/ others.
穴が穿たれている。
薄紫色の朝霜の中に、黒々とした穴が開いている。
星がその生涯を閉じた時に生ずる穴、高密度の重力が崩壊し大気を食らうように、黒い渦巻状の大穴が物質を、光を、概念すら飲み込み、吐き出している。それはさながら巨大な蛇口のよう。
ここは祭壇にして伽藍。一人の女が、祈りを捧げる。
流れ出る圧倒的なマナ。噴出する乱気流の如く、視覚化されたマナは京都の街に垂れ流されていた。
遠上都はその憧憬に恍惚とし、腕を抱いた。
願いは叶う、この夜が明ければこの街はきっと地獄に変るのだろう。自らが苦渋したあの地獄を、再現することが出来るのだろう。
その確信に、一抹の不安も無い。
混血の女は蔑むような瞳で、崖の間際、丁度口を開けた黒点の真下、虚空に吊るされた近衛木乃香を見遣る。
「どう? そこからの眺めは。京都の街が、貴方の故郷がこれから狂癲に堕ちていく様を見せ付けられるのは」
勝ち誇ったような女の讒言。
「ふう、だんまり? 残念。それじゃあ、このよき日に、赤い京都を眺望するのは、私だけか……」
繰り返された戯言に、木乃香は何もいわない。いや、語るべきを見出せない。
断っておくが、近衛木乃香、彼女の意識は孔を維持する加給機の役割を担っている今でさえ、はっきりと保たれている。
沈黙は、紛れも無い彼女の意思だった。いずれ現れる翼ある剣士を、彼女はただ待っている。信ずるべき最愛の友を、ただ待ち望んでいる。それはさながら、はるか天上にはためく一枚羽根に手を差し伸べるよう。儚くも、何かを掴み取ろうとする、確固たる意志力。
だが、唐突に。近衛木乃香の強い力を宿した無貌、それが、その気丈な相貌が次の瞬間歪んだ。
「ま、いいか。それより、ほら。御覧なさい、―――――――繋がった」
遠上都の言葉を皮切りに、巨大な黒点から溢れ出す魔力の色が激変した。
圧倒的な魔力のみを吐き出し続けていたその穴から、魔力の変質に促された様に、何か、得体の知れないグロテスクな何かが貌を除かせた。
「――――――――――――――っつ!?」
息を呑み、顔面を蒼白させた木乃香を誰が責められよう。
それほどまでに忌むべき何かが彼女の頭上、獣が死産児を分娩するように零れ落ちた……いや、垂れ流されたと云うべきか。
ドロリ、と赤黒い獣が沸いて出る。石油みたいな皮質と、発せられる汚泥の様な生臭い匂い、定まらないその輪郭。波打つ火炎のような獣、それは融けた狗に見えなくも無い。
ふらふらと、生まれたばかりで四肢も覚束ない様子だったソレ等は、数刻もしないうちに足取りを確かにし、京都の街に繰り出していく。その数は、数えることすら馬鹿らしい。木乃香にはそれを計測すべき手段が無かった。
ヒトに数え切れぬ無数、それは無限と呼ぶに相応しいのだろう。在りし古、京の街に跋扈した怪異が、津波のように野に下る。
「あははははははははは、始まったっ! 始まったよ! 止まらない、止まらない、こんなに清々しい気分は、初めてだ!!!! あは、あははははは」
赤い眼を胡乱に座らせ、紅い髪を振り乱して、朱い女は高らかに嗤う。
声を上げて、崖下を見下ろす。憎しみを込めた、凱歌を歌う様に。わたしは帰ってきたのだと、赤黒い怪異に侵食され始めた京都を俯瞰し、ただ哂い続けていた。
京都が陽炎に揺らいでいく。赤黒い獣の行進は、まるで街を侵す劫火の様相を呈していた。
「――――――――――」
その驚喜を目前にして、木乃香は一縷の恐怖も不安も表情には出さなかった。自身の絶望的な状況を冷静に観察できる今でさえ、後に訪れる救済に、なんら懐疑を抱いていなかった。
その顔は、むしろ悲壮。哀れな赤い女に対する残念が、ただ押し寄せていた。
だって、そうだろう。
彼女は敗れるのだ。近衛木乃香に奉ずる、一振りの白い刃によって。翼の刃金によって。
それ故に悲壮。彼女の、朱い女に与えられたその悲壮な宿命に。ただ、ごめんなさい、と。哀愁の音色をココロの中で響かせる。
「醜い嘲笑だな。貴女が、――――――――哀れでならない」
近衛木乃香の深層を、慇懃無礼に代弁したのは、最早語る必要があるのだろうか?
深く、淡い闇色の中から浮き上がるように、桜咲刹那はそこにいた。
「それは、復讐のために漏らした笑みか? いや、違うだろう。それは自嘲か、遠上都」
顫動する竹林の影。白い翼を顕現させた剣士が不釣合いな程に長大な日本刀を抜く。闇に映える刃銀の、なんと美しいことか。
刹那の言葉に、遠上都は笑みを奪われる。彼女は振り返る、自分と同じ、けれど、自分とは違う、温もりを、たおやかな幸福を与えられた卑しい混血に振り返る。
白い翼を睨み付けた都、そして答えた声は彼女ではない。
「せっちゃん――――――――」
安堵したような、嬉々としたような、木乃香は動かない体を身じろぎさせる。腕一本の自由を手に入れ、必死に手を伸ばす。
「お迎えに上がりました、お嬢様」
痛む体を黙らせて、刹那は穏やかな笑みで丁寧に答えた。
近衛木乃香はそこで、頬を膨らせる。「また、お嬢様っていった」言及しようかしまいか逡巡して、結局口には出さなかった。この事件が片付いたら、お説教してやろう。だってせっちゃんが、失言してしまった、と申し訳無さそうに再度微笑みをくれたから。
代わりに、木乃香はわざとらしいイジワル面で、刹那にいった。
「助けに来るの、遅いやん。待ちくたびれたよ」
刹那は、少しだけはにかんだ。困ったような、だけど嬉しそうに。その様子に、木乃香は胸を張る。涙を瞳一杯に貯めて貌を綻ばす。
せっちゃんだ、せっちゃんが、やっぱり迎えに来てくれたのだと。どれほど気丈であろうとも、やはり彼女は一介の少女、目蓋の奥にある熱い何かを塞き止めるのに、今は精一杯だ。
「来たんだ、貴方」
二人の邂逅を遮る、冷酷で無慈悲な声。刹那は精神をやおらに引き締める。静かな殺気を立ち込めて、彼女は木乃香から視線を逸らし、彼女と同じ、されど、彼女とは違う卑しい混血に向顔する。
「当然だ。借りは返す、このちゃんも、返してもらう」
強く、鋭い眼光。潰えたはずの瞳が色を取り戻し、弘毅として赤い混血の前に立ちふさがる。遠上都は、強い力で奥歯を噛み締めた。
「近衛木乃香。返すと、思っているの? 君」
「ええ、貴女には、過ぎた女性ですから」
「勿体ないって、そう言いたいんだ?」
「如何様にも捉えて下さって結構。身の程は、知れ。―――――と言ったところですか?」
あれ程の重症を負わせて、その心だって情け容赦なく砕いたはずなのに何なのだ、この苛立つほどに真直ぐな瞳の色は。どうしてだ、コレほどまでに澄んだ色を瞳に宿せるのは。
遠上都は、歯軋りの音で我に帰る。
落ち着け、関係ない。今は現状だけを冷静に分析すればいい。敵は一人だ、それも、現れたのは手負いの混血一人だけ。完璧とは言えずとも、カガミは役割をこなしている。
何てことはないのだ、コイツを■しちゃえばいいだけ。それで、私の復讐は、惨劇はまだ続く。
「一端に口をきくのね。立っているのがやっとの癖に………身の程を知らないのは、どっちなのかしら? それを、教えてあげるわ」
憎悪に身をやつし、女の眼光は鋭くなる。しかし、女は知らない、灯した瞳の色は、妬み。ただの嫉妬だと言うことに。自分と同じ身の上でありながら、陽だまりで生きるこの少女に対しての。
「せっちゃん……」
一触即発の空気の中。殺し合いの前触れ、凍えるほどの緊張と静寂の中で、木乃香は知らず嘆いていた。
その息つくような震える声に、遠上都は、一つ………いや、二つか。大切なことを聞き忘れていたことを思い出す。だけど、それはなんて些細な気がかり。彼女にしてみればソレは、ほんの小さな気の迷いだったのかもしれない。
「そう言えば、名前、聞いてなかったね」
少女のような儚さで、遠上都は桜咲刹那に、もしかしたら、彼に問いかけていた。
「桜咲……刹那」
遠上都の溢した弱々しい言葉に僅かの戸惑いを含ませながら、律儀に刹那は答えた。
鞘を投げ捨て、下段に刃を取る。縁起が悪い、と少女は思わなかった。一度敗れた身の上だ、構わない。それに、敗北も悪くない。
だって、泥にまみれるその姿が、無様に這い蹲るその姿が、だけど、それでも前を向き、必死に生き足掻くそんな自分が、何故だろう、少しだけ好きになれた気がするから。
「神鳴流皆伝。桜咲、刹那」
はっきりと、刹那は再度、自らの真名を口ずさむ。無言で、刹那は瞳を閉じ、また開く。
負けない強さ、―――――それもいいさ。
だけどそれ以上に。敗れ、それでも這い上がる強さもまた尊いのではないか。そんな強さを、ほんのちょっぴり誇りたい。そんな想いを、幸福を望む混血は、あの少年から学んだのだから。
「推して、参る―――――――――――――」
垂らした黒髪が疾走し、揺れる刃金が火花を咲かせ地を擦り奔る。そして、混血の喰らい愛い、戦いの火蓋は切って落とされた。
Fate / happy material
第三十九話 白い二の羽 了
/ feathers.
「推して、参る」
疾駆する。私は羽のような軽さと、鉛の様に重い痛みを味わいながら、目前の脅威、その懐に駆け込むべく大地を蹴る。
「せいっ!」
距離は一間。しかし、届く。
私の長大な獲物を遠上都の顎に向かって振り上げる。だが、捲れあがる土石を巻き込んで、閃いた私の夕凪を事も無げに右手で鷲掴んだ遠上都は、刃を引き寄せ、残る左手を大きく振りかぶり私の眉間を狙い穿つ。放たれた拳は、女性のモノでありながら凄惨なまでの凶器と化していた。
「―――――っち」
間髪。翻る遠上都の黒い外套。
私は舌打ちを漏らしながら、遠上都のハンマーじみた拳が眼前に迫るのに息を呑む。
首を逸らして躱す。私の頬を冷たい風が撫でていく。
間合いは無いに等しいまま、互いの初手が不発に終わった。が依然、私の刃は奴に握られたままだ。
どうする? と思案する間も無く繰り出されたのは膝蹴りだった。格闘技の経験などないであろう無茶苦茶な動きで、それでいて出鱈目な威力と、適確な反射神経で放たれたソレは、私の熱く脈打つ鳩尾に向かってくる。
決断は一瞬だった。
瞳孔が狭まる、集中力は極点を指す。私は夕凪の柄を優しく、壊れ物でも扱うように握ったまま、高い高いバクテンで鋭い膝蹴りを躱し、そして―――――――。
「!?」
神鳴流、浮雲、旋風一閃。
そのまま、遠上都を投げ飛ばす。かつて明日菜さんに大人気なくも放った必殺の回転投げ。遠上都が硬く握り締めた夕凪を円心に、腕を、足を絡めて、私は奴を投げ捨てる。
そも、神鳴流とは剣術にあらず。魔を敷き邪なるを討つ退魔術。神秘を成す心、剣術を成す技、そして柔術を成す体。三位一体の魔を絶つ意思。
「――――っっ舐めないで」
三回転。ニュートン力学に真っ向から喧嘩を売る重力の無視っぷりで、中空に投げ出された遠上都は反射的に夕凪を手放し、地面への激突を免れた。その反射神経は、感嘆に値する。
不発のまま、再び開く間合い。互いに、無傷。だが、――――――。
「焼けろ」
受身の代わりに獣のような四つん這いで着地した遠上都。彼女は髪を振り乱し、殺意と共に私を視殺する。
一瞬だ。判断の遅れは命取りだ。奴が言葉を発するよりも速く、その瞳に神秘を灯すのよりも尚速く、私の直感が、危機を告げる。
奴の超抜能力は一度この身が味わっている。その全てを理解しておらずとも、対策は幾らでも講じられるのだ。初見における有利は、今の貴様には無いぞ、遠上都。手札が同じならば、そうそう引けを取る私ではない。
「――――――――オン」
言霊の発現と共に、張られたのは対魔力に優れた盾。護符を介在させて、一時だけ顕現する堅牢な“気”の壁だ。
遠上都は超能力者ではない。如何に超常的な現象を行使しようとも、混血の自然干渉能力であるが故に、その神秘は必ず世界の摂理に従っている。
一見してシングルアクションの燃焼能力、だが、初戦で味わった私の感覚に間違いがなければ、その工程はニ工程以上四工程以下の手順を必要としているはず。
ただ見るだけ、一工程で発火を成すファイアースターター(超能力者)とは違い、視界に敵影を捕らえてから発火の力を行使するまでに何らかのプロセスを必ず踏んでいる。そしてその手順を周到しているからこそのタイムラグ、時間差なのである。
ならば、そこに付け入る隙があると言うものだ。僅かな勝機を見出すために、その矮小にして些細な隙を見逃してよいはずが無い。
「―――――――なっ!? 防いだ!?」
目を見張る、遠上都。私の障壁が爆炎と共に砕けたその隙間から、唖然とした奴の表情を臨むことが出来た。
不敵に微笑みたいところだが、やはり楽はさせてはもらえない様だ。
胎が熱い。バラバラの肋骨が、肉に食い込む。喉元をせり上がって来る吐瀉物の予期せぬ方向からの反撃に、思わず膝を折る。
忘れてはいない、一瞬の遅れが命取りだ。蹲る私を、好機到来といった表情に貌を歪め、再度呪い染みた視線が降る。
「―――――――――――――っくう」
真横に、転がりながら飛びひく。出来れば距離を詰めたい所だが、頭の片隅にもそんな悠長な思考は存在していなかった。ただ本能の赴くまま忠実に、回避行動のみを実行する。寸秒前に私がいた地面が爆散して、土砂が焦げ付く饐えた匂いが鼻腔を擽った。
初戦を振り返る。今の彼女は、全快ではない。肩の傷もそうだが、長との戦闘により、疲労の色が強いらしい。それでこの威力、空恐ろしいものである。今は、その呪われた血の濃さに驚嘆の念さえ抱いてしまう。
「っぐ、まだ、これからだっ!」
自らに言い聞かせるように、負け惜しみとも取れる苦言を吐きながら、思考する。全快では無い、それを裏付ける様に、遠上都は能力の連射は出来ないらしい。
ならば、その隙を突き、近接戦、零距離の肉弾戦に持ち込むべきだ。奴の能力は強力ゆえに近距離では使用できない、自らも巻き込まれる恐れがあるからだ。
だが、致命的な問題がある。奴に、遠上都に接近するのは簡単な話しではないのだ。彼女が全快ではないように、私、桜咲刹那もまた全快ではない。
満足に動かない体では、果たしてどれほど奴との殴り合いに勝機を見出せるのか?
「近づくなっ!! 焼けろ!!」
だが、それ依然に、肉薄することさえ侭ならない。発火の二射目が終えたのと同時に駆け出したのだが、結果は無残なモノだ。夕凪が届く距離には程遠い、私は護符による防御式を発動させ、撤退を余儀なくされた。
剣間は七。急勾配でガタガタした地面、荒廃した大地がこの上なく私の神経を苛立たせる。疲労と裂傷、火傷に震える膝が、今にも蹴躓いてしまいそう。
しかし、悪態をついている暇は無い。遠距離での撃ち合いを余儀なくされる私は、体勢を整えながら腰を据える。
遠上都の視線が殺意に狭まる。間合いが開き一呼吸、恐らく、再度奴の発火能力が顕現する……ならば、私はっ。
「―――――――――骨も、残さない」
「―――――――――神鳴流、斬空閃」
軋む骨身を呻らせて、私の剣が翻り、形を持たされた殺気が斬撃となって虚空を飛来する。
両手持ちで真横一文字に振り切った衝撃波と、遠上都の火炎が溶け合い天象する。
銃声の様な破砕音が鼓膜を震わせた、次の瞬間。
「―――――――せっちゃん!!」
何処からか、お嬢様の悲鳴が上がった。
私の身体が手鞠の様に軽やかに弾けとんだ浮遊感。壊れかけの胎に、重く響く熱波と肌を焦がす火炎が奔る。思考するまでも無かった、遠上都の超抜能力が、私の秘剣に勝ったのだ。
世界のルールが、コレほどまでに憎かったことは無い。退魔の技では、混血の業に打ち勝つことは出来ないのだ。
それを理解しながら、納得できない自らが腹立たしい。現実の胎の痛みと相まって、苛立ちは止むことが無い。
「―――――はは、あっけない」
展開させた翼をはためかせ、地面に叩きつけられるのは阻止できた。無様に横たえるのはもう沢山だ。
喘ぐ身体に活をいれて、それでも気丈に刃を構える。
「ぐ、あ」
それでも、だめだ。思わず刃を取り落としそうになる。小刻みに痙攣する身体と、覚束ない足取り。暗澹とした瞳が、足元をぼんやりと眺めている。
気付けば赤い何かが水溜りを作っていた。それが自分の吐瀉物であると理解するのに数秒を要する。……いけない、頭が馬鹿になってきた。
「あは、あはははは。言ったじゃない。身の程を弁えないから、そうなるの」
引きつった笑顔と細切れの哄笑、それが、酷く憂鬱だった。
痛みのためか、それとも、―――――――――。私は血涙を流す眼で、おぼろげに彼女の貌を見る。
初めて遠上都と対峙したときに感じられた理知的な貌は剥ぎ取られ、今の貌は、まるで。
「――――――――――泣きじゃくる、子供のようです」
沈黙に限りなく近い独白。彼女には聞こえていないだろう。喘息のように息苦しく吐き出したその言葉は、口に出したためか、身体に浸透していくのが分かる。
復讐の完遂を前に、剥ぎ取られた人間性。現れたのは、化け物でもなんでもない、ただの少女の泣き顔だ。
まったく、どうかしている。
だけど。
ああそうだ、分かる、分かってしまう。その貌を、その想いを、その涙を、私は、桜咲刹那は知っている。誰よりも、それが辛いと、苦しいと、痛いのだと、知っているのだ。
「もう、止めにしましょう」
遠上都に向けたものではない。私は、自らに嘆いた。
体を灼熱する痛みが、今は澄み渡るほど冷え切っていた。脳に酸素が送り込まれ、曇りが晴れる視界。まるで、鏡を視ているよう。
あの貌は、過去の私のモノだ。誰も彼もが煩わしくて、誰も彼もが恐ろしくて、ただ憎むことしか知らなくて。助けて欲しいくせに、幸せに成りたいくせに、憎む事しか出来なくて。その実、憎悪に焦がれていると信じたその貌は、ただ涙を流しているだけなのに。
手を伸ばすことを恐れる、傷つくのを怖がる、私の顔だ。
「――――――――――っぐ」
黙然と、血塊に錆付いていた身体を甦らせる。衛宮の様な魔術師とは違う、魔術回路とは異なる神秘を身体に奔らせ、感覚を取り戻す。
遠のいていた痛みが、灼熱と共に帰ってきた。
白んだ視界が色を取り戻し、眼に力が漲っていく。最初に飛び込んできたのは、このちゃんの心配そうな顔だった。まったく、なんて信用の無い。なのに、どうしてだ? 情けないはずなのに、それが、妙に心地よい。
「まだ動ける?――――――――――ええ、そうね、もう終わりにしましょう。悲劇の京都は、貴女には見る資格が無い」
少女は、嘆いた。まるで、遠上都を蔑むように。
「ええ、終わりにします。こんな喜劇は、見るに堪えない」
私は、答えた。まるで、桜咲刹那を誇るように。
「――――――――――――――――」
それは、刃散らす様な冷たい沈黙。
宿命が、かくも皮肉なものなのだと、私は知っていた筈なのに。清算しなくては。今、この場所で、桜咲刹那は、過去を断つ。
遠く開いた距離が、僅かに緩む。互いに必殺は背反している。奴は遠距離、私は近距離。勝負は、一瞬――――――――――――――その時だった。
「―――――――――――なんやん? 眩しいわあ」
長閑なお嬢様の声が、ただただ不相応だった。
発光、いや、それは極光と喩えるべきか。私と遠上都の視殺戦の最中、眩い天昇が瞬いた。
ココからは階の極点を捉えることは出来ない。ただ、遥か崖下から、一条の光りが灰色の群雲を穿ち、紫苑の空を切り裂いた。
同時に、荒れ狂う猛々しい倶風。翠玉色の薫り高い風が、澱んでいたマナを揮発させ、浄化する。
「――――――――――――きれい」
紫色の雲海に迸る黄金と、吹き荒ぶ翡翠を、お嬢様はそう評した。
そうだ、ただ、この剣は美しい。何が起きたのか、さっぱりだ。なのに、この光りが、この風が、“剣”だと言うことは、理解できた。そして、嫌でももう一つ。
「全く。手助けなど、余計なお世話と言うものです」
そう、そして。この剣が、衛宮によって創られたということだけは。
ほくそ笑む。少しだけ、自嘲混じりに。口ではなんと言おうが、励まされた。まったく、絶妙のタイミングで。貴方ほど、カッコの突かない二枚目も珍しい。
「――――――――――なん、だったのよ。あれ」
閃光が拡散し、糸尻を引いて、空は色を取戻す。光りの余韻に向かい、遠上都が慄きにも似た疑問を吐露する。
さあ、負けてはいられない。
「ただの強がり、でしょうね。衛宮は、意地っ張りで、無茶苦茶ですから。何にしても、見事な魔術です」
本当に、無茶をする人だ。先ほどの神秘の顕現、幾ら私が西洋の神秘に疎いとは言え、どれだけ出鱈目な物か位、想像に難くない。
弱いくせに、情けないくせに、どうして貴方は、そんなにも、――――――――。
「―――――――まあ、いいか。遠上都、始めよう、水が刺さった」
らしくも無い。私は、ねんごろに微笑んで、正眼に刃金をかざす。
「っち、調子に乗らないで。死に体が」
赤い長髪をたなびかせ、彼女は苛立ちをぶつける様に瞳を見開く。私は親しげな微笑みを崩して、鷹の如き眸で睨み返す。
遠慮は、無い。そんなモノ、くれてやる道理も無い。私は双肩の翼をはためかせ、空へと飛翔する。
瞬間、抉られた大地、発火の余波、爆風に乗り、天高く翼を広げる。
突然の縦への運動に、遠上都の瞳孔がクルリと酔う。危なげに空を彷徨う瞳に、私はいない。
「疾っ―――――――――――――」
上空、遠上都の真上から急転直下の滑空。大地が向かってくる錯覚。身体の軋み声は雄叫びに取って代わり、それが痛みなのか滾る血潮なのか、見当もつかない。
そんな有耶無耶を振り切るように、疾風怒涛の勢いで叩き落した大上段。気の迸りを刀身に乗せて、紫電の如く発揮する夕凪が弧を描く。
その刹那、私の動きに反応した遠上都は、目を見開き、破壊的な火力で持って私の刃と拮抗する。
零距離。自身の破滅も厭わぬ狂騒。雄叫びと共に、私と彼女、肉と肉の間で、炎が爆散した。
「―――――――――――っく。なんて、無謀な」
中空に拡散した噴煙から、翼をはためかせ脱出する。尾を引くように身体に纏わりつく粉塵を払いのけながら、遠上都を探す。
――――――――いた。煙幕の向こう、このちゃんの隣で、鬼のような形相が此方を睨み付けている。
焼け爛れた肌、千切れた外套、そして私の返り血に染まった顔が、ぶるり、と戦慄した。
第二射が、来る。脊髄が竦み上がる程の殺気が奴の赤い瞳に集中した瞬間、焔が、圧倒的な熱量が、私の肌を焦がす距離で酸素を喰らい燃え上がった。直感の侭に、回避、この距離ならば、発火のまでのタイムラグを最大利用し躱せる。だが、その慢心がいけなかった。
「うっとおしい、いい加減、―――――――――――――――焼け堕ちろ」
連射。限界を、ここに来て無視するか!?
不味い。空中では体勢を整えきれない。焦燥がうなじを伝う。第三射は、無常にも放たれる。遠上都は限界を無視し、力の限り能力を行使する。
ニ射目を躱したことで、致命的な油断があったために反応が遅れる。
護符をかざし、障壁を展開させたものの、その圧倒的な火力と衝撃に、私の盾は粉砕される。骨髄反射を最大駆動させ、身体を逸らしたのが功を奏したのか、直撃を免れたものの、私の左翼が粉砕された。翼を奪われたイカロスもかくや、止まらぬ体が地面に引き寄せられる。
「―――――――――――――っっつ、が」
翼から血流を撒き散らしながらの墜落、そして大地への激突。砂利石と私の体が小さく飛び跳ね、粉塵が舞った。
肩口から背骨を伝う墜落の衝撃が、内臓を押し上げ、肋骨を震わせる。せりあがる血反吐を、止めるすべを私は持たなかった。
終に地べたに横たえた。だが、追撃が来ないのは僥倖だ。
私一人分をすっぽり覆ってしまうほどの巨石がバリケードとなって、私を遠上都の視界から乖離させてくれていたからだろう。
その岩石に背中を預け、喘ぎ声を漏らしながら足だけで器用に立ち上がる。墜落時に受身を取った代償に左手がイカレタ様だ、ピクリとも動かない。残る右手で夕凪を握り締め、呼吸を整え、身体の状況を顧みる。
思考はハッキリしていた。身体、特に内臓を含む体腔器官が殆ど掻き回されている状態で、これは大したものだと自分を褒めてやりたい。
骨格、肋骨に関しては考慮するだけ無駄なので思考から除外する。問題は、先ほどの墜落のショックで背骨、そして左腕の痛覚及び感覚が無いこと。反応速度に若干の遅れが出ると視て良さそうだ。
翼はこの戦闘中に再生は不可能、飛行は断念。足は未だ死んではいないが、果たして何処まで無理が利くモノやら、甚だ信用なら無い。体中の火傷については、最早考えることさえ億劫だ。
「手詰まり、か」
全力で放てる剣閃は二発が限度、それ以上は。
「考えたくないですね」
俯き、垂れる前髪がザラ、と揺れる。
身体を休めること幾ばく、痺れを切らした遠上都が声高に罵声を吐いた。
「出てきなさいっ、勝負は決したも同然じゃない。痛みも無く焼いてあげる、さあ! さあっ! さあっ!!」
挑発に乗ってやる必要は無い。今の状況を打破する一手は必ず在るはずだ。だからそのためにも、今は少しでも体を休めなくては。逆転の機会を創るためにも、一分一秒、力の限り体力の回復に努めるべきだ。
それに、よしんば遠上都が近づいてくれば、この地の利を隠れ蓑として、奇襲も望める。今は堪えろ、そして待て、桜咲刹那。
だが、それはなんて短絡的で穴だらけの現実逃避。なんて、愚かしく恥ずべき楽観。この結果は、予測して然るべきだったのに。
「っちい。―――――――――――大常際が、悪いのよ」
「きゃあ」
お嬢様の小さな悲鳴。思考が空白に埋もれる。眼前がホワイトアウト。桜咲刹那、お前は白痴か?
「出てきなさい。殺しはしない、けど、ソレだけよ? 頭の良い君だもの、この意味、分かるでしょう?」
失ったはずの脊髄の感覚が、この一瞬だけ甦る。背筋に凍えるような電撃が奔った。
不味い、不味い、不味い、不味い、お嬢様を餌に、盾にされた。
巨石越しにも想像に容易い、羽交い絞めにされたお嬢様、突きつけられた混血の毒牙。あの鋭い爪にかかっては、お嬢様の肌など、簡単に、―――――――――――――。脳髄が、思考を拒否する、例えソレが白昼の夢だとしても、私はそんな事、想像したくない。
「ゆっくりと、貴方にこの子の絶叫を聞かせてあげる。ふふ、どんな声で、彼女は鳴くのかしらね? 悠長に構えている時間は無いわよ? さあ、出てくるの………」
どうする? どうするっ、桜咲刹那?
飛び出し、奴を切り伏せるか? ……間合いは五間、十メートルに近い、その距離を奴の能力発動より速く駆け抜ける? 無理だ、よしんばソレが可能だったとしても、お嬢様を盾に取られた以上、全力で剣を振るうことは出来ない。重なった二人、遠上都のみを切り捨てるなど、不可能だ。
「最後通告よ、さあ、出ていらっしゃい」
奴の殺気が、巨石越しに私を射抜く。
悲愴とした面持ちを何とか誤魔化し、気丈を繕った顔で、最後にお嬢様のお顔を盗み見る。
詰んだ。私に、この状況を打破する至妙の一手は、――――――――――。
「―――――――ある」
深く、眠りに落ちそうな程沈んだ思考の深淵に、光りが差し、顔を上げる。
――――――――ある。あるではないか。この逆境を好機に転ずる秘策が。この状況を覆しうる、最奥の一手が。
「だが………」
出来ない。私には、出来ない。桜咲刹那は、唯の一度も、彼の秘儀を体現したことが無い。
自身の不甲斐無さに怨嗟を投げかけながら、瞳に映ったこのちゃんの強い眼差し。
黒い真珠みたいに深い瞳と、私の黒々とした眼が重なる。彼女のその顔の、なんて高貴な事か。それを直視した私は、卑しい賤民が遥か高みを望む様。
「負けんな。せっちゃんの望むように、やればええ」
心の中に、声が響いた。それは、幻聴でもなんでも無い、はっきりと、親愛なる我が姫君の、私に対する寵愛が一心に込められた励声。
「ウチはせっちゃんを信じるよ、きっと、出来る。だって、せっちゃんはウチを守ってくれるんやろ?」
―――――――――何を、している。
守ると、決めただろう。その信仰にも似た尊い呪いを、貫くのだと、決めただろう。
お前は、敗れるのか。このちゃんい救われた桜咲刹那は、そんな醜悪な化け物(私)に敗れてしまうモノなのか。その無様を、お前は、赦す事が出来るのか。
断ち切れ、完膚なきまでに。
絶ち切れ、塵も残らぬほどに。
その切っ先が届かぬならば。
「まったく、お転婆な姫君に、誓いを立ててしまったものです」
一つの翼で飛べぬのならば。
「お言葉通り、遠慮は無しです。覚悟してください、それと……」
二つ。比翼の翼で、―――――――――空へ、飛ぼう。
「手助け、よろしくな。このちゃん」
岩に背中を預けたまま、私は微笑みと共に囁いていた。このちゃんにだけ聞こえる様に、そう、文字通り、“近衛木乃香。我が主にだけ、聞こえるように”。
「遠上、都。此方も、最後に告げておく」
息を深く。
もう一度、壁に背を凭れ。右腕に、最後の渾身と結了の意を込める。
「いいわよ。辞世の句なら、喜んで受け取ってあげる」
焼け付くほど冷たい朝靄(ちょうあい)に肌を焦がしながら、吸い込んだ息吹を大気に帰す。
朝日影が差し込み始めた雲海は、紫苑の色をより白磁に、艶やかに染めていく。
空を仰いで、瞳を閉じた。竹林の蠕動、風に鳴く木々の音と、区切られた荒漠の大地。それを痛んだ体で無心に感じ、精神を安らかに、それでいて高ぶらせる。
「次の一刀、容赦は出来ない」
一人ごつ。さあ、このちゃんを迎えに行こう。
「手加減は、苦手でな」
振り向きざま、一閃。
全力で刃を放てるのは、残り一度きり。背水の陣、そして放たれたのは斬岩剣だ。
私を匿ってくれたその巨石を真横から両断する。
「このちゃん。今です!」
僅かに浮遊する巨石、遠上都に捉えられているであろうお嬢様に、怒声とも取れる叱咤を飛ばす。
「契約執行、三秒間。木乃香の従者、桜咲刹那!!」
咆哮する魔力の猛り、“気”による身体能力の補佐を放棄し、新たに流れ込んでくるお嬢様の魔力に体を喚起させる。余分な“気”の精製は出来ない、気と魔力が反発する、というのも理由の一つだが、それ以上に、残る僅かの生命エネルギー全てを、刀身に注ぎこまなくては、私の必殺は成しえないからだ。
それゆえに、先ほどの会話。魔術使いとその従者に与えられる魔術“念話(テレパス)”。
それを使用し、お嬢様と段取りつけたのだ。
すなわち、お嬢様の魔力による、私の身体能力強化。自らの気で補佐する以上に、お嬢様による身体強化は私の能力を飛躍的に向上させる。と、いうのも、それがお嬢様の圧倒的な魔力故の賜物だ。だが、お嬢様の治癒以外ではとんと拙い技量だ、その効果は数秒が限度。加えて今は件の“穴”に接続され、加給機役割までこなしている始末である。
無理に無理を重ねての魔術行使、この恩義に報いずして、なんぞ武士(もののふ)と名乗れよう。
「―――――――――――――――っつあああああ」
渾身を込めた回し蹴りで、巨石を蹴りつける。矛先は無論、遠上都。
「なっ!? 岩を、盾にして!?」
すぐさま、駆け込む。動かぬ左腕を垂らしたまま、巨石を挟み、遠上都へ疾走する。
彼女に回避は不能。不意を討たれた奇襲だ、彼女にある選択肢は、このまま岩石の下敷きにされるか、それとも。
「―――――――――――――っちい、猪口才!!」
その巨岩を、破壊するかだ。
熱波が弾ける。予想通り、私を庇って即席の盾は粉砕された。
粉々になるだけでは飽き足りず、赤熱した細かい飛礫が弾丸の様に私を撃ち、身体にいくつもの焼け付く弾痕を残していく。
だが、怯まない。
溶岩雨が晴れ、遠上都の眼前に曝け出された、私の壊れかけの体。
ニ射目が繰り出されるまで、後、零秒。視えない、だが、直感が警鐘を鳴らしている。
互いに限界を無視、混血と言う規格外の上限さえ破壊し、理性を粉砕した血生臭い本能が駆動する。
満身創痍の体を引き摺り、肉薄する私に、連続で放たれた殺意。赤熱の権化が飛来する。
剣間は未だ、三。如何に夕凪の超射程とは言え、届かない。
「―――――――――――――――あああああああっ」
残る右翼を展開。目の前が白々と発光すると同時に、愚鈍な衝撃に翼の骨が悲鳴を上げる。
二枚目の防御。だが、薄弱な翼でも、捨て身を持ってすれば堅牢な勝利への礎となるのだ。
一瞬にして翼は千切れ飛び炎上。白い羽は焔を纏って空に舞い上がり、赤色の緞帳を私と遠上都の眼前に広げる。
これで、防御における手札は出し切った。
「これで、終わり」
刹那が凍えたこの瞬間、火炎が二人の視界を略奪したその逡巡、遠上都の、そんな嘆きを聞いた気がする。
目前には炎の壁。
剣間は一。だが、刃は振るえない。
お嬢様を遠上都の手の内に捉えられている以上、全力で刃を振るえない。相打ちすら、叶わない。終わりだ。この焔が晴れた後、視界に捉えられた私は、きっと炎上する。
――――――――――――そうきっと、遠上都はそう考えている。
「神鳴流」
この炎幕が晴れた後、勝負は決する。例え私がお嬢様を顧みず刃を滑らせたとしても、……いや、そんな事は私に出来ない、故に、私が剣を振るうのより尚速く、遠上都は私を殺す。
そう、もしも。
炎幕の上がるその刹那が、貴方に訪れるのだとしたら。
「斬魔剣」
その幕は上がらない、これで、閉幕だ。右腕を引きちぎるほど苛烈に、右腕が軋むほど静謐に。
構えなど取れよう筈も無く、ただ身体の回転でもって下段から夕凪を振り上げる。両断する。隔たる大気ごと、私を覆う焔ごと、そして。
「――――――――――――――――弐ノ太刀」
捉えられた、このちゃんごと。
凍えた刹那が雪解ける。晴れる炎幕、舞い散る鮮血。
最早私には、一人で立つ気力も残っていない。膝を汚し、その場にひざまずく私、それを見下ろす、二つの影。
「な、んで」
耳が痛くなるほどの静寂は、あっけなく解けた。搾り出したような遠上都の疑問を、カラン、と夕凪が私の手から滑り落ちた音色が答える。
「分からないか?」
私の横、朱い鮮血を咲かせながら崩れ落ちた女に、告げる。
「手を、伸ばした。ただ、ソレだけだよ。きっと貴方と、私の境界(ちがい)は」
そう、それだけだ。
過去と現在の境界は、それを隔てる境界は。
「せっちゃん―――――――――――――」
私を呼び続けるこの声に、ただ、それだけ。大切な君へ、ただ手を伸ばしただけだと思うから。
差し伸べられた、彼女の暖かな手を握り返す。
一人では、立つことさえ危ぶまれる。一人では、桜咲刹那は重すぎる。
そう、鳥は。
一つでは、一つの翼では、飛び立つことは、羽ばたくことは出来ないのだから。