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[4371] ゼロの使い魔と炎の使い魔(ゼロの使い魔xデジモンシリーズ〈フロンティア中心〉)
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/03/15 21:23
前書き及びご注意

この小説は、デジモンフロンティアの神原 拓也が、ゼロの使い魔の世界のオリキャラに召喚されるものです。

話の都合上、拓也の性格が若干変わってるかも知れません。

更にオリ設定として、拓也と才人は家がお隣さん同士の知り合いとなっています。

この小説を読んで不快に思われても、作者は責任もてません。

以上を読んで、何でも来いという人は、お読みください。

楽しんでいただけたら幸いです。



[4371] プロローグ
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/10/07 18:36
プロローグ  冒険の終わり・・・・そして、新たなる冒険へ


――デジタルワールド

十闘士のスピリットを受け継いだ5人の子供達と、子供達の心を受け、デジモンとして蘇った十闘士によって最後の敵、ルーチェモンは倒された。

「ありがとう。俺たちを守ってくれたんだね」

子供達の一人、リーダー的存在だった神原 拓也が、ルーチェモンの攻撃から庇ってくれた十闘士達にお礼を言う。

「いいや、守ってくれたのは、君達だ」

そう返したのは、拓也の受け継いだ炎のスピリットの闘士、アグニモン。

「ありがとう」

「ありがとう」

「ありがとう」

「ありがとう」

氷のチャックモン、雷のブリッツモン、闇のレーベモン、光のヴォルフモンがそれぞれ礼を言っていく。

「Contento」

風のフェアリモンだけは、イタリア語だった。
「フェアリモン、イタリア語を?」

風のスピリットを受け継いだ織本 泉が驚いた表情で聞き返す。

「泉ちゃんと、一緒にいたからだ」

そう答えたのは、雷のスピリットを受け継いだ、柴山 純平。
「ねえ、なんて言ったの?」

気になって尋ねるのは、最年少で氷のスピリットを受け継いだ、氷見 友樹。

「フフッ、嬉しいって言ったの」

そう笑顔で答えるフェアリモン。

「私もよ」

泉が微笑み、そう言った時、デジヴァイスが輝きだす。

「え?」

泉がデジヴァイスを取り出すと、デジヴァイスからデジコードが伸び、トレイルモンのレールだけとなってしまっていたデジタルワールドに戻っていく。

「データが戻っていく」

「見るんだ。デジタルワールドを」

アグニモンにそう言われ、子供達は、背後のデジタルワールドに振り向く。

残りの4人のデジヴァイスからも、デジコードがデジタルワールドに伸びていく。

「君達のおかげで、デジタルワールドは急速に修復していく。元通りの、デジタルワールドに・・・・」

アグニモンの言うとおり、デジタルワールドに大地が蘇っていく。

「やったんじゃ!デジタルワールドの復活じゃ~~!!」

そう言って喜ぶのは、拓也たちと共にデジタルワールドを旅してきた、ボコモンとネーモン。

「やったな!」

「ルーチェモンを倒したのね」

「俺たちの手で!」

「今度こそ本当に」

「終わったんだ!」

光のスピリットを受け継いだ、源 輝二を含め、泉、拓也、友樹、純平がそれぞれの言葉で、喜びを表現する。

「新たなる伝説の十闘士が・・・・デジタルワールドを、取り返してくれたんじゃい!」

感動しているボコモン。

拓也がアグニモンに向き直る。

「これからは、君達がこの世界を・・・・」

そう言いながら、拓也は右手を差し出す。

アグニモンは頷き、

「守ってみせる」

拓也の手を握り返した。

その時だった。

拓也のすぐ横に、光る鏡のようなものが出現する。

「な、なんだぁ!?」

拓也は、驚いた拍子に左手をその鏡の様な物に突っ込んでしまった。

その途端、物凄い力で引っ張られる。

「うわっ!?引き込まれる!?」

「拓也っ!」

アグニモンが引き戻そうとするが、アグニモンの力でもビクともしない。

「・・・・・どうやら俺達の冒険は、まだ終わらないみたいだ」

拓也がアグニモンに話しかける。

「そうみたいだな。なら・・・・」

「これからもよろしく頼むぜ、アグニモン」

「ああ」

拓也は仲間達の方に顔を向ける。

「そう言う訳だ。俺、帰るのが皆より遅くなるみたいだから、俺の家族には必ず帰るって伝えてくれ」

「「「「拓也(兄ちゃん)!」」」」

「行ってくるぜ」

アグニモンが、スピリットの形をとり、拓也のデジヴァイスに入る。

拓也は光る鏡に完全に吸い込まれ、その場から消えた。


そして、新たなる伝説の幕が上がる。



[4371] 第一話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/10/07 18:51
第一話   使い魔の召喚


――ハルゲギニア

ここ、トリスティン魔法学院では、生徒達の使い魔召喚の儀式が行なわれていた。
――ドゴォン

その儀式の最中に盛大な爆発が起こる。

爆発を起こしたのは、魔法成功率ゼロの『ゼロ』のルイズこと、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

このルイズは、魔法を使うと全て爆発という結果になってしまう。

今回の召喚の儀式でも、何度も爆発を起こしている。

――ドゴォン

今の爆発で、29回目の爆発である。

「はあ・・・・はあ・・・・何で出て来てくれないのよ・・・」

召喚の疲労で、肩で息をしながらそう呟く。

「ははっ!ゼロのルイズは使い魔も呼べないみたいだな!」

「無駄なんだからもう止めろよな~!」

同級生達は、ルイズに向かって罵声を浴びせる。

「ま、まだよ!次こそは!」

それでもルイズは諦めない。

そこへ、教師であるコルベールが声をかけた。

「ミス・ヴァリエール、今日はもう止めておきたまえ」

「な!?何でですか!?私はまだ出来ます!!」

コルベールの言葉に必死で反論するルイズ。

「君は気付いていないようだが、君は召喚呪文の連続で思った以上に疲労している。これ以上続けると、身体を壊してしまう恐れがある。そして、まだあと一人残っているのです。ですから、今日はここまでにして、後日、召喚を行ないましょう」

コルベールの言葉に、ルイズは俯く。

だが、ルイズは顔を上げると、

「な、ならせめて、もう一度召喚させてください!それで召喚できなければ今日は止めます!」

ルイズはラストチャンスを願った。

コルベールはルイズの真剣な眼差しを見た。

「・・・・わかりました。もう一度召喚を許します。ただし、それで召喚できなければ・・・・」

「はい!ありがとうございます!」

ルイズは礼を言うと、再び杖を構えた。

「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を・・・・・」

ルイズは今までと同じ呪文を唱えようとして、途中で止めた。

今まで失敗してきた呪文で成功する確率は低いと判断したからだ。

(どうせこれが最後のチャンス!だったら!!)

ルイズは自分が思ったとおりに言葉を紡ぐ。

「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに、応えなさい!!」

そして、杖を振り下ろす。

――ドゴォォォォン

今までより派手な爆発を起こした。

周りの生徒は、「また失敗か」などと呟いていたが、爆煙が晴れてくると、煙の中に何かがいるのが分かった。

(やったわ!成功よ!一体何が・・・・って、え?)

煙が完全に晴れると、そこにいたのは一人の黒髪の少年であった。

「・・・・アンタ誰?」

ルイズはその少年に問いかける。

その少年は訳が分からないといった表情で、周りを見ている。

「誰って・・・・平賀 才人」

ルイズの問いかけに、その少年、平賀 才人は混乱しながらも答える。

「何処の平民?」

「へ、平民?なんだよそれは?」

才人にはルイズの言葉の意味が判らなかった。

才人は何でこうなったか、数分前を思い出してみる。

(え~と、確か修理に出したパソコンが直ったから、それを取りに行ったんだ。で、その帰りに道の上に光る鏡のようなものがあったんだよな。それで興味が沸いて、鍵を突っ込んだりとかしてみたけど何も起こらなかったんだよ。それで、その鏡に手を入れたらいきなり中に引き込まれて、気付いたらここにいたと・・・)

才人は、もう一度辺りを見回す。

周りには、目の前のルイズと同じように、黒のマントをつけて杖を持った少年少女たちが、たくさんいて、才人を物珍しそうに見ていた。

「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出して如何するの?」

そう誰かが言った。

すると、周りで笑いが巻き起こる。

「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」

ルイズが怒鳴る。

「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」

「流石はゼロのルイズだ!」

誰かがそう言うと、周りの笑いが爆笑と化す。

ルイズはコルベールに駆け寄った。

「ミスタ・コルベール! もう一度召喚させてください!」

そう希望する。

だが、

「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」

即、却下された。

「どうしてですか!?」

「春の使い魔召喚は、神聖な儀式だからだ。好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔にするしかない」

コルベールは理由を述べた。

「でも!平民を使い魔にするなんて、聞いたことがありません!」

ルイズがそう言うと、再び周りがどっと笑う。

「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。例外は認められない。彼は・・・」

コルベールは才人を指差す。

「ただの平民かもしれないが、呼び出された以上、君の使い魔にならなければならない。過去、人を使い魔にした話は聞いた事はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する。彼には、君の使い魔になってもらわなくてはな」

「そんな・・・」

ルイズはガックリと肩を落した。

「さて、では儀式を続けなさい」

「えー、彼と?」

「そうだ。先程も言いましたが、あと一人残っているのです。早くしないと次の授業が始まってしまうじゃないか。君は召喚に、一体どれだけの時間をかけたの思っているんだね?何十回も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから早く契約したまえ」

ルイズは才人の顔を見つめると、一度、溜息をつく。

「か、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから!」

未だに状況把握ができずに混乱の極みにいる才人にそう言った。

「はあ?」

才人は、何言ってんだコイツ、といった表情だ。

ルイズは諦めたように目を瞑る。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

ルイズは契約の呪文を唱え、杖を才人の額に置く。

そして、ゆっくりと顔を近づけていく。

「な、何をする?」

「いいからじっとしてなさい」

ルイズは才人の顔を掴むと、強引にキスをした。

(なあっ!?俺のファーストキス!!)

などと、才人が思っている内にルイズは離れる。

「終わりました」

そうルイズはコルベールに告げた。

「“サモン・サーヴァント”は何回も失敗したが、“コントラクト・サーヴァント”はきちんと出来たね」

コルベールが、嬉しそうに言った。

「相手がただの平民だから、『契約』出来たんだよ」

「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんか出来ないって」

何人かの生徒が笑いながら言った。

その生徒を、ルイズが睨みつける。

「馬鹿にしないで!私だってたまには上手くいくわよ!」

「ほんとにたまによね。ゼロのルイズ」

巻き髪とそばかすを持った女生徒がルイズをあざ笑った。

「ミスタ・コルベール!『洪水』のモンモランシーが私を侮辱しました!」

「誰が『洪水』ですって!私は『香水』のモンモランシーよ!」

「アンタ小さい頃、洪水みたいなおねしょしてたって話じゃない。『洪水』の方がお似合いよ!」

「よくも言ってくれたわね!ゼロのルイズ!ゼロのくせに何よ!」

「こらこら。貴族はお互いを尊重しあうものだ」

コルベールが、言い合う2人を宥める。

その時だった。

「ぐあっ!ぐああああああっ!!」

才人が苦しみ出す。

「か、体がっ!あ、熱い!」

「すぐ終わるわよ!『使い魔のルーン』が刻まれているだけだから、すぐ済むわよ!」

才人の悲鳴にルイズが苛立たしそうな声で言った。

「そんなモン刻むな!一体何しやがった!」

才人は余りの苦しさに言葉遣いが荒くなる。

「あのね?」

「何だよ!?」

「平民が貴族にそんな口聞いてもいいと思ってるの?」

「はあ?」

才人の苦しみは治まったが、才人にとってルイズの言っていることは訳が分からない。

膝をつく才人にコルベールは近付き、才人の左手の甲を確かめる。

そこには才人には見たことのない文字、ルーンが刻まれていた。

「ふむ・・・・・珍しいルーンだな」

「な、何なんだよアンタら!?」

才人は怒鳴る。

「ああ、すまないね。まだ、あと一人いるんだ。詳しいことは、ミス・ヴァリエールに聞いてくれたまえ。では、ミス・シンフォニア!」

コルベールは才人を宥めると、生徒達の方を向き、誰かの名を呼ぶ。

「ほら、邪魔になるからあっちに行くわよ」

ルイズが才人を誘導する。

「お前ら一体何なんだよ?ここは一体何処なんだ?」

才人が尋ねる。

「うるさいわね。あんたはこの私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔として召喚されたの」

「使い魔?召喚?何だよそりゃ?」

「トリステイン魔法学院は二年生になると、人生を共にする使い魔を召喚するの」

「トリステイン?」

才人は聞きなれない名前に首を傾げる。

「何?アンタ、トリステインも知らないの?ったく、どこの田舎から来たのかしら?」

「田舎?田舎はここだろうが!東京はこんなド田舎じゃねえぞ!」

「トーキョー?何それ。何処の国?」

「日本」

「何それ?そんな国、聞いたこと無い」

「ふざけんな!使い魔って何だよ!?召喚って何の事だよ!?」

「あ~もう、うるさいわね。今からアイナが召喚するから見てなさい!」

そう言うと、ルイズは視線をコルベールに呼ばれて出てきた赤毛の少女に向ける。

「アイナ?」

「アイナ・ファイル・ド・シンフォニア。12歳でラインメイジっていう優等生よ。だけど、その事を鼻にかけたりせず、落ちこぼれの私を馬鹿にしたりしない。私の友達よ」

「何しようとしてるんだ?」

「だから使い魔の召喚よ。さっきから言ってるじゃない」

「・・・・あの、ルイズさん」

「何よ?」

「ホントに俺、召喚されたの?」

「だから、さっきから言ってるでしょ。諦めなさい。私も諦めるから。はあ、何で私の使い魔、こんなに冴えない生き物なのかしら。もっと、カッコいいのがよかったのに。ドラゴンとか。グリフォンとか。マンティコアとか。せめて、鷲とかフクロウとか」

「ドラゴンとか、グリフォンって、如何いう事?」

「そう言うのが使い魔だったらいいなぁ、ってこと」

「そんなのホントにいるのかよ!?」

「いるわよ。なんで?」

「マジッすか?」

「まじすか?」

「いや、こっちの話」

「まあ、アンタは見たこと無いかもしれないけど」

そう言って、視線を再びアイナに向けた。


アイナは杖を構え、呪文を唱えだす。

その最中にアイナは思う。

「我が名はアイナ・ファイル・ド・シンフォニア」

(私の欲しい使い魔・・・・)

「五つの力を司るペンタゴン」

(私を守ってくれる騎士のような存在・・・・あとタバサみたいなドラゴンで、空を飛ぶのもいいかもしれない)

「我の運命に従いし」

(でも、私の一番求める使い魔は)

「使い魔を」

(契約による仮初めの絆じゃない)

「召喚せよ!」

(本当の絆で信じあえることが出来る存在!)

その思いを胸にアイナは杖を振った。

その場に現れる、光る鏡のような召喚のゲート。

アイナはゲートをジッと見つめた。

「来る・・・」

アイナはゲートから何かの存在を感じた。

そして・・・・

「おわっ!?」

それは現れた。

「え?」

アイナは、思わず声を洩らした。

アイナの目の前には、アイナと同年代前後の帽子を被った少年がいた。

その少年は、ゲートから出てきた勢いで、地面に倒れている。

「大丈夫?」

アイナは、その少年に声をかける。

「あたた・・・ああ、大丈夫・・・って、君は?っていうか、ここは何処だ?」

少年は、身体を起こし、アイナの言葉に答えると、辺りの確認をする。

「あの「拓也!?」え?」

遮られた声に、アイナは振り向くと、先程ルイズが召喚した才人が駆けて来た。

「拓也じゃねえか!」

「才人・・・さん?」

傍に来た才人に、キョトンとした表情で、その少年は才人の名を呟いた。

「お知り合いですか?」

お互いの名を呼び合った2人に、アイナは尋ねた。

「え?ああ、うん。家がお隣さん同士だからね」

拓也と呼ばれた少年が答えた。

「で、何で才人さんがここにいるんですか?っていうかホントにここは何処?」

拓也が才人に尋ねる。

「いや、俺も一体何が何やらサッパリなんだ。話を聞くに召喚されたとかなん「このバカ使い魔~~~~!!!」はぐっ!!」

才人の話の途中で、ルイズが叫びながら才人の急所を蹴り上げていた。

その瞬間をばっちりと目撃した拓也は顔を青くしている。

「アイナ。私のバカ使い魔が失礼をしたわ。ごめんなさい」

ルイズはそう言うと、才人を引きずっていく。

「ゴホン!」

その時、コルベールが咳払いを一つする。

「ミス・シンフォニア。貴女も平民を召喚したようですが、ミス・ヴァリエールに説明したとおり、この儀式にやり直しはききません。この少年が貴女の使い魔です。さあ、早く『コントラクト・サーヴァント』を」

コルベールがアイナを急かす。

「・・・・待って下さい」

だが、アイナは待ったをかけた。

「契約の前に説明させて下さい。いくら平民とはいえ、彼の人生を束縛してしまうことを、一方的に行ないたくはありません」

「ミス・シンフォニア・・・・分かりました。あなたの言い分も最もです」

「ありがとうございます」

アイナは、コルベールに礼を述べると、拓也に向き直る。

「改めて始めまして。私は、アイナ・ファイル・ド・シンフォニアです。お名前を伺ってよろしいでしょうか?」

「た、拓也。神原 拓也」

「タクヤさん・・・ですね?変わったお名前ですね」

「はあ」

「では、タクヤさん。今、貴方が置かれている状況を説明します」

アイナは話し出す。

ここが、ハルゲギニアのトリステイン王国にあるトリステイン魔法学院であること。

その学院で、二年生に進級する際、使い魔を召喚すること。

そして拓也は、その使い魔として召喚されたこと。

もとの場所に戻るのも今現在では方法が無いことを。

「魔法使いに使い魔の召喚・・・か」

(どうやら、この世界も元いた世界とは違うみたいだな)

デジタルワールドの経験もあってか、拓也の驚きはそれほどでもなかった。

「本当にごめんなさい」

「え?」

いきなり謝ってきたアイナに拓也は首をかしげた。

「勝手に呼び出した上に、こんな事になってしまって」

アイナは申し訳なさそうに頭を下げる。

「・・・・・・いいよ」

拓也は呟く。

「え?」

「君の使い魔になってもいいよ」

拓也は、はっきりと答えた。

「で、でも、如何して?」

「後で説明するけど、俺はこの世界には身寄りが無いからな。それに、使い魔にならないと君が困るんだろ?元の場所に戻る方法も、使い魔やりながら探せばいいさ」

デジタルワールドの冒険で心が成長した拓也は、前向きに考える。

「・・・・ごめんなさい、タクヤさん・・・」

「だから、謝らなくていいから。あと、敬語もいらないし、さん付けも要らないよ。拓也でいい。その代わり、俺もアイナって呼ばせてもらうから」

拓也は元気付けるために笑顔で言った。

「・・・はい!」

アイナはようやく笑顔になる。

「っ!」

その笑顔を見た拓也の心臓の鼓動が一瞬強くなる。

「? どうかしましたか?」

「な、なんでもないよ。それより、敬語は要らないって」

「あ、そうだったね」

「で、これから、どうすればいいんだ?」

「『コントラクト・サーヴァント』をするから、ちょっと目を瞑っててくれないかな?」

アイナは頬を赤く染めながらそう言った。

「こんとらくとさーばんと?」

拓也は言われた単語の意味に首をかしげる。

「簡単に言えば、使い魔の契約の事だよ」

「ふ~ん」

アイナの説明に納得し、言われたとおり目を瞑る。

「我が名はアイナ・ファイル・ド・シンフォニア。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

アイナは呪文を唱えると、拓也の額に杖を額に置く。

徐々に顔を近づけていくが、拓也は目を瞑っているので、何をされようとしているのか分かっていない。

そして、アイナが拓也にキスした瞬間、

「!?」

拓也が大きく目を見開いた。

アイナは離れると、頬を赤く染めて黙っている。

「けけけ、契約って、キキキ、キスのことかよ!!」

拓也は顔を真っ赤にして叫ぶが、舌が上手く回らない。

そんなことをしていると、ルーンを刻む痛みが拓也を襲った。

「あちっ!!?な、なんだあ!?」

「あ、大丈夫。使い魔のルーンが刻まれてるの。すぐに終わるから安心して」

アイナの言葉通り、痛みはすぐに治まった。

「ふう~・・・・ん?」

拓也の右手の甲には漢字の「火」に似たルーンが浮かび上がっていた。

「これが使い魔のルーンってやつか」

(なんか、十闘士の紋章に似てるな)

その様子を見ていたコルベールが、

「ミス・シンフォニアも無事使い魔と契約できたようですね。では、皆さん、教室に戻りますよ」

そう言うと、フライの呪文で宙に浮く。

「お、飛んだ」

拓也は、その様子を軽く驚きながら見ている。

見れば、他の生徒達も宙に浮いている。

(まあ、魔法使いって話しだし、空飛んでも不思議じゃないか)

拓也はこの世界に来たことを完全に受け入れてる上に、デジタルワールドで色々耐性がついているので、今更人が飛んだぐらいでは、取り乱したりはしなかった。

一方、そういう耐性が無い才人は、

「おおお、おい!ルイズ!人が空飛んだぞ!」

「呼び捨てにしないで。メイジが空を飛ぶなんて当たり前じゃない」

「メイジ?一体ここは何処なんだ!?」

「だから、さっきも言ったじゃない。トリステインのトリステイン魔法学院よ」

「そういう事を言ってるんじゃねえ~~~!!」

大いに混乱し、取り乱していた。

その後、才人は現実逃避し、夢から覚めると言ってルイズに殴ってもらい気絶した。

「才人さん・・・・」

その様子を見ていた拓也はため息をついて呟いた。

(これから、どうなるのやら)

この先に少し不安を抱いた拓也であった。





オリキャラ説明


アイナ・ファイル・ド・シンフォニア


拓也を召喚した赤毛でショートカットの少女。

歳は12。

背丈はタバサ位。

優しく、大人しく、争いを好まない性格であり、他の貴族のように偉ぶったりしないため、平民達からの評判は良い。

今回の話では、ラインという事だが、実は『火』のスクウェアの天才少女。

しかし、上記の性格と自分から目立とうとはしないことから、周りからはラインメイジと認知されている。

アイナ自身は、自分の事をスクウェアとは自覚しているが、ライン程度の実力しかないと思い込んでいる。

実家のシンフォニア家は公爵家であり、ヴァリエール領の隣であることからルイズとは仲が良く、本人は覚えていないが幼い頃のアンリエッタとも面識が何度かある。

因みにゲルマニア嫌いではない。

そのため、キュルケともそれなりに仲が良く、タバサとも話しかければ答えてくれる間柄。




あとがき

やってしまいましたゼロ魔とデジフロのクロス小説。

ちょっと拓也が物分りよすぎかな~?

アイナがスクウェアという事はさっさとばらすつもりなので説明に入れておきました。

因みに更新は不定期になります。

それでもなるべく続けられるようにしたいので、よろしくお願いします。



[4371] 第二話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/10/10 19:17
第二話  使い魔の初夜


才人は、頬の痛みの中、目を覚ました。

「う・・・いって~」

「あ。気がつきました?才人さん」

そう言って、拓也が才人の顔を覗き込む。

「ああ。拓也か・・・・何時家に来たんだ?・・・そうそう、聞いてくれよ。おかしな夢見ちゃってさ、俺がファンタジーな世界に召喚されちゃったんだよ。何か使い魔って奴になれってことでさあ。アニメや漫画の見すぎかな。そういや拓也も出てきたぜ。笑えるだろ?」

「・・・・才人さん、残念ですが夢じゃないですよ」

拓也は、未だに現実逃避を続ける才人に言った。

「ホントね。私も夢だったらどれだけ良かったか」

才人の耳にルイズの声が聞こえ、才人は勢い良く身体を起こした。

才人は床に寝かされていて、ルイズはベッドに腰掛けている。

拓也は、才人の隣に座っており、アイナは椅子に座っていた。

因みにここはルイズの部屋である。

「アンタ、アイナに感謝しときなさいよ。アンタにレビテーションかけて、ここまで運んでくれたのアイナなんだから」

ルイズはそう言うが、才人は聞いていなかった。

「う、嘘だろ・・・」

「才人さん、いい加減現実を受け入れたほうがいいですよ。間違いなくここは異世界です」

「んなアホな!そんなこと信じられるわけ無いだろ!」

「・・・・じゃあ、窓の外を見てください。決定的な証拠がありますから」

「窓の外?」

才人は言われたとおり、窓から外を見た。

外は既に夜になっており、月が浮かんでいる。

それだけなら、才人にとっても問題はなかった。

しかし、才人の知る月と比べ、明らかに大きく、極め付けに月が2つあったのだ。

「つ、月が2つ!?」

現実逃避していた才人にとって、これは決定的だった。

(そういえば、デジタルワールドは月が3つだったな。全部ルーチェモンに砕かれたけど)

拓也は少々ずれた事を考えていた。

「マ、マジで異世界なのか?」

「マジです」

最後の望みを託すように呟いた才人に、拓也はきっぱりと言い放つ。

「はあ~。アイナの使い魔から聞いたけど、アンタ達って本当に異世界から来たの?」

ルイズは呆れながら言った。

「本当だって。さっきから言ってるだろ」

拓也がそう言う。

才人が起きる前にも幾度かこのやり取りがあった。

「じゃあ、証拠見せなさいよ」

ルイズは先程から言っていることを繰り返し言った。

拓也自身には、証拠となるものが無かったが、才人にはあった。

才人は、かばんの中からノートパソコン取出し、それを開き、電源を入れる。

「何それ?」

ルイズがそう聞く。

アイナもなんだろう、と興味を示している。

「ノートパソコン」

「確かに見たこと無いわね。何のマジックアイテム?」

「魔法じゃない。科学だ」

ノートパソコンをマジックアイテムと勘違いしているルイズに、才人は科学であるという事を言うが、ルイズは聞き流しているようである。

そして、ノートパソコンの画面が映る。

「うわあ、何これ」

「綺麗・・・」

現れた画面を見て、ルイズとアイナは驚きの声をあげた。

「何の系統で動いているの?風?水?」

「だから科学だ」

未だにノートパソコンをマジックアイテムと思い込むルイズに、再び科学という。

「カガクって、何系統?四系統とは違うの?」

「だ~か~ら~!魔法じゃないっての!!」

何度言っても分かってくれないルイズに才人は声を荒げてしまう。

一方、アイナは、

「それで、カガクって何?」

好奇心に満ちた目で拓也に尋ねた。

アイナはルイズとは違い、柔軟な考えができるようだ、と拓也は判断した。

「ん~、専門的なことは知らないけど・・・・なんて言ったらいいのかな。こっちの魔法は、自然の常識覆してるだろ?人が空飛んだりさ。多分、火とかも何も無くてもおこせるんだろ?」

「そうね。メイジなら杖があれば・・・だけど」

「科学は、こうすればこうなる、ああすればああなる、っていう自然の常識を組み合わせて、あらゆる事を出来るようにした・・・・のかな?ごめん、俺あんまり頭良くないから、合ってるか分からない」

「ふ~ん」

「科学は魔法と比べれば、手間と労力がいる。けど変わりに、魔法と違って誰にでも使えるものなんだ」

「・・・手間と労力は要るけど誰にでも使えるカガク・・・か。確かに今魔法でしか出来ないことが、手間と労力さえかければ平民にも出来るようになれば、トリステインどころか、ハルゲギニア全体が変わるわね」

アイナとの会話に一区切りつき、拓也は才人達のほうに顔を向ける。

そっちでは、いつの間にか元の世界に返せとか、それは無理とか、新しい使い魔を呼び出すには前の使い魔が死ななければいけないとか、死んでみるとか、少々物騒な会話も最後のほうには混じっていた。

どうやらこの2人は先程までの拓也とアイナの話を全く聞いていなかったようである。

最終的には、才人はルイズの使い魔になる事を了承した(というか、仕方無しに妥協した)。

「じゃあ、アイナ。話はこれ位にしておきましょ」

「あ、うん。わかった」

アイナは席を立つ。

「タクヤは私についてきて」

アイナに言われ、拓也は立ち上がる。

「じゃあ、才人さん。また明日」

「おう・・・・」

拓也の挨拶に答えた才人の声は全く元気がなかった。

(まあ、いきなり異世界に飛ばされちゃ仕方ないか)

そう思いながら廊下に出る。

アイナの部屋はルイズの部屋の隣だった。

アイナは扉の前で一度立ち止まる。

「あ、着替えたいから、タクヤはちょっと待ってて」

「わかった」

アイナが部屋に入る。

拓也は扉の横の壁に背を預ける。

(ふう、何か色々な一日だな今日は。デジタルワールドでやっとルーチェモンを倒したと思ったら、いきなり異世界への召喚。まあ、人がいる分デジタルワールドよりも考えようによってはマシか。とりあえずアイナは、いい子みたいだし。才人さんを召喚したルイズって人は、かなり性格きつそうだったけど。才人さん、大丈夫かなあ?)

拓也が考えを巡らしていると、ドアが開き、着替えたアイナが出てきた。

「もういいよ」

そう言って、拓也を部屋の中に入れた。

「そうそう、聞きたいことがあったんだ」

拓也が思い出したように切り出した。

「何?」

「使い魔って、一体何をすればいいんだ?」

「あ、その事も説明しとかないとね」

アイナは椅子に座ると説明を始めた。

「先ず1つ目、感覚の共有。使い魔の見たり聞いたりしたことが、その主人にも伝えることが出来るようになる・・・・んだけど、さっきから試してるけど、上手くいかないみたい」

「そうか・・・まあそれは俺のプライバシーに関わることだから無いほうがいいな」

「2つ目。主人に必要なものを集めたりする。魔法薬を作るための苔とか、硫黄とか・・・・」

「さっきも言ったけど、俺は異世界から来たばっかりだ。そんな専門的な知識なんか、からっきしだ」

「分かってる。こっちの常識すら危ういもんね。それで、3つ目が普通の使い魔なら一番重要なことで、主人を守ること・・・なんだけど・・・」

アイナは気まずそうに拓也を見た。

「タクヤは、戦えないよね」

アイナはそう言ったが、

「そんなことは無いさ。俺だって戦える」

拓也が自信を持って言った。

「あの・・・気持ちは嬉しいんだけど・・・」

「心配するな。アイナは俺が守ってやる」

「っ!?」

何気に恥ずかしい言葉をさらりと言った拓也に、アイナは顔を赤くする。

「どうした?顔赤いぞ。風邪か?」

「だ、大丈夫!そ、それより、もう遅いから寝よう?」

ルイズの部屋にいたときも含め、既にかなりの時間が経っていた。

「それで、俺は何処で寝ればいいんだ?」

「え?ベッドに決まってるでしょ」

拓也は部屋の中を見回す。

何処を如何見ても、ベッドは一つしかない。

「いや、ベッドは一つしかないんだけど・・・・」

「い、一緒に寝ればいいじゃない」

そう言われ、拓也は顔を赤くし、

「いや、それは流石に色々拙い!」

そう言う。

「でも、勝手に呼び出しておいて、床で寝かせるっていうのも・・・・」

アイナは、拓也を床で寝させることに抵抗があるようだ。

「ありがとう。気持ちだけ貰っとくよ。けど、俺は床で大丈夫だから。野宿よりは全然いいし」

「でも・・・」

「いいの。俺が床で寝るって決めたんだ。アイナが悪く思う必要は全くないから。あ、でも毛布は貰うよ。流石に寒いからね」

「うん・・・」

アイナは拓也に毛布を渡す。

それでも、少し罪悪感があるようだ。

拓也は毛布を受け取ると、早々に横になる。

アイナも布団に入り、指をパチンと鳴らすと灯りが消えた。

(へえ~、便利だな)

拓也は魔法の便利さを感じた。

灯りが消えて暫くすると、

「ねえ、タクヤ」

アイナが話しかけてきた。

「何だ?」

「タクヤの世界には、王様も、貴族も、平民もないんだよね」

「ああ、俺の住んでた国も含めて、代表的な国の殆どは、そんなものは無かったと思うけど」

「そうなんだ・・・生まれた家で、生き方が決まるなんて事はないんだね」

「そう・・・なのかな?基本的には能力があれば自分の好きな仕事につけたはずだよ」

「フフッ」

「どうした?」

いきなり笑ったアイナに問いかける。

「私の家の方針に似てるな~って」

「アイナの家の?」

「うん・・・ハルゲギニアでは、王族や貴族に生まれれば、その生まれた家によって生き方が決められると言っても過言じゃないし、平民に生まれれば、貴族の言いなり、どちらにしても自由なんて無いに等しい。けど、私の家はちょっと違うの」

「ふ~ん、アイナの家は如何違うんだ?」

「普通の貴族の家は地位や名誉を重要視してるの。王様の覚えがよければそれだけ待遇も良くなるし」

「確かに。貴族の偏見ってそんなもんだな」

「私の家は、基本的に地位なんて気にしてないんだ。お父様が公爵になった事だって、成り行きって聞いてるから。だから、お父様はやりたい事をしろって言ってるの」

「へ~、いい父さんじゃないか」

「うん。私の自慢のお父様なんだ。親馬鹿なのが偶にキズだけど」

「そ、そうなんだ・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

会話が止まり、暫く無言になる2人。

「ねえ・・・タクヤ。最後にいいかな」

「ん?」

「タクヤって、何歳?」

「俺の歳か?俺は11だけど」

「私の1つ下か・・・うん」

「じゃあアイナは12か。で、それがどうかしたのか?」

「何でもないの。お休みタクヤ」

「あ、ああ。お休み」

曖昧に会話を切られ釈然としない拓也だったが、今日1日で色々あったことから眠気はすぐに襲ってきた。




あとがき

はい、第二話目を投稿させて頂きました。

きりが良い所で終わらせたので、ちょっと短くなりました。

だから、少しでも話を長くしようとして、会話を増やしたけど、ムリヤリ感があるなあ・・・・・

もっと、精進します。

それにしても、拓也がやっぱり物分り良すぎかな。

才人がやや情けない気がしますが、異世界の経験者と未経験者の差はこんなものですかね?

拓也の「守ってやる」発言ですが、拓也自身は特別な感情で言ったわけではなく、「仲間は俺が守る」といった感覚です。

流石に拓也も特別な感情でそう言う台詞は、さらりと言えないと思ったので・・・・

次も頑張ります。



[4371] 第三話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/10/13 16:12
デジタルワールドから、ハルゲギニアに召喚された拓也。

お隣さんの才人も含めて、使い魔の生活が始まった。



第三話  使い魔初日


「・・・う・・・・」

拓也は朝の日の光で目を覚ます。

「朝・・・か」

拓也は周りを見渡す。

横のベッドではアイナが寝息を立てていた。

「夢じゃない・・・か。それにしても・・・・」

拓也が身体を動かすと、間接がパキパキと音を立てる。

「流石に床が固いな」

デジタルワールドでは、トレイルモンのソファーで寝ることが多かったため、固い床では寝慣れていなかった。

「・・・う・・・ん・・・」

その時、アイナが目を覚ました。

「あ、おはようアイナ」

「・・・ふわぁ・・・おはようタクヤ」

アイナは欠伸を一回すると、拓也の挨拶に答える。

「それで、先ずはどうするんだ?」

「着替えるから廊下でまってて」

「分かった」

拓也は廊下に出る。

暫くすると、制服に着替えたアイナが部屋から出てきた。

「お待たせ。これから食堂に案内するからついてきて」

アイナがそう言った時、隣の部屋から才人とルイズが出て来る。

「ルイズ、おはよう」

「ええ、おはようアイナ」

アイナとルイズが挨拶し、

「才人さん、おはようございます」

「おう・・・おはよう拓也」

拓也は元気良く、才人は少し疲れた表情で挨拶した。

「どうかしたんですか?」

不思議に思った拓也は才人に尋ねる。

「頼む・・・聞かないでくれ」

才人にそう断られた。

その時、ルイズの部屋の隣(アイナの部屋とは反対側)の扉が開き、アイナと同じ赤い、しかし腰まで届きそうな髪を持った、褐色肌の女の子が出てきた。

背も高く、才人と同じぐらいあり、スタイルも良い。

「おはようルイズ」

彼女はニヤッと笑って、ルイズに挨拶した。

「おはようキュルケ」

ルイズは嫌そうに挨拶を返す。

「アイナもおはよう」

「おはようキュルケ」

こちらは自然な笑みで挨拶を交わす。

キュルケは視線をルイズに戻すと、

「貴方の使い魔って、それ?」

才人を指差し、馬鹿にした口調で言った。

「そうよ」

キュルケはそれを聞くと笑い出す。

「あっはっは!ホントに人間なのね!凄いじゃない!『サモン・サーヴァント』で平民喚んじゃうなんて、流石はゼロのルイズ」

「うるさいわね。その言い方だとアイナまで馬鹿にしてることになるわよ」

それを聞くとキュルケは拓也に視線を向ける。

「ふ~ん。優秀なアイナの使い魔がただの平民とは思えないけどね。試してみましょ。来なさいフレイム~」

キュルケがそう言うと、キュルケの部屋から、真っ赤で巨大なトカゲが現れた。

「うわあっ!真っ赤な何か!?」

才人は思いっきり驚き、

「お・・・・こっちの世界にもこんなのいるんだ」

拓也はさして驚きもせず、フレイムに近付いていく。

「あはははっ!貴方達、火トカゲを見るのは初めて?見てみなさいルイズ、アイナの使い魔と貴女の使い魔の差を!ルイズの使い魔は臆病ちゃんね」

それもそのはず。

才人は今までファンタジーとは全く無縁の普通の高校生だったのだ。

正直、才人の反応は正しい。

だが、拓也はデジタルワールドの冒険の中、色々なデジモンと関わってきたのだ。

目の前の火トカゲの強さはデジモンにしてみれば、成長期以上成熟期未満と言ったところ。

完全体や究極体、それを超えるロイヤルナイツ、果ては星をも破壊するルーチェモンと戦い、仲間たちと共に勝利してきた拓也にとって、目の前のフレイムは可愛いものでしかなかった。

拓也はフレイムの頭を撫でてやる。

「きゅるきゅる(気持ち良い)」

「へ?」

フレイムが鳴き声を洩らしたとき、頭の中に聞こえた声に拓也は驚いた。

(喋った?いや、鳴き声は聞こえたんだ。喋ってるわけじゃない。頭の中に声が聞こえたというか、鳴き声の意味が分かったというか)

拓也が考えていると、

「きゅる?(どうしたんだ?)」

フレイムが鳴き声を洩らし、また、拓也の頭に声が聞こえる。

(・・・・もしかして、コイツの言ってる意味が分かるのか)

「どうしたの?」

フレイムの頭に手を置いたまま、固まっていた拓也にアイナが声をかける。

「いや、コイツが喋ったというか、鳴き声の意味が分かったというか・・・・」

「あら?貴方、右手のルーンが光ってるわよ」

キュルケに言われ、右手を見ると確かにルーンが光っていた。

「このルーンの力か?」

「そうかもしれない。使い魔の中には契約することで特殊な能力を持つ時があるから」

拓也の疑問にアイナが答える。

「動物の声が分かるようになったのか?」

「少なくとも、タクヤの言ってることが本当ならね」

「ふ~ん」

拓也は右手のルーンをジッと見つめた。

「フフフ、如何ルイズ?貴女の使い魔とは天と地の差があるみたいよ」

「うるさ~~い!!動物の言葉が分かるからって何よ!強さだけなら年上のこっちの方が上よ!それよりも、これってサラマンダーよね」

ルイズが話を変えるように尋ねる。

「そうよー。火トカゲよー。見て、この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ。ブランド物よー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ」

「そりゃ良かったわね」

苦々しい声でルイズが言った。

「素敵でしょ。あたしの属性にぴったり」

「あんたも『火』属性だもんね」

「ええ、微熱のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。貴女と違ってね」

キュルケは、得意げに胸を張る。

ルイズも負けじと張り返すが、その差は月とスッポン。

それでもルイズは、キュルケを睨みつける。

かなりの負けず嫌いである。

「アンタみたいにいちいち色気振りまくほど、暇じゃないだけよ」

ルイズはそう言うが、キュルケにとっては負け犬の遠吠えである。

キュルケは余裕の笑みを浮かべ、才人と拓也の方を向く。

「貴方達のお名前は?」

「平賀 才人」

「神原 拓也」

「ヒラガサイトにカンバラタクヤ?変な名前ね?」

「やかまし」

「まあ・・・こっちの人からしてみれば・・・・」

「じゃあ、お先に失礼」

そう言うと、キュルケは髪をかきあげ、颯爽と去っていき、その後をフレイムが追っていった。

キュルケがいなくなると、ルイズは拳を握り締めて叫んだ。

「くやし~!!何なのよあの女!自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって!」

「いいじゃねえかよ。召喚なんてなんだって」

才人がルイズにそう言うが、

「良くないわよ!メイジの実力を測るには使い魔を見ろって言われてるぐらいよ!何であの女がサラマンダーで、私はアンタなのよ!」

余計に怒りをかっただけであった。

「悪かったな、俺なんかで。でも、お前らだって俺と同じ人間じゃないのかよ」

「メイジと平民じゃ、狼と犬ほどの違いがあるのよ」

得意げにルイズは言った。

「・・・・はいはい。ところで、あいつ、ゼロのルイズって言ってたけど、『ゼロ』って何?苗字?」

「違うわよ。ゼロは唯のあだ名よ」

「あだ名か。あいつが微熱ってのはなんとなく分かったけど、お前は何でゼロなの?」

「知らなくて良い事よ」

ルイズはバツが悪そうに言った。

才人はルイズの身体をジーっと見つめ、

「むね?」

その瞬間、ルイズの平手が飛び、才人が反射的にそれをかわす。

「かわすな!」

「殴んな!」

そんな2人のやり取りを見て、拓也は苦笑しつつアイナに問いかけた。

「そういえば、アイナのあだ名はなんて言うんだ?」

「私の?私は『灯』。灯のアイナって呼ばれてるの」

「『灯』ってことは、火属性?」

「うん」

「あ、やっぱり」

拓也は、自分の属性からアイナはおそらく火属性だろうと予想していた。

とりあえず、未だに騒いでいるルイズと才人を置いて、2人は食堂へ向かった。



食堂に着いた拓也が長いテーブルに置かれた朝食を見て一言。

「無駄に豪華じゃないのか?」

「あはは・・・私もそう思う。でも、『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーの元で、貴族たるべき教育を受けるから、食堂も貴族の食卓に相応しいものでなければならない、っていう理由らしいんだけど」

「何だそりゃ?」

日本人の拓也からしてみれば、明らかに重過ぎる朝食。

いや、夕食にしてみても、これだけの豪華な食事は滅多にないだろう。

「タクヤの席は私の隣で良いから」

アイナにそう言われ、拓也は席につく。

その時、才人とルイズが食堂にやって来る。

拓也が様子を見ていると、ルイズが床を指差し、才人と少し言葉を交わす。

すると才人は床に座り込んだ。

よく見ると才人の前には、皿が一枚置いてある。

貴族の食事と比べると、相当粗末な食事だ。

暫くすると、祈りの声が唱和される。

「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」

それを聞いた拓也は、

(これの何処がささやかなんだよ?)

当然そう思い、もちろん才人も同じ事を思っている。

食事が始まるが、才人は量も少ないためあっという間に終わってしまう。

それを見た拓也が、料理をいくつか皿に取り、席を立って才人の所に持っていく。

「才人さん、それだけじゃ足りないですよね?」

才人は拓也の持った皿の上の料理を見て喜んだ。

「おお!サンキュー拓也!」

才人が皿を受け取ろうとした時だった。

「ちょっと!なに人の使い魔に勝手に餌やってるの!?」

ルイズが怒鳴ってきた。

「何だよ?才人さんの食事が少ないから持ってきただけだけど」

「贅沢させたら癖になるでしょ!」

「癖になる・・・って、才人さんはペットじゃないぞ!」

「私の使い魔なんだから似たようなものよ!」

ルイズのその言葉は拓也にとって許せなかった。

「ふざけるな!才人さんは人間だ!勝手に呼び出しといてその言い草はなんだ!!第一、アンタは才人さんに謝ったのかよ!!」

「な、何で私が平民に謝らなくちゃならないのよ?」

「アンタは勝手に才人さんを家族から引き離したんだぞ!言い換えれば誘拐と同じことだ!平民だから貴族に従うのは当たり前?貴族だから犯罪を犯しても良いって言うのかよ!」

「そ、そんなことアンタには関係ないでしょ!」

「才人さんは俺にとって兄さんみたいな存在なんだ。その才人さんが理不尽な扱いを受けているのを黙ってみていられるか!」

「た、拓也。押さえて押さえて・・・」

才人が拓也を宥めようとしている。

だが、拓也は止まりそうにない。

その時、

「タクヤ!」

アイナが駆け寄ってきた。

「お願い、止めて・・・」

「アイナ・・・・・・・・・・分かったよ・・・」

アイナの悲しそうな顔を見て、拓也は折れた。

拓也はルイズに向き直る。

「怒鳴って悪かったな。でも、才人さんの扱いには気をつけろよ」

拓也はルイズにそう言って、アイナの所に戻っていった。




一波乱あった朝食の時間が終わり、現在は授業の時間。

教師であるシュヴルーズと名乗る中年の女の人が『錬金』の授業を行なっている。

ついさっきも、ただの石ころを真鍮に変えたところだ。

それで、才人が『スクウェア』や『トライアングル』などの意味をルイズに聞いていた。

拓也も興味があったので、聞き耳を立てた。

それによると、魔法使いのレベルは、系統を足せる数で決まり、1つだと『ドット』、2つで『ライン』、3つで『トライアングル』、4つで『スクウェア』となるらしい。

そこで、気になったことをアイナに尋ねた。

「なあアイナ。アイナのレベルって、幾つなんだ?」

拓也がそう尋ねると、アイナは少しうつむき、

「わ、私は・・・・スクウェア・・・なんだけど・・・・」

アイナは拓也がギリギリ聞き取れるぐらいのか細い声で言う。

「へ~。凄いな」

拓也が褒めるが、

「で、でも、実力的にはラインと同程度しかないから」

アイナはそんなことを言う。

(そうなのか?でも、メイジの実力を見るには、使い魔を見ろって言ってたぐらいだから・・・)

「なあ、参考までに聞くけど、朝に会ったキュルケって女の人のレベルは幾つなんだ?」

拓也が問う。

「キュルケ?キュルケはトライアングルだよ。火竜山脈のサラマンダーを召喚するぐらいだから、その実力は本物だよ」

「ふ~ん」(あれでトライアングルなら、やっぱりアイナの方が凄いと思うけどなあ)

アイナの答えを聞いて、拓也はそう思ったが、これ以上話してると授業の邪魔になるので頷いて会話を終わらせた。

丁度その時、才人と会話していたルイズがシュヴルーズに見咎められ、『錬金』の実演をすることになった。

すると、生徒たちが騒ぎ出す。

「先生、止めといたほうがいいと思います」

生徒たちを代表して、キュルケが言った。

「どうしてですか?」

「危険です」

キュルケが言うと、教室の殆ど全員が頷いた。

「危険?何故ですか?」

「ルイズを教えるのは初めてですよね?」

「ええ。ですが、彼女が努力家だという事は聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何も出来ませんよ」

「ルイズ、やめて」

キュルケは蒼白な顔で言った。

しかし、ルイズは立ち上がる。

「やります」

ルイズは緊張した面持ちで、教室の前に歩いていった。

隣に立ったシュヴルーズはにっこりとルイズに笑いかけた。

「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」

ルイズは、コクリと頷いて、手に持った杖を振り上げた。

その時位から、生徒達は落ち着きがなくなり、机の下に隠れるものが大勢いた。

不思議に思った拓也は、アイナに問う。

「なあ、一体どうしたんだ?さっき、先生がやった『錬金』をするだけだろ?」

「う、うん・・・そうなんだけど・・・・とりあえず、何が起きても対処できる心構えだけはしといて」

「はあ?」

そして、ルイズが呪文を唱え、杖を振り下ろした瞬間、石ころは机ごと爆破された。

「おわっ!?」

突然のことに拓也は驚き、油断していた才人は爆風の影響で椅子ごと倒れる。

爆心地にいたルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられ、さらに、爆発で驚いた使い魔たちが暴れだした。

キュルケのサラマンダーが火を吹き、マンティコアが窓ガラスを叩き割って、外へ飛び出す。

そして、その穴から大ヘビが入ってきて、大きな口を開け、拓也に向かってきた。

「って、狙い俺かよ!?」

拓也は思わず口を大きく開けたヘビの顎を狙って下から蹴り上げた。

サッカー部で鍛えたその蹴りが、ナイスな具合にヘビの脳を揺らしたらしく、ヘビは気絶した。

「スネーク!しっかりするんだ!スネェェェク!!」

そのヘビの主らしい男子生徒が、そのヘビに声をかけていた。

(正当防衛だからな)

心の中でそう呟いて、拓也は前を向く。

そこでは、煤で真っ黒になったルイズが起き上がったところだった。

「ちょっと失敗したみたいね」

辺りの大騒ぎを意に介した風もなく、ルイズはそう言った。

「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」

「何時だって魔法の成功確率、殆どゼロじゃないかよ!」

その言葉で才人と拓也は、何故ルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているのか理解した。




本塔の最上階にある学園長室には、このトリステイン魔法学院の学園長がいる・・・・のだが、

「あだっ!年寄りを。君。そんな風に。こら!あいだっ!」

その偉そうな肩書きを持つオスマンという老人は、現在、秘書であるロングビルという女性に蹴られていた。

理由は、俗に言うセクハラというやつである。

このオスマンは、偉大な魔法使いらしいのだが、この場を見る限りそんなふうには見えない。

そんな状況の学園長室に、突然コルベールが駆け込んできた。

「オールド・オスマン!!」

「なんじゃね?」

ロングビルは何事もなかったかのように机に座って仕事をしており、オスマンは腕を後ろに組んで、重々しくコルベールを迎え入れた。

恐ろしいほどの早業である。

「たたた、大変です!」

「大変なことなどあるものか。全ては小事じゃ」

「ここ、これを見てください!」

コルベールは、手に持っていた書物をオスマンに手渡した。

「これは、『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。まーたこのような古臭い文献など漁りおって。そんな暇があるなら、たるんだ貴族たちから学費を徴収する上手い手を、もっと考えるんじゃよ。ミスタ・・・・・なんだっけ?」

「コルベールです!お忘れですか!?」

「そうそう、そんな名前だったな。君はどうも早口でいかんよ。で、コルベール君、この書物がどうかしたのかね?」

「これも見てください!」

コルベールは才人の左手に現れたルーンのスケッチを手渡した。

それを見た瞬間、オスマンの顔色が変わり、厳しい顔つきになる。

「ミス・ロングビル。席を外しなさい」

退室を促され、席を立つロングビル。

そして、部屋から出て行ったロングビルを見届けると、オスマンは口を開いた。

「詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」





爆破された教室では、ルイズと才人が後片付けを命じられた。

罰といって、魔法で片付けることは禁止されたが、魔法を使えないルイズにとって意味は無かった。

シュヴルーズは2時間後に目を覚ましたが、ルイズの爆発がトラウマになったのか、今日は錬金の授業を行なわなかった。

片付けは拓也も手伝い、何とか昼前には終わらせた。

拓也が手伝った理由は、魔法で片付けるのは禁止だが人の手を借りるなと言われてない事と、どうせルイズは殆どを才人に押し付けるだろうと思い、事実そうだった。

3人が食堂へ向かっているとき、ルイズが魔法を使えないと知った才人がルイズをからかっている。

ルイズは、怒りが溜まっていくが、才人は浮かれていて気付かない。

拓也は、ルイズの引きつる顔を見て、ヤバイと思ったが、才人のからかいはエスカレートしていく。

「ルイズお嬢様。この使い魔、歌を作りました」

「歌ってごらんなさい?」

「ルイルイルイズはダメルイズ。魔法が出来ない魔法使い。でも平気!女の子だもん・・・・・・・ぶわっはっはっは!!」

才人は自分で爆笑してしまった。

「さ、才人さん・・・・・」

才人は既に拓也がフォローできない所まで言ってしまい、拓也は頭を抱えた。

才人は気付いていないが、拓也はルイズが完璧に切れてしまっていることに気付いていた。

食堂に着くと、才人はルイズに椅子を引いてやる。

「はいお嬢様。料理に魔法をかけてはいけませんよ。爆発したら大変ですからね」

未だその事を引っ張る才人。

それが拙かった。

才人は床に座り、食事しようとした時、目の前の皿が取り上げられた。

「なにすんだよ!?」

「こここ・・・・」

「こここ?」

ルイズの肩が怒りで震えていた。

拓也は、

「やっぱり来たか・・・・」

とつぶやく。

「こここ、この使い魔ったら、ごごご。ご主人様に、ななな、なんてこと言うのかしら」

才人は、ようやくやりすぎたことに気付くが、時既に遅し。

「ごめん!もう言わないから、俺の餌返して!」

「ダメ!ぜぇ~ったい!ダメ!ゼロって言った数だけご飯抜き!これ絶対!例外なし!」

「そ、そんなぁ~。・・・・そうだ拓也!拓也からも何か言ってくれ!」

才人は拓也に助けを求めるが、

「才人さん、今回ばかりは才人さんが悪いです。俺にはフォローできません」

「おほほほ、アイナの使い魔も世間知らずのガキンチョだと思ってたけど、なかなか分かってるじゃない」

「まあ、今回ばかりは」

唯一の望みの拓也に断られたために、ご飯抜きが決定してしまった才人は激しく落ち込む。

そして、ふらふらとした足取りで食堂から出て行った。

それを見送った拓也は、自分の食事をするために、アイナの所へ向かった。



暫くすると、才人がメイドと一緒にケーキを配っていた。

才人はメイドのシエスタから食事もらった代わりに仕事を手伝っているのだ。

才人がトレイを持ち、シエスタがそのトレイからはさみでケーキをつまみ、1個づつ貴族たちに配っていく。

そんなテーブルの先に、金髪の巻き髪に、フリルのついたシャツを着た、キザなメイジがいた。

薔薇をシャツのポケットに挿している。

周りの友人が口々に彼を冷やかしている。

「なあギーシュ。お前、今は誰と付き合っているんだよ?」

「誰が恋人なんだ?ギーシュ?」

そのキザなメイジはギーシュというらしい。

「付き合う?僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」

見事なキザっぷりである。

それを聞いていた拓也は、

(ナルシストっぷりなら、ロードナイトモンといい勝負か?)

つい昨日まで戦っていた宿敵の片割れを思い出していた。

対して才人は、そんなギーシュを、死んでくれと思いながら彼を見つめた。

その時、ギーシュのポケットから、紫の液体が入っている小壜が落ちた。

才人は仕方なくギーシュに声をかける。

「おい、ポケットから壜が落ちたぞ」

だが、ギーシュは振り向かない。

才人はシエスタにトレイを持ってもらうと、しゃがみこんで小壜を拾った。

「落し物だよ。色男」

それをテーブルの上に置いた。

ギーシュは苦々しげに、才人を見つめると、その小壜を押しやった。

「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」

その小壜を見たギーシュの友人たちが騒ぎ始める。

「おお?その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」

「そうだ!その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」

「そいつがギーシュ、お前のポケットから落ちてきたって事は、つまりお前は今、モンモランシーと付き合っている。そうだな?」

「違う。いいかい?彼女の名誉のために言っておくが・・・・・」

ギーシュが何か言いかけたとき、後ろのテーブルに座っていた茶色のマントの少女が立ち上がり、ギーシュの席に向かって、コツコツと歩いていた。

栗色の髪をした、可愛い少女だった。

「ギーシュさま・・・・」

そして、ボロボロと泣き始める。

「やはり、ミス・モンモランシーと・・・・」

「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでるのは、君だけ・・・・」

だが、ケティと呼ばれた少女は、ギーシュの頬をひっぱたいた。

「その香水が貴方のポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ!さようなら!」

ケティがギーシュの前から去ると、遠くの席から見事な巻き髪の女の子が立ち上がった。

才人は、その女の子に見覚えがあった。

彼女は、才人がこの世界に呼び出されたときに、ルイズと口論していたモンモランシーだった。

いかめしい顔つきで、かつかつとギーシュの席までやってきた。

「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒にラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで・・・・」

ついさっきとは180度違うことを言うギーシュ。

傍から見れば、かっこ悪いことこの上ない。

「やっぱりあの一年生に手を出していたのね?」

「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りで歪ませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか」

モンモランシーは、テーブルに置かれたワインの壜を掴むと、中身をどぼどぼとギーシュの頭の上からかけた。

そして・・・・

「嘘つき!!」

と怒鳴って去っていった。

沈黙が流れる。

ギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくりと顔を拭いた。

「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」

才人は、一生やってろ、と思い、シエスタからトレイを受け取り、再び歩き出した。

そんな才人を、ギーシュが呼び止めた。

「待ちたまえ」

「何だよ」

ギーシュは椅子の上で身体を回転させると、足を組んだ。

「君が軽率に、香水の壜なんかを拾い上げたお陰で、2人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」

才人は呆れた声で言った。

「二股かけてるお前が悪い」

ギーシュの友人たちがどっと笑った。

「その通りだギーシュ!お前が悪い!」

ギーシュの顔に赤みが差す。

「いいかい?給仕君。僕は君が香水の壜をテーブルに置いたとき、知らないフリをしたじゃないか。話を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」

「どっちにしろ二股なんかその内ばれるっつの。あと、俺は給仕じゃない」

「ふん・・・・ああ、君は・・・・・確か、あのゼロのルイズが呼び出した平民だったな。平民に貴族の機転を期待した僕が間違っていた。行きたまえ」

ギーシュは馬鹿にしたように鼻を鳴らし、そう言った。

才人はそれが頭に来た。

「うるせえキザ野郎。一生薔薇でもしゃぶってろ」

才人はそう口走っており、ギーシュの目が光る。

「どうやら君は貴族に対する礼を知らないようだな」

「あいにく、貴族なんかいない世界から来たんでね」

才人はギーシュの物腰を真似てキザったらしい仕草で言った。

「よかろう。君に礼儀を教えてやろう。丁度いい腹ごなしだ」

ギーシュは立ち上がった。

「おもしれえ」

才人もやる気を見せる。

「ここでやんのか?」

「まさか。貴族の食卓を平民の血で汚したくはない。ヴェストリの広場で待っている。ケーキを配り終わったら来たまえ」

ギーシュはそう言って、体を翻すと食堂から出て行った。

ギーシュの友人たちがワクワクした顔で立ち上がり、ギーシュの後を追った。

一人は才人を見張るために残っている。

シエスタが震えながら、才人を見つめていた。

「あ、あなた、殺されちゃう・・・・貴族を本気で怒らせたら・・・・」

シエスタは走って逃げてしまった。

すると、後ろからルイズが駆け寄ってくる。

「あんた!何してんの!見てたわよ!」

「よお、ルイズ」

「よおじゃないわよ!何勝手に決闘なんか約束してんのよ!」

「だって、あいつが余りにもムカつくから・・・・」

才人はバツが悪そうに言う。

ルイズはため息をついて、やれやれと肩をすくめた。

「謝っちゃいなさいよ」

「なんで?」

「怪我したくなかったら、謝ってきなさい。今なら許してくれるかもしれないわ」

「ふざけんな!何で俺が謝らなくちゃならないんだよ!先にバカにしてきたのは向こうのほうだ。大体、俺は親切に・・・・」

「いいから」

ルイズは強い調子で才人を見つめた。

「嫌だね」

「わからずやね・・・あのね?絶対に勝てないし、アンタは怪我するわ。いいえ、怪我で済んだら運がいいわよ!」

「そんなのやってみなくちゃわかんねえだろ」

「聞いて?メイジに平民は絶対に勝てないの!」

「ヴェストリの広場ってどこだ?」

才人は歩き出した。

ギーシュの友人の一人が顎をしゃくった。

「こっちだ。平民」

「ああもう!ほんとに!使い魔のくせに勝手なことばかりするんだから!」

ルイズは才人の後を追いかけた。

そんな様子を見ていた拓也は、

(才人さん、怒ってたな。そりゃあそこまで言われりゃ頭に来るだろうけど、相手が魔法使いって事わかってるのかな?)

そう思い、心配になった拓也は席を立ち、才人のあとを追った。




拓也のルーン説明

動物や幻獣の声を含め、あらゆる言語、文字を翻訳する。

動物や幻獣とはあくまで話せるだけで、お願い事は出来ても、ウィンダールヴではないので操ることは出来ない。

因みに、ルーンの形が「火」に近いのは、元々このルーンの能力を炎を操れる能力にしようと思っていた名残です。

ですが、進化してしまえば全く使い道が無いので、何かと便利な翻訳能力にしました。





あとがき

第三話完成しました。

前回短くなった分、今回長くなりました。

キュルケ、フレイムとの顔合わせですが、こんなもんでよろしいでしょうか?

ルイズの話の変え方がやや強引かな~、と思いますが・・・・

朝食時、拓也が切れました。

家族を大事にする気持ちを持った拓也なら、兄貴分の才人がペット扱いされれば切れるでしょう(たぶん)。

とりあえず、拓也の言葉は自分が初期のルイズに言ってやりたかったことです。

原作読み返してみると、一巻で謝っている節を見かけなかったので・・・・

あと、才人とギーシュのやり取りが、殆ど原作と同じになってしまったのが痛いです。

もっとオリジナリティを組み込めればよかったのですが・・・・・

もっと精進です。

そして、次はいよいよ決闘です。

バトルシーン上手く表現できるかな?

次も頑張ります。



[4371] 第四話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/10/20 17:57
貴族であるギーシュの態度に我慢できなり、ギーシュを挑発したため、決闘をすることになった才人。

ルイズが止めようとするが、才人は聞かずにヴェストリの広場へ向かってしまう。

そんな才人を心配した拓也が後を追う。

才人と拓也の運命やいかに。


第四話  ヴェストリの広場の決闘! よみがえる2つの伝説!


「諸君、決闘だ!」

才人が広場に来たとき、そう言ってギーシュが薔薇の造花を掲げた。

周りからは歓声が沸き起こる。

「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの使い魔の平民だ!」

ギーシュは腕を振って歓声に答えている。

そして、それから才人の方を向いた。

「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてやろうじゃないか」

「誰が逃げるか!」

「さてと、では、始めるか」

その瞬間、才人は駆け出した。

(先手必勝!)

ギーシュまでは焼く10歩の距離。

だが、ギーシュは才人を余裕の笑みで見つめると、薔薇の造花を振った。

花びらが一枚、宙に舞ったかと思うと、それは、甲冑を着た女戦士の形をした人形になった。

大きさは人間と同じぐらいだが、金属で出来ていた。

「な、何だこりゃ!?」

「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」

「て、てめぇ・・・」

「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。したがって、青銅のゴーレム、『ワルキューレ』がお相手するよ」

「え?」

そのワルキューレが才人に向かって突進してきた。

ワルキューレの右の拳が才人の腹にめり込む。

「げふっ!」

才人は呻いて地面に転がった。

「なんだよ。もう終わりかい?」

ギーシュが呆れた声で言った。

「才人さん!」

人ごみの中から拓也が飛び出し、才人に駆け寄る。

見れば、ルイズも飛び出してきていた。

「ギーシュ!」

「おおルイズ!悪いな。君の使い魔をちょっとお借りしているよ!」

「いい加減にして!大体ねえ、決闘は禁止じゃない!」

「禁止されているのは、貴族同士の決闘のみだよ。平民と貴族の間での決闘なんか、誰も禁止していない」

ルイズは言葉に詰まる。

「そ、それは、そんなこと今までなかったから・・・・」

「ルイズ、君はそこの平民が好きなのかい?」

ルイズの顔が怒りで赤く染まった。

「誰がよ!やめてよね!自分の使い魔が、みすみす怪我するのを、黙って見ていられるわけないじゃない!」

その時、才人が腹を押さえて立ち上がる。

「・・・だ、誰が怪我するって?俺はまだ平気だっつの」

「才人さん!大丈夫なんですか!?」

「サイト!」

拓也とルイズが心配するように才人の名を呼ぶ。

「拓也・・・心配するんじゃねえ。俺は大丈夫だ。・・・・それにルイズ。お前、やっと俺を名前で呼んだな」

ルイズは震えていた。

「分かったでしょう?平民は、絶対にメイジに勝てないのよ!」

「ちょっと油断しただけだ。いいからどいてろ」

才人がルイズと拓也を押しやる。

「おやおや、立ち上がるとは思わなかったな・・・・手加減がすぎたかな?」

ギーシュが才人を挑発する。

才人は前に歩き出そうとする。

その肩をルイズが掴んだ。

「寝てなさいよ!バカ!どうして立つのよ!」

才人は肩に乗せられた手を振り払った。

「ムカつくから」

「ムカつく?メイジに負けたって恥でもなんでもないのよ!」

才人はよろよろと歩きながら呟く。

「うるせえ」

「え?」

「いい加減、ムカつくんだよね・・・・メイジだか貴族だか知らねえけどよ。お前ら揃いも揃って威張りやがって。魔法がそんなに偉いのかよ。アホが」

そんな台詞を聞いて、拓也はため息をついた。

「はあ・・・・・ルイズ。こうなったら何言っても無駄だ。こうなった才人さんはテコでも動かないから」

「へっ。よく分かってるじゃねえか。流石は俺の弟だな」

才人は痛みを我慢しながら笑みを浮かべる。

「才人さん、最後に確認しますけど、本当に続けるんですね」

「当たり前だ!」

「分かりました。ただ、ちょっとだけ口を挟ませてもらいます」

「え?」

拓也はギーシュの方を向いた。

「なあアンタ、一つ言いたいことがある」

「ふむ、君はアイナの使い魔の平民だったね。特別に聞いてあげようじゃないか」

ギーシュは相変わらずキザったらしい仕草で答える。

「この決闘だけど、フェアとは思えない」

「ほう。何がだい?」

「アンタが魔法を使ったことだ」

「魔法?メイジが魔法を使って何が悪いんだい?」

「別に魔法が卑怯だとは言わない。けど、才人さんは丸腰だ。その丸腰の相手に魔法という“武器”を使って戦うのがフェアとは思えない」

「なるほど。じゃあ、君はどうして欲しいんだい?」

「アンタも素手で戦う。もしくは、才人さんに武器を持たせるかだな」

ギーシュは顎に手を添えて、考える仕草をする。

「確かに・・・君の言う事にも一理ある」

以外にも、ギーシュは背定の意を示した。

だが、

「しかし、僕は貴族だ。素手の殴り合いなどという野蛮なことはしたくない」

「なら如何するんだよ?」

「なに、心配しなくていい」

ギーシュはそう言うと、造花の杖を振る。

花びらが一枚舞い、才人の目の前で剣となり、地面に突き刺さった。

それを見て、拓也は失敗した、と思った。

拓也の狙いはギーシュに魔法を使わせずに、素手の勝負に持っていかせようとしていた。

素手同士なら、才人にも十分勝ち目がある。

だが、ギーシュは錬金で剣を、才人の『武器』を作ってしまった。

平和な日本で暮らしてきた才人だ。

武術を習っていたなら未だしも、ごく一般の高校生が武器を持ったとしても、先程のゴーレムには到底敵わない。

拓也は、命がけの戦いを幾度も乗り越えてきたので、否応無しにその実力差を感じてしまった。

そんな拓也の心の内などいざ知らず、ギーシュは才人に話しかけた。

「君。まだ続ける気があるなら、その剣を取りたまえ。そうじゃなかったら、一言こう言いたまえ。ごめんなさい、とな。それで手打ちにしようじゃないか」

「ふざけないで!」

ルイズが怒鳴るが、ギーシュは気にした風もなく、言葉を続ける。

「分かるか?剣だ。つまり平民の『武器』だ。平民どもが、せめてメイジに一矢報いようと磨いた牙さ。まだ噛みつく気があるのならその剣を取りたまえ」

才人は、その剣に迷いもなく手を伸ばす。

その手が、ルイズによって止められる。

「だめ!絶対にだめなんだから!それを握ったら、もうギーシュは容赦しないわ!」

「俺は、元の世界にゃ、帰れねえ。ここで暮らすしかないんだろ」

才人は独り言を呟くように言った。

「そうよ。それがどうしたの!?今は関係ないじゃない!」

ルイズは才人の手を握り締める。

才人は力強い声で言い放った。

「使い魔でいい。寝るのは床でもいい。飯は不味くたっていい。下着だって洗ってやるよ。生きるためだ。しょうがねえ・・・・・でも・・・・」

「でも・・・・何よ?」

「下げたくねえ頭は、下げられねえ!!」

才人はルイズの手を振りほどき、地面に突き立った剣を握った。

その時、才人の左手に刻まれたルーンが光りだした。



所変わって、学園長室。

コルベールは、才人の左手に刻まれたルーンが気になり、それを調べたことを説明していた。

その結果、

「始祖ブリミルの使い魔、『ガンダールヴ』に行き着いた、というわけじゃな?」

オスマンは、コルベールが描いた才人の左手に現れたルーンのスケッチを、じっと見つめた。

「そうです!あの少年の左手に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』に刻まれていたものと、全く同じであります!」

「で、君の結論は?」

「あの少年は、『ガンダールヴ』です!これが大事じゃなくて、何なんですか!?オールド・オスマン!」

コルベールは、まくし立てた。

「ふむ・・・・確かにルーンが同じじゃ。ルーンが同じという事は、ただの平民だったその少年は、『ガンダールヴ』になった、という事になるんじゃろうな」

「どうしましょう?」

「しかし、それだけで、そう決め付けるのは早計かもしれん」

「それもそうですな」

その時、ドアがノックされる。

「誰じゃ?」

「私です。オールド・オスマン」

扉の向こうから、ロングビルの声が聞こえてきた。

「なんじゃ?」

「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるようです。大騒ぎになっています。止めに入った教師がいましたが、生徒たちに邪魔されて、止められないようです」

「まったく、暇をもてあました貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れておるんだね?」

「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」

「あの、グラモンとこのバカ息子か。オヤジも色の道では剛の者じゃったが、息子も輪をかけて女好きじゃ。おおかた女の子の取り合いじゃろう。相手は誰じゃ?」

「・・・・それが、メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の少年のようです」

オスマンとコルベールは顔を見合わせた。

「教師達は、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」

オスマンの目が、鷹のように鋭く光った。

「アホか。たかが子供の喧嘩を止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい」

「わかりました」

ロングビルの足音が遠ざかっていく。

コルベールは唾を飲み込んで、オスマンを促した。

「オールド・オスマン」

「うむ」

オスマンは杖を振った。

壁にかかった大きな鏡に、ヴェストリ広場の様子が映し出された。





才人は驚いていた。

剣を握った瞬間、殴られた腹の痛みが消えたからだ。

(それに体がメチャクチャ軽い!まるで飛べそうだ!)

剣を握った才人を見て、ギーシュは冷たく微笑んだ。

「まずは誉めよう。ここまでメイジに楯突く平民がいることに、素直に感激しよう」

そう言って、才人に向かって造花の杖を振る。

ワルキューレが、先程と同じスピードで才人に襲い掛かった。

だが、

「トロいんだよ!!」

才人の剣の一閃によって、ワルキューレの上半身と下半身が分断される。

「なっ!?」

驚愕するギーシュ。

才人は、ギーシュに向かって疾風のように駆ける。

ギーシュは慌てて杖を振ると、新たに6体のワルキューレが現れた。

全部で7体のワルキューレがギーシュの武器、なのだが・・・・

瞬く間に、5体のワルキューレが才人によってバラバラにされる。

ギーシュは咄嗟に残った1体を自分の盾に置く。

しかし、それも一瞬で切り裂かれた。

「ぶはっ!」

ギーシュは顔面に蹴りを食らって吹っ飛び、地面に転がった。

ギーシュの視界に、自分目掛けて跳躍してくる才人の姿が見えた。

「ひっ!」

ギーシュは、思わず頭を抱える。

――ザシュ

ギーシュが恐る恐る目を開けると、才人がギーシュのすぐ横の地面に剣を突き立てていた。

「続けるか?」

才人にそう問われたギーシュに、戦意は全く残っていなかった。

ギーシュはフルフルと首を横に振る。

「ま、参った」

ギーシュは震える声で降参した。

その瞬間、見物していた生徒たちがざわめいた。

「へ、平民がギーシュに勝った!?」

「ギーシュが負けたぞ!」

などという声が飛び交っている。

この決闘を見て、驚いたのは拓也も同じであった。

ごく普通の高校生の筈の才人が剣を取った後、ヴォルフモンには及ばないものの、それでも常人離れした身のこなしと剣技でゴーレムを圧倒したのだ。

むしろ、拓也の驚きは他の生徒よりも大きかった。

ギーシュが立ち上がり、才人に向かって話しかける。

「君。君は一体何者なんだい?この僕のワルキューレを倒すなんて・・・・」

それを聞くと才人は、剣を肩に担ぐような仕草をして、

「俺は、ゼロのルイズの使い魔。平賀 才人だ!」

そう言い放った。

才人が剣から手を放し、拓也とルイズがいる場所に向かって歩き始めて数歩、

「ぐっ!いててて・・・」

才人は腹を押さえて蹲る。

「才人さん!大丈夫ですか!?」

拓也は才人に駆け寄った。




決闘の様子を遠見の鏡で見ていたオスマンとコルベールは、顔を見合わせた。

「オールド・オスマン」

「うむ」

「あの平民、勝ってしまいましたが・・・・」

「うむ」

「ギーシュは一番レベルの低い『ドット』メイジですが、それでもただの平民に後れをとるとは思えません。そしてあの動き!あんな平民見たことない!やはり彼は『ガンダールヴ』!」

「うむむ・・・・」

「オールド・オスマン。さっそく王室に報告して、指示を仰がないことには・・・・」

「それには及ばん」

オスマンは、重々しく頷いた。

「どうしてですか!?これは世紀の大発見ですよ!現代に蘇った『ガンダールヴ』!」

「ミスタ・コルベール。『ガンダールヴ』はただの使い魔ではない」

「その通りです。始祖ブリミルの用いた『ガンダールヴ』。その姿形は記述がありませんが、主人の呪文詠唱の時間を守るために特化した存在と伝え聞きます」

「そうじゃ。始祖ブリミルは、呪文を唱える時間が長かった・・・・その強力な呪文ゆえに。知ってのとおり、詠唱時間中のメイジは無力じゃ。そんな無力な間、己の体を守るために始祖ブリミルが用いた使い魔が『ガンダールヴ』じゃ。その強さは・・・・」

オスマンの言葉をコルベールが続ける。

「千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並のメイジではまったく歯が立たなかったとか!」

「で、ミスタ・コルベール」

「はい」

「その少年は、本当にただの人間だったのかね?」

「はい。何処から如何見ても、ただの平民の少年でした。ミス・ヴァリエールが呼び出した際に、念のため『ディティクト・マジック』で確かめたのですが、正真正銘、ただの平民の少年でした」

「そんなただの少年を『ガンダールヴ』にしたのは、誰なんじゃね?」

「ミス・ヴァリエールですが・・・・」

「彼女は優秀なメイジなのかね?」

「いえ、というか、むしろ無能というか・・・・・」

「さて、その2つが謎じゃ」

「ですね」

「無能なメイジと契約した、ただの少年が何故『ガンダールヴ』になったのか。まったく謎じゃ。理由が見えん」

「そうですね・・・・」

「とにかく、王室のボンクラ共に『ガンダールヴ』とその主人を渡すわけにはいくまい。そんなオモチャを与えてしまっては、また戦でも引き起こすじゃろうて。宮廷で暇をもてあましている連中はまったく、戦が好きじゃからな」

「ははあ。学園長の深謀には恐れ入ります」

「この件は私が預かる。他言は無用じゃ。ミスタ・コルベール」

「は、はい!かしこまりました!」

オスマンは一息つくと再び遠目の鏡に目をやった。

その瞬間、

「いかん!!」

目を見開き、叫んだ。





腹を押さえつつ何とか立ち上がった才人に向かって、三角錐状の岩が撃ち出された。

土と風のラインスペル、『ロック・ニードル』だ。

「才人さん!!」

それに気付いた拓也は叫ぶが、才人は反応できない。

その時、

「危ない!!」

一発の火球が、ロック・ニードルを相殺する。

才人が無事なことに拓也は安堵の息をつくと、先程の火球の出所に顔を向けた。

そこには、杖を構えたアイナがいた。

「はっ・・・はっ・・・はっ、よ、良かった」

極度の緊迫からか、激しく息をついている。

「た、助かった・・・・・」

突然のことに呆けていた才人だが、状況を把握すると、安堵の余り、また座り込んでしまった。

「全く、もう少しでその無礼な平民を始末できたのに」

その声に振り向くと、観客の一人が前に出てきた。

「グラン!君は一体何をするんだ!?」

そう言ったのはギーシュ。

「何を?決まってるじゃないかギーシュ。君の汚点を消してあげようとしたまでだよ」

そうのたまう、ギーシュにグランと呼ばれた男子生徒。

「やめるんだ!たとえ彼を殺したとしても、僕が彼に負けたという事実は消えない。これ以上僕の顔に泥を塗るんじゃない!」

「君が負けた?それは違う。あの平民が勝つことが出来たのは、君が作った剣があったからだ。あの平民の力じゃない」

「それは決闘を公平にするためのものだ。その結果、僕は負けた。だから、その事を負けた言い訳にするつもりは無い!」

「いいかい?そもそも武器を与えること自体が間違いなんだ。権力や財力も実力の内さ。あの平民は剣を持ってなかった。それが、あの平民の実力だよ」

「そんなの、敗者の言い訳に過ぎない!いいから止めるんだ!」

「やれやれ・・・・」

そう言って、グランは杖を振る。

ギーシュの足を地面から生えた岩の手が掴んだ。

「なっ!?」

「ギーシュ、君は黙ってみていたまえ。あの平民は、僕が消しといてあげるよ」

「グラン!!くっ・・・・」

ギーシュは造花の杖を構えるが、

「無駄なことは止めておきたまえ。ドットメイジであり、先程の決闘で精神力を消耗した君に、ラインメイジである僕の魔法は破れないよ」

グランは才人に向かって歩いていく。

だが、その前にアイナが立ち塞がった。

「なんだいアイナ?君も僕の邪魔をするのかい?」

グランの問いかけに、アイナはか細い声で反論する。

「ど、如何見ても、貴方は間違ってる。平民だからって殺して良い訳じゃない」

そう言うアイナの肩は震えていた。

アイナは争いを好まない。

まだ1日だけの付き合いだが、拓也にもその事は理解できていた。

「ふう・・・君は貴族らしくないな。わかるかい?貴族は選ばれた存在なんだよ。平民はその貴族に仕えさせて貰えるだけでも光栄なことなんだ。けど、あの平民は貴族に楯突いたんだ。選ばれた存在である貴族にだ!そんな平民なんて、死んで当然なんだよ」

「ち、違う・・・・貴族も平民も、同じ人間だよ。貴族と平民の違いなんて、ただ、魔法が使えるか使えないかだけ。だから、貴族は平民が出来ないことをやる。その代わり、平民は貴族の為に働いてるだけだよ」

「はあ?寝言は寝て言いたまえ」

アイナの必死の反論もグランは、全く聞く耳を持たない。

遂に拓也は我慢の限界に来た。

拓也は歩いて、アイナの横に立つ。

「おいテメエ。一つ聞きたい事がある」

「やれやれ、また礼儀の知らない平民が出てきたな・・・・おや?よく見れば君は、僕の大切な使い魔であるスネークを蹴っ飛ばした平民だね」

どうやら、このグランは、錬金の授業中、ルイズの爆発魔法で驚いて、拓也に襲い掛かってきたヘビの主人であるらしい。

「それは正当防衛だ。それよりも、お前は、力は何のために在ると思ってるんだ?」

「何のために?ふっ、愚問だね。力は、力無き者、つまり平民を従わせるためにあるのさ」

「・・・・・お前は力の向けられる方の気持ちを考えたことがあるのか?」

「何でそんな事を考えなければいけないんだい?僕は貴族、つまり力を持つものだ。力の無い平民は貴族に従う。それが当然なんだよ」

拓也はグランの答えを聞き、これ以上は無駄と感じ、今度はアイナの方を向いた。

「アイナ・・・・・アイナは、力は何の為にあると・・・いや、何の為に使いたい?」

拓也は真剣な表情でアイナに問いかけた。

「私・・・私は・・・私は、守るために使いたい。友達を・・・・力の無い平民達を・・・・・そして、私を愛してくれるお父様やお母様、それに妹達を」

拓也はアイナの答えを聞くと、自然に笑みがこぼれる。

「そうか」

拓也に、もう迷いはなかった。

「はははっ!守るため?平民を守るだって!?平民なんて、戦場では貴族の盾になることぐらいしか役目はないさ。そんな平民を守るなんて、本当に笑ってしまうよ」

大笑いしているグラン。

「五月蝿い!!」

拓也の一喝に、グランの笑いが止まる。

「テメエみたいなクズ野郎に、アイナを笑う資格は無い」

拓也はグランに向かってそう言う。

その一言で、グランの怒りも一気に頂点に達した。

「いいだろう。君の態度には我慢ならない。ここで処刑してやろう」

グランは杖を振ると、岩が集まっていき、ギーシュのワルキューレと同じぐらいの岩のゴーレムとなった。

「グ、グラン、止めて!」

アイナが慌てて止めようとするが、

「それは出来ないよ。彼は僕を侮辱しすぎた。それでも止めたいと言うのなら、君が僕の相手をするかい?」

「え?」

グランの脅しに震えてしまう。

拓也はそんなアイナの肩に手を置き、

「俺なら大丈夫だ。それよりもアイナは本当に優しいんだな。・・・・今感じてる恐怖だって、自分が傷つくことだけじゃない。相手を傷つけることも怖いんだろ?」

優しく言葉をかける。

「タ、タクヤ・・・」

「そんなに心配するなって。俺は、君が呼び出した使い魔だぜ。それに、言っただろ?アイナは俺が守ってやるって。その時の言葉が嘘じゃないって証明してやるよ」

昨夜と同じく、何気に恥ずかしいことをさらりと言ってのける拓也。

アイナが顔を赤くして固まっている間に前に出る拓也。

「別れの挨拶は済んだかね?」

グランは、そう拓也に言う。

「・・・・・・」

拓也は無言でグランを睨みつける。

「では、処刑を始めようか。・・・そうだ、冥土の土産に教えてあげよう。僕はグラン・ド・アース。『岩石』のグランだ。さあ、地獄で後悔するといい!」

グランは杖を振る。

それと共にゴーレムが動き出す。

と、同時に拓也もポケットからデジヴァイスを取り出し、構えた。

拓也のデジヴァイスの画面に光が走り、スピリットの形を描く。

前に突き出した拓也の左手に、光の帯――デジコード――の輪が発生する。

そのデジコードの輪に、右手に持ったデジヴァイスの先をなぞる様に滑らせる。

「スピリット!エボリューション!!」

拓也がデジコードに包まれる。

その現象にざわめく周囲の生徒たち。

デジコードの中では、拓也がスピリットを纏っていく。

顔に。

腕に。

体に。

足に。

拓也の身体にスピリットが合わさる。

そして、

デジコードが消えたとき、

このハルゲギニアの地に、

異世界の伝説が、

降臨した。

「アグニモン!!」

デジコードの中から現れたのは、拓也とは全く違った姿をしていた。

赤き鎧に身を包みし、豪勇なるその姿。

いきなり姿の変わった拓也に、周りの生徒たちは唖然としていた。

驚きの余り、静まり返っている。

才人にいたっては、開いた口が塞がらない状態だった。

比喩ではなく現実に。

「タ、タクヤ・・・・?」

辛うじてそう声を出したのはアイナ。

周りがそんな状態にも関わらず、グランは吼える。

「それが、どうした!!」

グランは、ゴーレムで攻撃を仕掛ける。

岩のゴーレムが右手を振りかぶる。

だが拓也、いや、アグニモンは避けようともせず、その場に立ち続ける。

ゴーレムの右の拳が繰り出される。

それをアグニモンは左手で受け止めた。

多少足を踏ん張り、その影響で、地面に僅かにくぼみが出来る。

だが、それだけだった。

アグニモンは、片手でゴーレムのパンチを完全に受け止めた。

更にアグニモンは、ゴーレムの拳をそのまま掴み、右の拳を握り締める。

「はあっ!!」

――ドゴォ

ゴーレムの腹部に強烈なボディブローを叩き込む。

それでゴーレムの胴体は砕け散る。

残った下半身と上半身の一部はガラガラと崩れ去った。

「なっ!?」

グランは驚愕した表情を浮かべる。

アグニモンはそんなグランに視線を向けると、

「どうした、これで終わりじゃないんだろ?次は本気で来い!」

その言葉にグランは気を取り直すと、

「その言葉!後悔させてやる!!」

再び杖を振る。

すると、先程よりも大量の岩が集まっていく。

そして大きさが5メイルほどの岩のゴーレムとなった。

「見たか!これが僕の本気だ!ギーシュのワルキューレなんか足元にも及ばないぞ!!」

騒ぐグランを尻目に、アグニモンはゴーレムの力を分析する。

「量より質ってことか。確かに一撃の威力は重そうだな・・・・けど・・・」

(精々、成熟期クラスってところか)

アグニモンにとって、大きさなど大した問題ではなかった。

同じ土属性でも、こんな岩のゴーレムより、グロットモン、ギガスモンの方がよっぽど威圧感がある。

そんな事を思っている間に、ゴーレムが腕を振り上げ、アグニモンに狙いを定める。

腕を振り下ろしてくるが、アグニモンはその場を飛び退き、危なげなく避ける。

腕がたたきつけられた地面は小さなクレーターのようになっていた。

「ははは!如何だ!当たればぺちゃんこだぞ!!」

いい気になって笑い出すグラン。

だが、ゴーレムを見ていたアグニモンの評価は、ハッキリ言って遅い、だった。

折角巨大化させても、そのパワーを活かせるスピードが伴ってなかった。

どんなにパワーがあっても当たらなければ意味は無い。

こんなものだったら、先程のギーシュが操っていたワルキューレの方が、よっぽど手ごたえがありそうだ、などと考えていた。

再びゴーレムが腕を振り上げたため、飛び退くアグニモン。

だが、今度は腕が振り下ろされた瞬間、地面を蹴ってゴーレムの懐目掛け飛び込んだ。

更に、炎を纏い、回転を始める。

「サラマンダーブレイク!!」

その炎はアグニモンの体全てを包み、更に大きく燃え上がる。

それはさながら炎の竜巻だった。

「ト、トライアングル!?いいえ!スクウェアに匹敵する炎だわ!」

観客の一人だったキュルケは、自身の炎とは比較にならぬ炎に驚愕する。

その炎の竜巻が、ゴーレム目掛け突っ込んでいく。

誰もが、炎に包まれ崩れ去るゴーレムを想像した。

だがそれは間違いだった。

炎の竜巻の先がゴーレムの胴体に命中すると、その炎の竜巻はそのままゴーレムの胴体をぶち抜いたのだ。

その光景に再び誰もが言葉を失う。

胴体に大きな穴を開け、立ち尽くすゴーレム。

ゴーレムを貫いた炎の竜巻はやがて収束し、アグニモンの姿が見えた。

アグニモンは空中で体勢を立て直し、見事に着地を決める。

その瞬間、崩れ去るゴーレム。

「そ、そんな・・・・僕のゴーレムが・・・・」

目の前の現実を受け入れられないグラン。

そんなグランに向かって、ゆっくりと歩いていくアグニモン。

アグニモンが一歩近付くごとにグランは一歩下がる。

その繰り返しの末、グランの背中が塀の壁に当たり、それ以上下がれない。

「く、来るな・・・・」

それでもアグニモンは近付いてくる。

「来るなぁ!」

グランは杖を前に突き出して魔法を唱えようとする。

だが、

「ファイアダーツ!」

アグニモンの左手の甲から炎が発し、それを右手で手裏剣のように飛ばした。

その炎は、グランの杖に当たり、杖を焼き尽くす。

「ひっ・・・ひぃ!」

怯えるグラン。

「つ、杖がなくなったらメイジは魔法を使えないんだ。だ、だから、い、今の僕は無力なんだ。も、もう止めてくれ」

降参の意を示すグラン。

「お前の力の使い方は、力無い者を従わせるために使うんだったな」

グランの哀願をその一言で切って捨てる。

「そして3つ、お前は許せないことをした」

グランまであと10歩の距離。

「1つ。才人を不意打ちしたこと」

グランまであと5歩。

「2つ。潔く負けを認めたギーシュの心意気を踏みにじったこと」

グランの目の前で止まるアグニモン。

「そして、3つ目」

アグニモンは右腕を振りかぶった。

「お前は!アイナの想いを嘲笑った!!」

――ドゴォン

言葉と共に繰り出された拳。

それはグランの頬を掠め、後ろの壁を陥没させていた。

「ひっ・・・・・・」

グランは腰が抜けて、その場に座り込んだ。

「力を向けられる者の気持ち、少しは分かったか!?」

そう言うと踵を返し、アイナの所へ歩いて行く。

周りの生徒たちは先程の才人の時以上に騒ぎ立てていた。

アイナもアグニモンに駆け寄り、

「えっと・・・・タクヤ・・・・だよね?」

アイナは確認するように尋ねる。

「ああ。今は進化して、炎の闘士、アグニモンだけどな」

「アグニ・・・モン?」

「後で、説明するさ」

その時、才人が腹を押さえながら、駆け寄ってくる。

「た、拓也!な、何だよその姿は!?」

才人は無理しながらそんな事を聞いてきた。

「後で説明する。とりあえず才人は無理するな。アバラ折れてたら、どうするんだ?」

「く、口調も変わってるな・・・・」

拓也の変わりように驚いている才人だが、アグニモンの指摘でとりあえず大人しくなる。

「ん?」

アグニモンは何かに気付いたように、虚空の一点を見つめた。

「どうしたの?」

気になったアイナが尋ねる。

「いや、気のせいかもしれないが、視線を感じたからな」

「そっか。誰かが遠見の魔法を使ってたのかもしれない」

「遠見の魔法?」

「うん。風系の魔法で、遠くの様子を見たり、映し出したりすることが出来る魔法」

「なるほど」

アグニモンは、虚空の一点から視線を外す。

すると、アグニモンは再びデジコードに包まれる。

そして、デジコードが消えると拓也の姿に戻っていた。

「さてと、とりあえずは才人さんの怪我の手当てをしないとな」

周りの騒動など気にも留めず、拓也はそんな事を言った。






再び学園長室。

「ううむ・・・凄まじい強さじゃ」

「はい。オールド・オスマン。彼の強さは、少なく見積もってもスクウェアクラスの力を持っています。しかも、あの炎は魔法ではないようです」

「うむ、それは分かっておる。魔力を感じなかったからの。最後はこちらにも気付いておった」

「はい、ディティクト・マジックを使った様子もありませんでした。彼の言葉からすると、気配だけでこちらを感じ取った模様です」

「彼を召喚したのは誰じゃね?」

「はい。ミス・シンフォニアです。12歳という若輩ながら、ラインメイジという中々優秀な生徒です」

「ふうむ・・・」

オスマンは何か考える仕草をする。

「どうかされましたか?オールドオスマン」

「あのレベルは、ラインメイジに召喚できるレベルでは無いと思うのじゃが・・・・・」

「し、しかし、ミス・ヴァリエールが『ガンダールヴ』を召喚したことを考えれば、おかしくは・・・・」

「いや、ミス・ヴァリエールについては仮説じゃが、理由は思い当たる」

「なんですと!?それは一体!?」

「これは、私の当てずっぽうじゃが、ミス・ヴァリエールは『虚無』の系統かもしれん」

「な!?なんですと!?」

驚愕するコルベール。

「じゃから、まだ仮説じゃ。根拠がないわい」

「ですが、それが正しかったとすれば、『ガンダールヴ』を召喚できたことに納得できます」

「うむ、言い伝えでは、『虚無』は王家の血筋に現れるという。ヴァリエール公爵家にも、王家の血が流れておったはずじゃ」

「なるほど、可能性は無いわけでは無いと・・・」

「そうじゃ。そして、ヴァリエール家とは違い、シンフォニア家にはそういった特殊な事情は無かったはずじゃ。ならば、使い魔を召喚するのはそのメイジの実力そのものなのじゃが・・・・」

「ラインでは、あのレベルの使い魔を召喚するのは難しい、と?」

「難しい所か、不可能と言っても過言ではないわい」

「・・・・・・」

オスマンの言葉に唖然とするコルベール。

「よいか、この事についても他言無用じゃ」

「承知いたしました」

オスマンは窓際へ歩いていき、

「このことが、何かの前触れでなければよいのじゃがな・・・・」

そう呟き、空を見上げた。




オリキャラ説明


グラン・ド・アース

土のラインメイジ。

んで、ぶっちゃけかませ犬。

出番は恐らくもう無いです。

このキャラを作ったのは、アグニモンの相手をさせるためです。

土属性なのは、ゴーレムを作ってもらうため。

デジモンと言ったらやっぱり必殺技です。

ですが、人間相手だと、必殺技=死、ですので、どうしてもゴーレムの相手が必要になります。

よって、このキャラを作りました。

性格はとことんムカつく性格に、んで、あっさり負けるベタなかませ犬。

名前も安直。

土だからまんまですね。







あとがき


第四話完成しました。

前回よりも、長くなりましたね。

さて、初のバトルシーン如何だったでしょうか?

才人の方は原作を元にしましたが、アグニモンは如何ですかね。

因みにアグニモンのサラマンダーブレイクは、映画バージョンの方です。

何故かは、2つの理由があり、1つはこっちの方が強そうだから。

もう1つは、1話か2話ぐらい後で分かります。

では、次も頑張ります。


10月20日 進化シーンに少し追記



[4371] 第五話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/10/26 04:02
常人とは思えぬ剣技でギーシュを倒した才人とアグニモンに進化して、貴族を圧倒した拓也。

さて、この先どうなるのか。


第五話  決闘の後の一週間と休日の買い物


決闘騒ぎのあった夜、拓也とアイナはルイズの部屋にいた。

進化の事を説明するためだ。

因みに才人の怪我は、やはりアバラが折れていたが、今は魔法の治療薬と治癒の魔法で動く分には問題ない。

あと、2、3日もすれば完治するとのことだ。

「で、拓也、昼間の変身は、一体何なんだ?」

そう切り出したのは才人。

「一応、変身じゃなくて、進化です」

「進化ぁ~?」

「はい。簡単に言えば、ハルゲギニアに召喚される前に、俺はデジタルモンスター、略してデジモンがいる、デジタルワールドっていう異世界にいたんですよ。そこで、伝説の十闘士のスピリットを受け継いで、そのスピリットの力でデジモンに進化できるんです」

「ちょっと待て、異世界に居たって・・・・俺は召喚される前日にお前に会ってるぞ」

「あ、はい。どうやらデジタルワールドの時間は、人間界とは関係ないみたいです。俺、一度人間界に戻ったことがあるんですけど、その時は、時間が経ってないどころか、逆に戻ってましたから」

「・・・なるほど」

才人は拓也の説明に納得する。

「その、でじもんって言うのは何よ?」

ルイズが問う。

「デジタルワールドに住んでる生物で、こっちの世界にいる幻獣みたいなものだ。今朝のサラマンダーを見ても、才人さんのように驚かなかったのは、デジタルワールドで、ああいうのには耐性がついてたからだな」

「ホントのなの、それ?って言いたい所だけど、証拠があるもんね」

ルイズは、半信半疑の信用側らしい。

「それで、伝説の十闘士のスピリットっていうのは?」

そう言ったのはアイナ。

「デジタルワールドの伝説で、その昔、人型のデジモンと獣型のデジモンが争いあっていたんだ。その争いをルーチェモンっていうデジモンが止めて、デジタルワールドを統治してたんだけど、ルーチェモンは次第に傲慢になっていって、デジモンたちを苦しめるようになっていったんだ。けど、そのルーチェモンを伝説の十闘士と呼ばれる10体のデジモンが倒し、封印したんだ。その十闘士はルーチェモンを封印したあと何処かに行ったらしいけど、それぞれが自分の力を宿したスピリットを残したんだ。俺が持っているのは、その十闘士のスピリットの一つ、『炎』のスピリットで、それを纏うことで炎の闘士に進化できるんだ」

「へ~。十闘士って事はスピリットも10個あるんだよね。他には何があるの?」

アイナは興味津々で聞く。

「え~と、俺の『炎』のほかに、『光』、『風』、『氷』、『雷』、『闇』、『土』、『木』、『水』、『鋼』だな」

「そんなに系統があるんだ」

アイナはちょっと驚いた表情で言った。

「なあ拓也。何で、拓也はデジタルワールドにいたんだ?」

才人が尋ねる。

「さっきの話の続きになりますけど、十闘士がルーチェモンを封印した後、デジタルワールドを治めていたのは三大天使デジモンと呼ばれる、3体の天使型デジモンだったんだ。その3体、セラフィモン、オファニモン、ケルビモンは長い間デジタルワールドを平和に治めていたんだけど、ある時、ケルビモンがデジタルワールドを侵略し始めたんだ」

「えっ!?」

「後で分かったことだけど、ケルビモンはルーチェモンに利用されてたんだ。セラフィモンはケルビモンの攻撃で重傷を負い、眠りについてしまった。オファニモンはセラフィモンを守るためにケルビモンの手に落ちた。けど、オファニモンは自分の力を使って、人間界に救援を求めた。それは、メールとして人間界に届いたんだけど、それは子供達にしか届かなかった。俺もそのメールを受け取って、指示通りに行ったら渋谷駅の地下にトレイルモンのホームがあったんだ。それで、トレイルモンに乗って、デジタルワールドに行ったんです」

「ほお~。そんなことがあったのか」

「詳しい話は省きますけど、4人の仲間と案内役の2匹のデジモンと一緒にデジタルワールドを冒険して、色々ぶつかり合ったりもしましたけど、それでも前に進んで、途中で1人仲間が増えて。それでも戦いに負けたこともあります。でも俺達は諦めずに進み続けて、ケルビモンを倒し、ロイヤルナイツを退け、ルーチェモンも・・・・」

そこまで話すと、拓也の雰囲気が暗くなる。

「どうしたの?」

心配になったアイナが声をかける。

「仲間が一人犠牲になって・・・・ルーチェモンを倒したんだ」

そう拓也が絞り出すような声で言った。

「犠牲になったって・・・・まさか!?」

才人が驚愕して、拓也の顔を見る。

拓也は頷き、

「才人さんの、考えている通りです・・・・」

そう呟く。

才人は殴られたような衝撃を受けた。

自分より年下の拓也が、仲間の死という過酷な出来事を経験したという事が、とてもショックだった。

「た、拓也・・・・・」

才人はかける言葉が見つからない。

「大丈夫です。仇は討ちましたし、あいつだって、仲間がくよくよしてる事なんて望んでません」

拓也は、無理に笑顔を作る。

「そういえば、俺も才人さんに聞きたいことがあったんですよ」

話題を変えるように、拓也は言った。

「何だ?」

才人も拓也の気持ちを考えてそれに乗る。

「才人さん、俺の記憶だと武道も何もやってなかったはずなんですけど、何で、あんな自由自在に剣が振れたんですか?動きも常人とは思えなかったですし」

「何でって言われてもな・・・・剣を握ったら、腹の痛みが消えて、身体が軽くなって、剣の扱い方も頭の中に浮かんできたとしか言いようがないんだけど・・・」

「才人さんのルーンの効果かもしれませんね」

「そうかもな。剣を握ったらルーンが光ってたし・・・」

「才人さんにとっては、助かったんじゃないですか?剣を握れば強くなるんですから。こっちの世界は色々物騒なことがありそうですし」

「そうだな」

2人の会話を聞いていた、アイナとルイズも流石にこれ以上デジタルワールドの事を聞くのは忍びなく、ここで御開きとなった。




翌日。

朝、拓也たちが朝食のために食堂へ行くと、シエスタが厨房に来てくださいと言う。

それで、拓也、才人、アイナは厨房へ向かう。

何故アイナがいるのかというと、実はアイナ、料理が趣味というこれまた貴族らしくない趣味を持っていたのだ。

そのため、料理を教えてもらうために厨房にかよっているため、厨房の人達とは仲が良く、気軽に厨房に出入り出来る。

今回は気になったので付いて来たのだ。

シエスタに連れられて厨房に入る。

「マルトーさん、連れてきました」

シエスタがそう言うと、太った中年の男性が出てきた。

「おお!お前たちか『我らの剣』と『我らの炎』は!」

その言葉に、

「『我らの剣』?」

才人が、

「『我らの炎』?」

拓也が首を傾げる。

「あの、マルトーさん。どういう事ですか、それ?」

アイナが尋ねる。

「おお、アイナの嬢ちゃんもいたのか。当然よ、剣で貴族に勝った男と、貴族の意見に真っ向から反論し、平民を何とも思っていない貴族を炎を操り圧倒した男。俺たち平民からすれば、英雄だぞ!」

マルトーは、興奮しっぱなしである。

「いや、英雄って・・・・俺はそんな柄じゃ・・・」

「お、俺も・・・・」

才人と拓也は英雄と言われ、こっぱずかしいようだ。

「聞いたかお前ら!」

それを聞いたマルトーは、厨房の全員に聞こえるように大きな声で言う。

「真の英雄とはこういうものだ。己の成した偉業を誇ったりはしない!見習えよ!お前ら!英雄は誇らない!」

『英雄は誇らない!』

気持ちが高ぶっているコックたちは、2人の反応をただの謙遜とし思っていない。

「な、なんか話が大きくなってるんだけど・・・」

拓也が呟く。

「おお。そうだった『我らが剣』に『我らが炎』よ。名前を聞いてなかったな」

マルトーが思い出したように言った。

「平賀 才人」

「神原 拓也です」

2人の名前を聞くと、

「ほお~。変わった名前だな」

やはり、というか当然の反応をする。

「それで、サイトさんは、ミス・ヴァリエールの使い魔で、タクヤ君は、アイナちゃんの使い魔なんです」

シエスタが付け足す。

それを聞くとマルトーは、拓也に顔を寄せる。

「ほ~。『我らが炎』よ、アイナの嬢ちゃんの使い魔なのか」

「は、はい」

すると、マルトーは笑い出す。

「はっはっはっ!!アイナの嬢ちゃん、ますます気に入っちまったぜ!『我らが炎』よ。アイナの嬢ちゃんを、しっかり守ってくれよ!」

「は、はい・・・・あの、マルトーさん・・・でしたよね?」

「おう。なんでい?」

「なんで、アイナとそんなに親しそうなんですか?一応、アイナは貴族ですし、接点が見当たらないんですけど・・・・・」

「聞いてねえのか?アイナの嬢ちゃんはな、料理を習いにくるんだよ」

「え!?」

拓也は驚いたようにアイナの顔を見た。

「え、えっと・・・変・・・・かな?」

「あ、いや、意外だっただけだ。貴族って、料理とかそういう事は全部使用人に任せるって思ってたからさ」

「う、うん・・・」

「何で?」

「あ、あの、笑わないでね」

アイナは顔を少し赤くすると、

「その、前に読んだ物語の本でね、女の人が男の人に自分で作った手作り料理を食べてもらって、喜んでもらってたっていう場面が、ちょっといいなあって思って・・・・・それで、最初は使用人の真似事で料理に挑戦してみたんだけど、全然だめで。それがなんか悔しかったから、その後も続けていく内に、料理をすることが楽しくなっちゃって・・・・この学院に入学したとき、マルトーさんの料理がとても美味しかったから、教えてもらえるようにお願いしたの」

「おお!あん時はビックリしたぜ。なんたって、公爵家のお嬢さんが、俺に「料理を教えてください」なんて頭を下げてくるもんだから。これは夢かと思って頭をフライパンでぶっ叩いたりしたな。まあ、最初は気まぐれだったんだが、楽しそうに料理してる嬢ちゃんの姿を見てな。俺も本気になって教えねえとな、って気になって。その甲斐あってか、嬢ちゃんの料理の腕前はここのコックにも引けはとらないぜ」

「そうしてる内に、厨房の人達とは仲良くなって、厨房にも気軽に出入りできるようになったの」

そう言うアイナの顔は笑っている。

「物語の本でね・・・・確かに、俺みたいな料理のセンスが皆無な男には、料理が出来る女の子は必要だよなあ」

拓也は、バーガモンの村で作った自作のハンバーガーの味を思い出した。

(アレはやばかった。本気で気分が悪くなったからな・・・・・輝二も同程度だったけど・・・)

拓也はそんな事を思っていたが、拓也の口に出した何気ない一言に、

「マルトーさん!!」

アイナがマルトーに詰め寄る。

「お、おう。なんだい嬢ちゃん?」

「これからもご指導よろしくお願いします!!」

「お?おお!?」

いつもと雰囲気の違うアイナにたじろぐマルトー。

マルトーはふと考え、拓也を見た。

マルトーは何かに気付いたように笑いを洩らした。

「くっくっく・・・・そう言う事か、嬢ちゃん。よおし!任せときな!一流の料理人にしてやるぞ!」

「はい!お願いします!!」

いきなり気合を入れるアイナに首を傾げる拓也。

「どうしたんだ?一体?」

「さあ?」

才人も分からないらしい。

そんな2人と、マルトー、アイナ以外は思いっきりため息をついた。




そんなこんなで、一週間が過ぎる。

この一週間は、結構色々なことがあった。

先ず、アイナだ。

アイナは時間が空けば厨房へ行って料理を習っている。

シエスタが言うには、前とは気合の入り方が全く違うとのことだ。

で、拓也が味見役に選ばれているのだが、「マルトーさんには及ばないけど、十分美味しい」の台詞に喜び、更にやる気を見せているとのこと。

才人はルイズをからかって罰を受ける、の繰り返しだった。

大概は才人が悪いので、拓也も口が出せない。

その才人だが、キュルケに誘惑されたらしい。

だが、窓から男が何人も入ってくるものだから、冷めたところにルイズが乱入、才人を連れ出し事なきを得た。

その時と同時刻、アイナの部屋。

「明日、買い物に行くから」

と、アイナが切り出した。

「買い物?」

「うん。明日は虚無の曜日・・・・つまり休日だから」

「ふ~ん。何を買いに行くんだ?」

「何って・・・タクヤの日用品」

「え?」

「だって、何時までも毛布だけで床に寝させとくわけにもいかないし。その他にも必要な物があれば買ってあげる」

「い、いや、そんなに迷惑かけるわけには・・・・」

「いいの!私は一応貴族なんだよ。そのぐらいの出費は大したことないから」

拓也は考える。

「ん~。まあ、確かに布団位は欲しいけどさ・・・」

「うん。じゃあ、決まりだね」

「・・・そういや、こっちの移動手段って何なんだ?」

「え?馬だけど・・・」

「・・・・因みに買い物に行く場所は何処で、どの位の距離があるんだ?」

「トリステインの城下町。距離は馬で約3時間」

「・・・・・・俺、馬なんかに乗ったこと無いぞ。流石に3時間は無理だと思う」

「あ・・・・」

アイナはうっかりしていた。

荷物を運ぶためにも馬は最低2頭いる。

だが、拓也は馬に乗れず、アイナの馬に一緒に乗ると、荷物が運べない。

「どうしよう・・・・」

アイナは悩んでいたが、

「あ!そうだ!」

何かを閃いたらしく、拓也に待ってるように言って、部屋を出る。

10分ぐらいすると、アイナは戻ってきた。

「うん、大丈夫。別の移動手段が見つかったから」

「そうなのか?一体なんだ?」

「フフフ・・・それは明日のお楽しみ」

と言って、教えてくれなかった。

とりあえず、明日のために今日は就寝した。



翌日。

拓也とアイナは、朝食を済ませた後、とある人物の部屋の前にいた。

「タバサ、入るね」

と言って、アイナは部屋の中に入り、拓也も続く。

その部屋には、青い髪に眼鏡をかけたアイナと同じぐらいの背丈の少女がいた。

「おはようタバサ、今日はよろしくね」

アイナが、その少女に話しかける。

その少女は、コクリと頷く。

「誰?」

拓也が、アイナに尋ねる。

「うん、私の友達で同じクラスのタバサ。ちょっと無口で、無愛想だけど、根はいい人だよ。因みに歳は15」

「ふ~ん。俺はアイナの使い魔で、神原 拓也。よろしくな」

そう言って、タバサに話しかける。

「知ってる。前の決闘を見てた。私はタバサ・・・よろしく」

タバサはそれだけ言うと、窓に近付く。

その時、ドアが勢いよく開き、キュルケが入ってくる。

「タバサ。今から出かけるわよ!早く支度して頂戴!」

入ってくるなり、そんな事を言った。

「先約がある」

「わかってる。貴女にとって虚無の曜日がどんな日だか・・・・って、ええっ!?」

タバサの言葉を聞かずにまくし立てようとしたところで、タバサの言った言葉の意味を理解して驚くキュルケ。

「ゴ、ゴメン、キュルケ」

横からアイナが謝った。

「アイナ!?何で!?如何して!?」

キュルケがアイナに迫る。

「え、えっと。タクヤの日用品を買いに行こうと思ったんだけど、タクヤ、馬に乗ったことが無いらしくて。それで、自分たちと荷物を運べる移動手段を持ったタバサにお願いしたの」

アイナが理由を述べる。

「キュルケは如何したの?」

アイナがキュルケに聞き返す。

「アタシね!恋したの!でね?その人が今日、あのにっくいヴァリエールと出かけたの!あたしはそれを追って、2人が何処に行くかつきとめなくちゃいけないの!けど、馬に乗っていったから、タバサの使い魔じゃないと追いつかないのよ!」

キュルケが凄い勢いでまくし立てた。

「あ、あははは・・・・・」

アイナは苦笑するしかなかった。

その時、タバサが口を開いた。

「城下町に行く。場所が近かったら追っても良い」

「ホント!?ありがとうタバサ!」

キュルケはタバサに抱きつく。

タバサは窓を開け、口笛を吹いた。

それから、窓枠によじ登り、外に向かって飛び降りた。

因みにこの部屋は5階にある。

「お、おい!」

その行動に驚いた拓也は、声をかけるが、

「じゃ、お先に~」

キュルケが全く動じずにタバサに続き、窓から飛び降りた。

「ええっ!?ちょ・・・」

「いいからいいから」

アイナも窓から外に身を躍らせる。

拓也は思わず窓に駆け寄り、外を見た。

その瞬間、理解した。

「なるほど」

理解した拓也は、遅れて窓から飛び降りた。

落下する拓也をその理由が受け止めた。

力強く両の翼をはためかせ、4人を乗せて風竜が飛び上がった。

「アイナ。黙ってたのはこういう事か?」

「えへへ。拓也には驚かされてばかりだかね。偶には驚かしてみたかったの」

「まったく・・・・」

風竜の背でほのぼのとした会話をする2人。

拓也は、ふと思いついたように風竜の首の近くに移動する。

「よう。俺は神原 拓也。お前は?」

と言って、風竜に話しかける。

拓也のルーンが光りだした。

「きゅいきゅい。きゅい(私は、シルフィードなのね。よろしくなのね)」

「ああ、よろしくシルフィード」

そんな拓也を見て、本を読んでいたタバサは怪訝な顔をする。

そんなタバサの様子に気付いたのか、キュルケが説明する。

「ああ。あの子、使い魔のルーンの能力で動物の言葉が分かるみたいなのよ」

「そう・・・・」

と、呟いて、タバサは視線を本に戻す。

「きゅいきゅいきゅい」

シルフィードが鳴き声をあげる。

「何だって?」

キュルケがタバサに聞く。

「本が読みたい。通訳まかせた・・・」

無表情で本から視線を動かさぬまま、タバサは拓也にそう告げた。

キュルケの顔が拓也のほうに向く。

「え~と、馬2頭が城下町方面に向かってる。だって」

拓也がそう言うと、キュルケは顔を輝かせ、

「きっと、ダーリン達だわ!向かう方向が一緒だなんて!これも運命ね!」

そんな事を言った。

拓也は気になることをキュルケに尋ねる。

「キュルケの言ってるルイズと一緒に出かけた恋した人って、もしかして、才人さんですか?」

「そうよ!あのギーシュのワルキューレを切り裂く姿。貴族を恐れぬあの姿勢。私の情熱は、一気に燃え上がったのよ!」

「は・・・ははは・・・・」

そう言うキュルケの姿に、拓也は苦笑するしかなかった。



一時間後、シルフィードは城下町に到着する。

キュルケとタバサは、才人とルイズを待つようで、拓也とアイナの2人とは別行動になるようだ。

「じゃあタバサ、帰りもお願いね」

アイナの言葉にタバサは頷く。

拓也とアイナは、並んで町の中に歩いていった。

それを見ていたキュルケが、

「ねえ、あの2人、結構お似合いじゃない?」

そうタバサに話しかけるが、

「興味ない」

の一言で終わった。



拓也とアイナの2人は城下町を歩いていた。

石造りの町で、人々にも活気があったが、拓也からしてみれば、道は狭かった。

「道が狭いな・・・・」

ポツリと拓也が呟く。

道幅は5メートル位だ。

「そうなの?これでも大通りなんだけど・・・」

「これで?」

「タクヤの世界の大通りはどの位なの?」

「人だけが歩くわけじゃないけど、大体15メートルから・・・・って、こっちの単位で言えば、この通りってどのぐらいなの?」

「えっと・・・・大体5メイルぐらいかな」

拓也はメートルとメイルは同じぐらいだと判断した。

「そうなると、大体15~20メイルぐらいじゃなかったかな。目測だから正確かどうかわからないんだけど」

「そんなに!?」

「ああ。っていうか、街の規模からして全然違うからね」

「やっぱり、タクヤの世界って不思議だね」

「俺からしてみれば、こっちの世界のほうが不思議だらけなんだけどな」

そんな事を話しながら、街を歩いた。

そんな時、ふと拓也が言葉を口に出した。

「女の子と2人で買い物か・・・・なんかデートみたいだな」

何気なく呟いたその言葉に、アイナがピクっと反応し、徐々に顔が赤くなっていく。

歳の近い男女が並んで歩いて買い物などしていれば、周りから見れば、若いカップルと思われてもおかしくは無い。

そう考えると、アイナは顔が赤くなるのを止められなかった。

アイナはおずおずと拓也の手を掴む。

「ん?」

拓也はアイナを見た。

アイナは顔を俯かせていて、拓也からアイナの顔は見えない。

「手・・・・繋ごう。ひ、人通りが多いから逸れると、た、大変だから・・・・」

そう言うアイナの顔は真っ赤になっていた。

「それもそうだな」

拓也はその言葉を真に受けとめ、拓也からもアイナの手を握る。

それで、アイナは耳まで真っ赤になった。

その様子は、どこから如何見ても、若く初々しいカップルにしか見えなかったとか。





約2時間後。

拓也達は一通り買い物を済ませた。

荷物はシルフィードのいるところまで届けてもらえる手筈になっている。

そろそろ戻ろうかというとき、

「あれ?拓也達じゃないか」

声をかけられた。

拓也達がそっちをみると、才人とルイズがいた。

「あ、才人さん」

拓也が答える。

その時には、アイナは繋いでいた手をパッと放していた。

流石に知り合いに見られるのは恥ずかしいらしい。

拓也は少し不思議に思いながらも、才人に話しかけた。

「才人さん達は何で街に?」

「ルイズが剣買ってくれることになったからさ」

「へ~」

「拓也達は?」

「俺達は日用品の買出しですよ」

「太っ腹だなあ、お前のご主人様は。俺のご主人様とは大違い」

「ま、まあ剣買ってもらえるだけでも、ラッキーと思わないと・・・・」

「そうなんだけどよ・・・・」

「あれ?そういえば、キュルケ達は一緒じゃないんですか?」

その言葉に、ルイズがピクリと反応する。

「何で、そこでキュルケが出てくるのよ?」

ルイズの顔は明らかに不機嫌顔である。

「え?だって、キュルケ達は才人さんを待ち伏「ダーリン!偶然ねえ!」っと・・・」

拓也がキュルケたちが才人を待ち伏せていたことを伝えようとすると、何処からか、キュルケが才人に抱きついた。

「おわっ!?キュルケ!?」

「キュルケ!いきなり出てきて、なに人の使い魔に抱きついてるのよ!」

ルイズはいきなりけんか腰だ。

「あ~ら、街中で声張り上げちゃって。貴族とあろうものが恥さらしな」

キュルケも迎え撃つ気満々である。

このまま行くと、街中で魔法ぶっ放しかねないので、アイナが仲裁に入る。

「あの、2人とも。このままじゃ、街の人の迷惑になるから、先に行こ。ルイズ、行き先は武器屋でいいんだよね?」

「え?ええ、そうよ」

アイナが間に入ったことで、何とか収まる。

そのまま、流れ的に全員で武器屋に行くことになった。

因みにタバサもいる。



武器屋に入ると、店主が話しかけてくる。

「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をちけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」

「客よ」

ルイズは腕を組んで言った。

「こりゃおったまげた。貴族が剣を!おったまげた!」

「どうして?」

「いえ、若奥様方。坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーからお手をおふりになる。と相場はきまっておりますんで」

「使うのは私じゃないわ。使い魔よ」

「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣をふるようで」

主人は、商売っ気たっぷりにお愛想を言った。

それから、全員に目配せをして、視線を才人に戻し、じろじろと眺めた。

「剣をお使いになるのは、この方で?」

主人は、剣を使う人物を言い当てた。

それもそうだろう。

ここにいるのは、拓也、才人、アイナ、ルイズ、キュルケ、タバサの6人。

その中の女性陣は全員貴族のマントを羽織っているので除外。

残るは、拓也と才人。

だが、拓也は普通の人から見れば、11歳の子供なので、残るのは才人しかいないのである。

ルイズは頷いた。

「私は、剣のことなんかわからないから。適当に選んで頂戴」

主人はいそいそと奥の倉庫に消えた。

彼は聞こえないように呟いた。

「・・・・こりゃ、鴨がネギしょってやってきたわい。せいぜい、高く売りつけるとしよう」

店主は1メイルほどの長さの、細身の剣を持って現れた。

そして、主人は思い出すように言った。

「そういや、昨今は宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たすのがはやっておりましてね。その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」

「貴族の間で、下僕に剣を持たすのがはやってる?」

ルイズが尋ね、主人はもっともらしく頷いた。

「へえ、なんでも、最近このトリステインの城下町を、盗賊が荒らしておりまして・・・・」

「盗賊?」

「そうでさ。なんでも、『土くれ』のフーケとかいう、メイジの盗賊が、貴族のお宝を散々盗みまくってるって噂で。貴族の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせる始末で。へえ」

ルイズは盗賊には興味がなかったので、じろじろと剣を眺めた。

しかし、すぐに折れてしまいそうなほどに細い。

この前の才人はもっと大きな剣を軽々と振っていた。

「もっと大きくて太いのがいいわ」

「お言葉ですが、剣と人には相性ってもんがございます。男と女のように。見たところ、若奥様の使い魔とやらには、この程度が無難なようで」

「ダーリンを見た目で判断してもらちゃ困るわね。ダーリンは、剣で青銅のゴーレムを軽々と切り裂く腕前を持っているわ」

店主の言葉に頭に来たのはキュルケだった。

そして、この前の才人の偉業を聞かせる。

店主は、ペコリと頭を下げると、また奥に消えた。

今度は立派な剣を油布で拭きながら、主人は現れた。

「これなんかいかがです?」

見た目は見事な剣だった。

1.5メイルはあろうかという大剣だった。

柄は両手で扱えるように長く、立派な拵えである。

ところどころに宝石が散りばめられ、鏡のように諸刃の剣が光っている。

見るからに切れそうな、頑丈そうな剣であった。

「店一番の業物でさ。貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げて欲しいものですな。と言っても、こいつを腰から下げるのはよほどの大男でないと無理でさあ。やっこさんなら、背中にしょわんといかんですな」

才人も近寄ってきて、その剣を見つめた。

「すげえ。この剣すげえ」

才人も一瞬で欲しくなってしまった。

「すばらしい剣だわ」

キュルケもそう言う。

ルイズも満足しているみたいだ。

その時、拓也は興味本位で、店の中を見て回っていた。

一緒にいたアイナが、

「綺麗な剣だね」

カウンターの所で才人が持った剣を見て呟いた。

拓也も、その剣を見るが、

「・・・・そんなに良い剣か?あれ」

皆とは違った反応を示す。

「え?」

意外な反応にアイナは驚き、

「ちょっと、何言ってるの?こんなに素晴らしい剣を」

拓也の言ったことが聞こえたのか、キュルケがそう言ってくる。

店主も誇るように話し出す。

「コイツを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿で。魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。ごらんなさい、ここにその名が刻まれているでしょう?」

店主は柄に刻まれた文字を指差した。

だが、拓也は、

「その剣を作ったのがどんな有名人かは知らないけどさ。少なくとも武器として、その剣はそんなに良い物とは思えないんだけど」

「どういうことだよ?」

気になった才人は拓也に尋ねる。

「俺の感覚の話ですけど、その剣、全然怖くないんすよ」

「怖くない?」

言われた意味がわからず、首をかしげる。

「武器としての威圧感とでもいうんですか?そう言うものがその剣から感じられないんです。こっちに並んでる武器には大小の違いはあるんですけど、威圧感を感じます」

「じゃあ何だ?この剣は武器じゃ無いっていう事なのか?」

拓也は軽く頷き、

「自分の感覚を信用するなら、って話ですけどね」

才人はその話を聞いて考える。

すると、

「おでれーた、おでれーた。小僧、おめ、見る目あるな」

いきなり男の低い声がした。

店主は頭を抱えた。

拓也達は声がした方に顔を向けるが、そこには乱雑に剣が積み上げられているだけだ。

「ここだ、ここ」

その声は剣の中から聞こえた。

拓也は一本の剣を取り出した。

「剣が喋ってるのか?」

「それって、インテリジェンスソード?」

そう言ったのはルイズ。

持ち上げてみるが、子供の拓也にとっては、ちょっと重い。

「やいデル公!商売の邪魔すんじゃねえ!」

店主が剣に向かって怒鳴る。

「けけけ・・・商売の邪魔って、この小僧はそのなまくらを見破ってたじゃねえか。・・・・ほ~う。小僧、おめ、何度も修羅場を潜って来たみてえだな。その歳でてーしたもんだ」

その剣はかなりの年季が入っており、所々に錆が浮いている。

だが、拓也は、

「才人さん、これなんかどうですか?少なくとも、そっちの剣よりは100倍良いと思います」

「けけけ。わかってるね小僧」

才人はその剣を受け取る。

「確かに喋る剣って言うのもいいよなあ」

「それに年季も入ってるみたいですから、才人さんの経験不足も幾分か補えるんじゃないんですかね」

2人がそんな事を話していると、

「おでれーた!おめ、『使い手』か!?」

才人に向かって、その剣は言った。

「『使い手』?」

「自分の実力もしらんのか。まあいい、てめ、俺を買ってけ」

「ああ、いいぜ。俺は平賀 才人だ」

「俺っちはデルフリンガー様だ。『使い手』ならデルフでいいぞ」

「よし、よろしくなデルフ」

才人はルイズの方を見て、

「ルイズ、これにする」

「え~~~?そんなのにするの?もっと綺麗で喋らないのにしなさいよ」

「いいじゃんかよ。喋る剣なんて面白い。それに拓也の言ってることだって最もだろ?俺は拓也と違って圧倒的に戦いに関する経験が足りないんだよ。少しでも死ぬ可能性が低くなるなら、それに越したことは無いさ」

ルイズはぶつくさ文句を言っていたが、下手ななまくらを買うよりも安全そうだったので、それを買うことした。

「あれ、おいくら?」

「あれなら100で結構でさ」

「安いじゃない」

「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ」

ルイズは金額を払う。

「まいど」

剣を取り、鞘に納めると才人に手渡した。

「どうしても煩いと思ったら、こうやって鞘に入れれば大人しくなりまさあ」

才人はデルフリンガーを受け取った。

「思ったより安く済んだわね」

ルイズが呟く。

「だったら、あと念のためにナイフぐらい買っておくと何かと便利かもね」

拓也が更に言った。

「そうなのかデルフ?」

才人はデルフを少し鞘から出して、喋れるようにする。

「おう。やっぱりそっちの小僧は戦いというものをよくわかってるな。ナイフを選ぶのもまた良い。隠し持てる暗器にもなるし、俺っちをふれないような狭い場所でも、ナイフなら問題ねえ。戦い以外にもナイフなら幾らでも使い道はある」

「だってさ」

才人はルイズに振る。

「・・・・あ~~~~~もう!わかったわよ!ナイフも買えばいいんでしょ!」

必要なものなら買ってやると言った以上、買ってやら無ければ嘘をつくことになる。

「あ~ら、ルイズ。財布が寂しいならこの私がダーリンに買ってあげてもよくってよ」

キュルケが高笑いするように言ってくる。

「サイト!好きなの買ってあげるから、早く選びなさい!」

キュルケには負けたくないらしい。

後先考えず、叫ぶルイズ。

才人は拓也とデルフに相談しながらナイフを選ぶ。

その結果、刃渡り15センチぐらいの、頑丈そうで値段も手ごろなナイフを買うことなった。



店から出ると、丁度昼時だったため、食事を済ます一同。

その後、街の出口に向かう。

その途中で、拓也はふと小さな広場に目がいった。

そこでは、拓也と同じぐらいの5人の子供が、ボールを蹴りあっていた。

「こっちにも、サッカーみたいなのがあるんだな」

拓也は立ち止まって呟く。

「平民の子供の遊びよ。一体何が楽しいのかしら?」

そういったのはルイズ。

「ああいう楽しみは、体を動かすことが好きな奴にしかわからねえよ」

才人がルイズに言う。

拓也は子供たちの様子をじっと見ている。

「そういえば、拓也ってサッカー部だったな」

「ええ、そうです」

「やっぱりああいうの見てると、一緒にやりたくなるのか?」

「ええ、まあ」

そんな時、ボールがこちらに転がってくる。

子供がこちらに駆けてくるが、貴族がいることが分かると、その足を止めてしまう。

こんな子供でも、貴族には恐怖を覚えていた。

そんな様子を見た拓也は、

「なあアイナ。ちょっと道草してっていいか?」

「え?えっと・・・タバサ?」

自分では判断できないアイナは、シルフィードの主であるタバサに聞く。

「暗くなる前ならいい」

そう言うタバサ。

「そっか、じゃ、ちょっと行ってくる」

拓也はそう言うと、転がっていたボールを足だけで浮かせ、リフティングをしてみせる。

拓也の思ったとおり、子供たちは興味を見せる。

「それじゃ、いくぜ!」

拓也は子供たちに向かって、ドリブルで突っ込んだ。



日が傾いてきた頃。

あの後、ドリブル5人抜きの偉業を成し遂げた拓也は、子供たちとすっかり馴染んでしまった。

子供たちと一緒になってボールを蹴りあい、無邪気に笑っていた。

そんな様子を見ていたキュルケが、

「タクヤって、結構大人びてる感じがしてたけど、こうやって見ると、歳相応の男の子よね~」

と感想を洩らしたり。

アイナが、拓也の無邪気な笑顔を見て、頬を赤らめていたり。

タバサは相変わらず本を読むことに集中していたり。

才人とルイズは馬なので先に帰っていたりした。

やがて、子供たちも帰る時間なのか、揃って帰っていった。

拓也がアイナたちの所に戻ってくる。

「悪いな。思ったよりも楽しくて、遅くなっちまった」

拓也がそう言うと、タバサが読んでいた本を閉じ、立ち上がる。

それに付いてシルフィードの所に戻っていった。



学院に付く頃には、日も落ち、すっかり暗くなっていた。

シルフィードから下を除くと、丁度才人たちも学院に着いたところだ。

とりあえず合流した、その時だった。

――バコォォォォン

いきなり爆音のような音が響く。

見れば、20メイルぐらいの巨大なゴーレムが本塔の壁を殴りつけていた。

「何だ!?あのゴーレムは!?」

「でかっ!?」

拓也と才人が叫ぶ。

「あそこって確か、宝物庫じゃ・・・・」

アイナが殴っていた場所に気付く。

「じゃあ、盗賊!?」

ルイズが叫んだ。

「あのゴーレムは恐らくトライアングルクラスのゴーレムよ。多分『土くれ』のフーケとか言う盗賊よ!」

キュルケがそう予想する。

「とりあえず、どうすればいいんだ?」

拓也は割と冷静に聞く。

「宝物庫を守るに決まってるでしょ!!」

ルイズが怒鳴った。

才人はデルフを抜き、拓也はデジヴァイスを構える。

「スピリット!エボリューション!!」

拓也がデジコードに包まれ、進化する。

「アグニモン!」

アグニモンとなった拓也とデルフを構えた才人が駆け出した。

「うおおおっ!」

先ず、才人がゴーレムの片足を細切れにした。

続いて、

「はああっ!」

アグニモンが、ゴーレムの胸部にとび蹴りを喰らわす。

バランスを崩したゴーレムは、ゆっくりと倒れ・・・・・なかった。

ゴーレムはすぐに足を再生させ、転倒を防ぐ。

「再生するのかよ!」

才人が愚痴を零す。

ゴーレムは本塔の壁から2人に狙いを変える。

ゴーレムが腕を振り上げ、拳を放ってくる。

「おわっ!?」

「くっ!」

2人は何とか避けるが、拳を受けた地面は大きく陥没していた。

「流石はトライアングルなだけはあるな。一週間前のアホ貴族より、大きさも、パワーも、スピードも桁違いだ」

アグニモンは冷静に分析する。

「敵を褒めてる場合かっ!?」

「相手の戦力分析は大事なことだぜ相棒」

慌てる才人に、デルフが忠告する。

「それに、あの位なら問題はない」

アグニモンは駆け出す。

ゴーレムは再び拳を繰り出してくる。

それをアグニモンは真上に跳んで避け、地面に叩き付けられた腕に乗り、そのまま上半身目掛け駆け出す。

「いくぞっ!」

アグニモンはゴーレムの二の腕辺りから胸部目掛け跳ぶ。

「サラマンダーブレイク!!」

アグニモンは必殺技を放つ。

炎の竜巻と化し、ゴーレムの胸部目掛け突っ込み、見事に貫通する。

だが、ここでアグニモンにとって予想外のことがあった。

アグニモンは、このゴーレムがトライアングルクラスと聞き、一週間前のゴーレムより、防御力があると踏んでいた。
 
だが、実際は土ゴーレムであり、強度より、再生力を重視したらしいこのゴーレムは、思ったほどの防御力は無かった。

よって、勢い余ったアグニモンは・・・・

――ドゴオォォォォォォン

ゴーレムでもビクともしなかった宝物庫の壁にものの見事な大穴を開けてしまった。

これには一同唖然とした。

それと同時に崩れていくゴーレム。

だが、茂みの影から様子を伺っていたローブを着た人物、『土くれ』のフーケはこれ幸いと手を考える。

「あの宝物庫の壁を一撃で破壊するなんて、なんて威力だい。けど、これはチャンスだね。何とか、あの赤い使い魔を穴から遠ざけないと・・・・」

そう言って、目に付いたのは、その使い魔の主である赤毛の少女。

フーケは薄く笑った。

「あの使い魔の性格なら大丈夫だね。逃走用のゴーレムの分の精神力は残しとかなきゃいけないから、ゴーレムじゃなく・・・・」

考えを纏めたフーケは、早速行動に移す。

呪文を唱え、杖をアイナの後ろの地面目掛け振った。

その地面がもこもこと盛り上がっていく。

それに気付いたアグニモンが叫んだ。

「逃げろ!アイナ!!」

「え?」

いきなり言われたことに戸惑うアイナ。

その間に、盛り上がった地面が巨大な腕となり、アイナを捕らえる。

「きゃあああああっ!?」

悲鳴を上げるアイナ。

「くっ、アイナ!!」

アグニモンは宝物庫の穴から飛び降り、アイナを助けに行く。

それを確認したフーケは、『フライ』の呪文で壁に開いた穴に向かって飛び、宝物庫の中に入り込んだ。

中には、様々な宝物があった。

だが、フーケの狙いはただ一つ、『破壊の杖』であった。

色々な杖が壁にかかった一画がある。

その中に、如何見ても魔法の杖に見えない品があった。

全長は1メイルぐらいで、見たことの無い金属で出来ていた。

その下に、『破壊の杖。持ち出し不可』と書かれたプレートがあった。

フーケはその『破壊の杖』を手に取る。

余りの軽さに驚くが、気を取り直し、杖を振る。

すると、壁に文字が刻まれた。

『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

フーケは穴の入り口まで行き、再び呪文を唱える。

すると、先程崩れたゴーレムの土が盛り上がり、再びゴーレムとなった。

ただし、先程よりも一回りほど小さかったが。

ゴーレムは、フーケを肩に乗せ歩き出した。

学院の城壁を跨いで乗り越え、草原を歩いていく。

そのゴーレムをシルフィードに乗ったタバサが追うが、ゴーレムは突然ぐしゃりと崩れ落ちた。

月明かりに照らされたこんもりと小山のように盛り上がった土山以外何も無く、フーケの姿もいつの間にか消えていた。






思いつきで、次回予告なんぞをデジアド風にやってみる↓


次回予告

盗まれた『破壊の杖』奪還のため、フーケを追うことになった拓也たち。

しかし、フーケのゴーレムにより、窮地に陥るアグニモン。

シルフィードもゴーレムに捕まり、手が出せない才人たち。

だが、アイナの勇気が道を切り開いたとき、もう一つの炎の闘士が目を覚ます!

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第六話 アイナの勇気。咆哮!ヴリトラモン!!

今、異世界の物語が進化する。




あとがき

第五話完成しました。

また前回より長くなってしまいました。

でも、余り出来が良くない気が・・・・・

正直、バトルシーンより日常シーンの方がネタが思いつかなくて悩みます。

長くなったのは切りが悪かっただけで・・・・

デジタルワールドの説明も、輝一の話を出して追求止め。

分かってるかも知れませんが、この拓也は輝一が生きてること知らないだけです。

実際は生きてます。

ただ、それを知る前に召喚されてしまったので・・・・

アイナの料理が趣味な設定は、ふと拓也の料理センスが皆無だったのを思い出して閃いたネタです。

強引かもしれませんが、そこは柔軟な思考でお願いします。

そして買い物編。

拓也は本当に武器の善し悪しが分かるのだろうか?っていう突っ込みは無しにしていただけるとありがたいです。

なんか、拓也がバトルマニアになりかけてる気が・・・・

サッカーネタは単なる時間つぶしです。

それ以外の意味はありません。

そして、でましたフーケのゴーレム。

サラマンダーブレイクが映画バージョンな理由その2が、アグニモンが宝物庫の壁を破壊するためでした。

なんとなくそっちのほうが面白いような気がしたので・・・

さて、いよいよフーケ戦にいきます。

次回予告も有ったほうが良いか、無くても構わないか教えていただけるとありがたいです。

では、次も頑張ります。




[4371] 第六話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/11/01 17:51
買い物から帰った直後、『土くれ』のフーケのゴーレムが宝物庫を襲撃しているのを見かけた拓也達。

ゴーレムを倒そうとするものの、逆に宝物庫に穴を開けてしまい、フーケに『破壊の杖』を盗まれてしまった。

さて、拓也達はどうするのか?


第六話 アイナの勇気。咆哮!ヴリトラモン!!


フーケの襲撃から、一夜明けたトリステイン魔法学院では大騒ぎになっていた。

秘宝である『破壊の杖』が盗まれたからだ。

「それで、犯行現場を目ていたのは誰だね?」

オスマンが切り出した。

「この4人です」

コルベールが自分の後ろに控えていた4人を指差した。

アイナにルイズにキュルケにタバサの4人である。

拓也と才人も傍にいたが、使い魔なので数には入っていない。

「ふむ・・・・君たちか」

オスマンは興味深そうに才人を、そして拓也を見つめた。

「詳しく説明したまえ」

ルイズが進み出て、説明を始める。

「あの、私達が城下町での買い物を終えて、この学院に帰ってきたときです。大きなゴーレムが宝物庫の壁を殴りつけていたんです。私達は何とかくい止めようとして、使い魔達がゴーレムを倒すことには成功しました。ですが、その隙にアイナが大きな土の腕に捕まってしまったんです。アイナを助けている内に、黒いローブを着たメイジが宝物庫に開いた穴から中に入って、何かを・・・・・、その『破壊の杖』だと思いますけど・・・・、盗み出した後、倒されたゴーレムの土を使って、一回り小さなゴーレムを作って、それに乗りました。ゴーレムは城壁を越えて歩き出して・・・・・その後を、ミス・タバサが風竜で追っていたんですけど、最後には崩れて土になってしまいました」

「それで?」

「後には、土しかありませんでした。肩に乗っていた黒いローブを着たメイジは、影も形も無くなっていました」

「ふむ・・・・」

オスマンは髭を撫でた。

因みにルイズの言ったことに嘘は無い。

宝物庫の穴を開けたのはアグニモンだが、先程の説明には、「ゴーレムが宝物庫の壁を殴りつけていた」と言っただけで、ゴーレムが穴を開けたとは言ってない。

そんな事を言えば、どんな責任を取らされるか、分かったものではないからである。

説明していたルイズは、内心冷や汗ものであった。

「後を追おうにも、手がかり無しというわけか・・・・・」

それから、オスマンは、気付いたようにコルベールに尋ねた。

「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」

「それがその・・・・・・朝から姿が見えませんで」

「この非常時に、何処に行ったのじゃ?」

「どこなんでしょう?」

そんな風に噂していると、ロングビルが現れた。

「ミス・ロングビル!何処に行っていたんですか!?大変ですぞ!事件ですぞ!」

コルベールが興奮してまくし立てる。

ロングビルは落ち着いた態度でオスマンに言った。

「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしておりましたの」

「調査?」

「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして、宝物庫はこの通り。すぐに壁にフーケのサインを見つけたので、これが国中を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査をいたしました」

「仕事が早いの。ミス・ロングビル」

そして、コルベールが慌てた調子で促した。

「で、結果は?」

「はい。フーケの居所が分かりました」

「な、なんですと!?」

コルベールは素っ頓狂な声を上げる。

「誰に聞いたんじゃね?ミス・ロングビル」

「はい。近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。おそらく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」

「黒ずくめのローブ?それはフーケです!間違いありません!」

ルイズが叫ぶ。

オスマンは目を鋭くして、ロングビルに尋ねた。

「そこは、近いのかね?」

「はい。徒歩で半日。馬で4時間といったところでしょうか」

「すぐに王室に報告しましょう!王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」

コルベールが叫んだ。

だが、オスマンは首を振ると怒鳴った。

「馬鹿者!!王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ!その上、身にかかる火の粉を己で振り払えぬようで、何が貴族じゃ!魔法学院の宝が盗まれた!これは、魔法学院の問題じゃ!当然我らで解決する!」

ロングビルは、まるでこの答えを待っていたかのように微笑む。

オスマンは咳払いすると、有志を募った。

「では、捜索隊を編成する。我と思うものは、杖を掲げよ」

だが、誰も杖を掲げようとはしない。

困ったように顔を見合すだけであった。

「おらんのか?おや?どうした!フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!?」

オスマンは更に言うが、誰も杖を掲げない。

しかし、一つの手が上がった。

「あの、俺、行きます」

手を上げてそう言ったのは拓也。

その行動に全員が驚く。

「拓也、なんでお前が?」

才人が尋ねる。

「一応、その宝が盗まれた原因を作ったのは俺ですから」

「如何いう事じゃ?」

拓也の答えに疑問を持ったのか、オスマンは拓也に尋ねる。

「ええ。宝物庫に穴開けたの、俺なんで」

その言葉に、ルイズ達は、「何でバラすのよ」といった表情になり、他の教師達は驚愕し、ここぞとばかりに拓也に責任全てを擦り付けるために、言葉を続ける。

「貴様、フーケの仲間か!」

「貴様の所為で我らが学院の宝が!」

などという言葉を拓也に浴びせる。

そこに、

「止めんかっ!!」

オスマンの怒号が響き、教師達は黙ってしまう。

「少なくとも、フーケの仲間という事はないじゃろ。そうだったとしたら、こんな所で名乗り出るなどという真似はしないはずじゃ。それで、君はミス・シンフォニアの使い魔の少年じゃったな。先程言ったことをもう少し詳しく教えてもらえんかの?」

オスマンに言われ、話を続ける。

「はい。俺はフーケのゴーレムを倒すために攻撃したんですが、俺が思ってたほど防御力は無くて、ゴーレムを貫いた勢い余って、宝物庫の壁に穴を開けてしまったんです。その後にアイナが捕まってしまったので、宝物庫の穴から離れてアイナを助けに行った隙にフーケが宝物庫に侵入したんです」

そう言うと、1人の教師が拓也に言った。

「貴様!何故その場で宝物庫を守らなかった!」

「ですから、アイナが捕まったからですって」

「だから、何故秘宝を守らなかったと聞いている!その場にはミス・シンフォニアの他に貴族が3人もいたのだろう。何故秘宝を優先して守らなかった!?」

拓也は、その言葉に少しカチンと来た。

「俺は秘宝がどんな物か知りませんがね、秘宝だろうが国宝だろうが、仲間の命の前には俺にとっちゃガラクタ同然だよ!」

「ひ、秘宝がガラクタだと・・・・・」

「これこれ、止めんか」

一触即発な雰囲気を、オスマンが宥める。

「ガラクタは言い過ぎじゃが、命と物、天秤にかければどちらが重いか言うに及ばんじゃろ。どうも貴族たちは命を軽視しすぎていかん」

「しかし、オールド・オスマン・・・・・・」

「それに彼は、ミス・シンフォニアの使い魔じゃ。使い魔が主を優先して助けるのは当然じゃろ」

「・・・・・・・」

その教師は何も言えなくなってしまった。

拓也は別にアイナが主だったから助けたわけではないのだが、それを言うとまた面倒なことになると思ったので黙った。

「それで、君は何故名乗り出たんじゃ?」

オスマンは話を戻し、拓也にそう問いかけた。

「まあ、普通に解決するなら黙ってようかな~、とは思ったんですけど、誰も解決しようとしないんじゃ、自分で責任とって解決するしかないでしょ?」

拓也は周りの教師に向けた嫌味も含めてそう告げた。

「ふ~む・・・・」

オスマンは髭を撫でながら考える。

その時、

「ったくしゃ~ね~な。俺も行くぜ」

才人が頭を掻きながら、そう言った。

「才人さん?何で?」

「弟分が行くんだ。兄貴が行かなくてどうするんだよ?」

才人はニヤリと笑ってみせる。

「ありがとうございます」

拓也は礼を述べる。

その時、俯いていたルイズがすっと杖を掲げた。

「ミス・ヴァリエール!?」

シュヴルーズが驚いた声を上げた。

「何をしているのです!?あなたは生徒ではありませんか!ここは教師にまかせて・・・・・・」

「誰も掲げないから、使い魔達が行くと言っているのではありませんか。そして、私は貴族でメイジです。使い魔だけを行かせるわけにはいきません!」

そのルイズを見て、才人はポカンとした。

ルイズが杖を掲げているのを見て、キュルケはしぶしぶ杖を上げた。

「ツェルプストー!?君は生徒じゃないか!」

コルベールが驚いた声を上げる。

「ふん。ヴァリエールには負けられませんわ」

キュルケはつまらなそうに言う。

キュルケが杖を掲げるのを見て、タバサも掲げた。

「タバサ。あんたはいいのよ。関係ないんだから」

キュルケがそういったら、タバサは短く答えた。

「心配」

キュルケは感動した面持ちでタバサを見つめ、ルイズも唇をかみ締めてお礼を言った。

「ありがとう・・・・タバサ・・・・」

そして、杖の先が震えながらも、もう一つの杖が掲げられた。

「アイナ!?」

これには、拓也も驚いた。

「お、お前、無理すんなよ。唯でさえ昨日怖い目にあってるんだから・・・・」

拓也がそう言うが、

「わ、私も、友達を守りたい・・・・・それに・・・・自分に嘘はつきたくないから・・・・」

拓也は1週間前の決闘のときの、アイナの想いを思い出した。

「・・・・・・・・」

そうなると、拓也は何も言えなかった。

そんな様子を見て、オスマンは笑った。

「そうか。では、頼むとしようか」

「オールド・オスマン!私は反対です!生徒たちをそんな危険に晒すわけには!」

「では、君が行くかね?ミセス・シュヴルーズ」

「い、いえ・・・・私は体調が優れませんので・・・・・」

「彼女たちは敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」

教師達は驚いたようにタバサを見つめた。

そのタバサは、返事もせずにぼけっと突っ立っている。

「本当なの?タバサ」

キュルケも驚いている。

「ルイズ、『シュヴァリエ』って?」

才人はルイズに尋ねる。

「『シュヴァリエ』っていうのは、王室から与えられる爵位としては、最下級なんだけど、他の位の低い爵位と違って、純粋に業績に対して与えられるものなの。つまり、実力の称号ってことよ。私たちの歳で持ってる人なんて滅多にいないわ」

「そうなのか」

そう話している間にもオスマンの言葉は続く。

「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」

キュルケは得意げに髪をかきあげる。

そして、ルイズが自分の番だと言わんばかりに胸を張った。

だが、オスマンは困っていた。

褒めるところがなかなか見つからなかったのだ。

コホン、と咳をすると、オスマンは目を逸らしながら言った。

「その・・・・ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の息女で、その、うむ、なんだ、将来有望なメイジと聞いているが?しかもその使い魔は!」

それから才人を熱っぽい目で見つめた。

「平民ながらあのグラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという噂だが」

オスマンは思った。

(彼が、本当に伝説の『ガンダールヴ』なら、土くれのフーケに、遅れを取ることはあるまい)

更に、コルベールが興奮した調子で、オスマンの言葉を引き取った。

「そうですぞ!なにせ、彼はガンダー・・・・・」

オスマンは慌ててコルベールの口を塞いだ。

「むぐ!はぁ!いえ、なんでもありません!はい!」

オスマンは落ち着くと言葉を続ける。

「そして、ミス・シンフォニアは、現在このトリステイン魔法学院で最年少の生徒であるにも関わらず、成績優秀な優等生であり、ミス・ツェルプストーに及ばないながらも、中々の火の使い手であるラインメイジと聞いておるが?更にその使い魔も、スクウェアクラスの炎の使い手であり、先程の報告が正しければ、フーケのゴーレムを破壊したのは、ミス・シンフォニアの使い魔じゃ」

教師達はすっかり黙ってしまった。

オスマンは威厳のある声で言った。

「この4人に勝てるという者がいるなら、一歩前に出たまえ」

誰もいなかった。

オスマンは、拓也、才人を含む6人に向き直った。

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」

「「「「杖にかけて」」」」

アイナ、ルイズ、キュルケ、タバサの4人は、直立して真顔になり、そう唱和した。

「では、馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的地につくまで温存したまえ。ミス・ロングビル!」

「はい。オールド・オスマン」

「彼女たちを手伝ってやってくれ」

ロングビルは、頭を下げ、

「もとよりそのつもりですわ」

と、告げた。




6人は、ロングビルを案内役に、早速出発した。

馬車といっても、屋根無しの荷車のような馬車であった。

襲われたとき、すぐに、外に飛び出せるように、という理由らしい。

道中、キュルケが御者を買って出たロングビルに、何かと話しかけようとして、それを止めようとしたルイズと口論になっているが、拓也はそれよりも、隣のアイナを気にしていた。

アイナは、馬車に乗ってから殆ど喋っておらず、座ったまま俯いている。

よく見ると、その手は微かに震えていた。

「アイナ・・・・怖いのか?」

拓也はアイナに話しかける。

「・・・・うん・・・少しね」

アイナはか細い声で呟く。

「恐怖を感じるのは仕方ないさ。誰だって、怖いときは怖い」

「うん・・・・・タクヤは・・・・本当に怖かった時・・・・どうしたの?」

「俺か?・・・・・デジタルワールドでの事だけど・・・情けないことだけどさ・・・逃げようとしたよ・・・・仲間を見捨ててさ・・・・」

「え!?」

アイナが驚愕の表情を浮かべた。

少なくとも、今まで見てきた拓也からでは、想像もつかなかったからだ。

「それで・・・・どうしたの?」

「・・・・逃げた先・・・闇のトレイルモンに乗ってたどり着いた所は、俺がデジタルワールドに行く前の時間の人間界だった。その相手の幻にすら怯えていた俺は、デジタルワールドに行くという運命を変えるために、過去の自分を追った。けど・・・・段々と、今までデジタルワールドでやって来たことを思い出していってさ・・・・最後には過去の躊躇していた自分を後押しした・・・・・そこで、分かった・・・・いや、思い出したんだ。逃げてちゃ何も変わらないって。確かに、怖いときは怖い。でも、そこで逃げずに、その恐怖に立ち向かう勇気が大切なんだ、って」

「恐怖に立ち向かう・・・・勇気・・・」

拓也は頷く。

「アイナ。アイナも勇気を持っている。でなきゃ、ここにいるはずがない。アイナに足りないのは自信だけだ」

「・・・・・・・・」

アイナは、その言葉を聞き、考え込む。

「アイナ、もっと自信を持つんだ。アイナは俺を、伝説の炎の闘士を召喚した凄いメイジなんだからな」

「タクヤ・・・」

一行を乗せた馬車は深い森に入っていった。




暫くして、馬車から降り、徒歩で森の小道を進んでいると開けた場所に出た。

真ん中に廃屋がある。

7人は小屋の中から見えないように、森の茂みに身を隠したまま廃屋を見つめた。

「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」

ロングビルが廃屋を指差して言った。

タバサの作戦で、先ず、偵察兼囮役が廃屋の様子を確かめることになった。

「で、偵察兼囮役は誰がやるの?」

そう才人が聞く。

タバサは、

「すばしっこいの」

と答える。

すると、全員が才人を見た。

「え?俺?拓也じゃねえの?」

「あれは色的に目立つ。変身したときも光るから、ばれる可能性がある」

タバサの答えを聞き、仕方ないといった表情で、才人はデルフに手をかける。

才人の左手のルーンが光り、身体能力が上がる。

才人はすっと、一足跳びに小屋の傍まで近付いた。

窓に近付き、恐る恐る中を覗き込む。

だが、中に人がいるような気配は無かった。

才人は暫く考えた後、皆に誰もいなかったときのサインを送る。

全員が恐る恐る近寄ってきた。

「誰もいないよ」

才人は窓を指差して言った。

タバサが、ドアに向けて杖を振った。

「罠は無いみたい」

そう呟いて、ドアを開け、中に入っていく。

キュルケと才人と拓也とアイナが後に続く。

ルイズは外で見張りをすると言って、後に残った。

ロングビルは、辺りを偵察すると言って、森の中に消えた。



小屋に入った拓也たちは、手がかりが無いか調べ始めた。

そして、タバサがチェストの中から、

「破壊の杖」

なんと、『破壊の杖』を見つけ出した。

タバサはそれを持ち上げると、皆に見せた。

「あっけないわね!」

キュルケが叫んだ。

それを見た拓也と才人が呆然としている。

「あ、あのさ・・・それが本当に『破壊の杖』なのか?」

拓也が驚きながらも尋ねる。

「うん。宝物庫を見学したときに見たことがあるから、間違いないよ」

そう答えたのはアイナ。

拓也と才人は近寄って、『破壊の杖』をまじまじと見つめた。

そして、互いに顔を見合わせる。

と、その時、

「きゃああああああああ!」

ルイズの悲鳴が響く。

「どうした!?ルイズ!!」

才人が叫び、一斉にドアに振り向いたとき、小屋の屋根が吹き飛ぶ。

そこには、巨大なフーケのゴーレムの姿があった。

「ゴーレム!」

キュルケが叫び、タバサが即座に反応した。

自分の身長より大きな杖を振り、呪文を唱える。

杖の先から巨大な竜巻が巻き起こり、ゴーレムにぶつかっていく。

しかし、ゴーレムはビクともしない。

キュルケが胸にさした杖を引き抜き、呪文を唱えた。

杖から炎が伸び、ゴーレムを火炎に包むが、ゴーレムは全く意に介さない。

「無理よこんなの!」

キュルケが叫ぶ。

「退却」

タバサが呟く。

キュルケとタバサは一目散に逃げ始めた。

アイナに至っては、恐怖で身体が動かない。

才人はルイズの姿を探す。

ルイズはゴーレムの背後に立っていた。

ルイズが呪文を唱え、ゴーレムの表面で小さな爆発が起こる。

それで、ゴーレムがルイズに気付いて振り向いた。

小屋の入り口から才人は叫んだ。

「逃げろ!ルイズ!」

「嫌よ!あいつを捕まえれば、誰ももう、私をゼロのルイズとはよばないでしょ!」

そう言うルイズの目は真剣だった。

ゴーレムはルイズを狙うか、アイナを狙うかで迷っているようだ。

「あのな!ゴーレムの大きさを見ろ!お前があんな奴に勝てるわけねえだろ!」

「やってみなくちゃ、わかんないじゃない!」

「無理だっつの!」

才人がそう言うと、ルイズはぐっと才人を睨みつけた。

「あんた、言ったじゃない」

「え?」

「ギーシュとの決闘のときに言ったじゃない。下げたくない頭は下げられないって!」

「そりゃ言ったけど!」

「私だってそうよ。ささやかだけど、プライドってもんがあるのよ。ここで逃げたら、ゼロのルイズだから逃げたって言われるわ!」

「いいじゃねえかよ!言わせとけよ!」

「私は貴族よ。魔法が使えるものを、貴族と呼ぶんじゃないわ」

ルイズは杖を握り締めた。

「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」

ゴーレムはルイズに狙いを定めたらしい。

ゴーレムの巨大な足が持ち上がり、ルイズを踏み潰そうとした。

ルイズは呪文を詠唱し、杖を振るが、ゴーレムの表面で小さな爆発が起こり、僅かに土がこぼれただけであった。

才人はデルフリンガーを構えると飛び出した。

ルイズの視界に、ゴーレムの足が広がった。

ルイズは目を瞑った。

その時、烈風のごとく走りこんだ才人が、ルイズの身体を抱きかかえ、地面に転がった。

才人は身を起こすと、思わずルイズの頬を叩いた。

乾いた音が響く。

「死ぬ気か!?お前!!」

ルイズは呆気に取られて才人を見つめた。

「貴族のプライドがどうした!?死んだら終わりじゃねえか!馬鹿!」

ルイズの目からぽろぽろと涙がこぼれた。

「泣くなよ!」

「だって、悔しくて・・・・・・私・・・・・・いっつも馬鹿にされて・・・・・」

目の前で泣かれて才人は困ってしまった。

しかし、ルイズが泣いても敵は待ってくれない。

振り向くと、大きなゴーレムが拳を振り上げている。

が、その時、

「バーニング!サラマンダー!!」

2つの火球がゴーレムの振り上げた腕に当たり、爆発。

ゴーレムの腕を吹き飛ばした。

「才人!!」

見ると、いつの間にかアグニモンに進化した拓也がいた。

才人はすぐにルイズを抱え上げ、アグニモンに合流する。

すると、そこにタバサのシルフィードが着陸する。

「乗って!」

シルフィードに跨ったタバサが叫んだ。

アグニモンはアイナを、才人はルイズをシルフィードの上に押し上げた。

「貴方達も早く!」

タバサが珍しく焦った調子で言った。

だが、才人はゴーレムに向き直る。

アグニモンは才人の意思を理解する。

「行け!」

アグニモンはタバサに言った。

「サイト!」

「タクヤ!」

ルイズとアイナがシルフィードの上から叫んだ。

「早く行け!」

才人が、ゴーレムを見据えたまま、そう叫ぶ。

タバサは無表情に2人を見つめていたが、腕を再生させたゴーレムが近付いてくるのを見て、やむなくシルフィードを飛び上がらせた。

「悔しいからって泣くなよバカ」

才人が小さく呟く。

「なんとかしてやりたくなるじゃねえかよ!」

才人はデルフリンガーを構え、ゴーレムを真っ向から睨み付けた。

「それでこそ、才人だな」

アグニモンが笑みを浮かべ、才人の横に並ぶ。

「行くぞ!拓也!」

「おう!」

才人がゴーレムに向かって駆け出した。

「ファイアダーツ!」

アグニモンは炎を手裏剣のように、いくつも飛ばす。

それはゴーレムの至る所に着弾。

各部を削り取る。

「うおおおおっ!」

その隙に、才人がゴーレムの右腕右足を切断する。

ゴーレムはバランスを崩し、転倒する。

だが、すぐに欠損部を再生させ、立ち上がる。

「くっ、これじゃあキリが無い!」

「相棒、ああいうゴーレムは胴体を一気に吹き飛ばさないと駄目だ」

デルフリンガーが才人にアドバイスをする。

「一気に吹き飛ばすってったって・・・・」

考えている内にも、ゴーレムが才人を踏み潰さんと足を振り上げる。

「やべっ!」

才人が飛び退こうとしたが足が動かない。

「なっ!?」

見れば、土の手が足を掴んでいた。

上を見れば、視界いっぱいに広がるゴーレムの足の裏。

(やべえ・・・・・死「伏せろ!才人!!」くっ!・・・)

死を覚悟した瞬間、聞こえたアグニモンの声に、咄嗟に身を屈めた。

そして、

「ぐおおおおおおおっ!!」

聞こえた声に顔を上げれば、巨大なゴーレムの足を必死に支えるアグニモンの姿があった。

「ぐうっ!・・・に・・・逃げろ・・・才人!」

余裕が全く無い声で叫ぶアグニモン。

才人はすぐに足を掴んでいた土の手を剣で切り裂く。

才人はゴーレムの足の範囲から離脱する。

「拓也、今助けるぞ!」

才人は、デルフリンガーを構え、足に斬りかかろうとしたが、ゴーレムは器用にアグニモンを押さえつけたまま、才人に拳を放ってくる。

「くそっ!」

その攻撃で、足に斬りかかる隙が無い。

才人は一旦距離を取る。

それでも、ゴーレムはアグニモンを一番の脅威としているのか、アグニモンを逃がす心算はないらしい。

アイナとルイズは苦戦するアグニモンと才人を、はらはらしながら見つめていた。

「なんとかしないと・・・・」

ルイズは、自分が出来ることを考える。

その時、タバサが抱えた『破壊の杖』に気付いた。

「タバサ!それを!」

タバサは頷いて、ルイズに『破壊の杖』を手渡す。

「アイナ!私に『レビテーション』をお願い!」

そう言って、ルイズはシルフィードから飛び降りた。

アイナは慌ててルイズに『レビテーション』をかける。

ルイズはゆっくりと地面に降り立つと、ゴーレム目掛けて『破壊の杖』を振った。

しかし、何も起こらない。

「ホントに魔法の杖なの!?これ!」

ルイズは怒鳴る。

その時、ルイズに気付いた才人は、

(あのはねっかえりめ。上で、大人しくしとけばいいのに!・・・・って、あいつが持ってる物って・・・・・)

才人は考えを巡らす。

(そうだ。アレなら何とかなる!)

才人はルイズ目掛けて駆け出した。

「サイト!」

「貸せ!ルイズ!」

才人はルイズから『破壊の杖』をひったくる様に受け取る。

「使い方が、わかんない!」

ルイズが叫ぶ。

「これはな・・・・こう使うんだ」

才人は、『破壊の杖』を掴むと、安全ピンを引き抜いた。

リアカバーを引き出す。

インナーチューブをスライドさせた。

ふと才人の頭に、自分は何故こんなもの扱えるのか、という疑問がわくが、今はそんな事を考えてる余裕は無い。

チューブに立てられた照尺を立てる。

ルイズはその光景を唖然としながら見ていた。

そして、用意が整ったところで、ゴーレムを狙おうと標準を合わせようとした時、それより僅かに早く、ゴーレムが行動を起こしていた。

ゴーレムが、周りをゆっくりと旋回しているシルフィードに、左腕を向ける。

そして次の瞬間、ドンッ、という音と共に、ゴーレムの腕がシルフィードに向けて発射された。

「きゅい!?」

突然のことで、シルフィードは完全に虚を突かれた形となり、反応できなかった。

腕を諸に受け、その衝撃で、乗っていたアイナ、タバサ、キュルケは振り落とされる。

振り落とされた3人は『レビテーション』を唱え、何とか無事に着地する。

だが、シルフィードを掴んだゴーレムの腕は、そのままゴーレム本体に引き寄せられ、元の腕の位置に戻った。

「シルフィード!」

タバサが叫ぶ。

「きゅい!きゅい!」

シルフィードはもがくが、抜け出せそうにない。

「やべえ!アレじゃあ、シルフィードを巻き込んじまう!」

才人は構えていた『破壊の杖』を一旦肩から下ろす。

「くそっ!コイツじゃ破壊力がありすぎるし、タバサやキュルケの魔法も効かない。どうすりゃいいんだよ!?」

才人が叫ぶ。

タバサもキュルケも打つ手が無い。

(一体・・・・・どうすれば・・・・)

アイナがそう思った時、アイナの脳裏に、馬車での会話が思い浮かんだ。

『確かに、怖いときは怖い。でも、そこで逃げずに、その恐怖に立ち向かう勇気が大切なんだ』

「恐怖に立ち向かう勇気・・・・・」

アイナはポツリと呟く。

『アイナも勇気を持っている。でなきゃ、ここにいるはずがない。アイナに足りないのは自信だけだ』

「自信・・・・」

先程のルイズ、才人、アグニモンの姿を思い出す。

『私は貴族よ。魔法が使えるものを、貴族と呼ぶんじゃないわ。敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!』

魔法が使えないのに、巨大なゴーレムに一歩も退かなかったルイズ。

『悔しいからって泣くなよバカ・・・・・なんとかしてやりたくなるじゃねえかよ!』

ただそれだけの理由で、ゴーレムと戦うことを決意した才人。

その才人を救うために躊躇いもせずゴーレムの足の下に飛び込んだアグニモン。

それらの行動は、見方によっては無謀と取れるかもしれない。

だが、それは全て大切なものを守ろうとする勇気だった。

アイナは決闘のとき、拓也に力の使い方を問われたときの、自分の答えを思い出した。

『私は、守るために使いたい。友達を・・・・力の無い平民達を・・・・・そして、私を愛してくれるお父様やお母様、それに妹達を』

「守りたい・・・気持ち・・・・」

そして、馬車の上で、最後に言われたことを思い出す。

『アイナ、もっと自信を持つんだ。アイナは俺を、伝説の炎の闘士を召喚した凄いメイジなんだからな』

アイナは、杖を握り締める。

「大切なものを守りたいと思う気持ち・・・・」

アイナは自分に言い聞かせるように呟き、一歩踏み出す。

「自分の力を信じる、自身・・・・・」

皆の前に進み出る。

「アイナっ!?」

ルイズ達が驚いている。

だが、今のアイナは前を見続ける。

「そして、恐怖に立ち向かう・・・・勇気!」

そしてアイナは杖を掲げた。

呪文を唱えだす。

アイナの頭上に凄まじい炎が集中され、まるで巨大な槍のように細長くなる。

それは本来、『火』、『火』、『風』のトライアングルスペル。

だが、アイナはもう一つ『火』の属性を追加し、スクウェアの威力を持ったものとなった。

「フレイム・ジャベリン!!」

その名を叫ぶと共に、アイナは杖をゴーレム目掛け振り下ろした。

炎の槍が、目標目掛け突き進む。

アイナが狙った場所は、アグニモンを押さえつけている足の膝。

アイナの放った『フレイム・ジャベリン』は、見事ゴーレムの膝を突き破り、貫通する。

その光景に、ルイズ、キュルケ、タバサは声が出なかった。

その隙を突いて、アグニモンは大きく飛び退く。

その瞬間、アグニモンは膝を付き、デジコードに包まれ拓也に戻る。

「はあっ・・・・はあっ・・・・はあっ・・・・・い、今のはやばかった」

拓也は息を整える。

アイナが拓也に駆け寄る。

「タクヤ!大丈夫!?」

心配そうな顔で声をかけてくる。

「ああ、大丈夫だ。ありがとうアイナ。お陰で助かったよ」

拓也は立ち上がる。

一旦、才人達と合流する。

「拓也、大丈夫か!?」

「はい。アイナのお陰で」

その時、ゴーレムが足を再生させ、再びこちらに歩いてくる。

「くそ、何とかシルフィードを助けないと、ゴーレムに止めを刺せねえ」

拓也は才人が持っているものに目がいく。

それを見て、少し考え、口を開く。

「才人さん」

「何だ?」

「シルフィードは俺が助けます。止めは任せました」

「は?」

拓也は皆の前に出る。

そして、一度振り向き、

「アイナ。お前の勇気、無駄にはしない!」

そして、ゴーレムを見据え、デジヴァイスを構えた。

デジヴァイスの画面に、獣の顔のシルエットが現れ、咆えると、ビーストスピリットの形が浮かび上がる。

突き出した左手に、長い帯が集まり球状となったデジコードが発生する。

そのデジコードに、デジヴァイスの先をなぞる様に滑らせる。

「スピリット!エボリューション!!」

拓也の身体をデジコードが包む。

だが、それは今までとは違っていた。

溢れるエネルギー、力の奔流。

「うああああああああああっ!!」

拓也は叫び声を上げる。

激しい力の奔流の中、拓也はスピリットを纏っていく。

顔に、腕に、身体に、足に。

拓也の身体にスピリットが合わさる。

アグニモンへの進化を柔の進化とすれば、これは正に剛の進化。

その名も、

「ヴリトラモン!!」

デジコードの中から現れたのは、大きく炎のようなオレンジ色をした翼を持った、赤き竜。

腕にはルードリー・タルパナを装備し、その身体全体から溢れ出る力強き闘志。

「ド・・・ドドドドド、ドラゴン!?」

キュルケが叫ぶが、驚きの余り、口が上手く回らない。

「タ、タクヤ・・・その姿は?」

アイナが何とかそう言う。

「炎の闘士のビーストスピリットを使って進化したヴリトラモンだ」

「ビースト・・・スピリット・・・・?」

「そういえば、そこまで話してなかったな。まあ、その話は後だ。先ずはシルフィードを助ける!」

そう言うと、ヴリトラモンは大きく翼を羽ばたかせる。

ヴリトラモンの身体が宙に浮き、ゴーレムに向かって一気に突っ込む。

対するゴーレムは、右腕を鋼鉄化させ、ヴリトラモンに殴りかかった。

「うおおおおおおっ!!」

ヴリトラモンは、その拳に右腕で殴りかかる。

激突した瞬間、ゴーレムの鋼鉄化した右腕は砕け散った。

「嘘だろ!?鋼鉄化した腕を砕くなんてなんてパワーだよ!」

才人が驚き叫ぶ。

ヴリトラモンの腕に装備されているルードリー・タルパナが反転し、銃口が前を向き、シルフィードを掴んでいる腕に狙いを定める。

「コロナブラスター!!」

炎の弾丸が連射され、ゴーレムの腕を破壊した。

「きゅい!?」

シルフィードは自由になるが、体制が悪く落下する。

持ち直せそうにないので、地面が近付いてくるのを見て、シルフィードは目を瞑る。

しかし、突如落下感が消え、何かに抱えられる感覚がする。

「きゅい?」

シルフィードが目を開けると、

「大丈夫か?」

ヴリトラモンが自分を抱えていた。

シルフィードは頷き、

「だ、大丈夫なのね」

そう言った。

「そうか・・・・・って、ん?」

ヴリトラモンはおかしな事に気付く。

「お前、今喋らなかったか?」

「きゅ!?きゅいきゅい!(き、気のせいなのね!)」

「そうか?」

「きゅいきゅい!(そうなのね!)」

ヴリトラモンは少し釈然としないが、才人に向かって叫ぶ。

「今だ!才人!!」

才人は『破壊の杖』を肩に担ぎ、既に狙いを定めていた。

「後ろに立つな。噴射ガスがいく。」

才人はその場にいる4人に言う。

4人は才人の後ろから退いた。

才人は安全装置を抜き、トリガーを押した。

しゅぽっと栓抜きのような音がして、白煙を引きながら羽をつけたロケット状のものがゴーレムに吸い込まれる。

そして、狙いたがわずゴーレムの胴体に命中した。

吸い込まれた弾頭が、ゴーレムの身体にめり込み、そこで信管を作動させ爆発する。

ゴーレムの上半身がばらばらに飛び散った。

ゴーレムの下半身が残っていたが、やがて崩れ去る。

昨日と同じように土の小山が残された。

ルイズはその様子を呆然と見つめていたが、腰が抜けたのかへなへなと地面に崩れ落ちた。

「サイト!凄いわ!やっぱりダーリンね!」

そう言って、キュルケが才人に抱きつく。

そこに、空からシルフィードを抱えたヴリトラモンが降りてきた。

ゆっくりとシルフィードを地面に降ろす。

タバサが駆け寄って、シルフィードの状態を診る。

「怪我はなさそうか?」

ヴリトラモンがタバサに聞く。

「骨に異常は無い。傷も擦り傷だけ。けど、無理は禁物」

「そうか。なら、帰る時は、俺がシルフィードを運ぼう」

「お願い」

そのシルフィードはヴリトラモンを見つめていた。

(きゅい~、なんて逞しい御方なのね・・・・)

シルフィードは心が熱くなるのを感じた。

(きゅい!?な、なんなの?今の気持ちは?)

ヴリトラモンはふとシルフィードの視線に気付く。

「ん?どうかしたか?」

そう尋ねる。

「きゅ!?きゅいきゅい!(な、何でもないのね!)」

「ならいいけど・・・」

その時、ポツリとタバサが呟いた。

「フーケは何処?」

全員がハッとなる。

辺りを偵察に行っていたロングビルが茂みの中から現れた。

こちらに歩いてくる。

その時、

「動くな!」

ヴリトラモンがルードリー・タルパナの銃口をロングビルに向けて、そう叫んだ。

「な、何を!?」

ロングビルは驚いた表情で聞き返す。

「ちょっとアンタ!何やってるの!?」

ルイズが怒鳴る。

だが、ヴリトラモンは、銃口を向けたまま、

「アイナ。さっきみたいなゴーレムは、術者が近くにいなくても、自動で動くものなのか?」

アイナにそう問う。

「え?えっと・・・基本的に魔法で作られたゴーレムは、術者が操るから、遠くでも操れないことはないけど。でも、動きが散漫になるから、普通は術者が近くにいるものだけど・・・」

「そうか。なら、フーケはお前だ!」

ヴリトラモンはロングビルに向かって言い放つ。

「そ、そんな!何を根拠に!?」

ロングビルは、焦った顔で聞き返した。

「とぼけても無駄だ!進化した俺は、感覚が何倍にも跳ね上がるんだ。そして、この辺りに人の気配は、俺たち以外ではお前しかいなかった。ゴーレムとの戦いの最中も含めてな!」

ヴリトラモンは言い切る。

「くっ!」

ロングビルは、一旦悔しそうな顔をすると、スッと眼鏡を外した。

優しそうだった目が吊り上り、猛禽類のような目つきに変わる。

「よくわかったね」

ロングビル、いや、フーケがそう言う。

「ミス・ロングビル!?まさか、本当に貴女が!?」

ルイズが信じられないといった顔で叫ぶ。

「そうさ。私が『土くれ』のフーケ。全く、途中までは上手くいってたのに。赤毛のお嬢ちゃんの使い魔の所為で台無しさ。『破壊の杖』の使い方も分かったっていうのに」

「じゃ、じゃあ、あなたが学院に戻ってきたのは・・・」

アイナが聞くと、

「そう。『破壊の杖』を盗んだのはいいけどね、使い方が分からなかったんだよ。だから、学院の者にこれを使わせて、使い方を知ろうとしたの」

「なるほど。けどな、今更そいつの使い方を知ったところで意味は無い」

ヴリトラモンはそう言う。

「それは、あんた達に捕まるからかい?」

「いいや。お前たちが言ってる『破壊の杖』は、もう単なる筒なんだよ」

「なっ!?如何いう事だい!?」

ヴリトラモンの言葉にフーケは驚いて聞き返す。

「コイツは単発なんだよ」

答えたのは才人。

「単発だって!?どういう意味よ!?」

「言ってもわからんだろうが、コイツはこっちの世界の魔法の杖なんかじゃない」

「なんですって!?」

「そいつは俺たちの世界の『ロケットランチャー』っていう『武器』だ。いわば手軽に持ち運べる弾が一発だけ入った大砲ってとこだな」

「そ、そんな・・・・」

才人は隠し持ったナイフに手をかける。

そのまま、鞘から抜かずにフーケに接近し、フーケの腹にめり込ませた。

「ぐっ!?・・・・・」

それで、フーケは気絶する。

才人は、皆の方に振り向き、

「フーケを捕まえて、『破壊の杖』を取り戻した。これで任務達成だな」

そう笑いかけた。

その後、気絶したフーケを馬車に乗せ、学院に戻る一行。

そして、ヴリトラモンに抱えられるシルフィードの心には、とある感情が芽生えたことを記しておく。






オリジナル魔法


とりあえず、3話のものも含めて、勝手に作った魔法を説明しておきます。


ロック・ニードル


土と風のラインスペル。

三角錐の形をした岩を作り出し、それを飛ばす魔法。

まともに喰らえば殺傷能力は高い。




フレイム・ジャベリン


火、火、風のトライアングルスペル。

大きな炎の槍を作り出し、放つ魔法。

破壊力より貫通力を重点においている為、命中率は低いが使い手によっては岩をも貫く。




次回予告


フーケを捕まえ、『破壊の杖』を無事奪還した拓也達。

元の世界へのヒントを見つけ、オスマンに尋ねる才人と拓也。

その夜の『フリッグの舞踏会』では、それぞれの想いが交錯する。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第七話 舞踏会の夜。地で輝く灯、月夜に舞う風。

今、異世界の物語が進化する。




あとがき

第六話完成しました。

正直悩みました。

今回は悩みました。

ヴリトラモンの進化で悩みました。

話の流れ的には、スライドエボリューションさせれば自然に話は繋がるんですが、やはり最初の進化は拓也から直接進化するべきだと思い、悩みに悩んだ末、今回のような流れになりました。

今回の話でやりたかったのは、ヴリトラモンへの進化。

アイナに自信を持たせること。

そして、シルフィフラグを立てることです。(笑)

といいますか、シルフィフラグを立てる方が最初に決まっていたり・・・・

これは、好みの問題ですかね。

まあ、これからどうなるかは、続きを期待しててください。

作者も最後は如何するかはハッキリと決めてないので・・・・ホントにどうなるのやら。

では、次も頑張ります。




[4371] 第七話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/11/08 17:50
『破壊の杖を』取り戻し、学院に帰還した拓也達。

フーケも捕まえ一件落着。

さて、この先に待つものとは?


第七話 舞踏会の夜。地で輝く灯、月夜に舞う風。


6人は、学園長室でオスマンに報告をしていた。

「ふむ・・・・・ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな・・・・・美人だったもので、何の疑いもせず秘書に採用してしまった」

そう言うオスマンに、コルベールが尋ねた。

「一体何処で採用されたんですか?」

「街の居酒屋じゃ。私は客で、彼女は給仕をしておったのじゃが、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな」

「・・・・で?」

コルベールが続きを促す。

オスマンは、照れたように告白した。

「おほん。それでも怒らないので、秘書にならないかと、言ってしまった」

「・・・・なんで?」

理解できないと言った口調でコルベールが尋ねる。

「カァーッ!」

オスマンは目をむいて怒鳴った。

年寄りとは思えぬ迫力である。

すると、オスマンはコホンと咳ををして、真顔になった。

「おまけに魔法も使えるというもんでな」

「死んだほうがいいのでは?」

コルベールは、ぼそっと言った。

オスマンは、軽く咳払いをすると、コルベールに向き直り、重々しい口調で言った。

「今思えば、あれも学院に潜り込むためのフーケの手じゃったに違いない。居酒屋でくつろぐ私の前に何度もやってきて、愛想よく酒を勧める。魔法学院学院長は男前で痺れます、などと何度も媚を売り売り言いおって・・・・・終いにゃ尻を撫でても怒らない。惚れてる?とか思うじゃろ?なあ?ねえ?」

その言葉を聞き、コルベールは嫌な汗を流す。

実はコルベール、ロングビルことフーケにオスマンが言った事と似たような手口にやられ、宝物庫の壁の弱点について教えてしまっていたのだ。

コルベールはそれを思い出し、オスマンに合わせた。

「そ、そうですな!美人はそれだけで、いけない魔法使いですな!」

「そのとおりじゃ!君は上手いことを言うな!コルベール君!」

そんな2人を、拓也達6人は呆れた様子で見ていた。

そんな冷たい視線にオスマンは気付き、咳払いをすると、厳しい顔つきをして見せた。

「さてと、君達はよくぞフーケを捕まえ、『破壊の杖』を取り返してきた」

誇らしげに、拓也と才人を除いた4人が礼をした。

「フーケは、城の衛士に引き渡した。そして『破壊の杖』は、無事に宝物庫に収まった。一件落着じゃ」

オスマンは一人ずつ頭を撫でた。

「君達の、『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。と言っても、ミス・タバサはすでに『シュヴァリエ』の爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」

アイナ、ルイズ、キュルケの3人の顔が、ぱあっと輝いた。

タバサだけはいつもの無表情だったが。

「本当ですか?」

キュルケが、驚いた顔で言った。

「本当じゃ。いいのじゃ、君達は、そのぐらいの事をしたんじゃから」

ルイズは先程から元気が無さそうに立っている才人の事を見つめた。

「・・・・・オールド・オスマン。サイト達には、何もないんですか?」

「残念ながら、彼らは貴族ではない」

才人は言った。

「何もいらないですよ」

続いて拓也が、

「俺は元々、自分の責任を取っただけですし」

そう言った。

オスマンは、ぽんぽんと手を打った。

「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り、『破壊の杖』も戻ってきたし、予定通り執り行う」

キュルケの顔がぱっと輝いた。

「そうでしたわ!フーケの騒ぎで忘れておりました」

「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」

4人は、礼をするとドアに向かった。

だが、拓也と才人は動かない。

それに気付いたアイナとルイズが立ち止まる。

「先に行ってていいよ」

才人が言った。

拓也も頷く。

心配そうに見つめながらも2人は、頷いてドアへ向かう。

と、その時、

「そうじゃ、ミス・シンフォニア」

オスマンが、アイナを呼び止めた。

「はい、なんでしょう?」

アイナが立ち止まり、振り返る。

「少し残ってくれんかの?聞きたいことがあるんじゃ」

「はい?わかりました」

3人が部屋を出て行く。

アイナが学院長に向き直った。

「それで、聞きたいことというのは?」

アイナが、オスマンに尋ねる。

「その前に、サイト君といったかな?」

「はい」

オスマンに声をかけられ、返事をする才人。

「すまないが、ミス・シンフォニアとの話が終わるまで部屋から出ていてくれんかの?君も私に聞きたいことがおありのようじゃが、それはミス・シンフォニアの後で答えよう」

「わかりました」

才人は頷き、部屋から出る。

「俺は良いんですか?」

部屋に残った拓也が尋ねる。

「君は、ミス・シンフォニアの使い魔じゃ。問題なかろう」

そう言うと、オスマンはアイナに向き直る。

「それで、ミス・シンフォニア。君に聞きたいことというのは、君のメイジとしてのレベルについてじゃ。なに、答えたくなければ答えなくてもよい」

「私のレベルですか?」

「うむ。私はコルベール君から、君のレベルはラインメイジと聞いておるのだが、君の使い魔を見る限り、どうしてもラインメイジとは思えんのじゃ。良ければ、君の口から教えてもらいたい」

アイナは、少し考え込む。

そんなアイナに、拓也は声をかけようとする。

「アイナ・・・・」

「タクヤ、私は大丈夫・・・・」

アイナは決心すると、真剣な表情になる。

そして、口を開いた。

「私は、『火』のスクウェアです」

「な、なんですとっ!?」

コルベールが声を上げて驚愕した。

それもそうだろう。

スクウェアといえば、王宮の魔法衛士隊の精鋭クラスである。

12歳でそのレベルだ。

驚かないほうがおかしい。

だが、オスマンは、ほっほっほと軽い笑みを浮かべている。

「なるほど。スクウェアならば、君の使い魔の強さにも納得がいく。すまんの、確かめたかっただけじゃ。下がってよいぞ」

アイナは一礼すると、ドアへ向かい、部屋から出て行く。

入れ替わるように、才人が部屋に入って来た。

「さて、君達には、私に聞きたいことがあるのじゃったな」

拓也と才人は頷く。

「言ってごらんなさい。出来るだけ力になろう。君らに爵位を授けることは出来んが、せめてものお礼じゃ」

それからオスマンは、コルベールに退室を促した。

わくわくしながら才人の話を待っていたコルベールは、しぶしぶ部屋を出て行った。

コルベールが出て行った後、才人は口を開いた。

「あの『破壊の杖』は、俺達が元いた世界の武器です」

オスマンの目が光った。

「ふむ、元いた世界とは?」

「俺達は、この世界の人間じゃない」

「本当かね?」

「本当です。俺はルイズの、拓也はアイナの『召喚』で、こっちの世界に呼ばれたんです」

「なるほど。そうじゃったか・・・・・・」

オスマンは目を細めた。

「あの『破壊の杖』は何処でてにいれたんですか?」

拓也がそう尋ねる。

「あの『破壊の杖』は私の命の恩人の形見じゃ」

オスマンはため息をついて答えた。

「形見という事は、その人は既に・・・・・」

「死んでしまった。今から、30年も昔の話じゃ。30年前、森を散策していた私は、ワイバーンに襲われた。そこを救ってくれたのが、あの『破壊の杖』の持ち主じゃ。彼は、もう1本の『破壊の杖』で、ワイバーンを吹き飛ばすと、ばったりと倒れおった。怪我をしていたのじゃ。私は彼を学院に運び込み、手厚く看護した。しかし、看護の甲斐なく・・・・」

「死んでしまったんですね・・・・・」

拓也が確認するように、オスマンの言葉を続けた。

オスマンは頷く。

「私は、彼が使った1本を墓に埋め、もう1本を『破壊の杖』と名づけ、宝物庫にしまいこんだ。恩人の形見としてな・・・・・」

オスマンは遠い目になる。

「彼はベッドの上で、死ぬまでうわごとのように繰り返しておった。『ここは何処だ。元の世界に帰りたい』とな。きっと、彼は君と同じ世界から来たんじゃろうな」

「一体、誰がこっちにその人を呼んだんですか!?」

才人は焦るように尋ねる。

「それはわからん。どんな方法で彼がこっちの世界にやってきたのか、最後までわからんかった」

「くそっ!せっかく手がかりを見つけたと思ったのに!」

才人は、左の手のひらに右の拳を打ち付けて嘆いた。

「才人さん、仕方ありません。他の方法を探しましょう。大丈夫ですよ。どうにかなりますって」

拓也は、異世界の経験が少ない才人にそう言って元気付ける。

オスマンは、才人の左手を掴んだ。

「お主のこのルーン・・・・」

「ええ。こいつも聞きたかった。この文字が光ると、何故か武器を自在に使えるようになる。剣だけじゃなく、俺達の世界の武器まで・・・・」

オスマンは、話そうかどうか、しばし悩んだ後、口を開いた。

「・・・・・・これなら知っておるよ。ガンダールヴの印じゃ。伝説の使い魔の印じゃよ」

「そうじゃ。その伝説の使い魔はありとあらゆる『武器』を使いこなしたそうじゃ。『破壊の杖』を使えたのも、そのお陰じゃろう」

才人は首を傾げた。

「・・・・・・・どうして、俺がその伝説の使い魔なんかに?」

「わからん」

オスマンは、仮説のことは伏せることにした。

「わからん事ばっかりだ」

「すまんの。ただ、もしかしたら、お主がこっちの世界にやってきたことと、ガンダールヴの印は、なにか関係しているのかもしれん」

「はぁ・・・・・・」

才人はため息をついた。

元の世界に帰るためのあてが、すっかり外れてしまったからである。

「力になれんですまんの。ただ、これだけは言っておく。私はおぬし等の味方じゃ」

オスマンはそう言うと、才人を抱きしめた。

「よくぞ、恩人の杖を取り返してくれた。改めて礼を言うぞ」

「いえ・・・・・」

才人は疲れた声で返事をした。

「おぬし等がどういう理屈で、こっちの世界にやってきたのか、私なりに調べる心算じゃ。でも・・・・・」

「でも、なんです?」

「何もわからなくても、恨まんでくれよ。なあに。こっちの世界も住めば都じゃ。嫁さんだって探してやる」

2人は、オスマンの言葉に苦笑するしかなかった。




食堂の上の階が、大きなホールになっている。

舞踏会は、そこで行なわれていた。

拓也と才人は、バルコニーの枠にもたれ、華やかな会場をぼんやりと眺めていた。

「ほんっと俺たちには、場違いな所ですね」

拓也がポツリと言う。

「貴族って奴は、派手好きなんだろ」

才人ははき捨てるようにそう言って、グラスに注いだワインを一気に飲み干す。

「お前、さっきから飲みすぎじゃねえのか?」

才人の横に立てかけられたデルフリンガーがそう言う。

「うるせえ。家に帰れるかもって思ったのに・・・・・思い過ごしだよ。飲まずにいられるか」

普通なら拓也は止めるが、才人の気持ちも分からんでもないので、何も言わなかった。

ホールの中では、キュルケがたくさんの男に囲まれ、笑っている。

キュルケは、先程才人に、「後でいっしょに踊りましょ」と言っていたのだが、あの調子では何人待ちになるのかわからない。

黒いパーティドレスを着たタバサは、一生懸命にテーブルの上の料理と格闘している。

アイナは、友人とおしゃべりを楽しんでいる。

それぞれが、パーティを満喫しているようだった。

ホールの壮麗な扉が開き、ルイズが姿を現した。

門に控えた呼び出しの衛士が、ルイズの到着を告げた。

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~~~~!」

才人は息を飲んだ。

パーティードレスに身を包み、いつもと雰囲気の違うルイズに声が出なかった。

主役が全員揃ったことを確認した楽士たちが、小さく、流れるように音楽を奏で始めた。

ルイズは、多くの貴族の男達のダンスの誘いを全て断り、才人がいるバルコニーに近付いてきた。

ルイズは、酔っ払った才人の目の前に立つと、腰に手をやって首をかしげた。

「楽しんでるみたいね」

「別に・・・・・」

才人は眩しすぎるルイズから目を逸らした。

「おお、馬子にも衣装じゃねえか」

デルフリンガーがそう言う。

「うるさいわね」

ルイズはデルフリンガーを睨むと、腕を組んで首をかしげた。

「お前は踊らないのか?」

才人は目を逸らしたまま言った。

「相手がいないのよ」

ルイズは手を広げた。

「いっぱい誘われてたじゃねえかよ」

才人は言った。

ルイズは答えずに、すっと手を差し伸べた。

「はぁ?」

「踊ってあげてもよくってよ」

目を逸らし、ルイズはちょっと照れたように言った。

いきなりのルイズの台詞に、才人は戸惑った。

「踊ってください、じゃねえのか?」

才人も目を逸らした。

暫くの沈黙が流れた。

ルイズがため息をついて、先に折れた。

「今日だけだからね」

ルイズはドレスの裾を恭しく両手で持ち上げると、膝を曲げて才人に一礼した。

「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン」

そう言って、顔を赤らめるルイズは、可愛くて、綺麗で、清楚であった。

才人はふらふらとルイズの手を取った。

2人は並んで、ホールへと向かった。

「今、完全に俺の存在忘れられてたな」

才人のすぐ横にいたにも関わらず、完全に存在を忘れられていた拓也はそう言葉を洩らした。

拓也は外に向き直り、飲み物を口にする。(拓也はノンアルコール)

「おでれーた!相棒!てーしたもんだ!」

デルフリンガーが感心した声で言った。

「主人のダンスの相手をつとめる使い魔なんて、初めて見たぜ!」

才人がぎこちないながらも、ルイズと一緒に踊っている光景を見て、デルフリンガーがそう言う。

「完全に蚊帳の外だな、俺」

拓也がそう誰に言うでもなく呟く。

「オメーさんは踊らねえのかい?」

デルフリンガーが拓也に話しかける。

「ダンスなんか知らねーし。第一、俺はまだ11歳だぞ。そんな子供と踊るような貴族がいると思うか?」

そう答える拓也。

「少なくとも1人はいると思うがな」

そんな事を言うデルフリンガー。

「ほ~。そんな貴族様が何処にいる?」

「オメーさんの後ろにいるぜ」

「はい?」

拓也は、デルフリンガーの言葉に振り返る。

そこには、

「・・・・・アイナ?」

パーティドレスに身を包んだ、アイナが立っていた。

アイナは顔を赤くしながら、

「タクヤ・・・・その・・・よければ踊ってくれないかな?」

そんな事を言ってきた。

「え?俺?」

思わず拓也は聞き返した。

その言葉に頷くアイナ。

「な、何で?」

「・・・・私と年齢的につり合うのって、タクヤしかいないじゃない」

顔を真っ赤にしながらアイナは言う。

「あ~。なるほど」

それを聞いて納得する拓也。

だが、拓也は知らない。

今アイナが言ったのは拓也の世界の基準であり、此方の世界では、余り歳の差には拘らないという事を。

10歳差の婚約者も普通にいるのだ。

アイナの年齢でも特に問題は無かったりする。

その事を知らない拓也は、

「まあ、いいけど。でも、俺、ダンスなんか知らないぞ」

「私に合わせてくれればいいから」

アイナは拓也の手を取り、ホールへ向かった。



拓也は、ぎこちないながらもアイナに合わせステップを踏む。

拓也がようやくダンスに慣れてきた頃、アイナが口を開いた。

「タクヤ、今日はありがとう」

「え?」

突然言われたお礼に、何のことか首をかしげる拓也。

「タクヤのお陰で、私、やっと自分に自信が持てるようになってきた」

アイナはそう言った。

拓也は、そのことかと納得すると、笑みを浮かべる。

「言っただろ。アイナは凄いメイジだって」

「・・・・それでも、最初はあのゴーレムに怯えてただけだった。私がゴーレムに立ち向かえたのは、タクヤのお陰だよ」

「俺の?」

「うん。タクヤが私の想いを確かなものにしてくれた。タクヤが私を励ましてくれた。そして、タクヤが私に本当の勇気を教えてくれた」

「そんなことないさ。勇気を出して立ち向かったのは、アイナ自身だ。俺はちょっとアドバイスをしただけだよ」

「でも、タクヤがいなかったら、私はきっと立ち向かえなかったと思う。だから、ありがとう」

「・・・・・そこまで言うなら、どういたしましてと言っておくよ」

「うん」

その後は、静かにダンスを続けた。

アイナの顔がずっと赤かったのは、お酒のせいという事にしておこう。




やがて舞踏会も終わり、拓也達は部屋に戻ろうとしている途中だった。

廊下を歩いていると、コンコンと窓を叩く音がした。

「何だ?」

拓也は気になって窓を開けると、

「きゅい」

目の前にシルフィードがいた。

「シルフィードか。怪我はもういいのか?」

「きゅい、きゅいきゅいきゅい、きゅいきゅい(お姉さまに、水の治癒魔法をかけてもらったから、もう大丈夫なのね)」

「そうか。で、何か用か?」

「きゅいきゅい(ちょっとついてきて欲しいのね)」

「俺にか?」

「きゅい(そうなのね)」

シルフィードは頷く。

「まあ、別にいいけど」

そう答えると、シルフィードは飛んでいく。

「なんだったの?」

アイナが拓也に尋ねる。

「なんか、シルフィードが俺についてきて欲しいってさ」

「ふ~ん。着替えの時間もいるから、丁度いいけど・・・」

「じゃあ行ってくる」

拓也はヴリトラモンに進化し、シルフィードの後を追った。



シルフィードは、学院から少し離れた森の上に滞空していた。

ヴリトラモンが、シルフィードに近付く。

「それで、何の用なんだ?」

シルフィードは暫く黙っていたが、口を開いた。

だが、その口から聞こえてきたのは鳴き声ではなく、

「あ、あのっ、いきなり呼び出してゴメンなさいなのね」

おもいっきり人間の言葉を喋っていた。

ヴリトラモンは少し驚きつつ、

「何だ。お前、やっぱり喋れたのか」

ゴーレムとの戦闘のとき聞いたシルフィードの声は勘違いではなかったと確信した。

「ゴメンなさいなのね。シルフィ、韻竜っていう人間の間では絶滅したって言われてる種族なのね。お姉さまは、シルフィが韻竜ってばれるとややこしいことになるから、普通の風竜のフリをしろっていってたから、本当なら喋っちゃだめなのね」

「じゃあ、何で俺に喋ってるんだ?」

シルフィードの説明にヴリトラモンは聞き返す。

「お礼を直接言いたかったのね」

「お礼?」

「ゴーレムから助けてくれたのね」

「ああ、その事か。・・・・だったら別に喋らなくても、俺はルーンの力で竜の言葉も理解できるから無理に喋る必要もないだろ」

「それはその・・・・・気分の問題なのね。・・・・・・それに・・・・」

「それに・・・・何だよ?」

シルフィードは、ヴリトラモンをじっと見つめている。

その時だった。

「グオォォォォォォォ!」

獰猛そうな鳴き声が聞こえた。

「何だ!?」

ヴリトラモンは、鳴き声が聞こえたほうを見る。

そこには、全長10メイル位の竜がいた。

「あ、あれはワイバーンなのね!竜種の中でもかなり獰猛な部類に入るのね!」

シルフィードが叫ぶ。

「何でそんな奴がこんな所にいるんだよ?」

「稀に群れから逸れた個体が人里に迷い込むことがあるのね!」

シルフィードはかなり焦っているようだ。

シルフィードはまだ子供であり、成竜のワイバーンは相当な脅威である。

「グオォォォォォォ!(餌だぁぁぁぁぁぁ!)」

ヴリトラモンは、鳴き声の意味を理解する。

「餌って俺達かよ」

ヴリトラモンは構える。

「シルフィード!下がってろ!」

言われたとおり、シルフィードは下がる。

ワイバーンは雄たけびを上げ、襲い掛かってきた。

「はあああああっ!」

噛み付こうと口を大きく開けた頭部を、ヴリトラモンは右腕で殴りつける。

「グオッ!」

ワイバーンは怯み、その隙にヴリトラモンは、ワイバーンの尾を掴む。

「うおおおおおおおおっ!!」

そのままヴリトラモンはワイバーンを振り回す。

「はあっ!!」

そして、その勢いを殺さず、地面に叩き付ける。

ワイバーンはもだえ苦しむが、それでも起き上がり、敵意を向けてくる。

その様子を見ていたシルフィードは、

(凄いのね。成竜のワイバーンを完全に圧倒してるのね)

驚きながらそう思っていた。

その時、突如ヴリトラモンが炎に包まれる。

(何!?なんなのね!?)

そして、シルフィードは見た。

夜空を切り裂く、赤き流星を。

「フレイム!ストーム!!」

炎を纏ったヴリトラモンがワイバーンに向けて突進する。

そして、それはワイバーンを貫いた。

断末魔の叫びを上げ、絶命するワイバーン。

やがて、炎が全身に燃え広がり、ワイバーンの身体を焼き尽くす。

それを空から見下ろすヴリトラモン。

「・・・・許せよ」

自分が奪った命に黙祷をささげた。

シルフィードは、双月の光に照らされたヴリトラモンの姿に完全に心奪われた。

(もう確実なのね!昼間の気持ちを確かめたくて呼び出してみたけど、これはもう間違いないのね!)

シルフィードは心の中で叫ぶ。

(お姉さま。シルフィ恋したの!人間でありながらどんな竜よりも逞しい炎の竜になれる御方に!)

「きゅ~いきゅ~い!」

シルフィードは思わず鳴き声を上げる。

まるで歌うかのように。

そんな様子を不思議に思っていたヴリトラモン。

だが、これから波乱の日々が待ちうけようとは、この時のヴリトラモンこと拓也は想像すらしていなかった。




次回予告


フーケの騒ぎも解決し、また平穏な日々に戻るかに思えた魔法学院。

だが、今までの騒ぎは単なる序章にしか過ぎなかった。

拓也を尋ねる青髪の美女。

それに対抗するアイナ。

拓也の波乱に満ちた日々が今始まる!

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第八話 女の戦い勃発!?シルフィードのプレゼント

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

第七話完成~。

やっと一巻分が終わりました。

でも、出来は微妙かな~。

とりあえず、アイナとシルフィードを平等にしたつもりなんですけど、シルフィードのほうが目立ってるかな?

やっぱり、バトル以外はネタが思いつきにくい。

結局はバトル(いじめ?)を入れたし。

結構ベタな展開でしたが、まあ、前回出せなかったフレイムストームを出せたから良しとしましょう。

炎を纏って体当たりは、アニメでは無かったと思いますが、ゲームのバトルクロニクルでは対空攻撃としてあったので採用。

余談ですが、そのときの技名が何故かコロナブラスターになってました。

それで、この先どうしようかと思っているのが、アニメの使い魔品評会とウェールズの生死。

結構悩んでますが、頑張って書いていきたいと思います。

では、次も頑張ります。



[4371] 第八話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/11/15 12:02
フーケの騒ぎも収まり、学院に平穏が戻ってきた。

だが、拓也には波乱の日々が待ち受けていた!?


第八話 女の戦い勃発!?シルフィードのプレゼント


舞踏会から一夜明け、朝、拓也は目を覚ました。

「くあぁ・・・・・・朝か」

拓也は欠伸をして、起き上がる。

因みに、街に行った時にちゃんと布団を買ってもらったので、身体が痛いなんて事はなくなった。

「やっぱ布団があるといいな」

拓也はふと寝ているアイナを見る。

昨日、舞踏会で一緒に踊ったのを思い出す。

「そういえば、顔がずっと赤かったけど、酒でも飲んでたのか?」

そう言葉を洩らしたとき、アイナが起きた。

「う・・・ん・・・・・おはようタクヤ・・・・・」

目を擦りつつ挨拶をするアイナ。

「おう。おはよう」

挨拶を返す拓也。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

何故か無言になる2人。

だが、アイナは拓也の顔をじっと見つめていた。

「ど、どうした?」

「え!?あ、ううん。何でもない」

拓也が聞くと、アイナは、はっとして慌てた。

その時、

――コンコン

ドアがノックされた。

「ん?誰だこんな朝早くに?」

拓也が立ち上がり、ドアへ向かう。

「誰ですか?」

拓也はそういいながら、ドアを開けた。

そこには、歳が20歳ぐらいと思われる青い髪の女性がいた。

「どなたですか?」

拓也は見覚えのないその女性に尋ねる。

すると、その女性は満面の笑みを浮かべ、

「きゅい!タクヤさま~!」

そう言って、飛び掛ってきた。

「おわっ!?」

その女性は先にも述べたとおり20歳ぐらい。

そして、拓也は11歳。

いかに相手が女性であろうと、そんな体格差で飛び掛って来られれば、拓也では支えきれない。

ゆえに拓也はそのまま後ろに倒れることになる。

イコール、アイナの部屋の中に倒れることになり、その拓也の上に女性がくることになる。

つまり、拓也がその女性に押し倒されているところをアイナが目撃することになる。

「・・・・・・・・」

アイナは沈黙していたが、やけに空気が重い。

「きゅいきゅい♪タクヤさま~♪」

その女性はアイナに気付くことなく、拓也を押し倒したまま笑顔を向けている。

――ピキッ!

何故かそんな音が聞こえた気がした。

「うわわっ!?何っ!?どうなってんの!?貴女は誰ですか!?」

拓也は、ハルゲギニアに来て一番慌てていた。

いきなり見知らぬ女性に押し倒されたのだ。

拓也は訳も分からず取り乱す。

だが、その時、

――ボカッ

「きゅい!?」

何か叩くような音と、女性の悲鳴のような声が聞こえた。

拓也の上の女性が退いた為、拓也は身を起こす。

そこには、タバサとキュルケがいた。

先程の音は、タバサがその長い杖で青い髪の女性の後頭部を叩いた音だった。

「きゅい~・・・・お姉さま、何するのね~!?」

青い髪の女性は涙目になりながらタバサに抗議する。

「人間は普通、初めて出会った相手に飛び掛るなんて事はしない」

タバサは淡々と答える。

「きゅい~初めてじゃないのね」

「その姿で会うのは初めてだから、初対面のようなもの」

そんな会話をする2人。

「ちょ、ちょちょっとタバサ。それにキュルケも。その人と知り合い?」

アイナがそう尋ねる。

その声にはかなりの動揺があった。

「ええ、まあ、知り合いといえば知り合いよね・・・・・」

キュルケの言葉は歯切れが悪い。

「どうしたの?」

不思議に思ったアイナが尋ねる。

「え~とね、その子、シルフィードなのよ」

「「・・・・・・・・・」」

キュルケの言った言葉にしばしの沈黙。

そして、

「「えええええええええっ!!??」」

拓也とアイナが同時に驚いた。

「きゅいきゅい」

当の本人は笑顔のままである。

「シルフィードは韻竜。先住魔法で人の姿になれる」

タバサがそう言うと、

「い、韻竜!?まだ生き残りがいたの!?」

アイナがまた驚く。

「ほ~んと、韻竜を召喚するなんて、タバサの実力が伺えるわね」

そう言うのはキュルケ。

「・・・・・で、何で俺が押し倒される破目になったんだ?」

拓也は話を戻す。

「それは「きゅいきゅい。シルフィ恋したのね」」

キュルケが説明しようとした時、シルフィードが自ら言った。

「恋したって・・・・誰に?」

「タクヤさまに」

聞き返す拓也に、ニコニコしながらシルフィードが答える。

「は?・・・・・・・・・」

拓也は固まった。

「そりゃあねえ、昨日あんな風に助けてもらったら、大概はイチコロよ。危機に陥ったお姫様を王子様が助ける。そんなイメージがぴったりね。姿は竜だったけど・・・」

キュルケがそう言う。

「きゅいきゅい、それでね、タクヤさまにプレゼントがあるのね」

「ぷれぜんと?」

拓也はまだショックが抜けきってないのか、片言である。

「あら、やるじゃないシルフィード。そういうことの積み重ねが男の人のハートを掴むのよ」

キュルケは既にシルフィードを応援する立場にいるようだ。

「これなのね。タクヤさまなら、きっと使いこなす事が出来るのね」

そう言って取り出したのは、一本の短剣だった。

「あ、それは」

タバサが何か言おうとしていたが、差し出された短剣を拓也は受け取る。

その瞬間、拓也は意識が何かに飲まれようとする感覚に陥る。

(な、なんだ?まるでビーストスピリットを使ったときみたいに・・・・って、やべえ!)

「はあっ!!」

拓也はビーストスピリットを制御する時の様に意識を強める。

意識が飲まれる感覚が消える。

「なっ!?テメエ、あそこから身体の制御を奪い返すなんて何者だ!?」

短剣から声がした。

「きゅい♪やっぱり大丈夫だったのね」

シルフィードは喜んでいる。

――ゴンッ

その後頭部にタバサの杖の一撃が加えられた。

「きゅい!?痛いのね、お姉さま~」

再び涙目になりながらタバサに訴えるシルフィード。

「勝手な事した罰」

「きゅい~、タクヤさまなら、大丈夫と思ったのね」

「それは結果論。一つ間違えば面倒なことになってた」

シルフィードに説教するタバサ。

訳の分からない拓也は尋ねる。

「お~い。このナイフは一体なんだ?喋ったから、才人さんのデルフリンガーのお仲間みたいだけど・・・・・」

「インテリジェンスナイフ。持ち主の身体を乗っ取り、操ることが出来る」

タバサが説明する。

「んな物騒な物を何でまた?」

「けど、そのナイフを持っていれば平民でも魔法を使える」

「ホントか!?」

タバサは頷く。

「へ~。魔法って一回使ってみたかったんだよな。おい、ナイフ!後で魔法の使い方教えろよ!」

「そ、それはいいんだが、坊主。何で俺の制御を受け付けねえ?」

「ん?さあ?俺はビーストスピリットを制御する感覚で持ってるだけだからな」

「それが何か知らないが、俺の制御を受け付けねえって事は、それだけ意志の力が強えって事だ。坊主ぐらいの歳でそれだけ確固たる意志を持った人間なんて普通いねえぞ」

「まあ、俺も色々あったからな。それはそうとして、ナイフ」

「一応、俺にも、『地下水』って名があるんだが・・・・」

「そうか。じゃあ地下水」

「何だ?」

「次に俺の身体を乗っ取ろうとしたら、粉々に砕いた上に、ドロドロに溶かしてやるからな」

拓也はかなりドスの聞いた声で言った。

「イ、 イエッサー!!」

地下水は、そう返事をする。

「よし!じゃあこれからよろしくな、地下水。俺は神原 拓也だ」

「まあ、少し若すぎるが、俺が操れねえ使い手なんて面白そうだ。暫く付き合ってやらあ」

何だかんだで、お互い納得した模様である。

「きゅいきゅい!タクヤさま。シルフィのプレゼント、気に入った?」

「ああ。ありがとなシルフィード」

「きゅい♪」

シルフィードは嬉しそうに笑い、拓也に抱き付いて来た。

「だああっ!!だからって抱きつくな!!」

拓也は顔を真っ赤にして叫ぶ。

「あらあら。タクヤってウブなのね」

キュルケは、笑いながらそう言った。

「きゅいきゅい、言い忘れてたけど、他の人に正体ばれるといけないから、この姿の時はイルククゥって呼んで欲しいのね」

シルフィードがそう言い、

「イルククゥ?」

「そよ風って意味だな」

首を傾げる拓也に、地下水が答える。

「きゅいきゅい、シルフィードはお姉さまに貰った名前。イルククゥは、竜としての名前なのね」

更にシルフィードが説明する。

「って事は、イルククゥがシルフィードの本名ってことか?」

「そうなのね。けど、お姉さまに貰ったシルフィードっていう名前も気に入ってるのね。だから、竜の姿の時はシルフィード。この姿のときはイルククゥって呼んで欲しいのね」

「あ、ああ、わかった」

拓也が頷く。

すると、

「じゃあじゃあ、タクヤさま。お付き合いから始めましょ。きゅい」

シルフィードもとい、イルククゥがそう言った。

「お、おい。そんなこと「ダメ」って、え?」

いきなりの否定する言葉が飛んできた。

見ると、アイナが額に怒りマークを浮かべていた。

「ぜぇぇぇったい!ダメ!!」

今までのアイナでは信じられないほどの力の篭った言葉。

「きゅいきゅい!おチビには関係ないのね!黙ってるのね!」

「関係無くないもん!」

「何が関係あるのね!」

「そ、それは・・・・・タ、タクヤは私の・・・」

「言っとくけど、使い魔だからっていうのは却下なのね」

アイナの出鼻を挫くイルククゥ。

「・・・・・・・・・」

黙り込んでしまうアイナ。

「何も言えないみたいなのね。じゃあ、タクヤさま、お付き合いしましょ。きゅい」

「ま、待ちなさい!」

拓也の方に向き直ろうとするイルククゥを呼び止める。

「何なのね!?」

アイナは一度、目を閉じ、深呼吸をする。

そして、目を開けると覚悟を決めた顔をして、口を開いた。

「わ、私だって・・・・・私だってタクヤの事、好きなんだからぁっ!!」

突然のアイナの告白。

「はい?」

拓也は再び固まった。

「タクヤ気付いて無かったの?」

キュルケが呆れたように呟き。

「鈍感」

タバサが強烈な一言を放つ。

「きゅい!だからって、引き下がる心算は無いのね!引っ込むのはおチビの方なのね!」

「さっきから、おチビ、おチビって、私は12歳だから、この身長が普通よ!それにタクヤは11歳。年齢では問題ないもん!」

「シルフィは、200年位生きてるけど、人間で言えば10歳程度なのね!」

「アナタ竜でしょ!」

「きゅいきゅい。シルフィは人間に変身できる竜。タクヤさまは、竜になれる人間。お似合いなのね!」

「お似合いじゃない!!」

アイナとイルククゥの激突は続いていく。

挙げ句の果てに、

「アナタ子供産めないでしょ!」

「そんなこと無いのね!タマゴの1つや2つ、気合で産んで見せるのね!!」

一気にそんな所まで話が飛んでいた。

「いや、タマゴって・・・・・」

(・・・いや、竜だからタマゴであってるのか?)

拓也は最早、驚愕の余り、正常な思考が出来なくなりつつあった。

「けけけ。相棒は、トラブルメーカーみたいだな。こりゃ退屈しそうにねえや」

地下水が笑いつつそう言う。

「これから面白くなりそうね」

キュルケもニコニコしながらそう言い、

「三角関係の始まり」

タバサはいつもの無表情でそう呟いた。


そして、

「アナタと話していても埒が明かないみたいね」

「ホントなのね。しつこいのね、おチビ」

「じゃあ、こういう時は・・・・・」

「そうなのね。手っ取り早く本人に聞くのが一番なのね」

アイナとイルククゥが同時に拓也の方を向く。

「タクヤ・・・・・私とシルフィード」

「どっちがいいのね?」

2人に迫られる拓也は、物凄いプレッシャーを感じていた。

(な・・・・何だこのプレッシャーは!?ロイヤルナイツと相対した時も、こんなにヤバイとは思わなかったぞ・・・・)

「さあ・・・・」

「選ぶのね・・・・」

更に迫る2人。

(・・・・・・こうなったら)

「あっ!!」

拓也はドアの方を指差し、叫んだ。

全員がそっちを向く。

その隙に拓也は、窓に向かって駆け出した。

「地下水!空飛ぶ魔法!!」

「あいよ」

地下水が『フライ』の呪文を唱え、拓也は窓から飛び出す。

「あ~!逃げた!」

「待つのね!」

イルククゥが窓から飛び出すと同時に竜となり、何故かアイナがその背に飛び乗る。

「何で乗るのね!?」

「早く追って!」

確かに『フライ』で飛ぶよりは速いのだが、シルフィードは納得のいかない顔をする。

「貸し1つなのね」

「何でもいいから早く追って」

その10分後、拓也は捕まる。

拓也はそこで再び迫られるが、説得の末、その話を保留にした。

しかし、人それを一時しのぎと言う。

拓也の波乱に満ちた日々は、始まったばかりだ。





――それから一週間後

トリステインの城下町の一角にあるチェルノボーグの監獄では、『土くれ』のフーケがぼんやりとベッドに寝転んで壁を見つめていた。

ここチェルノボーグの監獄は、城下で一番監視と防備が厳重と言われている。

フーケは、散々貴族のお宝を荒らしまわった怪盗だったので、魔法衛士隊に引き渡されるなり、ここにぶち込まれたのだ。

「まったく、かよわい女一人閉じ込めるのに、この物々しさはどうなのかしらね?」

苦々しげに呟く。

それからフーケは自分を捕まえた少年達のことを思い出した。

「大したもんじゃないの。あいつらは」

『破壊の杖』を使いこなした少年と炎の戦士、炎の竜となった少年。

(特に変身した方は、あの時本気じゃなかったね。あの風竜を助けるために腕2本で済ませたって感じだ。その気になれば私のゴーレムなんか・・・・いや、スクウェアのゴーレムでも一撃だろうね。全く、あそこまで圧倒されちゃあ仕返しする気も起きないよ。けど、その主の赤毛のお嬢ちゃん。たしかラインメイジって言ってたはずなんだけど、何で私のゴーレムを膝だけとはいえ、破壊できたんだろうね。トライアングルの魔法でも耐えれるように作ったはずなんだけどねえ・・・・・ま、今となっては如何でもいいか)

フーケは、眠ろうと思って目を閉じるが、すぐにぱちりと開いた。

フーケが投獄された監獄の上の階から、誰かが降りてくる足音がする。

フーケはベッドから身を起こした。

鉄格子の向こうに、長身の黒マントを纏った人物が現れた。

白い仮面に覆われて顔が見えないが、マントの中から長い魔法の杖が突き出ていることから、どうやらメイジのようだ。

フーケは鼻を鳴らした。

「おや!こんな夜更けにお客さんなんて、珍しいわね」

その人物は鉄格子の向こうに立ったまま、フーケを値踏みするかのように黙りこくっている。

フーケは、その人物が口封じのために自分を始末しに来た刺客だと当たりをつけた。

「おあいにく。見ての通り、ここには客人をもてなすような気の利いたものはございませんの。でもまあ、茶のみ話をしにきたって顔じゃありませんわね」

すると、男が口を開いた。

「『土くれ』だな?」

「誰がつけたか知らないけど、確かにそう呼ばれているわ」

男は両手を広げて、敵意のないことを示した。

「話をしにきた」

「話?」

怪訝な声で、フーケは言った。

「弁護でもしてくれるっていうの?物好きね」

「何なら弁護してやってもかまわんが。マチルダ・オブ・サウスゴータ」

フーケの顔が蒼白になった。

その名は、かつて捨てた、いや、捨てることを強いられた貴族の名であった。

「あんた、何者?」

震える声でフーケは尋ねた。

男はその問いには答えずに、笑って言った。

「再びアルビオンに仕える気はないかね?マチルダ」

「まさか!父を殺し、家名を奪った王家に仕える気なんかさらさらないわ!」

フーケは、いつもの冷たい態度をかなぐり捨てて怒鳴った。

「勘違いするな。何もアルビオンの王家に仕えろと言っているわけではない。アルビオンの王家は倒れる。近いうちにね」

「如何いう事?」

「革命さ。無能な王家はつぶれる。そして、我々有能な貴族が政を行なうのだ」

「でも、アンタはトリステインの貴族じゃないの。アルビオンの革命とやらと、何の関係があるっていうの?」

「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々に国境はない。ハルケギニアは我々の手で一つとなり、始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を取り戻すのだ」

「バカ言っちゃいけないわ」

フーケは薄ら笑いを浮かべた。

「で、その国境を越えた貴族の連盟とやらが、このこそ泥に何の用?」

「我々は優秀なメイジが1人でも多く欲しい。協力してくれないかね?『土くれ』よ」

「夢の絵は、寝てから描くものよ」

フーケは手を振った。

「私は貴族が嫌いだし、ハルケギニアの統一なんかにゃ興味がないわ。おまけに『聖地』を取り返すだって?エルフに喧嘩売るなんて真っ平ゴメンだね」

「なに、心配することはない。我々には『漆黒の竜人』がついている」

「『漆黒の竜人』?」

「これ以上は、我々の仲間にしか話せない。そして、『土くれ』よ。お前は選択することができる」

男は、腰に下げた長柄の杖に手をかけた。

「言ってごらん」

フーケが促す。

「我々の同志となるか・・・・・・・・」

あとをフーケが引き取った。

「ここで死ぬか、でしょ?」

「その通りだ。我々の事を知ったからには、生かしてはおけんからな」

「ほんとに、あんたら貴族ってやつは、困った連中だわ。他人の都合なんか考えないんだからね」

フーケは笑った。

「つまり選択じゃない。強制でしょ?」

男も笑った。

「そうだ」

「だったらはっきり味方になれって言いなさいな。命令も出来ない男は嫌いだわ」

「我々と一緒に来い」

フーケは腕を組むと尋ねた。

「あんたらの貴族の連盟とやらは、なんていうのかしら?」

「味方になるのか?ならないのか?どっちなんだ」

「これから旗を振る組織の名前は、先に聞いておきたいのよ」

男はポケットから鍵を取り出し、鉄格子についた錠前に差し込んで言った。

「レコン・キスタ」






次回予告


アイナとシルフィードに迫られる日々を送る拓也。

だが、使い魔品評会を当日になって告げられる。

出し物に悩む、拓也と才人。

2人が決めた選択とは?

そして、その夜、ルイズの部屋を訪れた人物とは?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第九話 使い魔品評会と王女の依頼

今、異世界の物語が進化する。




あとがき

第八話完成。

でも今回はしみじみ思った。

イメージどおりに表現できない!

自分の文才の無さが恨めしい!

と。

ストーリーの流れはともかく、思ったとおりの表現が上手くできてないと感じてます。

読み返しても、何処か物足りないと感じるんですけど、何処を付け足せばいいのかわかりません。

申し訳ない。

もっと精進です。

まあ、今回を振り返りますと、シルフィードとアイナがいきなり告ってます。

これは、皆さん如何思うでしょうか?

とりあえず、ルイズと違って素直な設定の2人(1人と1匹)なので、一応ストレートにいきました。

んで、地下水が拓也の手に。

他の二次小説でも、度々見かけておりますが、この小説でもそれに習ってみました。

出番は少なくなりそうですが・・・・・・

さて、最後のほうに出た『漆黒の竜人』という言葉。

わかる人は一発でしょう。

それでは、次回も頑張ります。



[4371] 第九話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/11/22 17:35
アイナとシルフィードに告白された拓也。

しかし、更に難題が拓也達の身に降りかかる。


第九話 使い魔品評会と王女の依頼


フーケの騒ぎから一週間後。

拓也は精神的に疲れ果てていた。

何故ならば、

「タクヤ、新しい料理に挑戦してみたの。食べて」

「タクヤさま、そんなことよりお出かけしましょ。きゅい」

など、アイナとイルククゥに迫られる毎日だからだ。

拓也自身としては、可愛い子2人に言い寄られるのは悪い気はしないのだが、2人が揃ったときにかもし出す険悪なムードには耐えられなかった。

そんなある朝。

「ごめんタクヤ」

いきなりアイナが謝ってきた。

「どうした?」

拓也が聞き返すと、

「今日、使い魔品評会があるんだった」

そう言うアイナ。

「使い魔品評会?」

「うん。毎年恒例の行事で、生徒たちが召喚した使い魔を学院中にお披露目するの」

そう言われ、自分がアイナの使い魔だったことを思い出した拓也は、

「つまり、俺がお披露目されるってか?」

「そう。あと、使い魔が何かを披露するって言うおまけ付き」

「・・・・休めないのか?」

何も考えていない拓也は、そう言う。

「2年生は、全員参加なの」

望みはあっさりと打ち砕かれた。

「そんなこと言われてもな」

拓也は頭を掻きながら考える。

「品評会は午後からだから、それまでに何でもいいから考えてくれないかな」

「まあ、善処はするけど」

2人は朝食のために廊下に出る。

すると、丁度、才人とルイズが部屋から出てきた。

「おはようルイズ」

「おはようアイナ・・・・」

ルイズはなんだか元気がない。

「如何したの?」

アイナは尋ねる。

「使い魔品評会の事、すっかり忘れててさ」

ルイズはそう答える。

「ルイズも?」

「私もってことは、もしかしてアイナも?」

「うん・・・・」

お互いに気落ちする。

「ともかく、お昼までに何か考えないと」

「うん」

ルイズとアイナがそう話をしている間、拓也と才人は、

「おはようございます才人さん」

「拓也、おはようさん」

互いに挨拶を交わす。

「才人さんも使い魔品評会で悩んでるみたいですね」

「拓也・・・・お前もか・・・・・」

「ええ。ですけど、才人さんの顔を見たら、一つ思いつきました」

「奇遇だな。俺もお前の顔を見たら一つ思いついたぞ」

互いにニヤリと笑い、

「考えてることは一緒みたいだな」

「そうですね。でも、これは何も思いつかなかった時の話という事で」

「だな。つっても、その可能性になる確率が高いんだけどよ」

そう言って、互いに笑いあった。

「そういや、デルフの旦那は元気っスか?」

地下水が話し出した。

才人がデルフリンガーを鞘から抜く。

「おう。オメーその話し方も板についてきたじゃねーか」

デルフリンガーが地下水に話しかけた。

「酷いっスよね。初めて会うなり『オメー俺と話し方似てるからかえろ』だなんて」

「年長者の言うことは聞くもんだぜ」

「だからって言ってることが無茶苦茶っス」

この2人(?)は何だかんだで結構上手くやってる模様である。



授業の時間。

拓也は、地下水を貰ってから、魔法の授業をしっかり聞くようにしている。

今回の授業の教師は、ギトーと呼ばれる男だった。

そのギトーだが、長い黒髪に、漆黒のマントを纏ったその姿は不気味で、冷たい雰囲気も相まって生徒たちからは人気が無い。

「では、授業を始める。知っての通り、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」

教室中が、シーンとした雰囲気に包まれた。

その様子を満足げに見つめ、ギトーは言葉を続けた。

「最強の系統は知っているかね?ミス・ツェルプストー」

「『虚無』じゃないんですか?」

「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いてるんだ」

いちいち引っ掛かる言い方をするギトーに、キュルケはちょっとかちんときた。

「『火』に決まっていますわ。ミスタ・ギトー」

キュルケは不敵な笑みを浮かべて言い放った。

「ほほう。どうしてそう思うね?」

「全てを燃やしつくせるのは、炎と情熱。そうじゃございませんこと?」

「残念ながらそうではない」

ギトーは腰に差した杖を引き抜くと、言い放った。

「試しに、この私に君の得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ」

キュルケはぎょっとした。

「どうしたね?きみは確か、『火』の系統が得意ではなかったのかな?」

挑発するような、ギトーの言葉だった。

「火傷じゃすみませんわよ?」

キュルケは目を細めて言った。

「かまわん。本気で来たまえ。その、有名なツェルプストー家の赤毛が飾りではないのならね」

キュルケの顔から、いつもの小ばかにしたような笑みが消えた。

胸の谷間から杖を抜くと、炎のような赤毛がぶわっと熱したようにざわめき、逆立った。

杖を振ると、目の前に差し出した右手の上に、小さな火の玉が現れる。

キュルケが更に呪文を詠唱すると、その玉は次第に膨れ上がり、直径1メイルほどの大きさにもなった。

生徒たちが慌てて机の下に隠れる。

キュルケは手首を回転させたあと、右手を胸元に引き付け、炎の玉を押し出した。

唸りを上げて自分目掛けて飛んでくる炎の玉を避ける仕草も見せずに、ギトーは腰に差した杖を引き抜き、そのまま剣を振るようにしてなぎ払う。

烈風が舞い上がり、一瞬にして炎の玉は掻き消え、その向こうにいたキュルケを吹っ飛ばした。

悠然として、ギトーは言い放った。

「諸君、『風』が最強たる所以を教えよう。簡単だ。『風』は全てを薙ぎ払う。『火』も、『水』も、『土』も、『風』の前では立つことすら出来ない。残念ながら試したことは無いが、『虚無』さえ吹き飛ばすだろう。それが『風』だ」

キュルケは立ち上がると、不満そうに両手を広げた。

気にした風もなく、ギトーは続ける。

「目に見えぬ『風』は、見えずとも諸君らを守る盾となり、必要とあらば敵を吹き飛ばす矛となるだろう。そしてもう一つ、『風』が最強たる所以は・・・・「アホらし」なんだと?」

言葉を続けようとしていたギトーが、聞こえた声に反応した。

ギトーが声が聞えた方に視線を向けると、椅子の背もたれにもたれかかり、完全に話を聞く気が失せた拓也の姿があった。

「貴様、今なんと言った?」

ギトーは平静を装い言った。

「アホらしいと言いました」

拓也ははっきりと言った。

実はこのギトー、フーケの騒ぎの時に、拓也に責任を擦り付けようとしていた教師の1人であり、その事を思い出した拓也は、いい気分ではなかった。

「どういうつもりだ!?」

ギトーの声が少し荒くなる。

「自分の系統自慢を聞かされてるだけじゃ、全く勉強にならないって事です」

その言葉には嫌味っ気がたっぷりと含まれていた。

「なんだと!?」

「そりゃそうでしょう。属性に強弱があるわけないじゃないですか。相性はありますけどね。属性は色みたいなもんでしょ」

「もう一度言うが、『風』は全てを吹き飛ばすのだ」
拓也は一度溜息をつく。

「蝋燭の火に息を吹きかければ消えますが、焚き火に息を吹きかければ燃え上がるでしょう?」

「フン!そんなもの更に強い『風』なら・・・・」

「じゃあ、その風で山火事が消せますか?」

「む・・・」

「結局はそういう事です。正面からぶつかれば、力が強いほうが勝つ。さっきのやり取りを見てると、明らかに貴方の魔法の方が力が強かった」

「むう・・・」

ギトーの口数が少なくなる。

「もう一つ言っておきますと、大の大人が女子生徒相手に威張るなんて、かっこ悪いにもほどがありますよ」

その言葉に怒ってか、恥じてか、ギトーの顔が真っ赤に染まる。

その時、教室の扉がガラッと開き、緊張した面持ちのコルベールが現れた。

そのコルベールは、頭に大きな、ロールした金髪のカツラを乗せている。

見ると、ローブの胸にはレースの飾りやら、刺繍やらが躍っている。

「ミスタ?」

ギトーが眉をひそめた。

「あやややや、ミスタ・ギトー!失礼しますぞ!」

「授業中です」

コルベールを睨んで、ギトーが短く言った。

「おっほん。今日の授業は全て中止であります!」

コルベールは重々しい調子で告げた。

教室中から歓声があがる。

その歓声を抑えるように両手を振りながら、コルベールは言葉を続けた。

「えー、皆さんにお知らせですぞ」

もったいぶった調子で、コルベールはのけぞった。

その拍子に頭に乗せたカツラがとれて、床に落っこちた。

教室がくすくす笑いに包まれる。

「滑りやすい」

一番前に座ったタバサが、コルベールの禿げた頭を指差してぽつんと呟いた。

教室が爆笑に包まれた。

キュルケが笑いながらタバサの肩をぽんぽんと叩いて言った。

「あなた、たまに口を開くと、言うわね」

コルベールは顔を真っ赤にすると、大きな声で怒鳴った。

「黙りなさい!ええい!黙りなさいこわっぱどもが!大口を開けて下品に笑うとは全く貴族にあるまじき行い!貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ!これでは王室に教育の成果が疑われる!」

とりあえずその剣幕に、教室中が大人しくなった。

「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、よき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります」

コルベールは横を向くと、後ろ手に手を組んだ。

「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます。そして、本日行なわれる、使い魔品評会をご覧になられることになりました」

教室がざわめいた。

「したがって、粗相があってはいけません。急なことですが、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行ないます。そのために本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列すること」

生徒たちは、緊張した面持ちになると一斉に頷いた。

コルベールはうんうんと重々しげに頷くと、目を見張って怒鳴った。

「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ!御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい!よろしいですかな!」





魔法学院の正門をくぐって、王女の一行が現れると、整列した生徒たちは一斉に杖を掲げた。

正門をくぐった先に、本塔の玄関があった。

そこに立ち、王女の一行を迎えるのは、学院長のオスマンであった。

馬車が止まると、召使たちが駆け寄り、馬車の扉まで緋毛氈のじゅうたんを敷き詰めた。

呼び出しの衛士が、緊張した声で、王女の登場を告げる。

「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおな―――――り―――――――ッ!!」

最初に現れたのは枢機卿のマザリーニ。

そして、マザリーニは馬車の横に立つと、続いて降りてくるアンリエッタ王女の手を取った。

生徒の間から歓声があがる。

「あれがトリステインの王女?ふん、あたしの方が美人じゃない。そう思わない?」

キュルケがつまらなそうに呟き、タバサに問いかける。

「さあ」

タバサは本を読んだまま、そう答えた。

アイナはただ、ぼうっとアンリエッタを見ていた。

「どうした?」

気になった拓也が尋ねる。

「え?ううん、なんでもない。ただ、なんとなく懐かしい気がしただけ」

「懐かしい?あのお姫さんと会ったことあるのか?」

「会ったことはないはずだけど・・・・・」

「気のせいじゃないのか?」

「うん・・・・そうかもしれない」

アイナは考えるのをやめ、成り行きを見守った。





「只今より、本年度の使い魔お披露目をとりおこないます」

司会役のコルベールが宣言する。

観客の生徒が沸き立つ。

キュルケのサラマンダーが火を吹く。

モンモランシーのカエルがバイオリンの演奏に合わせて芸を披露する。

マリコルヌのフクロウが旗を加えて空を飛ぶ。

その度に歓声が上がる。

なかでも、一際どよめきが大きかったのは、やはりタバサのシルフィードだった。

因みに、拓也と才人の出番は一番最後。

予め、コルベールに頼んでおいた。

何故ならば・・・・・・

「では、最後になりますのは、ミス・ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールとミス・アイナ・ファイル・ド・シンフォニア。このお2人は同時に披露するとのことです」

その瞬間、

――ガキィン

金属がぶつかり合う音が上空から響いた。

コルベールが驚いて上を見上げると、デルフリンガーで斬りかかる才人と、それを手甲で受け止めるアグニモンの姿があった。

2人はお互いを弾き合うと、ステージの上に着地する。

軽いどよめきが観衆から聞えた。

才人は、素早い動きでアグニモンに接近。

縦、横、縦の三連撃を繰り出す。

だが、アグニモンはその全てを防ぐ。

アグニモンは中段回し蹴りを放つ。

才人は飛び退くことでそれを回避、ステージ中央へ着地する。

続けてアグニモンは跳び上がり、空中から拳を振り下ろす。

才人は更に飛び退く。

アグニモンの拳はそのままステージの床に当たり、

――ドゴォ

ステージの床を粉々に砕いた。

観客から驚きの声が上がる。

才人は、その隙に斬りかかったが、アグニモンも一旦下がる。

才人はそれを追撃し、アグニモンの着地を狙って斬りかかるが、一瞬早く、アグニモンが跳んで避ける。

その時の才人の一閃が、ステージの後ろの幕を支える支柱を切り裂いた。

切り裂かれた支柱がゆっくりと前に倒れてくるが、アグニモンが跳び蹴りで弾き飛ばす。

その時に蹴りが当たったところは、粉々に砕けていた。

そして、弾き飛ばされた支柱がステージ後方の地面に落下したとき、才人はアグニモンの首筋に剣を当てており、アグニモンは拳を才人の顔の前に寸止めしていた。

少しした後、お互いが構えを解き、2人揃って一礼する。

そして、控えのテントに戻っていった。

「い、以上・・・ゼロのルイズと灯のアイナでした・・・・・」

コルベールは呆然としながらも、何とか司会を務める。

観客たちは、見るも無残なステージに言葉を失っていた。

そのステージを、30秒足らずの手合わせで破壊した2人の使い魔に声が出なかった。

そのあと、

「やり過ぎよアンタ等ぁぁぁぁぁ!!」

――ドゴォン

と、控えのテントで爆発が起きたのは余談である。(才人は大ダメージで虫の息。アグニモンは小ダメージで問題なし)



結果を言えば、1位になったのはタバサのシルフィード。

戦闘力はともかく、総合的に見て、シルフィードが一番よかったらしい。




その夜。

拓也は風呂上りで廊下を歩いていた。(既に、才人と五右衛門風呂を作ってます)

その時、ルイズの部屋にフードを被った人物が入るのを偶然にも目撃したが、ルイズの知り合いだろう、と、さして気にはしなかった。

拓也はアイナの部屋のドアを開ける。

が、ルイズの部屋のドアにギーシュがはりついたのが見えて、ドアを完全に閉めずに隙間から覗く。

「どうしたの?」

アイナが、部屋の中から歩いてきて、拓也の下から同じように覗く。

ギーシュはルイズの部屋のドアの鍵穴から、中を窺っているようだ。

「何してんだ?ギーシュの奴」

「ルイズの部屋を覗いてるみたいだけど・・・・」

「とりあえず、女子寮でうろついてること自体怪しいな」

暫く様子を見ていたが、ギーシュはルイズの部屋を覗き続けている。

拓也は、地下水を取り出す。

拓也は呪文を唱え、小さな火の玉を作り出した。

それを、ギーシュの頭目掛けて飛ばした。

ギーシュの髪の毛に火がつく。

ギーシュは暫く気付いていなかったが、

「あっちゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

悲鳴を上げて、ルイズの部屋に転がり込んだ。

拓也とアイナは、後を追って、ルイズの部屋を覗いた。

そこには、呆然とするルイズ。

同じく、呆然とした才人。

頭が焦げたギーシュ。

そして、

「ひ、姫殿下!?」

アイナが驚いた口調で言った。

そこには、トリステインの王女であるアンリエッタがいた。

アンリエッタも驚いた顔で2人を見ている。

「何でお姫様がルイズの部屋にいるんだ?」

拓也が疑問を口にする。

「あ、ああ。お姫様はルイズの幼馴染らしいんだ」

気を取り直した才人が言った。

「ふ~ん」

「ところで、コイツは如何したんだ?」

才人がギーシュを指差して言った。

「こんな時間に女子寮で、しかも女子の部屋を覗くという変態行為を行なっていたので、現行犯で火あぶりの刑に」

「なるほど」

才人は納得する。

「そんな説明で納得しないでくれ!」

ギーシュが飛び起きて叫ぶ。

「やかましい!」

才人が拳を振るい、再びギーシュが沈黙する。

更に才人はギーシュを踏みつけると、

「で、どうします?今の話を聞くと、こいつ、お姫様の話を立ち聞きしやがりましたけど。とりあえず、縛り首にしますか?」

才人はアンリエッタにそう尋ねるが、アンリエッタはアイナをじっと見つめていた。

「ひ、姫殿下?どうかしましたか?」

視線に耐え切れなくなったアイナはそう問う。

「失礼ですが、貴女のお名前をお聞かせ願いますか?」

アンリエッタにそう言われ、

「ア、 アイナです。アイナ・ファイル・ド・シンフォニアと申します」

アイナがそう言うと、アンリエッタは少し考え込む仕草をして、

「ルイズ。もしかして、このアイナは・・・・・・」

アンリエッタがルイズに確認するように問いかける。

「あ、はい。姫様が思っている通りのアイナです」

ルイズはそう答えた。

それを聞くと、アンリエッタは顔を輝かせ、

「まあ!やっぱりアイナだったのね!懐かしいわ。すっかり大きくなって!」

アンリエッタはアイナに抱きつく。

「えっ?えっ?えっ?」

訳の分からないアイナは混乱する。

「あ、あのっ、姫殿下?姫殿下は、私をご存知なのですか?」

アイナは何とかそう問う。

そう言うと、アンリエッタはニッコリと笑い、

「ええ、知っているわ。とは言っても、貴女は小さかったから覚えていないでしょうけど」

そう言った。

そこへ、

「あの~、お取り込み中すいません。コイツどうしましょう?」

才人が口を挟んだ。

才人はギーシュを踏みつけたままである。

アンリエッタは、はっとして、

「そうね・・・・・先程の話を聞かれたのは、まずいわね・・・・・・・」

ギーシュは才人の隙をついて立ち上がった。

「姫殿下!その困難な任務是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せ付けますよう」

「え?貴方が?」

「お前は寝てろ」

才人は足を引っ掛けた。

ギーシュは派手に転ぶ。

「僕も仲間に入れてくれ!」

倒れたまま、ギーシュは喚いた。

「どうしてだよ?」

才人はギーシュに問いかけると、ギーシュの顔が赤く染まる。

「姫殿下のお役に立ちたいのです・・・・・・」

才人はそんなギーシュの様子を見て感づいた。

「お前、もしかして惚れやがったな?お姫様に!」

「失礼なことを言うもんじゃない。僕は、ただただ、姫殿下のお役に立ちたいだけだ」

しかし、そう言いながらも、ギーシュは激しく顔を赤らめている。

「お前、彼女がいただろうが。なんだっけ?あの、モンモンだか・・・・・・・」

「モンモランシーだ」

「どうしたんだよ?」

ギーシュは無言になった。

才人はなるほど、と思った。

「お前、フラれたな?さては、完璧にフラれやがったな?」

「う、うるさい!君の所為だぞ!」

食堂での香水の一件で二股がばれ、ギーシュはモンモランシーにワインを頭からかけられたのであった。

「グラモン?あの、グラモン元帥の?」

アンリエッタがきょとんとした顔でギーシュを見つめた。

「息子でございます。姫殿下」

ギーシュは立ち上がると恭しく一礼した。

「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」

「任務の一員に加えてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」

熱っぽいギーシュの口調に、アンリエッタは微笑んだ。

「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、貴方もその血を受け継いでいるようね。ではお願いしますわ。この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」

「姫殿下が僕の名前を呼んでくださった!姫殿下が!トリステインの可憐な花、薔薇の微笑みの君がこの僕に微笑んでくださった!」

ギーシュは感動の余り、後ろにのけぞって失神した。

「大丈夫かこいつ?」

才人がギーシュをつつく。

「任務って、何のことですか?」

拓也が才人に尋ねた。

「ああ、それはな・・・・・・」

才人が大雑把に説明する。

「・・・・ってわけだ」

「はあ。要するに、ゲルマニアとの政略結婚を妨害できるような内容の手紙が、アルビオンの王子様が持っている。で、そのアルビオンは王党派と貴族派に分かれて戦争中。しかも王子様がいる王党派は敗北寸前。貴族派にその手紙が渡るとゲルマニアとの同盟が白紙になって、小国のトリステインは一国でアルビオンと対峙しなければならなくなる。それを防ぐために、王子様に会いに戦争中のアルビオンに行って手紙を回収して来いと?」

「そういうこった」

拓也の言葉に才人が頷く。

「遠回しに、死ねっていってるようなもんじゃないですか!?」

「まあ・・・・な」

拓也の文句に才人が同意を示す。

「ちょっと、人聞きの悪い言い方は止めなさいよ。これは、トリステインの未来を左右する重要な、しかも、姫様直々の名誉ある任務なのよ!」

ルイズがそう言う。

だが、

「そんな重要な任務を学院の生徒にやらせること自体が間違ってると思うけど」

拓也はそう反発する。

「仕方ないじゃない!これは、姫様が本当に信頼されている者にしか頼めない任務なの!そして、姫様は信頼されている者として私を選んでくださった。これはとても光栄なことだわ!」

「ルイズは光栄かもしれないけど、ルイズのことだから、才人さんも連れてくんだろ?」

「当然じゃない。サイトは私の使い魔なのよ」

ルイズはそんなの当たり前といった表情で答える。

「何でも、使い魔使い魔って。前にも言ったけど、勝手に召喚して、そっちの都合でこき使われて、挙げ句の果てに死地へ赴けだ?ふざけてるとしか言いようがないぞ」

「な、何よ?王族直々の依頼なら、命を懸けて任務を遂行するのが当然よ!」

「・・・・お前たちは簡単に命を懸けるとか言ってるけどな。命の重みをちゃんと理解してるのか!?」

「ッ!?」

拓也の剣幕にたじろぐルイズ。

「命にもう一度は無いんだ!失った命はもう戻らない!王族でも!貴族でも!平民でも!命は一つしかない!それを分かってるのか!?」

「そ・・・・それは・・・・・・」

ルイズは何も言えない。

アンリエッタも何も言えなかった。

「世界には沢山の人がいる。けど、どんなに人がいたって、全く同じ人間は一人もいない。俺も、才人さんも、アイナも、ルイズも、他のどんな人達も。世界には一人しかいないんだ!どんな人にも代わりはいない!」

拓也は言い切った。

アンリエッタは泣き崩れる。

「分かっていたのです!分かっていながら、国を救うために友を犠牲にする選択を私は選んでしまったのです!」

顔を手で覆いながら、アンリエッタは言った。

「大を救うために小を犠牲にする。その選択が正しいものでは無いと分かっていました。ですが、その選択しか、私には残されていなかったのです!」

「姫様・・・・」

アンリエッタの本心にルイズは悲しい顔をする。

「もう一つ言わせてくれ」

「え?」

「選択肢が無いなら作り出せ!道が無いなら切り拓け!」

「な、何を?」

拓也の言葉に、アンリエッタは困惑する。

「お姫様は自分で考えたのか?今まで教えられてきた選択肢の中から選ぼうとしただけじゃないのか?」

「それは・・・・・・・・」

アンリエッタは答えられない。

「選べる選択肢がなかったら、自分で新しく作り出せばいい。自分が納得する選択肢をな」

「そんなこと・・・・・犠牲を出さずに手紙を回収できれば、どれだけ良いか・・・・」

アンリエッタの望みは決まっていた。

だが、これは単なる理想に過ぎない。

そんなことは不可能に近い。

「最初から諦めてたら絶対に出来ない。だったら、俺がその選択肢を選ばせてやる!」

「え?」

「誰一人犠牲を出さずに、手紙を回収する。それがお姫様の望む選択肢なんだろ?」

「そ、それはそうですが・・・・」

「なら、俺が皆を守る!才人さんも、ルイズも、ギーシュも俺が守る!無理矢理でも守ってやる!」

拓也の言葉に全員が呆気に取られる。

「それは・・・・貴方も任務に参加するということですか?貴方のような子供が?」

アンリエッタが尋ねる。

「あ、そういえば言ってませんでしたね。俺はアイナの使い魔です」

「アイナの使い魔?アイナの使い魔は、赤い鎧を着た亜人ではなかったのですか?」

「あれは俺です。俺はあの姿に進化・・・・変身できるんです」

「それは本当ですか?」

アンリエッタはアイナを見て問う。

「はい」

アイナは頷いて答える。

「タクヤの強さは、並のスクウェアメイジを凌ぐと断言できます」

アイナは続けてそう言う。

「・・・・・・ならば、わたくしのお友達を・・・・ルイズ達を守っていただけますか?」

アンリエッタは拓也を見て言った。

「仲間を守り、そして俺自身も生き残る。それが俺の誓いです」

それが拓也の答えだった。

その時、

「タクヤ、私も行くよ」

アイナがそう行った。

「え?アイナ?」

驚いた表情で聞き返す拓也。

「恋人を置いていくの?」

爆弾発言をかますアイナ。

「「「ええっ!?」」」

才人、ルイズ、アンリエッタが驚く。

「ちょっと待て!いつ俺が恋人になった!?」

拓也は慌てて否定するが、

「違うの?」

潤んだ瞳で上目遣いに拓也を見るアイナ。

「うぐっ・・・・」

言葉に詰まる拓也。

先程までのシリアスな雰囲気は既に消え去った。

(ここで、認めたら、イルククゥに殺されるだろうが!)

その後もアイナの追及を受けるが、何とか逃げ切る。

ルイズはアンリエッタからウェールズ皇太子宛の手紙と『水のルビー』を受け取り、明日の朝出発となった。




翌日。

朝もやの中、拓也、アイナ、才人、ルイズ、ギーシュは、校門前にいた。

そこで、ギーシュが口を開く。

「あの、君たち」

全員がギーシュの方を向く。

「アルビオンへ行くって事は、ラ・ロシェールへ向かうんだろ?じゃあ、何で馬を用意しないんだい?まさか、歩いていく心算じゃないだろうね?」

ルイズは一瞬怪訝な顔をしたが、ギーシュは何も知らないことを思い出し、

「そういえば、アンタは知らなかったわね」

そう言う。

「タクヤ、お願い」

「分かった」

アイナに頼まれ、拓也はデジヴァイスを構える。

「スピリット!エボリューション!!」

ビーストスピリットを使い進化する。

「うあああああああああっ!!」

拓也は叫び声を上げ、デジコードの中でスピリットを纏っていく。

「ヴリトラモン!!」

ヴリトラモンに進化した拓也にギーシュは口をあんぐり開けて固まる。

「じゃあ、背中に乗ってくれ」

ヴリトラモンはそんなギーシュを気にせず、姿勢を低くして、皆に乗るように言う。

「お~い、何時まで固まってるんだギーシュ。置いてくぞ」

才人がギーシュに声をかける。

「あ、ああ。全く驚かされるね。・・・・と、そうだ、お願いがあるんだが・・・・・」

「あんだよ」

才人が聞き返す。

「僕の使い魔を連れて行きたいんだ」

「使い魔なんていたのか?」

「失敬な。いるに決まっているだろう。第一、昨日の品評会にも出てたじゃないか」

「出てたの?」

才人とルイズは顔を見合わせた。

それから、ギーシュの方を向いた。

「連れてきゃいいじゃねえか。っていうか何処にいるんだよ」

「ここ」

ギーシュは地面を指差した。

「いないじゃないの」

ルイズがすました顔で言った。

ギーシュはにやっと笑うと、足で地面を叩いた。

すると、大きなモグラが顔を出した。

ギーシュはそのモグラに抱きつく。

「ヴェルダンテ!ああ!僕の可愛いヴェルダンテ!」

才人は心底呆れた声で言った。

「なにそれ?」

「なにそれ、などと言ってもらっては困る。大いに困る。僕の可愛い使い魔のヴェルダンテだ」

「アンタの使い魔ってジャイアントモールだったの?」

「そうだ。ああ、ヴェルダンテ、君は何時見ても可愛いね。困ってしまうね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」

モグモグモグ、と嬉しそうに巨大モグラが鼻をひくつかせる。

「そうか!そりゃよかった!」

ギーシュは巨大モグラに頬を擦り寄せている。

「お前、実は言うほどモテないだろ?」

才人は呆れた声で言った。

「ねえ、ギーシュ。ダメよ。その生き物、地面の中を進んでいくんでしょう?」

「そうだ。ヴェルダンテはなにせ、モグラだからな」

「そんなの連れて行けないわよ。私達、竜で行くのよ」

ルイズは困ったように言った。

「結構、地面を掘って進むの速いんだぜ?なあ、ヴェルダンテ」

巨大モグラはうんうんと頷く。

「私達、これからアルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物を連れて行くなんて、ダメよ」

ルイズがそう言うと、ギーシュは地面に膝をついた。

「お別れなんて、つらい、つらすぎるよ・・・・・・・・ヴェルダンテ・・・・・」

その時、巨大モグラが鼻をひくつかせた。

くんかくんかと、ルイズに擦り寄る。

「な、なによこのモグラ」

「主人に似て女好きなんかな」

才人が言う。

「ちょ、ちょっと!」

巨大モグラはいきなりルイズを押し倒すと、鼻で体をまさぐりだした。

「や!ちょっと何処触ってるのよ!」

ルイズは体をモグラの鼻でつつきまわされ、地面をのたうち回る。

「いやぁ、巨大モグラと戯れる美少女ってのは、ある意味官能的だな」

「その通りだな」

才人とギーシュは、腕を組んで頷きあった。

「そんなことより、早く助けてあげたほうが・・・・」

アイナが苦笑しながら言った。

巨大モグラは、ルイズの右手の薬指に光るルビーを見つけると、そこに鼻を擦り寄せた。

「この!無礼なモグラね!姫様に頂いた指輪に鼻をくっつけないで!」

ギーシュが頷きながら呟いた。

「なるほど、指輪か。ヴェルダンテは宝石が大好きだからね」

「嫌なモグラだな」

「嫌とか言わないでくれたまえ。ヴェルダンテは貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけてきてくれるんだ。『土』系統のメイジの僕にとって、この上も無い、素敵な協力者さ」

そんな時、一陣の風が舞い上がり、ルイズに抱きつくモグラを吹き飛ばした。

「誰だッ!!」

ギーシュが激昂してわめいた。

朝もやの中から羽帽子を被った、1人の長身の貴族が現れた。

「貴様、僕のヴェルダンテに何をするんだ!」

ギーシュは薔薇の造花を掲げた。

だが、一瞬早く、羽帽子の貴族が杖を引き抜き、薔薇の造花を吹き飛ばす。

「僕は敵じゃない。姫殿下より、君たちに同行することを命じられてね。君たちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたって訳だ」

長身の貴族は帽子を取ると一礼した。

「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」

文句を言おうと口を開きかけたギーシュは相手が悪いと知ってうなだれた。

魔法衛士隊は、全貴族の憧れである。

ギーシュも例外ではない。

ワルドはそんなギーシュの様子を見て首を振った。

「すまない。婚約者がモグラに襲われているのを見て見ぬ振りは出来なくてね」

「「「え?」」」

才人、ギーシュ、ヴリトラモンの驚きの声が重なる。

「ワルド様・・・・」

立ち上がったルイズが、震える声で言った。

「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」

その言葉に、才人は口をあんぐりと開けた。

ワルドは人懐っこい笑みを浮かべると、ルイズに駆け寄り、抱え上げた。

「お久しぶりでございます」

ルイズは頬を染めて、ワルドに抱きかかえられている。

「相変わらず軽いな君は!まるで羽のようだね!」

「・・・・お恥ずかしいですわ」

「彼らを、紹介してくれたまえ。ああ、アイナは知っているからいいよ」

一応、アイナとワルドは面識があるらしい。

ワルドはルイズを地面に下ろすと、再び帽子を目深に被って言った。

「あ、あの・・・・ギーシュ・ド・グラモンと使い魔のサイトです」

ルイズは交互に指差して言った。

拓也は現在ヴリトラモンに進化しているため、如何紹介をして良いか分からず省かれたようだ。

才人はつまらなそうに頭を下げた。

「君がルイズの使い魔かい?人とは思わなかったな」

ワルドは気さくな感じで才人に近寄った。

「僕の婚約者がお世話になっているよ」

「そりゃどうも」

才人はワルドを観察するように見ていたが、勝てるところが一個も見当たらずため息をついた。

才人のそんな様子を見て、ワルドはにっこりと笑うと、ぽんぽんと肩を叩いた。

「どうした?もしかして、アルビオンに行くのが怖いのかい?なあに!何も怖いことなんてあるもんか。君はあの『土くれ』のフーケを捕まえたのだろう?その勇気があれば、なんだってできるさ!」

そう言って、ワルドは豪傑笑いをする。

だが、ヴリトラモンはそんなワルドを怪訝な目で見ていた。

(何だ?今の言葉。何かがおかしい?)

ヴリトラモンは今の言葉に違和感を覚えたが、それが何か分からなかった。

(気のせいか?)

結局分からなかったので、気にしないことにした。

ワルドが口笛を吹くと、朝もやの中からグリフォンが現れた。

鷲の頭と上半身に、獅子の下半身がついた幻獣である。

立派な羽も生えている。

ワルドはひらりとグリフォンに跨ると、ルイズに手招きした。

「おいで、ルイズ」

ルイズは、ちょっと躊躇うようにして、俯いた。

ルイズは暫くモジモジしていたが、ワルドに抱きかかえられ、グリフォンに跨った。

才人、アイナ、ギーシュはヴリトラモンの背に乗る。

ワルドは手綱を握り、杖を掲げて叫んだ。

「では、諸君!出撃だ!」

グリフォンが羽ばたき、空へ舞い上がる。

ヴリトラモンもその後を追った。




港町ラ・ロシェールはトリステインから離れること早馬で2日、アルビオンへの玄関口である。

そのラ・ロシェールの一角にある居酒屋で、フーケが傭兵を雇っていた。

その傭兵たちは、王党派に雇われていたのだが、敗北することを悟り、一目散に逃げてきたのだ。

フーケの傍にはフーケを脱獄させた白仮面の貴族がいた。

その男は傭兵たちに言う。

「金は言い値を払う。でも、俺は甘っちょろい王様じゃない逃げたら殺す」

それを聞いた後、フーケは一旦居酒屋から出る。

「やれやれ、あの赤毛のお嬢ちゃんも来るなんて聞いてないよ。だとすれば、当然あの使い魔もいるって事だから・・・・・・はあ。あの程度の傭兵を雇ったって、時間稼ぎになるかどうかすら怪しいよ」

フーケは、呟きながら裏路地を歩いていく。

「強い傭兵をお探しかい?」

突如、そんな声がフーケに聞えてきた。

フーケが顔を上げると、目の前には大きな影があった。




一行は順調に進んでいた。

ヴリトラモンはスピードタイプではないにしろ、グリフォン如きに遅れはとらない。

と、言うより遅すぎる位だ。

日が沈んだ頃、ラ・ロシェールの町が見えてきた。

「そろそろ町の入り口だ。高度を下げよう」

ワルドがそう言い、グリフォンを降下させる。

ヴリトラモンもその後を追い降下する。

「なんで港町なのに山なんだよ」

ヴリトラモンの背に乗っていた才人が言うと、ギーシュが呆れたように言った。

「君はアルビオンを知らないのか?」

「知るか」

「まさか!」

ギーシュは笑ったが、才人は笑わない。

「ここの常識を、俺の常識と思ってもらっちゃ困る」

(確かにな)

才人の言葉に、ヴリトラモンが心の中で同意する。

グリフォンとヴリトラモンは峡谷の間を進んでいた。

「ん?」

ヴリトラモンが崖の上に気配を感じた。

そして、その直後、松明が何本も投げ込まれ峡谷を照らす。

「掴まってろ!」

ヴリトラモンが叫んだ瞬間、何本もの矢が夜風を切り裂いて飛んでくる。

「うおおおおっ!!」

ヴリトラモンが翼を大きく羽ばたかせる。

その時に巻き起こる風圧で矢を全て弾き飛ばした。

「大丈夫か!?」

ワルドの声が聞えてくる。

グリフォンの方はワルドが風の魔法で守ったようだ。

「大丈夫だ!」

ヴリトラモンが叫ぶ。

全員は崖の上を見たが、今度は矢は飛んでこない。

すると、一人の男が高らかに叫んだ。

「は―――っはははは!!個人的な恨みは無いが、お前たちの身包み!剥がさせて貰うぜぇ!!」

「・・・・・着ぐるみ?」

襲撃者の言葉に、アイナが首をかしげる。

男はズッコケそうになるが、気を取り直し、

「違うわい!!身包みだ身包み!!分かりやすく言えば、持ってるものを全部置いてけって言ってるんだよ!」

怒鳴りながらも律儀に意味を教える襲撃者。

ヴリトラモンは少し黙り込む。

「ん?どうした拓也?」

それに気付いた才人が声をかける。

「いや、少し既視感が・・・・・」

そんな事を言うヴリトラモン。

「全く、これだから貴族のお嬢様はぁぁぁああああ!?」

男が言葉を続けようとした時、男達が竜巻に吹き飛ばされた。

「おや、『風』の呪文じゃないか」

ワルドが呟いた。

崖の上の男たちが転がり落ちてきて、地面に体を打ちつけ、うめき声を上げた。

すると、空から見慣れた幻獣が姿をみせた。

ルイズが驚いた声を上げる。

「シルフィード!」

それは、タバサの使い魔シルフィードだった。

地面に降りると、キュルケがぴょんと飛び降りた。

「お待たせ」

ルイズがグリフォンから飛び降りて、キュルケに怒鳴った。

「お待たせじゃないわよッ!何しに来たのよ!」

2人が言い合うなか、シルフィードは、

「きゅいきゅい(ヴリトラモンさま~)」

ヴリトラモンに頭を擦り付けていた。

シルフィードは竜形態で甘えられることはめったに無いので、ここぞとばかりにヴリトラモンに甘えていた。

「シ、シルフィード・・・・・」

ヴリトラモンは少し焦る。

そんな時、

「あっはっは!なんだい君。もしかして、シルフィードに好かれているのかい?これは傑作だ!お似合いじゃないか!」

ギーシュが空気を読まずに大笑いする。

その時、

「ギーシュ・・・・・・」

大笑いするギーシュに、アイナが絶対零度の言葉で呟く。

アイナから立ち上る黒いオーラに、ギーシュの笑いが止まり、変わって冷や汗がだらだらと流れていた。

「な、なんだいアイナ?」

「冗談でも次にそんなこと言ったら、問答無用で灰にするから」

その言葉は冗談でもなんでもなく、本当と書いてマジと読むぐらいに本気だった。

その言葉にギーシュは声を失う。

アイナはシルフィードに視線を向ける。

アイナの目が語る。

(何でいるのよ、このアーパー韻竜!)

シルフィードの目が語る。

(抜け駆けは許さないのね!)

アイナとシルフィードの視線が交差し、中央で火花が散ったように見えた。



何故2人と1匹がここにいるのかを要約すると、まず、朝の出発をシルフィードが目撃。

すぐにタバサを叩き起こして、着替えを急かす。

丁度着替え終わったときに、同じく朝の出発を目撃していたキュルケが乱入。

そのまま、便乗して後をつけてきた、という事らしい。



ラ・ロシェールで一番上等な宿、『女神の杵』亭に泊まることにした一行は、一階の酒場でくつろいでいた。

そこに、『桟橋』へ乗船の交渉に行っていたワルドとルイズが帰ってきた。

ワルドは店に着くと、困ったように言った。

「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」

「急ぎの任務なのに・・・・・」

ルイズは唇を尖らせている。

「あたしはアルビオンに言ったことがないからわかんないけど、どうして明日は船が出ないの?」

キュルケの方を向いて、ワルドが答えた。

「明日の夜は月が重なるだろう?『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最も、ラ・ロシェールに近付く」

「ふ~ん」

キュルケは相槌をうった。

「さて、じゃあ、今日はもう寝よう。部屋を取った」

ワルドは鍵束を机の上に置いた。

「4つ部屋を取った。そして、僕とルイズが同室だ。残りは君たちで好きにしたまえ」

才人はぎょっとして、ワルドの方を向いた。

「婚約者だからな。当然だろう?」

「そんな、ダメよ!まだ私達結婚してるわけじゃないじゃない!」

才人は頷いた。

しかし、ワルドは首を振って、ルイズを見つめた。

「大事な話があるんだ。2人きりで話がしたい」

結局ワルドに押し切られ、ルイズとワルドの同室が決まった。

そして、残りの部屋は、才人とギーシュ、キュルケとタバサ、拓也とアイナという部屋割りとなった。

拓也とアイナは毎日一緒の部屋だから大丈夫だろうという意見で決まった。

ふと、ワルドが立ち上がる。

「すまない。少し夜風に当たってくるよ。ルイズ、先に部屋で待っててくれ」

そう言って、ワルドが宿から出て行った。



人通りの少なくなった町を歩くワルド。

そこに、

「ワルド・・・・」

ワルドの名を呼ぶ声が聞えた。

建物の影に誰かがいた。

「おや、ブラック。君も来ていたのか」

ワルドに声をかけた者は、建物の影に隠れてハッキリとは見えない。

ワルドにブラックとよばれたそれは、長身のワルドより、更に一回りか二回りほど大きく、月の僅かな光に照らされ、黒い鎧のようなものを纏っていることがわかった。

「何を企んでいる?」

「フフフ・・・・戦争というものはただ敵を倒せば良いというものではない。ゆえにこんな所で暴れるのはやめてくれたまえ」

「わかっている。弱い奴と戦ってもつまらんだけだ。だが、俺はお前たちの統一とやらにも、目的にも興味はない。俺が求めるのはただ、強き者との戦いのみ。お前たちに手を貸すのは強い奴と戦える可能性が高いからだ。それを忘れるな」

「我々と共にいれば、強敵と戦えることを約束しよう。君は先にアルビオンに行っておいてくれたまえ。私も明後日の朝にアルビオンに行く予定だ」

ワルドがそう言うと、ブラックと呼ばれた影は空中に飛び上がると、猛スピードで夜空に消えた。

「フ・・・彼がいれば、負けることは有り得んな」

ワルドは怪しい笑みを浮かべ宿に戻っていった。






次回予告


アルビオンに向かう船を待つため、ラ・ロシェールの町で一日を過ごす一行。

ワルドとの決闘に敗北し、落ち込む才人。

だが、その夜、傭兵たちの襲撃を受ける。

一行は無事アルビオンに迎えるのか!?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第十話 風のアルビオン

今、異世界の物語が進化する。




あとがき

第九話です。

やりたいこと詰め込んだら言葉のつながりに違和感ありまくりですかね?

とりあえず、ギトーのやり取り。

始めはスルーして、拓也に心の中で「アホらし」と呟くだけの予定でしたが、書いていくうちに、妙にムカついてきて、言葉で言い負かすことに。

本当なら、アグニモンかアイナで燃やしたかったところですけど、流石にそこまでやると色々問題になると思ったので。

次に品評会。

結局、皆様の意見にもあったアグニモンVS才人となりました。

ただ、戦うだけではつまらないので、ステージ破壊しときました。

アニメで見る限りは、恐らく木製だと思ったので。

アンリエッタの依頼。

ちょっと言葉が纏まってないかな。

依頼を受ける拓也の言葉も、結構矛盾してる気がしないでもないですが。

それは、自分の未熟さです。

申し訳ありません。

そして、フーケに話しかけた謎の影。

コイツは次回出てきます。

自分の思いつきで出演決定です。

誰なのかは・・・・・・今回の話の中にヒントがあります。

最後にワルドに話しかけた奴。

アイツです。

分かってるかと思いますが、まだ秘密です。

言葉遣いが少しおかしいかな?

話の組み立ても滅茶苦茶だし。

ごめんなさい。

では、次も頑張ります。





[4371] 第十話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/11/29 14:53
ラ・ロシェールで一日の足止めをくった一行。

その一日で、何が起こるのか。


第十話 風のアルビオン


ラ・ロシェールに到着した翌日。

拓也は宿の部屋のベッドで目を覚ます。

「くあ・・・・・・ん?」

目を覚ました視界の下のほうに、青い何かが見えた。

「何だ?」

拓也は視線を下に移す。

そこには、

「イ・・・・イイイ、イルククゥ?」

イルククゥが拓也のベッドに潜り込んで寝ていた。

それも裸で。

「のわあぁぁぁぁぁぁっ!!」

拓也はベッドから転がり落ち、更に壁ぶつかるまで後ずさる。

その悲鳴で、アイナが飛び起きた。

「な、何!?何があったの!?」

「あわわわわわ・・・・・・」

飛び起きたアイナが、壁際の拓也を見つけたとき、拓也は口をパクパクさせて自分が寝ていたベッドを指差していた。

「何?」

アイナが首を回して、拓也が寝ていたベッドに視線を向けたとき、

「きゅい~、うるさいのね~・・・・・」

イルククゥが目を擦りながら、起き上がった。

「な、ななななななな・・・・・・」

今度はアイナが口をパクパクさせている。

「イルククゥ!何やってるの!?」

「きゅい~?一緒に寝ただねなのね~」

イルククゥは寝ぼけ目を擦ってそう言った。

「何で拓也のベッドに潜り込んでるの!?」

「ぐっすり眠れるからなのね~」

イルククゥは寝ぼけ顔のままそう言う。

だが、アイナは気付いた。

イルククゥの口元がニヤリと笑ったことに。

――ブチッ

と、聞えるはずの無い音がした。



その朝、『女神の杵』亭の一部屋が業火に見舞われた。

目撃者の証言では、炎が起こる前に、青いドラゴンがその部屋の窓から離れるのが見えたとか。



その夜。

才人はベランダで月を眺めていた。

そして、激しく落ち込んでいた。

理由は、朝にワルドから立ち合いを申し込まれ、鼻っ面を折ってやろうと申し出を受けた。

だが、結果は才人の完敗。

手も足も出せずに負けた。

極め付けに、「君ではルイズを守れない」と言われ、激しく落ち込んだ。

更に2つの月が重なり、1つに見えているので、地球の月を思い出させ、才人はホームシックにかかっていた。

「才人さん、何してるんですか?」

才人の隣に拓也が並ぶ。

「・・・・・・・・・」

才人は何も答えない。

「ワルドに負けたことを気にしてるんですか?」

ピクッと才人が反応した。

「俺から見ても、あのワルドは相当な実力を持ってます。恐らく何度も実戦を潜り抜けているでしょう」

「何が言いたいんだよ!?」

才人は機嫌の悪さから、声が荒んでしまう。

「対して、才人さんは実戦と言える実戦は、ギーシュの決闘とフーケの騒ぎの2回だけ。それどころか、剣を握って1ヶ月も経ってないんですよ。そんな素人が、達人に敵うわけないじゃないですか」

「そんなことは分かってる。アイツにも言われたよ。『君ではルイズを守れない』ってな。確かに、俺は弱い」

拓也はその言葉に少し怪訝な顔をした後、

「ちょっと違いますね」

才人の言ったことを拓也は否定する。

「何が違うんだよ?」

「才人さんは弱いんじゃありません。“まだ”弱いだけです」

「はあ?」

「俺と才人さんは似たような境遇です。俺はスピリットを受け継ぎ、才人さんはガンダールヴとなった。元は同じ素人です。俺だって、最初は今ほど強くありませんでした」

「・・・・・・・・」

才人は黙って拓也の話を聞く。

「同じ敵に何度も敗北したこともあります。けど、俺達は諦めませんでした。・・・・・・才人さん。才人さんは一度負けたぐらいで立ち止まってしまうんですか?」

「・・・・・俺は・・・・」

才人は俯く。

「別に才人さんに無理をしろと言っているわけではありません。ただ、後悔の無い選択をしてください」

拓也はそれだけ言うと、中へ戻っていった。

入れ違うようにルイズが才人の方へ向かった。

その途中、拓也は思う。

(才人さんを追い詰めるような言動。最初に会ったときの違和感。そして、ヴリトラモンと俺を見たときの反応の少なさ。昨日、アイナに話しておいて正解だったな。そして、何かあるとすれば今夜・・・・・)

そう思ったとき、一階の酒場で悲鳴が聞えた。

「チッ!思った傍から!!」

拓也は駆け出した。



一階では、大勢の傭兵がアイナ達を襲っていた。

アイナ、ギーシュ、キュルケ、タバサ、ワルドが魔法で応戦しているが、多勢に無勢、どうやら、ラ・ロシェール中の傭兵が束になってかかってきているらしく、手に負えないようだ。

拓也は滑り込むように皆の元に行くと、全員が怪我もないことを確認し、安心した。

少しすると、才人とルイズも上から降りてきて、外にフーケがいることを伝えてきた。

「参ったね」

ワルドの言葉に、キュルケが頷く。

「やっぱり、この前の連中はただの物盗りじゃなかったわね」

「あのフーケがいるって事は、アルビオンの貴族が後ろにいるという事だな」

キュルケが、杖をいじりながら呟いた。

「・・・・・・やつらは、ちびちびと魔法を使わせて、精神力が切れたところを見計らい、一斉に突撃してくるわよ。そしたら、どうすんの?」

「僕のゴーレムで防いでやる」

ギーシュがちょっと青ざめながら言った。

キュルケは、淡々と戦力を分析しながら言った。

「ギーシュ、アンタの『ワルキューレ』じゃあ、一個小隊ぐらいが関の山ね。相手は手誰の傭兵達よ」

「やってみなくちゃわからない」

「あのねギーシュ。あたしは戦のことなら、あなたよりちょっとばっか専門なの」

「僕はグラモン元帥の息子だぞ。卑しき傭兵如きに後れをとってなるものか」

「ったく、トリステインの貴族は口だけは勇ましいんだから。だから戦に弱いのよ」

ギーシュは立ち上がって、呪文を唱えようとした。

ワルドがシャツの裾を引っ張って、それを制した。

「いいか諸君」

ワルドは低い声で言った。

「このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ、成功とされる」

こんなときでも優雅に本をひろげていたタバサが本を閉じて、ワルドの方を向いた。

自分と、キュルケと、ギーシュを杖で指して「囮」と呟いた。

それからタバサは、残りの人物を指して「桟橋へ」と呟いた。

「時間は?」

ワルドがタバサに尋ねた。

「今す「ちょっと待ってくれ」」

タバサが答えようとした時、拓也が口を挟んだ。

全員が拓也の方を向く。

「その戦力分断が相手の狙いかもしれないだろ?だから、分かれる戦力は最低限のほうが良い」

「君の意見は?」

拓也の言葉にワルドが尋ねる。

「ここは、俺1人で受け持つ」

拓也は言った。

「何言ってるんだよ!?拓也!」

才人が反発する。

「相手はメイジ相手に手馴れてるんでしょ?だったらメイジじゃない方が隙を突ける。それに、本当にやばくなったら逃げればいいだけだし」

「それは・・・そうだけど・・・・アイナは心配じゃないのか?」

拓也に好意を寄せるアイナが何も言わないことが気になり、才人がアイナに尋ねる。

「・・・・心配だけど・・・・拓也は大丈夫って信じてるから」

アイナは無理に笑顔を作りそう言った。

「それに、正確には俺1人じゃありませんし」

そう言って、拓也は地下水を取り出す。

「頼むぜ地下水」

「任せてくださいっス!」

地下水の返事を聞き、拓也は地下水を傭兵の集団目掛けて投げつけた。

が、当然当たるわけもなく、地下水はカラカラと床に転がった。

それを見た1人の傭兵が、

「へえ~、中々良さそうな短剣じゃねえか」

そう言って、地下水を拾おうとして、地下水の柄を握った瞬間、ビクンと一瞬震えた。

そして、ゆっくり立ち上がると、風の魔法で傭兵の集団を薙ぎ払った。

地下水が傭兵の体を乗っ取ったのだ。

「今だ!」

拓也が叫びデジヴァイスを構える。

「スピリット!エボリューション!!」

拓也はデジコードに包まれ進化する。

「アグニモン!」

進化するとアグニモンは傭兵たちに向かって、

「バーニング!サラマンダー!!」

必殺技を放つ。

直撃させないようにしたものの、辺りは炎に包まれ、傭兵たちは大混乱に陥る。

「今だ!行け!!」

アグニモンが叫ぶ。

「諸君!行くぞ!迷ってる暇は無い!」

ワルドが全員を促す。

「拓也!死ぬんじゃねえぞ!」

才人が、

「あ、ありがとう・・・・・」

ルイズが、

「君の勇気に感謝するよ」

ギーシュが、

「タクヤ、やばくなったらちゃんと逃げなさいよ」

キュルケが、

それぞれが言葉を残し、裏口へ向かう。

タバサはアグニモンに近付くと、

「シルフィードを置いて行く。今の時期のアルビオンならシルフィードでも行ける」

そう呟く。

「わかった。ありがとう」

アグニモンは微笑み、礼を言う。

タバサも裏口へ向かう。

そして、

「タクヤ・・・・」

アイナが心配そうに見つめる。

「アイナ・・・・・気をつけろよ」

アグニモンの言葉には、裏の意味も込められていたが、アイナはそれをちゃんと理解し、コクリと頷く。

アイナも裏口へ向かった。

全員が行ったのを見届けると、アグニモンは視線を戻す。

「さてと、先ずは、フーケをどうにかしないとな」

因みに傭兵たちは、地下水の魔法とアグニモンの炎で相当な打撃を受けていた。




巨大ゴーレムの肩の上、仮面の男が舌打ちする。

突撃を命じた一隊が、炎や風に巻かれて大騒ぎとなっている。

「予定が狂ったな。せめて半数近くは分断させたかったのだが・・・・まあ、奴が残っただけでも良しとしておこう」

「寧ろ、あの使い魔相手に、どれだけ粘れるかが問題だね」

「なんだと?」

フーケの言葉に仮面の男が聞き返す。

「言っとくけど、アタシのゴーレムなんか、あの使い魔相手じゃ1分で倒されちまうよ」

「ぐぬっ!・・・・何としてでも船が出るまで時間を稼げ!」

仮面の男はそう言うと、闇夜にまぎれる。

「やれやれ・・・・言うだけ言って消えるなんて無責任だねえ・・・・でも、一応助けられた恩はあるからねえ。あいつらが来るまで時間を稼がせてもらうよ!」

フーケはゴーレムを操り、アグニモンへ攻撃を仕掛ける。

「チッ!」

アグニモンは飛び退く。

――ドゴォォォン

という音と共に、拳が地面に叩き付けられた。

岩で出来ているゴーレムは、前の土ゴーレムより破壊力は上だった。

「フーケ!!」

アグニモンが叫ぶ。

「久しぶりだね使い魔君!あの時の借りを、変えさせてもらうよ!」

フーケが叫びながら、ゴーレムの拳を繰り出す。

「おっと」

アグニモンは跳んで避ける。

アグニモンは建物の屋根に着地すると、

「無駄だフーケ!お前じゃ俺は倒せない」

そう言い放った。

「俺は無駄な争いはしたくない。今退くなら、追いはしない」

アグニモンは、フーケに後退を促す。

「そうしたいのは山々なんだけどね。こっちにも色々と事情があるのさ!」

フーケはそう言って、更に攻撃を仕掛ける。

「くそ、簡単には退いてくれないか・・・・地下水!」

アグニモンは地下水に呼びかける。

「了解っス!」

地下水は返事をすると、風の魔法で土煙を巻き起こし、アグニモンの姿を隠す。

「くっ!見えない!・・・・・なら!」

フーケはアグニモンの姿を見失い、狙いが付けれなくなると、ゴーレムの腕を薙ぎ払うように横に振った。

その風圧で土煙が吹き飛ばされる。

だが、既にアグニモンの姿はそこになかった。

「なっ!?何処に!?」

フーケがアグニモンの姿を探そうとした時には既に遅かった。

「そこは、危ないっスよ」

地下水は再び風の魔法を使いフーケを吹き飛ばす。

「うわっ!?」

フーケは、ゴーレムの上から吹き飛ばされる。

その瞬間、

――ドゴォォォォォォォォォン

上から降ってきた炎の竜巻がゴーレムを縦に貫き、粉々に破壊した。

「なっ!?」

レビテーションで何とか無事に着地したフーケは驚愕する。

「まだやるか?」

炎の中から現れたアグニモンがそう言う。

「そうだね・・・・・私の打つ手は、もう無いさ」

フーケは、あっさりと諦めた言葉を言う。

だが、その顔には余裕があった。

「ようやく本命のご到着さ!」

その瞬間、

「ジャッジメントアロー!!」

その言葉と共に、巨大な矢が飛んできた。

「何!?」

アグニモンは咄嗟に避ける。

――ズシャ

その矢は地面に深く食い込んだ。

明らかに人間が放てる矢の威力ではない。

――ドドドドドドド

町の通りを、砂煙を上げながら何かの大群が疾走してくる。

それは、

「姐御、遅くなりやした!」

「いいや!丁度いいタイミングだよ」

フーケに声をかけたのは、先頭を駆けていた、下半身が獣、上半身が人の姿をしていた。

そして、左腕が弓と同化している。

『それ』が引き連れていた大群も、上半身は人型だが、下半身は馬だった。

更に、そいつらは、アグニモンも見覚えがあり、

「「ああっ!!お前(テメェ)は!?」」

相手と同時に叫んだ。

「サジタリモン!?」

「あん時のガキ!?」

そう、相手はデジタルワールドで拓也達に盗賊行為をしようとしたサジタリモンと、ケンタルモン軍団だった。

「なんだい?知ってんのかい?」

「おうよ!俺達はあいつらに苦渋を舐めさせられたんだ!だが!ここで会ったが百年目!今度こそ、“着ぐるみ”剥がさせて貰うぜ!!」

サジタリモンは、気合をいれてそう叫ぶが、

「「「・・・・・・・・・・」」」

一瞬の沈黙。

そして、

「「「だから、それを言うなら“身包み”だって・・・・・」」」

アグニモン、地下水、フーケが同時に突っ込む。

「うるせーーー!!!そんなこと分かってるんだよ!!」

サジタリモンは誤魔化す為に叫ぶ。

「野郎共!あん時の屈辱、倍にして返してやりな!!」

「「「おおおっ!!」」」

サジタリモンの号令にケンタルモンが叫び声を上げ、突撃していく。

「地下水!お前は下がってろ!人間に敵う相手じゃない!」

突撃してくるケンタルモンに対して、アグニモンは両拳を合わせる。

手の甲から炎が発し、両腕に巻きつくように広がり、肘までを炎で包む。

「バーニング!サラマンダー!!」

放たれる灼熱の炎。

ケンタルモンが数体まとめて吹っ飛ぶ。

「バカヤロウ!正面からじゃ不利だ!奴を囲んで、袋叩きにしちまえ!!」

サジタリモンの指示が飛び、ケンタルモンはそれに従い、アグニモンの周りを囲う。

そして、ケンタルモン達の右腕が変化し、砲身となる。

「ハンティングキャノン!!」

次々と放たれるエネルギー弾。

「ぐうっ!」

アグニモンはガードするが、数が多いため、数発まともに喰らってしまう。

「手を休めるな!そのまま押し切れ!!」

サジタリモンは叫び、言われたとおり、攻撃を続行するケンタルモン。

爆発に巻き込まれていくアグニモン。

それに伴い、爆煙に包まれていく。

「ははは!やるじゃないか!口だけかと思ってたのに、これは中々」

「オウよ!金の分はもちろん、俺達の仕返しも含めて、それ以上働いてやらあ!」

調子に乗るフーケとサジタリモン。

だがその時、爆煙の中からアグニモンが跳び上がる。

「馬鹿め!空中では避けられまい!野郎共!狙い撃て!!」

ケンタルモンたちは空中に跳び上がったアグニモンに狙いを定める。

だが、

「アグニモン!」

アグニモンが叫び、アグニモンがデジコードに包まれる。

「スライドエボリューション!」

アグニモンは使用スピリットを、ヒューマンタイプからビーストタイプへ移行する。

アグニモンの姿がヴリトラモンへ変わっていく。

「ヴリトラモン!!」

デジコードが消えたとき、アグニモンはヴリトラモンへと姿を変えていた。

「なにぃ!?」

サジタリモンが驚きで、声を上げる。

ヴリトラモンは、放たれたハンティングキャノンを避ける。

腕のルードリー・タルパナが回転し、銃口が前を向く。

「コロナブラスター!!」

ヴリトラモンはコロナブラスターを空中から連射し、ケンタルモン達を怯ませる。

その隙に、サジタリモンの目の前に降り立った。

「あ・・・・・・・・・」

サジタリモンは固まり、冷や汗を流していた。

ヴリトラモンは右拳を握り締める。

そして、振りかぶった。

「おらあっ!!」

ヴリトラモンの渾身の一撃がサジタリモンの顔面に突き刺さる。

「ぐえっ!!」

そして、はるか彼方へ殴り飛ばされていく。

「また一撃かよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

その一言を残して。

「お、親分がやられた!に、逃げろ!!」

サジタリモンがやられたことで、ケンタルモンは逃げていく。

その場にはフーケだけが取り残された。

「まだやるか?」

ヴリトラモンは、フーケに問いかける。

「まさか。あいつらのお陰で時間も稼げたし、アタシの役目は終わりさ」

フーケがそう言った時、上空を船が通り過ぎていった。

フーケは踵を返し、立ち去ろうとする。

だが、一度立ち止まると、

「アルビオンへ行くなら急いだほうがいいよ。敵はアルビオンにいる貴族派だけじゃないからね」

それだけ言って姿を消す。

ヴリトラモンは拓也に戻り、一息つく。

「あ、しまった。サジタリモンにどうやってこの世界に来たか聞いとけばよかった」

拓也はそう口に出したが、既にケンタルモンたちも地平の彼方。

流石に追いつけそうに無い。

「ふう。ま、いっか。地下水」

「はいっス」

地下水が本体を手渡しする。

操っていた傭兵は、気を失った。

「ナイス援護だったぞ」

「どうもっス」

「きゅいきゅい~(タクヤさま~)」

その時、上空からシルフィードが降りてくる。

「シルフィード」

「きゅいきゅい。きゅいきゅいきゅい?(タクヤさま。アルビオンへは何時行くのね?)」

と、その時、拓也の足元の地面がもこもこと盛り上がり、

「ん?」

「きゅい?」

「なんスか?」

ぼこっと、何かが顔を出した。




アイナ達を乗せた船は、翌日の朝にはアルビオンに接近していた。

才人達がアルビオン大陸を見上げる中、アイナだけは逆方向、つまり、ラ・ロシェールの方角を見ていた。

その顔は、不安そうに見える。

それに気付いたキュルケが声をかける。

「どうしたのアイナ?やっぱりタクヤが心配?大丈夫よ。彼が負けるところなんて想像できないわ」

キュルケがそう言うと、

「うん・・・・・実は戦いに関してはあんまり心配してないんだ。私も、タクヤが傭兵やフーケに負けるとは思ってないから。・・・・・・むしろ、シルフィードがタクヤに何かしないかの方が心配ね」

「あははは・・・・・」

最後の台詞の時に黒いオーラを滲ませたアイナに、キュルケは乾いた笑いを洩らす。

「それよりも・・・・・私が不安にしてるのは・・・・・・」

アイナがボソッと呟く。

「え?何?」

聞き取れなかったキュルケは尋ねるが、

「あ!ううん、なんでもない」

そう言ってアイナは話をはぐらかす。

「何を悩んでるのか知らないけど、ほら、見て見なさい。絶景よ!」

キュルケはアルビオン大陸を指差して言う。

アルビオン大陸の大河から溢れた水が、空に落ち込んでいる。

その際、白い霧となって、大陸の下半分を包んでいた。

正に『白の国』と呼ばれるに相応しい絶景であった。

その時、鐘楼に登った見張りの船員が、大声を上げた。

「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!!」

アイナ達が乗る船より一回り大きい船が一隻近付いてくる。

舷側に開いた穴からは大砲が突き出ている。

「へえ、大砲なんかあるんか」

才人はとぼけた声で感想を漏らした。

ルイズが眉をひそめた。

「いやだわ。反乱勢・・・・・・、貴族派の軍艦かしら」


後甲板で、ワルドと並んで操船の指揮を取っていた船長は、見張りが指差した方角を見上げた。

黒くタールが塗られた船体は、まさに戦う船を思わせた。

こちらに、ぴたりと20数個も並んだ砲門を向けている。

「アルビオンの貴族派か?お前たちのために荷を運んでいる船だと、教えてやれ」

見張り員は、船長の指示通りに手旗を振った。

しかし、黒い船からは何の返信も無い。

副長が駆け寄ってきて、青ざめた顔で船長に告げた。

「あの船は旗を掲げておりません!」

船長の顔も、みるみるうちに青ざめる。

「してみると、く、空賊か!?」

「間違いありません!内乱の混乱に乗じて、活動が活発になっていると聞き及びますから・・・・・・・」

「逃げろ!取り舵いっぱい!!」

船長は船を空賊から遠ざけようとした。

しかし、時既に遅し。

黒船は併走し始めていた。

脅しの一発をアイナ達が乗り込んだ船の針路めがけて放った。

ぼごん!と鈍い音がして、砲弾が雲の彼方へ消えていく。

黒船のマストに、四色の旗流信号がするすると登る。

「停船命令です、船長」

船長は苦渋の決断を強いられた。

この船だって武装が無いわけではない。

しかし、移動式の大砲が、三門ばかり甲板に置いてあるに過ぎない。

火力の差は圧倒的だった。

助けを求めるように、隣に立ったワルドを見つめる。

「魔法はこの船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」

ワルドは落ち着き払った声で言った。

船長は口の中で「これで破産だ」と呟くと、命令した。

「裏帆を打て。停船だ」




貴族という事でアイナとルイズ、ワルド、キュルケ、タバサ、ギーシュは空賊に捕らえられてしまう。

才人もおまけで捕まった。

船の積荷だけでなく、アイナ達の身代金でもう一儲けするつもりらしい。

「あ~も~!最悪だわ!何でこんなことに巻き込まれなきゃいけないのよ~!」

キュルケがグチをこぼす。

「アンタが勝手に付いて来たんでしょ!」

2人が喧嘩をしていると、再び船倉のドアが開かれた。

先程運ばれてきた食事の食器を回収にきたのか、空賊が入ってくる。

そして、「お前たちは貴族派か?」という質問をしてきた。

ここで、貴族派と答えれば、無事港へ送ってくれると言っていたが、ルイズは馬鹿正直に王党派への使いと答えた。

才人、キュルケ、ギーシュが騒いだが、空賊は「頭に報告してくる」と言って、部屋を出て行った。

暫くして、アイナ達は、空賊の頭の前に連れて行かれた。

そこで、びっくり。

空賊と思われていたこの船は、実は王党派の船で、空賊の頭を名乗っていた男は、なんと、アルビオンの王子であり任務の目的の人物である、ウェールズ・テューダーだったのだ。

結果的に、ルイズの馬鹿正直が実を結んだ。

ルイズ達は驚きながらも、ウェールズにアンリエッタからの手紙を渡し、目的を伝える。

ウェールズは了承するが、目的の手紙は、ニューカッスル城にあるため、一行はニューカッスル城まで足をはこぶ事となった。



ルイズはウェールズから手紙を受け取り、今は、最後のパーティに全員が出席している。

その中で、アルビオンの王、ジェームズ一世は臣下達に言った。

「諸君、忠勇なる臣下の諸君に告げる。いよいよ明日、このニューカッスルの城に立てこもった我ら王軍に反乱軍『レコン・キスタ』の総攻撃が行なわれる。この無能な王に、諸君らはよく従い、よく戦ってくれた。しかしながら、明日の戦いはこれはもう、戦いではない。恐らく一方的な虐殺となるであろう。朕は忠勇な諸君らが傷つき、斃れるのを見るに忍びない。したがって、朕は諸君らに暇を与える。長年、よくぞこの王に付き従ってくれた。厚く礼を述べるぞ。明日の朝、巡洋艦『イーグル号』が、女子供を乗せてここを離れる。諸君らも、この艦に乗り、この忌まわしき大陸を離れるがよい」

しかし、誰も返事をしない。

1人の貴族が、大声で王に告げた。

「陛下!我らは唯一つの命令をお待ちしております!『全軍前へ!全軍前へ!全軍前へ!』今宵、うまい酒の所為で、些か耳が遠くなっております!はて、それ以外の命令が、耳に届きませぬ!」

その言葉に、集まった全員が頷いた。

「おやおや!今の陛下のお言葉は、なにやら異国の呟きに聞えたぞ?」

「耄碌するには早いですぞ!陛下!」

王は、目頭を拭い、「ばかものどもめ・・・・・」、と短く呟くと、杖を掲げた。

「よかろう!しからば、この王に続くがよい!さて、諸君!今宵はよき日である!重なりし月は、始祖からの祝福の調べである!よく、飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」

辺りは喧騒に包まれた。

そんな様子を見ていたアイナは、ポツリと呟いた。

「・・・・ここにタクヤがいなくて良かったかもしれない・・・」

「如何いう事だい?」

その呟きにギーシュが尋ねる。

「今の言葉・・・・それを聞いたらタクヤはきっと怒ってたと思う」

「そうかしら?確かに勝ち目の無い戦いに赴くなんて、無謀とは思うけど」

「タクヤは・・・・・・何よりも命を大事にしてる。名誉だとか・・・・王族や貴族の義務だとか・・・・そんなことで命を捨てるなんて聞いたら、多分殴りかかってでも止めると思う」

「お、王族に殴りかかるなんてするわけ無いだろう・・・・」

アイナの言葉を聞き、ギーシュは苦笑しながら言った。

「姫殿下には怒鳴りかかってたけど?」

アイナはギーシュにそう答える。

「な!?なんだと!?可憐なる姫殿下に怒鳴りかかるとは不届き千万。次に会ったら成敗してくれる!」

「返り討ちになるのがオチね」

そうまくしたてるギーシュにキュルケが冷静に突っ込んだ。

タバサは相変わらず本を読んでいる。

そんな時、ワルドが話しかけてきた。

「ちょっといいかな?」

「なんでしょうか?」

ワルドは、その場にいるアイナ、ギーシュ、キュルケ、タバサを見回すと言った。

「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」

「え?」

その言葉にアイナは声を漏らし、ギーシュは固まった。

「こんな時に、こんな所でですか?」

キュルケが尋ねる。

「是非とも、僕達の婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。皇太子も快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕達は式を上げる」

アイナは少し考えるような仕草をすると、ワルドに尋ねた。

「その事は、ルイズには言ってあるんですか?」

「いや、まだ言ってはいない。だが、彼女が僕の求婚を断るはずがないだろう?」

アイナは一瞬、怪訝な顔をするが、

「そうですね」

笑顔を作って頷いた。

「それで、君達も出席するかね?」

ワルドが問いかける。

「もちろんです。ルイズは友達ですから」

アイナが答えると、

「わたくしも出席いたしますわ。宿敵の結婚式なんですもの」

キュルケも答えた。

ギーシュは少し考え、

「そうですね・・・・学友のよしみで僕も出席します」

そう答え、

「同じく」

タバサも同意した。

「そうか。分かった。席を用意しておくよ。序に言っておくが、使い魔君は、出席せずに帰るそうだ」

ワルドはそう言って、行ってしまった。

そんなワルドをアイナは見ていた。

(ワルド子爵・・・・・やっぱり貴方は・・・)

そう、心の中で呟きながら。




翌日。

ウェールズ皇太子は礼拝堂にてルイズとワルドが来るのを待っていた。

アイナ、タバサ、キュルケ、ギーシュ以外に他の人間はいない。

皆、戦の準備で忙しいのだ。

礼装に身を包んだウェールズの前に、礼拝堂のドアを開けてワルドとルイズが現れる。

「では、式を始める」

ルイズはうつむいたまま、顔を上げようとしない。

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とする事を誓いますか」

「誓います」

ワルドは重々しくうなずいて、杖を握った左手を胸の前に置いた。

ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移した。

新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール・・・・・・・・」

朗々と誓いのみことのりを読み上げるウェールズ。

だが、ルイズは何かを考えているのか、俯いたままである。

「新婦?」

ウェールズが声をかける。

その言葉に慌てて顔を上げるルイズ。

「緊張しているのかい?仕方が無い。初めての時は事が何であれ緊張するものだからね」

にっこりと笑って、ウェールズは続ける。

「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味が有る。では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして夫と・・・・・・」

だが、ウェールズの言葉の途中、ルイズは首を振った。

「新婦?」

「ルイズ?」

2人が怪訝な顔でルイズの顔を覗き込む。

ルイズはワルドに向き直った。

悲しい表情を浮かべ、再び首を振る。

「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」

「違うの。ごめんなさい・・・・・・」

「日が悪いなら、改めて・・・・・・」

「そうじゃない、そうじゃないの。ごめんなさい、ワルド、私、貴方とは結婚できない」

いきなりの展開に、ウェールズは首をかしげた。

「新婦は、この結婚を望まぬのか?」

「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」

ワルドの顔に、さっと朱がさした。

ウェールズは困ったように、首をかしげ、残念そうにワルドに告げた。

「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」

しかし、ワルドはウェールズに見向きもせずに、ルイズの手を取った。

「・・・・・・緊張しているんだ。 そうだろルイズ。 君が、僕との結婚を拒むわけが無い」

「ごめんなさい。ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。でも、今は違うわ」

するとワルドは、今度はルイズの肩をつかんだ。

その目がつりあがる。

表情が、いつもの優しいものではなく、何処か冷たい、トカゲか何かを思わせるものに変わった。

熱っぽい口調で、ワルドは叫んだ。

「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる!そのために君が必要なんだ!」

豹変したワルドに怯えながら、ルイズは首を振った。

「・・・・・・私、世界なんかいらないもの」

ワルドは両手を広げると、ルイズに詰め寄った。

「僕には君が必要なんだ!君の能力が!君の力が!」

ワルドの剣幕にルイズは恐れをなし、後ずさる。

「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか!君は始祖ブリミルに劣らぬ、優秀なメイジに成長するだろう!君は自分で気付いていないだけだ!その才能に!」

「ワルド、あなた・・・・・」

ルイズの声が、恐怖で震えた。

ルイズに対するワルドの剣幕を見かねたウェールズは、間に入ってとりなそうとした。

「子爵・・・・・・、君はフラれたのだ。 いさぎよく・・・・・・」

が、ワルドはその手を撥ね退ける。

「黙っておれ!」

ウェールズは、ワルドの言葉に驚き、立ち尽くした。

ワルドはルイズの手を握った。

ルイズはまるで蛇に絡みつかれたように感じた。

「ルイズ!君の才能が僕には必要なんだ!」

「私は、そんな、才能のあるメイジじゃないわ」

「だから何度も言っている!自分で気付いていないだけだよルイズ!」

ルイズはワルドの手を振りほどこうとした。

しかし、物凄い力で握られているために、振りほどくことが出来ない。

苦痛に顔をゆがめて、ルイズは言った。

「そんな結婚、死んでも嫌よ。あなた、私をちっとも愛してないじゃない。分かったわ、あなたが愛しているのは、あなたが私にあるという、在りもしない魔法の才能だけ。ひどいわ。そんな理由で結婚しようだなんて。こんな侮辱はないわ!」

ルイズは暴れた。

ウェールズが、ワルドの肩に手を置いて、引き離そうとした。

しかし、今度はワルドに突き飛ばされた。

突き飛ばされたウェールズの顔に赤みが走る。

立ち上がると、杖を抜いた。

「うぬ、何たる無礼!何たる侮辱!子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!さもなくば、我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」

ワルドは、そこでやっとルイズから手を離した。

どこまでも優しい笑顔を浮かべる。

しかしその笑みは嘘に塗り固められていた。

「こうまで僕が言ってもダメかい?ルイズ。僕のルイズ」

ルイズは怒りで震えながら言った。

「嫌よ、誰があなたと結婚なんかするもんですか」

ワルドは天を仰いだ。

「この旅で、君の気持ちをつかむために、随分努力したんだが・・・・・」

両手を広げて、ワルドは首を振った。

「こうなっては仕方ない。ならば目的の1つは諦めよう」

「目的?」

ルイズは首をかしげた。

ワルドは禍々しい笑みを浮かべた。

「そうだ。この旅における僕の目的は3つあった。その2つが達成できただけでも、よしとしなければな」

「達成?2つ?どういうこと?」

ルイズは不安におののきながら、尋ねた。

ワルドは、右手を掲げると、人差し指を立てて見せた。

「先ず1つは君だ。ルイズ。君を手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」

「当たり前じゃないの!」

次にワルドは、中指を立てた。

「2つ目の目的は、ルイズ、君のポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」

ルイズははっとした。

「ワルド、あなた・・・・・」

「そして3つ目・・・・」

ワルドの『アンリエッタの手紙』という言葉で、全てを察したウェールズが、杖を構えて呪文を詠唱した。

しかし、ワルドは二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。

「貴様の命だ!ウェールズ!!」

ワルドは風のように身を翻させ、青白く光るその杖を、ウェールズ目掛け、突き出した。





次回予告


ついに本性を現したワルド。

だが、アイナの奮闘により、互角以上の戦いを繰り広げる。

しかし、ワルドを追い詰めるかと思われたその時、『漆黒の竜人』がその姿を現す。

アイナ達の、そして、ウェールズの運命や如何に!?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

脅威!漆黒の竜人 ブラックウォーグレイモン!!

今、異世界の物語が進化する。




あとがき

祝!第十話です!

いや~、続くもんですね。

更新不定期とか書いておきながら、ほぼ週一更新になってます。

何故か、一話書き上げると一週間経ってるんですよね。

話の長さに関わらず。

さて、今回を振り返りますと、朝っぱらからアイナとイルククゥのひと悶着。

これは、自分がやってみたかった事であります。

序にアイナがキレました。

最初と比べると、やっぱり性格変わってるかな?

次に傭兵&フーケ襲撃。

原作と変えて、拓也が居残り役に。

拓也が船に乗ったら、空賊もどきの王党派の船を落しかねないですからね。

序に地下水にも活躍してもらいました。

敵の体を乗っ取って、アグニモンのサポート役に。

敵から投げられた短剣を戦闘中に拾うのか?

んで、思いつきでサジタリモン、ケンタルモン軍団が参戦。

前回の台詞を引き継いで、ここでも着ぐるみネタを。

傭兵とフーケだけでは、時間稼ぎは不可能と判断しましたので、それなりの強さと手駒が揃ったサジタリモン達に時間稼ぎ&やられ役を。

この世界にいる理由は、後々明らかになる・・・・・・かも?

そのあとは、アイナ達がいること以外、大体原作どおりですかね。

次回はいよいよ奴が出てきます。

そして、ウェールズの生死は。

次回も頑張ります!




[4371] 第十一話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/12/05 19:52
――ラ・ロシェールに到着した日の夜。

拓也とアイナの部屋。

拓也が切り出す。

「アイナ、ちょっと聞いて欲しいことがある」

「え?何?」

アイナは少し期待した顔で聞き返した。

「ワルドのことだ」

拓也は真面目な顔で言った。

「ワルド子爵の?」

アイナの言葉に拓也は頷き、

「ああ。俺の勘だけど、ワルドは敵の可能性がある」

そう言った。

アイナは驚愕し聞き返す。

「そ、そんな!?ワルド子爵は魔法衛士隊の隊長だよ?敵だなんてこと・・・・・・・」

「先ず1つ目、この町に着く前に盗賊に襲われた」

「それがワルド子爵と何の関係があるの?」

「あのワルド言うとおり高度を下げた途端、襲われた」

「で、でも、偶然ってことも」

「ああ。それも考えた。けど、よく考えてくれ。メイジの使い魔の中でも、ドラゴンやグリフォンっていうのは、相当高ランクに位置するんだろ?」

「う、うん」

「それが2体。メイジの実力を見るには使い魔を見ろっていわれてる。とすれば、相当な魔法の使い手が最低でも2人いるってことは、簡単に想像できる」

アイナは頷く。

「じゃあ聞くけど、自分が魔法を使えない盗賊だった場合、そんな高ランクの魔法使いが最低2人いる一行を襲おうと思うか?」

アイナは首を横に振る。

それと同時に拓也が何を言いたいのか理解した。

「さっきの襲撃は、裏で糸を引いてる人物、もしくは組織がいる・・・」

アイナの答えに拓也は頷き、

「そういうこと」

「ワルド子爵が、私達を陥れたってこと?」

「まあ、さっきの襲撃は多分、様子見。それと、ワルド自身をこっちの味方ってことを印象付けるためだと思う」

「で、でも、それをワルド子爵がやったっていう証拠は無いよ」

「ああ。まだ引っ掛かることがあるんだ。アイナはワルドが才人さんに会ったとき、なんて言ったか覚えてるか?」

アイナは記憶を引っ張り出す。

「えっと・・・・確か『君がルイズの使い魔かい?人とは思わなかったな』だったと思うけど・・・・・」

「ああ。で、その後は?」

「うんと・・・・『僕の婚約者がお世話になっているよ』だったかな?」

「悪い。その後だ」

「え~と・・・・『どうした?もしかして、アルビオンに行くのが怖いのかい?なあに!何も怖いことなんてあるもんか。君はあの『土くれ』のフーケを捕まえたのだろう?その勇気があれば、なんだってできるさ!』だったかな」

「そう。何か違和感感じないか?」

「え?」

拓也に言われ、アイナはよく考える。

「確かに・・・・何か引っ掛かる・・・・」

「ああ、最初の言葉で、ルイズの使い魔が人とは知らなかった。それなのに、才人さんがフーケを捕まえたことを知っている」

「でも・・・・それはフーケを尋問したからじゃ・・・・・」

「だったら、ルイズの使い魔が『人とは思わなかった』っていう言動はおかしい。『本当に人とは思わなかった』って言うなら分かるけど。フーケは学院長の秘書をしていたんだ。才人さんがルイズの使い魔だっていうことは把握してたはずだ」

「確かにそうだね」

「そして、最後に、ヴリトラモンと俺自身を見たときの反応が少なすぎる。自分で言うのも難だけど、人が竜になる所を見て驚かない人はいないと思うぞ」

アイナは頷く。

「纏めれば、ワルドは敵で、何か目的があって、同行している。それで、恐らくフーケも味方に付けてるんだろう。何も知らない振りをしようとして、あの矛盾した会話になった。ま、いくら考えても、憶測の域を出ないんだけどな。それなら疑っとけばいい。何も無かったらそれが一番いいんだけどな」

「・・・・タクヤはこれから如何するの?」

「俺が思うに、ワルドから一番厄介だと思われてるのは多分俺だ。このままついていけば、どこかで不意打ちされる可能性も考えられる」

「・・・・・・」

「俺の予想では、多分もう一度襲撃があると思う。その時に俺は別行動をとろうと思う」

「でも、そうなったら、ワルド子爵は誰が抑えるの?」

それを聞き、拓也はアイナを見つめた。

「・・・・・もしかして、私?」

拓也は頷く。

「そんな!無理だよ!私にワルド子爵を抑えるなんて出来ない!」

アイナは叫ぶ。

「アイナ、確かに一人じゃ無理かもしれない。けど、お前には仲間がいる。仲間と力を合わせれば、出来ないことは無いさ」

「仲間・・・・」

「そうだ。俺だって、仲間がいたから最後まで戦えた。仲間がいたから勝ち残ることができたんだ」

「タクヤ・・・・・」

「アイナは『スクウェア』だ。ワルドとはそこまで絶望的な差はないと思う。だから、仲間がいるお前ならきっと勝てる」

拓也の言葉は、嘘でもなんでもなく、本当に信じている声で言った。

「分かった。私、頑張ってみる」

拓也の信頼に応えるように、アイナはしっかりと頷いた。






第十一話 脅威!漆黒の竜人 ブラックウォーグレイモン!!


「貴様の命だ!ウェールズ!!」

青白く光る杖がウェールズに向かって突き出される。

だが、1発の火球がワルドに向かって放たれていた。

「クッ!?」

ワルドは咄嗟に飛び退き、その火球を避ける。

ワルドは視線を火球が飛んできた方に視線を向ける。

そこには、立ち上がり杖を構えたアイナがいた。

「アイナ、君か」

ワルドは呟く。

「ワルド子爵、やっぱり貴方は敵だったんですね」

アイナは少し悲しそうな声で言った。

「そうとも。いかにも僕は、アルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ」

ワルドは冷たい、感情の無い声で言った。

「どうして!?トリステインの貴族である貴方がどうして!?」

ルイズが叫ぶ。

「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々に国境は無い」

ワルドは再び杖を掲げた。

「ハルケギニアは我々の手で一つとなり、始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を取り戻すのだ」

「昔は、昔はそんなふうじゃなかったわ。何が貴方を変えたの?ワルド・・・・・」

「月日と、数奇な運命の巡り会わせだ。それが君の知る僕を変えたが、今ここで語る気にはならぬ。話せば長くなるからな」

ワルドは杖を構える。

「ルイズ!早くこっちへ!!」

アイナがルイズに呼びかける。

「ラ・ヴァリエール嬢、早く」

ウェールズがルイズを支え、アイナの方へ連れて行こうとする。

「させん!」

ワルドが魔法を唱える。

『ウインド・ブレイク』の魔法、風の衝撃波が2人を吹き飛ばさんと襲い掛かる。

だが、

「『ヒート・ウェイブ』!!」

アイナが放った、熱波の衝撃が壁となり、2人を守った。

「何だと!?」

ワルドは驚愕する。

その隙に、ルイズとウェールズは、皆と合流する。

ワルドは向き直る。

「やれやれ、手間をかけさせてくれる」

その顔は既に余裕を浮かべていた。

「アイナ、一つ聞かせてくれないか?君は、僕がウェールズを襲ったときには、既に呪文を完成させていた。『閃光』の二つ名を持つ僕より早くにだ。何処で僕の正体に気がついた?」

余裕の表れか、ワルドはそんな事を聞いてくる。

「・・・・・はっきりと確信したのは、ウェールズ皇太子が突き飛ばされたとき。けど、9割方確信したのは昨日、ルイズと結婚すると聞いたとき」

「ほう・・・・」

「いくらなんでも、ルイズに了承を得ずに、結婚式を挙げようとすること自体おかしい。それ以前にも、不可解な所がいくつかあった」

「なるほど・・・・・少々甘く見すぎていたようだ」

「あと、私に忠告してくれたのはタクヤ。ワルド子爵の不可解な行動に、最初に気付いたのも彼です」

「ふむ・・・・・だが、彼は決定的なミスを犯した」

ワルドは杖を構える。

「・・・・・・・・」

アイナは無言でワルドを見据える。

「それは、この場にいない事だ。目先の危険を回避するために、大局を見逃す。力は有ろうとも、やはり子供だ。愚かな平民だよ。クックック・・・・・」

ワルドは、そう言って笑いを漏らす。

「トライアングルが3人。ラインとドットが1人ずつ。そして、自分の才能にも気付かない役立たずが1人。まあ、少し手間だが、10分で終わらせよう」

「・・・・・・・ワルド子爵、少々訂正させていただきます」

アイナが静かに呟いた。

「タクヤは、間違いなど犯していません。こうなる事も予想していました」

「何?」

「そして、貴方の1番大きな間違いは・・・・・」

アイナは呪文を唱えだした。

「む!?」

ワルドは身構える。

そして、アイナは魔法を放つ。

「『フレイム・アロー』!!」

アイナの周りから炎が巻き起こり、そこから無数の炎の弾丸が尾を引きつつ、流星の如くワルドへ襲い掛かる。

「な!?何だとぉっ!?」

アイナが放ったのは、『火』、『火』、『火』、『風』のスクウェアスペル。

ワルドは驚くが、そこは腐っても魔法衛士隊隊長。

見事な身のこなしで、炎の弾丸を紙一重で避ける。

結局、身体の数箇所を掠めただけに止まった。

だが、ワルドの後ろにあった壁は粉々に破壊されている。

「ば、馬鹿な・・・・今のは確実にスクウェアクラスの魔法。アイナはラインメイジではなかったのか?」

動揺した声でワルドは呟く。

「ちょ・・・・アイナ!い、今のって『フレイム・アロー』よね!?スクウェアスペルよ!何でアイナが使えるの!?」

同じ火系統のキュルケは、アイナが使った魔法に一番驚いている。

アイナは頷き、

「私はスクウェアメイジだから」

そう答える。

「ス、スクウェアって・・・」

「ゴメン。話は後。いくらスクウェアでも、戦いに関しては素人だから、私1人じゃワルド子爵に勝てない」

アイナはワルドから目を離さず、少し焦った調子で言った。

「だから、皆の力が必要なの。お願い、力を貸して!」

その言葉に、タバサは無言で杖を構え、アイナの横に並ぶ。

「仕方ないわねぇ~。ちゃんと後で説明してもらうわよ」

キュルケも同じく、アイナの横に並んだ。

「え?君たち・・・・?」

ギーシュは、今だ状況が把握できていないようで、間抜けな声を漏らす。

「ほら、何ボ~っとしてるのよギーシュ。死にたくなかったら、ワルド子爵を倒すのを手伝いなさい」

キュルケが、ギーシュにそう言う。

「う、うん・・・・」

ギーシュは自信無さげに杖を構える。

「・・・・で、どうするのさ?一応ワルド子爵が裏切り者ってことは分かったけど・・・・仮にも魔法衛士隊の隊長だよ。僕達が敵うのか?」

「出来なきゃ殺されるだけね」

ギーシュの言葉にキュルケが答える。

「ギーシュは『ワルキューレ』で子爵の気を引いて。アイナは子爵からの攻撃を防ぐことに集中。私とキュルケで子爵に攻撃を仕掛ける」

タバサが、それぞれの役割を口にする。

「タバサ・・・」

「来る」

タバサがそう呟いたとき、ワルドが杖を振った。

「『ウインド・ブレイク』!!」

すぐにアイナが呪文を唱える。

「『ヒート・ウェイブ』!!」

風の衝撃波と熱波の衝撃波がぶつかり合い、相殺する。

「ワルキューレ!!」

ギーシュが青銅のゴーレムを錬金し、ワルドに攻撃を仕掛ける。

「クッ!」

ワルドは飛び退く。

だが、着地を狙って竜巻と、炎の渦が襲い掛かる。

タバサとキュルケの魔法だった。

「チィッ!」

ワルドは避けられないと悟ると即座に詠唱する。

「『シールド・ウインド』!」

風の壁が発生し、竜巻と炎をかき消した。

続けてワルドは詠唱する。

「『ライトニング・クラウド』!!」

ワルドの杖から稲妻が走る。

が、それと同時にアイナも詠唱を完成させていた。

「『クリムゾン・ライトニング』!!」

アイナの杖から放たれるのは紅の稲妻。

ワルドの稲妻と、アイナの紅の稲妻がぶつかり合う。

ワルドとアイナの中央で激しい光と轟音が響いている。

その時、アイナの紅の稲妻がワルドの稲妻の隙間を抜け、僅かだがワルドに届く。

「ぐおっ!?」

ワルドの体が少しの間硬直する。

タバサはその隙を見逃さなかった。

予め唱えておいた詠唱を完成させる。

タバサの頭上に氷の槍が作り出される。

「『ジャベリン』!」

氷の槍がワルドに向け放たれた。

硬直中のワルドは動けず、魔法の詠唱も間に合わない。

その場にいた誰もが勝利を確信した。

だが、

――ドゴォン

『何か』が天井を突き破り、ワルドの前に勢いよく着地する。

タバサの放った氷の槍は、その『何か』に阻まれ、ワルドには届かなかった。

「手こずっているようだな、ワルド」

その『何か』が声を発した。





一方、イーグル号の艦上では、舷縁に才人が寄りかかっている。

だが、才人の左目には先程からルイズの視界が映っていた。

ワルドが裏切ったところを見たときは、思わず艦から飛び出していきそうになったが、皆が力を合わせてワルドを追い詰めていった所を見ると、行く気が失せた。

その時、イーグル号が鍾乳洞の中にできた港を離れ始めた。

だが、才人の心の中には、何かが引っ掛かってスッキリしなかった。

先日、拓也から言われた言葉が心に浮かぶ。

『別に才人さんに無理をしろと言っているわけではありません。ただ、後悔の無い選択をしてください』

「後悔の無い選択・・・・・か」

才人は自然と呟く。

(本当に・・・このままでいいのか?)

心の中でもそう呟く。

その時、才人の左目に黒い『何か』が映った。

それを見た瞬間、才人は港があった方に駆け出す。

「相棒!何する気だ!?」

デルフリンガーが才人の突然の行動に叫ぶ。

「ルイズの所に行く!」

才人はハッキリと言った。

「相棒!無茶だ!もう船は港を離れてる!って言うか、もうすぐ下は空の上だぞ!」

デルフリンガーの言うとおり、イーグル号は秘密の出入り口を抜ける寸前だった。

それでも才人は止まらない。

「そんなの知るか!俺は、後悔したくないんだ!!」

才人はデルフリンガーの柄を握る。

ガンダールヴのルーンにより、才人の身体能力が上がる。

才人は、岸壁を登ってでもルイズの所に行くと決心した。

だが、岸壁を登る以前に、船と岸壁まで、20メイルはある。

甲板の高さから、一番下の岸壁まで10メイル程度、いくらなんでも届かない。

「アーイ・・・・・」

だが、

「キャーン・・・・」

才人は、

「フラァァァァァァイッ!!!」

跳んだ。

ガンダールヴを発動させ、才人自身、力の限り跳んだ。

「うおおおおおおっ!!」

だが、空しくも、後5メイル届かない。

才人は必死に手を伸ばすが、岸壁には届かず、空を切る。

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

才人の姿は、下の雲の中に消えた。





ワルドの前に着地した『何か』は、ゆっくりと立ち上がる。

先ず目に付いたのは何処までも黒い、漆黒の身体と、金色の髪。

暗い銀色をした頭部と胸当て。

両腕の肘まで覆う黒い手甲の先に、3本の鍵爪のような剣が付いたドラモンキラー。

それは、見るもの全てを威圧していた。

「ブラック、君か」

ワルドはその黒い存在に声をかける。

「貴様が手こずるとはな。少しは骨があるか?」

それは、アイナたちに向き直った。

「まさか・・・・『漆黒の竜人』か?」

ウェールズが呟く。

「『漆黒の竜人』?」

ルイズが聞き返す。

「ああ。貴族派との戦いの中で、幾度となく我々の前に現れた謎の存在だ。それが現れた戦場では此方の部隊は全て壊滅している」

「そんな・・・・」

ウェールズの言葉に、ルイズが悲痛な表情になる。

「俺の名はブラックウォーグレイモン。さあ、全力で来い!俺を満足させてみろ!!」

その叫びで、更に威圧感が高まる。

ブラックウォーグレイモンが構えた。

反射的にタバサとキュルケが魔法を唱えた。

タバサの竜巻と、キュルケの炎が混ざり合い、炎の竜巻となって、ブラックウォーグレイモンに襲い掛かる。

ブラックウォーグレイモンはその攻撃をまともに受け、炎に包まれる。

「『クリムゾン・ライトニング』!!」

更にアイナが、追い討ちを仕掛けた。

轟音と共に衝撃が走る。

「油断大敵ね。黒い御方」

キュルケは、勝利を信じて疑わなかった。

だが、

「その程度か?」

炎の中から聞えた声。

炎の中から、傷一つ無いブラックウォーグレイモンが姿を見せる。

「う、嘘・・・・・・」

キュルケは信じられないといった声を漏らす。

「その程度かと聞いている」

ブラックウォーグレイモンはもう一度聞いた。

「ど、如何しろっていうのよ」

キュルケの顔は蒼白になっている。

(・・・・タクヤが来ればきっと何とかなる・・・・・だから、少しでも時間を稼がないと)

アイナは震える体を抱きしめ、ブラックウォーグレイモンを見据えた。

「貴方・・・・・・デジモン?」

アイナの言葉に、ブラックウォーグレイモンが反応した。

「ほう・・・・この世界でデジモンを知っている奴がいるとは思わなかったぞ。何故知っている?」

「わ・・・私の使い魔が、デジモンに関わったことがある人間だから」

「なるほど・・・・」

アイナは再び杖を構える。

「次の攻撃に私のもてる限り全ての力を込める。これが通用しなかったら、もう打つ手は無いよ」

「・・・・・・いいだろう。受けて立つ」

ブラックウォーグレイモンは、仁王立ちのようにその場に立ち続ける。

アイナは呪文を唱えだした。

アイナの正面に火球が浮かび上がり、それが更なる炎を纏い、巨大化していく。

(まだ・・・・もっと・・・もっと!!)

アイナは力を込め続ける。

「は、半端な力じゃないわ!」

キュルケが驚きの声を上げ、

「全ての精神力をつぎ込んでる」

タバサが冷静に分析した。

「はあっ・・・・・はあっ・・・・」

アイナは立っているのがやっとの状態まで精神力をつぎ込んだ。

「いくよ」

「来い」

アイナの言葉にブラックウォーグレイモンが答える。

「『フレイム・スフィア』!!」

アイナは限界まで力を溜め込んだ巨大な火球を、ブラックウォーグレイモン目掛けて放った。

ブラックウォーグレイモンに迫る火球。

ブラックウォーグレイモンの近くにいたワルドは慌てて飛び退く。

そして、

――ドゴオォォォォォォォン

爆炎がブラックウォーグレイモンを包む。

アイナはそれを確認すると、その場で力を使い果たし座り込む。

「はあ・・・・・はあ・・・・・」

呼吸が荒い。

アイナは動けないほど疲弊していた。

「や、やったのかい?」

腰が抜けていたギーシュは、ポツリと呟く。

だが、

「やっぱり・・・・きかなかったみたい・・・・・」

アイナは、そう言った。

「え?」

ギーシュは視線を炎に向ける。

炎の中から、無傷のブラックウォーグレイモンが姿を現した。

「そんな!今のを受けて、斃れるどころか無傷だなんて!!」

ルイズは驚愕する。

「今の一撃、この世界に来てからは一番の威力を持っていた。だが、まだだ!この程度では満足出来ん!!」

ブラックウォーグレイモンがそう叫ぶ。

「これで、お手上げね」

「万事休す」

キュルケとタバサが、諦めかける。

ワルドがルイズに向かって話し出した。

「どうかなルイズ。君が僕の花嫁となるなら、君だけは助けてあげよう」

そう言うが、

「ふざけないで!友達を見捨てて助かるぐらいなら死んだほうがマシよ!!」

ルイズは即答した。

ワルドは首を振る。

「仕方ない。言うことを聞かぬ小鳥は、首を捻るしかないだろう。ルイズ、君は僕が葬ってあげよう」

ワルドは、ルイズに向かって歩き出す。

ウェールズがその前に立ちはだかるが、

「邪魔だ」

『ウインド・ブレイク』で吹き飛ばされる。

「がはっ!」

壁に叩きつけられるウェールズ。

「貴様もすぐに始末してやる。それまでそこで這い蹲っていろ」

ワルドはルイズに向き直る。

「さあ、ルイズ。覚悟はいいかな?」

「助けて・・・・・」

ルイズは小さく呟く。

「ん?なんだねルイズ?」

ワルドが聞き返す。

「助けて・・・・・お願い・・・・」

ルイズの助けを求める声。

だが、それはワルドに向けられたものではない。

「ここにきて命乞いか?幻滅したよルイズ」

ワルドの杖が振り上げられる。

呪文を唱えるワルド。

そして、杖が振り下ろされようとした時、

「助けて!!サイト!!」

ルイズは絶叫した。

その時、

――ドゴォォォォン

再び『何か』が天井を突き破り、勢いよく着地する。

その所為で、土煙が巻き起こり、姿が見えない。

「ワルドぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

土煙の中から才人が勢いよく飛び出し、ワルドに斬りかかった。

ワルドは杖でその一撃を受け止める。

「貴様・・・・ガンダールヴ」

更に、

「コロナブラスター!!」

無数の炎の弾丸が、ブラックウォーグレイモンに向かって放たれた。







次回予告


戦いの場に到着した拓也と才人。

だが、ブラックウォーグレイモンの前にヴリトラモンですら歯が立たない。

しかし、拓也は仲間を守るために立ち上がる。

2つのスピリットを1つにし、大陸を揺るがす激突が、今始まる!

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第十二話 激突!! 炎の闘士VS漆黒の竜人!!

今、異世界の物語が進化する。




オリジナル魔法(オリジナルってほどでもないけど)


ヒート・ウェイブ

『火』、『風』、『風』のトライアングルスペル。

熱波の衝撃波で敵を攻撃する。

威力はさほど高くないが、攻撃範囲が広い。

言ってしまえば、火属性の『ウインド・ブレイク』。



フレイム・アロー

『火』、『火』、『火』、『風』のスクウェアスペル。

無数の炎の弾丸を放つ。

一発一発が尾を引くのでまるで赤い流星群のように見える。

モチーフは、某魔法騎士女子中学生三人娘の炎属性の子の魔法。



シールド・ウインド

『風』、『風』、『風』のトライアングルスペル。

風の壁を発生させ、攻撃を防ぐ防御魔法。

モチーフは、上と同じく、某魔法騎士女子中学生三人娘の風属性の子の魔法。



クリムゾン・ライトニング

『火』、『火』、『風』、『風』のスクウェアスペル。

炎を纏った紅の稲妻を発生させる。

モチーフは、またまた某魔法騎士女子中学生三人娘の炎属性の子の魔法。



フレイム・スフィア

『火』、『火』、『火』、『火』のスクウェアスペル。

巨大な火球を作り出し放つ魔法。

ファイヤーボールの強化版。

ブラフマシルの縮小版と言ってもいい。




あとがき

第十一話完成。

短い?

いえ、前回、前々回が長すぎただけです。

自分的にはこの位が丁度良いんですけどね。

さて、振り返りますと、最初の拓也とアイナの会話シーン。

拓也はこんなに鋭いか?と自分でも思ってます。

あと、ウェールズ助かってます。

生かすか死なせるかで、結構悩みましたが、次回予告にもある、「物語が進化する」ってことで生かすことに決定。

あんまり出番は無さそうですがね。

とりあえず4人がかりで、ワルドを追い詰めてみました。

バトルの展開速すぎるかな?

あと、一歩というところで、遂にブラックウォーグレイモン登場。

コイツは、デジモンシリーズの中で自分が一番好きな敵キャラです。

並みの人間じゃあ傷一つ付けることも出来ないでしょう。

次回は、遂に拓也とブラックウォーグレイモンのバトルです。

また、自分の文才の無さが浮き彫りになりそうだな・・・・

ですが、出来るだけ頑張りますんで、よろしくお願いします。



[4371] 第十二話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/12/07 21:43
岸壁へ跳ぼうとしたが、届かず空に落ちる才人。

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

才人の姿が雲の中に消える。

だが、次の瞬間、雲の中より才人が現れる。

そして、才人の足元が露になると同時に雲の中からヴリトラモンが現れる。

才人はヴリトラモンの背に乗り、九死に一生を得た。

「ったく、後悔をするなとは言ったけど無理をしろとは言ってないぞ」

ヴリトラモンは、そう言う。

「後悔したくなかったから、無理をしたんだ!」

才人ははっきりと言い切った。

「やれやれ・・・・」

ヴリトラモンは半分呆れたが、ヴリトラモンの目にもアイナの視界が映っている。

「コイツはヤバイな。急ぐぞ才人!しっかり掴まってろ!!」

ヴリトラモンは全力で羽ばたいた。





第十二話 激突!! 炎の闘士VS漆黒の竜人!!


「コロナブラスター!!」

無数の炎の弾丸がブラックウォーグレイモンに向かって放たれる。

「む?」

ブラックウォーグレイモンは、反射的に足を止める。

次の瞬間、

「うおおおおおおっ!!」

土煙の中からヴリトラモンが突進してきた。

ヴリトラモンはブラックウォーグレイモンに体当たりをした。

ブラックウォーグレイモンは、吹き飛び壁に激突する。

更にヴリトラモンは全身から炎を発する。

「フレイム!ストーム!!」

相手に向かって尾を振ると、炎が放たれる。

瓦礫に埋まったブラックウォーグレイモンを炎で包んだ。

ヴリトラモンは、アイナの方に向き直る。

「大丈夫か!?」

「なんとか・・・・」

ヴリトラモンの言葉に座り込んだまま答えるアイナ。

「タバサ!キュルケ!アイナを頼む!」

ヴリトラモンは、タバサとキュルケにアイナを任せると、炎に包まれたブラックウォーグレイモンに向き直る。

「今度こそやったんじゃない?」

キュルケはそう言うが、

「まだだ」

ヴリトラモンがそう答えた時、炎が掻き消え、ブラックウォーグレイモンが立っていた。

「嘘・・・・・」

キュルケは呟く。

「少しはできるようだな。だが、まだだ!」

ブラックウォーグレイモンはそう答える。

ヴリトラモンは、翼を広げると、一気に突撃した。

「はああああっ!!」

右腕を振りかぶり、殴りかかる。

「ふん!」

ブラックウォーグレイモンは左腕で受け止める。

――ドゴォ

その瞬間、ブラックウォーグレイモンの足元が陥没する。

だが、ブラックウォーグレイモンは、膝すらつかない。

「嘘でしょ・・・・ヴリトラモンのパワーを受けきった・・・・」

キュルケは信じられないといった表情で呟いた。

ブラックウォーグレイモンは、右腕を振りかぶり、

「ドラモンキラー!!」

手に装備されているドラモンキラーを一気に突き出した。

それは、衝撃を伴い、ヴリトラモンの胸部に直撃する。

「ぐああっ!!」

ヴリトラモンは吹き飛ばされ、壁に激突する。

「タクヤ!」

アイナが叫ぶ。

「ううっ・・・・」

ヴリトラモンは呻くと、デジコードに包まれ拓也に戻ってしまう。

それを見たブラックウォーグレイモンは少し驚いた声で言った。

「人間・・・・だと?」

拓也は痛みを堪え、ブラックウォーグレイモンを睨む。

その眼を見たブラックウォーグレイモンは思った。

(奴の眼・・・・似ている・・・・あいつらに・・・・・)

ブラックウォーグレイモンは、かつて戦ったデジモンをパートナーに持つ少年たちを思い出していた。

そんな事を知らないワルドは才人を押し返し大声で笑う。

「ハッハッハ!如何だね、ブラックの強さは!君たちの頼みの綱の、アイナの使い魔も、ブラックの敵ではない!」

大声でそんな事を言う。

だが、

「黙っていろ、ワルド」

ワルドの言葉を止めたのは他ならぬブラックウォーグレイモンだった。

ブラックウォーグレイモンは、拓也に向かって言った。

「俺はお前と同じ眼をした奴らを知っている。そいつらは、俺に何度倒されようと、何度でも俺に立ち向かってきた。お前は如何する?」

拓也は立ち上がると、ブラックウォーグレイモンを真っ直ぐ見据えた。

「そんなの、聞くまでもないだろ!」

「フッ・・・・ならば、何度でもかかって来い!!」

ブラックウォーグレイモンは構える。

拓也は、デジヴァイスを構えた。

デジヴァイスの画面に、獣の顔のシルエットが浮かび上がり、咆えると同時に光が走る。

ヒューマンスピリットとビーストスピリットが重なって描かれた。

そして、突き出した左手に、ビースト進化と同じく、球状となったデジコードが発生する。

そのデジコードに右手に持ったデジヴァイスをなぞるように滑らせる。

「ダブルスピリット!エボリューション!!」

拓也の身体をデジコードが包んだ。

「うああああああああっ!!」

叫び声を上げる拓也。

デジコードの中で、2つのスピリットを同時に纏っていく。

手。

体。

足。

そして頭部に2つのスピリットが重なる。

アグニモンの技とヴリトラモンの力。

まさに柔と剛を兼ね備えた闘士。

その名は、

「アルダモン!!」

その姿は、アグニモンの人型をベースに、ヴリトラモンの各部から出来ていた。

頭部や手、肩などの間接部分はアグニモン。

体や足、尾、翼、そして腕のルードリー・タルパナはヴリトラモン。

アルダモンから感じる威圧感は、ブラックウォーグレイモンにも引けを取らない。

驚愕するのは、ワルドを含めたその場にいる人間全員。

だが、

「クックック・・・・」

ブラックウォーグレイモンは、不敵な笑いを漏らした。

「おもしろい・・・・・そうこなくてはな・・・・・さあ!俺と戦えアルダモン!!」

ブラックウォーグレイモンは右腕を振りかぶりながら突撃してきた。

「はあああああああっ!!」

アルダモンも迎え撃つために、ブラックウォーグレイモンに向かっていく。

――ドゴォォォォォォォォン

アルダモンとブラックウォーグレイモンが激突し、凄まじい衝撃が辺りを襲う。

その衝撃に必死に耐える他のメンバー。

見れば、ブラックウォーグレイモンのドラモンキラーを、アルダモンが腕のルードリー・タルパナで受け止めていた。

互いに弾き合い、間合いが広がる。

着地したところで、アルダモンの両腕のルードリー・タルパナが回転、更に中央から展開し、二又の矛先のようになる。

「ブラフマストラ!!」

連続で両手を交互に繰り出す。

その度に、展開されたルードリー・タルパナの中央から、火球が放たれる。

無数の火球がブラックウォーグレイモンに襲い掛かる。

それに対し、

「ブラックシールド!!」

背中にあった翼のような装甲を両腕に装備。

正面で合わせ盾にする。

ブラックウォーグレイモンが現れてから、初めて見せる防御姿勢。

そこに無数の火球が着弾する。

「ぐうっ!」

火球は防いだが、その衝撃はかなりのもので、ブラックウォーグレイモンは声を漏らす。

ブラックウォーグレイモンは、シールドを背中に戻すと、両腕のドラモンキラーを頭上で合わせ、回転を始める。

高速回転するブラックウォーグレイモンは周りの空気を巻き込み、黒い竜巻と化す。

「ブラック!トルネード!!」

それが飛び立ち、アルダモンに向かって来る。

「くっ!?」

アルダモンは飛んで避けるが、ブラックウォーグレイモンはそのまま壁をぶち破っていく。

「待てっ!」

アルダモンはブラックウォーグレイモンを追って外に出た。

残されたアイナ達は、目の前で繰り広げられた桁違いの戦いに放心していた。

時折、アルダモンとブラックウォーグレイモンとの戦いによる衝撃が城を・・・・・いや、大地を揺るがす。

そんな中、才人がワルドを見据え、剣を構える。

それに気付いたワルドが才人に向き直る。

「てめえ・・・・よくもルイズを騙しやがったな!」

才人は叫んで、剣を腰だめにして突っ込んだ。

ワルドは飛び、かわす。

そして、優雅に床に着地する。

「目的のためには、手段を選んでおれぬのでね」

「ルイズはてめえを信じてたんだぞ!婚約者のてめえを・・・・・・・幼い頃の憧れだったてめえを・・・・・・」

「信じるのは其方の勝手だ」

ワルドは飛びながら剣をかわした。

ワルドは『ウインド・ブレイク』を唱える。

才人は剣で受け止めようとしたが、剣ごと吹き飛ばされた。

壁にぶち当たり、才人はうめきをあげる。

その瞬間、アイナ以外のメンバーが杖を構えた。

だが、

「手を出すな!!」

才人が叫んだ。

他のメンバーは驚いて才人を見る。

「コイツは・・・・・コイツだけは・・・・俺が倒す!!」

才人は立ち上がり言った。

「1人で倒すなんて無理よ!言ったでしょ!平民は絶対にメイジに勝てないって!アンタは並みのメイジに勝てることだけでも奇跡なのに、『スクウェア』のワルドに勝つなんて、絶対無理よ!!」

ルイズは叫ぶ。

「・・・・・・絶対勝てないなんて誰が決めた」

才人は、ルイズに言う。

「そ、そんなの昔から決まっていることじゃない!それが当然なのよ!」

「ギーシュにも言ったけどよ、ここの常識を俺の常識と考えてもらっちゃ困る!俺の故郷の名言を教えてやるよ」

才人は一度息を吸い込み、

「この世に!絶対なんか無い!!」

才人は言い放った。

「ッ!?」

「ワルドだって人間なんだ。剣の一撃が入れば勝てる可能性はある!」

才人はワルドを睨んで言う。

「だが、剣は近付かねば当たりはしない。魔法は違うぞ!」

ワルドは再び、『ウインド・ブレイク』を放ってくる。

才人は避けようとしたが、吹き飛ばされた。

だが、それでも才人は立ち上がった。

そんな時、デルフリンガーが叫んだ。

「思い出した!!」

「何だよ、こんな時に!」

「いやあ、俺は昔、お前に握られてたぜ。ガンダールヴ。でも忘れてた。なにせ、今から6000年も昔の話だ」

「昔話なら後にしてくれ!」

才人はそう言うが、デルフリンガーの言葉は止まらない。

「懐かしいねえ。泣けるねえ。そうかぁ、いやぁ、なんか懐かしい気がしてたが、そうか。相棒、あの『ガンダールヴ』か!」

「いい加減にしろよ!」

才人は怒鳴る。

「嬉しいねえ!そうこなくっちゃいけねえ!俺もこんな格好してる場合じゃねえ!」

叫ぶなり、デルフリンガーの刀身が輝きだす。

才人は一瞬呆気に取られてデルフリンガーを見つめた。

「デルフ?はい?」

再びワルドは『ウインド・ブレイク』を唱えた。

猛る風が、才人目掛けて吹きすさぶ。

才人は咄嗟に、光りだしたデルフリンガーを構えた。

「無駄だ!剣では避けられないと分かっただろうが!」

ワルドが叫んだ。

が、才人を吹き飛ばすかに思われた風が、デルフリンガーの刀身に吸い込まれる。

そして、デルフリンガーは今まさに研がれたかのように、光り輝いていた。

「デルフ?お前・・・・・・」

「これがほんとの俺の姿さ!相棒!いやぁ、てんで忘れてた!そういや、飽き飽きしてたときに、テメエの体を変えたんだった!なにせ、面白いことはありゃあしねえし、つまらん連中ばっかりだったからな!」

「早く言いやがれ!」

「仕方ねえだろ。忘れてたんだから。でも、安心しな相棒。ちゃちな魔法は全部、俺が吸い込んでやるよ!この『ガンダールヴ』の左腕、デルフリンガー様がな!」

興味深そうに、ワルドは才人の握った剣を見つめた。

それでも、ワルドは余裕の態度を失わない。

杖を構えると薄く笑った。

「さて、ではこちらも本気を出そう。何故、風の魔法が最強と呼ばれるのか、その所以を教育いたそう」

才人は飛びかかったが、ワルドは軽業師のように剣戟をかわしながら、呪文を唱える。

「ユビキタス・デル・ウインデ・・・・・・・」

呪文が完成すると、ワルドの身体はいきなり分身した。

本体と合せて5人のワルドが才人を取り囲んだ。

「分身かよ!」

「ただの『分身』ではない。風のユビキタス(偏在)・・・・・風は偏在する。風の吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する。しかも、一つ一つが意思と力を持っている」

5人のワルドが才人に踊りかかる。

更にワルドは呪文を唱え、杖を青白く光らせた。

『エア・ニードル』、先程、ウェールズを貫こうとした呪文だった。

「杖自体が魔法の渦の中心だ。その剣で吸い込むことは出来ぬ!」

杖が細かく震動している。

回転する空気の渦が、鋭利な切っ先となり、才人の身体を襲う。

剣で、受け、流す。

しかし、相手は5人。

こちらは1人。

少しずつ才人の身体は傷つけられていく。

ワルドは楽しそうに笑った。

「平民にしてはやるではないか。流石は伝説の使い魔といったところか。しかし、やはりはただの骨董品のようだな。風の『偏在』に手も足も出ぬようではな!」

「うるせえ!」

才人は叫ぶ。

その身体はいたる所に怪我を負っている。

だが、徐々に才人の動きは速さを増していく。

ワルドたちの息が荒くなる。

こんなはずでは、と思っていたが表情は変わらない。

剣戟を加えながら、ワルドが問う。

「どうして死地に帰ってきた?お前を蔑むルイズのため、どうして命を捨てる?」

「後悔しないためだ!」

才人は叫んで答えた。

「後悔・・・・だと?」

「ああ、そうさ!拓也に言われたよ。後悔だけはするなってな。アイツは俺より年下だけどよ。俺なんかより、ずっとすげえ奴だよ。ったく、どっちが兄貴だかわかりゃしねえ!・・・・・そうやって言われてたにも関わらず、後悔する選択を俺は選ぼうとしてた。確かに、お前は許せねえ・・・・・けど、それ以上に俺は自分が許せねえ!たった一度負けたぐらいで逃げようとしてた自分が許せねえ!!」

「なるほど・・・・それでノコノコ死ぬために戻ってきたというわけか」

偏在の一体が突っ込んでくる。

「俺は・・・・・死ぬ気は無い!!」

才人の渾身の縦切りが受け止めようとした杖諸共、ワルドの偏在を両断した。

「なんだと!?」

ワルドが驚愕する。

「俺は死ぬために戻ってきたんじゃねえ。テメエを倒して、皆を!ルイズを守るために!そして、俺が俺である為に!!俺は、戻ってきたんだ!!」

ガンダールヴのルーンが今までより強い光を放っている。

その輝きを受け、デルフリンガーが光る。

「いいぞ!いいぞ相棒!そう!その調子だ!思い出したぜ!俺の知ってる『ガンダールヴ』もそうやって力を溜めてた!いいか相棒!『ガンダールヴ』の強さは心の震えで決まる!怒り!悲しみ!愛!喜び!なんだっていい!とにかく心を震わせな、俺のガンダールヴ!」

才人は剣を切り上げた。

物凄いスピードだったので、間合いを読みきれなかったワルドが切り上げられ、消滅した。

「き、貴様・・・・・」

残りは3人。

「忘れるな!戦うのは俺じゃねえ!俺はただの道具に過ぎねえ!」

才人は空中高く飛び上がると、剣を振りかぶった。

ワルドも飛んだ。

「空は『風』の領域・・・・・貰ったぞ!ガンダールヴ!!」

ワルドの杖が、才人の身体に三方から伸びた。

しかし、才人は風車のようにデルフリンガーを振り回す。

デルフリンガーが叫んだ。

「戦うのはお前だ、ガンダールヴ!お前の心の震えが、俺を振る!!」

次の瞬間、3人のワルドは閃光が瞬く合間に切り裂かれた。

才人は着地した。

全ての『偏在』が切り裂かれ、残った本体のワルドが床に叩き付けられた。

切られた左腕が、一瞬遅れて地面に落ちた。

才人は地面に着地したが、よろけて膝をついた。

疲労は限界に達している。

ワルドはよろめきながら立ち上がり、才人を睨んだ。

「くそ・・・・この『閃光』がよもや後れを取るとは・・・・・・」

才人は駆け寄ろうとしたが、身体が思うように動かない。

「く・・・・・」

「ああ、相棒。無茶をすればそれだけ『ガンダールヴ』として動ける時間は減るぜ。なにせ、お前さんは主人の呪文詠唱を守るためだけに生み出された使い魔だからな」

デルフリンガーが説明した。

ワルドは、残った右腕で杖を振り、宙に浮いた。

「くっ、目的を一つも果たせんとはな。まあいい。どのみちここは、すぐに我が『レコン・キスタ』の大群が押し寄せる。愚かな主人ともども灰になるがいい!ガンダールヴ!」

そう捨て台詞を残し、ワルドは壁に開いた穴から飛び去ろうとした。

だが、

「逃がっ・・・・すかぁっ!!」

才人は力を振り絞り、隠し持っていたナイフを投擲した。

それは、見事ワルドの右腕に突き刺さる。

「ぐおっ!?」

ワルドは杖を取り落とし、床に落ちる。

これでワルドは両腕が使えなくなった。

「へへっ・・・・魔法使い、杖が持てなきゃただの人ってか」

才人はよろよろと立ち上がる。

ワルドは両腕が使えなくなり、尚且つ左腕の傷口から血が大量に流れ出ている。

杖が持てない為、魔法も使えない。

才人は、疲労の限界だが、怪我していることを除けばワルドより遥かにマシだ。

「テメエだけは逃がさねえぜ」

才人は剣を構え、ワルドに一歩ずつ近付いていく。

だが、その時、

――ドゴォ

三度天井を何かが突き破ってきた。

一つは才人の前に、もう一つはワルドの前に着地する。

アルダモンとブラックウォーグレイモンだった。

ブラックウォーグレイモンが、負の力を集中させ、赤く巨大なエネルギー球を作り出した。

「ガイアフォース!!」

それを投げつける。

対してアルダモンは、向かい合わせた両手の中央に火球を作り出す。

「ブラフマシル!!」

それを掲げるように持ち上げると、その火球が巨大化。

まるで、小さな太陽のような火球をブラックウォーグレイモンに向かって放った。

負の力のエネルギー球と灼熱の火球がぶつかり合う。

その瞬間、大爆発を起こし、衝撃がアルダモンを襲う。

「ぐっ!?」

アルダモンは堪えるが、才人はその衝撃に吹っ飛ばされた。

吹っ飛ばされた才人のタバサが咄嗟に『レビテーション』をかける。

そのお陰で、才人は激突せずに済んだ。

ワルドはブラックウォーグレイモンに言った。

「ブ、ブラック、ここは一旦退くぞ!」

ブラックウォーグレイモンは、ワルドを見る。

「無様だなワルド・・・・・まあいい。今回は『敵』が見つかっただけでよしとしよう」

ブラックウォーグレイモンは、ワルドを担ぐ。

そして、一旦アルダモンに振り返ると、

「アルダモン!貴様との決着はいずれ付ける!こんな所で死ぬんじゃないぞ!」

ブラックウォーグレイモンは、そう言って飛び去った。

アルダモンは、ブラックウォーグレイモンが飛び去った方を向いて呟いた。

「ブラックウォーグレイモン・・・・か」

そんな時、才人が言った。

「くそっ!逃げられた!」

才人は床を殴りつける。

「俺たちの目的は皆を守ることだ。無理に止めを刺す必要は無いさ」

アルダモンが才人にそう言う。

「けどよ・・・・・」

「正直、ブラックウォーグレイモンとあのまま戦い続けていたら、勝てる可能性は低かった」

「え?」

才人は驚きの声を漏らす。

「デジモンにとって必殺技は、その個体が持つ最大の攻撃方法だ。デジモンの強さが必殺技の強さと言ってもいい。最後に必殺技をぶつけ合ったとき、衝撃がすべてこちらに流れてきた。それは、俺の必殺技より、奴の必殺技の方が威力が高かったことを意味する」

「それって・・・・」

「ああ。総合的な能力値は俺よりも、奴のほうが上だ。と言っても、それだけで勝敗が決まるわけじゃないけどな」

アルダモンはそう言って、アイナ達の方へ歩いていく。

「大丈夫だったか?」

アルダモンは、アイナに話しかける。

「うん・・・・・それで、3度目になるけど、その姿は?」

「ヒューマンスピリットとビーストスピリットを同時に使って進化した融合形態、アルダモンだ」

「アルダ・・・・モン・・・・・」

「そんなことより如何するのよ?ワルドの言ったとおり、もうすぐ大群が押し寄せてくる・・・・・前に城が崩れそうね」

キュルケがそう言った。

だが、アルダモンは、

「心配するな。手は打ってある。そろそろ来る頃だ」

そう言った時、地面がもこもこと盛り上がり、

「きゅ?」

ウェルダンテが顔を見せた。

「ウェルダンテ!ウェルダンテじゃないか!」

ギーシュがウェルダンテに抱きつく。

「それじゃ、この穴から脱出だ」

それぞれが行動に移ったが、ウェールズは動かなかった。

「殿下?」

ルイズが問いかける。

「私は行けないよ」

「そんな!何故!?」

「理由は昨日言った通りだ。アルビオン皇太子である私が、トリステインに亡命すれば、レコン・キスタにトリステインを攻め込む口実を与えてしまう」

「・・・・・・」

「ラ・ヴァリエール嬢、アンリエッタにはウェールズは勇敢に戦い死んでいったと伝えてくれ」

「そんな・・・・」

ルイズは震えている。

止めたくても、止められないのが悔しいのだろう。

そんな時、

「おい、お前は死ぬためにここに残るのか?」

アルダモンがウェールズに問いかけた。

「そう解釈してもらって構わないよ」

ウェールズがそう言う。

すると、アルダモンの顔つきが変わる。

「だったら、ここに残しておくわけにはいかない」

アルダモンはそう言った。

「何だって?」

「死ぬ奴を放って逃げるなんて後味が悪すぎる。どうしても嫌だって言うなら力づくでも連れて帰る」

「私がトリステインに亡命すれば、貴族派が攻め入る格好の口実を与えてしまうと言っただろう。私はアンリエッタに迷惑をかけたくないんだ」

「俺に政治云々言われても俺は分からない。けど、これだけは分かる。アンタが死ねばあの姫さんは悲しむ」

「くっ・・・・・」

「俺がアンタに求める選択肢は2つ。自らの意思で、俺たちと共に脱出するか、力づくで連れて帰られるかだ」

無茶苦茶な2択に、ウェールズは苦笑する。

「ここに残してくれるっていう選択肢はないのかい?」

「無い」

アルダモンはきっぱりと即答した。

ウェールズは杖を構えた。

それが返答であった。

「やれやれ、強情な奴だな」

「家臣は皆勇敢に戦って死んだだろう。私だけがおめおめと生き恥を晒すわけにはいかない」

「どうしてお前たちはそういった捉え方しかしないんだ?アンタは死んでいった者たちの分まで生きるということは思わないのか?」

「私は王族だ」

その一言で、アルダモンは行動に移った。

「くだらない」

そう呟くと、ウェールズの目の前まで一気に接近、

「なっ!?」

ウェールズの腹に拳を入れた。

「ぐっ!?」

ウェールズは気絶する。

「だれか、この馬鹿王子を頼む」

そう言うと、ギーシュが『レビテーション』をかける。

すると、アルダモンはデジコードに包まれ、拓也に戻った。

「あ~、しんどかった」

拓也はそう言う。

元気そうに振舞っているが、実際かなりの疲労があった。

その時、城が崩壊を始める。

「やべえ、早く脱出だ!」

才人が叫んだ。

全員は、穴から脱出した。

そして、その数分後。

城は崩れた。




穴の出口は大陸のほぼ真下であり、8人+1匹は空中に投げ出される。

そこを、待機していたシルフィードに拾われた。

だが、

「きゅ、きゅいい~~~(お、重いのね~~~)」

流石に幼竜のシルフィードにとってこの人数はしんどいらしい。

「きゅい~、きゅいきゅいきゅい~(タクヤさま~、ヴリトラモンさまに変身してほしいのね~)」

シルフィードはそう言うが、

「ダメ。彼はとんでもない敵と戦って疲れてる。これ以上無理をさせられない」

タバサがシルフィードにそう言った。

「きゅ、きゅいきゅい(で、でもしんどいのね)」

それを聞き、タバサはシルフィードに聞えるように小声で言った。

「トリステインまで頑張れば、ご褒美にお肉たっぷり。あと、一度だけタクヤと2人きりになれるよう手伝ってあげる」

「きゅい!きゅいきゅい!(分かったのね!シルフィ頑張るのね!)」

シルフィードは力強く羽ばたく。

幼いながら、現金な竜である。

シルフィードは緩やかに降下して雲を抜けると、王宮を目指して羽ばたいた。

その背では、疲労からか、シルフィードの背びれに身体を預け、拓也とアイナが並んで眠っていた。





次回予告


ウェールズを連れ、王宮に到着した一行。

アンリエッタと再会し、自分の気持ちに正直になるウェールズ。

そして、翌日の出席した授業では、コルベールが発明品を披露する。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第十三話 コルベールの発明品

今、異世界の物語が進化する。




あとがき

はい、十二話完成。

書き溜めしていた最初を除いて、投稿スピード新記録です。

いや~、バトルはネタに困らないですね。

さて振り返りますと、ヴリトラモン、一発でやられました。

いやーやっぱりブラックウォーグレイモンは強いですな。

自分の考えでは、このブラックウォーグレイモンは02のと同一存在の心算です。

ちょっと性格が違うか?

皆さんどう思うでしょうか。

んで、遂に出てきたアルダモン。

いや~、超人大決戦。

一応、能力的にはブラックウォーグレイモンの方が全体的に僅かに上回ってます。

最後のガイアフォース対ブラフマシルは戦わせるにあたっては、絶対にやっておきたかったことです。

それで、才人VSワルド。

なんか、序の心算が、えらく長引いてしまった。

タイトル間違えたな。

原作とはちょっと変えてみました。

どうだったでしょうか?

んで、ウェールズ。

コイツが大人しくついてくわけ無いと思ったので、ひと悶着。

名誉?政治?王族の義務?

そんなの拓也にとっては、知ったこっちゃないです。

最終的に力づく。

さてさて、2巻もこれで終わり。

ようやく3巻だな~。

先は長い。

次も頑張ります。



[4371] 第十三話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/12/14 16:23
ウェールズを強引に連れ帰った拓也達。

その結果は?


第十三話 コルベールの発明品


トリステインの城下町では、ある噂が流れ始めていた。

隣国アルビオンを制圧した貴族派『レコン・キスタ』が、トリステインに進行してくると言う噂だった。

よって、周りを守る衛士隊の空気は、ピリピリしたものになっている。

王宮の上空は、幻獣、船を問わず飛行禁止命令が出され、門をくぐる人物のチェックも激しかった。

いつもなら難なく通される仕立て屋や、出入り口の菓子屋の主人までが門の前で呼び止められ、身体検査を受け、ディティクトマジックでメイジが化けていないか、魔法で操られていないかなど、厳重な検査を受けた。

そんなときだったから、王宮の上に1匹の風竜が現れたとき、警備の魔法衛士隊の隊員たちは色めきたった。

マンティコア隊が、その風竜目掛けて一斉に飛び上がる。

風竜の上には8人の人影があった。

しかも、風竜は、巨大モグラをくわえている。

魔法衛士隊の隊員たちは、ここが現在飛行禁止であることを大声で告げたが、警告を無視して風竜は王宮の中庭へと着陸した。

風竜の背に乗っていたのは、帽子を被った黒髪の少年、同じく黒髪の青年、赤毛の少女、桃色がかったブロンドの少女、長身の赤毛の女、金髪の少年、眼鏡をかけた青髪の少女。

あと、風竜の背に金髪の美男子が横たわっている。

言わずもがな拓也達である。

横たわっているのはウェールズで、途中で一度気が付いたのだが、まだ死ぬだの何だの言っていたので、眠りの雲の魔法で眠らせた。

マンティコア隊の隊員たちは着陸した風竜を取り囲んだ。

腰からレイピアのような形状をした杖を引き抜き、一斉に掲げる。

いつでも呪文が詠唱できるような態勢をとると、ごつい体にいかめしい髭面の隊長が、大声で命令した。

「杖を捨てろ!」

一瞬、ルイズ達はむっとした表情を浮かべたが、タバサが首を振って言った。

「宮廷」

ルイズ達は仕方ないとばかりにその言葉に頷き、命令されたとおりに杖を地面に捨てた。

「今現在、王宮の上空は飛行禁止だ。ふれを知らんのか?」

隊長がそう言うと、ルイズがシルフィードから降りて名乗った。

「私はラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズです。怪しいものじゃありません。姫殿下に取り次ぎ願いたいわ」

隊長は杖を下ろした。

「ラ・ヴァリエール公爵さまの三女とな」

「いかにも」

ルイズは、胸を張って隊長の目をまっすぐに見つめた。

「なるほど、見れば目元が母君そっくりだ。して、要件を伺おうか?」

「それは言えません。密命なのです」

「では殿下に取り次ぐわけにはいかぬ。用件も尋ねずに取り次いだ日には此方の首が飛ぶからな」

困った声で隊長が言った。

「密命だもの。言えないのは仕方ないでしょう」

才人がそう言った。

「無礼な平民だな。従者風情が貴族に話しかけるという法は無い。黙っていろ」

才人を平民と判断して、見下した言い方をする隊長に才人はカチンときた。

才人はルイズに聞いた。

「なあルイズ。こいつ、やっちゃっていい?」

「なに強がってるのよ。ワルドに勝ったぐらいでいい気にならないで」

才人にとって、この相手に勝てる確率は高いとは言えないのだが・・・・・・

「あいつ燃やしてやろうか?」

その隊長に対して頭にきていたのは拓也も同じだった。

「き、気持ちは分かるけど、抑えて」

拓也をアイナが宥める。

拓也がその気になれば、隊長どころか王宮が火の海になりかねない。

アルダモンを知ったメンバーは冷や汗を流している。

そんな時、

「ルイズ!」

宮殿の入り口から、鮮やかな紫のマントとローブを羽織った人物が駆け寄ってきた。

アンリエッタその人である。

駆け寄るアンリエッタの姿を見て、ルイズの顔が、薔薇を撒き散らしたようにぱあっと輝いた。

「姫さま!」

2人は、一行と魔法衛士隊が見守る中、ひっしと抱き合った。

「ああ、無事に帰ってきたのね。嬉しいわ。ルイズ、ルイズ・フランソワーズ・・・・・・・」

「姫さま・・・・・・」

ルイズの目から、ぽろりと涙がこぼれた。

「件の手紙は、無事、このとおりでございます」

ルイズはシャツの胸ポケットから、そっと手紙を見せた。

アンリエッタは大きく頷いて、ルイズの手を硬く握り締めた。

「やはり、あなたはわたくしの一番のお友達ですわ」

「もったいないお言葉です。姫さま」

そんな2人のやり取りを興味深そうに魔法衛士隊の面々が見ている事に気付き、アンリエッタは説明した。

「彼らはわたくしの客人ですわ。隊長殿」

「さようですか」

アンリエッタの言葉で隊長は納得するとあっけなく杖を収め、隊員たちを促し、再び持ち場へと去っていった。

そして、シルフィードに乗ってきた面々に視線を移す。

その時、シルフィードの背に横たわったウェールズに気付いた。

「ウェ、ウェールズさま!?」

アンリエッタは驚きながら駆け寄る。

眠っているだけと分かると、ホッと胸を撫で下ろした。

「ルイズ、ウェールズさまは一体・・・・?」

アンリエッタにそう問われ、ルイズは如何説明するか迷った。

だが、

「戦場に残って死ぬなんて、馬鹿な事言ってたんで、殴って連れてきた」

拓也が、事実をかなり大雑把に要約して言った。

それを聞いたアンリエッタは固まる。

周りのメンバーは冷や汗を流した。

その時、

「う・・・・・」

丁度、ウェールズが目を覚ました。

「こ、ここは・・・・?」

ウェールズが身を起こし、シルフィードから降りる。

「ウェールズさま!」

ウェールズにアンリエッタが抱きついた。

「ア、 アンリエッタ?」

ウェールズは驚きながらも、辺りを見回す。

「ここは・・・・トリステインなのか?」

「そうです。ウェールズさま」

アンリエッタは、涙を流しながら答える。

「そうか・・・・私は、生きながらえてしまったのだな」

ウェールズが、そう言うが、

「そんな事言わないでください」

アイナが言った。

「ウェールズ皇太子、今の姫殿下を見ても戦場で死んだほうが良かったと言うのですか?」

アイナに言われ、ウェールズはアンリエッタを見る。

アンリエッタは、涙を流しながらもその顔は喜びに溢れていた。

ウェールズは口を開いた。

「今・・・・・この瞬間だけは、生きている事に感謝しよう」

ウェールズはアンリエッタの背に手を回す。

「アンリエッタ・・・・・」

ウェールズはアンリエッタを優しく抱きしめた。




暫くして、アンリエッタはウェールズと共にルイズ、才人、アイナ、拓也を自分の居室に入れた。

事の次第の説明を聞くためだ。

拓也とアイナは、ウェールズの希望で同席する事になった。

ルイズは説明する。

道中、キュルケたちが合流した事。

ラ・ロシェールの宿で、傭兵たちの襲撃を受け、拓也だけが残った事。

アルビオンへ向かうための船に乗ったら、空賊に襲われた事。

その空賊の頭がウェールズだった事。

ウェールズに亡命を進めたが断られた事。

ワルドと結婚式を挙げるために、脱出船には乗らなかった事。

結婚式の最中、ワルドが豹変し、ウェールズを殺害しようとした事。

アイナの機転でウェールズは助かったが、ブラックウォーグレイモンが現れ、再び窮地に立たされた事。

そこに拓也と才人が間に合い、ブラックウォーグレイモンとワルドを何とか退けた事。

脱出の際、ウェールズは残ろうとしたが拓也が殴って気絶させ、強引に連れて帰ってきた事を。

それを聞いて、アンリエッタが悲嘆にくれた。

「あの子爵が裏切り者だったなんて・・・・・・まさか、魔法衛士隊に裏切り者がいるなんて・・・・・」

「姫さま・・・・・」

「裏切り者を使者に選ぶなんて、わたくしはなんという事を・・・・・」

涙を零すアンリエッタにウェールズが話しかける。

「アンリエッタ、それは君の所為じゃない」

「ですが!・・・・もう少しで、ウェールズさまは・・・・・・・」

「私は、今ここにこうして生きている。その事を悔やむ事はないさ」

「ウェールズさま」

「シンフォニア嬢のお陰だよ」

2人はアイナを見る。

「アイナ・・・・・・ウェールズさまの命を救ってくれて、本当にありがとう」

「シンフォニア嬢、私からも礼を言う。ありがとう」

王女と王子に礼を言われ、取り乱すアイナ。

「あ、いえ、その・・・・・・私もタクヤに忠告されなかったら気付きませんでしたし・・・・・お礼ならタクヤに・・・・・・・」

「直接王子様助けたのはアイナだろ?」

拓也がそう言う。

ウェールズは拓也を見た。

「君は、とても真っ直ぐな眼をしているね。どんな時にも自分の意思を貫く強さを持っている。王族を殴る平民なんて聞いた事が無いよ」

「俺はただ、貴方のあの時の行動が許せなかっただけです。目の前で消えようとする命を黙ってみているだけなんて、俺には出来ない」

ウェールズは笑みを浮かべる。

「優しいな君は。君のお陰で私はアンリエッタと生きて会う事が出来た。君にも礼が言いたい」

「別にいいですよ。俺は自分の気が済むようにしただけですから」

「それでも言わせて欲しい。ありがとう」

それから、アンリエッタが話し出す。

「そして、先程の話にも出てきた『漆黒の竜人』なのですが・・・・・」

「ああ、我が軍もあれの所為で大打撃を受けた。20隻の艦隊を全滅させられた事だってあった」

「に、20隻もの艦隊を!?」

アンリエッタが驚愕する。

ウェールズは頷き、

「あれには、どういう訳か大砲も魔法も全く効かないんだ。そして、戦闘力も凄まじい」

そう言った。

「そんな・・・・・攻撃が効かなければ、対処のしようが・・・・・・」

「攻撃が効かないのは単に威力不足なだけですよ」

拓也が言った。

「ここの大砲じゃ、何発撃ってもブラックウォーグレイモンには傷一つ付けられません。あいつにダメージを与えたいなら、最低でも船を一撃で破壊するぐらいの威力が無いと」

「そ、それほどの威力がなければ、その『漆黒の竜人』は、倒せないと言うのですか!?」

「今言ったのは、あくまでダメージを与えられる威力です。倒そうと思ったら更なる威力が必要です」

「そ、そんな・・・・・・」

「まあ、唯一の救いは、ブラックウォーグレイモンは、レコン・キスタの目的の為に戦っているわけじゃない、って事ですかね」

「そ、それは如何いう事ですか?」

「ブラックウォーグレイモンは、ただ強い『敵』と戦う事だけが目的みたいです。俺が感じた奴の性格は、孤高で一匹狼。とても、レコン・キスタがいう統一なんて興味を持つとは思えない」

「全ては、それの気まぐれというわけですか・・・・・」

「まあ、今の奴の『敵』は俺みたいですけどね」

「え!?」

アンリエッタは驚く。

「あいつの去り際の一言が、「決着はいずれつける」だったからな。今までは『敵』を探すために戦っていたでしょうから、俺という『敵』ができた今、今までみたいにむやみやたらと戦いを吹っかける真似はしないと思いますよ。絶対とは言い切れませんが・・・・・・もし、ブラックウォーグレイモンと戦う羽目になったら、全力で逃げろ、としか言えませんよ。並の人間じゃあ敵わないでしょうから」

「彼のいっている事は本当だ。奴に対抗できるのは彼しかいない。先日の戦いを見てそう感じた」

ウェールズが、拓也に同意する。

「では、『漆黒の竜人』に出会ってしまったら、相手を刺激しないようにやり過ごすしかないと?」

「まあ、そういう事になります。ですが、よっぽどしつこく付きまとうか、感に触るような事をしなければ、大丈夫だと思いますけど。相手にならない奴は相手にしない性格だったんで」

「そうですか・・・・」

アンリエッタは一度俯くが、すぐに顔を上げる。

「『漆黒の竜人』に関しては、全兵士に注意を呼びかけましょう。貴族としては屈辱かもしれませんが、そこまでの差があるなら、少しでも犠牲を減らすほうが優先です」

拓也も頷く。

すると、アンリエッタはウェールズに向き直る。

「申し訳ありませんが、ウェールズさまには、暫く身を潜めていただかなければなりません。不自由をおかけすることになりますが・・・・」

「ああ、私もその心算だ。私は本来死んでいる身だ。贅沢は言うつもりはないよ」

「申し訳ありません。ウェールズさま」

話が一段落した所で、ルイズが切り出した。

「姫さま。これ、お返しします」

ルイズは、ポケットからアンリエッタに貰った水のルビーを取り出した。

しかし、アンリエッタは首を振る。

「それは貴女が持っていなさいな。せめてものお礼です」

「こんな高価な品を頂くわけにはいきませんわ」

「忠誠には、報いるところがなければなりません。いいから、とっておきなさいな」

アンリエッタにそう言われ、ルイズは水のルビーを受け取る事となった。





王宮から魔法学院に向かう空の上、キュルケによるアイナへの質問攻めが始まっていた。

「さあアイナ。あなたが『スクウェア』だったって事、話してもらいましょうか」

その声は少し怖い。

キュルケにしてみれば、学院の生徒の中でもトライアングルであり、一番の炎の使い手と自負していた自分のプライドを、アイナは粉々に打ち砕いたのだ。

「え、え~と。私が『スクウェア』になったのは、学院に入る少し前で・・・・・・・」

「じゃあ何?学院に入ったときから、『スクウェア』だったっていう事?」

「う、うん。けど、自分でも自分が『スクウェア』になったなんて信じられなくて。この事はお父様やお母様も知らないし、寧ろ『トライアングル』になった事ですら言ってなかったから・・・・・」

「ふ~ん、アイナは大人しいもんね。自分で自分を信じる事が出来なかったってことね」

「うん・・・・・・けど、今は違う。私は、友達や、平民達、そして家族を守りたい。そして、それだけの力は私にはあった。それをタクヤが気付かせてくれたから」

アイナは、その言葉はハッキリと言った。

キュルケは優しい笑みを浮かべ、

「フフッ、貴女はいい使い魔を召喚したわね」

そう言った。

「うん!」

アイナは頷き、拓也に寄りかかる。

「ア、 アイナ・・・・」

拓也は顔を赤くしつつ、ちょっと焦る。

その時、

「きゅい!きゅいきゅいきゅい!!(このおチビ!タクヤさまから離れるのね!!)」

シルフィードが暴れだす。

「わっ!?こら!シルフィード!落ち着け!」

拓也が叫ぶ。

アイナは無言で拓也に寄り添い続け、シルフィードを睨み付けた。

(アナタにタクヤは渡さない)

そう、アイナの眼が語っていた。

「きゅい~!!きゅいきゅいきゅいきゅい!!(きゅい~!!ムカつくのねこのおチビ!!)」

更にシルフィードが暴れるが、

――ゴンッ

「きゅい!?」

後頭部にタバサの杖が振り下ろされた。

「うるさい。罰として、御褒美無し」

そうタバサが言った。

「きゅい!?きゅいきゅいきゅい!(そんな!?許してなのねお姉さま!)」

「ダメ」

「きゅい~~~~~~!(そんな~~~~~~~!)」

シルフィードの悲しい泣き声が響いた。

因みに、先程シルフィードが暴れたとき、ギーシュが落下した。

だが、学院に到着しても、その事に気付くものは誰もいなかった。

哀れギーシュ。





――ニューカッスル城跡地

戦が終わった2日後。

ワルドとフーケ、そしてブラックウォーグレイモンが礼拝堂のあったであろう場所に来ていた。

「それにしても、あの城が見事に崩れちまってさ、あんた達、一体どんな戦いをしたんだい?」

フーケがブラックウォーグレイモンに尋ねる。

「フン。奴は俺に匹敵する強さを持っていた。それが答えだ」

ブラックウォーグレイモンはそれだけ言う。

実際に戦闘を見ていないフーケには予想がつかなかった。

次に、フーケはワルドを見る。

二の腕の中ほどから左腕が切断されている。

右腕にも包帯が巻いてあり、動かすのも一苦労のようだ。

「あんたも随分と苦戦したようね」

ワルドは、少し忌々しげに答えた。

「学院の生徒と思って油断したよ。まさかアイナが『スクウェア』の域にまで達していたとは知らなかった。彼女がいなければ、ウェールズは確実にこの手で始末できていた」

「そうかい。それに、あの『ガンダールヴ』もね。風の『スクウェア』のアンタの腕を、ぶった切っちまうなんてね」

「平民だと思って、油断した」

「だから言ったじゃない。アイツは私のゴーレムだってやっつけたんだ。でもまあ、この城にいたんじゃあ、生き残れはしなかっただろうけどね」

フーケがそう言うと、ワルドは冷たい微笑を浮かべた。

「ガンダールヴといえど、所詮は人だ。攻城の隊から、それらしき人物に苦戦したという報告は届いていない。おそらく、礼拝堂で学院の生徒共々、城の崩壊に巻き込まれたのだろう」

フーケが気が無さそうに鼻をならした。

だが、

「それは如何かな?」

ブラックウォーグレイモンがそう言った。

「どういう意味だ。ブラック」

ワルドが尋ねる。

「それは、これから分かる事だ」

そう言うと、ブラックウォーグレイモンは、ドラモンキラーを振り上げる。

それだけで凄まじい風圧が発生し、目の前の瓦礫の山を、紙屑の如く吹き飛ばした。

「な・・・・・・・」

それを見たフーケは絶句する。

目の前の存在は魔法も何も使っていない。

単に素振りで発生した風圧のみで何十tとある瓦礫の山を一撃で吹き飛ばしたのだ。

しかも、ブラックウォーグレイモンは全く疲労していない。

つまり、今の一撃は本気でもなんでもない。

単なる一撃だったということ。

フーケにはそれが信じられなかった。

瓦礫が吹き飛ばされた礼拝堂の床には、何もなかった。

何処にも死体は見当たらない。

「ホントにここで、あいつらは死んだの?」

そのはずだが、と呟いてワルドは辺りを注意深く探し始めた。

ブラックウォーグレイモンがとある所で立ち止まり、

「クックック・・・・・・」

笑いを漏らした。

ブラックウォーグレイモンの目の前の床には1メイルほどの穴が開いていた。

それはギーシュの使い魔、ウェルダンテが掘った穴なのだが、ワルドたちはそれを知らない。

「もしかして、この穴を掘って、あいつらは逃げたんじゃないの?」

フーケが言った。

ワルドの顔が怒りで歪む。

「中に入って、追いかけてみる?」

「無駄だろう。風が入ってくるという事は、空に通じているはずだ」

ワルドは苦々しい声で言った。

だが、

「やはり生き延びていたか。いいぞ、そうでなくては面白くない。やっと見つけた『敵』なのだからな」

ブラックウォーグレイモンは喜びの声を漏らす。

「貴様はいつか俺が倒す!待っていろ、アルダモン!!」

ブラックウォーグレイモンは空に向かってそう叫んだ。






アルビオンから帰ってきた翌日。

拓也は眼を覚ます。

「くあぁ・・・・・」

拓也は、欠伸をして起き上がろうとしたが、右手を何かに掴まれていて起き上がれなかった。

「ん?」

拓也は少し寝ぼけた眼をそっちに移動させる。

そこには、

「・・・・・・・アイナ・・・・?」

アイナが拓也の右腕に腕を回しながら眠っていた。

「のわあああああああっ!!」

拓也が叫ぶ。

ラ・ロシェールに泊まったときも似たような事があったが、あの時と比べての救いは、アイナはちゃんと服を着ていたというところだろう。



刺激的な朝を迎えた拓也は、あの後、アイナに理由を聞いた。

それが、

「イルククゥには負けていられない」

だそうだ。

拓也は思いっきりため息をついた。





今日の授業は、コルベールの授業だった。

彼は、嬉しそうに、でんっ!と机の上に妙なものを置いた。

「それは何ですか?ミスタ・コルベール」

生徒の1人が質問した。

果たしてそれは妙な物体であった。

長い、円筒状の金属の筒に、これまた金属のパイプが延びている。

パイプはふいごのようなものに繋がり円筒の頂上には、クランクがついている。

そしてクランクは円筒の脇に立てられた車輪に繋がっていた。

そして更に更に、車輪は扉の付いた箱に、ギアを介してくっついている。

一体何の授業を始める気なのか?と、生徒たちは興味深くその装置を見守った。

コルベールはおほん、ともったいぶった咳をすると、語り始めた。

「えー、『火』系統の特徴を、誰かこの私に開帳してくれないかね?」

そう言うと、教室を見回す。

教室中の視線が、キュルケに集まった。

ハルケギニアで『火』といえば、ゲルマニア貴族である。

キュルケは授業中だというのに、爪の手入れをしていた。

ヤスリで磨く爪から視線をはずさず、気だるげに答えた。

「情熱と破壊が『火』の本領ですわ」

「そうとも!」

自身も『炎蛇』の二つ名を持つ、『火』のトライアングルメイジであるコルベールは、にっこりと笑って言った。

「だがしかし、情熱はともかく、『火』が司るものが破壊だけでは寂しいと、このコルベールは考えます。諸君、『火』は使いようですぞ。使いようによっては、いろんな楽しいことが出来るのです。いいかねミス・ツェルプストー。破壊するだけじゃない。戦いだけが『火』の見せ場ではない」

「トリステインの貴族に、『火』の講釈を承る道理がございませんわ」

キュルケは自信たっぷりに言いはなつ。

コルベールは、キュルケのイヤミにも動じず、にこにことしている。

「でも、その妙なカラクリはなんですの?」

キュルケはきょとんとした顔で、机の上の装置を指差す。

「うふ、うふふ。よくぞ聞いてくれました。これは私が発明した装置ですぞ。油と、火の魔法を使って、動力を得る装置です」

クラスメイトはぽかんと口を開けて、その妙な装置に見入っている。

拓也は、どこかで見たことがあるような装置を見て、腕を組んで首をかしげた。

「如何したの?」

それに気付いたアイナが声をかける。

「いや、あの装置をどっかで見たような気がするんだ」

そう言って、じっとコルベールの装置に見入る拓也を見て、アイナも興味深そうにその装置に見入った。

コルベールは続けた。

「まず、この『ふいご』で油を気化させる」

コルベールはしゅこっ、しゅこっ、と足でふいごを踏んだ。

「すると、この円筒の中に、気化した油が放り込まれるのですぞ」

慎重な顔で、コルベールは円筒の横に開いた小さな穴に、杖の先端を差し込んだ。

呪文を唱える。

すると、断続的な発火音が聞こえ、発火音は、続いて気化した油に引火し、爆発音に変わった。

「ほら!見てごらんなさい!この金属の円筒の中では、気化した油が爆発する力で上下にピストンが動いておる!」

すると、円筒の上にくっついたクランクが動き出し、車輪を回転させた。

回転した車輪は箱に付いた扉を開く。

すると、ギアを介して、ぴょこっ、ぴょこっと中から蛇の人形が顔を出した。

「動力はクランクに伝わり車輪を回す!ほら!するとヘビ君が!顔を出してぴょこぴょこご挨拶!面白いですぞ!」

生徒たちは反応薄げにその様子を見守っている。

だが、拓也はその装置が何だったのかが分かり、才人に確認をとる。

「才人さん、もしかしてあれって・・・・」

「ああ、着火は魔法で行なってるけど間違いない。あれはエンジンの原型だ」

「やっぱり」

拓也と才人は熱心にコルベールの装置を見ている。

誰かがとぼけた声で言った。

「で?それが如何したっていうんですか?」

コルベールは自慢の発明品が、殆ど無視されているので悲しくなった。

おほん、と咳をすると、説明を始めた。

「えー、今は愉快なヘビ君が顔を出すだけですが、例えばこの装置を荷車に載せて車輪を回転させる。すると馬がいなくても荷車は動くのですぞ!たとえば海に浮かんだ船の脇に水車をつけて、この装置を使って回す!すると帆がいりませんぞ!」

「そんなの、魔法で動かせばいいじゃないですか。なにもそんな妙ちきりんな装置を使わなくても」

生徒の1人がそう言うと、皆もそうだそうだと言わんばかりに頷きあった。

拓也は、何で6000年もの歴史があって科学技術が余り進歩しないのか理解した。

「諸君!よく見なさい!もっともっと改良すれば、なんとこの装置は魔法がなくても動かす事が可能になるのですぞ!ほれ、今はこのように点火を『火』の魔法に頼っておるが、例えば火打石を利用して、断続的に点火できる方法が見つかれば・・・・・」

コルベールは興奮した様子でまくし立てたが、生徒たちは「一体それがどうしたっていうんだ?」と言わんばかりの表情であった。

コルベールの発明の凄さに気付いているのは、拓也と才人、そして拓也から科学の説明を聞いたことがあるアイナだけだった。

「先生!それ、すばらしいですよ!それは『エンジン』です!」

才人は思わず立ち上がって叫んだ。

教室中の視線が一斉に注がれる。

「えんじん?」

コルベールはきょとんとして、才人を見つめた。

「そうです。俺たちの世界じゃ、それを使って、さっき先生が言ったとおりの事をしているんです」

「なんと!やはり、気付く人は気付いておる!おお、君はミス・ヴァリエールの使い魔の少年だったな」

コルベールは、才人が伝説の使い魔『ガンダールヴ』のルーンをその手に浮かび上がらせた少年であることを思い出した。

「君は一体、何処の国の生まれだね?」

身を乗り出してコルベールは才人に尋ねる。

ルイズがそんな才人のパーカーの裾を引っ張り、軽く睨んでみせた。

「・・・・・・・余計な事言うんじゃないの。怪しまれるわよ」

才人はそれもそうだと思い、再び席に座った。

「君は、一体何処の生まれだね?うん?」

しかし、コルベールは目を輝かせて才人に近付いた。

隣に座ったルイズが代わりに答える。

「ミスタ・コルベール・彼は、その・・・・・・・、東方の・・・・・・、ロバ・アル・カリイエの方からやってきたんです」

コルベールは驚いた顔になった。

「なんと!あの恐るべきエルフの住まう地を通って!?いや、『召喚』されたのだから、通らなくてもハルケギニアへはやってこれるか。なるほど・・・・・、エルフたちの治める東方の地では、学問、研究が盛んだと聞く。君はそこの生まれだったのか。なるほど」

コルベールは納得したように頷いた。

才人は「なにそれ?」といった顔でルイズの方を向いた。

ルイズは「私に合わせなさい」というように、才人の足を踏んづけた。

「そ、そうです。俺はその、ロバなんとかからやってきたんです」

コルベールはうんうん頷くと、装置の方へ戻った。

そして、再び教壇に立ち、教室を見回す。

「さて!では皆さん!誰かこの装置を動かしてみないかね?なあに!簡単ですぞ!円筒に開いたこの穴に、杖を差し込んで『発火』の呪文を断続的に唱えるだけですぞ。ただ、ちょっとタイミングにコツがいるが、慣れればこのように、ほれ」

コルベールはふいごを足で踏み、再び装置を動かした。

爆発音が響き、クランクと歯車が動き出す。

そしてヘビの人形がぴょこぴょこ顔を出す。

「愉快なヘビ君がご挨拶!このように!ご挨拶!」

しかし、誰も手をあげようとしない。

かに思われたが、一つの手が上がった。

「ミスタ・コルベール。私にやらせてください」

手を上げたのはアイナだった。

アイナは、拓也と才人の話を聞いて、ますます興味を持ったようだ。

「なんと!ミス・シンフォニア!この装置に興味があるのかね!?」

コルベールの顔が輝いた。

「はい!是非やらせてください!」

アイナはそう返事をすると、立ち上がり、教壇へ向かう。

「では、ミス・シンフォニア。まずは、このふいごを踏んでください」

アイナは言われたとおりにふいごを踏む。

気化した油が円筒の中に送り込まれる。

「そこで、円筒の穴に杖を差し込んで・・・・」

アイナが杖を円筒の穴に杖を差し込む。

「そこで、『発火』の呪文を断続的に唱えるのですぞ!」

アイナは呪文を詠唱した。

まず発火音がして、続いて気化した油に引火し、爆発音に変わった。

始めは『発火』のタイミングが掴めず、ぎこちない動きだったが、すぐに慣れ、コルベールがやったようにスムーズに動くようになった。

「おお!すばらしいですぞ!ミス・シンフォニア!」

コルベールは歓喜の声を漏らす。

「して、この装置を使った感想はどうだね?」

コルベールは目を輝かせて聞いた。

「はい。最初は『発火』のタイミングが掴めませんでしたが、慣れればおもしろいですね」

「おお!」

コルベールは自分の研究に興味を持って貰えて感動している。

「それだけではありません。この装置で使う魔法は、精神力の消費が少ない『発火』だけです。油さえあれば、同じ動きをさせるのに普通の魔法の5倍・・・・・・・いえ、10倍は持続できると思います」

「おお!そこまで理解してもらえましたか!!」

コルベールは喜びに満ち溢れる。

「はい!そして、これを改良し、魔法を使わず着火できるようにすれば、メイジじゃなくても動かせるようになる。そうすれば、先程ミスタ・コルベールの言われたように馬の要らない馬車や、帆の要らない船も夢物語ではありません。しかもそれは平民でも動かせる。これはもうすばらしい発明です、ミスタ・コルベール!」

実際動かしてみて、コルベールの発明した装置の凄さを実感したのか、アイナも興奮してこの装置を賞賛する。

「おお・・・・・ここまで私の研究を理解してくれたのは君が初めてだよ、ミス・シンフォニア」

コルベールは感動の余り、涙を流している。

「ミスタ・コルベール。この装置を完成させれば、貴方はきっと歴史に名を残す偉大な研究者になると私は思います」

アイナの目は嘘偽りのない真剣な目だった。

コルベールは涙を拭うと、微笑んで言った。

「ありがとう、ミス・シンフォニア。君のお陰で、私はまだ頑張る事が出来そうだ」

今までのやり取りを聞いていた教室の生徒たちは、コルベールに対する認識を少しずつ改めるようになった。







次回予告


誤解から部屋を追い出された才人。

キュルケに誘われ、宝探しに行く事になる拓也達。

本物の宝は見つかるのか?

そして、『竜の羽衣』とは?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第十四話 宝探しと竜の羽衣

今、異世界の物語が進化する。




あとがき

十三話完成。

いや~、悩んだ悩んだ。

中々ネタが思い浮かばず苦労しました。

特に最初のアンリエッタ、ウェールズとの話なんて、如何するか悩みまくりました。

一応出来たけど、なんかおかしいかな?

次に、アイナの逆襲。(笑)

イルククゥには負けていられません。

思ったよりも短くなりましたが・・・・・・

んで、コルベールの発明品。

原作ではルイズに破壊されましたが、この小説では、アイナがいますからね。

アイナが科学を理解しすぎかな?

でも、拓也から話を聞いて興味を持ってますからね。

こんなもんで如何でしょうか?

では、次も頑張ります。



[4371] 第十四話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/12/21 12:18
アルビオンでの任務を終え、学院に帰った拓也達。

通常の学園生活に戻ると思いきや?


第十四話 宝探しと竜の羽衣


さっそくだが、拓也、才人、アイナ、タバサ、キュルケ、ギーシュはうち捨てられた開拓村にいた。

拓也がアグニモンに進化し、とある寺院に入っていく。

そして、

――ドカッ! バキッ! ズガッ! ドゴッ!

暫く打撃音が響き、オーク鬼が飛び出てきた。

オーク鬼とは、身の丈2メイル。

体重は人間の約5倍。

醜く太った体を、獣から剥いだ皮に包んでいる。

突き出た鼻を持つ顔は、豚のそれにそっくりだ。

2本足で立った豚、という形容がしっくりくる体をいからせている。

しかも、人間を食料とする困ったやつ。

なのだが、十数匹いるオーク鬼のその顔はアグニモンにやられてボコボコになっていた。

言うなれば、一方的にやられて、泣いて逃げると言う表現がピッタリだった。

だが、逃げようとするオーク鬼の前に、7体の『ワルキューレ』が現れる。

しかし、

「あのバカ!」

アグニモンが少し慌てた声で言った。

これは、打ち合わせと違う。

焦ったギーシュが先走ったのだ。

ワルキューレが一斉に先頭のオーク鬼に向かって突撃した。

オーク鬼の腹に、槍の穂先がめり込んだ。

そのオーク鬼は倒れるが、傷は浅く、すぐに立ち上がる。

そして、仲間のオーク鬼たちと棍棒を振り回し、ワルキューレを砕く。

あっという間に全滅したワルキューレ。

だが、先程攻撃を受けたオーク鬼に、氷の矢の嵐が襲い掛かり、一瞬で絶命した。

タバサの得意魔法、『ウィンディ・アイシクル』だ。

続けて、ファイヤーボールより一回り大きな火球が1匹のオーク鬼の頭部に命中。

頭部を焼き尽くした。

キュルケの魔法、『フレイム・ボール』であった。

更には、無数の炎の矢が降り注ぐ。

アイナの『フレイム・アロー』。

いかにタフなオーク鬼でもスクウェアスペルを喰らってはひとたまりもない。

十数匹いたオーク鬼はあっという間に残り3匹となった。

その、残った3匹は最後に攻撃があった方、つまりはアイナの方へ突撃した。

だが、その前に才人とキュルケの使い魔、サラマンダーのフレイムが立ちはだかった。

才人はデルフリンガーを握ってガンダールヴのルーンを発動させ、一瞬で2匹のオーク鬼を切り伏せる。

フレイムは、1匹のオーク鬼と格闘の末押さえつけ、頭に火を吹きかけた。



オーク鬼が全員倒れた事を確認すると、隠れていたアイナ、タバサ、キュルケ、ギーシュが出てくる。

アグニモンも進化を解き、拓也に戻る。

位置的には、寺院の方から、拓也とタバサ。

フレイム・アローで、まとめて倒されたオーク鬼達を挟んで、アイナとキュルケ、ギーシュ。

アイナ達と、倒されたオーク鬼達の中央あたりに才人とフレイムだ。

そして、拓也とタバサが倒されたオーク鬼達の横を通り過ぎようとしたとき。

「ぴぎぃ!!」

突如、1匹のオーク鬼が立ち上がった。

偶然、この1匹だけは致命傷には至っていなかった。

「なっ!?」

突然の事に、一瞬驚愕する。

オーク鬼が棍棒を振り上げる。

狙いはタバサ。

「あ・・・・・」

タバサも油断しており、回避が間に合わない。

そして、棍棒が振り下ろされようとした時、

「あぶねえ!タバサ!!」

拓也が咄嗟にタバサに飛びかかり押し倒すように庇う。

――ドゴォ

「うあっ!!」

棍棒は拓也の背を掠め、地面を叩く。

掠っただけにも関わらず、拓也は数メイル吹き飛ばされ、地面を転がる。

「拓也!!」

才人はオーク鬼に向かって斬りかかろうとした。

だが、

――ゾクッ

突如悪寒に襲われ、振り向くとアイナが『フレイム・スフィア』を唱えていた。

「げ!」

才人は慌てて飛び退く。

「タクヤに・・・・・・何するのッ!!!」

その言葉と共に放たれた大火球は、あっという間にオーク鬼を焼き尽くした。

アイナが拓也の方に視線を向けると、既にタバサが駆け寄り、治癒魔法をかけていた。

アイナもすぐに駆け寄るが、アイナの属性は『火』。

『水』系統に属する治癒魔法はからっきしなのだ。

少々歯痒い思いをしながら、タバサの治療を見つめるアイナ。

「くっ・・・・痛ってえ~!」

拓也が気が付き、声を漏らす。

「タクヤ!大丈夫!?」

アイナがすぐに声をかける。

「あ、ああ。一応大丈夫みたいだ。背中はまだ痛いけど」

地面に寝そべったまま拓也は答える。

「・・・・・ごめんなさい」

タバサが謝る。

「ん?」

「私が油断していた所為で貴方は怪我を負った」

タバサは治療を続けながらそう言う。

「気にすることはないよ。油断してたのは俺も同じだ。それに、仲間を助けるのは当然だろ?」

「・・・・・何で貴方は、自分が傷つくかもしれない状況でも他人を優先できるの?」

「何でって言われてもな・・・・・・元々俺は、考えるより先に体が動くタイプの人間だからな。危ない、って思ったら体が勝手に動いただけさ」

「死ぬかもしれないのに?」

「仲間の為なら命を懸けるには十分だ」

死ぬ気は無いけどな、と心の中で付け加えつつ、拓也は微笑しながら言った。

タバサは無表情の中に、僅かに驚愕の表情を浮かべる。

「・・・・・・・・・・イーヴァルディ」

タバサは小声でポツリと呟いたが、それは、誰の耳にも聞こえなかった。



拓也の治療が終わったところで、とりあえずキュルケはギーシュを殴った。

「ぐはぁ!なにをするんだね!?」

ギーシュがキュルケに講義する。

「アンタの所為でタクヤが怪我したじゃない!」

「ぼ、僕の所為か!?」

「それ以外に何があるって言うの!?先走って作戦無視したでしょうが!!」

本来は、ウェルダンテが落とし穴を掘った所にアグニモンがオーク鬼達を追い込み、落とし穴に落ちたところで一網打尽にする作戦だったのだ。

寺院の中や周辺でアグニモンが必殺技を使えば、寺院が火事になる恐れがあったのでそういう作戦のはずだった。

「そんな都合良く穴に落ちてくれるもんかね。戦は先手必勝。僕はそれを実践しただけだ」

ギーシュはぶつぶつと文句を言った。

反省の色が見えないギーシュにキュルケは頭にきた。

「シルフィード!」

空に向かってシルフィードの名を呼ぶ。

「きゅい~!!」

すると、空からシルフィードが急降下してきた。

そして、

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

そのままギーシュを踏みつけた。

「きゅいきゅい!きゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅいきゅい!!(このキザ男!あなたが勝手なことしてくれたお陰でお姉さまとタクヤさまが危ない目にあったのね!!)」

そのまま何度も踏みつける。

「ぎゃ! ちょ! やめて! 許して! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

うち捨てられた村にギーシュの悲鳴が響いた。




さて、話は戻るが、何故拓也達はこんな所にいるのか?

それはずばり、『宝探し』である。

そして、何故宝探しをしているのかといえば、いつもの如く、才人とルイズが関係している。

簡単に言えば、才人がメイドのシエスタを間違って押し倒し、その瞬間を偶然にもルイズが目撃。

ルイズが誤解して、才人を追い出してしまった。

学院の中庭でテント暮らしを始めた才人にキュルケが、宝探しをして、ゲルマニアで貴族になってルイズを見返して見ないかと持ちかけたのだ。

その話に魅力を感じた才人は、その話に乗った。

その話を聞いていたギーシュは、キュルケにうまく丸め込まれた。

タバサがいるのは長距離を移動する手段(シルフィード)を持っているため。

拓也がいるのは、才人が心配&拓也が来ないとシルフィードが行かないと言い張ったため。

拓也とシルフィードが一緒にいることとなれば、アイナも付いてくるのは当然なのである。





夜。

シルフィードに踏みつけられたにも関わらず、奇跡的に軽傷で済んだギーシュが恨めしそうに口を開いた。

「で、その『秘宝』とやらはこれかね?」

ギーシュが指差したのは、色あせた装飾品と汚れた銅貨が数枚であった。

宝の地図に書かれたところには、チェストはあった。

しかし、中身は持ち帰る気にもならないガラクタばかりであった。

「この真鍮でできた、安物のネックレスや耳飾が、まさかその『ブリーシンガメル』というわけじゃあるまいね?」

キュルケは答えない。

ただ、つまらなそうに爪の手入れをしていた。

タバサは相変わらず本を読んでいる。

才人は寝転がって月を眺めている。

ギーシュはわめいた。

「なあキュルケ、これで7件目だ!地図をあてにお宝が眠るという場所に苦労して行ってみても、見つかるのは金貨どころかせいぜい銅貨が数枚!地図の注釈に書かれた秘宝なんか欠片も無いじゃないか!インチキ地図ばっかりじゃないか!」

「うるさいわね。だから言ったじゃない。“中”には本物があるかもしれないって」

「いくらなんでも酷すぎる!廃墟や洞窟は化け物や猛獣の住処になってるし!苦労してそいつらをやっつけて、得られた報酬がこれじゃあ、割りにあわんこと甚だしい」

ギーシュは薔薇の造花をくわえて、敷いた毛布の上に寝転がった。

「そりゃそうよ。化け物を退治したぐらいで、ほいほいお宝が手に入ったら、誰も苦労しないわ」

険悪な雰囲気が漂う。

因みに、化け物や猛獣を退治したのは、拓也が5割、才人が4割、残りの1割をアイナ、タバサ、キュルケ、ギーシュの4人である。

ようはその1割以下の猛獣を退治してギーシュは苦労したと言っているのである。

そんな時、シエスタの明るい声が響いた。

「みなさーん、お食事ができましたよー!」

シエスタは、焚き火にくべた鍋からシチューをよそって、めいめいに配り始めた。

料理当番は、アイナとシエスタが担当している。

と言っても、普通の料理そのものの腕は、シエスタよりアイナの方が上回っているが、こういったサバイバル的な料理はシエスタのほうが上である。

だから宝探しの間、アイナはシエスタの手伝いという形をとっている。

「こりゃうまそうだ!と思ったらホントにうまいじゃないかね!一体何の肉だい?」

ギーシュがシチューを頬張りながら呟いた。

皆も、口にシチューを運んで、うまい!と騒ぎ始めた。

シエスタは微笑んで言った。

「オーク鬼の肉ですわ」

ぶほっと、ギーシュがシチューを吐き出した。

全員が、唖然としてシエスタを見つめた。

「じょ、冗談です!ホントは野うさぎです!罠を仕掛けて捕まえたんです」

それからシエスタは、皆が宝探しに夢中になっている間に、うさぎや鷓鴣を罠で捕まえ、ハーブや山菜を集め、シチューを作ったのだと説明した。

ほっとした口調でキュルケが言った。

「驚かせないでよね。でも、あなた起用ね。こうやって森にあるもので、美味しいものを作っちゃうんだから」

「田舎育ちですから」

シエスタははにかんで言った。

「これはなんていうシチューなの?ハーブの使い方が独特ね。あと、なんだか見たことも無い野菜がたくさん入っているわ」

キュルケは、フォークで食べなれない野菜を突きまわしながら言った。

「私の村に伝わるシチューで、ヨシェナヴェっていうんです」

シエスタは鍋をかきまぜながら説明した。

「父から作り方を教わったんです。食べられる山菜や、木の根っこや・・・・・・父は、ひいおじいちゃんから教わったそうです。今では私の村の名物です」

拓也はその料理を食べて、少し懐かしさを感じた。

そんな様子にアイナが声をかける。

「如何したのタクヤ?もしかして、口に合わなかった?」

そういわれた拓也は、

「いや、そんな事はないよ。ただ、元のせか・・・・・・・俺や才人さんの故郷に似たような料理があるから、少し懐かしいって思ってさ」

危うく口を滑らせる所だった拓也は慌てて言いなおす。

「そうなんですか?其方ではなんと言う料理なんですか?」

シエスタがそう聞いてくる。

「ん?寄せ鍋」

「へ~、名前も似てますね。凄い偶然ですね」

そういう風に食事中の会話は弾んでいった。



食事の後、キュルケは再び地図を広げた。

「もう諦めて、学院に帰ろう」

ギーシュがそう促したが、キュルケは首を振らない。

「あと一件だけ。一件だけよ」

キュルケは何かに取り付かれたように、目を輝かせて地図を覗き込んでいる。

そして、一枚の地図を選んで、地面に叩きつけた。

「これ!これよ!これでダメだったら学院に帰ろうじゃないの!」

「なんというお宝だね?」

キュルケは腕を組んで呟いた。

「『竜の羽衣』」

皆が食事を終えた後、シチューを食べていたシエスタが、ぶほっ、と吐き出した。

「そ、それホントですか?」

「なによ貴女。知ってるの?場所は、タルブの村の近くね。タルブってどこら辺なの?」

キュルケがそう言うと、シエスタは焦った声で呟いた。

「ラ・ロシェールの向こうです。広い草原があって・・・・・・・私の故郷なんです」




翌朝、一行は空飛ぶシルフィードの上で、シエスタの説明を受けていた。

シエスタの説明は、あんまり要領を得なかった。

とにかく、村の近くに寺院があること。

そこの寺院に『竜の羽衣』と呼ばれるものが存在している事。

「どうして、『竜の羽衣』って呼ばれてるの?」

「それを纏ったものは、空を飛べるそうです」

シエスタは、言い難そうに言った。

「空を?『風』系のマジックアイテムかしら」

「そんな・・・・・・大したものじゃありません」

シエスタは、困ったように呟いた。

「どうして?」

「インチキなんです。どこにでもある、名ばかりの『秘宝』。ただ、地元の皆はそれでもありがたがって・・・・・寺院に飾ってあるし、拝んでるおばあちゃんとかいますけど」

「へぇええ」

それからシエスタは、恥ずかしそうな口調で言った。

「実は・・・・・・それの持ち主、私のひいおじいちゃんだったんです。ある日、ふらりと私の村に、ひいおじいちゃんはあらわれたそうです。」そして、その竜の羽衣で、東の地から、私の村にやってきたって、皆にそう言ったんです」

「凄いじゃないの」

「でも、誰も信じなかったんです。ひいおじいちゃんは、頭がおかしかったんだって、皆言ってます」

「どうして?」

「誰かが言ったんです。じゃあその『竜の羽衣』で飛んでみろと。でも、ひいおじいちゃん、飛べなくって。なんかいろいろ言い訳したらしいですけど、皆が信じるわけもなくて。おまけに『もう飛べない』と言って私の村に住み着いちゃって。一生懸命働いてお金を作って、そのお金で貴族にお願いして、『竜の羽衣』に『固定化』の呪文までかけてもらって、大事に大事にしてました」

「変わり者だったのね。さぞかし家族は苦労したのでしょうね」

「いや、『竜の羽衣』の件以外では、働き者のいい人だったんで。皆に好かれたそうです」

「それってようは村の名物なんだろ?昨日のヨシェナヴェみたいな。そんなの持ってきたらダメじゃん」

と才人が言うと、

「でも・・・・・・私の家の私物みたいなものだし・・・・・・・サイトさんがもし、欲しいって言うなら、父に掛け合ってみます」

とシエスタは、悩んだ声で呟いた。

才人はそんなインチキな代物ならいらないと思ったが、キュルケが解決策を打ち出した。

「まあ、インチキならインチキなりの売り方があるわよね。世の中には馬鹿と好事家ははいて捨てるほどいるのよ」

ギーシュは呆れた声で言った。

「君は酷い女だな」

一行を乗せて、シルフィードは一路タルブの村へと羽ばたいた。



一行はタルブの村の近くに立てられた寺院にいた。

『竜の羽衣』はその寺院に安置されていた。

というか、『竜の羽衣』を包み込むように、寺院が建てられた、と言ったほうが正しい。

シエスタの曽祖父が建てたというその寺院の形は拓也と才人に懐かしさを覚えさせた。

寺院は、草原の片隅に建てられていた。

丸木が組み合わされた門の形。

石の代わりに、板と漆喰で作られた壁。

木の柱。

白い紙と、縄で作られた紐飾り。

そして、板敷きの上に、くすんだ濃緑の塗装を施された『竜の羽衣』は鎮座していた。

固定化のお陰か、何処にも錆は浮いていない。

作られたそのままの姿を『竜の羽衣』は見せていた。

キュルケやギーシュは、気の無さそうにその『竜の羽衣』を見つめていた。

好奇心を刺激されたのか、アイナと、珍しくタバサは、興味深そうに見つめている。

そして、その『竜の羽衣』を、拓也と才人は目を丸くして見つめていた。

拓也と才人が余りにも、呆けたように『竜の羽衣』を見つめているので、シエスタが心配そうに言った。

「あ、あの。サイトさん、タクヤ君?どうしたんですか?私、何か不味い物を見せてしまったんじゃ・・・・・・・」

2人は答えず、ただ黙って『竜の羽衣』を見つめるばかり。

「全く、こんなものが飛ぶわけないじゃないの」

キュルケが言った。

ギーシュも頷く。

「これはカヌーか何かだろう?それに鳥のおもちゃのように、こんな翼をくっつけたインチキさ。大体見ろ、この翼を。如何見たって羽ばたけるようには出来ていない。この大きさ、小型のドラゴンほどもあるじゃないか。ドラゴンだって、ワイバーンだって、羽ばたくからこそ空に浮かぶ事が出来るんだ。何が『竜の羽衣』だ」

ギーシュは『竜の羽衣』を指差して、もっともらしく頷いた。

「サイトさん、タクヤ君、ホントに・・・・・大丈夫?」

心配そうに才人の顔を覗き込むシエスタの肩を掴んで、才人は熱っぽい口調で言った。

「シエスタ」

「は、はい?」

シエスタは頬を染めて、才人の目を見つめ返した。

「君のひいおじいちゃんが残したものは、他にないのか?」

「えっと・・・・あと大したものは・・・・・・お墓と、遺品が少しですけど」

「それを見せてくれ」




シエスタの曽祖父のお墓は、村の共同墓地の一画にあった。

白い石で出来た、幅広の墓石の中、1個だけ違う形のお墓があった。

黒い石で作られたその墓石は、他の墓石と趣を異にしている。

墓石には墓碑銘が刻まれていた。

「ひいおじいちゃんが、死ぬ前に自分で作った墓石だそうです。異国の文字で書いてあるので、誰も読めなくて。なんて書いてあるんでしょうね?」

キュルケやギーシュがその文字を見るが、

「なんだいこのミミズがのたくったような字は?」

「見たことも無いわね・・・・・タバサ、分かる?」

本に詳しいタバサに聞くが、首を横に振る。

「う~ん・・・・・タクヤ、ルーンの力で読めないかな?」

アイナが拓也に試してみるように言うが、

「海軍少尉佐々木武雄、異界ニ眠ル」

「はい?」

そう、すらすらと文字を読んだのは才人であった。

シエスタは目を丸くする。

才人はシエスタを見つめた。

シエスタは熱っぽく見つめられたので、またまた頬を染めた。

「い、いやですわ・・・・・・そんな目で見られたら・・・・・・」

シエスタの黒い髪、黒い瞳。

何処となく、懐かしい雰囲気。

そんなふうに感じた理由に気付き、なるほど、と才人は思った。

「なあシエスタ、その髪と目、ひいおじいちゃん似だって言われただろ」

と才人が言うと、シエスタは驚いた声を上げた。

「は、はい!どうしてそれを?」



再び寺院に戻り、才人は『竜の羽衣』に触れてみた。

すると、左手の甲のルーンが光りだす。

(なるほど、こいつも『武器』に違いない)

翼から突き出た機関砲の砲身を見つめて、才人はそう思った。

ルーンが光ると、中の構造、操縦法が、才人の頭の中に聡明なシステムとして流れ込んでくる。

自分はこれを飛ばせるのだ、と思った。

燃料タンクを探し当て、そこのコックを開いてみた。

なるほど、案の定そこは空っぽだった。

どれだけ原型を止めていても、ガス欠じゃ飛ばす事は出来ない。

「やっぱりガス欠ですか?」

拓也が才人に尋ねた。

「ああ。確かにこれじゃもう飛べないよな」

そこに、生家に帰っていたシエスタが戻ってきた。

「ふわ、予定より、2週間も早く帰ってきてしまったから、皆に驚かれました」

シエスタはいそいそと手に持った品物を才人に手渡した。

それは、古ぼけたゴーグルだった。

海軍少尉だった、シエスタの曽祖父がつけていたものだろう。

フーケのゴーレムを倒したときに使った『破壊の杖』の持ち主と同じ、過去の異世界からの闖入者。

拓也、才人と同じ、異邦人。

「ひいおじいちゃんの形見、これだけだそうです。日記も、何も残さなかったみたいで。ただ、父が言っていたんですけど、遺言を残したそうです」

「遺言?」

「そうです。なんでも、あの墓石を銘を読めるものが現れたら、その者に『竜の羽衣』を渡すようにと」

「となると、俺にその権利があるって訳か」

「そうですね。その事を話したら、お渡ししてもいいって言ってました。管理も面倒だし・・・・・大きいし、拝んでる人もいますけど、今じゃ村のお荷物だそうです」

才人は言った。

「じゃあ、ありがたく貰うよ」

「それで、その人物にこう告げて欲しいと言ったそうです」

「なんて言ったの?」

「なんとしてでも『竜の羽衣』を陛下にお返しして欲しい、だそうです。陛下ってどこの陛下でしょう?ひいおじいちゃんは、何処の国の人だったんでしょうね」

才人は呟いた。

「俺や拓也と同じ国だよ」

「ホントですか?なるほど、だからお墓の文字が読めたんですね。うわぁ、なんか感激です。私のひいおじいちゃんと、サイトさんが同じ国の人だなんて。なんだか、運命を感じます」

シエスタは、うっとりした顔で、そう言った。

「じゃあ、ホントにひいおじいちゃんは、竜の羽衣でタルブの村へやってきたんですね・・・・・」

「これは竜の羽衣って名前じゃないよ」

「じゃあ、サイトさんの国では、なんて言うんですか?」

才人は言った。

「ゼロ戦。俺の国の、昔の戦闘機」

「ぜろせん?せんとうき?」

「つまり飛行機だよ」

「こないだ、サイトさんが言っていた、ひこうき?」

才人は頷くと、竜の羽衣、もといゼロ戦によじ登り、風防を開けて中を覗き込んだ。

「ん?」

座席に何か転がっているのが目に入り、それを拾う。

それは、赤い水玉模様が入った大きなタマゴだった。

「シエスタ、中にこのタマゴがあったんだけど、これは?」

才人はシエスタに尋ねる。

「え?何ですかそれ?今まで何回か中を見たことはありますが、そんなものは無かったはずですけど」

シエスタも分からない。

だが、

「デジタマ?」

拓也がまた目を丸くして呟いた。

「何だよ?でじたまって?」

才人が聞くと、

「デジモンのタマゴです。略してデジタマ」

拓也が答える。

「そのまんまだな・・・・・」

才人が苦笑しながら、なんとなくデジタマを撫でる。

すると、

――ピキッ

タマゴに罅が入る。

「あ」

それに気付いた拓也が声を漏らす。

――ピキピキピキピキッ

罅がタマゴの上部に広がり、

――パリンッ

「ぴきぃ!」

タマゴが割れ、中から、赤く丸い体に、コウモリの羽のような耳。

小さな体に対して大きな2つの黒い目と、口を持ったデジモンが生まれた。

「は?」

才人は素っ頓狂な声を上げた。





次回予告


ゼロ戦の中にあったデジタマから生まれたデジモン、ジャリモン。

そのジャリモンに懐かれた才人。

少々振り回されながらもコルベールに依頼した燃料で、エンジンがかかった事に喜ぶ。

だが、その時タルブでは・・・・・・

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第十五話 才人のデジモン

今、異世界の物語が進化する。






あとがき

はい十四話完成。

少しやり取りが違うだけで、大体は原作どおりですね。

最初の拓也の負傷は、偶には怪我するのもありかな、と思いまして。

序にタバサフラグ?

というほどではないか?

捉え方は人それぞれでしょう。

さて、皆様、『竜の羽衣』の予想でグラニというものがあったのですが、自分の中ではグラニは竜というより、鳥という感覚なんです。

で、本来、ゼロ戦だけで行く予定でした。

が、皆様、才人がデジモンになる事を期待しておられるようで。

ぶっちゃけますが、才人はデジモンになる予定はありませんでした。

拓也とマトリクスエボリューション(の様な事)をする予定もありませんでした。

しかぁし!これだけ期待されて何も無いというのは、流石に悪い気がします。

その時、自分の壊れたアンテナが電波を受信。

よくよく考えれば、才人には生き物の相棒がいない。(デルフは武器ですし。シュヴァリエになった時に買ったはずの馬も、殆ど出番が無い)

才人自身が使い魔ですから無理もないだろうと思います。

ならば、作ってしまえと、閃いたのがデジモンのパートナー。

次回予告にも出てきたジャリモンは、知ってるかもしれませんが、ギルモンの幼年期前半です。

ここまで、聞けば後は予想できますよね?

では、次も頑張ります。



[4371] 第十五話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2008/12/28 16:54
ゼロ戦の中にあったデジタマ。

そのデジタマから生まれた、赤いデジモン。

さて、どうなるのやら?


第十五話 才人のデジモン


「は?」

才人は素っ頓狂な声をあげた。

デジタマをなんとなく撫でたら、デジタマが孵ってしまったのだ。

その丸くて赤いデジモンは、才人を見上げ、

「ぴきゅ?」

訳が分からないように首・・・・・・というか体全体を傾けた。

「え、え~と、お前は?」

結構テンパっているらしく、生まれたばかりのデジモンに才人は直接尋ねる。

「ぼく、ジャリモン」

しっかりと言葉で返ってきた。

それにまた驚く才人。

「そ、そうか・・・・・」

如何しようかと迷っていると、

「ぴきゅ!」

ジャリモンが飛び跳ねて、才人の腕、肩と来て、頭の上に乗っかった。

「お、おい?」

才人は困惑したが、ジャリモンは笑顔で才人の頭に座り込む。

それを見た拓也は笑った。

「あはは!才人さん、懐かれましたね!」

「ど、如何しろっていうんだよ?」

「育てればいいじゃないですか」

「育てるったって・・・・・・」

「才人さんが付き合いたいようにすればいいんですよ。デジモンは信じれば応えてくれます」

「・・・・・・・・」

才人は頭の上のジャリモンを一度手に持って、見つめる。

「ぴきゅ?」

ジャリモンは純粋な目で才人を見ていた。

「・・・・・ったく、しゃーねーな。お前の面倒、俺が見てやるよ」

才人は笑顔でそう言った。

「ぴきゅっ!ぴきゅっ!」

ジャリモンは才人の言ったことを理解しているのか、才人の手の上で飛び跳ねて喜びを表現する。

「ぴきゅ!」

ジャリモンはまた飛び跳ねて、才人の頭の上に乗る。

今度は、才人は何も言わない。

ただ、笑っていた。




シエスタの実家で一晩泊まり、学院に帰るのは翌日になった。

ゼロ戦はヴリトラモンが運んだ。

本来なら、竜騎士隊を呼んで運んでもらわなければいけないぐらいの物だ。

しかし、ヴリトラモンのパワーは完全体以上。

小型の飛行機であるゼロ戦を運ぶぐらいわけは無い。

因みに才人だが、目の下にクマを作っていた。

なぜならば、昨夜、ジャリモンが夜鳴きしたり、夜中にトイレに行かせたりと、半分徹夜みたいなことになったからだ。




で、学院にゼロ戦を運んだとき、コルベールが大慌てで駆け寄ってきた。

「君!こ、これは何だね!?よければ私に説明してくれないかね!?」

好奇心を激しく刺激されたコルベールは才人に問いかける。

「よかった。先生に相談したい事があるんです」

「私に?」

コルベールはきょとんとした。

「これは『飛行機』っていうんです。俺たちの世界じゃ普通に飛んでる」

「これが飛ぶのか!?はぁ!すばらしい!」

コルベールはゼロ戦のあちこちを、興味深そうに見て回った。

「ほう!もしかしてこれが翼かね!羽ばたくようにはできておらんな!さて、この風車はなんだね?」

「プロペラです。これを回転させて、前に進むんです」

才人が答えると、コルベールは目をまん丸にして、才人に詰め寄った。

「なるほど!これを回転させて、風の力を発生させるわけか!なるほどよくできておる!では、さっそく飛ばせてみてくれんかね!ほれ!もう好奇心で手が震えておる!」

才人は困ったように頭をかいた。

「えとですね・・・・・そのプロペラを回すためには、ガソリンが必要なんです」

「ガソリンとは、なんだね?」

「その、それを今から先生に相談しようと思ってたんです。ほら、この前、先生が授業でやっていた発明品」

「愉快なヘビ君のことかね?」

「そうです!あれを動かすために、油を気化させていたでしょう?」

「あの油が必要なのか!なんの!お安い御用だ!」

「いや、あれじゃ、ダメだと思うんです。ガソリンじゃなきゃ」

「がそりん?ふむ・・・・・油にも色々あるからのう」



コルベールは拓也と才人(とジャリモン)を自分の研究室に招いた。

ドアを開けた瞬間、拓也と才人は鼻を摘む。

才人の頭の上のジャリモンも嫌な顔をしていた。

「なあに、臭いはすぐに慣れる。しかし、ご婦人方には慣れるということはないらしく、この通り私は独身である」

聞いてもいない事をコルベールは呟きながら、椅子に座った。

そして、ゼロ戦の燃料タンクの底にこびり付いていたガソリンを入れたつぼの臭いを嗅いだ。

『固定化』の呪文をかけられたゼロ戦の中にあったガソリンなので、化学変化は起こしていなかった。

「ふむ・・・・・・嗅いだ事の無い臭いだ。温めなくてもこのような臭いを発するとは・・・・・・随分と気化しやすいのだな。これは、爆発したときの力は相当なものだろう」

コルベールはそう呟くと、手近な羊皮紙を取り、さらさらとメモを取り始めた。

「これと同じ油を作れば、あの『ひこうき』とやらは飛ぶのだな?」

才人は頷いた。

「多分・・・・・あと壊れてなければですけど」

「おもしろい!調合は大変だが、やってみよう!」

コルベールはそれから、ぶつぶつと呟きながら、ああでもない、こうでもないと騒ぎながら、秘薬を取り出したり、アルコールランプに火をつけたりし始めた。

「君達は、サイト君、タクヤ君と言ったかね?」

2人は頷く。

「君達の故郷では、あれが普通に飛んでおると言ったな?エルフの治める東方の地は、なるほど全ての技術がハルケギニアのそれを上回っているようだな」

才人は如何したものかと思ったが、少しすると口を開いた。

「先生、実は、俺達は・・・・・この世界の人間じゃないんです。俺も、拓也も、その飛行機も、何時だったかフーケのゴーレムを倒した『破壊の杖』も・・・・・ここじゃない、別の世界からやってきたんです」

コルベールの手がぴたりと止まった。

「なんと言ったね?」

「別の世界から来たと言ったんです」

まじまじとコルベールは、拓也と才人を見つめた。

それから、感じ入ったように頷き、

「なるほど」

と、呟いた。

「驚かないんですか?」

「そりゃあ、驚いたさ。でも、そうかもしれぬ。君達の言動、行動、全てがハルケギニアの常識とはかけ離れている。ふむ、ますますおもしろい」

「先生は、変わった人ですね」

拓也がそう言う。

コルベールは呟いた。

「私は、変わり者だ、変人だ、などと呼ばれる事が多くてな、未だに嫁さえ来ない。しかし、私には信念があるのだ」

「信念ですか?」

「そうだ。ハルケギニアの貴族は、魔法をただの道具・・・・・・何も考えずに使っている箒のような、使い勝手の良い道具ぐらいにしか捉えておらぬ。私はそうは思わない。魔法は使いようで顔色を変える。従って伝統に拘らず、様々な使い方を試みるべきだ」

コルベールは頷いて、言葉を続けた。

「君達を見ていると、ますますその信念が固く、強くなるぞ。ふむ、異世界とはな!ハルケギニアの理だけが全ての理ではないのだな!おもしろい!なんとも興味深いことではないか!私はそれを見たい。新たな発見があるだろう!私の魔法の研究に、新たな1ページを付け加えてくれるだろう!だからサイト君、タクヤ君。困った事があったら、何でも私に相談したまえ。この炎蛇のコルベール、いつでも力になるぞ」





アウストリの広場に置かれたゼロ戦で、才人はガンダールヴの力で各部の点検をしていた。

拓也もいるが、さっぱり分からないので見ているだけだ。

その時、デルフリンガーが才人に話しかけた。

「相棒、これは飛ぶんかね?」

「飛ぶ」

才人は答える。

「こんな物が飛ぶなんて、相棒たちの世界はほんとに変わってるっスねぇ」

地下水がぼやく。

「こっちの世界ほどじゃない。一応、飛行機だって自然の常識に沿って飛ぶんだ。こっちの世界みたいに魔法を使って問答無用で飛んだりはしない」

そう答えたのは拓也。

そんな時、ルイズがゼロ戦に近寄ってきた。

「なにこれ?」

と、才人に問いかけた。

才人は操縦席から顔をあげ、

「ひこうき」

と、そっぽを向いて答えた。

「じゃあそのひこうきとやらから、アンタは降りてきなさい」

ルイズはそう命令するが、才人は無視して点検を続けた。

すると、ルイズはゼロ戦の翼にぶら下がり、ゼロ戦を揺すりながら言った。

「降りてきなさいって言ってるでしょ!」

「わかったよ」

と、呟いて、才人は降りて、ルイズの前に行った。

「何処行ってたのよ?」

「宝探し」

「ご主人様に無断で行くなんて、どういうつもり?」

「クビじゃなかったのかよ」

才人がそう言うと、ルイズは下を向いた。

それから、泣きそうな声で言った。

「べ、弁解する機会を与えないのは、ひ、卑怯よね。だから、言いたいことがあるんなら、今のうちに言いなさい」

「弁解もなにも、だから、あの時は何もしてないよ。シエスタの事だろ?あれは、シエスタが倒れそうになったから、支えてやろうとしたら、俺まで転んだんだ。それで、押し倒すように倒れちゃっただけだ」

「じゃあ、なんにもないのね?」

「そうだよ。お前、どうかしてるよ。だいたい、部屋に来たのだってあの時が初めてだったんだ。そのぐらいで、その、お前が考えてるような事になるかよ。でも、何でそんなに怒るんだよ。シエスタとどうなろうが、お前には関係ないだろ?」

そう才人は言った。

「関係ないけど、あるわよ」

「どっちなんだよ」

ルイズは才人を睨んで、う~~~~と唸った。

才人の袖をルイズは引っ張る。

謝りなさいよ、とか、心配かけたくせになんで偉そうなのよ、と呟いたが、才人はもうルイズを見ていない。

ゼロ戦を夢中で見つめている。

すると、ルイズは女の必殺技をだした。

というか、泣き出したのである。

「一週間以上も、何処行ってたのよ。もう、ばか、きらい」

ルイズは、目頭を手の甲でごしごし拭いながら泣いた。

「な、泣くなよ」

才人は慌てて、ルイズの肩に手を置いた。

そうすると、ルイズはますます強く泣き始めた。

「きらい。だいっきらい」

そんな様子を見ていた拓也は、

「元の鞘に収まったってとこかな」

そう呟く。

そこにアイナたちが現れた。

手にモップや雑巾を持っている。

サボっていた罰で、魔法学院の窓拭きを命じられたのであった。

拓也と才人は貴族でも生徒でもないので、関係がないのだった。

ギーシュは、泣いているルイズと、それを慰める才人を見て、ニヤニヤ笑いを浮かべた。

「きみ、ご主人様を泣かせたら、いかんのじゃないのかね?」

キュルケがつまらなそうに、

「あら、もう仲直り?面白くないの」

と呟いた。

タバサが2人を指差して、

「雨降って地固まる」

といった。

最後にアイナが、

「よかったね、ルイズ」

と呟いた。




アイナたちが去り、ようやくルイズも泣き止んだところで、ルイズは才人の頭の上に乗っているジャリモンに気付く。

「ねえ、それなに?」

ルイズは、指を刺して言った。

「こいつか?こいつはジャリモン。タマゴから孵ったときに、なんか懐かれた」

「ふ~ん」

ルイズは、じ~とジャリモンを見つめる。

「見たこと無い生き物ね。どんな種族なのかしら?」

「拓也が言うにはデジモンらしいぞ」

「デジモン?タクヤがいたっていう異世界の?」

才人は頷く。

「なんでそのデジモンがいるのよ?」

「知らん」

才人はきっぱりと答えた。




翌日。

「拓也!!」

才人が、アイナの部屋に勢い良く入ってきた。

「どうしたんですか?才人さん」

「ジャ、ジャジャジャ・・・・・」

「じゃ?」

「ジャリモンが変身したんだ!!」

才人が両手を前に出すと、そこには一回り大きくなり、ジャリモンに4本の足と、尻尾が生えたデジモンがいた。

「あ、進化したんですね」

拓也はさして驚きもせず答えた。

「え?進化?」

「はい。ジャリモンは生まれたばかりの・・・・・いわば赤子です。それが進化して幼年期後半になったんですよ。人間で言うなら幼稚園児ってところですかね」

拓也は説明する。

「名前はなんて言うんだ?」

「ギギモンだよ」

ギギモンは笑って答えた。




それから2日が過ぎた。

「サイト君!サイト君!できたぞ!できた!調合できたぞ!」

コルベールは息せききって、ゼロ戦の点検をしていた才人に近寄る。

突き出したワインの壜の中に、茶褐色の液体があった。

才人は燃料弁にワインの壜2本分のガソリンを入れる。

「まず、私は君に貰った油の成分を調べたのだ」

コルベールが得意げに言った。

「微生物の化石から作られているようだった。それに近いものを探した。木の化石・・・・・・石炭だ。それを触媒に浸し、近い成分を抽出し、何日間もかけて『錬金』の呪文をかけた。それでできあがったのが・・・・・・」

「ガソリンですね」

コルベールは頷いて、才人を促した。

「早くその風車を回してくれたまえ。わくわくして、眠気も吹っ飛んだぞ」

ガソリンを入れ終わると、才人は再び操縦席に座り込んだ。

「先生、魔法でこのプロペラを回せますか?」

「これかね?これは、あの油が燃える力で回るのとは違うのかね?」

「初めは・・・・・エンジンをかけるために、中のクランクを手動でまわす必要があるんです。回すための道具がないから、魔法でプロペラを直接お願いします」

コルベールは頷いた。

才人は各部の操作を行なう。

コルベールの魔法でプロペラがごろごろと重そうに回っている。

才人はタイミングを見計らい、点火スイッチを押した。

スロットルレバーを、心持ち前に倒して開いてやる。

バスバス、とくすぶる音が聞えた後、プラグの点火でエンジンが始動し、プロペラが勢い良く回り始めた。

コルベールは感動した面持ちで、それを見つめている。

才人は全ての計器が正常に動いている事を確認し、しばらくエンジンを動かした後、才人は点火スイッチをOFFにした。

操縦席から飛び降りて、コルベールと抱き合った。

「やった!先生!エンジンがかかりましたよ!」

「おおお!やったなぁ!しかし、何故飛ばんのかね?」

「ガソリンが足りません!飛ばすなら、せめて、樽で5本分はないと」

「そんなに作らねばならんのかね!まあ乗りかかった船だ!やろうじゃないか!」

コルベールは研究室に戻っていく。

因みにコルベールは気付かなかったが、その場にはずっと拓也もいたのであった。



それから2日後、タルブの村。

生家の庭で、シエスタは幼い兄弟たちを抱きしめ、不安げな表情で空を見つめていた。

先程、ラ・ロシェールの方から爆発音が聞えてきた。

驚いて庭に出て、空を見上げると、恐るべき光景が広がっていた。

空から何隻もの燃え上がる船が落ちてきて、山肌にぶつかり、森の中に落ちていった。

村は騒然とし始めた。

暫くすると、空から巨大な船が降りてきた。

雲と見まごうばかりの巨大なその船は、村人たちが見守る中、草原に鎖の付いた錨を下ろし、上空に停泊した。

その上から、何匹ものドラゴンが飛び上がった。

「何が起こってるの?お姉ちゃん」

幼い弟や妹たちが、シエスタにしがみついて尋ねる。

「家に入りましょう」

シエスタは、不安を隠して兄弟たちを促し、家の中に入った。

中では、シエスタの両親が、不安げな表情で窓から様子を窺っている。

「あれは、アルビオンの艦隊じゃないか」

父が草原に停泊した船を見て言った。

「いやだ・・・・・戦争かい?」

母がそう言うと、父が否定した。

「まさか。アルビオンとは不可侵条約を結んでいるはずだ。この前領主様のお触れがあったばかりじゃないか」

「じゃあ、さっきたくさん落ちてきた船はなんだい?」

艦上から飛び上がったドラゴンが、村目掛けて飛んできた。

父は母を抱えて窓から遠ざかる。

騎士を乗せたドラゴンは村の中まで飛んできて、辺りの家々に火を吐きかけた。

「きゃあ!」

母が悲鳴を上げた。

家に炎を吐きかけられ、窓ガラスが割れて室内に飛び散ったのだ。

村が燃え盛る炎と怒号と悲鳴に彩られていく。

父は気を失った母を抱いたまま、震えるシエスタに告げた。

「シエスタ!弟たちを連れて南の森に逃げるんだ!」

父にそう言われ、シエスタは兄弟たちを連れて逃げる。

その途中、

「・・・・・・助けて、サイトさん」

そう呟いた。





次回予告


アルビオンの攻撃により、炎上するタルブの村。

その事を聞きつけた、拓也と才人は戦場へ向かう。

しかし、拓也の前に立ち塞がるブラックウォーグレイモン。

巨大戦艦を相手に苦戦する才人。

だが、打つ手無しと思われたとき、ルイズの真の力が目を覚ます。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第十六話 タルブの村を救え!ルイズ、虚無の目覚め

今、異世界の物語が進化する。




才人のデジモン成長日記


名前:ジャリモン
属性:なし
世代:幼年期Ⅰ
種族:スライム型
必殺技:熱気をおびたアワ
通常技:なし



名前:ギギモン
属性:なし
世代:幼年期Ⅱ
種族:レッサー型
必殺技:ホットバイト
通常技:なし




あとがき

第十五話完成。

けど、自分で読んでもあんまり良いとは思わなかった。

第一、拓也の出番が殆ど無いし。

原作と殆ど変わってないし、ジャリモン⇒ギギモンに進化させましたが、それ以外はあんまり。

今回は何も閃かなかった。

ですが、その分次で頑張ります。

では、また次回。




[4371] 第十六話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/01/01 00:05
アルビオンの攻撃で、炎上するタルブ。

その時、学院では・・・・・


第十六話 タルブの村を救え!ルイズ、虚無の目覚め


トリステイン魔法学院に、アルビオンの宣戦布告の報が入ったのは、翌朝の事だった。

王宮は混乱を極めたため、連絡が遅れたのであった。

その事を偶然聞きつけた才人は中庭へ向かっていた。

拓也は、急いで走っている才人が気になり、声をかけた。

「才人さん?そんなに慌てて如何したんですか?」

才人は焦りながら喋る。

「拓也か!如何もこうもねえ!タルブの村がアルビオン軍に焼かれたんだ!!」

「なんだって!?」

拓也は叫び、その隣にいたアイナも驚愕の表情を浮かべる。

「じゃあ、才人さんは」

拓也は気を取り直し、才人に確認を取る。

「ああ!ゼロ戦でタルブに行く!」

才人は迷いなく答える。

「ダメよ!」

才人の後ろから追いかけてきたルイズが叫んだ。

「ダメよ!戦争してるのよ!あんた1人が行ったって、どうにもならないわ!」

才人はルイズに向き直り言った。

「ゼロ戦がある。敵はあの空に浮かんだでっかい戦艦なんだろ?あれだって空を飛べる。なんとかなるかもしれない」

「あんなおもちゃで、なにしようっていうのよ!」

「あれはおもちゃじゃねえよ。あれは俺の世界の『武器』だ。人殺しの道具だ。おもちゃなんかじゃない」

ルイズは首を振った。

「いくらこれがあんたの世界の『武器』でも、あんな大きな戦艦相手に勝てるわけないじゃないの!わかんないの?アンタ1人行ったって、どうにもならない「1人じゃない!!」ッ!?」

ルイズの言葉の途中で、拓也が叫んだ。

「才人さん1人じゃない。俺も行く!」

「なっ!?アンタまで!」

「シエスタだって俺は仲間だと思ってるんだ!今まで何度も世話になってる!その仲間がピンチなんだ!仲間を助けに行くのは当然だろ!艦隊の一つや二つ、俺が落してやる!」

拓也も迷いなく言う。

拓也は才人に向き直り、

「才人さん!俺は先に向かいます!才人さんもゼロ戦で!」

拓也の言葉に才人は頷く。

拓也は窓に近付き、窓枠に上る。

そして、飛び降りると同時に、

「スピリット!エボリューション!!うああああああああっ!!」

ビーストスピリットで進化する。

「ヴリトラモン!!」

ヴリトラモンが窓の外に滞空する。

「俺もすぐに行くからな!」

才人はそう言葉をかけ、再び中庭へ向かう。

ルイズも後を追った。

その時、

「タクヤ、私も行く!」

アイナが叫んだ。

ヴリトラモンは一瞬驚愕の表情を浮かべた後、

「ダメだ!危険すぎる!」

すぐに否定する。

「私だってシエスタのこと、友達だって思ってるんだよ!!」

アイナの目は真剣である。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

暫く視線が交差していたが、

「わかった」

ヴリトラモンが折れた。

アイナは笑みを浮かべ、ヴリトラモンの背中に飛び乗る。

「全力で飛ばす!しっかり掴まっていろ!!」

ヴリトラモンは全力で羽ばたいた。







トリステイン軍は、ラ・ロシェールに立てこもっていた。

しかし、反撃は難航していた。

敵に制空権を奪われ、満足な反撃が出来ない。

竜騎士隊や、グリフォン隊を向かわせるも、アルビオンの竜騎士隊に歯が立たない。

次々と全滅していった。

そして、アルビオン軍はラ・ロシェールに立てこもっているトリステイン軍に向けて、砲撃する準備を進めていた。

そして、タルブの草原には3000ものアルビオンの兵士が集結している。

砲撃を行なった後、全軍で突撃する作戦だろう。

ラ・ロシェールに立てこもったトリステイン軍からも、アルビオン軍の様子は見て取れた。

マザリーニは呟く。

「砲撃が終わり次第、敵は一斉に突撃してくるでしょう。とにかく迎え撃つしかありませんな」

「勝ち目はありますか?」

アンリエッタが聞き返した。

「・・・・・・3分~4分と言ったところでしょうな」

マザリーニはそういったが、勝機は殆ど無い。

圧倒的に戦力が違いすぎるのだ。

「竜騎士さえどうにかなれば、もっと勝率が上がりますが・・・・・」

と、そこで言葉が途切れた。

聞いた事のない音が、その耳に聞えてきたからだ。

――ババババババッ!

「この音は?」

アンリエッタもその音に気付き、言葉を漏らす。

「さ、さあ?」

マザリーニも首を傾げてしまう。

その時、トリステイン軍の上空を、赤い竜と緑色の竜が通過した。

ヴリトラモンとゼロ戦である。

この場に到着する寸前に、才人のゼロ戦がヴリトラモンに追いついた。

才人は風防から顔を出して、眼下のタルブの村を見つめた。

この前見た、素朴で、美しい村は跡形も無かった。

家々は黒く焼け焦げ、どす黒い煙が立ち昇っている。

才人はギリリ、と奥歯をかみ締めた。

草原を見た。

そこは、アルビオンの軍勢で埋まっていた。

この前、シエスタと2人で草原を見つめたときのことを思い出していた。

シエスタの言葉が蘇る。

『この草原、とっても綺麗でしょう?これをサイトさんに見せたかったんですよ』

美しかった村の外れの森に向かって、一騎の竜騎兵が、炎を吐きかけた。

ぶわっと、森は燃え上がった。

才人は唇を噛んだ。

「叩き落してやる!」

才人は低く唸った。

「行くぜ!才人!」

ヴリトラモンも、気合を入れる。

ヴリトラモンとゼロ戦はタルブの村目掛けて急降下した。



「二騎とは、舐められたものだな」

急降下してくる、ヴリトラモンとゼロ戦を迎え撃つため、竜を上昇させた騎士が呟く。

「見慣れない形をした竜だが・・・・・この『火竜』のブレスを喰らえば、ただでは済むまい」

この竜騎士は今日既に2騎の竜騎兵を撃墜している。

更に撃墜数を伸ばせると考えていた。

だが、突如炎の弾丸が降り注ぎ、火竜の両翼に穴を開ける。

ヴリトラモンのコロナブラスターだ。

「な!?なにぃ!?」

その竜は、飛行する事が出来なくなり、降下してゆく。

才人もゼロ戦の機動力を遺憾なく発揮し、竜騎兵の後ろを取り、機関砲で撃墜していく。

ヴリトラモンに、上空より3騎の竜騎兵が襲い掛かろうとする。

しかし、ある程度近付いたところで、アイナのフレイム・アローが炸裂した。

無数の炎の矢に、竜、もしくは騎士は負傷し、戦線を離脱していった。



先程から、ヴリトラモンは相手を殺さないように戦っている。

それは、戦場に着く少し前に、アイナに言われたのだ。

「誰も殺さないで」

と。

ヴリトラモンもとい拓也は、人を殺す事もいとわぬ覚悟で戦場に来た。

仲間を守るためなら、この手を汚す事も構わない、と。

それでも、人を殺す事は怖かった。

そんな拓也に、アイナの言葉は救いだった。




次々と竜騎兵を撃墜するヴリトラモンとゼロ戦を見て、トリステイン軍は沸き立っていた。

あれほどトリステイン軍を苦しめたアルビオンの竜騎兵がまるで虫のように落されていくのだ。

アンリエッタはマザリーニに問う。

「マザリーニ。これで勝ち目はどの位でしょうか?」

マザリーニは、焦った。

「ご、5分5分と言ったところでしょうな」

まだ相手には戦艦からの砲撃があり、竜騎兵がどうにかできたとて、まだまだ勝ち目は絶望的だ。

「5分5分・・・・・・・ならば、賭けをするには十分です」

アンリエッタは叫んだ。

「全軍突撃!!竜騎兵がやられて相手の士気が下がっている今しかチャンスはありません!」

アンリエッタの言葉に、トリステイン軍は雄叫びを上げ、アルビオン軍に突撃していく。

が、その時、上空の艦隊から砲撃が開始される。

何百発もの砲弾が、突撃するトリステイン軍を襲った。

岩や馬、人が一緒くたになって舞い上がる。

圧倒的な力を前にして、味方の兵が浮き足立つ。

恐怖にかられたアンリエッタは叫んだ。

「落ち着きなさい!落ち着いて!」

近くに寄ったマザリーニが、アンリエッタに耳打ちした。

「先ずは殿下が落ち着きなされ。将が取り乱しては、軍は瞬く間に潰走しますぞ」

マザリーニは、近くの将軍と素早く打ち合わせ、空にいくつもの空気の壁を作り上げた。

砲弾がそこにぶち当たり、砕け散った。

しかし、何割かはやはり飛び込んでくる。

しかもそこへ、

「はっはー!!野郎共、手柄を立てれば報酬がたんまりだぜぇ~!!」

いつか現れた、サジタリモンとケンタルモン軍団が、トリステイン軍に奇襲をかけた。

ケンタルモンの必殺技、ハンティングキャノンが降り注ぐ。

ハンティングキャノンは、艦砲に匹敵するぐらいの威力を持っているので、並みの兵やメイジでは歯が立たない。

トリステイン軍は更なる混乱に陥った。




その様子を、ヴリトラモンは超人的な視力で捉えた。

ヴリトラモンは一度ゼロ戦に、接近すると、

「才人!俺は地上を援護してくる!残りの竜騎兵は任せたぞ!」

そう言った。

才人はジェスチャーで解った事を伝える。

それを見ると、ヴリトラモンはトリステイン軍に向かって降下した。

才人はまた一騎、竜騎兵を撃墜した。

その時、

「すすす、凄いじゃないの!天下無双と謳われたアルビオンの竜騎兵が、まるで虫みたいに落ちていくわ!」

才人が座っている座席の後ろから、聞きなれた声が聞えた。

才人はぎょっとして振り向いた。

座席と機体の隙間から、ルイズがひょっこり頭を出していた。

しかも、その腕にはギギモンもいる。

危険だという事で、ルイズもギギモンも置いて来たはずなのだが、ガソリンを貰ってくる内に、潜り込んでいたらしい。

「お前ら!乗ってたのかよ!降りろよ!」

「今、降りられるわけないじゃない」

ルイズの手には、『始祖の祈祷書』が握られている。

それは国宝なのだが、何故ルイズが持っているのかといえば、トリステインでは王族の結婚式の際には、選ばれた巫女がその『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠み上げる習わしがある。

アンリエッタはその巫女にルイズを指名し、ルイズはオスマンより『始祖の祈祷書』を受け取った。

そして、結婚式が行なわれるゲルマニアへ向かうために、『始祖の祈祷書』を手に迎えの馬車を待っていた所、アルビオン宣戦布告の報が入ってきた。

そして、『始祖の祈祷書』を持ったままゼロ戦に潜り込んだので、今もその手に持っているのだ。

「あぶねえだろ!ばか!」

才人は怒鳴る。

ルイズはぐっと才人の首を絞めた。

「忘れないで!あんたは!私の!使い魔なんだからねっ!だから!勝手な事は!許さないの!わかった!?」

エンジン音で声がよく聞こえないので、ルイズは才人の耳元で思い切り叫んだ。

「私はあんたのご主人様よ!ご主人様が先頭切らなかったら、使い魔はいうこときかないでしょうが!そんなのヤなのーっ!!」

才人はやれやれと切なくなった。

「死んだらどーすんだよッ!」

「だったらがんばりなさぁああああいッ!あんたが死んでも、私が死んでも、あんたを殺すからねぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

ルイズは目を見開いて才人を怒鳴りつけた。

矛盾極まるセリフに、才人は頭が痛くなった。

「相棒、取り込み中のとこ悪いが・・・・・」

「あんだよ」

「右から10ばかりきやがったぜ」

火竜のブレスが飛んできた。

才人は、瞬間的に操縦桿を操り、機体を回転させてブレスを避ける。

その動きで、転げまわったルイズが叫んだ。

「もっと丁寧に操りなさいよ!」

「無茶言うな!」

そう叫んで、才人は反撃に移った。




トリステイン軍は、混乱の極みにいた。

アンリエッタが落ち着けようとするものの、全く収まりそうにない。

その時、

「ジャッジメントアロー!!」

巨大な矢がアンリエッタの乗るユニコーンの近くに突き刺さった。

ユニコーンは驚いて前足を大きく上げる。

その動きで、アンリエッタはユニコーンから振り落とされてしまう。

「きゃあ!」

「殿下!」

マザリーニが駆け寄ろうとするが、その前にアンリエッタを影が覆う。

アンリエッタが影の主に目を向けると、そこにはサジタリモンがいた。

「へえ~。アンタが姫様かい。アンタをやれば報酬がたんまり貰えるんでね。悪く思うなよ」

サジタリモンは、矢を、左腕と一体化している弓にかける。

引絞られる矢。

アンリエッタは目を瞑り、

「ウェールズさま・・・・・」

想い人の名を呟いた。

その瞬間、火球がサジタリモンに直撃する。

「うわちゃあぁぁぁぁぁ!!」

サジタリモンは突然の攻撃を受け、転げまわった。

上空より、ヴリトラモンが飛来する。

「姫殿下!ご無事ですか!?」

アイナが叫んで、ヴリトラモンから飛び降りる。

「ア、 アイナ!?」

見知った人物の登場にアンリエッタは驚く。

「アイナ、何故ここに?」

「友達を助けに来たんです。タルブには、私の友達がいるんです」

アンリエッタの問いに、アイナはそう答える。

そして、アンリエッタはヴリトラモンに視線を向ける。

「その竜は?」

アンリエッタがそう問いかけたとき、ヴリトラモンがデジコードに包まれる。

「ヴリトラモン!スライドエボリューション!!」

使用スピリットを、ビーストタイプからヒューマンタイプへ変更する。

「アグニモン!!」

ヴリトラモンがアグニモンへと姿を変えた。

「貴方は、アイナの使い魔」

「奴らの相手は並みの人間じゃ荷が重い。ここは俺に任せろ」

アグニモンは視線をサジタリモン達から逸らさずにアンリエッタにそう言った。

「アイナ、援護を頼む!」

「わかった!」

突撃してくるケンタルモン軍団。

「バーニング!サラマンダー!!」

アグニモンは、バーニングサラマンダーを放ち、ケンタルモン達を数体纏めて吹っ飛ばす。

その隙を突き、残ったケンタルモン達が、ハンティングキャノンを放とうとした。

だが、

「フレイム・スフィア!!」

アイナの放った豪火球で、またケンタルモンが数体吹っ飛ばされる。

そして、アグニモンは、

「サラマンダー!ブレイク!!」

炎の竜巻と化し、ケンタルモンの群れに突っ込んだ。

その衝撃で次々と吹き飛ばされていくケンタルモン達。

サジタリモンが気を取り直して立ち上がったとき、まともに戦えるケンタルモンは数体しか残っていなかった。

「うげっ!」

サジタリモンは声を漏らす。

アグニモンはサジタリモンに話しかけた。

「さあ如何する。まだやるってんなら、今度はスキャンさせて貰うぜ」

アグニモンは脅しも含めてそう言った。

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ・・・・・・」

サジタリモンは唸る。

だが、その時、敵の旗艦『レキシントン』号から、黒い影が飛び立ち、猛スピードでこちらに向かってきた。

アグニモンはすぐにそれが何かを悟る。

「奴か!」

アグニモンは気を張った。

その影は、地面に激突するように着地し、土煙を舞い上げる。

「待っていたぞ」

黒い影は、アグニモンに向かってそう言う。

土煙が晴れ、そこから現れたのはブラックウォーグレイモン。

「ブラックウォーグレイモン・・・・」

アグニモンは呟く。

「な、なんだテメェは!?」

サジタリモンが叫ぶ。

「邪魔だ・・・・どけ」

ブラックウォーグレイモンはサジタリモンにそう言う。

「な、なんだとテメェ!!」

サジタリモンはブラックウォーグレイモンに突っかかった。

しかし、

「うるさい!」

その言葉と共に、ブラックウォーグレイモンは、鬱陶しい虫を払うように腕を振る。

その一撃でサジタリモンは、遥か彼方へ吹き飛ばされた。

「またこのオチかよぉぉぉぉぉぉぉ!!」

という言葉を残して。

サジタリモンが吹っ飛ばされたため、ケンタルモン達は撤退していった。




その様子を見ていたアンリエッタは、

「あ、あれは何なのですか?」

思わず声を漏らした。

「姫殿下、あれが『漆黒の竜人』です」

アイナが答える。

「『漆黒の竜人』!?あれが!?」

「はい。『漆黒の竜人』、ブラックウォーグレイモンです」

アンリエッタもブラックウォーグレイモンの異常性は理解できた。

見るだけで体が恐怖で震える。

「ここは、タクヤに任せる以外に方法はありません」

アイナがそう言った。


ブラックウォーグレイモンは叫んだ。

「さあ、進化しろ!そして、俺と戦え!!」

アグニモンは一度進化を解き、拓也に戻る。

そして、再びデジヴァイスを構えた。

「ダブルスピリット!エボリューション!!」

拓也は進化する。

「ぐっ・・・ああああああああああっ!!」

叫び声を上げ、その身に2つのスピリットを纏っていく。

「アルダモン!!」

デジコードが消え、アルダモンが姿を現した。

「それでいい・・・・行くぞ!」

ブラックウォーグレイモンは構える。

だが、

「待ってくれ。俺は仲間を巻き込みたくない。上空でやるぞ」

アグニモンは場所の移動を求めた。

「・・・・・・いいだろう。本気を出せないお前に勝っても嬉しくはないからな」

そう言うと、2体は空高く飛び上がる。

そして、ある程度の高度までいくと、

「ブラフマシル!!」

アルダモンが灼熱の火球を放ち、

「ガイアフォース!!」

ブラックウォーグレイモンは赤いエネルギー球を放った。

――ドゴォォォォォォォォォォォン

2体の戦いは、戦場を揺るがす大爆発によって幕を開けた。




才人はゼロ戦で竜騎兵を全滅させたところだった。

機体の中で転がるルイズは、怖くて泣きそうになった。

ルイズはポケットにあった、アンリエッタから貰った『水』のルビーを指にはめた。

「姫様、サイトと私をお守りください・・・・・」

と呟く。

そしてルイズは、始祖にも自分たちの無事をお祈りしておこうと思い、『始祖の祈祷書』を開いた。

ルイズは何気なくページを開いた。

その瞬間、『水』のルビーと『始祖の祈祷書』が光りだしたので、ルイズは驚いた。

ルイズは光の中に文字を見つける。

それは、古代ルーン文字で書かれていた。

ルイズは真面目に授業を受けていたので、その古代語を読む事が出来た。

―――序文。

   これより我が知りし真理をこの書に記す。

   この世のすべての物質は、小さな粒より為る。

   四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。

   その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。

神は我にさらなる力を与えられた。

   四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒よりなる。

   神が我に与えしその系統は、四のいずれにも属せず。

   我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。

   四にあらざれば零(ゼロ)。

零すなわちこれ『虚無』。

   我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん。―――


「虚無の系統・・・・・伝説じゃないの。伝説の系統じゃないの!」

思わず呟いてページをめくった。

竜騎士隊を全滅させた才人は、ラ・ロシェールの上空に、いつかアルビオンで見た巨大戦艦を見つけた。

デルフリンガーが呟く。

「相棒、親玉だ。雑魚をいくらやっても、あいつをやっつけなきゃ・・・・・・お話にならねえが・・・・・」

「わかってるよ」

「ま、無理だあね」

「何でだよ!?こっちには拓也が・・・・・・」

「あれあれ」

デルフリンガーがよく見るように注意する。

その瞬間、上空で大爆発が起こった。

遠くてよく見えないが、赤い影と黒い影が空中で激突を繰り返している。

「まさか!ブラックウォーグレイモンか!?」

「だろうね。あの小僧は奴の相手で精一杯さ。船を落してる余裕なんかないだろうね」

それを聞くと才人は無言で、ゼロ戦のスロットルを開いた。

フルブーストだ。

ゼロ戦が巨大戦艦目がけて上昇する。

「無理だよ相棒。逆立ちしても無理だ」

一瞬で戦力を分析したデルフリンガーが、いつもと変わらぬ調子で告げる。

しかし、才人は答えない。

「分かっちゃいたけど・・・・・相棒はアホだね」

才人はゼロ戦を近づけた。

艦砲射撃を続ける艦隊の右舷側が光る。

一瞬後、才人のゼロ戦に無数の小さな鉛の弾が飛んできた。

機体のあちこちに小さな穴が穿たれ、震えた。

風防が割れ、破片が才人の頬を掠めた。

血が一筋、頬を伝う。

デルフリンガーが叫んだ。

「近付くな!散弾だ!」

才人はゼロ戦を咄嗟に下降させ、2撃目を逃れた。

「畜生、あいつら小さな弾を大砲に込めて、ぶっ放しやがった!」

才人は唇を噛んだ。

このままでは、撃沈はおろか、近付くことさえ出来やしない。


座席の後ろの隙間で、『始祖の祈祷書』を読みふけるルイズの耳にはもう、辺りの轟音は届かない。

ただ、己の鼓動だけがやたらと大きく聞えた。


―――これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。

   またそのための力を担いしものなり。

『虚無』を扱うものは心せよ。

   志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。
   
『虚無』は強力なり。

また、その詠唱は永きに渡り、多大な精神力を消耗する。
   
詠唱者は注意せよ。

時として『虚無』はその強力により命を削る。
   
従って我はこの書の読み手を選ぶ。

   例え資格無き者が指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。

   選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。

   されば、この書は開かれん。



   ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ




   以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。
   初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』 ―――


その後に、古代語の呪文が続いた。

ルイズは呆然として呟いた。

「ねえ、始祖ブリミル。あんたヌケてんじゃないの?この指輪がなくっちゃ『始祖の祈祷書』は読めないんでしょ?その読み手とやらも・・・・・・・この注意書きの意味がないじゃないの」

そして、はたと気付く。

自分は読み手なのかと。

よくわからないが、文字は読める。

読めるなら、ここに書かれた呪文も効果を発するかもしれない、と。

ルイズは決心した。

ルイズはごそごそと座席の後ろから、隙間をくぐって前に出た。

「なんだよ!大人しくしてろよ!うわ!前が見えねえ!おいってば!」

ルイズはヘビのように細い体を器用にくねらせ、座席と機体の隙間から身を出すと、操縦席に座った才人の前までやってきた。

開いた才人の足の間に小さなお尻を割り込ませちょこんと座り込む。

ルイズはぽつんと言った。

「いや・・・・・信じられないんだけど・・・・・うまく言えないけど、私、選ばれちゃったかもしれない。いや、なんかの間違いかもしれないけど」

「はぁ?」

「いいから、このひこうきとやらを、あの巨大戦艦に近づけて。ペテンかもしれないけど・・・・・何もしないよりは試した方がマシだし、ほかにあの戦艦をやっつける方法はなさそうだし・・・・・ま、やるしかないのよね。わかった。とりあえずやってみるわ。やってみましょう」

ルイズのその独り言のような言葉に、才人は唖然とした。

「お前、大丈夫か?とうとう怖くておかしくなったか?」

ルイズは才人を怒鳴りつけた。

「近づけなさいって言ってるでしょうが!私はアンタのご主人様よ!使い魔は!黙って!主人のいう事にしたがうッ!」

そう言われ、才人は仕方なくゼロ戦を巨大戦艦へと向かわせた。

だが、そこへ散弾が飛んでくる。

『レキシントン』号は、まるで、ハリネズミのように大砲を装備していた。

「何してるのよ!」

「無理だ!近付けねえんだよ!」

「それをなんとかするのがあんたの仕事でしょうが!」

デルフリンガーが、何か思いついたように声を上げた。

「相棒、コイツをあの船の真上に持っていきな」

「え?」

「そこに死角がある。大砲を向けられねえ、死角がな」

才人は言われた通りに上昇して、『レキシントン』号の上空に占位した。

ルイズは才人の肩に跨った。

風防を開けた。

「お、おい!何してんだよ!閉めろよ!」

「私が合図するまで、ここでぐるぐる回ってて」

ルイズは息を吸い込み、目を閉じた。

そして、目を見開く。

『始祖の祈祷書』に書かれたルーン文字を読み始める。

才人は言われたように、ゼロ戦を『レキシントン』号の上空で旋回させた。

その時である。

「相棒!後ろだ!」

デルフリンガーの言葉に、はっとして後ろを見ると、一騎の竜騎士が、烈風のように向かってくる。

ワルドであった。

ワルドは、虚を突くため雲に隠れずっと機を窺っていたのだ。

才人はゼロ戦を急降下させる。

だが、ワルドの乗る竜は風竜。

先程まで相手にしていた火竜とは速度が違う。

ぐんぐんとゼロ戦との距離をワルドは縮めた。

後ろにぴったりと風竜は張り付いて離れない。

肩にルイズを乗せたまま、才人は焦った。

(けど、ここで死んだら、ルイズも、シエスタも守れない。絶対に生き抜いて、ルイズも、シエスタも守ってみせる!)

そう強く思った。



ワルドはゼロ戦の風防の中にルイズと才人の姿を見つけた。

ワルドがにやっと笑う。

失った左手が疼いていた。

左の義手で手綱を握り、ワルドは呪文を詠唱した。

『エア・スピアー』。

「固めた空気の槍で、串刺しにしてくれる!」

ワルドは叫んだ。

だが、ここで、ワルドには誤算があった。

アルビオンの時にいなくて、今いる存在、ギギモン。

デジモンは人の心の影響を受けやすい。

そして、ギギモンは才人の心の影響を受けていた。

いや、もうギギモンではない。

突如、ゼロ戦の風防の座席の後ろから赤い『何か』が顔を出した。

そして、

――ゴゥッ

ワルドの風竜に向け、火球を吐き出した。

その火球は相対速度の関係で、避ける間もなくワルドの風竜に着弾。

ワルドの風竜は、かなりのダメージを受け、弱々しく下降していく。

才人は振り向いて驚いた。

「うおっ!?」

そこには赤い小型の恐竜みたいなのがいたからだ。

だが、すぐに才人は気付く。

「お前・・・・・まさかギギモンか?」

才人は確認するように尋ねる。

その恐竜は頷き、

「うん。今はギルモンだよ」

そう答えた。

「そうか。また進化したんだな」

才人は、ギルモンに笑みを見せると、気を取り直して再びゼロ戦を上昇させた。

ルイズの口からは低い詠唱の声が漏れ続けている。

「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ・・・・・・オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド・・・・・ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ・・・・・・」

ルイズは足で才人に合図を送った。

才人は頷き、操縦桿を倒す。

ゼロ戦が、真下の『レキシントン』号めがけて急降下を開始した。

しっかりと見開いた目で、ルイズはタイミングを窺う。

「ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル・・・・!」

長い詠唱の後、呪文が完成した。

その瞬間、ルイズは己の呪文の威力を理解した。

巻き込む。

全ての人を。

自分の視界に映る、全ての人を、己の呪文は巻き込む。

選択は2つ。

殺すか、殺さぬか。

破壊すべきは何か。

烈風顔なぶる中、まっさかさまに降下する自分。

目の前に広がる光景は巨艦。

戦艦『レキシントン』号。

ルイズは己の衝動に準じ、宙の一点目掛けて、杖を振り下ろした。




アンリエッタは、信じられない光景を目の当たりにした。

今まで散々自分たちに砲撃を浴びせかけていた巨艦の上空に光の球が現れたのだ。

まるで小型の太陽のような光を放つ、その球は膨れ上がる。

そして・・・・・・包んだ。

空を遊弋する艦隊を包んだ。

更に光は膨れ上がり、視界全てを覆い尽くした。

音はない。

アンリエッタは咄嗟に目を瞑った。

目が焼けると、錯覚するほどの光の球であった。

上空で激しい戦いを繰り広げていたアルダモンとブラックウォーグレイモンも戦いを中断するほどだった。

そして・・・・・光が晴れた後、艦隊は炎上していた。

巨艦『レキシントン』号を筆頭に、全ての艦の帆が、甲板が燃えていた。

まるで嘘のように、あれだけトリステイン軍を苦しめた艦隊が、がくりと艦首を落とし、地面に向かって墜落していく。

地響きを立てて、艦隊は地面に滑り落ちた。

アンリエッタは、しばし呆然とした。

辺りは、恐ろしいほどの静寂に包まれていた。

アンリエッタの隣にいたアイナも、呆然としていた。

一番初めに我に返ったのは、枢機卿のマザリーニであった。

彼は戦艦が遊弋していた空にきらめく銀翼を見つけた。

才人達の乗ったゼロ戦であった。

マザリーニは大声で叫んだ。

「諸君!見よ!敵の艦隊は滅んだ!伝説のフェニックスによって!」

「フェニックス?不死鳥だって?」

動揺が走る。

「さよう!あの空飛ぶ翼を見よ!あれはトリステインが危機に陥ったときにあらわれるという、伝説の不死鳥、フェニックスですぞ!おのおのがた!始祖の祝福我にあり!」

するとあちこちから歓声が漏れ、すぐに大きなうねりとなった。

「うおおおおおおおおぉーッ!!トリステイン万歳!!フェニックス万歳!!」

アンリエッタは、マザリーニにそっと尋ねた。

「枢機卿、フェニックスとは・・・・・真ですか?伝説のフェニックスなど、私は聞いた事がありませんが」

マザリーニはいたずらっぽく笑った。

「真っ赤な嘘ですよ。しかし、今は誰もが判断力を失っておる。目の当たりにした光景が信じられんのです。この私とて同じです。しかし、現実に敵艦隊は墜落し、あのように見慣れぬ鳳が舞っているではござらぬか。ならばそれを利用せぬという法はない」

「はぁ・・・・・」

「なあに、今は私の言葉が嘘か真かなど、誰も気にしませんわい。気にしておるのは、生きるか死ぬか、ですぞ。つまり、勝ち負けですな」

マザリーニは王女の目を覗き込んだ。

「使えるものは何でも使う。政治と戦の基本ですぞ。覚えておきなさい殿下。今日からあなたはこのトリステインの王なのだから」

アンリエッタは頷いた。

枢機卿の言うとおりだ。

考えるのは後でいい。

「敵は我々以上に動揺し、浮き足だっておるに違いありません。なにせ、頼みの艦隊が消えてしまったのだから。今をおいて好機はありませぬ」

「はい」

「殿下。では、勝ちに行きますか」

マザリーニが言った。

アンリエッタは再び強く頷くと、ユニコーンに跨り、水晶光る杖を掲げた。

「全軍突撃ッ!王軍ッ!我に続けッ!」





上空ではアルダモンとブラックウォーグレイモンが睨み合っていた。

先程のルイズの魔法で戦いが中断したのだ。

「まだ続けるか?」

アルダモンがブラックウォーグレイモンに問いかけた。

ブラックウォーグレイモンは少し考え、後ろを向く。

「興が削がれた。決着はまた今度だ」

そう言って、猛スピードで空の彼方へ消えていった。

アルダモンはそれを確認すると、地上へ降りていく。

トリステイン軍が突撃した後、ぽつんと取り残されたアイナを見つけ、近くに着地する。

アイナは駆け寄り、

「怪我は無い?」

そう言った。

アルダモンは拓也に戻る。

「ああ。大丈夫だ。けど、流石にブラックウォーグレイモンの相手はしんどいぜ」

拓也は疲れたように、ため息をつく。

アイナは笑顔で、

「お疲れ様」

と、そう言った。






次回予告


敵軍を撃退した件で、アンリエッタに呼び出される拓也達。

その数日後、成り行きでタバサの帰郷についていく事になった拓也とアイナ。

そこで、タバサの知られざる秘密を知ることになる。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第十七話 タバサの秘密

今、異世界の物語が進化する。





才人のデジモン成長日記


名前:ギルモン
属性:ウィルス種
世代:成長期
種族:爬虫類型
必殺技:ファイアーボール
通常技:ロックブレイカー




あとがき

新年、あけましておめでとうございます。

新年早々、十六話完成です。

で、来てみてびっくり。

ゼロ魔掲示板に移動されてた。

管理人様のミスだそうですが、まあ、新年になった事だし、序だからこのまま正規の掲示板で行ってしまおう、と思っております。

叩かれたら、チラシ裏に引っ込むかもしれませんが・・・・・・

で、今回を見直しますと、原作にちょこっとアレンジを加えただけですかね。

それで、サジタリモン&ケンタルモン軍団再登場。

一応、こいつ等傭兵扱いです。

フーケとつるんでるって設定は、如何しようか迷ってます。

でも、二度あることは三度ある。

サジタリモン、三度地平の彼方へ。

とりあえず今回は、才人、ルイズが主だったので、ブラックウォーグレイモンとの戦闘描写は省きました。

ギギモン、ギルモンに進化。

人の心に影響を受ける。

何気にセイバーズ設定?

とりあえずワルドの風竜に攻撃させときました。

進化が早いな~。

もうちょっと引っ張ったほうがよかったですかね?

気付けば3巻分が終わってます。

さて、次回はいよいよタバサの秘密。

自分が書きたかった所まで来ましたよ。

タバサ編ではいくつかオリジナル?が入ってきます。

お楽しみに(していただけると嬉しいです)。

では、次回も頑張ります。



[4371] 第十七話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/01/02 16:26
タルブの村を救い、シエスタの無事を確認した拓也達。

虚無に目覚めたルイズは、どうなるのか。


第十七話 タバサの秘密


トリステインの城下町、ブルドンネ街では派手に戦勝記念のパレードが行なわれた。

数で勝るアルビオン軍を破った王女アンリエッタは、『聖女』とあがめられ、そして、アンリエッタは女王となった。

それに伴い、アンリエッタのゲルマニア皇帝との婚約は解消されることとなった。



そのアンリエッタの戴冠式から数日後。

ルイズと才人(+ギルモン)、そして拓也とアイナが、アンリエッタに呼び出された。

朝、アンリエッタの使者が魔法学院にやってきたのだ。

4人と1匹は授業を休んで、アンリエッタが用意した馬車に乗り込んで王宮までやってきたのだ。

因みに拓也とアイナはルイズから、ルイズが『虚無』の系統であるかもしれないという相談を受けている。

序に才人には猛獣用の拘束具が取り付けられている。

それは、シエスタからマフラーを貰ったことや、少し前にシエスタと一緒に風呂に入った事がルイズにデルフリンガーからバレて、ルイズがキレたからだ。

アンリエッタの待つ部屋に入る。

その瞬間、

「ルイズ、ああ、ルイズ!」

アンリエッタが駆け寄り、ルイズを抱きしめた。

顔を上げず、ルイズは呟いた。

「姫さま・・・・・・・いえ、もう陛下とお呼びせねばいけませんね」

「そのような他人行儀を申したら、承知しませんよ。ルイズ・フランソワーズ。あなたはわたくしから、最愛のお友達を取り上げてしまうつもりなの?」

「ならばいつものように、姫様とお呼びいたしますわ」

「そうして頂戴。ああルイズ、女王になんてなるんじゃなかったわ。退屈は2倍。窮屈は3倍。そして気苦労は10倍よ」

アンリエッタはつまらなそうに呟いた。

それからルイズは、黙ってアンリエッタの言葉を待った。

しかし、アンリエッタはルイズの目を覗き込んだまま、話さない。

仕方なくルイズは、

「このたびの戦勝のお祝いを、言上させてくださいまし」

と、言ってみた。

当たり障りの無い話題のつもりだったが、アンリエッタは思うところがあったらしく、ルイズの手を握った。

「あの勝利はあなたのおかげだものね。ルイズ」

ルイズはアンリエッタの顔を、はっとした表情で見つめた。

「わたくしに隠し事はしなくても結構よ。ルイズ」

「私、なんのことだか・・・・」

それでもルイズはとぼけようとした。

アンリエッタは微笑んで、ルイズに羊皮紙の報告書を手渡した。

それを読んだあと、ルイズはため息をついた。

「ここまでお調べなんですか」

「あれだけ派手な戦果をあげておいて、隠し通せるわけないじゃないの」

それから、アンリエッタは、今まで蚊帳の外だった才人、拓也、アイナの方を向いた。

「アイナとその使い魔さん。そして、異国の飛行機械を操っていた、ルイズの使い魔さん。敵の竜騎士隊を撃滅したとか。厚く御礼を申し上げますわ」

「いえ・・・・たいした事じゃないです」

才人が言った。

「それにアイナとその使い魔さんには、わたくしの命を助けていただきましたね。重ねて御礼を申し上げますわ」

「い、いえ・・・・・」

アイナが緊張した面持ちで呟く。

「あなた方は救国の英雄ですわ。特に使い魔さんたちには、できれば貴族にしてさしあげたいぐらいだけど・・・・・」

「いけませんわ!犬を貴族にするなんて!」

ルイズが叫んだ。

ここで言う“犬”は、才人のことなのだが。

「犬?」

「い、いや・・・・・なんでもありませんわ」

ルイズが頬を染めて、呟くように言った。

「あなた方に、爵位を授けるわけには参りませんの」

アンリエッタはそう言う。

トリステインでは、メイジでない者が貴族になることは出来ないのだ。

「多大な・・・・・・本当に大きな戦果ですわ。ルイズ・フランソワーズ、アイナ。あなた方と、その使い魔達が成し遂げた戦果は、このトリステインはおろか、ハルケギニアの歴史の中でも類をみないほどのものです。本来ならルイズ、あなたには領地どころか小国を与え、大公の位を与えてもよいくらい。そして、アイナや使い魔さん達にも特例で爵位を授ける事ぐらいできましょう」

「わ、私はなにも・・・・・・手柄を立てたのは、アイナや使い魔で・・・・・」

ルイズはぼそぼそと言いにくそうに呟いた。

「あの光はあなたなのでしょう?ルイズ。城下では軌跡の光だ、などと噂されておりますが、わたくしは奇跡など信じませぬ。あの光が膨れ上がった場所に、あなたたちが乗った飛行機械が飛んでいた。あれはあなたなのでしょ?」

ルイズはアンリエッタに見つめられ、それ以上隠し通す事ができなくなった。

ルイズは、

「実は・・・・・・」

と切り出すと、ゆっくりと語り始めた。

アンリエッタから貰った『水のルビー』を嵌めたら、始祖の祈祷書のページに古代文字が浮かび上がったこと。

そこに記された呪文を読み上げたら、あの光が発生した事。

「始祖の祈祷書には、『虚無』の系統と書かれておりました。姫さま、それは本当なのでしょうか?」

アンリエッタは目をつむったあと、ルイズの肩に手を置いた。

「ご存知、ルイズ?始祖ブリミルは、その3人の子に王家を作らせ、それぞれに秘宝を遺したのです。トリステインに伝わるのがあなたの嵌めている『水のルビー』と始祖の祈祷書」

「ええ・・・・・・」

「王家の間では、このように言い伝えられてきました。始祖の力を受け継ぐものは、王家に現れると」

「私は王族ではありませんわ」

「ルイズ、何を仰るの。ラ・ヴァリエールの祖は、王の庶子。なればこその公爵家なのではありませんか」

ルイズは、はっとした顔になった。

「あなたも、トリステイン王家の血をひいているのですよ。資格は十分にあるのです」

それからアンリエッタは、才人の手をとった。

ルーンを見て頷く。

「この印は、『ガンダールヴ』の印ですね?始祖ブリミルが用いし、呪文詠唱の時間を確保するためだけに生まれた使い魔の印」

才人は頷いた。

「では・・・・・・間違いなく私は『虚無』の担い手なのですか?」

「そう考えるのが、正しいようね」

ルイズはため息をついた。

「これであなたに、勲章や恩賞を授けることが出来なくなった理由はわかるわね?ルイズ」

才人はどうしてだかわからなかったので、尋ねた。

「どうしてですか?」

アンリエッタは顔を曇らせて、答えた。

「わたくしが恩賞を与えたら、ルイズの功績を白日の元にさらしてしまう事になるでしょう。それは危険です。ルイズの持つ力は大きすぎるのです。一国でさえも、もてあますほどの力なのです。ルイズの秘密を敵が知ったら・・・・・・彼らはなんとしてでも彼女を手に入れようと躍起になるでしょう。敵の的になるのはわたくしだけで十分」

それからアンリエッタは、ため息をついた。

「敵は空の上だけとは限りません。城の中にも・・・・・あなたのその力を知ったら、私欲のために利用しようとするものが必ず現れるでしょう」

ルイズはこわばった顔で頷いた。

「だからルイズ、誰にもその力のことは話してはなりません。これは、ここにいるわたくしたちだけの秘密よ」

それからルイズは暫く考え込んでいたが、決心したように、口を開いた。

「おそれながら姫様に、わたしの『虚無』を捧げたいと思います」

「いえ・・・・いいのです。あなたはその力のことを一刻も早く忘れなさい。二度と使ってはなりませぬ」

「神は・・・・・姫様をお助けするために、私にこの力を授けたに違いありません!」

しかし、アンリエッタは首を振る。

「母が申しておりました。過ぎたる力は人を狂わせると。『虚無』の協力を手にしたわたくしがそうならぬと、誰が言い切れるでしょうか?」

ルイズは昂然と顔を持ち上げた。

自分の使命に気付いたような、そんな顔であった。

しかし、その顔はどこか危うい。

「わたしは、姫さまと祖国のために、この力と体を捧げたいと常々考えておりました。そうしつけられ、そう信じて育って参りました。しかしながら、私の魔法は常に失敗しておりました。ご存知のように、ついた二つ名は『ゼロ』。嘲りと侮蔑の中、いつも口惜しさに体を震わせておりました」

ルイズはきっぱりと言い切った。

「しかし、そんな私に神は力を与えてくださいました。わたしは自分が信じるもののために、この力を使いとう存じます。それでも陛下が要らぬと仰るなら、杖を陛下にお返しせねばなりません」

アンリエッタはルイズのその口上に心打たれた。

「わかったわルイズ。あなたは今でも・・・・・一番の私のお友達。ラグドリアンの湖畔でも、あなたはわたくしを助けてくれたわね。私の身代わりに、ベッドにはいってくださって・・・・・」

「姫さま」

ルイズとアンリエッタは、ひし、と抱き合った。

蚊帳の外である、才人及び拓也、アイナは、見ているだけだった。

「これからも、わたくしの力になってくれるというのねルイズ」

「当然ですわ、姫さま」

「ならば、あの『始祖の祈祷書』は、あなたに授けましょう。しかしルイズ、これだけは約束して。決して『虚無』の使い手という事を、口外しませんように。また、みだりに使用してはなりません」

「かしこまりました」

「これからあなたは、わたくし直属の女官ということに致します」

アンリエッタは羽ペンをとると、さらさらと羊皮紙になにかしたためた。

それから羽ペンを振ると、書面に花押がついた。

「これをお持ちなさい。わたくしが発行する正式な許可証です。王宮を含む、国内外へのあらゆる場所への通行と、警察権を含む公的機関の使用を認めた許可証です。自由がなければ仕事もしにくいでしょうから」

ルイズは礼をすると、その許可証を受け取った。

「あなたにしか解決できない事件が持ち上がったら、必ずや相談いたします。表向きは、これまで通り魔法学院の生徒として振舞ってちょうだい。まあ言わずともあなたなら、きっとうまくやってくれるわね」

それから、アンリエッタは拓也とアイナに向き直った。

「アイナ」

「はい」

アンリエッタに名を呼ばれ、返事をするアイナ。

「わたくしが、先程ルイズに言った大きすぎる力・・・・・・それは、あなたの使い魔にも言えることです」

アイナが動揺する。

「正直、わたくしは『漆黒の竜人』の恐ろしさを、いくらウェールズさまに言われたとはいえ、心のどこかで信じきれていませんでした。ですが、この前その『漆黒の竜人』を実際に見て、それが真実だったと思い知らされました」

アンリエッタは続ける。

「『漆黒の竜人』の力は、『虚無』に匹敵するか、もしくはそれ以上の力を持っているかもしれません。まさに一国を滅ぼせるほどの危険性を秘めています」

その言葉に、アイナは頷いた。

「そして、その『漆黒の竜人』と互角に戦えるあなたの使い魔も、同じぐらいの危険性を秘めているといえます」

「そんな!」

思わずアイナは叫ぶ。

「落ち着いてくださいアイナ。ただ、ルイズと同じようにその力をこの国のために捧げていただければ、この上ない戦力となります。ゆえに、あなた方には、この国の剣となって欲しいのです。もちろん、それに見合う見返りは用意いたします」

「・・・・・もし、断れば?」

アイナは恐る恐る尋ねた。

「その時は・・・・・危険分子として排除するのもやむなし、と考えております」

アンリエッタはそう言った。

「そんな!何を言ってるんですかお姫様!!」

才人が叫ぶ。

「それだけ、彼の力は諸刃の剣ということです」

アンリエッタは才人にそう言った。

拓也が口を開く。

「つまりお姫様が言いたいのは、見返りはたくさんやるから、命令のまま従うこの国の武器となれと?」

「そう受け取ってもらって構いません」

拓也の言葉にアンリエッタは背定した。

その瞬間、

「断る!」

拓也は即答した。

「命令のまま戦う、戦争の道具にされるなんて俺はゴメンだね。俺が戦うかどうかを決めるのは、俺の心だ!第一、俺の力は敵を倒すための力じゃない。護るための力だ!俺の・・・・・いや、俺達の力が危険だから排除するっていうなら、悪いけど全力で抵抗するからな!」

拓也は言い切った。

ここで言う、俺“達”とは、拓也とアグニモン、ヴリトラモンのことである。

「そうですか」

アンリエッタはにっこり笑ってそう言った。

「え?」

その反応に、拓也は毒気を抜かれる。

アンリエッタは続ける。

「あなたを試すような真似をして御免なさい。ですが、あなたの覚悟を知っておきたかったのです」

アンリエッタの言いたいことが分かった拓也は、頭を掻く。

「それでわかりました。あなたはウェールズさまの言っていた通りの人物みたいですね。自分の信じた事は最後まで貫く心の強さを持った人だと。それならば信じる事が出来ます」

「あの陛下?」

よくわからないアイナが尋ねる。

「アイナ、あなたの使い魔はどんな力にも屈さない強さを持っていますね」

「えと・・・・・あの・・・・・・拓也が危険だとかいうのは・・・・・・」

「危険だなんて、はじめから思っておりませんわ。何よりあなた方はわたくしの命の恩人。そのように恩を仇で返すような真似ができましょうか」

アイナはようやく試されていた事に気付きホッとする。

アンリエッタは、それから才人に向き直り、ポケットから宝石や金貨を取り出し、それを才人に握らせた。

「これからもルイズを・・・・・わたくしの大事なお友達をよろしくおねがいしますわね。やさしい使い魔さん」

「そ、そんな・・・・・こんなにたくさん受け取れませんよ」

才人は手に持った金銀宝石を見て、あっけにとられた。

「是非、受け取ってくださいな。本当ならあなたを『シュヴァリエ』に叙さねばならぬのに、それが適わぬ無力な女王のせめてもの感謝の気持ちです。あなたはわたくしと祖国に忠誠を示してくださいました。報いるところがなければなりませぬ」

アンリエッタは真摯な目でそう告げた。

才人は色々迷っていたが、結局は受け取り、その金銀宝石をポケットの中に突っ込んだ。

そして、アンリエッタは拓也にも同じように金貨や宝石を渡そうとする。

「いや、俺は受け取れませんよ。お姫様に忠誠を誓ったルイズの使い魔である才人さんと違って、俺はこの国に忠誠を誓うどころか、好き勝手やるって宣言したようなもんですから」

拓也はそう言って、断ろうとした。

だが、

「ならば、これは先程、試すためとはいえ、あなたを侮辱してしまったお詫び、とお考えください」

そう言うと、アンリエッタは拓也の手に半ば強引に握らせる。

「え・・・あ?」

侮辱してしまったお詫びというには絶対に多すぎるのだが、命を救ったお返しも兼ねているのだろうと考え、拓也は仕方なく受け取った。




4人+1匹は、並んで王宮を出た。

才人がルイズにぶつぶつ文句を言っていたようだが、ルイズが傭兵にぶつかって絡まれたところを助けたりしたので、なんだかんだいって、才人はルイズのことが気になるようである。

その後、ルイズとアイナが宝石商に釘付けになる。

4人と1匹が近付くと、頭にターバンを巻いた商人がもみ手をした。

「おや!いらっしゃい!見てください貴族のお嬢さん。珍しい石を取り揃えました。『錬金』で作られたまがい物じゃございませんよ」

並んだ宝石は、貴族が身に付けるにしては装飾がゴテゴテしていて、お世辞にも趣味がいいとはいえない代物だった。

ルイズはペンダントを手に取った。

貝殻を彫って作られた、真っ白なペンダント。

周りには大きな宝石がたくさんはめ込まれている。

しかし、よく見るとちゃちなつくりであった。

宝石にしたって、安い水晶であろう。

でも、ルイズはそのきらきら光るペンダントが気に入ってしまった。

「欲しいのか?」

ルイズは困ったように首を振った。

「お金がないもの」

「それでしたらお安くしますよ。4エキューにしときます」

商人はにっこりと微笑んだ。

「高いわ!」

ルイズは叫んだ。

「お前、そんぐらいも持ってないのか?」

才人が呆れたように言うと、ルイズはつまらなそうに唇を尖らせた。

「もともと買い物する予定じゃなかったから財布持ってきてないのよ。今はポケットに少ししかないわ」

才人は仕方なく、ポケットを探った。

先程アンリエッタに貰った金貨を掴む。

手のひらに金貨を山盛りにして、才人は尋ねた。

「これで何枚なんだ?」

商人は、才人がそんなにお金を持っているので驚いたらしい。

「こ、こんなにいりませんよ!ひい、ふう、みい・・・・・・これで結構です」

先々王の肖像が彫られた金貨を4枚取り上げると、商人はルイズにペンダントを渡す。

ルイズはしばし呆気に取られたが、思わず頬が緩んでしまった。

ルイズは暫く弄繰り回した後、ウキウキ気分でペンダントを首に巻いた。

その様子を見ていたアイナは、じーっと拓也を見つめる。

アイナの視線に気付いた拓也。

流石に今回は何を言いたいのかはわかる。

拓也は、小さく「やれやれ・・・・」と呟くと、

「アイナは何が欲しいんだ?」

アイナにそう聞き返す。

アイナは、ぱっと顔を輝かせると、商品を吟味し始める。

少しすると、銀のチェーンに銀の十字架がついたペンダントを手に取った。

アイナはどうやらそれが気に入ったらしい。

「これ、いくらですか?」

アイナは商人に尋ねる。

「それは全てが純銀製ですからね、少々値が張りますよ。10エキューです」

拓也はそれを聞くと、先程才人が出した金貨と同じものを10枚数えた。

さっきは4エキューで金貨4枚だったので、10エキューなら金貨10枚である。

拓也は商人に金貨を渡す。

商人は金貨を数え10枚あることを確認すると、

「まいどあり」

営業スマイルを浮かべて、頷いた。

アイナは早速、ペンダントを首に巻く。

「どうかな?」

拓也に尋ねる。

「ん?似合うと思うよ」

拓也はそう答える。

アイナはその言葉に嬉しくなり、頬を赤く染めながら笑顔になる。

そして、拓也の右腕に腕を絡める。

「お、おい!」

それは拓也も焦った。

いつか買い物に来たときに手を繋いだのとは違い、かなり2人の体が密着することになるのだ。

拓也は顔を赤くする。

「嫌?」

アイナが不安そうな顔+上目使いで拓也を見つめる。

拓也も男であり、女の子にそんな風に言われれば、断れる筈もなく、

「べ、別に、嫌じゃないけど・・・・・・・」

そう答える。

「じゃあ、良いじゃない」

と、アイナは満面の笑みを浮かべた。

因みに、その間に才人は隣の露天商から、なにやら服を買ったらしい。

その時の才人の顔を見た拓也は、

「碌な事を考えてないときの顔だ」

との事。





それから数日後。

何故か拓也は馬車に乗っていた。

正面には、タバサとキュルケ。

ここまでは、まあいい。

だが、拓也の右にはアイナが。

拓也の左にはイルククゥが。

それぞれが拓也の腕に腕を絡めている。

そして、アイナとイルククゥからは黒いオーラが立ち上り、拓也を挟んでにらみ合う両者の中央では、火花が散っているように思える。

更に、何故かイルククゥの服装はセーラー服である。

タバサは、我関せずで本を読んでいる。

キュルケは、顔は笑っているが、冷や汗だらだらである。

何故このような状況になっているのか?

それは約半日前に遡る。





朝食が終わった後、拓也が外を歩いていると、突然空から降ってきたシルフィードにロープでグルグル巻きに縛られ、拉致されたのだ。

連れて行かれた先は、タバサの部屋。

そこでは、タバサが荷物を纏めていた。

キュルケもいたので、話を聞けば、タバサが実家に帰ると言う。

拓也がシルフィードに何で自分を連れてきたのかと聞くと、拓也も一緒に来て欲しいそうだ。

タバサの杖による殴打の洗礼がシルフィードに行なわれるが、シルフィードは頑として考えを変えなかった。

結局は、アイナに許可を貰って来い、ということで妥協したのだが・・・・・・シルフィードが飛び去って5分後。

アイナがタバサの部屋に飛び込んできた。

シルフィードと言い合いになっていたのだが、最終的にアイナもついていくということになった。

その後、オスマンを脅・・・・・もとい、オスマンに頼み込んで、休暇願いを通してもらい、国境を越えるための通行手形を発行してもらった一行は、タバサの実家から派遣されてきた馬車で出発する事となった。

その際、馬車に乗り込もうとする、拓也、アイナ、タバサ、キュルケの前に、

「きゅいきゅい。シルフィも馬車で行くのね」

と、人型に姿を変えたシルフィード、もといイルククゥ。

だが、着ていた服がいつもと違った。

「イルククゥ・・・・・そ、その服如何したんだよ?」

拓也は少し動揺しながら言った。

イルククゥの着ていた服は、上着は白地の長袖に、黒い袖の折り返し。

襟とスカーフは濃い紺色であった。

襟には白い三本線が走っている。

そして、かなり短めのスカートを穿いていた。

拓也や才人の世界ではセーラー服と呼ばれた服装である。

「あら?それってアルビオンの水兵服じゃない。どうしたの?」

キュルケがそう言った。

拓也はおぼろげながら、元の世界でセーラー服は元々軍服だったという話を思い出した。

「昨日、サイトがメイドにこの服着せて、悶えていたのね」

イルククゥがそう答えた。

拓也は数日前の王宮に呼び出された帰りに露店で、なにやら服を買っていたのを思い出した。

その時の才人の顔は、碌な事を考えていないときの顔だったのを思い出し、拓也の中で全てが繋がる。

「・・・・・・何やってるんですか、才人さん」

拓也は小さく呟く。

「きゅいきゅい。タクヤさま」

イルククゥが拓也を呼ぶ。

「ん?」

拓也がイルククゥへ顔を向けると、イルククゥがその場で、くるりと回転した。

スカーフとスカートが軽やかに舞い上がる。

「タクヤさま!お待たせなのね!」

イルククゥは指を立て、元気良くそう言った。

イルククゥのその行動は、昨日才人がシエスタにやらせた行動そのものなのだが、シエスタと違い、イルククゥの性格は、天真爛漫で単純一途。

その行動をするにあたって、羞恥は無い。

故に、全くの自然体でその行動が行なわれたため、拓也の精神に直撃した。

拓也は顔を真っ赤に染める。

「いきなり如何したの?」

キュルケがイルククゥに尋ねる。

「サイトがメイドに今の行動させて、泣きながら悶え狂っていたのね」

キュルケはそれを聞くと、拓也を見る。

拓也は、顔が真っ赤である。

キュルケはクスクスと笑った。

だが、アイナはそれが面白くなかったらしく、

――ズンッ

無言で拓也の足を、思いっきり踏みつけた。

因みに、何故才人が買ったはずの服をイルククゥが着ているのかといえば、昨日才人は、シエスタにセーラー服を着せているところを、ルイズのクラスメイトのギーシュとマリコルヌに見つかり、残りの2着を渡す事で、ルイズへの情報の漏洩を防いだ。

そして、その様子はシルフィードも上空から見ていた。

その後、マリコルヌが1人になったところで、一撃の元に気絶させ、セーラー服をいただいてきたという事だ。

人、それを強盗という。





そして、今に至る。

黒いオーラが充満し、息苦しくなったキュルケは、話題を逸らすように話し出した。

「タバサ、あなたのお国がトリステインじゃなくって、ガリアだって初めて知ったわ。あなたも留学生だったのね」

キュルケは『タバサ』の名が偽名だという事に薄々感づいていた。

キュルケは、タバサは世を忍ぶトリステインの名門貴族の出だろうと思っていたが、それは違った。

タバサは、トリステイン、ゲルマニアと国境を接する、ガリア王国の出だったのだ。

キュルケはタバサに尋ねた。

「何でまた、トリステインに留学してきたの?」

しかし、タバサは答えない。

じっと、本を見つめたままだ。

その時、キュルケは気付いた。

本のページが、出発したときと変わらないことに。

めくりもしない本を、タバサはじっと見つめている。

キュルケはそれ以上、尋ねるのを止めた。

タバサを想ってのことだが、それは即ち、アイナとイルククゥの険悪なムードに包まれたままということである。

キュルケは少し冷や汗を流しながら、目の前の現実から目を逸らすように窓の外を見た。

その時、前から、馬車に乗った一行が現れた。

深くフードを被った10人にも満たない一行であったが、妙にキュルケの注意を引いた。

マントの裾から杖が突き出ている。

貴族であった。

その杖のつくりからいって一行は軍人であるようだ。

今は、戦時であるので珍しくもない。

なにか密命でも帯びているのだろうか、静々と馬を進めている。

先頭をゆく貴族の顔が、フードの隙間からちらっと覗いた。

かなり年老いた貴族であった。

キュルケはなんとなくその横顔を見送った。

だが、はたと気付く。

見覚えがある気がしたのだ。

「一体何処で見たのかしら・・・・・・というか誰だっけ」

自分で考えてもわからないので、誰かに聞こうとしたが、今のタバサには聞く気にはなれず、アイナや拓也にいたっては、話しかける気にもなれない。

結局、ま、いっかと呟くと、気にしないことにした。




一行の2泊した旅路は、ラグドリアン湖の水が溢れて街道が水没し通れなくなったため迂回した以外は、おおむね順調だった。

ただ、馬車の中は相変わらず黒いオーラで一杯だったが。

関所で通行手形を確認する衛士も馬車を覗き込んだとき、余りの恐ろしさにキュルケとタバサの通行手形を確認しただけで通された。

実際、イルククゥは通行手形を持っていなかったので、助かったといえば助かったのだが。

街道を暫く進むと開けた場所に出た。

街道のすぐ傍をゆるやかに丘が下り、ラグドリアン湖へと続いている。

湖の向こう側はトリステインだ。

衛士の言うとおり、確かにラグドリアン湖の水位は上がっていた。

浜は見えず、湖水は丘の緑を侵食している。

タバサは本を閉じ、窓から外を覗いている。

「あなたのご実家、この辺なの?」

「もうすぐ」

タバサは馬車に乗り込んでから、初めて口を開いた。

しかし、すぐにまた黙り込んだ。

街道を山側へと折れ、馬車は一路タバサの実家へと進む。

そのうちに森の中へと馬車は進み、大きな樫の木が茂っているところにでた。

木陰の空き地では農民たちが休んでいる。

リンゴの籠に目をとめたキュルケは、馬車を止めさせ、農民を呼んだ。

「美味しそうなリンゴね。いくつか売って頂戴」

農民は籠からリンゴを取り出し、銅貨と引き換えにキュルケに渡した。

「こんなに貰ったら、籠一杯分になっちまいます」

「5個でいいわ」

キュルケは1個をかじり、残りの4個をそれぞれに渡した。

この時、黒いオーラが一時的に消えた事にキュルケは安堵した。

「美味しいリンゴね。ここはなんていう土地なの?」

キュルケは農民に問う。

「へえ、この辺りはラグドリアンの直轄領でさ」

「え?直轄領?」

王様が直接保有、管理する土地の事だ。

「ええ。陛下の所領でさ。わしらも陛下のご家来様ってことでさあ」

農民たちは笑った。

確かに土地の手入れがよく行き届いた、風光明媚な場所である。

王様が欲しがるのも無理はない。

キュルケは目を丸くして、タバサを見つめた。

「直轄領が実家って・・・・・・あなたってもしかして・・・・・・」




それから10分ほどで、タバサの実家のお屋敷が見えてきた。

旧い、立派なつくりの大名邸である。

門に刻まれた紋章を見て、キュルケは息を呑んだ。

交差した2本の杖、そして“更に先へ”と書かれた銘。

まごうことなきガリア王家の紋章である。

しかし、近付くとその紋章にはバッテンの傷がついていた、

不名誉印である。

この家のものは、王族でありながらその権利を剥奪されている事を意味している。

玄関前の馬周りにつくと、1人の老僕が近付いてきて馬車の扉を開けた。

恭しくタバサに頭を下げる。

「お嬢様、お帰りなさいませ」

他に出迎えのものはいない。

タバサが降りると、続いてキュルケ、アイナ、拓也、イルククゥの順で馬車を降りた。

5人は老僕に連れられ、屋敷の客間へと案内された。

手入れが行き届いた綺麗な邸内だったが、シーンと静まり返って、まるで葬式が行なわれている寺院のようだ。

タバサを除いた4人はホールのソファに座る。

キュルケがタバサに言った。

「まずはお父上にご挨拶したいわ」

しかしタバサは首を振る。

それから、

「ここで待ってて」

と言い残して客間を出て行った。

取り残された4人がぽかんとしていると、先程の老僕が入ってきてワインとお菓子を置いた。

それには手をつけずに、キュルケは老僕に尋ねた。

「このお屋敷、随分と由諸正しいみたいだけど。なんだかあなた以外、人がいないみたいね」

「あ、それ俺も思った。こう言っちゃ難だけど、この屋敷、綺麗なんだけど寂しいって言うか・・・・・」

キュルケの言葉に拓也が同意する。

老僕は恭しく礼をした。

「このオルレアン家の執事を務めておりまするペルスランでございます。おそれながら、シャルロットお嬢様のお友達でございますか?」

全員が頷く。

と、その時、アイナが気付いたように言った。

「オルレアン・・・・・オルレアン家っていえば、ガリア王の弟の、王弟家じゃ・・・・・」

キュルケもはたと気付く。

「どうして王弟家の紋章を掲げずに、不名誉印なんか飾っておくのかしら」

「お見受けしたところ、外国のおかたと存じますが・・・・・お許しがいただければ、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ゲルマニアのフォン・ツェルプストー」

「トリステインのシンフォニア」

「アイナの使い魔の神原 拓也」

「きゅいきゅい。イルククゥなのね」

4人がそう言うと、キュルケが尋ねた。

「ところでいったい、この家はどんな家なの?タバサは何故偽名を使って留学してきたの?あの子、なにも話してくれないのよ」

キュルケがそう言うと、ペルスランは切なげなため息を漏らした。

「お嬢様は『タバサ』と名乗ってらっしゃるのですか・・・・・わかりました。お嬢様が、お友達をこの屋敷に連れてくるなど、絶えてない事。お嬢様が心許すかたなら、かまいますまい。皆様を信用してお話しましょう」

それからペルスランは深く一礼すると語りだした。

「この屋敷は牢獄なのです」



タバサは屋敷の一番奥の部屋の扉をノックした。

返事はない。

この部屋の主がノックに対する返事を行なわなくなってから、5年が経っている。

その時、タバサはまだ10歳だった。

タバサは扉を開けた。

大きく殺風景な部屋だった。

ベッドと椅子とテーブル以外、他には何もない。

開け放した窓からはさわやかな風が吹いてカーテンをそよがせている。

この何もない部屋の主は自分の世界への闖入者に気付いた。

乳飲み子のように抱えた人形をぎゅっと抱きしめる。

それは痩身の女性だった。

もとは美しかった顔が病のため、見る影もなくやつれている。

彼女はまだ30代の後半だったが、20もふけて見えた。

伸ばし放題の髪から除く目が、まるで子供のように怯えている。

わななく声で女性は問うた。

「だれ?」

タバサはその女性に近付くと、深々と頭を下げた。

「ただいま帰りました。母さま」

しかし、その人物はタバサを娘と認めない。

そればかりか、目を爛々と光らせて冷たく言い放つ。

「下がりなさい無礼者。王家の回し者ね?私からシャルロットを奪おうというのね?誰があなたがたに、可愛いシャルロットを渡すものですか」

タバサは身じろぎもしないで、母の前で頭を垂れ続けた。

「おそろしや・・・・・・この子がいずれ王位を狙うなどと・・・・・誰が申したのでありましょうか。薄汚い宮廷のすずめたちにはもううんざり!私達は静かに暮らしたいだけなのに・・・・・・下がりなさい!下がれ!」

母はタバサに、テーブルの上のコップを投げつけた。

タバサはそれを避けなかった。

頭に当たり、床に転がる。

母は抱きしめた人形に頬ずりした。

何度も何度もそのように頬を擦り付けられた所為か、人形の顔は擦り切れて綿がはみ出ている。

タバサは悲しい笑みを浮かべた。

それは、母の前でのみ見せる、たった一つの表情だった。

「あなたの夫を殺し、あなたをこのようにしたものどもの首を、いずれここに並べに戻ってまいります。その日まで、あなたが娘に与えた人形が仇共を欺けるようお祈りください」

開けた窓から風が吹き込んでカーテンをて揺らす。

初夏だというのに、湖から吹いてくる風は肌寒かった。




4人はペルスランの話を聞いていた。

「継承争いの犠牲者?」

キュルケがそう問い返すと、ペルスランは頷いた。

「そうでございます。今を去ること5年前・・・・・・先王が崩御されました。先王は2人の王子を遺されました。現在、王座についておられるご長男のジョゼフさま、そしてシャルロットお嬢様のお父上であられたご次男オルレアン公のお2人です」

「あの子は、王族だったのね」

「しかし、ご長男のジョゼフさまはお世辞にも王の器とは言いにくい暗愚なおかたでありました。オルレアン公は王家のご次男としてはご不幸なことに、才能と人望に溢れていた。したがって、オルレアン公を擁して王座へ、という動きが持ち上がったのです。宮廷は2つに分かれての醜い争いになり、結果オルレアン公は謀殺されました。狩猟会の最中、毒矢で胸を射抜かれたのでございます。この国の誰よりも高潔なおかたが魔法ではなく、下賎な毒矢によってお命を奪われたのです。その無念たるや、私などには想像もつきかねます。しかし、ご不幸はそれにとどまらなかったのです」

ペルスランは胸をつまらせるような声で続けた。

「ジョゼフさまを王座につけた連中は、次にお嬢様を狙いました。将来の禍根を断とうと考えたのでありましょう。連中はお嬢様と奥様を宮廷に呼びつけ、酒肴を振舞いました。しかし、お嬢様の料理には毒が盛られていました。奥様はそれを知り、お嬢様を庇いその料理を口にされたのです。それはお心を狂わせる水魔法の毒でございました。以来、奥様は心を病まれたままでございます」

4人は言葉を失い、呆然とペルスランの告白に耳を傾けた。

「お嬢様は・・・・・その日より、言葉と表情を失われました。快活で明るかったシャルロットお嬢様はまるで別人のようになってしまわれた。しかしそれも無理なからぬこと。目の前で母が狂えば、誰でもそのようになってしまうでしょう。そんなお嬢様はご自分の身を守るために、進んで王家の命に従いました。困難な・・・・・生還不能と思われた任務に志願し、これを見事果たして王家への忠誠を知らしめ、ご自分をお守りになられたのです。王家はそんなシャルロットお嬢様を、それでも冷たくあしらわれました。本来なら領地を下賜されてしかるべき功績にも関わらず、シュヴァリエの称号のみを与え、外国に留学させたのです。そして心を病まれた奥様を、この屋敷に閉じ込めました。体のいい、厄介払いというわけです」

口惜しそうにペルスランは唇を噛んだ。

「そして!未だに宮廷で解決困難な汚れ仕事がもちあがると、今日のようにほいほい呼びつける!父を殺され、母を狂わされた娘が、自分の仇にまるで牛馬のようにこき使われる!私はこれほどの悲劇を知りませぬ。何処まで人は人に残酷になれるのでありましょうか」

その場にいた全員は、タバサが口を開かぬ理由を知った。

決してマントに縫い付けぬ、シュヴァリエの称号の理由を知った。

『雪風』、彼女の二つ名。

彼女の心には冷たい吹雪が吹き荒れ、今もやむ事がないのだろう。

「お嬢様は、タバサと名乗っておられる。そうおっしゃいましたね?」

皆は頷く。

「奥様は、お忙しいかたでありました。幼い頃のお嬢様はそれでも明るさを失いませんでしたが・・・・・・随分と寂しい想いをされたことでありましょう。しかし、そんな奥様が、ある日、お嬢様に人形をプレゼントなさったのです。お忙しい中、ご自分で街に出でて、下々の者に交じり、手ずからお選びになった人形でした。そのときのお嬢様の喜びようといったら!その人形に名前をつけて、まるで妹のように可愛がっておられました。今現在、その人形は奥様の腕の中でございます。心を病まれた奥様は、その人形をシャルロットお嬢様と思い込んでおられます」

ペルスランは一息つく。

「『タバサ』。それはお嬢様が、その人形にお付けになった名前でございます」

扉が開いて、タバサが現れた。

ペルスランは一礼すると、苦しそうな表情を浮かべ、懐から一通の手紙を取り出した。

「王家よりの指令でございます」

タバサはそれを受け取ると、無造作に封を開いて読み始めた。

読み終えると軽く頷いた。

「いつごろ取りかかられますか?」

まるで散歩の予定を答えるように、タバサは言った。

「明日」

「かしこまりました。そのように使者に取り次ぎます。ご武運をお祈りいたします」

そう言い残すと、ペルスランは厳かに一礼して部屋を出て行った。

タバサは皆の方を向いた。

「ここで待ってて」

これ以上はついてくるなと言いたいのだろう。

しかし、

「ゴメンね。さっきの人に全部聞いちゃったの。だからあたしもついていくわ」

キュルケが、

「俺も行くぜ。あそこまで聞いちまったら、黙って見送るだけなんて出来ない」

拓也が、

「もちろん私も」

アイナがそう言う。

「危険」

「余計に、あなた1人で行かせるわけにはいかないわね」

タバサの言葉にキュルケがそう言う。

タバサは答えない。

ただ、軽く下を向いた。




その夜。

拓也とアイナは用意された客室にいた。

2人の雰囲気は暗い。

ペルスランから聞いた話が頭の中からはなれないのだ。

「ふう・・・・・」

どちらでもなくため息をつく。

先程からこれの繰り返しだった。

そんな時、

「きゅい~!なんなのねこの暗い雰囲気は!」

2人の部屋にイルククゥが乱入した。

2人はイルククゥを見るが、

「けどよ、あんな話聞いた後じゃ・・・・・」

「うん・・・・この先、どうやってタバサと付き合っていけばいいのか・・・・」

拓也とアイナがそう言う。

「きゅい~~!!何もそんなに難しく考える必要はないのね!2人は今まで通りお姉さまと接していけばいいのね!」

イルククゥがそう言う。

「今まで通り・・・・か。それもそうだな。俺たちがウジウジ悩んだってどうなるわけでもないし」

「うん。いつも通りでいいんだよね」

イルククゥの言葉で2人の暗い雰囲気が消える。

「それでいいのね!」

「ところで・・・・・」

アイナが言う。

「何しに来たの?イルククゥ」

やや黒いオーラを纏わせつつイルククゥに問いかけた。

イルククゥが笑みを浮かべると、

「そうなのね。シルフィずっと考えていたのね。そこのおチビに何か負けてるような気がしてたのね」

「は?」

拓也は意味が分からない。

「へえ~それで?」

アイナは黒いオーラを出しつつそう問う。

「それが、わかったから来たのね」

イルククゥはそう言うと、拓也の前に来る。

「イ、 イルククゥ?」

拓也は少し動揺する。

「これが今までそこのおチビに負けてたことなのね」

そう言った途端、イルククゥは拓也の顔を両手で挟むと、そのまま顔を近づけ、唇を拓也の唇に押し付けた。

「んんッ・・・・!?」

イルククゥは拓也にキスをしていた。

少しするとイルククゥは離れる。

「ぷはっ・・・・!」

拓也の顔は真っ赤になっている。

「イ、イイイイイイ、イル、イルククゥ!?おまっ!なにっ!おまっ!」

拓也は無茶苦茶取り乱していた。

対するイルククゥはニコニコしており、

「これでおチビと互角なのね」

そんな事を言った。

その瞬間、

――ブチィッ!!!

何かが引き千切れるような音が聞こえた。

拓也は恐る恐るアイナの方を向く。

そこには、巨大なる豪火球を掲げたアイナがいた。

その目は最早イってしまっている。

「ア、 アイナ!?お、落ち着けッ!そ、それはシャレになら・・・・・・」

拓也は言葉を最後まで言い切ることが出来なかった。

問答無用で放たれた豪火球が、拓也、イルククゥもろとも客室を吹き飛ばした。

尚、この事件により、拓也とイルククゥ(シルフィード)が重症を負い、治療のため任務への出発が数日遅れた事を記しておく。






次回予告


タバサの任務で、ラグドリアン湖へ水の精霊を退治するために向かう一行。

だがそこには、惚れ薬でベッタリになったルイズを連れた、才人、ギルモン、ギーシュ、モンモランシーがいた。

水の精霊を呼び出すと言うので話を聞いてみることにする一行。

湖の水を増やす水の精霊の真意とは?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第十八話 水の精霊と新たなる道

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

十七話完成~。

で、さっそくごめんなさい(土下座)

シリアスな物語の最後をギャグで終わらせてしまいました。

いや、これは必要な事だったんですよ。

任務の開始を遅らせるために。

理由はわかると思いますが。

まあ、今回を振り返りますと、王宮編が思った以上に長くなりました。

書き始めたら、思いついてしまったので。

とりあえず、アンリエッタと拓也のやり取り、もう少しまとめることができたらなぁ~と思いました。

思いついたはよかったんですけど、うまく言葉で表現できなかった。

もっと精進です。

原作では才人がルイズにアクセサリーを買ってあげてましたので、アイナにもおねだりさせてみました。

アイナ、イルククゥより一歩リードか?

と思いきや・・・・・・・

で、この辺りまで書いて、ミスに気付く。

タバサの出発日ってこの日と同じじゃないか!と。

すいません、自分のミスなんでこの小説では、タバサの出発日は原作と違うってことにしてください。

気を取り直して、拓也、シルフィードに拉致されました。

どうやって連れて行くかと悩んだ結果、このような流れに。

しかもイルククゥ、セーラー服で登場、これも突然閃いたネタです。

道中すれ違った一行。

ウェールズは生きている。

ならばこの集団は?

秘密です。

タバサの秘密については原作通り。

まあ、最後にイルククゥのキスという、アイナへの最大のカウンターを喰らわせましたがね。

この先どうなる事やら。

では、次も頑張ります。




[4371] 第十八話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/01/09 00:29
アイナの攻撃により負傷したことにより、任務への出発が数日遅れた拓也たち。

気を取り直して、ラグドリアン湖へと向かうが?


第十八話 水の精霊と新たなる道


ラグドリアン湖へと向かうシルフィードの上で、拓也が切り出した。

「湖の水を増やす水の精霊を退治して来いって話だけど、水の精霊ってどんなのなんだ?」

そう拓也が尋ねる。

「えっと、基本的に決まった形はしてないの。強いて言えば、意思のある水・・・・かな?」

アイナが答える。

「基本的に水に触れなければ、水の精霊は無力」

タバサが後を引き継ぐ。

拓也はその言い方が気になった。

「水に触れなければ・・・・・って、水に触れたらどうなるんだ?」

「一瞬でも触れば心を奪われる。生物の生命と精神を操るのは、水の精霊にとって呼吸する事と同じくらい簡単な事」

「うげっ!そんな奴どうやって倒すんだよ。水の精霊ってことは水の中にいるんだろ?」

「私が魔法で空気の球を作る。それで水の中に入り、水の精霊を見つけて火であぶる。蒸発すれば水の精霊は再び液体として繋がる事は出来なくなる」

「ふーん。じゃあ、水の中に入る事ができたら後は俺達の仕事ってことだな」

拓也の言葉に、タバサは頷く。

偶然にもここにいるのは、タバサ以外は『火』のエキスパートばかりである。

本来なら、何日もかけて少しずつ蒸発させ、気長に行なうつもりだった。

だが、この面子なら、数日。

うまくやれば、1日で終わらせる事が出来るかもしれない。

とりあえず、今は湖の様子を見て、今夜から始める予定だ。

シルフィードが降下を始める。

ラグドリアン湖に着いたようだ。

しかし、なんとそこには、

「才人さん!?」

才人、ギルモン、ルイズ、ギーシュ、モンモランシーがいた。

「拓也!?」

才人が驚いている。

「あなた達、何でこんな所にいるの?」

キュルケが尋ねる。

「それは、その~~~」

モンモランシーは気まずそうに言葉を濁す。

ただ、視線はルイズへと向けられていた。

そこで、気付く。

なんとルイズは、才人にしっかりと寄り添っていたのだ。

「ちょ、ちょっとルイズ!?一体如何したの!?」

アイナが驚愕しながら問う。

それに驚いたのかルイズは更に才人に抱きつく。

明らかに、いつものルイズらしからぬ行動である。

拓也は才人に問いかけた。

「才人さん、ホントにルイズ如何したんですか?」

「あ~、その~、惚れ薬とやらを飲んじまったんだよ」

「惚れ薬?」

「ああ、本来は禁止されてるはずの薬らしいんだけど、モンモンが自分で作って、ギーシュに飲ませる計画らしかったんだが、間違ってルイズが飲んじまってな」

その言葉に拓也は苦笑した。

「それで、なんで才人さん達はこんな所に?」

拓也は本題を聞く。

「今言った惚れ薬の解除薬を作るのに、この湖にいる水の精霊の『水の精霊の涙』が必要らしくてさ。それではるばる、こんな所まで来たってわけだ。拓也達は?」

拓也は返事に困ってしまった。

流石にその水の精霊を退治しに来たとは言えない。

と、その時、キュルケが答えた。

「困ったわね~。私達タバサの実家から頼まれて、ラグドリアン湖の水を増やしてる水の精霊を退治することになってるのよ」

「ええっ!?何で!?」

才人が驚き、聞き返す。

「水かさが上がったせいで、タバサの実家の領地が被害を受けてるのよ。それで私たちが退治を頼まれたってわけ」

あながち間違っていないレベルで、キュルケは才人達に説明する。

それを聞いて納得した才人は如何したもんかと考える。

ふと、拓也が口に出した。

「才人さん達は、どうやってその『水の精霊の涙』を手に入れるつもりだったんですか?」

「えっと?・・・・モンモン?」

才人はモンモランシーに尋ねる。

「私の家は水の精霊との交渉役を何代も続けてきてたの。今は色々あって他の貴族が勤めてるけど、私の事を覚えていれば、話を聞いてくれるかもしれないのよ」

「だって」

その話を聞くと、拓也は少し考える。

「話を聞いてくれるっていうんならさ、水かさを増やしてる理由を聞いて止めてもらうってことは出来ないかな?」

「そうだね。結局は水位が戻れば、無理に退治する必要もないわけだし」

拓也の案に、アイナが同意する。

「水の精霊が話を聞いてくれるかしら」

キュルケが若干不安そうに言う。

「駄目で元々。試すだけ試してみようぜ」

その言葉で、水の精霊と交渉を試してみる事になった。




モンモランシーは腰に下げた袋から鮮やかな黄色に、黒い斑点が幾つも散ったカエルを取り出した。

見るからに毒々しい。

「カエル!」

カエル嫌いのルイズが悲鳴を上げて、才人に寄り添う。

「なんだよその毒々しい色のカエルは!?」

才人も少し引いている。

「毒々しいなんて言わないで!私の大事な使い魔なんだから!」

モンモランシーは指を立てて、使い魔に命令した。

「いいこと?ロビン。あなた達の古いお友達と連絡が取りたいの」

モンモランシーは針で指の先を突き、血を一滴カエルに垂らす。

直ぐに治癒魔法で指先の治療をすると、再びカエルに顔を近づける。

「これで相手は私の事がわかるわ。覚えていればだけど。じゃあロビンお願いね。偉い精霊、旧き水の精霊をみつけて、盟約の持ち主の1人が話をしたいと告げて頂戴。わかった?」

カエルはぴょこんと頷くと、水の中へ消えていく。

才人が水の精霊についてモンモランシーに話を聞いていると、岸辺から30メイル程はなれた水面の下が眩いばかりに輝く。

もちが膨らむようにして水面が盛り上がる。

湖からロビンが上がってきて、モンモランシーの元に戻ってきた。

モンモランシーはしゃがんで手をかざしてロビンを迎えた。

指でロビンの頭を撫でる。

「ありがとう。きちんと連れてきてくれたのね」

モンモランシーは立ち上がると、水の精霊に向けて両手を広げ、口を開いた。

「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えはおありかしら。覚えていたら、私たちにわかるやり方と言葉で返事をして頂戴」

水の精霊・・・・・盛り上がった水面がぐねぐねと形を取り始める。

拓也と才人はその光景を驚きながら見ていた。

水の塊が、モンモランシーそっくりの形になって、にっこりと微笑んだからだ。

その水の精霊は何度か表情を変えた後、モンモランシーの問いに答えた。

「覚えている。単なるものよ。貴様の体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が52回交差した」

「よかった。水の精霊よ、お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、あなたの一部を分けて欲しいの」

その言葉に才人がモンモランシーに尋ねるが、モンモランシーは鬱陶しそうに答えて、才人を黙らせる。

水の精霊は、にこっと笑う。

だが、出てきた言葉は全く逆だった。

「断る。単なる者よ」

「そりゃそうよね。残念でしたー。さ、帰ろ」

モンモランシーがあっさりと諦めたので、才人は呆れた。

「おいおい!ちょっと待てよ!ルイズはどーすんだよ!しかも、拓也達の問題も聞いてねーし!なあ水の精霊さん!」

才人はモンモランシーを押しのけて、水の精霊に対峙した。

「ちょっと!あんた!やめなさいよ!怒らせたらどーすんのよ!」

モンモランシーは才人を押しのけようとしたが、才人は怯まない。

「水の精霊さんよ!お願いだよ!何でもいう事聞くから、『水の精霊の涙』をわけてくれよ!ちょっとだけ!ほんのちょっとだけ!」

水の精霊は、何も返事をしなかった。

才人は土下座する。

「お願いです!俺の大事な人が大変なんです!あなたにだって、大事なものがあるでしょう?それと同じぐらい俺にとって大事な人が大変な事になってて・・・・・あなたの体の一部が必要なんだ!だからお願い!このとおり!」

水の精霊は、ふるふると震えて、姿かたちを何度も変えた。

再びモンモランシーの姿になると、才人に問うた。

「よかろう」

「ええ!ほんと!」

「しかし、条件がある。世の理を知らぬ単なる者よ。貴様は何でもすると申したな?」

「はい!言いました!」

「ならば、この湖に住み着いた3匹の悪魔を退治してみせよ」

一行は顔を見合わせた。

「悪魔の退治?」

「さよう。最近この湖に悪魔が住み着き、この湖を荒らしまわっている。その悪魔達には我の力が通用せぬ。その悪魔共を退治すれば、望みどおり我の一部を進呈しよう」

「わかった。その悪魔は何処にいるんだ?」

才人は即答した。

「ちょっと、相手は水の精霊の力も通用しない奴なのよ。少しは考えてものを言いなさい!」

モンモランシーが、そう言うが才人は聞いていない。

「我が奴らをここに誘き寄せる。そこで待つがいい」

水の精霊はそう言うと、水の中に溶けるように消えていく。

「あ~も~!私、こんな所で死にたくないわよ~!」

モンモランシーは叫ぶ。

「安心してくれモンモランシー。僕がいる。僕の勇敢な戦乙女達が、悪魔共を成敗してくれる」

ギーシュがそう言うが、

「安心できるわけないじゃない。あんたへっぽこだし」

モンモランシーはハッキリとそう言った。

その言葉で白くなったギーシュを気にすることなくキュルケは言った。

「水の精霊の力が効かない相手ねえ~。何だと思う?」

「・・・・・本当に生物なのかも疑わしい。生物でありその体に『水』が含まれている限り、水の精霊に操れないはずがない」

タバサがそう言う。

(水が含まれない生物ねえ~。そういえばデジモンを構成してるのはデータだっけ・・・・・・・って、まさか!?)

拓也が、そこまで思い至ったとき、水面が激しく波打つ。

「グルルルルルルル!」

ギルモンが激しく威嚇行動を取った。

「如何した!?ギルモン!」

その行動に驚いた才人が問いかける。

「サイト、デジモンだ」

「何だって!?」

才人は再び水面に目をやる。

水面が盛り上がり、

「ゲソモ~ン!」

白い巨大なイカ。

「シェルモ~ン!」

巨大な巻き貝。

「エビドラモ~ン!」

巨大なエビのようなドラゴン。

3匹のデジモンが姿を現した。

「ゲソモン?」

モンモランシーが、

「シェルモン?」

キュルケが、

「エビドラモン?」

ギーシュが、それぞれ呟く。

(イカ、貝、エビ・・・・・・・)

「・・・・・・・シーフードミックス?」

才人が連想してポツリと呟いた。

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう」

拓也が冷静に突っ込んだ。

「んな事言っても、デジモン相手ならお前に任せるしか・・・・・」

「残念ですが、今回は手伝ってもらわないと、無理そうです」

才人の言葉に拓也がそう答える。

才人は驚き、

「手伝ってもらわないと無理・・・・って、あいつらはそんなに強いのかよ!?」

そう聞き返す。

「いや・・・・敵が強いと言うか、場所が問題なんですよ」

「はあ?」

拓也の言った意味に首をかしげる才人。

「説明するより見たほうが早いです」

拓也はデジヴァイスを取り出し、

「スピリット!エボリューション!!」

拓也がデジコードに包まれる。

「アグニモン!!」

拓也はアグニモンに進化した。

すると、

「バーニング!サラマンダー!!」

アグニモンはいきなり必殺技をゲソモンに放った。

ゲソモンに直撃する。

「ゲゲッ・・・・・!?」

ゲソモンそこそこのダメージは受けたようだが、まだピンピンしている。

「え!?効いてない!?」

アイナが驚愕する。

だが、

「違う。いつもより威力が弱い」

タバサが冷静に分析した。

「そういうことだ。俺は『炎』の闘士。そして、ここラグドリアン湖はいわば、『水』のフィールド。『炎』に相反する属性である『水』のフィールドでは、『炎』の闘士である俺の力は半減してしまう」

アグニモンの言葉に驚愕する才人。

「お、おい。それって、今回はかなりやばいって事だよな」

なんとかそう言う。

「そういう事。アルダモンになれば、話は別だろうけど。けど、アルダモンじゃ、力が強すぎて、逆に水の精霊に警戒されかねないからな」

「じゃあどうするんだよ!?」

「俺が何とか2体引き付ける。才人はギルモンや皆と一緒に、1体づつ倒してくれ」

「わ、分かった!」

アグニモンはそう言うと、ゲソモンに殴りかかった。

だが、ゲソモンはその軟体の体で衝撃を吸収できるらしく、殆ど効いていない。

ゲソモンの足が、アグニモンに巻きつく。

「ぐっ」

そのまま、ゲソモンはアグニモンを水の中に引きずり込んだ。

エビドラモンも水の中に潜る。

「タクヤ!!」

アイナが叫び水辺に駆け寄ろうとする。

だが、タバサに引き止められた。

「タクヤは、ワザとつかまっただけ。今私たちがやるべき事は、あの1体を早急に倒して彼の応援に行く事」

タバサの言葉に、アグニモンが引きずり込まれた水面を気にしながらも、アイナはシェルモンに向き直る。

「わかった」

先陣を切ったのはギーシュだった。

錬金で7体のゴーレムを作り出す。

「行け!ワルキューレ!」

造花の杖を振り、ワルキューレをシェルモンに一斉に突撃させる。

だが、

――ドゴンッ

叩き付けられた前腕によって、一撃ですべて潰された。

「弱ッ!!」

思わず才人が叫んだ。

「もう!見てられないわね」

キュルケが杖を引き抜くと、呪文を唱え、炎を放った。

その時、シェルモンの頭部の触手がたくさん生えているところから水が凄まじい勢いで発射される。

シェルモンの必殺技、高圧の水を噴出させる『ハイドロプレッシャー』だ。

それは、簡単にキュルケの炎をかき消し、キュルケに向かってきた。

「え?ちょ・・・・」

キュルケは予想外の事態に硬直してしまう。

しかし、寸での所で、タバサが風の魔法で、ハイドロプレッシャーの軌道を逸らす。

「あ、ありがと。タバサ」

キュルケがお礼を言いながら、体勢を立て直す。

アイナが、杖を掲げた。

「フレイム・ジャベリン!!」

炎の槍が作り出され、シェルモンに放たれた。

だが、シェルモンは再びハイドロプレッシャーを放ってくる。

それは、水蒸気爆発を起こし、お互いに相殺した。

「ファイヤーボール!!」

その隙に、ギルモンが火球を吐き出した。

「グオッ!?」

シェルモンの顔に当たるが、シェルモンは少し怯んだだけで、余り効いてはいない。

「このやろう!」

才人がデルフリンガーで斬りかかる。

が、頭に生えている触手が伸び、才人を絡め取る。

「うわっ!何だコイツ!?」

あっという間に、両手もろとも体を締め付けられる。

「うわあああああっ!!」

才人は悲鳴を上げる。

「サイト!」

ルイズが杖を振り、爆発魔法で攻撃するが、やはり威力が足りない。

その時、ギルモンが駆け出していた。

「サイトー!」

それに気付いた才人は叫んだ。

「ばかっ!来るな!」

シェルモンは前腕でギルモンに襲い掛かる。

ギルモンは避けられずに前腕の下敷きになった。

「ギルモーン!!」

才人は叫ぶが、ギルモンはシェルモンの腕に押さえつけられ、身動きできない。

「サ・・・・・サイト・・・・・・」

ギルモンは力なく呟く。

「ギルモーーン!!」

才人はギルモンに呼びかける。

「サイト・・・・・」

才人の呼びかけに答えるようにギルモンは呟く。

そんな事で、事態が好転するわけは無い。

普通なら。

だが、人とデジモンの心が一つになったとき、奇跡は起こる。

「ギルモーーーン!!!」

「サイトーーーー!!!」

才人とギルモンの声が重なった。

その時だった。

才人の目の前で光が発生する。

突然の事にシェルモンは驚き、才人を拘束していた触手が緩み、才人は湖に落下した。

「・・・・・ぷはっ!」

才人は水面から顔を出すと、上から光が降りてきた。

よく見ると、光の中に何かが見える。

それは、才人の目の前で止まった。

まるで、才人に手に取れと言わんばかりに。

才人は思わずそれに手を伸ばした。

光の中にある『それ』を掴んだとき、一瞬強い光を放ったかと思うと、すぐに光は収まった。

そして、才人の手には、拓也の物と形は違うが、デジヴァイスが握られていた。

そして、そのデジヴァイスの画面に文字が表示された。

――EVOLUTION

デジヴァイスの画面から光が迸る。

その光はギルモンを包んだ。

ギルモンの目が力強く見開かれる。

その瞬間、ギルモン自体が光を発した。

「ギルモン進化!!」

ギルモンの身体が一時分解。

そして、再構築されていく。

更に大きく。

更に強く。

ギルモンが成熟期に進化した姿。

その名も、

「グラウモン!!」

その姿は、ギルモンの時にあった幼さはなくなり、10メイル近い巨体に、赤い皮膚と発達した筋肉がよくわかる。

グラウモンはシェルモンと相対した。

シェルモンはいきなりの進化に驚いたが、すぐに攻撃に入る。

「ハイドロプレッシャー!!」

高圧の水が放たれる。

だが、グラウモンは、息を大きく吸い込むような仕草をして、

「エキゾーストフレイム!!」

口から強力な熱線を吐き出した。

エキゾーストフレイムとハイドロプレッシャーがぶつかり合う。

暫く拮抗していたが、

「がんばれ!グラウモン!!」

岸に這い上がった才人が叫んだ。

「グアァァァ!!」

その声援に後押しされ、グラウモンのエキゾーストフレイムは、ハイドロプレッシャーを押し返していく。

そして、

「ギャアア!?」

ハイドロプレッシャーを押し切り、シェルモンの頭部に直撃した。

シェルモンは叫び声を上げ、気絶する。

「やったぜグラウモン!」

才人は喜びの声を上げ、グラウモンを労う。

だが、アイナはすぐに岸辺に駆け寄る。

「タクヤ・・・・・・」

アグニモンが引き込まれたあたりの水面を見て呟いた。

次の瞬間、凄まじい水柱と共にヴリトラモンが上空へ飛び出す。

その足にはゲソモンとエビドラモンが掴まれている。

アグニモンはヴリトラモンにスライドエボリューションし、力ずくで敵を『水』のフィールドから引きずり出したのだ。

ヴリトラモンは翼を大きく羽ばたかせ、ゲソモン、エビドラモンを完全に水から引きずり出した。

「フレイム!ストーム!!」

ヴリトラモンの体中から放たれた炎は、ゲソモン、エビドラモンごと炎に包む。

2体のデジモンは黒焦げになるしかなかった。



やられて大人しくなった3匹のデジモンに拓也が話しかけた。

「なあ、この湖に住むのは迷惑だから、川を下って海に行ってくれないか?」

だが、

「やなこった」

ゲソモンが答えた。

「ここじゃ迷惑する奴がいるって言ってるだろ!?頼むからこの湖から出てってくれよ!」

才人が叫ぶ。

それでも、3匹のデジモンはウンとは言わない。

拓也は、しばし考えた後、

「なあアイナ」

「何?」

「イカを料理するときって如何する?」

アイナは一瞬、怪訝な顔をしたが、すぐに拓也のねらいを悟る。

「ん~と・・・・」

アイナは頬に指を当て、考える仕草をする。

「焼く事が多いかな?あ、あとボイルにするのもいいかも!」

アイナはゲソモンを見つつ言った。

「や、焼く?・・・・・ボイル!?」

ゲソモンは自分がそうされる事を想像し、冷や汗を流す。

そこで気付いた才人が、

「待てよ、イカなら切って刺身って手もあるぜ」

デルフリンガーを手に持ちつつそう言った。

「さ、刺身~!?」

ゲソモンは怯えて縮こまった。

次に拓也達は、シェルモンに狙いを定める。

「巻貝は・・・・・」

「アイツはサザエみたいだから、壺焼きで決定だろ?」

才人が間髪いれず言った。

「つ、壺焼き~!?」

シェルモンも引っ込む。

最後のエビドラモン。

「エビは・・・・・」

「エビなら茹でるのが一番だね」

料理を趣味とするアイナの一言。

「ゆ、茹でる~!?」

エビドラモンも自分がそうされる事を想像し、縮こまる。

「エビフライでもいいんじゃないか?」

拓也の容赦ない一言。

「エ、 エビフライ~!?」

完全に戦意を無くす3匹。

全員が、3匹を見つめる。

――ジュル

それは、誰が出した音であろうか。

涎を啜る音がした。

それが引き金となり、

「「「す、すいませんでしたぁ!!!」」」

3匹揃って、逃げていった。




そして、再び水の精霊と対峙している。

因みにグラウモンはギルモンに退化していた。

「水の精霊よ。この湖を荒らしていた悪魔はいなくなったわ。約束どおり、あなたの一部を頂戴」

モンモランシーがそう言うと、水の精霊は細かく震えた。

ぴっ、と水滴のように。その体の一部がはじけ、一行の元へと飛んできた。

それを慌てながらも、ギーシュが持っていた壜で『水の精霊の涙』を受け止めた。

すると、水の精霊は再び水底に戻っていきそうになったので、才人は呼び止めた。

「待ってくれ!1つ聞きたい事があるんだ!」

水の精霊は、再び水面に盛り上がり、昨日と同じようにモンモランシーの姿になった。

「なんだ?単なる者よ」

「どうして水かさを増やすんだ?よかったら止めて欲しいんだけど。なんか理由があるなら聞かせてくれ。俺たちに出来る事なら、何でもするから」

水の精霊はゆっくりと大きくなった。

そして、さまざまなポーズをとる。

その動きが、感情の動きを表しているのかもしれなかった。

「お前たちに、任せてもよいものか、我は悩む。しかし、お前たちは我との約束を守った。ならば信用して話してもよいことと思う」

その言い回しに才人はイラっとしたが、怒らせては始まらないので黙って水の精霊の言葉を待った。

何度か形を変えた後、再びモンモランシーの姿に戻り、水の精霊は語り始めた。

「数えるほども愚かしいほど月が交差する時間の間、我が守りし秘法を、お前たちの同胞が盗んだのだ」

「秘宝?」

「そうだ。我が暮らす最も濃き水の底から、その秘宝が盗まれたのは、月が30ほど交差する前の晩の事」

「おおよそ2年前ね」

と、モンモランシーが呟く。

「じゃあお前は、人間に復讐するために、水かさを増やして村々を飲み込んじまったのか?」

「復讐?我はそのような目的は持たない。ただ、秘宝を取り返したいと願うだけ。ゆっくりと水が浸食すれば、いずれは秘宝に届くだろう。水が全てを覆いつくすその暁には、我が体が秘宝のありかを知るだろう」

「な、なんだそりゃ」

才人は呆れる。

「気の長い奴だな」

と、拓也。

「我とお前たちでは、時に対する概念が違う。我にとって全は個。個は全。時もまた然り。今も未来も過去も、我に違いはない。いずれも我が存在する時間ゆえ」

「ようし、そんなら俺たちがその秘宝を取り返してきてやる。なんていう秘宝なんだ?」

「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」

「なんか聞いた事あるわ」

モンモランシーが呟く。

「『水』系統の伝説のマジックアイテム。たしか、偽りの生命を死者に与えるという・・・・・・・・」

「その通り。誰が作ったものかはわからぬが、単なる者よ、お前の仲間かも知れぬ。ただお前たちがこの地にやってきたときには、既に存在した。死は我には無い概念ゆえ理解できぬが、死を免れぬお前たちにはなるほど『命』を与える力は魅力と思えるのかもしれぬ。しかしながら、『アンドバリ』の指輪がもたらすのは偽りの命。旧き水の力に過ぎぬ。所詮益にはならぬ」

「そんな代物を、誰が盗ったんだ?」

「風の力を行使して、我の住処にやってきたのは数個体。眠る我には手を触れず、秘宝のみを持ち去っていった」

「名前とかわからないの?」

「確か個体の1人がこう呼ばれていた。『クロムウェル』と」

キュルケがぽつんと呟いた。

「聞き間違いじゃなければ、アルビオンの新皇帝の名前ね」

才人達は顔を見合わせた。

「人違いという可能性もあるんじゃねえのか。同じ名前のやつなんか、いっぱいいるだろう。で、偽りの命とやらを与えられたら、どうなっちまうんだ?」

「指輪を使った者に従うようになる。個々に意思があるとは不便なものだな」

「とんでもない指輪ね。死者を動かすなんて、趣味が悪いわね」

キュルケが呟く。

彼女はその瞬間、何か引っ掛かるものを感じた。

だが、うまく思い出せない。

才人は決心したように頷くと、水の精霊に向かって大声で言った。

「わかった!約束する!その指輪をなんとしてでも取り返してくるから、水かさを増やすのを止めてくれ!」

水の精霊はふるふると震えた。

「わかった。お前たちを信用しよう。指輪が戻るのなら、水を増やす必要もない」

「何時までに取り返して来ればいいんだ?」

すると再び水の精霊はふるふると震えた。

「お前たちの寿命が尽きるまででかまわぬ」

「そんなに長くていいのかよ」

「かまわぬ。我にとっては、明日も未来も余り変わらぬ」

そう言い残すと、水の精霊はごぼごぼと姿を消そうとした。

その時、拓也が思いついたように呼び止めた。

「待ってくれ!」

全員が驚いて拓也を見る。

「なんだ?最も幼き単なる者よ」

「すまない。一つ尋ねたいことがあるんだ」

「申してみよ」

「ああ。人の心を狂わす水魔法の毒について何か知らないか?」

タバサを含めた、タバサの実家から来た全員が驚いた表情をする。

「ちょっとタクヤ?一体何聞いてるの?」

キュルケが拓也に問う。

「え?いや、タバサの家にいた執事さんから聞いた話じゃ、心を狂わせる毒って『水』の魔法薬って話だったろ?だから、『水』の精霊なら何か知ってるんじゃないかな~って・・・・・」

なんとも子供らしいというか、拓也らしい単純な発想であった。

「あのね~、そんな簡単にわかったら苦労は「知っている」・・・・・って、ええぇ!?」

キュルケの言葉の最中に言われた水の精霊の言葉に、キュルケは驚愕して叫んだ。

「本当か!?」

拓也が聞き返す。

「知っている。お前の言う心を狂わす水魔法の毒というのは、お前たち単なる者がエルフと呼ぶ種族が作りし物に違いあるまい」

ハルケギニア組は、「エルフ」という単語に動揺する。

が、地球から来ている拓也と才人には何の事かわからない。

そして、拓也にとって今はそんな事如何だってよかった。

「なら、水の精霊よ。その毒を治す薬の作り方を知らないか?」

拓也は一番大事な事を聞いた。

タバサも、その問いの答えを真剣に聞こうとする。

が、

「知らぬ」

その水の精霊の言葉で、一気に落胆する。

タバサにも落胆の表情が窺える。

「そうか・・・・・ならいい「だが・・・・・」え?」

ならいいや、と答えようとした拓也の言葉を遮って、水の精霊が言葉を続けた。

「その毒を浄化出来るであろう物なら知っている」

続けて出てきた言葉に再び驚く。

全くもって遠まわしな言い方である。

「それは何?」

タバサがその先を促す。

その表情は焦りと期待が交じり合った表情だ。

「それは・・・・『覇竜の涙』」

「『覇竜の涙』?」

アイナが呟く。

「そう、竜の中の王・・・・・・『覇竜』が流す一滴の涙。その涙は、あらゆる毒、病を浄化する力を持つ」

「その『覇竜』とやらの居場所は?」

「それはわからぬ。我が『水』を司る存在に対し、『覇竜』は相反する『火』を司るもの。奴の居場所は我の知るところではない」

「そっか、残念」

とは言うものの、拓也にしてもダメ元で持ちかけた話なので予想以上の大収穫である。

ただ、才人達は何のことか分からず、首をかしげるだけであった。


今此処に、タバサの運命の新たなる道が拓かれた。





次回予告


『覇竜』の居場所を求め、学院の書物を調べる拓也達。

偶然にもオスマンから『覇竜』の居場所を聞き出す。

向かった先で現れる『覇竜』。

拓也は、『覇竜の涙』を手に入れるため、『覇竜』に戦いを挑む!

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第十九話 対決!覇竜VS拓也!!

今、異世界の物語が進化する。





才人のデジモン成長日記


名前:グラウモン
属性:ウィルス種
世代:成熟期
種族:魔竜型
必殺技:エキゾーストフレイム
通常技:プラズマブレイド


あとがき

十八話完成しました。

振り返りますと、才人達と合流させて、水の精霊と交渉の場を設けました。

一応考えた末にこういう流れにしたんですけど・・・・・強引かな?

で、タバサたちとの戦闘をなくした代わりに出てきたのが、シーフードミックス(笑)。

とりあえず色々と理由つけて拓也をパワーダウンさせ、ギルモンの進化を。

でも、戦闘シーンがうまく表現できなかった~。

もっと精進です。

で、オリジナル展開を入れてみました。

次回は、完全オリジナル展開になると思います。

因みに、次回はモンハンP2ndからとあるモンスターがゲスト参戦します。

モンハンをやった事ある人なら『覇竜』という言葉でピンと来るでしょう。

強さは結構いじるとは思いますが・・・・・・

すいません。

オリジナルモンスターが全く思い浮かばなかったもので・・・・

さて、これが皆様に受け入れてもらえるかどうか・・・・・・・・それが心配です。

それでは、心配しつつも、次も頑張ります。



[4371] 第十九話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/01/11 06:34
水の精霊から、タバサの母を治すヒントを得た拓也達。

『覇竜』の情報を得るために、一度学院に帰還する。


第十九話 対決!覇竜VS拓也!!


才人達と別れ、タバサの実家でペルスランに任務の完了を報告した後、そのままシルフィードで学院に帰還する拓也達。

覇竜の居所を探すため、図書室で書物を漁る。

拓也もルーンの力で文字が読める事が分かったので、一緒に探している。

一晩中探したのだが、

「はあ~~~・・・・」

キュルケがため息をつく。

「調べれば覇竜のことは意外と載ってたけど、肝心の居場所がね~~~」

そうなのだ。

歴史の書物や古文書には覇竜が存在した事が意外と書かれている。

だが、肝心の居場所が書かれたものが無かった。

因みに、この部屋にいるのは4人。

拓也、アイナ、タバサ、キュルケである。

内、拓也を除く3人は目の下にクマが出来ていた。

徹夜で書物を漁り続けたからだ。

拓也は、書物を読んでいる間に寝てしまったので、大丈夫だった。

そんな3人を見て、拓也は声をかけた。

「皆は一回寝たらどうだ?」

だが、

「大丈夫」

タバサがそう答える。

タバサは、一刻も早く母を直したいが為に無理をしている。

「はあ~、そんな顔で大丈夫といわれても説得力が無いぞ。いいから一回寝て来い。俺が出来るだけ調べておくから。第一もし居場所が分かっても、そんな状態じゃすぐに動けないだろ?」

拓也のいう事も尤もなので、3人は自分の部屋に戻っていく。

「さてと・・・・・出来るだけ頑張りますか」



4時間後。

拓也は机の上に突っ伏していた。

手ががりも無し。

元々頭を使うより体を動かす事が好きな拓也に、これは地獄だった。

1人で4時間も集中できた事を褒めてあげたい。

だが、それも限界だった。

「あ~!畜生!」

拓也は思わずグチを零す。

と、その時、

「おやおや、珍しい人物がおるのぉ~」

その声に顔を上げると、そこには、魔法学院の学院長であるオスマンがいた。

「あ、学院長さん」

「君は確か、ミス・シンフォニアの使い魔の少年じゃったの」

拓也は頷く。

「図書室で何をやっとるんじゃ?」

「ええ、ちょっと調べ物を」

「それは何かと聞いていいかの?」

「『覇竜』の居場所です」

「『覇竜』とな?」

「ええ。どうしても居場所を知りたいんです」

拓也の言葉を聞き、オスマンは髭を撫でながら考える仕草をする。

「『覇竜』の居場所のう・・・・・・確か、火竜山脈の一番高い山の火口に住んでいるという噂を耳にした事があるが・・・・・・」

「本当ですか!?」

拓也は思わず聞き返す。

「あくまで噂じゃからのう。本当かどうかは定かではないぞ」

「ありがとうございます!!」

拓也はオスマンに頭を下げた。

図書室から駆け出ていく拓也を見つめながら、

「ほっほっほ。若いというのは良いものじゃのう」

オスマンは全てお見通しといった笑みを浮かべながら、そう呟く。

そして、

「ただ、片付けだけはしていって欲しかったのう」

机の上に散乱した書物を見て、そう呟いた。



オスマンから聞いた話をタバサに話すと、すぐにタバサは出かける準備をする。

アイナとキュルケも一緒である。

因みにその途中、ルイズの部屋から才人の絶叫が響いたが聞かなかった事にした。

その日のうちに、シルフィードで火竜山脈に一番近い村に飛んだ。

まず、そこで一泊し、翌日火竜山脈に向かう事に決めた。

因みにその火竜山脈だが、その名の通り野生の竜が多数生息している。

普通の人間なら近付こうともしないだろう。

それほどまでに危険な場所なのだ。



翌日。

一行は、シルフィードで出来るだけ高い高度を飛んでいる。

野生の竜に見つかったら、『覇竜』どころではないからだ。

眼下には険しい山々が連なっており、その殆どが火山だ。

この一帯は、昼間にもかかわらず、空が分厚い雲と噴煙に覆われており薄暗い。

それが余計に危険な雰囲気を醸し出していた。

野生の火竜の群れが所々に飛んでいるのが見て取れた。

それを見ながら、アイナは呟いた。

「凄い数の竜だね。私、こんな大群を見たのは初めて」

「私だってそうよ。いくらフレイムの出身地だからって、実際に来るとは思って無かったわ」

キュルケもそう言う。

一行が向かう目の前には一際高い火山が見える。

他の山と比べると3倍近い高さがある。

「オールド・オスマンの情報が正しければ、『覇竜』はあの山の火口にいるということね」

シルフィードは高度を下げ、火口に近付いていく。

だが、

「きゅい!?」

シルフィードは突如停止する。

「どうしたの?」

タバサが尋ねる。

「きゅい!この火口に凄い数の火の精霊が集まっているのね!これ以上近付くと危険なのね!」

シルフィードがそう言う。

その時、タバサが立ち上がった。

「私だけで行く」

しかし、シルフィードが必死になってタバサを止める。

「待つのねお姉さま!この先は温度が凄い事になってるのね!人間じゃ数分と持たないのね!」

シルフィードが説得するが、タバサは行くと言って聞かない。

その時だった。

「だったら俺が行く」

拓也が言った。

全員が驚いた表情で拓也を見た。

「忘れたのか?俺は『炎』の闘士だ。同属性ならダメージを受ける心配もない。むしろ、あそこは『炎』のフィールドだからな。あそこなら炎の闘士の力を200%発揮できる。簡単にやられたりはしないさ」

タバサは一度俯き、

「お願い」

拓也にそう言った。

「ああ、約束だ。必ず『覇竜の涙』を手に入れてくる」

拓也は自信を持って返事をする。

デジヴァイスを取り出す。

「ダブルスピリット!エボリューション!!ぐっ・・・あああああああああっ!!」

拓也はアルダモンに進化する。

「アルダモン!!」

そのアルダモンに、声がかけられる。

「タクヤ、気をつけてね」

「無理しちゃだめよ」

「タクヤさま、頑張ってなのね」

アイナとキュルケ、シルフィードがそう言った。

アルダモンは頷き、飛んでいく。

少し火口に近付くと、すぐに温度の変化があった。

凄まじい熱がアルダモンに感じられる。

「なんて熱量だ。確かにこれだと、人間じゃあ数分と持たないな」

シルフィードの言っていた事に納得するアルダモン。

だが、この程度の熱ではアルダモンはダメージは受けない。

寧ろ先程言ったとおり、力が倍増する。

火山の火口の内径は2リーグといったところ。

火口内部にはまるで島のように500メイルぐらいの円形で平らな岩盤があった。

アルダモンはそこに着地する。

アルダモンは周りを見回すが、時折岩の割れ目からガスが噴出する以外に変わったところは無いように思えた。

だが、

「ん?」

アルダモンは僅かな地鳴りに気付く。

その地鳴りはどんどん大きくなり、

「グォオオオオオオオオオッ!!!」

マグマの中から巨大なる竜が這い出してきた。

その全長は50メイルを超える。

その表皮は棘状の硬質化した甲殻に覆われ、その口には豪壮な牙。

翼は無いようだが、それを差し引いても、『覇竜』の名に恥じぬ存在感と威圧感がある。

その竜はアルダモンを見ると、

「この地に何の用だ。人でも獣でもなき者よ」

アルダモンに話しかけた。

アルダモンは少し驚き、

「韻竜!?」

そう言った。

「確かに、人は我と同じ種族をそう呼ぶ」

その竜は、アルダモンの言葉に答える。

「そうか、なら話は早い。『覇竜』というのはお前の事か?」

その問いに、

「いかにも。我は覇竜 アカムトルム也」

背定する。

「それなら頼みがある。『覇竜の涙』を貰いたいんだ」

「我が涙を?」

「ああ。俺の仲間の母親がエルフの毒で心を狂わされているんだ。それを治してやりたい」

その言葉を聞くと、アカムトルムは少し考える。

「・・・・・・確かに、我が涙ならエルフの作りし毒をも浄化できるであろう」

その言葉に、アルダモンは安心した表情をするが、

「だが!人間如きの為に我が、『覇竜』の名を冠する我が涙を流すわけにはいかぬ!!」

アカムトルムはそう叫ぶ。

「我ら竜族は勇猛なる一族!涙を流すという事は、それ即ち、我らが誇りを汚すという事!その竜族の覇王である我がそう簡単に涙を流すものか!!」

その言葉にアルダモンは静かに問う。

「それでも、求めるときは?」

アルダモンは真っ直ぐにアカムトルムの目を見つめる。

「ならば!我を心身ともに屈服させてみよ!!」

アカムトルムは四肢に力を籠める。

4つの足をついている場所に罅が入り、砕け、そして陥没。

アルダモンも構えた。

その時、アカムトルムが凄まじき咆哮を上げる。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!」

それはもはや咆哮どころの話ではない。

爆音となり、あたり一帯を揺るがす。

その咆哮に呼応するように火山活動が活発化。

岩盤の所々からマグマが噴き出す。

それは聞くもの全てを恐怖に陥れ、金縛りのように体が動かなくなる。

それは、アルダモンとて例外ではない。

「ぐうっ!?」

巨大なる敵に対しての恐怖が体の自由を奪っていく。

しかし、

「うおおおおおおおおおおっ!!!」

アルダモンは出来る限りの咆哮を上げ、その恐怖を振り払う。

そして、真正面からアカムトルムを睨み付けた。

それを見たアカムトルムは笑い声を上げる。

「フハハハハハハッ!我が気迫を受け、恐怖し、それでもなお立ち向かうか!」

アカムトルムもアルダモンを見据える。

「ククク・・・・少なくとも、我と相対するだけの資格はあるようだな」

そう言うと、再び足に力を籠める。

「行くぞ!!」

アカムトルムの巨体が動いた。




上空のシルフィードでは。

「大丈夫かしらタクヤ」

キュルケが呟く。

「さっきの鳴き声も凄まじいものだったわ。こんなに離れている私たちでさえ恐怖で体が動かなくなるぐらいだったから」

アイナは黙って火口の方を見つめ続けている。

その顔は心配そうだ。

「きゅいきゅい!タクヤさまなら絶対に大丈夫なのね!」

シルフィードもそう言っているが、どうやら不安は拭えないらしい。

タバサも火口を見つめ続けているだけであった。




火口内では凄まじき戦いが繰り広げられていた。

「はあああああっ!!」

アルダモンは急降下で勢いを付けつつアカムトルムの背に拳を放つ。

だが、強靭な甲殻に阻まれ大したダメージは与えられない。

アカムトルムの長い尻尾が振り回され、アルダモンに襲い掛かる。

「ぐぅ!」

腕でガードするものの、弾き飛ばされる。

明らかにアカムトルムの力は究極体と同等以上の力を持っていた。

「どうした?その程度か、炎を操りしものよ」

アカムトルムにはまだまだ余裕が見える。

「まだまだぁ!!」

アルダモンは向かい合わせにした手の中央に火球を作り出した。

「ブラフマシル!!」

その火球を巨大化させ、アカムトルムに放った。

「むっ!!」

アカムトルムもそれに対して身を固める。

――ドゴォオオオオオオン

アカムトルムが爆炎に包まれる。

「はあ・・・・・はあ・・・・・・はあ・・・・・・どうだ!」

アルダモンは荒い息を吐きつつそう言った。

だが、爆炎の中で動くものが見える。

「ちぃ!」

爆炎の中からはアカムトルムが姿を見せる。

だが、流石に無事とは言いがたく、所々に焼け焦げた後が見える。

「まだ、これほどの力を残していようとはな。だが、灼熱のマグマにも耐えうる我の甲殻を甘く見るな!」

アカムトルムは一度、大きく息を吸い込む仕草をすると、

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!」

先程の咆哮と共に、口から竜巻状の凄まじい突風が吐き出される。

「なっ!?」

アルダモンはそれを間一髪で避ける。

それはアカムトルムの前方にあったもの全てを吹き飛ばす。

岩盤は全て削り取られ、1リーグ以上先にある火口の壁にも穴を開けた。

凄まじい威力である。

「ほう・・・・我が最大の攻撃『ソニックブラスト』を避けたか」

アルダモンはその威力を見て、絶句した。

「な、なんて威力だよ・・・・」

流石にデュナスモンのブレスオブワイバーンには至らないが、アルダモンまでしか進化できない現在では、相当な脅威だ。

「これで分かっただろう。諦めて去るがいい」

「そうはいかない!俺は約束したんだ。必ず『覇竜の涙』を手に入れてくると!」

アルダモンは、アカムトルムの言葉を即行で拒否した。

「ならば、今度は外さんぞ」

アカムトルムは、再び『ソニックブラスト』を放つ態勢になる。

アルダモンはその場を動かず、構えた。

「何のつもりだ?」

アカムトルムは問う。

アルダモンは目を見開き、

「受けて立つ!!」

そう言った。

「愚かな・・・・・・・ならば、消えるがいい!!」

アカムトルムは再び息を大きく吸い込む。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!」

爆音の咆哮と共に放たれる全てを吹き飛ばす竜巻状の突風。

「うおおおおおおおおおおおっ!!!」

それにアルダモンは真正面から突っ込んだ。

ソニックブラストに飲み込まれるアルダモン。

ソニックブラストは再び全てを薙ぎ払った。

それが通過した後には何も残っていない。

ただ、マグマが流れ込んでいるだけだ。

アルダモンの姿も無い。

「消えたか・・・・・・・・だが、『覇竜』の名を冠する我をここまで消耗させるとは・・・・・・名を聞いておくべきだったな」

アカムトルムはもう一度アルダモンがいた場所に目をやる。

そこは既にマグマが流れ込み、真っ赤な水面となっていた。

だが、次の瞬間、

「うおおおおおおおおおおおっ!!!」

マグマの中から炎を纏ったアルダモンが飛び出してきた。

「バカなっ!?」

アカムトルムは驚愕している。

その隙にアルダモンはアカムトルムの顔に接近していた。

アルダモンは右の拳を握り締める。

「この一撃に、俺の全てを籠める!!!」

アルダモンは右腕を振りかぶった。

「はああああああああああっ!!!」

アルダモンの拳はアカムトルムの下顎から生えている大牙に直撃した。

「ぐおおおっ!?」

アカムトルムの巨体の前方が持ち上がり、仰け反る。

そして、そのまま仰向けになるように後ろに倒れた。

アルダモンはあろうことか、50メイルを超えるアカムトルムの巨体を殴って転倒させたのだ。

アカムトルムが転倒してから数瞬遅れて、何かが回転しながら落ちてきてアルダモンの目の前に突き刺さる。

それは、アルダモンの身長を超える大きさを持ったアカムトルムの大牙だった。

アルダモンは岩盤に着地する。

「はあっ・・・・・はあっ・・・・・・・」

アルダモンは激しく息を吐く。

『ソニックブラスト』を受けたアルダモンはもう限界ギリギリだった。

気を抜けば今にもぶっ倒れてしまいそうだった。

だが、気力を振り絞り、アルダモンは立ち続ける。

アカムトルムが身を起こした。

そして、静かに語りかけた。

「聞かせよ。最後の一撃、何故頭部を狙わなかった?あの一撃、頭部に当たればいくら我といえど耐え切れはしなかった」

アルダモンは意識が朦朧とする中、言った。

「俺の目的は・・・・・お前を・・・殺す事じゃない・・・・・」

アルダモンはそれだけ言うと、力尽き倒れる。

そして、デジコードが包み拓也に戻ってしまう。

アカムトルムはそれを見て驚いた。

「人の・・・・・子供だと・・・!?」

拓也の体は火山の熱気で焼かれている。

このままでは時を置かずに死んでしまうだろう。

「・・・・・・・・・・・・・」

アカムトルムは少し考えた後、

「・・・・・・大地の精霊よ」

そう呟く。

すると、戦場となっていた岩盤が突如隆起した。

岩盤はどんどん隆起していき、遂には火口から飛び出し、火の精霊が集まる範囲も超えたところで止まる。

それを目撃したシルフィードが飛んできた。

「タクヤ!!」

アイナがすぐさまシルフィードから飛び降り、拓也に駆け寄る。

アイナは拓也の体を見て驚く。

「酷い火傷・・・・・タクヤ!しっかりして!!」

アイナは必死で拓也に呼びかける。

「タバサ!早く治癒魔法を!」

タバサは頷くと治癒魔法をかけるが、

「火傷が酷すぎる。このままじゃ・・・・」

そう呟いた。

タバサのレベルでは治癒が追いつかないのだ。

「そんな!?何とかならないの!?」

タバサは無言で治癒魔法をかけ続ける。

「きゅい~!タクヤさま、しっかりしてなのね!」

いつの間にか人型になったイルククゥが駆け寄ってそう言う。

その時、アカムトルムが近付いてくる。

アイナとキュルケが杖を構えた。

「タバサはそのまま治癒魔法をかけ続けて」

アイナはそう言ってアカムトルムを見る。

だが、相手は巨大であり、あらゆる伝説、神話にもその名があった『覇竜』だ。

今にも恐怖で腰が抜けてしまいそうだった。

しかし、

「杖を納めよ。人の子よ。お前たちと戦うつもりはもう無い」

アカムトルムがそう言った。

「い、韻竜!?」

初めて韻竜と知ったアイナたちは驚く。

そして、拓也を見つめると、

「この者に流れる水よ・・・・・」

そう呟くと、瞬く間に拓也の傷、火傷が治っていく。

「先住魔法・・・・」

タバサが呟く。

「うっ!・・・・」

拓也が気がつく。

「「タクヤ(さま)!!」」

アイナとイルククゥが駆け寄った。

「・・・・俺は・・・・」

拓也が見上げると、アカムトルムの姿が目に入った。

「・・・・・そうか。俺は負けちまったんだな」

拓也は暗い顔で呟く。

「すまないタバサ。俺は・・・・」

「違う・・・・・汝の勝ちだ」

拓也の言葉を遮り、アカムトルムが言った。

拓也が驚いた顔でアカムトルムを見た。

「何だって・・・・?」

「汝の勝ちと言ったのだ・・・・・・心身共にな」

アカムトルムがそう言うと、アカムトルムの眼から一粒の輝く涙が零れ落ちる。

それは空中で留まり、拓也達の方へ飛んできた。

「受け取れ・・・・・我が涙を」

タバサは用意していた壜でその涙を受ける。

一粒と言っても小壜が丸々一杯になるほどの量だ。

「ありがとう。アカムトルム」

拓也がアカムトルムに礼を言う。

「そしてもう一つ・・・・・」

「え?」

アカムトルムの言葉に、声を漏らす拓也。

「集え、精霊たちよ・・・・・」

アカムトルムがそう言うと、どこからともなく幾つもの光が集まってくる。

すると、アルダモンが折ったアカムトルムの牙が浮かび上がり、その牙に光が集まる。

牙が光に包まれ、一層強い光を放つ。

その強い光に全員は目を庇う。

そして、光が収まり、目を開くと、そこには一振りの刀があった。

「これは・・・・・?」

拓也が呟く。

「珍しい形の剣ね」

キュルケがそう言う。

ハルケギニアでは、真っ直ぐな剣が主流のため、刀のような湾曲した剣は珍しいのだろう。

「500年ほど前の話だ」

アカムトルムが話し出す。

「まだ我がここに住む前、1人の人間の男が我に挑んできた」

拓也達は黙って聞く。

「その者も我の涙を求めていた。我は、軽くあしらおうと思っていた。だが、そやつは何度我に吹き飛ばされようと何度でも立ち上がってきた。そして、遂には我の体に傷を負わせた。我はそやつに問うた。何故そこまでして我の涙を欲するのかと。するとそやつはこう答えた。『一食の食事と一晩の宿を与えてくれた恩人が病で苦しんでいる。それを治してやりたい』とな。我は信じられなかった。そのような理由で命を賭けるそやつの思考が理解できなかった。更にそやつはこう答えた。『サムライたるもの、恩義に報いなければならぬ』とな」

「侍!?」

拓也はその言葉に驚く。

「そやつは汝と同じ黒い髪に黒い瞳の持ち主だった。その武器はそやつが使っていた剣を模して作ったものだ」

その刀はゆっくりと降りてきて拓也の前に刺さる。

「受け取れ・・・・・勇者よ」

アカムトルムは拓也にそう言った。

拓也はその刀の柄を握り、引き抜いた。

「・・・・・軽い」

その刀は、拓也の肩ぐらいまでの長さがあるにも関わらず、羽のように軽かった。

「その剣には、精霊の力が集っている。その精霊たちが汝を守るであろう」

「この刀の名は?」

「無い。汝の好きに呼ぶがいい」

「なら、決まってる。この刀の名は・・・・・・」

拓也はその刀を掲げるように持つ。

「覇竜刀だ!」

そういった瞬間、空の雲に切れ目が出来、光が差し込む。

その光は、丁度拓也を照らした。

その陽光を反射し、覇竜刀が輝いたように見える。

「ほう・・・・太陽も汝を祝福しているようだ」

アカムトルムはそう言う。

「最後に尋ねる。汝の名は?」

「拓也。神原 拓也」

拓也はアカムトルムを真っ直ぐ見据えてそう名乗った。

「そうか・・・・・・真なる勇者、カンバラ タクヤよ。汝の名、我が心にしかと刻み付けた。我が命尽きるまで、決して忘れぬ事を誓おう!」

アカムトルムはそう宣言した。

拓也は再び覇竜刀を掲げる。

「俺も誓う。アカムトルム、お前との戦い、決して忘れない!!」

お互いがお互いを認め合う。

日の光がいつの間にかアカムトルムも包んでいた。

まるで、この瞬間を本当に祝福するかのように。

アイナとイルククゥはそんな拓也に見惚れていた。

「・・・・・真の・・・・勇者」

タバサが拓也を見つめてそう呟く。

その心に吹き荒れる雪風が徐々に融けていくのを感じながら。





次回予告


『覇竜の涙』を手に入れ、タバサの実家へ向かう一行。

だが、その途中、謎の一行と行動を共にするウェールズを見かける。

ウェールズと行動する一行の正体は?

そして、拓也達はアンドバリの指輪の力を目の当たりにする。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第二十話 ウェールズの決意

今、異世界の物語が進化する。




オリジナル武器



覇竜刀

覇竜 アカムトルムの大牙を元に精霊が集まって作られた刀。

刀身はやや肌色気味な白。

クロンデジゾイド並みの硬度を誇る。

切れ味も抜群で、拓也が振っても斬鉄可能なほど。

刀身には強力な『反射(カウンター)』の先住魔法がかかっており、刀身で受けた攻撃を跳ね返す事が可能。

そして、使い手に合った大きさに変わるというご都合主義な武器。




あとがき

第十九話完成。

初のオリジナル展開如何だったでしょうか?

結構うまく書けたとは思うんですが・・・・・・・

でも、ちょっと覇竜の居場所が分かるのが早すぎたかなぁ。

でもこうしないと、次のイベントに間に合わないし・・・・・・

ちょっと反省。

バトルシーンも難しかった。

っていうか、アカムトルム強すぎたか?

究極体と同等以上。

ハルケギニアにもこんな存在がいてもいいんじゃないかな~と、思いまして。

それで手に入れましたオリジナル武器の覇竜刀。

才人達ばっかり強くなって、拓也は変わらないというのが少し寂しいのでこういう形で戦力アップ。

あと、拓也の状態でも少しは戦わせたいと思っているのでそのための武器でもあります。

当然デジモンの時にも使えますが。

ご都合主義満載の武器ですが、よろしくお願いします。

そして、最後にタバサフラグ再び。

これは賛否両論ありそうです。

それでも受け入れていただけるようよろしくお願いします。

では、次も頑張ります。



[4371] 第二十話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/01/15 20:24
無事に『覇竜の涙』を手に入れた拓也達。

急ぎタバサの実家へと向かうが・・・・・


第二十話 ウェールズの決意


拓也達を乗せたシルフィードはタバサの実家へと向かっている。

そのシルフィードの上では、

「さあ、『覇竜の涙』の涙も手に入れたことだし、これでタバサのお母さんが元に戻るわね」

キュルケが明るい声でそう言う。

「ああ。アカムトルムもエルフの毒でも浄化できるって言ってたし、まず大丈夫だと思うぞ」

覇竜刀を肩に担いだ拓也もそう言う。

因みに覇竜刀は鞘が無いために拓也がずっと担いでいる。

アイナは、覇竜刀をじっと見ていた。

「どうした?アイナ」

その視線に気付いた拓也が尋ねる。

「うん。珍しい形の剣だと思って・・・・・・」

アイナがそう言い、

「そうね。それに覇竜はサムライとかいう人が使っていた剣を模したものって、言ってたわよね。サムライって何かしら?」

キュルケがそう疑問に思う。

「やっぱりこっちじゃ、刀みたいな剣は珍しいのか?」

拓也がそう言った。

「カタナ?」

タバサが首を傾げる。

「タクヤ、その剣知ってるの?」

アイナが尋ねる。

「ああ。こういう剣は刀って言って、俺の故郷で大昔に使われてた剣だよ」

拓也はそう説明する。

「そうなの?じゃあ、サムライって言うのは?」

キュルケが問う。

「侍は、同じく俺の故郷で大昔にいた、ハルケギニアでいう騎士みたいな存在かな」

「そうなんだ」

拓也の言葉にアイナが相槌をうつ。

「相棒、俺がいることも忘れないで欲しいっスよ」

地下水が自己主張する。

「忘れるわけないだろ。第一、お前は魔法がメインなんだ。覇竜刀とは使い方が違うよ」

その言葉を聞き、ホッとする地下水。

因みに今はトリステインの国内上空を飛んでいる。

タバサの実家はトリステインとガリアの国境沿いにあるのでもう少しだ。

拓也がふと下を覗くと、10頭位の馬に乗った一行が街道を走っていた。

その位なら拓也は気にはしなかったのだが、その一行の中の一人が見知った顔であることに気がついた。

「あれ、ウェールズ王子じゃないか?」

拓也が呟く。

それが気になったのか、アイナ達も下を覗く。

鮮やかな金髪と整った顔立ち。

「うん。間違いない。ウェールズ皇太子だよ」

「その皇太子様が、何でこんな所にいるのかしら?」

アイナとキュルケがそう言う。

「確かウェールズ王子って、身を潜めてるはずだよな。アルビオンにばれると厄介だから」

「うん、その筈だけど・・・・」

拓也の言葉にアイナが頷く。

「タバサ、すまない。何かやな予感がする」

タバサはそれだけ聞くとコクリと頷く。

「シルフィード」

そうシルフィードの名前を呟くと、

「きゅい。わかったのね」

シルフィードは旋回し、一行の進行方向に先回りする。

そして、一行の目の前に着地する。

その馬に乗った一行は馬を止める。

拓也達はシルフィードから降り、

「ウェールズ王子じゃないですか。こんな所で何やってるんですか?」

明るい声で話しかけた。

「き、君達は!」

ウェールズ王子が何か言いかけたとき、その隣の馬に乗っていたフードの人物が杖を抜き、拓也達に向かって『ウインド・ブレイク』を放ってきた。

それに気付いた拓也は、咄嗟に前に出て覇竜刀を構える。

普通なら剣で防御しても意味がなく、後ろのアイナ達諸共吹き飛ばされるはずだった。

だが、『ウインド・ブレイク』の風が覇竜刀に触れたとき、覇竜刀が一瞬輝き、風を跳ね返した。

フードの集団の何人かを吹き飛ばす。

「は?」

何が起こったか理解できない拓也。

「今のは『反射(カウンター)』の先住魔法っスね」

地下水が説明する。

「『反射(カウンター)』?」

拓也が思わず聞き返した。

「そおっス。剣も魔法も跳ね返す厄介な先住魔法っス。その剣にはその『反射(カウンター)』がかかってるみたいっス。それも、とんでもなく強力なのが」

「とりあえず、この剣は攻撃を跳ね返せるってことでいいのか?」

「そうっス」

拓也はとりあえず納得した。

その時、ウェールズが叫んだ。

「父上!いきなり何を!?彼らは私の恩人です!」

ウェールズは隣の馬に乗った人物にそう言った。

「父上?」

拓也が首を傾げる。

ウェールズの隣の馬に乗った人物のフードが、跳ね返った『ウインド・ブレイク』によって外れていた。

その顔は、

「あーっ!!あの人、この前タバサの実家に行くときにすれ違った人だわ!」

キュルケが叫んだ。

だが、アイナは震えた声で言った。

「そ、そんな・・・・・・・」

「どうした?アイナ」

拓也がアイナを心配する。

「あ、あの人は・・・・・・・ジェームズ一世・・・・・」

アイナがそう呟く。

「誰なんだ?」

記憶にない拓也は聞き返す。

「アルビオン王国の王様・・・・・・・そして、ウェールズ皇太子の父親・・・・・・・」

アイナは震えた声で続けた。

そこで、キュルケも思い出したらしい。

「そうよ!アルビオンの王様だったわ!道理で見たことがあった筈よ!」

そう叫んだ。

「・・・・・・それがどうかしたのか?」

拓也は更に聞き返す。

「ジェームズ一世は、レコン・キスタの反乱の時に討ち死にしたはず」

タバサが、そう淡々と答えた。

「なっ!?」

拓也はそれには驚愕した。

それと同時に、水の精霊との会話が脳裏に蘇る。

「なあ、もしかして・・・・・」

拓也は皆に確認を取るように呟く。

「うん。私もそう思う」

「私も同じ意見ね」

「同感」

他の3人も同じ考えらしい。

「アンドバリの指輪・・・・・か?」

拓也がそう呟くと、3人は頷く。

「恐らく間違いない」

タバサがそう言う。

その時、ジェームズが口を開く。

「ウェールズよ。我らが道を阻むものは全て敵だ」

「そんな!?父上、如何なさったのですか!?」

ウェールズは、ジェームズを信じられない目で見ていた。

「ウェールズ皇太子!陛下から離れてください!陛下は死後の身体に偽りの魂を与えられた、ただの操り人形です!」

アイナが叫ぶ。

「ち、父上・・・・・本当なのですか?」

「ウェールズ、何を言っている?私が死人に見えるか?」

ジェームスがそう言い、ウェールズの迷いは大きくなる。

「わ、私は・・・・・・」

その時、タバサが呪文を詠唱した。

「『ウインディ・アイシクル』!」

何本もの氷の矢がジェームズの体を貫く。

だが、ジェームズは倒れない。

驚く事に、傷が見る見るうちに塞がる。

「ち、父上・・・・・・」

ウェールズは悲痛な声を漏らす。

「ウェールズ皇太子!今のが証拠です!その陛下は、あなたの知っている陛下ではないのです」

アイナが叫ぶ。

その時、街道の向こうからグラウモンが走ってくる。

グラウモンの背にはルイズと才人の姿が見える。

「追いついた!」

才人が言う。

すると街道の先にいる拓也たちに気付く。

「拓也!?お前らなんでここに!?」

「ただの偶然です。それよりも才人さん達の目的はウェールズ王子ですよね」

「あ、ああ、そうだ」

「ちょっと、今、色々厄介なことになってますんで」

その時、ルイズがジェームズに気付く。

「ジェ、ジェームズ陛下!?」

「誰だよ?」

才人がルイズに尋ねる。

「アルビオン王国の王様よ。ウェールズ皇太子の父親でもあるわ。けど、陛下はアルビオンの任務の時に死んだはずよ」

ルイズが怪訝な顔で言った。

「アンドバリの指輪」

タバサがそう言うと、才人とルイズは水の精霊の話を思い出し、どういう状況かを悟る。

「そ、それじゃあ・・・・・・」

才人が呟き、

「ええ、ウェールズ皇太子以外は皆死人よ」

キュルケが言葉を続けた。

「ウェールズ皇太子!何をしているのですか!?早く陛下から離れて!」

ルイズがそう言うが、ウェールズは苦悩している。

「僕は・・・・・・僕は・・・・・・・・」

「如何したのですか!?ウェールズ皇太子!!」

動かないウェールズにルイズは声をかけるが、突然ウェールズは杖を構える。

「ラ・ヴァリエール嬢!僕を行かせてくれ!」

突如そんな事を言う。

「な、何を言っているのですか!?ウェールズ皇太子!その陛下は!」

「わかっている!そんな事はわかっている!だが、僕はもう耐え切れそうにないんだ!僕だけが逃げ延びてしまったあの日から見る夢に!家臣たちの悲鳴が!父上の僕を責める言葉が!僕をずっと苦しめるんだ!」

ウェールズの言葉にルイズは何も言えなくなってしまう。

「・・・・・・あの王子様、ずっと自分を責め続けてたんだな。1人でそれに悩み続けて、限界が訪れるところに父親の姿をしたものが現れる。縋り付きたくなるのも当然か・・・・・」

拓也は呟く。

「どうすればいいの?」

アイナが問う。

「王子様の気が済むまで相手してやるさ」

拓也がそう呟いたとき、才人がデルフリンガーで、ジェームズに斬りかかる。

だが、風が才人を吹き飛ばした。

「父上には、指一本触れさせん!」

杖を握ったウェールズがそう言った。

更に風の刃が才人に襲い掛かる。

しかし、次の瞬間ウェールズの前の空間が爆発する。

ウェールズは吹き飛んだ。

「ウェールズ皇太子といえども、私の使い魔には指一本触れさせませんわ」

髪の毛を逆立て、ぴりぴりと震える声でルイズが呟いた。

その爆発で、全員が動いた。




魔法が飛び交う。

戦況は、拓也達が優勢であった。

最初こそ傷が治る敵に戸惑ったものの、炎が効くと分かるやアイナ、グラウモン、キュルケを中心に攻撃を組み立てる。

因みに拓也は、アカムトルムとの戦いで体力を消耗しているので、時折アイナに飛んでくる魔法を覇竜刀や地下水の魔法で防いでいるだけだ。

ジェームズを含め、残り5人となったとき、敵は魔法の射程から一気に離れた。

態勢を立て直すつもりらしい。

「このまま行けば・・・・・勝てるわね」

キュルケが呟いた。

だが、ぽつぽつと雨が降り出した。

空を見上げると、巨大な雨雲が、いつの間にか発生していた。

振り出した雨は一気に本降りへと変わる。

それも、滝のような雨だ。

ウェールズが叫んだ。

「杖を捨てるんだ!君たちを殺したくは無い!」

「ウェールズ皇太子こそ目を覚まして!お願いです!」

ルイズの叫びが、激しく降り出した雨粒でかき消される。

「見たまえ!これほどの雨の中では『炎』は役に立たない!」

「そうなんか?」

才人が不安げに叫んだ。

キュルケがやれやれと言わんばかりに頷いた。

「そうね。これだけの豪雨じゃ私の炎は役立たず。アイナの炎は出せない事は無いだろうけど、精々『ドット』、出せても『ライン』クラスの威力まで落ちるでしょうね。それじゃああの人たちの風は破れないわ」

「じゃあ、拓也やグラウモンなら!」

キュルケは首を振る。

「拓也は平然としてるように見えるけど、実際体力の限界で戦えないだろうし、グラウモンの炎もこの雨じゃあ威力の低下は免れないわ・・・・・えっと、打ち止め。負け!」

キュルケはそう言った。

その時、デルフリンガーが惚けた声をあげた。

「あー」

「どうした?」

「思い出した。あいつら、随分懐かしい魔法で動いてやがんなあ・・・・・・」

「はい?」

「水の精霊を見たとき、こうなんか背中の辺りがむずむずしたが・・・・・・いや相棒、忘れっぽくてごめん。でも安心しな。俺が思い出した」

「何をだよ!」


「あいつらと俺は、根っこは同じ魔法で動いてんのさ。とにかくお前らの四大系統とは根本から違う、先住の魔法さ。ブリミルもあれにゃあ苦労したもんだ」

「何よ!伝説の剣!言いたい事があるならさっさと言いなさいよ!役立たずね!」

「役立たずはお前さんだ、せっかくの『虚無』の担い手なのに、見てりゃあ馬鹿の一つ覚えみてえに『エクスプロージョン』の連発じゃねえか。確かにそいつは強力だが、知ってのとおり精神力を激しく消耗する。今のお前さんじゃ、この前みたいにでっかいのは一年に一度撃てるか撃てねえかだ。今のまんまじゃ花火とかわんね」

「じゃあどーすんのよ!」

「祈祷書のページをめくりな。ブリミルはいやはや、大した奴だぜ。きちんと対策は練ってるはずさ」

ルイズは言われたとおりにページをめくった。

しかし、エクスプロージョンの次は相変わらず真っ白だった。

「何にも書いてないわよ!真っ白よ!」

「もっとめくりな。必要があれば読める」

ルイズは文字が書かれたページを見つめた。

そこに書かれた古代語のルーンを読み上げる。

「・・・・・・ディスペル・マジック?」

「そいつだ。『解除』さ。昨日お前さんが飲んだ薬と、理屈は一緒だ」



ウェールズは、この雨で拓也達が逃げてくれる事を期待した。

だが、拓也達は逃げない。

ウェールズは一度俯くが、顔を上げると呪文を詠唱する。

その詠唱にジェームズの詠唱が加わった。

凄まじい竜巻が2人の周りで巻き起こる。

『風』『風』『風』『風』『風』『風』。

風の6乗。

王家のみ許された、へクサゴン・スペル。

詠唱は干渉し合い、巨大に膨れ上がる。

2つのトライアングルが絡み合い、巨大な六芒星を竜巻に描かせる。

天災のような竜巻だ。

この一撃を受ければ、城でさえ吹き飛ぶだろう。


謳うようなルイズの詠唱が雨音に混じる。

才人の背中に、ルイズの詠唱は心地よくしみこんでいく。

今のルイズには、もう何も届いていない。

己の中でうねる精神力を練りこむ。

古代のルーンを次から次へと口から吐き出させ続けている。

「この子、如何したの?」

キュルケが笑みを浮かべて尋ねる。

「ああ、ちょっと伝説の真似事をしてるだけさ」

才人の言葉を理解しているのは、拓也とアイナだけなのだが、

「そう。そりゃよかったわ。せめて『伝説』ぐらい持ってこないと、あの竜巻にはかてそうにないからね」

ウェールズとジェームズの周りをめぐる巨大な竜巻は、どんどん大きくなる。

ルイズの小さな詠唱は未だ続いている。

「やっべえなあ。やっぱり向こうが先みてえだなあ」

デルフリンガーが呟く。

「如何しよう」

「如何しようもこうしようもねえだろうが。あの竜巻を止めるのがお前さんの仕事だよ。ガンダールヴ」

「俺かぁ」

才人はふにゃっと顔を歪めた。

「いや、不思議だな」

「どうした?」

「あんなにでっかい竜巻だってのに、ちっとも怖くねえ」

「そりゃそうさ。勘違いすんなよガンダールヴ。お前さんの仕事は、敵をやっつけることでも、ひこうきとやらを飛ばすことでもねえ。『呪文詠唱中の主人を守る』。お前さんの仕事はそれだけだ」

「簡単でいいな」

「主人の詠唱を聞いて勇気がみなぎるのは、赤んぼの笑い声を聞いて母親が顔をほころばすのと理屈はいっしょさ。そういう風にできてんのさ」

「へっ!」

才人が笑って、竜巻に向かって構えた。

が、

――ゴスッ

才人の後頭部に衝撃が走る。

「ってえ!!」

見ると、拓也が覇竜刀で才人の後頭部をみね打ちしていた。

「なにすんだよ!」

才人は軽く怒鳴った。

「アホですか才人さん?」

拓也はそう切り返す。

「あんな竜巻に生身で突っ込んだら、怪我じゃ済まないですよ。いくら身体能力が上がるっていったって、防御力は変わらないんですから、いくらデルフリンガーを持ってるからって、自然の竜巻に生身で突っ込むのと変わりありません」

「じゃあ如何するんだよ!?」

「少しは仲間を頼ってください。持続的は無理ですが、短時間なら何とかなります。俺があの竜巻ぶった切りますんで、才人さんはそれをデルフリンガーで防いでください」

そう言うと、拓也は前に出て、覇竜刀を地面に突き刺す。

そして、デジヴァイスを構え、

「ダブルスピリット!エボリューション!!ぐっ・・・・・あああああああああっ!!」

アルダモンに進化する。

「アルダモン!!」

進化すると、アルダモンは覇竜刀を抜く。

その瞬間、覇竜刀が輝き、アルダモンに合う大きさになった。

「へえ、こんな能力もあるのか。アカムトルムに感謝しなきゃな」

アルダモンは、覇竜刀を構えた。



ジェームズとウェールズの呪文が完成した。

巨大な竜巻がアルダモン達に向かって飛んでくる。

アルダモンは、真っ向からその竜巻に挑んだ。

覇竜刀を振り上げる。

「残った力の全てを、覇竜刀に!」

その瞬間、覇竜刀が炎を纏う。

「うおおおおおおおっ!!竜巻(かぜ)を切り裂け!覇竜刀!!」

竜巻に向かって、炎を纏った覇竜刀を振り下ろした。

――ズゴォオオオオオオッ!!

「おおおおおおおおおおっ!!」

覇竜刀が竜巻を縦に切り裂いていく。

アルダモンに斬られ、威力が減衰した竜巻を才人がデルフリンガーで吸収していく。

だが、それでも才人の体は真空の刃で傷つけられていく。

「ぐっ!?拓也のお陰で威力が弱まっているはずなのにまだこれだけの威力が!?」

竜巻を受け止めながらも、直接あの竜巻に飛び込んでいたらと思うとぞっとする。

やがて、ルイズの詠唱が完成し、ウェールズの周りに、眩い光が輝いた。

ウェールズの隣のジェームズの体が地面に崩れ落ちる。

ウェールズは手を差し伸べようとしたが、消耗しきった精神力のお陰で意識を失った。

辺りは一気に、静寂を取り戻した。



しばらく気を失っていたウェールズは、自分の名を呼ぶ声で目を覚ました。

ルイズが心配そうにウェールズを覗き込んでいた。

雨は止んでいた。

隣には、冷たい躯となったジェームズの体が横たわっている。

「僕は・・・・・・なんということを・・・・・・・・」

「目が覚めましたか?」

ルイズは悲しいような、冷たいような声でウェールズに問うた。

その声に怒りの色はない。

ウェールズは頷いた。

「なんと言って君達に謝ればいい?僕のために傷ついた人々に、なんと言って赦しを請えばいい?」

そう嘆くウェールズを、拓也はアイナに支えられながら見ている。

「今更あなたの行動に文句は言いません。後悔したのなら、次からは後悔しない選択をしてください」

「くぅ・・・・・」

ウェールズは、自分の情けなさからか、涙を流した。


それから、一行は死体を木陰に運んだ。

後で埋葬するにしても、このまま放って置くわけにはいかない。

誰もウェールズを責めたりはしなかった。

ウェールズは悪夢を見ていたのだ。

憎むとすれば、このようにウェールズの心につけ入り、ジェームズに偽りの生命を与えた人物であろう。

ウェールズに罪がないとは言えないが、その罪に引き合う何かが存在するのも、また事実だった。


ウェールズは、最後に、父ジェームズを運ぼうとした。

その時だった。

「・・・・・・・ウェ、ウェールズ・・・・・・お前か?」

弱々しく、消え入りそうな声だったが、まぎれもなくジェームズの声であった。

力なくジェームズの右手が宙を彷徨う。

「ち、父上!?」

ウェールズは思わずジェームズのその手を両手で握った。

「・・・・ウェールズ・・・・・・お前は・・・・・生きているのだな・・・・・・」

「父上・・・・・申し訳ありません・・・・・・僕は・・・・・おめおめと生き恥を・・・・・」

ウェールズは懺悔するように声を絞り出していく。

「そんな事を言うでない・・・・・・以前にも言ったぞ・・・・・・お前は生き残るべきだと・・・・・」

「父上・・・・・・」

「お前には・・・・・愛するものがいるのであろう?」

その言葉に、ウェールズは驚いた表情を浮かべる。

「ち、父上!?何故その事を?」

「フフフ・・・・・・何度も同じ手紙を読み返しているのを見ておるからな・・・・・・・ゴホッ!」

ジェームズが苦しそうに咳き込む。

「父上!もう喋ってはいけません!」

「ゴホッ!・・・・・ウェールズよ、最後の願いだ・・・・・」

「父上・・・・・なんなりと」

「ウェールズ・・・・・必ずやアルビオン王家の復興を・・・・・」

「・・・・・・・承知しました。父上」

「・・・・・・今のは王としての願い。そして今度は、お前の父としての願いだ・・・・・・」

「え?」

「生きよ・・・・・ウェールズ」

その言葉を最後に、ジェームズのまぶたが閉じ、ウェールズの握っていた手から完全に力がなくなる。

「父上・・・・・・・」

ウェールズは、力いっぱいジェームズの手を握り、

「父上ぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

涙を流しつつ、あらん限りの声で叫んだ。

そんな様子を見守る才人はルイズの肩を抱いた。

ルイズは声を殺すようにして泣いていた。

拓也は黙祷を捧げ、アイナは涙を流しつつも見守っている。

「父上・・・・・・誓います。必ずアルビオン王家を復興させます。そして、僕自身も生き抜く事を誓います」

ウェールズの心の影はもう晴れた。

その心に、新たな決意を刻み付けるのであった。






次回予告


ウェールズたちと別れ、タバサの実家へと向かう拓也達。

『覇竜の涙』により、心を取り戻すタバサの母。

その母から語られる父の真実とは?

そして、その真実を知ったタバサは?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第二十一話 父の真実。タバサの選択。

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

祝!二十話完成!

の割には出来はイマイチ。

オリジナリティもない。

原作のアンリエッタの位置をウェールズに、ウェールズの位置をジェームズにしただけみたいなものですからね。

流れも結構強引かと・・・・・・

さて、次回はタバサの母が直ります。

ここでも、自分が勝手に決めた設定が出てきます。

にしても、タバサの母の名前ってまだ出てきてないんですよね。

オリジナルで決めるしかないんですかね?

ともかく、次も頑張ります。



[4371] 第二十一話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/01/18 17:32
ウェールズ達と別れ、再びタバサの家へ向かう拓也達。

そして、遂に・・・・・・


第二十一話 父の真実。タバサの選択。


シルフィードに乗った拓也達がタバサの家に着いたのは、すっかり暗くなってからだった。

シルフィードが庭に下りると、すぐにタバサは飛び降り、家の中へ駆け込んでいく。

拓也達も急いで後を追った。

いきなり帰ってきたタバサにペルスランが驚いていたようだが、タバサは急いで母親の部屋に向かう。

タバサは母親の部屋の前に来ると一度立ち止まり、息を整えている。

扉に手をかけるが、中々開けようとはしない。

本当に治るか不安なのだろう。

そんなタバサに拓也は声をかける。

「タバサ、大丈夫だ。タバサの母さんはきっと治る。アカムトルムの言葉を信じよう」

タバサは一度拓也の目を見ると、コクリと頷く。

そして、扉を開けた。

部屋の中は相変わらず殺風景だった。

タバサは一度『ディティクト・マジック』を唱え、監視が無い事を確認する。

タバサの母親は相変わらず人形を抱きかかえている。

タバサの母親が部屋に入ってきたタバサ達に気付く。

「だれ?」

タバサは母親の前に行き、頭を下げる。

「母様、あなたを蝕む呪縛から、今こそ解き放ちます」

そう言うと、タバサは眠りの雲を唱え、母親を眠らせる。

床に倒れないようにレビテーションを唱え、ベッドに横たわらせた。

タバサは『覇竜の涙』が入った小壜を取り出し、母親の口に添え、『覇竜の涙』を飲ませていく。

3分の2ほど飲ませたとき、一瞬青い光がタバサの母親を包む。

そして、光が消えたとき、タバサの母親の瞼がゆっくりと開く。

そして、その眼がタバサを捉えた時、

「・・・・・・シャルロット?」

はっきりとタバサに向かって、そう呟いた。

タバサは、いつもの無表情が信じられないくらいに表情が崩れ、大粒の涙をボロボロと零す。

そして、ついに我慢が出来なくなり、母親に抱きついた。

「母様!母様ぁ!!うわああああああああっ!!」

今まで押さえていた感情が一気に溢れ、タバサは母親の胸の中で泣いた。

アイナは感動で目を潤ませており、キュルケは優しい笑顔でタバサを見守る。

イルククゥは笑顔であり、ペルスランも顔に手を当て泣いている。

その様子を見た拓也は微笑むと、皆に部屋を出るよう促す。

皆も拓也に従い部屋を出た。



タバサとタバサの母親以外の5人はいつかと同じ客間のホールにいた。

「皆様!このペルスラン心より感謝いたします!よくぞ・・・・・よくぞ奥様のお心を取り戻してくれました!!」

ペルスランは、皆にそう言う。

「タバサ、嬉しそうだったね」

アイナがそう言う。

「だな。長い間狂っていた母さんが治って、自分の名前を呼んでくれたんだ。そりゃ嬉しいだろうな」

拓也も頷いた。

それから暫くして・・・・・・・・

客間のドアがガチャリと開き、タバサとタバサの母親が現れた。

「あら、もっと甘えていてもよかったのに」

キュルケがタバサを見て、クスクス笑いながらそう言った。

タバサは顔を真っ赤にして俯く。

すると、タバサの母親が口を開いた。

「大まかな事情はこの子から聞きました。皆様には厚く御礼を申し上げます」

そう言って頭を下げる。

「そんな、気にしないでください。困ったときはお互い様ですし、仲間を助けるのは当然です」

そう言うのは拓也。

「いえ、シャルロットを手助けして頂いたご友人の方々には、いくら御礼を申し上げても足りないぐらいです」

そして、タバサに向き直ると、

「そしてシャルロット、あなたはジョゼフさまに復讐を考えているだろうと思います」

タバサは、ピクリと動揺する。

「正直に言います。私としては、復讐などという愚かな事は止めて欲しい。しかし、私には止める権利も、資格もありません。ですが、あなたが復讐を続けると言うならば、知っておかなければならないことがあります」

「え?」

「あなたの父の事です」

「父様の?」

タバサは少し驚いた顔をする。

タバサの母は、拓也達に視線を向ける。

「席、外しましょうか?」

拓也はそう尋ねるが、

「いえ、シャルロットのご友人の方々にも聞いて欲しいのです。この先もシャルロットを支えてくれる皆様には」

タバサの母は、椅子に腰掛ける。

タバサもその隣に座る。

「皆様は、シャルル様の事についてはどのように?」

タバサの母は、そう尋ねる。

「えっと・・・・・ペルスランさんから聞いた話では、才能と人望に溢れていましたが、継承争いの時に、ジョゼフ派の人たちによって謀殺されたと・・・・・・」

アイナが少し言いにくそうに答えた。

「そうですか・・・・・・」

タバサの母は、一度言葉を区切ると、話し出した。

「真実は少し違います」

その言葉に、全員が驚いた。

「今から話すことはシャルル様が謀殺される前に、私に打ち明けてくれた事です」

全員が息を呑む。

「先王が倒れたとき、先王はジョゼフ様とシャルル様を枕元に呼びました。次の王を選ぶためです」

その時は誰もが思うだろう。

シャルルこそが次王の相応しいだろうと。

しかし、

「そこで、先王は次王にジョゼフ様を選びました」

「え!?」

「なんですと!?」

タバサの母の言葉にタバサとペルスランは驚愕の声を漏らした。

拓也達も驚いた表情をしている。

「先王が何故ジョゼフ様を選んだのかは分かりません。しかし、次王にジョゼフ様を選んだ事は真実なのです」

全員が呆気に取られる。

「それまでシャルル様と比べられてきたジョゼフ様にとって、それは喜ばしい事だったと思います。ジョゼフ様は、シャルル様の悔しがる姿を想像したでしょう。ですが、シャルル様がジョゼフ様に言った言葉は全く逆のものでした。シャルル様から出た言葉はジョゼフ様を祝福する言葉だったのです」

「なんと・・・・・シャルル様らしいことです」

ペルスランがそう言う。

「私が思うに、恐らくそれがきっかけっだたのでしょう。ジョゼフ様のシャルル様に対する嫉妬が、強い憎しみに変わったのは・・・・・・・・」

「溜めに溜め続けたコンプレックスが、その時に爆発したのね・・・・・・・」

キュルケがそう呟く。

「恐らくそうだと思います。そして、シャルル様は毒矢で射られ、殺されました。多分、ジョゼフ様が直に命令した、もしくは、直接手を下したのだろうと思います」

「父様・・・・・・・」

タバサは俯く。

「あの時・・・・・シャルル様が自分の心を偽らなければ、もしかしたら、そんな事にはならなかったのかもしれません」

その言葉に、タバサは驚いたように顔を上げる。

「母様?それは一体!?」

「シャルル様は、心の内では悔しがっていたのです。ジョゼフ様を祝福する言葉は、自分の嫉妬を見せまいとする、あの人の必死の抵抗でした・・・・・・」

皆は意外な言葉に驚愕する。

「シャルル様が殺される前日・・・・・・あの人は私に全てを語ってくれました。今話したことも、家臣たちを味方に付けるために根回しをしていたことも・・・・・」

「なんと!?シャルル様がそのような事を!?」

ペルスランは、驚愕し叫んだ。

「あの人も、認められるために必死だったのです。兄であるジョゼフ様に勝つために、自分の方が優秀であると証明するために・・・・」

「父様・・・・・・・」

タバサは再び俯く。

「あの人が殺された事も・・・・・・・私が心を狂わされたことも・・・・・・全てはジョゼフ様とシャルル様の心のすれ違いによって起こった、悲しい出来事だったのです・・・・・・」

「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」

全員が沈黙する。

と、その時、

「何で・・・・・・そんな事になっちまうんだろうな・・・・・・・」

ポツリと、拓也が呟いた。

全員の視線が拓也に集まる。

「何で、兄弟の間でそこまで気持ちを偽らなきゃいけないんだ?」

その声には悲しみが交じっていた。

「兄弟っていうのは、一緒に笑って、一緒に泣いて、そして時には本音で喧嘩して、それでお互いを分かり合い、助け合っていく・・・・・・それが兄弟って奴じゃないのかよ!」

拓也が拳を握り締める。

「タクヤ・・・・・」

アイナが悲しそうな表情で拓也の名を呟く。

「どうして・・・・・殺意が湧くまで黙っているんだ・・・・・・・どうして自分の気持ちを素直にぶつけないんだ・・・・・・血の繋がった家族なんだろ!?そんなに王族や貴族の体裁ってやつが大事なのかよ!?」

拓也はいつの間にか声を荒げていた。

それに気付き、はっとなる。

「あ・・・・悪い。つい感情的に・・・・・・」

拓也は謝り、姿勢を正す。

「いえ、そう思われるのも無理ありません」

タバサの母は、タバサに向き直る。

「シャルロット・・・・・・今の話を聞いて、あなたがどのような答えを出すのかは分かりません。ですが、どのような答えを出そうとも、私は反対しません。それが例え、復讐の道であっても・・・・・・」

「母様・・・・・・・」

タバサの母は再び拓也達に向き直ると、

「皆様も今日はお泊りになっていってください。ペルスラン、部屋の用意を」

「かしこまりました」





タバサは、母親の寝室にパジャマ姿でいた。

母親は現在風呂に入っている。

タバサが見つめる机の上には、狂った母親が抱いていた人形。

それを見つめながら、タバサは母から聞いた父の真実、そして、拓也が言った言葉を思い出していた。

『何で、兄弟の間でそこまで気持ちを偽らなきゃいけないんだ?』

『兄弟っていうのは、一緒に笑って、一緒に泣いて、そして時には本音で喧嘩して、それでお互いを分かり合い、助け合っていく・・・・・・それが兄弟って奴じゃないのかよ!』

『どうして・・・・・殺意が湧くまで黙っているんだ・・・・・・・どうして自分の気持ちを素直にぶつけないんだ・・・・・・血の繋がった家族なんだろ!?そんなに王族や貴族の体裁ってやつが大事なのかよ!?』

(不思議な人・・・・・・・・兄弟がいれば権力争いが起こる。それは今までの歴史の中でも何度もあった。貴族や王族にとって、宿命とも言えるもの。でも、彼はそれを真っ向から否定した。・・・・・いや、もしかしたら平民の殆どは彼と同じ考えなのかもしれない。けど、貴族や王族に面と向かって言える人はいない。例外として、彼と、彼と同じところから来たというルイズの使い魔のサイト。彼らは、ハルケギニアの常識からかけ離れている)

誰とでも対等。

それが拓也と才人の姿。

そして、拓也がいなければ、母親も心を取り戻す事はなかった。

水の精霊からヒントを聞きだしたのも、覇竜に認められ、『覇竜の涙』を受け取る権利を得たのも拓也であった。

タバサは、ふと『イーヴァルディの勇者』を思い出す。

それは、タバサが好きな本であり、その本の影響で、密かに「勇者に助けられる囚われのお姫様」になってみたいという夢を抱いている。

そして、拓也の姿は、その物語の主人公のイーヴァルディと重なって見える。

他人に等しい者の為に、命を賭ける姿。

強大な敵に立ち向かっていくその姿。

それは、本当に物語の勇者のようであった。

そして、凍てついた絶望の牢獄から、自分の心を救い出してくれた。

まさに、囚われの自分を救い出してくれた勇者。

と、そこまで考えて、自分は何を考えているのかと首を振る。

タバサは気付いていないが、その頬は赤く染まっていた。

タバサは気を取り直し、

(けど、もし王族や貴族でなかったら。体裁を気にする立場でなかったら、父様も自分の気持ちに正直になって、あんな事にはならなかったのかな)

そう考える。

(確かに、父様を殺したジョゼフは許せない。けど、私の人生を狂わせたのは彼じゃない、もっと別の何か・・・・・・・・)

そこでタバサは答えに至る。

(そう、私の復讐する相手はジョゼフじゃない。私が復讐する相手は・・・・・・・)

その相手に復讐するためにも、タバサが最初にする事があった。

タバサは机の上の人形を撫でる。

「今までありがとうタバサ・・・・・・・そしておかえり、シャルロット・・・・」

それは、人形である『タバサ』から、シャルル・オルレアンの娘、『シャルロット・エレーヌ・オルレアン』に戻る事であった。






翌朝。

朝食を終えた席で、タバサが切り出した。

「皆に、私の出した答えを聞いて欲しい」

全員は頷き、タバサに集中する。

「・・・・・・・私は・・・・復讐を止める事は出来ない」

タバサははっきりとそう言った。

タバサの母親は悲しそうな表情をする。

反対はしないといったものの、やはり復讐は止めて欲しかったのだろう。

「けど・・・・・・」

しかし、タバサの言葉には続きがあった。

「私が復讐する相手は、ジョゼフ・・・・・・・伯父様じゃない」

その言葉に、全員は驚いた表情をする。

「私の復讐する相手は、私の人生を狂わせた元凶・・・・・・・今の制度そのもの」

「「「「「!?」」」」」

「王族、貴族、平民・・・・・・・同じ人間なのに、そんな差別があるから、私の人生は狂わされた。だから、私は、今の制度を殺す。そして、全ての人々が平等な国を作る」

「「「「「え!?」」」」」

タバサの言葉に全員が驚きの声を漏らす。

だが、驚きの意味が拓也とアイナだけ違った。

拓也とアイナ以外は、タバサの発想そのものに驚いていた。

しかし、拓也とアイナは、タバサがその発想に至ったことに驚いていた。

「そんな国はハルケギニアの歴史上にも存在しない。実際には不可能かもしれない。けど、それが私の出した答え」

暫くその場を沈黙が支配した。

だが、

「不可能じゃない」

拓也が切り出す。

「不可能じゃないさ」

はっきりとそう言った。

「タクヤ」

「なんてったって、俺の住んでた所がそういう国だったからな」

拓也は明るい声で言う。

「タクヤの元いた世界の国の殆どは、貴族がいなかったんだよね」

アイナがそう続ける。

が、

「元いた世界?」

鋭いタバサがアイナの言葉を指摘する。

「あ・・・・・・」

アイナがしまった、という顔をして声を漏らした。

だが、拓也はそれほど気にした様子はなく、頭をかきながら、

「ん~、そっちが秘密を明かしてるのに、こっちが秘密持ったままじゃ悪いよな」

と言って説明を始めた。

ここハルケギニアとは全く別の世界から来た事。

元の世界では魔法はなく、代わりに科学という『技術』で人々の生活が支えられている事。

殆どの国では貴族も平民も無く、王はいても絶対の存在ではなく、国の象徴であること。

そして、拓也はそんな世界からデジタルワールドに行き、いろんな冒険をして元の世界に戻るときに、アイナに『召喚』されてハルケギニアに来た事を。

「異世界・・・・か」

キュルケが呟く。

普通なら信じられない話ではあるが、目の前の2人は、こんな嘘をつく人物ではないと分かっている。

「もっと、あなたの世界の事を教えて欲しい」

タバサは、自らの好奇心と、目的を達成するための見本とするために、地球の知識を求めた。

「あ~っと、それは才人さんを交えて話したほうがいいと思う。才人さんなら、俺の倍は学んでるから」

拓也はそう言う。

実際、拓也は小学5年生だ。

義務教育の半分の期間しか学んでいない。

そのため、曖昧な説明を続けるより、しっかりと学んでいる才人と話したほうが良いと判断したのだ。

拓也のその言葉にタバサは頷く。

その時、タバサの母が口を開いた。

「シャルロット。それがあなたの決めた道なら迷わず進みなさい」

「はい。母様」

母親の言葉にタバサは頷く。

「そしてシャルロット。私も一晩考えた事があります」

「はい」

「私は、この屋敷で狂った振りを続けます」

「え!?」

母親の言葉に驚愕する。

「私が治ったとわかれば、相手はどんな強行策に出てくるか分かりません。国外へ逃亡しても同じでしょう。ですから、この屋敷で狂った振りを続けるのが一番の安全策といえます」

「母様・・・・・・」

タバサは少し寂しそうな顔をする。

「そんなに寂しそうな顔をしないの。あなたにはこんなに素晴らしい友人がいるじゃないの」

タバサの母はタバサに優しく語り掛ける。

タバサは皆に向き直ると、

「私の目的を達成するためにも、私はシャルロット・エレーヌ・オルレアンとして王を目指す。それはとても危険な道。そして、私の目的は始祖ブリミルの教えを無視すると言っても過言じゃない。それでも皆は・・・・・・私の力になってくれるの?」

そう問いかけた。

「この『微熱』のキュルケ、世界中を敵に回しても、タバサ・・・・・いえ、シャルロットの味方でいるわ」

キュルケがそう答え、

「私も、シャルロットの考えに賛成だよ。私も今の貴族のあり方には疑問を持ってるから」

アイナも迷わず答える。

「きゅいきゅい。シルフィはいつでもお姉さまの味方なのね!」

イルククゥは言わずもがな。

「俺は、始祖ブリミルなんて知ったこっちゃないし。第一、仲間を手助けするのに理由がいるかよ」

拓也がそう答える。

「皆・・・・・」

タバサ・・・・否、シャルロットは瞳に涙を滲ませる。

まず、キュルケとアイナの方を向き、

「キュルケ、アイナ。私を孤独から救ってくれた大切な友達。これからは、シャルロットとして、改めてよろしく」

「ええ。よろしくねシャルロット」

「うん。よろしくシャルロット」

2人の返事を聞きシャルロットは笑顔を見せる。

「フフッ、やっぱり笑ったほうが可愛いわよシャルロット」

キュルケがそう言い、シャルロットの頬は赤く染まった。

シャルロットは次にイルククゥに向き直る。

「シルフィード・・・・・・」

「きゅいきゅい!お姉さま、何も言わなくてもシルフィはわかってるのね。これからもずっとずっとお姉さまと一緒なのね!」

「ありがとうシルフィード」

シャルロットはイルククゥに礼を言うと、最後に拓也に向き直る。

「タクヤ・・・・・私の心を凍てついた絶望の牢獄から救い出してくれた、異世界の勇者様」

いきなりそんな事を言われた拓也は焦る。

「お、おいおい。俺は勇者なんて柄じゃ・・・・・」

「謙遜しなくてもいい。あなたは竜の中の覇王である『覇竜』も認めた本当の勇者」

そう言われ、拓也は照れ隠しに頬を掻く。

「母様が治ったのもあなたのお陰。だから私は、命を懸けてあなたを守る」

そう言うと、シャルロットは拓也の頬に手を添える。

「私は、あなたの騎士になる・・・・・」

そう言って顔を近づけていき、

「あら」

「まあ」

「なんと」

「「ああ!!」」

上からキュルケ、シャルロットの母、ペルスラン、そしてアイナとイルククゥ。

シャルロットは拓也にキスをしていた。

そして、少しして離れたシャルロットの頬は赤く染まっている。

「ななななな・・・・・?」

拓也に至っては、顔全体が真っ赤だ。

「シャ・・・・シャシャ・・・・シャルロット?ね、ねえ・・・・・そ、そのキスって、あれよね・・・・・・お、お礼とかそういう類のキスよね?」

アイナは動揺しすぎで声が震っている。

「お、お姉さまーーーーッ!?タクヤさまに何するのねーーーーッ!!」

イルククゥは感情のまま叫んだ。

「シルフィード。あなたは言った。私は恋をしたほうが良いと。だから、私は恋をしただけ」

シャルロットは頬を染めつつそう言う。

「けど・・・・けど・・・・・・なんでタクヤさまなのねーーーーーッ!」

イルククゥは行き場のない感情に叫び声を上げる。

「フフフ・・・・タクヤくんといったわね。これからもシャルロットをよろしくね」

シャルロットの母親が拓也に向かってそう言った・

「え?あ?ええっ!?」

拓也は驚き取り乱す。

「タ~ク~ヤ~!!」

アイナのその声に恐る恐るアイナの方へ顔を向けると、

――ズゴゴゴゴゴゴゴゴ

と、聞えてきそうなほどの雰囲気を持ったアイナがいた。

更に黒いオーラを何時もの5割増しで纏っている。

「ちょ、ちょっと待て!!俺の所為なのか!?」

拓也は焦って弁明しようとするが・・・・・・

「タクヤは私の勇者様。そして私は彼の騎士。私は彼から離れない」

シャルロットが堂々とそんな事を言った。

「火に油を注ぐような事を言うなー!!」

拓也が叫ぶが、

――ゴウッ

アイナの周りから炎が巻き起こる。

「げっ!」

拓也は声を漏らす。

だが、その前にシャルロットが立ちはだかった。

「大丈夫。私があなたを守る」

拓也にそう言うと、シャルロットの周りには氷嵐が巻き起こる。

正に炎と氷の戦い。

因みにこの場の3人とイルククゥ以外はいつの間にか部屋の外に退避している。

「ふ、2人ともやめっ・・・・・・・」

2人の争いを何とか止めさせようとした拓也が飛び出したとき、炎と氷嵐がぶつかり合う。

結果、炎と氷の嵐に拓也は巻き込まれるのであった。







次回予告


シャルロットの問題も一段落し、普通の学院生活に戻る拓也達。

平凡な一日を送ると思いきや・・・・・

夏季休暇に入る前の学院生活をお伝えしよう。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第二十二話 魔法学院のとある一日

今、異世界の物語が進化する。




あとがき

第二十一話完成です。

で、今回こそは、色々と反感を受ける気がしてなりません。

先ずはタバサの母親を治したんですが、タバサの父親の真実を知っていたというオリ設定。

結局名前が決まらず、『母親』で通してしまいました。

そして、タバサフラグ完全確立。

これが一番色々言われそうです。

いや、前々から考えていた事なんですけどね。

タバサの呼び方も、『タバサ』⇒『シャルロット』に変えたし・・・・

復讐の対象もジョゼフから『今の制度』に変更。

強引過ぎるかなぁ?

あと、タバサの母親の性格も勝手に決めてしまいましたが・・・・・・どうでしょうか?

あとシャルルの呼び方も、様付けで良かったかなあ・・・・・・

なんか、呼び捨てで呼ぶところが想像できなかったから様付けにしたんですけど・・・・・・

このストーリーの流れも、「タバサの秘密」の話の流れと似たような流れになってしまいました。

もう既に、皆様からどういう反応が来るか不安でたまりませんが、受け入れてもらえるとありがたいです。

それでは、次回も頑張ります。





[4371] 第二十二話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/02/01 11:52
シャルロットの問題が一段落し、平凡な学院生活に戻ると思われた拓也。

しかし・・・・・


第二十二話 魔法学院のとある一日


シャルロットの家から学院に戻ってきた翌日。

朝、拓也が目を覚ましたとき、

「・・・・・・・なんだこりゃ?」

部屋中が荒れていた。

机は倒れ、タンスは横倒しになり、あちこちに焼け焦げた跡とと水溜り、壁や床などには切り傷がある。

更に見回すと、アイナ、シャルロット、イルククゥが床で寝ていた。

しかも、イルククゥは覇竜刀を掴んでいた。

「おいおい・・・・・・」

拓也はなんとなく予想がついた。

おそらく、夜中にシャルロットとイルククゥが忍び込んできたのだろう。

それにアイナが気付き、戦闘になった。

イルククゥは人間形態の時には、先住魔法が使えないので覇竜刀を武器にした。

拓也が起きなかったのは、眠りの雲か何かを使ったのだろう。

拓也の寝床の周りだけは、なぜか全くの無傷だ。

「やれやれ・・・・・・」

起こすにはまだ少し早い時間だったので、拓也は覇竜刀を鞘に納め(鞘は、ギーシュに作らせた)、背負い、3人に毛布をかけてやり、外へ出る。

外にある水汲み場まで行き、顔を洗う。

拓也はふと思いつき、覇竜刀を抜く。

広場にある木の傍に行き、少し太めの枝に向かって覇竜刀を振った。

――スパッ

と、殆ど手ごたえなく枝を切り落とした。

しかも、その断面は鏡のようにつるつるである。

「・・・・・・・・・・・」

拓也は、今度は拳大の石を拾う。

左手で石を放り、右手で覇竜刀を空中の石に向かって振り下ろした。

――スパッ

枝よりかは手ごたえがあったが、問題なく両断した。

その石の断面も鏡のようにつるつるであった。

拓也は両断した石の片方を拾い、断面の角に沿って指を動かす。

指の皮膚が切れて、血が出てきた。

「・・・・・・切れ味良すぎだろ」

拓也は覇竜刀の切れ味に戦慄を覚えた。

覇竜刀を鞘に納め、血が出た指を舐めてアイナの部屋に戻った。



部屋に戻ったが3人はまだ寝ていた。

起こすのが怖いが、ほっとく訳にはいかないので声をかける。

「お~い!朝だぞ~!起きろ~!」

そう言うと、それぞれがもぞもぞと動き、眠そうに起き上がる。

「3人とも、おはよう」

「おはようタクヤ・・・・」

「・・・・・おはよう」

「タクヤさま、おはようなのね・・・・・」

3人が目を擦りながら挨拶を返す。

「おう。シャルとイルククゥは早く自分の部屋に戻れよ。アイナは着替えて。俺は外で待ってるから」

と、3人に突っ込む暇を与えずにそう言って、逃げるように部屋から出る。

因みに、拓也のシャルロットの呼び方は、『シャル』になった。

シャルロットからそう呼んで欲しいと言われたので了承したのだ。

廊下に出て暫くすると、制服に着替えたアイナが部屋から出てきた。

「やっと来たか。シャルとイルククゥは?」

「窓から出てったよ」

その言葉に納得し、2人は食堂へ向かった。



朝食時、拓也はいつも通りアイナの隣に座る。

すると、拓也の隣にシャルロットが座った。

「な、何でそこに座るの?シャルロット」

拓也を挟んで、アイナがシャルロットに問いかける。

「私は彼の騎士。いつも一緒」

その言葉に、アイナはむっとする。

「はあ・・・・・・食事の時ぐらい落ち着いて食わせてくれ」

拓也はため息をつき、そう呟く。

因みに、シャルロットの隣に座ったキュルケは、面白そうな笑みを浮かべてその光景を見ていた。

前よりも感情表現が多くなったシャルロットが嬉しいのだろう。

「フフフ・・・・・頑張りなさいよ、シャルロット」

そう言ってキュルケはシャルロットの頭を撫でる。

シャルロットは頬を染め、心なしか拓也に寄り添う。

それを的確に察知したアイナからは、いつもの如く黒いオーラが滲み出た。

「頼むから、焚きつけるような真似は止めてくれ」

拓也は、哀願するようにそう呟いた。



授業中。

拓也は授業には同行せずに外にいた。

拓也は使い魔扱いなので、授業には出なくても全く問題ない。

流石に授業中までも黒いオーラに晒されては堪らない。

ゆえに、授業中は外でのんびり過ごそうと考えていた。

しかし、拓也に想いを寄せる竜がいることを忘れてはならない。

「きゅい!タクヤさま~!」

何処からともなくイルククゥが現れ、拓也に抱きついた。

少し前までなら、拓也は大いに慌てていたのだが、

「いきなり抱きつくなっていつも言ってるだろ」

慣れてきたのか意外と落ち着いている。

やっぱり男として美女(竜だが)に抱きつかれて悪い気はしない。

いつもはアイナの嫉妬が怖いために逃げるだけだ。

今は授業中なので、アイナに見つかる心配はない。

なので、邪険に扱うような事はしなかった。

拓也は昼まで、イルククゥと2人でほのぼのと過ごした。

だが、2人は忘れていた。

イルククゥは、シルフィード。

つまり、シャルロットの使い魔なわけで。

拓也と才人は別だが、普通の使い魔は主と感覚を共有する事が出来る。

それ即ち、イルククゥが拓也と2人で過ごした事はシャルロットに筒抜けなのであった。

授業中、

「シルフィード、後でお仕置き」

と、シャルロットは誰にも聞えないぐらいの小声でポツリと呟いたのであった。



昼。

昼食が終わった後の休憩時間。

外にあるテーブルの一つに、拓也、アイナ、才人、ギルモン、ルイズ、キュルケが集まっている。

因みにシャルロットは、シルフィードにお仕置き中でここにはいない。

最近は、このメンバーでいる事が多くなっている。

拓也と才人もだいぶ学院生活になじんでいるわけだが、やはり平民と見下す人物は多い。

だから、こんなことが起こるのだ。

「おい、平民共」

そんな声がかけられ、拓也と才人は振り返る。

そこには、1人の貴族の少年がいた。

「なんだよ?」

才人が面倒くさそうに問い返した。

「ここは貴族の為の場所だ。卑しい平民はどこかへ行きたまえ」

その貴族はそんな事を言ってきた。

「俺達は使い魔だし。それに何処にいようと俺達の勝手だろ。つーか、お前誰だよ?」

目の前の人物は、才人は記憶には無い。

「ヴィリエ・ド・ロレーヌ。入学早々、シャルロットに決闘を申し込んであっさり返り討ちにあった情けない男よ」

そう答えたのは、キュルケ。

「ふーん・・・・って、シャルロットって誰だっけ?」

シャルロットの名前に聞き覚えが無い才人は首を傾げる。

「ああ。あなた達は知らなかったわね。タバサの事よ。彼女の本名がシャルロットなの」

「え?そーなの?」

知らなかった才人とルイズは、軽く驚き、ヴィリエのことなど既に眼中に無い。

無視されていたヴィリエが声を上げた。

「へ、平民の分際で、僕を無視するなぁ!」

「まだいたのかよ。怪我したくなかったらどっかいけ」

才人はそう言って追っ払おうとする。

「ふ、ふん!貴様、ギーシュ如きに勝った位で、いい気になるなよ」

その言葉を聞き、拓也はアイナに問いかける。

「なあ、コイツのレベルは幾つなんだ?」

「ヴィリエ?えっと・・・・・・・確かラインメイジだったと思うけど・・・・」

アイナは曖昧ながらも記憶を引っ張り出す。

「ホントかよ?ギーシュより弱そうに見えるんだけど」

拓也は思ったままの事を言った。

それが、ヴィリエの耳に入ったらしい。

「待て。今のは聞き捨てならない。僕がギーシュより弱いだと?」

拓也にヴィリエがそう問いかける。

「身に纏った雰囲気からそう判断しただけだけど」

拓也はそう答える。

「はっ!君の目は節穴だな!ギーシュは『ドット』だが、僕は『ライン』だぞ。君のご主人様と同じさ」

「アイナがライン?」

拓也はふとおかしいと思ったが、

「ああ。そういえば、そういう話だったけ」

アイナは周りにはラインと認知されていた事を思い出し、納得する。

「でも、そうやってラインぐらいで力を過信してること自体が、ギーシュより劣ってるって言ってるようなもんだな」

拓也の素直な感想であった。

それが引き金であった。

「くっ、平民の分際で、何処までも僕を馬鹿にするつもりか!?いいだろう。その考えが誤りであることを証明してやる。君に決闘を申し込む!」

ヴィリエは拓也に杖を突き出してそう言った。

「11歳の子供に決闘を申し込むか普通・・・・・」

拓也はため息をつきながらそう呟いた。

「まあ、試したい事があるから別にいいけど」

拓也は立ち上がる。

「ヴェストリの広場だ。そこでやるぞ」

ヴィリエはマントを翻し、ヴェストリの広場へ歩いていく。

「あいつって、タクヤの強さ知らないのかしら?」

ルイズがそう呟く。

不幸にも、ヴィリエは拓也と才人が実際に戦ったところを見ておらず、人伝に聞いただけだった。

「地面に這い蹲る姿が目に浮かぶわね」

キュルケが面白そうに呟く。

「それじゃ、俺も行くから」

拓也は、ヴェストリの広場へ向かった。

丁度その時、別方向からシャルロットが戻ってきた。

ヴェストリの広場へ向かう拓也に気付き、

「タクヤは何処に向かったの?」

キュルケに尋ねた。

「ド・ロレーヌに決闘を申し込まれたのよ」

キュルケはそう答える。

シャルロットは一瞬ピクリとする。

「タクヤは、試したい事があるって言って、決闘を受けたの」

アイナが続けた。

シャルロットは、それを聞くと、踵を返しヴェストリの広場へ向かおうとする。

「見に行くの?ド・ロレーヌとの決闘なんか見るまでも無いと思うけど」

キュルケがそう聞くと、

「『試したい事』が気になる」

そう言って、ヴェストリの広場へ向かった。

「そう言われると気になるな。俺も見て来るか」

才人も立ち上がる。

既にアイナは、その場にはいない。

結局、キュルケも気になったのか、ヴェストリの広場へ向かう事にした。




ヴェストリの広場では、拓也とヴィリエが対峙しており、いつかの時と同じようにギャラリーが多数いる。

ヴィリエがなにやら口上を述べているが、拓也は聞いちゃいない。

「お~い。訳の分からん事ばっかり言ってないで、さっさと始めようぜ」

拓也はそう言った。

ヴィリエはそれを聞くとやれやれと首を振る。

「まったく。せっかちな平民だな。貴族の決闘には作法がある。まあ、平民の子供に言っても分からないかもしれないが」

拓也は、相手が実戦経験の無い、全くの素人だということを感じる。

実戦を少しでも知っていたら、口上の途中でもこんなに隙だらけにはならないだろう。

拓也は無言で、右手で覇竜刀を抜き、左手で地下水を持ち、構えた。

「フフフ・・・・・平民らしい武器だな。一応名乗っておこう。ヴィリエ・ド・ロレーヌ、謹んでお相手仕る」

「神原 拓也。アイナの使い魔だぜ」

拓也も名乗り返す。

すると、ヴィリエは堂々と杖を振り上げる。

「平民の名前などには興味はない!いざ!」

ヴィリエは呪文を唱え、杖を振り下ろす。

『エア・カッター』、真空の刃で相手を切り裂く呪文だ。

空気の刃のため、攻撃が見え辛く、『風』の下級呪文の中でも厄介な魔法である。

本来なら。

相手に気付かれないように唱えれば、効果的な呪文なのだが、ヴィリエは堂々と杖を振り上げ、呪文を放ったのだ。

そんなのは、相手に呪文の出のタイミングと狙う場所を教えているようなものだ。

拓也は、杖が振り下ろされると同時に、覇竜刀を前に突き出す。

覇竜刀には『反射』がかかっているので、当然の如くエア・カッターはヴィリエにはね返る。

エア・カッターは、ヴィリエの頭上を通過し、ヴィリエの髪を何本か切る。

「へっ?」

ヴィリエは、何が起こったか把握しておらず、呆けている。

拓也は、その隙を見逃さない。

「『エア・ハンマー』」

地下水の力を使い、エア・ハンマーの魔法を唱える。

圧縮された空気の塊が、ヴィリエの顔面に直撃する。

「ごぶっ!?」

ヴィリエはぶん殴られたように吹き飛び、杖が手を離れ、宙に投げ出される。

拓也は、足に力を込め、

(スピリットを、体に同調)

一気に地面を蹴った。

ガンダールヴを発動させた才人に迫るほどのスピードで地を駆ける。

宙に投げ出された杖を覇竜刀で両断。

そのまま切り返し、ヴィリエの首筋で覇竜刀を寸止めした。

「勝負ありだな」

拓也は勝ちを宣言した。

決闘開始後、ジャスト10秒の決着であった。

「え?あ?え?」

ヴィリエは何が起こったか理解できていない。

拓也は覇竜刀を鞘に納め、地下水をしまうと、アイナ達のほうに向かって歩き出す。

「やっぱりギーシュの方が強いな」

拓也はぼそりと呟く。

その言葉は、ヴィリエのプライドを完膚なきまでに打ち砕いた。

ヴィリエは、ショックの余り地面に手を付き、うな垂れた。

それを見ていた、アイナたちは軽く驚いていた。

「え?進化してないのに何で・・・・?」

アイナが拓也の身体能力に驚く。

「今の、ガンダールヴを発動させた俺と同じぐらいの速さだったぞ」

才人がそう言う。

「どうなってるのかしら?」

キュルケが疑問に思う。

「恐らく、今のが『試したい事』」

シャルロットはそう推測する。

元々、拓也の身体能力は、11歳の中では運動神経抜群の類に入るのだが、あくまで子供のレベル。

高校生である才人と比べても、拓也のほうがかなり劣る。

だが、拓也はスピリットを肉体と同調させ、進化せずとも一時的に身体能力を跳ね上げる事が出来るのだ。

その力は、1人でエレベーターの部屋を押し倒せるほど。

これは、ルーチェモンとの最終決戦の前に一度やった事であり、今回の決闘で、出来るかどうか試したのだ。

結果は上々。

進化と違い、タイムラグも無い為、咄嗟の時には重宝する。

と、そんな事を拓也が考えていた時、影が拓也を覆った。

拓也が振り返り見上げると、10メイル位の岩のゴーレムが、拓也を踏み潰さんとばかりに、足を振り上げていた。

「げっ!」

拓也は声を漏らす。

ゴーレムは躊躇なく足を振り下ろした。

――ズズーン

地鳴りが響く。

「はーっははは!!平民め、思い知ったか!!」

ゴーレムの肩の上で、男子生徒が大声を上げて笑っている。

「あの平民に苦渋を舐めさせられて数ヶ月・・・・・ついに、ついに復讐を「あっぶね~」何!?」

拓也は、ゴーレムの足をギリギリで避けていた。

身体能力を上げることを試していなかったら、やばかったかもしれない。

「おのれ、しぶとい奴め!」

拓也はゴーレムを見上げる。

「つーか、お前誰だよ!?」

拓也は叫んでそう問う。

「な!?僕は貴様に苦渋を舐めさせられた事を一時も忘れた事はなかったのに!き、貴様という奴は」

その男子生徒は、そう言うので、拓也は記憶を掘り起こす。

「え~っと・・・・・・」

拓也は考えるが、思いつかない。

「き、貴様~~!!もう許さん!!『トライアングル』となった僕の実力を思い知れ!!」

その男子生徒は勝手にキレる。

が、それ以前に、拓也を危ない目に合わせたことが、2人の乙女の逆鱗に触れたことに男子生徒は気付いていない。

「忘れたと言うのなら思い出させてやる!!この僕!『岩石』のグ・・・・」

そこまで言ったところで、無数の炎の矢がゴーレムを粉々に粉砕する。

「うわあっ!?」

男子生徒はレビテーションで無事に地面に着地するが、

「ひゃあ!?」

今度は氷の矢が飛んできて、男子生徒のマントを地面に縫い付ける。

男子生徒は、氷の矢が飛んできた方を見た。

「ひいっ!?」

思わず悲鳴を上げる。

その視線の先には、真っ黒なオーラを纏った赤毛の少女と、いつもは無表情なその顔に、静かな怒りを露にした青髪の少女。

言わずもがな、アイナとシャルロットである。

流石にこの雰囲気は拓也でも少し引いた。

2人はゴーレムを操っていた男子生徒に、近付いていく。

「ふ、2人とも・・・・・何かな・・・・・・?」

その男子生徒は、恐る恐る問う。

「タクヤを、傷つけようとした」

アイナが呟く。

「彼を・・・・殺そうとした」

シャルロットの呟き。

「そ、それがどうかしたのかな?」

今の2人に拓也を格下に見る言葉は、禁句である。

その男子生徒の、「一体何が悪いのか?」と言いたげな態度に、2人はプッツンした。

――ゴウッ

アイナから炎が、シャルロットから氷嵐が巻き起こる。

「ひっ、ひいいいいいっ!?」

それに恐怖する男子生徒。

「覚悟は・・・」

「・・・いい?」

2人の言葉に、ガタガタと震える。

そして、

「ぎゃあああああああああああっ!!」

炎と氷の嵐に呑まれ、絶叫が響き渡った。




夜。

拓也は、五右衛門風呂に入っていた。

「ふ~、やっぱり風呂は落ち着くな」

1日の疲れを癒す拓也。

ハルケギニアに来てから、この風呂に入るときが、一番心休まるときであった。

シャルロットも加わり、拓也の気苦労は1,5倍である。

「ふい~、モテ過ぎるのがこんなに大変だとは知らなかったな~」

拓也は呟き、双月を見上げる。

「まあ、悪い気はしないんだけど・・・・」

と、呟いたとき、月に影がかかる。

「ん?」

拓也は目を凝らす。

「あれは・・・・・・」

その影は人型で、どんどん大きくなっている。

否、落下してきていた。

「なっ!?」

「きゅい~~~!」

――ドッボォォォォン

その影が、ダイレクトで風呂釜に飛び込んできた。

幾分か、湯が減ったが、浸かるには問題ない。

「な、なんだぁ?」

拓也は何が落ちてきたのかと視線をやると、

「きゅいい~!」

お湯の中から、イルククゥが勢い良く顔を出した。

水滴が飛び、双月の光を反射し、イルククゥを幻想的に見せる。

「あ・・・・」

拓也は、一瞬その姿に目を奪われた。

が、すぐに我を取り戻し、現状を把握する。

目の前にはイルククゥ。

もちろん裸である。

「どわああああああっ!!??イ、イイイ、イルククゥ!?一体何やってるんだよ!?」

腕で目を覆い隠しながら後ろを向く。

「きゅい。タクヤさまがお風呂に入ってるのが見えたから、シルフィも一緒に入ろうと思ったのね」

イルククゥはそう言う。

「ふ、普通は男と女は一緒に風呂に入るもんじゃない!」

拓也は叫ぶ。

「きゅいきゅい。シルフィは気にしないのね」

イルククゥは笑いながらそう言う。

「俺は気にするんだよ!」

顔を真っ赤にしながら拓也は叫んだ。

そのとき、

「な~にやってるのかな~」

凄まじく重い声が聞えた。

拓也は恐る恐る視線を其方に向ける。

そこには、アイナとシャルロット。

「きゅいきゅい。一緒にお風呂入ってるのね」

イルククゥはなんでもないように言う。

拓也は既に覚悟している。

「ふ~ん」

アイナとシャルロットがゆっくりと杖を掲げようとした。

だが、

「きゅい。お姉さま達も一緒に入る?」

イルククゥの一言で2人の動きがピタリと止まる。

「どういうつもり?」

シャルロットがイルククゥに問う。

「シルフィ考えてみたのね。タクヤさまは、お姉さまが好きな人。けど、シルフィもタクヤさまのことが好きなのね。これだけは、いくらお姉さまでも譲れないのね」

イルククゥはハッキリとそう言った。

「だから?」

シャルロットは、続きを促す。

「シルフィ、タクヤさまの事が好きだけど、お姉さまの事も好きなのね。お姉さまと争いたくはないのね。だから、お姉さまがタクヤさまを好きでも構わないのね。それに、あんまり争い合ってると、タクヤさまに愛想尽かされちゃうかもしれないのね」

その言葉を聞き、2人は、うっとなる。

「タクヤさまも、シルフィ達が争うより、仲良くしたほうが良いと思うのね?」

「まあ、そりゃあ、争い合うよりも仲良くしてくれたほうが良いに決まってるけど・・・・・・」

「きゅい!タクヤさまもそう言ってるのね。お姉さまも、仕方ないからおチビも、仲良くするのね」

アイナとシャルロットは互いに顔を見合わせる。

「シャルロットの使い魔もやるね」

「アイナの使い魔ほどじゃない」

互いに微笑む。

「きゅい!それならお姉さま達も一緒にお風呂入るのね」

イルククゥがそう言う。

「じゃ、じゃあ、俺はもう出るから・・・・」

そう言ったが、

「「「ダメ(なのね)!!」」」

3人揃ってそう言われた。




5分後。

「な~んでこうなるのかな・・・・・」

顔を赤くしながら、拓也はポツリと呟く。

拓也は風呂釜の端によって、外側の方を向いている。

「タクヤ、こっち向いたら?」

アイナが話しかける。

「向けるわけないだろ」

「暗いから大丈夫」

シャルロットもそう言う。

(何で3人ともこんなに大胆なんだよ!?)

拓也は心の中で叫ぶ。

拓也は外を向いていても心臓バクバクである。

それもその筈、拓也の後ろでは、アイナ、シャルロット、イルククゥがいるのだ。

もちろん裸で。

そんな美少女2人と、(外見が)美女1人と一緒に風呂に入っていると考えるだけで拓也の頭は、オーバーヒート寸前だ。

そんな時、

「タクヤ」

アイナからまた声がかけられた。

「ん?」

拓也は声だけで返事をする。

「タクヤ、改めて言うけど、私は、タクヤのことが好きだからね」

いきなりアイナからそんな事を言われ、拓也の顔が更に真っ赤になる。

「きゅいきゅい!シルフィもおチビに負けないくらいタクヤさまの事が大好きなのね」

イルククゥも便乗して言った。

「~~~~~~~~ッ!」

拓也は余りの恥ずかしさに声にならない声を漏らす。

「タクヤ・・・・・・・好き」

シャルロットは顔を真っ赤にしつつ、俯いて呟いた。

それがとどめだった。

拓也は、頭に血が上り、尚且つ長時間湯に浸かっていたので、のぼせてしまった。

拓也は気を失い、湯船の中に沈む。

3人は慌てて介抱するが、拓也はその日、目を覚ます事はなかった。






次回予告


いよいよ夏季休暇に入る魔法学院。

だが、拓也とアイナはルイズの任務の手伝いをする事になる。

トリスタニアの街ではどのような事が起こるのか?

次回!ゼロの使い魔と炎に使い魔

第二十三話 魅惑の妖精亭

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

二十二話完成。

出来はホントにビミョー。

正直、今回やりたかった事は、拓也の生身でも戦闘可能にする事。

これだけだったんですよね。

一応、フロンティアの最終回で、エレベーター押し倒してましたから、これを使おうと思ったしだいであります。

一応能力的に、力はガンダールヴより上。

スピードはガンダールヴより下です。

才人と戦ったら十中八九拓也が負けます。

話は戻って、ヴィリエ・ド・ロレーヌをかませ犬として出してしまいました。

あんまり原作キャラをいじめるのは良くないかなーとは思ったのですが、原作でもかませ犬的存在だったので、まあいいかと。

それで、もう1人出てきた男子生徒。

覚えてますか?

なんか閃いてしまって、出したんですけど、名を出される事もなく退場。

拓也のかませ犬第一号です。

最後に混浴ネタ。

いつかはやろうかな~とは思っていたのですが、話の長さが足りなくてここに入れました。

にしても、3人の中じゃイルククゥが一番目立ってるな~。

イルククゥは色々と動かしやすいんです。

次から5巻に入ります。

いつの間にやら4巻が終わったな。

それでは、次回も頑張ります。




[4371] 第二十三話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/02/01 11:54
いよいよ夏季休暇に入る魔法学院。

そのとき、拓也達は。


第二十三話 魅惑の妖精亭


夏季休暇に入った日。

アイナが帰郷の準備をしていると、ルイズが部屋に入ってきた。

「アイナ、ちょっといいかしら?」

ルイズはそう言って、手紙を取り出す。

「姫様からの手紙よ」

「女王陛下からの?」

アイナは少し驚きつつも、手紙を受け取り読み始める。

「何だって?」

拓也は尋ねる。

「うん。ルイズが、平民に扮しての情報収集任務があるから、私にも出来れば手伝って欲しいって」

「平民に扮して・・・・ねえ・・・・・」

拓也はちらりとルイズを見る。

拓也はルイズのような貴族のプライドの塊みたいな人物にそんなものが勤まるのかと疑問に思う。

「で、如何するんだ?」

拓也はアイナに尋ねる。

アイナは暫く考えるが、

「うん。ルイズ、手伝うよ」

「ホント?いいの!?」

「うん。ルイズは友達だし。それに・・・・・」

「それに?」

「あ、ううん。なんでもない」

アイナは少し焦っている。

「じゃあ、準備が出来たら校門前に来てね」

「うん」

ルイズの言葉にアイナが頷くと、ルイズは部屋を出て行った。

「で、気になったんだけど、さっき言いかけていたことは?」

「あはは・・・・・ルイズに平民の振りがまともに出来ると思う?」

アイナは苦笑しながら、そう言った。

「アイナもそう考えてたのか」

拓也も苦笑した。




街に着いた4人と1匹は、先ず、財務庁を尋ね、手形を金貨に変えた。

アイナとルイズの2人分で、新金貨で1200枚、800エキューといったところ。

1人当たり400エキューだ。

拓也と才人は、アンリエッタから貰ったお金がある。

拓也は500エキュー、才人は270エキューほど持っている。

一行はまず、仕立て屋に入り、アイナとルイズの地味な服を買い求めた。

ルイズは嫌がったが・・・・・・

マントに五芒星では、貴族とふれてまわっているようなものだ。

平民に混じっての情報収集なんか無理である。

ルイズは不満そうだった。

そんなルイズに才人は声をかける。

「そんな顔すんなよ。仕方ないだろ、そういう任務なんだから。ただでさえギルモン連れて目立ってるんだ」

才人はそう言う。

「え?」

ギルモンは如何いう事か分からず、首を傾げている。

それでもルイズの不満顔は直らない。

才人はため息を吐き、

「はあ~、少しはアイナを見習ってくれ・・・・」

そう呟く。

アイナは、

「タクヤ~、見て見て!」

平民の服を着てはしゃいでいた。

「アイナは、順応力ありすぎなのよ!」

ルイズは怒鳴った。



暫くして、

「じゃあ才人さん、ここら辺で別行動と行きましょうか」

拓也はそう言う。

元々、アイナとルイズは別々に行動する予定であった。

「あ、ああ・・・・」

返事をする才人は不安そうだ。

主にルイズの相手をするのが。

「タクヤ~、アイナ~、またね~」

ギルモンは気の抜けた挨拶をする。

「アイナ、気を付けなさいよ」

ルイズがそう言った。

「うん。ルイズもしっかりね」

アイナがそう言って、拓也とアイナは才人達と別れた。



街を歩く、拓也とアイナ。

「さてと、先ずは如何する?」

拓也はアイナに尋ねた。

「うん。先ずは、宿を探そうと思う。活動費は400エキューだから、平民用の宿なら暫くは持つと思う。お金は限られてるから、節約して使わないとね」

アイナは平民と親しいため、平民の暮らしもよく分かっている。

2人は街を回り、衛生的にも悪く無く、値段も手ごろな宿を見つけ、そこに決めた。

「後は、何処で情報を集めるかだけど・・・・」

アイナがそう呟く。

拓也は、考える。

「ゲームのRPGだったら、情報集めは酒場って相場が決まってるんだけどな」

そう言った。

「あーるぴーじー?」

「ああ、そういう種類の物語みたいなものだよ。酒場には、色々な人が集まってくるから、情報が集まりやすいってことだ」

「ふーん・・・・・・でも、その通りかも」

アイナは立ち上がる。

「酒場中心で調べてみよっか」

アイナはそう言った。

「おい。俺達の年齢で酒場に入れるのか?」

拓也はそう言う。

「大丈夫だと思うっスよ。俺、いろんな酒場見たことあるっスけど、子供が入っちゃダメなんて決まりはなかったっスから」

地下水が答えた。

「そうか。でも、そう言うところは、柄の悪そうな奴が多そうだな」

「その時は守ってね」

アイナが期待の視線で拓也を見つめる。

「俺かよ」

拓也は覇竜刀を背負い、地下水を懐にしまって立ち上がった。


しばらく2人で街を歩いていると、

道の先に人だかりが出来ていた。

「何だろ?」

アイナが気になって見に行く。

拓也も追いかけた。

すると、

「お嬢さん、人にぶつかっといて、侘びもなしかい?」

2人の傭兵らしき男が、1人の黒髪の女性に絡んでいた。

「うるさいなあ。あたしは忙しいの!大の大人がぶつかった位でがたがた言わないでよ!」

黒髪の女性は中々気が強いらしく、反抗する。

「このアマ!人が下手に出てりゃ調子乗りやがって!」

1人の男が女性を突き飛ばす。

「きゃっ!?」

その女性は倒れる。

「お前みたいな生意気な奴にはお仕置きが必要だな」

そう言って、剣を鞘ごと振り上げる。

そして、その女性目掛けて振り下ろされる。

その女性は思わず目を瞑った。

――ガッ

だが、一向に痛みはその女性を襲わない。

その女性が恐る恐る目を開けると、

「おいおっさん!やりすぎだぞ!」

拓也がその一撃を覇竜刀で受け止めていた。

「な、何だこのガキ!?」

男たちは突然現れた拓也に驚愕する。

「大丈夫ですか?」

アイナが倒された女性に駆け寄り、声をかける。

「う、うん。あたしは大丈夫だよ」

その女性はまさか助けが入るとは思ってなかったらしく少し驚いている。

むしろ、子供に助けられている事が信じられないようだ。

「おいガキ。調子乗ってると痛い目見るぜ」

傭兵の男が、剣を抜き、脅しをかけてくる。

「・・・・・・・・・・」

拓也は無言で覇竜刀を一振りした。

そして、覇竜刀を鞘に納める。

すると、

――カラァン

傭兵が抜いた剣が根元から切れて、地面に落ちた。

「「へ?」」

傭兵は間抜けな声を出す。

そして拓也は相手の懐に飛び込むと、

「はあっ!」

強烈なアッパーカットをお見舞いした。

傭兵の体は宙に浮き、傭兵の意識は飛ぶ。

そのことを見ていたもう一人は、

「ひ、ひぃぃ~!」

尻尾を巻いて逃げていった。

拓也は完全に伸びてしまっている傭兵を見て、

「やりすぎたかな?」

と、呟いた。

拓也は振り返るとアイナたちの方へ歩いていく。

「その人は大丈夫そうか?」

拓也はアイナに尋ねる。

「うん。怪我は無いってさ」

「そうか」

アイナの答えを聞いた拓也は安心する。

「じゃあ、行くかアイナ」

「うん」

拓也達はその場を立ち去ろうとする。

すると、

「ちょ、ちょっと待ってよ」

その女の人から声をかけられた。

2人は振り向く。

「「はい?」」

「助けてくれたんだからお礼くらいさせてよ」

突然の申し出。

「え?いや・・・・お構いなく」

拓也がそう言うが、

「だーめ!あたしが納得しない!あたしの家、この近くでお店出してるんだ。食事ぐらい奢れるから一緒に来てよ」

半ば強引に引っ張られる2人。

「あ、そうそう。あたしはジェシカ。あなたたちは?」

「た、拓也」

「アイナです」

突然、名乗られたため、名乗り返す拓也たち。

平民の振りをしているので、名字は言わない。

「ふーん。タクヤにアイナね。・・・・・・ねえ」

「はい?」

「あなた達って、恋人同士?」

ジェシカが突拍子も無い事を聞いてくる。

「え?あ、いや、そんなんじゃ「その通りです!!」って、おい!?」

拓也がやんわりと否定しようとしたところに、アイナが力強く肯定する。

「あ、やっぱりそうなんだ」

ジェシカは、面白そうな笑みを浮かべながら納得する。

その後、拓也の顔をじろじろと品定めするかのように見つめる。

「う~ん・・・・・・」

「な、なんですか?」

拓也は少し引きながら尋ねる。

すると、

「うん。顔は悪くない。これなら5年後には、結構良い男になるね」

突然そんな事を言う。

「はあ?」

「性格も、さっきのを見れば文句ないし。アイナ、この子は将来有望だからね。離さない方がいいよ」

「元よりそのつもりです」

ジェシカの言葉に、アイナは頷く。

出会って間もないのに何故か息の合う2人。

ジェシカの中では、拓也は完全にアイナの恋人というふうにインプットされたようだ。




2人がジェシカに連れてこられた所は、とある宿だった。

「家は宿を経営してるんだけどね、夜限定で1階にお店を出してるの」

ジェシカが説明する。

その店に入る。

「ただいま~」

ジェシカがそう言うと、

「あ~ら、おかえりなさい」

そう答えが返ってきた。

その人物に目をやった瞬間、

「「うっ!?」」

拓也とアイナの顔が引きつった。

その人物は男であった。

しかも、随分と派手な格好である。

黒髪をオイルで撫でつけ、ぴかぴかに輝かせ、大きく胸元の開いた紫のサテン地のシャツからもじゃもじゃした胸毛をのぞかせている。

鼻の下と見事に割れた顎に、小粋な髭をはやしていた。

強い香水の香りもする。

そして、内股である。

極めつけは、

「あら?後ろのお2人は?」

女言葉である。

正真正銘のオカマであった。

「そうそう。傭兵に絡まれたところをこの2人に助けてもらったんだ。だから、お礼しようと思って連れてきた」

ジェシカは、そのオカマにそう言う。

ジェシカは拓也達に向き直ると、

「あの人が、この店の店長で、あたしの父親でもあるスカロンよ。見た目はアレだけどよろしくね」

「「は、はあ・・・・・・」」

スカロンの余りのインパクトに拓也達は呆けていた。

スカロンが近付いてくる。

「あなたたちがジェシカを助けてくれたのね。ありがとう、わたくしからもお礼を言うわ」

「い、いえ。お構いなく・・・・」

スカロンはお礼を言うが、そのオカマの雰囲気に拓也は冷や汗をかきながらそう答える。

「だ~め~よ~。助けられたらお礼をするのが当たり前じゃない。ちょっと待ってて、すぐに支度するから」

そう言ってスカロンは厨房へ消えていく。

そして暫くすると、目の前に料理が並べられていた。

豪華とは言えないが、結構な量である。

「あ、あの・・・・・」

アイナが何か言いたげだったが、

「お金は気にしないで、これはお礼だから」

スカロンはそう言って、食べるように勧めてくる。

「は、はあ・・・・じゃあ、お言葉に甘えまして・・・・」

2人はそう言っていただく事にする。

料理を食べている最中、

「お味のほうはどうかしら?」

スカロンが尋ねてくる。

「あ、はい。おいしいです」

アイナが答える。

「そっちの君は?」

今度は拓也に尋ねる。

「はあ。うまいです。けど・・・・」

「けど?」

「アイナの作った料理のほうがうまいかな」

料理を食べさせてもらって、悪気は無いが何気に失礼な事を言いつつも、その言葉を聞いたアイナは真っ赤になる。

「あ~ら、アイナちゃん。料理得意なの?」

「え、ええ、まあ。料理は趣味ですから」

アイナがそう言うと、スカロンは面白そうな笑みを浮かべる。

「じゃあ、ちょっと作ってくれないかしら。どの位の腕前なのか興味があるわん」

そう言うと、スカロンはアイナを厨房へ引っ張っていく。

「え?あの?スカロンさん?」

アイナはなすすべなく連れて行かれた。

そして暫くして、アイナが作った料理がテーブルに置かれている。

スカロンとジェシカがその料理を口に運ぶ。

「「ッ!?」」

その瞬間、スカロンとジェシカの顔色が変わる。

そして、

「ト・・・・ト・・・ト・・・トレビア~~~~~~~~~ン!!」

スカロンは叫んだ。

「何これ!?おいし~!」

ジェシカも驚いている。

それもそうだろう。

魔法学院のコックは、大勢いる貴族の舌を満足させるために一流の人材が集められている。

その中でも料理長であるマルトーは、超一流の腕前を持っている。

そして、その超一流の腕前を持つマルトーに、師事を受けているアイナは一流と同等以上の腕前を持っているのだ。

その辺のコックと比べれば、正に月とスッポンである。

スカロンはアイナに詰め寄った。

「アイナちゃん!うちで働かない!?いいえ!是非お願いするわ!!お給料は弾ませるから!ね!お願いよ!」

「え?え~っと・・・・・」

アイナは拓也に視線を向ける。

「アイナが決めれば」

拓也はそう言う。

「じゃ、じゃあ、タクヤと一緒なら、期限付きですけど・・・・・」

アイナはそう言う。

すると、

「ありがと~~~!!アイナちゃんがいるなら、かのにっくき『カッフェ』なるお店から、お客を取り戻す事ができるわ!!」

スカロンは腰をくねらせながら叫んだ。

「じゃあ、俺は何をすればいいんですか?」

「決まってるじゃない。皿洗い兼用心棒よ」

拓也の問いにジェシカが答えた。

「皿洗いは分かるけど、何で用心棒?」

拓也は問う。

「うちの仕事は接客作業だからね。意外とマナー守らない客がいるんだよ。そういう客とのトラブルの時に追っ払って欲しいの」

「はあ・・・・そういう事なら」

ジェシカの説明に拓也は納得した。



時刻は夕刻。

スカロンの経営する店、『魅惑の妖精』亭では、開店の準備が進められていた。

そんな時、スカロンが外から2人+1匹を連れてきた。

その2人+1匹とは、

「才人さん?何でここに?」

才人とルイズ、ギルモンであった。

才人から話を聞くに、ルイズがルーレットで活動費を全て摩ったらしい。

しかも、活動費だけでは飽き足らず、才人が持っていたお金も全て無くなったと言う話しだ。

そうやって、路頭に迷おうとした時にスカロンから声をかけられ、働く代わりに宿を提供してくれるそうだ。

拓也は苦笑するしかなかった。



「いいこと!妖精さん達!」

スカロンが、腰をきゅっと捻って店内を見渡した。

「「「「「「「「「「はい!スカロン店長!」」」」」」」」」」

色とりどりの派手な衣装に身を包んだ女の子たちが、一斉に唱和した。

「ちがうでしょおおおおおお!!」

スカロンは腰を激しく左右に振りながら、女の子たちの唱和を否定した。

「店内では、“ミ・マドモアゼル”と呼びなさいって言ってるでしょお!」

「「「「「「「「「「はい!ミ・マドモアゼル!」」」」」」」」」」

「トレビアン」

腰をカクカクと振りながら、スカロンは嬉しそうに身震いした。

その様子を見ていた拓也と才人は吐きそうな気分になった。

しかし、店の女の子たちは慣れっこなのか、表情一つ変えない。

「さて、まずはミ・マドモアゼルから悲しいお知らせ。この『魅惑の妖精』亭は、最近売り上げが落ちています。ご存知の通り、最近東方から輸入され始めた『お茶』を出す『カッフェ』なる下賎なお店の一群が、私たちのお客を奪いつつあるの・・・・・・・・ぐすん・・・・・・」

「「「「「「「「「「泣かないで!ミ・マドモアゼル!」」」」」」」」」」

「そうね!『お茶』なんぞに負けたら、『魅惑の妖精』の文字が泣いちゃうわ!」

「「「「「「「「「「はい!ミ・マドモアゼル!」」」」」」」」」」

スカロンはテーブルの上に飛び乗った。

激しいポージング。

「魅惑の妖精たちのお約束!ア~~~~~~ンッ!」

「「「「「「「「「「ニコニコ笑顔のご接待!」」」」」」」」」」

「魅惑の妖精たちのお約束!ドゥ~~~~~~ッ!」

「「「「「「「「「「ぴかぴか店内清潔に!」」」」」」」」」」

「魅惑の妖精たちのお約束!トロワ~~~~~ッ!」

「「「「「「「「「「どさどさチップを貰うべし!」」」」」」」」」」

「トレビアン」

満足したように、スカロンは微笑んだ。

それから、腰をくねらせてポーズをとる。

「さて、妖精さん達に素敵なお知らせ。今日はなんと新しいお仲間ができます」

女の子が拍手をした。

「じゃ、紹介するわね!ルイズちゃん!いらっしゃい!」

拍手につつまれ、羞恥と怒りで顔を真っ赤にさせたルイズが現れた。

才人は、う!と息を呑んだ。

ルイズは店の髪結い師に、桃色がかったブロンドを結われ、横の髪を小さな三つ編みにしていた。

そしてきわどく短い、ホワイトのキャミソールに身を包んでいる。

上着はコルセットのように体に密着し、その体のラインを浮かび上がらせている。

背中はざっくりと開いて、熟しきらない色気を放つ。

なんとも可憐な妖精のような、その姿であった。

「ルイズちゃんは、お父さんの博打の借金のかたにサーカスに売り飛ばされそうになったんだけど、間一髪お兄ちゃんと逃げてきたの。とっても可愛いけど、とっても可哀想な子よ」

同情のため息が女の子の間から漏れる。

それは道すがら、才人がでっち上げた嘘である。

「ルイズちゃん、じゃ、お仲間になる妖精さん達にご挨拶して」

わなわなとルイズは震えている。

怒っているのだ。

激しく。

強く。

プライドの高い貴族のルイズが、あんな格好をさせられて、平民に頭を下げろと言われているのだ。

しかし、任務を果たさなくては、という責任感がルイズの怒りを抑えた。

考えてみれば、酒場は噂が集まる場所である。

情報収集にはうってつけだ。

しかも、文無しでは仕方ない。

これも任務と自分に言い聞かせ、引きつった笑みを浮かべるとルイズは一礼した。

「ルルル、ルイズです。よよよ、よろしくお願いなのです」

「はい拍手!」

スカロンが促す。

一段と大きな拍手が店内に響く。

「そして、もう1人!」

スカロンがそう言い、拍手がぴたりと止む。

「アイナちゃん!いらっしゃい!」

アイナが料理服姿で現れる。

「こっちの子は給仕じゃないけど、コックとして雇ったの。アイナちゃん、挨拶して」

スカロンにそう言われ、アイナは笑顔を浮かべると、

「アイナです。皆さん、よろしくお願いします」

そう言って一礼した。

再び拍手が沸き起こる。

「アイナちゃんは、12歳っていうとっても若い女の子だけど、料理の腕は一級品よ。暇があったら是非食べる事をお勧めするわ」

スカロンは壁にかけられた大きな時計を見つめた。

いよいよ開店の時間である。

指をぱちんと弾いた。

その音に反応して、店の隅にしつらえられた魔法細工の人形たちが、派手な音楽を演奏し始めた。

行進曲のリズムである。

スカロンは興奮した声でまくし立てた。

「さあ!開店よ!」

ばたん!と羽扉が開き、待ちかねた客たちがどっと店内に流れ込んできた。



ここ『魅惑の妖精』亭は一見ただの居酒屋だが、かわいい女の子がきわどい格好で飲み物を運んでくれるので人気のお店だった。

スカロンはルイズの美貌と可憐に目をつけ、給仕として連れてきたのである。

才人は、拓也と同じく皿洗いの仕事を与えられた。

才人も宿を提供される以上、働かないわけにはいかない。

拓也と才人は慣れない皿洗いを懸命にこなしていたが、一向に皿は無くならない。

そんな2人を見かねて、ジェシカがやってきた。

「かしてごらん」

そう言って、才人の手から皿洗い用の布を取り上げると、ごしごしと手馴れた調子で洗い始めた。

無駄の無い、スムーズな動きで、どんどん皿を片付けていく。

2人は皿洗いにもコツがあるのだという事を知った。

「片面ずつ磨いてたら時間がかかるでしょ。こうやって布で両面をはさむようにして、ぐいぐい磨くのよ」

すごい、と才人は言った。

その様子が、いかにも感心したように見えたので、女の子は微笑んだ。

「あったしー、ジェシカ。あんた、新入りの子のお兄さんなんでしょ?名前は?」

「才人。平賀才人」

「変な名前」

「ほっとけ」

ジェシカは、才人と並んで皿を洗い始めた。

ジェシカはきょろきょろと辺りを見回すと、小さな声で才人に呟いた。

「ねえねえ、ルイズと兄妹ってうそでしょ?」

「いや、正真正銘、兄、妹、なんだけど」

ぎこちない声で才人は言った。

そのやり取りを聞いたとき、流石に無理があると拓也は思った。

「髪の色も、目の色も、顔の形も、全く違うじゃない。信じる人なんていないわよ」

才人は言葉につまった。

「でも、別にいいんだよ。ここにいる子は皆訳有りなんだから。他人の過去を詮索するやつなんかいないよ。安心して」

「そ、そっか・・・・・」

ジェシカはぐいっと才人の目を覗き込んだ。

一瞬、ドキッとする。

「ねえねえ、でもあたしにだけ、こっそり教えて?ほんとはどういう関係なの?どっから逃げて来たの?」

ジェシカは才人みたいに好奇心の塊らしい。

わくわくした表情で才人を見つめている。

だが、本当のことを言うわけにはいかない才人は、あっち行けというように手を振った。

「こんなとこで油売ってていいのかよ。君には君の仕事があるだろ。ちゃんとワインやらエール酒やら運んで来い。スカロン店長に怒られるぞ」

「いいのよあたしは」

「なんで?」

「スカロンの娘だもん」

才人は皿を落っことした。

がちゃーん、と音を立て、皿は粉々になる。

拓也は落とさなかったが、事前に聞いていなければ才人と同じく皿を割っていた事だろう。

「あー!何割ってるのよ!お給料から差っ引くからね!」

「娘?」

「そうよ」

才人は呆然とした。

「ほら!おしゃべりだけじゃなくって手も動かす!お店が忙しくなるのはこれからだからね!」



拓也と才人も苦労していたが、ルイズはもっと大変であった。

ルイズは、うまく接客しなければならないのだが、長年培ってきた貴族のプライドがそれを許さない。

結果的に客を怒らせてばかりである。

因みに厨房でも大変な事になっている。

何せ、次から次へと注文が入ってくるのだ。

本来この酒場は、酒が主であって、料理はオマケみたいなものである。

しかし、元から働いていたコックに聞いても、今日はいつもの3倍以上の注文数だ。

それには、訳があった。

スカロンは店の前の看板にこんな事を書いていたのだ。

『超一流のシェフを、期限付きで雇いました。貴族の舌も満足させる味が、今だけいつもの値段で食べられます』

この看板につられ、料理を注文する客が殺到。

実際に一流の味なので、更に注文が増えていった。

因みに空腹に耐え切れず、ギルモンが完成した料理をいくつか食べてしまったりしていたので、それも忙しくなる原因の一つだったりする。

そんな中、1人の給仕の女の子がワインを運んでいたところ、

「きゃっ!」

突如足をかけられ、転んでしまった。

当然ワインは宙を飛び、目の前の傭兵と思わしき男性にかかる。

「ねえちゃん。どうしてくれるんだこれ?」

その傭兵は給仕の女の子に詰め寄る。

「も、申し訳ありませんお客様!」

その女の子は必死に謝る。

「申し訳ありませんで済むか!許して欲しかったら、俺にサービスしてくれよ」

その顔はニヤついており、足を引っ掛けた男も同じくニヤついていた。

「ちょっと!何言ってるのさ!」

ジェシカがその男に詰め寄った。

「あたしは見たよ!そこの男がこの子の足を引っ掛けるところをね!」

ジェシカが足を引っ掛けた男を指差して言った。

どうやらこの2人、元からグルであり、給仕の女の子を陥れるタイミングを見計らっていたようだ。

「そんな証拠がどこにある?俺がその給仕のドジでワインをかぶった事は事実だぜ」

傭兵の男はワインで濡れた服を見せ付けるように言った。

「くっ・・・・この」

ジェシカが怒鳴ろうとした時、店の中に風が吹いた。

次の瞬間、傭兵の男が吹っ飛んだ。

吹っ飛ばされた男は、丁度店の出入り口に向かって飛び、店の外まで吹っ飛んだ。

傭兵は完全に気絶している。

ジェシカが何事かと振り向くと、洗い場で地下水を右手に握り、その右手を前に突き出した拓也がいた。

傭兵を吹き飛ばしたのは、拓也が『エア・ハンマー』を唱えたからだ。

呆然とする足を引っ掛けた男。

拓也はその男の前まで行くと、

「お客さん。こういう所で、他の人の迷惑にならないようにするのは子供でも知ってる常識だぞ」

そう言った。

「このガキャ!!」

その男がキレて、拓也に掴み掛かった。

だが、拓也は瞬時に肉体をスピリットと同調させ、身体能力を上げる。

男の腕を逆に掴み、片手で男の体が宙に浮く。

「は?」

男はわけも分からず拓也の頭上を通過し、床に叩き付けられた。

「ぎゃっ!?」

男はうめき声を上げる。

男が何とか起き上がった所で、覇竜刀の切っ先が突きつけられた。

男は冷や汗を流しながら拓也を見る。

「言いたいことは?」

拓也が問う。

「す、すいませんでしたぁ!!」

男は踵を返し、店から一刻も早く逃げ出そうとした。

「ちょっと待って!」

その男をジェシカが呼び止める。

男は、ギギギとブリキの人形のような動きで首を回し、ジェシカをみる。

その顔は、恐怖でいっぱいだ。

そんな男にジェシカは、

「お代は払っていきなよ」

と、そう告げた。

男はお金の入った小袋を取り出すと、そのまま置き、一目散に逃げていった。

静まり返った店内。

そして、次の瞬間、拍手が沸き起こった。

女の子たちが拓也を囲う。

「君、凄いね!」

「カッコよかったよ!」

「小さいのに凄いね!」

「さっき使ったのって魔法じゃない?君、貴族なの!?」

などなど、拓也は女の子に囲まれ、困惑する。

「いや、あの・・・・・ちょっと・・・・」

その時、

――ヒュカッ   ビィィィィン

包丁が拓也の顔のすぐ前を通過し、店の壁に突き刺さった。

拓也が、包丁が飛んできた方を向くと、厨房から黒いオーラが立ち上り、アイナがジト眼で睨んでいる。

拓也はでっかい冷や汗を流した。

すると、ジェシカがパンパンと手を叩く。

「ほらほら皆。仕事に戻って。タクヤはアイナの恋人なんだから、いくら可愛いからって手を出しちゃダメよ」

拓也は可愛いと言われ、傷ついた。(恋人呼ばわりはこの際諦めた)

とりあえず、魔法を使った事は、地下水のお陰であるという事を説明し、拓也自身も単なる平民であると説明した。

女の子たちは、それぞれの仕事に戻り、拓也も皿洗いに戻る。

この後は、ルイズが客を怒らせてばかりなのを除いて、何事もなく進んだ。




「えー、では、お疲れ様!」

店が終わったのは、空が白み始めた朝方であった。

拓也、アイナ、才人、ルイズはふらふらの姿で立っていた。

元々、貴族であり体力も無いルイズを始めとして、アイナはなれた料理とはいえ、作る量が桁違いであり、拓也も徹夜と夜更かしに慣れていないために。

才人は慣れない仕事でグダグダであった。

「みんな、一生懸命働いてくれたわね。今月は色を付けといたわ」

歓声が上がり、店で働く女の子や厨房のコックたちに、スカロンは給金を配り始めた。

どうやら今日は給金日であるらしい。

「はい、ルイズちゃん、サイト君、タクヤ君、アイナちゃん」

スカロンは、4人にも給金袋を渡していく。

ところが、アイナの袋には1日だけしか働いてないにしてはそれなりの量のお金が入っていたのだが、拓也の袋は空っぽ。

才人とルイズの袋にはなにやら一枚の紙切れが入っていた。

「なんですかこれ?」

才人が尋ねる。

スカロンの顔から笑みが消えた。

「請求書よ。サイト君、何枚お皿割ったの?ルイズちゃん、何人のお客さんを怒らせたの?そしてサイト君のペットのギルモンちゃんが一体どれだけの料理をつまみ食いしたと思ってるの?」

ルイズと才人は顔を見合わせ、ため息をついた。

「タクヤ君は、サイト君と同じくお皿何枚か割ってるけど、迷惑なお客を追っ払ってくれた事だし、プラスマイナスゼロって所ね」

拓也は給金袋が、空だった事に納得がいき、苦笑した。

「いいのよ。初めは誰でも失敗するわ。これから一生懸命働いて返してね!」




店から出た拓也とアイナは、部屋をとった宿へ向かう。

その道中、拓也は欠伸をしながら言った。

「ふあ~~あ・・・・疲れたな」

「うん。お金を稼ぐって、大変だね」

拓也の言葉に頷くアイナだが、その顔は笑っている。

「何でそんなに嬉しそうなんだよ?」

拓也は尋ねる。

「確かに大変だったけどさ、何か達成感があるの。働いて、お金を貰う。これが平民の当たり前だとしても、私には無縁だったから。やり遂げたって気持ちがあって、なんとなく嬉しいの」

「そっか」

その日は疲れがたまっていたので、宿に着いた早々、眠りについた。




それから数日後。

情報収集しながら仕事をこなす4人。

拓也は時折現れる迷惑な客を『エア・ハンマー』でぶっ飛ばしている。

そんな中、給仕の女の子たちが客から貰ったチップの量を競う、『チップレース』が行われる事になった。

そのチップレースの優勝者には、この店の家宝である『魅惑の妖精のビスチェ』の一日着用権が与えられる。

まあ、拓也、才人はもとより、コックであるアイナも関係は無い。

ルイズは何故か燃えていたが。

それで、あっという間にチップレース最終日。

ルイズは最初よりはマシになったが、やはりお客を怒らせている。

当然チップレースもダントツのビリ。

因みにチップの量は銅貨が数枚である。



最終日なので女の子たちが張り切ってチップの枚数を競い合っていると、羽扉が開き、新たな客の一群が現れた。

先頭は、貴族と思わしきマントを身に付けた中年の男性。

でっぷりと肥え太り、額には薄くなった髪がのっぺりと張り付いている。

供のものも下級の貴族らしい。

腰にレイピアのような杖を下げた、軍人らしい風体の貴族も交じっている。

その貴族が入ってくると、店内は静まり返った。

スカロンがもみ手をせんばかりの勢いで、新来の客に駆け寄る。

「これはこれは、チュレンヌさま。ようこそ『魅惑の妖精』亭へ・・・・・・」

チュレンヌと呼ばれた貴族は、鯰のような口ひげをひねりあげると後ろにのけぞった。

「ふむ。おっほん!店は流行っているようだな?店長」

「いえいえ、とんでもない!今日は偶々と申すもので。いつもは閑古鳥が鳴くばかり。明日にでも首をつる許可をいただきに、寺院へ参ろうかと娘と相談していた次第でして。はい」

「なに、今日は仕事ではない。客として参ったのだ。そのような言い訳などせんでもいい」

すまなそうに、スカロンが言葉を続けた。

「お言葉ですが、チュレンヌさま、本日はほれこのように、満席となっておりまして・・・・・・」

「わたしはそのようには見えないが?」

チュレンヌがそううそぶくと、取り巻きの貴族が杖を引き抜いた。

ぴかぴかと光る貴族の杖に怯えた客たちは酔いがさめて立ち上がり、一目散に入り口から消えていく。

店は一気にがらんとしてしまった。

「どうやら、閑古鳥と言うのはホントのようだな」

ふぉふぉふぉ、と腹を揺らしてチュレンヌの一行は真ん中の席についた。

才人が気付くと、いつの間にかジェシカが隣にやってきて、悔しそうにチュレンヌを見つめている。

「あいつ何者?」

才人が尋ねると、ジェシカが忌々しそうに説明した。

「この辺の徴税官をつとめているチュレンヌよ。ああやって管轄区域のお店にやってきては、私たちにたかるの。嫌な奴!銅貨一枚払った事ないんだから!」

「そうなのか・・・・・」

「貴族だからっていばっちゃって!あいつの機嫌を損ねたら、とんでもない税金をかけられてお店がつぶれちゃうから、皆言う事を聞いているの」

そこまで聞いて、チュレンヌに全力の『エア・ハンマー』を撃ち込もうとした拓也の動きが止まる。

流石に店がつぶれると聞いて、感情のままぶっ放すわけには行かなかった。

だれも酌にやってこないので、チュレンヌはイラついたらしい。

そのうちに難癖をつけ始めた。

「おや!だいぶこの店は儲かっているようだな!このワインは、ゴーニュの古酒じゃないかね?そこの娘の着ている服は、ガリアの仕立てだ!どうやら今年の課税率を見直さねばならないようだな!」

取り巻きの貴族たちも、そうですな!とか、ふむ!とか頷きながら、チュレンヌの言葉に同意した。

「女王陛下の徴税官に酌をする娘はおらんのか!この店はそれが売りなんじゃにのかね!」

チュレンヌがわめく。

しかし、店の女の子は誰も近寄らない。

「触るだけ触ってチップ一枚よこさないあんたに、誰が酌なんかするもんですか」

ジェシカは憎憎しげに呟いたその時、白いキャミソールに身を包んだ、小さな影がワインを乗っけたお盆を掲げて近付いた。

ルイズである。

彼女は欠点が多いが、その一つに『空気が読めない』というものがあった。

『頑張って給仕を務める』ことで頭がいっぱいなので、客と店の雰囲気にまで気が回らないのである。

「なんだ?お前は?」

チュレンヌは胡散臭げにルイズを見つめる。

ルイズはにっこりと微笑むと、ワインをチュレンヌの前に置いた。

「あ、あのバカ・・・・・・」

その様子を心配そうに見つめ、才人が呆れ声で呟く。

「お客様は・・・・・・素敵ですわね」

まるでマニュアルどおりの動きで、空気が読めないルイズはお愛想を言った。

しかし、ルイズはチュレンヌの好みではないようだ。

「なんだ!この店は子供を使っているのか!」

ルイズは動じずに、キャミソールを持って一礼する。

ルイズのお愛想はそれしかないのである。

「ほら、いったいった!子供に用は無い。去ね!」

ルイズのこめかみがピクつくのが才人には見えた。

怒っているらしい。

才人はルイズがキレない事を祈り続けた。

「何だ、よく見ると子供では無いな・・・・・・ただの胸の小さい娘か」

ルイズの顔が蒼白になる。

足が、小刻みに震え始めた。

チュレンヌの顔が、好色そうに歪んだ。

それから、ルイズの薄い胸に手を伸ばす。

「どれ、このチュレンヌさまが大きさを確かめてやろうじゃないか」

その瞬間、チュレンヌの顔に、足の裏が炸裂した。

椅子をひっくり返して、チュレンヌは後ろに転がった。

「な、貴様!」

一斉に周りの貴族たちが杖を引き抜く。

その前に、怒りで肩を震わせた才人の姿があった。

「サイト・・・・・・・」

ルイズは自分を守るように立っている才人の背を見つめた。

その背を見つめていると、怒りに震える胸に熱いものが満ちていく。

「・・・・・おいおっさん、いい加減にしろ」

「き、貴様・・・・よくも貴族の顔に・・・・・」

「貴族がどうした!?ルイズに触っていいのは俺だけだ!」

才人が怒鳴った。

ルイズの頬が思わず染まる。

「この者達を捕らえろ!縛り首にしてやる!」

チュレンヌの手下の貴族たちが才人の周りを取り囲む。

才人はゆっくりと周りを見渡した。

「誰が誰を捕まえるって?あいにく俺は・・・・・」

「あいにく、なんだ?」

「幸か不幸か、伝説の力なんていうもんを貰っちまった・・・・・」

そううそぶき、背中に手を回す。

そして、そこにあるはずのデルフリンガーがないことに気付く。

「え?」

才人は困ったように、頭をかいた。

「そうでした・・・・伝説、屋根裏部屋においてきたんだっけ・・・・・・なにせ皿洗いすんのに邪魔だから・・・・・・」

そんな才人を見て、拓也はため息をついた。

「肝心なところで締まらないですね、才人さん」

貴族たちが杖を振りかぶる。

「タ、タンマ!」

しかしタンマは無い。

激昂した貴族たちは呪文を唱えた。

小型のロープが竜巻のように現れ、才人の体を包み込もうとした瞬間、

「ロックブレイカー!!」

ギルモンが飛び出し、その鋭い爪でロープを切り裂いた。

「ギルモン!」

「サイト!大丈夫!?」

ギルモンは才人を守るように立ちはだかる。

「な、何だコイツは!?」

「しかも喋っている!?韻竜か!?」

周りの貴族は、見たことも無い生物であるギルモンに驚く。

「才人さん」

拓也が才人に声をかけた。

「これ、貸します」

拓也は覇竜刀を才人の前に投げる。

床に向かって投げられたそれは、切れ味が良過ぎて根元まで突き刺さる。

「わりいな拓也」

才人は覇竜刀を引き抜いた。

覇竜刀が才人に合った大きさに変わる。

その瞬間、才人は驚く。

「うおっ!?大きくなった!?しかもメチャクチャ軽い!拓也、なんだよこの刀!?メチャクチャすげえじゃねえか!」

「まあ、それは置いといて、あちらさん、完全に頭にきてますよ」

才人が貴族たちのほうに目をやると、怒りから顔を真っ赤にさせた貴族たちがいた。

再び杖を振り上げる。

だが、才人は余裕の笑みを浮かべると、ガンダールヴの能力を遺憾なく発揮させた。

杖が振り下ろされる前に、才人は駆ける。

――ヒュッ  ズバッ  ズバズバッ  ズバッ

貴族たちとすれ違うと同時に閃光が走る。

貴族全員とすれ違い終わると、

「フッ・・・・・またつまらぬ物を斬ってしまった」

どこかで聞いたような決め台詞を吐く。

その瞬間、チュレンヌを含め、貴族全員の服と杖がバラバラに切り裂かれていた。

「ひぃっ!?」

チュレンヌは青ざめる。

目の前には覇竜刀を構えた才人と眼光を鋭く光らせたギルモン。

「き、貴様・・・・・貴族にこんなことをしてただで済むと思うなよ!貴様とあそこの洗濯板娘もろとも、絞首台に送ってやるぞ!」

チュレンヌはそういった事をほざいた。

その瞬間、真っ白の閃光が、店内に瞬き、裸となった貴族たちを入り口付近まで吹き飛ばす。

ゆっくりと閃光が途切れたとき、テーブルの上に仁王立ちになったルイズが現れた。

ルイズの『虚無』の呪文、エクスプロージョンが炸裂したのである。

全身が怒りに震え、手には愛用の杖が光っている。

ルイズはそれを万一に備え、太ももに結び付けて隠していたのだ。

わけが分からず、貴族たちは慌てふためく。

ルイズは小さな声で呟いた。

「・・・・・・洗濯板はないんじゃないの?」

せっかくの幸せな気分が、その一言で吹っ飛んだ。

「ひ!ひぃいいいいいい!」

伝説の迫力が・・・・・・『虚無』の迫力が貴族たちをビビらせた。

「なんでそこまで言われなくちゃならないの?この私がお酌してあげたのに、洗濯板はあんまりじゃないの?覚悟しなさいよね!」

貴族たちは我先へと逃げ出した。

ルイズはその場から動かずに杖を振る。

入り口の前の地面が『エクスプロージョン』で消滅し、大きな穴ができた。

貴族たちは仲良くそこに落っこちる。

穴に落っこちた貴族たちは、折り重なって上を見上げた。

のそりとルイズが顔を見せたので、更に震え上がった。

「な、何者?あなた様は何者で!何処の高名な使い手のお武家様で!」

チュレンヌはがたがた震えながら、ルイズに尋ねた。

自分たちを吹き飛ばしたあんな閃光、見たことも聞いた事もない。

ルイズは答えずに、ポケットからアンリエッタの許可証を取り出してチュレンヌの顔に突きつけた。

「・・・・・へへ、陛下の許可証?」

「私は女王陛下の女官で、由緒正しい家柄を誇るやんごとない家系の三女よ。アンタみたいなどこぞの木っ端役人に名乗る名前はないわ」

「し、し、失礼しました」

チュレンヌは肥えた体を折り曲げて、穴の中で無理やり平伏した。

押された他の貴族がうめきをあげる。

ルイズは立ち上がった。

「許して!命だけは!」

チュレンヌは慌てて財布を取り出そうとするが、既に全裸である事に気付く。

「財布に入っているお金は全て差し上げます。わたくしたちの財布を全て差し上げます。どうかそれで!お目をおつぶりくださいませ!お願いでございます」

ルイズは財布を見もせず言い放つ。

「今日見たこと、聞いたこと、全部忘れなさい。じゃないと命がいくつあっても足りないわよ」

「はいっ!誓って!陛下と始祖の御前に誓いまして、今日のことは誰にも口外いたしません!」

そうわめきながら、穴から転がるように抜け出し、

チュレンヌたちは夜の闇へと消えていく。

全裸で。

颯爽とルイズは店内に戻った。

割れんばかりの拍手がルイズを襲う。

「すごいわ!ルイズちゃん!」

「あのチュレンヌの顔ったらなかったわ!」

「胸がすっとしたわ!最高!」

スカロンが、ジェシカが、店の女の子たちが。

ルイズを一斉に取り巻いた。

ルイズはそこで我に返り、やっちゃったわ、と恥ずかしげに俯いた。

洗濯板といわれてキレてしまった。

才人が寄ってきて、ルイズに呟く。

「・・・・・・・バカ!魔法使っちゃだめだろが!」

「う・・・・・だって・・・・・・」

「もう・・・・はぁ、全く・・・・・・一からやり直しじゃねえか・・・・・」

スカロンが、ルイズと才人の肩を叩く。

「いいのよ」

「へ?」

「ルイズちゃんが貴族なんて、前から分かってたわ」

「ど、どうして?」

ルイズが呆然として尋ねる。

「だって、ねえ、そんなの・・・・・・」

スカロンの言葉を、店の女の子たちが引き取る。

「態度や仕草を見ればバレバレじゃない!」

う、そうだったんだ、とルイズはしょぼくれた。

「こちとら、何年酒場やってると思ってるの?人を見る目だけは一流よ。でも、なにか事情があるんでしょ?安心しなさい。ここには仲間の過去の秘密をバラす子なんていないんだから」

女の子たちは一斉に頷く。

「ここにいる子は、それなりにワケあり。だから安心して・・・・・・これからもチップ稼いでね?」

ルイズは頷く。

才人もホッとした。

すると、拓也が思いついたように切り出した。

「ルイズが貴族って分かってたってことは、もしかしてアイナの事も?」

「え?アイナちゃんがどうしたの?」

スカロンが聞いてくる。

「いや、だから、アイナも貴族だってことも・・・・・」

静寂に包まれる店内。

そして次の瞬間、

「「「「「「「「「「「「えぇええええええええええッ!!??」」」」」」」」」」」」

ルイズと才人以外の驚愕の声が響き渡った。

どうやら、アイナが貴族という事は誰一人として気付いていなかったようである。

「アイナちゃんも貴族だったの!?」

「そんな!あれだけ美味しい料理が作れるのに!?」

「分かるわけ無いわよ!あんなに平民に馴染んでるんだもん!」

「貴族特有の雰囲気が全く無いし!」

などなど、驚きの声が飛んでいる。

拓也は態々秘密だった事をばらしてしまったのだ。

しばらく驚きの声が絶えなかったが、スカロンが手をパチンと叩いた。

どよめきが消え、店の女の子たちはスカロンに集中する。

スカロンは楽しげな声で、

「はい!お客さんも全員帰っちゃったので、チップレースの結果を発表しまーす!」

歓声が沸く。

「ま、数えるまでもないわよね!」

スカロンは床に転がったチュレンヌたちの財布を見て言った。

ルイズは、はっとしたようにその財布を見つめた。

中にはずっしりと、金貨がつまっている。

「え?これ・・・・・」

「チップでしょ?」

スカロンは片目をつぶって言った。

それからルイズの手を握って掲げる。

「優勝!ルイズちゃん!」

店内に拍手が鳴り響いた。



優勝したルイズだが、『魅惑の妖精のビスチェ』を着て、店に出る事はなかった。

その姿は、才人だけに見せられたそうだ。





次回予告


裏切り者をあぶりだす為に、逃げ出したアンリエッタとウェールズの護衛をすることになった才人。

だが、そこに偶然にも襲い掛かる完全体デジモン。

グラウモンと共に才人は立ち向かうが、完全体の圧倒的パワーの前になす術も無い。

だが、才人の諦めない心が、グラウモンを更なる進化へと導く!

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第二十四話 完全体進化!メガログラウモン!

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

二十三話完成。

う~ん・・・・・・出来はそこそこかな。

にしても、ギルモンが目立たない。

色々と指摘を受けているのですが、やはりこういう所で自分の文才の無さが窺えます。

流れの大きな変化は無いけど、拓也達がルイズの任務についていく理由が強引です。

一応、拓也とアイナもアンリエッタに信頼されているという事で。

ご都合主義ですな。

まあ、次回はいよいよグラウモンが進化します。

それにしても相手どうしよう?

何かリクエストあります?

後々使う予定の無いデジモンであればリクエストに応えたいと思っております。

もちろん完全体で。

では、次回も頑張ります。



[4371] 第二十四話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/02/08 22:23
情報収集の任務で『魅惑の妖精』亭で働く拓也達。

その頃、学院では・・・・


第二十四話 完全体進化!メガログラウモン!


さて、ここはトリステイン魔法学院。

夏季休暇が始まったばかりの寮塔では、2人の貴族が退屈を持て余していた。

キュルケとシャルロットであった。

キュルケは、あられもない格好で、シャルロットの部屋のベッドでぐったりと横たわっている。

キュルケは熱さを好んだが、暑さは苦手であった。

「ねえシャルロット。お願いよ。さっきみたいに風を吹かせてちょうだい」

シャルロットは、本を読みながら杖を振った。

シャルロットが唱えた風の呪文の中には、氷の粒が混じっていた。

そんな雪風が、キュルケの体を冷やしていく。

「あー、気持ちいい・・・・・」

キュルケはふとシャルロットを見つめる。

本を読むその顔は何処となく嬉しそうに見える。

「シャルロット。夏季休暇に入ったとき、一度実家へ戻ったわね。そのときに何かいいことでもあったの?」

キュルケは尋ねた。

シャルロットは微笑み、

「うん。母様が、おかえりって言ってくれた」

そう答えた。

心を狂わされていた母親を見続けていたシャルロットにとって、そんなごく当たり前のことでも、うれしい事なのだ。

「そう。良かったじゃない」

「うん」

キュルケは身を起こすと、

「ホントにもう、こんな蒸し風呂みたいな寮に残ってるのなんて、あたしたちぐらいね」

余りの暑さにそうグチた。

その時だった。

階下から悲鳴が聞えてきた。

キュルケは杖を握って、部屋を飛び出した。

タバサもその後を追った。



階下の部屋にいたのはギーシュとモンモランシーだった。

多少のイザコザがあったが、何故か気分転換で街に出かける事になった。

4人は、シルフィードでトリスタニアの城下町へ向かった。



トリスタニアの城下町にやってきた一行は、ブルドンネ街から一本入った通りを歩く。

と、その時、

「おね~~~さま~~~~!」

人間形態に変身したシルフィード・・・・・もとい、イルククゥが一行を追いかけてきた。

因みにシルフィード、いつでも変身できるように服を持ち歩いて(飛んで?)たりする。

「あら、イルククゥじゃない」

キュルケが言った。

「きゅい!お姉さま、イルククゥも一緒に行くのね!」

イルククゥがシャルロットに言う。

「誰?」

モンモランシーが疑問を口にした。

「僕は、学院でタクヤと一緒にいるのを、何度か見かけたことがあるけど・・・・・」

ギーシュが呟く。

「え~と、この子は「きゅいきゅい!私はイルククゥなのね。シャルロットお姉さまの妹なのね」」

キュルケの言葉を遮って、イルククゥが言った。

「シャルロットって誰よ?」

モンモランシーが尋ねる。

「私の事」

シャルロットが答える。

「「え?」」

ギーシュとモンモランシーが驚いた顔をする。

「シャルロット・エレーヌ・オルレアン。それが私の名前」

「タバサっていうのは、シャルロットの偽名よ。この子、ちょっとワケありでね」

シャルロットの言葉を、キュルケが補足する。

「そ、そうだったのか。じゃあ、これからは君の事をなんと呼べば良いんだい?」

ギーシュが尋ねる。

「どちらでも良い。呼びやすいほうで呼んで」

「わかった。じゃあ、僕は今までどおりタバサと呼ばせてもらうよ」

「私もね」

2人の答えにシャルロットは頷く。

「所で、其方の女性は?先程の言い方だと、タバサの妹だっていってたけど」

ギーシュが尋ねる。

「そういう事にしといて」

「どう見ても、逆にしか思えないんだけど・・・・・」

モンモランシーはそう呟いたが、余り気にしないことにした。

時刻は、夕方に差しかかったばかり。

うっすらと暮れゆく街に、魔法の明かりを灯した街灯が彩りを添えていく。

ブルドンネ街がトリスタニアの表の顔なら、このチクトンネ街は裏の顔である。

いかがわしい酒場や賭博場なんかが並んでいる。

モンモランシーは眉をひそめたが、キュルケは気にした風もなく歩き続ける。

どの店にしようか、と、一行は相談しながら歩く。

知っている店はないの?とキュルケはギーシュに尋ねる。

ギーシュはにやっと笑って、

「そういや、噂の店があってね。一度、行ってみたいとおもってたんだが・・・・・」

「変な店じゃないでしょうね?」

その声の調子に、色っぽい何かを嗅ぎつけたモンモランシーが釘をさす。

ギーシュは首を振った。

「全然変な店じゃないよ!」

「どういう店なの?」

ギーシュは黙ってしまった。

「やっぱり変な店じゃないのよぉ~~~~~~!言って御覧なさいよぉ~~~~~~~!」

モンモランシーがその首を絞める。

「ち、違うんだ!女の子が、その、可愛らしい格好でお酒を運んで・・・・・・ぐえ!」

「変じゃない!何処が違うのよ!」

「面白そうじゃない。そこ」

キュルケが興味をひかれたらしく、ギーシュを促した。

「そこに行ってみましょうよ。ありきたりの店じゃつまんないし」

「なんですってぇ!」

モンモランシーが喚く。

「まったくどうしてトリステインの女はこう、そろいもそろって自分に自信がないのかしら?嫌になっちゃう」

キュルケが小ばかにするような声で言ったので、モンモランシーはいきり立った。

「ふん!下々の女に酌なんかされたらお酒がまずくなるじゃないの!」

しかし、キュルケに促されたギーシュが跳ねるような調子で歩き出したので、仕方なくモンモランシーは後を追いかけた。

「ちょっと!待ちなさいよ!こんなとこに置いていかないで!」




「いらっしゃいませ~~~~~~!」

店に入ると、背の高い、ぴったりとした革の胴着を身に着けた男が出迎えた。

「あら!こちらはお初?しかも貴族のお嬢さん!まあ綺麗!なんてトレビアン!店の女の子が霞んじゃうわ!私は店長のスカロン。今日はぜひとも楽しんでってくださいまし!」

そう言って身をくねらせて一礼。

キモい店長だが、とりあえず綺麗と誉められたのでモンモランシーの機嫌がよくなった。

髪をかきあげ、

「お店で一番綺麗な席に案内して頂戴」

と、すましていった。

「当店はどのお店も、陛下の別荘並みにピカピカにしておりますわ」

スカロンは一行を席へと案内する。

一行が席につくと、桃色がかったブロンドの少女が注文を取りに来た。

慌てた調子で、咄嗟にお盆で顔を隠す。

全身が小刻みに震え始めた。

「何で君は顔を隠すんだね?」

ギーシュは不満げに問いかけた。

その少女は答えずに、身振り手振りで「注文を言え」と示す。

その少女の髪の色と身長で、キュルケがすぐに何かに気付き、この夏初めて見せる特大の笑みを浮かべた。

「このお店のお勧めは何?」

お盆で顔を隠した少女は、隣のテーブルを指差す。

そこには蜂蜜を塗って炙った雛鳥をパイ皮につつんだ料理が並んでいた。

「じゃあ、この店のお勧めのお酒は?」

少女の傍のテーブルで給仕をしている女の子が持った、ゴーニュの古酒を指差す。

そこでキュルケは、驚いた声で言った。

「あ、使い魔さんが女の子口説いてる」

少女はお盆から顔を出し、きっ!とした目つきでキョロキョロと辺りを見回した。

キュルケを除く一行は現れた顔を見て、大声を上げた。

「「「「ルイズ!?」」」」

キュルケがにやにやと笑っている事に気付いたルイズは、自分が騙されたことに気付き、再びお盆で顔を隠した。

「手遅れよ。ラ・ヴァリエール」

「私、ルイズじゃないわ」

震える声でルイズが言う。

キュルケはその手を引っ張り、テーブルの上にルイズを横たえる。

キュルケが右手を、ギーシュが左手を掴む。

シャルロットが右足を、モンモランシーが左足を掴んだ。

動けないルイズは横を向いて、わなわな震えながら言った。

「ルイズじゃないわ。離して」

「何してるの?あなた」

ルイズは答えない。

ぱちん!とキュルケが指を弾くと、シャルロットが呪文を唱えた。

風の力で空気がルイズの体に絡みつき、操った。

ルイズはテーブルの上に正座させられた。

「な、なにすんのよ!」

再びキュルケは指を弾いた。

無言でシャルロットは杖を振る。

ルイズを操る空気の塊は、見えない指となってルイズの体をくすぐり始めた。

「あははははは!やめて!くすぐったい!やめてってば!」

「どんな事情があって、ここで給仕なんかしてるの?」

「言うもんですか!あはははははは!」

空気の指が散々にルイズをくすぐりまくる。

それでもルイズは口を割らない。

その内にぐったりとしてしまった。

「ちぇ、口の硬い子ね。最近あなたって、隠し事がほんとに多いわね」

「わかったら・・・・・・放っておきなさいよね・・・・・」

「そうするわ」

キュルケはつまらなさそうに、メニューを取り上げた。

「早く注文言いなさいよね」

「これ」

メニューを指差して、キュルケは言った。

「これじゃわかんないわよ」

「ここに書いてあるの、とりあえず全部」

「は?」

きょとんとして、ルイズはキュルケを見つめる。

「いいから全部持ってきなさいな」

「お金持ちね・・・・・はぁ、うらやましいわ」

ため息混じりに呟くルイズに、キュルケが言った。

「あら?あなたのツケに決まってるじゃないの。ご好意はありがたくお受けしますわ。ラ・ヴァリエールさん」

「はぁ?寝言言わないでよ!なんであんたに奢んなくちゃならないのよ!」

「学院の皆に、ここで給仕やってること言うわよ」

ルイズの口が、あんぐりと開いた。

「言ったら・・・・・・こここ、殺すわよ」

「あらいやだ。あたし殺されたくないから、早いとこ全部持ってきてね」

ルイズはしょぼんと肩を落とすと、いろんなものにぶつかりながらよたよたと厨房へと消えていった。

ギーシュが首を振りながら、

「君はほんとに意地の悪い女だな」

と言えば、キュルケは嬉しそうに、

「勘違いしないでいただきたいわ。あたしあの子嫌いなの。基本的には敵よ敵」

そう言った。

シャルロットは、先程の魔法で乱れた髪とマントを整えていた。

「あら、シャルロット。あなた見栄えを気にするようになったの?嬉しい変化ね。やっぱり恋をすると変わるわね」

シャルロットを見たキュルケが嬉しそうに言った。

シャルロットは頬を少し染めて俯いた。

「ちょっとちょっと!タバサが恋したってホント?」

モンモランシーが興味心身といった顔で尋ねる。

「ええ、ほんとよ。シャルロットのこの反応見れば分かるじゃない」

キュルケがシャルロットの頭を撫でながら言う。

「それで相手は!?」

モンモランシーが尋ねたとき、店に新たな客が現れた。

見た目麗しい貴族たちであった。

広いつばの羽根つき帽子を粋に被り、マントの裾から剣状の杖が覗く。

王軍の仕官たちであるようだった。

きな臭い昨今、軍事訓練に明け暮れていたのだろう。

陽気に騒ぎながら入ってくると、席について辺りを眺め始めた。

口々に店の女の子について品評を始める。

いろんな女の子が入れ替わり立ち代り酌をしたが、どうにもお気に召さない様子であった。

1人の士官がキュルケに気付き、目配せをした。

「あそこに貴族の子がいるじゃないか!僕たちと釣り合いが取れる女性は、やはり杖を下げていないとな!」

「そうとも!王軍の士官様がやっと陛下に頂いた非番だぜ?平民の酌では慰めにならぬというものだ。きみ」

口々にそんな事を言いながら、こっちに聞えるような声で誰が声をかけにいくのかを相談しあう。

キュルケはこういう事に慣れっこなのか、平然とワインを口にしている。

しかし、ギーシュなどはすでに気が気ではない。

一応自分は男で連れの女性をエスコートする立場なのだが、連隊長か親衛隊の隊員を務めているような貴族相手に、強気になれようはずもない。

叩きのめされるのがオチだろう。

そのうちに声をかける人物が決まったらしい。

1人の貴族が立ち上がる。

20歳を少し超えたばかりの、なかなかの男前である。

自信たっぷりに口ひげをいじりながらキュルケに近づくと、典雅な仕草で一礼した。

「我々はナヴァール連隊所属の士官です。恐れながら美の化身と思しき貴女を我らの食卓へとご案内したいのですが」

キュルケは其方のほうを眺めもせずに答える。

「失礼、友人たちと楽しい時間を過ごしているところですの」

仲間たちから野次が飛ぶ。

ここで断られては面子が保てないと思ったのだろう。熱心な言葉で貴族はキュルケを口説きにかかる。

「そこをなんとか。まげてお願い申し上げる。いずれは死地へと赴く我ら、一時の幸福を分け与えてはくださるまいか?」

しかし、キュルケはにべもなく手を振った。

貴族は残念そうに仲間たちの元へと戻っていく。

「お前はモテない」と言われ、その貴族は首を振る。

「あの言葉のなまりを聞いたかい?ゲルマニアの女だ。貴族と言っても、怪しいものだ!」

「ゲルマニアの女は好色と聞いたぞ?身持ちが硬いなんて珍しいな!」

「おそらく新教徒なのであろうよ!」

酔いも手伝ってか、悔し紛れに貴族たちは聞こえよがしに悪口を言い始めた。

ギーシュとモンモランシーは顔を見合わせ、「店を出ようか?」とキュルケに聞いた。

「先に来たのはあたしたちじゃない」

そう呟くと、キュルケは立ち上がった。

その長い赤髪が燃え盛る炎のようにざわめく。

横目で事の成り行きを見守っていたほかの客や店の女の子たちが、一斉に静まり返る。

「おや、我らのお相手をしてくれる気になったのかね?」

「ええ。でも、杯じゃなく・・・・・・こっちでね?」

すらりとキュルケは杖を引き抜いた。

男たちは笑い転げた。

「およしなさい!お嬢さん!女相手に杖は抜けぬ!我らは貴族ですぞ!」

「怖いの?ゲルマニアの女が」

「まさか!」

カラカラと男たちは笑い続ける。

「では、杖を抜けるようにしてさしあげますわ」

キュルケは杖を振った。

人数分の火の玉が飛び出し、貴族たちがかぶった帽子に向かって飛んだ。

だが、その瞬間、空気の塊が飛んできて、全ての火の玉をかき消した。

「えっ?」

キュルケは驚いて振り返る。

目の前の貴族たちは魔法を使った様子はない。

とすれば、先ずは、一番身近な『風』の使い手に目がいく。

だが、シャルロットは首を横に振り、

「私じゃない」

と言った。

その時、

「店の中で騒ぐのは止めてくれ」

拓也が店の奥から出てきた。

「タクヤさま!?」

イルククゥが驚いた声を上げ、

「タクヤ?何でここにいるの?」

キュルケが尋ねる。

「ちょっとワケありで、皿洗い兼用心棒のバイトしてる」

拓也はそう答える。

「つ~ワケだから、この店で問題起こすのは止めてくれ。こういうトラブルで物が壊れたりしたら弁償するのは俺なんだ」

「もう、しょうがないわね」

キュルケは、不満顔ながらも杖をおさめる。

「何でここにいるの?」

と、今度はシャルロットが尋ねてきた。

「ちょっとワケありで理由は言えないんだよ。ごめん」

拓也はそう言って謝る。

「アイナは?」

今度はアイナのことを聞いてきた。

「アイナなら厨房でコックやってるけど」

拓也の答えに、シャルロットはピクッと反応した。

「ずるいのね、おチビ!休みの間中タクヤさまとずっと一緒だなんてずるいのね!」

イルククゥが叫んだ。

とまあ、こんなやり取りを見ているのは、キュルケに振られた貴族たち。

いきなり現れたと思ったら、美女、美少女と仲良くする少年。

振られた方からしてみれば、屈辱なことこの上ない。

しかも、その少年が10歳程度の子供なのだ。

貴族のプライドはズタズタである。

「小僧!!」

士官の1人が声を上げた。

「ん?」

拓也は振り向くと、

「「「決闘だ!」」」

3人同時に決闘を申し込まれた。

「なんでだよ?」

拓也は思いっきりため息をついた。




10分後。

拓也は店の中に戻ってきた。

外では、3人の士官がボコボコにされて転がっていた。

「やれやれ・・・・・」

拓也はそう呟き、顔を上げると、店内が拍手につつまれる。

迷惑な客を追っ払った時は大概こうなので拓也は気にしない。

だが、

「タクヤ」

「タクヤさま!きゅい!」

シャルロットとイルククゥの姿を見て、拓也は思わずズッコケた。

2人はなんと、『魅惑の妖精』亭の給仕服に身を包んでいたのだ。

「タクヤ君、紹介するわ。ついさっきからこの店で働く事になったシャルロットちゃんとイルククゥちゃんよ。働く期限はタクヤ君と一緒だって。モテモテねタクヤ君」

スカロンが説明する。

拓也は勢い良く立ち上がる。

「シャルにイルククゥも何やってるんだよ!?」

叫ぶように問いかけた。

「抜け駆けは無し」

「そういう事なのね」

2人はそう答えた。

厨房ではアイナがちょっとがっかりしていた。

その少し後、拓也にボコられた士官が、部下を大勢連れてやって来たが、今度は、拓也、シャルロット、更にはアイナまで加わり、一個中隊を全滅させたのは余談である。






それから数日が経った。

結果を言えば、シャルロットとイルククゥは中々の人気である。

イルククゥは持ち前の天真爛漫さとスタイルの良さで。

シャルロットは、そのポーカーフェイスがツボにはまる人が大勢いたらしい。

触ろうとする男には容赦なかったが。





そして、更に数日。

相変わらず拓也達は情報収集しながら働いていた。

そして、才人がギルモンと共にごみ捨ての為に裏口から出たときだった。

路地に出た瞬間、フードを被った2人組みが才人に向かって小走りに駆けてくるのが見えた。

店側を走っていた1人と、裏口から出てきた才人がぶつかる。

「きゃっ!?」

その人物は軽い悲鳴を上げて倒れた。

声からして女性のようである。

「大丈夫か?」

もう1人のフードを被った人物が、女性と思わしき人物を引き起こす。

こちらは男性のようだ。

「わ、すいません・・・・・大丈夫でしたか?」

才人は慌てて謝った。

男性の方が口を開く。

「ああ、大丈夫だ。それよりも尋ねたいんだが、この近くに『魅惑の妖精』亭というお店はあるだろうか?」

「え?それならここですけど・・・・・」

才人はそう呟きながら、その男性の声に聞き覚えがあることに気づいた。

「その声は?」

女性のフードの人物のほうが、そっと、フードの裾を持ち上げて、才人の顔を盗み見る。

「姫さま!?」

しっ、と言われ、その口を塞がれる。

灰色のフード付のローブに身を包んだ2人は才人の後ろに身を隠し、表通りから自分の姿を見られないように息を潜めた。

「あっちを探せ!」

「ブルドンネ街に向かったかもしれぬ!」

表通りのほうから、息せき切った兵士たちの声が聞えてくる。

アンリエッタは再びフードを深く被った。

「隠れることのできる場所はありますか?」

アンリエッタは小さく尋ねる。

「俺たちが暮らしてるここの屋根裏部屋がありますけど・・・・・・・・」

「そこに案内してください」



才人は2人をこっそり屋根裏部屋まで連れてきた。

アンリエッタはベッドに腰掛けると、、大きく息をついた。

「・・・・とりあえず一安心ですわ」

「そうだな」

アンリエッタの言葉に、もう1人のフードの人物が頷く。

「あの、姫さまがいるってことは、もう1人は・・・・・」

才人は遠慮しがちに尋ねた。

もう1人の人物がフードを脱ぐ。

「久しぶりだね。使い魔君」

「やっぱり王子様!」

そのもう1人の人物はウェールズだった。

「とりあえず、2人して何やってるんですか?」

才人は気になっていることを尋ねた。

「ちょっと抜け出してきたのだけど・・・・・騒ぎになってしまったようね」

「はぁ?あなた女王さまでしょう?そりゃ大騒ぎになりますよ!」

アンリエッタは黙ってしまった。

「そんな勝手な事していいんですか?」

「しかたないの。大事な用があったものだから・・・・・・ウェールズさまにも協力してもらって・・・・・・・ルイズがここにいるという事は報告で貴意いておりましたけど・・・・・・すぐにあなたに会えてよかった」

「ま、とにかくルイズを呼んできます」

「いけません」

アンリエッタは才人を引き止めた。

「ど、どうしてですか?」

「ルイズには話さないでいただきたいの」

「なんで?」

「あの子をがっかりさせたくありませんから」

才人は椅子に腰掛けて2人を睨んだ。

「だったらなおさらでしょう?勝手にお城を抜け出したりしちゃ、ダメじゃないですか」

それから才人は気付く。

「でも、ルイズに会いに来たんじゃないなら、ここにいったい何をしに来たんですか?」

「君の力を借りに来たんだ」

答えたのはウェールズだった。

「お、俺?」

「明日までで良いのです。わたくしたちを護衛してくださいまし」

「な、何で俺なんですか?あなた女王様でしょう?護衛なら魔法使いや兵隊がいっぱい・・・・・・」

「今日明日、わたくしたちは平民に交じらねばなりません。また、宮廷の誰にも知られてはなりません。そうなると・・・・・・・」

「なると?」

「あなたかアイナ達しか思いつきませんでした」

「そんな・・・・・・ほんとに他にいないんですか?」

「ええ。あなたはご存知ないかもしれませんが、わたくしはほとんど宮廷で一人ぼっちなのです。若くして女王に即位したわたくしを好まぬものも大勢おりますし・・・・・・・」

それから、言いにくそうに付け加えた。

「・・・・・裏切り者も、おりますゆえ」

才人はワルドのことを思い出した。

「分かりました。他ならない姫様たちの頼みですから、引き受けますけど・・・・・・・」

それから才人はアンリエッタの顔を見つめた。

「危ない事じゃないでしょうね?」

アンリエッタは目を伏せた。

「ええ」

「ほんとですか?姫様たちを危ない目にあわせたら、後でルイズに何を言われるかわかったもんじゃない。そこは約束してもらいますよ」

「大丈夫です」

頷いた。

「だったらいいですけど・・・・・・」

「ならば出発しよう。いつまでもこの辺りにはいられない」

ウェールズが言った。

「何処に行くんですか?」

「街を出るわけじゃない。安心してくれ。しかし、アンリエッタの着替えをどうにかしないと・・・・・」

アンリエッタのローブの下のドレスを見つめた。

ウェールズの服は元々身を隠しているためか、平民に近い服だ。

しかし、アンリエッタはとても上質なドレス。

ローブに隠れるとはいえいかにも目立つ。

高貴のものがそこにいると訴えているようなものだ。

「ルイズの服がありますけど・・・・・平民に見えるように買った服が」

「それを貸してくださいな」

才人はベッドの傍の箱をあさり、ルイズの服を取り出した。

才人がアンリエッタに服を渡すとアンリエッタは後ろを向く。

と、ウェールズが才人を後ろを向くように促した。

才人は慌てて後ろを向く。

後ろでアンリエッタが着替えているらしく、布が摩れる音が聞える。

才人は顔を赤くして耐えた。

「シャツが・・・・・ちょっと小さいですわね」

流石にルイズにあわせて買った服である。

アンリエッタには小さすぎた。

特に胸が、ボタンが飛んでしまいそうなほどに、ぴちぴちに張り詰めている。

「まずいっすね。非常に」

才人は鼻を押さえて言った。

ウェールズも平然を装ってはいるが、よく見るとその頬は少し赤い。

「ま、いいわ」

いいのか!と、才人は突っ込みそうになった。

だが、アンリエッタはさほど気にした風もない。

「こうすれば逆に目立たないかも」

と、呟き、上のボタンを2つほど外した。

すると谷間が強調されるような、そんなデザインに見えなくもないシャツになった。

隣を歩く人間は目のやり場に困ってしまうが、女王とは思えないラフで夜の女っぽい雰囲気になった。

「行きましょう」

と、アンリエッタは才人達を促す。

「それじゃまだバレバレですよ」

「え?そうなのですか?」

「せめて髪型ぐらいは変えないと」

「では、変えてくださいまし」

とりあえず才人は、ルイズが偶にするように、後ろでポニーテールのかたちにまとめあげた。

そうすると、随分と雰囲気が変わった。

それから才人はルイズの化粧品を使って、アンリエッタに軽く化粧を施した。

「ふふ、これなら、街女に見えますわね」

胸の開いたシャツを着て軽く化粧を施すと、確かに陽気な街女に見えないこともない。

「あと、王子様の金髪も鮮やか過ぎて目立ちますよね」

「そ、そうなのかい?」

自覚がないのかウェールズはそういった。

才人は少し考えると、物が固められたスペースに行き、あさり始める。

「確かこの辺りに・・・・・・あった」

そう言って取り出したのは、古びたベレー帽だった。

才人は埃を掃って、ウェールズに渡す。

「これ被ってください。ちょっと汚いですけど逆に目立たないと思います」

ウェールズは受け取ると、そのベレー帽をかぶる。

「これでいいかな?」

才人は頷く。

これなら、街を歩く普通の青年に見えるだろう。

才人、アンリエッタ、ウェールズ、ギルモンは、こっそり裏口から路地に回る。

才人は、ギルモンを連れて行くかどうか迷ったが、ギルモンを置いていって、問題を起こしたら堪らないので一緒に連れてきた。

辺りは女王の失踪でどうやら厳戒態勢がひかれたらしく、チクトンネ街の出口には、衛兵が通りを行く人々を改めていた。

「非常線張られてますよ」

2人も頷く。

「どうします?顔、隠さなくて大丈夫ですか?」

「隠せば余計に怪しまれます。ウェールズさま」

ウェールズは頷くとアンリエッタの肩を抱いた。

「僕達が先に行く。君達は少し後を他人の振りをして付いてきてくれ」

そう言って、2人は衛兵がいる場所に近付く。

ある程度距離が離れたところで才人もギルモンと一緒に後を追った。

目の前を行くウェールズとアンリエッタは、まるで恋人のように振舞っている。

衛兵の目は、そんな2人より、ギルモンを連れている才人の方に目がいっていた。

ギルモンは流石に珍しく目を引く。

しかし、女王とは関係が無さそうなので、特に問われる事にはならなかった。

図らずとも、ギルモンを連れてきたのは正解であった。



夜も遅かったので、才人達は宿を取った。

ウェールズとアンリエッタが一つの部屋を取り、才人が別の部屋を取った。

今はウェールズとアンリエッタの部屋に集まっている。

その部屋は、『魅惑の妖精』亭の屋根裏部屋が天国に見えるほどのボロい部屋だった。

ベッドの布団は何日も干された事がないのか妙に湿り、部屋の隅には小さなキノコが生えている。

ランプは煤を払っていないのか真っ黒だった。

「ここ、金とっていい部屋じゃないですね」

アンリエッタは、気にした風もなくベッドに腰掛けた。

「素敵な部屋じゃない」

「そうかなあ・・・・・・」

「ええ、少なくともここには・・・・・・寝首をかこうとする毒蛇はいないでしょう」

「ヘンな虫ならいっぱいいそうですけどね」

「そうですわね」

アンリエッタは微笑んだ。

それから、アンリエッタは才人に色々な事を尋ねた。

ルイズの事。

元の世界の事。

戦争の事。

ウェールズもその話を黙って聞いていた。

そんな時、

――ドンドンドン!

と、扉が激しく叩かれた。

「開けろ!ドアを開けるんだ!王軍の巡回のものだ!犯罪者が逃げてな、順繰りに全ての宿を当たってるんだ!ここを開けろ!」

アンリエッタが言った。

「わたくしを捜しているに違いありません」

「やり過ごしましょう。黙って」

アンリエッタとウェールズは頷く。

だが、そのうちにノブが回され始めた。

しかし、鍵がかかっているので開けられない。

「ここを開けろ!非常時ゆえ、無理やりにでもこじ開けるぞ!」

バキッ!と剣の柄か何かで、ドアノブを壊そうとする音が聞えてくる。

「いけませんわね」

アンリエッタは、毛布を掴むとギルモンに覆い被せる。

「もがもがっ!?」

ギルモンが暴れたが、

「ごめんなさい。少し大人しくしてください」

「ギルモン、言う事を聞くんだ」

アンリエッタと才人の言葉で大人しくなる。

「サイトさんはベッドの下に!」

「は、はい」

才人は言われたとおりベッドの下に滑り込む。

「ウェールズ様」

アンリエッタはウェールズを引っ張ると、自分のシャツのボタンをはだけた。

「ちょ・・・・アンッ・・・・!?」

ウェールズが慌てたが、アンリエッタはウェールズの唇に自分のそれを押し付けた。

いきなりの激しいキスである。

アンリエッタは、更にウェールズの首に腕を絡ませると、アンリエッタはそのままベッドへと押し倒した。

アンリエッタがウェールズをベッドに押し倒すのと、兵士がドアノブを叩き壊し、ドアを蹴破ったのが同時であった。

2人組みの兵士が見たものは、男の体にのしかかり、激しく唇を吸っている女の姿であった。

女は兵士が入ってきた事にも注意を払わず夢中になっている。

情愛の吐息が、2つの唇の隙間から漏れ続けている。

兵士達はじっとそんな様子を見ていたが、そのうちに1人が1人に呟いた。

「・・・・・ったく、こっちは雨の中捕り物だってのに。お楽しみかよ」

「ぼやくなピエール、終わったら一杯やろうぜ」

そして、バタン!とドアを閉め、階下へと消えていった。

ドアノブの壊されたドアが、きしんで僅かに開く。

兵士が出て行ったことを確認した才人はベッドの下から、這い出る。

そして、後ろを振り向くと、

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

お互い頬を染めて、未だに見つめあうウェールズとアンリエッタがいた。

「ゴホン!・・・・・お二人さん」

才人はわざとらしく咳をすると、2人に声をかける。

2人は、はっ、と我に返る。

「いちゃつくのは構いませんが、せめて目の届かないところでお願いします」

才人は、皮肉交じりでそう言った。

2人は真っ赤になって取り乱した。



それから暫くして、才人が切り出した。

「姫さま」

「なんでしょう」

「そろそろ教えてください。いったい、どうしてここまでするんです?姿なんかくらまして・・・・・皆して一生懸命にあなたのことを捜してる。そして・・・・・あなたは身を隠す。気まぐれなんかで飛び出してきたわけじゃないでしょう?」

「・・・・・そうね。きちんとお話しなければならないわね」

アンリエッタはいつもの威厳を取り戻したような声になって、

「狐狩りをしておりますの」

「狐狩り?」

「ええ、狐は利口な動物という事はご存知?犬をけしかけても、勢子が追い立てても、容易には尻尾をつかませません。ですから・・・・・罠をしかけましたの」

「罠ですか」

「ええ。そして、罠の餌はわたくしというわけ。明日になれば・・・・狐は巣穴から出てきますわ」

才人は尋ねた。

「狐というのは、何者なんですか?」

「アルビオンへの内通者です」



夜が明けて、昼。

中央広場、サン・レミの聖堂が鐘をうつ。

11時であった。

タニアリージュ・ロワイヤル座の前に、一台の馬車が止まった。

中から降りてきたのは、高等法院長のリッシュモンである。

リッシュモンは劇場の中へと入っていく。

その後すぐに劇場の前にやってきたのはルイズと短く切った金髪の女騎士である。

この女騎士の名は、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン。

彼女は平民の出でありながら、貴族の称号である『シュヴァリエ』と姓を名乗る権利があたえられた。

そして彼女は、アンリエッタの身辺を警護するために新たに新設された平民の女性だけの隊、『銃士隊』の隊長を務め、アンリエッタが最も信頼する1人である。

ルイズは昨晩、兵士からアンリエッタが行方不明になったと聞き、偶々呼び止めた馬に乗っていたアニエスと行動を共にし、今に至るのである。

当然、一睡もしていないので、ルイズの目の下にはクマが出来ていた。

劇場の前でじっと待っているルイズの前に、懐かしい人影が姿を見せた。

才人、ギルモンと共にいるアンリエッタとウェールズだ。

3人は、先程アニエスが放った伝書フクロウからの報告で、ここを目指してやって来たのであった。

「・・・・・・姫さま。サイト!」

小さく呟き、続いて大きく怒鳴って駆け寄る。

「ルイズ・・・・・」

アンリエッタは、その小さな体を抱きしめた。

「心配しましたわ!いったい、どこに消えておられたのです?」

「優しい使い魔さんをお借りして・・・・街に隠れておりました。黙っていた事は、許して頂戴。あなたに知られたくない任務だったのです。でも、アニエスとあなたが行動を共にしているとの報告を今朝聞いて、驚きました。やはりあなたはわたくしの一番のお友達。どこにいても駆けつけてしまう運命にあるのですね」

それから傍に控えたアニエスに気付く。

アニエスは膝をついた。

「用意万端、整いましてございます」

「ありがとうございます。あなたはほんとに、よくしてくださいました」

そして最後に劇場の前にやってきた観客は、マンティコア隊を中核とする、魔法衛士隊であった。

マンティコアに跨った苦労性の隊長はその場にいた全員を見つめて目を丸くした。

「おや!これはどうしたことだアニエス殿!貴殿の報告により飛んで参ってみれば、陛下までおられるではないか!」

慌てた調子で隊長はマンティコアから下りると、アンリエッタの元へと駆け寄った。

「陛下!心配しましたぞ!どこにおられたのです!我ら一晩中、捜索しておりましたぞ!」

泣かんばかりの勢いで、人のいい隊長は声を張り上げた。

とうとう魔法衛士隊まで勢ぞろいなので、なにごと?と見物人が集まってくる。

騒ぎになりそうなので、アンリエッタはローブのフードを深く被った。

「心配をかけて申し訳ありません。説明は後でいたしますわ。それより隊長殿、命令です」

「なんなりと」

「貴下の隊で、このタニアリージュ・ロワイヤル座を包囲してください。あり1匹、外に出してはなりませぬ」

隊長は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに頭を下げた。

「御意」

「それでは、わたくしは参ります」

「お供いたしますわ」

ルイズが叫んだ。

しかし、アンリエッタは首を振る。

「いえ、あなたはここでお待ちなさい。これはわたくしが決着をつけねばならぬこと」

「しかし」

「これは命令です」

毅然と言われ、ルイズはしぶしぶ頭を下げる。

アンリエッタは、ウェールズと共に劇場へ消える。

アニエスは何か他に密命でもあるのか、馬に跨りどこかへ駆けていった。

そして、後には才人とルイズ、ギルモンが残された。

ルイズは才人に問いかける。

「ねえ」

「なんだ?」

「いったい、何がどうなってるの?」

「狐狩りって言ってたな」

「ねずみ狩りって聞いたわ」

「どっちなんだろ」

それから2人はぽかんとした顔を見合わせる。

「なんだか今回の任務は・・・・・」

「うん」

「私達、脇役みたいね」

才人は頷いた。

「?」

ギルモンは訳がわからず首を傾げるだけであった。




幕が上がり、芝居が始まった。

女向けの芝居なので観客は若い女性ばかりである。

その中で、リッシュモンは眉をひそめていた。

約束の刻限になっても、待ち人が来ないのが気がかりなのであった。

彼の頭の中には、質問せねばならないことがぐるぐる回っている。

そのとき、自分の隣に客が腰掛けた。

リッシュモンは、待ち人かと思ったが違った。

深くフードを被った若い女性である。

リッシュモンは小声でたしなめた。

「失礼。連れが参りますので。他所にお座りください」

しかし、女は立ち上がろうとしない。

「聞えませんでしたかな?マドモアゼル」

そう言いながら横を向くと、

「観劇のお供をさせてくださいまし。リッシュモン殿」

フードの中の顔に気付き、リッシュモンは目を丸くした。

それは失踪したはずの、アンリエッタその人であった。

アンリエッタは真っ直ぐに部隊を見つめたまま、リッシュモンに問うた。

「これは女が見る芝居ですわ。ご覧になって楽しいかしら?」

リッシュモンは落ち着き払った態度を取り戻し、深く座席に腰掛ける。

「つまらない芝居に目を通すのも、仕事ですから。そんな事より陛下、お隠れになったとの噂でしたが・・・・・ご無事で何より」

「劇場での接触とは・・・・・考えたものですわね。あなたは高等法院長。芝居の検閲も職務のうち。誰もあなたが劇場にいても不思議には思いませんわ」

「さようで。しかし、接触とは穏やかではありませんな。この私が、愛人とここで密会しているとでも?」

リッシュモンは笑った。

しかし、アンリエッタは笑わない。

狩人のように目を細める。

「お連れの方なら、お待ちになっても無駄ですわ。切符をあらためさせていただきましたの。偽造の切符で観劇など、法にもとる行為。是非とも法院で裁いていただきたいわ」

「ほう。いつから切符売りは王室の管轄になったのですかな?」

アンリエッタは緊張の糸が切れたように、ため息をついた。

「さあ、お互いもう戯言はやめましょう。あなたと今日ここで接触するはずだったアルビオンの密使は昨夜逮捕いたしました。彼は全てを喋りました。今頃はチェルノボーグの監獄です」

アンリエッタは一気にリッシュモンを追い込んだ。

しかし、そのように全てを知られながらも、リッシュモンは余裕の態度を崩さない。

不敵に、うれしそうな笑みを浮かべる。

「ほほう!お姿をお隠しになられたのは、この私をいぶりだすための作戦だったというわけですな!」

「そのとおりです。高等法院長」

「私は陛下の手のひらの上で踊らされたというわけか!」

「わたくしにとっても不本意ですが・・・・・・そのようですわ」

リッシュモンはいつもは見せぬ、邪気のこもった笑みを浮かべた。

ちっとも悪びれないその態度に、アンリエッタは強い不信感を覚えた。

「わたくしが消えれば、あなたは慌てて密使と接触すると思いました。『女王が、自分たち以外の何者かの手によってかどわかされる』。あなたたちにとって、これ以上の事件はありませんからね。慌てれば、慎重さは欠けますわ。注意深い狐も、その尻尾を見せてしまう・・・・・」

「さて、いつからお疑いになられた?」

「確信はありませんでした。あなたも、大勢いる容疑者のうちの一人だった。ですが、ウェールズさまの生存を知る者は限られてきます。そして、わたくしに注進してくれた者がおりますの。あの夜、手引きをした犯人はあなただと」

疲れた、悲しい声でアンリエッタは続けた。

「信じたくはなかった。あなたがこんな・・・・・・王国の権威と品位を守るべき高等法院長が、このような売国の陰謀に荷担するとは。幼い頃より、わたくしを可愛がってくれたあなたが・・・・・ウェールズさまを敵に売る手引きをするとは」

「陛下は私にとって、未だ何も知らぬ少女なのです。そのような無知な少女を王座に抱くぐらいなら、アルビオンに支配されたほうが、まだマシというもの」

「わたくしを可愛がってくれたあなたは嘘なのですか?あなたは優しいおかたでした。あの姿は、偽りだったのですか?」

「君主の娘に、愛想を売らぬ家臣はおりますまい。そんなこともわからぬか。だからあなたは子供だというのですよ」

アンリエッタは目を瞑った。

毅然とした口調でアンリエッタは告げた。

「あなたを、女王の名において罷免します、高等法院長。おとなしく、逮捕されなさい」

リッシュモンはまるで動じない。

そればかりか、舞台を指差して、さらにアンリエッタを小ばかにした口調で言い放つ。

「野暮をもうされるな。まだ芝居は続いておりますぞ。始まったばかりではありませんか。中座するなど、役者に失礼というもの」

アンリエッタは首を振った。

「外はもう、魔法衛士隊が包囲しております。さあ、貴族らしいいさぎよさを見せて、杖を渡してください」

「まったく・・・・・・小娘がいきがりおって・・・・・・誰を逮捕するだって?」

「なんですって?」

「私に罠を仕掛けるなど、100年早い。そう言ってるだけですよ」

リッシュモンは、ぽん!と手を打った。

すると、今まで芝居を演じていた役者たち・・・・・男女6名ほどであったが、上着の裾やズボンに隠した杖を引き抜く。

そして、アンリエッタ目掛けて突きつける。

若い女の客たちは、突然の事に震えてわめき始めた。

「黙れッ!芝居は黙って見ろッ!」

激昂したリッシュモンの、本性を現した声が劇場内に響く。

「騒ぐ奴は殺す。これは芝居じゃないぞ」

辺りは一気に静寂に包まれる。

「陛下自らいらしたのが、ご不幸でしたな」

アンリエッタは、静かに呟いた。

「役者たちは・・・・・あなたのお友達でしたのね」

「ええ。はったりではありませんぞ。一流の使い手ぞろいです」

「でしょうね、役者とは思えぬ酷い演技でしたもの」

リッシュモンはアンリエッタの手を握った。

その手の感触のおぞましさにアンリエッタは鳥肌が立つのを覚えた。

「私の脚本はこうです。陛下、あなたを人質にとる。アルビオン行きの船を手配してもらう。あなたの身柄を手土産に、アルビオンへと亡命。大円団ですよ」

「なるほど。この芝居、脚本はあなた。舞台はトリステイン。役者はアルビオン・・・・」

「そしてあなたがヒロインと。こういうわけなのです。是非ともこの喜劇にお付き合いくださいますよう」

「あいにくと悲劇のほうが好みですの。こんな猿芝居にはつきあいきれません」

「命が惜しければ、私の脚本どおりに振舞う事ですな」

アンリエッタは首を振った。

その目が確信に光る。

「いえ、今日の芝居は、わたくしの脚本なんですの」

「あなたの施政と同じように人気はないようですな。残念ですが、座長としては、没にせざるをえませんな」

役者に扮したメイジたちに杖を突き付けられているというのに、アンリエッタは落ち着き払った態度を崩さずに言い放つ。

「人気がないのは役者のほうですわ。大根役者もいいところ。見られたものじゃありませんことよ」

「贅沢を申されるな。いずれ劣らぬアルビオンの名優たちですぞ」

「ならば、こちらから名役者を1人ご紹介いたしますわ」

アンリエッタがそう言うと客席の入り口からウェールズが姿を現す。

「おお。これはこれは、ウェールズ皇太子殿下。まさかあなたが来てくださるとは」

リッシュモンが嬉しそうな声を上げる。

「大層な役者ぶりだな、高等法院長殿」

ウェールズが言葉を放つ。

「そうでしょう。この私が脚本した芝居ですぞ」

「何を言っている?私が言っているのは、アンリエッタの脚本どおりに踊っている貴殿の役者ぶりにだ」

「なんですと?」

「先程の話を聞いていたが、貴殿はアンリエッタを何も知らぬ少女と申したな」

「いかにも」

「しかし、人は成長するものだ。それが子供ならば、なおさら成長は早い」

「一体、何が言いたいのですかな?」

リッシュモンはウェールズに問いかけた。

「わからぬのか?アンリエッタは、もう貴殿が思っているような少女ではないという事だ」

「さて、大根役者には舞台を降りていただかないと」

それまでざわめき、怯えていたはずの若い女の客たちが、アンリエッタのその言葉で目つきを変え、一斉に隠し持っていた拳銃を抜いた。

アンリエッタに杖を突きつけていたリッシュモンの配下のメイジたちはその光景に驚き、動きが遅れた。

ドーン!という、何十丁もの拳銃の音が1つの聞える激しい射撃音。

たちこめる硝煙が晴れると、役者に扮したアルビオンのメイジたちは、全員打ち倒されていた。

劇場の客全員が、銃士隊の隊員たちであった。

アンリエッタは何処までも冷たい声で隣の観客に告げた。

「おたちください。カーテンコールですわ。リッシュモン殿」


リッシュモンはやっとの事で立ち上がった。

そして高らかに笑う。

銃士達が一斉に短剣を引き抜いた。

気がふれたかのような高笑いを続けながら、突きつけられた剣に臆した風もなくリッシュモンはゆっくりと舞台に上がる。

周りを銃士隊が囲む。

「往生際が悪いですよ!リッシュモン!」

「ご成長を嬉しく思いますぞ!陛下は立派な脚本家になれますな!この私をこれほど感動させる芝居をお書きになるとは・・・・・」

リッシュモンは大仰な身振りで、周りを取り囲む銃士隊を見つめる。

だが、アンリエッタも含め、銃士隊の誰もがリッシュモンを見ていなかった。

全員の視線は、リッシュモンの上の方に集中している。

流石にリッシュモンも気になり上を見上げる。

そこには、天井近くの空間が歪み、まるで黒い穴のようになっていた。

そこからいきなり、巨大な鋼のカギ爪のようなものが出てくる。

続いて、濃い青色の竜のような腕が出てきた。

それを見た瞬間、アンリエッタとウェールズは、ブラックウォーグレイモンを見たときと同じような悪寒を感じた。

アンリエッタはすぐに命令する。

「銃士隊!直ちに撤退です!これは命令です!拒否は認めません!」

隊員たちは一瞬戸惑ったが、すぐにアンリエッタの命令どおり撤退を開始する。

客席の出入り口から次々と逃げていった。

その間にも黒い穴からは何か巨大なものが出現しようとしていた。

先に出ていた鋼の爪が天井に当たり、それによって天井の一部が崩れ、瓦礫がリッシュモンに向かって落下する。

「ぬおっ!?」

リッシュモンは慌てて床を足で叩くと、落とし穴の要領で、かぱっと床が開き、リッシュモンはその穴に落ちていった。



外では次々と出てくる銃士たちの姿に不安を覚える才人達がいた。

ルイズは、アンリエッタの姿を見つけると駆け寄った。

「姫さま!中で一体何が!?」

「ルイズ。予想外の事態が起こりました」

アンリエッタは、あせった表情で答えた。

「それは一体・・・・!?」

そのことをルイズが問おうとした時、劇場の屋根が爆発するように吹き飛び中から巨大な何かが現れる。

その姿は、濃い青色の体の半分以上が機械化され、頭部、左腕、胸部が特に目立つ。

背中にも6枚の翼が生えており飛行を可能にしている。

「何だありゃ!?」

才人が叫ぶ。

それと同時に、ギルモンが激しい威嚇行動をとった。

「グルルルルルルル!!」

「ギルモン?・・・・・ギルモンがこういう行動をするって事は・・・・・まさかあいつはデジモンか!?」

才人はギルモンの反応から、相手がデジモンであると気付く。

「サイト!」

「ああ!」

ギルモンの言葉に、才人が応える。

――EVOLUTION

デジヴァイスの画面から光が迸る。

その光はギルモンを包んだ。

「ギルモン進化!!」

ギルモンが光の中で進化する。

「グラウモン!!」

グラウモンに進化し、相手を見上げる。

その時、デジヴァイスに画面が浮かび上がった。

そこには、相手のデータが表示されている。

「これは!?奴の情報か!」

才人は表示された情報を読み上げる。

「メタルグレイモン。ウイルス種。完全体。サイボーグ型デジモン。必殺技は、有機体系ミサイルを放つ、ギガデストロイヤー」

才人はデータを読んで驚愕する。

「完全体だって!?」

才人は拓也から、デジモンの成長段階について話を聞いていたため、その意味を理解できた。

「まずい!相手はグラウモンより上のレベルだ!」

才人は焦って叫ぶ。

「なんですって!?」

ルイズも驚く。

「拓也がこの騒ぎに気付いてくれればいいんだけど・・・・・」

才人は一途の望みを呟く。

「無理よ!」

ルイズが叫ぶ。

「拓也達は今は寝てる真っ最中よ!拓也達の宿からもかなり離れてる。気付く可能性は低いわ!」

ルイズの言葉を聞き、才人は少し考え、口を開く。

「ルイズ。お前は今から急いで拓也の泊まってる宿に行って拓也にこの事を知らせてくれ!ここは俺たちで何とか食い止める!」

「え?で、でも・・・・・」

ルイズは才人を心配そうに見つめる。

「急げ!!このままじゃ最悪全滅しちまうぞ!!」

「わ、わかったわ!」

才人の叫びにルイズは頷いて、近くの馬を借り、拓也の泊まっている宿に向けて馬を走らせた。

「姫さま達は避難しててくれ!ここは俺たちが!」

アンリエッタは頷く。

アンリエッタは命令を下し、怪我人を救助しつつ避難させる。

才人はメタルグレイモンに向き直る。

「グラウモン!相手は格上。油断するなよ!」

「わかった、サイト」

グラウモンは頷く。

そして、息を大きく吸い込み、

「エキゾーストフレイム!!」

メタルグレイモンに熱線を放った。

それは、メタルグレイモンに直撃し、爆炎につつむ。

「どうだ!?」

だが、すぐに煙が晴れ、大したダメージも受けていないと思われるメタルグレイモンが姿を見せた。

「ちぃ!やっぱり大して効いちゃいねえ!」

メタルグレイモンは、グラウモンを敵と認識したのか地上に降りてくる。

「グオオオオオオッ!!」

グラウモンは雄叫びを上げてメタルグレイモン向かって突進した。

「ガァアアアアアアアッ!!」

メタルグレイモンも迎え撃った。

お互いに組み合う。

だが、そこは成熟期と完全体の差。

一方的にグラウモンが押し負けている。

遂にグラウモンが膝を付く。

「グラウモン!!」

才人は思わずデルフリンガーを掴み駆け出した。

「うおおおおおおっ!!」

才人はグラウモンの背中を駆け、肩からメタルグレイモンに向かって跳んだ。

「だりゃあああああああっ!!」

メタルグレイモンの頭部にデルフリンガーを思いっきり振り下ろした。

だが、

――ガキィィィィィィン

その一撃は、機械化されたメタルグレイモンの頭部に薄い傷をつけるだけで、全く効いていない。

「ぐっ。か、かてぇ・・・・・」

腕の痺れを我慢しながら、才人はグラウモンの肩に飛び退く。

才人は機械化された金属部分には全く歯が立たないことを悟る。

「くそっ!どうすれば・・・・」

才人はメタルグレイモンを見る。

そして何かに気付いて叫んだ。

「グラウモン!右腕を狙うんだ!右腕は機械化されていない!!」

「わかった!」

グラウモンは頷き、一度下がると、腕のブレイドに電撃を纏わせる。

そして再び突撃。

メタルグレイモンは、左腕で攻撃してきたので、それを回り込んで避け、その隙にグラウモンは腕のブレイドで斬りかかった。

「プラズマブレイド!!」

その一撃はメタルグレイモンの右腕に傷を付け、そこから血が吹き出る。

「グガアアアアアアアッ!!」

メタルグレイモンは叫び声をあげる。

「よっしゃ!」

才人はガッツポーズをする。

だが、その一撃に逆上したのか、メタルグレイモンは体を捻り、強烈な尾撃を放った。

その一撃に吹き飛ばされるグラウモン。

「うああああああっ!!」

グラウモンは大ダメージを受けた。

才人は何とか立ち上がる。

グラウモンも何とか立ち上がった。

その時、

「サイトさん!下がって!」

アンリエッタの声が聞えた。

「姫さま!?」

その声に才人が振り向くと、アンリエッタとウェールズが呪文を詠唱しており、その周りに巨大な水の竜巻が発生している。

アンリエッタとウェールズのヘクサゴンスペルだった。

その水の竜巻がメタルグレイモンに向かって放たれ、飲み込む。

「ガアアアアアアアッ!!」

メタルグレイモンの悲鳴が響いた。

その水の竜巻が収まった後、メタルグレイモンは地に倒れていた。

「やったのか?」

才人は呟く。

だが次の瞬間、

「グガァアアアアアアアッ!!」

勢い良くメタルグレイモンは体を起こす。

だが、その体は、流石に無傷とはいかなかった。

それが、メタルグレイモンの怒りを買ったのか、メタルグレイモンは体をアンリエッタとウェールズの方に向けた。

そして、胸部のハッチが開き、そこから2発のミサイルが発射された。

これがメタルグレイモンの必殺技、『ギガデストロイヤー』だ。

ミサイルは一直線にアンリエッタとウェールズに向かって飛んだ。

だが、2人を守るようにグラウモンが立ちはだかった。

グラウモンは『ギガデストロイヤー』の直撃を受ける。

大爆発が起こり、才人、アンリエッタ、ウェールズは衝撃波に必死で耐える。

やがて衝撃波が収まり、3人が顔をあげると、

――ズズゥン

ボロボロになったグラウモンが力尽き、地面に倒れたところだった。

「グラウモン!!」

才人は叫んでグラウモンの頭部に駆け寄る。

「グラウモン!!しっかりしろ!!グラウモン!!」

才人の呼びかけるが、グラウモンは目を覚まさない。

「グラウモン・・・・・・・」

才人は震える手でグラウモンの頭部に触れる。

そして、拳を握り締め、デルフリンガーを掴み、メタルグレイモンに向かって駆け出した。

「てんめぇぇぇぇ!!よくも俺の相棒を!!」

才人は叫び、メタルグレイモンに向かっていく。

メタルグレイモンは左腕をまるで槍のように突いてきた。

「うおおおおおっ!!」

才人は跳んでかわし、メタルグレイモンの左腕を駆ける。

「はああああああっ!!」

才人は再び頭部に向かって斬りかかった。

――ガキィィィィン

しかし、機械化された頭部にはまるで通じない。

「ちっくしょう!!」

才人は何度もデルフリンガーを叩きつける。

――ガキン  ギィン   ガキィ

だが、その全てが弾かれる。

メタルグレイモンは、才人が鬱陶しくなったのか、頭を振り回し、才人を振り落とそうとする。

才人は鼻先にある角にしがみ付き、振り落とされまいと必死に耐える。

「くそっ!負けてたまるかよ!!諦めてたまるかよ!!」

才人は叫ぶ。

「拓也はどんな時だって諦めたりしねえんだ!!アイツの兄貴である俺が簡単に諦めてたまるか!!」

才人は必死にしがみ付いていたが、遂に耐え切れず吹き飛ばされる。

そちらは丁度グラウモンが倒れている方向だった。

「俺は絶対に諦めねえぞ!!そうだろ!グラウモォォォォォォンッ!!」

才人は吹き飛ばされながらも叫んだ。

その時、才人のデジヴァイスが光を放つ。

デジヴァイスの画面に文字が刻まれた。

――MATRIX

  EVOLUTION――

成熟期の進化より、更に強い光が放たれ、グラウモンを包む。

閉じられていたグラウモンの眼が力強く開かれた。

グラウモンが光を放つ。

「グラウモン進化!!」

光の中でグラウモンは進化する。

体の所々に刻まれたデジタルハザードが反応し、グラウモンの体を機械化してゆく。

その体は更に巨大化し、紅蓮の機械竜となる。

その名は、

「メガログラウモン!!」

メガログラウモンは吹き飛ばされる才人を受け止める。

才人はメガログラウモンを見上げる。

「グラウモンが・・・・進化した・・・・」

上半身はほぼ完全に機械化。

両腕はペンデュラムブレイドが装備され、背中には飛行用のバーニア。

胸部にはアトミックブラスターの砲門。

顎にあるクツワがなければ制御できぬほどのパワーを秘めた完全体デジモン。

その姿は、正に紅蓮の機械竜に相応しい。

「大丈夫?サイト」

メガログラウモンは心配そうに声をかける。

「ああ!大丈夫だ!」

才人は立ち上がる。

「メガログラウモン!あいつにやられた借り、倍にして返してやるぞ!!」

「応っ!!」

才人の言葉にメガログラウモンが応える。

才人はメガログラウモンの肩に乗る。

「いけぇえええええっ!!」

才人が叫び、メガログラウモンは背中のバーニアを噴射し、メタルグレイモンに向かって突撃する。

メタルグレイモンは機械化された左腕で攻撃するが、

「ダブルエッジ!!」

メガログラウモンの両腕の刃、『ペンデュラムブレイド』で切り裂かれる。

「ガアアアアッ!?」

メタルグレイモンは空中に退避する。

だが、メガログラウモンもバーニアでメタルグレイモンより高く飛んだ。

「グアッ!?」

太陽を背にするメガログラウモンに、メタルグレイモンは本能的に恐怖を覚えたのか一瞬怯えた仕草を見せる。

「グアアアアアアアッ!!」

メタルグレイモンはメガログラウモンに向かって、胸部のハッチを開く。

そして、『ギガデストロイヤー』が発射された。

有機体系ミサイルがメガログラウモンに向かって飛ぶ。

だが、メガログラウモンは、胸部砲身にエネルギーを集中させた。

そして、

「アトミック!!」

メガログラウモンが叫び、

「ブラスター!!」

才人が叫んだ。

メガログラウモンの胸部砲身から赤いビームが放たれる。

『ギガデストロイヤー』の破壊力は、確かに脅威だが、それは爆発すればの話。

メガログラウモンの『アトミックブラスター』は、対象を原子まで分解する技。

爆発前に分解されてしまっては、『ギガデストロイヤー』は無力である。

メガログラウモンの放った『アトミックブラスター』は、『ギガデストロイヤー』を貫き、メタルグレイモンに直撃する。

「グガアアアアアッ!!」

メタルグレイモンは叫び声を上げながら、『アトミックブラスター』の勢いに押されながら、現れた劇場に吹き飛ばされていく。

そして、そのまま劇場に直撃。

『アトミックブラスター』の威力によって、劇場は消滅。

メタルグレイモンは、体が分解していき、最後にデータの一部分が集まり1個のデジタマとなった。

そのデジタマは、メタルグレイモンが現れた、空間に開いた黒い穴に吸い込まれていった。

その黒い穴も、やがて消滅した。

「やったぜ!!」

才人は、今度こそガッツポーズで勝利を喜んだ。

「サイト」

メガログラウモンが才人を見つめる。

「よく頑張ったな、メガログラウモン。これからもよろしく頼むぜ!」

才人はメガログラウモンに向かってサムズアップする。

「うん」

メガログラウモンも頷いた。

と、その時、

「才人ー!」

ヴリトラモンが飛んでくる。

その後ろをシルフィードにのった、シャルロット、アイナ、ルイズが追ってくる。

「サイト!無事!?」

ルイズが叫んだ。

「遅えぞルイズ!余りにも遅かったから俺が倒しちまったぜ!」

才人は笑みを浮かべて答えた。

「ま、まさか、それがギルモン?」

ルイズが驚いたように尋ねる。

「ああ!グラウモンが更に進化したメガログラウモンだ!!」

才人は自信を持って答える。

こうして、才人とギルモンの絆は、また一つ深くなった。



一方、裏切り者のリッシュモンは、秘密の通路から逃げ出そうとしていたが、アニエスが待ち伏せしていた。

アニエスは、リッシュモンが立件した“ダングルテールの虐殺”によって滅びた村の生き残りだった。

リッシュモンはロマリアから賄賂を貰い、その村の人々が“新教徒”というだけで反乱をでっち上げ、滅ぼしたのだ。

その事をアニエスが知り、アニエスは復讐の機会を狙っていた。

リッシュモンは、アニエスを舐めきっていた。

その為に、アニエスの捨て身とも言える特攻の前に、その身を剣で貫かれた。

アニエスは重症を追ったが、まだ復讐は終わっていないと気力で踏ん張り、人通りのあるところまで自力で辿り着き一命を取り留めたのだった。







次回予告


ようやく情報収集任務も終わった拓也達。

だが、次はルイズの姉が来て、アイナとルイズは帰郷することとなる。

そこで起こる出来事とは?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第二十五話 実家への帰郷。アイナの家族

今、異世界の物語が進化する。




才人のデジモン成長日記。



名前:メガログラウモン
属性:ウィルス種
世代:完全体
種族:サイボーグ型
必殺技:アトミックブラスター
通常技:ダブルエッジ




あとがき

二十四話完成~。

メッチャ長くなってしまった。

今迄で最高だろうか?

というか題名になっている進化が、文章の量に比べてちょっとしかないんだよな~。

2話に分けるべきだったかもしれない。

さて、色々付け足してみましたが如何でしょうか?

今回のバトルシーンは中々うまく書けたと思いますが・・・・・・如何ですかね?

ともかく次は帰郷編。

アイナの家族が出てきます。

お楽しみに。

では、次も頑張ります。



[4371] 第二十五話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/02/15 11:45
ようやく情報収集任務を終えた拓也達。

次に起こった出来事とは?


第二十五話 実家への帰郷。アイナの家族。


情報収集任務を終えた、拓也、アイナ、才人、ギルモン、ルイズは王宮へ呼び出されていた。

今は、アンリエッタ、ウェールズと謁見している。

「ルイズ。そして皆様。今回の任務本当にご苦労様でした」

アンリエッタが全員に労いの言葉をかける。

「姫様のためなら、このルイズ。何時如何なる時でも姫様のお力になりますわ」

ルイズは跪き、そう返す。

「ありがとう、ルイズ」

アンリエッタはそう言うと、態度を改める。

「今回皆様に集まってもらったのは他でもありません。来るべきアルビオンとの戦いについてです」

アンリエッタのその言葉に、全員が動揺する。

ウェールズが前に出る。

「今からそう遠くない未来・・・・・・恐らく数ヵ月後になるだろうが、トリステインとゲルマニアの連合軍はアルビオンへ攻撃を仕掛ける」

「「「「!?」」」」

「?」

拓也達は、驚愕する。

言っている意味が分からないギルモンだけは首を傾げていた。

「その連合軍を指揮する総司令官は僕が務める。僕は、父上の願い・・・・・アルビオン王国の復興を果たしたい。いわば、この遠征は、僕の我侭と言っても相違ない」

「そんな!?」

ウェールズの言葉にルイズは、違うと言おうとした。

しかし、

「いいんだ、ラ・ヴァリエール嬢。勝つだけなら、交易封鎖などの手段もある。それをせずに、遠征を行なおうとしているのだ。僕は大罪人だよ」

「殿下・・・・・」

「本来なら、このような事を君達に頼む事は筋違いと自覚している。だが、恥を承知で頼みたい。君たちの力を、僕に貸してはくれないだろうか?」

ウェールズは頭を下げながら、そう頼んだ。

「わたくしからもお願いしますわ。ウェールズさまに力をお貸しください」

アンリエッタも頭を下げた。

その行動にルイズは慌てた。

「そ、そんな!頭をお上げください!この国のためなら、この命、いくらでも差し出す覚悟は出来ております!」

ルイズはそう言う。

アンリエッタは微笑むと、

「ありがとう、ルイズ。やっぱりあなたはわたくしの一番のお友達です」

そう言って、ルイズの手を握る。

「姫さま・・・・・・」

ウェールズは未だ無言の拓也へ視線を移す。

「・・・・・・俺に頼む理由は、ブラックウォーグレイモンですか?」

ウェールズは頷く。

「その通りだ。奴はアルビオンの純粋な戦力ではないとはいえ、もし気まぐれだろうと万一相手側に付くようなことがあれば、こちらが圧倒的に不利になる。君には、漆黒の竜人を抑える役目をしてほしい。通常の戦いに加わってくれとは言わない。漆黒の竜人が出てきたとき、奴の相手をしてくれればいい。君のような年端も行かぬ子供に・・・・・なによりこの世界の住人ではない君に、このような事を頼むのは真に心苦しい・・・・・・・本当にすまないと思っている」

「・・・・・・・・・」

ウェールズの言葉に拓也は考える。

「・・・・・・才人さんは・・・・・やっぱり行くんですか?」

拓也は才人に問いかける。

「だろうな・・・・・・俺自身も・・・・ルイズをほっとけねえ」

才人は呟く。

拓也は、更に考える。

「学院の皆も・・・・・戦争に行くのか?」

拓也は疑問を口にする。

「そうね・・・・・男子生徒は軍に志願するでしょうね。ギーシュは、父親が元帥だから、先ず間違いないわね」

ルイズが答えた。

「そうか・・・・・・・」

拓也は俯き、目を瞑る。

そして、何かを決意したように目を開き、顔を上げる。

「わかりました。協力します」

そう拓也は言った。

「そうか。すまない「ただし」ッ!?」

ウェールズの言葉の途中で、拓也が口を挟んだ。

「条件があります」

「言ってくれ」

「ふざけた命令には従わない。それに、無意味に命をかける奴がいたらぶん殴ってでも止めます。それでもいいなら」

拓也の言葉に、ウェールズは頷く。

「君ならそう言うと思ったよ。アンリエッタ」

ウェールズは視線をアンリエッタに移すと、アンリエッタは頷いて前に出る。

そして、書簡を拓也と才人に渡した。

「それがあれば、戦時中のあなた方の言葉は、このわたくしに次ぐ命令権を持ちます。あなた方の行動が、1人でも犠牲を減らす事を信じての配慮です」

そして、一呼吸置き、ウェールズが口を開く。

「いずれ知らせが行くだろう。それまでは、学院で今までどおりの生活をしていてくれ」

その言葉で、今回の話は終わった。




2ヵ月後。

先月、アルビオンへの侵攻作戦が魔法学院に発布された。

何十年か振りに遠征軍が編成されることになったため、王軍は士官不足を喫したのであった。

そのため、貴族学生を士官として登用することになった。

一部の教師や、学院長のオスマンなどはこれに反対したが、アンリエッタにマザリーニ、王軍の将軍たちはこの反対を抑えた。

拓也もこれを聞いたときはいい顔をしなかった。

だが、拓也はそういう知り合いを死なせないために、ウェールズへの協力を承諾したのだ。



拓也とアイナは、アイナの部屋で寛いでいた。

特にやる事も無いので、拓也は座って小壜をもてあそんでいる。

その小壜には、『覇竜の涙』が3分の1ほど残っている。

シャルロットの母親を治したときの残りを拓也はシャルロットから受け取っていたのだ。

アイナは椅子に座って読書をしている。

そんな時、

――バンッ!

と、部屋のドアが勢いよく開き、ブロンドの髪の女性が入ってきた。

その女性は眼鏡をしており、その目は鋭く、きつい性格に思える。

その女性を見たアイナが取り乱した。

「エ、エエ、エレオノールお姉さま!?」

アイナにエレオノールと呼ばれた女性は、つかつかとアイナに向かって歩く。

そして、アイナの襟首を掴んだ。

「帰るわよアイナ」

「ちょ!?エレオノールお姉さま!?」

アイナの言葉には聞く耳持たず、そのまま問答無用で引きずっていく。

よく見ると、反対の手にはルイズが引きずられていた。

因みにそのルイズの手には才人が引きずられている。

余りの展開の速さに拓也が呆けていると、

「ちょっと!そこのアナタ!」

ドアから出る寸前で声がかけられる。

「何ぼうっとしてるの!?アナタ、アイナの従者でしょ!さっさと支度しなさい!」

拓也は、何がなんだかわからなかったが、アイナが有無を言わさず連れて行かれたので、『覇竜の涙』が入った小壜をポケットに突っ込み、覇竜刀と地下水を持って後を追いかけた。

尚、途中で見かけたシエスタも、「道中の侍女はこの子でいいわ」の一言で連れてかれた。



そして、現在は馬車の中。

才人とシエスタが並んで座っており、その正面に拓也とギルモンである。

「旅ってわくわくしますわね!」

シエスタはそう叫んで才人の胸に大きめの胸を押し付けた。

「わくわくというより、むにむに、ですね」

激しくゆだった頭で、才人が相槌を打つ。

今のシエスタの格好は、草色のワンピースに編み上げのブーツ。

そして小さな麦藁帽子といった、ちょっとした余所行きの格好である。

そんなシエスタは、拓也がいるというのに、才人に猛烈なアタックをかけている。

才人は、

「シ、シエスタ・・・・・当たってる・・・・当たってるから・・・・・」

と半泣きでしどろもどろになって言えば、

「あ、わざとですから」

とまったく屈託の無い笑顔で言うのである。

「そ、そんな、わざとって、その・・・・・・・人がいるところでそんな、ねえ、きみ・・・・・・」

やめてとは言えない才人は自分の良心をなだめるために、形ばかりの講義をした。

「御者さんなら大丈夫です。あれゴーレムですって」

御者台に腰掛けている若い男は、どうやら魔法の力で動くゴーレムらしかった。

「い、いや・・・・その前に、拓也の目の前だし・・・・・・」

「あら?普段のタクヤ君を見るに、このぐらい日常茶飯事でしょ?」

シエスタは、拓也をチラリと見ながら言った。

「反論の言葉もありません」

即座に拓也は土下座しそうな勢いで頭を下げた。

普段が普段なのでしょうがない。

邪魔者を抑え込んだシエスタの行動は、更にエスカレートしていく。

才人の首筋に唇を押し付け、項をつたい、耳たぶを噛んだ。

それを見た拓也は無言で覇竜刀を抜いて、自分の目の前で構えた。

「た、拓也?何で刀を抜く?」

脳髄が焼け付くような感覚を味わいながら、才人は拓也に尋ねる。

「女の嫉妬の恐ろしさは、身に沁みてわかってますので」

拓也がそう答えた瞬間、

――ドゴォォォォン

馬車の天井が爆発した。

才人とシエスタは爆風に煽られたが、拓也とギルモンは覇竜刀のお陰で無傷である。

その代わり、はね返った爆風が、更に才人とシエスタを襲う事になったが。

拓也達が乗った馬車の後方には、拓也達の馬車よりも一回り大きい、2頭立ての立派なブルームスタイルの馬車が走っている。

その馬車には、アイナ、ルイズとエレオノールが乗っている。

エレオノールは、ラ・ヴァリエール家の長女。

つまりルイズの姉である。

先程の爆発は、当然ながらルイズの『エクスプロージョン』だ。

馬車の後ろの窓から中の様子は丸見えだった。

シエスタが才人にアタックをかけている所を見て、怒りが爆発したのだ。

屋根を吹き飛ばしてなお、シエスタが才人に抱きついていることに気付き、ルイズの目が吊り上る。

更に呪文を詠唱しようとすると、足を引っ張られた。

「きゃん!」

と叫んだ次に、ルイズはエレオノールに頬を抓りあげられた。

「いだい!やん!あう!ふにゃ!じゃ!ふぁいだっ!」

あの高慢な塊のようなルイズが、文句も言えずに頬を抓りあげられている光景を才人が見たら、目を丸くしたに違いない。

「ちびルイズ。わたくしの話は、終わってなくってよ?」

「あびぃ~~~~、ずいばぜん~~~~~、あでざばずいばぜん~~~~~~」

頬を抓られたまま、半泣きでルイズがわめく。

ルイズには絶対に頭のあがらない存在が4人いた。

アンリエッタと、両親と、この長姉のエレオノールであった。

ルイズより、11歳年上の、このラ・ヴァリエール家の長女は、男勝りの気性と王立魔法研究所“アカデミー”の優秀な研究員として知られていた。

「せっかくわたくしが話をしているというのに、きょろきょろと余所見ををするのはどういうわけ?あまつさえ、従者の馬車の屋根は吹き飛ばすし・・・・・」

「そ、それはその・・・・使い魔がメイドと、その、くっついたり離れたりしてたから・・・・・・」

と凄く言いにくそうにもじもじととしながら、ルイズは姉に告げた。

エレオノールは髪をぶわっと逆巻かせると、ルイズを睨みつける。

ヘビに睨まれたカエルのようにルイズは縮こまった。

「従者のすることなんか、放っておきなさい!相変わらず落ち着きのない子ね!あなたはラ・ヴァリエール家の娘なのよ!もっと自覚を持ちなさい!」

「は、はい・・・・・」

しょぼんとして、ルイズはうな垂れた。

「で、でも・・・・・なにも学院のメイドまで連れてこなくても・・・・・・」

「おちび。いいこと?ラ・ヴァリエール家は、トリステインでも名門中の名門のお家よ。あなただってそれはわかっているでしょう?」

「はい、姉さま」

「従者があなたの使い魔だけでは示しがつかないでしょう?ルイズ、貴婦人というものはね、どんなときでも身の回りの世話をさせる侍女を最低1人は連れて歩くものよ」

ルイズは頷くが、内心穏やかではなかった。

この帰省が、一筋縄ではいかないものであったからである。

アンリエッタ直属の女官である“虚無”の担い手ルイズには、侵攻作戦にあたり、特別の任務が与えられた。

尚、拓也の主であるアイナにも同様である。

しかし、ルイズが実家に「祖国の為に、王軍の一員としてアルビオン侵攻に加わります」と報告したら大騒ぎになってしまった。

従軍はまかりならぬ、と手紙が届き、無視したらエレオノールがやってきたのだ。

エレオノールはアイナの両親からも一旦アイナを連れて帰るように頼まれた。

シンフォニア領はヴァリエール領の隣で、ヴァリエール領へ行くための通り道でもあるからだ。




魔法学院を出て、2日目の早朝。

馬車はアイナの屋敷に到着した。

因みに公爵家とはいっても、シンフォニア家の屋敷は普通の公爵家よりも小さい。

アイナの両親は、見栄えや体裁などは余り気にしない性格なのだ。

故に無駄に広くないだけである。

拓也や才人から見れば、十分でかいが。

そこで、拓也とアイナが馬車から降りる。

門をくぐると、玄関の前で、メイドや執事が出迎えた。

「「「「「お帰りなさいませ。アイナ様」」」」」

「ただいま、皆」

アイナは笑顔で挨拶を返す。

拓也は玄関の手前に、2人の少女がいる事に気付く。

2人とも銀髪で、アイナと同じぐらいか、少し低い方がセミロング。

その少女より、また少し低い方は、腰まで届く位のロングヘアーであった。

「クリス、ミーナ、ただいま」

その2人に、アイナは微笑みながらそう言った。

「お帰りなさいませ姉上」

「おかえり、お姉ちゃん」

2人はそう返す。

拓也はアイナに尋ねる。

「妹?」

「うん。セミロングの方はクリス、ロングヘアーの方がミーナ。2人は双子だよ」

「ふ~ん」

クリスのほうは若干固めの印象を受け、ミーナの方はアイナに近いと拓也は感じる。

「姉上。そちらは?」

クリスが拓也の事をアイナに尋ねる。

「あ、ゴメン。紹介するね。こっちはタクヤ。春の使い魔召喚で私が召喚したの」

「使い魔・・・・ですか?人にしか見えませんが・・・・・」

クリスが呆気にとられたように呟く。

「間違いなく人だよ」

「神原 拓也だ。よろしくな」

拓也が挨拶する。

「は、はあ・・・・・・」

「・・・・・よろしく」

クリスは、予想外の出来事に呆けた。

ミーナはおずおずと挨拶を返す。

と、その時、玄関の扉が開いた。

「アイナ、帰ってるの?」

赤い髪のロングヘアーの女性が現れた。

歳は40歳前後といったところか。

「お母様!」

アイナはその女性に駆け寄り、抱きついた。

「おかえり、アイナ」

その女性は優しくアイナを抱きしめる。

「ただいま、お母様」

アイナが抱きついた女性こそ、アイナの母親で名をフレイア。

穏やかで優しい雰囲気を持ち、アイナを大人にして、髪を長くした容姿だ。

正に親子と一目でわかる。

フレイアが拓也に気がついた。

「あら、あなたは?」

フレイアは拓也に尋ねた。

「え~と、アイナの使い魔で、神原 拓也といいます」

拓也はそう答えた。

「アイナの使い魔?」

フレイアは、アイナに視線を落とす。

「は、はい、その通りです」

アイナの答えを聞くと、

「フフッ」

フレイアは微笑む。

「人を使い魔にするなんて、珍しいわね」

「えと、あの、その、私だけじゃなくてルイズも・・・・」

「ルイズ?お隣の?」

「は、はい」

「そうなの。・・・・あら?」

フレイアが何かに気付いたように遠くの空に視線を移す。

その視線の先には1頭のドラゴンが飛んでいる。

どうやら風竜のようだ。

「あれは・・・・」

アイナが呟く。

その風竜は、この屋敷の上空に来ると、ゆっくりと下りてくる。

「ストーム」

アイナがそう呟いた。

「ストーム?」

拓也が尋ねると、

「うん。お父様の使い魔の風竜」

そうアイナが答える。

「アイナの父さんの・・・・・」

拓也は見上げる。

その風竜の背中には長い銀髪を三つ編みで纏めた、40代半ばと思われる男性が乗っていた。

その男性が風竜から下りると、

「「「「「お帰りなさいませ、ゲイル様」」」」」

再びメイドや執事達が唱和する。

だが、その男性はアイナの姿を見つけると、他の人物には目もくれず、

「ア~~~~~イ~~~~~~ナ~~~~~~~~!!!」

全力疾走で駆けて来て、思いっきりアイナを抱きしめた。

「ア~~~イ~~~~~ナ~~~~~!!パパは寂しかったぞ~~~~~~!!」

そう言って、頬ずりまでする始末。

「た、ただいまお父様」

アイナはなんとかそう言う。

「・・・・・・・・・親馬鹿だ」

拓也の純粋なる感想であった。

暫く抱きしめていたが、暫くすると気が済んだのか離れる。

「はっはっは!よく帰ったなアイナ。少し見ないうちに背が伸びたんじゃないか?」

アイナの父親であるゲイルは、豪快に笑い、そう言う。

「うん、少し」

「そうか。料理の腕は上がったか?」

「はい!夕食は私が作るから楽しみにしててね、お父様」

「そうか!それは楽しみだ!喜べ皆の衆!今日の夕食はアイナが振舞ってくれるそうだ!」

ゲイルは嬉しそうに、使用人達に語りかける。

使用人達も、「それは楽しみですな」とか「期待していますわ」など、期待する言葉を言う。

「ところでだ」

ゲイルは拓也に視線を移す。

「坊主。名はなんと言う?」

いきなり問われた。

「た、拓也です。神原 拓也」

拓也がそう言うと、

「タクヤ君はアイナの使い魔なんですって」

フレイアがそう補足する。

それを聞くと、ゲイルの眉がピクリとする。

「アイナの使い魔?」

ゲイルは一度アイナを見る。

「はい、その通りです」

アイナが肯定する。

「ほほう・・・・・・」

ゲイルは再び拓也に視線を移す。

だが、その目を見たとき、拓也は僅かに引いた。

ゲイルの目が妙に怖かったのだ。

「アイナ。長旅で疲れているだろう。昼食まで時間がある。部屋で休んでいなさい」

ゲイルはアイナにそう言う。

「わかりました」

アイナは玄関から屋敷に入る。

使用人達も自分の仕事に戻るため、屋敷に入っていく。

「坊主」

拓也がゲイルに呼び止められた。

「はい?」

拓也が振り返ると、

「少し付き合え」

そう言って、首根っこをつかまれ有無を言わさず連れて行かれた。

「え!?あの!?ちょっと!?」

そうやって引きずられていく拓也を見て、

「あらあら、あの人ったら嫉妬しちゃって」

フレイアがそう楽しそうに呟いた。



ゲイルに引きずられた拓也は、屋敷の塀の外まで連れて行かれた。

そこでゲイルが拓也を解放する。

そして、

「坊主!」

物凄い剣幕で拓也に迫った。

「は、はい!?」

拓也は思わず姿勢を正す。

「もう一度確認するが、アイナの使い魔というのは本当か?」

かなりドスの効いた声で尋ねられた。

「は、はい本当です。これが証拠です」

そう言って、拓也は右手の甲にある使い魔のルーンを見せる。

ゲイルはそれを見ると、更に眉をピクピクさせる。

「つまりだ。坊主はアイナと、『コントラクト・サーヴァント』を行なったという事だな」

「そうですね」

拓也は肯定する。

「つまり、つまりだ。君はアイナとキ、キスをしたという事だな!?」

ゲイルのそう言う声はかなり震っている。

「ええっ!?・・・・・あ!」

いきなり言われた事に戸惑ったが、よくよく考えれば、召喚されたとき、目は瞑っていたが、確かにキスされた。

「そ、そうなりますね・・・・・・・」

拓也は恐る恐る肯定する。

「・・・・・・・・・でだ」

「は、はい・・・・・・」

「寝るときは如何している?」

「え、え~っと・・・・・・」

拓也は嘘をついてやり過ごそうかと思ったが、

「・・・・・・・・・・・・・・」

今のゲイルに下手な嘘をつくと、余計に状況が悪化しそうな気がしたので正直に話すことにした。

「ね、寝るときは一緒の部屋です」

「ほほう・・・・・まさか、一緒のベッドで寝てる、という事は無いだろうな」

「そ、それは無い・・・・・ですけど、朝起きたときにアイナが俺の寝床に潜り込んでたことなら・・・・って」

拓也はゲイルの威圧感に余計な事まで喋ってしまった。

「ほほう!・・・・」

ゲイルの威圧感が更に高まる。

拓也は悪寒を感じたので、咄嗟に身体を逸らした。

その瞬間、空気の塊が通過する。

ゲイルの『エア・ハンマー』だった。

拓也は一瞬文句を言おうとしたが、

「アイナは・・・・・・アイナはなぁ・・・・・」

ゲイルの言葉に中断させられた。

「もっと小さかった頃は、俺にも良く懐いてくれてなあ。一緒に寝たり、「お父様大好き」なんていわれた事もあった・・・・・」

何故か昔話が始まっている。

「けど、けどなあ。成長するにしたがって、一緒の部屋で寝る事も出来なくなって、「お父様大好き」なんて言われなくなって5年と168日」

拓也は、そんな事まで覚えているなんて、どんな親馬鹿だと半ば呆れた。

「そんな、そんな俺を差し置いて、同じ部屋で、しかも同じ寝床で寝て、あまつさえキスまでしただとぉ!?」

ゲイルは悔し涙を流している。

このままでは、血の涙まで流しそうな勢いだ。

「そんなこと、パパは許しません!!っていうか羨ましいぞぉおおおおおお!!!」

そう叫んで、杖を振りかぶっていたので、

「アホかぁあああああああああっ!!!」

拓也は思わず、地下水を掴み、ゲイルの脳天に全力で『エア・ハンマー』を撃ち込んでいた。

普通の人間なら、確実に昏倒する一撃。

だったのだが、

「なんのこれしきぃいいいいいっ!!!」

ゲイルは気絶するどころかピンピンしていた。

「おい、地下水」

拓也は思わず地下水に話しかけた。

「なんスか?」

「今、確かに全力で撃ち込んだよな?」

「間違いないッス」

「脳天に撃ち込んだはずだよな?」

「確実に」

「普通なら昏倒してもおかしくないよな?」

「おかしくないッス」

「じゃあ何であんなにピンピンしてるんだよ!?」

「知らないッス」

そんなやり取りをしている内に、ゲイルが再び杖を振りかぶって『エア・ハンマー』を唱えた。

「うおっ!?」

拓也は咄嗟に避ける。

拓也は再び『エア・ハンマー』を唱え、今度はあごの下から打ち上げるように放った。

それはゲイルの顎に当たり、アッパーを食らったようにゲイルの顔が真上を向く。

だが、それでもゲイルは倒れなかった。

ゲイルはゆっくりを顔を前に向ける。

だが、顔つきが今までと違った。

「ッ!?」

「相棒ッ!」

地下水が拓也に呼びかける。

「わかってる!今までのおちゃらけてた顔とは違う。本気の顔だ」

拓也は覇竜刀を抜き、構えた。

拓也も真剣になる。

ゲイルが杖を拓也に向け、呪文を唱える。

詠唱は『エア・ハンマー』。

だが、その威圧感が今までとはまるで違った。

ゲイルの『エア・ハンマー』が放たれた。

「くっ!」

拓也は咄嗟に覇竜刀を前に突き出す。

そのお陰で、『エア・ハンマー』が跳ね返る。

咄嗟のことだったのでうまくゲイルには跳ね返らず、ゲイルの右に大きく逸れる。

そして、

――ドゴォオオオン!

跳ね返った先の地面に10メイルほどのクレーターを作った。

フーケのゴーレムも一撃で砕きそうな威力だ。

「お、おい。冗談じゃないぞあの威力。何で『エア・ハンマー』であんな威力になるんだよ?」

「俺も今まで傭兵生活で多くのメイジを見てきたッスけど、あれほどの使い手は初めてッス。前にいたワルドとか言うやつなんて子供同然ッス」

地下水もゲイルの凄さを感じているようだ。

ゲイルは再び『エア・ハンマー』を放った。

拓也は、再び覇竜刀を構え、跳ね返す。

その瞬間、大地を蹴った。

「はあああああああっ!!」

拓也は跳躍しながら覇竜刀を振りかぶった。

そして、ゲイル目掛け振り下ろす。

当然みね打ちだった。

だが、

「なっ!?」

覇竜刀はゲイルまで届かなかった。

ゲイルの目の前には、強力な風の壁があり、覇竜刀が止められている。

そして、次の瞬間跳ね返された。

「うわっ!」

拓也は何とか着地しようとした。

だが、その瞬間を狙って、再び『エア・ハンマー』が撃ち込まれた。

拓也がいた場所が吹き飛ばされる。

これは手加減したのかそれほどの威力ではない。

だが、その場には拓也はいなかった。

ゲイルは空を見上げる。

拓也はそこにいた。

拓也は『フライ』の呪文で空中に退避したのだ。

「はあっ・・・・・はあっ・・・・・あっぶね~~」

「でも、如何するんスか?相手の風の障壁は簡単には破れないッスよ」

地下水はそう判断する。

「ああ。けど、メイジは呪文を2つ同時には唱えられない。攻撃する瞬間なら障壁は解除されるはずた」

「でも、どうやってその瞬間をねらうんスか」

その時、ゲイルが新たな呪文を唱える。

巨大な竜巻が生み出された。

拓也はそれを見て考える。

「イチかバチか、やってみるか!」

拓也は覇竜刀を真っ直ぐに構える。

巨大な竜巻が拓也に向かって放たれた。

「うおおおおおおおっ!!」

その竜巻の中心に向かって拓也は突っ込む。

「ちょ!?相棒!?なにやってるんスか!?」

地下水の言葉も空しく、拓也は竜巻の中に飛び込んだ。

そして、

「何っ!?」

竜巻を放っていたゲイルの杖が切り裂かれた。

次の瞬間、ゲイルの首筋に覇竜刀が突き付けられた。

「はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・」

拓也は身体中に傷を追っていた。

拓也は、竜巻の中心を通ってきたのだ。

竜巻の中心は、確かに弱いが、周りの風によって発生した真空波が拓也の身体を切り裂いていた。

だが、それでも拓也はゲイルを真っ直ぐな瞳で睨み付けた。

ゲイルは、その視線を受け止める。

「フッ・・・・」

そして、突如微笑んだ。

「タクヤと言ったな!?気に入ったぞ!」

そしていきなり笑い出す。

「は?」

拓也は訳もわからないまま、出血のせいで意識が遠くなるのを感じていた。




拓也が目を覚ますと夕日の光が差し込んでいた。

どこかの部屋に寝かされ、怪我の手当てもされている。

どうやら半日ほど眠っていたらしい。

「う~~~・・・・・」

拓也はまだ頭がぼうっとしている。

「気がついたか?」

その声に拓也が振り向くと、ゲイルがいた。

「とりあえずすまん。少し試すだけの心算だったんだが、相手が強いと、どうしても熱くなってしまってな。あそこまでする心算は無かった。許せ」

「はあ。それはもういいですけど・・・・・」

拓也はそう言って許す。

「でだ。話は変わるが・・・・・」

「はい?」

「坊主・・・・いや、タクヤ。お前、アイナのことはどう思っている?」

「へ?如何って?」

「つまり男としてアイナのことをどう思っているかということだ」

いきなりそんな事を言われ、拓也は取り乱した。

「えあっ!?い、いきなりそんな事を言われても・・・・・・まだ分からないとしか・・・・・・でも、アイナは良い子だと思ってます」

それを聞くと、ゲイルはなにやら考える仕草をする。

「ふむ・・・・・少なくとも脈アリと見ていいわけだな。・・・・・・・もう一つ聞くが、元いた所には戻りたいと思っているか?」

「え?ええ、まあ。一応、元の世界に戻る方法が見つかるまでアイナの使い魔をやるっていう約束なんで。でも、世界が違うんで、そう簡単には見つからないと思いますけど」

「元の世界とは?」

拓也の言葉にゲイルが尋ねた。

拓也は、別の世界から来た事を話した。

「ほう・・・・ここハルケギニアとは、全く違った魔法の無い世界か・・・・・・面白そうだな」

ゲイルは拓也のいう事をあっさり信じた。

「そんな簡単に信じれるんですか?」

「嘘をついているかどうか位、目を見れば分かる。お前の目には曇りが無い。嘘はついていないと分かるさ」

ゲイルは笑ってそう言う。

「さて、もうすぐ夕食だ。アイナの料理が待ってるぞ」

ゲイルは立ち上がる。

拓也も立ち上がってみると、動く分には問題ないようだ。



そして、夕食の席。

普通の貴族の家では、貴族と使用人は別々に食事をするのだが、この家では、長大なテーブルで、シンフォニア一家と共に使用人達も一緒に食事をする。

ゲイルとフレイアの「食事は大勢のほうが楽しいだろう」という言葉が始まりである。

アイナの平民に対する付き合い方は、両親のその辺りの性格に影響されているのだ。

それで拓也の席だが、何故かゲイルの隣に座らされている。

ゲイルの正面の席にはフレイアが。

拓也の正面にはアイナが。

拓也の隣にはミーナ。

ミーナの正面にクリスで、その横から使用人達の席だ。

食事をしている者達は、アイナの作った料理の味に驚いていた。

「腕を上げたなアイナ」

ゲイルがそう言う。

「うん。料理長のマルトーさんに教えてもらってるから、とても勉強になるよ」

アイナが笑顔で答える。

ふと、ゲイルが考え込むような仕草を見せる。

「お父様?どうかしたの?」

アイナが心配になったのか尋ねる。

「アイナ」

ゲイルが真剣な顔で言った。

「はい」

「手紙に書いてあったが、お前は戦争に行くのか?」

「・・・・・はい」

アイナは少し言いにくそうに答えた。

「それは、一時的な感情ではなく、よく考えての答えか?」

ゲイルは射抜くような視線でアイナを見ながら言った。

「・・・・・・はい!」

アイナはそんなゲイルの目を見て、はっきりと返事をした。

「・・・・・・・・・・・・」

ゲイルは暫くアイナの目を見続けていたが、

「そうか。そこまで考えて選んだ選択だと言うのなら、俺は何も言わん」

「心配かけてごめんなさい、お父様」

アイナも謝る。

「でも、拓也が守ってくれるから」

アイナがそう笑顔で言った。

拓也は照れ隠しに頬を掻く。

「そうか・・・・・・」

ゲイルは微笑む。

「それであなた、トリスタニアではなんと?」

フレイアがゲイルに尋ねた。

「ああ。枢機卿からだが、『一個軍団編成されたし』だとさ。領民を戦いに駆り出すのは気が進まんし、なにより俺は軍務を退いていて、兵を率いる跡継ぎも家におらんからな。俺は断るつもりだったのだが・・・・・・・」

ゲイルはアイナに視線を移す。

「なんですか?お父様」

視線を向けられたアイナは尋ねる。

「アイナ。お前の婚約者候補が決まった」

ゲイルのその言葉に、アイナは驚愕し、拓也は呆気にとられる。

「ちょっと!?お父様!!いきなり婚約者だなんていきなり何を!?」

アイナは立ち上がって叫んだ。

「あくまで“候補”だ。だが、その人物に、諸侯軍を率いてもらおうと思っている。諸侯軍は志願者だけで構成するつもりだ。当然志願してくれたものには恩賞を与える」

ゲイルはそう言う。

「そんな勝手に!?」

アイナは叫ぶが、ゲイルは話を続ける。

「でだ。その婚約者候補だが・・・・・・・」

すると、ゲイルは拓也の首に腕を回し、引き寄せた。

「こいつだ」

「はいぃ?」

いきなりそう言われ、拓也は素っ頓狂な声を上げる。

「えと・・・・・お父様・・・・・本当ですか?」

さっきとはうって変わって、アイナは頬を染めながらそう尋ねる。

「おう。本気だ。コイツは良い目をしている。そんじょそこらの欲望に溺れた貴族と違って、真っ直ぐで曇りの無い目だ。コイツならアイナを任せても大丈夫だと確信したんだ」

ゲイルがそう言うと、

「ちょっと待った!俺はさっきも言いましたけど別の世界の人間ですよ!」

拓也がそう叫ぶが、

「だからそれも踏まえて婚約者“候補”なんだ。つまりは、お互いが結婚を望むなら俺は反対しないという事だ。この世界に残るのも、元の世界に戻るのも、全てはタクヤしだいだ」

ゲイルはそう答えた。

「お父様!」

アイナが叫んだ。

「大好きです!」

アイナは満面の笑みでそう言った。

「ぬおおおおおっ!!」

ゲイルは悶えた。

とその時、拓也は服を引っ張られている事に気がついた。

「ん?」

拓也が其方に顔を向けると、ミーナが服を引っ張っている。

そして、

「・・・・・・・お兄ちゃん?」

と、そう呟いた。

「お、お兄ちゃん!?」

拓也は驚く。

「そうね。タクヤ君がアイナの旦那さんになれば、お兄ちゃんで間違いないわね。クリス。あなたもお兄ちゃんって呼んでみたら」

フレイアがコロコロと笑ってそう言う。

「わ、私はまだその男を兄とは認めていません!」

クリスはそっぽを向いてそう答える。

「よ~し!ヴァリ公にも紹介するか!紙とペンを!」

ゲイルがそう言うと、執事が紙とペンを用意する。

「ええっ!?ちょっとぉ!!」

拓也は余りの展開についていけない。

ゲイルは紙にさらさらと文字を書くと、窓際にいたフクロウに持たせる。

フクロウは夜空へと羽ばたいた。

こうして、なし崩し的に拓也はアイナの婚約者候補となってしまった。






次回予告


アイナの婚約者候補となった拓也。

翌朝には、ヴァリエール領に行く事になる。

そこで、才人やルイズの家族も巻き込んで、一騒動が起こる。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第二十六話 ヴァリエール家での一騒動

今、異世界の物語が進化する。




オリキャラ説明


ゲイル・サーバー・ド・シンフォニア

アイナの父で銀髪。

二つ名は『神風』。

『風』のスクウェアで、元竜騎士隊隊長。

かの『烈風』のカリンと同等の腕前を持っていた。

隊のモットーの違い(『自由気まま』と『鋼鉄の規律』)から普段は途轍もなく仲が悪かったが、一度戦になれば、普段が嘘のような連携を見せていた。

2人とも『風』であったことから『風の守護者(ウインドガーディアンズ)』とも呼ばれていた。

使い魔である風竜の『ストーム』は、ハルケギニアの竜騎士中、最速を誇る。

因みにゲイルは下級貴族の出だが、才能に溢れており、仲間を死なせないように戦っていたらいつの間にか武勲を挙げ、竜騎士隊隊長に。

そして遂には、公爵まで昇りつめた。

全ては成り行きで出世したため、体裁や名誉などは全く気にしていない。

現在は、娘を大事にする親馬鹿な父だが、娘が真剣に決めた事には口を出さない。

ただし、色恋に関しては別で、今まで何度か婚約者の話を持ちかけられたが、相手が公爵の地位を狙う政略結婚だったので全て突っぱねていた。

ヴァリエール公爵とは、昔からの付き合いで“ヴァリ公”と呼んでいる。





フレイア・フォルダ

アイナの母で赤髪のロングヘアー。

二つ名は『太陽』で『火』のスクウェア。

使い魔に火竜がいる。

穏やかで優しい性格であり、どんな人でも暖かく包み込む抱擁力を持った人。

二つ名の『太陽』はここからきている。

ただ、少し天然が入っている。

尚、この小説のルイズの姉であるカトレアの性格は、この人の影響であるという設定です。




クリス・ツール・ド・シンフォニア

アイナの2歳年下の妹で、2卵生の双子の姉。

髪は銀髪のセミロング。

『風』のラインメイジ。

シンフォニア一家の中では、一番固い性格をしている。

これは、昔から交流があるヴァリエール家の影響を受けた。

しかし、やはりシンフォニアの血筋であり、言葉は固いが平民に冷たく当たったりはしない。

尚、双子の妹のミーナといつも一緒で、かなりのシスコン(の予定)。




ミーナ・タスク・ド・シンフォニア

アイナの2歳年下の妹で、2卵生の双子の妹。

髪は銀髪のロングヘアー。

『風』のラインメイジ。

シンフォニア一家の中では一番大人しい性格をしている。

いつも双子の姉であるクリスと一緒で、どんなときでもクリスの後を追いかけている。





あとがき

二十五話完成。

どうでしょうか?

アイナの父親の親馬鹿加減はどの程度にしようかと思ってたんですがこんなもんでどうですかね?

それで、拓也がアイナの婚約者候補にされました。

これは前々から決めていた事です。

って言っても、今までと大して変わりませんが。

ただ、アイナの両親は拓也との付き合うのは賛成すると言っただけです。

っていうか、11歳で婚約者候補って・・・・

で、アイナの家族ですが、ゲイル、クリス、ミーナの3人は元となったキャラがいます。

ゲイルに関しては結構そのままかも・・・・・

フレイアはアイナを元にした自分のオリジナルのつもりですが、強いて言えばカトレアかもしれない。

因みに名前は、「フレイム」と「フレア」をくっ付けて考えたものです。

さて、次回はルイズの家に行きます。

楽しみにしててください。

では、次回も頑張ります。



[4371] 第二十六話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/02/22 20:46
アイナの婚約者候補になってしまった拓也。

ヴァリエール家に紹介されるために向かう事になったのだが・・・・・・


第二十六話 ヴァリエール家での一騒動


拓也が婚約者候補にされた時と同じ頃、ヴァリエール家でも晩餐会が始まっていた。

だが、賑やかなシンフォニア家の夕食と違い、ヴァリエール家では誰も言葉を発しない。

食事を行なっているのは、ルイズの母であるカリーヌ。

長女のエレオノール。

次女のカトレア。

そして三女であるルイズの4人である。

使用人たちは皆、後ろに控えている。

才人も使用人と同じく後ろに控えていたが、息がつまりそうになっていた。

誰も言葉を発しない上、銀のフォークとナイフが、食器に触れ合う音だけがだだっ広いダイニングルームに響いた。

ギルモンは料理を物欲しそうに見ていたが。

そんな沈黙を破るようにして、ルイズが口を開いた。

「あ、あの・・・・・母さま」

カリーヌは返事をしない。

エレオノールが後を引き継いだ。

「母さま!ルイズに言ってあげて!この子、戦争に行くだなんて馬鹿げたこと言ってるのよ!」

ばぁーん!と、テーブルを叩いてルイズが立ち上がる。

「馬鹿げた事じゃないわ!どうして陛下の軍隊に志願する事が、馬鹿げた事なの!?」

「あなたは女の子じゃないの!戦争は殿方に任せなさいな!」

「それは昔の話だわ!今は、女の人にも男性と対等の身分が与えられる時代よ!だから魔法学院だって男子と一緒に席を並べるのだし、姉さまだってアカデミーの主席研究員になれたんじゃない!」

エレオノールは呆れた、というように首を振った。

「戦場がどんなところだか知っているの?少なくとも、あなたみたいな女子供が行くところじゃないのよ」

「でも、陛下にわたし、信頼されてるし・・・・・・・」

「どうしてあなたなんかを信頼するの?“ゼロ”のあなたを!」

ルイズは唇を噛んだ。

アンリエッタとウェールズがルイズを戦場に連れて行くのは、“虚無”が使えるルイズが必要だからだ。

しかし、“虚無”の担い手である事は家族にも話せない。

したがってルイズはそれ以上何もいう事ができなくなって黙りこくった。

エレオノールは言葉を続けようとして、それまでじっと黙っていたカリーヌに諌められた。

よく通る、威厳のある声で言った。

「食事中よ。エレオノール」

「で、でも母さま・・・・・」

「ルイズのことは、明日お父さまがいらっしゃってから話しましょう」

それで、その話は打ち切りになった。



それから暫くして、夕食も終わりに近付いたとき、窓に一羽のフクロウが飛んできた。

そのフクロウは手紙を持っている。

それに気付いた執事が、フクロウから手紙を受け取り、その手紙をカリーヌに持っていった。

差し出されたカリーヌは手紙を受け取り、その場で広げる。

カリーヌがその手紙に目を通していると、

「お母さま。どなたからですの?」

カトレアが尋ねる。

カリーヌは顔を上げ、

「シンフォニア公爵からよ」

そう答える。

カトレアはパッと顔を輝かせると、

「まあ、おじ様から。それで何と?」

もう一度聞き返す。

「アイナの婚約者候補が見つかったから、明日、紹介するためにこの家に来ると」

カリーヌはそう答える。

「まあ!それは喜ばしいお知らせね!」

カトレアは嬉しそうにそう言う。

「今まで、伯爵や侯爵の家からの婚約すらも一切認めなかったあのゲイルおじ様が候補といえどお認めになるなんて・・・・・どんな素晴らしい御仁でしょうか?」

エレオノールも驚きつつ期待に満ちた表情を浮かべる。

だが、その話を聞いた才人は、自分の良く知る少年が思い浮かぶ。

(まさか・・・・・・・気のせいだよな・・・・・・・?)

そう必死に否定するが、

「いや・・・・・・・でも、まさかそんな・・・・・・・でも・・・・・おじ様の性格ならあいつを気に入ってもおかしくは・・・・・・」

というルイズの呟きが聞えてきたため、ルイズも才人と同じ人物を予想したのだという事が分かる。

確信にも似た予感を感じながら、ヴァリエール家の夜は更けていった。




翌日。

朝食は日当たりのいいこぢんまりとしたバルコニーでとるのが、ラ・ヴァリエール家の常である。

早朝に戻ってきた、ラ・ヴァリエール公爵がテーブルの上座に腰掛け、その隣にカリーヌが並ぶ。

そして、珍しく勢ぞろいした三姉妹が、歳の順番にテーブルに座った。

公爵はかなり機嫌が悪い様子であった。

「まったくあの鳥の骨め!」

開口一番、公爵は枢機卿をこき下ろした。

「どうかなさいましたか?」

カリーヌが表情を変えずに、夫に問うた。

ルイズなどはもう、父のその一言に気が気ではない。

「このわしをわざわざトリスタニアに呼びつけて、何を言うかと思えば『一個軍団編成されたし』だと!ふざけおって!」

「承諾なさったのですか?」

「するわけがなかろう!すでにわしはもう軍務を退いたのだ!わしに代わって兵を率いる世継ぎも家にはおらぬ。なにより、わしはこの戦に反対だ!」

「でしたね。でもよいのですか?祖国は今、一丸となって仇敵を滅すべし、との枢機卿のおふれが出たばかりじゃございませんか。ラ・ヴァリエールに逆心ありなどと噂されては、社交もしにくくなりますわ」

そうは言いながらも、カリーヌは随分と涼しい顔である。

「あのような鳥の骨を“枢機卿”などと呼んではいかん。骨は骨で十分だ。まったく、お若い陛下をたらしこみおって」

ルイズはぶほっ!と食べていたパンを噴出した。

エレオノールがそんなルイズを睨み付ける。

「おお怖い。宮廷のすずめたちに聞かれたら、ただじゃすみませんわよ」

「ぜひとも聞かせてやりたいものだ」

それまで黙っていたルイズが、わななきながら口を開いた。

「と、父さまに伺いたいことがございます」

公爵はルイズを見つめた。

「いいとも、だがその前に、久しぶりに会った父親に接吻してはくれんかね。ルイズ」

ルイズは立ち上がると、ととと、と父に近寄り、頬にキスした。

それから真っ直ぐに父を見つめ、尋ねた。

「どうして父さまは戦に反対なさるのですか?」

「この戦は間違った戦だからだ」

「戦争を仕掛けてきたのはアルビオンですわ。迎え撃つことのどこがいけないのですか?」

「こちらから攻める事は『迎え撃つ』とは言わんのだよ。いいか?」

公爵は皿と料理を使って、ルイズに説明を始めた。

「『攻める』ということは、圧倒的な兵力が会って初めて成功するものだ。敵軍は5万。我が軍はゲルマニアと合わせて6万」

かちゃかちゃとフォークとナイフを動かし、公爵は肉の欠片で軍を作った。

「我が軍の方が1万も多いじゃありませんか」

「攻める軍は、守る側に比べて3倍の数があってこそ確実に勝利できるのだ。拠点を得て、空を制して尚、この数では苦しい戦いになるだろう」

「でも・・・・」

公爵はルイズの顔を覗き込んだ。

「我々は包囲をすべきなのだ。空からあの忌々しい大陸を封鎖して、日干しになるのを待てばよい。そうすれば、向こうから和平を言い出してくるわ。戦の決着を、白と黒でつけようとするからこういうことになる。もし攻めて失敗したらなんとする?その可能性は低くはないのだ」

ルイズは黙ってしまった。

父のいう事は正論である。

実際、ウェールズもそのことは認めていた。

「タルブの村でたまたま勝ったからって、慢心が過ぎる。驕りは油断を生む。おまけに魔法学院の生徒を士官として連れて行く?バカを言っちゃいかん。子供に何が出来る。戦はな、足りぬからといって、数だけそろえればよいというものではない。攻めるという行為は、絶対に勝利できる自信があって初めて行なえるのだ。そんな戦に、娘を行かせるわけにはいかん」

「父さま・・・・」

公爵はそこまで言うと立ち上がった。

「さて、朝食は終わりだ」

ルイズはぎゅっと唇をかみ締めて、佇んだ。

「ルイズ。お前には謹慎を命ずる。戦が終わるまで、この城から出る事は許さん」

「ま「そういえば・・・・」」

ルイズは思わず叫びそうになったが、カリーヌが声を発したため、それは抑えられた。

「昨夜、シンフォニア公爵から手紙が来まして、アイナの婚約者候補を連れてくるという話です」

カリーヌは、公爵にそう言う。

すると、公爵は軽く驚いた顔をして、

「アイナの婚約者候補だと?あの親バカのゲイルが認めたのか?」

そんなことを言った。

「手紙にはそう書いてありました。恐らく、ストームで来ると思うので、早ければそろそろだと・・・・・・」

とカリーヌが言いかけたところで、1匹の風竜が城の上空を飛んでいることに気付く。

その風竜はゆっくりと朝食を摂っているテラスに近付く。

その風竜に乗っているのは、シンフォニア一家と拓也であった。

一行が風竜から降りると、

「よぉーヴァリ公!元気にしてたか!?」

ゲイルがフレンドリーに言葉を投げる。

「ゲイル!その呼び方は止めろといつも言っているだろう!」

ラ・ヴァリエール公爵はそう返す。

「別にいいだろう。昔からの仲なんだ」

「全く。前から言っているように、お前は自分が公爵であるという自覚を持て!」

「自覚はしているさ。だが、公爵だろうが平民だろうが俺は俺だ」

言い合いに近い言葉の応酬だが、互いの顔は、それを楽しんでいるように思える。

「カリンも久しぶりだな」

そうカリーヌに言う。

「シンフォニア公爵。わたくしは“カリーヌ”です。お間違えの無いよう」

ゲイルの言葉を訂正するカリーヌ。

「そうだったな。すまん」

ゲイルが謝ると、

「それで、おじ様。アイナの婚約者候補を紹介していただけませんか?」

エレオノールが期待に満ちた表情でゲイルに尋ねる。

「おお、そうだったな。コイツが、アイナの婚約者候補だ」

そう言うと同時に、ゲイルは拓也の首に腕を回し引き寄せる。

「ど、どうも・・・・神原 拓也です・・・・」

拓也は引きつった笑みでそう言った。

「まさかとは思ってたけど、ホントにアンタだったとはね・・・・・」

ルイズが半ば諦めたような声でそう言った。

「ルイズ、彼の事を知っているの?だったら、彼の階級は?伯爵?男爵?」

エレオノールがルイズに迫る。

「そ、それはその・・・・・」

ルイズは口ごもる。

流石に召喚された平民の使い魔などとは言えない。

だが、

「コイツはアイナが使い魔として召喚した、まあ、一応平民だな」

ゲイルがそう言う。

一応とは、拓也が別の世界の人間であり、ハルケギニアの階級制度とは無縁という事を知っているからである。

「へ、平民ですって!?」

エレオノールが驚愕する。

「あらまあ」

カトレアがコロコロと笑っている。

「おじ様!侯爵や伯爵の子息でも婚約の話を認めなかったアナタが、何故平民との婚約を認めるのですか!?」

エレオノールが半ば叫ぶように問いかける。

「階級など関係ない。俺が望むのは娘の幸せだ。今までの婚約話は、公爵の地位を狙った政略の意味しかない。そして、実際にその人物を見ても、欲望に溺れた眼をした奴しかいなかった。そんな男にアイナを幸せに出来るとは思えん。その点、タクヤは真っ直ぐで強い心を持っている。そしてなにより、アイナが好意を持っているからな」

ゲイルははっきりとそう言った。

アイナは頬を染めて、はにかんだ笑みを浮かべている。

そこで、拓也が気付いた。

「ルイズ。才人さんの姿が見えないけど如何したんだ?」

そうルイズに問いかける。

ルイズは呆れたようにため息を吐き、

「あんたねぇ、貴族の朝食に平民を同席させるわけないじゃない。アイナの家は変わってるの。アイナの家が当たり前なんて思わないほうがいいわよ」

そう答える。

「そうか・・・・」

拓也は呟く。

すると、

「そのサイトというのは、確かタクヤの兄のような存在だったな」

ゲイルが尋ねてくる。

「はい、そうです」

そう拓也が答えると、

「ふむ、興味があるな。その人物を連れてきてはくれないか?」

ゲイルはそう、ラ・ヴァリエール公爵に向かってそう言う。

公爵は一度ため息を吐き、

「ジェローム」

執事を呼び、才人を呼んでくるように指示する。

暫くすると、ギルモンを連れた才人が現れる。

「あの~、いきなり呼び出されたんですけどなんですか?」

才人は遠慮がちに尋ねる。

「才人さん!」

拓也は手を振った。

「拓也!?」

才人は驚いて拓也に駆け寄った。

「拓也、何でここにいるんだよ?」

「え~、まあ、その~・・・・・アイナの婚約者候補になってしまいまして・・・・・・」

「あ~~~。やっぱりお前だったのか」

拓也の答えで納得する才人。

「お前がサイトか」

「うわっ!?」

突如、才人の顔を覗き込んだゲイルに才人は驚く。

「だ、誰?」

才人は拓也に尋ねた。

「アイナの父さんのゲイルさんです」

拓也は答える。

暫く才人の眼を見続けていたゲイルだったが、

「ほう。タクヤが兄と慕うだけあって、なかなか良い眼をしているな」

微笑を浮かべ、そう言った・

「は、はあ?」

いきなりそう言われた才人は何のことか分からないでいる。

「おじ様!何故そんなにも平民を誉めるのですか!?」

貴族のプライドを持つエレオノールが叫んだ。

ゲイルはそれに動じずに答えた。

「別に平民だから誉めているわけではない。俺が見ているのは、その人物の人となりだ。眼を見ればその人物の人となりが大体分かる。貴族だろうが平民だろうが、好感が持てれば誉めるし、いけ好かなかったら相応の態度で臨むだけだ」

才人はゲイルのその言葉に好感を持った。

だが、エレオノールはそうは行かない。

「おじ様!おじ様は貴族の自覚がなさ過ぎます!貴族と平民は違うのです!おじ様は平民と一緒に戯れるばかりか、アイナと平民との婚約をお認めになるなんて!」

「そう言われても俺は親バカだからな。さっきも言ったが、俺が望むのはアイナの幸せだ。俺もタクヤの事は気に入ったし、アイナもそれを望んでいる。まあ、アイナが嫌だと言えば解消するがな」

ゲイルはそう答える。

それを聞くと、エレオノールはアイナに向き直る。

「アイナ!平民との婚約なんて解消しなさい!」

アイナに怒鳴るように言った。

昔のアイナならこれだけで萎縮してしまっていたのだが、

「嫌です!」

アイナははっきりと反論した。

「なっ!?」

エレオノールは驚愕する。

こんなにもはっきりと反論されるとは思っていなかったのである。

「私はタクヤが好きです!何と言われても、この気持ちは否定できません!」

その言葉を聞いた拓也は照れ隠しに頬を掻く。

「・・・・・愛されてるな拓也」

ポツリと才人が呟いた。

「どうやら言葉で言っても無駄みたいね」

エレオノールは立ち上がる。

「表に出なさい。徹底的に躾け直してあげるわ!」




ラ・ヴァリエール家の中庭で、アイナとエレオノールが対峙する。

2人から少し離れた所で、シンフォニア、ヴァリエール両家の面々と拓也、才人が見守る。

「ゲイルさん、止めなくていいんですか?」

拓也がゲイルに尋ねる。

「この程度で考えを変える程度の想いなら、どちらにせよ解消するさ。それに、アイナがどの位成長したかを確認するのにも丁度いい。昔のアイナではエレオノールに反抗する事すら考えられなかった事だからな」

「そうですか・・・・・・」

一方、才人とルイズは、

「にしてもルイズのお姉さん、アイナとやり合うなんて凄い使い手なんだな。やっぱりスクウェアなのか?」

才人がルイズに尋ねる。

「姉さまは『土』のトライアングルよ。なんでそう思ったの?」

ルイズが才人に聞き返す。

「え?だってアイナは「あ!」っと」

才人の言葉の途中でルイズがはっと気付く。

その瞬間、ルイズは叫んだ。

「姉さま!!(姉さまが)危険です!!お止め下さい!!」

「何言ってるのちびルイズ!(アイナを)怖い目に遭わせないと躾の意味が無いじゃない!」

2人の会話は、微妙に食い違っている。

その訳は、アイナはラインメイジとして認知されている。

アイナをスクウェアと知る者は、魔法学院でもごく一部だけ。

シンフォニア家でもアイナがラインメイジと認知しているため、ヴァリエール家のエレオノールがアイナがスクウェアだと知る由もないのだ。

エレオノールは、アイナに向かって言った。

「アイナ!私は本気よ!それでも考えを変えないって言うの!?」

「変えるつもりはありません!」

アイナは迷い無く言う。

「いい加減になさい!!」

エレオノールは怒鳴り、杖を振る。

幾つもの岩の弾丸がアイナに向かって飛ぶ。

エレオノールは元より当てるつもりは無い。

全て威嚇だ。

エレオノールはここまでやれば、アイナは怯えて縮こまると思っていた。

だが、それは違った。

アイナが杖を振ると、岩の弾丸と同数の火球が生まれ、岩の弾丸全てを相殺した。

「なんですって!?」

エレオノールは驚愕する。

「ほう。やるようになったじゃないか」

ゲイルは関心している。

「エレオノールお姉さま。私はもう、自分を信じられなかった私とは違います!」

アイナははっきりと宣言する。

「お黙りなさいっ!!公爵家の娘とあろう者が、卑しい平民などに恋をするなんてあってはならないことよ!!」

エレオノールは叫ぶ。

「何故ですか!?貴族も平民も同じ人間です!同じ人間を好きになる事の何処がいけないんですか!?」

アイナも必死に反論する。

「こ、ここまで私に反抗するなんて・・・・・・」

エレオノールが視線を拓也に向ける。

「あなたがアイナを誑かしたのね・・・・」

怒りを露にするエレオノール。

「は?」

拓也は声を漏らす。

「この平民風情が!」

拓也に向かって一発の岩の弾丸が撃ち出された。

「やべっ!」

余りの不意打ちに地下水を掴む暇もない。

(くっ!スピリット!)

即座にスピリットを体に同調させる。

「うおおおおおおっ!!」

拓也は岩の弾丸に拳を繰り出した。

――ドガン

拓也は拳で岩の弾丸を砕いた。

そして、

「いってぇえええええっ!!」

拳を押さえて蹲った。

流石にスピリットを同調させていても、岩を素手で砕くのは多少の無理があった。

「姉さま!いきなり何を!?」

ルイズが叫ぶ。

「ふん!アイナを誑かした平民に罰を与えようとしただけよ」

エレオノールはそう答える。

「姉さ・・・・・・」

再び叫ぼうとしたルイズの声が止まった。

アイナの雰囲気が変わったからだ。

「エレオノールお姉さま・・・・・・・いくらエレオノールお姉さまでも今のは許せません!」

アイナが杖を掲げる。

「ああっ!!アイナがキレちゃった!!」

ルイズが叫ぶ。

呪文を唱えだすアイナ。

アイナの頭上に集束されていく炎。

「な!?そんな!?」

その子とに驚愕するエレオノール。

ルイズは慌てて才人に言う。

「才人!姉さまを守って!私はその間にディスペルを唱えるから!!」

「わ、分かった!」

才人はデルフリンガーを掴み、駆け出す。

巨大な火球が、エレオノールに放たれた。

「ちょ・・・・・・」

炎がエレオノールを飲み込もうとしたその時、才人が立ちはだかった。

「うおおおっ!吸い込めデルフ!」

デルフリンガーで炎を吸い込んでいく。

だが、

「熱っ!」

デルフリンガーでも吸い込みきれない。

「うひょお!改めて見るとあの嬢ちゃんすげえ魔力だ。威力だけなら、あのワルドとかいう奴よりも上だな」

デルフリンガーが感想を漏らす。

その間にも、ルイズは呪文を唱えている。

だが、その詠唱を聞いていたカリーヌは、怪訝な顔をする。

やがて、詠唱は完了し、光が炎を消し去った。

「ふう~~~」

才人は息をついた。

そして振り向き、

「大丈夫ですか?」

尻餅をついて、半ば放心していたエレオノールに手を差し出す。

「え、ええ・・・・・・」

本来なら、平民の男に触られるだけでも嫌悪感を露にするエレオノールだが、半ば放心していたため、思わずその手を取って立ち上がった。

そのエレオノールにルイズが駆け寄ってくる。

「姉さま!大丈夫でしたか!?」

「え、ええ」

エレオノールに怪我らしい怪我が無いことが分かるとルイズは安堵の息をつく。

今度はアイナが駆け寄ってきた。

「エ、 エレオノールお姉さま。ご、ごめんなさい。ついカッとなって・・・・・・」

アイナが申し訳無さそうに謝る。

そして、ルイズがエレオノールに言った。

「姉さま。アイナはスクウェアなんです」

「何ですって!?」

エレオノールが驚愕する。

「本当なの!?アイナ!」

「は、はい」

アイナは頷く。

と、その時、カリーヌが近付いてきた。

「ルイズ、あなたに聞きたいことがあります」

カリーヌのその声は、荒かったわけではないが、異様に重みがあった。

「な、なんでしょうか?母さま」

ルイズが恐る恐る尋ねた。

「あなたが先程唱えた魔法。あれはなんですか?魔法を打ち消す魔法など聞いたことがありません。そして、唱えていたスペルも、四系統のどれでもありませんでした」

「そ、それは・・・・・・」

ルイズは口ごもる。

アンリエッタとの約束で、“虚無”の担い手という事は秘密にしなければならなかった。

「さあ、言いなさいルイズ。それとも母である私に隠し事をするのですか?」

静かに、だが迫力のある声であった。

その時、

「虚無の魔法です」

そう答えたのはアイナだった。

「ルイズが使ったのは虚無の魔法です」

「虚無?伝説の系統の?」

「はい、そうです」

アイナがそう言った時、

「ちょ、ちょっとアイナ!何でばらしてるのよ!姫さまに秘密って言われたじゃない!」

「確かにルイズは、秘密だって言われてたけど、私は言われてないから」

そんな2人とは別に、虚無の系統と聞いた他の面々は驚いている。

「信じられないわ。ゼロのルイズが虚無の系統だなんて」

「むう。俄かには信じられんな」

「あらあら、凄いわルイズ。伝説の系統の担い手なんて」

エレオノール、ヴァリエール公爵、カトレアの順である。

「その娘っ子が虚無の系統っていう事は本当だぜ」

デルフリンガーが口を挟む。

「なによ、そのインテリジェンスソード」

エレオノールが疑わしそうな目でデルフリンガーを見る。

「俺様はデルフリンガー様だ。かつて、始祖ブリミルの使い魔、『ガンダールヴ』が使っていた剣さ」

「本当かしら?」

「本当さ。そして相棒も、その貴族の娘っ子に召喚されて『ガンダールヴ』になったんだ。嘘だと思うならルーンを見てみればいい」

デルフリンガーに言われると、エレオノールは才人の方を向く。

「使い魔のルーンを見せなさい!」

「は、はい」

才人は言われるままに左手のルーンを見せる。

エレオノールはまじまじとルーンを観察する。

「・・・・確かに、文献で見た『ガンダールヴ』のルーンと同じものね」

アカデミーで働いているエレオノールはそう判断する。

「はい、学院長やコルベール先生も本物だと言っていました」

才人は答える。

「ならばルイズが戦争に行くと言い出したのも・・・・・」

「姫さまは、私を必要としてくれているんです。虚無の担い手である私の力を」

「むう・・・・・・・」

ヴァリエール公爵は考え込む。

「ヴァリ公、娘が真剣に決めた事ならそれを後押しするのも親の役目だぞ」

ゲイルが言った。

「何を言っているのだゲイル!?娘を死地になど赴かせるものか!」

ヴァリエール公爵の言葉は、純粋にルイズの身を案じてのことだ。

「ゲイル、お前まさか?」

「ああ。俺は許可した。アイナが真剣に決めた事だ。それに、アイナにはタクヤが付いている。大丈夫だろう」

ゲイルの言葉にヴァリエール公爵は驚愕する。

「あんな子供に何が出来る!戦争は遊びではないんだぞ!」

「そんなことは分かっている。だが、手加減と油断をしていたとは言え、タクヤは俺に勝った男だ。それにアイナもタクヤを信じている」

「お前に勝っただと!?」

「ああ。そして、子供は親の道具ではない」

驚愕するヴァリエールにゲイルは落ち着いて答える。

「・・・・・だが、権限が無くては捨石にされる可能性だってある」

ヴァリエール公爵がそう言った時、

「権限なら、タクヤも持ってます」

アイナが答えた。

「タクヤは女王陛下から、戦時中は陛下に次ぐ命令権を与えられています。そして、同じ権限はサイトさんも持ってます」

それを聞くと、今度はゲイルも驚いた。

「それは驚いたな。ならば一層安心できる」

ゲイルはそう言った。

「むむむ・・・・・・」

ヴァリエール公爵は更に一層考え込む。

そんな時、

「ゴホッ!ゴホッ!」

カトレアが激しく咳き込んだ。

「ッ!?大丈夫か、カトレア」

ヴァリエール公爵がカトレアの肩を支える。

「ちいねえさま!」

ルイズも心配そうに駆け寄った。

「だ、大丈夫よ。少し咳き込んだだけだから・・・・・・」

そう言いながらも、カトレアは辛そうである。

拓也は小声でアイナに尋ねた。

「何?ルイズの姉さん病気なの?」

「うん。カトレアお姉さまは、昔から難病を患っていて、国中の名のある水の使い手を呼んだんだけど如何にもならないの」

拓也はそれを聞いたとき、ふとポケットに入っているものを思い出した。

「アイナ」

拓也はポケットから小壜を取り出す。

「タクヤ・・・・これって」

聞き返してくるアイナに拓也は頷く。

「ありがとうタクヤ」

アイナはその小壜を受け取り、カトレアに駆け寄る。

「あの、カトレアお姉さま」

アイナはカトレアに話しかける。

「何?アイナ」

「これを」

アイナは、『覇竜の涙』が入った小壜を差し出す。

「これは?」

小壜を受け取ったカトレアが尋ねる。

「飲んでみてください。もしかしたら治るかもしれません」

「ふふっ。アイナ、気休めでも嬉しいわ」

そう言いながらカトレアは微笑む。

そして、小瓶に口をつけ、『覇竜の涙』を飲んだ。

すると、シャルロットの母親の時と同じように一瞬青い光がカトレアを包む。

そして、その光が消えたとき、

「あら?」

カトレアは不思議そうに自分の体を確認する。

「不思議だわ。とっても体が楽になったの」

それを見たヴァリエール公爵が驚いている。

「ま、まさか本当に治ったというのか?今までどんな水の使い手でも治す事が適わなかった病を」

アイナはそれを確認すると微笑んだ。

「良かった。本当に治ったんですね」

「ええ。あの薬のお陰よ。ありがとうアイナ」

カトレアはお礼を言う。

「それにしても、カトレアに飲ませた秘薬は一体何?もうカトレアの病を治せるものなんて、伝説の『覇竜の涙』ぐらいしか無いと思ってましたのに」

エレオノールが尋ねた。

「あ、はい。その『覇竜の涙』です」

アイナが答えた瞬間、

「なんですってぇ!!」

エレオノールが叫んだ。

「ア、ア、アイナ!あなた伝説の覇竜に会ったの!?」

「は、はい・・・・・あ、でも、『覇竜の涙』を受け取る資格を得たのはタクヤです。それにタクヤは覇竜から『勇者』とまで認められたんですから」

エレオノールは額に手を当ててよろめく。

「い、一体なんなの今日は?アイナの婚約者候補から始まって、アイナがスクウェアでルイズが虚無の担い手。挙げ句の果てにその使い魔は『ガンダールヴ』と覇竜も認めた『勇者』ですって?」

エレオノールは驚きすぎて頭がうまく回らないらしい。

その時、ヴァリエール公爵が決心したように顔をあげた。

「ルイズの使い魔の小僧!名は何と言う?」

いきなり問われた才人は驚く。

「さ、才人です。平賀 才人」

驚きながらも才人は答える。

「そうか!ならば一個軍団貴様に預ける!命に代えてもルイズを守れ!」

「は、はいっ!」

才人は反射的に答えた。

「ルイズに毛ほどの傷でも負わせたときは、分かっているだろうな」

「はいっ!!」

ヴァリエール公爵の物凄い雰囲気に才人は返事をすることしか出来なかった。

「父さま、それは・・・・・」

ルイズが驚いたように、公爵を見つめた。

ヴァリエール公爵は優しい笑みを浮かべ、ルイズの頭を撫でた。

「ルイズ、私はお前が戦争に行く事は反対だ。だが、ゲイルの言うとおり、子供は親の道具ではない。お前が信じた道を進みなさい。そして一つだけ約束しなさい。必ず無事に帰ってくると」

「父さま・・・・・はい!」

ルイズはしっかりと頷く。

こうして、ルイズも戦争へ行く許可を得たのであった。





次回予告


従軍の許可を受けたアイナとルイズ。

戦場に向かった拓也達は、ロサイス侵攻の為に陽動作戦を行う事になる。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第二十七話 ダータルネスの幻影

今、異世界の物語が進化する。




あとがき

え~と、突っ込み所満載の二十六話が完成。

先ずはエレオノールファンの人にごめんなさい。

なんか悪役になってしまった。

ここまで悪役にするつもりは無かったのですが・・・・・・・自分の文才では、極端な表現しか出来なかったために・・・・・・

真に申し訳ありません。

あと、属性を『土』にした理由ですが、アニメ版でカトレアが『土』系統を使っていたので恐らくエレオノールも『土』ではないかと・・・・・・

ですが、今回はこれに限らず、メチャクチャでまとまりが無いと感じてます。

簡単に言えば、今回の話の流れは、

アイナの婚約者候補が平民だったために、怒ったエレオノールがアイナと対峙。
               ↓
それを止めるために、ルイズが虚無魔法を使用。
               ↓
それと同時に、アイナがスクウェア、ルイズが虚無の担い手であり、才人が『ガンダールヴ』であることがばれる。
               ↓
それがきっかけで、ルイズの従軍が認められる。
               ↓
その序に、『覇竜の涙』でカトレアの病気が治る。

という流れだったんですけど、話が全く纏まってないです。

色々と無理矢理言葉を繋げたところが目立ってます。

あと、一緒にいるはずのシンフォニア一家にも台詞が無かった。

序に言えば、最後にブラックウォーグレイモンも登場させたかったんですけど、流石にそれやると強引が度を超えてしまいますので止めました。

もっと精進です。

こんな未だに未熟な作者ですが、これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。



[4371] 第二十七話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/03/01 13:24
従軍の許可を受けたアイナとルイズ。

そして・・・・・


第二十七話 ダータルネスの幻影


年末はウィンの月の第一週、マンの曜日はハルケギニアの歴史に残る日となった。

この日、トリステイン、ゲルマニア連合軍6万を乗せた大艦隊が、アルビオン侵攻のため、ラ・ロシェールを出向する運びとなったからである。

その中には、拓也とアイナ。

そして、ウェールズとアンリエッタもいた。

才人とギルモン、ルイズは後にゼロ戦で合流する予定である。




艦隊が出向して暫くすると、『ヴュセンタール』号の甲板に、ゼロ戦が着艦した。

才人とルイズ、ギルモンは、拓也、アイナと共に士官に案内されていく。

とあるドアの前に出ると士官はドアをノックする。

すると、中から返事があった。

士官はドアを開け、拓也達を中に入れる。

その部屋で4人と1匹を出迎えたのは、ずらっと居並んだ将軍達であった。

肩には金ぴかのモールが光っている。

随分な偉いさんたちのようである。

唖然とする4人に、従兵が席を勧める。

ルイズとアイナが椅子に腰掛け、才人、ギルモンと拓也がその後ろに控えた。

一番上座の人物が口を開く。

「アルビオン侵攻軍総司令部へようこそ」

その人物は4人が知っている人物だった。

「総司令官のウェールズ・テューダーだ」

拓也達は緊張したが、ウェールズは紹介を続ける。

「こちらが参謀総長のウィンプフェン」

ウェールズの左に腰掛けた、皺の深い小男が頷いた。

「ゲルマニア軍司令官のハルデンベルグ侯爵だ」

角の付いた鉄兜をかぶったカイゼル髭の将軍が、ルイズ達に重々しく頷く。

「そして、ご存知だろうが、トリステイン王国女王であるアンリエッタ女王陛下、並びにマザリーニ枢機卿だ」

「ひ、姫さま!?」

ルイズは思わず叫んだ。

「ルイズ、あなたが来てくれて心強いわ」

アンリエッタは微笑んで言った。

それには4人とも呆然となった。

流石に女王であるアンリエッタが戦場に来るとは予想すらしていなかった。

それからウェールズは、会議室に集まった参謀や将軍たちに、ルイズを紹介した。

「さて各々方。陛下の女官であり、“虚無”の担い手を紹介しよう」

しかし、そうは言っても会議室の面々は盛り上がらない。

胡散臭そうにルイズと才人を見つめるばかり。

「タルブの空で、アルビオンの艦隊を吹き飛ばしたのは、彼女たちなのです」

と、アンリエッタが言って初めて、将軍たちは関心を持ったらしい。

才人はルイズをつついた。

「あによ」

「・・・・・いいのか?バラしちまって」

「じゃないと、軍に協力できないじゃないの」

そのことに才人は思うところがあったが、何も言わなかった。

ウェールズは4人に、にっこりと笑いかけた。

「いきなり司令部に通されて驚いただろう。いやすまない。しかし、この艦が旗艦ということは極秘なのでね。見ての通り、竜騎士を搭載するために特化した艦なんだ。故に大砲も積んではいない。敵にバレたら、狙い撃ちにされてしまうからね」

「は、はぁ・・・・・・しかし、どうしてそのような艦を総司令部になさったのですか?」

ルイズが可愛らしい声で娑婆っ気たっぷりの質問をしたので、辺りが笑い声に包まれた。

「普通の船では、このような広い会議室を設ける事はできん。大砲を積まねばならないからな」

大軍を指揮する旗艦に必要なのは攻撃力より情報処理能力という事なのだろう。

「雑談はそのぐらいにして、軍議を続けましょう」

とゲルマニアの将軍は言った。

将軍たちから笑みが消える。



軍議は難航していた。

アルビオンに6万の兵を上陸させるための障害は2つ。

まずは、未だ有力な敵空軍艦隊である。

先だってのタルブの戦いでレキシントン号を筆頭に、戦列艦十数隻を屠ったとはいえ、アルビオン空軍には未だ40隻ほど戦列艦が残っている。

対してトリステイン・ゲルマニアは60隻の戦列艦を持つが、二国混合艦隊のため、指揮上の混乱が予想された。

錬度に勝るといわれるアルビオン艦隊を相手にした場合、1,5倍の戦力差は帳消しになってしまうかもしれない。

第二に、上陸地点の選定である。

アルビオン大陸に。6万からの大軍をおろせる要地は2つ。

主都ロンディニウムの南部に位置する空軍基地ロサイスか、北部の港ダータルネス。

港湾設備の規模からいって、やはりロサイスが望ましかったが、そこを大艦隊で真っ直ぐ目指したのではすぐに発見され、敵に迎え撃つ時間を与えてしまう。

「強襲で兵を消耗したら、ロンディニウムの城をおとすことは叶いません」

参謀長は冷静に兵力を分析して一同に告げた。強襲とは敵の抵抗を受けつつ、攻撃を加えることである。

連合軍に必要なのは“奇襲”であった。

敵の抵抗を受けずに、6万の兵をロサイスに上陸させたいのだ。

そのためには敵の大軍を欺き、上陸地点のロサイス以外に吸引しなくてはならなくなる。

つまり、6万のトリステイン・ゲルマニア連合軍が、『ダータルネスに上陸する』と、敵に思わせるための欺瞞作戦が何としてでも必要なのである。

それが、第二の障害であった。

「どちらかに“虚無”殿の協力を仰げないか?」

参謀記章をつけた貴族がルイズの方を見ながら言った。

「タルブで『レキシントン』を吹き飛ばしたように、今回もアルビオン艦隊を吹き飛ばしてくれんかね」

才人はルイズを見つめた。

ルイズも振り返り、首を振った。

「無理です・・・・・・あれほど強力な『エクスプロージョン』を撃つには、よほど精神力が溜まっている状態でないと。後何年、何ヶ月かかるかわかりません」

参謀たちは首を振った。

「そんな不確かな“兵器”は切り札とは言わん」

才人はその言葉に反応した。

「おい、ルイズは兵器じゃない」

「なんだと?使い魔風情が口をきくな」

騒ぎになろうとした時、

「失礼」

アンリエッタが口を開いた。

「彼女はわたくし直属の女官であり、友人でもあります。“兵器”というような発言は謹んでいただきたいわ」

「こ、これは失礼」

兵器発言をした将軍は慌てて謝る。

「そして彼女達の使い魔は、かのラ・ヴァリエール公爵とシンフォニア公爵から諸侯軍を預かっています。この場で発言する権利は十分に有しているとおもわれますが?」

アンリエッタのその言葉に将軍たちはざわめく。

そんな中、ウェールズが言った。

「艦隊は我らが引き受けよう。君たちには陽動の方をお願いしたい。できるかね?」

「陽動とは?」

「先程議題に上がったとおりだ。我々がロサイスではなく『ダータルネスに上陸する』と敵に思い込ませるんだ。・・・・・・そう、例えば『偏在』のような魔法で偽の艦隊を作り出す・・・・・などのね」

ルイズは考え込んだ。

才人が後ろから、そっと呟いた。

「・・・・・・デルフが言ってた。必要なときが来たら、読めるんだろ?」

ルイズは頷いた。

「明日までに、使用できる呪文を探しておきますわ」

「お願いする」

と、ウェールズは微笑む。

その後、退室を促され、拓也達は廊下に出た。


「ムカつく奴らだな」

廊下に出た拓也が開口一番にそう言った。

「ホント、嫌な感じ」

とルイズも同意して、

「そうだな」

と才人も相槌をうった。

「ウェールズ皇太子や女王陛下以外は、私達をただの駒としか見てないんだね・・・・・・・」

アイナがそう呟く。

「偉い将軍なんて、そんなもんだろ。戦争に勝つことしか頭にないんだからさ」

だが、それは戦いの中では正しい思考なのだろう。

拓也達には絶対に相容れない思考ではあるが。

そんなことを思っていると、才人が後ろから肩を叩かれた。

振り返ると、目つきの鋭い貴族が5、6人、才人を睨んでいる。

男というより、少年という歳だ。

才人といくらも変わらないだろう。

「おい、お前」

「なんだよ」

その中のリーダー格と思しき少年が、顎をしゃくった。

「来い」

なんだなんだ、と思いながら才人はデルフリンガーを掴んで歩き出した。

拓也達もその後を追う。

一行がやってきたのはゼロ戦が係留されている上甲板であった。

ゼロ戦はロープで各部を縛られ、甲板にくくりつけられている。

「これは、生き物か?」

と1人の少年貴族がゼロ戦を指差して、恥ずかしそうに尋ねてきた。

「そうじゃないなら何なんだ?説明しろ」

もう1人が、真顔で説明を求めてきた。

才人は気が抜けて、

「いや、生き物ではないけど・・・・・・」

と呟いた。

「ほらみろ!僕の言った通りじゃないか!僕の勝ちだ!ほら1エキューだぞ!」

一番太った少年が、わめき始める。

みんなしてしぶしぶポケットから金貨を取り出して、その少年に手渡す。

才人達が口を開けてみていることに気付き、少年たちは気まずそうな笑みを浮かべた。

「驚かせちゃったかな。ごめんね」

「はい?」

「いや、僕達は賭けをしてたんだ。こいつがなんなのかってね」

ゼロ戦を指差して少年貴族は呟く。

「僕は生き物だと思った。竜の仲間だと思ったんだ」

「こんな竜がいるもんか!」

「いるかもしれないだろ!世界は広いんだから!」

そう言って言い合いを始める。

そんな姿を見ていると、才人は故郷の教室を思い出した。

「これは飛行機械ですよ」

少年貴族たちは興味深そうに才人の説明に聞き入った。

しかし、どうしても魔法以外の動力で空を飛ぶ、という事が理解できない様子であった。



「僕達は竜騎士なんだ」

ゼロ戦の説明が終わると、少年たちは中甲板の竜舎に拓也達を案内した。

タルブの戦でほとんど全滅に近い損害を受けた竜騎士隊は、竜騎士見習いの自分たちを、そのまま繰り上げて正騎士として部隊に編入したんだと説明した。

「本来なら、あと一年は修行しなくちゃいけないんだけどね」

そう言ってはにかんだ笑みを浮かべたのは、先程賭けに勝った太っちょの少年であった。

自分は第二竜騎士中隊の隊長であると彼は言った。

才人達のゼロ戦をこの艦まで案内したのも彼であった。

竜舎の中にいたのは、風竜に成獣たちであった。

シャルロットのシルフィードよりも、2回りも大きい見事な風竜だ。

翼が大きく、スピードが出そうな面構えであった。

「竜騎士になるのは大変なんだぜ」

「そうなの?」

「ああ。竜を使い魔にすりゃ、そりゃ簡単だけどね。皆が皆、そううまくいくってわけじゃない。使い魔として契約しない場合、竜は気難しい、一番乗りこなすのが難しい幻獣さ。なにせ、自分が認めた乗り手しかその背に乗せないんだから」

「竜は、乗り手の腕じゃなく、自分に相応しい格を備えた魔力を持っているか?頭もいいか?なんてそんなところまで見抜くんだ。油断の出来ない相手さ」

竜騎士の少年たちはエリートであり、また相当なプライドの持ち主であるようだ。

「跨ってみるかい?」

と才人は言われて頷いた。

だが、

「のわあっ!?」

跨った才人はあっけなく振り落とされた。

少年たちが腹を抱えて笑う。

負けん気の強い才人は、再び挑戦した。

が、結果は同じ。

その時、

「俺も試していいか?」

拓也がそう言った。

少年たちは、お好きにどうぞといった感じであった。

拓也は風竜に話しかけた。

「なあ、ちょっと背中に乗せてくれないか?」

拓也がそういうが、風竜は聞く耳持たないといった感じだった。

だが、次の瞬間、

「「「「「え!?」」」」」

竜騎士の少年たちは揃って驚愕した。

なんと風竜が身を屈めたのだ。

「ありがとう」

拓也はそう言うと、風竜の背中に乗る。

拓也が乗っても、風竜は暴れたりせず、大人しくしている。

それを見た才人は、再び挑戦する。

が、あっけなく振り落とされる。

拓也と才人の違いは、ずばり覇竜刀である。

覇竜刀は竜族の覇王であるアカムトルムが拓也を認め、作り上げた刀である。

その刀は覇竜の加護を受けているといっても過言ではない。

故に、その刀から覇竜の気配を感じ取り、拓也を背に乗せたのだ。



その夜、ルイズはウェールズの言葉をヒントにして陽動に使えそうな魔法を探す。

始祖の祈祷書を開き、一旦目を瞑り深く深呼吸したあとカッと目を開いた。

始祖の祈祷書に精神を集中させ、慎重にページをめくっていく。

一枚のページが光りだして、ルイズは微笑んだ。




翌日。

使用する虚無の呪文を選択したルイズは、参謀本部へと提出した。

参謀本部ではそれを受けて作戦が立案され、作戦参謀たちによって計画書が作成された。

本日、早速その作戦は実行される事になった。

ただ、護衛の竜騎士はいない。

拓也が命令権を使い、断ったのだ。

ブラックウォーグレイモンが出てきた場合、竜騎士など足手まとい以外の何者でもない。

そして、竜騎士一個中隊より、アルダモン、メガログラウモンのほうが遥かに強いからだ。

才人は上甲板のゼロ戦の操縦席に座り、エンジン始動前の点検を行なっていた。

ルイズは既に後部座席に座って目を閉じ、精神を集中させている。

拓也は、アルダモンに進化して待機しており、アイナはギルモンの横にいる。

拓也はアイナも連れて行くことにした。

ここが軍艦の上である以上、安全とはいえない。

ならば、一緒に行ったほうが逆に安全だろうという判断である。

才人は甲板士官から作戦の説明を受ける。

そのとき、

――カンカンカン!

と激しく鐘が打ち鳴らされる音が響いた。

思わず空を見上げる。

遠くの雲の隙間に、明らかに味方とは違う動きの艦隊が、急速に降下してきてこっちに向かってくるのが見えた。

この総旗艦『ヴュセンタール』号を含む輸送船団の左上方を航行していた60隻の戦列艦たちが、現れた敵艦隊と雌雄を決するために進路を変えて上昇していく。

そこに伝令が飛んできた。

「“虚無”出撃されたし!目標“ダータルネス”!仔細自由!」

(もうかよ!早くねえか?いや、敵が来たから慌てて出撃させられるのか)

と、才人は思った。

「ギルモン!」

才人はギルモンに呼びかける。

「おっけー。任せて!」

ギルモンが答える。

――MATRIX

  EVOLUTION――

「ギルモン進化!」

ギルモンが光に包まれる。

その光の中で、完全体まで進化した。

「メガログラウモン!!」

才人はギルモンをメガログラウモンに進化させると、ゼロ戦のエンジンをかけるために、控えたメイジに指示を送った。

しかし、勝手が分からぬのか、もたついている。

エンジンをかけるためには、プロペラを回さなければならないのだが、どのような魔法をかければうまくプロペラが回るのか分からぬ様子であった。

これがコルベールなら、以心伝心、すぐに才人の意を汲んで行動そてくれるのだが、

「だから、その、これを回すんですよ!」

「え?どれだ?わからん。もっと詳しく頼む。

そんなやり取りをしているうちに、敵艦隊から分派した3隻ほどの船が、急速にこちらに向かって降下してきた。

「焼き討ち船だ!」

と誰かの声がする。

見ると、その船どもは真っ赤に燃えていた。

それらは、敵艦隊のど真ん中に無人で突っ込み、仕込まれた火薬を爆発させるというとんでもない船であるのだった。

「メガログラウモン!」

焼き討ち船の内、1隻が『ヴュセンタール』号の近くに来たので、才人は慌ててメガログラウモンに呼びかける。

「わかった!」

メガログラウモンは、焼き討ち船の方を向いた。

「アトミックブラスター!!」

焼き討ち船に向かって、アトミックブラスターを放った。

それによって、消滅する船。

才人はそれを確認すると、安堵の息を吐き、再びメイジにプロペラを回すように指示をする。

だが、未だにもたついている。

そこに、

「何やってるんだよ?」

業を煮やしたアルダモンが、ゼロ戦に近付いてきた。

アルダモンはプロペラに手を掛けると、一気に回転させた。

それを確認すると才人はエンジンを点火する。

近くにいた人員を退避させ、ゼロ戦は空に飛び立つ。

アルダモンも飛び立ち、メガログラウモンはアイナを乗せ、その後を追った。

こうして、ゼロ戦、アルダモン、メガログラウモンはダータルネスを目指した。




雲の切れ間にアルビオン大陸が見えた頃、ゼロ戦、アルダモン、メガログラウモンは敵軍の哨戒カラスに発見された。

空を飛べる使い魔を利用した、密度の濃い哨戒網の網の目の一個を形成するそのカラスは、すぐに竜騎士の駐屯所に待機する、自分の主人に侵入者の存在を知らせる。

多くの場合、使い魔の視界は精神を集中させた主人の視界となる。

3つの基地から、侵入者を邀撃するために竜騎士の群れが飛び上がった。

そして、その事を遅れて聞いた漆黒の竜人も・・・・・・



アルダモンは超人的な視力で、進行方向から十数匹の竜騎士がこちらに向かって急降下してくる所であった。

アルダモンはそれに気付くと先行する。

その手には覇竜刀が握られていた。

ある程度近付くと、攻撃が飛んでくる。

相手は風竜のようなので、ブレスは飛んでこないが、魔法の矢『マジックアロー』が飛んできた。

だが、アルダモンはそんなもの、ものともせずに直進する。

そして、敵竜騎士隊と交差した。

その瞬間、敵風竜の翼から1匹残らず血が吹き出る。

風竜の翼には斬り傷が付いており、飛行が困難となった竜騎士は戦線を離脱していく。

「やったあ!」

その様子を見ていた才人が喜ぶ。

だが、視線の先にあったものを見て、才人の笑顔が固まった。

「なんてこった」

前方に見えたのは、100騎を超えようかと思われる竜騎士の群れだった。

アルビオンの竜騎士隊は天下無双と誉れ高い。

質だけではなく、その数も“無双”なのであった。

まあ、ハルケギニアの中だけで言えばではあるが。

アルダモンがメガログラウモンに近付き、なにやら話しかけている。

それを聞いたメガログラウモンが頷き、前に出た。

そして、竜騎士の群れがある程度近づいてきたとき、

「グガァアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

メガログラウモンが、雲を全て吹き飛ばすかと錯覚させるほどの咆哮をあげた。

それを聞いた竜騎士達の竜は怯え、戦意を喪失する。

騎乗した騎士達は何度も竜をけしかけようとするが、竜は全くいう事を聞かなかった。

その間に、ゼロ戦、アルダモン、メガログラウモンは悠々と通過していった。

そんな時、猛スピードで近付いてくる黒い影にアルダモンが気付く。

「ブラックウォーグレイモンか!」

アルダモンは覇竜刀を構え、全速でブラックウォーグレイモンに突撃する。

「待っていたぞ!アルダモン!!!」

ブラックウォーグレイモンが叫ぶ。

「ブラックウォーグレイモン!!!」

アルダモンも叫び、お互い全速力で激突した。

――ガキィイイイイイイイイイイイイイイイイイン

耳をつんざくほどの金属音が鳴り響く。

ブラックウォーグレイモンがドラモンキラーで、アルダモンが覇竜刀で鍔迫り合いをしている。

「「おおおおおおおおおっ!!」」

お互いを弾きあった。

アルダモンは叫んだ。

「ここは俺に任せて、行けっ!!」

ゼロ戦に乗っている才人には直接声は聞えないが、何を言いたいかは理解した。

才人はサムズアップで答え、ゼロ戦を加速させる。

アルダモンはブラックウォーグレイモンに向き直る。

「行くぞ!」

アルダモンは覇竜刀を構え、ブラックウォーグレイモンに斬りかかった。

――ガキィン  キィン  ガキン  ガキィン

覇竜刀とドラモンキラーとのぶつかり合いで火花が飛び散る。

「やるなアルダモン!」

「お前もな!」

ドラモンキラーは、ダイヤより硬いクロンデジゾイドで出来ている。

アルダモンが使っている覇竜刀が普通の刀だったならば、最初の一撃で粉々だっただろう。

しかし、覇竜刀は究極体と同等以上の力を持つアカムトルムの牙から作られている。

その硬度は、クロンデジゾイドと同等であった。

何度か打ち合うと、両者共に間合いを一旦取る。

ブラックウォーグレイモンがエネルギーを集中させた。

「ガイアフォース!!」

ブラックウォーグレイモンがガイアフォースを放った。

対するアルダモンは、覇竜刀に炎を纏わせた。

「フレイムソード!!」

高速で近付いてくるガイアフォースに、炎を纏った覇竜刀を振り下ろした。

それは、ガイアフォースを両断した。

「何!?」

ブラックウォーグレイモンもこれには驚いた。

だが、

「フ・・・・フフフ・・・・」

不敵な笑みを零した。

「面白い!ますますお前に勝ちたくなったぞ!アルダモン!!」

ブラックウォーグレイモンは歓喜の声を上げ、再びアルダモンに襲い掛かった。




敵を振り切ったゼロ戦が暫く飛んでいると、眼下に“港”が見えた。

切り開かれただだっ広い丘の上、空に浮かぶ船を係留するための送電線のような鉄塔、何本もの“桟橋”が見えた。

「ダータルネスの港だぜ」

「上昇して」

ルイズが才人の耳元で呟く。

才人はゼロ戦を上昇に移した。

高度を上げるにつれ、徐々にゼロ戦は減速した。

風防を開けられる速度になったとき、ルイズが立ち上がり、風防をあけた。

風が舞い込む。

才人の肩に跨り、ルイズは呪文の詠唱を開始した。

片手には始祖の祈祷書が光る。

――初歩の初歩

  “イリュージョン”

  描きたい光景を強く心に思い描くべし。

  なんとなれば、詠唱者は、空をも作り出すであろう。――

ルイズが唱えているのは、幻影を作り出す“虚無”の呪文であった。

ダータルネス上空をゼロ戦は緩やかに旋回した。

じわっと、雲が掻き消えるように、空に幻影が描かれ始めた。

それは巨大な戦列艦の群れ。

ここから何百キロメイルも離れた場所にいるはずの、トリステイン侵攻艦隊の姿であった。

「すごい・・・・・・」

メガログラウモンの背でその幻影を見たアイナが思わず呟く。

ダータルネス上空にいきなり現れた幻影の大艦隊は、現実の迫力を伴って見るものを圧倒した。



「ダータルネスだと?」

ロサイスに向かっていたホーキンス将軍が、ダータルネス方面からの急便の知らせに驚いて呟く。

彼は、アルビオン軍3万を率いて、ロサイス方面に向かっている最中だった。

トリステイン軍の上陸地点がそこだと予想されたためだ。

しかし敵が現れたのは、首都ロンディニウムの北方、ダータルネス。

「全軍反転!」

全軍に伝わるまでには時間がかかる。

早いところ布陣したいものだ、と思いながらホーキンスは空を見上げた。





次回予告


殆どが女子生徒だけになってしまった魔法学院。

その魔法学院にアルビオンの魔の手が伸びる。

危機に陥る生徒たち。

だが、その時、過去の英雄が現れる。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第二十八話 『神風』と『太陽』

今、異世界の物語が進化する。




あとがき

二十七話完成しました。

とりあえず、台詞が少ないです。

しかもアイナの台詞はギルモン(メガログラウモン)より少ない!?

しかも、戦場では何もしてないし。

活躍の場がなかったです。

もっと精進します。

さて、話の流れとしては、指揮官がウェールズであり、竜騎士隊の面々がついて来なかった以外は大体一緒ですかね。

戦争編ではアニメと同じでアンリエッタとマザリーニがいます。

理由は・・・・・・だって、ねえ・・・・・・

分かる人は分かると思います。

ブラックウォーグレイモンは、前回出せなかったのでここで出しました。

ガイアフォースを真っ二つ。

やりたかったことができて満足。

さて、次回は魔法学院編。

誰が出てくるかは丸分かりですが、北風と太陽ならぬ、『神風』と『太陽』をお楽しみに。



[4371] 第二十八話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/03/08 19:44
無事ロサイス侵攻を果たしたトリステイン軍。

そのころ、学院では・・・・・・


第二十八話 『神風』と『太陽』


魔法学院では、アンリエッタ直属のアニエス率いる銃士隊が軍事教練の名目で駐屯していた。

そんなある日。

日の昇る前の早朝。

シャルロットは目を覚ました。

妙な気配が、中庭から漂ってくる。

少しの間悩んだが、やはりキュルケを起こすことにした。

部屋を出て、階下のキュルケの部屋に向かう。

扉を叩くと、素肌に薄手のネグリジェ一枚きりの、あられのない格好のキュルケが目を擦りながら起きだしてきた。

「なによあなた・・・・・こんな朝早くに・・・・・まだ太陽も昇ってないじゃないのよ」

「様子がおかしい」

シャルロットはそれだけを告げる。

キュルケは軽く耳を澄ますように目を瞑る。

サラマンダーのフレイムが窓に向かって威嚇行動をとっていることに気付く。

「みたいね」

目を開いたときには、眠そうな色はどこかにすっ飛んでいた。

キュルケは手早く服を身に着け始める。

杖を胸に挟んだ瞬間、下の方から扉が破られる音が響いてきた。

キュルケとシャルロットは顔を見合わせた。

「一旦引く」

と、シャルロットが呟く。

「賛成」

敵の数や得物が分からぬうちは、一旦引いて態勢を立て直す。

戦の基本である。

キュルケとシャルロットは、窓から飛び降りて茂みに姿を隠し、辺りの様子を窺った。

辺りは暗い。

日の出はまだのようであった。



同じ頃、アニエスも与えられた寝室で侵入者を撃退していた。

次に、隣の部屋にいた隊員たちが飛び込んできた。

「アニエス様!大丈夫ですか!」

と尋ねられ頷く。
 
「平気だ」

「我々の部屋にも、2人ばかり忍び込んできました。片付けましたけど・・・・・・・」

「アルビオンの狗のようだな」

アニエスは侵入者達のなりを見て、呟く。

メイジばかりで構成された分隊だ。

間違っても物取りの類ではない。

アルビオンが雇った小部隊に違いない。

そこでアニエスは、外の状況が気になった。

今、学院には女子生徒しかいない。

「2分やる。完全武装して、私に続け」

とアニエスは部下に命令した。



魔法学院を奇襲した部隊を率いるメンヌヴィルは、難無く女子寮を制圧した。

貴族の娘たちは、賊が侵入してきただけで怯え、全く抵抗のそぶりを見せなかった。

寝巻きのままの女子生徒たちの杖を取り上げ、一箇所に閉じ込める為に食堂まで連れて行った。

その数、おおよそ90人。

途中で、本塔へ向かった連中と合流する。

連れた捕虜に中に学院長のオスマンの姿を見つけ、メンヌヴィルは微笑んだ。

食堂に捕虜たちを集めたメンヌヴィルは、後ろ手に全員を縛り始めた。

隊員の誰かが唱えた魔法のお陰で、ロープが動き手首に絡み付いていく。

女ばかりの教師や、生徒はただ震えるのみであった。

優しい声でメンヌヴィルは一同に呟く。

「なあに、むやみに立ち上がったり、騒いだり、我らが困るようなことをしなければ、お命を奪う事はありません。ご安心めされい」

誰かが泣き出した。

「静かにしなさい」

それでも、その女生徒は泣き止まない。

メンヌヴィルは近付き、杖を突きつけた。

「消し炭になりたいか?」

その言葉が脅しではない事が理解できたのだろう。

女生徒は泣き止んだ。

オスマンが口を開いた。

「あー、君たち」

「なんだね?」

「女性に乱暴するのは、よしてくれんかね。君達はアルビオンの手のもので、人質が欲しいのだろう?我々を何らかの交渉のカードにするつもりなのじゃろう?」

「どうしてわかる?」

「長く生きていれば、そいつがどんな人間で、何処から来て、何を欲しがっているのかわかるようになるものじゃ。とにかく贅沢はいかん。この老いぼれだけで我慢しなさい」

「じじい、自分の価値をわかってんのか?」

傭兵達は大声で笑った。

「じじい1人のために、国の大事を曲げる奴ぁいねえだろ?考えろ」

オスマンは首をすくめると、アルヴィーズの食堂に集められた人間を見渡した。

ここにいて欲しくない、メイジの顔が見えない。

ふむ、とオスマンは思った。

「じじい、これで学院の連中は全部か?」

オスマンは頷いた。

「そうじゃ。これで全部じゃ」

傭兵達は、そこで火の塔に向かった連中が戻ってこない事に気が付いた。

手間取っているのなら、一旦引いて増援を仰ぐだろう。

そのぐらいの判断は出来る連中なので、メンヌヴィルは分派したのだ。

食堂の外から、声が聞えた。

「食堂に篭った連中!聞け!我々は女王陛下の銃士隊だ!」

メンヌヴィル達は顔を見合わせた。

どうやら、火の塔に向かわせた連中はやられたらしい。

だからといって、顔色一つ変えるような連中ではなかった。

1人の傭兵がオスマンを睨み付ける。

「おい老いぼれ。『これで全部』じゃねえじゃねえか」

「銃士は数には入れとらん」

とオスマンは涼しい顔。

メンヌヴィルは笑みを浮かべると、食堂の外の連中と交渉するために、入り口に近付いていった。



塔の外周を巡る階段の踊り場に、アニエス達は身を隠して様子を窺っていた。

食堂の入り口に、がっちりとした体躯のメイジが姿を見せた。

雲の隙間からの月明かりに、ぼんやりとその姿が浮かぶ。

そのメイジに向けて銃を構えた銃士をアニエスは制する。

「聞け!賊共!我らは陛下の銃士隊だ!我らは一個中隊で貴様らを包囲している!人質を解放しろ!」

アニエスは『一個中隊』とはったりをかました。

本当は10人ほどに過ぎない。

げらげらと食堂から笑う声が聞えてくる。

「銃兵ごときが一個中隊いても痛くもかゆくもないわ!」

「その銃兵に、貴様らの4人は屠られたのだぞ。おとなしく投降すれば、命までは取らぬ」

「投降?今から楽しい交渉の時間ではないか。さて、ここにアンリエッタを呼んでもらおうか」

「陛下を?」

「そうだ。とりあえず、アルビオンから兵を引くことを約束してもらおう。我が依頼主は、土足で国土を汚されることが嫌いらしいのでな」

通常、人質程度で軍が引き返すことは無い。

しかし、流石に貴族の子弟が90人も人質としてとられれば、話は別だ。

本当に侵攻軍の撤退もあるかもしれない。

自分の責任だ、とアニエスは唇を噛んだ。

教練に来ただけであったが、失態は失態だ。

アニエスの耳元で、銃士が囁く。

「・・・・・トリスタニアに急使をとばして、増援を頼みましょう」

「・・・・・無駄だ。人質をとられている以上、どれだけ兵がいても無意味だ」

そんな相談を見咎めてか、メンヌヴィルが叫んだ。

「おい、覚えておけ。新たに兵を呼んだら1人につき、1人殺す。ここに呼んでいいのは、枢機卿かアンリエッタだけだ。いいな?」

アニエスは返答につまった。

すると、メンヌヴィルが怒鳴った。

「5分で決めろ。アンリエッタを呼ぶのか、呼ばぬのか。5分たっても返事が無い場合、1分ごとに1人殺す」

銃士の1人が、アニエスをつつく。

「アニエス様・・・・・・」

アニエスは唇を痛くなるほどにかみ締めた。

その時、後ろから声が掛けられた。

「隊長殿」

振り返るとコルベールが立っていて、呆然とした様子でアルヴィーズの食堂を眺めようとした。

「首を出すな」

と言って、アニエスは壁の影に、コルベールを引き込んだ。

「あんたは捕まらなかったのか」

「私の研究室は本塔から離れておってな。一体何事だ?」

のん気なコルベールに、アニエスは腹を立てた。

「見て分からぬか。お前の生徒が、アルビオンの手のものに捕まったのだ」

コルベールはひょいっと顔を出して、食堂の前に立ったメイジの姿に気付き、顔面を蒼白にした。

「よい。下がっておれ」

うるさそうに、コルベールを下がらせる。

「ねえ、銃士さん」

ついで後ろから声をかけられた。

キュルケとシャルロットの2人組みが立ってにっこりと微笑んだ。

「お前たちは、生徒か?よくもまあ、無事だったな」

「ねえ、あたしたちにいい計画があるんだけど・・・・・・・・」

「計画?」

「そうよ。早いとこ皆を助けてあげないとね」

「どうするんだ?」

キュルケとシャルロットは、アニエスに自分たちの計画を説明した。

聞き終わったアニエスは、にやっと笑った。

「面白そうだな」

「でしょ?これしかないと思うのよね」

話を聞いていたコルベールが反対した。

「危険すぎる。相手はプロだ。そんな小技が通用するとは思えん」

「やらないよりはマシでしょ。先生」

軽蔑を隠さずに、キュルケが言い放つ。

アニエスなどは、もうコルベールを見ていない。

「あいつらはあたしたちの存在を知らないわ。奇襲のカギはそこよ」

キュルケは、シャルロットと自分を指差して、呟いた。



椅子に座ったメンヌヴィルは、テーブルに置かれた懐中時計を見つめた。

針がかちりと、動いた。

「5分たったぞ」

その声で生徒たちが震え上がる。

5分経ってアニエス達から『アンリエッタを呼ぶ』との言葉がなければ、1人殺すとメンヌヴィルは言ったのだ。

「恨むなよ」

と言いながら、メンヌヴィルは杖を掲げた。

「わしにしなさい」

とオスマンが呟いたが、メンヌヴィルは首を振る。

「アンタは交渉のカギとして必要だ。おい、誰がいい?お前らで選べ」

なんとも残酷な質問だった。

唖然として、誰も答えられない。

「わかった。じゃあ俺が選ぶ。恨むなよ」

と、メンヌヴィルが言った瞬間、食堂の中に小さな紙風船が飛んできた。

全員の視線がそこに集中した瞬間、その紙風船は爆発して、激しい音と光を放つ。

中にはたっぷりと黄燐が仕込まれた、紙風船であった。

それを風を使って食堂の中に飛ばしたのはシャルロットであり、着火させたのはキュルケの『発火』であった。

女生徒が悲鳴を上げる。

まともにその光を見てしまったメイジが何人か顔を押さえる。

そこに、キュルケとシャルロット、マスケット銃を構えた銃士が飛び込んだ。

炎と風が、目を眩ませた傭兵を薙ぎ払う。

作戦は成功するかに見えた。

だが、キュルケ達目掛けて、炎の弾が何発も飛んできた。

成功すると思って油断していたキュルケ達は、次々その火の弾を喰らう。

銃士たちも床をのた打ち回った。

キュルケは立ち上がろうとして、立てないことに気付く。

腹の前で炎の弾は爆発して、至近距離で爆風を当ててきた。

炎で包むより、効果的な攻撃だった。

炎で焼くには時間がかかるが、衝撃は一瞬だ。

倒してから、ゆっくりと料理すればいい。

キュルケの視界の中に、シャルロットがよろめきながら立ち上がるのが見えた。

彼女は倒れた衝撃で頭を打っていたらしく、再び地面に転がった。

白煙の中からメンヌヴィルが姿を現した。

キュルケは呪文を唱えようとしたが、杖が見当たらない。

目の前に落ちていることに気付く。

拾おうと手を伸ばしたところ、その杖ががしっと踏まれた。

メンヌヴィルが立って、キュルケを見下ろしていた。

「おしかったな・・・・・・光の弾を爆発させて視力を奪うまではよかったが・・・・・・」

そう言って、メンヌヴィルは微笑む。

その瞬間、キュルケは気付いた。

メンヌヴィルの眼球がピクリとも動かない事に。

「あなた、もしかして・・・・・目」

メンヌヴィルは目に指を伸ばした。

何かを取り出す。

義眼であった。

「俺は、瞼だけでなく目を焼かれていてな。光がわからんのだよ」

「ど、どうして・・・・・・」

メンヌヴィルの動きは、目の見えるもののそれだ。

「蛇は、温度で獲物を見つけるそうだ」

にやっと、メンヌヴィルは笑った。

「俺は炎を使ううちに、随分と温度に敏感になってね。距離、位置、どんな高い温度でも、低い温度でも数値を性格に当てられる。温度で人の見分けさえつくのさ」

キュルケはぞわっと、髪の毛が逆立つ恐怖を覚えた。

「お前、怖いな?怖がっているな?」

メンヌヴィルは笑った。

「感情が乱れると、温度も乱れる。なまじ見えるより温度の変化はいろんなことを教えてくれる」

思い切り香りを吸い込むようにして、メンヌヴィルは鼻腔を広げた。

「嗅ぎたい」

「え?」

「お前の焼ける香りが、嗅ぎたい」

キュルケは震えた。

生まれて初めて感じる、純粋な恐怖だった。

その恐怖は、

「やだ・・・・・」

と、この炎の女王から、まるで少女のようなつぶやきを漏らさせた。

たまらぬ、と言わんばかりの笑みをメンヌヴィルは浮かべた。

「今まで何を焼いてきた?炎の使い手よ。今度はお前が燃える番だ」

キュルケは覚悟して目を瞑る。

メンヌヴィルの杖の先から、炎が巻き起こりキュルケを包もうとした瞬間・・・・・

その炎が、ぶわっと別の炎によって押し戻された。

恐る恐る目を開いたキュルケが見たものは・・・・・

杖を構えて、自分の横に立つコルベールの姿だった。

「・・・・・・ミスタ?」

硬い表情のまま、コルベールは呟いた。

「わたしの教え子から離れろ」

何かに気付いたように、メンヌヴィルは顔をあげた。

「おお、お前は・・・・・お前は!お前は!お前は!!」

歓喜に顔を歪め、メンヌヴィルは別人のようにわめいた。

「捜し求めた温度ではないか!お前は!お前はコルベール!懐かしい!コルベールの声ではないか!」

コルベールの表情は変わらない。

かたくなにメンヌヴィルを睨んでいる。

「俺だ!忘れたか?メンヌヴィルだよ隊長殿!おお!久しぶりだ!」

メンヌヴィルは両手を広げ、嬉しそうに叫んだ。

コルベールは眉をひそめた。

その顔が、暗い何かで覆われていく。

「貴様・・・・」

「何年ぶりだ?なあ!隊長殿!20年だ!そうだ!」

隊長殿?どういうことだ?と生徒たちの間に動揺が走る。

「なんだ?隊長殿!今は教師なのか!これ以上おかしい事はないぞ!貴様が教師とはな!一体何を教えるのだ?『炎蛇』と呼ばれた貴様が・・・・・・・は、はは!はははははははははははははははッ!!」

心底おかしい、とでも言うようにメンヌヴィルは笑う。

「君達に説明してやろう。この男はな、かつて『炎蛇』とよばれた炎の使い手だ。特殊な任務を行なう隊の隊長を務めていてな・・・・・女だろうが子供だろうが、かまわずに燃やし尽くした男だ」

キュルケはコルベールを見つめた。

「そして俺から両の目を・・・・・光を奪った男だ!」

怖い何かを、コルベールは発散している。

今までの彼から感じた事の無い類の空気だ。

味方を燃やし尽くす、と言われたツェルプストー生まれのキュルケでさえ、実際にはそのような戦に従事したことはない。

所詮、貴族同士の遊びのような決闘が関の山であった。

しかし、今のコルベールが発する空気は違う。

触れば火傷する。

燃え尽きて死す。

そんな肉の焼けるような、死の香りだった。

力の大きさだけなら、進化した拓也の方が数段上である。

だが、拓也の炎には無い、殺すという意思、“殺気”がコルベールを危険に思わせている。

コルベールが無造作に突き出した杖の先端から、その華奢な体に似合わぬ巨大な炎の蛇が躍り出る。

蛇は柱の影からこっそりと呪文を唱えようとした1人のメイジの杖にかぶりついた。

その杖が一瞬で燃え尽きる。

コルベールは笑みを浮かべた。

二つ名の爬虫類を思わせる感情の無い冷たい笑みだ。

コルベールは呆然と見つめるキュルケに尋ねた。

「なあミス。ツェルプストー。『火』系統の特徴をこの私に開帳してくれないかね?」

かみ締めた唇の端から、血が流れていた。

炎のように赤い血が、コルベールの顎を彩っていく。

「・・・・・情熱と破壊が、火の本領ですわ」

「情熱はともかく『火』が司るものが破壊だけでは寂しい。そう思う。20年間、そう思ってきた」

コルベールは、いつもの声で呟いた。

「だが、君のいうとおりだ」

その時、メンヌヴィルが炎を放った。

コルベールは、すかさず継激の炎を放つ。

その炎は互いに相殺する。

「ふふ、やるな」

メンヌヴィルは次々に火球を放つ。

流れ弾が生徒達に当たる恐れがあるので、コルベールはその全てを撃ち落した。

メンヌヴィルは笑い声を上げる。

「ふははははっ!やるではないか!それでこそ隊長だ!俺が20年間追ってきた男だけのことはある!だが、これ以上時間をかけるわけにはいかん。こちらにも仕事があるのでね」

メンヌヴィルはそう言うと、パチンと指を弾いた。

その瞬間、

「きゃあっ!」

女生徒の悲鳴が聞えた。

コルベールが慌てて振り返ると、傭兵の1人が、モンモランシーの首筋に杖を突きつけていた。

「なっ!?貴様!」

コルベールは動揺した声で、メンヌヴィルに振り返る。

「隊長殿。貴様は教師なのだろう?かわいい生徒に危険が迫っている。如何すればいいかわかるな?」

メンヌヴィルはニヤリと笑う。

「く・・・・・」

コルベールは杖を手放した。

「ははははっ!よく分かっているじゃないか。20年前は女子供問わずに焼く払ったくせに、この偽善者め!」

「殺すがいい。だが、これだけは約束してくれ。生徒には手を出さないと」

コルベールはそう言った。

「それはご心配なく。アンリエッタを呼んで侵攻軍を引き上げさせることができれば、解放してやるさ」

メンヌヴィルはそう言うと、杖を掲げる。

「ああ・・・・・この瞬間を待ち望んでいたぞ。貴様を俺の炎で焼くこの瞬間を。隊長殿、貴様は俺の全力の炎で焼いてやる」

凄まじい炎がメンヌヴィルの杖の先に集中されていく。

「さあ、焼け死ぬがいい!!」

巨大な火球がコルベールに向かって放たれた。

コルベールは、目を瞑った。

その時だった。

一陣の風が吹き、メンヌヴィルの炎を容易くかき消した。

「なんだと!?」

更に、

「ぎゃっ!?」

モンモランシーを人質にとっていた傭兵が空気の塊を受け、吹き飛んだ。

「やれやれ、少し遅れてしまったかな」

そんな言葉と共に、食堂の入り口から銀髪の男性と、赤髪の女性が現れた。

「あ、あなた方は!?」

コルベールが驚いた声で叫んだ。

「ゲ、ゲイル殿!」

「久しいなコルベール」

コルベールとゲイルがそう言葉を交わす中、キュルケとシャルロットは、もう1人の女性に釘付けになっていた。

友人であるアイナに良く似た赤髪と顔。

「ミ、ミスタ・コルベール。あの方々は?」

キュルケがコルベールに問いかける。

「・・・・・『神風』のゲイルと『太陽』のフレイア。元竜騎士隊隊長とその妻・・・・・・いや、それよりも君たちにはミス・シンフォニアの両親と言ったほうが分かりやすいだろう」

「あの人達がアイナの・・・・・・」

コルベールの説明に、驚きながら呟くキュルケ。

「ふむ。アルビオンに侵攻すると聞いて魔法学院が襲撃される可能性を考えていたが、こんなにも早かったとはな」

ゲイルが落ち着き払った態度でそう言う。

「な、何だ貴様は!?」

メンヌヴィルが問いかけた。

「ただの親バカさ」

ゲイルはそう答える。

「ふざけるな!!」

メンヌヴィルは激怒する。

「ふざけちゃいないさ。俺の娘はこの学院の生徒なんでね。娘は用事でこの場にはいないが、娘の友人に何かあったら家の娘は悲しむからな」

ゲイルは真面目な顔である。

「貴様!いい加減にしろ!!」

メンヌヴィルはゲイルに向かって火球を放った。

だが、ゲイルは避けるそぶりも見せない。

そして、

――パンッ

ゲイルの体に当たる前に弾ける様に火球は消え去った。

「何っ!?」

メンヌヴィルは驚愕する。

「無駄だ。俺は風の障壁を常に張り巡らせている。その程度で破れはしない」

ゲイルはそう言い放った。

それから、ゲイルは少し考えるそぶりを見せると、

「ここでは、子供たちを巻き込んでしまうな・・・・・・・学院長殿!」

ゲイルはオスマンに呼びかける。

「なんじゃ?」

「少々建物を壊してしまうが、よろしいか?」

「むう。生徒達の安全には変えられんわい。好きにせい」

オスマンの言葉を聞くと、ゲイルはメンヌヴィルに向き直る。

「悪いが場所を変えさせてもらうぞ」

そう、メンヌヴィルに向かって言うと、ゲイルは呪文を唱えた。

「『エア・ハンマー!』」

ゲイルの放ったのはエア・ハンマー。

「な、なんだと!?」

だが、それは巨大であり容易くメンヌヴィルを飲み込む。

「ぐおおおおおっ!?」

そのまま、ゲイルの放ったエア・ハンマーは、食堂の壁をぶち破り、メンヌヴィルを外へ弾き飛ばした。

メンヌヴィルは地面を転がる。

「はあっ・・・・・・はあっ・・・・・・・・な、なんという威力だ」

メンヌヴィルはエア・ハンマーの一発で、相当なダメージを受けていた。

ゲイルも外へ出てくる。

だが、メンヌヴィルは不適な笑みを浮かべた。

「フ、フフフ・・・・・・」

何故ならば、メンヌヴィルは闇の中でも温度によって相手の位置が手に取るように分かるからだ。

相手は自分の位置が分からない。

ならば、自分に勝機はある、と判断したのだ。

「フハハハハハッ!バカめ!俺を闇の中へ連れてきたのは間違いだったな!貴様から俺は見えんだろうが、俺からは温度で貴様の位置が手に取るように分かるのだ!」

だが、それにもかかわらず、ゲイルは闇の中へ来た。

「さあ、何処を焼いてくれようか・・・・・・」

メンヌヴィルが、そういった瞬間、

――ゴウッ

メンヌヴィルの顔のすぐ横を空気の塊が通過した。

「なっ!?」

その事に驚愕するメンヌヴィル。

「ふむ、外してしまったか。やはり少し鈍っているな」

ゲイルの言葉に、メンヌヴィルは黙り込んだ。

ゲイルは音で位置を判断していると思ったのだ。

(く、調子に乗りすぎたか。だが、もう隙は見せん)

メンヌヴィルは息を殺し、闇の中を移動する。

だが、

――ドンッ

今度は足元に空気の塊が撃ち込まれた。

「な、何故だっ!?何故俺の居場所が分かる!?」

メンヌヴィルは思わず声を出して叫んだ。

「『火』使い手の貴様が温度で俺を位置を把握しているように、『風』の使い手である俺は、空気の流れでお前の位置を把握できるのさ」

「な、なんだと!?」

ゲイルの言葉にメンヌヴィルは驚愕する。

「それに、お前の位置を把握する方法は他にもある。フレイア!」

ゲイルがフレイアに呼びかけると、フレイアは外に出る。

そして、フレイアが呪文を唱えると、杖の先から拳大の火の玉が上空に向かって放たれた。

「なんだ?照明のつもりか?あいにくその程度の炎では、辺りを照らし出す事など適わぬわ」

メンヌヴィルはそういうが、ゲイルは黙っている。

その間にも、ぐんぐんと火の玉は上昇を続けている。

そして、火の玉が200メイルほどの高さまで昇った瞬間、

辺りがまるで昼間のように明るくなった。

「バ、バカな!?」

メンヌヴィルは空を見上げながら叫んだ。

メンヌヴィルの視線の先、魔法学院の上空には直径100メイルにも達しようかと思われる超巨大な火の玉が存在していた。

それは正に『太陽』のようであった。

フレイアの二つ名の『太陽』。

その意味は2つある。

1つは、フレイアの普段の人柄である。

穏やかで優しい性格であり、どんな人でも暖かく包み込む太陽のような抱擁力を持つ、という意味。

そしてもう1つは、今やっているとおり、正に夜を昼に変える、まるで本当の太陽を作り出したかのような炎を扱えるからである。

「ふふっ。無闇に炎を集中させなければ、このぐらいは容易い事ですよ」

フレイアは微笑んで言った。

フレイアが使った魔法は『コロナ・ノヴァ』。

『火』系統の最大級の呪文である。

この呪文は、精神力の消耗が激しく、普通に使えば1ヶ月に1回しか使えない。

だが、フレイアはこの魔法の威力を殺傷能力が無くなるぐらいまで低くする事によって、精神力の消耗を抑えている。

闇が消えた魔法学院の中庭で、メンヌヴィルは立っていた。

そのメンヌヴィルに、ゲイルは言った。

「さて、最後に見せてやろう。『神風』と呼ばれた俺の最大の魔法を」

ゲイルは、杖を両手で持ち、まるで剣を構えるように頭上で構えた。

ゲイルは呪文を唱えだす。

凄まじい風が、ゲイルの杖に集中していく。

「あ・・・・・あ・・・・・」

メンヌヴィルは桁違いの力の差に絶望していた。

そして、呪文の詠唱は完成した。

そして、剣を振るように杖を振り下ろした瞬間、ゲイルは叫んだ。

「『エア・フォース・ブレイド』!!」

凄まじい風の刃が全てを切り裂いた。

全てを切り裂く風の刃が通過した後、

「・・・・・・・」

メンヌヴィルは呆然としていた。

メンヌヴィルのすぐ横には、風の刃によって破壊された塀の壁。

そして、引き裂かれた大地が1リーグほど伸びていた。

メンヌヴィルは完全に放心している。

ゲイルは銃士にメンヌヴィルを任せると、食堂に戻った。

そこでは、アニエスがコルベールに剣を突きつけていた。

生徒たちは目を丸くして、アニエスを見つめている。

「ちょっと!なにしてるのよ!」

とキュルケが怒鳴る。

「いいんだ。ミス・ツェルプストー」

コルベールは、キュルケを宥める。

アニエスはコルベールに向かって言った。

「貴様が・・・・・魔法研究所実験小隊の隊長か?王軍資料庫の名簿を破ったのも、貴様だな?」

コルベールは頷いた。

「教えてやろう。私はダングルテールの生き残りだ」

「・・・・・・そうか」

「何故我が故郷を滅ぼした?答えろ!」

コルベールは俯いて答えた。

「・・・・・命令だった」

「命令?」

「・・・・・疫病が発生したと告げられた。焼かねば被害が広がると、そのように告げられた。仕方なく焼いた」

「バカな・・・・・それは嘘だ」

「・・・・・ああ。後になって私も知った。要は“新教徒狩り”だったのだ。私は毎日罪の意識に苛まれた。あいつの・・・・・メンヌヴィルの言ったとおりのことを、私はしたのだ。女も、子供も、見境なく焼いた。許される事ではない。忘れた事は、ただの一時とてなかった。私はそれで軍をやめた。二度と炎を・・・・・・破壊のためには使うまいと誓った」

「・・・・・・・それで貴様が手にかけた人が帰ってくると思うか?」

コルベールは首を振った。

その場に立ち続けるコルベールに向かって、アニエスは剣を振り上げた。

「やめて!」

しかし、コルベールを庇うようにして、キュルケが立ちはだかった。

いつもの人を小ばかにしたような笑みは消えている。

何処までも真剣な顔で、キュルケは言った。

「お願い、やめて!」

「どけ!私はこの日のために生きてきたのだ!20年だ!20年もこの日を待っていたんだ!」

「お願いよ!お願い!」

「どけ!」

アニエスとキュルケは睨み合った。

「どけと言っている!」

「きゃあっ!」

アニエスがキュルケを突き飛ばした。

そして、アニエスの剣がコルベールに向かって振り下ろされる。

しかし、

――ガキィ

その剣は、『エア・ニードル』を発動させたゲイルの杖によって止められていた。

「止めておけ」

ゲイルは言った。

「邪魔をするな!」

アニエスは怒鳴る。

「ここでコルベールを殺せば、今度はお前が憎まれるぞ」

その言葉に、アニエスは動揺する。

「コルベールが先程の奴と同じように、殺した事に何の罪も感じていなかったら止めるつもりは無い。だが、コルベールは罪を償おうとしている」

「今更そんなこと!殺された故郷の皆は帰ってこないんだ!」

「当たり前だ。死者は蘇らない。だが、君が20年間抱いてきた苦しみを今度はここの生徒たちにも味合わせるつもりか?」

アニエスは生徒達の方を見る。

多くの生徒の目は涙で滲んでおり、やめてと訴えかけている。

ゲイルは杖を納める。

「次は止めない。よく考えて決めろ」

そう言うと、ゲイルは踵を返し歩き出す。

アニエスはじっとコルベールを見ていたが、もう一度剣を振り上げ、コルベールに向かって振り下ろした。

その場にいた生徒たちが目を瞑る中、コルベールは目を閉じずにいた。

――ガッ

剣は、コルベールの足元に深々と突き刺さっていた。

「・・・・・殺さないのかね?」

コルベールは尋ねた。

「貴様は、罪の意識に苛まれていると言ったな」

アニエスの言葉にコルベールは頷く。

「本当だろうな?」

「ああ」

コルベールは呟く。

「ならば誓え!己の罪を忘れるな!安易に死を選ぶ事は許さん!最後の最後まで苦しみ続けろ!」

「・・・・・わかった。誓おう」

コルベールは呟いた。

それを聞くと、アニエスは踵を返し食堂から出て行った。





外に出たアニエスは、ふと目の前に人がいることに気がついた。

フレイアだった。

フレイアは何も言わずにアニエスに近付いていく。

そして、不意にアニエスを抱きしめた。

「え?」

突然の事に、アニエスは声を漏らす。

フレイアは言った。

「今まで、よく頑張ったわね」

その言葉は、アニエスの心に染み渡っていく。

自然と、アニエスの瞳から涙がこぼれる。

フレイアはまるで母親のようにアニエスを包み込んだ。

「う・・・・うあっ・・・・・」

アニエスの瞳から次々と涙が溢れる。

「うわああああああああっ!!」

アニエスは泣いた。

その泣き声は、朝日の光の中に響いた。






次回予告


無事にロサイス侵攻を果たしたトリステイン軍。

その折に、ジュリオ・チェザーレと名乗る少年と知り合う拓也達。

そんな中、シティオブサウスゴータへの侵攻が始まる。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第二十九話 サウスゴータの戦い

今、異世界の物語が進化する。





オリジナル魔法



コロナ・ノヴァ

『火』『火』『火』『火』のスクウェアスペル。

『火』系統の中で最大級の攻撃力を誇る、超巨大な火の玉。

普通は30メイルぐらいである。

精神力の消耗が激しく、並みの使い手では1ヶ月に一回が限界である。





エア・フォース・ブレイド

『風』『風』『風』『風』のスクウェアスペル。

一言で言えば、巨大なエア・カッター。

ゲイルのオリジナル魔法である。

イメージ的にはブリ〇チの月〇天衝。




あとがき

二十八話完成。

最強夫婦になってしまった。

やりすぎたかな?

レギュラーキャラじゃないんで調子乗って書いてたらこんな感じに。

アニエスの復讐をどうするか悩みましたがこんな感じでどうですかね。

最後にアニエス泣かせたのはおかしいですかね?

自分でも微妙な気がします。

とりあえず、漸くVS7万が見えてきました。

それでは、次も頑張ります。




[4371] 第二十九話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/03/14 00:18
ロサイス侵攻を果たしたトリステイン軍。

侵攻が計画される中、拓也達は・・・・・・


第二十九話 サウスゴータの戦い


トリステイン・ゲルマニア連合軍が上陸して布陣した港町ロサイスは、アルビオンの首都ロンディニウムの南方300リーグに位置している。

上陸直後、連合軍は敵の反撃を予想した。

軍を揚陸させてすぐに、先ずはロサイスを中心とした円陣を築いた。

だが、アルビオン軍の反撃は行なわれなかった。

これには、侵攻軍首脳部は拍子抜けした。

彼らは上陸早々の敵の攻撃を予想して作戦を立てていたのだ。

ロサイス周辺で“決戦”を行い、敵の大軍を一撃で撃滅して、一気にロンディニウムに進軍するつもりだったのだ。

ほぼ3週間後に控えた年があけるヤラの月、その初日。

つまりは“元日”である始祖ブリミルの降臨祭までに、ロンディニウムを落とす計画であった。

つまりは短期決戦を企図していたのである。

6万もの大軍を維持するためには、大量の物資が必要となる。

敵地で長期戦を行なうなど、悪夢以外の何物でもないのであった。

また、トリステインの国力では、長期戦を行う事は不可能である。

まんまと吸引されてしまったダータルネスから引き返したアルビオン軍主力は、現在首都ロンディニウムに立てこもっている。

敵軍はどうやら決戦を回避するつもりのようであった。

つまりはアルビオン空軍に与えた損害が、想像以上だったのだ。

空を制されていては、戦の主導権は握れないために、アルビオン軍は反撃を断念したのであろう。

連合軍はそんなアルビオン軍に対し、攻勢の準備を行なっていた。

決戦に備えて無駄な陣地を構築したので、無駄な物資の消耗が発生した。

短期決戦を企図せざるをえない連合軍は、6週間分の補給物資しか用意していない。

それが尽きたら、物資を本国から補給せねばならない。

ギリギリの財政で遠征軍を編成した両国にとって、あまり考えたくない事態であった。

そんな緊張の中、連合軍がアルビオン大陸に上陸してから8日後の今日。

今後の侵攻作戦を巡って、軍儀が開かれていた。

ロサイスの空軍基地の建物の中、赤レンガ造りの由緒あるその建物の2階の大ホール。

そこでは、真っ二つに意見が分かれていた。

一つはゲルマニアの将軍、ハルデンベルグ侯爵が主張するロンディニウムの一点攻撃。

もう一つは、参謀総長であるウィンプフェンが主張する、途中の城や砦を一つ一つ潰していく、慎重な意見であった。

その2つの意見言い争いが起こっており、遂には杖まで抜き出す始末。

そこでウェールズが怒鳴った。

「やめないか!味方同士で争って何になる!!ハルデンベルグ侯爵!ゲルマニアの勇気は戦場で示されよ!ウィンプフェン参謀!冷静さを欠いては参謀の名が泣くぞ!」

言い争っていた2人は漸く収まる。

すると、ウェールズは自分の計画を話した。

「・・・・・決戦はなくなったが、計画は実行しなければならない。さて、一気呵成にロンディニウムを攻めるのは危険が過ぎる。かといってひとつずつ城を落としていったらこの戦、10年はかかる」

侯爵と参謀総長は苦い顔で頷いた。

「そこでだ」

ウェールズはテーブルに広げられた地図を示した。

ロサイスと、ロンディニウムを結ぶ、線上の一点を叩く。

「シティオブサウスゴータ。アルビオンの観光名所の古都だ。ここを取ってロンディニウム攻略の足がかりとする。5000をここロサイスに残して補給路と退路を確保。残りは攻略に参加する。空軍は全力を持ってこれを支援。もちろん敵の主力が出てくれば、決戦に持ち込む」

ふむ、といった顔で、侯爵と参謀総長が頷く。

どっちつかずとも取れなくはないが、悪くは無い。

「ただし」

ウェールズが言葉を続けた。

「当然、戦の事も考えられており、この街は高い城壁に囲まれている。突破出来なくは無いだろうが、相当の被害が予想される」

ウェールズは、リスクの面も述べた。

将軍たちは再び考え込む。

その時、

「なら、俺達がぶっ壊しましょうか?」

軍儀に参加していた拓也がそう言った。

ウェールズが拓也に顔を向ける。

「良いのか?君達は・・・・・」

「まあ、今更です。俺達が協力して、被害が少なくなるなら、そっちのほうが良いですから」

拓也はそう言った。

「・・・・・ありがとう」

ウェールズは礼を述べた。



軍儀が終わり、拓也、アイナ、才人、ルイズ、ギルモンがホールを退出する。

廊下を歩いていると、

「ちょっといいかな」

透き通るような声で、いきなり声をかけられた。

一瞬、男か女か判断がつきかねるほどの美声であったが、拓也達が其方を向くと、長身で鮮やかな金髪の少年がいた。

「誰だお前?」

才人がそう聞き返す。

才人は相手に何処となく嫌悪感を覚えた。

「僕は第三竜騎士中隊の隊長を務めているものだ。噂の人間の使い魔を一目見たくてね」

そう言いながらその少年は髪をかきあげる仕草をする。

そこで気付いた。

その少年の左目はルイズの様な鳶色だったのだが、髪に隠れていた右目は透き通るような碧眼であった。

つまり、左右の瞳の色が違う。

才人が光の加減かと思ってじっと見つめていると、そんな才人に気付いたのか微笑まれた。

「瞳の色が違うのが珍しいのかい?」

「い、いや・・・・」

と、思わず顔を赤らめる。

「そんなに見つめられたら照れるじゃないか」

と言いつつ、表情に照れた様子は何処にも無い。

見るとニヤニヤと微笑んでいる。

どうやら才人の反応を楽しんでいるらしい。

「虹彩の異常らしくてね。君が噂の使い魔サイトーン君だね?」

「才人だ」

と名乗れば相手は大仰な身振りで、手を振ってのけぞった。

優雅に一礼する。

「すまない!大変失礼をしたよ!僕はロマリアの神官、ジュリオ・チェザーレだ。以後お見知りおきを・・・・・・人間が使い魔だなんて、珍しいからね。君に一度会いたいと思っていたんだよ。・・・・・おや、あなたは」

ルイズに気付き、ジュリオはクールな仮面を脱ぎ捨て、特大の笑みを浮かべた。

大輪の花が開いたような、無邪気さを感じさせる、そんな素の笑みであった。

「あなたがミス・ヴァリエール?噂どおりだね!なんて美しい!」

ルイズがぽかんと口をあけていると、いきなりその手を取って口付けした。

才人は震えた。

怒りを覚えた才人だが、ルイズがそんなことされれば怒り狂うだろうと思い直した。

だが、ルイズは怒らなかった。

その代わりに、

「いけないひとね」

と、ちらっと斜め前に視線を落として頬を染めた仕草が彩る、はにかみを含んだ言葉が飛んだ。

才人の顔から冷や汗が流れた。

なにその反応、と才人は突っ込みそうになった。

それからワルドの一件を思い出す。

何気にルイズが美形に弱い事を思い出し、才人は胃液を吐きそうになった。

「申し訳ない!僕はロマリアより新たなる美を発見しに参戦したのです!あなたの様に美しい方に出会うために、僕は存在しているのです!マーヴェラス!」

ギーシュに輪をかけてキザな言い回し。

才人の肩は震えた。

そんなキザ野郎に怒らないルイズにも腹が立つ。

更にジュリオは、

「失礼、ミス・シンフォニア。ミス・ヴァリエールの美しさに隠れてしまって挨拶が遅れてしまった」

アイナも口説きにかかる。

「あなたは花に例えれば蕾の状態。花が開いたときにはミス・ヴァリエールにも劣らぬ美しき花が咲くでしょう」

その言葉に才人は、

(ロリコンか!?ロリコンなのか!?)

と凄まじい考えを巡らす。

そして、

「お手を許してはいただけませんか?」

とアイナに問う。

所が、

「ごめんなさい。婚約者の目の前でそのような事をされるのは気が引けますので・・・・・・」

とアイナは断る。

「それは残念。婚約者がいたとは」

ジュリオは、余り残念がってない顔でそう言った。

そんな時、

「ジュリオー」

ジュリオに声がかけられた。

だが、辺りに人影は無い。

拓也達が何処から?と首を傾げていると、

「テリアモン」

ジュリオが下を向いてそう言った。

そこには、大きな耳が特徴的な、変わった姿の動物がいた。

「ジュリオ、またナンパしてるの?」

その動物は思いっきり喋った。

「こらこら。ナンパじゃないよ。美しい女性と交友を深めようとしただけさ」

「それがナンパっていうんじゃないの?」

その動物は、ジュリオの言葉に次々と突っ込んだ。

そこへ、ギルモンが近付いていった。

その動物の臭いを嗅ぐような仕草をして、才人の方を見た。

「サイト、デジモン」

その動物を指しながらギルモンは言った。

「ええっ!?」

才人は驚きながらデジヴァイスを取り出す。

デジヴァイスにデータが表示された。

才人は表示されたデータを読み上げる。

「テリアモン。ワクチン種。成長期。獣型デジモン。必殺技はブレイジングファイア」

「デジモンなのか・・・・」

拓也が呟く。

「おや、君も持ってたのか」

ジュリオがそう言って、才人が持つデジヴァイスと同じデジヴァイスを懐から取り出す。

ただ、才人のデジヴァイスは、所々の装飾が赤色なのに対して、ジュリオの持つデジヴァイスは緑だった。

「でも、そんな風に使えるなんて知らなかったな」

ジュリオは才人と同じようにギルモンを見る。

ジュリオのデジヴァイスにギルモンのデータが表示された。

「ギルモン。ウイルス種。成長期。爬虫類型デジモン。必殺技はファイヤーボール。なるほどね」

「っていうか、何でお前がデジモン連れてるんだよ!?」

才人が叫びながら尋ねる。

「うん。拾ったタマゴから生まれたんだ」

ジュリオは一言で答えた。

「・・・・・・俺と一緒か」

才人も同じで拾ったタマゴからギルモンが生まれたのだ。(正確にはジャリモン)

「わーい。仲間仲間」

テリアモンは、ギルモンの頭の上に乗って喜んでいる。

この2匹は、割と仲良く出来そうであった。

その相棒たちはうまが合いそうになかったが。





そして、幾日が経ち、上陸から15日が過ぎた。

その間に、才人、ルイズ、ジュリオの間でひと悶着あったらしいが、拓也は知らない。

そして現在。

シティオブサウスゴータの城壁から1リーグ離れた突撃開始地点で、侵攻軍は、ラッパの合図を待ち構えていた。

拓也と才人も諸侯軍を率いてその場にいた。

「さてと、そろそろ時間ですね」

拓也は才人に話しかける。

「ああ。それは良いんだけどよ・・・・・」

才人はくるりと振り返り、

「何でお前がここにいるんだよ!?」

そこにいたギーシュにそう言った。

因みにギーシュは中隊長である。

「な、何を言っているんだい?き、君達は戦争は初めてだから、安心させるために傍に居てあげてるんじゃないか」

ギーシュは、かなり動揺した声で答える。

「足が震ってるぞ」

才人がそう指摘する。

確かにギーシュの足は震っていた。

「む、武者震いだ!・・・・・と言いたい所だが・・・・怖いだけだな。うん」

いともあっさり本音を口にする。

「それが本音か・・・・・まあ、当然だな」

才人は特に気にした風もなくギーシュの言葉を受け止める。

「んで、あわよくば俺らに助けてもらおうって腹か?」

「あははは・・・・・・情けない事にその通りだよ」

ギーシュは苦笑しながらそう答える。

「まあ、出来る限りは助けるよ。知り合いに死なれちゃ気分悪いしな」

拓也はそう言った。

「その時は頼むよ・・・・・」

ギーシュは元気のない声で言った。

そして、ギーシュは城壁に視線を移す。

「でも・・・・・一体何処から攻めればいいんだ?この街、周りは高い石壁で囲まれているし・・・・・」

と、ギーシュが呟くと、

「それは、俺達の仕事さ」

拓也がそう言った。

「それじゃ。俺から行きます」

拓也はデジヴァイスを構えた。

「ダブルスピリット!エボリューション!! ぐっ・・・・・ああああああああああっ!!」

拓也はアルダモンに進化する。

「アルダモン!!」

アルダモンは、覇竜刀を掴み、飛び立った。

城壁にある程度近付くと、しゅん!と、巨大な矢が飛んできた。

巨大バリスタである。

だが、飛んできた巨大な矢を、アルダモンは苦も無く切り落とした。

アルダモンの動体視力と身体能力があれば、この位は容易い。

バリスタを継撃しつつ、城壁の上に辿り着いた。

そこには、オーク鬼やトロール鬼がわんさかといた。

亜人たちは、アルダモンに殺到した。

だが、次の瞬間、

――ドゴォン

アルダモンの一振りによって、アルダモンの周囲が吹き飛ぶ。

そこから始まったのは正に無双。

城壁の上に配備されたオーク鬼やトロール鬼は次々と倒されていく。

スピードも、亜人達の長所であるパワーもアルダモンには遠く及ばない。

一方的な戦いであった。

ある程度片付けると、アルダモンは上空に一発の火球を放った。

それが合図である。

その合図を、才人は確認した。

「よし、拓也からの合図だ。ギルモン」

才人はギルモンに呼びかける。

「おっけー。サイト」

――MATRIX

  EVOLUTION――

「ギルモン進化!」

ギルモンは光の中で、完全体まで進化した。

「メガログラウモン!!」

メガログラウモンは城壁の方を向くと、

「アトミックブラスター!!」

アトミックブラスターを放った。

アトミックブラスターは城壁を軽々と破壊する。

一瞬にして、突撃口が出来上がった。

本来なら、艦砲射撃で城壁を崩し、更に崩れた瓦礫をゴーレムなどで取り除くという面倒な事をしなければならないのだが、メガログラウモンのアトミックブラスターは、城壁を瓦礫も残さず消滅させたのでそんな苦労はいらなかった。

「行くぞ!!」

才人はメガログラウモンの肩に乗る。

メガログラウモンは咆哮を上げ、突撃していった。

「グ、グラモン中隊前進!」

他の兵士たちはメガログラウモンに驚いて呆けていたが、ギーシュは若干耐性がついていたので、すぐに気を取り直し、突撃を命じた。

尚、そのお陰か、アルダモンや才人、メガログラウモンを除いたなかでは、一番槍を果たした。




ゲルマニア・トリステイン連合軍は、攻撃開始から一週間と経たずにシティオブサウスゴータを制圧した。

損害は軽微であった。

巨大な亜人達は人間用に整備された市街地ではうまく動く事ができずに、1匹、また1匹と始末されていった。

街をスムーズに占領できたのは、住人たちの協力もあった。

食料を取り上げられた街の住人はアルビオン軍を恨み、連合軍に協力するものが続出した。

彼らは、亜人達が潜む建物を連合軍に通報したり、共に戦ったりしたのであった。

そして年末はウィンの月の第4週、の中日であるイングの曜日、シティオブサウスゴータの中心の広場で、ウェールズが宣言した。

「今日ここに、シティオブサウスゴータの解放を宣言する!」

住民たちから歓声が沸いた。

しかも、宣言を行なったのは、既に死んだと思われていたウェールズだったのだ。

住民たちの支持は物凄い。

街中が活気に包まれる。

だが、これはこれから始まる悲劇の序章に過ぎなかったのである。





次回予告


降臨祭の為に一時休戦となる両軍。

拓也達もシエスタや、魅惑の妖精亭の人達と再会し、束の間の休息を得る。

だが、突如として起こる反乱。

それに呼応するかのように動き出すアルビオン軍。

迫り来る7万の軍勢に撤退も間に合わない。

その時、拓也と才人は己の守るべきものの為に決意する。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第三十話 拓也と才人 生きるための戦い!

今、異世界の物語が進化する。




あとがき

二十九話完成。

けど、あんまり盛り上がらないです。

しかも短い。

とりあえずジュリオにテリアモン付けときました。

案を出してくださった藤様、使わしていただきました。

あとは、サウスゴータの攻略が少し変わっただけで、特に無いですね。

さてと、次回はいよいよ7万です。

次も頑張ります。




[4371] 第三十話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/03/14 21:51
シティオブサウスゴータを制圧した連合軍。

間も無く降臨祭を迎えるが・・・・・・


第三十話 拓也と才人 生きるための戦い!


シティオブサウスゴータを制圧してからそう時を置かず、アルビオン軍から休戦を申し込まれた。

新年から始まる降臨祭のためだ。

降臨祭は、戦も休むのが慣例である。

シティオブサウスゴータの住人に食料を分けた連合軍も、補給の為にその申し出を呑んだ。



神聖アルビオン共和国との休戦が発効した日から3日目のシティオブサウスゴータ。

拓也とアイナは街中を歩いていた。

この街を占領した連合軍は、誇らしげに胸を張って歩いている。

サウスゴータの市民たちの顔にも、敗戦国民の悲愴さは見られない。

味方とはいえ、亜人達に街を闊歩されている状態は楽しいものではなかっただろう。

その上、アルビオン現政権の貴族派レコン・キスタはあまり好かれていなかったらしい。

更に、食料を供出したことで、解放軍として連合軍は受け入れられているようだ。

一部城壁は破壊されたものの、極力市街地への攻撃は避けられたため、街や市民の被害は殆ど発生していない。

自分たちの戦争が終わったことと、これから始まる降臨祭への期待で、自然と市民たちの顔は綻んでいた。

そして、拓也達が中央広場に差し掛かったときだ。

「あれ?あの人達は・・・・・・」

見知った顔を見つける。

1人は才人だが、才人の周りに居る数人にも見覚えがあった。

「シエスタと・・・・・スカロン店長!?」

アイナが驚いた声を発した。

2人はすぐに駆け寄った。

「才人さん!スカロン店長!」

拓也が声をかける。

「あ、拓也」

「あ~ら、タクヤ君じゃな~い」

スカロンは、相変わらずのオカマ言葉である。

「お久しぶりです、スカロン店長。それにしても、何でアルビオンにいるんですか?」

アイナが尋ねた。




「慰問隊?」

広場に面したカフェで、才人は素っ頓狂な声を上げた。

麦酒をすすって、眉をひそめたあと、スカロンは微笑んで言った。

「そうよぉ!王軍に兵糧を追加で送る事になったんだけど、その際に慰問隊が組織されたのよ!何せアルビオンときたら・・・・・・・」

スカロンは並んだ料理を見て、首を振った。

「料理は不味い!酒は麦酒ばっかり!女はキツイ!で有名なんだから!」

拓也はなるほど、と思った。

ここ数日、アルビオンの料理を食べてみたが、うまいとは言えなかった。

スカロンは、木のジョッキに注がれた酒を一口含んで、露骨に眉をひそめる。

「まったく!こんな不味い麦酒ばっかり飲まされたんじゃ、舌の肥えたトリステイン人はたまらないわ!だから何軒ものトリスタニアの居酒屋が出張してくる事になったのよ。そんでもって、私のお店にも白羽の矢が立ったというわけ。なにせ王家とは縁の深い『魅惑の妖精』亭であるからして。ああ、名誉な事だわ!」

スカロンは身を震わせた。

連れてきた店の女の子たちが、元気な声で唱和する。

「名誉な事ね!ミ・マドモアゼル!」

スカロンはテーブルの上に立って、プルプルとポージング。

「サイト君達はあれ?兵隊さん?何でアルビオンに来たの?」

「いや兵隊じゃないんですけど・・・・・・」

「まあ言えない事もあるわよね。ミ・マドモアゼルも男だから、その辺聞かないわよ」

才人は自分の横でニコニコしているシエスタに気付き、

「でも、何でシエスタが一緒なんだ?」

と聞いてみた。

「親戚なんです」

拓也達はぎょっとして、スカロンを見つめた。

「あ、あの店長と?」

「ええ、母方の・・・・・」

と恥ずかしそうにシエスタが呟いた。

「もしかして、サイトさんたちが今年の夏、働いていた居酒屋って・・・・・」

「ウチだよー。だから知り合いなんだよ」

とジェシカが説明した。

それから、ジェシカは才人の方を向いた。

「シエスタはあたしの従姉だよ。あんたたちが知り合いだったなんてね!」

2人とも見事な黒髪である。

世界は妙に狭いなあと、才人は独りごちた。

シエスタが言いにくそうに切り出した。

「サイトさん達が出発してすぐに、学院がアルビオンの賊に襲われたんです」

「え?ええ!え?」

いきなりの話題で才人達は驚いた。

軍の士気を考慮してか、戦地に居ると本国のニュースは殆ど入ってこない。

「私たちはなにがなんやらわからなくなって宿舎で震えていたんですけど・・・・・・大変な騒ぎだったみたいで・・・・」

とシエスタは哀しそうな顔で言った。

「それで、戦争が終わるまで学院は閉鎖になっちゃったんです。で、どうしようかなって思って。それで叔父さんのお店を手伝おうと思って・・・・」

「シエちゃんには昔っからお誘いかけてたのよ」

「そんなわけでトリスタニアのお店に行ったら、スカロン叔父さんやジェシカが荷物をまとめてて・・・・・・アルビオンへ行くっていうもんですから」

「それでくっついて来ちゃったの?」

と才人が言ったら、シエスタは頬を染めて頷いた。

「え、ええ・・・・・だって・・・・・・」

「だって?」

「サ、サイトさんに会えると思ったから・・・・・」

2人の様子を見つめ、ジェシカが身を乗り出してきた。

「え?なになに?どゆこと?シエスタとサイトってデキてたの?あんたって確か、あのルイズと・・・・・」

ジェシカがそこまで言ったとき、シエスタの目が光った。

「ミス・ヴァリエールはお元気ですか?」

「う、うん」

と才人が頷いた。

そして沈黙が流れた。

ジェシカがニヤニヤ笑いを浮かべて、才人に近寄った。

「アンタって、割とやるのね。なんだか、見損なってたかも」

「いや、別に・・・・・・・」

と複雑な気分で才人は呟いた。

「あらまあ、ルイズちゃんもいるの?それじゃご挨拶しなきゃね」

とスカロンが爪をいじりながら言った。

拓也達は暫しの休息を楽しんでいた。






10日ほど続く降臨祭の最終日は、いつもと変わらぬ朝に見えた。

街の一等地に位置した宿屋の2階のホールを丸々司令部とした連合軍首脳部は、今後の侵攻作戦について話し合っていた。

「明日で休戦は終了ですな。補給物資の搬入は、今日の夜までに全て終わりそうです」

と参謀総長のウィンプフェンが羊皮紙の目録を見ながら報告した。

「間に合ったか。しかし休戦期間中、アルビオンのだまし討ちがあると思ったのだが・・・・」

「向こうも余裕がないのと違いますかな?敵は準備が整わず、時間を稼ぐ必要があったのですよ。だからこそ、早期に決着をと・・・・・」

不満げな顔でハルデンベルグ侯爵がそう言った。

ウィンプフェンがじろりと睨んで文句を言いたげな顔になったので、ウェールズは2人の間に入ってとりなした。

「こちらが優勢とはいえ、油断はなりませんよ」

アンリエッタがそう言った。

と、その時、

――ドォォォォォォン! ドンッ!

と窓の外から断続的な爆発音が聞えてきた。

「何の騒ぎだ?」

怪訝な顔になって、ウェールズ、アンリエッタ、ハルデンベルグ侯爵は窓に近付いた。

窓の外は広場に面している。

一方から兵隊が走ってきて、こちらを指差している。

羽織った上着に大きく描かれた紋章に気付く。

「彼らは、ラ・シェーヌ連隊の兵じゃないか」

ここから離れた、街の西側に駐屯していた連隊である。

「我が軍の兵もいますな。移動命令など出していないのだが・・・・・」

しかし、次の瞬間、ウェールズの脳裏に閃くものがあった。

何故か彼らの動きは、かつてアンドバリの指輪によって操られた父ジェームズたちの姿に重なった。

ウェールズは直感のまま行動した。

「アンリエッタ!」

「きゃあっ!?」

ウェールズはアンリエッタを庇うように抱きしめ、押し倒す。

それが、生死の分かれ目だった。

――ドォォォン

という音と共に、ハルデンベルグ侯爵が無数の銃弾に撃ちぬかれ倒れる。

次の瞬間、士官が部屋に飛び込んできた。

「反乱です!反乱が起こりました!」

「反乱だと!?」

「ロッシャ連隊、ラ・シェーヌ連隊など、街の西区に駐屯していた連隊及び一部ゲルマニア軍が反乱を起こしました。現在街の各地で我が軍と交戦中です!ここも危険です!」

ウェールズとアンリエッタは立ち上がる。

士官は倒れたままのハルデンベルグ侯爵に気付く。

「ご、ご命令を!総司令閣下!」



シティオブサウスゴータに駐屯していた連合軍の崩壊は早かった。

全く予想していなかった反乱で、指揮系統は混乱した。

というか原因すら分からぬ反乱であった。

特に兵から不満の声があがっているという報告もなければ、内通者を匂わせる動きもなかったからだ。

正に反乱は、“突然”始まったのだ。

兵たちも対応に窮した。

なにせ、先日まで一緒に戦い、勝利を祝った戦友達である。

それがまるで腑抜けたような無表情で、自分たちに武器を向けてくるのだ。

昼前には、市内の防衛線は崩壊し、いたるところで王軍は壊走を開始した。

そして、遂に恐るべき報が、偵察の竜騎士からもたらされた。

ロンディニウムのアルビオン軍主力が、動き出したというものである。

真っ直ぐにこのシティオブサウスゴータを目指して進軍中だという。

街の外れに臨時で司令部を置いたウェールズは苦渋の決断を下した。

「ロサイスまで退却する。ここはもうダメだ」

そう命令を下したウェールズの顔は酷く悔しそうであった。

勝利を目前にして、突然の反乱。

それも仕方ないだろう。

指揮下の全軍に退却命令が出された。




続々と敗軍はロサイスに集結しつつあった。

敗軍が退却の為に乗船を開始したとき、偵察に向かった竜騎士から更なる凶報が届いた。

ロンディニウムから発したアルビオン軍主力の進撃が、予想よりも早いのである。

「明日の昼には、敵軍の主力はここロサイスに突っ込んでくるでしょう」

マザリーニが、ウェールズとアンリエッタにそう報告する。

「全軍が乗船するには、どれほどの時間がかかりますか?」

アンリエッタが問うた。

「およそ、明後日の朝までかかるかと。ロサイスの港湾施設は巨大ですが、何せ軍港です。陸兵を乗せるための桟橋が少ないのです」

マザリーニはそう報告すると、

「陛下、最早一刻の猶予もございません。至急、脱出用の船にお乗りください」

アンリエッタにそう言う。

だが、

「いいえ。わたくしは、最後の船に乗ります」

「陛下!?」

アンリエッタの答えにマザリーニは驚愕する。

「わたくしはトリステインの女王です。全員が脱出するまで、ここを動く気はありません」

アンリエッタは真剣な表情で答えた。

「私も同じだ。全員の脱出を見届けるまで、ここを動く気はない」

ウェールズもそう答えた。

「陛下・・・・・ウェールズ皇太子・・・・・・」

マザリーニはそう呟く事しか出来なかった。




拓也はロサイスにある撤退の為の乗船を待つ、とある建物の中にいた。

しかし、落ち着いていられるわけはなく、建物の中を歩き回っていた。

そんな時、

「ミス・ヴァリエール」

とある部屋から、老人の声がした。

拓也は気になり、息を潜めつつ部屋を覗く。

そこにはルイズと、頭を下げたマザリーニの姿があった。

「陛下の命を救うために、あなたの力が必要なのです。頼む・・・・・」

話を聞いていると、撤退が間に合わないため、殿軍を受け持って欲しいとのことだった。

「そんな・・・・枢機卿、どうか頭をお上げください。姫様のお命のためなら私、なんだってしますから」

「・・・・ミス・ヴァリエール・・・・・これは命令ではない。私個人からの願いだ」

その言葉に、ルイズは驚愕した。

拓也は、暫くうつむいていたが、決心したように顔を上げ、廊下を歩き出した。

「・・・・・・地下水、頼みがある」

拓也は地下水に話しかけた。

「如何するんスか?相棒」

拓也は地下水に自分の考えを話し出した。




日が沈みかけた頃。

アイナは拓也の姿が見えないことに気付き、建物の中を探し回っていた。

しかし、何処にも拓也の姿は無い。

ルイズと才人もいつの間にかこの建物からいなくなっていた。

アイナは一度、あてがわれた部屋に戻ってきた。

すると、

「嬢ちゃん、嬢ちゃん」

部屋の中から声がした。

しかし、部屋の中にはだれもいない。

「嬢ちゃん。ここッス」

ベッドの横にあるテーブルの上に、地下水が置かれていた。

「地下水。丁度良かった。タクヤは何処?姿が全然見えないの」

「その事で話があるんで、ちょっと持ってくれないッスかね」

アイナは、さして疑問も持たず、地下水を手にする。

「それで、拓也は?」

「その事なんスけど、相棒は偶々聞いちゃったんスよ」

「何を?」

「虚無の嬢ちゃんが、枢機卿から殿軍の依頼を引き受けてる所を」

「え!?」

アイナは驚愕した。

「それを聞いた相棒はいても立ってもいられなくて、行っちゃったんスよ」

「ど、何処に?」

アイナは最悪の予感を否定するように問いかけた。

だが、地下水は無情にも答える。

「7万の軍勢に向かって」

「ッ!」

それを聞いたアイナは思わず駆け出した。

だが・・・・・・すぐに立ち止まった。

「俺の能力をすっかり忘れてたみたいっスね」

突如、アイナがそう呟いた。

「悪いっスね嬢ちゃん。相棒から嬢ちゃんを止めるように頼まれてるんスよ」

そうアイナは、いや、アイナの体を乗っ取った地下水がそう呟く。

「相棒・・・・・嬢ちゃんを泣かせたら承知しないっスよ」

そう、沈みかけている夕日に呟いた。




同じ頃、街外れの寺院では、才人が魔法薬で眠らせたルイズを抱えていた。

才人はルイズから直接、殿軍を受け持つことを聞いた。

才人は止めようとしたが、ルイズは止まらなかった。

最後にルイズの提案で、2人だけの結婚式を行なおうとしたのだ。

そこで才人はルイズのワインにシエスタから貰った眠りの魔法薬を混ぜ、ルイズを眠らせたのだ。

才人はルイズを抱えて外に出た。

夕日が落ちきり、辺りは薄暗い。

「冷える・・・・・」

と呟いたら、傍から声がした。

「やあ、使い魔くん」

寺院の扉の隣に、壁を背にして白に近い金髪の美少年が腕を組んで立っていた。

沈んでいく夕日を受けて、青いほうの瞳が輝く。

ロマリアの神官にして竜騎士のジュリオであった。

「なんだお前、覗いてたのかよ。趣味悪いな」

「まったく、式を挙げるなら呼んでくれよ。これでも神官なんだよ」

笑みを絶やさずに、ジュリオは言った。

「丁度いい、ルイズを頼む」

壊れ物を扱うようにルイズを両手に抱いて、ジュリオは応えた。

「任せておいてくれ。無事に船に送り届けるよ」

才人は手を振って、ギルモンと共に駆け出そうとした。

「ありがとう。じゃあな」

そんな才人をジュリオは呼び止める。

「何処に行くんだい?」

「ちょっくら7万相手に喧嘩売ってくる」

そう答え、再び駆け出そうとした才人をジュリオはまた呼び止めた。

「1つ聞きたいんだが」

「なんだよ」

「どうして行くんだ?はっきり言うが、君は確実に死ぬよ。名誉のために死ぬ、そんなのはバカらしいんじゃなかったか?」

才人はちょっと考えていたが、やれやれと眉をひそめて首を振った。

「言っちまったからなあ」

「何を?」

「好きだって、言っちまった」

ジュリオは大声で笑い出した。

「あっはっは!僕達ロマリア人のような男だね、君は!」

しかめっ面のまま、才人は腕を組んだ。

「いや、好きな女のためというよりは、自分のためのような気がする」

「よければその意味を教えてくれ」

才人は真っ直ぐ前を見て、言った。

「ここで行かなかったら、好きって言ったその言葉が嘘になるような気がするんだよ。自分の言葉が嘘になるのだけは許せない。自分の気持ちが、嘘になるのはたまらない」

ジュリオは額に指を立てて、悩む仕草をした。

「俺、おかしい事言ってるか?」

「君は貴族ではないし、僕も貴族ではないが」

「うん」

「その考え方はとっても貴族らしいと思うよ」

「誉めてんのか?それ」

才人は踵を返し、デジヴァイスを掲げた。

ギルモンが輝き、メガログラウモンに進化する。

そして、そのままメガログラウモンの肩に飛び乗った。

暗くなり始めた空に向かって、メガログラウモンは飛び立つ。

その姿を見送りながら、微笑を浮かべて小さくジュリオは呟いた。

「随分と不器用だねぇ。ガンダールヴ」




地図に記された小高い丘の上、朝日が暗闇に光を与えていた。

視界が開けていく。

眼下には緩やかに下る、綺麗な草原が続いている。

地図上に記された、シティオブサウスゴータの南西150リーグに位置する丘の上。

そこに2人と1匹の姿があった。

昨夜、才人がメガログラウモンでこの場に着いたとき、既に拓也がいた。

そのことには才人は驚いたが、偶然聞きつけた事を聞いて納得する。

才人は、拓也に戻るように言ったが、拓也は全く取り合わなかった。

才人も、こうなった拓也はテコでも動かないと分かっていたので説得を諦めた。

そして、朝もやの中から、ゆっくりと、緩い地響きを伴って大軍が現れた。

拓也達は立ち上がる。

拓也は覇竜刀を抜くと才人に差し出した。

「才人さんが使ってください」

「拓也?」

「前も言いましたが、ガンダールヴによって上がるのは身体能力と武器の扱いだけです。防御力は並みの人間と変わらないので覇竜刀を盾代わりに使ってください」

「拓也・・・・でもよ、ブラックウォーグレイモンが出てきたら・・・・」

「その時は何とかしますよ」

拓也は半ば強引に、才人に覇竜刀を託す。

「はっきり言いますが、俺は死ぬために戦っているつもりはありません」

拓也が才人に言った。

「拓也?」

「俺は、生きるために戦います!」

拓也の言葉は迷いがなかった。

「そう・・・だな!たかだか7万!絶対に生き残ってやるぞ!」

「はい!」

2人と1匹は7万の軍勢を見下ろした。

「行くか!拓也!ギルモン!」

「はい!」

「おー!」

拓也はデジヴァイスを構えた。

デジヴァイスの画面に2つのスピリットが描かれる。

突き出した左手に球状のデジコードが宿る。

右手に持ったデジヴァイスでそのデジコードをなぞるように滑らせる。

「ダブルスピリット!エボリューション!!」

拓也がデジコードに包まれる。

「ぐっ・・・・あああああああああああっ!!」

拓也は叫び声を上げた。

凄まじきエネルギーと共に、拓也の体にスピリットが合わさっていく。

そして、人と獣の力を持った炎の闘士がここに現れた。

「アルダモン!!」

才人はデジヴァイスを掲げた。

デジヴァイスの画面に文字が表示される。

――MATRIX

  EVOLUTION――

才人のデジヴァイスから光が放たれ、ギルモンを包む。

「ギルモン進化!!」

光の中でギルモンは進化する。

ギルモンの身体が一時的に分解され、再構築される。

更に大きく、更に強く。

赤き魔竜グラウモンとなる。

更にそこから身体の所々にあるデジタルハザードが反応し、グラウモンの身体を機械化していく。

クロンデジゾイドの身体を持った紅蓮の機械竜。

「メガログラウモン!!」

ギルモンをメガログラウモンに進化させると、才人は覇竜刀を右手に持ち、デルフリンガーを左手に持つ。

アルダモン、才人、メガログラウモンはお互いに頷き合い、7万の軍勢に向き直った。

才人は、目をつぶって一度大きく息を吸い込み、そして吐いた。

才人は目を見開く。

そして叫んだ。

「行くぞぉおおおおおおおおおおっ!!!」

才人は7万の軍勢目掛け駆け出した。

アルダモン、メガログラウモンもアルビオン軍に向かって飛んだ。

アルダモンの腕に装備されているルードリー・タルパナが回転し、更に展開。

二股の矛先のようになる。

「ブラフマストラ!!」

連続で腕を交互に繰り出し、無数の火球を放つ。

それは、アルビオン軍先頭集団の目の前に着弾。

爆発と共に爆煙が発生し、兵の足並みが乱れる。

「うおおおおおおおっ!!」

爆煙の中から才人が突っ込んできて、覇竜刀とデルフリンガーを振り回す。

不意を突かれた兵士達はなすすべなく吹き飛ばされる。

メイジたちが魔法を唱えようとしたが、

「グガアアアアアアアッ!!」

超低空で飛行してきたメガログラウモンのソニックブームによって吹き飛ばされる。

それでも、何発かの魔法は飛んでくる。

才人はその魔法をデルフリンガーで吸収する。

アルビオン軍の騎士隊長は散開を命じたが、その瞬間に杖を斬られ、ついで腹を蹴られる。

アバラが折れ、隊長は悶絶し、ついで気絶した。

駆ける才人にデルフリンガーが呟く。

「どうして殺さねえ?」

才人は短く答えた。

「俺は軍人じゃない」

「はい?」

「敵も味方も、道具にゃしねえ」

デルフリンガーはため息をついた。



上空から才人の援護を行なっていたアルダモンは、近付いてくる気配を感じた。

ブラックウォーグレイモンであった。

「アルダモン!!今日が決着の時だ!!」

「ブラックウォーグレイモン!!」

アルダモンも迎え撃つ。

――ドゴォォォン

アルダモンとブラックウォーグレイモンの激突によって生じた衝撃波が、回りの兵士たちを吹き飛ばす。

「うおおおおおっ!!!」

「はあああああっ!!!」

アルダモンとブラックウォーグレイモンのラッシュの応襲が開始された。



才人は、飛んで、跳ね、駆け、敵の間を滑りぬけた。

次々と放たれる魔法をデルフリンガーで吸収する。

吸い込みきれない魔法は、覇竜刀で跳ね返した。

正直、デルフリンガーだけでは、今頃は重症だった。

デルフリンガーで吸い込みきれない魔法は幾つもあった。

もし覇竜刀が無かったら、その魔法を全て受けていた事になる。

だが、当然何発かは喰らっている。

しかし、我慢できないほどではない。

今度は無数の矢が飛来する。

才人はデルフリンガーと覇竜刀を振り回し、矢を叩き斬っていく。

だが、捌ききれなかった矢が才人の身体を掠め、傷つけていく。

それでも才人は止まらない。

次から次へと兵隊をなぎ倒していった。



メガログラウモンは、飛行によって発生したソニックブームで敵の足並みを乱すことに集中していた。

メガログラウモンに無数の魔法が飛来し、直撃する。

メガログラウモンの防御力なら、この程度の魔法、数発、数十発喰らっても大して問題はない。

だが、それが数百発数千発と喰らえば話は別だ。

ちりも積もれば山となる。

ダメージは少しずつ、しかし確実に蓄積していく。

それでもメガログラウモンは飛び続ける。

己のパートナーを守るために。



アルダモンとブラックウォーグレイモンの戦いは熾烈を極めていた。

激突の余波はそれだけで回りの兵を吹き飛ばし、飛んでくる魔法をかき消す。

戦いつつ、軍勢から少しはなれたところに着地するアルダモンとブラックウォーグレイモン。

「やはり強いなアルダモン」

「俺は負けるわけにはいかない」

「しかし、だからこそ倒し甲斐があるというものだ!!」

ブラックウォーグレイモンは、負のエネルギーを集中させた。

アルダモンもそれに対し、炎を集中させる。

「ガイアフォース!!!」

「ブラフマシル!!!」

ガイアフォースとブラフマシルが激突し、大爆発が起こる。

それによって巻き上げられた土煙がアルダモンの視界を塞いだ。

「くっ!」

アルダモンは気を張り詰める。

ブラックウォーグレイモンの攻撃に備えた。

その時、僅かな煙の切れ目から黒い装甲が目に入った。

「そこかっ!!」

アルダモンは突撃し、渾身の拳を繰り出した。

――カァン

そんな軽い音を立て、手ごたえも無くその黒い装甲は吹き飛んだ。

「なっ!?シールドだけ!?」

アルダモンが殴ったのは、ブラックウォーグレイモンの背中に装備されているブラックシールドだけであった。

「かかったな!」

その声に振り向いた瞬間、アルダモンは身体をホールドされる。

「くっ、しまった!」

その時、赤い負のエネルギーが集中する。

ブラックウォーグレイモンは、密着状態でガイアフォースを放とうとしていた。

「なっ!?零距離攻撃!?お前も吹っ飛ぶぞ!」

「覚悟の上だ!この位しなければお前に勝つことは出来ん!!」

そして、次の瞬間、

「ガイアフォース!!!」

――ドゴォォォォォォン

零距離でガイアフォースが爆発した。

「がはっ!」

アルダモンは吹き飛び、地面に叩きつけられる。

「ぐ・・・う・・・・」

アルダモンはデジコードに包まれ、拓也に戻ってしまった。

そして、爆煙が晴れる。

そこには、身体中の鎧のいたるところに罅と欠けがあり、左のドラモンキラーの爪は全て折れ、右のドラモンキラーにも無数の罅を入れたブラックウォーグレイモンが立っていた。

「はあっ!・・・・・はあっ!・・・・・」

ブラックウォーグレイモンも相当なダメージを受けているようだった。

だが、ゆっくりと一歩一歩拓也に近付いていく。

拓也は何とか立ち上がろうとするが、ダメージは深刻であり身体を起こすのがやっとだ。

ブラックウォーグレイモンは拓也の目の前に来た。

「礼を言うぞ・・・・・ここまで力を出し切れたのは初めてだ・・・・・だが、これで終わりだ!」

ブラックウォーグレイモンは右のドラモンキラーを振りかぶる。

拓也はその光景がとてもゆっくりに感じていた。

拓也の脳裏には、今までの思い出が駆け巡っていた。

(はは・・・・・走馬灯ってやつか・・・・・縁起でもない・・・・)

思い出が次々に思い出されていく。

元の世界のこと。

デジタルワールドの冒険。

ハルケギニアでの生活。

そして、最後には全てが真っ白になった。

だが、そこに思い浮かぶ人物がいた。

『タクヤ・・・・』

凍てついた心を融かし、自分に好意を持ってくれた少女。

(シャル・・・・・・・)

『タクヤさま。きゅい』

本来は竜でありながら、自分のことを好きだと言った女性。

(イルククゥ・・・・・)

『タクヤ』

そして、自分をこの世界に召喚し、自分が守ると約束し、そして、自分を好きになってくれた、心優しき少女。

(・・・・・アイナ!)

そして、遂にブラックウォーグレイモンのドラモンキラーが繰り出されようとした瞬間、

「さらばだ!」

ブラックウォーグレイモンが叫ぶ。

(・・・・・こんな・・・・・所で・・・・)

拓也は力の限り叫んだ。

「死ねるかぁあああああああああああっ!!!」

拓也の生きるという意志。

生への咆哮。

拓也のデジヴァイスが強い光を放つ。

「何っ!?」

余りに強い光に、ブラックウォーグレイモンは目を庇う。

拓也の生への意志がスピリットの真の力を呼び覚ます。

「うおおおおおおおおおっ!!」

拓也は再びデジヴァイスを構えた。

デジヴァイスの画面に2つのスピリットの形が描かれる。

突き出した左手に球状のデジコードが宿り、右手のデジヴァイスをデジコードになぞるように滑らせる。

「エンシェントスピリット!エボリューション!!」

拓也がデジコードに包まれ、そのデジコードが巨大に膨れ上がる。

「ぐがああああああああああっ!!!」

アルダモンの進化より凄まじき咆哮。

スピリットの力の全てが拓也に宿る。

これこそ、『炎』の闘士の真の姿。

「エンシェントグレイモン!!」

そこにいたのは、デジタルワールドの伝説の古代獣。

ルーチェモンを封印した十闘士の1体。

灼熱の赤き巨竜、エンシェントグレイモン。

「な、何だコイツは?」

ブラックウォーグレイモンは突然の進化に驚愕する。

「・・・・・俺は」

エンシェントグレイモンが呟く。

「・・・・俺は!」

エンシェントグレイモンが大地を踏みしめ、翼を大きく広げる。

「こんな所で死ぬわけには!」

口を大きく開ける。

「いかないんだ!!!」

そこから放たれる灼熱の業火。

「何っ!?ぐあああああああああっ!!」

ブラックウォーグレイモンがその業火に飲み込まれる。

エンシェントグレイモンの必殺技、灼熱の業火『オメガバースト』。

その炎は、ブラックウォーグレイモンを飲み込んでも衰えを知らず1リーグほど先の大地で大爆発を起こした。

その威力はアルビオン大陸を揺るがした。

爆心地のクレーターは直径1リーグは軽く超えているだろう。

ブラックウォーグレイモンの姿は無い。

消滅したか、はたまた吹き飛ばされたか。

エンシェントグレイモンはその場で崩れ落ちる。

デジコードに包まれ、そのデジコードが収縮していき、拓也の姿に戻ってしまった。

「はあっ・・・・はあっ・・・・」

既に拓也は限界だった。

最後の力で、仰向けになる。

(やべえ・・・・・体が動かねえ・・・・・)

それを見ていたアルビオンの指揮官は、それを好機と見たのかメイジの兵たちに攻撃準備をさせる。

「拓也!!」

それに気付いた才人が止めようと全力で駆けてくるが、無数の矢によって足止めを食ってしまう。

「くそっ!メガログラウモン!!」

才人はメガログラウモンに呼びかける。

「わかっ・・・・うっ!くっ!」

数百発もの魔法弾がメガログラウモンに襲い掛かり、身動きが取れない。

その間に指揮官は拓也に狙いを定める。

指揮官は、手を上げる。

それと共にメイジの兵達は杖を掲げ、呪文を詠唱する。

そして、その指揮官が拓也に向かってその手を振り下ろした。

「やめろぉおおおおおおおっ!!」

才人が必死になって叫び、拓也の元へ向かおうとするが・・・・・・

100発に近い魔法が上空に向かって放たれる。

それは弧を描き、雨のように拓也に向かって降り注ぐ。

「拓也ぁああああああああああっ!!!」

才人の叫びも虚しく、魔法は拓也に降り注いでいく。

魔法弾の爆発に飲み込まれていく拓也は、

(・・・・シャル・・・・イルククゥ・・・・・・アイ・・・ナ)

消えゆく意識の中、3人の少女たちの名を心の中で呟いた。

――ドゴォォォォォン

完全に爆発に呑まれる拓也。

「う・・・・うわぁあああああああああああああっ!!!」

才人の絶叫が響いた。




次回予告


爆発の中に消える拓也。

才人は拓也を失った悲しみと、敵に対する怒りと憎しみでメガログラウモンを進化させてしまう。

正気を失い暴走するギルモン。

邪悪竜となってしまったギルモンは?才人は?そして拓也は?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第三十一話 怒りの暗黒進化!メギドラモン暴走!

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

第三十話完成。

いや~、一日で書き上げましたよ。

自分でも楽しみにしてた所なので筆が進む進む。

自分では中々の出来栄えだと思っております。

うぬぼれかもしれませんが・・・・・

さて、ルイズの殿軍は命令ではなく、アニメと同じようにマザリーニの哀願といたしました。

命令だったら、絶対に拓也は行きませんからね。

しかもその前に、ウェールズだから、そんな命令すら出ませんので。

それで、拓也が7万の軍勢に向かうとき、アイナの足止めに使ったのが地下水です。

因みにアイナの足止めを行なうために地下水を拓也に持たせる事を決めたんです。

地下水には酷い話ですが・・・・・

んで、バトルですが、自分で決めた勝手な進化、エンシェントグレイモン登場。

これも前々から決めていた事です。

少しは反対があるかもしれませんが・・・・・

因みに必殺技のオメガバーストですが、公式設定では、たしか自分を中心に半径数キロを超爆発で吹き飛ばす技だったと思うのですが、それだと敵味方関係無しに巻き込むので、口からの放出系の技にしました。

とりあえず、ブッラクウォーグレイモンとは、一旦決着。

ですが、そのあと拓也死す?

この流れは予想してた人はいるでしょうか?

ともかく次はメギドラモン大暴れの予定です。

次回もお楽しみに。




[4371] 第三十一話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/03/15 21:22
才人の目の前で魔法弾の爆発の中に消える拓也。

それを見た才人は・・・・・・・


第三十一話 怒りの暗黒進化!メギドラモン暴走!


爆発の中に消えた拓也。

「う・・・・うわぁあああああああああああああっ!!!」

才人の絶叫が響いた。

間に合わなかった才人は、膝を付き、涙を流す。

「うっ・・・うあっ・・・・・拓也・・・・・・畜生・・・・」

地面に手を付き、うな垂れる。

敵の指揮官が、才人に近付いた。

「仲間が殺されて戦意を失ったか。誰一人として殺してはいないようだが、戦場での優しさなど邪魔なだけだ」

才人は、敵の言葉を黙って聞いていた。

「そのような甘ったれた覚悟で戦場に出てくるなど「うるせぇ黙れ・・・・」」

才人が言葉を発した。

その言葉は震えていた。

しかし、恐怖ではない。

(アイツの覚悟を“甘え”の一言で片付けるんじゃねえ・・・・・勝ち負けしか考えていないテメェらの覚悟と、拓也の・・・・護るための覚悟を比べるんじゃねぇ・・・・・)

「許さねえ・・・・・」

その言葉は、悲しみと、そして、怒りと憎しみが入り混じった声だ。

才人は剣を握る手を力いっぱい握り締める。

そして、勢い良く立ち上がると同時に叫んだ。

「ぶっ殺してやる!!!」

初めて才人が発した明確な殺意。

「うあああああああああっ!!!」

才人は感情のまま叫んだ。

それと同時に、メガログラウモンが禍々しい紅の光に包まれる。

「進化しろ!!メガログラウモン!拓也の仇だ!!」

「グギャァアアアアアアアアッ!!」

紅の光の中から湧き上がる咆哮。

その光の中から現れたのは、

「グガァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

今までの勇ましい姿とは違い、血のような紅に身を染めた醜悪なその姿。

クロンデジゾイド製のボディに身を包み、禍々しき翼をもった邪悪竜。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!」

その竜は、この世のものとは思えぬほどの咆哮を上げる。

7万の大軍全てに、恐怖という名の動揺が走った。

「メギ・・・・ドラモン・・・・・」

才人はポツリと呟いた。

才人はメギドラモンの醜悪な姿に、半ば呆然としている。

メギドラモンの歯の隙間から炎が漏れ出す。

そして次の瞬間、

「グガァアアアッ!!」

地獄の業火とも思えるほどの赤黒い炎が、メギドラモンの口から7万の大軍に向かって放たれた。

メギドラモンの必殺技、地獄の業火『メギドフレイム』。

炎に呑まれてゆく兵隊達。

一瞬で1万人に近い数の兵が焼き尽くされた。

阿鼻叫喚が響き渡る。

才人は、目の前の現実が受け入れられないでいた。

ギルモンが進化したメギドラモンが全く躊躇することなく、1万人近い命を一瞬にして奪ったのだ。

「俺が・・・・・望んだのか・・・・・・・?」

才人は呆然としたまま呟いた。

「俺が・・・・こうなる事を望んだのか・・・・・・?」

ポケットから、デジヴァイスが落ちる。

今までの攻撃にも壊れなかったそれは、地面に落ちるとあっさりと砕け、消滅した。

メギドラモンが再び『メギドフレイム』を放った。

逃げ惑う兵達を次々に焼き払っていく。

「や、やめろ・・・・・・」

才人は言葉を漏らした。

殺戮の限りを尽くすメギドラモン。

「やめてくれ・・・・・」

逃げ惑う兵達。

響き渡る悲鳴。

「もう・・・・・やめろぉおおおおおおっ!!」

才人は叫んだ。

メギドラモンは才人へ視線を向ける。

「相棒!無茶だ!逃げろ!」

「あいつは、あいつはギルモンなんだ!」

「今のあいつにチビ竜の意思は無え!相棒のことも判断できてねえぞ!」

「そんなわけあるか!あいつは・・・・・」

その瞬間、メギドラモンの尾が才人の近くに叩きつけられる。

「うわあっ!?」

才人はその衝撃で吹き飛ばされた。

「だから言っただろう!無理だ!」

デルフリンガーが叫ぶ。

「ギルモン!俺だ!才人だ!」

才人はデルフリンガーの制止も聞いていない。

いや、焦りのあまり聞えていないのだろう。

「くっ・・・・・すまねえ、相棒」

デルフリンガーがそう呟くと、

「なっ!?体が勝手に!?」

才人の体が、才人の意思とは無関係に動き出し、近くの森に向かって駆け出した。

「一体何が!?どうなってるんだよ!デルフ!!」

「俺の能力の1つ。吸い込んだ魔法の分だけ使い手を動かす事ができる」

デルフリンガーがそう答える。

「何やってんだ!やめろ!戻れっ!!」

才人は叫ぶが、デルフリンガーは答えず、森の中に駆け込んだ。




どれだけ森の中を進んだかは分からないが、突然体の自由が戻ったために、才人は躓き、地面を転がる。

が、すぐに起き上がると、デルフリンガーを投げつける様に地面に叩きつけ、覇竜刀を上段に構えた。

「何で邪魔をした!!」

才人はデルフリンガーに叫んだ。

「・・・・・相棒に死んでほしくなかった。それだけだ。許してもらう心算はねえよ」

「ぐっ・・・・・」

覇竜刀を振り上げた才人の手は震えていた。

「その剣ならいくら俺でも耐え切れねえよ。それを振り下ろせば、俺は壊れる」

デルフリンガーは事実を淡々と述べた。

「ああ。これだけは言わせてくれ。相棒、短い間だったが楽しかったぜ」

デルフリンガーはそれだけ言うと黙り込んだ。

「う・・・く・・・・・うわぁあああああああああああっ!!」

才人は叫びながら渾身の力で覇竜刀を振り下ろした。

――ザシュ

一瞬の沈黙の後、

「・・・・・・・・・相棒、何で外した?」

デルフリンガーが呟いた。

才人の振り下ろした覇竜刀は、デルフリンガーのすぐ横に突き刺さっていた。

「くっ・・・・ううっ・・・・・」

才人から押し殺した泣き声が聞えた。

才人は崩れ落ちるように膝を付く。

「・・・・ううっ、す、すまねえデルフ・・・・・お前は・・・俺を助けようとしたのに・・・・・・」

才人は涙を流しながらそう呟く。

「いいんだよ相棒・・・・・」

「俺は・・・・大馬鹿だ・・・・・・拓也を殺されて・・・・・我を忘れてギルモンを進化させちまった・・・・・・俺の憎しみの心が・・・・・ギルモンに間違った進化をさせちまったんだ・・・・・・・・」

「仕方ねえよ・・・・・弟分を殺されたんだ。憎まないほうがおかしい」

才人は立ち上がろうとする。

「如何するんだい?相棒」

「ギルモンを止める。あいつをあんな姿にしたのは俺だ。俺が止めなきゃいけない。拓也を失った今・・・・・あいつだけでも助けなきゃ」

才人は歩き出そうとしたが、ふらつき、木に背中を預ける形になってしまう。

「うぐっ!?」

体中に痛みが走る。

「相棒、先ずは休みな。死ぬほどの怪我じゃねえが、軽い怪我でもねえ。暫く動けねえぞ」

夜通し移動していた事と、戦いの疲労によって、才人の意識は遠くなっていった。




一方戦場では。

才人が走り去った後、メギドラモンも何処かへ飛び去っていった。

偶然にも生き残ったアルビオン軍の将であるホーキンスは、呆然としながら損害の報告を聞いていた。

正確な人数は分からないが、少なくとも犠牲となった兵は2万を超える。

決戦を行なったときのような大損害である。

そして、大軍を立て直そうにも、メギドラモンへの恐怖が植えつけられており思うようには進まない。

軍隊を纏めるには1週間近くかかるとの予想だった。

ホーキンスは、才人が走り去った森のほうを見つめた。

才人が怒り狂ったとき、メギドラモンがあらわれた。

「私達は、正に触れてはならぬ逆鱗に触れてしまったようだな・・・・・」

そう呟いた。




所変わってロンディニウム城。

ここでは、神聖アルビオン共和国の皇帝であるクロムウェルが居た。

「なぜ、ガリアは兵をよこしてくれんのだ?2国で挟撃すれば、シティオブサウスゴータから敗走する連合軍など一撃だったものを・・・・・・」

そう愚痴を零す。

そんな時、部屋に連絡士官が飛び込んできた。

「陛下!緊急事態です!」

「何事だ?騒々しい」

「りゅ、竜がこちらに迫ってきております」

「竜だと?何匹の群れだ?」

「そ、それが・・・・・1匹なのですが・・・・」

「1匹だと?そんな事私に報告せずとも其方で対処すればよかろう。さっさと竜騎士を出撃させんか」

「も、もちろん出撃させました・・・・・そ、それが・・・・・・」

連絡士官は言いよどむ。

「何を躊躇している。はっきりと言わんか!」

「は、はい!その竜に対し、竜騎士を出撃させたのですが、既に100騎以上もの竜騎士がやられているとのことです!」

「な、なんだと!?」

クロムウェルが報告に驚愕したとき、

「グガアアアアアアアアッ!!」

凄まじき咆哮がクロムウェルの耳に届いた。

すぐにクロムウェルが窓に駆け寄ると、ロンディニウム城上空にメギドラモンがいた。

何故メギドラモンがここに来たのかは分からない。

もしかしたら、ギルモンの記憶にある、敵地の本陣という情報に突き動かされたのかもしれない。

ロンディニウム城を見下ろしていたメギドラモンの口からは炎が漏れている。

そして次の瞬間、

「グガアッ!!」

『メギドフレイム』がロンディニウム城に向かって放たれた。

「ひっ・・・・・」

その光景にクロムウェルは悲鳴を上げそうになったが、

――ドゴォオオオオオオン

悲鳴を上げる間も無く、ロンディニウム城は灰燼と化した。

再びメギドラモンは飛び去った。





「ピ、プ~?」

才人は変な鳴き声を聞いた。

才人はゆっくりと瞼を開く。

目の前には、

「パプ~~」

薄いピンク色の体を持った、クリオネのような姿の生物が浮いていた。

「・・・・・お前、デジモンか?」

才人はなんとなくそう思った。

「ピッピップ~~」

どうやら肯定しているようである。

才人は体を起こそうとした。

だが、

「うぐっ!」

体中に痛みが走り、才人はうめき声を漏らす。

すると、

「ピプ~」

そのデジモンは口から青色のハート型の泡のようなものを吐き出した。

そのハート型の泡のようなものは才人の体に当たると弾けた。

「え?あれ?痛みが和らいだ・・・・・」

先程まで激痛で動けなかったのが、何とか動けるぐらいまで回復している。

才人はゆっくりと立ち上がる。

「プペ~」

そのデジモンは森の奥の方へ飛ぶと、才人に呼び掛ける。

「付いて来い、ってか?」

才人はゆっくりと歩き出した。



そのデジモンに付いて暫く行くと、小さな集落に出た。

「ここは?」

才人が呟くと、目の前のデジモンは一軒の家に飛んで行き、窓からその家に入った。

少しすると、その家のドアが開き、先程のデジモンと金髪の少女が出てきた。

その少女は才人に気付くと駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか!?」

その少女は、才人の怪我を見るなり慌てた声で叫んだ。

「えっと・・・」

「動かないでください!」

才人が何か言おうとした時、少女は右の中指に嵌められた指輪をかざした。

その指輪の宝石が輝きだし、光が才人を包んだ。

そして、光が収まった時には、

「え?嘘!?治ってる!」

無数にあった傷が全て塞がっていた。

才人は驚く。

「あの、傷は塞がりましたけど、体力は戻りません。今日一日は休んでください」

その少女はそう言う。

「そ、そうか、ありがとう。俺は平賀 才人。君は?」

才人はお礼を言って自己紹介をする。

「私はティファニアといいます」

その少女、ティファニアも名乗った。

「ティファニア、改めてありがとう。けど、何で助けてくれたんだ?こう言っちゃなんだけど、不振人物だぜ、俺」

「この子が助けてあげてって言ってたからです」

ティファニアが、横に浮いているデジモンを見ながらそう言った。

「ピプ~」

「それに、怪我をしている人をほっとく訳にはいきませんから」

ティファニアは微笑んでそう言った。

その笑顔に才人は少し赤くなる。

怪我の痛みから解放されたからか、今までよりもティファニアを良く見ることが出来た。

ティファニアは、体は全体的に細い。

足首も細い、腕も細い、首も腰も細い。

耳は尖っていて珍しい形だなと才人は思ったが、そんな考えを吹き飛ばすモノを見つけた。

「お、恐ろしい・・・・・」

才人は思わず呟いた。

ティファニアは思わずビクッと震える。

「やっぱり・・・・怖いよねエルフな「なんという胸だ」え・・・・・?」

ティファニアが、諦めたように呟こうとした時、才人の言葉で呆気に取られる。

(でけぇ、でか過ぎる!正にバスト・レボリューションだ)

そう。

この少女、ティファニアは、胸が大きかった。

才人も始めてみる胸の大きさだった。

「あの・・・・」

ティファニアに声をかけられてはっとなる。

「ああ、ゴメン。ちょっと考え事を・・・・・」

「そうじゃなくて。サイト、私が怖くないの?」

「へ?」

才人はティファニアの言っている言葉の意味が分からなかった。

「何で?」

「この耳を見てもそう思うの?」

ティファニアは自分の尖った耳を指差す。

「・・・・・確かに珍しい形だなって思ったけど、何で怖がるのさ?」

「本当に驚いてないの?怖くないの?」

疑わしそうな顔で、ティファニアは才人を見つめた。

「だからなんで怖がらなきゃいけないのさ?なんつうか、他にも怖いの沢山居るだろ。ドラゴンとか、トロル鬼とかさ」

ティファニアはホッとしたような顔になった。

「エルフを怖がらない人なんて、珍しいわ」

「エルフ?」

「そう、エルフ。私は“混じり物”だけど・・・・・」

自嘲気味にティファニアは呟く。

才人はティファニアの横に浮かんでいるデジモンに視線を移す。

「所で、そのデジモンって、君のパートナー?」

才人は尋ねる。

「え?でじもんって何?この子はマリンエンジェモン。ちょっと前にこの村の子供たちが見つけて、仲良くなったの」

ティファニアはそう答える。

「子供たち?」

「この村は、孤児院なのよ。親を亡くした子供たちを引き取って、皆で暮らしてるの」

「君が面倒を見ているのか?」

「私は一応年長者だから、ご飯を作ったりの世話はしてるけど、お金は昔の知り合いの方が、送ってくださるの。それで生活に必要なお金はまかなってるのよ」

「そっか」

その時、他の家々から何人もの子供たちが出てきてティファニアに駆け寄ってきた。

「ティファニアお姉ちゃん」

そう言って、ティファニアを取り囲む子供たち。

そんな光景に、才人は自然と微笑んだ。

だが、

「グガァアアアアアアアアアッ!!」

恐ろしき咆哮が響き渡る。

空を見上げた才人の視線の先にはメギドラモンがいた。

「ギルモン・・・・・」

才人は呟く。

子供たちはメギドラモンの恐ろしい姿に、悲鳴をあげてティファニアにすがりついた。

「だ、大丈夫よ。お姉ちゃんが守るから」

ティファニアは必死に子供たちを安心させようとする。

才人は駆け出した。

「サイトッ!?」

ティファニアが呼び掛けるが、

「ギルモォォォォォォン!!」

才人は叫んだ。

メギドラモンは才人に気付き、下りてくる。

「ギルモン!」

才人は必死にメギドラモンに呼び掛ける。

メギドラモンの目は、ギルモンとは全く違っていた。

それでも、才人は臆せずに呼び掛けた。

「ギルモン!もう止めてくれ!お願いだ!」

才人は悲しみが入り混じった声で叫ぶ。

「グアッ」

「元に戻ってくれ!ギルモン!頼む!」

メギドラモンは一瞬躊躇したようだったが、

「グアアアアアアッ!!」

才人を食らわんとばかりに、大口を開けて才人に襲い掛かった。

「ギルモォォォォォォン!!!」

才人はその場から動かず両手を広げて、心の底から叫んだ。

そして・・・・・・・・

メギドラモンは止まっていた。

あと10サントで才人に接触するという超至近距離で、止まっていた。

「・・・・・サ・・・・・イ・・・・・・・ト・・・・・・」

メギドラモンは呟く。

メギドラモンの目に、ギルモンの目の輝きがあった。

才人はゆっくりとメギドラモンに触れる。

「ゴメンなギルモン・・・・・俺のせいで、お前をこんな姿にさせちまった・・・・・俺は・・・・パートナー失格だ・・・・・」

そう言いながら、才人は涙を流す。

「ピプ~~」

その時、マリンエンジェモンが飛んでくる。

「ピッピップ~~~」

マリンエンジェモンは、また青いハート型の泡を吐き出した。

それはメギドラモンに当たって弾ける。

すると、メギドラモンが光に包まれ、小さくなっていく。

そしてそこには、気を失ったギルモンの姿があった。

才人は、ギルモンを抱きしめる。

「すまねえ・・・・・すまねえギルモン・・・・」

ギルモンを抱きしめながら、涙をながしつつ、そう呟いた。






ルイズが目を覚ましたのは、出航するレドウタブール号の甲板であった。

風が頬をなぶる感触と、帆がはためく音で目を覚ましたのである。

自分の顔を覗き込んでいるのは、マリコルヌにギーシュであった。

「おお、ルイズが目を覚ましたぞ」

「よかったよかった」

そんな風に頷いているクラスメイトに気付き、ルイズは呆けた声を出した。

「私・・・・・どうして?」

「さぁ。出航したとき、君がここに寝かされている事に気付いたんでね」

「・・・・ここ、船の上?」

動く回りの風景に気付いた後、ルイズは重大な事を思い出し、跳ね起きた。

「て、敵軍を止めなきゃ!迫ってくるアルビオン軍を!」

ギーシュとマリコルヌは、怪訝な顔でルイズを見つめた。

「敵軍を止める?」

「そうよ!味方の撤退が間に合わないじゃない!」

「間に合ったよ」

「これはロサイスを出航する最後の船さ」

「・・・・・え?」

ルイズは、訳が分からずに、甲板の柵に取り付いた。

下を見つめる。

ぐんぐんと小さくなる、アルビオン大陸が見えた。

「どういうこと?迫ってくるアルビオン軍は?」

「さぁ?間一髪どころか、ロサイスから見える範囲にすら敵は現れなかったっていう話だよ」

「よかったよかった。お陰で、僕達はこうして国に帰れるよ」

「帰ってからが、これまた大変そうだけどな」

ギーシュとマリコルヌは、顔を見合わせて笑っている。

ルイズの頭の中では、疑問が渦巻く。

アルビオン軍はどうして進撃速度を緩めたのだろう?

そして、どうして自分はこの船の上で寝ていたのだろう?

その時、重大な事に気がついた。

才人の姿が見えない。

ルイズは船上を駆け回った。

後甲板に、シエスタ達を見つけた。

「ミス・ヴァリエール・・・・・気が付かれたんですね」

「それより!サイトは何処!?」

シエスタの顔が蒼白になった。

「私も、ミス・ヴァリエールが目覚めたら、聞こうと思ってたんです。サイトさんは一緒じゃないんですか?」

ルイズは首を振った。

ルイズの不安げな表情で、シエスタも顔を蒼白にさせていく。

「ねえ、ミス・ヴァリエール、サイトさんは何処なんですか?ねえ、どこ?教えて」

その時、船内に続く扉が開き、アイナが現れた。

しかし、足取りはおぼつかず、フラフラとしている。

そして、その顔はシエスタ以上に蒼白であった。

「アイナ・・・・」

ルイズが呟くと、

「タクヤが・・・・いないの・・・・・」

アイナはポツリと呟いた。

「え?」

「タクヤ・・・・・ルイズが殿軍を任されているところを聞いて・・・・・・それで・・・大軍に向かって行ったって・・・・・」

アイナの瞳からボロボロと大粒の涙が零れる。

「嘘・・・・・・」

ルイズは血の気が引いた。

「本当・・・・なの?」

ルイズは震える声で尋ねた。

「本当さ・・・・・」

ルイズの問いに答えたのは地下水であった。

「相棒は、俺にアイナの嬢ちゃんを止めるように言って、大軍に向かって行ったよ」

「な、何で・・・・・?」

「相棒は、お嬢ちゃんの使い魔の坊主が、お嬢ちゃんの身代わりになるだろうって予想したのさ。お嬢ちゃんがここにいるって事は、その通りなんだろうな」

地下水の言葉にルイズははっとなる。

才人の不在。

地下水の言葉。

そして、進行を緩めたアルビオン軍。

それが意味する事は1つ。

ルイズは柵に駆け寄り、絶叫した。

「サイト!!!」

「ミス・ヴァリエール!何があったんですか!?説明してください!説明して!」

シエスタはそんなルイズに詰め寄った。

「サイト!!!」

ルイズは絶叫すると、柵を飛び越えて地面に飛び降りようとした。

「お、おい!死ぬ気か?」

ギーシュやマリコルヌが気付いて、止めに入った。

「おろして!お願い!」

「無理だよ!下にはもう、味方はいないんだ!」

「おろしてぇぇぇぇぇっ!!!」

ルイズの絶叫が、遠ざかるアルビオンに向けて響いた。



その後、ロンディニウム城の消滅により、皇帝のクロムウェルが死亡したことで、アルビオンは降伏を宣言した。

それが連合軍に伝わったのは、ロサイスの撤退から3日後のことであった。






次回予告


戦争が終結しても戻ってこない拓也と才人。

ルイズとアイナは2人の生死を確かめるため、『サモン・サーヴァント』を行う事を決意する。

だが、アイナはそこで驚愕の事実を知ることになる。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第三十二話 拓也死す!? 召喚されてしまった使い魔!

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

第三十一話完成。

超ハイペースですな。

今回を振り返りますと、先ずは犠牲となった兵士達に黙祷を。

流石にメギドラモンになったら犠牲が出る事は間違いないと思ったので・・・・

それはともかく、ロンディニウム城を狙い撃ちにしたのは無理がありますかね?

ストーリー自体は思ったとおりに進んだんですが、ティファニアと才人のやり取りがちょっとおかしいかな?

ついでと言っては難ですが、マリンエンジェモン登場。

コイツはティファニアのパートナーではありません。

野良(?)デジモンです。

テイマーズのクルモンのような位置に近いかな。

さてさて、気になる拓也の行方ですが・・・・・秘密です。

ずーっと温め続けていたネタなので。

さて、それでは次回も頑張ります。




[4371] 第三十二話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/03/26 19:38
戦争は終結した。

しかし・・・・・・・


第三十二話 拓也死す!? 召喚されてしまった使い魔!


神聖アルビオン共和国の降伏から2週間後。

1年の始まりであるヤラの月の第3週、エオローの週に正式に連合軍は解散となり、臨時の士官として志願した魔法学院の生徒たちも、次々に学院へと戻ってきた。

意気揚々と帰ってきた者もいれば、何の戦果も得られずに、帰ってきたものもいる。

激戦を潜り抜けた者もいれば、何ら戦果に寄与することのない任務に就いた者もいた。

魔法学院の生徒たちは、一部を除いて後方の部隊だったので、犠牲もなければ戦果も無い者が殆どであった。

そんなわけで、戦果を挙げた一部の生徒たちの威張りようときたら、天にも昇る勢いである。

ギーシュも、そんな調子で散々に自分の手柄を自慢していたのであったが・・・・・・



自分の部屋で、ルイズは膝を抱えてベッドに座っていた。

そんなルイズの目の前には、唯一の才人の持ち物であるノートパソコンが置かれていた。

電源が入っていないので、画面には何も写ってはいない。

ルイズは、黒いノートパソコンの画面をじっと見つめていた。

才人が始めてやってきた日、自分に見せてくれた画面を思い出す。

綺麗だった。

そう思ったら、じんわりと瞼の裏が熱くなる。

思えば才人は、いつも自分にそんな景色を見せてくれていた。

ルイズにとって、ワケが分からないけど綺麗で、なんだかわくわくして、不思議な気分にさせる景色を。

自分たちと違う考え、容姿、行動。

その一つ一つが胸に蘇る。

ルイズは胸に下がるペンダントを見つめた。

ぽろりと、目頭から涙がこぼれる。

才人は、いつも自分を守ってくれていた。

この首にかかるペンダントのように、いつも傍にいて、自分の盾となってくれた。

フーケのゴーレムに潰されそうになったとき。

ワルドに殺されそうになったとき。

巨大戦艦に対峙したとき。

そして、今回も・・・・・・

才人は必ず、自分の前に立って剣を構えてくれた。

伝説の“ガンダールヴ”、その名の通り、自分の盾になってくれた。

そんな才人に、自分は優しくした事などあっただろうかとルイズは思う。

いつも意地を張って、わがままばかり押し付けていたような気がしていた。

「ばか」

涙が熱かった。

「私のことなんか放っておけばよかったのに。こんな恩知らずでわがままな、可愛くない私のことなんか、無視して逃げればよかったのよ」

ルイズは流れる涙を拭いもせずに、じっと想いをめぐらせた。

「あんなに、名誉の為に死ぬのはバカらしいなんて言ってたくせに・・・・・・・自分でやってちゃ世話ないじゃない」

才人を攻める言葉は、そのまま自分に返ってくる。

自分の言葉が、己の心を抉る槍となって、ルイズを激しく傷つけた。

「好きって言ったくせに・・・・・・私を1人にしないでよ」

黒い画面のままのノートパソコンを見つめ、ルイズは呟いた。

「私ね、アンタがいないと、眠る事も出来ないのよ」

膝を抱いて、何時までもルイズは泣き続けた。




一方、アイナの部屋では。

「嬢ちゃん、元気だすっスよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

テーブルに置かれた地下水が、ベッドに蹲っているアイナに話しかける。

だが、アイナは答えない。

「まだ相棒が死んだって決まったわけじゃないんスから」

「・・・・・・・・・・・・・」

「そんな顔してちゃ、相棒に心配かけるっスよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

何度も話しかけるが、反応は無い。

「せめて、食事だけはちゃんと取るべきっス」

アルビオンから戻ってきてから、アイナは碌に食事をしていない。

本当に最低限の水とパンぐらいしか口にしないのだ。

このまま続けば、確実に体を壊す。

「嬢ちゃ「ごめん、何も話したくないの」」

アイナにそう言われ、地下水は押し黙るしかなかった。

「・・・・・・・タクヤ」

アイナは、いつか拓也に買ってもらった、銀の十字架のペンダントを握り締め、拓也の名を呟いた。



アイナの部屋の扉の前にはシャルロットとイルククゥがいた。

「きゅい~~。あのおチビ、何をクヨクヨしてるのね!タクヤさまがそう簡単に死ぬはず無いのね!」

イルククゥが少しイライラしつつ、そう言う。

「・・・・・けど、2週間も経っているのに、戻ってこないのは確かにおかしい」

シャルロットは、少し暗い声でそう言う。

「お姉さまもそんなこと言っちゃダメなのね!タクヤさまは絶対に生きてるのね!」

そう言うイルククゥは、どこか不安を吹き飛ばしたいが為に、叫んでいるように思える。

内心、イルククゥも不安で堪らないのかもしれない。

「・・・・・・大丈夫だよね・・・・タクヤ」

ポツリと呟いたシャルロットの言葉に答えるものは誰もいなかった。





その頃、才人はウエストウッドの村にあるティファニアの家の裏で、薪割りをしていた。

才人の怪我は既に完治しているが、どうしても学院に戻る気にはなれなかった。

理由はわかっている。

ギルモンに大量の殺人を行なわせてしまったこと。

そして、拓也を失ったこと。

その2つが才人の心に重くのしかかり、才人を縛りつける。

「はぁ~・・・・・・」

才人は大きくため息をついた。

ギルモンは、子供たちにも受け入れられ、今まで通りであった。

しかし、才人はどうしてもギルモンに負い目を感じてしまい、今まで通りに付き合えないでいた。

ギルモンとの間に溝を作っているようで、デジヴァイスも失ったままである。

薪を割っている最中も、斧を持っていればガンダールヴは発動する。

しかし、心が深く沈んでいるので、今までの10分の1程度しか身体能力は上がらなかった。

才人が落ち込んでいると、後ろから声が聞こえた。

「あの・・・・・」

振り向くと困った顔のティファニアが立っていた。

「ん?」

「薪を・・・・・」

どうやら、薪を取りに来たらしい。

尖った耳を隠すように、大きな帽子をかぶっている。

「あ、ごめん」

ティファニアは、才人に目を合わせないように俯いて、薪に手を伸ばす。

才人は、警戒されていると思った。

「ごめん、随分と世話になっちゃったな。俺、そろそろ出て行くから。そんなに怖がらなくてもいいよ。そうだよな、戦争だって終わったばっかだし、俺みたいな変な奴が村にいたんじゃ困るよな」

ティファニアは目を見開いた。

「あ、違うの!違う!そうじゃない!わたし・・・・・・・その、同い年ぐらいの男の子と、話したことなくって・・・・ちょっと緊張してるっていうか・・・・・・・警戒してるとか、怖がってるとかそういうのじゃないの。だから、自分の気持ちに整理がつくまで、ずっといていいの。わたしこそごめんなさい」

ティファニアはモジモジと恥ずかしそうに頭を下げた。

そんな様子を見て、才人はちょっと明るい気持ちになれた。

「そっか。君は可愛いだけじゃなく、優しいんだね」

「か、可愛くないよ!」

「可愛いよ。それにほんとに優しいと思う」

と才人が言ったら、ティファニアは帽子を深く被ってしまった。

恥ずかしがっているらしい。

「優しいとか、そういうんじゃなくって・・・・・ただ、母さんが言ってたから」

「お母さんが?」

才人が問い返す。

懐かしい響きを含んだ言葉だった。

「そう、エルフの・・・・・・死んじゃったお母さん。あの指輪をくれて、わたしに言ったの。『困っている人を見つけたら必ず助けてあげなさい』って。母さんはその言葉通りの人だったの。自分を省みないで、愛する人の為に尽くした人だった。だからわたしも・・・・・」

デルフリンガーが横から口を出す。

「なんだか、込み入った事情があるみてえだね」

ティファニアは俯いた。

「ハーフエルフで、“先住の魔法”の力を秘めた指輪を持ってるお前さんが、こんな孤児だらけの村にいるのは、どんなわけがあるんだい?」

「デルフ」

才人がデルフリンガーをたしなめた。

「さて、お前さんの秘密は、そんな境遇と指輪だけじゃねえ。なにか、他のものも隠してるんじゃねえのか?」

ティファニアは黙ってしまった。

「ごめんな、話したくない事は話さなくていいんだよテファ。デルフ、いい加減にしろよ。もう、何なのお前、剣のくせに聞きたがりで・・・・・」

才人がそう言った時、

――シュカッ

と乾いた音がした。

見ると、1本の矢が、薪の1本に刺さっていた。

「危ねえなあ。猟師でもいるのか?」

――シュカカ   シュカッ

矢は次々と飛んできて、才人達の周りの地面に次々と突き刺さった。

「誰だっ!」

と怒鳴ると、森の中から傭兵と思しき格好の一団が現れた。

「おいお前ら。村長はいるか?いるなら呼んで来い」

現れたのは十数人ほど。

全員が弓矢や槍などで武装していた。

「な、何の用ですか?」

ティファニアが怯えた声で呟く。

「おや、随分と別嬪だな。こんな森の中に閉じ込めておくには勿体ねえや」

1人がそう言って、近付いてくる。

小ずるそうな顔をした、額に切り傷がある男だった。

どうやら彼がこの集団のボスらしい。

「あなたたちはなんなんですか?傭兵?」

「“元”傭兵だよ。戦争が終わっちまったから、本業に戻るのさ」

「本業?」

「盗賊だよ」

と1人がいうと、なにがおかしいのか残りが笑った。

「全く、ついてねえや。楽な追撃戦だと思ってたら、いきなりワケの分からない竜の乱入。ロンディニウムもその竜の強襲を受けて壊滅だってよ。お陰でアルビオンが降伏。意味わからねえや。とにかく報酬はパァ。だからせめて本業で稼がねえと、飯も食えねえってわけだよ」

才人はその言葉を聞き、動揺する。

盗賊が言った竜とは、間違いなくメギドラモンの事だ。

「出てって。あなた方にあげられるようなものは何もありません」

気丈に言い返すティファニアを見て、男たちは笑った。

「あるじゃねえか」

「え?」

「こんな貧乏そうな村に、金目の物があるなんて思っちゃいねえよ。俺たちが扱ってるのは、お前みたいな別嬪な娘だよ」

「これだけのタマなら、金貨にして2000はいくんじゃねえのか?」

どうやら盗賊たちは人攫いを生業にしているらしい。

1人が近付いてきてティファニアに触れようとした瞬間、才人が立ち塞がった。

「やめろ」

「何だ?ガキ。命が惜しかったらすっこんでろ。売り物になりそうな奴以外、興味はねえ」

「テファに触るな」

「俺たちゃ、真面目な商売人だよ。商品に傷はつけねえ。安心しろよ」

多少の味見はするがね、と、盗賊たちは下品に笑いあう。

才人はデルフリンガーと覇竜刀に手を伸ばした。

「なあ小僧。俺たちはもう人殺しは嫌なんだよ。出来る事なら平和に稼ぎたいのさ」

槍を構えて、1人の盗賊は言った。

才人はデルフリンガーと覇竜刀を抜いた。

「恩人を見捨てるわけにはいかねえだろうがよ」

「なあ坊や。知ってるか?」

槍を握った男が言った。

「なんだよ」

「俺たちは、トリステインとゲルマニアの連合軍をやっつけるために、ロサイスに向かってたんだ。でも、さっき言った竜に乱入されて多大な被害を出して失敗した。けどな、その前に1人の人間と1人の亜人。そして、1匹の竜が7万の軍勢に立ち向かってきたらしいんだ。後方にいたんで、詳しくは知らねえが・・・・・ま、お前さんも、勇気だけはそいつと変わらねえ。褒めてやるよ」

「・・・・・・・・・」

「けどな。俺たちの間じゃそういう奴をなんて言うと思う?」

その男は一旦言葉を切り、

「そういう奴はな、無謀な馬鹿っていうんだよ」

その言葉を聞いた瞬間、才人の心に火が灯った。

今まで光が弱かったガンダールヴのルーンが強く輝く。

「テメェらなんかが、あいつを馬鹿にするんじゃねえ!!」

才人は、一瞬で相手の懐に飛び込むと、右手に持った覇竜刀で相手の槍を断ち切り、デルフリンガーのみね打ちで吹っ飛ばす。

「ぎゃっ!?」

その男は木の幹に叩きつけられ気絶した。

「相棒、全然吹っ切れてないみたいだね」

デルフリンガーが呟く。

才人が盗賊たちの方を向き、高ぶった感情のまま全員を叩きのめそうとした時、

「ナウシド・イサ・エイワーズ・・・・・・・・」

後ろから声が聞こえた。

緩やかな、歌うような調べ。

いつも背中に聞いた、呪文の調べ。

「ハガラズ・ユル・ベオグ・・・・・」

ルイズと同じ響き。

「ニード・イス・アルジース・・・・・」

才人が振り向くと、ティファニアはいつしか取り出した小さな杖を握っていた。

「ベルカナ・マン・ラグー・・・・・」

指揮者がタクトを振り下ろすような自信に満ちた態度で、ティファニアは杖を振り下ろす。

陽炎のように、空気がそよいだ。

男たちを包む空気が歪む。

「ふぇ・・・・・?」

霧が晴れるように、空気の歪みが元に戻ったとき、男たちは呆けたように、宙を見つめていた。

「あれ?俺たち、何をしてたんだ?」

「ここ何処?何でこんな所にいるんだ?」

ティファニアは、落ち着き払った声で男たちに告げる。

「あなたたちは、森に偵察に来て迷ったのよ」

「そ、そうか?」

「隊はあっち。森を抜けると街道に出るから、来たに真っ直ぐ行って」

「あ、ありがとうよ・・・・・」

男たちはふらふらと、頼りなげな足取りで去っていく。

呆然として才人はその背中を見つめる。

最後の1人が森に消えた後、ティファニアの方を向いた。

ティファニアは恥ずかしそうな声で言った。

「・・・・・彼らの記憶を奪ったの。“森に来た目的”の記憶よ。街道に出る頃には、私たちのこともすっかり忘れているはずだわ」

「魔法なのか?」

ティファニアは頷いた。

才人は考える。

人の記憶を奪う魔法。

風、水、火、土。

どの系統にも当てはまらないように思える。

才人の中で1つの仮定が導き出される。

震えながら、才人は尋ねた。

「・・・・・今のは、どんな魔法なんだ?」

ティファニアの代わりに、デルフリンガーが答えた。

「虚無だよ。“虚無”」

「虚無?」

ティファニアはきょとんとして、デルフリンガーを見つめた。

「・・・・・・・なんだ、正体もしらねえで使ってたのかい」

才人は口をあんぐりと開けて、ティファニアを見つめた。

「とにかく・・・・・お前さんがどうしてその力を使えるようになったのか、聞かせてもらおうか」



その夜、才人たちはティファニアの生い立ちを聞いた。

エルフであるティファニアの母は、アルビオンの王弟の妾であったこと。

その母と、母譲りの耳を持ったティファニアは、まともに外を出歩けなかった事。

それでも、小さいながらも幸せに暮らしていたこと。

だが、あるとき、王家にエルフである母と、ティファニアの存在がばれてしまい、父は投獄、母は殺されてしまった事。

ティファニアは見つかったが、その時虚無に目覚め、兵士たちの記憶を消し、何とか生き延びた事を。

その話を聞いた後、才人はワインを飲んでいるうちに眠ってしまった。



――神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。

――神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。

――神の頭脳はミョズニトニルン。知恵の塊神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。

――そして最後にもう1人・・・・記す事さえはばかれる・・・・・・

――4人の僕を従えて、我はこの地にやってきた。

才人は歌声で目を覚ました。

夜明けはまだらしく、窓の外に月が2つ、浮かんでいる。

ギルモンは暖炉の前で丸くなって寝ている。

「・・・・・ごめんなさい。起こしちゃった?」

「もう一度、歌ってくれないか?」

ティファニアは再び歌い始めた。

心に沁みるように、声が響く。

月明かりに光る髪のように、美しい歌声だった。






それから1週間後。

ルイズは夢を見ていた。

才人の夢を。

だが、夢は覚める。

「・・・・・・・あれ」

目の前に才人はいない。

「夢か・・・・・」

とルイズは疲れた声で呟く。

哀しくなって、両手で顔を覆う。

すると、

「ルイズ」

部屋の隅から名前を呼ばれて、はっとして振り向く。

金髪の美少年が、壁にもたれるようにして立っている。

「・・・・・ジュリオ?」

ロマリアの神官、ジュリオだった。

目立つオッドアイで、ルイズを興味深そうに見つめていた。

ルイズは毛布を引き寄せた。

「どうしてあなたがここにいるの?」

「君に会いに来たんだよ。随分と楽しい夢を見ていたみたいだね。もう見ないで!どうせ小さいもん!って。いったい、何を見ていたんだい?」

ルイズは耳まで真っ赤になった。

「勝手に入っちゃダメじゃない。ここは戦場の天幕じゃないのよ」

「ちゃんと一筆貰ってるんだぜ?」

そう言うと、ジュリオは許可証をぴらぴらと見せた。

「レディの部屋に無断ではいるなんて、どういうこと?」

「僕達は強い絆で結ばれてるんだよ」

ジュリオは、白い手袋をした右手を、ルイズに差し出した。

ルイズはそんな手を無視して、

「冗談はやめて」

ジュリオは気にせずに、笑みを浮かべた。

「やっとの事で、竜騎士隊の任を解かれてね、今からロマリアに帰るんだよ。まったくトリステイン人は人使いが荒いね!報告書を作成するからって、外国人の僕を、ずっと隊に縛り付けておくんだから!その間、報告書とにらめっこさ」

「それはご苦労様」

「帰国する前に、君に挨拶しておこうと思ってね」

「そう・・・・・・ありがとう」

とルイズは虚ろな顔で礼を言った。

「元気がないね」

ルイズはきゅっと唇をかみ締めて、毛布に顔を埋めた。

「僕は君の命の恩人なんだぜ。もうちょっと、感謝がほしいね」

「どういう意味?」

顔をあげて、ルイズはジュリオを見つめた。

「君を船に乗せたのは僕なんだよ」

ルイズはベッドから跳ね起きると、ジュリオに詰め寄った。

「何でサイトを行かせたのよ!」

「ちゃんと言ったよ。確実に死ぬよ、ってね」

「止めなさいよ!」

「止められないよ」

ジュリオは真顔になった。

「何言ってるのよ!貴方それでも神官なの!?死ぬと分かってて、どうして止めないのよ!」

「彼は、彼の仕事をしようとしてたんだ。止められるわけないじゃないか」

「どうしてそれがサイトの仕事なのよ!」

「彼はガンダールヴだ。主人の盾となるのが、その仕事さ」

ルイズはまじまじとジュリオを見つめた。

「どうして知ってるんだ?なんて聞かないでくれよ。ミス・“虚無(ゼロ)”。妙な呼び名だな、ちゃんと呼ぼう。偉大なる虚無の担い手」

「・・・・・どうして知ってるの?」

「・・・・・僕はロマリアの神官だ。神学の研究が一番進んでる国から来たんだぜ。トリステインよりも、ガリアよりもね」

ルイズは力が抜け、床に膝をついた。

ジュリオが虚無に詳しいことにも驚いたが、今は、そんなことより才人の生死が気になる。

そんなルイズを理解してか、優しく論すような声で、ジュリオは言った。

「ほんとは君を迎えに来たんだ。でも、それどころじゃないようだな」

「神学なんか、犬にでも食われるがいいわ」

「神学の講義をしたくて連れて行くわけじゃない。現実として、ロマリアは君を欲しがってる」

「ほっといて」

「そういうわけにはいかないけど・・・・・タイミングってのは大事だな。じゃあルイズ、君は嘘と真実、どっちが好きなんだ?」

ちょっと考えた後、ルイズはポツリと、

「真実」

と答えた。

「よし。僕はメイジではないが、魔法のルールは知っている。サモン・サーヴァントを、僕に講義してくれないか?」

「使い魔を呼び出す呪文よ」

「条件は?」

そう尋ねられ、ルイズは、はっとした顔になった。

「メイジにとって、使い魔は大事な存在だが・・・・・・代わりがきかないわけじゃない。別れは、同時に新たな出会いでもある。サモン・サーヴァントはそれを象徴していると思うよ」

「黙って」

「新たな出会いを祈っている。じゃあまた」

ジュリオはそういい残すと、颯爽と部屋を出て行った。

しばらくルイズは考え込んでいたが、そのうちに震えだした。

「死んでないよね」

祈るような声で、呟く。

「生きてるよね」

暫く顔を伏せた後・・・・・・・

ルイズはゆっくりと顔を持ち上げる。

「勇気出さなきゃ」

行方不明なだけで、まだ死んだと決まったわけじゃない、と自分に言い聞かせる。

再びドアがノックされて、ルイズは跳び上がった。

「ジュリオ?まだ用があるの?」

そう怒鳴って、扉を開ける。

しかし、そこに立っていたのは、

「わたしよ。ルイズ」

困ったような顔のモンモランシーだった。

彼女はルイズの顔を見ると、ため息をついた。

「随分と落ち込んでるのね。まあ、気持ちは分かるけど・・・・・・授業ぐらい出なさいよ。あなたとアイナ、ずっと休みっぱなしじゃないの。戦争だって終わったんだから・・・・・」

後ろにいたギーシュも、心配そうに顔を出した。

モンモランシーは、ルイズの傍にしゃがみこみ、優しい声で言った。

「その・・・・・死んだって、決まったわけじゃないんだから」

暫くルイズは膝をついていたが、むっくりと起き上がった。

勇気を必死になって取り返すように、拳を握り締める。

「・・・・・・知ってるわ。生きてるもん」

「そ、そうだよ!あのサイトが、そんな簡単に死ぬもんか!」

ギーシュもルイズを励ますように言った。

それからモンモランシーとギーシュの2人は、顔を見合わせて、ねー、と頷きあった。

「そうよ。生きてるのよ」

すっくりとルイズは立ち上がり、呟いた。

決心したような、そんな顔だ。

「今から確かめるわ」

「へ?」

とギーシュとモンモランシーは、怪訝な顔になった。

「絶対生きてる。それを確かめる」

棒読みするような口調で、ルイズは言葉を続けた。

「ど、どうやって?」

ギーシュが尋ねた。

モンモランシーが、はっと何かに気付いた顔になった。

「サモン・サーヴァント?」

「そうよ」

ルイズは頷いた。

「使い魔を召喚する呪文・・・・・・サモン・サーヴァントを再び唱えるためには、自分の使い魔がこの世に存在してはならない」

「そ、そうよね」

「だから・・・・・サイトが生きていれば、呪文は完成しないはずだわ」

ギーシュが焦った声で言った。

「でも、もし、完成したら・・・・・・・」

だが、ルイズはギーシュの言葉を無視して杖を手に取ると、部屋を飛び出た。

そして、隣のアイナの部屋へ向かう。

アイナの部屋の前には、シャルロットとイルククゥがいたが、ルイズは気にせず、ノックも無しにアイナの部屋のドアを開けた。

そして、未だベッドに蹲っているアイナの前に行くと、

「アイナ。私、サイトが生きてる事を確かめるわ!」

そうアイナに向かって言った。

「え?」

アイナが顔をあげる。

「サモン・サーヴァントを唱える。サイトが生きてるなら、呪文は完成しないわ」

その言葉に、アイナは動揺し、シャルロットは目を見開く。

その時、後を追いかけてきたモンモランシーが言った。

「ルイズ・・・・・・もうちょっと心の準備が出来てからでも・・・・・」

しかし、ルイズは首を振る。

「今、決心できなかったら、後になったって無理よ」

ルイズは杖を持った手を、目を瞑って振り上げた。

ギーシュは震えだした。

モンモランシーは目を瞑った。

小さく、ルイズは呪文を唱え始めた。

緊張で手が震える。

恐怖で心が震える。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。5つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ」

目の前の空間に向かって杖を振り下ろす。

使い魔として契約した才人が生きていれば、そこに呼び寄せるためのゲートは開かない。



しばしの時間が流れた。

目を瞑ったモンモランシーは、なかなか目を開く勇気が出なかった。

ギーシュも、ルイズも、なぜか口を開かないのが凄く怖かった。

「んっ!」

モンモランシーは思い切って目を開いた。

そこには・・・・・・




呪文を唱える前と何ら変わらない空間があった。

「ゲートが開いて・・・・・無い?」

モンモランシーが呟く。

と、その瞬間ルイズが崩れ落ちた。

「ル、ルイズ!?」

モンモランシーとギーシュは慌てて駆け寄る。

「サイト・・・・・・良かった・・・・・・・生きてた・・・・・・」

ルイズは緊張の糸が切れたために力が抜けてしまったようだ。

それから少しして、ルイズは立ち上がると、アイナに向き直った。

「アイナ。次はあなたの番よ。安心しなさい。サイトが生きてたんならサイトより強いタクヤもきっと生きてるわ」

「う・・・・うん」

アイナは弱々しく頷く。

アイナは勇気を振り絞って杖を握る。

アイナは立ち上がって、杖を構えた。

「我が名は、アイナ・ファイル・ド・シンフォニア・・・・・」

アイナは呪文を唱えだす。

「5つの力を司るペンタゴン・・・・・」

だが・・・・・・

「我の運命に従いし・・・・」

アイナの胸の内には、どうしても嫌な予感がしてならなかった。

「使い魔を・・・・・・」

そして、呪文は完成する。

「召喚せよ」

杖を振り下ろした。

そして・・・・・・・・・

「嘘・・・でしょ・・・・・・」

その場には・・・・・・・・・

「まさか・・・・・・・・・」

白く光る鏡のようなゲートが・・・・・・・・

「タクヤが・・・・・・・・」

現れていた・・・・・・・

――ドサッ!

何かが倒れる音がした。

ルイズ達が振り向くと、シャルロットが気を失い、床に倒れている。

「タバサ!」

モンモランシーが駆け寄る。

「う、嘘なのね・・・・・・こんなの信じないのね!!!」

イルククゥは叫んで、部屋から飛び出していってしまう。

「・・・・・・・・・・・」

アイナはその場で膝を付き、虚ろな瞳でそのゲートを見つめ続けている。

その瞳からは、涙が止めどなく流れ続けている。

「アイナ・・・・・」

ルイズはアイナにかける言葉が見つからなかった。

と、次の瞬間、

「うわっ!?」

ゲートの方から声がした。

全員がゲートの方に顔を向けると、

「・・・・・ここ・・・・・何処?」

人間の10歳程度の身長。

オレンジ色の髪と尻尾。

褐色の肌。

頭には短い2本の角。

人でもなく、獣でもない姿の新たな使い魔が、そこにいた。




次回予告


新たに召喚されてしまったアイナの使い魔。

だが、その使い魔は記憶喪失だった。

何とか悲しみを乗り越えようとするシャルロット、イルククゥ、そしてアイナ。

ルイズとシエスタは、才人を迎えに行くためにアルビオンへと向かう。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第三十三話 悲しみを乗り越えろ。アルビオンの傷跡。

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

第三十二話完成。

原作とはイベントの日時をずらしてますが、内容はほぼ一緒です。

才人のガンダールヴは消えてないので、傭兵には圧勝しましたけど。

他は召喚以外変わりないかな?

因みに召喚された使い魔。

何か分かりますか?

オリジナルではありません。

言葉だけで理解できるかな~?

次回のサブタイトルが結構大層な名前になってしまいましたが、その通りに進むかは疑問。

いいサブタイトルが思いつかなかったんです。

とりあえず、次も頑張ります。



[4371] 第三十三話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/04/11 22:44
――3週間前 アルビオン  ロサイス近郊

幾人もの死者が横たわる戦場跡。

草原は焦土と化しており、生き物が近寄る気配は無い。

その戦場跡を、1つの影がさ迷い歩いていた。

人ではない。

かといって、獣でもない。

半獣半人。

この言葉が当てはまる生き物だった。

(・・・・・・・・ここは・・・・・何処?)

その生物は当てもなくさ迷い歩く。

(・・・・・・・僕は・・・・・・・誰?)

その生物は自分が何者かも分からぬまま、歩き続けた・・・・・・・


第三十三話 悲しみを乗り越えろ。アルビオンの傷跡。


「・・・・・ここ・・・・・何処?」

召喚のゲートから出てきた半獣半人は、不安そうに周りを見渡しながらそう言った。

「あなた、喋れるの?」

モンモランシーが聞いた。

「え?・・・・・うん・・・・・・」

そう頷く半獣半人。

「獣人かしら・・・・・?でも、見たこと無いタイプだわ」

モンモランシーはそう呟く。

「その使い魔の詮索は後にして!アイナとタバサが先よ!」

ルイズがあせった調子で捲くし立てた。

「そ、そうね!」

モンモランシーもルイズの言葉に頷いた。




しばらくして、シャルロットを部屋へ連れて行ったモンモランシーがアイナの部屋に戻ってきた。

「モンモランシー。タバサの様子は?」

モンモランシーは首を振る。

「まだ気を失ったままよ」

「そう・・・・・」

ルイズは呟き、ベッドにへたり込んだままのアイナに視線を向けた。

先程からルイズが呼びかけても、アイナは全く反応しない。

「ショック・・・・・だったでしょうね・・・・・・」

モンモランシーが暗い顔で呟いた。

「うん・・・・・・・」

ルイズも呟いた。

ルイズはふと視線を移動させると、先程召喚された使い魔が目に入った。

「ねえ・・・・・あなた、喋れるのよね?」

ルイズはその使い魔に話しかける。

「う・・・・うん」

その使い魔はおっかなびっくりに返事をする。

「なら、あなたの名前は?」

「・・・・・・・・・」

ルイズの問いに、その使い魔は答えない。

「言いたくないの?」

「・・・・・わからない」

「え?」

「わからないんだ。僕が何者なのか。自分の名前も、住んでいた場所も。3週間前に気が付いたら、僕は何処かの荒野にいた。戦場の跡みたいだった。近くに森があったから、そこで今までは食べ物を手に入れていた」

「記憶喪失みたいね」

モンモランシーが言った。

「それから、ここは何処なの?」

今度はその使い魔から質問が来た。

「ここは、トリステインにあるトリステイン魔法学院よ。って言ってもあなたには分からないでしょうけど。あなたは、このアイナの使い魔として、呼び出されたんだけど・・・・・・・・」

ルイズの言葉は語尾になるほど小さくなっていった。

ルイズはアイナに目を向ける。

「今は・・・・ちょっと契約できないわね」

虚ろな目をしつつ、先程から何の反応も示さないアイナを見て、そう判断する。

「とりあえずあなたは、暴れるつもりはないのよね?」

その使い魔は頷く。

「じゃあ、今は大人しくしていてくれないかしら?食事なんかは私達で用意するから」

「分かった」

その使い魔はもう一度頷いた。





自室に寝かされたシャルロットは、ふと目を覚ました。

一瞬、何故自分はこんな所で寝ているのかと思ったが、すぐに思い出した。

アイナがサモン・サーヴァントを唱え、召喚のゲートが開いたその光景を。

「あ・・・・・・」

シャルロットは自分の体を抱きしめる。

その目から、涙が溢れ出す。

「タクヤ・・・・・・」

シャルロットの心は悲しみに満ちていた。

このような悲しみは、父が殺され、母が狂わされた時に匹敵する。

シャルロットは嘘だと思いたかった。

だが、シャルロットの冷静な部分は否応無しに理解してしまう。

これは現実だと。

自分の“勇者は死んだ”という事を。

「うあっ・・・あっ・・・・・」

押し殺した泣き声が、部屋に響く。

だが、その時、部屋のドアが開いた。

「きゅい。お姉さま」

イルククゥだった。

だが、先程飛び出していったときとは違い、その顔は余り悲しみにくれてはいない。

「シルフィード・・・・・・・・」

イルククゥは、シャルロットの近くに来ると、

「きゅい。元気出すのね、お姉さま」

そう声をかけた。

「・・・・・でも、タクヤは・・・・」

シャルロットは俯き、暗い声で呟く。

「きゅい。お姉さま、肝心な事を忘れているのね。シルフィもさっきは取り乱したけど、よくよく考えればあんまり心配する事も無かったのね」

「え・・・?」

「お姉さまはサモン・サーヴァントが成功したからタクヤさまは死んだと思ってるのね?」

「新たな使い魔は・・・・・以前の使い魔が死ななければ召喚できない・・・・・」

「きゅい。それはこのハルケギニアの常識なのね」

シャルロットは、はっとなって顔をあげる。

「タクヤさまは、この世界の住人じゃないのね。だから、この世界の常識なんて通用しないのね」

シャルロットは一度俯き、今までの拓也の行動を思い返していた。

決闘騒ぎから始まって、フーケ討伐、アルビオンでのウェールズ王子を殴ってでも連れて帰ってきたこと。

覇竜と戦い、認められ、母を救ってくれた事。

この世界の住人からすれば、信じられない事ばかり。

だったら、今回も・・・・・・

顔を上げたシャルロットの眼からは、悲しみが消えていた。

「きゅい。元気出たみたいなのね」

シャルロットはイルククゥに微笑む。

「ありがとう、シルフィード」

「きゅい。お姉さまも元気出たところで、後はあのおチビなのね」

シャルロットは頷き、

「アイナの所へ行く」

そういうと、シャルロットとイルククゥは部屋を出た。



そして、再びアイナの部屋。

アイナの部屋には、ルイズ達の姿は無かった。

そっとしておくという選択肢になったのだろう。

シャルロットとイルククゥは、アイナの部屋に入ると無言でアイナの前まで歩いてきた。

「・・・・・・・・・・」

アイナは未だに何の反応も見せない。

「何時まで、そうしているの?」

「・・・・・・・・・・・・・」

シャルロットの問いにも、何も反応しない。

「・・・・そんな風に塞ぎこんでる事をタクヤは望んでると思ってるの?」

「・・・・・・タクヤは・・・」

拓也の名を出したとき、初めてアイナは反応した。

「・・・・タクヤは・・・・もう・・・・・」

アイナは顔を俯かせたまま、そう呟く。

「アイナはタクヤを諦められるの?」

「タク・・・・ヤ・・・・・」

アイナの瞳から涙が溢れ出す。

「アイナがタクヤを諦めるなら、私が貰う」

シャルロットの一言に、アイナは顔を上げる。

「私はタクヤが生きてるって信じてる。信じる事に決めた。彼は、私の勇者だから」

「きゅい!私もタクヤさまは生きてるって、信じてるのね」

シャルロットの言葉に負けじと、イルククゥもそう言った。

「アイナが如何するかは、アイナ次第。でも、これは私達の想い」

それだけ言うと、シャルロットは踵を返し、アイナの部屋を出る。

部屋の扉が閉まり、再び静けさが部屋に満ちた。

そんな時、アイナに近付く影があった。

アイナの召喚した使い魔だった。

「泣かないで・・・・・・」

その使い魔は呟いた。

「君が悲しい顔をすると、何故か僕も悲しい・・・・・だから、泣かないで・・・・・」

アイナは顔を上げ、その使い魔の顔を見た。

「ちゃんと・・・・向き合わなきゃ・・・・・」

アイナは、使い魔の目をジッと見つめる。

その使い魔も、見つめ返してきた。

(この子は私が召喚してしまった子。だけど、タクヤが死んだとは限らない。必ず・・・・・生きてる・・・・・・)

アイナは悲しみを乗り越える第一歩を踏み出す決意をした。

「あなたは、記憶喪失だったよね」

アイナが使い魔に語りかける。

「うん・・・・」

その使い魔は頷く。

「あなたは・・・・・私の使い魔になってくれる?」

その問いに、

「うん」

躊躇なく頷いた。

その様子に、アイナは小さく微笑む。

「じゃあ、先ずはあなたに名前をあげる」

「名前?」

「そう。あなたが記憶を取り戻すまでの仮の名前だけどね」

その使い魔はもう一度頷く。

「あなたの名前は、“エン”」

「“エン”?」

「そう、遠い国の言葉で炎を表す言葉だよ」

それは、拓也から教えてもらった言葉だった。

「エン・・・・・僕は・・・・エン」

何度か呟くと、その使い魔、エンは笑った。

「うん。僕はアイナの使い魔エンだ」

「・・・・・それから、コントラクト・サーヴァントをしなきゃいけないんだけど・・・・・」

アイナは、一度俯き、

「ごめん、これは暫く後でいいかな?」

「?」

コントラクト・サーヴァントがどういうものか知らないエンは、首を傾げるしかなかった。

アイナは、まだ完全には立ち直ってはいないようだった。




翌日。

朝起きたルイズが廊下に出ると、アイナの部屋の方を見た。

「・・・・・・・・」

召喚のゲートが開かなかった自分とは違い、大切な存在を失ってしまったアイナの事を考えると、ルイズはなんとも言えない気持ちになった。

今日はそっとしておこうとアイナの部屋に背を向けたとき、

――カチャリ

と、後ろからドアが開く音がした。

「え?」

ルイズは思わず振り向く。

アイナが部屋から出てきたところだった。

「アイナ!?」

ルイズは、駆け寄る。

「ちょっと、アイナ!大丈夫なの?」

ルイズは驚いた表情で問いかけた。

「うん・・・・・心配かけてゴメンね。私は大丈夫・・・・・・・タクヤは生きてる・・・・・そう信じてる」

そう言って、アイナは微笑んだ。

少々無理をして笑顔を作っている感があるが、昨日までの状態を考えればかなりマシである。

「だから、私の事は心配しないで。ルイズは、サイトを迎えに行ってあげて」

「え?でも・・・・アイナは・・・・・」

一緒に行かないのかと言おうとしたが、

「ルイズ。こんな状態で好きな人の前に出れると思う?」

そう言われ、ルイズはアイナをよく観察する。

3週間も碌に食事も取らず、やつれている上に、ずっと泣いていたため、顔もぐちゃぐちゃである。

正直、見れたものではない。

「あ・・・あはは・・・・・」

ルイズは苦笑した。

「・・・・・なんてね。本当は怖いだけだよ。真実を知るのが・・・・・」

ポツリと、アイナは本音をもらした。

「アイナ・・・・・」

「だから、私はもう少しだけ・・・・・心の準備が必要なの」

アイナはルイズを見ると、もう一度微笑む。

「だから・・・・ね」

「分かったわ。私はアルビオンにサイトを迎えに行く。それと一緒にタクヤのことも調べてくるわ」

「うん・・・・・お願い」





ルイズがアルビオンへ行く決意をした日。

アルビオンでは、各国の代表者が集まり、諸国会議が開かれていた。

本来なら、首都ロンディニウムで行なわれる筈なのだが、肝心のロンディニウム城が瓦礫も残らず消滅していたので、会議は別の場所で行なわれている。

その諸国会議では、今後のアルビオンの方針が決められていた。

王になるのはもちろんウェールズ。

連合軍は撤退したが、アルビオンを降伏まで追い込んだのは、間違いなく連合軍の戦力である拓也達である。

その事は、将軍のホーキンスから聞かされていた。

よって、最終的に連合軍を勝利に導いた総司令官であるウェールズがアルビオン王家の生き残りとして王の座についたのだ。

連合軍を率いていたのがウェールズでなければ、アルビオンは各国の植民地となっていただろう。

だが、ウェールズが王の座についたことにより、無茶な要望は出来なくなったのである。

アルビオンは、ウェールズを中心に従来通りの統治を行う事で落ち着いた。



その夜。

アンリエッタはアニエスからとある調査の報告を聞いていた。

戦争中にあった突然の反乱の原因を探るためだ。

だが、結果は空振り。

何の成果も挙げられなかった。

アンリエッタは、別の任務をアニエスに与える事にした。

それは、

「ミス・ヴァリエールとミス・シンフォニアの使い魔の少年たちを?」

「そうです。彼らは連合軍を・・・・・祖国を救ってくれたのです。なんとしても、その生死を確かめねばなりません。アルビオン軍と彼らが交戦した地点はサウスゴータ地方・・・・・・ロサイスの北東とのことです」

「かしこまりました」

アニエスはそう言って頭を下げると、再び部屋を出て行った。



そして翌日。

ルイズはアルビオンに向けて出発する事にしたのだが、聞きつけたシエスタもついてくることとなった事を記しておく。





次回予告


アルビオンにて再開する才人とルイズ。

そこにアニエスも加わった事により、才人は拓也の行方を知るため、戦場跡に向かう事を決意する。

だが、そこで現れた敵は・・・・・・?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第三十四話 再開!そしてもう1人の虚無の使い魔

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

三十三話、何とか完成です。

しかし、短い!つまらん!そして手抜き!

の三拍子がそろっております。

アイナ達が立ち直るのも早すぎますね。

全く持って閃くものがなかったので。

内容もメチャクチャだなぁ・・・・・・

こういう話と話の繋がる部分といいますか、こういうところはテンションが上がらないので、話を考えるのに一苦労です。

結果、このようなお目汚しの作品になってしまいました。

申し訳ありません。

それで、今回更新が遅れた理由は、話を思いつかなかったこともありますが、最近、ここの小説を読んで、リリカルなのはに、はまりかけてます。

自分めの脳内妄想では、リリなの×デジフロという、とんでもない妄想劇場が繰り広げられておりまして、この小説との割合が6:4となって、この小説の割合を超えてしまっております。

最近、これで小説書いてみよっか? という衝動に駆られてたり・・・・・・

もちろんこの小説は続けていきますよ。

更新ペースが落ちるかもしれませんが・・・・・

なんか言い訳になってしまいましたが、次も頑張ります。



[4371] 第三十四話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/04/11 22:43
才人を探すため、アルビオンに向かうルイズとシエスタ。

そこでは・・・・・・


第三十四話 再会!そしてもう1人の虚無の使い魔


ウエストウッド村。

既に才人がこの村に着てから1ヶ月が経過していた。

未だに才人は吹っ切れてはいない。

ギルモンとも、表面上は以前と同じような付き合い方だが、デジヴァイスは相変わらず失ったままである。

それが、心のどこかで自分を許せていない事の表れだった。

その才人は、剣の稽古をしていた。

動いていたほうが気が紛れるからである。

才人は覇竜刀とデルフリンガーの二刀流でガンダールヴの力を使い、舞うように剣を振っている。

切のいい所で止めると、

「あ、あの・・・・・」

声がしたので才人は振り向く。

そこには、ティファニアが立って、恥ずかしそうにもじもじとしている。

「どうしたの?」

「・・・・・・お、お昼ご飯にしない?」

周りにいた子供たちから、歓声が沸いた。

昼食の席は、ティファニアの家の庭に設けられるのが常だった。

庭と言っても、森との境界がないので、どこまでが庭なのか分からなかったが。

ティファニアは、テーブルの上に料理を並べ始めた。

きのこのシチューと、パンだった。

才人はそこで初めて、激しくお腹がすいていた事に気付く。

「いただきます!」

と、大きな声で叫んで、がつがつと食べ始めた。

ティファニアは、一瞬呆気に取られたが、それから微笑む。

子供たちは面白がって才人の真似をして、ずるずると音を立ててシチューをすする。

子供たちのそんな様子に気付き、才人は頬を赤らめた。

それから、ゆっくりと食べ始める。

「おいしいよ。ありがとう」

ティファニアはにっこりと笑った。

あっという間にご飯を平らげた子供たちは、ティファニアにじゃれ付き始める。

「テファ姉ちゃん!遊んで!」

「こらこら、まだ食べ終わってないんだから・・・・・」

「うっわ!テファお姉ちゃん、ママみたいだぁ・・・・・・」

10歳ぐらいの男の子がティファニアの胸に顔を埋めていたので、才人は思わずシチューを噴き出した。

「ジム!こらこら、もう大きいんだから、いつまでもママ、ママって言ってちゃダメでしょ?」

「だってテファ姉ちゃん、ママみたいにおっきいから・・・・・」

ジムとかいう男の子の目に、才人は怪しいものを感じた。

「・・・・・・おい、お前の目、ママを見る目じゃねえぞ。あと2,3年後にそんな目をして同じことをやってみろ。捕まるぞ」

そう言ったら、ジムはきっ!と才人を睨んだ。

「テファお姉ちゃんは、絶対渡さないからな!」

「はい?」

ジムは駆け出して行ってしまった。

「なんだあいつ・・・・・・誤解もいいとこだ」

ティファニアに同意を求めようと顔を向けると、彼女は膝の上で拳をぎゅっと握り締めているところだった。

「テファ?」

「ち、違うの!さっきじっと見てたのは、剣の稽古をしてるあなたを見てると、なんだか面白くて、それだけで、その・・・・・」

どうやら、才人が稽古しているところをずっと見ていたらしい。

それでジムはやきもちを焼いたのだろう。

才人は苦笑した。

「わかってるよ。歳の近い俺のやる事に、興味があるんだろ?」

ティファニアはコクリと頷いた。

屋敷に閉じ込められて育ったティファニアは、同じくらいの歳の子と、話した事がなかったのであった。

「でも不思議ね」

「何が?」

「あなたはなんだか、そんなに怖くない。他の人たちに見つかるだけでも怖がってたのに・・・・・」

「どうしてかな」

「そうね・・・・きっと、たぶん、あなたは私を怖がらないからだと思う。怖がられるとね、不安になっちゃう。逆に何かされるんじゃなかって・・・・・」

「言ったじゃねえか。君みたいに可愛い子を、怖がったりするわけないだろ?」

そんな時だった。

「ピプ~~~」

森のほうからマリンエンジェモンが飛んでくる。

才人達が其方のほうを向く。

そして、

「ちょ、ちょっと待ってってば~」

ドクン、と才人の心臓が高鳴った。

聞きなれた声であった。

マリンエンジェモンに続いて森の中から現れたのは、ルイズとシエスタであった。

「あ・・・・・・・・」

才人とルイズの目が合う。

ルイズはその瞬間固まった。

「サイ・・・・ト・・・・」

震える声で、才人の名を呟く。

「ルイズ・・・・」

才人もルイズの名を呟いた。

ルイズは駆け出した。

「サイト!!」

ルイズは才人に抱きつく。

「このバカ!!何であんな無茶をしたのよ!!」

ルイズは泣きながら怒鳴る。

「・・・・ごめん」

才人は、ルイズを直視できずに、目を逸らしながら呟いた。

「サイトさん!!」

続けてシエスタも抱き付いて来た。

「本当に・・・・・本当に心配したんですよ!!」

シエスタも、涙を溢れさせながら怒っている。

才人と一緒にいたティファニアは何がなんだかわからないでいる。

更には、

「こんな所で、何をしている」

銃士隊隊長のアニエスがそこにいた。

「苦労するかと思ったが、あっさり見つかるとはな。気が抜けた」

アニエスは呆れた表情で呟く。

「街道から森に入って、村や集落を軒並み当たるつもりだったのだ。見ろ、これだけの用意をしてきたのだぞ。広大な森を捜索するのだからと、2週間分の保存食料に・・・・露を凌ぐ夜具。靴の替えまで持ってきた。それが、一番初めに立ち寄った集落の庭先で、ミス・ヴァリエール達と抱き合っていたのだ。まったく、拍子抜けだ」

ぱんぱんに膨らんだリュックを指差して、アニエスが言った。

ルイズとシエスタも落ち着いたのか、才人から離れる。

すると、ルイズはきょろきょろと辺りを見回す。

「・・・・ねえサイト、タクヤは?」

ルイズの言葉に、才人は顔を曇らせる。

「タクヤは・・・・・・」

才人はルイズから目線を逸らす。

「ちょっと、如何したのよ!?」

「やめるんだ、ミス・ヴァリエール」

問い詰めようとしたルイズをアニエスが止める。

「察してやれ」

アニエスはそう呟く。

ルイズは、血の気が引く。

「ねえ・・・・嘘でしょ・・・・だって、アイナは信じて待ってるのよ!ねえ!サイト!嘘って言って!」

ルイズは、才人の身体を揺さぶるが、才人は何も言わない。

ただ、歯を食いしばって、何かに耐えるような仕草をするだけだ。

すると、力を抜き、俯いた。

「そう・・・だよな・・・・何時までも現実から目を背けちゃいけねえよな・・・・・」

才人はまるで懺悔する様に呟く。

「サイト?」

才人は顔を上げる。

「ルイズ・・・・・一緒に来てくれるか?」

「え?何処に?」

「・・・・・拓也の所へ」

ルイズは頷いた。

才人はティファニアの方へ顔を向ける。

「テファ、ちょっと出かけてくるから」

「え?・・・・うん」

才人の言葉にティファニアは頷く。

と、その時、

「え!?み、耳が・・・・・・」

シエスタが驚いた声を上げた。

ティファニアは慌てて耳を隠す。

しかし、もう遅い。

「エルフ!?」

ルイズも警戒する。

「やめろルイズ!」

そのルイズの前に才人が立ち塞がった。

「テファは俺の怪我を治してくれた俺の恩人だ」

「え?・・・・でも・・・・・」

すると、アニエスがティファニアをまじまじと観察する。

「・・・・・エルフか?」

「・・・・・ハーフです」

「そうか」

とアニエスは呟くように言った。

自分を全く怖がらないアニエスを見て、

「あなたはエルフが怖くないんですか?」

と、ティファニアは恐る恐る尋ねた。

「敵意を抱かぬ相手を無闇に怖がる習慣は持ち合わせていない」

その言葉を聞いたルイズも、恐怖心が薄れていく。

「あの・・・ごめんなさい。いきなり警戒しちゃって・・・・」

ルイズはティファニアに謝る。

「い、いえ。びっくりするのは当然でしょうから・・・・」

ティファニアはそう返した。

「じゃあ、行ってくるよ」

才人は戦場跡に向かって歩き出した。

ルイズ、シエスタ、アニエス、そして、ギルモンが才人の後を追った。



森を抜けて、少し歩くと吹き飛ばされた大地が広がった。

「ちょ・・・・何これ?」

ルイズは驚愕した声を漏らす。

それもそうだろう。

半径1リーグにも及ぶクレーターが3つも合ったのだ。

「1つは拓也がやったもの。後の2つは・・・・・・・俺がギルモンを暴走させちまって作ったものだ」

才人は呟いた。

「ギルモンを・・・・暴走?」

「ああ・・・・・拓也は、ブラックウォーグレイモンと戦って、何とか奴を倒したんだ。けど、それで拓也は力を使い果たしちまった。動けない拓也はそのまま、魔法の集中攻撃を受けて・・・・・・・」

「サイト・・・・・」

「それで、怒り狂った俺は、憎しみの心でメガログラウモンを進化させちまった。俺の憎悪で進化したメガログラウモンは、俺の心の望むまま、メギドラモンに・・・・・殺戮を行なうだけの殺人マシーンにしちまったんだ・・・・・・・」

才人は拳を強く握る。

「俺は・・・・2万人以上を殺したんだ」

「サイト・・・・・・」

才人の拳は、余りに強く握りすぎて、血が滲み始めた。

「サイトさん!手が!」

シエスタが叫ぶ。

それでも才人は歩き続ける。

そして、拓也が攻撃を受けたであろう場所に辿り着いた。

そこで、才人は目を見開く。

「・・・・・拓也が・・・・・いない!?」

確かにそこには魔法でできたと思われる小さなクレーターが幾つも出来ていた。

そこは確かに拓也が攻撃を受けた場所で間違いない。

だが、拓也の姿は何処にも、服の切れ端さえ見つからなかった。

ただ、血の滲んだ後があるだけ。

「一体・・・・何処に・・・・?」

才人が呟くと、

「生きてるのよ・・・・」

ルイズがそう言った。

「タクヤは、生きてるのよ!」

ルイズはもう一度そう言う。

「生き・・・・てる?」

「そうよ!」

「拓也は・・・・生きてる」

才人は確認するように呟く。

「そうよ。そうに決まってるわ!」

ルイズは、そうまくし立てる。

「ほら!しゃんとしなさい!アンタはタクヤの兄なんでしょ!兄が腑抜けてたら拓也に笑われるわよ!」

「そう・・・だな!」

才人は顔を上げる。

その顔は、大分吹っ切れたようである。

と、その時、

――チャキ

と、アニエスが剣に手をかける。

「アニエスさん?」

怪訝に思った才人が声をかけるが、

「相棒、囲まれてるぜ」

デルフリンガーのその言葉に回りを見渡すと、人型の何かに囲まれていた。

「な、何だ?こいつ等?」

「こいつらはガーゴイルだな。魔法の力で動く人形さ」

「ギーシュのゴーレムみたいなもんか?」

「似ているが違う。ガーゴイルは自分で判断し、動く意志のようなものを持っている。けど、擬似的なものだ、術者が操ってる事には変わりない」

その時、黒いローブをすっぽりとかぶった人影が現れた。

「・・・・誰?」

ルイズが問いかける。

「誰なの?名乗りなさい」

ルイズはいつでも呪文が詠唱できるように杖を構えた。

「そうね・・・・・どちらを名乗ろうかしら?」

「ふざけないで」

「あなたは知らないでしょうけど、シェフィールドと名乗っていたわ。本名じゃないけどね」

ルイズは呪文を唱えた。

「イサ・ウンジュー・・・・」

すぐに魔法を解放する。

エクスプロージョンが、黒ローブの女性を襲う。

しかし、黒ローブがはじけた後には何も残らない。

小さな人形がバラバラになっているだけだ。

「卑怯よ!出てきなさい!」

すると、ガーゴイルの影から、何人もの黒ローブの女性が現れた。

一斉に、黒ローブの女性は口を開いた。

「はじめまして。ミス・ヴァリエール。偉大なる“虚無の担い手”」

「何者なの?」

「神の左手こと、あなたのガンダールヴは、あらゆる武器を扱える。そうよね?」

黒ローブの女性は、才人に同意を求めるように問いかける。

ルイズはただ、黙ってシェフィールドを睨み付けた。

「私は“神の頭脳”ミョズニトニルン。あらゆるマジック・アイテムを扱えるのよ」

そういうと、黒ローブの女性は、すっとローブをずらした。

その額には文字が光っている。

才人は思わず自分の左手のそれと見比べる。

「この古代語のルーンを見たことがあるでしょう?」

ルイズの顔から血の気が引いた。

「あなた・・・・」

「そう、わたしも“虚無”の使い魔なのよ」

「・・・・・・悪い冗談だわ。“虚無の使い魔”が他にもいるなんて」

「信じるも自由。信じぬも自由。おとなしくその“始祖の祈祷書”を差し出すか・・・・・」

「・・・・抵抗して倒された後に、奪い取られるか?」

「鋭いじゃないの」

「ふざけないで!」

小ばかにした台詞を吐き続ける黒ローブの1体を狙って、エクスプロージョンを放つ。

それが戦いの始まりだった。

才人がデルフリンガーと覇竜刀を抜く。

才人は幾分か吹っ切れた事で、ガンダールヴの能力を遺憾なく発揮する。

「うおおおおおおっ!!」

ガーゴイルを数体まとめて斬り飛ばした。

アニエスも、1体1体確実に仕留めていく。

ギルモンも、ファイヤーボールで応戦していたが、何かの気配を感じたらしく上を向く。

「弧葉揳!!」

「ファイヤーボール!!」

上から降ってきた何かと、ギルモンのファイヤーボールが相殺する。

「ギルモン!」

才人がギルモンに呼び掛ける。

「サイト!デジモンだ!」

「何!」

そのデジモンはシェフィールドのすぐ隣に着地する。

その姿は黄色い人型の狐であった。

「紹介しておくわ。私のパートナーのレナモンよ」

シェフィールドがそう言った。

「お前も・・・・デジモンのパートナーを?」

「そうよ。何の因果か、見つけたタマゴから生まれた生き物が成長し、レナモンになったの」

「ぐっ・・・・・」

シェフィールドは懐からデジヴァイスを取り出した。

「デ、デジヴァイス!」

「さあ、次は如何するのかしら?」

――EVOLUTION

シェフィールドのデジヴァイスから光が発し、レナモンを包んだ。

「レナモン進化!」

光の中でレナモンが進化する。

「キュウビモン!!」

その姿は、大きな狐に九本の尻尾を持ったデジモンだった。

「く、進化させやがった!」

才人は、デジヴァイスを未だ失っている状態であり、ギルモンを進化させることが出来ないため焦る。

それでも、敵は待ってくれない。

キュウビモンは、九本の尻尾を大きく広げると、尻尾の先に青い炎が灯る。

「鬼火玉!!」

九つの青い火の玉が飛んでくる。

「ヤベッ!?」

「相棒!覇竜刀を構えろ!!」

デルフリンガーの言葉に、才人は覇竜刀を構えた。

覇竜刀にかかっている『反射』で火の玉を跳ね返した。

キュウビモンは、跳ね返った火の玉を跳躍して避ける。

跳ね返った火の玉は、ガーゴイルを数体まとめて吹き飛ばした。

「あら?厄介な武器を持ってるのね?でも、防いでるだけじゃ勝てないわよ」

シェフィールドは余裕な態度でそう言った。

悔しいがシェフィールドの言うとおりである。

このままではいつか負ける。

才人が、如何するか悩んでいたとき、

「ピプ~~~」

マリンエンジェモンが飛んできた。

どうやら、才人達の後を追ってきたらしい。

「バカッ!来るな!」

才人は叫ぶが、マリンエンジェモンは躊躇することなく才人達の方へ飛んできた。

「何で来たんだ!」

才人が怒鳴るが、

「ピッピップ~~~」

マリンエンジェモンは、笑って才人達の周りを飛んでいる。

「キュウビモン。気にすることはないわ。やってしまいなさい」

シェフィールドの言葉に、キュウビモンは跳び上がると、回転を始める。

キュウビモンが見る見るうちに青い炎に包まれ、

「狐炎龍!!」

炎が龍となって才人達に襲い掛かった。

「拙い!」

才人が叫ぶ。

だが、

「パプ~~」

マリンエンジェモンが口から吐いた青いハート型の泡が巨大化し、あっさりとその炎をかき消した。

それは当然である。

マリンエンジェモンは、見た目とは裏腹に、これでも究極体なのだ。

成熟期のキュウビモンに負ける道理は無い。

得体の知れないマリンエンジェモンにシェフィールドは警戒し、

「もういいわキュウビモン。元々様子見のつもりだったし、今は退きましょう」

シェフィールドがそう言うと、キュウビモンはレナモンに戻り、木の葉が舞うと共に姿を消す。

「また会いましょう。ガンダールヴとその主人」

そう言うと、何かのマジックアイテムを使ったのか、シェフィールドも姿を消した。

その場には、まるで、“サイレント”をかけたような静寂だけが残された。







次回予告


ルイズ達と共にトリスティンに戻った才人。

才人は王宮でアンリエッタからシュヴァリエの称号を受けることになる。

そして、魔法学院でも才人は人気者になるのであった。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第三十五話 誕生!シュヴァリエ才人

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

はい第三十四話完成。

あんまり考えずに書きました。

結構グダグダです。

盛り上がらないから、さっさと先に勧めようとした次第です。

精進が足りませんな。

特に最後は強引に終わらせた感がバリバリです。

はあ~早く先に進みたい。

で、話は変わりますが、前回にほのめかしたリリなのとデジフロのクロスなのですが、読んでみたいという人がいるので、ただ今チマチマと書いております。

その内にチラシ裏に投稿するつもりなので、楽しみにしてる人は楽しみにしててください。

では、次回も頑張ります。





[4371] 第三十五話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/05/02 13:14
虚無の使い魔を名乗る女性を退けた才人達。

アニエスに連れられ、トリステインへと帰還する。


第三十五話 誕生! シュヴァリエ才人


ウエストウッドの村に戻った才人達は、数日滞在していたが、アンリエッタからの帰国命令が出たのでトリステインへと向かった。

その時に、才人が虚無の担い手であるティファニアを誘ったのだが、子供たちの面倒をみなければという理由で断られた。

ロサイスにつくと、鉄塔のような形の桟橋に、沢山の船が停泊していた。

ハルケギニア各国から集まった商船や、軍船、様々な船が舳先を並べて出港の時を待っていた。

その中に、異様な風体の巨船の姿があった。

懐かしのヴュセンタール号である。

船の横に伸びたマストでそれと分かる。

鉄塔の頂点から伸びた橋げたに吊り下げられ、ゆらゆらと小さく揺れている巨大な竜母艦を見上げ、才人はため息をついた。

「俺たち、こんな大きな船に乗っていたのか・・・・・」

アニエスがポツリと呟いた。

「迎えに船を寄越すと言っていたが・・・・・ヴュセンタール号とはな。驚いた」

才人とルイズは目を丸くした。

「へ?今、なんと仰いました?」

「ヴュセンタール号が、我々を迎えに来たと言ったんだが」

「こんなでっかい軍艦が?たかだか数人の俺たちを迎えに?」

才人は呆れた。

「そうだ。それだけ貴様は重要人物ということだ。良かったな」

喜ぶより、才人は怖くなった。

ルイズも首をかしげている。

「俺じゃなくって、お前が居るからだろ?」

才人はルイズを見て言った。

「違うわ。私、姫様に今回のアルビオン行きを伝えてないもの。それに、私1人の為に、こんな船使うわけないじゃない。動かすだけで、いくらかかると思ってるの?」

タラップを上った才人達を、艦長自らが迎えた。

「ヒリガル・サイトーン殿ですかな?」

メチャクチャな名前で呼ばれたが、才人は頷いた。

艦長は才人を胡散臭そうな顔で見つめた。

それでも、命令は命令で、才人は女王陛下の客人であるので、艦長は礼を正して敬礼した。

「本艦を代表して、歓迎申し上げる。あなた方の航海の安全を保障します」

その後、才人達は部屋に案内された。



半日後に、ラ・ロシェールに到着した才人達は、迎えに来ていた竜籠にびっくりした。

完全に、特別待遇である。

ラ・ロシェールでシエスタと別れることになった才人達は、竜籠に乗り、王宮へと向かった。



王宮に着くと、アニエスに連れられ、アンリエッタの待つ執務室に入った。

しかし、その部屋は、がらんとした寂しい部屋であった。

「ただいま戻りました」

アニエスは深く一礼する。

背後に控えた才人とルイズを見て、アンリエッタは笑顔を浮かべた。

「お探しになられていた、ミス・ヴァリエールの使い魔の少年をお連れしました」

緊張した顔で、才人とルイズは一礼する。

しかし、何もない部屋にルイズは、不安そうに辺りを見回す。

「ああ、家具は全て売り払ってしまったの。びっくりした?」

「ええ・・・・・」

「しかたがないの。あの戦争で、国庫は空っぽになってしまったから・・・・・・」

アンリエッタはルイズの手を取った。

「ルイズ、わたくしはあなたに、まずお詫びをせねばなりません」

「姫さま・・・・・・」

「マザリーニから聞きました。彼はあなたに無茶な要求をしたようですね。わたくし達を救うために、殿軍を命じたとか・・・・・」

「いえ!それは命令ではありません!枢機卿の願いを聞き、わたくしはそれを了承したまでの事です!枢機卿に一切の罪はありません!」

「ルイズ・・・・・本当にごめんなさい・・・・・・・」

「姫さま、どうぞお気になさらないでください。このルイズ・フランソワーズ、陛下に一身を捧げております。己の死もそこには含まれています。ですから・・・・・・・・」

2人は抱きしめあって、おいおいと泣きじゃくる。

暫くして落ち着き、2人が離れると、アニエスが拓也のことを報告した。

「・・・・・そうですか・・・・・アイナの使い魔の少年の行方は分かりませんでしたか・・・・・・ですが、生きている可能性は高いというわけですね?」

「はい。サイトの話によれば、攻撃を受けたと思われる場所には彼の遺体は確認できませんでした」

「・・・・・わかりました。そのことはウェールズさまに報告し、捜索をお願いする事に致しましょう」

「お願いします。姫さま」

才人が頭を下げる。

その話が一区切りついたところで、ルイズが話し出す。

「姫さま・・・・・恐ろしい事実をお耳に入れねばなりません」

「まあ!恐ろしいですって!如何しましょう!いいえ、聞かねばなりませんわね。わたくしは全てを耳に入れねばなりません。恐ろしい事も、心を潰してしまうような悲しい出来事も・・・・・・さあ、話してくださいまし」

ルイズはアンリエッタに語った。

虚無の使い魔と名乗る、シェフィールドという女に襲われたこと。

もう1人の虚無の担い手に出会った事。

「あなたの他にも、虚無の使い手がいるですって?」

ルイズはしばし躊躇ったが、アンリエッタに、ティファニアのことを語った。

ハーフエルフである事。

“虚無”の呪文を扱える事。

「なんという事。そのものを早く保護しなければ」

ルイズは首を振った。

「彼女はひっそりと暮らすことを望んでおります。その呪文は身を守るのに適しているし・・・・・・出来うる事なら、かの地でそっとしておいてあげたいと思います」

「そうね・・・・・・この地が安全とは限りませんわね・・・・・・わかってルイズ。己のものにしたいわけではないの。ただ、わたくしは“虚無”を誰の手も触れぬようにしておきたいだけなのです。自分の目的に利する事はもう望んでおりません」

ルイズはデルフリンガーから聞いたことをアンリエッタに告げた。

「虚無の担い手ですが・・・・・察するに王家の秘宝の数だけ・・・・・・・つまり4人いると思いますわ」

「なんという事でしょう!始祖の力を担うものが4人とは!」

その中には、明らかにこちらに敵意を抱いてるものもおります」

アンリエッタはじっとルイズを見つめた。

「安心して、ルイズ。わたくしがいる以上、あなたに指一本たりとも触れさせません・・・・・・・・・で、あるならば、なおさら必要がありそうですね」

ルイズは首をかしげた。

「必要?」

アンリエッタは心配するな、というように肩を叩いてルイズから離れると、今度は才人を見つめた。

「使い魔さん。あなたが、ルイズの代わりに、退却する軍を救ってくださったそうね」

「え?」

「アルビオンの将軍から聞いたのです。彼は全てを語ってくださいました」

才人は気まずそうな顔をする。

「・・・・・なら、知っているでしょう?俺が2万人以上を虐殺した殺人犯だってことも・・・・・」

「そんなことを言ってはいけません!」

「ッ!?」

アンリエッタの強い言葉に、才人は驚く。

「確かにあなたはそれだけの人を殺したのかもしれません。しかし、それによって救われた者がいることも忘れてはなりません。かくいう私も、あなた達に命を救われた1人なのです」

「姫さま・・・・・・」

「それに、殺しを行なったのはあなたの罪ではありません」

「え?」

「罪を償うべきは、この世界に全く関係の無いあなた達を戦争に駆り立てたわたくし達なのです。わたくし達こそが裁かれるべきなのです」

「・・・・・・・・」

「優しい使い魔さん。その事を忘れろ・・・・・とは、言いませんが、貴方1人で背負い込む必要はないのです」

その言葉を聞くと、自然と才人の眼から涙が溢れる。

「う・・・・うっく・・・・・」

才人は泣き声を漏らした。

「ひ、姫さま・・・っく・・・・ありがとうございます・・・・・」

泣きながらお礼を言った。

アンリエッタはにっこりと微笑むと、

「ささやかですが、感謝の気持ちを用意しました。受け取ってください」

気を取り直した才人はそれを聞くと、また金貨でもくれるのかと考えていた。

しかし、アンリエッタの言葉は、才人の想像を超えていた。

「これを受け取ってくださいまし」

「紙?」

果たしてそれは1枚の羊皮紙であった。左上に、トリステイン王家の百合紋花押が鎮座している。

何らかの公式書類なのだろうが、才人には読めない。

横から顔を出して、その紙を覗き込んだルイズが、口と目を大きく開けた。

「近衛騎士隊長の任命状ですって!?」

「任命状?」

事の重大さが良く飲み込めていない才人は、きょとんとして言い返す。

「そうです。タルブでの戦に始まり、過去、貴方は非公式に何度もわたくしをたすけてくださいました。それだけで、貴方を貴族にする理由は十分だというのに・・・・・此度はアルビオンでの戦を勝利に導いてくれました。貴方がわが国にもたらした貢献は、古今に類を見ないほどのものです。あなたは、歴史に残るべき英雄です」

英雄などといわれ、才人は苦笑する。

なおもアンリエッタは才人を口説いた。

「英雄には、その働きに見合う名誉を与えねばなりません。お願い申し上げます、その力をお貸しください。貴方はわたくしにとって・・・・・いや、トリステインにとって必要な人間なのです」

「姫さま、でも騎士隊の隊長ってことはサイトを貴族にするってことでしょう?そんなの認められませんわ!」

ルイズが慌ててまくし立てる。

「どうして彼を貴族にしてはいけないの?ルイズ」

「だってサイトは平民だし、というかその・・・・・」

「違う世界の人間だから、ですか?」

「そんな人間を貴族にしていいんですか?」

「彼に貴族の資格が無い、とすれば、王国中の貴族から領地と官職を取り上げなければいけなくなるでしょう。身分を問わず、有能なものは登用する。でなければ、このトリステインに未来は無い。わたくしはそのように考えているのです」

アンリエッタは論すような口調で言った。

「でも、サイトは私の使い魔で・・・・・・・」

「ええ。もちろん、そのことは変わりありません。貴族になれば、あなたのお手伝いもやりやすくなるはずです。違って?」

「でも、でも、私の“虚無”は秘匿のはずじゃ・・・・・」

「もちろん、それは秘匿します。使い魔さんが“ガンダールヴ”という事は、わたくしとアニエスと学院長のオスマン氏、及び国の上層部しか知りません。彼は今までどおり“武器の扱いに長けた戦士”として振舞ってもらいましょう」

そう言われては、もうルイズは反論できない。

「でも、俺、帰る方法を見つけなくちゃならないし・・・・・・拓也のことも・・・・・」

と才人が弱々しく言ったが、アンリエッタはなおも食い下がる。

「アイナの使い魔の少年についてはウェールズさまに任せておけばよろしいわ。頼めば、捜索隊を編成してくれるはずです。あなた1人で探すより、よほど効率が良いと思いますが・・・・・・・そして、帰る方法を探すにも、騎士隊長の肩書きは役に立ちますわ」

才人は悩んだ。

こっちの世界で身分があって、困る事は何一つないのだ。

貴族との生活が長い才人は、それを実感していた。

「お願いできないでしょうか?ヒラガサイト殿」

フルネームで呼ばれ、才人は緊張した。

そして、才人の出した答えは、

「・・・・・ちょっと、考えさせてください」

だった。

ルイズが不安げな顔で、才人を見つめた。

アンリエッタはにっこりと笑った。

「分かりました。近衛騎士隊隊長就任は、決心がついてからお願いする事にしましょう。でも、あなたの“シュヴァリエ”の称号授与は、すでに各庁にふれを出してしまいました。断られたら、わたくしは恥をかいてしまう事になります」

才人は困ったようにルイズの方を見た。

しかし、ルイズもなんと答えればいいのか分からぬ様子。

アンリエッタは更に説得を続けた。

「ルイズの虚無を付け狙う“担い手”が他にもいるならなおさらあなたを今までどおりにしておくわけにはいきません。名実共に騎士となり、ルイズを守っていただく事にいたします。それにひいては、わたくしも守る事になるのです」

そうまで言われては仕方ない。

ルイズは頷いた。

「分かってくれたのね。嬉しいわ、ルイズ」

続いて才人に向けて、アンリエッタは水色の水晶があしらわれた杖を掲げた。

「略式ですが・・・・・この場で“騎士叙勲”を行ないます。ひざまづいてください」

女王の威厳が篭ったアンリエッタのその言葉に、才人は思わずひざまづいてしまった。

「目を瞑ってください」

言われたとおりに目を瞑る。

「頭を伏せて」

才人は頭を下げた。

才人の右肩に、アンリエッタの杖が乗せられる。

「我、トリステイン女王アンリエッタ、この者に祝福と騎士たる資格を与えんとす。高潔なる魂の持ち主よ、比類なき勇を誇るものよ、並ぶものなき勲し者よ、始祖と我と祖国に、変わらぬ忠誠を誓うか?」

才人は黙ってしまった。

流石にそんな忠誠は誓えなかった。

才人の気持ちに気付いたのか、アンリエッタはにっこりと微笑んだ。

「いいのです。あなたは他所から来た人間。心にない忠誠は誓えませんわね。譲歩することにいたします」

「姫さま」

思わずルイズが口を開いた。

そんな騎士叙勲、聞いた事が無い。

「いいのです。頼んでいるのはわたくしなのですから。わたくしは彼に請うて、騎士になっていただくのです」

アンリエッタは再び厳粛な顔になり、言葉を続けた。

「高潔なる魂の持ち主よ、比類なき勇を誇るものよ、並ぶものなき勲し者よ、汝の魂の在り処、その魂が欲するところに忠誠を誓いますか?」

「・・・・・誓います」

「よろしい。始祖ブリミルの御名において、汝を騎士に叙する」

アンリエッタは、才人の右肩を2度叩き、次に左肩を2度叩いた。

あっけなく才人は騎士に叙される。

アンリエッタは才人を立ち上がらせた。

「これからも、この弱い女王に、あなたの持つ力をほんの少しでいいからお貸しくださいますよう。シュヴァリエ・サイト殿」




旅の疲れを癒すために才人達は、王宮に一泊した。

翌日、竜籠で、魔法学院に到着した。

竜籠から下りた才人はシュヴァリエのマントを纏っている。

そこで、才人はギーシュを始めとした、戦争に参加した生徒数十人にもみくちゃにされた。

「サイト!生きてたんだな!よかった!」

「君は命の恩人だよ!ほんとのこというと、もうダメだよ思ってた!」

「僕の隊は、船に乗るのにもたついてたんだ。君が止めてくれなかったら、どうなっていたことか!」

その騒ぎは、暫く続いたのだった。







次回予告


才人が戻り、ひとまず落ち着きを取り戻した魔法学院。

だが、そんな時、シャルロットの元にガリアからの指令が届く。

そして、なんとそれは、才人の暗殺命令だった。

シャルロットの選ぶ道とは?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第三十六話 シャルロットの決意

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

第三十五話完成です。

何の盛り上がりも無いお話でした。

ああ~、早く拓也復活まで行きたい。

特に書くこともないのでこの辺で失礼します。

では、次も頑張ります。




[4371] 第三十六話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/05/02 13:13
学院に帰還した才人達。

才人達が向かった場所は・・・・・


第三十六話 シャルロットの決意


学院の生徒達にもみくちゃにされた才人は、何とかその人ごみから抜け出す。

そして、ルイズと共にある部屋へと足を向けた。

その部屋は、言わずもがなアイナの部屋である。

ルイズが、アイナの部屋のドアをノックし、ドアを開ける。

そこには、少し顔色の良くなったアイナがいた。

「アイナ、ただいま」

ルイズがそういう。

「ルイズ。サイトと会えたんだね。良かった」

アイナは、微笑んでそう言った。

「ええ。それから朗報よ。やっぱり、拓也は生きてる可能性が高いわ」

「ホントに!?」

アイナはその言葉に敏感に反応する。

「ええ。サイトが覚えていたタクヤが最後に攻撃を受けた場所にタクヤはいなかったわ。生きてる可能性が高い証拠よ」

ルイズは笑顔でそういう。

「そう・・・・・ありがとうルイズ」

「それから、姫様の方からウェールズ陛下にタクヤの捜索を依頼していただけるわ。すぐに見つかるわ」

「・・・・うん!」

アイナは笑顔で答える。

それから、才人が口を開いた。

「アイナ、先ずはごめん。俺は拓也を助けられなかった」

その言葉に、アイナは首を振る。

「ううん。サイトのせいじゃない。それに、タクヤもサイトを責めたりはしないと思う。あと、タクヤはきっと生きてるから」

「・・・・そうか・・・・・そうだな」

アイナの言葉に才人は納得する。

すると、才人は覇竜刀を抜いて、アイナに見せる。

「戦いに挑む前に拓也から借りたものなんだけど、このまま俺が持ってていいか?」

アイナは頷き、

「サイトがタクヤから借りたものなら、サイトがタクヤに返さなくちゃ」

「・・・・わかった」

才人も笑みを浮かべてそう言った。

「あと、これだけは約束する。拓也が戻ってくるまで、アイナは俺が守る」

才人は真剣な表情で言った。

「・・・・・ありがとう、サイト」

アイナはそう呟いた。

「ところで・・・・・・」

才人は話を変える。

「さっきから気になってたんだけど、そいつは?」

才人はアイナの後ろにいるエンを見て尋ねた。

「その獣人は、アイナがサモン・サーヴァントで召喚した新しい使い魔よ。記憶喪失だけど」

答えたのはルイズ。

「あと、私が付けたんだけど、名前は『エン』だよ」

アイナがそう付け足す。

「そっか」

才人が相槌を打つと、ギルモンが顔を出した。

そして、エンに近付いていき、臭いを嗅ぐような仕草をする。

「な、何?」

エンがちょっとおっかなびっくりに尋ねる。

ギルモンは、才人の方を向くと、

「サイト。エン、デジモンなんだけど何か違う」

才人は驚いて聞き返す。

「え!?デジモンなのか!?」

「うん。けど、デジモンとはちょっと違う」

「違う?何が?」

才人は真剣に聞こうとするが、

「ん~と・・・・・・・わかんない」

気の抜けたギルモンの返事にズッコケそうになる。

「おいおい・・・・・」

「まあ、何だっていいじゃない」

ルイズが無理矢理にそう纏めた。




才人達がアイナの部屋から出ると、才人は思い出したように言った。

「そうだ!コルベール先生に報告しなきゃ!」

才人は、この学院で世話になっているコルベールに自分の出世を報告しようと思った。

その時、

「ミスタ・コルベールならいないわよ」

丁度通りかかり、才人の言葉を聞いたモンモランシーがそう言った。

「え?」

才人が聞き返す。

「だから、ミスタ・コルベールは、今、学院にはいないって言ったの」

「な、何で!?」

「なんでも、キュルケの実家がミスタ・コルベールの研究に興味を持ったらしくて、今はツェルプストー家にお邪魔しているそうよ」

慌てた調子で言った才人に、モンモランシーは淡々と答える。

それを聞いた才人は自然と笑みがこぼれた。

「そうなんだ。コルベール先生の研究が認められたんだ」

コルベールの考えに共感していた才人はコルベールの研究が認められたことに嬉しさを感じていた。

ルイズは、キュルケの名が出た事で余りいい顔をしなかったが。





才人が貴族になって、2週間後。

朝もやの中、ヴェストリの広場に、何人かの生徒が集まっている。

アルビオン戦役に参加した生徒たちであった。

彼らは、軽く緊張した面持ちで、自分たちの目の前に立った2人を見つめた。

黒いマントに身を包んだギーシュと、才人である。

ギーシュは緊張しているのか、かちんこちんにこわばっていた。

才人はそんなギーシュの肘をつつく。

「な、なんだね?」

「お前、隊長だろうが。ちゃんと挨拶しろよ」

「うう・・・・・・」

ギーシュは呻いた。

「なんだよ?」

「い、胃が痛い・・・・」

集まった生徒たちが爆笑した。

「・・・・・しっかりしてくれよ」

ため息混じりに才人が言えば、

「やっぱり、君が隊長になったほうが良かったんじゃないのかね?水精霊騎士隊(オンディーヌ)の隊長なんか僕には荷が重過ぎる」

困った顔でギーシュが言った。

アンリエッタの肝いりでこの近衛隊が作られたのは才人が魔法学院に帰ってきた日の三日後のこと。

決心した才人は、アンリエッタの元に赴き、騎士隊長に就任する事を告げたのである。

するとアンリエッタは、騎士隊を新たに作ると言い出し、本当に実行したのであった。

因みに、『水精霊騎士隊(オンディーヌ)』とは、千年以上前から存在していた由緒ある騎士隊の名前である。

序に言えば、騎士隊が編成されてから、毎日このような状態であり、グダグダしているのであった。

あと、才人には専属のメイドとしてシエスタが付いた。

これは、アンリエッタからの命令であり、学院のメイド長が、才人と一番仲の良いシエスタを選んだのだ。




それから、しばらくして新学期に入った頃。

シャルロットが自分の部屋に戻ってくると、ベッドの上に1羽のカラスがいるのを見つけた。

ガリア王家からの密書を運んできた、伝書カラスである。

「・・・・・・・・・」

シャルロットは、無言でそのカラスを見つめる。

この時だけは、シャルロットではなく、ガリア王国北花壇騎士であるタバサの顔になった。

少しすると、ぼんっ!と音がして、そのカラスが左右に割れた。

よく見ると、それは精巧に出来たカラスの模型であった。

そのカラスの模型の中には、手紙が入っていた。

取り上げ、目を通す。

シャルロットの眉間が僅かに寄った。



その夜。

シャルロットは、シルフィードに乗ってトリスタニアを訪れた。

シャルロットがいる場所は、チクトンネ街である。

そして、指定の酒場へ向かった。

酒場に入ると、店の主人が外見が子供のシャルロットに何かと言ってきたが、シャルロットは無視する。

すると、深いフードを被った女がシャルロットの隣に腰掛けた。

「遅れてごめんなさい。ああ、連れですの」

その女は、店の主人にそう言う。

主人はその女の雰囲気に危険なものを感じ、奥へと引っ込んだ。

深いローブの女はシャルロットに目配せした。

「始めまして。北花壇騎士タバサ殿」

シャルロットは軽く頷いた後、口を開いた。

「どうして」

どうしてガリアではなく、トリステインで任務を授けるのだ?と、そういう疑問であった。

「この国が、今度の任務の舞台だからよ」

「・・・・・・・・・・」

女は被ったフードをずらした。

切れ長の目。

さらさらした黒髪の間には、ルーン文字が躍る。

神の頭脳こと、ミョズニトニルンであった。

「あなたと私の主人はね、こういう風に考えているの。世界に4匹しかいない竜同士を戦わせてみたいんだけど・・・・・・どうしていいのか分からない。で、竜を捕まえる事にしたってわけ」

「・・・・・・・・・・・・」

「竜には、強力な護衛がついている。だから、あなたにその護衛を退治してほしいのよ。その隙に、私が竜を盗むってわけ」

「護衛を退治?」

「あなたも良く知っている人物よ」

ミョズニトニルンは、シャルロットに1枚の紙を見せた。

そこに書かれた名前と似顔絵を見て、シャルロットの目が見開かれた。

そこに書かれていたのは才人だった。

「この任務を成功させたら・・・・・・大きな報酬があるわ。あなたの母親・・・・・・毒をあおって心を病んでるのよね。その心を取り戻せる薬よ」

シャルロットは、ミョズニトニルンに視線を移す。

その目には明らかな敵意が含まれている。

「あら?天下の北花壇騎士様が、知り合いだからって私情を挟むの?分かってるの?あなた、自分の母親の心を取り戻せるチャンスなのよ」



シャルロットは、シェフィールドから、任務の日時と内容を聞き、学院へ戻った。

自分の部屋へ入ると、深く考え込む。

シャルロットは、才人と戦う事など最初から考えてもいない。

相手が、母親の治す薬を交換条件に入れてきたことから、未だに母親の演技はばれていない事が分かる。

しかし、才人と戦わないと反逆となり、最終的に母親の事もばれてしまうだろう。

シャルロットは悩み続けた。




それから一週間後。

今日はスレイプニィルの舞踏会である。

それと同時に、シャルロットの任務の決行日でもあった。

悩み続けていたシャルロットは、一つの決意をした。

その日の朝、シャルロットはアイナの部屋を訪れた。

そして、アイナに言った。

「アイナ、私に協力してほしい。キュルケがいない今、頼れるのはアイナしかいない」

アイナはシャルロットの言葉を聞き、話を詳しく聞いた。

そして、シャルロットの要望を受け入れた。



その夜。

シャルロットは、ヴェストリの広場に才人を呼び出した。

才人はルイズに舞踏会に参加するように言われていたが、シャルロットが「すぐに終わる」と言っていたので、先にこちらに来たのだ。

もちろん、ギルモンは才人についてきている。

才人は、ヴェストリの広場にぽつんと立っているシャルロットを見つけると、声をかけた。

「タバサ、如何したんだ?俺を呼び出すなんて珍しいじゃないか」

才人の言葉に、シャルロットは答えなかった。

「タバサ?」

才人は不思議そうに尋ねると、

「・・・・・・避けて」

「え?」

小さくポツリと呟かれた言葉に才人が声を漏らしたとき、氷の槍が才人に襲い掛かった。

「うわっ!?」

才人は咄嗟に避ける。

シャルロットが、ジャベリンの魔法を唱えたのだ。

「いきなり何するんだ!?」

才人が叫ぶが、シャルロットは再びジャベリンを唱える。

氷の槍が才人に向かって飛ぶ。

「ファイヤーボール!!」

それをギルモンのファイヤーボールが砕いた。

シャルロットは一旦間合いを取った。

才人の近接戦闘の高さは良く分かっているからである。

「おい!そろそろ理由を言わねえと・・・・・・」

「そんなことを言っても無駄よ」

突如、第3者の声が響いた。

上空から羽の生えた人型、ガーゴイルが降りてくる。

その背には、シェフィールドが乗っていた。

「シェフィールド!!」

才人が叫ぶ。

「久しぶりねガンダールヴ。覚えていてくれて光栄だわ」

シェフィールドが余裕のある声で、そう言った。

そしていつの間にか、その隣にはレナモンがいた。

「ぐっ・・・・・」

3対2、いや、ガーゴイルも含めれば4対2の状況に才人は焦る。

「タバサ!何でこんな奴といるんだ!?」

才人は問いかける。

返答は魔法だった。

何本もの氷の矢が作り出され、才人に向かって飛ぶ。

才人はデルフリンガーを抜き、その魔法を吸収する。

「教えてあげましょうか?この子は、北花壇騎士。私達の忠実なる番犬だもの」

「番犬?」

「見ものだねえ。シュヴァリエ対シュヴァリエ。私の主人が小躍りして喜びそうな組み合わせだよ」

笑いながらそう言った時、

「フレイム・ジャベリン!!」

巨大な炎の槍がガーゴイルを貫いた。

「なっ!?」

シェフィールドは吹き飛ばされ、

「ジャベリン!」

シャルロットが放った氷の槍に串刺しにされた。

突然の出来事に呆然とする才人。

才人は炎の槍が飛んで来た方を見ると、アイナがいた。

アイナはシャルロットに駆け寄る。

「シャルロット、やったの?」

アイナはシャルロットに尋ねた。

シャルロットは、少し悔しそうな顔をして、首を横に振る。

「魔法人形」

シャルロットの視線の先には、串刺しになったシェフィールドではなく、バラバラになった人形があった。

「どういうつもりかしら、北花壇騎士殿。飼い犬が主人にはむかおうというの?」

シェフィールドの声が響く。

「・・・・・・・・勘違いしないで。あなた達に忠誠を誓ったことなど一度も無い」

シャルロットはそう答える。

「あなたの裏切りは報告するわ。残念ね、せっかく母親の心を取り戻せるチャンスだったのに」

「あなたには関係ない」

そう言った時だった。

「サイト?」

ルイズの声が響いた。

ルイズは、才人の姿が会場に見えなかったために探しに来たのだ。

そして、これはアイナとシャルロットにとっても予想外の出来事であった。

「レナモン!」

シェフィールドがレナモンに呼びかける。

レナモンは眼にも止まらぬ速さで動き、ルイズを捕獲する。

「きゃあっ!?」

悲鳴を上げるルイズ。

「ルイズ!」

叫ぶ才人。

レナモンはルイズを掴んだまま、高く跳躍した。

そのレナモンを、何処からか飛んできた巨大なガーゴイルが拾う。

シャルロットはすぐさま口笛を吹いた。

シルフィードが唸りをあげて飛んできて、シャルロットの前に着地する。

ひらりと跨り、シャルロットは才人とアイナを促した。

「乗って」

2人はすぐにシルフィードの背に乗る。

続けて、エンとギルモンもシルフィードの背に乗った。

「追って」

短くシャルロットが命令すると、シルフィードは「きゅい!」と一声鳴いて飛び上がった。



才人達はシルフィードの背に乗って、巨大ガーゴイルを追いかけた。

シェフィールドは何処かでガーゴイルを操っているのか、その背に姿は見えない。

その途中、シャルロットは才人に言った。

「ごめんなさい」

「なあタバサ。教えてくれ。どうして俺を襲った?あいつらは何者なんだ?」

「詳しく話すと長くなる。ただ、相手の隙を付くために、従う振りをする必要があった。けど、あそこでルイズが出てきたのは予想外」

「そうか・・・・・・」

才人は頷いた。

ガーゴイルの速度は余り速くなく、シルフィードは難無く追いつくことが出来た。

「もっと近付いてくれ!あとは俺が何とかする!」

シャルロットは頷くと、シルフィードに命令する。

「近付いて」

そう言った時、空に小さな黒い点が、ぽつぽつと現れ始めた。

「な、なんだありゃ・・・・・・」

それは、ガーゴイルであった。

まるで、カラスの群れのように、空を圧する数のガーゴイルが押し寄せてきたのだ。

魔法で動くガーゴイルは、その目を金色に光らせ、シルフィードにまとわりつき始めた。

「くそっ!」

その数、おおよそ数十匹。

ルイズを運ぶ巨大な1体に近づけさせまいとして、大きな爪と牙で攻撃してくる。

「きゅいきゅい!」

シルフィードは怯えた声を上げた。

アイナやタバサも魔法で応戦するが、シルフィードの回りを上下左右360度自由に飛び回るガーゴイルには手を焼く。

才人は歯噛みしていた。

飛び道具を持たないガンダールヴはこんな場合、無力だ。

ギルモンもファイヤーボールを放っているが、命中率は低い。

(くそっ!せめてギルモンを進化させることが出来ればこんな奴ら1発だってのに!)

デジヴァイスを失っている才人にそれは不可能であった。

そんな時、

「アイナの嬢ちゃん。俺をそこの坊主に持たせるッス!」

アイナの懐から声がした。

地下水である。

アイナは地下水を取り出すと、才人に差し出す。

「坊主、俺が『フライ』の呪文をとなえるッスから、ちゃんとアイナの嬢ちゃん達を守るッスよ!」

才人の体が浮き上がる。

才人はちょっと戸惑ったが、デルフリンガーを右手に持ち、ガーゴイルに向かって飛んだ。

慣れない空中戦であったが、才人は1匹、また1匹とガーゴイルを切り裂いていく。

だが、まだガーゴイルは20匹以上残っている。

そんな時、上空に巨大な影が現れた。

シュシュシュシュ・・・・・と、独特の音が響く。

次に、久しぶりに色気を含んだ女の声が響いた。

「あなた達、何をしてるの?随分と楽しそうじゃない。いつの間にガーゴイルのお友達ができたわけ?」

キュルケの声であった。

「こっそり学院に到着して、この『オストラント』号を疲労して驚かせようと思ってたのに。この間航法を間違えて、トリスタニアについちゃったときには慌てて引き換えしたわ」

続けて、

「援護をするから注意しなさい。『空飛ぶヘビくん』は魔力に反応する」

コルベールの声が響いた。

「先生!」

才人が叫んだ。

次の瞬間、大量の筒がオストラント号の船底からばら撒かれた。

落下しつつある筒の後ろから、発火炎が瞬いた。

夜空に広がる花火のように、コルベールの空飛ぶヘビくんが一斉に点火する。

空飛ぶヘビくんの先端には、ディティクト・マジックを発進する魔法装置が取り付けられている。

ガーゴイルにその魔法装置は激しく反応し、鋭い勢いで迫っていく。

ガーゴイル1体につき2,3本の数が迫る。

空飛ぶヘビくんは、ガーゴイルの至近距離で爆発して破片をばら撒き、ガーゴイルを粉々に打ち砕いた。

「すげえ・・・・まるでミサイルだ」

才人は呆然と呟いた。

既に半数以上のガーゴイルが落されている。

しかし、

「弧葉揳!!」

レナモンが、木の葉のような輝く刃を無数に飛ばし、空飛ぶヘビくんを打ち落としていく。

続けて、レナモンは巨大なガーゴイルから跳躍した。

レナモンは残っていたガーゴイルを足場にしてシルフィードに接近していく。

「しまった!」

才人はシルフィードから離れすぎていた事に気付いた。

地下水のフライの呪文では間に合わない。

レナモンがシルフィードに乗っているアイナたちに襲い掛かった。

余りの速さにアイナたちは継撃も間に合わない。

その時、

「てやぁああああああっ!!」

シルフィードの背中から一つの影が跳び上がった。

エンであった。

エンはレナモンに向かって拳を繰り出す。

「くっ!?」

レナモンは咄嗟に防御したが、思った以上の力に弾き飛ばされた。

エンはレナモンがやっていた事と同じようにガーゴイルを足場にして跳躍した。

エンの脚力は思った以上に強く、頭を足場にされたガーゴイルは、頭を砕かれている。

レナモンはルイズが捕まっている巨大ガーゴイルまで下がる。

エンは、その巨大ガーゴイルに向かって跳躍した。

すると、突如、今まで逃走に徹していた巨大ガーゴイルが振り向き、エンに向かって攻撃を仕掛けてきた。

エンに向かって巨大な腕が伸ばされる。

「エンっ!!」

アイナが悲鳴に近い声を上げる。

「負けるもんかぁああああああああっ!!」

エンが叫ぶと、体中から炎を発する。

まるで、火の玉のようになり、エンはガーゴイルに突撃した。

エンを掴もうとしたガーゴイルの腕が砕けていき、火の玉となったエンは、ガーゴイルの体を貫いた。

砕けていくガーゴイル。

振り落とされるルイズ。

「ルイズ!!」

才人はフライでルイズの元に飛んで行き、ルイズを抱きとめる。

「サイト!」

怯えていたるイズは才人に抱きつく。

一方、エンは、

「うわあああああああっ!!」

ガーゴイルに突撃した後のことを考えていなかったのか、叫び声をあげて落下してゆく。

そんなエンを、シルフィードが拾う。

「大丈夫?エン」

アイナが心配そうに声をかける。

「う、うん。ありがとう」

「でも、びっくりしたよ。強いんだね、エンって」

「うん。アイナが危ないって思ったら、体が勝手に動いてた」

「フフッ、ありがとう、エン」

アイナは微笑んで礼を言った。





オストラント号の甲板にシルフィードを着陸させると、シャルロット以外がシルフィードから下りる。

そして、シャルロットは再びシルフィードを飛び立たせようとした。

「シャルロット!」

そんなシャルロットに、アイナは声をかけた。

「やっぱり行くの?」

アイナの問いかけに、シャルロットは頷いた。

「私の裏切りは、既に知れ渡っているはず。このままじゃ母さまが危ない」

そう言うシャルロット。

シャルロットは、既にガリア王家と敵対する事を決意していた。

アイナは少し考えた後、口を開く。

「やっぱり、私も・・・・・」

アイナがそう言いかけたとき、シャルロットは首を横に振る。

「今回は、王家が絡んでくる。トリステインの貴族であるアイナが私に協力すれば、国家間の問題に発展する可能性もある」

そう言われ、アイナは黙ってしまうが、再び口を開いた。

「気をつけてねシャルロット。それから、助けが要るときはいつでも言ってね。絶対に協力するから」

「ありがとう、アイナ」

シャルロットはそう言うと、シルフィードを上昇させる。

「ガリアへ」

シャルロットがそう言うと、シルフィードは夜の闇の中へ羽ばたいた。






次回予告


母親を救うために実家へと向かうシャルロット。

シャルロットの実家では、傭兵が母親を連れ出そうとする寸前だった。

傭兵を蹴散らすシャルロットだが、その前にエルフが立ちはだかった。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第三十七話 エルフの脅威。囚われたシャルロット。

今、異世界の物語が進化する。




あとがき

はい、三十六話完成です。

まあ、出来はそこそこといったところかな。

漸く少しずつテンション上がってきました。

GWの休みの間に、もう一話ぐらいは更新したいなと思ってます。

では、次も頑張ります。





[4371] 第三十七話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/05/04 18:13
ガリアを裏切ったシャルロット。

母を救うために実家へと向かう。


第三十七話 エルフの脅威。囚われたシャルロット。


夜空をシルフィードは飛行していた。

一直線にシャルロットの実家へと向かっている。

現在は、トリステイン領のラグドリアン湖に差し掛かったところ。

シャルロットの実家はラグドリアン湖の対岸にあるので、もう少しだ。

シルフィードの速度は大して時間をかけずに湖を渡りきる。

そこでシャルロットは気付いた。

自分の屋敷の前に、かがり火を焚いた十数人の兵士がいることに。

シャルロットは、ギリギリ間に合ったのだ。

兵士達は皆、傭兵のようである。

そのとき、傭兵達が屋敷の玄関に向けて歩き出した。

シャルロットは、すぐに杖を振った。

唱えた呪文は『ウインド・ブレイク』。

玄関の近くにいた数人を吹き飛ばす。

シャルロットは、シルフィードから飛び降り、玄関の前に着地する。

そして、傭兵達に向け杖を構えた。

傭兵達は突然の事に少しうろたえたが、そこはプロ。

すぐに冷静さを取り戻し、武器を構える。

傭兵達は、シャルロットに襲いかかった。





10分後。

傭兵達は全員地面に転がっていた。

例え1人対多数でも、今まで数々の危険な任務を潜り抜けてきたシャルロットの経験は伊達ではない。

シャルロットは、全員を気絶させた事を確認すると、踵を返し屋敷に入ろうとした。

だが、

――ジャリ

と、足音がしたため、シャルロットは咄嗟に振り向く。

そこには、男が1人立っていた。

薄い茶色のローブを着た、長身で痩せた男だ。

つばの広い、羽のついた異国の帽子を被っている。

帽子の隙間から、金色の髪の毛が腰まで垂れていた。

切れ長の目の奥の瞳が、薄くブルーに光っている。

随分と美しい、線の細い顔立ちであった。

しかし、全く年齢がわからない。

少年のようにも見えるし、40と言っても信じてしまいそうな、妙な雰囲気を持っていた。

「何者?」

シャルロットは杖を構え、問いかける。

だが、その男は答えない。

シャルロットは杖を振り、『ウインド・ブレイク』を唱えた。

暴風が、その男を吹き飛ばさんと襲い掛かる。

だが、ウインド・ブレイクが直撃したにも関わらず、その男は何でもない様に立ち続けていた。

体どころか、帽子すら飛んではいない。

シャルロットは、驚愕するが気を取り直し、『ウインディ・アイシクル』を唱える。

何本もの氷の矢がその男に襲い掛かるが・・・・・

氷の矢は男に届く前にピタリと停止し、地面に落ちて砕ける。

シャルロットの顔に焦りの影が浮かぶ。

如何してか相手に攻撃が届かない。

だが、その時シャルロットは気付いた。

「先住魔法・・・・・」

その言葉を聞いた男が、さも不思議そうな顔で呟く。

「どうしてお前たち蛮人は、そのような無粋な呼び方をするのだ?」

ガラスで出来た鐘のような、高く澄んだ声だった。

それから、全く裏表のない声で、

「ああ、もしや私を蛮人と勘違いしていたのか。失礼した。お前たち蛮人は初対面の場合、帽子を脱ぐのが作法だったな」

男はそう言うと帽子を脱いだ。

「私は“ネフテス”のビダーシャルだ。出会いに感謝を」

金色の髪から、長い尖った耳が突き出ている。

「エルフ」

シャルロットは喉から驚きの声を絞り出した。

初めて見るエルフにシャルロットは戸惑い、ついで恐怖した。

その魔力は噂どおり、尋常じゃない。

「お前に要求したい」

ビダーシャルと名乗ったエルフの男は、気の毒そうな声で、シャルロットに告げた。

「要求?」

「ああ。我の要求は、抵抗しないでほしい、ということだ。我々エルフは、無益な戦いを好まない。我はお前の意思に関わらず、お前と、お前の母をジョゼフの元へ連れて行かねばならない。そういう約束をしてしまったからな。だから、できれば穏やかに同行願いたいのだ」

そう言いつつ、ビダーシャルは近寄ってくる。

シャルロットは、気圧され無意識に後退してしまう。

その時、シャルロットの後方から氷の矢が飛んできて、ビダーシャルの足元に突き刺さる。

「私の娘から離れなさい!」

驚いたシャルロットが振り返ると、母親が杖を構えていた。

「母様!」

シャルロットは思わず叫ぶ。

ビダーシャルは若干驚いた顔をして、

「どういうことだ?お前は我らの薬で心を失ったと聞いていたが?」

「その問いに答える必要はありません」

シャルロットの母親は、シャルロットを守るように立ちはだかった。

「そうか・・・・・少し予定が狂ったが、お前たちをジョゼフの元へ連れて行くことに変わりは無い」

ビダーシャルは、落ち着いた表情になってそう言った。

シャルロットの母は、ビダーシャルに杖を向ける。

「無駄だ、蛮人の女よ。お前では、決して我に勝てぬ」

「それでも、子を守るのが母親です」

シャルロットの母は、ビダーシャルの言葉に物怖じせずそう返す。

その母親の姿に、折れかけていたシャルロットの心は奮い立たされる。

自分は何をやっているのか?

自分は母親を救いに来たのではなかったのか?、と。

シャルロットは何時だったか、フーケを捕まえに行ったときの拓也の言葉を思い出した。

『確かに、怖いときは怖い。でも、そこで逃げずに、その恐怖に立ち向かう勇気が大切なんだ』

その時のアイナは、その言葉通り、勇気を持ってフーケのゴーレムに立ち向かい、拓也の危機を救った。

シャルロットの瞳に力が戻る。

シャルロットは母の横に並び、杖を構えなおした。

「何故抗う?お前たちでは我に勝てぬと言っているだろうに」

ビダーシャルのその言葉は嘘ではない。

「・・・・・これ以上、私の大切な人を失いたくないから」

それはシャルロットの想い。

それはシャルロットの決意。

それがシャルロットの戦う理由。

「だから私は戦う。私の大切な人を守るために」

魔力は気力。

気力は感情。

感情は心。

シャルロットの強き想いがシャルロットの魔力を上げる。

そして、シャルロットの冷静な部分がシャルロットに足せる系統が増えたことを教えてくれる。

シャルロットとシャルロットの母を中心に巻き起こる暴風。

「母様」

シャルロットの母は、その言葉を聞くと頷く。

シャルロットの母が呪文を唱えると、無数の氷の刃が生み出され、それがシャルロットの暴風に乗る。

それと同時に、シャルロットはビダーシャル目掛け、杖を振り下ろした。

スクウェアの風に乗った氷の刃がビダーシャルに襲い掛かった。

しかし、シャルロットは偶然見えたビダーシャルの目を見て愕然とした。

その瞳には、敵意も、怒りも感じられない。

なんと、そこにあるのは“遠慮”であった。

スクウェアの風とトライアングルの氷の刃が襲わんとしているのに、未だビダーシャルは2人を敵とさえ認めていないのだ。

2人の魔法がビダーシャルを包んだ。

と、思われた瞬間。

その魔法がそのまま跳ね返ってきた。

シャルロットは、そこで初めて、ビダーシャルに攻撃が届かなかった原因を知った。

自分の勇者が、覇竜より授かった剣にかかっていた先住魔法。

「『反射』・・・・!?」

シャルロットは咄嗟に動こうとしたが、動けない。

いつの間にか、足がせり出した地面に飲まれている。

母も一緒であった。

シャルロットは、残された時間で風の障壁で母と自分を包んだ。

だが、跳ね返ってきた魔法は、最大限に魔力を練りこみ、母と共に放った魔法。

かたや唱えた防御魔法は咄嗟に唱えた、魔力の練りこみも不十分なもの。

風の障壁は、幾分か威力を減衰させただけで打ち破られ、シャルロットたちは、暴風と氷の刃に晒され、意識を失った。



ボロボロになった2人に近付いたビダーシャルは、2人の首筋に手を当てる。

2人とも虫の息だが、生きている。

最後にシャルロットが張った風の障壁が、効を奏したようだ。

「この者達に流れる水よ・・・・・」

朗々と、ビダーシャルは呪文を唱え始めた。

2人の体の傷が見る見るうちに塞がっていく。

その時、ふと上を見上げると、シルフィードが降下してきた。

その目が怒りに光っている。

その目の光で、ビダーシャルはシルフィードがただの風竜ではないことに気付いた。

「韻竜か・・・・」

すぐにシルフィードの正体を言い当てる。

「韻竜よ。お前と争う心算は無い。“大いなる意思”は、お前と私が戦う事を望んでいない」

ビダーシャルの言葉にシルフィードは一瞬体を震わせたが、

「お姉さま達から離れるのね!」

そう叫んだ。

シルフィードは、目の前のエルフが自分よりも数倍もの実力を持つ事に気付いている。

それでも、勇気を奮い立たせ、牙をむく。

「魂まで蛮人に売り渡したか。使い魔とは、哀しい存在だな」

「使い魔とかは関係ないのね!私はお姉さまが大好きなのね!!」

ビダーシャルが呟くと同時、シルフィードはそう叫んでビダーシャルに飛び掛る。

しかし、ビダーシャルは顔色一つ変えない。

ただ、手をシルフィードの前に突き出した。

痩せすぎなビダーシャルが、片手一つで大きなシルフィードを止めている様は異様であった。

シルフィードは、じたばたともがこうとしたが、動けない。

余りにも強力すぎる魔力であった。

ビダーシャルは、シルフィードの頭の上に左手をかざす。

ゆっくりと、シルフィードの瞼が閉じる。

どすん!と、気を失って地面に伸びたシルフィードを見下ろし、ビダーシャルは呟いた。

「“大いなる意思”よ・・・・・このような下らぬ事に“精霊の力”を行使した事を赦し給え・・・・・・」



シルフィードが目を覚ましたとき、回りには誰もいなかった。

既に日は昇っている。

シルフィードは、暫く考える素振りをすると、翼を広げ、空へと飛び立った。



魔法学院では、中庭にある小屋でアイナが才人達にシャルロットが何故才人を襲ったのか説明をしていた。

その過程で、シャルロットの過去も話すことになった。

因みにここにいるメンバーは、アイナ、エン、才人、ギルモン、ルイズ、モンモランシー、ギーシュ他水精霊騎士隊のメンバーである。

モンモランシーやギーシュ達は、オストラント号の騒ぎで偶々その事を聞きつけたからだ。

「なるほど・・・・・まさかタバサが、ガリアの王族だったなんて・・・・」

ルイズが呟く。

「それで、タバサは何処に?」

才人が尋ねる。

「ガリアを裏切ったから、ガリアはシャルロットのお母様を拘束すると思う。だから・・・・・・」

「母君を助けに行った・・・・と、いうわけだね」

アイナの言葉を先読みして言ったギーシュの言葉に、アイナは頷く。

「うん。間違いないと思う」

「そんな・・・・なんで1人でそんな無茶を」

才人が呟くと、

「シャルロットは、迷惑をかけたくなかったんだと思う。今回の事にトリステインの貴族である私たちが関われば、国家間の問題になるかもしれないって言ってたから」

アイナが俯きながらそう言う。

その言葉に全員が沈黙してしまう。

一瞬の静寂が流れ、

――バンッ!

と、勢い良く小屋の扉が開け放たれる。

全員の視線が、其方に集中する。

小屋の入り口には、20歳前後の青髪の女性、イルククゥの姿があった。

ただ、その息は荒い。

「イルククゥ!」

アイナが思わず立ち上がり叫んだ。

イルククゥは駆け寄ってくる。

「た、大変なのね!!」

そう叫んだ。

「え?」

「お姉さまが・・・・・お姉さまが捕まったのね!」

「そんなっ!?シャルロットが!?」

アイナはその言葉に驚愕した。





アイナたちは王宮に来ていた。

シャルロットを助けるためにガリアへ行く許可をアンリエッタに貰いにきたのだ。

アイナや才人はそのままシャルロットを助けに行こうとしたのだが、水精霊騎士隊の1人、レイナールの「女王陛下の騎士である自分たちが勝手に動くのは拙い」という言葉でアンリエッタに許可を貰いに行く事になった。

この場にいるのは、アイナ、エン、才人、ギルモン、ルイズ、ギーシュ、マリコルヌ。

だが、

「ガリアへ行く事は許可できません」

無情にも、それがアンリエッタの言葉だった。

「どうしてですか!?姫様!」

才人が思わず聞き返す。

「あなた達が行けば、戦争になるかもしれないからです」

「戦争・・・・・」

その言葉に、才人は声が止まる。

「あなた達はわたくしの近衛隊です。何時何処であれ、あなた達の行動はトリステイン王国の行動と受け取られるのです。聞くところによると、今、タバサ殿は犯罪人として捕らえられているという話ではありませんか。そのような人物を救出しようとしたら、重大な敵対行為としてみなされるでしょう。分かっていただけましたか?」

その言葉が終わる前に、既にアイナはマントに手を掛けていた。

何の躊躇もなく、マントを外すと、軽くたたんでアンリエッタに差し出す。

「お返しいたします。陛下」

「アイナ!?」

アイナの行動に、アンリエッタは驚愕する。

それと同じく、才人もマントを外した。

「俺もお返しします。これでトリステインに迷惑はかかりませんよね?」

「サイト!?」

ルイズは驚く。

更に、ギーシュもマントを外しながら言った。

「私とマリコルヌも、副隊長と同じ意見であります」

「ええっ?」

マリコルヌは驚いたようだが、しぶしぶマントを外す。

アイナと才人は、アンリエッタの机の上にマントを置く。

「お世話になりました」

才人はそう言う。

「あなた達は・・・・」

アンリエッタは、衛兵を呼ぶ鈴を鳴らす。

すぐに扉が開き、アニエスが入ってくる。

アンリエッタはアニエスに告げた。

「この者達を逮捕しなさい」

その言葉に、全員は驚愕した。

その様子を、窓の外からシルフィードが目撃していた。




ルイズ以外は、牢に入れられた。

ギルモンは口と手を頑丈に縛り付けられたが、エンは特に何もされなかった。

ギルモンは度々アンリエッタの前で活躍しているので、警戒をされたが、エンはそのような事は無い。

エンが自由ならば、脱出も可能なので、アイナは期を窺うことにした。

ただ、暫く後にルイズも貴族の地位を捨て、牢屋に入れられたことについては大層驚いたが。

それから、暫くすると、外から大音量が響いてきた。

皆が驚いて窓から外を見ると、オストラント号が低空飛行で飛んでいた。

「トリスタニアの皆様に申し上げます。ゲルマニアのフォン・ツェルプストー家が、最新式水蒸気船オストラント号のお披露目にやってまいりました。街を歩く皆様も、お城にお勤めの皆様も、どうか近付いてご覧になってくださいまし」

「モンモランシーの声じゃないか!」

ギーシュは驚いている。

アイナは、すぐにエンに呼び掛ける。

「今しかない。エン!」

「わかった!」

エンは待ってましたと言わんばかりに、牢屋の扉に殴りかかった。

扉は吹き飛び、牢の前にいた衛兵に直撃。

衛兵は気絶する。

全員が牢屋から出ると、

「あら?自分たちで脱出しちゃったの?つまらないわね~」

「キュルケ、先生!」

才人が叫ぶ。

「喜ぶのと説明は後だ。急ぎたまえ」

キュルケとコルベールがそこにいた。





次回予告


シャルロットを救うために、ガリアへ潜入するアイナ達。

幽閉場所のアーハンブラ城を突き止め、シャルロット救出のための作戦を考える一行。

そして遂に、シャルロット救出作戦が開始される。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第三十八話 シャルロットを救え!アーハンブラ城の戦い!

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

三十七話完成。

結構ハイペースです。

シャルロットとビダーシャルの戦いを少し変えただけで、他はあんまり変わりなし。

ビダーシャルとの戦いもあんまり変わってないかな?

とりあえず、結構ノッて来てます。

GW中に書けるかは分かりませんが、次も頑張ります。






[4371] 第三十八話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/05/05 10:08
コルベールとキュルケの手引きにより脱出したアイナ達。

アイナ達はシャルロットの救出へと向かう。


第三十八話 シャルロットを救え!アーハンブラ城の戦い!


城から脱出したアイナ達を、森の中でシエスタとモンモランシー、イルククゥが迎える。

そこで、

「それにしても、どうして私たちが捕まってるって、分かったの?」

ルイズが疑問を口にする。

「そ、それは~、その~・・・・」

イルククゥの言葉は歯切れが悪い。

「なあ、イルククゥよ」

デルフリンガーが喋りだす。

「主人から正体を明かすなって言われてるんだろうが、そろそろいいんじゃねえか?お前さんが言わねえなら、俺がバラしちまうぜ」

デルフリンガーがそう言うと、アイナがイルククゥに言った。

「デルフリンガーの言うとおりだね。イルククゥ」

続けてキュルケが言った。

「そうね。どの道このままシャルロットを助けに行く上で、あなたの正体を明かした方が後々やりやすいと思うわ」

「なんだ。嬢ちゃんたちは知ってたのか」

「当然よ。シャルロットの親友だもん」

キュルケが胸を張って言う。

「も~!お姉さまから喋っちゃダメっていわれてるのに~!」

イルククゥは、少々ヤケになった。

それと共にイルククゥの体が輝く。

そして、そこにいたのは、

「きゅいきゅい」

シャルロットの使い魔、シルフィードであった。

「シ、シルフィード!」

ルイズが思わず叫んだ。

「シルフィードは韻竜なの」

アイナが言った。

「韻竜?絶滅したんじゃなかったの!?」

「ここにいるんだから、絶滅してないんじゃない」

キュルケがそう言い。

「そういうことなのね」

シルフィードが頷いた。

アイナとキュルケ以外は呆気に取られていたが、すぐに気を取り直す。

そして、一つのつてを頼りにチクトンネ街へを足を向けた。




シャルロットは目を覚ますと、そこはとある部屋の一室だった。

「目覚めたか?」

声がするほうに顔を向けると、ビダーシャルがいた。

部屋の入り口付近に置かれたソファに座り、本を読んでいた。

咄嗟に杖を探すが、何処にも見当たらなかった。

こうなれば、抗う術は無い。

シャルロットは、ゆっくりとベッドから下りる。

「あなたは何者?」

「ネフテス老評議会議員・・・・・いや、今はただの“サハラ”のビダーシャルだな」

「ここは何処?」

「アーハンブラ城だ」

「母は?」

「隣の部屋だ。まだ目覚めていないが」

とりあえずホッとする。

「私たちを如何するつもり?」

「水の精霊の力で心を失ってもらう。その後は“守れ”と命令された」

シャルロットは一瞬で理解した。

ビダーシャルは、以前の母と同じようにするといっているのだ。

「今?」

「特殊な薬でな。調合に10日ほどかかる。それまで残された時間をせいぜい楽しむがいい」

「あなた達が、母を狂わせたあの薬を作ったの?」

ビダーシャルは頷いた。

「あれほどの持続性を持った薬は、お前たちでは調合できぬ。さて、お前には気の毒をするが、我もとらわれのようなものでな。これも“大いなる意思”の思し召しと思って、諦めるのだな」

シャルロットは立ち上がると、部屋の窓に近付いた。

眼下には何人もの武装した兵が見える。

この城に何人いるかは分からないが、杖が無い以上、母を連れての脱出は不可能だろう。

「私の使い魔は?」

「あの韻竜か?逃げた」

シルフィードの正体を見破っていたことにはシャルロットは驚かなかった。

シルフィードが逃げたという事には安心したが、それは魔法学院の皆に自分が捕まった事を知らせたに違いない。

シャルロットは唇を噛んだ。

キュルケや、アイナの顔が浮かぶ。

出来れば助けに来ようなどとは思わないでほしい。

一国に喧嘩を売るような真似はしないと思ったが、ふとシャルロットはガリアへ向かう前のアイナの言葉を思い出した。

『助けが要るときはいつでも言ってね。絶対に協力するから』

「アイナ・・・・・」

ポツリと、アイナの名を呟く。

その時、

「一つ、我からも質問がある」

ビダーシャルがそう言った。

「何?」

シャルロットは素っ気無く答える。

「お前の母の心はどうやって取り戻した?お前たちの技術では、あれの解除薬を作ることは不可能だ」

シャルロットは暫く黙っていたが、ポツリと呟いた。

「・・・・・・覇竜の涙」

それを聞いたビダーシャルの顔色が変わる。

「覇竜・・・・だと?」

覇竜の存在はエルフの間でも大きな意味を持つようだ。

「どのようにして手に入れた?」

「あなたには関係ない」

シャルロットはビダーシャルの質問を切り捨てた。

その様子を見たビダーシャルはこれ以上は無駄と悟ったのか部屋を出て行った。




アイナ達は、夏季休暇の時にアルバイトをしていた『魅惑の妖精』亭に身を潜めていた。

スカロンとジェシカに経緯を説明する。

「友達を助けるために貴族の位まで捨てるなんて、馬鹿っていうか、あんた達らしいって言うか」

ジェシカは、呆れ半分でそう言った。

才人達は苦笑する。

「でも、これから如何するつもり?」

マリコルヌがそう言った。

「ああ。周りは兵で一杯だ。ここを抜け出るのは容易じゃないぞ」

ギーシュもそう言う。

ギーシュの言うとおり、街中は兵が一行の行方を捜索している。

その時、

「ガリアへは陸路で向かおう」

コルベールが、そう言った。

「コルベール先生」

全員がコルベールに注目する。

「皆、この地図を見てくれ」

コルベールが地図を広げて、説明を始める。

「まず、私がオストラント号を反対側のゲルマニアへと向かわせる。すると、王宮の連中は、我々がゲルマニアからガリアへ侵入すると勘違いして追跡するだろう」

「その裏をかいて、私たちは陸路で国境を越えるってワケね」

キュルケがコルベールの言葉を引き継いだ。

「ああ」

コルベールも頷く。

「旧オルレアン公の領地へ向かう。そこにミス・タバサの実家があるそうだ」

「何か、手がかりがあるかもしれないってことですね?」

「きっと、何か見つかるわ」

コルベールの言葉に、才人とルイズも同意する。

「ちょっと待ってよ!まさかアンタ達、ガリア王国まで行こうっていうの!?」

「女王陛下にそこまで逆らうなんて、貴族の位を無くすどころか、大変な事になっちゃうかも・・・・」

ジェシカは驚愕し、スカロンは首が切られるジェスチャーをしながらそう言った。

その言葉に、マリコルヌはたじろぐが、

「それでも行きます」

アイナがハッキリと言った。

「ああ。だってタバサは俺たちの友達なんだ」

才人が、

「大切なお姉さまなのね」

イルククゥが、

「2人といない親友よ」

そしてキュルケが、そう言い、皆が頷く。

皆の瞳に迷いは無い。

「はあ~・・・・馬鹿につける薬は無いか」

ジェシカが呆れ、

「仕方ないわねえ~。ジェシカ、ちょっと手伝って」

スカロンが立ち上がりながらそう言った。

「えっ?う、うん」

ジェシカもスカロンの後を追い、2階へ上がる。

「でも、先生。オストラント号を囮に使うには、一度、王宮へ戻らなければなりませんね」

「ああ。脱獄したタイミングを考えれば、オストラント号が荷担した事は一目瞭然。きっと、見張りがついていることだろう」

「じゃあ、どうするの?」

コルベールの言葉にルイズが立ち上がって尋ねた。

すると、コルベールは笑みを浮かべ、

「オストラント号は、私に任せて、君達は急いでガリアに向かいたまえ」

そう言った。

「ジャン!?それ本気で言ってるの!?」

キュルケが心配そうな声で叫んだ。

「先生1人を、そんな危ない目にはあわせられません!」

才人も立ち上がる。

「ええ!そんなこと出来ないわ!」

ルイズも叫んだ。

「待ちたまえ!今、一番危ない目にあっているのは、ミス・タバサだ。言い争いをしている時間は無い!」

キュルケは、その言葉を聞き、悲しそうな目をして俯いた。

「はい・・・・」

その言葉を理解した才人は頷く。

「うむ」

コルベールが頷いたとき、

「先生!僕、先生にお供します!」

「オストラント号の操縦も手伝えると思うし、きっとお役に立ちますよ!」

水精霊騎士隊のレイナールとギムリが名乗り出る。

「君達・・・・・すまない・・・・」

コルベールが2人に礼を言った。

その時、2階から何かを持ってスカロンとジェシカが下りてきた。

「皆~。お待たせ」

「何よそれ?」

ルイズが2人が持っているものが何なのか尋ねる。

「前にド貧乏な旅芸人の一座が食事と引き換えにって置いてったのよ。今の服じゃすぐに捕まっちゃうしね」

スカロンが説明する。

「じゃあ!」

何を言いたいか理解した才人が嬉しそうに尋ねた。

「これで変装して、ガリア王国なり何処へなりへと行っちゃいなさい」

「その代わり、絶対にお友達を助けてくるのよ」

ジェシカとスカロンの言葉に、

「お2人とも、すまない」

コルベールはお礼を言った。



そして、男子は1階、女子は2階で着替える。

才人は、割と普通っぽい青年の格好。

だが、いつも来ているのがパーカーなので随分と雰囲気が変わっている。

ギーシュは付け髭をつけ、袋を担いだ商人のような格好に。

マリコルヌはピエロだ。

特に、マリコルヌのピエロが似合いすぎて、才人とギーシュは爆笑している。

そこへ、女子組が下りてきた。

男子は思わず顔を赤くする。

モンモランシー、キュルケは踊り子の格好。

イルククゥは、白いドレスのような格好をしていた。

ルイズと、アイナは頭巾を被った街娘のような格好だ。

全員の準備が整った事を確認すると、2組に別れ、それぞれが行動を起こした。




ガリアのとある場所で、蝶型のガーゴイルを通じてシャルロットの様子を窺っているシェフィールド。

周りには、溶鉱炉や、釜戸が無数にある。

そのシェフィールドに声をかける人物がいた。

「おお!ミューズ!余のミューズ!!」

その声にはっとなって目を開けるシェフィールド。

その男は鮮やかな青髪に、整った顔、体格の良い体。

「お待ちしておりました!ジョゼフ様!」

シェフィールドが跪く。

この男こそ、シャルロットの伯父であり現ガリア国王ジョゼフである。

「例のものが完成間近と聞いてな。このようにとんで参ったのだ。それにしても、ここはずいぶんと暑いな」

ジョゼフのその言葉に、シェフィールドは説明を始める。

「熱や音を逃さぬようにこの建物を頒布で覆っております。無数の釜戸に加えて、溶鉱炉までありますので・・・・」

2人は歩きながら奥を目指している。

「構わぬ!それより、例のものは何処だ!?」

ジョゼフはまるで、楽しみなものを待ちきれない子供のような言葉でシェフィールドを急かす。

「ここでございます」

シェフィールドに案内された先には大きな扉があった。

シェフィールドが手をかざすと額のルーンが輝きだす。

巨大な扉はゆっくりと開いていく。

ジョゼフは、そこにあったものを見て、目を見開いた。

そこにあったものは巨大な人型。

赤い目が不気味に光っている。

「おおっ。これがヨルムンガンドか」

ジョゼフは、歓喜の声を上げる。

「ミューズよ!これは何時動くのだ!?」

「はっ。試作型は6体。その全ては最終段階に入っておりますゆえ、数日中には」

「6体か。1体に集中させればどの程度早くなる?」

「は。全ては最終段階に入っております。差が出来るのは最後の鎧の装着のみ。他の5体との差は、せいぜいが数時間にございます」

「それでも構わぬ。私はこれが動くところを、1分・・・・いや、1秒でも早く見たいのだ!」

「かしこまりました」

シェフィールドは頭を下げた。




変装したアイナ達は、荷車を引きつつ国境へ向かっていた。

荷車を引いているのはギルモン。

但し、色は青。

エンは荷物の中に隠れ、ギルモンは、ペンキで色を塗り替え誤魔化している。

色を塗るときは、大層嫌がったが。

間も無く国境を越えるという時、検問が見えた。

「僕達が国境を越えると知って、検問してるんだ」

ギーシュがそう言い、

「如何しよう?きっと見つかっちゃうよ。そしたらまた牢屋に入れられて・・・・・」

マリコルヌが弱音を吐きながら、首が切られるジェスチャーをする。

「シッ・・・・落ち着けって。俺たち変装してるんだ。そんなに簡単にばれやしないさ」

才人が落ち着かせるようにそう言った。

「いい?皆、できるだけ普通に振舞うのよ」

キュルケの言葉に全員が頷いた。



「よーし!お前たち!止まれ!」

当然の如く、国境に近付くと、兵士たちに止められる。

そして、軽く全員の顔を確認される。

皆は緊張で固まっていたが、

「旅の芸人一座か・・・・・ま、いいだろう。通れ」

その言葉に安堵する。

「あ、ありがとうございます」

才人は礼を言った。

そして、国境を通り過ぎようとした時、

「そこのデブッチョ!待て!」

マリコルヌが呼び止められる。

兵士が近付いてくる。

マリコルヌは焦りに焦っていた。

そして、マリコルヌの顔を見ると、

「落したぞ」

そう言って、マリコルヌの鼻に、赤い付け鼻を引っ付けた。

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

怯えていたマリコルヌは涙目になりながら礼を言った。



何だかんだで国境を越えることが出来た一行は山を越え、ガリア王国へ辿り着いた。

そして一行は、シャルロットの実家の近くで情報を集める事にした。

そして、ここはとある酒場。

なにやらオルレアンの屋敷から女を連れ出すだのなんだの愚痴っていた傭兵に、キュルケが得意の色仕掛けで情報を得ようとしていた。

少し離れたテーブルでその様子を見ていた一行は、キュルケの手腕に驚いている。

「タバサの家の近くで情報を集めるってことを思いつけてもああいう風に実行できるのはキュルケぐらいよね」

呆れ半分、尊敬半分でモンモランシーが呟く。

「男心を知り尽くしてるもんなぁ」

「あそこまで行くと、もはや才能ね」

才人とルイズも同意する。

数分後。

「アーハンブラ城よ」

傭兵から情報を聞き出したキュルケが言った。

「シャルロットのお母様が連れて行かれた場所。シャルロットもそこにいるわ」

「アーハンブラ・・・・ガリアの東の端ね」

「やれやれ、また山越えが必要だな」

「山なんて、いくらでも越えてやるさ。行こう!タバサを助けに!」

才人が締める。



その頃、アーハンブラ城では。

シャルロットに見守られていたシャルロットの母が目を覚ました。

「う・・・・シャルロット?」

「母様!」

シャルロットの母は身を起こす。

「ここは?」

「アーハンブラ城です。母様」

シャルロットはことの経緯を説明した。

「そう・・・・・あの薬が出来るまで後10日程度しかないの・・・・」

シャルロットは俯く。

シャルロットの母は、そんなシャルロットの頭に手を乗せる。

「諦めてはダメよシャルロット。最後まで望みを捨てないで」

シャルロットの頭を撫でながら、母はそう言った。

シャルロットは、不安からか涙を流す。

「安心して、あなたは私が守るわ。シャルロット」

シャルロットの母は、シャルロットを抱きしめながらそう言った。




8日後。

一行はアーハンブラの城下町に到着していた。

宿屋の一室で作戦会議を開いている。

「マリコルヌに遠見の呪文で見てもらったところでは、城にいる兵の数は、ざっと100人ぐらい。シャルロットとお母様の安全を第一に考えると、この作戦しか無いと思うの」

キュルケが、皆に言う。

「私が眠り薬を作れるだけ作るって事は分かったわ」

モンモランシーがそう言い、

「僕が酒を買い占めてきてその薬を混ぜるってのもね」

ギーシュが頷く。

「でも、どうやって100人いっぺんに酒を飲ませるんだ?」

才人が最大の難問を口にする。

「あら?私たちが今来てる格好って何かしら?」

「何って・・・・旅芸人だけど・・・・」

「そう、だから、私たちで踊って気を引いて、お酒を飲んでもらおうって寸法よ。どうかしら?」

「なるほど・・・・それなら何とかなるかも知れないな」

「それじゃ、今夜決行ね。マリコルヌは引き続き、城の様子を探って。アイナとイルククゥは、モンモランシーを手伝って頂戴」

キュルケがテキパキと指示を飛ばす。

「それで、エン。あなたにも大事な役目があるわ」

「え?」

「あなたって確か学院の外壁を自由に駆け上っていたわね?」

「う、うん・・・・」

「だったら、私たちが城の兵を集めたら、シャルロットの居場所を探してほしいの」

「え?」

「私達の芸が始まったら、先ずはシャルロットとお母様の居場所を。そして、できればシャルロットたちの杖の在り処も」

エンはキュルケの話に食い入る。

「そして、兵が眠ったら、合図として火の玉を揚げるわ。それが見えたら、シャルロットたちを外に誘導してほしいの。それが上手くできれば、強敵が出てきたときも、2人を連れて逃げることが出来る可能性も上がるわ」

「わかった」

エンが頷く。

だが、

「ちょっと、私には何も無いわけ!?」

名前を呼ばれなかったルイズが怒った声で叫んだ。

「あなたと才人は休んでて」

「こんな時まで意地悪するの?そりゃ私の事嫌いかもしれないけどさ・・・・」

ルイズはそう言うが、

「嫌ってるんじゃなくて認めてるのよ」

「え?」

「皆には言わなかったけど、実際はどんな敵と戦うか分からないわ。あなたを頼りにしてるの。その伝説の力をね」

その言葉に才人とルイズは驚愕した。

「あ、あなた虚無の事を?」

キュルケはルイズの手を握り、

「先祖の非礼は謹んでお詫びするわ。この非力なわたくしに、どうかあなたの聖なる力をお貸しくださいますよう・・・・」

そう答えた。

「や、やめてよ、先祖が如何こうだなんて・・・・・私はもう、貴族の名前は捨てたの・・・・そうよ。今はただの『ゼロ』のルイズなんだから」

キュルケはそれを見ると、笑みを浮かべる。

「ルイズ。あなたって本当に・・・・」

そう言ってルイズを抱きしめる。

「ちょ、ちょっとぉ!?」

「ねえ、この件が終わったら、ゲルマニアにいらっしゃいな。メイドとして雇ってあげるわ」

「ふ、ふざけないでよ~」

仲の良い言い合いは続いた。




そして、その夜。

アーハンブラ城を任された貴族と交渉し、公演を許された一行は、アーハンブラ城へ入る事に成功した。

荷車の中に隠れていたエンは、兵士が集まってくると、折を見て抜け出した。

辺りは暗いため、外壁に上っても気付かれる事はない。

やがて、踊りが開始されると、エンはシャルロット達の捜索を開始した。

城の外壁を手も使って、まるで獣が地面を走るように登っていく。

窓を一つ一つ確認していくが、古いと言っても城だ。

部屋は無数にある。

だが、人間の数倍の感覚を持つエンの聴覚が、とある話し声を耳にした。

「旅芸人の一座が慰問に来たそうだ。見物したければ特別に許可するが?」

エンには聞いた事の無い声であった。

だが、

「必要ない」

その声にエンは敏感に反応した。

間違いなくシャルロットの声であった。

「心を失わせる薬は、日の出を待たずに完成する。お前達がお前達でいられるのも、あと僅かだ」

「情けは要らない」

ビダーシャルはその言葉を聞くと部屋を出て行く。

そんなシャルロットを、母は抱きしめた。

その様子を、声を聞きつけたエンは窓の外から覗いていた。

「よし。見つけた。後は杖を・・・・・・」

エンはシャルロット達の部屋を見つけ、場所を覚えると杖を探すために再び外壁を伝って移動を開始した。

が、意外とあっさり見つかった。

杖は、隣の部屋に無造作に置かれていたのだ。

エンは、窓から侵入すると、杖を持って外で待機する。

キュルケからの合図を待った。



十数分後。

広場に集まった兵士は、1人残らず眠りこけていた。

「そろそろいいわね」

キュルケは、合図の火球を空へ打ち上げた。

「ホントに兵士はあれで全部?」

モンモランシーが疑うように尋ねる。

「大丈夫さ。もし残っていたとしても僕が・・・・・」

ギーシュがそこまで言ったとき、

「お前たち。何をしている?」

城の入り口へ続く階段の上に男が立っていた。

ビダーシャルである。

「いきなりお出ましね!」

キュルケは杖を振りかぶる。

その時、

「ダメなのね~!」

イルククゥが叫んで止めようとした。

だが、キュルケは火球をビダーシャルへ放つ。

火球は一直線にビダーシャルへ向かって行き、

そのまま跳ね返ってきた。

「えっ!?」

キュルケは突然の事に驚愕し、反応が遅れる。

「キュルケ!」

咄嗟にアイナが火球を放ち、相殺する。

「無駄な事だ」

ビダーシャルは静かに告げる。

その耳を見て、一同は驚いた。

「エ、エルフ・・・・・!?」

ギーシュが驚愕した声を上げる。

「お姉さまを攫ったの、あいつなのね・・・・・・お姉さまを返してなのね!」

イルククゥが叫んだ。

「あの時の韻竜か・・・・・はるばる助けに来たのか?だが、それに報いてやる事は出来ない」

ビダーシャルはそう言うと、呪文を唱え始める。

「石に潜む精霊の力よ。我は古き盟約に基づき命令する。礫となりて我に仇なす敵を撃て」

城壁を形作る無数の石が剥がれ、弾丸のように一行に襲い掛かる。

「舐めないで欲しいね!」

「どっかへ行っちゃえ!」

ギーシュとマリコルヌが呪文を唱える。

土と風が迫り来る無数の石礫を吹き飛ばした。

「「やったぁ!!・・・・・えっ?・・・・ええっ!?」」

2人は一瞬歓喜の声を上げるが、すぐに唖然とする。

ビダーシャルは石を集め、10メイルほどの球状の物を作り出していた。

それを2人に投げつける。

ギーシュとマリコルヌは、悲鳴を上げて逃げる。

ビダーシャルは、手を上げ、再び攻撃しようとした。

その時、

「やめろっ!!」

才人がデルフリンガーで斬りかかった。

だが、光の壁のようなものが現れ、才人は弾き返される。

「ぐぁっ!?」

才人はうめき声を上げて地面を転がる。

「サイト!?」

ルイズが駆け寄った。

「立ち去れ。蛮人の戦士よ。お前では決して我に勝てぬ」

ビダーシャルは才人にそう言い放つ。

「サイト、今の何?」

「わかんねえ。まるで、見えない壁があるみてえだ」

ルイズが疑問を口にし、才人も分からないという。

その答えをデルフリンガーが答えた。

「ありゃ『反射』だな。あらゆる攻撃を跳ね返すえげつねえ先住魔法だ。その覇竜刀にかかってるものと同じさ」

「何だって!?」

「まあ、魔法のレベルとしちゃあ、覇竜刀にかかってる『反射』の方がすげえがな」

「それなら!」

才人は立ち上がって、覇竜刀を抜いた。

「うおおおおおおっ!!」

覇竜刀で斬りかかる。

しかし、やはり光の壁に阻まれる。

だが、その時、ビダーシャルの顔色が変わる。

「ッ!?その剣は!?」

その瞬間、互いに吹き飛ばされる。

才人は勢いよく地面を転がり、ビダーシャルは立ったまま数メイル後退する。

「デルフ!効かねえじゃねえか!」

才人はデルフリンガーに怒鳴る。

「バカヤロウ相棒。いくらその剣の『反射』が向こうより凄かろうと、相棒が向こうの『反射』の反動に耐え切れなきゃ結果は似たようなものだ!」

デルフリンガーがそう言った。

その時、

「答えろ、蛮人の戦士よ。その剣、何処で手に入れた?その剣には大いなる精霊の力が宿っている。お前如きが使っていい剣ではないぞ」

才人は立ち上がる。

「この剣は借り物だよ」

「借り物だと?」

「確かにこの剣は俺のじゃない。けど、俺があいつから借りたものだ。いつか俺があいつに返す」

才人は再び覇竜刀を握り、ビダーシャルに突っ込んだ。




一方、合図を確認したエン。

「合図だ」

エンは、窓枠につかまり、勢いをつけ、窓を蹴破る。

「ッ!?」

シャルロットたちは一瞬警戒した。

だが、

「やあ、助けに来たよ」

エンがそう話しかけた。

「あなたは、エン!?」

シャルロットが驚いた声で尋ねてくる。

エンは頷き、

「皆も来てる。さあ、早く脱出しよう」

2人に杖を差し出す。

2人は杖を受け取ると、頷いた。




「うおおおおおおっ!!」

才人は何度目になるか分からない突撃でビダーシャルに斬りかかる。

その度にお互いに弾き飛ばされている。

だが、才人は毎回地面を転がっているのに比べ、ビダーシャルは、多少吹き飛ばされて入るが、転んですらいない。

いつかは、才人の体力が尽きる。

「如何すればいいのよ!?」

ルイズの叫びにデルフリンガーが答えた。

「なに言ってやがる。お前さんはもう知ってるはずだぜ。先住魔法を解除する方法を」

そう言われ、ルイズがはっとなる。

「『解除』ね!」

「詠唱しろルイズ!俺が時間を稼ぐ!」

「うん!」

ルイズは頷き、詠唱を開始する。

そんな2人を目掛け、無数の石礫が飛んでくる。

「うおおおおっ!!」

デルフリンガーと覇竜刀の二刀流で石礫を防ぐ。

ギルモンも、ファイヤーボールを放つ。

だが、才人とギルモンだけでは対処できない。

そう思われたとき、

「フレイム・アロー!!」

無数の炎の矢が石礫を砕いていく。

「アイナっ!?」

才人が驚く。

「私たちがいるって事も、忘れてもらっちゃ困るわ!」

キュルケもそう言い、魔法で石礫を防ぐ。

それに次いで、ギーシュが、マリコルヌが、モンモランシーが、ルイズを守るために魔法を唱える。

「皆・・・・」

才人は呟く。

「サイト、確かにシャルロットは私達の友達だよ。けどね・・・・」

アイナが一旦言葉を切り、

「ルイズやサイトも、私達の友達なんだよ」

そうハッキリと言った。

「そういう事よ」

モンモランシーが同意する。

「友人を見捨てる事は、貴族として・・・・いや、男として恥だからね」

ギーシュが頷き、

「水臭いよサイトたちは」

マリコルヌが笑う。

そして、ルイズの詠唱が完成した。

「俺にそのディスペルをかけろ!」

デルフリンガーの声にルイズが杖を振り下ろす。

デルフリンガーの刀身が輝きだした。

才人は覇竜刀を地面に突き刺し、両手持ちでデルフリンガーを構える。

キュルケが、アイナに呼びかけた。

「アイナ!サイトの道を作って!強力なのを一発頼むわ!」

「わかった!」

アイナが頷き、呪文を唱えだす。

アイナの杖が掲げられ、火球が膨れ上がっていく。

「サイト!」

「おう!」

アイナが叫ぶと同時、才人が駆け出す。

「フレイム・スフィア!!」

巨大な火球が放たれる。

才人は、その後ろに付き、駆ける。

「無駄な事を」

ビダーシャルは、迫り来る火球を見てそう呟く。

だが、その火球は上方へ逸れる。

「何?」

怪訝に思ったビダーシャルだが、そのすぐ後に才人が切りかかってきた。

「無駄・・・・何っ!?」

余裕の表情を浮かべていたビダーシャルだがすぐに驚愕の色へと変わる。

『解除』がかかったデルフリンガーの刀身は、『反射』の障壁を切り裂いていく。

「シャイターン・・・・・これが世界を汚した悪魔の力か!」

敵わぬと見て取ったのか、ビダーシャルは指輪に封じ込められた風石が発動する。

ビダーシャルは浮き上がった。

「悪魔の末裔よ!警告する!決してシャイターンの門へ近付くな!そのときこそ、我らはお前たちを打ち滅ぼすだろう!」

空へと消えていくビダーシャルを見ながら、才人達はへなへなと地面に崩れ落ちた。

ホッとすると同時に、気が抜けたのである。

精神力を使い果たしたルイズは地面に倒れて寝息を立て始めた。

ギーシュがポツリと呟いた。

「この僕がエルフに勝った。信じられない」

「別にアンタが負かしたわけじゃないでしょ」

とモンモランシーが言った。

「けど、皆がいなかったら危なかった。皆の力で勝てたんだ」

才人が、倒れたままのルイズを抱き起こしながら言った。

その時、

「皆~!」

城の中から、シャルロットとシャルロットの母を連れたエンが現れた。

「エン!シャルロット!」

アイナが叫んで駆け寄った。

「お姉さま~!!」

イルククゥがシャルロットに抱きつく。

「シルフィード・・・・」

「良かったのね、きゅい」

イルククゥは笑顔でシャルロットを抱きしめる。

そのまま、シャルロットは皆に視線を向ける。

皆は笑みをシャルロットに向けている。

アイナとキュルケが前に進み出た。

「キュルケ・・・・・アイナ・・・・・」

シャルロットは2人の名を呟く。

アイナは笑みを浮かべ、

「言ったでしょ?助けが要るときは何時でも言ってね、って」

続いてキュルケが、

「私も言ったはずよ。世界中を敵に回しても、私はあなたの味方でいるって」

2人の言葉を聞いたシャルロットは、瞳に涙を滲ませる。

「・・・・皆・・・・ありがとう・・・・」

シャルロットは、涙を流しながらそう言った。

一同は笑顔になる。

そんなアイナ達を、双月は優しく見守っていた。





次回予告


シャルロットの救出に成功したアイナ達。

だが、国境寸前で、再びシェフィールドの襲撃を受ける。

襲い来る鋼の巨人ヨルムンガンドと、レナモンの完全体、タオモンの前に窮地に立たされるアイナ達。

だが、エンが失われた記憶を取り戻すとき、アイナを護る炎は蘇り、才人とギルモンの真の究極進化が目を覚ます!

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第三十九話 蘇る炎。舞い降りる聖騎士。

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

三十八話完成!

ノリにノッてハイペースです。

さて、今回の物語は、アニメ8割、原作1割、オリジナル1割って所ですかね。

それなりに上々の出来栄えだと思います。

多少の手抜きは目立ちますが・・・・・・

ですが、次はいよいよ拓也復活!

いや~漸く来たよ。

では、次回もお楽しみに!



[4371] 第三十九話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/05/05 16:55
無事シャルロットと母親を救出したアイナ達。

追っ手から逃れるためにゲルマニアへと向かう事になる。


第三十九話 蘇る炎。舞い降りる聖騎士。


シャルロットが救出された事は、シェーフィールドはガーゴイルを通して知っている。

「ビダーシャル卿がしくじったようです」

シェフィールドは、ジョゼフにそう報告する。

「あっけないものだな。まあいい。所詮前座に過ぎん」

「では、いよいよあれを?」

ジョゼフの言葉にシェフィールドは反応する。

「ああ・・・・・この新しい玩具で遊んでみようではないか」

ジョゼフの視線の先には、瞳が不気味に赤く光る巨人の姿があった。




一行は馬車でゲルマニアの国境を目指していた。

トリステインに向かうよりも国境が近いため、ひとまずガリアから出ることが優先されたのだ。

ここに来るまでも、検問がいくつかあった。

だが、その度に一行は変化の呪文で要人に化けたシルフィードや、キュルケの機転で上手く立ち回り、検問を突破した。

今の場所は国境に近く、周りは岩山ばかりである。

暫く進むと、橋が見えてきた。

「国境だ!」

「橋を渡れば、もうゲルマニアだよ」

「突っ走れなのね」

馬車が橋に近付いたとき、馬車を影が覆う。

気になった才人が空を見上げると、何か巨大なものが上空から降ってきた。

「危ねえ!!」

才人は無理やり手綱を引き、馬車を停止させる。

それは馬車の目の前に着地し、砂埃を巻き上げる。

砂埃に咳き込むギーシュの横で、才人が唖然として目の前のものを見上げた。

「嘘だろ・・・・・」

才人が呟く。

「え?」

ギーシュが才人の顔を見た後、その視線を追う。

「う、うわああああああっ!」

悲鳴を上げながら頭を抱えた。

「なんてこった・・・・・・」

才人が呆然とした声で呟く。

才人の視線の先には、マントを被った巨大な何か。

それが立ち上がると同時に、マントが取れていく。

そこから現れたのは鋼の鎧を纏った巨人であった。

赤い目が不気味に光る。

「何なんだコイツは!?」

才人は叫んだ。

その時、

「お久しぶりねガンダールヴ」

その声が聞こえ、目を凝らすと、鋼の巨人の方に女性が立っていた。

「シェフィールド!?」

「まさかこのまま逃げ切れると思ってたんじゃないでしょうね?」

シャルロットは馬車の中からシェフィールドの姿を確認すると、

「奴らの狙いは私。隙を見て橋を渡って」

才人にそう言って、馬車から飛び出す。

「タバサ!?出るなっ!?」

シャルロットは杖を構えると、呪文を唱えだす。

「これは姫君、ご無事でなにより。このヨルムンガンドと戦おうとは見上げた勇気ね」

「ヨルムンガンド?」

シェフィールドの言葉に、才人は反応した。

そして、シャルロットの呪文は完成する。

唱えた呪文は『ジャベリン』。

ただ、『スクウェア』となったシャルロットが放つそれは、今までよりも巨大である。

「ジャベリン!」

巨大な氷の槍が、シェフィールド目がけ突き進む。

それでも、シェフィールドは余裕の笑みを崩さない。

氷の槍がシェフィールドを貫くかと思われたその時、光の壁が氷の槍を止めた。

「ッ!?」

それは『反射』と同じ光だった。

『ジャベリン』は、勢いを無くし、地面に落下し突き刺さる。

「残念ながらあなたに用はないの・・・・邪魔よ!」

シェフィールドは、言い放った。

「ならば、僕達が相手をしよう」

ギーシュが言った。

ギーシュは造花の杖を掲げ、

「ワルキューレ!あいつをやれ!」

青銅のゴーレムを錬金し、シェフィールドへ向かわせる。

キュルケも、火球を何発も放った。

爆発に包まれるヨルムンガンド。

「やった!」

ギーシュはそう言うが、

「まだ!」

シャルロットのいうとおり、ヨルムンガンドが巨大な剣を振り回し、煙を吹き飛ばす。

その体は無傷であった。

その時、エンとギルモンが馬車から飛び出す。

「こんどは僕達が相手だ!」

ヨルムンガンドの上からシェフィールドは2匹を見下ろす。

「あんたたちの相手は別にいるわ。レナモン」

シェフィールドがそう言うと、シェフィールドの傍らに、レナモンが現れる。

シェフィールドは、デジヴァイスを取り出す。

――EVOLUTION

シェフィールドのデジヴァイスから光が発し、レナモンを包んだ。

「レナモン進化!」

光の中でレナモンが進化する。

「キュウビモン!!」

キュウビモンがエンとギルモンの前に降り立つ。

「進化するなんて!」

レナモンの進化を始めてみるキュルケ達は驚愕している。

才人は気を取り直し、

「けど、俺たちが力を合わせれば、成熟期ぐらい・・・・」

才人がそう言った。

「それもそうね・・・・ならこれならどうかしら?」

更なる光がシェフィールドのデジヴァイスから発せられる。

「まさかっ!?」

才人は目を見開く。

それは最悪の予感であった。

―――MATRIX

  EVOLUTION―――

光がキュウビモンを包む。

「キュウビモン進化!」

キュウビモンが光の中で進化する。

完全体へと。

その名は、

「タオモン!」

その姿は、陰陽師のような姿をした人型の狐だった。

「そんな・・・・完全体に進化させやがった」

才人の顔には焦りの色が浮かんでいる。

「行くよ!ギルモン!」

「おっけー、エン!」

2匹のデジモンはそれに屈することなくタオモンに向かっていく。

「ファイヤーボール!」

ギルモンが口から火球を吐き出す。

火球はタオモンに一直線に向かっていく。

だが、

「瘟!」

タオモンが札を取り出し、念を込めると結界が発生し、タオモンを包む。

ギルモンのファイヤーボールはあっさりとかき消された。

「このぉ!!」

エンが直接殴りかかる。

だが、

「うわっ!」

簡単に弾き返された。

更に、

「狐封札!」

長い袖の中から、無数の札が放たれる。

エンとギルモンは慌てて逃げる。

札は地面に当たると爆発を起こした。

「ガンダールヴ」

シェフィールドが才人に呼びかける。

「そろそろ切り札を出したらどうかしら?」

「切り札?」

才人は一瞬何のことか分からなかったが、すぐにはっとなる。

「いいわ。分からないなら、そこの馬車を叩き潰すまでね」

シェフィールドがそう言うと、ヨルムンガンドの目が輝き、動き出そうとする。

「そうはさせるか!」

才人は馬車から飛び降りて駆け出す。

「サイト!」

馬車の中からルイズが叫ぶ。

「来るな!奴の狙いは、お前だ!」

才人はそう叫んで駆けていく。

「嫌よ!私も一緒に・・・・」

そう言って、馬車から飛び出そうとするが、

「ルイズ!ダメ!」

アイナとモンモランシーに止められる。

「嫌!放して!」

「何やってるのマリコルヌ。早く馬車を出して!」

モンモランシーがマリコルヌに呼びかける。

「わ、わかった!」

マリコルヌは慌てて馬車を走らせる。

「いいから放して!」

アイナとモンモランシーを振りほどいたルイズが馬車の後ろから飛び降りる。

「ルイズ!」

ルイズを追って、アイナも飛び降りた。

飛び降りた拍子に転んだルイズだが、痛みを堪えて立ち上がった。



「うおおおおおっ!!」

才人がヨルムンガンドに向け突っ込む。

「無駄よ!」

シェフィールドの言葉通り、才人は『反射』によって吹き飛ばされる。

才人は何とか体勢を立て直すが、踏み出されたヨルムンガンドの一歩の衝撃で再び吹き飛ばされる。

「うわっ!?」

すると、ヨルムンガンドが屈み、何かに手を伸ばした。

標的はルイズであった。

ルイズはヨルムンガンドの脅威に体を強張らせ、動けないでいた。

ヨルムンガンドの手が迫り来る。

その時、

「ルイズ!危ない!」

アイナがルイズを突き飛ばした。

「きゃっ!?」

ルイズはヨルムンガンドの手から逃れる。

しかし、

「きゃあああっ!」

アイナがヨルムンガンドの手に捕らえられる。

「アイナ!」

ルイズが叫ぶ。

「虚無の担い手の変わりに捕まるなんて、立派ね。でも、あの子たちにはこっちの方が効果的かもしれないわね」

シェフィールドは、そう言うとルイズに向き直る。

才人がルイズを護るように剣を構えた。

「さあ!虚無の担い手!あなたの力を見せて!虚無の担い手の本当の力を!」

シェフィールドはルイズに向けてそう叫んだ。

「何ワケの分からない事言ってるの!?早くアイナを放しなさい!!」

ルイズはそう叫ぶ。

「あなた達、自分の立場が分かってないようね」

シェフィールドが冷たくそう呟くと、額のルーンが一瞬輝く。

アイナを握るヨルムンガンドの手に力が加えられた。

「きゃぁああああああああああっ!!」

体中の骨が軋み、余りの痛みに悲鳴を上げるアイナ。

「アイナ!」

エンがタオモンを無視して、ヨルムンガンドに向かった。

「このっ!」

エンがアイナが捕まっている手に向けて跳び上がったその時、

「なっ!?」

一瞬で目の前に移動してきたタオモンの袖の一撃を貰い、空中に投げ出される。

「うわっ!?」

タオモンは袖の中から巨大な筆を取り出す。

そして、その筆で空中に文字を書くような動きをする。

「梵・筆・閃!!」

空中に何かの文字が描かれ、それが光を放ちながらエンに直撃する。

「エンッ!!」

その瞬間を目撃したアイナは悲鳴を上げるようにエンの名を叫んだ。

そのままエンは吹き飛ばされ岩山に激突。

瓦礫に埋もれる。

「あれは助からないわね」

シェフィールドが、口端を吊り上げながらそう言った。

「エンッ!エンッ!!」

アイナは涙を流しながらエンの名を叫ぶ。

「てめぇ!!」

才人が覇竜刀を構えて突っ込むが、

「無駄だと言ったはずよ!」

先ほどと同じく弾かれる。

その拍子に覇竜刀が才人の手から弾かれ、エンが吹き飛ばされた岩山の近くに突き刺さる。

それでも、才人は身を起こし、デルフリンガーを握る。

「このやろう!」

その時、ヨルムンガンドがアイナを捕まえている手を前に突き出す。

「さあっ!どうしたの虚無の使い手!?あなたの力を見せないとお友達が死ぬ事になるわよ!」

再びヨルムンガンドの手に力が加えられる。

「きゃぁああああああああっ!!」

アイナの悲鳴が響く。

「アイナッ!!」

ルイズの叫びがこだまする。

「くっ・・・・・」

ルイズが観念しようとした時、

「ル、ルイズ・・・・・・」

痛みに耐え、搾り出すような声でルイズに言った。

「わ、私のことは・・・・気にっ・・・・・しないでっ・・・・・わたっ・・しに・・・構わずっ・・・逃げっ・・・て・・・・」

「黙りなさい!!」

シェフィールドのルーンが輝き、ヨルムンガンドの手に更なる力が加えられる。

「きゃあっ!!・・・・・」

アイナの意識が朦朧としてくる。

「アイナッ!」

才人が叫ぶ。

アイナの脳裏に今までの思い出が浮かぶ。

その中で、拓也の言葉の一つが思い浮かんだ。

『心配するな。アイナは俺が護ってやる』

その言葉が思い浮かんだとき、アイナは自然と一つの言葉を口にした。

それは、絶対にはかなかった弱音。

それは、拓也を嘘吐きにしてしまう言葉。

「助けて・・・・・タクヤ・・・・・・」

拓也への救いの言葉を口にした。




瓦礫に埋もれたエン。

エンの意識は真っ暗な暗闇の中にいた。

(僕は・・・・・死ぬのかな・・・・)

エンは思わずそう思う。

結局自分が何者かも分からず死ぬのかと、エンは暗闇の中で蹲る。

その時だった。

『助けて・・・・・タクヤ・・・・・・』

(え?)

小さな言葉にも関わらず、その声はエンの心にすとんと入り込む。

それは、間違いなくアイナの声である。

(アイナ?)

そして、その言葉はまるで穏やかな水面に投げ入れられた小石のように、エンの心に波紋を広げていく。

エンの脳裏に次々と記憶が蘇る。

家族のこと。

デジタルワールドの冒険。

仲間との出会い。

数々の戦い。

ハルケギニアへの召喚。

そこで出会った人々。

大切な仲間たち。

そして、自分に好意を寄せてくれた3人の少女たち。

(そうだ・・・・・“俺”は!)

エンは目を見開いた。

瓦礫の中から身を起こす。

近くに突き刺さっていた覇竜刀を手に取り、駆け出した。



才人は焦っていた、アイナはもう限界だという事に。

「畜生!俺が・・・・俺がアイナを助けなきゃ!・・・・アイツの代わりに!」

才人がそう言ってデルフリンガーを構えようとした時、

「才人!!それは!“俺”の役目だ!!」

エンが駆けてくる。

「エン!?」

シェフィールドは呆れたように呟く。

「まだ生きていたのかい。タオモン」

そう言われ、タオモンはエンに向かっていく。

「エン!無理だ!逃げろ!」

それでもエンは止まらない、全力で駆けていく。

「うぉおおおおおおおおおっ」

エンは叫び声を上げる。

――タッタッタッタッタッタッタッタッタッ

エンの足が地面を蹴る音が響く。

――タッ――――タッ――――タッ――――タッ――――タッ

やがて、その足音がゆっくり感じるようになり、

――タッ――――タッ―――――タッ――――――タッ―――――――ザンッ!

とある一歩から、大地を力強く踏みしめる音に変わった。

「なっ!?」

「あれはっ!?」

「まさかっ!?」

「嘘っ!?」

「あ・・・・」

「きゅい!?」

仲間の間から驚愕の声が漏れる。

炎のようなオレンジ色の翼。

体を覆う赤き鎧。

赤い体に目立つ金色の髪。

それは正に、

「フレイモン進化!アルダモン!!」

アルダモンは翼を広げ飛び立つ。

アルダモンを迎え撃とうとする、タオモン。

だが、

「邪魔だ!」

アルダモンの裏拳の一発で吹き飛ばされ、岩山に激突するタオモン。

アルダモンは覇竜刀を振りかぶった。

覇竜刀に炎が宿る。

「アイナを・・・・放しやがれ!!」

アルダモンのフレイムソードが炸裂した。

多少の抵抗があったものの、アルダモンはヨルムンガンドの手首を切り落とす。

ヨルムンガンドは痛みを感じるのか、叫び声のようなものを上げて後退する。

アルダモンはアイナを握っていた手を細切れにして、アイナを抱きとめた。

虚ろになっていたアイナの目がアルダモンの顔を捉える。

「あ・・・・・」

自然と、アイナの瞳から涙が零れる。

「少し、寝坊しちまったな」

その言葉に、アイナは我慢できずにアルダモンに抱きつく。

「・・・・すまない」

アルダモンはアイナを抱きかかえ、皆のところへ飛んでいく。

アルダモンは地上に降りるとアイナを地面に下ろす。

全員が駆け寄ってきた。

才人が口を開いた。

「お、お前・・・本当に拓也なのか?」

そう確認するように呟く。

すると、アルダモンはデジコードに包まれる。

そして、デジコードが消えると、

「はい、間違いなく俺です。才人さん」

拓也の姿がそこにあった。

「拓也・・・・・」

才人が感極まってきたとき、

「タクヤ!」

「タクヤさま!」

シャルロットとイルククゥに弾き飛ばされた。

「うおっ!?」

そのシャルロットとイルククゥは、我慢できずに拓也に抱きつく。

アイナ、シャルロット、イルククゥの3人に一気に抱きつかれた拓也はバランスを崩しそうになる。

「うわっ!っとっとっと」

拓也は少し文句を言ってやろうと思ったが、

「・・・・・・」

涙を流している3人の顔を見て、何も言えなくなってしまった。

そんな時、

「私を無視して和んでんじゃないよ!」

シェフィールドが叫び、ヨルムンガンドが近付いてくる。

「・・・・・空気の読めない奴だな」

拓也がヨルムンガンドを見上げて言った。

拓也は未だ抱きついている3人に、

「ちょっと離れててくれ、すぐに片付けるから」

そういう。

3人はちょっと名残惜しそうな表情をしたが、拓也の言うとおり離れた。

拓也はヨルムンガンドを見上げ、

「時間をかけるとアイナ達に心配をかけるからな。速攻で片付けさせてもらうぞ!」

拓也はデジヴァイスを掲げた。

画面に2つのスピリットが描かれる。

「エンシェントスピリット!エボリューション!!」

拓也がデジコードに包まれ、そのデジコードが巨大化する。

「ぐがあああああああああっ!!」

凄まじい叫び声を上げ、拓也はスピリットを纏っていく。

「エンシェントグレイモン!!」

灼熱の赤き巨竜が再び姿を現した。

「コイツは・・・・あの時の・・・・」

才人はアルビオンでの撤退戦を思い出した。

他の皆は驚愕の余り声も出ない。

「きゅい~~~!」

否、イルククゥだけは目をキラキラさせてエンシェントグレイモンを見ていた。

エンシェントグレイモンは、ヨルムンガンドを見据えた。

そして言い放つ。

「忠告しとくぞ、シェフィールド。避けた方が身のためだ!」

エンシェントグレイモンのその言葉に、

「何を馬鹿なことを」

そう言って聞こうともしない。

だが、口を開け、炎のエネルギーを溜めるエンシェントグレイモンを見て、考えを変えた。

「ま、拙い!」

シェフィールドは、なにやらマジックアイテムを発動させ、ヨルムンガンドの肩から離脱する。

そして、

「オメガバースト!!」

エンシェントグレイモンの口から放たれる灼熱の業火。

それは、ヨルムンガンドの『反射』など物ともしない。

ヨルムンガンドは、一瞬で蒸発した。

オメガバーストの射線上の小山が消し飛んだのは、まあ、些細な事だろう。

エンシェントグレイモンは、拓也に戻る。

皆が駆け寄ってくる。

拓也も、皆の方へ歩き出そうとした瞬間、よろけてバランスを崩す。

「タクヤ!?」

アイナが慌てて拓也の肩を支える。

「タクヤ!大丈夫!?」

「あ、ああ。ゴメン、まだ体は本調子じゃないみたいだ」

アイナに支えられながら、拓也は歩く。

「ねえ?」

アイナが拓也に尋ねてくる。

「何でエンの姿になってたの?」

アイナが最大の疑問を口にした。

「ああ、俺もよく分からないんだけど・・・・・」

拓也が説明を始めようとした時、

「安心するのはまだ早いわよ」

シェフィールドの声が響く。

岩山の上に立つシェフィールド。

「ヨルムンガンドがあの1体だけだと思ったら大間違いよ」

シェフィールドが手を上に上げると、再び空から影が降ってくる。

しかし、今度は1体ではない。

その数は5。

その5体のヨルムンガンドがシェフィールドの後ろに着地する。

「ええっ!?あ、あれが5体!?」

ギーシュはすっかり怖気づいてしまっている。

「そっちのお坊ちゃんも力を使い果たしたみたいだからねえ・・・・・私をコケにしてくれた報い、たっぷりと受けるがいいわ!!」

怒りの感情を露にして、シェフィールドは、叫んだ。

「ちょっと、どうするのよ?」

キュルケが焦り半分でそう尋ねた。

全員が怯える中、

「・・・・・やっぱりここは、才人さんと、ギルモンに任せるしかありませんね」

拓也がそう言った。

「拓也・・・・けど・・・・俺は・・・・・」

才人は俯く。

そんなようすに拓也はため息を吐き、

「才人さん。才人さんにとって、ギルモンは何なんですか?ただの戦うための道具なんですか?」

「そんなわけあるかっ!!ギルモンは・・・・ギルモンは、俺の大切な相棒だ!!」

拓也の馬鹿げた質問に、才人はハッキリと答えた。

拓也は笑みを浮かべる。

「それでいいじゃないですか」

「え?」

「ギルモンは才人さんにとって、唯一無二のパートナーです。その他に、何が望みですか?」

「・・・・・・・」

才人は考えるが、何も出てこない。

そんな時、

「サイト、一緒に戦おう!」

ギルモンがそう言った。

「ギルモン・・・・・」

「ギルモン、サイトが大好き。だからサイトを護る。けど、ギルモンだけじゃ勝てない相手がいる。それでも、サイトが一緒に戦ってくれれば、ギルモン、負けない」

「ギルモン・・・・・」

才人はギルモンに近付いていく。

そんな才人とギルモンの周りに光が発生する。

「何?この光?」

ルイズがポツリと声を漏らす。

才人はギルモンに言った。

「一緒に戦おう。ギルモン!」

「うん!」

才人の言葉にギルモンが頷いた。

「うらやましいねえ・・・・」

ポツリとデルフリンガーが呟く。

その時、

「デルフ、お前もだ」

「何だって?」

デルフリンガーが、驚いた声を上げる。

「お前も、俺に取っちゃ大切な相棒だ。ワルドの戦いの時、お前は自分を唯の道具に過ぎないって言ってたけど、それは違う。俺からしてみりゃ、お前も立派な俺のパートナーだ」

「嬉しいねえ・・・相棒」

ギルモンとデルフリンガーに笑みを向ける。

その時、才人の目の前に光が発生する。

「デジヴァイス・・・・・」

才人はその光に手を伸ばし、それを掴んだ。

それは、前の赤い縁取りとは違い、金色の縁取りだった。

「これが、俺たちの新しいデジヴァイス・・・・」

その時、デジヴァイスから光が上空に伸び、トリステインの方へ飛んでいく。



トリステイン魔法学院の中庭の一角にあるゼロ戦が置かれている小屋。

そこに光が降り注いだ。

その光の中で、ゼロ戦がまるで粒子に分解されるように消えた。



才人達の上空に、突如としてゼロ戦が現れる。

「ゼロ戦!?何でここに?」

才人がそう呟いたとき、デルフリンガーが光に包まれる。

「どうした!?デルフ!?」

「わかんねえけど。知らねえ情報が俺の中に入ってくる!」

やがてデルフリンガーは宙に浮くと一直線にゼロ戦に飛んでいった。

「デルフ!?」

光に包まれるデルフリンガーがゼロ戦に接触した瞬間、ゼロ戦も光に包まれる。

そして、光が収まったとき、ゼロ戦は赤いボディをもった、鳥のような姿をしたものに姿を変えていた。

「ゼロアームズ・グラニ・・・・・」

才人がポツリと呟く。

「サイト!」

ギルモンが才人に呼びかける。

「ああ!行くぞ!ギルモン!!」

才人とギルモンの周りに発生していた光が更に強まり、光の柱と化した。

―――MATRIX

  EVOLUTION―――

「マトリックスエボリューション!」

才人がデジヴァイスを自分の胸に当てると、才人の身体がデータ化される。

そして、才人の身体とギルモンの身体が一つになる。

「ギルモン進化!」

ギルモンの身体が分解され、再構成される。

今度は、才人の身体と共に。

「これが、俺たちの・・・・本当の究極進化!」

才人とギルモンが一つとなった真の究極体。

白き鎧を身に纏い、赤きマントをはためかせる。

右手には聖槍グラム。

左手には聖盾イージス。

正に聖騎士たるその姿。

その名は、

「デュークモン!!」

光の柱の中から現れる聖騎士。

その姿には拓也も驚いている。

「人間と、デジモンが一つに・・・・・」

全員が固まる中、空から声が響いた。

「乗りな!相棒!」

それはデルフリンガーの声であった。

デュークモンはその場で高く跳び上がる。

赤き巨鳥となったデルフリンガーは、デュークモンをその背に乗せる。

「往くぞ!デルフ!!」

「おうよ!」

デルフリンガーは、猛スピードでヨルムンガンドの1体へ突撃する。

デュークモンは、右手のグラムを構えた。

「ロイヤルセーバー!!」

聖槍グラムが光り輝き、デルフリンガーのスピードも相まって、一筋の光の矢のようになる。

そのまま、ヨルムンガンドへ突撃した。

ロイヤルセーバーは、『反射』など紙の如く突き破る。

そのまま腹部を貫通し、ヨルムンガンドは砕け散る。

その時、ヨルムンガンドの1体が巨大な剣を振り上げ、斬りかかって来た。

だが、デュークモンは避ける素振りすら見せず、

――ガキィン

聖盾イージスで、その巨大な剣を微動だにせず受け止めていた。

「そのような心の無い剣など、いくら打ち込もうとこのデュークモンに傷一つつけることは出来ない!」

その言葉と共に、グラムを一閃。

ヨルムンガンドの上半身と下半身を両断する。

残ったヨルムンガンドの3体が固まって迫ってくる。

デュークモンはイージスを前に突き出すように構えた。

イージスが光り輝く。

それと共に、デュークモンの左手にあるガンダールヴのルーンも強く輝く。

そして、

「ファイナル!エリシオン!!」

聖盾イージスから放たれる巨大なエネルギー波。

それは、3体のヨルムンガンドを消滅させるだけでは飽き足らず、前方の岩山を一つ残らず消し飛ばす。

「凄い威力だ・・・・・ロイヤルナイツに匹敵・・・・それ以上かも」

その様子を見た拓也が呟く。

デュークモンは、シェフィールドを見下ろす。

シェフィールドは、悔しそうな顔をした後、

「レナモン!」

レナモンを呼び、どこかへ消え去る。

それを確認したデュークモンはみんなの元へと降りていく。

そして、地面に下りると、デュークモンが光に包まれ、才人とギルモンに分離する。

デルフリンガーも巨鳥の姿から、何時もの大剣の姿へと形を変える。

才人は暫く、何が起きたのかわけも分からずポケ~っとしていた。

未だにギルモンと一つになったのが信じられないらしい。

「サイト」

ギルモンの声に、才人は視線を向ける。

ギルモンを見て、才人は微笑み、ギルモンの頭を撫でる。

「これから改めてよろしくな、ギルモン」

「うん!」

そして、その直ぐ後に、才人は皆からもみくちゃにされるのであった。






次回予告


無事ゲルマニアに辿り着き、キュルケの実家にお邪魔する事になった一行。

その時、アンリエッタからヴァリエール領への出頭命令が出される。

そのことに非常に怯えるアイナとルイズ。

そして、ルイズの母親の恐ろしさを知ることになる。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第四十話 『烈風』カリン

今、異世界の物語が進化する。




才人のデジモン成長日記


名前:デュークモン
属性:ウィルス種
世代:究極体
種族:聖騎士型
必殺技:ファイナル・エリシオン、ロイヤルセーバー
通常技:スクリューセーバー、セーバーショット



あとがき

三十九話完成。

ノリノリで半日で書き上げました。

ちょっと急ぎすぎたかな?

でも、自分は休みが今日までなので。

序に言えばノリノリタイムもここまでです。

ノリノリすぎて力尽きました。

3話ぐらいはリリカルフロンティアの方を連続で更新する予定です。

あと、フレイモンからアルダモンへの進化シーンは、テイマーズのベルゼブモン復活の回の、インプモンからベルゼブモンへの進化を思い浮かべていただければ。

因みにあのシーン、自分はとても気に入っております。

では、次回をお楽しみに。



[4371] 第四十話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/05/31 14:53
シェフィールドを退けた一行。

無事に国境を越えて・・・・・


第四十話 『烈風』カリン


「我が名はアイナ・ファイル・ド・シンフォニア。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

国境を越えた馬車の中では、アイナが拓也へ『コントラクト・サーヴァント』を行なっていた。

アイナが拓也へそっと口付ける。

その瞬間、シャルロットとイルククゥが、ムッとした事はお約束である。

そして、

「ぐっ・・・・」

拓也が、ルーンを刻まれる痛みに耐える。

拓也の右手には、以前と同じルーンが刻まれていた。

「ふう・・・・・・」

拓也は一息つく。

その顔は真っ赤だ。

何故ならば、そのキスした光景は、馬車の中にいる全員にまじまじと見られていたからだ。

「とりあえず、これで元の鞘に収まったわけだ」

ギーシュがそう言う。

「そうね。それよりも私としては、何であんな姿になってたのかが聞きたいんだけど」

キュルケがそう拓也に問いかける。

「え~と、それについては、何となくだけど・・・・・・多分、スピリットが俺を守ってくれたんだと思う」

「スピリットが?」

アイナが聞き返した。

「うん。俺はあの時、魔法の集中攻撃を受けた。その時のダメージは確実に致命傷を超えてたし、多分、死ぬ寸前か、少なくとも心臓が止まるまでまで行ったんだ。きっと、そのときに使い魔のルーンが消えたんだと思う。けど、完全に死ぬ前にスピリットが俺を守ってくれたんだ。俺の身体をデジモンに変換して、力の大部分を俺の身体の治癒に当ててたんだ。だから、フレイモンの姿になったんだと思う」

「記憶を無くしてたのは?」

シャルロットが尋ねる。

「それは単純に、攻撃を受けたときのショックだと思うよ。記憶を無くすメリットが無いから」

「そう・・・・」

シャルロットは頷く。

「もう!そんなことはどうでもいいのね!タクヤさまがこうして戻ってきた。シルフィはそれだけでいいのね!」

そう言ってイルククゥは拓也の背に抱きつく。

「お、おい!イルククゥ!」

拓也は顔を赤くして慌てる。

「それもそうだね」

「同意」

そう言って、アイナとシャルロットも拓也の両腕に抱きつく。

「お、おい!」

拓也は更に顔を赤くする。

「ちょ・・・・離れてくれよ・・・・」

拓也はそう言うが、

「「「嫌(なのね)」」」

3人揃ってそう言われた。

静かだが、妙に迫力のあるその言葉に、拓也は何も言えなくなってしまう。

そこに、

「あのさぁ~~~~~~~~~~」

重々しい声が響く。

嫉妬魔人ことマリコルヌであった。

「この僕の前でイチャイチャイチャイチャ・・・・・・それは僕に対するあてつけかぁ!!!」

そのマリコルヌの迫力にルイズや才人達は怯える。

今のマリコルヌのオーラは、伝説ですら怯えて縮こまるものらしい。

「何でサイトやタクヤばっかり・・・・・・・・」

マリコルヌが鬼の形相で拓也を睨む。

「そんなけしからん奴には、このマリコルヌが神の鉄槌を「「「うるさい(のね)!」」」すいませんでした!」

アイナ、シャルロット、イルククゥの一喝で土下座するマリコルヌ。

ズッコケる才人達。

どうやら嫉妬魔人の負のオーラも、恋する乙女の怒りには全く通用しないらしい。

そのまま馬車は進んで行き、キュルケの実家に着くまでアイナ達は拓也から離れることは、殆ど無かった。




キュルケの実家に着いた時、ルイズはアンリエッタ宛にフクロウで手紙を出した。

内容は、シャルロットを無事に救出できた事に始まり、次に無断で国境を越えた事に対するお詫び、拓也が見つかったこと、最後に2、3日中に帰国するので裁きを受けたいとの旨を記した。

すると、1日で返事は返ってきた。

その内容は、“ラ・ヴァリエール領で待つ アンリエッタ”の一行だけであった。

その一行を見たルイズとアイナは震えだし、怯えだしたのだった。




ラ・ヴァリエール領へ向かう馬車の中。

「なあルイズ。お前、如何したんだよ?」

才人は怪訝な顔でルイズを見つめた。

ルイズとアイナは、ずっと震えっぱなしなのである。

同時に、激しく落ち着きがない。

「あなた達、熱病にでもかかってるの?寒いの?」

呆れた声で、才人の隣に座ったキュルケが、気だるげに髪をすいていた手を止めて尋ねた。

「ねえシャルロット、あなたもルイズとアイナ、変だと思うでしょ?」

シャルロットは、震えている2人を見て、

「怯えてる」

と呟いた。

「アーハンブラ城に乗り込むときより、怖がってるじゃない。特にルイズ、そんなに実家に帰るのが嫌なの?変な子ね」

才人は、ルイズの家族を思い出して、家族に責められるのが怖いのだろうかと予想した。

「でもまあ、取って食われるわけじゃないだろ。この間、参戦の許可を貰いにいくときだって、そんなに怖がってなかっただろ」

「事情が違うわ」

ルイズが、震える声で呟いた。

「事情?」

「この間は参戦の許可を貰いに行ったのよ。“規則”を破ったわけじゃないでしょ」

才人は、ルイズの肩を叩いた。

「規則というか、法律を破って怒るのは姫様や王政府だろ?そりゃ、お前の父さんや姉さんも怒るだろうけど」

「・・・・・ルイズの家には、規則を破る事が、死ぬほど嫌いなお方がおられるの」

ルイズと同じく、震えていたアイナが声を発した。

「そうなのか?けど、前に見た限りじゃ、確かにキツイ人は多かったけど、そこまで怯えるほどじゃなかったと思うけど・・・・・」

前に見たルイズの家族を思い出しながら、拓也が言った。

「か、かかか」

「か?」

「母様よ」

ルイズの言葉で、拓也と才人はルイズの母親を思い出す。

だが、確かに物凄い高飛車オーラを放ってはいたが、やはりそこまで怯えるほどのものなのかと首を傾げる。

「お尻でも叩かれんのか?」

才人がそう言ったら、ルイズはとうとうお腹を押さえてうずくまる。

「ルイズ!ルイズ!何なんだよ!」

「へええ、ルイズの母君って、そんなに怖いのかい?」

マリコルヌが惚けた声で言った。

呪詛の言葉を吐き出すような声で、ルイズが呟く。

「あんた達・・・・先代のマンティコア隊隊長、知ってる?」

「知ってるも何も有名人じゃないか!あの“烈風”カリン殿だろ?常に鉄のマスクで顔の下半分を覆っていたという・・・・・王国始まって以来の、風の使い手だったらしいね。その風魔法は、烈風どころか、荒れ狂う嵐のようだって」

マリコルヌの言葉で、ギーシュも思い出したらしい。

「エスターシュ殿が反乱を起こしたときに、たった1人で鎮圧してのけたという、あの“烈風”殿だろ?そういや父上が言っていたよ。まだ若かった頃の父上が、一個連隊率いて前線のカルダン橋に赴いたら、カリン殿の手で既に鎮圧された後だったってね。あの“烈風”だけは相手にしたくないって、いつも言っていたな。それに、同じ時期の竜騎士隊の隊長も『神風』と呼ばれ、カリン殿と同等の風の使い手で、『烈風』と『神風』の2人を合わせて、トリステインを守る『風の守護者(ウインドガーディアンズ)』なんて呼ばれていたそうじゃないか」

口々に、彼らは昔の英雄の話をし始めた。

「1人でドラゴンの群れをやっつけた事もあるんだろ?」

「ゲルマニア軍と国境付近で小競り合いになったとき、烈風殿が出陣した、という噂が立っただけで、敵が逃げ出したらしいよ」

「でも、とっても美しいお方だって話ね。噂では、男装の麗人とか・・・・・」

「まさか。あんなに強い女性がいるもんか・・・・・・って、男装?」

ギーシュはその言葉で、とある仮定に行き着く。

「・・・・・・今思い出したけど、アイナの父さんのゲイルさんが、ルイズの母さんの事を「カリン」って呼んでたような・・・・・」

拓也も、そのときのことを思い出し、つぶやく。

「そういえば、ジャンから聞いたんだけど、アイナのお父上の二つ名って『神風』じゃなかったかしら?」

「元竜騎士隊隊長とも言っていた」

キュルケが思い出したように呟き、シャルロットが補足する。

ここまで言えば、馬鹿でもわかるだろう。

「も、もしかして、あの“烈風”カリン殿って・・・・・」

「母君よ」

馬車の中の一同は、顔を見合わせ、ついで困ったようにルイズに尋ねた。

「うそ」

「ほんとよ。で、当時のマンティコア隊のモットー、アイナ以外で知ってる人いる?」

その場の全員が首を振った。

「“鋼鉄の規律”よ。母様は、規律違反を何よりも嫌っているの」



女王の馬車がラ・ヴァリエールの屋敷の跳ね橋を渡ったのは、トリスタニアを出発して2日目の昼のことであった。

お忍びの訪問であるので、取り巻きはアニエス以下、大きなフードを被ったコルベールと、銃士が5名のみ。

一行が跳ね橋を渡りきり、城門をくぐると、集まった屋敷中の下僕たちが一斉に礼をした。

中庭のポールに、するすると小さなトリステイン王家の百合紋旗が掲げられる。

お忍びの女王を迎えるための、ささやかな礼である。

アニエスはウマを下りると、馬車の扉を開けた。

城の本丸へと続く階段の真ん中に立つ魔法衛士隊の制服を見つけ、アニエスは目を細めた。

「どうなさいました?隊長殿」

アンリエッタは、階段の真ん中に立つ騎士を見つけ、驚いた声を上げた。

「マンティコア隊の衛士ではありませんか」

騎士は、幻獣マンティコアの大きな刺繍が縫いこまれた黒いマントを羽織っていた。

「マンティコア隊は、現在城勤めのはずですが。おまけにあの羽飾り。隊長殿の帽子ですぞ」

「しかし、ド・ゼッサール殿にしては、身体がほそいですわね」

「というかここにおられるはずがありますまい」

ゆっくりと衛士は階段を下りてきた。

銃士たちが警戒して、女王の周りを取り囲み、腰の拳銃に手をかける。

アニエスは一歩進み出ると、騎士の前に立ち塞がった。

騎士の羽飾りのしたの顔は、下半分が鉄の仮面に覆われている。

その鋭い眼光に一瞬気圧されそうになり、アニエスは剣の柄を握り締めた。

「ラ・ヴァリエール公爵ゆかりの者か?陛下を迎えるというのに、なんとも過ぎた悪ふざけだ。名乗られい」

しかし、騎士はアニエスの言葉に応えず、膝をつくと深々と礼をした。

「お久しぶりでございます、陛下。とはいっても、私を覚えているはずはありますまい。私がお城に奉公していたのは、それはもう、30年も昔の事でございますから」

「まあ」

「先代マンティコア隊隊長カリーヌ・デジレでございます。とはいっても、当時は借りの名を名乗っておりました。王家に変わらぬ忠誠を」

それを聞いて、アンリエッタの顔が綻んだ。

「では、あなたがあの“烈風”カリン殿!?」

「はい。その名をご存知とは、光栄でございます」

「ご存知も何も、有名ではありませんか!アニエス殿、この方が伝説の魔法衛士隊隊長の“烈風”カリン殿です!彼女の数々の武勇伝を聞きながら、わたくしは育ったのですわ!」

アンリエッタは、おてんばだった頃のキラキラした顔に戻り、カリーヌの手を取った。

「わたくし、子供の頃大変憧れましてよ。火竜山脈での竜退治!オーク鬼に襲われた都市を救った一件・・・・・きらびやかな武功!山のような勲功!貴族が貴族らしかった時代の、真の騎士!数々の騎士が、あなたを尊敬して、競って真似をしたと聞いております!」

「お恥ずかしい限りです」

「何をおっしゃるの!で、わたくし、そんなあなたの秘密を1つだけ知っておりますのよ!実は女性、そうよね?引退後は風のように消えたと聞きましたが、ラ・ヴァリエールにおられたのですね。現在は何をしておられるのですか」

カリーヌは、すっとマスクを外した。

その下の顔を見て、アンリエッタは目を丸くした。

「公爵夫人!公爵夫人ではありませんか!」

アニエスも驚いた顔になった。

「ではこの方が・・・・・・」

「ラ・ヴァリエール公爵夫人、つまりルイズの母君だったとは・・・・・」

「結婚を機に、私は衛士の隊服を脱いだのです。その時の話は、離せば長くなりますゆえ、ご容赦願います」

「了解しました。でもなぜ・・・・・・・・」

アンリエッタは尋ねる。

カリーヌは立ち上がった。

「今日の私は、公爵夫人カリーヌ・デジレではございません。鋼鉄の規律を尊ぶ、マンティコア隊隊長カリンでございます。国法を破りし娘に罰を与え、もって当家の陛下への忠誠の証とさせていただきます」

「罰ですって!?烈風殿が、ルイズに罰をお与えになるですって!」

アンリエッタは物々しい戦支度のカリーヌを見つめ、首を振った。

「乱暴はいけません!わたくしは、その、あのですね、ルイズに罰を与えにやってきたのではありませぬ。わたくしも若いゆえ、当初は憤りもいたしました。しかし、よくよく考えてみたのです。確かにルイズはわたくしの許しなく国境を越えましたが・・・・・それも友人を案じての行為。厳しく注意はするつもりですが、激しい刑罰を与えるつもりはありません」

「陛下のお優しい言葉、痛み入ります。しかしながら、陛下の王権は始祖により与えられた神聖不可侵のもの。ならばその名において発布された国法もそうであらねばなりませぬ」

カリーヌはさっと右手を上げた。

城の天守の影から、黒い、巨大な影が飛んでくる。

着地と同時に激しい砂埃が巻き起こる。

老いて巨大な、幻獣マンティコアであった。

「尊ぶべき国法がなおざりにされては、陛下の王道が立ち行きませぬ。それを破りしが、我が娘達となれば、なおさら許すわけには参りません」

カリーヌは50過ぎとは思えない軽やかな身のこなしで、マンティコアに跨った。

「カ、カリン殿!」

マンティコアはワシの形をした翼を羽ばたかせる。

目を見張るようなスピードで、主人を乗せた幻獣は、大空に舞い上がった。





ラ・ヴァリエールの城は、王都よりゲルマニアの国境に近い。

国境を越えて3時間も行くと、城の高い尖塔が見えてきた。

「な、なあルイズ・・・・・お前の母さんが、そのマンティコア隊の“烈風”殿だとしてもだよ?」

重苦しい雰囲気を破って、才人が口を開いた。

しかし、ルイズは何も応えない。

その頃、ルイズは震えるのを通り越し、ぽかんと口を開けて天井を見つめていた。

「30年も経てば、人間も変わるだろ?な?確かに昔は怖い怖い騎士様だったかもしれないけど、今はいい年なんだから、そんな無茶しないよ。罰って言ったって、せいぜい納屋に閉じ込められるぐらいだよ」

「・・・・・あんたは、わかってないわ」

臨終の床の重病患者のように、ルイズは言った。

「若い頃の激しさを、維持できる人間なんてそうそういないわよ」

モンモランシーがわかったようなことを呟く。

「・・・・・・あんたたち、わかってないわ」

「そんなに心配するなよ」

「・・・・・わかりやすくいうと、私の母よ。あの人」

その言葉に、馬車の中の全員が緊張した。

才人はその空気に耐え切れなくなり笑った。

空元気である。

「あっはっは!そんなに心配するなって!」

「そうそう!いくら伝説の烈風殿だって、今じゃ公爵夫人じゃないか!雅な社交界で、戦場の垢や埃もすっかり抜け落ちてしまったに違いないよ!」

その時、窓の外を指差して、シャルロットがポツリと呟いた。

「マンティコアに跨った騎士がいる」

ルイズは跳ね起きると、パニックに陥ったのか、馬車の窓を突き破って外に逃げようとした。

「ルイズ危ない!」

ルイズと同じように震えていたが、若干冷静だったアイナがルイズにしがみ付いて止めようとしたが、ルイズはアイナごと引きずって外に飛び出す。

その瞬間、

――ゴォオオオオオオオオオオオッ!!

巨大な竜巻が現れ、逃げ出したルイズと引きずられたアイナを絡め取る。

「な、何だあれ」

才人が唖然とした瞬間、竜巻は大きく膨れ上がり、馬車全体を包み込んだ。

激しい勢いで、馬と馬車を繋ぐハーネスが吹き飛び、逃げる間も無く馬車は地上に馬を残して空へと跳ね上がった。

「なんだこりゃあああああああ!」

「マジかぁあああああああああ!」

才人と拓也が怒鳴る。

「ぎぃやああああああああああ!」

ギーシュが絶叫する。

「「うわぁあああああああああああ!」」

ギルモンとマリコルヌが叫ぶ。

「いやぁああああああああああ!」

「なんなのねぇええええええええ!」

モンモランシーとイルククゥが喚く。

「参ったわねぇ・・・・・」

キュルケがぼやく。

「・・・・・・・・」

シャルロットは無言であった。

馬車はまるで、巨人の手につかまれたかのように空中で翻弄された。

馬車の中はまるシェーカーに入れられたカクテルだった。

唐突に竜巻が止み、馬車は空中から地面へと落下する。

「落ちる!落ちる!落ちる!」

地面に激突する寸前で、ふわりと馬車が浮かぶ。

騎士が『レビテーション』をかけたのだ。

ゆっくりと馬車は地面に着地するが、散々にシェイクされた一行は、馬車の中でぐったりとしていた。

才人と拓也は必死の思いで、馬車から這い出た。

ルイズとアイナの横には、幻獣に跨った黒いマントの騎士がいた。

倒れたルイズとアイナの近くに立ち、2人に呼びかける。

「起きなさい。ルイズ、アイナ」

2人はがばっと身を起こすと、

「母様・・・・・」

「カリーヌおば様・・・・」

と呟き、ガタガタと激しく震え始める。

「あなた達、何をどう破ったのか、この私に報告しなさい」

「その・・・・・む、無断で国境を、その」

「えと、あの、その」

ルイズの声は小さく、アイナにいたっては呂律が回っていない。

「聞こえませんよ」

「む、無断で国境を」

竜巻が飛んだ。

2人は一瞬で上空200メイル近く放り投げられ、ちっぽけな落ち葉のようにくるくると回転しながら落ちてきた。

「拙いっ!」

見ていられなくなった拓也は飛び出した。

「ダブルスピリット!エボリューション!!」

拓也がデジコードに包まれる。

「ぐっ・・・・あああああああああっ!!」

叫び声を上げて、スピリットを纏う。

「アルダモン!!」

アルダモンに進化した拓也は飛び立ち、落ちてきたアイナとルイズを受け止めた。

2人を抱きかかえ、アルダモンは地面に降りる。

「いくらなんでもやりすぎだぞ!」

2人を下ろしたアルダモンが叫んだ。

「あなたは確かアイナの使い魔の少年でしたね。なるほど、そのような能力があったのですか」

カリーヌは、一度頷くと、

「使い魔という事は、主人の盾も同然。盾を吹き飛ばすのは、これも道理。恨んではなりませんよ?」

巨大な竜巻がカリーヌの背後に現れる。

先程、馬車を包み込んだものと同じぐらいの規模だ。

『風』のスクウェアスペル、『カッター・トルネード』である。

この魔法は竜巻の間に真空の層が挟まってて、触れたものを切断してしまう恐ろしい魔法。

その竜巻は、アルダモンに近付いてくる。

だが、アルダモンは覇竜刀を上段に構える。

「はぁああああああああっ!!」

そして、気合を込めて振り下ろした。

そのときに生じた衝撃波で、『カッター・トルネード』は真っ二つになり、消え去る。

アルダモンはカリーヌに向きなると、

「確かに俺達は法律を破って、無断で国境を越えた。確かにそのことは悪い事をしたと思ってる」

そう話し出す。

「けど!間違った事をしたとは思っちゃいない!!」

アルダモンは言い放つ。

「仲間の命がかかってたんだ!規律を守って後悔するぐらいなら、規律を破って後悔しない道を選ぶ!」

「結果として、それはさらに多数の人間を不幸にしてしまう可能性があるのですよ」

カリーヌは静かに、しかし、重みのある声で反論する。

「それでも・・・・・記憶を取り戻す前の出来事だけど、俺は自分の選んだ道に後悔は無い!」

その言葉を聞いたカリーヌは、杖を構え、再び呪文を唱えようとした。

その時、後ろから抱きすくめられる。

「おやめください!もう、結構です!おやめください!」

ラ・ヴァリエールの城から、馬で駆けつけてきたアンリエッタであった。

後ろにはアニエスも見える。

「これ以上、わたくしの前で争うことは赦しませぬ!」

女王のその言葉で、カリーヌは杖を収めた。

それを確認したアルダモンは、進化を解く。

拓也に戻ると、アイナの様子を確認する。

アイナとルイズは目を回していたが、特に怪我は無い様だった。

無茶苦茶な様に見えて、カリーヌはちゃんと手加減していたのだ。

その事に安堵する拓也。

そして一行は、再びラ・ヴァリエールの屋敷に向かうのだった。






次回予告


ラ・ヴァリエールの屋敷で、シンフォニア一家も含め話をする一同。

ルイズが王家のマントを受け取り、丸く収まり、拓也もシュヴァリエとなる。

だが、何故か拓也はゲイルと試合する事になり、気付けば才人も巻き込まれる。

今ここに、英雄『風の守護者(ウインドガーディアンズ)』と伝説が激突する。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第四十一話 伝説VS英雄

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

祝!四十話達成~!

これだけ続くとは思いませんでした。

で、今回約3週間遅れた理由ですが、GWの超ハイペースの反動なのか、スランプ・・・・といいますか、小説を書く集中力が湧かなかったのです。

元々自分、集中力が持続しない方なんですが、それが更に酷かった。

今回、結構頑張って書いたのですが、短いです。

もしかしたら、次も結構遅れるかもしれません。

さて、一応拓也の再契約から、カリン登場まで書きました。

VSカリンは拓也に竜巻ぶった切って貰いました。

それ以外はあんまり変化なし。

では、次も頑張ります。





[4371] 第四十一話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/06/21 11:00
ルイズの母をアンリエッタが説得して、何とか丸く収まった一行。

気を取り直してヴァリエールの城へと向かう。


第四十一話 伝説VS英雄


一行がヴァリエールの門を潜り、馬車から降りると、

「あれ?あの風竜って・・・・」

拓也が、庭に見覚えのある風竜がいることに気付いた。

「間違いない、お父様のストームだよ」

アイナが間違いないことを確認する。

「・・・・・・ってことは・・・・」

拓也が、そう呟くと、

「ア~~~~イ~~~~~ナ~~~~~~~~~~~!!!」

そう叫びながら、一陣の風が駆け抜けた。

「むぎゅっ!?」

アイナがそう声を漏らす。

いつの間にか、銀髪の男、ゲイルがアイナを抱きしめていた。

「アイナ~~~!!よく無事に帰ってきた!怪我は無いか!?」

そう息をつく暇も無くまくしたてるゲイル。

拓也とルイズ、カリーヌを除いた一行は、その様子を見て呆然としていた。

「た、拓也・・・・・・あの人ってゲイルさんだよな?」

才人が確認するように呟く。

「そうですね」

拓也は肯定する。

「ゲイルさんって、あんなキャラだったか?」

「ゲイルさんは、基本親バカです」

「そ、そうなのか・・・・・・」

拓也の言葉に、呆然と呟く才人。

ギーシュ達の方は、英雄である『神風』のイメージが音を立てて崩れている事だろう。

そして、ゲイルが来た方から、トテトテと銀髪の少女が駆けてくる。

「お兄ちゃん、おかえり」

そう言ってきたのは、アイナの妹のミーナ。

姉のアイナが父親に取られているので、先に拓也に声をかけたのだろう。

「あ、ああ。ミーナ・・・・だったよな?」

拓也は確認の為に問いかける。

「うん」

ミーナは頷く。

拓也は何となくミーナの頭を撫でてやった。

ミーナは目を細めて、笑みを浮かべている。

と、次の瞬間拓也の手からミーナの頭の感触が消え、手が空を切る。

「ん?」

見ると、双子の姉のクリスが、ミーナを拓也から庇うように抱きしめていた。

「え~と、クリスだったな?」

拓也が聞くと、

「き、気安く呼ぶな!」

クリスがそう言ってくる。

拓也は頭を掻きながら、

「やれやれ、嫌われてるな」

と呟く。

「そんなことないわ」

と言ってきたのは、アイナと同じ赤髪を持つ母親のフレイア。

「クリスは照れてるだけよ」

フレイアはそういう。

「は、母上!?何を言っているのですか!?」

クリスは、顔を真っ赤にして反論する。

そんなシンフォニア一家の騒動を、一行はポカーンとしながら見つめていた。





暫くして、ラ・ヴァリエール家の居間で、ヴァリエール一家とシンフォニア一家、それに拓也と才人がアンリエッタを囲んでいた。

「先ずは、ルイズの秘密を話さなければなりませんね」

そうアンリエッタが言ったとき、

「ルイズの系統が“虚無”という事であることは聞き及んでおります」

ヴァリエール公爵がそういう。

アンリエッタは驚いた顔になる。

そのままヴァリエール公爵は言葉を続けた。

「ルイズを責めないでくだされ。ルイズの系統が“虚無”である事を聞かなければ、私はルイズの従軍を許可する事はありませんでした」

「・・・・・そうですか」

少しの沈黙が流れる。

ヴァリエール公爵がその沈黙を破った。

「陛下の訪問の意図をお聞かせ願いたい」

意を決したように深呼吸すると、アンリエッタは真っ直ぐにヴァリエール公爵を見つめた。

「わたくしに、ルイズをお預けください」

「私の娘です。陛下に身も心も捧げておりまする」

「そのような建前ではありません」

アンリエッタはアニエスを促した。

アニエスは頷くと、傍らの大きな革鞄をあけ、黒いマントを取り出した。

その紫の裏地に記された百合紋の形を見て、ヴァリエール公爵は目を大きく見開いた。

「それは王家の紋・・・・・マリアンヌ様がお若い頃に着用に及ばれた、マントではありませんか!」

「ルイズ、あなたに無断で国境を越えて、ガリアに侵入した罰を与えます」

「は、はいっ!」

「これを着用なさい」

「で、でも、これは・・・・・」

「ええ。これを着用するという事は、あなたはわたくしの姉妹ということになりますわね。つまり、第二位の王位継承権が発生するという事」

「お、おお、恐れ多いですわ。というか恐れ多いというものでは・・・・・・」

「あなたと、あなたが持つ力は大きすぎるのです。その肩には、常に巨大な責任と、祖国への義務が乗っている事を、二度と忘れないようにするための処置です」

厳しい目で、アンリエッタはルイズを見つめた。

フラフラと、蛇に飲まれた蛙のように、ルイズはそれを受け取った。

とんでもないルイズの出世を見守っていたヴァリエール公爵が、口を開いた。

「陛下、娘への分を越えた厚遇、感謝いたします。いや、どれほど感謝しても、これほどの厚遇に報いる事は出来ないでしょう。しかし、私は陛下にお尋ねせねばなりません」

「なんなりと」

「娘の、その伝説の力を使って、陛下は何をなさるおつもりですか?“虚無”は伝説。スクウェアクラスの魔法をあっさりと消し去ってしまったところを私も目撃しております。その威力はかなり強力なのでしょう。この前の戦役のように、他国との戦にお使いになられるのですかな?」

「そのたびのことは・・・・・・深く反省いたしました」

「我が娘は大砲や火矢ではありませぬ。陛下が娘に対してなんらかの勘違いをなさっておられるのならば・・・・・・」

「ならば?」

「我らは悲しいことに、長年仕えた歴史を捨て、王政府と杖を交えねばなりませぬ」

公爵としてではなく、娘を思いやる父としての言葉であった。

才人はそんなヴァリエール公爵の言葉に感動した。

ヴァリエール公爵のその言葉に、アニエスが咄嗟に剣を引き抜こうとした。

アンリエッタはそれを押し止めた。

「ではわたくしから、公爵に質問がございます。この国の品位と礼節と知性の守護者たる、旧い貴族のあなたに質問がございます」

「なんなりと」

「どうして戦いは起こるのでしょうか?英知を兼ね、万物の霊長として君臨し、あらゆる幻獣や亜人より秀でたはずの我らは、なにゆえ、同族で争いを重ねるのでしょうか?」

「・・・・・・・・・・」

「幾度となく、戦いが起こりました。人々が傷つき、死ぬところもこの目で見てまいりました。このわたくしも、戦いを引き起こしました。その結果、わたくしだけではなく、大勢の人が、大事な人間を・・・・・親を、子を、兄弟を、友人を失いました。わたくしは、背負いきれぬ罪を負ったのでございます」

「・・・・・戦は陛下だけの責任ではございますまい」

「いえ、わたくしの名の下に、皆戦い、傷つき、命を落しました。わたくしが背負わずに、誰が背負うというのでしょうか」

アンリエッタは深々と頭を垂れた。

「わたくしは・・・・・・ルイズの力を・・・・・・・何か正しい事に使いたいのです。ならばどうすればよいのか、今のわたくしには未だわかりませぬ。ただ、争いに用いるつもりはありません。それだけは信じてください。公爵」

「恐れながら陛下、争いに用いるつもりがなくとも、いずれ用いねばならぬときもあるでしょう。いや、強い力は人を惹きつけます」

「公爵の仰るとおりです・・・・・・・今また、他国が暗躍しています。強い力を欲して、我らに手を伸ばそうとしている輩がいるのです。手元に置いておきたい、というのはそういった連中から、ルイズを守るためでもあるのです」

「私の不安は、まさにそこにあるのです。強い力を欲する敵がいる。では、陛下がそうならぬ、と誰が言えるでしょうか?今、陛下のご決心のお言葉を頂きましたが、それが変わらぬという保障は何処にもありますまい。なにか、陛下のご決心を証明できうるものがございますかな?」

アンリエッタは困ったように目を伏せた。

しばらく、何かよい方法がないかと考えあぐねた後、ため息混じりに呟いた。

「ありませぬ。正直に申し上げて、わたくしは己がうまく信じられませぬ。したがって、証明のしようなど、ございませぬ」

それからアンリエッタはにっこりと微笑んだ。

屈託の無い、見たものの心を打たざるを得ない、心からの笑みであった。

「ですからわたくしは・・・・・・・心から信用できる友人を、傍に置きたいのかもしれませぬ。わたくしの間違いを糾すことのできる、真の友人を。わたくしが道を踏み外したときには、遠慮なく杖を向けることの出来る、友人を・・・・・・・そして、例えルイズも共に道を踏み外したときは、彼らが抑止力となってくれるでしょう」

アンリエッタはそう言いながら、拓也と才人に目を向ける。

「彼らが・・・・?」

「彼らは、虚無に匹敵、いえ、それ以上の力を有しています。そしてなにより、何事にも屈しない強い心を持っています。彼らならば、道を正す事が出来ると信じております」

ヴァリエール公爵はアンリエッタを見つめた。

暫くその目を覗き込んだ後、口を開いた。

「私は旧い貴族です。時代遅れの年寄りでございます。私の若い頃は、多少、物事が単純でございました。名誉と誇りと忠誠、それだけを守れば、誰にも後ろ指をさされる心配はなかったのです。しかし・・・・・・今は時代が違うのでしょう。強い、伝説の力が蘇った今、旧い正義、旧い価値観・・・・そういったものは意味を失っていくのでしょう」

娘を見る目で、ヴァリエール公爵はアンリエッタを見つめた。

「陛下は先程こう言われた。“己が信じられぬ”と。そのお疑いの心が・・・・・・見えぬ未来へと漕ぎ出す、なによりの指針となってくれましょう」

「父さま」

ルイズが駆け寄り、父に抱きついた。

「大きくなったねルイズ。この父親は、何時までも甘えが抜けない娘だと思っていたよ。だが、とっくにお前は巣立っていたのだね」

父は優しく、娘の頭を撫でた。

「父からの餞だ。お間違いを指摘するのも忠義だ。そして・・・・間違いを認めることが本当の勇気だよ。ルイズ、忘れてはいけないよ。私の小さなルイズ」

「・・・・父さま」

「つらい事があったら、いつでも帰っておいで。ここはお前の家なのだからね」

ヴァリエール公爵はルイズの額に接吻すると、ルイズの身体をそっと離した。

そして、アンリエッタに深々と頭を下げた。

「ふつつかな娘でありますが、お手伝いをさせてやってください。あなたの歩まれる王道に、始祖のご加護がありますように」

しばしの沈黙が流れた後、カリーヌが、ぽんぽんと手を打った。

「カリーヌ」

「難しい話は終わったようですね。夕餉まで、しばし時間があります。遠路はるばるいらしてくださった陛下をおもてなしするにはつたない席ですが、どうか列席くださいますよう。準備が整うまで皆様、ごゆるりと御寛ぎくださいませ」

そう言って、カリーヌは一旦退室する。

すると、アンリエッタが才人に向き直る。

「・・・・・姫さま」

アンリエッタは一瞬顔を曇らせたが、無理やり浮かべたような微笑をして見せた。

「ご無事でなによりですわ」

「いえ・・・・・・申し訳ありません。勝手な事をしてしまいまして」

「勇気ある殿方というものは、野生の鷹や馬のようですわ。“行くな”と言っても、行ってしまうのですから」

アンリエッタは、アニエスから受け取ったマントを、才人に手渡した。

シュヴァリエの紋が縫いこまれた、騎士用のマントであった。

「お返しします。女王が一度渡したものです。返却はまかりなりません」

「でも・・・・・」

才人は口ごもった。

「これはあなたを縛る鎖ではないのです。その羽ばたきを助ける翼です。羽織って損はないはずです」

才人は頷くとマントを受け取った。

マントを羽織った才人を、嬉しそうにアンリエッタは見つめた。

そして、アンリエッタは次に、視線を拓也に向ける。

「?」

拓也はその視線に気付き、なんだろうかと思う。

「アイナの使い魔さん・・・・・確か、タクヤさん・・・・・でしたよね?」

「はい」

アンリエッタの言葉に拓也は頷く。

「遅くなりましたが、貴方にもお礼を申し上げます。あなた方のお陰で、連合軍は無事撤退し、尚且つ戦争に勝利することができました」

「・・・・・・まあ、結果的に・・・・ですけど」

拓也は、皆を死なせたくなかっただけであり、戦争に勝利できたと聞いても別に嬉しくもなんともなかった。

「それでもあなたの成した事は、サイトさんと同じく、他に類を見ないほどです」

「はあ・・・・・」

「これは、わたくしからの感謝の気持ちです」

アンリエッタは、拓也に羊皮紙を渡す。

拓也は受け取った羊皮紙を広げる。

拓也のルーンが輝き、羊皮紙に書かれた内容を理解する。

それは、シュヴァリエの任命状であった。

「これって・・・・」

拓也はアンリエッタに視線を戻す。

「はい。あなたにもサイトさんと同じく、シュヴァリエの称号を与えます。もちろん、王家に忠誠を誓っていただく必要はありません。自分の魂に誓ってくれれば良いのです」

アンリエッタのその言葉に拓也は頷いた。



そして、才人の時と同じく、簡易的に騎士叙勲を行い、拓也はシュヴァリエのマントを受け取り、それを纏った。

「あはは・・・・・なんかこっぱずかしいな」

拓也はマントを纏った自分の姿を見て、そう苦笑する。

「ううん、似合ってるよ」

そうアイナは言う。

すると、

「おいタクヤ」

ゲイルが声をかけてきた。

「なんですか?ゲイルさん」

拓也が其方を向く。

「夕食の前に、一度手合わせしないか?」

ゲイルは杖を見せながらそう言った。

「なんでですか?」

「タクヤの本当の実力が知りたい・・・・・では、ダメか?」

ゲイルは口元に笑みを浮かべながらそう言う。

「・・・・・・・わかりました」

拓也は頷いた。




ラ・ヴァリエールの城から2リーグほど離れた平原。

「・・・・・で、な~んでこうなってるんだよ?」

そう呟いたのは才人。

隣にはギルモンと拓也。

2人の目の前には、『神風』のゲイル。

そして、再び魔法衛士隊の制服に身を包んだカリーヌ・デジレこと、『烈風』カリン。

かつての英雄、『風の守護者(ウインドガーディアンズ)』がそこにいた。

何故才人とカリンまで参加することになったのかと言えば、カリンが本当に才人にルイズを任せられるかテストをすると言い出したのだ。

もちろん、才人に拒否権は無い。

因みに、周りには他のメンバーが観戦している。

「まあ、仕方ないですね」

「けどよぉ・・・・・」

愚痴る才人に拓也が宥める。

「まあ、これで認められれば、少しは待遇も良くなるんじゃないんですかね」

「はぁ~・・・・・・」

ため息を吐きながら、才人はデルフリンガーを抜く。

やる気なさげな才人の姿を見て、拓也は言った。

「忠告しときますけど、彼らの実力は、デジモンで言えば完全体レベルはあると思いますよ」

「何!?」

拓也の言葉に才人は驚く。

「前にゲイルさんの実力の一端を見たんですけど、エア・ハンマーで10mぐらいのクレーターが出来ましたから」

「おいおい・・・・・」

才人は冷や汗を流す。

「ルイズの母さんも同じぐらいの実力だと思います」

「油断するわけにはいかないって事か」

才人は気を引き締めなおす。

「準備はいいな?」

ゲイルが尋ねる。

「はい」

拓也が返事をする。

「なら・・・・始めるか!」

ゲイルとカリンが杖を構える。

それと同時に、拓也と才人はデジヴァイスを構えた。

拓也のデジヴァイスにヒューマンスピリットが描かれる。

「スピリット!エボリューション!!」

拓也はスピリットを纏い、進化する。

「アグニモン!!」

続けて、才人のデジヴァイスに文字が表示される。

――EVOLUTION

才人のデジヴァイスから放たれた光がギルモンを包む。

「ギルモン進化!」

ギルモンが光の中で進化する。

「グラウモン!!」

アグニモンと才人、グラウモンが、先に動く。

「エキゾーストフレイム!!」

グラウモンが熱線を吐く。

ゲイルとカリンは、それぞれが反対方向へ飛び退く。

「「はぁあああああああっ!!」」

アグニモンが覇竜刀でゲイルに、才人がデルフリンガーでカリンに斬りかかる。

ゲイルには風の障壁があり、覇竜刀が一時的に止められるが、

「はあっ!!」

拓也より十数倍のパワーを持ったアグニモンは、力ずくで振りぬく。

「くっ!」

ゲイルは更に飛び退く。

一方、カリンは才人の一撃を杖で受け止めていた。

「フッ!」

そして、剣を受け止めたまま唱えた呪文は『ウインド・ブレイク』。

しかし、その魔法はデルフリンガーに吸収される。

だが、英雄と呼ばれただけあり、動揺は無い。

続けてカリンは『エア・ニードル』を唱え、才人の剣を弾いた。

一旦間合いを開ける2人。

その瞬間を見計らってグラウモンが再び、エキゾーストフレイムを放つ。

しかし、カリンの周りに竜巻が発生し、熱線を防いだ。

「チィ!拓也の言ったとおり完全体レベルの強さはあるみたいだな。なら、遠慮はしない!」

――MATRIX

  EVOLUTION―――

「グラウモン進化!」

グラウモンが光を放ち、進化する。

「メガログラウモン!!」

紅蓮の機械竜がその姿を現した。

カリンはメガログラウモンを見上げると、

――ピィイイイイイッ

口笛を吹く。

すると、ラ・ヴァリエールの城から、マンティコアが飛んできた。

カリンはそれに飛び乗った。


アグニモンとゲイルは、お互いに小技を放ちながら相手の様子を窺っていた。

「ファイアダーツ!!」

アグニモンはファイアダーツを放つが、ゲイルが放った竜巻にかき消される。

「チィ!」

アグニモンが舌打ちする。

ゲイルが呪文を唱える。

「『エア・バインド』!!」

風が、まるでロープのようにアグニモンを縛りつけ、拘束する。

「なっ!?」

「さあ、如何する!?」

ゲイルが動けないアグニモンに向かって、杖を突いてくる。

アグニモンは、

「アグニモン!スライドエボリューション!」

スピリットをビーストスピリットに変更する。

「ヴリトラモン!!」

ヴリトラモンとなり、風の拘束を力ずくで振りほどき、空中に退避する。

「ほう・・・・今度はドラゴンか」

ゲイルはヴリトラモンを見上げながら感心したように呟く。

「面白い!こちらも本気で行くぞ!」

ゲイルも口笛を吹き、使い魔である風竜のストームを呼ぶ。

ゲイルはストームに跨った。


カリンのマンティコアは、最高速度ではメガログラウモンに劣るものの、小回りが利くため、メガログラウモンを翻弄しつつカリンは魔法を放つ。

「くっ!」

メガログラウモンにとって、一発一発は大した事がないものの、カリンの魔法は並みのメイジよりも強力なため、ダメージがある。

その上、才人とメガログラウモンの攻撃は当たらないため、分が悪かった。

すると、カリンは呪文を唱える。

カリンの背後に巨大な竜巻、『カッター・トルネード』が生み出される。

しかも、アルダモンが斬った手加減されたものと違い、正真正銘、全力の『カッター・トルネード』である。

威力だけならば、以前ウェールズたちが放ったヘクサゴンスペルに並ぶ。

「げっ!」

才人は声を漏らす。

才人とメガログラウモンは、竜巻に飲み込まれた。



「コロナブラスター!!」

ヴリトラモンは、ストームに乗ったゲイルにコロナブラスターを放つ。

それをストームは、ヴリトラモンの周りを旋回しながら高機動で避けていく。

「このっ!」

ヴリトラモンは直接殴りかかろうとしたが、

「甘いっ!」

ストームが一度羽ばたくと急上昇し、ヴリトラモンの一撃を避ける。

「なっ!?」

空ぶったヴリトラモンは大きな隙を作ってしまう。

それを見逃すゲイルではない。

「『エア・ハンマー』!!」

「ぐあっ!!」

巨大な空気の塊が、ヴリトラモンを叩き落す。

地面に叩き付けられたヴリトラモンに、

「『エア・プレッシャー』!!」

高圧の空気が押し付けられる。

「ぐああっ!!」

高圧の空気によって、ヴリトラモンを中心とした半径5メイル位の地面が陥没する。

「はあああっ!!」

ゲイルは更に容赦なく巨大な空気の塊を叩き込んだ。

――ドゴォォォォン

爆発したように土煙に覆われる。

だが、

「ダブルスピリット!エボリューション!!ぐっ・・・ああああああああっ!」

土煙が吹き飛ばされる。

「アルダモン!!」

アルダモンとなった拓也はゲイルを見上げる。

「『エア・プレッシャー』!!」

ゲイルは再び『エア・プレッシャー』を唱えた。

アルダモンを中心に、周りの地面が陥没する。

だが、アルダモンは倒れず、一歩踏み出す。

そのまま歩いていき、地面に刺さっていた覇竜刀を抜く。

その様子を見たゲイルは、

「生半可な魔法は通用しないか・・・・」

そう呟き、地面に降りる。

「これが俺の最大の魔法だ」

杖を上段に構えると、その杖に凄まじい風が収束する。

アルダモンもそれを見ると、覇竜刀を上段に構え、炎を纏わせる。

そして、お互いに視線を交わし、

「『エア・フォース・ブレイド』!!」

ゲイルが巨大な風の刃を放つ。

アルダモンに襲い掛かる風の刃。

「フレイムソード!!」

その風の刃に、アルダモンは炎の剣で切りかかった。




巨大な『カッター・トルネード』に飲み込まれた才人とメガログラウモン。

だが、

―――MATRIX

  EVOLUTION―――

「マトリックスエボリューション!」

「ギルモン進化!」

竜巻の中で才人とギルモンが進化する。

「デュークモン!!」

次の瞬間、青白い光が螺旋を描き、『カッター・トルネード』を掻き消した。

「スクリューセーバー!!」

デュークモンがグラムを回転しながら振り回し、竜巻を切り裂いたのだ。

デルフリンガーもグラニとなり、デュークモンを乗せる。

デュークモンはイージスを構えた。

「ファイナル!エリシオン!!」

イージスから放たれたエネルギー波が上空に放たれる。

それは、遥か上空にあった雲を吹き飛ばす。

「なっ!?」

これにはカリンも驚愕した。

そして、次の瞬間には、デュークモンのグラムがカリンに突きつけられていた。

「・・・・・決まりだな」

デュークモンが呟く。

「・・・・・そうですね。私の負けです」

カリンも負けを認めた。





ゲイルの『エア・フォース・ブレイド』とアルダモンのフレイムソードがぶつかり合い、爆発を起こす。

そして、その爆煙が晴れたとき、ゲイルの首筋に覇竜刀を突きつけるアルダモンの姿があった。

「フッ・・・・・俺の負けだな」

ゲイルが呟く。

アルダモンはデジコードに包まれ、拓也に戻る。

「ゲイルさん・・・・失礼ですけどホントに人間ですか?」

拓也はそう言った。

アルダモンの姿であるにも関わらず相当なダメージを受けたことに驚いているのだ。

「お前が言うか?」

「いや、進化したときは人間じゃありませんし・・・・」

ゲイルの言葉に答える拓也。

「まあいい。やはりお前にならアイナを任せられる」

「ははは・・・・・・はあ」

苦笑しつつ、曖昧な返事を返す。

一方、才人の方もそれなりに認められているようであった。




次回予告


無事に学院に帰還した拓也達。

何時もの日常が再び始まる。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第四十二話 魔法学院のとある一日 その2

今、異世界の物語が進化する。




オリジナル魔法


エア・バインド

『風』『風』のラインスペル。

ロープのような風で、相手を拘束する。



エア・プレッシャー

『風』『風』『風』のトライアングルスペル。

高圧の空気で相手を押しつぶす。

ぶっちゃけTOD2のアレ。



あとがき

第四十一話完成。

なんですけど、後半が余りよくない。

話が繋がらないです。

申し訳ない。

更新速度もどんどん遅くなってるし・・・・・・

ですが、めげずに頑張っていきます。

では、次も頑張ります。




[4371] 第四十二話 7/19修正
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/07/19 20:21
『風の守護者(ウインドガーディアンズ)』を退け、認められる拓也と才人。

また、何時もの学院生活が始まる。


第四十二話 魔法学院のとある一日 その2


ヴァリエール家にて、ゲイルとカリン相手の模擬戦が終わった後。

拓也は、特に変わることは何もないと思っていたのだが、

「あ、兄上・・・・・」

などと、クリスに言われたときには驚愕ものだった。

どうやら模擬戦を見て、クリスの拓也に対する認識が変わったらしい。

とりあえず拓也は頭を撫でておいた。

クリスの顔が、真っ赤になっているとも気付かずに・・・・・・

その夜、ヴァリエールの城に泊まったが、夜中に窓が割れる音、才人の悲鳴、ルイズの叫び声が聞こえてきたが、何時もの事だとスルーしたのは余談である。





それから数日後。

学院に戻った拓也は、朝、目を覚ました。

「ん・・・・あ?」

拓也は起き出そうとしたが、身体が動かない。

一瞬金縛りかとも思ったが、首だけ動かしてみて、その理由が分かった。

「う・・・ん・・・・・・」

「・・・・すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」

「きゅう・・・・・・きゅ」

右腕にアイナ。

左腕にシャルロット。

そして、胴体にイルククゥが抱きついていた。

「・・・・・・・・まあ、しょうがないか」

拓也は、特に慌てずにそう呟いた。

自分が行方不明(フレイモンになって記憶喪失)になって、随分と寂しい思いをさせたのだろうと納得し、暫くそのままでいることにした。

あと、シャルロットの母親は、キュルケの実家で面倒を見てもらえることになった。




授業中でも、アイナとシャルロットは拓也の両側の席を占拠している。

イルククゥもといシルフィードは、窓の外からその様子を眺める事しか出来なかった。

そして、昼。

何時も通り、食堂で座っていると、

「あ、タクヤ君。丁度良かった」

シエスタに声をかけられた。

「何?」

「ちょっと来てくれませんか?あと、アイナちゃんも」

シエスタに連れられ、使用人用の食堂に案内される。

因みに、シャルロットも付いて来ていた。

そこで、

「メイド長、タクヤ君を連れてきました」

シエスタが、メイド長に報告する。

メイド長は、拓也に向かって一礼すると、

「突然、お呼び出ししてしまい、真に申し訳ありません」

そんな丁寧口調でそう言う。

「いや、そんなに畏まらなくても・・・・・・」

拓也は、ちょっと焦ってそう言った。

「この度お呼びいたしましたのは、女王陛下よりあなたにも付き人を付けるようにとのご命令があったためです」

「つ、付き人ぉ~?」

メイド長の言葉に、拓也は素っ頓狂な声を漏らす。

「はい。そこで真に勝手ながら、こちらで決めさせていただきました」

「は、はあ・・・・・・」

「来なさい、リース」

「は、はい」

メイド長に呼ばれて奥から出てきたのは、10歳前後の黒髪の少女。

「シエスタから聞いたところ、あなたにはメイドとしての能力より、歳が近いほうがよろしいかと思い、まだメイドとしては見習いですがこちらのリースを抜擢させていただきました」

「あ、あの、リースと申します。よ、よろしくお願いします!」

メイド長が説明し、リースと呼ばれたメイド(見習い)は頭を下げた。

「・・・・・・どうすりゃいいんだ?」

拓也は、アイナに尋ねる。

「女王陛下の命令だから、しかたないよ。断るわけにもいかないし」

アイナはそう言った。

「そっか。リースだっけ?よろしく頼むよ」

拓也はそう言った。

「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!ミスタ・カンバラ」

そうリースに言われ、拓也はガクッと体勢を崩した。

「そ、そう言う呼び方はやめてくれないかな?俺のことは拓也でいいからさ」

拓也はそう頼む。

「え?で、ですけど・・・・・・」

「いいんだよ。いくら貴族になったからって、俺は偉ぶるつもりも、皆を扱き使う気も無いんだから」

「・・・・・・じゃ、じゃあ、タクヤさん・・・・・で、よろしいですか?」

「ああ。その方がいい」

タクヤは頷く。

「じゃあ、改めてよろしくお願いします。タクヤさん」

そうやってもう一度頭を下げられたとき、拓也はふと気付く。

「そういえば、リースも黒髪なんだな」

拓也はそう呟く。

それにはシエスタが答えた。

「ええ。リースは私の又従姉妹ですから」

「えっ?そうなの?」

アイナが聞き返した。

「はい」

リースは頷く。

「ってことは、リースにも日本人の血が流れてるって事か・・・・」

拓也は呟く。

「ニホンジン?」

リースは首を傾げた。

「ああ。俺の故郷の人間の事だよ」

「そうなんですか!」

リースは軽く驚く。

「不思議なところで繋がりがあるもんだな」

拓也も頷く。

「そうだね」

アイナも同意した。

「世の中は広いようで狭い」

シャルロットも言った。

「えっと・・・・あなた達はミス・シンフォニアにミス・タバサでしたよね?」

リースは尋ねる。

「あはは、そんなに硬い呼び方しなくていいよ。私の事もアイナって呼んで」

「私の本名は、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。私の事もシャルロットで構わない」

アイナとシャルロットはそう言った。

「そ、それでは、アイナさんとシャルロットさん・・・・・で、よろしいですか」

「うん」

アイナはそう言って頷き、シャルロットは無言で頷いた。

こうして、黒髪のメイド、リーラが拓也の付き人になることが決定した。





放課後。

いつもの水精霊騎士隊のたまり場で、才人はテーブルに肘を付いて言った。

「ったく・・・・・・はっきりと悪い奴が分かったんだからよ、こっちから行ってケリつけるべきじゃないのかよ」

「いつからそんな好戦的になったんだ?きみは」

ワインを飲みながらギーシュが言った。

放課後のこの時間、体のいいたまり場が出来た貴族の少年たちは、とにかく飲みまくる。

教師たちも「訓練の垢を落してるんです」といわれると、何も言えないのである。

「だっておかしいだろ。あいつら、ほら、あのガリア。国が大きいからって何様だっつの。ルイズや俺を襲うわ、タバサとその母ちゃんには酷いことするわ、やりたい放題じゃないかよ」

「お偉方なんてそんなものさ。欲しけりゃどんな手を使ってでも奪うし、気に入らなけりゃ闇に葬るぐらいは朝飯前だよ。いちいち目くじらをたてていたらきりがないぜ」

ギーシュはもう涼しい顔である。

お咎め無し、という事になったら、本来の調子を取り戻したようである。

「とにかく、ガリアからの公式な抗議がないだけ御の字というものだよ、君。普通だったら戦争が起こってもおかしく無いんだぜ?何せ向こうは大国ガリアの王様だ。こないだも言っただろうけど、僕たち個人が相手にするには大きすぎる相手だよ」

確かにガリアは未だに何も言ってこない。

その沈黙が不気味ではあったが、公にできない事情があるのかもしれなかった。

「大国の王様かぁ・・・・・」

才人はぼんやりと空を見上げた。

そんな時、

「何やってるんですか?才人さん」

拓也の声が聞こえた。

才人は首を声が聞こえた方に向け、

「おお。拓也・・・・・・かっ!?」

固まった。

今の拓也は、右腕にアイナが、左腕にシャルロットが抱きついており、そして、後ろからイルククゥに抱きつかれていた。

そして、その後ろではリースが苦笑を浮かべている。

「お前・・・・・・・」

才人は呆れた視線を拓也へ向けた。

「あはは・・・・朝からずっとこんな調子です」

拓也は苦笑しながら言った。

「まあ、ある意味自業自得だからな。ちゃんと責任とってやれよ」

才人はそう言う。

「なんか引っ掛かる言い方ですね・・・・・・・」

拓也が呟く。

「それにしても、こんな拓也を見たら、またマリコルヌが怒り出しそうだな」

才人がそんなことを言った。

すると噂をすれば何とやら、マリコルヌが現れた。

しかし、

「マリコルヌ様!凄いですわ!」

「もっとお話を聞かせてくださいな!」

マリコルヌは新一年生の女の子を引き連れていた。

「困った子猫ちゃんたちだなあ。しょうがない、してあげるよ」

「きゃぁああああ!すてきぃ!」

得意げに指を立てたマリコルヌに、周りの女子から歓声が飛んだ。

「さて、アーハンブラ城に着いた僕は、部下どもを指揮してガリア軍を眠らせた!そこでとうとうエルフの登場ときたもんだ!」

「きゃあきゃあ!」

「僕は恐れずに、杖を突きつけてこう叫んだ!『おい長耳野郎。命が惜しかったら姫を置いて逃げ失せな。じゃないと、手前の先住魔法より強力な、僕の風魔法が飛ぶぜぇ・・・・・』ってね。あ、この姫ってのはもちろん、タバサのことさ。あの小さい女の子ね」

「すごいですわ!エルフをやり込めるなんて!」

「まあね、なぁに、あんな連中見掛け倒しさ。僕が本気を出せば、ぴゅーって飛んじゃうさ。ぴゅーってね」

「お前がぁああああああ!“ぴゅー”れぇ!!」

突っ込みどころ満載のマリコルヌの英雄譚に、才人の飛び蹴りが、マリコルヌの鳩尾に叩き込まれる。

「ぎうほっ!」

マリコルヌはもんどりうって倒れた。

しかし、けろっとした顔で立ち上がる。

「やあサイト。今の僕は、モテモテのオーラがかかってるから、そのぐらいのキックはへいちゃらだよ。やっつけたいなら、竜騎士一個軍団引っ張ってきな」

そんなマリコルヌに才人は指をさし、

「ギルモン」

傍らのギルモンに呼びかける。

ギルモンは口を開け、

「ファイヤーボール!」

軽めのファイヤーボールをマリコルヌに放った。

「ぷぎゃっ!」

直撃し、爆風で吹っ飛ばされるマリコルヌ。

「お、お前らって奴はぁ・・・・・・・緊張感がゼロっていうかぁ・・・・・・」

才人は怒りで肩をピクピクと震わせている。

すると、マリコルヌは再びけろっとして立ち上がる。

よく見れば、服はボロボロで顔は煤だらけだが、何故か無傷である。

「いやぁ、英雄っていいね。この子達、是非とも君の活躍を聞きたいそうだよ。話してやれよ、副隊長さん」

そんな中、なんとなく不穏な空気を感じ取ったアイナ達は、拓也を引きずってその場からいなくなっていた。







その夜。

拓也が風呂上りに廊下を歩いていると、才人と会った。

「あ、才人さん。どうしたんですか?」

「拓也か。いや、俺もハルケギニアの字を覚えた方がいいかと思ってさ。図書室に行こうとしてたんだ」

「字ですか?ああ、そういえば、ハルケギニアは文字が違うんでしたね。俺はルーンの力で解読できるから忘れてました」

「そうだったな・・・・・・そうだ拓也!」

「何ですか?」

「俺に字を教えてくれ!」

「はぁ?」





で、2人揃って今は図書室にいる。

この部屋は貴族しか立ち入る事が出来ないが、拓也と才人の2人も貴族のマントを纏い、れっきとした貴族なので、問題なく入室する事が出来た。

とりあえず拓也は、適当に本を引っ張り出し、簡単そうなものを選んで才人の所に持っていった。

教えるといっても、拓也は単語の意味が分かるだけであるので、文章を片っ端から読み上げているだけである。

拓也はこんなことで覚えられるのだろうかと疑問に思う。

しかし、驚く事に才人は、そのような教え方でスラスラと読めるようになっていた。

「どうなってるんですか?」

拓也は才人に尋ねる。

「・・・・・確かに変だよな。拓也に教えてもらった事がきっかけだろうけど、書いてあることの“意味”が直接分かるんだよな」

「不思議ですね」

拓也達は疑問に思うが答えは出ないので早々に考えるのをやめた。

それから暫くして、

「もう遅いな。拓也、今日はここまででいいよ。サンキューな、助かった」

「そうですか。また俺の力が必要だったら呼んでください。出来る限りは力になります」

「ああ。わかった」

そういって、2人は切り上げた。

この2人の疑問が“使い魔”として、大きな意味を持つ事も知らずに。




次回予告


魔法が使えなくなって落ち込むルイズ。

そんな時、アンリエッタからの呼び出しがかかる。

アンリエッタの依頼は、ティファニアの保護であった。

アルビオンへ向かう一行。

そのティファニアの家で出会った相手とは?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第四十三話 二重奏の心

今、異世界の物語が進化する。





オリキャラ説明



リース

とりあえず拓也の付き人として考えたキャラ。

ヒロインの3人が全員拓也より年上なので年下を出してみた。

10歳でメイドは無理があると思ったので、見習いという設定。

裏設定では、事故で父親が働けなくなってしまい、母も育児で大変なので、兄弟の中で一番年上のリースが出稼ぎに来たという設定。

あと、日本人の血が流れているのは、シエスタの従姉妹としてジェシカがいるのなら、又従姉妹ぐらいいてもいいんじゃないかという思いつきから。

ついでに言うと、今のところハーレム入りの予定は無し。






あとがき

四十二話完成。

ですけど、出来は今迄で最悪かも。

量も間違いなく一番短いです。(プロローグ除く)

ここまで書くのにメチャクチャ苦労しました。

何とか1ヶ月以内には間に合いましたけど。

さて、このように苦労していますが、次も頑張ります。




[4371] 第四十三話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/08/01 12:23
日常を満喫する拓也たち。

その時、ルイズは・・・・・


第四十三話 二重奏の心


今日は朝からルイズの様子がおかしい。

起きる時間になってもルイズが部屋から出てくる気配がない。

拓也とアイナが如何したのかと首を傾げていると、誰かが廊下を駆けてくる。

「サイトォ~~~~~~~~~~~!!ご下命が来たぞ!我が水精霊騎士隊に、陛下のご下命だ!!」

駆けてきた人物、ギーシュはそう叫んでルイズの部屋に飛び込んだ。

拓也とアイナもギーシュに便乗してルイズの部屋を覗いた。

そこにはベッドの横に座り込んで元気のないルイズと、それをなだめているシエスタ。

そして、飛び込んできたギーシュに驚いている才人であった。

「ご下命?」

才人が尋ねる。

「そうだ!ルイズと、我ら水精霊騎士隊に直々のご下命さ!ああよかった!罰こそいただかなかったが、陛下の御不興を買ってしまったかと戦々恐々としてたんだ!」

「お前の何処が戦々恐々としてたんだよ。馬鹿騒ぎをしてたくせに」

「そんな意地悪を言うなよ。顔は笑っていても、心中穏やかじゃなかったんだぜ。とにかく、そんな僕の心配は杞憂だったみたいだな。僕たちに対する、陛下の信頼は揺るがなかったというところだね」

「で、姫様はなんだって?」

「とにかくお城に来てくれとのことだ。ああ、参ったなぁ。また授業に出れないではないか!」

嬉しそうにギーシュは身震いした。

才人はなんだか迷うような仕草をする。

しかし、すぐにデルフリンガーを背負った。

「他の皆は?」

「とりあえず、僕と君とルイズ。それと、強制ではないが、アイナとタクヤにも出来れば来て欲しいそうだ」

「ルイズはいい」

「え?何でだい?」

「行くわ」

すっくと、ルイズは立ち上がった。

「無理すんなよ。調子が悪いんだからよ」

「調子が良かろうが悪かろうが関係ないわ」

「一体、どうしたんだね?」

ギーシュが怪訝な顔で2人を見つめる。

拓也とアイナも、2人の様子がおかしい事に疑問を持っていた。

「いや、こいつな?今、呪文が・・・・あいでっ!」

才人が説明しようとした所で、いきなりルイズに股間を蹴られ、才人は悶絶した。

「・・・・・・・余計な事言わないで。姫様は何かお困りなのよ。私が行かないでどうするのよ」

その時、窓から1羽のフクロウが飛び込んできた。

「あら。トゥルーカス。どうしたの?」

そのフクロウは、ルイズに一通の封筒を手渡した。

「ルイズ様にお手紙です」

「手紙?」

ルイズはその手紙を読み始めた。

一瞬顔が輝いたが、再びその顔が曇っていく。

みるみるうちに蒼白になっていった。

「どうしたんだよ。誰からの手紙だよ?」

返事はなかった。

ルイズはその手紙をポケットにねじりこむと、着替えるためによたよたと歩き出した。

拓也とアイナ、ギーシュは、一旦部屋から出る。

「それで、君たちはどうするのだね?」

ギーシュが2人に尋ねた。

「何故か分からないけど、ルイズの様子がおかしかったから、心配だし。私も行くよ」

アイナが即答した。

「女王様の依頼だと、才人さんがルイズに振り回されるだろうからな。俺も行くよ」

拓也もそう言った。



「おい、お前、ホントに大丈夫なのかよ」

才人はルイズにそう尋ねたが、ルイズは答えない。

きゅっと唇を真一文字に結んで、黙々と馬に跨った。

そんな時、

「才人さん」

拓也達が姿を見せた。

「拓也か」

「俺たちも行きますんで、俺がヴリトラモンで乗せていきますよ」

拓也がそう言った。

確かにヴリトラモンならば、馬で行くより相当早い。

「そうか、助かるよ。ルイズ!拓也が乗せてってくれるってさ!」

才人はルイズに呼びかけるが、ルイズは心ここにあらずといった風情である。

馬に跨ったまま、1人先に行こうとしている。

「おいルイズ。馬で行かなくてもいいだろ。運んでくれるって言うんだから、拓也に乗せてって貰おうぜ」

才人かそう言っても、ルイズは馬に鞭をくれて走り出す。

「なんだあいつ」

才人が首を傾げていると、上空からシルフィードが降りてきて一同の前に着陸した。

「何だよ、お前たち」

見ると、シャルロットとキュルケが乗っている。

「私も行く」

そう言ったのはシャルロットであった。

「この子、窓からあなた達を見かけたら、すぐに飛び出していくんだもの」

キュルケが両手を広げていった。

「な、何でお前が?・・・・・って、拓也がいるなら当然か」

少々驚いたものの、すぐに理由に思い至り落ち着く。

「それじゃあ、乗せてってくれるって事か?」

シャルロットは頷く。

「んじゃ、お言葉に甘えるとしますか」

才人達がシルフィードに乗ると、シルフィードは勢いよく羽ばたいて、空に駆け上った。

眼下を見ると、ルイズは前のめりになって、必死に馬を走らせている。

ほうっておくわけにもいかず、才人はシルフィードに話しかけた。

「シルフィード、あいつも乗せてやってくれよ」

「きゅいきゅい」

嬉しそうにシルフィードは鳴くと、降下してルイズと跨った馬を一緒くたに銜えあげた。

銜えられた馬は驚いて、ヒヒーン!と鳴き叫んだ。

シルフィードは器用に長い舌を動かし、ルイズだけを背中に放り込んだ。

そんな乱暴にされているというのに、ルイズときたら文句を言うわけでもなく、肩を抱いてぶるぶると震えているではないか。

「ん?どうしたの?この子」

キュルケが不思議そうに呟く。

才人も不思議に思ったが、ルイズが自分から話してくれるまで、そっとしておこうと決めた。





王宮に到着した一行を、待ちわびていたのは、随分と悩んだ様子のアンリエッタであった。

「ようこそいらしてくださいました。あなた方にお頼みしたい事があるのです」

「どのようなご用命でございましょうか?」

膝をついたギーシュに、アンリエッタは頼みごとを打ち明けた。

「アルビオンの虚無の担い手を、ここに連れてきていただきたいのです」

「ティファニアを?」

才人が驚いた声で言うと、アンリエッタは深く頷いた。

「・・・・・・やはり、虚無の担い手を1人で住まわせておくには参りませんから。それに彼女はアルビオン王家の忘れ形見だし、つまりはわたくしとウェールズさまの従妹ではありませんか。やはり放っておくわけにはいきませぬ。ルイズ、あなたを襲ったように、いつ何時ガリアの魔の手が伸びるやもしれませぬ。本来なら、ウェールズさまが保護するべきでしょうが、アルビオンはまだ戦争の傷跡が深く残っている状態。ならば、少しでも余裕のあるトリステインで保護する事にしたのです」

「彼女は1人じゃありませんよ。孤児たちも一緒に暮らしてるんです。ティファニアは彼らのお母さん代わりなんだ」

「ならば、その孤児たちも連れてきてください。生活は保障いたしましょう」

「・・・・・・わかりました。それほどにご心配なら、連れてきますよ」

「ありがとう。お願いするわね」

アンリエッタは深いため息と共に、椅子に肘をついた。

その様子に、才人は首をかしげた。

「なにかご心配事でもあるんですか?」

「いずれ話します。今は急いでくださいまし」

「船で行ったら時間かかるよなぁ・・・」

才人が呟く。

すると、

「あ、俺がエンシェントグレイモンで運びますよ」

拓也が言った。

「いいのか?」

「ええ。エンシェントグレイモンなら、シルフィードより速いです。それに、体力もどの程度消費するか調べておきたいので」

「そうか、ならお願いするよ」

アンリエッタはシャルロットに気付き、その手を取った。

「ガリアの姫君でございますわね。いずれ改めて、あなたのご境遇と今後の身の振り方を相談させてくださいまし」

シャルロットは小さく頷く。

「帰りには、ロサイスまで船を用意させましょう。とにかく、早くアルビオンへ向かってくださいまし」

アンリエッタは深く悩んでいる様子で、そう一行に告げた。

才人は、ルイズとアンリエッタを交互に見つめた。

仲良しの2人が口を利かないのは珍しい。

お互い、心ここにあらず、といった風情である。

それほどに心悩ます事態が、2人の心には渦巻いているのだ。




数時間後。

一行は既にウエストウッドの村まで来ていた。

エンシェントグレイモンは、ほんの1時間足らずでアルビオンに到着した。

その際、拓也はかなりの疲労感を感じた。

戦ったわけではないが、やはりエンシェントグレイモンは、体力の消費が普通の進化に比べてかなり多いらしい。

「こ、ここがその、胸が不自然なハーフエルフが住むという村だな」

そわそわした声で、ギーシュが言った。

「そう言い方すんなよ」

「君が言ったんじゃないかね。そのハーフエルフの少女の特徴を教えてくれと言ったら、耳が長い。あと『胸がおかしい』って」

「あなたたち、こそこそなにやら話していると思ったら、そんなよからぬ会話をしてたってわけね」

キュルケがにやにやしながらからかうような調子で言った。

「だ、だってコイツが、どうしても特徴を聞きたいって言うもんだから!」

「僕の所為にしないでくれたまえよ」

「でも、ほんとにその子、胸がおかしいの?あたしとどっちがおかしいの?」

キュルケが自分の胸を持ち上げた。

「し、知るか」

ちょっと照れたように、才人は言った。

一行はガリア行きの時と比べたら、随分と砕けた雰囲気であった。

今回の任務は、ティファニアを連れて帰ってくるだけである。

面倒な事は、精々ティファニアを説得する事ぐらいであろう。

危険な事はない、といった雰囲気が、一行の態度を明るいものに変えた。

しかし、ただ1人、ルイズだけはずっと黙りこくったままである。

キュルケが才人をつついた。

「ねえサイト。ルイズ、一体どうしちゃったの?朝から変よ。黙っちゃって・・・・」

その言葉を聞いた拓也とアイナも2人の会話に聞き耳を立てる。

「いや・・・・・実はな」

才人は、ルイズが精神力が切れて、魔法が全く使えないという事を打ち明けた。

「まあ!精神力が!」

「しっ!声が大きいよ」

才人は前を歩くルイズに聞こえないように、声を潜めた。

「あらら、じゃあゼロのルイズに逆戻りってわけ?でも、爆発すらしないんじゃ、さらに重症ね」

「言うなよ。気にしてるんだから」

「でも、そっちの方がいいんじゃない?」

キュルケが、真顔で言った。

「何でだよ」

「あの子に“伝説”なんて、常々荷が重いって思ってたの。あたしぐらい楽観的のほうが、過ぎたる力にはちょうどいいのよ」

そうかもしれない、と才人は思った。



才人は懐かしい村を見回した。

ウエストウッド村は殆ど変わっていない。

森の中に立てられた、こじんまりとした佇まいの素朴な家々を見つめる。

ティファニアの家は、入り口からすぐのところにあった。

藁葺きの屋根から、煙が立ち上っている。

「お、いるみたいだな」

「いやぁ、こんな簡単な任務でいいのかねぇ。何時もの苦労に比べたら、なんだか拍子抜けしてしまうよ」

ギーシュが鼻歌交じりに言った。

「もう、ほんとにお前ってば緊張感がない男だな」

「君に言われたくないな。というか最近の君はおかしいぞ」

「俺が?」

「そうさ。副隊長になって張り切る気持ちもわかるがね、なんだか妙な使命感に振り回されているように感じるよ。昔の君はもっとこう、適当だったじゃないか」

「そうか?」

「ああ。もっと気楽にいきたまえよ。気楽に!あっはっは!」

ギーシュは大声で笑った。

「そんな油断してるとね、碌な事が無いわよ」

キュルケが言った。

「望むところさ!悪魔でも化け物でも何でも来い!さてと、この家だな」

そう言って、ギーシュがティファニアの家の前に来た時、

「さっきから、何の騒ぎだ?」

ティファニアの家の裏から、サジタリモンが顔を出した。

「ひゃあっ!?」

突然顔を出したサジタリモンにギーシュは驚き、

「ああぁっ!サジタリモン!」

拓也が指をさして叫んだ。

「なっ!テメェは!?」

サジタリモンは拓也を見て身構える。

拓也も身構えた。

「拓也!知ってるのか!?」

才人が尋ねる。

「はい。コイツはデジタルワールドの盗賊です。ハルケギニアでも2回ほど見かけてますけど」

それを聞くと、才人も身構えた。

「この村に何しに来たんだ!?」

才人はサジタリモンに向かって叫んだ。

「はん!そんなこと、教えてやる義理はねえっ!!野郎共!出て来い!!」

サジタリモンが叫ぶと、手下のケンタルモン達が何処からともなく現れる。

拓也と才人はデジヴァイスを構え、他の面々は杖を抜く。

そんな一触即発の雰囲気が高まり、今にも弾けそうな瞬間、

――バンッ!

と、ティファニアの家の扉が勢いよく開き、

「うるさいよ!一体何の騒ぎだい!?」

1人の女性が叫んだ。

それを見た一同は固まる。

「あ、姐御・・・・・」

サジタリモンは申し訳なさそうに呟く。

「フーケ」

シャルロットが呟いた。

その人物は、かつて拓也達と戦った盗賊、土くれのフーケ。

「な、何でテメエがここに!?」

才人が叫ぶ。

「それは私のセリフだよ」

フーケも威圧するように言った。

才人がデルフリンガーを抜き、フーケも杖を構えた。

その瞬間、

「やめてぇっ!!」

ティファニアが2人の間に飛び込んできた。

「何で2人とも戦うの!?サイト!剣をしまって!」

「で、でも・・・・・」

「マチルダ姉さん!この方に手を出してはダメ!」

「マチルダ姉さん?」

才人はフーケを見つめた。

人違いかと思ったが、その鋭い目と、意志の強そうな顔は、紛れもなくかつてそのゴーレムと戦った、土くれのフーケである。

フーケはどうしたものかと、とでもいうように、才人とティファニアを交互に見つめた。

それから、参った、とでもいうように首を振る。

「仕方ないね」

才人も、しぶしぶと剣を鞘に納める。

「ありがとう」

ティファニアは、サジタリモン達にも話しかける。

「サジタリモンたちもやめて」

「御嬢がそう言うなら・・・・・」

サジタリモンも身構えていたからだから力を抜く。

「あんたたちも随分と久しぶりだねぇ。先ずは旧交を温めようじゃないか」

フーケが、疲れた声でそう言った。



ティファニアの家に入り、フーケと一行は暫く睨み合っていたが、まず、痺れを切らしたのかフーケがどかっと椅子に腰掛けた。

「あんた達も、杖をしまって、先ずは座りな。長旅でつかれてるんだろう?」

一行はどうしようかと顔を見合わせたが、キュルケが「そうね」と呟いて腰掛けたので、仕方なくそれに習う。

「ねえティファニア。何でこいつらと知り合いなのか、話してごらん」

ティファニアは、許可を求めるように才人を見つめた。

才人は頷く。

ティファニアはフーケに説明した。

アルビオン軍を食い止め、大怪我した才人を助けた事。

迎えに来たルイズとも知り合いになったこと。

「ああ、じゃああれはあんたたちだったのかい。7万のアルビオン軍を2人と一匹の竜が食い止めたっていうのは」

才人は頷いた。

「ふふ、やるじゃないの。少しは成長したようだね」

フーケは笑った。

「じゃあ次はこっちの番だ。お前とティファニアは、どうして知り合いなんだよ」

フーケの代わりにティファニアが、才人達に説明した。

「いつか話したことがあったよね。私の父・・・・・財務監督官だった大公に仕えていた、この辺りの太守の人がいたって」

「ああ」

「彼女は、その方の娘さんなの。つまり私の命の恩人の娘さん」

「何だって!?」

才人は驚いた。

「それだけじゃないの。マチルダ姉さんは、私たちに生活費を送ってくださっていたの」

才人は何か言おうとしたが、フーケに遮られた。

「おっと。あんた、わたしの前職は言わなくていいよ。ここじゃ秘密で通ってるのさ」

「サイト、マチルダ姉さんが何をしていたのか知ってるの?」

ティファニアが、身を乗り出して尋ねてきた。

「ん?あ、ああ・・・」

「教えて!絶対に話してくれないのよ!」

フーケは、じろりと才人を睨んで言った。

「言ったら殺すよ」

才人は仕方なく、苦し紛れの嘘をついた。

「・・・・・その、宝探しっていうか」

「トレジャーハンター?かっこいい!」

「まあ、そんな仕事をしていてね。こいつらとはその、お宝を取り合った仲なのさ」

ほっとしたように、ティファニアが言った。

「だから仲が悪いのね。ダメよ。仲直りしなきゃ。ほら、乾杯しましょ」

ティファニアは、戸棚からワインとグラスを取り出した。

仇敵同士の、奇妙なパーティが始まった。



パーティと呼んでいいのか微妙な飲み会のあと、才人はティファニアにトリステインに来ないかと打ち明けた。

ティファニアは最初渋っていたが、孤児たちも生活を保障するという言葉と、なによりフーケの同意があったため、それを了承した。

フーケはティファニアが眠った後、サジタリモン達にティファニアの護衛を頼み、1人立ち去った。

その後、拓也は床に付いていたが、話し声が聞こえ、目を覚ました。

「どうして、あんたは私の前で泣かないの?」

ルイズの声である。

「どうしてって・・・・」

才人の戸惑った声が聞こえる。

「どうしてあんたは、私に本音を打ち明けてくれないの?」

才人は考える。

「ねえ、どうして?」

ルイズの問いに、後ろから小さな声が聞こえた。

「使い魔だから」

「タバサ」

ルイズの後ろに、いつしか小さな青髪の少女が立っている。

いやいやをするように、ルイズは首を振った。

自分に言い聞かせるような声で、ルイズは言った。

「そう。その通り。タバサの言う通りなんだわ。だからあんたは、私が傍にいると、帰りたいと心の底から思わない。いや、思えない。こっちの世界に、いなければならない理由まで作り上げて、あんたは私の傍にいようとする。いや、させられている」

「違う、それは違う。それは・・・・」

才人は悩む。

ルイズの言葉を否定しきれなかった。

「そんなこと聞かれても・・・・・」

「さっきの話を聞いて、一つの事実を思い出した」

シャルロットが呟く。

「事実?」

「使い魔は、主人の都合のいいように“記憶”を変えられる。記憶とは、脳内の情報全てのこと。あまり故郷の事を思い出さないのもそう」

そこまで聞いて拓也は身体を起こした。

「じゃあ、才人さんが異様に文字の習得が早かったのも・・・・・」

拓也は呟く。

「拓也!」

才人は驚いた声を上げ、シャルロットは頷いた。

シャルロットは言葉を続けた。

「“使い魔のルーン”は、あなたの心の中に『こっちの世界にいるための偽りの動機』を作ったのかもしれない。あなたは本当の気持ちをごまかされている可能性がある。“こっちの世界で何かしたい”。そう思わされることで、本当の気持ちが見えなくなっているのかもしれない」

才人は驚いて言った。

「そんなの有り得ねえだろ!だったら拓也はどうなるんだ!?俺は昔から拓也のことを知ってる!今の拓也は昔と変わってない!」

「その効果は時間が経つに連れ強くなる。使い魔が徐々に慣れ、最後には主人と一心同体になるのは、そういうこと。あなたの変化が現れだしたのは戦争が終わった後から。タクヤは、その頃に一度契約が解除され、使い魔でなくなっている。再契約したのもつい最近。使い魔のルーンの効果が殆ど現れていないのも、恐らく再契約まで時間が空いたために、以前の契約の効果が薄れたから」

「おいおい、そんな、自分が自分でなくなるなんて、そんなことが・・・・・」

才人がそう言ったら、デルフリンガーの声が響いた。

「まあな、自分のことは、自分が一番分からんもんさ」

次に拓也が口を開いた。

「才人さん、正直に言います。最近の才人さんは、皆が言うように変わりすぎてます」

「俺が・・・・変わりすぎてる?」

「はい、俺もデジタルワールドを旅して、確かに成長したと自覚していますが、俺の根っこの部分は変わってないと思います。仲間たちだって旅の最後も本質は変わってないと感じました。ですが、才人さんはおかしい。才人さん自身の本質から変わってきてる気がするんです」

気付くと、その場の全員が目を覚ましていた。

「確かに、最近の君はおかしかったな。妙に生真面目というか・・・・・」

ギーシュがうーむと悩みながら言った。

「まあね。主人に似たのかも、なんて思ったわ」

キュルケも呟く。

アイナにいたっては、移動中のルイズと同じように顔が蒼白になり、なんともいえない表情をしていた。

「シャ、シャルロット・・・・・・今の話・・・・本当なの・・・・?」

アイナが震えた声で呟いた。

シャルロットは頷く。

アイナは更に顔色を悪くする。

ルイズが目の下を擦りながら言った。

「だって、再会してからのあんた、少しおかしいもの。なんだか妙な使命感に目覚めちゃって・・・・・そんなのあんたじゃないわ」

「でも・・・・・でもな。それはこう、なんか上手くいえないけど、別にそれほど変でもないっていうか・・・・・・うーむ」

「サイト、それ、本当なの?」

「ティファニア」

すっかり眠っていたはずのティファニアも、才人の傍にきて言った。

「わかんねえ。自分がどうなのか、自分じゃよくわからねえ」

皆に見つめられ、正直にそう呟くと、ルイズがティファニアの方を向いた。

「ねえ、ティファニア。あなた、記憶を消せるじゃない。その部分を消す事は出来る?使い魔のルーンが作った才人の心の中の、『こっちの世界にいるための偽りの動機』を消す事が出来る?」

「分からないけど・・・・・・」

「出来るだろうさ。“虚無”に干渉できるのは、“虚無”だけだ」

「おいおい、人の心に勝手な事すんなよ!」

才人は叫んだ。

「ねえサイト」

「何だよ」

ルイズは決心したような顔で才人に告げた。

「あんたの心の中には、2つのメロディが流れてる。認めたくないけど、それはやっぱり本当なのよ。何時までも、そんな二重奏を続けさせるわけにはいかないわ」

困ったような声で、デルフリンガーが言った。

「でもな、娘っ子・・・・・その部分を消したら、お前さんへの気持ちも無くなっちまうかもしれないんだぜ」

「いいわ」

ルイズは、きっぱりと言った。

涙を拭いながら、ルイズは気丈に言い放った。

「め、迷惑だもん。す、好きでもない男の子に言い寄られるなんて酷い迷惑だわ。勝手にナイト気取りでおかしいわよ。ほっといてよ!」

「ルイズ・・・・・お前・・・・・」

「ほら、さっさと魔法をかけられて、元のあんたに戻るがいいわ。元のあんたに戻ったら、帰る方法を探しなさい」

「ルイズ!」

ルイズは駆け出したが、一旦立ち止まり、俯いて言った。

「私、お手伝いがしたいけど。今の私じゃ無理ね。本当のゼロのルイズじゃ・・・・」

ルイズはそれだけ言い残すと、部屋を飛び出して行ってしまった。

駆け寄ろうとした才人の腕を、キュルケとギーシュが掴んだ。

「離せよ!離せ!」

「僕はね、君を友人だと思う。だからこそ、こうした方がいいと思うんだ」

「あたしも同じ気持ちよ」

2人は珍しく真剣な顔で頷きあう。

それを見ていた拓也の手をアイナが掴んだ。

「アイナ?」

「・・・・・・タクヤも・・・・・ティファニアの魔法を受けて・・・・・」

アイナは、涙を流しつつ、震える声で言った。

「タクヤも使い魔のルーンの影響を受けてる・・・・・・だから、効果が現れていない今のうちに・・・・・・」

アイナはそっと拓也を押し出した。

「ナウシド・イサ・エイワーズ・・・・・」

虚無のルーンが響く。

「ハガラズ・ユル・ベオグ・・・・・」

「ティファニア・・・・」

見ると、真剣な顔をしたティファニアが、才人と拓也に向かって虚無のルーンを唱えていた。

「ニード・イス・アルジーズ・ベルカナ・マン・ラグー・・・・・・」

呪文が完成する。

拓也と才人の意識が薄れ、2人はその場に崩れ落ちた。





次回予告


罪の意識を感じ、拓也と才人の前から去るアイナとルイズ。

自分の本当の気持ちと向き合う拓也と才人。

だが、それは突然現れる。

アイナ達の前に最凶最悪の敵が今蘇る。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第四十四話 復活!最凶の敵!!

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

四十三話完成。

で、祝20万PV突破!!

ここまで来るとは自分でも予想外。

最初は、1話辺りのPV数は3000ぐらいだったはずですけどね。

読んでくれている皆様には感謝感激雨あられ(古っ!)。

それで今回なんですが、まあ、出来はそこそこ。

前回に比べれば遥かにマシ。

まあ、基本原作通り。

ちょこっと弄くっただけですね。

にしてもマリンエンジェモンの出番がなかったな。

ともかく、次回の敵は何でしょうね。

楽しみにしててください。

では、次も頑張ります。




[4371] 第四十四話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/08/12 13:39
拓也は気付くと自宅の前にいた。

拓也は自然と玄関のドアを開け、

「ただいま」

そう言って、家に上がる。

「おかえり拓也。遅かったのね」

母親の声が聞こえる。

廊下を歩き、居間へ続く扉を開ける。

「兄ちゃん、おかえり」

テーブルの椅子に座った弟の信也が、

「おう。おかえり拓也」

同じく椅子に座り、新聞を読んでいた父がそう言った。

「ただいま。父さん、信也」

拓也は椅子に座る。

「拓也、用事は済んだの?」

母がそう尋ねる。

拓也は一度俯く。

しかし、すぐに顔を上げ、

「ううん、まだ。だから、またすぐに行かなきゃいけないんだ」

拓也は言った。

「そう・・・・・でも、すぐに帰ってくるわよね?」

母にそう言われ、

「うん。すぐに用事を終わらせて必ず帰ってくるよ」

拓也ははっきりと返事をした。

拓也は椅子から立ち上がり、

「それじゃあ、行って来ます。父さん、母さん、信也」

そう言った。

「いってらっしゃい」

「早く帰って来るんだぞ」

「いってらっしゃい。兄ちゃん」

拓也は、その言葉を聞くと、玄関へ向かう。

そして、一度も振り返らずに、玄関の扉を開けた・・・・・・





第四十四話 復活!最凶の敵!!




拓也が気がつくと、ベッドの上であった。

近くには、シャルロットが座って本を読んでいる。

「・・・・・・シャル?」

拓也は上半身を起こし、シャルロットに声をかける。

「気がついた?」

「ああ・・・・才人さんは?」

拓也は尋ねる。

「隣の部屋。今はシルフィードが見てる」

「そっか・・・・・」

「気分はどう?」

シャルロットに言われ、拓也は家族のことを考えてみる。

今まで余り思い出していなかった家族や仲間のことも、すんなりと思い出せる。

「・・・・・・会いたいな・・・・・皆に・・・・・」

拓也はポツリと漏らした。

「皆?」

「ああ・・・・・父さんや母さん、信也。友達や仲間たちに・・・・・・」

拓也は目尻に涙を浮かべる。

それに気付いた拓也は手で涙を拭う。

「そういえば、他の皆は?」

「先に帰った。あの、ハーフエルフの女の子を連れて」

「アイナもか?」

その言葉にシャルロットは頷く。

それには拓也も驚いた。

「何であいつまで・・・・・・」

「アイナは、タクヤの心を弄っていた事に罪悪感を感じていた。もう会えないとまで言って、ルイズと一緒に行ってしまった」

シャルロットが説明する。

「はあ・・・・・・」

それを聞くと、拓也は思いっきりため息を吐いた。

「あいつバカだろ?」

拓也はただそれだけを言った。

「俺がそんなことでアイナを嫌うとでも思ってんのか?」

「それには同意」

拓也が呆れ声で言って、シャルロットが頷く。

と、その時、

「帰りてえ!帰りてえよ!!」

隣の部屋から、才人の悲鳴とも思える叫び声が聞こえた。

拓也とシャルロットは一旦顔を見合わせ、隣の部屋へ急いだ。

そこには、イルククゥと、ベッドの上で頭を抱えた才人がいた。

「才人さん・・・・・・」

拓也は呟く。

才人は涙を流している。

拓也は疑問に思った。

「才人さん、俺の時よりも望郷の念が強くないか?」

シャルロットに尋ねてみる。

「契約期間の長さもある。けど、恐らくそれ以上に初めて契約したときの状況の違いから」

「契約したときの状況?」

シャルロットの答えに、拓也は首を傾げる。

「そう。タクヤは初めて契約したとき、アイナから説明を受け、自分が納得して使い魔になった。だから、元の世界の皆に会いたいと思うようになっても、帰りたいと思う気持ちが思ったよりも少なかった」

シャルロットの言葉に拓也は頷く。

「けど、サイトは違う。何の説明もされず、一方的に契約された。いわば、強引に使い魔にされた。そこから既に、帰りたいと思う気持ちが抑えられ始めていたからだと思う」

「そうだったのか・・・・・・」

拓也は呟く。

才人は泣きながら、あー・・・・・・っと、妙に切ない声を上げた。

「どうしたの?」

シャルロットが尋ねた。

才人は、ぼんやりと左手のルーンを見つめた。

「なんだよ。ルーンはあるじゃねえかよ」

立てかけたデルフリンガーが答える。

「ティファニアが消したのは、“こっちの世界にいるための偽りの動機”だけさ。お前さんの使い魔としての能力には、全く関係ねえ」

「・・・・・・どうせなら、こいつも消しちまえば良かったんだ」

才人は、ルーンを見つめて言った。

「そうかもしれんね。そのルーンは、お前さんの心の震えに反応する。こっちにいる理由を無くしちまえば、こっちでの出来事に心が震える事もあるめえよ」

ぼんやりと、遠い声で才人は言った。

「なあデルフ」

「なんだね?」

「俺の・・・・ルイズへの気持ちっていうかさ、それもやっぱり、“使い魔のルーン”が寄越した、偽りの感情だったんかな」

「さあね。そいつは俺にもわからねえ。相棒の心の事だろうが」

「もし、そうだったとしたら・・・・・俺はどうすりゃいいんだろうな」

「さて、どうすりゃいいんだろうなあ」




ルイズ達は、ロサイスへの道をケンタルモンの背に乗りながら向かっていた。

「ここからロサイスは50リーグは離れているけど、これならあまり時間をかけずに済みそうだな」

ギーシュがそう言う。

「シャルロットが残るって言ったときはどうしようかと思ったけど、助かったわね。それにしても、帰る方法を探すって、そんなにサイトとタクヤの生まれた国って、遠いところなの?」

ルイズは黙って唇を噛んでいる。

「なんてね。ほんとはあたし、知ってるの。サイトとタクヤが別の世界から来た人間って事。タクヤに聞いたのよ」

キュルケは、ちらっとルイズを見つめた。

「しかしまあ、あんたも冷たいわよね。そんな行き場の無いサイトを置いて行っちゃうなんて」

ルイズは押し黙ったまま、何も答えない。

キュルケは、自分が乗っていたケンタルモンの背から、ルイズの乗っているケンタルモンの背に飛び移る。

「ねえルイズ」

「何よ」

「あたし、あなたにいろんなこと教えてあげたけど・・・・・・・でも、そんな嘘の吐き方は教えてなくってよ?」

「嘘じゃないもん」

キュルケは、ルイズの頭の上に手を乗せて、顎を置いた。

「ほんとはあなた、怖いんでしょ」

「なにが」

「サイトの自分に対する気持ちが、使い魔としての気持ちだったらどうしようって・・・・・・・あなたはそれを見たくない。だからこうやって結果を見届けずに逃げ出してる」

「違うわ」

「シャルロットが“預かる”って言ってくれなかったら、どうするつもりだったの?放っておいたの?」

「そんなことしないわ。姫様が急いでティファニアを連れて来いって言うから、仕方なく先に行くだけよ。タバサがそう言ってくれなかったら、そりゃ残ってるわよ」

「言い訳だけは一人前なんだから」

「言い訳じゃないもん。第一、アイナはどう説明するのよ」

ルイズは、前を行くケンタルモンの背に乗るアイナを見て言った。

「アイナはあなたとは違うわ。あなたは逃げ出したのかも知れないけど、アイナは、タクヤのアイナに対する想いが、使い魔としてのものだろうと関係ない。それは、アイナがタクヤを愛しているから。相手からどう思われようと、アイナはタクヤを愛しているからそれでいい」

「なら、何で残らなかったのよ?」

ルイズの言葉を聞き、キュルケは呆れた表情をする。

「そんなことも分からないの?アイナはタクヤを愛するが故に、タクヤの心を弄っていた自分が許せないのよ。そう、タクヤを想っていた分だけ、それだけ想っていたタクヤの心を弄った自分が許せない。自分はタクヤの傍にいる資格が無いと思ってしまうほどね」

「アイナ・・・・」

「難しいところだけど、自分の気持ちに素直な分、あなたよりはマシよ」

「どういう意味よ!?」

「じゃあ聞くけど、もし、サイトのあなたに対する想いが、使い魔としてのそれだったら、あなたはどうするの?」

「どうもしないわ。とにかく、帰る方法を探してあげる。それだけだわ」

「じゃあその想いが、サイト自身の本物だったら?」

「か、帰る方法を探してあげるわ」

「今、照れたわね」

「照れてない。照れてないわ!」

「ホントに分かりやすい子ね。あなた。やっぱり大好きなんじゃないの。サイトのこと」

「勘違いよ!バカ!」

「ねえルイズ。あなたの今の行動、卑怯よ。相手の気持ちが偽りだったとしても、あなたの気持ちがそうじゃないならいいじゃない。今度こそ、自分自身の魅力で勝負すればいいだけの話しだわ」

「・・・・・・私、好きじゃないもん」

唇を尖らせて、ルイズは言った。




一行が暫く歩いていく。

空は快晴で、雲一つ無く、朝の光が眩しい。

何の変哲もない朝の風景。

だが、それは突然に起こった。

最初に異変に気付いたのはギーシュだった。

「ん?何だいあれは?」

ギーシュは、景色の一部が歪んでいる事に気付いた。

その歪みは徐々に大きくなり、やがて黒い穴のようになった。

そこで、他の皆もその異変に気付く。

「一体何!?」

ルイズが叫ぶ。

「あ、ありゃあ・・・・・・」

サジタリモンが呟く。

「知ってるの?サジタリモン」

サジタリモンの呟きに、背に乗っていたティファニアが尋ねる。

「ああ。俺達は、あの黒い穴に吸い込まれてこっちの世界にきたんだ」

サジタリモンの言葉に、ティファニアは驚いた表情をする。

「見て!何か出てくるわ!」

キュルケが叫んだ。

その言葉で、全員が黒い穴に視線を向ける。

その穴から出てきたのは、人の姿に酷似していた。

しかし、人ではないことは一目瞭然だった。

『それ』は、5mほどの身長を持ち、なにより、側頭部から羽を生やしていた。

金髪の頭の右側頭部からは、天使の翼のような純白の羽が。

左側頭部からは、悪魔の翼のような漆黒の羽が生えている。

「・・・・・クックック・・・・・・」

『それ』は突然笑いを零す。

「・・・・・ハーッハッハッハ!やったぞ!!私は蘇った!!」

大きな声を上げ、そう叫ぶ。

その言葉を聞いた一行は、何故か恐怖した。

「な、なんのなのよ・・・・・あいつ・・・・・」

ルイズは震える声で呟く。

まるで、蛇に睨まれた蛙のように、圧倒的存在の前に身体が硬直して動かない。

生物としての本能が、『それ』が危険だと訴えかける。





「ん?」

悩む才人の左目が不意に霞んで、ルイズ達と対峙している『それ』が映った。

いつぞやに見た、ルイズの視線であった。

「まったく・・・・・なんであいつってば、こう間が悪いわけ?」

つまらなそうに才人が言った。

左目には、ケンタルモンが次々とやられていく映像が流れる。

傍らに立てかけたデルフリンガーが才人に声をかけた。

「娘っ子がヤベえのかね」

「ああ。見える。左目に、ばっちり映ってら」

「どうするね。はっきり言うが、好きでも何でもないんなら、放っておきな。心が震えねえガンダールヴは、ただの足手まといだよ。いくだけ無駄ってもんさ。おりゃあ、巻き添えは嫌だからね」

才人は深いため息と共に呟いた。

「どうせなら、使い魔の能力も、ついでに消して欲しかったぜ」

「なんで?」

「そしたら、行かなくて済んだじゃねえか」

デルフリンガーは、カタカタと笑った。

「ちげえねえ」

才人は立ち上がると、デルフリンガーを握った。

その時、拓也が座っていた椅子を倒しながら勢い良く立ち上がった。

その顔は驚愕に染まっている。

拓也の目にもアイナの視界が映ったようである。

「な・・・・・なんで“奴”が・・・・・・」

その声は震え、手も震えていた。

「どうしたの?」

心配になったシャルロットが声をかける。

「・・・・・・・・・ル、『ルーチェモン』・・・」

拓也はそう呟くと、全力で駆け出した。

「タ、タクヤさま!?どうしたのね!?」

驚いたイルククゥが呼びかけるが、拓也は外へ飛び出すと、アルダモンに進化し飛び立った。

そんな様子を見た才人はシャルロットに声をかける。

「タバサ、向かってくれ」

「相棒、娘っ子のことは好きかね?」

憮然とした声で、才人は言った。

「ダメだ。やっぱり好きじゃねえ。あんな女、我侭で、バカで、気位ばっかり高くって・・・・・・・・おまけに最近は調子に乗って誉めろとか言い出すし。こう冷静に考えてみると、やっぱり全然好きじゃねえ。というか腹立つ。何やられそうになってるんだよ。迷惑だっつの」

「じゃあ、なんで助けるんだね?」

「・・・・・そんな女だけど、悔しい事に見てるとドキドキすんだよね。もしかして、これが巷で言う一目ぼれだとしたら、俺はその存在を呪おうと思う。性格を良く知っていれば、起こらなかった事故だと思う。あーあ、せっかくさよならできるところだったのに・・・・・・・・」

イルククゥは外に出ると竜の姿のシルフィードになる。

シャルロットが飛び乗る。

デルフリンガーを握った才人とギルモンもシルフィードに乗った。

「しっかり掴まってて。とばす」

シャルロットは、何時もの調子で言った。




アイナ達の目の前には、惨劇が広がっていた。

サジタリモンの部下であるケンタルモン達は、側近である1体を残して全滅し、デジコードをスキャンされ、デジタマになってしまった。

サジタリモンと、側近のケンタルモンもボロボロである。

「この私に楯突くとは・・・・・愚かな奴らだ」

そう言葉を放つのは、ルーチェモン。

かつて、デジタルワールドを支配しようとしたデジモンであり、拓也が仲間と共に倒した最後の敵であった。

ルーチェモンは、サジタリモンとケンタルモンに止めを刺さんと右腕を向ける。

「やめて!」

ティファニアが叫ぶ。

その時、

「ブラフマシル!!」

「ん?」

ルーチェモンは後ろを向く。

巨大な火球がルーチェモンの背後より迫り、ルーチェモンに直撃し、爆炎に包んだ。

見ると、アルダモンが飛んできて、皆の前に着地した。

「大丈夫か!?皆!」

アルダモンは声をかける。

「タクヤ・・・・・・」

そう、アイナは呟く。

「アイナ・・・・・お前は何も悪くない」

アルダモンはそう言う。

「でも!」

アイナは、何か言おうとしたが、遅れて飛んできたシルフィードに遮られる。

その背に乗っていた才人の姿を確認すると、ルイズが叫んだ。

「サイト!」

才人はシルフィードの背から飛び降りる。

「あ、あんた何やってるのよ!呼んでないでしょうが!」

「助けに来てやったのにその言い草はねえだろ」

つん、とルイズは腕を組んで言い放つ。

「・・・・・・まったく、ティファニアの魔法は効かなかったみたいね!このバカ、こうやって来ちゃうんだもん」

「効いたよ。効きまくりだよ。正直、俺は寝ぼけてたみてえだな。こっちの世界で出来る事ぉ?インターネットも無いのにぃ?無理!照り焼きバーガーも無いのにぃ?不可能!ああ、酔っ払っていたとしか思えねえ。恥ずかしい。これも全部、お前の所為だかんな。ゼロのルイズさんよ」

「え?」

「しっかし、まったく余計な事しやがって・・・・・今より、まだそっちの方がマシだったぜ。なーにが、虚無だっつの。なーにが、偽りの記憶消去だっつの。お陰で散々思い出したよ。一年分、思い出した。見ろ、わんわん泣いちまったじゃねえか。帰る方法が見つからないのに!」

才人は、赤く腫れた目を指差した。

「よ、よかったじゃない。これですっきり「才人、ルイズ」って、え?」

言い合っていた才人とルイズをアルダモンの言葉が止める。

「悪いが、今はそれ所じゃない。ここは、俺が何とか時間を稼ぐ。才人は皆を連れて、早く逃げるんだ」

その言葉を聞いて、アイナは驚愕した。

今までの拓也は、絶対にそんなことは言わなかったからだ。

そんな拓也が「何とか時間を稼ぐ」という、かなり消極的な言葉を使った。

今のアルダモンの顔も、焦りの表情が浮かんでいる。

アルダモンの視線の先。

爆煙が風に吹き飛ばされ、

「そ、そんな・・・・・・」

誰かが声を漏らした。

そこには、全くの無傷どころか、煤すらついていないルーチェモンの姿があった。

「フフフ・・・・・・炎の闘士か・・・・・・・久しいな・・・・・・」

「ルーチェモン・・・・・・何故・・・・・貴様がここにいる。・・・・・・・いや、貴様は俺たちが倒したはずだ」

ルーチェモンの言葉に、アルダモンは動揺を隠せない声で尋ねた。

「確かに、私は貴様たちに敗れた・・・・・しかし、あのときのスサノオモンの一撃・・・・・・それは、一時的に次元の壁を切り裂いた」

「なん・・・・だと・・・・・・?」

「その時に私は、自分のデータの一部を逃がす事に成功した。だが、所詮はデータの一部。次元の狭間の中で、私は消えていくはずだった」

「ならば・・・・・・何故ここにいる?」

「運命は私を見捨てなかったよ。その次元の狭間には、『奴』がいた」

「『奴』?」

「『奴』は、存在そのものが次元、空間、時空を歪ませる存在。私はその影響を受け、急速にデータを修復、復元する事に成功した」

「存在そのものが・・・・・?まさか!この世界にデジモン達が現れているのも!?」

「『奴』の存在が原因だろう」

「くっ・・・・・・」

「さて、話は終わりだ。デジタルワールドで成しえなかった我が楽園の創造。この世界で成しえるとしよう」

「くそっ!才人!何やってる!皆を連れて早く逃げろ!」

アルダモンは叫ぶ。

才人は、デジヴァイスを取り出すと、相手のデータを表示させる。

「ルーチェモン フォールダウンモード。完全体。ウイルス種。必殺技は、パラダイスロストとデッド オア アライブ。・・・・って、なんだよ。完全体じゃねえか」

才人は、基本的なデジモンに当てはめ、そんなことを言った。

「奴を舐めるな!ルーチェモンは、完全体でも、究極体を遥かに凌ぐ力を持っているんだ!」

アルダモンは覇竜刀を構えると、飛び出した。

覇竜刀に炎が宿る。

「フレイムソード!!」

アルダモンは、ルーチェモンの頭部目掛け、斬りかかった。

しかし、ルーチェモンはアルダモンを見ると、やれやれといわんばかりに首を振る。

その視線はアルダモンを見ていない。

アルダモンは、構わず覇竜刀を振り下ろす。

「ぐっ・・・・・」

しかし、その刃はルーチェモンに届かなかった。

覇竜刀は、ルーチェモンの左手の人差し指と中指に挟まれ、止められていた。

アルダモンは力を込めるが、ルーチェモンはビクともしない。

アルダモンは必死になっているが、ルーチェモンは全く力を込めている様子はない。

まるで、アリを摘むかのように最低限の力しか使っていないようだった。

すると、突如ルーチェモンが左手を引いた。

当然アルダモンも引っ張られる。

「うわっ!?」

そして、がら空きのボディに蹴りが叩き込まれる。

ルーチェモンにとっては軽く、アルダモンにとっては凄まじく重い蹴り。

「がはっ!!」

アルダモンは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「あ・・・・・・ぐ・・・・・・」

アルダモンは、デジコードに包まれ、拓也に戻ってしまう。

「拓也!!」

才人が叫んだ。

「行くぞ!ギルモン!」

「おっけー!」

才人とギルモンが駆け出す。

―――MATRIX

   EVOLUTION―――

「マトリックスエボリューション!」

「ギルモン進化!」

才人とギルモンが一つになり、進化する。

「デュークモン!!」

デルフリンガーがグラニとなり、デュークモンが乗り、ルーチェモンに向けて突っ込む。

「ダメだ!!デュークモン!!」

それに気付いた拓也が叫ぶが、デュークモンはルーチェモンにグラムを向ける。

「ロイヤルセーバー!!」

グラムが光り輝き、ルーチェモンに迫る。

だが、次の瞬間、

「バ、バカな・・・・」

思わずデュークモンは声を漏らした。

ルーチェモンは、右手を前に出し、人差し指一本でロイヤルセーバーを受け止めていた。

「くっ・・・・・」

デュークモンは気を取り直し、間合いを一旦取ると、

「デルフ!同時に行くぞ!!」

「おうよ!」

デュークモンはイージスを構え、デルフリンガーは口を大きく開ける。

イージスが光り輝き、デルフリンガーの口にエネルギーが集まっていく。

「ファイナル!エリシオン!!」

「ユゴスブラスター!!」

イージスとデルフリンガーの口から放たれる膨大なエネルギー波。

その2つは1つとなり、ルーチェモンに直撃した。

「これならば!」

デュークモンはそう言う。

やがて、爆煙が晴れていくと、

「そんな・・・・・まさか・・・・・・」

デュークモンは驚愕した声を漏らす。

そこには、無傷のルーチェモンの姿があった。

「如何した?何を驚いている?それとも、あんなものがこの私に通用するとでも?」

ルーチェモンは余裕の態度でそう言った。

「おのれぇっ!!」

それでもデュークモンはルーチェモンに向かっていく。

「待つんだ!デュークモン!!」

拓也が叫ぶ。

「愚かで愛おしき者共よ・・・・・」

ルーチェモンは、両手を腰溜めにして構える。

「慈悲を込めて与えてやろう・・・・・・パラダイスロスト!!」

ルーチェモンは一瞬にしてデュークモンとの間合いを詰める。

「なっ!?」

デュークモンは驚愕の声を漏らす。

だが、次の瞬間には、秒間数百発もの拳のラッシュがデュークモンに叩き込まれる。

「ぐぁああああああああああああああああっ!!」

デュークモンの叫び声が響く。

デルフリンガーもその時の衝撃で吹き飛ばされている。

「あ、あの技は!!」

拓也の脳裏に崩壊したデジタルワールドの月が思い出される。

そして、今自分たちがいる場所に思い至ったとき、最悪の光景が思い浮かぶ。

「ま、拙い!!」

拓也は、ダメージを負い、痛む身体を無理やりに動かし立ち上がる。

「エンシェントスピリット!エボリューション!!ぐがぁああああああああっ!!」

拓也は、エンシェントグレイモンに進化する。

「エンシェントグレイモン!!」

進化すると、エンシェントグレイモンは皆に呼びかけた。

「皆!早く背中に乗れ!!」

「何言ってるのよ!私たちのことはいいから、早くサイトを助けに行きなさい!」

ルイズが叫ぶが、

「つべこべ言うな!!死にたいのか!!」

エンシェントグレイモンの尋常ではない叫びに、ルイズは萎縮する。

比較的冷静だったシャルロットが、レビテーションをかけて、皆をエンシェントグレイモンの背に移動させる。

「ピッピップ~」

孤児たちや、サジタリモンとケンタルモンも、マリンエンジェモンがハート型の泡で包み、エンシェントグレイモンの背に運んだ。

その時、デュークモンが空高く蹴り上げられる。

「サイト!」

ルイズが悲痛な叫びを上げる。

ルーチェモンが背中に5対の翼を生やす。

しかし、右半分の5枚は、天使の翼のような純白の翼だが、左半分は悪魔の翼のような漆黒の翼だった。

そして、凄まじい速度で蹴り上げられたデュークモンを超えるスピードで飛び上がる。

やがて追いつくと、逆さまになったデュークモンの足を左腕で固定。

足でデュークモンの両腕を固定する。

そして、右手を自分の額近くに持ってくると、

「フッ・・・・・」

と声を漏らす。

それと同時に凄まじいスピードで落下を始めた。

「くっ!」

エンシェントグレイモンは慌てて飛び上がった。

「サイト!」

ルイズが叫ぶ。

その瞬間、デュークモンは大地に叩き付けられる。

だが、それだけでは終わらなかった。

大地がひび割れを起こし、2方向に大地の裂け目が伸びていく。

「嘘・・・・でしょ・・・・・・」

キュルケが絶望に等しい声を漏らした。

デュークモンが叩き付けられたところを中心に、大地が砕けていく。

そして、砕かれ浮力を失った大地は落下していく。

「ア・・・・・アルビオン大陸が・・・・・欠けた・・・・・」

ギーシュが呆然とした声で呟く。

「まだマシな方だ。もし、ここがアルビオン大陸の中央だったら、大陸全てが粉々になっている」

エンシェントグレイモンの言葉に全員の顔から血の気が引く。

「そうだ!サイトは!」

気を取り直したルイズが叫ぶ。

ルイズは、デュークモンの姿を探す。

やがて煙が晴れていくと、断崖絶壁となった部分の端にルーチェモンに足を固定されたまま宙吊り状態になっているデュークモンの姿を見つけた。

「サイト!」

ルイズが叫ぶ。

「う・・・・・・ぐ・・・・・・」

デュークモンは僅かに身じろぎをする。

ルーチェモンは、デュークモンに興味を失ったように固定していた足を解放した。

デュークモンは重力に従い、地上に向かって落ちていく。

「あ、相棒・・・・」

吹き飛ばされたデルフリンガーがフラフラになりながらも後を追った。

「サイト!!」

ルイズが悲鳴を上げる。

「デュークモンは大丈夫だ。アルビオン大陸がクッションになったお陰で、ルーチェモンの技の威力は半減している!それにデルフリンガーも向かった!まずは大丈夫だ!」

エンシェントグレイモンはそう言って、ルーチェモンから少し離れた場所に着陸し、皆を下ろす。

「俺が囮になる!その隙に皆は逃げるんだ!」

エンシェントグレイモンは、そう言って飛び立とうとする。

「タクッ・・・・・」

アイナが呼びかけようとしたが躊躇してしまい、エンシェントグレイモンは気付かずに飛び立つ。

飛び立ったエンシェントグレイモンをアイナは何とも言えない表情で見つめた。

「それでいいの?」

シャルロットがアイナに尋ねた。

「シャルロット・・・・・・」

アイナは呟く。

「アイナは、本当にそれでいいの?拓也が傍にいなくてもいいの?」

「でも・・・・タクヤの心を弄っていた私に、タクヤの傍にいる資格なんて・・・・・」

「本当にそう思ってるの?」

シャルロットの全てを見透かしたような視線に、アイナは俯く。

「そんなわけ・・・・・・無いよ・・・・・・」

アイナは呟いた。

「傍にいたいよ!もう会えないなんて絶対に嫌!拓也の傍にいたいよ!」

アイナは赤裸々な心の叫びを口にする。

「だったら、伝えなきゃ」

「え?」

シャルロットの言葉に、アイナは顔を上げる。

シャルロットの後ろにはシルフィードが待機している。

「タクヤさまの所に行くのね!」

シルフィードがそう言う。

「シャルロット・・・・・・・シルフィード・・・・・・・」

アイナは涙を流しながら呟く。

シャルロットとシルフィードは頷く。

それを見て、アイナも深く頷いた。




エンシェントグレイモンは、ルーチェモンに向かっていた。

「ルーチェモン!」

エンシェントグレイモンは叫ぶ。

「まだ抗うか・・・・・・見苦しいものだな・・・・・」

「黙れ!!」

エンシェントグレイモンは、叫びながらオメガバーストを放つ。

灼熱の業火に飲み込まれるルーチェモン。

だが、炎を吐き続けていたエンシェントグレイモンの目の前の炎の中から、ルーチェモンが現れた。

「なっ!?」

「ふんっ!」

ルーチェモンはエンシェントグレイモンの頭部を殴りつける。

「ぐあっ!」

エンシャントグレイモンは仰け反るが、何とか持ち直す。

エンシェントグレイモンが再びルーチェモンの姿を確認したとき、思わず動揺した。

「うっ・・・・・」

ルーチェモンは、右手に光の球を。

左手に闇の球を生み出していた。

「光!」

ルーチェモンは、右の光の球をエンシェントグレイモンに投げつけた。

「ぐあっ!」

エンシェントグレイモンは光に包まれる。

「闇!」

続けてルーチェモンは闇の球を投げつける。

闇の球が光にぶつかると、光のエネルギーと闇のエネルギーが交じり合い、膨大なエネルギーを含んだ球状の魔法陣となる。

「デッド オア アライブ!」

ルーチェモンが技の名を告げる。

「ぐぁあああああああああああっ!!」

凄まじいエネルギーの奔流がエンシェントグレイモンを苦しめる。

そして、魔法陣が砕けると同時に進化が解け、ボロボロになった拓也が重力に従い落下していく。

上空で進化が解けた拓也が地面に激突すれば、死は免れない。

だが、

「タクヤ!」

シルフィードに乗って駆けつけたアイナが、拓也にレビテーションをかけ、拓也はゆっくりと地面に落ちる。

シルフィードは、拓也の近くに着陸し、アイナとシャルロットは飛び降り、拓也に駆け寄る。

シルフィードも人型になり、拓也に駆け寄った。

「タクヤ!しっかりして!」

アイナが拓也に呼びかける。

「う・・・・ぐ・・・・・・」

拓也が身じろぎをして、ゆっくりと目を開ける。

「ア、 アイナ・・・・?」

「うん、そうだよ!」

拓也は意識を覚醒させると、慌てて飛び起きた。

「ぐっ・・・・・何やってるんだ!早く逃げろ!」

拓也は痛みを我慢しながら叫んだ。

しかし、アイナは首を横に振る。

「シャル!イルククゥも!アイナを連れて早く逃げるんだ!」

拓也はシャルロットとイルククゥに呼びかける。

だが、2人も動かない。

その時、ルーチェモンが高度を下げてくる。

「フッ・・・・・美しき愛というべきか・・・・・脆く儚いものほど美しいというが、正にその通りだな」

ルーチェモンは両手を横に広げ、右手に光の球を、左手に闇の球を生み出す。

「私は慈悲深い・・・・・・せめてもの情けだ・・・・・・愛する者達と共に逝かせてやろう」

ルーチェモンは拓也達を見下ろす。

「や、やめろルーチェモン!!3人とも!俺のことはいい!早く逃げるんだ!!」

拓也は叫ぶ。

「光!」

光の球が拓也達に向かって放たれる。

拓也達はなすすべなく光のエネルギーに飲み込まれる。

「フッフッフ・・・・・これで邪魔者はいなくなる・・・・・・さあ・・・・我が楽園の礎となれ!!」

ルーチェモンはそう高らかに叫ぶ。

「闇!」

拓也達が包まれた光に向かって、闇の球が無常にも放たれた。






次回予告


ルーチェモンの圧倒的な力の前に倒れた拓也とデュークモン。

だが、アイナの、イルククゥの、シャルロットの拓也への想いが。

才人、ギルモン、デルフリンガーの友情が。

絆の力が、今、新たなる奇跡の進化を生む。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第四十五話 絆の進化

今、異世界の物語が進化する。






あとがき

とりあえず四十四話完成です。

突っ込みどころは結構あると思いますが、一番の突っ込みどころはルーチェモンの登場ですかね。

自分でも早いかな~、とは思ったんですけど、ルーチェモンと戦わせるのはアルビオン大陸じゃないと・・・・・・

え?何でかって?

そりゃあ、地上でパラダイスロストなんてかました日にゃ、ハルケギニア崩壊しますから。

地震、地割れ、火山噴火etc・・・・・・・

たまったもんじゃないです。

因みにアルビオン大陸は20分の1ぐらい欠けました。

巻き込まれた人は南無~。

あと、犠牲になったケンタルモン達にも黙祷を。

それにしても、ルーチェモンの傲慢さを表現し切れなかった。

自分の力の無さが恨めしい。

さて、次回は更にパワーバランスを崩壊させるような事になりそうな予感が・・・・・

とりあえず、次回も頑張ります。





[4371] 第四十五話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/08/31 23:37
ルーチェモンの圧倒的な力の前に破れた拓也とデュークモン。

止めを刺されそうになったとき・・・・・・


第四十五話 絆の進化


ルーチェモンのパラダイスロストを受け、身動きが出来ぬほどの大ダメージを受けたデュークモンは、地上へ向かって落下していく。

「・・・・・う・・・・・ぐ・・・・・・・」

身じろぎするが、体勢を立て直す事が出来ない。

いくら究極体とはいえ、大ダメージを受けた上に、これだけの高度から地面に叩きつけられたら無事では済まない。

だがその時、

「相棒!」

フラフラになりながらも、デルフリンガーが飛んできて、デュークモンを受け止める。

「デ・・・・デルフ・・・・・」

デュークモンはなんとか呟く。

「あ、相棒・・・・無事か・・・・」

デルフリンガーもギリギリといった声だ。

『デルフ、お前もボロボロじゃねえか』

デュークモンと一体となっている才人の声が聞こえた。

「ああ・・・・衝撃だけでも、ものすげえ威力だったぜ。まともに喰らった相棒たちは、大丈夫なのか?」

『正直、大丈夫じゃねえな・・・・・・・喰らったのがアルビオン大陸だったからまだマシだったけど・・・・・』

「あんなもん地上で使われたら、とんでもねえな」

『ああ・・・・・』

「・・・・・・それで、如何するんだい相棒?」

『・・・・・・・・・』

「一応、このまま地上に向かえばこの場は逃げることが出来るぜ」

『・・・・・・・・・』

「上に向かうってのは止めときな。アイツには敵わねえ。逆立ちしたって無理だ」

『・・・・・・けどよ・・・・』

「お前さんたちが一つになっても敵わねえんだ。坊主だけでも、いや、一緒に戦っても無理だ」

『・・・・・・ッ!?お前、今なんていった!?』

才人が気がついたように叫んだ。

「坊主と一緒に戦っても無理だと言ったぜ」

『違う!その前だ!』

「は?・・・・・・お前さんたちが一つになっても敵わねえ・・・・・?」

『それだ!』

才人は叫んだ。

「は?」

『このままじゃ敵わない。かといって、一緒に戦っても無理。だったら、一つになるんだ。俺とギルモンが一つになったように。デルフ、お前も!』

「相棒と一つに?」

『ああ!俺とギルモンが一つになれたんだ!だったら、俺のもう一人の相棒であるお前も、一つになれるはずだ!』

才人は自信を持った声で言った。

「相棒と・・・・・一つに・・・・・」

『そうだ。思うんだ。俺達は一つになると』

「一つに・・・・」

デルフが、

「一つに・・・・」

デュークモンが、

『一つに・・・・』

そして、才人が呟き、

「「『一つに!!』」」

3人の心が合わさったとき、光が満ちた。






ルーチェモンから放たれた光の球の中に捕らえられた拓也達。

そこでは、仰向けに倒れた拓也の周りにアイナ、イルククゥ、シャルロットが膝を付いて座っていた。

「アイナ・・・・イルククゥ・・・・シャル・・・・・何で・・・・逃げなかったんだ?」

拓也が仰向けに倒れた状態のまま呟く。

「私は、あなたの傍を離れない・・・・・そう誓った」

シャルロットが答える。

「きゅい!シルフィもどんな事があってもタクヤさまとお姉さまと一緒にいるのね」

イルククゥも迷いなく答えた。

「・・・・・私も・・・・拓也と一緒にいたい・・・・それに・・・・拓也が死んだら、私も死ぬから」

アイナも、自分の想いを口にした。

「・・・・・・シャル・・・・・・イルククゥ・・・・・・・アイナ・・・・・・」

拓也は、順番に視線を移していく。

目と目が合うたびにそれぞれが頷いてくれる。

拓也は自然と、左手を上げた。

その左手を、3人の手が包む。

そんな時、ルーチェモンの光とは違った光の粒が4人を包んでいることに気付く。

その光の粒は、覇竜刀から放たれていた。

「これは・・・・・?」

拓也が声を漏らす。

「きゅい!精霊たちが祝福してくれているのね!」

精霊たちを感じ取ったイルククゥがそう声を上げた。

拓也は、立ち上がる。

何故か痛みは無かった。

「ありがとう・・・・・3人とも・・・・・こんなにも俺のことを想っていてくれて・・・・・・」

拓也は、自然と笑みを零す。

3人も微笑を返した。

その時、合わさっていた4人の手に、デジコードの輪が発生した。

だが、普通のデジコードではない。

そのデジコードは、

「赤い・・・・・デジコード・・・・?」

拓也の言うとおり、4人の合わせた手に発生したデジコードは、赤い色をしていた。

そして、それと同時に、それがどういう意味を持つかも、4人は理解した。

「アイナ・・・・・イルククゥ・・・・・シャル・・・・・・俺と一緒に戦ってくれるか?」

拓也は3人に問いかけた。

「もちろんだよ!」

「当たり前なのね!」

「当然」

3人は迷い無く頷く。

拓也もそれに応える様に頷き、デジヴァイスを構えた。

そして、赤いデジコードにデジヴァイスをなぞる様に滑らせる。

「「「「オーバースピリット!ゼヴォリューション!!」」」」

デジコードをスキャンすると同時に、アイナ、イルククゥ、シャルロットの3人は赤いデジコードとなり、拓也を包む。

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

拓也は叫び声を上げる。

腕にシャルロットのデジコードを、

足にイルククゥのデジコードを、

そして、体にアイナのデジコードを纏う。

更に、頭部に向かって炎のスピリットが飛んできて、当たると同時に拓也が炎に包まれる。

その炎の中から現れたのは、焔の鎧を纏いし紅蓮の竜戦士。

その名は、

「カイゼルグレイモン!!Ⅹモード!!」





放たれた闇が光と交わり、球状の魔法陣を形作る。

「デッド オア アライブ!」

エネルギーが暴れ狂おうとした時、球状の魔法陣は弾け飛ぶ。

「バカな!デッド オア アライブが破られた!?」

ルーチェモンは驚愕した声を漏らす。

煙の中から、カイゼルグレイモンが姿を見せる。

だが、普通のカイゼルグレイモンではなかった。

その姿は、普通のカイゼルグレイモンより鋭いボディを持ち、背中には龍魂剣を超える大剣『龍神剣』。

そして、その眼光に宿るは3人の少女の想いを受け取った、力強き闘志。

「ルーチェモン・・・・・貴様の考えは、あらゆる世界に生きる全ての命を不幸にする・・・・・・・放っておくわけにはいかない!」

カイゼルグレイモンがルーチェモンに向かって言い放つ。

「だからどうした?貴様ごときがこの私を倒せるとでも?」

ルーチェモンはそれでも余裕の態度を崩さずにそう言う。

「・・・・・・・・・」

カイゼルグレイモンは何も言わない。

だが、次の瞬間、

「何!?」

一瞬でルーチェモンの懐に飛び込む。

油断しきっていたルーチェモンは反応が遅れる。

「はぁあああああああっ!!」

カイゼルグレイモンは、渾身の拳を、ルーチェモンの顔面に叩き込んだ。

「ぐおっ!?」

ルーチェモンはその一撃に怯み、吹き飛ばされる。

ルーチェモンは、体勢を立て直し、殴られた頬を拭う。

「ふ・・・・・油断したよ。少しはやるじゃないか・・・・・だが、その程度の力でこの私にたった一人で挑もうなどとは愚かとしか言いようがない」

ルーチェモンが、未だ余裕のある声でそう言った時、

「1人ではないっ!!」

デュークモンの声が響いた。

「何っ!?」

崖の下から、光が上昇してくる。

そして、その光が翼を広げた。

その姿は、真紅の鎧を纏った聖騎士。

左手には、神剣ブルトガング。

そして、背中には光り輝く10枚の翼。

デュークモンの秘められた力を解放した姿。

それは、

「デュークモン!!クリムゾンモード!!」

デュークモンは名乗りを上げる。

「ルーチェモン!貴様の愚行、このデュークモンが絶対に許しはしない!」

デュークモンは、右手を前にかざすと、神槍グングニルを具現し、その手に掴む。

「往くぞ!!」

デュークモンはルーチェモンに斬りかかる。

ルーチェモンはその一撃を上昇して避ける。

だが、そのルーチェモンに影がかかる。

「何!?」

ルーチェモンが上を見上げると、カイゼルグレイモンが背中の龍神剣を抜き、ルーチェモンに斬りかかろうとしていた。

「うぉおおおおおおおっ!!」

カイゼルグレイモンは大剣で斬りかかる。

体勢の悪かったルーチェモンは、避ける暇が無く、その一撃を白刃取りする。

「ぬぐっ・・・・・」

ルーチェモンは押し返そうとするが、カイゼルグレイモンの力も凄まじく、なかなか押し返す事ができない。

「そこっ!」

後ろからデュークモンが斬りかかる。

「ぬうっ!」

ルーチェモンは押し返す事を諦め、横に受け流す事によって、龍神剣を逸らす。

すぐさまデュークモンの一撃をかわした。

「はぁっ!」

カイゼルグレイモンが切り返し、再び龍神剣がルーチェモンに襲い掛かる。

それをルーチェモンは飛び退く事で避ける。

だが、今の一撃が掠めていたのか、ルーチェモンの腹部には薄い傷があった。

「おのれ!パラダイス・・・・」

「させん!!」

必殺技を放とうとしたルーチェモンを、デュークモンが力を溜める一瞬の隙を突き蹴り飛ばす。

「ぬがぁ!」

デュークモンの一撃を受け、技の出だしで止められる。

「舐めるな!」

ルーチェモンは、再び光の球と闇の球を作り出す。

「光!」

カイゼルグレイモンとデュークモンに光の球を投げつける。

対して、カイゼルグレイモンは、龍神剣をルーチェモンに向ける。

すると、刀身が展開する。

そして、

「爆竜撃!!」

剣の鍔に付いている引き金を引く。

刀身が光り輝き、強力なエネルギー弾となって撃ち出される。

それは、ルーチェモンの放った光の球を貫く。

「何だと!?」

そのまま、爆竜撃はルーチェモンに向かって行く。

「し、しまっ・・・・」

――ドゴォオオオオン!!

ルーチェモンは爆竜撃をもろに受ける。

「ぐう・・・・・」

ルーチェモンはかなりのダメージを受けていた。

「お前の技、デッド オア アライブは、光と闇のエネルギーが混ざり合って本当の力を発揮する。光と闇が混じりあう前なら、破れないこともない」

カイゼルグレイモンはそう言った。

「・・・・・おのれ・・・・・おのれ!・・・・・・・おのれぇえええ!!」

ルーチェモンは、憤怒の表情を露にする。

「この私が・・・・・世界の王であるこの私が・・・・・2度も負けるなどという事があって・・・・・・なるものかぁあああああああっ!!」

ルーチェモンの傲慢さと憎しみの心が、更なる闇を呼び寄せた。

ルーチェモンが巨大な闇に覆われる。

「こ、これは!?」

デュークモンが驚愕の声を漏らす。

「来るぞ・・・・・サタンモードが」

カイゼルグレイモンが、冷静にそう言った。

その闇が竜の姿を形作り、

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!!」

凄まじき咆哮を上げる。

「で、でかい・・・・・」

デュークモンは、その巨大さに声を漏らす。

「怯むな!行くぞ!!」

カイゼルグレイモンが、デュークモンに声をかける。

「ッ!応ッ!!」

その言葉に、デュークモンは気を取り直し、応える。

2体は、ルーチェモン サタンモードに向かっていく。

振り回される腕や尻尾をかわし、カイゼルグレイモンとデュークモンはルーチェモンの背中に斬りかかる。

2体の攻撃は、ルーチェモンに傷を付けた。

「よしっ!・・・・・・何っ!?」

手応えを感じたデュークモンだが、たった今付けたはずの傷が、瞬く間に再生していくのを見て声を漏らす。

「・・・・やはり、外からの攻撃は通用しないか・・・・・」

予想していたカイゼルグレイモンは、さほど驚いた様子はない。

「パーガトリアルフレイム!!」

ルーチェモンが、赤紫色の炎を吐く。

その炎がカイゼルグレイモンとデュークモンを焼き尽くさんと2体に迫る。

「くっ・・・・!」

「ちぃ・・・・!」

2体は空中を移動し、その炎を避ける。

「くそ・・・・・如何すれば・・・・・・」

デュークモンが声を漏らす。

「ルーチェモン サタンモードは本来、意思を持たない。だから、奴を操る本体がいる」

カイゼルグレイモンが言った。

「それは何処だ!?」

デュークモンが尋ねる。

カイゼルグレイモンが指をさし、

「奴が抱えている暗黒球体。その中だ!」

そう言い放った。

「わかった!」

それを聞いた途端、デュークモンが飛び出した。

「ま、待て!」

カイゼルグレイモンは慌てて止めようとするが、間に合わない。

デュークモンは、炎を避けつつ、その暗黒球体に攻撃を仕掛ける。

「はぁあああああああああっ!!」

デュークモンは、グングニルで貫こうとする。

だが、

――バキィン

その結界は強固で、デュークモンの一撃が止められる。

しかし、暗黒球体に近付いたお陰で、中の様子が僅かだが見えた。

暗黒球体の中に存在する、胎児のような姿をしたもの。

「あれが・・・・本体・・・・」

デュークモンが呟く。

その瞬間、それから凄まじい衝撃波が放たれ、デュークモンを吹き飛ばす。

「うあっ!?」

「デュークモン!」

カイゼルグレイモンが、吹き飛ばされたデュークモンを受け止めた。

「くっ・・・・すまない」

デュークモンは礼を言う。

「あの暗黒球体に直接向かっていっても、あの結界は硬い。そう簡単に破れはしない」

「ならば如何する?」

デュークモンは尋ねた。

カイゼルグレイモンは龍神剣を構えなおすと一度目を閉じ、拓也が同化しているアイナ、イルククゥ、シャルロットに語りかける。

『皆・・・・・俺を信じてくれるか?』

拓也の言葉に、

『信じるよ』

『信じるのね』

『信じる』

3人から迷いなく言葉が返ってきた。

『・・・・・・ありがとう』

カイゼルグレイモンは目を開ける。

「デュークモンは、皆を守ってくれ」

離れた所にいるルイズ達に視線を向け、そう言った。

「あ、ああ」

デュークモンは、ルイズ達の所に飛んでいく。

その時、ルーチェモンが声を発した。

「貴様たちは絶対に許さん!この世界ごと、消し去ってくれる!!」

ルーチェモンは、頭上に7つの球体を生み出す。

「ディバインアトーンメント!!」

その7つの球体から光と共に凄まじい熱量が放たれる。

それは、ルーチェモンを覆い、どんどん膨らんでいく。

その光は、触れたもの全てを焼き尽くし、蒸発させる。

カイゼルグレイモンは、その光に飛び込んだ。

それでもその光は膨らんでいき、ルイズ達を飲み込もうとした。

「「「きゃぁあああああああっ!!」」」

「うわぁああああああああっ!!」

叫び声を上げる一同。

「はあぁっ!!」

しかし、デュークモンがグングニルからエネルギーを放出し、皆を守る。

更に、マリンエンジェモンがハート型の泡で皆を包み、熱からも守る。

しかし、余り長続きしそうになかった。



そんな中、カイゼルグレイモンはルーチェモンに向けて突撃していた。

「うぉおおおおおおおおおおおおっ!!」

凄まじい熱量で身体を焼かれながらも、その勢いは止まらない。

ルーチェモンの腕が繰り出される。

カイゼルグレイモンはその腕を突き破る。

「はぁあああああああああああっ!!」

そのまま、ルーチェモンの胴体に突っ込み、潜り込んだ。

「くぅううううううううっ!!」

エネルギーの流れに乗り、暗黒球体の中に入る事に成功する。

「バカな!?一度ならず二度までも、この暗黒球体の中に入って来るだと!?有り得ん!!人間如きが!!」

カイゼルグレイモンは、ルーチェモン ラルバの姿を確認する。

「見つけた!」

カイゼルグレイモンは、ルーチェモン ラルバへ向かっていく。

ルーチェモン ラルバは尾の先から、何発もの光弾を発射する。

「有り得ん!認められるものか!!」

カイゼルグレイモンは、龍神剣を回転させて光弾を防ぎつつ、ルーチェモン ラルバへ向かう。

「何故だ!何故!?」

「俺には、皆の心が宿っているからだ!!」

「心だと!?そんなものが何の役に立つ!?必要なのは“知恵”!そして“力”だ!!」

ルーチェモン ラルバの攻撃が激しさを増す。

カイゼルグレイモンは爆発に呑まれた。

「フン・・・・・・・何ィ!?」

油断していたルーチェモンは爆煙の中から現れたカイゼルグレイモンに驚愕する。

「強き心・・・・・それは時に大きな力をも超えられる」

カイゼルグレイモンは龍神剣を振りかぶる。

「暗黒より無限のものだと知れ!!」

その言葉と共に、龍神剣を一閃した。

――バキャァァァァン

それと共に、暗黒球体が砕け散る。

そして、ディバインアトーンメントの光が収束していく。



「お、終わったのかい?」

収束していく光を見て、ギーシュが呟く。

だが、光の中からルーチェモン サタンモードが現れ、暴れ狂うように炎を吐く。

「まだ終わってないんだわ!」

ルイズが叫ぶ。

それを見ると、デュークモンがルーチェモンに向かって飛んでいく。

ルーチェモンの近くに、カイゼルグレイモンの姿を確認した。

「カイゼルグレイモン!」

デュークモンが呼びかける。

「デュークモン」

カイゼルグレイモンが答える。

「奴は一体如何したんだ!?」

暴れ狂うルーチェモンを見て、デュークモンが問いかける。

「操る者がいなくなって、暴走しているんだ。デュークモン、止めを刺すぞ!」

「応ッ!」

カイゼルグレイモンは地に降り、龍神剣を地面に突き刺す。

罅が8方向に広がる。

「九頭竜神!!」

その罅の一つ一つから、炎の龍が生み出される。

8匹の炎の龍はそれぞれ、首、両腕、両腰、両足、尾に喰らいつき、ルーチェモンの動きを封じる。

「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」

カイゼルグレイモンが、真下から出てきた一際大きな炎の龍を纏って、ルーチェモンに突撃する。

「はぁあああああああああああっ!!」

カイゼルグレイモンは、龍神剣を大きく振りかぶり、炎の龍と共に斬りかかった。

「グギャァアアアアアアアアアアッ!!!」

ルーチェモンは叫び声を上げ、データ崩壊寸前まで行く。

そして、

「クォ・ヴァディス!!」

そのルーチェモン目掛け、デュークモンがグングニルを全力で投擲する。

その威力は、今のルーチェモンに耐え切れるものではなかった。

ルーチェモンの身体が電子分解されていき、消滅していく。

「終わったか・・・・・」

デュークモンが呟く。

だがその時、カイゼルグレイモンは気配を感じた。

カイゼルグレイモンが振り向く。

ルーチェモン ラルバが、猛スピードでカイゼルグレイモンに突撃してきた。

「カイゼルグレイモン!!」

デュークモンが、ルーチェモンに気付き、叫ぶ。

そして・・・・・・・








































――ドシュ








































































何かを貫く音がした。































































一瞬だが、永遠とも思える静寂。


























































「・・・・・・前にも言ったぞ、ルーチェモン・・・・・」

呟いたのは、カイゼルグレイモンだった。

「・・・・・あ・・・・・・が・・・・・・?」

ルーチェモン ラルバは、その身を龍神剣によって貫かれていた。

「同じ手に二度かかるほど、愚かではないと!!」

カイゼルグレイモンは言い放ち、そのまま龍神剣を展開した。

ルーチェモンラルバが突き刺さったまま、カイゼルグレイモンは鍔の引き金を引く。

「爆竜撃!!」

零距離での爆竜撃。

「ぎぃやぁああああああああああああああっ!!!!」

ルーチェモン ラルバは断末魔の叫びを上げながら消滅した。

それを見届けたカイゼルグレイモンは、

「今度こそ、終わった・・・・・」

そう呟いた。

カイゼルグレイモンとデュークモンは地上に降りる。

アルビオン大陸は、かなり地形が変わっていた。

最後のディバインアトーンメントがまた更にアルビオン大陸を削り取っていた。

地上に降りた2体に向かって、皆が駆けてくる。

それを確認した2体は進化を解いた。

カイゼルグレイモン Ⅹモードの進化が解かれると、拓也、アイナ、イルククゥ、シャルロットが円を作るように手を繋ぎ、4人の中央に覇竜刀があった。

デュークモン クリムゾンモードは、才人、デルフリンガー、そして、ギギモンに分かれた。

才人は、ギギモンを見て、ちょっと驚く。

「ギ、ギギモン!?何でお前幼年期まで退化してるんだよ?」

才人は尋ねた。

「ギギモン疲れた」

そう言って、ギギモンは座り込んでしまう。

「力を大量に消費したんで、そこまで戻っちまったんじゃねえか?」

デルフリンガーが仮説を立てた。

「この様子を見てると、そうかもな」

才人は頷くと、ギギモンを抱き上げる。

「才人さんは、平気なんですか?」

拓也が尋ねる。

「ああ。普通の進化よりかは疲れたけど、動けねえってわけじゃないぞ」

才人は答える。

「そうですか・・・・・・なら・・・・・後・・・お願い・・・・・しま・・・・・す・・・・・・」

拓也はそれだけ言うと倒れた。

見れば、アイナ、イルククゥ、シャルロットも倒れている。

何故か拓也に寄り添うようにしているが。

才人は拓也達が倒れたので、慌てて駆け寄る。

すると、

「・・・・・Zzz・・・・・・Zzz・・・・・・・」

「・・・・・くぅ・・・・・・くぅ・・・・・・・」

「・・・・・きゅぃぃ・・・・きゅぃぃ・・・・・」

「・・・・・すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・・」

4人とも寝息を立てていた。

才人は安心するととに脱力した。

そして、駆け寄ってくる皆に向かって手を振るのだった。







次回予告


ウェールズに保護され、無事に学院に戻れた拓也達。

一方、ティファニアは1年に編入することになり、一躍人気者になる。

しかし、それを面白く思わない女子生徒が・・・・・・・

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第四十六話 アルビオンからの編入生

今、異世界の物語が進化する。





才人のデジモン成長日記



名前:デュークモン クリムゾンモード
属性:ウィルス種
世代:究極体
種族:聖騎士型
必殺技:無敵剣(インビンシブルソード)、クォ・ヴァディス




オリジナル(とは言えない)デジモン



名前:カイゼルグレイモン(Ⅹ)
属性:バリアブル
世代:ハイブリッド体(超越形態)
種族:竜戦士型
必殺技:爆竜撃(ばくりゅうげき)、九頭竜神(くずりゅうじん)
                    ↑
                 (誤字に非ず)


Ⅹ抗体を取り込んだカイゼルグレイモン。

ボディは更に鋭さを増している。

龍魂剣を超えた龍神剣を持ち、最大攻撃力はスサノオモンに迫る。

だが、体力の消費が激しく、10分程度しかこの姿を保てない上、進化した後は、丸1日は4人とも強制的な睡眠に陥ってしまう。





あとがき

第四十五話完成。

ルーチェモンフルボッコ・・・・・とは言えないけど、殆ど一方的。

遂に出ました、拓也のマトリックスエボリューションのような事。

「オーバースピリットゼヴォリューション」、直訳すれば「魂を越えたX進化」ってところです。

突っ込みどころ満載ですかね?

ノーマルとの差は、ウォーグレイモンとウォーグレイモンXの違いぐらいですね。

リスクもどっかで聞いたことがあるような体力超消費。

自分の覚えでは、スーパーファ〇ヤーダグ〇ンかな。

デュークモン クリムゾンモードは無印、02でお馴染みの幼年期まで退化。

才人もそれなりに体力消費してます。

因みに台詞も所々聞いたことがあるような・・・・・・

更に序に言っておきますが、ノーマルのカイゼルグレイモンもその内出します。

恐らく後10話以内には出てくるかと・・・・・・・

では、次も頑張ります。








[4371] 第四十六話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/09/12 20:57
ルーチェモンを倒す事ができた拓也達。

そして・・・・


第四十六話 アルビオンからの編入生


「う・・・・・・」

拓也が目を覚まし、身体を起こそうとすると、

――ズキズキズキズキィ!!

凄まじい痛みが体中を襲った。

「あだだだだだだっ!!??」

拓也は思わず悲鳴を上げる。

今の拓也は体中が筋肉痛であった。

拓也はもう一度倒れた。

そこで気付いたのだが、今はベッドの上に寝かされている。

「何処だここ?」

拓也は何とか首を動かし、周囲を見渡す。

部屋は、割と綺麗な印象を受ける。

すると、部屋の扉が開いた。

才人が入ってくる。

「あ、才人さん」

拓也が声をかける。

「拓也、気がついたんだな。大丈夫か?」

才人もそう返す。

「いえ、正直体中が筋肉痛で、まともに動けません」

「ははは・・・・・・・」

拓也の答えに才人は苦笑する。

「そういえば、俺ってどの位寝てたんですか?あと、ここは何処です?」

拓也は気になっていたことを尋ねた。

「ああ。お前は丸一日寝てたぞ。もう次の日の朝だ。そんで、ここはシティオブサウスゴータ。あの後、ウェールズ陛下の竜騎士隊が来て、保護されたんだ。ティファニアの耳でちょっとした騒動があったけど、よくよく考えたら、ティファニアってウェールズ陛下の従妹なんだ。その辺もあってか、ウェールズ陛下にちゃんと説明をしたら分かってもらえたよ」

「そうですか」

すると、廊下が騒がしくなる。

「タクヤ!」

「タクヤさま!」

「タクヤ」

アイナ、イルククゥ、シャルロットの3人が部屋の中に飛び込んできた。

拓也の意識があることがわかると、

「きゅい!タクヤさま~~~~っ!」

嬉しそうな顔をして、イルククゥがダイブしてきた。

「ちょ!まっ・・・・・・」

拓也は焦るが、筋肉痛で身体がまともに動かず、イルククゥは空中で方向転換出来ようはずもない。

そして、

「うっぎゃぁああああああああああああっ!!!」

拓也の絶叫が響き渡った。






―― 一週間後

あの後、ウェールズの伝で船を出してもらい、トリステインに無事帰ることができた一行。

何時もの学院生活に戻るが、一年生の中に新しい人物がいた。

ティファニアである。

ティファニアは孤児たちを修道院に預けてこちらに来たのである。

因みにマリンエンジェモンは孤児たちと一緒にいるが、サジタリモンとケンタルモンは、「姐御から御嬢の警護をたのまれてんだ」と言って学院に来ている。

寝床は馬小屋なのだが、元々盗賊である。

馬小屋暮らしも問題ないらしい。

アンリエッタの口利きで、1ヶ月遅れで一年生のクラスに編入することになったティファニアは、入学してすぐ、学院中の話題を独り占めにした。

因みに、ティファニアがエルフの血とアルビオン王家の血を引いていることは秘密である。

この学院でその秘密を知っているのは、拓也達を除いてオスマンだけである。

そして、ティファニアは長い耳を隠すために『肌が日に特別弱い』という口実で、つばの広い帽子を常に被っていた。

現在は、食堂で朝食をとっているのだが、ティファニアの周りには、十数人の男子生徒が飴玉に群がる蟻のように集まっていた。

「人気だな。いや、大人気だな」

ティファニアを見つめながら、ぽかんと口を開けてギーシュが呟く。

「あいつらは、一体何を考えているんだ?まるでお姫様と家来だ」

ギーシュの右隣に座るレイナールが、眼鏡をちょいと持ち上げながら言った。

レイナールの言うとおり、一年生の紺色だけではなく、二年生の茶色、三年生の黒のマントまで見える。

彼らはティファニアがお茶を一口飲めばすぐさまお代わりを注いでやり、ティファニアが前菜を一口食べたらすぐさま自分の分を勧め、ティファニアが肉料理に手を出せば代わりに切り分ける、といった具合であった。

大変なのはティファニアである。

一気に十人以上の給仕に傅かれる事になったこの金髪の美少女は、持ち前の引っ込み思案さを存分に発揮し、そんな状況にも文句一ついえず、されるがままになっている。

ティファニアがそんな状況で、ギーシュやマリコルヌがティファニアの胸について馬鹿げた討論をしている中、拓也はアイナ、シャルロットと一緒に我関せずといった具合に食事をとっていた。

そんな様子を見ていたキュルケは、最近の拓也の変化に気付いていた。

アイナとシャルロット、それにイルククゥに迫られる拓也は、以前は困ったような表情を浮かべていた。

それは、『仲間』として好きであっても、恋愛感情はなかった・・・・・いや、分からなかったと言ったほうが正確だろう。

だが最近、正確には一週間前の戦いの後から、拓也の3人に対する態度に変化が現れた。

拓也は、以前のように困った表情は浮かべず、それどころか3人と関わる時は何処となく嬉しそうな表情を浮かべるようになったのだ。

それは、3人からの一方的な片思いではなく、拓也自身も3人に惹かれ始めた現れであろう。

キュルケはそう推測する。

因みにそのような事を考えている間に、ギーシュが酔っ払った勢いでティファニアの胸を触ろうとして、モンモランシーに水柱に閉じ込められ連行されていったが、拓也達は何処吹く風といった様子であった。




一方、ティファニアにとって、学院生活は見る物聞く物全てが目新しく、毎日がそれまでの一年分と同じ密度を持っていた。

大人しい性格のティファニアは、どちらかというと、静かな学院生活を送りたかったが、彼女の容姿がそれを許してはくれなかった。

今の彼女を一番疲れさせるのは、余り意識する事のなかった自分の容姿が引き起こした結果と、その結果が生み出した逆恨みに近いいらぬ嫉妬であった。


さて、今日も今日とてティファニアは8人もの崇拝者たちに囲まれていた。

8人はなにやら言い合っているが、それは誰がティファニアを遠乗りに誘うかを議論している。

元々そんな気はないティファニアは、

「あの、日焼けするといけないから・・・・・・・遠乗りはちょっと・・・・・」

秘密を隠すための建前を使い、断ろうとした。

だが、

「そう思ってほら、僕は帽子を用意したよ。つば広の、トリスタニアで流行の羽城帽子ですよ」

待ってましたと言わんばかりに1人の男子生徒が帽子を取り出した。

「ほら、被ってごらんよ」

そう言って、ティファニアの帽子に手を伸ばす。

咄嗟にティファニアは帽子を押さえて首を振る。

「い、いい。ありがとう」

ティファニアは帽子を掴んだまま、教室を飛び出していってしまった。

後に残された男子生徒が呆然と立ち尽くす。

「そんなに僕の帽子、気に入らなかったのかな?」

周りの男子が、一斉に小突き回し始める。

「おい!お前の所為で“金色の妖精”が機嫌を損ねてしまったじゃないか!」





そんな騒ぎを遠巻きに見ていた女生徒の1人が、苦々しげに舌打ちした。

見事な長い金髪を左右に垂らした少女である。

背は低めだったが、身に纏う高飛車な雰囲気が、辺りを圧迫していた。

青い、気の強そうな瞳が爛々と怒りに輝いている。

彼女は廊下へと消えたティファニアの背中に向かってはき捨てるように呟く。

「殿方の扱いがなってないわね。まあ、田舎育ちのようだから、仕方がないのでしょうけど」

金髪ツインテール少女がそう呟くと、周りにいた少女たちが一斉に頷いた。

「そうですわそうですわ!その上、未だにベアトリス殿下にご挨拶がないなんて!これだから田舎物は困りますわ!」

ベアトリス殿下と呼ばれた金髪の少女は、得意げな笑みを浮かべた。

どうやら周りの少女たちは、彼女の取り巻きのようだ。

ベアトリスは、ティファニアが来るまで、その生まれの高貴さとちょっと人目をひく可愛らしい容姿で、一年生のクラスの人気を独り占めにしていた少女であった。

しかし、ティファニアがやってきたことで、その天下はあっけなく終わってしまった。

さっき、ティファニアにまとわりついていた少年たちは、つい先日までベアトリスを神とあがめていた連中だった。

「田舎育ちかもしれないけれど、“田舎者”なんていったら失礼だわよ」

人を小ばかにするような薄い笑みを浮かべながら、ベアトリスは言った。

「申し訳ありません!ベアトリス殿下!」

褐色の髪の少女が、ぺこぺこと頭を下げる。

「ただ、私の生まれたクルデンホルフ大公家は、現トリステイン女王陛下であらせられるアンリエッタ様と縁の深い家ですの」

「そうですわ!ベアトリス殿下!なにせクルデンホルフ大公家は、先々代のフィリップ三世陛下の伯母上の嫁ぎ先の当主様のご兄弟の直系であらせられるんですもの!」

「トリステイン王家と血縁関係!」

1人の少女がそう叫ぶと、残りの少女たちが唱和する。

「「「「「トリステイン王家と血縁関係!」」」」」

「その上、クルデンホルフ大公国は、小国といえどれっきとした独立国ですわ!」

ベアトリスの母国、クルデンホルフ大公国は、功あって時のトリステイン王から大公領を賜った独立国である。

まあ、いわゆる名目上の独立で、軍事及び外交は他の地方貴族と同じく王政府に依存していたが。

しかし、名目上に過ぎぬとはいえ、独立国ということに変わりはない。

ベアトリスも、礼式の上では“殿下”と呼ばれてしかるべき一族の1人であった。

「つまり、私を蔑ろにするという事は、トリステイン王家を蔑ろにするのと同義。彼女、アルビオン育ちのようだから、大陸の事情に疎いのは無理なからぬことだけれど、礼儀はきちんとわきまえないとね」

「殿下の仰るとおりですわ!」

「さてさて、あの島国人に礼儀というものを、教えてあげなくてはね」

ベアトリスは意地の悪い笑みを浮かべた。





教室を出たティファニアは、帽子をきゅっと両手で握りながら、小走りで廊下を駆け抜けた。

本塔を出て、中庭に飛び出す。

余り人の来ないヴェストリの広場までやってくると、ふぅ、とため息をついて火の塔のそばにある噴水の縁に腰掛けた。

見てみたいと思っていた外の世界は、想像以上に騒がしく、ガサツで、勝手に家に上がりこむ押し売りのようだった。

ティファニアは空を見上げた。

ふとウエストウッド村の暮らしを思い出した。

退屈であったが、楽しく、穏やかだった日々。

そんな日々を思い出し、不意に泣きそうになり、ティファニアは帽子のつばに深く顔を埋めた。

そんな風に俯いていると、いきなり声をかけられた。

「ミス・ウエストウッド?」

ティファニアは顔をあげた。

同じクラスの女生徒が5人ばかり立って、ティファニアを見下ろしている。

慌ててティファニアは立ち上がった。

「こ、こんにちは」

褐色の髪の子が、金髪ツインテールの少女に向けて紹介するように手を伸ばし、ティファニアに尋ねた。

「あなた、こちらの方をご存知?」

ティファニアはその少女に視線を向けるが、同じクラスの人だというのは分かるのだが、名前が出てこない。

「ご、ごめんなさい。お名前をまだうかがってなかったわ」

恥ずかしそうにそう言うと、褐色の髪の子の目がつりあがる。

「あなた、こちらのお方をどなたと心得るの?未だにお名前すらご存じないなんて!本来なら編入初日に挨拶があってしかるべきお方よ」

「本当にごめんなさい。私、まだこっちに慣れてなくて・・・・・・」

ティファニアはしどろもどろになりながら答える。

「よくってよ」

金髪ツインテールの少女は、右側の髪房をかきあげた。

その仕草に、獲物を追い詰める時の喜びが混じっている。

褐色の髪の少女が、そんな彼女をティファニアに紹介する。

「こちらのお方は、ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフさまにあらせられるわ」

その名前でベアトリスの凄さが分かるでしょ? と言わんばかりの態度で、褐色の髪の少女はふんぞり返る。

しかし、ティファニアは、ずっと森の中で育ったために世情に疎い。クルデンホルフなんて吹けば飛ぶような小国の名前など、知るはずもなかった。

それでも相手の機嫌を損ねては、と思い一生懸命に笑顔を浮かべた。

「まあ、それはそれは。よろしく、クルデンホルフさん」

しばしの沈黙が流れた。

ベアトリスのこめかみがひくついた。

褐色の髪の少女が慌てて、ティファニアに詰め寄った。

「ミス・ウエストウッド!クルデンホルフさんはないでしょう?あなたの目の前におられるお方は、クルデンホルフ大公国姫、ベアトリス殿下なのですよ!」

「は、はぁ」

ティファニアは当惑の表情を浮かべた。

ティファニアはある意味、この世界のルールとは無縁に生きてきたのである。

そういう意味では、貴族や階級制度に対する感覚は、異世界からやってきた拓也や才人のそれに近い。

それでも“大公国”や“殿下”の意味は知っていたし、それがこの世界でどういう地位を築いていて、どういう扱いを受ける存在なのかも一応は理解していた。

ただ、それを肌で実感していなかった。

つまり、呼び方一つでへそを曲げる人種がいることを、ティファニアはよく分かっていなかったのである。

ティファニアは疑問に思ったが、自分は新入りである。

とりあえず相手の機嫌をこれ以上損ねては、と考え、ティファニアは素直に頭を下げた。

「ほんとにごめんなさい。私、アルビオンの森の中で育った物だから・・・・・・大陸の事情に疎いの。失礼があったようなので、お詫びするわ。えと、殿下」

「それが殿下にお詫びを捧げる態度なの?まったく、まともな社交も知らずに育ってきたんでしょうね!」

「そんな娘を、この由緒正しいトリステイン王国へ留学させようだなんて!親御さんのお顔を拝見したいものだわ!」

「・・・・・ごめんなさい。本当にごめんなさい」

ティファニアはぺこぺこと何度も頭を下げた。

しかし、ぽっと出の田舎物に、クラスの男子の人気を奪われた女生徒達の怒りは収まらない。

「ミス・ウエストウッド。あなた、帽子を被ったまま、謝罪をする気なの?」

褐色の髪の少女が、にやっと笑って言った。

「そうよそうよ!リゼットさんの言うとおりだわ!」

ティファニアは帽子を押さえた。

帽子を取ったら、その長い耳が露になり、エルフの血が混じっていることがばれてしまう。

ティファニアは一瞬、虚無魔法の“忘却”で記憶を奪おうかと考えたが、ここは森の中ではなく真っ昼間の魔法学院である。

誰が見ているとも限らない。

クラスメイトにそんな怪しい魔法をかけたことがバレたら取り返しがつかない。

ティファニアは本当に困ってしまった。

「帽子、脱ぎなさいよ」

ティファニアは首を振った。

「ごめんなさい。この帽子は脱げないの。脱いだら、その・・・・」

「日焼けしてしまう、と言いたいのでしょ?」

「う、うん。そうなの。だから・・・・」

こくこくとティファニアは頷いた。

「何も一日中外せと言っているわけじゃないわ。ほんの数秒じゃない」

それでもティファニアは帽子を押さえたまま動かない。

業を煮やしたのか、リゼットを筆頭としたベアトリスの取り巻き少女たちは、ティファニアの帽子に手を伸ばした。

「脱ぎなさいよ。ほら」

「ゆ、ゆるして・・・・・お願い」

帽子のつばを掴んでの、小競り合いになった。

「おい、何やってんだ?」

男の声がして、一同は振り返る。

見ると、才人が驚いた顔で立っていた。

その隣にはギルモンもいる。

「サイト!」

正に地獄で仏といった表情で、ティファニアは才人に駆け寄った。

その腕に寄り添い、恥ずかしそうに俯いた。

「おいどうした?苛められてたのか?」

ティファニアは応えない。

才人はティファニアを取り囲んだ5人ほどの女子グループを眺めた。

腕を組んで、才人を睨み付けている。

あんたには関係ないでしょ?あっちにいきなさいよ。

そんなオーラを感じて才人は震えた。

怖いと才人は感じる。

日本にいた頃、通っていた高校の女子グループを思い出した。

目立つ女の子がいると、こうやって徒党を組んで苛めるのである。

ティファニアはとびきりの容姿を持つ美少女なので、女子たちの逆鱗に触れたのだろうと才人は思った。

その辺りのさじ加減はハルケギニアでも変わらないようだ。

才人は、ファンタジーな世界なんだからなんなことすんなよなー、と思うのだが、女子の虐めに世界は関係ないようである。

才人は困ってしまったが虐めは見過ごせない。

「お前たち、ティファニアに何をしてるんだよ。よってたかって、卑怯だとは思わないのか。君たちは、あー、それでも貴族か」

才人は精一杯の威厳を込めて一年生の女子たちに言った。

紺色のマントを翻し、褐色の髪の少女が才人をつめたい目で見つめた。

「お前たち!?お前たちですって!?皆さん聞きました!?」

「聞きましたわ!“お前たち”とは随分な言い草ですわね!」

一年生の苛めっ子女子グループは、顔を見合わせてきゃあきゃあとわめき始めた。

才人は頭が痛くなった。

と、その時、

「如何したんですか?才人さん」

拓也が才人達に気付き、近付いてくる。

珍しく拓也1人である。

「拓也か。まあ、ティファニアが苛められててな」

才人は少し困った表情で言った。

「あ~・・・・・何処の世界もやる事は一緒なんですかね?」

拓也は、才人の言葉で大体を理解した。

才人が女子グループに向き直ると、

「というか苛めちゃダメだろ。な?」

恐る恐るそう言ったら、リゼットが、才人の言葉を全く無視して顔を近づけた。

「あなた、こちらの方をご存知?」

そう言って、自分たちの真ん中に立つ一番背の低い少女に向けて、手を差し伸べる。

金髪を左右に分けて垂らし、得意げに少女はふんぞり返る。

「いや、全然」

「知らない」

きょとんとして、才人と拓也がそう言ったら、女の子たちはさらに黄色い金切り声を張り上げた。

「まあ!何処の田舎物かしら!彼女はベアトリス・いヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ殿下にあらせられるわ!頭が高くってよ!」

才人は困ったように頭をかいた。

「いや、頭が高いと言われても・・・・・」

ベアトリスと紹介された金髪ツインテール少女は、才人と拓也を上から下までじろじろと眺め回した。それから、ふふん、とせせら笑うように言った。

「あまりこの辺りでは見ない顔だけど、あなた達ハルケギニア人?」

実際は地球人なのだが、そんなことを言うわけにはいかない。

「いや、俺たちはその、ロバ・アル・ナントカから・・・・・・」

ベアトリスは、目を細めて才人を見つめた。

それから、ああ、というように頷く。

「あなた、何だっけ・・・・・・水精霊騎士隊のヒリガル・サイトンさんでしたっけ?」

一年生の女子達は、まあ、と目を丸くした。

才人は、“優れた剣士”としてかなり名が知られている。

おまけに今や、近衛の副隊長である。

女の子たちは不安げに、顔を見合わせ始めた。

権限を振り回す連中は権限に弱い。

才人は胸をそらすと、わざと威張った声で言った。

「そうだ。俺が水精霊騎士隊の副隊長、シュヴァリエ・ヒラガだ。女王陛下の近衛隊だぞ。頭が高い、ええい、頭がたかーい」

すっかり気分は日本で見た時代劇である。

「才人さん、ノリノリですね」

拓也は呆れた表情で見ている。

しかし、ベアトリスは臆した風もない。

「それがどうかなさいまして?近衛だろうがなんだろうが、ただの騎士風情に下げる頭は持っていませんの」

予想外の反応に才人は青ざめた。

だが、そこに救世主が現れた。

「おーいサイト。そこで何油を売っているんだね?放課後の訓練に使うわら人形の準備はできたのかね?」

近付いてきたのは、ギーシュとモンモランシーであった。

「やあ隊長!いいところに来たな!ちょっとこの一年生を叱ってやってくれよ。生まれがどうのこうので生意気言うんだよ」

「なんだそれは!けしからんな!」

勢い込んで、ギーシュが駆け寄ってくる。

才人は心の中で凱歌をあげた。

なにせギーシュの家は、父親が元帥の名門グラモン家。

その上、モンモランシ家もなにやら由緒ある家系らしい。

しかし、近付くギーシュとモンモランシーを見ても、ベアトリスの表情は変わらない。それどころか、ベアトリスを見たギーシュの顔が、う、と青くなった。

余裕たっぷりの態度で、ベアトリスは顎を持ち上げた。

「お久しぶりですわ。ギーシュ殿」

「い、いやぁ・・・・・・これはこれは、クルデンホルフ姫殿下・・・・・・」

「お父上はお元気?」

「は、はい。おかげさまで」

なにやら様子がおかしいギーシュを見て、才人は冷や汗を流す。

「おやおや、ミス・モンモランシもご一緒じゃありませんこと?わたし、今年からここで学ぶ事になりましたの。どうぞよろしく」

下級生とは思えない態度でベアトリスは言い放つ。

ギーシュとモンモランシーはそんなベアトリスにぺこりと頭を下げた。

「こちらこそよろしくお願いします。何か困った事があったら、すぐにご相談ください」

「ところでギーシュ殿」

「は、はいっ!」

「騎士隊の隊長になられたのはおめでたいご出世だけど、部下の教育はきちんとしておいてくださらないこと?礼儀を知らない騎士は、傭兵や夜盗と何ら変わりがありませんわ」

ベアトリスは済ました態度で、行きますわよ、と取り巻きを促した。

「ミス・ウエストウッド」

去り際に、ベアトリスはこれまで蚊帳の外だったティファニアに声をかけた。

「は、はいっ!」

「いいこと?せめてわたくしがいる場所では、そのみっともない帽子をお脱ぎなさいね。この私の前で帯帽するなんて、クルデンホルフ大公家に対する侮辱も甚だしくってよ。おほ!おほ!おっほっほ!」

高笑いを残して、ベアトリスとその取り巻き達は立ち去っていく。

小さく手を振って見送るギーシュとモンモランシーに才人は噛みついた。

「おいおい!隊長さん!モンモンさん!どうしたの!下級生に舐められちゃってるよ!」

「いやぁきみ。彼女は拙いよ」

「拙いわよ」

「お前ら旧い家柄の名門貴族じゃなかったのかよ!」

「確かに君の言うとおり、グラモン家は代々王家に使えてきた由緒ある家系で、爵位はともかく格の上では大公家といえど、そうそうヒケをとるものではない」

「モンモランシ家も、そうね」

「じゃあ何でぺこぺこしてんだよ」

「現実は歴史に勝る」

「へ?」

「グラモン家は武名高い名門中の名門だが、なにせ領地の経営に疎い」

才人は嫌な予感がした。

「もしかして、あいつの家からお金借りてるとか?」

図星だったらしい。

ギーシュは遠い目になった。

モンモランシーも、恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「うちも似たようなものね」

ギーシュは気を取り直すように、顎に手をやり首を振る。

「クルデンホルフ大公家は、なにせ一国構えてしまうほどの大金持ちだからなあ。君達も仲良くしておくことに越した事はないよ」

「ふざけんな。あんな嫌な女と仲良くできるか」

「確かに」

才人の言葉に拓也が同意する。

「おいおい!揉め事はごめんだぜ!彼女はおまけに、自前の親衛隊まで連れてきて、ちょっと怒らせたら、彼らが飛んでくるよ!」

「なんだそりゃ?」

「何だ、君たちは知らなかったのか。平和な性格をしてるな・・・・・・」

ギーシュは才人と拓也、ティファニア、モンモランシーを、正門前まで引っ張っていった。

「見たまえ」

才人は目を丸くした。

魔法学院の正門の前には、広大な草原が広がっている。

いつの間にこしらえたのか、そこにいくつもの天幕が設けられているではないか。

天幕の上には、空を目指す竜の紋章が描かれている。天幕の周りには、大きな甲冑をつけた風竜が何匹もたむろしていた。

「あれがクルデンホルフ大公国親衛隊“空中装甲騎士団”だ。先だってのアルビオン戦役で、クルデンホルフ大公国は連合軍にあの騎士団を参加させなかった。虎の子だからってね。アルビオン竜騎士団が壊滅した今となっちゃ、ハルケギニア最強の竜騎士団と言われているよ」

竜は20匹はいた。

だが、拓也や才人にとって、今や竜など大した脅威とは感じない。

拓也はもとより、才人も多くのデジモンと渡り合い、挙げ句の果てにはルーチェモンなどという世界壊滅レベルの敵と戦ったのだ。

竜など可愛い物である。

「む、娘が留学するぐらいで騎士団つけるかぁ?」

才人は呆れた声で言った。

「金持ちの貴族というのは、とにかく見栄を張りたがるからな」

ギーシュが、己の行状を棚に上げて感想を述べた。

才人はティファニアの方を向いた。

心配そうにティファニアは才人を見つめている。

「テファ、安心しろ。あんな騎士団なんかルーチェモンに比べたらアリンコみたいなもんさ。俺があいつに改めて言ってやるよ。帽子ぐらいでガタガタ言うなって」

ティファニアは、唇を噛んで首を振った。

「いいの。サイト達に迷惑がかかったら大変だし・・・・・・・気持ちは嬉しいけど、自分で何とかするわ」

「サイト、ティファニア嬢の言うとおりかも知れないぞ。僕たちが口を出したら、それこそ立場が危うくなる」

「そうよ」

「おいおい、ガリアに乗り込んだ英雄の言葉とは思えないな。あの時に比べたら大公国の姫なんて可愛いもんだろ」

「いやぁ、そう事は単純じゃない」

ギーシュはうむむ、と眉間に皺を寄せた。

「タバサを救いに行った時は、こっそり隠れて侵入しただろ?現に、この学院ではあの冒険を知る者は僕たち以外にいないじゃないか。その上、ガリアからの公式の抗議がないから、陛下だってお目こぼしくださったんだ」

「この学院で外国のお姫様を怒らせたら、流石に陛下だって目を瞑る訳にはいかないわ。あなたたち、何せ近衛隊でしょ?大公国の姫様を怒らせるなんて、言語道断よ」

そこまで2人に言われて、才人は困ってしまった。

そんな才人に、ティファニアがにっこりと笑いかけた。

「ありがとうサイト。気持ちだけでも嬉しいわ」

「・・・・・テファ」

「ホントにいいの。教室で帽子を被ってる私が悪いの。やっぱり嘘はよくないわ」

何か決心したように、ティファニアは頷いた。

「心配かけてほんとうにごめんなさい」

小走りでティファニアは駆けていく。

才人は心配そうに風にたなびく眩い金髪を見守った。




放課後。

何時もどおりアイナの部屋に拓也、アイナ、イルククゥ、シャルロットがいる。

そこで、拓也が切り出した。

「なあ、クルデンホルフって知ってるか?」

「クルデンホルフ?大公国の?」

アイナが聞き返す。

「ああ」

拓也が頷いた。

「知ってるけど、何で?」

アイナにそう言われ、拓也は昼間の出来事を話した。

「ティファニアが苛めを受けてた?」

「ああ、世界が違ってもやる事は変わらないなと思ったよ」

拓也は呆れたように呟く。

「クルデンホルフ大公国。かなり富裕でトリステイン貴族も少なくない数が借金をしている。名目上は独立国。でも、軍事と外交は王政府に依存している。それと、クルデンホルフ大公家は少しだけどトリステイン王家と血のつながりがある」

シャルロットがそう説明する。

「そういえば、ギーシュとモンモランシーの家も借金してるっていってたっけ。血のつながりってどの程度?」

拓也が聞き返す。

「先々代のフィリップ三世の伯母の嫁ぎ先の当主の兄弟の直系」

「はぁ?殆ど赤の他人に近いじゃん」

拓也は再び呆れた声を漏らす。

「それでも、僅かでも血のつながりがある以上、それはかなりのアドバンテージになる」

「そんなもんなのか?」

「そういうもの。ただし、小国だからタクヤがその気になれば1時間足らずで滅ぼせる」

「おいおい、物騒な事を言うな」

いきなりのシャルロットの言葉に拓也は苦笑する。

「それにアイナのシンフォニア家の方が格が上。シンフォニア家は、歴史は浅くても国への貢献度が高いから覚えも良い。そして、タクヤはアイナの使い魔だからある意味シンフォニア家の一員」

「え~と、つまりシャルロットは何が言いたいんだ?」

「つまり、タクヤがそのクルデンホルフの姫を怒らせたとしてもアイナが口を挟めば如何とでもなる」

「なるほど、アイナと一緒なら俺が文句言っても大丈夫ってことか」

「そういうこと」

拓也はアイナに視線を向ける。

アイナは頷き、

「とりあえず、明日の時間があるときにそのクルデンホルフさんの所に行ってみよっか」

そう言った。





翌日。

三年生のクラスで、1時間目の授業が行なわれている。

因みにルイズの姿はそこにはない。

なんだか気分が悪いといって授業を休んだのだ。

才人はティファニアのことが心配でたまらないらしい。

拓也が様子を見ていると、さっきから机に肘をついて考え込んでばかりである。

すると、突然才人は鼻を押さえた。

何故か鼻血を流している。

拓也は、一体何を考えていたのかと疑問に思う。

その時、

――バリーン!

と階下の教室から、窓ガラスが割れる音が響いた。

教室が騒然となる。

何人かの生徒が窓に近付いた。

外では、胸鎧と兜を装着した風竜が、何匹も乱舞していた。

「あれは、クルデンホルフの姫君が連れてきた竜騎士隊じゃないか」

1人の生徒が言った。

なるほど、先日学院の外の広場に駐屯していた竜達だ。

天幕に翻っていた旗と同じ紋章が兜に光っている。

見ていると、階下の窓から何人もの騎士が飛び出してきて、竜に跨った。

1人の騎士がティファニアを抱えている姿を見つけ、才人は目を丸くした。

「テファ!」

竜は羽ばたき、天幕のところまで飛び去った。

才人は駆け出した。

その後に、退屈な授業に飽き飽きしていた生徒たちが続く。

彼らは、三度の飯より、酒より、揉め事が大好きなのである。



ティファニアは、自分の教室でハーフエルフであることを明かした。

当然、教室は大混乱に陥った。

そんな中、ベアトリスが異端審問を行なうと言い出した。

そして、お抱えの“空中装甲騎士団”でティファニアを捕らえたのだ。

ティファニアは、天幕の前の地面に乱暴に転がされ、杖を突きつけた騎士たちに囲まれた。

「・・・・・私を如何する気?」

騎士たちの輪が割れて、ベアトリスが姿を現した。

左右に垂れた金髪を弄りながら、楽しそうな声でベアトリスはティファニアに尋ねた。

「異端審問を知ってる?」

ティファニアはぶるぶると首を振った。

「あなた、言ったわよね。『始祖ブリミルを信じている』って。エルフの血が混じったあなたが“信仰”を口にしたのよ。私たちハルケギニアの民の神を信じている、って言ったの。だからそれを証明してもらうわ。“自分は異端ではない”ということを、始祖と神の代理人たる司教の前で、証明するの。それが異端審問よ」

その目の色で、ティファニアは気付いた。

このベアトリスは、自分がエルフだから、痛めつけようとしているわけではない事に。

自分が気に入らないから、痛めつけるのだ。

なぜなら、その目に憎しみの光はない。

かつて『エルフだから』という理由で母を殺した騎士たちの目には、消しようのない仇敵に対する憎しみの炎が宿っていた。

だが、このベアトリスの目に光るのは、『歓喜』だ。

自分を痛めつける理由を見つけたから、彼女は喜んでいるのだ。

「・・・・・・可哀想な人」

「なんですって?」

「全部が自分の思い通りにならないと、気がすまないのね。子供なのね、あなた」

ベアトリスの顔が真っ赤に染まった。

乾いた音が響く。

ティファニアの頬を、ベアトリスが叩いたのだ。

「さて、異端審問を執り行うわ。煮立った釜の中に、1分間つかるの。もし、あなたが本当に始祖ブリミルのしもべなら、その湯は丁度いい湯加減に感じるでしょう。でも、あなたが忌まわしい異教徒なら、茹で肉になってしまうでしょうね」

騎士の1人が呪文を唱えると、天幕のそばにあった大釜に火が入る。

強力な魔法の炎で、大釜の水はぐらぐらとすぐに沸騰を始めた。

もちろん、ブリミル教徒だろうが、異教徒だろうが、そんなにだった湯につかれば命はない。

異端審問とは、つまり宗教を利用した処刑なのだった。

そのとき、騒ぎを聞きつけた学院の生徒たちが駆けつけてきた。

生徒たちは、竜騎士に恐れをなし、遠巻きにベアトリスたちを見つめた。

観客がそろったことを確認すると、ベアトリスは勝ち誇った顔で叫んだ。

「クルデンホルフ司教ベアトリスの名において、今から異端審問を執り行います!敬虔なるブリミル教徒の皆さん、よくご覧になってくださいまし!」

生徒たちからざわめきが起こる。

そんな生徒達の輪を割って、怒りに震えた少年が飛び込んでくる。

才人だった。

「何してんだ!お前らぁ!」

ティファニアの顔が一瞬輝いたが、すぐに曇る。

「異端審問よ」

「傷んだかなんだか知らねえが、テファを離せよ!自分のしてることわかってんのか!?」

才人はティファニアに近付こうとした。

しかし、すぐに後ろから羽交い絞めにされた。

振り向くと、マリコルヌだった。後ろにギーシュ、そしてレイナールや水精霊騎士隊の面々が見える。

「なにすんだよ!」

「やめろ、サイト」

「なんでだよ!」

「拙いんだよきみ。実に拙い」

才人はギーシュの言葉にカッとなった。

「はぁ?お前・・・・・・家がお金借りてるからって、見過ごすつもりか?」

「違う。そうじゃない」

真顔で、ギーシュは言った。

「だったら、あの竜騎士が怖いんだな?情けねえ!」

「きみ、わかっているのか?異端審問だぞ!」

マリコルヌが何時になく真剣な声で叫んだ。

「それが如何した!あいつら、テファ1人をよってたかって苛めてるんだぞ!助けないでどうするんだよ!」

「ここで庇ったら、僕たちまで異教徒という事になっちゃうんだよ!そうなったら洒落ではすまないんだ!家族だけじゃない、親類一同まで累が及ぶんだ!」

その言葉で、才人は青くなった。

「マジ?」

「本当だ」

ギーシュが低い声で言った。

「・・・・くそ」

才人は膝をつくと、地面を拳で叩いた。

そんなやり取りをする一同を見て、ベアトリスはにっこりと笑った。

それからティファニアに向き直る。

「ミス・ウエストウッド。あなたが羨ましいわ。お抱えの騎士隊までお持ちになられて。そんなあなたの奉仕者に免じて、一度だけチャンスをあげる。すぐここを出て、あなたの田舎にお帰りなさいな。そうしたら、今までの無礼を全部忘れてあげる」

しばしの静寂が流れた。

だが、ティファニアは頷かなかった。

彼女は昂然と顔をあげると、ベアトリスに言い放った。

「いや。絶対にいや」

「・・・・・・な!」

「私、外の世界を見てみたいって、ずっと願ってた。そこにいるサイトたちが、私のそんな夢を叶えてくれたの。だから帰らない。あなたみたいな卑怯者に、帰れといわれて帰ったら、サイトたちに合わせる顔がないわ」

ティファニアのその言葉で、周りに集まった生徒たちから歓声が沸いた。

確かにその長い耳には驚いたが、ティファニアはどうにも邪悪と恐れられた砂漠のエルフには見えなかったのだ。

それに先程の口上は、なんとまっすぐであろうか。

その上、家柄を傘にきて威張る一年生に、反感を覚えていた生徒たちは少なくなかった。

「離してやれよ!」

「そうよ!オスマン氏から、きちんと事情を窺ってからにしたら!」

浴びせられるそんな言葉に、ベアトリスの顔がひくついた。

「空中装甲騎士団!お望みどおり、審問さしあげて!」

空中装甲騎士団がティファニアに近付き、手を伸ばした。

その瞬間、才人はマリコルヌの手を振りほどき、ティファニアに駆け寄った。

空中装甲騎士は、さっとベアトリスの前に出て、杖を才人に突きつける。

再び生徒たちから歓声が上がった。

そして、才人が何か行動を起こそうとした瞬間、

――ドゴッ

目の前の騎士が吹っ飛んだ。

才人の目の前に拓也が着地する。

拓也は騎士に飛び蹴りをかましたのだ。

「才人さん、こんな奴らに頭下げたって無駄ですよ」

拓也は、才人が取ろうとした行動を予想してそう言った。

「お、おい拓也・・・・・・拙いんじゃないか?」

「仲間を見捨てる方がもっと嫌です。その事でアイナ達にいちゃもんつけてきたら、それごと叩きのめすだけです」

「・・・・・・・・・・」

才人は呆気に取られた。

拓也は続ける。

「第一、頭を下げるのは話を聞いてもらうためです。人の話を聞こうとしない自己中我侭娘に頭を下げたって意味ありません」

「じ、自己中我侭娘ですってぇ~~!?」

拓也の言葉にベアトリスが叫ぶ。

「ほんとの事だろうが」

拓也がそう言う。

その言葉に、ベアトリスは気を取り直す。

「あ、あなた、自分が何をしたのかお分かり?」

「俺の仲間に手を出そうとした奴を蹴っ飛ばしただけだけど?」

「そ、その相手は、私の親衛隊なのよ」

「で?」

「わ、私が誰かご存知?」

「大公国のお姫さんらしいね」

「そ、そうよ」

「だから?」

「つ、つまりあなたは大公国の姫君であるこの私に楯突いたのよ!」

「わかってやったんだけど」

「し、しかもあなたは、異端審問の邪魔をした」

「異端審問だろうがなんだろうが、特に何もしてないのに、仲間が危ない目に遭ってるのを黙って見ていられるか!」

「あ、あなた、エルフの肩を持つの?」

「エルフだろうが悪魔だろうが、ティファニアは俺達の仲間だ!」

「な、仲間!?エルフが仲間ですって!?始祖ブリミルに仇なす行為だわ!」

「・・・・・・俺、よそ者の上に無神論者だから、関係ないし」

そこまで拓也が言ったとき、

「ジャッジメントアロー!!」

巨大な矢が大釜を貫いた。

サジタリモンとケンタルモンが姿を見せる。

「てめえらぁ!御嬢に手を出す奴ァ、神が許してもこの俺がゆるさねえ!」

サジタリモンが叫んだ。

「あ、やっぱ来たか」

拓也は呟いた。

ベアトリスは、自分の思い通りにことが運ばない事が続いて、頭に血が上っていた。

「つ、次から次へと、私を侮辱して・・・・・・空中装甲騎士団前へ!」

がしゃんと、大きな音を立てて、騎士団が一歩前に出た。

拓也はため息をつく。

「はあ、自分の思い通りに行かなかったら、すぐにそれか・・・・・・まんま子供じゃん」

拓也は呆れながら呟く。

そして、才人に向き直った。

「才人さんは如何します?俺は、この我侭娘を懲らしめますが」

「あ~・・・・・そうだな。いい加減、俺も我慢の限界だし」

才人はデジヴァイスを構える。

「そうこなくっちゃ」

拓也は笑ってデジヴァイスを構えた。

「ダブルスピリット!エボリューション!!ぐっ・・・ああああああああああっ!!」

拓也はデジコードを纏い、進化する。

「アルダモン!!」

拓也はアルダモンに進化した。

―――MATRIX

  EVOLUTION―――

「マトリックスエボリューション!」

「ギルモン進化!」

才人とギルモンが進化する。

「デュークモン!!」

白銀の騎士がその姿を現した。

その光景に呆然となる一同。

拓也の進化はともかく、デュークモンへの進化は、殆どの生徒が見るのは初めてだった。

デュークモンが腕を組みながら、仁王立ちのように立ちはだかり、空中装甲騎士団に尋ねた。

「戦う前に一つ聞きたい。お前たちは、その娘のいう事が正しいと思っているのか?」

デュークモンの言葉が響く。

だが、

「我らはクルデンホルフ大公国の親衛隊なり。我らが従うはクルデンホルフ大公家のみ」

彼らの忠誠は本物だった。

「貴殿らの忠誠、・・・・・・・見事だ」

デュークモンはグラムとイージスを具現する。

「ならば、正々堂々、勝負!」

アルダモン、そして、サジタリモン、ケンタルモンも、空中装甲騎士団に向かって駆け出した。





数分後。

結果は当然ながらデジモン組の圧勝である。

人間とデジモンの差、その上、究極体レベルとの力の差は歴然であった。

倒れ伏した空中装甲騎士団にデュークモンが問う。

「君主の命に何処までも従う。その忠誠には同じ騎士として誇らしく思う。だが、君主の間違いを正す事もまた、一つの忠誠の形ではないのか?」

その言葉に反論する者は、誰一人としていなかった。

ただ1人残ったベアトリスは、わなわなと震えていた。

アルダモンが如何するかを考えていた時、観客の輪から1人の少女がやってきた。

それはシャルロットであった。

シャルロットはベアトリスの近くに歩いていくと、

「あなたに聞きたいことがある」

そう口をひらいた。

「な、なによ」

「司教の免状は?」

シャルロットのその言葉に、ベアトリスの顔が青くなった。

そんなもの持ってはいなかったのだ。

クルデンホルフ大公国の司教の資格、というのは、真っ赤な嘘だったのである。

トリステインの貴族なら事情は知るまいと思っていたのだが、シャルロットは鋭かった。

「ええと、その、実家にあるのよ!」

シャルロットの目が細くなる。

「ウソついてる」

「え?ウソじゃなくってよ!何を仰るのかと思えば・・・・・はん!」

「異端審問には、司教の免状だけでなく、ロマリア宗教庁の審問認可が必要なはず。それも知らないなんて、どういうこと?」

シャルロットがそう言うなり、周りの生徒達の目つきが変わった。

異端審問、という響きで頭の中が真っ白になっていたが、言われてみればシャルロットの言うとおりである。

ベアトリスの言葉には怪しい部分が多すぎた。

「おい!ベアトリス!始祖ブリミルの名を使って気に入らない女の子を苛めるなんて、それが貴族のやり方か!」

「トリステインで司教を騙れば、火刑だぞ!」

生徒たちはベアトリスににじり寄った。

ベアトリスは震えながら膝をついた。

頼みの空中装甲騎士団は、いずれも伸びている。

このままでは吊るされてもおかしくない空気に包まれた時、ティファニアがベアトリスに駆け寄ってきた。

1人の生徒がティファニアに声をかけた。

「ミス・ウエストウッド。あなたには彼女を裁く権利がある。あなたに流れる血の釈明より先に」

ティファニアはベアトリスの前に進み出た。

その場の全員がティファニアの言葉に注目した。

これだけの侮辱を受けたのである。

普通なら、殺されてもベアトリスに文句は言えない・・・・・はずであった。

しかし、ティファニアの言葉は、みんなの予想を裏切っていた。

なんとティファニアは、膝をついてベアトリスの手を取ると、

「お、お友達になりましょう」

といったのである。

その場にいた生徒全員が、余りの言葉にすっ転んだ。

まるで予想外で、拍子抜けしたのである。

「ミス・ウエストウッド?あなたには、彼女を裁く権利があるのですよ?」

生徒の1人が呆れた顔でティファニアに言った。

しかし、ティファニアは首を振った。

「ここは学院でしょう?学び舎で裁くの裁かないの、なんておかしいわ」

「でも・・・・・でもですね!如何考えてもですね!」

「それに私・・・・・・・ここにお友達を作りに来たの。敵を作りに来たんじゃないわ」

ティファニアは、何か覚悟を決めた顔で言った。

その言葉に、誰も何も言えなくなってしまった。

その沈黙を破ったのは、ベアトリスの泣き声だった。

「ひ・・・・ひう。ひっぐ」

恐怖の緊張の糸が切れ、安心した瞬間、涙がどっとこぼれてきたらしい。

まるで小さな子供のようにベアトリスは泣いた。

「う、うう、うえ゛~~~~~~~~ん!」

無防備な泣き声だけが響く。

生徒たちは、その泣き声に当てられて、これ以上糾弾する気も失せてしまった。

「終わったかの?」

生徒達の壁をかき分けて、学院長のオスマンが現れた。

オスマンは白い髭を擦ると、にっこりと笑った。

それからほぼ学院生徒全員の前で、ティファニアの肩に手を置き、こう告げた。

「あー、先程彼女は命を賭けて、ここで学びたいと言った。その言葉から学ぶところは大きい。よいか諸君、元々学問というのは命がけじゃ。己の信じるところを貫き通すためには、時に世界を敵に回さねばならぬときもある忘れるでないぞ」

生徒たちは、今頃出てきて何言ってるんだ、という顔つきになったが、とりあえず頷いた。

オスマンは満足げに頷くと、言葉を続けた。

「しかし、何時も命がけでは息が詰まる。喧嘩も息抜きの一つかもしれんが、人死にが出てからでは遅い。それになにより面倒じゃ。こんな騒ぎはもうこれきりにして欲しい。よいか、彼女の後見人はこのわしじゃ。その上、ティファニア嬢は、女王陛下からよしなにと頼まれた客人でもある。今後彼女に侮辱的な・・・・・・・その血筋について何か講釈を垂れたい生徒がいたら、王政府を敵に回す覚悟で述べなさい。よいかね」

生徒たちは驚愕し、一斉に緊張した顔つきになった。

まあ、女王陛下ゆかりの人物だと言われれば当然だろう。

生徒たちはティファニアに近付き、握手を求め始めた。

「よろしく。エルフって初めて見たけど、綺麗なもんだね」

「私、オーク鬼みたいな生き物を想像してたのよ」

「それに、随分と真面目で真っ直ぐな考え方をするんだね。人間の貴族よりも貴族らしいや」

ティファニアは感動した面持ちで一人一人と握手を交わした。

その様子をみたアルダモンとデュークモンは進化を解く。

すると、オスマンが周りを見渡して言った。

「さて、仲直りがすんだら、怪我人を医務室に運んで、ここの後片付けをしなさい。あんまり散らかってはおらんがの」

アルダモンとデュークモンは、暴れる前に全員秒殺したので、大した損害は無い。

生徒たちは頷くと、すっかり忘れ去られてぶっ倒れていた空中装甲騎士団の騎士たちを運び始めた。

オスマンはそれを見て頷くと、傍らのティファニアに顔を向けた。

「助けが遅くなってすまなかったの。ただ、普通に助け舟を出しては、なかなか真の友というのは作りづらいからのう。特にお前さんのような、エルフの血を引くものではの」

いえ・・・・と、人見知りするティファニアは顔を伏せた。

オスマンは、こほんと席を一つすると、そこで真顔になった。

「さて・・・・・最後に一つ、お前さんにたずねたい事がある」

「はい?」

不安げな表情を浮かべ、ティファニアは首を傾げた。

「非常に大事な質問じゃ。学問というのは正に命がけじゃのう・・・・・・・わしの全存在をかけて質問するぞ。きちんと答えるのじゃ」

「はい」

真剣な顔で、ティファニアは頷いた。

オスマンは、堂々と指を突きつけた。

巨大な、という形容詞が陳腐に思えるほどのティファニアの胸に。

臆したところは微塵も感じられない。

威厳さえ感じさせる、落ち着き払った態度でオスマンは質問を発した。

「それはホンモノかの?」

ティファニアの顔が真っ赤に染まる。

真剣な質問らしいので、仕方なくティファニアは消え入りそうな声で答えた。

「・・・・・・はい。そうです」

オスマンは耳に手を当てると、ティファニアの顔に近づけた。

「もっとはっきり、この年寄りに聞こえるように言ってはくれんかの。歳をとると、耳が遠くなっていかん」

ティファニアは、更に頬を赤くさせた。

俯き、唇をかみ締め、

「ほ、ほんものです!」

「ワ、ワンモアじゃ」

オスマンが軽く頬を染めてそう呟いた時、脳天にエア・ハンマーが炸裂した。

思わず拓也が放ったのだ。

意識を失ったオスマンの左右の腕を教師が握り、拓也に一礼すると、ずるずると運んでいった。

ティファニアは、暫く顔を俯かせていたが、草原に吹く風に誘われるようにして顔をあげた。

どこか晴れ晴れとした気分で、ティファニアは笑みを浮かべた。




拓也はアイナ、シャルロット、イルククゥと中庭を歩いていた。

「まあ、特に心配する必要もなかったかな」

拓也が言う。

「そうだね。あの雰囲気なら仲良くやれそうだし」

アイナも頷く。

拓也はシャルロットに視線を向ける。

「シャルもありがとうな。お陰で上手く纏まったよ」

「それほどでもない・・・・」

拓也の礼に、シャルロットは頬を少し赤らめて答える。

と、その時、

「こ、こ、こ、このバカ犬~~~~~~~!!」

ルイズの声が響いた。

「ご、誤解だぁあああああっ!!」

才人が逃げている。

「何が誤解よ!ばっちり見たわよ!あんたがテファの胸を触っているのを!!」

「だからそれは!!」

「問答無用!!!」

ルイズの杖から光がほとばしる。

そして、

――ドゴォオォォン

才人が爆発に吹っ飛ばされた。

「あれ?ルイズ魔法使えるようになったんだ」

アイナがきょとんとして呟いた。






次回予告


そこはまさに桃源郷。

男たちの夢。

それは女子風呂。

だが、その女子風呂に近付く影とは?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第四十七話 魅惑の女子風呂

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

四十六話完成。

結構長くなった割には、オリジナル部分が少なくていまひとつ。

とりあえず空中装甲騎士団ボコッといたけど、その描写は省きました。

だって、弱い物いじめというか虐待に近い感じになってしまうので・・・・・

とりあえず軽くデュークモンで説き伏せときました。

あとは、ルイズの代わりのシャルロットが矛盾を指摘。

拓也達が瞬殺したんで、ルイズはお寝んねしてます。

最後にルイズに魔法使わせましたが、ここしか、魔法を使わせる所がなかったので・・・・・・

ともかく、次も頑張ります。





[4371] 第四十七話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/09/13 16:58
エルフの血を受け入れてもらえたティファニア。

しかし、才人に頼んだ事が原因で・・・・・


第四十七話 魅惑の女子風呂


ティファニアの異端審問騒動から数日。

その間、才人はまたルイズから罰を受けていたらしい。

罪状は、ティファニアの胸を触った容疑である。

因みにそれはティファニアからたのまれた事であり、才人には非は無いとは言いがたいが、ほぼ無実に近かったりする。

当然、ルイズはそんな話これっぽっちも信じるわけは無い。

結局才人は、3日間パンツ1枚で反省文を書かされ、朗読を繰り返させられるというとんでもない罰を受けた。

まあ、才人はその3日目で耐え切れなくなり、ルイズの部屋を出て行ったわけだが。

現在は水精霊騎士のたまり場の部屋の隅っこで、空になったワインの壜に唇をあてて笛に見立て、ボー、ボー、とせつなげな音を奏でていた。

ルイズと喧嘩して、部屋を飛び出してしまった才人は当初、怒りに震えていたが、そのうちに頭が冷えて悲しくなってしまったのである。

“ルイズは本当に自分のことが好きなのか?”と考え始め、ルイズは自分のことが好きと思い込み、調子に乗りまくっていた分、一旦落ち込んだら底なしであった。

そんな才人を慰めようとギーシュを始めとした水精霊騎士隊のメンバーが何やら話し合っていた。

「どうにかしてサイトに元気になってもらいたいな」

「しかしまあ、こればっかりはどうにもならんなあ。なにせ、人の恋路だからね」

ギーシュはもっともらしく頷いた。

そんな中、いつでも豪快なギムリが、何故か小声でギーシュに囁いた。

「隊長殿。おれにいい考えがあるんだが」

「君がか?」

ギーシュは怪訝な顔でギムリを見つめた。

元々、ギムリは頭脳派ではない。

「女と上手くいってない男を、一番慰めるものはなんだと思う?」

ギーシュは即答した。

「女」

「その通りだ。女で傷ついた男を慰めるのは女・・・・・・・なんとも我々男は哀しい生き物だね」

「何が言いたいんだね?」

ギーシュが促すと、ギムリは目尻を下げた。

「大浴場を知っているね。そこは現在、男子用と女子用に分かれている」

「そうだな。なにせ、湯着を着用して、男女の区別なく入浴していたのは、僕たちの祖父の時代までだからな」

その頃、入浴とはイコール混浴であった。

とはいっても、地球で言う水着のような物を身に付けて入るのだが。

しかし、戒律の厳しくなったロマリアが、その習慣を宗教的理由から禁じたのであった。

それから入浴は、就寝前の祈りの前に身体を清める、味気ないものに変化した。

現在のトリステイン魔法学院の風呂場は、本塔の地下に設けられている、白い大理石で作られた巨大なプールだ。

通路を挟んで同じ物が2つ作られ、男子用、女子用となっている。

「風呂が一体、如何したんだね?」

「女子用の風呂を、劇場として機能させるのはどうだ?これ以上、男を奮い立たせる催しもないものだ。だろう?」

ギーシュの目が大きく見開かれた。

「女子風呂を覗こうというのか!?」

しっ!とギムリはそんなギーシュの口を押さえた。

その不届き極まりない発言に、騎士隊の少年たちが集まってくる。

ギーシュは口を開くと、真っ赤になった顔でまくし立てた。

「き、きき、貴族として恥ずかしいと思わんのかね!婦女子の入浴を覗くだなんて!これ以上の破廉恥がかつてあっただろうか?いやない!」

「だがな、隊員の士気が下がっているのを、一員として見過ごすわけにはいかん。それにきみ、正直に言えば覗きたいだろう?いやはや!大事な事だぜ!“フリッグの舞踏会”はすぐそこだ。どの女性をエスコートするのか?これ以上貴族にとって大事なことはない!そして、服を着ていては、どの女性がダンスに優れているかわからんだろう?中身をきちんと吟味して、どの女性と踊りたいか?いや、踊るべきなのか判断する。貴族の義務とさえ言えるだろう!」

無茶苦茶な理屈だったが、ギーシュの心が動き始めた。

もとより、これ以上甘美な提案はないのだった。

ギーシュはプルプルと震え始めた。

「いかん!いかんよ君!女子風呂は、厳重に魔法で守られている!」

「へえ、そうかい」

ギムリは余裕の態度で答える。

ギーシュは心底悔しそうな顔でまくし立てた。

「いいかね、僕はこの学院に入学した時に、真っ先に調べたのだ。女子風呂はまるで要塞のような鉄壁の防御を誇っている!半地下の構造で覗くためには陸路で接近するしかないのだが・・・・・・・接近するためにはまず、周りを守る5体のゴーレムを何とかしなくちゃならないんだ。そして、それらをクリアーしてもまだ難関が残っている!魔法のかかったガラス窓の存在だ!これはもう、手の付けられない代物だ!向こうからは丸見えだが、こっちからは決して覗けない!おまけに強力な“固定化”の魔法がかかっているから錬金なんかではどうにもならない!その上、魔法探知装置までついてるから、魔法ははなから使えない!」

先程口にした“貴族の誇り”が真っ向から吹き飛ぶ問題発言だったが、今となっては誰も気にしていない。

この場にいる全員が、たった一つのことで頭がいっぱいになっていた。

“本当に覗けるのか?”

「お手上げだよ。メイジには、どうにもならないんだよ!」

ギーシュは泣きそうな声で呟くと、どかっと床に胡坐をかいた。

隊員たちの間から、悔しそうな舌打ちが漏れた。

ギムリは、そんなギーシュの肩を叩いた。

「さて、そんな風呂のある本塔の図面を、拝見できる栄誉に恵まれた貴族がいたとしたら?」

ギーシュの目が輝いた。

「ま、まさかきみは・・・・・・・・」

「その幸運な貴族だよ」

一同から、うぉおおおおおおおおお!と、窓が割れんばかりの歓声が響いた。

「先日、図書室に赴いた時のことだ・・・・・・・・・僕は学院の歴史を調べていたんだ。知っての通り、このトリステイン魔法学院は、長い歴史を誇っている。つまり、学院の記録書の棚もやたらと長くなる。おそらく何百年もの間、誰も触れてはいないような部分も存在する。そこを探っていたら・・・・・・こんな1枚の写しを見つけた。この紙だ」

その場の全員が、固唾を飲んでギムリが差し出した紙を見つめた。それは羊皮紙に書かれた本塔の図面であった。

幾つもの注釈が、色あせた黒インクで書き添えられていた。

「どうだい?本塔にかけられた“固定化”の部分が余すところなく記されている!おそらく、設計に当たった技師の誰かが、控え用に写したものだろう。でも、それで僕たちの計画には十分なのさ」

ギムリはにやっと不敵な笑みを浮かべてみせた。

ギーシュはわなわなと震えた。

「僕が将軍だったら・・・・・・君に勲章を授与しているところだ」

隊員たちも、銘々感動に震えたのか、空を仰いで涙を流す者、拳を握り締めて何度も頷く者が続出する。

しかし、そんな中、1人の少年が顔を真っ赤にして言った。

「諸君!紳士諸君!ぼくは情けないぞ!」

レイナールである。

根が真面目な彼は、どうにもそんな計画が許せないらしい。

一同は困ったように顔を見合わせた。

しかし、そんなレイナールに、何かを感じたらしいマリコルヌが、真顔で言った。

「僕たちは貴族だ。ましてや近衛隊だ。いつ何時、祖国と女王陛下のために、命を捨てるとも限らない。死は我々の隣に、いつもある。死は友であり、僕たちの半分だ」

「その通りだ!そんな貴族の僕たちが・・・・・・・その、風呂を・・・・・・・」

「さて君は、あのティファニア嬢のものがホンモノかどうかわからぬまま、死にきれるのか」

レイナールの顔が蒼白になった。

マリコルヌは、真剣な顔で言葉を続けた。

「僕には無理だ」

レイナールは暫く己の中で葛藤と闘っていたらしい。

しかし、とうとう我慢しきれずに、がくっと膝をついた。

絞り出すような、魂の響きがレイナールの喉から漏れる。

「た、確かめたいです・・・・・・」

マリコルヌは聖女のような笑顔を浮かべて、レイナールに手を差し出す。

「行こうぜ。僕たちの戦場へ」


こうして、レイナールを丸め込んだ水精霊騎士隊は、今までのやり取りを全く聞いていなかった才人を、「いいものを見せてやる」と言って連れ出した。

もちろん、向かう先は彼らの戦場、女子風呂である。

だが、彼らは忘れていた。

その場にもう1人いたことを。

それが原因で、計画が破綻する事になろうとは知る由もなかったのであった。

因みにギルモンだが、ご飯を食べて寝むくなったのか、その部屋の隅っこで丸くなって寝息を立てていた。



その場にもう1人いた少年、拓也は、暫くは呆れながらその場に留まっていたのだが・・・・・・・

(何考えてんのかねギーシュたちは。才人さんも話を聞いてなくて連れてかれたし。いや、もし話を聞いていたとしても、言いくるめられるのがオチか。才人さんは、周りの雰囲気に流されやすいからな。まあ、ギーシュたちが風呂を覗こうが俺には関係な・・・・・・・・)

そこまで考えた時、とある事を思い出した。

(ちょっと待て・・・・・・女子風呂ってことは当然アイナやシャルがいるって事だから・・・・・・・なんか分からんけど、すっげーダメな気がする!)

それに思い至った時、拓也は立ち上がり、たまり場を飛び出した。






走って来た拓也が本塔の近くまで来ると、丁度女子生徒たちが、風呂場へ向かっているところだった。

その中に、アイナ、シャルロット、キュルケの3人を発見する。

「アイナ!シャル!キュルケ!」

拓也は声をかける。

「タクヤ?」

「あら?如何したの?」

突然声をかけられ、首を傾げるアイナとキュルケ。

拓也は3人に駆け寄る。

「よかった、間に合った」

「どうかしたの?」

拓也の言葉にアイナが尋ねる。

拓也は、ギーシュたちの行動を話した。

「ギ、ギーシュたちが覗き・・・・・・・・」

「何考えてるのかしら」

「・・・・・・・・・」

上からアイナ、キュルケ、シャルロットである。

「まあ、才人さんは巻き込まれただけみたいな形だから、懲らしめるんなら酌量の余地を与えてもらえるとありがたいんだけど・・・・・・」

拓也はそう頼む。

「っていうか、そう言う位なら止めなかったの?」

キュルケがそう言ってくる。

「いや、才人さんって周りに流されやすいから、もし行く先が女子風呂だと知っても、なんやかんやで丸め込まれそうだから・・・・・・」

「同感」

拓也の言葉にシャルロットが頷く。

「まあいいわ。情報ありがとうタクヤ」

キュルケがそういい、3人は踵を返して再び風呂場へ向かった。

拓也は、

「これでとりあえずは安心かな・・・・・・・俺も風呂にするか」

そう呟いて、五右衛門風呂のある所まで歩き出した。






ギーシュのヴェルダンテが掘る穴を、一同は這いながら進んでいた。

モグラの後ろに続くのは、隊長のギーシュ。

その後ろにはギムリが続く。

次にマリコルヌ。

最後尾には才人がいた。

当然才人は、何処へ向かっているのかは聞かされていない。

「地下に埋まっている部分の壁石には“固定化”はかかっていない。あの図面を見る限りでは。信じて良いのかね」

ギーシュが心配そうな声で、自分の後ろからはってついてくるギムリに尋ねた。

暗闇の中、ギムリは大きく頷いた。

「ああ。あの図面には、当時の設計主任、エルモン伯の許可印が押してある。まごうことなきホンモノさ。考えてみれば、地面の下とは盲点だった!なるほど風呂は半地下の構造になっている。窓ばかり注意がいって、地面に埋まった壁まで頭は回らなかった。頭だけ守って、尻がおざなりになるってのは、何も生き物だけじゃないってことだ」

掘り進むヴェルダンテが、ピタリと動きを止めて振り向いた。

「モグモグ」

ギーシュの顔に緊張が走る。

壁にぶち当たったようだ。

「諸君、目的地に到着したぞ」

才人以外から、感嘆のため息が漏れた。

「どうやら、地上のゴーレムも、地下までは反応しないようだな。静かなもんだ」

ギーシュは軽く杖を振り、その先に魔法の明かりを灯した。

ぼんやりと、淡い光がヴェルダンテの掘った穴の中を照らす。

ヴェルダンテが鼻で指し示す先に、灰色の石壁が見えた。

「ヴェルダンテ。その壁に沿って、穴を広げてくれ。ここにいる全員が入れるぐらいに」

あっという間に、ヴェルダンテはギーシュの要求に応えた。

一方、壁を挟んだ向こうでは、乙女達が、朗らかな嬌声を上げていた。

浴槽は横25メイル、縦15メイルほどもある。

学校の女子生徒が、一斉に入れるほどの大きさである。

貴族の浴場らしく、張られたお湯には香水が混じっている。

そこに、アイナ、シャルロット、キュルケが入ってくる。

3人は杖を持っていた。

「さてと、状況が分かるまでは、いつもどおりお風呂に入りましょ」

キュルケがそう言った。

暫くすると、入り口付近から軽い歓声が沸く。

3人がそちらに顔を向けると、そこには長い耳と暴虐的な胸を持つティファニアが、恥ずかしそうに浴布で身体を隠しながら立っていた。

しかし、その胸はあまりにも大きすぎた。

浴布からはみ出た部分の体積が、皆の目に飛び込んでくる。

「うわぁ、いつも思ってたけど、ティファニアの胸って大きいね」

アイナがそう呟く。

「本当ね。いくら私でもあれには負けるわ」

キュルケもそう言う。

ティファニアは、キョロキョロと辺りを見回すと、浴槽の中にルイズを見つけにっこりと笑ってそちらに歩いていった。

ティファニアがルイズの横に腰掛けるのを見届けた後、アイナは自然と視線を自分の胸に落した。

そこには、少し膨らんできたが、ティファニアとは雲泥の差の自分の胸。

「やっぱり男の子って、胸が大きい方が好きなのかなぁ・・・・・」

ポツリとそう呟く。

「それは人それぞれね。でも、アイナはまだ成長期だし安心しなさい。それにタクヤなら、そんなこと気にしないわよ・・・・・・・・多分」

キュルケがフォローするようにそういったが、最後の一言で台無しである。

そんな話をそばで聞いていたシャルロットも、無言だったが自分の胸をしきりに気にしていたりする。






拓也は五右衛門風呂で双月を眺めていた。

「ふう~~・・・・・・極楽極楽・・・・・」

お決まりの言葉を呟く拓也。

そんな時、月に影がかかった。

「ん?」

拓也が目を凝らすと、

「きゅい~~~~!」

何やら声が聞こえ、

――ドッボォォォォォン

何かが湯船の中に飛び込んできた。

「おわあっ!?」

拓也は叫ぶが、確かこんなことが前にもあったな~、と既視感を感じていた。

そして、

「きゅいい~~!」

湯の中からイルククゥが勢い良く顔を出した。

「きゅい!タクヤさま~~」

そう言って笑顔を向けてくるイルククゥ。

「い、いきなり飛び込んでくるな!」

拓也はあわてて顔を背け、後ろを向く。

その顔は真っ赤である。

「きゅい、ごめんなさいなのね。でも、シルフィも偶にはお風呂入りたかったのね」

イルククゥはそう言う。

「だ、だからって何で俺が入ってる時に飛び込んで来るんだよ!?」

「きゅい!それはもちろんタクヤさまと一緒に入りたかったからなのね!」

拓也の問いに、力の篭った言葉で答えるイルククゥ。

「ま、前にも言ったと思うけど、男と女は普通一緒に風呂に入るもんじゃない!」

拓也はそう叫ぶ。

「でもでも、お姉さまの読んでいた本には、好きな人とは一緒に入って良いって書いてあったのね」

イルククゥの言葉に、

(な、何読んでるんだシャル!!?)

心の中でそう叫ぶ。

すると、

「きゅい!」

「うおっ!?」

突如イルククゥが後ろから抱き付いて来た。

「きゅいきゅい」

「なななな、何を!?」

突然の事に混乱し、拓也は口が上手く回らない。

イルククゥは笑顔のままである。

「お姉さまの読んでいた本にはこうすれば男の人は喜んでくれるって書いてあったのね」

(だから何読んでるんだ!?シャル!!)

拓也の背中には柔らかい2つのふくらみが押し付けられている。

それを意識した時、拓也の顔は真っ赤に茹で上がった。

「うおおおお・・・・・・・」

「きゅいきゅい♪」

必死に本能に耐える拓也。

そして、上機嫌のイルククゥであった。







一方、ヴェルダンテが壁沿いに彫り上げた坑道に、横一列に腹ばいで並んだ水精霊騎士隊の少年たちは、己の杖に全身全霊をかけ、一生に一度の気迫でもって、とある呪文を唱え続けていた。

“錬金”

土系統の基本呪文。

その錬金をキリとなして、厚さ20サントはあろうかという浴槽の壁石に、穴を開けるのである。

小さな穴だ。

その直径はおおよそ1サント

少年騎士たちは、その錬金の威力コントロールに傾注した。

地面より上の壁には、“固定化”のみならず“ディティクト・マジック”までかかっている。

地面の下にはその効果は及ばぬとはいえ、万が一にも探知されてはならぬ。

それは計画の崩壊のみならず、彼らの破滅を意味していた。

したがって、、その“錬金”には細心のコントロールが要求された。

威力が強すぎてもいけない。

かといって、弱すぎては硬い壁石に穴を穿つ事はできない。

それは苦しく、また精神力を著しく消耗させる行為であった。

1人の少年が、額から汗をたらし、激しく咳き込んだ。

それから悔しそうな顔で、首を振る。

「もう駄目だ。僕は限界だ。これ以上、こんな繊細な詠唱には耐えられない・・・・・」

隣の少年が、真剣な顔でそんな仲間を叱咤する。

「何を言うんだ!!僕たちの栄光はすぐそこだぞ!お前はこんなところで負けても良いのか!?」

肩をつかんで、泣かんばかりに説得する。

「想像しろッ!お前のその勇敢な頭脳で想像するんだッ!この壁の向こうにある桃源郷をッ!戦士たちの魂が癒されるべきヴァルハラをッ!数々の聖女たちが、伝説の妖精たちが、この壁の向こうで、僕たちを待っているッ!栄光はすぐそこだァ!諦めるなァッ!」

少年は涙を流した。

ぐぉ、ぐぉおおおおおっ!と唸ると、再び杖を取り上げ、呪文を唱え始めた。

呪文の合間に、少年騎士たちは一斉に叫んだ。

「「「「「「「「僕たちはヴァルハラを想像するッ!」」」」」」」」」

才人はそんな連中を唖然として見つめていた。

マリコルヌが後ろでぼんやりと見つめる才人を振り返り、サムズアップして見せた。

「待ってろよ、副隊長。この世の春を拝ませてやる」

一体何のことだと、才人は疲れた頭で思った。



さてさて、どのぐらい、彼らは“錬金”を唱えていただろうか?

暗い穴の中なので、時間の経過が良く分からない。

5分にも、1時間にも感じられた。

いや、もっと長かったかもしれない。

とにかく、彼らの努力が、実を結ぶ瞬間がやってきた。

暗闇の中、一筋の光が差したのだ。

小さな穴が、開通した瞬間だった。

誰かが歓声を上げようとしたが、すぐにその口が押さえられる。

穴が開通した以上、大きな物音は厳禁であった。

次々と小穴は開通していく。

「・・・・・・向こうからは、この穴は分からないのかね?」

心配そうな声で、ギーシュが尋ねる。

ギムリは頷いた。

「・・・・・・よほどのことがない限り、大丈夫だ。知っての通り、浴場の壁面には彫刻が彫ってあり、彩色までなされている。男子浴場と同じデザインのはずだ。こんな小穴は模様に見えるはずさ」

ギーシュは頷いた。

「なあきみ。僕はこの穴を“ギムリ砦”と名づけようと思う。難攻不落の要塞を陥落させた、素晴らしい砦だ。それを完成させた君の功績を末永くたたえたい」

2人はひっしと抱き合った。

そのギーシュをマリコルヌがつつく。

「しっかり指揮を頼むぜ、隊長。僕たちの初陣だ」

「も、もちろんさ」

「で、栄えある一番槍は?」

「決まっている。そこのサイトだ」

ギーシュは、奥の方で膝を抱えていたサイトを指差した。

「へ?俺?」

パチパチパチ、と小さな拍手が響く。

「サイト、羨ましいな」

「しっかりやれよ」

と、爽やかな声がかけられる。

才人は訳が分からなかったが、指名されたので、腹ばいになってギーシュの元へと向かった。

皆に囲まれながら、才人は穴へと顔を近づけた。

「こいつで元気を出したまえ。サイト」

「う、うん・・・・・」

才人は穴を覗く。

最初に目に入ったのは湯気だった。

もうもうと立ち込める湯気。

そして湯気の向こう側には白い壁。

才人は、どこだ、ここはと思っていたが、次の瞬間、肌色の何かが目の前を通り過ぎる。

「え?もしかして、ふ、風呂?」

とぼけた声でそう呟いた瞬間、口を押さえられる。

「しっ!声が大きい」

「お、お前ら・・・・もしかして女子風呂に穴を・・・・」


「君を元気付けるためだ」

「ば、ばか。俺がこんな覗きで元気に・・・・・・ひう」

そこまで呟いた瞬間、才人の喉が勝手に息を吸い込んだ。

穴の向こうの空間は、まるで天国だった。

裸の女子たちが、気持ちよさそうに入浴しているのである。

ただ1つだけ欠点を挙げるならば、タオルのような布を、女子達は身体に巻いて移動していた。

女子だけとは言え、素っ裸になるのは抵抗があるらしい。

「テ、テファ!?」

湯気の向こう、女子たちの間に、とうとう才人はティファニアの姿を見つけてしまった。

隣にはルイズがいる。

2人とも、壁を背にして湯に浸かっている。

胸から下は、水面下なので見えない。

才人がその名前を口にした瞬間、騎士隊の面々は己の穴に突進した。

事の是非を忘れ、才人も目の前の光景に息を呑んだ。

なにせ、ルイズとティファニアが2人仲良く並んでいるのである。

なにせ、才人はルイズの着替えを手伝っていながら、ルイズの裸を見たことが無い。

好きな子が、何も身に付けずに湯に浸かっているのだ。

あらゆる道徳も理屈も吹っ飛んでしまった。

でもってティファニア。

こっちはもう、理由は要らない。

ティファニアの裸、という単語は、“絶対”という意味でもあった。

男として生まれたからには無視できない、魔法の塊であった。

せつないため息が水精霊騎士隊の面々から飛んだ。

その時才人は、この光景を目にしているのが自分だけではない事を思い出した。

ティファニアがルイズに何かいうのが見えた。

次の瞬間、ルイズは軽く身を沈めた。

才人はルイズのその仕草が、何を意味するのかすぐに分かった。

あれは、何か我慢できないことを言われたときの仕草だ。

という事は、ルイズは立ち上がる。

コンマ数秒の間に、才人の思考はそこまで予想した。

「お前らみるなぁああああああああ!」

絶叫して、才人は左右に転げまわる。

「な!なんだ!」

「おいよせッ!」

腹ばいになって並んだ少年たちは玉突きの要領で覗き穴から視線をずらされる。

ルイズが立ち上がったのは、その瞬間だった。




アイナがシャルロット、キュルケと話していると、壁沿いで入浴していた女子生徒たちが、何やら騒ぎ始めた。

「今、男子の声が聞こえなかった?」

「聞こえた!」

それを聞いたキュルケが、

「来たわね」

杖を持って立ち上がる。

アイナも杖を持って立ち上がった。

だが、シャルロットは立ち上がると、入り口に向かって歩いていく。

「シャルロット?」

不思議に思ったアイナが尋ねる。

「サイトを保護しに行く」

そういうと、浴場を出て行った。

それを見送ると、

「じゃあアイナ、やりましょ」

「うん」

2人が杖を振ると、無数の圧縮された小さな火球が穴に飛び込んでいく。

大きさが大きさなので大した威力は無いだろうが、それなりのダメージにはなるだろう。

穴の向こうから、悲鳴が聞こえた。




巣に殺鼠剤をまかれたネズミのように、水精霊騎士隊の騎士たちはわれ先へと逃げ出した。

必死の勢いではいずり、穴を飛び出す。

そこは、火の塔の隣の茂みだった。

「諸君!固まっていては一網打尽だ!散開するぞ!」

女子生徒たちの反応は素早く、中庭のあちこちで不埒者を探す声がする。

「どっち?」

「あっちで声がしたわ!」

少年たちは頷きあうと夜の闇にと散っていった。

その頃才人は、逃げ遅れて未だ穴の中であった。

最後尾であり、魔法の明かりを灯した少年たちが穴から出て行ってしまうと、辺りはまるっきりの暗闇になってしまった。

何とか入り口へと到達した時には、とき既に遅し。

「この穴から入ったのよ!」

「まだ中にいるのかしら?」

穴の周囲は怒り狂った女子生徒たちにより包囲されていたのである。

才人は嘆息した。

1人で全責任を負わされてコテンパンにされるんだろうと予想した。

誰かが魔法の明かりを灯し、中に入ってこようとした瞬間・・・・・・・

才人の周りの土砂が吹き飛んだ。

「きぃやあああああああ!」

女の子たちの悲鳴が飛んだ。

才人の身体は、土砂ごと大きな竜巻によって巻き上げられ、一瞬で才人は空中に放り投げられた。

「うわぁあああああああ!なんだ!?」

地面に落下すると思われた瞬間、空中で才人は何かにキャッチされた。

自分を抱えた影は魔法を詠唱する。

「窓よ。その戒めを解き放て」

本塔の窓の鍵が外され、ついで“念力”でその窓が開く。

落下の方向を変え、影に抱かれた才人は窓から本塔へと飛び込んだ。

そこは、アルヴィーズの食堂だった。

影は咄嗟に才人を柱の影に引き込む。

やっとの事で、暗がりに目が慣れると、自分を柱の影に押し込む人物の輪郭が明らかになってくる。

「タバサ?」

まず、目に飛び込んできたのはシャルロットの青い髪だった。

「しっ。静かに」

シャルロットはそう呟く。

「ど、どうして・・・・・・・」

才人はやっとの事でそれだけ呟くと、

「タクヤに頼まれた。あなたには酌量の余地があるからと」

「で、でも・・・・・俺達は覗きを・・・・・・」

「あなたの意思じゃない事は聞いてる」

淡々とシャルロットは言った。

「ありがとう」

才人は言った。

「・・・・・・ありがとう。でも拓也の奴、分かってたなら教えてくれればよかったのに・・・・・」

「それは無理」

「どうして?」

「あなたは周りに流されやすい。最初に教えていたとしても、丸め込まれる可能性が高かった。そうなれば、酌量の余地を与える事はできない」

「うぐっ・・・・・・」

その光景が容易に想像できてしまい、才人は言葉を詰まらせる。

その時、食堂の中に追っ手が入ってきた。

「何人ぐらい捕まえたのかしら?」

「半分ぐらい。水精霊騎士隊の連中だったなんて、驚きだわよ」

どうやら何人かの少年たちは捕まってしまったらしい。

遠くの方から、悲鳴がいくつか響いてきた。

「・・・・・・・許してくれぇ~~~~~!」

ついで、魔法が飛び交う音。

ぐしゃっと何かがつぶれる音。

そしてまた悲鳴。

命乞いの声。

才人は暗がりの中、震えた。

自分も捕まったらただでは済まない。

現場に行くまで計画を知らなかった、なんて言い訳通用しない。

食堂の扉が開き、女の子たちの足音が近付いてきた。

とうとうここまで追っ手の手が伸びたのだ。

シャルロットは才人を壁際に押し付けた。

女の子たちが、柱の影に隠れた才人達の傍へと近付く。

柱の影に1人の女の子が近付く。

才人が視線をずらすと、月明かりに照らされた顔はモンモランシーであった。

才人は、モンモランシーがこちらに来ないことを祈った。

その祈りが天に通じたのだろうか。

食堂の外から、ギーシュの叫び声が聞こえてきた。

どうやら捕まってしまったらしい。

「・・・・・・・出来心なんだぁ~~~~~~!」

モンモランシーの目がつりあがる。

「やっぱりね」

それだけで人が殺せるような凶悪な笑みを浮かべると、モンモランシーは駆け出していく。

残りの女の子も後に続いた。

「やばかった・・・・・・」

才人はホッと胸を撫で下ろす。

「危なかったですね。才人さん」

窓の方から声がした。

才人がそちらを向くと、窓から拓也が入ってきた。

その後ろにはイルククゥが続く。

「拓也か・・・・」

才人は一瞬文句を言おうと思ったが、拓也のお陰でシャルロットが助けてくれたわけでもあるので、口から出ようとした言葉を押し止めた。

「シャル、才人さんを助けてくれてありがとな」

拓也はシャルロットにお礼を言った。

「デート1回」

シャルロットはそう言う。

「え?あ、ああ」

まさか見返りを求められるとは思っていなかった拓也はちょっと言葉に詰まったが、そう返した。

そんな時、ひゅー、と風が吹いた。

すると突然、シャルロットが拓也に抱き着いて来た。

「おわっ!?ど、如何したシャル?」

シャルロットは拓也に抱きつき震えている。

シャルロットは震えた手で食堂の中の方を指差した。

「お・・・・・お化け・・・・火の玉・・・・・」

シャルロットは震えた声でそう呟いた。

「「へ?」」

拓也と才人は指をさされたほうに、顔を向ける。

だが、そこにはカーテンが揺れているだけである。

2人は恐らくシャルロットの見間違いだろうと思った。

視線をシャルロットに戻す。

シャルロットは未だ震えている。

拓也が尋ねた。

「あ、あのさシャル・・・・・もしかしてお前、お化けとか幽霊とかダメなのか?」

こくりと、シャルロットは小さく頷いた。

「「・・・・・・・・・」」

意外なシャルロットの弱点に、2人は呆気に取られた。

シャルロットは恐る恐る目を開けるが、

「やっ・・・・」

再び拓也に抱きついて震えてしまう。

拓也と才人はやれやれと、再び視線を食堂の中に向けると、

「へっ?」

思わず才人が声を漏らした。

そこには、白い布を被った、絵に描いたようなお化けと、その周りを浮遊する、数個の赤い火の玉だった。

「ま、マジで・・・・・?」

これには才人も唖然とする。

シャルロットの震えも激しくなる。

だが、拓也は白いお化けはともかく、火の玉には見覚えがあった。

「あ~・・・・・才人さん」

「な、なんだよ?」

拓也の言葉に、才人が動揺した声で応える。

「ちょっとデジヴァイスであれを見てもらえないですかね?」

「あ・・・・ああ・・・・・」

才人がデジヴァイスを取り出すと、データが表示された。

「プチメラモン。幼年期。火炎型デジモン。必殺技はファイアーボール。 バケモン。ウイルス種。成熟期。ゴースト型デジモン。必殺技はヘルズハンドとデスチャーム。・・・・・・・って、デジモンかよ!」

才人は思わず突っ込んだ。

それを聞くと、拓也はシャルロットを宥める。

「ほら、安心しろシャルロット。あれはお化けじゃなくて、お化け型のデジモンだ」

「デジ・・・・モン・・・・?」

シャルロットが恐る恐る顔を上げる。

デジモンと分かり、幾分か気が楽になったようだが顔色は悪い。

拓也はバケモンたちに声をかけた。

「おーい!お前ら!」

バケモンたちは呼ばれて拓也に近付いてくる。

シャルロットは、拓也の背に隠れるように引っ込んでしまう。

「なんだぁ?」

バケモンは尋ねる。

「お前らはここで何してるんだ?」

拓也は質問した。

「おお。いきなり訳のわからない所に飛ばされたからなぁ・・・・・住処を探してたところだぁ」

バケモンは律儀に答えた。

見た目に似合わず、話は分かるタイプのようだ。

「そうか・・・・・悪いんだけど、ここの学院に住み着くのはやめてくれないか。この世界の殆どの人はデジモンのことを知らないからな、見つかったら大騒ぎになっちまう」

拓也はそう説明する。

「そうかぁ・・・・わかったぁ・・・・・」

バケモンはすんなりと話を受け入れた。

「悪いな」

拓也は形だけ謝る。

「いいやぁ・・・・・仕方ないさぁ・・・・・」

バケモンはそう言うと、プチメラモンを引きつれ、窓から出て行った。

「ほら、シャル。バケモンたちはもう行っちゃったから。大丈夫だって」

拓也はそう言うが、シャルロットは拓也に引っ付いたまま震え続けている。

「・・・・・こわい」

シャルロットは呟いた。

拓也は頭をかくと、

「才人さん、俺はシャルを部屋に連れて行きますんで・・・・・」

「ああ、分かった。俺はもう少しほとぼりが冷めるまでここにいるよ」

「では・・・・」

拓也はシャルロットとイルククゥを連れて食堂を出た。

そこでルイズと鉢合わせた。

「タクヤ、丁度良かった。才人は何処?」

「えっと・・・・食堂にいるけど・・・・・・・」

拓也は思わず言ってしまった。

「そう、ありがと・・・・」

そう言って、ルイズはすたすたと歩き出す。

「ルイズ」

拓也はルイズを呼び止める。

ルイズは一旦足を止め、

「安心しなさい。痛めつけようなんて思ってないから」

そう言って、食堂の中に入っていった。

何故か拓也も今のルイズに不安な感じはしなかったので、大丈夫だろうと思い、その場を離れた。

尚、才人とルイズは無事、仲直り出来たそうな。






次回予告


騒がしくも平和な学院生活を送る拓也達。

しかし、その平和も突然終わりを告げる。

異次元からの魔の手が、トリステイン魔法学院に迫る。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第四十八話 異次元からの急襲!パラレルモン襲来!!

今、異世界の物語が進化する。








あとがき

四十七話完成。

ちょっとやりすぎたかも。

でも書いてて楽しかった。

さて、拓也は覗きには参加してませんが、それより遥かに良い目に遭ってます。

あと、覗きが分かっているのならその前に潰せば・・・・・・と思うのが常識でしょうが、そうしたら今回の題名が変わってしまいます。

これもまたご都合主義です。

そして、本来ならアルヴィーが来るところを、幽霊関係でバケモンとプチメラモン出しときました。

シャルロットでバケモンネタはやっておきたかった事の1つです。

もうちょっと遊んでも良かったかな。

それにしても、マジでルイズが空気です。

マジでヤバイ。

次回が終わると、しばし才人とルイズの出番が無いのに・・・・・・

あ、因みに次回からはオリジナル展開で行きますよ。

パラレルモンが出るってところで予想つく人がいると思いますが・・・・・・・・

とりあえず秘密って事で。

ああ・・・・・早く書きたい。

って事なので、あと1、2話は連続でこっちの小説を投稿するつもりです。

では、次も頑張ります。





[4371] 第四十八話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/09/19 00:53
騒がしくも平和な学院生活を送る拓也達。

しかし・・・・・・・


第四十八話 異次元からの急襲!パラレルモン襲来!!


水精霊騎士隊の覗き事件の翌朝。

いつも通り、リースが朝一番にアイナの部屋に来た。

「タクヤさん、アイナさん。おはようございます」

そう挨拶する。

「ああ。おはようリース」

「リース、おはよう」

2人も挨拶を返す。

「では、私はいつも通り、部屋の掃除をしていますね」

「ああ」

「お願いね」

そう言って、2人は部屋を出た。




そして、いつも通り授業を受け、特に何事もなく放課後になる。

因みに、水精霊騎士隊は、覗きの罰として、訓練時間に奉仕活動をすることになっている。

そして、現在の水精霊騎士隊の評価は、

「きゃぁああああああああ!破廉恥騎士隊だわ!」

「みなさん!お逃げになって!大変だわ!」

アウストリの広場に女子生徒の悲鳴が響き渡り、男子生徒たちは眉をひそめた。

そんな侮蔑の眼差しの中、堂々と歩くのは我らが水精霊騎士隊の面々だった。

彼らは、何処までも真剣な面持ちで、二列縦隊で行進してくる。

先頭に立つのは、隊長のギーシュ。

彼が薔薇の造花を模した杖を掲げると、後ろにいたマリコルヌが絶叫した。

「全隊!止まれ!」

ざっ!と統率の取れた動きで、彼らは停止した。

行進の訓練が行き届いている動きだった。

騎士隊にとって、“行進”は重要な仕事である。

毎日1時間は行進の練習に当てていた甲斐があったようだ。

ギーシュが掲げた杖を振り下ろす。

するとマリコルヌが、大声で絶叫した。

「騎士隊!構え!」

騎士隊の生徒たちは、さっ!と何かを引き抜いた。

杖ではなく、それは箒だった。

ベララ羊歯の葉を使って作られた大きな箒である。

「目標!アウストリの広場内のゴミ各種!掃討せよ!掃討せよ!掃討せよ!」

隊員たちは、わぁ~~~~~~~~、と掛け声をかけあいながらめいめいに散らばると、ささささ、と掃除を開始した。

魔法学院の貴族生徒たちは、その辺りにポイポイと食べかすやら空き瓶やらを放り捨てるので、何時もはメイドや給仕たちが、こまめに掃除をしている。

才人はそんな水精霊騎士隊の面々を、ちょっと罪悪感を感じながら見つめていた。

才人は、無実となったのだ。

しかも、水精霊騎士隊の隊員たちは才人の事を一言も喋らなかったらしい。

そのお陰もあって、才人はこうやってのんびり出来るのだ。

「な、なんか悪い気がするなぁ・・・・・」

才人が呟く。

「自業自得ですよ」

拓也がきっぱりと言い放つ。

「でも、俺も覗いた事には変わりないし・・・・・」

「気にしないほうが良いです」

そんなこんなで、今日も一日が終わるだろうと思っていた。

だが、





――ヴン





何かブレる様な音が聞こえた。

突如としてアウストリの広場に影がかかる。

全員が、何だ?と顔を影の原因に向ける。

そこには、30メイルほどの大きさを持った、ハルケギニアでは見たことが無い巨大な生物が存在していた。

一応、人型を取っているが、二の腕、腿は触手のような物で出来ており異様に細く、そこから繋がる腕や足は、異様にでかい。

そして、顔には目が1つだけがあり、怪しく赤い輝きを放っていた。

「な、何だぁ!?」

誰かが叫んだ。

それを切っ掛けに、混乱が広がっていく。

生徒達の悲鳴が響き渡る中、その生物は生徒など如何でもいい様に、何かを探す仕草をする。

そしてその視線が、立ち上がった拓也達を、いや、正確には才人を捉えた時、

「・・・・・・アブソーベント・バン」

巨大生物の一つ目が輝く。

その瞬間、悪寒を感じた拓也は、スピリットを身体に同調させ、才人の首根っこを掴んで全力で飛び退いた。

それと同時に、その巨大な生物の一つ目から、爪の付いた口のようなエネルギー体を発射される。

それは、先程まで拓也達がいたところに命中し、その一帯を消し去った。

「「なっ!?」」

2人はその光景に驚いた。

その生物の攻撃は、破壊するわけでも、分解するわけでもなく、ただ漠然と消し去ったのだ。

まるで、そこにあったものを一瞬で取り去ったかのようであった。

「な、何なんだ奴は!?」

才人は叫ぶ。

「才人さん!恐らく奴はデジモンです!デジヴァイスで!」

拓也の言葉で、才人はデジヴァイスを取り出し、データを表示する。

「パラレルモン。究極体。ウイルス種。突然変異型デジモン。必殺技は、デジモンのパートナーを吸収し、それ以外を異世界へ飛ばすアブソーベント・バン・・・・」

才人の説明を聞き、怪訝に思ったことを拓也は尋ねた。

「デジモンのパートナーを吸収?何のために・・・・・才人さん、もう少し詳しい事は分かりませんか?」

「そんな事言ってもよ・・・・・」

才人は適当にデジヴァイスを弄る。

すると、少しだが詳細が表示された。

「おっ、なんか出た。何々・・・・・・パラレルモンは時空を彷徨いデジモンのパートナーを吸収して自身を強化するプログラムを持つ。パラレルモン自体に理性といえるものは無く、ただプログラムにそって行動するだけの存在である」

「なんつー迷惑なデジモンだよ・・・・・・ん?デジモンのパートナーを狙う?・・・・・・ってことは、奴の狙いは・・・・・」

拓也が視線を才人に向ける。

「俺?」

才人が確認するように自分を指差しながら聞いた。

「多分・・・・・」

気落ちしながら拓也が答える。

その時、

「アブソーベント・バン」

再びパラレルモンがアブソーベント・バンを放ってくる。

「うおっ!?」

「やばっ!」

2人は慌てて逃げる。

と、その時、

「タクヤ!」

「タクヤさま!」

「タクヤ」

「サイト!」

「サイトー!」

アイナ、シャルロット、イルククゥ、ルイズ、ギルモンが駆け寄ってくる。

「一体何!?アイツは何なの!?」

ルイズが叫ぶように聞いてくる。

「簡単に説明すると、あいつはパラレルモン。時空を彷徨うデジモンらしい。んで、奴はデジモンのパートナーを吸収して強くなっていくんだと。それで、奴の必殺技は、デジモンのパートナーを吸収し、それ以外を異世界に飛ばしちまうんだ。あと、デジモンのパートナーを狙ってるってことは、奴の狙いは俺の可能性が高いって所だよ」

才人は一気に説明した。

「え?ど、如何いう事?」

ルイズは訳が分からなかったらしい。

「簡単に言えば・・・・・」

再びパラレルモンの目が光る。

「俺と一緒にいると巻き添え喰うってことだ!」

才人の叫びと共に全員が慌てて逃げる。

また、アブソーベント・バンが広場の一角を削り取った。

「才人さん!ここでは学院の生徒たちが巻き込まれてしまいます!外の平原に!」

「分かった!来い!ギルモン」

才人はギルモンを呼ぶ。

拓也はデジヴァイスを構えた。

「ダブルスピリット!エボリューション!!ぐっ・・・・ああああああああああっ!!!!」

拓也がデジコードを纏い、進化する。

「アルダモン!!」

続けて、才人のデジヴァイスが光を放つ。

―――MATRIX

  EVOLUTION―――

「マトリックスエボリューション!」

「ギルモン進化!」

才人とギルモンが進化する。

「デュークモン!!」

デルフリンガーがグラニとなってデュークモンを乗せた。

2体が飛び立つ。

「さあ、付いて来い!」

アルダモンがパラレルモンを挑発するように叫び、平原の方へ飛び去った。

パラレルモンは視線をアルダモン達に向けるが、一向に動く気配を見せない。

だが、

――ヴン

パラレルモンは一瞬でその場から消え去り、

――ヴン

アルダモンたちの目の前に現れた。

「「なっ!?」」

突然目の前に現れたパラレルモンに驚く。

「こいつ、ワープできるのか!」

アルダモンは気を取り直し、

「学院からは十分離れてる!行くぞ、デュークモン!」

「応!」

アルダモンの呼びかけに、デュークモンが応える。

「一気に決める!」

アルダモンは巨大な火球を生み出し、デュークモンはイージスを構える。

「ブラフマシル!!」

「ファイナル!エリシオン!!」

放たれる巨大な火球とエネルギー波。

だが、

「アブソーベント・バン」

パラレルモンが放ったアブソーベント・バンに2つの必殺技は吸い込まれるように消え去った。

「なんだとっ!?」

デュークモンが叫ぶ。

流石に2体の最強の必殺技がああも簡単に消された事に、驚きを隠せない。

「くそ!アイツに接近戦を挑むのは危険すぎるし・・・・・・如何すればいい!?」

アルダモンも悪態をつく。

だが、敵は待ってくれない。

「アブソーベント・バン」

再び必殺技を放ってきた。

「くそっ!」

2体は避けるしかなかった。






学院からその様子を見ていたアイナ達。

苦戦しているアルダモン達を見て、心配そうな表情をしている。

「如何すればいいの?あのままじゃ・・・・・」

アイナが呟く。

「・・・・・・・隙はある」

シャルロットが呟いた。

「えっ?」

アイナが驚いた顔を向ける。

「あの敵は、さっきから必殺技を連続して使っていない。恐らく、一度撃つと暫く力を溜める時間が要る。その隙を突ければ・・・・・・」

シャルロットはそう説明する。

「じゃあ!」

アイナは一瞬明るい顔になる。

「でも、タクヤたちはその事に気付いていない」

シャルロットが言った言葉に、アイナは俯く。

だが、すぐに顔を上げた。

「シャルロット!私をシルフィードで拓也のところまで連れてって!」

アイナはそう叫ぶ。

「あの敵のすぐ近くまで行かなくてもいい。ある程度まで近付けば、私が自分で飛んでいくから!私がタクヤに今の事を教える!」

アイナの顔は真剣である。

シャルロットは、小さく微笑み、

「アイナならそう言うと思った」

そう言って、イルククゥを見る。

「きゅい!分かったのね!」

イルククゥは光に包まれ、竜の姿になる。

アイナとシャルロットは、シルフィードの背中に乗る。

「タクヤのすぐそばまで行く」

シャルロットが呟いた。

「そんな!危ないよ!」

アイナはそう言うが、

「危険なのはアイナも同じ。だったら、シルフィードで行った方がまだ安全」

シャルロットの言葉に、

「ありがとう・・・・シャルロット」

素直にお礼を言った。

「ちょ、ちょっと!」

ルイズが叫ぶが、

「ルイズ、これ以上乗るとシルフィードも動きが鈍る。悪いけどルイズは乗せられない」

その言葉を聞いて、ルイズは足を止めた。

一緒に行きたい気持ちを我慢して、ぐっと拳を握り締めると、

「じゃあ、約束して。あなた達も絶対に戻ってくるって!」

ルイズの言葉に2人は微笑む。

「分かってるよ。ルイズ」

「約束する」

アイナとシャルロットがそれぞれ答える。

「シルフィード、お願い」

「きゅい!」

シャルロットの言葉に、シルフィードは力強く羽ばたき、飛び立った。




アルダモンとデュークモンは防戦一方だった。

こちらから必殺技を放っても、アブソーベント・バンに消されてしまう。

「くそ、このままじゃ・・・・」

そう呟いた時、

「タクヤ!」

アイナの声が聞こえ、アルダモンは振り向く。

そこにはシルフィードに乗って、こちらに向かう、アイナとシャルロットの姿があった。

「お、お前ら!何でここに!?危険だ!早く逃げろ!」

アルダモンは叫ぶ。

「アルダモン!」

デュークモンの声に振り向くと、パラレルモンがアブソーベント・バンを放とうとしていた。

「ちぃ!」

アルダモンは間一髪で避ける。

その間に近付いてくるシルフィード。

「お前ら!何やってるんだ!早く・・・・」

「弱点!」

アルダモンの言葉の途中でアイナが叫んだ。

「え?」

「あのデジモンの弱点!・・・・・多分、あの敵の必殺技は連射が出来ない!」

アイナは叫ぶ。

「遠くから見ていて気付いた。恐らく相手の必殺技には溜めが必要」

シャルロットが補足する。

その言葉を聞くと、

「お・・・・お前ら・・・・・・その事を伝えるために・・・・・・」

2人と1匹の行動に感極まる。

「ありがとう!それなら奴を倒せる!!」

アルダモンは自信を持って答えた。

「デュークモン!聞こえていたな!」

「ああ!」

「俺が囮になる!その隙に攻撃してくれ!」

「分かった!」

アルダモンは、態とパラレルモン目の前で目立つ動作をする。

パラレルモンがアルダモンに狙いを定めた。

パラレルモンの目が輝く。

「今だっ!!」

まさに完璧なタイミングだった。

アルダモンは完全にアブソーベント・バンの射線軸上から逃れた。

しかし、アルダモンは気付いた。

気付いてしまった。

アブソーベント・バンの射線軸上に、シルフィードがいることに。

「しまった!!」

アルダモンは急遽方向を変え、シルフィードに乗ったアイナとシャルロットに向かった。

放たれるアブソーベント・バン。

「アルダモン!!」

その行動に気付いたデュークモンが叫び、アルダモンに向かおうとした。

だが、

「デュークモン!!」

アルダモンの強い叫びにデュークモンが動きを止める。

そのままアルダモンは、シルフィードに向かって行き、

――バシュン

アイナとシャルロットが乗ったシルフィード諸共、姿を消した。

「うく・・・・・くそぉおおおおっ!!ロイヤルセーバー!!」

グラムが光り輝き、パラレルモンの頭部に突撃、粉砕する。

だが、頭部を失ったパラレルモンは、腕を振り回す。

「相棒!あいつ頭が無くても動きやがるぜ!」

デルフリンガーが叫ぶ。

デュークモンはパラレルモンを見据える。

「貴様だけは、絶対に許さん!!」

デュークモンが、デルフリンガー共々光に包まれる。

そして、

「デュークモン!!クリムゾンモード!!」

紅の聖騎士がその姿を現した。

デュークモンは、神剣ブルトガングを上段に構えた。

その剣に光が集う。

「うぉおおおおおおおおっ!!無敵剣(インビンシブルソード)!!」

デュークモンは、パラレルモンに斬りかかった。

パラレルモンの振るわれた腕がデュークモンに向かうが、ブルトガングはその腕を易々と切り裂く。

そして、パラレルモンを見事に真っ二つにした。

消滅していくパラレルモンの身体。

だが、デュークモンは暫くその場から動こうとはしなかった。





































































































とある場所。

そこに拓也、アイナ、シャルロット、シルフィードは倒れていた。

「う・・・・・・・」

拓也が目を覚ます。

辺りは暗く、仰向けに倒れていた拓也の視界には星が見える。

そして、拓也は信じられない物を見た。

「え・・・・・・・・・」

思わず声を漏らす。


























































拓也の視線の先には・・・・・・・・・































































雲ひとつ無い夜空に輝く星と・・・・・・・・・・・・・・・・




































































たった1つの満月が・・・・・・・・・・・・・・・・



























































そこにあった・・・・・・・・・・・・・・・・
























次回予告


夜空に輝く1つの月。

懐かしい見慣れた町並み。

1年以上の時を経て、

拓也は今、我が家の玄関を潜る!

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第四十九話 ただいま・・・・ 拓也、我が家への帰還!

今、異世界の物語が進化する。







あとがき

四十八話完成。

でも、この話そのものはあんまり良くない。

まあ、パラレルモンは拓也を一時帰還させるために出したようなモンなんですけどね。

最後にクリムゾンモード出しましたけど、暫く才人達に出番が無いので・・・・・・・

話の組み立ては、結構グダグダしてると思われます。

もうちょっと纏められれば良かったかな。

まあ、それは置いといて。

拓也、遂に地球へ帰還!

いやぁ~、異世界に行った主人公が、ヒロイン(or仲間)連れて一時帰還。

自分はこういうシチュエーションが大好きです。

故に、デジアド無印の現実世界編は気に入っております。

関係ないか?

まあ、賛否両論あるかもしれませんが、これで行きますんでよろしくお願いします。

では、次も頑張ります。




[4371] 第四十九話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/09/27 10:46
パラレルモンに飛ばされ、辿り着いた先。

拓也の目に映ったのは、夜空に輝く1つの満月だった。


第四十九話 ただいま・・・・ 拓也、我が家への帰還!


拓也は、夜空に浮かぶたった1つの月を見て、呆然としていた。

だが、

「う・・・・うん・・・・・」

アイナ達が目を覚ます時に漏らした声で我に返る。

拓也は立ち上がり、アイナ達に駆け寄った。

「アイナ、シャル、シルフィード。大丈夫か?」

拓也は2人と一匹に声をかける。

「う・・・・・タクヤ?」

アイナはボーっとする頭を押さえ、拓也を見る。

シャルロットは、首を振りながら身を起こす。

シルフィードも起き上がった。

「ここは何処?」

シャルロットが、周りを見渡しながら呟いた。

周りには、ハルケギニアでは見慣れない建物が立ち並ぶ。

「ああ・・・・・・それなんだけど・・・・・っと。シルフィード、ここじゃその姿は目立つ。人間形態になってくれ」

「きゅい、分かったのね」

拓也の言葉にシルフィードは応え、光に包まれるとイルククゥの姿になる。

どうやってるかは知らないが、服は着ていた。

拓也も、覇竜刀を背負ってる事を思い出し、着ていたマントを巻いて隠す。

「それで、この場所なんだけど・・・・・」

拓也が話し出そうとした時、

「きゅい!?あれを見るのね!」

イルククゥが空を指差して叫んだ。

アイナとシャルロットは、シルフィードが指差したそれを見て驚愕した。

「つ、月が1つ!?」

アイナが叫ぶ。

「どうして?」

シャルロットも動揺を隠しきれない。

「・・・・・・ここはどうやら地球みたいだ」

拓也が言った。

「チキュウ?タクヤたちの世界の?」

「ああ」

アイナの問いに拓也は頷く。

「それで、この場所なんだけど・・・・・・・ッ!?」

拓也は周りを見て言葉を失った。

拓也は当初、この場所は知らない場所だと思っていた。

だが、近くの電灯の光で暗闇に目が慣れてきて、ある程度周りを把握できるようになった事で、此処がどのような場所かが判った。

拓也達がいた場所は、そこそこの広場に数個の遊具がある小さな公園だった。

そしてその公園は、拓也の記憶にある公園と一致した。

(ここは・・・・・・家の近所の公園!)

それが判ったとき、拓也は思わず走り出した。

「「「タクヤ(さま)!?」」」

3人は驚きながらも後を追う。

拓也は公園を飛び出し、歩道を走る。

アイナ達も、周りは見慣れない物ばかりだが、拓也を見失わないように必死に後を追った。

拓也は暫く真っ直ぐ走り、とある角を曲がる。

そして、また暫く真っ直ぐ走った所で足を止めた。

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

拓也は息を整えながら、住宅街の中にある1軒の家を見つめた。

その時、アイナ達も追いついてくる。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・ど、如何したの?」

アイナは息を整えながら拓也に尋ねる。

だが、拓也は答えず、じっとその家を見つめていた。

そして、その家の門の横の塀には、表札がかかっていた。

そこに書かれていた文字は、

――神原 宏明
    由利子
    拓也 
    信也――

「ここは?」

拓也が見つめ続けている家を見て、シャルロットが尋ねた。

「・・・・・・・・えだ」

拓也が小さく呟いた。

「え?」

よく聞き取れなかったアイナが聞き返した。

「・・・・・俺の・・・・・・家だ・・・・・・・」

再び呟いた拓也の言葉を理解した時、アイナ、シャルロット、イルククゥの3人は、驚愕に包まれた。

「ここ、タクヤさまの家なのね?」

「・・・・・ああ」

イルククゥの確認する言葉に、拓也は頷く。

「ここが・・・・・タクヤの家・・・・・」

アイナは拓也の家を見上げながら呟く。

拓也は歩き出し、門を開けて敷地内へ入る。

アイナ達も後に続いた。

拓也は、一歩一歩確かめるように、ゆっくりと玄関へ歩いていく。

そして、玄関の前に立つと、ゆっくりと呼び出しベルのスイッチに右手を伸ばした。

人差し指がスイッチに触れようとした時、拓也は一瞬躊躇した。

だが、すぐに気を取り直し、呼び出しベルのスイッチを押した。

――ピンポーン

と、呼び出しベルが鳴る。

いきなり響いた聞きなれない音に、アイナ達が驚いていたようだが、今の拓也には関係ない。

「はーい!」

女性の声が聞こえた。

拓也は、その声を聞いたとき、ドクンと心臓の鼓動が跳ね上がったのを感じた。

今の声は、拓也の母親である、神原 由利子の声であった。

タッタッタッタ、と廊下を小走りに走る音が聞こえる。

拓也の心臓の鼓動がどんどん速くなる。

ほんの十数秒なのに、途轍もなく長く感じる。

そして・・・・・・・・玄関の扉が開いた。

約一年ぶりに見る母の顔。

拓也は、頭が真っ白になったが、自然と言葉が出てきた。

「た、ただいま・・・・・・・母さん・・・・・・」

拓也は、由利子から少し視線を外し、頬を掻きながらそう言った。

由利子は、目を見開いて固まっていた。

「たく・・・・・・や・・・・・・?」

由利子の何とか出てきた呟きに、

「うん・・・・・」

拓也は小さく頷いて答えた。

そして、次の瞬間、

――ガバッ

拓也は抱きしめられた。

「バカッ・・・・・一年も何処行ってたのよ・・・・・?どれだけ心配したと思ってるの・・・・!?」

由利子は拓也を抱きしめ、涙を流しながらそう言った。

その言葉を聞いた拓也も感情が溢れ出し、自然と涙が零れた。

拓也からも由利子に抱きついた。

「母さんっ!・・・・・・ごめん・・・・・・母さんっ!!」

拓也は、泣きながらそう叫ぶ。

そんな時、騒ぎを聞きつけたのか、家の中から拓也の父である神原 宏明と、弟である神原 信也が様子を見に来た。

宏明と信也からは、由利子の影に隠れて拓也は見えない

「なんの騒ぎだ?」

宏明がそう尋ねる。

「あなた・・・・拓也が・・・・・」

そう言いながら由利子は横に退く。

拓也の姿を確認した宏明と信也が叫んだ。

「拓也!?」

「兄ちゃん!?」

その顔は驚愕に包まれている。

「父さんっ!!」

拓也は宏明にも抱きついた。

「拓也・・・・・・よく帰ってきた!」

宏明も拓也を抱きしめる。

「兄ちゃん!!」

信也も泣きながら拓也に抱きついた。

「信也・・・・・・・」

涙を流したまま、抱きつく信也に視線を落とす。

そのまま、暫く抱き合っていた。

しかし、その様子を見ていたアイナは、酷い罪悪感に苛まれていたが、それを顔に出す事は無かった。



暫くして漸く落ち着き、拓也達は離れる。

そして、由利子が切り出した。

「それで、今まで何処にいたの?後、さっきから気になっていたけど、そちらの女の子たちは?日本人じゃないみたいだけど・・・・・・」

「え~っと・・・・・・・とりあえず名前は、赤い髪がアイナ。アイナ・ファイル・ド・シンフォニア」

拓也が紹介すると、アイナはペコリと頭を下げた。

「で、青い髪のメガネがシャル。シャルロット・エレーヌ・オルレアン」

シャルロットも頭を下げる。

「で、最後にイルククゥ」

「きゅい!よろしくなのね!」

イルククゥは元気良く挨拶するが、

――ゴスッ

シャルロットに杖で後頭部を殴られる。

「あうっ・・・・・・痛いのね、お姉さま・・・・・」

涙目でシャルロットを見る。

「礼儀を弁えて」

シャルロットがそう注意する。

神原一家はちょっと呆気に取られた。

一番年上に見えるイルククゥが一番子供っぽいのだから、無理も無いだろうが。

「それで、今まで何処に居たかなんだけど・・・・・・・・」

拓也は一旦言葉を区切り、

「話すと長くなるし、中で話すよ。・・・・・あ、あと、平賀さんも呼んでくれないかな?」

そう言った。

「平賀さん?お隣の?」

「うん。才人さんにも関係があることだから・・・・・・・才人さんも、俺と同じ日に行方不明になったんでしょ?」

「え・・・・ええ・・・・・」

拓也の言葉に、驚愕しながらも答える由利子。

しかし、すぐに気を取り直し、

「分かったわ。私は平賀さんたちを呼んでくるから、家の中で待ってて」

「うん」

拓也の返事を聞くと、由利子はサンダルから靴に履き替え、門を出て隣の家に向かった。

「なら、君達も上がりなさい」

宏明がアイナ達にそう言う。

「は、はい。失礼します」

「失礼します」

アイナとシャルロットは礼儀正しくそう言うが、

「きゅい!お邪魔しますなのね!」

イルククゥは何時もの調子であった。

とすれば当然、

――ゴスッ

後頭部に杖の一撃が来るのは当たり前である。

「礼儀を弁えてって言ってる」

「きゅいい~・・・・・痛いのね・・・・・」

涙目で頭を押さえるイルククゥ。

「ははは、そこまで畏まらなくても良いさ。気にせず上がりたまえ・・・・・・・っと、そうだ拓也」

家の奥に進もうとした宏明が思い出したように振り返り、

「おかえり拓也」

そう言った。

その言葉で、なんだか嬉しくなった拓也は、

「うん、ただいま!」

元気良くそう言った。

拓也は、玄関から家に入り、家の中に足を踏み入れる時に気付いた。

「あ、ここじゃあ、家の中に上がる時は靴を脱ぐからな」

そう忠告する。

「あ、うん。分かった」

拓也の言葉に従い、アイナ達は靴を脱いで家の中に上がった。




居間に集合して数分後。

由利子が、才人の父である平賀 才助(さいすけ)と母である平賀 人美(ひとみ)を連れてきた。

拓也を見た2人の反応は、

「拓也君・・・・・・本当に戻ってきたのね・・・・・」

そう呟く人美と、

「拓也君!才人は無事なのか!?才人は一体何処にいるんだ!?」

拓也の両肩を掴み、前後に激しく揺らしながら叫ぶ才助であった。

「お、おおおおお、おじさん!おお、落ち着いて!とと、とりあえず才人さんは無事です!」

激しく前後に揺らされながらもそう答えた拓也。

「本当か!?本当に才人は無事なんだな!?」

そう叫び、更に激しく前後に揺らされる拓也。

「は、はいぃぃ~!せ、説明しますんで!い、今は落ち着いてくださいぃ!」

「はっ!す、すまん拓也君」

拓也の言葉で正気に戻った才助は拓也を放す。

だが、少しの間拓也は目を回していた。



暫くして復活した拓也は話し出した。

「まず、ぶっ飛んだ話だけど、去年の信也の誕生日のあの日、俺と才人さんは異世界に召喚されたんです」

「い、異世界?」

思わず信也が声を漏らす。

「ああ。その世界、ハルケギニアはいわゆるファンタジーな世界で、魔法が存在するんだ」

拓也の言葉に地球組の一同は信じられないといった表情である。

「まあ、当然口だけじゃ信じないと思うから・・・・・」

そう言って拓也は、マントに包んだ覇竜刀をテーブルの上に置いた。

「刀か?」

宏明が尋ねる。

「うん。もちろん真剣だよ」

拓也は、覇竜刀を鞘から引き抜き皆に見せる。

宏明は試しに紙をその覇竜刀の刃に当てる。

当然の如く、その紙は綺麗に切れた。

「た、確かに本物の真剣だ・・・・・」

宏明は、半ば驚愕しながら覇竜刀を見つめた。

「それで、父さん。ちょっと持ってみてくれる?」

「あ、ああ」

拓也が宏明にそう言うと、宏明は言われたとおり柄を握る。

すると、覇竜刀が輝き、刀身が伸びる。

「なっ!?け、剣が伸びた!?」

その事に驚愕する宏明。

他の面々も驚愕した表情を浮かべている。

「じゃあ、次に信也に持たせてみて」

「わ、分かった・・・・」

宏明は言われたとおりに信也に覇竜刀を渡す。

信也が覇竜刀を受け取ると、覇竜刀が再び輝き、今度は短くなる。

「わっ!?今度は短くなった!」

信也が驚いて叫ぶ。

「この覇竜刀には、使い手にあった大きさに変わる能力があるんだ」

拓也はそう言うと、信也から覇竜刀を受け取り、長さが戻った覇竜刀を鞘に納める。

次に、懐から地下水を取り出した。

「で、次にこれ」

拓也は地下水をテーブルの上に置いた。

「これは・・・・ナイフよね?」

由利子が尋ねる。

「もちろん、ただのナイフじゃないよ。地下水、喋って良いぞ」

拓也が許しを出した時、

「それじゃ、遠慮なく。相棒、久々の里帰りの気分はどうッスか?」

地下水が話し出す。

「え?何!?今の声!?」

信也が驚く。

「ここッスよ。弟君」

地下水が信也にそう言う。

「ま、まさか・・・・・ナイフが喋ってるの?」

唖然とした声で、信也が呟いた。

「意思を持ったナイフ、インテリジェンスナイフ。もちろんこんな物は地球には無いよね?」

拓也の言葉に神原一家と平賀夫妻がコクコクと頷く。

「それで、極め付けが・・・・・・」

拓也は、アイナになにやら小声で話しかける。

すると、アイナは杖を持って、

「レビテーション」

地下水に向けて振った。

地下水にレビテーションがかかり、宙に浮く。

これにも驚愕する宏明達。

「これが魔法。ここにいるアイナとシャルは、ハルケギニアの貴族でメイジ・・・・・魔法使いなんだ」

その事実に、開いた口が塞がらない神原一家と平賀夫妻。

実際信じられない話であったが、目の前で見せられれば信じるほか無い。

「とまあ、これだけ見せれば異世界の話も信じてくれると思うけど、まだ信じられないならもう1つ証拠があるけど・・・・・・」

「い、いや、もういい。これだけ見せられれば本当の事だと信じざるをえない」

宏明がそう言った。

「ならいいけど。それで、何で俺と才人さんがハルケギニアに行くことになったのかというと・・・・・・」

「タクヤ、そこからは私が話すよ」

「そうか?じゃあ頼む」

拓也は、アイナに説明を任せる。

「では、説明します。まず、ハルケギニアの魔法の中には、使い魔を召喚する、『サモン・サーヴァント』という魔法があります。使い魔とは、メイジの目となり耳となり、メイジの役に立ち、メイジを守る存在です。『サモン・サーヴァント』を唱えると、自分のレベルに見合った使い魔がハルケギニアの生物の中から召喚されます。そして、その『サモン・サーヴァント』は、私やシャルロットが通うトリステイン魔法学院で、2年生に進級する時に行なわれる進級試験のようなものでもあります。そして・・・・・約1年前・・・・・・私達は、『サモン・サーヴァント』を行ないました・・・・・」

言葉を続けていく内に、表情が暗くなるアイナ。

そして、その話を聞いていた宏明達は、1年前という言葉で思い当たった。

「まさか・・・・・・」

その呟きにアイナは頷き、言った。

「私が『サモン・サーヴァント』を唱え、召喚した使い魔は・・・・・・・・・・・・・・タクヤでした・・・・・・・」

アイナは、絞り出すような声で言った。

アイナの顔は暗い雰囲気を纏っていた。

「そして・・・・・同じクラスで、私の友達でもあるルイズ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが召喚した使い魔がサイトだったんです・・・・・・・『サモン・サーヴァント』はハルケギニアの生物を呼び出す呪文のはずですが、何故か私とルイズは異世界から召喚してしまって・・・・・・・召喚する呪文はあっても、送り返す呪文は無かったので、如何する事も出来ませんでした・・・・・・・」

アイナは俯く。

「まあ、アイナは生活の面倒は見てくれたし、それなりに楽しくやってたから特に不満も問題もなかったから。才人さんは、まあ、最初はともかく最近じゃ大分待遇良くなってるし」

拓也は明るい声で言った。

だが、アイナの顔は暗い。

そんな様子に気付いた宏明は、

「ふむ、大体はわかった。ところで拓也」

「何?父さん」

「ちょっと買い物に行ってきてくれ」

「はぁ?」

いきなり場違いのような事を言う宏明。

「酒のつまみを適当に頼む」

「ひ、久しぶりに帰ってきた息子を、その日の内に扱き使う・・・・?」

拓也は半ば呆れた声を漏らす。

「1年ぶりの親孝行と思え。あと、余ったお金で好きな菓子を買っても良いぞ」

そう言って、宏明は財布から1000円札を2枚取り出し、拓也に渡す。

「まあ、いいけどさ」

拓也はそのお金を受け取って立ち上がる。

「コンビニまでの道は覚えてるか?忘れたなら信也も連れてって良いぞ?」

「大丈夫。覚えてるよ」

拓也はそう言って、居間を出て玄関に向かう。

そして、玄関の扉を開け、拓也が外に出て、再び玄関の扉が閉まる音が聞こえる。

「あなた・・・・・なんでいきなり?」

由利子が宏明に尋ねる。

すると、宏明はアイナに向き直った。

「アイナちゃん・・・・・だったね?」

宏明は確認するようにアイナに尋ねた。

「はい・・・・」

アイナは頷く。

「君は、先程から何か言いたげだったからね。拓也がいると言いにくい事だと思ったんだが・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

アイナは俯いて少しの間沈黙する。

そして、突如その場で跪いた。

「ごめんなさい!!故意ではないとはいえ、あなた方の元からタクヤを連れ去ってしまった事!謝って済む問題ではないと分かっています!!どんな罰でも受ける覚悟はあります!!本当にごめんなさい!!」

アイナは涙を流しながら、形振り構わず謝罪の言葉を口にした。

貴族の形だけの謝罪ではない。

正真正銘、アイナの心からの謝罪であった。

そんなアイナに、由利子が近付いた。

「顔を上げて、アイナちゃん」

由利子の言葉に、アイナは顔を上げる。

その瞳からは、未だに涙が流れ続けている。

「あなたの所為じゃないわ。事故みたいなものよ。それに、アイナちゃんはもう責任を取ってくれているわ」

「え・・・・?」

由利子の言葉に、身に覚えのないアイナは声を漏らす。

「アイナちゃんは、拓也の生活を保障して、そして、こうやって拓也を生きて連れてきてくれた。それだけで十分よ」

由利子は微笑む。

「おば様・・・・・」

アイナは呟く。

「ほら、顔を拭いて。可愛い顔が台無しよ」

由利子はハンカチを渡す。

「あ、ありがとう・・・・ございます・・・・・」

アイナは礼を言って、そのハンカチを受け取った。






「ただいま~~」

買い物を済ませた拓也が帰ってきた。

その手には、つまみやお菓子が入ったビニール袋が提げられている。

拓也が居間の扉を開けると、

「きゃ~。タクヤかわいい!」

「かわいい・・・・」

「きゅい!タクヤさまちっちゃいのね!」

拓也のアルバムが披露されていた。

因みに上から、アイナ、シャルロット、イルククゥの順番である。

――ズベシャッ

拓也は思わずズッコケる。

そして、勢い良く立ち上がり、

「父さん!母さん!アイナ達に何見せてるんだよ!」

思わず叫んだ。

由利子はニコニコして、

「あら、良いじゃない。拓也のお嫁さんになるかもしれない女の子たちなんだから。拓也のことをもっと良く知っておいて貰いたいのよ」

「ブッ!?・・・・お、お嫁って・・・・・・」

「ハッハッハ!モテモテだな拓也」

宏明は笑っている。

拓也の顔はやや赤い。

「私としては、アイナちゃんがいいかな」

由利子は笑ってそう言う。

アイナがピクリと反応する。

「いやいや、拓也は熱血だからな。逆にクールなシャルロットちゃんがお似合いかも知れないぞ」

宏明の意見にシャルロットもピクリと反応した。

「僕としては、イルククゥさんみたいな明るいお姉ちゃんが欲しいかな」

「きゅい♪」

信也の言葉にイルククゥはご機嫌になる。

「父さん!母さん!信也まで!話を飛躍させないで!」

拓也は真っ赤な顔で叫ぶ。

そんなやり取りに平賀夫妻は笑っている。

「おじさんもおばさんも笑わないで!第一、才人さんも似たようなモンです!!」

拓也がそう言うと、

「そうなのか?それは楽しみだ」

「そうね。才人は彼女もいなかったから心配してたんだけど、それなら安心できそうね」

逆に安心させてしまったらしい。

「・・・・・・」

拓也は思わず声を失う。

「それで拓也君。才人はいつ戻ってくるか分からないのかい?」

「いや・・・・・自分たちがこの世界に来たのも、事故みたいなものなので、狙って帰ってきたって訳じゃないんです」

「そうか・・・・・それは残念だが、才人が無事だというだけでも十分だ。気長に待つとしよう」

そういうと、平賀夫妻は席を立つ。

「それでは、私達はこれで」

「おやすみなさい、みなさん」

平賀夫妻は自宅へ帰っていった。




その後、時間が無かったので簡単な夕食を済ませると、由利子が切り出した。

「拓也、明日買い物行くわよ」

「え?」

「気付いてないかもしれないけど、拓也、背が伸びてるわよ。服が小さくない?」

「あ・・・・そう言われればそうかも・・・・・」

拓也は自分の服を見ながら言った。

「それに、アイナちゃんたちの私服も買わないとね」

「そんな!?そこまでご迷惑をかける訳には」

「気にしなくても良いわよ。こう見えても家、それなりにお金はある方なの。3人ぐらい増えても大丈夫よ」

由利子は笑顔でそう言った。

「・・・・・ありがとうございます」

「それに、私、娘とショッピングってしてみたかったのよね。楽しみだわ」

こうして、翌日は買い物をすることに決まった。








次回予告


拓也にとっては懐かしき街並み。

アイナ達にとっては、初めてのことばかり。

地球での生活が始まる。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第五十話 平和な買い物

今、異世界の物語が進化する。






あとがき

第四十九話完成。

本当なら買い物編まで行くつもりでしたけど、思った以上に帰還編が長くなったので分ける事にしました。

それにしても、アイナ達の地球での服装如何しよう?

自分は全く服装とかのセンスも無いし、知識も無いために如何しようか悩んでます。

意見があれば、教えてくれるとありがたいです。

あと、信也にパートナーデジモンつけようか迷ってます。

つくとしたら多分ブイモン。

それについても意見ください。

では、次も頑張ります。




[4371] 第五十話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/10/17 16:40
我が家に帰還した拓也。

懐かしき朝を迎える。


第五十話 平和な買い物


拓也は朝の光で目を覚ました。

「ふあ~~~あ・・・・・・・ん?」

拓也は、いつもと違う天井に声を漏らしたが、

「そういえば、戻ってきたんだっけ・・・・・・」

すぐに理由を思い出す。

拓也はベッドから降りると、顔を洗うために洗面所へ向かう。

その途中、由利子から声がかかる。

「あら、おはよう拓也。早いのね」

「おはよう、母さん。うん、まあ向こうじゃ、早く起きる事が多かったから・・・・・」

「そう。ちゃんと自分で起きれるようになってるのは喜ばしい事ね」

「ははは・・・・・・」

母親の言葉に苦笑しながらも、拓也は洗面所へ向かった。

拓也は、洗面所で蛇口を捻って水を出し、それで顔を洗う。

そして、ふと思った。

「こうしてみると、こんな当たり前のことでも、とても便利なんだよな・・・・・・・ハルケギニアじゃ井戸まで行って水を汲んでたからな」

拓也はしみじみと地球の文明の便利さを再認識した。

拓也は顔を洗った後、テーブルについて待っていると、宏明が起きてきて、次いで信也。

そして、アイナ、シャルロット、イルククゥが起きてきた。

すると、おずおずとアイナが口を開いた。

「あの・・・・すみません・・・・・顔を洗う所は何処でしょうか?」

「あ、ごめんなさいね。拓也、アイナちゃんたちを洗面所に案内してあげて」

「わかった」

拓也は立ち上がり、アイナ達を洗面所へ案内する。

洗面所へ案内されるアイナ達だが、そこで少し不思議に思う。

なぜならば、水桶も何も無いのだ。

ただ、金属で出来た筒のようなものと、その根元に付くドアノブのような物。

「えっと・・・・・タクヤ?」

アイナは拓也に尋ねる。

「あ、そっか。これは、ここをこうやって捻ると・・・・・・」

拓也はそう言って水道の蛇口を捻る。

すると筒の先から水が出てくる。

「えっ!?なんで!?」

「水が出てきたのね!」

アイナとイルククゥは驚愕の声を漏らす。

シャルロットもその顔は驚愕に満ちていた。

「まあ、こういうわけだ。何で水が出てくるかは・・・・・・父さんにでも聞いてくれ」

拓也はそう言うと、アイナ達を促した。




朝食は、アイナ達を考慮してなのか、トーストやスクランブルエッグなどの洋食風であった。

そんな何気ない朝食風景の中でも、アイナ達ハルケギニアの人間にとっては、驚きの連続だった。

アイナは料理に興味があったため、由利子が朝食を用意する様子を眺めていたのだが、まず驚いていた物はガスコンロ。

魔法も使っていないのにスイッチ1つで火が点くのは、かなり衝撃的だったらしい。

そして、食品を保存しておく冷蔵庫。

ハルケギニアでも、食品を冷やして長持ちさせるという事は知られているが、問題は時間である。

いくら名のある魔法使いでも、昼夜休まず冷やし続ける事など不可能だ。

冷蔵庫は機械なので疲れ知らず。

冷やし続ける一点においては、限界のあるメイジなど目ではない。

更には、昨夜はあまり気にしていなかった照明器具。

ハルケギニアにも照明器具はあったが、それは全てマジックアイテムであり高価なもの。

ましてや、神原家のようなごく普通の家庭(ハルケギニアで言えば平民の家庭)に出回るような物ではない。

そんな照明器具を魔法を全く使わずに、そして簡単に手に入れられる事実に、アイナ達は大層驚いていた。

極めつけは、テレビ。

アイナ達からしてみれば、変な箱の画面に、色々な映像が映し出されるのだ。

これにはシャルロットも驚愕の表情を浮かべていた。

そんなアイナ達に拓也が言った。

「こんなことで一々驚いてると、街に行ったら身が持たないぞ」

その言葉に、

「・・・・・・い、色々と凄いね・・・・・・拓也の世界って・・・・・」

アイナはそう呟く事しか出来なかった。








由利子は、拓也、アイナ、シャルロット、イルククゥを連れて出かけることにした。

宏明と信也は留守番である。

服装は、魔法学院の制服である。

マントさえつけなければ、それなりに普通の格好だったので、そのまま着ている。

由利子が車を出してくると、やはりアイナ達は驚愕する。

「な、何これ?」

「ああ、これが自動車。話したことがあるかもしれないけど、馬の要らない馬車みたいな物だよ」

拓也が説明する。

「こ、これにも魔法が使われてないんだよね?」

アイナは確認するように呟く。

「当然」

拓也は即答した。

「ふわぁ・・・・・・」

アイナは声を漏らした。




車に乗って、街中を進む。

車の窓から見える景色に、ハルケギニアの3人は目を奪われていた。

「すごい・・・・・・なんて大きな街・・・・・・・」

「それだけじゃない。建物も大きい。ハルケギニアの城なんか目じゃない」

「きゅいきゅい。あの建物、窓ガラスが綺麗なのね」

そして、車が向かった先はデパート。

「ここは?」

アイナが尋ねる。

「ここはデパート。なんて言うのかな・・・・・・・基本的な生活に必要な物の殆どは揃ってる店・・・・・かな?」

拓也は、そう説明する。

一行が車から降りると、

「さぁ~て、先ずは洋服売場からね。う~ん、楽しみだわ~」

既にノリノリの由利子であった。



由利子は、洋服売場についた途端、アイナ、シャルロット、イルククゥを引っ張って行った。

拓也は、洋服売場の外で待ちぼうけを喰らっている。

時折、由利子と3人の声が聞こえてくる。

「アイナちゃんにはこっちの方が似合うかしら・・・・・・いえ、それともこっちかしら?」

「あ、あの・・・・おば様?」

「う~ん!迷うわ!」

だったり、

「シャルロットちゃん、ちょっと失礼」

「あ・・・・・・」

「う~ん。やっぱり眼鏡をしてない方が可愛いかしら?」

だったり、

「イルククゥちゃんは活発そうだから・・・・・・」

「きゅ!?きゅいい~~~!?」

「やっぱりラフな格好の方が似合うわね!」

みたいな声が聞こえてくる。

そんなこんなで、約2時間後。

拓也は洋服売場の近くにあるベンチに腰掛けて、待ち続けていた。

一応これでも、拓也は個人的に色んな所を回ってきて、戻ってきたところなのだが、未だに買い物は終わっていなかった。

「長い・・・・・」

思わず拓也は愚痴る。

すると、

「お待たせ~~」

由利子の声が聞こえてきた。

拓也はそちらを向いて、愚痴の一言でも言おうと思っていた。

だが、

「ッ!?」

拓也は言葉が出てこなかった。

「さあ、お披露目よ~!」

由利子は笑顔でそう言った。

アイナは白いワンピースで、前髪をヘアピンで留め、表情が良く分かるようになっている。

シャルロットは、黒のゴスロリドレス。

更には、眼鏡を外してコンタクトレンズにしている。

というか、由利子はいつの間にコンタクトレンズを買ってきたのやら。

最後のイルククゥは、白のTシャツにGパンというラフな格好。

だが、イルククゥの活発さと相まって、とてもよく似合っている。

アイナとシャルロットは、恥ずかしいのか頬を赤くして、少しモジモジしている。

イルククゥはいつも通りであったが。

拓也は、3人の姿を見て、顔を赤くした。

由利子は、ニコニコしながら、拓也に問いかけた。

「さあ拓也。3人の感想は?」

「え?ああ・・・・・・さ、3人とも、よく似合ってるよ」

拓也はちょっと動揺しながらそう答えた。

「えへへ・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「きゅいきゅい」

3人は頬を染めながら微笑んだ。

因みに、由利子の両手には買い物袋が提げられていた。

今来ている服のほかにも何着か買ったらしい。

因みの因みに拓也の服だが、約10分で買い終わった。

アイナ達とはえらい違いである。

拓也の服装は、今までと似たような服装で、今の拓也のサイズに合わせたものである。




服の買い物が終わると、一行は休憩所で一旦休憩する事にした。

すると由利子が、

「飲み物買ってくるけど、何が良いかしら?」

そう聞いてくる。

「俺、コーラ」

拓也がすぐに答えた。

「アイナちゃんたちは?」

「えっと・・・・・その・・・・・・・」

アイナ達は如何答えれば良いのか分からない。

「母さん。アイナ達に聞いても分からないって。とりあえず、フルーツジュース辺りを買ってくれば大丈夫だと思うけど・・・・・」

拓也は、ハルケギニアの飲み物の事を考えてそう言った。

ハルケギニアには、炭酸飲料など無いのである。

「分かったわ。ちょっと待ってて」

そう言うと、由利子は近くの自販機に向かって行った。

拓也は、その間にアイナ達に話しかけた。

「で、地球の感想は?」

「うん・・・・・なんて言うか・・・・・・信じられない事ばっかりだよ」

「同感。それに、人々に活気がある」

「きゅいきゅい。ちょっと空気が汚くて自然も少ないけど、とっても便利な世界なのね」

それぞれの感想を述べる。

「まあな。犯罪とか、環境破壊とか。色々問題はあるけど、ハルケギニアに比べたら日本は平和なところだろうな。科学レベルも最先端らしいし」

「カガクって凄いね。魔法と違って誰にでも使えるんでしょ?」

「ああ。使い方さえ覚えれば、誰にでも使えるよ。」

アイナの言葉に拓也が答える。

「ハッキリ言って、ハルケギニアの魔法なんか目じゃない。人の英知の凄さを感じる」

「まあ、ハルケギニアじゃ、魔法が中途半端に便利だったからな。その所為で、この世界より技術の進歩が遅れてるんだろうな」

シャルロットの言葉にも答えた。

その時、由利子が缶ジュースを持って戻ってきた。

「お待たせ。はいどうぞ」

由利子はそれぞれに缶ジュースを手渡す。

「ありがとうございます。おば様」

「ありがとうございます・・・・・」

「きゅい。ありがとうなのね」

それぞれが礼を言う。

3人にはオレンジジュースが手渡された。

だが、手に持っても、どうやって飲めばいいのか分からない。

そんな3人に、拓也は実践して見せた。

「こいつはな、ここをこうやって・・・・・・」

拓也は缶の口の開け方を教える。

プシュ、という音と共に口が開いた。

拓也は、それを口に運ぶ。

「・・・・・・よく出来てる」

シャルロットが呟いた。

「それだけじゃない。この金属の入れ物も、形が全く一緒。こんなこと、ハルケギニアでは絶対に不可能」

シャルロットは冷静に分析する。

「そういえばそうだね」

アイナも缶をじっくりと観察する。

「おいおい。観察するのもいいけど、早く飲まないと温くなるぞ」

拓也の忠告にはっとなる。

アイナ達も拓也のやり方を見習って蓋を開けた。

それを飲むと、

「おいしい・・・・・」

「美味」

「きゅいきゅい。おいしいのね」

それぞれの感想を漏らす。

すると、シャルロットが拓也のコーラをじっと見た。

「ん?どうしたシャル?」

拓也は尋ねる。

「タクヤが飲んでるの・・・・・・装飾が私たちのと違う」

そう言った。

「ああ。味・・・・・っていうか、飲み物の種類が違うからな」

拓也の言葉に、シャルロットは更に興味深そうに見る。

「もしかして・・・・・飲んでみたいのか?」

拓也がそう尋ねると、シャルロットはコクリと頷く。

「まあいいけど。でも、お前たちの口には合わないかもしれないぞ?」

「それでも飲んでみたい」

シャルロットがそう言ったので、拓也はコーラの缶を差し出す。

シャルロットは受け取ると、躊躇なく口に運んだ。

「あらあら」

由利子が面白そうに笑う

「ん?どうかした、母さん?」

拓也は不思議に思い尋ねる。

「気付かないの?今の間接キスよ」

その言葉に、アイナとイルククゥがピクリと反応した。

だが、

「・・・・・・そういえばそうだな」

拓也は若干頬を染めたが、それほどのリアクションは起こさなかった。

拓也からしてみれば、既にキスはしているので、間接キスぐらいでは動揺は少なかったようだ。

それで、コーラを飲んだシャルロットの感想だが、

「不思議・・・・・口の中でシュワシュワチクチクしてる」

不思議そうにコーラを眺めた。

「でも、美味しいかも・・・・・」

シャルロットは中々気に入ったようだ。

「わ、私にも飲ませて!」

アイナがシャルロットからコーラを受け取る。

アイナもコーラを飲んだ。

「本当・・・・・どうなってるのかな?」

アイナも不思議そうにコーラを眺める。

「シルフィも!」

イルククゥもコーラを飲んだ。

だが、

「きゅい!?し、舌が痛いのね~~~!」

イルククゥには、炭酸の刺激は強すぎたらしい。

舌を出してヒーヒー言っている。

「イルククゥには合わなかったか」

拓也はそう呟いて、残ったコーラを飲んだ。




買い物が終わった一行は神原家に戻る。

アイナ、シャルロット、イルククゥは、初めての経験に疲れたのかすっかり参っている状態だった。

「ははは、3人ともすっかり疲れたようだな」

拓也は笑ってそう言う。

「うん・・・・・あんなに人が多いところも初めてだったし・・・・・・もう、驚く事ばっかり」

アイナがそう呟く。

すると、突然シャルロットが切り出した。

「タクヤ」

「ん?」

「この世界の、歴史と法律を教えて欲しい」

「え?」

「今日一日見ただけでも分かった。この世界は、ハルケギニアよりずっと人々に活気がある」

「そうか。いいけど、家に法律の本なんかあったかなぁ?」

拓也は立ち上がって探しにいく。

親に聞いたところ、法律の本は偶々あることが分かり、歴史は小学校の教科書でも載っている。

それを持って戻ってきたところ、何故か神原一家全員含めた勉強会にいつの間にかなっており、その勉強会はかなり長く続いた。



その勉強会が一区切りついたとき、大雑把に日本の法律を聞かされたシャルロットが呟いた。

「この法律を知ってると、今のハルケギニアの階級制度がどれだけ馬鹿げたものかが良く分かる。タクヤやサイトが、貴族に対してよく思わない理由も頷ける」

「まあな。ぶっちゃけていえば、ハルケギニアの法律は、王族や貴族のための法律だからな。こっちからしてみればふざけてるとしか言いようがないよ」

「ホントだね・・・・・」

アイナも同意した。

「それにしても、シャルロットちゃんって、本当に勉強熱心なのね。感心するわ」

由利子が言った。

「ああ。シャルは王族だからね」

そう拓也が何気なく呟いた言葉で、拓也を除いた神原一家が固まった。

「「「ええぇ~~~~!?」」」

そして叫んだ。

「あれ?言ってなかったっけ?」

拓也は不思議そうに呟いた。

「初耳だよ!」

信也が叫ぶ。

「じゃあシャルロットちゃんってお姫様?」

由利子がワクワクしたような表情で尋ねる。

「ま、まあ、そうなるだろうけど、王族っていうのか色々陰謀とかなんやらがあるように、シャルも過酷な人生送ってるからその事にはあまり触れないで」

拓也は小声で由利子に言った。

「そ、そう・・・・・分かったわ・・・・」

由利子は、ちょっとバツが悪そうな顔をして下がった。

由利子は話を変えるように切り出す。

「そういえば拓也、源君って知ってる?」

「え?輝二の事?知ってるけど」

「今まで忘れてたんだけど、源君が拓也が行方不明になった時に言ってきたのよ。『拓也は必ず戻ってくる』って」

「あいつ・・・・・・」

拓也は、思わず笑みが零れる。

「よければ、拓也が戻ってきたことを教えたほうがいいと思うんだけど」

「うん!お願い!」

拓也は元気良く返事を返した。

拓也は懐かしき仲間たちの事を思い出し、笑顔になるのだった。








だが、

『次のニュースです。今朝、東京都自由ヶ丘で、28歳の女性が急性貧血で倒れているのが発見されました。ここ数日で、急性貧血が多発しております。皆様も健康には十分注意してください』

この世界でも、邪悪な意思が胎動していた。

その事に、まだ拓也は気付いていない。






次回予告


デジタルワールドでの仲間たちとの再会。

輝一の生存を知り、喜ぶ拓也。

だが、この世界を覆いつくさんとする暗黒の意思が少しずつ迫っていた。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第五十一話 仲間との再会!・・・・・そして、暗黒の胎動

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

祝!50話達成!!

いや~、ここまで続くとは思いませんでした。

読んでいただいている皆様には感謝!

と言っても今回はなんだかな~。

悪くないとは思うんだけど、良くもない。

なんて言うか・・・・・・平凡?

とりあえず服装の案を出していただいた皆様には感謝です。

次回は漸く仲間達との再会です。

では、次も頑張ります。




[4371] 第五十一話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2009/12/06 14:33
平和な日々を過ごす拓也。

だが、この世界にも不穏な闇が迫っていた。


第五十一話 仲間との再会!・・・・・そして、暗黒の胎動


拓也がこの世界に戻ってきて約一週間。

「「「「「「「いただきます」」」」」」」

7人での朝の朝食風景。

アイナ達ハルケギニアの3人も、かなり馴染んできていた。

「ちょっと気になったんですけど・・・・・・」

アイナがふと切り出した。

「この、「いただきます」って、一体どんな理由があるんですか?食事の前の習慣という事はわかりました。私たちも食事の前にお祈りをしますから」

アイナが気になった事を口にする。

「え~と・・・・・」

拓也は答えようとしたが、

「なんだっけ?」

結局分からずに、親に救いを求める。

「ふむ、アイナちゃんたちの世界のお祈りは、何に祈るんだい?」

宏明がアイナに聞き返す。

「私達は、始祖ブリミルと女王陛下に感謝をしています」

その言葉に、宏明は頷く。

「うん。感謝という意味ではこっちも同じだよ。けど、私たちが感謝するのは、この料理を作ってくれた人、作物を育ててくれた人、そして何より、私たちが食べる命そのものに感謝しているんだ」

「そうなんですか」

「深い・・・・・」

アイナとシャルロットが感心したように頷いた。




やがて、食事が終わって暫くし、時計が10時近くになった時、

「そろそろ時間だな・・・・・行くか」

そう言って、拓也は立ち上がる。

今日は、デジタルワールドの仲間が拓也に会いに来るのだ。

その為、自由ヶ丘の駅に集まって、そこから皆で遊ぶ計画になっていた。

尚、それにはアイナ達も同行する。

拓也は、アイナ達を連れて自由ヶ丘の駅に向かった。




駅前で待つこと十数分。

「拓也!」

拓也を呼ぶ、少年の声に気付いた。

拓也がそちらを向くと、こちらに向かって駆けて来る、少年少女たちの姿。

「輝二!泉!友樹!純平!」

拓也もそれぞれの名を呼びながら駆け寄った。

「久しぶりだな。皆!」

拓也がそう言う。

「ああ・・・・」
輝二は口元に笑みを浮かべ、

「拓也・・・・・」

「拓也お兄ちゃん・・・・」

泉と友樹は涙を滲ませる。

「へへっ・・・・・」

純平が鼻の下を指で擦り、そして・・・・・

「久しぶりだな」

「え・・・・・・」

拓也は思わず声を漏らした。

「如何した?拓也」

そこには、輝二の双子の兄で、ルーチェモンとの戦いで死んだと思われていた輝一の姿があった。

「こ、輝一・・・・・・生きてたのか?」

拓也は呆然と呟く。

拓也のその呟きに輝一は苦笑し、

「その言葉、そっくりそのまま拓也に返すよ」

そう言った。

拓也も瞳に涙を滲ませる。

「良かった。無事で何よりだ!」

拓也は笑顔になって言った。

「所で気になってたんだけど・・・・後ろの3人は?」

泉が尋ねてきた。

「ああ。俺が異世界に行ってたってことは聞いてると思うけど、そこでの仲間だよ。まず、俺を召喚したアイナ・ファイル・ド・シンフォニア」

「よ、よろしく・・・・」

アイナが頭を下げる。

「次に、シャルロット・エレーヌ・オルレアン」

シャルロットも頭を下げた。

「最後に、シャルの使い魔のイルククゥ」

「きゅいきゅい。よろしくなのね!」

イルククゥは元気良くそう言った。

「ねえねえ、拓也お兄ちゃん、召喚とか使い魔って何?」

友樹が気になった事を聞いてきた。

拓也は、ハルケギニアに行ってからのことを掻い摘んで説明した。




「ふーん。大変だったんだな」

純平がそう言う。

輝二達は、ハルケギニアにもデジモンが、特にルーチェモンが現れたと聞いたときにはとても驚いていた。

そのルーチェモンを倒したという事実にも驚愕していたが。

「まあ、そんなことは気にすんな。それよりも、今日はパーッと遊ぼうぜ!」

拓也が皆を急かすようにそう言った。




拓也達は遊園地で遊び回った。

拓也も久々の遊園地で楽しくなり、輝二も柄にもなく楽しんでいるようだった。

アイナ達も驚きの連続で、ジェットコースターに乗った時は、悲鳴を上げ続けていた。

楽しい時間はあっという間に過ぎる。

すでに陽が傾き始めていた。

拓也達が帰りの街中を歩いていると、なにやら周りが騒がしくなる。

拓也達の進行方向から、人々が次々と駆けて来る。

まるで逃げるように。

「何の騒ぎだ?」

純平が声を漏らす。

すると、

「ギャオオオオオオッ!!」

何かの泣き声が聞こえる。

「何だ?」

輝二が呟く。

見ると、巨大な象のような生物が道の真ん中で暴れていた。

それは、完全体の古代獣型デジモンのマンモンであった。

そのマンモンが歩いてきた道路は砕けており、自動車やバス、看板などが散乱していた。

「間違いない!奴はデジモンだ!」

拓也が叫ぶ。

「何でデジモンがこんな所にいるんだ!?」

輝一の疑問。

「まさか・・・・・これもルーチェモンが言っていた、存在するだけで次元、空間、時空を歪ませる『奴』の影響なのか!?」

拓也はそう推測する。

「と、とりあえず皆は逃げるんだ!」

拓也は皆を逃がそうとした。

だが、

「・・・・・シンヤ」

シャルロットがマンモンの方を向いて呟いた。

「なんだって!?」

拓也が驚いてそちらを向くと、

「な・・・・・・」

思わず声を漏らす拓也。

マンモンに向かって駆けて来る信也。

信也と共にいる信也と同年代の少年と少女。

そして、それぞれの傍らにいる、青い小竜、黄色いアルマジロ、赤い鷲のようなデジモンであった。




駆けて来た信也は、街の惨状を見て声を漏らした。

「く・・・・・酷い・・・・・」

「信也!僕達に任せて!」

そう言うのは、信也のパートナーである小竜型のデジモンであるブイモン。

「で、でも、相手は完全体なんだよ!」

そう叫ぶのは、信也の同級生の土屋 大地。

アルマジロ型のデジモン、アルマジモンのパートナーである。

「それでも、この場を何とかするには戦うしかありません!」

そう言ったのは、赤い鷲型のデジモンのホークモン。

「それは・・・・・そうだけど・・・・・・」

そう呟くのはホークモンのパートナーで、大地と同じく信也の同級生の天野 愛美。

「大丈夫だぎゃ、何とかなるだぎゃ!」

アルマジモンが言った。

「・・・・・わかった・・・・・皆!頼むよ」

信也が叫ぶと、それぞれがデジヴァイスを取り出す。

「「「デジメンタルアップ!!」」」

3人がそう叫ぶと、デジモン達が輝く。

「ブイモン!アーマー進化!」

「アルマジモン!アーマー進化!」

「ホークモン!アーマー進化!」

それぞれがデジメンタルと呼ばれるものと融合し、進化する。

「燃え上がる勇気!フレイドラモン!!」

「鋼の英知!ディグモン!!」

「羽ばたく愛情!ホルスモン!!」

ブイモンは、赤い鎧を纏った竜人型のデジモンに。

アルマジモンは全身に黄色い装甲を纏い、鼻先に1本、両手に2本のドリルをつけた昆虫型デジモンに。

ホークモンは、頭部に鋼の翼のついた兜を被った獣型のデジモンに進化した。

それを遠巻きに見ていた拓也達は驚いた。

「あのデジモン達、信也達のパートナーデジモンなのか・・・・・・」

そのデジモン達は、マンモンに攻撃を仕掛ける。

「ナックルファイア!!」

フレイドラモンが拳から無数の火の玉を飛ばし、

「ゴールドラッシュ!!」

ディグモンは、5つのドリルを放ち、

「レッドサン!!」

ホルスモンが、両目から赤いビームを放つ。

それぞれの必殺技がマンモンに直撃する。

「ギャオオオオオッ!!」

マンモンは叫び声を上げ、信也達に向き直った。

「・・・・・・このままじゃ拙いな」

輝二が呟いた。

「ああ。あの子達のデジモンの強さは成熟期レベルといったところだ。このままじゃ完全体に勝つのは難しいだろう」

輝一もそう推測する。

「ったく、信也の奴、俺たちに黙って何やってるんだ?」

拓也は半分呆れながら呟くと、信也に向かって駆け出した。



信也たちは、劣勢に焦りを感じ始めていた。

アーマー体と完全体の差は大きい。

振り回されたマンモンの長い鼻で、3体が薙ぎ払われる。

「フレイドラモン!」

「ディグモン!」

「ホルスモン!」

それぞれの名を叫ぶ信也たち。

その時、

「信也!」

自分を呼ぶ声に信也は振り返り、拓也を先頭にして駆けて来る一行に気付く。

「に、兄ちゃん!?こんな所で何やってるの!?」

その問いに、

「それはこっちの台詞だ。お前こそこんな所で何やってるんだ」

「そ、それは・・・・その・・・・・」

その時、マンモンが鼻から、必殺技のツンドラブレスを放った。

凄まじい冷気に下半身を氷付けにされる3体。

「ああっ!」

思わず叫ぶ大地。

踏み潰さんと3体に迫るマンモン。

「皆!逃げてぇ!」

悲鳴のような叫び声を上げる愛美。

「やれやれ。信也、後で話を聞かせてもらうからな」

そう言って前に出る拓也。

「に、兄ちゃん!?危ないよ!早く逃げて!」

そう叫ぶ信也。

「バーカ」

そう言って、信也にデコピンする拓也。

「あたっ!」

額を押さえる信也。

「弟が戦ってるのに、兄貴が逃げるわけには行かないだろ?」

「で、でも・・・・」

「心配すんな。兄ちゃんに任しとけ!」

拓也は笑みを浮かべてそう言った。

拓也はマンモンに向き直る。

「じゃあ、行くぜ!!」

拓也はデジヴァイスを構える。

「スピリット!エボリューション!!」

拓也はヒューマンスピリットで進化する。

「アグニモン!!」

アグニモンに進化した拓也は一気に駆ける。

そのまま、マンモンの側頭部に飛び蹴りをかました。

横転するマンモン。

「に、兄ちゃん!?」

信也たちは、進化した拓也に驚いている。

拓也は着地すると、

「ファイアダーツ!!」

フレイドラモンたちに向かって、炎を手裏剣のように飛ばす。

その炎は、氷付けにされていた下半身を融かした。

アグニモンは、すぐにマンモンに向き直る。

マンモンは、牙をまるでミサイルのように飛ばしてきた。

マンモンのもう1つの必殺技、タスクストライクスである。

「そんな物に当たるか!」

だが、アグニモンは軽々と避けてみせる。

そして、両拳を合わせた。

手甲から炎が発生し、それを拳に纏う。

「バーニング!サラマンダー!!」

その炎をマンモンに向け放った。

炎に包まれるマンモン。

やがて力尽き、デジコードが浮かび上がる。

その前に歩いていくアグニモン。

「穢れた悪の魂を」

アグニモンの手には、いつの間にかデジヴァイスが握られている。

「このデジヴァイスが浄化する!デジコード!スキャン!!」

アグニモンはデジヴァイスでマンモンのデジコードをスキャンする。

マンモンのデジコードはアグニモンのデジヴァイスに吸い込まれていき、それと共にマンモンの身体が消滅する。

やがて、一部のデータが集まり、デジタマとなって空へ昇って行った。

それを見届けると、拓也は進化を解く。

こちらに駆け寄ってくる信也たち。

その時、遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえる。

「皆、話は後だ。一旦逃げるぞ」

その言葉で、全員はその場を逃げ出した。

しかし、この出来事は単なる序章でしかなかった。






次回予告


霧に覆われる街。

次々と襲い来るデジモン。

連行される人々。

暗黒デジモンの進軍が、今始まる!

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第五十二話 進軍!ヴァンデモン軍団!!

今、異世界の物語が進化する。





オリキャラ説明



土屋 大地&天野 愛美

とりあえず、信也にパートナーデジモンを持たせるにあたって、既にデジタルワールドに行ったという設定が欲しくて作ったキャラ。

信也のクラスメート。

特に何も考えずに作ったので、地球編でのチョイ役程度になると思う。

半ばかませ犬っぽい?







あとがき


第五十一話完成・・・・・・・・

気付けば一周年だけど・・・・・・・・・・

ごめんなさい!!!!(orz)

折角のフロンティアキャラの登場なのに!!!

本来なら見せ場のはずなのに!!!

メチャクチャ短い!!!

なんも閃かなかったために、量が・・・・文章の量が圧倒的にすくない!

リリカルフロンティアの方がノリノリだったためか、こっちがスランプ気味。

とりあえずスランプ脱出まで頑張ります。





[4371] 第五十二話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2010/08/08 22:23

何故か東京に現れたマンモンを倒した拓也。

信也たちから理由を聞くが・・・・・・



第五十二話 進軍!ヴァンデモン軍団!!



あの後、全員で神原家に集まった。

一応、デジモン達のことは隠して。

「で?まず聞くけど、何で信也達がデジモン連れてるんだ?デジタルワールドに行ったのか?」

拓也が尋ねる。

「う、うん・・・・・・デジタルワールドの事を知ってるってことは、兄ちゃんたちも?」

信也が頷き、聞き返す。

「ああ。俺達は1年前にな」

「でも、パートナーはいないんですか?」

拓也の言葉に、愛美が尋ねる。

「ああ。俺達は自分たちがデジモンになって戦っていたからな」

輝二が言った。

「それで、何でデジモンを連れて人間界にいるの?」

友樹が尋ねる。

聞かれた3人は顔を見合わせると、

「僕達は・・・・・・救世主を探してるんだ」

大地が呟く。

「救世主?」

泉が首を傾げる。

「うん。大昔にデジタルワールドを救った九闘士のスピリットを受け継いだ人たちを・・・・・・」

「九闘士?十闘士じゃねえの?」

信也の言葉に、純平が疑問の声を漏らした。

「「「え?」」」

純平の言葉で、3人は同時に声を漏らす。

「君たちの言う救世主がデジタルワールドを救った際に相対した相手は、ルーチェモンなのか?」

輝一が尋ねる。

「う、うん。そうだけど・・・・・・」

「なら、それがどの位前に起こった出来事かわかるか?」

「1500年以上昔って聞いてます。あ、でも、人間界とは時間の流れが違うから、こっちでは1年ぐらいしか経ってないはずです・・・・・・って、1年前!?」

愛美が説明した時、自分の言った言葉で気付く。

「失われた『炎』のスピリットが、言い伝えの中で消えていったのなら、辻褄は合うな」

輝二が確かめるように呟く。

「じゃ、じゃあ、もしかして兄ちゃんたちが・・・・・・」

信也が驚愕に満ちた顔で呟き、

「俺達が、かつてデジタルワールドを救った『十闘士』のスピリットを受け継いだ人間たちだ」

拓也が続けた。

「まあ、俺はデジタルワールドから直接異世界に召喚されちまったから、『炎』のスピリットは持ってるけど、輝二達は持ってないぞ。現状、デジモンに進化して戦えるのは俺だけだ」

拓也がそう言った。

「そうなんだ・・・・・そうだ!なら伝えておかないと!」

「「「「「「?」」」」」」

信也の言葉に拓也達が首を傾げる。

「今、この世界にデジモンが来てるんだ」

「さっきのデジモンか?」

「それもそうだけど、敵の親玉はヴァンデモン。完全体の強敵だよ」

「完全体か・・・・・・だったら俺1人でもどうにかなるか?」

「「「え?」」」

拓也の言葉に3人は驚きの声を漏らす。

「に、兄ちゃん・・・・・・完全体がどうにかなるってホント?」

信也が、信じられないといった雰囲気で尋ねてくる。

「ああ・・・・・敵が何人いるか知らないけど、最低でも親玉が完全体なんだろ?究極体以上の相手じゃなければ、1対1ならそうそう負けねえよ」

「「「きゅ、究極体!?」」」

究極体の名が出たことに驚く信也たち。

「何だ?お前ら究極体のこと知らなかったのか?」

「う・・・うん・・・・・完全体が一番上だと思ってたから・・・・・・」

「そうか。まあ、究極体は、数が少ないし、めったに会うこともないしな。参考として言っておくと、究極体は、完全体の10倍位の力を持ってるからな」

「「「じゅ、10倍・・・・・・・」」」

その言葉に戦慄する信也たち。

「まあ、その話は置いとけ。で、そのヴァンデモンは、何で人間界に?」

「あ、うん。ヴァンデモンの目的は、デジタルワールドと人間界を含めた全世界を支配する事なんだ」

「それで、その目的に一番障害となりそうな、伝説の九闘・・・じゃなっかた十闘士のスピリットを受け継ぐ資格を持ったあなた達を探して、始末するつもりなんです」

信也と大地の言葉に、

「全く・・・・・典型的な悪党だな・・・・」

純平が呆れ顔で呟く。

「そんなこと言ってる場合じゃないわよ。今の話が本当なら、ヴァンデモンの狙いは私達ってことなんですからね。スピリットを持つ拓也なら未だしも、今私たちが襲われたらどうしようもないわよ」

泉がそう言った。

「そうだな・・・・・それを聞くと皆を1人にするのは危険だし・・・・・・はぁ・・・・・・流石に全員を家に泊めるのは無理があるだろうな・・・・・・・・」

拓也はため息をつく。

外はもう日が傾いて、暗くなり始めている。

だがその時、

――コンコン

部屋のドアがノックされる。

「は~い!」

拓也が返事をする。

扉が開いて、由利子が入ってきた。

「ちょっといいかしら。今、ニュースを見てたんだけど、駅の近くで爆弾テロがあったらしいのよ」

「爆弾・・・・・・」

「・・・・・・テロ?」

輝二と友樹が呟く。

(その爆弾テロってマンモンが暴れた奴だよな?)

(たぶん。あそこも駅の近くだったし)

小声で話し合う。

「それで、その影響で今日は電車が止まっちゃうみたいなのよ」

「「「「「「「え?」」」」」」」

由利子の言葉に、神原家以外のメンバーが声を漏らした。

「道路の方も混雑してるみたいだし、迎えに来てもらうのも大変でしょうから、今日は皆さん泊まっていって」

「え?あの・・・・・こちらとしては嬉しいんですけど、よろしいんですか?」

泉が尋ねる。

「遠慮しなくていいわ。部屋も、お隣の平賀さんにも事情を話して、お部屋を貸してもらえる事になったから」

由利子は笑顔でそう言う。

「それでは・・・・・お言葉に甘えさせていただきます」

輝一がそう言った。

今日だけだが、皆が傍にいることに安心する拓也だった。

しかし、暗くなる外では、不穏な霧が充満し始めていた。






――深夜   とあるビルの屋上

そこに、吸血鬼の姿をしたようなデジモン、ヴァンデモンがいた。

「もうすぐだ・・・・・・霧の結界を張り終える・・・・・その時この地は地獄に変わる・・・・・・」

ヴァンデモンの言葉と共に、霧が深く立ち込める。

「あの3人の子供が何をしようとこの私の敵ではない・・・・・・そして、スピリットを受け継ぐ人間共を始末すれば、我が野望を止める物は何も無い・・・・・・・フッフッフ・・・・・ハッハッハ!」

夜の闇に、ヴァンデモンの笑い声が響いた。





――翌朝

外は深い霧が立ち込めている。

拓也が起きて、テレビをつけた所、

「あれ?」

テレビは、荒れた画面しか映さない。

拓也はチャンネルを変えてみるが、何処も一緒だった。

「故障か?」

拓也は呟く。

他の皆も起き出して来る。

因みに宏明は既に仕事に出かけている。

その時、

――ピンポーン

と、家のチャイムが鳴る。

「は~い!」

由利子が玄関に向かう。

拓也は諦めてテレビを消す。

すると、

「きゃあっ!」

由利子の悲鳴が聞こえる。

「母さん!?」

拓也が玄関を見ると、数匹のバケモンがいた。

「バケモン!?」

拓也は咄嗟に壁に立て掛けてあったマントに包んだ覇竜刀と棚に置いてあった地下水を手に取る。

「拓也!信也!きゃあ!」

由利子がバケモンたちに連れ去られる。

「母さん!」

「お母さん!このっ、ブイモン!」

信也はパートナーであるブイモンを呼ぶが、

「待て信也!」

拓也は信也を止める。

「兄ちゃん!?何で!?」

「外を見ろ!」

信也は、拓也の言葉で外を見る。

そこには、大勢の人々がバケモンたちに連行されていた。

「ここで暴れたら大勢の人たちを巻き込んでしまう。ここは耐えろ」

「くっ・・・・・」

信也は悔しそうに歯をかみ締める。

家の中にバケモンが入ってくる。

「アイナ、シャル、杖は持っているな」

拓也は2人に確認を取る。

「うん」

「もちろん」

2人は頷く。

「よし、それなら、ここは大人しく掴まるぞ」

拓也達は特に暴れずに、バケモンたちに連行された。

隣の平賀家にいる輝二達も同じ考えだったのか、大人しく掴まっていた。





町の一角に連行される人々。

全員が不安そうである。

その中で、拓也達は宏明と合流した。

宏明は、駅で掴まったらしい。

そして、次々と人々が連行される中、上空にヴァンデモンが現れる。

その事に驚愕の声を上げる人々。

「人間たちよ!私の名はヴァンデモン!いずれこの世界の王となるものだ!」

ヴァンデモンはそう宣言する。

「こうして貴様達を集めたのは、不穏分子を処分するためだ。その不穏分子を処分することができれば、この場の他の者は見逃そう」

ヴァンデモンは続ける。

「私が探しているのは、スピリットを受け継ぐ人間の子供だ!聞こえているだろうスピリットを受け継いだ人間の子供よ!5人いることは分かっている!この場で貴様たちが名乗り出なければ、皆殺しも止む終えんぞ!」

ヴァンデモンのその言葉に、拓也達は顔を見合わせる。

「奴の狙いは、やっぱり俺達か」

拓也が呟く。

「でも、5人って言ってたぜ」

純平が疑問の声を漏らした。

「昨日言ってたじゃない。炎のスピリットは長い年月の中で、言い伝えの中から消えてしまった可能性があるって」

泉が言う。

「なら、そこが狙い目だね」

友樹が言った。

「俺達が囮になる。拓也はその隙に」

「分かった」

輝一の言葉に、拓也は頷いた。

「どうした!?出てこなければ皆殺しだぞ!」

ヴァンデモンが叫ぶ。

その時、

「待て!!」

輝二が叫んだ。

その声に、ニヤリと口を歪ませるヴァンデモン。

輝二、輝一、純平、友樹、泉が集まっている所にヴァンデモンは降りてくる。

「貴様たちがスピリットを受け継いだ人間どもか?」

ヴァンデモンが確認するように呟く。

「ああ。俺達がこの世界での時間で約1年前にデジタルワールドでスピリットを受け継ぎ、復活したルーチェモンを倒した人間だ」

輝二がそう言う。

「クックック・・・・・・なるほど、ルーチェモンの事を知っているのならば間違いあるまい」

ヴァンデモンがそう言い、マントを一度閉じる。

その行動で、輝二達は身構えた。

「貴様たちが消えれば、私の野望は完全な物となる」

ヴァンデモンは、そう宣言し、

「ナイト・・・・・」

必殺技を放とうとしたその瞬間、

「今だ!!」

拓也が飛び出した。

「スピリット!エボリューション!!」

拓也がデジコードに包まれ進化する。

「アグニモン!!」

アグニモンとなった拓也は覇竜刀を抜き放つ。

「なにっ!?」

ヴァンデモンは驚愕する。

「うぉおおおおおおおおっ!!」

アグニモンは、一気に覇竜刀を突き出す。

そして、次の瞬間には、ヴァンデモンの背中のマントから、覇竜刀が突き出ていた。









次回予告


ヴァンデモンとの戦いを始めるアグニモン。

しかし、ヴァンデモンの卑劣な手により、アグニモンは窮地に立たされる。

だが、拓也は1人ではない。

仲間たちがいる。

仲間達の想いがかつての戦友に届く時、

今ここに、デジタルワールドの伝説が蘇る。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第五十三話 仲間との絆! 十闘士集結!!

今、異世界の物語が進化する。






あとがき

こちらでは久々の更新です。

とりあえず五十二話完成です。

試しに書いてみたけど、まだまだスランプ続行中です。

とりあえずまだ続けるという意味合いも込めてアップしときます。

内容には余り突っ込まないで。

とりあえず、こっちのデジタルワールドは、時間の流れが違います。

矛盾点が気になるかもしれませんが、ご勘弁を。

では、次も頑張ります。





[4371] 第五十三話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2010/08/22 23:45

一気に決着をつけるためにヴァンデモンを攻撃したアグニモン。

その結果は・・・・・・



第五十三話 仲間との絆! 十闘士集結!!



「うぉおおおおおおおおっ!!」

アグニモンは、一気に覇竜刀を突き出す。

そして、次の瞬間には、ヴァンデモンの背中のマントから、覇竜刀が突き出ていた。

だが、

「チィッ!」

アグニモンは舌打ちする。

ヴァンデモンは覇竜刀を間一髪で避けていた。

「ぬうっ!」

ヴァンデモンは瞬時に飛び退く。

「た、拓也・・・・・・?」

由利子が、アグニモンを見て驚いた顔で呟く。

ヴァンデモンは、間合いを開けたところで着地すると、

「貴様、何者だ?」

大して取り乱してもいない声で、そう問いかけた。

「・・・・・・伝説の『十闘士』のスピリットの1つ。『炎』のスピリットを受け継いだ、アグニモン!」

アグニモンは覇竜刀を構えなおし、そう答える。

「『炎』のスピリットだと?出鱈目を言うな!伝説のスピリットは9つのはずだ!」

ヴァンデモンは信じられないのか、やや声を荒げてそう言う。

「別にテメエに信じてもらおうなんて思ってねえよ」

アグニモンは如何でもいい様に答えた。

「ただ・・・・・少なくとも、俺はお前の敵だ」

アグニモンはそう言い放つ。

「ふん! ならば、私に楯突いた事を後悔するがいい!!」

ヴァンデモンはそう叫ぶと、指をパチンと鳴らす。

すると、周りからバケモンが殺到した。

「バケェェェェッ!!」

バケモンたちはアグニモンに向かって、

「ヘルズハンド!!」

布の下から爪の付いた青く不気味な腕を伸ばし、攻撃する。

「ハッ!」

アグニモンは、それを跳躍して避け、

「バーニング!サラマンダー!!」

バーニングサラマンダーでバケモン達を薙ぎ払う。

「バケェッ!?」

炎に焼かれたバケモンたちは、データに分解され消え去る。

アグニモンは着地した瞬間、再び地面を蹴ってヴァンデモンに斬りかかる。

「はぁっ!!」

「くっ!」

覇竜刀の一閃をヴァンデモンは何とかかわすが、マントの一部が切り裂かれる。

「おのれ!」

ヴァンデモンは手にエネルギーを集中させ、

「ブラッディストリーム!!」

そのエネルギーが紅の鞭のようになり、ヴァンデモンはそれを振るう。

だが、あらゆるものを薙ぎ払うそれも、

「はあっ!」

覇竜刀の一振りで切り裂かれる。

「ぐっ!」

ヴァンデモンに焦りの表情が見え始める。

「その程度か? ヴァンデモン」

アグニモンは、そう言い放つ。

その言葉を挑発と受け取ったヴァンデモンは、

「いい気になるな!」

そう吐き捨て、再び指を鳴らす。

すると、

――ガシィ

地面から岩の手が飛び出し、アグニモンの両足を掴む。

「何!?」

アグニモンが下を向くと、

「くっ、ゴーレモンか!」

岩のデジモン、ゴーレモンが居た。

「兄ちゃん!」

信也がいきなりの奇襲に慌てる。

だが、

「大丈夫」

アイナが落ち着いた表情で言った。

「え?」

信也が怪訝な声を漏らすと、

「この程度、彼にとっては危機の内にも入らない」

シャルロットが、そう言った。



「ハッ! 油断したな! これで貴様も終わりだ!」

ヴァンデモンは勝利を確信したのかそう叫ぶ。

アグニモンは、ゴーレモンによって地中に引きずり込まれかけており、既に膝辺りまで地中に埋まっている。

だが、アグニモンは不敵な笑みを零すと、

「へっ! 十闘士を舐めるなよ! アグニモン!」

アグニモンはデジコードに包まれる。

「スライドエボリューション!」

そのデジコードの中で、アグニモンはビースト形態へと進化する。

そして、デジコードが消えると、

「ヴリトラモン!!」

赤き魔竜、ヴリトラモンとなる。

「何っ!?」

ヴァンデモンは驚愕した声を漏らす。

「うぉおおおおおおおっ!!」

ヴリトラモンは、翼を大きく広げ、力強く羽ばたかせる。

一度羽ばたくと、地中に沈んでいた身体が停止する。

二度羽ばたくと、停止していた身体が浮かび上がり始める。

三度羽ばたくと、地中に埋まっていた部分が完全に浮上する。

そして、四度羽ばたくと、逆に地中からゴーレモンを空中に引きずり出した。

「す、凄い・・・・あれは?」

その様子を見ていた信也たちは、岩の身体で出来た巨大なゴーレモンを持ち上げるヴリトラモンのパワーに驚愕する。

「あれは、『炎』の闘士のビースト形態、ヴリトラモン。 スピリットには、ヒューマンタイプとビーストタイプの二種類があって、それぞれのスピリットで別の進化が出来る」

輝二がそう説明した。

すると、ヴリトラモンの両腕に付いていたルードリー・タルパナが反転。

2つの銃口をゴーレモンに向ける。

そして、

「コロナブラスター!!」

宙吊りにしたゴーレモンに向かって、炎の弾丸を連射する。

ゴーレモンは、成す術なくその炎の弾丸に身体を撃ち抜かれ、消滅した。

ヴリトラモンは、ゆっくりと地面に着地する。

「バ、バカな・・・・・」

ヴァンデモンは、信じられないといった表情をする。

「この程度で世界の王になるなんざ、笑わせてくれるぜ」

アグニモンのその言葉に、ヴァンデモンは顔を怒りに染める。

「ふざけるな! 私は、私は全ての世界を統べる王になるのだ! 貴様如きに!!」

ヴァンデモンが怒りに任せてそう叫び、手を上げて合図を出す。

すると、ビルの陰から真っ黒な恐竜型デジモンのダークティラノモン。

地面から這い出る、巨大な2本の角と緑色の皮膚の獣型デジモンのタスクモン。

空中からカマキリのようなデジモンのスナイモン。

そして、何処からともなく大量のバケモンが姿を現した。

「総攻撃か……… いいぜ! 相手になってやる!!」

ヴリトラモンは構える。

「グォオオオオオッ!!」

タスクモンが、力任せに突進してくる。

「うぉおおおおおおおっ!!」

ヴリトラモンは、タスクモンの角を掴んで受け止める。

タスクモンのパワーに僅かに押されるも、ヴリトラモンは足を踏ん張り、完全に受け止める。

「おりゃあっ!!」

ヴリトラモンは、そのままタスクモンを持ち上げ、投げ飛ばす。

間髪いれず、スナイモンが空中から両手の鎌で斬りかかって来る。

――ガキィン

だが、ヴリトラモンはその鎌を両腕のルードリー・タルパナで受け止めた。

「おおおおっ!!」

ヴリトラモンはそのまま頭突きを放ち、スナイモンを吹き飛ばす。

「ガァアアアアアアッ!!」

更にダークティラノモンが襲い掛かってくるが、

「はぁあああっ!!」

ヴリトラモンは、体当たりで吹き飛ばした。

しかし、その隙にバケモンたちが街の人々に襲い掛かる。

悲鳴を上げる人々。

「信也!!」

ヴリトラモンは、信也達に呼びかけた。

その呼びかけの意味を理解した信也たちは、自分のデジヴァイスを取り出すと、

「「「デジメンタルアップ!!」」」

デジモン達を進化させるキーワードを叫んだ。

「ブイモン! アーマー進化!」

「ホークモン! アーマー進化!」

「アルマジモン! アーマー進化!」

それぞれのデジモン達が光に包まれる。

「轟く友情! ライドラモン!!」

「はじける純真! シュリモン!!」

「鋼の英知! ディグモン!!」

ブイモンは、四足歩行の青い身体に黒いアーマーを纏った獣型に。

ホークモンは、緑の衣を着た両手両足が手裏剣になり、背中にも巨大な八方手裏剣を背負った忍者のような人型の姿に。

アルマジモンは、前と同じく黄色い装甲に、顔と両手にドリルをつけた昆虫型デジモンに進化した。

「あれ? 昨日と違う?」

泉がライドラモンとシュリモンを見てそう漏らす。

「ブイモン達は、2つのデジメンタルで、2種類の進化が出来るんだ」

信也がそう説明した。

「ブルーサンダー!!」

ライドラモンが背中から蒼い雷弾を放ち、

「紅葉おろし!!」

シュリモンが伸縮自在の両手を伸ばし、手の先に付いた手裏剣で攻撃する。

「ゴールドラッシュ!!」

ディグモンは、5つのドリルを飛ばして攻撃した。

次々に吹き飛ばされていくバケモンたち。

だが、バケモンたちの数は多く、3体のアーマー体では防ぎきれない。

その時、何体かのバケモンがライドラモン達を突破し、輝二達に襲いかかる。

「き、来たっ!」

「くっ!」

信也たちは怯え、輝二達は身構える。

その時、

――ゴウッ

炎と氷嵐が巻き起こり、バケモン達を吹き飛ばした。

「え?」

「何が起こったんだ?」

突然の事に呆然とする一同の前に、杖を構えたアイナとシャルロットがいた。

「こっちは任せて!」

「あなた達は、敵の掃討を!」

アイナ達はライドラモン達に呼びかける。

「ああ! わかった!」

アイナ達の呼びかけに応え、ライドラモン達はバケモンを倒していく。

その様子に安心したのか、ヴリトラモンは自分の敵に向き直る。

3体同時に襲いかかってくるものの、ヴリトラモンは軽くあしらう。

ヴァンデモンは、その様子に悔しさで顔を歪めていたものの、

「フッ…」

と、突然口元に笑みを浮かべた。

その時、

「はっ!?」

バケモン達と戦っていたアイナが何かに気付く。

「シャルロット! 危ない!」

咄嗟にアイナはシャルロットを突き飛ばす。

その瞬間、鎖付きの分銅が飛んできて、アイナの首に巻きつく。

「あぐっ!?」

アイナは何とか首と鎖の間に指を入れることができ、呼吸は確保するものの、アイナはそのまま空中へ吊り上げられる。

「アイナ!」

「アイナ!」

「アイナちゃん!」

シャルロットを先頭に輝二達も叫ぶ。

その鎖の先には、巨大な鎌を持った死神のようなデジモン、ファントモンがいた。

「ケケケ……お前には人質になって貰おう」

ファントモンはそう笑みを浮かべて呟く。

その時、

「させるか!」

ファントモンを囲うように、ライドラモン、シュリモン、ディグモンが飛び掛った。

だが、ファントモンは大鎌を振りかぶると、

「ソウルチョッパー!!」

一閃の下に3体のアーマー体を弾き飛ばした。

攻撃を受けた3体は、成長期に退化し、落下する。

「ブイモン!」

「ホークモン!」

「アルマジモン!」

そのブイモン達を信也たちが受け止めた。

ファントモンは、アイナを吊り下げたままヴリトラモンの方へと移動する。

「くだらん抵抗はやめろ! この小娘がどうなってもいいのか!?」

ファントモンがそう脅し、

「ッ!? アイナ!!」

ヴリトラモンは叫ぶ。

「さあ、抵抗をやめろ!」

ファントモンはそう言って、アイナに大鎌の切っ先を突きつける。

「ッ………」

ヴリトラモンは躊躇する。

その時、

「ぁ……駄目………タクヤ……私のことはいいから………ッぐ……」

アイナが苦しみに表情を歪めながらも、そう呟く。

だが、そう言われて攻撃できるほど、拓也は冷酷ではない。

アイナに近付く鎌の切っ先を見て、

「……くそっ!」

ヴリトラモンは、アグニモンに戻り、構えを解いて無防備な状態になる。

「ヴァンデモン様! 今です!」

ファントモンがヴァンデモンに呼びかける。

「良くやった! これで貴様など相手ではない!」

ヴァンデモンは、一度マントを閉じ、

「ナイトレイド!!」

再び広げると、蝙蝠の群れが出現し、アグニモンに襲い掛かる。

「ぐぁあああっ!!」

アグニモンは吹き飛ばされ、ビルに叩き付けられる。

「兄ちゃん!」

信也が叫んだ。

「ブラッディストリーム!!」

ヴァンデモンは、紅のエネルギーの鞭で、アグニモンを追撃する。

「うあっ!」

立ち上がろうとしていたアグニモンは、ヴァンデモンの一撃を受け、弾き飛ばされる。

更にヴァンデモンは、ブラッディストリームをアグニモンの身体に巻きつけ、締め上げる。

「ぐぁああああああああっ!!」

悲鳴を上げるアグニモン。

更にその状態からヴァンデモンはアグニモンを振り回す。

持ち上げられたアグニモンは、勢い良くビルの壁に叩き付けられる。

「がぁっ!」

アグニモンはビルの壁を突き破る。

だが、休むことなくヴァンデモンは再びアグニモンを振り回した。

今度は地面に叩きつける。

「ぐぅっ!」

アグニモンは、苦しそうな声を漏らす。

ヴァンデモンは、視線を輝二達に向け、

「よく見ておくが良い! 私に逆らったものがどうなるかを!!」

そう叫んで、ヴァンデモンはアグニモンを次々と振り回した。

「ぐぁっ!」

「うああっ!」

「ぐああっ!」

アグニモンの悲鳴が響く。

その悲鳴を聞いていることしか出来ない輝二たちは、自分達の無力さに打ちひしがれていた。

「くそっ! 今の俺達には、拓也と一緒に戦う事も出来ないのか!?」

純平が悔しさから、拳を握り締めてそう叫ぶ。

「私達にも、スピリットがあれば………」

泉もそう呟く。

「拓也……」

「拓也……」

「拓也兄ちゃん……」

輝二、輝一、友樹も拓也の名を呟いた。



ヴァンデモンは、アグニモンをジャイアントスイングのように振り回し続ける。

そして、

「フン!」

回転のスピードが乗ったところで、アグニモンを解放した。

猛スピードでビルの壁に激突するアグニモン。

ビルの壁が砕け、アグニモンは瓦礫に埋もれる。

「フハハハハ! 私に逆らった事を悔いるがいい!」

ヴァンデモンは笑う。

その瞬間、

――ドォン

瓦礫の一部が吹き飛び、覇竜刀が一直線に飛んできた。

「ぬぅっ!?」

ヴァンデモンは首を逸らし、間一髪避ける。

その頬には、小さな傷が出来ただけであった。

「フン。 小癪なマネを「ぎゃぁっ!!」ッ!? 何っ!?」

ヴァンデモンは最後の足掻きだろうとタカを括っていたが、ファントモンの叫びが聞こえて振り向く。

ヴァンデモンの視線の先には、覇竜刀によって串刺しにされたファントモンの姿があった。

ファントモンは消滅し、それによってアイナは解放され、落下を始める。

「アイナちゃん!」

由利子が慌てた様子で叫ぶ。

「シルフィード!」

シャルロットはイルククゥに振り向き、呼びかける。

「きゅい! 分かってるのね!」

イルククゥは聞くまでもないといったように返事を返し、光に包まれる。

そして、元の風竜の姿となって飛び立つ。

シルフィードは落下するアイナをその背で受け止め、覇竜刀を口で挟む。

シルフィードは、アイナを皆の前に連れて行く。

「けほっ! けほっ!」

アイナは軽く咳き込む。

「アイナ、大丈夫?」

シャルロットがアイナに尋ねる。

「う、うん……何とか……」

アイナは苦しそうにしながらもそう返す。

すると、由利子、宏明、信也を初めとして、一同が驚いた表情でシルフィードを見ていた。

「え、え~っと……イルククゥちゃん?」

由利子が呆気に取られた顔をして、シルフィードにそう尋ねる。

「そうなのね」

シルフィードが頷く。

「風韻竜シルフィード。 それがイルククゥの正体で私の使い魔」

シャルロットがそう説明する。

「えっと、じゃあ、今の姿がイルククゥさんの本当の姿なの?」

信也の質問に、シャルロットは頷いた。

信也たちは呆然としていたが、

「貴様は……」

ヴァンデモンの声で正気に戻る。

ヴァンデモンは瓦礫の中で何とか身を起こすアグニモンを睨み付けていた。

「貴様は初めから私ではなくファントモンを狙ったな? バカな奴よ。 あんな小娘など見捨てて、私に止めを刺していれば、貴様の勝ちだったものを」

人質は無くなったものの、既にアグニモンはボロボロであり、自分が有利であると核心している。

ヴァンデモンは手にエネルギーを集中させ、

「フン!」

ブラッディストリームでアグニモンに攻撃する。

ヴァンデモンの言葉通り、既に限界が近いアグニモンは成す術無く縛り付けられ、再び地面に叩き付けられる。

「うぐっ!」

苦しそうな声を漏らすアグニモンを見て、

「フン、そんなボロボロで、そして、たった1人でこの私に立ち向かおうなどとは、片腹痛いわ!」

ヴァンデモンの周りに、手下のデジモン達が集まる。

「さあ、たった1人でこれだけの数を相手に出来るかな? クックック……」

ヴァンデモンは、余裕の笑みを浮かべる。

その時、倒れていたアグニモンが縛られたまま身を起こそうとしている。

「……俺は……・」

「む?」

アグニモンの呟きに、ヴァンデモンは怪訝な声を漏らす。

「俺は………1人じゃない」

アグニモンは、ボロボロの身体で立ち上がろうとしている。

「拓也………」

輝二がその姿を見て、拓也の名を呟く。

「この先………どんな事があろうとも…………」

アグニモンは、震える膝で立ち上がろうとするも、崩れ落ちて膝を着いてしまう。

「拓也………」

輝一も拓也の名を呟く。

「俺は……決して1人じゃない………」

アグニモンは、崩れた膝に力を入れ、再び立ち上がる。

「拓也兄ちゃん………」

友樹も、

「俺には………仲間が居る!」

アグニモンは拳を握り締める。

「拓也………」

泉も、

「どんなに遠く離れていようと………」

アグニモンは、真っ直ぐな目でヴァンデモンを睨み付ける。

「拓也………」

そして純平も拓也の名を呟いた。

「心で繋がった………最高の仲間たちが!!」

アグニモンはそう言い放つ。

「「「「「拓也(兄ちゃん)……!」」」」」

拓也の名を口にする、輝二、輝一、友樹、泉、純平。

彼らの心にあるのは唯1つ。

『再び、大切な仲間と共に戦う力を』

「「「「「スピリット!!!」」」」」

5人の声が空に響き渡った。



















そして………



















その想いは………




















次元の壁を越え………




















かつての戦友スピリット へと………



















伝わった………
























ヴァンデモンは不機嫌だった。

闇を統べる自分に対して、こんなにもボロボロでありながら、全く絶望の色を見せない瞳。

それどころか、その瞳の輝きは、より一層増している。

ヴァンデモンは、それが気に入らなかった。

「よかろう! 成らば、貴様を葬り去った後、貴様の言う大切な仲間も後を追わせてやる!!」

ヴァンデモンは、アグニモンを締め付ける力を限界まで高めた。

「ぐぁああああああああああああっ!!」

アグニモンの悲鳴が響き渡る。

その時、

「「「「「スピリット!!!」」」」」

5人の叫びが響き渡った。

その瞬間、近くのビルにある巨大テレビ画面にデジコードが浮かび上がり、そこから9つの光が飛び出す。

その色は、白、黒、水色、ピンク、黄、茶、青、緑、肌色。

その光は、ブラッディストリームを断ち切り、アグニモンを解放する。

「何っ!?」

ヴァンデモンは声を漏らすが、そのヴァンデモンにその光が襲い掛かる。

「なっ!? ぐわぁ!!」

ヴァンデモンはその光の体当たりを受け、弾き飛ばされた。

解放されたアグニモンは、その場で膝を付き、デジコードに包まれ拓也に戻る。

「拓也―――っ!!」

その拓也に、輝二、輝一、泉、友樹、純平が駆け寄る。

「み、皆………」

拓也はそう呟くと、デジヴァイスが光っている事に気付く。

「何だ?」

拓也がデジヴァイスを取り出すと、デジヴァイスから赤い光が飛び出し、拓也達の上で漂っていた9つの光と合流。

そして、拓也達の前に、一直線に落ちてきた。

落ちて来たときに発生した煙が消えると、そこには、

赤い光――アグニモン

白の光――ヴォルフモン

黒の光――レーベモン

水色の光――チャックモン

ピンクの光――フェアリモン

黄の光――ブリッツモン

茶の光――グロットモン

青の光――ラーナモン

緑の光――メルキューレモン

肌色の光――アルボルモン

かつての戦友、伝説の十闘士がそこにいた。

ヴォルフモンが口を開く。

『我が友の叫びを聞き、その想いを叶える為に、我らここに、再び姿、現さん』

十闘士は、輝二達を見つめる。

『我が友よ。 再び戦いに身を投じる覚悟はあるか?』

ヴォルフモンの問い。

その問いに、

「「「「「ある!!」」」」」

輝二、輝一、友樹、泉、純平が迷い無く頷いた。

すると、アグニモンが拓也の方を見る。

『拓也……君は如何する? ここで力を手放すのも1つの選択だ。 例え君が、この場で戦う事をやめても責める者は誰も居ないだろう』

拓也はそれを聞くと、一度俯く。

「確かに……それも良いかもしれない………」

拓也は小さく呟く。

しかし、顔を上げると、

「でも、俺は戦う! 大切な家族を! 仲間を守る為に!」

拓也はそう言い放つ。

すると、アグニモンは笑みを浮かべた後、表情を引き締めなおす。

『ならば、最後に問おう! 戦うか!? 否か!?』

アグニモンの問いに、

「「「「「「戦う!!」」」」」」

全員が同時に答えた。

その瞬間、十闘士がスピリットの形を取る。

拓也はデジヴァイスを、他のメンバーは携帯電話を翳す。

そして、『炎』『土』『木』のスピリットが拓也のデジヴァイスに。

『光』『水』『鋼』のスピリットが輝二の携帯に。

『闇』のスピリットは輝一の。

『氷』のスピリットは友樹の。

『風』のスピリットは泉の。

『雷』のスピリットは純平の携帯に吸い込まれた。

そして、それぞれの携帯がデジヴァイスへと姿を変える。

すると、

「貴様らぁ!! 何処までも私の邪魔をしおって!!」

先程、スピリットの光に弾き飛ばされたヴァンデモンが、手下のデジモンを一堂に引き連れ、怒りの形相でそこに居た。

「もう許さん!! 皆殺しだ!!」

ヴァンデモンは手下に命じる。

その時、拓也が叫んだ。

「行くぞ!! 皆!!」

「「「「「おう!!」」」」」

全員が応え、デジヴァイスを構える。

6人のデジヴァイスの画面に光が走り、スピリットの形を描く。

前に突き出した左手に、光の帯――デジコード――の輪が発生する。

そのデジコードの輪に、右手に持ったデジヴァイスの先をなぞる様に滑らせる。

「「「「「「スピリット!エボリューション!!」」」」」」

全員がデジコードに包まれる。

デジコードの中では、6人がスピリットを纏っていく。

顔に。

腕に。

体に。

足に。

6人の身体にスピリットが合わさる。

そして、

かつてデジタルワールドを救った、

6人の闘士が、

ここに現れた。

「アグニモン!!」

拓也が進化した『炎』の闘士。

「ヴォルフモン!!」

輝二が進化した『光』の闘士。

「レーベモン!!」

輝一が進化した『闇』の闘士。

「チャックモン!!」

友樹が進化した『氷』の闘士。

「フェアリモン!!」

泉が進化した『風』の闘士。

「ブリッツモン!!」

純平が進化した『雷』の闘士。

6体の闘士達は、ヴァンデモン軍と相対する。

そして、

「行くぞぉぉぉぉぉっ!!」

一斉に駆け出した。







次回予告


遂に揃った伝説の十闘士。

だが、非情なるヴァンデモンは手下のデジコードを吸収し、究極体となって十闘士に襲い掛かる。

拓也達は、自分達の街を守れるのか!?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第五十四話 決戦ヴェノムヴァンデモン! 闇をぶっ飛ばせ!!

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

こっちでは久々です。

約8ヶ月ぶりのゼロ炎の更新です。

まあ、スランプ明けにしては、良い出来だと思います。

では、更新が止まらないように頑張ります。





[4371] 第五十四話
Name: 友◆ed8417f2 ID:11075f73
Date: 2010/09/26 20:09

遂に揃った十闘士のスピリット。

ヴァンデモンとの決戦が始まる。



第五十四話 決戦ヴェノムヴァンデモン! 闇をぶっ飛ばせ!!



「行くぞぉぉぉぉぉっ!!」

アグニモンの掛け声と共に飛び出す六闘士。

その六闘士を迎え撃たんとするヴァンデモン軍団。

だが、

「プッレツァ・ペタロ!!」

フェアリモンが、指先から竜巻を発生させ、バケモン達を巻き込んで吹き飛ばす。

「ガチガチコッチン!!」

チャックモンが口から冷気の息を吐き、バケモン達を凍らせ、

「ミョルニルサンダー!!」

ブリッツモンが電撃でそれを砕く。

「街の人たちの守りは、私達に任せて!」

「3人は、ヴァンデモンを!」

フェアリモンとブリッツモンが、アグニモン、ヴォルフモン、レーベモンに呼びかける。

「分かった! 任せたぞ!」

アグニモンは疑いもせずにそう言うと、ヴォルフモン、レーベモンと共に、ヴァンデモンに向かっていく。

すると、スナイモン、タスクモン、ダークティラノモンが3人の前に立ちはだかる。

が、

「サラマンダーブレイク!!」

「ツヴァイ・ズィーガー!!」

「エーヴィッヒ・シュラーフ!!」

アグニモンが、炎を纏った体当たりでダークティラノモンを。

ヴォルフモンが、2本の光の剣でタスクモンを。

レーベモンが、闇を纏った槍でスナイモンを攻撃する。

攻撃を受けた3体は、ほぼ同時に地面に伏し、デジコードを浮かび上がらせた。

アグニモンは、ヴァンデモンを見据え、

「さあ、今度こそ覚悟しろ、ヴァンデモン!!」

そう言い放つ。

「うぬっ……! ナイトレイド!!」

ヴァンデモンは一瞬たじろぐが、すぐに蝙蝠の群れを放ってくる。

しかし、

「エントリヒ・メテオール!!」

レーベモンが、胴の獅子の口から放った闇のエネルギー波が蝙蝠の群れを消し去っていく。

「おのれっ! ブラッディストリーム!!」

ヴァンデモンは両手に紅の鞭を生み出し、それを振るう。

「リヒト・クーゲル!!」

ヴォルフモンが左腕に装備されている銃口からビームを放ち、ヴァンデモンの手を弾いた。

「なっ!?」

ヴァンデモンの体勢が崩れた所に、

「バーニング! サラマンダー!!」

アグニモンが放った火球が叩き込まれる。

「ぐあっ!」

しかし、ヴァンデモンもバーニングサラマンダーの直撃を受けたにも拘らず、まだ幾分か余裕が見える。

ヴァンデモンの様子に嫌な予感を感じたアグニモンは、

「ヴォルフモン! レーベモン! 念のために、ヴァンデモンを街の人達から引き離すんだ!」

そう叫んだ。

「わかった! 任せろ!」

ヴォルフモンが応え、デジコードに包まれる。

「ヴォルフモン! スライドエボリューション!」

ヴォルフモンは、ビーストタイプに進化する。

「ガルムモン!!」

ヴォルフモンは、背中にブレードを装備した白い狼のような姿へと変化する。

すると、足に装備されていたローラーが、地面を叩くように展開され、猛スピードで回転する。

ガルムモンは超スピードでヴァンデモンに突撃した。

ガルムモンは頭からヴァンデモンの腹に突っ込み、そのままヴァンデモンを街の人達から引き離す。

「ぐぉおおおおおおっ!!」

そして、街の人達から1kmほど離れた所でガルムモンは急ブレーキをかけ、ヴァンデモンをビルの壁に叩きつけた。

少しして、アグニモンたちもガルムモンに追いつく。

ヴァンデモンは、瓦礫の中から出てくるが、その顔は怒りに染め上げられていた。

「貴様ら………下手に出ておればいい気になりおって………!」

そのヴァンデモンの言葉に、

「……どこが下手だ?」

思わずアグニモンが突っ込む。

だが、ヴァンデモンはその言葉を無視し、

「貴様らには私の本当の恐ろしさを見せてやる!!」

そう叫ぶと、ヴァンデモンは空に蝙蝠を放った。

「なんだ!?」

レーベモンは怪訝な声を漏らす。

その蝙蝠は空高く上がると、街の人達がいる方へ飛んでいく。

「ん? 街の人たちを襲うつもりか? 無駄だ。 あっちにはブリッツモンたちがいる」

「ふん今更そんな小細工をするつもりは無い」

「何?」

ヴァンデモンの言葉に声を漏らすガルムモン。

その頃、ブリッツモンたちは、空から急降下してくる蝙蝠達を目撃した。

「む? 来るか!?」

ブリッツモンたちは身構える。

だが、蝙蝠たちはブリッツモン達ではなく、ヴァンデモンの手下のデジモン達に襲い掛かる。

「なんだと!?」

ブリッツモンは、驚愕の声を漏らす。

「如何いう事!?」

「一体何が!?」

フェアリモンとチャックモンもそう叫ぶが、そんな間にも、蝙蝠たちは次々とデジモン達に襲い掛かり、デジコードを食い尽くしていく。

そして、デジモンのデジコードを全て食い尽くすと再び空へ舞い上がっていった。



その蝙蝠たちは、再びヴァンデモンの元へ舞い戻ってくる。

「フハハハハハ! 見るが良い! 我が真の姿を!」

舞い戻ってきた蝙蝠からデジコードを吸収するヴァンデモン。

「デジコード……まさか! お前、自分の部下を!?」

アグニモンが驚愕して叫ぶ。

「その通りだ。 奴らは手下などではない。 単なる私の餌だ」

その言葉に怒りを感じたアグニモンは、

「キッサマァァァァ!!」

デジコードに包まれたヴァンデモンに殴りかかった。

「ま、待て! アグニモン!」

ガルムモンは叫ぶ。

その瞬間、ヴァンデモンを包んだデジコードは、凄まじい勢いで膨れ上がった。

「なっ……うわっ!?」

アグニモンはそれに弾き飛ばされる。

「アグニモン!」

レーベモンが跳び上がり、空中でアグニモンを受け止める。

「大丈夫か!?」

「あ、ああ。 すまない」

アグニモンは、気を取り直し、高さが200m程に達したデジコードを見上げる。

そして、その中から現れたのは、

「ガァアアアアアアアアアッ!!!」

上半身が甲殻に覆われ、下半身が黒い毛皮に覆われ、下腹部には4つの不気味な眼がある。

究極体の魔獣型デジモン、ヴェノムヴァンデモンがその姿を現した。




その巨大な姿は、ブリッツモン達の所からでも、余裕で確認できていた。

「な、何!? あれは!?」

信也が思わず叫ぶ。

「多分、ヴァンデモンが究極体に進化したのね」

フェアリモンがそう答える。

「究極体!? あれが!?」

信也は、その巨大さと圧迫感に気圧されていた。

だが、

「………フェアリモン、チャックモン。 行くぞ!!」

ブリッツモンの言葉に、

「ええ!」

「ヴァンデモンとの決戦だ!」

フェアリモンとチャックモンは恐れを見せずにそう答えた。

ヴェノムヴァンデモンに向かっていく3人。

それを後ろから見送る信也たち。

「……凄いや……あの人たち……」

信也が呟く。

「そうだね……足が竦んで動けない私達と違って、全然恐れてない……」

愛美も、

「強いからだね……あの人達が……」

大地もそう呟く。

しかし、

「ちょっと違うよ」

アイナが口を開く。

3人が同時にアイナのほうへ顔を向ける。

「タクヤ達は、力が強いから戦えるんじゃない……」

「「「え?」」」

アイナの呟きに声を漏らす3人。

アイナは自分の胸に手を当て、

「心が強いから、戦えるんだよ」

そう言った。





アグニモン、ガルムモン、レーベモンと合流するブリッツモン、フェアリモン、チャックモン。

6体は、ヴェノムヴァンデモンを見上げる。

ヴェノムヴァンデモンは、アグニモン達を見下ろし、

「ヴェノムインフューズ!!」

腹部の眼から光線を放った。

アグニモン達は散開し、それを避ける。

しかし、目標を外れた光線がビルに当たった瞬間、ビルが消滅する。

「くっ、さすが究極体。 とんでもない破壊力だ」

アグニモンがポツリと漏らす。

「皆! 長期戦は街が大変な事になる! 進化して一気に決めるぞ!!」

「「「「「おう!!」」」」」

アグニモンの言葉に皆が答え、アグニモンとガルムモンは進化を解く。

そして、拓也と輝二は再びデジヴァイスを構えた。

「「ダブルスピリット! エボリューション!!」

2人がデジコードに包まれる。

「「ぐっ…ああああああああっ!!」」

2人は叫び声を上げながら2つのスピリットを纏っていく。

そして、

「アルダモン!!」

拓也はアルダモンへと、

「ベオウルフモン!!」

輝二は、ヴォルフモンとガルムモンの長所を併せ持ったベオウルフモンへと進化した。

更に、

「「「「スライドエボリューション!」」」」

4体がビーストタイプへと進化する。

「カイザーレオモン!!」

レーベモンが黒い獅子の姿へ、

「ボルグモン!!」

ブリッツモンが頭部に巨大な砲身を装備したサイボーグ型デジモンへ、

「シューツモン!!」

フェアリモンが鳥人の姿をしたデジモンへ、

「ブリザーモン!!」

チャックモンが、白い毛皮に覆われた、獣型の姿へと進化した。

そして、それぞれが攻撃を仕掛ける。

アルダモンとシューツモンが空高く飛び上がり、

「ブラフマストラ!!」

アルダモンが腕のルードリー・タルパナから火球を連続で放ち、

「ウインドオブペイン!!」

シューツモンが風の刃を放つ。

地上では、

「リヒトアングリフ!!」

ベオウルフモンの左腕が展開され、そこからレーザーとミサイルを放ち、

「シュバルツ・ドンナー!!」

カイザーレオモンが口から闇のエネルギー弾を発射する。

「アルティメット・サンダー!!」

ボルグモンの両腕が回転し、そこから強力な電撃が生み出され、放たれる。

「アヴァランチスロー!!」

ブリザーモンが両手に持っていたバトルアックスを投げつけた。

六闘士の攻撃は、ヴェノムヴァンデモンのいたる所に着弾し、爆発を起こす。

「やったか!?」

ボルグモンはそう言うが、

「ガァアアアアアアアアッ!!!」

ヴェノムヴァンデモンは爆煙を振り払う。

だが、流石に無傷とはいかなかった様で、

「よくもやりやがったな! ヴェノムインフューズ!!」

怒り狂った声で叫びながら、再び眼からヴェノムインフューズを放ってくる。

全員は、それを飛び退く及び、後退する事で避ける。

「くっ! あれだけの巨体だ。 バラバラに攻撃しても効果は薄い!」

ベオウルフモンは、そう判断する。

「だったら! 奴の頭に集中攻撃だ!!」

アルダモンは、生物の共通の弱点ともいえる頭部への集中攻撃を提案する。

他のメンバーにも異存は無いようで、

「分かったわ」

「よし!」

「やるぞ!」

それぞれが返事をする。

「ボルグモン! スライドエボリューション!!」

ボルグモンがデジコードに包まれ、

「ブリッツモン!!」

ブリッツモンに戻る。

「ブリザーモン!合体技だ!」

「応!」

ブリッツモンの掛け声に、ブリザーモンは応える。

ブリッツモンが、ブリザーモンの真上に来ると、ブリザーモンは冷気と共に両手に持ったバトルアックスを、ブリッツモンに投げ渡す。

ブリッツモンがバトルアックスを受け取ると、そのバトルアックスに電撃を付与し、

「「プラズマダブル! トマホーク!!」」

冷気と共にヴェノムヴァンデモンの頭部へと投げつける。

「リヒトアングリフ!!」

「シュバルツドンナー!!」

ベオウルフモンとカイザーレオモンは、先程と同じ技で頭部を狙い撃ち、

「ギルガメッシュ! スライサー!!」

シューツモンは、両手足からエネルギー弾を生み出し、それを放つ。

「ブラフマシル!!」

そして、アルダモンは巨大な火球を投げつけた。

それぞれの必殺技は同時に頭部へと着弾。

大爆発を起こし、ヴェノムヴァンデモンの頭部を粉々に吹き飛ばした。

「やったぞ!」

ブリッツモンが、勝利を確信した声を上げる。

頭部を吹き飛ばされたヴェノムヴァンデモンは、動きを止め、崩れ落ちるように膝を付く。

「やったわ!」

シューツモンも喜びの声を上げる。

アルダモンも、決着は付いたと思い、背を向けた。

だがその時、

「むっ!」

地上でヴェノムヴァンデモンの様子を見ていたカイザーレオモンが、僅かな変化に気付いた。

「気をつけろ! 奴はまだ生きているぞ!!」

そう叫んだのとほぼ同時に、突如ヴェノムヴァンデモンの身体が動き出す。

「何っ!?」

アルダモンたちは驚愕する。

その瞬間、頭部の無いヴェノムヴァンデモンは、拳を繰り出してきた。

突然の事に対処できなかったアルダモンは、その不意打ちをモロに喰らった。

「ぐああっ!!」

約200mの巨体から放たれる拳は、威力も半端ではない。

アルダモンは吹き飛ばされ、信也たちがいる近くのビルに激突した。

「アルダモン!!」

ベオウルフモンが叫ぶ。

アルダモンは地面に落下し、拓也に戻る。

その拓也には、アイナ達が駆け寄った。

その時、

「ベオウルフモン!」

カイザーレオモンが叫ぶ。

ベオウルフモンが其方を向くと、

「同時に行くぞ!!」

カイザーレオモンの言いたいことを理解すると、ベオウルフモンはその場から飛び上がると、カイザーレオモンに跨る。

ベオウルフモンは手に持った大剣を掲げ、カイザーレオモンは、姿勢を低く構え、いつでも飛びかかれる体勢に入る。

「ツヴァイ・ハンダー!!」

ベオウルフモンの大剣に光の狼が宿り、

「シュバルツ・ケーニッヒ!!」

カイザーレオモンは身体に闇のエネルギーを纏う。

そして、カイザーレオモンは駆け出す。

光の狼と闇の獅子が同時に飛び掛り、

「「カオスビースト!!」」

相反するエネルギーの反発作用により、莫大なエネルギーが発生する。

その攻撃は、背中からヴェノムヴァンデモンの腰部分に当たり、

「「貫けぇ!!」」

2体の気合の入った声と共に、ヴァンデモンの腹部を貫いた。

「今度こそやったか!?」

ブリッツモンが3度目の正直と言わんばかりに叫ぶ。

だが、ヴェノムヴァンデモンの身体は倒れず、たった今貫いた腹部から、

「ギァアアッ!!」

黒い塊に顔のついた何ともいえない物体が姿を見せる。

すると、それは口を開き、黒いエネルギーの波動を放った。

「「うわぁあああっ!!」」

「「ぐぁあああっ!」」

「きゃぁあああああっ!!」

その黒い波動に5体は吹き飛ばされる。

5体は街の人達から200mほど離れた地点まで吹き飛ばされた。

そんな5体に拓也達が駆け寄る。

「皆! 大丈夫か!?」

拓也が声をかけると、

「ぐっ…ああ……何とかな……」

ベオウルフモンはそう呟いて立ち上がる。

他のみんなも、痛みを堪えつつ起き上がった。

「何てしぶとい奴だ……」

ブリッツモンが思わず漏らす。

「ああ。 だが、おそらくあの黒い化け物がヴァンデモンの本体だ」

カイザーレオモンが、確信を持ってそう言う。

「なら、あの化け物に強力な攻撃を叩き込めば……」

「アイツを倒せるんだね!」

みんなも希望を見出す。

拓也はそれを聞くと、

「だったら、その役目は俺に任せてくれ。 皆は、奴の動きを止めてくれ!!」

拓也がそう叫ぶ。

全員は拓也を見る。

「……どうやら、何か手があるらしいな」

ベオウルフモンが呟く。

「それなら、あいつ等の動きは俺達が止める。 お前はしっかり決めろ!」

カイザーレオモンの言葉に、

「ああ! 任せとけ!!」

拓也は自信を持って頷いた。

「なら、行くぞ!!」

ベオウルフモンの合図で、全員が動き出す。

「「うおおおおおおっ!!」」

ブリザーモンとカイザーレオモンがヴェノムヴァンデモンの足に組み付き、

「「はぁあああああああっ!!」」

空を飛べるブリッツモンとシューツモンが、全力で腕を押さえる。

「うぉおおおおおおおおおっ!!」

最後に、ベオウルフモンが渾身の力でヴェノムヴァンデモンの胸部に斬りかかり、怯ませる。

すると、

「おのれぇ~。 小癪なぁ!!」

ヴァンデモンの本体が声を上げる。

「今だ!!」

「「「「「拓也っ!!!」」」」」

全員が拓也の名を叫ぶ。

拓也はそれに応えるようにデジヴァイスを構えた。

画面に2つのスピリットが描かれる。

「エンシェントスピリット!エボリューション!!」

拓也がデジコードに包まれ、そのデジコードが巨大化する。

「ぐがあああああああああっ!!」

凄まじい叫び声を上げ、拓也はスピリットを纏っていく。

「エンシェントグレイモン!!」

そこに現れたのは灼熱の赤き巨竜、エンシェントグレイモン。

「エンシェントグレイモンだと!?」

ベオウルフモンが驚いた声を上げる。

エンシェントグレイモンは、翼を羽ばたかせ、ヴァンデモンの本体の目の前に来る。

「終わりだ! ヴァンデモン!!」

エンシェントグレイモンは、そう叫ぶと、口を大きく開けた。

「わ、私は世界の王になるのだ! こ、こんな所で貴様なんかにっ………」

ヴァンデモンの本体はそう叫んで身体を動かそうとするが、ベオウルフモンによって押さえられている為、それも叶わない。

エンシェントグレイモンの口に、炎が集中していく。

「や、やめろ……やめてくれぇっ……!」

ヴァンデモンは慌てふためく。

だが、

「オメガバースト!!」

灼熱の炎が容赦なく放たれた。

「こ、こんなっ……こんな所でっ…ぎゃぁああああああああああああああっ!!!」

灼熱の炎がヴァンデモンの本体を貫く。

その瞬間、ヴェノムヴァンデモンの身体を押さえつけていた仲間達は離脱する。

そして、

――ドゴォオオオオン!!

ヴェノムヴァンデモンの身体は大爆発を起こし、消滅した。




ヴェノムヴァンデモンを倒した拓也たちは地上へ降りる。

全員は進化を解き、

「拓也! まさか、エンシェントグレイモンに進化するなんて思わなかったぜ!」

純平がそう言う。

「ま、少し疲れるけどな」

拓也はそう答える。

今回は、直ぐに決着が付いたのでそれほど消耗してはいないが。

全員が笑いあう。

が、そこで友樹が異変に気付いた。

「ね、ねえ……」

そう声をかける。

「如何したんだよ、友樹?」

拓也が問いかけるが、友樹は上を向いたまま、

「霧、晴れないよ……」

そう呟いた。

その言葉に驚きながらも空を見上げる拓也達。

その視線の先には、友樹の言うとおり、霧が変わらず街を覆い続けていた。





次回予告


ヴァンデモンを倒しても晴れない霧……

それはヴァンデモンが黒幕で無いことを現していた。

そして現れる真の黒幕。

魔王デーモンに拓也と輝二は超越進化で立ち向かう。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第五十五話 デーモン襲来! 復活の超越進化!!

今、異世界の物語が進化する。






あとがき

五十四話の完成です。

けど、なんかあっさりしすぎて物足りない気も……

まだスランプ引き摺ってるんですかね?

ともかく次も頑張ります。




[4371] 第五十五話
Name: 友◆ed8417f2 ID:315f8cfe
Date: 2010/09/26 20:08


ヴァンデモンを倒しても晴れない霧。

拓也達に、不穏な影が近付く……



第五十五話 デーモン襲来! 復活の超越進化!!



ヴァンデモンを倒しても霧が晴れない事に拓也達が怪訝に思っていると、

「兄ちゃーん!」

信也を先頭に、アイナ、シャルロット、イルククゥ、神原家、大地と愛美。

そして、平賀夫妻が駆け寄ってきた。

平賀夫妻も、一日だけとはいえ家に泊めた輝二達が気になっているのだろう。

とりあえず、拓也達はそのメンバーと合流する。

「兄ちゃん! ヴァンデモンを倒したんだね!?」

信也が、嬉しさを隠しきれない表情でそう問いかけてくる。

「………ああ」

「どうしたの?」

拓也は頷くが、その様子に疑問をもったアイナが尋ねる。

「………霧が晴れないんだ」

拓也は、空を見てそう答える。

「霧?」

「ああ。 この霧は、十中八九ヴァンデモンの仕業………だったら、ヴァンデモンを倒した今、霧が晴れないのはおかしい」

その言葉を聞いて、信也たちもハッとなる。

「そういえば…………」

信也が空を見上げながら呟く。

「まあ、もしかしたらこの霧は設置型で、その元になる力が残ってるだけかもしれないけど、油断は禁物だ」

輝一がそう言う。

「とりあえず、霧の中心に行ってみようぜ。 こういう類の奴は、中心部分に何かがあるのがお約束だし」

純平の言葉で、霧の中心に向かうことにする一同だった。







街を回り、おおよその霧の中心部に辿り着いた一同。

そこは、とあるビルの屋上であった。

そこには魔法陣と思わしき模様が輝いており、それが原因であろうことは誰もが予想できた。

「これがこの霧の原因か……?」

輝二がそう呟く。

「多分な」

拓也もそう呟く。

「じゃあ、早くあれを壊さないと……」

信也がそう言いかけた時、

『フッ……どうやらヴァンデモンは敗れたようだな』

何処からともなく声が聞こえる。

「誰っ!?」

思わず泉が叫んだ。

すると、

「フッフッフ………」

そんな笑い声と共に、魔法陣から赤いローブを纏った何者かが現れる。

身長は3mほどだろうか?

「お前は何者だっ!?」

拓也が叫ぶ。

「……我が名は、デーモン」

「デーモン?」

デーモンの名乗りに、友樹が声を漏らす。

「目的は何だ!?」

輝二の問いかけに、

「全てを闇の世界に………」

そう答えるデーモン。

その言葉は静かだが、スピリットを受け継いだメンバーは冷や汗を流していた。

それは、デーモンと相対した時、まるで、ケルビモンやロイヤルナイツ、ルーチェモンと相対したかのようなプレッシャーを受けたからだ。

「その為に邪魔者の抹殺をヴァンデモンに任せたのだが……フン、1人も殺せないとは役立たずにも程がある」

そんなデーモンの言葉に、

「酷い! ヴァンデモンはあなたの仲間じゃないの!?」

愛美がそう叫ぶ。

だが、

「仲間? ふはははは! あのような輩等仲間などではない。 単なる駒だ」

デーモンはそう笑って答えた。

「何て奴だ!」

大地は怒りを露にする。

「拓也…………」

輝二が拓也に呼びかける。

「ああ……分かってる……コイツは生半可な相手じゃない。 少なくとも、ヴァンデモンなんかじゃ足元にも及ばない」

拓也は、一度信也達の方を向くと、

「信也、お前達は手を出すな。 奴は少なくとも究極体以上の力の持ち主だ。 お前達じゃ敵わない」

「え? あ、う、うん………」

拓也の言葉に、信也は頷く。

拓也の言葉は、信也達を心配する言葉だったが、遠まわしに足手纏いだから手を出すなと言っている。

それは信也も分かってた。

そして、足手纏いと言うのが事実だろうということも………

「貴様の考え方は、ルーチェモンと一緒だ! 放っておくわけには行かない!!」

拓也はデーモンに向かってそう叫ぶ。

「ふむ……ならば如何する?」

デーモンは余裕たっぷりの声でそう問いかける。

「お前を倒す!!」

拓也は言い放った。

「面白い。 貴様らごときがこの私を倒そうと言うのか?」

デーモンは余裕の態度を崩さない。

「やるぞ! 皆!」

拓也の掛け声に、

「「「「「おう!!」」」」」

仲間たちが答える。

拓也と輝二がデジヴァイスを掲げながら前に出た。

そして、拓也の後ろで泉と友樹が。

輝二の後ろで、輝一と純平がデジヴァイスを掲げる。

「風は炎へ!」

「氷は炎へ!」

『風』と『氷』のスピリットが拓也に集い、

「雷は光へ!」

「闇は光へ!」

『雷』と『闇』のスピリットが輝二に集う。

『炎』、『風』、『氷』、『土』、『木』の5種類のスピリットの力で拓也は進化する。

拓也の左手にデジコードが宿る。

そのデジコードを、デジヴァイスでスキャンする。

「ハイパースピリット!エボリューション!!」

拓也がデジコードに包まれる。

「はぁああああああああああああっ!!!」

拓也は叫び声を上げながらスピリットを宿す。

体に『炎』のヒューマンスピリット。

右腕に『風』のヒューマンスピリット。

左腕に『氷』のヒューマンスピリット。

右足に『木』のヒューマンスピリット。

左足に『土』のヒューマンスピリットを宿す。

更に『風』、『氷』、『木』、『土』のビーストスピリットが身体に宿り、最後に『炎』のビーストスピリットを頭部に宿すと共に、拓也は姿を変えた。

それは、焔の鎧を纏いし、紅蓮の竜戦士。

「カイゼルグレイモン!!」




『光』、『雷』、『闇』、『水』、『鋼』の5種類のスピリットの力で輝二は進化する。

輝二の左手にデジコードが宿る。

そのデジコードを、デジヴァイスでスキャンする。

「ハイパースピリット!エボリューション!!」

輝二がデジコードに包まれる。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

輝二は叫び声を上げながらスピリットを宿す。

体に『光』のヒューマンスピリット。

右腕に『雷』のヒューマンスピリット。

左腕に『闇』のヒューマンスピリット。

右足に『水』のヒューマンスピリット。

左足に『鋼』のヒューマンスピリットを宿す。

更に『雷』、『闇』、『水』、『鋼』のビーストスピリットが身体に宿り、最後に『光』のビーストスピリットを頭部に宿すと共に、輝二は姿を変えた。

それは、重火器を装備した、高機動爆撃型サイボーグ。

「マグナガルルモン!!」

2体の超越体が、デーモンの前に立ち塞がる。

「なっ!? す、凄い!」

信也が驚愕の声を漏らす。

信也たちも、カイゼルグレイモンたちの強さを肌で感じたのだろう。

「マグナガルルモン! ここじゃ皆を巻き込む! 先ずは奴を皆から遠ざけるんだ!」

「おう!」

カイゼルグレイモンとマグナガルルモンは同時に飛び出すと、デーモンの両腕を掴み、一気に飛び立つ。

「ぬうっ!?」

デーモンはいきなりの行動に声を漏らす。

「「うおおおおおおっ!!」」

カイゼルグレイモンとマグナガルルモンは、みんなから少し離れたビルの屋上にデーモンを叩きつける。

街の人たちは、ヴァンデモンによって一箇所に集められているので、少々暴れても問題はない。

「貴様らっ!」

デーモンは、全くダメージがない様子で立ち上がる。

デーモンが、すっと手を上げる。

そして、

「フレイムインフェルノ!!」

その手から地獄の業火とも言える様な激しい炎が放たれた。

「ちぃっ!」

カイゼルグレイモンが龍魂剣を回転させて、盾にする。

カイゼルグレイモンは、何とかその炎を受け止めた。

「ぐぅっ!!」

だが、フレイムインフェルノの勢いは凄まじく、炎の一部がカイゼルグレイモンの後ろへと反れる。

その一部の炎だけで、貫かれたビルは破壊される。

「ぐぐっ………!」

カイゼルグレイモンは、何とか全て防ごうと気合を込めるが、

「しまっ………!」

しまった、と言い切る前に、再び炎の一部がカイゼルグレイモンの後方へ反れる。

そして、その方向は皆がいるビルへ向かっていた。

炎が、皆がいるビルの端を掠める。

それによって、屋上の一部が崩落し始める。

「う、うわっ!?」

皆は安全な場所に逃げようとしたが、

「「「うわぁあああっ!」」」

「「きゃぁあああっ!」」

アイナ、シャルロット、イルククゥ、宏明、由利子、信也、ブイモン、平賀夫妻が崩落に巻き込まれる。

だが、

「「レビテーション!」」

アイナとシャルロットがレビテーションを唱えて全員の落下を防ぎ、

「きゅいい~!」

イルククゥが、元の風竜へと姿を変えて落下した全員を拾い、翼を羽ばたかせて空へ舞い上がる。

「ふう………」

その様子を見たカイゼルグレイモンは、安堵の息を吐く。

そして、直ぐに気を取り直し、デーモンへと意識を向ける。

「むんっ!」

カイゼルグレイモンは気合を込めて、フレイムインフェルノを押し返していく。

そこに、

「喰らえ!」

マグナガルルモンが上空からデーモンに向かって武装を乱射する。

「むっ!?」

マグナガルルモンが放った弾丸は、デーモンに直撃。

爆煙に包まれると共に、足場にしていたビルが崩壊する。

それと同時に、フレイムインフェルノも途切れた為に、

「はぁああああっ!」

空中に退避したカイゼルグレイモンが、龍魂剣をデーモンに向ける。

そして、刀身が展開。

「炎龍撃!!」

刀身がエネルギー状になり、鍔に付いている引き金を引くと共に剣先から撃ち出される。

それは、デーモンに直撃。

崩壊を始めたビルに叩き落した。

そのまま、デーモンはビルの崩壊に巻き込まれる。

「やったぁ!」

シルフィードの上で、その様子を見ていた信也は声を上げる。

だが、地上に降り立ち、崩壊したビルで巻き上げられた煙を見上げるカイゼルグレイモンとマグナガルルモンは、全く気を抜いてはいなかった。

今までの戦いを潜り抜けた2人の経験と勘が言っている。

「敵はまだ本当の力を見せてはいない」と。

そして、ビルの崩壊で巻き上げられた煙が晴れていく。

「なっ!?」

「嘘……」

シルフィードに乗っていた面々が声を漏らす。

その視線の先には、全長が20mほどに巨大化し、ローブが失われ、本当の悪魔のような姿があらわになったデーモンがそこに存在していた。

「ウォオオオオオオオッ!!」

デーモンの唸り声と共に、一気に増すデーモンの威圧感。

その威圧感に、

「ぐっ……ローブ一枚外しただけでこの威圧感………やはり只者ではない!」

マグナガルルモンがそう漏らす。

「だが、例えそうだとしても、俺達はここで引くわけには行かない!!」

カイゼルグレイモンがそう叫んで、刀身が無くなった龍魂剣を振ると、龍魂剣に再び刀身が生み出される。

「行くぞ!マグナガルルモン!!」

「応っ!!」

カイゼルグレイモンが龍魂剣を振り上げながら突っ込み、マグナガルルモンがブーストを吹かす。

「「うおおおおおおおおっ!!!」」

そのまま、デーモンに立ち向かっていった。







次回予告


本当の姿を見せたデーモンに、カイゼルグレイモンとマグナガルルモンは立ち向かう。

しかし、デーモンは強い。

苦戦するカイゼルグレイモンとマグナガルルモン。

だが、信也が拓也の言葉で本当の奇跡を知るとき、

奇跡の戦士が光臨する。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第五十五話 奇跡の戦士マグナモン! デーモンを倒せ!!

今、異世界の物語が進化する。






あとがき

五十五話の完成です。

ちと短いですな。

思ったよりも引っ張れなかった。

ともかく、今回は超越進化しました。

あんま目立ってる気がしませんが……

とりあえず、マント形態のデーモンは割と簡単にあしらいました。

しかし、ここからが本番です。

ついでに言うと、次回で地球編は最後の予定。

では、次回をお楽しみに。





[4371] 第五十六話
Name: 友◆ed8417f2 ID:315f8cfe
Date: 2010/11/20 11:51
真の姿を現したデーモン。

カイゼルグレイモンとマグナガルルモンが立ち向かう。



第五十六話 奇跡の戦士マグナモン! デーモンを倒せ!!



「「うぉおおおおおおおっ!!」」

カイゼルグレイモンとマグナガルルモンが、デーモンに向かって突撃する。

カイゼルグレイモンが地を蹴って跳び上がり、龍魂剣を振りかぶる。

「はぁああああああああっ!!」

そして、デーモンの頭目掛け、振り下ろした。

だが、

――ガキィ

デーモンは、左手で龍魂剣を受け止める。

「フン!」

そして、そのまま力尽くでカイゼルグレイモンを押し返し、吹き飛ばす。

「くっ!」

カイゼルグレイモンは、吹き飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、足から地面に着地する。

しかし、

「スラッシュネイル!!」

デーモンは、左手の鋭い爪でカイゼルグレイモンを引き裂かんと左腕を振り下ろした。

「くぅっ!!」

――ガキィィィィ

カイゼルグレイモンは、龍魂剣で何とか防御するものの、デーモンの強烈な一撃は、カイゼルグレイモンを10mほど後退させる。

その時、空中から後ろに回りこんでいたマグナガルルモンが、

「こいつめぇっ!!」

デーモンの無防備な背中に向かって武装を乱射する。

マグナガルルモンの放った無数の弾丸は、デーモンの背中に直撃。

「ぬうっ!」

だが、多少怯んだようだが、たいしてダメージを感じさせないデーモンがマグナガルルモンの方へ顔を向け、

「ケイオスフレア!!」

口から灼熱の炎を吐き出した。

「チィ!」

マグナガルルモンはブーストを吹かし、間一髪その炎を避ける。

「おおおおおっ!!」

その隙を突き、カイゼルグレイモンが斬りかかろうとするが、

「小賢しいっ!」

デーモンの右の拳が裏拳の様に振るわれる。

「ぐあっ!!」

カイゼルグレイモンはその直撃を受け、ビルに叩きつけられる。

そのビルは崩壊し、カイゼルグレイモンは瓦礫に埋もれた。

「兄ちゃん!」

「「拓也っ!」」

シルフィードの背で、信也、宏明、由利子が悲鳴に近い声を上げる。

だが、次の瞬間には、瓦礫の中からカイゼルグレイモンが飛び出し、デーモンに向かって剣を構えた。

「炎龍撃!!」

炎龍撃がデーモンに撃ち込まれる。

その姿にホッとする一同。

しかし、

「このままじゃ拙い」

シャルロットが呟く。

「「「えっ?」」」

信也たちが疑問の声を漏らす。

「相手のダメージに対して、タクヤ達が受けるダメージが大きすぎる」

シャルロットは、冷静にそう分析する。

爆煙が晴れていくと、そこにはあまりダメージを受けていないデーモンが姿を見せる。

シャルロットの言うとおり、ローブを纏っていた時も含めて、デーモンには相当の攻撃が入った筈だが、今のデーモンにはダメージが少ない。

対して、カイゼルグレイモンは、まともな攻撃を一発喰らっただけで、相当なダメージがあることが見て取れる。

はっきり言って不利なのは明らかだ。

「せめて、覇竜刀を渡せれば……」

アイナはそう呟く。

ヴァンデモンの戦いの後、覇竜刀はアイナが持っていたのだ。

その様子を見ていたブイモンが、

「俺が渡してくる!」

そう叫んだ。

「ブイモン!?」

その言葉に、信也が驚いて声を上げる。

「戦いには役に立たなくても、剣を届けるぐらいなら!」

ブイモンはそう言うが、

「でも、成熟期レベルじゃ一撃受けるだけでも、致命的なんだよ!」

アイナがそう叫ぶ。

「大丈夫! 回避に徹すれば何とかなるよ!」

ブイモンがそう言ったとき、

「フレイムインフェルノ!!」

デーモンが掲げた右手から、先程よりも数段勢いのある地獄の業火が放たれる。

「ぐぁあああああっ!!」

「うぁあああああっ!!」

カイゼルグレイモンとマグナガルルモンは、その炎に飲み込まれ、吹き飛ばされた。

傷だらけになり、ビルに叩き付けられる。

「ぐぅぅ………」

「まだ……まだぁ!」

それでも、カイゼルグレイモンとマグナガルルモンは、力を振り絞って立ち上がる。

その様子を見た信也が、

「ブイモン……頼める?」

ブイモンにそう告げた。

「シンヤ!?」

アイナが驚きの声を上げ、シャルロットも驚きの表情を浮かべている。

「アイナさん……お願いです……ブイモンを信じてください!」

信也は、アイナにそう頼む。

「シンヤ……ブイモン……」

そう呟くアイナには、信也とブイモンの姿が、才人とギルモンの姿に重なって見える。

拓也と同じく、幾度も奇跡を起こして来たパートナーの絆の姿に。

「…………」

アイナは、何も言わずに覇竜刀を差し出した。

ブイモンがそれを受け取る。

「………気を付けて」

アイナはブイモンにそう告げた。

「応! 任せとけ!」

ブイモンは元気よくそう言った。

「じゃあ、行くよ! ブイモン!」

信也がブイモンに呼びかけた。

「応!」

ブイモンが応える。

信也はデジヴァイスを掲げ、

「デジメンタルアップ!」

ブイモンを進化させるキーワードを叫んだ。

「ブイモン! アーマー進化!」

ブイモンが光に包まれる。

「燃え上がる勇気! フレイドラモン!!」

そして、炎の竜人型デジモンに進化した。

フレイドラモンは、覇竜刀を持ってシルフィードの背から飛び降りる。

フレイドラモンは地面に着地すると、カイゼルグレイモンの方へ駆け出した。

灼熱の業火を吐くデーモン。

「「くっ!」」

カイゼルグレイモンとマグナガルルモンは飛び退いて避ける。

その時、

「カイゼルグレイモン!」

フレイドラモンが呼びかける。

カイゼルグレイモンがその声に振り向くと、自分の方に向かってくるフレイドラモンの姿を視界に捉える。

「フレイドラモン!? 馬鹿! 来るんじゃない!!」

カイゼルグレイモンがそう叫ぶ。

「塵芥が何をしに来た!?」

デーモンは、そう言うとフレイドラモンに向かってケイオスフレアを放つ。

「ハッ!」

フレイドラモンは、地を蹴って跳び上がり、更にビルの壁を足場にして更に跳び、ケイオスフレアを避ける。

そして、

「カイゼルグレイモン! 受け取れぇ!」

フレイドラモンは、カイゼルグレイモンに覇竜刀を投げ渡した。

回転しながら飛んでくる覇竜刀を、カイゼルグレイモンは上手く受け取る。

「覇竜刀か!」

カイゼルグレイモンがそう言った瞬間、覇竜刀が輝き、カイゼルグレイモンに合った大きさに変化する。

しかし、

「小癪な塵芥め!」

デーモンは、再びフレイドラモンに向かってケイオスフレアを放った。

フレイドラモンは、着地した瞬間で体勢が悪く、回避が一瞬遅れる。

「くっ!」

フレイドラモンは、すぐに飛び退いて何とか直撃は免れるものの、攻撃の余波が襲い掛かる。

「うわぁあああああっ!」

フレイドラモンは吹き飛ばされ、ブイモンに退化し地面を転がった。

「ブイモン!!」

シルフィードの背からその様子を見ていた信也が叫ぶ。

「くっ!」

カイゼルグレイモンとマグナガルルモンが、ブイモンを守るように立ちはだかる。

デーモンが歩いて近付いてくると、

「塵芥よ。 何故貴様らはそうまでして我に歯向かう? 貴様らが勝てる可能性があるとでも本気で思っているのか?」

そう言った。

それを聞くと、

「………確かに、力はお前の方が上だろう。 それは紛れもない事実だ」

マグナガルルモンはそう呟く。

「だが! だからといってそこで諦めるほど、俺達は絶望しちゃいない!! 後ろに護る者がいるのなら、尚更な!!」

カイゼルグレイモンはそう叫ぶ。

すると、ブイモンが力を振り絞って立ち上がろうとしていた。

「それに……俺は信じてるんだ………奇跡は必ず起こるって………絶対に……奇跡は起こるんだ!」

ブイモンがそう叫ぶ。

「うん!」

信也も頷いた。

だが、

「信也……ブイモン……それは少し違うぞ」

カイゼルグレイモンが呟く。

「「え?」」

信也とブイモンは声を漏らす。

「待ってたって……奇跡なんか起きやしない……」

カイゼルグレイモンはそう言うと、龍魂剣を背中に納める。

そして、覇竜刀を両手で持つ。

「奇跡って言うのは!」

カイゼルグレイモンはそう叫ぶと、デーモンに向かって突撃した。

「無駄な足掻きだ! 消えろっ!!」

デーモンはそう叫んで、口からケイオスフレアを放った。

しかし、カイゼルグレイモンは避けようとはせず、そのまま灼熱の炎の中に飛び込んだ。

「兄ちゃん!?」

信也が驚愕の声を上げる。

だが次の瞬間、ケイオスフレアの炎に切れ目が走り、その炎が切り裂かれるように消し飛ばされる。

「何っ!?」

驚愕するデーモン。

その隙を、カイゼルグレイモンは見逃さない。

「奇跡っていうのは! 自分の手で起こす物なんだよっ!!」

その叫びと共に、覇竜刀でデーモンの左の肩口から右腰にかけて一閃する。

「ぐぁあああああっ!!??」

デーモンは苦しみの声を上げ、覇竜刀の傷口から血が吹き出る。

「ぐっ!」

だが、カイゼルグレイモンのダメージも半端ではなく、その場で膝を着く。

「おのれ! 塵芥の分際でぇ!!」

デーモンは、怒りの表情でカイゼルグレイモンを睨み付け、その左腕でカイゼルグレイモンを掴む。

「ぐぅ!」

そして、そのまま力を加えてカイゼルグレイモンを締め上げる。

「ぐぁあああああああああああっ!!」

カイゼルグレイモンは悲鳴を上げた。

「拙い!」

マグナガルルモンは、ブーストを吹かしてカイゼルグレイモンを助けようと動くが、

「貴様は引っ込んでいろ!」

その言葉と共に、ケイオスフレアが放たれ、近づく事が出来ない。

「焦らずともコイツを片付けた後は貴様の番だ!」

デーモンはそう言うと、カイゼルグレイモンを掴む力を更に強める。

「うぁあああああああああああああっ!!」

カイゼルグレイモンの悲鳴が更に響く。

その時、

「……奇跡は……自分の手で起こすもの……」

信也はカイゼルグレイモンの言葉を呟いていた。

「そう……だよね……どんな奇跡も、自分達が起こそうとしないと起こるわけがないんだ!」

信也は何かを悟ったようにそう言った。

すると、

「信也! 俺はまだ戦えるよ!」

ブイモンが立ち上がってそう叫ぶ。

「ブイモン!」

信也が叫ぶ。

「信也! 俺達で起こそう! 奇跡を!!」

ブイモンの言葉に、

「うん! 今度は待ってるだけじゃない! 僕達の力で奇跡を起こすんだ!!」

信也が答えるように叫んだ。

その瞬間だった。

信也が持っていたデジヴァイスから黄金の光が放たれる。

「何!?」

突然の光にアイナが叫ぶ。

「し、信也!?」

宏明も、信也のデジヴァイスから放たれる光に戸惑いの声を上げた。

信也がデジヴァイスを取り出すと、その黄金の光が収束し、黄金の箱のような形をしたものが信也の目の前に浮かんでいた。

「これって……デジメンタル?」

信也がそれに手を伸ばすと、まるで吸い寄せられるかのように、それは信也の手に収まった。

少しの間、信也はそのデジメンタルを見ていたが、顔を上げると、

「ブイモン! 行くよ!」

ブイモンに呼びかけた。

「応!」

ブイモンも応える。

信也はそのデジメンタルを掲げ、

「デジメンタルアップ!!」

アーマー進化のキーワードを叫ぶ。

ブイモンが黄金の光に包まれる。

「ブイモン! アーマー進化!」

光の中で、ブイモンとデジメンタルが1つとなり進化する。

「な、何だこの光は!?」

デーモンは進化の光に目を庇う。

そして、

「奇跡の輝き! マグナモン!!」

黄金の鎧を纏った聖騎士がここに誕生した。

「行け! マグナモン!!」

信也の掛け声に、

「うぉおおおおおおおおっ!!」

マグナモンは一直線にデーモンに突撃した。

デーモンは、進化の光でまだ目が眩んでおり、正確に状況を把握できていない。

マグナモンはその隙を見逃さない。

「マグナムパンチ!」

マグナモンの右の拳がデーモンの顔面に叩き込まれる。

「ぐおっ!?」

デーモンは、一瞬怯む。

「マグナムキック!」

続けて、マグナモンは蹴りをデーモンに叩き込んだ。

「うおおっ!?」

デーモンは一歩後退する。

「プラズマシュート!!」

マグナモンは、鎧の各部から無数のミサイルを発射した。

その全てはデーモンに直撃する。

「がぁああっ!?」

デーモンは、堪えきれずにカイゼルグレイモンから手を離し、その場で転倒する。

落下しかけたカイゼルグレイモンを、マグナガルルモンが受け止めた。

「大丈夫か!?」

「ああ……何とかな……」

カイゼルグレイモンは地上に降りると、自分の足でしっかりと立つ。

すると、デーモンから一旦距離を取ったマグナモンが合流する。

「無事か!?」

マグナモンがそう呼びかける。

「ああ……お前はブイモン……なんだな?」

カイゼルグレイモンは、確認するように問いかける。

「おう! 今はマグナモンだ!」

マグナモンはそう答える。

「そうか……ならば、デーモンが動揺してる今がチャンスだ! 俺達3人で、全力の攻撃をデーモンに叩き込む! 一気に決めるんだ!!」

「「応っ!!」」

カイゼルグレイモンの言葉に反対する理由がないマグナガルルモンとマグナモンは、迷いなく頷いた。

その時、デーモンが起き上がる。

デーモンは、最早冷静ではいられなかった。

「おのれぇ! 虫けら共! チリも残さず焼き尽くしてくれる!!」

デーモンがそう叫びながら右腕を掲げ、

「フレイムインフェルノ!!」

今までの比ではない地獄の業火を放った。

その炎がカイゼルグレイモン達に襲い掛かる。

すると、カイゼルグレイモンは背中の龍魂剣を抜き、

「頼むぞ! 覇竜刀!!」

展開させた龍魂剣に覇竜刀をセット。

そのまま龍魂剣をデーモンに向ける。

炎龍撃のエネルギーが覇竜刀に集中し、覇竜刀が輝く。

「覇竜撃!!」

そして、引き金を引くと共に、覇竜刀が撃ち出された。

本来、炎龍撃とフレイムインフェルノでは、フレイムインフェルノの方が圧倒的に破壊力で勝っている。

しかし、炎龍撃のエネルギーが覇竜刀によって一点に集約され、凄まじい貫通力を得た。

その結果は、

「何ぃ!?」

デーモンが驚愕する。

カイゼルグレイモンの放った覇竜撃は、フレイムインフェルノのど真ん中を貫通した。

しかも、覇竜撃の威力は然程衰えてはいない。

驚愕によって回避が遅れたデーモンは、

――ドシュッ

「がはぁ!?」

腹部に覇竜刀を深々と突き刺される事になった。

「今だ! 叩き込め!!」

カイゼルグレイモンが叫んだ。

「うぉおおおおおおおおおっ!!」

マグナガルルモンがブーストを吹かして、デーモンに接近していく。

「マシンガンデストロイ!!」

ウイングのミサイル。

左腕の大口径砲、ストライクファントム。

右腕の大砲、スナイパーファントム。

身体の各所に装備された全武装を乱射する。

「ぐぉおおおおおっ!?」

放たれる無数の弾丸はデーモンに全弾命中し、デーモンは苦しむ声を上げる。

だが、まだ終わりではなかった。

マグナガルルモンがストライクファントムとスナイパーファントムをパージすると、背中のブーストを使って急接近。

爆発の煙に包まれていたデーモンの顔の目の前に来る。

すると、マグナガルルモンは両肩の砲身にエネルギーを集中させ、

「うぉおおおおおおおおっ!!」

至近距離から強力なビーム砲を放った。

「ぐわぁあああああああっ!!??」

デーモンは、ビームの光に包まれ叫び声を上げる。

マグナガルルモンは、爆発に巻き込まれる前に超スピードで離脱していた。

次に、マグナモンが空中に飛び上がる。

すると、マグナモンの黄金の鎧が輝き、

「エクストリームジハード!!」

そこから黄金の光線が放たれた。

「がぁああああああっ!!」

デーモンは、耐え切ることが出来ずに転倒する。

そして、ダメ押しとばかりにカイゼルグレイモンが龍魂剣を地面に突き刺し、

「九頭龍陣!!」

龍魂剣を地面に突き刺した時の罅が八方向に伸び、そこから8匹の炎の龍が出現する。

「うぉおおおおおおおっ!!」

更にカイゼルグレイモンが気合を込めると、カイゼルグレイモンの足元から周りよりも一回り大きな炎の龍が出現し、カイゼルグレイモンはそれを纏う。

合計9匹の炎の龍は、デーモンを飲み込むように覆いつくし、灼熱の炎に包んだ。

爆炎の中からカイゼルグレイモンが飛び出してくる。

そして、マグナガルルモン、マグナモンと合流し、攻撃地点へと向き直った。

爆煙が晴れていくと、

「ぐぅ……はぁ……はぁ……」

力を使い果たしたのか、ローブを纏っていた時と同じ3m程の大きさとなり、腹部を覇竜刀に貫かれているデーモンの姿がそこにあった。

しかし、デーモンはまだ立っている。

すると、カイゼルグレイモンは、龍魂剣をデーモンに向ける。

「ここまでだな」

カイゼルグレイモンは、そう言い放つ。

だが、

「フッ……フフフ……」

デーモンは不適な笑いを零した。

「何がおかしい!?」

マグナガルルモンがそう問いかける。

「いや、確かに見事だ……貴様達を侮っていた事は認めよう……ダメージも致命的だ」

デーモンはそう言う。

すると、

「悔しいが、ここは退くとしよう」

デーモンはそう言った。

「逃がすと思っているのか!?」

マグナモンが叫ぶ。

「ククク……そうせざるおえんさ」

デーモンは、そう呟くと手を掲げる。

すると、空間が歪み、真っ黒い穴が出来る。

「なっ!? 空間に穴が!?」

カイゼルグレイモンは驚愕する。

「この穴は次元の穴。 ありとあらゆる世界に繋がっている」

デーモンはそう言うと、その穴に入ろうとする。

「ッ! 待て!」

マグナガルルモンがそう叫んで追おうとしたが、

「追ってくるのは構わんぞ! 何処の世界に飛ばされるかは分からんがな?」

デーモンのその言葉で踏みとどまる。

「ククク……追って来れまい。 追ってきて私を倒した所で、この世界には二度と戻れんのだからな……フハハハハハッ!!」

デーモンは、してやったりと言わんばかりの笑い声を上げる。

そして、デーモンはカイゼルグレイモンたちの方を向いたまま、後ろ向きに空間の穴に入っていく。

カイゼルグレイモンは、目を瞑って俯き気味になっている。

「フハハハハハハッ!! ハーッハハハハハハ!!」

デーモンの笑い声が響く。

その瞬間、カイゼルグレイモンが目を見開いた。

そして駆け出す。

「うぉおおおおおおおっ!!」

「何っ!?」

カイゼルグレイモンの行動に驚愕するデーモン。

カイゼルグレイモンは、デーモンの腹部に突き刺さっていた覇竜刀の柄を掴み、更に深く突き刺す。

「ぐはぁ!? き、貴様っ……!」

デーモンは苦しみの声を漏らす。

「お前を逃がせば、不幸になる命が増える! だから、お前は今ここで倒す!!」

カイゼルグレイモンはそう叫ぶ。

「き、貴様、どんな世界に飛ばされるのか分からんのだぞ! そして、私がいなければこの世界に戻ってくる事も叶わんのだぞ!!」

デーモンは、焦りを隠せずにそう叫んだ。

「望むところだ!!」

カイゼルグレイモンは、迷い無くそう言い放った。

カイゼルグレイモンは、覇竜刀を握る手に力を込める。

「ぐぅぅ……こんな所で、貴様などに!!」

デーモンは、そう叫ぶと、口からケイオスフレアを吐いて、カイゼルグレイモンを吹き飛ばそうとする。

「ぐぁあああっ!! はっ、放すものか!!」

カイゼルグレイモンは、吹き飛ばされまいと覇竜刀を更に強く握る。

だが、今までのダメージは深刻で、遂に耐え切れなくなり、覇竜刀から手が離れそうになった。

その時、

――ガシィ!

突然、カイゼルグレイモンが後ろから支えられる。

「えっ?」

カイゼルグレイモンが振り向くと、そこにはブーストを吹かしてカイゼルグレイモンを支えるマグナガルルモンの姿。

「マグナガルルモン!?」

カイゼルグレイモンは、思わず声を上げる。

「1人で格好つけようとするな!」

マグナガルルモンはそう言う。

それを聞いて、カイゼルグレイモンは軽く笑みを浮かべ、

「フッ……お前も馬鹿だな」

そう呟く。

「お前に言われたくはない!」

マグナガルルモンはそう答えた。

カイゼルグレイモンは、再びデーモンを見据え、

「ならば行くぞ!!」

覇竜刀を握る手に再び力を込めた。

「応!」

マグナガルルモンもブーストを全開にする。

押し返されかけた所から、再び拮抗状態に持ち直す。

その姿をシルフィードの背から見ていた信也。

その信也も、決意したように顔を上げる。

「マグナモン!!」

信也はそう叫んでシルフィードの背から飛び降りた。

「「「「「「信也(君)!?」」」」」」

アイナ、シャルロット、宏明、由利子、才助と人美が驚愕して叫ぶ。

「信也!?」

マグナモンが信也を受け止める。

すると、

「マグナモン! 僕達も!!」

信也がそう叫ぶ。

「信也……!」

マグナモンはカイゼルグレイモンたちの方を見る。

そこでは、未だに拮抗状態が続いている。

マグナモンは、もう一度信也を見る。

信也は頷いた。

そして、マグナモンにもう迷いは無かった。

マグナモンは、肩に信也を乗せる。

「行こう! 信也!!」

「うん!!」

マグナモンの声に、信也が応える。

マグナモンは、一直線に駆け出した。

「「うぉおおおおおおおっ!!」」

信也とマグナモンの叫び声が重なる。

そして、カイゼルグレイモンの背を、マグナモンも支えた。

「マグナモン! 信也まで!」

カイゼルグレイモンは、一瞬驚いた。

だが、それ以上何も言わない。

2人の目を見ただけで理解したのだ。

2人の覚悟を。

カイゼルグレイモンは、デーモンへ意識を集中する。

拮抗状態だったのが、マグナモンも加わった事により、優勢に変わる。

覇竜刀が、デーモンの腹に根元まで突き刺さる。

「ぐぁああっ! な、何故だ!? 何故貴様達はそうまでしてっ!!」

デーモンは苦しみながらそう叫ぶ。

「お前には分からないだろう………これが!仲間との“絆”の力だ!!」

カイゼルグレイモンは、覇竜刀を反転させ、刃が上を向くようにする。

「仲間の想いが! 絆が! 心が! 俺達の強さだ!!」

そのまま、覇竜刀を斬り上げる。

「無に帰れ!! デーモン!!」

デーモンは、腹部から頭部にかけて真っ二つになった。

「ぐぁああああああああああああああっ!!!???」

デーモンは断末魔の叫びと共に消え去る。

そして、カイゼルグレイモン達は、そのまま空間の穴に消えようとしていた。

「拓也っ!」

「信也っ!」

宏明と由利子が拓也と信也の名を呼ぶ。

アイナとシャルロットは、拓也達を追おうとしたが、宏明達が乗っていることでそれを踏みとどまっていた。

その時、

「追ってください!」

人美がそう叫んだ。

「私達のことは構わずに!」

才助もそう言う。

「で、ですが……」

宏明はそれでも躊躇する。

「折角会えたんですよ! ここでまた離れ離れになるなんていけません!」

人美はそう叫ぶ。

「ッ…………」

由利子は、一瞬躊躇したが、

「シャルロットちゃん! お願い!!」

すぐにそう叫んだ。

シャルロットはすぐに頷き、

「シルフィード!」

シルフィードに呼びかける。

「きゅい! 待ってたのね!!」

シルフィードは、待ってましたと言わんばかりに翼を羽ばたかせ、今にも消えそうな空間の穴に向かう。

「急ぐからしっかり掴まっているのね!」

シルフィードはそう言うと、翼を折りたたみ、空間の穴に急降下する。

そして、空間の穴が消える寸前、その穴に飛び込んだ。






次回予告


次元の穴を越えた先、辿り着いたのはハルケギニアだった。

だが、ハルケギニアではロマリアの教皇、ヴィットーリオ・セレヴァレによって聖戦が宣言され、ガリアとの戦争状態に突入していた。

才人は? 拓也は? そして、シャルロットは如何するのか!?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第五十七話 虎街道の戦い

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

第五十六話完成!

久々に手応えのある出来になりました。

まあ、デーモンフルボッコはやりすぎた気もするが………

ともかく、これにて地球編は完結。

そして、まさかまさかの神原一家+平賀夫妻のハルケギニア行き。

輝二のハルケギニア行きを予想してた人はいるとしても、これは予想してた人はいないでしょう!

いないよね?

デジアド無印でも気になってたんですが、子供達にデジタルワールド行きを認めるのはいいとして、何故自分も着いていくという事を誰も言わないんでしょうか?

デジアドのデジタルワールドはデジヴァイスを持ってないといけませんが、そういう発言が1つぐらいあっても良いんじゃないかと。

故に、この小説ではこんな感じに。

まあ、準レギュラー位の出番になると思いますが。

準レギュラーといえば、パートナーデジモンを持ってる信也君。

ブイモンの進化形態ですが、このままマグナモンを最強進化としてアーマー進化のみで行くか、マグナモンの出番は今回だけで、ブイドラモンの進化形態でいくか、ワームモンのパートナーを持つキャラが出てきてインペリアルドラモンへと進化させていくか(多分、この場合は、キャラはリース辺りになるかと)どれがいいですかね。

ご意見ください。

ではこの辺で、次も頑張ります。




[4371] 第五十七話
Name: 友◆ed8417f2 ID:315f8cfe
Date: 2010/12/12 23:08
デーモンを倒す代わりに、次元の穴に飲み込まれたカイゼルグレイモン達。

そこでは…………




第五十七話 虎街道の戦い



次元の穴に飲み込まれた一同。

「くうっ!」

次元の狭間の空間の乱れに声を漏らすカイゼルグレイモン。

「離れるなよ! 違う世界に飛ばされるんだ! 同じ世界で離れ離れならともかく、それぞれが違う世界に飛ばされたら最悪だぞ!」

マグナガルルモンが叫ぶ。

その言葉に、マグナモンは信也を支えつつマグナガルルモンと手を繋ぎ、マグナガルルモンはもう片方の手でカイゼルグレイモンの腕を取る。

だが、

「うっ!」

突然マグナモンが光に包まれ、幼年期であるチビモンまで退化してしまった。

恐らく、エネルギーが尽きたのであろう。

「チビモン!」

信也は慌ててチビモンを抱きとめる。

しかし、マグナガルルモンの手から離れていた信也とチビモンは、カイゼルグレイモン達とは別方向へ流されようとしていた。

「信也!!」

カイゼルグレイモンが叫んで、信也に手を伸ばす。

だが、届かない。

「信也ぁっ!!」

カイゼルグレイモンは、悲痛な叫びを上げる。

信也の姿が次元の狭間の暗闇に消えようとした。

その時だった。

「きゅい~~!」

鳴き声を上げて、シルフィードが信也を受け止め、そのままカイゼルグレイモン達の方へ飛んでくる。

「シ、シルフィード!? 何で!?」

カイゼルグレイモンは驚きの声を上げる。

「きゅいきゅい。 何とか追いついたのね」

シルフィードはそう言う。

「タクヤ!」

「タクヤ……」

シルフィードの背に乗っていたアイナとシャルロットも顔を見せる。

「お前ら、何て無茶を。 全く知らない世界に飛ばされるんだぞ!」

カイゼルグレイモンはそう言う。

「私達は、タクヤと一緒にいればどんな世界でも平気だよ」

「ずっと一緒………」

2人はそう答える。

「それに、拓也も信也も、親離れするのはまだ早いぞ」

宏明がそう言う。

その言葉で、カイゼルグレイモンは、宏明と由利子。

更には平賀夫妻までシルフィードの背中に乗っていることに気が付いた。

「なっ!? 父さん達まで」

カイゼルグレイモンはそう漏らす。

「拓也君、折角再会できたのに、また勝手にいなくなるのは駄目よ」

人美がそう言う。

「………………」

その言葉に、何も言えなくなるカイゼルグレイモン。

「カイゼルグレイモン。 感動するのは良いが、この状況を何とかするぞ」

マグナガルルモンの言葉に、カイゼルグレイモンはハッとなって、気を取り直す。

「だが、何とかすると言っても、この状態じゃ、互いに離れないようにする事ぐらいしか………」

と、そこまで言いかけたとき、

「……ん?」

カイゼルグレイモンは、持っていた覇竜刀から光が漏れている事に気が付いた。

「何だ?」

カイゼルグレイモンは不思議そうな声を漏らすが、覇竜刀から漏れる光の粒子はどんどん増えていき、ある一定の量に達すると、光の粒子が次元の狭間の暗闇に一直線に進んでいく。

まるで道を作るかのように。

その光の道の先に、眩い光の扉が現れる。

「こ、これは!?」

カイゼルグレイモンは思わず叫ぶ。

「きゅい! 精霊達が導いてくれてるのね!!」

シルフィードが叫んだ。

「じゃあ! この光の道を辿れば!」

「恐らく、ハルケギニアに行ける!」

アイナとシャルロットはそう確信する。

「……まあ、全く知らない世界よりかは断然良いか」

カイゼルグレイモンも頷く。

そうなれば、行動は早かった。

「行くぞ!」

カイゼルグレイモンの言葉と共に、マグナガルルモン、シルフィードは、その光の道に乗り、光の扉を目指す。

最後に、カイゼルグレイモンも続いた。

マグナガルルモンとシルフィードが光の扉に飛び込み、最後にカイゼルグレイモンも飛び込もうとした時、

「……ん?」

カイゼルグレイモンの視界の端に何かが映る。

次元の狭間の暗闇の中、微かに浮かぶそのシルエット。

正十二面体をした巨大な物体。

「何だ……あれは………?」

カイゼルグレイモンは、そう呟くと同時に光の扉に飛び込んだ。



光の扉に飛び込んで、視界が光で満ちて、数瞬後。

突然視界は開け、青空が映る。

「くっ!」

突然の重力に、バランスを崩すが、すぐに持ち直す。

「ここは………?」

カイゼルグレイモンは周りを見渡す。

マグナガルルモンとシルフィードも無事なようで、近くに滞空している。

遠くを見れば、火山と思わしき山々が煙を上げている。

「アイナ、シャル。 ここがどの辺りか見当は付くか?」

カイゼルグレイモンは、アイナとシャルロットに尋ねる。

2人は周りを見渡す。

すると、

「多分、あの火山の山々は火竜山脈。 でも、ここはガリア側じゃない。 おそらくロマリア」

シャルロットがそう答える。

「ロマリアか………来るのは初めてだな」

カイゼルグレイモンはそう呟く。

「ともかく、トリスティンまで戻るか? 今の俺達は無一文に等しいし」

カイゼルグレイモンは、気を取り直してそう提案する。

「そうだね。 私もそれでいいと………」

そこまで言いかけたアイナの言葉が止まり、何かに気付いたようだ。

「あれはっ!?」

アイナの慌てた様子に、カイゼルグレイモンはアイナの視線の方向を向く。

そこには、かなり遠い場所だが、鋼の鎧を纏った巨人。

「ヨルムンガンド!? 何故だ!? ガリアがロマリアに攻め込んでるのか!?」

ヨルムンガンドの姿を捉えたカイゼルグレイモンが驚く。

だが、驚くべき事はまだ会った。

カイゼルグレイモンの驚異的な視力が、ヨルムンガンドの周りの状況を明確に捉える。

そこには、見覚えのある少年達。

「なっ!? 水精霊騎士隊!? 拙い!!」

カイゼルグレイモンは、叫んで飛び出す。

だが、距離はかなりある。

その時、

「カイゼルグレイモン!」

マグナガルルモンが追ってくる。

「カイゼルグレイモン、とりあえず、あの巨人が敵という事でいいのか!?」

マグナガルルモンはそう尋ねる。

「ああ!」

カイゼルグレイモンは迷い無く頷く。

「わかった! 任せろ!!」

マグナガルルモンはそう応えると、ブーストを吹かしてカイゼルグレイモンを超えるスピードで、ヨルムンガンドへと突撃した。









才人達水精霊騎士隊は、拓也達が消えた後、アンリエッタの命令でルイズとティファニアを連合皇国首都ロマリアまで護衛する事になった。

ジュリオの悪戯で多少の一悶着はあったが、無事に辿り着く一同。

そこで、ロマリアの教皇であるヴィットーリオ・セレヴァレに出会い、そのヴィットーリオから聖地を取り戻す為に、エルフ達との戦いの協力を要請される。

それに先駆け、“虚無”を集める為にガリアのジョゼフを倒す必要があることも教えられる。

だが、才人はジョゼフとの戦いは賛成するものの、エルフとの戦いは反対だった。

しかし、アンリエッタは何故かヴィットーリオに賛成し、人の国を守る為に、エルフを犠牲にするとまで言った。

結局話は纏まらず、暫くロマリアに滞在する事となる。

その翌日、才人はジュリオに連れられて、ロマリアで“場違いの工芸品”と呼ばれる地球から来た武器を見せられた。

そこには、拳銃や日本刀だけではなく、戦車まであったのだから驚きだ。

そして、ジュリオはこの武器を才人に進呈するとまで言ったのだ。

更に、この武器は“聖地”の近くで見つかっており、聖地には地球へのゲートがあるのではないか、とも言い出した。

才人は、ジュリオが言っている事に嘘はないだろうと判断する。

そして、自分を聖地の奪還の戦いに駆り出す為の口実であろうことも簡単に予想できた。

それでも才人はエルフの戦いに協力は出来ないと言い切った。

ジュリオは呆れながらも、才人をロマリアの町へと連れて行った。

そんな中、一緒にロマリアに来たコルベールが、ヴィットーリオに火のルビーを渡した事により、状況が変わる。

ヴィットーリオは虚無の担い手であり、再びその手に火のルビーが戻った事で新しい虚無の魔法を覚えられるようになった。

そして、覚えた魔法は“世界扉ワールド・ドア”。

地球とハルケギニアを結ぶゲートを開く魔法であった。

それを知ったルイズは、悩み抜いた結果、才人を地球へ帰す事を決意する。

そして、1日のデートの最後に、才人に眠りの魔法薬を飲ませて眠らせる。

ルイズは、“世界扉ワールド・ドア”を開いてもらう代わりに、“聖女”として、聖戦に協力する事を約束したのだ。

そして、ルイズは“聖女”となった。

だが、才人を失ったルイズの悲しみは深く、ティファニアに才人の記憶を消してもらうほどであった。



その頃、才人は夢を見ていた。

いや、夢というには現実味がありすぎる夢。

ブリミルと名乗る男性。

サーシャと名乗るガンダールヴのルーンを持ったエルフの女性。

ヴァリヤークと呼ばれる軍勢との戦い。

そして、新しき土地へのゲート。

才人は、そのゲートを潜ったところで目を覚ました。

才人が目を覚ますと、ジュリオとヴィットーリオがおり、才人は、そこでジュリオからルイズとギルモンが聖戦に駆り出されている事を知り、すぐにデルフを引っ掴んで現場に向かおうとした。

だが、ヴィットーリオによって地球へのゲートが開かれていた。

地球へ帰るか。

ハルケギニアに残るか。

才人は究極の選択を迫られる。

だが、才人が選んだ道は、ハルケギニアに残る事だった。

才人がハルケギニアに残る事を選んだ為に、ジュリオは、もし才人が地球に帰ることを選んだ時に撃つつもりだった銃を下ろした。

才人は、それでこの2人はルイズの気持ちを利用していた事を知り、とりあえずジュリオをぶん殴った。

そのジュリオから倉庫に“槍”が置いてある事を聞き、才人は倉庫へ向かった。

すると、その倉庫には、戦車が置いてあり、コルベールとキュルケが整備をしていたのだ。

とりあえず、才人はその戦車で、現場に急行することにした。





ルイズを守る、水精霊騎士隊を含めた軍勢は、火竜山脈の峡谷に作られた“虎街道”に差し掛かるところであった。

そして、そこでルイズの出した指示は、

「誰か、私の前まで敵を引っ張ってきて頂戴。 一撃で片を付けるわ」

であった。

すると、ロマリアの聖堂騎士隊の隊長であるカルロが頷き、ギーシュ達に顎をしゃくった。

「ご使命だ。 行きたまえ」

カルロがそう言う。

「僕達に、ここへ飛び込めって言うのかい?」

峡谷の奥を指差し、ギーシュはそう聞き返す。

「当たり前だ。 我々は聖女殿を守らなければならん。 君達では不可能な任務だ。 だから可能な任務を与えてやろうというのだ。 感謝したまえ」

カルロは悪びれもせずにそう言った。

流石に、その言葉には水精霊騎士隊の少年達も黙ってはいられなかった。

ギムリが杖を引き抜くと、少年達は一斉に杖を抜いた。

「貴族に“死ね”と言う時には、それなりの作法があるんだぜ。 クソ坊主」

「仲間割れしてる場合じゃないでしょう!」

そんな様子を見かねたルイズが叫んだ。

すると、意外にもギーシュが少年達を諌めた。

「諸君、杖を引っ込めようじゃないか。 ルイズの言うとおりだ。 喧嘩してる場合じゃない」

「わかったら、早く行け!」

苦々しげにそう言うカルロに、ギーシュは向き直る。

「任務に赴く前に、正直なところを言ってよろしいか?」

ギーシュがそう尋ねると、

「聞いてやろう」

カルロは、そう答えた。

「では、はっきりと申し上げるが、僕は君達のやり方が気に入らない。 そりゃ僕達はブリミル教徒だ。 ハルケギニアの貴族だ。 教皇聖下が聖戦と仰るのなら、従うまでだ。 でも、僕は多少、アルビオンで地獄を見てきた。 威勢のいいことばかり言ってる連中は、僕も含めていざという時にはからっきしだった。 だから、いまいち君達にはついていけないのさ。 なんというかな、そういうのは芝居の中だけにしておいて欲しいんだよ」

カルロは、顔を赤くするほどの怒りを覚えたが、何とか堪えた。

「結構!」

「ギーシュ!」

ギーシュの物言いに、ルイズが叫ぶ。

「ルイズ。 1つだけ約束してくれ」

「何よ?」

「死ぬなよ。 危なくなったら、全てを放り出して逃げるんだ。 サイトやタクヤが言ってただろ。 神様や名誉の為に死ぬのはバカらしいってな。 聞いたときにはなんて言い草だと思ったもんだが、今なら分かる。 死んだらご奉公は無理だぜ。みっともなくとも生き残る。 それが本当の名誉だ。 それに、君を死なせたらサイトに恨まれるからね」

「だから、タクヤはともかく、そのサイトって誰よ!?」

すると、ギーシュは傍らにいるギルモンに語りかける。

「ギルモン、いざとなったら、君がルイズを守るんだ。 引き摺ってでもルイズを逃がしてくれ」

ギーシュは踵を返すと、腕を振り上げ、

「前進!」

その号令と共に、水精霊騎士隊は死地へ向かって歩き出した。




水精霊騎士隊が敵を確認すると、敵はシャルロット救出の際、ゲルマニアとの国境で襲ってきたヨルムンガンドであった。

そのヨルムンガンドは、低い位置を飛んでいた船に飛び掛って墜落させ、風石を補給した後、左右の崖を上り始めた。

どうやら、山伝いに進軍して、味方の側面を突くつもりらしい。

それを見たギーシュは、

「しかたない。 ともかく、注意を引こう」

そう決心した。

すると、ギーシュは使い魔のウェルダンテを呼び出し、自分の髪を一房切る。

「ウェルダンテ。 もし僕が死んだら、君はモンモランシーにこれを届けるんだ。 いいね?」

そう言って、ギーシュはウェルダンテにその髪を渡す。

ウェルダンテは、目に涙を浮かべながら首を振るような仕草をした。

「笑って見送っておくれ。 僕は貴族なんだよ」

それを見ていた水精霊騎士隊の面々も、己の使い魔に自分の髪を手渡す。

家族や恋人への言葉と共に。

「レイナール、作戦を言え」

ギーシュが硬い声で言った。

「作戦? おいおい如何しろっていうんだ? 魔法を撃ちまくって注意を引いて、あとはフライで逃げる。 こっちに向かってきてくれればお慰み。 そのくらいだね」

レイナールはやや、ヤケクソ気味にそう言った。

「上等だ! 行くぞ!」

ギーシュのその言葉を合図に、水精霊騎士隊は飛び出して各々がヨルムンガンドに攻撃を加える。

ヨルムンガンドが腕に持った大砲を放ってくるが、少年達は風魔法でそれを防ぐ。

ギーシュたちは、ゴーレムで踊りを踊ったり、ヤジを飛ばしたりで挑発する。

そして、その様子はシェフィールドからも見えていた。

シェフィールドは、ヨルムンガンドに攻撃を加えているメイジたちの中に、ルイズと一緒にいたギーシュの姿を確認する。

シェフィールドは、ヨルムンガンド達にギーシュ達を追うように命令を出した。

「きやがったきやがった!」

「諸君! 撤退だ!」

ギーシュの号令で、少年達は一斉にフライで飛び立つ。

「速度差に気をつけろよ! 追撃を諦めさせるな!!」

そう叫びながら、虎街道の出口を目指した。




虎街道の入り口では、ルイズがエクスプロージョンの詠唱を完成させていた。

カルロが何やら愚痴っているが、街道の先にぽつぽつと小さな点が幾つも飛んでくる。

フライで飛ぶ水精霊騎士隊だ。

その後を2体のヨルムンガンドが追いかけていた。

「ルイズゥゥゥゥゥゥゥッ!! あとは任せたぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

次々に少年達がルイズの傍を飛び退っていく。

ルイズは、迫り来るヨルムンガンドに向かって、完成したエクスプロージョンを放った。

2体のヨルムンガンドの中心に光が生まれ、膨れ上がり、2体のヨルムンガンドを飲み込んだ。

「やったか?」

カルロが笑みを浮かべる。

だが、次の瞬間驚愕の表情に変わる。

なんと、ヨルムンガンドは何事もなく立っていた。

「無傷……」

ルイズも呆然と呟く。

すると、ヨルムンガンドの口と思わしき所が開き、シェフィールドの声が響いた。

『お久しぶりね。 トリスティンの虚無。 こうやってお会いできる日を楽しみにしていたわ』

「ミョズニトニルン!」

『残念ね。 以前のヨルムンガンドなら粉々だったでしょうけど、エルフの技術で、装甲に“焼き入れ”を施したのよ。 まあ、デジモン相手には焼け石に水程度に思っていたけど、お前の魔法を防ぐぐらいの強度は有るんだよ』

心底、楽しそうな声だった。

「うわぁああああああっ!」

周りを守るカルロが、悲鳴を上げて逃げ出した。

聖堂騎士隊は、群を成して遁走する。

ルイズの周りには、誰もいなくなった。

「ルイズ! 逃げろ!!」

後ろでギーシュ達が叫ぶ。

「………私は聖女よ。 逃げられるわけないじゃない!」

しかし、ルイズは動かなかった。

その間にも、ヨルムンガンドは近付いてくる。

「援護だ! ルイズを援護しろ!!」

ギーシュが叫び、水精霊騎士隊の面々が魔法を放つ。

だが、その強固な甲冑に全て弾かれる。

ヨルムンガンドが剣を振り上げ、ルイズの近くに振り下ろされる。

ルイズはその衝撃で地面を転がった。

『お前、今まで随分と手こずらせてくれたねぇ。 ただ殺しはしないよ。 貴様が、私とジョゼフ様をコケにしてくれた分だけ苦しめてやる』

ルイズは立ち上がろうとしたが、腰が抜けて立てない。

周りのロマリア軍も、大砲での砲撃や魔法の嵐がヨルムンガンドに降り注ぐが、全く効果はなかった。

「うわぁああああああっ!! 化け物だぁああああああああっ!!」

遂に兵士達が逃げ出す。

いくら“聖戦”といえど、攻撃が効かなければどうしようもない。

だが、それでもルイズは杖を拾って果敢にも立ち向かおうとする。

「バカにしないで! 私、何度もアンタに煮え湯を飲ませてきたのよ! 今回だって、きっと負けないわ!!」

だが、その言葉は空しく響く。

『ほう。 どうやって?』

「私の魔法でよ!」

『寝言にしか聞こえないよ。 お前の魔法なんか効かないじゃないか! まったく虚無の担い手が効いて呆れるよ! お前の使い魔は如何したね? いつも番犬のようにお前の前に立ち塞がってたじゃないか。 パートナーがいないんじゃ、そこのデジモンも力を発揮できないだろう? とうとう愛想をつかされたのかい?』

「私に使い魔はいないわ! 私はたった一人で……ッ!?」

そこまで言いかけた所で、ルイズの頭に痛みが走る。

ルイズの心に、矛盾が広がる。

本当に自分は1人で勝利を収めてきたのか?

自分の横にはギルモンだけしかいなかったのか?

そして、ギーシュ達が言うサイト。

「………誰?」

思わず言葉が漏れた。

『忘れちまったのかい? それとも、本当に愛想を尽かされちまったのかい? 無理もないね。 お前は本当にどうしようもない無能だからね! ああ、この私がお前のような無能に何度も土をつけられたなんて! 全く自分が情けないよ! だけど、それも今日で最後だ。 お前が死ぬ所を、あの方に見せて差し上げる。 そうすれば、あのお方も気付く筈さ。 この世で、誰が一番なのかってね』

黒い影がルイズの心を過ぎる。

その影が、記憶の中の自分を振り払い、自分の前に立ち塞がる。

「………けて」

ルイズの口から言葉が零れた。

「たすけて」

ルイズは、自然と救いを求める声を漏らしていた。

『命乞いかい? 貴様、この私に命乞いをしているのかい?』

「サイト、たすけて」

ルイズは自然とその名前を口にしていた。

そうすれば、何とかなるような気がした。

『おやおや、とうとう詠唱すら諦めて命乞いか? まったく貴様の虚無など、我が主人のそれに比べたら、子供のままごとだよ。 虚無の恥さらしめ! 死ね!』

ヨルムンガンドの足が振り上げられる。

ギルモンがファイヤーボールを連発するも、効果は無い。

その足が、ルイズを踏み潰さんと迫ってきた。

「サイト!たすけて!!」

ルイズは目を瞑って絶叫した。

その瞬間、

――ガゴォォォォン

何かがぶち当たる音が響き、ルイズは恐る恐る目を開ける。

すると、自分を踏み潰そうとしていたヨルムンガンドの足が無くなっていた。

片足を失ったヨルムンガンドがゆっくりと後ろに倒れる。

「え?」

何が起こったのか分からず、ルイズは声を漏らす。

その時、

「ルイズーーッ!」

ルイズを助ける機会を窺っていたギーシュ達が駆け寄る。

そして、ルイズを抱え起こすと、ヨルムンガンドから離れた場所へと逃げ出した。

ルイズは、張り詰めていた緊張の糸が切れ、気を失った。





「ちょっと、下だったかな」

戦車砲の照準器を覗き込みながら、才人は言った。

敵の大きさを見誤り、狙った場所からズレた所に着弾したのだ。

才人は、照準を修正し、倒れてもがくヨルムンガンドを狙う。

そして、発射レバーを思い切り引いた。

今度は、狙い違わず88mm鉄鋼弾は着弾し、ヨルムンガンドがバラバラに弾け飛ぶ。

才人は、砲弾を装填すると、もう1体のヨルムンガンドを狙う。

残った1体のヨルムンガンドは、片方のヨルムンガンドがやられた時、岩陰に隠れていた。

だが、そのヨルムンガンドが様子を窺う為に、岩陰から顔を出した時、才人は発射レバーを引いた。

戦車砲は、2リーグの距離があっても、正確にヨルムンガンドの頭部に命中した。

『やったなサイト君!』

前部の操縦席に座るコルベールの声が、耳につけたヘッドフォンから聞こえる。

「すごいわ……2リーグは離れているのよ。 それなのに砲弾が命中するなんて………」

コルベールの隣の無線手の席に座ったキュルケが、驚いた声を上げた。

因みに、コルベールは、才人の運転を見ていて、戦車の運転の仕方をすぐに覚えた為、才人と交代して運転している。

「この“ティグレス”と言ったかな? 戦車の操縦は、あの“ひこうき”に比べたらずっと簡単だな! ここをこうすれば前に動き………」

そう言いながら、コルベールがアクセルを踏みしめると、戦車が前進し、茂みの中から姿を現す。

「この操作円盤を回せば、回頭する」

続けてハンドルを回すと、戦車は進路を変える。

「っと、姿を現しては、拙かったかね?」

コルベールが、才人にそう尋ねる。

「いえ、どっちみち砲煙で位置はバレます。 このまま突っ込みましょう。 敵をこっちに引き付けないと」

戦車は地響きを立てながら、虎街道を目指して走り出した。

ロマリア軍が、全く歯が立たなかったヨルムンガンドを2体も破壊した為、潰走していたロマリア軍から歓声が沸いた。




ヨルムンガンドが破壊される所を、シェフィールドも確認していた。

「2リーグも離れた場所から、ヨルムンガンドの装甲を撃ち抜いただと………?」

デジモンでもない存在に、そんな事が可能なのかと、シェフィールドにとって信じられないことだったのだが、そんなことをやってのける存在を、シェフィールドは思い出す。

「とうとう現れたようだね。 面白い。 決着をつけようじゃないの。 ガンダールヴ!」

シェフィールドは、感情の赴くままに、ヨルムンガンドを全て突撃させようとした。

だが、

「シェフィールド………」

シェフィールドの傍らにレナモンが現れ、声をかける。

「なんだい、レナモン!」

出鼻を挫かれたような気分になったシェフィールドは声を荒げる。

しかし、レナモンはその怒りを受け流し、

「シェフィールド、少し冷静になった方が良い。 相手の戦力も分からず突撃を命じるなど、君らしくもない」

そう忠告した。

「ッ!?」

レナモンの忠告に、シェフィールドはハッとなり、一気に熱を持った頭が急速に冷めていく。

「そ、そうだね。 アンタの言うとおりだ。 得体の知れない敵に何の考えも無しに飛び出すなんて、自殺行為もいいところだ」

シェフィールドは、自分に言い聞かせるように呟き、興奮した感情を落ち着ける。

すると、

「………感謝するよ、レナモン」

小さな声で、シェフィールドはそう呟いた。

「………フッ」

レナモンは、小さな笑みを浮かべると、木の葉が舞い散ると同時に姿を消した。

「さて、先ずは2体位で様子見だね」

シェフィールドはそう言うと、ヨルムンガンドに命令を下した。






虎街道へ向かう戦車の周りに、ロマリア軍の将兵が集まってきた。

才人がハッチから顔を出すと、馬に跨って併走する1人の騎士が、才人に呼びかけた。

「援軍感謝! あの悪魔のような甲冑人形をやっつけるなんて………! 貴官の所属を述べられたし!」

「トリステイン王国、水精霊騎士隊!」

「了解! お頼み申す! 旗が無くては士気に関わる! これを掲げられよ!」

騎士は才人に旗を投げて寄越した。

聖戦旗だ。

「なんだこれ?」

才人は、旗がどういう意味を持つか分からなかったが、とりあえず連合軍的な意味を持つ旗なのだろうと思い、才人は旗をアンテナ基部に突き立てた。

翻る聖戦旗に、ヨルムンガンドによって下がっていたロマリア軍の士気が、一気に沸騰した。

「教皇聖下万歳! 連合皇国万歳!」

才人に旗を渡した騎士は、叫びながら自軍へと引き返していく。

「諸君! 注目! 我らが聖戦に、トリステイン王国より強力な援軍だ! 臆するな! 始祖の加護は我にあり!」

だが、才人は思った。

(俺が戦うのは、信じてもいない、神様の為なんかじゃねえ)

才人は聖戦旗の上に、外した自分のマントを括り付けた。

百合紋のマントを翻させながら、戦車は疾走した。



峡谷の入り口に、ヨルムンガンドが2体現れる。

それぞれの手には、艦砲が握られている。

才人は砲塔に潜り込み、ハッチを閉めた。

再び砲手席に座り、照準器を覗き込む。

「先生! 止めて!」

ブレーキがかかり、戦車は停止する。

距離は千。

直接照準でも問題ないと、左手のルーンが教えてくれる。

その時、ヨルムンガンドが戦車に大砲を向ける。

2体のヨルムンガンドが同時に大砲を撃ってきた。

――ガィイイイイイインッ!

1発は車体前面に当たり、粉々に砕け散る。

車体が派手に震動し、激しい大音声が響き渡る。

猛烈な痺れが全身を包むが、被害はそれだけ。

戦車の装甲は、地球で言う数百年前の大砲など物ともしない。

「ボケが! 人型が戦車に勝てるわけねえだろ! 図体がでかいんだよ! 無駄に高えんだよ!」

才人はそう叫びながら発射レバーを引く。

「地球ナメんな! ファンタジー!!」

ヨルムンガンドが持っていた大砲とは、言葉通り桁違いの威力を持った砲弾が放たれる。

その砲弾は、ヨルムンガンドの身体に大穴を開けた。

もう1体が近付いて来るも、その前に砲弾の装填を完了させ、撃ち出した砲弾の前にもう一体のヨルムンガンドも破壊された。




続けざまに、現れた4体のヨルムンガンドを倒した戦車に、水精霊騎士隊の少年達は駆け寄った。

「サイトだ! あれはサイトだぞ!」

アンテナに翻るシュヴァリエのマントを見て、マリコルヌが叫ぶ。

「凄いな! 鉄の箱に大砲が付いてるぜ!」

「サイトが鉄箱のお化けでやってきたぞ!」

水精霊騎士隊の隊員達は、司令塔から顔を出した才人にしがみ付いた。

「遅れてごめん」

その熱狂に照れくさいものを感じ、才人ははにかんで言った。

ギーシュが泣きながら才人の手を握る。

「ぼ、ぼく、僕は……君が絶対来ると……だって、君はふくたいちょうおだから………」

「よせやい」

すると、

「サイトォ!!」

ギルモンが。才人の頭に飛びつく。

「うわっとと……へへっ、待たせたなギルモン」

「うん!」

ギルモンは笑顔で頷く。

ギムリが、抱えていたルイズを砲塔の上に乗せた。

「サイト、君の主人だ。 気を失っているが……まあ、命に別状はないだろう」

才人はギルモンを頭の上から下ろし、ルイズを見つめる。

白かった巫女服はドロドロに汚れ、頬には血と土がこびり付いている。

「バカヤロウ……」

才人は、ルイズの無茶を想像してそう呟く。

才人は優しくルイズの頬を撫でた。

すると、ルイズがゆっくりと目を覚ました。

ルイズの視線が才人を捉えると、

「……アンタ誰?」

と呟く。

そして、才人の手が自分の頬に触れていることに気付くと、ルイズは才人を突き飛ばす。

「ぶ、無礼者!」

それを見たギーシュ達は、あちゃあ、と言わんばかりに顔を押さえる。

「何言ってるんだ? お前……」

ルイズの反応に困惑する才人。

ギーシュが、参った参ったと首を振りながら、才人に告げる。

「どうやら、ティファニア嬢の魔法で消しちゃったみたいだよ。 君の記憶を」

「はぁ?」

ギーシュの言葉に、呆れた声を漏らす才人。

「俺だよ。 ホントに忘れちまったのか?」

才人がルイズに確認するように尋ねると、ルイズは野良猫のように唸る。

「お前なぁ……何考えてんだよ……ホントバカって単語は、お前のためにあるようなもんだね」

才人が更に呆れたようにそう言う。

「だ、誰がバカよ! 失礼な奴ね!」

ルイズが叫ぶ。

「勝手に人の記憶を消すなんて……何考えてんの?」

怒りと悲しさで、才人は首を振る。

「そうかそうか。 そんなに忘れたかったのかよ! そりゃ俺はお前を怒らせるようなことばっかりしたかもしんないけど、色々大変だったし、頑張ったんだぞ!」

才人は、怒りに任せて怒鳴りつける。

「私を怒らせるようなことしたですってぇ~~~~~~~~!」

ルイズが怒鳴る。

そんな2人のやり取りを見ていたギーシュが、首を振りながら才人に言った。

「違うよ」

「何が違うんだよ」

「君は本当に女心が分かってないな! 君の存在はそれだけ、ルイズの中で大きかったってことさ。 会いたいのに会えない。 生きているのに会えない。 そんな状態に耐えられないほどにね」

ギーシュのその言葉を聞いて、才人はハッとなった。

そして、ルイズへの愛しい気持ちが湧き上がってくる。

才人は、ルイズを見つめる。

戦車の上から飛び降りると、ルイズの手を握った。

「な、なによ……」

ルイズは顔を背ける。

「俺だ。 平賀 才人だ。 またの名を、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。 お前の使い魔だった。 忘れちまったのか? ホントに?」

「サイト……使い魔?」

先程、思わず口にした名前なのだが、今のルイズにとって、才人は本当に見覚えが無いのだ。

「なあルイズ。 聞いてくれ。 お前はティファニアの“忘却”で、俺の記憶を消しちゃったんだよ!」

「はぁ? 何で私がそんなことしなくちゃいけないのよ!?」

「そこはそれ、愛って言うんですか。 それほどまでにお前は俺のことを………その、歯が浮く言い方で言えば、“愛していた”と。 そういう事で……」

その言葉を聞くと、ルイズの目が吊り上る。

「愛していた? 誰が誰を?」

「お前が俺を」

そう言って才人が頷いた瞬間、股間が蹴り上げられ、才人は地面に崩れ落ちる。

「もう一回尋ねるわね。 誰が誰を?」

才人は痛む股間を押さえながら、

「皆! このおとぼけさんに言ってやってよ! この桃髪万年春少女が、どんだけ俺を愛していたかを!」

才人が必死にそう叫ぶ。

すると、マリコルヌがちょこちょこと駆け寄り、ルイズに耳打ちする。

「コイツ、夢見てんすよ」

周りの少年達がマリコルヌを押さえる。

「おい! ぽっちゃりぃ!」

「いや、ついネ。 仲間は多い方がいいしネ」

ギーシュが頭を掻きながら、ルイズに言う。

「まー、なんだ。 確かにサイトの言うとおりだな。 愛していたかどうかはともかく、君が魔法で彼の記憶を消してしまったのはホントだ」

隊員達も頷く。

すると、ルイズは、わかったわ、と頷いた。

「やっと信じやがったか……ほんと疑り深い女……」

「でも! 私がコイツを愛していたなんて大嘘だわ!」

ルイズが叫ぶ。

「ま、確かにそこは正直わからんな」

その言葉に、ギーシュが納得するように頷く。

「ギーシュ!」

才人は思わず叫ぶ。

「だってしょうがないだろ。 ホントに愛しているかどうかなんて、態度だけでわかるもんか」

ギーシュがそう言うと、続けてルイズが口を開く。

「だいたいねえ! はっきり言わせて貰うけど、あんたなんてぜんっぜん好みじゃないの!」

ルイズは、才人にそう言い放つ。

「そ、そんなぁ………」

才人はショックを受けた。

「うわあ、これはキツイね」

ギムリが言った。

「ア、 アリじゃないの?」

何故かマリコルヌは呼吸を荒くする。

「あんたは確かに、私の使い魔だったのかもしれない。 そして、さっき助けてくれた事についてはお礼を言うわ。 でもね……愛していたとか寝言言わないで! 私は『アクイレイアの聖女』よ! 聖なる乙女なのよ! 私の愛はハルケギニアとブリミル教徒に向けられるものであって、あんたみたいな………」

ルイズは、才人に指を突きつけ、

「オモロ顔に向けられていいもんじゃないのよ!」

そう言い放った。

「流石にこれは………立ち直れないね」

レイナールが切ない声で言った。

ギーシュは、才人に同情して涙を流す。

「………よっこらせっと」

才人はゆっくりと立ち上がる。

「いいこと? わかったら、さっさと敵を追撃しなさい。 ガリアの異端どもを残らず叩き潰すのよ。 ほら! 私の使い魔なんでしょ! さっさと仕事をする!」

ルイズは、才人を戦わせようと色々と言ってきた。

「オモロ顔か……ま、そうかもしんないけどな。 でもなルイズ。 お前はそのオモロ顔に何したか知ってるのか?」

「は? ほら! 急ぎなさいよ! 今は聖戦なのよ!」

「聖戦がどーした。 お前らの神なんて糞くらえだ」

「罰当たりな事言わないで!」

ルイズは才人の頬を叩こうとしたが、その手が才人に握られる。

そして、才人がルイズの今までの恥ずかしい出来事を暴露し始めた。

今のルイズは、才人の言う事が信じられず、喚き散らす。

だが、その瞬間、才人は衝動的にルイズに口付けた。

そして、唇を離した時、

「サイト!」

ルイズが才人の名を呼んだ。

ルイズに記憶が戻ったのだ。

「思い出したか………良かった」

「ど、ど、どどど………」

ルイズはそう口にしながら目に涙を浮かべる。

「ど?」

才人がそう尋ねると、

「どうして帰らないのよ~~~~~~~!!!」

そう叫びながら、、ぽかぽかとルイズは才人の胸を叩く。

「どうしてもこうしてもないだろうが。 お前がいるからに決まってんだろ」

その一言で、思わずルイズの頬が崩れ、自分から才人にキスをしようとした。

が、皆が見ていることに気付き、才人を突き飛ばした。

「ちょっと! 戦の最中だってのに! 何を考えているのかしら!」

「お前がしてきたんだろ! というか勝手に人を返そうとしてんじゃねえよ! 拓也も見つかってないってのに! ノコノコ自分1人で帰れるか! 第一、自分の幸せは自分で決める。 そして、今の俺の幸せは、多分ここにあると思うんだよ………」

才人がそう呟くと、2人はひし、と抱き合った。




シェフィールドは狙っていた。

才人達に隙が出来るときを。

シェフィールドの予想では、仲間との合流時に隙が出来ると予想しており、そして、その予想は的中した。

動くならば今。

「レナモン、あのチビ竜は頼んだよ」

「ああ」

シェフィールドがレナモンにそう言うと、レナモンは行動を開始する為に姿を消す。

「さあ、覚悟しなガンダールヴ!」




崖の上に3体のヨルムンガンドが現れる。

影が被ってきたので、才人達も早めにヨルムンガンドの存在に気付く事が出来た。

「ヨルムンガンド! まだ居たのか!」

才人は叫ぶが、その表情に焦りは無い。

なぜなら、最高の相棒がすぐ傍に居るのだ。

恐れるものは何もない。

「へっ、今更出てきても無駄だぜ。 こっちにはギルモンが居るんだ。 木偶人形に負けるかよ!」

才人は、ギルモンに向き直る。

「いくぜ、ギルモン!」

「おーっ!」

才人の言葉にギルモンが応える。

そして、才人はデジヴァイスを取り出し、デュークモンに進化するために、ギルモンに向けようとした。

だがその瞬間、

『させないよ! レナモン!』

シェフィールドの声が響き、気配無く近付いてきたレナモンがギルモンを蹴り飛ばす。

「うわっ!?」

ギルモンは、戦車から少しはなれた所に転がる。

「ギルモン!」

才人は駆け寄ろうとしたが、

『その一瞬が命取りだ! 潰れちまいな! ガンダールヴ!!』

シェフィールドの声がそう響くと同時に、3体のヨルムンガンドの内の2体が両手を組む。

そして、先程フネを墜落させた時と同じように残った1体が、その組んだ腕に足を乗せ、空高く跳び上がる。

上空100m近くまで浮き上がったヨルムンガンドは、重力に引かれて落ちて来る。

しかも、広範囲を潰せるように、身体を横向きにし、両手足を広げている。

一言で言えば、フライングボディプレスなのだが、全長が25メイルもあるヨルムンガンドが繰り出すそれは、シャレにならない。

重さで言えば、数十トンはあるだろう巨体が、100m近い高さから垂直落下してくるのだ。

いくら戦車といえど、耐え切れないだろう。

「くっ………! 畜生!」

才人はどんどん近付いてくるヨルムンガンドを見上げながら、そう叫ぶ。

余りの出来事に、全員が動けない。

才人ならば、1人だけガンダールヴの力で逃げ切る事も可能だが、仲間を見捨てて自分だけ助かる道を選べる筈もない。

『勝った!』

シェフィールドが勝利を確信し、そう叫んだ。

才人達は、成す統べなくヨルムンガンドの下敷きになるかと思われた。

だが、その時、

――ドゴォォォォォォォォン

垂直落下していたヨルムンガンドが、突如、進行方向を直角に変え、虎街道入り口の崖にめり込む。

いや、正確には超高速で飛んできた何かにぶち当たり、吹き飛ばされたのだ。

『「「「「「「なっ!?」」」」」」』

シェフィールドを含め、その場の全員が驚く。

才人達が、ヨルムンガンドが落下してきていた空を見上げると、そこには青い狼のサイボーグ型デジモン、マグナガルルモンが滞空していた。

マグナガルルモンは、才人達を見下ろす。

「な、何が起こったんだい?」

ギーシュが、助かった事に安堵しつつ、そう呟く。

「俺達を、助けてくれたのか?」

才人はそう言いつつ、デジヴァイスを見る。

「マグナガルルモン。 ハイブリット体(超越形態)。 サイボーグ型。 必殺技は、マシンガンデストロイとスターライトベロシティ………ハイブリット体……ハイブリット体っていやぁ、拓也が進化した奴と同じ………」

才人がそう呟いた瞬間、

「炎龍撃!!」

その言葉と共に、才人達の後方より閃光が走り、崖にめり込んだヨルムンガンドに直撃。

――ドゴォォォン!!

ヨルムンガンドは、跡形もなく消滅する。

それと同時に崖は崩れ、崖の上にいた2体のヨルムンガンドも落下する。

才人達は後ろを振り向く。

そこには、才人達の記憶にあるカイゼルグレイモンとは違うが、龍魂剣を構え、必殺技を放った体勢のカイゼルグレイモンが居た。

「あれって……ちょっと違うけどカイゼルグレイモン?」

ルイズがそう口にする。

才人が、再びデジヴァイスを確認する。

「カイゼルグレイモン。 ハイブリット体(超越形態)。 竜戦士型。 必殺技は、炎龍撃と九頭竜陣………カイゼルグレイモンには間違いない……ってことは!」

才人が情報を確認して声を上げた時、カイゼルグレイモンとマグナガルルモンが才人達の近くに降り立つ。

「大丈夫だったか?」

カイゼルグレイモンがそう尋ねる。

「ああ………拓也……なんだな?」

才人は頷きつつ、確信を持った言葉で問いかける。

「ああ」

カイゼルグレイモンも頷く。

「無事だったんだな! 良かった!」

才人は嬉しそうな顔をして声を上げる。

その時、

「きゅい~~!」

遅れて飛んできたシルフィードの鳴き声に皆が気付き、振り返る。

「シルフィード!」

ルイズが叫んだ。

「皆!」

シルフィードの背中から、顔を覗かせるアイナとシャルロット。

「アイナ! タバサも!」

ルイズが続けてそう叫ぶと、戦車の運転席から、キュルケとコルベールが慌てて顔を出す。

「アイナとシャルロット!?」

「本当かね!?」

2人がそう叫ぶと、シルフィードは戦車の上空に到着する。

すると、アイナとシャルロットはレビテーションを使って先に下りてきた。

「皆! 久しぶり!」

「ただいま」

アイナとシャルロットがそう声を発する。

「アイナ!」

「シャルロット!」

ルイズがアイナを、キュルケがシャルロットを抱きしめる。

「ミス・シンフォニア……ミス・タバサ………よく無事で………」

コルベールは、顔に手を当てながら涙を浮かべる。

少しして落ち着いたルイズとキュルケは、2人から離れる。

そこで気付いた。

「そういえば2人とも、その格好は……?」

「変わった服装だけど……でも、似合ってるわね」

ルイズとキュルケが2人の服装を見て不思議そうな声を漏らす。

「あ、これは……」

アイナがそう言おうとした所で、

「おい拓也。 あの2人の格好、如何見てもワンピースとゴスロリなんだけど、どういう事だ?」

才人がカイゼルグレイモンに尋ねる。

「……………母さんの趣味だ」

少しの沈黙の後そう答える。

「母さんの趣味って………まさか!?」

カイゼルグレイモンの言葉に、才人が驚愕する。

「パラレルモンに飛ばされた先が地球だったんだ。 まあ、色々あって、またここに戻ってくる事になったんだが……」

カイゼルグレイモンはそう答える。

「………そうか………なあ拓也」

カイゼルグレイモンの言葉を聞くと、才人はふと尋ねる。

「俺の母さんと父さんは……元気だったか……?」

才人は、少し寂しげに問いかけた。

「サイト………」

ルイズは、罪悪感を感じながら才人の名を呟いた。

ルイズにとって、才人をこの世界に残す切っ掛けになったのは自分なのだ。

「それは、自分の目で確かめてくれ」

カイゼルグレイモンはそう言った。

「そうか」

才人は、これが拓也なりの気の使い方なんだろうと思い、それ以上聞かなかった。

その時、シルフィードが地面に着地する。

「まあ! 帰ったら帰ったで、いきなり父ちゃんに『アレ』を喰らうかも知れないからな! とりあえず気にしないでおこう!」

才人は、沈んだ気持ちを振り払うように、そう声を上げる。

その瞬間、カイゼルグレイモンは、冷や汗を流す。

その時、

「ほう………親の気持ちも知らないでそんな事を堂々と言うとはな………」

そんな言葉が聞こえた。

「へっ?」

才人は、懐かしい聞き覚えのある声に、素っ頓狂な声を漏らす。

「ならば、お望み通り喰らわせてやろう………」

シルフィードの後ろから現れる才助。

「と、父ちゃん!」

才人にとって、約一年ぶりの再会なのだが、そんな雰囲気ではなかった。

思わず逃げようとする才人の首根っこを才助は掴む。

「と、父ちゃん! 『アレ』だけはカンベン!」

才人は必死にそう叫ぶ。

だが、才助は、

「遠慮するな。 ならば行くぞ!」

いい笑顔で才人を持ち上げる。

「約一年ぶりの……愛のっ!」

才人を仰向けにして両肩で担ぎ、両手は才人の首と膝辺りを押さえる。

「バックブリーカーーーーーーッ!!」

そして、才人の背骨を逆方向に折り曲げる。

――バキ メキ ゴキ ボキ!!

才人の背中が軋みを上げる。

「ぎゃぁあああああああああっ!! 父ちゃんギブギブーーーッ!!」

才人は悲鳴を上げた。

その様子を、呆然と見つめる一同。

「こ、こんな躾の仕方、初めて見た……」

ギーシュがそう呟いた。

暫く才人の悲鳴が響き、やっとの事で解放された才人は、力尽きたように地面に寝そべっていた。

そして、

「久しぶりだな才人。 無事でなによりだ」

才助は才人に背を向ける。

その目には涙が浮かんでいた。

「父ちゃん……」

才人はゆっくりと身体を起こす。

「才人……」

その才人の前に人美が姿を現す。

「母さん……」

母の姿に、才人は思わず涙した。

「才人、元気そうで良かったわ」

人美はそう言って才人を抱きしめる。

「母さんっ!」

才人も涙を流しつつ、人美を抱きしめた。

その時、瓦礫に埋もれていたヨルムンガンドが立ち上がる。

その時の音で、抱き合っていた才人と人美は驚いて離れると、立ち上がったヨルムンガンドを確認した。

更には、虎街道の奥から、新たに3体のヨルムンガンドが現れる。

合計5体のヨルムンガンドが才人達に迫ってきた。

「ったく、相変わらず空気を読まない奴だな。 ミョズニトニルンは」

才人がやれやれといった感じで呟く。

「母さん、ちょっと待ってて。 すぐに終わらせるから」

才人は、笑みを浮かべながら人美にそう言う。

自信たっぷりの才人の姿に、

「ええ。 気をつけてね」

人美はそう言った。

「ギルモン!」

才人はギルモンを呼ぶ。

「うん!」

ギルモンが駆け寄ってくる。

ギルモンの姿に、少し驚く地球組。

「さ、才人兄ちゃんもパートナーデジモンがいたの!?」

信也が驚いた声を上げる。

「お、信也もいたのか。 って、おじさんとおばさんも」

神原一家が居る事に漸く気付いた才人。

が、才人は気を取り直し、ヨルムンガンドに向き直る。

その時、

「信也」

カイゼルグレイモンが信也に呼びかける。

「何? 兄ちゃん」

「よく見ておけ。 デジモンとパートナーの行き着く先の一つの姿を」

カイゼルグレイモンがそう言ったとき、

―――MATRIX

   EVOLUTION―――

才人のデジヴァイスに文字が刻まれる。

「マトリックスエボリューション!」

才人がデジヴァイスを自分の胸に当てると、才人の身体がデータ化される。

そして、才人の身体とギルモンの身体が一つになる。

「ギルモン進化!」

ギルモンの身体が分解され、再構成される。

「デュークモン!!」

白銀の鎧を纏った聖騎士が降臨した。

その姿に驚く地球組。

デュークモン、カイゼルグレイモン、マグナガルルモンが並び立つ。

向かってくるヨルムンガンド。

デュークモンは聖槍グラムを構え、カイゼルグレイモンは龍魂剣を展開させ、マグナガルルモンは武装をパージし、身軽になってレーザーソードを両手に持つ。

そして、

「ロイヤルセーバー!!」

デュークモンは、光り輝く槍で突撃し、

「炎龍撃!!」

カイゼルグレイモンは、エネルギー状にした刀身を撃ち出し、

「スターライトベロシティ!!」

マグナガルルモンは、光に包まれ突進する。

一瞬の閃光の後、

――ドゴオォォォォォォォォォォォォォォン!!!

大地を揺るがせるほどの超爆発が起こり、5体のヨルムンガンドは跡形もなく消滅する。

おまけに虎街道の入り口は、両端の崖が綺麗に吹き飛び、巨大なクレーターとなっていた。

「相変わらず凄いわねぇ………」

キュルケがぼやく。

まあ、ロイヤルナイツ級が3体もいるのだ。

この結果も当然だろう。

才人や拓也達を知る水精霊騎士隊の人間からすれば、当然の結果なのだが、ロマリアの人間からすれば、信じられない出来ごとである。

「うぉおおおおおおおっ!! 正に神の鉄槌だ!! ガリアの異端どもに神が鉄槌を下された!!! 見よ!! おごり高ぶるガリアの異端どもは殲滅したぞ!! 始祖の加護は我らにあり!!」

「「「「「「「「「「おおおおおおお~~~~~~~っ!!!」」」」」」」」」」

と、ロマリア軍の将兵達は激を飛ばす。

「あいつら、なんかしたっけ?」

「さあ?」

その様子を見た水精霊騎士達は呆れ返るのだった。





次回予告


聖戦が発動され、本格的な戦争状態になるガリアとロマリア。

だが、思うように進軍は進まず、膠着状態に陥る。

そんな中、始まるリネン川の中洲での決闘。

成り行きで参加する才人と拓也。

次々と勝ち進む2人だが、その時、『アイツ』が現れた!

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第五十八話 復活の好敵手!!

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

第五十七話の完成。

遅れてすいません。

先週は頭痛により筆が思うように進まなかった。

よって、手抜きが目立つ所がちらほら。

出来は、そこそこ?

才人とルイズ……っていうか、ハルケギニアの面々、マジで一年振りの出演です。

いや、長かった。

因みに才助のバックブリーカーの元ネタは武装錬金のブラボーバックブリーカーで思いつきました。

あと、信也のブイモンの進化は今のところインペリアル方面が有力です。

意見がありましたらどうぞ。

では、次も頑張ります。






[4371] 第五十八話
Name: 友◆ed8417f2 ID:315f8cfe
Date: 2011/01/02 19:02


ハルケギニアに戻り、才人たちと共にヨルムンガンドを撃破した拓也達。

その後………



第五十八話 復活の好敵手!!



拓也達が、ヨルムンガンドを倒した後、進化を解いて戦車の所に戻ってくると、ルイズと平賀夫妻が向き合っていた。

「あ、あの………あなた達が、サイトのご両親なんですか?」

ルイズが、おずおずと言い出す。

「ああ。 君がルイズちゃんだね。 話はアイナちゃん達から聞いている」

才助がそう答える。

ルイズは一度俯くと、

「………この度は、お2人の元からご子息であるサイトを連れ去ってしまった事……このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、心よりお詫び申し上げます」

礼儀正しく、そう謝罪をした。

だが、

「ルイズちゃん。 先ほども言ったが、君の事はアイナちゃん達から聞いている。 貴族としてのプライドが高く、素直じゃないが悪い子じゃないと………今の謝罪も本心だろうと私は思う。 でも、私達が聞きたい謝罪は、そのような貴族としての形式に沿ったものじゃない。 アイナちゃんは、神原さん達に会った時、形振り構わず、床に頭を擦り付けてまで本心からの謝罪を行なった…………」

才助はそう言う。

「父ちゃん! ルイズは!」

その言葉に、才人は慌ててルイズを弁護しようとするが、人美に遮られる。

「理由は如何あれ、あなたは私達の元から才人を連れ去った。 突然子供が行方知れずになった親の気持ちがあなたに分かる?」

人美は、ルイズに向かって突きつけるように言葉を放つ。

「……………」

ルイズは俯く。

「別に君にそこまでしろとは言わないが、君自身の謝罪の言葉を、私達は聞きたい」

才助がそう言うと、ルイズは顔を上げる。

その目には、涙が浮かんでいた。

そして、勢い良く頭を下げる。

「あのっ……本当にごめんなさい! もう、なんて言っていいのか………! 本当に……本当にごめんなさい!!」

ルイズのその言葉に、才助は笑みを浮かべると、頭を下げているルイズの頭に手を乗せる。

「その言葉が聞ければ十分だ。 それから、私達からもお礼を言わせてくれ。 才人の面倒を見てくれて、ありがとう」

才助の言葉に、ルイズは驚いた表情で顔を上げる。

ルイズからしてみれば、罵倒され、殴られる事すらも覚悟していた。

それを、逆にお礼を言われるなど思っても見なかったからだ。

ルイズは、何故と言いたげな顔で才助を見上げる。

「これもアイナちゃん達から聞いた事だが、召喚とは相手を指定出来ないそうじゃないか。 それを踏まえて、事故に遭ったと割り切り、君から本心の謝罪があればそれで許すつもりだったよ。 何より、才人が無事だった。 私達は、それ以上何も望まないさ」

才助は、そう笑いかけた。

「な、何て心の広い御方だ………」

ギーシュは、そのやり取りを見て、なにやら感動していた。




その後、一行は報告をする為にアンリエッタの元を訪れる。

アンリエッタは、戻ってきた拓也、アイナ、シャルロットと、神原一家と平賀夫妻の姿に驚く。

だが、ルイズとアイナから経緯を聞くと、アンリエッタは宏明達に、今まで拓也と才人を何度も戦いに巻き込んだ事や、国を救ってくれた英雄であるという事を説明し、しっかりとした謝罪まで行なった。

更に、宏明達の身柄の安全と生活に必要な援助も約束する。

そして、アンリエッタは聖戦を止める為に一度トリステインへと帰還するのだった。

「わたくしが不在の間、くれぐれも自重してくださいね」と釘をさして。

だが、アンリエッタの気遣いも空しく、派手な出来事が数日後に起きてしまうのである。






虎街道の戦いから2週間以上が経ち、カルカソンヌの北方に流れるリネン川を挟んで、ロマリアとガリアの両軍が対峙して3日が過ぎた。

これまでに、ルイズが才人の記憶……というより妄想で、少々のトラブルが起こったが、特に問題なくここまで侵攻することが出来た。

だが、このリネン川で膠着状態に陥ってしまい、睨み合いが続く。

その両軍の間で飛び交うのは互いを罵倒し合う言葉。

当然、貴族には沸点が低い奴が多いので、それで始まるのは中州での一騎討ち。

勝った者が自軍の軍旗を立て、自軍の士気が上がり、負けた方は悔しがり、すぐに次の挑戦者が現れるといった具合だった。

その様子を呆れた様子で見ていた拓也と才人、輝二を含めた水精霊騎士隊。

因みに、神原一家と平賀夫妻は、カルカソンヌの下方にある丘でアイナやルイズ達と共にこの場所の様子を窺っている。

信也のチビモンもブイモンに進化したので、アーマー体ならそんじょそこらの貴族には負けないだろう。

更に、スクウェアであるアイナとシャルロットもいるので、もしロマリアがおかしな行動に出たり、デジモンが急に現れたりしても、拓也達が急行するだけの時間は稼げるだろうという考えで、拓也達は傍を離れている。

そして今現在、中州を占領しているのはガリアの貴族である。

すると、才人が気付いた。

「あれ? ギーシュ何処行った?」

水精霊騎士隊の隊長であるギーシュの姿が見えない。

マリコルヌが指さした。

ギーシュが川縁に立って、小船で中州に向かおうとしている。

「あのバカ」

才人が思わず漏らす。

「ホントに目立ちたがり屋だなあ。我らの隊長殿は………というか、飲んでるな、ありゃ」

ギムリも切ない声で言った。

「向こうの相手は、こっちの貴族を3人も抜いたんだぜ」

「あれは確か、西百合花壇騎士、ソワッソン男爵だ。 豪傑で有名な貴族じゃないか。 殺されるぞ」

中州に立つガリアの貴族を見て、レイナールが呟く。

それを聞くと、才人は思わず駆け出し、ギルモンが続く。

「あっ、才人さん!」

拓也は一旦輝二に振り返ると、

「すまん輝二! 何かあったら皆を頼む!」

そう叫んだ。

「わかった。 行って来い」

輝二は頷きつつそう答える。

拓也はそれを聞くと、才人の後を追った。

才人は川に入り込み、ギーシュの小船に乗り込む。

続けてギルモンが飛び込むように乗って来たので、小船は激しく揺れ、船頭は慌ててバランスを取る。

更には、

「このアホギーシュ!!」

フライで飛んできた拓也が、その勢いのまま、ギーシュの顔面に飛び蹴りをかます。

「ぷぎゃ!?」

ギーシュはそれで倒れ、小船は更に激しくゆれ、船頭は船がひっくり返らないように必死である。

ギーシュは、蹴られた事を気に留める様子もなくむくりと起き上がると、

「やぁサイトにタクヤ。 助太刀してくれるのか」

そんな事を言う始末。

見れば、ギーシュの左手にはワインのビンが握られており、その顔は真っ赤っか。

何処から如何見ても酔っ払っている。

「何やってるんだよ! 『わたくしが不在の間、くれぐれも自重してくだいね』って姫さまから言われてるだろ!!」

才人は思わず怒鳴る。

すると、ギーシュは身もだえして、

「そうだな。 そうかもしれん………でも、見ろサイト。 ここに集まったロマリア、ガリア両軍の姿を! ここで一発カッコいい所を見せてみろ! 僕と水精霊騎士隊の名前は、子々孫々まで語り継がれるようになるぜ!」

そんな事を言う。

「死んだら元も子もねえだろうが!」

「それもそうだが。 ま、君達も来てくれたし、そうそうまずいことにはなるまいよ」

ギーシュは、特に心配ないだろうという口調でそんな事を言った。

「才人さん。 マジでほっときましょうか?」

拓也が、割と本気で尋ねる。

「そういうわけにもいかねえだろ」

才人は、頭を抱えつつそう呟いた。

小船の上で、そんなやり取りをしていると、中州の貴族から罵声が飛んだ。

「なんだ? 勝てぬからといって、今度は3人か? 使い魔まで連れ出しおって。 流石は臆病者のロマリア人だけのことはあるな!」

それを聞くとギーシュは、不敵な笑みを浮かべて叫ぶ。

「僕達はトリステイン人だ! なに、お前達無礼なガリア人に、多少の礼儀を教えてやろうと思ってね」

「俺らは違うけどな」

才人はそう言うが、勿論誰も聞いてはいない。

「トリステイン人だと? ロマリアの腰巾着め! よおしかかって来い! ガリア花壇騎士、ピエール・フラマンジュ・ド・ソワッソンが相手をしてやる! 誰が先だ? それとも3人いっぺんか!? どちらでもいいぞ」

それを聞くと、ギーシュは重々しく才人に向かって頷いた。

「副隊長。 出番だ」

「俺かよ! かっこつけたいんじゃなかったのか!?」

ギーシュの変わり身に、思わず突っ込む才人。

「すまん。正直飲み過ぎたようだ」

ギーシュはそう言うと、臆面もなくゲーゲーとやり始めた。

双方から、笑いとヤジが飛ぶ。

才人は、仕方なく1歩踏み出した。

「名乗れ」

相手がそう言う。

「トリステイン王国水精霊騎士隊、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ」

才人が名乗りを上げると、相手の顔が驚愕に染まる。

「アルビオンで7万を止めたという、あのヒラガか?」

「いかにも」

相手の言葉に才人は頷く。

すると、相手はギルモンと拓也に視線を移す。

「噂では、赤い竜と赤い亜人が共にいたと言う………そして、赤い亜人の正体は、10歳程の子供………たしかカンバラだと聞いたが…………」

「………俺の事まで噂になってるのかよ」

相手の言葉を聞き、拓也は思わずそう漏らす。

拓也は、進化が解けたときに近くにいたのは少数の兵だったので、自分の事まで噂になっているとは思っても見なかった。

拓也のその言葉で、確信を得た相手は、自軍に振り返ると、

「おーい! 諸君! 聞いてくれ! この方達はあの、“アルビオンの英雄”らしいぞ!」

そう叫ぶ。

すると、ガリア軍から猛烈な歓声が飛んだ。

どうやら、拓也と才人の名前は、ガリアでも知れ渡っているらしい。

敵味方問わず、英雄には礼が尽くされるものだ。

すると、ガリア軍の方で何やら騒動がおき、少しすると、もう1隻の小船が中州に向かって進んできた。

その船には、ガリアの貴族が乗っている。

「我が名はジョット・フレイ・ド・サンド。 かのアルビオンの英雄カンバラ殿とお相手できるとは光栄至極。 子供とて侮りはせぬ。 いざ!」

と、いきなり名乗りを上げて、拓也と対峙するガリア貴族。

「俺まで強制参加かよ………」

拓也は思わずうな垂れてそう呟くが、言って聞きそうな相手ではないので、仕方無しに覇竜刀を抜いて、地下水を持つ。

才人も、ソワッソン男爵と戦い始める。

拓也が構えると、拓也の相手はファイヤーボールを放ってきた。

拓也は覇竜刀で受け、ファイヤーボールを跳ね返す。

「ぬおっ!?」

相手は驚きつつも、咄嗟に避ける。

「エア・ハンマー!」

拓也はエア・ハンマーを唱え、相手の足元に打ち込む。

砂煙が舞い、相手の視界を塞ぐ。

そのまま、拓也は接近し、刃を返した覇竜刀を横薙ぎに振るう。

が、それより一瞬早く相手がフライを唱えて飛び退く。

「チッ!」

拓也は舌打ちして追撃をかけようとした。

だが、

「くっ!?」

覇竜刀が突如として重く感じ、見てみれば、地面が盛り上がり、覇竜刀を包んでいた。

「もらった!」

相手が杖にブレイドを纏わせ、斬りかかって来る。

拓也は覇竜刀を抜こうとするが、相手の方が一瞬早い。

そのまま、相手の杖は振り下ろされた。

「「…………………………」」

一瞬の静寂の後、

「がはっ!」

肺の中の空気を吐き出し、倒れたのは相手の貴族であった。

見れば、拓也は覇竜刀を手放し、右手で相手にボディブローを打ち込んでいた。

相手の敗因は、拓也の攻撃手段が地下水による魔法と、覇竜刀による剣技だと決め付けていた事だ。

だが、拓也は寧ろ、剣技よりも格闘術のほうが経験値が高い。

アグニモン、ヴリトラモン、アルダモン。

基本的に、これらは炎と格闘を主として戦う。

カイゼルグレイモンは大剣を使うが、進化頻度は前の3つの方が高い。

故に、拓也は格闘術のほうが得意なのだ。

更にはスピリットを同調させている事により、その拳は相手を悶絶させるには十分すぎるほどの威力を持っている。

相手は、白目をむいて気絶している。

その時、銃声が響き、才人が相手をしていたソワッソン男爵の杖が粉々に砕け散った。

才人が銃で相手の杖を撃ち抜いたのだ。

相手はそんな精度の銃に驚き、膝をつく。

ロマリア軍から大きな歓声が沸き小船に乗り込んだ兵隊が駆け寄り、才人に軍旗を手渡す。

「じゃあ、これはここに立てるね。 とりあえず、俺らの勝ちと。 あなた達は旗を持ち帰ってください。 お疲れ様でした」

呆然と膝をついているソワッソン男爵に才人は告げた。

しかし、そんなソワッソン男爵にギーシュが駆け寄り、いきなり縛り始め、同じように気絶している拓也の相手だった貴族も縛る。

「な、何してんだお前?」

そんなギーシュに才人が尋ねる。

「おいおい! 彼らは君達の捕虜だぜ! 大人しく帰すバカが何処にいる!」

ギーシュはソワッソン男爵といきなり交渉を始める。

「2人で4千!」

「高い。 2千だ」

「3千」

「……く。 足元を見おって。 よかろう」

ソワッソン男爵は、川岸に向かって指を突き出した。

すると、袋を積んだ小船がやってきて、そこから下りた従者風の男が恐々と才人と拓也の前に皮袋を3つずつ置いた。

それを確認すると、ギーシュは2人を解放した。

「なんじゃこりゃ?」

才人はギーシュに尋ねる。

「何って、身代金に決まってるじゃないか」

「身代金?」

「ああ。 負けて捕虜に取られたんだ。 釈放して欲しかったら身代金を払うのは当然だろう」

ギーシュは嬉しそうに才人の肩を叩いた。

皮袋の中には、金貨がギッシリと詰まっている。

「じゃあ儲かったし帰ろうぜ。 アホらしくなった」

才人がウンザリとそう呟き、拓也も同意するように頷くが、

「おいおい、そういうわけには行かないよ」

ギーシュがガリア側の川岸を指差した。

ガリアの将軍が、

「あいつらを倒せ! 誰でもいい! 倒した奴には1人三千エキューだ!」

興奮してそう叫ぶ。

貴族達が、我も我もと群がり、小船の奪い合いを始めていた。

「おやおや、男爵に伯爵………ありゃ、コンヴァレ侯爵のお坊ちゃんだ! 君達、上手くやれば一晩で城が建つぜ」




ギーシュの言葉通り、金と名声に目が眩んだ貴族の相手を、拓也と才人は次から次へとすることになった。

とは言うものの、腕に覚えのある相手は少ないらしく、拓也の拳や蹴りを喰らって気絶したり、才人に剣で杖を断ち切られたり、銃で粉々にされたりして次々と尻尾を巻いて帰っていく。

既に拓也も才人も10人以上の貴族を抜き、合計で3万エキュー以上も稼いでいる。

水精霊騎士隊のメンバーは、金儲けの為にそれぞれ仕事を始める始末。

輝二はその様子を呆れながら見ていた。

だが、体力的にも限界が近付き、現在は食事休憩である。

才人は、もうやらないと言い張っていたが、ギーシュに何やらルイズを金で懐柔する方法をチラつかされ、結局は口車に乗ってしまい、後一回の決闘を決める。

その様子を見ていた拓也は、相変わらず流されやすいですね、と内心呟くのだった。

ギーシュが最後の一回の決闘をガリア側に伝える。

ガリアの貴族達は最後の2人を決めるのに揉め始めた。

やがて、最後の2人が決まったようで、現れたのは、黒い鉄仮面を被った長身の貴族と、これまた貴族らしい小太りした貴族。

水精霊騎士隊のメンバーは、片方は当たりだけど、片方は外れだな、等と口にしている。

そして、鉄仮面を被った貴族は才人と、小太りした貴族は拓也と対峙する。

決闘が始まった瞬間、小太りした貴族がエア・ハンマーを放ってくる。

拓也はそれを跳躍して避け、そのまま空中で足を振り上げると、

「おらっ!」

相手の脳天に踵落としを放った。

「ぷげっ!?」

小太りした貴族は、変な悲鳴を上げて気絶する。

「あら?」

余りの手ごたえの無さに、拓也は声を漏らした。

ふと横を見ると、才人と相手の貴族が鍔迫り合いを行なっている。

拓也には僅かに聞こえたが、何やら小声で話し合っているようだ。

すると、一旦互いを弾き合い。

もう一度ぶつかり合い、再び鍔迫り合いの状態になる。

そして、もう一言二言言葉を交わすと、才人が相手の杖を弾き飛ばした。

「参った!」

相手の男は膝を付く。

ギーシュが身代金の交渉に入ろうとするが、才人がもう終わったとギーシュを制し、男の従者が才人に近寄り、皮袋を置いた。

ギーシュが中身を確認すると、銅貨だけだったので、ギーシュは思わず叫ぶが、才人が強引にギーシュを黙らせ、才人はその鉄仮面の男に騎士の礼を取る。

相手も、ガリア騎士の礼を返し、小船に乗って去っていく。

因みに、拓也の相手からはたんまりと身代金をふんだくったギーシュであった。




やがて、水精霊騎士隊が用意した机などを片付け、川岸に戻ろうとした時、

――ザワッ

空気が重くなる感覚がした。

瞬間、小船の方を向いていた拓也と才人が、バッと後ろを振り返る。

才人も、この空気の変化を敏感に感じ取ったようだ。

「な、何だ?」

才人が思わず漏らす。

「この押しつぶされるような空気は………」

拓也も、凄まじいプレッシャーを感じている。

2人は、空を見上げる。

「おや? 如何したんだい2人とも」

この空気の変化に気付かないギーシュ達が怪訝な表情で尋ねる。

「……………来る」

拓也が呟く。

その瞬間、空の彼方から黒い影が急降下してくる。

その影は、拓也達がいる中州にものすごい勢いで着地し、砂煙を巻き上げる。

「「ぐっ!」」

「「「「「うわぁ!?」」」」」

拓也と才人は予め予想していたのでその衝撃に耐えるが、水精霊騎士隊は、突然の出来事に悲鳴を上げる。

すると、

「やっと見つけたぞ!!」

砂煙の中から声がする。

「この声はっ!?」

拓也は聞き覚えのある声に驚愕する。

砂煙が晴れていくと、そこには漆黒の鎧を纏った竜人。

「まさか、ブラックウォーグレイモン!? でも、その姿は!?」

だが、その姿は拓也の記憶にあるものとは違っていた。

以前のブラックウォーグレイモンの鎧は、全体に丸みを帯びていて、イメージ的にも鎧という感じだった。

だが、現在のブラックウォーグレイモンは、全体に角張っており、イメージ的にも鎧というより、装甲と表現したほうがピッタリの姿。

更に、感じる威圧感は、以前のブラックウォーグレイモンを遥かに上回る。

そして、その変化は、拓也にも覚えがある変化だった。

「もしかして……Ⅹモード!?」

拓也は思い当たる言葉を口にする。

ブラックウォーグレイモンは、拓也を見据える。

「やっと見つけたぞ。 貴様を……俺の“敵”を!」

ブラックウォーグレイモンはそう言った。

「ブラックウォーグレイモン………生きていたのか」

拓也もそう言った。

「俺はあの時、お前の炎に飲まれて消える筈だった………」

ブラックウォーグレイモンが話し出す。

拓也は、それを黙って聞く。

「俺は、強き者との戦いを望み、俺より強き者に倒されるなら本望だと思っていた………だが、あの炎の中、消滅していく自分の身体を見て、俺は思った。 負けたままで死ねないと…………こんな悔しい気持ちのままでは消えたくはないと!………生きたいと!! 強く! 強く思った!!」

ブラックウォーグレイモンの言葉に、水精霊騎士隊のメンバーは尻込みしてしまう。

「そして気付いた時、俺はこの姿となっていた。 その時俺は気付いた。 死を覚悟した所で本当の力は手に入らない! 本当の力とは、生きようとする時にこそ手に入るものだと!! そして、俺は貴様を探し続けた! 貴様を超える事で、俺は昔の俺を本当に超えることが出来る!!」

拓也は、その言葉を聞くと、自然と笑みを浮かべる。

「へっ! 面白い! 相手してやるぜ!!」

拓也はデジヴァイスを構える。

「ハイパースピリット! エボリューション!! うぉおおおおおおおおおおおっ!!」

拓也は5種のスピリットで進化する。

現れるのは焔の鎧を纏いし紅蓮の竜戦士。

「カイゼルグレイモン!!」

カイゼルグレイモンは、ブラックウォーグレイモンと相対する。

「フッ、貴様も新たな進化を手に入れていたか………望むところだ!」

ブラックウォーグレイモンは嬉しそうな声を上げる。

「才人、輝二。 この戦い、かなり派手になりそうだ。 みんなのカバーを頼む」

カイゼルグレイモンは、才人と輝二にそう継げる。

2人は頷き、デュークモンとマグナガルルモンに進化すると、ガリア側とロマリア側の前に陣取る。

水精霊騎士隊は、既に退避済みである。

「往くぞ! カイゼルグレイモン!!」

ブラックウォーグレイモンがそう叫んで突撃し、

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

カイゼルグレイモンも、龍魂剣を振りかぶって迎え撃つ。

――ドゴォオオオオオオオオオオオオオオン!!

激突した瞬間、まるで爆発のような衝撃波が2体を中心に起こる。

その衝撃で、中州は陥没し、川は、下流側は水が全て吹き飛び、上流側は川が逆流している。

横方向の水は上空に舞い上げられ、両軍に滝のように降りかかる。

しかも、その衝撃はリネン川の川岸の両軍にすら襲いかかろうとしていた。

だが、

「ロイヤルセーバー!!」

「マシンガンデストロイ!!」

デュークモンとマグナガルルモンが、必殺技でその衝撃波を相殺する。

「おおおおおおおおおおっ!!」

「はぁああああああああっ!!」

――ガキィ!! ギィン!! ガキィン!!

ドラモンキラーと龍魂剣が何度もぶつかり合う。

その度にシャレにならない衝撃波が両軍を襲うので、睨み合いどころではない。

暫く打ち合っていると、上流へ逆流していた川が、鉄砲水のように一気に流れてきた。

だが、打ち合う2体の周りには、衝撃波によって水が避けるように流れていく。

ブラックウォーグレイモンは、一旦間合いを取ると、両手を上に掲げる。

すると、川の水がブラックウォーグレイモンの頭上へ集まっていく。

それに対し、カイゼルグレイモンは、龍魂剣を展開し、ブラックウォーグレイモンへ向ける。

そして、

「ポセイドンフォーーーース!!!」

ブラックウォーグレイモンは、頭上に集めた超圧縮水弾を投げつけ、

「炎龍撃!!!」

カイゼルグレイモンはエネルギー化した刀身を撃ち出す。

両者の必殺技は、お互いの中心で激突し、

――ズドゴォオオオオオオオオオオオン!!!

大爆発を起こし、水弾が弾け、両者、両軍に降り注ぐ。

2体は、お互いに、にらみ合っていたが、

「やめだ」

ブラックウォーグレイモンはそう言って突如構えを解いた。

「何っ!?」

カイゼルグレイモンは驚愕する。

「どうやら貴様は、周りが気になって戦いに完全に集中できないようだな。 そんな貴様に勝っても嬉しくはない………それも、貴様の強さの1つなのかもしれんがな。 この勝負預けるぞ」

ブラックウォーグレイモンはそう言うと、ガリア側に向かって飛び去る。

「ブラックウォーグレイモン………」

カイゼルグレイモンは、好敵手の復活に、複雑な想いを抱くのだった。






次回予告


鉄仮面の騎士、カステルモールの手紙を受け取るシャルロット。

だが、ロマリアにも不穏な動きが見られる。

ロマリアの非情な策がシャルロットに迫るが………

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第五十九話 シャルロットの覚悟

今、異世界の物語が進化する。






オリジナル(つーわけでもない無茶設定な)デジモン



名前:真・ブラックウォーグレイモン(Ⅹ)
属性:ワクチン種
世代:究極体
種族:竜人型
必殺技:ガイアフォースZERO、ガイアフォース、ポセイドンフォース




ブラックウォーグレイモンが、生きたいという純粋な思いでX進化した姿。

色こそ黒いがワクチン種に変化している。

正と負の両方の力を有している為、戦闘力は通常のウォーグレイモンXやブラックウォーグレイモンXを凌ぎロイヤルナイツと同等以上の力を秘めている。

尚、Xモードで復活した時、完全にデジモンとして再構成されたため、存在するだけで空間を歪ませる事は無くなった。




あとがき

第五十八話の完成。

そしてブラックウォーグレイモンの復活(+厨二病な追加設定)。

いや、少なくともXモードにさせないとカイゼルグレイモンとは戦えないでしょう。

輝二も今回活躍してません。

とりあえず、輝二の活躍はもう少し先です。

何かこの小説はカオスだなぁ………

最初の頃が懐かしい。

まあ、ともかく最後まで続けられるように頑張ります。





[4371] 第五十九話
Name: 友◆ed8417f2 ID:315f8cfe
Date: 2011/01/24 14:57
ブラックウォーグレイモンと再び合間見えた拓也。

一方、才人は最後の対戦者から、手紙を受け取っていた。



第五十九話 シャルロットの覚悟



ブラックウォーグレイモンとの対決を終えた後、拓也達はロマリア陣営に戻ってきた。

すると、拓也は才人に話しかけられる。

「拓也………」

才人は小声で話しかける。

「才人さん?」

拓也が其方を向くと、

「最後の相手からタバサに渡すように言われた手紙だ。 俺から渡すより、拓也からの方が良いと思う」

その言葉と共に、目立たないように手紙が差し出される。

拓也は、すぐに理解して、周りの注意が向かない内にその手紙を受け取って懐にしまった。

「わかりました」

拓也はそう言って才人と別れた。




一方、シャルロットは、リネン川へと広がる草原からカルカソンヌの街へ上る為の階段を上っていた。

その階段は高低差が100メイルもあるため、歩いて上ろうと思えば一苦労だ。

フライやシルフィードを使えばひとっ飛びなのだが、シャルロットは歩きたい気分だったので、こうして階段を上っている。

因みに服装は、ルイズが着替えとして持ってきていた魔法学院の制服を借りたものである。

すると、階段の折り返し地点に1人の人物が立っていた。

ロマリアの神官にして、ヴィンダールヴのジュリオであった。

「やあ、タバサ」

ジュリオは、女性なら誰もが見惚れてしまう様な笑顔でシャルロットに挨拶をする。

「………………」

だが、シャルロットは、完全に無視してジュリオの傍を通り過ぎる。

既に恋する乙女となって、一年近く。

拓也への想いは、冷めるどころか益々燃え上がっている。

真っ直ぐで熱い心を持つ拓也と比べれば、目の前のジュリオは腹黒く、歪んだ心を持っている。

いくら顔が良かろうとも、シャルロットには嫌悪感しか湧かなかった。

「失礼。 呼び方を間違えたようですね。 シャルロット姫殿下」

ジュリオは、そう言い直す。

だが、シャルロットは立ち止まらない。

シャルロットは、母が心を取り戻して以来、自分の素性を隠そうとはしていない。

故に、ロマリアの人間であるジュリオが知っていたとしても、なんら不思議は無いからだ。

しかし、立ち止まらないシャルロットの後を、しつこくジュリオは追ってくる。

仕方なくシャルロットは立ち止まると、ため息を吐いた。

「………それで。 次はどんな陰謀を企てているの?」

振り向きもせずに、シャルロットはジュリオに問いかける。

「はて、陰謀とは?」

ジュリオは惚けるように言った。

「南部諸侯の寝返り。 何ヶ月も前から準備を進めねば、ここまでの素早い侵攻は無理」

シャルロットは、タバサとなっていた時と同じ、感情の篭っていない表情と言葉でそう言う。

「その通りです。 ご慧眼であらせられますね。 では、私が次にお願いする内容も、お見抜きになっているのでは?」

ジュリオは、隠そうともせずに肯定し、更に問いかけた。

「全てが貴方達の手のひらの上と思ったら大間違い」

「ですが、予想の範囲内なんですよ。 このカルカソンヌで足止めを食らう事も、そして、どのようにしてこの川向こうの敵を突破し、リュティスに到る道が出来るのかも………」

ジュリオは自信に満ちた態度でそう言った。

「………私は、もう“人形タバサ”になるつもりはない」

シャルロットは静かに、だが、確固たる意思を持ってそう呟き、歩き出した。

「困ったな。 どうして我々に、復讐のお手伝いをさせてくれないのです?」

その言葉に、シャルロットは決意に満ちた瞳を輝かせ、

「私の復讐は、ロマリア貴方達には絶対に手伝えないから」

そう口にするのだった。




立ち去るシャルロットの背中を、ジュリオは楽しげに見送っている。

ロマリアにとって、聖戦を完遂させる為には、ジョゼフの打倒は必須である。

そのためには、ガリア軍の注目を集める“神輿”が必要であった。

そこでロマリアは、シャルル・オルレアンの遺児であるシャルロットに目をつけた。

シャルロットが、正当な王権を主張し、ロマリア軍の先頭に立てば、これ以上ないほどの“神輿”になる。

そうすれば、未だにどちらにも付いていない諸侯も味方に出来る上、敵軍の寝返りも期待できるからだ。

だが、肝心のシャルロットは、ロマリアに協力する気は無いと言う。

「さて……どうしてハルケギニアのお姫様方ときたら、こうも頑固なんだろうね。 でも、何があっても我らの賛美歌に合わせて踊っていただきますよ。 シャルロット姫殿下」

そう呟き、ジュリオは策を巡らすのだった。





日が沈んだ頃。

シャルロットは、カルカソンヌの寺院正門前でこれからの事を考えていた。

ロマリアは、シャルロットの復讐を成し遂げる上での最大の障害であり、それを除いたとしても、信用がならない国だ。

だが、自分が王位に就く上で、この状況を鑑見れば、ロマリアが考えているであろう、自分が名乗り出るということが一番なのかもしれない。

しかし、ロマリアがどういう行動に出てくるのかが、全く予想できない。

そう考えを巡らしていた時、

「シャル、ここにいたのか」

拓也が、偶々寺院正門前にいたシャルロットを見つけ、声をかけた。

「タクヤ……?」

シャルロットは、自分に何か用だろうかと首を傾げる。

まあ、シャルロットにとっては、拓也と一緒にいられるという事は、それだけで嬉しい事なのだが………

拓也はシャルロットに顔を近づけ、

「渡したいものがある」

小声で呟いた。

シャルロットは顔を真顔にする。

シャルロットは、拓也の性格を良く分かっているので、こんな所で色恋の話をしたりするわけはないということを分かっていた。

更に、拓也の纏っている雰囲気から、真剣な内容だという事を予想する。

拓也は一度周りを見渡すと、こちらの様子を横目で窺っているロマリアの門番に気付いた。

「ここじゃ拙いな………よし!」

拓也は呟くと、デジヴァイスを取り出し、

「スピリット! エボリューション!! うああああああああああああっ!!」

ビーストスピリットでヴリトラモンに進化する。

「ヴリトラモン!」

拓也はヴリトラモンに進化すると身を屈め、シャルロットに背中に乗るように促す。

シャルロットは、コクリと頷くとヴリトラモンの背中に飛び乗った。

見張っていたロマリアの兵士が、慌てて駆け寄ってくる。

「どちらに行かれるのですか!? もう夜ですよ!」

「夜空の散歩だ。 悪いか?」

兵士の言葉に、ヴリトラモンはそう返す。

「い、いえ、ですが………」

兵士が言いよどむと、

「デートみたいなもの」

シャルロットがそう言った。

兵士は、困った顔で首を振ると、

「すぐに帰ってきてください! 私が怒られますから!」

そんな兵士を尻目に、ヴリトラモンは翼を羽ばたかせて飛び立つ。

地上からある程度高度を取ると、ヴリトラモンは手に持った手紙を、背中に乗ったシャルロットに差し出す。

「昼間に、俺達がガリア軍と一騎射ちをしてた事は知ってるか?」

「知ってる」

シャルロットは、その手紙を受け取りつつ頷く。

「それで、俺達の最後の相手……正確には才人さんの相手なんだけど、その手紙をシャルに渡すように頼んだらしい。 シャルの味方じゃないのか?」

シャルロットは、封筒を破り、中から1枚の便箋を取り出す。

杖に明かりを灯し、それを読み始めた。

「カステルモール」

シャルロットが呟く。

「知ってる奴か?」

「うん」

ヴリトラモンの問いに、シャルロットは頷く。

「どんな内容なんだ?」

ヴリトラモンが尋ねると、シャルロットは掻い摘んで説明した。

手紙の送り主、バッソ・カステルモールは、亡き父の信奉者でスクウェアのメイジ。

最近のガリアの陰謀に憤りを感じ、決起した事。

ヴェルサルテイルのジョゼフを襲ったが失敗した事。

その際に、東薔薇騎士団は壊滅した事。

運よく生き残れたカステルモールは、生き残りの兵士数名と共に、傭兵の振りをしてガリア軍に潜り込んでいる事。

そして、“正当な王として即位を宣言されたし”と自分に言っている事。

そうすれば、ガリア王軍の中からも離反者が続出する。

その彼らを纏め上げ、自分の元に参戦すると。

「そうか………それで、シャルはどうするつもりなんだ?」

ヴリトラモンはそう呟いてシャルロットに尋ねる。

シャルロットの内心では、既に答えは出ていた。

先ほどまでは、どうするべきか迷っていたが、この手紙を読み、カステルモールに後押しされ、更には傍に自分の『勇者』がいる。

既に先ほどの迷いはなかった。

この戦争を犠牲を少なく終わらせる為にも、自分の復讐を成し遂げる為にも、王として名乗ることは必要。

そして、その後にロマリアがどんな陰謀を用意していようとも関係ない。

自分の、自分達の『勇者』は、そんな陰謀など容易く叩き潰してくくれる。

ヴリトラモンが、拓也が傍にいることでそれを実感できた。

「私は………」

シャルロットが自分の決意を口にしようとした時、

――バサッ   バサッ

ヴリトラモンの驚異的な聴力がそんな羽音を捉えた。

「ッ!? (声を潜めろシャルロット!)」

ヴリトラモンは、声を殺してそう注意する。

シャルロットは、すぐさま黙り込んだ。

「(どうしたの?)」

シャルロットの問いかけに、ヴリトラモンは険しい顔をして耳を澄ます。

――バサッ   バサッ

確かに聞こえる僅かな羽音。

ヴリトラモンの上空約100メイルを、1羽の黒いフクロウが飛んでいた。

それに気付いたヴリトラモンは、動きが不自然にならないように旋回する。

思ったとおり、そのフクロウもヴリトラモンをマークするように旋回した。

「(クソッ! 空の上なら大丈夫だと思ってたけど、迂闊だった!)」

ヴリトラモンは、声を殺しながらもそう吐き捨てる。

「(どうしたの?)」

シャルロットが再び問いかける。

「(人間の感覚では分からないが、フクロウが俺達をマークしてる。 十中八九、ロマリアの使い魔か何かだろう。 恐らく……いや、ほぼ確実にさっきまでのやり取りは聞かれた)」

ヴリトラモンは、ほぼ確信を持ってそう言った。

「(ッ!)」

シャルロットも顔を顰める。

「(ここからは誤魔化すぞ)」

「(わかった)」

ヴリトラモンの言葉にシャルロットは頷く。

「もう一回聞くけど、シャルはどうするつもりなんだ?」

「………まだわからない」

シャルロットは、自分の決心を隠してそう呟く。

「……そうか……でも、どんな選択だろうと、俺はシャルを守ってやるからな」

「うん……ありがとうタクヤ」

2人は不自然にならない程度にそう言葉を交わす。

そのとき、

「きゅい~~~!!」

そんな鳴き声を上げつつ、地上からシルフィードが飛んできた。

その背にアイナを乗せて。

「きゅい! お姉さま! デートするならシルフィ達も呼んで欲しいのね!」

「ほんとだよ! 抜け駆けはズルイよ、シャルロット!」

ご立腹のお2人。

「ごめん」

シャルロットは頭を下げる。

2人は、予想外の乱入だが、監視されているこの場を誤魔化すには丁度いいかと思いつつ、1人と1匹の文句を大人しく聞くのだった。





翌日。

才人がルイズとなにやらやらかした様で、水精霊騎士隊のメンバーからからかわれていて、拓也がそれを呆れながら見ていると、

「やあサイト」

その声に才人が振り返ると、ジュリオが立っていた。

その瞬間、才人に怒りの感情が湧き上がる。

才人はジュリオに殺されかけたことを思い出したのだ。

才人は、殴りたい衝動に駆られるものの、何とか押さえ込み、睨むだけに止める。

拓也も、その事は才人から聞いていたため、隙を見せないように身構える。

「何か僕達に用でもあるのかい? 神官さん」

ギーシュが代表して問いかけた。

ジュリオは、ひらひらと手を振ると、首を振った。

「用って程のものは無いよ。 お勤めご苦労様です。 同盟軍の諸君。 先だっての中洲での活躍は聞いているよ。 敵の指揮を挫いていただいたとか。 従って、教皇聖下から、君達にこれを是非、と頼まれてね」

ジュリオは鞄から袋を取り出すと、それをテーブルの上にぶちまけた。

その中身は、大量の金貨であった。

「受け取ってくれたまえ。 神からの祝福さ」

水精霊騎士隊のメンバーは、その金貨に目を見開いたが、すぐに厳しい顔つきに戻る。

「坊さんのお布施なんかいらないよ。 自分の食い扶持ぐらい、自分で稼ぐさ」

「そう言わずに取っておきなよ。 金はあっても困らないだろう」

それからジュリオは才人に向き直る。

「………さてと、後は君に話があるんだ」

「なんだよ」

「ここじゃなんだから………ちょっと外までお願いできるかい?」

鋭い目で才人は立ち上がる。

ギーシュ達が間に割って入ろうとした。

「悪いね。 君達の副隊長をちょっとお借りしたいんだが………」

「ぼくらは騎士隊だぜ?」

そう言ったギーシュを、才人は押し止めた。

「大丈夫だよ」

「ま、そうは言っても、そこの君はついて来るだろうけどね」

ジュリオが、拓也に目をやりながらそう言った。




外に出ると、ジュリオはいきなり頭を下げた。

「なんと言ったらいいかわからないが………とにかくこの前はすまなかった」

才人はその姿に気勢をそがれるものの、油断無くジュリオを見る。

「………殺そうとしたくせに、謝ったぐらいで許せるかよ」

「君が大事な人たちを守る為なら何でもするように、僕達も聖地を回復する為なら、なんでもする。 それと同じ事だよ」

「聖地ってただの土地だろ? 一緒にするな」

「ただの土地じゃない。 ハルケギニアの民の将来がかかった土地だ」

ジュリオは真面目な声で言う。

「民? 神様の為なんだろ?」

「君は信仰を誤解している。 信徒にとって、“神様の為に”という言葉は、結局“自分の為に”という事と同義なんだぜ」

ジュリオの妙な迫力に、才人は押される。

「まあ、お前らが本気なのは分かった。 でも、何度も言ったように“聖戦”の手伝いなんてゴメンだぜ。 俺には俺の神様がいるんだ」

そう本音を漏らす才人。

「今度、俺とルイズに変なこと企みやがったら…………」

才人は精一杯凄んでジュリオを睨んだ。

「かまわないよ。 精々この胸を君の剣で抉ってくれ。 まあ、僕も抵抗はするけどね」

「心配すんな。 抵抗できないようにデュークモンで跡形も無く消してやる」

「それは怖いね」

「それだけじゃない!」

今まで静観していた拓也が口を開く。

「俺達の仲間や家族に手を出したら、ロマリアがハルケギニアの地図の上から消えると思え! 物理的にな!!」

拓也はジュリオを睨み付けながら言った。

「肝に銘じておくよ」

すると、ジュリオは気を取り直し、

「とにかく、君がこの世界にいる限り、僕達はもう手出ししないよ。 今となっては、君達は僕達ロマリアの大事なカードだからね」

「言っとくけど、俺達が協力するのはガリア王を倒すまでだぜ。 それから先は、知ったこっちゃないからな」

才人の言葉に、ジュリオは笑みを浮かべた。

「結構だ」

「あっさり引き下がるんだな」

「なに、少なくとも、君達とは話が出来るからね。 説得には自信があるんだよ」

才人はそんなジュリオの姿に、食えない奴だと再度認識する。

「さて、じゃあ仲直りをしようじゃないか」

ジュリオがそう言って、手を差し出した。

才人は暫くその手を見つめていたが、ぷいっと横を向く。

「流石に握手は無理だわ」

横で見ていた拓也が、当然だなと思った瞬間、

――シュンッ

「痛ッ!?」

拓也の頬を何かが過ぎり、痛みを感じた拓也は声を漏らす。

鋭い勢いで飛んできたのは、1羽のフクロウだった。

ジュリオの肩に止まると、ホーホーと鳴いてみせる。

「おや、ネロじゃないか。 お帰り」

ジュリオの言葉に、拓也は睨み付け、才人が口を開く。

「何だよそいつ……」

「僕のフクロウだよ。 おや、いけない! 血が出てるぜ」

そのフクロウの爪が当たったのか、拓也の頬からは血が出ていた。

ジュリオはポケットからハンカチを取り出すと、拓也の頬に当てる。

拓也の血が、そのハンカチに染み込む。

「大丈夫だ。 この位の傷、何でもない」

拓也は、ジュリオに嫌そうな顔を向けてそう言う。

「そうかい?」

そう呟いて、ジュリオはハンカチを引っ込める。

「いつまでガリアと睨み合いを続けるつもりなんだ?」

そう才人が尋ねると、

「さあね。 でも、まあ、そのうち風が吹くと思うよ」

思わせぶりな態度でジュリオは去っていった。

しかし、ジュリオは1つの失敗を犯した事に気付いてはいなかった。

それは、拓也の前でフクロウに言葉を発せさせてしまった事。

普通なら、動物を意を解せる者など、ヴィンダールヴである自分だけだと油断していた。

あの時のフクロウの鳴き声も、普通の人間にはただの鳴き声としか聞こえない。

だが、拓也は、アイナと契約した時のルーンの恩恵として、あらゆる動物、幻獣、文字の解読が可能なのだ。

しかも、拓也のルーン能力は、拓也に本当に近い者達だけしか知らない。

故にロマリアも、拓也のルーン能力は把握していなかった。

虚無であるルイズやガンダールヴである才人が傍にいて、拓也もデジモンへの進化という自身の能力が前面に出ていた所為もあるだろうが。

よって、拓也には、フクロウの言葉は筒抜けであった。

そう、拓也を傷つけたことは、故意であったという事が………







その日の夜。

シャルロットは自分の部屋で横になっているものの、まだ眠ってはいなかった。

その横で変身しているシルフィードもとい、イルククゥは、すやすやと寝息を立てていた。

シャルロットは、天井を見続ける。

まるで、何かを待っているかのように。

すると、

――コンコン

と、ドアがノックされた。

「………誰?」

シャルロットはそう問いかける。

「………俺だ、シャル」

答えたのは拓也の声だった。

シャルロットは、メガネをかけて扉へと駆けた。

「………どうしたの?」

「………話があるんだ」

その言葉に、シャルロットは扉を開ける。

そこに、シュヴァリエのマントで顔を隠すようにしている拓也が立っていた。

拓也は、そのまま部屋に入ってくる。

「………話って?」

シャルロットがそう聞くと、拓也が真顔になった。

「昨日の夜の話………俺、真面目に考えたんだ」

「………え?」

「ほら、シャルが王様になるってやつ」

「それが?」

「やっぱり、正当な王位継承者として、シャルは即位を宣言すべきだ」

力強い調子で拓也は言う。

「ロマリアに説得されたの?」

「まさか! 俺があんなクソ坊主達の説得なんかに応じるかよ。 全部自分で考えたんだ。 どうすれば、この戦が早く終わるのかなって。 やっぱり………これが一番だと思う」

「一体、何があったの?」

「そろそろガリア軍の総攻撃が始まるらしい。 そうなったら、ほんとに地獄のような戦いになっちまう。 沢山の命が、その戦いで失われてしまう……」

拓也は、悲しそうな表情でそう言った。

シャルロットは、それを聞くと俯き、

「でも、私は怖い……王位を宣言したら、私は敵の標的になる……」

シャルロットは、弱々しくそう言った。

「安心しろ。 シャルは俺が守る。 何があっても絶対にだ!」

拓也は、シャルロットの手を握り、力強く宣言する。

「…………どうして?」

シャルロットは問いかける。

「………好きなんだ」

拓也がそう呟く。

「………嘘」

シャルロットは、顔を背けながら呟いた。

「嘘じゃない。 気付いたら、ずっとシャルの事ばかり考えてた」

「アイナも………シルフィードもいる………」

「今は………シャルが一番好きなんだ」

その言葉に、シャルロットは顔を俯かせた。

拓也の手が伸び、俯いたシャルロットの顎を持ち上げる。

そして拓也は、シャルロットに唇を近づけていった。

シャルロットは目を瞑る。

そのまま、唇同士が触れ合うかと思われたその時、










「不愉快」










シャルロットの唇から漏れたそんな言葉と共に、シャルロットの姿が霞のように掻き消えた。

「え?」

拓也が驚きに声を漏らした瞬間、窓の方から無数の氷の矢が飛来して、拓也の胸を貫き、更にそのまま拓也を吹き飛ばすと、部屋の入り口のすぐ横の壁に磔にした。

窓のカーテンの陰から、怒りに満ちた表情のシャルロットが姿を現す。

先ほどのシャルロットは、本物のシャルロットが魔法で作り出した“偏在”であった。

スクウェアとなったシャルロットなら、“偏在”が使えるのだ。

すると、寝ていたと思われていたイルククゥが、ムクリと身体を起こした。

「きゅい~! ムカつくのね! タクヤさまの偽者を用意してお姉さまを騙そうとするなんてサイテーなのね!」

どうやら狸寝入りだったようで、今までのやり取りを全て聞いていたイルククゥが不機嫌な声で叫ぶ。

その時、磔にされた拓也が光に包まれ、光が収まると、氷の矢に磔にされた小さな魔法人形しかそこには無かった。

「スキルニル……」

シャルロットが、やはり、といった雰囲気でそう呟く。

シャルロットは、拓也から、故意的に怪我を負わされたことを聞き、怪訝に思った。

しかも、ハンカチに血が付いたことで、拓也の血を使って何かを仕掛けるという事は予想していた。

シャルロットが一番に思ったことは、血の持ち主をコピーする魔法人形スキルニル。

シャルロットは、自分の恋心を利用しようとした事と、自分の『勇者』を汚されたことで、今までに感じたことのない怒りを感じていた。

杖を掲げると、大き目の氷の矢が生まれ、シャルロットが杖を振り下ろすと共に撃ち出され、入り口のドアに突き刺さった。

シャルロットは真剣な表情になり、そのドアの向こうに居るであろう人物に呼びかける。

「貴方達に言われずとも王にはなる! けど、貴方達の思い通りになるつもりはない! 私が王を目指すのは、私の目的を達成する為!」

シャルロットは自分の決意を口にする。

そして、一呼吸置くと、再び怒りに満ちた表情になると、

「そして! 二度と私のっ……私達の『勇者』を汚す事は許さない!! この警告を破った場合、その氷の矢が、今度は貴方の胸を貫く!!」

ドアの向こうに居る人物に向かって、そう言い放った。

シャルロットはそれだけ言うと、穴の開いたドアに目もくれず、ベッドに潜り込んだ。




一方、ドアの外に居た人物は、

「まいったね…………」

軽い口調ながらも、自分の策が完膚なきまでに撃ち破られた事に驚愕するのだった。








次回予告


正当な王位継承者として、即位を宣言するシャルロット。

次々と寝返るガリア軍。

そんな中、アンリエッタはウェールズと共にガリア王であるジョゼフにとある提案を持ちかける。

ガリアとの戦争は、正に激動を迎えようとしていた。

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第六十話 激動のガリア

今、異世界の物語が進化する。







あとがき

あけましておめでとうございます。

今年初の投稿です。

正月休みなので頑張ってみました。

さて、五十九話は如何だったでしょうか?

なんというか、シャルロットの独壇場でしたが……

まあ、ガリア編は仕方ないかと………

今回は、拓也、シャルロット以外は殆ど空気です。

何と言いますか、今回の話は、原作では一、二を争うほど気に食わない話だったので、ご都合主義といいますか、思ったとおりに変えさせていただきました。

騙そうとした奴を逆に騙し返す。

ちったぁスッキリしました。

ともかく、今年も頑張ります。

目標は今年中にリリフロと生きる意味を終わらせて、新しい小説を1つ始める事です。

ゼロ炎は、原作が終わってないのでなんともいえません。

では、これにて。





[4371] 第六十話
Name: 友◆ed8417f2 ID:315f8cfe
Date: 2011/02/13 19:25
ロマリアの策を見抜き、己の覚悟を示したシャルロット。

そして………



第六十話 激動のガリア



この日、リネン川の手前の草原は、騒然としていた。

それは、ヴィットーリオがガリアの兵士達に向けて、真の王とする者を紹介すると呼びかけたのだ。

そして、ヴィットーリオは、シャルロットが真の王であると宣言した。

最初こそ、ガリアの兵士達は信じてはいなかったが、かつてのシャルロットを知る貴族達が直接確認し、確かめた事によって信憑性が増し、寝返る兵士が続出した。

その中には、シャルロットに手紙を出した人物、カステルモールの姿もあった。




その日の前日、アンリエッタは、ウェールズと共に、アニエスだけを護衛につけ、ジョゼフの下を訪れていた。

そして、とある提案を持ちかけた。

それは、ハルケギニア列強の全ての王の上位として、ハルケギニア大王という地位を築き、そして、ロマリア以外の他国の王はそれに臣従する。

といった内容であり、ジョゼフには、エルフと縁を切る代わりに、そのハルケギニア大王に推薦するとも書かれていた。

そして、その場でウェールズもその提案に賛成している事を明かし、信憑性を高めたのだ。

だが、2人の誤算は、ジョゼフの目的が世界征服などという欲深いものではなかった事だ。

ジョゼフの目的は、かつて弟のシャルル・オルレアンを殺害した時から全く感じなくなった『悲しみ』という感情を取り戻したいだけであった。

そのために、手段を厭わないだけであり、ジョゼフはアンリエッタ達の提案に乗ることはなかった。





ヴィットーリオがシャルロットの即位を宣言すると、それに反応するかのように大艦隊が現れた。

それは先日の虎街道の戦いにおいて、ジョゼフに反乱軍とされた艦隊であり、ロマリアの計略により、この度のシャルロットの即位によって、再びガリア王国両用艦隊として名乗りを上げたのだ。

だが突然、その艦隊が巨大な火の玉に包まれた。

半径5リーグにも及ぶ、超巨大な火の玉であった。

それに巻き込まれ、艦隊の約半分が消滅する。

それを目撃した両軍は、一斉に声を失った。

その原因は、『火石』であった。

ジョゼフは、エルフのビダーシャルに火の精霊の力を結晶化させた『火石』を作らせた。

本来なら、冬に街を暖めたり、街灯に明かりを灯すような使い道しかないものを、ジョゼフは己の虚無を使い、火の精霊の力を閉じ込めている結界に亀裂を入れ、内部に存在する火のエネルギーを一気に解放させ、半径数リーグを焼き尽くしたのだ。

両軍が、余りの光景に声を失っていた時、再び火球が発生する。

それは、先程よりも規模が大きく、残った艦隊を焼き尽くした。

そこで、漸く事態を飲み込めた兵士達は恐怖した。

そして、誰もが我先にと逃げ出し始める。

だが、その中で火球が発生した方を見つめたまま動かない人物がいた。

「………なんて事を………!」

拓也は怒りに震える声で呟き、拳を握り締める。

「………酷い」

アイナが悲しそうな声で呟く。

「一体、なんが起こったんだ!?」

才人が目の前で起こった光景に叫ぶ。

「こんな事が……!」

輝二も、静かに怒りで震えていた。

「虚無よ! あれはガリアの虚無! 間違いないわ!」

一緒にいたルイズが叫ぶ。

「あんな魔法があるのか? 太陽が落っこちてきたみたいじゃねえか………」

才人がそう呟くが、

「違うのね! あれは………あれは精霊の力の解放なのね! おそらく『火石』が爆発したのね! 人間達の魔法じゃ、手も足も出ないのね! きゅい!」

イルククゥが叫ぶ。

「あれを止められるのは、タクヤさま達しかいないのね!」

「分かってる! 輝二! 才人さん!」

イルククゥの言葉に応え、拓也は輝二と才人に呼びかける。

「ああ!」

「分かってる!」

2人は迷い無く頷いた。

3人はデジヴァイスを取り出す。

「「ハイパースピリット! エボリューション!! うぉおおおおおおおおっ!!」」

拓也と輝二が5種のスピリットで進化する。

「カイゼルグレイモン!!」

「マグナガルルモン!!」

2人は超越形態となり、

「行くぞ! ギルモン! デルフ!!」

「おっけー!」

「おうよ!」

才人がデルフリンガーを上に向かって放り投げる。

―――MATRIX

   EVOLUTION―――

才人のデジヴァイスに文字が刻まれた。

「マトリックスエボリューション!」

「ギルモン進化!」

才人とギルモンが1つとなり進化する。

「デュークモン!!」

デュークモンに進化し、デルフがグラニとなりデュークモンがそれに乗る。

「行くぞ!」

カイゼルグレイモンの掛け声に合わせ、3体のデジモンが飛び立った。




3体が飛び立ち、辺りを見渡すと、北東の方角に遊弋する1隻のフリゲート艦を見つけた。

「あれか!」

3体は、一直線にそのフリゲート艦へ向かう。

イルククゥも、竜の姿へと変わり、アイナとルイズ、そしてシャルロットを乗せて後を追った。

更に、その意味を理解したのか、少し遅れてペガサスに跨った聖堂騎士達が続く。

だが、

「ッ!」

カイゼルグレイモンが前方から接近してくる存在に気付いた。

それは、一直線にカイゼルグレイモンに向かってくる。

カイゼルグレイモンは、すぐさま龍魂剣を抜いた。

その瞬間、

――ガキィィィィィィィン!

それとカイゼルグレイモンは交差し、金属音が鳴り響いた。

カイゼルグレイモンは、龍魂剣を構え、油断無く相手を見据える。

「ブラックウォーグレイモン………」

立ちはだかったのは、Xモードとなったブラックウォーグレイモン。

「退いてくれブラックウォーグレイモン! 今はお前と戦っている暇は無いんだ!」

カイゼルグレイモンは、そう呼びかける。

だが、

「だろうな………だからこそ、俺はここに来た!」

「何っ!?」

ブラックウォーグレイモンの答えに、声を漏らすカイゼルグレイモン。

「貴様は、護る時に真の力を発揮する。 そう! 多くの命が危険に晒されている今、この瞬間! 貴様が最も力を発揮する時! その貴様を俺は超える!」

そう言い放つブラックウォーグレイモン。

「ぐっ………」

カイゼルグレイモンは、ブラックウォーグレイモンとの戦いを避けられないと悟ると、

「マグナガルルモンたちは先に行ってくれ! ブラックウォーグレイモンは俺が抑える!」

そう言った。

「し、しかし………」

デュークモンが何か言おうとしたが、

「早く行くんだ! もしアレがここで爆発すれば、兵士達だけじゃない! 街にいる父さんや母さん達も巻き込まれるかもしれないんだ!!」

カイゼルグレイモンが有無を言わさずに叫ぶ。

「ッ…………わかった。 ここは任せるぞ!!」

デュークモンは、その言葉に頷き、マグナガルルモンやシルフィード達と共に、再びフリゲート艦へ向かう。

カイゼルグレイモンは、それを見送ると、ブラックウォーグレイモンに向き直る。

その時、遅れてやってきたペガサスに跨った聖堂騎士達が、デュークモン達の後に続こうとしたが、

「うぉおおおおおおおおおっ!!」

「はぁあああああああああっ!!」

――ドゴォォォォォォォン!

カイゼルグレイモンとブラックウォーグレイモンの激突の余波に耐え切れず、吹き飛ばされ後を追う事が出来なかった。




一方、フリゲート艦の上では、消え去った艦隊を何の感慨も感じずに見つめるジョゼフと傍らに控えるシェフィールド。

更には、両手を縛られ、身動きが取れないアンリエッタ、ウェールズ、アニエスの姿があった。

「………貴様は……何という事を………」

一瞬にして灰と消え去った艦隊を見て、震える声でウェールズが呟く。

「あれだけの艦隊……何人の……何人の人間が乗り込んでいたとお思いですか!? 一万……いや数万です! あなたはそれだけの数の人間を、一瞬で灰にしてしまったのです! あなたは……あなたは何も感じないのですか!?」

アンリエッタが感情のままに叫ぶ。

「お前に何が分かる。 お前に、俺の心の深い闇の何が分かる? 輝かしい勝利の中、全てに祝福されながら冠を被ったお前に、一体俺の何が分かるというのだ?」

ジョゼフは、憎々しげにアンリエッタを踏みつけ、そう言葉を吐く。

アンリエッタは、これから起こるであろう悲劇を前に、涙を流す。

「悲しんでおるのか? お前は……胸が痛むのか? 羨ましい事だ」

ジョゼフはそう言ってアンリエッタの頬を掴んで持ち上げると、

「お前のその哀しみを俺にくれ。 俺にくれよ。 そうすれば、お前の望むものをなんでもやろう。 全てだ。 この王国も、世界も、全てをお前にくれてやろう」

感情の篭っていない、だが、真面目な声でそう言った。

「神よ………どうか、どうかこの男を止めてください。 後生です。 世界が無くなってしまう前に。 すべてが灰に沈む前に……」

「ならば神に見せてやろう。 その世界が灰になるさまを」

ジョゼフは、『火石』の最後の1個であり、一番大きい物をシェフィールドから受け取ると、呪文を唱えようとした。

しかし、その時、

――ヒュウ

と、今までの風とは何処か違う風が吹いた。

ジョゼフは、空の一方を見る。

そこには、

「ジョゼェェェェェェフッ!!」

グラニに跨り、風竜よりも遥かに速いスピードで、デュークモンとマグナガルルモンが迫ってきた。

シェフィールドもそれに気付いた時、この艦に搭載されているガーゴイル全てに命令を出した。

その数は100を超える。

その全てのガーゴイルがデュークモン達に殺到する。

シェフィールドとて、ガーゴイル如きでデュークモンたちが倒せるとは思ってはいないが、多少の時間は稼げると思っていた。

だが、

「ロイヤルセーバー!!」

グラニと共に光の矢となったデュークモンは、一撃の元に全てのガーゴイルを粉砕した。

そのガーゴイルの中には、水の力に特化させ、再生するガーゴイルも混じっていたが、再生できないほどに粉々にされればその能力も意味は無かった。

そのままデュークモンは、スピードを落とさずにフリゲート艦の上空へ到達。

グラニから飛び降り、マグナガルルモンと共に甲板に降り立った。

「あなた達は!」

アンリエッタが、希望に満ちた顔で声を上げる。

「アンリエッタ女王とウェールズ王……それにアニエス……無事でなによりだ」

デュークモンは、アンリエッタ達の無事を確認すると、ジョゼフに向き直る。

その時、

「梵・筆・閃!!」

前方上面から輝く文字が迫ってきた。

だが、デュークモンは落ち着いてイージスを構え、その文字を防ぐ。

デュークモンがその先を見据えると、レナモンが進化したタオモンがいた。

「タオモンか……」

デュークモンは落ち着いた様子で呟く。

「ジョゼフ様の邪魔はさせない!」

シェフィールドがジョゼフを庇うように前に出てそう言う。

その言葉と共に、タオモンが飛び掛ってきた。

タオモンは袖を振り回して攻撃してくるが、デュークモンは簡単にそれをいなし、

「ハッ!」

グラムを一閃。

「くぅっ!!」

タオモンは飛び退くものの、逃げ切れずその一撃を受け、レナモンに退化しつつ甲板の上を転がった。

「無駄な抵抗は止めろ。 完全体までしかなれないお前に勝ち目はない」

デュークモンはレナモンに向かってそう言う。

そして、ジョゼフに向き直ると、

「そしてジョゼフ。 その石から手を離せ」

そう警告した。

デュークモンは、油断無くグラムを構える。

だが、

「ジョゼフ様はやらせない!!」

シェフィールドが再びデュークモンの前に立ちはだかる。

「シェフィールド………」

その姿に答えるように、レナモンが力を振り絞って立ち上がる。

「……お、お前達は……」

その必死の姿に、デュークモンは思わず声を漏らす。

「ジョゼフ様は、私が守る! 何があっても! どんな事をしても!」

シェフィールドは叫ぶ。

「……そんな君を、私は守り抜こう」

レナモンが呟く。

すると、シェフィールドとレナモンの周りに光が発生する。

「なっ!? この光は!」

デュークモンが驚愕の声を上げる。

―――MATRIX

   EVOLUTION―――

シェフィールドのデジヴァイスに文字が刻まれる。

「マトリックスエボリューション!」

「レナモン進化!」

シェフィールドとレナモンが1つとなり進化する。

それは、金色の狐のような武具を纏い、手には金剛錫杖。

陰陽道を極めし女性神人型デジモン。

その名は、

「サクヤモン!!」

デュークモン達の前に立ち塞がるサクヤモン。

「なっ!? 究極体に進化した!?」

思わず驚愕の声を上げるデュークモン。

『ジョゼフ様の邪魔はさせない!』

サクヤモンと一体となっているシェフィールドが叫ぶ。

「はぁあああああっ!!」

サクヤモンが錫杖を振り回すと、花びらと共に衝撃波が発生する。

「「くっ!」」

デュークモンとマグナガルルモンは飛び退く。

マグナガルルモンは滞空し、デュークモンはグラニとなったデルフリンガーが拾う。

サクヤモンが錫杖を構えると、

「飯網!!」

サクヤモンの周りから数匹の狐のようなエネルギー状のものが発生する。

それは、サクヤモンの合図と共に襲い掛かってきた。

「くっ! ロイヤルセーバー!!」

デュークモンは、迎撃の為にロイヤルセーバーを放つ。

サクヤモンの放った飯網とロイヤルセーバーはぶつかり合い、爆発を起こして相殺した。

すると、

「おおおおおおおっ!!」

デュークモンが爆炎の中を突っ切って、サクヤモンにグラムを叩きつける。

「くぅ!?」

サクヤモンは、錫杖でグラムを防ぐ。

そのまま鍔迫り合いの状態になると、

「マグナガルルモン! こいつは私が抑える! お前はジョゼフを止めろ!」

そのままマグナガルルモンに呼びかけた。

「分かった! 任せろ!」

マグナガルルモンは応え、再び甲板に向かう。

「ッ! 行かせない!」

サクヤモンはそれに気付き、マグナガルルモンに向かおうとしたが、

「お前の相手は私だ!」

デュークモンが立ちはだかる。

デュークモンはガンダールヴの能力で通常の究極体より強化されている。

総合能力で劣るサクヤモンは、デュークモンとの戦いを避けることは出来なかった。



甲板に降り立ち、ジョゼフと相対するマグナガルルモン。

マグナガルルモンは、右腕のスナイパーファントムをジョゼフに向けると、

「最後の警告だ。 その石から手を離して投降しろ」

そう宣言した。

だが、ジョゼフは応じない。

「迷いの無い姿だな………自分を信じ、己の正義を貫く眩しい姿だ」

どこか懐かしむように、言葉を紡ぎだしていく。

「俺にもお前達のような頃があったよ。己の中の正義が、全てを解決してくれると思っていた頃が………大人になれば、心の中の卑しい劣等感は消えると思っていた。 分別、理性……なんだろう? そういったものが解決してくれると信じていた」

マグナガルルモンは、ジョゼフの足元に狙いを定めた。

直撃はさせなくとも、人間相手には衝撃のみで十分だろう。

だが、ジョゼフは詠唱すら行なわずに、言葉を続ける。

「だが、それは全くの幻想に過ぎなかった。 歳を取れば取るほどに、澱のように沈殿していくのだ。 自分の手で摘み取ってしまった解決の手段が………いつまでも夢に出てきて、俺の心を虚無に染め上げていくのだ。 迷宮だな。 まるで。 そしてその出口は無いと俺は知っているのに………」

その時、マグナガルルモンは弾丸を放った。

だが、その瞬間にジョゼフの姿は掻き消える。

「何っ!?」

マグナガルルモンは驚愕の声を上げた。

「こんな技を、いくら使えたからといって、何の足しにもならぬ」

背後からジョゼフの声がした。

マグナガルルモンが振り返るが、再びその姿が掻き消える。

マグナガルルモンは、すぐにマストの上を見上げた。

そこに、ジョゼフはいた。

「この呪文は“加速”というのだ。 虚無の1つだ。 何ゆえ神は俺にこの呪文を託したのであろうな。 皮肉なものだ。 まるで“急げ”と急かされているように感じるよ」

ジョゼフはそう言葉を発する。

マグナガルルモンは、再びジョゼフに向かって弾丸を放つ。

マストは粉砕するものの、やはりジョゼフの姿は無く、いつの間には甲板の上に再び降りてきていた。

マグナガルルモンはジョゼフを見やり、

「…………なる程………確かに速い………」

ため息を吐きつつ、ジョゼフのスピードを認める発言をする。

「………が!」

その言葉と共に、アーマーをパージ。

身軽になると同時に、ジョゼフの姿が掻き消える。

だが、瞬時にマグナガルルモンは動き、高速のジョゼフを捕らえ、甲板に押さえつけた。

「ロードナイトモンよりは遅い!!」

「ぬぅっ!?」

思わず声を漏らすジョゼフ。

『ジョゼフ様!!』

それに気付いたサクヤモンが、デュークモンの一撃を防いだときの反動を利用して、フリゲート艦に向かい、マグナガルルモンに体当たりを仕掛けた。

「ぐっ!」

マグナガルルモンは、思わずジョゼフを手放し、飛び退く。

『ジョゼフ様! ご無事ですか!?』

シェフィールドが声をかける。

「むぅ……」

立ち上がるジョゼフの姿に安心するシェフィールド。

サクヤモンは、マグナガルルモンと、降りてきたデュークモンを睨み付け、

『よくもジョゼフ様を………』

錫杖掲げ、甲板に突き刺すと、魔法陣のようなものが発生する。

「金剛界曼陀羅!!」

そこから結界が発生し、デュークモンとマグナガルルモンの動きを止めた。

「ぐぅっ!?」

「何っ!?」

並のデジモンならそれだけで引き裂かれるほどの威力を持つ結界だが、究極体を越える2体のデジモン相手では、動きを封じるだけで精一杯だった。

『ジョゼフ様! 長くは持ちません! 今の内に!』

シェフィールドがジョゼフに呼びかける。

だがその瞬間、炎と氷の矢がジョゼフに向かって降り注ぎ、更には爆発まで起こる。

上空に旋回するシルフィードが見えた。

炎の矢はアイナが。

氷の矢はシャルロットが。

そして爆発はルイズの放ったものだ。

しかし、着弾点に既にジョゼフは居ない。

“加速”の呪文により、既に艦の船首にいた。

その手には『火石』を持ち、杖を振り上げている。

「俺はもう戻れぬ。 出口の無い迷宮を、俺は彷徨い続けるのだ」

ジョゼフが呪文を完成させ、『火石』に杖を振り下ろそうとした瞬間、右手にはめた土のルビーが輝きだした。







一方、激しい激突を繰り広げるカイゼルグレイモンとブラックウォーグレイモン。

「おおおおおおおっ!!」

カイゼルグレイモンが右手に持った龍魂剣で斬りかかる。

「むんっ!!」

ブラックウォーグレイモンは左手のドラモンキラーで防ぐ。

今度は、ブラックウォーグレイモンが右腕を振りかぶり、

「はぁあああああっ!!」

ドラモンキラーを突き出す。

「なんのっ!!」

カイゼルグレイモンは左手に持った覇竜刀でその一撃を受け止めた。

両手が互いに鍔迫り合いの状態になると、

「ッ……」

カイゼルグレイモンは軽く頭を後ろに振り上げ、

「はあっ!!」

ブラックウォーグレイモンの頭部に頭突きをかます。

「ぐおっ!?」

突然の事に、一瞬怯むブラックウォーグレイモン。

カイゼルグレイモンはその隙に追撃をかけようとしたが、

「……ッ、舐めるな!」

「ぐうっ!」

腹部にブラックウォーグレイモンの蹴りが入り、後退する。

「はぁ……はぁ……流石だカイゼルグレイモン。 この勝敗の見えない限界ギリギリの戦いこそ、俺が望んだ戦い! さあ! 続けるぞカイゼルグレイモン!!」

ブラックウォーグレイモンはそう叫んで、再び突撃してきた。

カイゼルグレイモンも迎え撃つ。

再び2体が激突しようとした瞬間、2体の間に黒い空間の穴が発生した。

「「ッ!?」」

2体は、思わず動きを止めてしまう。

だが、空間の穴が開いてしまう事も仕方の無いことだった。

元々この世界は、次元の狭間にいる何者かの所為で、非常に空間が不安定になっている。

そんな世界で究極体を越える力を持った者同士がぶつかり合えば、空間に影響を与えてしまう事は間違いない。

瞬間、その穴から黒い2本の巨大な腕が現れ、カイゼルグレイモンとブラックウォーグレイモンを掴んだ。

「何っ!?」

「コイツはっ!?」

その空間の穴から出てきたものは、あらゆるデジモンのデータを融合させ、生み出された合成型の完全体デジモン。

エンジェモンとエアドラモンの羽。

カブテリモンの頭部。

メタルグレイモンの髪。

グレイモンのボディ。

ガルルモンの足。

モノクロモンの尻尾。

そして、クワガーモン、スカルグレイモン、デビモンの腕。

その名はキメラモン。

「グガァアアアアアアアアアアアッ!!」

キメラモンは叫び声を上げる。

だが、キメラモンは正に逆鱗に触れた事に気付いてはいなかった。

ブラックウォーグレイモンにとって、カイゼルグレイモンとの戦いこそ至福の時。

その戦いを訳の分からない乱入者に邪魔されたとあっては、ブラックウォーグレイモンの機嫌は急降下だ。

「戦いの……邪魔を………するなっ!!」

ブラックウォーグレイモンは、そう叫ぶと共に、自分を掴んでいたデビモンの腕を粉砕した。

「はぁっ!!」

同じくカイゼルグレイモンも、デビモンの腕を吹き飛ばし、脱出する。

2体はまるで示し合わせたかのように上昇し、同時に急降下。

「「うぉおおおおおおおおおっ!!」」

キメラモンを、Xの字に切り裂いた。

消滅していくキメラモン。

カイゼルグレイモンとブラックウォーグレイモンは再び睨み合ったが、

「フン。 邪魔が入ったな。 興が削がれた。 決着はまた今度だ」

やはり、邪魔が入った事でやる気が無くなったのか、ブラックウォーグレイモンはそう言い残して飛び去る。

「やれやれ……」

カイゼルグレイモンは、気を取り直し、フリゲート艦へ急いだ。





ジョゼフは夢を見ていた。

いや、正確には、ヴィットーリオの虚無呪文、“記録リコード”によって土のルビーに宿っていた記憶を見ていた。

それは、ジョゼフに衝撃を与えた。

ジョゼフの弟であり、シャルロットの父であるシャルル・オルレアンの本当の気持ち。

シャルルは本当は悔しがっていた事。

自分を祝福する言葉は、シャルルなりの必死の抵抗だった事。

ジョゼフよりも認められるために必死で努力し、家臣を味方に付けるために根回しをしていた事などを知った。

ジョゼフの手から『火石』が滑り落ち、膝をついてジョゼフは顔を両手で覆った。

「シャルル……俺達は、世界で一番愚かな兄弟だなあ」

そう呟き、自分が泣いている事に気付いたジョゼフは、笑みを浮かべる。

「なんだ。 俺は泣いているじゃないか。 ははは……あれほど疎ましく思っていた虚無が出口を見つけるとは、あっけなく、なんとも皮肉なものだ」

ジョゼフは涙を流しつつ、そう呟いた。

その時、デュークモンとマグナガルルモンを抑えていたサクヤモンが力尽き、結界が解かれる。

サクヤモンは、シェフィールドとレナモンに分離すると、

「ジョゼフ様!?」

シェフィールドは一目散に駆け寄った。

「ミューズ………もうよい……もうよいのだ………」

ジョゼフはそう呟く。

すると、上空からシルフィードが降りてきて甲板に着地。

ルイズが一目散に飛び降りると、縛られているアンリエッタとウェールズ、アニエスを解放する。

そこで、カイゼルグレイモンも甲板の上に降り立った。

シャルロットがジョゼフの前に現れる。

「シャルロットか」

ジョゼフがシャルロットを見上げて呟く。

「似合いじゃないか。 天国のシャルルも喜んでいるだろう」

王族の衣装を着込んだシャルロットに、ジョゼフは言った。

その顔は、なんだか憑き物が落ち、深い満足が描かれている。

ジョゼフは冠を脱ぐと、それをシャルロットの足音に置いた。

「長い事、大変な迷惑をかけた。 まことにすまなく思う。 詫びの印にもならぬが………受け取ってくれ。 お前の父のものになるはずだったものだ」

その様子を怪訝に思ったシャルロットは、

「何があったの?」

そう問いかける。

「説明はせぬよ。 お前の父の名誉に関わることだからな」

その答えで、シャルロットは察した。

「そう……父様の真実を知ったのね」

シャルロットの呟きに、ジョゼフは驚いた表情で見上げる。

「知っていたのか?」

「母様から聞いた」

「……そうか……お前の母は全てを知っていたのだな………」

ジョゼフは笑みを浮かべると、シャルロットの前に首を差し出した。

「この首をはねてくれ。 それで、本当に全て終わりだ」

「…………………」

シャルロットは無言で杖を掲げ、呪文を唱えだす。

氷の矢が杖の先に発生し、

「……………」

無言で振り下ろした。

――ドスッ





「……………何故殺さない?」

ジョゼフが呟いた。

氷の矢は、ジョゼフのすぐ横に外れていた。

「………狂王ジョゼフは殺した。 そして、私の伯父様であるあなたには、私の復讐を手伝ってもらいたい」

シャルロットはそう述べる。

「何故だ? お前の復讐の相手はこの俺ではないのか?」

ジョゼフが問いかける。

シャルロットは首を横に振り、

「違う。 あなたも被害者」

そう言って、懐から何枚かの書類を取り出し、ジョゼフに差し出す。

ジョゼフは少々困惑しながらも、その書類を受け取り、目を通し始める。

読み進める内に、ジョゼフの表情が驚きに染まっていく。

そこに書かれていたのは、シャルロットの目指す平等な国の代表的な法律。

シャルロットは実際に日本へ行き、各国の法律を僅かな時間の中で学び、自分の目指す国の指針とした。

この書類は、シャルロットが独自に纏めた法案であった。

「………本気か?」

ジョゼフは、ある意味自分以上の無茶なシャルロットの法案に、思わず声を漏らす。

「私の人生を狂わせた元凶は、差別意識のある今の制度そのもの。 王族も、貴族も、平民も無ければ、父様とあなたが仲違いする事も無かった。 だから私は今の制度を殺す。 それが私の復讐。 そして、それを成し遂げる為には、あなたの……伯父様の手腕が必要」

シャルロットはそう言い切った。

「フ………フフフ………良かろうシャルロット。 こんな俺の力が必要とあらば、いくらでも貸してやろう。 それがシャルルへの僅かながらの償いだ」

ジョゼフの言葉に、シャルロットは頷く。

だが、その時だった。

誰にも注意を払われていなかったシェフィールドが、ジョゼフが落とした『火石』を拾い上げた。

「ミューズ!?」

予想外の行動に、ジョゼフは声を上げる。

が、当のシェフィールドは、『火石』を両手で持ったまま、涙を流していた。

「ジョゼフ様………あなたはどうして最後までこの私を見てくださらなかったのです? どうしてこの私を御手にかけてはくださらなかったのです? 私はただ少女のように、それのみを求めていたというのに………」

搾り出すような声で、シェフィールドは言った。

すると、シェフィールドの額のミョズニトニルンのルーンが輝きだすと共に、それに共鳴するように、『火石』もその力を解放しだした。

「何をする気だ!?」

デュークモンが叫ぶ。

「私は全ての魔導具を操るミョズニトニルン。 この、『火石』をただ爆発させるだけなら可能だ」

すると、シェフィールドは、寂しそうな表情で、

「ジョゼフ様、最後のお願いです…………一緒に死んでください」

その言葉と共に、『火石』が輝きを増し、

「馬鹿なことは止めろ!」

瞬時にマグナガルルモンがシェフィールドの腕を掴み、『火石』を奪い取ると、空高く投げ飛ばす。

「無駄よ! あの『火石』は、半径15リーグは焼き尽くす!」

シェフィールドはそう叫ぶ。

「ならば!」

カイゼルグレイモンは叫んで、甲板に龍魂剣を突き刺す。

「皆、離れろ! 九頭龍陣!!」

カイゼルグレイモンが九匹の炎の龍と共に、今にも爆発しそうな『火石』に向かって上昇していく。

すると、炎の龍はまるで『火石』を包み込むように動き、隙間無く『火石』を覆い尽くした。

――ドォォォォン

九頭龍陣の内部で『火石』が爆発したらしく、所々から炎が漏れ出す。

だが、それも大した事は無く、フリゲート艦までは届かない。

そして、

――ドゴォォォン!

小規模な爆発を起こして、九頭龍陣は吹き飛んだ。

カイゼルグレイモンは、九頭龍陣で『火石』の爆発をほぼ押さえ込んだのだ。

爆発地点から、カイゼルグレイモンが落下してくる。

「カイゼルグレイモン!」

落下してきたカイゼルグレイモンを、マグナガルルモンとデュークモンが受け止める。

「大丈夫か!?」

デュークモンが声をかけると、

「……ああ……この程度、ルーチェモンの攻撃に比べたら、如何って事は無い」

カイゼルグレイモンはそう答える。

そう言いつつも、カイゼルグレイモンは進化が解け、拓也に戻った。

ボロボロになった甲板の上では、シェフィールドが俯いていた。

「ミューズ………何故こんな事を……?」

ジョゼフがそう問いかけるが、

「私には分かる」

答えたのはシャルロットだった。

ジョゼフがシャルロットに振り向く。

「彼女は、あなたを愛してる。 自分のモノにならないなら、いっそ殺してしまいたいほどに………」

その言葉を聞いて、ジョゼフはシェフィールドに向き直る。

「ミューズ……お前は………」

「それからあなたにも言っておく」

シャルロットがシェフィールドに向かって言った。

「振り向いてもらえないなら、振り向いてもらえるように努力するべき。 言う事を全て聞く事だけが、振り向かせる方法じゃない。 こういった鈍感男には、もっと積極的に行かないと無理」

何気にジョゼフを鈍感男としているシャルロット。

「言いたい事はこれだけ」

シャルロットはそう言って下がる。

「ミューズ………」

ジョゼフが、俯いているシェフィールドに向かってそう呟いた瞬間、

シェフィールドがジョゼフに駆け寄り、唇を重ねた。

少しして唇を離すと、

「唇を重ねるのは、“契約”以来のことですわね………ジョゼフ様、はっきりと申し上げます。 私は、あなたを愛しております。 これ以上ないほどに………」

「ミューズ………お前も馬鹿な女よ……こんな俺を愛するとはな……」

「あなた以外を愛せる筈もございません」

「俺はまだ答えを出せん。 それでもついて来るなら好きにしろ」

その答えに、シェフィールドは嬉しそうな表情を浮かべ、

「はいっ! 必ず振り向かせて見せます!」

そう言うのだった。




一方、シャルロットは、遠くの空に1匹の風竜を見つけた。

ジュリオの風竜、アズーロであった。

その背に、教皇ヴィットーリオの白い、長い帽子を見つけ、シャルロットは僅かに眉を顰めた。

恐らく、ジョゼフの変心を引き出したのはヴィットーリオの虚無という事は察しがついた。

ロマリアは、人の心を簡単に利用する。

シャルロットは、それだけははっきりと確信した。

「ロマリア………私の前に立ちはだかるなら、私はあなた達と戦う」

その風竜に杖を向けるように、己の覚悟を口にするのだった。







次回予告


ガリアとの戦いが終わり、シャルロット、シルフィードと護衛に輝二を残して、拓也達はトリスティンに帰還する。

そんな中、巻き起こる騒動とは?

次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔

第六十一話 魔法学院のとある一日 その3

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

ちょいと家のことが忙しくて、一日遅れで第六十話の完成です。

前半は手抜きですね。

原作と殆ど変わりがないので。

さて、色々ありましたが、こんなもんでどうでしょう?

なんかデュークモンが悪役っぽい。

サクヤモンの進化はこれでいいかなぁ?

とりあえずジョゼフとシェフィールドは生存。

最後になんかラブコメ風になりました。

さて、では次回も頑張ります。




[4371] 第六十一話
Name: 友◆ed8417f2 ID:315f8cfe
Date: 2011/02/13 19:22



ガリアとの戦いを終え、学院に帰還する拓也達。

そこで起こった出来事とは…………



第六十一話 魔法学院のとある一日 その3



戦争が終わり、拓也達が学院に戻ってきて数日が経った。

戻ってきたその日にはパーティが開かれ、戦争で(主に才人が)活躍した水精霊騎士隊が勲章を授けられ、隊長であるギーシュには、シュヴァリエの称号が与えられた。

しかし、才人や拓也には何の恩賞も無かった。




パーティのオスマンの話では、ジョゼフは死んだ事になっているが、実際は生きている。

それは、ジョゼフ、シェフィールド、レナモンとの戦いが終わった後、シャルロットは、ジョゼフに止めを刺さず、自分に協力するようにした。

だが、このままジョゼフが生きていると、必ずロマリアが処刑するように言ってくる。

そのため、シャルロットは一芝居うった。

幸運にも、近くにロマリアの兵は居ない。

ならば、ジョゼフは死んだ事にすればいいとシャルロットは判断したのだ。

ジョゼフとシェフィールドをマグナガルルモンに予め脱出させてもらい、デュークモンがファイナルエリシオンでフリゲート艦を吹き飛ばした。

こうなれば、死体があったとしても、跡形も残るはずもなく、生死の判断は不可能である。

そしてジョゼフは髭をそり、髪の色を魔法薬で染めた事で、別人に成り代わる事に成功したのだ。

それから、状況が一段落したために、アイナ、ルイズを始めとしたトリステイン人は学院に帰ることになったのだが、拓也はシャルロットのことが心配だった。

そこで名乗り出たのが輝二であり、輝二がガリアに残ると言い出したのだ。

確かに輝二ほど信頼が置けて強力な護衛は他にいないために、拓也は輝二にシャルロットの護衛を頼んだ。

念のために、輝二に地下水を託して。



そんなこんなで学院に戻ってきたわけで、拓也達は、久しぶりの平和を満喫していた。

まあ、帰ってきた拓也とアイナは、リースに泣かれたりもしたが、おおむね問題は無かった。

拓也と才人の家族は、特別に使用人の寮を使わせてもらえる事になった。

そんなある日の事。

朝。

朝食の仕込をしている厨房に訪れる人物がいた。

それは、拓也の母親の由利子と才人の母親の人美、そしてアイナの3人だった。

その訳は、先日才人が言った一言が原因であった。

その一言とは、

「母さんの作った味噌汁が飲みたい」

であった。

才人にしてみれば、1年以上も母親の料理を食べていない為、食べたくなる気持ちも当然であった。

問題は材料だったが、シエスタからの情報で、タルブの特産品に味噌があり、学院にも少量だがあることが分かり、それならばと母親2人が腕を振るうことになったのである。

序に、米もあることが分かっている。

アイナが料理長のマルトーに頼んだところ、「我らの剣と我らの炎の母親なら」と言って、快く厨房の一部を貸し出してくれる事になった。

それで、今は朝食の準備をしているのだが、

「アイナちゃん、弱火でお願い」

「はい」

「アイナちゃん、こっちは強火で」

「分かりました」

当然ながらハルケギニアにはガスコンロなどという物は無い為、釜の火の加減が難しい。

現代日本人である由利子と人美に釜が使いこなせる筈も無い。

だが、アイナは日本にいってガスコンロの火の強さを大体分かっていたので、アイナが魔法で火の調節をしているのだ。

そんな様子を後ろから眺めているマルトー。

「貴族の魔法も、使い方次第ではこんなに便利なものなのになぁ……」

意味深げな事を呟きつつ、自分の仕事に戻るのだった。




そして朝食の席。

才人は、目の前に並べられた、白いご飯、味噌汁、焼き魚に感動していた。

「う、うぉおおおおお………1年ぶりの日本の朝食だぜ………!」

才人はそう言いつつ、自作していた箸でご飯を口に運ぶ。

「おおっ! 飯だ! 久しぶりの白いご飯だ!!」

才人は感極まりつつ、味噌汁を飲んだ。

すると、

「………ッ」

突然才人は涙を流した。

「母さんの……母さんの味だ………」

そう呟く才人。

「うっ……ううっ……」

そんな風に泣く才人を見て、

「まあ、流石の俺も、お袋の味って奴には敵わねぇか」

マルトーは、そう感想を漏らしたのだった。



その後、拓也とアイナ、才人、ルイズは家族と共に中庭でこの後の身の振り方をどうするかと相談していた。

「とりあえず、先ずは住む所を探さないとな。 いつまでも学院に迷惑をかけるわけにもいかないし………」

拓也がそう切り出す。

「まあ、運良く金はあるからな。 家探しには困らないと思うが……」

「でも、皆はこの世界の常識に疎いから……あんまり離れすぎるのも心配です」

才人は、ふとルイズを見た。

「なあルイズ、お前ってロマリアの教皇様が使ってた“世界扉ワールド・ドア”って使えねえの?」

「えっ?」

「いや、やっぱりさ、父さんや母さん達だけでも地球に戻せないかなって」

才人の言葉に、ルイズは考え込む。

「どうなんだろう………?」

ルイズは試しに、ヴィットーリオが唱えていた呪文を呟いてみる。

そして適当に打ち切り杖を振った。

すると、

「…………出来たわね」

ほんの野球ボールぐらいのゲートが現れていた。

「よし! これで父さん達は帰せるんだ!」

才人は喜ぶ。

だが、

「そう簡単な話でもないみたいよ」

ルイズは、ゲートを消しつつそう呟いた。

そんなルイズの顔には、疲労の色が見える。

「お、おい。 大丈夫か?」

才人はそう声をかける。

「ええ。 ちょっと疲れただけよ。 だけど、教皇聖下が言っていた通り、この呪文はかなりの精神力を使うわ。 どちらにせよ、今は人が通れるだけのゲートは開けないから、暫くはハルケギニアに留まってもらわなきゃいけないわ」

「そっか………どっちにしろ家は探さなきゃいけないわけか………」

才人はそう呟いて空を見上げる。

すると、

「ん?」

才人が何かに気付く。

「如何しました? 才人さん」

拓也が尋ねると、

「何だあれ?」

才人が空を指差す。

全員が其方を向くと、空の遥か遠くに影が見える。

「鳥?」

信也が呟くが、

「鳥にしちゃおかしいだろ?」

確かにその影は羽ばたいているものの、鳥とは違う。

その間にも、その影は近付いてくる。

「………あれって」

アイナが何かに気付いた。

「風竜?」

ルイズが呟く。

その影は、こちらに向かって羽ばたいてくる風竜だった。

その風竜は、どんどん近付いてきて、

「って、こっちに向かってきてねえか!?」

その風竜は、かなりのスピードでこちらに接近してきて、

「「おわぁあああああっ!?」」

「「うわぁああああああっ!?」」

「「「「きゃぁああああああっ!?」」」」

拓也達の近くに着陸した。

「な、なんだぁ!?」

才人が叫んだ瞬間、

「アーーーーーーイーーーーーーーーナーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

一陣の風が駆け抜け、

「むぎゅ!?」

アイナが抱きしめられた。

「アーーーーイーーーーナーーーーーーー!! 無事だったかーーーーーーー!? 心配したぞーーーーーーーー!!」

抱きしめている人物は、言わずもがなアイナの父親であるゲイルであった。

「あ、ゲイルさん」

拓也はゲイルに気付いてそう呟く。

「お、お父様………」

アイナも、突然の事にビックリしている。

地球組は唖然としていた。

すると、ストームの方から、フレイア、クリス、ミーナが歩いてくる。

「フレイアさんにクリスとミーナまで、一体どうしたんです?」

「あら、タクヤ君。 お久しぶりね」

「あ、はい。 お久しぶりです」

「それでね、あの人が学院からアイナが戻ってきたって言う報告を受けたら、いてもたってもいられずに飛び出してきちゃったのよ」

フレイアが、ゲイルを見ながらそう説明した。

「ああ、親バカのゲイルさんなら当然といえば当然ですね」

それだけの説明で、拓也は納得する。

「拓也………其方は?」

由利子が尋ねる。

「あ、こっちはフレイアさん。 アイナの母さんで、今アイナを抱きしめてる人がアイナの父さんでゲイルさん。 で、こっちの2人がクリスとミーナ。 アイナの妹だよ」

「まあ、私は拓也の母で、神原 由利子と申します。 この度は拓也がお世話になっていたようで……」

「タクヤ君の母君でしたか。 これはご丁寧に。 わたくしは、アイナの母でフレイア・フォルダと申します」

由利子とフレイアは互いに自己紹介する。

すると、

「あなた」

フレイアがゲイルに呼びかけた。

「おう。 どうしたフレイア?」

ゲイルがアイナを抱きしめたままフレイアの方を向く。

「こちら、タクヤ君の母君だそうですよ」

「何っ!?」

ゲイルはビックリしたように由利子の方を向く。

「序にこっちが父さんと、弟の信也です」

拓也はそう紹介する。

「拓也、私は序か?」

宏明は少し寂しそうな顔をする。

「これはこれは、私はゲイル・サーバー・ド・シンフォニアという。 あなた方のご子息であるタクヤ君は、真に勝手ながら、アイナの婚約者候補とさせていただいておりますゆえ、よろしくお願いします」

その言葉を聞いた瞬間、宏明、由利子、信也は固まった。

そして、

「「「はぁああああああああああっ!?」」」

3人の驚愕の声が空に響き渡った。





その夜、大人たちは酒を飲み交わしていた。

「なる程、拓也がアイナちゃんの婚約者候補になったのは、そんな経緯が……」

「ええ。 貴族の大部分は欲に目を晦ませていますので、アイナを任せられる人物がいなかった為に……その点、タクヤ君やサイト君は素晴らしい心の持ち主です。 良いご子息をお育てになりましたな」

「いえいえ、私達は特に何も。 子供達が自身が自分で選んだ道です」

「しかし、その土台を作ったのはあなた方です。 十分誇っていいと思いますよ」

酒を飲み交わして、話に華を咲かせている大人達。

「なんか、隣で堂々と誉められると、恥ずかしくなってくる」

「だな」

拓也の呟きに才人が答える。

「でも、兄ちゃんがまさかアイナさんの婚約者候補になっていたなんて………」

「婚約者候補と言っても、最後に決めるのは俺達だからな。 ゲイルさんが言うには、お互いが結婚を望むなら、反対しないという事らしい」

信也の呟きに拓也が答えると、

「それでも十分驚きだと思うけど………」

と、信也は漏らす。

「で、この2人はそれで?」

信也は拓也の横を見る。

そこには、

「兄上……」

「お兄ちゃん」

クリスとミーナが、拓也の横を占領していた。

「まあ……な」

拓也はやれやれといった雰囲気で呟く。

アイナも、2人は妹で、拓也の事を兄としか見ていないことが分かっているので、大人しくしている。

序に、アイナは抜け駆けはしないとシャルロットとシルフィードに約束しているので、これといってアタックをかけるようなことはしない。

因みにその横では、ギルモンとチビモンが食事に夢中である。

「ガツガツ」

「うまうま」

チビモンはブイモンの幼年期後半であり、普段はエネルギー消費を抑えるために幼年期の姿になっているそうだ。

ともかく、久しぶりの平和な一日は過ぎていくのだった。






次回予告


ガリアに残り、新しい国づくりを始めていくシャルロット。

シャルロットが行なう政治とは。

次回、ゼロの使い魔と炎の使い魔

第六十二話 シャルロットの政策

今、異世界の物語が進化する。







感想で、キャラ紹介をやったほうがいいという意見があったので、主要キャラのキャラ紹介を簡単ですが行ないます。






・神原 拓也

この物語の主人公。

原作のアニメよりも若干落ち着いており、多少頭が良くなってる?

イルククゥから地下水を貰ったので魔法も使える。

十九話の覇竜との戦いで、覇竜に認められ『勇者』の称号を受ける。

その証に、覇竜の牙で作られた覇竜刀を受け取る。

原作では出来なかったエンシェントグレイモンへの進化が可能になっており、アイナ、シャルロット、イルククゥと共にカイゼルグレイモンXモードへの進化も可能。

現在、アイナ、シャルロット、イルククゥに惚れられている。

拓也自身も最初は戸惑っていたが、現在では3人に惹かれ始めている。

ただし、拓也自身誰が一番好きなのか分かっていない。





・アイナ・ファイル・ド・シンフォニア

拓也をハルケギニアに召喚した赤毛の少女。

拓也のヒロインその1。

最初こそ自分に自信が持てなかったが、拓也と共に行動している内に自信が芽生え、今ではスクウェアメイジとして自覚している。

家族構成は、父、母、妹2人。

優しい性格で、平民受けは良い。

拓也の事が好き。





・平賀 才人

原作の主人公。

基本的に原作と性格は変わりないが、拓也の兄として意識している為か、少し自重している。

ゼロ戦の中でデジタマを見つけ、以後ギルモンのパートナーとなる。

アルビオンでの戦いで、ギルモンをメギドラモンに進化させてしまい、多くの人間を殺してしまった事を悔やみ、一時期デジヴァイスを失ったが、三十九話で完全復活。

デュークモンへの究極進化を遂げる。

ギルモンとは友好なパートナー関係を築き、原作よりも若干大人っぽくなった。

因みに、本人はルイズ一筋。

ただし、女性の色気には弱い為に、色々ルイズには誤解される。





・ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール

才人のご主人様。

序にこの小説で、原作と比べると一番出番が減った人。

基本的に原作と一緒だが、アイナの影響か、所々大人な対応を見せることもしばしば。

才人の事が好きだが、性格の為に素直になれない。




・シャルロット・エレーヌ・オルレアン

原作と比べると恐らくこの小説で一番変わったキャラ。

拓也のヒロインその3。

水の精霊の一件で、拓也のお陰で母親が心を取り戻し、拓也に惹かれる。

国民全員が平等な国を目指し、現在奮闘中。





・イルククゥ(シルフィード)

シャルロットの使い魔で韻竜。

拓也のヒロインその2。

フーケとの一件で、ヴリトラモンに進化した拓也に救われ、一目惚れする。

原作と比べて人型でいる事が多い。





後、誰を紹介すればいいんだろう?






あとがきとお知らせ

第六十一話の完成です。

相変わらず日常編は難しい。

物足りない気がする。

とりあえず、両親ズを地球に戻すフラグを立てました。

これでやりたい事やったら地球に戻します。

あと、突然なんですが、このゼロの使い魔と炎の使い魔を、また一時的に更新停止しようかと思っております。

理由は、他にも自分はリリカルフロンティアと生きる意味の2つの小説を投稿しているわけですが、自分の執筆スピードだと、一週間に1話が限界です。

となると、3つの小説を平行して進めると、それぞれ1話進めるのに3週間、つまり1ヶ月近くかかってしまいます。

そして、それだけの期間が空くと、考えていたネタを忘れて、話がわからなくなる時があります。

よって、真に自分勝手ではありますが、3つの小説の中で唯一最後が見えていないこの小説の更新を停止しようかと思います。

予定では、2つに集中すれば半年ぐらいでリリカルフロンティアが終わりますので、それまでは停止しようかと思っております。

本当に自分勝手で申し訳ありませんが、よろしくお願いします。






[4371] 第六十二話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/01/15 20:45

学院で平和な一時を過ごす拓也達。

その頃、シャルロットは………





第六十二話 シャルロットの政策





ガリアの首都リュティス。

そこにある崩れ落ちた王宮に代わり、新たな王宮が建設されつつあった。

新たな王であるシャルロットにとって、城などどうでもよかったのだが、見栄を張りたがる貴族によって、なし崩し的に建設が開始された。

そんな中、

「リヒト・ズィーガー!!」

ヴォルフモンに進化した輝二が、光の剣で次々と石を切り出していく。

「大きさはこの位か?」

ヴォルフモンは、近くの石工に尋ねる。

「ああ。 問題ない」

それを聞いて、ヴォルフモンは切り出した石を指定の位置に運んでいく。

メイジならばともかく、平民にとっての重労働を、ヴォルフモンは事も無げにこなしていく。

「後の仕上げは任せる」

「ああ。 任せておけ!」

ヴォルフモンの言葉に、石工は自信を持って答える。

こうやって、ヴォルフモンは城の建設を手伝っていた。

力を持ちながらも、全く偉ぶらない輝二は、石工たちにも気に入られている。

「坊主は大した奴だな。 そんな力を持っていながら、何でもっと偉そうにしないんだ?」

石工の一人が尋ねる。

「…………俺に出来ることなどたかが知れている。 こうやって大雑把に石を切ることはできても、あなた達みたいに立派な装飾を施すことなど出来はしない」

その言葉に、石工たちは感激する。

「人にはそれぞれ、得手不手というものがある。 この世界のメイジ達は、確かに魔法という力を持ち、それを持たない者に比べ、その点では優秀と言えるだろう。 だが、それだけが人間のすべてか?」

ヴォルフモンは語る。

「魔法だけが人間の全てではない。 人には誰しも、その者しかできないことがきっとあるはずだ」

石工達は、その言葉に深い感動を覚えた。

「その通りだ! 魔法だけがこの世の全てじゃねえ! 俺達が作る作品だって、魔法じゃ作れねえものがある! だから俺達がこうしているんだ!」

石工の一人が叫ぶ。

その声に便乗するように、石工達が声を上げ、ヴォルフモンこと輝二を称え始める。

そんな様子に恥ずかしくなったのか、

「少し疲れた。 俺は休ませてもらう」

そう言って、輝二は進化を解いて、木の木陰に向かう。

石工達も、輝二が良く働いてくれたことを褒めるだけで、文句を言おうと思う者はいなかった。

木の木陰で休む輝二。

ここガリアでも本格的な夏が近づき、暑い日が続き、今日もかなり暑い。

汗水流しながら、せっせと作業する石工たちを見る輝二。

すると、石工の一人が突然倒れた。

すぐに石工の仲間たちが駆け寄る。

輝二も思わず立ち上がって、その場に駆け寄った。

「大丈夫か!?」

輝二は問いかける。

「坊主か。 どうやら暑さにやられちまったみてぇだ」

そう言う石工仲間の一人。

「熱中症か………すまない、手を貸してくれ! 日陰に入れて休ませるんだ!」

そう言う輝二。

石工仲間は当然と言わんばかりに動き出そうとしたが、

「おい! そこの! 何をやっている! 手を休めるな!」

監督官の貴族が声を上げた。

「旦那、勘弁して下せえ。 一人暑さで倒れちまったんで。 休ませないと大変で………」

石工のリーダーの男性はそう言うが、

「ふん! 暑さで倒れたぐらいで何だ!? さっさと仕事をしろ!」

監督官は、そう命令する。

それに輝二が食って掛かった。

「何を言ってるんだ!? 熱中症は下手をすれば命に係わる! 休ませないと危険だ! 魔法が使えるなら、この人の体を冷やしてくれ!」

日本のニュースで、暑さによる死者が出ていることを知る輝二はそう進言する。

「何をふざけたことを。 神から授かった奇跡の業を、何故平民如きの為に使わなければならん?」

「なっ!? 命に係わるんだぞ!?」

貴族の言葉に、輝二は驚愕する。

「ふん! 平民が何人死んだところで何の問題がある?」

その言葉に、輝二は怒りで歯を食いしばる。

その時、

「旦那、旦那」

輝二の懐から声がした。

拓也から預かっていた地下水だ。

輝二は地下水を取り出す。

「旦那。 俺を持っていれば、ある程度の魔法は使えるッス。 この人の体を冷やすぐらいなら、旦那でも十分ッス」

地下水がそう言う。

「そうか。 なら、頼む」

「お安い御用ッス」

輝二が地下水を振ると、冷風が吹き、倒れた石工と、周りの石工達の体を冷やしていく。

「おお! こりゃ涼しい!」

石工達は、喜びの声を上げる。

「き、貴様! 魔法をそんな事に使うなど!?」

監督官は声を上げるが、

「旦那! 使えるものをどう使おうが人の勝手じゃないですかい? 何より、人助けに魔法を使って、何がいけないんでい?」

「何だと!?」

石工達の言葉に、更に怒鳴ろうとする監督官。

すると、

「黙ってくれ。 気が散る。 手伝う気が無いのならどこかへ行ってくれ。 喚くだけなら邪魔だ」

輝二が監督官に向かってそう言い放つ。

その言葉で、堪忍袋の緒が切れた監督官は、杖を振り上げ、

「この平民が………「エア・ハンマー」グヘッ!」

空気の塊に横殴りに吹っ飛ばされた。

全員が横を見ると、そこには杖を構えた王族衣装に身を包んだシャルロットがいた。

「無礼討ちによる傷害未遂の現行犯で逮捕」

シャルロットはそう宣言する。

シャルロットの周りにいた騎士が、吹っ飛ばされた貴族を拘束する。

「魔法による傷害罪は、1年以上5年未満の懲役。 この事は、既に通達済みのはず」

シャルロットは、拘束された貴族に向かってそう言い放つ。

「し、しかし陛下………」

「どのような理由であろうと、正当防衛以外の暴力は認めない。 貴族から平民へ。 平民から貴族へ。 どちらの罪も等しく罰を受けてもらう」

反論しようとする貴族をぴしゃりと黙らせる。

そのまま、貴族は連行されていった。



このようなことになった背景には、戦争後初めての議会が開かれた日まで遡る。

シャルロットは、この議会で、自分の考えた政策を発表し、すぐに平等の国への移行を考えていた。

だが、それはジョゼフによって止められる。

何故ならば、いくらシャルロットが王になったからと言って、いきなり貴族に不利になりすぎる政策を打ち出せば、多くの貴族が敵にまわり、シャルロットの立場が危うくなってしまう。

それを理解したシャルロットは、いきなりの政策改変は諦め、平等への第一歩となるとある法律を出した。

それは、

「命はすべて平等であり、尊いものである。 よって、これを無意味に脅かし、奪う行為は等しく罪とする」

即ち、命という意味では貴族も平民も平等であり、貴族が平民を傷つけ、或いは殺したときも、逆に平民が貴族を傷つけ殺した時も、同じ罪ということだ。

当然ながら、無礼討ちなどという理不尽な殺しも、この法律によって完全な犯罪となる。

更に、

「力を持つものが持たぬものに力を振るうことは認めない。 ただし、自身や身の周りの危険に対する防衛行動はこの限りではない」

このような政策も打ち出した。

これは、主にメイジが平民に対して魔法を使うことを禁止した。

だが、正当防衛及び怪我などの治療は行っても良いということだ。

当然ながら、平民を庇護するような法律に貴族の多くが不満を漏らす。

そこで、シャルロットは問うた。

「貴方達は、この法律が不満?」

「当然です! 何故平民如きをここまで庇護しなければならないのか理解に苦しみます! 平民など、我ら貴族が守ってやらねば生きてはいけぬ脆弱な奴らではありませぬか!?」

議員の一人がそう声を上げる。

「そう…………その言葉は、平民が居なくても、貴方達は生きていけるということ?」

シャルロットはそう尋ねた。

「当然ではありませんか! 平民など居なくとも、我々は生きていけます!」

その言葉を聞いて、シャルロットは呆れる。

すると、

「……………わかった。 それなら、これから一週間、平民の力を一切借りずに生活して。 それで不満なく生活できたと言い切るなら、王の座を貴方達に譲り渡す」

シャルロットはとんでもないことを言い出した。

「ほ、本気ですか? しかも、たった一週間などという短い時間で………」

そう返す貴族たち。

だが、

「これでも余裕を見た方。 本当なら、3日で十分と考える」

シャルロットはそう言った。

流石にその言葉には頭に来たのか、

「よろしい! 1週間ですな!? 平民の力を借りずに1週間生活すれば、王の座を譲ると!?」

若干声を荒げてそう尋ねる。

「王の名に誓う」

シャルロットは冷静に答えた。

「分かりました! その賭け、お受けしましょう!」

そう言った貴族を筆頭に、議会に参加していた半分の貴族がそれに便乗する。

貴族たちにとって、王となれるまたとないチャンスなのだ。

まあ、その考えが甘いと思い知らされるのもすぐ後の事なのだが。

そこで、シャルロットが議会の閉会を宣言すると、シャルロットは先ほどの貴族たちに向き直り、

「たった今から、賭けを始める」

シャルロットの言葉に、貴族たちは頷いた。

すると、シャルロットは貴族たちに杖を向ける。

「「「「「「「え?」」」」」」」

貴族たちが声を漏らした瞬間、

――ゴウッ!

シャルロットが放った風の魔法で、貴族たちが着ていた服がビリビリに破かれた。

「へ、陛下!? 何をされるのですか!?」

服を破かれた貴族が声を上げる。

「私は、平民の力を一切借りるなと言った。 その服は、一体誰が仕立てたもの?」

シャルロットは、淡々とそう返した。

当然ながら、服を仕立てたのは服屋の平民である。

その言葉で、貴族たちは声を詰まらせる。

仕方なく、貴族たちは錬金で服を作り出した。

だが、そのどれもがどこか不恰好で、普通に仕立てた服よりも明らかに程度が低い。

更に、

「食事にする」

とシャルロットは言う。

別室に食事が用意されているが、当然ながら賭けに参加している貴族たちに食事は無い。

これも、料理をしているのは平民であるからである。

普通の貴族が料理などを作れるわけはない。

まあ、シャルロットの身近に、アイナという例外が居たりするのだが。

ついでに言えば、料理の材料となる肉や野菜、果物なども平民が家畜を育てたり、畑を耕したりしているからである。

その後も、次から次へと日常生活に必要な殆どをシャルロットによって否定される。

やがて、一日も立たないうちに、全員が脱落した。

「これで理解できたはず。 通常の生活において、貴族が絶対に必要なことなど、何一つない。 貴族が平民より優れている所など、魔法だけ。 その魔法も、人の技術が進歩すれば、やがて無用の長物になる」

地球の技術を目の当たりにしてきたシャルロットはそう言う。

地球の歴史を学んだシャルロットは、当然戦争や、武器の歴史も学んでいる。

地球の最悪な武器ともいえる核兵器やミサイル、重火器に比べれば、ハルケギニアの魔法など児戯に等しい。

はっきり言って、並のメイジなど地球の拳銃一つあれば十分だとシャルロットは考えている。

この世界では、銃などマスケット銃しかなく、単発で命中率も悪いとしか考えられていない。

だが、地球の銃は命中精度も高く、弾の威力もハルケギニアの銃とは比べ物にならない上に連射も利く。

防御魔法など、紙の如く貫くだろう。

いや、それ以前に魔法を使う間もなくやられるだろう。

まあ、中には例外もいるだろうが。

もし、ハルケギニアの文明が現在の地球の文明に追いついたとき、メイジの魔法など、あれば便利だが、無くても別に問題ない。

そうなれば、貴族の優位性など全くないだろう。

シャルロットは、それがわかったため、迷いなく平等への道を歩み始めたのだ。

まあ、それは技術が進歩する数百年も後の事だが。



話は変わるが、ガリアの政策には、ロマリアから人員が派遣され、シャルロットを手助けする手筈だったが、シャルロットはそれを突っぱねた。

態々敵になる国から、人員を入れるわけはない。

ハルケギニアの宗教と言えば、ブリミル教が当たり前であるが、シャルロットはこれを期に、宗教の自由化も視野に入れるつもりである。

それは、国内の治安を安定させてからになるが。



一日の責務が終わり、シャルロットは自室で休んでいる。

この部屋は、かつてシャルロットの従姉であるイザベラ王女が使っていた部屋であった。

そのイザベラは、現在行方不明である。

戦争が終結した時、イザベラは行方を晦ませた。

ジョゼフが生きていることを知っていれば、また違ったのかもしれないが、ジョゼフの生存を漏らさないために全く情報を流さなかったので、イザベラにも知る術は無かったのだ。

シャルロットがベッドに腰掛けていると、女官姿のイルククゥが食事を持ってくる。

だが、どうにもその恰好が気に入らないようで、

「きゅいきゅい、この格好ホント窮屈なのね。 タクヤ様のお母様が選んでくれたてぃーしゃつとじ~ぱんって奴の方がずっといいのね!」

そんな事を言っている。

それからしばらくすると、

「東薔薇花壇警護騎士団団長、バッソ・カステルモール殿!」

部屋の外から声がした。

シャルロットは直ぐに王族衣装に身を包むと、ドアを開ける。

現れたのは、カステルモールと、

「きゅい! あの我儘王女!」

後ろで手をロープに縛られた、イザベラであった。

「そうでございます。 さる修道院に隠れていたところを発見いたしました。 なるほど、修道院とは考えたものですな! だが、神の御威光をもってしても、この娘の性根まではお隠しになることはかなわなかったようで。 ほら、この通りでございます」

縛られたイザベラは、怒りに震えている。

「それでは、お裁きは陛下の思うがままに……」

そう言い残し、カステルモールは退出していった。

それをきっかけに、イザベラは叫んだ。

「さあ殺せ! 殺すがいい! 父にそうしたように、その娘も、お前の呪われた魔法でヴァルハラへと送るがいい!!」

その表情は、憎悪に歪んでいる。

「どうしたのだ!? 父から冠を奪ったその手で、娘の首にも同じことをするがいい!」

すると、シャルロットは杖を掲げる。

その動作に、流石のイザベラも目を瞑って震える。

だが、シャルロットが短く呪文を唱えると、

「…………………ッ!?」

イザベラの両手を縛っていたロープが解かれる。

そこからのイザベラの行動は早かった。

テーブルの上のペーパーナイフを掴むと、シャルロットに突き立てんと振り上げる。

「父の仇!!」

イザベラは、そう叫んで腕を振り下ろそうとした。

だが、そのナイフがシャルロットを貫くことはなかった。

シャルロットの胸の前で、ぶるぶると震えるのみ。

シャルロットは怯みもせずに、その切っ先を見つめていた。

「どうして殺さない? 情けをかけようというの?」

イザベラは震える声で尋ねる。

「貴方に恨みは無い」

シャルロットは首を横に振ってそう答えた。

「私に恨みが無いだって!? あれほど私はお前を辱めたのに! そんな馬鹿な! 何を気取っているの!? 意味が分からないわ!」

イザベラは叫ぶ。

「…………あなたも被害者だから」

シャルロットはぽつりとつぶやく。

「私が被害者? なんの被害者だっていうの!?」

訳の分からないイザベラが興奮気味にそう問う。

「今の制度」

シャルロットは迷いなく答える。

すると、シャルロットはイルククゥの方を向き、

「彼を連れてきて」

そう指示する。

「きゅい。 わかったのね」

イルククゥは、そう言って、小走りに部屋から出て行った。




暫くすると、イルククゥは赤髪の男性を伴って戻ってきた。

「ッ!?」

その男性を見て、イザベラは息を呑んだ。

「…………イザベラか?」

「父………上…………?」

そう、その男性とは、髪を赤く染め、髭を剃っているものの、ジョゼフであった。

パッと見では分からないが、娘であるイザベラは、一目で見破った。

彼女の眼力も凄まじいものである。

イザベラは、勢いよくシャルロットに向き直ると、

「エレーヌ! これは一体!?」

思わずそう叫んだ。

“エレーヌ”とは、シャルロットのミドルネームであり、イザベラは昔、シャルロットの事をそう呼んでいた。

今回、思わずその呼び方が出てしまったのだ。

「伯父様には、表向き死んでもらったことにして、私の復讐を手伝ってもらっている」

「……貴女の………復讐?」

イザベラは疑問の声を漏らす。

復讐の相手は、父や自分では無いのかと。

「私の復讐…………それは、今の貴族、王族制度の廃止」

「ッ………それは!」

シャルロットの言葉に、イザベラは驚愕する。

「今の制度があったから、父様と伯父様が仲違いした。 父様達だけじゃない。 今まで多くの貴族、王族が兄弟、家族、一族で悲しい争いが繰り返されてきた。 そして、それに巻き込まれた平民たちも………だから、今の制度を無くし、国民全員が平等な制度を作る。 でも、それは私一人の力では無理。 だから伯父様に味方に付いてもらった…………そして、できればあなたにも私の手助けをしてほしい……イザベラ姉様」

シャルロットも、イザベラを昔のように呼んだ。

この2人は、幼いころは本当の姉妹のように仲が良かった。

それが、魔法の出来によって差別され、イザベラは劣等感からシャルロットの間に溝を作ってしまったのだ。

いや、それが普通の貴族や、メイジであったならそこまではならなかったのかもしれない。

だが、王族という立場が否応なしに比べられる対象となり、2人の溝を深めたのだ。

「エレーヌ………」

イザベラはシャルロットを見つめ、そう呟く。

そして、その場で跪き、

「微力ながら、お仕えさせていただきます。 陛下」

そう宣言した。

ここに、一族の蟠りは無くなった。

しかし、真に一族がそろうためには、まだ、1つのピースが足りていなかった。

それを、シャルロットはまだ知らない。






次回予告


平和を満喫する拓也達。

そんな中、両親達の住居を探すために街に繰り出す。

そこで立ち寄った魅惑の妖精亭で、アルビオンでの戦争を基にした演劇が公演されていることを知る。

興味本位で見に行くが…………

次回、ゼロの使い魔と炎の使い魔

第六十三話 演劇、アルビオンの剣士たち!

今、異世界の物語が進化する。






あとがき

あけましておめでとうございます。

新年初投稿は、今までほったらかしにしていたゼロ炎で始めます。

さて、第六十二話が完成しました。

ほったらかしてた分、ストーリーを思い出すのに苦労しました。

拓也達は出てませんが。

今回は色々とシャルロットの政策を書きました。

一気に変えてしまっては、貴族からの反発が多数と思いましたので、ちょっとずつ変更していきます。

それでも反発はあるでしょうけど。

自分が思うに、平民が居なかったら、貴族は普段の生活すら儘ならないと思います。

逆に、平民は、貴族が居なくても、普通の生活は出来ると思いますが、身を守ることが難しいと思います。

だからこそ、貴族が平民を守り、平民が貴族に仕えるという方式になったのだと思いますが、力を持つ貴族が次第に平民を弾圧していくようになったのだと思います。

なので、シャルロットは平民への殺傷、暴行を含め、罪にしました。

その逆の平民から貴族への殺傷、暴行も罪ですけど。

これだけでも、結構平民の暮らしは良くなると思います。

この後どうなるかはお楽しみに。

では、次も頑張ります。




[4371] 第六十三話
Name: 友◆ed8417f2 ID:8beccc12
Date: 2012/01/15 20:39


家族と共に学院で生活する拓也達。

しかし、学院に迷惑にならないよう、住む家を探すことにするが………




第六十三話 演劇、アルビオンの剣士たち!




現在、拓也や才人の両親達と信也は、学院の使用人の寮を使わせてもらって生活している。

しかし、多少の手伝いはしているとは言え、ほぼ無償で生活の空間を提供してもらっていることに、現代日本人の彼らは、悪い気がしていた。

そこで、拓也と才人は、ガリア戦役の一騎打ちで稼いだお金で、家を買うことにした。




そして、休日。

拓也達は街に来ていた。

街に来たメンバーは、拓也、アイナ、才人、ギルモン、ルイズ、シエスタ、リースと拓也と才人の両親達+信也とチビモンだ。

因みにシエスタかリースには、住む家が決まった時には、ハルケギニアの事をよく知らない両親達のサポートの為に、住み込みで働いてもらおうかと考えている。

売りに出ている家や屋敷を回り、ある程度の情報を仕入れた後、それらを纏めて何処に決めるか相談を始める。

現在の場所は、『魅惑の妖精』亭だ。

昼間はただの宿としかやってないので、スカロンに訳を話して店の一部を貸してもらったのだ。

家を決めるために、話し合っていると、

「ねえ、サイト………」

ルイズが才人に話しかける。

「何だ?」

才人が聞き返す。

「何か、私達注目されてない?」

ルイズが、店の入り口を指しながらそう言う。

そう言われて視線を移すと、ルイズの言うとおり、店の外には見物客がたくさんいた。

「………そう言えば………街中でも、ジロジロと見られてた気が………」

アイナも思い出したように呟く。

すると、

「それは当然じゃない」

スカロンが話に割り込んできた。

「スカロン店長。 当然ってどういうことですか?」

才人が尋ねる。

「あのね、サイト君は、今や救国の英雄様じゃないの」

スカロンがそう続けたとき、見物客の中から、一人の中年女性が飛び出してきて、才人の前で跪いた。

「え? 何?」

突然の事に才人が驚いていると、

「あの………貴方様はもしや、陛下の水精霊騎士隊副隊長、ヒリーギル様では………?」

「や、ヒラガですけど………」

問われた質問に才人は名前を修正しつつ肯定する。

その言葉に、見物人からどよめきがわく。

その迫力に、その場にいたメンバーは思わず身震いした。

「お会いできて、か、感激です! 平民出身ながら、数々の大手柄! あなたは私達の太陽です! 是非是非、この子の名付け親になってくださいまし!」

そんな風に叫ぶ女性の後ろから、商家の也をした男性が飛び出してきて、才人の手を握る。

集まった人々は、次々に才人の活躍を褒めそかした。

「アルビオンでの退却戦!」

「虎街道での大活躍!」

「そして、リネン川での百人抜き! あなたの活躍を聞いて、我らトリスタニア市民はどれだけ勇気付けられたことか!」

「いや、十人とちょっとですけど………」

凄まじい尾ひれがついた活躍話を修正する才人。

「それでも大変な事です! 貴族を十人も抜いただなんて! いや、今では貴方様も貴族なわけですが!」

住民たちの熱狂振りに圧倒される才人。

アルビオンの活躍で名が知れ渡り、今回のガリア戦役で、人気に火が付いたようだ。

群がる民衆に弾きだされる格好になった一同。

「これでわかったでしょ? 今やサイト君の人気は、このトリスタニアじゃ凄いんだから。 たぶん、一人じゃ街を歩けないぐらいにね」

そう言うスカロン。

「な、なんでいきなり、こんな大人気に………」

ルイズが思わずそう呟く。

「それに、戦争での活躍って意味なら、タクヤもサイトと同等なんだけど………何でタクヤには何も無いのかな?」

アイナがふと疑問に思う。

すると、スカロンはコホンと咳払いをすると、

「ルイズちゃんと、アイナちゃんの疑問の答えは、両方ともアレよ」

食堂の壁に張られた広告を指差した。

それは、演劇の公演ポスターだった。

演目を見て、一同は目を丸くした。

「………アルビオンの剣士達?」

ポスターには剣を持ち革の胴着を着込んだ立派な偉丈夫の男と、火竜に跨り、赤い鎧を着た年若い青年が剣を片手に、恐ろしい格好をしたアルビオン兵に立ち向かう様が描かれている。

どちらの人物も、どっかの誰か達とは、似ても似つかない。

「……も……もしかしてこれって………」

拓也が呆気に取られながら、そう呟く。

「どうせだから、皆で見に行く?」

一同は、冷や汗を流しながら頷いた。






「悪辣非道なアルビオン軍め! かかって来るがいい!」

目の前で繰り広げられる歌劇を、拓也達は呆然と見つめていた。

剣を握った黒髪の役者と、赤い鎧を着た役者が、竜の着ぐるみや、貴族の格好をした役者たちを前に立ち回りをしている所である。

「敵は七万! だが、我らは二人! しかし、神と始祖ブリミルはトリステインをお見捨てにならなかった!」

そんな風に叫ぶ役者を見て、思わず才人は突っ込んだ。

「七人じゃねえか」

「そんなに舞台の上に乗るわけないでしょ」

そんな才人に突っ込むスカロン。

「この祖国の危機に、親愛なる女王陛下は我らを遣わされた! 風の剣士、ヒリーギル・サートーム!!」

黒髪の役者が剣を掲げて叫ぶ。

「ヒリーギルの無二の戦友、炎の竜騎士! カナーバル・タカーナー!!」

続けて、赤い鎧を着た役者も剣を構えて名乗りを上げる。

「風の剣士て」

「名前が凄い事になってるわ」

才人とルイズ。

「炎の竜騎士って………」

「多分、俺が進化したアルダモンと、才人さんのメガログラウモンが噂の中で混ざりに混ざってああなったんだろ?」

アイナが呟き、拓也が額に手をやりつつ答える。

舞台の才人と拓也役らしい男たちは、次に剣を振り回した。

舞台の着ぐるみや、敵のメイジ役の役者たちが、その剣を受けて、ばったばったと倒れていく。

1人倒れるたびに、観客からは猛烈な歓声が沸く。

そのほとんどは平民であった。

やがて、場面の舞台は移り変わり、拓也役の役者の一人舞台になる。

先ほどと同じように、敵役の役者たちをばったばったと切り倒していく。

すると、敵役に真っ黒な鎧を着た男が現れた。

「おお! 貴様は、我が宿命のライバル! 一騎当千の猛者! 漆黒の竜騎士!」

大げさに叫ぶ拓也役の役者。

それを見て、拓也は更に頭を抱えた。

「宿命のライバルが一騎当千って……遠まわしに自分も一騎当千だって自慢してるようなもんじゃねえか……」

そんな拓也に、

「ね、ねえ、タクヤ。 あれってもしかして………」

敵役の人物に、思い当たりがあったのか、アイナが尋ねてくる。

「ああ……多分、ブラックウォーグレイモンだろ………元々“漆黒の竜人”って呼ばれてたから、これも、噂の中での伝言ゲームで変わっていったんだろ」

そう言いつつ、呆れ果てる拓也を余所に、舞台の二人は戦い始める。

まるで学芸会のチャンバラ劇のような殺陣を繰り広げる役者達。

「貴様との決着! 今ここでつける!」

「ふん! 返り討ちにしてやる!」

そんな言葉を交わしつつ、剣を交える。

そして、決着。

2人の役者がお互いの腹を剣で貫いた振りをした。

「………ふん……相打ちか…………悪くない」

漆黒の竜騎士役の男がそう呟き、先に倒れる。

「ぐふ………ヒリーギル………」

そう言って倒れる拓也役の役者。

すると、出を見計らって、才人役の役者が舞台に駆け込んできた。

「ッ! カナーバル!」

才人役の役者は拓也役の役者に駆け寄る。

「カナーバル! しっかりしろ! カナーバル!」

拓也役の役者の体を揺する。

「うっ……ヒリーギル……」

拓也役の役者はそう呟くと、

「すまん。 ヒリーギル。 俺はここまでだ」

「死ぬな! カナーバル!」

拓也役の役者は弱々しく右手を持ち上げる。

才人役の役者は、その手をしっかりと握った。

「死ぬなよ、ヒリーギル」

そう言い残して、力尽きた演技をする拓也役の役者。

「カナーバル!? カナーバルゥゥゥゥゥッ!!」

やや大げさに叫ぶ才人役の役者。

すると、拓也役の役者が使っていた剣を握って、才人役の役者は立ち上がった。

「うぉおおおおおおっ!! 許さん! 許さんぞアルビオン軍め! よくも我が親友を!!」

そう叫んで二刀流で駆けていく。

再び舞台が移り変わった。

「……ひどいチャンバラ劇だな」

切ない声で才人が感想を述べた。

「俺が勝手に殺されてるし」

拓也も何とも言えない表情で呟く。

「批評家にはえらい酷評されてるけど、市民たちには大人気なの」

そう言うスカロン。

宏明を始めとした地球組は、呆れかえって何とも言えないようだ。

しかし、シエスタだけは違った。

シエスタは、劇と才人を交互に見つめながら、頬を染めてうっとりとしている。

「サイトさんが出てますよ。 ほら。 ほらほら。 やん………私のサイトさん、とうとう舞台の上にまで出ちゃいましたわ」

「俺達じゃないよあれ………別の何かだよ」

「わぁ。 かっこいい! あんな風にしてアルビオン軍をやっつけたんですね」

才人の抗議も無視して、シエスタは劇に見入っている。

舞台の上の才人役の役者が、とうとう最後のメイジを打ち倒した。

すると、興奮した観客たちが立ち上がり、大きな喝采を送る。

「す、すごいわね………」

ルイズが観客の熱意に気圧され、ポツリと呟いた。






劇が終わった後、才人は被っていたフードをさらに深く被って劇場を出た。

すると、才人の肩に才助がポンッと手を置く。

「まあ、元気出せ。 あの劇は微妙だったが、親としては、まあ、子供が自慢できるのは嬉しいものだ」

その言葉に、才人の瞳からほろりと涙が零れる。

才人にしても、あの劇は、ある意味衝撃的だったようだ。

一同は、才人の事がばれない様に、そそくさとその場を立ち去ろうとした。

しかし、

「おや! ルイズたちじゃないか!」

聞き知った声が響いた。

そちらを向くと、シュヴァリエのマントを羽織ったギーシュだった。

その後ろには、水精霊騎士隊の面々も見える。

ルイズは、厄介な奴らに見つかったと言わんばかりに才人を押しやり、その場を離れようとする。

だが、才人の人気を知らないギーシュ達は、一同を追ってくる。

「おいおい! どこに行くんだ! 聞きたいことがあるんだよ! サイトとタクヤはどこに行ったんだ? やっこさんたち、今朝から姿が見えないんだ!」

拓也も、自分の名前が出されるとややこしいことになると思い、才人と一緒に引っ込もうとする。

続けてレイナールが呟く。

「ルイズ、アイナ。 知ってるなら教えてくれ。 早いところサイトとタクヤを見つけ出さなくちゃならないんだ。 驚くなよ! 良い城が見つかったんだ!」

水精霊騎士隊の言葉に、住民たちが反応する。

ヒリガル・サイトンだのヒリーギルだの妙な呼ばれ方をしているが、発音は似ている。

ルイズとアイナは惚けることにした。

「し、知らないわ。 そんなやつ………」

「わ、私も、タクヤとは別行動だから、今は何処にいるのか知らないよ………」

二人は苦しい言い訳をする。

しかし、

「おや? そこにいるのはサイトとタクヤの父君と母君じゃないか」

レイナールが両親達を発見する。

「だ、だめっ!」

ルイズとアイナは食い止めようとするが、ギーシュは両親達に近付いて行ってしまう。

更にそこで、妙に目ざといマリコルヌが二人を発見してしまう。

「おや! サイトにタクヤも。 何だ、二人ともいるじゃないか!」

そして、才人に飛びつき、フードを上げてしまう。

周りにいた人々から、嵐のようなどよめきが沸いた。

「こ、このお方が、かの水精霊騎士隊副隊長、サイトン・ヒリギットさまで?」

「いかにも」

マリコルヌが頷くと、市民たちが一斉に群がり始めた。

「祝福を! 祝福をくださいまし!」

「お手を握らせてください!」

もみくちゃにされる才人。

それを見た拓也は、進化して才人を救出するかと考えていた時、

「こらぁ! 何の騒ぎだ! ただちに解散しろ!」

聞き覚えのある怒号が響いた。

見れば、騎士団が通りの向こうから駆けてきたのである。

最初市民は反抗していたのだが、チェルノボール監獄に叩き込むという脅しで、市民たちは散り散りになる。

市民を追っ払った女騎士、アニエスは才人の前に来ると口を開いた。

「なんだ、お前たちか。 ちょうどよかった」

「おかげで助かりました。 え? ちょうどよかった?」

アニエスは才人に一通の書状を手渡した。

「これをお前たちに届けに行くところだったのだ。 トリスタニアにいたおかげで、手間が省けた」

「何ですかこれ?」

才人は受け取りながら尋ねるが、その手紙に、トリステイン王家の花押が押されていることに気付く。

「陛下のお召だ。 ただちに宮廷に参内しろ」

こうして、急遽王宮に向かうことになったのであった。






次回予告


呼び出された王宮で、才人は領地を受け取ることになる。

そして、その領地を見に、現地を訪れるが………

次回、ゼロの使い魔と炎の使い魔

第六十四話 才人の出世

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

第六十三話の完成。

何とか一週間で書けた。

演劇の内容いろいろ追加してみた。

如何でしょうか?

それ以外に特筆することは特になし。

では、次も頑張ります。






[4371] 第六十四話
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2015/02/08 17:28


街で出会ったアニエスに王宮への呼び出しを受けた才人たち。

その理由は…………




第六十四話 才人の出世




アンリエッタに呼び出され、王宮に来る拓也達。

尚、王宮に来たメンバーは、ルイズと才人、ギルモンに拓也とアイナだけである。

残りのメンバーは、時間も遅いため、魅惑の妖精亭で一泊することになっている。

流石に大人数で王宮に押しかけるわけにもいかない。

拓也達はアニエスに案内され、アンリエッタの執務室へ通される。

ドアを開けた先にいたアンリエッタは、疲れた表情で椅子に腰掛けていた。

それでもルイズ、才人らの顔を見ると、どこかホッとした表情を浮かべた。

ようやく気の許せる相手を見つけたという事だ。

「ようこそいらしてくださいました。 さあ、こちらへ。 祖国の英雄を迎えるには、むさくるしところですが………」

アンリエッタの言う通り、部屋の中には最低限のテーブルと椅子と本棚、それに燭台があるだけだ。

他の無用な物は、全て売り払ったのである。

アンリエッタは小姓を呼び、ワインと予め用意された料理を運ぶように命じた。

「ごめんなさいね。 ガリアであれだけの活躍をしたあなた方を持て成すには、まるで拙い席ですが………今、宮廷には殆どお金がないの。 園遊会を開きたいと言ったら、財務卿からお小言を受けてしまったわ」

「と、とんでもございません!」

アンリエッタの言葉にルイズは慌てて言い、

「こぢんまりした席の方がいいですよ。 人混みは、もうたくさんです」

才人は疲れた様子で呟いた。

「あんなことがありましたからね」

拓也も同意するように頷く。

「あら? どうして?」

アンリエッタが尋ねると、アニエスが先程の騒動を報告した。

「まあ! お二方の歌劇まで上演されているですって? すっかり人気者になられたようで、わたくしまで誇らしいわ」

そう言って、アンリエッタは笑った。

「笑い事じゃないですよ! 街も歩けない」

憮然とした声で才人が言い、

「何か俺は勝手に死んだことになってるみたいですから、それほどでもないですけどね」

拓也は苦笑する。

その時、アンリエッタが頼んだ料理が運ばれてきた。

先程金が無いと行った割には豪華な料理だった。

まあ、王族の金が無いのと、平民の金が無いのとでは、かなり感覚が違うのだろう。

料理を食べ始めてしばらくして、話題がガリアの戦いに移っていた。

「本当に恐ろしい火の玉でしたわ………」

アンリエッタは恐怖の感情を隠そうともせずにそう呟いた。

「あのような、恐ろしい魔法を使うエルフと争うなど、これ以上に愚かしい事はありませぬ」

きっぱりとアンリエッタは言った。

「私もそう思いますわ」

ルイズも頷く。

「我々の急務は、ガリアがロマリアの意のままになることを防ぐことです」

「でも、あのタバサがそんな事をするわけありませんよ」

「わたくしもそう思います。 あなた方のご友人だったのでしょう? その点は信用していますし、実際にロマリアからの人員も拒否したと聞いています。 でも、この世は何が起こるか知れたものではありませんから」

「で………私達に話とは?」

「あなた方を、ガリア王との交渉官に任命します」

アンリエッタは才人とルイズを見ながらそう言った。

「えっ? 俺達に? でも、タバサとの繋がりなら、俺達よりも拓也やアイナの方が………」

才人がそう言うと、

「もちろん有事の際にはそちらのお二方にも同行はしてもらいます。 しかし、貴族というのは見栄を張りたがるものもいます。 タクヤ殿やアイナでは、如何せん歳が若すぎて、相手に舐められると反対する者も多いでしょう。 その点を踏まえてのお願いです」

「そういうことなら………」

「喜んでお受けいたしますわ」

才人とルイズが頷く。

「よかった。 断られたらどうしようと思っていたのです。 まあ、今はまだゆっくりしていただいて差し支えありません。 初のお仕事は、ガリアで行われる即位記念園遊会の席で、ということになりましょう」

アンリエッタがそう言って笑みを浮かべたあと、さらりと言ってのけた。

「さて、ルイズはともかく………サイト殿は一国の大使としては、お名前が短すぎるように思えるのです」

「サイト・シュバリエ・ド・ヒラガでしたっけ? 十分だと思いますけど」

日本人の感覚で才人は言い、拓也も頷く。

アイナは日本の事も知っているので苦笑するだけだが、

「サイトは元平民ですから」

当然とばかりにルイズが言った。

「ですから、わたくしとしてはそのお名前を、多少長くさせていただきたいのです」

才人と拓也はその意味が分からず首を傾げるだけだが、その意味を悟ったルイズとアイナは眼を丸くした。

「? どうかしたのか?」

拓也がアイナに尋ねる。

「えっとね、名前が長くなるってことは…………」

アイナが拓也に説明しようとした所で、

「彼に領地を与えたいのです」

アンリエッタがそう言った。

一瞬、その意味がわからなかった才人と拓也だが………

「はい? はいぃ~~!? 領地って! 土地っすか!?」

その意味を理解した瞬間、才人は叫んだ。

「はい。 トリスタニアの西に、ド・オルニエールと呼ばれる土地があります。 ほんの30アルパン程の狭い土地ですが…………」

30アルパンとは地球で言えば10km四方の土地である。

現代日本ではそんな土地を持つ者などそうそういない。

「せ、狭くないです! 全然狭くない! そ、そんなのいいです! もったいないです!」

才人は慌ててそう言うが、

「あら? あなた方は住む所を探してるんじゃなかったの?」

先程の話を蒸し返される。

「それは父さんや母さん達の住む場所です! ルイズの精神力さえ溜まれば地球に返すつもりなので、そんな土地なんて必要ないですよ! それに元々俺には分不相応です!」

「分不相応なわけがありませぬ。 サイト殿達の貢献に報いるには、これでも少ないと言えましょう。 本当なら、男爵の位でも付けたいところなのですが………」

「男爵だなんて! そんな!」

「ですから、いらぬ嫉妬を買ってはつまりませんから。 今回はやめておきました。 でも、いい土地ですよ。 狭いながらも、実入りは12000エキューにはなりましょうか。 山に面した土地には葡萄畑もあって、ワインが年に100樽ほど取れるとか」

才人は話について行けないが、どうやら自分が億万長者になるということだけは分かったらしい。

ガリアで拓也と一緒に3万エキュー以上稼いで、半分の15000エキュー余りを手に入れたのだが、今度はそれに近い金額が年収として入ってくるのだ。

驚かない方がおかしい。

「サイトに領地経営ができるわけありませんわ!」

ルイズはそう言うが、アンリエッタは事も無げに言った。

「あら、それなら代官を雇えばよろしいじゃありませんか。 なんならトリスタニアに宿を取って、あとは任せっぱなしでもかまわないでしょう? そうしている貴族はたくさんおりますわ。 なんなら、優秀な代官も紹介いたしましょう」

そう言われると、ルイズは何も言えない。

現実に、トリスタニアに居座るだけでなく、一度も自分の領地に行っていない貴族もいるぐらいだ。

「お屋敷もありますわ。 ご家族の方もそこに住まわせれば、家探しの方も捗るのでは? 一度ゆっくり見てきては如何?」

もはやこれ以上断る理由は見つからなかった。

才人は渋々と了承し、領地持ちの貴族となったのだった。








トリステイン魔法学院の夏休みが始まる直前の週。

才人達は初めてド・オルニエールの領地に足を踏み入れていた。

そして現在、一行は元領主の屋敷という建物の前に来ていた。

「これは………」

「なんとまあ………」

「酷いな………」

「ボロボロだな………」

「これは掃除のしがいがありますわね…………」

それぞれが感想を漏らす。

才人達の目の前にあったのは、かつては立派な屋敷だったのかもしれないが、その面影は全くなく、窓ガラスは割れ、蔦が絡まり、壁にも罅が入ったボロボロの幽霊屋敷と言っても過言ではない建物だった。

「女王陛下も、とんでもない物件を押し付けたものだな」

「いや、きっと陛下は知らなかったんだよ。 いちいちちっぽけな領地のことなんて覚えてないよ。 サイトに下賜することになって、適当な領地を探していたら、誰かにここにしろと吹き込まれたんだろう」

水精霊騎士隊のメンバーの話を聞いて、ルイズはあの姫様ならありえそうなことだわと心の中で頷いていた。

「これ………住めんのかよ?」

才人がそう呟くと、

「確かにそのままでは難しいかもしれないが、作り自体はしっかりしているようだ。 少し補修すれば大丈夫だろうし、そういう業者もこっちにもあるだろう」

大人組がそういった感想を漏らす。

「なあサイト。 城買おうぜ城。 こんな幽霊屋敷はうっちゃらかしてさ」

水精霊騎士隊のメンバーがそう言うが、

「いや……考えてみれば、城なんか買ったらお金無くなっちゃうもんな。 生活費とか維持費とかも馬鹿にならないだろうし………」

才人は現実的な感想を述べる。

「そこは君、いっぱい手柄を立てて稼げばいいじゃないか」

「そーだそーだ」

貴族の少年達は後先考えない言葉を口にするが、

「ギーシュとかモンモンの実家が貧乏な理由がよーくわかった。 お前ら後先考えてなさすぎだろ!? 怪我したりしたらどーすんだよ!? それに手柄を立てるチャンスなんかそうそうある訳無いだろ! それに元々父さん達が元の世界に戻るまでの一時的な家だから、そこまで豪華にする必用もねーんだよ! 城なんか建てるのにどれだけの時間がかかると思ってるんだ!? 建ててる最中に帰っちまうぞ!」

結局は、この屋敷を改修して、当面の生活基盤にすることが決まった。









夏休みに入ると、才人、ルイズ、ギルモン、拓也、アイナ、シエスタは、再びド・オルニエールの領地に来ていた。

屋敷の修繕には、1000エキューという大金がかかったが、ガリアでボロ儲けした才人や拓也にとっては大した額ではなかった。

尚、地球組+リースは、トリスタニアに宿を取り、業者と一緒に修繕に立ち会っていた。

屋敷が見えてくると、すっかり見違えた外観が飛び込んできた。

屋敷の玄関の前では、一行の到着を待っていた地球組の面々。

「おう! 来たか! 見ろ! 立派になっただろう?」

才助が才人にそう言う。

「うん! すげーや! ここまで綺麗になるなんて」

才人も思わず頷く。

拓也も屋敷を眺め、それから皆の変わりがないかと見渡した。

才人と一緒に大笑いする才助。

その横で微笑ましそうにしている人美。

若干遠慮しがちながらも微笑んでいる、肩に緑色の幼年期デジモンを乗せたリース。

リースの横で笑っている信也と、頭に乗っかっているチビモン。

屋敷を眺めどこか満足そうな宏明と由利子。

「……………………………ん?」

拓也は何かおかしい事に気付いた。

もう一度見直す。

才人と一緒に大笑いする才助。

その横で微笑ましそうにしている人美。

若干遠慮しがちながらも微笑んでいる、肩に緑色の幼年期デジモンを乗せたリース…………

「ちょっと待て!」

拓也は思わず口に出した。

「「「「「「ん?」」」」」」

全員の視線が拓也に集中する。

「リース、その肩のデジモンは何だ?」

拓也がそう聞くと、

「あ、この子は…………」

「あのデジモンは、この屋敷の中にあったデジタマから生まれたんだよ」

リースが言う前に信也が言った。

「またデジタマか…………」

呆れたように言う拓也。

もはや驚く気も起きない。

気になった才人がデジヴァイスを取り出す。

「リーフモン 幼年期(前半) 必殺技は酸性の泡」

才人は表示されたデータを読み上げる。

「へぇ~。 才人兄ちゃんのデジヴァイスってそんな機能があるんだ。 便利そうだね」

信也がそう言う。

「その子はリースちゃんによく懐いてて、危険も無さそうだから一緒に暮らしてるのよ。 可愛いわよ」

由利子がそう言う。

「まあ、ギルモンも元々拾ったデジタマから生まれたんだし、ちゃんと向き合って育てれば大丈夫だろ」

才人は、経験者の視点からそう言った。

一方、リースはリーフモンを肩から両手の掌に乗せ、

「あなた、リーフモンって言うんだ?」

「ピッピ!」

リーフモンは肯定するように飛び跳ねる。

「クスッ、よろしくね。 リーフモン」

リースは微笑む。

こうして、屋敷に新たな住人が増え、賑やかになるのだった。







次回予告


ガリアで改革を進めるシャルロット。

しかし、そんなシャルロットにロマリアの陰謀の魔の手が迫る。

拓也との約束を守るため、輝二はジュリオと相対する!

そして、ジュリオが連れてきた人物とは!?

次回! ゼロの使い魔と炎の使い魔!

第六十五話 重火器激突! マグナガルルモンVSセントガルゴモン!!

今、異世界の物語が進化する。





あとがき




まずは、お亡くなりなったヤマグチノボル先生のご冥福をお祈りします。

ゼロ魔は自分が初めて読み始めた小説だったので、とても残念です。

ですが、この作品は、なんとしても完結に持っていこうと思います。






さて、この作品では皆様、ひじょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーにお久しぶりでございます。

3年と1ヶ月ぶりの更新となります。

いや、まさか3年も止まるとは思ってなかった。

ごめんなさいorz 。

まあ、出来もあんまり良くはないですが………

ウェールズが生きているために、アンリエッタ関係のイベントが全て消滅しました。

代わりにアニメでやってた温泉イベントでも突っ込んだほうがいいですかね?

さて、大筋の流れはほぼ原作と同じ。

でも最後にリーフモン登場。

と、いうわけで信也のブイモンの進化はインペリアルで決定です。(覚えている人は居ないと思いますが………)

次回は再びシャルロットのイベント。

モチ原作をマシンガンデストロイで粉々に粉砕してやりますよ。

お楽しみに。(してる人はもはや居ないと思いますが)

では、最後まで諦めずに次も頑張ります。





[4371] 第六十五話
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2015/03/08 21:45

領地持ちになった才人。

その頃、ガリアでは……………




第六十五話 重火器激突! マグナガルルモンVSセントガルゴモン!!






シャルロットの即位祝賀園遊会が近づいた頃。

ガリアの首都リュティスでは、新王宮が完成していた。

シャルロットは毎日せっせと政務に励んでおり、少しずつ、それでも確実に平等な国への基礎作りを進めていた。

シャルロットにとっては、新王宮が完成したことについては特にこれといって興味はなく、王宮を建築した者たちにお疲れ様と思ったぐらいだ。

尚、ちゃんと働いてくれた者たちには、シャルロットからしっかりと報酬が払われている。

時折報酬を横領しようとする者がいるので、そういった者達には貴族平民関係なく、平等に罰が下されている。

現在のシャルロットの王としての評価だが、貴族からの支持率は約5割とあまり良くはない。

しかし、平民達の支持率は9割以上を誇っており、平民に限って言えば、恐らく歴史上でもトップクラスの支持率だろう。

これも、平等な国作りを進めた結果である。

しかし、平民有利に見える政策を多く取りすぎたため、一部の調子に乗った平民が暴徒化。

今までの鬱憤を晴らすかのように貴族を襲撃する事件が発生した。

これをシャルロットは自らが王軍を率いて暴徒を鎮圧。

暴徒の首謀者を始めとして、暴徒を先導した者たちには重い罰を与え、襲撃に参加した者達にもその罪に応じて罰を与えた。

その際、シャルロットは首謀者に問われた。

「陛下は平民の味方ではなかったのか?」と

それに対して、シャルロットはこう答えた。

「勘違いしないで。 私が目指すのは皆が平等な国。 私は、貴族有利の法を排除しているだけで、平民を優遇しているつもりはない。 あなた達がやったことは、理由は如何あれ罪。 罪を犯した者は、貴族も平民も関係なく、平等に罰を与える」と。

優遇も冷遇もしない。

今まで虐げられてきた平民からすれば、一見非情なようにも思えるが、変なところで温情を与えてしまうと、それこそシャルロットが掲げる平等な国作りを根本的な所から崩してしまう。

その為に、シャルロットは心を鬼にして首謀者達を処罰した。

その為に本当に極一部だが、平民の中にもシャルロットを支持しない者は存在する。

そういったトラブルが有りながらも、シャルロットはジョゼフやイザベラの助けもあり、毎日を乗り切っている。





そんな一日を今日も乗り切り、夕食を終えたシャルロットは完成した王宮の自室にやってきた。

横にはイルククゥもおり、部屋に入ったとたん、

「ふわ~~~~、お腹いっぱい。 ではシルフィは寝るのね。 女王様」

そう言って自分の寝床に潜り込んでしまった。

シャルロットのベッドの上には、昼間女官が持ってきた沢山の服が置かれていた。

即位祝賀園遊会は着替えが多いため、何着ものドレスを選ばなければならない。

面倒な事だと思いつつも、着るものはしっかりと選ぶつもりでいる。

その理由はあった。

部屋の机の上にある書類には、即位祝賀園遊会の出席者の名が書かれている。

その中のトリステイン王国の出席者の中に、外交官としてルイズと才人の名があり、同行者としてアイナと拓也の名もあった。

シャルロットは、恐らく自分との交友から任命されたのだろうと推測する。

ただ、拓也やアイナでは歳が若すぎるため同行者とし、今や英雄と名高い才人やルイズを外交官として任命することで体面を保つことにしたのだろう。

シャルロットにとって、拓也達に会うのはガリアの戦争終結以来だ。

女王である前に恋する乙女であるシャルロットにとって、拓也と会えるのは、想像しただけで心が躍る。

シャルロットだけではなく、イルククゥも同じだろう。

拓也達が来ることはまだイルククゥも知らないため、明日教えてあげようとシャルロットは微笑みながら寝床で寝息を立てるイルククゥに目をやる。

そこでシャルロットは思い出した。

自分の護衛を買って出てくれている輝二も、拓也の友人だ。

顔には出さないが、見知らぬ世界で少なからず寂しさを感じているだろうとシャルロットは考える。

「コージにも、明日教えてあげよう」

そう呟き、そろそろ寝ようとベッドに横になろうとした。

その時だった。

カンカン、と窓がノックされた。

シャルロットは、なぜ窓からノックが聞こえるのかと怪訝に思う。

窓の外はカーテンがかかって見えないが、バルコニーがあるだけのはず。

ガンガン、と先程よりも強いノック音が響く。

シャルロットは杖を握り、警戒しながら窓に近付く。

静かに近付き、シャルロットは無言でカーテンを捲った。

窓ガラスの向こうに居たのは………自分だった。

シャルロットは一瞬、ガラスに写った自分の姿かと思った。

しかし、直ぐに違和感に気付く。

服が違う。

そして何より、窓枠の向こうに彼女は立っている。

だが、彼女の顔は自分と瓜二つ。

動揺がシャルロットの心を揺さぶる。

そして、そのせいでシャルロットの警戒心を途切れさせてしまった。

隣の窓から別の影が侵入したことに、シャルロットは気付くのに遅れる。

杖を握られ、シャルロットは漸く反応した。

振り返った先にあった顔は、ジュリオだった。

「あなた………ッ!?」

「こんな真夜中に、あなたのように高貴な女性の部屋を訪れるにしては、無作法だったと存じますが…………」

ジュリオが喋っている最中に、シャルロットは体を捻り、ジュリオの腹に蹴りを叩き込もうとした。

しかし、ジュリオは身を捻ってそれを躱すと、手に持った布をシャルロットの顔に押し当てようとした。

その布には眠り薬が染みこませてあり、それを嗅ぐと、『眠りの雲』を受けたのと同じように即座に眠ってしまう。

蹴りを入れようとしたシャルロットは体勢が悪く、そのまま布を顔に押し当てられてしまうかに思われた。

しかし、

「そこまでだ!」

窓ガラスが割れる音と共に、長い棒状の物がジュリオの布を持った手を弾き飛ばす。

「くっ!?」

ジュリオは、痛みが走る手を押さえながら、咄嗟に飛び退いた。

そして、何者かが窓を蹴り開け、シャルロットを守るようにジュリオの前に立ちはだかった。

「何!? なんなのね!?」

窓ガラスが割れた音で、イルククゥが飛び起きる。

そして、イルククゥは目にした。

シャルロットを守るように棍を構える輝二と、手を押さえて輝二を睨みつけるジュリオの姿を。

尚、輝二の棍は、得意武器と聞いたシャルロットが輝二に与えた物である。

「大丈夫か?」

輝二はジュリオから視線を外さないまま、シャルロットに問いかける。

「ありがとう。 助かった」

シャルロットも最低限の言葉で返す。

輝二はジュリオの顔を睨みつける。

「お前は…………確かロマリアとかいう国の神官………」

輝二は、以前の戦争で見覚えのあるジュリオの顔を記憶から引っ張り出す。

「君か………まさか気付かれるとは…………」

ジュリオは少々驚きを感じさせる声で呟く。

「気付いたのは俺じゃない………が、こういう事に関しては敏感な奴が一緒にいるんでね」

『へへっ。 俺の手柄っスよ』

輝二の懐から声がする。

拓也から預かっていた地下水だ。

ジュリオが目を見開く。

「そうか。 インテリジェンスナイフ地下水…………君が持っていたのか…………誤算だったよ。 てっきり、タクヤが持っているとばかり思っていた」

ジュリオが悔しさを滲ませながら呟く。

「それにしても………」

輝二はジュリオに注意を向けたまま視線を窓の外にいる人物に向ける。

よそ見は戦闘中には命取りではあるが、輝二自身も警戒している上、いざという時には地下水に自分の体をコントロールしていいと許可している。

不意打ち対策は万全だ。

輝二はシャルロットそっくりの人物を見る。

「シャルロット…………お前、双子の姉妹でも居たのか?」

あまりにそっくりな為、輝二はそう問いかける。

シャルロットは首を横に振り、

「聞いたことは無い…………でも、ある程度予想はつく」

そう言った。

「そうか………」

彼女の詮索は後回しにし、輝二はジュリオに集中する。

すると、ジュリオは窓に向かって歩き出し、

「出来れば穏便に済ませたかったけど、こうなった以上手段を選んではいられないな」

上空からテリアモンが飛んできてバルコニーの手摺に着地する。

「ジュリオ!」

ジュリオも跳んで手摺の上に立つと、後ろに軽くジャンプした。

テリアモンも同じように後ろに跳び、重力に引かれて落下する。

「お兄さま!?」

シャルロットそっくりの人物が驚いてバルコニーの手摺に駆け寄り、下を覗く。

すると、

「マトリックスエボリューション!」

進化の光が満ちた。

「何だと!?」

輝二が驚愕の声を漏らす。

「テリアモン進化!」

テリアモンとジュリオの身体が一体化。

究極体へと進化する。

城のような巨体に、各部に内蔵された数多の重火器。

パワー重視のマシーン型デジモン。

「セントガルゴモン!!」

城の高さにも匹敵するほどの大きさを持つセントガルゴモンが、バルコニーを見下ろす。

「チィ! 奴も究極体になれたのか!」

輝二は棍を手放し、デジヴァイスを取り出した。

「ハイパースピリット! エボリューション!! うぉおおおおおおおおおおおおっ!!」

輝二もセントガルゴモンに対抗するために進化する。

セントガルゴモンがパワーと防御力重視の固定砲台だとすれば、こちらは高機動高火力を持った高速移動砲台。

「マグナガルルモン!!」

マグナガルルモンがシャルロットがいるバルコニーを守るように立ちふさがる。

大きさの差は、片や城ほどの大きさ。

もう片方はせいぜい5メイルといったところ。

子供と大人以上の差がある。

だが、

「うおおおおおおおおおおおっ!!」

マグナガルルモンがブーストを噴かし、セントガルルモンに突撃する。

「なっ!?」

驚くことに、マグナガルルモンはセントガルゴモンの巨体を上空へと押し上げる。

超越形態のマグナガルルモンは、並の究極体を遥かに超える。

例え相手がパワー重視の究極体でも、そう簡単には力負けはしない。

王宮の上空でマグナガルルモンはセントガルゴモンから離れ、間合いを取る。

「「…………………」」

そして、僅かに上空で睨み合った後、

「マシンガンデストロイ!!」

「バーストショット!!」

お互いの武装を乱射した。

ミサイルや弾丸が飛び交う。

武装の数で勝るセントガルゴモンと、一発一発の威力で勝るマグナガルルモン。

2体の間で無数の爆発が入り乱れる。

「おおおおおおおおおおおおっ!!」

「はぁああああああああああっ!!」

互いに負けじと次々と武装を乱射する。

その時、セントガルゴモンが数発のミサイルを中央のぶつかり合いを避けるように両側から回り込ませるように発射した。

「何っ!?」

マグナガルルモンが声を漏らす。

真正面のぶつかり合いでは互角でも、武装の数の差ではセントガルゴモンに分がある。

それをジュリオは見極め、中央を避けるようにミサイルを撃つようにセントガルゴモンに指示したのだ。

ジュリオの目論見通り、両側からの攻撃に対処出来なかったマグナガルルモンはミサイルに直撃。

爆発に呑まれる。

「やった!」

セントガルゴモンは声を上げるが、

「チィ!」

爆煙の中から、大したダメージを受けていないマグナガルルモンが舌打ちをしながら飛び出した。

「そんなっ!?」

セントガルゴモンは驚愕する。

だが、それも当然である。

マグナガルルモンは、カイゼルグレイモンと比べて、総合能力では互角だが、スピードと手数で勝る代わりに一撃の威力と防御力で劣る。

しかし、それはカイゼルグレイモンと比べてであり、マグナガルルモンは過去、それも初めて進化したばかりの時、デジタルワールドのデータを吸収する前のケルビモンの攻撃をまともに受けて、無傷で防ぎ切った事実がある。

ケルビモンも普通の究極体を上回る力を持っており、それを無傷で防ぎ切ったマグナガルルモンの防御力も相当なものだ。

故に、いくら通常の究極体を上回るセントガルゴモンの攻撃とは言え、たった数発のミサイルで致命的なダメージが入ることはありえないのだ。

「フッ………どうやらまともな撃ち合いではそちらの方が上のようだ…………ならばっ!」

マグナガルルモンは真正面からのぶつかり合いでは不利と判断し、作戦を変える。

ブーストを噴かし、セントガルゴモンの周りを円を描くように回り始めた。

セントガルゴモンは、マグナガルルモンを目で追うが、マグナガルルモンはスピードをどんどん増してゆく。

その時、セントガルゴモンの背中が爆発する。

「うわっ!?」

セントガルゴモンはよろけ、思わず攻撃された方を向くが、

「うわぁっ!?」

今度は向いた反対側から攻撃を受けた。

マグナガルルモンの姿は、最早速すぎて、セントガルゴモンの周りに水色の線が円状になっているようにしか見えない。

攻撃は徐々に激しくなり、360°全方位から攻撃を受けている。

この攻撃方法は、輝二のかつての宿敵、ロードナイトモンのスパイラルマスカレードを元に考えた攻撃だった。

ロードナイトモンは、マグナガルルモンを上回るスピードを持ち、縦横無尽に駆け巡り、反撃の隙を与えぬまま相手を切り刻む。

輝二は、それをマグナガルルモン風にアレンジし、超スピードによる全方位からの射撃、言わば『スパイラルデストロイ』とも言うべき新たな必殺技を編み出したのだ。

それを受けるセントガルゴモンも、ただやられているわけではなく、当然無数の武装で反撃を試みるが、ミサイルは撃ち落とされ、弾丸は全て素通りして、全く効果を上げなかった。

攻撃を受け続けるセントガルゴモンもダメージが蓄積していく。

このまま行けば、あと少しで進化も解除されるだろう。

だが、その時思わぬことが起こった。

セントガルゴモンが反撃しようとした瞬間、別方向からマグナガルルモンの攻撃が当たり、標準が狂ってしまった。

そのまま数発のミサイルが発射される。

そのミサイルの矛先は…………

「しまった!!」

マグナガルルモンは攻撃を中断し、フルブーストでミサイルを追った。

そのミサイルの先には、シャルロットとイルククゥ。

そしてシャルロットに似た人物が居るバルコニー。

「うおおおおおおおおっ!!」

マグナガルルモンは、ギリギリでミサイルを追い越し、2人を庇い、背中にミサイルを受ける。

「ぐうっ!」

マグナガルルモンは声を漏らす。

すると、

『セントガルゴモン!』

ジュリオがセントガルゴモンに攻撃を指示する。

「いいのジュリオ!? あそこにはジョゼットも………!」

思わず聞き返すセントガルゴモン。

『大丈夫だ。 彼は避けないよ…………絶対にね』

確信を持ってそう言うジュリオ。

少し躊躇したが、パートナーの言葉を信じ、セントガルゴモンは攻撃態勢を取る。

「ジャイアントミサイル!!」

セントガルゴモンは、両肩から巨大な2発のミサイルを発射する。

それは、一直線にマグナガルルモンに、ひいてはシャルロット達が居るバルコニーに向かってくる。

「お兄さま!?」

シャルロット似の人物が攻撃してきたセントガルゴモンに驚愕する。

迎撃は間に合わない。

マグナガルルモンはそう判断すると、3人を庇う態勢を取る。

この攻撃を喰らえば、マグナガルルモンでも大ダメージは必至だろう。

だが、マグナガルルモンに、輝二には逃げるという選択肢は存在しない。

マグナガルルモンは覚悟を決めた。

その時だった。

「飯綱!!」

何処からか管狐を模ったエネルギー波がミサイルを貫き、撃ち落とした。

『何っ!?』

ジュリオは驚愕した声を漏らす。

「今の技は……」

マグナガルルモンが、攻撃が来たであろう方向を向く。

そこには、城の塔の頂上に立ち、長く美しい髪を靡かせた神人型デジモン。

シェフィールドとレナモンが進化したサクヤモンがいた。

「サクヤモン!」

マグナガルルモンが叫ぶ。

「ロマリアか………ここまで形振り構わないということは、かなり余裕が無くなっているのね」

サクヤモンがそう呟く。

『バカな!? 何故!?』

ジュリオがサクヤモンを見て驚く。

サクヤモン………シェフィールドは、ジョゼフと一緒に死んだと思われていた。

それが生きていたのだ。

『さあ? なぜでしょうね? 少なくとも、あなた達の敵であることは間違いないわ』

シェフィールドがそう言うと、サクヤモンは錫杖を構える。

「むん!」

マグナガルルモンもサクヤモンの横に並び、気合を入れ直す。

『く………』

「どうするの? ジュリオ」

ジュリオは明らかに自分達の不利を悟っていた。

マグナガルルモン1体でも明らかに部が悪かったのだ。

そこにサクヤモンまで加わっては、こちらの勝機は殆ど無い。

『……………撤退だ……テリアモン』

「でも! ジョゼットが!」

『彼らなら彼女を悪いようにはしないだろう。 だが、ここで僕達が捕まったら、誰が聖下を支えるんだ?』

「ッ……………わかった」

セントガルゴモンは背を向け、王宮から離れていった。

「退いたか…………」

マグナガルルモンは、それを追おうとはしなかった。

深追いは無用と判断したのだ。

マグナガルルモンはバルコニーに降下し、進化を解くと共にバルコニーに着地する。

「怪我はなかったか?」

輝二は3人にそう聞く。

「大丈夫」

「きゅい! 大丈夫だったのね!」

「…………」

シャルロットとイルククゥは答えたが、シャルロット似の人物………ジョゼットは、信じられないと言った表情でセントガルゴモンが飛び去った方向を見ていた。

「……………シャルロット。 彼女は………」

輝二がシャルロットに訪ねようとした所で、シャルロットが彼女に向かって歩いていく。

その事に気付いたジョゼットは、困惑した表情でシャルロットの方を向く。

「………………あなた、名前は?」

シャルロットが問いかける。

「…………………ジョゼット」

沈黙の後にポツリと呟いた。

「あなたは…………」

シャルロットが何か言いかけたところで、

「シャルロット!? 無事!?」

部屋の入口が勢いよく開き、オルレアン夫人を始めとして、ジョゼフ、イザベラが駆け込んでくる。

「母様………私は無事です」

バルコニーから部屋に戻ったシャルロットの姿を見ると、オルレアン夫人は思わずシャルロットを抱きしめた。

「ああ! 良かったシャルロット! あなたにもしもの事があったらと思ったら、もう………」

涙を滲ませながら抱きしめ続けるオルレアン夫人。

その時、

「母様。 母様にお尋ねしたいことがあります」

シャルロットが口を開く。

オルレアン夫人は、シャルロットから離れると、

「尋ねたいことですか? 一体何を………?」

不思議そうに首を傾げながらそう聞く。

「母様…………彼女に心当たりはありませんか?」

シャルロットはそう言いながら、未だにバルコニーに困惑した表情で立っているジョゼットに目をやった。

オルレアン夫人もシャルロットの視線を追い、ジョゼットの姿が目に入る。

その瞬間、驚愕の表情に変わる。

「シャ、シャルロット…………彼女は……?」

オルレアン夫人は動揺を隠せない震えた声で問う。

「ロマリアの神官が連れてきました。 どうやら、私と彼女をすり替えるつもりだったようです」

シャルロットは事実と自分の予想を交えて説明した。

「お、おおお………!」

オルレアン夫人は膝を付き、両手で顔を覆って泣きながら首を横に振る。

「やはり………そうなのですね………」

オルレアン夫人の様子を見て、自分の予想が的中したと確信したシャルロット。

「彼女は…………私の妹なのですね…………?」

シャルロットは、確信を持ってそう尋ねた。

「……………あなたが生まれた日のことです」

オルレアン夫人はポツリポツリと話しだした。

「6227年のティールの月、ヘイルダムの週、エオーの曜日、午前8時の事です…………私は…………“2人”の娘を出産しました………」

やはりと思ったシャルロット。

そしてジョゼフもある程度予想がついていたのか対して驚きは無かった。

一方、輝二とイザベラは驚愕の表情を浮かべている。

「………ですが、ガリア王家の紋章に刻まれた交差した2つの杖は、かつてその王冠をめぐり、争い、共に斃れた何千年も前の双子の兄弟を慰める意味が込められています。 そう、ガリア王族にとって、双子とは禁忌なのです。 わたくし達には、選択は2つしかありませんでした。 どちらかの命を絶つか、それとも、決して人目の触れない場所へ送るかです! そうするより他は選べなかったのです! わたくし達には、王族であることを捨てることすら許されませんでした!」

オルレアン夫人は、懺悔するように声を絞り出す。

それを聞いたシャルロットは、杖をギュッと握り締める。

「こんな所にも…………今の制度の犠牲者が…………」

そう呟きながら、シャルロットは俯く。

そして、顔を上げると、

「そんな決まり、私が今この場で潰す!」 

そう宣言する。

そして、ジョゼットの方を向き、

「あなたは私の妹。 あなたはここに居ていい。 何も心配することはない」

そう優しく声をかける。

しかし、

「で、でも…………いきなりそんなこと言われても…………」

困惑するジョゼット。

「わ、私………私…………どうすればいいかわからない!」

どうすればいいか分からず、ジョゼットは部屋を飛び出してしまう。

「待って!」

思わず後を追おうとするシャルロット。

しかし、

「待て」

輝二の手がそれを遮った。

驚いて輝二を見るシャルロット。

「ここは、俺に任せてくれないか?」

輝二が言ったことに、何故と思うシャルロット。

「今のあの子の気持ちが一番わかるのは…………多分俺だ」

「コージ?」

俯きながらどこか懐かしむような表情で輝二の言葉にシャルロットは声を漏らす。

「似てるんだよ。 今のあの子の状況が、1年前の俺に………」

そう言って、輝二は部屋を出た。

そして、何となく思う方向に、足を向けた。





輝二が向かった場所。

そこは中庭だった。

綺麗な星空と双月が見える、静かな場所だった。

そこにジョゼットは空を見上げながら立っていた。

「ここにいたんだな」

輝二はジョゼットに声をかける。

「…………あなたは……」

「源 輝二。 輝二でいい」

自己紹介から始める輝二。

「何故………ここに?」

「何となく、今の君をほっとけなくてな…………俺には、今の君の気持ちが良く分かる」

「えっ?」

輝二の言葉に、ジョゼットは声を漏らす。

「突然、双子の姉がいると言われて頭では信じられない。 でも、心は…………魂はそれが本当だと理解してしまう…………それでもどうすればいいかわからない…………そんな所か?」

輝二の言葉に、ジョゼットは驚いた表情をする。

殆ど当たっていたのだ。

「……………俺の両親は………俺が物心着く前に離婚した」

「えっ………?」

突然話しだした輝二にジョゼットは困惑する。

「俺は父親に引き取られ、兄弟はおらず、俺を生んだ母さんは死んだと聞かされていた。 それからしばらくして、父さんは別の人と再婚した。 だけど、俺はその人を母さんとは呼べなかった………」

輝二は遠い目をしながら話を続ける。

「そして1年前、俺は仲間達と一緒に旅に出る機会があった。 その旅の中、俺は、自分の双子の兄だという男に出会った」

「ッ!?」

「俺は信じられなかった。 それでも魂は理解してしまった。 その男は俺の兄さんだと。 多分、その時の俺の気持ちは、今の君の気持ちと殆ど同じだと思う………」

輝二の言葉に、ジョゼットは言葉が出なかった。

自分と同じ体験をした人が、こんなにすぐ近くにいた事に驚きを隠せない。

「兄さんは、母さんのおばあちゃんが死ぬ間際に、双子の弟が居ることを聞いたそうだ。 そして、俺を生んだ母さんが生きていることも、その時に知った」

「………………」

ジョゼットは、黙って輝二の話を聞いている。

「俺にはどうすればいいか分からなかった。 突然兄弟が居ると言われても、どう接していけばいいかも分からなかった。 兄弟が居る仲間に話を聞いたりもした」

「それで………どうしたんですか?」

「何もしていないさ」

「え?」

「特別なことは、何もしていない。 ただ、気にかける。 最初はただそれだけでいい」

「…………気にかける」

「自分で自覚は無くとも、兄弟の絆っていうものは、ちゃんとそこに在るんだ。 だから気にかける。 そこから始めていけば、自ずと答えは出る」

ジョゼットは自分の胸に手を当てる。

そして、今度は自分から話しだした。

「私は、物心ついた時から、セント・マルガリタ修道院というところで生活していました。 そこは海に囲まれ、外の世界から完全に隔絶されていましたが、特に不自由は無かったので生活に不満は無かったんです。 それに、待つ楽しみがありました。 竜のお兄さまを待つという楽しみが…………」

竜のお兄さま?と輝二は一瞬考えるが、直ぐにジュリオの事だと思い当たった。

「私は、竜のお兄さまが大好きでした。 竜のお兄さまが来る日が近付く度に礼拝堂でお祈りを続ける程に…………」

それは、何も知らない少女に芽生えた初めての恋心。

「それがつい先日、竜のお兄さまが私を修道院から連れ出しました。 そして、いかなる時も外してはならないと言われた聖具をお兄さまは外しました。 そうしたら、私の顔がこの顔に変わったのです」

輝二は顔が変わったという話で少々驚いたが、魔法の世界なんだしそれもアリかと思い直した。

「私は竜のお兄さまの役に立ちたかった。 竜のお兄さまの近くに居られれば、他はどうでも良かった。 さっきまで………そう思っていました」

「……さっきまで?」

「あの時、竜のお兄さまは、私が居ることも構わずに攻撃をしました。 その時、私の中の何か大事なものが、粉々になってしまったんです」

先程、ジュリオはジョゼットが居るのに攻撃を仕掛けた。

それが内心ショックだったのだろう。

「アイツの事だ。 俺が絶対に逃げないと確信を持っていたんだろうさ」

輝二はそう言う。

「それでも…………それでも信じたくなかった。 お兄さまが私を巻き込んでまで攻撃しようとするなんて………」

ジョゼットの声は、既に震えている。

「…………私は………利用されていただけだったんでしょうか…………?」

ジョゼットはポツリと呟く。

「ジュリオ自身はわからない…………だが、“ロマリアという国”としては、利用するつもりだったんだろう。 あの国は、人の心を簡単に利用するとシャルロットが言っていた。 復讐心、忠誠心、劣等感、果ては恋心まで…………ありとあらゆる心を利用して、自分たちが思うとおりに世界を動かそうとしているらしい…………」

輝二の言葉に、ジョゼットの瞳から涙が溢れた。

自分の中の恋心が、ガラガラと音を立てて崩れていくことを感じた。

「やっぱり………私は利用されていただけだったんですね…………」

「ジュリオ自身の気持ちは分からないがな」

「いえ、いいんです。 あの時、確信してしまったんです。 お兄さまは………私の事を本当に愛していたわけじゃないって…………」

ジョゼットはボロボロと涙を流す。

それを見た輝二は、

「我慢する必要はない。 泣きたい時には泣けばいい。 俺は向こうに行っている」

そう言って、輝二はジョゼットに背を向ける。

すると、その背にジョゼットが縋り付いた。

「ごめんなさい………今だけ……今だけでいいんです…………背中を…………貸してください………」

震える声で懇願するように呟くジョゼット。

「…………好きにしろ」

輝二はその場で立ち止まり、振り向かずに言った。

そして、

「うあっ…………うあああああああああああああああああああっ!!」

ジョゼットの慟哭が中庭に響いた。











次回予告


即位祝賀園遊会に出席するためガリアへ向かう拓也達。

だが、拓也達と入れ違いになるように謎の2人組が屋敷を襲撃する。

信也とブイモンが応戦するが、異常な強さを持つメイジに窮地に追い込まれる。

だがその時、新たな絆が進化を呼ぶ!

次回! ゼロの使い魔と炎の使い魔

第六十六話 豪勇進化!エクスブイモン! 疾風進化! スティングモン!

今、異世界の物語が進化する。









あとがき

第六十五話の完成!

はい、予告通り原作をマシンガンデストロイで粉々にしました。

色々改変(改悪?)しまくりです。

でもって序のように輝二にフラグ立っとります。

でも、ジョゼットの気持ちがよくわかるのは、輝二しかいないと思います。

この物語では、ジョゼットはルイズと会っていないので、原作ほどジュリオに対してヤンデレ(?)てはいません。

でも、自分ごと攻撃されればショックは受けるでしょう。

次回は予告からもわかるとおり主演を信也とリースでお送りいたします。

さて、お楽しみに(出来る人はしてください)。

では、次も頑張ります。




[4371] 第六十六話
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2015/05/03 15:33



ロマリアの陰謀を退けた輝二。

その頃、トリステインでは拓也達がガリアへ向かう準備をしていた。





第六十六話 豪勇進化! エクスブイモン! 疾風進化! スティングモン!




シャルロットの即位祝賀園遊会が近付いてきたある日。

「じゃあ、信也。 父さんや母さん達を頼むぞ」

用意された馬車の前で、拓也が信也に言う。

今日は、拓也、アイナ、才人、ルイズ、ギルモンがガリアへ出発する日なのだ。

「うん! 任せて!」

「オレ達に任せとけ!」

信也が頷き、信也の頭の上のチビモンも自信を持って応える。

それを見て拓也は微笑み、

「じゃあ、行ってきます!」

「行ってきます!」

「気をつけてね」

「行ってらっしゃい」

拓也と才人の言葉に2人の母親が応える。

そして、拓也達は馬車に乗り込み、馬車は走り出した。







その翌日。

大人達が領地の様子を見に行っている間、信也が庭で薪割りをしていると、

「信也君、お疲れ様です」

リースが飲み物とタオルを持ってやってきた。

「あっ、リ、リースちゃん………!」

ニッコリと笑ったリースを見て、信也は頬を赤くする。

「あ、ありがとう」

信也は若干慌てながらタオルを受け取り、汗を拭いて飲み物を受け取る。

「シンヤ~。 どうした? 顔赤いぞ」

信也の頭の上に乗っていたチビモンが不思議そうに覗き込む。

「な、何でもない!」

「?」

慌てる信也を不思議そうに見るリース。

その肩には、リーフモンが進化したミノモンが浮遊している。

「一体どうしたんだろうね? シンヤ」

「さあ?」

そう問いかけるミノモンと首を傾げるリース。

その時だった。

「ちょっといいかな?」

突然声をかけられ、信也達は振り返る。

そこに居たのは、黒い羽帽子にマントを羽織った金髪の貴族っぽい若い男とフリルのついた白と黒の派手な衣装に身を包んだ紫の長い髪を持った若い女だった。

「はい……なにか御用でしょうか?」

リースが答える。

「シュヴァリエ・ヒリゴイール様のお屋敷はこちらでよろしいでしょうか?」

若い男が言った名前は、演劇の時よりも更に妙な発音になっていたが、恐らくヒラガで間違いないだろう。

「サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ・ド・オルニエール様のお屋敷でしたらここでございますが」

リースはメイドらしく、丁寧な言葉遣いで名前を訂正しながらそう答える。

「そうそう! そんな名前だった!」

男は思い出したように頷く。

「ご要件は何でしょうか?」

リースが尋ねると、

「彼を殺しに来たんだ」

男が事も無げに言った。

「えっ?」

リースは一瞬言われた言葉が分からなかった。

「いや、彼って平民上がりだろ? それが気に食わない連中が沢山いるのさ」

「そうなのよ。 それなのに、ドゥドゥー兄さまったら、肝心の彼の資料を置いてきてしまったのよ。 お陰でここまでたどり着くのに苦労したわ」

「しょうがないじゃないか。 僕は忘れっぽいんだ」

突然口論を始める2人。

「そんなわけで、僕は彼を殺さなきゃならないんだが、大人しく彼を出してくれないかな? お互い面倒だし、抵抗は無駄なだけだからね」

笑ったままそう言うドゥドゥーと呼ばれた男に、リースは恐怖を覚える。

「チビモン!」

「おう!」

信也が叫び、チビモンが頭から飛び出す。

「チビモン進化!」

空中でチビモンが光に包まれ、

「ブイモン!」

ブイモンに進化した。

「ブイモンヘッド!」

進化した勢いのまま、ブイモンは頭突きを繰り出す。

「おっと!」

だが、ドゥドゥーはその場で飛び上がり、ブイモンの一撃を躱す。

驚くことにドゥドゥーは魔法も何も使わず、一気に飛び上がったのだ。

「なっ!?」

信也が声を漏らす。

ドゥドゥーはヒラリと女の横に降り立つと、

「お金にならない戦いはするなって兄さんから言われてるんだけどねぇ~。 まあ、僕としては戦えるんなら何でもいいんだけど………君達じゃ楽しめそうにないな」

「くっ………シンヤ!」

「うん!」

信也はデジヴァイスを取り出し、

「デジメンタルアップ!」

ブイモンを進化させる言霊を叫ぶ。

「ブイモン! アーマー進化!」

ブイモンが、勇気のデジメンタルと一つになって進化する。

「燃え上がる勇気! フレイドラモン!!」

炎の竜人型デジモンのフレイドラモンに進化した。

「行けっ! フレイドラモン!」

信也は叫ぶ。

フレイドラモンは右腕に炎を宿し、

「ナックルファイア!!」

その炎を散弾銃のように飛ばした。

すると、ドゥドゥーは杖を構え、その杖に青白い魔力が宿り、太く長くなっていく。

それは唯の“ブレイド”であったが、その大きさは並では無かった。

その巨大なブレイドを一薙ぎすると、一撃でナックルファイアが全てかき消される。

「前言は撤回するよ。 少しは楽しめそうだ。 なあジャネット」

「何よ?」

ドゥドゥーにジャネットと呼ばれた女は不機嫌そうに答える。

「楽しんでもいいかい?」

「ダメって言っても、どうせすんでしょ? 知らないわよ。 あとで兄さま達に怒られるのは、ドゥドゥー兄さまなんだからね!」

「いつもの事だ。 気にしないよ。 じゃあ手を出すなよ」

「わかったわよ。 それにいいわ。 私好みの可愛い子も見つけたし」

ジャネットは妖しい笑みを浮かべてリースを見る。

ジャネットの視線に背中に寒気を感じたのかリースは後ずさった。

すると、

「リースはぼくが守る!」

そう言って飛び出したのは、ミノモン。

「あっ、ミノモン!」

リースが右手を前に出しながらミノモンを止めようとして叫んだ。

その時、ミノモンが光に包まれ、

「ミノモン進化! ワームモン!!」

緑色のイモムシのような姿の成長期デジモンに進化した。

リースは、突然の進化に驚く。

「また、進化した」

ワームモンはジャネットの方を向くと、

「ネバネバネット!」

口から粘着性の糸を吐き出した。

「わっ!」

ジャネットは飛び退く。

先程までジャネットがいた所に糸が絡みついた。

「何これ! 気持ちワル~!」

生理的に嫌悪感を催したのか、思いっきり嫌そうな表情でそう言った。

一方、

「はっ! せいっ!」

「あははははは!」

フレイドラモンの連撃を、ドゥドゥーは楽しむように笑いながら避けていく。

いや、実際に楽しんでいた。

「くそっ! 魔法も使ってないのになんて動きだ!」

フレイモンは思わずそう言う。

「魔法を使わなきゃ素早く動けないメイジなんて、僕から言わせれば三流さ。一流の使い手というのはね、僕みたいに魔力を…………」

再び、ブレイドが唸りを上げて膨らむ。

「全部攻撃に振り切るんだ!」

巨大なブレイドが振り下ろされる。

「くぅ!」

フレイドラモンは咄嗟に躱すが、その一撃は地面を抉る。

「なんて威力だ………並の成熟期の必殺技と同等………いや、それ以上!」

その威力に戦慄する。

「やるね。 今の攻撃を攻撃を躱せる奴はそうは居ないよ」

相変わらず笑顔を崩さないドゥドゥー。

「はぁあああああっ!!」

再び殴りかかるフレイドラモン。

しかし、ドゥドゥーは人間離れした動きでヒラリヒラリと避けていく。

「くそっ! 当たらない!」

思わず焦りが口から漏れる。

「いいね。 君みたいな亜人は見たことないけど、ここまで楽しめるなんて思っていなかったよ。 だけど………」

ドゥドゥーが呟くと、ブレイドが再び大きく唸りを上げる。

「これで終わらせてもらうよ!」

巨大なブレイドを大きく振りかぶる。

すると、フレイドラモンは、

(普通に攻撃しても当たらない………それなら!)

その場で空高く飛び上がる。

「ハハッ! 空中に逃げても無駄だよ!」

ドゥドゥーのブレイドが更に長くなり、フレイドラモンを射程内に収める。

「これで終わりだ!」

思い切りブレイドが振り下ろされる。

その時、

「フルパワー!! ファイヤァァァァァァ………ロケット!!」

全身に炎を纏い、フレイドラモンはドゥドゥーに向けて突進した。

フレイドラモンのファイヤーロケットがドゥドゥーのブレイドとぶつかり合う。

「うぉおおおおおおおおおっ!!」

「何っ!?」

己のブレイドと拮抗するフレイドラモンを見て、ドゥドゥーは初めて動揺の声を漏らす。

「負けるな!フレイドラモン!!」

フレイドラモンを応援する信也。

「はぁあああああああああああっ!!」

パートナーの声に応えるように、フレイドラモンは気合を入れる。

すると、徐々にだがフレイドラモンがブレイドを押し始めた。

「ぐぐぐぐ……………」

ドゥドウーから余裕の笑みが消える。

「おおおおおおおっ!!」

フレイドラモンは、後の事を考えずに力を振り絞る。

そして、ついに完全に押し切れると確信したその時、

「こ、このぉ………訳の分からない亜人の分際で………!」

ドゥドゥーは突然杖を片手で支えながら、もう片方の手を懐へ突っ込む。

そして、瓶に入った液体を取り出し、それを一気に飲み干した。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

ドゥドゥーの凄まじい咆哮と共に、ブレイドの幅が倍に膨らんだ。

「なっ!?」

驚愕するフレイドラモン。

あと少しで押しきれる勢いだった優位性が完全に逆転してしまった。

ブレイドが勢い良く振り抜かれ、弾き飛ばされるフレイドラモン。

「うわぁあああああああああああっ!!」

フレイドラモンは吹き飛ばされる最中に退化し、ブイモンに戻って地面を転がる。

「ブイモン!」

ブイモンに駆け寄る信也。

「大丈夫? ブイモン」

「ううっ……何て力だ」

ブイモンを抱き起こす信也。

「はぁ………はぁ………まさか、この薬を使うことになるなんて思わなかったよ」

ドゥドゥーは肩で息をしているが、まだ幾分か余力があるように伺える。

その時、

「うわぁ!」

すぐ近くでワームモンが転がる。

「ワームモン!」

リースがワームモンに駆け寄る。

「もうサイアク~。 服が汚れちゃったわ~」

服についた粘着性の糸を払い落とすジャネットが、無傷でそこにいた。

「ううっ!」

ブイモンが、痛みを堪えながらも立ち上がる。

「ブイモン、大丈夫?」

「へへっ、平気平気! 俺はまだまだ行けるぜ!」

半分は強がりだろうが、ブイモンは心配させまいと笑う。

「ぼ、僕だって………!」

ワームモンも、ブイモンに触発されるようにリースの腕から飛び降り、ブイモンに並ぶ。

すると、ドゥドゥーは再び杖にブレイドを纏わせる。

しかし、その大きさは先ほどと比べるとかなり小さい。

とは言え、通常のブレイドと比べれば、まだまだ大きいが。

「しつこいなぁ………これ以上金にならない働きをすると、兄さん達が煩いんだ。 最後ぐらい潔くしてくれ」

そう言ってドゥドゥーは信也を睨みつける。

今までの標的は、ここまで痛めつけてこのように睨みつければ、泣いて救いを乞うてくる。

そんな者達を、笑って止めを刺すのがドゥドゥーは大好きなのだ。

だが、

「悪いけど、僕の諦めの悪さは兄ちゃん譲りだ!」

目の前の幼ささえ残る少年の目には、諦めは微塵も無かった。

「おう! よく言ったシンヤ!」

ブイモンも機嫌よく言う。

「ふ~ん………ま、どうでもいいんだけどね」

ドゥドゥーはブレイドを構えたまま近づいてくる。

リースは不安を隠せず、そんなリースを庇うように信也は一歩前に出る。

「大分力を使っちゃったけど、君達を殺す力ぐらいは残ってるよ」

笑ったまま脅すようにそう言うドゥドゥー。

「ドゥドゥー兄さま。 女の子は殺しちゃダメよ。 私が後でゆっくり楽しむんだから」

「ジャネット、僕も相当だけど、お前も大概だな」

「いいじゃない。 可愛い女の子が大好きなんだから」

そう言いながらも、ドゥドゥーは歩みを止めない。

そのドゥドゥーの前に、ブイモンとワームモンが立ちはだかる。

「ブイモン!」

「ワームモン!」

信也とリースがそれぞれに声をかける。

「まだやる気かい? 飼い主に似て諦めが悪いね」

「何とでも言え! 俺は………」

「僕は………」

「信也を………」

「リースを………」

「「守るんだ!!」」

2匹は思いの丈を叫んだ。

その時、信也のデジヴァイスが光を発し、同時にリースの目の前に突然光の玉が発生した。

「きゃっ!?」

突然のことに軽く驚くリース。

その光の中に浮かぶのは、

「僕と同じ形のデジヴァイス………」

信也の言う通り、信也と同じ形のデジヴァイスが存在していた。

「リースちゃん! それを取るんだ!」

信也が叫ぶ。

リースは言われるがままにデジヴァイスを手に取った。

それと共に、眩い光を放つデジヴァイス。

「ブイモン!」

「ワームモン!」

2人は直感に突き動かされるままに、デジヴァイスを掲げた。

その瞬間、2人のデジヴァイスの光に呼応するように、ブイモンとワームモンが光を放つ。

「ブイモン進化!」

それは、デジメンタルを必要としない本来の進化。

幻竜型だが体型は人間に近く、強靭な腕力と脚力を誇り、背中には白い翼。

腹部にはXの文字が描かれたブイモンの成熟期。

「エクスブイモン!!」




「ワームモン進化!」

ワームモンは人型へ姿を変え、頭部には二本の触角。

背中には4枚の昆虫の羽。

深緑の甲殻に身を包み、まるで幼虫が成虫になったかと思わせる昆虫型デジモン。

「スティングモン!!」




2体の成熟期がドゥドゥーとジャネットの前に立ちはだかる。

「なっ!? また変わった!」

ドゥドゥーが驚く。

「でも、さっきのイモ虫よりかはやり易いわね」

スティングモンの姿を見て、嫌悪感が消えたのかジャネットがそう呟く。

「今度は負けないぞ!」

エクスブイモンが叫ぶ。

「だからどうした!」

ドゥドゥーは跳躍し、エクスブイモンに斬りかかる。

だが、エクスブイモンは大きく口を開け、

「ストロングクランチ!!」

ブレイドをまとった杖に、一気に噛み付いた。

ガキィ!と、まるで金属が擦れあうような音が響き、振り下ろされたブレイドが止められる。

「なっ!?」

ドゥドゥーが一瞬動揺したその瞬間、

「はぁあああああああああっ!!」

エクスブイモンの気合の入った声とともに、ドゥドゥーの杖が噛み砕かれた。

「そんなっ!?」

動揺した瞬間、エクスブイモンはくるりと体を捻り、勢いのついた尾撃を叩き込んだ。

「ぐはっ!?」

吹き飛ぶドゥドゥー。

更にそれに向けて、

「エクスレイザー!!」

腹部からX字の光線を放った。

エクスレイザーはドゥドゥーの近くに着弾。

爆発し、ドゥドゥーを更に吹き飛ばした。

転がったドゥドゥーはピクリとも動かない。

どうやら気絶したようだ。

一方、

「喰らいなさい!」

ジャネットが巨大な水弾を放つ。

だが、スティングモンは背中の羽を羽ばたかせ、猛スピードでその場から飛び立つ。

一瞬でジャネットの後ろへ回り込む。

「このっ!」

ジャネットは、反射的に後ろへ水弾を放つが、既にその場にスティングモンは居ない。

見ればスティングモンは上空にいた。

スティングモンが右腕を振りかぶると、手の甲にあたる部分から鋭い突起物が飛び出し、

「スパイキング………」

右腕を前に突き出すと同時に一直線に突進した。

「フィニッシュ!!」

一直線に己に向かってくるスティングモンに対し、ジャネットは、

「一直線に向かってくるなんて、良い的よ!」

迎撃のために水弾を放つ。

だが、次の瞬間その水弾は弾けとんだ。

スティングモンの一撃が水弾を砕いたのだ。

「嘘っ!?」

ジャネットは咄嗟に身を捻り、スティングモンの一撃を躱す。

だが、その際にスティングモンの一撃が杖を捉え、ジャネットの杖はポッキリと折れてしまった。

「ッ!」

ジャネットは慌てて飛び退き、エクスブイモンに吹き飛ばされたドゥドゥーに駆け寄る。

すると、空から1羽の鳥が飛んできて、ジャネットの肩に止まる。

どうやらその鳥に手紙が括りつけてあった様で、ジャネットは手紙を広げて目を通した。

すると、

「残念だけど、帰らせてもらうわ」

ジャネットは殺気を消してそう言った。

「「ッ!?」」

信也とリースは困惑するが、油断なく身構える。

「心配しなくても、依頼主がお金を用意出来ていないことがわかったの。 それにあなた達は元々私達のターゲットじゃないし。 私が戦ったのもドゥドゥー兄さんの遊びに付き合っただけだからね。 ダミアン兄さんから早く帰るようにって催促が来たから、私達はこれで帰らせてもらうわ」

そう言うと、ジャネットは予備の杖を取り出し、気絶しているドゥドゥーにレビテーションをかける。

「じゃあね。 バイバ~イ」

ジャネットはそう言うとあっさりと踵を返して去っていく。

信也は一瞬後を追うという選択も思い浮かんだが、すぐに振り払った。

正直、今回は運が良かっただけだ。

相手が遊んでいたからこそ退けることが出来た。

もし最初からその気になっていたら、今頃負けていたのは自分達だったかもしれない。

そんな思いが信也の中に渦巻いていた。

すると、

「シンヤ君」

「えっ?」

リースに声をかけられてハッとする。

「どうしたの?」

「う、ううん。 何でもない」

信也はそう言ったが、あることを思っていた。

(もっと強く、強くならなきゃ。 お父さんやお母さん。 リースちゃんを守るために………)

信也はそう思いながら、空から戻ってくるエクスブイモンとスティングモンを見上げた。






次回予告


ガリアに到着した拓也達。

ジョゼットの存在には驚いたが、即位祝賀園遊会は滞りなく進んでいく。

しかしその時、セントガルゴモンが現れ、拓也達を挑発するようにある所へ誘導していく。

そこで拓也達が目にした驚愕の事実とは!?

次回! ゼロの使い魔と炎の使い魔

第六十七話 大隆起

今、異世界の物語が進化する。





あとがき


第六十六話の完成。

でもって遅れてすいませんでした!

一ヶ月に一回は更新したいと言っておきながら初っ端から一ヶ月遅れです。

言い訳を言わせてもらえば、サイバースルゥースとスパロボZ天獄編やってました。

あと話が殆どオリジナルなので書くのにも少々苦労しました。

まあ、今回はドゥドゥーの相手を信也達が努めました。

ドゥドゥーの強さって、アニメではあんまりだけど、原作だと馬鹿強いんですよね。

なので、フレイドラモンを圧倒するぐらいにはしときました。

そのせいで力を消耗したために、エクスブイモンには敵わなかった、ということで。

では、次も頑張ります。





[4371] 第六十七話
Name: 友◆ed8417f2 ID:7a8c92be
Date: 2015/06/07 21:34



シャルロットの即位祝賀園遊会の為にガリアを訪れた拓也達。

そこでは一体何が起こるのか?







第六十七話 大隆起







ガリアに到着した拓也達は、シャルロットや輝二達と再会を果たしていた。

まあ、一緒に居たシャルロットそっくりのジョゼットに驚いたりもしたが。

そうして園遊会が開かれて数日。

今日は舞踏会が開かれる日である。

宮殿のホールに会場が設けられ、何組もの貴族の男女がダンスを踊っている。

拓也や才人、ギルモンはもっぱら料理を食べることに精を出している。

そうやって思い思いに舞踏会を楽しんでいると、着飾ったアイナが拓也に近づいた。

「タクヤ」

アイナは拓也に声をかける。

「おう、アイナ。 似合ってるぞ」

拓也は返事をしながらアイナを見た感想を述べる。

「あ、ありがと………」

アイナは顔を赤くし、俯いて少しモジモジとしながら照れる。

すると、アイナがすっと右手を前に出し、

「タクヤ………その、私と踊ってくれないかな?」

照れながらそう言った。

拓也は、前にもこんな事あったなーと思い出しながら、

「喜んで」

笑みを浮かべてアイナの手を取った。

そんな拓也を見て、アイナは嬉しそうに微笑む。

2人は手を繋ぎながら舞台に歩いていく。

そしてアイナは慣れた様子で。

拓也はぎこちないながらもステップを踏む。

少しして拓也が慣れてきたところで口を開いた。

「そういえば、召喚されたばっかりの頃も、こうやって踊った時があったよな」

「フリッグの舞踏会だね。 私も覚えてる。 あの時はフーケの騒ぎがあった時で、『破壊の杖』が盗まれたんだよね」

「そうだったな。 その『破壊の杖』っていうのが俺たちの世界のロケットランチャーだった事には驚いたけど」

「ふふっ」

アイナが笑う。

「そういえば、あの時からだったんだよね…………」

「何がだ?」

「私が自分に自信を持てるようになったことが、だよ」

「そうだったか?」

「うん。 あの時の拓也の言葉が、私に勇気と自信をくれたんだよ」

「俺は当たり前の事を言っただけのつもりだったんだけど」

「その言葉が、私を救ってくれたんだよ…………ねえ、タクヤ」

「何だ?」

「タクヤにとっては迷惑だったかもしれないけど…………私、タクヤを召喚できて良かった………タクヤに会えて……良かった……」

アイナはそう言って微笑む。

「迷惑だなんて、一度も思った事ねーよ。 最初はビックリしたけどな」

拓也も笑い返す。

そんな2人を眺めている2人がいた。

「きゅい~………あのおチビ、タクヤさまと楽しそうに~!」

イルククゥが思いっきり嫉妬した視線を向けている。

「シルフィードは次」

シャルロットがそう言う。

「きゅい。 本当におねえさまより先に踊っていいのね?」

「構わない」

シャルロットはそう言うと、ある人物へ視線を向ける。

それは、少し離れた所で輝二の様子をジッと見つめるジョゼットの姿。

シャルロットはジョゼットの元へ歩き出した。




アイナの後はイルククゥと踊った拓也だが………

「つ、疲れた~~…………」

一言で言えば振り回された。

拓也の横ではアイナがクスクスと笑っている。

椅子に座って休憩していると、突然周りがざわめいた。

見ると人垣が割れ、1人の少女が歩いてくる。

「シャルロット」

アイナが呟く。

歩いてきたのはシャルロットだ。

シャルロットは拓也の前に立つと、優雅に一礼し、

「わたくしと踊っていただけませんか? ジェントルマン」

女王の気品を漂わせてそう言った。

「あ………ああ………」

拓也は呆気に取られながらも、シャルロットの手を取る。

そのまま舞台に移動するのかと思いきや、

「ちょっと待って」

小声でそう言うと、ある場所へ視線を向けた。

そこには、顔を真っ赤にさせたジョゼットが、輝二に歩み寄っているところであった。

ジョゼットは輝二の前に来ると、スカートの両端を持ち上げ、恭しく一礼し、

「わ、わたくしと踊っていただけませんか? ジェ、ジェントルマン?」

詰まりながらも輝二をダンスに誘った。

輝二は一度ビックリした表情をしたが、すぐに気を取り直し、

「喜んで、レディ」

少し頬を赤くしながらジョゼットの手を取った。

その2人も舞台へ歩いてくる。

その時を見計らって、シャルロットも歩みを再開した。

シャルロットと拓也。

ジョゼットと輝二の2組がダンスを始める。

女王のダンスとあってか、踊っていた貴族たちはいつの間にか退散しており、観客に徹している。

つまり、舞台で踊っているのはこの2組だけ。

いやがおうにも注目される。

拓也は、アイナ、イルククゥに続いて3人目なので、大分ダンスにも慣れてきた。

シャルロットも元々貴族であり、ここ数日はダンスの稽古もしていたのですんなりと踊れている。

一方、輝二とジョゼットであるが…………

驚くことに、こちらは2人とも普通に踊れている。

お互いに顔を真っ赤にして緊張していることがまるわかりであるが、ぎこちなさは無い。

これには理由があった。

シャルロットは、ジョゼットの輝二への恋心にいち早く気付き、この舞踏会で一緒に踊らせることを思いついた。

なので、ジョゼット、輝二のそれぞれに適当に理由を付け、同じ時間の違う場所でそれぞれダンスの稽古をさせていたのだ。

先程輝二がジョゼットの誘いに上手く応じれたのもその稽古の賜物だ。

ジョゼットは嬉し恥ずかしといった表情で。

輝二は照れながらも笑みを浮かべてダンスをしている。




舞踏会の盛り上がりが最高峰に達しようとしたとき、それは起こった。

ドゴォン、と爆発音が響く。

その場にいた貴族たちが驚き、騒めく。

拓也、輝二、才人はいち早く外へ駆け出し、様子を伺った。

すると、宮殿前の広場は何かが爆発したようなクレーターが出来ており、無残に様変わりしていた。

「あれはっ!」

輝二が空を見て叫ぶ。

空には、以前輝二が戦ったセントガルゴモンの姿がある。

「あれは、ロマリアの神官とそのデジモンが進化した奴だ!」

「ロマリアの神官? ってことは、ジュリオか!」

才人が叫ぶ。

「あいつら、また性懲りもなく!」

拓也が握りこぶしを作って怒りを露にする。

「もう許さねえ! 限界だ!」

拓也はデジヴァイスを取り出し、

「ハイパースピリット! エボリューション!!」

ハイパースピリットで進化した。

「カイゼルグレイモン!!」

拓也が進化すると、

「俺も、アイツには言いたいことが山ほどある」

輝二も静かに怒りを見せる。

「ハイパースピリット! エボリューション!!」

輝二もハイパースピリットで進化する。

「マグナガルルモン!!」

「俺達も行くぜ! ギルモン!」

「お~!」

才人とギルモンが光に包まれる。

「マトリックスエボリューション!」

「ギルモン進化!」

才人とギルモンが一つになる。

「デュークモン!!」

デュークモンに進化すると、

「デルフ!」

デルフリンガーを呼ぶ。

どこからともなくグラニとなったデルフリンガーが飛来しデュークモンは飛び乗る。

そして、いざセントガルゴモンへ向かおうとした時、突然セントガルゴモンは3体に背を向け、飛び去る。

「逃がすか!!」

カイゼルグレイモンを筆頭に3体はセントガルゴモンを追いかける。

「シルフィード!」

「きゅい! わかったのね!」

シャルロットがイルククゥに呼びかけ、イルククゥは風竜の姿に戻る。

シャルロットが飛び乗ると、続いてアイナ、ルイズも飛び乗る。

それを確認すると、シルフィードは翼を羽ばたかせ、飛び立つ。

「女王陛下!」

ガリアの兵士達が慌てふためくが、シルフィードは構わずに飛んでいった。





セントガルゴモンは、追いかけてくるカイゼルグレイモン達を特に攻撃するわけでもなく、逃げに徹していた。

やがて、ロマリアとの国境である火竜山脈が見えてくる。

すると、セントガルゴモンの飛ぶ先に1匹の風竜が滞空しているのが見えた。

セントガルゴモンはその風竜の前を通過すると停止し、振り返った。

カイゼルグレイモン達は警戒し、一定の間合いをあけて停止した。

よく見ると、その風竜の背には1人の人物が乗っている。

少し遅れて、アイナ達を乗せたシルフィードが到着する。

すると、風竜の背に乗っていた人物が口を開いた。

「まずは、手荒い招待状を送りつけたことを謝罪します」

そう言ってその人物、ロマリア教皇のヴィットーリオが頭を下げる。

「何言ってやがる! 今まで散々シャル達に酷いことをしておいて! 聞いたぞ! ついこの間もシャルを攫おうとしたらしいじゃねえか!」

カイゼルグレイモンが怒りを隠さずに叫ぶ。

「はい。それは事実です。 しかし聞いていただきたい。 それは全て、このハルケギニアを守るためだと」

「ハルケギニアを守ることと、シャルを攫う事に何の関係があるんだよ!?」

「虚無の担い手の後継者である可能性の高いジョゼットを王位につける為です」

「何を言ってるの!? 虚無の担い手は4人のはずよ! 私、ティファニア、聖下、そしてジョゼフ。 既に4人は揃っているわ!」

ルイズが叫ぶ。

「はい。 しかし、何事にも万が一はつきもの。 そのため、虚無の担い手が死んだ時には、その力を受け継ぐ後継者が現れることになっているのです」

「なんですって!?」

驚愕するルイズ。

「その後継者が………ジョゼット」

マグナガルルモンが呟く。

「はい。 その可能性が高いと私達は予想していました。 しかし、先日ジュリオがミョズニトニルンと遭遇したと言う報告を聞き、考えを改め、そして確信しました。 ジョゼフは生きているのですね?」

ヴィットーリオの言葉に全員が沈黙する。

しかし、それは肯定しているようなものだ。

「やはりそうでしたか………それならば、改めてろマリア国教皇として、ガリア国女王シャルロット陛下に申し上げたい! ハルケギニアを守るため、我々に協力していただきたい! もちろん虚無の担い手であるジョゼフとミョズニトニルンを含めてです」

「断る。 あなた達は信用できない」

ヴィットーリオの言葉に、即座に否定の言葉を返すシャルロット。

「もちろんそう言われることは覚悟しております。 しかし、これから起こることを目撃しても、同じことが言えるでしょうか?」

意味深にそう言うヴィットーリオ。

「どういう意味だ?」

デュークモンが問いかけた時、突然ゴゴゴと大きな地鳴りのような音が響く。

「何? この音………」

アイナが周りを見渡す。

空中では解りづらいが、地上では激しい地震が起きていた。

「始まりましたね」

ヴィットーリオが呟く。

「何がだ!?」

「『大隆起』ですよ」

ヴィットーリオはそう言いながら火竜山脈に目を向けた。

そして、驚くべきことを目にする。

「な、何っ………!?」

「馬鹿な………」

「こんな事が…………」

カイゼルグレイモン、マグナガルルモン、デュークモンがそれぞれ驚愕の声を漏らす。

「う、嘘………」

「夢……じゃないわよね?」

「…………信じられない」

「きゅ、きゅい~………」

アイナ、ルイズ、シャルロット、シルフィードも呆然と火竜山脈を見上げる。

激しい地鳴りと共に、火竜山脈が空へと浮き上がっていた。

「山が………浮いてる」

「何だ……これは……」

呆然とカイゼルグレイモン達が呟いていると、

「『大隆起』です。 徐々に蓄積した“風石”が、周りの地面ごと持ち上がっているのです」

ヴィットーリオがそう説明する。

「風石が?」

「ええ。 このハルケギニアの地下には、大量の風石が眠っているのです。 平たく言えば、風石とは精霊の力の結晶です。 徐々に地中で“精霊の力”の結晶化は進み、数万年に一度、こうやって地面を持ち上げ始めるのです」

「持ち上げ“始める”?」

「そうです。 ここだけではありません。 今はハルケギニア中に埋まった風石が飽和している状態なのです。 いずれハルケギニアの地面の5割は浮き上がり、人の住めない土地となります。 そうなったら、残った土地を争う不毛の戦いが始まるでしょう」

「なんで黙ってたんですか!?」

ルイズが叫ぶ。

『頭の固い君たちが僕らの話を素直に信じる訳無いだろう? 現物を見なければ信じる気にもならないだろうさ』

答えたのはセントガルゴモンに同化しているジュリオだった。

「それらを食い止めるために、我々は虚無に目覚めたのです。 その為に我々は、エルフに奪われし“聖地”を取り戻すのです」

「聖地には……何があるんですか?」

アイナが問いかける。

「始祖ブリミルが建設した、巨大な魔法装置です。 精霊力を打ち消すことが出来るのは、虚無の力のみ。 我々は四の四を携え、聖地を奪還する。 そして、この地の災厄を祓うのです」

全員が押し黙る。

「協力してくれますね?」

ヴィットーリオが言った。

皆が顔を見合わせる。

誰もがスケールの大きすぎる話にどうしていいかわからない。

しかし、

「今ここでの返答は無理だ。 しばらく時間を貰いたい。 皆突然のことに動揺している」

マグナガルルモンがそう答える。

「今、ガリアには各国の代表者や貴族が大勢いる。 彼らと話し合って今後の対応を纏めてから改めて答えを返したい」

続けてそう言うと、

「いいでしょう。 動揺するのも当然です。 それでは良い返事を期待しています」

ヴィットーリオはセントガルゴモンと共に、ロマリア方面へ飛んでいく。

その様子をマグナガルルモンは警戒するような眼差しで見つめていた。

「マグナガルルモン、どうしてすぐに協力を取り付けなかったんだ?

カイゼルグレイモンがそう言う。

すると、

「人を騙すのに、一番いい方法を知っているか?」

マグナガルルモンはそんなことを言った。

「えっ?」

「それは、大きな真実の中に小さな嘘を混ぜることだ。 真実のインパクトが強ければ強いほど、細かな嘘は気づきにくい」

「聖下が嘘をついているというの?」

「じゃあ、ハルケギニアの地面が浮かび上がるっていうのも!」

ルイズが希望にすがるように声を上げる。

しかし、

「いや、おそらくそれは本当だろう」

マグナガルルモンはそう言う。

「俺が嘘だと思うのは聖地に魔法装置がある、という辺りだ。 アイツ等は言った。 大隆起は数万年毎に起こる災厄だと。 それが、何故6000年前のブリミルが対抗策を用意できる? その頃には今よりも風石の力には余裕があったはずだ。 今以上に風石の異常には気づきにくいだろう」

「「「「「あっ」」」」」

マグナガルルモンの言葉に全員が声を上げる。

「少なくとも、あいつらの言葉を全て鵜呑みにするのは危険だ。 仮に本当だとしても、6000年前に作られた物が、整備もなく現在も正しく動くとは到底思えない」

マグナガルルモンの言葉に全員が納得する。

「コージの言うとおりだわ。 火竜山脈が浮き上がったショックで、考える事を放棄するところだったわ」

ルイズが頷く。

「まずは姫様に知らせましょう。 話はそれからよ」

ルイズの言葉に全員が頷いた。






次回予告


信じられない事実を突きつけられた拓也達。

エレオノールと協力し、ヴィットーリオの話の裏付けを進める。

そんな中、ド・オルニエールの屋敷にエレオノールが厄介になることになり………

次回! ゼロの使い魔と炎の使い魔

第六十八話 ド・オルニエールでの一騒動

今、異世界の物語が進化する。





あとがき

第六十七話の完成。

何だかんだで遅れてすみません。

鮎掛けの時期が始まったので上司に連れてかれてます。

前日夜から川で泊まり込みなので土曜日は眠くて眠くて。

帰ったら速攻バタンキューです。

さて、今回の話はオリジナルのような原作沿いの話でした。

ま、輝二は色々と疑っているようですが。

次回はエレオノールが屋敷に襲来(?)。

さてどうなることやら。

それでは、次も頑張ります。





[4371] 第六十八話
Name: 友◆ed8417f2 ID:5337aa3d
Date: 2015/10/18 17:11

ヴィットーリオから『大隆起』という災厄の存在を聞かされた一同。

トリステインに戻り、その事実関係を明らかにするために調査が行われる。




第六十八話 ド・オルニエールでの一騒動




トリステインの南部に位置するモンス鉱山の奥深くで水精霊騎士隊がせっせと作業に励んでいた。

それらを指揮するのは、ルイズの姉であり、アカデミー主席研究員であるエレオノールだ。

そして、そのエレオノールが改造した風石探査の為の魔法装置を水精霊騎士隊が『遠隔操作』の魔法で操り、地中深く掘り進ませ、風石を探ろうというのだ。

「はぁ? あなた! さっきもトチったじゃないの! またなの? どういうつもりなの?」

で、そのエレオノールなのだが、

「はぁ? あなた! 今日の任務は聞いていたんじゃないの? それなのに寝てないってどういうこと? たるんでる証拠だわ!」

とにかく怖い。

「このっ! 能無しの豚がっ! まともに仕事できない穀潰しがっ! “疲れた”ですって? “疲れたですってぇえええええっ!」

怖いのだが……………

「お前みたいなぁ! 豚の死骸はぁっ! 土に還れっ!!」

約1名、ドMなポッチャリ君はワザとエレオノールを怒らせて歓喜している一幕もあったりなかったり。

「何やってるんだか…………」

そんな半コント状態の調査隊を眺めながら、土石排出用のトロッコを押すアグニモンが、呆れたように呟く。

「彼ららしくていいではないか。 絶望に押しつぶされるよりは、よほどいい」

同じくトロッコを押すデュークモンがそう言う。

「そりゃそうかもしれないけど………」

それにしても緊張感が無さすぎでは? と思うアグニモンだった。

「それにしても、こういう時にドリモゲモンやディグモンがいれば便利なんだが………」

「仕方あるまい。 我々では深くまで丁寧に掘り起こす術がない。 下手に必殺技を使えば、そのショックで『大隆起』が起きかねん」

「やっぱり地道にやるしかないか………」

その少し後、エレオノールによって、地中深くに眠る、巨大な風石の鉱脈が発見された。





「このトリステインでも、同様の事態が起こっているということは、やはり教皇聖下の話は本当なのでしょうか?」

報告を受けたアンリエッタが、肩を落としながら言った。

「おそらくは間違いないと思われます」

エレオノールが頷く。

「そうですか………」

アンリエッタは顔を伏せつつ呟く。

そして顔を上げると、一緒に居たルイズ達の方を向き、

「貴方達は、どうするべきと考えますか?」

そう問いかけた。

「正直、ロマリアは信用なりません。 確かに『大隆起』は何も知らぬ者が聞けば、夢物語と嘲笑うでしょう。 ですが、それにしてもやり方がありますわ」

ルイズが真っ直ぐにロマリアへの不信感を口にする。

「では、やはり聖地に『大隆起』を止めるための魔法装置があるというのは……………」

「可能性はゼロではありませんが、限りなく低いと思われます。 ただ、聖地に何かがある、というのが私達の見解ですわ」

その言葉を聞き、目を伏せるアンリエッタ。

そして少しして目を開けると、

「よろしい。 トリステイン王国は、ロマリアに協力することにいたします」

そう言い放った。

「姫様!?」

アンリエッタの決定に、思わず声を上げるルイズ。

「もちろん本気で“聖戦”を支持しようなどとは思ってはいません。 ですが、ここでロマリアに敵対意思を見せ、何の手の内も見ぬまま好きに動かれては、対策のしようがありません。 ここはあえて協力関係を結び、相手の手の内を探るべきと判断いたしました」

その言葉を聞き、ルイズはホッと息をつく。

するとアンリエッタは、近くの大臣に、

「直ぐにウェールズ様とシャルロット女王に連絡を。 トリステイン、アルビオン、ガリアの三国で連携し、ロマリアの目的を暴きます」

そう伝え、協議を行うために準備に取り掛かった。







拓也達が、ド・オルニエールに帰ってきたのは8月の半ばを過ぎてからだった。

「お帰りなさい! サイトさん! ミス・ヴァリエール! アイナちゃんとタクヤ君も!」

シエスタが満面の笑みで出迎える。

「ただいま、シエスタ」

才人が答える。

「兄ちゃん、アイナさんお帰り」

「お帰りなさい、タクヤさん、アイナさん」

続いて信也とリースが出迎え、

「おう、ただいま」

「ただいま、皆」

拓也とアイナも答える。

すると、信也が何故か笑っていた。

「どうした信也? なんで笑ってるんだ?」

拓也が尋ねると、

「うん。 兄ちゃん達がビックリする物があるんだ」

「俺達がビックリするもの?」

「うん、ついてきて」

そう言って信也が先行する。

信也が向かったのは屋敷の中ではなく、少し離れた広場があった所に向かった。

拓也たちは、不思議に思いながらも信也について行く。

そして、

「ほら、見てよ!」

信也がそう言って指さした先には、

湯気が立ち込め、硫黄の独特な匂いが鼻につく。

それは、

「「お、温泉!?」」

拓也と才人が同時に驚く。

そこにあったのは、物の見事な露天風呂。

しかも、石で周りを敷き詰められ、和風な作りになっている。

「ど、どうしたんだこれ!?」

拓也が思わず問いかける。

「兄ちゃん達がガリアに行った少し後に湧き出したんだ。 お父さんたちが折角だからって、業者に頼んで露天風呂を作ってもらったんだよ」

「へ~」

拓也と才人は目をキラキラとさせている。

拓也と才人の風呂は、大きな鍋で作った五右衛門風呂だったので、こういった広い風呂にはやはり憧れのようなものを感じる。

「あの~ところで、先程から気になっていたんですが…………」

「「ん?」」

シエスタが遠慮がちに発言する。

「シャルロット陛下がここにいていいんでしょうか?」

シエスタの視線の先には、シャルロットとイルククゥがいる。

「問題ない。 影武者がいる」

そう言うシャルロット。

因みに影武者とは言わずもがなジョゼットの事である。

「私が今現在出来る事は大体終わった。 後は伯父様やイザベラ姉さまが補佐してくれるから私が居なくても暫くは問題ない」

「そ、そうなんですか?」

シエスタはそれでいいのかと冷や汗を流す。

とりあえず、温泉の楽しみは後に取って置き、屋敷で全員が無事に帰ってきたことを祝うパーティが開かれた。




その数日後。

ここ数日は特に何事もなく静かな日常を過ごしており、拓也達にとっても良い休息になっている。

そんなある日の夜。

拓也たちが就寝しようと寝る準備をしていた時だった。

――ガンガン

と、玄関の扉を叩く音がした。

拓也が気になり廊下に出ると、才人や他の皆も廊下へ出たところであった。

「……………こんな夜中に誰かしら?」

ルイズが呟く。

「近所の人かな?」

才人がそう言うと、シエスタが心配そうな表情をした。

「まさか…………サイトさんを狙ってるっていう…………」

シエスタの言葉に顔を見合わせる一同。

既に信也から、才人を狙う2人組から襲われたという話を聞いていた才人とルイズは気を張り詰める。

才人がデルフリンガーに手を掛け、ルイズも杖を握り締める。

「あっさり片付けてあげるわよ」

ルイズが呟くと、

「でも、暗殺者が玄関を一々ノックしたりするのかな?」

アイナが疑問の一言を呟く。

「確かにそうだな。 訪ねてきたのが敵って決まったわけじゃないし」

拓也もそう口にするが、

「甘いわ! 油断させたところをブスリ、なんてよくある話よ!」

ルイズが自信満々にそう言う。

――ドンドンドン!

再び扉が叩かれる。

才人達はあーだこーだと話し合っていたが、この屋敷にいるのは彼らだけではない。

「はーーーい! 今開けまーーす!」

そんな声が聞こえてきた。

「って、母さん!?」

才人が慌てて駆け出す。

地球組は未だ警戒心が薄いため、人美は特に疑いもせずに玄関の鍵を開けようとしていた。

才人が玄関にたどり着いた時には、既に人美は玄関の鍵を開けていた。

「母さん待ったァ!!」

扉を開ける瞬間にデルフを持った才人が、人美とドアの間に滑り込み、扉の向こうにいる人物に突きつけた。

「ちょっと才人!? 何やってるの!?」

人美が叫ぶ。

「母さん下がって! こんな時間に訪ねてくるなんて、暗殺者に決まって…………」

「だぁれが暗殺者ですってぇ?」

暗がりの向こうから聞こえた声は女性のものだった。

しかも、ごく最近聞いた、よく知っている声だ。

才人は恐る恐る視線を動かす。

才人の視界がその女性の顔を捉えた。

長い金髪にツリ目、メガネをかけたその女性は、

「お、お姉さん!?」

ルイズの姉のエレオノールであった。

「あなたにお姉さんと言われる筋合いは無くてよ!」

初っ端から怒鳴られる才人。

「「エ、エレオノールお姉さま!」」

ルイズとアイナが叫ぶ。

「貴方達…………これはどういう事かしら?」

凄まじくドスの聞いた声でエレオノールが言い放った。





「全く! 私を暗殺者と勘違いするなんて………!」

「「ごめんなさい! ごめんなさい!」」

足を組んでソファーに座るえレオノールの前で、何度も頭を下げる才人とルイズ。

あれから別室に移動して話をしていた。

暗殺者に間違えられたエレオノールは怒り心頭だ。

そんな時、

「まあまあ、エレオノールさん。 女性がそんなにカリカリするものではありませんよ。 もっと余裕を持たないと」

一緒にいた人美が口を挟んだ。

「なんですって?」

エレオノールがギロリと人美を睨む。

しかし、人美はあっさりとそれを受け流し、

「貴族の威厳とやらが大事なのはわかりますが、常に肩筋張っていたら疲れるでしょう? 時には肩の力を抜かないと」

ニコニコと笑みを浮かべてそういった。

「私に意見する気? っていうか、あなた誰?」

「あら? 挨拶が遅れてしまってごめんなさい。 私は平賀 人美。 この子、才人の母です」

「成り上がりの母親? なら平民よね。 平民が公爵家のラ・ヴァリエールに口答えしていいと思ってるの?」

「ごめんなさいね。 こちらの常識には疎いもので」

常にピリピリとしているエレオノールとは対照的に、何処かのほほんとした雰囲気を漂わせる人美。

「…………子が子なら、親も親ね。 どういう教育を受けてきたのかしら?」

「うちの教育方針は基本的に自由奔放ですから。 もちろん、悪いことをした時にはちゃんと叱ってますよ」

「………………」

人美ののほほんとした雰囲気に、どこか一つ下の妹を思い出させ、調子が狂ってくるエレオノール。

「サイト……………あなたのお母様凄いわね」

「ああ………怖くないんだけど、なんか逆らえないんだよな。 母さんには」

ルイズの半ば呆然とした言葉に、慣れた様子で言葉を返す才人。

「確かに貴族として威厳を保たなければならないのはわかりますけど、厳しいだけでは、人はついて来ませんよ」

「……………私に説教する気?」

「その様子では、心当たりがあるようですね」

「うぐっ…………」

「あ、あのエレオノール姉さまが言い負かされてる…………」

「おばさん何とも言えない凄みがあるからな~」

アイナと拓也も呆然と見ている。

「貴族として、何より女性として、大きな懐を持つことも大事です。 まあ、夫の浮気は許しませんが」

「……………………」

ついに言葉が出なくなるエレオノール。

「と、所で姉さま。 一体今日はどんな用事で来られたの?」

ルイズが慌てて話を変えるようにそう言った。

「お、おほん! ………ま、まあ用事ってほどじゃないけど、しばらくここで厄介になろうかと思ってね」

そう言ったエレオノールの頬は、何故か僅かに赤い。

「ええええええええええっ!!」

ルイズが声を上げて驚く。

「え? どうして? なんでまた。 お姉さん」

「だからあなたにお姉さんと呼ばれる筋合いはなくってよ!」

才人がそう言うとエレオノールにジロリと睨まれ、

「ま、まあ、たまには郊外の暮らしも悪くないんじゃないかってね」

「アカデミーはどうするんですか?」

「ここから通うわ」

「え? どうやって?」

「竜篭を持ってきたわ。 貴方達、世話をよろしくね」

少々強引とも言えるその姿に、才人は感じるものがあったのか、試しに聞いてみた。

「も、もしかして…………おね、エレオノールさん、怖いんじゃ………」

するとエレオノールは、ビクッと肩を震わせた。

「ああ。そうよねー。あの話知ってるの、私達だけだし………」

『大隆起』の話は、実際に起こることを知る者にとっては恐怖以外の何物でもない。

「こ、怖くなんかないわよ」

エレオノールは首を振って否定するが、その表情からは嘘なのは丸わかりだ。

「うそ。 怖いんでしょう」

「怖くないってば!」

「可愛いとこあるじゃないですか」

普段見られないエレオノールの様子に、ついつい才人の口調は軽くなってしまった。

「馬鹿にしているの? あなた」

エレオノールの眉が釣り上がる。

「姉さまは、昔から何げに臆病でしたよね」

しかし、ルイズの援護射撃。

「いいからもう! 貴方達はもう寝なさい!子供は寝る時間よ! あと、明日はお話がありますからね!」

ごまかすように叫んだエレオノールの言葉に、才人とルイズは慌てて二階の寝室に逃げた。

「はあ…………相変わらず才人さん調子に乗りやすいんだから………」

「でも、あんなエレオノールお姉さまは、滅多に見ないから………」

拓也とアイナは苦笑する。

「あなた達も! 早く寝なさい!」

拓也とアイナも怒鳴られた為、これ以上の飛び火を受けないために2人も寝室へと戻っていった。

そこでエレオノールは気付く。

「そういえば私、どこで寝ればいいのかしら?」

ふと見れば、ニコニコと微笑む人美がいる。

「………………」

「………………」

しばらくの沈黙が続き、

「お部屋に案内しましょうか?」

「………………お願いするわ」

エレオノールはなんとなく、この女性には敵わない気がすると本能的に悟ってしまった。

「では、こちらに」

そのまま促されるままにエレオノールは案内されるのだった。










次回予告


ド・オルニエールの土地に沸いた温泉に興味を示す多くの人物。

いつものメンバーが集まり、パーティーが開かれることになる。

その時、温泉で起こる女子たちの出来事とは!

次回! ゼロの使い魔と炎の使い魔

第六十九話 魅惑の露天風呂

今、異世界の物語が進化する。






あとがき

第六十八話です。

4ヶ月以上も放ったらかしで申し訳ありません。

日常編のネタが無かったのもそうですが、この間に5、6回ほど休日出勤があり、半端に書く気が起きませんでした。

故に今回非常に短いです。

重ねて申し訳ない。

もう一つ付け加えると、今更ながらソードアート・オンラインのアニメを気まぐれで見てみたら、モロにハマりまして。

脳内でソードアート・オンライン×デジモンフロンティアなんつーネタが溢れていまして…………

ネタが止まらないので、ネタを吐き出す為に自分が楽しむためだけの小説を書いていました。

相変わらずの拓也TSUEEEEE小説で、シノンヒロインで、シノンが始めっからSAOに参加していたり、拓也とシノンが第1層からユニークスキル発現したりと、ご都合主義満載の俺得小説です。

とりあえず、第1層ボス終了まで書いたところで脳内が割と落ち着いたのでこっちを無理矢理完成させました。

出来は最悪ですがね。

とりあえず今回はこれにて失礼。

では、次も頑張ります。



PS、ゼロ魔の原作続刊決定が発表されましたね。
  続きが見られるのは嬉しい限りです。
  どんな内容になるのかな?





[4371] 第六十九話
Name: 友◆ed8417f2 ID:5337aa3d
Date: 2016/02/28 20:03


ド・オルニエールで平和な日常を満喫する拓也達。

今回温泉で起こる騒動とは?





第六十九話 魅惑の露天風呂






エレオノールが、館に住み始めて数日。

男性陣が露天風呂に入って身体を休めていた。

「くぅ~~~~っ!! やっぱり温泉は何度入っても気持ちいいぜ!」

才人が身体を伸ばしながら石に背を預けている。

「ほんとっすね~………やっぱり日本人は風呂に入らないと………」

拓也も温泉の真ん中あたりで肩まで湯に浸かっている。

「きもちい~~~~…………」

完全に蕩けた声で、顔の上半分だけを出した状態で浸かっているギルモン。

「わ~~い!!」

温泉を泳ぐチビモン。

「泳いじゃダメだよ! チビモン!」

湯に浸かりながらチビモンを叱る信也。

各々が温泉を満喫していた。

すると、才人が切り出した。

「なあ、思ったんだけどさ、せっかくこんな広い温泉があるんだ。 俺達だけで独り占めするのは勿体無くないか?」

「そう言われればそうですね。 日本でも温泉といえば、旅館とかホテルとかが一般的ですから」

「だからさ、皆を呼んでパーティーしようぜ! 特に水精霊騎士団のみんなは『大隆起』とかで精神的に参ってるだろうし…………ここらで温泉に入ってもらってリフレッシュしてもらうんだ」

「僕は賛成!」

「俺もいい考えだと思います」

才人の案に、信也と拓也も賛成する。

「よーし! じゃあ、早速母さんたちに相談して、皆を呼ぼう!」

こうして、才人の発案により、温泉パーティーが開かれることとなった。






数日後。

ド・オルニエールの屋敷でパーティーが開かれていた。

参加者は、元から屋敷にいる拓也、アイナ、才人、ルイズ、シャルロット、リース、シエスタ、エレオノールに地球組とデジモン3匹。

ギーシュを始めとした水精霊騎士団の面々。

キュルケ、モンモランシー、ティファニア、オスマン、コルベールの、魔法学院の面々。

そして何故か、アンリエッタとそのお付のアニエス。

更に何故かカトレアや、ゲイルを始めとしたシンフォニア一家がいた。

「って、ちょっと待ってよ! 何で姫様やちい姉さま達がいるの!?」

参加者を改めて見たルイズが叫ぶ。

「あらルイズ。 わたくしは、偶然ド・オルニエールに温泉というお肌がスベスベになる効能を持ったお風呂があると聞き、それならば入ってみたいと思い、お忍びで来てみたらこのような催し物が開かれていただけですよ?」

アンリエッタはニコニコと答え、

「私は姫の護衛だ」

アニエスは真面目な顔で答える。

「カトレアに関しては私が呼んだわ」

そういったのはエレオノールだった。

「姉さま、どうして?」

「聞けば、温泉には病気に効くものもあると聞くわ。 それならカトレアの体にも良いかもしれないからよ」

「姉さま…………」

そっぽを向きながらもそう言うエレオノールの優しさに、ルイズは感動する。

そうして、予想以上に人数が増えた参加者でパーティーが行われた。






食事会が終わり、いよいよ温泉の時間になろうとしたときだった。

オスマンが屋敷の一部屋の中で、神妙な顔で俯いていた。

その部屋の扉が開く。

「お呼びですか? オールド・オスマン」

入ってきたのはギーシュとマリコルヌ。

オスマンは重々しく頷き、

「うむ。 君達に重要な任務を与えたい」

「任務………でありますか?」

「うむ………それは……………」

オスマンに言われた内容にギーシュ達は驚き、だが、すぐに気を取り直して直立した。

「ハッ! 我ら水精霊騎士団! 重要任務に着手いたします」

ギーシュとマリコルヌはそう言って退室した。

部屋を出て行ったあと、

「フフフ…………」

オスマンの目が、怪しく光っていた。







温泉には最初に女性達が入ることになっていた。

温泉に浸かる女性達。

「あの、良いんでしょうか? 私たちまで一緒に入っても………」

最初に切り出したのはシエスタ。

シエスタとリースは温泉の隅っこで遠慮がちに浸かっていた。

まあ、それも当然である。

地球組である人美と由利子を除けば全員貴族であり、挙句の果てには女王であるアンリエッタまでいるのだ。

萎縮するのも仕方ない。

因みに忘れそうではあるが、アニエスも元平民ではあるがれっきとした騎士であり、貴族の一員である。

「もちろん構いませんわ。 身分に関係なく、裸の付き合いをするのが温泉だそうですから」

そう言ったのはアンリエッタ。

その言葉で幾分かその場の緊張が和らいだ。

キュルケやモンモランシーは、アンリエッタに気軽に話しかけている。

一方、

「…………………………」

「な、何? シャルロット?」

シャルロットがアイナの身体をじーっと見ていた。

主に胸の辺りを。

「アイナ…………少し大きくなってる…………」

「なっ、何がっ!?」

シャルロットの言葉に、アイナは腕で身体を隠すような仕草をしながら顔を赤くして叫ぶ。

「胸」

どストレートなシャルロットの一言に、アイナは顔を更に赤くした。

「まあ、元がアレですからね」

シエスタがそう言いながら、視線をある人物に移す。

「あらあら、何かしら?」

それは、アイナの母であるフレイア。

因みにフレイアのスタイルは、アンリエッタ以上である。

「そうね。 少なくとも、ルイズよりかは可能性高いと思うわよ」

キュルケが口を挟む。

「私よりかはってどういう事よ! 私はちい姉さま似よ! いつかはちい姉さまのようになってみせるわ!」

ルイズがそう言いながらカトレアを見る。

因みにその横にはエレオノールがおり、2人の戦力差は絶望的なのが伺える。

「顔はカトレアお姉様似でも、身体はエレオノールお姉様似かも知れないじゃない?」

キュルケが余計な一言を付け足す。

「そ、そんな事ないわよ!!」

ルイズが一瞬頭に過ぎった嫌な予感を振り払うように叫ぶ。

その瞬間、ルイズの頬が引っ張られた。

「ちびルイズ~~!? 何がそんな事ないのかしら!?」

「あべべ~、あでざま、なんべもありばぜん~~~~~!」

その様子を見て、全員が笑う。

「それにしても、胸といえば、1人とんでもない子が居たわね~」

モンモランシーがそう言いながら横目でティファニアを見る。

ティファニアの胸、才人曰くバストレボリューションは、これだけの人数がいても、ひときわ目立っていた。

まさに桁が違う。

「そ、そんなに見ないで下さい~!」

ティファニアは両腕で胸を隠そうとするが、その大きな胸の半分程度しか隠せてはいない。

「むぐぐ…………」

「……………」

その様子に、ルイズは悔しそうな表情をし、シャルロットは無表情ながらジッと見つめている。

「お姉さま! 胸の大きさなんか気にする必要ないのね! あんなもの、唯の脂肪の塊なのね!」

イルククゥがシャルロットをフォローしようとしているのか力説するが、その際にたゆんと揺れるものに、シャルロットの視線は釘付けになる。

「……………………」

「痛い! 痛いのねお姉さま!」

何処から取り出したのか、シャルロットは無言のまま大きな杖でイルククゥの頭を殴る。

すると、

「そういえば、大丈夫かしら?」

モンモランシーが唐突に切り出す。

「何が?」

キュルケが聞くと、

「男共よ。 前にも覗きなんて前科があるわけだし…………」

「それなら大丈夫よ」

ルイズが口を挟んだ。

「ルイズ?」

「ちゃんと手を打ってあるわ」

ルイズはそう言うと、アイナに目配せし、アイナも微笑みで答えた。

「?」

モンモランシーは首を傾けるだけだった。





その頃、女性達が入っている温泉に向かって、森の中から匍匐前進で近付く複数の影があった。

「全員、止まれ!」

小声ながらも、強い指示で全員が停止する。

「諸君、これよりオールド・オスマンから受けた重要任務を開始する」

「「「「了解!」」」」

静かに、それでいて力強く唱和する。

まあ、才人を除いた水精霊騎士団であるわけだが、オスマンから受けた重要任務というのが、

「これより、アンリエッタ女王陛下の身辺警護を行う」

言ってることはまともっぽいが、その顔は完全にニヤけており、覗く気満々な事が伺える。

「さて、その為にはもっと近付かなくては…………」

隊長のギーシュが、匍匐前進を再開しようとしたその瞬間、

「いっ!?」

ズサッとギーシュの鼻先の地面に大剣が突き刺さった。

ギギギとギーシュはブリキ人形のように首を上へと動かす。

そこには、

「「…………………」」

龍魂剣を地面に突き刺し、冷たい瞳で見下ろすカイゼルグレイモンと、同じく冷たい瞳で見下ろすデュークモンの姿があった。

冷や汗を流す一同。

「や、やあ副隊長にタクヤ。 い、一体何故進化しているのかな?」

ギーシュが恐る恐る尋ねる。

「それはもちろん……………」

「覗きをする不届きな変態共を殲滅するためだ…………!」

2体の言葉に震え上がる。

「そ、それは不届きな輩が居たものだね…………僕達は野生の動物が温泉に近付かないか見回りに来ただけだから…………それじゃ」

ギーシュ及び隊員一同は踵を返してその場を離れようとするが、

「そんな言い訳でこの場を逃れられると思うなよ!!」

カイゼルグレイモンの言葉で全員が一斉に逃げ出し、

「「天誅!!」」

「「「「「ギャ~~~~~~~~ッ!!!」」」」」

水精霊騎士団の悲鳴が辺りに響いた。




「ねえ、今何か聞こえなかった?」

温泉に浸かっていたモンモランシーが辺りを見回しながら呟く。

「さあ? どこかの変態が竜の餌食にでもなったんじゃないの?」

そう言ってルイズは気にしようとしなかった。





同時刻、ド・オルニエールの屋敷の一室。

窓から外を見ていたオスマンは、

「スマンな、水精霊騎士隊の諸君。 しかし! 君達の犠牲は決して無駄にはせんぞ!!」

そう口に出すと、視覚を使い魔であるネズミ、モートソグニルへとリンクさせる。

モートソグニルは現在草むらの中を走っていた。

その場所は、先程水精霊騎士隊が居た場所とは反対方向。

即ち、オスマンは水精霊騎士隊を囮にし、使い魔のモートソグニルを温泉へ侵入させようとしていたのだ。

やがて、温泉に続く仕切りが見え始めた。

その前には少し大きな石がある。

「ゆけぃ! モートソグニルよ! いざ行かん! 約束の地へ!!」

オスマンは無駄に気合を入れて叫び、モートソグニルがオスマンの声に応えるようにジャンプしてその石を飛び越えた。

そして、その後は無事に着地し、温泉まで一直線…………の筈であった。

「チュ!? チューーーーーッ!?」

モートソグニルが突然鳴き声を上げる。

「どうした!? 何があったのじゃモートソグニル!?」

オスマンが慌てて確認するために感覚をリンクさせる。

すると、石を飛び越えた先に何故か粘着力のあるクモの巣のような糸が張り巡らさせており、モートソグニルはその糸に、物の見事に引っかかっていた。

「な、なんじゃこれは!?」

オスマンが叫ぶと、草むらの影から緑色のイモムシ………ではなく、ワームモンが姿を現した。

「これがアイナ達が言ってた学院長の使い魔だね」

ワームモンはそう言うと、口からネバネバネットを吐き出し、モートソグニルを更にグルグル巻きにする。

哀れオスマンの策は、既に読まれていた。

その時、

「えーっと学院長さん?」

突然聞こえた声に我に返ると、窓の外にはエクスブイモンの肩に乗った信也の姿があった。

そして、エクスブイモンは手にロープを持っている。

「な、なんじゃね? シンヤくん?」

冷や汗を流しつつ後ずさりするオスマン。

「えっと………その…………覗きは犯罪ですよ?」

次の瞬間、エクスブイモンが部屋の中に飛び込み、

「ア~~~~~~~~~ッ!!!」

オスマンの声が虚しく響いた。






日が傾き始めた頃。

屋敷の前の木の枝には、

「ゆ、許してくれ~~~~」

「は、反省してま~~~~す」

「あ、頭に血が~~~~」

オスマンと水精霊騎士隊、ついでにモートソグニルが簀巻きにされて、逆さ吊りにされていた。

「ダメよ。 一晩はそのまま。 しっかりと反省なさい」

ルイズが容赦無い宣言をする。

「ミス・ヴァリエール。 老体はもう少し勞ってくれんかの?」

オスマンは性懲りもなくそういうが、

「学院長? もう一日増やして差し上げましょうか?」

ニッコリと笑ったルイズの前に、敢え無く沈黙したのだった。




因みに彼らが解放されたのは本当に翌日だったりする。





次回予告

ド・オルニエールで平和な一時を満喫する拓也達。

しかし、そこにある訪問者達が訪れる。

驚くべき訪問者達の正体とは!?

次回! ゼロの使い魔と炎の使い魔

第七十話 エルフの訪問者

今、異世界の物語が進化する。




あとがき


皆様、お久しぶり&あけましておめでとうございます。

またまた長らくお待たせしてすみません。

仕事で年末年始に連続で不良が発生してしまい、テンションダウンで書く気が全く起きませんでした。

で、待望のゼロ魔21巻が発売したことですし、何とかやる気を出して書き上げました。

さて、アニメよりも大分人が増えましたがどうだったでしょうか?

かなりの桃源郷になったと思いますが、その場は皆様の脳内放送でお楽しみください。

ギーシュ達はやはり覗き。

しかし敢え無くカイゼルグレイモン達により撃退。

ついでにオスマンも犠牲に(笑)。

さて、次はどうやってエルフにとっ捕まろう?(笑)

では、次も頑張ります。





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