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No.16004の一覧
[0] ― 閃光の後継者 ― 【ギアス一期再構成】[賽子 青](2012/08/30 12:44)
[1] Stage,01 『白い騎士』[賽子 青](2012/08/29 01:54)
[2] Stage,02 『はじまりの合図』[賽子 青](2012/08/29 01:46)
[3] Stage,03 『黒い仮面』[賽子 青](2012/08/29 01:50)
[4] Stage,04 『一対の炎』[賽子 青](2012/08/29 01:53)
[5] Stage,05 『空からトラブル』[賽子 青](2012/08/29 01:50)
[6] Stage,06 『嵐の前』[賽子 青](2012/08/29 01:51)
[19] Stage,07 『粛清』[賽子 青](2012/08/29 01:54)
[20] Stage,08 『皇女』[賽子 青](2012/08/29 20:43)
[21] Stage,09 『嘘と真実』[賽子 青](2012/09/06 21:31)
[22] Stage,10 『7年前』[賽子 青](2012/08/30 20:08)
[23] Stage,11 『リリーシャ』[賽子 青](2012/09/01 13:43)
[24] Stage,12 『新しい決意』[賽子 青](2012/09/06 21:30)
[25] Interval 『再会』[賽子 青](2012/09/06 21:27)
[26] Stage,13 『介入者』[賽子 青](2012/09/05 21:50)
[27] Stage,14 『サイタマゲットー』[賽子 青](2012/09/06 21:26)
[28] Stage,15 『不穏な影』[賽子 青](2012/09/11 22:26)
[29] Interval 『騒乱の種』[賽子 青](2012/09/12 00:31)
[30] Stage,16 『奪われた剣』[賽子 青](2012/09/13 22:41)
[31] Stage,17 『交錯する閃光』[賽子 青](2012/09/15 13:42)
[32] Stage,18 『ゼロを騙る者[賽子 青](2012/09/20 20:54)
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[16004] Stage,12 『新しい決意』
Name: 賽子 青◆e46ef2e6 ID:e3b5ec25 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/06 21:30
 長い、ナナリーの独白が終わった。
 時間が7年前から現在に戻る。

 コーネリアは後の政務を明日以降にまわし、彼女の話を黙って聞いていた。
 運ばせた二つのカップのどちらにも手はつけられず、もう冷めきってしまっている。
 それほどに内容の濃い話だった。









コードギアス
    閃光の後継者

Stage,12 『新しい決意』










「それが、お前が『リリーシャ・ゴッドバルト』を名乗る理由か」

「はい。リリーシャ姉さんは私に、この世界の美しさを教えてくれました。
 あの後、軍人である母の下でナイトメアを含むさまざまな知識を学び――――」

「ボワルセル士官学校を経て、ブリタニア軍に入ったか。
 私もあそこの卒業生だからな、噂は聞いていた。中々に優秀だったそうじゃないか。
 あのジノ・ヴァインベルクと主席を争っていたのだろう?」

 一息つき、コーネリアは冷めきった紅茶に手を伸ばした。一口啜り、少し顔をしかめてソーサーに置く。
 ボワルセル士官学校とはブリタニア本国にある名門の士官学校であり、卒業生には上級将校の地位が約束されている。
 最もそれは卒業後にその椅子が用意されているというのではなく、その椅子を掴みとれるような者しか入学し、卒業出来ないという意味だ

 現エリア11総督、コーネリア・リ・ブリタニア。
 ブリタニア皇帝首席補佐官にしてナイトオブツー、ベアトリス・ファランクス。
 そしてナイトオブナイン、ノネット・エア二グラム。
 彼女らを排出した名門士官学校とは、そういうところだった。

「でも実技はともかく、数学や科学では他の同級生に負けていました。
 ナイトメアでの訓練が始まって、やっと追いつけたといったところです」

「それは仕方あるまい。二歳も歳をごまかしていたのだろう?
 むしろそれでも一度は学年主席を取った事の方が驚きだ。それに奴にナイトメアで一度でも勝てたのはお前だけだったと聞いている。
 まあ奴も、座学の方は振るわなかったそうだが」

 そう言うと、ナナリーは苦笑いした。
 ちなみにそのジノは先ごろのEUでの活躍が大きく評価され、帝国最強の騎士団、ナイトオブラウンズへの就任が内定しているという。
 コーネリアも一度だけ共に戦った事があるが、彼の思い切りと勘の良さには舌を巻いた。
 ジノならば、あの方を含めてもまだ半数の空いているナイトオブラウンズに抜擢されても文句はない。

「だが解らないな。
 リリーシャは美しい世界を見て欲しかったのだろう、ならば何故お前は軍人になった?
 此処は綺麗事が通用するような世界ではないぞ」

「……この世界をリリーシャ姉さんがその目で見たはずの、綺麗な世界にしたいからです」

「だが軍人とは人を殺す道だ。
 力を持たぬ市民を護る為には、私たちは敵の血に塗れなければならない。
 この道は、綺麗という単語からは程遠い」

 一転して剣呑な目つきになったコーネリアからの質問に、ナナリーは少し委縮しながらもはっきりと答えた。

「ええ、解っています。
 戦争は、引き延ばせば伸ばすだけ犠牲者が増える。だから私は、一刻でも早く戦いを終わらせたい。
 その為の力が、私は欲しいのです」

「この――――脆弱者がっ!!」

 その言葉、というよりも語感が気に入らなかったコーネリアの語気はさらに強くなる。
 ナナリーとしては精一杯答えたつもりなのだが、遂にコーネリアは彼女を一喝した。

「まさかお前は、戦う理由を他人に預けているのか?
 それとも戦う事はつらい事だから、誰かの代わりに戦っていると?
 脆弱者め。戦う意味は常に自らの中に持っておくものだ」

 コーネリアの厳しい叱責に、ナナリーは息を飲んだ。
 本物の騎士の矜持というものに、ほんの少しだが触れた気がする。

「ちょうどいい。ナナリー、いやリリーシャ。
 お前は二人として生きると言ったな。なら私がお前たち二人の事を鍛えてやる。
 私の信念は知っているか?」

「命をかけて戦うからこそ、統治する資格がある、ですね」

「その通りだ。
 リアス殿は確かに優秀な軍人だったが、お前に皇族の務めまでは教えてはいまい。
 地方の領主とは違い、皇族はブリタニアに住む全ての民に対して責任がある。それは相手が名誉ブリタニア人でも同様だ。
 だからこそ皇族が強くあるのは当たり前。リリーシャとしてはそれでよくても、ナナリーはその先を見なければ務まらん。
 いやリリーシャとしても、真の騎士と成りたいのならそれでは駄目だな」

 これが王者の威風、なのだろうか。
 真っ直ぐこちらを貫く、清んだ宝剣のような凛とした気風がナナリーの背筋を奔った。
 自分よりも遥かに強い信念が、コーネリアの紫の瞳を通じて伝わってくる。

「リリーシャ・ゴッドバルト准尉。
 先日のユーフェミア副総督警護の功績により、お前を少尉へと昇進させ正式に幹部候補として迎える。そして手続きが済み次第、我が親衛隊に入れ。
 シュナイゼル兄上には私から話をつけておこう」

「―――ッ、よろしいのですか、コゥ姉様!?」

 予想もしていなかった一言に、ナナリーは思わず腰を浮かした。
 親衛隊とは皇族を衛る直属部隊であり、軍人にとって所属するだけで非常に名誉な事だ。
 ましてそれが『ブリタニアの魔女』とまで言われるコーネリアの親衛隊となれば、一流の軍人のみが集うブリタニア最強部隊のひとつである。
 そんな場所への誘いに、ナナリーは身体を震わせた。

「鍛えてやると言ったはずだ。私の指導は厳しいぞ、覚悟をしておけ。
 ――――それと、ここでは総督と呼べ。お前までユフィと同じ事を言わせるのか?」

「ユフィ姉様……もとい、ユーフェミア副総督と?」

 自分の事を全く同じように呼ぶもう一人の妹の事を想い浮かべ、コーネリアは苦笑いをこぼした。
 その妹もコーネリアは鍛える為にこのエリア11に連れてきている。
 コーネリアは彼女は軍事ではなく政治を学ばせる目的で、学生を途中で切り上げさせてまで呼び寄せた。

「ユフィを救ってくれたあの一件については私も感謝している。
 あ奴の身に何事も無かったこともそうだが、部隊内での私刑が表沙汰になれば、代理執政官の死亡と合せてただでさえガタガタな規律がさらに乱れる事になっていただろう。
 今回の親衛隊への抜擢はあの一件が切欠だという事にする」

「それは―――――」

 思わずナナリーは、あれはそこまで考えての行動ではないと言いそうになったが、止めた。
 結果としてユーフェミアを庇ったのは事実なのだ。
 粛清を止めたのも、単に兄が害されるのを黙って見ていられなかったというのがあるのだが、それはこの異母姉も解っているだろう。
 その上で彼女は、多少の無理は承知で親衛隊に入れと言ってくれたのだ。
 同時にそれは、ナナリーの正体を公表するつもりが無い事を示している。

「しかしあの時キューエルさんたちを止められたのは、ランスロットのおかげです。
 純血派の方々と同じサザーランドに乗っていたら、結果は全く違っていたと思います」

「馬鹿者。私が知らないとでも思ったか?
 あの機体のシミュレーターには先日私も騎乗したが、あれほど馬鹿げた機体は他にない。
 断言してもいい。あの機体を乗りこなせるなら、ナイトメアの操縦技術は十分に親衛隊クラスだろう。
 だから誇れ。自信も騎士には重要なものだ」

 もちろん特派への報酬として予算の優遇も行うと付け加えて、コーネリアがじっとナナリーを見据える。
 彼女は自分で選択しない者や周りに流される者を激しく嫌悪する。そんな者たちなど『脆弱者』の一言でバッサリと切り捨ててきた。
 同時に彼女は己の中に確たる信念を持ち、胸に決意を秘めて上を目指す者をにはそれ相応の待遇を約束する。
 厳しい言葉と厳しい態度でそう締めくくった彼女の奥にある思いやりに気づいたナナリーは、ハッキリした声で『はい』と応えた。

 そんな彼女にコーネリアは、義務を理解し責任を果たしたなら働きに対する評価は素直に受け取るべきだと告げて立ち上がる。
 そのまま執務机の受話器を取り、何か所かへ電話をかけると元のソファーに今度は深く座った。程なくして紅茶のカップが新しいものと取り換えられた時、ふっ、とコーネリアの視線がほころぶ。

「そういえば。あの日は、ユフィの租界散策に付き合ってくれていたそうじゃないか。
 アレは私が無理やり連れてきたに等しいからな、心細い事もあるだろう。よろしく頼む」

 そこにあったのは、もう峻厳たる為政者の顔ではなく、最愛の妹を思う姉の姿だった。

「もちろん、お前の事も私は妹と思っているよ。
 リアス殿ではないが、お前はまだ14歳だろう? 止まり木はまだまだ必要だ。
 私はお前の背中に乗る重みを代わりに背負う事も、一緒に支えてやる事も出来ないが、どうやって持てばいいかくらいは助言してやれる。
 だから、お前も私を頼っていいのだぞ?」

 そしてその顔が自分にも向けられている事に、ナナリーは瞼を震わせる。
 どんなに理由をつけようが、自分が周囲に大きな嘘を付いている事に変わりはない。

 知らずに両肩に降り積もっていた何かが、ふっと軽くなった気がする。
 一筋だけ、透明な雫が頬を伝った。
 常に笑顔で明るくふるまい、出来る限り張りつめないようにしていても、やはり彼女は少女なのだと証明する一粒だった。

「ふふ、ようやく年相応の顔になったな。
 お前の変わりようには驚いたが、やはり根本の部分は変わっていなかったか。
 ナナリー、リリーシャに成りきるあまり、自分を忘れてはいなかったか?

 忘れるな。
 お前は何処まで行ってもブリタニアの皇女、ナナリー・ヴィ・ブリタニアだ。
 これからは、私たちの前でだけはお前はお前でいいんだ。私がお前を護ってやる」

 やっと、コーネリアの一番の懸念は払拭された。
 昼過ぎに執務室に現れ、正体を明かしたナナリーの容姿は確かにあの頃の延長で、彼女は一目でそれがナナリーであると解った。
 マリアンヌ譲りの髪も、薄紫の瞳もそのまま。
 だがその表情は変わり果てていて、まるで『ナナリー』が見えなかった。

 何かが、ナナリーの上に張り付いているような、歪な顔。
 彼女は無理に無理を重ね、しかしそれを悟らせないように歪め、その上にまた重ねた。
 幾層も重なったそれが表にまで出てきた切っ掛けは、やはり先日の事件だろう。

 しかしコーネリアにはそれよりももっと以前から、確実に彼女を蝕んでいったと思えた。
 今、眼の前で晴れやかな笑顔を見せるナナリーを見て、その予測が外れておらず、また自分の選択も間違っていなかったと確信する。

「さて、もうこんな時間か。今日の執務はここまでにしょう。
 一緒に夕食を食べないか? ユフィにもお前が生きていた事を伝えてやりたい」

 ソファーから立ちあがり、手を頭上に挙げて身体をウンと伸ばす。
 コーネリアの均整のとれた女性的なボディラインは、同性のナナリーから見てもハッとさせられる。
 ふくよかな胸と、普段の厳しい表情の間から見えた柔らかい表情に彼女の胸がトクンと鳴った。気にしない事にした。

「―――――」

「……どうした?」

 こくん、とナナリーが唾を飲み込んだ。
 謎が解けてひとまずはこれからだと、挑戦者の笑みでひとつ息を入れたコーネリアとは対照的に、いまだソファーに座ったままのナナリーの顔に影が差す。
 俯いたまま、これが最後の難関だとナナリーは小さく口内でつぶやき視線を上げた。


「コゥ姉様。
 できれば私の事は、ユフィ姉様には内緒にして頂きたいのです」


 何故だ、とは問われなかった。
 代わりに、ナナリーの眼を射抜くコーネリアの双眸が戦人のそれに代わる。
 いくら護るといっても、彼女の中での絶対的な優先者は妹のユーフェミアで、それはどんな事があっても揺らぐ事はない。
 あえてあげるとすればそれはもうひとつの譲れないもの、神聖ブリタニア帝国と天秤にかけざるを得なかった場合くらいだろう。
 少なくともこのような時は、コーネリアの天秤は迷うことなくユーフェミアに傾く事はナナリーも承知していた。

「―――――それは、ユフィが信用できないという意味か?」

 凄みを増した声。
 ナイトメアで戦場を駆けるナナリーでも竦むほどの眼光と敵意が、仁王立ちで見下ろすコーネリアから降ってくる。
 だがそれでも譲れないと、ナナリーはその瞳を見返した。
 嘘ばかりの自分だから、せめて誓いだけは順守する。それがナナリーが自分に課した絶対のルールだ。

「違います。
 私は、“リリーシャ”はあの粛清騒ぎの際に、ユーフェミア副総督に誓いを立てました。
 私に出来る精一杯の力で、副総督のお手伝いをすると。それを副総督も了承して下さいました」

「それが、何か問題なのか?」

「ユーフェミア副総督はお優しい方ですから、もし私の事をお知りになれば、無意識にでも私に優しくされると思います。
 けれどそれは他者から見れば特別扱いでしかない。
 そうなれば当然、私の周囲にも探りが入る。それも非合法な手段で。いまだ騎士を持っておられない副総督ならば尚更です。
 その過程でリリーシャが本当はアルビノだったと知られれば、もうお傍に仕える事も出来ません。ユフィ姉様にも迷惑をかけてしまいます」

 コーネリアとユーフェミアのリ家は、ブリタニアでも有数の大貴族である。
 長兄オデュッセウスや、帝国宰相のシュナイゼルには及ばないものの、十分に次期皇帝の座も狙えるコーネリアとリ家に近づきたい者は多い。
 野心を持つ者たちにとって、彼女が溺愛するユーフェミアの選任騎士は正に格好の獲物なのだ。

 そんな中で、ユーフェミアがリリーシャを特別に扱えば、事情を知らない者から見れば間違いなく誤解され、嫉妬の対象になる。
 探られて傷む腹を持つリリーシャとしてもそれだけは避けなければならないし、それによってユーフェミアやコーネリアの立場が危うくなる。
 彼女は姉と結託して、ひいてはリ家全体がナナリーの生存を皇帝に隠していた事になるのだから。
 そんな事情を、眉根を寄せて切々と語るナナリーに返された言葉は、たった一言。



「あまり私を舐めるなよ、ナナリー」



 凄まじいまでの怒気を孕む鋭い威圧感。正しく絶対零度の氷の刃だった。
 立ったまま見下ろし、ナナリーを一瞥したコーネリアは、彼女の胸倉を両手で掴んで強引にソファーから引っこ抜く。
 その怒りと厳しさに満ちた顔の真ん前までナナリーを引き寄せ、ゴツンと額を当てた。

「その年齢にしては大人びていると思ったが、やはりまだまだ子供だな、お前は。
 私を侮るな、ナナリー。お前の身ひとつ護れなくて、何が第二皇女か。ユフィや貴様の身を害するような不届きものなど、私が全て排除してくれる!
 だから貴様は、私の下でただ真っ直ぐ前だけを見て成長していけばいいのだ。道なら私が作ってやる。よいな!」

 そこまで一息で捲し立て、掴みあげた事で宙に浮いていたナナリーの脚を床に下ろす。
 同時に掴んでいた手は彼女の肩に移動し、今度はしっかりと押さえるように握って、コーネリアはナナリーと向かい合った。

「最も、ここまで歩んでこられたお前なら、そんな道など無くとも自立した脚で歩んでいけるだろう。
 だからユフィだけでなく私にも誓え。もうこれ以上、自らの望まぬ道は選ばないと。
 お前のその明るさは、皇族では稀有なものだ。それを曇らすのはあまりにも忍びない。

 それにいいじゃないか。騎士候補だと思われるなら、思わせておけ。
 最高のタイミングで、実はあのマリアンヌ様の娘であると明かしてやるとしよう。
 痛快だぞ? 嫌がらせをしようとしていた相手が実は皇族で、しかも亡くなってなおラウンズに名を連ねるマリアンヌ様の娘だと知るのだ。さぞ相手は震えあがることだろう」

 そう言ってコーネリアは、肉食獣の笑顔をナナリーに向ける。
 彼女の本質を垣間見たナナリーは胸を詰まらせた。
 『ブリタニアの魔女』の異名まで持つ彼女が、その名を得るに至った理由は何もナイトオブラウンズに匹敵するナイトメアの技量だけではない。

 彼女は、何処までも厳しい人だ。自分にも他人にも、絶対に妥協を赦さない。常にその者にとって最善の選択肢以外を選ばせない。
 たとえ武功を立てても、そこに僅かな綻びがあれば、彼女はそれを容赦なく強引に叩き直すだろう。

 誰も厳しく当る事で嫌われるのを避けるから、好き好んで怒っているのではない。
 それは全て相手と自分の為だ。
 第二皇女という至高にいるが故に、誰にも叱責してもらえない彼女は絶対の秩序を持って己を律する。
 だからこそ彼女は部下に真に慕われ、彼女の下にはその事を自覚し己を磨き上げる事のできる優秀な人材が集まる。
 ギルフォード卿やダールトン将軍は言うに及ばず、アレックス将軍やグラストンナイツもそんな者たちなのだろう。

「返事は?」

「イエス、ユア・ハイネス!!」

 再び背中が震えた。
 踵をそろえ、歓喜と共に最敬礼を返す。

「馬鹿もの。そこは本当のお前らしく『はい』と答えればいいのだ」

 ポンポン、と軽い調子で肩を叩かれる。
 途端に緩んだ彼女の表情は、確かにユーフェミアの姉のものだった。
 ズルイと思う。民への慰撫は苦手というが、それはこのコーネリア総督の御心をくみ取れない相手が悪い。
 彼女もまた、十分に慈しむ心を持った人だとその表情が物語っている。

「ふふっ、そうだ。今夜の夕食にはギルフォードとダールトンも呼ぼう。
 あ奴らは十分に信頼できる。いざという時、頼りになるだろう」

「それは……」

「心配するな、あ奴が秘密をばらすような事は絶対に無い。ならば協力者は多い方がいいだろう?
 私はお前を政治の道具になどするつもりは全くないからな。それに……」

 そこで意味深に、コーネリアは言葉を切った。
 にやりと流し眼で笑い、身を返してナナリーの方を真っ直ぐ見た。

「独力でここまで昇ってきた、自慢の異母妹をあ奴らに自慢してやりたいのだ」

 そうやって最後に「いいだろう?」と眼で問われれば、もうナナリーに否は無かった。
 拳を握り、この姉に跳びつきなくなる衝動を必死に押さえる。
 ナナリーの二人の兄に対する親愛の情はどちらも本物で、それに近い感情を眼の前のコーネリアにも抱いてしまった。
 それだけに、ここを訪れる前に抱いていた汚い思惑がちくりと胸を刺す。
 コゥ姉様は、自分の思惑を解ったうえで、最高の返事を返してくれた。
 そんな彼女を信じられず、その情を利用してやろうと思った自分のなんと浅はかなことか。そんな事出来る筈もないのに。

「はい、お願いします!」

 だから精一杯の明るい声で、瞳からこぼれる雫が喜びであると伝えた。
 自分は、この姉の、いや姉たちが誇れる妹になろう。
 皇族とか、ヴィ家とかなんて関係ない。コーネリアとユーフェミアの自慢の妹になろう。
 改めて、彼女はそう誓ったのだった。


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