からからから……。
からからから……。
規則正しい車輪の音は、順調に港町シェルギスへの道程を踏破している証拠だ。
だが、国境を越えて五日目。目に入るのは、ごつごつした岩肌か赤茶けた地肌に大小さまざまな小石が転がる細い道ばかりだった。背の低い潅木や岩苔が時折見られるものの、緑らしい緑はほとんどない。
アルネラバ王国において、耕作に適した土地は国土の一割にも満たない。残る半分は峻険な山岳地帯が占めており、残りは今まさに目の前に広がっている不毛の大地だ。
「イリ、何、見てるの?」
アルフィナの問いに、イリは空を指差す。
(……空。もうすぐ、冬)
冬に近づくほどに、空の色は白くなるような気がする。
「冬になる前に、ティシリアに着くさ」
イシュラが笑う。イリが積極的に話すようになってからわかったことだが、シェスティリエだけではなく、イシュラもまた唇を読む。長く戦場にある者にとって、唇を読むことはそれほど難しい事ではないのだとイシュラは言った。戦陣においては、諜者に対する備えとして、声を出さずに会話することもあるそうだ。
イリがシェスティリエにしか通じないと思っていたこともちゃっかり知っていて、ずっと黙っていたらしい。
自分の言葉が通じないのはいつものことだったが、実は通じていたというのは初めてのことで、それを知ったときは何だか気恥ずかしかった
「あと、どのくらいで着くんですか?」
「船が出るシェルギスには、そうだな……あと三日ってとこだろ。そこから船で丸一日だな」
(船にのるの?)
「ああ。アルネラバの船は、風がなくても海を走る。自走船だ」
「海を走るじそうせん?」
耳慣れない単語にアルフィナは首を傾げる。
「ああ。……もちろん帆はある。でも、人力で漕ぐわけじゃない。魔法具の仕組みを使った特殊な船だ。アルネラバの自走船、グラウザスの飛空船……どちらも有名だろう?」
(しってる。『シエルナの魔法の船』!絵本でよんだ!)
「そうそう。俺も読んだ」
シェスティリエにしか自分の言葉は伝わらないものだと思い込んでいたけれど、今はそれが誤りであることをイリは知っている。
だから、イリは臆さずに口を開くようになった。
唇を読めないルドクやアルフィナも、まっすぐ向き合ってわかりやすく話せば、簡単な単語なら伝えられるようになった。
「私も読みました。……すごいです。魔法の船に乗れるんですね!乗ってみたいと思っていたんです」
(僕もそう思った!)
「ですよね、ですよね」
二人は手を取り合う。ここが外だったら、きっと二人でぴょんぴょん飛び跳ねていただろう。
はしゃぐ二人に、イシュラが唇の前で指を立て静かにするように促す。
(あ…………)
「す、すいません……」
視線の先には、背にクッションを入れ、長持ちに寄りかかるようにして眠っているシェスティリエの姿がある。
「あんまり音たてるなよ」
「はい」
(はい)
アルフィナとイリは顔を見合わせ、互いにうなづく。
イリは少しだけ笑った。こんな風にアルフィナと接している自分が不思議で、何だかおかしかった。
「どうかした?」
何でもない、というように首を振る。
(伝えようという気持ちが大事……)
伝えたいという気持ちと受け取ろうとする気持ちがあれば、言葉は音にならなくとも伝わる。
それがわかったことが、イリにとっては収穫だ。
自分の世界だけに閉じこもっていたイリに新しい世界をくれたのはシェスティリエだったが、今は更に広い世界をイリは歩いている。
シェスティリエに出会う前のことを、イリはもうあまり思い出せない。
「……ねえ、字の練習しようか?」
アルフィナが持ち出してきたのは、小さな石版だ。
途中で拾った平べったい石をルドクが綺麗に磨いてくれたものだ。売り物の石板は長方形に切られて木箱に入っているそうだが、イリの石版は台形のような形をしている。それでもこれはイリだけの物で……それが、イリには嬉しかった。
(うん)
この石板にインクがわりに水を、山鳥の尾の羽をペンにして字を練習する。水が乾けば何度でも書き直す事ができて、文字の練習にはとても便利だ。ルドクも、一番最初、文字を習い始めたばかりの時は、こういう風に石版を使って授業を受けたという。
「じゃあ、今日は聖書のカーハンの福音書の十八章から……」
お手本に聖書を使うのことは、シェスティリエのアイデアだ。
イリは、一般的に日曜礼拝で使われるシュラール版の『新約聖書』なら、意味がわからない部分もあるが、全文を諳んじることができるからだ。それは、5年間の聖堂生活で得た、思いもよらぬ副産物だった。
「……あのね」
お手本の単語を書きながら、アルフィナはどこか思いつめたような表情で口を開く。
アルフィナが何を聞きたいのか、イリには何となくわかっていた。
数日前からずっとアルフィナが悩んでいるからだ。
(何?)
「…………イリは、魔術の練習してるでしょ」
(うん)
「……こわく、ないの?」
なんでもない風を装って聞いてきているが、それは、アルフィナがよくよく考えた上で問いかけていることだとわかっていた。
(どうしてこわいの?)
イリはまっすぐとアルフィナを見る。
まっすぐと向き合わなければ、音を持たぬイリの言葉はうまく伝わらない。
「…………私達は、聖職者になるんだよ?なのに、なんで、人を殺す術をわざわざ覚えようとするの?」
(魔術は人を殺す術じゃないよ。間違えないで)
イリは首を横に振る。この件に関して、イリには自分なりの考えがある。だから、自分から積極的にシェスティリエに教えを請うた。
「でも……」
(人を殺せるだけで、人を殺す術じゃない。……それに、聖職者が人を殺さないと思ってるの?)
アルフィナは首を傾げていてイリを見ていなかった。自分の中に没頭しているのだ。
だから、イリの言葉は届いていない。最も、イリに向き合っていたとしても、唇を読めないアルフィナに細かいニュアンスまで伝わったかはわからない。
伝わっていなかった……伝わらないものだと思っていたときは、何とも思わなかったのに、こうして自分から向かい合うことを決めると、伝わらない事に苛立ちを覚えてしまう。
「聖職者は、困っている人を助けるのが仕事だわ。病気の人や怪我の人を治したり、困っている人の相談にのってあげたり、諍いを仲裁してあげたり……治癒の術は必要なものだと思うけど……」
攻撃魔術はいらないと思う、とアルフィナは口の中で呟く。
イリは、アルフィナの服の袖をくいくいと引っぱった。
「なぁに」
(ちゃんと、こっち見て)
僕の言葉を聞いて。
歯がゆさで少し苛ついたが、それを飲み込む。イリが伝える事をあきらめたら、言葉は通じない。
「……剣と魔術は一緒だってシェス様は言ったわ。使い方次第だっていうのは、確かにそのとおりだと思う。……でも、魔術は特別なものよ?その力をどうして、人を傷つけるものとして使う練習をするの?治癒の術だけでいいと思う」
(……治癒の術でだって、人は殺せる!)
叫びにも近い激しさで、イリは言った。
それは、音にならなくともアルフィナに伝わったらしい。
「そんなこと……」
アルフィナは、その菫色の瞳を大きく目を見開いた。
(できるよ。……ようは、使い方なんだから)
イリは、魔術の基礎を、それも座学で学びはじめたばかりに過ぎない。
今は魔術の禁止事項や注意事項を一つ一つ説明されているところだった。その中での、治癒の術について禁止事項や注意事項は多岐に渡る。
それだけを聞いていると、イリには攻撃魔術などよりも治癒の術の方がよほど危険に思える。
イリの言葉がわからないアルフィナに示すように、たどたどしい文字で、『使い方』と石板に書く。
「使い方次第だっていうのはわかるけれど……」
(あのね、アルフィナがどう思ってもいいけど……。でも、僕に強制しないで)
イリの表情から、その不快感を感じ取ったのだろう、アルフィナは「ごめんなさい」と謝罪する。
(……お荷物でいたくない)
唇の端を噛む。
イリは、自分が何もできないことを知っている。
これまでは、それでも良かった。
望みなんて別になかったし、やりたいこともなかった。将来のことなんて考えたこともなかった。
ただ、誰かに殴られたり、蹴られたりしないで、毎日、ちゃんとごはんが食べられればそれで良かった。
けれど、今は違う。
(僕は、力が欲しい)
イリは、手元の石版に『大切なもの』『守る』と書いた。
「大切なものを守りたいから、攻撃魔術を学ぶの?」
(うん)
こくりとうなづく。
本当はそんな単純なものでなかったが、細かいニュアンスまではアルフィナには伝えられない。
目線でシェスティリエを示す。側には、剣を抱えたイシュラがいた。
目を瞑ってはいるが、イシュラの神経が研ぎ澄まされている事をイリは感じ取っている。
だからこそ、シェスティリエはこんな風に安心して眠っているのだ。
(シェスさまを守りたい)
『守る』と石版にもう一回大きく書いた。
自分の大切なものを、自分の手で守る為の力が欲しかった。
守られるだけでなく、守りたい……そう、イシュラのように。
「……守るための力……」
アルフィナは、その言葉を口の中で何度も繰り返して呟いていた。
からからから……。
からからから……。
来る日も来る日も、見える景色も、聞こえてくる音も、さほど変わり映えが市内。軽やかな音だけがどこまでも続く。
このあたりは、大陸を東西に縦断する白い街道の一部に当たる。白い街道の名の由来は、今では旧街道と呼ばれている元々の街道が、白芭石という石が敷き詰められていた為につけられたものだが、このアルネラバの街道は灰茶けた色の石が敷かれている。
かつては多く産出した白芭石も、今では希少なものとなりつつあり、現在の街道は、その地域で一番良くとれる石によってつくられているのだ。
からからから……。
からからから……ごつっ……からからから……。
「っ……………………」
「………ひ、姫さん?」
荷台に緊張感が漂った。
「……え?何かありました?」
手綱を握っていたルドクが振り返る。
眠っていたはずのシェスティリエが、半分涙目でおでこを両手でおさえている姿が目に入った。
「あ~……今、ちょっと、路面に石が転がってまして……」
「……………………こいでないことは、わかっている」
故意だったら許さぬ、と口では凄みながらも、くーっと衝撃をこらえてるらしい姿が妙にかわいくて、イシュラは口元を押さえた。思わず笑ってしまいそうだった。
「……す、すいません」
ルドクも笑いたそうな表情をしている。
だが、ここでルドクが笑えば大惨事だろう。
「いや……」
イリとアルフィナは、目覚める様子が無い。馬車に乗っているだけでも、長時間となると疲れるものだ。
「……さっき、イリとアルフィナがおもしろいことをはなしていたな」
笑いをこらえているイシュラに、シェスティリエが冷ややかな眼差しを向ける。
「起きてたんですか?」
「……はんぶんくらい。イリのさけびに、いしきだけ、たたきおこされた」
「叫び?」
「ちゆのじゅつでもひとをころせる!ってやつだ」
「ああ……」
その情景を思い出しながらうなづき、そこで、イシュラはふと気付いた。
「姫さん、唇読んでるんじゃなくイリの声が聞こえてんですか?もしや」
「イリのあれは、おとにならないだけでふつうにしゃべっている。それに、はっきりとしたつよい『しこう』というのも、わたしのようなにんげんには『こえ』としてにんしきされるんだ」
普通の人間の耳に聞こえる音ではないが、感応力の強い魔術師……あるいは、聖職者ならば、聞こえるだろうだろうとあっさりと告げる。
「ただし、そのレベルにたっするにんげんのかずは、かなりすくなそうだ」
そして、あれだけの聖職者を抱える王都ルティウスの聖堂で一人もいなかったのだからな、と溜息を漏らした。
かつて『魔導師』だったという、シェスティリエ的には、今の世の中における魔術師の数の少なさや、聖職者のレベルに思うところがあるのだろう。
「じゃあ、唇は読んでない?」
「いや。もちろんくちびるもよんでいる。『おと』としてはっしたことがないせいで、イリはじぶんでもじぶんのこえをきいたことがないから、ききとりにくいところがある」
「ああ……耳の不自由なやつみたいなもんですね」
「そうだ。……でも、ちゃんとむきあっていれば、まったくもんだいない」
シェスティリエは、イリとの会話にまったく不自由を覚えていない。そもそも、イリはかなり強い魔力を持つ。紫の瞳を持つアルフィナよりもだ。
魔力というのは、いろいろな意味で使える力だ。イリが、己の魔力を伸ばし、使い方を覚えれば、声に代わる能力を手に入れることも不可能ではないだろう。
「……イリとアルフィナの話の何がおもしろかったんです?」
「いや、それぞれのかんがえかたのちがいが、おもしろいとおもってきいていた」
「……俺に言わせれば、おじょーちゃんは、いかにも貴族のお姫様的だと思いますよ」
いつからか、イシュラはアルフィナを『おじょーちゃん』と呼ぶようになった。『姫さん』との差別化をはかっているという。
「どういうところが?」
「お貴族様御用達とはいえ、フォルテール流拳法は、仮にも武術なわけですよ。おじょーちゃんは、それの免許皆伝だってのにまったく心構えがないじゃないですか」
「……フォルテールりゅうけんぽうには、しあいがないからな」
人を殴った事もないだろうな。とシェスティリエは笑う。
「オレに言わせりゃあ、あれは武術にいれる気はないんですがね。それでも、心を鍛えるって点では有りかと思ってたんです」
ハズレでしたね、とあっさりとイシュラは言った。
「アルフィナにてんがからいな、イシュラ」
「あまりにも甘ちゃんすぎて、ちょっと……。いや、貴族のお姫様にしてはマシな部類だとは思いますが」
イシュラは軽く肩をすくめる。
「わたしは、べつによいとおもっているんだがな」
「そりゃあまた、なぜです?」
イシュラは、そういう意味で、シェスティリエが甘いとはまったく思わない。常に言っている通り、シェスティリエは自分に刃を向ける人間を殺す事を躊躇わないだろうと確信している。
中身がどんなであっても、シェスティリエは肉体的には幼児にすぎない。一瞬のその躊躇が命取りになる。それを本人が自覚している。
(姫さんは、自分の命の重さをちゃんと知っている)
シェスティリエの命は、もはや、シェスティリエだけのものではない。あの時に死んだすべての命とイシュラの忠誠を負っている。
「アルフィナがくちにするあまさやきれいごとを、わたしはきらいじゃない」
いささか、感情に走りすぎであるのと、聖職者を神聖視しすぎているがな。と、そのやや舌足らずな響きを帯びた声は付け加える。
「そういうばめんにちょくめんし、それでも、ころさないというせんたくしをえらびつづけられるのならば、それはそれでよいとおもう」
私は、殺す覚悟を持つことを求めたが、それが、殺さぬ覚悟であってもいいのだとシェスティリエは静かに言った。
「その殺さぬ覚悟ってのは、その場合、自分が殺されてもいい覚悟って意味なんですかね?」
「イシュラはしんらつだな。……わたしりゅうにいえば、ころさなかったことによっておこるすべてのできごとをうけいれるかくごだ」
そこには自分が殺されることも勿論含まれている、とシェスティリエは小さくうなづく。
「……もう何度も言ってますが、オレは、姫さん以外を守る気ありませんよ」
盾や囮にはしますが、と真面目な顔で告げる。
「かまわない。それに、あんしんしていい。わたしもちゃんとじぶんをまもるから」
自分を捨ててまで守ったりしない、とシェスティリエは言う。
イシュラが事あるごとに何度も繰り返すのは、そうやって何度でもシェスティリエからその言葉を引き出したいからだ。
(言霊……)
言葉には、魂が宿るのだと、昔誰かが言っていた。ならば、魔導師だというシェスティリエの言葉になら、尚更、魂が宿っているに違いない。
そうやってシェスティリエが何度もその言葉を口に出すことで、それが揺るぎない事実となってしまえばいいとイシュラは思う。
「あのね、イシュラ。そもそも、みんながみんなおなじかんがえというのは、きもちわるいことなんだよ……」
私は、別に私に同調する人間を求めているわけではないのだ、と溜息混じりにこぼす。
「じしんにおもうところがあり、それでおなじかんがえにいたるのならかまわないが……。だから、アルフィナがちゃんとじぶんのいけんをくちにできることは、よいことだとおもう」
だいたい、よってたかって人を殺すことに納得しろなんて押し付けるとしたら、それも相当おそろしいことではないのか?とシェスティリエは問い掛ける。
「そりゃあそうですけどね。でも、そもそもがあのおじょーちゃんに対して放たれている刺客なわけですよ?本来、俺たちには関係ない。それをどのくらいわかってるんですかね?あまりにも甘すぎるでしょうが。たとえ、それが正論だったとしてもです」
いや、頭でっかちな正論だからこそ、腹が立つのだろう、とイシュラは頭の片隅で考える。
(……これまで受けた襲撃で巻き込まれて死んだ人間の遺族の前でも同じ事がいえるのなら、ちっとは認めてやるけどな)
だが、アルフィナはそういう人間がいることを考えたことがないのだ。
(お貴族様ってのは、使用人や召使を自分と同列と思ってないから……)
だから、無意識の領域で認識していない。いや、言われなければ意識することがない。
その事実を指摘すれば、すぐに心を痛めて悲しげな顔をし、反省することはわかっていたが、イシュラはあえてそれをしなかった。
「どんなにあまいかんがえでも、それをしんそこしんじて、そういいつづけることができるのなら、それはひょうかにあたいするものだ」
違うか?イシュラ。
「そういうにんげんがひとりくらいいてもいいじゃないか」
「……わかってんですよ、それなりには。実際問題、おじょーちゃんを論破するのなんざ、オレには簡単だ。納得させることもさほど難しくもない。…………でも、それをしないのは、姫さんが、おじょーちゃんに期待してるからだ」
そのイシュラの言葉に、シェスティリエは笑った。
感心したというように軽く目を見開いている。
「オレだっていつまでも脳に筋肉ばっかり詰めてませんよ」
「……こういうことはな、さんじゅつのように、せいかいがただひとつしかないわけじゃない」
世の中、いろいろな考え方があるものだ、と静かな語調で言う。
「アルフィナはまちがってるわけじゃない。あれのいうことは、あるいみ、しんじつだ。『りそう』といってもいい。わたしは、アルフィナが、その『りそう』のはてにどういうこたえをえるのかをしりたい」
アルフィナは、遠い過去のシェスティリエだ。さまざまな出来事と、経験との果てに、今のシェスティリエは存在している。
その自分を後悔しているわけではないし、間違っていると思ったこともない。
だが、アルフィナだったら、どういう答えを得るのだろうか。
彼女がどこまで理想を貫けるのか……。
どんな風に考え、どういう道を選ぶのか……。
そして、辿り付く答えはどういうものなのか……。
シェスティリエは、今の自身とは違う答えにたどり着く事をアルフィナに期待している。
「いろいろとなやんではいるが、アルフィナは、まだまだ、あたまでしかわかっていない。だから、しばらくようすをみてやれ」
それが、年長者の度量というものだ、とシェスティリエはイシュラに言い諭す。
「…………姫さん、あなた、5歳じゃなかったですかね?」
「そうだが、それがなにか?」
日常の大部分で皆がきれいさっぱり忘れていることではあるが、シェスティリエは世間一般ではまだまだ子供……むしろ、幼児といっていい年齢だ。
「いいえ、何でもありませんがね……」
(5歳の子供に年長者の度量とか言われるってのは……)
その奇妙さに、シェスティリエの忠実な騎士は、苦笑を漏らした。
2009.09.27 更新
すいません。第3章終わりませんでした。
どうしても第3章にいれたいエピソードがあるので、あと1つか2つ続きます。