※注意:作者が中二病をわずらってるようです、苦手な方はおもどりください。
元帥を父に持つ名門・グラモン伯爵家の四男、青銅のギーシュ。
グラモン伯爵家歴代最強とうたわれるメイジを語るには、少年時代まで遡らなくてはならない。
「稀代の英雄」「青銅の守り手」「人形公」と称される彼も少年時代は臆病な性格であったとされるから驚きだ。
彼はトライアングルながら、魔法としてはドットレベルの「青銅」にこだわり、
またゴーレムの新しい戦闘手法を編み出し、戦場を駆け抜けたといわれている。
その強さ故、彼は歴史の脈動に飲みこまれていくのであった。
~土の貴公子 序章 序文~
「なあ、ギーシュ、お前俺と一緒に強くならないか?」
そう声を掛けてきたのは、ヒラガ・サイト、ルイズの使い魔だった。
僕はヴェストリの広場で負けてから、平民ながらも尊敬していたし、
貴族への礼義はなっていないものの、どこか憎めずそんな彼を気に入っていた。
「しかし、僕としては薔薇の役目もあってだね」
強くなりたいって思いは、男子共通の思いだ。僕にだって当然ある。
しかし、今は自分のせいとはいえ、傷つけてしまった愛しのモンモランシーの機嫌をとるほうが先だった。
「ギーシュ!強くなればもてるぞ、どんな女だって強くて頼りになる男が好きだ。
美系で強いなんて最強じゃないか、モンモンだってすぐに見直すだろうし
今以上に色んな女の子からキャーキャーいわれるぞ、それでこそ薔薇だろ」
「君ってば……」
がしっと、ぐっと手を握りお互いに重ねる。
「君ってば……本当にいいやつだったんだな」
どうも載せられやすいギーシュだった。
「で、具体的に楽してずるしていただきな案があるのかい?」
「お前なー、ちっとは強くなろうっていう気概をみせろよな、まあいいか、今回は俺が考えてきたよ。
でも土のスペシャリストじゃないからな、お前もちゃんと考えるんだぞ?」
一呼吸置くとサイトは続ける。
「まず、ギーシュの利点はゴーレムを複数扱えるってところにあるな
この長所をもとに伸ばしていこうと思う」
「ふむふむ、扱うゴーレムが100体、200体とどんどん増えていくんだね。
すごいな、まるで軍隊じゃないか」
平野に並ぶ一万体の戦乙女の姿を思い浮かべうっとりとしている。
「馬鹿、お前7体でもまともに扱えないだろ?例えば100体いたとしても複雑な動きは難しいんじゃないか?
せいぜい、右から突っ込めとか、まっすぐ突撃とか簡単な動作だけしかできないだろう?それで勝てるか?」
「たしかに、その通りだね、そしたらいったいどうするんだい?」
「基本扱うのは3体(スリーマンセル)とする。この三体を完璧に連携できるようにする。
そして、一体一体に個性を持たせる。今は個性の時代だし、今の7体で7個の個性をもったゴーレムをつくる」
ふむふむ、と頷いてみる。個性的なのはいいことだ。
薔薇で素敵に装飾するってのもいいじゃないか、流石サイトだね、薔薇を理解している。
「ギーシュ…お前が考えてる個性はたぶん違うぞ。戦術的な個性のことで武器だけじゃなくて
戦い方や攻撃できる距離も別にするんだ。組み合わせ事態で何万通りもの戦術がだせるぞ」
「ふむ、なんだか強そうだね」
「青銅の特性からいろんな戦術を組みたてられるような個性を考えてみた。
移ろいやすく流動的で、加工しやすくしなやかな金属、うん、ギーシュにピッタリだ」
そして紙に書いておいた原案を見せる。
流石に長い人生でハルゲニアでの文字もばっちり覚えてある。
血弾ブレット:カタパルトの容量で投石などを行う。投げるものは石でもいいし、錬金したなにかでもいい(遠距離攻撃主体)
爆弾マイン:巻き込んだ武器と共に爆発する広範囲攻撃、一部切り離し罠にすることも可能(中距離防御主体)
鋭岩ピアス:とがった岩を設置していく、空間的に相手を制限していく(中距離攻撃型サポート主体)
追突チャージ:バネの容量で突撃する、上に飛び上がることも可能。(中距離攻撃主体)
多刀ダンサー:2本の剣腕のほかに、体のどの場所からでも4本の剣腕が出せる(近距離攻撃主体)
捕縛キャンサー:流動系の体で受け流したり、衝撃を和らげたりする。また触れた際に相手に付着し動きを制限できる。(近距離防御型サポート主体)
銅鏡ワルツ:3枚の銅鏡を衛星のように自信まとわりつかせながら銅鏡を操作し戦う(近距離防御主体)
※マイン、ピアス、キャンサーは流動系で同じような体をさせ、何をだしたか分かりづらくすることで混乱させる。
※チャージは槍、ダンサーは剣、ワルツは盾を武器とする。
「なんだか、あまり優雅じゃないね」
「優雅で勝てるんだったらいいけどよ、戦いってのは優雅さだけじゃないだろ?
強けりゃ優雅さなんて後からついてくるよ」
「なんだか卑怯そうな戦い方もちらほらみえるが…」
「戦術といってくれよ、不意打ちとかするわけじゃないんだから卑怯でも何でもない。
ギーシュは、敵の技が少し思いもよらないものだったら、卑怯だから負けましたとでもいうのか?」
「いわれてみれば、そんな気もしてきたよ、しかし、これで勝てるようになるのかね…」
「それは、やってみなければ分からないだろ?他にいい案があるならそれでいってもいいけど
少なくとも俺を倒せるくらいにはなると思うぜ。ゴーレムだから人間がちょっとやそっとじゃできない動きも可能だろ?
本当は、触ったらマヒするとかつけたかったんだけどなあ」
ギーシュは思った。サイトに勝てる?一度しか戦ったことないが人間離れし圧倒的強さを見せつけられたあのサイトに?
しかもこれは、そのサイトが自分のために一生懸命考えてきてくれたものだ。自分では強くなる方法なんて考えもつかないのだ。
それからが大変だった。ギーシュなりに造形にこだわりサイトともめたり、
操作方法と魔力の向上のため、四六時中ゴーレムを出して自分の世話を
それこそ、ご飯食べる動きだってなんだってさせたため、変な目で見られたり、
サイトと一緒になって倒れるまで戦術の組み合わせを試したりしたのだ。
お陰で自信もついたし、ゴーレムの操作も向上し、メイジとしてもラインに達していた。
アルビオンに潜入する前に、模擬戦とはいえサイトから一本とったのであった。
その傍らで、ご主人様をほおっておいて何ギーシュとばかり遊んでいるのよ、と憤慨する桃毛の女性と
ギーシュったら最近来ないわね…でもなんだか一生懸命なギーシュもいいかもしれないと金髪縦巻の女性が物陰から覗いていたりするのだった。
それからアルビオンへの潜入では、ワルドの偏在を2体倒し、アルビオンでの撤退戦ではサイトと共に2人でほぼ壊滅状態にし、
ガリアでの戦争ではヨムンガルド破壊とまではいかなかったが、足止めなどサポートし戦力として貢献した。
そして束の間の平和を得て3年ほどたったあくる日、
ギーシュは4男でありながら多大なる功績ゆえにアンリエッタ王女の後押しもあり家を継ぎ、
モンモランシーという生涯の伴侶を手に入れそのお腹には今新しい命が宿っている幸せの絶頂にいるはずの男は、
苦虫をかみしめたような顔をし貴族の兵を数多く束ね、タルブ平原に陣を敷いていた。
「ギーシュ!なんでだギーシュ!!なぜお前がそこにいる」
サイトは悲痛な面持ちでさけんでいた。
貴族を信用できず能力があれば平民ですら雇用するアンリエッタ率いる王党派、
伝統と誇りと血筋のみで慢心し、隅に追いやられようとしている貴族派。
今や国内を2分するような勢力となり、
そして今まさに反乱を起こそうとタルブ平原にあつまり、
サイトはそれを鎮圧するためと噂を確認するために無理を言って先陣をきっていた。
「強さとはままならないものだね、サイト」
ギーシュは気障ったらしく薔薇を口に咥えながら、シニカルな笑いを浮かべている。
仲間であるはずの、ギーシュがこの反乱の首謀者だという噂をサイトは最後まで信じたくなかった。
「お前、なんでだよ、ギーシュ。この間赤ちゃんが出来たってよろこんでいた所じゃないか
こっちに来い!お前と俺がいればどんな軍隊だって倒せる、そうだろ?」
確かに、その通りだ。ギーシュが王党派につけば貴族派を蹴散らすのはたやすいはずだった。
しかし、サイトには先が見えていなかった。
ここで貴族派を倒せば国力は半分以下になり混乱する。
只でさえ、まだ国としての力が弱く、内乱など起こしていい状態ではないのだ。
それを曲がりながりにも元帥を務めるギーシュには分かっていた。
「おい、モンモンはモンモンはどうするんだよ、お前が死んじまったら……
頼む、戻ってきてくれギーシュ、頼む!!」
サイトは力の限り叫んだ。
僕だって死にたくない、死にたくなかった。モンモランシーを愛していた。
でも同じようにサイトや仲間の皆、いやトリステインを愛していた。
貴族派は陰謀にたけた老いてなお狡猾な人物が多かった。
気がついたときには無数の襲撃、陰謀が実行段階にまでまとめあげられ、もうどうにもならないような状態だった。
誰かがやらなくちゃならなくて、それをすることが自分には出来た、それだけだった。
そのタイムテーブルを止めることはできなくても進めることができると反乱を企てる貴族達をまとめ上げた。
モンモランシーには泣かれた、でも最後には納得してもらった。
僕の死後には今回の全ての経緯の手紙ととも王宮に身を寄せるように伝えてある。
サイトになら、全て任せられる。
先走り突撃しようとする兵に手をあげ制す、
あまりの胆力に誰も前へと出るものはいなかった。
そうだ、それでいい。これが僕の最後の花道だ。
「グラモン伯爵家が元帥、「青銅」のギーシュが参る。「トリステインの盾」と見受けられる。
貴族の誇りをもって決闘にて勝負を決しようではないか。皆のものは手出し無用」
魂の叫びをもって、数万の兵たちを退かせる。そうだ、それでいい。
お互い手の内を知り尽くしているが、最終的には僕が勝ち越している。サイト、君との最後の戦いだ。
僕は自分の完全勝利を信じているし、それが成すことも知っているそれだけの準備をしてきたつもりだ。
杖を振るい、「人形公」と称されるほどのゴーレムを3体準備する
キャンサーとマインを主体に機動力をまず奪う、そしてワルツを自分の手元に置き不測の事態に備える。
「ギーシュ…お前……ばかやろおおおおおお!!!!!」
サイトは涙を流しながら投げナイフを数十本力任せに投げた。
自分のほうにくるナイフはワルツの銅鏡で撃ち落とし、それ以外のほとんどはマインに巻き込ませる。
マインをサイトの方向に向けて逃れる場所がない広範囲で破裂させた
サイトはよけることも防ぎきることもできず傷ついていく。
それに合わせるようにキャンサーの青銅をサイトに付着させていく。
剣の柄、脚、二の腕、体、徐々に機動力を奪っていく。
サイトは全然心が震えてないのか、いつも以上に動きが鈍い。
このままじゃ本当にサイトを殺してしまう、それじゃあ駄目なんだ。
「サイト、もし君が負けて戦意ががた落ちし王党派が負けたらどうなると思う?
君の大切なご主人様もアンリエッタ女王も間違いなく殺されるだろうね。
わかるかい?このままでは僕たちはルイズを殺すんことになるんだよ、ガンダールヴ」
軽薄そうに見えるように笑みを浮かべる。ちゃんと笑えているだろうか。
そして僕が死ねば、今までも日和見逃げ出す程度で陰謀と謀しかできなかった貴族に何が出来る。
表に出ている王党派より少ない数の兵力で有る貴族派達の戦意は落ち、モンモランシーに託した手紙が内乱を終結させるだろう。
サイトは涙をぬぐい、剣を構えた。デルフと相談でもしているのだろうか。
それでこそ、サイト。僕らの英雄だ。僕が唯一尊敬する男だ。
サイトがいたから、僕はここまで強くなれた。誰かを守れる男になれた。感謝している。
「ちくしょおおぉお!!」
サイトは叫びながら突撃してくる。やはり本気になったときのサイトは素早い。それに圧倒的な威圧感だ。
僕も杖を振るい、新しい組み合わせを作り出す。
ピアスとチャージとダンサーだ。完璧な攻撃主体。魔力もゴーレムを強化するためにかなりつぎ込む。
本気のサイトが相手では、生半可な魔力ではバターを切る様に切り崩されてしまう。
チャージが空高く槍をもって舞い上がる。かなりの跳躍力だ。
そしてピアスがとがった岩を地面から打ち出す、攻撃ではなくサイトの動きに合わせて誘導するように制限するように攻撃していく。
ダンサーがサイトと切り結ぶのに少し遅れて上空からチャージが槍を構えながら一直線に落ちてくる。
サイトはデルフリンガーでチャージを防御しきり伏せたが、
その隙を突くようにダンサーで傷を負わせ、まるで詰め将棋のようにサイトを追い詰めていく。
もうかなりの出血量だ、早く来いサイト。
二本の双剣の陰から、剣を打ち出しまたダンサーの背後から見えない死角を切った。
同時にダンサーは切り伏せられた、もうサイトはボロボロだ。
仕上げとばかりに最後の魔力を使い、土のブレードを作る。
サイトの動きは鈍い、このまま首をはねてしまえばおしまいだ。
「……え?…なんで?……おい、ギーシュ、うそだろ?おい!!!」
そこにはサイトによって、体を貫かれたギーシュがいた。
サイトは目の前の光景がにわかには信じられなかった、負けたと思った。
でも残念だが、死んでも自分には次の世界がある。そう思っていた。
意味がわからなかった。
「ギーシュ……ギーシュ…」
ギーシュは、ごぼりと口から血を流しながら、満足そうに微笑んでいた。やっぱり僕の完全勝利さサイト。
「…げほっ、…あとは……頼んだ。…僕の……英雄」
「馬鹿やろ!ギーシュ、お前え?なんで!ギーシュっ…うあぁあああああああああああああ!!!!!?!」
泣き崩れるように、ギーシュの亡骸を抱きしめるサイトに。
王党派も貴族派も誰も動けなかった。
サイトは、この後ギーシュとの誓いを護るかのように
生涯をかけてトリステインを護った。
何度も何度も悔やんだ。力さえあれば、でも本当の力っていったい…と苦悶しながら。
この内乱は、国全体を巻き込んだ大規模な内乱で有りながら、
戦場では只一人の死者を出すだけで解決した史上類をみない内乱として「青銅の乱」と称し長く語り継がれるのであった。
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これにて、とりあえずひと段落とさせていただきます。
しばらく再構成を行う作業に入りますので、新作はしばらくお待ちください。
書いていて、ギーシュゥと少しうるうるしてしまったのは内緒です。