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No.1027の一覧
[0] Fate / happy material[Mrサンダル](2007/02/04 07:40)
[1] Mistic leek / epilog second.[Mrサンダル](2007/02/04 07:56)
[2] 第一話 千里眼[Mrサンダル](2007/02/04 08:09)
[3] 第二話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 08:26)
[4] 第三話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 08:43)
[5] 第四話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:03)
[6] 幕間 Ocean / ochaiN.[Mrサンダル](2007/02/04 09:14)
[7] 第五話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:24)
[8] 第六話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:34)
[9] 幕間 In to the Blue[Mrサンダル](2007/02/04 09:43)
[10] 第七話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:50)
[11] 第八話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:59)
[12] 幕間 sky night bule light[Mrサンダル](2007/02/04 10:05)
[13] 第九話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 10:12)
[14] 第十話 されど信じる者として[Mrサンダル](2007/02/04 10:20)
[15] 幕間 For all beliver.[Mrサンダル](2007/02/04 10:28)
[16] 第十一話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 10:34)
[17] 第十二話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 10:45)
[18] 第十三話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 11:03)
[19] 第十四話 朱い杯[Mrサンダル](2007/02/04 11:11)
[20] 第十五話 白い二の羽[Mrサンダル](2007/02/04 11:19)
[21] 幕間 白い二の羽[Mrサンダル](2007/02/04 11:26)
[22] 第十六話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 11:36)
[23] 第十七話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 11:44)
[24] 第十八話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 11:51)
[25] 第十九話 されど信じる者として[Mrサンダル](2007/02/04 11:58)
[26] 第二十話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 21:18)
[27] 第二十一話 本の魔術師[Mrサンダル](2007/02/26 02:18)
[28] 第二十二話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 21:22)
[29] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅰ[Mrサンダル](2007/02/26 02:51)
[30] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅱ[Mrサンダル](2007/02/26 02:58)
[31] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅲ[Mrサンダル](2007/02/26 03:07)
[32] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅳ[Mrサンダル](2007/02/26 03:17)
[33] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅴ[Mrサンダル](2007/02/26 03:26)
[34] 第二十三話 伽藍の日々に幸福を 了[Mrサンダル](2007/02/26 03:37)
[35] 幕間 願いの行方 了[Mrサンダル](2007/02/26 03:43)
[36] 第二十四話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 03:53)
[37] 第二十五話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:04)
[38] 第二十六話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:14)
[39] 第二十七話 消せない罪[Mrサンダル](2007/02/26 04:21)
[40] 第二十八話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:29)
[41] 第二十九話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:38)
[42] 幕間 朱い杯[Mrサンダル](2007/02/26 04:47)
[43] 第三十話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:57)
[44] 第三十一話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 05:04)
[45] 第三十二話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 05:13)
[46] 第三十三話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 05:22)
[47] 第三十四話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 05:55)
[48] 第三十五話 黄金残照[Mrサンダル](2007/02/26 06:15)
[49] 第三十六話 黄金残照[Mrサンダル](2007/02/26 06:22)
[50] 第三十七話 黄金残照[Mrサンダル](2007/02/26 06:31)
[51] 幕間 天の階[Mrサンダル](2007/02/26 06:41)
[52] 第三十八話 されど信じるモノとして[Mrサンダル](2007/02/26 06:51)
[53] 第三十九話 白い二の羽 [Mrサンダル](2007/02/26 07:00)
[54] 第四十話 選定の剣/正義の味方[Mrサンダル](2007/02/26 07:20)
[55] 幕間 deep forest[Mrサンダル](2007/02/26 07:30)
[56] 第四十一話 ある結末 [Mrサンダル](2007/02/26 07:37)
[57] 第四十二話 ある結末 [Mrサンダル](2007/02/26 07:45)
[58] 第四十三話 されど信じる者として [Mrサンダル](2007/02/26 07:57)
[59] 第四十四話 その前夜 [Mrサンダル](2007/02/26 08:09)
[60] 最終話 happy material.[Mrサンダル](2007/02/26 08:19)
[61] Second Epilog.[Mrサンダル](2007/02/26 10:39)
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[1027] 第七話 パーフェクトブルー
Name: Mrサンダル 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/02/04 09:50
/ 18.

 幹也さんは何も言わない。
 薄く揺らいだ彼の黒髪が、左の瞳に被さる異様な傷跡を浮き彫りにしていた。
 黒縁眼鏡をすっと外した幹也さんは、端正な顔立ちを歪ませて瞳を閉じる。
 きっと、彼も“彼女”の物語を振り返っているのだ。

 俺/幹也さんが辿り着いた“彼女”の物語。

 この海で出会い、そして気付いた心の奥底に在る焦燥、その答え。

 幹也さんには、俺の様な解析能力は無い。
 俺には、幹也さんの様な探索能力は無い。

 至った道のりが異なるのなら、その出会いは異なる物だ。

 だから、俺たちが振り返るのは異なった、だけど限りなく近しい“彼女達”の物語。

 俺と幹也さん、二人が出会ったのは全く同じ報われない悲恋の追憶。

 だというのに、――――――。

「僕には、彼女を否定することなんて出来ない。士郎君、それは僕が僕である限り、その答えが変わることは無いよ」

 その答えは、求める願いはこんなにも異なってしまう。

 俺は、のどの渇きを押さえつけ幹也さんに相対する。
 二度と光を捉えることの無い彼の瞳が、俺には決して届くことの無い“優しさ”に満ちているように感じられた。

「だって、――――――」

 彼は言葉を紡ぐ。
 開くことの無い左目は、果ての無い誰かの“夢”のために。





Fate / happy material
第七話 パーフェクトブルー Ⅵ






/ 9.

 そこには、歴史と言う一つの置き土産があった。
 ほの暗い夜の世界に、孤独に置き去りにされた二階建ての洋館。シンメトリーに趣を置かれた瀟洒な造詣は、高級感を纏っているものの下品な物は何一つ無かった。
 辺りを囲うイチイの木々たちは招かれざる客人達に嫌悪感を隠そうともせず、ザワザワとその枝葉をはためかせる。
 幾分か大海原から離れたためか、それを揺らす潮風の香りが薄く引き伸ばされていた。ツンと鼻にささる、木々の薫りがそれを教えてくれる。
 巨大な格子門の向こう側、前庭を囲みながら無神経に伸びきった草木は、ここが自分達の縄張りだと主張していた。
 所々に見られる緩やかな腐敗。それはここが否応も無く廃屋であることを認めている。

 ――――――――廃墟だ、置き去りにされた廃れた墓場。

 目の前の風景。
 それが、変えようの無い“過去”、救いようの無い“事実”なのだと訴えかけている。
 軋む心は、さながら壊れたオルガン。不恰好に重低音を響かせる臓物の鼓動は、耳を塞いだところで意味は無いのだろう。

「………ここ、みたいね」

 イリヤは洋館の格子門の前で踏ん反り、奥に控えた屋敷、………いや、屋敷だったモノを流し視た。面持ちは既に魔術師のものへ、イリヤの貌が冷たく微笑む。

「―――――よっ、と。ほんじゃ行きますか?」

 だがしかし、そんなイリヤの雰囲気とは正反対に、素っ頓狂に明るい朝倉の声が響いた。イリヤに続くように朝倉は自分の身長の二倍はあろう格子門に手をかけ、重たい扉を開いた。

「ぬふふふふ、肝試し見たいでワクワクするねぇ」

 でっかい門が泣くよりも尚不気味に興味深げに、知りたがりの首突っ込みたがり、真実の奴隷が躊躇無く行進する。
 元気の良い声と共に颯爽と屋敷の前庭に朝倉は飛び込んだ。
 まあ生幽霊(さよちゃん)と一蓮托生の生活を送ってりゃ、肝試しなんか怖く無いわな。

「ちょっとカズミ、遊びじゃ無いのよ? ここからは魔術師(私たち)の仕事。とーしろは引っ込んでなさい」

 どこで覚えてきたのかイリヤには似つかわしくない言葉で、朝倉を遮った。
 先ほどまでのシリアスは遥かお星様の向こう側。朝倉は渋々納得したみたいだが、アレは絶対分かってない。面白いものを見つけたら、真っ先に飛び込む事は明白だ。

「朝倉、先生の話では危険は無いらしいけど一応用心してくれ。仮にも“神秘”を追いかけているんだ、付いて来るのは構わないけど、イリヤの指示には従った方が良い。兄としては情けないけど、“神秘”に対して一番理解が在るのはイリヤだしな」

 念の為に釘をさしてみたが効果は期待出来そうも無い。
 明後日の方向を向いて朝倉の野郎は口笛を吹いてくれやがる、ぬう、正に糠に釘。

「…………四葉、朝倉の事宜しく頼む、くれぐれも宜しく頼む」

(はい、友達の醜態をこれ以上さらす訳にはいきませんから)

 さっきとは違った意味で真剣な顔を作る俺と四葉。
 そうか、四葉も苦労したんだな。
 朝倉に負けず劣らずのスペシャルな連中に囲まれて学園生活を送ってきたのだ、その表情も頷ける。頑張ろうな、二人で。

「……………ねえ衛宮っち、そいと四葉、私の扱い酷くない? 泣いちゃうよ?」

 俺や幹也さんの扱いに比べればまだまだましさ。
 そんな思考を苦笑と共に飲み込んで俺達は廃れた前庭を横切った。




「当然、鍵がかかっているよな」

 俺達は洋館の玄関、そこに立てかけられた“立ち入り禁止”の立て札の前でにらめっこをしていた。両開きの木製扉、そのドアノブには赤土色に光るチェーンがグルグル巻きにされたうえ、南京錠で鍵をかけられている。

「壊しちゃえば良いじゃない、この位。わたし達は魔術師よ、この位楽勝なんだから」

 イリヤはきょとんと俺を一瞥すると、なにやら嘆いて手のひらに魔力を収束させる。

「おいおい、穏やかじゃないな。大丈夫、壊さなくって平気さ、俺に任せておけ」

 物騒な強攻策に走るイリヤを手で制して俺はドアの前に立つ。

 ふふふ、やっと俺にも活躍の機会がやってきた。
 俺は目の前の錠前に視線を落とし、解析を開始する。何度も視てきた構造物の“設計図”、この程度の南京錠、苦も泣く看破してみせる。

「―――――――――よし、これなら」

 錠前に魔力を流し込み、“強化”と異なる手法で南京錠に干渉する。
 なんて事は無い“鍵を差し込む”イメージを魔力と共に伝える。強化が流し込み、蓄える感触ならば、開錠の魔術は流し込み開く感触。自身の魔力を構造内部で固定し、慎重に押し上げる。
 それと同時に“カチリ”と確かな手ごたえを感じた。

「――――――――っと、どうだ。中々のモノだろう?」

 視れば、綺麗に開かれた南京錠が。

 先生曰く、開錠の魔術は魔術式や呪術式に対しても用いる事が出来るらしい、と言うか、一般的にはそれらに用いるのが普通なのだとか。
 しかし、俺の魔術特性上それら術式、呪術式に対してだと開錠の魔術を上手く使うことが出来ない。理由は単純、その構造を見抜き効果を予測したところで、その全てを理解した訳では無い。設計図を持っていたところで、それを読めなけりゃ意味はないのだ。
 先生の課題をこなして行く内に知識量や解析の練度がましてきたとは言え、まだまだ俺に“魔術式の開錠”など遥か遠くの魔術行使である。

「ねえ、お兄ちゃん」

 俺はぐるぐる巻きに去れていたチェーンを外して、古めかしい扉に手をかけた。
 扉を開く。
 途端、閉じ込められていた埃が一気に舞い上がった。

「――――――ん、何だよ。イリヤ?」

 強襲してきた塵屑たちはご丁寧に俺の口の中にも飛び込んできた、ぺぺっと吐き出しながら埃を払う。夏の暑さで肌を伝う汗は埃を吸着している。
 くそ、中々取れてはくれない。気持ち悪さに顔を歪めながら、俺はイリヤ達に振り返った。

「どうしたんだよ、朝倉も四葉も変な顔してさ?」

 何だろうあの顔?
 イリヤは呆れたようにはにかみ、朝倉は面白そうに苦笑し、四葉は困った様に微笑む。

「あのね、シロウ」

「あのさあ、衛宮っち」

(あのですね、衛宮さん)

 イリヤは声が重なったのに気がついたのかコホンと横の二人を制して一歩前に出た。

「シロウは正義の味方を目指しているのよね?」

「 ? なんでさ、藪から棒に」

 俺の素っ頓狂な声に呆れ顔のイリヤはびっと人差し指を俺に向けた。
 だが、勢い込んだのも束の間、イリヤはふっと脱力してため息。

「………いいわ、分かってないみたいだし」

 そう言って彼女はトボトボ廃墟の玄関を跨ぐ。
 「コレなら壊した方が可愛げがあったじゃない」と、イリヤはよく分からない嘆きを残して、廃墟の暗闇に消えて行った。

「 ? 」

 俺は小さく小首を掲げてイリヤに続く。苦笑を続ける朝倉と四葉は、俺の後ろに着いてきている。
 玄関を閉めれば、暗闇が辺りを満たす。
 差し込む月明かりを頼りに、俺は三人に指示を出した。

「ねえ、衛宮っち」

 イリヤと朝倉それと四葉は一階を、そして俺は二階へ。
 軋む階段に足をかければ待っていましたとばかりに朝倉が俺に毒づいてくれた。

「正義の味方から大泥棒への華麗な転職をお望みの際は、ぜひ朝倉和美をごひいき下さいな。私ってば、ふ~じこちゃ~んに憧れたんだよね」

 暗闇に溶けるように、彼女達は廃屋に消えていく。
 俺は、そこで初めてイリヤの言葉の真意を理解したのであった。…………確かに、俺の魔術特性って正義の味方っぽくないよなぁ。

「…………笑うに笑えないな」

 ギシギシと腐った階段の軋みが、俺には笑い声にしか聞こえなかった。






 階段を登りきれば、そこには差し込む月光に塞がれた高貴な雰囲気に満ちていた。
 幼い頃に訪れた、間桐の屋敷を彷彿させるその空間はここが廃屋だと言う事を忘れさせるほど綺麗にその形を保っている。
 どうやら、外観ほどこの建物は昔の物では無いのかもしれない。

 俺は下の階から響くイリヤたちの姦しい声にふっと唇を震わせ、手始めに真向かいのドアを開けた。同時に、解析の魔術を走らせるのも忘れない、俺はイリヤと違って魔力感知はあまり出来が宜しくない、“神秘”と言う異常を察知するためには“世界”そのものの違和感から感じとるしか無いのだ。

「―――――――――――何も感じない、か」

 八畳ばかり空間をざっと流し視て、俺は一人ごちた。
 欧風の室内特有の造り、建築当初から洋服ダンスやその他家具が最初から組み込まれた室内は、人間の息遣いの無いこの時でさえ、この部屋で“誰か”が大切な時間を過ごした事を伝えていた。
 ……五十年位だろうか? ここから人の臭いが消えたのは。
 漠然とした思い付きでは在るのだが、それが正しい感覚であることも同時に分かっていた。

「ここ、…………じゃない」

 不可解な感覚に囚われたままで、俺は零す。
 “■■”が呼んでいる。
 俺の焦燥の原因、そこに至るためのピースが俺を呼んでいる気がした。

 自身の根拠の無い思考の赴くままに、俺は部屋を後にする。
 再び、豪奢な廊下に身体をさらせば、夏の外気に在るはずの無い肌寒さを覚えた。

 ――――――左、……この奥か?

 閉ざされた暗闇に、窓枠を通し格子の如く差し込む遮光。
 月明かりを受けて無数に光る塵屑が、目の前の細長い回廊を幻想的に染め上げていた。

 気付けば、目の前には扉。

 きぃっ、と蝶番の鳴き声を耳にして、俺はゆっくりとその部屋の埃を巻き上げた。
 先ほどの部屋とまったく同じ間取り。
 目に付く違いは、大きく備え付けられた間戸から海を望めることだけだ。

 ――――――――――コレは?

 辺りを注意深く見回してみると、窓際の机の上に伏せられた一枚の写真が目に付いた。飾られた訳でもなく、アルバムが隣に在るわけでは無い。
 徐に取り残されたそれを手にとって見ると、そこには二人の女性が。
 一人は壮年の女性、厳粛そうな顔立ちにすっと伸びた大きい鼻は厳しい顔立ちに柔らかさを与えている。そして、その隣、――――――――。

「―――――やっと、逢えたな」

 透き通るような二つの眼と、印象的な長髪、膝元まで伸ばされた艶やかな髪は女性的な魅力に溢れていた。
 白黒写真なのが惜しい位だ、いや写真なんかじゃ彼女の美しさを映し出すのは不可能なのではないのか、そんな下らない事を考えてしまう。

 そんな思考と平行して、俺の回路がカチリと噛み合う。
 俺は、自分の思考が纏まる、……いや、回顧していくのを感じた。

 俺は何の確証もなく、その写真の中で微笑む彼女が俺の探し人だと決め付けている。
 なぜ? そんなのは決まっている、俺が視た“■■”と、この写真の彼女が同じ貌だからだ。今までの彼女の目撃証言の不整合性? そう、それこそが“■■”の能力、その特性。
 そうだ、俺は識っている。だって、俺は“■■(彼女)”を既に視ているじゃないか。

 先生の探し物、それは、――――――――――。





 -----------------ォォオオオ--------------------





 突然、俺の耳に海を裂くほどの“唸り声”が響いた。
 ああ、識っている。―――――――かつて三つの大海原でさえ、慄かせた咆哮。
 それが、大気を震わせ俺の身体を弾ませる。

「――――――――――泣いてる、どこだ!?」

 俺は嘆いた言葉をかつての彼女の部屋に残して、先ほどよりも狭く感じる回廊を走る。
 階段を飛び降りるように駆け下りたところで、俺はイリヤ達に鉢合わせた。

「シロウ、今の―――――――――――」

「俺たちの探し人の鳴き声だ、間違いない」

「―――――――声はいっ、た……い?」

 「へ?」っと、可愛らしい顔をしたイリヤをおいて、駆け込む。邪魔な扉を一気にけり倒し前庭に飛びだした。
 それと同時に、新鮮な夏の臭いが飛び込んできた。






 目の前には“彼女”。
 幻想にまで届いたかと見紛う漆黒の髪が薄く香る潮風に揺られ佇む。
 纏う雰囲気は異なる物の、俺にはその顔が“シキ”さんに重なった。






 俺は無言で、その“■■”を注視する。
 同時に脳内に入り乱れる、創造の理念、基本となる骨子、構成する材質、製作に至る技術、憑依した経験、蓄積された年月。それらが再度、俺の神経を、脳髄を、回路を蕩かす様に加速させていく。






 赤枝騎士団(レッドブランチ)の酒宴、フェミリの家。

 ドルイド僧の予言者カファ、――――――彼女の名づけ親。

「ディアドラ(災い、悲しみをもたらすもの)」

 全ての人間に呪われた彼女。
 エリン全土に災いを呼び込むと予言されたディアドラが命を与えられるはずが無い。

 ――――――――だけど、彼女は既に運命に出会っていたんだ。

 最初の歯車はコノール王、エリン最高の権力者。

「この子は災いの手の届かぬところで育てさせ、成人の暁には我の妻とする」

 ――――――――騎士達の反対も虚しく、彼女は命を与えられた。

 時は瞬く間に俺の回路を灼熱させ、霞む景色が目蓋を抉る様に焦がしていく。

 気がつけば、“絶世の美”が目の前にあった。
 ディアドラは乳母とその夫、女詩人ラバーカン以外の人間とは顔を合わせることなく育てられ、やがて国中のどんな娘もかなわぬ美貌の持ち主に成長していた。

 ――――――――そして彼女は恋をした。

 夢で出会ったコノール王配下の騎士、ウシュナの子ニーシャ。
 桃色の肌に、艶やかな黒髪を持つ彼は、当時、赤枝騎士団で最も高名な騎士、彼の弟達アンリとアーダンに並び称される勇者、正しく英雄だった。

 ――――――――彼こそが最大にして最後を飾る歯車。

 ディアドラは悲しみの海に沈む、叶わぬ恋、叶えてはならない出会い。
 “災い”、それはさながら這い寄る奈落。




 突然、割り込むように脳の裏側にノイズが走った。

「―――――――――っくう」

 宝具。
 圧倒的な幻想の塊は、俺のちっぽけな自我なんてものを簡単に引きずっていく。必要以上の経験の読み込み。それは魔術の限界、俺という限界を超えた魔術行使。

 再度目の前の“■■”を唇を噛み締め凝視する。気付かぬうちに汗を拭う。
 俺は知りたい。彼女の、ディアドラの生涯をせめて、理解したいんだ。

 意識はどこまでも深く落ち込み、現実が遠のく感覚。俺の“世界”と眼前の“■■”が“衛宮士郎”を蕩かしていく。
 曖昧に境界を失った俺の身体から、不確かな、だけどはっきりと自己を構成する二節目の“剣”を感じた。

「---―――Steel is my heart , and fire is creed」

 俺の世界を感じる言葉。衛宮士郎を象る言霊。
 衛宮士郎が“虚無(し)”に傾倒するたび、刻まれる呪。
 零れ落ちた俺の欠片。
 知るはずの無い誰かの言葉が目の前の彼女に浸透する。

 混ざり合った境界はその嘆きに象を取り戻し、俺の意識を現実へと追い返す。

 ただ、嘆く言葉に意味は無かった。―――――――だって、コレは無価値な行為だ。
 唯の暗示、衛宮士郎を奮い立たせる一欠けらの決意でしか無いのだろう。

 自己の限界を踏破しろ。
 
 流れ込む感情、押し寄せる宝具に込められた遥か太古の記憶。俺は、狂ったように憑依した経験を読み込む。

 だって、彼女の願いを知ることにはきっと、―――――きっと意味が在る筈だから。




 ディアドラはラバーカンの取り計らいでニーシャと出会った。
 そして、運命は正しく狂いだす。

 ――――――愛し合う二人、それは一つの狂気。

 王を恐れた二人は、ニーシャの弟たちとともにアルパの国(スコットランド)に逃れた。だが、それも無意味な行為だった。

 ―――――彼女の、ディアドラの唯一つの罪。

彼らはアルパ西部地方の王に仕えるが、デァドラの美貌を知った王はニーシャらを殺して彼女を妃にしようと権謀を募らせた。
 
 ―――――彼女は、美しすぎたんだ。

 彼女達は、そして安息を失った。

 ウシュナの子らの労苦を知ったウラーの貴族たちは、コノール王に彼らを許し、連れ戻すことを切に願い出た。
 そして王はこれに同意する。

 ――――――そう、ニーシャの子らを殺害するために。

 ニーシャの子らの無二の親友、ファーガスは喜んで彼らの元へ行く。そして、ディアドラ達はウラーの首都エメンへと帰還した。
 しかし、彼女を守るはずのファーガスは王の企みによってウシュナの子らのもとを離れなければならなくなった。

 ―――――さあ、サイは投げられた。運命は破局の目を刻む。

 ファーガスは自分の息子、金髪のイランと赤毛のブイニを彼らの守りにつけた。赤枝騎士団の兵舎に入ったウシュナの子らはそこで一時の安息を手に入れる。

 そしてそこで、ディアドラは王の勅命を受けたラバーカンと再開する。ラバーカンは彼女の美貌が以前のままか確かめるために、王に使わされたのだ。
 ディアドラはラバーカンとの再会を喜びあい、ラバーカンはコノール王の本心を明かして注意を促した。
 そして、王の下へと帰還したラバーカンはデァドラの美貌について、今は面影もないと嘘をついた。

 ―――――――そして、悲劇は始まった。

 王はラバーカンの虚偽を見抜いた、だけど別に驚くことじゃない。彼女の、ディアドラの美しさが衰えることなど、誰にも想像出来ないのだから。

 王はウシュナの子らに恨みを持つトレンドーンという男を遣わした。
 彼がデァドラの変わらぬ美しさを王に伝えると、王は嫉妬に燃え、すぐさま傭兵達をウシュナの子らのいる兵舎に差し向ける。

 最初に立ち上がったのは赤毛のブイニ。
 彼は勇猛果敢にコノール王の軍勢と刃を交えた。しかし、王が密使を送って領地や地位を与えることを約束するとブイニはディアドラを見捨ててしまう。
 それを知った金髪のイランは、兄の裏切りを嘆き、最後の砦となるべく旗を掲げた。

 ―――――――――そして、戦いは破滅へ向かう。

 金髪のイラン、そしてコノール王の息子フィアクラは互いの雌雄を決するべく、剣を交えていた。

 同じ暁に命を受けた二人の戦いは静謐にして熾烈、苛烈にして絢爛。

 風にすら追いつかんと、名槍“貫き走る急進の槍(ダート)”は血潮を撒き散らし。
 千の兵すら穿ち焦がさんと、魔槍“屠る殺陣(スラウター)”は炎を巻き上げ。
 鎧を裂かんと魔剣“翡翠蒼玉(ブルーグリーン)”は視界を青い雷光で染める。

 互いの誇りを掲げ、刃を取る二人の騎士。
 一人は自身の守るべき約束の為に、一人は貫くべき父王の威厳の為に。

 互いに交わる火花は、永く続くことは無かった。
 どちらが倒れても、結末は変らない。だって既に悲劇は起こってしまったのだから。
 エリン全土を包む争いの火種、誰が悪いわけでは無い。
 ただ、それが決まっていたことなんだ。

 そして、来るべくして訪れた災厄は一つの宝具によって幕を引かれた。
 “災い”に巻き込まれ息絶える二人の騎士。

 ――――――――――そう、幕引きたる悲劇の幻想、それが。






「そうか、お前、後悔してたのか?」

 悲鳴を上げた回路の音と共に、深く落ち込んだ意識を引き戻すと目の前には悲しげに笑う“彼女”がいた。
 じっとりと浮かんだ汗を拭えば、身体の力一気に抜けた。どうやら、無理をしすぎたみたいだ。

「ちょっと、衛宮っち。大丈夫かい?」

 倒れこむ俺の身体を後ろから朝倉が支えてくれた。
 だが、朝倉の瞳は俺に向けられてはいない。目の前の“彼女”、朝倉には一体“誰”が見えているのだろうか。

「――――――ああ、問題ない。それよりも」

 風が心地よく肌を濡らす。流され揺れ動く木々の木漏れ日は、不思議な事に感じられなかった。辺りにあるのは静寂と息を呑むイリヤたちの息遣い。
 俺は、シッカリと大地を踏みしめて柔らかく“彼女”近づいた。
 薄く、綺麗過ぎる笑みを浮かべた彼女は半壊した石碑の前から動きはしない。

「ちょっとシロウ。無用心に近づいちゃ、―――」

 慌てた様子で俺に近づくイリヤを手で制した。
 大丈夫、ここには何も無い。俺が近づくと彼女は暗闇に沈みこむ様に消えていった。
 同時に流れ込んできた映像、俺はそれを噛み締め、無言で屋敷の出入り門へとつま先を向けた。
 荒廃した前庭を、早足で抜けていく。

「どうしたのよシロウ。一体どこ行くの?」

「決まってるだろ? 先生の探し物、見つけたんだ」

 俺は背中についてくるイリヤたちの息遣いを受け止めて、振り返らずに告げた。

「見つけたって……、さっきの幽霊はその探し物の所為なのかい?」

「まあ、多分そうだ」

「なによそれ、煮え切らないわね。シロウ、ちゃんと説明しなさいよ」

 俺は呼吸を落ち着かせ、考えを纏めた。
 さて、何から話すべきなのか?

「そうだな、それじゃあ、―――――――」

 俺が口を開くと、薄い潮風が柔らかく木々を揺らし始めた。

「“大海(オーシャン)”幕引きを担った悲劇の幻想。その記憶を少しばかり話そうか?」


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