サイトは、夜ルイズが寝静まると、部屋を抜け出して穴倉の中で酒をあおっていた。
一人と一匹穴の中、ヴェルダンテを抱きしめてくだを巻いている。
召喚されて、三日ルイズにどう接していいのかわからなかったのだ。
何がいけなかったんだろう。
いくら考えても分からずじまいだった、
どう考えても最善の行いだったはずなんだけれどなあ。
考えすぎて、でも解決なんかしなくて
酔いに酔ってふらふらにならないと眠れないのだ。
「はぁー、逃げるなよーヴェルダンテ、もぐら同士なぐさめてくれよー
おれ、がんばったんだよー、きいてくれよー」
三角すわりでしくしくと嘆くサイト
穴倉には既にビンが6本も転がっている。
ヴェルダンテに逃げられたサイトは、うぉんうぉんと泣くのだった。
マチルダ・オブ・サウスゴータ。
今はロングビルの名で学院長オスマンの秘書となっているが、
その正体は、トリステインはじめ各国の貴族をふるえあがらせる凄腕のメイジの盗賊。二つ名は「土くれ」のフーケという。
二つの月が雲に隠れ、常闇が辺りを包む。
エンピツくらいの長さの杖を、指揮棒並みの長さに変える。
宝物庫の扉の前で、大きな錠前に「アン・ロック」の呪文を掛けてみる。
続けて錬金を試し、扉にも呪文を掛け、最後には外に出て壁にも呪文を掛けてみた。
「まぁ通用するとは思ってなかったけど、
スクウェアクラスのメイジが対策しているみたいね」
土系統のエキスパートの呪文でさえ効果がないのだ。
では、物理的な力ではどうだろうか?
ゴーレムを使えば可能かもしれないが、よほど魔力を込めないと難しいだろう。
何より巨大なゴーレムは目立つのだ。
これは、厄介だね。でもこれだけ厳重に守られているんだ。
破壊の杖は相当高値で売れる、もっとしっかり準備しないといけないね。
そう思い一人ほくそ笑むのだった。
そして、杖を元に戻して部屋に帰ろうとして、
何もない場所からいきなり呻き声があがるのを聞いてしまった。
「ひっ」
まったくの不意打ちに小娘のように悲鳴を上げ尻餅をついてしまったフーケは、
赤面しつつきょろきょろと辺りを見回し、コホンとひとつ咳をして
恐る恐る声のするほうに近づいて行った。
幽霊の正体見たり、枯れ尾花。
なんの事はない、穴倉でみえなかっただけで人がいたのだった。
それによく見れば、ミス・ヴァリエールの使い魔じゃないか、
どうすべきか思考を巡らせる、貴族の坊っちゃんであるならば、ほおっておくんだけどね。
どうも平民だっていうじゃないか。
いきなり召喚されて、見栄と威張ることにご執心な貴族に囲まれちゃ酒も飲みたくなるか。
一つため息をつく。
今夜は冷える、このままにしておくわけにもいかない、今から女子寮に連れて行くのも難しい。
杖を振るいレビテーションの魔法を掛ける、
ついでにうるさいのでサイレントの魔法を掛けた。
あれ?ここは、どこだっけ…たしか穴倉で。
「フ…!?ミス・ロングビル…さん?」
うっかりサイト頑張った。何時も抜けてるけどやるときはやる子なのだ。
混乱する頭で考える。フーケは敵で、でもまだ虚無の日きてなくない?
「あの、おれ、どうしてここに?」
恐る恐るサイトはフーケに尋ねてみた。
「呆れたね、覚えてないのかい?まあ、仕方ないか。あれだけ飲んだんじゃね。
酒を飲んで穴倉でぶっ倒れてたから連れてきたのさ。
今日は冷えるから、学院に仕えるはしくれとしても見捨てておけなかったのさ、感謝おしよ」
「その…ありがとうございます、すいません、助けていただいて」
素直にお礼をいってから、はたと考える。
フーケってこんな感じだったっけ?
いつも敵対していたし、きついイメージがあったけれど…
はすっぱ、というかさばさばしたお姉さんというか。
「いいって、いいって」
ひらひらと手をふり、さらに手に持ったワインを仰ぐ。
形のいいのどがこくこくとなるのが見える。
サイトはじー、とフーケを見る。
「じっとこっちなんか見て、どうしたっていうんだい」
「いえ、ミス・ロングビルってもっときっちりしたイメージというか、きついイメージというか、す…すいません」
形のいい眉をしかめながら睨まれ、つい謝ってしまった。
「はっ、もう務める時間も終わっているんだ、ちょっとぐらいくだけたっていいじゃないか
だいたい……」
ぼそぼそと学院の愚痴をいいだす。
「あんた、今日はここで寝て行きな、そこのソファを使えばいいから。
取って食いやしないよ、安心しな」
にぃと悪戯好きな猫が獲物を見つけたような笑みを浮かべる。
そして、からかうように一言付け加える。
「それとも、……食われてみるかい?」
「いいいい、いえ、いえ!?」
経験のないサイトに出来ることと言えば、顔を赤くして
激しく両手をふることだけだった。
この人酔ってるのかな?なんていぶかしんでみたりもする。
フーケを改めて見ると、ふわっとした素材の良い大きめの寝巻を
丈の短いワンピースのように来ているだけで、大きな胸が押し上げるように服を持ちあげている。
丸い首回りは少しかがめばみえてしまうんじゃなかろうか。
もちろん下は下着のみだ。
とんでもない色気にあわてて目線をそらし、所在なさげにしているサイト。
「ほらっ、ささっと水でも飲んで寝ちまいな。それとも酌でもしてくれるかい?」
そういうと、フーケは腰かけていたベットの近くにあったサイドテーブルからグラスを持ち上げる。
サイトは水の入ったグラスを受け取ろうとして、フーケに近づき派手にすっ転んだ。
もちろんフーケに向かって。
うっかりサイトやるときはやる子なのだ。