<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

TYPE-MOONSS投稿掲示板


[広告]


No.1027の一覧
[0] Fate / happy material[Mrサンダル](2007/02/04 07:40)
[1] Mistic leek / epilog second.[Mrサンダル](2007/02/04 07:56)
[2] 第一話 千里眼[Mrサンダル](2007/02/04 08:09)
[3] 第二話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 08:26)
[4] 第三話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 08:43)
[5] 第四話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:03)
[6] 幕間 Ocean / ochaiN.[Mrサンダル](2007/02/04 09:14)
[7] 第五話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:24)
[8] 第六話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:34)
[9] 幕間 In to the Blue[Mrサンダル](2007/02/04 09:43)
[10] 第七話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:50)
[11] 第八話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:59)
[12] 幕間 sky night bule light[Mrサンダル](2007/02/04 10:05)
[13] 第九話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 10:12)
[14] 第十話 されど信じる者として[Mrサンダル](2007/02/04 10:20)
[15] 幕間 For all beliver.[Mrサンダル](2007/02/04 10:28)
[16] 第十一話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 10:34)
[17] 第十二話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 10:45)
[18] 第十三話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 11:03)
[19] 第十四話 朱い杯[Mrサンダル](2007/02/04 11:11)
[20] 第十五話 白い二の羽[Mrサンダル](2007/02/04 11:19)
[21] 幕間 白い二の羽[Mrサンダル](2007/02/04 11:26)
[22] 第十六話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 11:36)
[23] 第十七話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 11:44)
[24] 第十八話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 11:51)
[25] 第十九話 されど信じる者として[Mrサンダル](2007/02/04 11:58)
[26] 第二十話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 21:18)
[27] 第二十一話 本の魔術師[Mrサンダル](2007/02/26 02:18)
[28] 第二十二話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 21:22)
[29] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅰ[Mrサンダル](2007/02/26 02:51)
[30] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅱ[Mrサンダル](2007/02/26 02:58)
[31] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅲ[Mrサンダル](2007/02/26 03:07)
[32] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅳ[Mrサンダル](2007/02/26 03:17)
[33] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅴ[Mrサンダル](2007/02/26 03:26)
[34] 第二十三話 伽藍の日々に幸福を 了[Mrサンダル](2007/02/26 03:37)
[35] 幕間 願いの行方 了[Mrサンダル](2007/02/26 03:43)
[36] 第二十四話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 03:53)
[37] 第二十五話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:04)
[38] 第二十六話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:14)
[39] 第二十七話 消せない罪[Mrサンダル](2007/02/26 04:21)
[40] 第二十八話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:29)
[41] 第二十九話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:38)
[42] 幕間 朱い杯[Mrサンダル](2007/02/26 04:47)
[43] 第三十話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:57)
[44] 第三十一話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 05:04)
[45] 第三十二話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 05:13)
[46] 第三十三話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 05:22)
[47] 第三十四話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 05:55)
[48] 第三十五話 黄金残照[Mrサンダル](2007/02/26 06:15)
[49] 第三十六話 黄金残照[Mrサンダル](2007/02/26 06:22)
[50] 第三十七話 黄金残照[Mrサンダル](2007/02/26 06:31)
[51] 幕間 天の階[Mrサンダル](2007/02/26 06:41)
[52] 第三十八話 されど信じるモノとして[Mrサンダル](2007/02/26 06:51)
[53] 第三十九話 白い二の羽 [Mrサンダル](2007/02/26 07:00)
[54] 第四十話 選定の剣/正義の味方[Mrサンダル](2007/02/26 07:20)
[55] 幕間 deep forest[Mrサンダル](2007/02/26 07:30)
[56] 第四十一話 ある結末 [Mrサンダル](2007/02/26 07:37)
[57] 第四十二話 ある結末 [Mrサンダル](2007/02/26 07:45)
[58] 第四十三話 されど信じる者として [Mrサンダル](2007/02/26 07:57)
[59] 第四十四話 その前夜 [Mrサンダル](2007/02/26 08:09)
[60] 最終話 happy material.[Mrサンダル](2007/02/26 08:19)
[61] Second Epilog.[Mrサンダル](2007/02/26 10:39)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[1027] 第十四話 朱い杯
Name: Mrサンダル 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/02/04 11:11
/ 4.

 光陰矢のごとし、とは良く言ったものだ。過ぎていく時間の早さを、適確に捉えたいい言葉だと思う。
 俺が生きてきた道のりの中で、この一年ほど、過去る時の速さを恨めしく思ったことは無い。
 だが、当たり前の時間を矢に喩えるとしたら、楽しすぎる時間は一体どの様に喩える事が出来るのか。俺には言葉が思いつかないが、出来れば光速を遥かに追い越して、時間逆行のレベルまで加速してくれるとありがたい。楽しい一時は、きっと何度繰り返しても楽しいままだろうから。

「麻帆良学園は、ここから結構かかるのかい?」

「いえ、それほどでは。車なら直ぐですよ。幹也さん」

 鈴虫たちの秋を彩る喧しさは、バタンと閉ざされ響く、車の音に遮られた。
 クーペの内より見えるログハウスの灯り、夜半の秋風は想いの外肌に残るのか、全ての窓が閉ざされている。
 いや、訂正。恐らく台所であろう向かいの窓から、白い水蒸気の靄が見える

「どうやら式と木乃香ちゃんも料理を作り始めたみたいだね。七時前には帰ってこよう」

「そうですね。所長の荷物を長さんに届けるだけですし。あいつらを待たせるのは気が引ける」

 俺の返答にゆっくり頷いた幹也さんはキーを回す。同時に助手席を通じて俺の体が縦に揺すられた。
 先生の車はサスペンションが甘いのか、余り快適とは言えないが男二人ならば今朝、そして昼間よりもよほどましだ。定員四名のこの車の中に、よくもまあ六人も納まった物だ。物理法則を完全に無視していたとしか思えん。
 幹也さんも同じ事を考えたのか、苦笑を隠してその話題をスルー。

「昼間はアレだけ食べたのに、もうお腹がなっているよ。晩御飯が楽しみだ」

 幹也さんの言葉どおり、四葉の作った美味過ぎる点心は既に腹の中には残っていなかった。
 近衛と桜咲に連れられて、日が落ちるまで麻帆良の町を練り歩いたものな。
 車を使って移動をしたとはいえ、近衛が薦める観光スポットを全て制覇したのだ、流石に疲れた。以前彼女らとデートした町並みは、所詮麻帆良の一部でしかないのだと思い知らされたのも、新しい発見だ。

「竜宮神社だっけ? あそこを隅々まで歩き回った所為かな、ここまでお腹が言うことを聞かないのは」

「ああ、数年前に時代錯誤な武道大会があったところですよね? 意外でしたよ案外普通なんですもん。当時は突き抜けた特殊効果を使って話題を呼んだ場所だけに、もっと派手な所だと思ってた」

 普通と言っても、スケールは段違いだ。
 竜宮神社の楼門、アレは見事だ。碧瑠璃と朱色の大門は実に壮観だった。やはり俺は、麻帆良に香る地中海の匂いもよりも、日本の情緒に趣を置く人種のようだと再認識。

「そうだねえ。でもあれ、実はヤラセじゃなくて本当にドンパチやっていたんだろ? 刹那ちゃんが話してくれたけど、士郎君や式が使う超能力を使ってさ」

「らしいですね。まあアレだけあからさまに魔術だ何だと大安売りされたら、逆にもみ消すのは簡単そうですけど」

 事実、桜咲や近衛、当事者たちから話を聞くまで俺たち魔術師だってヤラセだと思っていたんだ。一般人なら尚更だと思う。
 まあ何にしても、神秘の存在が公にならず、当時の時計塔のお偉方は胸を撫で下ろしたことだろう。広く知られた神秘は力を失う、故に隠匿すべき神秘。その大原則を無視した“魔術合戦”のメディアでの放映は、麻帆良と時計塔の関係を悪化させた一要素らしい。
 桜咲が割りと熱心にそこら辺の組織同士の軋轢について語ってくれたが、俺以外は全く聞いていなかった。ドンマイ、桜咲。俺は楽しめたから気を落とすな。

「何にしてもさ、所長からの荷物届けてこよう。ご飯はソレまでお預けみたいだしね」
 
 俺たちの泊まるログハウスは既にはるか後方、森林の静けさと深い闇色も手伝って、すでにバックミラーには映っていなかった。
 舗装された車道に乗り出すとガタンと一度だけ体が揺すられ、幹也さんはコルベを加速。
 この分なら、麻帆良学園まで十分とかからないだろう。

「式さんと近衛の合作、楽しみです」

「二人とも腕にかなりの覚えがあるみたいだし、嬉しい限りだよ」

 退屈を紛らわす会話の中で、俺は先生より預かった魔術書を手に取った。
 古めかしい民衆本。Historia von D.Johann Faustenとタイトルがあるが、一体何なんだこれ? ページを繰ってみても、俺には内容が分からない。先生のところで英語以外の言語も教えて貰った方が良さそうだ。

 変化の呪は未だ使えず、魔術書すらまともに読めない。自身の不肖さに嫌気が指し、頬杖をついて夏よりも高く感じる秋の夜空を見上げた。

 視界の端に残る、麻帆良学園中央に位置する大木。
 既に車は麻帆良学園に入ったようだ。プラハを連想させる、先ほどまでとはまた異なった雰囲気に幹也さんは感歎の声を漏らす。

「へえ、ここも凄いな。イタリアから一瞬でチェコに着ちゃったよ」

 辿り着いた学園都市最奥、女子部。
 この時間なら学生も殆ど帰宅していた様だ。ほっと胸をなでおろし、幹也さんと俺は日本魔術協会長がいるであろう、学園長室への道行きを探した。





Fate / happy material
第十四話 朱い杯 Ⅰ





「品物の郵送ご苦労じゃったの。何、つまらぬ所だが茶くらいは出るぞ。暫く待て」

 幹也さんが目を丸くして日本魔術協会長の額を注視している。
 俗におでこと称される眉毛と髪の生え際。長さんの場合はどこからが額でどこからが頭なのか判断しかねる、が、そんな事は瑣末な問題だ。頭だろうが額だろうが奇妙であることには変わりない。

(凄いよ士郎君! 本当に魔法使いや仙人みたいだ)

 乾いた苦笑で頬を掻いた俺は、どんな言葉を幹也さんにかけてあげるべきか、真剣に考察。思わず見上げた天井は沁み一つ無い、今夜も学園長室には明るすぎる人工灯が光を放っていた。

「悪いね大したお持て成しも出来なくて。こんな時間だろ? 美人の秘書さん達も帰宅済みなんだ。今はオジサンの煎れる粗茶で我慢してくれよ」

「いえ、そんな。こちらこそすみません、荷物を届けに来ただけなんで、気を使わないで下さい。タカミチさん」

 タカミチさんはお茶を入れ終わると長さんの横に控える。
 学園長室に備え付けられた来賓様の机とソファー、そこに俺と幹也さんは腰を据えていた。

 俺たちと学園長たちの境界を区切るように佇む赤い薔薇。机の中央に鎮座したそれは、初めてこの部屋に訪れたときには無かった筈だ。
 学園長室。豪華とは言えないが、荘厳な雰囲気の似合うこの部屋の中では艶やかなまでに朱い血の色は不釣合いだ。

「ふぉふぉふぉ、しかし衛宮君が蒼崎の弟子だとは知らんかったぞい。しかし納得じゃよ、こいつを注文した時のあ奴の返答。“弟子が世話になった”ってのお、そう言う意味だったか。通りでワシの注文に快諾した筈だ」

 薔薇の生けられた花瓶越しに、俺は長さんに居直る。
 彼はお茶菓子を俺に薦めながら高らかに笑い声を上げた。久々に会った孫みたいに接してもらえるのは、喜ぶべきなのだろうか?
 妙に心をざわつかせた朱色を視界から追い出して、俺はお茶菓子に手を伸ばす。

「ソレはそうと、注文した本は一体何なんです? 先生のところに連絡を入れたって事は、通常のルートじゃ手に入らないものなんですよね、やばい物なんですか?」

 気の抜けた返事の後。砂糖菓子に楊枝をいれ、一口サイズに切り分け口に入れた。
 正直、かなり美味い。
 魔術関係の話をしているとは思えないほど、和やかな空気の中で、俺は先ほど車の中で思い起こした疑問を口にした。

「いや、そんな事はないぞ。魔術的な価値は皆無じゃ、神秘なんて一欠けらも含んどりゃせん。どちらかといえば、神秘性より希少価値の方が秀でた魔術書じゃよ」

 お茶を一口含んだ長さんは、先ほど渡した本を机の机の上に置く。

「題名は実伝ファウスト博士。こいつはの、ゲーテの戯曲“ファウスト”のモデルとなった話じゃよ。作者はヨーハン・シュピース、ゲーテは優れた魔術師だったそうだが、ヨーハンは唯の人間じゃ。そんな奴が書き上げた本に神秘が宿るはずあるまい。だからの、こちら側の業者は普通の本であるが故に取り扱っておらぬし、通常の業者では希少価値がありすぎて手に入らん」

「………なるほど。それで所長に連絡を。伽藍の堂(あそこ)は某猫型ロボットのポケット以上に、摩訶不思議が溢れていますからね」

「ほほ、面白いことを言うのお坊主。その通りじゃよ。蒼崎の役に立たない魔具、道具の偏愛振りは有名での、もしかしたらと思ったら、案の定じゃわい」

「は、ははは、はは、…はあ………“役に立たない”ですか。耳以上に懐が痛いですよ」

 幹也さんは歪な微笑で首をもたげ、長さんの言葉を受け取った。
 珍しいだけで役に立たない品々の為に、俺たちの日々の労働力が注ぎ込まれているかと思うと、……あれ? 可笑しいな、このお茶、しょっぱいぞ。

「まあそんなわけで、このたびは蒼崎にこの本を譲って貰う事になったのじゃよ。木乃香に探してくれるよう頼まれての、友達の誕生日にプレゼントするのだとか」

 俺と幹也さんが二人で傷口を舐めあっていると、長さんはそんな事を軽口に零した。

「近衛の友達……へのプレゼントですか? だったら近衛に直接手渡した方が良かったですかね?」

「いや、よいよい。じじいの手から直接孫に渡したい。この歳になっても、見栄は張らんとな。孫にはいいカッコをしたいものじゃよ。衛宮君」

 嬉しそうに顔を綻ばす、年齢相応のご隠居さま。
 近衛も、いい爺さんを持っているよ。俺は零した笑みを隠そうと、うつむき加減に頷いた。

「そうですね。ソレが良い。余計な気遣いでした」

 俺の返答に、隠れて見えなかった長さんの思慮深い瞳が除かせる。
 それを気にせず、俺は長さんの笑顔をうらやましく思いながら、お茶請けを空にした。幹也さんも丁度良いタイミングでお茶を飲み干したようだし、そろそろ御暇しますか。

「それでは、今後共、蒼崎の伽藍の堂をご贔屓に。今夜はコレで失礼しますよ日本魔術協会長」

 俺は幹也さんと共に一礼して、ジャンパーに袖を通す。幹也さんも同じく、黒色の温かそうな外套を羽織った。

「おお、―――――そうじゃ。衛宮、しばし待て。質問がある」

「―――――――はい、何です?」

 俺は、衛宮のイントネーションにひっかるものを感じ、反転。俺のジャンパーのベルトがカチャリと割合大きな音を奏でた。

「この前と雰囲気が違うが、何か良いことがあったのかな?」

 協会長の言葉は妙に軽い、いつか俺に向けられた視線は、たがう事無く今度は衛宮士郎に向けられていた。真剣なのに表情は柔らかい、器用な人だと感心して、俺は問い掛けの意味も分からぬままに口を割る。

「雰囲気、ですか? コレといって変わった風には感じないんですけど?」

 俺の言葉に、長さんは幹也さんに向き直りじっと彼を見つめた。
 それに答える幹也さんの微笑。
 薄く開いたドアから、緑色の絨毯を掠めるように心地よい冷気が差し込む。巻き上がった埃は、俺の鼻をむず痒くくすぐった。

「らしいです。本人がそう言うのだから、そうだと思いますよ」

「みたいじゃの。まあ、お前さんみたいな人間が衛宮の傍にいるのなら、納得じゃよ。蒼崎もよい人間を集めたもんじゃ。そう思うじゃろ、君も」

 幹也さんと長さんは、二人だけで会話を進める。
 また俺は置いてけぼりかよ、最近多いな。
 不満を口にするのもなんなので、俺はだんまりを決めこむ。我ながら、俺は子供だ。

「まさか。僕たちは別に、―――――ね、士郎君」

「え、――――あ、はい、そうですね?」

 急に振られても、困るんですが幹也さん。
 俺はリアクションの仕方が分からないので、仕方なく頭をかくだけだ。

「ほほほほ、この度の正義の味方は頼りないからの、面白い人間がよう集まるわい。結構なことじゃて。励めよ衛宮、君は切嗣の様に強くは無い、故に得られるものがあるのだと誇るがいい」

「はあ。努力してみます」

 何とも気の抜けた返答だ。なのに、どうして幹也さんも長さんも満足そうに笑っているのだろう?

「本当に面白い奴じゃよ。目指す地平は変わらぬというのに、こうまで辿る道が違うとはの、長く生きてみるもんじゃ」

「まだまだ、ご壮健ですからね。きっとこれからも楽しい発見がありますよ」

 幹也さんはドアを開く、吹き抜ける秋色の霜風は何故か温かい。
 長はふっと幹也さんの言葉に相槌をうち、彼の背中を見送っていた。

「君にも会えた事だしの。全く、蒼崎が羨ましい、ぜひに人材発掘のコツを窺いたいの」

「それには賛同しかねます。ああみえて苦労人ですからね。所長の“命”一個分が、今僕たちが揃って退屈を満喫できる代価なんですよ? とてもじゃないけど、僕は払えません」

 幹也さんは、俺を置いて茶色のドアをくぐる。

「だって、―――――――凄く痛そうじゃないですか?」

 長さんの乾いた笑いが耳に届く前に、俺は幹也さんの背中を追った。

 だが、気の所為だろうか? 

 あの薔薇から感じた艶やかな血の匂い。
 それはまるで、俺が彷徨った地獄の釜のそれ。

 聖杯。
 あふれ出した願いの渦は、未だ、朱色の世界で息づいている様に感じられた。







Interval / 14-1






「学園長。例の件、衛宮君には?」

「いや、伝えないでも良かろう」

 人寂しさの残る教室の窓辺。二人の魔術師は神妙な空気に息を潜めたまま、声を零した。
 老魔術師の背後では、草臥れた背広の男がうやむやな感情を押し殺し、放たれた言葉を飲み込む。故に、辺りを包む空気は先ほどよりも重かった。

「不満か?」
 
 老人の問いに押し黙る男。
 最も、彼のそんな生真面目な態度を老魔術師は賞賛すべき美点なのだと知っていた。
 薄くゆがめた唇もそのまま、ガラス窓をとおして麻帆良の夜景を望む老人は言う。

「蒼崎には話を通す。奴らの狙いは宝具の回収などではないのだからな」

 老人は視線を夜景よりずらし、室内の中央、毒々しいまでの紅色、薔薇の華を眺めた。
 花瓶に刺されたそれは、朽ちることの無い美しさを纏うようでいて、どこか危うい雅さを放っていた。

「衛宮には言えんよ、いずれ知ることになろうとも、今は知らなくても良い」

「学園長。衛宮君に肩入れする貴方の気持ちも汲んでいる心算です、ですが今回の件は見過ごすわけにはいかない。夏の吸血鬼事件から既に二ヶ月、一刀大怒の消息は未だ掴めていないのですよ!?」

 タカミチの怒声に今度は老魔術師が押し黙る。
 衛宮士郎が討伐した吸血鬼。死徒二十七祖十七位の眷属であった彼は自身の獲物“一刀大怒”を用いて、ここ麻帆良の街で非道を尽くした。

 全てが日常に帰依するはずの結末は、しかし、終わってはいなかった。
 死徒の消滅で訪れたはずのピリオドは、姿すら見せぬ何者かによって妨げられたのだ。

 死徒の殲滅後、時計塔に郵送された一刀大怒は航海の途中に強奪、いや奪還された。
 守備についた魔術師は全滅、残されたのは鮮血に染め上げられた哀れな船舶。そして、その紅よりなお朱い一つの薔薇だけだった。

「言うたじゃろ? 詮索など元から意味は無い、恐らくアレは既に持ち主の蔵の中。今更、探したところで見つかるわけは無い」

 その言葉に、今度こそタカミチは押し黙った。
 やれれやれと肩を擡げた老人は疲れた友人の様な気安さでタカミチに言葉をかける。

「それに回収した犯人は十中八九トラフィムの手先じゃろ。それも、相当の手練」

「やはり、学園長は現場に残された赤い薔薇が、――――――」

 タカミチは言い切ることもせず、老魔術師と同じ様に視線を薔薇の中央で絡める。

「先ず間違いなく奴等じゃろう、そう考えれば、なぜあの吸血鬼がこの地にやってきたのかも簡単に説明が出来る。はじめから可笑しいとおもっとったんじゃ、なぜロンドンから逃亡した吸血鬼が極東の地における魔術師の拠点なんぞにのこのこやってくるか?」

 何でもないように毒づいた彼は平静を装いきれていなかった。
 内にある感情は怒り、もしくは苛立ちか。どちらにしろ、老魔術師はその感情に気付いてはいない。熟練の魔術師である彼にとって、そんな感情はとうに切り捨てられたものでなくてはなら無いからだ。

「恐らく吸血鬼の狙いは願望機、麻帆良の神木にあったのだろう。トラフィムは聖杯を求めている。即物的な願いを叶えられないとは言え、世界樹は聖杯と言うくくりで数えられなくは無いからな。奴の成り立ち、最古から存在する祖の一角、彼の真名を顧みれば、それも当然か」

 零した彼の本心。
 死徒の王トラフィム。
 果たしてこの世界に、彼の真名を知りえる魔術師がどれほど存在しているのか。

「では、冬木の聖杯が………?」

「分からぬ。だが、日本にある聖杯は麻帆良の神木、そして冬木のそれだけじゃ」

 ようやく紅色から視線を外した老人は、デスクに深く腰掛け告げる。
 
「どちらにしても、トラフィム一派の狙いは聖杯唯一つ、そしてその先にある…………。奴等は何千の時をそのために費やした。今は彼奴らの狙いが聖杯にあることしか分からんのじゃし、衛宮に教えてでもしてみろ、混乱するだけでなんら意味は無い。しばらくは沈黙じゃよ。奴等が動かぬことには、ワシらとて働きようがないしの」

 老人の言葉に腰を折る、逞しい背広の男。
 タカミチはもはや語る術を持たぬのか、無貌の笑顔、変わらぬ微笑を作り、その場を後にした。

「聖杯。彼奴は、―――――――一体何を望むのかの」

 神木を通し、麻帆良のネオンを望む魔術師は一人ごちる。
 分かりきった答え、その返答は魔術師ならば、そして彼の王の腹心であるならば望むべくは一つだけだ。

 ―――――――――。

 神秘をくべるもの唯一つの願い、無限に望まれ続ける最果て。
 故に、望むべくは聖杯、その至るべききざはし。

 聖杯、故に望まれる究極が一。
 
 言葉を飲み込む魔術師は、ただ、朱色の薔薇に背を向け、夜の世界を俯瞰し続けた。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.059185981750488