トリステインの王宮は、ブルドンネ街の突き当たりにあった。
王宮の門の前には、当直の魔法衛士隊の隊たちが幻獣に跨り闊歩している。
戦争が近いという噂が、二、三日前から街に流れ始めていた。
よって、周りを守る衛士隊の空気も戦時のようにピリピリしたものになってきている。
王宮の上空は、幻獣、船を問わず飛行禁止令が出され、門をくぐる人物のチェックも厳しかった。
そんな時だったから、王宮の上に船があらわれたとき、警備の魔法衛士隊の隊員たちは色めきだった。
マンティコアに騎乗したメイジたちは、王宮の上空に現れた船めがけていっせいに飛び上がる。
船は難民を示す信号を掲げ、王宮近くの広場に着陸した。
マンティコアに跨った隊員たちは、着陸した船を取り囲んだ。
腰からレイピアのような形状をした杖を引き抜き一斉に掲げる。
いつでも呪文が詠唱出来るような体制をとると、ごつい体にいかめしい髭面の隊長が大声で怪しい侵入者たちに命令する。
「責任者、杖を捨てて出てこい。
現在王宮の上空は飛行禁止だ、ふれを知らんのか?」
桃色がかかったブロンドの髪の少女が、船のタラップからあらわれ毅然とした声で名乗った。
「わたしは、ラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズです。
怪しいものじゃありません。姫殿下に取次ぎ願いたいわ」
ラ・ヴァリエール公爵夫妻なら知っている。
隊長は掲げた杖を降ろした。
「なるほど、みれば目元が母君にそっくりだ。して、要件を伺おうか」
傍らにたつ黒髪の少年がルイズから何かを受け取り、隊長に恭しく手渡す。
「これは?」
鮮やかな青の色の石をもつ指輪だった、探知魔法を使うと淡く魔法の反応を感じる。
しかし特に危険があるような代物ではなかった。
「姫様より預かりし王家の秘宝水のルビーでございます。これを姫様にお渡しください、それで要件が伝わります」
隊長は頷くと、宮廷内にいるアンリエッタ姫に取り次いだ。
武器の携帯は認められないので、それらは一時預け謁見待機室に集められた。
ルイズとサイト、変装したウェールズがアンリエッタ姫の居室へ通される。
ルイズとアンリエッタは静かにひっしと抱き合った。
最悪の事態にはならず、最高の結果を出すことが出来たのだ。
「ああ、無事に帰ってきたのね。うれしいわ。ルイズ・フランソワーズ」
「姫様……」
アンリエッタに抱きしめられ、ようやく任務を達成させた実感がふつふつとわき涙があふれる。
しっかりと抱擁しかえし安堵した笑みを浮かべる。そして……
「おお、おお……」
アンリエッタはこの世の全ての春が訪れたような笑みを浮かべながら涙を流した。
「ウェールズさま……」
感極まり、よくぞご無事でという言葉が続かなかった。
ウェールズも愛してやまない従妹姫の姿を見て顔をほころばせた。
「心配掛けてしまってすまなかった」
ウェールズも目に涙を浮かべ、しばらくは身分も忘れ、抱き合う二人だった。
それから、サイトはワルドの裏切りや、アルビオンでの攻城戦への対応と
その後の調査依頼、ならびに難民船への対応等こまごましたことを話すのだった。
日も陰り始め、長旅を労われ王宮内に泊ることになった。
欠けた月の光が淡く照らす夜も更けたころ、人払いをしてあったアンリエッタ姫の私室に
足音も立てずに忍び込む一人の男の姿があった。
音もなく扉をあけると素早く部屋に入ってきたのはサイトだった。
「サイトさん、こんな夜更けにいったい何の用でしょうか?」
諦めたようなどこか熱のこもったような咎める視線をサイトに向ける。
薄紫のキャミソールが白い肌を透かし、形のいい胸がそれを押し上げる。
高貴さと淫靡さを兼ね備えたような美しさだった。
「耳打ちした通り、人払いをしたということは、
もう分かっていて覚悟もできているのでしょう?」
そういわれるとアンリエッタは目を伏せ、体を抱き寄せる。
確かに帰り際に言われ、人払いをしたのは自分だった。
要求を撥ね退ければよかったのだろうか?
「まあいいか、今日は報酬の話に来たんだよ」
「報酬……ですか?」
いったい何を要求されるのだろうか。王族なれど自身で出せるものはそう多くない。
金銭でかたがつくといいのだけれど、そうではないのだろう。そうなると……
「三つあってね、一つはトリステイン王族の婚姻の際に立ち会う巫女をルイズに選ぶこと。
二つはおれの考えた施策を王家甲案という形で実行すること、これは狙いや効果等詳細にまとめてあるから、
枢機卿に相談し有用であると判断できたら施策という形で構わない」
「どういうことでしょうか?」
アンリエッタは聞き返した。
「一つ目は、ルイズを他の人や家族に認めてもらうための一歩。
二つ目は、トリステイン王国とアンリエッタ姫さまの権力の強化が目的かな。
自分や周りを守るのに一番効率がいい」
一つ目は、元々そうするつもりだったので問題ない。
二つ目は、わたしを傀儡にしてトリステインを牛耳るつもりだろうか?
しかし、わたしが結婚してしまうとそれも難しい、少し矛盾しているような気がする。
しかも有用であると判断できればいいということは、自信もありこちらにも利益があるということだろう。
この人のことがわたしはよくわからない。
「三つ目は、姫様かな。アンリエッタが欲しいんだ」
覚悟していたことがとうとう来たと思った。後ろから抱きしめられ力強くストレートに言われ赤面してしまう。
はりと柔らかさのある胸が左右に形を変えながら、もどかしい手つきで愛撫されていく。
「へえ、抵抗しないんだ?」
「忠誠には…ぁ…報いるところがなくては…なりませんから…ぁぅ」
恥ずかしさと快感と幸福感がじわじわと体をあぶっていく。
「ギーシュも今回活躍したけど、アンリエッタはこういうことをして報いるの?
今の言葉だと忠誠を示す人には、こうするって聞こえるけど?」
それでは、まるで娼婦ではないか。
そんな酷い指摘にあわててかぶりを振る。
「ぁ…サイトさんだけ、ぁあ、サイトさんだけなんです…」
耳元で囁き続けられ、傲慢に動く手で肌を蹂躙されていく。
「それって、俺だけ特別ってこと?」
耳たぶに首筋に口づけされ遊ばれている。
「ちが……そうです、サイトさんが特別なんです……くふぅ」
否定すれば他の人にもしなければならない、認めるしかなかった。
そもそも人払いをし、キャミソール一枚で出迎え、
そわそわと待っていた時点で期待していなかったと言えないわけがない。
そう叫びながら秘所の表面を撫で上げられ、サイトの指が細やかに振動を加える。
わたしの体は自信の意思を裏切り、勝手に上り詰めて淫らな反応を返していた。
背後からピッタリとアンリエッタを抱きしめ、片手で胸を絞り上げる。
どくどくと脈打つ自分の分身を尻に押し付け堪能する。
指を震わせるたびに体がびくりとはね、愛液が飛び散る。
快楽に呆けるアンリエッタに頃合いを見計らい挿入する。
「くぅ……ぅ……ぁ」
まだ慣れない中の刺激に悶えながらも、様々な不安が吹き飛び幸福を感じる。
穏やかな抽送に全てを忘れ快楽に身をゆだねたくなる。
しかしサイトはそれを許さず、アンリエッタをさらに追い詰めていく。
「そういえば、ウェールズ陛下、アルビオンに戻るそうですね」
その一言にアンリエッタは冷や水を掛けられたように我にかえり、
腰をひねり体を揺らしながら抵抗し始めた。
しかし、サイトにしっかり押さえつけれていて、お互いに快楽を増すばかりだった。
ウェールズさまが同じ王宮内に泊っているのに、
いったい自分は何をやっているのだろうか?
愛し全てを掛け救ったウェールズさまもまた死地に向かうという。
そんな日にわたしはいったい何をしているのだろうか……
「ごめんなさい…ぁ…ウェールズさま…ぁん…いかないで、っあ……ごめんなさい…ああ」
快感と背徳感とでむせび泣くアンリエッタは神々しく美しかった。
ぎちぎちと締め付け快感と幸せが押し寄せるたびに悲しくなった。
「こんなに騒いでたら、ウェールズ陛下も気がついてこの部屋に来てしまうかもしれませんね」
それはあり得ない話だった。しかし、ぐちゅぐちゅぱんぱんと音がする腰を
さらに深く押しつけて、口に手を当てるしかできなかった。
その行為も、また快感を増すだけだった。さらに涙が頬を伝う。
「んぅ、んっ…ん…」
笑いながら腰を動かすサイトも限界が近かった。
そろそろかなと思い、腰を動かすのを早める。
アンリエッタは必死に声を漏らさないように気をつけ、快感で頭が焼き切れそうだ。
コンコン。
誰も来ないはずの部屋の扉にノックをする音が聞こえる。
驚き本気で抵抗するアンリエッタだったが、サイトにかなうはずもなく成すすべなく腰の動きが続けられる。
抵抗とはうらはらに、アンリエッタの膣はぎちぎちと締め付けサイトを離さない。
「んー!!んー!!」
帰って、お願い帰って…そんな願いもむなしく、
かちりとドアを開ける音がする。
「ああん!ごめんなさい、ウェールズさま!!あぁもう無理、イッちゃう!
イク、ぁああ!イキますう、ごめんなさい……ぁあ…」
ぎゅぎゅぎゅっと断続的に締め上げると、絶望しアンリエッタは盛大にいってから気絶した。
サイトも容赦なく中に欲望を吐き出した。
そして一息つくと、部屋に入ってきた人物に声をかけた。
「ルイズ、ばっちりのタイミングだったよ。
よくやった、ご褒美をあげるよ、こっちへおいで」
目が覚めると、ベッドに横たわらされていた。
見るとサイトはルイズを愛撫しながらキスしている。
未だにサイトはアンリエッタの中に挿入したままで、気絶している最中も犯されていたらしい。
アンリエッタが目覚めたことに気がついたサイトはルイズから唇を離す。
ルイズは名残惜しそうにしながら、サイトから少し離れた。
「アンが欲しいんだ、アン、俺のものになれ」
もう涙し頷くしかなかった。
抜け出せないようにからめとられた、それはまるで蜘蛛の糸。
アンリエッタもまた、こうして心身ともにサイトに屈したのだった。
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原作二巻も終了しました。
アンリエッタを絡め取った蜘蛛の糸は果たして、
アンリエッタを救う蜘蛛の糸となるのでしょうか?
この後は、過去話を何話か出す予定です。
まだまだお話は続いていきますが、ここまで読んでくださった方ありがとうございます。