『ユーノ!聞こえるか。こちらルーカス。』
『うん、聞こえるよ。あの得体の知れないモノはなんなのかい?』
念話を通してユーノへと連絡を取る。
ユーノ達は混沌の落とし子との交戦経験などあるはずもなく、だとすれば最悪なのはの命の危険に繋がる。
それほどの相手であることはハンスからの話でルーカスは感じ取っていた。
『アレは、ソウル・グラインダーだそうだ。詳しい話は後にする!そいつの口と剣に注意しろ!』
『分かった!』
ハンスからの話を限りなく短く伝え、目の前の状況へ対応する。
目標の黒衣の少女は後ろへ大きく離れ、ラスガン斉射をやりすごした。
だが、そこへルーカスは自身の魔法を射出する。
無詠唱かつ高速度で生成される魔力弾。カレにとって十八番である魔法だった。
[Stinger Ray.]
[Defensor.]
その圧倒的な速さで射出された魔力弾は、これもまた高速自動詠唱の魔力シールドに弾かれる。
が、ルーカスすぐさま次の行動に出ていた。
「第一分隊から第3分隊まで。全武装開け。
弾頭はフラグ弾。第4、5分隊はあのデカブツに一発かましてやれ。」
[Photon Lancer.]
反撃と言わんばかりに少女が紫電の槍を放とうとするが、
その前に林の間を縫って3方向より対人弾頭ミサイルとグレネードが少女に迫り、その場に破片と爆発によって縫い付ける。
次にソウル・グラインダーへと対物ミサイルが2本、背面に炸裂する。
「いいぞ、次はこちらの方向にヒドラ小隊は準備しておけ。」
そういいつつルーカスは上空へと飛翔する。
それを追うように少女は突進し、紫電の槍を高速連射。
ルーカスはそれを魔力盾で防御する一方、ほくそ笑んでいた。
「ヒドラ小隊、撃ち方始め。」
瞬間、森の一地点よりカモフラージュされていた対空機関砲小隊が12門もの機関砲をうならせ始める。
ヒドラ。それは帝国防衛軍の中でもローテク極まりない装備であるが、その用途は航空戦力や反重力ビークルの排除。
禍々しい竜の顎を思わせる4門の機関砲から圧倒的な弾幕を撒き散らす事を得意としている。
その、多頭竜を思わせる弾幕が少女に向けられた。
魔力シールドを用いてかつ高速機動を用いて弾幕を回避しようとしているようだが、それこそがルーカスの狙いだ。
ここまでの流れでルーカス自身が使った魔法は2発。
それに対して少女はシールドを展開し、高速詠唱の自動連射呪文を何発も投入していた。
つまり、コデックス展開によってのハンデはあれど、少女の魔力消費量は段違いだった。
そこへ、ルーカスは少女へとヒドラの援護をうけつつ真上へと迂回しながら接近する。
少女は認識はしているが弾幕の中からでは反撃も対策も取れない。
そもそも少女は未知の戦力たちに対して、優先目標を設定できずにいた。
おびただしい火線と本来強力な魔導師なはずのウォッチャーは強力な魔法を一度も使ってこない。
使ったものと言えば、小手調べ程度のスティンガー・レイ。
すべてがミッドチルダでの常識を超えていた。
[Arcane Power "Push".]
弾幕が突如止まり、ルーカスは飛び込む。
ルーカスは自らの短杖を突き刺すように少女へと突き出す。
その杖の先には至極簡単な呪文をつけて。
それを防御する少女、ほくそ笑むルーカス。
[Incomprehensible.](理解不能)
少女のデバイスがそう呟き、少女もまた得体の知れない力に表情を曇らせざるをえなかった。
そう、防御したはずの攻撃によって、少女達は地表へと叩き落されていたのだから。
少女は咄嗟に持てる力をすべて使って重力と、得体の知れない圧力に耐える。
それを見届けながら、ルーカスは死刑宣告とも言える言葉を分隊へと発した。
「1,2,3分隊。目標が降りるぞ、よく狙え。砲兵小隊、予定ポイントへ砲撃開始。」
待機させた砲兵がついにうなりをあげ、またミサイルとグレネードが着地したばかりの少女へと殺到し、爆風を巻き上げた。
『アレは、ソウル・グラインダーだそうだ。詳しい話は後にする!そいつの口と剣に注意しろ!』
『分かった!』
念話を受け取ったユーノは瞬時に先ほどの状況と頼りない情報を元に敵戦力を計算する。
分かったといったのは、あちらが”取り込み中”だったからだ。
先ほど打ち込んだディバインシューターは通用しなかった。
咄嗟に張ったラウンドシールド1枚は役に立たなかった。
しかしながら防げないわけじゃない。
そして、ユーノはそのアタマの中でひとまずのタクティクスを練り、レイジングハートに送る。
[OK. Indeed, so sure?](了解。本当に、よろしいので?)
『問題ないよ。失敗しても……。』
ソウル・グラインダーの周囲を飛び回る二人。なのははユーノを追従し、ユーノは敵の"口"の出方を伺っていた。
そこへ、すかさずその得体の知れない生物から禍々しい機銃が聞きたくもない肉がちぎれる音をたてて生え、ユーノを向く。
「サークル・プロテクション!」
『傷つくのは僕だ。なのはには一瞬たりとも触れさせないよ。』
半球型の障壁がユーノの周囲に展開され、機銃より尋常ではない速度で放たれる禍々しい物質を弾き返す。
一つでも逃したらどうなるか、そのようなことを気にするときではない。
守るべきものを背負うなら、敗北は許されない。
ミッドチルダでは体験できるはずもない極限とも言える状況を乗り越えるべく、ユーノは自分自身を奮い立たせた。
奮い立たせたユーノは覚悟を決め、なのはに戦術を伝える。単純明快かつ危険が伴うモノを。
「なのはっ!簡単に言うよ。なのはの全力全開をあの化物に!」
「でも、そんな事をしたらユーノ君が!」
戦士ではないなのはでも、「全力全開」を行う前に何が起こるかは容易に分かるはずだ。
それはディバインバスターを放つまでのチャージ時間を、彼が微動だにせずに防ぎきるということだ。
強固な盾であるはずのラウンドシールドを貫通したその舌を、圧倒的な連射速度で叩き込まれる銃を、今だその力が判明していない剣を。
すべて防ぎきるとユーノはいう。
「僕は大丈夫。」
彼に恐怖や不安はないわけではない。
だが、闇雲に戦っても勝機は見えない。
ディバインシューターがそれほど効果をなさない相手であるのなら、一点集中で打ち抜くほかない。
捕縛などという悠長なことも言ってられない。そもそも通用しないだろう。
ともなれば、己を捨て少女の盾になる他無いのだ。
「なのはっ、いくよ!」
[Now,Cannon mode, setup.](現在キャノンモードに移行しています。)
なのはがディバイン・バスターを発射可能になるまで守り通す。
それがユーノ・スクワイアにとって今できることだ。
たとえどうなっても…だ。
[Warning!](警告!)
いとも簡単にラウンドシールドを貫通させた口の一撃を繰り出そうとするが、ルーカスのものだろうか、ソウル・グラインダーの後ろから何かが飛翔し、後部を吹き飛ばす。
これによって一瞬の動きが止まり、ユーノにおびただしい数のラウンド・シールドを構築させることに成功させることになる。
とは言え、ソウル・グラインダーは肉を飛び散らせ、よろめきながらも舌を発射した。
「"ラウンド・シールド"!」
"口"とユーノ、そしてなのはが繋がる一直線へとユーノは十数枚ものラウンドシールドを重ねて張り出す。
そのサイズも通常より少なくユーノがギリギリ収まる程度。
盾と盾の間には等間隔に隙間が開けられ、何段重ねにもなった重装備だ。
そして放たれた舌。次々と盾を破らんとする。
最後の3枚に差し掛かったとき、盾と舌は拮抗し、ユーノは腕を少々震わせながらも耐える。
ここからなのはがディバイン・バスターを発射可能にするまでの時間が彼にとっての正念場だ。
「ユーノ君っ、逃げて!」
なのはがユーノの身を案じて叫ぶ。
だが、ユーノはそれを聞くことをよしとせず残された魔力を次々とつぎ込む。
いや、そもそも追撃に機関銃で攻撃されていたのだから、聞くことすら許されない。
それはただ盾を強化するのではなく、ユーノが知りうる切り札を一つ切るためだった。
3枚目で拮抗するようにしたのもそのため、そして残り2枚の障壁の本当の意味は、舌から守る為ではない。
通常の魔道師ならしないであろう奇行を、何のためらいもなく行った。
「"バリア・バースト"!」
ユーノは自らのシールドを爆破し、その反動によって"舌"が押し戻される。
だが、この一連の動きでもう既にユーノにはあまり魔力がない。
次の攻撃が着たらユーノはその身を犠牲にするつもりでいた。
だが、そこまではしなくてもいいようだ。
[Cannon mode, setup. You can shoot "Divine buster".]
(キャノンモードに移行。ディバインバスター発射できます。)
「いくよっ、全力全開!"ディバインバスター!"」
なのはは自身の全力を振り絞った攻撃を、ユーノ越しに行う。
その桃色の光の奔流は禍々しいソウル・グラインダーへと真っ直ぐ向かったのだった。
両者ともに既に勝利の影はちらついているが、それがまだそうであるか両者ともに確実であるか確認はこの時点ではできなかった。