「ユーリ、お皿出してくれる?」
『は~い』
いつものように朝が来た。この都市に来てからもう二ヶ月目の朝だった。
食卓に並ぶ朝ごはんのおいしそうな匂いが私の鼻をくすぐる。
私の名はユーリ。ユーリ・コーヴァス。藍曲都市コーヴァスの名を与えられた武芸一族の娘。自慢じゃないけど、私自身も才能豊かな念威繰者らしい。故郷のお父様とお母様がよく褒めてくれた。
でも、それが災いして、私はある日、怖いおじさん達に攫われてしまった。どこの都市でも優秀な武芸者や念威繰者を欲しがり、中には違法なことをしてでも手に入れようとする都市があるとか。だから私は攫われて、よその都市に売られようとしていた。
本当に怖かった。寂しくって、悲しくって、故郷のお父様やお母様を思い出して何度も泣いていた。
「ほら、できたよ。ユーリ、フェリを起こしてきてくれる?」
『うん!』
そんな私を助けてくれたのが、このお兄ちゃん。名前はレイフォン・ロス。とっても強くって、優しくって、かっこいいの。
おじさん達の目を盗んで逃げ出した私を保護してくれて、一時は再び捕まっちゃったけど、おじさん達をやっつけて救い出してくれた人。
ごはんもおいしくて、毎日食べてもまったく飽きない。ちょっと量が多いんだけど、それはお兄ちゃんが武芸者だからかな? 武芸者の人は普通の人より体を使うから、食べる量も多くなるんだって。私は念威繰者だからよくわかんない。
『お姉ちゃん、起きて起きて~』
「ん、ん~……もう朝ですか、ユーリ」
寝室に来た私は、ベットで眠っているお姉ちゃんを起こす。この人はフェリ・ロス。優しくって、美人で、私以上に優秀な念威繰者で、お兄ちゃんの奥さん。二人はとっても仲良し。それにお兄ちゃんもかっこいいから、美人なお姉ちゃんと本当にお似合いだと思う。
それから、お姉ちゃんのお腹の中には赤ちゃんがいるんだって。なら私は、そのうちお姉ちゃんになるのかな?
生まれるのはまだまだ先のことだけど、ちょっと楽しみ。
『は、はにゃ!?』
「ふふ、ブリリアント・エクスカリバーも起きたようですね」
私の頭に飛びついてきたのは、ペットのブリリアント・エクスカリバー。フェレットだ。
この子は私の頭の上がお気に入りのようで、よく飛び乗ってくる。少しだけ重い。
それから、ブリリアント・エクスカリバーだとさすがに長いので、私は『リアン』と呼んでるの。フルネームで呼ぶのはお姉ちゃんだけ。お姉ちゃんが考えた名前だから、何か想い入れがあるのかな?
ちなみにおにいちゃんは、単に『エクスカリバー』って呼んでる。
「さて、フォンフォンが待っていますから、そろそろリビングに行きましょうか」
いつの間にか身支度を終えたおねえちゃんが、私を促してリビングに向かう。
この家、というか寮の部屋かな? とにかくここに住んでいるのは、基本的に私とお兄ちゃん、そしてお姉ちゃんの三人だ。本当はカリアン・ロスという、お姉ちゃんのお兄ちゃんも一緒に住んでいるんだけど、その人はこの都市の責任者で、とても忙しいそうだ。だから、お仕事する場所で寝泊りすることが多くて、あまり帰ってこない。
お姉ちゃんのお兄ちゃんも良い人だから、少しだけ寂しい。やっぱりごはんは、全員そろって食べたいなぁ。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
『いただきます』
食卓に座って、手を合わせるお兄ちゃんと、それに続くお姉ちゃんと私。
今日も一日が始まろうとしていた。
†††
『アンナせんせー、この問題はこれで合ってますか?』
「はい、正解です。ユーリちゃんはすごいわね」
『えへへ~』
この都市は学園都市というらしい。その名のとおり、学生さんが勉強をするところだとか。だから、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、お姉ちゃんのお兄ちゃんも、みんな学生さん。
私はまだ八歳で学生さんにはなれないんだけど、家庭教師という形で、こうやって毎日アンナせんせーに勉強を教わってます。
アンナせんせーは錬金科というところの優秀な学生さんで、研究ですごい成果を出してるんだって。それから下級生の講師役なんかも勤めてるらしいよ。学園都市には先生となる大人もいないんだって。だから、この都市を回しているのはみんな学生さん。私なんかよりずっとすごいよね?
「それじゃ、次はこの問題ね。ユーリちゃんには、まだ少し難しいかな?」
『ん~……』
私がやっている問題は、この都市の学生がやる一年生の範囲なんだって。私は自覚したことないんだけど、念威繰者は普通の人よりも高い知能を持つ。物覚えが良く、頭の回転や、分析能力が高いそうだ。この間はアンナせんせーが作ったテストを受けたんだけど、結構いい点数を取ったんだよ。
そういえば、ちょうど学生さん達のテストの時期と重なってて、お兄ちゃんも同じテストを受けてたなぁ。お兄ちゃんの結果はさんざんだったらしいけど。なんでも、『あか点』ってのを取ったんだって。何点のことかな?
『こう、ですか?』
「うん、正解。ひょっとして、私がユーリちゃんに教えることなんてもうないんじゃないかしら?」
『はにゃ~……』
アンナせんせーが、私の頭をなでて褒めてくれる。ちょっとくすぐったいけど気持ちいい。
けど、私はお兄ちゃんに頭をなでてもらう方が好きかな? いや、別にアンナせんせーのがいやってわけじゃないけど。
「ご苦労様です、アンナ先輩。お茶をどうぞ」
「あ、ロス君。そんな、別にそんな気を使わなくてもいいのに……」
「ですがもう用意しましたし、せっかくですから。あ、もちろんユーリの分もあるよ」
『わ~い』
お兄ちゃんがおやつを持ってきてくれた。お兄ちゃんの作ってくれるおやつはおいしいから好き。お兄ちゃんの故郷でも、弟や妹達に時々作ってあげてたんだって。でも、話を聞くと、お兄ちゃんの兄弟ってたくさんいるんだね。大家族なのかな?
「ん、おいし~。ロス君って、お料理上手なので」
「まぁ、人並み程度には。僕の幼馴染は、もっと上手なんですけど」
「これだけできれば十分よ」
アンナせんせーがお兄ちゃんを褒めてたけど、本当にそうだと思う。私のおうちにいた、お手伝いさんの料理よりおいしいかも。これで人並みだなんて、謙遜が過ぎるよお兄ちゃん。
「それじゃ、一休みもしたし、また始めましょうか」
『はい』
おやつも食べて元気いっぱい……じゃないかな。お腹が膨れて、少し眠くなっちゃった。けど、あと少しだからがんばろう。
私はペンを持って、問題とにらめっこをすることにした。
†††
『うにゅ~……』
勉強のあとはお昼寝。お兄ちゃんが腕枕をして、一緒に眠ってくれた。でも、お兄ちゃんも学生さんのはずなんだけど、学校はいいのかな? お姉ちゃんはもう、学校に行っている。さっきのアンナせんせーは、今日は授業がないからって午前中に来てくれた。いつもは夕方なんだよ。
「あ、起きた、ユーリ。それじゃ、そろそろ出かけようか」
『うん……』
まだちょっとだけ重い目蓋をこすって、私はベットから起き上がる。これ以上眠っちゃったら、夜に眠れなくなっちゃうかも。
時間は……まだお昼前。これからお散歩だ。
「じゃ、顔を洗って。それから帽子も用意しないと。最近暑くなってきたからね」
そういえば、最近暑くなってきたなぁ。なんでも、都市が暑いところを移動しているからだなんて。もう少し気温が上がれば、夏期休暇になるらしい。そうすれば毎日お姉ちゃんと遊べるのかな?
「水筒は持った? それから、靴は履いた?」
自宅の玄関ではなくベランダ。私がうなずくのを確認すると、お兄ちゃんは私を抱っこしてくれる。物語で王子様や勇者が、お姫様を抱っこする抱え方だ。少し恥ずかしいけど、ちょっとだけ嬉しい。まるで私がお姫様になった気分だから。
「じゃ、行くよ」
お兄ちゃんがベランダから飛び出す。近くの建物の屋根まで飛び上がり、跳ねるように駆けていく。
本当にお兄ちゃんはすごい。私みたいな念威繰者にはとても真似できないことだ。まるで風になったみたいに駆けるお兄ちゃん。向かい風が涼しくて気持ちいい。ただ、帽子が飛びそうになるので、私は必死に押さえた。
「今日はどこに行きたい? それから、お昼はどこで食べようか?」
『ん~……』
この都市にはまだまだ、私の知らないことがたくさんある。さまざまな都市の人がこの学園都市を訪れ、その人達が故郷の文化を持ち寄るからだ。
だからこの都市は、さまざまな都市の文化が混ざった、奇妙な都市。だからとっても楽しくて、新鮮なところ。私はずっとここにいたいとすら思っていた。お兄ちゃんやお姉ちゃんと、ずっとずっとここにいたいと思っていた。
『もう少しこのままで。お兄ちゃん、もっと早く走れる?』
「ん、わかった。じゃ、しっかり捕まっててね」
今はもう少しだけ、こうやって風を感じて痛かった。お兄ちゃんにお願いして、もっと早く走ってもらう。これは本当に楽しい。思わず笑いがこみ上げてきそうだ。
向かい風が強くなる。帽子を押さえていた手が緩み、帽子が飛んでしまった。
『あ……』
「あ」
お兄ちゃんは足を緩め、帽子を取ろうと振り返ろうとした。けれど、帽子は取りにいくまでもなく戻ってくる。まるで、帽子自体が意思を持っているような動きだった。
もちろん、帽子が意思を持っているわけではない。誰かが取ってきてくれたのだ。
『この子って……』
この子って私? 帽子を取ってくれたのは、鏡でよく見る私の姿をした女の子だった。
歳は私より下かな? というか、この子服を着てない。裸だ。私に似ているだけに、ちょっと恥ずかしい。人……じゃないよね?
だって、この子は飛んでるもん。空を飛んで、私の帽子を取ってきてくれた。肌の色も違う。金色に光っているようだ。
「ツェルニ」
お兄ちゃんが渡しそっくりの女の子の名前を呼んだ。でもツェルニって、この都市の名前だよね?
あ、ひょっとして、この子がこの都市の電子精霊、ツェルニ? 前にお兄ちゃんが、私とそっくりだって言ってた。だから私が声を出せなくて名前を言えなかった時、一時的にツェルニと呼ばれていたんだ。
『あ、ありがとう……』
女の子が、ツェルニが、帽子を差し出してくれる。それを受け取った私はお礼を言った。するとツェルニはにっこりと笑って、空高く昇っていった。
自由自在に空を飛び回り、とても気持ちよさそうだ。自慢じゃないけど、私も飛べるんだよ。アーチングって人が作ってくれた重晶錬金鋼、ラ・ピュセルを使えば。かっこよくって、かわいくて、便利なこの錬金鋼は私のお気に入りなんだ。
今度これを使って、ツェルニと一緒に空を飛び回るのも面白そうだなぁ。
「今度は帽子が飛ばないように、もう少しゆっくり行こうか」
『うん』
ツェルニが行ったのを見送って、お兄ちゃんは再び足を進めた。今度は帽子が飛んでいかないように、さっきよりもゆっくりだ。でも、念威繰者の私からすれば十分に速い。
でもこれって、私の体に負担がかからないようにだいぶゆっくりなんだよね? 武芸者の全力移動には、普通の人じゃまず耐えられないんだって。本気になったお兄ちゃんはどれだけ速いのかな?
†††
「あんら~、ユーリちゃんいらっしゃい。ゆっくりしていってね」
『はい』
お昼は喫茶店で食べることになった。ここは喫茶ミラというお店だ。
店長のジェイミスさんはずいぶん個性的な服を着ているけど、面白くて、優しくて、いい人だった。
喫茶店に来ればよくおまけをしてくれるし、このお店のほかにも服屋さんを経営してて、そっちに行けばただでお洋服をくれたりするの。こういうのって、至れり尽くせりって言うんだっけ?
嬉しいんだけどいいのかな? お仕事にならないんじゃないの?
「あ~、本当にユーリちゃんはかわいいわねぇ。これでフェリちゃんも一緒なら最高なんだけど」
「フェリは今、学校です。というか、ジェイミスさんは授業ないんですか?」
「私はいわば、実習ね。こうやってお店を営業してるのが、授業の一環よ。お昼時には学生さん達も食べに来てくれるから」
「そうなんですか」
「ところで、レイフォン君は授業は?」
「僕は長期休暇中です。一応、義兄さんに許可ももらってます。勉強は苦手ですから、万々歳ですよ」
「あらあら、それでいいのかしら?」
本当にいいのかな? お兄ちゃんはちょっと不真面目なところがあります。
せっかく学園都市というところにいるんだから、もっとちゃんとお勉強すればいいのに。
「ま、とにかく食べていってちょうだい。とはいえ、うちの一番の売りは女の子なんだけどねぇ」
女の子が売りってどういう意味だろ? そういえばこのお店で働く人って、女の人ばかりだなぁ。みんなかわいい服を着てるし、私もちょっと着てみたいかなぁ。
あ、ご飯は普通においしかったよ。でも、私はおにいちゃんの作ってくれたご飯の方が好き。
†††
「フェリ~!」
「フォンフォン、ユーリ。迎えに来てくれたんですか?」
『うん』
お昼を食べて、ちょっとぶらぶらして、そして放課後。学生さん達はそれぞれのおうちに帰ろうと、校舎を出ているところだった。
そして、お姉ちゃんを発見。お兄ちゃんが私を抱え、一直線にお姉ちゃんのところに駆けていく。
『今日ね、今日ね、ツェルニに会ったんだよ!』
「ツェルニというと、この都市の電子精霊ですか?」
『うん』
「それはいいですね。私はまだ、一度も見たことがないんですよ」
お兄ちゃんから降りて、お姉ちゃんに抱きつく。私の頭をなでてくれる手が気持ちいい。なんだかとっても落ち着くんだ。
「この後は確か、練武館で訓練でしたっけ?」
「いいえ、今日は野戦グラウンドを使えるからと隊長が張り切っていましたよ。相変わらず暑苦しい人です」
「は、はは……」
この後、お兄ちゃん達は訓練があります。この都市の武芸者の精鋭部隊、小隊なるものに所属しているのです。その訓練があるのですが、お姉ちゃんは少しめんどくさそう。
まぁ、お姉ちゃんのお腹の中には赤ちゃんがいるし、そんなに激しい運動はできないんだけどね。アレ? そういえば赤ちゃんって、どうやって作るんだろう?
女の人から生まれてくるってのは知ってるんだけど、その方法がわからないんだよね。聞けば教えてくれるかな?
「それじゃ、隊長に怒られないうちに行きますか」
「そうですね」
あ、お兄ちゃんとお姉ちゃんは訓練に向かっちゃった。どうしても聞きたいことじゃないし、別に後でもいいかな?
私を待っていてくれているのか、二人はゆっくりとした足取りで歩いている。私はそれを追って、野戦グラウンドというところに向かった。
†††
「ハ、ハハっ、やっぱり戦いはこうじゃないとね!」
「サヴァリスさん、あなたいい加減にしてくださいよ!!」
えっと……確かお兄ちゃんとお姉ちゃんのいる小隊の訓練だったよね?
この隊の人とは前に会ったことがあるんだけど、今お兄ちゃんと戦っているのは、ぜんぜん知らない人だった。けど、ものすごく強い。
世界って広いんだなぁ。コーヴァスにいたころはお父様より強い武芸者なんていないと思っていたんだけど、今はこうして四人も見ることができる。それも、お父様より明らかに年下な人達ばかりだ。
「へぇ、これがサリンバン教導傭兵団の団長の実力ですか。病み上がりだというのに、なかなかやりますね!」
「というか、なんで俺っちはあんたらと戦ってるんだ!?」
……これって、お兄ちゃん達の隊の訓練だったよね? あの人達も部外者じゃないのかな?
戦っているのは、髪の一部分が白いけど、あとは黒い髪のきれいな女の人。それと、赤い髪をした、顔に刺青をした男の人だった。二人ともお兄ちゃんとそんなにかわらない歳に見えるのに、お父様よりぜんぜんすごい。
というか、なにをしているのかわかんない。とっても早く動き回って、剣や刀で切りあって、炎が燃え上がって、ドカンと爆発が起こった。アレが武芸者同士の戦い。まるで映画でも見ているようだった。
「死ね、ハイア!!」
「ちょ、こんな時に!?」
「浮気性が過ぎるよ、レイフォン!!」
あ、お兄ちゃんまで加わっちゃった。これはいわゆる、バトルロイヤル形式。全員が敵同士で、最後まで生き残った人が勝ちなんだって。
すごい人達が四人とも入り乱れて戦う姿は、とっても壮観だった。こんなに凄い戦い、今まで見たこともない。
あ、お兄ちゃんと、さっきまでお兄ちゃんと戦っていた人が増えた。凄く増えた。これはもう四人の乱戦ではなく、大乱闘だ。あ、刺青の男の人がボコボコにされてる。大丈夫かな?
あ、また爆発だ。野戦グラウンドの中心に大きな穴ができた。植えられてる林が薙ぎ倒されていく。本当に凄いなぁ。
「野戦グラウンドが壊されていきますね」
本当だ。お姉ちゃんの言うとおり、野戦グラウンドは災害でも起きたかのようにボロボロになっていく。
「この間も壊されてたんですけど、また兄が修理費で頭を抱えそうです」
やっぱり、これだけ壊れちゃったら直すのも大変なんだ。次は野戦グラウンドの使用許可が下りないかもしれないって、お姉ちゃんが言ってた。
うん……やりすぎだよね、お兄ちゃん達。
†††
「よし、買い物も済んだから帰ろうか」
『お兄ちゃんの作る晩ごはん、楽しみ~』
崩壊した野戦グラウンドを後にして、晩ごはんの買い物を済ませた私達。
お兄ちゃんが買い物をした荷物を持って、私はお姉ちゃんと手をつないでおうちへと歩いていた。
「今日はハンバーグだよ。ユーリ、ハンバーグは大好きだったよね」
『うん、大好き』
お兄ちゃんの作るものなら何でも大好きだよ。あ、でもピーマンは嫌だなぁ。
『ただいまー』
おうちに着いた。この寮の二階がお兄ちゃん達のお部屋だ。階段を駆け上がって、ドアを開ける。玄関にはお姉ちゃんのお兄ちゃんの靴があった。帰ってたんだ。
それと知らない靴が二つ。誰かお客さんが来てるのかな?
「ああ、ユーリ、帰ってきたのか。では、フェリとレイフォン君も一緒なんだね」
お姉ちゃんのお兄ちゃんが客間から出てくる。お客さんを出迎えてたのかな?
続いてお姉ちゃんとお兄ちゃんも入ってきて、何かを話していた。
「君達に、いや……ユーリにお客さんだよ」
「え?」
『私に……ですか?』
私にお客さん? いったい誰だろう。この都市にはそんなにお友達いないんだけどなぁ。
学園都市だからか、この都市には私と同い年の子供はいないの。お兄ちゃんやお姉ちゃんがいるから寂しくはないけど、ちょっと残念。
「とにかく、入ってみるといい」
そういって、お姉ちゃんのお兄ちゃんが客間を指差した。
私は誰だろうと思いながら、客間の扉を開ける。
「あぁ、ユーリ!」
「無事でよかった……」
『え……』
そこにいた人達を見て、私の頭は真っ白になった。
久しぶりに聞いた声。久しぶりに見た姿。聞き間違えるはずがない。見間違えるはずがない。お父様とお母様だ。
コーヴァスにいるはずの私の両親。コーヴァスには私がこの都市にいるって手紙が送られていたはずだけど、その手紙が届いて、お父様とお母様がここにやってきたのだろう。
嬉しい……嬉しい、はずなのに……
「よかったね、ユーリ」
お姉ちゃんのお兄ちゃんがそう言った。でも、この言葉がひどく遠くに聞こえた気がした。
「心配したんだぞ。お前が無事で、本当に良かった」
「さぁ、コーヴァスに帰りましょう」
コーヴァスに帰る。その言葉を聴いて、私の胸が痛んだ。
それは大好きになったこの都市を、学園都市ツェルニを離れるということ。
大好きなお兄ちゃんと、お姉ちゃんと、離れ離れになるということ。それはお父様とお母様に会えた嬉しさを塗りつぶすほどに悲しい。
私はいったい、どうしたらいいの?
あとがき
え~、リムーバルディスクがいかれてしまい、執筆中のデータがおじゃんとなってしまったため、本来予定していたものとは違う内容をUPしました。
それと実験的に一人称の練習を。そんなわけで今回は、ユーリの視点でお送りしました。そのユーリですが、今回の話でわかるよう帰郷します。
いつかは来る別れ。それが早いか遅いかですかね。
ただ、このことで次回は大騒動が!?
消えてしまったデータはもうしかたがないので、このユーリ帰郷編が終われば、次回からは原作九巻編を開始したいと思います。
リムーバルディスクは本当に悔やまれます。アレにはSSのデータ以外にも、メアドやらパスワード、デジカメのデータなどいろいろ入ってたのですが……
本当に残念です。あ、一人称は次回から普通に戻ってるかもです。