「マイアスに……?」
「はい」
生徒会室にて、レイフォンはこの部屋の主であるカリアンと対面していた。
理由は言うまでもなく、レイフォンの失踪に関してのことだ。ツェルニから突如姿を消したレイフォンだが、何事もなかったかのように帰還し、ツェルニを襲った汚染獣の殆どを1人で殲滅してみせた。
レイフォンの帰還、危機の脱出、止まったツェルニの暴走。その結果だけを考えれば万々歳だが、だからと言ってこの問題をそのままにするわけにはいかない。
カリアンはレイフォンを呼び出し、事情を聞いていた。
「レイフォン君が嘘を付くタイプじゃないのは知っているし、隠し事や嘘も下手そうだけど……」
それに対して、レイフォンは全てを話した。嘘が苦手と言うのもあるが、別に誰にも口止めをされておらず、自分でも信じられない出来事を今一度整理したかったからだ。
自分がどこにいたのか?
何をしていたのか?
どんなことがあったのか?
どんな人物と遭遇したのか?
気が付けば学園都市マイアスにおり、ツェルニに帰るためにその都市の厄介ごとを解決するために尽力した。
その際に狼面衆と名乗る正体不明の者達と敵対し、更にはグレンダンにいるはずの天剣授受者、サヴァリスと一戦交え、最後に汚染獣を屠ってきたと言う。
レイフォンは嘘を言っていないし、嘘を付く意味もない。そもそもカリアンの言うとおり嘘や隠し事が苦手なタイプであり、そんなことをすればすぐに顔や仕草に出てばれる。
だが、それでも……
「やはり……信じられないね」
「ですよね……正直、僕自身も信じられません」
その言葉には現実味がない。真実とは到底思えない、まるで作り話のような内容だ。
レイフォンの性格からして嘘ではないと思う。だが、だからと言って突拍子のないこの話を信じられるのかと言うと、それとはまた別の話だ。
「それに、廃貴族に関してのことだけど……いるのかい?君の中に」
「………はい」
更に問題が一つ。それは、今回の騒動の原因となった廃貴族のことだ。
それが今、レイフォンに憑依している。
「今のところは大人しく、動きはないようですし、ディン・ディーのように暴走する心配はないと思います」
先日の第十小隊との試合で起こった事件を思い出し、カリアンは背筋を震わせた。
もしレイフォンがディンのように、廃貴族に操られて暴走したら誰にも止めることは出来ないからだ。
ツェルニの戦力ではもちろん、廃貴族を捕らえようとしているサリンバン教導傭兵団でも難しいだろう。
「廃貴族だけを傭兵団に引き渡せればいいんだけどね……レイフォン君、君は廃貴族を完全に従えているのかい?」
「完全にとは言い難いですが……少なくとも、今のところ廃貴族に反逆する意思のようなものはないと思います」
カリアンの問いかけに不安そうではあるが、レイフォンははっきりと答えた。
現状、廃貴族が宿主であるレイフォンに逆らうそぶりを見せない。不気味なほどに大人しく、レイフォンの中で眠っているようだ。
マイアスでは汚染獣の接近に対して過敏に反応して見せたが、ディンのように暴走するほどではなかった。
あくまでレイフォンの意思で戦い、廃貴族に操られていると言う感覚は微塵もなかった。
「……問題は残っているけど、今は事態が落ち着いたことを素直に喜ぼう。レイフォン君、よく無事に帰ってきてくれた」
「いえ……」
カリアンが微笑を浮かべ、それに対して居心地が悪そうにレイフォンは相槌を打つ。
相変わらず何を考えているのか分からず、まったく油断の出来ない微笑だ。
だが、何時もの微笑ではない。同じように思えるが、まったく別の微笑でもある。
何か思うところがあるのか、表情が硬い。だが、それでも平然を装い、カリアンは言葉を続けた。
「話はこれでお終いだけど……レイフォン君には個人的に用件があってね。悪いけど、夜に私の部屋に来てくれないかな?」
「はぁ……」
レイフォンは曖昧に頷く。用があるというのなら、何で今ここで尋ねないのだろう?
わざわざ部屋へと呼び出す理由が思いつかない。
それを察したのか、カリアンは理由を述べた。
「さっきも言ったけど、これは個人的な用件でね、私用だよ。だけど、君にも深く関係している。あまり遠回しな言い方もあれだから素直に言うけど、フェリのことさ」
「……………」
「君とフェリとの関係は理解しているよ。この間は不覚にも取り乱してしまったけど、やはりあの子の兄として、君とは一度話し合う必要があると思ってね。まさか遊びと言う訳じゃないだろう?」
『遊び』と言う単語に、一瞬だけカリアンの視線が鋭くなった気がした。
一般人だと言うのに、熟練の武芸者に匹敵するほどの殺気をその瞳に宿している。
僅かに動揺するレイフォンだったが、カリアンの問いかけにはハッキリと返答した。
「はい」
「ならいい……さて、フェリのことに関してはまた夜にだけど、話は以上だね。廃貴族のことはやはり気になるけど、打開策が思いつかないのだからしょうがない。とりあえず今は、現状維持だね」
「……ですね」
「ご苦労。退室してもいいよ」
「では、失礼します」
そんなやり取りが行われ、現状に至る。
「なるほど、兄に呼ばれたんですか」
「そうなんですよ。あ、フェリ、皿を取ってくれますか?」
「はい」
夕方、カリアンの呼び出しより少し早いが、レイフォンはカリアンとフェリの住むマンションを訪れ、夕食を作っていた。
今日のメインは鶏肉のソテー。フライパンで炒められた肉の香ばしい匂いがキッチンへと広がる。
レイフォンは、フェリの用意してくれた皿に盛り付けをしながら話を続ける。
「前回、生徒会長にはあんな所を見られましたから、何時かこんな日は来るだろうなとは思っていました」
「そうですか……フォンフォン、ひとついいですか?」
「はい?」
フェリの問いかけ。それに対してレイフォンは相槌を打ち、続きを促した。
どこか戸惑いつつも、フェリは口を開いた。
「フォンフォンは私のことを……どう思っていますか?」
「へ……?あの、今更何を?」
その問いかけに、レイフォンはフェリが何を考えているのか分からなかった。
だが、彼女の瞳は真剣であり、どこか深刻そうにレイフォンのことを見詰めている。
そんなフェリの対応に戸惑うレイフォンだったが、ならば自分も真剣に、素直にフェリの問いかけに答えた。
「僕にとってフェリは、とても大切な人です」
「……そうなんですか?」
「そうですよ?」
「……遊び、なんかじゃありませんよね?」
「怒りますよ?」
フェリの不安そうな問いかけに、レイフォンは僅かにむっとした。
カリアンも言っていたが、フェリとの関係が『遊び』なわけがない。レイフォンがフェリのことを愛しく想い、恋しく想うのは何時だって真剣だ。
マイアスにいた間もずっとフェリのことを考えており、ずっとフェリに会いたかった。この気持ちが遊びなんて想いで生まれるわけがない。
レイフォン・アルセイフは本気でフェリ・ロスのことを本気で愛しており、だからこそ、その想いを否定されるようなことを言われればむっとくる。
自分の想いがフェリには通じず、一方通行なのではないかと不安になるからだ。
「フェリは遊びのつもりなんですか?」
「そんなわけありません!」
意趣返しのつもりでレイフォンの言った言葉に、フェリは慌てて否定した。
その反応に思わず驚くレイフォンだったが、フェリの言葉を聞き、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。
「ならいいです」
「いえ、あの……そうではなくてですね……」
料理の盛り付けを終え、フライパンを片付ける。
そんなレイフォンの背中を見詰めながら、フェリは困り果てたように言葉を捜していた。
「フォンフォンは私のことを……どこまで想っていてくれてるのか気になりまして……」
「あの、意味が分からないんですが?」
「例えばその……恋人だとか……」
「え、今まで恋人同士だと思っていたんですが、違うんですか?」
「いえいえ、そうではなくて、そうではなくて!け……け、け……」
「け……?」
顔を真っ赤にするフェリを可愛らしいと思うものの、レイフォンにはフェリが何を言いたいのかまったく理解できない。
自分とフェリの関係を問われれば、今のレイフォンは恋人と間違いなく即答するだろう。自分が彼氏であり、フェリが彼女だ。
だが、フェリはそれでは不満らしい。必死に言葉を探し続けるフェリだったが、間が良いのか悪いのか、レイフォンを呼び出した人物が帰宅してきた。
「おや、早いねレイフォン君」
陽気にキッチンに入ってくるカリアンに対し、フェリは小さく舌打ちを打つ。
そんな妹の心境など知らず、カリアンは並ぶ料理に視線を向けた。
「レイフォン君が作ってくれたのかい?悪いね」
「いえ、気にしないでください」
「お礼と言ってはなんだけど、飲み物は私が用意させて貰ったよ。今日はゆっくりして行ってくれ」
レイフォンの作った料理を褒め称えたカリアンは、小脇に抱えていた飲み物の入っているビンを取り出す。
そのラベルに書かれた文字に、レイフォンは思わず首をかしげた。
「生徒会長……それってお酒じゃあ……?」
「そうだよ」
「生徒会長自らが飲酒を勧めるとは、一体どう言う事ですか?」
ラベルには酒と書かれており、酒精解禁の学年ではないレイフォンが飲める代物ではない。
それなのに都市の長であるカリアンが酒を進めることを不審に想い、フェリは刺々しく問い質した。
「私(生徒会長)がいいと言っているんだ。このような話をする時には酒がないとね。それに、せっかくレイフォン君が夕食を用意してくれたんだ。食前酒にはちょうどいいだろう?」
カリアンが何を考えているのか、レイフォンにはまったく理解が出来なかった。
彼のペースに流されるように席に着き、3人は共に食卓を囲む。
カリアンの用意した酒がグラスに注がれ、それがレイフォンの前に置かれた。
「飲みたまえ」
生徒会長公認の飲酒に戸惑うレイフォン。進められるがままに、少しだけ口を付けてみる。
アルコールの匂いが鼻を突き、冷たい液体が喉に流れる。
「………」
「どうだい?初めての人でも飲みやすいように、甘い果実酒を選んでみたんだけどね」
「あ、はい。美味しいです」
「それはよかった」
甘味と、果実特有の酸味が口内に広がり、実際には美味しかった。
まるでジュースのように飲み易く、酒が初めてのレイフォンでも問題なく飲めた。
ちびりちびりと少しずつ飲んでいくレイフォンに対し、カリアンはグラスに注がれた酒を一気に飲み干す。
カリアンは空となったグラスにもう一度酒を注ぎ、またも一気に酒を飲み干した。
そしてまた、カリアンはグラスに酒を注ぐ。
「生徒会長、飲みすぎですよ」
「ああ、悪いね。ただ、これからする話を思うと酔わずにはいられなくてね……」
「はぁ……」
あえて酔い、酒の勢いで何かを言おうとしているカリアンをレイフォンは不審に思う。
フェリは仏頂面でカリアンを見つめ、不機嫌そうにつぶやいた。
「兄さん」
「悪いね、フェリ。だけど私も兄として、家族として放っておくわけには行かないんだ。さて、レイフォン君。君を呼んだわけだけどね……」
フェリを宥めたカリアンは、真剣味を帯びた視線をレイフォンに向けてくる。
思わず、背筋が凍ってしまいそうなほどに鋭い視線だ。何がそこまで彼を本気にさせるのだろう?
レイフォンはそんな事を考えながら、カリアンの視線と態度に息を呑む。
カリアンは酒の所為で赤くなった顔で、重々しく口を開いた。
「生徒会室でも言ったけど、フェリのことだよ。別にフェリも年頃だし、とやかく言うつもりは無いのだけどね」
「その割にはこの間、病室で取り乱していたじゃないですか」
「まぁ、とにかく」
フェリの冷ややかな視線と言葉を受け流し、カリアンは熱気を帯びた視線で言葉を区切る。
新たにグラスに注いだ酒を飲み干して、続きの言葉を吐き出した。
「学生らしい、健全な付き合いだったら何も言わないんだよ。節度を守ってくれれば、私は素直に君達のことを祝福しよう」
「はぁ……」
「だが、君達の関係は健全と言うには程遠いらしいね」
「っ……!?」
吐き出されたその言葉に、レイフォンは息が詰まった。
思い出されるのはバンアレン・デイの夜の出来事。まさかアレがカリアンにばれたのではないかと焦るレイフォンだったが、事態はそれどころの話ではなかった。
「別に舌戦がしたいわけじゃないし、回りくどく言っても仕方が無いから単刀直入に言わせて貰うよ。フェリはね……妊娠しているんだ」
「………え?」
レイフォンは言葉を失う。唖然とし、間抜けに口を開いていた。
放心した状態でフェリの方を向くと、フェリは無言で視線を逸らした。どこか怯えているようで、レイフォンの様子を伺っているような態度だ。
その仕草自体が、カリアンの言葉が真実だと告げている。
「誰の子かなんて言わせないよ。さて、その上での聞かせてもらおう」
もはやグラスに注ぐのが面倒になったカリアンは、ビンに入っている酒をラッパ飲みで飲み干してから問う。
据わった瞳でレイフォンを睨み付けるように見つめ、呂律の回らない口を開いた。
「きみゅは(君は)、ふぇるをどうしゅるつもりなのかな(フェリをどうするつもりなのかな)?」
カリアンは間違いなく酔っている。だけど、その瞳に宿っている真剣味はまるで衰えていない。
カリアンは純粋にフェリの、妹の心配をしており、そのことについてレイフォンに問いただそうとしている。
もしレイフォンが本気になれば、ツェルニでは誰も逆らうことができないだろう。彼の強さの前には、未熟な学生達などなんにもならない。実力行使に出られれば、話術しか対抗手段を持たないカリアンは瞬く間に惨殺される。
だが、そんな事は関係ないとばかりに、カリアンは怒気を含んだ視線でレイフォンをにらみつける。
レイフォンの返答しだいでは絶対に許さないと言う意志を宿した瞳で、カリアンは再び問いかけた。
「きみゅはふぇるのことを(君はフェリの事を)、どうおもっていりゅ(どう思っている)?」
「……………」
レイフォンには、すぐにカリアンの問いかけに答えることはできなかった。
貧困な頭をフル回転させ、どうするべきか、どう答えるべきなのか考える。
子供が出来てしまった。その事実に、レイフォンは思わずやってしまったと後悔した。
レイフォンの育った孤児院でも、自立する生活力を持たない少年少女が子供を作ってしまうと言うことがあった。そうなってしまえば孤児達に子供を育てるなんてことができるはずがなく、堕ろすしかない。
そんな光景を間近で見て育ってきたレイフォンが、フェリを妊娠させてしまったのだ。思わず自責の念にかられてしまう。
「フェリ……」
レイフォンの言葉に、フェリの肩が震えた。
今にも泣いてしまいそうな顔で、不安そうに、まるで叱られている子供のような表情でレイフォンに問いかけてくる。
「迷惑だと言うのはわかっています……フォンフォンが不安に思うのも当然でしょうし、私も正直不安です、怖いです。でも、それでも……」
学生の身で子育てなんて出来るわけがない。
確かにツェルニでは学生結婚もでき、少数だがその間にできた子供達がこの都市で暮らしたりしている。
だけど、子育てと言うのはそんなに簡単に、学業との片手間で出来るものではないのだ。親は多大な苦労をすることになるだろう。
だが、それでも……
「私は……産みたいです。せっかく大好きなフォンフォンとの間に出来た子供なんです。私は、私は……」
産みたい。大切な人との間に出来たせっかくの子供なのだ。
愛しい人が傍にいて、愛の結晶である子供がいる。そんなありふれた日常でも、おそらくは誰もが望むであろう幸せな家庭の姿。そんな姿に、フェリ自身も憧れていた。
その反面、怖かった。子供が出来たことに当初は喜んでいたフェリだが、もしもレイフォンが反対したら?
堕ろせなんて言われたりしたら?
子供が出来たのが理由で、別れようなんて言われたりしたら?
子育てというのは1人では出来ない。夫婦が協力し合ってこそ、子育ては成されるのだ。
それなのに拒絶され、別れようなんて言われた日には、フェリは支えを失い、生きる気力すら失ってしまうだろう。
ずきりと、左腕が痛んだ。高い医療技術で傷跡は残らず完治したが、フェリはレイフォンに拒絶されたら再び左腕を切り裂くかもしれない。
それほどまでにフェリは追い詰められており、瞳に涙を滲ませていた。
「フェリ……」
「あっ……」
そんなフェリに対し、レイフォンは抱きしめることで答えた。
この部屋にはカリアンがいたが、そんな事など構わない。今にも泣いてしまいそうなフェリを慰めるために優しく、だけど力強く抱きしめた。
戸惑いはあった、自責の念はあった。だけど、それでも、レイフォンは嬉しかった。
まだまだ学生の身で、これからの事に不安を感じてしまうが、最愛の人との間に子供を授かったことが嬉しくないわけがない。
「正直、僕も不安です。まだまだ学生の身で、僕なんかに父親が務まるのかなんて、今にも不安で押しつぶされそうです」
不安は確かに感じる。レイフォンだって怖い。
子供を養い、育てられる自信はなかった。
「でも……僕は腕っ節(武芸)だけは自信があるんです。これでも、天剣授受者だったんですよ?フェリと子供くらい、十分に養ってみせます」
それでもレイフォンには武芸がある。
このツェルニに来た当初は捨てようとすら思っていたレイフォンだが、今はそんなつもりなどまるでない。
圧倒的な実力を持つレイフォンは、たとえどの都市へ行こうと破格の待遇を受けることだろう。
大切な人を、フェリを護るためだったらレイフォンは戸惑わない。
グレンダンでの失敗もあり、武芸を金儲けに使うのはどうかと思うところがあったが、それは闇試合などに参加しなければよいだけの話で、生活費などを合法的に稼ぐ程度ならば何の心配もない。
「こんな時になんて言えばいいのかわからないんですけど……笑わないで下さいよ?」
決意を固め、レイフォンはフェリを抱きしめたまま、彼女の耳元で囁く。
レイフォンの胸板に顔を押し付けられているフェリには見えないが、レイフォンの顔は既に真っ赤だ。
カリアンやフェリよりも顔を赤くしており、無い頭を必死に回転させて言葉を捻り出した。
「絶対に幸せにしてみせます。世界中の誰よりも幸せにしてみせます。ですから……………僕と結婚してくれませんか?」
「っ………」
捻り出された言葉はプロポーズ。
フェリは瞳から涙をボロボロと零し、レイフォンに問いかけた。
「私……なんかでいいんですか?」
「フェリだからいいんです。他の人なんて考えられません」
悲しくは無い。泣いていると言うのに、全く悲しみなんて無い。
「本当にいいんですか?自分で言うのもなんですが、私は仏頂面で、可愛くなんてありませんよ?」
「フェリは十分に可愛いですよ。僕はそんなフェリに惚れたんですから」
嬉しいから、フェリは嬉しいから泣いているのだ。
「我侭を言って、フォンフォンを困らせるかもしれませんよ?」
「それがどうしたんですか?むしろ積極的に言ってください。僕に出来ることでしたらなんでもやりますから」
涙で視界が滲む。ずっと欲しかった。レイフォンとであって、告白されて、付き合うようになってから、ずっと彼の事が欲しかった。
「私は……念威以外何も出来ませんよ?料理も掃除も洗濯も、家事なんてまるで出来ません」
「全部僕がやります。それに、フェリだって最近は上達しているじゃないですか?」
一生傍にいて欲しかった。共に歩んで欲しかった
「フォンフォン……大好きです」
「僕もです、フェリ」
そんなレイフォンが、一生傍にいてくれると誓ってくれた。共に歩んでくれると誓ったくれた。
その言葉が嬉しくって、フェリは涙を流したままレイフォンへと顔を寄せる。
もはや何度も交わした口付け。それをフェリから行おうとして、苦笑したレイフォンに指で制された。
「フォンフォン……?」
「フェリ、僕はまだ返事を聞いていませんよ」
首を傾げるフェリに向け、レイフォンはもう一度言った。
「僕と結婚してくれませんか?」
「もちろんです」
その言葉に即答し、今度こそフェリはレイフォンの唇を奪う。
多少乱暴にしたので、レイフォンの歯でフェリは唇を切ってしまった。
その痛みに僅かに顔を歪めるフェリだったが、そんな事お構いなしにレイフォンの唇を貪る。
背伸びし、舌を絡め、吸い取るように唾液を舐める。レイフォンはフェリを抱きしめ、彼女の髪をなでる。
「ぷはっ……フェリ、大丈夫ですか?」
「ちょっと痛いです……でも、大丈夫です」
婚約してすぐの口付けは、血の味がした。
レイフォンとフェリは共に笑い合う。だが、ふとカリアンの存在を思い出して気まずそうな顔をする2人だったが……
「すぅ……んん……」
「………あのペースでお酒を飲んでいましたから」
「当然、ですね……」
レイフォンの言葉を聞いて安心したのか、カリアンは寝息を立て、夢の中へと沈んでいた。
「フェリ……幸せになるんだよ……」
酔っ払って眠っていても、真剣に妹の事を案じているようで、カリアンはフェリの名を寝言でつぶやく。
そのつぶやきにフェリは照れ臭そうな表情を浮かべて、ソッポを向きながら言った。
「ですが……感謝はしています。私だけでしたら……きっとフォンフォンには言えなかったでしょうから」
レイフォンは今更ながらに、先ほどフェリが何を言いたかったのか理解する。
『け』と言うのは『結婚』、または『結婚を前提にした付き合い』と言う事だろう。
レイフォンは愛おしい婚約者を抱き寄せ、もう一度耳元で囁いた。
「大好きですよ、フェリ」
その言葉にフェリは照れ臭そうに、だけどとても幸せそうな表情で返答した。
「私もです。大好きです、フォンフォン」
2人は恋人から婚約者へとなり、とても幸せそうに微笑み合うのだった。
あとがき
前回の更新から結構な時間が……
言い訳をさせてもらいますと、バイト先の飲食店が年末年始で大変忙しかったです。
最近、やっと暇になってきましたが大変でした。それに成人式のイベントなどで……今月は本当に忙しかったです。
更新が滞っていた理由が、決してゲームをしていたからなんてものじゃありませんよ(汗
嘘です、ごめんなさい。ゲームもしてました。ですが、今月が忙しかったのは本当です(滝汗
さて、久しぶりの本編ですが少し短めです。
プロローグですし、婚約辺りを題材にしてみました。今回の7巻編はレイフォンとフェリの関係がキーポイントですからね。
それに区切りが良いという理由で、今回はここまでとなっております。
なんにせよ、今年初の更新。もう18日ですね……(汗
それから本来、とあるの一方さん作品の短編とか載せたかったんですが、忙しすぎて全く準備が出来てません(汗
次の更新辺りにはがんばりますので、それまでお待ちください。
それでは、今回はこの辺で失礼します。今年度もフォンフォン一直線をよろしくお願いします。