさせず、しかし確かな威力を秘めている事を、誰に言われるでもなく理解できていた。
 目の前でいきなり「それ」が現れた事に目を丸くした使い魔とツェルプストーの前で「それ」を軽く振るってみれば、びゅんびゅんという風切り音が響き、私が振り回すに最も理想的な重さである事も理解する。

 その状況で現れた「それ」。
 私には、その使い道はたった一つしか思い浮かばなかった。
 そして本能、世界の法則、まるで演劇の中で決まりきった『お約束事』に従うように、私は躊躇い無く「それ」をアイツに向けて振り上げていた。





「ねっ? そこのおっじょうさんっ! ボクと一緒にお茶しない?」

「え? あの……」

「ね? ね? いいでしょ? 奢るからさぁ~♪」



「リョウ!」



「げっ! ルイズ!?」

 王都トリスタニア。
 ふとした用事から向かったその城下町にて、いつの間にやらはぐれた使い魔を探し回ってみれば、やはり予想通りというべきか……そいつは私の目の前でデレデレと表情を崩してナンパをしていた。
 その光景を見た瞬間、私の中で怒りが燃え上がる。

 それは断じて嫉妬などではない。これは言う事を聞かない犬に対する苛立ちだ。

 召喚してからまだそうも時間は経っていないというのに、容易にはぐれていたこの犬の行動に予想がつき、そしてそれが的中していたという事実。
 つまりはそれほどコイツは馬鹿で、単純で、飽きもせずに「こーゆー事」を繰り返しているのだ。

 既に学院の中では「種馬」などという不名誉な称号を与えられ、私まで『種馬の(ご主人の)ルイズ』などという、ゼロ以上に不名誉極まりない二つ名で陰口を叩かれているのだ。

 私とてそのような現状に甘える気など毛頭なく、あの夜以来使えるようになった「魔法」で幾度と無く躾けてやっていたというのに、この男には未だに改善の兆しすら見られない。

 そして、街に出ればコレである。

「あんたねぇ……せっかくご主人さまがアンタに武器を買ってやろうって言うのに、それを放っておいてこんな事しているわけ?」

 にっこりと、笑顔を浮かべてやる。
 それと共に右手に意識を集中した。

「お、落ち着け、な? な?」

 何とか言い訳を考えようとでもいうのか、両手を前に突き出した使い魔の表情が目まぐるしく変化する。
 だが、そんな戯言に耳を貸す気など無い。この男には既に言葉で躾けるなどという生易しい方法は通じないのだ。

 故に私の中で、この「魔法」の行使に対する躊躇など微塵もない。



「女の子を見るたびにナンパするなと……何遍言えば分かるかこの馬鹿犬ううう!!」




 そして私。

 ルイズ・フランシス・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは今日も使い魔・サエバリョウに対し魔法で生み出したアイテム「100トンハンマー」を思いっきり叩き付けた。






『CITY HUNTER』より冴羽リョウを召喚



[12914] ルイズが学園最強の女を召喚しました
Name: giru◆2ee38b1a ID:999a2841
Date: 2011/04/19 20:35
「……どうやら、恋をしちまったようなんだ」

「ほぇ?」

 苦悩に苦悩を重ね、言うべきか言うべきでないか散々に悩んだであろうことは、今のマルトーの状態――椅子に腰掛けて、全身が脱力してうなだれている様子を見れば多少なりとも察する事は出来る。
 出来るのだが……その言葉は、シエスタにとってまさに青天の霹靂であった。
 全く予想だにしないどころか、予想が二回転半ほど転がって三回ほど捻りあがったかのような解答。
 目を丸くし、呆けたように口を開け、間の抜けたような声で返してしまったシエスタであったが、それを誰も責められないだろう。

 ここ数日、どうもマルトーの様子がおかしい。
 調理という料理人にとっての戦場の中、普段ならば豪快ながらも繊細な手つきで料理を作り上げるマルトーであったのだが、此処最近、なぜか元気をなくしてしまっていたのだ。
 視線は宙をさ迷い、時折に物憂げなため息。
 それでも包丁を操る手つきは熟練のそれであり、流石は料理長だとシエスタも感心した物ではあったのだが、傍から見れば異様な光景である事に変わりは無い。

 だからこそシエスタもその態度が気になり、夕食の配膳を終えて一段落し、マルトーが厨房の椅子で一休みしている時を見計らって話しかけたのだ。

 ……そうして問いかけたシエスタに対し、若干の躊躇いと共にマルトーが口にしたのが冒頭の言葉である。

「こい……ですか?」

 こい コイ 請い、乞い、故意 鯉 濃い……
 その一言から、シエスタの頭は様々な言葉を枝分かれに連想していく。

「――あ! ひょっとして夕食の味付けを濃くしてしまったんですか?」

「違うっ!」

 しばしの黙考の後に達した結論。
 だが、シエスタのそれを力いっぱいに否定したマルトーは、じきにいじける様に視線を逸らす。

「……へっ、俺だって自分がどれだけ場違いな事を言っているのかは分かってるよ……。恋とか、好きになったなんて言葉、これほど俺に似合わないもんはないよな~……」

 最後の呟きから、シエスタは素で「ありえない事」だと思考から切り離していた事項が正解であると気が付いた。

「あ、ご、ごめんなさい! その、別にそんなつもりでは無くてっ!!」

「いーんだいーんだ。どーせ俺は料理しか頭に無い料理馬鹿だよ……」

 慌ててとりなすが、マルトーの機嫌は直らない。

「マルトーさぁん!!」

 何度か呼びかけるも、力なくうなだれるのみ。
 何とか立ち直ってもらおうとシエスタが厨房内で奮闘する一方、アルヴィーズの食堂では生徒たちが談笑と共に食事を楽しんでいた。

「ふぅ……美味かった……」

 至福の時とも言える食事を済ませたマリコルヌが満足げにナフキンで口元を拭う。
 心地よい満腹感に浸るマリコルヌであったが、ふと流した視線に捉えた光景に、さっと顔を青ざめさせた。

「お、おいギーシュ! お前まさかそいつを残すつもりなのか!?」

「そうだが……一体どうしたというんだい、マリコルヌ」

 思わず大声を上げてしまったマリコルヌに、向けられた相手――ギーシュ・ド・グラモンは小さく眉を潜め、上品な手つきでフォークを置く。
 並べられた皿はいずれもほぼ全て空になっており、後に残っていたのはステーキにかけられていたソースと、そして付け合せに盛られていたハシバミ草のサラダのみであった。

「止めておけ! いいか、ギーシュ。命が惜しかったら何も言わずにそいつもきちんと食べるんだ!」

 マリコルヌの視線は、残されたサラダへと注がれていた。
 ギーシュがそれを残したままに席を立とうとする気配を察し、一層眼を血走らせて力説する。

「これをかい?
 ……冗談はよしてくれたまえ。こんな物は貴族の口に合う食材ではないだろう」

 ギーシュに限らず、ハシバミ草のサラダを苦手としている生徒は多い。
 身体に良い、とは言われているものの、独特の苦味がどうしても好きになれない、と大半の生徒が残してしまうのが常なのだ。

 だが、何故か今日は、ギーシュ以外周囲の生徒たちは皆、きちんとそれらを食べきっている。
 周囲でもそのサラダを残しているのはギーシュ一人であったのだが……ギーシュ本人は全く気づいていなかった。


 ――否、仮に気づいたとて些事と切り捨てただろう。


「ああああ……そうか、お前は最近風邪引いてたから知らないんだな。いいか、ゼロの奴がだなぁ……!」

「――ルイズがどうかしたのかい?」

 突如出てきた女生徒の名に、ギーシュは反射的にその姿を求める。
 見渡せば、桃色の髪は簡単に見つかった。

「?」

 そして彼女の前へと並べられた皿へと視線を落とすと、ハシバミ草のサラダもしっかりと食べきっている。

(ルイズも、確かハシバミ草のサラダは苦手だったんじゃなかったか……?)

 そこで初めて疑念を抱いたギーシュであったが、それはまだ、首を軽く傾げる程度のものでしかない。

「ああいや、アイツじゃなくてアイツの使い魔がだなぁ……!」

 そんなギーシュとは対照的に、話していくにつれて目に見えてマリコルヌの余裕がなくなってきていた。
 目を血走らせるばかりか、椅子を蹴るようにして立ち上がり、両腕を振り回してその巨体を揺する。

「ああ……そう言えば何やら平民を召喚したらしいと聞いているが、それがどうかしたのかい?」

 風邪気味の身体をおしてヴェルダンデ……ジャイアントモールを召喚して契約を交わしていたため、確かにギーシュは食堂で食事をとるのも久しぶりであった。
 当のルイズが召喚したときには熱で朦朧としていたし、結局後で何やら平民を召喚したとは聞いていたが、具体的にどのような者まで召喚したのかは聞いていなかった。

「そ、そいつ……いや、そのお方が今、食堂で料理人たちを手伝っているんだが……」

「人間で……料理人? で、手伝っていると……マリコルヌ、結局君は何を言いたいんだい?」

 要領を得ない説明には、ギーシュも戸惑う事しかできない。
 そしてマリコルヌも、自身が説明できていない事を自覚しているのか、頭をかきむしって唸りだす。

「だ、だからっ! お前がそいつを残したりすると……う、うううう……っ! こ、これ以上は俺の口からは恐ろしくて言えない……!
 おい、ゼロ! お前の使い魔だろ! お前から何とか言ってやれ!!」

「……まあ、一度身に染みなきゃ分からないわよ。アレは」

 やや離れた席であったが、マリコルヌとギーシュのやり取りはしっかりと聞こえていたようだ。
 ゼロと呼ばれた事に怒る様子すら見せず、どこか疲れたようにため息を吐くルイズ。

「……」

 そうしてちらり、とギーシュに向けられた視線には、若干の哀れみすら込められている。


「……よく分からないが、どちらにしろ僕はこんな物を食べるつもりはないよ」


 慌てるマリコルヌにしたり顔で話すルイズ。
 状況は理解しきれないが、結局のところはギーシュもハシバミ草のサラダなど食べるつもりはさらさらない。
 付き合いきれない、と肩を竦めて立ち上がり――


 ――すぱかぁん!!


「ぐぉっ!?」

 食堂を後にしようと歩き出したギーシュは、突如後頭部を襲った強烈な衝撃に目を見開き、倒れこむ。
 その足元に転がったのは、木製の某。


 ――ギーシュは知る由も無かったが、それはとある世界では「しゃもじ」と呼ばれるものであった。


「お……おおおおおお……!!」


 後頭部にその「しゃもじ」の直撃を食らい、倒れた姿勢のままに呻き続けるギーシュ。
 いつのまに近づいたのか――その彼の背後に、仁王立ちに腕を組む一人の女性が立っていた。
 歳の頃は四十代ほどだろうか。決して美しいという訳ではないが、生気溢れるその所作から、好感を持つ者を多いだろうと推測できる、そんな女性。
 白い服――彼女の国ではこれが調理の正装なのだという「カッポー・ギ」なる物を服の上から着ており、髪は邪魔にならないようにか頭の上で丸めてまとめてあった。

「なっ……何をするんだ平民!!」

 ようやく回復したギーシュはふらふらと立ち上がりながらも、狼藉を働いた見慣れぬ「平民」を睨みつける。

「あんた。今、サラダ残したままに行こうとしたね?」

 対照的に、女性の声は静かなもの。
 しかしそれは、例えるなら噴火直前の火山である。そうと容易に知れるほどに、抑え切れぬ怒気が言葉の端々から滲み出てきていた。
 表情は怒りに彩られ、その怒気もギーシュ一人へと向けられたものであるはずなのに、周囲の貴族達ですら腰が引け、遠巻きに見守るばかりになっている。

「ぁ……あああああ……っ!」

 ギーシュの傍にいたマリコルヌなど腰を抜かしてしまっていた。

「ギーシュが……ギーシュがっ! あのお方のお怒りに触れてしまったぁ!!」

 何かのトラウマでも思い出したのか、今にも泣き出し、失禁しそうな気配である。

「ああ、それがどうかしたというのか!? まさかそんな程度の理由で、貴族である僕に平民が手を出したとでも言うのか!?」

 無論、そんな女性の怒りをギーシュも敏感に感じ取っていた。
 だが、同時にそれは彼にとって「たかが平民の怒り」でしかない。
 怖れるようなものでもなく、ましてや貴族の子弟。しかも名門グラモン家の己にこのような仕打ちをした、という怒りの方がよほど強い。

「そんな、程度?」

 そんなギーシュの最後の一言に、ぴくり、と女性の眉が釣りあがり――同時に手元が霞む。

「――っ!?」

 瞬間、ギーシュは怒りも忘れて目を見開いてしまう。
 ギーシュの足先、1サントにも満たない位置に包丁が深々と突き立ったのだ。

「ぅ、ぁ……ぇ……?」

 外した――訳ではないだろう。
 その気になれば、明らかに殺れる動きだ。


「貴族だろうがなんだろうが……」


 あまりの事に驚き、固まるギーシュに向けて、その女性は大きく息を吸い込み、
ギロリ、と鋭く細められた目がギーシュを射抜く。



「お残しは、許しまへんでぇ!!」



 有無を言わせぬ迫力で放たれたダミ声が、食器が音を立てて鳴り出すほどに、食堂全体を大きく震わせた。





「……可憐だ」

 騒ぎを聞きつけ、そっと様子を伺っていたマルトーの口から、ギーシュに相対する女性へと向け、そんな一言が零れ出た。

(そ、そーいう事だったんですか……)

 同様に様子を窺っていたシエスタの頬を、一筋の汗が垂れ落ちる。

 ヴァリエール家の末娘が召喚した平民。
 やや歳はとっているものの、以前の経歴を生かし、気さくな笑顔と共に食堂を手伝うといってくれた女性。

 その独特の調理法、調味料の使い方はどこかシエスタの故郷の味を思い起こさせており、彼女自身もその使い魔である女性に好感を抱いている。

(だとすると、お似合い……かもしれませんね)

 何とか立ち直ったシエスタは二人が上手くいくといいなあ、と考えつつ、くすりと小さな笑い声を漏らしてしまった






◇◇◇


 この後、栄養バランスが完璧に調和した食事の完食を義務付けられたトリステイン魔法学院出身の貴族らは、他の貴族に比して格段に健康体の者が多くなった、と後の歴史書には記されている。

 教師らも多くが健康体のままに往年を過ごし、一説には齢五十を越えて黒々とした髪が蘇り狂喜乱舞した男性教師までいたとの記述まである。


 だがしかし、それほどの功績を残した当の本人は、平民であったゆえか歴史書に名前は残されていない。
 ただ、その愛称のみが小さく綴られていた。


 曰く、トリステイン学院最強の女・『食堂のおばちゃん』、と。





『忍たま乱太郎』より食堂のおばちゃんを召喚




[12914] ルイズが白銀の騎士を召喚しました
Name: giru◆2ee38b1a ID:33ec19b8
Date: 2011/04/19 02:18
「魔法を使える者が貴族なわけじゃない……!」

 圧倒的な質量で迫るゴーレム。
 脚を振り上げ、その落下地点に定められたルイズは、それでも一歩も動こうとはしなかった。
 それは恐怖からではない。
 否――恐怖も確かにある。だが、それを遥かに上回る使命感。貴族たらんとする誇りが、ルイズをその場へと踏み止まらせた。

「敵に背中を見せない者を貴族というのよ!!」

「ルイズ!!」

 キュルケの叫びに、しかしルイズは振り向く事なく退くことも無く、正面に迫るゴーレムを前に高らかに宣言した。
 彼女に手立てなどない。ゼロと蔑まれ、コモンマジックの一つも使えない、身体能力など語るまでも無い。
 それでも彼女は圧倒的な質量を誇るゴーレムを前に逃げる事なく睨みつけた。


 ――……――……!!!!!!


 程なくして大地を揺るがす地響きと共に、ルイズの姿はゴーレムの足元へと消える。

「そん……な……」

 タバサと共に彼女の使い魔・シルフィードに乗ったキュルケの口から呆然とした呟きが漏れた。
 そしてタバサもまた言葉こそ口にしなかったが、眼を見開いている。

「――!」

 だが、じきに眼鏡の少女の口が小さく開かれた。

「……あそこ!」

 そして一点を指差す。
 キュルケもタバサの指先を追って、その地点へと眼を凝らすと――

「あれは――!」






「ご主人……このような無茶、二度としないでいただきたい」

 その男は呆れ七割、感嘆三割ほどの感情を乗せて言葉と共に腕の中に抱いたルイズを見やる。

「あんた……!」

 彼女の体は、その男に守られるように抱きしめられていた。それはさながらおとぎ話のプリンセスのように。呆然と男の腕の中でその顔を見つめ返すルイズの耳に、ズズンとゴーレムの足が大地へと振り下ろされる轟音が響いた。
 僅かに遅れ、地響きが伝わってくる。

「お怪我はありませんか」

 白銀の甲冑に身を包んだ威風堂々たる騎士。
 髭をドワーフのように刺々しく伸ばしているものの、不思議と不潔感はない。
 むしろその容貌が彼を一層勇ましく引き立ててすらいる。そしてそのような中で唯一、双眸だけが優しく彼女を見下ろしていた。

 そしてルイズは、その騎士――自身の使い魔の名を叫ぶ。

「あ……アーサー!」

「ご主人。お下がりくだされ」

 ゴーレムから距離を取りつつ、使い魔たる騎士・アーサーは丁寧にルイズを地へと降ろす。
 程無くして、タバサの駆るシルフィードがその場へと下降してきた。

「ダーリン、大丈夫?!」

 キュルケの呼びかけに、アーサーはこっくりと頷く。

「ああ、問題は無い」

 そしてキュルケたちの方へと、ルイズをそっと押しやった。

「二人とも、ご主人を頼む」

「――って、アンタはどうするのよ!?」

「あのゴーレムを片付けましょう」

 トリステイン魔法学院に忍び込んだ賊によって、宝物が奪われた。
 それを取り返さんと、結成された奪還隊。とはいえその顔ぶれは、賊である土くれのフーケの実力に教師陣は尻ごみをしてしまったため、学園生徒と学園長秘書のみという体たらくであったが。

「で、でもあんた一人じゃ……っ!」

「無茶」

 ルイズが必死に。そしてタバサも冷静に分析する。
 彼女たちもこの騎士の実力は良く分かっていた。幾度と無く魔界の住民たちと渡り合ったと豪語するだけはある素晴らしい実力を備えており、女神の祝福――と本人が語る、武器を無限にその手へと生み出す魔法を身につけていた。
 つい先日にも彼女らのクラスメイト・ギーシュと決闘の真似事をする事にもなったのだが、その実力によって彼の使役するワルキューレ――青銅のゴーレムを傷一つ負う事なく仕留めきっている。

 だが、今回ばかりは相手が悪い。
 彼の武器を生み出す魔法も所詮はそれだけでしかない。
 武器は武器であり、投擲したものも特に特殊な魔力を帯びているわけではなかった。
 いくら投げ放ち続けた所で、あのゴーレムはいかほどの痛痒も感じないだろう。

「ええ……確かに私も今のままでは分が悪い。
 ですが私はご主人の騎士。ご主人が逃げぬと言うのであれば、私も逃げる訳にはいきませぬ。
 そして、ご主人が戦うというのであれば、その剣となり、槍となりて戦うが騎士たる者の務め」

「アーサー……でもっ!」

 アーサーの言葉は、全て主人であるルイズのためのもの。
 尚も言い募ろうとする主に、アーサーはそっと微笑みかける。

「心配には及びませぬ。
 確かに分が悪かったのは事実ですが……これがあれば話は別です」

「――それは!?」

 言葉と共にアーサーが掲げたものは、事の発端である魔法学院の宝物であった。
 それは透明な球体。そしてその中では紅と蒼の光が互いに混ざり合うように浮かび、輝きを放っている。
 オールド・オスマンが若かりし頃に見つけた物であり、莫大な魔力を感じ取れるものの、その用途が一切分からず宝物庫へと死蔵するしかなかった――出立の際、そのように経緯を聞いていた宝物。

「ぬぅん!」

 アーサーが球体を一層強く握り――そして球体が割れたかと思うと、紅と蒼の光が彼を包み込んだ。

「え……? な、なに?! 何をしたの!? あんたそれを知っているの!?」

 フーケの後を追って古ぼけた小屋へと赴けば、賊の姿などなく、あったものはその宝物だけ。
 誰もが手に取り、しかし使い方など分からずに頭を突き合わせていれば、外からの地響き。
 慌てて出てみれば、今に彼女らの前にはだかるゴーレムが姿を現しており、慌ててキュルケとタバサは一時その場を離れ――そしてルイズはその場へと踏みとどまっていたのだ。
 その際に当の宝がどうなったか皆の記憶でうやむやとなっていたのだが、どうやらアーサーが回収していたらしい。

「……パワーアップの魔力。四度目の魔界の旅にて私も幾度と無く世話になった代物です」

 驚くルイズの前で、アーサーは厳かに呟いた。
 そして紅蒼の輝きをその身に宿した騎士はそっと己の武器――長大なランスを肩に担ぐ。握り締めたランスもまた、程無くしてアーサーと同様の輝きに包まれた。
 その穂先に据えるは彼らを踏み潰さんとする土塊。

「ご主人、ご安心を。
 あのような狼藉者に、ご主人は指一本触れさせませぬ」

 それだけを言い残し、アーサーはゴーレムへと立ち向かう。

「アーサー!!」

 ルイズが叫ぶ。だが、アーサーは止まらなかった。
 恐れも無く、躊躇いも無い。
 ただ主を守らんとせんがため、騎士は突き進む。

「ハアアアアアアアア!!!!」

 そして、裂帛の気合と共にランスが投げ放たれた。









(すごかったわよねぇ……あれ)

 優雅な音楽が奏でられる、絢爛煌びやかな舞踏会。
 盗賊騒ぎが一件落着し、学院内でつつがなく開始されたパーティの一角。そこでルイズは手に取ったグラスに口をつけつつ、先の一件を振り返っていた。

(まさかあの宝物に、そんな力が秘められていたなんて……)

 パワーアップの魔力によって強化された槍は、まさに大砲の主砲とも見紛うほどの威力でゴーレムを貫いた。
 そして、彼の放つ槍は一本ではない。
 祝福によって幾度と無くその手に生み出し、そして投げ放つ事が出来る。
 強化された槍の威力。その連射にはさしもの巨大ゴーレムも勝てず、アーサーは前言通り片付けてしまった。

 その後に悶着はあったものの首謀者も捕らえられ、こうして無事に舞踏会も開催できている。

(それにあいつ……中々やるじゃない。
 サモン・サーバントに応じて出てきたのが人間だったから、最初はどうなるかと思ってたけど……)

 だが、出てきたのは紛れも無く立派な騎士だった。
 事情を聞いたアーサーは己には主君がおり、元の世界に帰るまではと条件をつけはしたものの、ルイズに絶対の忠誠を誓ってくれている。
 そして事実、彼はあの場でルイズを救い、使い魔として――そしてそれ以上に彼女の騎士として彼女を守り、そして見事功績を打ち立てた。

(あの時のアーサー。ちょっとかっこよかったかも……)

 ――と、そこまで考えてルイズは激しく頭を振る。

(って! そうよ、あいつは使い魔なんだからご主人様の身を守るのは当然じゃない!)

 踊りませんかと誘ってくる男子生徒を適当にいなしながら――普段はゼロと蔑むくせに、着飾った途端に声をかけてくるその軽薄さに辟易としながら――ずんずん、とフロア内を歩き回る。

(で、でも確かにあのゴーレムに踏み潰されかけた時に助けてくれたのはありがたかったし、逞しかったし……って駄目駄目! あいつは所詮使い魔、使い魔なんだから……っっ!!)

 必死に己の内で生まれようとする感情を否定するが、その一方でしかし、と考える自身も居た。

(そ、それでも助けてくれたのは事実なんだし、こ、ここはご褒美として一緒に踊ってあげるくらいはしてあげてもいいわよね…………?)

 必死に――自覚無く、アーサーを褒めちぎる自分自身を正当化しようとするルイズ。

(そ……そうよ! ど、どうせあいつだってむっさい男なんだから、せめて今日くらい私が相手してあげなきゃかわいそうじゃないっ!
 これはご褒美、ご褒美なのよ!!)

 この舞踏会にも、『寛大にも』ルイズはあの使い魔騎士に出席を許可していた。

(ふ、ふん……。どうせ大した服も持ってなかったはずだし、私くらいしかあいつと踊ろうなんて物好きなんていないんだろうから――)


「キャアアアアアアアアアアア?!」


 ルイズの思考を遮ったのは、甲高い女子生徒の声であった。
 しかも一色ではない。
 ある方向から、次々と悲鳴が上がってくる。

「な、何事!? って、ぃ、ぇ――――!?」

 ルイズも。
 そして周囲に居た者たちも声の上がった方向へと注目し――そして全く同じタイミングで全員が表情を引きつらせた。



「ご主人。そこにおられましたか」



 女子生徒の悲鳴が上がった方向から、呑気な声が上がる。
 まるでモーゼの十戒のごとく避けた人々が道を割り――そこをゆっくりと進んできたのは、彼女の使い魔・アーサーであった。

「あ、あ、あ……っ!!!」

 そして。

「あ、あああああああんた、な、ななななななんてカッコーしてんのっ!!!??」

 前に立った『ハート柄のパンツいっちょ』のアーサーに、先までのトキメキも忘れてルイズは怒鳴りつけた。
 だが、そんなルイズの態度にアーサーはむしろ怪訝そうに首をひねる。

「いえ……舞踏会に出席するには正装、と伺っておりましたゆえ、この格好にさせていただいたのですが……」

「正装!? アンタそのカッコがせいそーなの!?」

 下の皮膚が見えなくなるほどに濃く生えた胸毛や腕毛も露にしたその格好に、ルイズがずびしと指を突きつけて絶叫する。
 だが、やはりアーサーは動じない。

「ええ。仕えております姫の遠乗りに付き合う際には、いつもこの格好でしたが」

「あんたそのカッコーでお姫様は何も言わなかった訳!?」

「とても嬉しそうにいたしておりましたが」

「ちょっ……!」

「向かう先はいつも姫お気に入りの墓場でしたな……思えばアスタロトの奴めに初めて姫が攫われてしまった日も……くっ!」

 何を思い出したのか目じりに涙を滲ませ、慌てて腕で拭う。
 だが、そんなアーサーの態度にルイズは眼を白黒させる事しかできない。

「おかしい……! アンタもそのお姫様もずぇったいおかしいわっ……!!」

 そんなルイズの呻きなど聞こえてはいなかったのか、じきにアーサーは腕を振り払い、かっと眼を見開く。

「ですがご主人っ!! ご主人はそのような危うい眼には遭わせませぬぞ! 先の一件にてご主人を危険に巻き込んでしまったのは私の失態! ですが! いえ、だからこそ! 必ずやこのアーサー、元の世界に帰れるその日まで、ご主人を命を賭けて守り抜く所存っ!!」

 使い魔のルーンによる洗脳効果なのか、はたまたアーサー生来の無骨な忠誠心なのか。
 ……あるいは既に酒でも入っていたのかもしれない。なんかちょっと赤ら顔になってるし。

「みぇっ!? ちょ、そ、その顔よせないでえええええ!!!?」

 感極まったパンいちの騎士はずずいと踏み込み、血走った眼で主君に宣言する。
 そして奇妙な叫び声と共に腰を退かせるルイズの周囲で、何やらひそひそと話し声が聞こえてきた。



「ゼロの奴、あーゆー趣味だったのか……?」
「つ、使い魔にあんな格好させて舞踏会に出すなんて……」
「それに素直に従うなんて、あの使い魔も中々やるよな」
「中々できる事じゃないわ。よっぽどゼロに忠誠を誓っているのよ」
「それをあんな形で忠誠試すなんて、あいつちょっとSっ気があるんじゃないか?」



「って、そのへんっ! 好き勝手いってんじゃないわよおおおおおおおおおお!!!」


 迫り来るアーサーの顔を押し返しながらルイズは絶叫した――が、とーぜん現在展開中の状況証拠の前では、何の効果もなかった。




 で、その後。
 アーサーによる髭面の大接近がそれ以来ミョーなトラウマにでもなったのか、お忍びの姫より承った密命を受けた際に再会した婚約者――ワルドが彼女を抱きしめようとした際、「ヒゲはいやー!!」とほとんど発作的に手加減抜きの爆発魔法をぶっぱなし、彼を再起不能に陥れたそーな。








『魔界村シリーズ』よりアーサーを召喚






[12914] ルイズが金髪の悪魔を召喚しました
Name: giru◆2ee38b1a ID:39612979
Date: 2012/11/20 22:38
「おいおい、俺が嬢ちゃんの財布をスッただって?」

 心底バカにしたような視線を向けられ、ルイズの眉間に一層深く皺が刻まれた。
 だが、男は恐れる様子もなく、むしろ殊更にわざとらしくため息を吐く。

「言いがかりはやめてくれよな。一体何の証拠があってそんな事言うってんだよ」

「だ、だってアンタ、私に妙なぶつかり方したじゃない! その後に調べたら財布が無くなってたんだから、アンタがやったとしか考えられないわ!」

「単に落としたんじゃないのか?」

「落とすようなところに財布なんかしまってないわよ!」

 王都トリスタニア。
 しばらくぶりの休日に、ルイズは使い魔の武器購入を兼ね、学園からこの都へと足を伸ばしていた。
 そして使い魔のための武器……一振りの剣を購入後、何か軽いものでも食べようと財布の中身を確かめてみようとすれば、当の財布が影も形も無くなっていたのだ。
 剣を購入したときには確かに持っていた。ならば、そのときから財布を改めようとしたときまでの間に無くしてしまったに違いない。
 そしてその道程の中、妙な男に不自然なぶつかり方をされてしまった事を思い出し、周囲へ聞き込み、何とか件の男を探し当て――そして冒頭に戻る。

「『偶然』ぶつかっちまっただけだぜ? ちょっとばっか足元ふらついてたかもしれんが、それだけで人を犯罪者呼ばわりたぁ、ヒデー貴族様もいたもんだ」

「で、でも……っ! 確かに妙なぶつかり方したじゃない! 私は避けようと半歩横にずれたのに、あんたはむしろぶつかりに来たみたいだし……!」

「アぁん?」

 男の声が、一際高くなる。

「それだけで俺を疑うってのか? 証拠あんのか? 人を疑うってのが、どれほどの事か分かってんのか?」

「くっ……!」

 静かに、穏やかに並べ立てられる理屈に、しかし気圧されたようにルイズは一歩退いてしまう。
 落とした事はまずありえない。何せ金銭に関しては母の躾も殊更に厳しく、どれだけ些少なお金であっても、決して落とすような所に入れて持ち歩くな、と幼い頃からきつく言われ続けていたのだ。
 自身の性格。しまっていた場所。男の不自然なぶつかり方。その直後に財布を失っていた。
 この男が財布をスッたのは、状況的には明らかなのだ。だが、確かに具体的な証拠は何一つない。

 貴族の……それもヴァリエール公爵家の威光を笠に着て、無理やり身体を改めるという強行手段も無いわけではない。
 だが、家名を出すとなると、万が一財布が見つからないなどという事になってしまえば、最悪、ルイズ個人の問題では済まなくなってしまう。
 ルイズが騒ぎ、既にかなりの人目も集めてしまっているのだ。財布の中身は惜しいが、流石に己の家柄や矜持の全てと天秤にかけられるほどには重くない。
 万が一の失敗のリスクを考えれば、それ以上強く出ることは出来なかった。

 興奮が冷め、徐々に頭が冷静になると共に、己が軽率にがなり立てすぎた事をルイズは自覚した。

「どーなんだ? アぁ?」

 ルイズの気勢が削がれたのを見て取ったのか、男はここぞとばかりに畳み掛けてくる。

「……」

 対するルイズに、反論の術は無かった。
 チッとわざとらしい舌打ちとともに男が背を見せ、これで話は終わりだと言わんばかりにゆっくりと歩き出す。


「――待てよ」

 拳を握り締め、見送ることしかできなかったルイズの背後から声が上がった。
 声の主は、年は十代後半ほどの少年であり――そして、彼こそがルイズが召喚した『使い魔』であった。
 髪の色は金。しかし生え際は黒い。地毛ではなく染めているのだろうか。端正な顔立ちをしており、しかるべき格好をして、しかるべき立ち振る舞いをすれば、それなりに女性受けはしそうな容貌である。
 服はこの辺りではあまり見ない黒の上下。その背に背負われた剣だけがやけに「この国らしく」、結果として少年の全体の雰囲気を、奇妙なものへと変じさせていた。

 そして、そんな風体であるところの少年は一歩進み出る。
 男はそんな少年をルイズの従者か何かと判断したのか、首だけで振り返り、面倒くさげに鼻を鳴らす。

「あぁん? 何だ、オメーまでありもしねー疑いをかけ――」



「犯人はオマエだ!!!」



 男が全てを言い切るよりも早く、ずびし、と指を突きつけて高らかに宣言した。

「ちょ、ちょっと、ミツハシ!?」

 使い魔の少年――三橋貴志の断言にルイズも思わず声を上げるが、彼の弁舌は止まらない。

「今ンとこ、テメーしか疑わしい奴がいねーんだからな。テメーが犯人でしかありえねー」

 まるでそれ以外の解答などありえない、認めないとでも言わんばかりの断言ぶりである。
 当然、このような言葉をぶつけられた側は、たまったものではない。

「なっっ……! 何だソリャ、フザケんな! そんな事で人に疑いかけていいと思ってんのか!?」

 それまでの余裕綽々ぶりはどこへやら。
 迷い無い断言が意外とこたえたのか、男は三橋に向き直って怒鳴り返してきた。
 
「間違いだったらどう責任取るつもりだってんだ! あぁ!?」

 その口から出たのは、先ほどルイズを怯ませた言葉。
 状況証拠ばかりの中、公衆の面前で明確に疑いをかけるなど、並大抵の度胸で出来る事ではない。
 よほどの確信が無ければ、昨今のことなかれ貴族の小娘ごときが切り返してくる筈も無い。不服に思いながらも、明確な証拠を示すことも出来ず、悔しさを滲ませながら引き下がるしかないはずだった。
 当然、それはこの従者らしき男も同様である。少し「責任」という言葉を被せてやれば、引き下がるだろう――男はそう読んでいた。

 だが、三橋は全く怯む事無く、むしろ目を細めつつ更に一歩進み出る。

「テメーの都合なんざ知るか。金がなきゃ俺様が困んだよ。テメーが犯人じゃねーと、下手すりゃウチに帰れねーかもしんねーんだからな」

「はっっ……はぁあ!?」

 いっそ清清しいまでに自分勝手な理屈である。
 従者であれ奴隷であれ、まず貴族の側仕えをしているような平民の思考形態ではなく、今の状況は男にとって全く予想外のものであった。
 そのあまりの流れに呆れ、或いは怒りのあまり反論の言葉をとっさに叩き返すことができないのか、すっとんきょうな声を上げた後、男はぱくぱくと口を開閉させるだけであった。
 三橋はそんな男の目前にまで迫り、脅すように細めた目で睨みつける。

「そっ、そんなの、テメーの勝手――!!」

 睨まれて逆に精神が冷えたのか、はたまた ようやく言葉が見つかったのか。
 男が三橋を追い返すように声を張り上げる。
 だが、そんな男の反論に聞く耳を持たん、と言わんばかりに三橋の手が閃いた。

「ルイズ、財布ってコレか?」

「なっ――!?」

 迫力に圧され、口を開いた一瞬の虚を突き、三橋が男の懐から財布を奪い取ったのだ。

「う、ううん……これじゃない」

 人間離れした早業にルイズも度肝を抜かれつつ、財布を確認する。
 が、三橋が手にしていたそれは、彼女の財布ではなかった。

「これじゃないってさ。返すねー」

「テッ……テメー! ふざけん――!!」

 違うと聞くや、あっさりと財布を差し出す三橋。
 その態度に青筋を浮かべた男に、更に三橋の手が閃く。

「そんじゃコレか?」

 次の瞬間、三橋が手にしていたものは、先ほどとはまた違う財布。

(はっ……速い!? この界隈じゃスリでならしたこの俺が全く反応できないだと!?)

「あー、私の財布っ!!」

 驚愕する男の前で、ルイズが己の財布を受け取り、慌てて中身を確認する。

「…………ちょっと。中身、カラなんだけど」

 武器屋で三橋が今背負っている剣を購入したが、それでもいくらか余っているはずだった。
 ようやく戻ってきた財布に安堵した次の瞬間、中身がカラだと気づいたルイズは、今度こそ明確な怒気と共に男をにらみつけた。

「お金は勿論だけど、やっぱりアンタがスッてたんじゃない!」

 しかし男は驚愕から立ち直った後は、当初と同じような、薄い嘲るような笑みを顔に貼り付ける。

「ああ、そいつはお嬢ちゃんの財布だったのか。そいつはついさっき拾ったもんでな、後で衛兵にでも届け出ようと思ってたさ」

「じゃあ私が財布を出せって言って、どうして素直に出さなかったのよ!?」

「そりゃ、お嬢ちゃんが財布の持ち主だなんて知らなかったし、気づかなかったからな。いやぁ悪いことをしたぜ」

「こ、の……っ! 言うに事欠いて……!!」

 あくまで自らの罪科を認めようとしない男に、ルイズの握り込まれた拳がぶるぶると震えだす。

「いいか嬢ちゃん。『俺はただ空の財布を拾っただけ』で、それも後でちゃんと届け出るつもりだったんだぜ? それをスリ呼ばわりした挙句に、手に戻った今でもグチグチ文句を言うってなぁどうかと思うがなぁ」

「ぐ……!」

 罪科を認めないどころか、またしても同様の理屈を並べ立て始める。

「どうなんだ、嬢ちゃんよぉ。むしろ心傷つけられた俺が、慰謝料の一つでも請求したいくらいだぜ?」

 口八丁。
 どうあってもスリの事実を認める気は無いらしい。

 腹立たしいことに、中身は――ほぼ間違いなく――目の前の男に抜き取られているが、これ以上粘ったとしても、男を追い詰めることはできないだろう。
 未だ納得できかねる部分はあるが、それを筋の通った言葉、或いは行動に転化する事ができないルイズに、男は再び鼻を鳴らす。

「そーそー。財布が戻ってきただけでも良しとしなきゃな。大体、本当にスられたんだったとしても、スられるマヌケがいけねーんだよ。もし俺が気づかれずに財布スられたってんなら、いくら入ってよーが落としたモンと諦めるぜ」

「へぇ……本当かよ?」

 ルイズの眉がつり上がる隣から、三橋が再び口を挟んできた。
 その自信に満ちた、確認するような口ぶりに、男の表情が怪訝なものとなる。

(野郎……まさか俺からスるつもりか?)

 だとしたら、随分と舐められたものだ、と男は胸中で哂う。
 先ほどの手の速さには確かに驚いたが、一度眼にしているのだ。警戒を緩めていた時ならばいざ知らず、気を張っている今ならば、どれほどの早業であろうと、その瞬間を捕らえる自信があった。

「あたりめーだ」

 故に男は絶対の自信を持って頷く。
 その首肯を確認した三橋は、つい、と首を上にあげて呟いた。

「あっ……雲だ」

 珍しいものでも見つけたかのような、少し高い声。
 ルイズも、そして男も。三橋の声音に思わずつられて頭上へと視線を移す。
 そしてそこには、確かに三橋の言葉通り、ふわりふわりと、大きめの雲が三つほど浮かんでおり――



バガッ!!



「えーと、そんでルイズ。オメーはこいつに金をいくら盗られたんだっけな」

 空を見上げていた男に向け、三橋は何の迷いも無く左頬へと右ストレートを叩っ込み、意識を刈り取っていた。
 目の前で繰り広げられた、あまりにも躊躇無く、逡巡の欠片も無いドヒキョーな行為にしばし放心していたルイズであったが、先ほど奪った後に返していた財布――恐らくは男の本来の財布なのだろう――の中身を改め始めた使い魔の姿に我に返る。

「こっ……コラコラコラコラコラ!! コイツも流石に褒められたヤツじゃないけど、あんたもそれは人としてどーなのよっ!?」

 対する三橋には、全く悪びれる様子が無い。

「いやだって、コイツが言ったんだぜ? 気づかれずに財布奪ったら中身を持ってっていいって」

「い、いや確かにそーゆー事は言ってたかもしれないけどっ!?」

 確かに言っていたかもしれないが、だからと言って三橋の行状が「アリ」なのだろうか、と突っ込まずにはいられない。

「大体、アレだけ証拠揃ってんのに悪あがきしてるようなヒキョーモンだぞ」

 この男の態度も大概ではあったが、三橋にだけは卑怯者呼ばわりされたくないだろう。
 しかし呆れ、突っ込みを入れるルイズをよそに、三橋はきっちりと元々持っていた分だけは徴収する。

「さ、行くべ。まずはメシ食わねーとな!」

 やることをやり遂げ、満足げな笑みを浮かべる三橋。
 一部始終を見守っていた群衆のひそひそ声など、この男の耳に入ってもいないのだろう。

(そーいえばミツハシって、この前にギーシュとヴェストリの広場で決闘やったときも「不意打ちクラッシュ!」とか叫びながら背後から飛び蹴り入れたり、いつの間にか調達してたチョーク箱で「チョークバコメツブシー!」なんて事もやってたっけ……)

 しまいにゃ厨房で調達した調味料で偽の血まで作って過剰な大怪我を装って狼狽を誘う真似すらやってのけたのだ。
 そしてその時ですら、卑怯だとなじるギーシュやギャラリーに対し、むしろ満足げに胸を張っていたほど。
 今更周囲の風評など、この男の精神に毛筋ほどの傷をつける事も無いだろう。

「……いやー、俺っちも長い間色んなヤツの手に渡ってきたけどよー」

 何かの弾みで留め金が外れたらしい。
 三橋の背で僅かに鞘から引き抜かれた刀身から、つい先ほど購入したインテリジェンスソードが呆れたような感心したような声を上げる。

「――コイツほどにド卑怯な使い手は、未だかつて見た事無いわ」

 その知恵ある剣の呟きは、ルイズは元より、周囲の群衆、そして未だに気絶しているスリの男の気持ちをすら、何よりも明確に代弁していた。





『今日から俺は!!』より三橋貴志を召喚



[12914] ルイズが美人三姉妹を召喚しました
Name: giru◆2ee38b1a ID:99e4374a
Date: 2013/07/05 12:44
「妲己も聞仲くんも、君には一目を置いていた。実力者は皆、何故か君を高く評価している。
 ……でも僕は、君をまだよく知らない」

 巨大な船の中、その甲板近くで、持ち主たる趙公明が高らかに叫んだ。

「……ふむ。では、どうするというのかのう?」

 相対する太公望は、これより始まる戦いの気配を前に、己の霊獣・四不象に下がるよう命じる。

 周という国を建国し、腐敗・堕落しきった殷を討伐する。
 その過程で障害となる仙人・道士たちの魂魄を封じる封神計画。
 計画の実行者たる太公望は、同時に周の軍師でもあり、しかも周軍は殷へと向けて進軍している最中であった。
 そこへ突如現れた金鰲島の仙人・趙公明に仲間達を捕らえられてしまい、その奪還のため、この巨大船――クイーン・ジョーカー号へと乗り込んでいた。
 苦戦しつつも次々と仲間を取り戻し、そしてついに趙公明の下へとたどり着いた太公望は、捕まっていた最後の仲間・四不象を救出したのだった。
 その後、何故か懇談の席を、と趙公明が持ちかけたディナーの席につき、互いの主義主張を確認しあっていた。
 しかし、理解できたのは、決して互いが相容れぬか関係であった、という事のみ。
 やはり戦うしかない。そう考えた趙公明が手に持った鞭型の宝貝『縛竜策』を突きつけ、それに太公望も応じ――冒頭へと戻る。

「だから、確かめさせてほしいのさ、君の強さを。本当に僕と戦うに足る資格があるのかどうかを!」

 その叫びと共に、趙公明のすぐそばの床に大きな円が刻まれ、円周が金色に輝きだす。

「さあ、出てきたまえ! 僕の可愛い妹たち!」

 輝きが一層激しさを増し、煙までもが噴き出してきた。
 更にどこからともなく荘厳なファンファーレまでもが鳴り響き、そして――


 ――…………し~ん


「うん……?」

「ぬ?」

 まずは趙公明が。次いで太公望までもが怪訝な表情になる。

「……ご主人。誰も出てこないッスよ?」

 白カバ――もとい四不象の言葉通り、光が消え去り、煙も流れ、ファンファーレが止んだ後、円の中には何者の姿も無かった。











「私は長女ビーナス!」

 筋骨たくましい肉体に、ノースリーブのナース服のような格好をした女性(に見えなくもない人間)が、高らかに名乗る。

「私は次女のクイーン!」

 実年齢はさておき、外見年齢は軽く数百歳はイッてるような割に、少女趣味丸出しの出で立ちをした女性(かもしれない人間)が、鷲鼻を揺らしながら続く。

「「そしてこの子は三女マドンナ!」」

 そんな二人の背後――大岩と見紛うほどの巨体。
 その九割以上が脂肪とセルロースで形成されていそうな丸まった身体をした人間(だと信じて見れば、そー見えなくもない肉塊)を、ビーナスとクイーンが声をそろえて紹介する。

「うぅ~!」

 が、紹介された当人は、我関せずと言わんばかりに、痛そうな叫び声をあげている。
 その体躯。そして左手に握り締めたお菓子袋から見るに、痛風か口内炎でも発症しているのかもしれない。

「「私達、趙公明美人三姉妹が、お相手をして差し上げてよっ!」」

 トドメと言わんばかりの決めポーズ。
 物欲しげな視線、そして真っ赤なルージュを引いた唇に指を這わせるビーナス。
 そんな姉よりも一歩前に出て、丁度片目で流し目を送るクイーン。
 相変わらずマイペースにお菓子を貪り食うマドンナ。

 が、彼女らの容姿は前述の通り。
 そんな者らがこうしたモデルポーズを決めているのである。

「ぐはっ……!」

 気の弱い者ならば引き付けを起こし、心臓の弱い者ならば、それだけでお迎えが来てもおかしくない破壊力であった。

 そのような三人組を召喚した当人であるルイズは元より、周囲の人間、特に運悪く近い位置に立ってしまっていたギーシュなど、突如として吐血までしてしまう始末であった。

「ぎ、ギーシュ!? しっかりしろ、傷は浅いぞ!!」

 慌てて介抱するのは、級友のマリコルヌ。
 ポージングの瞬間、こちらは位置が良かったのか、辛うじて目をそらす事が出来たために何とか倒れずに済んでいた。
 もっとも、彼が儀式で呼び出したフクロウは直視してしまったのか、ぼとりと地に落ちていたが。
 幸い契約を結んだばかりで、まだ視覚の共有等も十分に行われていなかったため、マリコルヌに影響は無かった。

「うぅ……マリコルヌ。僕はもうダメだ……」

「いやああああ、ギーシュ!? しっかりして!!」

 その様子に、モンモランシーが悲痛な叫びを上げる。
 ギーシュが直視してしまったのは、咄嗟にモンモンを庇ったためでもあるらしい。

「ああ、僕のモンモランシー……君を愛していた、よ………………ぐふっ!」

「だめ、ギーシュ! しっかりしてっ!!」

 勿論ギーシュだけではない。

「ぐ、ぅ……」

 吐血こそした者は少ないものの、がくり、と倒れ伏す者。

「ぉ、おえっぷ……」

 とても文字では表せない声で胃の中を逆流させてしまう者。
 更には両目を押さえて「目が! 目がぁ!!」と叫ぶ者など、その被害は計り知れない範囲にまで広がっていた。

「あらやだ。あたし達の魅力でこんなにも多くの人を悩殺しちゃうなんて」

「美しさって……罪ね」

「違う……っ! ずぇっっっったい、違うわ……っ!」

 荒い息を吐きながら、それでもルイズが力の限り突っ込んだ。
 どうやら超近距離でポージングを直視したため、逆に精神のブレーカーが落ち、それ以上の精神汚染を防いでいたようだ。
 何とか精神の均衡を立て直したルイズは、ふらふらと身体を左右に揺らしながらも、両の足で大地を踏みしめる。

「……それでここはどこなのかしら?」

「確かあたし達、クイーン・ジョーカー号の中で、お兄様にお呼ばれするまでスタンバっていたはずなんだけれど」

 ひとしきり名乗りを上げ、ポーズを決めて満足したらしい三人が、ようやく状況のおかしさに気付いたらしい。

 ルイズも何とか直視を避けながら、手短に現状を説明する。

「そ、それなんだけど……」

 春の儀式。
 進級。
 使い魔の召還
 使い魔の契約概要等々


「多分、あなた達の中の誰かを召喚する事が出来て、他の二人は一緒に呼んじゃったんだと思うの」

 そこまで言って、ルイズは言葉を切る。
 改めて、目の前の三人を順繰りに見やった。

「で、呼び出した以上、私はあなたたちの誰かと契約しなきゃならないんだけど……」

 一人目。
 筋肉質のノースリーブナース服

「契約を、結ぶ……」

 二人目。
 御伽噺の魔女そのままな鷲鼻に、童話に出てくるお姫様のような服。

「契約……」

 三人目。
 人類か疑うほどの超肥満。
 こうしている今も、絶えず袋の中に手を突っ込み、飴だのパイだのを口の中へと放り込んでいる。

「……」

 契約しなければならない。
 そうしなければ留年になる。
 何よりも、初めて成功した魔法。その結果

 矜持や家に対する義務感だとか達成感だとか歓喜だとか馬鹿にしてきた奴らを見返してやるという反骨心とか復讐心だとか。
 そーゆー一切合財の感情よりも強く強く押し出される衝動のまま、ルイズはその言葉を口にしていた。

「チェンジで」

 だが意外な事に、理不尽に呼び出されたにもかかわらず、ビーナス達はきわめて冷静に、そして温和にルイズへと声をかける。

「あら、遠慮することないのよ? アタシ達だって、このままじゃ困るんだもの」

「そーそー、困ったときはお互い様だわさ」

 ビーナスに続き、深々と頷くクイーンに対して、ルイズがぼそりと呟く。

「何が悲しくて、脳筋マッチョか、眠れる森の魔女か、火竜の卵に手足が生えたよーなのと契約しなきゃならないのよ……」

 これがまだ選択の余地なく一人であったとかならば、ルイズも覚悟を決めて契約に臨んだかもしれない。
 しかし、一度の召喚で三人もの『人間』が出てくるなど前代未聞。
 加えてその誰もが『キワモノ』と言って差し支えないほどの濃いキャラクターをしているのだから、ルイズとしても契約の踏ん切りを付ける事は中々できなかった。

「こうした障害を乗り越えてお兄様の下へ戻る……そう、これは天が遣わした試練っ! そうよ、これを乗り越えれば、きっとアタシにもステキな恋人が……」

 幸いなことに、ルイズの「脳筋マッチョ」の呟きはビーナスには聞こえていなかったらしい。
 夢見がちにいやんいやんと身体をくねらせるビーナスに、ルイズは更に疲れたように顔に青線を走らせてしまう。

「お互い様って……誰と契約しよーが、明らかに私の方が負担大きくなりそうなんだけど……主に精神的に」

 が、そんなルイズの言葉に、クイーンがチッチッと指を振る。

「そんな事はないわよ。か弱く見えても、あたし達は趙公明の妹(シスターズ)。色々とお役に立てると思うわ」

「ホントにぃ~?」

 登場時のインパクト加減は確かに半端なかったが、ルイズの眼からは、どー見ても奇人変人のコスプレ集団にしか見えない。

(特にこいつとか……)

 三姉妹。誰を見ても、しばらく夢見に出てきてうなされそうな風貌ではあるが、その中でもやはり目を引くのはマドンナだった。
 人間の常識を遥かに超える巨体。
 なにをどー食ったらここまで脂肪をつけられるのか、逆に聞きたいほどの体脂肪率。
 この肉ダルマを見た後では、マリコルヌですら痩せ型に見えてしまうのだから凄まじい。

「――ぁ」

 ひょっとしたら、マドンナを召喚せんがためにドデカい召喚用の鏡が現れ、残りの二人も巻き込まれる形で呼び出されたのかもしれない。
 マドンナを見やりながらそんなことを考えていたルイズであったが、ふとその視線の先で、マドンナが固まる。

「ぁ……あぁ! あ、あぁ……っ!」

 カエルが潰されたかのような苦しげな呻き声と共にお菓子袋の中に突っ込んでいた手を一層激しくかき回す。

「な、何……!?」

 ただならぬ雰囲気を感じ取り、ルイズは無意識のうちに一歩後ろへと下がってしまう。

「これは、まさか――!」
「いけないっ! あんた達、はやくここから逃げ……」

「あああああああああああああああああああああ~~~~~~~~!!!!!!!」

 姉二人の声を遮るようにして、マドンナが絶叫した。

「ああ! ああ! あああああああ~~~~~~~~!!!!!」

 叫び声と共に、自らの丸い体型を利用して、いきなり転がり出す。

「な……な?! ――むぎゅうっ!?」

「な、なんだあああああ!?」

「ラッキーが!? 俺のラッキーが食われたあああ!」

 ある生徒は潰され、ある生徒は逃げ回り、またある生徒は召喚したばかりの使い魔をマドンナに食われかけ、半狂乱になって止める。

「な、な、なによこれえええええ!?」

「だめっ! マドンナのお菓子が切れたわ!」
「こーなったらもう暫く止まらないわ……」

 ビーナスが両手で口を押さえて息を呑み、ビーナスが諦め半分に呟く。

「アアあああああああああああああ~~!!!!」

「ああああああ?! クヴァーシルゥううううう!??」

 ラッキーと呼ばれた使い魔を左手でがっしりと捕らえ、残る右手でマルコリヌの使い魔である大フクロウを狙うマドンナ。

「も、モンモランシー、あっ……あぶな! ぐふぅ!?」

 何とか回復を果たしたギーシュが、側まで転がってくるマドンナからモンモンを庇う。
 ――が、無情にもぷちっと潰された。

「ぎいいいしゅううううう!?」

 モンモンが半泣きで絶叫し、その頭の上で使い魔のカエルがゲコ、と声を上げる。

「アア~~~~~~?」

 その鳴き声を耳聡く聞きつけたマドンナが、鶏肉に飽きたのか、今度はモンモンの使い魔に目を付けた。

「い……っ い~~~~~~やああああああああ!!!!!」

「あああああああああ~~~~~~!!!!」

 全力で逃げるモンモン。
 全力で転がるマドンナ。
 そしてなぎ倒される生徒たち。

 広場は阿鼻叫喚に包まれたが、それを止めるべき教師は、既に最初の三姉妹登場の時点で気絶しており――場を収拾できる者は、誰も居なかった。







「反応がいきなり消えやがったから、何をやっているかと思えば……」

 どかん、とか、ずこん、とか、ばこん、などという激しくも生々しい効果音を炸裂させている広場から少し離れた場所。
 何も無いはずの空間に、突如長方形の辺が象られ、内部に映像が映し出される。

 血色の悪い肌に加え、目の下にはくっきりとしたクマ。
 唇には悪趣味なほどに口紅が塗りたくられ、ピアスまで嵌められていた。
 おおよそハルケギニアには似つかわしくない風体の男――王天君は、長方形の平面の内部から、ぬう、と抜け出てくる。

 平面であったはずの、しかも何も無いはずの空間に浮いていただけの長方形。
 だが、そこから一歩踏み出した王天君は、縦横だけでなく、厚みも伴った生身の身体を外気に晒す。

 この地の者から見れば先住魔法か、と忌避されかねない技術であったが、仙界でも屈指の空間使いである王天君にとっては、このような技などほんの初歩に過ぎない。

 本来であれば、王天君の『出番』はもう少し後ではあるのだが、太公望と戦うべきであったはずの三姉妹の、突然の失踪。
 趙公明は特に気にせず太公望との戦いに移っていたが、『事情』を知る王天君としては、ここは何とか元の流れに戻しておきたい。
 そのためにも、三姉妹を呼び戻すべく、わずかな気配を頼りに空間を超えて居場所を突き止めたのだが……


 ぼがぁん! と、一際派手な爆発音が響いた。


 どうやらマドンナの暴走を腹に据えかねたピンク髪が、何やら爆発魔法を使って無理やり止めようとしたらしい。
 が、その爆発の衝撃も残らず脂肪に吸収され、マドンナはさして応えた様子も無く、獲物(食い物)を求めて再び徘徊する。

 王天君も、今に三姉妹と別に争う気はなく、争う事となってもそうそう遅れを取るつもりもないのだが――

「……もう少ししてから来るか」

 戻すのが遅れれば遅れるほどに修正が面倒になるが、それを差し引いても、マドンナ暴走の渦中へ身を投じたいとは思わない。
 
(いや、最悪でも金蛟剪だけでも回収すりゃーいいかもしれねーな……)

 兎にも角にも、今にあの中へ割って入るなど御免被る、と結論付けた王天君は、出てきた時と同様、何もない空間に長方形の平面を生み出し、水に飛び込むように、その中へと入っていった。





 そしてこの後(渋々)(不本意ながら)(しょーがなく)王天君が再び三姉妹を迎えに来るまでに。

 フーケの巨大ゴーレムを、マドンナがフーセンガムを食べて空に舞い上がってからのフライング・ボディプレスで粉砕したり。
(運悪く近くに隠れていたフーケも、一緒にぷちっと潰されかけた)

 ダンディ髭のワルドにビーナスがほれ込み、熱烈なモーションをかけてワルドをドン引きさせたり。
(むしろそんな様子を見て、ルイズは気苦労が減る!と大喜びでビーナスを押し付けようとした)

 タルブ上空戦で、マ○ンガーもどきな巨大ロボット型宝貝で三姉妹が八面六臂の大活躍をしたり。
(後で話を聞いたコルベールが、目を輝かせてその宝貝に触れ、ミイラになりかけた)

 七万の大軍を相手の殿戦に究極黄河陣を繰り出して完勝したり。
(七万の大軍は、三姉妹の作り出した空間内で、マドンナがお菓子と一緒に美味しくいただきました)

 その他、アンリエッタ姫からの極秘任務で酒場へ潜入捜査した際、ビーナスがノリノリでその酒場のきわどい衣装を着込んで、ルイズをはじめとした店員たち、そして客の精神力を著しく削ったり。
(店長のスカロンだけは、そんなビーナスの艶姿にびっと親指を立てていた上、徴税官はその姿を見ただけで回れ右して帰ったので、結果オーライと言えなくもない)

 また、モンモンとクイーンが作成した惚れ薬をビーナスとマドンナが飲んでしまった結果、それぞれギーシュとマリコルヌに迫り、二人が泣きながら逃げ惑うことになったり。
(冗談抜きに死の危険を感じたギーシュとマリコルヌは、魔の手から逃れるために覚醒してトライアングルクラスの魔法まで使えるようになったのだが、揃って周囲に「全く嬉しくない!」と血の涙を流していたそーな)


 とまあ、この他にも色々と、それはそれは悲惨な(それ以上にとっても愉快な)出来事も色々と起きたりしたのだが、それはまた別のお話、




『封神演義(藤崎版)』より、雲霄三姉妹を召喚


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