「ゼロの絵本から船が出てきた……」
「ば、馬鹿な!ゼロだぞ?!そんなこと……」
船の出現により一瞬静まり返った場がざわめきだす。そして当の本人はというと、
……フリーズしていた。
あまりの出来事に脳が情報を処理できなくなっていた。
「ミス・ヴァリエール……?」
コルベールが呼びかけても反応しない。完全に心ここにあらず状態だった。
そしてその騒ぎの元凶、パタポンたちの船はというと、
最初顔をのぞかしていたパタポンたちは、顔を引っ込めて、なにやら船の上でごにょごにょとしていたが、そのうち船の上からカラカラと梯子が下りてきた。
そしてそこからひょこひょこと、三人いや三体?のパタポンが降りてきた。
一体は普通の?、書かれていた通りのパタポンだったが、もう一体は七色の羽を顔……いや、目玉の周りにあしらっていて、そしてなんだか内股で、しゃなりしゃなりと気品高くあるいてきた。
そして最後の一体はオレンジ色の仮面を顔につけており目玉がみえない。しかしそれをみたコルベールはぴくり、と体を強張らせた。その一体が発する空気、それは間違いなく強者のそれだったからだ。
そうこうするうちに、三体のパタポンはルイズの前に来る。七色の羽をつけた一体がルイズの前にしずしずと進み出る。そして優雅に一礼すると、
「こんにちは、神様。ごきげんうるわしゅうぞんじあげます。」
と……喋った。しゃべったのである。
「しゃ、喋った!?」
「韻獣?!いや亜人なのか?!」
この世界では喋る動物、韻獣は大変珍しい生き物だ。それに亜人だとしても、このような亜人は誰もみたことがない。
どよめきに包まれる皆を無視しつつ、七色目玉は喋る。
「お初にお目にかかります。私、巫女を勤めさせていただいている、メデン、と申します。幾へもの旅路の果てに神に会えるなんて夢のよう……」
「ちょ、ちょっと待って?!」
放心していたルイズは朗々と語りだすメデンをとめる。
「はい?」
「神ってなに?」
「何をいってらっしゃるのやら。あなたのことですが?」
至極当然といった感じでメデンはルイズに答える。
「……わた、し?」
「はい。そのパタポンの書が何よりの証拠。我らを導く偉大なる神ルイズ様でしょう?」
当然のようにルイズの名前をだすメデン。
「何で私の名前を?」
「はあ、よくは分からないのですが、この左手の……」
そういって掲げたメデンの手には使い魔のルーンが刻まれていた。
「この文字が、あなた様が神で、その名はルイズ様だと教えてくれています」
同じように腕を上げる残りの二体。そこにも同じようにルーンが刻まれていた。
「ああ、そうでした。紹介が遅れました。この二人は、仮面を被っているのが『ヒ・ロポン』被ってないほうが『シタ・パン』です。」
「ふうむ、これは……。ミス・ヴァリエール。正直信じられませんが、彼ら全てがあなたの使い魔、みたいですね。」
コルベールがうめくように呟く。こんな自体は彼が教師になってから、いや、この学院どころか世界でも初ではなかろうか。
上を見れば他のパタポンたちがいる。その数は少なくとも三十以上。もはや一部隊である。
「とりあえず、召喚の儀は終了です。みなさん、今日はこの後は補習とします。とりあえず自室にもどってください。」
無理やり授業を締めたコルベール、珍しいといいながらパタポンたちのルーンをスケッチするとそそくさと飛び立つ。
コルベールに続いて同級生たちはつぎつぎと学び舎に向けて飛び立っていった。
「ゼローー!お前は歩きだ!しっかりな!」
「まあ、とべないか!あはははは!」
「黙りなさい!このかぜっぴき!『錬金』!」
「僕はかz!うぐろばああ!」
ルイズを罵倒した一人の生徒が一番高速で飛んでいった。
「ふう、とりあえず静かになったわね。それで……」
くるりと振り返るルイズ。そこにあるのは船、そしてたくさんのパタポン。
「……あんたたち何匹いるの?」
ルイズがメデンに尋ねる。
「全員よびましょうか?皆のもの!ルイズ様がお呼びである!降りてきなさい!」
メデンが声を上げると船からわらわらと下りてくる。
おおきいの、背が高いの、帽子をかぶったの、それは実に多彩な組み合わせだった。その数約五十。
「……とりあえず私の部屋には入れないわね」
「住むところに関してはご心配なく。神の手を煩わせはしません」
「そう?それならいいんだけど……。まあ、いっか。とりあえずメデン。私と一緒に来て。聞きたいことがたくさんあるの」
「わかりました。皆のもの。私はルイズ様についていきます。皆で協力して寝床の確保を、後あれも忘れずに」
「「「はーい」」」
なんというか間の抜けた感じの答えと共に彼らは動き出す。
「それではルイズ様。いきましょう」
「え、ええ」
とん、てん、かん、こん!
小気味のいい音が鳴り出す中、部屋に向かうルイズだった。
……ところかわってルイズの部屋。
メデンとシタ・パンと色々と話すルイズ
彼女らの話を聞いた結果、本に書かれていたことはほとんどその通りのようだった。
世界の果てを目指していたこと。その途中で、自分たちの故郷にたどり着き、そこを異民族から取り戻したこと。そして再び海に出た時、サモンゲートに入ったこと。
「まあ、なんかとりあえず納得したわ。あとは使い魔としてのことなんだけど……」
「その『使い魔』、とはどういったことをすればよろしいのでしょうか?」
メデンが尋ねる。シタ・パンは寝てる。とりあえず踏む。
「そうね。使い魔の主な仕事としては魔法薬や、秘薬の材料をあつめたり……」
「神のためならいくらでも見つけてきましょう」
「……この辺の地理とかわかるの?」
「わかりません」
即答するメデン。シタ・パンを踏みしめながら思う、……多分無理だろう。
「……次に主の目になること」
「?」
「視界の共有って事なんだけど……全然見えないわね。目玉のくせに。いいわ、最後ね。それでこれが一番重要なこと。使い魔は主を守ること」
「それならばお任せを!」
ぴょんぴょんと跳ねるメデンは宣言する。
「神に害を為すものは全て駆逐して見せます!」
ぐっ、とコブシ?を握るメデン。
「……それは頼もしいわね」
ルイズは最後のやつも無理っぽいなと思っていた。彼らの文明レベルはかなり低い気がする。
メイジどころかジャイアントモールにも勝てるかどうか……
「……はずれ、かな?」
「は?」
「なんでもないわ。とりあえず……」
服を脱いでポイっとメデンに投げる。それを受け取ったメデンに、
「それ、朝までに洗っておいて。あと朝にはちゃんと起こしてね。」
と命じた。
「承りました」
恭しく一礼をし、メデンはルイズの服と、ルイズに踏まれて気絶していたシタ・パンを引きずって部屋を出て行った。
「……大丈夫かしら」
彼らは、なんといく、すごく使い魔使い魔した使い魔、だが、今までの失敗し続けた自分の魔法、それが召喚した彼らを、正直……信用できなかった。
「まあいっか、明日考えよ」
そう呟いたルイズは、ベッドにもぐりこむと疲れていたのかすぐにスヤスヤと寝息をたて始めた。
夜は更けていく、しかし、学園の庭では、未だ音がなっている。
とん、てん、かん、こん。
小気味よく、金づちの音が明日を呼んでいる。