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No.18214の一覧
[0] 片腕のウンディーネと水の星の守人達【ARIA二次創作】[ヤオ](2012/02/28 02:05)
[2] Prologue 『アクシデント』[ヤオ](2012/02/24 01:44)
[3] Prologue 『守人達のデブリーフィング』[ヤオ](2012/02/24 01:39)
[4] 第一章 『スタートライン』 第一話[ヤオ](2012/02/24 01:41)
[5] 第一章 『スタートライン』 第二話[ヤオ](2012/02/28 00:56)
[6] 第一章 『スタートライン』 第三話[ヤオ](2012/02/24 01:41)
[7] 第一章 『スタートライン』 第四話[ヤオ](2012/02/24 01:42)
[8] 第一章 『スタートライン』 第五話[ヤオ](2012/02/24 01:42)
[10] 第一章 『スタートライン』 第六話[ヤオ](2012/02/24 01:42)
[11] 第一章 『スタートライン』 第七話[ヤオ](2012/02/24 01:42)
[12] 第一章 『スタートライン』 第八話[ヤオ](2012/02/24 01:43)
[13] 第一章 『スタートライン』 第九話[ヤオ](2012/02/28 00:57)
[14] 第一章 『スタートライン』 第十話[ヤオ](2012/02/28 00:58)
[15] 第一章 『スタートライン』 最終話[ヤオ](2012/03/10 22:21)
[16] Epilogue 『そして始まる、これから』[ヤオ](2012/03/02 00:09)
[17] Prologue 『One Day of Their』[ヤオ](2012/03/02 00:13)
[18] 第二章『ある一日の記録』 第一話『機械之戯妖~前編~』[ヤオ](2012/03/22 21:14)
[20] 第二章『ある一日の記録』 第一話『機械之戯妖~後編~』[ヤオ](2012/03/24 02:45)
[21] 第二章『ある一日の記録』 第二話『23世紀の海兵さん ~前編~』[ヤオ](2012/03/28 02:39)
[22] 第二章『ある一日の記録』 第二話『23世紀の海兵さん ~後編~』[ヤオ](2012/04/22 02:42)
[23] 第二章『ある一日の記録』 第三話『Luciferin‐Luciferase反応 ~前編~』[ヤオ](2012/09/20 19:45)
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[18214] 第一章 『スタートライン』 第七話
Name: ヤオ◆0e2ece07 ID:17930650 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/24 01:42
アッリ・カールステッド(Alli・Carlstedt)
『ネオ・ヴェネチア ミドルスクール』在校生
『ウンディーネの寝所』







・・・・・・どれぐらい歩いただろうか、わたしは一瞬だけど目が眩んだ。
ここへ来る直前まで薄暗い茂みを歩いてきたから、急に茂みの切れ目から射してきた太陽の光に、暗闇に慣れていた目が驚いたのだと思う。
やがて光に目が慣れると、断崖絶壁に囲まれた小さな浜辺と小さな湾が目に映った。
静かな、されど耳にはっきりと残る透き通るような波の音ともに。







森を抜けると、そこは別世界だった。







ザザァン、ザザァァン・・・・・・。ザザァン、ザザァァン・・・・・・。

「ふっわぁ・・・・・・きれい、なのですよ・・・・・・。」

キラキラと光る白い砂浜に、どこまでも青く感じる海が作り出す穏やかな波が打ち寄せる。その波音はまるで磨き上げられた、自然と言う職人が作った精巧な楽器のようにも感じた。
この湾はどうもトンネルのような海側の崖にできた洞窟を通じて外の海とつながっているようで、そこから波が入ってきているようだ。
その波の音はわたしが抱え込んでいたものを流し去ってくれるような、優しいララバイのよう。
・・・・・・ほぁ~。まるで、お父様が好きだと言っていた水上機乗りの豚さんが出てくるマンホームの古典アニメのワンシーンを切り抜いてきたかのような風景なのですよ。砂浜の中央にいくつかのパラソルや椅子、とっても旧式のラジオにネオヴェネチアで発行されているいくつかの新聞までありますし。
そういえば、あのアニメの舞台もアドリア海でしたっけね。これで水上機を止めるための浮きまであったら完璧なのですよ。
さらにパラソルの周りにはダイビングのための道具でしょうか、何本ものボンベや機材が置いてあるのが見えます。あと、なぜかゆらゆらと湯気の立つ大なべもあるようです。
空を見上げれば崖に切り取られたまあるい水色のキャンパス。そこは雲が複雑な形状を描き、前衛芸術のようなどこか別世界に引き込まれるかのような雰囲気を放っていた。
なんだか心がドキドキワクワクしてくるのですよ・・・・・・そう、秘密基地みたいで。エレットさんが言っていた秘密とはここのことなんでしょうか。
そして、ここも・・・・・・これまでのように、微かに懐かしいようなデジャヴを感じるのです。
こう、何て言うんでしょうか。恋い焦がれるような・・・・・・とでもいうんでしょうか、この求める心を言い表すには。とても、とってもこのデジャヴの正体を探りたくなる。
どきどきドキドキ。
そわそわソワソワ。
少し不思議な感覚が体を抱いて、包み込む。

「どうしたの。すこし様子が変?」

「あ、いえ。なんでもないのです。」

わたしの変な様子に気づいたのか、エレットさんが声をかけてくる。
このデジャヴの正体を明かすのはまた後で。今はただこの素敵な場所を精一杯全力で楽しもう、体全体で感じよう。
アイリーンが、エレットさんが、わざわざ案内してくれたのだから。

「大丈夫そう? ではでは、コホン。ここが、私やリーン、そしてネオヴェネチアハイスクールダイビング部OB・OGの秘密基地『ウンディーネの寝所』。」

「ここが『ウンディーネの寝所』ですか・・・・・・これが、さっき言っていた『秘密』ですか?」

秘密を共有する仲間の件の『秘密』とは、このことだろうか。こんなに綺麗な場所ですからね、わたしだったら秘密にして隠したくなるのですよ。
そう思ったのですが、

「いいえ? 詳しいことは潜ってから? ここはまだまだ入り口、かな?」

違うそうなのですね。
フムン、彼女が言うにはここは別に秘密にするほどではないとのこと。ネオアドリア海に浮かぶ島では別段不思議な地形ではないらしい。
もっとも、ここまで湾の入り口が狭いのは稀だと注釈を入れる。

「さてと、じゃあみんな自己紹介? まずは招待客であるアリカちゃんから? とと、アリカってのは渾名だからね、みんな? じゃ、お願い?」

「あ、はい。」

エレットさんにそう返事してから、わたしは周りをぐるりと見渡す。
わたしをエレットさんを含めて、7人の人影が囲っていた。
わたしは人見知りする方ではないと思っている。でも、こんな風に大人の人たちに囲まれるというのは・・・・・・威圧されているようで、少し怖い。

「あ、アッリ・カールステッドです。卒業証書をもらっていないから、まだネオヴェネチアミドルスクールに在学中ってことになっています。ええと、今日は初めてのダイビングなので、よろしくお願いします。」

7人がそれぞれ「よろしくー。」「頑張ろうね。」やら様々な返答を返す。そして、その7人の中から「じゃ、自己紹介は私からいくね。」と言って、緑がかった色の髪をざっくばらんにショートにした小柄の女性が飛び出てきた。

「私はネオヴェネチアのダイビングショップでネオヴェネチア周辺の海のインストラクターをやっている小日向 光(こひなた ひかり)と申します! 今日は私たちがしっかりとサポートするからね! だから、大丈夫っ! 安心して一緒に潜って楽しんじゃおーよ!」

えーと。この女性は小日向 光さん。彼女は無駄に明るいって事でみんなから『ぴかり』と呼ばれているそうです。
うむ、そのあだ名が非常にしっくり来るのです。こっちまで明るく元気になりそうなぐらい天真爛漫な、まるで太陽みたいな人です。
うーん、わたしも『ぴかり』さんと呼んでしまいましょうか。

「今日はよろしくね? 私は大木 双葉(おおき ふたば)です。ネオヴェネチアでお菓子屋さん兼喫茶店の『夢ヶ丘』ってお店をやっているから、今度良かったら来てみてね? 私は本職のインストラクターじゃないんだけど、教えることの可能なライセンスも持っているしダイビング歴も結構長いから遠慮なく頼ってね?」

彼女は大木 双葉さんです。ロングの艶やかな黒髪の女性です、同性でも見ほれるような綺麗な髪なのですね。ちょっとうらやましいです。
ふーむ・・・・・・喫茶『夢ヶ丘』って、前になにかのテレビの特集で見たような気がするのです。そのお店の店長さんのようですね。よし、今度行ってみましょうか。
それにしても、彼女のあだ名は『てこ』だそうです。由来が分かりませんが、あだ名とは結構由来が分からないものです。気にすることはないか。
彼女達からは自分たちのことをあだ名『ぴかり』『てこ』で呼んで欲しいとの事。

「君がアリソン先輩が言っていたアリカちゃんだね? ダイビングは初めてだろうけど、ここは深くても5、6メートルぐらいだから、基本をしっかり守ってオレ達の言うこ「長いっ! 喋りすぎ!」ぐあっ!」

「私がコレの姉の二宮 愛(にのみや あい)、んでコレが弟の二宮 誠。ご覧のとおり双子ですっ。ダイビングは安全なだけじゃないから、私達の言うことをしっかり聞いてちゃんと守るように。いい? まぁ、私達もてこちんやアリソンと一緒で本職のインストラクターじゃないけど、経験豊富な自信はあるよ。だから存分に頼ってもOK・・・・・・ってか、頼らないとダメ。分かった?」

「はい、分かったのですよ。」

細目の男性が二宮 誠さんで髪をツインテール状にした女性が二宮 愛さんですね・・・・・・うーん、二宮 愛さんのほうはどこかで見たことがあるような?
・・・・・・ああ!

「えーと、もしかして二宮 愛さんは漫画とか描いていらっしゃいますか?」

「ええ、そうだけど?」

「もしかして、『ハテシナイソラ、シンエンノウミ』っていう離島で生きるダイビングインストラクターの少女と本土との連絡機の若いパイロットが主役の漫画を描いていますよね? わたし、その作品のファンなんですよ!」

「へぇ、よかったじゃないか、姉(あね)さん。というわけで、さっさと原こってアグッ!「いつも締め切りには間に合っているでしょ? そう何度も同じこと言わないの!男なら、もう少しどっしりと構えていなさい。 はぁ、全くこのやり取りも何度目なんだか・・・・・・私は確かにその作品の作者よ。ありがと。ちなみにコレは私の担当兼アシスタントよ。双子で漫画を作っているようなものね。」なにゆえ、毎度毎度蹴られるんだよ、まったく。」

やっぱりわたしの好きな漫画の作者さんでした。著者近影で見たことがあるんですよ。まさか実際に会えるとは思いもよりませんでしたが。
しかし、なるほど。あの水中描写の多さや綺麗さが売りの作品が生まれたきっかけは彼女自身のダイビングの経験があったんですね。
・・・・・・それにしても二宮 誠さんはあんなに強く蹴られて痛くないのでしょうか。まぁ、ぴかりさんやてこさんが何も反応しないので、これはいつものやり取りのようですし、あれが二宮 愛さんにとっての愛情表現なのかもしれませんね。それにしたって、少し強すぎだとは思ったけど。
ともかく、彼らはそれぞれ『姉(あね)ちゃん』『弟くん』などと呼ばれているそうです。わたしは『姉(あね)さん先輩』『弟(おとうと)さん先輩』と呼ぶことにしました。
そして、この4人はミドルスクールの卒業生。つまりはわたしやアイリーンの先輩に当たるというわけです。
彼らはダイビングサークルで知り合ったそうです・・・・・・サークル自体は今は解体されてしまいましたが、小日向さんのダイビングスクールにダイビングがやりたいミドルスクール生は行っているそうです。

「ん、じゃ次は私? アリカちゃんには一度自己紹介したけど、もう一度? アリソン・エレットよ。一応この湾の管理者かな? 発見者は別だけどね、私のほうが長くここにいるから。今日は楽しんでくれるとうれしいかな? それじゃ改めてよろしく?」

「よろしくお願いしますのです。」

さて、エレットさんの自己紹介が終わり、あとは他のメンバーより少し大人な感じの二人が残ったのですが・・・・・・なにやら怪しいのですよ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、ちょっと待って。アイリーンがいつのまにかこのダイビングチームに入っていたのも驚いたけど、なんで彼女までいるの?」

「はぁ、だから言っただろ? お前はアイリーンとちゃんと連絡をとれってな。まったく最初からそうしていれば、ここで驚くことは無かっただろうに。彼女とアイリーンが同じ学校、さらに同年代ということで知り合いである可能性は俺も少しは考えはていたがな。しかし、まさかここを教えるぐらい仲が良いとは思いもよらんかったさ。正直、俺も驚いているんだ。ふむ・・・・・・ここへ来てからも、ちゃんと位置情報を逐一確認しとくべきだったのか?」

「いや、病院の関係者でもないのにそんなことしちゃだめでしょ。プライベート、特に年頃の女の子の場合は繊細なんだから。」

「お前のようにか?」

「むっ、怒るよ?」

小声でひそひそと話をする女性と男性。この二人もどこかで見たような、そんな気がするのです。

「あの、アンさん軍曹さん。自己紹介はしないんですか?」

てこさんがそう声をかける。
軍曹? 軍事組織か何かに所属しているのでしょうか?
うーん、このAQUAには軍事組織は・・・・・・お父様とお母様のいたAQUAコーストガードぐらいしか思いつかないので、AQUAコーストガードの人、なんでしょうか。

「あー、うん。てこちゃん、分かってるよ? うん、分かってる。あーあー、ねぇ軍曹。どうやって切り出したらいいと思う?」

「どうやってって・・・・・・お前は何も悪くないんだから、普通に自己紹介で良いだろ。」

「普通、ねぇ・・・・・・うーん、ちょっと緊張しちゃって。こうやって助けた人と再会するのって、あまり無いからさ。まぁ、けど、うん・・・・・・やってみる。」

ぬぬぬ。聞き耳を立ててみても、全く聞こえないのですよ。
大の大人が、わたしがたとえ年下だとしても、人前でコソコソコソコソと内緒話するのはだらしがないと思うし、失礼だと思うのです。
などと思っているうちに、どうやら相談も終わったようです。やれやれ。

「そ、それじゃ私から。私はアンネリーゼ・アンテロイネン。AQUAでのアイリーンの保護者「保護者失格だがな。」割り込むな!「違ったのか?」あ、うう。もう! えっと軍曹はもう放っといて・・・・・・私は貴女やアイリーン、それに彼らと同じミドルスクール出身でね、何期も上だけど先輩だよ。そして、こっちの彼が・・・・・・。」

「軍曹でいい。身内じゃ、こいつはほぼ俺を指す固有名詞だ。俺を呼ぶときはソレで頼む。ま、今日のダイビングは楽しんでくれ。俺やアンは人命を救う仕事・・・・・・俺とアンはAQUAコーストガードの隊員だからな。」

「AQUAコーストガードの隊員・・・・・・ですか。」

お父様は精々いくつかの港湾警備ぐらいが関の山だったコーストガードを、今のようなAQUA周辺やAQUA~マンホーム間のシーレーン警備すらも可能な組織に育て上げた『コーストガードの大親父』などと呼ばれた英雄的存在だったらしいし、お母様は泣く子も黙る鬼教官、そして優秀な隊員を数多く輩出する名教官だったらしい。
正直なところ、わたしにはピンとこなかったけど。
お父様はグータラだったし、お母様は・・・・・・ああ、なんだか今思い出すと分かるような気がするなぁ。鬼教官も名教官のどちらも言われた理由が。
この二人が言葉通りにAQUAコーストガードに所属していたら、確かにわたしの両親のことを知っているだろうし、間接的とはいえわたしの事も知らないはずがないだろう。
もうお父様とお母様のことは思い出すことしかできないのですね。
自然、つい自分の世界に沈み込んでしまいそうになる、泣きそうになる。
ははっ、いけませんね。しんみりとした雰囲気を招待客のわたしが作っちゃ。グッと唇を締めて耐えることが出来たのは、ここのありとあらゆるものを吹き流すような雰囲気のお陰か、周りにあまり恥ずかしい姿を見られたくないという生来の癖のせいか。
それにしても。聞けば、アンテロイネンさんに軍曹さんはなかなかここへは仕事の都合で来れなかったらしい。そしてあの4人と会うのも久しぶりだったそうです。そんな久しぶりの再会を邪魔しちゃいけないとおもうのですよ。
そして、わたしは顔をしっかりと上げてアンテロイネンさんを見て・・・・・・・・・・・・ひいてしまった。自然と足が一歩下がり、顔がうわぁとゆがむ程度には。

「そういうことだから例え貴女が危険になっても大丈夫よ、私達はプロだから!」

そうぺカーという音まで聞こえてきそうな顔で明るく言い放つアンテロイネンさんの手には緊急救急キット(AQUAコーストガード専用)と大文字で書かれた赤い箱が抱えられていた。
そして軍曹さん(本名を教えてくれたっていいと思うのですよ)は、緊急用ボンベや大型のダイバーナイフ、頑丈そうなロープ。さらには圧縮空気を用いることによって握り拳大にまで小型化することに成功した救命浮き輪にビーコン浮き(SOSを出す浮き)などなど、専門的なものを含めた海での救助作業に必要な七つ道具的なものを準備していた。
・・・・・・シャ、シャレにならないと思うのですよ、あれらを持ち出されたら。
いつの間にか、足がもう一歩下がっていた。だって、あの二人。すっごくいい笑顔で、まるで『どうだっ!』って言わんばかりの顔で準備しているのですよ!
やる気があるのがとってもよく分かって、非常に心強いのですが・・・・・・。

「アンおばさんには、できれば活躍して欲しくないなぁ・・・・・・まぁ、心配しなくても私がしっかりとサポートするから大丈夫っ・・・・・・それにさ、これ見よがしに準備しちゃアッリを怖がらせちゃうよ。私が彼女を呼んだ理由を分かって欲しいなぁ?」

「うっ、ごめんねアイリーン。安心させなきゃって思ったからなんだけど。」

「アンおばさんはそうだろうけど、たぶん軍曹は違うよね?」

「・・・・・・まぁ、つい何時もの癖がな。こんな時でもどうにもこうにも。すまん。」

「ふふっ、謝ればよろしい・・・・・・なんて言うと思った? ということで・・・・・・「ぬぐぉっ!」・・・・・・これでよし。やっほ、アッリ! どう、ここは?」

と、そこへ先ほどまでガチャガチャと機材の点検整備をやっていたアイリーンが来たのですよ。
アンネリーゼさんと軍曹さんに二言三言話し、なぜか軍曹さんの膝に前から蹴りをかました後(このときのアイリーンは半目で少し怖かったのです)、こちらへクルッと体を向けてそう言った。

「え、えーと、そうですね。きれいなところだとは思ったですよ、なんだかずっと大切にしたい宝箱のようにも思いました。」

「ふふっ、そうだね。私達もそう思うよ。ここを知っているのは今ここにいる面子以外だとジノさんって人と一部のダイビング部のOB・OGぐらいかな。アンおばさんの友人の軍曹さんがここを発見して、ここを秘密にしたんだ。それこそ、この湾を私有地にまでしちゃってね。」

「ということは、ここは軍曹さんの土地なんですか? ほへぇ、それはすごいですね。」

湾一つを私有地にしてしまうとは、なかなか出来ないのですよ。軍曹さんはお金持ちなのでしょうか。

「まぁ、な。おかげで今も借金があるがな。後悔はしてないぞ。」

と、軍曹さんから言葉が。なるほど、お金持ちではありませんでした。それにしても、借金までしたなんて、相当ここに入れ込んだんですね。
まぁ分からないでもありません。この素敵な宝箱は誰だって独り占めしたくなると思うのです。

「本当はアンおばさんにだけ、ここの秘密を教えるつもりだったんだよ。軍曹さんは。」

「ほっとけ、昔の話だ。」

なんだかアイリーンが軍曹さんをからかっている様なのです。ふむふむアンさんと軍曹さんは何やら上司と部下、友人同士以上の関係でもあるのでしょうかね。
まぁ昔の話だそうなので、今は違うかもしれませんが。
それにしてもアン『おばさん』ですか・・・・・・おばさんと言うほど、アンテロイネンさんは年を取っているように見えないのですが。

「ああ、そういえばアッリにはまだ言っていなかったよね。アンおばさんは私の母さんの妹なんだ、だから叔母さん。彼女が私のAQUAでの保護者だよ。あんまり居ないから本当に好き勝手やらせてもらってるけど。おっと、もう一つ言っていなかったね。私はマンホームからの留学生なんだ。」

「そうだったんですか?」

うーむ、初めて聞いたのですよ、そんなことは。ネオヴェネチアに関して、特に陸の上にあることは私より良く知っていますから、てっきりちゃきちゃきのヴェネチアっ子だと思っていたのですが、違ったのですね。
それに、ほとんど居ないのに保護者って言ってもいいのでしょうかね、アンテロイネンさんを。まぁあれですか、アイリーンがしでかした事の責任を取る書類上の保護者でしょうか。だとしたらお疲れ様と言いたいですね、一見優等生のアイリーンですが、結構問題児なのですよ。気苦労も多いでしょうね・・・・・・事実ゴンドラ部時代はそうだったのです、部長のわたしの胃は大変でしたよ。毎回毎回、彼女が何かしら事件を起こすたび、キリキリと痛む胃を労わりながら関係各所に謝罪行脚をしたものです。

「ま、詳しいことはお昼に話そうよ。ぴかりさん、とりあえずは、アッリの練習のために一本潜りませんか? ウンディーネの寝所の名前の所以の出来事が起きる時間まではまだ半日あるから、水中で呼吸することに慣れさせときたいです。」

「うん、そうだね、アイリーンちゃん。私もそう思っていたところだよ。じゃ、一本潜ってみてみよっか。それじゃあ、皆準備してー!」

最初の準備は水着に着替えること、スーツを着て機材を背負うのはその後だ。
わたしはアイリーンに手を引かれ、ぴかりさんやてこさん、姉さん先輩にアンネリーゼさん、そしてエレットさん達と共に、何時も着替えに使っているという崖の下の岩陰に作られた、少しボロっちいバラック小屋へ行った。
ちなみに男性二人はその辺の岩陰らしい。
さて、いよいよ着替えるのですが、ここで一つ問題が。

「あの、いいですか? 水着とか替えの下着とか、わたしここへ持ってきてないですよ?」

そう、わたしは水着を持ってきていないのだ。そもそもアイリーンは潜りに来ることを内緒にしていたのだから、わたしの現在の所持品は財布とかその程度のものなのですよ。

「だーいじょうぶっ! ちゃーんと私が持ってきといたよ! たぶん、アッリのお気に入りの奴。」

「え、あ、ありがとうございます。」

アイリーンがちゃんと持ってきてくれていたようなのです。わたしの髪の毛と同じ薄いクリームシチューのような白を基調とし、赤い模様がワンポイントを添えたお気に入りの下着。水着もひとまず安心・・・・・・って、あれ?
ここで一つの疑問が・・・・・・なんで、アイリーンがわたしのお気に入りの下着が分かったのでしょうか?
水着はまだ分かる。アイリーンとは、いっしょに泳ぎに行ったこともあるし、そのときにこの水着がお気に入りだといった覚えがある。
でも下着は・・・・・・?
じっとアイリーンを見る。

「・・・・・・あはは。」

アイリーンは黙って目線をそらしたのですよ。これは、あやしい。

「じとー。」

「・・・・・・なははは・・・・・・。」

わたしがジッと彼女を見やれば、やっぱり彼女はあさっての方向を向いてごまかすように笑う。

「まぁ、いいのですよ。結果的に助かったのですから。あなたがどうやってわたしの家で下着のある位置を、お気に入りのものを知ったのは、この際置いておきましょう。」

「あ、ありがと。」

追求しても仕方ないのですよ、どうせ答えてはくれないのですし。
まぁ、『たぶん』と言葉の前に付けていたから、きっと彼女はわたしの髪の毛の色からソレっぽい奴を箪笥から探してきたのでしょう。
人にあった何かを見つける、探すといったことはアイリーンの得意分野ですし。旅行代理店とかに勤めれば、一目お客様とあっただけで、お客様がもっとも満足するコースを見つけてしまうんじゃないでしょか。

「その水着、かわいいね。」

「ありがとうございます、てこさん。」

水着を着ると、てこさんからそういう言葉が。かわいいとほめて貰うのはうれしいのですよ。照れて、少し耳が赤く、そして熱くなる。
・・・・・・ただ、この水着はかわいいだけじゃないのです。色々とアタッチメントがありまして、それで様々な水着のタイプに替えれるという優れものなのです。
今回は動きやすいように一番基本の何も付いてないツーピースタイプを選択したのです。
これを買ったとき、アイリーンには男の子回路を持っているねと言われてしまいました。いいじゃないですか、換装や合体。ロマンですよ。

「みんな着替え終わったー?」

もう既に着替えを終わらせたぴかりさんが、外から、バラック内でまだ着替えているみんなに声をかける。その声で、アイリーンやでも若干名、着替えが終わってないのです。
てこさんです。てこさんはそもそも普段着から着替えようともしてないのですが。

「てこさん、着替えないんですか?」

「ああ、私はちょっと陸でやらなきゃいけないことがあるから。でも、後でもう一本潜るときはちゃんと潜るよ。じゃ、がんばってね。」

「あ、はい。」

「アッリぃー! 着替え終わったぁー?」

とと、てこさんが着替えないとしたら、わたしがこのバラックに残ってる最後じゃないですか。
急がないと。

「い、いま行くのですよっ!」

「あ、このバラックちょっと古いから、気をつけ「あひゃんっ!」」

ゴロン、ドスン、ドンガラガッシャーンッッ!!

「・・・・・・てね、先に行っといたほうが良かったかな・・・・・・って、そんなことより、怪我はない!?」

慌てて外に出ようとしたら、せ、盛大にこけてしまったのですよ。
どうも床に段差があったようですね。
わたしが転んでしまった拍子に、なんか上から色々落ちてきたのですよ・・・・・・うう、痛い。

「アッリッ! 大丈夫!?」「アッリちゃん、大丈夫だった!?」

「あ、アイリーン、ぴかりさん。大丈夫です、ちょっと痛いけど平気です。あの、この落ちてきた奴、片付けるの手伝ってくださいませんか?」

「いいよー。」「もちろん。」

アイリーンとぴかりさんはわたしのお願いに快く承諾してくれました。
アイリーンは分かるのですが、ぴかりさんも出会ってからまだ僅かしか経ってないのに、本当にありがとうございます。
それにしても・・・・・・随分といろいろなものが落ちてきたんですねぇ。
大昔のマンホームで使われていたという一眼レフカメラや、はじめて人類が月に降り立ったときの宇宙船の模型、なんだか懐かしい感じのするすすけたやかんに、とても簡単なつくりの刃の錆びた折りたたみナイフ。牛肉、野菜入りと描かれた看板。・・・・・・わたしたちよりもずっとずっと昔の人たちの物ばかりが、子供の宝箱をひっくり返したように、山となっていた。
それらをアイリーンやぴかりさん、てこさんと協力して、古いものだから傷つかないように片していく。
そして。山がなくなるかとなったときに、わたしは気づいた。
その山の下から、明らかに違う年代のものが顔を覗かせていることに。

「・・・・・・これは?」

「ああ、なるほど。アッリちゃんが転んだ拍子にまずこれが落ちてきて、その衝撃で他のも落ちてきちゃったんだね。」

それは、幼い子供が乗るようなサイズの小さな小さなゴンドラでした。
古ぼけて、今水の上に浮かべたら、きっと浸水して沈んでしまうだろう、ひどく痛んでしまった小さなゴンドラ。
わたしは、それを無意識的に抱え上げる。
・・・・・・なんでだろう、とっても懐かしい感じがするのです、このゴンドラからは。
この古びて、木目が黒くなってしまっている所に、意識が吸い込まれるかのように感じる。

「・・・・・・よしっ! これでアッリが持ってるそのゴンドラだけで片付け終了だよっ!」

「あ、はい。」

でも、アイリーンのその声にわたしはゴンドラから意識を離し、それをコレクションの開いた場所に置いた。
デジャヴも感じなかったし、きっと気のせいだろうと思いつつ、でもどこか後ろ髪を引かれるような微妙な心境で、わたしはバラックを出て、アイリーンたちと合流することにした。














「それにしてもあの量のコレクション、軍曹さんが集めたんでしょうか?」

「なんでも、軍曹さんの憧れの人が集めていたのを持ってきたんだって。」

「なんで?」

「そこまでは知らないよ。ああ、でも・・・・・・もしかしたら、ここは本当は軍曹さんが見つけたんじゃなくて、その憧れの人が見つけて、それでここに自分のコレクションを持ってきただけ・・・・・・って、ことは?」

「根拠は?」

「あのバラックがどうみたって『10数年』は経っているように見えるから、かな。軍曹さんが自分で立てたって割にはしっかりしてるし、ソレでいて古いから。」

「『10数年』、ですか・・・・・・。」







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