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[35760] 歌う使い魔(歌う船とは全く関係のないお話です)
Name: 夢物語◆746c7e70 ID:17d02661
Date: 2012/11/08 18:38
これは“歌う船”と全く関係のないお話です。
ある日死んでしまった主人公は世界のバランサーと名乗る少女に出会い、もう誰も自分の病気で傷つけたくないと願い、強いからだと、どんな病気の人でも治せる薬の知識、技術をもらい、ゼロ魔の世界へルイズに召喚されます。

なおこの作品には才人は登場しません。
何で才人が出てこないんだ! とか  才人とルイズのイチャラブが見たいんだ!
おいう人は戻るボタンを押すことをお勧めします。

なお、この作品はハーメルンにも投稿しています。



[35760] プロローグ
Name: 夢物語◆746c7e70 ID:17d02661
Date: 2012/11/08 02:20
 僕はどれだけ泣いたのだろう。
 この声がかれるまで泣いたことはざらにある。
 視界が真っ赤に染まっていくような感覚は、その勢いの強引に正気に戻される。
 僕は病気だった。
 悲しんだし、苦しんだし…
 それに、何より恐怖した。
 僕は間違いなくもうすぐ死ぬ。
 それは怖くない。
 僕が一番怖いのは、僕が死んだことによってただ一人残された母親に大きな傷跡を残してしまうのではないかということだ。

 僕は歌うことが好きだ。
 人を笑顔にできるし、何より楽器ができなくても周りの音と共に常に僕のそばにいる。
 さっき言ったように僕は病気だ。それもいつ死んでもおかしくないぐらいの…
 ただ、運よくこの声は潰れることはなかった。
 そういえばあの時楽しかったな。
 お父さんがいて、お母さんがいて、生まれつきの病に侵されていたとは言え僕もその家族一人だった。
 だけどお父さんは仕事の帰りの時事故で。

「あなた!!」
 母さんは僕の手を引きながら病室に飛び込んだ。
 あの時の必死な、不安そうな母の顔を僕は忘れることができない。
「奥さん!ちょっと持ってください。不安なのはわかりますが今あなたの夫に触れないでください。忘れましたか? あなたの夫は今危篤状態です。わたくしたちもできるだけの処置は致しましたが、あと二日が山場です。そんな状態の人に不用意に触れるということは、大変申し上げにくいですが命に係わります」
 お母さんの顔色は蒼白に染まっていった。
「夫は…夫は助かるんですか!?夫は治るんですよね!?そうでしょう?そうでしょう!!?」
「・・・・・・・・・・・・」
 お医者さんは何も答えることができず、終始無言だった。
 その顔に申し訳ないという色を滲ませながら。
 それから僕のお父さんは、医者から二日しか持たないといわれながら三日間生き延びた。
 その日お父さんは目が覚めて… 僕を撫でて……お母さんはずっと泣いていて…………

 それからお母さんは女手一つで僕のことを育ててくれた。
 僕が唯一できそうなことと言ったら、お母さんのことを安心させようと、ただ笑いながら歌い続けること位だったんだ。


「ユ…………優………かりして」
 お母さんの声が聞こえる。
 はっきりしていないけど、僕の近くにお母さんがいる。
「お…母…さん」
「優!しっかりして!! なんで私は何もできないの?なんで私から大切なものがなくなっていくの!? お願いだから…… お願いだから優までいな…くならない…で…よ」
 お母さんは涙交じりに僕に話しかけてくる。
 僕は何もできない。
 もうすぐ死ぬことがわかっているのに、何もできない
 だからせめて…
「……お母さん」
「…どうしたの…… !?」
 僕は笑っていようと思った。
 お母さんが心配しないように、っていうのもあるけど、それ以外に今までありがとうっていう思いのほうが強いと思う。
 僕はうまく笑えているだろうか。
 僕の声は母まで聞こえているだろうか。
 僕は、せめて最後くらいはわがまま言いたかった。
 お母さんが安心できるように最後のわがままを言いたかった。
 だからいわせて。

 最後のわがままを――――――――――――――――――

「おかあ…さん笑ってくれないと、僕… 安心、できないよ。だから笑って?」
「優…ちゃん?」
「僕ね? とても楽し…かったんだ。 幸せ…だったんだ。もういないけど、お父さんと、お母さんが…僕の、お父さんと、お母さんで…
「ぅん。私も楽しかった。楽しかったからこれからもそんな生活を続けようよ」
 お母さんは涙を流しながら僕にそう返す。
 そう言ってくれるのは嬉しいんだ。
 でも、もう。
「駄目だよ…おかあ…さん僕はもう」
「そ…んな」
「ねぇ、笑って? そして…歌って? そうしたらきっと。 きっと僕に届くから。 そしたらぼくも、きっと歌うから」
 あぁ、もうほとんど視界ないや。
 お母さんの手、温かいなぁ



 僕は今日病院のベッドで死んでしまった。
 でももう未練はないんだ。
 だって、最後にお母さんは僕に笑ってくれたのが見えたんだから。

「ありがと」

僕はお母さんに最後にそうつぶやいた。



[35760] 世界の狭間で
Name: 夢物語◆746c7e70 ID:17d02661
Date: 2012/11/08 02:25
世界の狭間で

「あれ?ここはどこ?」

 僕はいつの間にか真っ暗闇の世界に立っていた。
 ここはどこだろうかとあたりを見回してみるけど何もなく、僕の中にある孤独感が刺激される。
 それはほんのチョットのことで気にするようなことじゃないからすぐに別のことを考えた。
 考えてはみたが僕は何でこんなところにいるんだろう考えの答えは大した時間がたたずにすぐに出た。

「あぁ、僕死んだんだっけ」

 僕は死ぬ間際に見たお母さんの笑顔をはっきり覚えている。
 それはとても優しくて、今にも泣きそうで、でももう大丈夫だって不思議と思えたんだ。
 それを思い出すと僕はどこか安心してしまい、ついさっきまであった淋しさが少しだけなくなった。
 だからだろうか、僕はきっと笑っているのだろう。
 それは鏡を見なくてもはっきりとわかる。

 そういえばここはどこだろう。
 たぶんあの世だと思うんだけど、どう見ても天国じゃなさそうだし。
 もし天国だとしてももうちょっと綺麗な処かと思っていたんだけどなぁ。

「それにしても殺風景なところだな~」

 僕はそう呟くも誰も答えを返してくれるわけが…

「そうだよね~私もそう思うんよ。なんで私こんなところの管理、任されちゃったんだろうな~」

 返事が聞こえてきましたよ。さっき誰もいないのを確認したにもかかわらず。
 声のする方を向いたら僕の真横に体操座りをしながらニコニコ笑い、遠くを見るように額に右手を当てながらあっちこっちを見渡している僕とおんなじくらいの年頃に見える女の子がいました。
 目は綺麗なすんだ青色で髪の毛は光を放つのではないかというほどの銀髪だ。
 かわいらしワンピースを着こなしており、その背中にはきれいな純白の羽が生えていた。
 これ、なんて状況?

「君誰なんですか?」

 僕はびっくりしたという感情を通り越して、むしろ呆れてしまい思わず口から突いて出てきた言葉は純粋な疑問だった。

 よくよく考えてみればおかしな話である。
 こんな非日常的な現象が目の前で起こっているというのに、この少女は自分自身がそこにいることに何の疑問も持たず向日葵のように笑っているんだから。
 僕はそんな彼女を見て『もしかして天使か何か?』と思ったから、とりあえず確認のためにという思いでこんな質問をしたという意味合いが強いんだと思う。
 まあ、もし本当に彼女が天使だとしたら、こんな子が天使でいいのかと疑問に思ってしまうものだが。

「あぁ、突然ごめんね~。私は…あ~特に名前ないんよ。まぁここら辺を管理している存在ってところかな~」

「管理する存在? 神様の使いとか天使じゃなくて?」

 僕は間延びしたしゃべり方をする彼女の答えにそう返した。
 っていうか天使じゃなかったんだ。

 彼女はそんな僕の疑問に答えてくれた。

「あのね? この世の中には人間が言う神様なんてものは存在しないんよ~。私はあえて名乗るならバランサーかな~」

「“バランサー”?」

「そうなんよ。バ・ラ・ン・サー」

「それっていったいなんなの?」

「簡単に言うとね? この世界は億を超える平行世界や異世界、そういったものが常にかかわりあって合成されている世界なんよ。普段はお互いが不干渉状態なんだけどたまに世界はつながることがあるんよ。」

 なんかここまで聞いてみてずいぶんの大きなスケールの話だなと思ってしまった。

「例えばの話なんけどね? 世界っていうのは安定を求めるものんよ。水が上から下へと滝から落ちるようにね~。で、あなたはどういうわけかその断りから外れてしまったんよ」

「外れて・・・しまった?」

 つまりそれはどういうことだと僕は眉間にしわを寄せながら首をひねった。

「ようはね? ここは一言でいえば“世界の狭間
はざま
”ってところなんよ。本当はもっと複雑なところなんだけどね~」

 そういいながら彼女は指を『パチン』と鳴らした。
 するとそれまで真っ暗だった世界に一枚、二枚、とそれぞれに別々の世界の映像が僕の視界いっぱい、それこそ見渡す限りに埋め尽くされていった。

「これから話すのは世界の心理についてのことなんよ。本当はこんなことはなさなくてもいいんだけどね~でもどうせだったら今君が立たされている状況がどういうものなのか理解、あるいは納得しておきたいでしょ?」

 確かにそうだ。
 彼女はなんだかんだ前置きみたいなどこか引っかかるような単語を僕の前にちりばめたは良いが、とうの僕はまだ何ひとつ分かっていない。
 いや、確かに僕はこの世界の狭間というらしいこの場所に僕はどういうわけだか存在しているということぐらいだ。
 逆に言えばそれ以外のことは何もわからないということだ。
 同時に確実に死んでしまった僕は何もしなくてもここに存在できるのか、それとも消滅してしまうのかという大きな不安もそこにある為、正直バランサーと名乗る彼女の情報提供はありがたいものでもあり、同時にその情報は僕にとって大きな心の支えになり、時として武器となる。

 まぁ、あとは無いと思うが、もしかしたらこれは何かしらの幻覚幻聴でそもそも僕が今この状況は僕の思い込みの産物かもしれないということと、それは無いとしても彼女はもしかしたら口から出まかせを言っている可能性があるということだ。
 だが、その可能性はないと思う。
 僕の夢幻想だったとしても自分の体の感覚はハッキリしているし、彼女の眼を見る限りどうやら嘘偽りなく話そうとしてくれていることはすぐにわかる。
 だから僕はその現実はすべて事実であり、本当のことであることを前提に彼女の話を素直に聞くことにし、肯いた。

「わかった。確かに僕は何も知らない。だから君の言うこの“世界の心理”についておしえて?」

「えぇ、それじゃあ説明するよ?まず……」

 彼女は小さく微笑むと所々掻い摘んでだが説明をしてくれた。

「君は君が死んでしまった世界をのぞいて、君以外の存在自体そのものがなかったことになってしまったんよ」

「…そ、それってどういうこと…なの?」

「さっきも言ったと思うけど君はこの“世界の狭間“に落ちてしまったって言ったよね?それは君が無限に広がるパラレルワールドの正史の人間だったってことにになったってことなんよ。それはつまり、ある一つの世界以外の君の存在はほかの世界以外には認識されなくなったってことなんよ。この世界は存在そのものがない、ある意味その人が思うだけでどうにでもなってしまう世界。そんな世界にいれば君自身の存在がこの世界にとって大きくなる。そうなると世界はバランスを求めて他の世界の存在をなかったことにしてしまうってことなんよ」

 え? 僕が無限に広がるパラレルワールドの正史になったって!?

「なんで!?」

 僕は思わず目をむき、彼女の肩をおもわずつかんでしまった。

「…………ポ」

 目線があってしまった僕と彼女。
 彼女はふざけてなのかどうかは知らないがわざとらしく頬を朱に染めた。

「おい、ちょっと待て、何でそこで頬を染めるんですか」

「いやん、そんなに見つめないで~。恥ずかし~んよ~」

「いや…そんなわざとらしく言われても」

「やっぱり?わかってたん?」

 はい。もうとっくのとうにわかっていましたとも。
 彼女はそうやってしばらくイヤンイヤンと体をくねらしていたと思ったら僕の突込みを受け、いつの間にか僕の手から離れていた彼女はかわいらしく舌をだし、いかにも「いたずら成功!」と聞こえてきそうな表情をしていた。
 だめだ。このままじゃただ時間が流れるだけだから早く話を元に戻さないと、と真面目な顔をした。
「とにかくそんな冗談はいいから早く説明の続きをお願いします」

「え~。乗り悪いんよ」

「そんな頬を膨らませてもだめです。早くしてください」

 僕はふくれる彼女に間髪入れずに先を促した。

「も~。わかりました。それじゃ続きを話します」

 そうして僕はしばらく彼女の説明を聞き、時に質問し、それをネタに彼女にからかわれ、というさっきのような子ことを数回繰り返し、やっと長い話が終わった。
 正直、脱線しまっくった話をもとに戻すのはとても疲れました。
 それはともあれ彼女が話してくれたことを簡単に話すとこういうことだ。

・僕は正史の人間になってしまった

・僕の存在は、この“世界の狭間”にいることにより大きくなってしまった。そのことにより世界はバランスを取ろうとし、パラレルワールドの僕の存在はなかったことにされてしまった

・これは運がいいと言っていいのかわからないが、僕の元いた世界では僕の存在がなかったことにはならなかった。理由は、その世界まで僕の存在をなくしてしまうと僕は何処にも存在できなくなってしまうからだ。

・彼女の話によると僕は本来、彼女以外のバランサーが僕を輪廻の輪に乗せ、新しい命として生まれるはずだった。だがそうはいかず僕の魂の活動が止まっていたがためこの世界に放置をせざるを得なかった

 と、例を挙げると大体これぐらいだと思う。

 本当はもっといろいろなことを教えてくれたが僕の頭では理解できるわけでもなく、理解できたのは半分位といっていいのかすら怪しいものだ。
 さて、だったら僕はこの後どうなってしまうのかと疑問に思い彼女に質問すると、彼女はそれに答えてくれた。
 その顔は今までで一番固くなった表情がこれから真面目な話をするだろう雰囲気を醸し出していた。

「あなたには二つの選択肢があります」

 彼女が僕に対しての呼び方が変わった。
 そのことが余計に僕の緊張感をあおり、思わず息を飲み込んだ。

「まず一つはあなたにとっては少し寂しい思いをするだろうけどこれからバランサーとなり、私と一緒にそのための勉強をしながら存在する方法。私としてはできればそっちの方を選んでほしいんよ」

 そういいながら彼女は人差し指を立てた。
 その時の彼女は一瞬だったが少しだけ困ったように微笑むが、それはほんの一瞬だった。

「もう一つの選択は身体的にあなたが苦しむ方法よ。あなたは正史の人間になったからと言ってもなんでも思い通りなるわけじゃないの。それはどういうことかというと、あなたは何の目的もなしにここにいたらいけないということ」

「それは何でなんですか?」

 そう聞くと彼女は悲しそうに眉をハの字にしながら遅れて言葉を紡いだ。

「…まず一つは、あなたの魂はこの世界に来た時点でもうすでにボロボロだったの。その魂自身が生きたいと自分を治すのに一年かかった。本来ここにいられる時間もちょうど一年が限界なの。それを超えちゃうと、あなたはもうこの世界から出ることはできない。私もいつまでもここにいることができないから、あなたは必然的に一人になってしまうし孤独になってしまう。だから、あなたはどこかの世界に転生してもらわなくちゃいけないんよ。でも、かといってそういうわけにもいかない。あなたは正史になってしまったから転生しようとするとあなたの存在をなかったことにしようとする世界は転生先で必ずあなたの存在を消そうとする。だからもし転生することを望むのなら徹底的にあなたの存在を改造しなくてはならない。それはとっても苦しくて……辛いことなんよ」

 僕はあまりのことに絶句してしまい、何かをしゃべることはおろか身動ききすることすらできない。

 正直言うと僕はできるならもう一度生まれ変わることを望んでいた。
 僕の死因は病死だ。
 それは死んでしまう僕自身にとってもとても悲しくて寂しいことなんだ。
 だから僕は、せめて生まれ変わった先で健康であり、大切な人がそばにいて、その人たちと幸せに暮らしたいと思っていた。
 それはもしかしたらすると偽善だと後ろ指を指されるかもしれない。
 でも、それが僕にとっての償いになると思っていた。

 死ぬ時の僕は未練がないって思っていた。
 けどそれは違った。痩せ我慢だった。
 未練いっぱいじゃないか!!と僕は歯を食いしばり、目に涙をため、眉をハの字にした。
 僕は寂しかったんだ。
 誰かにそばにいてほしかったんだ。
 僕にとってかなり引き伸ばされた時間の中答えを出した。

 だったら僕のやることは決まっている。

「ぼ…僕が生まれ変わると選択したとして僕の魂を組み立てなおすとすると、その…僕の人格は僕のままでいられますか?」

 彼女はこの質問の意味を正しく理解したのか目を丸くし慌てだす。

「だ、だめ! 駄目なんよ! 確かに君の人格はそのまんまだけど、それ以上に苦しいんよ!? 辛いんよ!? 二つの選択肢を勧めといた私が言うのもおかしいけど、君はそんな辛い思いしなくてもいいはずなんよ!!」

「駄目だよ。僕は罪を犯したんだ。大切な人たちを傷つけたんだ。だったら罰は受けないと」

「それでも! だけど!!」

 僕は朗らかに、そして困ったように微笑みながら彼女を見つめた。
 彼女はそんな僕を止めようと目に涙を流しながら右往左往している。
 それでもしばらくすると、彼女は僕を説得しても考えが変わらないことを知り、ただ僕を睨むだけしかしなくなってしまった。
 僕はそれを見てどうしていいのかわからず、とりあえず彼女のことを抱きしめた。

 不思議だ。
 僕にとって初めて出会った存在だというのに、どうしてだか彼女のことを抱きしめずにはいられなかったんだ。

「ありがと。なんで会ったばかりの僕なんかのために、そこまで心配してくれたのか分からないけど、それでもありがと。『優香』」

「…え?」

 あれ?なんで僕、彼女のことを優香なんて呼んだんだろう。
 僕はそんなことを考えたが、それはほんの些細なことだと思えてしまい、すぐに頭を切り替えた。

「えっと、兎に角僕は転生することを選ぶよ。今度は後悔しない。してやるもんか」

 涙をぬぐいながら僕から離れ、目をこすりながら見つめてくる。

「…私と一緒に…来てくれないの?」

 しばらくお互いの目を見つめ合い、相手の気持ちが変わることがないかとまったく同じことを考えていた。
 何とも言えない空気だ。正直気まずい。
 だが先に沈黙を破ったのは彼女だった。

「はぁ…わかったんよ。君の考えが変わることがないってことが」

「………ごめんね」

「もういいんよ。よし! ついでに君に特別サービスとしてなんか得点をあげようと思うんよ! 何がいい?」

「え? 良いの? 世界のバランスとかは?」

「それなら大丈夫なんよ~。魂を組み替えるときに帳消しなんよ、帳消し!」

 そういいながら彼女はまた、初めて会った時のようにニコニコ笑いながら、明るく振舞っていた。

 いや、違うな。
 これは僕のことを心配させないように、わざと明るくふるまっているんだ。
 僕はそれに気が付きながらも、それを表に出さずに僕の望む特典を彼女に話すことにした。

「一つ目が“強い体”。もう一つは“どんな病気の人でも治せる薬の知識と技術”が欲しいです」

「うん、分かったんよ。“強い体”は身体的スペックってことでいいのかな。だったらいっそのこと………………」

 突然彼女はぶつぶつと何かを考えているのか顎に手を添え、眉間にしわを寄せている。

「あの…どうしたの? 突然」

「あ、何でもないんよ。兎に角分かったんよ。でも本当にいいの? 一回つくりかえ始めると元み戻れなくなるんよ? これが最終通告なんよ?」

「大丈夫だよ。苦しくても後悔は絶対にしないから」

 僕は力強く頷いた。

「…わかりました。それでは」

 この序の表情はまた引き締まり、しゃべり方がさっきの砕けたものではなく事務的なものに変わった。

「転生を求む歌情
かじょう

ゆう
はこことは別の世界であなたの魂を再構築します。その時にあなたに“孫悟空と同等レベルの身体的スペック”と“どんな病気の人でも治せる薬の知識と技術”を得点として組み込みます。その時に精神が崩壊してもおかしくない位の苦痛があなたを襲いますのでどうにか無事でいてください。でなければあなたの精神まで組み換えなくてはいけなくなります」

 そういいながら彼女はいつ現れたかわからないが空中にあるキーボードに何かを入力し、僕に手を向けていた。
 そしてエンターキーを押すと同時に。

「それじゃあ、がんばってね?私のお兄ちゃん」

 そう呟いた。
 僕は驚きで目を見開き何かを言おうとするのだが間に合わず、僕はその世界から姿を消してしまった。


―――――――――――――――――――――――


「驚いたな~。まさかお兄ちゃんからまた『優香』って呼んでもらえるなんて思わなかったんよ」

 私はそう言いながらほほを涙で濡らし、だけどなんか知らないけど私の知ってるお兄ちゃんが、どこも変わらずにいたからなのか、とてもうれしくて笑っていた。
 でも同時に少し寂しかった。
 できるんだったら甘えたかったし、私はお兄ちゃんの妹だと告白したかった。
 けどできなかった。
 だって私の存在はもうどこの世界にも残されていないんだから。
 それでもどうしても望んでしまうのは私が愚かな証拠なのかな~。

「また会いたいな~。おにいちゃん」

 誰もいなくなってしまったその世界で私はそう呟いた












今回はオリジナル設定のオンパレードです。
もしかしたらつじつまが合わないところがあると思いますが、何せ作者は未熟なものなのでもしよかったら、それを乾燥欄に書いてもらえると助かります。
そのほかにも応援、誤字脱字の報告、アドバイスがあったら遠慮はいりませんので感想欄に遊びに来てやってください。


注)作者は単純なのでほめると犬のように喜びます。



[35760] 出会い
Name: 夢物語◆746c7e70 ID:17d02661
Date: 2012/11/23 13:21
 いたい。

 痛い痛い!

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!!!!!!

「うがぁぁぁぁぁぁあ…あ…ああああ……ああああああああ…おおおお!!   っああああああああ!!!ががあああ!!!!!!!!!!」

 頭が痛い。

 皮膚が痛い。

 目が痛い。手が痛い。

 骨が痛い指が痛い足が痛い爪が痛い筋肉が痛い心臓が痛い肺が痛い腸が痛い脹脛が痛い体中にあるありとあらゆる腱が痛い太ももが痛い

 刺痛、斬痛、鈍痛、悲痛。ありとあらゆる痛みが僕を襲ってくる。

 できることなら気絶するなりしてこの痛みを忘れたいものだが、その痛みが僕のそんな願いを許してくれない。
 痛みによって気を失い、かと思えば痛みによって僕の意識を再覚醒させる。
 体中から体液という体液が僕から垂れ流しになり、血は蒸発し、骨は砕かれ、それでもやむことのない痛みが僕を支配する。

 そして、どれぐらい時間がたったのだろうか。今まで僕の体を支配していた痛みは突然消えてなくなり、たまりにたまった疲労のため僕はそのままきぜつしてしまった。
 あぁ、やっとおわった。とその時の僕は安堵したが、僕はまだ知らなかった。

 これから起こる偶然が生み出した出会いと別れがあることを。




「目が覚めたん?」

 僕が目を覚ました時に、彼女は僕の目の前にいた。
 僕は状態を上げようとしたときに自分の置かれている状況を確認しようとしたが、彼女の手がそれを許さない。
 それでもわかることと言ったら、僕は何か柔らかい、いい匂いがするものを枕にしてい……
 いや、もうこれ以上は言葉はいらないと思う。
 なんで僕は彼女に膝枕されてるんですか!?
 僕の思考はこれにいたり、彼女の静止を振り払って起き上がろうとしたが、次の瞬間そんな考えはなくなってしまった。
 彼女は泣いていたのだ。僕はそれに愕然とした。
 見た感じ少しだけ目に涙をためているがそこにはどれぐらいの思いが込められているのか僕には分かることがどうしてもできない。
 だけど、それでも、それは僕のことを心から心配していたからというものだということだけは彼女の眼を見ればすぐにわかる。
 なんで会ってしばらくしかしていないような僕のために。

「おはよう。もう組み換えは終わったから、しばらくすればすぐに動けるようになると思うんよ」

 そうやって考えている僕に彼女は不意に声をかけてきたが、その顔にはさっきまであった涙はなく、最初に会った時に見た向日葵かのような笑顔に戻っていた。
 あれ? 僕の見間違えだったのかな。それか夢だったのか?
 と、そう僕は戸惑いの色を思わず顔に出してしまったのか彼女は「どうしたの?」と首を傾げていた。

「どうしたの? っていわれても…どうして僕は君に膝枕されてるんですか?」

 僕は彼女が僕の様子が少しおかしことに気づかれてしまったことをどこか恥ずかしく思い、とりあえず彼女が泣いていた理由とか、それがもしかしたら気のせいだったのかもとか、そういうのはとりあえず横に置き、今どうしてこのような状況になっているのかを彼女に聞くことにした。
 
「いや~君の寝顔があんまりにかわいかったからなんよね~」

「いやいや…かわいいって……」

そんな『ホニャ』って擬音が聞こえそうな笑顔で言われても反応に困ります。

「それで? 体のほうはもう大丈夫? 組み換えが終わってからず~っと寝ていたから心配していたんよ。見た感じはうまくいったみたいだけど。場合によっては君がこのままず~っと目を覚まさないっていう可能性があったからね~」

「まぁ、大丈夫だよ。とりあえずもう目が覚めた時にあった目眩はもうなくなっているから、もう普通に動けると思う」

 そういいながら僕はやっと彼女の膝枕から解放され、上半身を起こし、彼女のすぐ隣に座った。
 体がやけに軽い。頭には様々な無いはずの“知識”がある。
 どうやら彼女が言ったように、無事に僕という人格が崩壊しないですんだらしい。
 僕はそのことに安心したと同時に、明らかに自分の体が変わったことに驚き、戸惑った。

「僕は…僕じゃなくなったのかな」

「そんなことないんよ。君の人格はそのまんまで、あくまで組み替えたのはそれ以外のところだから。それでも世界はこれで君のことを拒まなくなったはずなんよ?」

「そうか。僕は僕のままで入れているんだ」と彼女に言われたことをすんなりと信じ、僕は安心した。
 正直に言うと僕は自分を変えてしまったことに後悔はないが、それでも自分が自分じゃなくなるような気がしてどこか安心できなかった。
 だがなぜか彼女に言われることは嘘じゃないと無条件に信じられる。
 まったく不思議なものだ。

「それで? 僕はこれからどうすればいいの? 確か転生するって話だったけど、君が前に話してくれたことを例にあげると世界っていうのは、ほぼ無限にあるものなんだよね。だったらそれを僕が決めていいものなの? それとも君が? 世界が? そこのところがよく分からないんだよ」

 僕はとりあえず話を進めようと、これから何をするべきなのかを彼女に聞くことにした。

「それはある程度君が決めることができると思うんよ? あとはそれを世界が認めてくれるかどうかっていう話になると思うけど。今はこの世界にいるために魂に肉体がついているわけだから、特に何も言えないけど。あぁそういえばこの話はしていなかったわね~」

 彼女はそういうと、そこで一回言葉を切り、相変わらず変わらない笑顔で僕に問いかけてきた。

「ねぇ、君はどうやって君が君でいられるのか知ってる?」

「知ってる? って聞かれても…それは前に君が言っていたみたいに世界がそう望んでいるからなんでしょ?」

「いいえ。実際には違うんよ。確かに世界の認識っていうのもそこに含まれるんだけどね~。だけどそれだけじゃなくて、ほかに二つの要素が含まれているんよ」

「二つの要素?」

 僕は少し眉間にしわを寄せながらその二つの要素は何か考えるが、その要素とは何かどうもはっきりしない。
 そんな風に、まじめに考えていた僕のことを見て何を思ったのか彼女はどこか楽しそうに笑った。

「ふふ。わからない? それじゃぁそれは何なのか答えを言うんよ? 一つは君がその世界にいようとする意志。もう一つが周りからの認識なんよ。つまり、この三つの要素があって初めて人やそれ以外の動植物、物、その他もろもろは、そこに存在することができるってことなんよ」

 まぁ、世界の意思がそこにあるのなら、「世界の意思と自分の意思」や「世界の意思と他人の認識」だけでもギリギリ存在することができるんだけどね~。と最後に彼女は締めくくった。

「ようするに、僕が別の世界に転生するには世界の意思だけでは弱いってことになるんだ」

「そういうことなんよ。周りの認識は君が新しい世界に存在することができたら、そのあとはどうにでもなるんよ。だから優先されるのは君の意思ってことになるね~」

 なるほど、彼女の答えに僕は顎に右手を添えて眉間に軽くしわを寄せながら二、三度うなずき僕はこれからどうしようかと考えを巡らせる。
 僕は生まれた中で、ちゃんと寿命を全うしたわけではなく病で僕は死んでしまったことから今度はちゃんと生きて、それから死にたいと思っているのはもちろん、せめて僕の周りは平和であってほしいことや、僕にはできなかった親孝行ぐらいはしたいという望みは強い。
 ただ、そうなるとこのまま適当な世界に転生してしまったらたぶん僕は親のことを親とは思えないまま、その不安定な感情が原因で周りの人たちに迷惑をかけてしまうかもしれない。
 そうなると僕が望む世界は僕が前にいた世界に限りなく近い世界でなくてはならないということだ。
 そうなったら僕は何しよう。

 普通に生きていればできたようなことは僕にはできなかったからな~。
 そうなったら僕は何をしよう。
 学校はどういうところだろう。
 僕は正直青春というものがこれほど魅力的なものだとは思わなかった。

「…え、え~と、君? いや、この場合優君と呼んだほうがいいのかな。その…どうしたの?」

 と、そんなふうにいろいろと考えていた僕に彼女はどこか引きつったような苦笑いを浮かびながら僕に話しかけてきた。
 それに気が付いた僕はハッとなり我に返ってみると、どうやらまだ見ぬ未来にワクワクと心躍らせながら口角を吊り上げ、ニヤニヤしていたらしい。
 そのことが恥ずかしくなり、とりあえず話を元に戻すことにした。

「な、何でもないでふ…」

「あ。噛んだ」

 したのだが思わず舌が追い付かなかったのか噛んでしまった。
 恥ずかしいやら気まずいやら、本当タイミングが悪いったらありゃしない。
 僕はそう思いながらもこの空気を何とかしようと彼女を見るが、その彼女はクスクスと笑い続けているがため、ただでさえ恥ずかしいものが余計に恥ずかしくなり、僕は涙目になりながら彼女をにらんだ。

「べ…別にいいじゃないですか、そんな笑わなくても! 噛むことだってたまにはありますよ! だから笑わないでくださいってば! 笑うな!!」

「アハハハハ」

「だから!――――――」

 と。まぁ、こんな感じに僕にとっては恥ずかしくて痛いがためMPがガリガリ削られるようなやり取りがしばらくの間続いた。
 もうヤダ。


「…で? 僕は恥ずかしい思いをしたはいいが、それを盃に散々笑ったアンタは僕の反論を軽くスルーして話を元に戻そうというのですか? そうなんですか。そうなんですね」

 僕はその場で両膝を抱えながら座り、地面に『の』の字を書きながらイジイジと不貞腐れていた。

「それはごめんなんよ。だからそんないじけなくてもいいじゃないですか。わたしがわるかったら」

 あれからひとしきり笑った彼女は、今度は困った顔をしながらいじけた僕を慰めるという立場に回っていた。
 正直に言って僕は深く傷ついたのだ。
 えぇ、確かに僕はバカなことをやりましたとも。ごまかそうと思って噛んでしまいましたとも。
 だからって、あそこまで笑わなくてもいいじゃないですか。
 もう僕は許しません。次の世界までこの思いを引っ張っていきます。
 そんでみんなに言ってやるんです。
 本当は神様なんていなくてね、死んだ後の世界には意地の悪い女の子がいるんだ~よって。
 せめてもの仕返しだよーだ!

 と、実際にはそんなことを考えていてもどうしようもないもので、とりあえず散々文句を言いまくった僕は機嫌を直し、気を取り直して真面目に話をすることにしよう。

 そういえばさっき彼女は、僕が転生するには僕の意思が大切になってくるって話をしていたなと思い出し、僕はそのことを彼女に話した。
 その後、なんで僕があの時ニヤニヤしていたのかの理由を知った彼女は「アハハ、やっぱり君らしいね」とまた笑われるのだが、それは…まぁ、なかったことにしよう。
 そして最後に彼女は僕に意外なことを教えてくれた。
 なんと僕には今、仮にとはいえ体がちゃんと存在するようなのだ。
 なんでも、魂と体というのは、まるで固い鎖で雁字搦めにしたかのように縛られ、その体の中におさめられているというような内容だ。
 気分が悪いと体調も悪くなるようなときがあることがたまにある、という例を挙げても、それは間違えではない。
 だから一時的とはいえ、生まれた先の新しい体になじむように仮の体と一緒に僕の魂を組み替える必要があったんだそうだ。
 その結果があの恐ろしいまでの苦しみだったらしい。
 まぁ、それはともかくとして、その延長線上で現在進行形で僕の体は存在しているのが分かったため、自然ともう一つの疑問も浮かび上がってくる。

 僕はこのままの状態で来世に行けるのか? ということである。

 まぁ、そこはどうやら上手くできているようで、実際に僕が生まれ変わるその時に彼女がそこらへんをコントロールしてくれるらしい。
 これで僕が知りたかったことを大体理解し、すべての準備が整った。
 彼女はいぜんと同じように、似合わない真面目な顔をしながら空中に現れたキーボードを叩き、準備を始める。

「それではこれより、異世界との接続を開始いたします。座標は転生者、歌情 優が元いた世界、ajvp894789449vkdjf984930と酷似した世界、ajvp895789440vkdjf984930としました。――――
リンク完了」

 そうして彼女は最後にエンターキーを叩き、書き込むべき入力が終わったのか、それまであった宙に浮いていたキーボードを消し、代わりに灰色のゲートが現れた。

「…このゲートを抜ければ君は元の世界と同じような世界に行くことができるんよ」

 そういいながら彼女はどこか寂しそうにわらった。

「うん。ありがとう。いろいろお世話になりました」

 それに答えながら僕は彼女のことを忘れてしまわないように、その眼に彼女の姿を目に焼き付けるように、だけど朗らかに笑いながら彼女を見つめる。

「また死んだときには、ここに遊びに来てほしいんよ。そしたら一緒にいろんなことして遊びたいんよ」

「いいんですか? 僕は長生きするつもりなんで、ここに来た時にはしわしわのお爺ちゃんの姿になっているかもしれませんよ?」

「それはいやかも」

 彼女が言うその言葉を最後に、お互いに笑いが込上げてきたのか、それをこらえきれずに笑ってしまった。

 それからもう話すことはお互いに無くなり、しばらく無言で僕は彼女を、彼女は僕をみつめた。
 そんな静寂の時間を先に壊したのは僕だった。

「それじゃ、行ってきます」

 この場合、僕の言った挨拶はもしかしたら間違えているかもしれないが、それでも僕はそう言わなくてはいけないような気がしたんだ。
 それに彼女は答えてくれた。

「行ってらっしゃい」

 その言葉を最後に僕は振り向き、ゲートに入ろうとするが…


「―――――え?」


 灰色のゲートは青色のゲートに代わっており、僕はそのことに愕然とした。
 あわてて彼女の顔を見るも、それは想定外だったらしく、慌てて僕のもとに走りより、歯を食いしばりながら力いっぱい右手をつかんで止めようとする。
 が。ぼくのひだりてはもうすでにゲートに飲み込まれ、その勢いは止まらず、彼女ごと『ズルズル』と重たい音を立てながら引っ張られていく。

「なんで!? どうしてこうなったの!? 想定外にも程があるんよ!」

「どういうことなんですか!? このゲートはあなたが出したんじゃないんですか!?」

「知らないんよ!! こんなもの私はしらないんよ~!!!」

「そ! …そんな―――――――」

 そうして僕らは謎のゲートに引きずり込まれてしまったのだった。


 あとに残された真っ暗な世界には誰も残されていなかった。








「お母様。これから『サモン・サーヴァント』を始めます」

「ルイズ。心をこめ、落ち着いて呪文を唱えるのです。そうすればきっとあなたに相応しい使い魔がそれに答えてくれるはずです」

「はい。わかりました、お母様」

 今、私達は娘のルイズを連れてラ・ヴァリエール領のできるだけ開けた中庭へ『サモン・サーヴァント』という使い魔召喚の儀式をするために出かけています。
 なぜこんなことになっているかというと、正直恥ずかしながらこの子は魔法を使うことができないのです。
 ドット魔法はおろかコモン・マジックですら使えません。

 私はそんな娘が不憫で不憫で仕方がありません。
 自分の娘がかわいくない親などいるはずがないんですから、それは当然です。
 そんな娘に私はとにかく魔法をいつか使えるように厳しく教えていき、なおかつ私もなぜこの子が魔法を使えないのか調べてきましたが、どの文献を調べても理由らしい理由がわかりませんでした。
 どうやら魔力は相当強いものを持っているらしいのですが、魔法を使ったとしても結果は必ずと言っていいほど爆発に終わってしまいます。
 そんなこの子に厳しく接し、それでもうまくいかないという悪循環というのが今の現状です。
 もしかしたら私はこの子…私の可愛いルイズに嫌われているかもしれません。
 それでもこの子が幸せになってくれれば、私はいくらでも嫌われ、憎まれましょう。
 そう思いながらも私達は頑張ってきました。
 そして一つの可能性を見つけ出したのです。

 サモン・サーヴァント

 使い魔召喚の儀式です。
 この儀式はその名のとおり、ハルケギニアにいる生物召喚し、使い魔とする儀式で、魔力と触媒となる杖さえあれば誰でもできるコモンマ・ジックのうちの一つです。
 ですが使い魔は一人につき一体となるのでやり直しはきかず、その契約は主人となる者が死ぬか、使い魔が死ぬかしないと切れることはありません。
 ですから、この儀式だけは今まで試すことができなかったのです。

 本当は六歳のこの子のような小さい子が試すような魔法ではありません。この子が成長すれば魔法学園に行き、そこで二年生になるときにテストとしてやることになるのですから。
 それでも私はこの子に自信を持ってもらいたかった。
 私はこんなすごい使い魔がいるんだよって胸を張ってもらいたいと願っています。
 そのための今日なのです。

「わが名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴンよ、我の導きに従い使い魔を召喚せよ」

 と、いろんなことを想い出している間にルイズは演唱が終わり、いつものように爆発が起こっていました。
 そうですか、また失敗してしまったのですか、と思いながらも私は顔をうつむけて目に涙をためている娘にもう一度するように厳しい声色で声をかけようと睨み付けたのですが。


「―――――――なったんですか~~~~!?」


 突然聞いたことがない幼い少年の声が聞こえてきたのです。
 私はまだ舞い上がっている砂埃を急いで風の魔法で払いのけ、声の主を確認して私は思わず私は目が点になってしまいました。

 娘が起こした爆心地の真ん中に黒い髪の毛と瞳を持つ少年と、銀色に輝く髪の毛と白い翼を持つ少女がそこにいたのですから。











ということでお久しぶりです。
投稿が遅れてすいませんでした。
実はちょっと体調が悪くなってしまって…
どうやらお医者様の話によれば副腎に腫瘍ができてしまったかもしれないということです。
下手すれば手術です。   ……やばい、悲しくなってきた。
とは言ってもまだまだ頑張って書き続けますので応援よろしくです!!



[35760] 病気により、投稿が難しくなりました。
Name: 夢物語◆746c7e70 ID:17d02661
Date: 2012/11/27 14:55
 今回は僕個人の理由により、「歌う使い魔」はしばらくの間投稿することができなくなってしまいました。
 理由としては、副腎に褐色性細胞腫という腫瘍ができてしまった可能性があるためにしばらくの間精密検査を受けることになったからです。
 その後もし、本当に褐色性細胞腫がある場合は、それがいつ悪性腫瘍になるか分からないので、もしかしたら腹を開くことになり、しばらく入院なんてことになる可能性が非常に高いです。
 そのため、しばらくの間養生し、病気を治す努力をしなくてはいけなくなりました。
 以上の理由により僕はしばらくの間、ここに「歌う使い魔」を投稿することが難しくなりましたことを、深くお詫び申し上げます。

 なお、「それだったらスペースの無駄になるから消去してくれ」だとか「エタるぐらいだったら最初っから投稿するな」という人が複数人いた場合、大変残念ですが「歌う使い魔」を消去させていただきます。

 ということで長々と失礼いたしました。



[35760] カリーヌさんって実は優しい人なんですね
Name: 夢物語◆746c7e70 ID:17d02661
Date: 2012/12/16 23:19
 僕は今激しく混乱しています。
 何を言いたいのかというとつまりはこういうことです。

 現在進行形で僕の間隣で目を回し、気絶している彼女に僕は見送られながら新しい生を受けるためにゲートに入ろうとしたのだが、どういうわけだかそれまで僕の手前にあった灰色のゲートは、突然青色のゲートにすり替わっていた。
 そのことに驚いた僕は彼女にこれは何なのかを聞くのだが、時はもうすでに遅く青色のゲートに僕の左手が触れてしまい、そのまま吸い込まれてしまった。
 それを何とか止めようした彼女は僕の右手をつかみ、必死に止めようとしたのだが、そのかいはなく僕ともども引き込まれてしまった。
 そのゲートを抜けるとそこは青々とした草花と、遠くにはまるで御伽話の世界にあるような綺麗で立派なお城が建てられていた。
 ただ、どういうわけだか僕たちがいるところは土がえぐれ、クレーターができていたのだ。
 そういえば僕の背は縮んでいるし…だいたい六~七歳ぐらいか?
 うん。まったく訳が分からないです。

「いったい何が起こったの?」

 思わずそうつぶやいてしまった僕は悪くないはずである。

 そういえいま気が付いたけど目の前に―…親子、かな―ピンクブロンドの髪を持つ目つきの鋭い女性と、その女性の面影がどこか似ている同じ髪色をした小さな少女が目の前にいた。
 その二人は何というか、ハトが豆鉄砲を食らったかのような表情をしていた。
 まぁ、そりゃそうだと思う。突然何もない空間からいきなり人が現れるんだから、そんな状況が当たり前かのように起こる世界があるんだったらまだしも、そうじゃない限り状況に追い付けずに頭が思考能力を放棄するに決まっている。
 そして彼女たちから見たら僕たちは不審者極まりない。
 そんな人物が下手なことをしてしまったとしたら?
 もしここが人様の敷地内だとしたら?
 どうやらここら辺はきれいに人の手が加わっているようなので誰かの敷地内という可能性は高く、そんなところで下手なことをしてしまったら何をされてしまっても文句を言えない。

 思うにおかしなことだらけだ。
 僕は死んだ。
 そのあと僕はちゃんとしたプロセスをふんで様々なことを知り、そのうえで自分の意思と世界の意思の元僕は生まれ変わるはずだった。

 そう、“はずだった”のだ。

 そのことに一番詳しそうな世界のバランサーと名乗る少女はどうやら気絶してしまっているようだし、行動を起こすにも、やはり情報は必要だ。

 やはり、まったくわけわからないことには変わりはないが、だがやらなくてはならないことはわかった。
 要は相手をへたに刺激をしないようにここはどこか、この世界の歴史、社会構造などを聞き出し、知ることだ。
 そこまで考えを一巡させた後いまだに茫然としている女性に声をかけようと口を開いた。

「あ、あの…あなたt「はっ ここはどこなんよ!? 私、せかいのはざまからでられないはずなんよ!? そういえば優君は…  ―あ!いたんよ~」

 が僕の横で気絶していたバランサーの少女がいきなり『ガバッ!!』と起き上り騒ぎだした。
 あちゃ~と僕は頭を抱えるがそれはもういろいろと遅く、片袖を両手で握りながらゆすり、僕の無事を喜んでくれているようだったが、これはもう、いろいろとタイミングが悪すぎる。
 そのせいでどうやら女性はハッとしたのかもともと吊り上がっているその眼をさらに鋭くさせ、僕たちを睨み付けながらその右手に持っている杖を僕たちに向け警戒心をあらわにした。
 正直に言うとかなり怖いです。元普通の、しかも病弱の人間がさっきに近いようなにらみつけに体制なんかあるわけがないんです。
 それなのに僕の隣にいるこの子はそのことに気が付かない。
 もうね?この子は鈍感なのやら、それか分かっていてわざとやっていつのかわかりませんよ。
 威圧感がすごいというのに。
 もうガタガタと震え上がってしまいますよ。
 そんな僕の思考を置いてけぼりにし、状況は無慈悲に進んで行っているわけなのだが。

「貴方がたはどこのどなたですか? どうやってここに侵入してきたのですか? ことと場合によってはたとえ子供といえど容赦はしませんよ?」

 そんなことを言われたも、僕にはさっぱりなんですよ。
 それに杖をこっちに向けないでください。コワクテショウガナインデ。
 その杖に何の意味があるのか分かりませんけどすごく怖いんで。
 それにそんなことをしなくても僕はあったことをありのまま、そのままに話しますよ。
 もうこうなったら開き直ってポーカーフェイスで恐怖心を表に出さずにやり取りしてやりますよ。

 それはそうと、いい加減まとわりつくのやめてくださいよ、バランサーさん。

「すいません。実は僕も何でここにいるのかわからないんです。何だか知らないんですけど突然青い鏡みたいなものが現れたと思ったら半ば強引に引きずりこまれてしまって…そしたらいつの間にか僕たちはここにいた、という感じです。」

「強引に引きずり込まれた? どういうことですか」

 あ、少し雰囲気が柔らかくなった。
 そうですよ。まず話を進めるには信頼関係を築けなくてはいけませんからね。
 ですから嘘はつきませんよ。
 まぁ、僕は実は病気で死んでしまった人間だとか生まれ変わろうとしたときになんたらかんたら~ の話は信じてもらえそうにないですから話しませんけれども。

「そのままの意味です。今さっき言ったように僕には何の心当たりもありません。もちろんここがどこだとか、あなたたちが誰なのかとか、そんなこと一切わかりません。わかることと言ったらあなたが着ている服と僕が着ている服の素材が違うことから、ここが少なくとも僕がいた土地とまったく異なった土地だということぐらいしかわからないです」

「……どうやら嘘は言ってないようですわね」

「そうですよ。うそを言ってもお互いに何のメリットもありませんから」

「…………」

 とりあえずお互いに? というより僕が相手に情報を提供したことにより女性はどうやら納得がいったらしく、僕たちに向けていた杖をそらし気疲れしたような溜息をついたかと思ったら、どういうわけか女性の足元にしがみついている少女のことをどこか困ったような、あきれたような複雑な目で見つめた後、|佇《たたず》まいをただし僕たちに軽くではあるが確かに頭を下げてきたのだ。

「どうやら私の勘違いのようですわね。警戒のためとはいえ杖を向けてしまいすみませんでした。よければ事情を話しますので私たちについてきてくれませんか? 私たちの屋敷に招待いたします」

 よかった。どうやら話をしてくれるだけの信用を勝ち取ることができたみたいだ。
 なんか知らないけど屋敷に案内するって言ってるし、悪いような扱いは受けないだろうことはすぐに分かったので僕は女性の言葉におとなしく従うことにした。

 そういえばバランサーの少女の反応がなくなったと思って横を向いたら何やら唖然としていた。
 なんていうか、意外なことに意外なことが重なったかのような、そんな顔だった。
 そんな顔をするということは何か分かったことがあるのか、それともどうしようもないことがあるのか。
 どちらにしろ何かあったということだ。

「それではこちらについてきてください。少し遠いところなので馬車に乗って向かいます。ですので少し窮屈な思いをすると思いますが、それは我慢してください」

 まあ、そのことはどうでもいいとして、女性はそう僕たちに声をかけたと思ったら、身を返し女の子を連れて歩き出したので僕たちもそれについていくことになった。









 そして僕たちは客間…にしてはかなり広い部屋に通され、やけに長いテーブルを挟み、女性―カリーヌ
さんとその娘さんのルイズちゃんと向かい合いながら腰を掛けていました。
 今更ですけれども随分とお金持ちの家なんですね~。
 さっきまでいたあそこの原っぱも、この目の前にいる人たちの敷地内とか言っていたし、メイドいたし。
 こんなすごいファンタジックな家? があるなんてびっくりを通り越して絶句してしまいましたよ。

 まぁ、今はその話は置いといて、とりあえず僕たちはカリーヌさんからここはどこなのか、この世界の文明などを簡単に話してくれた。
 話によるとこの世界は貴族社会によって形成させており、貴族は一部の例外を除いてみんな魔法を使えるらしい。
 その魔法使いを総称して“メイジ”と呼ぶらしい。
 ただ、そんな世界であるが為に存在する裏側は容易に想像できた。
 それは果てしない闇だ。そんなものはどこにでもある。
 当然貴族がいるのだとすればその反対となる平民が必ずいる。
 その平民は後で知ることとなるのだが、時に貴族に殺されることあるそうだ。
 そんなことを思ってしまうも、僕は一通り疑問に思っていたことをカリーヌさんに質問し、それに彼女は答えてくれた。
 それはそれ相応の信用を得ただけれはなく、この世界の常識を知ってもらわなくては後々面倒なことになるということも含まれていることは誰にでもすぐにわかることだろうが、これには別の意味も含まれているだろう。
 それはカリーヌさんがこの世界のことを話したのだから今度は貴方たちのことを話しなさいということだろう。
 だけど僕が切れるカードはあの原っぱで初めて会ったときに切ってしまったし。

 僕は不安になって隣にいる羽をはやした少女を見つめ、そのことに気が付いた少女は小さくだがはっきりとうなずいた。
 しばらくの沈黙の後、そのうなずきに背中を押された僕はすべてを包み隠さず話すことを決心し、カリーヌさんを見つめ、そっと口を開いた。

「この世界のことを話してくれてありがとうございます。正直とても助かりました。それでは今度は僕たちのいた世界のこと、僕たちはいったいどのような人間なのか、その他の貴方が疑問に思っているようなことをこたえていきたいと思っていますが、正直に言いますと古今東西聞いたことのないような話になると思います。ですがこの話はすべて事実です。ですからどうか…どうか僕の話を最後まで聞いてください」

「……わかりました。私も“全部”とは言えませんが、貴方がたがおっしゃることを本当だと前提に話を聞かせてもらいます」

「ありがとうございます。それでは僕の生い立ちから話そうと思います。僕は……」









 どうやら少年の名前はカジョウ ユウという名前らしい。
 そのユウと名乗る少年は異世界から来たそうです。そこではカガクというものがあり、それは老若男女選ばず、決まったプロセスを踏めば必ず同じ結果を導き出し、世界にあるすべての仕組みと理由を解明したものらしいです。
 そこに生まれた少年は生まれつき病に侵されていたらしく、それでも家族と幸せに暮らしていたといっていました。
 まるでカトレアみたいですね。
 その少年の父親は事故にあって死んでしまい、母親は女手一つで少年を育て、そしてその少年は病のために死んでしまったそうです。
 その死後の世界には神様など存在しなく、亜人と思われる翼をはやした少女に出会い、転生する準備をした後、そこに繋がるゲートをくぐろうとしたらしいのですが青い鏡のようなものが現れそこに吸い込まれ、今に至るという話でした。

 少年が話したことをまとめると大体こんなかんじになるのですが、細かいところではこんな出鱈目な話を肯定するための裏付けは話の中でされているために信じることしかできませんでした。
 まぁ、そこまではまだ信じられたんですよ。彼がこんななりで実は十七歳の青年なんてこと以外は。
 本人|曰《いわ》くいつの間にか縮んでいたらしいです。理由がどうしてもわからないらしいです。
 ですが、おかしなことに私と今対等に話し合うことができているわけですし、信じるしかないのでしょうか?
 とりあえずは聞くべきことは聞きましたし、あとは話していない一つの可能性のことを目の前の二人に話さなくてはいけないようですわね。
 この話を聞く限りではこちらが完全に加害者ということになってしまいます。
 ルイズ、あなたとんでもないことをしてくれましたわね。









「話は大体わかりました。いろいろ納得いかないところはありますが、貴方たちがおっしゃったことが本当だと信じることにしましょう」

 よかった。どうやら信じてくれたようだ。

「ありがとうございます。信用してもらって、正直に言うと話している本人である僕ですら出鱈目なことを言っているものだなと思ったものですが……それでも信じてもらえて幸いです」

「えぇ、出鱈目にしか聞こえませんでしたわね」

 あ~、正直に言いますか。僕としても耳が痛いですよ。
 その思いが僕の顔に出てしまい、思わず眉間にしわを作ってしまった。
 それを見たカリーヌさんはそんな僕の顔を見て苦笑いしながらさらに言葉をつづけた。

「ですが、だからと言って頭から否定するつもりはありませんから安心してください。ですが貴方たち二人の真剣な表情や筋の通った話、何より貴方の目を見て嘘は言っていないものだと判断しました」

「つまり…その、どういうことですか?」

「要するに私は貴方たちの話す言葉に信用したのではなく、貴方たちそのもの信用したということです。その意味、貴方ならわかりますね?」

「…はい」

 そういいながら僕はうなずく。

「それでは、まず私は貴方たちに謝らなくてはいけないことがあります」

 謝らなくてはいけないこと? 僕はそんな心当たりはないんですけど。

「それはいったいどのような意味で言っていることなんですか?」

「私は、実は貴方たちに話していないことが一つだけありました。本当はもっと前に話さなくてはいけないことだったのですが、どうしてもそのための“確信”を持つことができなかったのです」

「確信…ですか?」

「そうです。ですが私は貴方たちの話を聞き、確信を持つことができました」

 そういうとカリーヌさんは目を伏せ申し訳なさそうに言葉をつづける。


「それは貴方たちがこの世界に来てしまった原因です」


 …………え?

「「原因わかってたんですか!?」」

「え…えぇ」

 僕たちはあんまりな答えに思わず目をむき、食いつくようにカリーヌさんに聞き返した。

 カリーヌさんはカリーヌさんで僕たちの権幕のせいで苦笑いしながらたじたじである。

「あぁ、その。すみません。あまりにうれしいことでしたので」

「本当にごめんなさいなんよ」

「いえ、気にしなくても結構です」

 とりあえずはそう言ってはくれましたが…カリーヌさん、顔は笑っていますが口元がひくついていますよ。

「実は、貴方たちの言うこの世界に一つの特別な魔法があるのです」

「特別な魔法、ですか?」

「えぇ。その魔法の名前はサモン・サーヴァント、使い魔召喚の儀式です。この儀式は本来このハルケギニアにいる動物や幻獣を一つ召喚し契約を結ぶものなのですが…」

「どういうわけだか僕たちが召喚されてしまったということですか?」

「その通りです。ですから本来人間が召喚されるなんてことは…」

「ないはず、ということですか」

 何ですか、そっちのほうがよっぽど出鱈目じゃないですか。
 ていうことは何ですか? その話が本当だとすると僕を召還した人物は世界の壁どころか次元の壁さえ超えて僕たちを召喚し、あまつさえ僕だけではなく僕の隣で唖然としている彼女を偶然とはいえ二人も召喚してしまうのだから始末に負えない。

 ナンデコンナコトニナッタノ?

「それで……私たちを召還した人は誰なんですか?」

 いまだ半分意識が飛んだ僕の代わりに横から凛とした声がカリーヌさんに質問としてかかった。
 そうだ。こんなところで呆然としている場合じゃない。
 少なくとも向こうから答えをくれるといっているのであれば僕はそれを聞かなくてはいけないんだ。

「僕も気になります。要するに僕らは召喚されたのだからその人のもとについて何かをしなくてはいけない…ということですよね? だったら僕達はその人の存在を知る権利はあるはずです。まさかとは思いますけどカリーヌさん、貴方というわけではありませんよね?」

 空気の温度が数度下がったかのような感覚がこの一帯を支配した。
 僕が言ったことはある意味カリーヌさんに対する嫌味、挑発みたいなことなのだから。
 場合によっては、僕はこの状況をひっくり返すために行動をしなくてはいけない。
 その行動はいったい何を意味するものなのかはハッキリしていないが、それでも意味のあるものになることはすぐに分かる。
 カリーヌさんは、その僕の言葉の真意を正しく受け止めようとしてくれていることは僕の目から見てもすぐに分かった。
 それを図るための沈黙。
 だが、その沈黙も長くは続かなった。

「わかりました。素直に話しますわ」

「…すみません、なんか試すようなことをしてしまって」

「いいえ、結構です。確かに私も隠すような話し方をしていましたから、そういわれても仕方がないと自覚しています」

「それで、僕たちに紹介してくれるんですよね?」

 僕はもうカリーヌさんは誤魔化すことはないだろうと確信し、ストレートに質問した。

「えぇ。もちろんそうさせてもらいます。とはいっても、もうあなたたち二人は会っているのですけれどね」

 え? ということは―――

「もしかして……」

「その通りです。私の娘のルイズです」

 …………え~と、あの女の子ですか? カリーヌさんとずっと一緒にいた。

 はぁ、これから先が大変そうです。







よかったよ~
副腎に腫瘍が出来ていなかったよ~
精密検査を受けた結果、ただ血圧が高くなりやすい体質だったらしいし…
ほんとうによかったよ~~~!!(泣笑)



[35760] 「名前、何にしようか」
Name: 夢物語◆746c7e70 ID:17d02661
Date: 2013/01/13 03:22
 僕たちは今、どうしていいのか大変困っています。

「だ、大丈夫なんよ。私は怖くなんかないんよ~……」

「い……いや! 亜人なんか、わたしの使い魔なんかじゃない!!あっちいってー!!」

「そんなこと……言われても。私、亜人じゃないし」

 正しく言うと、僕と一緒に召喚されてしまった彼女は、その主であるルイズに怯えられてしまい、弱々しいながらも、ルイズは、必死に抵抗の意思を目に乗せて、震えながら強く彼女のことを拒否しているのだが、そのことから、実際には一番困っているのは彼女かもしれない。
 もしこの場、第三者が見たとしたら、嫌がる子供に、にじり寄ろうとする、危ないお姉さん? と皆、口をそろえていうだろう。もしかしたら、僕がもといた世界では、おまわりさんを呼ばれてしまうかもしれない。とにかく今、そういう言葉が、現状でぴったりと当てはまる。
 僕は、その状況を見ながら苦笑いをし、はぁ、と小さく溜息を吐くことしかできないでいた。

 実はいうとこの二人は、このヴァリエール城に向かう道中の馬車のなかでも、今、僕の目の前で行われているようなことがあった。だが、その時は同じ馬車のなかに、ルイズの母であるカリーヌさんがいたからなのか、今ほど露骨に嫌がるようなことはなかった、のだが……

「使い魔になってあげるんよ~。怖くなんかないよ~」

「い……いや~!!」

 今では、このように彼女が一歩歩けば、ルイズは二歩後ろに身を引き、四歩近づけば、ルイズは身を完全に反し、カリーヌさんのもとへ半ベソかきながら、とててて、と走って行って逃げてしまった。
 そのことが、よっぽどショックだったのか、彼女は頭を垂れながら、マンガのように縦線を浮かべ、背景には靄がかったグレーなオーラを背負っていた。
 その……まぁ、なんだ。そんなに気にしなくてもいいと思いますよ? たぶん。子供の言うことですし……

 今現在僕たちがいる場所は、カリーヌさんの言によれば、どうやら彼女の娘、ルイズの部屋にいるそうだ。
 その部屋は結構広く、世間でいうリビングぐらいの広さを持っている。そこには、棚の上やベッドの上に大小様々な人形が置かれていた。ずいぶんと女の子らしい。
 だけど、僕からしたら、六歳の女の子が一人部屋を持つなんて早すぎるものだと思うのだけど、どうもお金持ちの考えることがわからない。
 そういう考えに至るのは、僕だけなのだろうか若干不安だ。
 だが、とりあえず僕の中にある、ちっぽけな常識をそこら辺に置いといて、いまだに続いている女の子二人による追いかけっこの理由を僕の隣に立っている女性に聞いてみることにした。

「それで、カリーヌさん。なんで彼女はルイズちゃんに嫌がられているんでしょうかね……」

「……その、私の娘は、いや、それに限らず、このハルケギニアに住んでいる人たちは、エルフや鳥人といった亜人を嫌い、怖がっているのです」

「怖がっている?」

 カリーヌさんの話によると、その理由は、メイジが使うとする『系統魔法』と、亜人でありながら、僕たち人間と同じぐらいの知能を持ったエルフなどが使う『先住魔法』にあるという。
 一般的に広く認知されているのは、貴族やメイジが使う『系統魔法』だそうだが、亜人などが使う『先住魔法』は、系統魔法に比べ、彼らのテリトリーにいる精霊と契約し、その力を使うため『系統魔法』のような演唱の必要はなく、また、精霊との結びつきに比例し、強力な魔法を使うことができるというものらしい。

 こういうことから、ルイズも他の子供のように、絶対に亜人に近づかないようにと、カリーヌさんに教育されてきたらしいのだ。
 なるほど。道理でルイズちゃんが怖がっているわけだ。羽が生えているもんな。彼女には。

「それで、あんなふうに追いかけて、追いかけられての鼬ごっこになちゃったわけですか……」

「まぁ……そうですね。私もこんなことになるなんて思いませんでしたし……」

「僕はもう契約は終わったのに……」

 そういいながら、僕は左手の甲に彫られたルーン文字に目を落とす。

「別に、彼女は亜人だってわけではないんですよ? もともと人間だって言っていましたし」

「えぇ。私もそれは分かっているんですけれども、あの子は、まだあんな年ですし……もっと厳しくしつけないといけないみたいですわね」

「なんていうか、その、世知辛い世のですね」

「それほどでも……

「「……………………はぁ」」









 あれから一時間たちました。

 何とかルイズちゃんはカリーヌさんの説得という名の威圧により、コントラクト・サーヴァント、契約をバランサーの少女と終らせると、すぐに背を向け走り、僕の背中に隠れてしまった。
 普通だったら、母であるカリーヌさんの陰に隠れるのが普通なんだろうに。

「うう、私そんなに怖いかな~……グスン」

「えと……まあ、そのうち普通に接してくれるようになるよ…………たぶん。それはそうと、カリーヌさん。その、どうしましょう。ルイズちゃん、こっちに来てしまいましたが」

「しょうがないですね。ついさっきまで考えていたことなのですが、あなたたちはしばらくの間、ルイズと一緒に同じ部屋にいたらどうでしょう? 特に、ミスタ・ユウはともかく、彼女はその必要があると思うのですが……」

 そういいながら、僕の顔を見ながらも、暗に「あなたが何とかしくださいね? 彼女はあなたの恩人なのでしょう?」と目で語っていた。
 えぇ。確かにその通りですよ。彼女は僕にとっては恩人以外の何物でもありませんよ? ですが、だからと言って自分の娘を今日会った得体のしれない、しかも生きているのか生きていないのかよくわからない人間に任せますか?
 そりゃあ僕は、今じゃこんなコジンマリとした容姿をしていますけど。ルイズちゃんだってどういうわけだか僕に懐いているようですけれども。でも、だからって……

「でよろしく……お願いできますわね?」

 …………さいですか。
 僕の顔はまるで捨てられた子犬かのように、哀愁漂う雰囲気を醸し出していた。










 は~い。私、バランサーなんよー。どういうわけだかお兄ちゃんと一緒にルイズちゃんに召喚されちゃいました。
 正直な話なんだけどね? 予想外! 想定外! 規格外! の三拍子が見事にそろって頭の中がオーバーヒートしていたんよ。
 私がここに来てから殆ど口を開かなかったのも、そのためなんよ。
 私が設定したプログラムに穴はなく、いや、正直お兄ちゃんのことをプログラム呼ばわりしたくはないけど、それでもそれ相応の準備をしたし、私も本来なら“ハルゲギニア”と呼ばれているこの世界にいることができないはずだったの。
 下手すれば、世界が私のことを殺しにかかるからね~。それがどういうわけだか、その気配がないし、それどころか世界は私のことを受け入れている節さえあるんよ。
 ぶっちゃけますと、正直、あそこでお兄ちゃんと離れ離れになっていたら、もう二度と会うことができなかったから、結果としてはうれしいことこの上ないわけなんですがね~。

 今回、問題視しているのは大きく分けて四つなんよ。

 まず、なんで世界に何の理由もなく干渉できないはずの私が、この世界に干渉できてしまったかということについて。

 次に、あの時現れたゲートはなぜ、対象をお兄ちゃんだけではなく、私まで選ばれてしまったかということについて。

 次に、なぜゲートはお兄ちゃんの目の前で開き、本来強制力などないはずの世界に、強制的に縛り付けられているのかということについて。

 最後に、なぜ急にお兄ちゃんの体が縮んでしまったのかということ。

 私が思うに、この四つは似たような内容のものばかりに見えて、その実、全く違うばらばらの、しかも難解のものだと考えるんよ。
 本来私は、世界に拒否されてしまった人間のうちの一人だった。それで、バランサーとなって私みたいな人間が出てきてしまわないようにと思い、何百年のも頑張ってきたんよ。
 そんな中で努力し、知識をつけ、力をつけてきたけど、直接世界に干渉できることはなかった。だから、ゲートに引き込まれる前に私ははじかれてしまうはずだったんよ。
 はっきり言うと、この絶対にありえないような現象の理由、または原因は分からないけど、この事実だけは確かなんよ。


 ―――それでも、私はここにいる。


 あの時、世界のはざまでお兄ちゃんは私のことを思い出したかのように「優香」って私の本名を呟いていたから、お兄ちゃんの魂を再構築するときに、その記憶に関してプロテクターをかけておいて本当に良かったんよ。
 あとは、私がボロを出したり、お兄ちゃんにかけたプロテクターが、何かのきっかけで外れることはないから、とりあえずは安心できる。
 だから私はお兄ちゃんにばれたらいけない。私の存在が消えるその前は、お兄ちゃんと兄妹だったことを。

 そう、決意を新たにして、私はカリーヌさの話に耳を傾けたんよ。
 そしたら私たちが、この世界に連れてこられた理由を知っているなんて言うから驚いてお兄ちゃんと一緒に「原因わかってたんですか!?」って叫んでいしまったんよ。
 なんでも、カリーヌさんの話によると、彼女の娘のルイズちゃんの召喚の儀式で、私たちを召還してしまったらしいんよ。
 わざと呼んだものなのかと思ったら、それも違うらしく、どうやら偶然だったらしいし。
 というか、偶然で世界の壁を越えてしまうって……

 とりあえず、元の“世界のはざま”に戻る方法が分からないいじょう、私たちに残された選択はルイズちゃんの使い魔にならなくちゃいけない。
 ということで、お兄ちゃんは先に、ルイズちゃんと契約、もといキスを済ませちゃって、今度は私の番ってところまで来たんだけど、なんかものすごい嫌われちゃったみたいなんよ~。
 ルイズちゃんはトテテテ~とお兄ちゃんの陰に隠れちゃったし、私はそれを見てシクシクと泣きたくなったし、というか泣いちゃったし……
 それでも何とかルイズちゃんと使い魔の契約をすることができたんよ。でも、すぐに、またお兄ちゃんの背中に隠れちゃうし、カリーヌさんは「オホホホホ~」と、笑いながら部屋から出て行ってしまったし、私は猛烈にいたたまれない気持ちでいっぱいなんよ~。
 とにかくこの状況がある意味悲しくて、私は目に涙を浮かべているとお兄ちゃんが私に話をかけてきた。ルイズちゃんは、どうやら部屋の隅この方で私たちの様子を、うかがっているようだった。

「あの…大丈夫ですか?」

「駄目なんよ。…………私の心はある意味、折れそうなんよ…グスン」

「ま、まぁ、そのうち慣れてくれますよ。 ……あ…あ~そういえば、こうなってしまったいじょう、貴方もこの世界から出ることができないってことなんですよね? だったら、名前をどうしよう」

「……名前?」

 私はお兄ちゃんが何を言いたいのかよくわからずポカンとしながら首をかしげた。

「そう、名前。よく考えてみたら、君の名前、どうしようかと思っていったんだよ。あの時、世界のはざまで君は名前がないって言っていたから。それに君はこの世界から出る方法が分からないんですよね?じゃないと、ルイズちゃんと契約する理由が見当たらないし。」

 そういいながらお兄ちゃんは苦笑いしながら、だったらなおのこと名前は必要でしょう? と提案してきた。
 確かにそのとうりなんよ。私には人間のころの名前はあっても、世界のバランサーとしての名前はない。でも自分で自分の名前を考えて、それを私自身につけるなんて、ちょっと恥ずかしいんよ。
 じゃぁ、どうするかっていう話になるんだけど。

「どうしようかな」

「……いや、どうしようかなって言われても。君の名前のことでしょう?」

「う~ん。それじゃあ聞くけど、もし君が私と同じ立場だったとして、急に自分の名前を自分で考えろなんて言われたら君はどうするの? ちなみに私は恥ずかしいと思うんよ?」

「う! ……確かにそうかも」

 お兄ちゃんは、そう呟くと右手の人差指で、軽く赤く染まったその頬をポリポリと掻いて目線を私から話した。
 うん。やっぱり誰だって恥ずかしいものなんよね。そうに決まってるんよ。

「でもそうなると、君の名前は誰につけてもらうの? ルイズちゃん? カリーヌさん? それとも……」

 誰かに名前を付けてもらう? …………そうだ!その手があったんよ~!
 それを思いついた私は唐突にお兄ちゃんの空いている左手を私の両手で握りながらありったけの思いでお兄ちゃんに“お願い”した。

「君に名前を付けてほしいんよ!」

「え? ええええええぇぇぇぇ!?」

 何がそんなに驚いたのか、そんな絶叫しなくても。私はたまらず耳をふさいだ。

「え? なんで? 僕が君の名前を? 無理無理無理無理!」

 そういいながらお兄ちゃんは右手を勢いよく顔の前でブンブンと左右に振っていた。
 なんでも、「僕は誰かに名前を付けたとなんてないし」だとか「確かに、名前をどうする? って聞いたのは僕だけど」とかお兄ちゃんは言っているけど、私はそんなこと気にしないんよ。
 それに、今の小さくなったお兄ちゃんがそうやっているのを見ると、なんだか可愛く見えてどうしようもないんよ~。

「やっぱり、僕が君に名前をつけなくちゃダメ?」

「ダ~メ」

「や、やっぱり?」

「うん♡」

 私が、とどめとばかりに、そういうと、お兄ちゃんはあからさまに肩を落として「ハァ」と小さくため息をついた。
 それでも、気を取り直して私の名前を一生懸命考え始めてくれたお兄ちゃんはきっと、とっても優しいと思うの。
 だって普通、おにいちゃんにとったら赤の他人とさほど変わらない私のために名前を考えてくれているんだから。

 あ。今南南西から電波を受信しちゃったんよ。何々? 私が強引に迫ったんじゃないかって? 無問題! そこは気にしたら負けなんよ~。

 そうやって、しばらく私は頭の中でちょ~っとだけふざけたことを考えているうちに、お兄ちゃんは何かを思いついたのか、私の目を見つめながら声をかけてきた。

「あの、とりあえず考えてみたんですけど、一つだけしか思いつかなくて。それでもいいなら君に確認をとって、今後はその名前で呼びたいな~、なんてこと思ったんですけど」

「え? 何々? 名前考えてくれたの?」

「とりあえずはだけど」

「じゃあ、その名前をおしえてほしいんよ。私に何て名前くれるの~?」

 私はそう言いながら、今や背が縮んでしまったお兄ちゃんの頬っぺたを両手ではさみ、ムニムニしながら額と額をくっつけながら聞いてみた。

「な、何やってるの!? また僕のことをからかっているようなことやって~! せっかく名前を考えたのに、このままだとまともに話が進まないじゃないですか!」

 お兄ちゃんは慌てながらそういうので、意地悪するのはもうやめて、そのプニプニした頬っぺたを話してあげたんよ。
 すると、心を落ち着かせるためか二~三回深呼吸をして息を整えた。あ~もうかわいいな~。
 と、いつまでもふざけていいような雰囲気じゃないんよ。もういい加減ちゃんとしないと。

「それで、私の名前はどんなのにしてくれたの?」

 私は、そう微笑みながらお兄ちゃんに聞いた。

「そうですね。さっきも言ったように、名前を一つだけしか考えることができなかったんですよ。というか、その名前以外にありえないような気がして」

「へ~。それ以外にかぁ」

「はい。その名前は――――――」


 その時私は愕然した。だって、あの時確かにプロテクターかけといたはずなんよ? 絶対に思い出すはずなんかないんよ? 
 なんでお兄ちゃんはその名前を私にくれるの?

 それはとても懐かしい名前で。

 それはお兄ちゃんがおぼえているはずのない名前で……

「――――――優香」


 私は嬉しくて。嬉しくて、うれしくて嬉しくて。


 思わず涙を流していた。









 なんで!? 僕なんかへんなこといったのかな。だってこの名前以外にないと思ったんですよ。
 確かに名前を、ましてや人に名前を付けようなんてこと、したことないですけれども、まさかなくほど嫌だったのかな。

「もしかして僕の考えた名前がいけませんでしたか? でも本当にこの名前しかないって思って……」

 僕はそう取り乱しながら、彼女に声をかける。
 その声に反応した彼女は、首を左右に振った。

「ううん、違うの。とても嬉しくて、嬉しすぎて涙が出てきちゃっただけなんよ。だから心配しないで」

 彼女は。いや、優香はそう言いながら泣きなら笑った。
 僕はそれが、今まで見てきた笑顔の中で一番綺麗に、輝いて見えたんだ。

 でも僕はまだ知らなかった。この後、まさかルイズちゃんの姿がいつの間にか消えていて、あんなことになっているなんてことを。










「ハァ、ハァ」

 私は今一人で船のところまで走っている途中なの。

「あんな……ハァ、の私の使い魔じゃないよ!」

 ダメ、泣いたらダメ。絶対に誰にもこの涙を見られたくない。
 私はそう思いながら片手で両目をこすった。

 私は誰もいないところなら何でもよかった。それだけのはずだったのに。


 それだけのはずだったのに。



[35760] 「僕は君を助けたいんだ!」
Name: 夢物語◆746c7e70 ID:14e428ce
Date: 2013/02/17 02:50
「か、カリーヌ様! 大変です、ルイズお嬢様が! ルイズお嬢様が!!」

「どうしたのです、そんなに慌てて。ヴァリエール家の側近隊の人がそんなに慌てていては示しがつきませ「そんなことは今はどうでもいいんです!!」……どうでも、いい?」

 どうやら、相当焦っているそうですね。

 私はあの後、ルイズの部屋にあの二人を残し、一人自室で悠々自適にメイドに用意させた紅茶を飲んでいました。
 なぜルイズと、その使い魔達を地一つの部屋にいさせているのかというと、たんに私が逃げたからじゃありません。本当にありませんよ?
 失礼、コホン。私が何を言いたいのかといいますと、思うにルイズと使い魔達に親睦を深めてもらおうと思ったからです。……本当ですよ?

 ま、まぁ、それはともかく、自分にいいわ……もとい、考えているときに突然私の閉じていた部屋のドアが『バタン!!』と大きな音を立てながら開きました。
 私はどうしたものかと思い、音を立てた主のほうに顔を向け、「どうかしましたか?」と聞こうとも思ったのですが、それをせずにまず、私に対する無礼を問いただすことにしました。
 それは、側近隊の隊長である彼がちゃんと身にあった態度をとらなければほかのものに示しがつかないからです。
 それに、そうしなければ彼は礼儀を疎かにしてしまい、後々痛い目にあうかもしれません。
 ですから、私は彼のために注意したわけなのですが、その言葉をさえぎられてしまったわけです。

 どうやら大変なことが起こってしまったようですね。彼が発した開口一番目の言葉にルイズの名前が出てきたその理由も気になります。

「わかりました。今さっきのことは不問にします。相当なことがあったようですし、何が起こったのかを簡潔に話いなさい」

「は、わかりました。言い訳も何もしません。この後、私の首をカリーヌ様がはねようともかまいません。ですので心して聞いてください―――」
 私はこの時、あまりの事実に愕然し、めまいを覚え、目の焦点が合わなくなってしまい、思わず目を見開いてしまいました。


「―――ルイズお嬢様が……死んでしまいました」









 僕たちは今、広い廊下を闇雲に走っていた。

 始まりは、約十分前のことだった。

「あれ? そういえばルイズちゃん、どこ行ったんでしょうかね」

「? そういえば、さっきまでこの部屋の隅っこに行ってたはずなんよねぇ」

 うん。僕もそれをこの目で確認していたから間違いはないはずないんですけど、といつの間にか泣き止んでいた優香とお互いに確認した。
 もしかしたら、この部屋の中のどこかにいるのかもしれないと、とりあえず二人でしばらくの間、部屋の中を見まわしたけど、結局どこにもいないことには変わりない。

 どうせなら、ついさっきカリーヌさんから言われたように、優香とルイズちゃんが仲良しになれるように、三人で少しずつでもいいから話し合おうと思ったんだけど。
 けど、僕はこれ以上考えるのをやめた。だって、よく考えてみたら、ルイズちゃんはこの家に住んでいる侯爵家の娘なわけで、今日初めてここに来た僕達なんかよりも、この屋敷の内装に詳しい。
 だから、きっと僕たちは心配する必要はないはずだと無根拠に思っただけなんだ。
 ルイズちゃんは僕と同じような外見年齢だったから、たぶん六~七歳のはずだ。その位の歳にもなれば、自我はしっかりと確立されているはずだし、何かあった場合すぐにそれを周りの人達に訴えることもできるはずだ。
 それだったら少し心配になるが、きっとすぐに帰ってくると思い、気にすることをやめたのだが。

「ねぇ。私、心配だから迎えに行こうと思うんよ」

 優香が僕に一緒にルイズちゃんを探しに行こうと誘ってきた。

「なんで? ルイズちゃんはこの屋敷に住んでいる人間の一人なわけですし、道に迷うなんてことが、あるわけないじゃないですか。それに、たしかに心配ですけれでも、ここにはたくさんの人間の目があるから……」

「うん、それは分かっているんよ。でもなんでだろ。理由は分かんないけど、なんかすごい嫌な予感がしてなんないんよ……」

 そういいながら神妙な顔で、大きな部屋に一つだけ備え付けられている、大きくて綺麗な装飾が施されている扉を見つめながら僕に訴えかけてきた。

「だけど、君の言う嫌な悪寒を感じてしまう要素がルイズちゃんにあったとして、僕たちにそれをどうにかできるほどの力があるんですか? 僕たちはルイズちゃんが何処に行ったのか全く分からないし、かといって探す手段があるわけでもない。そんな中、優香はルイズちゃんを探して迎えに行こうというの?」

「うん」

「…………」

 間髪入れずに即答する優香。それを聞いて思わず唖然とし目を点にしながら何も言えなくなってしまう僕。

 その力強い返事に僕はどうしようもない嬉しさを感じた。
 その嬉しさは初めて感じたようなもののはずなのに、初めてではないような不思議な感覚がした。けどそれは全然不快じゃない。むしろ心地いい。
 そしてなぜか、この迷いのない返事をする優香の姿を優香らしいと思った。

 仕方がない。こうなったらルイズちゃんを探して、勝手に外を出歩いたことをカリーヌさんから素直にしかられよう。
 僕はそんな未来予想をすると、どことなく苦い顔をすることしかできなくて、それと同時にこれからはきっと楽しくなると、そんな期待も交じっているからか苦笑いという形で僕の顔から表情に出てきた。

「わかった。それじゃぁ、ルイズちゃんを迎えに行くついでに、カリーヌさんに叱られに行きますか」

「っあ! 何ですかその言い回し! 褒められこそすれ、叱られるようなことはする気サラサラないですよ!?」

「あーはいはい。分かりましたから。それじゃぁ行きますかね」

「あ~こら~! スルーするなー!!」

 うん。無理です。
 僕は心の中で呟きながらサムズアップし、笑いながらがら廊下へ出ようとしたのだが……

『助けて!!』

「「!!!」」

 突然僕の頭な中に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 どこで聞いた。この声は助けを求める声だった。優香か? と思い怪訝な表情で彼女の顔を見るが、顔を横に振ることから違うようだ。
 ということは、この声は優香にも聞こえていたということだ。
 だとしたら、いったい何処から……
 もしかしたら、優香が何か気が付いたのかもしれないと思い、今起こっていることを整理するために声をかけた。

「今、声聞こえましたよね」

「うん。聞こえたんよ」

「助けを呼ぶような声だったけど誰の声なのかはっきりつかめなかった。心当たりありますか?」

「……そういえば、ルイズちゃんの声にそっくりだったんよ。それに場所はハッキリとしないけど、水の中だったことは確かなんよ」

 ―――っな!

「なんで水の中だって分かったんですか!!?」

「それは、たぶんだだけど、私の視界にルイズちゃんが見ているものと思える景色というか……とにかくそういうものが見えてしまったんよ」

 ちょっと持ってよ。ていうことは。

「まさか」

「うん、ここでこんなことしている場合じゃないね」

 優香はそういいながら扉に向かって右手を上げ、指をさした。
 なんで。なんでこんなことになったんだ? 優香が言った通りじゃないか。なんでさっきまで僕はなんだかんだ理由をつけてルイズちゃんを探しに行くことを拒んだ!

 甘く見ていた。ここは僕が知っている世界とは全く別の世界だ。そんな世界がいくら屋敷内とはいえ安全性に優れているわけがないじゃないか!

 とにかく時間がない。子供一人の命に係わるんだ。急がないと。
 急ぐとしてもいったい何処に…… そういえばここに来る前に中庭を通ったはず。だとしたら可能性があるのはそこか?
 とにかく行ってみるしかない!

「え? ちょっと私を置いてどこに行くの!? 心当たりとかあるの!!?」

 僕は一瞬でそこまで考えをまとめると、優香の声を無視して廊下へ走り出した。









「――――――――――――」

 私、このまま死んじゃうのかな。


 ゴボゴボ


 きっと、何もかも、あの亜人がいけないんだ。


 ゴボ……ポポポポポ


 だって。私、いつもみたいに、逃げようとしただけだもん。


 ……コポポポ


 それに、きっとお母さんは私のことが嫌いなんだ。


 …………ポポポ


 だったら……このまま……










 お兄ちゃんは今、ルイズちゃんの部屋を出て、ただひたすら走っていた。
 ついさっきは、あんなに穏やかな時間が流れていたのに。

 事の始まりはそんなには時間が経っていなかったから、ついさっきのことなんよ。
 あの時、私たちはルイズちゃんの部屋で話をしていて、気が付いたときにはもう、その部屋の主であるルイズちゃんは、いつの間にかいなくなっていた。
 だから心配に思って探しに行こうと、お兄ちゃんを説得して、さぁ、いよいよ探しに行こうってしたときに『助けて!』という声が聞こえてきたんよ。
 それだけじゃない。たぶんお兄ちゃんには見えなかったと思うけど、私の左目に、見渡す限りの水が広がっていた。
 私はそれが、ルイズちゃんが今見ているものだと、すぐにわかったんよ
 そのことをお兄ちゃんに伝えると、普段はホンワカとしたとしたお兄ちゃんの雰囲気がなくなり、焦りをその顔に貼り付け、形相を変えながら私の制止を無視してドアから駆け出して行った。

 それで今に至るわけなんだけど、お兄ちゃんはもう、息が切れたのか、肩で息をしていたんよ……

「優君、ちょっと待ってほしいんよ! もう息が切れているじゃない!」

 とにかく、お兄ちゃんに少し休んでもらおうかと、そう声をかけた。

 だって仕方ないじゃない。ルイズちゃんの部屋から、もしかしたらルイズちゃんがいるであろう池までの距離は、だいたい1キロメートル。
 たしかに、世間一般から見たら、そんな距離は大した道のりとは言わないかもしれない。
 だけどお兄ちゃんは違う。
 たしかにこの世界に来る前に、お兄ちゃんにはドラゴンボールの主人公の孫悟空と同等な身体的スペックを、その魂に組み込んだ。

 だからと言って、まだ鍛えているわけでもない体がすぐに動くわけがない。
 要するに、今のお兄ちゃんは、死んでしまったあの時に近い体力しかないということなんよ。
 そんなお兄ちゃんが、今もなおルイズちゃんを助けるためには走り続けている。
 それでも、私は自分勝手に、こう思ってしまった。

 もう休んでもいいじゃない。

 そう思って、かけた言葉だった。だけどお兄ちゃんは……

「―――ふざけないでください!」

「な……!?」

 私はお兄ちゃんの怒声にビックリして、私は目を丸くした。
 そんな私に目もくれず、声を張り上げながらも、なお走り続ける。

「な、なんで!? たしかにルイズちゃんは溺れているかもしれない、けど、ここはルイズちゃんのお家だよ!? しかも、兵士やメイドさんを雇えるほどの大金持ちの。だったら、もしかしたら、誰かもう気が付いてルイズちゃんは助けられているはずだよ? この世界には魔法も……」

「何をバカなことを言ってるんですか!! はぁ、はぁ。この世界は僕が元いた世界ほど文明が発達していないのが分かるでしょ。元の世界ですら絶対に安全な生活なんてありえないんです。だったらこの世界は、ごほ! はぁ、それよりも危険なことがあるかもしれないって、何故分からないんですか!?」

 お兄ちゃんの放った言葉は、普段の私だったら、ちょっと考えれば、すぐに分かることだった。

 何言ってるんだろう。

 何やってるんだろう。私。

 お兄ちゃんに会えて、浮かれていたのかな。

 お兄ちゃんと、ずっと一緒にいれるようになったからって、周りがあまりよく見えていなかったのかな。


 そうだよね。私は何を勘違いしていたんだろ。


 今は難しいことは考えなくていいんよ。


 今は。


 ―――今は!


 気が付いたら池は、もう目と鼻の先だった。









 僕は、人の死に敏感だと思っている。
 それは、ここに来る前の、僕が元いた世界の病院に、長い間入院していたのが大きな理由だと思う。

 その時の僕は子供だった。子供だったが故、無邪気だったし、同じ部屋に入院していた同年代の子と友達になり、遊ぶことだってあった。
 ただ、そういった子たちは、僕と同じように集中治療室に居させられるような重い病気を持った、または怪我をした子たちがほとんどだった。

 だから知っている。今にも死にそうな人が放つ『生きたい』という声を。
 それが、どれだけ重たい思いなのかを僕は知っている。
 だから僕は願ったんです。もう僕の目の前で、誰かが死んでほしくない。せめて、この手の届く範囲で誰かを、大切な人たちを守りたい。

 でも、僕はある時、その当時に知り合った、同い年の男の子に怒られてしまいました。

「なんだよ、お前は神にでもなるつもりか?」

「…え?」

 僕は突然、放たれた彼、の言葉に唖然としてしまった。

「だって、そういうことだろ。俺は、お前の思っていることを、間接的とはいえ聞いて思ったけどよ。自分の身すら守れねえ奴が何言ってるんだっていうことなんだよ」

「でも、僕がいけないんだよ。僕が病気だから、お母さんに迷惑かけてる。ここにいる人達だって、場合によっては僕より重い病気なのかもしれないのに、それでも僕の友達になってくれて、はしゃぎすぎて、様態が重くなって、それで「……もいあがるな」……え?

「思い上がるな!お前がすべてを救うだと? そんなのは無理に決まっている! 当たり前のことを言うがな、お前は、何をどうしようが、どうしようもないぐらいの人間なんだよ! 手の届く範囲ですべてを守りたい? 大いに結構! だがな……それは、それはみんな同じなんだよ」

 僕は、彼が目に涙をためながら、そう話すのを、ただ黙って聞くことしかできなかった。

 その後、彼は僕が死ぬ一ヶ月前に、亡くなってしまった。

 後に集中治療室のベッドで知ったことだけど、彼もたくさんの、この病院でできた友達が何人も先に逝かれたそうだ。
 だが、それでも彼は泣かなかった。ただ、看護婦さんの話によれば、彼は毎日、夜になると、声を必死に殺して泣いていたそうだ。
 彼が人前で泣いたのは、後にも先にも、僕の目の前で泣くのが初めてだと、僕はすぐに分かった。

 そのときほど僕に、誰かを守り、救える程の力がないことを悔しく思ったことはない。

 だけど、今は違う。

 僕は病気じゃない。

 体に病魔が巣食っているわけじゃないんだ。

 今、ルイズちゃんが死ぬかもしれないというのなら、助けに行くことができるんだ!

 僕は、ルイズちゃんのことを助けたい。

 助けたいんだ!

 だから

「……はぁ、はぁ。待ってて はぁ、ください」

 僕は。

「僕は君を助けたいんだ」


 ―――そして僕達は目的地の池へたどり着いた



[35760] 私の人生、本物なんだ
Name: 夢物語◆746c7e70 ID:14e428ce
Date: 2013/03/31 20:43
 池についた僕たちは、愕然に震えていた。

「どいてください。今ならまだ間に合うんです! 僕はただルイズちゃんを助けたいだけなんです!!」

「ならん! 得体のしれない連中にルイズお嬢様の死体を好きにさせるわけがないだろう! 心の臓が止まっているのだ。もう手遅れなんだ!!」

「違うんよ! 人間はそう簡単に死なないんよ!」

「そのようなことを、のたまいやがって。本当はイズお嬢様の亡骸をどこかに連れていき喰う気なのだろ!!」

「そんなことはないんよ! 私たちはルイズちゃんに召喚された使い魔なんだから!」

「そうですよ。それに、ルイズちゃんに召喚される前に僕たちは、もうすでに彼女と一緒にいました。もし、彼女が、貴方たちの言う人を食うような化け物だったら、僕はもうとっくに彼女に喰われてますよ!」

「そ……それもそうだが」

 なぜならば、僕たちは、この屋敷の人に雇われていると思われる兵士たちに行く手を阻まれているからです。

 上等な甲冑を身にまとい、腰に杖を下げている兵士たちはルイズちゃんのことを持ち上げ、どこかに運ぼうとしており、そんな連中のなかで比較的に大柄の男が僕達に杖を向けて、僕達とルイズちゃんを接触させまいとしていた。
 たしかに連中からしたら、僕たちは不審人物だ。
 そんな人間が、自分たちの主の娘である彼女との接触を許すわけがないことを僕は分かっています。
 でも、だからと言って、まだ生きているルイズちゃんのことをこのまま見捨てるわけにはいかないじゃないですか。
 そう思いながら、必死に連中を説得して通してもらおうとしても、一向に信用してもらえる気配すらない。

 くっそ! くそくおくそくそくそ―――!! 結局、僕はどこに行っても、何をしたとしても無力じゃないか。
 どうする。どうするどうするどうする!?


「俺がルイズお嬢様の亡骸を燃やそう。得体のしれない連中に亡骸に触れられるより、そうしたほうがルイズお嬢様のためだ」


 ブチイイィィィ!!!!


 僕の頭の中で、何かが切れる音が聞こえた。





   バキ!!





 あたりに大きな音が響いた

「な、何をするんだね君は!!」

 僕はルイズちゃんのことを連れて行こうとした人をぶん殴った。

「皆、杖を向けい。用意!」

 近衛隊の人達は一斉に僕に向けて杖を構えた。だが僕はそんなことを気にすることもなく彼の胸ぐらをつかんだ。

「なにを……するじゃないですよ。なんで簡単に自己完結しちゃうんですか」

「な、何を言ってるんだ!そんなことあるわけ「ありますよ!!」」

「あなたはルイズちゃんの目を見たことありますか? あの子は周りと違う自分自身に、周りの期待に応えられない自分自身に悲しみを抱えていたんですよ。そんなこと、会ったばかりの僕ですらわかりますよ」

 僕はそういうと彼を離し、ルイズちゃんの胸を力の限り殴りつけた。
 もう、彼女の心臓が止まってからだいぶ時間が経つ。普通の心肺蘇生方法が有効なわけがない。だったら少し強引でも心臓を無理に動かし、血液を循環させるしかない。
 気道を確保し、人工呼吸を始める。そしてまた無茶な心臓マッサージ。
 周りの人達はそんな僕を見て声ひとつ出さない。

「早く。はやくさ……帰ってきてくださいよ。僕達、まだ会ったばかりじゃないですか」

 帰ってこない。

「君は、こんなところで終わっていいの? 悔しかったんだろ? 悲しかったんだろ? 何もできない自分が。そんな中で必死に生きたいって、みんなに聞こえない声で叫び続けたんじゃないんですか?」

 帰ってこない。

「だって、こんなの悲しすぎるじゃないですか。悔しすぎるじゃないですか!」

「き……君、いい加減にしろ」

 僕に声がかかった。僕が殴りつけた人からの物だった。

「うるさい!! ルイズちゃんは今必死に生きようとしてるんだよ。この世界にだけじゃない。人の記憶の中にもだ! 人のことをよくも知ろうとしないで自己完結して、それを押し付けるな。そんな偽物を僕らにおしつけるな!!」

 僕は初めてこの世界で汚い言葉を吐き、吠えた。
「人生っていうのはそんな薄っぺらなものじゃないんだよ。どんな人間だって必死に生きてるんだ。だったらルイズちゃん。君の人生だって本物だったはずなんだよ!」




















 私はよく泣いていた。

 魔法ができないから、よくお母さんに怒られてた。

 周りのメイドやメイジたちからは冷たい目が向けられることがよくあった。
 だから私は人一倍頑張った。

 杖は何百、何千もふり、演唱は声がかれるまで唱え続けたことは何回もある。

 それでも報われない。

 周りの人達の目の色は変わることはなかった。

 なんで? 何でなの!? 私はいっぱい頑張った。誰にも負けないぐらい努力した。お母さんに笑ってほしいから頑張った。


 だけど、それと同じくらい惨めだった。


 チイ姉さまとエレオノール姉さまはとてもすごいメイジだ。だけど私はおとこぼれだ。

 何より嫌だったのは比較するような目と、失望したような目だった。

 何で?

 私が落ちこぼれだから?

 いろんな考えが私の頭の中をグチャグチャになって、悲しくて、悔しくて、だから小さな池のボートに乗って、よく泣いてた。

 私は本当に生きているの? 死んでいるの?

 死ぬのは嫌だ。生きたい。

 何でだろう。

 何で死にたくないんだろう。

 怖いから。

 ……

 何もできないで死にたくない。

 それに、まだ何もしていない。

 何かって言われてもわからない。

 私は怖い。

 誰も私のことを覚えていてくれないと思うから。だから、それが一番怖い。



 ……てこ…



 私は生きたい。



 か…てこい



 私は生きたい!!



 帰ってこい!!




「君の人生だって本物だったはずなんだよ!」


トクン


 よかった。  私の人生、本物なんだ




















 トクン

「……あ」

 鼓動が聞こえた。










 僕のお父さんは事故で死んでしまった。それに、実の親なのに名前を知らない。
 なぜなら、お母さんからお父さんの名前を教えてもらったことがないからだ。
 それでも、僕は小さい頃のお父さんとの思い出だけで十分だった。

 僕は小さいころからよく歌を歌ってた。
 どこかで聞きかじったような歌や、自分で即興で作った歌を得意げに歌っていたんだ。
 それをお父さんに聞かせて、それでほめてもらう。それで僕の数少ない幸せだった。

 お父さんはとても優しい人で、良く僕と遊んでくれた。
 僕の体が弱く、病弱で病院通いが当たり前だったことを除いたら、どこにでもあるよう家庭だったのかもしれない。

 お父さんと僕は、よく中庭の立ち台に腰かけ、日向にあたってた。その目の前にあるのは一際目立つ大きな木だ。僕らはなぜかその木を眺めるのが好きだった。
 心地よい風が吹き、それが僕は生きているんだと実感させられた。
 そんな場所で僕は歌を歌った。

「お前、歌がうまいな~」

 そう、微笑みながら僕のことを見るお父さん。
 そして僕はお父さんの武骨な手で僕の頭を優しく撫でてくれる。
 それがどうしようもなく嬉しかった。

「そんなにうまい? うまいの? ボク」

「あぁ、お前の歌はとてもキレイで、優しく聞こえるよ」

「本当?」

「あぁ、本当だ」

「ヤ、ヤッタ~!」

 僕は無邪気に喜んだ。
 走り回ることができなくても、僕はそれを体全体で喜びを表現した。

「優。お前、将来歌手になれ」

「カシュ?」

「そうだよ。歌手だ。こんな病気なんかあっという間に直して、友達をたくさん作って、いっぱい勉強して、それで沢山の人を笑顔にしてほしいんだ」

 そういいながら、お父さんは僕のことを背中から抱きしめる。

「カシュになれば病気は治るの?」

「……え? いや」

「カシュになればたくさんの人を笑顔にできるし、友達にもなれるの?」

 お父さんの顔は笑顔から苦笑いに変わった。

「ぁ、あぁ、本当さ!」

「本当? じゃあボク、カシュになる!」

 そう言いながら、僕は目をキラキラさせていた。

 今だから分かるが、あの時お父さんは僕に優しい嘘をついていたのは明らかだった。
 だけど、僕はそのやさしさに救われた。僕にも誰かを笑顔にできることを知った。僕の周りのみんなを笑顔にすることのうれしさを知った。
 だったら、まずは僕の近くにいる人から笑顔にできるようにしないと。

 そうして僕は歌い続けた。


 お父さんに、


 お母さんに、


 それと……




 それと、だれ?










 それから僕は、なくすことの悲しさを知った。
 大切なものも。大切な人も。大切なものをくれた人たちのことも。
 だからもう、なくさない。




















 私は、お兄ちゃんの必死な姿を見て、どうしてこんなに必死になれるのかすぐに分かった。
 だってなくしたくないから。ただそれだけなんだと分かってしまったんよ。

 心肺蘇生というには、かなり無茶苦茶な心臓マッサージと人工呼吸を行ったすえ、ルイズちゃんの心臓は動き出し、呼吸をし始めた。そのルイズちゃんの顔色は、青白かったものから血色のいいものに変わっていき、今生きているのだといことがはっきりわかるようになったんよ。

 周りの人達は何も言わない。いや、言えない。
 だって皆はルイズちゃんが死んだとばかり思っていたらしいから、実際、奇跡に近い蘇生にを目のあたりにしてみんな、自分たちが間違いだったことに気が付いてショックを受けているみたいだったんよ。
 まぁ、それだけじゃなくって、お兄ちゃんが吠えていたことにみんなビックリしていたんだということも考えられるんだけどね。

 とにかく私は、この結果に安心した。これでもう大丈夫だと思ったんよ。

「よかった」

 だから私はそう言いながら、お兄ちゃんとルイズちゃんのいる場所に歩いて行った。
 それに気が付いたお兄ちゃんは私の方に座ったまま顔を向けた。

「……ルイズちゃん、帰ってきたよ」

「うん」

「ぼく……ボク……」

 そういいながらお兄ちゃんは、笑いながら泣いていた。




















 優香が僕に近づいてくるのが分かった。

「よかったね」

 僕はその言葉を聞き、座ったまま顔だけを優香に向ける。
 彼女は微笑んで、僕達を見ていた。

「……ルイズちゃん、帰ってきたよ」

 僕は、とにかくそれが嬉しかった。

 まだ助けられる可能性があったからと言って、確実に助けられるとは限らないから。
 だから、ルイズちゃんを助けることができて、それがどうしようもなく嬉しくて、僕はその思いを優香に帰ってきてくれたとに伝えることしかできなかった。

「ぼく……ボク……」

 僕は、僕の目の前でたくさんのものがなくなった。だけど、この子の命を助けることができたのが嬉しいから、そう思うと僕は涙を流していたんだ。

 でも、それと同時に僕の冷静な部分でこれからのことを考えていた。
 ルイズちゃん死にかけてしまったから、その分体が弱ってしまっている。だとか、もしかしたら脳にダメージが残ってしまって、後遺症が出てきてしまうかもしれないとか。
 そんなことを僕は静寂の中考えていた。だがそれは長く続かなかった

「わ……たし」

 なぜならルイズちゃんの目が覚めたからだ。
 僕と優香はルイズちゃんの顔を覗き込んだ。

 今は難しいことはどうでもいい。それは後で考えることだ。

 そう思い、僕は「お帰りなさい」といった。

 「……私の人生、本物……なんだよね?」

 そ、それは。

「僕の声……」

「うん。きこえ、たよ」

 それから僕はしばらくの間、ルイズちゃんのことを抱きしめ、泣くことしかできなかった。



[35760] 「あの…そろそろ離れてくれると……う、うれしいかな~ なんて」
Name: 夢物語◆2fd178b0 ID:14e428ce
Date: 2014/01/07 19:31
 目が覚めると、そこはルイズちゃんの部屋だった。

「……あれ、僕はどうして」

 僕は寝起きで回転が緩い頭で昨日会ったことを思い出し、整理することにした。

 確か僕は|世界《空間の狭間》で生まれ変われるはずだった。もちろん、それ相応の手続きをしたし、死ぬことのできない借り物の体に断続的に続く痛みに耐え、世界に僕という存在を認めてもらえるようにもなった。

 そう、なったはずなんだ。

 要するに、何を言いたいかというと、転生することができなかったということだ。

 それは、この部屋の持ち主であるルイズちゃんが大きな原因だった。

 もはや偶然の積み重ねによっておこったトラブルと事故により無理矢理|世界《空間の狭間》に穴をあけられ、このハルゲギニア召喚されてしまった。

 そして、ルイズちゃんのお母さん、カリーヌさんから話を聞くと、どうやら僕たちは元の世界に戻ることができならしい。
 というのも、そもそも|使い魔を召喚する儀式《サモンサーヴァント》は、本来ハルゲギニアに生存する動物や幻獣を召喚し、一生のパートナーにするための呪文らしいのだ。
 だから、使いもを元の場所に送り返すような儀式は存在していなく、現状はこの世界で生きるしか方法がなくなってしまった。

 僕はこの世界にとったら予備知識と言っていいようなことを頭の中で思い出していると、何か大事なことを忘れているのではないかと違和感を覚えた。

 そういえば、この部屋はルイズちゃんのものだったよね。

 あれ? ルイズちゃん?

 そういえばルイズちゃんは昨日溺れて“死にそうになって……!”

 「……そうだよ! ルイズちゃんは!」

 ガバ!!「ぐぇえ!!」

 僕の頭は急速に冷めていき、そして同時に熱くなった僕は勢いよく上半身を起こそうと足を使って勢いをつけ、腹筋に力を入れたが、なぜか起き上がることができず、軽く僕の首が締まってしまった。

「ッケホ ケホ ……なんで?」

 突然のことにびっくりしたからなのか、さっきまで上っていた血は下がり、冷静さを取り戻した。
 そして余裕も少しだけ出てきたから僕は首を軽くとはいえ締め付けた原因は何かと周りを探した。
 手を首元に持ってくると布越しでもわかる温もりが指先から伝わってきた。それの正体を探ろうと、さらに手でまさぐってみると、どうやらそれは人の、それも小さな女の子の腕だと分かった。



 腕?

 しかも……四本? 二人?


 よくよく考えれば最初のうちに、こうするべきだったんだよ。そうにちがいないね。うん

 僕は顏を左右に向け、腕の主を確認した。そこにはルイズちゃんと優香が僕に抱き付きながら寝息を立てていた。

「…………え?」

 僕ハ何デコノ御嬢様ガタト同ジべっどデ寝テイルノデショウカ?

「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇええええええええええええええええええええええ!!!!!!!????????」










 私は昨日のルイズが起こした騒ぎを思い出しながらルイズの部屋へ向かっていました。


『―――ルイズお嬢様が……死んでしまいました』

 昨日私は側近隊の隊長殿から私に知らされた言葉に耳を疑いました。疑いたくなるのも当たり前です。疑いたくもなりますとも。
 ですが、何度聞きなおしても帰ってくる言葉はおなじで、それは私の聞き間違いなどではないという何よりもの証拠なのですから。

 私は心臓を締め上げられるような思いでいっぱいでした。

 あぁ、私の可愛いルイズ。私はまだあなたの未来を見ていませんのに。
 あなたの将来の姿を見ていませんのに。
 ルイズ、あなたはまだ幸せを知っていませんよ。
 何かを成し遂げた時の喜びや褒められることのうれしさ、そして未来で愛する人と寄り添い、子供を授かり、生む苦しみを味わい、わが子を慈しみ……そんな当たり前のような幸せな人生をあなたは十分に生き抜いてはいませんのに!

「そ……そうです! 彼女はまだ長い人生を生き抜いてはいないではないですか! それに、あの子は私の娘です。そう簡単に死ぬわけがありません! 側近隊隊長殿、ルイズのいる場所はどこですか!! すぐに案内しなさい!!!」

「は……ハッ! わかりました!」


 そうして私は彼に案内されて中庭にある池に向かいました。
 そこで私が目にしたものは、ユウがルイズを抱きしめながら涙を流し、その隣で世界のバランサーと名乗る少女が二人を見守るように微笑んでいる三人の姿でした。
 何より印象強く残ったのは、ルイズの表情でした。私はあの娘が人を慈しむかのように微笑んでいるところを見たことがありません。

 はっきり言って私には、この場面を見るだけではいったい何が起こったのか全く分かりませんでした。
 ルイズは死んではいなかったのですか? なぜ近衛隊はこんなにも唖然としているのでしょうか。
 次から次へと疑問が浮かび上がります。


 ですが。


「そうですわね。ルイズが生きていてくれて本当によかった」

 今はルイズが生きていたことに始祖ブリミルに感謝することにしましょう。


 そうして私はいつの間にか身を寄せ合いながら寝ている三人をいつまでも呆けている|側近隊《カカシ》にルイズの部屋に寝かせてくるように指示を出し、私は寝室で涙を流し、安堵していました。

 そして朝、起きた私はメイドからもうすぐ食事ができることを聞き、ルイズたちを起こそうと今に至るわけなのです。

 それにしても、あの子たちの寝顔は可愛かったですね。
 特にユウは精神年齢が高いですから、少しだけからかってあげましょうか。

 そうやって私は子供たちのことを考えていた時です。

「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇええええええええええええええええええええええ!!!!!!!????????」

「!? 何があったのでしょうか?」

 突然ルイズの部屋からユウの声が聞こえてきたのです。











 なんで!? なんでルイズちゃんと優香が僕と一緒に寝ているの!?
 いや、今の今まで気が付かなかった僕もぼくだとおもいますけどね! でも、これはアバババババ!?!?

 僕こと歌情 優は激しく混乱していた。なぜなら、僕の隣に世間一般から見てもかなり可愛いといっていいような女の子と女性が僕を抱き枕の如く抱き付きながら寝息を立てていたからだ。

 もし、この光景を第三者の男性から見たら羨ましいという間の抜けた言葉が飛び交うことも請け合いだろうが、僕に至ってはそういう感情は持てない。
 その大きな理由は、まさに長い間の病棟生活が原因だろう。
 僕は小さいころから体が弱く、そのため他人と関わるような機会が一般人に比べると少ない。ましてや女の子とおんなじ布団で寝るなどという恐れ多い自堕落的で背徳感ある経験などしたことがあるはずがない。

 要するに、平たく言えば、女の子に免疫がないということだ。
 ただ、女性やおばさんにはかろうじて免疫があった。それは看護婦とだけは関わる機会がいやというほどあったからだった。

 だが、だからと言っても目が覚めた時に彼女たちが隣に寝ているというのは、ある意味心臓に悪い。

 つまり僕は強烈にテンパっているのだ。

 つまり僕は絶叫してしまったのだ。

「と……とにかく、なんで二人とも僕に抱き付いてるの!? というか、僕がこの部屋で寝ているということは誰かがここにねかせてくれたということだよね。いやいや、だからってこんな風に抱き付かれながら寝ている姿を使用人に見られるならまだしも、もしこれをカリーヌさんに見られでもしたら「見られでもしたら……何ですの?」ギャ―――――!!?」

 この屋敷に二度目の絶叫が響き渡った。










 うにゅ~。もう、五月蠅いんよ~。眠りにくいんよ~。
 あれ? 私の抱き枕どこ~? 「ギャ―――――!!?」!? いったい何があったの?

「い、いや。これは違うんです! 僕も目を覚ましたらなぜかこんなことになっていて。っていうか二人とも起きて!? 僕の潔白を証明して! っていうかルイズちゃん、正直目が覚めてるでしょ! あ、こら!抱き付くな~!」

「あら? 二人とも、ずいぶんと仲いいんですね~」

「すっばらしい笑顔を張り付けながらそんなこと言わないで!? 怖いですから!」

 私が目を覚ましゆっくりと起き上がると、優とカリーヌさんがなんか知らないけど言い合いをしていたんよ。
 正直に言うと起きたばかりだから、何があったのかさっぱりなんよ。というかこれなんてカオス?

「あ、いいところに起きてくれたね! 僕は免罪ですよ! そうですよね! というかなんで僕たちはここで寝ているんだろう?」

「なんでなんだろうね? 私にもさっぱりぽっきりわからないんよ」

「あぁ、免罪なのはわかっておりますよ。私がルイズの部屋で貴方がたを寝かせるように指示を出したのは私なのですから」



「え?」



 ピキッという空気が凍ったような音がしたんよ。

 まぁ、私には関係ないことなんよ。










「じゃぁなんですか! 貴女は僕たちのことをからかっていただけっていうことですか!?」

「えぇ、そうですよ。ずいぶんと慌てていましたねぇ」

「そりゃ慌てますよ。テンパりもしますよ。というか質の悪い冗談はやめてくださいよ」

 僕はため息をつきながら半眼で若干睨むように……というか睨んだ。

「僕は精神年齢が外見にあっていないってことは分かっているはずですよね? 若干肉体に精神が引っ張られている感がありますけど……」

「だからからかったんじゃないですか。可愛かったですよ?」

「カワッ!?」

 僕は息を詰まらせた。
 あ、なんかすごいニヤけてる。
 あわよくば、しばらくの間、このまま僕のことをいじくり倒そうとしている目だ。
 動物に例えるなら猫じゃらしを前に尻尾を立てながらじゃれつこうとしている猫のようだ。

 だめだ。このままだと(メンタル的に)食われる! とにかく話をずらさないと。
 こら優歌。お前面白そうなものを見つけたような顔して笑うんじゃない。

 とにかく何かしゃべらないとと口を開いた瞬間。

「お兄ちゃんをいじめたらだめ―――!!!!」

 僕を突然胸に頭を抱えながらルイズちゃんはカリーヌさんに威嚇してきた。

「ル、ルイズちゃん? 僕は別にいじめられてないから。ね? 大丈夫だよ。だ……からちょっと離して?」

「ダメ! 私がお兄ちゃんを守のー!」

 そんなこと言われても子供とはいえ女の子に免疫がない僕にアバババババ!?










 私が目を覚ましたら何かしら騒がしかった。
 何があったのかな~と思って話を聞いていたら、何があったのか分からなかったけれど、お母様がお兄ちゃんのことをいじめていることが分かったの。
 だから私がお兄ちゃんを守ってあげようと思って声を出してお兄ちゃんを抱え込んでお母様をにらんだの。
 本当は私はお母様が怖い。だって、いつも私に厳しくて、厳しくてただひたすらに厳しいんですもの。
 でも、お兄ちゃんがお母様にいじめられることのほうが、もっともっっ――といやだ!

 ほら、それに私の腕の中でお兄ちゃん震えるえているもの。きっとお兄ちゃんだって怖いにきまってるわ!










 今、僕たちは食卓にいます。

 今、僕たちは銀細工が|施《ほどこ》されている椅子に座っています。

 今、ルイズちゃんは僕の膝の上に座って離れてくれません。

 今、周りの目線が痛くて僕は目じりに涙を浮かべています。

 結局あの後、収拾がつかずになし崩し的に僕たちはメイドの人に食事ができたと呼び出されて食堂に来た。
 その間もずーとルイズちゃんは僕の腕にしがみつきながらカリーヌさんに威嚇している。

 おいコラ優香、いつまで君はにやにやしてるの?

 あぁ、ルイズちゃん僕は本当にいじめられているわけじゃないから大丈夫だよ? ほら、君のお母さんが苦笑いしているからね? まったく怒っていないっぽいからそろそろ威嚇するのをやめよう? ね? それとメイドさん、お願いですから微笑ましそうに僕たちのことを見ないでください。心がくじけそうです。そんな優しい目で見るんだったら僕のことを助けてください。いや、本気で。

 そんなやり取りをしながらも食堂について、今このような状況に陥っているわけです。ハイ。

 カリーヌさんの話によると、この後僕たちに昨日のことについて話を聞くらしい。
 僕としては今でも構わないけど、それだとせっかくの食べ物が覚めてしまうため朝食を先にいただくことになった。

 ただ……

「あの…そろそろ離れてくれると……う、うれしいかな~ なんて」

「だめ」

 あの、ごはん食べられないんだけど……


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