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No.18214の一覧
[0] 片腕のウンディーネと水の星の守人達【ARIA二次創作】[ヤオ](2012/02/28 02:05)
[2] Prologue 『アクシデント』[ヤオ](2012/02/24 01:44)
[3] Prologue 『守人達のデブリーフィング』[ヤオ](2012/02/24 01:39)
[4] 第一章 『スタートライン』 第一話[ヤオ](2012/02/24 01:41)
[5] 第一章 『スタートライン』 第二話[ヤオ](2012/02/28 00:56)
[6] 第一章 『スタートライン』 第三話[ヤオ](2012/02/24 01:41)
[7] 第一章 『スタートライン』 第四話[ヤオ](2012/02/24 01:42)
[8] 第一章 『スタートライン』 第五話[ヤオ](2012/02/24 01:42)
[10] 第一章 『スタートライン』 第六話[ヤオ](2012/02/24 01:42)
[11] 第一章 『スタートライン』 第七話[ヤオ](2012/02/24 01:42)
[12] 第一章 『スタートライン』 第八話[ヤオ](2012/02/24 01:43)
[13] 第一章 『スタートライン』 第九話[ヤオ](2012/02/28 00:57)
[14] 第一章 『スタートライン』 第十話[ヤオ](2012/02/28 00:58)
[15] 第一章 『スタートライン』 最終話[ヤオ](2012/03/10 22:21)
[16] Epilogue 『そして始まる、これから』[ヤオ](2012/03/02 00:09)
[17] Prologue 『One Day of Their』[ヤオ](2012/03/02 00:13)
[18] 第二章『ある一日の記録』 第一話『機械之戯妖~前編~』[ヤオ](2012/03/22 21:14)
[20] 第二章『ある一日の記録』 第一話『機械之戯妖~後編~』[ヤオ](2012/03/24 02:45)
[21] 第二章『ある一日の記録』 第二話『23世紀の海兵さん ~前編~』[ヤオ](2012/03/28 02:39)
[22] 第二章『ある一日の記録』 第二話『23世紀の海兵さん ~後編~』[ヤオ](2012/04/22 02:42)
[23] 第二章『ある一日の記録』 第三話『Luciferin‐Luciferase反応 ~前編~』[ヤオ](2012/09/20 19:45)
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[18214] 第一章 『スタートライン』 第九話
Name: ヤオ◆0e2ece07 ID:17930650 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/28 00:57








なぜ、だろうか・・・・・・ひどく懐かしく、優しい感じのする夢をわたしは見ていた。
まだまだ幼い頃のわたしがぶかぶかの何処かで見たような矛のようなマークがプリントされたジャケットを羽織っていて。そんなわたしを父のように大きく広く硬い背中に負ぶい、さやさやと風の流れる夕暮れの中を進んでいく若い男。
顔の見えぬ男がぎこちなくつむぐ歌は、どう間違ってもそうは聞こえないはずなのに、まるで子守唄のようで。そしてどこか聞き覚えのある、いやわたしのよく知る歌。
これって・・・・・・わたしが始めてモノにしたカンツォーネ(舟歌)?
まだヴェネチアがマンホームに存在していたころからゴンドリエーレ(今で言うウンディーネ)によって歌われていたという古いカンツォーネ。
初めてそれを覚えたいって言ったとき、顧問の先生はひどく驚いた。よほどマニア向けの本じゃないと載っていないぐらい古いカンツォーネだって。
なんでそれを覚えようって、思ったんだっけ・・・・・・そうだ、どこか耳に残ってたんだ、この男の歌った歌が。
いつしか歌は止み、男は言う。

「な? ちゃんと漕げれるようになっただろ? 時間はかかっても動けば必ず何かが変わるんだ。」

寝ている奴に言っても無駄か、そう笑いながら、わたしの方へ肩越しに振り向こうとして・・・・・・・・・・・・・・・・・・












・・・・・・っり、アッリ、アッリってば! 起きろー!

「・・・・・・あぅ?」

優しく肩をゆすられる感触で、わたしは意識を覚醒した。ぼやけた視界一杯に広がるアイリーンの微笑む顔。

・・・・・・ふに。

と後頭部に感じる柔らかい感触でわたしはどうも膝枕されて・・・・・・されて・・・・・・膝枕?
急に心臓の鼓動が早まる。
ドキドキと目線を横へ逸らせば、水着に覆われた・・・・・・・・・・・・いや、見てはいけません考えてもいけません!
たとえ同性同士だとしても、なにかイケナイと思うのです。この至近距離では。
それにしても、この後頭部の柔らかいフニフニとしたアイリーンノ太ももの感触、なんともいい難い気持ちいい感触ですね。って、そうじゃないのです!
そこはかとなくどころか、このままではやはりヤバイ気がしてくるのですよ!
ああ、でも・・・・・・もっと長く感じていたいと思うのです。
しかしです、長くこの感触を楽しんでいたりしていたら、やはり女の子としてノーマルな域を出てしまうかもしれません。
ううう、なんとも名残惜しい気がするのですが・・・・・・とにかくこうなったら、一刻も早くこの体勢から脱出せねば。
そう、わたしはのーまるなはずなのです。
そして、この魔の沼から脱出すべく、一切の魅惑を振り切って体を起こそうとして・・・・・・

「うひゃぁ!?」

「あいたぁー!?」

が、わたしが起き始めていた事に気づいていなかったのか、アイリーンのおでこに急に跳ね上げた頭は勢いよくぶつかり、ゴーンと景気のいい音が浜辺に響いた。

「ごめんなさい!」

「うう、大丈夫。大丈夫だけど・・・・・・うーん、やっぱり痛い。」

「本当にすみません!」

「いや、大丈夫だから・・・・・・めいびー。」

おでこを抱えてうずくまるアイリーンと、彼女に頭を何度も何度も下げるわたしの影が、夕日に赤く染まりつつあった浜辺に伸びてゆくのであった・・・・・・・・・・・・

「いや、そうじゃないだろ。いい加減に戻って来ないか?」

軍曹さんがそう言いながらポコンと頭を小突くことで、ようやくわたしは周りの状況に気づいた。
周りを見渡せば、そこはわたしが逃げ込んだ森の奥深くじゃなくて、案内されてきた砂浜だった。
赤く染まった太陽は燃える水平線に触れようとしていて、その反対側の水平線はきっと夜の帳に覆われていることでしょう。
湾を覆う崖の影は長く伸びて、この猫の額ほどの浜辺の殆どを覆っていた。そして湾の入り口からは光が一筋差し込んで、わたしたちの居る場所だけを影から切り取って照らしていた。
状況を統合すれば、つまりは夕方なのです。
次のダイビングは夕方ぐらいだと言っていたので、その前にアイリーンは起こしてくれたのでしょう。
んん? でもわたしはあの森の奥で眠ってしまいましたけど・・・・・・どうやって、そこから運ばれてきたのでしょうか?
自分で自分を重いとは言いたくはありませんが、二人だけで運べるとは思えないのですが。

「私が軍曹さんに運んでもらうようにお願いした?」

「まったくなんで俺が・・・・・・。」

そう疑問を出すと、エレットさんがそう答え、その回答に軍曹さんはぼやく。
なるほど、軍曹さんが運んできたのですね。なら納得できます。コーストガードで鍛えられた身体能力なら、わたしの『軽い』体を運ぶなど造作ないでしょう。
そして、どうやって運んだのか、なんとなくわかる気がする。なんでかは分からないけど負ぶさってきたような気がするのです。そんな気が。
むむ、もし負ぶさってきたのなら・・・・・・

「あの、エレットさん? 軍曹さんがわたしをここへ運んでくるとき、どうやって運んでいましたか?」

「え? 当然負ぶって?」

「ふむ、ならば・・・・・・」

ささっと、胸を隠すように腕を体の前で交差させる。

「・・・・・・軍曹さん、もしかしてわたしの胸の感触を?」

「なんで、俺が10代前半の子供の胸の感触を楽しんだことになるんだ!? おいおい、お前らも何をこっち向いてやがる!?」

わたしの発言を聞いてか、周りの皆も軍曹さんに批判的な目を向けていた。
しかも、この場には軍曹さんしか男の方はいません。まさしく四面楚歌という他ならない状況に軍曹さんは追い込まれたわけです。
加えて言えば、アイリーンなんて今にも軍曹さんを射殺しそうな眼光で睨んでいますよ!? 基本的には温和なアイリーンが珍しいのです。
・・・・・・自分でやっといて言うのもなんですが、なんだかとても可愛そうに思えてきました。
考えてみれば、わざわざわたしを運んでくれたのですから、恩を仇で返す行為でしたね。

「すいません、冗談です。」

「まったく、大人をからかうのは・・・・・・ん? ああ、そう言えば、カールステッド嬢。さっきアイリーンに膝枕されているときに、まるで思春期の少年のような反応をしていたな。」

「え゛っ!?」

ま、まさかあの時の太ももの柔らかさに動揺している様が見られていたのですか!?
い、いかんのですよ! わたしが誤解されてしまいますよ!?

「そ、そんなはずはありえませんなんですよ!?」

「おい、言葉が少しおかしいぞ・・・・・・まぁいい、その反応だ。なるほどなるほど。」

気づけば、ぴかりさんとてこさんは頬を押さえて、ほほう・・・・・・なんて呟いているし、姉さん先輩弟さん先輩はなにやら意味深な顔で頷きあっている。その口から零れた言葉は、まぁ色々あるよね、と。
極め付けにはアイリーンが、

「う、うん。ま、まぁ・・・・・・ア、アッリが相手なら私もいいかな、なんて・・・・・・。」

なんて言ってしまうからには。

「はぅうぅ・・・・・・。」

わたしの顔は、もはや想像するまでもない色に染まっているだろう。
・・・・・・朝にもこんなことがありましたけど、あの時は冗談で済んだのに。
こう皆の前で言われると。なんだかわたしはそっちの趣味を持っているのが事実のように感じて。
ああ、もう諦めてそっちの道へ行ってしまうしかないのカナ、ワタシハ。

「あうあうう・・・・・・。」

「・・・・・・ふっふふふ、ふあはは! 勝ったっ!」

「なんだかひどくデジャヴを感じるけれど・・・・・・勝ったって、軍曹そうじゃないでしょ!」

バシャッという音と共に冷たい感触
きっと触ったら火傷でもするのではないかと思うほどに、赤く火照った頬を急激に冷やしていく塩気の混じった水。
どうやらアンさんがわたしの頭からバケツで汲んできた海水をぶっ掛けたようです。
そのすぐ後、軍曹さんを彼女がフィンではたくパコーンという音が。
さらに、同じく頬を赤くしたこの場の皆にも海水をぶっ掛けることで、この混沌とした状況に収拾がついた。(その後に更に軍曹さんが叩かれました。)

「ふっ、冗談に決まってるだろう。」

「軍曹、貴方ももう30越えたよね? いい年こいといて、十代の女の子に意地悪しない!」

ふぃぃ・・・・・・しかし危なかったのですよ。誤解されるのもそうなんですが、自分がそっちの道に進んでしまうかも知れないという瀬戸際でした。
いやぁ、アンテロイネンさんが居なかったらやばかったですね。
さすがコーストガードの隊長さんといった所か、皆が場の雰囲気に飲まれているのに、ちゃんと動けるなんて。
そんな彼女は軍曹さんの背中をわたしの方へ押し出して、謝りなさいともう一度頭を叩く。

「・・・・・・ふむ。すまんな、あれは冗談だ。」

「・・・・・・いえ、こちらこそ悪かったです。ですが、ちゃんと今回の件は忘れてくださいね?」

二人して、ギロリとにらみ合う。
ふむ。それにしても、なんだか軍曹さんとは一緒に冗談を言ったり、言い合ったりする中に今後なるような気もするのです。いわゆる虫の知らせという奴でしょうか、これは。
まぁ、毎回毎回わたしは結局は軍曹さんに言い負けるだろうと予想できますが、相手は30歳を越えてますし?
彼より『15も若い』わたしは、まだまだ『若い』ので『年の功』で負けたのだと思うのですよ。

「おい、今なんか考えただろう? このおっさんとか。俺はまだおっさんじゃないぞ。」

「・・・・・・いえいえ、そんなこと考えていないですよ。なにも。」

「ほほう、また弄られたいのか? ま、なんだ。時間のようだ、機材をセッティングしろ。カールステッド嬢も十分休めただろ?」

PiPiPiと軍曹さんの携帯端末が音を鳴らし、この湾が皆の言う『ウンディーネの寝所』へと変貌する時間が差し迫ってきたことを知らせる。
夕日はもう半分以上水平線へ沈みこみ、海は暗くどこまでも深く感じられた。
舞台は砂浜から海中へ。
さて、と。では、『ウンディーネの寝所』・・・・・・その全容、しかと拝見させてもらいましょうか!


































ボコ、コボコボコボ・・・・・・

昼間とは全く違った様相を見せる海の中。
昼はあれほどどこまでも見渡せるような気がしてしまうぐらい澄み切っていたのに、今の海の中は吸い込まれそうな黒で埋め尽くされていた。
その漆黒は、まるで星の存在しない宇宙のようで。
自然と思い出してしまう、あの時の事を。
『ウンディーネの寝所』を見るためには難度の高いナイトダイビング行わなければならないため、アイリーンが初心者のわたしを補助をするため傍を泳いでくれている。
わたしはその手をぎゅっと握って、恐怖に耐える。
アイリーンはわたしの手を更に強く握り返し、言った。

≪大丈夫だよ、私が着いてる。アンおばさんも軍曹さんも上でスタンバっているから。≫

≪はい、そうでしたね・・・・・・でも、もう少し握っててもらってもいいですか? やっぱり・・・・・・怖いので。≫

≪ふふっ、お安い御用で。≫

今のわたしとアイリーンはバブル型のヘルメットを被り、海上のボートから空気を送ってもらっている。
だからアイリーンとこうして無線で会話することもできる。それが今のわたしには何より有難いことだった。
たとえ傍にアイリーンが泳いでたとしても、口にだして発散できない状態だったら、わたしはきっとストレスで参っていたことだろう。

≪現在時刻、1759時。この時期に記録されているデータどおりなら、そろそろご主人は帰宅するはずだ。≫

≪了解、リップル? サンプリング開始?≫

≪アイ、マム。1800時より、サンプリング開始・・・・・・今。≫

無線に、わたしの側をぷかぷかと浮かんでいる無人潜航ユニット(*)内のリップルと海上のボートに居るエレットさんの間での、これまたよく分からない会話が無線に入り込んでからは、しばらく静かなままだった。
(*:エレットさんいわく、これもベクタードを応用した推進装置を組み込んでいるらしく音も無く水中を自在に動けるらしい)
その後は、わたし自身の小さな息遣いの音だけが、ヘルメット越しに静かな海に溶け込んでいく。
そんな気がするぐらい、音も無い、光も無い、動く生き物の影も無い。
日は完全に沈みきり、月もまた月光を海中に射すほど高い位置には存在しないのだ。
だがそれも、本当にしばらくの間だけだった。






・・・・・・!






ゆっくりと天へ上っていく月の光がふわりと優しく海へ注がれ、照らし出された海中は、漆黒の空間は色を持ち出していった。
そこは、優しい淡い光がゆらゆらとオーロラのように揺らめく、なんともはや神秘的な世界。
わたしはその美しさに、言葉を失った。
月光に煌く水面、水中に漂う星光のカーテン、海底に吸い込まれていくお月様の影。
その全てが、わたしを誘っているようで。
逸る気持ちに急かされて、わたしは思わずアイリーンの手を引っ張り、光のカーテンに囲まれた舞台に踊り出る。

≪ちょ、ちょっと、アッリ!?≫

≪踊りませんか、アイリーン! この素晴らしい光の舞台で!≫

≪全くもう、アッリってば・・・・・・でもまぁ、ここの主人達もアッリを歓迎してくれているみたいだし、いっか。≫

≪どういうことですか、それ?≫

≪まぁまぁ、耳を澄ましてみてみ≫

はしゃぐ気持ちを抑えつつ、わたしはアイリーンの言うとおりに目を閉じて、静かに耳を研ぎ澄ます。
光が差し込み始めても、相変わらず音の無い海の中で何が聞こえるのだろか。
よく耳を澄ましても、聞こえるのは静かに波が浜辺に打ち寄せる音だけ。
だが・・・・・・それも、ほんの少しのことだった。





不思議な『歌声』が聞こえた。





ヘルメット越しにでもはっきりと分かる、不思議な『歌声』。
いや、人の歌声では無い。なら、どんな音、あるいは声なのかと聞かれても、やっぱりそれは不思議な『歌声』としか、わたしには表現できなかった。
いつの間にかその『歌声』は、この湾を満たしているかのように色々な方向から聞こえてきていた。
わたしは、ただただ、圧倒されていた。引き込まれるような『歌声』、何処かへいざなう様な少し怖い、でもワクワクドキドキしてくるような『歌声』
そうだ、この感じ・・・・・・『カンツォーネ』だ。
ゴンドラ乗りの魂の一つの舟歌、わたしの知るそのどれにもこの『カンツォーネ』は似ていない。
なのに、わたしの知るカンツォーネとこの『カンツォーネ』は同じように感じた。
わたしは当然のように疑問を抱いた・・・・・・全くもって聞いたことの無いこの『カンツォーネ』の主は、いったい何者なのだろうか、と?


その答えはすぐに出た。


≪ん・・・・・・ひゃぁ!?≫

突然、わたしのすぐ横を黒い影がすり抜けていった。
それも一つ二つじゃない、複数の影が後から後から幾つも流れていく。
その黒い影は、さっきの『カンツォーネ』を歌いながら、いつしかわたしの周りをグルグルと回りだしていった。
その影は優に30はあるだろうか、大きいものや小さいもの、更に小さい影を引き連れたものなど多種多様。
ふいに、その影を照らすように月光が強くなったように感じた。
そして映し出された影は・・・・・・

≪いざ、お帰りなさいませ、『ウンディーネの寝所』の主人達!≫

≪・・・・・・!! イルカ!?≫

イルカの大群が、そこに居た。
アイリーンはそのイルカの大群を迎えるかのように、大きく手足を広げ叫んだ。
その声は周りの水中に広がっていき・・・・・・その声にこたえるかのようにイルカ達もまた先ほどの『歌声』と似た『歌声』を返す。
アイリーンとイルカ達がまるで会話しているかのように、何度かそれは繰り返された。
いや、事実会話できているのかもしれない。繰り返すうち、イルカ達の表情が細かく変わったりするのを見てしまうと。
アイリーンに視線を移し、聞く。

≪アイリーン・・・・・・もしかして、イルカ達と会話できるのですか?≫

≪いやいや、流石に無理だよ、アッリ。でも・・・・・・なんとなく、分かるような気がしてこない?≫

そう言って、アイリーンはまたイルカ達に向かい合う。
それに釣られて、わたしもイルカ達の方へ再び目を向けると、気づいた。
目を凝らしてよく見れば、このイルカ達はどれも形が微妙に違っている。個体差とかじゃなくて、種として微妙に違うような気がしたのだ。

≪あの・・・・・・アイリーン、あのイルカ達は一体?≫

≪あのイルカ達が、この『ウンディーネの寝所』の主。そして・・・・・・アイリーンに今日一番見せたかったもの。≫

アイリーンはそう言うが、わたしにはまだ不思議なイルカ達としか、まだ思えない。
今日出会ったベクタード技術やダイビング部OB・OG達、そしてあの皆からの手紙と来た最後に彼らが来るのは、いまいちよく分からない。
いや、確かに海の圧倒的広大さ、その変化の素敵さ、そして不思議な彼らイルカ達との出会いは、とってもとっても大事な思い出になることは間違いないのです。
でも、なんで彼女は今までの中でも一番真剣な顔をしているのでしょうか。

≪アッリはさ・・・・・・あのイルカ達を見て何かに気づかなかった?≫

≪え? えーと、そりゃまぁ・・・・・・。≫

わたしはさっき感じた違和感をアイリーンに話した。
すると彼女は大きく頷くと、わたしの手をつれ、イルカ達の回遊する輪に沿いながら泳ぎだした。
そして彼女の口から紡ぎだされるのは、横をわたし達と共に泳ぐイルカ達、いや様々な今の動植物達の昔話。

≪昔々、始まりは、2000年代にまで遡って・・・・・・≫




今からおよそ200数十年を遡った2000年代中ごろ、つまり母なる星がまだマンホームではなく地球と呼ばれていた頃、アドリア海を中心とした生息域を持つ一種のイルカが絶滅の危機に瀕していた。
その頃地球は新たに完成した永住型月基地や地球火星間中継基地、新型高速宇宙船など、続々と人類は宇宙という新たなフロンティアへの礎を築きつつあった。
その一方で・・・・・・地球環境は刻一刻と悪化しており、歯止めが着かなかった。
もちろん各国政府もただ見ていただけではなかった。
人類の生存域を、そしてなにより母なる星を守るため、地球全土での環境保護が国連で訴えられ、各国が互いに協力し合い地球全土で積極的に実行に移された。
そのことを、世界中のマスコミはこう評した。
―――真に地球全人類が一つの守るべきものを得た、と。
だが・・・・・・宇宙開発の進歩に反比例してか、努力もむなしく環境は悪化するばかりであった。
各地の沿岸部は徐々に水没し、南アメリカの原生林はもはや昔のような緑を持たず、アフリカは各国の必死の緑化事業にもかかわらず乾燥していくばかりであった。
南極には広大な大地が出現し、北極はただの海へと。
その影響で各地で絶滅していく様々な動植物。
このままでは、太古の昔より生息してきた、環境の変化にめっぽう強い台所のあいつすら絶滅するのではないか・・・・・・そういう話も、冗談に聞こえなくなっていた。
しかし・・・・・・運命の日が訪れた。
ある国連総会で決定した一つの事項。
―――我々、人類が地球を再生する技術を手にするその日まで、地球のあらゆる種を保存しよう、と。
それは可能な限り実行され、そのデータはノルウェーに存在するスバールバル島の地下130メートルに設置されたシェルター『ノアの方舟』に保存され、その時を待った。
その中には絶滅間際のそのイルカ達のデータも含まれていた。
そして時は過ぎ・・・・・・2100年代後期。
火星でのテラフォーミングは成功しつつあり、水の惑星『AQUA』へと変遷してった。
地球もまた火星でのテラフォーミング技術のフィードバックにより、人が管理していかなければ維持できなかったものの確実に自然を取り戻していった。
そんな中、およそ100年間保存されていた様々な動植物は、甦りつつあった地球に、生まれつつあった火星に解き放たれていった・・・・・・。

≪・・・・・・で、それがどういう関係が?≫

≪うん、これからが大事なところだから。私がアッリに伝えたいことは、伝えなきゃいけないことは・・・・・・。≫

2200年代中ごろを過ぎようという頃、およそ半世紀前にネオ・アドリア海に放たれたあのイルカ達の調査が行われた。
その調査団の中には親子孫三世代にわたって、そのイルカを追い続けてきた海洋学者の姿もあったという。
彼らはワクワクしながら、調査を行った。
かつて見た、すばやく海を切り裂いて泳ぐ美しいイルカ達の姿がもう一度見られると信じて。





≪でもね、アッリ。それは夢物語にしかすぎなかったんだ。≫





得られた結果は、失敗。
かつてのイルカ達は既に絶滅して、今この場にいる形状の不ぞろいな・・・・・・突然変異体ばかりのイルカ達がいた。
確かにそこには保存されていたかつてのイルカ達が解き放たれたはずだった。
テラフォーミングによって、かつての地球の姿をほぼ忠実に再現したのに、なぜもとの種は再び絶滅してしまったのか・・・・・・。
そして調査グループは一つの結論を出す、一度失ったものは、もう二度と甦らない、と・・・・・・。

≪アッリの左腕・・・・・・生体義肢で『元のようには戻った』かもしれないけど、忠実に元には戻ってこない。元のようには、漕げないんだよ。≫

≪・・・・・・ッ!! それじゃあ、なんですか! わたしはもう昔のようには漕げないと、もう二度と!? そんな事を・・・・・・そんな事を言うために、アイリーンはわたしをここへ連れてきたんですかっ!?≫

自然と声が涙声になる。

≪アッリ・・・・・・お願い、もう少しだけ聞いて。≫

≪嫌ですっ! もう聞きたくありませんっ! 今日もらった色んな光が、皆からもらった希望が、全部曇ってしまいますっ!≫

≪お願い。≫

≪嫌ですッ! アイリーンなんか・・・・・・『マーケットさん』なんか、嫌いですッ!! 大っ嫌いですッ! 親友でも・・・・・・友達なんかでも、ありませんッ!≫

くしゃくしゃの顔で泣き叫びながら、わたしはアイリーンを拒絶する言葉を吐き出す。
心のそこでは、今日の朝のようになって欲しいと思っているのに。
わたしは最大級の拒絶をした。
友達になってから、初めて言葉に出した『マーケットさん』。
親友でも、ましてや友人でもない、アイリーンをただの知人にしてしまう言葉。

「本当にあと少しだけだから・・・・・・聞いて。」

でも、そんなわたしを彼女は優しく抱きしめ、ヘルメット同士を接触させる。
『お肌の触れ合い回線』とかいう機能で聞こえるアイリーンの生の声は、朝と違って全く震えて居なかった。

「アッリの気づいた、固体ごとの違和感。学者達も当然それに気づいて、より詳細にこのイルカ達を調べ上げた・・・・・・そしたらね、あったんだよ。このイルカ達にはかつてのイルカ達の遺伝子がはっきりと。」

遺伝子に刻み込まれたかつてのイルカ達。
そう、かつてのイルカ達はこのAQUAの環境に合わせて進化している最中だったのだ。
数々の突然変異という名の試行錯誤を繰り返しながらも、着実にかつてのイルカ達の遺伝子を引き継いだ新たな種へと。
調査グループは結論を変えた。
失われたものは戻ることなどないが、生き物は失ったものを糧に進化していくことができる、と。

「アッリの腕もきっと一緒だと思うんだ・・・・・・迷いながらも、失敗しながらも、その義肢は確実にアッリの腕になる。また漕げるように、なる。元のようにはならないけど、元の漕ぎ方はきっと生かされてる。全く新しいアッリの新しい漕ぎ方には。」

それに、人間は失敗をすぐに生かせれる数少ない生き物の一つだしね―――ここまでが私の言いたいことだと、アイリーンは言った。
わたし達の周りをクルクルと回るイルカ達の中で最も醜く、そして逆に小さな美しいフォルムの仔イルカを連れた一匹が、そうだそうだとわたし達の横を通り過ぎながら鳴いた。
失ったものは、もう二度と戻らない。
でも、たとえ失われたとしても、ちゃんと生かされている。

「・・・・・・アイリーン。」

「ふふ、ありがと、アッリ。名前で呼んでくれて。私、アッリの親友になれて本当に良かったって思ってるよ・・・・・・じゃね、アッリ。私は先に上がってるから。」

そう笑って言うアイリーンの顔には、一切の後悔も含まれていなくて。
そうして彼女は、海上のボートへ上がっていく。
わたしには・・・・・・それが、彼女の『アイリーン』の最後の姿のような気がして。次会うときからは『マーケットさん』になってしまうような気がして。
慌ててアイリーンを追いかけて行こうとした。




でも・・・・・・




―――あれ・・・・・・なんで、こんなに息苦しいんだろ・・・・・・おかしいな。あいりーんをおいかけなきゃだめなのに。

なぜか、わたしの体は意思に反して重くなっていき・・・・・・意識もまた、遠くなっていった。





















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今回は結構無理やりな論理な気がしましたが、私は失ってもその血は受け継がれるのだということが言いたかったのです。
あとは地球からマンホームへの変遷は、もう完全に私自身の趣味です。
ARIAの世界観をぶち壊しのような気もしますが・・・・・・。

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