それは15歳の時の事だ。小学校から続いた虐めに耐えかねた俺は中学から高校に上がらず、働く道を選んだ。親は反対したが、一応受験はしてみたものの受かったのは2流どころか県内でもっとも出来損ないが集まる事で有名な超3流高だし、行ってもまた虐められること確実だったからだ。そんな俺を中卒では世間でバカにされると親は心配し、知り合いの大工に頼んで職人になれば大丈夫と世話をしてくれたのだ。
だがあまりに厳しい職人の世界になじめずやめて以来、愚にも付かないような仕事を転々とし、このまま行くと本当に無意味な人生を送りそうである。
「はあ、どうしたもんかな……」
自分でもこのままではダメだと承知しているのだ。だがどうにも肌に合う仕事もなく、親元でも弟や妹が結婚して子供を持ち『おじさんはなんの仕事してるの?』と同居する弟の子供に言われ、居づらくなって家を出た。一人暮らしして2年である。家には大量の18禁ゲームがあり、アニメ好きの俺はアニメと漫画とゲームの為に働いてる程度の人間だ。かといってオタクも人気どころを押さえるぐらいで、極めきれず、将来に希望もなく、今日も今日とてラノベを大人買いして読む予定である。
右手はズシリと重く20巻に及ぶゼロ魔の文庫が外伝の3巻と共に提げられている。今までラノベには手をほとんど出さずにいたのだが、涼宮とシャナをアニメで見てはまり原作小説を読んだら面白かったので、小説の方が面白い事で有名なゼロ魔に手を出してみたのだ。
「こんなもん読んでる場合じゃないんだけどなあ」
分かっちゃいるがやめられない。どうすれば俺って頑張れるんだろう。弟や妹が結婚して子供までいるというのに、なぜ自分はこんなことになったのか。原因は虐めでも、その後反骨心を起こして頑張ってる奴はいるっていうのに俺と来たら……。そう考えていた時だった。目の前にぼんやりと薄く楕円形の霧というか膜のようなものが現れたのは。
「?」
俺は首を傾げるが、同時に心臓が跳ねた。当然である。なにせ持っていた本が本である。ゼロ魔の主人公はこういう膜を通って異界ハルケギニアに召還され、さまざまな苦難を乗り越えると同時に女も金も名誉も手に入れる。俺はこんなものあるわけがないと思いつつも心のどこかで期待した。この目の前の薄い膜の向こうに『彼女』が居てくれと。そうしたら、今度こそ、今度こそ頑張るからと。俺はゼロ魔の小説を離さないように抱え、そうして一歩を踏みだした。
「あんた誰?」
目の前の少女は美しく可憐だった。桃色ブロンドの綺麗な髪に薄い唇。気の強そうでそれでいて息を呑むほど整った瞳。鼻筋も通り、華奢な美少女。ただ、小説と違うのは目の前の少女はアニメ調ではなくリアルな人間だった事だ。そう、目の前の人物はアニメの彼女じゃなく3次元の美少女なのだ。その透きとおるように白い肌も、日本人にはない瞳の色も確かに人間のもので、ちょうどハリ○タの実写映画の終わり頃のハーマ○オニーが目の前にいるような感じだ。
周囲を見渡すとゼロ魔と言うより映画ハリ○タの世界に迷い込んだような錯覚にとらわれた。だから不安になる。これは現実で、ドッキリか何かではないかと。
「ルイズ。サモン・サーヴァントでこんなデブを呼び出してどうするの?」
「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」
「ちょっとっていつもそうじゃないか!しかもこんなデブ!」
「いや、あの、デブは責めたら可哀想じゃ……」
周囲には嘲笑が巻き起こり、目の前のハーマ○オニーみたいなルイズは禿げたオッサンに何か文句を言い立てている。どう見てもゼロ魔の冒頭だ。赤い髪の少女も居るし青い髪の少女は本を読んでもいた。ちなみに一番バカにするマリコルヌは同じデブとしてその輪に入らずに同情的に見てくる。俺が戸惑っているとルイズと思われる少女がしゃがんできた。
その顔は嫌悪感に歪んで涙目で、おそらくするであろうキスを死ぬほどいやがっているのが分かる。それは才人の時とは比べものにならないほどの嫌悪感である事は間違いない。周囲もさすがに同情して、赤髪の少女は何か禿げたオッサンに抗議さえしていた。無理もない。俺は腹が出てるし風呂も一週間入っておらず、この上、無精髭で格好いいとは言いがたい姿だ。それでも少女は我慢して唇を合わす。だが、即行で離れると俺は急に左手に激痛が走り出した。
「があああああ!」
俺が痛みにもがく。だがそれも見ずにルイズと思われる少女は慌てて走りだした。きっとエヴァでシンジとキスしたアスカのごとく口を濯ぎに行ったんだろう。
(さすがにそれはないだろ……)
俺は痛みにもがきながらも意識を失った。
目が覚めたら目の前で泣きはらした顔で、ナイフを振りかぶるルイズが居ました。辛いので俺も泣いて良いだろうか。
「な、なんと!?」
俺は振り下ろされたナイフを慌ててよけた。
「死んで!ねえお願い死んでよ!」
さらにナイフを振りかぶる少女は余程俺が使い魔という現実を堪えかねてるのか、さらなる涙が溢れ出す。後で聞いた話だが、どうやら俺が寝てるうちにも殺そうとしたのだが、彼女の持つ倫理感がそれをさせなかったらしい。なにせ、あの後みんなにからかいまくられたルイズは泣きだしてしまい、普段いくらからかわれても泣かないルイズの姿に誰もが同情的なムードになり、キュルケが俺をここまで魔法で運んでくれたらしい。
それが返ってルイズは辛かったようだ。なんかもう産まれてきてごめんと言いたい。
「と、取りあえず落ち着いて俺の話を聞いてくれ!」
俺は慌てて起き上がると少女から距離を置いた。
「煩い煩い煩い!あ、あああああああんたみたいなキモ男とこの高貴な私がっきききっきいいい!」
ああ、これは間違いなくルイズだ。感情が昂ぶると呂律が回らなくなるんだ。この状況で、そういうところも結構可愛いと思う俺は重傷だ。これはガンダールヴのルーンの効果か?
「いやいや、大丈夫!俺、使い魔として優秀だから!武器何でも使えてラインぐらいのメイジなら瞬殺だから!」
「嘘付きなさい!あんたみたいなデ!ブ!にそんなことできるわけないから!もう殺すって決めたから!いいから死になさい!私が殺すから死ね!あんたみたいな平民殺したぐらいお父様が揉み消してくれるわよ!」
「待って!召還してすぐに殺される主人公ってそこまで悲惨なの二次創作でもそうそうないよ!」
「煩い黙れ死ねデブ!あんたを殺して違う使い魔を召還するの!!」
「こら!とにかく!」
俺はこのままでは本気で殺されかねないと思い、ルイズの持つナイフに触れる。瞬間、体が軽くなるのを感じた。どう動けばいいのか頭にひらめく。凄いなガンダールヴ。俺の脳裏にルイズの首筋にナイフを突きつける道筋まで見える。だが、この子はこれから俺の主人になるのだ。あまり過激な事は出来ないと、手首を軽く捻りナイフをとりあげた。
「な、なにすんのよ!デ!ブ!デ!ブ!デ!ブ!デ!ブーーーー!!のくせに生意気よ!」
顔を真っ赤にしてルイズが詰め寄ってくる。桃色ブロンド美少女に近付かれて俺は動揺するが、なんとか口を開いた。
「デブを強調するのやめて!泣きたくなるから!とにかく俺の話を聞いて、せめて自己紹介ぐらいはさせて!死ぬのいや!それにキミも俺の有用性を確かめてその上で気に入らなきゃ殺せばいいだろ!いきなり殺しても得ないし、それに使い魔召還の儀式で人間が召還された前例が今まである?ないだろ?これは凄いことなんだって!」
俺は原作知識を少しだけ開示する。そういえばゼロ魔の小説はどこに?あれがないとあるではこれから大違いだ。なにせどう考えても俺は身体スペックは才人より劣っている。しかもアニメも一度見ただけだから細かい部分はもう忘れてる。おまけにゼロ魔で起きる出来事は数年がかりだから、覚え続けられる訳がない。そんな俺があんなこと切り抜けられる訳がない。だが、あれがあればそれを補ってあまりある成果を出せるはずだ。
「そんなの知らないわよ!とにかくなんでよりにもよってあんたみたいなキモイのが出てくるのよ!せめて普通の人間になれ!」
「普通の人間だから!デブの人権舐めんな!」
俺はキョロキョロと周囲を見渡し、部屋の隅に置かれたゼロ魔を見つけた。よかった。取りあえず捨てられてないようだし、大した警戒も持たれていないようだ。その証拠に無造作に置いてある。おそらく日本語が誰にも読めず、ゼロ魔のイラストと実写では見た目が違いすぎたからだろう。現実にあそこまで大きい目の子は居ないし、口が横線一本の子も居ない。だからあの小説にこの世界のことが描かれてると誰も想像できなかったのだ(俺自身も自信はないが)。
「ちょっと人の話聞いてんの!何キョロキョロしてるのよ!」
「いや、その本ちゃんと運んでてくれてんだな」
「私じゃないわよ。コルベール先生よ。外に放っておいたら『何か変わった材質の紙だから、どこの物か後で聞きたい』とか言って運んできたのよ!」
「そうか……」
ナイスですコルベール先生。どの二次でもあんたは主人公の味方だな。ともかくこれでかなり有利に事は運べる。あとはこの目の前の少女を説得して、使い魔として認められるだけだ。
「ともかく容姿に関しては我慢してくれ。その代わり……この手の甲を見てくれないか」
「は?」
俺は先程ルイズに刺されかけたナイフを握るせいで手の甲で輝くガンダールヴの紋章を見せた。
「使い魔のルーンがどうかしたの?」
「この紋章、コルベール先生も興味を持ってなかったか?」
「は?そんなの持つ訳ないでしょ?使い魔のルーンぐらいどこにでもあるもの」
「え……えっと、そうなの?」
俺が召還されたときのルイズの動揺が才人の時より大きすぎて、先生、こっちに気付かなかったのか?それとも本の方に興味が行ったのか?どのみち早速原作と変わってるぞ。どうする?後でちゃんと調べてもらえるようにするべきか?
「と、とにかく、これはガンダールヴと言われる紋章で、この紋章は始祖がかつて使役した使い魔の証拠だと言われているんだぜ」
俺は似合わぬカッコを付けてドヤ顔になる。
「はあああ!?あんたね!よりにもよって始祖の使い魔ですって!バカを言うにも程があるわ!」
ルイズの顔が真っ赤になり俺を殺さんばかりに睨んでくる。まあそうだ。こんな話しジュリオぐらいの美男子がすればともかく俺がしても胡散臭いだけだな。くそっ。イケメン死ね。イケメン死ね。イケメン死ね。でもまずい。ルイズが信じる以前によく考えたら俺が武器の扱いにちょっと長けてても正直この運動にとことん不向きな体格では、ギーシュに勝てるかどうかかも妖しいのではと今気付いた。弱いガンダールヴ……いらない。すごく無意味だ。
何かもうちょっと他に使い魔と認めさせる材料がないと本当にまずい。可愛いルイズが俺を本気で殺すとは思えないが、一緒にせめて住んでくれないと行く場所がない。俺のこの見た目じゃシエスタですら助けてくれないかもしれないんだぞ。くそっ。イケメン死ね。イケメン死ね。イケメン死ね。
「キミがそういうのはもちろん分かってるよ。でも証拠があると言ったらどうだ?」
「はあ?そんなのどこにあるのよ!?」
「ガンダールヴのもう一つの能力は未来予知だからだ」
もう一度俺はドヤ顔になる。
「は?」
俺はルイズが二の句を告げる前に口を開いた。
「近い将来。一月以内に魔法学院の宝物庫を土くれのフーケが襲う。これが俺の予知だ。更に俺はそれを未来予知で一人で解決して見せよう。まあこれだけだとフーケとグルと思われかねないから更にもう一つ予知をするとその事件から間もなく王女様がとある依頼を持ってこの部屋を訪ねる。依頼は自分の出したアルビオンの王子への恋文の回収だ」
本当はキュルケの誘惑とかギーシュとの決闘と言いたかったが、才人ならともかくこの俺をキュルケが誘惑してくれる訳ないし、ギーシュの決闘は正直回避したかった。なにせあれは才人がギーシュにボコられる過程があってギーシュと才人は友情を芽生えさせるが、当然俺は痛いからそんなことしたくない。その場合ギーシュにガンダールヴの力で最初から勝つ訳だが、俺みたいなデブにボロ負けしたらギーシュから恨まれるだけで友情なんぞ産まれる訳がない。
「あんた……頭まで可哀想なの?」
ルイズはもはや救いようがない目で俺を見る。
「いや、本当だって。超本当だって!」
「嘘おっしゃい。助かりたいからって良くもそんな嘘を言うわね!というか、もう死んで?」
「いやいやいや。もう心底から言うなよ!泣きたくなるだろ!助かりたいけど嘘じゃない。それに嘘か本当かは確かめてから判断しても遅くない。もし嘘なら俺を煮るなり焼くなり好きにすればいい。もちろん殺されそうになったら逃げるけど公爵家の包囲網から逃れられるとは思ってないよ。それとこれがもし本当ならキミは凄まじい利益を得ることになるんだぞ」
汗がぽたりと落ちる。特に緊張してなくてもしょっちゅう出るデブの汗だが、これは緊張によるものだ。
「私の利益?」
「何だよ。本当だって。すごくいやそうに見るなよ。そうだ。利益だって。ゼロという不名誉な二つ名も返上できると保証しよう。なにせ俺が始祖の使い魔だとしたらキミが魔法を使えないのも全て説明が付くんだよ。俺はそれをキミに教える為にここに来たと言っても良い程だ」
「魔法が使えない理由がわかる?う、嘘よ!」
だがルイズは声が動揺する。それはそうだ。産まれて16年間ずっとバカにされ続けてきた魔法が使えない公爵令嬢が、この事を言われて動揺しない訳がない。
「本当だ。俺が始祖の使い魔ならキミは虚無の担い手となるんだからね。そしてそれがキミが魔法を使えない最大の理由だ。なにせ虚無魔法を使える者がこの国にはいないんだ。つまり誰もキミに虚無魔法を教えてくれないんだからキミが魔法を使えないのは当然なのさ」
「……私が虚無魔法……え?」
「ちなみに俺は知ってる」
「じゃああんたは教えられるの?」
「え?」
「虚無魔法をよ!そこまで言うなら教えられるのって聞いてるのよ!」
「いや、それはなんというか……」
「やっぱり嘘なのね」
「ちょっ、ちょい待ち!それは出来るかどうか分からないが、出来るかもしれない」
「ふーん。じゃあ良いわ。今日はもう遅いし、明日の授業が終わってから私に教えなさい。それが出来たら信じて上げるわ。あんたが始祖の使い魔だって。もし出来なきゃ更に私を騙したんだもの。死刑ね」
「ええ……、でも俺は使い魔で別に魔法使いじゃないんだけど……それにでも未来予知が当たるかどうか待つ価値はあるんじゃないか?第一俺が普通の平民のデブだとおかしすぎるだろ。偶然召還した人間がどうしてキミの二つ名や公爵令嬢であることを知ってる?」
「それは……」
ルイズは黙り込んだ。
「……」
黙り込んでいたルイズが俺を見た。その鳶色の目に先程までの強烈な嫌悪感がまだある。ただ、少しだけ迷いも見えた。
「俺の名前はリュウジ・クニキダだ。どうだろ?とりあえず試用期間としてここにいさせてくれないか?というか呼び出しといて死ねとか酷すぎだろ」
行く所ないんだ。頼むから置いて。まあここに来たのは殆ど自分の意志みたいな所あるし、無理に召還されたという気はないけど、やっぱその変ルイズにも責任あると思う。
「うう……兎に角魔法よ。魔法を教えられなきゃあんたなんて使い魔として不要なんだから」
ルイズが顔を赤くする。
「いやだから俺は魔法使いじゃないんだって」
「うるさいうるさいうるさい!兎に角それが出来なきゃあんたを使い魔なんて認めないわ!」
「ええ……」
くそっ。さすがに殺されはしないと思うが、教えられなきゃ追い出されそうだな。でも虚無呪文って確か長いんだよな。一言一句余さず小説に載ってる魔法あるのかな。あったとしてもそのまま伝えてそれで唱えられるのか?
「まあうううん。分かった。なんとか思いだして教える。でもいきなり成功するとは思わないでくれよ。なにせ虚無魔法だ。結構難しいからな」
「い、いいいいでしょう。そ、そうよね。虚無魔法だもの。そ、それとあんたの言うように事が運ぶかどうか見させてもらうわ。その代わり、もし違ったら……ころ……いえ、まあいいわ。さすがに寝覚め悪いし殺すのは勘弁して上げて追い出すぐらいにして上げるわ。でも痩せなさい。そのデブ体型だけはどうにかして」
俺が思う以上にルイズの方は俺が魔法を教えられるという部分に心惹かれてるようだ。そして急にデブが人間に見えたのか言葉をやわらげてくれた。しかし俺がそういうだけで妥協するとは余程魔法を唱えられない自分にコンプレックスがあるようだ。魔法に反応しすぎだ。無茶苦茶ソワソワしてるぞ。
「や、痩せる?」
「そうよ。いくらなんでもその体型は努力でもう少し改善できるでしょ」
「ぜ、善処はします。でも、あんまりダイエットは……。でも使い魔としての試用期間の間暇だし、着替えの手伝いとか洗濯とか雑用ぐらいならするぞ」
俺は特に着替えの手伝いをしたいのだ。ルイズの乳首と縦筋しかきっとない綺麗な……。見られるなら少々の理不尽は我慢できる。パンツの洗濯。むしろご褒美です。
「ふ、ふーん。えっと、意外に素直ね。まあそうね。それぐらいはしてもらおうかしら」
なんだかルイズは嬉しそうに一瞬見えた。
「じゃあもう消灯だし寝るから着替え早速手伝ってくれる?」
「え?お、おお、ああ、いいぞ」
俺は声が上ずりかけたがなんとか堪えた。内心では狂喜乱舞である。着替えの手伝い。彼女居ない歴イコール年齢の俺がこんなリアル外国美少女の裸を拝めるのだ。才人が見たのもこの信じられないような美少女だよな。だとしたらどうしてあんなに最初から喧嘩腰だったんだろう。しかも頼れるのはこの少女だけだろう。いきなり王女様にキスしたりするしよく考えたら本当に意味不明な少年だ。
「リュウジ。何してるの。早くしなさい」
ルイズの方は世話をされ慣れてる感じで促した。しかし、着替えの手伝いしてもらうにしろ家でも女のメイド以外しないだろうに、ここまで迂闊に男にさせるとは。男がどういう生き物か誰にも教わらないのか。というかデブへの嫌悪感はどうした。魔法学院にいる限り守られてるから親も安心してこの辺教えなかったのか。公爵家の令嬢なんてその後は結婚まで余程のことがない限り一方通行だろうな。だからって俺がルイズとラブラブになる可能性は……ないだろうな。
「はいはい」
俺はごちゃごちゃ考えながらも下手な姿勢でまずルイズのマントを外した。近くによると美少女特有の花のような良い匂いがする。それだけで俺はクラッとした。このあとブラウスのボタンに手をかけようとして、
「ねえ」
「お、はい」
何だ。エロい顔にはならないよう気をつけてたぞ。俺みたいな奴に触られるのいやなのか。そうなのか。
「まだあんたの言葉を信じ切ったわけじゃないけど、虚無魔法ってコツとかあるの?」
「そ、そのことか……」
俺はホッとして胸を撫で下ろした。服を脱がすことに関してはどうでもいいようだ。初期の才人並みに男と認識されてないな。俺の場合才人のようなデレ期が来るとは思えないし、この状態がずっとだったりしたら……泣くな。
「そのことかって。大事な事じゃない」
ルイズはかなり気になるようだ。この調子じゃ俺の未来予知も虚無魔法さえ唱えられればどちらでもいいようである。俺の方はといえばルイズにやましさを気取られてはならないと、手が震えないようにブラウスのボタンに触れた。そうすると僅かにルイズの未熟な膨らみに指が当たる。ふにょんと凹んだ。うおっ。なんか予想以上に弾力を感じる。だが柔らかい。それに何だろう。この生暖かさは。やばい。やばい。何かすごく悪い事してる気分だ。
「えっと、でも今はまだ唱えられても意味ないし、キミならちゃんとその時になれば唱えられるよ」
「良いから知りたいの。ねえコツとかないの?」
ルイズは余程興味があるのか体を揺らして詰め寄る。俺の方は意を決してルイズの前を完全にはだけさせた。するっと肩からブラウスが落ちたのだ。
「おお」
神よ。この世に生を与えてくれたことを感謝します。俺は泣きたくなる程感動した。白磁のように綺麗な肌に申し訳程度に二つの膨らみがある。リアルな三次元の美少女の上半身に俺はしばし呆然とした。俺の人生でここまで良いことが起きていいの?神様大丈夫?
「おお?」
俺の反応にルイズが訝しむ。
「いや、こ、コツ?コツな……えっと、あれだ。たしか虚無魔法は精神力らしいぞ。精神的にネガティブでもポジティブでも何でも良いから昂ぶれば昂ぶるほど強力な魔法を唱えられるらしい」
「へ、へえ。精神力か……」
ルイズが何かぶつぶつ言い出し、俺はスカートに手をかけて下ろした。男に裸にされてるのにルイズは考えごとに夢中だ。パンツはちゃんと履いてるんだ。でもルイズの生足だ。触りたいがいくらなんでも着替えでそれは無理だ。
「あの、下着はどうする?」
着替えてくれませんか?
「ああ、今日はあんたのせいでお風呂に入り損ねたし着替えるわ。換えはそこの棚だから」
「りょ、了解……」
俺はゴクリと生唾を呑み込んだ。そしてルイズの気が変わることを恐れて、新しい下着を取る前に、まずパンツに手をかける。ゆっくり下ろしていく。
「ごふっ」
やばい嬉しすぎて死にそうだ。明日虚無魔法を教えられなくて死刑になってももう別にいいや。
「なによ?」
「あ、いや、なんでもないんだ。うん」
俺は急いで棚にルイズの下着を取りに行きキャミソールも取ってルイズを着替えさせた。
「ありがと」
「あの、ところで俺はどこで寝るんだ?」
やはり藁かと思うが一応尋ねた。
「そこよ。そこ」
悲しいかなルイズはやはり藁を指した。
「ですよねー」
俺は泣きたくなる気持ちを抑えて素直に藁の上で横になる。しくしく。チクチクして痛いです。寝心地悪いです。
「ねえ」
ルイズもベッドで横になり、寝られないのか声をかけてきた。
「ぐー」
だが寝付きには自身のある俺は即行で寝ていた。寝心地の悪さはどうした。
「もう、寝たの?てか、いびき煩い……」
そんな彼を見てルイズは吐息を付く。
「でも不思議な奴よね。虚無魔法が嘘だとしてもいきなり私に呼ばれてもまったく嘆きもしないし、親とか心配しないのかしら?それか始祖の使い魔って私6000年も前から召還したことになるの?」
考え込むルイズだが答えなど出るはずもなく、彼のやかましいいびきに眠りを誘われるように目を閉じた。
「6000年前?」
朝、俺は役得の着替えをすませると、ルイズの疑問に首を傾げた。
「あんたを信用するわけじゃないけど、始祖の使い魔なら6000年前から召還されたことになるじゃない。それってあんた帰れるの?ていうかあんま帰りたそうじゃないわね」
「ああ、そうか……。まあ正確に言うと始祖の使い魔って言うより、虚無の担い手の使い魔なんだけどな。他にも3人いるぞ」
「3人もいるの?」
「ああ、俺が神の左手「ガンダールヴ」他にも「ヴィンダールヴ」「ミョズニトニルン」とかいたな」
「ふーん、でも始祖の使い魔じゃないって言うのはどういう意味?」
「確か始祖は自分の力を四つに分散したんだよ。そのせいで、それぞれ始祖の血を受け継ぐガリア、トリステイン、アルビオン、ロマリアに一人ずつ虚無使いは産まれる。まあ産まれていない時代の方が多いらしいけどな。そして俺はトリステインに産まれた虚無使いの使い魔になるガンダールヴという訳だ」
「じゃあ別に始祖の使い魔をしていた訳じゃないのね?」
「そうだ。ちなみにあんまり帰りたそうじゃないのはもともと俺はキミの使い魔になるべくして産まれたからだよ」
「うわ……キモ」
ルイズは心底残念な顔をした。
「キモくてごめんね!」
くそっ。こう言った方が受けが良いかと思ったのに逆にいやがれた。辛いので、泣いて良いですか。
「うわー、あれが噂の」
「そうよ豚よ豚」
「あれなら食用豚召還する方がマシよね」
廊下に出たら女子全員から畜生を見るより凄い目を向けられた。食用豚って、まああっちは食べればいいけどこっちは煮ても焼いても食べられないもんね。
「やっぱりあんた虚無魔法が嘘なら死刑ね?」
美少女が振り向いて笑顔で言いやがります。可愛いけど可愛くない。俺が泣こうとしたら向かいからウェーブのかかった髪を靡かせ、物凄い美少女が歩いてきた。ルイズがハーマ○オニーならこの子は若い頃のジェ○ファー・ロペスって感じだ。まあキュルケな訳だが、この子に散々誘惑されて手をださずにいた才人はホモなんだろうか?いや、もう、3次元になるとキュルケの美少女度は直接股間に来るのだ。
「ルイズ……あの……その……大変ね」
ちょっと待って。ここでキュルケと言えばルイズをコケにするのがどのゼロ魔二次でも定番だろう。何本気で同情してんの。あれか?俺は生きたらダメか?そうなのか?というか目を合わせようともしてくれないぞ。
「まあね」
ルイズは激しく眉間を引きつらせて下を見た。そこには何か赤くてでっかいトカゲが居た。うわー、サラマンダーか。気持ち悪。ようはでかいオオトカゲである。こんなもん。俺以上にキモいわ。どうだ。心の中でだけでも蔑んでやったぞ。
「あんたの使い魔それ?」
「え、ええ。火竜山脈のサラマンダーよ」
「へえ、大きいけど私の使い魔の方が重そうね」
「ぷっ」
「何?何かおかしいこと私言った?」
ルイズは虚ろな目でキュルケを見た。
「い、いえ、ぷぷぷぷ。ご、ごめんなさい。そ、そうね。あんたの使い魔のほうがお、おも、あは、アハハハ!」
思わずキュルケは盛大に吹きだした。
「あ、あの、ルイズ様?」
俺はさすがに敬語になった。というか俺の方が同情されたい。
「豚。行くわよ」
「は、はい」
俺は逆らえば殺されると思い、慌てて付いて行く。後では我慢した分盛大なキュルケの笑い声が木霊していた。