<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

TYPE-MOONSS投稿掲示板


[広告]


No.1027の一覧
[0] Fate / happy material[Mrサンダル](2007/02/04 07:40)
[1] Mistic leek / epilog second.[Mrサンダル](2007/02/04 07:56)
[2] 第一話 千里眼[Mrサンダル](2007/02/04 08:09)
[3] 第二話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 08:26)
[4] 第三話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 08:43)
[5] 第四話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:03)
[6] 幕間 Ocean / ochaiN.[Mrサンダル](2007/02/04 09:14)
[7] 第五話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:24)
[8] 第六話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:34)
[9] 幕間 In to the Blue[Mrサンダル](2007/02/04 09:43)
[10] 第七話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:50)
[11] 第八話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 09:59)
[12] 幕間 sky night bule light[Mrサンダル](2007/02/04 10:05)
[13] 第九話 パーフェクトブルー[Mrサンダル](2007/02/04 10:12)
[14] 第十話 されど信じる者として[Mrサンダル](2007/02/04 10:20)
[15] 幕間 For all beliver.[Mrサンダル](2007/02/04 10:28)
[16] 第十一話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 10:34)
[17] 第十二話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 10:45)
[18] 第十三話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 11:03)
[19] 第十四話 朱い杯[Mrサンダル](2007/02/04 11:11)
[20] 第十五話 白い二の羽[Mrサンダル](2007/02/04 11:19)
[21] 幕間 白い二の羽[Mrサンダル](2007/02/04 11:26)
[22] 第十六話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 11:36)
[23] 第十七話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 11:44)
[24] 第十八話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 11:51)
[25] 第十九話 されど信じる者として[Mrサンダル](2007/02/04 11:58)
[26] 第二十話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 21:18)
[27] 第二十一話 本の魔術師[Mrサンダル](2007/02/26 02:18)
[28] 第二十二話 スパイラル[Mrサンダル](2007/02/04 21:22)
[29] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅰ[Mrサンダル](2007/02/26 02:51)
[30] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅱ[Mrサンダル](2007/02/26 02:58)
[31] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅲ[Mrサンダル](2007/02/26 03:07)
[32] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅳ[Mrサンダル](2007/02/26 03:17)
[33] 幕間 伽藍の日々に幸福を Ⅴ[Mrサンダル](2007/02/26 03:26)
[34] 第二十三話 伽藍の日々に幸福を 了[Mrサンダル](2007/02/26 03:37)
[35] 幕間 願いの行方 了[Mrサンダル](2007/02/26 03:43)
[36] 第二十四話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 03:53)
[37] 第二十五話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:04)
[38] 第二十六話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:14)
[39] 第二十七話 消せない罪[Mrサンダル](2007/02/26 04:21)
[40] 第二十八話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:29)
[41] 第二十九話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:38)
[42] 幕間 朱い杯[Mrサンダル](2007/02/26 04:47)
[43] 第三十話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 04:57)
[44] 第三十一話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 05:04)
[45] 第三十二話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 05:13)
[46] 第三十三話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 05:22)
[47] 第三十四話 願いの行方[Mrサンダル](2007/02/26 05:55)
[48] 第三十五話 黄金残照[Mrサンダル](2007/02/26 06:15)
[49] 第三十六話 黄金残照[Mrサンダル](2007/02/26 06:22)
[50] 第三十七話 黄金残照[Mrサンダル](2007/02/26 06:31)
[51] 幕間 天の階[Mrサンダル](2007/02/26 06:41)
[52] 第三十八話 されど信じるモノとして[Mrサンダル](2007/02/26 06:51)
[53] 第三十九話 白い二の羽 [Mrサンダル](2007/02/26 07:00)
[54] 第四十話 選定の剣/正義の味方[Mrサンダル](2007/02/26 07:20)
[55] 幕間 deep forest[Mrサンダル](2007/02/26 07:30)
[56] 第四十一話 ある結末 [Mrサンダル](2007/02/26 07:37)
[57] 第四十二話 ある結末 [Mrサンダル](2007/02/26 07:45)
[58] 第四十三話 されど信じる者として [Mrサンダル](2007/02/26 07:57)
[59] 第四十四話 その前夜 [Mrサンダル](2007/02/26 08:09)
[60] 最終話 happy material.[Mrサンダル](2007/02/26 08:19)
[61] Second Epilog.[Mrサンダル](2007/02/26 10:39)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[1027] 最終話 happy material.
Name: Mrサンダル 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/02/26 08:19
Fate / outer the stay.

「それじゃ、おやすみなさい。シロウ」

 時計の短針は頂点を目前に凍っている。聖夜が溶け出すその間際、イリヤは俺の隣で深い眠りに落ちた。
 差し込む隙間風に身体を震わせて、居間から窓越しに見渡せる一面の雪景色に心を奪われる。滾々と、深々と、舞い落ちる冬の結晶が世界を白く染めていく。
 眠れない。
 何もかもが死んだ世界の中で、俺だけが取り残されたような錯覚に陥る。十二月に降る雪は、終焉と言う名の氷結。凍える雪は、時間を凍らすほどに冷たかった。
 特に目的があったわけじゃない。
 イリヤの眠りを妨げないように布団を抜け出し、今日貰ったばかりの赤い外套を羽織った。黒いアンダーウェアとトラウザー、そして赤い外套。示し合わせた訳でも無いけど、偶然と言うのは恐ろしい。
 深夜零時。銀幕の世界に取り残された街路灯の電光が、極光のヴェールみたいに揺らいでいる。
 些か薄着だったか、後悔しつつ汚れを知らない雪を踏みしめた。夜闇の下、白く染まった街で、俺は散歩をすることにした。
 特に予感があったわけじゃない。特に約束があったわけじゃない。
 そもそも、アレが夢だったのか現の出来事だったのか、それすら定かでは無いのだ。
 傘も差さず、体温を雪に奪われながら、淡々と歩を進める。きっと、帰り道は覚えていない。きっと、もう一度は辿り着けない。朧げな歩調で、迷子の様な足取りで、無色の世界を広げていく。

 果たして、彼女はそこに立っていた。
 
 いつかの夜と同じ、しかし真逆の季節に、彼女は夜に佇んでいた。あの日から、ずっとその場所に立ち尽くしていたかのようにそこにある。白い夜の中で。時間が凍えた世界の中に、彼女はあの日と同じように佇んでいた。
 桜色の唇、深い瞳、白すぎる肌、着物姿の女は、舞い散る桜を眺める様に、白い欠片に瞳を奪われている。
 よう、と気軽に声を掛けた。まるで、それが十年来の怨敵であるように。
 女は俺に振り向いて、怖気を催す微笑でいった。

「―――――――――――――――また会ったね、エミヤ」

 俺がよく知る女は、そんな見知らぬ言葉で、俺を迎えたのだ。





Fate / happy material
最終話 happy material.





「久しぶりね、エミヤ」

 俺の知っている誰かでは無く、オレが知っている誰かの様に、誰でも無い女は、俺/オレに微笑んだ。ああつまり、アイツはそういう、位置にいる。オレと同じ、もしかしたらそれ以上の一にいる。

「ああ、今しがた、さよならを交わしたばかりだけどな。久しぶり」

 街灯の淡いヴェールに身体を晒しながら、どちらとも無く歩み寄る。俺達二人の距離が縮まった。全てが静止した世界にあって、俺と女だけが活動している。

「でさ、アンタはやっぱり式さんなのかな」

 取り敢えずは、互いの呼称をハッキリさせたい。アイツは俺の事を“エミヤ”と呼ぶけど、俺には目の前の女を認識する手立てが無い。
 益体の無いお喋りを交わすにしても、それは中々、うまくない。

「式さん、か。貴方にその名で呼ばれるのは不愉快かな。“アンタ”で良いよ。エミヤにはそれが、丁度良い」

 やんわりと、少なくとも式さんが俺には一度として魅せたこと無い窈然とした美貌で、俺の言葉を拒絶した。

「随分だな。で、何か用か? こんな寒い日に出張ってきたんだ、アンタ、俺に何か聞きたいことでもあるんじゃないのかよ」

 氷壁みたいに冷たいコンクリートの壁に背中を預けて、どうでも言い事の様に聞いた。だって、本当にどうでも良い一期一会だと、思うから。

「あら、貴方も随分ね。式といる時は、意外と様になる紳士な人なのに。私の事、嫌い?」

「お互い様だろう、そんな事」

 間髪入れない俺の悪態に、酷く端正な顔立ちを薄く歪めて、女は無言で首肯した。
 結局、俺の問いには答えていない。つまり、俺とアンタの間に横たえている溝は、歩み寄る余地さえ挟めないわけだ。

「――――――ま、いいか。それで? 結局アンタは何者なんだ」

 白い花弁が舞い散る夜天を望みながら、俺は捕らえ所の無い質問。

「それを知って、どうするの? 詰まらないよ、そんな事を話しても」

 ……まったくだ。
 互いに互いが憎いのだから、相手の氏素性なんて塵芥以外の何者でもない。白けさせた御詫びに、俺は自らの言葉を黙殺する。

「それでも、義理堅い私は答えてあげる。一つだけね。私とエミヤの出会いは、式の記憶に残らない、それだけ分かれば、安心でしょう?」

 少女のように、されど妖艶と微笑んで、女は俺の貌を除きこんだ。腰を曲げて俺を見上げるその仕草は、折れた百合を連想させる。愛らしいけど、どこか毒を感じさせた。

「まあ、そうだな。―――――――――それじゃ、どんな話をしようか。アンタ、多分退屈なだけだろうし。付き合うよ、どうせ、今夜は眠れない」

 少なくとも、この退屈を紛らわす手段はソレしか想いつかなったから、黒い空を見上げたまま、詰まらなげに俺は語る。
 女は笑った。
 酷薄に、冷酷に、まるで人間の色を帯びない無色の瞳で。やはり好きになれない。その瞳は、その格が、その力が、その方向が異なったとしても、結局俺と同じもの。
 空っぽで、ただ空白の、ガランドウ。
 始めは、取り止めの無い話。伽藍の堂の日常とか、俺が経験した世界英雄大決戦の経緯とか、アイツの事とか、大抵は俺が延々と昔語りをして、女が思い出したように相槌を挟むだけ。
 機械的で、規則的で、その筈なのにどこか歪で、真っ当な人間では到底真似出来ない、吐き気を催す遣り取りだと、俺も、多分女も思っている。

「ねえ、エミヤ。私、貴方に尋ねたいことが在るんだけど、いいかしら? いい加減貴方のお喋りも飽きてきたし、コレで終わりにしましょう。元はといえば、そのために出てきたわけだしね」

 唐突に、女は年齢以上の大人びた声で俺に言う。

「それで、答えは見つかった? あの時、私が君に問いかけた答えは」

 漠然と答えを迫られた、俺はあの夜を思い出す。
 暑くも無く、寒くも無く、底抜けに空っぽだったあの歪な夜の逢瀬を。

「ねえ、幸せって、なんだと思う? 幸福って、一体何なのかな?」

 あの夜と寸分違わぬ声で、女は繰り返す。
 時間の感覚がまるで曖昧だ。歩んできた道のりが悠久だったのか刹那だったのか、定かではない。混濁した感覚が飽和して、全てを停止させている。
 区切られた銀世界は、今この瞬間、確かにどこかと繋がった。











「そんなの、知らない」











 断線する。死んだ世界が、息吹を取戻す。
 あの時、答えられなかった悠久は、この刹那に、瓦解した。
 時計の針が動く感覚。
 凍えた何かが砕ける音色。
 暗闇に黎明が差す射光。
 俺の世界が、オレの世界を塗り替える。

「知ら、無い?」

 女の、人間に絶望し、同時に歓喜していた無貌がこの瞬間だけ、確かに色を持っていたと、俺は信じたい。

「ああ、知らないし分からない。有体に言えば、見当もつかないぞ。その代わりといっちゃあれだけど、そんな哲学的な考証、俺の頭に余りすぎる。それが、分かった」

 何処にでもそれは在るのだと、誰かは言った。
 どんなことでも良いのだと、誰かは言った。
 迷えばいい、苦しめばいいと、誰かは言った。
 それでも前に進めると、俺は信じた。それで良い。それだけで、充分だ。象が定まらずとも、それは確かに在るのだと、信じる事が出来るなら。

「だから、答えられない。俺は相変わらず、幸福とか、幸せとか、そんなモノに明確な象を与えられない。人にとって、俺にとって、何が幸福で、何が救いなのか何て、結局、何一つ分かっちゃいないんだ」

 俺が辿った軌跡を想いと一緒に吐き出した。
 悩んで、迷って、涙して、汚れて、草臥れて、磨り減って、絶望して、それでも這ってきたこの道が、それでも這っていくこの道が、決して醜くなど無いのだと、信じることが、出来るから。
 穢れない事と、綺麗なことは、きっと同義じゃない。
 どんなに無様で、どんなに醜くて、どんなにかっこ悪くたって、それでも前に進めるなら、それはきっと、綺麗な事だ。それはきっと、アイツみたいに尊いことだ。

「幸せが、なんなのか。救いって、なんなのか。俺にはやっぱり分からない。だから、迷う。悩んで、苦しんで、その痛みを精一杯誇るんだ」

 だからきっと、もしも象が在るならそれは。

「俺にとって幸せは、きっと痛みなんだと思う。もしかしたら、それが、解答なのかもな」

 ハッピーマテリアル。
 幸福がなんなのか、幸せは何のか、立証は不可能。
 だけど、それでも確かに感じることが出来る。それが、果たして幸福なのかは知らないけれど、歪な心でも、ガランドウの身体でも。

「俺は、確かに痛んでる。その痛みが、大切なモノだって教えてくれた誰かがいるんだ」

 その傷を、与えてくれたアイツがいるんだ。
 ■■■■■■は幸福です、そう叫ぶことが出来ない俺だから。
 代わりに痛みを背負うんだ。■■■■と言う名の、確かな傷跡。それが、切り捨ててきた人たちへの、ただ一つの救済なのだと思うから。■■■■を感じるたびに、確かに俺の心は痛むのだから。永遠に背負い続ける、尊すぎる痛みなのだから。

「そう、それが貴方の答え。辿り着いたのは幸せの象では無く、幸せの条件か…………。本当、馬鹿な人、もっと簡単な答えが、象がいたでしょうに」

 呆れたように、女は俺から視線を外す。
 逃げるように、怯えたように見えたのは、きっと気の所為だろう。

「だけど。見えずとも、それは確かに存在する。証明、完了じゃない。エミヤ」

「さあね、アンタが望んだモノとは違うかもしれないけど。満足は、して貰えたのかな?」

 吐き出す息は、こんなにも白い。
 色を失った純白の世界は、混ざらない故に孤立していて、痛々しい。こんな歪な俺でも、アンタのその痛みは感じることが出来るのに。

「ええ、正解かな。いいえ、きっとどんな答えも正解足りえるのでしょうけれど」

 貴方の理屈で、言うのなら。瞳を閉じて、謳うように女は続ける。

「でも、貴方の答え、私は好きよ。私好みに歪んでいて。そうね、お礼に一つだけ、貴方の願いを叶えてあげる。私を楽しませてくれたお礼と、正解のご褒美」

 ――――――――――――――さあ、貴方は何を望むの?

「そうだな、それじゃあ」

 ――――――――――――――この世の全てに、幸福と救済を。

 永遠に続くかの様な沈黙。深深と、鈴の音のみたいな雪の結晶が、ただ降り積もる。空が遮られた灰色の世界は、こんなにも美しい。
 微笑んだのは、果たしてどちらだったのか。
 雪は、凍えた世界の中で舞い落ちる。何も語らず、何も映さず、ただ世界を白く染めていく。

「で、何か変わったのか?」

 俺は、彼女を痛ましい瞳で眺める。そしてポツリ、と雪の音色に打ち消されるほど小さな声で、神様とやらに気兼ねなく尋ねていた。
 返された答えは、予想していた常套句。

「ええ、何も。貴方の望みどおり、世界の全てに救済を」

 滅茶苦茶だ。何も変わっていなのに、世界の全ては幸福に満ちている。

「貴方の導き出した解答よ? 答えたはずよね、幸せの条件。ハッピーマテリアル。痛みと言う名の、コウフクを」

 なんて皮肉な逆説。
 ああ、だけど、それはつまりそう言うこった。痛みがあるから人は幸福を感じる、幸福が在るから痛みを感じる。世界は、こんなにも痛みに満ちている。

「ああなるほど。そのために、答えが必要だったわけかよ」

 最悪だ。アンタ、そんなに俺が嫌いか?

「精々、“味方”してやりなさい。貴方が言う、正義のね。幸福を望む、傷を負った誰かのね」

 俺を嘲笑う、誰かの澄んだ笑声。無垢で妖艶で、邪悪で高潔で、象が無い、混沌として秩序ある哄笑。
 降り積もる雪だけが、普遍として存在している。黒く、白い世界は、そして終わりを迎えようとしていた。

「………さて、そろそろ行くわね。貴方を虐めるのも、もう飽きちゃった。だって君、全然揺るがないんだモノ。初めて会った時は、あんなに可愛かったのに」

 降りしきる雪の飛礫、花弁の様に舞う白い一片(ひとひら)に、女は仔細な腕を延ばして、掴めるはずの無い名残を感じる。きっと、彼女の掌で、雪の結晶は優しく溶けただけだろう。

「揺ぎ無い? アンタの目、節穴だよ。聞いてなかったのか? 俺は、今でもずっと迷ってる」

「馬鹿ね。迷うことに、迷いが消えたの。貴方は、きっと誰よりも誇り高く、その後悔を背負うのでしょうね、きっと誰よりも尊く、その迷いに苦悩するんでしょうね」

 なんて、無様な生き方。女は、やはり蔑むように微笑んだ。

「それと、どうして、彼女と生きる世界を望まなかったの? 貴方、後悔しているんでしょう?」

 振りかえ返らないで、女はいった。それは、確かに俺を哀れむ声だった。

「後悔を抱くことと、後悔を望むことは、似ているけど違うものだよ。それが答えじゃ、駄目かな?」

 雪は止まない。
 異国から吹く風に乗り、異国を漂う海を彷徨い、空と海、大地の境界を越えていく。
 白い世界は誰かの世界を無色に帰すと同時に、やはり誰かの世界を満たすのだ。

「結局、貴方は最後まで■■■■を否定したいわけ。見え透いた強がり………やっぱり私、貴方が嫌い」

「それは結構。いらないさ、そんなもん。それがなんなのか、分かっちまった今だからさ。俺には、過ぎた代物だ。コイツだけは、どうしょうもない」

 白い世界に溶け込むように、女は俺から遠退いた。
 銀箔の箱庭。光りのヴェールから、女は一歩、淀み無く踏み出した。

「唯一の幸運は、もう二度と、アンタに会うことも無いってこと位だ。俺も、アンタみたいな性悪女にはもう会いたくないしさ。いっそ清々しい。さようなら、麗しい“アンタ”」

 俺はその背中を、苦笑と共に見送った。
 心の底から、さようなら。アイツと同じ、二度と訪れぬ白銀の別離を。

「また明日会えるのに? 本当、救われないね。エミヤは」

 振り返る彼女の微笑みは、少しだけ孤独を嘆く色がある。
 現実と空想の境界は、やはり曖昧で、白と黒の光沢だけが、世界を流転させている。
 そうして俺は、彼女を見送った。

/ over the night.

 俺は、いつかそうしたように空を眺めた。
 アイツと別れた、黄金の空を懐かしむように。
 白で塗り替えられた世界を、もう一度彩るために。
 雪は止まない、雲は晴れない。
 いつまで、そうしていただろう。
 俺は一人帰路に着く。
 雪は止まない、雲は晴れない。
 けれど、予感があった。
 ゆったりとした歩みが、ふと、止まる。
 振り返る。
 確固たる足跡は、無色の世界に刻まれていた。
 振り返る。
 白い雪の中、世界は色を取戻していく。
 それは雲を割る蒼穹であり。
 それは空を彩る陽光であり。
 それは肌を伝う朝嵐であり。
 世界は、やはり動き出す。
 無色に、ガランドウに死んでいた世界は、アイツの色で息を吹き返す。

「結局、別れはいつだってこの景色か―――――――」

 止まった世界は、今走り出す。
 彩られた、朝焼けの世界と共に。僅かな痛みを、背負ったまま。
 二度目の季節を迎える。アイツと出逢った、冬が来る。










The voids have encountered fateful, and spitted out loneliness.
His wish have never wondered and founded an answer.
Belief happily ever after, he will never ever regret on his own.

The period, second season, finished.
------------------------------------ Next to / Third impression.










 歌が聞こえる。
 ガランドウの女は、まどろむ瞳で、一人白い街を行く。
 桜色の唇が幽かに震える。女には似つかわしく無い、童謡。清しこの夜、女は誰の為に歌うのでも無く、ただ、無邪気に口ずさむ。
 一つの終幕、それを飾る女のカプリッチオ。
 聴衆は一人として居らず、止まない雪だけが無音の喝采を送っている。
 休むことも無く、急ぐことも無く、女はただ白い世界を孤独に歩む。

「本当に、馬鹿な子。どこかのエミヤは、幸福に手を伸ばした筈なのに、どうして」

 果ての無い白い道。女は、無限に連なり、永遠に広がり続けるその道を、迷う事無く、歩いていく。
 帰り道など、覚えていない。帰り道など、ありはしない。
 雪深い路傍に足跡を刻みながら、女はやはり歩くのだ。滑稽だった。そんなモノを刻んだところで、彼女はやはり孤独なまま。その存在は、やはり何処にも残らない。

「―――――――――――でも、それでもいいのかな、衛宮は」

 一つの演目、それを飾る女のフィナーレ。
 やはり、彼は選べないのだ。やはり、彼は選ばないのだ。
 そしてやはり、――――――――――彼は選びたくないのだ。
 彼女と言う、幸福を。彼女に代わる、幸福を。

 ―――――――――――代わりに、痛みを背負うんだ。

 少年の、迷いしかない声が響く。背伸びをする、少年の強がりが耳に残る。
 私との出逢いから半年、折角、それを手に入れた筈なのに。
 どうして、それを捨て去ってしまうのか。痛みなど、感じる必要も無いはずなのに。
 幸福を、知らないから選べなかった衛宮。幸福を、知ったとしても選ばなかった衛宮。
 馬鹿みたいだ。女は思う、破滅すると分かって、どうしてそれでも進むのか。

「ええ、そうよ。だけどそれは」

 女の身体が闇に、雪に融けていく。夜の闇より尚深い、雪の白より尚儚い、その「 」が融けていく。
 聖夜が明けるその間際、女の歌はやはり終わらない。
 これは、幸福を巡るある少年の戯曲。
 手に入れるのではなく、捨て去るための、退屈な一幕。今だけは、しばしの幕間を。

「――――――――――――きっと、不器用だけど正しいやり方」










前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.042840003967285