「やあ、今帰りましたよ、父上」
「おお、サヴァリス、お帰り」
『『『お帰りなさいませ、サヴァリス坊ちゃま』』』
グレンダンへと戻ったサヴァリス。彼が向かったのは自身の実家、ルッケンスの武門の総本山である屋敷だった。
そんな彼を、父が、使用人たちが出迎える。
「陛下の命令で、学園都市ツェルニに行ってたんだったな。何の因果か、今、グレンダンと接触している、あの都市だとか」
「ええ、そうですよ父上。今回の任務、なかなかに刺激的で、楽しいものでした」
父の言葉に清々しいまでのにやけた笑みを浮かべるサヴァリス。
彼の素敵に軽薄な笑顔に父親は苦笑いしつつ、話題を変えた。
「ツェルニにはゴルネオがいるはずだが、どうだった?」
「誰でしたっけ、それ?」
「……お前の弟だぞ」
「冗談ですよ、冗談。まあ、少しは成長したんじゃないんですか? グレンダンにいた方が、まだ本人のためになってたと思いますけどね」
実の弟に対し、あまりにもあまりなことをいうサヴァリス。
彼の性格をよく理解している父親だったが、その父からしても、このサヴァリスの返答にはため息を吐いてしまう。
そんな父の思いなど知らぬとばかりに、サヴァリスは学園都市ツェルニで手に入れた玩具に視線を向けた。
正直今はゴルネオなんかのことより、こっちの方に夢中だった。
「ところでサヴァリス……さっきから聞きたかったんだが……」
「なんです? 父上」
父親もそれへと視線を向ける。
サヴァリスが帰宅と同時に、両腕で抱えていた少女へと。
小柄な体躯、学園の制服を着て、長く綺麗な銀髪をした少女だった。
「この子、どちら様?」
眠るように意識のない彼女を見て、父親は冷や汗をだらだらと流す。
この息子は、いったい何をやらかしたのだろうかと……
「ああ、彼女ですか? 彼女は僕の大切な人(人質)ですよ。ツェルニで知り合いました」
「何? サヴァリス、お前の大切な人(恋人)だと!?」
「ええ、そうですよ。大切な人(人質)です」
不安でいっぱいだった父親だったが、サヴァリスのこの言葉に、グイっと身を乗り出す。
「ツェルニで知り合ったんですよ。大切な人(人質)ですから、丁重にもてなしたいんですけど、お願いできますか?」
「ああ、もちろん、もちろんだとも! そういうことなら丁重にもてなそう! ん、サヴァリス……そういえばこの子……?」
どこか嬉しそうに言う父親だったが、ふと少女の異変に気付く。
少女の腹部、ふっくらと不自然に膨らんだ様子に。
小柄で華奢な女性からすれば、不自然なお腹のふくらみ。決して彼女が太っているというわけではなさそうなのだが……
「ああ、妊娠してるんですよ、彼女(レイフォンの子を)」
「何、妊娠しているだと(お前の子を)!?」
「ええ、そうですよ、妊娠しています(レイフォンの子を)」
「そうかそうか、ははは、わーっはっはっは! サヴァリス、お前もやるな!!」
父親はとてもうれしそうだった。笑う、笑う。大きな声で、心の底から嬉しそうに。
「今まで生きてきて、これほどうれしかったことはないとばかりに。
「いやいや、お前は戦いだけにしか興味がなく、そういったこと興味がないと思っていたのだが、まさか任務先で、こんな女の子を捕まえてくるとはな!」
「何を言ってるんです? 父上。僕には戦いこそが全てですよ?」
「照れるな照れるな! いろいろと聞きたいことはあるが、まあ、とにかくよく帰ってきた。疲れているだろうし、今はゆっくり休むといい! 詳しい話は夕食の時にでも聞かせてもらおう!」
サヴァリスはグレンダンの名門、ルッケンスの長男だ。大事な後継ぎだ。
継ぐと言うのは、次世代へ託すと言うこと。
だが肝心のサヴァリスはそう言ったことには興味がなさそうで、戦いだけに生きている様子は父として非常に不安だった。今日、この時までは。
「おい、お前達、彼女に寝室を用意しろ。一番いい部屋をだぞ。それと、今日の夕食は豪勢にな!」
『『『はい、旦那様』』』
「ふはは、今日は素晴らしい日だ! これでルッケンスの未来も安泰だな!!」
これがグレンダンの、武芸の名門、ルッケンスの、
終焉の日の出来事である。
※作者の戯言
まずはごめんなさい、お久しぶりです。皆様覚えてますか? 武芸者です。
PCが壊れてたんだ……
ちゃんと終わらせたいと思ってるけど、なかなか筆が進まない……
最近まったく書いてないなと思うこの頃。
今回短かったけど、この続きは今週中に少し書ければと思っています。
当初は最終章1~5回で終わらせる予定でしたが、こんなぶつ切りでグレンダン編をあと、1~3回やって、ツェルニ編をダイジェストでやってく予定。
フェリのことは今でも大好きです!