早朝……トリステイン学院の裏手、そこをうろうろする二つの影,があった。
彼らの名は、シタ・パンとザッツ・ヨー。いつもは巫女であるメデンのそばについているパタポンなのだが、ルイズに召喚された時からルイズのそばにつくようメデンに命じられた。
そんな彼らの今日の任務は『ルイズの服の洗濯』である。しかし・・・迷っていた。彼らは水場を求めさまよっていた。このままだと任務が果たせない。
そうなると後に待っているのは、メデンからの『お仕置き』である。最早、絶望のふちにあった彼らに、天の使いが現れた。
「あの……なにか探してるの?」
シタ・パンとザッツ・ヨーが振り返るとそこに神・ルイズや、神のご学友達とはまた違う格好をした人物が立っていた。
「洗濯場を探しています!」
「洗濯しないと怒られるのです!」
「ふえ?!しゃべ……あ、もしかして貴方たちがミス・ヴァリエールが召喚された使い魔さん?」
「ミス?」
「ヴァリエール?」
「ええと、ルイズ様のことです」
「そうです!」
「その通りです!」
元気良く、無駄に元気よく返事をする二匹。
「貴女は?」
「誰?」
「私ですか?私はここの学園で給仕をしているシエスタです」
「給仕?」
「メイド?」
「メイド萌え?」
「残念ながら私はメガネっ娘派だ」
「私はポニーテイルだ。」
「需要はないが」
「洗濯場までの案内を」
「お願い!」
「します!」
……途中に紳士か変態が混じっていた気がするが気のせいだろう。シエスタは二匹を井戸端の洗濯場に連れて行った。
洗濯場についたシエスタは二匹に並んで一緒に持ってきた洗濯物を洗うことにしたのだが……シエスタは驚いた。協力して井戸の水をたらいに入れて、一匹が洗濯板を持って一匹が洗う。
彼らの行動には淀みなく行われ、時間にして三分ほどで彼らは
「ありがとー!シエスタ!」
「感謝ー!」
と言うと、そそくさとどこかへ行ってしまった。
「さわがしい子たちだったな……あれ?あれって」
シエスタはふと、思い出していた。祖父が語った昔話。それは一つ目の生き物の昔話。
「まさかね……」
「……さま」
「ふにゅう…ふにょう……」
「……さま、ルイズ様」
「うーーん?」
「ルイズ様、朝でございます」
「ふえ?」
自分を起こす声にうっすらと目を開けるルイズ。そこに見えるはいつもの部屋で無く、特大の目玉があった。
「うひゃあああ!?」
ベッドから跳ね起きるルイズ。
「なななななななななな??!」
「ルイズ様、朝でございます」
再びその言葉を繰り返す目玉。驚きでパニックに陥ったルイズだがなんとか頭を落ち着けその目玉が自分の使い魔であることを思い出す。
「……朝から心臓に悪いわ」
明日からの起床について少し考えるルイズであった。
ルイズはベッドから降りると、メデンたちに顔を洗う水を持ってくるように命じ……
「お顔をどうぞ」
……る前に二匹のパタポンがスっと水の入った桶を抱えてきた。
「……ごくろうさま」
それで顔を洗ったルイズ。続いて服を着せようとしたが……先ほどのパタポンが肩車をしてふらふらしながら服を持ってきていた。
「おき……がえを…」
……下のパタポンが死にそうだったので服は普通に自分で着替えることにした。
着替えをしていると、部屋の前が騒がしい。着替えを終えて部屋を出てみれば、部屋の扉の前で先ほどの二匹のパタポンが赤毛の女に槍を突きつけていた。
「何者だ!」
「名を名乗れ!」
「ルイズ様に害を為す気か!」
「やっつけろ!」
「……フレイム」
パチンっと女が指を鳴らすと廊下の奥から、炎を灯した尻尾、赤い鱗を持つ大型のトカゲが現れた。
「うわわわ?!」
「なんだこれ?!」
突然現れたそれに驚くパタポン。
「……やりなさい」
ぼう!女が命令するとフレイムと呼ばれたトカゲは口から火を吐く。
「ふぎゃあああ!」
「あっち!あっち!」
もろにそれを浴びたパタポン達は体についた火を必死に転がりまわって消す。
「ちょっとツェルプストー!ひとの使い魔になんてことしてんのよ!」
「あら、ごめんあそばせルイズ。あなたと同じ不躾な使い魔だったものだからちょっとお仕置きしちゃったわ」
胸元を開いた服になまめかしい身体を包んだツェルプストーと呼ばれた女は悪びれもせず言い放った。
「ルイズ様、こちらの方は?」
ルイズの脇に控えていたメデンが尋ねる。ジタバタしている二匹のパタポンには一瞥もくれなかった。
「あら?あなたは確かメデンだったかしら?大変ねえ、こんなやかましい主人に召喚されちゃって。私の名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケでいいわ。よろしくね」
「これはご丁寧に。部下の者が失礼を致しました。ルイズ様のご友人とは知らなかったもので。」
「メデン!こんな牛乳女友達でもなんでもないわ!敵よ敵。敵で十分よ!」
「牛乳なんて失礼ねえ。自分が無いからって」
「きいいいいい!言わせておけばああ!」
「あら、ルイズをからかうのが楽しすぎて、長居しちゃった。早くしないと朝食食べ損ねちゃう。行くわよ、フレイム」
フェロモンを撒き散らしながら歩き去っていくキュルケとくるるる、と喉を鳴らしながらそれについていくフレイム。
「あ・の・おんなああああ!レアなサラマンダーを召喚したからわざわざ見せつけに来たわねええ!」
「あの獣はそんなに珍しいんですか?」
「好事家ならかなりの高値をつけるものらしいけど、くううう、むかつくわ!ふん!いいわ!忌々しいけど今は朝食よ。・・・って」
ルイズは傍らのメデンに目を落とす。
「あんたたちの食事どうしようかしら、というかあんた達は何食べるの?」
「お肉が好きです!」
「かったいのもやわかいのも好きです!」
いつの間にか復活していた先ほど燃やされたパタポンたち。焦げてはいるものの平気なようだ。
「肉食なの?」
「野菜も食べますよ」
メデンが答える。基本雑食のようだ。しかし問題は量である。五十匹近いパタポンを満たす量である。かなりの量が必要だ。
「仕方ないわね、給仕の人間に頼むしかないか。ついてきなさいメデン、あとそこの負け犬は朝ごはん抜きね」
「「なん……だと!?」」
その言葉に炎にすら耐え切った二匹のパタポンは真っ白に燃え尽きた。
メデンと二匹の真っ白なパタポンをつれて食堂に来たルイズはさっそく給仕に頼もうと思い周りを見渡す。ちょうど良くメイドがいたので呼び止める。
「ちょっと」
「はい?なんでしょうか?……ミス・ヴァリエール」
「なんで私の名前って、……まあ『ゼロ』なんて呼ばれてたらそりゃ有名にもなるわよね」
自分につけられた不名誉な二つ名を思い出しため息をつく。
「あ、いえ!ちがいます!あの、今朝、ミス・ヴァリエールの使い魔の方とお話したので」
「あ!シエスタ!」
「あ!ほんとだ!」
ルイズの後ろをついてきていた白パタポンどもがいつの間にか復活していた。
「なんであんた達、この娘を知ってんのよ?」
「今朝、洗濯場を教えてもらいました!」
「ありがとー!」
「そうなの?悪かったわね、迷惑かけたみたいで」
「いいえ、お気になさらずに、それで、あの御用のほうは……」
「あ、そうだった。こいつらに食べさせる食事をお願いしたいから調理場まで案内してくれない?」
「分かりました。どうぞこちらへ」
シエスタに案内されてルイズは調理場に入った。
「マルトーさーん」
「ん?なんだシエスタ……そちらの方は?」
あからさまにいやそうな顔をするマルトーと呼ばれた男。
「こちらはミス・ヴァリエールです。ミス・ヴァリエール、こちら調理長のマルトーさんです」
「ああ、あの『ゼロ』の……、っとこいつは失礼を」
思わず口走ってしまったのをあわてて訂正するマルトー。
「いいわ、気にしないで。そう呼ばれてるのは事実よ。……いつか見返してやるけどね」
にやりとマルトーに笑うルイズ。それを見たマルトーは
「ハッハッハ!こいつは頼もしい!気に入ったぜ貴族様!で、用ってのはなんですかい?」
豪快に笑うマルトー。そしてぞんざいな口調で貴族に話すマルトーにあたふたしているシエスタ。
しかしそんなマルトーを咎めもしないルイズ。根本的なところで今まで接してきた貴族と違うことを感じ取ったマルトーはルイズに好意を持った。
「こいつらの食事を頼みたいんだけど……五十匹分」
「五十匹ですかい!?」
結構な数に驚くマルトー。
「やっぱり無理かしら?」
少し不安そうに尋ねるルイズ、しかし
「確かに多いですが、コックが食事を出せなかったなんざ末代までの恥でさあ!お任せをミス・ヴァリエール!」
ドンッと胸を叩くマルトー。
「ありがとうミスタ・マルトー、ほらあんたたちも礼を言いなさい。」
「ありがとうございます」
「「ありがとうございます!」」
「うをお、しゃべった?!」
いままで黙っていたパタポンたちが普通にしゃべったので驚くマルトー。
「くははは!こいつはゆかいな奴等の食事を作れるもんだ!お前らとっとと残りを呼んできな!」
「「はーい!」」
ぱたぱたと、マルトーに言われ残りのパタポンを呼びにいく二匹。
「これで一安心だわ、私も朝食を……」
わかめー わかめー わかめー ボサノバー
しかし無情にも鳴り響く始業の合図。
「……ううう。使い魔は食べれて私は食べれないなんて…ごめんなさい、あいつらの事頼むわ」
ふらふらと、揺れながら調理場を出て行ったルイズ。そんなルイズを見送るマルトーとシエスタとメデン。
「……?お前さんは行かなくていいのかい?」
「朝ごはんを食べませんと」
至極当然に言い放つメデンだった。