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No.11047の一覧
[0] 【ネタ】しにたがりなるいずさん 第一部完+番外編 (ゼロ魔)[あぶく](2011/05/23 00:59)
[1] しにたがりなるいずさん 2[あぶく](2010/04/25 20:18)
[2] しにたがりなるいずさん 3[あぶく](2010/04/25 20:18)
[3] しにたがりなるいずさん 4[あぶく](2010/04/25 20:19)
[4] しにたがりなるいずさん 5 前[あぶく](2009/11/15 22:25)
[5] しにたがりなるいずさん 5 後[あぶく](2010/04/25 20:20)
[6] しにたがりなるいずさん 6 前[あぶく](2010/04/25 20:20)
[7] しにたがりなるいずさん 6 中[あぶく](2010/08/29 14:57)
[8] しにたがりなるいずさん 6 後[あぶく](2010/09/12 16:59)
[9] しにたがりなるいずさん 7の1[あぶく](2011/01/30 18:19)
[10] しにたがりなるいずさん 7の2[あぶく](2011/01/30 18:19)
[11] しにたがりなるいずさん 7の3[あぶく](2011/03/07 23:53)
[12] しにたがりなるいずさん 7の4[あぶく](2011/05/01 22:04)
[13] しにたがりなるいずさん 番外編[あぶく](2011/05/23 01:01)
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[11047] しにたがりなるいずさん 5 後
Name: あぶく◆0150983c ID:966ae0c1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/25 20:20
 女王陛下の突然の『消失』に騒然となる人々を尻目に、私は悠然とその場を離れた。

 人の流れに沿いながら、ゆっくりと街を歩く。あらかじめ下見をしておいたルートを辿って、とある下町の一角へ。汚臭の染みついた道に顔をしかめながら、待つ。
 季節に合わない外套はすでに脱いでいた。身に着けているのは肩の出たキャミソール。一応買った中でも、この辺りで商売をしている少女達に見えそうなのを選んでみたのだけど……。

――ほんとうにこれ、下着じゃないのかしら……?

 なんとも頼りない布地と落ち着かない裾を手でなだめていると、向こうから合図が来た。
 私は『何も見えない』空間に向かって杖をふり、かけていた虚無――『透明』のまやかし――を解く。

「大成功ですわ、ルイズ」

 透明人間からその麗しい姿に戻った姫様は、笑顔で告げた。






*** しにたがりなるいずさん 5 後 ***






「本当に凄いわ、貴女の魔法は――」

 安っぽい宿の中、しかも、あの屋根裏よりも汚いという、とてつもない部屋にもかかわらず、姫様はとても楽しそうだった。街中の衛士達をまんまと出し抜いたことが愉快らしい。

――ほんと、悪戯好きなんだから。

 現在王都中は、密かな/大騒ぎとなっているだろう。けれど、この『女王陛下誘拐』という大事件の被害者兼主犯は、どこまでもマイペースに――ぺたぺたと自分の顔を手でなぞるばかり。
 もちろん、しょせん『幻』なので、触れることはできない。
 虚無のひとつ、『幻影(イリュージョン)』。術者の記憶を再現し、幻を作り出す魔法だ。その幻で今、彼女は――『サイト』の姿になっていた。

 私は、ため息をこらえながら、それを見る。
 しかたないのだ、男女のセットでないとこの手の宿には入れないから――とは思ってもやっぱり。

――あいつの顔で上品に笑って女言葉で話されると……すっごく……背筋がぞわぞわするわ。

 歪みそうな顔をこらえながら、我慢していると――ようやく飽きたのか、手をとめた姫様が妙なことを言い出した。

「ねぇねぇ、ルイズ。昔、お芝居ごっこをしたときは、私がいつもお姫様役をやらせてもらいましたわよね」
「え、ええ――」

 そして、私は、そのお姫様を助けるために戦う騎士とか、その騎士に仆される悪い竜の役なんかをやっていた。

「それ、今夜は貴女に譲りますわ」
「は?」

 奇妙な笑みを浮かべてそう告げた姫様/『サイト』は、不意に、真剣な表情になる。
 そのとき、それが来た。

「おい、開けろ!巡邏のものだ」

 『犯罪者』を探しているから部屋を改めさせよ、と言う。ええ此処におりますわ、と思いつつ、素直にドアを開けようとした私は――連れに押し戻された。

――ちょっと!?

 抗議の声は、口で塞がれる。そのまま盛りのついた犬に押し倒されたような格好で、私は寝台に押し込められた。
 口の中に割り入ってくる感触に唖然としているうちに、痺れを切らした衛兵達が部屋に押し入ってくる。咄嗟に握っていた杖を死角に隠したのは、我ながら上出来だけど――んっ。

――息ができない、

 性急な口づけに対応しきれず、今度は別の意味で目を白黒させる羽目になった。それが逆に、らしかったのだろうか。そんな闖入者にも気づかない『男女』の様子に、衛兵達は呆れて出て行ってしまった。
 完全に足音が遠ざかったのを確認した後、ようやく唇が離れる。私の体の上で、ふぅ、と満足げに息を吐く――その『サイトの顔』を思わず睨んでしまった。
 けれど相手はあくまで楽しそうに、笑みを浮かべるばかり。

「うまく騙せたな、ルイズ」

 『彼』のわざとらしい声色に、私は深いため息をつくと――虚無を解いた。杖を手放した両手で、彼女の肩を押し返す。

「冗談はほどほどにしてくださいませ」
「なんだもう終わりかよ――と、あらあら、怒らせてしまいましたか?」

 可笑しがるような声に、思わず口を曲げる。すると、ますます姫様は愉しそうに笑った。

――なにかしら。すごく、疲れるわ。

 なんだか起き上がる元気もなく、しばらく休ませてほしい、と言おうとしたときだった。



「でも、そうですわね。こんなもの、不快なだけですわ――」

 不意に姫様の声音が変わった。

「ひめさま?」

 皮膚がちりちりする。見上げれば、姫様はひどく昏い瞳で嗤っていた。

「ニセモノが何をしようと何を語ろうと、なんの意味もない。不快なだけ。そうでしょう?」

 頬に触れるてのひら。冷たい湖の底に沈んだような白い手が、私の顔を挟み込む。ぞくぞくと背筋を駆け上る感覚を――私は努めて無視した。

「ねぇ、ルイズ。だから私、あのとき誓いましたの。こんなことをするひとは赦さないって――」

 覗き込む姫様の瞳。吸い込まれそうだ、と思う。まるで夜の水面、崖のふち。或いはまるで、あの晩の湖のような。

「私は、あの夜に関わった全ての人を、国を、決して赦しはしない――」

 そう、それらを彼女は赦さない。そんな必要はない。だって、この娘は――『いちばん』に手を出されたのだから。

「だから、まずはこうして一番手近な輩から、狩り出すことにしましたわ。あの忌まわしい事件を手引きした下手人のひとりを――」

 ゆっくり、ゆっくり、絞り出すように姫様は告げる。

「もちろん、それだけでは終わりません。ええ。きっと、必ず、全てのモノに報いを受けさせる――」

 その哀しい声に――私は、ええ、と頷いてあげた。


 だから、私のこともこの場で殺したければ殺せばいいわ、と。


 そのために、今日一日、私はずっと顔を隠さずにいた。街中をさらえば、いくらでも目撃証言は出てくるだろう。実家に迷惑をかけるのは心苦しいから、それだけはどうにかして欲しいけど。女王陛下を誘拐した大罪人として、骨も残さずに焼き葬られるなら――個人的には問題はない。

 私は自分が持ってきた荷物をちらりと見る。紙の束。友人達に頼んで集めてもらった『例の指輪』に関する資料。それは、きっと彼女の『報復』に役立つだろう。
 そう、それと――自分の指にはまっていた王家のルビーを見る。これと始祖の祈祷書は、きちんとお返ししないとね。

 けれどそんな私の配慮は、姫様の言葉でさえぎられた。

「でもね、ほんとうは私、わかっているんです――」
「?」
「ええ、わかっているんですわ。こんなことをしても、何の意味のないことは――何をしても、誰を憎んでも、どうせなにもかえらない――」

 昏い、渇いた声。目前の昏い水面が揺れて、零れ落ちる、透明な雫。
 私は目をしばたかせながら、それを受ける。

――ああ、そっか。

 そして、ようやく自分の思い違いに気づいた。同時に、その『不幸』を悟って、小さく息を吐く。

――この娘は本当は殺したがっているんじゃないのね。

「ほんと、なんて、ひどいお話。こうして、おともだちの貴女を巻き込んで、たくさんの人を死なせて、そして仕舞いには戦争だって起こそうというのに――私はとっくにその意味がないことを知っている――けど!」

 泣きすがろうとして、それもできずに、嗤う。そこには、そっと夜中に覗き込んだ鏡のように、私にそっくりな瞳をしたひとがいた。

「それを、しないでいることもできないのです」
「……」

――ええ。ほんとうに、ひどい話ね、アン。

 手は無意識に伸びて、そのさらさらとした髪を撫でていた。昔すこし憧れた、真っ直ぐな髪。途端に彼女は、ぽろぽろと泣き出してしまった。

 ほんとうにひどい、不幸な話だ。
 どんなに『死にたがって』も、彼女には、私以上に『死ンデハイケナイ理由』がある。彼女は『王』で、しかも今は、彼女の他に王家直系の子がいない。

――私が男だったら、どうにかしてあげられたかな……。

 公爵家の嫡男ならば、女王の婿となる資格はあっただろう。そうして正式な直系の跡継ぎが生まれれば、姫様も解放される――。

 馬鹿馬鹿しい妄想ね、と内心で首を振る。そんなことを、この娘が望むわけがない。恋愛劇が大好きで、物語のお姫様のように愛する騎士と結ばれることを願っていたお姫様。
 でももう、その人はいない。

――私はなにかできるかしら?

 そう考えて、あまりの白々しさに吐き気がした。何をぬけぬけと――。

 思い出す、あの雨の晩を。
 姫様が、レコン・キスタの手によるモノによって『誘拐』された、忌まわしい夜。今と同じように、蒼白い顔をした姫様。その傍らには彼女の『いちばん』大切な人がいて――そして、その人を、私が消した。



***



 雨が降っている。
 瞳を濡らし頬を伝う雨滴の向こうに、整った白い顔をした青年が立っている。
 それは、かつて亡国の城で出逢った、金髪碧眼の王子様――。

「ねぇ、サイト。ウェールズ王子は亡くなられたのよね……」
「ああ」

 サイトが硬い声で頷く。先刻彼からその話を聞かされたときからずっと感じていた不安。それが的中したことを知る。

 私が例の薬で呆けている間、サイト達がラグドリアン湖の水の精霊から聞いた話だ。
 数年前、精霊の元からあるマジックアイテムが盗まれた。盗んだのはクロムウェルと呼ばれる男を含む一味だという――レコン・キスタの首領の名だ。そして、盗まれたマジックアイテムの名は『アンドバリの指輪』。
 それは、水の精霊の強大な力を秘め、『死者に偽りの生命を与えることができる』指輪。

 雨が降っている。
 身を濡らし骨を凍えさせるその雫とともに、私の中に浸み込み、溢れ出すものがある。

「ルイズ、見逃して頂戴。お願い――」

 雨が降っている。
 身を打ち地を叩くその音にかき消されて――全ての声が遠のく。

「――ルイズ!――これは命令――――」

 そして、私はただ己の内側で鳴り響くその音だけに、耳を澄ませた。脳裏に蘇る無数の文字の中から必要なものを択び取る。
 目の前には、サイトの背中。私はそれを見つめながら、長い長いルーンを唱える。

 足りないものなどなかった。
 唱えるたび、消費するたびに、次々と溢れ出すものがそれを満たし続けた。

――ユルサナイ。



***



 あの晩の私には、忠義も友情もなかった。ただ怒りだけがあった。でも、それもしかたない。だって、あいつらは――

(私の『いちばん』に手を出したのだから)

 今、たとえば時間が巻き戻って、あのときにもう一度戻れるとしても、それでもやっぱり、私はあの魔法を唱えるだろう。
 それを否定したりはしない。けど、そのお詫びにせめてちゃんと殺されようなんて――

――ろくでもない『おともだち』もあったものね。

 ふう、と息を吐く。私には彼女に同情する資格もない。ならせめて、ろくでなしに相応しいやり方で、役に立とうか。
 


「ねぇ、アン」

 なるだけ優しく囁いた。

「正しいとか間違っているとか、意味があるとかないとか、そんなこと考えてもしかたないわよ」
「……え、」

 ゆっくりとその瞳を覗き込みながら、言い聞かせる。

「あのね、他人にとってはどれだけ馬鹿げた夢でも愚かな願いでも、それがなければ生きていけない、そういうものって“ある”の。貴女にとってのそれが『報復(そう)』だったってだけ。それは“どうしようもない”ことだわ」

 ぽんぽん、とその背を軽く叩きながら、笑いかける。

「だから、気にしてもしかたないわ。それより、もっと“前向きに”それを叶えることを考えましょう」

 笑いながら、誤魔化しの嘘を教える。この娘の『いちばん』の願いは、叶えることができないから。

「たとえば、ね。報復をするにしてもきちんとやり方を考えないといけないわ。無理をすれば、途中で失敗してしまうから。きちんと準備をして、その機会を決して逃さないように。そのためには信用できる味方を増やさないといけないわね。いつまでも私しか駒がないんじゃ、先は知れているわよ」
「ル、ルイズ。そんな冗談は――」
「冗談じゃないわ。だって、しかたないでしょう?――やめられないならせめて、きちんと成功させないと」
「!」

 私の言葉がよっぽど意外だったのか、姫様はぽかんと固まったまま私を見返す。

「そのために手段を選んではだめ。だから、私のこともちゃんと使って。私は貴女の杖よ」
「つ、杖?」
「そう、杖。貴女の好きなように使っていいの。使われない杖なんて、それこそ意味がないでしょう」

 冗談めかしながら、囁く。そうだ、このともだちに、私がしてあげられることがあるとすれば、きっとこれくらい。

「ためらう必要も、気を使う必要もないからね。だって、きっとそのための私<ゼロ>だから――」

 呆然としている彼女の手をとり、指を絡める。彼女の手に嵌っている透明な風のルビー。そこに、私が預かっている青い水のルビーを近づける。かつては、隣国の王子様とこのお姫様自身のものだった、二つの指輪。
 風と水が合わさって、虹が架かる。

「約束するわ。私が貴女の夢を手伝ってあげる。ね?」

 上目遣いに見上げれば、七色の光に魅入る少女がいた。淡く照らされたその顔はまるで子供のようだ。私はその表情にすこし息を呑み、そして、ちょっと関係のないことを思ってしまった。

――この娘って、ほんとうにきれいね。

 外ではいつの間にか、いつかのように、冷たい雨が降り出し、建物全体を覆う雨音が、私達を包み込んでいた。



***



 私はひとりオペラ座の二階席に座って、ぼんやりと劇を眺めている。改めて観ると、確かにつまらない芝居。

 舞台上で演じられているのは、今夏流行の題目、『トリステインの休日』。とある国の王女と王子が互いにそれと知らずに出会い、恋に落ちるという――記憶にある通りの、わかりきった不幸なお話だ。

 違うのはせいぜい客席の様子だけ。
 階下には、男と女が隣り合って腰掛けている。舞台そっちのけで語らうその姿は――睦言には遠い。

「――」
「私に罠を仕掛けるなど百年早い。そう言っているだけですよ」

 立ち上がった男は得意げにうそぶくと、ぽんと手を叩いた。三下役者の合図――その程度のもので、舞台の進行が止まるわけもない。

「な――!?」

 なおも淡々と進行する演目に男が十分に間抜け面をさらした後、主役から合図があった。私は――舞台の上にかけていた『幻影』を解く。
 現れたのは、からっぽの舞台と、それから、銃をかまえた女衛士達。

「高等法院長肝いりの役者さん達は、残念ながらあまりに演技がまずいので舞台を降りていただきましたわ――ですから、今宵は全て私の演出で進行していただきます――宜しいですわね? リッシュモン卿」

 自身の誘拐を手引きした売国奴を前に、堂々と告げる今宵の主演女優――アンリエッタ・ド・トリステイン。
 麗しき、トリステインの白百合。

――拍手でも送ってあげるべきかしら。

 幼なじみの勇姿に、私はすこし微笑む。

 ほんとうに、あの娘はきれいだ。この薄暗い劇場でも、あの小汚い部屋の中でさえ、生まれ持った高貴さは損なわれることはない。
 でもやっぱり、彼女にはきれいな王宮が一番相応しい。
 高く空を飛ぶ猛禽もいれば、地上で美しく囀る小鳥もいる。在るべき場所が有るものは、在るべき場所に在るべきだ。そして損なわれるのは、無いものがいい――。

 私は耐えきれなくなって、座席の狭間に腰を落とした。座席の背もたれにすがりながら、なんとか虚脱した体を支える。たぶん、いや、確実に、みっともない格好だった。

――やっぱり、日に三回はきついわね……。

 暗い劇場でひとり、ぐらぐらする頭を支える。

 そうしていると、なんだか無性に笑い出したいような泣き出したいような気分になって――それを、強く唇を噛みしめてこらえた。
 階下の銃声も詠唱も遠のく。ただあの雨音だけが聴こえる。雨音。水音。昏い水底から、滔々と流れ出す、記憶。






*** しにたがりなるいずさん 5 後 ***






 降り注ぐ雨の中、私の『解呪』を受けた彼らは、ぱたり、と仆れた。
 まるで糸を失ったマリオネットのように、力なく地に臥したその屍に、女が泣きすがる。
 私はその姿をぼんやりと見つめながら――再び――杖を構えた。
 ゆっくりと、雨滴にかき消されるほどの小さな声で、呟く。
 もう二度とそれらが忌まわしい行いを受けることのないように――。
 祈るように、虚無を唄う。






――エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ――






 死者は語るな。






<了>






 きみはともだち/きせきなんていらない

(210927)


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